古村治彦です。
ドナルド・トランプ次期大統領は着々と第二次トランプ政権の人事を発表している。第二次トランプ政権の顔ぶれについて批判もあるが、スピード感と明確な意図は評価されるべきだ。選挙が終わって10日ほどで、これだけの人事を、スピード感を持って発表出来ているのは選挙前から構想が練られ、準備が進められ、指名を受けた人々に対する根回しが済んでいたことを示している。このスピード感はトランプ陣営が2016年に比べて、「プロフェッショナルの集団」となったことを示している。2016年は言ってみれば、「期待されていなかったのに予想外の当選をして、慌てているアマチュアの集団」であった。
トランプ新政権の意図は「復讐」ということになっているが、もちろんそれだけではない。これまでに指名された人々は、自分がトップとなる各政府機関に対して批判的な人々である。彼らはトランプの意向を忠実に遂行する「忠誠心」を持ち、各政府機関の改革に取り組むことになる。特に情報・諜報分野の国家情報長官に指名されたトゥルシー・ギャバードとCIA長官に指名されたジョン・ラトクリフは注目である。情報・諜報分野は戦争にも直結する役割を担う分野で、ここを改革することで、「アメリカ・ファースト」「アイソレイショニズム(国内問題解決優先主義)」を断行し、究極的には「核戦争を阻止する」という目標を達成するということになる。
今回の第二次トランプ政権の顔ぶれはまだ発表途中であるが、2016年のトランプの大統領当選以来の8年間で、「トランプ政治運動」に参加し、成果を上げた人々が入った「本格政権」ということになる。彼らは既存の政治のしがらみを持たず、本格的にトランプの目指す改革を実行できる人物たちだ。そして、これからも続くであろう「トランプ政治運動」の中核となる人々だ。トランプは今回の大統領任期4年で退任するが、それ以降も、「トランプ政治運動」は続いていく。J・D・ヴァンス次期副大統領やエリス・ステファニック米国連大使といった若手(2人ともまだ40歳だ)を伸ばしていく4年間ということにもなるだろう。
しかし、同時に心配なのは、既存のワシントン政治の強靭さだ。民主、共和両党のエスタブリッシュメントと各界のエリートたちはトランプたちの動きを阻止するためにあらゆる手段を用いて抵抗するだろう。激しい権力闘争、政治闘争が起きる。アメリカの分断は修復不可能なところまで来ている。そうしたワシントン内部の権力闘争から、アメリカ内戦までつながるということも考えられる。
アメリカの衰退は既定路線で、トランプが大統領になり、トランプの下で改革が続いてもアメリカが復活することはない。しかし、アメリカが建国の理念に立ち返り、少しでも状況を良くすることをアメリカ国民はトランプに託した。理想通りの結果は得られないだろうが、トランプ流のポピュリズムがどれだけのことができるか注目していきたい。
(貼り付けはじめ)
トランプの形成しつつある政権の5つのポイント(5 takeaways from
Trump’s emerging Cabinet)
ブレット・サミュエルズ筆
2024年11月15日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/administration/4993461-trump-cabinet-5-takeaways/
ドナルド・トランプ次期大統領は、来るべき政権のための閣僚と上級補佐官を素早くまとめ上げ、その過程で物議を醸す人選でワシントンを動揺させている。
トランプは、次期大統領としての最初の1週間で次々と指名や人事を発表し、連邦議員たちは対応に追われた。
以下は、これまでのトランプ政権の内閣についての5つのポイントである。
(1)トランプは忠誠心を最重視(Trump prioritizes loyalty)
トランプ次期大統領は以前から、自分の周辺にいる人間には忠誠心(loyalty)が最重要であると明言しており、これまでの閣僚人事は、トランプ次期大統領の味方であり続けた人々に報いていることの表れとなっている。
トランプがこれまでに指名した候補者や人事のほぼ全員が、何らかの形でトランプ次期大統領を擁護し、選挙戦で支持し、あるいは次期大統領の激動期に味方してきた人物たちだ。
米国連大使にエリス・ステファニック連邦下院議員(ニューヨーク州選出、共和党)、環境保護庁長官にリー・ゼルディン、退役軍人長官にダグ・コリンズ、CIA長官にジョン・ラトクリフを指名したが、この4人の閣僚候補は、2020年の弾劾擁護ティームのメンバーだった人物たちだ。
マット・ギーツ前連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)は、2016年以来、トランプ大統領の最も率直で声高な擁護者の1人だった。トランプがフロリダ州選出の共和党所属の前連邦下院議員を司法長官に指名してワシントンを揺るがしたが、ゲーツは突然議員辞職した。
ロバート・F・ケネディ・ジュニアとトゥルシー・ギャバードは、元民主党員としてトランプを支持した後、選挙戦でトランプの有力な代理人となった。そして、トランプ自身の個人的な犯罪弁護士であるトッド・ブランチとエミール・ボーブは、今年初めの口止め料裁判の際に彼の弁護をした後、司法省のトップの仕事に抜擢された。
集められた政権は、トランプ大統領の1期目に政府高官の第一陣を形成した「ライヴァル・ティーム(team of rivals)」とは程遠い。
トランプ大統領の最初の立法事務局長を務めたマーク・ショートは、MSNBCの番組で、「このグループは、より緊密な人間集団であるように見える。名乗りを上げている人たちを皆さんは好きではないかもしれないが、同時に、彼らはかなり迅速に動いていると思う」と述べた。
(2)指揮を任された省庁を批判する候補者たち(Some nominees
undercut agencies they’re tasked to lead)
複数の閣僚候補者が過去に、自分たちが率いることを任された政府機関の使命を損なうと思われるレトリックを使用してきた。
国家情報長官に抜擢された元民主党所属の連邦下院議員のギャバードは、ウクライナ戦争に関するロシアのプロパガンダをおうむ返しにしていると非難され、シリアの指導者バシャール・アル=アサドが市民への化学兵器使用を示唆された後、戦犯のレッテルを貼ることを拒否した。
ゲーツは過去にFBIの予算停止を要求し、アルコール・タバコ・銃器・爆発物取締局を廃止する法案を提出したことがある。両機関は司法省内に置かれており、司法長官としてのゲーツの権限下にあることになる。
トランプ大統領が国防総省のトップに指名したピート・ヘグセスは、今年初めに出版した著書の中で、女性は男性よりも戦闘任務に適していないと書いたことで批判を浴びている。彼はまた、国防総省の多様性と公平性を受け入れる取り組みにも批判的だ。人事承認されれば、ヘグセスは国防総省で働く数百万人の男女を監督することになる。
また、米保健福祉省のトップに選ばれたケネディは、長年にわたって反ワクチン陰謀論を広め、生乳の消費を促進し、イベルメクチンのような新型コロナウイルスの実証されていない治療法を推し進めてきた。もし人事承認されれば、ケネディはワクチンを承認し、メディケアとメディケイドを管理し、各種の病気の治療法の研究を行なう国の保健・規制機関に対する広範な権限を持つことになる。
(3)2016年に比べてより素早いペースでより明確なヴィジョン(A quicker
pace and clearer vision than 2016)
2016年にトランプがホワイトハウスを勝ち取った時、彼と彼のティームは足元をすくわれたように見え、新政権の人員配置の取り組みを強化するのに時間がかかった。
クリス・クリスティ元ニュージャージー州知事(共和党)は、選挙直後に政権移行責任者を更迭され(当時)、トランプは候補者たちをトランプタワーに出入りさせて報道陣にお披露目した。彼が最初の閣僚候補を指名したのは、選挙から10日後の2016年11月18日だった。
これとは対照的に、トランプはカマラ・ハリス副大統領に勝利してからおよそ1週間以内に、主要閣僚だけでなく、司法省の第二レヴェルの高官たちやホワイトハウスの上級スタッフたちを指名するという急速な動きを見せた。
トランプの盟友たちはこれを、トランプが今回自分が何を求めているのか分かっていることの明確な表れだと受け止めた。
トランプ大統領の1期目で、ホワイトハウス報道官を務めたショーン・スパイサーは、「4年間の荒野は無駄ではなかったので、政権移行は2016年よりも明らかに良い状態にあると思う」と語った。
スパイサーは続けて「計画、人事、プロセスは全てが考え抜かれたものであり、今、トランプの周囲にいる人々は全員、政策課題解決の推進に尽力している。政策課題に対する彼らの関与と努力について、トランプ大統領はもう疑う必要を持たない」と述べた。
(4)連邦上院での人事承認に試練が控えている(Tests lie ahead for
Senate confirmations)
トランプ次期大統領の候補者、特にゲイツ、ギャバード、ケネディは連邦上院共和党にとって試練となり、共和党の連邦上院議員たちがトランプ次期大統領からどれだけ独立するつもりであるかを示すバロメーターとなるだろう。
共和党は1月から連邦上院で53議席を獲得する勢いであり、トランプが指名した候補たちが民主党の支持を得られないと仮定すれば、共和党の3人の離反を免れることができる。次期副大統領のJ・D・ヴァンス(オハイオ州選出、共和党)は、50対50の状況を打破するだろう(訳者註 50対50となれば副大統領が上院議長を務める)。
連邦上院議員は、連邦下院や行政府をチェックする、まじめな機関としての役割の重要性をよく口にする。しかし、選挙でトランプが圧勝したことで、上院議員たちは次期大統領の意向に従わなければならないという圧力が強まるかもしれない。
トランプ大統領は、共和党所属の連邦上院議員に、候補者の名前を出す前から圧力をかける作戦を開始した。連邦上院多数党(共和党)院内総務に誰がなろうとも、休会任命(recess appointments)の承認を迫るとした。休会任命とは、物議を醸すような指名があった場合、大統領が実質的に人事承認手続きを回避できるようにする手続きである。
今週、連邦上院多数党(共和党)院内総務に選出されたジョン・スーン連邦上院議員(サウスダコタ州選出、共和党)は、休会任命の可能性を否定していないが、共和党の反対が多ければ、手続き上難しい可能性があることも認めている。
スーン議員はフォックス・ニューズに出演し、「全てはプロセスだ。しかし、そのどれもが必ずしも不可能だとは思わない。全ての選択肢をテーブルに載せておく必要があると思う」と語った。
スーン議員は続けて「そして、これらの候補者たちは連邦議会で一日を過ごすに値する。彼らには公聴会、人事承認公聴会、精査の機会が与えられるに値する。そして、連邦上院は助言と同意の下で憲法上の役割を遂行するだろう」と述べた。
(5)重要はポジションについてはこれからも続けて発表(Key positions
still to come)
注目度の高い候補者の多くは既に発表されているが、トランプ次期大統領が今後数日のうちに充てるとみられる閣僚級の役職やホワイトハウスのトップ職はまだいくつもある。
最も注目されるのは彼の経済ティームだ。トランプは依然として財務長官、商務長官、米通商代表の人選の発表を控えている。
財務長官としては、スコット・ベッセントとハワード・ルトニックが最終候補と見られており、トランプ第1期で米通商代表を務め、関税の使用を強く主張するロバート・ライトハイザーが新政権で仕事を得る可能性が高い。
農務長官、運輸長官、住宅都市開発長官もまだ発表されていない。トランプは選挙活動中に教育省を閉鎖すると公約したが、それには連邦議会の承認が必要となる。トランプ大統領が当面、教育長官を指名するつもりかどうかは不明だ。
(貼り付け終わり)
(終わり)

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