古村治彦です。

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体
最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。
第二次ドナルド・トランプ政権は「変容した」と言うしかない。トランプの急激な変わり身は周囲を置き去りにしている。就任してすぐの、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領との会談の厳しい態度、J・D・ヴァンス副大統領の厳しい叱責は、ウクライナ戦争の停戦を促す効果があると当時の私は考えていた。ヨーロッパ諸国、特にイギリスは「口だけ番長」で、武器も金も人も出さずに、ウクライナを焚きつけるだけ、ほとんどがアメリカの金で戦争が行われてきた。トランプはこの状況を変えるだろうと考えていた。
2025年も残り2カ月を切った。また年を越える。ウクライナ戦争は勃発以来、4年目であり、来年の2026年2月24日を過ぎても戦争が継続していれば、5年目に突入ということになる。ロシア政治や経済、国際関係の専門家たちは、ロシアは人員と戦費の関係で戦争を続けられないと4年間も言い続けた。月報のように「もうすぐロシアはギヴアップ」と言い続けてきた。アメリカとヨーロッパ諸国に比べて、圧倒的に経済面で脆弱なはずのロシアが戦争を継続し、奪取した地域を維持している。この戦争はウクライナの負けではなく、西側諸国の負けということになる。トランプはこの西が諸国の負けを確定させながらも、ロシアとの「ディール(deal、取引)」によって、ある程度の利益を確保できると私は考えていた。しかし、状況はどうもそうなっていない。
ドナルド・トランプとイギリス国王チャールズ三世
ヨーロッパ、とくにイギリスがトランプを取り込むことに成功したと考えている。関税交渉をうまく片付け、史上初の米大統領として2度目の国賓招待ということで、トランプを手懐(てなず)ける(tame)ことに成功したのかもしれない。イギリスの狡猾さと外交力は、実力を失って久しい21世紀になっても侮れない。「現代のビザンツ帝国と言うべきだろう。ヨーロッパは、ドナルド・トランプ、習近平、ウラジーミル・プーティンによるヤルタ2.0体制の構築を阻止し、ヨーロッパ防衛にアメリカを関与させ続けることに成功した。トランプの「変容」「変わり身」は、ポピュリズムの敗北を意味する。私たちはこのことを冷静に見つめ、分析しなければならない。
(貼り付けはじめ)
トランプとヴァンスがヨーロッパについてどれほど不快な態度を取ったとしても、彼らは率直な真実を語っている(No matter how distasteful we find Trump and Vance over Europe, they
speak a blunt truth)
-アメリカは最悪のタイミングと最悪の言い方を選んだが、再編を求めるのは正しい。
サイモン・ジェンキンス筆
2025年2月21日
『ザ・ガーティアン』紙
https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/feb/21/donald-trump-jd-vance-europe-us-realignment
ここ最近、右翼勢力でいるのは大変だ。ドナルド・トランプについて何か良いことを言う必要がある。それは困難だ。彼はウクライナ戦争を始めたのはキエフであり、その大統領であるウォロディミル・ゼレンスキーを「独裁者(dictator)」だと考えている。しかし、J・D・ヴァンスはどうだろうか? アメリカ副大統領は、「言論の自由(free speech)を後退させている」ヨーロッパの「内部からの脅威(threat from within)」は、ロシアや中国からのどんな脅威よりも深刻だと考えている。彼らは正気を失っている。他に何を言うことがあるだろうか?
答えは数多くある。ジョン・スチュアート・ミルは「物事について、自分の側しか知らない人は、そのことについてほとんど何も知らない(he who knows only his own side of the case knows little of that)」と警告した。私たちは、彼らの主張に賛成するか否かに関わらず、理解しようと努力しければならない。
確かに、彼らは嘘つき(mendacious)で偽善的(hypocritical)だ。トランプは、ゼレンスキーが「選挙を拒否している(refuses
to have elections)」と主張し、「各種世論調査では非常に低い支持率だ(very low in
the polls)」と主張しているが、最近の世論調査では依然としてウクライナ国民の過半数の支持を得ている。「内部からの」言論の自由への脅威(the threat to free speech “from within”)に関しては、AP通信はメキシコ湾を「アメリカ湾(Gulf of America)」に改名することを拒否したためホワイトハウスのブリーフィングから締め出され、トランプ大統領の友人であるイーロン・マスクはCBSの「嘘つき(lying)」ジャーナリストは「長期の懲役刑に値する(deserve a long prison sentence)」と考えている。
トランプ・ヴァンスは、世界を善と自由へと導くという、神から与えられたアメリカの宿命について、半世紀にもわたって合意に基づいた曖昧な言い回しをしてきた。平和と戦争、移民問題、関税問題など、彼らはアメリカの利益のみを追求していると主張している。なぜアメリカは、自衛できないヨーロッパを守るために毎年数十億ドルもの費用を費やす必要があるのだろうか?
なぜ遠く離れた国々に武器を与えて隣国と戦わせたり、途方もない額の援助を困窮するアフリカに注ぎ込んだりする必要があるのだろうか?
もし世界の他の国々が失敗してきたとしたら、アメリカは2世紀半もの間自由で豊かであり続けてきたのだが、それは世界の問題だ。アメリカはこの50年間、地球上の生活を向上させようと巨額の資金を費やしてきたが、率直に言って、それは失敗に終わった。外交儀礼(diplomatic etiquette)などどうでもいい。
ウクライナに関してはもうたくさんだ。ウラジーミル・プーティン大統領はアメリカを侵略するつもりはなく、西ヨーロッパを侵略する意図もない。もしヨーロッパがそうではないふりをし、ウラジーミル・プーティンの敵を擁護し、彼に制裁を与えて激怒させたいのであれば、ヨーロッパだけでそうすることができる。
NATOはヒトラーとスターリンの産物だ。ヨーロッパ防衛の費用をアメリカに負担させるための単なる手段に過ぎなかった。だが今は違う。米国防長官ピート・ヘグセットは「アメリカはもはやヨーロッパの安全保障の主要な保証者(the primary guarantor of security in Europe)ではない」と述べた。これで核抑止力も形骸化した。
実際には、こうした主張は目新しいものではない。ただし、これほど露骨に政権によって表明されたことはこれまでなかった。様々な形で、それらは1世紀以上にわたるアメリカのアイソレイショニズム(Isolationism)の表層下に潜んでいた。選挙に勝つため、ウッドロウ・ウィルソンは第一次世界大戦について「私たちとは無関係であり、その原因は私たちに及ばない(one with which we have nothing to do, whose causes cannot touch us)」と断言した。フランクリン・ルーズベルトも第二次大戦について同様の約束をした。彼はアメリカの母親たちに「何度でも繰り返すが、あなた方の息子たちは外国の戦争に送り込まれることはない(again and again and again, your boys are not going to be sent into
any foreign wars”. Neither kept his word)」と約束した。どちらもその言葉を守らなかった。
ヴェトナム戦争時のように、戦争中はアメリカ世論も愛国的になる。しかしそれ以外は一貫して反介入主義的(anti-interventionist)だ。ケネディは「地球規模の犠牲(global
sacrifice)」を訴え、「アメリカがあなたのために何をするかではなく、人類の自由のために共に何ができるかを問え(ask not what America will do for you, but what together we can do
for the freedom of man)」と訴えたかもしれない。だがそれは主に外国向けの美辞麗句に過ぎなかった。
トランプ・ヴァンスが今、西ヨーロッパ諸国に伝えているのは「本気になれ(get
serious)」だ。冷戦は終わった。ロシアが西ヨーロッパ占領を望んでいないことは周知の事実だ。この脅威は、賢明な大統領ドワイト・アイゼンハワーが「米軍産複合体(military-industrial complex)」と呼んだ連中が作り上げた幻想に過ぎない。彼らは恐怖から利益を搾り取ることに長けている。キア・スターマーが本当に「防衛を優先する(to give priority to defence)」つもりなら、自らの保健・福祉予算を削減して賄えばよい。だが彼は本当に脅威を感じているのか、それとも単に聞こえが良い言葉を言っているだけなのか?
ジョー・バイデンはキエフへの支援の程度に細心の注意を払った。今こそ脱出の避けられない瞬間だが、それに先立って非常に困難な停戦が必要となるだろう。ワシントンからの実質的な保証がなければ、キエフの最終的な敗北以外に道は開けない。ウクライナは、南ヴェトナムにおけるアメリカの再来となる可能性もある。
トランプ・ヴァンスは、冷戦の大部分を支えてきた陳腐な言葉(platitude)、こけおどし(bluff)、そして不当利得(profiteering)の混合物の実態を、最小限の配慮で暴露することを決断した。1989年のNATOの勝利は、より微妙なニュアンスを持つ多極世界への移行の必要性を示唆していたが、それは決して適切に定義されることはなかった。
トランプ・ヴァンスが言うように、再編は切実に必要だ。しかし彼らがそれを表明したタイミングと方法は最悪の選択だった。私たちは彼らに好きなだけ無礼に振る舞えるが、彼らにはアメリカの民主政治体制が味方するだろう。
※サイモン・ジェンキンス:『ザ・ガーディアン』紙コラムニスト。
(貼り付け終わり)
(終わり)
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』




