古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:ウクライナ

 古村治彦です。

 私は昨年11月末に著書『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』を出した。著作の中で私は次のように主張した。ピーター・ティール率いるビッグデータ分析やAI開発のパランティア・テクノロジーズ社、イーロン・マスク率いる宇宙開発のスペースX社、パルマー・ラッキー率いるドローン開発のアンドゥリル・インダストリーズ社が「新・軍産複合体(Neo Military-Industrial Complex)」を形成し、アメリカ政府とアメリカ軍に食い込む形で、大型契約を締結し、巨額の利益を生むということになる。その具体例が「ゴールデンドーム」という、ドナルド・トランプ大統領が発表した、アメリカ全土を防衛するシステムである。このシステムの重要な点は、長期契約(サブスクリプション契約)によって、長期にわたり、巨額の利益を上げる点にある。そして、彼らは大規模な戦争を忌避するだろう。新・軍産複合体は長期契約で利益を上げるが、米中衝突などの大規模な演奏は望まないし、そのようなことになったら、技術提供を止めるなどして阻止することになるだろう。


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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

 今回のイラン攻撃は大規模攻撃である。私の主張の一部は外れているという指摘があるだろう。しかし、今回のイラン攻撃について、イスラエルとアメリカの目論見は、最初の一撃でイランを屈服させるというものであった。しかし、それが外れてしまい、大規模化、長期化せざるを得なくなった。アメリカはこのような形になることを望んでいなかったし、想定していなかった。

 以下の論稿は、私の主張の正当性を担保してくれる内容になっている。「サブスクリプション」という言葉も出てくる。最先端の高度技術を提供する民間企業が政府の政策遂行、軍の作戦遂行においてイニシアティヴを取るという時代がそこまで来ている。最後に宣伝になって恐縮だが、是非、拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』をお読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

スターリンクは地政学を民営化した(Starlink Has Privatized Geopolitics

-ウクライナからイランまでイーロン・マスクのサーヴィスは外交政策の仲裁者(an arbiter)となった。

ロバート・ムガー、ミシャ・グレニー筆

2026年3月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/20/starlink-spacex-musk-geopolitics-war-ukraine-russia-iran/

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ウクライナのドネツクで戦闘任務中にウクライナ兵がスターリンク衛星モデムを調整している(2025年3月12日)

スターリンクは単なる商用通信サーヴィスではない。それは、戦争をいかに戦われるか、国内の混乱へ国家は以下に対処するか、そして政府の統治が及ばない分野において犯罪組織が如何に活動するかについて、ますます左右する戦略的インフラ(strategic infrastructure)になっている。スターリンクが政治的にこれほど重要な意味を持つのは、その地球規模のネットワーク網だけでなく、その背後にあるガヴァナンスモデルにもある。

今や民間企業が軌道上のゲートキーパーとなり、誰が、どこで、どのような条件で、どのような技術的制約の下で接続できるかを決定する役割を担っている。多くの紛争において、こうした決定は軍事的、政治的な影響を及ぼし、国家はそれを再現したり制御したりすることが困難になっている。多くの戦略的サプライチェインが民間企業に依存している現状において、スターリンクは公共の安全保障機能に対する民間企業の裁量権が極めて集中している事例と言えるだろう。

スターリンクの地政学的な重要性は、その規模に比例する。2025年12月中旬時点で、軌道上には9357基のスターリンク衛星が存在していた。 2026年1月、アメリカ連邦通信委員会(FCC)はスペースXに対し、第2世代衛星7500基の追加配備を承認した。これにより、スペースXの衛星総数は約17000基となる。スペースXは以前から、最大42000基の衛星運用を目指すという野心を表明してきた。

スターリンクのサーヴィス提供範囲も拡大している。現在、160の市場でサーヴィスを展開しており、その決定に対処しなければならない軍、通信規制当局、法執行機関の数も増加している。競合他社と比較すると、スターリンクの圧倒的な優位性はより明確になる。低軌道における最大のライヴァルであるユーテルサット・ワンウェブ(Eutelsat OneWeb)は約650基の衛星を運用している一方、アマゾンのカイパー衛星群(Amazon’s Kuiper constellation)は2月時点でわずか200基強にとどまっている。スターリンクは事実上の独占状態にあり、当面の間、競合相手は存在しないことになる。

スターリンクは現在、世界中で1000万人以上のアクティヴユーザーを抱えていると発表しており、スペースXは2026年末までにその数を倍以上に増やすことを目標としている。その成長は、米国のT-Mobileをはじめとする携帯電話事業者との提携によってさらに加速しており、ドイツテレコムは2028年からヨーロッパでスターリンクを利用した衛星通信サーヴィスを開始する予定だ。

スターリンクの商業的な強みは、地上基地局や光ファイバー網が届かない農村部、遠隔地、災害被災地への接続にある。しかし、こうした重要な通信レイヤーを支配することで、スターリンク社は地政学的に大きな影響力を持つことになる。特に紛争、緊急事態、そして接続性が軍事、政治、人道的な結果を左右するあらゆる状況において、その影響力は顕著になる。

ウクライナ情勢は、スターリンクが戦場の通信にどのような影響を与え、戦略的な依存関係を生み出すかを示す、これまでで最も明確な事例と言えるだろう。2022年のロシアによる本格的な侵攻で地上ネットワークが機能停止した後、ドローン、分散型指揮、迅速な標的設定サイクルが特徴的なこの戦争において、スターリンク端末は運用インフラとなった。2025年初頭までに、ウクライナは少なくとも4万7000台のスターリンク端末を確保したが、その大部分はポーランド、ドイツ、アメリカ、そしてスペースX自身を含むパートナー国政府やその他の支援国から供給されたものだった。安定したモバイル帯域幅がなければ、ウクライナ軍はドローン映像の送信、兵站の調整、そしてこの紛争の特徴である分散型火力支援ネットワークの維持ができなかった。これらの端末は単なる利便性ではなく、効果的な抵抗のための必要条件だったのだ。

この依存関係は即座に攻撃対象領域を生み出した。ロシア軍は第三者ルートを通じてスターリンクへのアクセス権を取得したと報じられており、2024年にはロシア支配地域におけるスターリンクネットワークの利用が繰り返し懸念事項となった。問題は深刻で、スペースXとウクライナ国防省は不正接続を抑制するために認証管理を導入した。ウクライナ当局は、前線におけるロシア軍の利用が阻害されたと述べ、軍事顧問たちは、この影響はロシア軍の作戦にとって重大な後退であると評した。

この一連の出来事は示唆に富む。企業内のエンジニアが商業アクセスに関する方針に基づいて下した決定が、実戦中の戦争における戦術的バランスを崩した。条約による承認も、議会での採決もなかった。その決定を左右したのは、一企業の利用規約(a firm’s terms of service)だった。

戦略的、地政学的な側面はさらに深刻だ。2025年初頭、アメリカの交渉担当者は、ウクライナが重要な鉱物資源に関する合意を受け入れなければ、スターリンクへのアクセスを制限するとア圧迫を与えたとされる。スペースXのオーナーであるイーロン・マスクは関連性を否定したが、圧迫の信憑性と、それがキエフにもたらした不安は、その具体的な内容よりも重要だった。

すでに前例があった。2022年、マスクは、ロシア占領下のクリミア半島近辺でのスターリンクの通信網をウクライナ海軍のドローン作戦支援のために提供することを拒否したと報じられている。その理由として、事態のエスカレーションに関するリスクについて個人的な見解を挙げた。民間供給業者が個人的な直感に基づいて、最前線の国家が実施できる作戦を決定できる場合、その関係はもはや商業的なものではなくなる。それは主権の委譲であり、説明責任を負わない行政機関によって行使される戦略的機能である。

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衛星放送受信アンテナが点在するテヘラン中心部の住宅街の窓(2026年1月20日)

イランは、スターリンクの地政学的影響を示すもう1つの事例である。2026年1月に大規模な抗議デモが発生した後、イランの政権は史上最長かつ最も厳しいインターネット遮断を実施し、国内の接続率を通常の約4%にまで低下させた。近年、密輸され闇市場で取引された数万台のスターリンク端末は、弾圧の様子を外部に伝える重要な経路となったようだ。イラン国内の利用者には利用料が免除されたと報じられており、トランプ政権はスターリンク端末約6000台を密かにイランに持ち込んだ。これらの端末は単なる消費財としてではなく、アメリカの外交政策の手段として利用された。

テヘランの対応は前例のないものだった。政府当局は、地上妨害装置、GPSスプーフィング装置、携帯電話妨害装置を各地域に配備した。報道によると、治安当局は戸別訪問による捜索を行い、ドローンや情報提供者を使って衛星アンテナや端末の位置を特定し、利用者をスパイ容疑で告発した。イラン議会は既に、スターリンク端末の無許可所持・使用を犯罪と定めており、軽微な違反には懲役刑、スパイ行為や協力行為には死刑を含むさらに厳しい刑罰を科すことを規定していた。イランは国際電気通信連合(ITU)に対し、スターリンクが国家主権を侵害しているとして正式に提訴していた。

第2段階は2月28日に始まり、アメリカとイスラエルがイランの軍事施設、核施設、政府機関を標的とした共同攻撃を開始した。最高指導者アリ・ハメネイ師の暗殺は、イランによるイスラエル、中東各地のアメリカ軍基地、湾岸諸国、その他複数の国へのミサイルとドローンによる報復攻撃を引き起こした。イラン国内の通信状況はさらに悪化し、通常の約1%にまで低下した。

この段階において、スターリンクの役割はまさに矛盾をはらんだものとなった。密輸された端末によって、一部のイラン人は政府庁舎への攻撃を記録し、通信規制の努力にもかかわらず映像を拡散することができた。しかし、衛星通信へのアクセスは反体制派に限られていた訳ではないようだ。従来のネットワークが劣化するにつれ、スターリンクは国家と関係のある主体によっても利用された可能性がある。サイバーセキュリティ研究者たちは、インターネット遮断期間中、イラン情報保安省に関連する一部の活動がスターリンクのIPアドレス範囲から発信されていたと指摘している。同時に、イラン政府当局は検閲を回避しようとする市民によるスターリンクへのアクセスを妨害または低下させていたと報じられている。

また、別のサイバーセキュリティグループは、スターリンクを装った罠を利用した監視マルウェアを特定した。これは、同じ通信プラットフォームが抗議活動参加者、監視活動者、そして国家と関係のあるサイバー攻撃者によってどのように利用されうるかを示している。

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カリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられた28基のスターリンク衛星を搭載したスペースX社のファルコン9ロケットが上昇している(2025年9月28日)

米国防総省は、イランを、低軌道システムが持続的な電子妨害や戦時下の混乱下でどのように機能するかを示す好例として捉えている。持続的な圧力によってスターリンクの耐障害性が著しく低下する可能性があるならば、例えば台湾におけるスターリンクの役割を支える前提は見直される必要がある。これはシステムの有用性を損なうものではない。単に、ネットワークが宇宙空間にあるというだけで耐障害性が保証される訳ではないことを意味する。

スターリンク技術は、犯罪組織や反乱組織のネットワークにも浸透しつつある。犯罪組織は、分散型通信の力を活用して作戦を遂行しようとしている。統治能力が低く、スペースXに対する影響力も乏しい脆弱な国家にとって、課題は喫緊の課題だ。通信網が地上の基地局やケーブルではなく、上空から提供されるようになると、遠隔地や紛争地域でのアクセス規制が困難になり、民間事業者がどのような条件で協力してくれるのかを交渉することもさらに難しくなる。

ブラジルのアマゾン熱帯雨林は、その具体的な例を示している。2025年6月、ブラジル連邦検察庁は、違法採掘や犯罪行為におけるスターリンクサーヴィスの利用を抑制するため、スターリンクと協定を締結した。この協定では、アマゾン地域における新規利用者に対し、身分証明書と居住証明の提出を義務付け、捜査対象となっている端末に関するデータをブラジル当局と共有することを認めている。また、違法行為に関与している疑いのある端末については、サーヴィスが停止される可能性がある。ブラジル環境庁の作戦調整官であるヒューゴ・ロスは、犯罪組織がスターリンクを利用して取締チームのリアルタイム位置情報を送信し、摘発を予測したり、現場の職員の安全を脅かしたりしていたことを指摘している。ブラジルは実行可能な合意を取り付けたものの、それは問題が環境犯罪の現場に深く根付いた後のことだった。

メキシコの組織犯罪の状況は、関連するリスクを示唆している。麻薬カルテルは、アメリカ国境沿いで拡大する技術軍拡競争の中で、密輸、監視、治安部隊への攻撃にドローンを活用している。このエスカレーションは、今や民間空域管理にも波及している。2026年2月、アメリカ連邦航空局(FAA)は、アメリカの対ドローン対策の展開への懸念から、テキサス州エルパソ周辺の空域を突然閉鎖したが、数時間後に制限を解除した。この一件は、犯罪組織によるドローンの脅威が、戦術的な安全保障対応だけでなく、深刻な外交的・航空的混乱を引き起こしかねないことを示した。

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左:メキシコ陸軍の対ドローン特殊部隊がメキシコ・ナウカルパン州で報道陣向けにデモンストレーションを行った(2026年2月17日)右:チャド・アドレの難民キャンプで、仮設小屋の横に設置されたソーラーパネルがスターリンク回線に電力を供給している(2026年2月19日)

アフリカのサヘル地域では、状況はさらに深刻だ。イスラム国家ジャマート・ナスル・アル・イスラム・ワル・ムスリミン(JNIM)やイスラム国西アフリカ州(ISWAP)などの反政府勢力は、リビアとナイジェリアからマリ、ニジェール、その他の紛争地域へとスターリンク機器の違法な供給網を構築している。2024年6月、JNIMはマリのガオ地域での作戦中にスターリンク端末が使用されている様子を映した動画を公開した。昨年(2025年)、ナイジェリア軍はボコ・ハラムに対する襲撃作戦で、サンビサ森林地帯の司令官からスターリンクの機器を押収した。

2025年を通して、ジハード主義グループは衛星通信をますます活用し、分散した部隊の連携、プロパガンダの配信、そして地上ネットワークに対する国家統制によって恩恵を受けていた傍受型監視の回避を図った。ニジェールとチャドは監視体制強化のため、2025年初頭にスターリンクの合法化と規制に着手したが、密輸ネットワークは今後も存続する可能性が高い。

スターリンクは宇宙分野における唯一の存在ではない。商業宇宙セクターは、国​​家防衛と軍事力にとってますます重要な役割を担うプレーヤーで溢れている。その結果、各国が同時に受け入れ、統制しようとする戦略的サーヴィスの市場が拡大している。通信分野では、イリジウムが防衛通信に深く根付いている。2024年、スターリンク社は合えりか宇宙軍と、高度なモバイル衛星サーヴィスとその維持管理に関する5年契約を発表した。これは、見通し外通信における商用プロバイダーへの依存が続いていることを示している。

ユーテルサット・ワンウェブとアマゾンのカイパー衛星群も防衛・政府市場で競合しており、ヨーロッパ連合(EU)のIRIS2構想は、EUの主権能力強化への野心を反映している。マクサール(Maxar)、プラネット(Planet)、ブラックスカイ(BlackSky)の商用画像データは、カペラ(Capella)とICEYEのレーダーデータとともに、軍事目標設定と状況認識に組み込まれている。

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ウクライナのロボティネ近郊の最前線の雪原に立つスターリンクデヴァイス。ドローン偵察・攻撃部隊の一部(2024年1月23日)

近年の紛争は、こうした仕組みをさらに深化させている。商用衛星、端末、データ契約は、今や軍事サプライチェインの一部となっている。そして、弾薬や防空システムと同様に、政治的圧力によってその供給が制限、転用、あるいは兵器化される可能性がある。商用宇宙は、国家が権力を行使し、また抑制する手段の一部になりつつある。

イランが最も鮮明に露呈させたのは、ウクライナやその他のスターリンク利用事例で部分的にしか明らかにならなかった統治上の欠陥である。国際人道法は、国家に対し軍事目標と民間目標を区別することを求めているが、午前中に反体制派に利用されていた端末が、午後には軍事攻撃を支援するために利用される可能性もある。

国連憲章の下で、商用衛星ネットワークの妨害行為を武力行使とみなすべきかどうかを判断するための、確立された国際的な枠組みは存在しない。商用機器の秘密裏の配備が情報戦行為に該当するか否かを規定する規則もない。CEOの意見が戦場の結果を左右する場合、民間事業者の責任を問う仕組みも存在しない。また、リアルタイムで民生用と軍事用を行き来するシステムを運用する商用衛星事業者の義務についても、明確な合意は得られていない。

戦略的な接続性は、もはや地理的な問題ではなく、ガヴァナンスの問題となっている。帯域幅は軌道上から供給され、情報はサブスクリプション方式(subscription)で購入される。主権(sovereignty)は、民間企業との関係、交渉によるアクセス協定、そして争点となる技術的設定を通じて、ますます行使されるようになっている。商用衛星インフラを、それに伴う規律、冗長性、そして法的枠組みといったあらゆる要素を含めた戦略的依存関係として扱わない国家は、危機に際して、その依存関係が他国によって管理されることを覚悟しなければならないだろう。

スターリンクの新たな地政学は既に始まっている。問題は、各国がそれを統治するのか、それとも単に反応するだけなのか、ということである。

※ロバート・ムガー:「セクデヴ」グループ最高責任者、イグナイト研究所共同創設者、ロバート・ボッシュ・アカデミー研究員。著述家であり、イアン・ゴールデンとの共著『未知の地:今後100年を生き抜くための100枚の地図(Terra Incognita: 100 Maps to Survive the Next 100 Years)』がある。Xアカウント:@robmuggah

※ミシャ・グレニー:人間科学研究所所長。多くの著作があり、『マクマフィア:深刻な組織犯罪(McMafia: Seriously Organised Crime)』と『宿敵:ブラジル最重要指名手配犯の追跡(Nemesis: The Hunt for Brazil’s Most Wanted Criminal)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は2022年2月24日の開戦から丸4年が過ぎようとしている。停戦の兆しは見えていない。戦線は膠着し、打開策は今のところない。アメリカのドナルド・トランプ大統領は自身が二期目の大統領になれば24時間以内に停戦させると豪語したが、1年が経過しても戦争は終わっていない。アメリカとヨーロッパ諸国、日本などの西側諸国はロシアに対して制裁を加え、ウクライナに支援を行っているが、屁のツッパリにもなっていない。ウクライナが本気で停戦に臨まない程度に助けながら、戦争を続けさせている。なんと残酷なことだろう。トランプ大統領はアメリカのウクライナ支援に批判的であったが、政権発足後は支援を続けている。

 こうした中で、ヨーロッパ諸国の中で、アメリカに交渉の仲介を任せていても埒が明かないので、直接自分たちでプーティン大統領と交渉しようという動きが出ている。アメリカは頼りにならないということだ。アメリカに任せていては自分たちもいつまでもお金を出し続けねばならない。それは馬鹿げたことである。

更に言えば、ヨーロッパ諸国はロシアと完全に切れている訳ではないということを以下の論稿で知り、呆れるばかりだ。ヨーロッパの多くの企業はロシアでビジネスを続けており、ロシアからの資源も買っているということだ。それでいて、表ではロシアを非難し、ウクライナを助けるとしているが、決して軍隊を送ったり、強力な武器を送ったりはしていない。表向きの言葉だけは立派で勇ましいが、ヨーロッパ諸国はロシアと完全に切れてしまえば、自分たちの経済にも影響が出ると懸念して、自分たちで抜け穴を作り、ロシアとの関係を継続している。日本企業に対してロシアでのビジネスを行うなという圧力をかけてきて、自分たちはビジネスを続けている。ヨーロッパ諸国の見かけだけは立派だが実際の汚さには呆れ果てるしかない。口だけ勇ましいだけの役立たずである。

 それでも、アメリカ型よりならないと気づくだけでもまだましである。日本はアメリカに従属し尽くしてそのようなことを考えつくことすらできない。そして、アメリカの奴隷を続けて、悦に入って喜んでいる。ヨーロッパはその点では日本よりは優れている。比べる基準が低すぎるのでk褒められてもうれしくないだろうが。

 戦争をここまで長引かせたことを反省し、一日でも早く平和と安定が戻すことはヨーロッパ諸国に課せられた義務であり、世界に対する責務である。アメリカが全く頼りにならない今、ヨーロッパが動くのは当然のことだ。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはウラジーミル・プーティン大統領への依存の準備を進めつつある(Europe Is Getting Ready to Pivot to Putin

-ヨーロッパの指導者たちはアメリカの圧力に直面しロシア大統領への働きかけを検討している。

アンシャル・ヴォ―ラ筆Anchal Vohra

2026年2月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/02/06/europe-russia-putin-trump-pivot-detente/

ヨーロッパの高官たちは『フォーリン・ポリシー』誌に対し、1月にスイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムに出席した際、アメリカ側とウクライナ和平交渉の現状について協議する時間があると考えていたと語った。しかし、実際には、グリーンランドをめぐるNATO加盟国との軍事衝突を回避することに集中せざるを得なかった。

その後、ヨーロッパではプランBの必要性が議論されている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領とイタリアのジョルジア・メローニ首相は共に、ヨーロッパが特に安全保障上不可欠な事項において、アメリカへの依存をゆっくりと、しかし確実に減らそうとする中で、ロシアとの直接交渉を追求している。

エマニュエル・マクロン大統領は2025年12月下旬、ヨーロッパはロシアと「適切に協議するための適切な枠組みを見つける(find the right framework to talk properly)」必要があると述べ、アメリカがロシアとウクライナの和平交渉を主導する中で欧州が後部座席に座っている現状は「理想的ではない(not ideal)」と述べた。

「ウラジーミル・プーティン大統領と話すことはまた有益になるだろう」とマクロンは付け加えた。メローニは、ロシア大統領と話す「時が来た(the time has come)」と考えていると述べた。メローニは、「ヨーロッパが現場の二者のうち一方とだけ話せば、貢献できる範囲が限られてしまうのではないかと懸念している」とも述べた。

主要問題に関するEU加盟27カ国の合意形成を担う欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は、1月27日、フォーリン・ポリシー誌を含む少数の記者団に対し、アメリカ主導の協議を阻害する可能性のある並行プロセスは支持しないものの、ヨーロッパは必要であればロシアと交渉する用意ができていなければならないと述べた。

ヨーロッパの戦略転換は、ドナルド・トランプ米大統領自身によって引き起こされた。トランプ大統領は、ヨーロッパの安全保障に直接関わる和平案を策定する中で、ヨーロッパを交渉の場から排除しただけではない。ロシア・ウクライナ戦争に関するトランプ大統領の28項目の和平提案は、ロシアを世界経済に再統合することを提案し、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によると、西ヨーロッパへのロシアのエネルギー供給の流れを回復することを約束した。

専門家たちはフォーリン・ポリシー誌に対し、トランプ政権の最初の計画は、パリ、ブリュッセル、ベルリンとの事前協議なしに、ロシアがヨーロッパに保有する凍結資産をアメリカとロシアの企業に利益をもたらすプロジェクトに活用することをモスクワに約束していたようだと語った。

ヨーロッパは岐路に立たされている(at a crossroads)。ロシアとの取引をトランプに委ね、結果に確信を持てないままにするか、それとも現実的なアプローチを取り、関係がかつてないほど悪化しているに中ではあるが、プーティン大統領に直接働きかけるかだ。

ウクライナ侵攻とNATO領土への脅威となるドローンの継続的な使用の後、ロシアとの関係回復というアイデアをヨーロッパは快く思わないかもしれないが、いかなる取引においてもこれが避けられない結果となる可能性があることを認識している。そして、彼らは既にその可能性を示唆している。トランプ政権の28項目の計画に対する最初の反応として、ヨーロッパ諸国が支持する提案は、経済関係に関する条項を書き換え、ロシアは「徐々に(progressively)」世界経済に再統合されると述べている。

EUによる制裁で起きる経済的締め付けと、管轄権下にある数十億ドル規模のロシアの凍結資産は、ヨーロッパ諸国にとって重要な交渉材料となる。つまり、EUは独自の合意を締結できる。しかし、ヨーロッパ諸国は、段階的かつ限定的な救済措置、つまりロシアの行動改善に対する段階的な報酬を望んでいる。プーティン大統領との交渉でトランプ大統領が譲歩するような形での譲歩ではない。

貿易専門家たちは、EUが潜在的な合意において有利な条件を模索する一方で、多くのヨーロッパ諸国はロシアとの貿易関係を完全に断絶しておらず、公式発表と実際の経済政策の間に深刻な乖離が生じていると指摘している。

制裁を含む国際貿易法の遵守について企業や個人に助言を行うダルシャク・S・ドラキアは、フォーリン・ポリシー誌に対し、EUのこれまでの戦略は「離脱(exit)」というよりは「ロシアとのビジネス関係の一時停止(“more of a pause” in business relations with Russia)」を反映したものだと述べている。ドラキアは、交渉が加速するにつれ、「アメリカとヨーロッパのビジネス界は、貿易関係の再開に大きな期待を抱いている(there is a lot of hope in the business community in the U.S. and in Europe that trade ties can be resumed)」と付け加えた。

ロシアによるウクライナ侵攻にもかかわらず、数千ものヨーロッパ企業がロシアから撤退しなかった。その理由として、法的障壁、現地での雇用義務、そして利益率を挙げた。ロシアにおける外国企業を追跡するプロジェクト「リーヴ・ロシア(Leave Russia)」によると、2300社以上の外国企業が何らかの形でロシアに残ることを決定した一方、完全に撤退したのはわずか547社だった。EU加盟国の中では、ロシアに残ることを選択した企業、あるいはまだ完全に撤退していない企業の中で、ドイツ企業が最も多く、377社だった。一方、撤退したのはわずか83社だった。フランスはドイツに次いで、完全に撤退した企業はわずか39社だった。一方、147社は何らかの形で事業を継続している。イタリア企業は140社以上が現在もロシア国内で事業を継続しているが、完全に撤退したのはわずか8社だった。

キエフ経済大学の開発副部長であり、「リーヴ・ロシア」プロジェクトの責任者でもあるアンドリー・オノプリエンコは、フォーリン・ポリシー誌に対し、ロシアで依然として事業を展開している多くの企業は「評判や倫理上の懸念よりも経済の継続性を優先し、EUの制裁目標への政治的整合性よりも、契約、株主の利益、法的複雑さといった観点​​から意思決定を行っている」と述べた。

オノプリエンコは続けて、「この傾向は、商業的インセンティヴが、完全な撤退を求める政治的要請を上回り続けていることを示唆している」と述べた。

EUの限界は長らく露呈しており、既存の制裁措置に様々な例外を認め、ロシア企業への対応は遅々として進んでいない。本格的な戦争勃発以降、EUは19の制裁措置を打ち出してきたが、そのたびに対象国を増やし、圧力を強めてきたものの、完全には行き届いていない。

ドラキアは次のように述べた「ヨーロッパはロシアの銀行への制裁から始め、その後、エネルギー輸入への制裁を徐々に強化してきた。これは主に、全てを尽くすこと、そしてロシアをイランや北朝鮮のような完全な禁輸国にしないことが目的だった。政治的には見苦しいが、ロシアを孤立させてのけ者(a pariah state)にするのではなく、何らかの圧力をかけ続けられるよう、統合を維持することが狙いだった」。

しかし、EUが課した財政的圧力は抑止力としては不十分だった。おそらく、ヨーロッパがロシア経済に数十億ドルもの資金を注ぎ込み続けたためだろう。スウェーデンのマリア・マルマー・ステネルガルド外相によると、EUは2022年以降、ロシアに輸入代金として3110億ユーロ(3667億ドル)を支払い、同期間にウクライナに1870億ユーロ(2205億ドル)の援助を行っている。

EUはパイプラインによるガス輸入を大幅に削減したが、液化天然ガス(LNG)輸入は2021年の20%から翌年には15%に減少したものの、2024年には戦前の水準まで回復した。2025年には、EUは依然としてLNG総輸入量の13%をロシアから輸入していた。

EUは依然としてロシアからの肥料輸入に依存している。EU全体の肥料輸入量に占めるロシアの割合は2025年第3四半期に13%に低下したが、ロシアは依然としてEU第2位の供給国だ。また、ロシア製の鋼板は依然として現地子会社を通じてEU内で販売されている。

ウクラインスカ・プラウダ紙の調査によると、ロシアのオリガルヒであるウラジミール・リシンが主権を握るノボリペツク・スティール(NLMKは、複数のヨーロッパ諸国に鋼板を輸出し続けている。ウクラインスカ・プラウダ紙は、ノボリペツク・スティール(NLMK)はロシアの防衛サプライチェインに深く関わっており、ドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルの製造会社を含むロシアの防衛部門の少なくとも22の施設に供給していると報じた。ノボリペツク・スチールとリシンはいずれもEUから制裁を受けていない。

ロシア・リーヴキャンペーンのオノプリエンコは次のように述べた。「ノボリペツク・スティール(NLMK)はEU理事会の制裁基準を満たしていないと判断された可能性がある。大手鉄鋼メーカーはEU諸国に経済的な足跡を残しており、雇用やヨーロッパのサプライチェインへの相互影響なしに単純な制裁を課すことは困難だ」。

ノボリペツク・スティール(NLMK)の関係者は匿名を条件にフォーリン・ポリシー誌の取材に応じ、EUは子会社が操業するベルギーなどの国々で雇用喪失の可能性に対する圧力に晒されていると語った。

さらに、ロシアのエネルギー大手ルクオイルは、これまでのところEUによる全面的な禁輸措置や資産凍結を免れている。前述のドラキアは次のように述べた「アメリカはルクオイルに全面的な制裁を課しているが、EUはルクオイルの子会社1社のみに制裁を課しており、ルクオイル自身には制裁を課していない。多くのヨーロッパ諸国がエネルギー需要をルクオイルに依存しており、EUは構成国や加盟国に過度の圧力をかけたくないのかもしれない」。

ルクオイルとノボリペツク・スティール(NLMK)に関する質問に対し、EU報道官は制裁に関する協議は機密扱いであり、加盟国の裁量に委ねられていると述べた。「制裁は加盟27カ国が全会一致で採択したものであり、EUは公にコメントすることはできない」。

フランスはイギリスと共にいわゆる有志連合(a so-called coalition of the willing)を率いており、将来の和平を監視するためにウクライナに部隊を派遣する意向表明に署名した。しかし一方では、フランスのエネルギー企業EDFの子会社であるフラマトムは、ロシアの国営原子力企業ロスアトム傘下のTVELとの合弁事業を推進し、ドイツで核燃料棒を製造しようとしている。

EU報道官は、「現在、ロスアトムは制裁対象リストに含まれていない」と付け加えたが、EUはロスアトムを含むロシアの原子力関連製品・技術へのアクセスを制限している。EUのカヤ・カラス外相は2025年8月、ヨーロッパ委員会を代表して、ヨーロッパ議会において、「ヨーロッパ委員会は、ロシアからの原子力輸入を段階的に、秩序正しく、かつ安全な方法で廃止することに尽力している」と述べた。

要するに、ヨーロッパ諸国はロシアからの輸入を遮断しようと試みたものの、依然として依存状態が続いている。制裁措置を講じる際には意見が分かれ、代わりに地域経済を優先する特例措置を設けている。多くのヨーロッパ企業はモスクワとのつながりを維持し、関係を再開することを望んでいる。EUとロシアの関係は、ロシアがウクライナに侵攻する前の、より希望に満ちた時代、つまり貿易によってプーティン大統領の強権的な傾向を抑制できるとヨーロッパが信じていた時代に戻ることはないだろう。しかし現状では、ヨーロッパは既に地域の強権国家と繋がりを持っており、経済的な譲歩は近いうちに避けられないものとなるかもしれない。

アンシャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とするフォーリン・ポリシー誌コラムニスト。ヨーロッパ、中東、南アジアについて執筆している。『タイムズ・オブ・ロンドン』紙で中東を担当し、アルジャジーラ・イングリッシュとドイチェ・ヴェレのテレビ特派員も務めた。以前はベイルートとデリーを拠点に、20カ国以上の紛争や政治を報道してきた。Xアカウント:@anchalvohra

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争はアメリカの仲介による停戦交渉が続いている。ウクライナ戦争は2026年2月24日を過ぎて継続していると、満4年となり、5年目に入る。ウクライナ、ロシア両国の国民にとっての苦痛が長期間続くことになる。トランプ政権は、2026年2月24日に一般教書演説(the State of the Union Address)を予定している。ここまでに停戦交渉をまとめて、一般教書演説で大々的にアピールしたいところだろう。

 ウクライナ戦争は、ロシアとウクライナの戦争であるが、ウクライナのバックにはアメリカとヨーロッパの西側先進諸国という「大応援団」がいて、ロシア対西側諸国という構図になっていた。ロシアは戦術核兵器使用(ウクライナだけに限定せず)を示唆したことで、西側諸国の腰が引けた。ウクライナにロシアを本気で怒らせない程度の攻撃しか許さない状況になった。

 そもそも西側諸国はウクライナに軍事支援や軍事顧問団派遣を行い、ロシアを挑発してきた。ロシアがその挑発に乗ってしまったという面はある。西側諸国はロシアが挑発に乗ってきたところで、経済制裁を発動してロシアを締めあげてやろうとしており、実際に経済制裁を行ったのだが、意図に反して、ロシアは屈服しなかった。ウクライナからロシアを完全に追い払うには、西側諸国が自分たちも危険を冒して、血を流す覚悟、最終的には地上軍派遣を行わねばならないところまで進んだが、もちろん、西側諸国にそのような意図も度胸もない。ロシアは西側以外の国々からの支援を受けて、守りを固めて、戦争を継続している。ウクライナはどうしようもない状態になっている。さらに、ウクライナ国内の状況もばれつつあり、はっきり言って、見た目はヨーロッパだが、中身は昔の第三世界の国のようなもので、腐敗と汚職の蔓延した国家である。そのような国に重要な武器を渡して、それをアメリカの敵対国や敵対勢力に横流しでもされたら目も当てられない。いくらお金を注ぎ込んでも、そのお金が政府高官たちの贅沢な生活に消えてしまうが、それくらいはまだましであるということになる。

 西側諸国がウクライナ支援に対して及び腰なのは、ロシアを怒らせたくないということと、ウクライナ国内の腐敗と汚職の問題があることが原因だ。アメリカをはじめとする西側諸国の支援が足りないなどと言っても、支援したくてもできない事情がある。ウクライナ戦争は西側諸国の間違った戦略のために起きた災厄である。ウクライナの一般国民が一番の犠牲者である。一日も早い停戦の実現を望む。

(貼り付けはじめ)

ジョー・バイデン政権のウクライナへの長い影(Biden’s Long Shadow Over Ukraine

-バイデン政権はウクライナに対してほぼあらゆる面で失望を与え、今日に至るまで戦争を形作ってきた。

エイドリアン・カラトニツキー筆

2025年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/12/05/biden-war-ukraine-russia-putin-zelensky-military-aid/

2022年夏の終わり、ウクライナはウクライナ南部で大規模な反撃を開始した。11月11日、この作戦の結果、ヘルソン市とドニエプル川西側のロシア占領地域全てが解放された。

ウクライナ軍がヘルソンに復帰したという高揚感の中、包囲網に閉じ込められていたロシア軍の驚異的な脱出劇はほとんど注目されなかった。数週間にわたり、前線強化のために派遣された精鋭部隊を含む推定2、3万人のロシア兵と大量の軍事装備が、フェリー、桟橋、そしてウクライナ軍が事前に一部通行不能にしていた橋を使って、ドニエプル川を越えて安全に撤退した。ウクライナ軍は撤退に先立ち、この橋をロケット砲で攻撃していたが、ロシア軍の主力が渡河した数週間後、この脆弱な隘路への砲撃をほぼ停止した。戦争研究所のロシアティームを率いるジョージ・バロスは『フォーリン・ポリシー』誌に「ヘルソンから秩序正しく撤退したことは、戦争全体を通してロシアにとって最も成功した軍事作戦だった」と語った。もしこの部隊が壊滅するか降伏を強いられていたら、それは戦争の転換点となり、全世界の前で晒される、クレムリンにとっての大きな屈辱となっただろう。

最近、ウクライナ政府高官数名と背景について話をする機会があり、これらの出来事について新たな知見が得られた。第一に、この撤退は、屈辱的な敗北がロシアの戦術核による反撃を誘発するのではないかとアメリカが懸念する中で行われた。第二に、ウクライナは河川を越える距離まで到達できる弾薬が不足しており、これはアメリカがウクライナに供給する弾薬の種類と量を厳しく制限していたことが理由だ。ロシア軍の驚くほど妨害のない撤退の真相は、戦争終結後も長らく秘密のままとなる可能性があるが、ヘルソン周辺での出来事は、ウクライナの攻撃が戦争中ずっと、アメリカをはじめとする西側諸国からの兵器の流入とその使用制限によって厳しく制限されてきたことを象徴している。

ドナルド・トランプ大統領は、ロシアとウクライナの紛争をしばしば「バイデンの戦争(Biden’s war)」と呼んでいる。ジョー・バイデン前大統領がロシアのウクライナ侵攻の個人的な責任を負っているというトランプ大統領の主張はもちろん誤りだ。責任はロシアのウラジーミル・プーティン大統領にあるのであり、トランプ大統領も主張しているように、バイデンやウクライナにあるのではない。トランプ大統領を除くほとんどの人が知っているように、プーティン大統領は長らくウクライナの正統性(legitimacy)に疑問を呈しており、少なくとも2014年にクリミア侵攻とドンバス占領というロシア初の領土獲得を開始して以来、その領土を渇望してきた。プーティン大統領の野望の大きさを考えれば、全面戦争に突入するのは時間の問題だった。

しかし、これは全く異なる意味でのバイデンの戦争である。今日に至るまで、この侵攻は、バイデン政権がウクライナにいつ、どのように武器を供給するかという決定、そしてアメリカが軍事援助をてこ入れしてウクライナの戦争遂行を制約した方法によって、大きく形作られてきた。ホワイトハウスのこれらの決定は、ロシアの侵攻の輪郭を大きく決定づけた。ウクライナの現在の軍事態勢、支配地域、そして増大している民間人および軍人の犠牲者数は全て、バイデン政権がウクライナの戦争遂行方法に課した制限によって大きく形作られており、その制限は今日まで続いている。

確かに、バイデンのウクライナにおけるレガシーは、ネガティヴなものだけではない。バイデン政権の多大な支援と、キエフを支援する国際連合の形成における彼の成功がなければ、ウクライナは領土の約80%を維持できなかっただろう。ロシアの侵攻を衰弱させるほどに減速させることもできなかっただろう。もしトランプが政権を握っていたら、キエフを支援するよりもモスクワとのビジネス取引を優先したかもしれない。しかし、バイデンの過剰な慎重さとウクライナの戦闘方法に対する厳しい制約は、2022年秋のウクライナの急速な反撃の停滞にほぼ確実に寄与し、そして今日に至るまでロシアが戦争を終結させ、自国が出す以外の条件で和解を求める圧力をほとんど感じていないという事実にもつながっている。

バイデンはウクライナの運命を深く憂慮しており、NATO同盟諸国とその他の民主政治体制国間の結束、負担分担、支援の調整、そして協力を巧みに形作った功績は、高く評価されるべきだ。実際、ヨーロッパ各国の首脳が最近示した強い結束、そして8月18日に大統領執務室で行われたトランプ大統領との会談で最も劇的な結束は、バイデンの非常に効果的な連合構築の成果である。

しかし、バイデン陣営の失策、そしてウクライナ軍への支援における過剰な慎重さは、誠実な評価を免れるべきではない。

最初の失策は、バイデンが副大統領を務めていたオバマ政権時代の遺産であるが、2021年3月に政権発足からわずか数週間後に始まったロシアによるウクライナ国境での大規模な軍事力増強の過程で、バイデンがウクライナへの大幅な武器供与を拒否したことだ。ウクライナは、トランプ政権初期に供与された対戦車兵器を補強するための新たな兵器を強く​​求めていたにもかかわらず、バイデンは何もしなかった。

ワシントンが2億ドルの控えめな武器パッケージを送る準備をした後も、バイデンはプーティンとの緊張の高まりを恐れて援助の送付を遅らせた。2021年12月中旬のNBCニューズの記事によると、バイデンは「緊張を緩和するための外交努力のための時間を増やす」ために援助を差し控えることを決めた。『ワシントン・ポスト』紙の信頼できる情報源による報道によると、アメリカの情報機関はその時にすでにロシアがウクライナへの全面攻撃の準備をしていると結論付けていたため、援助の遅延はこのようにして多くの重要な数週間にわたって続いた。バイデンの遅延の結果、2022年2月にロシアが攻撃するまでに、比較的わずかな援助パッケージの一部しか移送されなかった。バイデンが事実上、ロシア・ドイツ間のノルドストリーム2・ガスパイプラインとアフガニスタンからの屈辱的なアメリカの撤退を支持したことと相まって、クレムリンはこれら全てをワシントンの弱さと決意の欠如のシグナルと見ざるを得なかった。

さらに、戦争の初期段階では、バイデン政権はウクライナ軍がロシア軍に対して短期間で敗北すると確信していたため、多額の援助を控えていた。政権の誤った評価は、バイデン政権の国家安全保障ティームが信頼するロシア専門家サミュエル・シャラップによっても主張されていた。彼は『フォーリン・ポリシー』誌で「西側諸国の兵器はウクライナに何ら影響を与えない」と主張した。アメリカ側との協議に関わったウクライナ政府の元高官は、バイデンの消極的な姿勢は、少なくとも部分的には、タリバンが数十億ドル相当のアメリカ製兵器を押収したことが影響していると考えていると私に語った。バイデンはロシアがすぐにウクライナを制圧すると考えており、そのため、アメリカ製兵器がプーティンの手に渡ることを恐れていたようだ。

現実は全く異なっていた。トランプ政権初期に提供された対戦車ジャヴェリン、イギリス製の対戦車NLAW、そしてウクライナ独自の兵器(国産兵器とソ連時代の装備の混合)に加え、ヴァレリー・ザルジニー将軍率いる士気の高い防衛部隊による大胆な戦闘作戦により、ウクライナは苦境を克服し、ロシアを当初奪取した領土の多くから追い出すことができた。ウクライナの予想外の成功は、バイデン政権とNATO同盟諸国がようやく懸念の一部を克服し、支援を強化する機会をもたらした。

しかし、ウクライナは大きな成功を収めたにもかかわらず、バイデンと彼のティームは戦争中、事実上あらゆる場面でウクライナを失望させた。彼らは重要な兵器を渡さず、過剰な警戒からキエフの生存をかけた戦い方を著しく制限した。

バイデン政権の核エスカレーションへの懸念は、その後数年間のアメリカによる支援を形作る上で決定的な役割を果たした。こうした懸念を認識したクレムリンは、頻繁な脅しによって巧みに国民の懸念を煽った。これは、ソ連時代の戦略家たちが「反射的統制(reflexive control)」と呼んだ、敵対者の思考を形作るための一種の心理戦の典型例である。バイデン政権は、オバマ政権のロシアの「エスカレーション優位(escalation dominance)」理論の派生型、すなわちロシアはいつでも紛争をエスカレートさせてアメリカの援助を無効化できるという考えを信じていた。2014年からオバマ政権の任期満了となる2017年まで、この理論はキエフへのアメリカの致命的な軍事支援を拒否する根拠となった。

ロシアは戦争初期に戦術核兵器の使用を検討していたかもしれないが、ウクライナ側は喜んでそのリスクを負うつもりだった。1年間の激戦、ロシアの戦場での大敗(占領地の大規模な喪失を含む)、そして西側諸国からの新型兵器の供与を経て、エスカレーションの脅威は(かつて存在した限りでは)後退していた。その時点で残っていたのは、ウクライナによる戦争遂行の実効性を抑制するというアメリカの一貫した政策だけだった。この政策の運用は、ボブ・ウッドワードの著書『WAR 3つの戦争(War)』で明らかにされている。同書は、2022年10月21日のやりとりを報じている。その中で、ロイド・オースティン国防長官はロシアのセルゲイ・ショイグ国防長官に対し、「私たちは特定のことを行わないよう注意してきた。(中略)私たちが提供した兵器の使用方法については、一定の制限を設けている」と述べている。オースティンのこの言葉は、ウクライナの戦争遂行に対するバイデン政権のアプローチの本質を明らかにしており、この政策は今日まで続いている。

ロシアの主要な戦略的パートナーである中国が、プーティン大統領が核兵器使用の選択肢に訴えることはないという強い兆候を示した後も、アメリカの牽制は続いた。ウクライナのある高官は私に、習近平国家主席がプーティン大統領に対し、核兵器使用の選択肢は容認できないと明確に伝えたと中国側がウクライナ側に伝えたと語った。プーティン大統領が中国の支援への依存度を高めていることを踏まえると、この情報はウクライナ当局者に、ロシアが核兵器使用のリスクを冒さないと確信させた。しかし、ワシントンは、キエフの戦争遂行能力を劇的に強化する可能性があった主要兵器の移転を、一貫して遅らせたり、遅々として進まなかったり、あるいは完全に反対したりした。

2023年1月末までに、ロシアによる戦術核兵器の使用が差し迫っているというアメリカの懸念は、ある程度和らいだ。ウクライナがハリコフとヘルソンを解放するという戦場での見事な活躍を受け、西側諸国は大型戦車を含む新たな兵器支援を約束した。しかし、多くの物資の搬入は依然として遅延していた。しかし、ロシア軍後方の軍事目標および兵站目標を攻撃するための深層攻撃兵器を求めるウクライナの要請は、バイデン政権時代を通じて常に無視されてきたように、依然として無視されたままであった。

バイデン政権がウクライナに適切な武器を提供することに消極的だった歴史的記録は衝撃的だ。ウクライナが当初HIMARS多連装ロケット砲を要請したが、2022年夏まで回答が得られなかった。しかも、要請が出されたのは、人口約45万人の戦略的に重要な港湾都市マリウポリが、凄惨な包囲攻撃で街がくすぶる廃墟と化した後にすぎなかった。マリウポリ近郊の集団墓地は、ウクライナの民間人および軍人の死者が数万人に上った可能性があることを示している。キエフがパトリオット防空システムを求める要請も、ロシア軍がウクライナの都市の民間人を標的に継続的かつ残忍な攻撃を行ったにもかかわらず、2022年の大半の間、回答が得られなかった。なぜ当時、純粋に防御用の兵器ですら禁止されていたのかは、バイデンと当時の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンの秘密のままである。

最初のエイブラムス戦車がウクライナ軍に到着したのは、ロシアの侵攻から1年半以上経った2023年9月になってからだった。そして、2023年5月にキエフに長距離ストームシャドウミサイルを供給すると発表したのは、ワシントンではなくロンドンだった。アメリカによるATACMSと呼ばれる長距離ミサイルの納入は、2023年10月にようやく始まった。当時でさえ、これらのミサイルは射程距離を制限するように改造されており、ロシア領内の軍事目標への使用は制限されていた。例えば2024年夏、ウクライナは国境からわずか100マイル内側にあるロシアの主要爆撃基地の1つへの攻撃許可を懇願したが、結局拒否された。この制限が部分的に解除されたのは、2024年11月になってからだった。

また、バイデン政権はキエフに対し、ウクライナの主権領土内であっても、特定のロシア軍・兵站施設を攻撃しないよう圧力をかけたようだ。『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によると、アメリカはクリミア半島のロシア空軍基地と、ロシア軍にとって重要な補給路であるケルチ海峡橋へのウクライナ軍の攻撃に反対している。この記事ではまた、アメリカがクレムリンの要請により停止した、未公表のウクライナ軍による作戦についても言及している。

さらに、バイデン政権は戦争中ずっと、アメリカとウクライナだけでなく、ヨーロッパの同盟諸国にも恣意的なレッドラインを引いた。同盟諸国は、戦車、長距離ミサイル、ヨーロッパ所有のF-16戦闘機など、特定の兵器の提供を差し止められた。しかし、これらの制限が遅れて解除されると、これらの戦闘機はロシアの攻撃に対するウクライナの防空防衛の不可欠な要素となった。

ハドソン研究所のルーク・コフィーが述べているように、「遅延はクラスター弾、戦車、歩兵戦闘車、そしてATACMS(対空ミサイルシステム)の提供に影響を与えた。アメリカは最終的にこれらのシステムすべてを承認したが、その決断の遅れはウクライナに多大な損害を与え、積極的対応ではなく事後対応を強いることとなった」。言い換えれば、バイデンはウクライナに対し、背中に片手を縛られた(one hand tied behind its back)状態でロシアと戦うことを強いた。

アメリカの限定的な援助はロシアの侵攻をやっと抑える程度ではあったが、ウクライナが国家として存続することを確かに保証した。こうした状況下で、ウクライナは、自国の長距離ミサイルを含む、これまで供給が認められていなかった兵器の開発と量産を徐々に開始した。また、強力な戦闘用ドローン産業の台頭にも時間を稼ぎ、戦場は一変した。

ウクライナ自身の技術革新にもかかわらず、バイデン政権によるロシアへの攻撃制限は、爆撃機攻撃に利用される飛行場など、ロシア国内の軍事施設やインフラ施設への攻撃能力を非常に限定的なものにしていた。2024年には、バイデン政権はキエフの国産兵器の使用さえも細かく管理し、ロシアの石油精製所へのドローン攻撃を中止するようウクライナに圧力をかけた。ウクライナはこれに従い、爆発力は大きいものの戦略的な影響は小さい燃料貯蔵庫への攻撃に切り替えたようだ。トランプ政権下では、この制限は撤廃され、ウクライナはロシアの製油所に対して非常に効果的なドローン作戦を開始した。その結果、ロシアの大部分が燃料不足に直面している。この作戦の成功は、石油インフラへの攻撃が、バイデン政権が想定していたようなレッドラインではなかったことを証明している。

バイデン政権の制限は軍事的にはほとんど意味をなさず、むしろ著しい不均衡を生み出した。ロシアのミサイルとドローンがウクライナの都市で電力、暖房、水道の供給を停止させた際、ウクライナには同様の対応を行う能力がほとんどなかった。ロシアの攻撃は今日まで衰えることなく続いており、民間人が殺害され、数千ものウクライナの学校、教会、病院、アパート、オフィスが壊滅した。これらの攻撃の一方的な姿勢は、バイデン政権の制限が今もなお及ぼしている影響を如実に示している。

バイデン政権の慎重なアプローチは、アメリカにも政治的な遺産を渡すことになった。武器の漸進的な供給と厳しい使用制限によってウクライナで生じた膠着状態は、新たな「永遠の戦争(forever war)」の恐怖を生み、トランプに近い共和党員からの反対を強め、2024年の選挙戦においてトランプを有利に導いた可能性が高い。

MAGA保守派の間でウクライナへのアメリカからの支援を縮小すべきだという機運が高まっていることを念頭に、共和党の連邦下院議員マイケル・マコール、マイク・ロジャース、マイク・ターナーは2024年1月に詳細な報告書を発表し、武器制限の解除を求め、バイデン政権は戦争終結を確実にする計画を策定していないと警告した。議員たちは「戦争の初日以来、バイデン大統領がウクライナへの重要兵器の提供をためらい、それがウクライナの勝利を遅らせてきた」と非難した。さらに彼らは、ウクライナの勝利への道筋は「(1)必要かつ迅速なウクライナへの重要兵器の提供、(2)プーティン政権への制裁の強化、(3)凍結されたロシアの国家資産(3000億ドル)のウクライナへの移管」が必要だと主張した。

トランプも2025年8月にトゥルーソーシャルに「バイデンはウクライナに反撃をさせず、防衛だけをさせた。その結果は一体どうなったんだ?」と投稿し、この批判を繰り返した。しかし、バイデン政権下でウクライナの戦闘行為に対して課された制約の大部分は、トランプ政権下でも依然として有効である。実際、ウォール・ストリート・ジャーナルが2025年8月23日に報じたように、トランプ政権はウクライナによるロシア国内への長距離対空ミサイル(ATACMS)発射をひそかに阻止した。すべての兵器輸送の費用をヨーロッパまたはウクライナが全額負担することを義務付けるアメリカの新たな政策下でも、これらの購入のほとんどは、種類、数量、使用方法において依然として厳しく制限されている。

バイデン政権が恣意的なレッドラインを課さず、クレムリンによる核恐怖の煽動に操られることもなければ、マリウポリは陥落しなかったかもしれない。ウクライナは2022年の反攻作戦の勢いを確実に維持し、ロシア軍が陣地を固める前にさらに多くの領土を解放できただろう。ウクライナはヘルソンで撤退するロシア軍とその装備に屈辱的な敗北を味合わせることができただろう。ウクライナ市民に毎夜死をもたらすロシアの爆撃機と空軍基地を破壊できたはずだ。ロシアの戦争マシーンにとって最重要の資金源である石油・ガス産業は麻痺状態に陥っていた。そしてクレムリンはとっくの昔に交渉の席に着き、勝ち目のない戦争からの脱却を迫られていたかもしれない。

その代わりに、バイデンが形作ったウクライナ戦争はトランプ政権下でも継続している。トランプが戦闘終結に向けた精力的な試みで一定の功績を認められる一方で、特使スティーヴ・ウィトコフの拙劣な取り組みが示すように、成功の見込みは薄い。永続的な平和を実現するには、プーティンを交渉のテーブルにつかせる必要がある。そのためには、トランプはまずウクライナが自力で効果的に戦えるよう支援し、バイデンの戦争(Biden’s War)を終わらせる必要がある。ヨーロッパの資金援助(凍結されたロシア資産の活用を含む)、アメリカと同盟諸国の武器の制限なき使用(モスクワやサンクトペテルブルクの標的攻撃能力を含む)、強力な二次制裁を伴うこうした戦争こそが、紛争終結への最短ルートである。

※エイドリアン・カラトニツキー:大西洋評議会上級研究員、ミュルミドン・グループ創設者。著書に『戦場としてのウクライナ:独立からロシアとの戦争へ(Battleground Ukraine: From Independence to the War with Russia)』がある。

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 古村治彦です。

 2026年2月24日で、ウクライナ戦争は満4年、5年目に進む。アメリカの仲介による停戦の動きは進んでいない。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は共に、アメリカ側から提案される条件に同意していない。プーティン大統領は慌てて停戦をする必要がない状況であり、できるだけ良い条件を引き出すための「熟柿(じゅくし)作戦(Waiting for the right moment)」を展開している。柿が熟れて自然と落ちてくるまで待つということになる。

 ゼレンスキー大統領は追い込まれている。西側諸国からの支援を受けて、戦線を維持しているが、支援もいつまで続けてもらえるか分からない。既に国土の6分の1を失い、多くの死傷者を出している。ウクライナ政府の非効率性や腐敗も、世界中からの注目もあって、白日の下に晒されている。このような状況であったなら、ウクライナ軍が敢闘し、ロシア軍の進行を阻止し、ロシア軍が慌てていた戦争の初期段階で、停戦交渉を行った方が良かったということになる。その後も大反攻(great counter-attack)を企図したが、それも失敗した。支援したアメリカ軍やイギリス軍の将官たちから、「そんなものが成功するはずがない」と批判されていながら、反攻作戦を強行し、失敗した。ロシア軍は守りを固めつつ、ウクライナを攻撃している。戦線は膠着している。ゼレンスキーは八方塞がりになっている。
ukurainewarsituation20260119map001

 ウクライナ軍はドローン戦闘機を使っての攻撃も行っているようだが、その効果も限定的である。そのようなゲリラ戦に毛が生えたような攻撃で、ロシア軍を押し戻すということは不可能である。既に勝負は決している。これ以上は徒に犠牲を増やすだけである。狂信的なナショナリズムや精神力で戦争を維持することが得策とは言えない。はっきり書けば、ウクライナ以外の国々は「早く停戦交渉のテーブルに着いて、少しでも良い条件の停戦を勝ち取る方が良いのに」と考えている。ウクライナ国民にとっては残念なことだと思う。しかし、国際政治は残酷な面を持つのもまた事実だ。平和を回復して、今度こそ、公明正大な政府を構成し、その恵まれた肥沃な大地から立ち上がって欲しい。

 そして、私たちは、ウクライナの状況をしっかり観察し教訓を得て、日本がそのような状況に陥らないように動くことが肝要だ。しかし、私は、日本国民全体がそこまでの賢さと能力を持っているかという点について、残念なことであるが悲観的になっている。

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ウクライナのドローン攻撃は問題にはならない(Ukraine’s Drone Attack Doesn’t Matter

-残念なことだがこの派手な作戦は根本的な現実を変えるものではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年6月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/09/ukraine-war-drone-attack-spiderweb-russia-air-bases/

ウクライナによるロシア奥地の空軍基地への劇的で衝撃的な無人機攻撃「蜘蛛の巣作戦(オペレイション・スパイダーズ・ウェブ、Operation Spider’s Web)」は、2022年にロシアが違法な侵攻を開始して以来、この戦争を特徴づけてきたいくつかのテーマを浮き彫りにしている。これはウクライナの回復力(resilience)、創造性、そして大胆さ(audacity)を示す好例であり、これらはモスクワを幾度となく驚かせてきた資質である。また、この作戦はロシアの国家安全保障・情報機関の無能さ(incompetence)と油断(complacency)を暴露した。彼らは、ウクライナが100機以上の殺傷能力を持つ無人機と遠隔操作装置をロシア領土の奥深く、戦略爆撃機が配備されている空軍基地の近くに密輸しようとした試みを予測も検知もできなかった。ロシアの戦場での戦闘能力は戦争初期から向上しているが、国家安全保障体制は依然として脆弱である。

しかしながら、「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」の報を受けて多くの観測者が感じた当然の満足感は、ロシアの侵攻に対する効果的な対応策を練る努力を損なってきたいくつかの誤りをも反映している。優れた戦術的革新(tactical innovations)も、戦力や決意の非対称性(asymmetries in forces or resolve)、そして効果的な全体戦略の欠如(the absence of an effective overall strategy)を補うことはできない。開戦から3年が経過した現在も、キエフとその支援者たちは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の戦争目的を阻止し、戦闘終結を説得するための説得力のある計画を依然として欠いている。プーティン大統領の決意は今回の事件によって揺るぎないように見え、ドナルド・トランプ米大統領に対し、ロシアは報復する決意であると明言したことは、まさにその言葉通りだった。

さらに重要なのは、ウクライナの攻撃の戦術的独創性に目を奪われて、その戦略的重要性の無さに目をつぶるべきではないということだ。ドローン攻撃は斬新であり、戦争のあり方、そして今後のあり方を既に変えているが、結局のところ、それは航空戦力のもう一つの形態に過ぎない。たとえ非常に効果的な空爆であっても、それだけで戦争に勝利することはほぼない。しかし、航空戦力(ドローンを含む)は地上部隊の作戦において重要な役割を果たす可能性がある。

戦略的な観点から、これらの問題を最もよく研​​究をした、ロバート・ペイプは、1991年に著した『勝利のための爆撃:戦争における航空戦力と強制(Bombing to Win: Air Power and Coercion in War)』を出版した。ペイプは、航空戦力は民間人を懲罰したり、敵の戦略資産を危険に晒したり、敵の指導部を失脚させたり、敵の戦争目的を達成するための軍事力を奪ったりするために使用できると主張した。彼の事例は、最初の3つの戦略では敵を降参させることはほとんどなく (たとえば、民間人を爆撃すると、敵が戦争遂行をさらに強く支持するようになる傾向がある)、航空戦力は他の軍事資産と組み合わせて使用​​して敵軍を打ち破り、戦略目標を達成できないことを敵に示す場合に最も効果的であることを示した。

この観点から見ると、最近のウクライナのドローン作戦は、純粋に戦術的な観点からは確かに印象的であったものの、本質的には脇役的であり、本筋ではなかった。この点において、これは、同じく予想外で当初は成功したものの戦況を変えることができず、その後完全に逆転したクルスク近郊へのウクライナの侵攻と類似している。12機以上の戦略爆撃機を破壊したとしても、ロシアがウクライナへの進撃を継続したり、ウクライナの都市に対してミサイルや無人機による追加攻撃を実施したりする能力に、実質的な影響を与えることはないだろう。

確かに、この作戦はウクライナの士気を高め、ウォロディミール・ゼレンスキー大統領の人気を高め、ロシアに将来的な同様の作戦を阻止するための資源投入を迫っていることは間違いない。ロシアの国家安全保障エリートの間で、この戦争の賢明さとプーティン大統領の戦略に対する疑念が高まったのではないかと期待する声もあるが、プーティン大統領の権力基盤が揺ぐ、もしくは、戦争に反対するエリートや国民がプーティン大統領の考えを変えるような兆候は見られない。もしそうなれば素晴らしいが、計画を立てる材料としては薄っぺらなものに過ぎない。

この状況は、ウクライナとその支援諸国を、戦争開始以来直面してきたのと同じ難題に直面させる。すなわち、ウクライナの地政学的立場(Ukraine’s geopolitical alignment)を存亡の問題と見なし、最低限の戦争目的としてウクライナが西側の防壁となることを阻止することを掲げる、数的に優位な敵をどう打ち破るかという課題である。ウクライナ国民は祖国防衛のために並外れた犠牲を払ってきたが、戦略的パートナー(ジョー・バイデン前米大統領を含む)のいずれも自分たちの軍隊や領土を危険に晒す意思を示していない。この非対称性を踏まえ、キエフと西側諸国は代わりに、ウクライナの不屈の精神(Ukrainian grit)、西側の財政・物資支援、そしてロシアに対する厳しい経済制裁(economic sanctions)の組み合わせが、最終的にモスクワに方針転換を促すことを期待してきた。

それはまだ起こっていない。現時点では、そうなる可能性はますます低くなっているように思える。2022年秋のウクライナの攻勢は戦況を覆すことはできず、その後の2023年夏の反攻(ウクライナを支援・支援する西側諸国によって装備・訓練された新設旅団が投入された)は、多大な犠牲を伴う大失敗に終わった。前述の通り、クルスクへの侵攻は当初成功したものの、戦争の軌道を変えることも、キエフに有効な交渉材料を提供することもなかった。ロシア軍は多大な犠牲を払いながらも、ゆっくりと前進を続けている。戦場の情勢が概ねプーティン大統領に有利に進んでいる現状では、トランプでさえプーティン大統領には戦争を終わらせる動機がほとんどないことに気づき始めているようだ。

戦争終結への希望は、相互に受け入れられる解決策を見出すことを特に困難にする政治勢力との闘いにも直面しなければならない。キエフとモスクワは戦争以前、ほとんど互いを信頼していなかったが、今や全く信頼していない。プーティン大統領は、開戦前からロシア国境付近におけるNATOの存在を致命的な危険と見なしていた。フィンランドとスウェーデンの参加、そしてNATOによるウクライナへの支援は、プーティンの懸念を間違いなく高めた。同時に、ロシアの行動は近隣諸国にロシアの将来の意図に対する懸念を一層深めさせ、ロシアへの譲歩を躊躇させている。ロシアと西側諸国間の安全保障のディレンマ(security dilemma)は、開戦前よりも今の方が深刻化しており、安定的で相互に受け入れられる解決策の策定はより困難になるだろう。そして、お馴染みのサンクコスト(sunk cost)の誤謬を忘れてはならない。あるロシア兵が最近『ニューヨーク・タイムズ』紙に次のように語った。「私たちは皆疲れ果てており、家に帰りたい。だが、将来、それらの地域のために苦労しなくて済むように、全ての地域を奪取したい。そうでなければ、兵士たちは皆、無駄死ということになるではないか?(have all the guys died in vain?)」。こうした感情はウクライナにも間違いなく存在している。

戦争のこの時点で、正しい答えがあると過信すべきではなく、完璧な結果を得ることは過剰な期待ということになる。しかし、新たな兵器や戦術、あるいは「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」のような大胆だが本質的に限界のある作戦に期待を託すのは、単なる希望的観測に過ぎない。むしろ、ウクライナにロシアに不釣り合いな損害を与える能力を与え続けること、そしてモスクワを抑止し安心させる中央ヨーロッパの将来の安全保障体制を真剣に構想し交渉することこそが、戦争を終結させ、ウクライナの残存部分を保全する唯一の方法だ。これは宥和政策(appeasement)ではない。ロシアの現状打破(undermining the status quo)への関心を低下させ、その試みが失敗に終わることを確信させるような安全保障体制の交渉に前向きであることを意味する。

残念ながら、特にトランプ政権のこの問題への不安定な対応と、多くのヨーロッパ諸国に対する根底にある敵意を考えると、西側諸国の指導者たちがこの方針を追求するのに十分な団結力、決意、そして想像力を持っているとは到底言えない。結局、ウクライナの運命を決めるのはこうした政治的要因であり、戦術的には素晴らしいが戦略的には無関係な英雄的防衛軍の努力ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social Xアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 国際政治は大国間の駆け引きの場となっている。ウクライナ戦争もまさにそうなっている。アメリカが仲介者の形で停戦に向けて、ロシアとウクライナとチャンネルを持って交渉を続けている。停戦交渉の内容はロシア寄りの内容になっており、ウクライナは受け入れられないと反発している。ウクライナはウクライナ軍の善戦を認めるとしても、実際には厳しい状況が続いている。アメリカやヨーロッパ諸国の支援を受けて戦争を継続できているが、大きな成果を上げるまでには至っていない。既に戦争開始から4年近くが経過している。これまでにロシア軍を撃退するような大戦果を収めることができていない。現状維持が精いっぱいのところだ。ウクライナ戦争について、アメリカが支援を削減すれば、ウクライナは戦争どころではない。
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(左から)キース・ケロッグ、ドナルド・トランプ、スティーヴ・ウィトコフ

 アメリカではキース・ケロッグがウクライナ担当特使となっているが、現状ではほぼ存在感がない。そして、来年1月での辞任の意向を示している。ウクライナ寄りの立場での発がんが多く、ロシア側がケロッグを忌避している状況では、交渉の仲介者にはなれない。中東担当特使のスティーヴ・ウィトコフがウクライナ戦争の仲介にあたっている。ウィトコフはロシア寄りだという批判も多く、停戦が進まないのはウィトコフの無能のせいだという主張もある。しかし、現実を考えてみると、ウクライナには気の毒であるし、かわいそうではあるが、ロシア寄りの停戦条件にならざるを得ない。そもそもがウクライナを西側が対ロシア挑発の最前線にしてしまったという根本原因がある。西側諸国はウクライナのNATO加盟もEU加盟も認めてこなかったのに、軍事支援だけは行ってきた。これはいざとなれば、ロシアを挑発して、ロシアを暴発させて、ウクライナを攻撃させて、ロシアを返り討ちにするという考えでのことだった。失敗してもウクライナを切り捨てれば済む、そのために、NATO加盟もEU加盟も認めなかった。大きな誤算は、ロシアを暴発させたので、シナリオ通りにロシアを国際決済システムから締め出して経済的に締めあげたらすぐに降参すると思っていたら、ロシアはそれを見越してすでにドルを使わない決済方式を準備していたということだ。そして、西側以外の国々(the Rest)がロシアを支援したことだ。ウクライナ戦争は西側の敗北であり、敗北の責任は挙げて西側諸国にある。

 トランプ政権とウィトコフはこのことを理解している。それでも、仲介は進めるべきだ。停戦を進めるべきだ。ウィトコフだけでは厳しいようならば、中東での和平に功績があった、トランプの女婿ジャレッド・クシュナーを裏方、交渉役として使うべきだ。大事なことは一時的でもよいので停戦をすることだ。ウクライナには現状での停戦受け入れを基本線にするしかない。そして、ウクライナは危機的状況を好機に変えるために、国家体制や政治文化を大きく変化させる必要がある。戦争中でも汚職がはびこる国に未来はない。

(貼り付けはじめ)

米特使が「ロシアに助言」 与党から解任論―トランプ氏は擁護

時事通信 外信部202511300706分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025112900267&g=int#goog_rewarded

 【ワシントン時事】ロシアのウクライナ侵攻終結を巡り、対ロ交渉を担う米国のウィトコフ中東担当特使への批判が強まっている。ロシア高官との通話内容を伝えた米通信社の報道をきっかけに「ロシア寄り」の姿勢が浮き彫りになったためだ。トランプ米大統領は擁護しているが、与党共和党議員からも解任を求める声が出ている。

 「(トランプ氏を)平和の男だと尊敬していると伝えるんだ。そうすれば良い電話(会談)となる」。米ブルームバーグ通信は25日、ウィトコフ氏とロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)が10月14日に行った電話協議の詳細を報じた。

 ウィトコフ氏は5分超にわたるやりとりで、ウクライナのゼレンスキー大統領が10月17日にホワイトハウスを訪れる予定に触れ、これより前に米ロ首脳の電話会談を行うことを提案。トランプ氏をたたえるほか、ウィトコフ氏とウシャコフ氏が和平案を作成するという提案をプーチン氏が行うよう「助言」していた。

 米ロ首脳は10月16日に電話会談を行い、ハンガリーで会談することで合意。トランプ氏は「進展があった」と評価し、協議は首尾よく終わった。対照的に厳しい状況に置かれたのはゼレンスキー氏。トランプ氏はそれまで前向きな姿勢を見せていた米国製巡航ミサイル「トマホーク」の供与に応じなかったばかりか、17日の会談は「怒鳴り合い」(英メディア)の険悪な雰囲気に包まれた。

 米メディアによれば、ウィトコフ氏は10月下旬、プーチン氏に近いドミトリエフ大統領特別代表を南部フロリダ州マイアミに招き、トランプ氏の娘婿クシュナー氏も交え、侵攻終結を目指す新たな和平案を作成。ウクライナが東部2州を割譲し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念することなどロシアに有利な内容が盛り込まれた。

 トランプ氏は40年近い付き合いのあるウィトコフ氏に厚い信頼を寄せる。同氏は政権発足以降、ロシアを5回訪れてプーチン氏と会談した。だが、不動産業界出身で外交経験には乏しい。老練なプーチン氏に取り込まれていると不安視する専門家が多い。

 トランプ氏は今月25日、ウィトコフ氏の通話内容について記者団に問われると「普通の交渉だと聞いている」と擁護。和平案協議のため、ウィトコフ氏を再びロシアに派遣し、プーチン氏と会談させる考えも表明した。

 しかし、ロシア寄りの姿勢を見せるウィトコフ氏に対し、トランプ氏を支えるはずの共和党議員には懸念が広がる。ベーコン下院議員はX(旧ツイッター)上で「ロシアに肩入れしているのは明らかだ」と述べ、ウィトコフ氏の解任を主張。外交に明るいルビオ国務長官に対ロ交渉を任せるべきだと訴える声も出ている。

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トランプ氏娘婿に再び脚光 ガザ和平交渉の行方左右も

時事通信 外信部202510151243分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025101400660&g=int

 【ワシントン時事】イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦を導いたとして、トランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏(44)が再び脚光を浴びている。第1次政権で大統領上級顧問を務め、イスラエルとアラブ諸国の関係を正常化する「アブラハム合意」をまとめた人物で、その存在は和平交渉の行方を左右しそうだ。

 「ジャレッドがとても助けてくれた。本当に特別なことを成し遂げてくれた」。トランプ氏は13日、イスラエル国会での演説で、パレスチナ自治区ガザの和平に向けた「第1段階」の合意を巡り、クシュナー氏の貢献をたたえた。

 第2次政権発足後、ガザの和平交渉はトランプ氏側近のウィトコフ中東担当特使が主導した。だが、バイデン前政権の協力で実現した1月の停戦合意は長続きせず、戦闘が再開すると外交経験のないウィトコフ氏に代わり、豊富な中東人脈を持つクシュナー氏に白羽の矢が立った。

 米メディアによれば、クシュナー氏はトランプ氏が9月に発表した20項目の和平計画の立案を担い、人脈をフル活用してアラブ諸国からの賛同を取り付けた。イスラエルとハマスの間接交渉にも加わり、イスラエルの攻撃再開を認めないとするトランプ氏の確約をウィトコフ氏と共にハマス幹部に直接伝え、第1段階の合意へとこぎ着けた。

 第2次政権では政府のポストに就かず、アラブ諸国から巨額の資金を調達して投資ファンド会社を運営するクシュナー氏の関与を問題視する見方もある。だが、トランプ氏が以前言及したガザの観光開発構想もクシュナー氏の発案とされ、トランプ氏への影響力は小さくない。

 停戦発効に伴い人質が解放され、今後の焦点はハマスの武装解除やガザの戦後統治などを巡る交渉に移る。「ついに中東に平和が訪れた」と高らかにうたうトランプ氏だが、ガザ情勢安定化はクシュナー氏の手腕が成否のカギを握る。

=====

ブロンクスのメッテルニヒ(The Metternich of the Bronx

-ウィトコフの外交は大きく失敗したが、彼は今後も重要な役割を果たす可能性が高いだろう。

エイドリアン・カラトニツキー筆

2025年6月20日

『フォーリン・ポリシー』

https://foreignpolicy.com/2025/06/20/steve-witkoff-trump-putin-russia-war-negotiations-diplomacy-peace-cease-fire-ukraine-iran-israel-hamas/

2025年6月2日にウクライナとロシアの担当者たちがイスタンブールで第2回停戦協議を行った際、真剣な交渉は行われないことは明らかだった。ドナルド・トランプ政権の和平合意への期待に応えることを切望するウクライナは、国防相を筆頭とする高官級代表団を派遣した。しかし、ロシアは中級以下の外交団を派遣したにとどまった。新たな捕虜交換への扉を開いたこと以外、会談は進展をもたらさなかった。クレムリンは、ウクライナの服従条件として、3年間変更されていない、条件を提示した。これには、ロシアによる占領下のウクライナ国内の5地域への支配権の承認(recognition of Russian dominion over five occupied Ukrainian regions)、ウクライナによる追加領土の割譲(the cession of additional territory by Ukraine)、ウクライナの中立(Ukrainian neutrality)、そして事実上の軍の非軍事化(the de facto de-militarization of its armed forces)が含まれていた。

ヨーロッパの代表団は和平プロセスへの支持を表明するためにイスタンブールを訪れたが、アメリカは出席しなかったことが注目された。これは、アメリカが交渉における主要な役割から疎外されていることを物語っている。これは和平プロセスへの高まる期待とは程遠く、ドナルド・トランプ米大統領がロシアのウラジーミル・プーティン大統領も出席するならイスタンブールに同席する用意があると示唆した5月の最初の会談に寄せられた期待からは明らかにかけ離れている。

トランプは長年、プーティンとの特別な関係を誇示し、ウクライナ和平を主要な外交政策目標としてきたが、ワシントンの不在は、政権の外交、そしてロシア・ウクライナ戦争への全体的なアプローチの失敗を如実に物語っている。この失敗は、無能な交渉、ロシアの真の野望への理解不足、そしてプーティンのシグナルの読み間違いの結果である。この失敗は最終的にはトランプの責任であるが、クレムリンへの彼の主要特使であるアマチュア外交官スティーヴ・ウィトコフの影響力によって、事態は深刻に悪化している。

ウィトコフが重要な外交分野に進出したことは、第2次トランプ政権における最大の驚きの1つだった。昨年11月まで、ウィトコフは外交政策プロセスから遠く離れた場所にいた。彼が最初に公職に就いたのは、トランプの大統領就任委員会の共同議長だった。しかし、2024年11月12日、トランプ大統領はウィトコフを中東担当の特使として初めて国際関係に携わるよう任命した。当初、退任するジョー・バイデン政権の同意を得て、ウィトコフはイスラエルとハマスと交渉を行った。トランプ大統領の就任後、ウィトコフの役職はアメリカ政府の正式なものとなった。

ウィトコフはトランプとは40年もの間見知ってきた。そして、トランプの熱心な支持者であり、友人であり、ゴルフ仲間でもある。特に、ウィトコフは、2021年1月6日の暴動後のトランプの最も困難な時期、そして2024年初頭にニューヨーク市で重罪の有罪判決に直面した際に、トランプに寄り添い、精神的に支え続けた。

ニューヨークのブロンクス生まれのウィトコフは、ニューヨーク市ロングアイランドのホフストラ大学で学び、弁護士のキャリアを積み、不動産開発と投資へと転身し、億万長者となった。共産主義崩壊後のロシアで財を成したソ連出身のレン・ブラバトニクとしばしば提携し、ウィトコフはニューヨーク、マイアミ、カリフォルニアに重点を置いた膨大な米国不動産ポートフォリオを構築した。彼の会社はロンドンでのいくつかの注目度の高い投資を中心に国際的な事業活動を行っていたが、ポートフォリオ全体のごく一部を占めるに過ぎない。ウィトコフは海外ビジネスの経験が不足しており、それがトランプがアメリカの外交政策の実施に起用した他のビジネスリーダーたちとは根本的に異なっている原因だ。

ウィトコフの最初の外交活動は、ハマスとイスラエルの紛争における停戦と人質解放の確保に焦点を当てたものだった。バイデン政権、第一次トランプ政権、そしてオバマ政権で外交政策の高官を務めたブレット・マクガーク(Brett McGurk)と緊密に連携し、ウィトコフはトランプ大統領就任のわずか数日前に短期合意を仲介することに成功した。60日間続いた合意は失効し、紛争は継続したが、ヴェテラン外交官と次期大統領の側近というタッグはうまく機能し、ウィトコフの評判は高まった。

中東での成功後まもなく、ウィトコフの職務範囲は劇的に拡大し、ロシアとイランとの直接交渉も担当することになった。歴史に名を残す外交官、例えばオーストリア帝国のクレメンス・フォン・メッテルニヒ(Klemens von Metternich)やアメリカのヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)を除けば、複数の重要な国際交渉の責任を1人の高官が担うことは稀なことだ。

それでも、トランプ大統領と個人的な繋がりを持ち、直接アクセスできる人物を任命することは、過去に成功を収めてきた。アブラハム合意をめぐる交渉では、トランプ大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナーが中心的な役割を果たし、中東情勢に長年精通した経験豊富なアドヴァイザー陣を頼りにしていたため、この手法は特に効果的だった。

しかし、ロシア問題になると、ウィトコフは方針を転換した。アメリカ政府の専門家陣と緊密に協力する代わりに、実質的にワンマンショーのようなやり方で交渉を進めた。物議を醸したのは、モスクワのアメリカ大使館やワシントンの国務省との実質的な関わりを避けたことだ。トランプ大統領が過去にしてきたように、プーティン大統領との会談でもアメリカ人の通訳や議事録作成者を起用しなかった。クレムリンの通訳に頼ったことで、プーティン大統領の原文のニュアンスを汲み取るという前例のない決断は、外交政策の専門家から広く批判された。

さらに、交渉開始から数カ月間、ウィトコフはウクライナ側と一切接触していなかった。ロシアとウクライナ、そして両国の長く苦い歴史についてほとんど無知だったウィトコフが単独で交渉に臨んだことは、ウクライナの正当なレッドライン(red lines、越えてはならない一線)に関する知識をほとんど、あるいは全く持たないままクレムリンに到着し、プーティン大統領の主張やシグナルを評価するための文脈を全く持たないままだった。

ウィトコフはトニー・ブレア元英首相やビル・クリントン元米大統領など、様々な立場から助言を求めたが、地域情勢に関する知識不足と外交の進め方に対する不慣れさが、数々の失策につながった。経験豊富な交渉担当者が曖昧な発言をし、静かに交渉を進めるのとは異なり、ウィトコフは交渉の現状について頻繁にコメントし、「大きな進展(significant progress)」があると断定的かつ大胆に主張することが多かったが、それは往々にして実現しなかった。同様に重要なのは、ロシア側の主張に同調し、ロシア側が譲歩に応じるという証拠を一切示さずに、一方的かつ先制的な譲歩を公然と提示する傾向が、ウィトコフ自身の外交を損なわせた点である。ウィトコフと他の政権当局者らが発表したこれらの一方的な譲歩には、アメリカによるウクライナのNATO加盟拒否、ウクライナへのアメリカからの援助の大幅削減、そしてウクライナはロシアの領土獲得を認めるべきとの宣言が含まれていた。

確かに、トランプは戦争の多くの側面においてロシアの路線を踏襲している。ロシアとの交渉状況を誇大宣伝し、停戦は目前に迫っており、より恒久的な和平につながるだろうと幾度となく示唆してきた。しかし、こうした発言と並行して、ロシアの好戦的態度や強硬姿勢に対する不満も時折口にしてきた。一方、ウィトコフはそうではない。プーティン大統領に取り入り、大規模な新たな共同投資パートナーシップを宣伝し、ロシアが和平に向けて大きく前進する用意があると称賛すれば、平和が訪れると信じているようだ。

ウィトコフがロシアとの交渉において中心的な役割を果たしたことは、別の弊害ももたらした。トランプとの個人的な親密さから、プーティン大統領の意図に関するウィトコフの評価は、より冷静な専門家の評価よりも重視されるようになった。こうしてウィトコフは、アメリカとの貿易と投資という漠然とした約束でプーティン大統領を中国との同盟から引き離せるという、トランプの疑わしい確信を強めてしまったのだ。

ウィトコフがロシア、ウクライナ、そしてこの戦争に関する自身の見解を最も詳細に説明したのは、3月21日に放送された、プーティン政権下のロシアを繁栄の模範と称賛し、ウクライナを「独裁政治(dictatorship.)」と嘲笑することで知られる、悪名高い反ウクライナ評論家であるタッカー・カールソンとのインタヴューの中でのことだった。このインタヴューは、ウクライナ、プーティン、そしてロシア政権の本質に関するウィトコフの驚くべき無知を露呈した。

ウィトコフは、ロシアが大規模な軍事攻撃を続け、発言の数日前にウクライナの都市で民間人を攻撃していたにもかかわらず、「30日間の停戦はそう遠くない」と楽観的に示唆した。

さらに、ヴィトコフ氏はプーチン大統領を「悪人(bad guy)」ではなく「慈悲深く(gracious)」「偉大な(great)」指導者だと擁護した。ウィトコフ特使は、1万人以上のウクライナ民間人の死、1000万人もの人々の避難、ウクライナ民間人や捕虜の即決処刑を行ったロシア軍兵士や傭兵の不処罰、そして国際刑事裁判所が発行したプーティン大統領逮捕状に記載されているウクライナの子供たちの拉致という戦争犯罪に対するプーティン大統領の責任について、無関心、あるいは認識していなかった。

さらに驚くべきことに、ウィトコフは戦争に関するロシアの決まり文句を無批判に繰り返している。2月にはCNNに対し、「戦争は起こる必要がなかった。挑発されたのだ。必ずしもロシアが挑発したとは限らない」と語った。彼は、ロシアが占領した地域(名前は思い出せなかったが)は「ロシア語圏」であるとカールソンに伝えてロシアの主張を補強し、これがモスクワへの忠誠の証であり、ロシアによる併合の正当な根拠であることを示唆した。

実際には、2014年以降、被占領下のドンバスからウクライナに逃れたウクライナ人の数は、ロシア統治下に留まったウクライナ人の数を上回っている。ロシア語を話すウクライナ人とウクライナ東部の住民は共に、ウクライナの戦闘部隊に多数参加している。また、2014年のロシア侵攻以降の世論調査では、ロシア語圏のウクライナ東部および南部の住民が、ロシアへの併合または統一の考えを断固として拒否していることが一貫して示されている。

ウィトコフはさらに、戒厳令と報道検閲の下で行われ、ジュネーブ条約に違反し、中立的な国際選挙監視団を排除し、逮捕、拷問、処刑への恐怖が蔓延する中で行われた、ロシアによる併合に関する偽りの国民投票の正当性を認めているように見受けられる。ウィトコフはまた、ロシアが望んでいるのは現在保有している領土だけであり、新たな領土を併合したり、残りの地域を破壊したりする意図はないと主張した。プーティン大統領がそのような発言をしたという証拠はない。

まとめると、ワシントンの特使ウィトコフはロシアの領土主張に信憑性を与えようと躍起になっていたが、その主張はロシアの野心とウクライナの現実を全く考慮していないものだった。

トランプ大統領の就任後、アメリカは急速にウクライナ支援国としての役割を放棄し、中立的な仲裁者(neutral arbiter)の役割を担うようになった。ウィトコフの外交、戦争の解釈、そしてロシアの主張への反論は、中立の域を超え、少なくとも部分的にはアメリカの立場をクレムリンの立場に沿わせる方向に進んだ。これはNATO加盟国に警戒感を与え、ヨーロッパは米ロ交渉とは無関係にウクライナを支援するに至った。

ウィトコフの任務―ロシア・ウクライナ間、イスラエル・ハマス間、そしてイラン-は、どの外交官にとっても大きな課題となるものだろう。しかし、迅速な打開策を約束したウィトコフの大胆な発言は、進展の欠如を浮き彫りにするだけだった。外交活動を開始して約半年になるが、ウィトコフの実績は乏しい。ロシア・ウクライナ問題では交渉は行き詰まり、イスラエル・ハマス問題では膠着状態に陥り、イラン情勢の悪化で交渉は頓挫した。

ウィトコフの外交は見事に失敗したものの、彼は今後もアメリカ外交において重要な役割を担う可能性が高い。結局のところ、ウィトコフの関与は、トランプが望む「ピースメイカー(peacemaker)」と「平和探求者(peace seeker)」のイメージを一層強化するものであり、こうした役割によって、伝統的な国家安全保障を重視する共和党とMAGAの孤立主義者との間の溝を跨ぎながら、アメリカが世界と関わっているという印象を与えることができる。同様に重要なのは、ウィトコフがロシアの行動と意図に関する有害なほど誤った解釈を強化し、交渉による和平の可能性を低下させていることである。

マイケル・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官の人事変更を受けて、トランプがウィトコフを同職に検討しているのではないかという憶測が飛び交った。ウィトコフはこれまで、不用意な譲歩、逆効果な外交、専門家顧問の解任、そして国際情勢に関する表面的な知識といった実績を残してきたため、このような任命はアメリカにとって計り知れない災難となるだろう。結局、ウィトコフの誤った外交官としての役割は、公務員、諜報専門家、外交官コミュニティ(トランプ氏が軽蔑的に「ディープステート(the “deep state”)」と呼ぶもの)の役割が、国際情勢について浅い知識しか持たない個人工作員で代替できないという事実を強調している。

※エイドリアン・カラトニツキー:大西洋評議会上級研究員、ミュリミドン・グループ創設者。著書に『戦場としてのウクライナ:独立からロシアとの戦争まで(Battleground Ukraine: From Independence to the War with Russia)』がる。

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 第二次ドナルド・トランプ政権は「変容した」と言うしかない。トランプの急激な変わり身は周囲を置き去りにしている。就任してすぐの、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領との会談の厳しい態度、JD・ヴァンス副大統領の厳しい叱責は、ウクライナ戦争の停戦を促す効果があると当時の私は考えていた。ヨーロッパ諸国、特にイギリスは「口だけ番長」で、武器も金も人も出さずに、ウクライナを焚きつけるだけ、ほとんどがアメリカの金で戦争が行われてきた。トランプはこの状況を変えるだろうと考えていた。
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2025年も残り2カ月を切った。また年を越える。ウクライナ戦争は勃発以来、4年目であり、来年の2026年2月24日を過ぎても戦争が継続していれば、5年目に突入ということになる。ロシア政治や経済、国際関係の専門家たちは、ロシアは人員と戦費の関係で戦争を続けられないと4年間も言い続けた。月報のように「もうすぐロシアはギヴアップ」と言い続けてきた。アメリカとヨーロッパ諸国に比べて、圧倒的に経済面で脆弱なはずのロシアが戦争を継続し、奪取した地域を維持している。この戦争はウクライナの負けではなく、西側諸国の負けということになる。トランプはこの西が諸国の負けを確定させながらも、ロシアとの「ディール(deal、取引)」によって、ある程度の利益を確保できると私は考えていた。しかし、状況はどうもそうなっていない。
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ドナルド・トランプとイギリス国王チャールズ三世

 ヨーロッパ、とくにイギリスがトランプを取り込むことに成功したと考えている。関税交渉をうまく片付け、史上初の米大統領として2度目の国賓招待ということで、トランプを手懐(てなず)ける(tame)ことに成功したのかもしれない。イギリスの狡猾さと外交力は、実力を失って久しい21世紀になっても侮れない。「現代のビザンツ帝国と言うべきだろう。ヨーロッパは、ドナルド・トランプ、習近平、ウラジーミル・プーティンによるヤルタ2.0体制の構築を阻止し、ヨーロッパ防衛にアメリカを関与させ続けることに成功した。トランプの「変容」「変わり身」は、ポピュリズムの敗北を意味する。私たちはこのことを冷静に見つめ、分析しなければならない。

(貼り付けはじめ)

トランプとヴァンスがヨーロッパについてどれほど不快な態度を取ったとしても、彼らは率直な真実を語っている(No matter how distasteful we find Trump and Vance over Europe, they speak a blunt truth

-アメリカは最悪のタイミングと最悪の言い方を選んだが、再編を求めるのは正しい。

サイモン・ジェンキンス筆

2025年2月21日

『ザ・ガーティアン』紙

https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/feb/21/donald-trump-jd-vance-europe-us-realignment

ここ最近、右翼勢力でいるのは大変だ。ドナルド・トランプについて何か良いことを言う必要がある。それは困難だ。彼はウクライナ戦争を始めたのはキエフであり、その大統領であるウォロディミル・ゼレンスキーを「独裁者(dictator)」だと考えている。しかし、JD・ヴァンスはどうだろうか? アメリカ副大統領は、「言論の自由(free speech)を後退させている」ヨーロッパの「内部からの脅威(threat from within)」は、ロシアや中国からのどんな脅威よりも深刻だと考えている。彼らは正気を失っている。他に何を言うことがあるだろうか?

答えは数多くある。ジョン・スチュアート・ミルは「物事について、自分の側しか知らない人は、そのことについてほとんど何も知らない(he who knows only his own side of the case knows little of that)」と警告した。私たちは、彼らの主張に賛成するか否かに関わらず、理解しようと努力しければならない。

確かに、彼らは嘘つき(mendacious)で偽善的(hypocritical)だ。トランプは、ゼレンスキーが「選挙を拒否している(refuses to have elections)」と主張し、「各種世論調査では非常に低い支持率だ(very low in the polls)」と主張しているが、最近の世論調査では依然としてウクライナ国民の過半数の支持を得ている。「内部からの」言論の自由への脅威(the threat to free speech “from within”)に関しては、AP通信はメキシコ湾を「アメリカ湾(Gulf of America)」に改名することを拒否したためホワイトハウスのブリーフィングから締め出され、トランプ大統領の友人であるイーロン・マスクはCBSの「嘘つき(lying)」ジャーナリストは「長期の懲役刑に値する(deserve a long prison sentence)」と考えている。

トランプ・ヴァンスは、世界を善と自由へと導くという、神から与えられたアメリカの宿命について、半世紀にもわたって合意に基づいた曖昧な言い回しをしてきた。平和と戦争、移民問題、関税問題など、彼らはアメリカの利益のみを追求していると主張している。なぜアメリカは、自衛できないヨーロッパを守るために毎年数十億ドルもの費用を費やす必要があるのだろうか? なぜ遠く離れた国々に武器を与えて隣国と戦わせたり、途方もない額の援助を困窮するアフリカに注ぎ込んだりする必要があるのだろうか?

もし世界の他の国々が失敗してきたとしたら、アメリカは2世紀半もの間自由で豊かであり続けてきたのだが、それは世界の問題だ。アメリカはこの50年間、地球上の生活を向上させようと巨額の資金を費やしてきたが、率直に言って、それは失敗に終わった。外交儀礼(diplomatic etiquette)などどうでもいい。

ウクライナに関してはもうたくさんだ。ウラジーミル・プーティン大統領はアメリカを侵略するつもりはなく、西ヨーロッパを侵略する意図もない。もしヨーロッパがそうではないふりをし、ウラジーミル・プーティンの敵を擁護し、彼に制裁を与えて激怒させたいのであれば、ヨーロッパだけでそうすることができる。

NATOはヒトラーとスターリンの産物だ。ヨーロッパ防衛の費用をアメリカに負担させるための単なる手段に過ぎなかった。だが今は違う。米国防長官ピート・ヘグセットは「アメリカはもはやヨーロッパの安全保障の主要な保証者(the primary guarantor of security in Europe)ではない」と述べた。これで核抑止力も形骸化した。

実際には、こうした主張は目新しいものではない。ただし、これほど露骨に政権によって表明されたことはこれまでなかった。様々な形で、それらは1世紀以上にわたるアメリカのアイソレイショニズム(Isolationism)の表層下に潜んでいた。選挙に勝つため、ウッドロウ・ウィルソンは第一次世界大戦について「私たちとは無関係であり、その原因は私たちに及ばない(one with which we have nothing to do, whose causes cannot touch us)」と断言した。フランクリン・ルーズベルトも第二次大戦について同様の約束をした。彼はアメリカの母親たちに「何度でも繰り返すが、あなた方の息子たちは外国の戦争に送り込まれることはない(again and again and again, your boys are not going to be sent into any foreign wars”. Neither kept his word)」と約束した。どちらもその言葉を守らなかった。

ヴェトナム戦争時のように、戦争中はアメリカ世論も愛国的になる。しかしそれ以外は一貫して反介入主義的(anti-interventionist)だ。ケネディは「地球規模の犠牲(global sacrifice)」を訴え、「アメリカがあなたのために何をするかではなく、人類の自由のために共に何ができるかを問え(ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man)」と訴えたかもしれない。だがそれは主に外国向けの美辞麗句に過ぎなかった。

トランプ・ヴァンスが今、西ヨーロッパ諸国に伝えているのは「本気になれ(get serious)」だ。冷戦は終わった。ロシアが西ヨーロッパ占領を望んでいないことは周知の事実だ。この脅威は、賢明な大統領ドワイト・アイゼンハワーが「米軍産複合体(military-industrial complex)」と呼んだ連中が作り上げた幻想に過ぎない。彼らは恐怖から利益を搾り取ることに長けている。キア・スターマーが本当に「防衛を優先する(to give priority to defence)」つもりなら、自らの保健・福祉予算を削減して賄えばよい。だが彼は本当に脅威を感じているのか、それとも単に聞こえが良い言葉を言っているだけなのか?

ジョー・バイデンはキエフへの支援の程度に細心の注意を払った。今こそ脱出の避けられない瞬間だが、それに先立って非常に困難な停戦が必要となるだろう。ワシントンからの実質的な保証がなければ、キエフの最終的な敗北以外に道は開けない。ウクライナは、南ヴェトナムにおけるアメリカの再来となる可能性もある。

トランプ・ヴァンスは、冷戦の大部分を支えてきた陳腐な言葉(platitude)、こけおどし(bluff)、そして不当利得(profiteering)の混合物の実態を、最小限の配慮で暴露することを決断した。1989年のNATOの勝利は、より微妙なニュアンスを持つ多極世界への移行の必要性を示唆していたが、それは決して適切に定義されることはなかった。

トランプ・ヴァンスが言うように、再編は切実に必要だ。しかし彼らがそれを表明したタイミングと方法は最悪の選択だった。私たちは彼らに好きなだけ無礼に振る舞えるが、彼らにはアメリカの民主政治体制が味方するだろう。

※サイモン・ジェンキンス:『ザ・ガーディアン』紙コラムニスト。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 


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『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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下記論稿の著者であるスティーヴン・M・ウォルトは2020年の大統領選挙ではジョー・バイデン、2024年の選挙ではカマラ・ハリスに投票した。トランプ支持ではない。そうした人物(しかも、国際関係論の大物学者である)から見た、ジョー・バイデン政権の外交はどうだったかということは興味をそそる話題である。論稿の中で、ウォルトはバイデン政権の外交は、「成功ではなかった」という評価をしている。

 バイデン政権の外交は、エスタブリッシュメントの意向に沿った外交となり、よく言えば、国際協調主義、悪く言えば、事なかれ主義となった。バイデン政権下における、世界の重要な出来事・事件は、やはり、ロシアによるウクライナ侵攻・ウクライナ戦争だ。ウォルトも指摘している通り、ウクライナ戦争は、アメリカと西側諸国によるロシアへの挑発が原因で、NATOの拡大とウクライナへの軍事に偏った支援(火遊び)をロシアが安全保障上の脅威に感じ、最終的に侵攻を誘発した。

バイデン政権は、戦争を短期間で終結させるための努力をせず、重要な武器、具体的には制空権を確保するための戦闘機をウクライナに供給しなかった。もっとも、アメリカがウクライナに戦闘機を供給していたら、ロシアの対アメリカ、対ヨーロッパへの出方は厳しいものとなっていただろうことは容易に推測できる。戦争がウクライナを超えてヨーロッパに拡大し、アメリカが米軍派遣にまで追い込まれ、戦争は泥沼化するということになった可能性もある。そうなれば、アメリカは大きく傷つき、中国の世界覇権国化を早めることになっただろう。結局、バイデン政権はウクライナ戦争に対処する意図も能力も持たずに、事なかれ主義で時間を経過させるだけで、ウクライナとロシアの国民の被害を拡大し、アメリカ国民の税金を無駄に注ぎ込むだけになってしまった。

 

ウクライナ戦争に次いで、世界的な出来事・事件となったのは、イスラエルとハマス間の戦争だ。イスラエルのガザ地区への攻撃になって、民間人に多数の死者が出て、地区が大きく破壊されることで、国際的な批判を招いた。バイデン政権がそうした批判に応えることなく、イスラエル支持を貫き、攻撃を継続させた。結果として、アメリカは人道を叫びながら、イスラエルには好き勝手させている、という「二枚舌」だという批判がなされ、アメリカに対する信頼を損なうことになった。

バイデン政権のウクライナや中東での政策は、アメリカの国際的地位やルールに対する信頼性に打撃となった。バイデン政権の外交は「成功ではなかった」ということになる。しかし、これは、バイデン政権だけの責任ではない。そもそも、アメリカの国力が落ちたこと、アメリカ国内政治の混乱、アメリカ国民の自分たちの生活に対する不満と不安と言ったことも要因として挙げられる。アメリカが世界の覇権国・超大国として行動することができなくなっている。これをバイデン政権だけで何とかしようとしてできるということではない。大きな構造転換に即した大きな変化が必要であり、アメリカ国民はそのためにトランプを大統領に選んだということになる。

(貼り付けはじめ)

ジョー・バイデンの外交政策最終報告書(Joe Biden’s Final Foreign-Policy Report Card

-退任するアメリカ大統領の国際的な功績を容赦なく検証する。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年1月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/01/14/joe-biden-final-foreign-policy-report-card-ukraine-israel-gaza-afghanistan/

私は2020年にジョー・バイデン米大統領に投票した。そして、ここの読者の皆さんもご存知の通り、昨年11月には、バイデン政権の外交政策への対応に懸念を抱きながらも、カマラ・ハリス副大統領を支持した。バイデンが国際舞台での最後の退任を迎えるにあたり、彼と彼のティームはどれほどの成果を上げたのだろうか? 当然のことながら、バイデンの最後の外交政策演説では、素晴らしい成果を挙げたと述べられていた。しかし、私の評価は大きく異なる。

最も大まかに言えば、バイデン政権は、かつてのアメリカの穏健な国際的リーダーシップの時代へと時計の針を戻そうとした。「アメリカ・ファースト」ではなく、アメリカは、台頭する独裁政治(autocracy)の波に対抗するため、他の仲間の民主政体諸国と連携し、いわゆる自由世界のリーダーを自称する、役割を再開しようとした。

大西洋を越えた友好関係(trans-Atlantic amity)は回復され、アジアにおける同盟関係は強化され、アメリカは人権といった自由主義的価値観を外交政策の「中心(center)」に据えるだろう。ワシントンは主要な国際機関を支援し、気候変動を阻止するための取り組みを主導し、イランの核開発計画の撤回に成功した合意に復帰し、中国やロシアといった大国によるライヴァルを封じ込めるために多くの同盟諸国を動員するだろう。軍事費の増額(increased military spending)と技術優位性を維持する(preserve technological supremacy)ための積極的な措置は、アメリカの優位性(U.S. primacy)を将来にわたって長期化させるだろう。

確かに、バイデンは、冷戦終結から2017年に当時のドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスに就任するまでアメリカの外交政策を導いてきた「自由主義的な覇権(liberal hegemony)」の青写真を完全に受け入れた訳ではない。それどころか、バイデンはトランプのグローバライゼーションからの撤退を継続した。トランプの関税をそのまま維持し、輸出規制やその他の経済制裁を更に積極的に行使し、製造業の雇用を復活させる(これは実現しなかった)とともに、半導体、人工知能、その他の先端技術におけるアメリカの支配(U.S. dominance)を確保するために国家産業政策(national industrial policies)を採用した。

しかし、全体として見ると、バイデンのアプローチは、数十年にわたってアメリカの外交政策を導いてきた主流派エリートのコンセンサスにすんなりと収まっていた。それは、同じ世界観を共有する経験豊富なティームによって運営され、進歩主義派や外交政策のリアリストたちは脇に追いやられていた。

彼らはどれほどうまくやったか? 公平を期すために言えば、実績には確かにいくつかの重要な成功が含まれている。

2021年のバイデンの就任を、ヨーロッパにおけるアメリカの同盟諸国の多くは明らかに安堵感を持って迎えた。バイデンとアントニー・ブリンケン国務長官は共に筋金入りの大西洋主義者(die-hard Atlanticists)であり、彼らは迅速に行動して、アメリカがヨーロッパの同盟諸国の安全保障に引き続き確固たる関与を維持することをヨーロッパの同盟国に保証した。

もちろん、ヨーロッパの好意的な反応は驚くべきことではなかった。アメリカを事実上の第一対応国(first responder 訳者註:現場に第一に到着して対応する人)とすることは、ヨーロッパにとって非常に有利な取引だからだ。この立場は2つの点で成果を上げた。1つは、2022年にロシアがウクライナに侵攻した際に、政権が迅速な対応を調整するのに役立ったこと(下記参照)。もう1つは、インフレ抑制法やCHIPS・科学技術法といった保護主義的な側面、そして中国に対する様々な輸出規制を、これらの措置に伴うコストを承知の上で、一部の主要同盟国に受け入れるよう説得できたことだ。

バイデン政権はまた、中国の台頭に対抗するための幅広い取り組みの一環として、アジアにおけるアメリカのパートナーシップを強化したことでも評価に値する。これらの措置には、フィリピンの基地へのアクセス拡大、キャンプ・デイヴィッドでの韓国と日本の首脳の接遇(新たな三国間安全保障協定の締結につながった)、そしてオーストラリア、イギリス、アメリカ間のAUKUSイニシアティヴを通じたオーストラリアとの安全保障関係の強化などが含まれる。

バイデン政権は、いくつかの主要技術分野における中国の進出を阻止するためのアメリカの取り組みも改善したが、この取り組みの長期的な影響は依然として不透明である。また、米中関係は依然として激しい競争状態にあるものの、あからさまな対立に発展することはなく、政権は米中関係の大幅な悪化を招くことなくこれらの目標を達成したとも言える。

確かに、バイデン政権の取り組みは、中国の不利な人口動態と経済の失策(これらは北京に緊張を抑制する十分な理由を与えた)と、中国の修正主義(Chinese revisionism)に対する地域的な懸念に後押しされた。バイデン政権はアジアに向けて有意義な経済戦略を実行できなかったことで非難されるかもしれないが、国内で超党派が保護主義(protectionism)に傾倒していたことを考えると、戦略を策定するのは困難な道のりだっただろう。

最後に、バイデンは、アフガニスタンにおけるアメリカの無益な戦争を終わらせるという、勇気ある、そして私の考えでは正しい決断をしたにもかかわらず、不当に批判された。アフガニスタン政府は、アメリカが撤退を選べばいつ崩壊するか分からない、いわば砂上の楼閣(a house of cards)のような存在だったため、撤退は悲惨な結果に終わる運命にあった。更に言えば、駐留期間が長引いたとしても、結果は大きく変わらなかっただろう。

バイデンは短期的には政治的な代償を払ったが、彼の決断は2024年までにほぼ忘れ去られ、先の選挙ではほとんど影響を与えられなかった。アメリカが撤退して以来、アフガニスタンで起きた出来事を喜ぶべき人は誰もいないが、アメリカは自らの行動を全く理解しておらず、決して勝利するつもりはなかったことはますます明らかになっている。この事実を認識し、それに基づいて行動する勇気を持ったバイデンには、十分な評価を与えるべきだ。

残念ながら、これらの成果は、より深刻ないくつかの失敗と比較検討されなければならない。

最初の失敗はウクライナ戦争である。バイデン政権はウクライナへの支援とロシアに課したコストをことごとく誇示したがるが、この主張を支持する人々は、ウクライナが払った莫大な代償と、この戦争がヨーロッパ諸国に与えた損害を無視しがちである。

ここで重要なのは、この戦争が突如としてどこからともなく現れたのではなく、ワシントン自身の行動が生み出した問題であることを認識することである。もちろん、ロシアは違法な戦争を開始したことに全責任を負っているが、バイデンとそのティームに非難の余地がない訳ではない。特に、彼らは自らの政策がこの戦争を不可避なものにしていることに気づかなかった。具体的には、彼らはNATOの無制限拡大(open-ended NATO enlargement)と、ウクライナを西側諸国との緊密な安全保障パートナーシップに、そして最終的にはNATOに加盟させることに固執し続けた。

ウラジーミル・プーティン大統領だけでないロシアの指導者たちが、この事態の進展を存亡の危機と捉え、武力行使による排除も辞さない姿勢を明確に示していたにもかかわらず、彼らはこの危険な行動方針を固守した。戦争の脅威が迫る中、政権は外交的解決を模索し衝突を回避するための努力を中途半端なものにとどめた。

戦争が勃発すると、バイデン政権は可能な限り速やかに戦争を終結させようとしなかったという過ちを犯した。バイデン政権はロシア軍がどうしようもなく無能であり、「前例のない(unprecedented)」制裁を課せばロシア経済が破綻し、プーティン大統領に方針転換を迫られると確信していたが、これは後に過度に楽観的な想定であったことが判明した。

こうした誤った判断の結果、政権は戦争終結に向けた初期の取り組みをほとんど支援せず、むしろ頓挫させてしまった可能性さえある。また、2022年秋にウクライナ情勢の見通しが一時的に改善した際にも(マーク・ミリー統合参謀本部議長が助言したように)、停戦の見通しを探ることもなかったし、ロシアの防衛網の正面に大規模な攻勢をかけることは失敗する運命にあるとウクライナの指導者に伝えることもなかった。

残念ながら、この戦争はウクライナとその西側諸国にとって重大な敗北に終わる可能性が高い。アメリカとNATOの当局者たちは同盟の結束はかつてないほど強固だと主張しているが、彼らの楽観的なレトリックは、この戦争がヨーロッパの安全保障と政治に及ぼした甚大な損害を無視している。この紛争は、ほとんどのヨーロッパ諸国政府(その多くは今や手に負えない財政的圧力に直面している)に多大な経済的負担を強い、エネルギーコストの上昇はヨーロッパの競争力を更に低下させ、右翼過激派の復活を助長し、ヨーロッパ内部の分裂を深刻化させた。また、中国との均衡を保つために投入できたはずの関心と資源を逸らした。

確かに、ロシアも莫大な犠牲を払ったが、モスクワが北京とより緊密に結びつき、西側諸国を弱体化させる、更なる機会を模索することは、アメリカやヨーロッパにとって決して利益にならない。この戦争が起こらなかった方が、ヨーロッパ、アメリカ、そして特にウクライナにとってはるかに良い状況になっていただろう。そして、戦争の可能性を高めた政策に対して、バイデン政権は大きな責任を負っている。

二つ目の災難は、言うまでもなく中東情勢だ。あらゆる大統領の夢がここで潰えてしまうかのようだ。バイデンの最大の失策は、選挙公約を放棄し、トランプから引き継いだ誤った政策を継続したことだった。彼はイラン核合意に復帰すると公約していたにもかかわらず、復帰しなかった。その結果、テヘランは爆弾級に近いレヴェルの核濃縮(nuclear enrichment)を再開し、強硬派の影響力を強化した。

また、政権はトランプと同様にパレスティナ人の将来に関する問題を無視し、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化に向けた努力に注力したが、その試みは失敗に終わった。このアプローチは、パレスティナ人が永久に疎外されるのではないかという恐怖を強め、ハマスの指導者たちが2023年10月7日にイスラエルに対する残虐な攻撃を開始するきっかけとなった。

バイデン政権の状況判断の誤りは、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官が、ハマスの攻撃のわずか8日前に、この地域は「ここ20年で最も静かだ(quieter than it had been in two decades)」と宣言したことで、痛ましいほど露呈した。

それ以来、バイデンと彼のティームは、イスラエルが最低限の自制を求める要請を無視し、少なくとも4万6000人、おそらくははるかに多くのパレスティナ人を殺害した容赦ない無差別軍事作戦を遂行したにもかかわらず、あらゆる場面でイスラエルを支持してきた。この猛攻撃はガザ地区の大部分を居住不能にし、全ての大学とほぼ全ての病院を破壊し、数百人のジャーナリストを殺害し、200万人以上の民間人に甚大な苦しみと永続的なトラウマを与えた。

イスラエルが10月7日以降に対応したことが正当であったことを否定する良識ある人はいないが、イスラエルの報復キャンペーンは戦略的、道徳的な理由から弁解の余地のないものであった。とりわけ、この容赦ない暴力の行使は、ハマスを壊滅させ、残りの人質を解放するという公約を達成することができなかった。そして、バイデン政権は、それを可能にした爆弾投下と外交的保護を提供したのだ。

少し立ち止まって、これが何を意味するのか考えてみて欲しい。アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)、複数の独立救援機関、そしてジェノサイドに関する著名な専門家たちは皆、イスラエルが重大な戦争犯罪を行い、「おそらく(plausibly)」アメリカの全面的な支援を受けてジェノサイドを行っていると結論付けている。国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、ガザ地区の状況を「道徳的な暴挙(moral outrage)」と称した。虐殺の様子を捉えた動画はソーシャルメディアで容易に見ることができる。

これらの自称「ルールに基づく秩序(rules-based order)」の擁護者たちは、イスラエルを遮断し、その不均衡な対応を非難するどころか、停戦と残りの人質の解放を求める国連安全保障理事会の決議を複数回拒否し、ICJICCへの攻撃を開始した。また、ヨルダン川西岸の占領下で暮らすパレスティナ人に対する暴力の増大を阻止するための真剣な努力も行っていない。これらの行動は、複数の政府高官が抗議の辞任に追い込まれ、国務省をはじめとする関係機関の士気を著しく低下させたとみられる。

22025年1月13日に国務省で行った退任演説で、バイデンはこれらの政策が功を奏したと示唆したようだ。ハマスとヒズボラは大幅に弱体化し、シリアのバシャール・アル=アサド大統領は失脚し、イランは深刻な打撃を受け、イランの核インフラを破壊するための空爆作戦を実施するリスクは減少した。この観点からすれば、これらの目的は手段を正当化すると言えるだろう。

この弁明は道徳的に空虚(vacuous)であり、戦略的にも近視眼的(shortsighted)だ。イスラエルとサウジアラビアの関係正常化は先送りされ、ジハード主義的なテロリズムの新たな波が目前に迫っているかもしれない。ハマスとヒズボラは弱体化したものの壊滅した訳ではない。イエメンのフーシ派は依然として抵抗を続けている。パレスティナ人が自らの国家、あるいは「大イスラエル(greater Israel)」における政治的権利を求める願望は消えることはないだろう。イランの指導者たちは、ムアンマル・アル=カダフィとアサドに降りかかった運命を回避するには、核兵器開発こそが最善の方法だと結論付ける可能性が高い。もしそうすれば、中東は再び不必要な戦争に見舞われ、原油価格は上昇し、アメリカは莫大な損失を伴う破綻に巻き込まれることになるだろう。たとえ消えることのない道徳的汚点を無視したとしても、これらの展開はどれもアメリカの利益にはならない。

バイデン政権によるイスラエル・ハマス戦争への対応は、差し迫った戦略的必要性によって強いられたのではないことを忘れてはならない。それは意識的な政治的選択だった。政府は存亡の危機に直面した際に、時に道徳的原則を妥協することがあるのは誰もが認めるところだが、ガザ地区の状況はアメリカにとってほとんど、あるいは全く危険をもたらすものではなかった。ワシントンはイスラエルによるジェノサイドへの支持を拒否しても、自国の安全や繁栄を少しでも危険に晒すことなく、行動できたはずだ。

バイデンとブリンケンがそうしなかったのは、選挙の年にイスラエル・ロビー(Israel lobby)の政治的影響力を恐れたか、イスラエルは通常のルールから除外される特別なケースだと考えていたからだろう。こうした露骨な二重基準(double standard)は、既存の秩序の正当性を必然的に損ない、アメリカの衰退しつつある道徳的権威(moral authority)を浪費した。今後、中国の外交官たちが他国に対し、西側諸国の人権観は偽善的な戯言だと説得しようとする時、イスラエルとハマスとの戦争はまさにその好例となるだろう。バイデンは、アメリカは「模範を示す力によって(by the power of our example)」主導するとよく言うが、今回の場合、他国が拒否することを願うべき模範を示したことになる。

バイデンは自称シオニストだが、ネタニヤフ首相の行動を無条件に支持したことはイスラエルにとっても良いことではなかった。イスラエルの首相と元国防大臣は、現在、国際刑事裁判所(the International Criminal Court)から逮捕状が出されている。これはプーティンと共通の問題であり、その汚点は消えることはないだろう。イスラエルのメシアニック過激派(Messianic extremists)は懲らしめられるどころか、むしろ強化され、世俗派と宗教派のイスラエル人の間の溝を深め、ヨルダン川西岸併合への圧力を強めている。

イスラエルがこの目標を推し進めれば、第二次世界大戦後の領土獲得を禁じる規範は更に弱まり、他の指導者たちは自らが切望する土地を奪取するよう促されるだろう。また、このような措置はヨルダン川西岸地区とイスラエル本土との区別を消し去り、イスラエルがアパルトヘイト国家であるか否かをめぐる議論に終止符を打つことになるだろう。これは容易に新たな民族浄化(ethnic cleansing)につながり、ヨルダンなどの近隣諸国に恐ろしい人道的被害と危険な影響を及ぼす可能性がある。私には、これらがイスラエルの利益となるとは到底考えられない。

最後に、ウクライナと中東における戦争(バイデン政権の政策が一因となって引き起こされた戦争)は、膨大な時間と関心を費やし、長期的に見てより重要な問題に十分な重みを与えることを困難にした。将来のパンデミックへの備えは停滞し、気候変動対策の進展は必要な水準を大きく下回った。そして、政権が信頼できる移民政策を打ち出せなかったことは、昨年11月にハリスに大きな痛手を与えた。

アフリカは重要性が増しているにもかかわらず、非常に軽視されてきた。過去4年間で、ブリンケンはイスラエル(人口1000万人弱)を16回、ウクライナ(人口3560万人)を7回訪問したが、人口約15億人のアフリカ大陸を訪問したのはわずか4回だった。

バイデン政権発足時の最重要目標は、「ルールに基づく秩序(rules-based order)」を強化し、独裁政治(autocracy)に対する民主政治体制(democracy)の優位性を示すことだった。しかし、バイデンとブリンケン国務長官は、都合の良い場合には躊躇なくルールを破り、ルールの執行を試みていた複数の機関(世界貿易機関、国際司法裁判所、国際刑事裁判所など)を積極的に弱体化させた。

他国はもはや、このような行動をトランプのような異端者(a rouge outlier)のせいにすることはできない。彼らは、これをアメリカの対外姿勢の本質的な要素として正しく認識するだろう。一方、バイデン政権が大々的に宣伝した「民主政治体制サミット(democracy summits)」にもかかわらず、世界中で民主政治体制は後退し続けており、強固な民主政治体制への関与が紙一重の人物が来週ホワイトハウスに復帰することになる。

ここに悲しい皮肉がある。確かにいくつかの成果はあったものの、バイデンのウクライナと中東情勢への対応の誤りは、彼が強化したいと述べていた「ルールに基づく秩序(rules-based order)」に甚大な、そしておそらくは致命的なダメージを与えた。バイデンとそのティームは、いくつかの重要な国際規範を一貫して遵守しなかったことで、次期政権(第2次トランプ政権)がそれらを完全に放棄することを容易にし、多くの国々が喜んでそれに追随するだろう。

こうなる必要はなかったが、ジョー・バイデンの外交政策の遺産は、ルールに縛られなくなり、繁栄が失われ、そして非常に、より危険な世界となるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Bluesky@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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(終わり)
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 ウクライナ戦争は現在も継続中であるが、大きな展開は見られない。そうした中で、トランプ政権が発足して、サウジアラビアで、アメリカとロシアによる停戦に向けた交渉が行われている。その場にウクライナはいない。私がこれまでの著作で書いてきているように、残念なことであるが(悲しいことであるが)、ウクライナはその交渉には参加できない。

ウクライナ戦争はアメリカがウクライナに代理で行わせた戦争であり、当初の目論見通りに進まず(ロシアが早期に手を上げると思っていた)、完全に失敗した中で、トランプ政権になって、停戦に向けた動きが始まっている。ウクライナは米露間で決まった条件を飲むしかない(多少の変更はできるだろうが)。そして、それを飲まないということになれば、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、アメリカによって失脚させられるだろう。気の毒なのはウクライナ国民であり、ロシア国民だ。早く戦争が止まれば助かった命は多くあっただろう。アメリカと西側諸国の「火遊び(NATOの東方拡大)」によって、貧乏くじを引かされたのはウクライナ国民だ。

 停戦の条件はどうなるか分からないが、現状のままということになる可能性が高い。そうなれば、ウクライナは東部4州が独立するということになり、国土を失うということになる。ウクライナと西側諸国が「勝利」で終わるということはないだろう。そうなれば、「誰のせいで、誰の責任で、このような失敗をしてしまったのか、どうして戦争が起きてしまったのか」という話は当然出てくるだろう。

 下記論稿にあるように、責任の所在について色々と考えが出てくるだろうが、そもそも論で、西側諸国全体に責任を期する考えは大っぴらに出てくることはないだろう。アメリカとヨーロッパ諸国が、実際にウクライナを支援する意図はないが、ロシアを刺激し、ロシアに手を出させて戦争を起こさせて、打撃を与えるというような、稚拙な考えで、ウクライナの軍事部門だけを支援した結果が現在である。しかし、そのようなことを言えば、アメリカとヨーロッパ諸国のエスタブリッシュメントに責任が及んでしまうので、そのようなことは言えない。だから、もっと小さな、枝葉末節なことを言って、煙に巻いてしまおうということになるだろう。武器を与える与えないというのは、ウクライナ戦争において重要な要素ではある。しかし、それよりも重要な論点がある。

 アメリカをはじめとする西側諸国(the West)の失敗と減退をウクライナ戦争は象徴している。そして、日本に住む私たちが得るべき教訓は、西側諸国の火遊びに巻き込まれず、決して戦争を起こさないということだ。

(貼り付けはじめ)

「ウクライナを失ったのは誰か?」についてのユーザーガイド(A User’s Guide to ‘Who Lost Ukraine?’

-長期にわたる議論にどのように備えるか。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年1月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/01/08/users-guide-to-who-lost-ukraine/

ロシアのウクライナ戦争がどのように、そして、いつ終結するのか、正確なところは誰にも分からないが、その結末はキエフとその西側諸国の支持者にとって失望となる可能性が高い。そうなれば、次の局面では誰が責任を負ったのかをめぐる激しい論争が繰り広げられるだろう。参加者の中には、悲劇的な出来事から真摯に学びたいという思いから行動する者もいれば、責任を回避したり、他者に責任を転嫁したり、政治的な利益を得ようとしたりする人もいるだろう。これはよくある現象だ。ジョン・F・ケネディの有名な言葉がある。「勝利には100人の父親がおり、敗北は孤児だ(Victory has 100 fathers, and defeat is an orphan[訳者註:勝利の際にはたくさんの人が自分のおかげだと名乗り出るが、敗北の際には自分が原因だと名乗り出る人はいない]」。

この思想戦(this war of ideas)が勃発するのを待つ必要はない。なぜなら、いくつかの対立する立場は既に存在しており、他の立場は容易に予測できるからだ。ここで、それらの詳細な評価を示すつもりはない。このコラムは、戦争がなぜ起こったのか、そしてなぜ私たちの大多数が期待したようには進まなかったのかという、対立する説明をまとめた便利なチェックリストに過ぎない。

論点1:ウクライナが核兵器を放棄したのは間違いだった。一部の専門家によると、最初の大きな誤りは、ウクライナに旧ソ連から継承した核兵器を、実効性のない安全保障上の保証と引き換えに放棄させたことだ。もしキエフが独自の核兵器を保有していれば、ロシアの軍事介入を心配することなく、自らが望む経済協定や地政学的連携を自由に追求できたはずだというのがこの論点の趣旨だ。この論点は、最近ビル・クリントン元米大統領によっても引用されているが、ロシアは2014年にクリミアを占領したり、2022年に核兵器を保有するウクライナの残りの地域に侵攻したりする勇気はなかっただろう、なぜならそのようなことをするリスクが大きすぎるからだという主張である。この論点には技術的な反論(つまり、ウクライナが核兵器を保有していたとしても、使用できたかどうかは明らかではない)もあるが、それでもなお、検討に値する反事実的仮定(a counterfactual worth pondering)である。

論点2:ウクライナのNATO加盟招請は、戦略上極めて重大な失策だった。1990年代、洗練された戦略思想家たちが、NATOの拡大は最終的にロシアとの深刻な問題につながると警告したが、彼らの助言は無視された。こうした専門家の一人であるイェール大学の歴史家ジョン・ルイス・ギャディスは1998年に次のように述べている。「国務省は、NATOの新規加盟国が誰になるかを決めるまでの間、モスクワとの関係は正常に進展すると保証している。おそらく次は豚でも空を飛べるぞとでも言おうとするだろう(Perhaps it will next try to tell us that pigs can fly)」。ブッシュ政権が2008年のブカレスト首脳会議でジョージアとウクライナのNATO加盟を提案した際、アメリカ政府内からの警告は強まったが、加盟への機運を断ち切ることはできなかった。ロシアの抗議活動と安全保障上の懸念は軽々しく無視され、キエフと西側諸国間の安全保障上の結びつきが着実に強まったことで、最終的にロシアのウラジーミル・プーティン大統領は2022年に違法な戦争を開始するに至った。

この見解によれば、要するに、拡大論者がロシアの懸念の深さを理解せず、モスクワの反応を予測できなかったためにウクライナが侵略されたということになる。この主張は、ウクライナの最も熱烈な支持者にとっては忌まわしいものだ。彼らは、プーティン大統領はNATOが何をしようと遅かれ早かれ攻撃してきたであろう、なだめることのできない侵略者だから戦争が起きたのだと主張する。しかし、戦争が起きた理由に関するこの説明は論理的に一貫しており、それを裏付ける十分な証拠もある。こう言ってもロシアの行動を少しも正当化するものではないが、西側諸国の指導者たちはNATOの東方拡大(expanding NATO eastward)を始めた時点で、モスクワが何か酷いことをする可能性を考慮すべきだったことを示唆している。彼らはおそらく自らの行動が戦争の可能性を高めたことを認めることはないだろうが、他国を支援しようとする西側諸国の善意の努力が裏目に出るのはこれが初めてではないだろう。

論点3:NATOの拡大速度が遅すぎた。この論点は論点2の裏返しである。真の誤りはNATO拡大の決定や、後にウクライナに加盟行動計画の策定を要請したことではなく、キエフをより早く加盟させ、自衛手段を提供できなかったことだと主張する。この論点は、キエフが北大西洋条約第5条の保護と西側諸国の直接的な軍事支援の見込みを享受していれば、モスクワは軍事行動を取らなかっただろうと想定している。少なくとも、NATOは2014年にロシアがクリミアを占領した後、ウクライナの軍事力拡大をより迅速に支援すべきだった。そうすれば、将来のロシアの侵攻を抑止または撃退する上で、ウクライナはより有利な立場に立つことができたはずだ。この見方では、NATOの優柔不断さ(そして、バラク・オバマ政権がウクライナへの実質的な軍事支援に消極的だったこと)が、キエフを最悪の立場に追い込んだ。モスクワはキエフの西側への傾きを存亡の危機と見なしていたが、ウクライナはロシアの予防戦争(a Russian preventive war.)に対する十分な防御手段を欠いていたのだ。

論点4:西側諸国は2021年に真剣な交渉に失敗した。ウクライナが西側諸国(the West)への接近を着実に続ける中で、危機は2021年に頂点に達した。ロシアは3月と4月にウクライナ国境に軍事力を動員した。アメリカとウクライナは9月に新たな安全保障協力協定(a new agreement for security cooperation)に署名し、ロシアは軍備を強化し、12月にはモスクワがヨーロッパ安全保障秩序(the European security order)の抜本的な改革を求める2つの条約案を発表した。これらの条約案は真剣な提案ではなく、戦争の口実と広く見なされ、アメリカとNATOはロシアの要求を拒否し、控えめな軍備管理案を提示したにとどまった。その結果、米露両国はウクライナの地政学的連携について真剣な交渉を行うことはなかった。ロシアの要求全体が受け入れられなかった可能性もあるが、この見解は、アメリカとNATOはそれらを「受け入れるか、拒否するか」の最後通牒(a take-it-or-leave-it ultimatum)ではなく、最初の試みと捉えるべきだったと主張する。もしワシントン(そしてブリュッセル)がモスクワの要求の一部(全てではないが)についてもっと妥協する姿勢を持っていたら、この戦争は避けられ、ウクライナは多くの苦しみから逃れることができただろうか?

論点5:ウクライナとロシアは共に戦争を早期に終結させなかったために敗北した。後知恵(hindsight)で言えば、ウクライナとロシアは共に、戦争開始直後に終結していればより良い結果になっていただろう。この論点の1つは、2022年4月にイスタンブールでウクライナとロシアの両国は合意に近づいたものの、西側諸国が提案された条件に反対したため、最終的にウクライナは合意から離脱したというものだ。もう1つの論点は、2023年まで米統合参謀本部議長を務めたマーク・ミリー退役大将の主張と関連付けられることもある。それは、ハリコフとヘルソンにおけるウクライナの攻勢がロシアを一時的に不利な状況に追い込んだ後、ウクライナとその支援諸国は2022年秋に停戦を推進すべきだったというものだ。戦争を早期に終結させようとする努力が成功したかどうかは分からないが、戦闘が終結し、特に条件がキエフにとって不利なものであれば、これらの論点は再び注目を集めるだろう。モスクワがその侵略行為に対して支払った莫大な代償を考えれば、2022年初頭に交渉によって合意に達していた方がモスクワにとってもずっと良かったかもしれない。

論点6:ウクライナは背後から刺された。当然のことながら、ウクライナ国民と西側諸国の最も熱烈な支持者たちは、キエフへの支援が不十分で、そのスピードも遅く、支援内容にも制限が多すぎると長年不満を訴えてきた。もしキエフがロシアの凍結資産(Russia’s frozen assets)に加えて、エイブラムス戦車、F―16、パトリオット、ATACMS、ストームシャドウ、砲弾などをもっと多く受け取り、これらの兵器を自由に使用することができていたなら、ロシアは今頃決定的に敗北し、ウクライナは失った領土を全て取り戻していただろう。この見解は、西側諸国の強硬派(hard-liners)を今回の惨事の責任から見事に免責するものだ。問題は彼らの助言が間違っていたのではなく、十分な熱意を持ってそれに従わなかったことにあると示唆しているからだ。結果として、今後、様々な方面から、いわば、陰謀(dolchstoss、ドルクストス)の復活とも言える批判が聞かれることが予想される。

論点7:それはキエフの失敗だ。ウクライナ人がロシアの手によって耐え忍んできた苦しみを考えると、結果を自らの戦略的ミスのせいにするのは無神経であり、残酷ですらある。とはいえ、戦後、何が間違っていたのかを評価する試みには、2023年夏のウクライナ軍の不運な(ill-fated)攻勢(西側諸国の評論家の多くが不可解にも成功すると確信していた)と、戦術的には成功していたものの戦略的には疑問視されていた、2024年夏のクルスク侵攻が間違いなく含まれるだろう。ウクライナ軍は英雄的に戦い、印象的な戦術的創意工夫(impressive tactical inventiveness)を見せたが、戦後の批評家たちは、内部腐敗による戦力の消耗、防衛体制の構築に十分な努力を払わなかったこと、そしてキエフが若い世代を戦闘に動員する意欲、あるいは能力がなかったことに焦点を当てるだろう。

論点8:これは現実政治(realpolitik)だ。プーティン大統領をはじめとするロシア人は、この戦争をアメリカ主導によるロシアの弱体化維持のための執拗な努力の一環と見ているが、西側諸国の中には、ウクライナはロシアを長期にわたる莫大な費用を伴う戦争に巻き込むための単なる犠牲の駒に過ぎないと考える人もいるのではないかと思う。これはまさにマキャベリズム的な見方で、NATOの拡大とウクライナ加盟はモスクワを激怒させ、最終的には軍事的対応を引き起こすことを西側諸国のエリート層(特にアメリカ人)が理解していたことを示唆している。もし戦争がウクライナを越えて拡大せず、西側諸国の軍隊が介入しなければ、はるかに裕福な西側諸国はウクライナを長期間戦闘に引き留め、ロシアを徐々に疲弊させていくことができるだろう。同様の戦略は1980年代のアフガニスタンでソ連に対して効果を発揮しており、ロシアが最近シリアとモルドヴァで後退していることは、それが効果を上げていることを示唆している。私自身、この説明には大きな疑問を抱いているが、時が経てばアーカイブから何が明らかになるのか興味がある。

論点9:他の全てが失敗したらトランプのせいにする。ジョー・バイデン米大統領はある意味で幸運だった。アフガニスタンの終盤とは異なり、ウクライナの決着は他の誰かの監視下で起こるだろう。結果がウクライナに不利になれば、批評家たちは責任の一部を次期大統領のドナルド・トランプに押し付けるだろう。トランプは自分が弱いと思われ、結果の責任を負わされることを恐れ、これまで示唆してきた以上の支援をウクライナに与えるかもしれないが、バイデンほどの言論的、物質的な支援は行わないだろう。もしウクライナがロシア占領下の4州とクリミアを永久に失うか、新たな凍結紛争(frozen conflict)に巻き込まれることがあれば、トランプの政敵は喜んで彼に責任を負わせるだろう。

ウクライナで何がうまくいったのか、何がうまくいかなかったのかを健全かつ公平に議論すれば、正しい教訓を学び、将来に向けてより良い行動を選択できるだろう。しかし、過去の失敗から正しい教訓を学べる保証はない。このコラムの常連の読者の皆さんは、私がこれらの様々な議論の中でどれが最も説得力があると考えているか既にご存知だろうが、ここでの私の目的は誰かを責め立てることではない。今は、このコラムを切り取って、非難の矛先が向けられ、激しい論争が始まるのを待ちたい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ブルースカイ・アカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 古村治彦です。

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 日本でも一部の極端な主張する右派の人々が核武装論を振りかざしている。その馬鹿さ加減は救いようがないが、ある意味では、彼らは「平和ボケ」の「幸せな」人々である。実際に核兵器を持ち、自国の国民を危険に晒すことになるかしれないということを死ぬほどの苦しみで悩み、考え抜く、超大国の最高指導者や最高指導層の苦しみに思いが至らない、なんとも単純で、幸せな頭の構造をしていて、何よりも想像力と思考力が圧倒的に欠如している。私はここまで書きたくはないのだが、書かざるを得ないほどの惨状を呈している。

 下に掲載した論稿を読めば、核兵器は使用できない平気であり、核戦争を戦ってはいけない戦争であることがよく分かる。「核戦争は決して戦ってはいけない」という言葉を残したのは、タカ派で知られるロナルド・レーガン大統領だ。ソ連を悪の帝国として、冷戦に勝つために、軍拡競争で仕掛けた、レーガン大統領でさえも、核戦争は勝利できない、相手を殺すために、自分を殺すことになる、自分を殺さねば相手を殺せないということがよく分かっていた。

 ウクライナ戦争は既に3年以上が経過ししている。この間に、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は核兵器使用を示唆する、脅迫的な言動を行った。それに対して、アメリカのジョー・バイデン政権は抑制的な態度を取った。ウクライナを使って「火遊び」をしていたアメリカにしても、核兵器使用、核戦争だけは絶対に避けねばならないということはコンセンサスとして持っていた。それで、ウクライナに戦闘機支援などを行わらず、しかし、多額の軍事援助を行うという最悪の選択を行い、戦争が長引き、ウクライナの人々と国土が大きく傷つくことになった。

 ドナルド・トランプ政権はウクライナ戦争の停戦に向かって動いている。考えてみれば、ロシア側はバイデン政権下では停戦のための交渉に乗ってこなかった。トランプになって、大きく動き始めた。これだけでもトランプ政権発足の意義は大きい。このように書く人は日本では多くないだろうが。

 核兵器が登場し、日本の広島と長崎で実際に使用されて以降、核兵器が自国への攻撃や戦争を抑止する効果を持たず、自国の国民を危険に晒す「無用の長物」となっている。日本は核武装等するべきではない。全く意味を持たない。日本が核武装をする、正確にはアメリカによって核兵器を持たされる時には、中国との直接衝突、日本への核攻撃をさせたいという意図がある時だ。アメリカに中国からの核攻撃を受けないために、弾よけにするためだ。中国に対する核攻撃は日本がやったことで、日本が被害を受けるという形にしたいとアメリカが考えれば、日本に核兵器を持たせることになるだろう。だから、私たちは何があっても、核兵器を持ってはいけない。日本が核兵器を持てば、日本の存亡の危機が高まる。用心して慎重に動かねばならない。

(貼り付けはじめ)

プーティンが終末をもたらすという脅威(Putin’s Doomsday Threat

-ウクライナでキューバ・ミサイル危機の再発を防ぐにはどうすべきか

グレアム・アリソン筆

2022年4月5日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/articles/ukraine/2022-04-05/putins-doomsday-threat

ロシアのウクライナ侵攻が頓挫し、その勢力が東部の戦場に軸足を移したことで、戦争は新たな、より暗く、より危険な局面を迎えつつある。マリウポリはその未来を予見させる。ロシアの都市グロズヌイを「解放する(liberate)」ために爆撃して瓦礫と化し、シリアの独裁者バシャール・アル=アサドとともにアレッポを破壊したウラジーミル・プーティンは、大量破壊に対して道徳的な遠慮がないことは確かだ。更に、ウクライナでの戦争は今や紛れもなくプーティンの戦争であり、ロシアの指導者プーティンは、自分の政権や命さえ危険に晒すことなく負ける訳にはいかないことを知っている。そのため、戦闘が続く中で、彼が不名誉な撤退(an ignominious retreat)をするか、暴力のレヴェルをエスカレートさせるかの選択を迫られた場合、私たちは最悪の事態に備える必要がある。極端な話、その事態には核兵器も含まれるかもしれない。

ロシア軍が罪のない一般市民を凄惨な方法で殺害しているという証拠が増加していくにつれて、アメリカとヨーロッパの同盟諸国は、戦争を拡大させる危険性のある方法で介入するよう、高まる圧力に直面している。ジョー・バイデン米大統領は、世界的な連合(a global coalition)を動員し、世界がかつて経験したことのないほど包括的で痛みを伴う制裁措置をロシアに科している。バイデン大統領は、プーティンとその支持者たちを事実上追放し、西側世界の多くで彼らを「社会的に排除された人々(pariahs)」にした。アメリカはNATO加盟の同盟諸国と一緒に、勇気をもって自由のために戦っているウクライナ人に大量の武器を供給している。しかし、多くのアメリカ人は、地球上で最も強力な国家の国民として、バイデン政権にこれ以上何ができるのかと問いかけていることだろう。既に識者や政治家たちの間では、ウクライナの上空に飛行禁止区域を設定したり、ポーランドのMiG29をキエフに譲渡したりするようバイデンに求める声が上がっている。

しかしながら、これらの要求が考慮していないのは、冷戦の中心的な教訓である。核保有超大国の軍隊(military forces of nuclear superpowers)が、互いに相手を数百、数千人殺したり、殺す可能性のある選択肢を真剣に検討したりする熱い戦争(a hot war)に巻き込まれた場合、そこから核戦争がもたらす究極の世界的大惨事(the ultimate global catastrophe of nuclear war)に至るまでのエスカレーションは驚くほど短い可能性がある。教科書的な事例は、1962年のキューバ・ミサイル危機である。

アメリカの偵察機が、ソヴィエト連邦が核弾頭ミサイルをキューバに密かに持ち込もうとしているのを捕捉したとき、ジョン・F・ケネディ米大統領は即座に、この行動は許されないと判断した。彼は、ディーン・ラスク国務長官が「目をそらさずににらみ合う(eyeball-to-eyeball)」と評したソ連のニキータ・フルシチョフ首相と対決した。これは米海軍による、キューバの海上封鎖(a naval blockade of Cuba)から始まり、ミサイル基地への空爆という脅迫の最後通牒(an ultimatum threatening air strikes on the missile sites)で終わった。歴史家たちは、これが歴史上最も危険な瞬間であったことに同意している。 13日間の終わりに近づいた静かなひととき、ジョン・F・ケネディは弟のボビー(ロバート)・ケネディに個人的に、この対立が核戦争に終わる可能性は「3分の1」だと考えていると打ち明けた。その後数十年間に歴史家が発見したものは、その可能性を少しでも高めるものではなかった。もし戦争が起こっていたら、1億人のアメリカ人とそれ以上のロシア人の死を意味していたかもしれない。

この危機で学んだ教訓は、それ以降の数十年間、核兵器に関する国家運営(nuclear statecraft)に活かされてきた。60年もの間、同じような対立がなかったため、核戦争が起こるということは、専門家たちの多くにとってほとんど考えられないことであった。幸いなことに、バイデンと政権の主要メンバーたちはよく分かっている。プーティンの挑戦に対応するための戦略を分析検討する中で、ロシアの国家安全保障戦略には、相手が核兵器を使用していない、あるいは使用すると脅していない場合でも、特定の状況下では核兵器を使用することが含まれていることをバイデン政権の主要メンバーたちは知っている。彼らは、ロシア軍がドクトリンとして「エスカレートからデスカレートへ(escalate to deescalate)」と呼ぶ、ロシアとその同盟諸国に対する大規模な通常の脅威に対抗するために戦術核兵器を使用することを予見したドクトリンを実践しているロシアの軍事演習を調査研究している。

従って、専門家のほとんどがプーティンの「あなた方の歴史上経験したことのない結末(consequences you have never experienced in your history)」という暗い脅しや、ロシアの核戦力を「特別戦闘準備態勢(special combat readiness)」に置くことを単なる妨害行為と見なしているのに対し、バイデンのティームはそうではない。例えば、プーティンが通常戦場で自軍が大敗を喫したと判断した場合、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領を降伏させるために、ウクライナの小都市の1つに戦術核兵器(低収量の爆弾だが、それでも壊滅的な結果をもたらす)を使用する可能性は否定できない。もしアメリカがこれにある種の対応をすれば、キューバをめぐる対立以上に危険な核のチキンゲーム(chicken game)が展開されることになる。

●対立が如何にして核戦争にまで深刻化するか(How Confrontations Go Nuclear

1962年の力学はどのようにして核戦争にまで結びつくものとなったのだろうか? この危機を分析したアナリストたちは、アメリカの都市を焼却することになった可能性のある、もっともらしい道筋(plausible paths)を10以上挙げている。最速の1つは、当時ケネディでさえ知らなかった事実から始まる。ケネディと側近たちにとって核心的な問題は、ソ連がアメリカ大陸を攻撃できる中・超中距離核ミサイル(medium- and intermediate-range nuclear missiles)をキューバに設置するのを阻止することだった。しかし彼らは、ソ連が既に100発以上の戦術核兵器をキューバに配備していることを知らなかった。更に言えば、そこに配備された4万人のソ連軍は、攻撃された場合にそれらの兵器を使用する技術的能力と認可の両方を持っていた。

例えば、あの致命的な危機の12日目に、フルシチョフがケネディの最後の解決策の提案をきっぱりと拒否したと想像してみて欲しい。ケネディは、ソ連がミサイルを撤退すればアメリカはキューバに決して侵攻しないと誓うという取引を提案し、それにフルシチョフが拒否すれば24から48時間以内にキューバを攻撃するとの非公式の最後通牒(a private ultimatum)を与えていた。ケネディは否定的な反応を予想して、その時点で、キューバ島のミサイルを全て破壊する爆撃作戦を承認していた。また、この直後に侵攻し、攻撃を逃れた兵器を確実に除去することになっていた。しかし、アメリカ軍が島に上陸してソ連軍と交戦したとき、アメリカ軍司令官たちは存在を知らなかった戦術核兵器の標的になっていた可能性が高い。これらの兵器は、彼らを島に輸送したアメリカの船を沈没させただろうし、おそらく侵略者が来たフロリダの港にも打撃を与えただろう。

その時点で、フルシチョフは、アメリカ本土に弾頭を運ぶ能力を持つソ連の20基のICBMに燃料を補給し、発射準備を整えるよう命じていただろう。ケネディは、その時、とんでもないディレンマに直面していただろう。ソ連の核兵器に対する先制攻撃を命じることもできただろう。その攻撃では、ソ連は数千万人のアメリカ人を殺害するのに十分な核兵器をまだ残している可能性が高い。あるいは、ソ連の完全な核兵器による攻撃に対してアメリカが脆弱な状態になり、1億人以上のアメリカ人の死を招く可能性があると知りながら、攻撃しないこともできただろう。

幸いなことに、ロシアのウクライナに対する戦争がいかに恐ろしいものになったとしても、核爆弾でアメリカの都市が破壊されるという結末を迎えるリスクは、ジョン・F・ケネディ(JFK)が3分の1には遠く及ばない。実際、私の判断では、100分の1未満であり、おそらく1000分の1に近いだろう。プーティンのウクライナ侵攻が1962年のミサイル危機の続編になっていない主な理由は2つある。第一に、プーティンは、NATO加盟諸国の領土への侵入や攻撃などのレッドラインを超えることを避けるなど、アメリカの重要な国益を脅かさないよう細心の注意を払っている。第二に、バイデンは最初から、ウクライナで起きていることがより大きな戦争の引き金になることを許さないと決意していたからだ。

●先制的な抑制(Preemptive Restraint

プーティンの挑戦に対するバイデンの対応は、アメリカの国益に関する揺るぎない戦略的明確さ(unblinking strategic clarity about American national interests)を示している。彼は、ウクライナの力学が、もし誤った対応をすれば核戦争につながるという真のリスクを理解している。また、アメリカはウクライナに重大な利益を持っていないことも知っている。ウクライナはNATO加盟国ではなく、したがって、ウクライナに対する攻撃をアメリカに対する攻撃であるかのように防御するというワシントンからの第5条の保証はない。よって、バイデンがウクライナをめぐってロシアとの戦争に突入することは、アメリカの外交政策における最悪の、そしておそらく最後の大きな誤りとなる可能性がある。

それを防ぐための決定的な努力として、ロシア軍がウクライナを包囲する中、バイデンはアメリカ軍をウクライナでの戦闘に派遣することは「選択肢にない(not on the table)」と明言した。12月8日の記者会見で、彼は「アメリカがロシアに対抗するためにアメリカ一国で武力を行使するという考えは、今のところあり得ない(The idea that the United States is going to unilaterally use force to confront Russia [to prevent it from] invading Ukraine is not in the cards right now)」と宣言した。それ以降、バイデン陣営は繰り返しその点を強調してきた。プーティンの犯罪がいかに悲痛なものであろうと、ウクライナを守るためにアメリカ軍を派遣することはロシアとの戦争を意味する(No matter how heart-rending Putin’s crimes, sending U.S. troops to defend Ukrainians would mean war with Russia)。その戦争は核戦争へとエスカレートする可能性があり、ウクライナだけでなく、ヨーロッパ、ロシア、アメリカの国民も犠牲者となるだろう。要するに、バイデンが述べたように、アメリカは「ウクライナで第三次世界大戦を戦うつもりはない(the United States “will not fight the third world war in Ukraine”)」のだ。

連邦議会におけるバイデンの批判者たちは、現在、彼の慎重さがプーティンの侵攻を招いたと主張している。共和党のトム・コットン連邦上院議員は、「バイデンの弱腰な宥和政策(weak-kneed appeasement)がプーティンを刺激した」と発言している。アメリカにジョージ・W・ブッシュのような強い大統領がいたら、侵攻は決して起こらなかっただろうとコットンと彼の同調者たちは主張する。反事実は複雑だ(Counterfactuals are complicated)。しかし、この場合、少し歴史を応用すれば大いに役立つ。

2008年のプーティンによるグルジア侵攻について考えてみよう。ブッシュ大統領の当時、グルジアの展開はロシアの侵攻前のウクライナの展開と概ね似ていた。当時、ロシアの支援を受けた分離主義者たち(Russian-backed separatists)と対峙するグルジアの取り組みは、プーティンにとって容認できない脅威とみなされていた。その年のNATOサミットでブッシュ政権はグルジアとウクライナをNATOに急遽加盟させようとしたが失敗した後、勇気づけられたグルジアのミヘイル・サアカシュヴィリ大統領は、離脱した南オセチア州を厳しく取り締まった。プーティン大統領がロシア軍にグルジア侵攻を命令してこれに応じたとき、彼はブッシュ大統領がアメリカ軍を戦争に派遣する用意があることに疑いを持っていなかったことは確かだ。何しろ、彼はブッシュ大統領が2003年にイラク侵攻に13万人の兵士を派遣し、さらにアフガニスタンに数万人の兵士を派遣するのを見ていた。こうした証拠は、ブッシュ大統領の強気な態度(Bush’s bravado)がプーティン大統領を抑止するどころか、主にサアカシュヴィリ大統領の無謀さ(Saakashvili’s recklessness)を助長し、それが今度はプーティン大統領の侵攻の口実となったことを示唆している。

ロシアの侵略者がグルジアの首都に近づくと、ブッシュ政権は更なる選択に直面した。予想通り、政権の一部のメンバー、特にディック・チェイニー副大統領の補佐官たちは、ロシアによるグルジア占領を阻止するためにアメリカ軍を派遣するよう求めた。大統領が議長を務めた国家安全保障会議の特別会議(a special National Security Council meeting)で、国家安全保障問題担当大統領補佐官のスティーヴン・ハドリーは、「グルジアをめぐってロシアと戦争する用意はあるか」という質問を直接投げかけた。大統領は会議の参加者全員に、各自の答えを出すよう求めた。ハドリーは後に「私は、軍事的対応の可能性について、全員にカードを見せてほしかった」と述べた。そうしなければ、後に、グルジアのために戦う用意はあると主張したものの却下されるかもしれないと分かっていたからだ。テーブルを囲んで議論すると、チェイニー、コンドリーザ・ライス国務長官、ボブ・ゲイツ国防長官を含め、誰も賛成票を投じる意向を持っていなかった。アメリカはグルジアの援助に向かうことはなく、戦争は2週間以内に終わった。

●多くの大統領が示す1つの前例(A Precedent with Many Presidents

示唆に富むこととして、バイデン政権とブッシュ政権が採った選択は、同様のディレンマに直面した他の全ての米政権が採った選択と一致している。1948年にソ連がベルリンへの高速道路を封鎖したとき、ハリー・トルーマン大統領はアメリカ軍に戦わせるという軍司令官の提案を拒否した。ドワイト・アイゼンハワー大統領は、1956年のハンガリー動乱(1956 Hungarian uprising)を防衛するために米軍を派遣しないことを選んだが、これは1968年の「プラハの春(1968 Prague Spring)」の際、リンドン・ジョンソン大統領がチェコスロバキアで繰り返した決断である。ケネディはベルリンの壁を建設するソ連軍を攻撃することを拒否した。そして1984年、ソ連領空に誤って侵入した民間旅客機をソ連が撃墜し、現職連邦下院議員を含む52人のアメリカ人が死亡したときも、ロナルド・レーガン大統領は同様にエスカレートを拒否した。どのケースでも、国家の存亡に関わるような重大な国益が明確でなければ、そのリスクを冒す覚悟はなかった。

前任者たちと同様に、バイデン大統領、マーク・ミルリー統合参謀本部議長、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官、そして政権の他の人々は、キューバ・ミサイル危機で起こったことについて読んだだけでなく、核の危険を身をもって体験できるように設計された模擬戦争ゲーム(simulated war games)にも参加していた。彼らは、ジョン・F・ケネディ大統領とテーブルを囲み、自分たちの家族を殺すかもしれない核攻撃を引き起こす可能性があることを知っている選択について議論した人々の役を演じた。「単一統合作戦計画(Single Integrated Operational PlanSIOP)」とは、1960年代初頭に考案されたアメリカの核戦争に関する一般的な計画で、アメリカの核兵器が必要となった場合の発射手順や標的の選択肢を示したものだ。バイデンと彼の上級顧問たちは、アメリカの戦略核戦力はロシアを地図上から消し去ることができるが、そのような対立の最後にはアメリカも消滅してしまうという事実を把握している。こうして彼らは、ロナルド・レーガンが有名な短い言葉で捉えた深遠な真実を理解している。「核戦争に勝つことはできないし、決して戦ってはならない(“A nuclear war cannot be won and must never be fought”)」。

 

 

レーガンの2つの命題は、暗唱するのは簡単だが、戦略的思考に組み込むのは難しい。アメリカが世界最強の軍隊を持ち、ロシアを墓場にできるほどの核戦力を有しているにもかかわらず、レーガンの最初の指摘は、その戦争の終わりにはロシアもアメリカを完全に破壊していたであろうことを思い起こさせる。誰もそれを勝利とは呼べない。この状態は、冷戦時代の戦略家たちによって相互確証破壊(mutually assured destructionMAD)と呼ばれ、強力な核兵器を持つ敵同士の総力戦(all-out war)は核兵器による狂気の沙汰ということになった。テクノロジーは事実上、アメリカとロシアを切っても切れない双子のような関係にした。どちらか一方が他方を殺すことはできても、同時に自分が殺されることなしに殺すことはできない。

レーガンの警告の後半部分は更に理解しにくい。核戦争は「決して戦ってはならない(must never be fought)」ということだ。プーティンのロシアが今日どれほど邪悪で危険であろうとも、アメリカは戦争をせずにロシアを倒す方法を見つけなければならない。冷戦中、ソ連との戦争を避けるということは、そうでなければ全く受け入れられないであろう、ソ連と戦うためのアメリカの取り組みに対する制約を受け入れることを意味した。これには、ソ連が東ヨーロッパの捕虜となった国々を占領し続けることを誰もが目にできる限り続ける一方で、アメリカはそれらの共産主義政権への支持を弱めるためにできる限りのことをすることや、誤算や事故(miscalculations or accidents)による戦争につながるリスクを高める可能性のある特定の兵器システム(例えば中距離核戦力)を配備しないことで米ソ両国が合意する妥協点に達することなどが含まれていた。

特に今日のワシントンの熱気の中では、レーガンが中距離核戦力全廃条約に署名した際、『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストだったジョージ・ウィルが「道徳的な軍縮を加速させているだけで、実際の軍縮はその後に続く(accelerating moral disarmament—actual disarmament will follow)」と非難したことを思い出すと役に立つかもしれない。当時の指導的保守派知識人ウィリアム・バックリーは、レーガンのINF合意を「自殺協定(suicide pact)」と呼んだ。そのような批判について、レーガンは次のように書いている。「私のより急進的な保守派の支持者の中には、私がロシアとの交渉で我が国の将来の安全保障を犠牲にしようとしていると抗議する者もいた。私は彼らに、自分たちが不利になるような協定には署名しないと保証したが、それでも彼らから多くの非難を受けた。彼らの多くは、核戦争は『避けられない(inevitable)』ので、それに備えなければならないと考えていたと私は確信していた」。

●他の手段による戦争(War by Other Means

キューバ・ミサイル危機から得た数多くの教訓の中で、バイデン政権にとって今後数週間のうちに特に重要となりそうなものがある。キューバ・ミサイル危機のわずか数カ月後、ジョン・F・ケネディ大統領が最も重要な外交演説で述べたように、「何よりも、核保有国は、自国の重要な利益を守りつつ、敵国に屈辱的な撤退か核戦争かの選択を迫るような対立を回避しなければならない(Above all, while defending our own vital interests, nuclear powers must avert those confrontations which bring an adversary to a choice of either a humiliating retreat or a nuclear war)」。もしプーティンがこの2つの選択肢しか選べないとしたら、前者を選ぶ保証はない。バイデンはプーティンにそのような選択を迫ることを慎重に避けてきたが、事態は今、ロシアの指導者プーティンがそのような岐路に立たされたと見なしうる方向に向かっている。現地での戦争の事実が、この戦争に負けるか、戦術核攻撃でウクライナ人と世界に衝撃を与える以外に選択肢を残さないのであれば、彼が後者を選択することに賭けるのは愚かなことだ。

これを防ぐために、バイデンと彼のティームは、事態が急速に行き詰まりに向かっているのを受けてJFKがしたことを見直すべきだ。アメリカによる海上封鎖は、ソ連がキューバにミサイルを持ち込むのを阻止することには成功したものの、ソ連が既にキューバで対米ミサイル発射の準備をしているのを阻止することはできなかった。こうして危機の最後の土曜日、ケネディのアドバイザーたちは、攻撃するか、キューバのソ連ミサイル基地を既成事実として受け入れるか、2つの選択肢しかないと彼に告げた。ケネディはその両方を拒否した。代わりに、彼は次の3つの要素から成る想像力豊かな代替案を考案した。それらは、ソ連がミサイルを撤去すればキューバを侵略しないと約束する公式な取引、フルシチョフがその申し出を受け入れなければ24時間から48時間以内にキューバを攻撃すると脅す非公式な最後通牒、そして危機が解決した後の6カ月以内にトルコからアメリカのミサイルを撤去することを約束する秘密の魅力的な追加要素(sweetener)である。

ウクライナでプーティンに同様の出口(off-ramp)を設けるために必要となる複雑な多層的交渉と外交では、アメリカと同盟諸国は、1962年のケネディとその助言者たち以上の想像力を必要とするだろう。しかし、バイデンと彼のティームがこの難題に立ち向かうとき、彼らはJFKの最も素晴らしい時間にインスピレーションを見出すことができるだろう。

※グレアム・アリソン:ハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年2月28日、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領がホワイトハウスを訪問し、ドナルド・トランプ大統領と会談を持った。そして、記者たちがいる前で、JD・ヴァンス副大統領も入って、口論となった。その様子は日本でも報道された。その口論の内容について、一部(後半部)をご紹介する。

 この口論の内容を見て、私は、「ゼレンスキーという人物はシンプルに頭が悪い人だ」と感じた。トランプと会談を持つとなれば、このようなことになる可能性が高いことは誰でも分かることだ。それでも、うまく対処するために準備をすることが重要なのに(石破茂首相は訪米前の週末に事前準備勉強会を開いていた)、そのような準備の跡が見られない。ウクライナをどのように導くか、戦争をどのように終わらせるかということについて、側近たちも含めて策もなく略もないということのようだ。側近たちのレヴェルもまたゼレンスキーのレヴェルを示している。つまり、頭が悪いのである。

 更に問題は、アメリカ側を「脅した」ことだ。「ゼレンスキーがアメリカは『将来それ(外国から攻められる恐怖)を感じるかもしれない』と示唆するとトランプが激怒」という項目がある。これは、ゼレンスキーが「アメリカは攻められる危険がないから、私たちの感じていることは分からない。しかし、将来は感じることになるだろう」という趣旨の発言を行い、トランプが激怒したということである。これは、「アメリカはいつまでも世界一の超大国ではいられない。すぐに弱体化して、私たちと同じ苦しみを味わうぞ」ということである。ゼレンスキーのこの見立ては説得力がある。しかしながら、それを、メディアを前にして言うべきではなかった。アメリカ国民も聞いているのである。アメリカからのお金と武器がなければ、ウクライナは戦争継続ができないのである。ゼレンスキーはアメリカからの支援継続を獲得するのが最重要の目的である。しかし、この目的達成を危険に晒すようなことをしてしまうというのは頭が悪い人物であり、このようなリーダーを持ってしまったのはウクライナにとっての最大の不幸である。日本も他山の石として注意しなければならない。

(貼り付けはじめ)

彼らが発言したこと:米大統領執務室でのトランプ、ゼレンスキー、そしてヴァンスの熱を帯びたやり取り(What they said: Trump, Zelenskyy and Vance’s heated argument in the Oval Office

アドリアナ・ゴメス・リコン筆

2025年3月1日

AP通信

https://apnews.com/article/trump-zelenskyy-vance-transcript-oval-office-80685f5727628c64065da81525f8f0cf

フロリダ州フォートローダーデール(AP)発。ドナルド・トランプ大統領とJD・ヴァンス副大統領は金曜日、ウクライナ戦争に関してウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領を非難した。ゼレンスキーがロシアのウラジーミル・プーティンとの外交問題についてヴァンス大統領に異議を唱えた後、感謝の意を示していないと非難した。

米大統領執務室での口論は世界的に放送された。ゼレンスキーの残りのホワイトハウス訪問はキャンセルされ、2022年のロシアの侵攻に対するウクライナの防衛において、アメリカがこれからどの程度支援するのか疑問が起きる事態になった。

以下は、このやりとりの重要な瞬間の文字起こしである。

■ゼレンスキーがヴァンスに対して、ロシアと外交について挑戦(Zelenskyy challenges Vance on Russia and diplomacy

・ヴァンス:「4年間にわたり、アメリカ合衆国、私たちは記者会見に立ち、ウラジーミル・プーティンについて強い調子で話す(talk tough)大統領を有してきた。そして、プーティンはウクライナに侵攻し、ウクライナの大きな部分を破壊した。平和の道筋(path to peace)と繁栄への道筋(path to prosperity)は、おそらく、外交への関与ということになる。私たちはジョーバイデンの考える道筋を試した。胸を張り、大統領の言葉が大統領の行動よりも重要であるかのように装った。アメリカを良い国にする(What makes America a good country)のは、アメリカが外交に関与することだ。それがトランプ大統領のやっていることだ」。

・ゼレンスキー:「あなたに質問しても良いか?」。

・ヴァンス:「もちろん、どうぞ」。

・ゼレンスキー:「それでは。彼(プーティン)はウクライナの大きな部分、東部とクリミア半島を占領した。彼は2014年に占領した。そして、それから長い期間、占領した。私はバイデン政権下での話だけをしているのではない。その時期は、(バラク・)オバマ大統領、トランプ大統領の時代だった。そして、バイデン大統領の時代になり、今はトランプ大統領だ。そして神のご加護のもと、トランプ大統領が彼を止めるだろう。しかし、2014年の間は誰も彼を止めなかった。彼はただ占領し、奪った。人を殺した。お分かりの通りに・・・」。

・トランプ:「2015年?」

・ゼレンスキー:「2014年」。

・トランプ:「おや、2014年? 私はいなかった」。

・ヴァンス:「それは正しい」。

・ゼレンスキー:「そう。しかし、2014年から2022年まで、接触線で人が死んでいる状況は変わらない。誰も彼を止められなかった。私たちが彼と会話をしたことはご存知だろう。そして私たちは彼と、私、あなた、大統領、2019年に私は彼と協定に署名した。私は彼、(フランスのエマニュエル・)マクロン大統領、(ドイツのアンゲラ・)メルケル前首相と署名した。私たちは停戦(ceasefire)に署名した。停戦だ。しかしその後、彼は停戦を破り、同胞を殺し、捕虜交換も行わなかった。私たちは捕虜交換に署名した。でも、彼はそれをしなかった JD、あなたの言う外交とは何か? どういう意味なのか?」。

・ヴァンス:「私は、あなたの国の破壊を終わらせる外交について話している。大統領、失礼ながら、あなたが米大統領執務室に入ってきて、アメリカのメディアの前でこの問題を訴えようとするのは失礼だ(disrespectful)と思う。今、あなた方は人員の問題(manpower problems)を理由に徴兵(conscripts)をして、人々を前線に押し出している。あなたは、この争いを終わらせようと努力している大統領に感謝すべきだ」。

・ゼレンスキー:「あなたはウクライナに来たことはあるか? 私たちにはどんな問題があるとおっしゃりたいのか?」。

ヴァンス:「貴国を訪問したことがある」。

ゼレンスキー:「一度だけ」。

・ヴァンス:「私は実際に様々なニューズを見て、何が起きているのか知っている。大統領、人々をプロパガンダツアー(propaganda tour)に連れて行く。軍隊に人々を参加させることに問題があったことにあなたは反対か?」

・ゼレンスキー:「私たちは複数の問題を抱えている」。

・ヴァンス:「そして、アメリカ大統領の執務室にやってきて、自国の破壊を防ごうとしている政権を攻撃することが敬意を表する行動だと考えるのか?」。

・ゼレンスキー:「多くの疑問がある。最初から始めよう」。

・ヴァンス:「もちろん」。

■ゼレンスキーがアメリカは「将来それ(外国から攻められる恐怖)を感じるかもしれない」と示唆するとトランプが激怒(Trump erupts when Zelenskyy suggests the U.S. might ‘feel it in the future’

・ゼレンスキー:「第一に、戦争中は誰もが問題を抱えている。しかし、あなた方には素敵な海があり、今は感じていない。しかし、あなた方は将来それ(外国から攻められる恐怖)を感じるだろう。神のご加護がありますよういに」。

・トランプ:「あなたは知らない。あなたは知らない。私たちがこれから何を感じるかなんて言わないように。私たちは問題を解決しようとしている。私たちが何を感じようとしているかなんて言うな」。

・ゼレンスキー 「あなたに対して言っているのではない。私はこれらの疑問に答えている」。

・トランプ:「あなたはそれを指示する立場にないからだ」

・ヴァンス:「それはまさにあなたがやっていることだ」。

・トランプ:「あなたは私たちが何を感じるかを決める立場にはない。私たちはとてもいい気分だ」。

・ゼレンスキー:「影響されていると感じるだろう」。

・トランプ:「私たちはとても良い、とても強いと感じるだろう」。

・ゼレンスキー:「私はあなた方に断言する。影響されていると感じるだろう」。

・トランプ:「あなたは今いい位置にいない。あなたは非常に悪い立場にいることに甘んじている」。

・ゼレンスキー:「戦争が始まってすぐの段階から・・・」。

・トランプ 「あなたは良い立場にいない。あなたは今カードを持っていない。我々と一緒なら、カードを持ち始めることができる」。

・ゼレンスキー:「私はカード遊びをしているのではない。大統領。私は非常に真剣だ」。

・トランプ:「あなたはカード遊びをしているではないか。あなたは数百万の人々の命を使ってギャンブル遊びをしている。あなたは第三次世界大戦を引き起こすようなギャンブル遊びをしている」。

・ゼレンスキー:「あなたは何を言っているのか? 何を言いたいのか?」。

・トランプ:「あなたは第三次世界大戦に賭けている。そして、あなたがやっていることは、多くの人々が言うべきことをはるかに超えてあなたを支援してきたこの国という国に対して、非常に失礼なことだ」

・ヴァンス:「一度でも感謝を述べたことがあるか?」

・ゼレンスキー:「多くの機会で。本日も」。

・ヴァンス:「ノー。今回の会談の全体を通して言っていない。あなたは昨年10月にペンシルヴァニア州に行き、私たちのライヴァルの候補者のために選挙活動を行った」。

・ゼレンスキー:「いいえ、していない」。

・ヴァンス:「アメリカ合衆国と、あなたの国を救おうとしている大統領に感謝の言葉を述べるように」。

・ゼレンスキー:「どうかもう止めて欲しい。あなたは戦争について、何か声を荒げたら・・・」。

・トランプ:「彼は声を荒げてなどいない。大声で話していない。あなたの国が大きな困難、問題の中にあるのだ」。

・ゼレンスキー:「答えても・・・」。

・トランプ:「いやいや、あなたは既に多く話している。あなたの国が大きな困難、問題の中にある」。

・ゼレンスキー:「分かっている」。

・トランプ:「あなたは勝てない。あなたはこの戦争に勝てない。私たちのおかげで、あなたは無事に切り抜けられる可能性が大いにある」。

・ゼレンスキー:「大統領、私たちは国に留まり、強くあり続ける。戦争が始まった当初から、私たちは孤独だった。そして、私たちは感謝している。私はありがとうと感謝を述べた」。

■トランプはゼレンスキーに対して停戦を受け入れるように求める(Trump demands Zelenskyy accept a ceasefire

・トランプ:「もしあなた方が私たちの供与した軍事装備を持っていなかったら、この戦争は2週間で終わったことであろう」。

・ゼレンスキー:「3日間だ。私はプーティンからその言葉を聞いた。3日間だ」。

・トランプ:「それよりも短かったかもしれない。このようなビジネスをするのは非常に難しいことだ」。

・ヴァンス:「ただありがとうと述べるべきだろう」。

・ゼレンスキー:「私はこれまで多くの機会で述べてきた。ありがとうとアメリカ国民に対して述べてきた」。

・ヴァンス:「意見の相違があることを受け入れ、自分が間違っているときにアメリカのメディアを使って争うのではなく、その意見の相違を訴訟について徹底的に話そうではないか。私たちは、あなたが間違っていることを知っている」。

・トランプ:「しかし、アメリカ国民が、今何が起きているのかを知るのは良いことだと私は思う。とても重要なことだと思う。だからこそ私はこうした話を長い間続けてきた。あなたは感謝しなければならない」。

・ゼレンスキー:「私は深く感謝している」。

・トランプ:「あなた方はカードを持っていない。あなた方はそこに埋もれている。人々は死んでいる。兵士は不足している。停戦はとてもよいことだ。そしてあなた方は私たちに『停戦は望んでいない。停戦は望んでいない。私は進みたい。そしてこれを望んでいる』と言う。よろしいか、もし今すぐ停戦が実現できるなら、そうするべきだ。そうすれば銃弾が飛び交うのを止め、兵士が殺されるのを止められる」。

・ゼレンスキー:「もちろん、私たちは戦争を止めたいと望んでいる。しかし、私があなたに申し上げたように、保証(guarantees)が必要だ」。

・トランプ:「あなたは停戦を望まないと言うのか? 私は停戦を望む。なぜなら、合意(agreement)よりも早く停戦が実現するからだ」

・ゼレンスキー:「停戦について国民に聞いてみては、彼らがどう考えるか」。

・トランプ:「それは私との話ではない。それはバイデンという男との話だ。彼は賢い人間ではない」。

・ゼレンスキー:「彼はあなた方の大統領だった。あなた方の大統領だった」。

・トランプ:「失礼だが、それはオバマ大統領があなた方にシーツを渡し、私がジャヴェリンを渡した時の話だ。私は戦車を全部破壊するためのジャヴェリンを渡した。オバマ大統領はあなた方にシーツを渡しました。実際、オバマ大統領はシーツを渡し、トランプ大統領はジャヴェリンを渡したと発表されている。あなた方はもっと感謝しなければならない。なぜなら、あなた方にはカードがないからだ。私たちがいればカードを持つことができるが、私たちがいなければ、あなた方にはカードがないということになる」。

■トランプはプーティンが自分を尊敬している、それは第一次政権についての捜査のためだと発言(Trump says Putin respects him due to the investigations of his first term

・ヴァンス(記者たちからの質問を再開):「彼女はロシアが停戦を破ったらどうすると質問している」。

・トランプ:「もし何かあったらどうする? 今あなたの頭の上に爆弾が落ちたらどうする? いいだろう、もし彼らがそれを破ったら? 分からない、彼らはバイデンとの約束は破った、なぜなら彼らはバイデンを尊敬していなかったからだ。彼らはオバマを尊敬していなかった。彼らは私を尊敬している。言っておくが、プーティンは私と一緒に大変な目に遭った。彼は偽りの魔女狩り(phony witch hunt)を経験した。・・・私が言えるのはこれだけだ。彼はオバマやブッシュとの取引(deals)を破ったかもしれないし、バイデンとの取引を破ったかもしれない。彼はそうしたかもしれない。おそらくそうした。何が起こったのかは分からないが、彼は私との取引を破らなかった。彼は取引をして合意を取り付けたいのだ。あなた(ゼレンスキー)が取引できるかどうかは分からない」。

「問題は、私があなた(ゼレンスキーに向かって)にタフガイ(tough guy)になる力を与えたことだ。アメリカなしではあなたはタフガイにはなれないと思う。あなたの国民は非常に勇敢だ。しかし、あなたは取引をするか、私たちは出て行くかだ(But you’re either going to make a deal or we’re out)。そして、もし私たちが出て行ったら、君たちは戦うことになる(And if we’re out, you’ll fight it out)。いい結果にはならないと思うが、君たちは戦うことになる。だが、君たちはカードを持っていない(But you don’t have the cards.)。私たちがその契約に署名すれば、君たちはずっと有利な立場になるが、君たちは感謝の気持ちをまったく示さない( But once we sign that deal, you’re in a much better position, but you’re not acting at all thankful)。それはいいことではない。正直に言うと、いいことではない。

「よし、もう十分見たと思う。どう思う? これは素晴らしいテレビ番組になるだろう。そう言わせてもらう」。

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