古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:ウクライナ

 古村治彦です。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーティン大統領は個人として良好な関係を続けているが、米露関係は停滞気味である。スティーヴ・ウィトコフ特使とトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーがウクライナ戦争停戦に向けて動いているが、進展はない。戦争が長引けば長引くほど、ウクライナにしても、ロシアにしても戦争を停止するハードルが上がる。戦争は止め時が難しい。一方的に勝利できる場合(第二次世界大戦における連合国と枢軸国の関係)であれば、武力的な抵抗が終わり、降伏の意思表示ということになるが、戦争が大きな進展がないままに、日常化してしまうと、結局、その状態が固定化されてしまう。ウクライナ戦争で言えば、ロシア側は攻撃初頭でウクライナ軍が崩壊し、降伏するという計算違いを起こし、ウクライナ側は大攻勢をかけようとして失敗してしまった。現状は大きな進展はない。疲れ果てるまでこの状況を続けるしかない。しかし、ヨーロッパ諸国をはじめとする西側諸国は、ウクライナが死なない程度に「輸血」をして(ロシアに対して大きな効果を持つ武器は与えないが、小競り合い程度には勝つ武器を与え)、ロシアに対して出血を強要するという状況の維持を行っている。それは、ロシアの弱体化が自分たちの国益につながると考えているからだ。ロシアからの安いエネルギー資源輸入で生きてきたヨーロッパ諸国はなんと愚かだろうか。

 下記論考では、トランプ大統領がプーティン大統領との良好な関係を利用して、停戦を進める、そのためにロシアに条件を受け入れ、ロシアと「ウィン・ウィン」の関係を築こうとやっきになっていることに警鐘を鳴らしている。その根拠として、サブプライムローン危機で、アメリカ経済が厳しい状況だった際に、プーティン大統領が中国に、「債権を売り払って暴落させて、アメリカ経済に大ダメージを与えよう」と持ち掛けたことを取り上げている。中国側は断ったが、プーティンは時刻も大きなダメージを受けるが、アメリカのダメージを優先するような人物だとザカリアは述べている。

 この主張には説得力があるが、2008年当時と現在の世界の状況が大きく変化をしているとも考慮しなければならない。当時のロシアはジョージア侵攻を行っており、アメリカはそれに対して厳しい態度で臨んでいた。ロシアとしては戦争に負ける訳にはいかない。アメリカを牽制するためにもそのような行動に出た。重要なことは、債券を売るということがアメリカ側に伝わるように、中国側に話を持ち掛けたことである。中国に断られたので取りやめたが、自分たちはやる気だとアピールすることで、アメリカを怯えさせ、牽制する動きに出たのである。もちろん、アメリカに打撃を与えるという意図もあっただろう。しかし、本気でアメリカに大打撃を与える意図はなかったと考える方が合理的だ。そして、この時から、ロシアは外貨準備高におけるドルの割合を減らし、金保有を進めて、また、決済システムの構築を行ってきた。ウクライナ戦争が継続できているのもこれらが要因になっている。

 トランプ大統領はウクライナ戦争を停戦することを公約として当選した大統領である。公約実現のために、プーティンとの関係を利用するのは当然のことだ。それが米露両国にとって利益になれば良いことである。プーティンと「ウィン・ウィン」の関係を築けないと考えるのは浅慮であると言わざるを得ない。そのような関係を築かざるを得ない方向に進めることが外交の巧者であると言えるだろう。現在のアメリカにそのような匠はいない。

(貼り付けはじめ)

ウラジーミル・プーティン大統領との「ウィン・ウィン」という危険な幻想(The Dangerous Fantasy of a Win-Win With Putin)

-ロシアの大統領は取引の成立を目指すビジネスマンではない。

ファリード・ザカリア筆

2026年9月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/09/11/putin-trump-united-states-russia-ukraine-negotiations-deal-foreign-policy/

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モスクワで拍手を送るロシアのウラジーミル・プーティン大統領(9月9日)

ドナルド・トランプ大統領の交渉担当者であるスティーヴ・ウィトコフとジャレッド・クシュナーは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領との最近の会談に、心底圧倒された様子だった。ウィトコフは、これらの会談は自身の人生における経験の中で「最高(thee top)」のものだと熱っぽく語っている。ウィトコフとクシュナーは両方ともロシアを潜在的なパートナーと見なし、トランプと同様に、プーティンとの「ウィン・ウィン(win-win)」な解決策を模索するビジネスマンの視点でロシアに向き合っている。

そこで、同じくビジネスの世界から政府高官に転身した人物、ゴールドマン・サックスの元CEOのハンク・ポールソンがプーティンについて学んだ教訓を振り返る価値があるだろう。財務長官だったポールソンは、2008年8月の北京オリンピックに合わせて訪中した。当時、世界金融危機が深刻化しつつあり、市場はアメリカの住宅ローンの大半を保証する巨大機関であるファニーメイ(Fannie Mae、連邦住宅抵当公庫)とフレディマック(Freddie Mac、連邦住宅金融抵当公庫)をめぐって懸念を強めていた。

北京でポールソンは、「息が止まるほど驚いた(took my breath away)」と述べた知らせを受けた。ロシア当局者が中国に接触し、中露両国でファニーメイとフレディマックの証券を大量に売却しようと持ちかけたというのだ。その狙いは、すでに揺らいでいたアメリカ経済への圧力を強め、おそらくは破綻へと追い込むことにあった。中国はこの提案を拒否した。

このストーリーが何を物語っているかを考えて欲しい。アメリカの金融システムが大恐慌以来最悪の危機に瀕していたその時、プーティンはアメリカが窮地に陥っている隙を突く方法を探っていた。たとえアメリカの深刻な経済崩壊が、ロシアを含む世界全体に必然的に打撃を与えることになる可能性があってもそのようなことをしていたのである。プーティンは、アメリカに大打撃を与えられるのであれば、共倒れ(lose-lose)の結果を招くリスクさえも受け入れる姿勢を見せていた。

それは、ビジネスマンの思考とは正反対に近いものだ。しかし、プーティンはこれまで一度も、取引(deal、ディール)を求めるビジネスマンであると自称したことはない。彼はロシアのナショナリストであり、経済的、人口動態的、そして政治的に世界の舞台で国力が後退していく中でも、ロシア帝国やソヴィエト帝国の崩壊とともに失われた力と領土を回復しようと目指している人物だ。

アメリカとその影響力を弱めることを目指した外交政策をプーティンが長年追求してきたことを、現在のドナルド・トランプ政権が認識するには何が必要なのだろうかという疑問が出てくる。トランプとイランとの対立について考えてみよう。イランにとって最大の軍事同盟国である大国はどこか? ロシアはテヘランに対し、最新鋭の航空機や戦車、その他多数の兵器を供給してきた。ロシアはイランと情報を共有しており、ウクライナの戦場で鹵獲(ろかく)したアメリカの兵器をイランに送っている。これは、イランがそれらを逆行分析(reverse engineer)し、アメリカに対して使用できるようにするためだ。『フィナンシャル・タイムズ』紙は最近、ロシアがアメリカの空母を脅かす能力を持つラムジェット推進の超音速巡航ミサイルの開発を、イランに対して密かに支援してきたことを明らかにした。これらは、抽象的な地政学的ゲームのための兵器ではない。アメリカの防衛網を突破し、米兵を殺傷するために設計されたものだ。

トランプは、アメリカが圧倒的な優位に立つ西半球(a Western Hemisphere in which the U.S. reigns supreme)というヴィジョンを抱いている。そのヴィジョンに反する動きを長年続けてきた大国はどこだろうか? 2001年から2018年にかけて、ヴェネズエラの武器輸入の70%以上をロシアが占めていた。現在、トランプ政権はキューバやニカラグアにも目を向けているが、キューバやニカラグアの軍事装備もまた、その大部分がロシア製だ。

こうした動きはアフリカにも及んでいる。モスクワは武器、資金、政治的支援、そして傭兵を活用して影響力を拡大し、西側諸国を排除しようとしてきた。ワグネル・グループは当初、ロシアの国家権力と連携して活動する組織として始まったが、やがてリビアからサヘル地域に至るまで、モスクワの野望を遂行するための手段となっていった。さらにロシアは、アメリカを主要な戦略的敵対国とみなす他の2つの核保有国、北朝鮮や中国との軍事的な連携も強化している。

ロシア・ウクライナ戦争を終わらせるためのトランプ政権のアプローチは、基本的にこの紛争においてモスクワの側に立つというものだった。トランプは、ウクライナが開戦したという誤った主張を行い、ウォロディミール・ゼレンスキー大統領を独裁者と呼んだ。トランプ政権は、ウクライナをNATO(北大西洋条約機構)に加盟させないこと、ロシアが占領した領土の多くを返還させないこと、そしてウクライナの軍事力を制限することなど、ロシア側の主張をあらかじめ容認する姿勢を示してきた。

アメリカの軍事支援は縮小し、一時は極めて重要な情報共有さえも停止されていた。キエフ訪問中に話を聞いたウクライナの将軍や兵士たちは、アメリカの支援が失われたことを、ロシアによる侵攻以来、ウクライナが被った最大の戦略的打撃だと語った。ウクライナとそのヨーロッパのパートナーたちは、ロシアの攻撃に耐え、それに対抗する術を見出してきた。しかし彼らが何よりも懸念しているのは、アメリカに見捨てられることによる、より深刻で長期的なダメージだ。

プーティンとの取引を模索することや、全ての当事者が何らかの利益を得られるような解決を望むこと自体に、何ら問題はない。しかし、外交とは、交渉の相手を理解することから始まる。ウィトコフやクシュナーは、プーティンを「ウィン・ウィン」を求めるビジネスマンだと見なしている。しかし、プーティンのこれまでの行動は、彼が全く異なる人物であることを示唆している。彼は、アメリカを弱体化させることができるのであれば、自国ロシアに犠牲を強いたり、他国を不安定化させたり、あるいは自ら損失を被るリスクを冒したりすることも厭わない人物だ。

ハンク・ポールソンは18年前、北京でその教訓を学んだ。現在、外交の場に立つアメリカのビジネスマンたちもまた、モスクワでその教訓を学んでくれることを期待したい。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
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(終わり)


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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は5年目を迎えている。状況が大きく変化していないが、ウクライナ側がドローン攻撃をロシア国内でも行い、一定の成果が出ている。一方で、ロシア側もキエフに対する攻撃を強めるなど状況は膠着しているが、攻撃は依然として止まず、双方に被害が出ている。ウクライナ戦争はウクライナ側の領土の譲歩とNATO不参加を条件にして停戦に向かうことが考えられるが、ヨーロッパ諸国はアメリカが控えている支援を肩代わりして、ウクライナへの支援を増加させており、そのことが停戦を遠ざけているという皮肉な状況になっている。ウクライナは自国の力だけでは戦争を継続することができない。ヨーロッパ諸国(主にドイツ)が資金と武器を援助しなければどうしようもない。しかし、ヨーロッパ諸国はロシアに致命的な打撃を与えることができる強力な武器をウクライナに与えていない。それは、そのようなことをすれば、ロシアから攻撃対象にされてしまうと分かっている。あくまで戦争が継続できる範囲で、ロシアに大打撃を与えないようにして、支援を行っている。そして、実際に被害に遭い、命を落としているのは、ウクライナとロシアの人々である。ヨーロッパ諸国は狡猾な立ち回りをしている。
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 アメリカのドナルド・トランプ大統領は第二次政権発足時に、即時のウクライナ戦争停戦を主張し、ウクライナへの支援を控える形で停戦を促そうとした。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領をホワイトハウスに呼んで、叱りつけるような形で停戦を説得した。しかし、その後はゼレンスキー大統領を評価し、ウクライナへの支援を再開している。一方で、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領とは首脳会談を行い、ウクライナ戦争停戦への働き掛けを行った。プーティン大統領に対して、トランプ大統領は停戦を促すことができる立場にある。問題は領土面での譲歩である。ウクライナはクリミア半島の再奪取を求めているが、これはもはや不可能であり、現在のウクライナ東部のドンバス地方の独立(ロシアの影響圏の編入)が焦点となる。ウクライナがウクライナ東部の回復を見通せるほどの軍事的な能力を持っているならばまだ粘っても好機を見出す可能性はあるが、ヨーロッパ諸国もアメリカもそれを行えるだけの資金も高性能の武器もウクライナに与える意思はない。ただ、ダラダラと戦争を継続させる、ロシアの出血を強要するということが目的となっている。アメリカはイラン戦争も抱えており、ウクライナに力を割くことも厳しい状況だ。

 ここでトランプ大統領がウクライナ戦争を停戦に導くことに成功すれば、現在の厳しい状況から挽回できる。支持率は上昇し、11月の中間選挙の見通しも明るくなる。トランプ政権としてもそのことは分かっているので、何らかの動きは行っているだろう。ウクライナ戦争停戦となれば、アメリカはより動きやすくなる。そして、世界にも良い影響を与える。そのような「奇跡」を起こすこともまた政治家の責務ということになる。トランプにそれだけの神通力が残っているかどうか、一種の試練の夏となるだろう。

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ウクライナはトランプにとって大きな勝利となるかもしれない(Ukraine Could Be a Big Win for Trump)

-ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は弱っている。今こそ戦争を終わらせるよう彼に強く求めるべき時だ。

ファリード・ザカリア筆

2026年6月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/05/ukraine-russia-war-trump-putin-missiles-diplomacy-deal-territory/

ドナルド・トランプ大統領は、国内での支持率急落と自らが引き起こした海外での泥沼化した戦争という二重の困難に直面している。しかし、彼にはこの状況を覆す好機が訪れている。その舞台は中東地域ではなく、そこから1000マイル以上離れたヨーロッパ、すなわちロシアとウクライナの間で血なまぐさい戦争が続く地である。ここ数カ月の間にこの紛争の情勢は変化し、ついに和平への道が開かれつつある。

ウクライナは現在、経済規模で約12倍、人口で4倍以上という強大な敵国との戦争の5年目を迎えている。国家として存続し続けていること自体、現代における軍事的・国家的な業績と言えるだろう。しかし今や、キエフ(ウクライナ)は単に生き残っているだけではない。戦争の巣額そのものを変えつつある。

長年にわたり、ロシアの残酷なまでの強みは、その戦い方が巧みだったことにはなかった。むしろ、拙劣な戦い方をしても、その代償に耐え抜く力があったことにある。ロシア軍は、徴集兵、受刑者、少数民族、辺境の貧困層、その他国家が「戦火の炉(the furnace)」へと放り込めるあらゆる人々を動員してきた。膨大な数の兵士を失いながらも、それを上回る兵員を補充し続け、時には毎月3万人以上を新たに投入することさえあった。

その構図は崩れ始めている。ロシアは、訓練を受けた兵士を補充する能力を上回るペースで損失を被っているようだ。莫大な犠牲を払って進めてきた攻勢も、今や牛歩の如く停滞している。かつてはドンバス全域の制圧を目指していたロシア軍だが、現在の進撃はマイル単位ではなく、わずか数メートル単位にとどまる。戦況分析によれば、5月のロシア軍による領土獲得は皆無に等しく、むしろ一部の地域を失った可能性さえある。かつては大きな強みであったロシアの広大さが、今や弱点となっている。守るべき兵站線や防衛対象が増え、攻撃に対して脆弱な領域も拡大しているからだ。

一方のウクライナは、物量に頼るのではなく、スピード、情報力、そして創意工夫で対抗している。ウクライナは強力なドローン産業を築き上げており、その多くは国産である。今年は700万機以上のドローンを生産する計画だ(比較として挙げれば、アメリカは2027年末までに約30万機を生産する計画だ)。ウクライナは中距離攻撃を駆使し、前線後方のロシア軍の兵站や指揮所を攪乱している。また、長距離ドローンやミサイルを用いて、ロシア国内の製油所、石油貯蔵施設、飛行場、レーダー基地、軍需工場を攻撃している。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、もはや戦争をウクライナ国内だけに封じ込めておくことはできない。先月モスクワの赤の広場で行われた「戦勝記念日」の式典でさえ、ウクライナのドローンによる脅威の影で規模が縮小されたほどだ。

しかしながら、ウクライナが容易な勝利を目前にしているということではない。ロシアは依然として、ロシアのミサイルやドローンでウクライナの都市を激しく攻撃し続けている。キエフではパトリオット迎撃ミサイルの不足が続いており、兵員不足の問題も解消されていない。さらに、汚職スキャンダルや強硬な徴兵措置(harsh conscription)によって国内政治も緊張を強いられている。

しかし、戦況の勢いは変化した。その変化の重要な要因の1つはヨーロッパだ。今年、この戦争において最も過小評価されている成功例は、アメリカが支援を控える中でヨーロッパがその役割を担ったことかもしれない。ヨーロッパによる支援は今や、アメリカによるキエフへの支援激減分をほぼ補っている。ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相による妨害が、オルバンの敗北によって、解消されたことで、ヨーロッパ連合(EU)の900億ユーロ規模の融資パッケージも動き出しつつある。ヨーロッパは、この戦争の主導権を握るようになった。

ここでトランプの出番となる。ウクライナに対するトランプのこれまでの外交は、本来持っていた交渉力を無駄にしてきた典型例と言える。トランプはウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領を激しく非難し、ウクライナ側の譲歩(concessions)を交渉の出発点として扱い、プーティンに「西側諸国が根負けするのを待てばよい(he could wait the West out.)」と思わせるような状況を作り出した。

しかし、トランプにはヨーロッパのどの指導者も持ち合わせていない「切り札(tools)」がある。彼は、キエフへの大規模なアメリカ軍事支援の再開をちらつかせたり、ロシア産石油や「影の船団(the shadow fleet、制裁逃れを行うタンカー船団)」に対する制裁を強化したり、ウクライナへの供与を前提としたNATO諸国へのアメリカ製兵器の売却を加速させたりすることができる。その上で、和平合意という形でプーティンに「出口(exit ramp)」を提示できるかもしれない。忘れてはならないのは、ロシアがこの戦争で35万人から50万人の兵士を失っており、新たな独立系調査によれば、この戦争は今や国内で極めて不人気なものとなっているという事実だ。

皮肉なことに、トランプの親ロシア的な姿勢こそが、こうした合意をまとめる上で有利に働く可能性がある。プーティンは、トランプが長年にわたりキエフに対して懐疑的であり、モスクワに対しては寛容な態度を取ってきたことを知っているからだ。もちろん、ウクライナやヨーロッパ諸国がその合意を受け入れるためには、それが真剣かつ実効性のあるものでなければならない。ウクライナは領土の譲歩に応じる用意があるべきだが、新たな国境線は防衛可能なものでなければならない。また、ウクライナを西側陣営にしっかりとつなぎ止めるような、確実な安全保障の保証も必要だ。この戦争の本質はドンバス地方をめぐる争いではない。ウクライナが、自らの未来を自由に選択できる主権国家であり続けられるかどうかが問われている。

プーティンが勝利の条件として描いていた「ウクライナが弱い」と「西側諸国が疲弊するだろう」という2つのシナリオはどちらも崩れ去った。これこそがトランプにとっての好機である。彼は、第二次世界大戦以来最悪のヨーロッパにおける戦争を終結させ、西側陣営におけるウクライナの地位を確保し、西側を打ち負かして帝国を再興しようとする修正主義的な大国を抑止する役割を果たせるかもしれない。それは、トランプがこれまで中東地域などで誇示してきたような、単なる写真撮影のための見せかけの停戦とは異なり、真の功績となるだろう。それこそが、真に「歴史的」と呼ぶにふさわしい合意となるはずだ。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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 古村治彦です。

 イラン戦争は4月上旬に一時的に停戦が合意され、その後、停戦が延長されている状況だ。アメリカやイランによる小規模な攻撃は実施されているが、大規模な攻撃の再開には至っていない。アメリカとイランによる和平交渉は継続されており、アメリカ側が少しずつ条件を緩めている、譲っているという状況である。イラン側はホルムズ海峡を握っており、これが世界経済に深刻な影響を与えており、アメリカ側にとっても厳しい状況になっている。数週間で戦争は終わり、イランの政権転覆、もしくは体制転換までつながるという甘い目論見で戦争を始めたドナルド・トランプ大統領にとっての致命的な失策となり、また、アメリカにとっても国力や存在感、影響力を毀損するほどの重大な出来事ということになるだろう。

 アメリカ軍は世界第一の規模と戦闘力を持っており、予算額でいえば、世界第2位から第10位までの9カ国の予算の合計総額を一国で上回る規模を誇っている。アメリカ軍は最強であるということは世界の「常識」であった。それが崩れつつある。アメリカは弱い相手、確実に圧勝できる相手を選んで戦争を仕掛けて軽く勝ってきたが、少し骨のある相手となると途端に弱くなるということが今回のイラン戦争で明らかになった。また、ウクライナ戦争への支援もあり、アメリカは装備面で不安を持っていることも明らかにされた。あれだけの防衛予算がありながら、武器や装備に不安があるということも驚きであった。イラン戦争ではイスラエルやペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地に攻撃が加えられ、被害が出た。「アメリカ軍があっても屁のツッパリにもならんではないか」ということにもなっている。

 ドナルド・トランプ大統領はアメリカが世界から撤収する、西半球(南北アメリカ大陸)に戻る、21世紀型のモンロー主義であるドンロー主義を打ち出していた。2026年1月のヴェネズエラ攻撃やキューバに対する非人道的な封鎖は批判されるべきだが、ドンロー主義としては筋が通っている。しかし、イラン攻撃に関してはトランプの主張と矛盾している。イラン戦争と中東地域の不安定は、イスラエルの利益となる。トランプは「アメリカ・ファースト」ではなく、「イスラエル・ファースト」の選択をし、失敗してしまった。トランプを失敗させる方向に誘導したイスラエルの洗脳力は大したものだと言わねばならない。

 しかし、イラン戦争はトランプとアメリカにとって墓穴ということになる。国力を毀損し、世界を混乱に陥れ、信頼を失い、世界帝国、世界覇権国の地位からの陥落を内外に印象付けた。イラン戦争の影響は数年の間続くだろう。その間にアメリカはますます衰退していくだろう。日本政府、高市早苗政権はイラン戦争がすぐに終わると見込んで、無策で大事な3月、4月、5月を過ごした。その付けをこれから支払うことになるだろう。アメリカ追従一辺倒が、これからの時代に以下に危険かということを私たちは痛みの中で学んでいくことになるだろう。

(貼り付けはじめ)

イラン問題はトランプにとっての最大の失敗となる可能性がある(Iran Could Be Trump’s Greatest Failure)

-多くのことが恐ろしいほど間違った方向に進んでいる―そして、事態はまだ終わっていない。

ラヴィ・アグラワル筆

2026年5月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/18/iran-war-trump-foreign-policy-failure-energy-crisis-military/

先週北京で行われた華やかな式典の中、ドナルド・トランプ米大統領は、習近平中国国家主席にワシントンとテヘラン間の和平合意の仲介を依頼できると期待していた。しかし、それは実現しなかった。中国も、ロシアを除くほとんどの国と同様に、戦争の終結を望んでいるだろう。しかし、イランの新指導者たちは、相手が明らかに逃げ腰になっているチキンゲーム(a game of chicken in which their opponent has long made it clear that he wants to chicken out)を楽しんでいるように見える。

テヘランは、私たちと同じようにニューズの見出しを読んでいる。そして、トランプ大統領にとってこの戦争が破滅的(disastrous)になるという証拠は増え続けている。現時点で、戦争がどのように終結しようとも、トランプ大統領、アメリカ、そして世界経済全体にとっての苦痛は、しばらくの間続くことになるだろう。それは一体何のためであろうか?

それでは、イラン攻撃によって何が得られたのかを見てみよう。最高指導者アリ・ハメネイ師を含む主要指導者が殺害された。イランの空軍と海軍は壊滅的な打撃を受け、ミサイル発射能力も低下した。しかし、得られたのはここまでだ。イランの政権は依然として存続しており、より若く、より復讐心に燃える新たな指導者が誕生した。『ニューヨーク・タイムズ』紙がアメリカの情報機関の評価に基づいて発表した衝撃的な報道によると、イランは戦前のミサイル備蓄量の70%、移動式発射機の70%を依然として保有しており、ホルムズ海峡沿いのミサイル基地の90%以上を運用可能な状態で利用していることが明らかになった。この最後の点は、イランが将来いつでも世界で最も重要なエネルギーの要衝であるホルムズ海峡を通る航行を妨害し続けることができることを意味する。テヘランはミサイルでイスラエルやアメリカのペルシア湾岸の同盟諸国を攻撃することも依然として可能である。そして最も驚くべきことに、イランは依然として高濃縮ウランを保有している。もし戦争の目的の1つが、テヘランが核爆弾を開発できないようにすることであったとすれば、その目的は達成されていない。

一方、米国防総省は損失の算定に追われている。『ワシントン・ポスト』紙の調査によると、イランは中東地域のアメリカ軍基地15カ所で217棟の建造物を損傷させた。CNNは、バーレーン、クウェート、イラク、アラブ首長国連邦、カタールにある少なくとも9カ所のアメリカ軍基地がイランの攻撃により「甚大な被害(significantly damaged)」を受けたと報じた。これらの施設の再建には数年と数十億ドルの費用がかかる。戦略国際問題研究所(CSIS)によると、アメリカは現在進行中の戦争の激戦期に、パトリオット防衛ミサイルの半分から60%(ウクライナがロシアとの4年間の戦争で使用した数よりも多い)とトマホークミサイルの3分の1をイランとの交戦に使用した。費用はさておき、これらのミサイルは製造と補充に最大4年かかる。もしアメリカが別の戦場、例えば台湾防衛に投入された場合、戦力は大幅に低下した状態で戦闘に臨むことになるだろう。そして、人命の損失も忘れてはならない。これまでの戦闘で少なくとも13名のアメリカ軍兵士が死亡し、400名以上が負傷した。遺族はただただ、なぜこのような事態になったのかと問い続けるしかないだろう。

ここでソフトパワーの代償について語るのは少々無粋に思えるかもしれないが、国内的あるいは国際的な合意なしに戦争を遂行すれば、ホワイトハウスは他国が戦争を始めたことを非難する際に、規範や規則を持ち出す余地が少なくなるという点を考慮する価値はある。アメリカは他国の指導者の処刑を命じることを常態化させてしまった。

そして、エネルギー危機もある。アメリカのガソリン価格は昨年同時期と比べてほぼ50%上昇している。商用車が使用するディーゼル燃料は59%も上昇した。明白な理由は戦争だ。ホルムズ海峡の封鎖によって、それまで供給過剰だった市場が圧迫された。以前にも書いたように、ヨーロッパやアジアではその影響はさらに深刻だ。パキスタンやフィリピンなどの国々は、エネルギー節約のため、公務員の勤務時間を短縮し、大学を閉鎖している。世界第5位の経済大国であるインドでさえ、先週、14億人の国民に対し、燃料消費量を削減し、金(きん)の買い占めをやめるよう要請した。これだけでも十分悪い状況だが、最悪の事態はまだこれからだ。アメリカが石油輸出を拡大し、戦略石油備蓄を取り崩していなければ、エネルギー価格は今頃もっと高騰していたはずだ。国内需要が減少している中国も、膨大な石油備蓄を使い果たしている。ワシントンが輸出を削減したり、北京が備蓄ではなく市場に供給し始めたりすれば、価格は急騰する可能性がある。いつものように、最も大きな打撃を受けるのは小規模経済国だろう。

他の商品も深刻な不足に見舞われており、世界全体に様々な波及効果が及ぶことが予想される。ホルムズ海峡は、平時であれば世界の原油と天然ガスの5分の1を輸送するだけでなく、世界の肥料供給量の5分の1、ヘリウム供給量の3分の1も担っている。世界的な食糧危機と、ヘリウムを必要とする半導体の不足は、すでにエコノミストたちの来年の予測に織り込まれている。危機が長引けば長引くほどコストは増大する。

世界経済の成長はすでに鈍化している。4月、国際通貨基金(IMF)は成長率予測を3.4%から3.1%に下方修正した。本日発表される新たな予測では、さらに0.3ポイントの下方修正が必要となるだろう。IMFは、エネルギー供給が正常に戻らなければ、来年の成長率は2%まで低下すると予測しており、このシナリオはますます現実味を帯びてきている。この事態を客観的に捉えるために、1980年以降、世界の経済成長率が2%を下回ったのはわずか4回しかないことを指摘したい。また、1950年以降、世界経済が景気後退に陥ったのは、2008年の世界金融危機と2020年の新型コロナウイルス感染症パンデミックの2回だけだ。もしイラン戦争がこれら2つの予期せぬ衝撃に並ぶ事態になれば、トランプとアメリカにとって、歴史的なオウンゴールとなるだろう。

アメリカの同盟諸国へのコストも考慮に入れるべきだろう。トランプ大統領は、ホルムズ海峡の強制的な再開と機雷除去のために、ヨーロッパのNATO同盟国に協力を求めた。しかし、支援が得られないことに気づくと、支援を要請したことを否定した。率直さで知られていないドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、アメリカはイランによって「屈辱を与えられた(humiliated)」と述べ、トランプ大統領を激怒させ、すでに緊張状態にあった両国関係をさらに悪化させた。ペルシア湾岸諸国では、アメリカに自国領土に軍事基地を建設するよう要請した国々が、なぜ自ら進んで標的になったのかと疑問を抱いている。例えば、カタールは戦前の天然ガス生産量に戻るには数年かかる見込みで、今年の経済成長率は8.6%のマイナスになると予測されている。ショックに耐える力が限られているアジアの同盟諸国は、アメリカが国際舞台でならず者国家なのではないかと疑問を抱いている。しかし、アメリカの敵対諸国は、この戦争を別の視点で見ている。中国は、アメリカ軍が過負荷状態に陥り弱体化したことを喜んでいるだろう。そして、ロシアはこの紛争の明白な勝者となり、開戦以来、月間石油収入を倍増させている。

トランプ大統領は、戦争をさらに強化するという選択肢を公然と検討している。しかし、それは以前にも増して不確実な利益と、はるかに大きな潜在的な苦痛を伴うだろう。この状況から抜け出す方法としては、外交が望ましいが、そもそもなぜ戦争を始めたのかという疑問が残る。これは、先週のトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談に立ち返る。もしあなたが北京の指導者だったら、最大の長期的競争相手が致命的な過ち(a catastrophic mistake)を犯している最中に、その邪魔をしたいと思うだろうか? 私はそのように考えない。

※ラヴィ・アグラワル:『フォーリン・ポリシー』誌編集長Xアカウント:@RaviReports

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ドナルド・トランプのイラン戦争はオウンゴール(Trump’s Iran Own Goal)

-イラン戦争は強硬派を勢いづかせ、重要な海上輸送路を封鎖し、ロシアの勢力を拡大させた。

ファリード・ザカリア筆

2026年4月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/04/03/trump-iran-war-israel-united-states-military-nuclear-weapons-missiles-winners-losers/

アメリカ・イスラエルとイランの戦争が始まって2カ月が経過した現在、現状を改めて確認しておく価値がある。2月末に戦争が始まる前のイランとその周辺地域の状況は以下の通りだ。

昨年6月、イランの核濃縮施設は、ドナルド・トランプ大統領の言葉を借りれば、アメリカとイスラエルの空軍によるステルス爆撃機と3万ポンド(約13.6トン)のバンカーバスター爆弾を用いた12日間の爆撃作戦によって「完璧に完全に破壊された(completely and totally obliterated)」。イスラエル国防軍司令官もトランプ大統領の意見に同意し、「私たちはイランの核開発計画を何年も遅らせた。ミサイル計画についても同様だ」と述べた。イスラエル原子力委員会もこの結論を改めて表明し、イランが核物質を入手しない限り、「この成果は無期限に続く」と付け加えた。そして、イランが核物質を入手することは積極的に阻止されていると強調した。

2024年にイスラエルが行った複数の空爆作戦により、イランの軍事力は大幅に弱体化していた。これらの作戦では、イスラム革命防衛隊の主要幹部が殺害され、防空システムが破壊され、弾道ミサイル施設が攻撃された。イスラエルはまた、イランの最も強力な同盟民兵組織であるヒズボラを激しく爆撃し、その指導部を複数殺害した。多くの分析によれば、ヒズボラの軍事力は壊滅的な打撃を受けた。イスラエルは既にガザ地区のハマスを壊滅させていた。さらに、シリア政府を支援していたイラン系民兵組織に対するイスラエルの作戦は、2024年12月のシリア政権崩壊の一因となった。

言い換えると、イランは軍事的に非常に劣勢な状況にあった。加えて、経済も制裁強化と腐敗した政権によって崩壊寸前だった。イランが近隣諸国、ましてや約6000マイル離れたアメリカにとって脅威であると主張する者はほとんどいなかった。トランプ大統領は水曜日、事実上これを認め、「アメリカは必ずしもそこにいる必要はないが、同盟諸国を支援するためにそこにいる」と述べた。注目すべきは、ヨーロッパやアジアの同盟諸国は事前に相談を受けておらず、多くの国が戦争に反対の声を上げている点である。

実際、報道によると、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がトランプ大統領にこの戦争を説得したのは、イランが差し迫った脅威だったからではなく、イランのかつてない弱体化が政権交代を迫る好機となったからだという。そうでなければ、トランプ大統領が開戦直後の短い声明を、イラン国民に立ち上がって政権を打倒するよう呼びかける言葉で締めくくった理由は何だろうか? ネタニヤフ首相も自身のメッセージで同様の呼びかけを行った。

これまでのところ、イランに壊滅的な打撃を与え、既に脆弱な軍事力を弱体化させたこと(このような一方的な戦いでは予想できたことだが)を除けば、望まれた成果はほとんど得られていない。イランの政権は崩壊していない。主要な指導者は交代したが、その内容は悪化している。核兵器開発を禁じたことで知られる86歳のアリ・ハメネイ師は殺害され、息子が後を継いだ。息子は父親よりも強硬派と言われている。概して、常に好戦的だった革命防衛隊は勢力を拡大しているように見えるが、これは戦時下においては当然のことと言えるだろう。

47年間にわたるアメリカ・イラン間の緊張関係の中で、数々の脅威にもかかわらず自由航行を維持してきたホルムズ海峡は、トランプ大統領が「はるかに理性的(much more reasonable)」と評する新指導部によって封鎖されている。トランプ大統領は、あと数回の爆撃の後、イランが自国の石油を輸出したがるため、海峡は「自然に(naturally)」開通するだろうと述べている。これは状況を誤解している。海峡は閉鎖されていない。イラン産原油は自由に、特に中国に向けて流れている。戦争の結果、イランは紛争前と比べて、日々の原油販売で約2倍の収入を得ている。さらに、タンカー1隻あたり200万ドルという通行料を徴収し続ければ、テヘランは毎月数億ドルもの追加収入を得ることになる。これは軍事力の再建に十分な額であり、それ以上の利益をもたらすだろう。

アメリカの湾岸同盟諸国は、戦争前よりもはるかに不安定で緊張した環境に直面している。彼らのビジネスモデルは、平和、安定、そして経済統合を必要としている。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子は、近代化という野心的な計画を推進するために地政学的な緊張を緩和しようと、2023年にイランとの関係を修復した。しかし現在、石油輸出が停滞し、地域が安定のオアシスへと向かう道筋から紛争のるつぼへと転落したことで、こうした進展はすべて危機に瀕している。

勝者がロシアであるのは明白だ。原油価格の高騰とアメリカによる制裁解除により、ロシアは毎月数十億ドルもの追加収入を得ることになる。ウクライナは必要な武器が中東地域に転用されるため、損失を被る。ヨーロッパはエネルギーコストの高騰に苦しむ一方、トランプ大統領はNATOにアメリカが起こした戦争への参加を要求し、従わなければ脱退すると脅迫している。(NATOは防衛同盟であり、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争、イラク戦争には参加していないことに留意すべきである。)アメリカが中東地域の新たな紛争に巻き込まれ、アジアへの関心を失うことで、中国は利益を得る。一方、北京はグリーンテクノロジーへの巨額投資によって、この戦争の多くのコストから守られており、世界からはより責任感があり、混乱を招かない超大国(a more responsible, less disruptive superpower)として認識されている。

もちろん、状況は変わる可能性がある。戦争は予測不可能(unpredictable)だ。しかし、これまでのところ、これほど多くのコストを費やして、これほど少ない利益しか得られなかったアメリカの軍事行動はかつてあっただろうか?

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、最近では『革命の時代(Age of Revolutions)』を著した。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
(貼り付け終わり)

(終わり)

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)

 2026年5月14日から15日にかけて米中首脳会談、20日に中露首脳会談が北京で実施された。アメリカのドナルド・トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーティン大統領が北京を訪問し、習近平中国国家主席が出迎える形となった。20世紀の第二次世界大戦後の世界を二分し、冷戦を戦った超大国である米露(旧ソ連)の最高指導者たちが21世紀の覇権国となる中国を訪問したことは歴史の皮肉である。中露首脳会談後、今度は中朝首脳会談の話が出てきた。習近平主席が7年ぶりに北朝鮮を訪問し、金正恩委員長と会談を持つということだ。トランプとプーティンを北京に来させた習近平がわざわざ北朝鮮を訪問するというのは、北朝鮮と金正恩委員長を尊重しているという外形を取りながら、中身は厳しい対処を行うということではないかと私は考えている。
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 それは、「北朝鮮は誰のおかげで存続できているのか」ということを改めて認識させるということだ。最近でいえば、ロシアと北朝鮮の接近ぶりが際立つ。北朝鮮はウクライナ戦争に北朝鮮人民軍を派遣し、多数の戦死者と負傷者を出している。その代わりにロシアから武器開発や資源などの支援を受けている。北朝鮮とロシアは北朝鮮の核開発でも旧ソ連時代から協力関係にある。ロシア(旧ソ連)は北朝鮮を中国に対する一種の牽制要員として利用している。しかし、実際に北朝鮮が国家として存続できているのは中国からの支援が大きい。そもそもが朝鮮戦争で鴨緑江まで追い詰められた北朝鮮に中国が人民義勇軍による支援を行ったことで、38度線付近まで押し返すことができた。中国側の膨大な死傷者や武器の犠牲があって北朝鮮の存立は守られた。北朝鮮のロシアへの接近は中国を苛立たせる。北朝鮮がロシアと接近することで中国の影響から脱しようという動きは中国としては許せないことになる。そのために、あくまで北朝鮮のメンツをつぶさない形で、北朝鮮に釘を刺すということになる。
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 中朝露の関係が今は中国とロシアが接近していることで二等辺三角形になっている。これでは下がぐらつくことで関係が安定しない。あくまで正三角形にならねばならない。そのための動きであると私は考えている。

(貼り付けはじめ)

習近平国家主席がトランプ退任後を見据えて外交攻勢を加速させている(Xi’s Flurry of Post-Trump Diplomacy)

-中国の習近平国家主席は異例かつ重要な北朝鮮訪問の準備を進めている可能性がある。

リシ・イエンガー筆

2026年5月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/22/xi-north-korea-putin-trump-beijing-visit/

中国の習近平国家主席は、ドナルド・トランプ米大統領と(多額の費用をかけずに[without breaking the bank])北京での初会談を行った(breaking the ice)わずか数日後、より長年のパートナーとの関係に目を向けた。

習主席は火曜日、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領を北京に迎え、実質的でより友好的な会談を行った。中露両首脳は、中国とロシアの「永遠に続く友情(everlasting friendship)」をテーマにした写真展に出席し、原子力エネルギーからヒョウ、パンダ、サルなどの保護に至るまで、あらゆる分野で「協力を深化させる(deepen cooperation)」ことを誓う長文の共同声明を発表した。また、トランプ大統領が提案したゴールデンドームミサイル防衛システムを「戦略的安定に対する明白な脅威(clear threat to strategic stability)」と名指しし、米露核兵器条約(新戦略兵器削減条約[New START])の失効を容認したトランプ大統領の「無責任な政策(irresponsible policy)」を非難した。

しかし、この包括的な会談は、全く予想外という訳ではなかった。習近平国家主席は、プーティン大統領の中国公式訪問が25回目であることに触れ、中露両国が築いてきた緊密なパートナーシップを強調した。

しかしながら、習主席はプーティン大統領の訪問に続き、さらに稀で重要な外交的行動を計画している可能性がある。複数の報道によると、習主席は数日中、早ければ来週にも北朝鮮を訪問する準備を進めているという。中国は公式には訪問を発表しておらず、在ワシントン中国大使館もコメントを拒否している。

もし実現すれば、習主席の北朝鮮訪問は、中国の最高指導者となって2度目、そして7年ぶりとなる。中朝両国は何十年にもわたり緊密なパートナーシップを築いてきた。北朝鮮の貿易のほぼ全ては中国とのものであり、北朝鮮は中国が相互防衛条約(a mutual defense pact)を結んでいる世界で唯一の国である。

しかし、北朝鮮とロシアの緊密化、特にウクライナにおけるロシアの戦争への軍事支援は、中国の立場をやや後退させている。北朝鮮の金正恩委員長とプーティン大統領は2024年に独自の相互防衛条約を締結した。

ワシントンのブルッキングス研究所の上級研究員で、SK-コリア財団韓国研究講座担当のアンドリュー・ヨーは、「習近平国家主席は、モスクワと平壌の強固で深まる関係にあまり乗り気ではないという見方がある。北朝鮮に対する影響力を失うリスクがあるため、中国は自国の存在感を維持したいと考えている」と述べている。

ヨー続けて次のように述べている。「中国は不安定性(instability)も懸念している。独自の路線を歩む北朝鮮にロシアの兵器や技術が渡れば、不安定化を招く可能性がある。中国が最も恐れているのはまさにその点であり、だからこそ北朝鮮が自国の勢力圏(orbit)に留まるようにしたいと考えている」。

中国が北朝鮮との関係強化を図る動きは、昨年1年間で勢いを増している。昨年9月には習近平国家主席が北京で行われた軍事パレードに金正恩委員長(プーティン大統領も同席)を迎え入れた。また、王毅外相も先月、北朝鮮の首都平壌を訪問し、金委員長と会談した。その中で、中朝両国が「主要な国際問題および地域問題について意思疎通と連携を強化する」必要性を強調した。

北朝鮮外交に関心を示す最近の訪問客は、プーティン大統領だけではない。トランプ大統領は政権復帰後、2019年の金委員長との歴史的な会談を再現したいと繰り返し示唆してきた。昨年、トランプ大統領は何度か金委員長と「会いたい」と述べ、先週、北京で習主席と北朝鮮問題について話し合ったことを記者団に明らかにした(ただし、会談内容の詳細は明らかにしなかった)。

しかし、北朝鮮はトランプ政権1期目、金正恩委員長がトランプ大統領と3度会談した時よりもはるかに自信に満ち、強硬な姿勢を見せている。この自信は、ロシアからの支援に加え、サイバー攻撃で数十億ドル相当の仮想通貨を奪取し、国際的な制裁を乗り切るための資金源としていることも一因だ。バイデン政権の国家安全保障会議で東アジア・オセアニア担当上級ディレクターを務めたミラ・ラップ=フーパーは、こうした状況も平壌と北京の関係に影響を与えるだろうと指摘する。

ラップ=フーパーは次のように語っている。「北朝鮮はここ2年間、ここ数十年で最も自信に満ち、制約の少ない立場にある。近年、北朝鮮にはほとんど焦りの兆候が見られない。北朝鮮が望んでいるのは、中国との関係をより強固なものに再構築することだろう。つまり、北朝鮮はもはや従属的なパートナー(a junior partner)や副官(a sheriff’s deputy)のような存在ではなく、中国・ロシア間のパートナーシップにおいて、より対等な立場に立つことを目指している」。

一方、中国の野心ははるかに広範で、よりグローバルなものだ。習近平国家主席の活発な外交活動は、世界における中国の地位と国際社会における台頭を示すシグナルを送るためだ(彼は将来のアメリカ軍の北京訪問についても強硬な姿勢を示している)。

オバマ政権、第一次トランプ政権、バイデン政権を通じて、国家安全保障会議や国務省などでアジア担当の政府高官や外交官を務めたダニエル・クリテンブリンクは、「ここで重要なのは、中国が世界の舞台でリーダーシップを発揮しようとしていることであり、個々のやり取りに焦点を絞りすぎるのは避ける必要がある」と述べた。

現在、ワシントンに拠点を置く地政学コンサルティング会社であるアジア・グループのパートナーを務めるクリテンブリンクは、3月の北京訪問時にその雰囲気を肌で感じたと述べ、トランプ大統領とプーティン大統領による相次ぐ首脳会談によってその思いはさらに強まったと述べた。クリテンブリンクは次のように述べている。「中国の自信はかつてないほど高まっている。国際情勢が中国に有利に働き、中国の時代が到来し、中国はそのチャンスを活かさなければならないという確信を持っている。こうした変化の多くは不安を掻き立て、混乱を招くものだが、それでも中国指導部からは公私ともに、中国はこれらの課題全てに対する解決策を持っており、その解決において中国が中心的な役割を果たすだろうというメッセージが伝わってきたように感じた」。

習近平国家主席の平壌訪問は、主に二国間関係の強化とロシアとの関係調整を目的としたものとなるだろうが、同時に、中国が不可欠なグローバルプレーヤーとしての地位を確立しようとする、より広範な動きの一環でもある。

ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センター所長ライアン・ハスは次のように述べている。「2026年前半、北京は世界外交の中心地(the center of gravity for global diplomacy)となった。北京は、国際秩序の維持に努める予測可能な主体として自らを位置づけている。中国は、世界の舞台で外交的影響力を蓄積するために、アメリカとの対比を巧みに利用している」。

※リシ・イエンガー:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター。Blueskyアカウント:@iyengarish.bsky.social、Xアカウント:@Iyengarish Instagram: @iyengar.rishi

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 私は昨年11月末に著書『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』を出した。著作の中で私は次のように主張した。ピーター・ティール率いるビッグデータ分析やAI開発のパランティア・テクノロジーズ社、イーロン・マスク率いる宇宙開発のスペースX社、パルマー・ラッキー率いるドローン開発のアンドゥリル・インダストリーズ社が「新・軍産複合体(Neo Military-Industrial Complex)」を形成し、アメリカ政府とアメリカ軍に食い込む形で、大型契約を締結し、巨額の利益を生むということになる。その具体例が「ゴールデンドーム」という、ドナルド・トランプ大統領が発表した、アメリカ全土を防衛するシステムである。このシステムの重要な点は、長期契約(サブスクリプション契約)によって、長期にわたり、巨額の利益を上げる点にある。そして、彼らは大規模な戦争を忌避するだろう。新・軍産複合体は長期契約で利益を上げるが、米中衝突などの大規模な演奏は望まないし、そのようなことになったら、技術提供を止めるなどして阻止することになるだろう。


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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

 今回のイラン攻撃は大規模攻撃である。私の主張の一部は外れているという指摘があるだろう。しかし、今回のイラン攻撃について、イスラエルとアメリカの目論見は、最初の一撃でイランを屈服させるというものであった。しかし、それが外れてしまい、大規模化、長期化せざるを得なくなった。アメリカはこのような形になることを望んでいなかったし、想定していなかった。

 以下の論稿は、私の主張の正当性を担保してくれる内容になっている。「サブスクリプション」という言葉も出てくる。最先端の高度技術を提供する民間企業が政府の政策遂行、軍の作戦遂行においてイニシアティヴを取るという時代がそこまで来ている。最後に宣伝になって恐縮だが、是非、拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』をお読みください。よろしくお願いいたします。

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スターリンクは地政学を民営化した(Starlink Has Privatized Geopolitics)

-ウクライナからイランまでイーロン・マスクのサーヴィスは外交政策の仲裁者(an arbiter)となった。

ロバート・ムガー、ミシャ・グレニー筆

2026年3月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/20/starlink-spacex-musk-geopolitics-war-ukraine-russia-iran/

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ウクライナのドネツクで戦闘任務中にウクライナ兵がスターリンク衛星モデムを調整している(2025年3月12日)

スターリンクは単なる商用通信サーヴィスではない。それは、戦争をいかに戦われるか、国内の混乱へ国家は以下に対処するか、そして政府の統治が及ばない分野において犯罪組織が如何に活動するかについて、ますます左右する戦略的インフラ(strategic infrastructure)になっている。スターリンクが政治的にこれほど重要な意味を持つのは、その地球規模のネットワーク網だけでなく、その背後にあるガヴァナンスモデルにもある。

今や民間企業が軌道上のゲートキーパーとなり、誰が、どこで、どのような条件で、どのような技術的制約の下で接続できるかを決定する役割を担っている。多くの紛争において、こうした決定は軍事的、政治的な影響を及ぼし、国家はそれを再現したり制御したりすることが困難になっている。多くの戦略的サプライチェインが民間企業に依存している現状において、スターリンクは公共の安全保障機能に対する民間企業の裁量権が極めて集中している事例と言えるだろう。

スターリンクの地政学的な重要性は、その規模に比例する。2025年12月中旬時点で、軌道上には9357基のスターリンク衛星が存在していた。 2026年1月、アメリカ連邦通信委員会(FCC)はスペースXに対し、第2世代衛星7500基の追加配備を承認した。これにより、スペースXの衛星総数は約17000基となる。スペースXは以前から、最大42000基の衛星運用を目指すという野心を表明してきた。

スターリンクのサーヴィス提供範囲も拡大している。現在、160の市場でサーヴィスを展開しており、その決定に対処しなければならない軍、通信規制当局、法執行機関の数も増加している。競合他社と比較すると、スターリンクの圧倒的な優位性はより明確になる。低軌道における最大のライヴァルであるユーテルサット・ワンウェブ(Eutelsat OneWeb)は約650基の衛星を運用している一方、アマゾンのカイパー衛星群(Amazon’s Kuiper constellation)は2月時点でわずか200基強にとどまっている。スターリンクは事実上の独占状態にあり、当面の間、競合相手は存在しないことになる。

スターリンクは現在、世界中で1000万人以上のアクティヴユーザーを抱えていると発表しており、スペースXは2026年末までにその数を倍以上に増やすことを目標としている。その成長は、米国のT-Mobileをはじめとする携帯電話事業者との提携によってさらに加速しており、ドイツテレコムは2028年からヨーロッパでスターリンクを利用した衛星通信サーヴィスを開始する予定だ。

スターリンクの商業的な強みは、地上基地局や光ファイバー網が届かない農村部、遠隔地、災害被災地への接続にある。しかし、こうした重要な通信レイヤーを支配することで、スターリンク社は地政学的に大きな影響力を持つことになる。特に紛争、緊急事態、そして接続性が軍事、政治、人道的な結果を左右するあらゆる状況において、その影響力は顕著になる。

ウクライナ情勢は、スターリンクが戦場の通信にどのような影響を与え、戦略的な依存関係を生み出すかを示す、これまでで最も明確な事例と言えるだろう。2022年のロシアによる本格的な侵攻で地上ネットワークが機能停止した後、ドローン、分散型指揮、迅速な標的設定サイクルが特徴的なこの戦争において、スターリンク端末は運用インフラとなった。2025年初頭までに、ウクライナは少なくとも4万7000台のスターリンク端末を確保したが、その大部分はポーランド、ドイツ、アメリカ、そしてスペースX自身を含むパートナー国政府やその他の支援国から供給されたものだった。安定したモバイル帯域幅がなければ、ウクライナ軍はドローン映像の送信、兵站の調整、そしてこの紛争の特徴である分散型火力支援ネットワークの維持ができなかった。これらの端末は単なる利便性ではなく、効果的な抵抗のための必要条件だったのだ。

この依存関係は即座に攻撃対象領域を生み出した。ロシア軍は第三者ルートを通じてスターリンクへのアクセス権を取得したと報じられており、2024年にはロシア支配地域におけるスターリンクネットワークの利用が繰り返し懸念事項となった。問題は深刻で、スペースXとウクライナ国防省は不正接続を抑制するために認証管理を導入した。ウクライナ当局は、前線におけるロシア軍の利用が阻害されたと述べ、軍事顧問たちは、この影響はロシア軍の作戦にとって重大な後退であると評した。

この一連の出来事は示唆に富む。企業内のエンジニアが商業アクセスに関する方針に基づいて下した決定が、実戦中の戦争における戦術的バランスを崩した。条約による承認も、議会での採決もなかった。その決定を左右したのは、一企業の利用規約(a firm’s terms of service)だった。

戦略的、地政学的な側面はさらに深刻だ。2025年初頭、アメリカの交渉担当者は、ウクライナが重要な鉱物資源に関する合意を受け入れなければ、スターリンクへのアクセスを制限するとア圧迫を与えたとされる。スペースXのオーナーであるイーロン・マスクは関連性を否定したが、圧迫の信憑性と、それがキエフにもたらした不安は、その具体的な内容よりも重要だった。

すでに前例があった。2022年、マスクは、ロシア占領下のクリミア半島近辺でのスターリンクの通信網をウクライナ海軍のドローン作戦支援のために提供することを拒否したと報じられている。その理由として、事態のエスカレーションに関するリスクについて個人的な見解を挙げた。民間供給業者が個人的な直感に基づいて、最前線の国家が実施できる作戦を決定できる場合、その関係はもはや商業的なものではなくなる。それは主権の委譲であり、説明責任を負わない行政機関によって行使される戦略的機能である。

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衛星放送受信アンテナが点在するテヘラン中心部の住宅街の窓(2026年1月20日)

イランは、スターリンクの地政学的影響を示すもう1つの事例である。2026年1月に大規模な抗議デモが発生した後、イランの政権は史上最長かつ最も厳しいインターネット遮断を実施し、国内の接続率を通常の約4%にまで低下させた。近年、密輸され闇市場で取引された数万台のスターリンク端末は、弾圧の様子を外部に伝える重要な経路となったようだ。イラン国内の利用者には利用料が免除されたと報じられており、トランプ政権はスターリンク端末約6000台を密かにイランに持ち込んだ。これらの端末は単なる消費財としてではなく、アメリカの外交政策の手段として利用された。

テヘランの対応は前例のないものだった。政府当局は、地上妨害装置、GPSスプーフィング装置、携帯電話妨害装置を各地域に配備した。報道によると、治安当局は戸別訪問による捜索を行い、ドローンや情報提供者を使って衛星アンテナや端末の位置を特定し、利用者をスパイ容疑で告発した。イラン議会は既に、スターリンク端末の無許可所持・使用を犯罪と定めており、軽微な違反には懲役刑、スパイ行為や協力行為には死刑を含むさらに厳しい刑罰を科すことを規定していた。イランは国際電気通信連合(ITU)に対し、スターリンクが国家主権を侵害しているとして正式に提訴していた。

第2段階は2月28日に始まり、アメリカとイスラエルがイランの軍事施設、核施設、政府機関を標的とした共同攻撃を開始した。最高指導者アリ・ハメネイ師の暗殺は、イランによるイスラエル、中東各地のアメリカ軍基地、湾岸諸国、その他複数の国へのミサイルとドローンによる報復攻撃を引き起こした。イラン国内の通信状況はさらに悪化し、通常の約1%にまで低下した。

この段階において、スターリンクの役割はまさに矛盾をはらんだものとなった。密輸された端末によって、一部のイラン人は政府庁舎への攻撃を記録し、通信規制の努力にもかかわらず映像を拡散することができた。しかし、衛星通信へのアクセスは反体制派に限られていた訳ではないようだ。従来のネットワークが劣化するにつれ、スターリンクは国家と関係のある主体によっても利用された可能性がある。サイバーセキュリティ研究者たちは、インターネット遮断期間中、イラン情報保安省に関連する一部の活動がスターリンクのIPアドレス範囲から発信されていたと指摘している。同時に、イラン政府当局は検閲を回避しようとする市民によるスターリンクへのアクセスを妨害または低下させていたと報じられている。

また、別のサイバーセキュリティグループは、スターリンクを装った罠を利用した監視マルウェアを特定した。これは、同じ通信プラットフォームが抗議活動参加者、監視活動者、そして国家と関係のあるサイバー攻撃者によってどのように利用されうるかを示している。

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カリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられた28基のスターリンク衛星を搭載したスペースX社のファルコン9ロケットが上昇している(2025年9月28日)

米国防総省は、イランを、低軌道システムが持続的な電子妨害や戦時下の混乱下でどのように機能するかを示す好例として捉えている。持続的な圧力によってスターリンクの耐障害性が著しく低下する可能性があるならば、例えば台湾におけるスターリンクの役割を支える前提は見直される必要がある。これはシステムの有用性を損なうものではない。単に、ネットワークが宇宙空間にあるというだけで耐障害性が保証される訳ではないことを意味する。

スターリンク技術は、犯罪組織や反乱組織のネットワークにも浸透しつつある。犯罪組織は、分散型通信の力を活用して作戦を遂行しようとしている。統治能力が低く、スペースXに対する影響力も乏しい脆弱な国家にとって、課題は喫緊の課題だ。通信網が地上の基地局やケーブルではなく、上空から提供されるようになると、遠隔地や紛争地域でのアクセス規制が困難になり、民間事業者がどのような条件で協力してくれるのかを交渉することもさらに難しくなる。

ブラジルのアマゾン熱帯雨林は、その具体的な例を示している。2025年6月、ブラジル連邦検察庁は、違法採掘や犯罪行為におけるスターリンクサーヴィスの利用を抑制するため、スターリンクと協定を締結した。この協定では、アマゾン地域における新規利用者に対し、身分証明書と居住証明の提出を義務付け、捜査対象となっている端末に関するデータをブラジル当局と共有することを認めている。また、違法行為に関与している疑いのある端末については、サーヴィスが停止される可能性がある。ブラジル環境庁の作戦調整官であるヒューゴ・ロスは、犯罪組織がスターリンクを利用して取締チームのリアルタイム位置情報を送信し、摘発を予測したり、現場の職員の安全を脅かしたりしていたことを指摘している。ブラジルは実行可能な合意を取り付けたものの、それは問題が環境犯罪の現場に深く根付いた後のことだった。

メキシコの組織犯罪の状況は、関連するリスクを示唆している。麻薬カルテルは、アメリカ国境沿いで拡大する技術軍拡競争の中で、密輸、監視、治安部隊への攻撃にドローンを活用している。このエスカレーションは、今や民間空域管理にも波及している。2026年2月、アメリカ連邦航空局(FAA)は、アメリカの対ドローン対策の展開への懸念から、テキサス州エルパソ周辺の空域を突然閉鎖したが、数時間後に制限を解除した。この一件は、犯罪組織によるドローンの脅威が、戦術的な安全保障対応だけでなく、深刻な外交的・航空的混乱を引き起こしかねないことを示した。

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左:メキシコ陸軍の対ドローン特殊部隊がメキシコ・ナウカルパン州で報道陣向けにデモンストレーションを行った(2026年2月17日)右:チャド・アドレの難民キャンプで、仮設小屋の横に設置されたソーラーパネルがスターリンク回線に電力を供給している(2026年2月19日)

アフリカのサヘル地域では、状況はさらに深刻だ。イスラム国家ジャマート・ナスル・アル・イスラム・ワル・ムスリミン(JNIM)やイスラム国西アフリカ州(ISWAP)などの反政府勢力は、リビアとナイジェリアからマリ、ニジェール、その他の紛争地域へとスターリンク機器の違法な供給網を構築している。2024年6月、JNIMはマリのガオ地域での作戦中にスターリンク端末が使用されている様子を映した動画を公開した。昨年(2025年)、ナイジェリア軍はボコ・ハラムに対する襲撃作戦で、サンビサ森林地帯の司令官からスターリンクの機器を押収した。

2025年を通して、ジハード主義グループは衛星通信をますます活用し、分散した部隊の連携、プロパガンダの配信、そして地上ネットワークに対する国家統制によって恩恵を受けていた傍受型監視の回避を図った。ニジェールとチャドは監視体制強化のため、2025年初頭にスターリンクの合法化と規制に着手したが、密輸ネットワークは今後も存続する可能性が高い。

スターリンクは宇宙分野における唯一の存在ではない。商業宇宙セクターは、国​​家防衛と軍事力にとってますます重要な役割を担うプレーヤーで溢れている。その結果、各国が同時に受け入れ、統制しようとする戦略的サーヴィスの市場が拡大している。通信分野では、イリジウムが防衛通信に深く根付いている。2024年、スターリンク社は合えりか宇宙軍と、高度なモバイル衛星サーヴィスとその維持管理に関する5年契約を発表した。これは、見通し外通信における商用プロバイダーへの依存が続いていることを示している。

ユーテルサット・ワンウェブとアマゾンのカイパー衛星群も防衛・政府市場で競合しており、ヨーロッパ連合(EU)のIRIS2構想は、EUの主権能力強化への野心を反映している。マクサール(Maxar)、プラネット(Planet)、ブラックスカイ(BlackSky)の商用画像データは、カペラ(Capella)とICEYEのレーダーデータとともに、軍事目標設定と状況認識に組み込まれている。

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ウクライナのロボティネ近郊の最前線の雪原に立つスターリンクデヴァイス。ドローン偵察・攻撃部隊の一部(2024年1月23日)

近年の紛争は、こうした仕組みをさらに深化させている。商用衛星、端末、データ契約は、今や軍事サプライチェインの一部となっている。そして、弾薬や防空システムと同様に、政治的圧力によってその供給が制限、転用、あるいは兵器化される可能性がある。商用宇宙は、国家が権力を行使し、また抑制する手段の一部になりつつある。

イランが最も鮮明に露呈させたのは、ウクライナやその他のスターリンク利用事例で部分的にしか明らかにならなかった統治上の欠陥である。国際人道法は、国家に対し軍事目標と民間目標を区別することを求めているが、午前中に反体制派に利用されていた端末が、午後には軍事攻撃を支援するために利用される可能性もある。

国連憲章の下で、商用衛星ネットワークの妨害行為を武力行使とみなすべきかどうかを判断するための、確立された国際的な枠組みは存在しない。商用機器の秘密裏の配備が情報戦行為に該当するか否かを規定する規則もない。CEOの意見が戦場の結果を左右する場合、民間事業者の責任を問う仕組みも存在しない。また、リアルタイムで民生用と軍事用を行き来するシステムを運用する商用衛星事業者の義務についても、明確な合意は得られていない。

戦略的な接続性は、もはや地理的な問題ではなく、ガヴァナンスの問題となっている。帯域幅は軌道上から供給され、情報はサブスクリプション方式(subscription)で購入される。主権(sovereignty)は、民間企業との関係、交渉によるアクセス協定、そして争点となる技術的設定を通じて、ますます行使されるようになっている。商用衛星インフラを、それに伴う規律、冗長性、そして法的枠組みといったあらゆる要素を含めた戦略的依存関係として扱わない国家は、危機に際して、その依存関係が他国によって管理されることを覚悟しなければならないだろう。

スターリンクの新たな地政学は既に始まっている。問題は、各国がそれを統治するのか、それとも単に反応するだけなのか、ということである。

※ロバート・ムガー:「セクデヴ」グループ最高責任者、イグナイト研究所共同創設者、ロバート・ボッシュ・アカデミー研究員。著述家であり、イアン・ゴールデンとの共著『未知の地:今後100年を生き抜くための100枚の地図(Terra Incognita: 100 Maps to Survive the Next 100 Years)』がある。Xアカウント:@robmuggah

※ミシャ・グレニー:人間科学研究所所長。多くの著作があり、『マクマフィア:深刻な組織犯罪(McMafia: Seriously Organised Crime)』と『宿敵:ブラジル最重要指名手配犯の追跡(Nemesis: The Hunt for Brazil’s Most Wanted Criminal)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は2022年2月24日の開戦から丸4年が過ぎようとしている。停戦の兆しは見えていない。戦線は膠着し、打開策は今のところない。アメリカのドナルド・トランプ大統領は自身が二期目の大統領になれば24時間以内に停戦させると豪語したが、1年が経過しても戦争は終わっていない。アメリカとヨーロッパ諸国、日本などの西側諸国はロシアに対して制裁を加え、ウクライナに支援を行っているが、屁のツッパリにもなっていない。ウクライナが本気で停戦に臨まない程度に助けながら、戦争を続けさせている。なんと残酷なことだろう。トランプ大統領はアメリカのウクライナ支援に批判的であったが、政権発足後は支援を続けている。

 こうした中で、ヨーロッパ諸国の中で、アメリカに交渉の仲介を任せていても埒が明かないので、直接自分たちでプーティン大統領と交渉しようという動きが出ている。アメリカは頼りにならないということだ。アメリカに任せていては自分たちもいつまでもお金を出し続けねばならない。それは馬鹿げたことである。

更に言えば、ヨーロッパ諸国はロシアと完全に切れている訳ではないということを以下の論稿で知り、呆れるばかりだ。ヨーロッパの多くの企業はロシアでビジネスを続けており、ロシアからの資源も買っているということだ。それでいて、表ではロシアを非難し、ウクライナを助けるとしているが、決して軍隊を送ったり、強力な武器を送ったりはしていない。表向きの言葉だけは立派で勇ましいが、ヨーロッパ諸国はロシアと完全に切れてしまえば、自分たちの経済にも影響が出ると懸念して、自分たちで抜け穴を作り、ロシアとの関係を継続している。日本企業に対してロシアでのビジネスを行うなという圧力をかけてきて、自分たちはビジネスを続けている。ヨーロッパ諸国の見かけだけは立派だが実際の汚さには呆れ果てるしかない。口だけ勇ましいだけの役立たずである。

 それでも、アメリカ型よりならないと気づくだけでもまだましである。日本はアメリカに従属し尽くしてそのようなことを考えつくことすらできない。そして、アメリカの奴隷を続けて、悦に入って喜んでいる。ヨーロッパはその点では日本よりは優れている。比べる基準が低すぎるのでk褒められてもうれしくないだろうが。

 戦争をここまで長引かせたことを反省し、一日でも早く平和と安定が戻すことはヨーロッパ諸国に課せられた義務であり、世界に対する責務である。アメリカが全く頼りにならない今、ヨーロッパが動くのは当然のことだ。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはウラジーミル・プーティン大統領への依存の準備を進めつつある(Europe Is Getting Ready to Pivot to Putin)

-ヨーロッパの指導者たちはアメリカの圧力に直面しロシア大統領への働きかけを検討している。

アンシャル・ヴォ―ラ筆Anchal Vohra

2026年2月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/02/06/europe-russia-putin-trump-pivot-detente/

ヨーロッパの高官たちは『フォーリン・ポリシー』誌に対し、1月にスイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムに出席した際、アメリカ側とウクライナ和平交渉の現状について協議する時間があると考えていたと語った。しかし、実際には、グリーンランドをめぐるNATO加盟国との軍事衝突を回避することに集中せざるを得なかった。

その後、ヨーロッパではプランBの必要性が議論されている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領とイタリアのジョルジア・メローニ首相は共に、ヨーロッパが特に安全保障上不可欠な事項において、アメリカへの依存をゆっくりと、しかし確実に減らそうとする中で、ロシアとの直接交渉を追求している。

エマニュエル・マクロン大統領は2025年12月下旬、ヨーロッパはロシアと「適切に協議するための適切な枠組みを見つける(find the right framework to talk properly)」必要があると述べ、アメリカがロシアとウクライナの和平交渉を主導する中で欧州が後部座席に座っている現状は「理想的ではない(not ideal)」と述べた。

「ウラジーミル・プーティン大統領と話すことはまた有益になるだろう」とマクロンは付け加えた。メローニは、ロシア大統領と話す「時が来た(the time has come)」と考えていると述べた。メローニは、「ヨーロッパが現場の二者のうち一方とだけ話せば、貢献できる範囲が限られてしまうのではないかと懸念している」とも述べた。

主要問題に関するEU加盟27カ国の合意形成を担う欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は、1月27日、フォーリン・ポリシー誌を含む少数の記者団に対し、アメリカ主導の協議を阻害する可能性のある並行プロセスは支持しないものの、ヨーロッパは必要であればロシアと交渉する用意ができていなければならないと述べた。

ヨーロッパの戦略転換は、ドナルド・トランプ米大統領自身によって引き起こされた。トランプ大統領は、ヨーロッパの安全保障に直接関わる和平案を策定する中で、ヨーロッパを交渉の場から排除しただけではない。ロシア・ウクライナ戦争に関するトランプ大統領の28項目の和平提案は、ロシアを世界経済に再統合することを提案し、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によると、西ヨーロッパへのロシアのエネルギー供給の流れを回復することを約束した。

専門家たちはフォーリン・ポリシー誌に対し、トランプ政権の最初の計画は、パリ、ブリュッセル、ベルリンとの事前協議なしに、ロシアがヨーロッパに保有する凍結資産をアメリカとロシアの企業に利益をもたらすプロジェクトに活用することをモスクワに約束していたようだと語った。

ヨーロッパは岐路に立たされている(at a crossroads)。ロシアとの取引をトランプに委ね、結果に確信を持てないままにするか、それとも現実的なアプローチを取り、関係がかつてないほど悪化しているに中ではあるが、プーティン大統領に直接働きかけるかだ。

ウクライナ侵攻とNATO領土への脅威となるドローンの継続的な使用の後、ロシアとの関係回復というアイデアをヨーロッパは快く思わないかもしれないが、いかなる取引においてもこれが避けられない結果となる可能性があることを認識している。そして、彼らは既にその可能性を示唆している。トランプ政権の28項目の計画に対する最初の反応として、ヨーロッパ諸国が支持する提案は、経済関係に関する条項を書き換え、ロシアは「徐々に(progressively)」世界経済に再統合されると述べている。

EUによる制裁で起きる経済的締め付けと、管轄権下にある数十億ドル規模のロシアの凍結資産は、ヨーロッパ諸国にとって重要な交渉材料となる。つまり、EUは独自の合意を締結できる。しかし、ヨーロッパ諸国は、段階的かつ限定的な救済措置、つまりロシアの行動改善に対する段階的な報酬を望んでいる。プーティン大統領との交渉でトランプ大統領が譲歩するような形での譲歩ではない。

貿易専門家たちは、EUが潜在的な合意において有利な条件を模索する一方で、多くのヨーロッパ諸国はロシアとの貿易関係を完全に断絶しておらず、公式発表と実際の経済政策の間に深刻な乖離が生じていると指摘している。

制裁を含む国際貿易法の遵守について企業や個人に助言を行うダルシャク・S・ドラキアは、フォーリン・ポリシー誌に対し、EUのこれまでの戦略は「離脱(exit)」というよりは「ロシアとのビジネス関係の一時停止(“more of a pause” in business relations with Russia)」を反映したものだと述べている。ドラキアは、交渉が加速するにつれ、「アメリカとヨーロッパのビジネス界は、貿易関係の再開に大きな期待を抱いている(there is a lot of hope in the business community in the U.S. and in Europe that trade ties can be resumed)」と付け加えた。

ロシアによるウクライナ侵攻にもかかわらず、数千ものヨーロッパ企業がロシアから撤退しなかった。その理由として、法的障壁、現地での雇用義務、そして利益率を挙げた。ロシアにおける外国企業を追跡するプロジェクト「リーヴ・ロシア(Leave Russia)」によると、2300社以上の外国企業が何らかの形でロシアに残ることを決定した一方、完全に撤退したのはわずか547社だった。EU加盟国の中では、ロシアに残ることを選択した企業、あるいはまだ完全に撤退していない企業の中で、ドイツ企業が最も多く、377社だった。一方、撤退したのはわずか83社だった。フランスはドイツに次いで、完全に撤退した企業はわずか39社だった。一方、147社は何らかの形で事業を継続している。イタリア企業は140社以上が現在もロシア国内で事業を継続しているが、完全に撤退したのはわずか8社だった。

キエフ経済大学の開発副部長であり、「リーヴ・ロシア」プロジェクトの責任者でもあるアンドリー・オノプリエンコは、フォーリン・ポリシー誌に対し、ロシアで依然として事業を展開している多くの企業は「評判や倫理上の懸念よりも経済の継続性を優先し、EUの制裁目標への政治的整合性よりも、契約、株主の利益、法的複雑さといった観点​​から意思決定を行っている」と述べた。

オノプリエンコは続けて、「この傾向は、商業的インセンティヴが、完全な撤退を求める政治的要請を上回り続けていることを示唆している」と述べた。

EUの限界は長らく露呈しており、既存の制裁措置に様々な例外を認め、ロシア企業への対応は遅々として進んでいない。本格的な戦争勃発以降、EUは19の制裁措置を打ち出してきたが、そのたびに対象国を増やし、圧力を強めてきたものの、完全には行き届いていない。

ドラキアは次のように述べた「ヨーロッパはロシアの銀行への制裁から始め、その後、エネルギー輸入への制裁を徐々に強化してきた。これは主に、全てを尽くすこと、そしてロシアをイランや北朝鮮のような完全な禁輸国にしないことが目的だった。政治的には見苦しいが、ロシアを孤立させてのけ者(a pariah state)にするのではなく、何らかの圧力をかけ続けられるよう、統合を維持することが狙いだった」。

しかし、EUが課した財政的圧力は抑止力としては不十分だった。おそらく、ヨーロッパがロシア経済に数十億ドルもの資金を注ぎ込み続けたためだろう。スウェーデンのマリア・マルマー・ステネルガルド外相によると、EUは2022年以降、ロシアに輸入代金として3110億ユーロ(3667億ドル)を支払い、同期間にウクライナに1870億ユーロ(2205億ドル)の援助を行っている。

EUはパイプラインによるガス輸入を大幅に削減したが、液化天然ガス(LNG)輸入は2021年の20%から翌年には15%に減少したものの、2024年には戦前の水準まで回復した。2025年には、EUは依然としてLNG総輸入量の13%をロシアから輸入していた。

EUは依然としてロシアからの肥料輸入に依存している。EU全体の肥料輸入量に占めるロシアの割合は2025年第3四半期に13%に低下したが、ロシアは依然としてEU第2位の供給国だ。また、ロシア製の鋼板は依然として現地子会社を通じてEU内で販売されている。

ウクラインスカ・プラウダ紙の調査によると、ロシアのオリガルヒであるウラジミール・リシンが主権を握るノボリペツク・スティール(NLMK)は、複数のヨーロッパ諸国に鋼板を輸出し続けている。ウクラインスカ・プラウダ紙は、ノボリペツク・スティール(NLMK)はロシアの防衛サプライチェインに深く関わっており、ドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルの製造会社を含むロシアの防衛部門の少なくとも22の施設に供給していると報じた。ノボリペツク・スチールとリシンはいずれもEUから制裁を受けていない。

ロシア・リーヴキャンペーンのオノプリエンコは次のように述べた。「ノボリペツク・スティール(NLMK)はEU理事会の制裁基準を満たしていないと判断された可能性がある。大手鉄鋼メーカーはEU諸国に経済的な足跡を残しており、雇用やヨーロッパのサプライチェインへの相互影響なしに単純な制裁を課すことは困難だ」。

ノボリペツク・スティール(NLMK)の関係者は匿名を条件にフォーリン・ポリシー誌の取材に応じ、EUは子会社が操業するベルギーなどの国々で雇用喪失の可能性に対する圧力に晒されていると語った。

さらに、ロシアのエネルギー大手ルクオイルは、これまでのところEUによる全面的な禁輸措置や資産凍結を免れている。前述のドラキアは次のように述べた「アメリカはルクオイルに全面的な制裁を課しているが、EUはルクオイルの子会社1社のみに制裁を課しており、ルクオイル自身には制裁を課していない。多くのヨーロッパ諸国がエネルギー需要をルクオイルに依存しており、EUは構成国や加盟国に過度の圧力をかけたくないのかもしれない」。

ルクオイルとノボリペツク・スティール(NLMK)に関する質問に対し、EU報道官は制裁に関する協議は機密扱いであり、加盟国の裁量に委ねられていると述べた。「制裁は加盟27カ国が全会一致で採択したものであり、EUは公にコメントすることはできない」。

フランスはイギリスと共にいわゆる有志連合(a so-called coalition of the willing)を率いており、将来の和平を監視するためにウクライナに部隊を派遣する意向表明に署名した。しかし一方では、フランスのエネルギー企業EDFの子会社であるフラマトムは、ロシアの国営原子力企業ロスアトム傘下のTVELとの合弁事業を推進し、ドイツで核燃料棒を製造しようとしている。

EU報道官は、「現在、ロスアトムは制裁対象リストに含まれていない」と付け加えたが、EUはロスアトムを含むロシアの原子力関連製品・技術へのアクセスを制限している。EUのカヤ・カラス外相は2025年8月、ヨーロッパ委員会を代表して、ヨーロッパ議会において、「ヨーロッパ委員会は、ロシアからの原子力輸入を段階的に、秩序正しく、かつ安全な方法で廃止することに尽力している」と述べた。

要するに、ヨーロッパ諸国はロシアからの輸入を遮断しようと試みたものの、依然として依存状態が続いている。制裁措置を講じる際には意見が分かれ、代わりに地域経済を優先する特例措置を設けている。多くのヨーロッパ企業はモスクワとのつながりを維持し、関係を再開することを望んでいる。EUとロシアの関係は、ロシアがウクライナに侵攻する前の、より希望に満ちた時代、つまり貿易によってプーティン大統領の強権的な傾向を抑制できるとヨーロッパが信じていた時代に戻ることはないだろう。しかし現状では、ヨーロッパは既に地域の強権国家と繋がりを持っており、経済的な譲歩は近いうちに避けられないものとなるかもしれない。

アンシャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とするフォーリン・ポリシー誌コラムニスト。ヨーロッパ、中東、南アジアについて執筆している。『タイムズ・オブ・ロンドン』紙で中東を担当し、アルジャジーラ・イングリッシュとドイチェ・ヴェレのテレビ特派員も務めた。以前はベイルートとデリーを拠点に、20カ国以上の紛争や政治を報道してきた。Xアカウント:@anchalvohra

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争はアメリカの仲介による停戦交渉が続いている。ウクライナ戦争は2026年2月24日を過ぎて継続していると、満4年となり、5年目に入る。ウクライナ、ロシア両国の国民にとっての苦痛が長期間続くことになる。トランプ政権は、2026年2月24日に一般教書演説(the State of the Union Address)を予定している。ここまでに停戦交渉をまとめて、一般教書演説で大々的にアピールしたいところだろう。

 ウクライナ戦争は、ロシアとウクライナの戦争であるが、ウクライナのバックにはアメリカとヨーロッパの西側先進諸国という「大応援団」がいて、ロシア対西側諸国という構図になっていた。ロシアは戦術核兵器使用(ウクライナだけに限定せず)を示唆したことで、西側諸国の腰が引けた。ウクライナにロシアを本気で怒らせない程度の攻撃しか許さない状況になった。

 そもそも西側諸国はウクライナに軍事支援や軍事顧問団派遣を行い、ロシアを挑発してきた。ロシアがその挑発に乗ってしまったという面はある。西側諸国はロシアが挑発に乗ってきたところで、経済制裁を発動してロシアを締めあげてやろうとしており、実際に経済制裁を行ったのだが、意図に反して、ロシアは屈服しなかった。ウクライナからロシアを完全に追い払うには、西側諸国が自分たちも危険を冒して、血を流す覚悟、最終的には地上軍派遣を行わねばならないところまで進んだが、もちろん、西側諸国にそのような意図も度胸もない。ロシアは西側以外の国々からの支援を受けて、守りを固めて、戦争を継続している。ウクライナはどうしようもない状態になっている。さらに、ウクライナ国内の状況もばれつつあり、はっきり言って、見た目はヨーロッパだが、中身は昔の第三世界の国のようなもので、腐敗と汚職の蔓延した国家である。そのような国に重要な武器を渡して、それをアメリカの敵対国や敵対勢力に横流しでもされたら目も当てられない。いくらお金を注ぎ込んでも、そのお金が政府高官たちの贅沢な生活に消えてしまうが、それくらいはまだましであるということになる。

 西側諸国がウクライナ支援に対して及び腰なのは、ロシアを怒らせたくないということと、ウクライナ国内の腐敗と汚職の問題があることが原因だ。アメリカをはじめとする西側諸国の支援が足りないなどと言っても、支援したくてもできない事情がある。ウクライナ戦争は西側諸国の間違った戦略のために起きた災厄である。ウクライナの一般国民が一番の犠牲者である。一日も早い停戦の実現を望む。

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ジョー・バイデン政権のウクライナへの長い影(Biden’s Long Shadow Over Ukraine)

-バイデン政権はウクライナに対してほぼあらゆる面で失望を与え、今日に至るまで戦争を形作ってきた。

エイドリアン・カラトニツキー筆

2025年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/12/05/biden-war-ukraine-russia-putin-zelensky-military-aid/

2022年夏の終わり、ウクライナはウクライナ南部で大規模な反撃を開始した。11月11日、この作戦の結果、ヘルソン市とドニエプル川西側のロシア占領地域全てが解放された。

ウクライナ軍がヘルソンに復帰したという高揚感の中、包囲網に閉じ込められていたロシア軍の驚異的な脱出劇はほとんど注目されなかった。数週間にわたり、前線強化のために派遣された精鋭部隊を含む推定2、3万人のロシア兵と大量の軍事装備が、フェリー、桟橋、そしてウクライナ軍が事前に一部通行不能にしていた橋を使って、ドニエプル川を越えて安全に撤退した。ウクライナ軍は撤退に先立ち、この橋をロケット砲で攻撃していたが、ロシア軍の主力が渡河した数週間後、この脆弱な隘路への砲撃をほぼ停止した。戦争研究所のロシアティームを率いるジョージ・バロスは『フォーリン・ポリシー』誌に「ヘルソンから秩序正しく撤退したことは、戦争全体を通してロシアにとって最も成功した軍事作戦だった」と語った。もしこの部隊が壊滅するか降伏を強いられていたら、それは戦争の転換点となり、全世界の前で晒される、クレムリンにとっての大きな屈辱となっただろう。

最近、ウクライナ政府高官数名と背景について話をする機会があり、これらの出来事について新たな知見が得られた。第一に、この撤退は、屈辱的な敗北がロシアの戦術核による反撃を誘発するのではないかとアメリカが懸念する中で行われた。第二に、ウクライナは河川を越える距離まで到達できる弾薬が不足しており、これはアメリカがウクライナに供給する弾薬の種類と量を厳しく制限していたことが理由だ。ロシア軍の驚くほど妨害のない撤退の真相は、戦争終結後も長らく秘密のままとなる可能性があるが、ヘルソン周辺での出来事は、ウクライナの攻撃が戦争中ずっと、アメリカをはじめとする西側諸国からの兵器の流入とその使用制限によって厳しく制限されてきたことを象徴している。

ドナルド・トランプ大統領は、ロシアとウクライナの紛争をしばしば「バイデンの戦争(Biden’s war)」と呼んでいる。ジョー・バイデン前大統領がロシアのウクライナ侵攻の個人的な責任を負っているというトランプ大統領の主張はもちろん誤りだ。責任はロシアのウラジーミル・プーティン大統領にあるのであり、トランプ大統領も主張しているように、バイデンやウクライナにあるのではない。トランプ大統領を除くほとんどの人が知っているように、プーティン大統領は長らくウクライナの正統性(legitimacy)に疑問を呈しており、少なくとも2014年にクリミア侵攻とドンバス占領というロシア初の領土獲得を開始して以来、その領土を渇望してきた。プーティン大統領の野望の大きさを考えれば、全面戦争に突入するのは時間の問題だった。

しかし、これは全く異なる意味でのバイデンの戦争である。今日に至るまで、この侵攻は、バイデン政権がウクライナにいつ、どのように武器を供給するかという決定、そしてアメリカが軍事援助をてこ入れしてウクライナの戦争遂行を制約した方法によって、大きく形作られてきた。ホワイトハウスのこれらの決定は、ロシアの侵攻の輪郭を大きく決定づけた。ウクライナの現在の軍事態勢、支配地域、そして増大している民間人および軍人の犠牲者数は全て、バイデン政権がウクライナの戦争遂行方法に課した制限によって大きく形作られており、その制限は今日まで続いている。

確かに、バイデンのウクライナにおけるレガシーは、ネガティヴなものだけではない。バイデン政権の多大な支援と、キエフを支援する国際連合の形成における彼の成功がなければ、ウクライナは領土の約80%を維持できなかっただろう。ロシアの侵攻を衰弱させるほどに減速させることもできなかっただろう。もしトランプが政権を握っていたら、キエフを支援するよりもモスクワとのビジネス取引を優先したかもしれない。しかし、バイデンの過剰な慎重さとウクライナの戦闘方法に対する厳しい制約は、2022年秋のウクライナの急速な反撃の停滞にほぼ確実に寄与し、そして今日に至るまでロシアが戦争を終結させ、自国が出す以外の条件で和解を求める圧力をほとんど感じていないという事実にもつながっている。

バイデンはウクライナの運命を深く憂慮しており、NATO同盟諸国とその他の民主政治体制国間の結束、負担分担、支援の調整、そして協力を巧みに形作った功績は、高く評価されるべきだ。実際、ヨーロッパ各国の首脳が最近示した強い結束、そして8月18日に大統領執務室で行われたトランプ大統領との会談で最も劇的な結束は、バイデンの非常に効果的な連合構築の成果である。

しかし、バイデン陣営の失策、そしてウクライナ軍への支援における過剰な慎重さは、誠実な評価を免れるべきではない。

最初の失策は、バイデンが副大統領を務めていたオバマ政権時代の遺産であるが、2021年3月に政権発足からわずか数週間後に始まったロシアによるウクライナ国境での大規模な軍事力増強の過程で、バイデンがウクライナへの大幅な武器供与を拒否したことだ。ウクライナは、トランプ政権初期に供与された対戦車兵器を補強するための新たな兵器を強く​​求めていたにもかかわらず、バイデンは何もしなかった。

ワシントンが2億ドルの控えめな武器パッケージを送る準備をした後も、バイデンはプーティンとの緊張の高まりを恐れて援助の送付を遅らせた。2021年12月中旬のNBCニューズの記事によると、バイデンは「緊張を緩和するための外交努力のための時間を増やす」ために援助を差し控えることを決めた。『ワシントン・ポスト』紙の信頼できる情報源による報道によると、アメリカの情報機関はその時にすでにロシアがウクライナへの全面攻撃の準備をしていると結論付けていたため、援助の遅延はこのようにして多くの重要な数週間にわたって続いた。バイデンの遅延の結果、2022年2月にロシアが攻撃するまでに、比較的わずかな援助パッケージの一部しか移送されなかった。バイデンが事実上、ロシア・ドイツ間のノルドストリーム2・ガスパイプラインとアフガニスタンからの屈辱的なアメリカの撤退を支持したことと相まって、クレムリンはこれら全てをワシントンの弱さと決意の欠如のシグナルと見ざるを得なかった。

さらに、戦争の初期段階では、バイデン政権はウクライナ軍がロシア軍に対して短期間で敗北すると確信していたため、多額の援助を控えていた。政権の誤った評価は、バイデン政権の国家安全保障ティームが信頼するロシア専門家サミュエル・シャラップによっても主張されていた。彼は『フォーリン・ポリシー』誌で「西側諸国の兵器はウクライナに何ら影響を与えない」と主張した。アメリカ側との協議に関わったウクライナ政府の元高官は、バイデンの消極的な姿勢は、少なくとも部分的には、タリバンが数十億ドル相当のアメリカ製兵器を押収したことが影響していると考えていると私に語った。バイデンはロシアがすぐにウクライナを制圧すると考えており、そのため、アメリカ製兵器がプーティンの手に渡ることを恐れていたようだ。

現実は全く異なっていた。トランプ政権初期に提供された対戦車ジャヴェリン、イギリス製の対戦車NLAW、そしてウクライナ独自の兵器(国産兵器とソ連時代の装備の混合)に加え、ヴァレリー・ザルジニー将軍率いる士気の高い防衛部隊による大胆な戦闘作戦により、ウクライナは苦境を克服し、ロシアを当初奪取した領土の多くから追い出すことができた。ウクライナの予想外の成功は、バイデン政権とNATO同盟諸国がようやく懸念の一部を克服し、支援を強化する機会をもたらした。

しかし、ウクライナは大きな成功を収めたにもかかわらず、バイデンと彼のティームは戦争中、事実上あらゆる場面でウクライナを失望させた。彼らは重要な兵器を渡さず、過剰な警戒からキエフの生存をかけた戦い方を著しく制限した。

バイデン政権の核エスカレーションへの懸念は、その後数年間のアメリカによる支援を形作る上で決定的な役割を果たした。こうした懸念を認識したクレムリンは、頻繁な脅しによって巧みに国民の懸念を煽った。これは、ソ連時代の戦略家たちが「反射的統制(reflexive control)」と呼んだ、敵対者の思考を形作るための一種の心理戦の典型例である。バイデン政権は、オバマ政権のロシアの「エスカレーション優位(escalation dominance)」理論の派生型、すなわちロシアはいつでも紛争をエスカレートさせてアメリカの援助を無効化できるという考えを信じていた。2014年からオバマ政権の任期満了となる2017年まで、この理論はキエフへのアメリカの致命的な軍事支援を拒否する根拠となった。

ロシアは戦争初期に戦術核兵器の使用を検討していたかもしれないが、ウクライナ側は喜んでそのリスクを負うつもりだった。1年間の激戦、ロシアの戦場での大敗(占領地の大規模な喪失を含む)、そして西側諸国からの新型兵器の供与を経て、エスカレーションの脅威は(かつて存在した限りでは)後退していた。その時点で残っていたのは、ウクライナによる戦争遂行の実効性を抑制するというアメリカの一貫した政策だけだった。この政策の運用は、ボブ・ウッドワードの著書『WAR 3つの戦争(War)』で明らかにされている。同書は、2022年10月21日のやりとりを報じている。その中で、ロイド・オースティン国防長官はロシアのセルゲイ・ショイグ国防長官に対し、「私たちは特定のことを行わないよう注意してきた。(中略)私たちが提供した兵器の使用方法については、一定の制限を設けている」と述べている。オースティンのこの言葉は、ウクライナの戦争遂行に対するバイデン政権のアプローチの本質を明らかにしており、この政策は今日まで続いている。

ロシアの主要な戦略的パートナーである中国が、プーティン大統領が核兵器使用の選択肢に訴えることはないという強い兆候を示した後も、アメリカの牽制は続いた。ウクライナのある高官は私に、習近平国家主席がプーティン大統領に対し、核兵器使用の選択肢は容認できないと明確に伝えたと中国側がウクライナ側に伝えたと語った。プーティン大統領が中国の支援への依存度を高めていることを踏まえると、この情報はウクライナ当局者に、ロシアが核兵器使用のリスクを冒さないと確信させた。しかし、ワシントンは、キエフの戦争遂行能力を劇的に強化する可能性があった主要兵器の移転を、一貫して遅らせたり、遅々として進まなかったり、あるいは完全に反対したりした。

2023年1月末までに、ロシアによる戦術核兵器の使用が差し迫っているというアメリカの懸念は、ある程度和らいだ。ウクライナがハリコフとヘルソンを解放するという戦場での見事な活躍を受け、西側諸国は大型戦車を含む新たな兵器支援を約束した。しかし、多くの物資の搬入は依然として遅延していた。しかし、ロシア軍後方の軍事目標および兵站目標を攻撃するための深層攻撃兵器を求めるウクライナの要請は、バイデン政権時代を通じて常に無視されてきたように、依然として無視されたままであった。

バイデン政権がウクライナに適切な武器を提供することに消極的だった歴史的記録は衝撃的だ。ウクライナが当初HIMARS多連装ロケット砲を要請したが、2022年夏まで回答が得られなかった。しかも、要請が出されたのは、人口約45万人の戦略的に重要な港湾都市マリウポリが、凄惨な包囲攻撃で街がくすぶる廃墟と化した後にすぎなかった。マリウポリ近郊の集団墓地は、ウクライナの民間人および軍人の死者が数万人に上った可能性があることを示している。キエフがパトリオット防空システムを求める要請も、ロシア軍がウクライナの都市の民間人を標的に継続的かつ残忍な攻撃を行ったにもかかわらず、2022年の大半の間、回答が得られなかった。なぜ当時、純粋に防御用の兵器ですら禁止されていたのかは、バイデンと当時の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンの秘密のままである。

最初のエイブラムス戦車がウクライナ軍に到着したのは、ロシアの侵攻から1年半以上経った2023年9月になってからだった。そして、2023年5月にキエフに長距離ストームシャドウミサイルを供給すると発表したのは、ワシントンではなくロンドンだった。アメリカによるATACMSと呼ばれる長距離ミサイルの納入は、2023年10月にようやく始まった。当時でさえ、これらのミサイルは射程距離を制限するように改造されており、ロシア領内の軍事目標への使用は制限されていた。例えば2024年夏、ウクライナは国境からわずか100マイル内側にあるロシアの主要爆撃基地の1つへの攻撃許可を懇願したが、結局拒否された。この制限が部分的に解除されたのは、2024年11月になってからだった。

また、バイデン政権はキエフに対し、ウクライナの主権領土内であっても、特定のロシア軍・兵站施設を攻撃しないよう圧力をかけたようだ。『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によると、アメリカはクリミア半島のロシア空軍基地と、ロシア軍にとって重要な補給路であるケルチ海峡橋へのウクライナ軍の攻撃に反対している。この記事ではまた、アメリカがクレムリンの要請により停止した、未公表のウクライナ軍による作戦についても言及している。

さらに、バイデン政権は戦争中ずっと、アメリカとウクライナだけでなく、ヨーロッパの同盟諸国にも恣意的なレッドラインを引いた。同盟諸国は、戦車、長距離ミサイル、ヨーロッパ所有のF-16戦闘機など、特定の兵器の提供を差し止められた。しかし、これらの制限が遅れて解除されると、これらの戦闘機はロシアの攻撃に対するウクライナの防空防衛の不可欠な要素となった。

ハドソン研究所のルーク・コフィーが述べているように、「遅延はクラスター弾、戦車、歩兵戦闘車、そしてATACMS(対空ミサイルシステム)の提供に影響を与えた。アメリカは最終的にこれらのシステムすべてを承認したが、その決断の遅れはウクライナに多大な損害を与え、積極的対応ではなく事後対応を強いることとなった」。言い換えれば、バイデンはウクライナに対し、背中に片手を縛られた(one hand tied behind its back)状態でロシアと戦うことを強いた。

アメリカの限定的な援助はロシアの侵攻をやっと抑える程度ではあったが、ウクライナが国家として存続することを確かに保証した。こうした状況下で、ウクライナは、自国の長距離ミサイルを含む、これまで供給が認められていなかった兵器の開発と量産を徐々に開始した。また、強力な戦闘用ドローン産業の台頭にも時間を稼ぎ、戦場は一変した。

ウクライナ自身の技術革新にもかかわらず、バイデン政権によるロシアへの攻撃制限は、爆撃機攻撃に利用される飛行場など、ロシア国内の軍事施設やインフラ施設への攻撃能力を非常に限定的なものにしていた。2024年には、バイデン政権はキエフの国産兵器の使用さえも細かく管理し、ロシアの石油精製所へのドローン攻撃を中止するようウクライナに圧力をかけた。ウクライナはこれに従い、爆発力は大きいものの戦略的な影響は小さい燃料貯蔵庫への攻撃に切り替えたようだ。トランプ政権下では、この制限は撤廃され、ウクライナはロシアの製油所に対して非常に効果的なドローン作戦を開始した。その結果、ロシアの大部分が燃料不足に直面している。この作戦の成功は、石油インフラへの攻撃が、バイデン政権が想定していたようなレッドラインではなかったことを証明している。

バイデン政権の制限は軍事的にはほとんど意味をなさず、むしろ著しい不均衡を生み出した。ロシアのミサイルとドローンがウクライナの都市で電力、暖房、水道の供給を停止させた際、ウクライナには同様の対応を行う能力がほとんどなかった。ロシアの攻撃は今日まで衰えることなく続いており、民間人が殺害され、数千ものウクライナの学校、教会、病院、アパート、オフィスが壊滅した。これらの攻撃の一方的な姿勢は、バイデン政権の制限が今もなお及ぼしている影響を如実に示している。

バイデン政権の慎重なアプローチは、アメリカにも政治的な遺産を渡すことになった。武器の漸進的な供給と厳しい使用制限によってウクライナで生じた膠着状態は、新たな「永遠の戦争(forever war)」の恐怖を生み、トランプに近い共和党員からの反対を強め、2024年の選挙戦においてトランプを有利に導いた可能性が高い。

MAGA保守派の間でウクライナへのアメリカからの支援を縮小すべきだという機運が高まっていることを念頭に、共和党の連邦下院議員マイケル・マコール、マイク・ロジャース、マイク・ターナーは2024年1月に詳細な報告書を発表し、武器制限の解除を求め、バイデン政権は戦争終結を確実にする計画を策定していないと警告した。議員たちは「戦争の初日以来、バイデン大統領がウクライナへの重要兵器の提供をためらい、それがウクライナの勝利を遅らせてきた」と非難した。さらに彼らは、ウクライナの勝利への道筋は「(1)必要かつ迅速なウクライナへの重要兵器の提供、(2)プーティン政権への制裁の強化、(3)凍結されたロシアの国家資産(3000億ドル)のウクライナへの移管」が必要だと主張した。

トランプも2025年8月にトゥルーソーシャルに「バイデンはウクライナに反撃をさせず、防衛だけをさせた。その結果は一体どうなったんだ?」と投稿し、この批判を繰り返した。しかし、バイデン政権下でウクライナの戦闘行為に対して課された制約の大部分は、トランプ政権下でも依然として有効である。実際、ウォール・ストリート・ジャーナルが2025年8月23日に報じたように、トランプ政権はウクライナによるロシア国内への長距離対空ミサイル(ATACMS)発射をひそかに阻止した。すべての兵器輸送の費用をヨーロッパまたはウクライナが全額負担することを義務付けるアメリカの新たな政策下でも、これらの購入のほとんどは、種類、数量、使用方法において依然として厳しく制限されている。

バイデン政権が恣意的なレッドラインを課さず、クレムリンによる核恐怖の煽動に操られることもなければ、マリウポリは陥落しなかったかもしれない。ウクライナは2022年の反攻作戦の勢いを確実に維持し、ロシア軍が陣地を固める前にさらに多くの領土を解放できただろう。ウクライナはヘルソンで撤退するロシア軍とその装備に屈辱的な敗北を味合わせることができただろう。ウクライナ市民に毎夜死をもたらすロシアの爆撃機と空軍基地を破壊できたはずだ。ロシアの戦争マシーンにとって最重要の資金源である石油・ガス産業は麻痺状態に陥っていた。そしてクレムリンはとっくの昔に交渉の席に着き、勝ち目のない戦争からの脱却を迫られていたかもしれない。

その代わりに、バイデンが形作ったウクライナ戦争はトランプ政権下でも継続している。トランプが戦闘終結に向けた精力的な試みで一定の功績を認められる一方で、特使スティーヴ・ウィトコフの拙劣な取り組みが示すように、成功の見込みは薄い。永続的な平和を実現するには、プーティンを交渉のテーブルにつかせる必要がある。そのためには、トランプはまずウクライナが自力で効果的に戦えるよう支援し、バイデンの戦争(Biden’s War)を終わらせる必要がある。ヨーロッパの資金援助(凍結されたロシア資産の活用を含む)、アメリカと同盟諸国の武器の制限なき使用(モスクワやサンクトペテルブルクの標的攻撃能力を含む)、強力な二次制裁を伴うこうした戦争こそが、紛争終結への最短ルートである。

※エイドリアン・カラトニツキー:大西洋評議会上級研究員、ミュルミドン・グループ創設者。著書に『戦場としてのウクライナ:独立からロシアとの戦争へ(Battleground Ukraine: From Independence to the War with Russia)』がある。

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2026年2月24日で、ウクライナ戦争は満4年、5年目に進む。アメリカの仲介による停戦の動きは進んでいない。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は共に、アメリカ側から提案される条件に同意していない。プーティン大統領は慌てて停戦をする必要がない状況であり、できるだけ良い条件を引き出すための「熟柿(じゅくし)作戦(Waiting for the right moment)」を展開している。柿が熟れて自然と落ちてくるまで待つということになる。

 ゼレンスキー大統領は追い込まれている。西側諸国からの支援を受けて、戦線を維持しているが、支援もいつまで続けてもらえるか分からない。既に国土の6分の1を失い、多くの死傷者を出している。ウクライナ政府の非効率性や腐敗も、世界中からの注目もあって、白日の下に晒されている。このような状況であったなら、ウクライナ軍が敢闘し、ロシア軍の進行を阻止し、ロシア軍が慌てていた戦争の初期段階で、停戦交渉を行った方が良かったということになる。その後も大反攻(great counter-attack)を企図したが、それも失敗した。支援したアメリカ軍やイギリス軍の将官たちから、「そんなものが成功するはずがない」と批判されていながら、反攻作戦を強行し、失敗した。ロシア軍は守りを固めつつ、ウクライナを攻撃している。戦線は膠着している。ゼレンスキーは八方塞がりになっている。
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 ウクライナ軍はドローン戦闘機を使っての攻撃も行っているようだが、その効果も限定的である。そのようなゲリラ戦に毛が生えたような攻撃で、ロシア軍を押し戻すということは不可能である。既に勝負は決している。これ以上は徒に犠牲を増やすだけである。狂信的なナショナリズムや精神力で戦争を維持することが得策とは言えない。はっきり書けば、ウクライナ以外の国々は「早く停戦交渉のテーブルに着いて、少しでも良い条件の停戦を勝ち取る方が良いのに」と考えている。ウクライナ国民にとっては残念なことだと思う。しかし、国際政治は残酷な面を持つのもまた事実だ。平和を回復して、今度こそ、公明正大な政府を構成し、その恵まれた肥沃な大地から立ち上がって欲しい。

 そして、私たちは、ウクライナの状況をしっかり観察し教訓を得て、日本がそのような状況に陥らないように動くことが肝要だ。しかし、私は、日本国民全体がそこまでの賢さと能力を持っているかという点について、残念なことであるが悲観的になっている。

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ウクライナのドローン攻撃は問題にはならない(Ukraine’s Drone Attack Doesn’t Matter)

-残念なことだがこの派手な作戦は根本的な現実を変えるものではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年6月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/09/ukraine-war-drone-attack-spiderweb-russia-air-bases/

ウクライナによるロシア奥地の空軍基地への劇的で衝撃的な無人機攻撃「蜘蛛の巣作戦(オペレイション・スパイダーズ・ウェブ、Operation Spider’s Web)」は、2022年にロシアが違法な侵攻を開始して以来、この戦争を特徴づけてきたいくつかのテーマを浮き彫りにしている。これはウクライナの回復力(resilience)、創造性、そして大胆さ(audacity)を示す好例であり、これらはモスクワを幾度となく驚かせてきた資質である。また、この作戦はロシアの国家安全保障・情報機関の無能さ(incompetence)と油断(complacency)を暴露した。彼らは、ウクライナが100機以上の殺傷能力を持つ無人機と遠隔操作装置をロシア領土の奥深く、戦略爆撃機が配備されている空軍基地の近くに密輸しようとした試みを予測も検知もできなかった。ロシアの戦場での戦闘能力は戦争初期から向上しているが、国家安全保障体制は依然として脆弱である。

しかしながら、「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」の報を受けて多くの観測者が感じた当然の満足感は、ロシアの侵攻に対する効果的な対応策を練る努力を損なってきたいくつかの誤りをも反映している。優れた戦術的革新(tactical innovations)も、戦力や決意の非対称性(asymmetries in forces or resolve)、そして効果的な全体戦略の欠如(the absence of an effective overall strategy)を補うことはできない。開戦から3年が経過した現在も、キエフとその支援者たちは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の戦争目的を阻止し、戦闘終結を説得するための説得力のある計画を依然として欠いている。プーティン大統領の決意は今回の事件によって揺るぎないように見え、ドナルド・トランプ米大統領に対し、ロシアは報復する決意であると明言したことは、まさにその言葉通りだった。

さらに重要なのは、ウクライナの攻撃の戦術的独創性に目を奪われて、その戦略的重要性の無さに目をつぶるべきではないということだ。ドローン攻撃は斬新であり、戦争のあり方、そして今後のあり方を既に変えているが、結局のところ、それは航空戦力のもう一つの形態に過ぎない。たとえ非常に効果的な空爆であっても、それだけで戦争に勝利することはほぼない。しかし、航空戦力(ドローンを含む)は地上部隊の作戦において重要な役割を果たす可能性がある。

戦略的な観点から、これらの問題を最もよく研​​究をした、ロバート・ペイプは、1991年に著した『勝利のための爆撃:戦争における航空戦力と強制(Bombing to Win: Air Power and Coercion in War)』を出版した。ペイプは、航空戦力は民間人を懲罰したり、敵の戦略資産を危険に晒したり、敵の指導部を失脚させたり、敵の戦争目的を達成するための軍事力を奪ったりするために使用できると主張した。彼の事例は、最初の3つの戦略では敵を降参させることはほとんどなく (たとえば、民間人を爆撃すると、敵が戦争遂行をさらに強く支持するようになる傾向がある)、航空戦力は他の軍事資産と組み合わせて使用​​して敵軍を打ち破り、戦略目標を達成できないことを敵に示す場合に最も効果的であることを示した。

この観点から見ると、最近のウクライナのドローン作戦は、純粋に戦術的な観点からは確かに印象的であったものの、本質的には脇役的であり、本筋ではなかった。この点において、これは、同じく予想外で当初は成功したものの戦況を変えることができず、その後完全に逆転したクルスク近郊へのウクライナの侵攻と類似している。12機以上の戦略爆撃機を破壊したとしても、ロシアがウクライナへの進撃を継続したり、ウクライナの都市に対してミサイルや無人機による追加攻撃を実施したりする能力に、実質的な影響を与えることはないだろう。

確かに、この作戦はウクライナの士気を高め、ウォロディミール・ゼレンスキー大統領の人気を高め、ロシアに将来的な同様の作戦を阻止するための資源投入を迫っていることは間違いない。ロシアの国家安全保障エリートの間で、この戦争の賢明さとプーティン大統領の戦略に対する疑念が高まったのではないかと期待する声もあるが、プーティン大統領の権力基盤が揺ぐ、もしくは、戦争に反対するエリートや国民がプーティン大統領の考えを変えるような兆候は見られない。もしそうなれば素晴らしいが、計画を立てる材料としては薄っぺらなものに過ぎない。

この状況は、ウクライナとその支援諸国を、戦争開始以来直面してきたのと同じ難題に直面させる。すなわち、ウクライナの地政学的立場(Ukraine’s geopolitical alignment)を存亡の問題と見なし、最低限の戦争目的としてウクライナが西側の防壁となることを阻止することを掲げる、数的に優位な敵をどう打ち破るかという課題である。ウクライナ国民は祖国防衛のために並外れた犠牲を払ってきたが、戦略的パートナー(ジョー・バイデン前米大統領を含む)のいずれも自分たちの軍隊や領土を危険に晒す意思を示していない。この非対称性を踏まえ、キエフと西側諸国は代わりに、ウクライナの不屈の精神(Ukrainian grit)、西側の財政・物資支援、そしてロシアに対する厳しい経済制裁(economic sanctions)の組み合わせが、最終的にモスクワに方針転換を促すことを期待してきた。

それはまだ起こっていない。現時点では、そうなる可能性はますます低くなっているように思える。2022年秋のウクライナの攻勢は戦況を覆すことはできず、その後の2023年夏の反攻(ウクライナを支援・支援する西側諸国によって装備・訓練された新設旅団が投入された)は、多大な犠牲を伴う大失敗に終わった。前述の通り、クルスクへの侵攻は当初成功したものの、戦争の軌道を変えることも、キエフに有効な交渉材料を提供することもなかった。ロシア軍は多大な犠牲を払いながらも、ゆっくりと前進を続けている。戦場の情勢が概ねプーティン大統領に有利に進んでいる現状では、トランプでさえプーティン大統領には戦争を終わらせる動機がほとんどないことに気づき始めているようだ。

戦争終結への希望は、相互に受け入れられる解決策を見出すことを特に困難にする政治勢力との闘いにも直面しなければならない。キエフとモスクワは戦争以前、ほとんど互いを信頼していなかったが、今や全く信頼していない。プーティン大統領は、開戦前からロシア国境付近におけるNATOの存在を致命的な危険と見なしていた。フィンランドとスウェーデンの参加、そしてNATOによるウクライナへの支援は、プーティンの懸念を間違いなく高めた。同時に、ロシアの行動は近隣諸国にロシアの将来の意図に対する懸念を一層深めさせ、ロシアへの譲歩を躊躇させている。ロシアと西側諸国間の安全保障のディレンマ(security dilemma)は、開戦前よりも今の方が深刻化しており、安定的で相互に受け入れられる解決策の策定はより困難になるだろう。そして、お馴染みのサンクコスト(sunk cost)の誤謬を忘れてはならない。あるロシア兵が最近『ニューヨーク・タイムズ』紙に次のように語った。「私たちは皆疲れ果てており、家に帰りたい。だが、将来、それらの地域のために苦労しなくて済むように、全ての地域を奪取したい。そうでなければ、兵士たちは皆、無駄死ということになるではないか?(have all the guys died in vain?)」。こうした感情はウクライナにも間違いなく存在している。

戦争のこの時点で、正しい答えがあると過信すべきではなく、完璧な結果を得ることは過剰な期待ということになる。しかし、新たな兵器や戦術、あるいは「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」のような大胆だが本質的に限界のある作戦に期待を託すのは、単なる希望的観測に過ぎない。むしろ、ウクライナにロシアに不釣り合いな損害を与える能力を与え続けること、そしてモスクワを抑止し安心させる中央ヨーロッパの将来の安全保障体制を真剣に構想し交渉することこそが、戦争を終結させ、ウクライナの残存部分を保全する唯一の方法だ。これは宥和政策(appeasement)ではない。ロシアの現状打破(undermining the status quo)への関心を低下させ、その試みが失敗に終わることを確信させるような安全保障体制の交渉に前向きであることを意味する。

残念ながら、特にトランプ政権のこの問題への不安定な対応と、多くのヨーロッパ諸国に対する根底にある敵意を考えると、西側諸国の指導者たちがこの方針を追求するのに十分な団結力、決意、そして想像力を持っているとは到底言えない。結局、ウクライナの運命を決めるのはこうした政治的要因であり、戦術的には素晴らしいが戦略的には無関係な英雄的防衛軍の努力ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、 Xアカウント:@stephenwalt

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしています。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されています。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いです。

 国際政治は大国間の駆け引きの場となっている。ウクライナ戦争もまさにそうなっている。アメリカが仲介者の形で停戦に向けて、ロシアとウクライナとチャンネルを持って交渉を続けている。停戦交渉の内容はロシア寄りの内容になっており、ウクライナは受け入れられないと反発している。ウクライナはウクライナ軍の善戦を認めるとしても、実際には厳しい状況が続いている。アメリカやヨーロッパ諸国の支援を受けて戦争を継続できているが、大きな成果を上げるまでには至っていない。既に戦争開始から4年近くが経過している。これまでにロシア軍を撃退するような大戦果を収めることができていない。現状維持が精いっぱいのところだ。ウクライナ戦争について、アメリカが支援を削減すれば、ウクライナは戦争どころではない。
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(左から)キース・ケロッグ、ドナルド・トランプ、スティーヴ・ウィトコフ

 アメリカではキース・ケロッグがウクライナ担当特使となっているが、現状ではほぼ存在感がない。そして、来年1月での辞任の意向を示している。ウクライナ寄りの立場での発がんが多く、ロシア側がケロッグを忌避している状況では、交渉の仲介者にはなれない。中東担当特使のスティーヴ・ウィトコフがウクライナ戦争の仲介にあたっている。ウィトコフはロシア寄りだという批判も多く、停戦が進まないのはウィトコフの無能のせいだという主張もある。しかし、現実を考えてみると、ウクライナには気の毒であるし、かわいそうではあるが、ロシア寄りの停戦条件にならざるを得ない。そもそもがウクライナを西側が対ロシア挑発の最前線にしてしまったという根本原因がある。西側諸国はウクライナのNATO加盟もEU加盟も認めてこなかったのに、軍事支援だけは行ってきた。これはいざとなれば、ロシアを挑発して、ロシアを暴発させて、ウクライナを攻撃させて、ロシアを返り討ちにするという考えでのことだった。失敗してもウクライナを切り捨てれば済む、そのために、NATO加盟もEU加盟も認めなかった。大きな誤算は、ロシアを暴発させたので、シナリオ通りにロシアを国際決済システムから締め出して経済的に締めあげたらすぐに降参すると思っていたら、ロシアはそれを見越してすでにドルを使わない決済方式を準備していたということだ。そして、西側以外の国々(the Rest)がロシアを支援したことだ。ウクライナ戦争は西側の敗北であり、敗北の責任は挙げて西側諸国にある。

 トランプ政権とウィトコフはこのことを理解している。それでも、仲介は進めるべきだ。停戦を進めるべきだ。ウィトコフだけでは厳しいようならば、中東での和平に功績があった、トランプの女婿ジャレッド・クシュナーを裏方、交渉役として使うべきだ。大事なことは一時的でもよいので停戦をすることだ。ウクライナには現状での停戦受け入れを基本線にするしかない。そして、ウクライナは危機的状況を好機に変えるために、国家体制や政治文化を大きく変化させる必要がある。戦争中でも汚職がはびこる国に未来はない。

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米特使が「ロシアに助言」 与党から解任論―トランプ氏は擁護

時事通信 外信部2025年11月30日07時06分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025112900267&g=int#goog_rewarded

 【ワシントン時事】ロシアのウクライナ侵攻終結を巡り、対ロ交渉を担う米国のウィトコフ中東担当特使への批判が強まっている。ロシア高官との通話内容を伝えた米通信社の報道をきっかけに「ロシア寄り」の姿勢が浮き彫りになったためだ。トランプ米大統領は擁護しているが、与党共和党議員からも解任を求める声が出ている。

 「(トランプ氏を)平和の男だと尊敬していると伝えるんだ。そうすれば良い電話(会談)となる」。米ブルームバーグ通信は25日、ウィトコフ氏とロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)が10月14日に行った電話協議の詳細を報じた。

 ウィトコフ氏は5分超にわたるやりとりで、ウクライナのゼレンスキー大統領が10月17日にホワイトハウスを訪れる予定に触れ、これより前に米ロ首脳の電話会談を行うことを提案。トランプ氏をたたえるほか、ウィトコフ氏とウシャコフ氏が和平案を作成するという提案をプーチン氏が行うよう「助言」していた。

 米ロ首脳は10月16日に電話会談を行い、ハンガリーで会談することで合意。トランプ氏は「進展があった」と評価し、協議は首尾よく終わった。対照的に厳しい状況に置かれたのはゼレンスキー氏。トランプ氏はそれまで前向きな姿勢を見せていた米国製巡航ミサイル「トマホーク」の供与に応じなかったばかりか、17日の会談は「怒鳴り合い」(英メディア)の険悪な雰囲気に包まれた。

 米メディアによれば、ウィトコフ氏は10月下旬、プーチン氏に近いドミトリエフ大統領特別代表を南部フロリダ州マイアミに招き、トランプ氏の娘婿クシュナー氏も交え、侵攻終結を目指す新たな和平案を作成。ウクライナが東部2州を割譲し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念することなどロシアに有利な内容が盛り込まれた。

 トランプ氏は40年近い付き合いのあるウィトコフ氏に厚い信頼を寄せる。同氏は政権発足以降、ロシアを5回訪れてプーチン氏と会談した。だが、不動産業界出身で外交経験には乏しい。老練なプーチン氏に取り込まれていると不安視する専門家が多い。

 トランプ氏は今月25日、ウィトコフ氏の通話内容について記者団に問われると「普通の交渉だと聞いている」と擁護。和平案協議のため、ウィトコフ氏を再びロシアに派遣し、プーチン氏と会談させる考えも表明した。

 しかし、ロシア寄りの姿勢を見せるウィトコフ氏に対し、トランプ氏を支えるはずの共和党議員には懸念が広がる。ベーコン下院議員はX(旧ツイッター)上で「ロシアに肩入れしているのは明らかだ」と述べ、ウィトコフ氏の解任を主張。外交に明るいルビオ国務長官に対ロ交渉を任せるべきだと訴える声も出ている。

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トランプ氏娘婿に再び脚光 ガザ和平交渉の行方左右も

時事通信 外信部2025年10月15日12時43分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025101400660&g=int

 【ワシントン時事】イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦を導いたとして、トランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏(44)が再び脚光を浴びている。第1次政権で大統領上級顧問を務め、イスラエルとアラブ諸国の関係を正常化する「アブラハム合意」をまとめた人物で、その存在は和平交渉の行方を左右しそうだ。

 「ジャレッドがとても助けてくれた。本当に特別なことを成し遂げてくれた」。トランプ氏は13日、イスラエル国会での演説で、パレスチナ自治区ガザの和平に向けた「第1段階」の合意を巡り、クシュナー氏の貢献をたたえた。

 第2次政権発足後、ガザの和平交渉はトランプ氏側近のウィトコフ中東担当特使が主導した。だが、バイデン前政権の協力で実現した1月の停戦合意は長続きせず、戦闘が再開すると外交経験のないウィトコフ氏に代わり、豊富な中東人脈を持つクシュナー氏に白羽の矢が立った。

 米メディアによれば、クシュナー氏はトランプ氏が9月に発表した20項目の和平計画の立案を担い、人脈をフル活用してアラブ諸国からの賛同を取り付けた。イスラエルとハマスの間接交渉にも加わり、イスラエルの攻撃再開を認めないとするトランプ氏の確約をウィトコフ氏と共にハマス幹部に直接伝え、第1段階の合意へとこぎ着けた。

 第2次政権では政府のポストに就かず、アラブ諸国から巨額の資金を調達して投資ファンド会社を運営するクシュナー氏の関与を問題視する見方もある。だが、トランプ氏が以前言及したガザの観光開発構想もクシュナー氏の発案とされ、トランプ氏への影響力は小さくない。

 停戦発効に伴い人質が解放され、今後の焦点はハマスの武装解除やガザの戦後統治などを巡る交渉に移る。「ついに中東に平和が訪れた」と高らかにうたうトランプ氏だが、ガザ情勢安定化はクシュナー氏の手腕が成否のカギを握る。

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ブロンクスのメッテルニヒ(The Metternich of the Bronx)

-ウィトコフの外交は大きく失敗したが、彼は今後も重要な役割を果たす可能性が高いだろう。

エイドリアン・カラトニツキー筆

2025年6月20日

『フォーリン・ポリシー』

https://foreignpolicy.com/2025/06/20/steve-witkoff-trump-putin-russia-war-negotiations-diplomacy-peace-cease-fire-ukraine-iran-israel-hamas/

2025年6月2日にウクライナとロシアの担当者たちがイスタンブールで第2回停戦協議を行った際、真剣な交渉は行われないことは明らかだった。ドナルド・トランプ政権の和平合意への期待に応えることを切望するウクライナは、国防相を筆頭とする高官級代表団を派遣した。しかし、ロシアは中級以下の外交団を派遣したにとどまった。新たな捕虜交換への扉を開いたこと以外、会談は進展をもたらさなかった。クレムリンは、ウクライナの服従条件として、3年間変更されていない、条件を提示した。これには、ロシアによる占領下のウクライナ国内の5地域への支配権の承認(recognition of Russian dominion over five occupied Ukrainian regions)、ウクライナによる追加領土の割譲(the cession of additional territory by Ukraine)、ウクライナの中立(Ukrainian neutrality)、そして事実上の軍の非軍事化(the de facto de-militarization of its armed forces)が含まれていた。

ヨーロッパの代表団は和平プロセスへの支持を表明するためにイスタンブールを訪れたが、アメリカは出席しなかったことが注目された。これは、アメリカが交渉における主要な役割から疎外されていることを物語っている。これは和平プロセスへの高まる期待とは程遠く、ドナルド・トランプ米大統領がロシアのウラジーミル・プーティン大統領も出席するならイスタンブールに同席する用意があると示唆した5月の最初の会談に寄せられた期待からは明らかにかけ離れている。

トランプは長年、プーティンとの特別な関係を誇示し、ウクライナ和平を主要な外交政策目標としてきたが、ワシントンの不在は、政権の外交、そしてロシア・ウクライナ戦争への全体的なアプローチの失敗を如実に物語っている。この失敗は、無能な交渉、ロシアの真の野望への理解不足、そしてプーティンのシグナルの読み間違いの結果である。この失敗は最終的にはトランプの責任であるが、クレムリンへの彼の主要特使であるアマチュア外交官スティーヴ・ウィトコフの影響力によって、事態は深刻に悪化している。

ウィトコフが重要な外交分野に進出したことは、第2次トランプ政権における最大の驚きの1つだった。昨年11月まで、ウィトコフは外交政策プロセスから遠く離れた場所にいた。彼が最初に公職に就いたのは、トランプの大統領就任委員会の共同議長だった。しかし、2024年11月12日、トランプ大統領はウィトコフを中東担当の特使として初めて国際関係に携わるよう任命した。当初、退任するジョー・バイデン政権の同意を得て、ウィトコフはイスラエルとハマスと交渉を行った。トランプ大統領の就任後、ウィトコフの役職はアメリカ政府の正式なものとなった。

ウィトコフはトランプとは40年もの間見知ってきた。そして、トランプの熱心な支持者であり、友人であり、ゴルフ仲間でもある。特に、ウィトコフは、2021年1月6日の暴動後のトランプの最も困難な時期、そして2024年初頭にニューヨーク市で重罪の有罪判決に直面した際に、トランプに寄り添い、精神的に支え続けた。

ニューヨークのブロンクス生まれのウィトコフは、ニューヨーク市ロングアイランドのホフストラ大学で学び、弁護士のキャリアを積み、不動産開発と投資へと転身し、億万長者となった。共産主義崩壊後のロシアで財を成したソ連出身のレン・ブラバトニクとしばしば提携し、ウィトコフはニューヨーク、マイアミ、カリフォルニアに重点を置いた膨大な米国不動産ポートフォリオを構築した。彼の会社はロンドンでのいくつかの注目度の高い投資を中心に国際的な事業活動を行っていたが、ポートフォリオ全体のごく一部を占めるに過ぎない。ウィトコフは海外ビジネスの経験が不足しており、それがトランプがアメリカの外交政策の実施に起用した他のビジネスリーダーたちとは根本的に異なっている原因だ。

ウィトコフの最初の外交活動は、ハマスとイスラエルの紛争における停戦と人質解放の確保に焦点を当てたものだった。バイデン政権、第一次トランプ政権、そしてオバマ政権で外交政策の高官を務めたブレット・マクガーク(Brett McGurk)と緊密に連携し、ウィトコフはトランプ大統領就任のわずか数日前に短期合意を仲介することに成功した。60日間続いた合意は失効し、紛争は継続したが、ヴェテラン外交官と次期大統領の側近というタッグはうまく機能し、ウィトコフの評判は高まった。

中東での成功後まもなく、ウィトコフの職務範囲は劇的に拡大し、ロシアとイランとの直接交渉も担当することになった。歴史に名を残す外交官、例えばオーストリア帝国のクレメンス・フォン・メッテルニヒ(Klemens von Metternich)やアメリカのヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)を除けば、複数の重要な国際交渉の責任を1人の高官が担うことは稀なことだ。

それでも、トランプ大統領と個人的な繋がりを持ち、直接アクセスできる人物を任命することは、過去に成功を収めてきた。アブラハム合意をめぐる交渉では、トランプ大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナーが中心的な役割を果たし、中東情勢に長年精通した経験豊富なアドヴァイザー陣を頼りにしていたため、この手法は特に効果的だった。

しかし、ロシア問題になると、ウィトコフは方針を転換した。アメリカ政府の専門家陣と緊密に協力する代わりに、実質的にワンマンショーのようなやり方で交渉を進めた。物議を醸したのは、モスクワのアメリカ大使館やワシントンの国務省との実質的な関わりを避けたことだ。トランプ大統領が過去にしてきたように、プーティン大統領との会談でもアメリカ人の通訳や議事録作成者を起用しなかった。クレムリンの通訳に頼ったことで、プーティン大統領の原文のニュアンスを汲み取るという前例のない決断は、外交政策の専門家から広く批判された。

さらに、交渉開始から数カ月間、ウィトコフはウクライナ側と一切接触していなかった。ロシアとウクライナ、そして両国の長く苦い歴史についてほとんど無知だったウィトコフが単独で交渉に臨んだことは、ウクライナの正当なレッドライン(red lines、越えてはならない一線)に関する知識をほとんど、あるいは全く持たないままクレムリンに到着し、プーティン大統領の主張やシグナルを評価するための文脈を全く持たないままだった。

ウィトコフはトニー・ブレア元英首相やビル・クリントン元米大統領など、様々な立場から助言を求めたが、地域情勢に関する知識不足と外交の進め方に対する不慣れさが、数々の失策につながった。経験豊富な交渉担当者が曖昧な発言をし、静かに交渉を進めるのとは異なり、ウィトコフは交渉の現状について頻繁にコメントし、「大きな進展(significant progress)」があると断定的かつ大胆に主張することが多かったが、それは往々にして実現しなかった。同様に重要なのは、ロシア側の主張に同調し、ロシア側が譲歩に応じるという証拠を一切示さずに、一方的かつ先制的な譲歩を公然と提示する傾向が、ウィトコフ自身の外交を損なわせた点である。ウィトコフと他の政権当局者らが発表したこれらの一方的な譲歩には、アメリカによるウクライナのNATO加盟拒否、ウクライナへのアメリカからの援助の大幅削減、そしてウクライナはロシアの領土獲得を認めるべきとの宣言が含まれていた。

確かに、トランプは戦争の多くの側面においてロシアの路線を踏襲している。ロシアとの交渉状況を誇大宣伝し、停戦は目前に迫っており、より恒久的な和平につながるだろうと幾度となく示唆してきた。しかし、こうした発言と並行して、ロシアの好戦的態度や強硬姿勢に対する不満も時折口にしてきた。一方、ウィトコフはそうではない。プーティン大統領に取り入り、大規模な新たな共同投資パートナーシップを宣伝し、ロシアが和平に向けて大きく前進する用意があると称賛すれば、平和が訪れると信じているようだ。

ウィトコフがロシアとの交渉において中心的な役割を果たしたことは、別の弊害ももたらした。トランプとの個人的な親密さから、プーティン大統領の意図に関するウィトコフの評価は、より冷静な専門家の評価よりも重視されるようになった。こうしてウィトコフは、アメリカとの貿易と投資という漠然とした約束でプーティン大統領を中国との同盟から引き離せるという、トランプの疑わしい確信を強めてしまったのだ。

ウィトコフがロシア、ウクライナ、そしてこの戦争に関する自身の見解を最も詳細に説明したのは、3月21日に放送された、プーティン政権下のロシアを繁栄の模範と称賛し、ウクライナを「独裁政治(dictatorship.)」と嘲笑することで知られる、悪名高い反ウクライナ評論家であるタッカー・カールソンとのインタヴューの中でのことだった。このインタヴューは、ウクライナ、プーティン、そしてロシア政権の本質に関するウィトコフの驚くべき無知を露呈した。

ウィトコフは、ロシアが大規模な軍事攻撃を続け、発言の数日前にウクライナの都市で民間人を攻撃していたにもかかわらず、「30日間の停戦はそう遠くない」と楽観的に示唆した。

さらに、ヴィトコフ氏はプーチン大統領を「悪人(bad guy)」ではなく「慈悲深く(gracious)」「偉大な(great)」指導者だと擁護した。ウィトコフ特使は、1万人以上のウクライナ民間人の死、1000万人もの人々の避難、ウクライナ民間人や捕虜の即決処刑を行ったロシア軍兵士や傭兵の不処罰、そして国際刑事裁判所が発行したプーティン大統領逮捕状に記載されているウクライナの子供たちの拉致という戦争犯罪に対するプーティン大統領の責任について、無関心、あるいは認識していなかった。

さらに驚くべきことに、ウィトコフは戦争に関するロシアの決まり文句を無批判に繰り返している。2月にはCNNに対し、「戦争は起こる必要がなかった。挑発されたのだ。必ずしもロシアが挑発したとは限らない」と語った。彼は、ロシアが占領した地域(名前は思い出せなかったが)は「ロシア語圏」であるとカールソンに伝えてロシアの主張を補強し、これがモスクワへの忠誠の証であり、ロシアによる併合の正当な根拠であることを示唆した。

実際には、2014年以降、被占領下のドンバスからウクライナに逃れたウクライナ人の数は、ロシア統治下に留まったウクライナ人の数を上回っている。ロシア語を話すウクライナ人とウクライナ東部の住民は共に、ウクライナの戦闘部隊に多数参加している。また、2014年のロシア侵攻以降の世論調査では、ロシア語圏のウクライナ東部および南部の住民が、ロシアへの併合または統一の考えを断固として拒否していることが一貫して示されている。

ウィトコフはさらに、戒厳令と報道検閲の下で行われ、ジュネーブ条約に違反し、中立的な国際選挙監視団を排除し、逮捕、拷問、処刑への恐怖が蔓延する中で行われた、ロシアによる併合に関する偽りの国民投票の正当性を認めているように見受けられる。ウィトコフはまた、ロシアが望んでいるのは現在保有している領土だけであり、新たな領土を併合したり、残りの地域を破壊したりする意図はないと主張した。プーティン大統領がそのような発言をしたという証拠はない。

まとめると、ワシントンの特使ウィトコフはロシアの領土主張に信憑性を与えようと躍起になっていたが、その主張はロシアの野心とウクライナの現実を全く考慮していないものだった。

トランプ大統領の就任後、アメリカは急速にウクライナ支援国としての役割を放棄し、中立的な仲裁者(neutral arbiter)の役割を担うようになった。ウィトコフの外交、戦争の解釈、そしてロシアの主張への反論は、中立の域を超え、少なくとも部分的にはアメリカの立場をクレムリンの立場に沿わせる方向に進んだ。これはNATO加盟国に警戒感を与え、ヨーロッパは米ロ交渉とは無関係にウクライナを支援するに至った。

ウィトコフの任務―ロシア・ウクライナ間、イスラエル・ハマス間、そしてイラン-は、どの外交官にとっても大きな課題となるものだろう。しかし、迅速な打開策を約束したウィトコフの大胆な発言は、進展の欠如を浮き彫りにするだけだった。外交活動を開始して約半年になるが、ウィトコフの実績は乏しい。ロシア・ウクライナ問題では交渉は行き詰まり、イスラエル・ハマス問題では膠着状態に陥り、イラン情勢の悪化で交渉は頓挫した。

ウィトコフの外交は見事に失敗したものの、彼は今後もアメリカ外交において重要な役割を担う可能性が高い。結局のところ、ウィトコフの関与は、トランプが望む「ピースメイカー(peacemaker)」と「平和探求者(peace seeker)」のイメージを一層強化するものであり、こうした役割によって、伝統的な国家安全保障を重視する共和党とMAGAの孤立主義者との間の溝を跨ぎながら、アメリカが世界と関わっているという印象を与えることができる。同様に重要なのは、ウィトコフがロシアの行動と意図に関する有害なほど誤った解釈を強化し、交渉による和平の可能性を低下させていることである。

マイケル・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官の人事変更を受けて、トランプがウィトコフを同職に検討しているのではないかという憶測が飛び交った。ウィトコフはこれまで、不用意な譲歩、逆効果な外交、専門家顧問の解任、そして国際情勢に関する表面的な知識といった実績を残してきたため、このような任命はアメリカにとって計り知れない災難となるだろう。結局、ウィトコフの誤った外交官としての役割は、公務員、諜報専門家、外交官コミュニティ(トランプ氏が軽蔑的に「ディープステート(the “deep state”)」と呼ぶもの)の役割が、国際情勢について浅い知識しか持たない個人工作員で代替できないという事実を強調している。

※エイドリアン・カラトニツキー:大西洋評議会上級研究員、ミュリミドン・グループ創設者。著書に『戦場としてのウクライナ:独立からロシアとの戦争まで(Battleground Ukraine: From Independence to the War with Russia)』がる。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 第二次ドナルド・トランプ政権は「変容した」と言うしかない。トランプの急激な変わり身は周囲を置き去りにしている。就任してすぐの、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領との会談の厳しい態度、J・D・ヴァンス副大統領の厳しい叱責は、ウクライナ戦争の停戦を促す効果があると当時の私は考えていた。ヨーロッパ諸国、特にイギリスは「口だけ番長」で、武器も金も人も出さずに、ウクライナを焚きつけるだけ、ほとんどがアメリカの金で戦争が行われてきた。トランプはこの状況を変えるだろうと考えていた。
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2025年も残り2カ月を切った。また年を越える。ウクライナ戦争は勃発以来、4年目であり、来年の2026年2月24日を過ぎても戦争が継続していれば、5年目に突入ということになる。ロシア政治や経済、国際関係の専門家たちは、ロシアは人員と戦費の関係で戦争を続けられないと4年間も言い続けた。月報のように「もうすぐロシアはギヴアップ」と言い続けてきた。アメリカとヨーロッパ諸国に比べて、圧倒的に経済面で脆弱なはずのロシアが戦争を継続し、奪取した地域を維持している。この戦争はウクライナの負けではなく、西側諸国の負けということになる。トランプはこの西が諸国の負けを確定させながらも、ロシアとの「ディール(deal、取引)」によって、ある程度の利益を確保できると私は考えていた。しかし、状況はどうもそうなっていない。
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ドナルド・トランプとイギリス国王チャールズ三世

 ヨーロッパ、とくにイギリスがトランプを取り込むことに成功したと考えている。関税交渉をうまく片付け、史上初の米大統領として2度目の国賓招待ということで、トランプを手懐(てなず)ける(tame)ことに成功したのかもしれない。イギリスの狡猾さと外交力は、実力を失って久しい21世紀になっても侮れない。「現代のビザンツ帝国と言うべきだろう。ヨーロッパは、ドナルド・トランプ、習近平、ウラジーミル・プーティンによるヤルタ2.0体制の構築を阻止し、ヨーロッパ防衛にアメリカを関与させ続けることに成功した。トランプの「変容」「変わり身」は、ポピュリズムの敗北を意味する。私たちはこのことを冷静に見つめ、分析しなければならない。

(貼り付けはじめ)

トランプとヴァンスがヨーロッパについてどれほど不快な態度を取ったとしても、彼らは率直な真実を語っている(No matter how distasteful we find Trump and Vance over Europe, they speak a blunt truth)

-アメリカは最悪のタイミングと最悪の言い方を選んだが、再編を求めるのは正しい。

サイモン・ジェンキンス筆

2025年2月21日

『ザ・ガーティアン』紙

https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/feb/21/donald-trump-jd-vance-europe-us-realignment

ここ最近、右翼勢力でいるのは大変だ。ドナルド・トランプについて何か良いことを言う必要がある。それは困難だ。彼はウクライナ戦争を始めたのはキエフであり、その大統領であるウォロディミル・ゼレンスキーを「独裁者(dictator)」だと考えている。しかし、J・D・ヴァンスはどうだろうか? アメリカ副大統領は、「言論の自由(free speech)を後退させている」ヨーロッパの「内部からの脅威(threat from within)」は、ロシアや中国からのどんな脅威よりも深刻だと考えている。彼らは正気を失っている。他に何を言うことがあるだろうか?

答えは数多くある。ジョン・スチュアート・ミルは「物事について、自分の側しか知らない人は、そのことについてほとんど何も知らない(he who knows only his own side of the case knows little of that)」と警告した。私たちは、彼らの主張に賛成するか否かに関わらず、理解しようと努力しければならない。

確かに、彼らは嘘つき(mendacious)で偽善的(hypocritical)だ。トランプは、ゼレンスキーが「選挙を拒否している(refuses to have elections)」と主張し、「各種世論調査では非常に低い支持率だ(very low in the polls)」と主張しているが、最近の世論調査では依然としてウクライナ国民の過半数の支持を得ている。「内部からの」言論の自由への脅威(the threat to free speech “from within”)に関しては、AP通信はメキシコ湾を「アメリカ湾(Gulf of America)」に改名することを拒否したためホワイトハウスのブリーフィングから締め出され、トランプ大統領の友人であるイーロン・マスクはCBSの「嘘つき(lying)」ジャーナリストは「長期の懲役刑に値する(deserve a long prison sentence)」と考えている。

トランプ・ヴァンスは、世界を善と自由へと導くという、神から与えられたアメリカの宿命について、半世紀にもわたって合意に基づいた曖昧な言い回しをしてきた。平和と戦争、移民問題、関税問題など、彼らはアメリカの利益のみを追求していると主張している。なぜアメリカは、自衛できないヨーロッパを守るために毎年数十億ドルもの費用を費やす必要があるのだろうか? なぜ遠く離れた国々に武器を与えて隣国と戦わせたり、途方もない額の援助を困窮するアフリカに注ぎ込んだりする必要があるのだろうか?

もし世界の他の国々が失敗してきたとしたら、アメリカは2世紀半もの間自由で豊かであり続けてきたのだが、それは世界の問題だ。アメリカはこの50年間、地球上の生活を向上させようと巨額の資金を費やしてきたが、率直に言って、それは失敗に終わった。外交儀礼(diplomatic etiquette)などどうでもいい。

ウクライナに関してはもうたくさんだ。ウラジーミル・プーティン大統領はアメリカを侵略するつもりはなく、西ヨーロッパを侵略する意図もない。もしヨーロッパがそうではないふりをし、ウラジーミル・プーティンの敵を擁護し、彼に制裁を与えて激怒させたいのであれば、ヨーロッパだけでそうすることができる。

NATOはヒトラーとスターリンの産物だ。ヨーロッパ防衛の費用をアメリカに負担させるための単なる手段に過ぎなかった。だが今は違う。米国防長官ピート・ヘグセットは「アメリカはもはやヨーロッパの安全保障の主要な保証者(the primary guarantor of security in Europe)ではない」と述べた。これで核抑止力も形骸化した。

実際には、こうした主張は目新しいものではない。ただし、これほど露骨に政権によって表明されたことはこれまでなかった。様々な形で、それらは1世紀以上にわたるアメリカのアイソレイショニズム(Isolationism)の表層下に潜んでいた。選挙に勝つため、ウッドロウ・ウィルソンは第一次世界大戦について「私たちとは無関係であり、その原因は私たちに及ばない(one with which we have nothing to do, whose causes cannot touch us)」と断言した。フランクリン・ルーズベルトも第二次大戦について同様の約束をした。彼はアメリカの母親たちに「何度でも繰り返すが、あなた方の息子たちは外国の戦争に送り込まれることはない(again and again and again, your boys are not going to be sent into any foreign wars”. Neither kept his word)」と約束した。どちらもその言葉を守らなかった。

ヴェトナム戦争時のように、戦争中はアメリカ世論も愛国的になる。しかしそれ以外は一貫して反介入主義的(anti-interventionist)だ。ケネディは「地球規模の犠牲(global sacrifice)」を訴え、「アメリカがあなたのために何をするかではなく、人類の自由のために共に何ができるかを問え(ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man)」と訴えたかもしれない。だがそれは主に外国向けの美辞麗句に過ぎなかった。

トランプ・ヴァンスが今、西ヨーロッパ諸国に伝えているのは「本気になれ(get serious)」だ。冷戦は終わった。ロシアが西ヨーロッパ占領を望んでいないことは周知の事実だ。この脅威は、賢明な大統領ドワイト・アイゼンハワーが「米軍産複合体(military-industrial complex)」と呼んだ連中が作り上げた幻想に過ぎない。彼らは恐怖から利益を搾り取ることに長けている。キア・スターマーが本当に「防衛を優先する(to give priority to defence)」つもりなら、自らの保健・福祉予算を削減して賄えばよい。だが彼は本当に脅威を感じているのか、それとも単に聞こえが良い言葉を言っているだけなのか?

ジョー・バイデンはキエフへの支援の程度に細心の注意を払った。今こそ脱出の避けられない瞬間だが、それに先立って非常に困難な停戦が必要となるだろう。ワシントンからの実質的な保証がなければ、キエフの最終的な敗北以外に道は開けない。ウクライナは、南ヴェトナムにおけるアメリカの再来となる可能性もある。

トランプ・ヴァンスは、冷戦の大部分を支えてきた陳腐な言葉(platitude)、こけおどし(bluff)、そして不当利得(profiteering)の混合物の実態を、最小限の配慮で暴露することを決断した。1989年のNATOの勝利は、より微妙なニュアンスを持つ多極世界への移行の必要性を示唆していたが、それは決して適切に定義されることはなかった。

トランプ・ヴァンスが言うように、再編は切実に必要だ。しかし彼らがそれを表明したタイミングと方法は最悪の選択だった。私たちは彼らに好きなだけ無礼に振る舞えるが、彼らにはアメリカの民主政治体制が味方するだろう。

※サイモン・ジェンキンス:『ザ・ガーディアン』紙コラムニスト。

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(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 


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『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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