古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ウクライナ

 古村治彦です。

 第二次世界大戦後から1991年のソヴィエト連邦崩壊まで、アメリカとソ連は激しく対立した、資本主義と共産主義というイデオロギー上の対立から、世界各地で代理戦争が勃発した。しかし、同時に、米ソは直接戦うことはなく、核戦争の危機を回避するために、米ソ両国の首脳はホットラインを設置し、核兵器削減のための枠組みを構築した。冷戦期は、「長い平和(Long Peace)」という評価もある。

 冷戦後は、冷戦に勝利したアメリカの一極(unipolar)支配状態が続いたが、21世紀に入り、アメリカ支配への反発(ブローバック)が起き、アメリカはテロとの戦争(war on terror)の泥沼にはまり込んだ。そして、中国の台頭という新たな局面にも直面している。中国の台頭は、世界構造を「西側諸国(the West、ザ・ウエスト)」対「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の対立構造へと変化させた。これは、グローバルノース対グローバルサウスの対立と言い換えることもできる。現在は、米中両国による新冷戦時代へ突入しつつあるという見立てがある。これは正しい見立てということになる。米中による二極(bipolar)構造、G2体制が形成されつつある。

 ここで重要なのは、米中が直接戦うことがなく、世界大戦も核戦争も起きなかった、冷戦期から教訓を引き出すことである。米中両国の直接の戦い、熱い戦い(hot war)を防ぐことが何よりも重要だ。

 下記論稿の著者アジーム・イブラヒムは、中国が中国であることが理由による敵意を高めず、協力の可能性を追求することが重要だと指摘している。しかし、同時に、西側諸国は、中国に対して過度に依存することなく、戦略的物資供給や技術独立を重視しなければならない。中国に対する抑止力のバランスや明確な交戦規則が重要であり、中国による民主国家への不干渉が、中国との共存に不可欠だとしている。米ソ冷戦時代のように、熱い戦争を避けるため、冷静な判断と宥和を選択すべきであるとしている。

 米中関係は相手の意図を読み取り、コミュニケーションを途切れさせず、世界の諸問題や衝突を深刻化させない、エスカレーションさせないという協力の枠組みが必要だ。アメリカが国力を減退させ、中国が国力を増進させる中で、長期的に見れば、米中逆転が起きる可能性は高まっている。そうした中で、アメリカによる一極支配から米中による二極構造へと変化していく。そうした中で、世界が戦争を避けるために、冷戦時代に培った教訓を活かす時期が来ている。

(貼り付けはじめ)

新たな冷戦には独自のルールが必要となる(A New Cold War Needs Its Own Rules

-中国との衝突は避けられないが、コントロールは可能だ。

アジーム・イブラヒム筆

2024年66

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/06/china-cold-war-rules-competition/

写真

ワシントンのホワイトハウスで中国の習近平国家主席とのヴァーチャル会談に参加するジョー・バイデン米大統領(2021年11月15日)。

ソヴィエト連邦との冷戦の記憶は薄れつつある。多くの人は、中国と新たな冷戦が始まるという考えや、差し迫った核による絶滅の脅威(threat of imminent nuclear annihilation)が頭上に漂う世界に戻っているという考えに躊躇(ためら)いを抱いている。専門家の一部は、中国との貿易から戦略物資を削減する取り組みは行き過ぎだと考えている。

残念なことに、多くの人が、中国の人権侵害や地政学的な挑発に対して、それらに対処することで、世界の国々が統合されている貿易関係が混乱することを避けることと求めており、何の影響も発生しないことを望んでいる。

サルマン・ラシュディやシャルリー・エブドに対して団結し、そして今度は再びイスラエルに対しても立ち上がったイスラム世界ですら、中国に対して沈黙を選択している。西側諸国に住む私たちが、同じように宥和を求める圧力(same pressure to appease)から免れているなどと想像しないで欲しい。

新冷戦に代わる選択肢が、激戦であるならば、前者は後者よりも限りなく好ましい。これha,

私たちが直面している二分法(dichotomy)だ。戦争を回避するということは、中国の野望と戦うために何が必要なのかという現実を受け入れることを意味する。

中国とワシントンが、特に世界市場(global markets)で競争するのは当然のことだ。競争は建設的である場合もあれば、破壊的な場合もある。技術的および経済的な競争は、誰にとっても良い結果となる可能性がある。たとえば、アメリカとソ連の間の宇宙開発競争(space race)は、科学技術における恩恵だ。これとは対照的に、戦争は当然、私たち全員をより貧しくさせ、安全性を低下させることになるだろう。

台頭する大国が衰退する大国に遭遇すると、常に暴力が発生する可能性がある。大英帝国とアメリカの間の覇権(hegemonic power)の譲渡のような友好的な移行(transfer)はまれだ。 1990年代の活気に満ちた時代、更には2000年代においても、中国の台頭により中国がアメリカの敵ではなくパートナーになる可能性があるように思われた。ナイオール・ファーガソンのような著名な歴史家は、リーダーシップを共有する世界的な双子である「G-2」と「チャイメリカ(Chimerica)」について語った。これは中国の一部の人たちに受け入れられている考えだ。

しかし、そうした世界は、中国共産党(Chinese Communist PartyCCP)において、習近平が政権を掌握した2012年に終焉を迎えた。習近平は、中国が地球上で最も強力な国になる運命に揺るぎない信念を持ち、西側諸国に対する復興主義者の熱意(revanchist fervor)を持った漢民族至上主義者(Han supremacist)である。習近平は、他の最近の中国指導者よりも、この国の「屈辱の世紀(Century of Humiliation)」について中国の学校で教えられた教訓を吸収してきた。中国の教科書によると、この期間は、第一次アヘン戦争から中国共産党が権力を掌握するまでの期間のことである。この時期、西側諸国は中国の首を絞め続けた。

今日、再び熱い戦争が起こる可能性があるが、それに対しては冷戦がより良い選択肢だ。

習近平の中国共産党総書記(CCP general secretary)への昇格が実現したとき、中国政府は容赦ない地政学的競争の道を選択した。おそらく一部の前任者とは異なり、習近平は、既存のグローバル化した自由主義秩序(incumbent globalized liberal order)内での必然的な中国権力の台頭が中国の「正当な立場(rightful standing)」にとって十分であるとは考えていない。米大統領ジョージ・HW・ブッシュ、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュは皆、中国がグローバル化した世界経済の中心となる未来を予見し、黙認したが、その中で、アメリカは引き続きこの世界秩序のハードパワーの執行者であった。習近平は、そのような取り決めは中国の力と潜在力に不当な制約を課すものだと考えている。

言い換えれば、習近平は、前任者たちがそうしたように、アメリカが制定し強制する世界秩序が、中国の必然的な成功への道であるとは考えていない。むしろ、彼はそれを、挑戦しなければならない束縛(straitjacket)だと考えている。彼は同じように世界的にアメリカの力に挑戦したいと考えている。彼はウクライナでも同様のことを行っており、ロシアの軍産基盤を支援し、モスクワの侵略を非難することを拒否している。習近平はまた、ハマス、ヒズボラ、その他の代理勢力を通じて中東に大きな不安定化をもたらすテヘランの影響を考慮し、中国がイランの石油の主要顧客となり、イランの軍事近代化を支援している。習近平は、アメリカに対抗して深まりつつあるイランとの連携を維持するため、フーシ派反政府勢力(Houthi rebels)を巡る航路など共通の利益を犠牲にする用意がある。

もちろん、中国が自国の再建を可能にした貿易から利益を得ることを依然として望んでいるため、その全てが常にそうであるとは限らないが、現在の国際秩序の規範や制度が、中国共産党の気まぐれや企みを制約する可能性がある場合には、習近平の提唱している「チャイニーズ・ドリーム(Chinese Dream)」を確保するために、その全てに挑戦しなければならない。

現在の国際的な制度的秩序は、中国共産党だけでなく、グローバルイーストとグローバルサウスの大部分の動機ややり方と衝突する価値観や規範を前提としている。西側の偽善は、確かにそれらは偽善ではあるけれども、中国のレトリック攻撃に対して危険なほど脆弱になっている。アメリカによる、悲惨かつ誤った戦争の真最中にあるイスラエルへの支援により、アメリカの立場は世界的に弱体化している。アメリカ主導の秩序と協力してきた長い歴史を持つインド、パキスタン、インドネシアを含む第三世界の国々は、最近の国連総会での投票結果が示しているように、中国が西側の行動を牽制できるようになる、多極化世界を非公式に、あるいは公然と応援している。中国のソフトパワーは、残忍な人権侵害に対する抗議活動をかき消すほど遠く離れた北京において仲介された、サウジアラビアとイランの国交回復合意などの成果を上げている。

現在の中国共産党を支配している世界観は、西側諸国との対決、そして西側諸国が第二次世界大戦後に構築し、冷戦終結時に作り直した国際統治システムの転覆、占領、破壊に取り組んでいる。

西側諸国の指導者たちは、この現実を認識し、世界システムとその価値観に対する攻撃に適切に対応することができる。理由が何であれ、彼らがそうしないことを選択した場合、それは紛争の、善意による回避とはならない。それは、弱みを察知し、更なる要求をするだけの危険な権威主義体制に対する宥和(appeasement)に過ぎない。中国がより強力になり、抑制力を失っていることで、熱戦のリスクが増大している。

中国自体も、道徳的にも戦略的にもより強硬な姿勢を正当化するほどの深刻な国内課題に直面している。最近の中国共産党中央委員会政治局(Politburo)の粛清、景気低迷、信用危機、企業や資本逃避(capital flight)の取り締まりにより、中国は特に制裁に対して脆弱になっている。習主席は久しぶりに、アメリカがいくつかの重要な難題、特に半導体への技術禁輸問題を解決し、アメリカ企業の中国からの投資引き揚げの流れを逆転させることを求めている。西側諸国は譲歩(concessions)を強要し、中国の軍事技術を後追いの状態においておけるだけの影響力を持っている。

中国との新冷戦は、紛争と競争を確立された範囲内に厳密に制限し、真の紛争に波及する可能性を制限するだろう。ソ連に対する冷戦から私たちが学べる貴重な教訓がある。

第一に、冷戦は慎重に行われた熱戦であるかのように語られてはならない。中国政府の敵対的な立場を認めて適切に対応することと、中国であるという理由だけで中国に対する敵意を高めることにイデオロギー的に関与することは別だ。冷戦が示すように、一般的な正反対の対立の中には、アメリカとソ連がポリオワクチンで協力している場合でも、現在中国と気候変動やパンデミックで協力している場合でも、協力の例が含まれる可能性がある。これは、世界の人権や国際秩序に対する中国の攻撃に全面的に従うことを要求するものではなく、問題を慎重に切り離し、独自のスペースを作り出すことを要求するものだ。

1990年代と2000年代の経験が示すように、アメリカと中国の間で協力は可能だった。将来の中国政権が西側諸国およびルールに基づく国際秩序(rules-based international order)とのより友好的で協力的な関係を選択できるよう、私たちは扉を開いたままにしておくべきである。習近平が権力を握っている間に、これが起こる可能性は低いが、中国が現在の行動を撤回する限り、西側諸国はそれが可能であるとシグナルを送り続ける必要がある。

中国はソ連ではない。ソ連のように、戦争の失敗や軍拡競争によって経済的に挫折することはない。モスクワに対して有効だった解決策は、中国に対しては有効ではないかもしれない。それは、特に北京もまた、冷戦に関する歴史書を読むことができるからだ。

しかし、私たちが長期に​​わたる紛争に陥っているという現実を考慮すると、戦略的物資供給(strategic supplies)を中国に依存しないことが絶対に必要となる。中国はアメリカの技術から戦略的に、特に軍事的に独立するために、最善を尽くしている。西側諸国も同様に、中国の技術、バリューチェイン、製造業の戦略的独立性を発展させなければならない。西側経済と防衛力に対する、非対称的なレバレッジは災厄を招くことになる。抑止力の安定したバランスにより、ソ連との対決中に大惨事は避けられた。中国に対してもまたそうなる可能性がある。

紛争から抜け出す道を提供すること(providing a path out of conflict)は、この新たな競争において何が許容され、何が許容されないか、そして最終的にどのようなステップが紛争につながるのかについて明確な一線を引くことを意味する。曖昧さがあるとエスカレーションが起こる。エスカレーションはすぐに手に負えなくなる可能性がある。民主政治体制国家への不干渉により、中国は受け入れ可能な世界的パートナーとなり、無数の敵対的な国家行動にもかかわらず、アメリカとの共存が可能になるだろう。経済戦争やサイバー戦争(economic and cyberwarfare)といった現在の敵対行為、特にイギリス選挙管理委員会やアメリカ軍施設などを標的とした行為には、長期にわたるエスカレーションのリスクが伴う。しかし、西側諸国は、これらの犯罪行為を非難以上にエスカレートさせるつもりはないことを既に示しており、おそらくそれが私たちにできる最善のことである。

これまでのところ、戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)が唯一明確に機能している例は、台湾に対するアメリカの立場である。そしてその場合、台湾に間違った動機を与えたり、無用な不安を煽ったりしないように、政策を維持することができる。しかし、それ以外の場合は全て、アメリカが中国の何らかの行動を懸念するのであれば、その懸念を明確に説明し、一線を越える場合に、どのようなコストを課す準備ができているかを事前に正確に述べるべきだ。明確な交戦規則(clear rules of engagement)は冷戦時代の紛争管理に有益だった。それらは新冷戦にも役立つだろう。

このような見立ては西側の人々の懸念を掻き立てることだろう。それは、私たちの思考と内省を研ぎ澄ますはずだ。しかし、宥和は有益な選択肢でも道徳的な選択肢でもない。私たちは、直接的な軍事衝突、つまり熱い戦争への不必要なエスカレーションを避けるために必要な行動について、冷静に判断しなければならない。

冷戦は恐ろしい時代だった。しかし、私たちが思っているよりもうまく管理されていた。戦争は避けられた。熱い戦争はなかったし、現在もあってはならない。実際、中国は冷戦時代のソ連のように激しい代理戦争(proxy wars)に資金を提供してはいない。中東におけるイランの植民地獲得の野心やソ連のイデオロギー闘争とは異なり、中国の目標はより独善的であるが、恐ろしいほど偽りのないものである。

そして、少なくとも、その意味では、政府、学者、軍隊内の「冷戦の心性(Cold War mentality)」は、本能的な宥和、あるいはその恐ろしい2つの要素、制御不能なエスカレーション(uncontrolled escalation)を避けるためにまさに必要なものなのかもしれない。私たちは、この新冷戦を正確に把握し、それに応じて行動する準備をしなければならない。

※アジーム・イブラヒム:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。アメリカ陸軍大学戦略研究所研究教授。ワシントンのニューラインズ戦術・政策研究所部長。著書に『過激な起源:なぜ私たちはイスラム過激派との戦いに敗れつつあるのか(Radical Origins: Why We Are Losing the Battle Against Islamic Extremism)』と『ロヒンギャ族:ミャンマーの隠された大量虐殺の内側(The Rohingyas: Inside Myanmar’s Hidden Genocide)』がある。ツイッターアカウント:@azeemibrahim

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生の書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願い申し上げます。

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 専門家ではないので不正確という批判は承知しつつも、どうしても言いたいことがある。地政学的を地球の表面に例えてみると、現在は、プレートがぐっと下に入って大きな地殻変動が起きているようなものだ。西側(ザ・ウエスト)、欧米による600年の支配が終わり、西側以外の国々(ザ・レスト)が台頭しつつある。世界の大きな構造変化が起きている。大きなプレートの境目で大地震が起きる。現在、地政学上の「大地震」が起きているのは、ウクライナとイスラエル(パレスティナ)である。これは、大きく見れば、「西側諸国(ザ・ウエスト、the West)対西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)」の対立によって引き起こされている。そして、現在は平穏を保っているが、「地震」が起きるのではないかと心配されているのが、インド太平洋である。具体的には、米中対立がどのようなことになるか、ということである。私たちが住むインド太平洋地域で「大地震」、つまり、戦争を起こしてはいけない。それは私たちのためだけではなく、世界のためだ。

 インド太平洋を平穏のままにしておくことは、しかしながら、難しい。それは、アメリカが自国の衰退を受け入れられず、世界覇権国としての地位から、少しずつ、静かに去るという決断ができていないからだ。ジョー・バイデンが2期目を迎えるとなると、開戦直前の日本帝国海軍のように、「今やらねば、じり貧になって戦えなくなる」ということで、中国に大打撃を与えようとする輩が何をするか分からない。歴史の流れを人間の力で逆転させることは難しい。結局、「ドカ貧」になるだろうが、その過程で大きな犠牲や損失が出て、世界は大きく停滞することになる。ドナルド・トランプが今年秋の大統領選挙で勝利することが望ましいが、現状では、「ジョー・バイデンを勝たせる」という主流派・エスタブリッシュメント派の意思が強固である。バイデンが勝利すれば、アメリカは騒乱状態になるだろう。それが内戦まで行きつくかは分からないが、その危険性、可能性は高まっていると言わざるを得ない。

 地震を食い止めることができないならば、それに備えるということも考えておかねばならない。ドルの信用失墜による紙くず化、アメリカ国債の紙くず化ということも考えておくべきだろう。

(貼り付けはじめ)

地政学的ハードランディングの可能性は極めて高い(A Geopolitical Hard Landing Is All Too Possible

介入すべき時はいまだ。

ジャレッド・コーエン筆

2024年2月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/21/geopolitical-hard-landing-economics-election-china/

市場には良いニューズもあるが、私たちはまだ危機を脱した訳ではない。つまり、エコノミストのほとんどは2024年にソフトランディング(soft landing)すると予測している。しかし、地政学的なハードランディング(hard landing)がその邪魔になるかもしれない。

マクロ経済の課題に対処するためのツールとプロセスが存在する。インフレが高すぎる場合、連邦準備制度は金融政策と金利を調整し、多くの場合、イングランド銀行やヨーロッパ中央銀行などの同等の機関と調整する。結果は保証されておらず、一律でもない。経済学者、投資家、政策立案者たちは政策とその結果について議論する。しかし、金利の上昇によって景気が減速し、不況を引き起こすことなく、インフレ率が低下すれば、ソフトランディングすることになる。インフレ率はピークから低下し(それでも目標の2%は上回っているが)、2024年1月のアメリカの新規雇用数は35万3000人で、国際通貨基金(IMF)は世界経済の成長予測を最大3.1%に修正していることから、これが最終的に達成される成果のように見える。

地政学のシナリオは、悲惨な科学よりもはるかに悲観的な分野となっている。中東やヨーロッパでの戦争、インド太平洋での緊張、そして「ポスト冷戦時代の終わり(end of the post-Cold War era)」が他に何をもたらすのかという深い疑問がある。地政学的ハードランディングは、アメリカ主導の国際システムを圧倒しかねない、複数の、関連し、拡大する紛争や危機を伴うだろう。その結果、パワーバランス(balance of power)が変化し、世界市場が根底から覆される可能性がある。

地政学的に何が起こるかは、世界市場にとっても、私たちの生活にとっても重要である。今日の地政学的課題は一過性(transitory)のものではなく、今後も続く。政治や資源の現実、恐怖、名誉、利害といった要素、主権国家としての優先順位や利害を考慮した、時宜に敵した介入が必要なのだ。あまりにタカ派的なアプローチは、過剰拡張(overreach)と反撃(blowback)を招きかねない。だからと言って、あまりにハト派的なアプローチは、侵略(aggression)とエスカレーション(escalation)を招く。実際、2024年にアメリカとそのパートナーたちがトレードオフを正しく理解できなければ、地政学的なハードランディングがますます現実味を帯びてくる。

今日、世界は過去数十年間見られなかったような連鎖的な紛争(cascading conflicts)に直面している。2021年のアフガニスタンからの混乱した撤退の後、2022年にはロシアによるウクライナへの本格的な侵攻を抑止力は防ぐことができなかった。2023年には、ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃や、イランが支援する中東全域での地域的代理攻撃(Iranian-backed regional proxy attacks)を、抑止力(deterrence)で防ぐこともできなかった。世界で最も人口が多く、目まぐるしく動く地域であるインド太平洋でも、抑止力が機能しなくなる日が来るのだろうか? こうした連鎖はどこで止まるのだろうか?

ユーラシア全土で状況は改善されていない。ロシアから身を守る全面戦争が始まって2年が経ち、ウクライナ人は現在領土の80%以上を支配している。しかし、現場の状況は依然脆弱で、ワシントンの政治的行き詰まり(political gridlock)がこうした成果の逆転を招く可能性がある。つい最近、ウクライナが支配するアヴディーウカの町がロシアの進出により陥落した。連邦上院はウクライナ、イスラエル、台湾への950億ドルの支援策を70対29の賛成多数で可決したばかりだが、その多くはアメリカでの枯渇した武器供給の補充に費やされることになるが、連邦下院での法案の行方は不透明だ。アメリカは既存の法律の下でできる、キエフに対する最後の武器供与(drawdowns)を行った。また、ヨーロッパ連合加盟27カ国は、540億ドルのウクライナ支援パッケージに合意したが、強固な産業基盤を持たず、3月までに100万発の砲弾供与という約束を達成するのに十分な砲弾を生産できない。一方、ウクライナでは弾薬の配給が行われており、今年後半のロシア大統領選挙後(驚くべきことが起きるとは予想されていない)、ウラジーミル・プーティン大統領は大胆にも大規模な動員(larger mobilization)を命じる可能性がある。

市場は現在のロシア・ウクライナ戦争をほぼ織り込み済み(largely priced)だ。しかし、その長期的な意義や、この戦争がヨーロッパにとってどのような意味を持ちうるかについては、説明されていないと言えるだろう。ロシアがフィンランドとエストニアについて精査している中、ボリス・ピストリウス独国防相は、今後5年から8年の間にモスクワが「NATO加盟国を攻撃する可能性すらある(even attack a NATO country)」ことを考慮する必要があると述べ、それが意味することを詳しく説明した。

中東では、10月7日にハマスがイスラエルをテロ攻撃し、その後は紛争になっている。この紛争は中東地域にとって世界規模の対テロ戦争(Global War on Terror)以来最大の地政学的な試練となっている。イスラエルはハマス壊滅作戦を継続しているが、一方で、イランが支援している代理勢力(Iranian-backed proxies)が少なくとも6つの戦域で先頭をエスカレートさせている。世界経済と、バルバリア海賊(訳者註:北アフリカの各都市を拠点とした海賊)の時代から国際通商を守ってきたアメリカ海軍は、イエメンのフーシ派の攻撃に晒されている。全面的な地域戦争(full-scale regional wars)は想定されていない可能性が高いが、アメリカとイランが直接対立する事態が激化すれば、状況はすぐに変わる可能性がある。それがどのようにして起こるかを理解するのは難しいことではなく、地域で最長期間統治を行っている、最高政治指導者である85歳のアリ・ハメネイ師が統治するイランが核兵器の製造に成功すれば、混乱が加速する可能性がある。

しかし、ワシントンやウォール街、そして世界中の政治・金融資本が最も懸念しているのは、インド太平洋地域である。地政学的な理由から、中国はアメリカだけでなくオーストラリア、日本、リトアニア、韓国などの国々に対する経済的禁輸措置と相まって、「二重循環(dual circulation)」経済モデルと国内での自立(self-reliance)強化を推進している。同時に、ドナルド・トランプ政権下で始まった関税の大半はジョー・バイデン大統領の下でも継続されており、アメリカ主導の制限によって中国への半導体輸出は数十億ドル減少した。マイクロエレクトロニクスから医薬品、重要鉱物、レアアースに至るまで、国家安全保障上重要なサプライチェインのチョークポイントに焦点が当てられることで、世界経済に摩擦が生じ、それが他の分野でのリスクや機会を生み出している。

最悪のシナリオは、中国と、台湾やフィリピンといった近隣諸国との軍事衝突であり、アメリカがこれを支援した場合、計り知れない人的損失と過去数世代で最大の経済的ショックがもたらされる可能性がある。ブルームバーグ・エコノミクスは最近、台湾をめぐって中華人民共和国と戦争が起きた場合のコストを10兆ドルと見積もった。

歴史的に見れば、1973年のアラブ諸国の石油禁輸やロシアのウクライナ戦争のようなショックは、世界貿易を混乱させたことはあっても根底から覆すことはなかった。好戦的な北朝鮮やヴェネズエラとガイアナの国境紛争など、毎日の見出しには登場しない危機はもちろんのこと、ユーラシア大陸の3つの主要地域全てにわたって、深刻かつ密接な課題が山積している。

私たちが知っているように、世界は信頼できる大国であるアメリカのリーダーシップを引き継いでいる。アメリカは同盟諸国やパートナーと協力して、アメリカ人だけでなく世界中の人々に利益をもたらす国際安全保障と経済構造を構築し、支援してきた。もう1つの前提は、このアメリカ主導の国際秩序を再構築する意図と能力を他国が持たないだろうというものだった。アメリカのリーダーシップへの挑戦と、中国、イラン、ロシア、加えて北朝鮮の間の緊密化を考えると、どちらの想定も当然のこととは考えられない。

前提は変わったかもしれないが、経済学と同様、地政学(geopolitics)においても、避けられないものはない。昨年、予測者の一部は2023年に景気後退が起こる可能性は100%だと述べたが、それは間違いだった。ただし、ソフトランディングは単独で起こるものではなく、全分野にわたるリーダーシップが必要だ。

ヨーロッパの戦争は1年前と同じ状況ではない。 2023年のウクライナの反撃は成功しなかった。キエフは防御に回っており、2024年に領土の多くを取り戻す可能性は低い。ロシアは前進を続けており、現在GDPの6%を軍事費に費やしており、2021年の2.7%から増加しており、イランと北朝鮮からの軍事品によって支えられている。一方、グーグルの元最高経営責任者(CEO)エリック・シュミットが警告したように、モスクワはキエフとの「イノベーション競争に追いついており(caught up in the innovation contest)」、オーラン10やランセットなどのドローンを国内生産している。そして、アジア市場に軸足を移した後、ロシアは西側諸国の制裁を緩和し、IMFは最近ロシアの経済成長予測を2.6%に引き上げた。

後退を味わったとはいえ、ウクライナに有利な要因はいくつかある。アメリカ人が1人も参戦せず、アメリカの年間国防費の5%を費やし、アメリカの情報諜報機関は現在、モスクワは2022年の侵攻軍の90%を失ったと見積もっている。ウクライナは黒海の戦いに勝利しており、オデッサからの穀物回廊は昨年上半期に3300万トン以上の穀物や食料品に開放され、その3分の2は発展途上国へ運ばれた。ウクライナはクリミア周辺を含め、ロシア支配下のインフラを標的にしている。キエフは防衛産業基盤の拡大も図っており、30カ国から252社が参加する防衛産業フォーラムを立ち上げている。

ヨーロッパは自国の防衛インフラ強化に遅れをとってきたが、勢いはついている。フィンランド、リトアニア、スウェーデン、ポーランドといった対ロシアの最前線の民主政体国家が牽引し、2022年のヨーロッパの国防支出は6%増加した。それでも、NATO同盟のほとんどの加盟国は、GDPの2%を国防費に充てるという、2014年のウェールズ公約を達成できておらず、GDPに占めるアメリカの国防費も、今後10年間で、2023年の3.1%から2033年には2.8%まで減少すると予測されている。ウクライナは、欧米諸国の援助なしに、国土がその28倍、人口が3倍以上の国を抑えることはできない。同様に、抑止力の低下によってヨーロッパの、いや世界の安全保障を維持することはできない。

中東では今日、ガザ地区の「その後(day after)」や、紅海でのフーシ派の攻撃、イラクでのイランの後ろ盾による代理攻撃がいつ、どのように収まるのかが主に問われている。テヘランは不安定と混乱という新たな常態を作り出しており、停戦の継続を望む動機はほとんどない。かつてイエメンでは比較的無名のシーア派の代理集団だったフーシ派は、今やアラブ世界の英雄だ。

イランの短期的な戦略的優位は、根本的に変化した情報環境によって強化されている。戦争の「ソーシャルメディア化(social-mediafication)」とは、あらゆる人気ソーシャルメディアプラットフォームにアップロードされる映像の時間が、戦争の秒数よりも多いことを意味する。911を引き起こしたアルカイダのテロリストの多くは、1990年代にボスニアの戦争から生まれたアルゴリズム以前のコンテンツを見て過激化した。今日のAIを駆使したアルゴリズムは、そのリスクを更に高めている。

しかし、ハイパーターゲットされたオンライン過激化(hyper-targeted online radicalization)によって悪化した、古き悪しき時代に戻る必要はない。アブラハム合意は維持されている。ペルシア湾岸のスンニ派諸国は、サウジアラビアの「ビジョン2030()Vision 2030」のような変革プロジェクトに注力し、地政学的な影響をできるだけ受けずに経済発展を遂げようとしている。紅海で何が起きているのかにもかかわらず、国際ビジネス界との関わりはほとんど途切れていない。カタールもサウジアラビアと同様だ。

 

 

 

 

この地域を瀬戸際から引き戻すための2つの要因は、イランに対する抑止力の回復と、イスラエルと湾岸諸国の統合である。つまり、イランとその「抵抗軸(axis of resistance)」が今日の混乱の原因であることを認識することである。そのためには、アメリカは、アラブ首長国連邦やサウジアラビアのようなパートナーと協力する必要がある。サウジアラビアはワシントンと国防協議を再開し、高官たちはイスラエルとの国交正常化に「絶対的に(absolutely)」関心があると繰り返し述べている。

南シナ海と台湾海峡は危険であるが、ありがたいことに平和である。2023年11月に行われた中国の習近平国家主席とジョー・バイデン米大統領の会談では、サンフランシスコから良いニューズが伝えられた。2024年1月13日に行われた台湾の選挙に対する中国の反応は、多くの人が予想していたよりも抑制的だった。あとは、5月に台湾総統に就任する頼清徳(ウイリアム・ライ)の就任演説に北京がどう反応するかにかかっている。

しかし、台湾は今日の戦略的な焦点ではあるが、潜在的なホットスポット(hot spots)は台湾だけではない。中国は14カ国と国境を接しており、他のどの国よりも多くの国土を隣国と接している。北京は国境を接するほぼ全ての国と領土問題を抱えており、これらの紛争にはそれぞれリスクが伴う。

それでも、インド太平洋の平和を維持することは可能である。中国の攻撃的な姿勢は、オーストラリア、インド、日本、フィリピン、韓国を大きく変化させ、安定のためのミニラテラル連合(minilateral coalitions for stability)へと導いている。クワッド(Quad)、AUKUS、韓国や日本との首脳会談、フィリピンとの基地協定は、アメリカがこれらの国々が互いに協力を強化しているいくつかの例であり、日本は、アメリカとともに、2027年までに自衛隊を世界第3位の規模にする可能性のある防衛政策の大転換を約束した。

しかし、これら全てに欠けているものがある。それは、ワシントンはまだこの地域への経済的関与の戦略を持っていないということだ。北京が支持する地域包括的経済連携(Beijing-backed Regional Comprehensive Economic Partnership)のような協定が拡大する一方で、バイデン政権のインド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic FrameworkIPEF)は停滞しており、ホワイトハウスはIPEFを「貿易協定ではない(not a trade agreement)」と説明しているが、IPEFは環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific PartnershipTTP)に代わるものではない。ワシントンの経済政策としては、アメリカが遠い国ではなく、信頼できる経済パートナーであることを伝えるようにすべきである。NATO同盟の75周年が近づくにつれ、指導者たちは、平和と繁栄がどのような挑戦を受けようとも、それを維持することに美辞麗句でも実際上でも関与する必要がある。

これらの地経学的な力は、世界中の人々にとって懸念事項だ。ただし、それらは公共部門だけの領域ではない。私たちを経済のソフトランディングに導く同じ市場力学の多くは、世界情勢において資産となる可能性がある。グローバル企業は戦争中の世界で成功することはできず、アメリカとその同盟諸国およびパートナー諸国は、民間部門によって可能になる成長と技術革新がなければ平和を維持することはできない。

この力学が最も顕著に表れているのは、エネルギーと新興テクノロジーの2つの分野である。新しい持続可能なエネルギー源を開発することは、地政学的にも経済的にも可能な最善の一手であり、アメリカが2018年以降世界トップの原油生産国となり、昨年以降世界トップの液化天然ガス輸出国となったのは、民間セクター主導の技術革新によるところが大きい。今後数年間で、アメリカが主導している生成人工知能(generative artificial intelligence)のようなテクノロジーは、地政学におけるワイルドカードとライフラインとなり、テクノロジー企業はより大きな地政学的利害関係者(stakeholders)となるだろう。このような領域は、深く開かれた資本市場、法の支配、財産権を持つ民主政体社会が、正統性(legitimacy)、安定性(stability)、成長(growth)の源泉となる優位性(advantages)を持つ場所である。

世界人口の60%が投票に向かう今年、こうした利点を生かすことが必要だ。何十億もの人々が指導者に投票することは、フリーダム・ハウスなどの団体によって世界的に記録された民主政治体制の長年の衰退の後では歓迎すべきニューズである。しかし、世界中の政府が変わることで、今年の終わりは、始まりとは大きく異なるものになるかもしれない。

特に、2024年のアメリカ大統領選は、他国にとって地政学的に最も重要な問題の1つであることは言うまでもないが、ここ数十年で最も重大な意味を持つかもしれない。有権者にとって外交政策が最優先されることはめったにないが、アメリカ国民の選択は世界情勢にとって経済以上に大きな影響を及ぼすかもしれない。バイデン、トランプどちらの政権が採用する貿易・産業政策も、国内では一部のセクターを強化するかもしれないが、海外ではパートナー諸国を含めて反発を招くかもしれない。世界におけるアメリカの役割に対する新たなアプローチは、友好国を安心させることもあれば、敵対勢力を煽ることもある。そして、どの指導者もバイデンかトランプのどちらかの結果に賭けて、リスクヘッジすることで準備を進めている。

2023年、私たちは経済のハードランディングが何を意味するかを理解し、それを防ぐために時宜を得た慎重な行動を取った。2024年には、地政学的なハードランディングが起こりうることを認識し、社会のあらゆる部門が、この瞬間に必要とされる真剣さをもって対応する時である。

※ジャレッド・コーエン:ゴールドマンサックス社国際問題担当部長・応用技術革新部門共同責任者。ゴールドマンサックス社経営委員会パートナー・委員。

(貼り付け終わり)

(終わり)
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 ウクライナ戦争は長期化し、イスラエルとハマスの紛争も半年を超えた。どちらも民間人の犠牲者が多く出ている。どちらも停戦が望ましい状況なのに、世界はまだ戦いを続けさせようとしている。アメリカ連邦議会は、ウクライナとイスラエルの支援を含むパッケージ法案を可決成立させ、ジョー・バイデン大統領も署名して、法律として発効することになった。同時期に、日本の岸田文雄首相が訪米し、米連邦議事堂での演説と言う、属国の指導者に対しては、最高の栄誉を与えられた。岸田首相の米連邦議事堂での演説は以下のように報じられた。

(貼り付けはじめ)

●「米議員らが首相演説を高評価 ウクライナ支援訴え大きな拍手浴びる」

毎日新聞 2024/4/12 10:40(最終更新 4/12 15:35

https://mainichi.jp/articles/20240412/k00/00m/030/070000c

 国賓待遇で訪米中の岸田文雄首相は11日、連邦議会の上下両院合同会議で演説した。英語による約34分間のスピーチで、拍手を浴びたのは48回以上。ロシアの侵攻を受けるウクライナの支援法案の審議が共和党の一部の反対で難航する中、米国の孤立主義に警鐘を鳴らし、米議員から「重要なメッセージを届けた」と高く評価された。

 「日本はこれからもウクライナと共にある」。米国のウクライナ支援の重要性を訴えた後、首相が日本の姿勢を強調すると、大多数の議員が立ち上がり、この日一番の拍手を送った。

 米議会では、民主党のバイデン政権が求めるウクライナ支援法案の審議が停滞している。上院は既に通過し、下院でも多数の議員が賛意を示している。しかし、法案を採決するかどうかを判断する共和党のジョンソン下院議長は、党内の保守強硬派の反発を懸念し、態度を決めかねている。採決すれば可決は確実とみられるが、ウクライナ支援の継続に懐疑的な保守強硬派が議長解任の動きを見せているからだ。

 首相は11日の演説で、孤立主義的なトランプ前大統領や下院の保守強硬派を念頭に「一部の米国民の心の内で、世界における米国のあるべき役割に自己疑念を持たれていると感じる」と踏み込んだ。それまで拍手が相次いでいた議場では「自己疑念」という言葉が出た後に雰囲気がやや重くなったが、首相は「米国のリーダーシップは必要不可欠だ」「米国は独りではない。日本は米国と共にある」と鼓舞した。

 取材に応じた議員らは演説を歓迎した。将来の大統領候補に名前が挙がるクロブシャー上院議員(民主党)は「首相がウクライナへの行動を求めると、実質的に(議員)全員が支持した。非常に重要なことだった」と強調。上院軍事委員会の筆頭委員であるウィッカー上院議員(共和党)も「インド太平洋地域にとっても、民主主義国のウクライナを支援するのは重要だとの訴えは非常に正当なものだ。下院がウクライナ支援に向け、前進することを願う」と述べた。

 バロン下院議員(民主党)は「孤立主義に関する訴えは素晴らしいものだった」と評価。キャピト上院議員(共和党)も「米国の努力を評価した上で、米国が独りではないと伝えてくれた。ウクライナに関するメッセージも響いた」と語った。一方、米メディアによると、ウクライナ支援に反対し、議長解任の動きを見せている保守強硬派のグリーン下院議員(共和党)は、首相がウクライナに言及した際には拍手せず、手元の携帯電話を見ていたという。【ワシントン秋山信一】

(貼り付け終わり)

 岸田文雄首相の訪米の後に、ウクライナ支援とイスラエル支援のパッケージ法案が可決した。昨年の11月から、ジョー・バイデン大統領がいくら求めても、連邦下院で過半数を握る共和党はウクライナ支援に反対してきた。世論調査を見ても、ウクライナ支援については、アメリカ国民の過半数が反対している、「もう十分にしてやったではないか」と考えているということはこのブログでも紹介したし、『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも書いている。岸田首相の訪米がきっかけになったかのように、急に、共和党と民主党の主流派、エスタブリッシュメント派が合同して、賛成多数で一気に成立してしまった。共和党の議員たちは有権者、世論を裏切ったことになる。下の記事にある通り、選挙区に帰って有権者たちから批判を浴びるだろう。そして、ジョンソン議長はこの法案可決と引き換えにして、議長の地位から追われることも考えられる。しかし、アメリカのエスタブリッシュメント派に対する功績は大であり、これから安泰であろう。しかし、アメリカ政府もお金が厳しい中で、すんなりと成立してしまったのはどうしてだろうか。ここで、私は次の3つの要素を挙げたいと思う。落語には、お客から3つの題をもらって、短時間で(時には数日間で)、落ちのある落語を作るということがある。これは三題噺(さんだいばなし)と呼ばれる。「芝浜」という冬になると高座にかかる、有名な噺があるが、これも元々は三題噺から生まれた。

さて、私が挙げたいのは「ウクライナ支援、岸田訪米、円安ドル高(円を売ってドルを買う)」という三題だ。そして、この噺で出てくる落ち(結論)は、「日本がアメリカのウクライナ支援分を肩代わりする、そのためにドルが必要になってドルを買っている」ということになると思う。そんな荒唐無稽な、と思うかもしれないし、日本政府がドルを買う資金源は何だ、と言われるだろう。日本の予算には、一般会計と特別会計がある。一般会計は私たちがよく耳にするもので、毎年3月末に国会で成立する、20204年度は約112兆円だ。特別会計はその3倍以上の460兆円規模である。こちらはあまり注目されない。特別会計から裏金をねん出する、もしくは外国為替関係で操作をする。そうやって、ウクライナ支援分である600億ドル(約9兆3000億円)を作り出すことになる。岸田首相訪米では、日米防衛協力ということで、自衛隊のアメリカ軍の下請け化、二軍化が話し合われたが、それは表向きのことで、裏では、この600億ドル分のことが「命令」されたと考えるべきだ。「アメリカと共にある、ウクライナと共にある、と言ったんだから、誠意を見せろ」と、チンピラまがいの恫喝で金を出させられたのだろうと思う。これが属国の役割だと言えばその通りだが、日本もいつまでもATMをやれるということはない。金を出すからには、こちらにも何か見返りになることをと言えるようになるべきだが、アメリカの衰退が目に見えるようになっている時期、そろそろその準備を始める頃だと考える。

(貼り付けはじめ)

連邦下院が対外援助法案を可決、ウクライナとイスラエルに援助を送る(House passes foreign aid bill, sending help to Ukraine and Israel

-この法案は来週連邦上院に提出され、ジョー・バイデン大統領も支持を表明している。

マリアナ・ソトマイヤー、メーガン・ヴァスケス筆

2024年4月20日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/politics/2024/04/20/house-vote-ukraine-israel-aid-johnson-2/

連邦下院は土曜日、世界的な脅威の中で外国の同盟諸国を支援するため、950億ドル(約14兆7000億円)規模の大規模な支援策を可決した。マイク・ジョンソン連邦下院議長(ルイジアナ州選出、共和党)は、極右勢力が今回の可決によって彼を追放すると脅しているが、世界におけるアメリカの役割に対する幅広い支持を示した。

採決直後、ジョンソン議長がウクライナ支援を前進させた場合、議長の座から追い出すと公約していたマージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)は行動を起こさなかった。グリーン議員は記者団に対し、同僚議員たちが今週休会中に有権者からの反発に直面し、それから、ワシントンに戻ってから議長追放の取り組みに加わることを検討してほしいと語った。

連邦上院は来週初めに対外援助策を審議し、バイデン大統領が署名する予定になっている。

バイデンは土曜日の採決後の声明で、連邦下院が「歴史の呼びかけに応え、私が何カ月もかけて確保しようと闘ってきた、緊急に必要とされる国家安全保障法案を可決するために団結した」と評価した。

連邦議場では「ウクライナ!」の大合唱と青と黄色の旗が振られ、出席した民主党所属の連邦下院議員たちと少数派の共和党議員たちが、数カ月に及ぶ法制上の行き詰まりを打破し、ロシアとの戦争に巻き込まれたウクライナへの600億ドル(約9兆3000億円)の援助を承認した。採決は311対112となり、反対したのは共和党の保守派ばかりだった。

米国防総省が、ウクライナにとって最大の軍事的支援者であるアメリカからの援助がなければ、ウクライナは着々とロシア軍に更に多くの陣地を譲り、死傷者の数をさらに増やすという、驚異的な状況に直面するだろうと警告しているため、ウクライナへの資金はロシアとの戦争において、ウクライナにとって重要な岐路にある。また、ジョンソン議長にとっては、自身の職が脅かされているにもかかわらず、優先度の高い法案の可決に向けて、連邦下院共和党主流派と民主党の連合をリードし、大きな勝利を得た。

土曜日の民主党議員の会合中、ある議員は、民主党の支持によって政府への資金提供が可能になり、外国の脅威を監視するアメリカのスパイ機関の再認可が可能になったことを踏まえると、民主党が事実上過半数を支配していると誇らしげに叫んだ。

「連邦下院民主党はこの機会に立ち上がり、ジョー・バイデン大統領もこの機会に立ち上がり、マイク・ジョンソン議長率いる伝統的保守派もこの機会に立ち上がりました」と民主党のハキーム・ジェフリーズ連邦下院少数党(民主党)院内総務は高らかに宣言した。

ウクライナ支援の可決は、ドナルド・トランプ前大統領への大きな反撃でもある。トランプは長年ウクライナを批判する一方で、ロシアの指導者ウラジミール・プーティンに繰り返し同調し、既に占領した土地をロシアに保持させることで戦争を解決すると側近たちに語ってきた。トランプはウクライナの援助を融資に変えることを推し進め、共和党は土曜日の法案に融資の要件を盛り込むよう促した。

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、「民主、共和両党、そしてマイク・ジョンソン連邦下院議長個人に対し、歴史を正しい方向に導いてくれた決定に“感謝する”」とXに記した。

ウクライナ問題で問題解決に向けて動いてきたジョンソン議長は、「法案への批判者たち(critics of the legislation)」がいたにもかかわらず、超党派で外国の同盟諸国への資金提供を進める決定を下したことに開き直った。

ジョンソン議長は、「これは完璧な法律ではない。政府が分裂し、様々な意見が存在する時代には、完璧な法案が可決される保証される訳ではない」とジョンソン議長は語った。

ミッチ・マコーネル連邦上院少数党(共和党)院内総務(ケンタッキー州選出、共和党)は、法案可決を祝し、「連邦議会は、同盟とパートナーシップの強さ、公約の信頼性、そしてアメリカを守り侵略を抑止するための軍隊の能力を高めるために不可欠なこの投資がついに前進した」と述べた。

連邦下院はまた、イスラエルへの260億ドル(約4兆円)の資金拠出を圧倒的多数で可決した。その中には、90億ドル(約1兆3500億円)の人道支援が含まれ、その一部はガザ地区に割り当てられる。イスラエルが先週末、イランが発射したミサイルと無人機への報復としてイランを攻撃した数日後にこの法案は可決した。

共和党所属の連邦下院議員21名がこの法案に反対し、民主党議員37名に加わったが、その多くは、ガザ地区への人道支援が含まれていたにもかかわらず、同地域に支援を提供できる国連機関への資金を剥奪するという理由でこの法案に反対票を投じた。 10月7日のハマスによるイスラエルへの越境攻撃に国連機関のガザ地区職員1万2000人のうち12人が参加したことがアメリカ情報諜報機関とイスラエルによって判明したことを受け、アメリカは国連救済事業機関(U.N. Relief and Works AgencyUNRWA)への資金提供を停止した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、今回の援助について、「非常にありがたい」と述べ、「イスラエルに対する超党派の強い支持を示し、西洋文明を守るものだ」とXに投稿した

連邦下院はまた、中国の脅威に直面するインド太平洋地域の同盟諸国への80億ドルの支援を、385対34で圧倒的な差で可決した。反対票を投じたのは共和党の極右議員ばかりだった。

連邦下院はまた、「TikTok」を禁止する可能性、ウクライナに売却するためのロシア資産の差し押さえ、融資という形で提供されるウクライナ支援に条件をつけることなど、超党派の優先事項が多く含まれる法案を可決した。

ジョンソン議長は次のように述べた。「連邦上院の白紙委任(blank check)とは異なり、連邦下院の法案には非常に重要な特徴がいくつもある。ウクライナ支援に対する説明責任が強化される。私たちは議員たちの声を反映した。私たちは彼らにチャンスを与えた。私たちは彼らに、より良いプロセスを提供し、最終的にはより良い政策を実現した」。

連邦下院共和党は、アメリカの資金は南部国境の管理など国内問題に費やしたほうが良いと主張し、ウクライナへの送金にますます慎重になっている。ジョンソン議長はまた、南部国境での移民を取り締まる厳しい法案を提出したが、共和党の強硬派議員3人が連邦下院規則委員会での手続き動議を拒否したため、法案は否決された。

ジョンソン議長は、グリーン議員の行動が自分を議長職から追い落とそうとする動議の検討を早めるきっかけとなる可能性があることを認識し、リスクを冒して支援策可決を進めた。しかし、ジョンソン議長は今週初め、民主政治体制を維持するためにアメリカが介入し、独裁政権と戦う同盟諸国を支援する歴史上重要な時期に直面していると指摘し、リスクや党派争いに関係なく前に進むことを決意した。

ジョンソン議長は、「私は議長解任動議の心配をしながらこの議事堂の中を歩き回っているのではない。私は自分の仕事をしなければならない。私は、連邦議会の意思を尊重し、正しいと信じることをしたまでのことだ」と述べた。

グリーンは今週、ジョンソンを解任する動議を提出し、トーマス・マシー議員(ケンタッキー州選出、共和党)の支持を得た。トーマス・マシー議員とポール・A・ゴーサー議員(アリゾナ州選出、共和党)の支持を得た。マイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出、共和党)が辞職し、共和党の多数派が1議席に減少した今、議長を追放するには十分な数だ。ただし、民主党がジョンソン議長の救援に乗り出さない限りは、である。ジョンソン議長はウクライナ支援のために行動したため、民主党はその可能性を真剣に検討している。

グリーン議員は、共和党の同僚たちに有権者の意見を聞き、来月ワシントンに戻ったらジョンソン議長を続投させるかどうかについて議員らに話し合ってもらいたいため、土曜日に動議を提出しないことに決めたと語った。

グリーンは、ウクライナへの資金提供を支援した共和党の同僚について「この国のアメリカ人は全員激怒すべきだと思う。誰がこんな人たちに投票するだろう? どうすればこの人たちに投票できるだろうか? 彼らは私たちの国に奉仕していない」と語った。

マシー議員は、ジョンソン議長が「辞任を自発的に表明すれば、議長不在期間が長期化することは避けられる」と述べた。もしジョンソン議長が辞任しなければ、年内に議長が解任されるだろうと予想した。

マシー議員は次のように述べた。「彼はレームダックになった議長(lame-duck speaker)だ。私たちは連邦議会が機能するようにしようとしている。ジョンソン議長に集められている募金がケビン・マッカーシー前議長時代の募金の半分以下であるのには理由がある。それは、レームダックになった議長などに誰も会いたがらないからだ」。マシー議員は続けて、「私たちのオフィスには、2025年1月3日に再選できる人物が必要だ。そしておそらくここにいる人々はそれを認めたくないかもしれないが、ジョンソンがそこに到達するつもりがないことは私にとって非常に明白だ」と述べた。

土曜日、11月まで連邦下院議長でいられると思うかと質問されたジョンソン議長は、「はい」とだけ答えた。

ジャクリーン・アレマニー、トビ・ラジがこの記事の作成に貢献した。
=====
連邦下院がウクライナとイスラエルへの数十億ドルの援助を数ヶ月の闘いの末に可決。次は連邦上院だ(The House passes billions in aid for Ukraine and Israel after months of struggle. Next is the Senate

-連邦下院は、ウクライナ、イスラエル、その他のアメリカの同盟諸国に対する950億ドルの対外援助パッケージを、連邦議会での数ヶ月の混乱の後、承認した。

スティーヴン・グローヴス、リサ・マスカロ筆

2024年4月21日

APニューズ』紙

https://apnews.com/article/ukraine-aid-israel-tiktok-congress-a8910452e623413bf1da1e491d1d94ba

ワシントン発(AP通信)。連邦下院は、ウクライナ、イスラエル、その他のアメリカの同盟諸国に対する950億ドル(約14兆7000億円)の対外援助を、週末の議会で承認した。週末にこのようなことが行われるのは珍しいことだ。これは、ロシアの侵略を撃退するためのアメリカの新たな支援をめぐって、数ヶ月にわたる強硬な右派の抵抗の後、民主党と共和党が結束したことで達成された。

土曜日、610億ドル(約9兆5000億円)にのぼるウクライナへの支援は圧倒的な賛成多数で、数分で可決された。戦争で引き裂かれた同盟国への新たな支援策をめぐって、アメリカの連邦議員たちが争う中、この支援は力強いものとなった。民主党所属の下院議員の多くが連邦議場で歓声を上げ、ウクライナの青と黄色の旗を振った。

イスラエルや他の同盟諸国への援助も、人気プラットフォーム「TikTok」を取り締まる措置と同様に、大差で承認された。法案全体は連邦上院に送られ、早ければ火曜日にも可決される可能性がある。ジョー・バイデン大統領は直ちに署名すると約束している。

マイク・ジョンソン連邦下院議長(ルイジアナ州選出、共和党)は、「私たちはここで務めを果たしたし、歴史はそれを高く評価するだろう」、自らの職を賭して法案成立に尽力し、疲れ切った様子で語った。

ホワイトハウスによれば、ジョー・バイデン大統領はジョンソン議長および民主党のハキーム・ジェフリーズ連邦下院少数党(民主党)院内総務と個別に会談し、法案を推進することで「わが国の安全保障を最優先してくれたこと(putting our national security first)」に感謝した。

バイデン大統領は、「私は、連邦上院がこのパッケージを速やかに私の机に送り、私が署名して法制化し、ウクライナの緊急の戦場でのニーズに応えるために武器と装備を速やかに送ることができるようにすることを強く求める」と述べた。

ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領は、連邦下院の民主、共和両党と「歴史を正しい軌道に乗せた決断に対して個人的にマイク・ジョンソン議長に感謝している」とX(旧ツイッター)で述べた。

ゼレンスキー大統領は「アメリカ、ありがとう」と述べた。

連邦議会でのこの場面は、多数派を握っているものの対外援助、特にウクライナに対する援助をめぐって大きく意見が分かれている共和党によって煽られた数カ月間の機能不全(dysfunction)と膠着状態(stalemate)を経て、印象的な行動を示した。ジョンソン議長は、2022年12月以来となるウクライナへの主要政策となる軍事資金(military funding)と人道資金(humanitarian funding)の承認を確実に得るために民主党に頼った。

その日の朝は、厳粛かつ真剣な議論と異常な目的意識で始まり、共和党と民主党の指導者たちが団結して迅速な承認を求め、アメリカが同盟諸国を支援し、世界舞台でリーダーであり続けることが確実になると述べた。連邦議会の訪問者ギャラリーは見物人で混雑していた。

連邦下院外交委員会委員長のマイケル・マッコール下院議員(テキサス州選出、共和党)は「世界の目が私たちに注がれており、我々が今ここで行うことは歴史が判断を下すだろう」と述べた。

連邦下院の法案通過により、ウクライナの軍事物資が不足し始めた2023年10月に初めて提出された、バイデン大統領のウクライナへの支援資金承認要請に対する最大のハードルが取り除かれた。

共和党が過半数を占める連邦下院は何をすべきかで数カ月にわたり苦悩し、まずウクライナ支援を米国・メキシコ国境の政策変更と結びつけるよう要求したが、まさにその方針に沿った超党派の連邦上院提案の法案を即座に拒否した。

ジョンソン議長にとって終盤戦に到達することは、ジョンソン議長の決意と共和党内での支持の両方を試す、厳しい試練となっている。現在、ジョンソン議長を公然と議長職から解任するよう求める声は少数ながらも増えている。しかし、連邦議会の各党の指導者たちは、この投票を歴史の転換点として位置付けて投票を行った。アメリカの同盟諸国がヨーロッパ大陸から中東、インド太平洋に至る戦争や脅威に悩まされている中での差し迫った犠牲をアメリカは払うことになる。

ニューヨーク州選出の連邦下院議員で、連邦下院外交委員会民主党側筆頭委員であるグレゴリー・ミークスは、「今日の私たちもそうであるが、歴史を生きていると、私たちが連邦下院本会議で行った投票の行動の重要性や、それが将来に及ぼす影響についてその時の段階では理解できないことがある。しかし、これは歴史的な瞬間だ。」と発言した。

反対派、特にジョンソン議長を含む多数派と対立している、共和党極右派は、アメリカは、国内の国境警備や国の債務増加に対処する国内の戦線に注力すべきだと主張し、海外で使用される兵器を製造するために、大部分がアメリカの軍需メーカーに流れ込むことになる、更なる資金の支出に警鐘を鳴らした。

それでも、連邦議会は、ゼレンスキー大統領から日本の岸田文雄首相まで、ここ数カ月の間に世界の指導者たちがワシントンを次々と訪れ、連邦議員たちに援助を承認するよう懇願しているのを目にした。世界的に見れば、この遅れは同盟国に対するアメリカの関与に疑問を投げかけるものだった。

バイデンの外交政策の最優先事項の1つ、ロシアのプーティン大統領のヨーロッパ進出を阻止することが問題になっていた。ジョンソン議長と秘密裏に会談した後、バイデン大統領はすぐにジョンソン議長の案を支持し、最終的な採決に必要な手続き上のハードルを乗り越えるために民主党が法案を支持する道を開いた。

ジェフリーズ院内総務は「民主党員や共和党員としてではなく、アメリカ人として、民主政治体制が危機に瀕しているところならどこでも守る責任がある」と、議場での討論の中で述べた。

ウクライナへの援助が共和党所属の議員たちの過半数を獲得できなかった一方で、数十人の進歩主義的な民主党所属議員たちは、数万の市民を殺害したガザ地区への攻撃の停止を要求し、イスラエルへの援助法案に反対票を投じた。約20人の共和党強硬派は、イスラエルや台湾のような伝統的に共和党の支持を得てきた同盟諸国への援助も含め、援助パッケージのあらゆる部分に反対票を投じた。

共和党所属議員の一部も、採決中に民主党議員たちがウクライナの国旗を振ったことに怒って反対した。フロリダ州選出の共和党所属のカット・カマック連邦下院議員は、X(旧ツイッター)で、民主党議員たちの行動に「激怒」しており、連邦下院議場での外国の国旗の掲示を禁止する法案の作成に取り組んでいると述べた。

同時に、共和党の大統領候補と目されるドナルド・トランプは、「アメリカ・ファースト(America First)」を掲げて共和党をよりアイソレーショニズム的なスタンスに傾けるため、ソーシャルメディア上の発言や連邦議員たちとの直接電話を通じて遠くから意見を述べるなど、この戦いに大きな影を落としている。

ウクライナの防衛はかつて連邦議会で超党派の強固な支持を得ていたが、戦争が3年目に入ると、共和党議員の過半数が更なる援助に反対するようになった。トランプ前大統領の盟友であるマージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員は、資金をゼロにする修正案を提出したが、否決された。

超保守的な連邦下院共和党の議員連盟であるフリーダム・コーカスは、この法案を「アメリカ最後の」対外戦争対策案(the “America Last” foreign wars package)と嘲笑し、法案には国境警備措置が含まれていないとして、共和党指導部に反抗し、法案に反対するよう議員らに促した。

グリーンを筆頭とする3人の共和党所属の議員たちが、議長解任の投票につながる「解任動議(motion to vacate)」を支持したため、ジョンソン議長の連邦議長職の維持の可能性が小さくなっている。極右派に後押しされるように、グリーン議員の側には、アリゾナ州選出のポール・ゴーサー議員(アリゾナ州選出、共和党)を含む多くの議員に加わっている。ゴーサー下院議員、トーマス・マシー連邦下院議員(ケンタッキー州選出、共和党)など、ジョンソン議長に自発的に退くよう求める議員も増えている。

このパッケージには、民主党が支持した、あるいは少なくとも受け入れることを望んでいる共和党の優先事項がいくつか含まれている。その中には、ウクライナ再建のために、アメリカが凍結されたロシア中央銀行の資産を差し押さえることを可能にする提案や、イラン、ロシア、中国、鎮痛効果のある合成ドラッグであるフェンタニルを取引する犯罪組織に対する制裁、人気動画アプリ「TikTok」の中国に拠点を置くオーナーに対し、1年以内に株式を売却するか、アメリカでの取引を禁止することを求める法案などが含まれている。

それでも、これらの法案を議会で成立させようと全力を挙げているのは、アメリカ国内政治だけでなくウクライナの現実を反映している。国家安全保障に関連する各委員会の理事である議員たちは、機密扱いのブリーフィングを受けることができるが、ロシアが兵力と弾薬の不足に悩むウクライナ軍を打ちのめし、戦況が悪化することを深刻に懸念している。

ニューヨーク州選出のチャック・シューマー連邦上院多数党(民主党)院内総務(ニューヨーク州選出、民主党)は、火曜日に連邦上院がこのパッケージの手続き投票を開始すると発表し、「世界中の同盟諸国がこの時を待っていた」と述べた。

共和党のミッチ・マコーネル連邦上院少数党(共和党)院内総務は、来週、右派の反対を押し切る準備をしながら、「目の前の課題は緊急だ。歴史を作るために再び連邦上院の出番となる」と述べた。

(貼り付け終わり)

(つづく)
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生の書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻が起きて以来、人々の不安を煽る主張が多く出ている。「ロシアはウクライナの次として●●(バルト三国や隣接している国々の名前が入る)を狙っている、攻める」とか、「ウクライナの次は台湾だ(中国がロシアの成功を見て台湾侵攻を行う)」といった主張がなされてきた。「ロシアのプーティンも中国の習近平も共に独裁者で、自分たちの思うとおりに軍隊を動かして、他国を攻める」「ロシアも中国も膨張主義(expansionism)だ」という粗雑な、浅はかな考えが基本になっている。プーティンも習近平も、こうした浅はかな主張をする人間たちよりも、はるかに頭が良く、自分の欲望だけで何かをするという次元の人間ではない。また、ロシアも中国も国土に関して野心を持っていない。

 プーティンのウクライナ侵攻の原因をきちんと精査し、分析し、合理的な判断もしないで、粗雑な前提で、「攻めてくる、攻めてくる」と騒ぎ立てるのは、人々の不安を煽って、自分の金儲けに使おう、商売にしようというさもしい根性から出ている。独裁者だから連続してどんどん侵略するということはない。ヒトラーやナポレオンがいるではないか、という声も出るだろうが、独裁者が全員、ヒトラーやナポレオンのような行動を取った訳ではない。

 プーティンが独裁者だから必ず、ウクライナ以外にも侵略戦争を仕掛けるというのは粗雑な考えであり、プーティンがどうしてウクライナに侵攻したのか(2014年の時も含めて)を考えるならば、NATOの拡大が理由として挙げられる。NATOとは対ソ連、今では対ロシア軍事同盟だ。ロシアの側か見れば、それがどんどん東側に拡大して、自国に迫ってくる。東欧諸国やバルト三国が加盟してNATOと隣接することになる。それでもロシアは自制した。しかし、ウクライナはロシアにとっては喉首のような場所であり、NATO拡大は看過できない(EU加盟には賛成している)。こうして考えると、西側諸国がロシアの意向を無視して、ロシアを煽ったということになる。ロシアは乾坤一擲、ウクライナを抑えた。それ以上のことをする意図はない。

 これは中国にも言えることで、台湾が現状のままならば、わざわざ侵攻することはない。既に両岸関係は緊密に絡まり合って、経済的には一蓮托生の状態になっている。アメリカをはじめとする西側諸国が余計なことをしなければ、そのままの状態で、経済が発展していく。西側諸国という存在が世界にとって大いなる邪魔者になっているということを私たちは良く考えねばならない。そして、過度に単純化された、不安を煽る言説に惑わされてはいけない。

(貼り付けはじめ)

ロシアが次に何をするかを実際のところは誰も知らない(Nobody Actually Knows What Russia Does Next

-ウラジーミル・プーティンの将来に関する計画に対して西側諸国の警告はますます大きくなっているが、説得力は増していない。

The West’s warnings about Vladimir Putin’s future plans are getting louder—but not any more convincing.

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年4月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/02/russia-putin-nato-warning-war-west/?tpcc=recirc062921

どうやら、西側諸国の外交政策エリートの主要メンバーたちは読心術者(mind readers)であるようだ。彼らは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の意図が何であるかを正確に知っていると主張している。著名な当局者や政治評論家たちは、プーティンの野心は無限であり、ウクライナは単なる最初の標的に過ぎないとの意見で一致している。

ロイド・オースティン米国防長官は、「プーティンはウクライナに止まらないだろう」と述べた。デイヴィッド・ペトレイアス元CIA長官は、CNNのクリスティアン・アマンプール記者に「プーティンはウクライナに止まらないだろう」と語った。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、「次はリトアニア、ラトビア、エストニア、モルドバになるかもしれない」と警告し、ジェーン・ハートリー駐英米大使は、「ロシアがこの後止まるかもしれないと考える人は誰でも間違っている」と述べた。リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相も同じ考えだ。「ロシアは止まらないだろう。プーティンは、明らかに更なる計画を持っている」と述べている。ジョー・バイデン米大統領も2023年12月に同じ警告を発し、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長も同じ警告を発した。西側諸国の政府関係者たちは、ロシアがいつNATOを狙うのか定かではないが、モスクワを断固として打ち負かさなければ、より広範な戦争は避けられないと考える声が高まっているようだ。

ウォルター・リップマンが警告したように、「全ての人が同じように考えるとき、誰もあまり考えない」。ウクライナ戦争が終結し、ロシアが2022年以前のウクライナの領土の一部を支配することになる場合、プーティンやロシアがどのような行動に出るかは、これらの人々の誰も、何も分からないというのが明白な事実である。私もそうだし、プーティン自身(そしてプーティン自身もはっきりとは知らないかもしれない)を除いて、他の誰も分からない。プーティンが大きな野心を持っていて、ウクライナでの高価な成功に続いて、どこか別の場所で新たな攻撃を試みる可能性はある。しかし、プーティンの野望が、ロシアが莫大な犠牲を払って勝ち取った以上のものには及ばず、それ以上のギャンブルをする必要も欲望もないという可能性も十分にある。例えば、プーティンは最近、ロシアはNATOを攻撃するつもりはないと宣言したが、ウクライナに供与されるF-16やその他の航空機がウクライナに配備されれば、合法的な標的になるとも指摘した(当たり前だ)。プーティンの保証を額面通りに受け取るべき人はいないが、彼の言うことは何でも全て嘘だと決めつけるべきではない。

もちろん、プーティンの将来的な行動について、薄気味悪い警告を発している西側の専門家たちは、西側諸国の人々(そしてアメリカ連邦議会)を説得して、ウクライナへの援助を増やし、ヨーロッパの防衛費を増額させようとしている。はっきり言って、私もウクライナへの援助を継続することには賛成だし、NATOの加盟国であるヨーロッパ各国が通常戦力を増強することで抑止力(deterrence)を強化することを望んでいる。私が気になるのは、このような宣言に触発される反射的な脅威を危険視する不安感の急速な膨張であり、このような暗い予測をあたかも確立された真実であるかのように扱い、それに疑問を呈する者を考えが甘い人間、親ロシアでロシアの手先、あるいはその両方と決めつける傾向があることだ。

プーティンに無限の野望があるという、偏った、信仰に近い考えは、全ての独裁者は生来攻撃的で抑止が難しいという、おなじみのリベラル派の主張にもとづいている。その論理は単純だ。「全ての独裁者は拡大を求める。プーティンは独裁者だ。だからプーティンはウクライナで止まらない。証明終わり」。この三段論法(syllogism)はリベラルなエリートたちの間では信条(article of faith)になっているが、この主張を裏付ける証拠はほとんどない。確かに、ナポレオンやアドルフ・ヒトラーのように危険な連続侵略者だった独裁者もいる。だから、現在私たちが偶然対峙することになっている独裁者は誰でも、必然的に「もう1人のヒトラー(another Hitler)」というレッテルを貼られる。しかし、他の独裁者たちは、国内での行いがいかに酷いものであったとしても、国際舞台ではむしろ品行方正(well-behaved)であった。毛沢東は誰がどう見ても暴君であり、彼の政策は何百万人もの同胞を死に至らしめたが、毛沢東の征服戦争(war of conquest)は1950年のチベット占領だけだった。オットー・フォン・ビスマルク率いるプロイセンは、8年間に3度にわたって戦争を繰り返したが、1871年に誕生した統一ドイツは、それから19世紀が終わるまで、断固として現状維持(status quo)に努めた。スタニスラフ・アンドレスキーが何年も前に論じたように、多くの軍事独裁政権は平和的な姿勢を取る傾向がある。プーティンが国内のライヴァルを投獄したり殺害したりする冷酷な独裁者であり、その他の卑劣な行為を行っているという事実は、彼がロシアの近隣諸国を征服したいと思っているかどうか、あるいはそうできると信じているかどうかについては、ほとんど何も語っていない。そして、いわれのない違法で破壊的な戦争を仕掛けるのに、独裁者である必要はほぼないのである。

第二に、ウクライナでの戦争が最終的に終わったとき、ロシアは新たな侵略戦争(new wars of aggression)を仕掛けることができる状態にはないだろう。アメリカの情報諜報機関は、ロシアがウクライナで死傷した兵力は30万人を超え、数千台の装甲車や数十隻の船舶・航空機も失ったと考えている。プーティンは、(「再選[reelection]」が終わった今、そうするかもしれないが)追加出動(additional troop mobilizations)を命じることに消極的だ。そのような措置はロシア経済をさらに弱体化させ、民衆の不満を煽る危険があるからだ。西側の制裁措置(sanctions)は、アメリカとその同盟諸国が期待したほどにはロシア経済に打撃を与えなかったが、ロシアにとって長期的な経済的影響は依然として深刻なものになるだろう。長い通常戦争(conventional wars)を戦うにはコストがかかる。現在の戦争が終わるたびに次の戦争を始めるのは、プーティンが簡単だと信じていた「特別軍事作戦(special military operation)」を開始するという当初の決断以上に無謀なことだ。ウクライナでのロシアの困難は、たとえプーティンの軍隊が最終的にピュロスのような勝利を収めたとしても、プーティンを今後はるかに慎重にさせる可能性が高いのではないだろうか?

第三に、プーティンが侵攻を決意した大きな理由が、ウクライナが西側の軌道に乗り、いつの日かNATOに加盟するということを阻止するためだったとすれば、その後の和平協定でその可能性が封じられれば、プーティンは満足するかもしれない。国家はしばしば、貪欲さ(greed)よりも恐怖(fear)から戦争に踏み切るものであり、ロシアが持つ安全保障上の恐怖が弱まれば、ヨーロッパ地域の他国を狙うインセンティヴ(誘因)もおそらく低下するだろう。もちろん、NATO加盟諸国はこの可能性を当然と考えるべきではないが、プーティンの狙いに際限がないという仮定と同程度には、説得力を持つ話だ。

ヨーロッパの専門家たちの一部は、ロシアのウクライナ侵攻に、NATOの拡大は関係ないと主張し、プーティンが侵略したのは、ウクライナ人とロシア人は文化的・歴史的に深いルーツを共有しており、形式的には統一されていなくても、政治的には同盟を結ばなければならないと考えているからだと主張している。この見解では、NATOの拡大は開戦の決断とは無関係であり、古き良きロシアの文化的帝国主義(cultural imperialism)の一例に過ぎない。しかし、もしそうだとすれば、プーティンの思考においてウクライナは特別な存在であり、プーティンが侵攻した理由(そして侵攻が容易だと考えた理由)は他の国には当てはまらないということになる。興味深いことに、この結論は、2008年にウィリアム・バーンズ駐ロシア米大使(当時)がワシントンに警告した「ウクライナのNATO加盟は(プーティンだけでなく)ロシアのエリートにとって最も明白なレッドラインだ」という指摘と一致している。ロシアはそれ以前のNATO拡大についてはしぶしぶ容認していたが、ウクライナはまったく異なるカテゴリーだった。プーティンの「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性(historical unity of Russians and Ukrainians)」についての錯綜した主張をどう考えるかにしても、プーティンはフィンランドやスウェーデンやポーランドや他の誰をも同じようには見ていない。バルト三国におけるロシア語を話す少数民族の地位は、その後のロシアの干渉の口実になるかもしれないが、プーティンは、国民のほとんどがロシア人ではなく、再統合されることを断固として反対して、ロシアを敵視している国々をめぐって、NATOと直接武力で衝突する危険を冒すだろうか?

私が指摘したいのは、プーティンがロシア人とウクライナ人を「ひとつの民族(one people)」だと考えているから侵略したと考えるのであれば、プーティンの野望はこの特殊なケースに限定されると結論づけるのが合理的だということになる。

最後に、プーティンは完全敗北させなければ新たな戦争を仕掛ける、容赦のない連続侵略者だという主張は、戦争を終結させ、ウクライナのさらなる被害を免れる努力を妨げている。プーティンが新たな戦争を始めるのを防ぐには、完全な敗北しかないと考えるのであれば、ウクライナが全ての領土を取り戻すまで現在の戦闘を続けなければならないということになる。私はウクライナが領土を回復して欲しいと考えているが、西側欧米諸国の追加支援があったとしても、その可能性はますます低くなっているようだ。昨夏のウクライナの反転攻勢(Ukraine’s counteroffensive last summer)が成功すると誤って予測した、考えの足りない楽観主義者たちは、その誤りを謝罪し、なぜ間違っていたのかを説明しただろうか?

繰り返す。私はプーティンが何をするか知っていると言っていない。また、ウクライナでの戦争が終われば、プーティンの意図は良性となり、ヨーロッパの現状を確実に維持するだろうと単純に考えるべきだとも思わない。私が反対しているのは、彼が何をするか正確に知っていると主張し、単なる推量(mere guesswork)に基づいて非現実的な目標を追求し続ける影響力のある声全てに対してだ。

ウクライナでの戦争がウクライナの完全勝利に満たないもので終わるのであれば、適切な対応とは、将来的に他の国がウクライナのような運命をたどる可能性を低くすることだ。プーティンが何をしでかすかは誰にも分からないのだから、NATOのヨーロッパ加盟諸国は防衛能力を高め、明らかな脆弱性(vulnerabilities)について是正すべきだ。しかし同時に、アメリカとNATOの同盟諸国は、ロシアの正当な安全保障上の懸念(全ての国がそうであるように、ロシアにも実際に懸念はある)を認め、それを和らげるために何ができるかを検討すべきである。そのような努力は、ロシアが行ったことに対して「代償を払わせる(make Russia pay)」という願望が残っていることを考えれば、物議を醸すだろうし、こんなことになるだろう。しかし、賢明な国家運営とは将来を見据えたものであり、将来の戦争を防ぐことが優先されるべきだ。そのためには、信頼できる抑止力と信頼できる保証を組み合わせる必要がある。そうすれば、プーティンやその後継者たちが持つ、武力行使を考える必要性も、武力行使をすればロシアが有利になるという確信も減るだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

 アメリカは外交政策において、インド太平洋(Indo-Pacific)という地域概念を持ち出して、中国とロシアを封じ込めようとしている。これはバラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官から顕著になっている。「アジアへの軸足移動(Pivot to Asia)」という概念と合わせて、アメリカの外交政策の基盤となっている。

 インド太平洋から遠く離れたヨーロッパ諸国がインド太平洋でプレイヤーとなろう、重要な役割を果たそうという動きを見せている。国際連合(the United NationsUN、正確には連合国)の常任理事国であり、空母を備える海軍を持つイギリスとフランスを始めとして、オランダ、ドイツなどの小規模な海軍国が艦船をインド太平洋地域に派遣している。昨年には、NATOの東京事務所開設という話が出て、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の反対によって、いったん白紙となった。ヨーロッパから遠く離れたインド洋、太平洋地域でヨーロッパが全体として役割を果たそう、プレイヤーになろうという動きが高まっている。
europeannaviesinindopacificregion001

 ヨーロッパ側の主張、理由付けは、インド太平洋地域の航行の自由を守ることが、自分たちの貿易を守ることにつながるというものだ。これは、中国の存在を念頭に置いて、中国が航行の自由を阻害するという「被害妄想」でしかない。その「被害妄想」を理由にして、何もないインド太平洋地域にまで艦船を送るというのはご苦労なことである。

 ヨーロッパがインド太平洋地域において役割を果たすというのは、アメリカの手助けをするという理由もある。アメリカが中国と対峙している地域であり、ここでアメリカを助けることが必要だということである。更に言えば、アメリカの要求によって、ヨーロッパ各国は国防費の大幅増額、倍増を求められているが、艦船を派遣することで、「取り敢えず頑張っています」という姿勢を見せることで、少しでもこうした動きを和らげようということであろう。

 しかしながら、ヨーロッパはまず自分の近隣地域の平和な状況を作り出すことを優先すべきだ。ユーロピアン・アイソレイショニズム(European Isolationism、地域問題解決優先主義)を採用すべきだ。ロシアとの平和共存を目指し、ロシアの近隣諸国の中立化(武装解除ではない)を行い、ロシアとの関係を深化させることで、相互依存関係(interdependency)を構築し、戦争が起きる可能性を引き下げることだ。

 落語などでもよく使われる表現に「自分の頭の上のハエも追えない癖に、人様の世話ばかりしやがって」というものがある。ヨーロッパはまず、自分の近隣地域の安全も実現できていないのに、他人様の家にずかずか入り込んでくるものではない。まさに「何用あってインド太平洋へ」である。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはインド太平洋のプレイヤーになりたいと考えている(Europe Yearns to Be an Indo-Pacific Player

-ヨーロッパ地域で戦争が続いているが、ヨーロッパの戦略的・海軍的な願望は世界の裏側にある。

キース・ジョンソン筆

2024年3月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/19/europe-navy-indo-pacific-strategy-maritime-security/

地政学的なアイデンティティを探し続けた年月を経て、ヨーロッパは国際関係において最も争いが頻発している分野でより大きなプレイヤーになることを目指し始めている。ヨーロッパが目指しているのはアジア地域を含む海洋安全保障分野(maritime security)での主要なプレイヤーである。

長年にわたる貧弱な国防費とハードパワーへの嫌悪感から立ち直り、ヨーロッパ全体、そしてヨーロッパの主要国の多くは、身近なところから地球の裏側まで、海洋安全保障への関心を急速に高めている。それは、ブリュッセル、パリ、ロンドンから矢継ぎ早に発表される野心的な戦略文書だけでなく、ヨーロッパ諸国の小さいながらも有能な海軍が、より多くの場所で、より多くのことを行い、争いの絶えない水路を確保し、自由航行と世界的なルールの尊重を取り戻すために、配備を拡大していることからも明らかである。

ヨーロッパの海軍は既にイエメンからのフーシ派ミサイル攻撃に対抗するために紅海で任務遂行をしており、ますます多くのヨーロッパのフリゲート艦や航空母艦が、大陸全体でのより大規模で広範囲にわたる責任への移行の一環として太平洋を巡行している。

10年ほど前の地中海での海上警備活動から始まったヨーロッパ連合(European UnionEU)の活動は、現在ではインド洋を含むさらに遠方への野心的な展開へと広がっている。先月、ヨーロッパ連合は紅海、ペルシャ湾、アラビア海で航路を確保するための海軍作戦を開始したばかりだが、これは同じ海域でより好戦的な米英の作戦とは別のものだ。

ウクライナでの大規模な陸上戦争が3年目を迎えている現在でも、ヨーロッパはインド太平洋の安全保障においてより大きな役割を果たすことにますます真剣になっている。ヨーロッパ連合はインド太平洋戦略と、この地域に改めて重点を置く新たな海洋安全保障戦略の両方を掲げている。

ブリストル大学の海軍専門家であるティモシー・エドマンズは、「ヨーロッパ連合の最新の海洋安全保障戦略で印象的なのは、海洋における国家間の紛争や対立の重要性と、そして政治的ダイナミクスの変化を認識し、本格的な転換を図ろうとしていることだ。特にインド太平洋地域とその中でのヨーロッパ連合の役割がそうだ」と述べている。

個々の国もまた、この活動に参加している。イギリスはアジアへの「傾斜(tilt)」を更に強化しようとしている。ヨーロッパ連合加盟国で唯一インド太平洋に領有権を持つフランスは、中国の台頭とバランスを取り、フランスとヨーロッパの重要な経済的利益を守るため、インド太平洋地域における海軍と外交のプレゼンス強化に全力を挙げている。ドイツやオランダのような中堅の地政学的プレイヤーでさえ、インド太平洋戦略を持っている。イギリス、フランス、その他いくつかのヨーロッパ諸国は、遠く離れた太平洋の海域に艦船を置いて、その願望をバックアップしている。

フランス国際関係研究所の軍事部門の研究員ジェレミー・バシュリエは、「インド太平洋における安全保障環境の悪化は、フランスとヨーロッパの利益に重大な脅威をもたらしている。インド太平洋における抑止力と軍事的対応努力は主にアメリカに依存しているが、ヨーロッパ連合加盟諸国は今や、台湾海峡、北朝鮮、南シナ海における危機や紛争など、この地域における危機や紛争の世界的影響を十分に理解しなければならない」と述べている。

ウクライナ戦争は、ヨーロッパの関心と武器を吸収した。それでもなお、ヨーロッパの東方シフト(European shift to the east)は続いており、その勢いは増している。それは、ウクライナ戦争がヨーロッパにとって紛争の真のリスク、特に世界の多くの国々と同様にヨーロッパが依存している世界貿易とエネルギーの流れの要であるインド太平洋における紛争の真のリスクについて警鐘を鳴らしたからでもある。

ハーグ戦略研究センターのポール・ファン・フフトは「インド太平洋地域におけるヨーロッパの存在感を高めようという意図は、ヨーロッパでの戦争にもかかわらず、まだ生き続けている。ウクライナ戦争がなければ、資源を確保するのは簡単ことだろうが、その一方で、今は新たな深刻な問題が出ている」と述べている。ヨーロッパのアジアへの軸足移動(The European pivot to Asia)が注目されるのは、フランスとおそらくイギリスを除けば、ヨーロッパ諸国がもともとインド太平洋地域のプレイヤーではないからだ。しかし、フランスとイギリスの空母に加え、ドイツ、イタリア、オランダの小型水上艦船がこの地域に派遣されている

ヨーロッパが、目の前に多くの課題があるにもかかわらず、地球半周分も離れた地域の争いに力を入れている理由はいくつかある。それらは、攻撃的な中国の台頭、商業とエネルギーの自由な流れを保護する必要性、そして、アメリカが、旧大陸が今後数十年間に形成されつつある重大な安全保障上の諸問題において、さらに前進し、主要な役割を果たすことができるという願望である。

長年にわたり、ヨーロッパは中国との間でバランスを取ろうと努め、中国からの投資を歓迎する一方で、北京に対するワシントンの好戦的な姿勢をますます強めていることから距離を置いてきた。しかし、中国による略奪的な貿易や経済慣行、南シナ海での威圧、太平洋における自由航行への脅威、そして台湾併合というあからさまな計画の組み合わせは、今やヨーロッパを、より明確なアプローチへと押しやっている。

前述のティモシー・エドマンズ「中国との関係の方向性は、ヨーロッパ連合全体で変化している。海外投資(foreign investment)であれ、一帯一路構想(the Belt and Road Initiative)であれ、太平洋での活動であれ、中国の破壊的な役割がますます認識されるようになっている。それらの国々の目からは日々鱗が剥がれ続けている状況だ」と語った。

オランダのような中堅諸国は、インド太平洋における自国の将来を、戦争に参加して実際に戦う海軍国としてではなく、むしろ投資、能力開発、安全保障支援を活用して、アジア諸国を中国の支配に対する防波堤となりうるより広範なグループへと呼び込むことができる外交国になるようにと考えている。ファン・フフトは「私たちにできることは、パートナー諸国に対して、“私たちは本当に気にかけているが、支援は別の形でなければならない”と伝えることだ」と述べている。

エマニュエル・マクロン大統領の下、フランスは長年にわたり、多くの人がバランシング姿勢とみなすものを追求しようとしてきたが、インド太平洋で何が起こるかについて、より現実的な見方にますます傾いている、と前述のジェレミー・バシュリエは述べている。「フランス政府は、アメリカ、インド、日本、オーストラリアで構成されるクアッド(Quad)のようなグループにはまだ正式に参加していないが、インドとのラ・ペルーズ海軍演習のような、考えを同じくする国々と以前よりも多くの演習に参加している」とバシュリエは語っている。

台湾や西太平洋をめぐる潜在的な紛争だけでなく、フランスやその他のヨーロッパ諸国が特に懸念しているのは、自由航行(free navigation)やエネルギーなどの重要物資の自由な流れ(free flow)に対する脅威である。これは、紅海における数ヶ月に及ぶフーシ派の活動や、イランによるホルムズ海峡閉鎖の威嚇によって浮き彫りにされ、世界有数の輸送量を誇る航路を自分専用の湖(a private lake)に変えようとする中国の明白な意志によって強調されている。このことは、海洋法を守り、自国の近くだけでなく、ヨーロッパに影響を及ぼすあらゆる場所で海運を保護したいというヨーロッパ共通の願望につながる。

ファン・フフトは「航路がますます攻撃に対して脆弱になっていることは誰の目にも明らかであり、海洋安全保障の関心は必然的にインド太平洋へと移行しつつある。依存関係(dependencies)を考えれば、航路を確保するという問題を無視することはできない」と語っている。

海洋での取り組みを拡大するというヨーロッパの取り組みは、アジアのパートナー諸国や潜在的なライヴァルだけでなく、アメリカにもメッセージを送っている。数十年とは言わないまでも、何年もの間、米政府はヨーロッパのNATO加盟諸国に防衛費を増額する必要性について説得しており、遅ればせながら、増額を始めている国もある。しかし専門家たちは、特にヨーロッパの近隣地域と、それを遠く越えた地域での海洋安全保障能力の強化は、ヨーロッパ全体がアメリカに真の支援を提供できる分野の1つであると主張している。

これには紅海やホルムズ海峡でのヨーロッパ諸国の任務のような巡回活動が含まれるが、米空母打撃群の長期間の派遣を具体化するためのヨーロッパ諸国からの水上艦艇の定期派遣も含まれる。

ファン・フフトは「これらの任務は全て、大国ではない国の海軍でも役割を果たすことができる、非常に具体的な方法である」と述べている。

しかし、より正確には、どのような役割となるのだろうか? ヨーロッパで最も強力な2つの海軍、イギリス海軍とフランス海軍は、合わせて3隻の中規模空母と40数隻の主要な水上艦艇を保有している。アメリカ海軍は、太平洋艦隊だけでも常時それ以上の数を保有している。イタリア、スペイン、ドイツ、オランダといった国々のより小規模な海軍は、ほとんどが小型のフリゲート艦と一握りの水陸両用艦で構成されている。それでも、フランスとイギリスの空母は、他のヨーロッパ諸国の艦船に護衛されながら、今年後半から来年にかけてインド太平洋に向かう予定であり、どちらもアメリカ軍との相互運用性(interoperable with U.S. forces)を高めるための訓練を受けている。

しかし、だからといって、台湾や南シナ海をめぐって太平洋戦争が勃発した場合、ヨーロッパの軍艦がアメリカやパートナー諸国の海軍を直接支援できるかというと、そうではないとバシュリエは主張している。ヨーロッパ北西部から南シナ海までは到着までに約2週間かかり、南シナ海での後方支援もないため、ヨーロッパの海軍はたとえその意志があったとしても、紛争が起きた場合に大きな役割を果たすことは難しいだろう。

より間接的ではあるが、アジアの海洋環境を形成する上で最終的により有益な役割は、もう少し身近なところで果たせるかもしれない。紅海やインド洋西部で既に海賊やテロリストに対する活動を開始しているヨーロッパ諸国の海軍は、シーレーン保護(sea lane protection)の任務を全面的に担うことができ、アメリカとそのパートナー諸国海軍は太平洋に集中することができる。

バシュリエは「アジアで紛争が発生した場合、ヨーロッパはおそらく、海上交通の安全保障と管理を確保し、スエズ運河とマラッカ海峡の間の“後方基地(rear bases)”を監視しなければならなくなるだろう」と語っている。

バシュリエは更に「バブ・エル・マンデブ海峡からベンガル湾のマラッカ海峡の開口部までの範囲で活動するヨーロッパの海軍は、ヨーロッパのエネルギー権益を維持しつつ、北京の戦略的供給を制約することができる」とも述べている。

※キース・ジョンソン:『フォーリン・ポリシー』誌記者(地経学・エネルギー担当)。ツイッターアカウント:@KFJ_FP

(貼り付け終わり)

(終わり)
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ