古村治彦です。
アメリカ大統領選挙投開票日まで約2週間となった。現状では、ドナルド・トランプ前大統領支持が増えており、ハリスは厳しい状況になっている。ジョー・バイデン大統領撤退によって、カマラ・ハリス副大統領待望論が醸成され、激戦州が多い中西部の代表的な男性像を示しているミネソタ州知事ティム・ウォルツを副大統領候補として選ばれた8月から9月にかけて、ハリスが支持率でトランプを逆転し、激戦州でも軒並みハリスが優位な立場に立った。
それが、メディアに出てのハリスの受け答えなどが放送されると、「当意即妙さがない(頭が良くない)」ということがばれ始め、支持を減らしていった。「あの人がアメリカ合衆国初めての女性大統領で良いのか、大丈夫なのか」という否定的な疑問が有権者の中で芽生えている。そこに「経験不足」が加わっている。経験不足という点では、ビル・クリントンも、ジョージ・W・ブッシュも、バラク・オバマもワシントン政治の経験はほとんどなかった。ハリスに対してだけ経験不足を理由にするのは間違っているが、ハリスはそれを言わせてしまう能力の欠如が明らかにされつつある。
『ザ・ヒル』誌の勝利可能性のグラフ(青:ハリス、赤:トランプ)
下に紹介した記事は1カ月前の記事で、まだハリスの勢いがあった頃のものだ。それでも、選挙結果予測で有名になったネイト・シルヴァーは、自身がハリス支持であるにもかかわらず、トランプ当選の可能性が高いと危惧し、トランプ当選に備えよと述べている。シルヴァーは有能な選挙予測のプロとして、ハリスの人気が落ちていること、トランプの人気が上昇していることを掴んでいるのだろう。
「FIveThirtyEight」での予測(赤:トランプ、青:ハリス)
五大湖周辺州のウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルヴァニア州での支持率の数字は接戦となっているが、8月と9月にハリスに遭った勢いは落ちている。トランプが追い上げて逆転している。民主党のジョー・バイデン政権がハリスの援護射撃のために、オクトーバーサプライズを仕掛けることが考えられるが、経済政策では投開票日までに効果が出る施策は難しい。また、ウクライナ戦争や中東紛争で停戦ということも考えにくい。このままの状況で進むとなると、トランプが勝利を収めるということになりそうだ。また、現状から逆転してハリスが勝利ということになれば、選挙後に不満を持った有権者たちが暴力に訴えるということも起きる可能性がある。目を離せない展開となるだろう。
(貼り付けはじめ)
「人々は今すぐに不測の事態の発生に備えるべき」:トランプ勝利の可能性について、アメリカ有数の予測者がそのように語っている
-ネイト・シルヴァーの選挙モデルは、何百万人もの有権者に再び注目されている。ギャンブラーから統計学者に転身したシルヴァーが、ホワイトハウス争奪戦、我々の文化を再定義するリスクを取る冒険者たち、そして神の確率について語っている。
デイヴィッド・シャリアトマダリ筆
2024年9月21日
『ザ・ガーディアン』紙
https://www.theguardian.com/us-news/2024/sep/21/people-should-be-making-their-contingency-plans-like-right-away-americas-leading-forecaster-on-the-chances-of-a-trump-win
ロンドンはネイト・シルヴァーにとって少し穏やかな場所だろうか? 多大な影響力を持つアメリカの選挙モデルで知られる統計の専門家は、リスクに関する新しい本の宣伝のためにロンドンを訪問しており、大西洋のこちら側で安全策を講じるあらゆる方法に注目せずにはいられない。シルヴァーは「ロンドンの地下鉄に行くと、ガードドアがあるが、ニューヨークの地下鉄には何もない」と述べている。彼は明らかにエリザベス線に乗ったようだ。あるいは、「ウーバーで呼んだ車に乗っているのに、後部座席でシートベルトをしていないと、イギリス式の非常に礼儀正しいビープ音が鳴り響く」と、彼は不安をかき立てるような高速の笑い声で言う。シルヴァーはそれほど気にしている訳ではない。彼が学生時代に1年間過ごしたこの街が気に入っているという印象を受けるが、そしていずれにせよ「両国は異なるトレードオフを行っている」と述べている。つまり、アメリカは規制が少なく、より高い成長を遂げている。しかし平均余命は低い。まさに生き急いで若くして死ぬということだ。
しかし、シルヴァーが最もくつろげる場所はロンドンであることは明らかだ。「この本を書いている間、カジノで多くの時間を過ごした」と彼は著書『魅了されて(On the Edge、オン・ザ・エッヂ)』の冒頭で告白し、「200のゲームテーブル、1275の客室、3000台のスロットマシン、そして20000フィート上空からネオンブルーの光を放つギターの形をしたきらびやかなホテル」を誇るフロリダのカジノについて述べている。王立芸術協会(Royal Society of Arts)の落ち着いた魅力からかけ離れた彼は、野球帽にTシャツという出で立ちで、広報が持ってきたチョコレートをムシャムシャと食べながら、必要な血糖値を上げている(「今日は8時間ぶっ通しで働きづめだ」)。彼の新しい現代パワーの分類法によれば、私たちはまさに「ザ・ヴィレッジ(The Village)」にいる。これは、彼が説明したあのドーパミンまみれのカジノは「ザ・リヴァー(The River)」の一部だ。
リヴァーは自由に流れ、バラバラで、エキサイティングな急流や激流に満ちている。ヴォーカー・トーナメント、ヴァガス、ヴェンチャー・キャピタル、シリコンバレーを網羅し、そこに住む人々(彼は彼らを「リベリアンズ(Riverians)」と呼ぶ)は、匿名のブラックジャック・プレイヤーからイーロン・マスク、暗号通貨詐欺師のサム・バンクマン・フリードまで、少なくとも後者がカリフォルニアの矯正施設に居を構えるまでは多岐にわたる。その考え方は高度に分析的で、やや逆張りで、スリルを求めることが多い。しかし、シルヴァーによれば、それは先進資本主義の奇妙な産物以上のものであり、猛烈な技術革新の時代において、社会の形、そして私たちの集団の未来を決定する上で、非常に大きな役割を果たすことになるということだ。
「ザ・ヴィレッジ」の方が理解しやすい。堅苦しく、動きが鈍く、規範や正統性、古いメディア、大学、政府省庁の本拠地である。ヴィレッジャーたちは、『ガーディアン』紙や『ニューヨーク・タイムズ』紙を読む。シルヴァーは、経済学を学んだ後、プロのポーカー・プレーヤーになり、その後政治評論家になった。彼は自分は両方の陣営に足を踏み入れていると考えている。『魅了されて』は、そんな彼のガイドであり、溝を埋めようとする試みでもある。「私はヴィレッジとリヴァーがお互いをもっと理解し合えるようにさせたいと思っている」と彼は取材に答えて述べた。
しかし、彼とヴィレッジの関係は複雑だ。シルヴァーは2008年の大統領選挙で、彼の選挙モデルが50州中49州で勝敗を的中させたことで注目を集めた。2010年にはニューヨーク・タイムズ紙が彼を起用し、2012年のオバマとミット・ロムニーの戦いでは、彼は50点満点を獲得した(統計的思考に関するありそうでなかったベストセラー『シグナルとノイズ』も執筆)。2016年になると、彼のウェブサイト「FiveThirtyEight.com」はスポーツネットワークESPNに買収され、絶望的な不安の中で、予言的な力を持つものとして扱われるようになった。実際、心配性のリベラル派が彼の選挙人団地図を常に更新したおかげで、「人気が出すぎた」とシルヴァーは書いており、分析会社のチャートビートが彼の予測を「英語圏のインターネットで文字通り最も魅力的なコンテンツ」と評価したことを指摘している(2位はBBCの「Brexit Liveblog」)。彼のモデルは、ヒラリー・クリントンが勝利する確率を71%と、他の誰よりもずっと低い確率で予想したが、クリントンが勝利しなかったとき、「政界の多くの人々の反応は『ネイト・シルヴァーはくそったれの馬鹿野郎だ』というものだった」。ネイト・シルヴァーからすれば、彼のやっていることが理解できなかっただけなのだ。確率で言えば、トランプの勝利は青天の霹靂という訳ではなかった。
私たちは今、非常に不透明な選挙の真っただ中にいることに気づき、政治ジャンキーたちは再びシルヴァーに政治情報を求めている。今回は彼のサブスタックである「Silver Bulletin」であるが。(「FiveThirtyEight」ブランドは現在ABCの所有だが、シルヴァーは彼のモデルの権利を保持している。「私はニュースレターで他のものよりはるかに多くの収入を得ている」と述べている。
私たちのインタヴューの数日後、ドナルド・トランプ大統領は記者会見を開き、「ネイト・シルヴァーはとても尊敬できる人物だが、私は彼を知らない。しかし、彼は私を大いに助けてくれた」と述べた。
今回、人々が自分の予測を誤用したり誤解したりしているのではないかとシルヴァーは心配しているのだろうか? 「いいえ」と彼は躊躇なく答えた。シルヴァーは次のように述べている。「いいえ。つまり、人々はこれらの世論調査をどのようにでも解釈するつもりだが、私たちはそれを行うための経験的に適切な方法を持っており、16年以上の実績を持っている。私は強権的な態度ではないと思っているがどうだろうか?
私は有益な情報をお届けしている。私たちはそれについて多くのコンテキストを提供する。私は昔ながらの伝統主義者で、人々に良い情報を提供し、それによって人々がより良い意思決定を行えるようになると確信している」。
大統領選の討論会を1週間後に控えた今朝、予測モデルはトランプが選挙人投票で勝つ確率を58%、ハリスが一般投票で勝つ確率を60%としている。しかし、ここまで来ると、実質的には五分五分(toss-up)だ。統計オタクはロボットのような博識者という一般的なイメージを考えると、驚くべきことかもしれないが、『魅了されて』で、シルヴァーは直感を重視している。「私は、直感や感情的な判断は、ただ押し返さなければならないものではなく、むしろ実際に付加価値を与えるものだと考えている」と彼は私に述べた。これは『シグナルとノイズ』からの転換であり、『シグナルとノイズ』では「データをもっと活用すれば問題は解決するという、ある種ナイーブな考え方をしていた」とシルヴァーは述べた。
では、彼は誰が勝つか直感(gut feeling)を持っているのだろうか?
「そうかもしれない」と彼は言うが、その前に、「選挙キャンペーン中は、誰もが脳が非常に政治的になる」ので、この文脈ではあまり信頼できないだろうとハリス支持者である彼らしい込み入った説明を始めた。彼はハリス支持者である。おそらく彼は、自分のモデルを否定するような発言はしたくないのだろう。シルヴァーは「もし私に強い直感があれば、そうだろうと言うだろう。しかし、今のところはそうではない」と述べた。
今回のような大接戦の選挙(knife-edge election)において、予想がどれほど役に立つだろうか?
どちらに転ぶかわからないという洞察でさえ役に立つとシルヴァーは主張する。シルヴァーは次のように述べている。「五分五分だという予測があることの潜在的な利点の1つは、人々がすぐにでも不測の事態に備えた計画を立てるべきだということだ。弾薬やピーナツバターの備蓄が必要だということではない。あるいは、2028年(あるいは2032年)には、トランプのような共和党が、もしかしたらトランプよりも効果的かもしれない。例えば、私がリベラル派の献金者なら、必要以上の資金を持っているカマラ・ハリスにまた10万ドルを献金するのではなく、そのような事態に備え、制度を守るために今、資金提供を始めたいと思うだろう」。
そして、シルヴァーはトランプの勝利を恐れているが、「前回は完全かつ完全な惨事を防ぐために多くのガードレールが設置されていたが、そのガードレールは弱体化したということだろうか?」と述べている。シルヴァーは、それを民主政治体制に対する実存的脅威として、少なくとも政治戦略として描くことに対して警告している。シルヴァーは次のように述べている。「その意味で基本的に有権者を人質に取るという考えは非常に魅力的ではない。バイデンはこう言った、『分かった、確かに、私は86歳まで大統領をするために立候補しており、現状ではかろうじて完ぺきな文章を書けるくらいかもしれない。しかし、もし私に投票しなければ、それがやってくる』。これは有権者に投票してもらうには非常に魅力のないアピールだった。一方、ハリスはより多くの喜びをもたらし、明らかに非常に才能のある女性だ」。しかし、シルヴァーは、ハリスが「バイデンを続投させるのが得策だと考えるバイデン派の人々をあまりにも多く引き留めてしまった」ことを懸念している。「彼女はそうする必要があったのだと思う」とシルヴァーは述べている。
全てのリベラル派がハリスの立候補に熱狂している訳ではない。そのなかにはイーロン・マスクもいる。彼は、トランプが支出や規制を削減するための「政府効率化委員会」という彼のアイデアを採用したことについてコメントし、フォロワーに「機会があればアメリカに貢献することを楽しみにしている」と語った。シルヴァーの見解では、ツイッター、そして現在のXを買収したことが、彼の頭をよぎったようだ。「経済的にはかなり悪い賭けだったと思う。しかし、文化的な影響力という点では、エリートの間でアメリカの言説をかなり右傾化させた。イーロン・マスクがリベリアンとして最も分かりやすい人物でなければよかったのだが。イーロンは
「ああ、僕はただの穏健派なんだ 」と言えた時代だ。彼は右翼のミーム(中には彼自身が作り出したものもある)にとても騙されている。知らないかもしれないが、「Pilled」とは極めてオンライン的な専門用語で、ここでは「改宗した(converted)」というような意味である)。
このサイトの利用頻度が非常に高いユーザーとして、シルヴァーはこのサイトの変化についてどう感じているのだろうか? 彼は「パンデミック時代のヴァージョンに比べれば、それほど酷いものではないと思う。反対意見を取り締まるために、ヴィレッジによって利用され、非常に合理的な立場を持つ人々を本当に批判していた」と述べている。新型コロナウイルスに対する彼のスタンスは、ワクチン推進派であり、ロックダウン懐疑派であった。「イーロンの前の時代には、集団思考(group thinking)が蔓延していた。そのために絶対に非難された。今は少なくとも、より多元的だった」と述べた。彼はまた、「政治的に不都合な考えを誤報(misinformation)だとレッテルを貼る」人が多すぎることから、「誤報というのは、少なくとも第一近似値ではでたらめだ」とも考えている。彼は、「ジョー・バイデンの年齢に関する懸念に誤報や深いフェイクであるというレッテルを貼る」試みと同様に、新型コロナウイルスの研究室リーク説に対しては冷ややかに却下している。
しかし、これは本当にヴィレッジなのだろうか? それとも単なるソーシャルメディア上の接近戦なのか? 私は、研究所のリーク説は主流派の学者たちによって堂々と調査されたことを指摘する。FBI(リヴァーの前哨基地とは言い難い)は、それが最も可能性の高い説明であると結論づけた。「彼らは1、2年後には修正する」と彼はヴィレッジの機関について言い、民主党も最終的にはバイデンを交代させたと指摘する。シルヴァーは「しかし、ある種の機敏さが欠けていると彼は明らかに感じている」と述べている。
そして、誤報に関しては、最近のイギリスで暴動事件が起きた際にマスクが『デイリー・テレグラフ』紙の扇動的な(そして偽造された)見出しをツイートしたことについてはどうだろうか?
シルヴァーは「だからこそ、政治的党派性を理解し、強権ではなく、自分自身にレンズを向けることのできる人々が必要なのではないか?」と述べた。何かを否定する閾値(threshold)を高く保つことは、実際に信頼を高めると彼は主張する。「暴動に関する嘘の映像、アメリカの選挙陰謀説、QAnonやワクチン陰謀説、これらは誤報として適切に分類されるものだと思う。完全にもっともらしい、研究室からのリーク説を否定したり、『ああ、ハンター・バイデンのラップトップだ』と言ったりするのは、ヴィレッジの信頼性を非常に損なうものだ」。(当初はロシアのフェイクとして却下されたが、ハンター・バイデンの放置されたノートパソコンから発見された証拠となる電子メールは、後に本物であることが判明した)。
シルヴァーは特にXに対して辛辣で、彼のモデルや実践を軽視する人々に対して攻撃的になる。スタンフォード大学のジャスティン・グリマー教授が、政治予測(political forecasting)についてよくある批判を行った時、選挙の頻度が低すぎるため、いかなる精度で確率を計算することもできない(あるいは、彼の言葉を借りれば、「結果データが不足しているということは、選挙予測者が予測をしなければならないことを意味している統計モデルを構築する方法についての知識に基づいた推測」)、シルヴァーはグリマーを「たわごとのモデルを作成できない退屈な学者」の1人として非難した。私たちが会った時、彼は攻撃の言葉を少し変えて、「統計的推論の実際のスキルを全然持たない退屈な学者」と呼んだ。
このようなことは人間関係を腐らせるのではないだろうか? シルヴァーは次のようになっている。「人々がツイッターをあまり深刻にとらえなければ、もっと良くなると思う。私たちはただふざけて楽しんでいるだけのことだから。これは、いかにもアメリカ的で、イギリス的ではないのではないか?
私は、このような怠惰な悪意のある批判をする人々に対して偽の善意で行動することを信じていない。80%の場合は無視するが、20%の場合は反撃する」。
いかにもイギリス人らしいと言われるかもしれないが、多くの人々が、そしてシルヴァーもその1人かもしれないが、X上で見るよりも実際に会った方が80%ほど素敵に見えるという事実は、私たちを立ち止まらせるべきだと思う。ソーシャルメディアが、人類が直面する最大の問題でないことは明らかだが、イーロン・マスクの指導は、リヴァーの権力に内在する問題を物語っている。投獄された起業家サム・バンクマン・フリードについて、シルヴァーは何度もインタヴューしている(「彼は奇妙な人物で、リスクに対する考え方が
『非合理的で、ある種狂っている』」)。SBFとして知られるバンクマン=フリードは、彼の暗号通貨取引プラットフォーム「FTX」を利用した投資家から数十億ドルを盗んだ罪で、最終的に投獄された。シルヴァーは検察側証人の証言を引用する。SBFは、「コインが裏になって世界が破滅しても、表が出れば世界が2倍以上良くなるのであれば、喜んでコインをはじくだろう」と証言している。
結果的には、この強引な態度がSBF自身の破滅を招いただけだった。しかし、その影響はもっと広範囲に及んでいた可能性がある。シルヴァーは、SBFが人工知能企業Anthropicに多額の投資をしていたことを指摘している。この技術が社会を一変させ、破壊する可能性さえあるのではないかという懸念が真剣に議論されている今、彼が大手AI企業のCEOになっていた可能性も考えられる。「シリコンバレーは、非常に自信過剰な創業者、つまり、本質的に成功する確率の低い逆張りのアイデアに大きな賭けに出ようとする人を選ぶ」と、シルヴァーは『魅了されて』の最後に書いている。それは技術革新にとってはいいことかもしれない。ヴェンチャー・キャピタルにとっても、賭けたものがうまくいったときにはいいことだ。しかし、私たちにとっては必ずしも良いことではないかもしれない。「SBの運は、ある時点でほぼ必然的に尽きることになる。しかし、その運がすぐに尽きてしまったことは、我々全員にとって幸運だった」とシルヴァーは述べている。
シルヴァーの内なる「ヴィレッジャー」たる所以は、このリスクの高さにある。彼はAIの危険性がかつてほど
「無視(neglected)」されていないことを喜んでいるが、それでもリヴァーの覇権がもたらす結果があまりにも悲惨で、規制の必要性を否定できない分野であることに変わりはない。彼は他の危険な技術に例えて言う。「自宅の裏庭に原子炉は建てられないだろう?
政府の役割は必要だと思う」。
このような実存的な疑問について考えることが、シルヴァーをヴィレッジの緑を越え、比喩的な教会へと導いたのかもしれない。このように尋ねると、シルヴァーは「私は無神論者(atheist)よりも不可知論者(agnostic)に近いかもしれない」と答えた。そのことを話すのが少し恥ずかしいのか、彼はくすくす笑い出した。しかし、彼が少しウジウジしてきたと思っていたが、統計学者の面がすぐに戻ってきた。「ベイズ的な見地から言えば、宇宙の起源や性質についての疑問に対する良い答えを持っていないと思うんだ。明らかに、キリスト教神学やそのようなものに低い確率を置くと思うんだ。でも、人々はもっと心を開くべきだと思う」。
「今回の本は3冊目の本になるかもしれない」と彼はつぶやいている。ネイト・シルヴァーは神の存在にオッズをつけることになるかもしれない?
それに賭けてはいけない。
(貼り付け終わり)
(終わり)

ビッグテック5社を解体せよ