古村治彦です。
イーロン・マスクが創業し、宇宙開発事業で急成長を遂げているスペースXが2026年6月12日新規株式公開(IPO)を行い、1株135ドルで公開となり、成功を収めたという報道がなされた。その後は価格が下落し、135ドルを割り込むところまで来ている。スペースXのIPO成功によって、「宇宙資本主義(Space
Capitalism)」の時代がやってくるという楽観論が出ている。宇宙開発が新たなフロンティアということだ。
私たちが新しいフロンティアに向かうにはあまりにも技術が追いついていない。イーロン・マスクは火星移住を目標として掲げているが、半世紀前にはできていた次への着陸にまで四苦八苦しているようではどうしようもない。なぜ月に人類を送るという技術がこの期間に発達せずに退化してしまったのか、科学というのは不思議なものだ。どうしてだろう。もともと行っていなかったのではないか。このことにこれ以上は触れないが、月にさえいけないのにどうやって火星まで行くというのだろうか。
月での資源開発だと言ってみても、それまでにどれだけの時間とお金がかかるだろうか。月に行けば資源が掘り放題というイメージで語られているが、果たしてそうだろうか。月についてどれだけのことが分かっているのか。これから進む宇宙開発は衛星を膨大な数打ち上げて、通信インフラにするくらいのことであろう。それもまた大変なことであろうが、月に人類が行く、火星に人類が移住するなどと比べればあまりにも小さな一歩ではないか(月には既に人類が一歩を刻んでいるとされているが)。地球と月の距離は約34万キロであるが、私たちが行けるのはせいぜい十キロのものだ。
宇宙開発は現在、民間主導、アメリカ主導になっている。スペースXとNASAがやっているのだから当然だ。中国やロシアも進めているが、こちらは国家主導ということになる。スペースXは、衛星を打ち上げ、国際ステーションに物資を運ぶことでアメリカ政府からお金をもらっている。もちろん民間企業とのビジネスをやっているだろうが、どれほどの規模になるだろうか。
太陽系の惑星を植民地にして人類が拡大していくと言うのは、様々なSF小説やスペースオペラのモチーフになっている。そのような夢を持つのは楽しいことだが、現実は厳しい。中世以降のヨーロッパ諸国による植民地獲得競争の端緒となった大航海時代(Great Navigation)で考えてみても、この時代には数百名を収容可能の帆船があり(中国・明時代の鄭和の大遠征では数千人規模であった)、大遠征は可能であった。しかし、現在の私たちは手漕ぎボートで未知の大海に漕ぎ出す程度のことでしかない。せめてヨットであればまだしも、その程度では夢を見る段階にすら達していない。宇宙を利用してのインフラ整備が関の山である。「宇宙資本主義」などという言葉に踊らされるのは危険である。
(貼り付けはじめ)
イーロン・マスクと宇宙資本主義の台頭(Elon Musk and the Rise
of Space Capitalism)
-ヨーロッパ、中国、インドが苦戦する一方でアメリカは先行している。
C・ラジャ・モハン筆
2026年6月17日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/06/17/elon-musk-spacex-ipo-space-commercial-satellites-india-china/?tpcc=recirc_latest062921
ウォール街におけるスペースXの新規株式公開(IPO)は、取引初日の終了時点でスペースXの評価額が2兆1000億ドルに達するという驚異的な成功を収めたが、これは宇宙経済(the space economy)の将来に対する投資家の信頼の表れと言える。
スペースXを率いるイーロン・マスクが語る、宇宙への人工知能(AI)データセンター建設や火星の植民地化といった構想は、一見すると空想的に映るかもしれない。「人類が複数の惑星で生活できるようにするためのシステムや技術を構築し・・・意識の光を星々へと広げる」ためにスペースXを活用するという彼の考えは確かに現実離れしたものだ。しかしマスクは、宇宙には巨額の利益を生み出す可能性があると投資家に確信させた。そうすることでマスクは、現代資本主義が地球軌道上、さらにはその先へと急速に拡大していく時代の到来を告げた。彼が世界初の「紙上の(資産評価額ベースでの)」1兆ドル長者になったことよりも重要なのは、資本主義が宇宙にその足跡を刻もうとしているという事実だろう。
1950年代に幕を開けて以来、宇宙時代は長らく政府の独占領域だった。ロケット、人工衛星、スペースシャトル、軌道上の宇宙ステーションの建設や惑星探査といった活動は、国家主導で進められてきたのだ。冷戦期において、宇宙活動はワシントンとモスクワの間で繰り広げられたあらゆる分野にわたる競争の中で、科学的成果と国家の威信を象徴するものだった。空を目指すことはまた、軍事目的での宇宙利用や、新たなフロンティア(開拓地)における主導権の確保を意味するものでもあった。宇宙開発においてアメリカやソ連に追いつくことは、中堅国や野心的な国々にとって国家的な悲願となったのです。
ミサイル能力や宇宙空間におけるプレゼンスが、ワシントンとモスクワの間の大規模な核軍拡競争における重要な要素となる中、米ソ両国は1967年に宇宙条約(Outer Space Treaty、OST)を締結し、この新たな領域の国際的な管理に関する一定のルールを定めた。この条約は、宇宙への核兵器配備の禁止、天体に対する国家による領有権主張の禁止、宇宙活動に対する政府の責任の明記などを規定した。さらに、発展途上国からの圧力もあり、宇宙は「全人類の領域(province of all mankind)」であり、平和目的でのみ利用されなければならないと宣言した。
そうした世界は、今や私たちの目の前で消え去ろうとしている。それは必然的なことだった。1960年代の世界は、すでに遠い過去のものとなっているからだ。宇宙条約(OST)が宇宙活動の責任を政府に負わせたのは、単に宇宙へのアクセスに伴う広範な課題を認識してのことだった。しかし、20世紀から21世紀にかけて民間企業の技術力が飛躍的に向上したことで、今や民間プレイヤーが極めて重要な役割を担うようになっている。
実際、民間企業こそが技術革新、投資、そして事業拡大の主要な原動力となりつつある。活動の重心は政府から、起業家、投資家、そして企業(とりわけアメリカ企業)へと移行している。
この変革を最も象徴する企業がスペースXだ。マスクはわずか20年足らずの間に、政府や既存の航空宇宙企業が半世紀にわたって苦闘しても成し遂げられなかったことを実現した。ロケットの低コスト化や再利用化といった技術革新により、スペースXは軌道投入にかかる費用を劇的に引き下げた。かつては政府の特権であった宇宙へのアクセスは、今や商業サーヴィスへと変わった。
その結果、スペースXは世界のロケット打ち上げ事業を席巻するに至った。スペースXは2025年において、世界の全軌道打ち上げの約51%、アメリカの打ち上げの約85%を担っている。マスクが手掛ける「スターリンク(Starlink)」もまた、衛星通信市場を支配している。スターリンクは6月時点で約1万500基の衛星を軌道上に保有しており、最終的に4万2000基からなる衛星コンステレーション(衛星群)を構築すべく、さらに数千基を追加投入する計画を立てている。スターリンクを通じて、スペースXは軌道上に地球規模の通信ネットワークを構築した。政府、軍、企業、そして個人が、通信手段として民間所有の衛星コンステレーションにますます依存するようになっている。ロシアによるウクライナ侵攻の際、スターリンクの戦略的重要性が世界中に知れ渡ることとなった。マスクは商業・軍事通信の枠を超え、宇宙空間へのデータセンター建設を構想しており、さらに100万基もの衛星を打ち上げる計画についても言及している。
これは劇的な転換だ。何世紀にもわたり、インフラを構築するのは国家であり、民間プレイヤーたちはそれを利用する側だった。しかし今や、国家が依存する宇宙インフラを民間主体が構築するケースが増加している。スペースXだけではない。アマゾンの「プロジェクト・カイパー(Project Kuiper)」(最近「アマゾン・レオ(Amazon Leo)」と改称)も、競合する衛星ネットワークの構築を目指している。他にも、月着陸船、小惑星採掘技術、軌道上サーヴィス・システム、商業宇宙ステーションなどを開発する新興企業が次々と登場している。ユーテルサットのワンウェブ(OneWeb)は、民間宇宙インフラのもう1つの事例であり、アメリカ以外の企業によるものとしては数少ない例の1つだ。
新たなフロンティアが開拓されるにつれ、法的な統治のあり方が必然的に問われるようになる。財産権の定義や紛争解決の仕組みが極めて重要となる。かつてヨーロッパ諸国による海洋進出の時代には、主権の主張、航行の自由、遠隔地との貿易、そして戦略的競争をめぐって議論が巻き起こった。宇宙も今や同様の局面を迎えつつあり、その状況は宇宙条約(OST)が掲げる崇高な理念に影を落としている。
宇宙条約は、天体領域に対する主権の主張を禁じている。しかし、月や小惑星、その他の天体から採取された資源の所有権については、驚くほど何も規定していない。企業は、自ら採取した月面の鉱物を所有できるのか?
施設の周囲に排他的な活動区域を設定できるのか? あるいは、ある程度の財産権保護があって初めて価値が成立するようなインフラを構築できるのか? 多くの国や企業が月の南極を目指して競い合う中、宇宙条約の下での平等の原則を掲げつつも、実際には先行者が後発者に対して優位に立つことになるのだろうか?
こうした問いは、つい最近までは主に理論上の議論に過ぎなかったが、今日では現実的な課題となりつつある。
アメリカはすでに、企業が宇宙から採取した資源を所有する権利を認める方向へと動いている。現在のアメリカ国内法では、民間プレイヤーたちが(小惑星や月などから)回収した「宇宙資源(space resources)」を採取し所有することが明示的に認められているが、その一方で、アメリカは天体そのものに対する主権や領有権の主張を明確に否定し、こうした措置が宇宙条約と整合するものでなければならないと強調している。
アメリカ主導で数十カ国が署名した「アルテミス合意(Artemis Accords)」は、将来の月面活動に向けた原則の確立を目指すものだ。国際的な専門家の一部は、アメリカのこのアプローチ、特に「資源の採取は、それ自体が直ちに国家による領有(専有)を構成するものではない」とする主張については、依然として議論の余地があると指摘している。
主要な宇宙開発国もアメリカの動きに追随し始めているが、民間部門の参画規模やその活発さには大きなばらつきがある。いずれの国も、アメリカの持つような厚みのある資本市場や、民間部門における技術革新エコシステム(生態系)を有してはいない。
中国は2010年代半ばの宇宙政策改革以来、急速に拡大する商業エコシステムを構築してきたが、民間企業は共産党・国家による強力な指導の下で活動している。ヨーロッパは複数の資金提供手段を通じて宇宙分野での起業を積極的に推進しているが、依然として大きく遅れを取っている。日本は、法整備の進展に伴うスタートアップの参入により、民間のロケット打ち上げや衛星サーヴィスの育成を開始した。インドは宇宙分野を自由化し、活気あるスタートアップ環境の台頭を促したが、民間資本のさらなる拡大に向けた正式な法的枠組みの整備には至っていない。ロシアは依然として国営企業が支配的な地位を占めているが、民間部門に対して徐々に門戸を開きつつある。
ルクセンブルクとアラブ首長国連邦(UAE)という、小規模ながら戦略的な野心を持つ2つの国家は宇宙における民間企業を明確に優遇する国内法制度を迅速に整備した。金融・企業活動のハブとして国力以上の存在感を示すルクセンブルクは、2017年に、宇宙で採掘された資源に対する企業の所有権を認める法律を成立させた。ルクセンブルクはこれを、公的投資ファンド、規制の明確化、そして外交的働きかけによって後押しした。その結果、小惑星採掘や衛星サーヴィスを手掛ける企業群がルクセンブルクに移転し、この小国は世界の宇宙経済における意外な重要拠点へと変貌を遂げた。
UAEも同様の道を進んでいる。2019年に制定されたUAEの宇宙法は、民間事業者にとって自由度の高い環境を提供し、外国からの投資を奨励するとともに、UAEを商業宇宙活動の地域的ハブとして位置づけている。
宇宙資本主義がグローバル化するにつれ、宇宙条約の曖昧さがより鮮明に浮き彫りになるだろう。民間資本が新たな領域に参入するには、明確な財産権が必要となる。しかし、まさにこの点に地政学的な要素が絡んでくる。宇宙における財産権をめぐる議論は、単なる法的な問題にとどまらず、急速に戦略的な問題へと変化しつつある。アメリカとそのパートナー諸国は、「アルテミス合意」を中心とした枠組みを構築している。一方、中国はロシアやその他のパートナーと緊密に連携し、「国際月面研究ステーション(International Lunar Research Station、ILRS)」計画に関連した独自の枠組みを推進している。専門的な用語の背後には、次なるフロンティアのルールを誰が策定するのかという、より大きな競争が存在している。
宇宙資本主義の台頭によって国家の役割がなくなる訳ではない。それどころか、海洋分野や電波周波数帯の管理と同様に、何らかの合意されたルールを策定する政府の役割が世界的に求められることになるだろう。民間資本が宇宙へと進出する中、新たなルールが合意される前に優位な地位を確保しようと、国家間で激しい競争が繰り広げられることは避けられないだろう。
宇宙に対する国家の独占体制は終わりを迎えつつあるかもしれないが、各国政府は自国の企業を支援し、支配的な地位を確立しようとし続けるはずだ。マスクが率いるスペースXの株式公開(IPO)は、宇宙をめぐる人類の壮大な競争において、新たな大きな一歩となる可能性がある。
※C・ラジャ・モハン:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。O・P・ジンダル・グローバル大学モトワニ・ジャデジャ・アメリカ研究・研究所の特別教授、戦略・防衛研究評議会(the Council for Strategic and Defense Research、CSDR)におけるアジアの地政学担当コリア・ファウンデーション寄贈学科長を務めるほか、インド国家安全保障諮問委員会の元メンバーでもある。Xアカウント:@MohanCRaja
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『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』














