古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:イーライ・ラトナー

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』が発売になります。よろしくお願いします。


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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 今回も最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で取り上げたカート・キャンベルとイーライ・ラトナーの論文をご紹介する。キャンベルとラトナーがバイデン政権の対アジア、対中政策の責任者である。2人がどのようなことを考えているかを知ることは重要だ。彼らの認識は「中国をここまで大きくしたのはアメリカだ。中国を世界市場にアクセスさせ、世界の潮流に晒せば、中国は変化すると考えたのは誤算だった」というものだ。アメリカは中国の安い製品を大量に輸入することで、中国を経済発展させる。経済発展に伴って人々の生活は向上し、世界の情報を得るようになり、中国の体制変革を求めるようになるとアメリカは考えた。一人当たりのGDPが6000ドルに達すると、民主化に向かうという仮説もある。

 しかし、中国共産党政府はそのような方向に進むことを警戒し、国内体制の強化を行った。また、中国国民も中国共産党政府を支持した。「私たちの生活を豊かにしてくれた中国共産党を支持する」ということになった。アメリカの中国の体制変革の目論見は崩れた。そして、気づいてみれば、アメリカは強大な中国というライヴァルを自分自身で生み出してしまった。今や中国は「西側諸国(the West)対西側以外の国々(the Rest)」という、世界を二分する構造の中で、西側以外の国々の旗頭である。

 こうした状況に陥り、アメリカは中国とどのように対峙するか、ということになる。最悪のシナリオは米中覇権戦争(Sino-US hegemonic war )であるが、アメリカは中国との戦争に踏み切れない。戦争に踏み切って中国を打倒しても、アメリカは致命的なダメージを受けて立ち直れない。アメリカ一国で中国と対峙することはできない。そこで、アメリカの同盟諸国、パートナーの出番である。その一番手は地理的なことから考えても、日本である。日本を中国にけしかけて、戦争まではいかなくても、武力衝突位させるのがアメリカである。最近では、アメリカは対ロシアを名目に、NATOまで対中封じ込めに利用しようとしている。こうしたことは、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』に詳しく書いている。

 日本は何があっても中国と直接衝突してはいけない。そのことを私たちは肝に銘じておかねばならない。

(貼り付けはじめ)

中国に関する計算(The China Reckoning

-北京はいかにしてアメリカの期待を裏切ったか

カート・キャンベル、イーライ・ラトナー筆

2018年3・4月(発行日:2018年2月13日)号
『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/articles/china/2018-02-13/china-reckoning

アメリカは常に、中国の行く末を決めることができると過大な期待を抱いてきた。しかし、その野望は何度も失敗に終わってきた。第二次世界大戦後、アメリカの中国特使だったジョージ・マーシャルは、中国内戦における国民党と共産党の和平を仲介することを望んだ。朝鮮戦争中、ハリー・トルーマン政権は毛沢東軍に鴨緑江を渡らせないようにできると考えた。リンドン・ジョンソン政権は、北京が最終的にヴェトナムへの関与を抑制すると考えていた。いずれの場合も、中国の現実はアメリカの予想を覆した。

リチャード・ニクソン米大統領の対中国交正常化で、ワシントンはこれまでで最大かつ最も楽観的な賭けに出た。ニクソンも国家安全保障問題担当大統領補佐官であったヘンリー・キッシンジャーも、和解(rapprochement)によって北京とモスクワの間にくさびが打ち込まれ、やがて中国がアメリカに接近するにつれて、中国自身の利益に対する考え方が変わると考えていた。1967年秋、ニクソンは本誌(フォーリン・アフェアーズ)に次のように書いている。「中国が変化するまで、世界は安全にはなり得ない。したがって、私たちの目的は、出来事に影響を与えることができる範囲において、変化を誘導することであるべきだ」。それ以来、商業的、外交的、文化的な結びつきを深めることが中国の内部発展と対外的な行動を一変させるという前提が、アメリカの戦略の根幹をなしてきた。中国の意図に懐疑的なアメリカ政界の人々でさえも、アメリカの力と覇権(power and hegemony)が中国を容易にアメリカの意のままに形作ることができるという根底にある信念を共有していた。

ニクソンが和解に向けた最初の一歩を踏み出してから半世紀近くが経過し、ワシントンが再び、中国の方向性を形成する力を過信しすぎたことは、次第に明らかになっている。自由貿易主義者や金融主義者は中国の開放が必然的に進むと予測し、融合主義者は国際社会との交流が深まれば北京の野心も抑えられると主張し、タカ派はアメリカの優位が続けば中国の力は弱まると信じていた。

ニンジンも棍棒も、予測されたようには中国を揺さぶることができなかった。外交的、商業的関与は政治的、経済的開放をもたらさなかった。アメリカの軍事力も地域的なバランシング(勢力均衡)も、北京がアメリカ主導のシステムの中核的な構成要素を置き去りにしようとするのを阻止していない。リベラルな国際秩序は、中国を期待されたほど強力に誘い込むことも束縛することもできなかった。中国はその代わりに独自の路線を追求し、その過程でアメリカの様々な期待を裏切ってきた。

この現実は、アメリカの対中アプローチを明確な目で見直すことを正当化する。現在の枠組みを擁護する人たちは、二国間関係を不安定化させたり、新たな冷戦を招いたりしないよう警告するだろう。しかし、より強固で持続可能な対中アプローチ、そして対中関係を構築するには、多くの基本的な前提がいかに間違っていたかを正直に語る必要がある。イデオロギーの違いを超えて、われわれアメリカの外交関係者たちは、中国に対する期待(経済、国内政治、安全保障、世界秩序に対する中国のアプローチ)に、それに反する証拠が積み重なっても、更に多く投資し続けてきた。そのような期待の上に築かれた政策は、われわれが意図した、あるいは期待したような形で中国を変えることはできなかった。

●市場の力(THE POWER OF THE MARKET

中国との商業交流の拡大は、中国経済の段階的だが着実な自由化をもたらすはずだった。ジョージ・HW・ブッシュ大統領が1990年に発表した国家安全保障戦略(1990 National Security Strategy)では、世界との結びつきを強化することが「中国が経済改革の道を再び歩む上で極めて重要である」と説明された。この主張は数十年にわたって優勢だった。1990年代に中国に最恵国待遇を与え、2001年には世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)への加盟を支援し、2006年にはハイレヴェル経済対話の枠組みを創設し、バラク・オバマ大統領の下で、二国間投資条約を交渉するというアメリカの決定を後押しした。

米中間の物品貿易は、1986年には80億ドルに満たなかったが、2016年には5780億ドルを超えるまでに爆発的に増加した。しかし、今世紀初頭以降、中国の経済自由化は停滞している。欧米諸国の期待に反して、北京は豊かになる一方で国家資本主義モデル(state capitalist model)を強化してきた。一貫した成長は、開放を促進する力になるどころか、中国共産党とその国家主導の経済モデルを正当化するのに役立っている。

複数のアメリカ政府高官は、債務、非効率、より高度な経済への要求から、更なる改革が必要になると考えた。2007年、温家宝首相は中国経済を「不安定、不均衡、調整不能、持続不可能(unstable, unbalanced, uncoordinated, and unsustainable)」と呼んだ。しかし、中国共産党は競争拡大のために国を開放するのではなく、経済の支配を維持することを意図し、代わりに国有企業を統合し、航空宇宙、生物医学、ロボット工学などの重要な分野で国家技術チャンピオンを促進することを目的とした産業政策(industrial policies)(特に「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025)」計画)を追求している。また、繰り返し約束したにもかかわらず、北京は外国企業の競争条件を公平にするというワシントンやその他の国からの圧力に抵抗してきた。市場アクセスを制限し、非中国企業に合弁企業との契約や技術共有を強要する一方で、国の支援を受けた国内企業には投資や補助金を与えてきた。

つい最近まで、アメリカの政策立案者や経営者たちはこのような差別をほぼ黙認していた。潜在的な商業的利益があまりにも大きいため、保護主義や制裁で関係を根底から覆すのは賢明ではないと考えたからだ。潜在的な商業的利益があまりにも大きいため、保護主義(protectionism)や制裁(sanctions)で関係を破壊するのは賢明ではないと考えたのだ。しかし現在では、かつては中国とのビジネスにおける短期的なフラストレーションにすぎないと考えられていたものが、より有害で恒久的なものに思えるようになっている。アメリカ商工会議所は昨年、アメリカ企業の約8割が、数年前に比べて中国において歓迎されていないと感じていると報告し、60%以上の企業が、中国が今後3年間で市場をさらに開放するという確信がほとんどない、あるいはまったくないと回答した。ドナルド・トランプ政権が新たに開始した「包括的経済対話(Comprehensive Economic Dialogue)」も含め、中国経済を開放するための協力的で自発的なメカニズムは大方失敗に終わっている。

成長は更なる経済開放だけでなく、政治的自由化(political liberalization)ももたらすと考えられていた。急成長する中国の中産階級が新たな権利を求め、現実主義的な政府高官たちが更なる進歩に必要な法改正を受け入れるという好循環が、発展によって引き起こされると考えられていた。ソヴィエト連邦が崩壊し、韓国と台湾が民主政体移行を行った後、この進化は特に確かなものに思えた。「外国の思想を国境で阻止しながら、世界の商品やサーヴィスを輸入する方法を発見した国は地球上に存在しない」とジョージ・HW・ブッシュ大統領は宣言した。アメリカの政策は、技術を共有し、貿易と投資を促進し、人と人との交流を促進し、アメリカの大学に何十万人もの中国人留学生を受け入れることによって、このプロセスを促進することを目的としていた。

1989年の天安門広場での民主化デモ参加者たちへの弾圧は、中国における選挙制民主政治体制の台頭への期待を薄れさせた。しかし、アメリカの専門家や政策立案者の多くは、中国政府がより大きな報道の自由を認め、より強力な市民社会(civil society)を許容する一方で、共産党内と地方レベルの両方でより多くの政治的競争を徐々に受け入れることを期待していた。彼らは、1990年代の情報技術革命が、中国市民を更に世界に晒し、開放への経済的インセンティヴを高めることで、そうした傾向を後押しするだろうと考えていた。ビル・クリントン大統領が述べたように、「思考し、質問し、創造する完全な自由がなければ、中国は、国富の最大の源泉が人間の心に宿るものである情報化時代において、完全に開放された社会と競争することになり、明らかに不利な立場に立たされる」ということだった。北京の指導者たちは、個人の自由を認めることによってのみ、中国がハイテクの未来で繁栄できることを理解するようになるだろう、と考えられていた。

しかし、開放の拡大が国内の安定と政権の存続の両方を脅かすのではないかという恐怖から、中国の指導者たちは別のアプローチを模索するようになった。天安門事件の衝撃とソヴィエト連邦の崩壊は、民主化と政治的競争の危険性を示す証拠となった。そのため、北京は開放というポジティブなサイクルを受け入れるのではなく、壁を建設し、国家統制(state control)を強化することでグローバライゼーションの力に対応した。今世紀に入り、経済の減速、政府と軍部における腐敗の蔓延、世界各地での民衆蜂起の不吉な例など、体制に対する更なるストレスによって、権威主義は弱められるどころか、更に強化されている。

実際、過去10年間の出来事は、政治的自由化に対するささやかな希望さえも打ち砕いた。2013年、文書第9号として知られる共産党の内部メモは、「西側の立憲民主主義」やその他の「普遍的価値」を、中国を弱体化させ、不安定化させ、さらには分裂させることを意図した、当て馬(stalking-horses)として、明確な警告を発した。このガイダンスは、中国の政治的将来に対する米中の期待のギャップが広がっていることを示した。アメリカの代表的な中国専門家であるオーヴィル・シェルはつぎのように述べている。「中国は、1980年代の鄧小平よりも、1970年代の毛沢東を彷彿とさせるような政治情勢へと、不可避的に後退しつつある」。今日、ジャーナリスト、宗教指導者、学者、社会活動家、人権派弁護士に対する弾圧が止む気配はなく、2015年だけで300人以上の弁護士、法務助手、活動家が拘束された。

西側の多くの人々が予測したように、中国国民に権力が委譲されるどころか、通信技術は国家の統制力を強め、中国当局が情報の流れをコントロールし、市民の行動を監視するのに役立っている。検閲、拘束、そして中国のインターネットに対する政府の広範なコントロールを認める新しいサイバーセキュリティ法は、中国の「グレート・ファイアウォール(Great Firewall)」内部での政治活動を妨げている。中国の21世紀の権威主義には現在、ビッグデータと人工知能を融合させ、政治的、商業的、社会的、オンライン上の活動に基づいて中国市民に報酬を与え、罰する「社会信用システム(social credit system)」を立ち上げる計画も含まれている。顔認識ソフトウェア(Facial recognition software)は、中国全土に遍在する監視カメラと組み合わされ、国家が数分以内に物理的に人々の居場所を特定することさえ可能にしている。

アメリカ外交とアメリカの軍事力の組み合わせ、つまり、ニンジンと棍棒の組み合わせは、アメリカが主導するアジアの安全保障秩序に挑戦することは不可能であり、またその必要もないと北京を説得するはずだった。クリントン政権が1995年に発表した『国家安全保障戦略』によれば、ワシントンは「近隣諸国を安心させ、自国の安全保障上の懸念を解消するために、中国が地域の安全保障メカニズムに参加することを強力に推進」し、軍事対軍事の関係やその他の信頼醸成措置によってこれを後押しした。このような関与の仕方は、「ヘッジ(hedge)」、すなわちこの地域におけるアメリカの軍事力の強化と、有能な同盟諸国やパートナーによる支援と結びついていた。その結果、アジアにおける軍事的競争が緩和され、地域秩序を変えようとする中国の欲望が更に制限されることになると考えられていた。北京は軍事的充足に落ち着き、狭い地域の不測の事態のために軍備を増強する一方で、そのリソースの大半を国内の必要性に充てるだろうと考えられた。

その論理は、中国が自国の発展のために自称「戦略的な機会の窓(strategic window of opportunity)」に集中しているというような単純なものではなかった。アメリカの政策立案者や学者たちは、中国がソ連から、アメリカとの軍拡競争に巻き込まれた場合の破滅的なコストについて、貴重な教訓を学んだとも考えていた。したがって、ワシントンは中国の侵略を抑止するだけでなく、米国防総省の言葉を借りれば、中国が対抗しようとすることさえ「思いとどまらせる」ことができたのである。レーガン、ブッシュ両政権の高官であったザルマイ・ハリルザドは、アメリカが優位に立てば、「中国指導部に、挑戦の準備は困難であり、追求するのは極めて危険であると確信させることができる」と主張した。加えて、中国がアメリカの優位に挑戦したくてもできるかどうかは不明だった。1990年代後半まで、中国人民解放軍(People’s Liberation Army PLA)はアメリカやアメリカの同盟諸国の軍隊より何十年も遅れていると考えられていた。

このような背景から、アメリカ政府関係者は失敗して中国と対立関係にならないように、相当な注意を払っていた。政治学者のジョセフ・ナイは、ビル・クリントン政権時代に国防総省のアジア担当部署を率いていたときの考え方を次のように説明している。「中国を敵として扱うなら、将来も敵になることが保証されることになる。中国を友人として扱ったとしても、友好関係を保証することはできないが、少なくともより良い結果が生じる可能性を残しておくことはできる」。国務長官に指名されていたコリン・パウエルは、2001年1月の人事承認のための公聴会で、「中国は敵ではない。私たちの課題は、その状態を維持することだ」と述べた。

中国政府は、新たに得た富を軍事力により多く投資するようになっても、ワシントンを安心させようと努め、鄧小平が打ち出した慎重で穏健な外交政策を引き続き堅持する姿勢を示した。2005年、共産党幹部の鄭必堅は本誌に、中国は決して地域の覇権を求めず、「平和的台頭(peaceful rise)」を約束し続けると書いた。2011年、中国の指導者たちの間でギアチェンジの時期かどうかが活発に議論された後、戴秉国国務委員は「平和的発展は中国の戦略的選択である」と世界に断言した。2002年から、米国防総省は連邦議会が義務付けた中国の軍事に関する年次報告書を作成していたが、アメリカ政府高官の間では、中国は依然として遠くに存在するだけの、管理可能な課題であるというのがコンセンサスだった。

しかしながら、このような見方は、中国の指導部がどれほど不安と野心を同時に抱いているかを過小評価していた。北京にとって、アジアにおけるアメリカの同盟関係と軍事的プレゼンスは、台湾、朝鮮半島、東シナ海と南シナ海における中国の利益にとって受け入れがたい脅威であった。北京大学の王緝思教授の言葉を借りれば、「中国では、ワシントンは新興大国を阻止しようとすると強く信じられている。ワシントンは新興大国、特に中国の目標達成と地位向上を阻止しようとするだろう。そこで中国は、アメリカが主導するアジアの安全保障秩序を切り崩し始め、この地域へのアメリカ軍のアクセスを拒否する能力を開発し、ワシントンとその同盟国との間にくさびを打ち込むことにした」ということになる。

結局のところ、アメリカの軍事力もアメリカの外交的関与も、中国が自力で世界トップクラスの軍隊を作ろうとするのを思いとどまらせることはできなかった。イラクやその他の場所でアメリカの力をハイテクで誇示したことは、中国人民解放軍を近代化する努力を加速させただけだった。中国の習近平国家主席は、中国人民解放軍をより殺傷力の高いものにし、中国国外にも軍事力を展開できるようにするための軍事改革を開始した。3隻目の空母を建造中と報じられ、南シナ海に高度な軍事施設を新設し、ジブチに初の海外軍事基地を設置した中国は、アメリカがソ連以来見たことのないような軍事的ライヴァルになる道を歩んでいる。中国の指導者たちはもはや、中国が繁栄するためには「その能力を隠し、その時を待つ(hide [its] capabilities and bide [its] time)」という鄧小平の考えを繰り返すことはない。習近平は2017年10月、「中華民族は立ち上がり、豊かになり、強くなった」と宣言した。

●秩序の制約(THE CONSTRAINTS OF ORDER

第二次世界大戦後、アメリカは世界政治とアジアの地域力学を構造化するのに役立つ制度とルールを構築した。通商と航行の自由、紛争の平和的解決、国際的な課題に対する国際協力など、広く受け入れられた規範は、19世紀の勢力圏に取って代わった。このリベラルな国際秩序の主要な受益者として、北京はこの秩序の維持にかなりの利害関係を持ち、その継続が中国自身の発展にとって不可欠であると考えるようになった。アメリカの政策は、中国を主要な国際機関に迎え入れ、グローバル・ガバナンスや地域の安全保障について中国と協力することで、北京の関与を促すことを目的としていた。

中国が多国間機関に参加するにつれ、アメリカの政策立案者たちは、中国がルールに従うことを学び、やがてその維持に貢献し始めることを期待した。ジョージ・W・ブッシュ(子)政権時代、ロバート・ゼーリック国務副長官が北京に対し、国際システムにおける「責任ある利害関係者(responsible stakeholder)」になるよう呼びかけたのは記憶に新しい。ワシントンの立場からすれば、中国が国際システムから多大な利益を得ている以上、大きな力には大きな義務が伴う。オバマ大統領が強調したように、「私たちは、中国が自分たちを成功に導いたルールを守る手助けをすることを期待している」のだ。

特定の場において、中国は、ばらつきはあるにせよ、着実にこの責任を担っているように見えた。1991年にアジア太平洋経済協力機構(Asia-Pacific Economic Cooperation organizationAPEC)に加盟し、1992年には核拡散防止条約(Nuclear Nonproliferation TreatyNPT)に加盟、2001年には世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)に加盟し、北朝鮮とイランの核兵器開発に対処するための6カ国協議(six-party talks)やP51交渉など、主要な外交努力に参加した。また、国連の海賊対策や平和維持活動にも大きく貢献するようになった。

しかし北京は、アメリカ主導の秩序(U.S.-led order)を構成する他の中心的な要素に脅威を感じ続けており、そうした要素に取って代わろうとする姿勢を強めている。特に、経済制裁や軍事行動も、アメリカやパートナー諸国による国家主権の招かれざる侵害と見なされてきた。例えば、人権侵害から人々を守るために介入する国際社会の権利や責任に関するリベラルな規範は、外国からの干渉から自国の権威主義体制を守ることを最優先とする中国に真っ向からぶつかってきた。いくつかの顕著な例外を除いて、中国は多国間制裁に水を差したり、欧米諸国の非難から政権を守ったり、国連安全保障理事会が介入主義的な行動を承認するのを阻止するためにロシアと共通の大義を作ったりすることに忙殺されてきた。スーダン、シリア、ベネズエラ、ジンバブエなど、多くの非民主的政権がこうした妨害の恩恵を受けている。

中国はまた、既存の機関への関与を深めるのではなく、アメリカを外側に置いて、独自の地域機関や国際機関の構築に着手した。アジアインフラ投資銀行、新開発銀行(ブラジル、ロシア、インド、南アフリカとともに)、そして最も注目すべきは、中国と世界の大部分を結ぶ陸路と海路を建設するという習近平の壮大なヴィジョンである「一帯一路構想(the Belt and Road Initiative)」を立ち上げたことだ。これらの制度やプログラムは、中国に独自の議題設定力や招集力を与える一方で、既存の国際機関が支持する基準や価値観からしばしば逸脱している。北京は、アメリカやヨーロッパの諸大国とは異なり、援助を受ける条件として統治改革を受け入れることを各国に要求しないことで、開発へのアプローチを明確に差別化している。

一方、自国がある地域では、北京は安全保障のバランスを変えることに着手し、アメリカの軍事的反応を刺激しない程度の小さなステップで現状を少しずつ変えている。世界で最も重要な水路の一つである南シナ海で、中国は沿岸警備船や合法的な戦争、経済的な強制力を巧みに利用して、領有権を主張してきた。場合によっては、単に紛争地域を占領したり、人工島を軍事化したりしている。北京は時折、自制心や戦術的な慎重さを見せることもあるが、全体的なアプローチからは、近代的な海洋勢力圏(modern maritime sphere of influence)を築きたいという思惑が伺える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年夏、中国は国連海洋法条約に基づく法廷による画期的な判決を無視した。同判決は、南シナ海における中国の広範な領有権の主張は国際法上違法であるとした。アメリカ政府高官たちは、圧力や羞恥心、そしてルールに基づく海洋秩序を求める自国の願望が何らかの形で組み合わさり、北京が時間をかけて判決を受け入れるようになるだろうと誤って考えていた。それどころか、中国はそれを真っ向から否定した。判決から1年後の2017年7月、コロラド州アスペンで開催された安全保障フォーラムで、CIAの上級アナリストは、この経験は中国の指導者たちに「国際法に逆らっても逃げ切れることを教えた」と結論づけた。アジア地域の国々は、中国への経済的依存とアメリカのアジアへの関与に対する懸念の高まりの両方によって揺さぶられており、アメリカの政策立案者たちが期待したほどには、中国の自己主張に反発していない。

●現状把握(TAKING STOCK

アメリカの中国政策を牽引してきた前提が次第に弱く見え始め、アメリカの期待と中国の現実とのギャップが拡大するにつれ、ワシントンはその大部分を別の場所に集中させてきた。2001年以来、アメリカの国家安全保障はジハード主義テロとの戦いに費やされ、中国が軍事、外交、商業の面で飛躍的な進歩を遂げつつあったまさにその時期に、アジアの変化から目を逸らしてきた。ジョージ・W・ブッシュ(子)大統領は当初、中国を「戦略的競争相手(strategic competitor)」と呼んでいた。しかし、9月11日の同時多発テロを受け、2002年に発表した国家安全保障戦略では、「世界の諸大国は、テロリストの暴力と混乱という共通の危険によって結束した、同じ側にいることに気づく」と宣言した。バラク・オバマ政権時代には、アジアへの戦略的注目の「軸足(pivot、ピヴォット)」、すなわち「再均衡(rebalancing、リバランシング)」が試みられた。例えば、国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)の中東担当スタッフの数は、東アジア・東南アジア全体の3倍だった。

この戦略的な目移りは、中国に自国の優位性を押し付ける機会を与えたが、その動機となったのは、アメリカが、より広い意味での西側諸国とともに、どうしようもなく急速に衰退しているという見方が中国でますます顕著になっていることだ。中国当局者は、世界金融危機、アフガニスタンとイラクにおける高価な戦争努力、ワシントンにおける深まる機能不全によって、何年も足かせをかけられているアメリカを見ている。習近平は、中国が今世紀半ばまでに「総合的な国力と国際的影響力の面で世界のリーダーになる」ことを求めている。習近平は、中国の発展モデルを「他国にとっての新たな選択肢」として売り込んでいる。

ワシントンは今、近代史上最もダイナミックで手強いライヴァルに直面している。この課題を正しく理解するには、アメリカの対中アプローチを長年特徴付けてきた希望的観測から脱却する必要がある。トランプ政権初の国家安全保障戦略は、アメリカの戦略における過去の前提を問い直すことで、正しい方向への一歩を踏み出した。しかし、二国間の貿易赤字に焦点を絞る、多国間貿易協定を放棄する、同盟の価値を疑問視する、人権や外交を軽視するなど、ドナルド・トランプの政策の多くは、ワシントンが中国に対して、競争的なアプローチではなく、対立的なアプローチを採用する危険性をはらんでいる。

より良いアプローチの出発点は、アメリカが中国を変える能力について新たな謙虚さ(humility)を持つことである。中国を孤立させ弱体化させようとすることも、中国をより良い方向に変えようとすることも、アジアにおけるアメリカの戦略の主軸に据えるべきではない。ワシントンはその代わりに、自国の力と行動、そして同盟諸国やパートナー諸国の力と行動にもっと焦点を当てるべきである。中国についてのより現実的な仮定に基づいた政策を採用することで、アメリカの利益をより向上させ、二国間関係をより持続可能なものにするだろう。そのためには努力が必要だが、最初のステップは比較的容易なものである。

※カート・M・キャンベル:「ジ・アジア・グループ」会長。2009年から2013年まで国務次官補(東アジア・太平洋問題担当)を務めた。

※イーライ・ラトナー:外交評議会マウリス・R・グリーンバーグ記念中国研究上級研究員。2015年から2017年までジョー・バイデン副大統領国家安全保障問題担当次席大統領補佐官を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』が発売になる。今回の記事は、最新刊の中で言及した人物たちの重要な論文をご紹介する。論文の著者はカート・M・キャンベルとイーライ・ラトナーだ。それぞれ、前著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』でも詳しくご紹介し、最新刊でも取り上げているが、バイデン政権におけるアジア政策立案の主要人物たちである。キャンベルはバイデン政権で、ホワイトハウスの国家安全保障会議(National Security Council)のインド・太平洋調整官(Coordinator for the Indo-Pacific)を務め、最近になって、米国務副長官(Deputy Secretary)に指名された人物である。ラトナーは、米国防次官補(インド太平洋安全保障担当)を務めている。ここで重要なのは、両者の肩書についている「インド太平洋」という言葉だ。これは、アメリカが対中封じ込めのために生み出した言葉である。アジアへ軸足を移す、Pivot to Asiaという、ヒラリー・クリントン国務長官が打ち出した重要な概念が根底にある。
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カート・キャンベル
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イーライ・ラトナー

 下の記事で重要なのは、アメリカがあくまで中国と潰し合いにならないようにしながら、競争していくということだ。そして、アメリカ一国では中国に対応できる段階を過ぎており、アジア地域の同盟諸国だけではなく、ヨーロッパ諸国にも対中封じ込めに参加させるということだ。ウクライナ戦争勃発後、NATOは対中、対ロシア政策のために、アジア太平洋地域への進出を企図し、東京に事務所を設置するということを発表した。それに対して、フランスが反対論を唱えている。また、キャンベルが肝いりでスタートさせた、日米豪印4カ国のQUAD(クアッド)や米英豪3か国のAUKUS(オーカス)という枠組みは、対中封じ込めのための枠組みである。しかし、オーストラリアとインドは米中両にらみの形を取り、日本だけが真面目にアメリカ一辺倒の姿勢を取っている。こうしたことを最新刊で詳しく取り上げている。

 下に掲載した論文が発表されたのが2014年だ。今から10年も前のことだが、この論文に書かれていることが現在、実現している。著者のキャンベルとラトナーは、2016年の選挙でヒラリー・クリントンが勝利することを前提にして、論文を書いたと思われる。そして、2017年のヒラリー政権で、現在と同じような役職に就いて、対中封じ込め政策を行おうと考えていただろう。それが、ドナルド・トランプの勝利によって4年ずれたということになる。こうした重要論文を読むことは、これから先を予想する上でも非常に重要なのである。

(貼り付けはじめ)

極東の誓約(Far Eastern Promises

-ワシントンがアジアに集中すべき理由

カート・キャンベル、イーライ・ラトナー筆

2014年5・6月号

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/articles/east-asia/2014-04-18/far-eastern-promises

アメリカは、アジア太平洋地域により大きな関心と資源を投入するために外交政策を方向転換する(reorienting its foreign policy to commit greater attention and resources to the Asia-Pacific region)という、重大な国家プロジェクトの初期段階にある。このアメリカの優先事項の再定義は、南アジアと中東への10年以上にわたる熱心な関与の後、戦略的再評価が切望されている時期に現れたものである。この地域はアメリカのリーダーシップを歓迎し、政治的、経済的、軍事的投資に対するプラスの見返りによってアメリカの関与に報いる地域である。

その結果、オバマ政権は、アジアへの「軸足移動(ピヴォット、pivot)」「再均衡(リバランシング、rebalancing)」として知られる外交、経済、安全保障の包括的な構想を打ち出している。この政策は、クリントン政権とジョージ・W・ブッシュ政権による重要な措置を含め、1世紀以上にわたってアメリカがこの地域に関与してきたことを基礎としている。バラク・オバマ大統領が正しく指摘しているように、アメリカは現実的にも、レトリック上も、既に「太平洋の大国(Pacific power)」である。しかし、リバランシングは、アメリカの外交政策におけるアジアの位置づけを大幅に引き上げるものである。

ヒラリー・クリントン国務長官が2011年に『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿した論文で、この戦略の最も明確な表現である「ピヴォット」という言葉を初めて使ったときから、新しいアプローチの目的と範囲に関する疑問が浮上していた。それから約3年、オバマ政権はいまだにこの概念を説明し、その約束を果たすという難題に直面している。しかし、この政策が直面した厳しい監視や短期的な挫折にもかかわらず、大きな転換が進行中であることは疑いない。そして、ワシントンが望むと望まざるとにかかわらず、アジア地域の繁栄と影響力の増大、そしてアジア地域が突きつける巨大な課題のおかげで、アジアはアメリカからより多くの注目と資源を集めることになるだろう。問題は、アメリカがアジアを重視するかどうかではなく、必要な決意と資源と知恵をもってアジアを重視できるかどうかである。

●東向きにそして南下(EASTBOUND AND DOWN

アジア太平洋地域には、逃れられない引力がある。世界人口の半分以上が居住し、世界最大の民主政治体制国家(インド)、第2位と第3位の経済大国(中国と日本)、最も人口の多いイスラム教徒国家(インドネシア)、そして10大軍隊のうち7つが存在する。アジア開発銀行は、今世紀半ばまでにこの地域が世界の経済生産の半分を占め、世界10大経済大国のうちの4つ(中国、インド、インドネシア、日本)を占めるようになると予測している。

しかし、アジアをこれほど重要な地域にしているのは、そのめまぐるしい規模だけでなく、進化の軌跡である。フリーダム・ハウスによれば、過去5年間、アジア太平洋地域は世界で唯一、政治的権利(political rights)と市民的自由(civil liberties)において着実な改善を記録してきた。また、新興市場(emerging markets)が急速な経済成長を維持できるのかという疑問があるにもかかわらず、アジア諸国は、低迷し不透明な世界経済の中で、依然として最も有望なビジネスチャンスの一端を担っている。同時にアジアは、北朝鮮の挑発的な行動、地域全体の国防予算の増大、東シナ海や南シナ海での関係を揺るがす厄介な海洋紛争、自然災害や人身売買、麻薬取引といった非伝統的な安全保障上の脅威など、慢性的な不安定要因(sources of chronic instability)とも闘っている。

アメリカは、アジアが今後どのような道を歩むかについて、否定できないほどはっきりした関心を持っている。アメリカ国勢調査局によれば、アジアはアメリカの主要輸出先であり、ヨーロッパを50%以上も上回っている。アメリカ経済分析局によれば、アメリカの対アジア直接投資とアジアの対米直接投資はともに過去10年間で約2倍に増加しており、アメリカの海外直接投資先として最も急成長している10ヵ国のうち4カ国を中国、インド、シンガポール、韓国が占めている。アメリカはまた、この地域に5つの防衛条約の同盟国(オーストラリア、日本、フィリピン、韓国、タイ)を持ち、ブルネイ、インド、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、台湾とは戦略的に重要なパートナーシップを結んでいる。日本と韓国にある主要な米軍基地は、ワシントンがアジアとそれ以外で力を発揮するための中心的存在である。

アメリカの軍事同盟は数十年にわたり、この地域の安全保障を支えてきたが、軸足移動の主な目的の一つは、そうした結びつきを深めることにある。近年ワシントンは、大国間の紛争を防ぎ、シーレーンを開放し、過激主義と闘い、非伝統的な安全保障上の脅威に対処するよう、アジアのパートナーに働きかけている。日本と韓国はアメリカとの共同作戦でますます重要な役割を担う態勢を整え、アメリカ軍はオーストラリアと協力して水陸両用能力を開発し、フィリピンと協力して自国の海岸を取り締まる能力を高めている。その結果、より強力な同盟関係と、より安全な地域が実現した。

これらは、いずれも中国を包囲したり、弱体化させたりする努力を示唆するものではない。それどころか、北京との関係をより強固で生産的なものにすることは、リバランシング戦略の主要な目標である。中国を封じ込めようとするどころか、アメリカはここ数年、前例のないほど頻繁なトップレヴェルの会談を通じて、より成熟した二国間関係を構築しようと努めてきた。軍事対軍事の関係さえも軌道に乗りつつあり、時には北京が提案する活動レヴェルに米国防総省がついていけないこともある。

●アジアへ軸足を移す、そしてアジア域内で軸足を築く(A PIVOT TO -- AND WITHIN – ASIA

リバランシング戦略はまた、アジア太平洋地域の多国間機関へのアメリカの関与(U.S. engagement)を大幅に増やすことも求めている。オバマ政権の下、アメリカは東アジア地域の首脳が毎年集う東アジア・サミットに加盟し、東南アジア友好協力条約に調印して東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアン)に対するアメリカの関与を強化し、ジャカルタにアセアン担当の常任大使を置いた。これらの重複する制度は、そのスローペースとコンセンサスの必要性から不満が溜まることもあるが、地域協力を促進し、国境を越えた複雑な課題に対処するためのルールとメカニズムのシステム構築に役立っている。たとえば2013年6月、アセアンは18カ国から3000人以上が参加した初の人道支援・災害救援演習を開催した。

一方、アメリカは、アジア太平洋地域がますます世界経済の成長を牽引するという新たな現実に対応している。オバマ政権は、2012年に米韓自由貿易協定を発効させ、12カ国による大規模な自由貿易協定である環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific PartnershipTPP)の交渉完了を強力に推し進めることで、アメリカの経済的利益を促進してきた。TPP交渉に参加する国の多くは、マレーシアやシンガポールなど東南アジアの活気ある市場であり、この地域の地政学的重要性(geopolitical importance of that subregion)の高まりを反映している。実際、アメリカのアジアへの軸足を移すことは、アジア内での軸足を築くことである。ワシントンは、北東アジア諸国への歴史的な重点を、インドネシア、フィリピン、ヴェトナムといった東南アジア諸国への新たな関心とバランスを取りながら、世界で最も活気のある経済圏のいくつかとの双方向の貿易と投資を強化しようとしている。2010年、ワシントンとジャカルタは、医療、科学技術、起業家精神など幅広い分野での協力を深めるため、「包括的パートナーシップ(comprehensive partnership)」を締結した。

米国防総省が同地域の軍事態勢に変更を加えたのも、同地域におけるアメリカの優先順位を再調整したいという同様の願望が背景にある。北東アジアの米軍基地は、ワシントンの戦力投射(to project power)や戦争遂行能力の中心であり続けているが、ミサイル攻撃に対してはますます脆弱になっており、南シナ海やインド洋における潜在的な災害や危機からは比較的遠い場所にある。一方、東南アジアの国々がアメリカの軍事訓練や災害対応への援助を受けることに関心を高めていることから、アメリカはこの地域における軍事的足跡を多様化し、オーストラリアのダーウィンに数百人のアメリカ海兵隊を駐留させ、シンガポールに2隻の沿岸戦闘艦を配備している。

アメリカ軍の姿勢に対するこうした変更は、挑発的である(provocative)、もしくは無意味である(meaningless)と批判されている。どちらの容疑も的外れだ。こうした取り組みは攻撃性を示すものではない。彼らは主に自然災害への対応などの平時の活動に貢献しており、アメリカの戦闘能力には貢献していない。そして、参加した海兵隊員や艦船の数が一見控えめに見えることは、アメリカ軍との共同演習や訓練の比類のない機会を得ることができる、アメリカのパートナー諸国の軍隊に提供する大きな利益を覆い隠している。

オバマ政権はアジアへの軸足を移すことで、アメリカの経済的・安全保障的利益を高めるだけでなく、文化的・人的交流を深めることを目指している。オバマ政権はさらに、この軸足の移動によって、アメリカがこの地域の人権と民主政治体制を支援することを期待している。ミャンマー政府は、政治犯の釈放、長年の懸案であった経済改革の実施、組織的権利の促進や報道の自由拡大など、目覚ましい前進を遂げている。特に少数民族の保護など、さらなる進展が必要ではあるが、ミャンマーはかつて閉鎖的で残忍だった国が変革の一歩を踏み出した強力な例であり、アメリカは当初からこの改革努力にとっての不可欠なパートナーであった。

●外交政策は決してゼロサムゲームではない(FOREIGN POLICY IS NOT A ZERO-SUM GAME

ピヴオット反対派は、主に3つの反対論を唱えている。第一に、ピヴォットによって不必要に中国と敵対することを懸念する声がある。この誤解は、北京との関与を深めることがリバランシング政策の中心的かつ反論の余地のない特徴であるという事実を無視している。新たなアプローチの例としては、「米中戦略・経済対話(U.S.-China Strategic and Economic Dialogue、米国務・財務長官と中国側担当者が出席する包括的な一連の会議)」の年次開催や、「戦略的安全保障対話(Strategic Security Dialogue)」の設置が挙げられる。戦略的安全保障対話では、日中両国は海上安全保障やサイバーセキュリティといった機密事項について、これまでにないハイレヴェルの話し合いを行ってきた。アジアにおけるアメリカ軍のプレゼンスが高まり、ワシントンが中国の近隣諸国への働きかけを強めているため、緊張が高まるかもしれない。しかし、米中二国間の関係は、ピヴォットによって生じるいかなる意見の相違も、より安定し協力的な米中関係という広い文脈の中で対処されるような形で発展している。

第二の反対論は、アフガニスタンやシリアでの紛争、エジプトやイラクでの不安定な情勢、イランと欧米諸大国との長期にわたる対立を考えれば、ワシントンの焦点を中東からアジアに移すのは賢明でない、あるいは非現実的だという主張から生じている。しかし、この批判はリバランシング戦略を表面上でとらえての浅い理解に依拠している。この見方によれば、中東と南アジアは米国の力(power)と威信(dignity)を奪っており、ピヴォットは実際には、より平和で収益性の高いアジア太平洋の海岸に目を向けることで、切り捨てて逃げ出そうとしているということになる。オバマ政権が中東におけるアメリカの存在感を減らそうとしているのは確かだ。しかし、資源は有限であるとは言いながら、外交政策はゼロサムゲームではない。アジアにより多くの関心を払うことは、中東での戦略的敗北を認めることになるという批判は、決定的な現実を見逃している。過去10年間、ワシントンがより多くの関心を払いたいと考えているアジア諸国は、中東と南アジア全域の平和と安定の推進に大きな利害関係を静かに築いており、アメリカがこれらの地域での影響力を維持することを強く望んでいる。

つい最近までは、アジア諸国の大半は自国の開発ばかりに関心を寄せ、他地域の問題は他人事と考える傾向があった。ジョージ・W・ブッシュ大統領のアジア政策の最も重要な成功の一つは、この地域の新興大国(region’s rising powers)が世界の他の地域でより多くの貢献をするよう促したことだ。ブッシュ政権下で、多くの東アジア諸国政府は初めて「地域外(out of area)」という視点を打ち出し、中東や南アジアでの外交、開発、安全保障により多く関与するようになった。日本はアフガニスタンの市民社会発展(civil society development)の主要な支援者となり、学校や市民団体に資金を提供し、刑事司法、教育、医療、農業の分野でアフガニスタンの人々を訓練した。「アラブの春(Arab Spring)」をきっかけにして、韓国は中東全域の開発を支援し始めた。インドネシア、マレーシア、タイは、アフガニスタンとイラクの医師、警察官、教師の訓練プログラムに物資援助を提供し、オーストラリアとニュージーランドはアフガニスタンで戦うために特殊部隊を派遣した。中国でさえも、イランの核開発への野心を抑制し、公海上の海賊行為に対処し、アフガニスタンの将来を形作ることを目的とした舞台裏の、非公式の外交(behind-the-scenes diplomacy)により積極的である。

もちろん、ワシントンからの働きかけは、アジア諸国が中東への関与を強めている要因の一つにすぎない。アジアは毎日約3000万バレルの石油を消費しており、その量はEUの2倍以上である。アジア各国の政府は、アメリカが中東から早急に撤退すれば、自国のエネルギー安全保障と経済成長に受け入れがたいリスクが伴うことを知っている。その結果、彼らは10年以上にわたって、アメリカの安定化の役割を代替するのではなく、補完するために、中東に多額の政治的・財政的資本を投資し、場合によっては軍を派遣してきた。端的に言えば、ワシントンのアジアのパートナーは、軸足の移動を支持するが、アメリカが中東から離脱するという見通しを支持することはないだろう。

軸足移動方針に反対する3つ目の反対論は、予算削減の時期におけるこのアプローチの持続可能性(sustainability)に関するものである。国防費が減少する中、懐疑論者たちは、アメリカがアジア地域の同盟諸国を安心させ、挑発しようとする者たちを思いとどまらせるために必要な資源をどのように投資できるのか疑問に思っている。特に中国の力と影響力が増大し続けている中で。答えは、アジアに向けたリバランスには劇的な新たな資金は必要ない、ということだ。むしろ、米国防総省はより柔軟になり、より良い支出方法を見つける必要があるだろう。例えば、アメリカは陸軍全体の規模を縮小する中で、アジアにおける軍事的プレゼンスを維持し、地域の安全保障環境により適した海空軍の能力に投資すべきだ。そして、アメリカの国防費がすぐには大幅に増加する可能性が低いことを考慮すると、アメリカ政府は、より多くの教育的および専門的交流を実施し、多国間軍事演習を強化し、アメリカ軍が不要になった装備を引き継ぎ、アジア各国の軍事能力を向上させるために共同計画を推進するなど、努力を行うべきだ。

●バランス(均衡)を取る行動(BALANCING ACT

リバランスに反対する最も一般的な議論は精査に耐えないが、それでもこの政策は大きな課題に直面している。その最たるものが人的資本の不足であろう。10年以上にわたる戦争と反乱に対する闘争の後、アメリカはイラクにおける民族間の対立、アフガニスタンにおける部族間の違い、紛争後の復興戦略、アメリカ軍特殊部隊と無人機の戦術に精通した兵士、外交官、情報専門家の全世代を育成し、登用してきた。しかしワシントンは、アメリカ政府全体にアジア専門家たちの持続的な幹部を育成するための同等の努力をしておらず、驚くほど多くの政府高官が、キャリアの終わりに近い高官の地位に就いてから初めてこの地域を訪問している。どんなに優秀な公務員であっても、アジアでの経験がなければアジアの複雑な問題に対処するのは難しいからだ。したがって、アジアへの軸足移動は、米国防総省だけでなく、非軍事部門の政府機関の予算にも影響を与えるだろう。なぜなら、アメリカは、アメリカの外交官、援助要員、通商交渉担当者、情報専門家たちが、仕事をうまくこなすために必要な語学力とアジアでの経験を確保するために、より多くの投資を行うからである。

軸足移動はまた、他の地域、特に中東が確実に供給し続ける危機の着実な流れに振り回されることになるだろう。同時に、「アメリカ軍の帰国」を求める圧力が強まることも間違いなさそうだ。第一次世界大戦から1990年から91年にかけての湾岸戦争に至るまで、アメリカの近代的な紛争は全て、国民が政治家や政府関係者に国内問題に集中するよう圧力をかけてきた。過去13年間に起きた各戦争は、この本能的な偏狭さ(instinctive insularity)を再び引き起こした。金融危機後の経済回復が遅々として進まないことにアメリカ国民が苛立ちを募らせており、偏狭さが増大している。アメリカ政治には国際主義や強力な防衛を求めることで起きるひずみが依然として存在するが、アメリカ連邦議会には、アメリカが海外に関与することは、たとえアジアのような、アメリカの経済的安寧にとって重要な地域であっても、より困難な新時代を迎えるかもしれないという微妙な(そしてそうでない)兆候が出現しつつある。アジアに関しては、オバマ政権の残り数年間、そしてそれ以降も、やるべきことは山積している。

●軸足移動を行うためのパートナー諸国(PIVOT PARTNERS

アジアでは、経済と安全保障は切っても切れない関係にあり、アメリカは軍事力だけではリーダーシップを維持できない。だからこそ、TPPを成功させることは、海外でも議会でも厳しい交渉を必要とするが、最優先事項なのである。この協定はアメリカ経済に即効的に利益をもたらし、保護主義に引きずられることのない長期的な貿易システムをアジアに構築するだろう。交渉においてアメリカにさらなる影響力を与えるため、連邦議会は貿易促進に関する迅速な権限を速やかに復活させるべきだ。この制度の下で、TPPやその他の自由貿易協定を交渉した後、ホワイトハウスは連邦議会での賛否を問う投票を実施するように働きかける。オバマ政権はまた、アメリカのエネルギーブームを活用し、アジアへの液化天然ガスの輸出を加速させ、アジアにおける同盟諸国やパートナー諸国のエネルギー安全保障を強化するとともに、アジアの発展に対するアメリカの強い関与を示すべきである。

南シナ海における潜在的な危機を管理する一方で、イランと北朝鮮に対するアプローチの協調を強めることで、ワシントンと北京の深化し続ける関与はすでに成果を上げている。しかし、1998年にビル・クリントン大統領が表現したように、「戦略的パートナー(strategic partner)」であると同時に、後にジョージ・W・ブッシュ(子)大統領が表現したように、「戦略的競争相手(strategic competitor)」でもある、台頭する中国との関係をうまく取り扱うことは、アメリカにとってますます難しくなっている。

中国が東シナ海と南シナ海における領有権の現状を変えようとしていること、たとえば、東シナ海で日本が管理する島々の上に「防空識別圏(air defense identification zone)」を設定することは、当面の課題である。アメリカは中国に対し、修正主義的な行動は安定した米中関係、ましてや習近平国家主席がオバマ大統領に提案した「新しいタイプの主要国関係(new type of major-country relationship)」とは相容れないことを明確にしなければならないだろう。ワシントンは最近、政権高官たちが中国の広範な領有権主張の合法性に公の場で疑問を呈し、南シナ海に2つ目の防空識別圏を設定することに警告を発したことで、正しい方向へ進むための一歩を踏み出した。

東シナ海の向こう側では、日本の安倍晋三首相が数十年にわたる経済停滞から脱却し、日本に新たな誇りと影響力を与えようとしている。ワシントンは東京に対し、特に日本の帝国主義的過去をめぐる論争に関しては、自制心と繊細さ(restraint and sensitivity)をもって行動するよう促し続けなければならないだろう。安倍首相は最近、靖国神社を参拝した。靖国神社には、第二次世界大戦中に犯した戦争犯罪で有罪判決を受けた人々を含む、日本の戦没者が祀られている。この参拝は、国内では安倍首相を支持する政治家もいたかもしれないが、国際的には高い代償となった(The visit might have helped him with some political constituencies at home, but the international costs were high)。ワシントンにおいては疑問が生じ、韓国との関係をさらに悪化させ、中国は安倍首相が政権を握っている限り、日本と直接交渉したくないという姿勢を強めた。

この緊迫した外交情勢の中で、アメリカは、日本がアジア地域と世界において安全保障上の役割をより積極的に果たせるよう、日本の自衛隊と協力することになる。これには、実際には完全に合理的な措置であり、長い間待ち望まれていたにもかかわらず、日本の憲法再解釈と軍事近代化を反動的または軍国主義的であると特徴づける中国のプロパガンダに対抗することが含まれる。アメリカはまた、日韓関係改善に多大な政治資本を注ぎ続けなければならないだろう。この日韓二国間の関係強化は、北朝鮮がもたらす巨大かつ増大する脅威に対処するのに役立つだろう。

東南アジアの課題は北東アジアの課題とはまったく異なるが、アメリカの国益にとって重要であることに変わりはない。カンボジア、マレーシア、ミャンマー、タイを含む東南アジアの多くの国々は、程度の差こそあれ、外交政策を変更しかねない政治的混乱を経験している。このような状況の中で、ワシントンは民主政治体制と人権の基本原則を守らなければならないが、その際、独断的に行ったり、アメリカの影響力を低下させたりするようなことをしてはならない。勝者に賭けるのではなく、教育、貧困削減、自然災害への対応など、誰が政権を握ろうともこの地域の人々にとって最も重要な問題に焦点を当てることが最善のアプローチとなるだろう。

アジアの多国間フォーラムへのアメリカの参加を増やすことに加え、ワシントンは、南シナ海の主権紛争に対処するために国際法と仲裁を利用する努力を全面的に支援することによって、ルールに基づく地域秩序の発展を支援すべきである。フィリピンは、中国と競合する領有権を国際海洋法裁判所に提訴した。具体的な主張の是非について、今のところ判断を下すことなく、ワシントンはアジア地域の全ての国に対し、このメカニズムを公に支持するよう呼びかけることで、国際的なコンセンサス(合意)を形成する手助けをすべきだ。

アメリカは単独でアジアへのリバランスを行うことはできない。国際法や制度構築などの分野で多大な貢献ができるヨーロッパ諸国の参加が不可欠である。二国間関係が許せば、ワシントンはインドやロシアとも東アジアにおける協力拡大の機会を探るべきだ。そしてもちろん、この地域、特に東南アジアの国々が、アメリカの努力を補完するリーダーシップとイニシアティヴ(主導権)を発揮することも必要である。アジアへの軸足移動の重要点は、各国政府が強制や武力ではなく、ルールや規範、制度を使って対立を解決する、開かれた平和で豊かな地域を育成することである。アジアへの軸足移動はアメリカのイニシアティヴであるが、その最終的な成功はワシントンだけが実現するものではない。

※カート・キャンベル(KURT M. CAMPBELL):アジア・グループ会長兼CEO。2009年から2013年まで米国務次官補(東アジア・太平洋担当)。イーライ・ラトナー(ELY RATNER):新アメリカ安全保障センター上級研究員、アジア太平洋安全保障プログラム副部長。ツイッターアカウント: @elyratner

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