古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

タグ:ウクライナ戦争

 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は5年目を迎えている。状況が大きく変化していないが、ウクライナ側がドローン攻撃をロシア国内でも行い、一定の成果が出ている。一方で、ロシア側もキエフに対する攻撃を強めるなど状況は膠着しているが、攻撃は依然として止まず、双方に被害が出ている。ウクライナ戦争はウクライナ側の領土の譲歩とNATO不参加を条件にして停戦に向かうことが考えられるが、ヨーロッパ諸国はアメリカが控えている支援を肩代わりして、ウクライナへの支援を増加させており、そのことが停戦を遠ざけているという皮肉な状況になっている。ウクライナは自国の力だけでは戦争を継続することができない。ヨーロッパ諸国(主にドイツ)が資金と武器を援助しなければどうしようもない。しかし、ヨーロッパ諸国はロシアに致命的な打撃を与えることができる強力な武器をウクライナに与えていない。それは、そのようなことをすれば、ロシアから攻撃対象にされてしまうと分かっている。あくまで戦争が継続できる範囲で、ロシアに大打撃を与えないようにして、支援を行っている。そして、実際に被害に遭い、命を落としているのは、ウクライナとロシアの人々である。ヨーロッパ諸国は狡猾な立ち回りをしている。
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 アメリカのドナルド・トランプ大統領は第二次政権発足時に、即時のウクライナ戦争停戦を主張し、ウクライナへの支援を控える形で停戦を促そうとした。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領をホワイトハウスに呼んで、叱りつけるような形で停戦を説得した。しかし、その後はゼレンスキー大統領を評価し、ウクライナへの支援を再開している。一方で、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領とは首脳会談を行い、ウクライナ戦争停戦への働き掛けを行った。プーティン大統領に対して、トランプ大統領は停戦を促すことができる立場にある。問題は領土面での譲歩である。ウクライナはクリミア半島の再奪取を求めているが、これはもはや不可能であり、現在のウクライナ東部のドンバス地方の独立(ロシアの影響圏の編入)が焦点となる。ウクライナがウクライナ東部の回復を見通せるほどの軍事的な能力を持っているならばまだ粘っても好機を見出す可能性はあるが、ヨーロッパ諸国もアメリカもそれを行えるだけの資金も高性能の武器もウクライナに与える意思はない。ただ、ダラダラと戦争を継続させる、ロシアの出血を強要するということが目的となっている。アメリカはイラン戦争も抱えており、ウクライナに力を割くことも厳しい状況だ。

 ここでトランプ大統領がウクライナ戦争を停戦に導くことに成功すれば、現在の厳しい状況から挽回できる。支持率は上昇し、11月の中間選挙の見通しも明るくなる。トランプ政権としてもそのことは分かっているので、何らかの動きは行っているだろう。ウクライナ戦争停戦となれば、アメリカはより動きやすくなる。そして、世界にも良い影響を与える。そのような「奇跡」を起こすこともまた政治家の責務ということになる。トランプにそれだけの神通力が残っているかどうか、一種の試練の夏となるだろう。

(貼り付けはじめ)

ウクライナはトランプにとって大きな勝利となるかもしれない(Ukraine Could Be a Big Win for Trump

-ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は弱っている。今こそ戦争を終わらせるよう彼に強く求めるべき時だ。

ファリード・ザカリア筆

2026年6月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/05/ukraine-russia-war-trump-putin-missiles-diplomacy-deal-territory/

ドナルド・トランプ大統領は、国内での支持率急落と自らが引き起こした海外での泥沼化した戦争という二重の困難に直面している。しかし、彼にはこの状況を覆す好機が訪れている。その舞台は中東地域ではなく、そこから1000マイル以上離れたヨーロッパ、すなわちロシアとウクライナの間で血なまぐさい戦争が続く地である。ここ数カ月の間にこの紛争の情勢は変化し、ついに和平への道が開かれつつある。

ウクライナは現在、経済規模で約12倍、人口で4倍以上という強大な敵国との戦争の5年目を迎えている。国家として存続し続けていること自体、現代における軍事的・国家的な業績と言えるだろう。しかし今や、キエフ(ウクライナ)は単に生き残っているだけではない。戦争の巣額そのものを変えつつある。

長年にわたり、ロシアの残酷なまでの強みは、その戦い方が巧みだったことにはなかった。むしろ、拙劣な戦い方をしても、その代償に耐え抜く力があったことにある。ロシア軍は、徴集兵、受刑者、少数民族、辺境の貧困層、その他国家が「戦火の炉(the furnace)」へと放り込めるあらゆる人々を動員してきた。膨大な数の兵士を失いながらも、それを上回る兵員を補充し続け、時には毎月3万人以上を新たに投入することさえあった。

その構図は崩れ始めている。ロシアは、訓練を受けた兵士を補充する能力を上回るペースで損失を被っているようだ。莫大な犠牲を払って進めてきた攻勢も、今や牛歩の如く停滞している。かつてはドンバス全域の制圧を目指していたロシア軍だが、現在の進撃はマイル単位ではなく、わずか数メートル単位にとどまる。戦況分析によれば、5月のロシア軍による領土獲得は皆無に等しく、むしろ一部の地域を失った可能性さえある。かつては大きな強みであったロシアの広大さが、今や弱点となっている。守るべき兵站線や防衛対象が増え、攻撃に対して脆弱な領域も拡大しているからだ。

一方のウクライナは、物量に頼るのではなく、スピード、情報力、そして創意工夫で対抗している。ウクライナは強力なドローン産業を築き上げており、その多くは国産である。今年は700万機以上のドローンを生産する計画だ(比較として挙げれば、アメリカは2027年末までに約30万機を生産する計画だ)。ウクライナは中距離攻撃を駆使し、前線後方のロシア軍の兵站や指揮所を攪乱している。また、長距離ドローンやミサイルを用いて、ロシア国内の製油所、石油貯蔵施設、飛行場、レーダー基地、軍需工場を攻撃している。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、もはや戦争をウクライナ国内だけに封じ込めておくことはできない。先月モスクワの赤の広場で行われた「戦勝記念日」の式典でさえ、ウクライナのドローンによる脅威の影で規模が縮小されたほどだ。

しかしながら、ウクライナが容易な勝利を目前にしているということではない。ロシアは依然として、ロシアのミサイルやドローンでウクライナの都市を激しく攻撃し続けている。キエフではパトリオット迎撃ミサイルの不足が続いており、兵員不足の問題も解消されていない。さらに、汚職スキャンダルや強硬な徴兵措置(harsh conscription)によって国内政治も緊張を強いられている。

しかし、戦況の勢いは変化した。その変化の重要な要因の1つはヨーロッパだ。今年、この戦争において最も過小評価されている成功例は、アメリカが支援を控える中でヨーロッパがその役割を担ったことかもしれない。ヨーロッパによる支援は今や、アメリカによるキエフへの支援激減分をほぼ補っている。ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相による妨害が、オルバンの敗北によって、解消されたことで、ヨーロッパ連合(EU)の900億ユーロ規模の融資パッケージも動き出しつつある。ヨーロッパは、この戦争の主導権を握るようになった。

ここでトランプの出番となる。ウクライナに対するトランプのこれまでの外交は、本来持っていた交渉力を無駄にしてきた典型例と言える。トランプはウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領を激しく非難し、ウクライナ側の譲歩(concessions)を交渉の出発点として扱い、プーティンに「西側諸国が根負けするのを待てばよい(he could wait the West out.)」と思わせるような状況を作り出した。

しかし、トランプにはヨーロッパのどの指導者も持ち合わせていない「切り札(tools)」がある。彼は、キエフへの大規模なアメリカ軍事支援の再開をちらつかせたり、ロシア産石油や「影の船団(the shadow fleet、制裁逃れを行うタンカー船団)」に対する制裁を強化したり、ウクライナへの供与を前提としたNATO諸国へのアメリカ製兵器の売却を加速させたりすることができる。その上で、和平合意という形でプーティンに「出口(exit ramp)」を提示できるかもしれない。忘れてはならないのは、ロシアがこの戦争で35万人から50万人の兵士を失っており、新たな独立系調査によれば、この戦争は今や国内で極めて不人気なものとなっているという事実だ。

皮肉なことに、トランプの親ロシア的な姿勢こそが、こうした合意をまとめる上で有利に働く可能性がある。プーティンは、トランプが長年にわたりキエフに対して懐疑的であり、モスクワに対しては寛容な態度を取ってきたことを知っているからだ。もちろん、ウクライナやヨーロッパ諸国がその合意を受け入れるためには、それが真剣かつ実効性のあるものでなければならない。ウクライナは領土の譲歩に応じる用意があるべきだが、新たな国境線は防衛可能なものでなければならない。また、ウクライナを西側陣営にしっかりとつなぎ止めるような、確実な安全保障の保証も必要だ。この戦争の本質はドンバス地方をめぐる争いではない。ウクライナが、自らの未来を自由に選択できる主権国家であり続けられるかどうかが問われている。

プーティンが勝利の条件として描いていた「ウクライナが弱い」と「西側諸国が疲弊するだろう」という2つのシナリオはどちらも崩れ去った。これこそがトランプにとっての好機である。彼は、第二次世界大戦以来最悪のヨーロッパにおける戦争を終結させ、西側陣営におけるウクライナの地位を確保し、西側を打ち負かして帝国を再興しようとする修正主義的な大国を抑止する役割を果たせるかもしれない。それは、トランプがこれまで中東地域などで誇示してきたような、単なる写真撮影のための見せかけの停戦とは異なり、真の功績となるだろう。それこそが、真に「歴史的」と呼ぶにふさわしい合意となるはずだ。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



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 古村治彦です。

 イラン戦争は開戦当初、アメリカとイスラエルによる大規模攻撃が実施され(宣戦布告は行われず)、イラン側に大規模な被害がもたらされた。イラン側は直ちに反撃を実施し、イスラエル、ペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地や関連施設に対する攻撃を実施した。イラン側からの攻撃に対して、アメリカとイスラエルの防衛はある程度機能したと見られているが、イスラエルやアメリカ軍基地に一定の被害が出た。イラン側はミサイルやドローンを使っての攻撃を実施し、アメリカやイスラエルの防空システムの隙を突いて攻撃を成功させた。アメリカの世界最強最大の軍事力、イスラエルの最新鋭の防衛システムをもってしても完璧を期すことはできない。アメリカ海軍はホルムズ海峡で民間船舶の護衛を拒否した。イラン側からの攻撃を完全に防ぐことができず、民間船舶と自分たちを完璧に守ることはできないということを事実上宣言した。

 今回のイラン戦争について情報収集、分析を世界中の軍関係者が行っているだろうが、特に熱心に行っているであろう国々が中国とロシアだ。中国とロシアにとっての仮想敵国はアメリカだ。アメリカの攻撃能力、防御能力をある程度把握しておくことは必要不可欠となる。そして、ヴェネズエラのような脆弱な国家ではなく、イランのような地域大国であり、ある程度の軍事力、軍事経験がある国家の軍事組織との戦闘は中露両国にとって貴重なデータ収集の場となる。そして、中露両国はアメリカの卓越した点と弱点を見つけているだろう。中国はイランがペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地やイスラエルに被害を与えることができたということが収穫になっただろう。

 ペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地を、日本や韓国にあるアメリカ軍基地と見なすことができる。アメリカはペルシア湾岸諸国の防衛も担っているが、防衛システムに脆弱性、穴があり、完璧ではないということが明らかになった。これは中国にとって、台湾有事の際の、アメリカ軍と日本の自衛隊との戦闘において大いに参考になる。中国はイランよりもはるかに強大な軍事力を持つ。イラン戦争でイランを打倒できず、実質的にイランに敗北する形となったアメリカは中国と戦うことはできない。アメリカが中国と戦えないのに、日本が戦えると考える合理性は存在しない。それでも何が何でも日本は中国と戦って勝つと信じるのはもう宗教の域である。

 イラン戦争、そしてウクライナ戦争を通して得るべき教訓は「戦争は起こしてはならないこと」「近隣諸国を挑発しないこと」「他国の口車に乗って戦争をさせられるような愚かさは国家を滅亡させること」である。日本はそのことをよくよく拳拳服膺すべきである。

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ミサイル防衛はイランに対しては有効だったが、中国に対しては有効ではないかもしれない(Missile Defense Worked Against Iran. It Might Not Work Against China

-現在進行中の戦争は、台湾を巡る紛争において、はるかに深刻な脅威となりうる脆弱性(vulnerabilities)を露呈させた。

デッカー・イヴェレス筆

2026年6月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/12/iran-war-us-china-taiwan-missile-defense-radar-interceptors/?tpcc=recirc_trending062921

イランとの戦争におけるアメリカの戦術的成功、特にイランのミサイル兵器庫の一部破壊と飛来するミサイルおよびドローンの大部分の迎撃成功は、他の戦域におけるミサイルとドローンの脅威の再評価を促した。国防大学のカーター・マルカシアン教授は『フォーリン・アフェアーズ』誌に投稿した論考の中で、これらの成功は、台湾を巡る侵略戦争を遂行するために長距離精密攻撃(long-range precision strikes)を期待していた中国を含む、アメリカの他の敵対国を躊躇させる可能性があると論じた。結局のところ、アメリカの防空・ミサイル防衛システムがイランのミサイル攻撃を大幅に弱体化させることができるのであれば、台湾や太平洋全域における中国の攻撃も防げるのではないか?

マルカシアン教授のような楽観主義者でさえ、イランのミサイル戦力には限界があると指摘している。イランの攻撃は中東地域全体で推定20カ所のアメリカ軍施設に損害を与えたものの、イランのミサイルは破壊力こそ高いが、本格的な対抗作戦に必要な精度を欠いているため、戦闘作戦を深刻に阻害するには至っていない。これに加え、ミサイル迎撃の成功も相まって、イランの攻撃は当初懸念されていたほどの効果を発揮していない。

しかし、中国は全く異なる存在であり、中国が東アジアで実際にどのように戦い、勝利を収めようとしているかを考えると、イランとの比較は成り立たない。中国ははるかに高度な標的設定能力(far more sophisticated targeting capabilities)と、はるかに先進的なミサイル戦力(a much more advanced missile force)を保有しており、これらが中国のドクトリンと作戦計画を形成している。中国はイランのような戦争のやり方はしないだろう。アメリカが台湾紛争に中東紛争のようなやり方で臨まないのと同様である。こうした違いがあるため、イラン戦争から得られた教訓を東アジアに適用することは難しい。

イラン紛争はまた、アメリカのミサイル防衛における重大な脆弱性を露呈させた。それは、レーダーインフラだ。イランはアメリカの最も重要なレーダーシステムの一部を破壊することで、ミサイル防衛網に穴を開けることに成功した。重要なのは、中国が極超音速滑空体(hypersonic glide vehicles)や機動巡航ミサイルな(maneuvering cruise missiles)ど、この任務に特化したシステムに長年投資してきたことである。

レーダーが機能しなければ、ミサイル防衛システム全体が崩壊し、アメリカによる台湾防衛ははるかに困難な課題となる。

2月28日のイラン指導部に対する最初の攻撃後、イランはアメリカとその同盟諸国に対し、地域全体の軍事施設および民間施設へのミサイルとドローンによる波状攻撃(waves of missile and drone attacks)で報復した。1日あたり約20~30発のミサイルが使用された。イランのミサイルは一般的に、個々の航空機や航空機格納庫といった小型インフラを標的とするほどの精度がないため、地上での航空機の損失は限定的だったようだ。イランは燃料タンクや貯蔵タンクなどの大型施設への攻撃には成功したが、特にミサイル防衛システムが飛来するミサイルの一部を迎撃する状況下では、一貫した対敵攻撃を行うことはできなかった。

こうした限界を認識したイラン指導部は、異なる戦略を採用した。アメリカ軍の全面的な軍事的敗北に賭けるのではなく、コスト負担の増大に焦点を当てた。つまり、同盟諸国の軍事作戦の経済的・政治的コストを高め、ワシントンが戦闘継続の意思を失うまで持ちこたえることを目指すことにした。

イランはこの戦略を様々な方法で実行に移してきた。例えば、アメリカ空軍基地の居住区へのドローン攻撃や、イスラエルの民間人居住地域へのクラスター爆弾の使用などにより、アメリカの迎撃ミサイルの保有数を徐々に減少させてきた。弾道ミサイルの命中精度の低さ、同盟諸国の効果的なミサイル防衛システム、重要施設の移転、そして偶然の幸運などが重なり、これらの攻撃の効果は限定的だった。アメリカ軍の死傷者は比較的少なく、確認された死者はわずか13人にとどまった。

イランがより大きな成果を上げたのは、レーダーシステムに対する攻撃だった。安価で一方向攻撃が可能なドローンに続いて強力なミサイルを発射することで、イランはヨルダン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦にあるAN/TPY-2およびAN/FPS-132といった先進的なレーダーシステムを損傷または破壊したとみられる。もしイランが敵のレーダー設備全てを破壊することに成功していたら、アメリカとその同盟諸国は飛来するミサイル攻撃を確実に探知・追跡する能力を失い、迎撃ミサイルを発射して迎撃するタイミングを明確に判断することもできなくなっていただろう。

中国はイランとは対照的に、コスト負担だけで満足するはずがない。台湾を巡る紛争において、北京は地域におけるアメリカ軍および同盟軍に対する完全な軍事的勝利と台湾領土の奪取を目指すだろう。中国は何十年にもわたり、まさにこの事態に備えて準備を進めてきた。少なくとも1990年代以降、中国は台湾奪取に向けた共同作戦を視野に入れ、航空宇宙軍の近代化を進め、大小さまざまな弾道ミサイルやドローンを多数開発してきた。

これらの新型システムの中で最も技術的に高度なのは、DF-17、DF-27、YJ-17極超音速滑空ミサイルである。これらのミサイルは降下中に機動できるため迎撃が極めて困難であり、またYJ-19極超音速巡航ミサイルは高速かつ低高度で接近することでレーダー探知を回避できる。

これらのシステムは、紛争初期段階において、陸上および海上における同盟諸国のミサイル防衛網を破壊することを目的として設計されている。ある中国の軍事評論家がよく引用する言葉にあるように、「どんなに優秀な戦闘員でも、目を抉り取られたらどうやって戦えるというのか?(No matter how formidable a fighter is, how can they possibly fight if their eyes have been gouged out?)」

中国のミサイルシステムの高度化と、イランが到底及ばない電子戦能力を考慮すれば、中国によるアメリカ軍への攻撃は、イランがこれまで展開してきた攻撃よりもはるかに精密なものとなるだろう。イランが安価なドローン数機で複数の高度なレーダー施設を破壊できるのであれば、中国ははるかに高度な技術基盤と幅広い能力を駆使して、それをはるかに大規模に実行できる可能性が非常に高い。

これは、紛争のごく初期段階で、アメリカおよび同盟諸国の防空網の大部分が機能不全に陥る可能性があることを意味する。中国がこれらの防空網を完全に破壊することに成功すれば、迎撃ミサイルの保有数や迎撃率に関する議論は無意味になる。そもそも飛来する脅威を探知・追跡できなければ、ミサイル防衛システムが迎撃ミサイルを発射すべきタイミングを判断する方法がなくなる。

また、より広範な作戦上の問題も存在する。アメリカはこれらのミサイル脅威に対処しつつ、同時に中国の海上および空軍からの攻撃にも対処しなければならない。中東地域における作戦環境は比較的単純だ。アメリカ軍はイランのミサイルとドローン兵器庫に対処すればよいだけだ。しかし東アジアでは、中国南部に配備された数百機の戦闘機と爆撃機に加え、ヘリコプター、水上艦艇、空母、潜水艦にも直面することになる。防空能力が低下すれば、これらの部隊はイランの不正確なミサイル攻撃よりもはるかに強力に地上部隊を攻撃し、壊滅させる能力を持つことになるだろう。

マルカシアンは、アメリカの作戦計画を見直し、中東地域におけるアメリカの成功を考慮に入れるべきだと主張している。「イラン戦争における迎撃ミサイルの命中率や消費率といった実戦的な性能指標を、アメリカのモデル構築、ウォーゲーム、定量的計算に組み込むことで、中国との潜在的な紛争における予測結果が変わり、アメリカ軍の作戦計画の改善に役立つ可能性がある」と述べている。

しかし、上記の分析が示すように、これらの迎撃指標はイランの脅威特有の状況下で作成されたものである。これらを東アジアに適用すると、この重要な背景を見落とす危険性がある。そして、決定的に重要なのは、中国がミサイル防衛を支えるインフラを組織的に標的にし、空軍と海軍の戦力でその隙間を突くことで、ミサイル防衛システムを弱体化させる能力を過小評価してしまうことで(underestimating)だ。

また、イラン戦争で露呈したアメリカの重大な脆弱性(the critical U.S. vulnerabilities)を見落とす危険性もある。中国の習近平国家主席は、抑止されるどころか、自国の通常戦力を適切に活用すれば、陸上でも海上でもアメリカを打ち負かす十分な可能性があると結論づけるかもしれない。

全ての戦争には教訓がある。しかし、ある戦争や戦域で得られた教訓を、当てはまらない別の戦争や戦域に安易に適用することには危険が伴う。歴史はそうした教訓に満ちている。例えば、ドイツ軍司令官ゲルト・フォン・ルントシュテットの事例が挙げられる。彼は、連合軍のノルマンディー上陸作戦に対する防衛計画を、ソ連との戦いで得た教訓に基づいて立てた。

連合軍の戦術航空戦力との戦闘経験を持つ部下エルウィン・ロンメルの反対を押し切って、ルントシュテットは機動性(maneuverability)を維持し、ソ連軍に対して成功を収めたように連合軍に反撃するため、装甲部隊の大部分を予備として温存することを決定した。ロンメルの予言通り、これは悲惨な結果を招くことになる。連合軍の卓越した戦術的阻止能力(tactical interdiction)によって、ルントシュテットが予備として温存していた多くの装甲部隊は前線に到達することなく壊滅的な打撃を受けた。

アメリカは今、同様の過ちを犯す危険に晒されている。中国の軍事技術はイランをはるかに凌駕しており、中国はこれらの戦力を東アジアで効果的に活用できる。そうなれば、中東地域で得られた教訓は無意味なものとなるだろう。イランでの経験に基づく中国に対する過信(overconfidence against China)は、壊滅的な作戦計画の誤りを招き、アメリカ軍を不必要なリスクに晒すことになる。

より良い前進策は、イランにおけるアメリカ軍の作戦遂行状況を詳細に分析し、特にレーダー防衛といった主要な失敗点を特定し、これらの個々の問題が中国との戦闘においてどのような規模に拡大する可能性があるかを批判的に検討することである。

アメリカは中国との潜在的な紛争に臨むにあたり、過信(overconfidence)は許されない。最悪の事態を想定し、それに応じた準備を整える必要がある。

※デッカー・イヴェレス:ワシントンに拠点を置く非営利の研究分析機関CNAアソシエイト・リサーチ・アナリスト。衛星画像を用いて外国の核態勢を研究している。モントレー大学ミドルベリー記念国際大学院で修士号、リード大学で学士号を取得。

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争はアメリカの仲介による停戦交渉が続いている。ウクライナ戦争は2026年2月24日を過ぎて継続していると、満4年となり、5年目に入る。ウクライナ、ロシア両国の国民にとっての苦痛が長期間続くことになる。トランプ政権は、2026年2月24日に一般教書演説(the State of the Union Address)を予定している。ここまでに停戦交渉をまとめて、一般教書演説で大々的にアピールしたいところだろう。

 ウクライナ戦争は、ロシアとウクライナの戦争であるが、ウクライナのバックにはアメリカとヨーロッパの西側先進諸国という「大応援団」がいて、ロシア対西側諸国という構図になっていた。ロシアは戦術核兵器使用(ウクライナだけに限定せず)を示唆したことで、西側諸国の腰が引けた。ウクライナにロシアを本気で怒らせない程度の攻撃しか許さない状況になった。

 そもそも西側諸国はウクライナに軍事支援や軍事顧問団派遣を行い、ロシアを挑発してきた。ロシアがその挑発に乗ってしまったという面はある。西側諸国はロシアが挑発に乗ってきたところで、経済制裁を発動してロシアを締めあげてやろうとしており、実際に経済制裁を行ったのだが、意図に反して、ロシアは屈服しなかった。ウクライナからロシアを完全に追い払うには、西側諸国が自分たちも危険を冒して、血を流す覚悟、最終的には地上軍派遣を行わねばならないところまで進んだが、もちろん、西側諸国にそのような意図も度胸もない。ロシアは西側以外の国々からの支援を受けて、守りを固めて、戦争を継続している。ウクライナはどうしようもない状態になっている。さらに、ウクライナ国内の状況もばれつつあり、はっきり言って、見た目はヨーロッパだが、中身は昔の第三世界の国のようなもので、腐敗と汚職の蔓延した国家である。そのような国に重要な武器を渡して、それをアメリカの敵対国や敵対勢力に横流しでもされたら目も当てられない。いくらお金を注ぎ込んでも、そのお金が政府高官たちの贅沢な生活に消えてしまうが、それくらいはまだましであるということになる。

 西側諸国がウクライナ支援に対して及び腰なのは、ロシアを怒らせたくないということと、ウクライナ国内の腐敗と汚職の問題があることが原因だ。アメリカをはじめとする西側諸国の支援が足りないなどと言っても、支援したくてもできない事情がある。ウクライナ戦争は西側諸国の間違った戦略のために起きた災厄である。ウクライナの一般国民が一番の犠牲者である。一日も早い停戦の実現を望む。

(貼り付けはじめ)

ジョー・バイデン政権のウクライナへの長い影(Biden’s Long Shadow Over Ukraine

-バイデン政権はウクライナに対してほぼあらゆる面で失望を与え、今日に至るまで戦争を形作ってきた。

エイドリアン・カラトニツキー筆

2025年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/12/05/biden-war-ukraine-russia-putin-zelensky-military-aid/

2022年夏の終わり、ウクライナはウクライナ南部で大規模な反撃を開始した。11月11日、この作戦の結果、ヘルソン市とドニエプル川西側のロシア占領地域全てが解放された。

ウクライナ軍がヘルソンに復帰したという高揚感の中、包囲網に閉じ込められていたロシア軍の驚異的な脱出劇はほとんど注目されなかった。数週間にわたり、前線強化のために派遣された精鋭部隊を含む推定2、3万人のロシア兵と大量の軍事装備が、フェリー、桟橋、そしてウクライナ軍が事前に一部通行不能にしていた橋を使って、ドニエプル川を越えて安全に撤退した。ウクライナ軍は撤退に先立ち、この橋をロケット砲で攻撃していたが、ロシア軍の主力が渡河した数週間後、この脆弱な隘路への砲撃をほぼ停止した。戦争研究所のロシアティームを率いるジョージ・バロスは『フォーリン・ポリシー』誌に「ヘルソンから秩序正しく撤退したことは、戦争全体を通してロシアにとって最も成功した軍事作戦だった」と語った。もしこの部隊が壊滅するか降伏を強いられていたら、それは戦争の転換点となり、全世界の前で晒される、クレムリンにとっての大きな屈辱となっただろう。

最近、ウクライナ政府高官数名と背景について話をする機会があり、これらの出来事について新たな知見が得られた。第一に、この撤退は、屈辱的な敗北がロシアの戦術核による反撃を誘発するのではないかとアメリカが懸念する中で行われた。第二に、ウクライナは河川を越える距離まで到達できる弾薬が不足しており、これはアメリカがウクライナに供給する弾薬の種類と量を厳しく制限していたことが理由だ。ロシア軍の驚くほど妨害のない撤退の真相は、戦争終結後も長らく秘密のままとなる可能性があるが、ヘルソン周辺での出来事は、ウクライナの攻撃が戦争中ずっと、アメリカをはじめとする西側諸国からの兵器の流入とその使用制限によって厳しく制限されてきたことを象徴している。

ドナルド・トランプ大統領は、ロシアとウクライナの紛争をしばしば「バイデンの戦争(Biden’s war)」と呼んでいる。ジョー・バイデン前大統領がロシアのウクライナ侵攻の個人的な責任を負っているというトランプ大統領の主張はもちろん誤りだ。責任はロシアのウラジーミル・プーティン大統領にあるのであり、トランプ大統領も主張しているように、バイデンやウクライナにあるのではない。トランプ大統領を除くほとんどの人が知っているように、プーティン大統領は長らくウクライナの正統性(legitimacy)に疑問を呈しており、少なくとも2014年にクリミア侵攻とドンバス占領というロシア初の領土獲得を開始して以来、その領土を渇望してきた。プーティン大統領の野望の大きさを考えれば、全面戦争に突入するのは時間の問題だった。

しかし、これは全く異なる意味でのバイデンの戦争である。今日に至るまで、この侵攻は、バイデン政権がウクライナにいつ、どのように武器を供給するかという決定、そしてアメリカが軍事援助をてこ入れしてウクライナの戦争遂行を制約した方法によって、大きく形作られてきた。ホワイトハウスのこれらの決定は、ロシアの侵攻の輪郭を大きく決定づけた。ウクライナの現在の軍事態勢、支配地域、そして増大している民間人および軍人の犠牲者数は全て、バイデン政権がウクライナの戦争遂行方法に課した制限によって大きく形作られており、その制限は今日まで続いている。

確かに、バイデンのウクライナにおけるレガシーは、ネガティヴなものだけではない。バイデン政権の多大な支援と、キエフを支援する国際連合の形成における彼の成功がなければ、ウクライナは領土の約80%を維持できなかっただろう。ロシアの侵攻を衰弱させるほどに減速させることもできなかっただろう。もしトランプが政権を握っていたら、キエフを支援するよりもモスクワとのビジネス取引を優先したかもしれない。しかし、バイデンの過剰な慎重さとウクライナの戦闘方法に対する厳しい制約は、2022年秋のウクライナの急速な反撃の停滞にほぼ確実に寄与し、そして今日に至るまでロシアが戦争を終結させ、自国が出す以外の条件で和解を求める圧力をほとんど感じていないという事実にもつながっている。

バイデンはウクライナの運命を深く憂慮しており、NATO同盟諸国とその他の民主政治体制国間の結束、負担分担、支援の調整、そして協力を巧みに形作った功績は、高く評価されるべきだ。実際、ヨーロッパ各国の首脳が最近示した強い結束、そして8月18日に大統領執務室で行われたトランプ大統領との会談で最も劇的な結束は、バイデンの非常に効果的な連合構築の成果である。

しかし、バイデン陣営の失策、そしてウクライナ軍への支援における過剰な慎重さは、誠実な評価を免れるべきではない。

最初の失策は、バイデンが副大統領を務めていたオバマ政権時代の遺産であるが、2021年3月に政権発足からわずか数週間後に始まったロシアによるウクライナ国境での大規模な軍事力増強の過程で、バイデンがウクライナへの大幅な武器供与を拒否したことだ。ウクライナは、トランプ政権初期に供与された対戦車兵器を補強するための新たな兵器を強く​​求めていたにもかかわらず、バイデンは何もしなかった。

ワシントンが2億ドルの控えめな武器パッケージを送る準備をした後も、バイデンはプーティンとの緊張の高まりを恐れて援助の送付を遅らせた。2021年12月中旬のNBCニューズの記事によると、バイデンは「緊張を緩和するための外交努力のための時間を増やす」ために援助を差し控えることを決めた。『ワシントン・ポスト』紙の信頼できる情報源による報道によると、アメリカの情報機関はその時にすでにロシアがウクライナへの全面攻撃の準備をしていると結論付けていたため、援助の遅延はこのようにして多くの重要な数週間にわたって続いた。バイデンの遅延の結果、2022年2月にロシアが攻撃するまでに、比較的わずかな援助パッケージの一部しか移送されなかった。バイデンが事実上、ロシア・ドイツ間のノルドストリーム2・ガスパイプラインとアフガニスタンからの屈辱的なアメリカの撤退を支持したことと相まって、クレムリンはこれら全てをワシントンの弱さと決意の欠如のシグナルと見ざるを得なかった。

さらに、戦争の初期段階では、バイデン政権はウクライナ軍がロシア軍に対して短期間で敗北すると確信していたため、多額の援助を控えていた。政権の誤った評価は、バイデン政権の国家安全保障ティームが信頼するロシア専門家サミュエル・シャラップによっても主張されていた。彼は『フォーリン・ポリシー』誌で「西側諸国の兵器はウクライナに何ら影響を与えない」と主張した。アメリカ側との協議に関わったウクライナ政府の元高官は、バイデンの消極的な姿勢は、少なくとも部分的には、タリバンが数十億ドル相当のアメリカ製兵器を押収したことが影響していると考えていると私に語った。バイデンはロシアがすぐにウクライナを制圧すると考えており、そのため、アメリカ製兵器がプーティンの手に渡ることを恐れていたようだ。

現実は全く異なっていた。トランプ政権初期に提供された対戦車ジャヴェリン、イギリス製の対戦車NLAW、そしてウクライナ独自の兵器(国産兵器とソ連時代の装備の混合)に加え、ヴァレリー・ザルジニー将軍率いる士気の高い防衛部隊による大胆な戦闘作戦により、ウクライナは苦境を克服し、ロシアを当初奪取した領土の多くから追い出すことができた。ウクライナの予想外の成功は、バイデン政権とNATO同盟諸国がようやく懸念の一部を克服し、支援を強化する機会をもたらした。

しかし、ウクライナは大きな成功を収めたにもかかわらず、バイデンと彼のティームは戦争中、事実上あらゆる場面でウクライナを失望させた。彼らは重要な兵器を渡さず、過剰な警戒からキエフの生存をかけた戦い方を著しく制限した。

バイデン政権の核エスカレーションへの懸念は、その後数年間のアメリカによる支援を形作る上で決定的な役割を果たした。こうした懸念を認識したクレムリンは、頻繁な脅しによって巧みに国民の懸念を煽った。これは、ソ連時代の戦略家たちが「反射的統制(reflexive control)」と呼んだ、敵対者の思考を形作るための一種の心理戦の典型例である。バイデン政権は、オバマ政権のロシアの「エスカレーション優位(escalation dominance)」理論の派生型、すなわちロシアはいつでも紛争をエスカレートさせてアメリカの援助を無効化できるという考えを信じていた。2014年からオバマ政権の任期満了となる2017年まで、この理論はキエフへのアメリカの致命的な軍事支援を拒否する根拠となった。

ロシアは戦争初期に戦術核兵器の使用を検討していたかもしれないが、ウクライナ側は喜んでそのリスクを負うつもりだった。1年間の激戦、ロシアの戦場での大敗(占領地の大規模な喪失を含む)、そして西側諸国からの新型兵器の供与を経て、エスカレーションの脅威は(かつて存在した限りでは)後退していた。その時点で残っていたのは、ウクライナによる戦争遂行の実効性を抑制するというアメリカの一貫した政策だけだった。この政策の運用は、ボブ・ウッドワードの著書『WAR 3つの戦争(War)』で明らかにされている。同書は、2022年10月21日のやりとりを報じている。その中で、ロイド・オースティン国防長官はロシアのセルゲイ・ショイグ国防長官に対し、「私たちは特定のことを行わないよう注意してきた。(中略)私たちが提供した兵器の使用方法については、一定の制限を設けている」と述べている。オースティンのこの言葉は、ウクライナの戦争遂行に対するバイデン政権のアプローチの本質を明らかにしており、この政策は今日まで続いている。

ロシアの主要な戦略的パートナーである中国が、プーティン大統領が核兵器使用の選択肢に訴えることはないという強い兆候を示した後も、アメリカの牽制は続いた。ウクライナのある高官は私に、習近平国家主席がプーティン大統領に対し、核兵器使用の選択肢は容認できないと明確に伝えたと中国側がウクライナ側に伝えたと語った。プーティン大統領が中国の支援への依存度を高めていることを踏まえると、この情報はウクライナ当局者に、ロシアが核兵器使用のリスクを冒さないと確信させた。しかし、ワシントンは、キエフの戦争遂行能力を劇的に強化する可能性があった主要兵器の移転を、一貫して遅らせたり、遅々として進まなかったり、あるいは完全に反対したりした。

2023年1月末までに、ロシアによる戦術核兵器の使用が差し迫っているというアメリカの懸念は、ある程度和らいだ。ウクライナがハリコフとヘルソンを解放するという戦場での見事な活躍を受け、西側諸国は大型戦車を含む新たな兵器支援を約束した。しかし、多くの物資の搬入は依然として遅延していた。しかし、ロシア軍後方の軍事目標および兵站目標を攻撃するための深層攻撃兵器を求めるウクライナの要請は、バイデン政権時代を通じて常に無視されてきたように、依然として無視されたままであった。

バイデン政権がウクライナに適切な武器を提供することに消極的だった歴史的記録は衝撃的だ。ウクライナが当初HIMARS多連装ロケット砲を要請したが、2022年夏まで回答が得られなかった。しかも、要請が出されたのは、人口約45万人の戦略的に重要な港湾都市マリウポリが、凄惨な包囲攻撃で街がくすぶる廃墟と化した後にすぎなかった。マリウポリ近郊の集団墓地は、ウクライナの民間人および軍人の死者が数万人に上った可能性があることを示している。キエフがパトリオット防空システムを求める要請も、ロシア軍がウクライナの都市の民間人を標的に継続的かつ残忍な攻撃を行ったにもかかわらず、2022年の大半の間、回答が得られなかった。なぜ当時、純粋に防御用の兵器ですら禁止されていたのかは、バイデンと当時の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンの秘密のままである。

最初のエイブラムス戦車がウクライナ軍に到着したのは、ロシアの侵攻から1年半以上経った2023年9月になってからだった。そして、2023年5月にキエフに長距離ストームシャドウミサイルを供給すると発表したのは、ワシントンではなくロンドンだった。アメリカによるATACMSと呼ばれる長距離ミサイルの納入は、2023年10月にようやく始まった。当時でさえ、これらのミサイルは射程距離を制限するように改造されており、ロシア領内の軍事目標への使用は制限されていた。例えば2024年夏、ウクライナは国境からわずか100マイル内側にあるロシアの主要爆撃基地の1つへの攻撃許可を懇願したが、結局拒否された。この制限が部分的に解除されたのは、2024年11月になってからだった。

また、バイデン政権はキエフに対し、ウクライナの主権領土内であっても、特定のロシア軍・兵站施設を攻撃しないよう圧力をかけたようだ。『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によると、アメリカはクリミア半島のロシア空軍基地と、ロシア軍にとって重要な補給路であるケルチ海峡橋へのウクライナ軍の攻撃に反対している。この記事ではまた、アメリカがクレムリンの要請により停止した、未公表のウクライナ軍による作戦についても言及している。

さらに、バイデン政権は戦争中ずっと、アメリカとウクライナだけでなく、ヨーロッパの同盟諸国にも恣意的なレッドラインを引いた。同盟諸国は、戦車、長距離ミサイル、ヨーロッパ所有のF-16戦闘機など、特定の兵器の提供を差し止められた。しかし、これらの制限が遅れて解除されると、これらの戦闘機はロシアの攻撃に対するウクライナの防空防衛の不可欠な要素となった。

ハドソン研究所のルーク・コフィーが述べているように、「遅延はクラスター弾、戦車、歩兵戦闘車、そしてATACMS(対空ミサイルシステム)の提供に影響を与えた。アメリカは最終的にこれらのシステムすべてを承認したが、その決断の遅れはウクライナに多大な損害を与え、積極的対応ではなく事後対応を強いることとなった」。言い換えれば、バイデンはウクライナに対し、背中に片手を縛られた(one hand tied behind its back)状態でロシアと戦うことを強いた。

アメリカの限定的な援助はロシアの侵攻をやっと抑える程度ではあったが、ウクライナが国家として存続することを確かに保証した。こうした状況下で、ウクライナは、自国の長距離ミサイルを含む、これまで供給が認められていなかった兵器の開発と量産を徐々に開始した。また、強力な戦闘用ドローン産業の台頭にも時間を稼ぎ、戦場は一変した。

ウクライナ自身の技術革新にもかかわらず、バイデン政権によるロシアへの攻撃制限は、爆撃機攻撃に利用される飛行場など、ロシア国内の軍事施設やインフラ施設への攻撃能力を非常に限定的なものにしていた。2024年には、バイデン政権はキエフの国産兵器の使用さえも細かく管理し、ロシアの石油精製所へのドローン攻撃を中止するようウクライナに圧力をかけた。ウクライナはこれに従い、爆発力は大きいものの戦略的な影響は小さい燃料貯蔵庫への攻撃に切り替えたようだ。トランプ政権下では、この制限は撤廃され、ウクライナはロシアの製油所に対して非常に効果的なドローン作戦を開始した。その結果、ロシアの大部分が燃料不足に直面している。この作戦の成功は、石油インフラへの攻撃が、バイデン政権が想定していたようなレッドラインではなかったことを証明している。

バイデン政権の制限は軍事的にはほとんど意味をなさず、むしろ著しい不均衡を生み出した。ロシアのミサイルとドローンがウクライナの都市で電力、暖房、水道の供給を停止させた際、ウクライナには同様の対応を行う能力がほとんどなかった。ロシアの攻撃は今日まで衰えることなく続いており、民間人が殺害され、数千ものウクライナの学校、教会、病院、アパート、オフィスが壊滅した。これらの攻撃の一方的な姿勢は、バイデン政権の制限が今もなお及ぼしている影響を如実に示している。

バイデン政権の慎重なアプローチは、アメリカにも政治的な遺産を渡すことになった。武器の漸進的な供給と厳しい使用制限によってウクライナで生じた膠着状態は、新たな「永遠の戦争(forever war)」の恐怖を生み、トランプに近い共和党員からの反対を強め、2024年の選挙戦においてトランプを有利に導いた可能性が高い。

MAGA保守派の間でウクライナへのアメリカからの支援を縮小すべきだという機運が高まっていることを念頭に、共和党の連邦下院議員マイケル・マコール、マイク・ロジャース、マイク・ターナーは2024年1月に詳細な報告書を発表し、武器制限の解除を求め、バイデン政権は戦争終結を確実にする計画を策定していないと警告した。議員たちは「戦争の初日以来、バイデン大統領がウクライナへの重要兵器の提供をためらい、それがウクライナの勝利を遅らせてきた」と非難した。さらに彼らは、ウクライナの勝利への道筋は「(1)必要かつ迅速なウクライナへの重要兵器の提供、(2)プーティン政権への制裁の強化、(3)凍結されたロシアの国家資産(3000億ドル)のウクライナへの移管」が必要だと主張した。

トランプも2025年8月にトゥルーソーシャルに「バイデンはウクライナに反撃をさせず、防衛だけをさせた。その結果は一体どうなったんだ?」と投稿し、この批判を繰り返した。しかし、バイデン政権下でウクライナの戦闘行為に対して課された制約の大部分は、トランプ政権下でも依然として有効である。実際、ウォール・ストリート・ジャーナルが2025年8月23日に報じたように、トランプ政権はウクライナによるロシア国内への長距離対空ミサイル(ATACMS)発射をひそかに阻止した。すべての兵器輸送の費用をヨーロッパまたはウクライナが全額負担することを義務付けるアメリカの新たな政策下でも、これらの購入のほとんどは、種類、数量、使用方法において依然として厳しく制限されている。

バイデン政権が恣意的なレッドラインを課さず、クレムリンによる核恐怖の煽動に操られることもなければ、マリウポリは陥落しなかったかもしれない。ウクライナは2022年の反攻作戦の勢いを確実に維持し、ロシア軍が陣地を固める前にさらに多くの領土を解放できただろう。ウクライナはヘルソンで撤退するロシア軍とその装備に屈辱的な敗北を味合わせることができただろう。ウクライナ市民に毎夜死をもたらすロシアの爆撃機と空軍基地を破壊できたはずだ。ロシアの戦争マシーンにとって最重要の資金源である石油・ガス産業は麻痺状態に陥っていた。そしてクレムリンはとっくの昔に交渉の席に着き、勝ち目のない戦争からの脱却を迫られていたかもしれない。

その代わりに、バイデンが形作ったウクライナ戦争はトランプ政権下でも継続している。トランプが戦闘終結に向けた精力的な試みで一定の功績を認められる一方で、特使スティーヴ・ウィトコフの拙劣な取り組みが示すように、成功の見込みは薄い。永続的な平和を実現するには、プーティンを交渉のテーブルにつかせる必要がある。そのためには、トランプはまずウクライナが自力で効果的に戦えるよう支援し、バイデンの戦争(Biden’s War)を終わらせる必要がある。ヨーロッパの資金援助(凍結されたロシア資産の活用を含む)、アメリカと同盟諸国の武器の制限なき使用(モスクワやサンクトペテルブルクの標的攻撃能力を含む)、強力な二次制裁を伴うこうした戦争こそが、紛争終結への最短ルートである。

※エイドリアン・カラトニツキー:大西洋評議会上級研究員、ミュルミドン・グループ創設者。著書に『戦場としてのウクライナ:独立からロシアとの戦争へ(Battleground Ukraine: From Independence to the War with Russia)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2026年2月24日で、ウクライナ戦争は満4年、5年目に進む。アメリカの仲介による停戦の動きは進んでいない。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は共に、アメリカ側から提案される条件に同意していない。プーティン大統領は慌てて停戦をする必要がない状況であり、できるだけ良い条件を引き出すための「熟柿(じゅくし)作戦(Waiting for the right moment)」を展開している。柿が熟れて自然と落ちてくるまで待つということになる。

 ゼレンスキー大統領は追い込まれている。西側諸国からの支援を受けて、戦線を維持しているが、支援もいつまで続けてもらえるか分からない。既に国土の6分の1を失い、多くの死傷者を出している。ウクライナ政府の非効率性や腐敗も、世界中からの注目もあって、白日の下に晒されている。このような状況であったなら、ウクライナ軍が敢闘し、ロシア軍の進行を阻止し、ロシア軍が慌てていた戦争の初期段階で、停戦交渉を行った方が良かったということになる。その後も大反攻(great counter-attack)を企図したが、それも失敗した。支援したアメリカ軍やイギリス軍の将官たちから、「そんなものが成功するはずがない」と批判されていながら、反攻作戦を強行し、失敗した。ロシア軍は守りを固めつつ、ウクライナを攻撃している。戦線は膠着している。ゼレンスキーは八方塞がりになっている。
ukurainewarsituation20260119map001

 ウクライナ軍はドローン戦闘機を使っての攻撃も行っているようだが、その効果も限定的である。そのようなゲリラ戦に毛が生えたような攻撃で、ロシア軍を押し戻すということは不可能である。既に勝負は決している。これ以上は徒に犠牲を増やすだけである。狂信的なナショナリズムや精神力で戦争を維持することが得策とは言えない。はっきり書けば、ウクライナ以外の国々は「早く停戦交渉のテーブルに着いて、少しでも良い条件の停戦を勝ち取る方が良いのに」と考えている。ウクライナ国民にとっては残念なことだと思う。しかし、国際政治は残酷な面を持つのもまた事実だ。平和を回復して、今度こそ、公明正大な政府を構成し、その恵まれた肥沃な大地から立ち上がって欲しい。

 そして、私たちは、ウクライナの状況をしっかり観察し教訓を得て、日本がそのような状況に陥らないように動くことが肝要だ。しかし、私は、日本国民全体がそこまでの賢さと能力を持っているかという点について、残念なことであるが悲観的になっている。

(貼り付けはじめ)

ウクライナのドローン攻撃は問題にはならない(Ukraine’s Drone Attack Doesn’t Matter

-残念なことだがこの派手な作戦は根本的な現実を変えるものではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年6月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/09/ukraine-war-drone-attack-spiderweb-russia-air-bases/

ウクライナによるロシア奥地の空軍基地への劇的で衝撃的な無人機攻撃「蜘蛛の巣作戦(オペレイション・スパイダーズ・ウェブ、Operation Spider’s Web)」は、2022年にロシアが違法な侵攻を開始して以来、この戦争を特徴づけてきたいくつかのテーマを浮き彫りにしている。これはウクライナの回復力(resilience)、創造性、そして大胆さ(audacity)を示す好例であり、これらはモスクワを幾度となく驚かせてきた資質である。また、この作戦はロシアの国家安全保障・情報機関の無能さ(incompetence)と油断(complacency)を暴露した。彼らは、ウクライナが100機以上の殺傷能力を持つ無人機と遠隔操作装置をロシア領土の奥深く、戦略爆撃機が配備されている空軍基地の近くに密輸しようとした試みを予測も検知もできなかった。ロシアの戦場での戦闘能力は戦争初期から向上しているが、国家安全保障体制は依然として脆弱である。

しかしながら、「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」の報を受けて多くの観測者が感じた当然の満足感は、ロシアの侵攻に対する効果的な対応策を練る努力を損なってきたいくつかの誤りをも反映している。優れた戦術的革新(tactical innovations)も、戦力や決意の非対称性(asymmetries in forces or resolve)、そして効果的な全体戦略の欠如(the absence of an effective overall strategy)を補うことはできない。開戦から3年が経過した現在も、キエフとその支援者たちは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の戦争目的を阻止し、戦闘終結を説得するための説得力のある計画を依然として欠いている。プーティン大統領の決意は今回の事件によって揺るぎないように見え、ドナルド・トランプ米大統領に対し、ロシアは報復する決意であると明言したことは、まさにその言葉通りだった。

さらに重要なのは、ウクライナの攻撃の戦術的独創性に目を奪われて、その戦略的重要性の無さに目をつぶるべきではないということだ。ドローン攻撃は斬新であり、戦争のあり方、そして今後のあり方を既に変えているが、結局のところ、それは航空戦力のもう一つの形態に過ぎない。たとえ非常に効果的な空爆であっても、それだけで戦争に勝利することはほぼない。しかし、航空戦力(ドローンを含む)は地上部隊の作戦において重要な役割を果たす可能性がある。

戦略的な観点から、これらの問題を最もよく研​​究をした、ロバート・ペイプは、1991年に著した『勝利のための爆撃:戦争における航空戦力と強制(Bombing to Win: Air Power and Coercion in War)』を出版した。ペイプは、航空戦力は民間人を懲罰したり、敵の戦略資産を危険に晒したり、敵の指導部を失脚させたり、敵の戦争目的を達成するための軍事力を奪ったりするために使用できると主張した。彼の事例は、最初の3つの戦略では敵を降参させることはほとんどなく (たとえば、民間人を爆撃すると、敵が戦争遂行をさらに強く支持するようになる傾向がある)、航空戦力は他の軍事資産と組み合わせて使用​​して敵軍を打ち破り、戦略目標を達成できないことを敵に示す場合に最も効果的であることを示した。

この観点から見ると、最近のウクライナのドローン作戦は、純粋に戦術的な観点からは確かに印象的であったものの、本質的には脇役的であり、本筋ではなかった。この点において、これは、同じく予想外で当初は成功したものの戦況を変えることができず、その後完全に逆転したクルスク近郊へのウクライナの侵攻と類似している。12機以上の戦略爆撃機を破壊したとしても、ロシアがウクライナへの進撃を継続したり、ウクライナの都市に対してミサイルや無人機による追加攻撃を実施したりする能力に、実質的な影響を与えることはないだろう。

確かに、この作戦はウクライナの士気を高め、ウォロディミール・ゼレンスキー大統領の人気を高め、ロシアに将来的な同様の作戦を阻止するための資源投入を迫っていることは間違いない。ロシアの国家安全保障エリートの間で、この戦争の賢明さとプーティン大統領の戦略に対する疑念が高まったのではないかと期待する声もあるが、プーティン大統領の権力基盤が揺ぐ、もしくは、戦争に反対するエリートや国民がプーティン大統領の考えを変えるような兆候は見られない。もしそうなれば素晴らしいが、計画を立てる材料としては薄っぺらなものに過ぎない。

この状況は、ウクライナとその支援諸国を、戦争開始以来直面してきたのと同じ難題に直面させる。すなわち、ウクライナの地政学的立場(Ukraine’s geopolitical alignment)を存亡の問題と見なし、最低限の戦争目的としてウクライナが西側の防壁となることを阻止することを掲げる、数的に優位な敵をどう打ち破るかという課題である。ウクライナ国民は祖国防衛のために並外れた犠牲を払ってきたが、戦略的パートナー(ジョー・バイデン前米大統領を含む)のいずれも自分たちの軍隊や領土を危険に晒す意思を示していない。この非対称性を踏まえ、キエフと西側諸国は代わりに、ウクライナの不屈の精神(Ukrainian grit)、西側の財政・物資支援、そしてロシアに対する厳しい経済制裁(economic sanctions)の組み合わせが、最終的にモスクワに方針転換を促すことを期待してきた。

それはまだ起こっていない。現時点では、そうなる可能性はますます低くなっているように思える。2022年秋のウクライナの攻勢は戦況を覆すことはできず、その後の2023年夏の反攻(ウクライナを支援・支援する西側諸国によって装備・訓練された新設旅団が投入された)は、多大な犠牲を伴う大失敗に終わった。前述の通り、クルスクへの侵攻は当初成功したものの、戦争の軌道を変えることも、キエフに有効な交渉材料を提供することもなかった。ロシア軍は多大な犠牲を払いながらも、ゆっくりと前進を続けている。戦場の情勢が概ねプーティン大統領に有利に進んでいる現状では、トランプでさえプーティン大統領には戦争を終わらせる動機がほとんどないことに気づき始めているようだ。

戦争終結への希望は、相互に受け入れられる解決策を見出すことを特に困難にする政治勢力との闘いにも直面しなければならない。キエフとモスクワは戦争以前、ほとんど互いを信頼していなかったが、今や全く信頼していない。プーティン大統領は、開戦前からロシア国境付近におけるNATOの存在を致命的な危険と見なしていた。フィンランドとスウェーデンの参加、そしてNATOによるウクライナへの支援は、プーティンの懸念を間違いなく高めた。同時に、ロシアの行動は近隣諸国にロシアの将来の意図に対する懸念を一層深めさせ、ロシアへの譲歩を躊躇させている。ロシアと西側諸国間の安全保障のディレンマ(security dilemma)は、開戦前よりも今の方が深刻化しており、安定的で相互に受け入れられる解決策の策定はより困難になるだろう。そして、お馴染みのサンクコスト(sunk cost)の誤謬を忘れてはならない。あるロシア兵が最近『ニューヨーク・タイムズ』紙に次のように語った。「私たちは皆疲れ果てており、家に帰りたい。だが、将来、それらの地域のために苦労しなくて済むように、全ての地域を奪取したい。そうでなければ、兵士たちは皆、無駄死ということになるではないか?(have all the guys died in vain?)」。こうした感情はウクライナにも間違いなく存在している。

戦争のこの時点で、正しい答えがあると過信すべきではなく、完璧な結果を得ることは過剰な期待ということになる。しかし、新たな兵器や戦術、あるいは「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」のような大胆だが本質的に限界のある作戦に期待を託すのは、単なる希望的観測に過ぎない。むしろ、ウクライナにロシアに不釣り合いな損害を与える能力を与え続けること、そしてモスクワを抑止し安心させる中央ヨーロッパの将来の安全保障体制を真剣に構想し交渉することこそが、戦争を終結させ、ウクライナの残存部分を保全する唯一の方法だ。これは宥和政策(appeasement)ではない。ロシアの現状打破(undermining the status quo)への関心を低下させ、その試みが失敗に終わることを確信させるような安全保障体制の交渉に前向きであることを意味する。

残念ながら、特にトランプ政権のこの問題への不安定な対応と、多くのヨーロッパ諸国に対する根底にある敵意を考えると、西側諸国の指導者たちがこの方針を追求するのに十分な団結力、決意、そして想像力を持っているとは到底言えない。結局、ウクライナの運命を決めるのはこうした政治的要因であり、戦術的には素晴らしいが戦略的には無関係な英雄的防衛軍の努力ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social Xアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしています。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されています。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いです。

 国際政治は大国間の駆け引きの場となっている。ウクライナ戦争もまさにそうなっている。アメリカが仲介者の形で停戦に向けて、ロシアとウクライナとチャンネルを持って交渉を続けている。停戦交渉の内容はロシア寄りの内容になっており、ウクライナは受け入れられないと反発している。ウクライナはウクライナ軍の善戦を認めるとしても、実際には厳しい状況が続いている。アメリカやヨーロッパ諸国の支援を受けて戦争を継続できているが、大きな成果を上げるまでには至っていない。既に戦争開始から4年近くが経過している。これまでにロシア軍を撃退するような大戦果を収めることができていない。現状維持が精いっぱいのところだ。ウクライナ戦争について、アメリカが支援を削減すれば、ウクライナは戦争どころではない。
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(左から)キース・ケロッグ、ドナルド・トランプ、スティーヴ・ウィトコフ

 アメリカではキース・ケロッグがウクライナ担当特使となっているが、現状ではほぼ存在感がない。そして、来年1月での辞任の意向を示している。ウクライナ寄りの立場での発がんが多く、ロシア側がケロッグを忌避している状況では、交渉の仲介者にはなれない。中東担当特使のスティーヴ・ウィトコフがウクライナ戦争の仲介にあたっている。ウィトコフはロシア寄りだという批判も多く、停戦が進まないのはウィトコフの無能のせいだという主張もある。しかし、現実を考えてみると、ウクライナには気の毒であるし、かわいそうではあるが、ロシア寄りの停戦条件にならざるを得ない。そもそもがウクライナを西側が対ロシア挑発の最前線にしてしまったという根本原因がある。西側諸国はウクライナのNATO加盟もEU加盟も認めてこなかったのに、軍事支援だけは行ってきた。これはいざとなれば、ロシアを挑発して、ロシアを暴発させて、ウクライナを攻撃させて、ロシアを返り討ちにするという考えでのことだった。失敗してもウクライナを切り捨てれば済む、そのために、NATO加盟もEU加盟も認めなかった。大きな誤算は、ロシアを暴発させたので、シナリオ通りにロシアを国際決済システムから締め出して経済的に締めあげたらすぐに降参すると思っていたら、ロシアはそれを見越してすでにドルを使わない決済方式を準備していたということだ。そして、西側以外の国々(the Rest)がロシアを支援したことだ。ウクライナ戦争は西側の敗北であり、敗北の責任は挙げて西側諸国にある。

 トランプ政権とウィトコフはこのことを理解している。それでも、仲介は進めるべきだ。停戦を進めるべきだ。ウィトコフだけでは厳しいようならば、中東での和平に功績があった、トランプの女婿ジャレッド・クシュナーを裏方、交渉役として使うべきだ。大事なことは一時的でもよいので停戦をすることだ。ウクライナには現状での停戦受け入れを基本線にするしかない。そして、ウクライナは危機的状況を好機に変えるために、国家体制や政治文化を大きく変化させる必要がある。戦争中でも汚職がはびこる国に未来はない。

(貼り付けはじめ)

米特使が「ロシアに助言」 与党から解任論―トランプ氏は擁護

時事通信 外信部202511300706分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025112900267&g=int#goog_rewarded

 【ワシントン時事】ロシアのウクライナ侵攻終結を巡り、対ロ交渉を担う米国のウィトコフ中東担当特使への批判が強まっている。ロシア高官との通話内容を伝えた米通信社の報道をきっかけに「ロシア寄り」の姿勢が浮き彫りになったためだ。トランプ米大統領は擁護しているが、与党共和党議員からも解任を求める声が出ている。

 「(トランプ氏を)平和の男だと尊敬していると伝えるんだ。そうすれば良い電話(会談)となる」。米ブルームバーグ通信は25日、ウィトコフ氏とロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)が10月14日に行った電話協議の詳細を報じた。

 ウィトコフ氏は5分超にわたるやりとりで、ウクライナのゼレンスキー大統領が10月17日にホワイトハウスを訪れる予定に触れ、これより前に米ロ首脳の電話会談を行うことを提案。トランプ氏をたたえるほか、ウィトコフ氏とウシャコフ氏が和平案を作成するという提案をプーチン氏が行うよう「助言」していた。

 米ロ首脳は10月16日に電話会談を行い、ハンガリーで会談することで合意。トランプ氏は「進展があった」と評価し、協議は首尾よく終わった。対照的に厳しい状況に置かれたのはゼレンスキー氏。トランプ氏はそれまで前向きな姿勢を見せていた米国製巡航ミサイル「トマホーク」の供与に応じなかったばかりか、17日の会談は「怒鳴り合い」(英メディア)の険悪な雰囲気に包まれた。

 米メディアによれば、ウィトコフ氏は10月下旬、プーチン氏に近いドミトリエフ大統領特別代表を南部フロリダ州マイアミに招き、トランプ氏の娘婿クシュナー氏も交え、侵攻終結を目指す新たな和平案を作成。ウクライナが東部2州を割譲し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念することなどロシアに有利な内容が盛り込まれた。

 トランプ氏は40年近い付き合いのあるウィトコフ氏に厚い信頼を寄せる。同氏は政権発足以降、ロシアを5回訪れてプーチン氏と会談した。だが、不動産業界出身で外交経験には乏しい。老練なプーチン氏に取り込まれていると不安視する専門家が多い。

 トランプ氏は今月25日、ウィトコフ氏の通話内容について記者団に問われると「普通の交渉だと聞いている」と擁護。和平案協議のため、ウィトコフ氏を再びロシアに派遣し、プーチン氏と会談させる考えも表明した。

 しかし、ロシア寄りの姿勢を見せるウィトコフ氏に対し、トランプ氏を支えるはずの共和党議員には懸念が広がる。ベーコン下院議員はX(旧ツイッター)上で「ロシアに肩入れしているのは明らかだ」と述べ、ウィトコフ氏の解任を主張。外交に明るいルビオ国務長官に対ロ交渉を任せるべきだと訴える声も出ている。

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トランプ氏娘婿に再び脚光 ガザ和平交渉の行方左右も

時事通信 外信部202510151243分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025101400660&g=int

 【ワシントン時事】イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦を導いたとして、トランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏(44)が再び脚光を浴びている。第1次政権で大統領上級顧問を務め、イスラエルとアラブ諸国の関係を正常化する「アブラハム合意」をまとめた人物で、その存在は和平交渉の行方を左右しそうだ。

 「ジャレッドがとても助けてくれた。本当に特別なことを成し遂げてくれた」。トランプ氏は13日、イスラエル国会での演説で、パレスチナ自治区ガザの和平に向けた「第1段階」の合意を巡り、クシュナー氏の貢献をたたえた。

 第2次政権発足後、ガザの和平交渉はトランプ氏側近のウィトコフ中東担当特使が主導した。だが、バイデン前政権の協力で実現した1月の停戦合意は長続きせず、戦闘が再開すると外交経験のないウィトコフ氏に代わり、豊富な中東人脈を持つクシュナー氏に白羽の矢が立った。

 米メディアによれば、クシュナー氏はトランプ氏が9月に発表した20項目の和平計画の立案を担い、人脈をフル活用してアラブ諸国からの賛同を取り付けた。イスラエルとハマスの間接交渉にも加わり、イスラエルの攻撃再開を認めないとするトランプ氏の確約をウィトコフ氏と共にハマス幹部に直接伝え、第1段階の合意へとこぎ着けた。

 第2次政権では政府のポストに就かず、アラブ諸国から巨額の資金を調達して投資ファンド会社を運営するクシュナー氏の関与を問題視する見方もある。だが、トランプ氏が以前言及したガザの観光開発構想もクシュナー氏の発案とされ、トランプ氏への影響力は小さくない。

 停戦発効に伴い人質が解放され、今後の焦点はハマスの武装解除やガザの戦後統治などを巡る交渉に移る。「ついに中東に平和が訪れた」と高らかにうたうトランプ氏だが、ガザ情勢安定化はクシュナー氏の手腕が成否のカギを握る。

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ブロンクスのメッテルニヒ(The Metternich of the Bronx

-ウィトコフの外交は大きく失敗したが、彼は今後も重要な役割を果たす可能性が高いだろう。

エイドリアン・カラトニツキー筆

2025年6月20日

『フォーリン・ポリシー』

https://foreignpolicy.com/2025/06/20/steve-witkoff-trump-putin-russia-war-negotiations-diplomacy-peace-cease-fire-ukraine-iran-israel-hamas/

2025年6月2日にウクライナとロシアの担当者たちがイスタンブールで第2回停戦協議を行った際、真剣な交渉は行われないことは明らかだった。ドナルド・トランプ政権の和平合意への期待に応えることを切望するウクライナは、国防相を筆頭とする高官級代表団を派遣した。しかし、ロシアは中級以下の外交団を派遣したにとどまった。新たな捕虜交換への扉を開いたこと以外、会談は進展をもたらさなかった。クレムリンは、ウクライナの服従条件として、3年間変更されていない、条件を提示した。これには、ロシアによる占領下のウクライナ国内の5地域への支配権の承認(recognition of Russian dominion over five occupied Ukrainian regions)、ウクライナによる追加領土の割譲(the cession of additional territory by Ukraine)、ウクライナの中立(Ukrainian neutrality)、そして事実上の軍の非軍事化(the de facto de-militarization of its armed forces)が含まれていた。

ヨーロッパの代表団は和平プロセスへの支持を表明するためにイスタンブールを訪れたが、アメリカは出席しなかったことが注目された。これは、アメリカが交渉における主要な役割から疎外されていることを物語っている。これは和平プロセスへの高まる期待とは程遠く、ドナルド・トランプ米大統領がロシアのウラジーミル・プーティン大統領も出席するならイスタンブールに同席する用意があると示唆した5月の最初の会談に寄せられた期待からは明らかにかけ離れている。

トランプは長年、プーティンとの特別な関係を誇示し、ウクライナ和平を主要な外交政策目標としてきたが、ワシントンの不在は、政権の外交、そしてロシア・ウクライナ戦争への全体的なアプローチの失敗を如実に物語っている。この失敗は、無能な交渉、ロシアの真の野望への理解不足、そしてプーティンのシグナルの読み間違いの結果である。この失敗は最終的にはトランプの責任であるが、クレムリンへの彼の主要特使であるアマチュア外交官スティーヴ・ウィトコフの影響力によって、事態は深刻に悪化している。

ウィトコフが重要な外交分野に進出したことは、第2次トランプ政権における最大の驚きの1つだった。昨年11月まで、ウィトコフは外交政策プロセスから遠く離れた場所にいた。彼が最初に公職に就いたのは、トランプの大統領就任委員会の共同議長だった。しかし、2024年11月12日、トランプ大統領はウィトコフを中東担当の特使として初めて国際関係に携わるよう任命した。当初、退任するジョー・バイデン政権の同意を得て、ウィトコフはイスラエルとハマスと交渉を行った。トランプ大統領の就任後、ウィトコフの役職はアメリカ政府の正式なものとなった。

ウィトコフはトランプとは40年もの間見知ってきた。そして、トランプの熱心な支持者であり、友人であり、ゴルフ仲間でもある。特に、ウィトコフは、2021年1月6日の暴動後のトランプの最も困難な時期、そして2024年初頭にニューヨーク市で重罪の有罪判決に直面した際に、トランプに寄り添い、精神的に支え続けた。

ニューヨークのブロンクス生まれのウィトコフは、ニューヨーク市ロングアイランドのホフストラ大学で学び、弁護士のキャリアを積み、不動産開発と投資へと転身し、億万長者となった。共産主義崩壊後のロシアで財を成したソ連出身のレン・ブラバトニクとしばしば提携し、ウィトコフはニューヨーク、マイアミ、カリフォルニアに重点を置いた膨大な米国不動産ポートフォリオを構築した。彼の会社はロンドンでのいくつかの注目度の高い投資を中心に国際的な事業活動を行っていたが、ポートフォリオ全体のごく一部を占めるに過ぎない。ウィトコフは海外ビジネスの経験が不足しており、それがトランプがアメリカの外交政策の実施に起用した他のビジネスリーダーたちとは根本的に異なっている原因だ。

ウィトコフの最初の外交活動は、ハマスとイスラエルの紛争における停戦と人質解放の確保に焦点を当てたものだった。バイデン政権、第一次トランプ政権、そしてオバマ政権で外交政策の高官を務めたブレット・マクガーク(Brett McGurk)と緊密に連携し、ウィトコフはトランプ大統領就任のわずか数日前に短期合意を仲介することに成功した。60日間続いた合意は失効し、紛争は継続したが、ヴェテラン外交官と次期大統領の側近というタッグはうまく機能し、ウィトコフの評判は高まった。

中東での成功後まもなく、ウィトコフの職務範囲は劇的に拡大し、ロシアとイランとの直接交渉も担当することになった。歴史に名を残す外交官、例えばオーストリア帝国のクレメンス・フォン・メッテルニヒ(Klemens von Metternich)やアメリカのヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)を除けば、複数の重要な国際交渉の責任を1人の高官が担うことは稀なことだ。

それでも、トランプ大統領と個人的な繋がりを持ち、直接アクセスできる人物を任命することは、過去に成功を収めてきた。アブラハム合意をめぐる交渉では、トランプ大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナーが中心的な役割を果たし、中東情勢に長年精通した経験豊富なアドヴァイザー陣を頼りにしていたため、この手法は特に効果的だった。

しかし、ロシア問題になると、ウィトコフは方針を転換した。アメリカ政府の専門家陣と緊密に協力する代わりに、実質的にワンマンショーのようなやり方で交渉を進めた。物議を醸したのは、モスクワのアメリカ大使館やワシントンの国務省との実質的な関わりを避けたことだ。トランプ大統領が過去にしてきたように、プーティン大統領との会談でもアメリカ人の通訳や議事録作成者を起用しなかった。クレムリンの通訳に頼ったことで、プーティン大統領の原文のニュアンスを汲み取るという前例のない決断は、外交政策の専門家から広く批判された。

さらに、交渉開始から数カ月間、ウィトコフはウクライナ側と一切接触していなかった。ロシアとウクライナ、そして両国の長く苦い歴史についてほとんど無知だったウィトコフが単独で交渉に臨んだことは、ウクライナの正当なレッドライン(red lines、越えてはならない一線)に関する知識をほとんど、あるいは全く持たないままクレムリンに到着し、プーティン大統領の主張やシグナルを評価するための文脈を全く持たないままだった。

ウィトコフはトニー・ブレア元英首相やビル・クリントン元米大統領など、様々な立場から助言を求めたが、地域情勢に関する知識不足と外交の進め方に対する不慣れさが、数々の失策につながった。経験豊富な交渉担当者が曖昧な発言をし、静かに交渉を進めるのとは異なり、ウィトコフは交渉の現状について頻繁にコメントし、「大きな進展(significant progress)」があると断定的かつ大胆に主張することが多かったが、それは往々にして実現しなかった。同様に重要なのは、ロシア側の主張に同調し、ロシア側が譲歩に応じるという証拠を一切示さずに、一方的かつ先制的な譲歩を公然と提示する傾向が、ウィトコフ自身の外交を損なわせた点である。ウィトコフと他の政権当局者らが発表したこれらの一方的な譲歩には、アメリカによるウクライナのNATO加盟拒否、ウクライナへのアメリカからの援助の大幅削減、そしてウクライナはロシアの領土獲得を認めるべきとの宣言が含まれていた。

確かに、トランプは戦争の多くの側面においてロシアの路線を踏襲している。ロシアとの交渉状況を誇大宣伝し、停戦は目前に迫っており、より恒久的な和平につながるだろうと幾度となく示唆してきた。しかし、こうした発言と並行して、ロシアの好戦的態度や強硬姿勢に対する不満も時折口にしてきた。一方、ウィトコフはそうではない。プーティン大統領に取り入り、大規模な新たな共同投資パートナーシップを宣伝し、ロシアが和平に向けて大きく前進する用意があると称賛すれば、平和が訪れると信じているようだ。

ウィトコフがロシアとの交渉において中心的な役割を果たしたことは、別の弊害ももたらした。トランプとの個人的な親密さから、プーティン大統領の意図に関するウィトコフの評価は、より冷静な専門家の評価よりも重視されるようになった。こうしてウィトコフは、アメリカとの貿易と投資という漠然とした約束でプーティン大統領を中国との同盟から引き離せるという、トランプの疑わしい確信を強めてしまったのだ。

ウィトコフがロシア、ウクライナ、そしてこの戦争に関する自身の見解を最も詳細に説明したのは、3月21日に放送された、プーティン政権下のロシアを繁栄の模範と称賛し、ウクライナを「独裁政治(dictatorship.)」と嘲笑することで知られる、悪名高い反ウクライナ評論家であるタッカー・カールソンとのインタヴューの中でのことだった。このインタヴューは、ウクライナ、プーティン、そしてロシア政権の本質に関するウィトコフの驚くべき無知を露呈した。

ウィトコフは、ロシアが大規模な軍事攻撃を続け、発言の数日前にウクライナの都市で民間人を攻撃していたにもかかわらず、「30日間の停戦はそう遠くない」と楽観的に示唆した。

さらに、ヴィトコフ氏はプーチン大統領を「悪人(bad guy)」ではなく「慈悲深く(gracious)」「偉大な(great)」指導者だと擁護した。ウィトコフ特使は、1万人以上のウクライナ民間人の死、1000万人もの人々の避難、ウクライナ民間人や捕虜の即決処刑を行ったロシア軍兵士や傭兵の不処罰、そして国際刑事裁判所が発行したプーティン大統領逮捕状に記載されているウクライナの子供たちの拉致という戦争犯罪に対するプーティン大統領の責任について、無関心、あるいは認識していなかった。

さらに驚くべきことに、ウィトコフは戦争に関するロシアの決まり文句を無批判に繰り返している。2月にはCNNに対し、「戦争は起こる必要がなかった。挑発されたのだ。必ずしもロシアが挑発したとは限らない」と語った。彼は、ロシアが占領した地域(名前は思い出せなかったが)は「ロシア語圏」であるとカールソンに伝えてロシアの主張を補強し、これがモスクワへの忠誠の証であり、ロシアによる併合の正当な根拠であることを示唆した。

実際には、2014年以降、被占領下のドンバスからウクライナに逃れたウクライナ人の数は、ロシア統治下に留まったウクライナ人の数を上回っている。ロシア語を話すウクライナ人とウクライナ東部の住民は共に、ウクライナの戦闘部隊に多数参加している。また、2014年のロシア侵攻以降の世論調査では、ロシア語圏のウクライナ東部および南部の住民が、ロシアへの併合または統一の考えを断固として拒否していることが一貫して示されている。

ウィトコフはさらに、戒厳令と報道検閲の下で行われ、ジュネーブ条約に違反し、中立的な国際選挙監視団を排除し、逮捕、拷問、処刑への恐怖が蔓延する中で行われた、ロシアによる併合に関する偽りの国民投票の正当性を認めているように見受けられる。ウィトコフはまた、ロシアが望んでいるのは現在保有している領土だけであり、新たな領土を併合したり、残りの地域を破壊したりする意図はないと主張した。プーティン大統領がそのような発言をしたという証拠はない。

まとめると、ワシントンの特使ウィトコフはロシアの領土主張に信憑性を与えようと躍起になっていたが、その主張はロシアの野心とウクライナの現実を全く考慮していないものだった。

トランプ大統領の就任後、アメリカは急速にウクライナ支援国としての役割を放棄し、中立的な仲裁者(neutral arbiter)の役割を担うようになった。ウィトコフの外交、戦争の解釈、そしてロシアの主張への反論は、中立の域を超え、少なくとも部分的にはアメリカの立場をクレムリンの立場に沿わせる方向に進んだ。これはNATO加盟国に警戒感を与え、ヨーロッパは米ロ交渉とは無関係にウクライナを支援するに至った。

ウィトコフの任務―ロシア・ウクライナ間、イスラエル・ハマス間、そしてイラン-は、どの外交官にとっても大きな課題となるものだろう。しかし、迅速な打開策を約束したウィトコフの大胆な発言は、進展の欠如を浮き彫りにするだけだった。外交活動を開始して約半年になるが、ウィトコフの実績は乏しい。ロシア・ウクライナ問題では交渉は行き詰まり、イスラエル・ハマス問題では膠着状態に陥り、イラン情勢の悪化で交渉は頓挫した。

ウィトコフの外交は見事に失敗したものの、彼は今後もアメリカ外交において重要な役割を担う可能性が高い。結局のところ、ウィトコフの関与は、トランプが望む「ピースメイカー(peacemaker)」と「平和探求者(peace seeker)」のイメージを一層強化するものであり、こうした役割によって、伝統的な国家安全保障を重視する共和党とMAGAの孤立主義者との間の溝を跨ぎながら、アメリカが世界と関わっているという印象を与えることができる。同様に重要なのは、ウィトコフがロシアの行動と意図に関する有害なほど誤った解釈を強化し、交渉による和平の可能性を低下させていることである。

マイケル・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官の人事変更を受けて、トランプがウィトコフを同職に検討しているのではないかという憶測が飛び交った。ウィトコフはこれまで、不用意な譲歩、逆効果な外交、専門家顧問の解任、そして国際情勢に関する表面的な知識といった実績を残してきたため、このような任命はアメリカにとって計り知れない災難となるだろう。結局、ウィトコフの誤った外交官としての役割は、公務員、諜報専門家、外交官コミュニティ(トランプ氏が軽蔑的に「ディープステート(the “deep state”)」と呼ぶもの)の役割が、国際情勢について浅い知識しか持たない個人工作員で代替できないという事実を強調している。

※エイドリアン・カラトニツキー:大西洋評議会上級研究員、ミュリミドン・グループ創設者。著書に『戦場としてのウクライナ:独立からロシアとの戦争まで(Battleground Ukraine: From Independence to the War with Russia)』がる。

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 第二次ドナルド・トランプ政権は「変容した」と言うしかない。トランプの急激な変わり身は周囲を置き去りにしている。就任してすぐの、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領との会談の厳しい態度、JD・ヴァンス副大統領の厳しい叱責は、ウクライナ戦争の停戦を促す効果があると当時の私は考えていた。ヨーロッパ諸国、特にイギリスは「口だけ番長」で、武器も金も人も出さずに、ウクライナを焚きつけるだけ、ほとんどがアメリカの金で戦争が行われてきた。トランプはこの状況を変えるだろうと考えていた。
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2025年も残り2カ月を切った。また年を越える。ウクライナ戦争は勃発以来、4年目であり、来年の2026年2月24日を過ぎても戦争が継続していれば、5年目に突入ということになる。ロシア政治や経済、国際関係の専門家たちは、ロシアは人員と戦費の関係で戦争を続けられないと4年間も言い続けた。月報のように「もうすぐロシアはギヴアップ」と言い続けてきた。アメリカとヨーロッパ諸国に比べて、圧倒的に経済面で脆弱なはずのロシアが戦争を継続し、奪取した地域を維持している。この戦争はウクライナの負けではなく、西側諸国の負けということになる。トランプはこの西が諸国の負けを確定させながらも、ロシアとの「ディール(deal、取引)」によって、ある程度の利益を確保できると私は考えていた。しかし、状況はどうもそうなっていない。
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ドナルド・トランプとイギリス国王チャールズ三世

 ヨーロッパ、とくにイギリスがトランプを取り込むことに成功したと考えている。関税交渉をうまく片付け、史上初の米大統領として2度目の国賓招待ということで、トランプを手懐(てなず)ける(tame)ことに成功したのかもしれない。イギリスの狡猾さと外交力は、実力を失って久しい21世紀になっても侮れない。「現代のビザンツ帝国と言うべきだろう。ヨーロッパは、ドナルド・トランプ、習近平、ウラジーミル・プーティンによるヤルタ2.0体制の構築を阻止し、ヨーロッパ防衛にアメリカを関与させ続けることに成功した。トランプの「変容」「変わり身」は、ポピュリズムの敗北を意味する。私たちはこのことを冷静に見つめ、分析しなければならない。

(貼り付けはじめ)

トランプとヴァンスがヨーロッパについてどれほど不快な態度を取ったとしても、彼らは率直な真実を語っている(No matter how distasteful we find Trump and Vance over Europe, they speak a blunt truth

-アメリカは最悪のタイミングと最悪の言い方を選んだが、再編を求めるのは正しい。

サイモン・ジェンキンス筆

2025年2月21日

『ザ・ガーティアン』紙

https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/feb/21/donald-trump-jd-vance-europe-us-realignment

ここ最近、右翼勢力でいるのは大変だ。ドナルド・トランプについて何か良いことを言う必要がある。それは困難だ。彼はウクライナ戦争を始めたのはキエフであり、その大統領であるウォロディミル・ゼレンスキーを「独裁者(dictator)」だと考えている。しかし、JD・ヴァンスはどうだろうか? アメリカ副大統領は、「言論の自由(free speech)を後退させている」ヨーロッパの「内部からの脅威(threat from within)」は、ロシアや中国からのどんな脅威よりも深刻だと考えている。彼らは正気を失っている。他に何を言うことがあるだろうか?

答えは数多くある。ジョン・スチュアート・ミルは「物事について、自分の側しか知らない人は、そのことについてほとんど何も知らない(he who knows only his own side of the case knows little of that)」と警告した。私たちは、彼らの主張に賛成するか否かに関わらず、理解しようと努力しければならない。

確かに、彼らは嘘つき(mendacious)で偽善的(hypocritical)だ。トランプは、ゼレンスキーが「選挙を拒否している(refuses to have elections)」と主張し、「各種世論調査では非常に低い支持率だ(very low in the polls)」と主張しているが、最近の世論調査では依然としてウクライナ国民の過半数の支持を得ている。「内部からの」言論の自由への脅威(the threat to free speech “from within”)に関しては、AP通信はメキシコ湾を「アメリカ湾(Gulf of America)」に改名することを拒否したためホワイトハウスのブリーフィングから締め出され、トランプ大統領の友人であるイーロン・マスクはCBSの「嘘つき(lying)」ジャーナリストは「長期の懲役刑に値する(deserve a long prison sentence)」と考えている。

トランプ・ヴァンスは、世界を善と自由へと導くという、神から与えられたアメリカの宿命について、半世紀にもわたって合意に基づいた曖昧な言い回しをしてきた。平和と戦争、移民問題、関税問題など、彼らはアメリカの利益のみを追求していると主張している。なぜアメリカは、自衛できないヨーロッパを守るために毎年数十億ドルもの費用を費やす必要があるのだろうか? なぜ遠く離れた国々に武器を与えて隣国と戦わせたり、途方もない額の援助を困窮するアフリカに注ぎ込んだりする必要があるのだろうか?

もし世界の他の国々が失敗してきたとしたら、アメリカは2世紀半もの間自由で豊かであり続けてきたのだが、それは世界の問題だ。アメリカはこの50年間、地球上の生活を向上させようと巨額の資金を費やしてきたが、率直に言って、それは失敗に終わった。外交儀礼(diplomatic etiquette)などどうでもいい。

ウクライナに関してはもうたくさんだ。ウラジーミル・プーティン大統領はアメリカを侵略するつもりはなく、西ヨーロッパを侵略する意図もない。もしヨーロッパがそうではないふりをし、ウラジーミル・プーティンの敵を擁護し、彼に制裁を与えて激怒させたいのであれば、ヨーロッパだけでそうすることができる。

NATOはヒトラーとスターリンの産物だ。ヨーロッパ防衛の費用をアメリカに負担させるための単なる手段に過ぎなかった。だが今は違う。米国防長官ピート・ヘグセットは「アメリカはもはやヨーロッパの安全保障の主要な保証者(the primary guarantor of security in Europe)ではない」と述べた。これで核抑止力も形骸化した。

実際には、こうした主張は目新しいものではない。ただし、これほど露骨に政権によって表明されたことはこれまでなかった。様々な形で、それらは1世紀以上にわたるアメリカのアイソレイショニズム(Isolationism)の表層下に潜んでいた。選挙に勝つため、ウッドロウ・ウィルソンは第一次世界大戦について「私たちとは無関係であり、その原因は私たちに及ばない(one with which we have nothing to do, whose causes cannot touch us)」と断言した。フランクリン・ルーズベルトも第二次大戦について同様の約束をした。彼はアメリカの母親たちに「何度でも繰り返すが、あなた方の息子たちは外国の戦争に送り込まれることはない(again and again and again, your boys are not going to be sent into any foreign wars”. Neither kept his word)」と約束した。どちらもその言葉を守らなかった。

ヴェトナム戦争時のように、戦争中はアメリカ世論も愛国的になる。しかしそれ以外は一貫して反介入主義的(anti-interventionist)だ。ケネディは「地球規模の犠牲(global sacrifice)」を訴え、「アメリカがあなたのために何をするかではなく、人類の自由のために共に何ができるかを問え(ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man)」と訴えたかもしれない。だがそれは主に外国向けの美辞麗句に過ぎなかった。

トランプ・ヴァンスが今、西ヨーロッパ諸国に伝えているのは「本気になれ(get serious)」だ。冷戦は終わった。ロシアが西ヨーロッパ占領を望んでいないことは周知の事実だ。この脅威は、賢明な大統領ドワイト・アイゼンハワーが「米軍産複合体(military-industrial complex)」と呼んだ連中が作り上げた幻想に過ぎない。彼らは恐怖から利益を搾り取ることに長けている。キア・スターマーが本当に「防衛を優先する(to give priority to defence)」つもりなら、自らの保健・福祉予算を削減して賄えばよい。だが彼は本当に脅威を感じているのか、それとも単に聞こえが良い言葉を言っているだけなのか?

ジョー・バイデンはキエフへの支援の程度に細心の注意を払った。今こそ脱出の避けられない瞬間だが、それに先立って非常に困難な停戦が必要となるだろう。ワシントンからの実質的な保証がなければ、キエフの最終的な敗北以外に道は開けない。ウクライナは、南ヴェトナムにおけるアメリカの再来となる可能性もある。

トランプ・ヴァンスは、冷戦の大部分を支えてきた陳腐な言葉(platitude)、こけおどし(bluff)、そして不当利得(profiteering)の混合物の実態を、最小限の配慮で暴露することを決断した。1989年のNATOの勝利は、より微妙なニュアンスを持つ多極世界への移行の必要性を示唆していたが、それは決して適切に定義されることはなかった。

トランプ・ヴァンスが言うように、再編は切実に必要だ。しかし彼らがそれを表明したタイミングと方法は最悪の選択だった。私たちは彼らに好きなだけ無礼に振る舞えるが、彼らにはアメリカの民主政治体制が味方するだろう。

※サイモン・ジェンキンス:『ザ・ガーディアン』紙コラムニスト。

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 


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『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 第二次ドナルド・トランプ政権が発足し、半年以上が経過した。トランプの電撃的な政策実行も一段落したという感じになっている。そして、最近ではイーロン・マスクとの争いが起きている。身内である共和党からも批判の声が出ている。また、ジェフリー・エプスタイン事件のファイル公開について、トランプが実施しないとしたことで、支持者や共和党議員たちからも批判が出ている。

 下記論稿では、ドナルド・トランプ大統領が直面する問題として挙げられているのは、関税引き上げによる経済への影響、ロシアとウクライナの停戦・支援問題、予算をめぐる対立が挙げられている。共和党はそもそも、自由貿易(低い関税)、アイソレイショニズム(海外の戦争に関わらない)、小さな政府(小さな予算)を志向してきた。支持層は中小企業を含む経営者であり、保守政党であった。それが、トランプが大統領になって、これまでの志向とは異なる政党になった。議員たちからすれば、トランプに反対してしまうと、選挙で支持をしてもらえない、反対だと言われてしまう、対立候補を立てられてしまって党内の予備選挙で負けてしまうということがあるので、表立っての反対はできないでいた。

 しかし、たとえば、ウクライナ戦争について言えば、トランプ大統領も選挙期間中に、すぐに停船させる、ウクライナに支援はしないと述べていた。しかし、実際には停戦は出来ず、ウクライナ支援は継続されている。このことは、共和党の議員たちや支持者たちからすれば、約束不履行ということになる。

 このような状況で、来年の中間選挙に向けて、議員たちは自分たちの選挙のことを考えて動くことになる。そうなると、トランプと衝突する議員たちも出てくることになるだろう。これからのアメリカ政治に注目していかねばならない。

(貼り付けはじめ)

トランプ大統領の今後6カ月間に注目すべき右派の3つの大きな戦い(3 major fights on the right to watch in Trump’s next 6 months

エミリー・ブルックス筆

2025年7月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/newsletters/the-movement/5412436-movement-fights-gop-trump-six-months/

共和党はドナルド・トランプ大統領の就任後6カ月間、彼を中心に団結してきた。しかし、右派内でくすぶっていた対立は、今年後半に一気に表面化すると見込まれている。

トランプの減税と支出優先事項を盛り込んだ「大きく美しい1つの予算案」が共和党によって可決されたことで、党内での他の議論を整理する余地が生まれた。トランプの支持率は夏場の低迷期に差し掛かっており、批判の余地が生まれている。また、ジェフリー・エプスタインに関する暴露がトランプの共和党への支配力の弱まりを露呈しています。

注目すべきポイントは以下の通りだ。

(1)   関税引き上げ対自由貿易本能(1. Tariff hikes versus free trade instincts

共和党は、トランプ大統領が数カ月間一時停止していた大半の国への関税引き上げを、81日のもう一つの重要な期限を前にして、警戒している。

共和党所属の連邦議員の多くは、交渉の達人と常々称賛するトランプ大統領に、貿易相手国との合意締結の余地を与え、傍観してきた。しかし、ハワード・ラトニック商務長官は週末、CBSニューズの番組「フェイス・ザ・ネイション」で、8月1日の期限は厳守すると述べた。

ジョン・ケネディ連邦上院議員(ルイジアナ州選出、共和党)は先日、本誌に対し、関税をめぐる不確実性を考えると、世界経済とアメリカ経済は「現在、脆弱な状況にある」と述べた。

「ケネディ議員は私たちは未知の領域にいる。関税がアメリカ経済や世界経済にどのような影響を与えるかは分からない。私も、そして誰も分からない」と述べた。

共和党議員たちは、国際的な合意が不足する中で、迫り来る関税について既に懸念を表明し始めている。

例えば、『ポリティコ』誌が報じたように、ロン・エステス連邦下院議員(カンザス州選出、共和党)率いる共和党議員24名は先月、ジェイミーソン・グリア米通商代表部(USTR)に書簡を送り、民間航空機に対するゼロ関税政策の維持を求めた。

関税が現実味を帯び、合意がほとんど得られない場合、静かな懸念は大きく声高になる可能性が高い。

(2)ロシアとウクライナに対する姿勢(2. Posture toward Russia and Ukraine

ロシアのウラジーミル・プーティン大統領がウクライナ侵攻を終結させるようないかなる合意にも抵抗していることから、トランプ大統領のプーティン大統領に対する忍耐は明らかに限界に達しており、結果としてトランプ大統領はロシアに対してより強硬な姿勢を取ることに前向きになっている。

トランプ大統領は7月14日、ロシアが50日以内に合意に至らなければ、ロシアに「非常に厳しい関税(very severe tariffs)」を課すと警告した。超党派の対ロシア制裁法案を支持する共和党議員たちは、トランプ大統領がゴーサインを出し次第、採決を行うと述べている。

しかし、ロシアとウクライナの衝突に自らが関与することに依然として懐疑的な共和党議員たちも少なくない。ジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州選出、共和党)は先週、『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタヴューで、NATO加盟国への武器供給を加速させ、その武器をウクライナに送るというトランプ大統領の計画を批判した。

グリーン議員は、「私はあらゆる集会でこう言ってきた。『ウクライナへの資金援助はもう止めろ。私たちは平和を望んでいる』と」と述べた。

先週、連邦下院共和党議員76人が、グリーン議員が提出した修正案に賛成票を投じた。修正案は否決され、下院共和党議員の過半数に満たない支持しか得られなかったものの、それでもなお大きな割合を占めており、トランプ大統領によるキエフ支援の取り組みを複雑化させる可能性がある。

(3)政府予算をめぐる対立(3. Government funding clashes

財政タカ派の懸念もあり、トランプ大統領は共和党議員全員の同意を得るために、自らの「大きく美しい1つの予算案」の可決に尽力した。そして、9月30日の予算期限を前に連邦議会が通常の政府予算案に取り組み始めるにつれ、こうした対立と力関係は更に複雑化するだろう。

同僚のアレックス・ボルトン記者によると、政府閉鎖への懸念は既に高まっている。共和党は、バイデン前大統領の下で承認された水準で依然として運営されている政府を維持するために、連邦上院民主党の協力を必要としているからだ。

通常、連邦上院の60票の賛成多数をクリアするには、歳出に関するより穏健な合意が必要となる。そして今回は、「大きく美しい1つの予算案」と、公共放送や対外援助に既に割り当てられている予算を差し戻した法案に憤慨する民主党が、より積極的な姿勢を取ろうとしている。

更に事態を複雑にしているのは、共和党の財政赤字対策に反対するタカ派による激しい反発だ。彼らは「大きく美しい1つの予算案」が歳出削減に十分な効果を上げなかったことに失望している。

しかし、8月の休会を前に通常の政府歳出法案の審議がほとんど進んでいないため、一時的な措置が取られる可能性が高まっている。これは財政赤字対策に反対するタカ派を激怒させるような提案となるだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年2月28日、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領がホワイトハウスを訪問し、ドナルド・トランプ大統領と会談を持った。そして、記者たちがいる前で、JD・ヴァンス副大統領も入って、口論となった。その様子は日本でも報道された。その口論の内容について、一部(後半部)をご紹介する。

 この口論の内容を見て、私は、「ゼレンスキーという人物はシンプルに頭が悪い人だ」と感じた。トランプと会談を持つとなれば、このようなことになる可能性が高いことは誰でも分かることだ。それでも、うまく対処するために準備をすることが重要なのに(石破茂首相は訪米前の週末に事前準備勉強会を開いていた)、そのような準備の跡が見られない。ウクライナをどのように導くか、戦争をどのように終わらせるかということについて、側近たちも含めて策もなく略もないということのようだ。側近たちのレヴェルもまたゼレンスキーのレヴェルを示している。つまり、頭が悪いのである。

 更に問題は、アメリカ側を「脅した」ことだ。「ゼレンスキーがアメリカは『将来それ(外国から攻められる恐怖)を感じるかもしれない』と示唆するとトランプが激怒」という項目がある。これは、ゼレンスキーが「アメリカは攻められる危険がないから、私たちの感じていることは分からない。しかし、将来は感じることになるだろう」という趣旨の発言を行い、トランプが激怒したということである。これは、「アメリカはいつまでも世界一の超大国ではいられない。すぐに弱体化して、私たちと同じ苦しみを味わうぞ」ということである。ゼレンスキーのこの見立ては説得力がある。しかしながら、それを、メディアを前にして言うべきではなかった。アメリカ国民も聞いているのである。アメリカからのお金と武器がなければ、ウクライナは戦争継続ができないのである。ゼレンスキーはアメリカからの支援継続を獲得するのが最重要の目的である。しかし、この目的達成を危険に晒すようなことをしてしまうというのは頭が悪い人物であり、このようなリーダーを持ってしまったのはウクライナにとっての最大の不幸である。日本も他山の石として注意しなければならない。

(貼り付けはじめ)

彼らが発言したこと:米大統領執務室でのトランプ、ゼレンスキー、そしてヴァンスの熱を帯びたやり取り(What they said: Trump, Zelenskyy and Vance’s heated argument in the Oval Office

アドリアナ・ゴメス・リコン筆

2025年3月1日

AP通信

https://apnews.com/article/trump-zelenskyy-vance-transcript-oval-office-80685f5727628c64065da81525f8f0cf

フロリダ州フォートローダーデール(AP)発。ドナルド・トランプ大統領とJD・ヴァンス副大統領は金曜日、ウクライナ戦争に関してウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領を非難した。ゼレンスキーがロシアのウラジーミル・プーティンとの外交問題についてヴァンス大統領に異議を唱えた後、感謝の意を示していないと非難した。

米大統領執務室での口論は世界的に放送された。ゼレンスキーの残りのホワイトハウス訪問はキャンセルされ、2022年のロシアの侵攻に対するウクライナの防衛において、アメリカがこれからどの程度支援するのか疑問が起きる事態になった。

以下は、このやりとりの重要な瞬間の文字起こしである。

■ゼレンスキーがヴァンスに対して、ロシアと外交について挑戦(Zelenskyy challenges Vance on Russia and diplomacy

・ヴァンス:「4年間にわたり、アメリカ合衆国、私たちは記者会見に立ち、ウラジーミル・プーティンについて強い調子で話す(talk tough)大統領を有してきた。そして、プーティンはウクライナに侵攻し、ウクライナの大きな部分を破壊した。平和の道筋(path to peace)と繁栄への道筋(path to prosperity)は、おそらく、外交への関与ということになる。私たちはジョーバイデンの考える道筋を試した。胸を張り、大統領の言葉が大統領の行動よりも重要であるかのように装った。アメリカを良い国にする(What makes America a good country)のは、アメリカが外交に関与することだ。それがトランプ大統領のやっていることだ」。

・ゼレンスキー:「あなたに質問しても良いか?」。

・ヴァンス:「もちろん、どうぞ」。

・ゼレンスキー:「それでは。彼(プーティン)はウクライナの大きな部分、東部とクリミア半島を占領した。彼は2014年に占領した。そして、それから長い期間、占領した。私はバイデン政権下での話だけをしているのではない。その時期は、(バラク・)オバマ大統領、トランプ大統領の時代だった。そして、バイデン大統領の時代になり、今はトランプ大統領だ。そして神のご加護のもと、トランプ大統領が彼を止めるだろう。しかし、2014年の間は誰も彼を止めなかった。彼はただ占領し、奪った。人を殺した。お分かりの通りに・・・」。

・トランプ:「2015年?」

・ゼレンスキー:「2014年」。

・トランプ:「おや、2014年? 私はいなかった」。

・ヴァンス:「それは正しい」。

・ゼレンスキー:「そう。しかし、2014年から2022年まで、接触線で人が死んでいる状況は変わらない。誰も彼を止められなかった。私たちが彼と会話をしたことはご存知だろう。そして私たちは彼と、私、あなた、大統領、2019年に私は彼と協定に署名した。私は彼、(フランスのエマニュエル・)マクロン大統領、(ドイツのアンゲラ・)メルケル前首相と署名した。私たちは停戦(ceasefire)に署名した。停戦だ。しかしその後、彼は停戦を破り、同胞を殺し、捕虜交換も行わなかった。私たちは捕虜交換に署名した。でも、彼はそれをしなかった JD、あなたの言う外交とは何か? どういう意味なのか?」。

・ヴァンス:「私は、あなたの国の破壊を終わらせる外交について話している。大統領、失礼ながら、あなたが米大統領執務室に入ってきて、アメリカのメディアの前でこの問題を訴えようとするのは失礼だ(disrespectful)と思う。今、あなた方は人員の問題(manpower problems)を理由に徴兵(conscripts)をして、人々を前線に押し出している。あなたは、この争いを終わらせようと努力している大統領に感謝すべきだ」。

・ゼレンスキー:「あなたはウクライナに来たことはあるか? 私たちにはどんな問題があるとおっしゃりたいのか?」。

ヴァンス:「貴国を訪問したことがある」。

ゼレンスキー:「一度だけ」。

・ヴァンス:「私は実際に様々なニューズを見て、何が起きているのか知っている。大統領、人々をプロパガンダツアー(propaganda tour)に連れて行く。軍隊に人々を参加させることに問題があったことにあなたは反対か?」

・ゼレンスキー:「私たちは複数の問題を抱えている」。

・ヴァンス:「そして、アメリカ大統領の執務室にやってきて、自国の破壊を防ごうとしている政権を攻撃することが敬意を表する行動だと考えるのか?」。

・ゼレンスキー:「多くの疑問がある。最初から始めよう」。

・ヴァンス:「もちろん」。

■ゼレンスキーがアメリカは「将来それ(外国から攻められる恐怖)を感じるかもしれない」と示唆するとトランプが激怒(Trump erupts when Zelenskyy suggests the U.S. might ‘feel it in the future’

・ゼレンスキー:「第一に、戦争中は誰もが問題を抱えている。しかし、あなた方には素敵な海があり、今は感じていない。しかし、あなた方は将来それ(外国から攻められる恐怖)を感じるだろう。神のご加護がありますよういに」。

・トランプ:「あなたは知らない。あなたは知らない。私たちがこれから何を感じるかなんて言わないように。私たちは問題を解決しようとしている。私たちが何を感じようとしているかなんて言うな」。

・ゼレンスキー 「あなたに対して言っているのではない。私はこれらの疑問に答えている」。

・トランプ:「あなたはそれを指示する立場にないからだ」

・ヴァンス:「それはまさにあなたがやっていることだ」。

・トランプ:「あなたは私たちが何を感じるかを決める立場にはない。私たちはとてもいい気分だ」。

・ゼレンスキー:「影響されていると感じるだろう」。

・トランプ:「私たちはとても良い、とても強いと感じるだろう」。

・ゼレンスキー:「私はあなた方に断言する。影響されていると感じるだろう」。

・トランプ:「あなたは今いい位置にいない。あなたは非常に悪い立場にいることに甘んじている」。

・ゼレンスキー:「戦争が始まってすぐの段階から・・・」。

・トランプ 「あなたは良い立場にいない。あなたは今カードを持っていない。我々と一緒なら、カードを持ち始めることができる」。

・ゼレンスキー:「私はカード遊びをしているのではない。大統領。私は非常に真剣だ」。

・トランプ:「あなたはカード遊びをしているではないか。あなたは数百万の人々の命を使ってギャンブル遊びをしている。あなたは第三次世界大戦を引き起こすようなギャンブル遊びをしている」。

・ゼレンスキー:「あなたは何を言っているのか? 何を言いたいのか?」。

・トランプ:「あなたは第三次世界大戦に賭けている。そして、あなたがやっていることは、多くの人々が言うべきことをはるかに超えてあなたを支援してきたこの国という国に対して、非常に失礼なことだ」

・ヴァンス:「一度でも感謝を述べたことがあるか?」

・ゼレンスキー:「多くの機会で。本日も」。

・ヴァンス:「ノー。今回の会談の全体を通して言っていない。あなたは昨年10月にペンシルヴァニア州に行き、私たちのライヴァルの候補者のために選挙活動を行った」。

・ゼレンスキー:「いいえ、していない」。

・ヴァンス:「アメリカ合衆国と、あなたの国を救おうとしている大統領に感謝の言葉を述べるように」。

・ゼレンスキー:「どうかもう止めて欲しい。あなたは戦争について、何か声を荒げたら・・・」。

・トランプ:「彼は声を荒げてなどいない。大声で話していない。あなたの国が大きな困難、問題の中にあるのだ」。

・ゼレンスキー:「答えても・・・」。

・トランプ:「いやいや、あなたは既に多く話している。あなたの国が大きな困難、問題の中にある」。

・ゼレンスキー:「分かっている」。

・トランプ:「あなたは勝てない。あなたはこの戦争に勝てない。私たちのおかげで、あなたは無事に切り抜けられる可能性が大いにある」。

・ゼレンスキー:「大統領、私たちは国に留まり、強くあり続ける。戦争が始まった当初から、私たちは孤独だった。そして、私たちは感謝している。私はありがとうと感謝を述べた」。

■トランプはゼレンスキーに対して停戦を受け入れるように求める(Trump demands Zelenskyy accept a ceasefire

・トランプ:「もしあなた方が私たちの供与した軍事装備を持っていなかったら、この戦争は2週間で終わったことであろう」。

・ゼレンスキー:「3日間だ。私はプーティンからその言葉を聞いた。3日間だ」。

・トランプ:「それよりも短かったかもしれない。このようなビジネスをするのは非常に難しいことだ」。

・ヴァンス:「ただありがとうと述べるべきだろう」。

・ゼレンスキー:「私はこれまで多くの機会で述べてきた。ありがとうとアメリカ国民に対して述べてきた」。

・ヴァンス:「意見の相違があることを受け入れ、自分が間違っているときにアメリカのメディアを使って争うのではなく、その意見の相違を訴訟について徹底的に話そうではないか。私たちは、あなたが間違っていることを知っている」。

・トランプ:「しかし、アメリカ国民が、今何が起きているのかを知るのは良いことだと私は思う。とても重要なことだと思う。だからこそ私はこうした話を長い間続けてきた。あなたは感謝しなければならない」。

・ゼレンスキー:「私は深く感謝している」。

・トランプ:「あなた方はカードを持っていない。あなた方はそこに埋もれている。人々は死んでいる。兵士は不足している。停戦はとてもよいことだ。そしてあなた方は私たちに『停戦は望んでいない。停戦は望んでいない。私は進みたい。そしてこれを望んでいる』と言う。よろしいか、もし今すぐ停戦が実現できるなら、そうするべきだ。そうすれば銃弾が飛び交うのを止め、兵士が殺されるのを止められる」。

・ゼレンスキー:「もちろん、私たちは戦争を止めたいと望んでいる。しかし、私があなたに申し上げたように、保証(guarantees)が必要だ」。

・トランプ:「あなたは停戦を望まないと言うのか? 私は停戦を望む。なぜなら、合意(agreement)よりも早く停戦が実現するからだ」

・ゼレンスキー:「停戦について国民に聞いてみては、彼らがどう考えるか」。

・トランプ:「それは私との話ではない。それはバイデンという男との話だ。彼は賢い人間ではない」。

・ゼレンスキー:「彼はあなた方の大統領だった。あなた方の大統領だった」。

・トランプ:「失礼だが、それはオバマ大統領があなた方にシーツを渡し、私がジャヴェリンを渡した時の話だ。私は戦車を全部破壊するためのジャヴェリンを渡した。オバマ大統領はあなた方にシーツを渡しました。実際、オバマ大統領はシーツを渡し、トランプ大統領はジャヴェリンを渡したと発表されている。あなた方はもっと感謝しなければならない。なぜなら、あなた方にはカードがないからだ。私たちがいればカードを持つことができるが、私たちがいなければ、あなた方にはカードがないということになる」。

■トランプはプーティンが自分を尊敬している、それは第一次政権についての捜査のためだと発言(Trump says Putin respects him due to the investigations of his first term

・ヴァンス(記者たちからの質問を再開):「彼女はロシアが停戦を破ったらどうすると質問している」。

・トランプ:「もし何かあったらどうする? 今あなたの頭の上に爆弾が落ちたらどうする? いいだろう、もし彼らがそれを破ったら? 分からない、彼らはバイデンとの約束は破った、なぜなら彼らはバイデンを尊敬していなかったからだ。彼らはオバマを尊敬していなかった。彼らは私を尊敬している。言っておくが、プーティンは私と一緒に大変な目に遭った。彼は偽りの魔女狩り(phony witch hunt)を経験した。・・・私が言えるのはこれだけだ。彼はオバマやブッシュとの取引(deals)を破ったかもしれないし、バイデンとの取引を破ったかもしれない。彼はそうしたかもしれない。おそらくそうした。何が起こったのかは分からないが、彼は私との取引を破らなかった。彼は取引をして合意を取り付けたいのだ。あなた(ゼレンスキー)が取引できるかどうかは分からない」。

「問題は、私があなた(ゼレンスキーに向かって)にタフガイ(tough guy)になる力を与えたことだ。アメリカなしではあなたはタフガイにはなれないと思う。あなたの国民は非常に勇敢だ。しかし、あなたは取引をするか、私たちは出て行くかだ(But you’re either going to make a deal or we’re out)。そして、もし私たちが出て行ったら、君たちは戦うことになる(And if we’re out, you’ll fight it out)。いい結果にはならないと思うが、君たちは戦うことになる。だが、君たちはカードを持っていない(But you don’t have the cards.)。私たちがその契約に署名すれば、君たちはずっと有利な立場になるが、君たちは感謝の気持ちをまったく示さない( But once we sign that deal, you’re in a much better position, but you’re not acting at all thankful)。それはいいことではない。正直に言うと、いいことではない。

「よし、もう十分見たと思う。どう思う? これは素晴らしいテレビ番組になるだろう。そう言わせてもらう」。

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 ウクライナ戦争は2022年2月に始まってもうすぐ3年が過ぎようとしている。初期段階でウクライナ軍が善戦してロシア軍の進撃を止め、西側諸国がロシアに経済制裁を科して戦争は早期に集結するかと思われたが、結局、ロシアは経済制裁を受けても持ちこたえ、戦争は継続している。

西側諸国はウクライナに支援を続けているが、そのほとんどはアメリカが負担している。ウクライナ戦争停戦を訴えて当選した、ドナルド・トランプ次期大統領が正式に就任するのが2024年1月20日で、それ以降、ウクライナ戦争の停戦協議は本格化すると考えられる。現状は、ウクライナは東部や南部で奪われた地域を奪還できていないが、ロシア領内クルスク州の一部を占領している。地図を見てもらえれば分かるが、ロシアにとっては喉に刺さった小骨程度のことであるが、やはり、ここを奪還できるかどうかということは重要になってくる。ウクライナとしてはクルスク州を取引材料にして、ロシアから何らかの条件を引き出したいところだ。
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 ロシアとしては、停戦協議にはクルスク州を奪還してから応じたいところだ。アメリカの支援が切れる今年1月以降に攻勢をかけて、ウクライナ軍をロシア領内から撤退させ、それから停戦交渉をするということになる。また、自分たちで攻勢をかけなくても、トランプ大統領に停戦協議に応じたいが、クルスク州を奪還しない限り無理だと言えば、トランプ大統領が、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に圧力をかけてウクライナ軍を撤退させるということも外交交渉で出来るだろう。

 停戦後に、平和維持活動として、ポーランドとフランスがウクライナに将兵4万人を派遣するという計画があるという報道もある。ウクライナのゼレンスキー大統領がウクライナのNATO加盟の必要性を訴え、NATO加盟まで、外国の軍隊の駐留を求めるという発言があった。これはロシアを非常に刺激する発言であり、ポーランドとフランス両国の軍隊がウクライナに4万人も駐兵するということはロシアにとって受け入れがたいことだ。ウクライナとしては逆に、外交交渉の材料として、NATO加盟と外国軍隊の駐留を取引材料に仕える可能性もある。ここで重要なのはポーランドである。ポーランドは中欧の大国であるが、同時に、歴史的にヨーロッパ全体に不安定要因ともなる国家である。ポーランドは、反ロシアという点ではウクライナと共闘できるが、ウクライナの南西部ポーランド国境地帯ガリツィア地方には実質はカトリック教徒のユニエイトがおり、ウクライナとの関係が深い。ポーランドがウクライナ南西部の支配を狙っている可能性がある(ロシアがウクライナの頭部を持っていったんだから自分たちもという考え)。
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 ウクライナ戦争の停戦交渉はロシアの占領地域はそのままという現状を認めるところが前提となり、ウクライナのNATO加盟を認めるかどうか、外国軍駐留を認めるかどうかというところになるだろう。軍事同盟ではないEU加盟については、ロシアも認められるところがあるだろう。しかし、EU側が負担増大を懸念してウクライナの加盟を認めない。トランプ次期大統領がNATOからの脱退も示唆しており、NATOの力が弱体化し、西側諸国の国力も低下している中で、ウクライナは西側とロシアの間で両天秤をかけるという柔軟な動きが必要となってくる。

(貼り付けはじめ)

●「ポーランドとフランス、軍派遣を協議か 戦闘終結後のウクライナに」

毎日新聞 2024/12/12 09:37(最終更新 12/12 09:37

https://mainichi.jp/articles/20241212/k00/00m/030/036000c

 ポーランドのメディアは11日、同国とフランスが、ロシアとの戦闘終結後のウクライナで平和維持活動に当たる4万人規模の外国軍派遣の可能性を協議していると報じた。フランスのマクロン大統領は12日にポーランドの首都ワルシャワでトゥスク首相と会談する予定で、議題に上るとみられる。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、自国の安全を保証するには北大西洋条約機構(NATO)加盟が必要だとした上で、加盟までの間、外国軍が駐留する案を検討していると述べていた。

 マクロン氏とゼレンスキー氏は7日、トランプ次期米大統領を交えた3者会談をパリで行っており、こうした案を議論した可能性もある。

 フランスのルモンド紙は11月、フランスと英国が欧州各国からのウクライナへの派兵を議論していると報じた。米メディアによると、トランプ氏の政権移行チームでは、ロシアとの戦闘を凍結し非武装地帯が設けられた場合、欧州諸国が警備を担う案が浮上している。(共同)

 

 

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ウクライナのクルスク侵攻がもたらす地政学的チャンス(The Geopolitical Opportunity of Ukraine’s Kursk Offensive

-ウクライナのクルスク侵攻はワシントンに対して、より賢いアジアへの意向(pivot to Asia)を示す道となる。

A・ウェス・ミッチェル筆

2024年8月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/15/kursk-ukraine-russia-offensive-incursion-china-asia-us-geopolitics-strategy/?tpcc=recirc062921

写真

ウクライナのロシアへの奇襲侵攻の中、破壊された国境検問所を通過するウクライナの軍用車両(2024年8月14日)

現在、クルスク地方で進められているような、ウクライナのロシア本土への侵攻は、アメリカの地政学的課題を順序立てて解決するという広範な戦略の一環として、戦争をより迅速に終結させる好機である。ロシアの侵攻2日目に私が『フォーリン・ポリシー』誌に書いたように、このような順序立ての戦略は、中国、イラン、ロシアとの同時かつ多方面にわたる戦争を回避するための最良の選択肢である。ウクライナ人が最近の成果を強固なものにし、おそらくそれを土台にするのに必要な手段を与えることで、ワシントンはキエフがモスクワを交渉のテーブルにつかせるのを助け、西側諸国が再武装する時間を稼ぎ、アメリカがインド太平洋に関心を移すのを可能にするチャンスがある。しかし、そのためには、ジョー・バイデン政権が、ウクライナによるアメリカ製兵器の使用制限を撤廃し、紛争の明確かつ達成可能な最終状態を定義する必要がある。これはリスキーではあるが、中国かイランが二正面戦争でアメリカと対峙するまでウクライナに援助を垂れ流すという選択肢よりは望ましい。

クルスク攻防戦がチャンスを生み出すには、この攻防戦が2022年以降のウクライナのロシア侵攻作戦とどう違うのかを理解する必要がある。第一に、ウクライナで最も優秀で西側で訓練された部隊を含む少なくとも5個旅団(brigades)の要素に加え、戦車、大砲、無人機、戦闘機が関与しており、規模がはるかに大きい。

第二に、今回の侵攻は過去の侵攻よりもはるかに深い。詳細は確認されていないが、ウクライナ側は国境のロシア側にある70以上の村、鉄道路線、重要なガス中継ハブ、合計1000平方キロメートル(386平方マイル)以上を支配しているようだ。第三に、ウクライナ側は急襲(raid)に成功しても立ち去るどころか、更に兵力と装備を投入し、侵攻を強めているようだ。

まだ多くのことがうまくいかない可能性がある。1つは、ロシア軍が攻撃している他の戦線からウクライナの兵力を引き離す可能性があることだ。モスクワはクルスクへの新戦力の投入を遅らせているが、ロシア軍にはまだ多くの予備兵力がある。

それにもかかわらず、この侵攻によってロシアの意外な弱点が明らかになった。ロシアの国境はほとんど守られていなかった。ウクライナ軍は戦略的な奇襲を仕掛け、敵国に戦争を持ち込み、ウクライナに必要な士気を高めた。ウラジーミル・プーティンは今、この攻撃を厄介なものとして軽視し、徴兵制(政治的に不人気な行動)と国内治安部隊、そして再配置された少数の前線部隊でやり過ごすか、あるいはウクライナ人を退去させ、より大規模な再配置で国境の残りの部分を強化するかというディレンマに直面している。つまり、ウクライナの橋頭堡を封じ込めることはできても、追い出すことはできそうにない。

数的劣勢にもかかわらず、ウクライナ側が地歩を固める可能性は十分にある。これまでのところ、この戦争では、陣地戦(positional warfare)における攻撃よりも防御の方が思いのほか有利であることが明らかになっている。秋の雨季を間近に控え、ウクライナ軍は容易に離脱できないような強固な突出部を形成できる可能性がある。今後、ロシア側は、ウクライナの長くて、穴だらけの国境を監視するために、より多くの軍隊を配備することを避けられないだろう。

このような事態は戦略的に重要である。それは、これまでロシアが勝利のセオリーとしてきた、戦争を長引かせることが、より大規模でおそらくより強力な紛争当事者であるロシアに有利に働くという考えに疑問を投げかけるからだ。クルスク作戦が最終的に失敗したとしても、現在の膠着状態を逆転させ、ウクライナが相対的に有利になるようなウクライナの戦略を描くことができる。プロイセンの軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツが19世紀に記したように、「軽く保持された、あるいは無防備な地方の占領は、それ自体が有利であり、この有利さが敵に最終的な結果を恐れさせるのに十分であれば、それは平和への近道と考えることができる」。もしキエフが小規模でもロシアの国境地帯を占領し、保持することができれば、モスクワは自国の領土において、西側の制裁によってこれまで耐えてきたことよりも重大な痛手を被る可能性を考慮しなければならなくなる。

これらは全て、より広範なアメリカの戦略に影響を与える。私は以前から、ウクライナにおけるロシアの戦争に対するアメリカの最適なアプローチは、中国が台湾に対して準備するよりも速い時間軸で、ロシアに代理敗北を与える機会として利用することだと主張してきた。過去2回の国家防衛戦略で、アメリカは複数の主要な相手と同時に戦争する準備ができていないことが明らかになった。ロシアの継続的な侵略に対して集中的かつ規律ある方法で資源を使うことで、アメリカはヨーロッパに対するロシアの脅威を弱め、その上でインド太平洋における抑止力を強化するための余地(bandwidth)を確保するチャンスがある。

問題は、アメリカが敵国ほど時間をうまく使えていないことだ。ウクライナ戦争が始まって以来、アメリカの国防予算は比較的横ばいで推移している。中国はこの時間を利用して、自国の銀行業界を制裁から守り、エネルギー供給をアメリカが混乱させにくいルートへと方向転換し、台湾近辺に攻撃部隊を増強し、アメリカとの核バランスを達成する努力を加速させている。イランはこの間、国防予算を増やし、中東全域の代理勢力に軍備を提供し、核兵器開発期間をほぼゼロに縮めてきた。

敵国が24時間体制で武装している一方で、アメリカは自国の防衛産業基盤を、ウクライナを支援できる状態にまで引き上げるのに苦労している。国防総省の推計によれば、アメリカは毎月8万発の155ミリメートル榴弾砲の砲弾を生産する予定だ。ウクライナが防衛陣地を維持するだけでも月に少なくとも7万5千発が必要であること、そして1990年代半ばには、アメリカが月に80万発以上の砲弾を生産していたことを考えるまでは、この数字は印象的だろう。オランダと同規模の経済規模を誇るロシアは現在、アメリカとヨーロッパを合わせた量の3倍の弾薬を生産している。最近の試算によると、アメリカがウクライナに提供したパトリオットミサイル迎撃機、ジャヴェリン対戦車システム、スティンガー防空システムの在庫を補充するには、現在の生産レヴェルで5年かかるという。

ヨーロッパの状況は更に悪い。高飛車な美辞麗句を並べ立てながらも、ほとんどのNATO諸国は、戦争を抑止するための必須条件である戦争への備えについて、中途半端な努力しかしていない。再軍備への意欲を好転させると宣言したにもかかわらず、ドイツは過去2年間、国防予算の不足を容認してきた。最近ではウクライナ支援を半減させ、2025年の国防予算はドイツ国防省が要求した額ではなく、インフレを補うのがやっとというわずかな増額にとどめた。2022年と2023年のNATO首脳会議で、西ヨーロッパの同盟諸国がNATOの東側に師団規模の部隊を配備すると約束し、その後、東側の防空を改善すると約束したが、実現されていない。最近の報告書によれば、ヨーロッパには長期にわたる紛争を遂行するための「備え、産業能力、サプライチェーン、雑誌の充実度、兵站、質量、資源、そして特に『戦う意志(will of fight)』が欠けている」という。

要するに、ワシントンとその同盟諸国は、ロシアの侵攻という衝撃を受けてからの時間を賢く使わなかったが、敵対国は賢く使ったということだ。2年以上前から、主要先進諸国との長期にわたる紛争にどのような規模の努力が必要かは明白であった。それにもかかわらず、アメリカもその同盟諸国も、そのような事態に備えるために必要な準備に近いものは何もしてこなかった。

このような背景から、クルスク侵攻のようなウクライナのロシアへの侵攻は戦略的な意味を持つ。もしウクライナ側が、ロシアの小さな地域さえも危険に晒すことができることを証明できれば、時間さえかければ、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領に、キエフにとってより有利な条件で交渉のテーブルにつかせることができるかもしれない。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、これが作戦の目的だと明言している。プーティンは、「敵は将来的に交渉の立場を改善しようとしている」と発言し、それを認めた。

東ヨーロッパ戦争の最終段階で領土が果たしてきたユニークな役割を強調するのは価値があることだ。過去において、ロシアが戦争後に不利な条件を達成できなかったのは、相手がロシアの領土を保持していたときだけである。例えば、1921年のポーランド・ソヴィエト戦争終結時、ソヴィエト・ロシアはポーランド軍がソ連領の一部を占領した後に西進を終了した。これとは対照的に、フィンランド・ソヴィエト冬戦争では、フィンランド軍がほとんどの軍事戦に勝利したにもかかわらず、ソヴィエト領土を占領することができなかったため、フィンランド領土の大部分を割譲して終結した。

言い換えれば、ウクライナにとって領土は、ロシアに対する制裁緩和やその他の経済的インセンティヴよりも価値のある、最も重要な影響力なのである。したがって、西側諸国の目的は、ウクライナにとって可能な限り最良の条件で、できるだけ早く戦争を終結させる方法として、ゼレンスキーがロシアの領土を保持するのを支援することであるべきだ。

そのためには、バイデン政権はこれまでやりたがらなかった2つのことを実行する必要がある。第一に、戦場での優位性を維持するために必要な武器をウクライナに提供し、キエフがそれらの武器を使用する方法に対する制限を撤廃すべきである。これにはリスクがない訳ではなく、ロシアはNATOやアメリカを直接脅かす形で紛争をエスカレートさせて対応する可能性がある。しかし、これらのリスクは、代替案のリスクと対比させて考慮する必要がある。例えば、ヨーロッパが安定する前にアジアを優先しようとする試みや、イランに対する先制攻撃など、より劇的で危険な試みである。おそらく最悪は、現在の漸進的な路線を継続することであり、その場合、アメリカの軍事備蓄が枯渇した瞬間に台湾に対する中国の動きでアメリカ政府に直面する可能性があり、おそらくそれ自体がさらにエスカレートする可能性を秘めたシナリオとなるだろう。

第二に、ワシントンは戦争に対する明確で達成可能な政治目標を定義する必要がある。その目標は、2022年2月までのウクライナの国境内に主権を回復し、独自の外交政策を担当し、経済的に実行可能で軍事的に強力になることである。それは本質的に価値がある。また、将来のロシアのヨーロッパ侵略に対する防波堤(breakwater against future Russian aggression)として機能する可能性もあり、それによってアジアにより重点を置くというアメリカの目標を支援する。

これらの線に沿ってアメリカの目標を定義することは、バイデン政権の曖昧で不安定な戦争アプローチを放棄することを意味する。バイデン大統領は、最終目標について、ロシアの体制転換(regime change)であると繰り返し示唆した。明らかに達成可能ではないことに加えて、このような、アメリカの目標を組み立てると、戦場で交渉が望ましい地点に達したときにアメリカがウクライナを支援することが困難になる。外交とは、侵略に直面したときの降伏や甘い合理性のことではない。むしろ、クラウゼヴィッツが書いたように、それは国家が「敵軍を殲滅するよりも目標に向かうより短い道(shorter route to the goal than the destruction of the opposing armies)」を見つけるための重要な媒体である。

制限のない軍事援助の拡大と最終目標の明確化という両方の点で、ワシントンとその同盟諸国は緊迫感を持って行動する必要がある。時計の針はアメリカに不利に働いている。時間が賢明に活用されていないという単純な理由で、順序決定戦略は2022年当時よりもリスクが高まっている。しかし、配列決定のリスクは、代替手法のリスクよりも依然として低い。配列処理には、おそらく最後の一押しが必要となる。

だからこそ、ウクライナ人を助けると同時に、複数の大国が敵対する戦争でアメリカ軍を支援できるよう防衛産業基盤の整備を急ぐという、2つの側面からアプローチすることが重要だ。また、ワシントンがヨーロッパの同盟諸国に対し、戦争に備えて現在行っている以上のことを行うよう働きかけることも重要だ。そうでなければ、得られるのは短い猶予だけで、アメリカが戦争を抑止するためにアジアでの態勢を強化することはできない。

戦略は固定されたものではなく、状況に応じて決まる。アメリカとその同盟諸国は現実と差し迫った選択に目を覚ます必要がある。アメリカが真剣に戦争の準備を始めない限り、実際には一度に一つ、あるいはもっと悪いことに複数の戦争を同時に戦わなければならないことになるかもしれない。

A・ウェス・ミッチェル:「ザ・マラソン・イニシアティヴ(The Marathon Initiative)」代表。トランプ政権でヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2024年の大統領選挙までは、「ドナルド・トランプとカマラ・ハリスではどちらが勝つか」という質問を受けることばかりだった。選挙が終わって1か月ちょっと過ぎている今まででは、「トランプが大統領になってアメリカはどうなるか、世界はどうなるか、日本はどうなるか」という質問を受ける。予言者ではない身としては答えるのに難しい質問ばかりだ。そこで、ハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルトはどう考えているかを見ていきたい。ウォルトもまたトランプを「予測不可能だ(unpredictable)」と言っているのではあるが。是非下の論稿を読んで欲しい。

 対中国に関しては、核兵器を使った戦争も辞さないと考える人たちがいる一方で、関わるべきではない、国内問題を優先すべきだと考える人たちもいる。トランプはその間を行ったり来たりするだろうというのがウォルトの見立てである。私は、トランプは中国との戦争を望まないだろうと考える。そして、アメリカが中国と戦うまでには何段階かあり、その中には、日本がけしかけられる形で、中国と戦うという段階があると思われる。そうなれば、世界経済は崩壊してしまうだろうと考えると、トランプは経済面での中国との貿易戦争を行う可能性は高いが、実際の戦争はない。

トランプ自身は戦争を損だと考えると思われるので、ウクライナ戦争も、そして中東地域でも戦争の拡大を望まないだろう。ウクライナ戦争はトランプ政権下で停戦ということになり、NATOに関しては、各国の負担増大を強く望むことになるだろう。中東地域におけるイスラエルの動きは気になるところだ。イランはイスラエルとの全面戦争を望まないだろうが(これはイスラエルもそうだろう)、現状のように押しまくられている状態で、どこかで反撃ということも考えられる。核戦争の脅威があるという懸念がある限り、アメリカはイスラエルを見捨てることはできないだろうが、現在のベンヤミン・ネタニヤフ首相があまりにも戦争を拡大させるようであれば、アメリカは歯止めをかける動きに出るだろう。大きな戦争は起きないだろうが、アメリカの国力の低下と威信の低下によって、各地域での役割が縮小することによって、各地域内での未解決の問題に関して、「自力救済」を求める動きが出て、不安定化したり、小競り合いが起きたりすることがあるだろう。

 トランプは日本に対してあまり関心を持たないだろう。アメリカ国内への投資とアメリカからの輸入増大、更には防衛費の増額(アメリカの負担の軽減)にしか関心がないと言ってよい。現在、日本では防衛費負担増額のための増税が進められているが、これは「防衛費を対GDPの2%まで倍増させよ」というトランプ政権以来の「厳命」に沿った動きである。「予測不可能な」トランプである。「2%?それはまだ低すぎる、3%だ」ということを言ってくる可能性もある。「それに加えて、アメリカ国内に工場を作れ」ということにもなるだろう。更には、「アメリカが産出する石油と天然ガスを買え」という要求も出てくるだろう。これらについて「条件を交渉する」役割が石破茂首相には求められる。石破氏は、トランプにとって、「ゴルフもやらない、おべっかも言わない」初めての日本の首相となる訳だが、タフな交渉相手であるところを見せれば、かえって好意を持つ可能性はある。「話せる奴」という評価を得ることが重要だ。

 アメリカ国内においては、関税引き上げによる経済への影響は気になるところだ。物価高を引き起こし、インフレ懸念が高まる。経済成長と人々の収入の増大を伴う物価高は望ましいが、そうではない場合には、アメリカ国内に生活苦からの不安定な状況が生み出さされる可能性がある。予断を許さない状況だ。

(貼り付けはじめ)

2024年のアメリカの選挙が外交政策に及ぼす10の影響(The 10 Foreign-Policy Implications of the 2024 U.S. Election

-トランプ2.0について考えるべきこと

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年11月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/11/08/10-foreign-policy-implications-2024-election/

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ミシガン州グランドラピッズでの集会に登場する共和党大統領候補ドナルド・トランプ(11月5日)

映画ファンは、ある映画の続編が良いものであることはほとんどなく、第一作よりも暗い展開になることが多いことを知っている。トランプの大統領としての最初の作品は多くの人を失望させ、一部の人にとっては致命的であった。それが、2020年の選挙でトランプが負けた理由である。リメイク版は更に悪いものとなるだろう。2024年のアメリカ大統領選挙がもたらすであろう影響トップ10を以下に挙げていく。

(1)アメリカ政治はミステリーだ(U.S. politics is a mystery)。
まだ明らかでなかったとしても、今や、誰もアメリカの選挙政治がどのように機能するのか理解しておらず、このテーマに関する従来の常識の多くが大間違いであることは火を見るより明らかだ。世論調査は当てにならないし、「地上戦(ground game)」の重要性についての定説は当てはまらないし、何が起こるか分かっていると思っていた賢い人たちは皆、間違っているだけでなく、大きく外れていた。2016年と同様、ドナルド・トランプ前米大統領とそのティームも、私たちと同様に驚いたのではないかと思う。私の粗雑な見解では、アメリカのエリートたちは、国民(body politic)の中にどれほどの白熱した怒りと恐怖が存在し、その多くが自分たちに向けられているのかをまだ過小評価している。民主党にとって何が問題だったのか、なぜ専門家たちはまたもやそれを見逃してしまったのか、その場しのぎの分析が延々と続くだろう。しかし、同じ「専門家」たちはこれを解明するのに8年を費やしており、今でも検討中である。

(2)トランプは予測不可能であろう(Trump will be unpredictable)。その通りだ。トランプは、予測不可能であることで、他者を不安にさせ続けることができる資産とみなしており、彼の不規則な行動に対する評判は十分に高く、一貫性がないことを批判するのは難しくなっている。このため、支持者を含め、誰も彼が何をするか正確に知っていると自信を持ってはならない。彼が個人的な政治的・経済的利益にならないことはしないのは確実だが、それがどのように政策に反映されるかは計算ができない。選挙期間中、彼はおかしなことをたくさん言ったが、そのどれだけが威勢のよいハッタリで、どれだけが本心なのかはまだ分からない。

更に言えば、共和党内には、いくつかの重要な問題、とりわけ中国をめぐって、重要な分裂がある。リアリストたちは、ヨーロッパ(とおそらく中東地域)から離れて、アジアに集中し、台湾に対するアメリカの関与を強化したいと考えている。一方、アイソレイショニストやリバータリアンたちは、ほとんど全ての地域から離れ、アメリカの行政国家の解体(dismantling the administrative state back home)に集中したいと考えている。そして、これらの人々の中には、アジアでの核兵器の使用について、かなり恐ろしい考えを持っている人たちもいる。誰がどの役職に就くのかに注目して欲しいが、政権内部には両方の派閥が存在し、トランプはその間を単に行ったり来たりかもしれないので、これを知っていても全てが分かるものでもない。

また、トランプが外交問題にどれほどの関心を払うつもりなのかも不明だ。主に民主党のライヴァルへの復讐と、悪名高い「プロジェクト2025」に書かれた過激な国内政策の追求に力を注ぐのか、それとも世界中でアメリカの政策を変革しようとするのか? あなたの推測は私の推測と同じだ。しかし、覚えておいてほしい。トランプはまた、エネルギーと集中力が目に見えて衰えてきている人物でもある(しかも、これらは最初の任期中はそれほど印象的ではなかった)。彼の任命した人たちは、何かがうまくいかなくなり、責任を取らなければならなくなるまで、多くの自由裁量権(latitude)を持つだろう。結論としては、私を含め、誰もトランプが何をするか分かっていると自信を持つべきではないということだ。

(3)リベラルな覇権は死んだ(Liberal hegemony is dead)。
ジョー・バイデン米大統領、アントニー・ブリンケン国務長官、ジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官、カマラ・ハリス副大統領、そしてその他の人々は、冷戦終結以来アメリカの外交政策を導いてきたリベラルな覇権という戦略を復活させ、修正しようとしてきた。彼らの試みは以前のヴァージョン以上に成功せず、有権者は決定的な拒絶を示した。トランプに投票した人々は、民主政治体制を広めることに興味がなく、人権に関心がなく、自由貿易に懐疑的で、外国人を国内に入れたがらず、グローバルな制度に警戒心を抱いている。彼らは、トランプが公然と敵対している訳ではないにせよ、これら全てに無関心であることを知っている。

私がこの失敗した戦略に固執している民主党と共和党の両方を繰り返し批判してきたことを考えると、私が選挙結果に満足していると思う人がいるかもしれない。私は満足していない。なぜなら、トランプ大統領の外交・内政政策へのアプローチは、アメリカ国民を更に貧しく、より分断し、より脆弱なままにすると信じているからだ。そして、現在状況が悪いことが、状況が更に悪化することはないと意味することはないからだ。

(4)来るべき貿易戦争に気をつけろ(Beware the coming trade war)。

トランプ大統領が選挙戦で語った、1930年代にあった関税を全ての人に課すという話は、単なる威勢だけのハッタリだった可能性がある。ロバート・ライトハイザーのような保護主義者にこの問題を委ねるのか、それとも比較的開かれた市場とグローバルなサプライチェインに依存する新しい技術者仲間の意見に耳を傾けるのかにもよる。トランプは現代経済の仕組みについて洗練された理解を示したことがないため、もし彼が深刻な貿易戦争に踏み切った場合、多くの意図しない悪影響が予想される(財政赤字の増加、債券市場の圧力、インフレなど)。彼は自分自身を責めるしかないが、どこかで都合のいいスケープゴートを見つけるだろう。

(5)ヨーロッパは困難な状況にある(Europe is screwed)。
トランプはアメリカのヨーロッパの同盟諸国を戦略的資産とは見ておらず、以前から公然とEUを敵視している。過去にはEUを敵視し、ブレグジット(イギリスのEU離脱)は素晴らしいアイデアだと考えていた。なぜなら、EUは経済問題で声を一つにすることができて団結できるので、アメリカがEUを押し切ることが難しくなると理解していたからだ。共和党は、全てではないにせよ、ほとんどの形の規制に反対しており、イーロン・マスクのような人々は、ヨーロッパのデジタル・プライバシーに関するより厳しい規則に反対している。トランプはブリュッセルを無視し、アメリカがはるかに強い立場にあるヨーロッパ諸国それぞれとの二国間関係に焦点を当て、EU自体を弱体化させたり分裂させたりするためにできることは何でもやるだろう。この危険性によって、(フランスのエマニュエル・マクロン大統領が提唱し続けているように)ヨーロッパ諸国が結束して反対する可能性もあるが、それよりも可能性が高いのは、どの国も自分たちのために気を配るということだ。

NATOに関しては、トランプは完全に脱退することを決めるかもしれない。しかし、NATOはまだ多くのアメリカ人に人気があり、正式な脱退は国防総省や連邦議会共和党の一部から多くの反発を受けるだろう。それよりも可能性が高いのは、トランプがNATOにとどまりながら、ヨーロッパ諸国が十分なことをしていないと非難し続け、アメリカの兵器購入などにより多くの防衛費を費やすよう働きかけることだろう。そのようなアプローチを採用するアメリカ大統領は、トランプが初めてではないだろう。バイデン時代のぬるま湯の後、トランプ2.0はアメリカのヨーロッパのパートナー諸国にとって冷たいシャワーのように感じるだろう。

(6)ウクライナは本当に困難な状況にある(Ukraine is really screwed)。

もしハリスが当選していたら、ウクライナでの戦闘の終結を強く求めていただろうし、可能な限り最良の取引もやはりキエフにとってはかなり不利なものだっただろうと思う。しかし、彼女はウクライナに多少なりとも有利な条件を引き出すために、米国の支援が継続されるという見通しを利用しようとしただろうし、ロシアとの取引が成立した後も、いくらかは安全保障上の支援を提供しただろう。トランプ大統領は、米国の援助を打ち切り、ウクライナは自分たちの問題だとヨーロッパに言う可能性が高い。トランプは確かに、議会が再び大規模な支援策に賛成するよう説得するために政治資金を使うことはないだろう。世論は彼を支持するだろうし、彼の唯一の懸念は、ロシアがウクライナの他の地域を制圧し、彼が腑抜けで弱く、世間知らずだと思われることかもしれない。しかし、ロシアのプーチン大統領が恒久的な分裂を受け入れ、名目上は独立したもののNATO加盟には向かわず、傷ついたウクライナが残ることになれば、ほとんどのアメリカ人はページをめくって前に進むだろう。そうなれば、トランプは戦争終結の手柄を独り占めすることになる。

もしハリスが当選していたら、ウクライナでの戦闘の終結を強く求めていただろうし、可能な限り最良の取引もやはりキエフにとってはかなり不利なものだっただろうと思う。しかし、彼女はウクライナに多少なりとも有利な条件を引き出すために、アメリカの支援が継続されるという見通しを利用しようとしただろうし、ロシアとの取引が成立した後も、いくらかは安全保障上の支援を提供しただろう。トランプ大統領は、アメリカの援助を打ち切り、ウクライナはあなたたちの問題だとヨーロッパに言う可能性が高い。トランプは確かに、連邦議会が再び大規模な支援策に賛成するよう説得するために政治的資本を使うことはないだろう。世論は彼を支持するだろうし、彼の唯一の懸念は、ロシアがウクライナの他の地域を制圧し、彼が腑抜けで弱く、世間知らずだと思われることかもしれない。しかし、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が恒久的な分裂を受け入れ、名目上は独立したもののNATO加盟には向かわず、傷ついたウクライナが残ることになれば、ほとんどのアメリカ人はページをめくって前に進むだろう。そうなれば、トランプは戦争終結の手柄を独り占めすることになる。

(7)中東紛争は続く(Middle East strife will continue)。

バイデンとブリンケンの中東への誤った対応は、非人道的で非効果的な政策から距離を置こうとしないハリスの姿勢と同じくらいに、選挙でハリスを苦しめた。とりわけこの立場は、トランプを人権や民主政治体制、法の支配を気にしない危険な過激派として描こうとする彼女の試みを台無しにした。しかし、トランプが大統領に就任したからといって、事態が好転すると錯覚する人はいないはずだ。彼は最初の任期中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に望むものを全て与え、イランの核兵器保有を阻止する協定から離脱し、ガザ地区、レバノン、占領下のヨルダン川西岸地区で罪のない人々が直面している悲劇的な損失には涙ひとつ流さないだろう。イスラエルがイランを攻撃するのを手助けするのを嫌がるかもしれないが(特に、彼の友人であるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子がそうしないように助言するならば)、そうでなければイスラエルはパレスティナ人を根絶やしにしたり追放したりする青信号を持ち続けるだろう。

トランプ大統領が自らを偉大な和平交渉者(grand peacemaker)として位置づけ、失敗に終わったアブラハム合意に沿って、ある種のスーパーチャージされた大取引を追求していると想像する人もいるかもしれない。一期目の任期中に北朝鮮の指導者である金正恩と会談したのと同じように、トランプがイランの新大統領やその最高指導者とさえ喜んで会談すると発表するところを想像することさえできた。しかし、トランプには実際の交渉を行うための忍耐力も余裕もないため、このようなことは、音と怒りに満ちた、何の意味も持たない大々的な宣伝以外には何も生まれないだろう。

(8)縛られない中国(China unbound)。

前述したように、トランプ大統領のアドバイザーたちは中国をどう扱うかについて意見が一致していないため、トランプ大統領が中国にどう対処するか正確に知ることはできない。貿易問題で強硬手段に出るのはほぼ確実で、中国企業への半導体チップなどの技術移転規制を撤回するとは考えにくい。中国への敵意は、おそらくワシントンに残された唯一の超党派の問題であり、そのことがワシントンと北京の間の重要な取引交渉(grand bargain、グランド・バーゲン)を想像しにくくしている。

残念なことに、トランプ大統領はアジアの同盟諸国にも喧嘩を売る可能性が高く、台湾が直接脅かされたり攻撃されたりした場合に台湾を支持するかどうかについては、既に疑念をまき散らしている。中国に立ち向かうためには、アジアのパートナーが不可欠であり、それはアメリカが海を隔てているという明白な理由からである。中国政府関係者はトランプ大統領の再選にやや二律背反的な感情を抱いているかもしれない。しかし彼らは、トランプが衝動的で無能な経営者であり、1期目のアジアへのアプローチが支離滅裂で効果的でなかったことも知っている。トランプの2期目は、バイデンとブリンケンがアジアで達成した成果(これが彼らの外交政策における最大の成果だった)を覆す可能性が高く、北京はそれを歓迎するだろう。

(9)気候に関する危機()。

これは簡単なことだが、やはり憂慮すべきことだ。トランプは気候変動に懐疑的で、化石燃料の「掘れ、ひたすら掘れ」が正しいエネルギー政策だと信じている。この問題に対する世界的な進展は遅れ、アメリカにおけるグリーン転換を加速させる努力は後退し、人類の未来を確保するための長期的な努力は短期的な利益に道を譲ることになるだろう。このようなアプローチは、グリーン技術の優位性を中国などに譲り、アメリカの長期的な経済的立場を弱めるかもしれないが、トランプは気にしないだろう。

(10)分断社会における統一権力(Unified power in a divided society)。

トランプの勝利は国民の団結の証であり、ほとんどのアメリカ人がトランプを全面的に支持していることの表れだと見る人たちもいるだろう。この見方は重大な誤解を招く。民主党はMAGAのアジェンダを受け入れるつもりはないだろうし、特に国内においては、プロジェクト2025で概説された施策は、政治的な分裂をより拡大させるだろう。政敵を追及し、経口中絶薬ミフェプリストンを禁止して、中絶をほとんど不可能にし、ワクチン反対派を重要な公衆衛生機関の責任者に据え、何百万人もの人々を国外追放しようとし、市民社会の他の独立した機関を攻撃しても、国をまとめることにはつながらない。

同時に、統一された行政部を創設するという共和党の長期にわたる取り組みは今や実現に近づき、ホワイトハウス、連邦最高裁判所、連邦上院、そして連邦下院を完全に掌握している。統一されたチェックされていない権力の問題は、間違いを検出して時間内に修正することが難しいということだ。アメリカでは既に説明責任の仕組みが本来よりも弱くなっており、今回の選挙で更にその仕組みが弱体化することが確実視されている。

国民の健康、安全、女性の権利、中央銀行の自主性などに対する国内的な影響とは別に、分極化の深まりは政府の効果的な外交政策能力をも脅かしている。振り子がこれほど大きく揺れ続けているとき、どの国もアメリカが約束したことを政権1期以上続けてくれるとは期待できない。政府が国内の敵の根絶やしに夢中になり、有益な雇用を得ている何百万人もの住民を強制送還し、経験豊かな公務員を忠誠心のあるハッカーに置き換えるような状況では、対外的に賢明なアプローチを行う能力は必然的に弱まる。深く分裂したアメリカはまさに敵の望むところであり、トランプ大統領がそれを悪化させる以外のことをすると考える理由はない。

アメリカの世界的な役割の大きさを考えると、アメリカ人を含む世界の人々は、人間による被験者の規制を全く受けずに行われる大規模な社会実験に参加しようとしている。この実験でいくつかの前向きな結果が得られると信じたいが、たとえささやかな成果が得られたとしても、自らが負った一連の傷によって埋もれてしまうのではないかと懸念している。冬がやって来る。私が警告しなかったとは言わないで欲しい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

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