古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:オラフ・ショルツ

 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 ドイツのオラフ・ショルツ首相が訪中を行った。昨年にもショルツ首相は訪中を行っており、ドイツの対中重視の姿勢が見て取れる。ウクライナ戦争が続く中、また、最先端技術分野での西側と中国の競争が続く中で、ショルツ首相訪中は西側を中心として批判を浴びている。「対中弱腰」「自国の経済的利益のみを追求」「必要なことは何も言わないで媚中的な態度」といった批判を浴びている。対中姿勢については、ショルツ政権内でも意見が割れている。

現在のドイツの内閣は、ショルツ首相が所属する社会民主党(SPDSozialdemokratische Partei DeutschlandsSocial Democratic Party of Germany)、同盟90・緑の党(Bündnis 90/Die GrünenAlliance 90/The Greens)、自由民主党(FDPFreie Demokratische ParteiFree Democratic Party)の連立政権になっている。ドイツ連邦議会で3番目の議席を有する緑の党は対中強硬姿勢を取っている。人権問題や経済問題、中国のロシア支援などについて、厳しい批判を行っている。ショルツ政権には、重要閣僚である副首相並びに経済・環境保護相(ロベルト・ハーベック)と外相(アンナレーナ・ベアボック)に緑の党から入閣している。これらの人物たちは、中国に対する強硬姿勢を崩していない。閣内不一致と言える状態だ。ちなみに、ドイツの緑の党や環境保護運動には戦後、多くの元ナチス党員やナチ支持者たちが参加しており、ファシズムとの共鳴性があることが指摘されている。

 しかし、ドイツのようなアメリカの属国の立場ではこれは賢いやり方だ。アメリカにあくまで追従して、中国に敵対するという姿勢を見せながら、実利的に、特に経済面において、中国と良い関係を保っておくということを行うことは重要だ。ドイツの産業界は、日本の産業界と同様に、中国との緊密な関係を望んでいる。政治は政治として、経済は別という立場で、経済成長が鈍化したとは言え、まだまだ経済成長を続ける中国と中国市場から排除されることは大きな損失である。また、成長を続ける中国企業の海外投資もまた魅力的である。「ドイツの外交政策は大企業の役員室で決められている(だから対中弱腰なのだ)」という悪口がある。それで、平和が保たれ、経済的利益が生み出されるならば、何よりも結構なことではないか。政治家が、自分たちは安全地帯にいて、排外的、好戦的な、強硬姿勢を見せるのは、あくまで政治の方便としてならともかく、本気でそのようなことをしているのは馬鹿げたことであり、何よりもそれが平和に慣れ切って、平和の大切さを忘れて、平和をいじくろうとする、想像力の欠如した、「平和ボケ」ということになる。ショルツ首相の舵取りを日本も見習うべきだ。いや、水面下では既に中国とうまくやっているのだとは思うが。

(貼り付けはじめ)

オラフ・ショルツの戦略的不真面目さ(The Strategic Unseriousness of Olaf Scholz

-彼の最新の訪中は、ドイツの対中国政策は大企業の役員室で作られていることを示すものだ。

ジェイムズ・クラブトゥリー筆

2024年4月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/22/olaf-scholz-germany-china-policy-companies-mercedes-vw-xi-jinping/

 

4月16日、釣魚台国賓館でのドイツのオラフ・ショルツ首相と中国の習近平国家主席

中国への最善の対応を巡るヨーロッパとアメリカの間に存在する、深く長期間続く分裂が再び全面的に露呈した。アントニー・ブリンケン米国務長官は4月24日に中国を訪問する予定だ。訪中前、ブリンケン国務長官は、中国がクレムリンへの兵器関連技術の提供を通じて、対ウクライナ戦争におけるロシアの支援をやめない限り、厳しい措置を講じると警告を発した。対照的に、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、口調も内容もはるかに融和的な中国訪問を終えたばかりだが、このアプローチはドイツ、ひいてはヨーロッパを、驚くほど甘い態度のために、経済と安全保障を前にして、危険に晒している。経済と安全保障をめぐる諸問題は中国が提起する課題となっている。

ブリンケンの訪中は、米中関係の改善が進めようとする試みに続くものだ。ジョー・バイデン米大統領と習近平国家主席は、2023年11月にカリフォルニア州ウッドサイドで生産的な会談を行い、今月はそれに続く電話会談を行った。ジャネット・イエレン米財務長官も4月初めに北京を訪問した。新たな閣僚レヴェルのコミュニケーション・チャンネルは、昨年、制御不能(out of control)に陥る危険性があると思われた関係を安定させた。イエレンは現在、中国の何立峰副首相と経済問題に対処し、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は中国の王毅外相と交渉している。

ホワイトハウスはサリヴァンと王毅のチャネルが特に成功していると見ているが、その理由の1つは、王が現在、政府と中国共産党の外交政策責任者という2つの役割を兼ね備えているからだ。これにより、これらの役割が2つに分割されていたときと比較して、より効率的なコミュニケーションが可能になる。

それにも関わらず、アメリカのアプローチは基本的に競争力を維持している。今週到着するブリンケン国務長官がウクライナについて警告を発したのと同じように、イエレン財務長官もまた、中国の不公平な工業生産慣行(China’s unfair manufacturing practices)と彼女が表現したものについて厳しいコメントを訪問中何度か行った。

ショルツのアプローチは著しく異なっており、良い内容ではなかった。このことは、彼の代表団の詳細が明らかになった瞬間から明らかだった。ドイツには、ロベルト・ハーベック副首相やアンナレーナ・ベアボック外相を筆頭に、中国に対して強硬で戦略的な見方をする閣僚がいる。しかし、どちらも北京にはいなかった。代わりにショルツは、北京との緊密な協力を好む農業などの分野の閣僚や、中独貿易・投資を推進する産業界の重鎮たちを連れて行った。

ショルツはまたお膳立てされた厳しい内容の演説を拒絶した。実際、ショルツ首相は、中国のロシア支援から産業の過剰生産能力の増大するリスクに至るまで、ヨーロッパの経済と安全保障の重要な利益に打撃を与える問題について、公の場において、驚くほどほとんど発言しなかった。ショルツのこうした態度について、中国メディアが大喜びしたのは当然だ。ロディウム・グループの中国アドヴァイザーであるノア・バーキンはショルツの訪中後に、「報道は熱狂的だったと言えるだろう。中国が弾丸を避けたという感覚があるのは明らかだ」と書いている。

ショルツのアプローチは、ドイツの経済的利益に対する認識を基盤にしている。ドイツの対中経済的利益は昨年、著しく悪化した。3月上旬の全国人民代表大会(National People’s Congress、全人代)で習近平は、中国が「新たな質の高い生産力(new quality productive forces)」を発揮することを要求した。これは、電気自動車(electric vehiclesEVs)やバッテリーを含む先進的な製造業に巨額の資金を投入し、中国の経済モデルの失速を補うことを意味する。国内需要が限られている以上、その成果は必然的に輸出されることになり、中国はヨーロッパや北アメリカの先進製造業経済と衝突することになる。

ヨーロッパ連合(European UnionEU)は、中国政府からの補助金(subsidies)が自動車やソーラーパネルを含む産業の企業に競争上の優位性を与えているかどうかを調査しており、ショルツが指摘したように、中国の電気自動車に対する関税を検討し始めている。しかし、中国が国家補助金を削減するという、極めてあり得ないシナリオがあったとしても、その膨大な生産量と低コストのために、ヨーロッパ各国が対抗するのは極めて困難である。電気自動車からエネルギー転換技術、よりシンプルなタイプの半導体まで、ヨーロッパは現在、中国製の工業製品に支配される未来が明らかに近づいている。

ベルリンは、ドイツが誇る製造業の中で最も重要な自動車部門において、特別な課題に直面している。BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンといった企業にとって、中国は何十年もの間、最も重要で最も収益性の高い市場だった。しかし、その時代は終わった。中国のBYD(比亜迪)は現在、テスラ(Tesla)と、世界最大の電気自動車メーカーの座を争っている。BYDは、アメリカのライヴァルであるテスラとほぼ同等の性能を持ち、それよりもはるかに安価な自動車を生産している。北京や上海の通りには、他の中国電気自動車ブランドで作られた車でごった返しているが、そのほとんどは西側職の人々には知られていない。伝統的な内燃エンジン(traditional combustion engines)の需要は崩壊しつつある。

クライスラーの中国における元責任者で、現在はコンサルタント・グループであるオートモビリティの責任者であるビル・ルッソは、こうした状況の変化に伴い、中国国内の自動車市場における外国ブランドの総シェアは、2020年以降の短期間で、64%から過半数を割る40%に急落したと述べている。現在、フォルクスワーゲンは、まだ中国で多くの自動車を販売しているが、それも長くは続かないだろう。「これらの企業に未来があるとは思えない」とルッソは述べている。

ドイツには二つ目の懸念がある。それは、自国市場へのリスクだ。中国製のバッテリーやその他の部品を対象とした規制のため、現在アメリカでは中国製電気自動車はほとんど販売されていない。中国からの電気自動車輸入の波に直面し、ヨーロッパは関税をアメリカとほぼ同じ水準に引き上げる可能性が高い。

しかしながら、ショルツは自国ドイツの自動車メーカーからは正反対の要求を突きつけられている。電気自動車への移行に多額の投資を行ってきたメルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEOは、ブリュッセルに電気自動車関税の引き上げではなく引き下げを求め、競争がヨーロッパの自動車メーカーの改善に拍車をかけると主張した。中国をヨーロッパ市場から締め出すだけでは、ドイツが電気自動車で競争力を取り戻すことはできないだろう、という意見には真実味がある。ドイツが電気自動車分野で競争力を取り戻すためには、ドイツ企業は少なくとも自国での製造方法を確立するまでの間、バッテリーなどの分野で中国の技術を利用する必要がある。ドイツはまた、ヨーロッパの関税が中国のドイツ自動車メーカーを標的にした相互措置につながることを恐れている。

したがって、好意的に見れば、ドイツのアプローチは、2008年の世界金融危機を前にした当時のシティグループCEOチャック・プリンスの有名な格言の変形である。その格言とは「音楽が流れている限り、立ち上がって踊るしかない」である。2007年、プリンスは、災難が近づいている兆候が明らかになる中で、なぜ自分の銀行がリスクの高い金融取引を続けたのかを説明しようとしてこの言葉を使った。これと同じように、ショルツはドイツ企業がかつての国際競争力を取り戻そうとする一方で、中国市場の残りのシェアで稼ぎ続けられることを願っている。

もちろん、中国の工業力が高まっていることを考えれば、これがうまくいく確率は低い。しかし、たとえうまくいったとしても、この戦略はドイツ企業にとっての利益と、ドイツやヨーロッパ全体にとっての利益を混同するという、昔からの過ちを犯していることに変わりはない。

このアプローチが甘く見える理由は2つある。1つは、中国の進路が決まってしまったことだ。ショルツは上海で学生たちを前にして、中国に節度ある行動を求めた。「競争は公正でなければならない」とショルツ首相は述べ、北京がダンピング(dumping)や過剰生産(overproduction)を避けるよう求めた。しかし、中国のシステムは現在、この道を十分に進んでおり、北京がショルツの言葉に耳を傾けたとしても、そのような要求の実現は実際には不可能だ。

それどころか、中国は自国の経済モデルを復活させるために製造業を強化しようとしている。ドイツの自動車メーカーが自国(中国)の市場で成功することなどまったく考えておらず、電気自動車やその他の産業で世界的なリーダーになることに全力を注いでいる。ドイツの自動車メーカーは、中国での地位が救われると誤解しているかもしれないが、ドイツの政治指導者たちが同じ作り話を信じる必要はない。ショルツのソフト・ソフト・アプローチ(softly-softly approach)もまた、中国との競争によってもたらされる自国の経済モデルへの巨大な挑戦に対して、ドイツの国民や企業を準備させることはほとんどない。

ドイツのアプローチには、ヨーロッパと西側の団結に対する地政学的な二つ目のコストが伴う。中国の熱烈な報道が示すように、ショルツの訪独は、ヨーロッパ内、そしてアメリカとの分断を狙う北京の長年のアプローチへの贈り物であった。この分断は、貿易をめぐっても明らかだった。しかし、それはウクライナ問題でも同様だった。ショルツ首相の官邸は、ショルツ首相が習近平との個人的な会談でウクライナを取り上げ、ロシアの「再軍備(rearmament)」は「ヨーロッパの安全保障に重大な悪影響(significant negative effects on security in Europe)」を及ぼし、ヨーロッパの「核心的利益(core interests)」に直接影響すると主張したと述べている。しかし、中国にロシアへの支援を止めるよう求める私的なメッセージは、同様の公的なメッセージが既に失敗している以上、効果があるとは考えにくい。

ドイツのアプローチはまた、近年中国への依存を減らすために真剣に取り組んでいるインドや日本を含む、より広いインド太平洋地域の新たなパートナーとの信頼できる関係を構築することを、ヨーロッパにとって難しくしている。インドと日本の指導者もまた、中国がもたらす経済的・安全保障的脅威を率直に公言している。ニューデリーや東京から見れば、ショルツの今回の訪中は、単にヨーロッパの信頼性のなさ(unreliability)と戦略的真剣さの欠如(strategic unseriousness)の証拠としか受け取られないだろう。

もっと良いテンプレートがあることを考えると、ドイツのアプローチは特に奇妙に見える。ブリンケンとイエレンの訪中は、厳しいメッセージを発信しながらも北京でのビジネスが可能であることを示している。ヨーロッパ委員会のアーシュラ・フォン・デア・ライエン委員長は、昨年(2023年)12月に北京で開催された直近のEU・中国首脳会議で、リスク回避に関して同様のバランスを取った。オランダのマーク・ルッテ首相も2024年3月に同様のことを行い、中国のサイバースパイ戦術とウクライナでのロシア支援を公然と批判した。 

ショルツ首相がヨーロッパのパートナーやワシントンと調整し、最も有能な閣僚とともに北京に到着し、明確な飴と鞭を携えて公の場でしっかりと共同方針を表明するような、これまでとは異なるドイツの姿勢を見せると想像することは可能だ。その代わり、ドイツのアプローチは長期的な戦略的洞察に欠けているように見えた。ドイツの政策立案者たちは、ドイツの経済政策や外交政策がベルリンの首相府や省庁ではなく、企業の役員室で決定されるという考え方に歯がゆさを感じている。しかし、ショルツの訪中を、そして気の遠くなるようなことだが、ドイツの中国政策の多くを、それ以外の方法で説明するのは難しい。

※ジェイムズ・クラブトゥリー:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。アジア国際戦略研究所元上級部長。著書に『億万長者による支配:インドの新しい黄金時代を通じての旅路(The Billionaire Raj: A Journey Through India’s New Gilded Age)』がある。ツイッターアカウント:@jamescrabtree

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オラフ・ショルツは本音を隠せないままに中国訪問に向かう(Olaf Scholz Is on a Telltale China Trip
-ヨーロッパは中国に対して強硬な姿勢を取っているが、ドイツが本当にそれに協力しているかどうかはすぐに分かるかもしれない。

ノア・バーキン筆

2024年4月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/13/scholz-germany-china-trip-europe-derisk-decouple/

 

2022年11月3日、中国に向かうためにベルリンで飛行機に乗り込むオラフ・ショルツ

ヨーロッパ連合(European UnionEU)は、これまで何年も小さな棒を持ち、やわらかく話してきたが、安価な中国製品の流入が自国産業を衰退させることを懸念し、中国に対して経済的な力を行使し始めた。大きな問題は、EU圏最大の経済大国であるドイツが、より積極的なアプローチに全面的に賛同するかどうかだ。

これが、ドイツのオラフ・ショルツ首相の来週の中国訪問を特に興味深いものにしている。ベルリンの対中国政策は近年、硬化している。昨年(2023年)7月、ショルツ政権は厳しい文言の対中戦略を発表し、焦点をリスク回避(de-risking)、多様化(diversification)、対中依存度の削減(reduction of dependencies on China)に移行した。

しかし、もしショルツ1人だけが戦略を立案していたら、そもそもこの戦略は発表されなかったかもしれない。新たな批判的アプローチの原動力となったのは、ショルツの連立パートナーの1つである緑の党(the Greens)だ。ショルツ自身は慎重な姿勢を崩しておらず、中国市場を将来と結びつけている一握りのドイツ大企業に対して北京が報復するのではないかという懸念もあって、中国をあまり強くプッシュしたがらない。

2021年の首相就任以来、最長となる二国間訪問の1つであるショルツ首相訪中は、4月14日から16日まで3日間フルに中国を滞在し、重慶と上海のドイツ企業を訪問した後、習近平国家主席および李強首相と会談するために北京へ向かう予定となっている。中独両国は様々な協力分野が存在することの強調について熱心である。

ショルツは、ドイツ経済の弱体化と、タカ派もハト派も満足させられないウクライナ政策によって、国内ではプレッシャーにさらされている。ドナルド・トランプの再選によって大西洋を越えた関係に衝撃が走るかもしれない今年、北京と新たな戦線を開くことを避けたいとショルツは考えている。習近平は、中国経済が不動産危機、新型コロナウイルス規制解除後の経済不振、そしてアメリカの技術規制によって大きな圧力にさらされているときに、中国とドイツが互いに協力することを約束し続けるというシグナルを送りたいと考えているだろう。

しかし、水面下には、両首脳が封じ込めるのが難しい、様々な対立問題(a range of divisive issues)が潜んでいる。

ウクライナ戦争におけるロシアの戦争継続に対する中国の支援は、ドイツにとって重要なアジェンダとなるだろう。北京が西側のレッドラインを越え、軍事作戦に不可欠な物資や技術援助をモスクワに提供しているという懸念が高まっているからだ。

ジャネット・イエレン米財務長官は先週中国を訪問した際、ロシアの戦争に物質的支援を提供した中国企業は制裁という形で「重大な結果(significant consequences)」に直面するだろうと警告した。ショルツが同様のメッセージをより穏やかな口調で伝えることを期待したい。

しかし、おそらく最重要のアジェンダは、ヨーロッパ連合と中国の貿易関係の悪化だろう。ブリュッセルでは、中国が安価な補助金付き商品(cheap, subsidized goods)をヨーロッパ市場に膨大に流入させることで、経済の停滞から脱出しようと考えて、対ヨーロッパ輸出を試みるのではないかという懸念が高まっている。同時にヨーロッパ諸国は、ワシントンからの圧力が強まる中、中国への機密技術の輸出(export of sensitive technologies to China)をどこまで制限するかについて議論している。

昨年(2023年)6月、ヨーロッパ委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は、中国との技術協力のレッドラインを定めることを目的とした経済安全保障戦略(economic security strategy)を発表した。その数カ月後、ヨーロッパ委員会は中国からの電気自動車(electric vehicles)輸入に関する調査を開始した。そしてここ数週間は、風力タービン(wind turbines)、ソーラーパネル(solar panels)、鉄道に関連する補助金についての調査結果を発表し、中国企業が自国で受けている手厚い国家支援のおかげでヨーロッパ市場で不当な優位性を得ていると非難している。

これらを総合すると、これは、これまで私たちが目にすることがなかった、ヨーロッパからの最も強力な中国に対する反発に相当するが、それはほんの始まりにすぎない。

今週、プリンストン大学で行われた重要な講演で、競争問題ヨーロッパ委員のマルグレーテ・ヴェステアーは、新たな措置を強調したが、ヨーロッパの「モグラたたき(whack-a-mole)」戦術では不十分かもしれないと認めた。

「ケース・バイ・ケース以上のアプローチが必要だ。系統だったアプローチが必要だ。そして、手遅れになる前にそれが必要である。ソーラーパネルで起きたことが、電気自動車や風力発電、あるいは必要不可欠なチップで再び起きるような事態は避けたいと考えている」。

ヴェステアーは、重要なクリーン技術に対する「信頼性(trustworthiness)」基準の策定を提案した。これは、ファーウェイのような「ハイリスク」の5Gサプライヤーに対するアプローチと同じものだ。サイバーセキュリティ、データセキュリティ、労働者の権利、環境基準などの分野でヨーロッパの基準を満たさない国は、自国の企業が制限を受けるか、市場から排除されることになる。これは、ヨーロッパと中国との経済関係の重大な変化を意味する。

しかし、その戦術が機能するためには、ドイツからの支援が不可欠である。そしてショルツが、中国との特権的な経済関係を、たとえそれがますます緊張状態にあるとしても、危険に晒す覚悟があるかどうかは不明である。ショルツは、近年中国市場への進出を倍増させている三大自動車メーカー(BMW、メルセデス、フォルクスワーゲン)のCEOを含むドイツ産業界のリーダーを集めた代表団とともに中国を訪問する予定だ。ロディウム・グループの統計数字によれば、ドイツの対中直接投資額は2022年に71億ユーロを記録し、驚くべきことに、EU全体の79%を占めた。

2022年11月に首相として初めて中国を訪問する数週間前、ショルツは中国の海運大手コスコにドイツ最大のハンブルク港のターミナルの株式を与えるという取引を強行した。ショルツはまた、ファーウェイをドイツの通信ネットワークから段階的に排除する決定を下すよう、連立パートナーから受けている圧力に抵抗している。ファーウェイはドイツの5Gネットワークにおいて、59%のシェアを持っており、これはヨーロッパで最も高いレヴェルに達している。

このような背景から、ヨーロッパ委員会の担当者たちは、ショルツ首相が中国で発するメッセージを注視している。貿易関係に対するヨーロッパの懸念が深刻であることを中国側に説明し、EUが対応するという意思表示をするのだろうか? そうすれば、中国経済が苦境に立たされ、北京の指導者たちがヨーロッパからの投資を誘致し、欧州市場へのアクセスを維持しようと必死になっているときに、ドイツとそのパートナーが経済的な影響力を行使する用意があることを示すことができる。

それとも、ドイツ産業界がショルツに強く求めているように、貿易摩擦(trade tensions)を軽視し、その過程において、ブリュッセルを弱体化させるのだろうか?

その答えは、11月のアメリカ大統領選挙を頂点とする重要な年に、ヨーロッパが中国に対してどれだけ団結しているかを多く物語ることになるだろう。ショルツ首相訪問の数週間後、習近平は5年ぶりにヨーロッパを訪問し、フランス、ハンガリー、セルビアをそれぞれ訪問する。ショルツとフランスのエマニュエル・マクロン大統領が習近平に同じメッセージを伝えれば、それは強力なシグナルとなるだろう。それができなければ、致命的である。

※ノア・バーキン:ロディアム・グループ上級アドヴァイザー、アメリカのジャーマン・マーシャル基金非常勤上級研究員。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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古村治彦です。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が勃発し、世界は「先進諸国の西側諸国(the West)」対「新興諸国のそれ以外の国々(the Rest)」の深刻な分断構造になっていることが明らかになった。西側諸国にはアメリカ、ヨーロッパ諸国、日本などで、それ以外の国々は中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカなどで構成されている。人口で見れば西側諸国が15%、それ以外の国々は85%であり、GDPは拮抗状態からそれ以外の国々が上回っている状態になっている。

 世界は分断状態になっている中で、アメリカ対中国・ロシアという構造の中で、自分たちの進む方向性に悩むのは属国群である。日本はアメリカの属国であり、アメリカの意向にきちんと従わねばならないということになっている。現在、岸田文雄政権が打ち出している「防衛費GDP比2%」という基準も、「アメリカ様が決めた数字」である。現在の水準よりも倍増することになるが、増えた分の多くはアメリカ製の兵器購入に充てられることになる。お金だけの問題で済めばまだ良いのだが、「充実した」兵器を持つようになり、ミサイルによる「先制攻撃」ができるようになれば、中国と実際にぶつかる係をやらされる危険性が出てくる。日本が中国と実際にぶつかるようになれば、日本は今よりもより悲惨な状況に落ち込んでしまうことだろう。そのようなことはなんとしても避けねばならない。そのためには、積極的に中国と「対話すること」である。

 そのお手本となるのがドイツのようだ。ドイツのオラフ・ショルツ首相は先月、ドイツの産業界のリーダーたちと共に中国を訪問した。ショルツ訪中は、西側諸国から大きな批判を受けた。中国とロシアに対抗するために、西側諸国は団結して臨まねばならないのに、その団結を崩す行為だという批判である。特にドイツとフランスとの間の不仲は西側諸国の団結にとっての大きな懸念材料ということになる。フランスは経済力こそ大したことはないが、ヨーロッパ大陸で唯一の核兵器保有国であり、国連安全保障理事会の常任理事国である。腐っても鯛、大国、昔の表現で言えば列強である。ドイツは、経済力はヨーロッパ随一であるが、軍事面では制限を持っている。フランスはドイツの大国化を懸念しており、西側からの離脱を心配しているのだろう。ドイツが中露と組んでしまえば(その可能性はかなり低いが)、フランスの存在感は消し飛んでしまう。EUNATOでドイツを抑え込んでいるのでフランスは安心していられる。

 オラフ・ショルツ(Olaf Scholz、1958年-、64歳)はドイツ社会民主党(SPDSozialdemokratische Partei DeutschlandsSocial Democratic Party of Germany)所属で、ハンブルク市長からアンゲラ・メルケル内閣(キリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟、社会民主党の連立政権)の副首相兼財務大臣を務めた後、2021年12月にドイツ首相に就任した。オラフ内閣は中道左派の社会民主党、急進左派の緑の党(Bündnis 90/Die GrünenAlliance 90/The Greens)、中道右派の自由民主党(FDPFreie Demokratische ParteiFree Democratic Party)の連立政権となっている。副首相兼経済・気候保護大臣には緑の党のロベルト・ハーベック(Robert Habeck、1969年-、53歳)が、外務大臣には同じく緑の党のアンナレーナ・ベアボック(1980年-、41歳)が就任している。

 問題は、ドイツ国内、ショルツ政権内から中国との関係を断ち切ることを求める声が出ていることだ。その主犯格は、連立政権の緑の党出身閣僚たち、特にアンナレーナ・ベアボック外相だ。アンナレーナ・ベアボックはアメリカで言えば、民主党内の人道的介入主義派のような存在だ。きれいごとを並べながら、実際には好戦的で、世界中の非民主的な国々の指導者たちを打倒しなければならないという狂信的な信念に凝り固まった人物である。子のような人物たちの過度な理想主義的主張が世界を戦争に陥れ、平和をかき乱す。

 「地獄への道は善意で敷き詰められている(The road to hell is paved with good intentions)」という箴言を私たちは嚙み締めねばならない。

(貼り付けはじめ)

ショルツ独首相、習中国主席と会談 ロシアへの働きかけ求める

2022115日 BBC日本語版

https://www.bbc.com/japanese/63524371

ドイツのオラフ・ショルツ首相は4日、中国・北京を訪れ、習近平国家主席と会談した。ショルツ氏は、ウクライナでの戦争を止めるため、中国がロシアへの影響力を行使するよう働きかけた。

新型コロナウイルスの世界的な大流行が発生して以降、ヨーロッパの指導者が北京を訪れるのは初めて。習氏が先月開催された共産党大会で権力の掌握を強めてから、欧州首脳が習氏と会談するもの初めてだ。

ショルツ氏は、ロシアの核による威嚇が「無責任かつ非常に危険」だという認識で両国は一致したと述べた。

習氏はこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による侵略行為を非難していない。

中国の報道によると習氏は、危機を平和的に終わらせるよう国際社会が支援し、核兵器の使用や威嚇に反対すべきだと述べたという。

中国外務省は、習氏が「無責任」「非常に危険」という言葉を使ったとは説明していない。

ショルツ氏と習氏は今回、ウクライナでの戦争、世界の食料とエネルギーの安全保障、気候変動、世界的な感染流行などについて、話し合い続けることで合意した。

台湾に関しては、ショルツ氏は従来どおり、現状のいかなる変更も平和的かつ相互の合意に基づかなくてはならないとするドイツの見解を繰り返した。人権については、特に新疆地区の少数民族について保護の必要があると述べた。

●欧州で懸念広がる

ショルツ氏の今回の訪中は、滞在時間がわずか11時間。現時点での訪中の是非は、ドイツと欧州各国で懸念を呼んでいる。

中国共産党大会が終わってまもないタイミングでもあるだけに、権威主義を強める習氏の国内評価を高める材料にされかねないと、懸念されている。

これについて、ジェニー・ヒルBBCベルリン特派員は、ショルツ氏は、前首相のアンゲラ・メルケル氏と同様、世界の問題は中国との協力することでのみ解決できるという考えの持ち主だと指摘。首相は、直接会うことで、双方が強く対立する問題でも話し合いが進むと考えているという。

BBCのカティヤ・アドラー欧州編集長は、ドイツは欧州連合(EU)の中で最も経済力と影響力をもつ国であり、その言動は重要だと指摘。

ショルツ氏の今回の訪中は、発表はされたものの、EUの他の国々との調整がなかったため、欧州各国の神経を逆なでしたとアドラー編集長は話す。

ヨーロッパがドイツを筆頭にロシア産ガスへの依存から脱却しようとする中、「ドイツはビジネスの見込みに目がくらみ、中国に近づきすぎているのではないか?」と、欧州で疑問視されているのだと、編集長は言う。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が何年も前から、EUの中国への依存を弱めるよう働きかけてきたこともあり、EUは貿易相手国の多様化は賢明なことだと考えるようになっているが、ショルツ氏はその歩調から外れていると懸念されていると、同編集長は解説した。

<解説> ジェニー・ヒル BBCベルリン特派員

ショルツ首相の前任、アンゲラ・メルケル氏も、中国訪問時には必ずドイツ経済界の幹部を同行した。メルケル氏は「貿易を通じた変化」を政策として追求し、中国やロシアといった国々との関係は、経済的な結びつきを通じて、政治的関係にも影響を与えられると考えていた。

ドイツ経済は長く、安価なロシアのエネルギーに依存してきた。しかし、ウクライナでの戦争によって、ドイツのその戦略の本質的な欠陥があらわになった。そしてかつてはパートナーだった中国のことも、ドイツ政府は今ではライバルとみなしている。

習氏は今回の会談で、ドイツとの「より深い協力」をショルツ氏に求めた。すでにドイツ経済が中国と密接すぎると考える人にとって、これはぞっとする発言だったはずだ。中国が台湾に侵攻したらどうなるのか、そういう人たちは心配している。

すでに100万人以上のドイツ人の雇用が、中国との関係に依存している。

例えば、自動車大手ダイムラーは、製造した車の3割以上を中国で販売している。化学メーカーBASFは、中国南部に新工場を開設したばかりで、年内に100億ユーロ(約1.5兆円)の投資を予定している。

ドイツ政府内で、中国との「デカップリング」(切り離し)を主張する人はほとんどいない。ショルツ首相訪中の前夜、経済界の幹部はこう述べた。「今は中国の陶器を割るべき時ではない。それが唯一のアドバイスだ」と。

とはいえ、ドイツが過度に中国に依存するのを防ぎたいと考えている人は多い。

ショルツ氏には、高度な綱渡りが求められている。ドイツ経済を守りながら、ドイツ企業の利益を最優先しているという非難を避けなくてはならないのだ(そうした非難はここ数カ月でかなり出ている)。

変化する中国にどう対応するか。ショルツ政権にとっては、それが決定的な試練となるかもしれない。

(英語記事 Scholz asks China to press Russia to end its war

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オラフ・ショルツは中国に対する西側の結束を弱めている(Olaf Scholz Is Undermining Western Unity on China

-ドイツ首相の独走(go-it-alone approach)は、ドイツ国内、EU、そして国際的なパートナーから疎外されている。

ファーガス・ハンター、ダリア・インピオンベイト筆

2022年11月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/23/germany-china-eu-scholz-xi-meeting-economy-trade-g-20/

「政治指導者たちは、変えられないものを受け入れる冷静さ(serenity)と、変えられるものを変える勇気(courage)、そしてその2つを区別する知恵(wisdom)を持つべきだ」。

中国の習近平国家主席は今月初め、北京でドイツのオラフ・ショルツ首相と会談した際、アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーの「ニーバーの祈り(Serenity Prayer)」を愛読していた西ドイツの故ヘルムート・シュミット首相を引き合いに出して、この言葉を述べた。

この言葉の引用には明確な目的がある。習近平にとって、ショルツの訪中は、10月の中国共産党第20回全国党大会で習近平の権限が更新された後、G7首脳として初めてのことだった。シュルツの訪中は習近平にとって北京の核心的利益(core interests)を再確認する機会であった。ショルツにとって残念だったのは、習主席が平静に受け入れられることを期待していたことのリストに、中国の厄介な少数民族の扱いから南シナ海の軍事化まで、あらゆることが含まれていたことだ。

中国との外交的関与は、特に西側諸国の政府が中国との関係をますます緊張させる中で、非常に重要である。問題は、それをどのように行うかである。ジョー・バイデン米大統領をはじめとする各国首脳が今月、インドネシアのバリ島で開かれたG20サミットを習近平との二国間交渉の場としたのとは異なり、ドイツの首相は先手を打とうとした。オラフ・ショルツ首相は、新型コロナウイルスの流行により、このような二国間会談を3年間中断していたため、習主席と直接話す時期が来たと主張した。ショルツ首相は、独中関係の問題に立ち向かうのは、まさにそれが通常の事態の中ではないからだと述べた。『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』紙に寄稿した論稿で、ショルツは「中国が変われば、私たちの中国へのアプローチも変わるはずだ」と書いている。

しかし、ショルツのドイツ第一主義のアプローチ(Germany-first approach)は、ドイツの連立政権の中国政策展開を混乱させ、ヨーロッパや世界のパートナーを遠ざけている。好戦的になりつつある中国にアプローチする最も効果的な方法は、統一戦線による対処だ。アメリカ民主党政権は、中国に関するレトリックと政策を一致させ、優位な立場でテーブルにつく必要がある。主観的な国益に基づく単独行動は、中国に利用されてしまう脆弱性をもたらす。

今回のG20サミットでは、習近平の戦略的な二国間交渉を優先する志向が顕著に表れた。習近平は、フランス、スペイン、オランダ、イタリアの各首脳と会談し、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長やシャルル・ミシェル欧州理事会議長との正式な会談を避けた。つまり、習近平は、集団的利益を代表する欧州委員会の、中国に対して厳しい姿勢を取る指導者たちを避け、自国の利益と負債を優先する各国首脳を相手に運試しをした。

ショルツ首相は北京で、私的な会合においても、公的な場においても、難しい問題を提起したが、その方法はドイツとEUのそれぞれの中国政策に水を差すことになった。ショルツ首相は、ドイツの対中経済関係の強化が最優先であるという印象を強く残したが、他のヨーロッパの指導者やベルリンでの自身の連立パートナーはその反対を押し進めている。中国は、ショルツ首相のドイツを西側諸国連合の弱点と見なし、これを利用しようとする可能性がある。

ショルツ首相は北京で、ロシアのウクライナ侵攻や中国の人権侵害、台湾海峡でのエスカレート、不公正な経済行為、同じEU加盟国のリトアニアを含む他国への経済的威圧を非難する明確なメッセージを打ち出した。

今回のショルツ首相の訪中では、習近平国家主席が2つの声明を発表したことが大きな成果として挙げられたと専門家たちは強調している。中国の習近平主席は、ウクライナでの核兵器の使用に対して公式に警告し、バイオエヌテック社のワクチンを中国に住む外国人向けに承認することに同意した。これは中国におけるmRNAワクチンの初めての青信号となった。在中国欧州商工会議所会頭のヨルグ・ヴットケは、オーストラリア戦略政策研究所のポッドキャストのインタヴューで、「ショルツ首相がベルリンにとどまって中国を訪問していなかったら、習主席の公約はどれも実現しなかっただろう」と述べた。

しかし、中国は実際にどれだけのものを提供したのかについては明確にしておくべきだ。習近平はウクライナで核兵器を使用すると脅す勢力としてロシアを名指ししなかったし、中国はロシアの侵攻を非難することを拒否し続けた。中国や他の国がウクライナにおけるレッドラインとして核兵器の使用を定義することは、ロシアがそこで続けている通常兵器の侵略を容認するというシグナルを送ることになる。これは中国にとって非常に低いハードルであり、北京は自らを責任あるグローバルプレーヤーと見せかけながら、平和の実現にはほとんど貢献しないということになる。

多くの専門家たちは、今回のショルツ訪中の真の目的は、ドイツの対中商業活動の強化にあったと主張している。シュルツの訪中は、中国の海運大手コスコのハンブルク港への投資を、閣僚や治安当局の反対や懸念にもかかわらず、強引に承認した直後に行われえた。フォルクスワーゲン、シーメンス、BASFといった大企業を含む12名のドイツ産業界のトップと共にシュルツは北京に到着した。

BMWのオリバー・ジプセ会長は新華社通信の取材に対し、「この訪問は中独間の経済協力強化に向けた強いシグナルだ」と述べ、中国の外交官たちや国営メディアも同じ感想を述べた。中国政府が発表したショルツ・習近平会談の公式資料には、「ドイツは中国との貿易・経済協力を緊密化する用意があり、中国とドイツの企業間の相互投資の拡大を支持する」と記されている。もしこれが本当にショルツの立場なら、リトアニアやオーストラリアといったドイツのパートナー国が中国の市場力にさらされることで経済的圧迫に直面している今、非常に甘い態度だと感じられる。

ショルツは、経済・気候変動担当大臣(副首相)のロベルト・ハーベックや外務大臣のアンナレーナ・ベアボック(両者ともに緑の党)といった連立政権の閣僚たちと、中国への対処をめぐって対立してきた。緑の党の閣僚たちは、「これ以上の甘さはなしで(no more naivety)」、中国からの「恐喝(blackmail)」のリスクを減らす努力をするよう求めている。ショルツ連立政権の6名の閣僚はコスコの投資に反対したが、最終的にはハンブルク港における中国の出資比率に上限を設定するという妥協案に合意した。ハーベックは「ドイチェ・ヴェレ」とのインタヴューで、中国に大きく依存するドイツ企業は、台湾をめぐる潜在的な対立など中国に関して地政学的な逆風が吹くと、「ビジネスモデルを危険にさらす(risk their business model)」ことを意識する必要があると警告している。ハーベックは、先週シンガポールで開催されたアジア太平洋地域ドイツビジネス会議では、ドイツの現在の経済多角化の取り組みは適切ではなく、「私たちは中国への依存度を高めつつある」と述べた。

ショルツの行動は、連立政権の閣僚たちの言動と相容れない。今、ドイツ政府が国内企業に対して明確に伝えるべきことは、中国に対する脆弱性(vulnerability)を高めるのではなく、軽減するための支援を行うことだ。

ドイツ首相ショルツは、誤った二項対立で自らのアプローチを正当化しようとしている。ドイツなどは中国との関わりを拒むことはできないと主張し、関係切り離し(デカップリング、decoupling)は「間違った答え(wrong answer)」だと述べた。しかし、中国との本格的な関係切り離し(デカップリング)は真剣に考慮するような命題ではない。中国とドイツ、そして世界経済との融合は巨大であり、それを解体することは非常に複雑で有害な事業となる。むしろ、中国と効果的に関わりながら、特に重要な分野では市場と供給チェーンの多様化を目標に進めていくことが問題となる。例えば、フォルクスワーゲンは利益の半分を中国市場から得ており、中国に30以上の工場を持っている。これは明らかに経済的な過剰依存(economic overreliance)であり、フォルクスワーゲンとドイツの双方をリスクに晒す。

少数の強力な企業経営者たちが、政府の外交政策に不当な影響を与えることを、ショルツは許してはならない。利益至上主義のCEOたちが、北京との関係において、一本調子で近視眼的な考え以上のことを進めると期待を持ってはいけない。各種世論調査によると、ドイツの有権者は中国を信頼しておらず、コスコの港湾投資にも、人権よりも企業活動を優先させることにも反対している。ショルツ首相は、ドイツの長期的な経済的回復力と政治的・安全保障的な懸念を考慮し、より洗練された対中アプローチを展開する必要がある。

習近平はいわゆる二重循環政策(dual circulation agenda)によって、自国の自給自足を高める一方で、他国を中国の輸出品に依存させることを望んでいる。中国政府がどのような保証をしようとも、実質的な開放(opening)と相互依存(reciprocity)は実現しない。ショルツ首相は、中国との貿易に現在も存在する障壁を、自らの政策がいかに危ういものであるかを示すシグナルとして受け止めるべきだろう。

国内的には、ショルツはバーボックやべアベックと連携し、ドイツが首尾一貫して経済的な強度を高め、中国への依存に伴うリスクを確実に減らす必要がある。間もなく発表されるドイツの国家安全保障戦略(national security strategy)と中国戦略(China strategy)は、いずれもドイツ政府の団結に支えられた強固で明確な青写真(blueprint)である必要がある。ドイツの産業界が明確な方向性を示し、その脆弱性を実質的に軽減するためにこれらの文書が必要である。

首尾一貫したドイツの戦略は、EUの中国に対する位置づけにも不可欠である。ヨーロッパがロシアの天然ガスに過度に依存していることに対する高い代償を払っている時に、中国の投資を優先させることは、EUの他の国々、特にEU最大の経済力を持つ国々にとって良い手本とはならない。EUのトップ外交官(欧州連合外務・安全保障政策上級代表)であるジョセップ・ボレルは、EU各国の大使に対する最近の講演で、中国とロシアに経済的に依存することはもはや実現不可能であると述べた。「中国とロシアに経済的に依存することはもはや不可能であり、その調整は困難であり、政治的な問題を引き起こすだろう」と警告した。

ショルツは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領からの北京への招待を拒否したと伝えられており、2人は効果的なパートナーシップを確立するのに苦労している。これは、欧州の最も強力な2人の指導者が、中国に関して結束を示す機会を逃したことになる。ショルツ首相は、マクロン大統領との関係を安定させ、EUの中国への取り組みを支援する必要がある。

欧州を越えて、ドイツは米国やインド太平洋地域の志を同じくするパートナーとともに、中国の悪質な行動に対抗するための協調的な戦略について、更に努力する必要がある。今のドイツは、西側諸国のパートナーの中では弱く見える。ある中国のアナリストは、ショルツ首相の中国訪問後、「ショルツ首相は、ドイツが“同盟(alliance)”という古い道を歩むつもりはないことを明確にしたのだから、中国を孤立させる訳にはいかないのだ」と主張した。ドイツのパートナーもまたやるべきことがある。たとえばアメリカは、中国の半導体産業を抑制する取り組みなど、中国との戦略的競争へのアプローチを鋭くすることで、主要な同盟諸国とより効果的な協議を行うことができるだろう。

自由主義諸国が、習近平の意思決定に真の意味で影響を与え、今後数年間に経済的・政治的な強靭さを構築することを望むなら、国家レヴェル、地域レヴェル、国際レヴェルの連帯(solidarity)が不可欠である。この連帯が信頼に足るものであるためには、戦略的な国内政策と、ベルリン、ヨーロッパ、そして世界各地での協調的な外交活動が必要である。

ファーガス・ハンター:オーストラリア戦略政策研究所アナリスト。ツイッターアカウント:@fergushunter

※ダリア・インピオンベイト:オーストラリア戦略政策研究所アナリスト。ツイッターアカウント:@DariImpio

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フランス・ドイツの協力関係に火がついている(The Franco-German Motor Is on Fire

-ウクライナ戦争はヨーロッパにおけるもっとも有力な国々をこれまでになく対立させている。

キャロライン・デグロイター筆

2022年11月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/21/europe-eu-franco-german-motor-fire/

1990年代のある日、イタリア人の欧州委員会職員リカルド・ペリッシェは、ブリュッセルのオフィスビルの廊下で、当時の欧州委員会委員マヌエル・マリンとばったり会った。スペイン人のマリンは、明らかに何かに怒っている様子でにペリッシェ言った。「リカルド、君は自分が何であるか分かっているか? リカルド、自分が何者か分かっているか?」。ペリッシェが困惑した表情を浮かべると、マリンは次のように続けた。「この場所で問題提起し決定することが許されるのはフランス人とドイツ人だけだ。イギリス人は時々それらが許される。他の人間は質問することしか許されない」。

ペリシッチは、最近、この逸話を持ち出し、EUにとって独仏関係がうまく機能することが重要であると述べた。現在、フランスとドイツの間には様々な摩擦がある。ドイツは、国民や産業界への国家による多額のエネルギー補助金、中国との一方的な取引継続、ウクライナへの不十分な資金・物資支援など、ヨーロッパの国らしくない行動が非難されている。10月には独仏合同議会が中止されたほどだ。しかし、ペリシッチは、EUでは常にフランスとドイツの間で問題が起きていると指摘する。そして、その解決は他の国の問題解決より優先されることが多い。

従って、現在の独仏の摩擦の大部分は当然のことである。しかし、両国の間には、解決するのがより困難な、より深刻な倦怠感(malaise)も存在する。

戦後のヨーロッパで独仏の摩擦が常態化していたのは、単純な理由からである。1950年代に欧州統合(European unification)が始まるまで、ドイツとフランスは大陸における権力をめぐって、1870年から1871年、1914年から1918年、1939年から1945年の3度にわたる大きな戦争を戦い、何百万人もの人々が命を落とし、ヨーロッパの大部分が破壊された。そのため、欧州統合は、ルクセンブルクやデンマークが関与する紛争ではなく、この強力な2国間の紛争を管理することに焦点を当てた。今日に至るまで、EUの使命の1つは、フランスとドイツが問題を平和的に解決し続けることを保証することだ。70年間、政治的・経済的な文化が異なり、何一つ意見が一致しない両国は、一発の銃声も発しなかった。現在のヨーロッパでは、弾薬ではなく、言葉を使って撃ち合う。

ペリシッチが書いているように、他のEU諸国から来た人たちは、頻繁に起こる独仏のいさかいを「希望と苛立ち、そして実際に参加できないことへの不満が混じり合って」見ているが、70年間、そうした状況でうまくいってきたのである。

現在の独仏問題のほとんどは現在の状況から説明することができる。世界は変化し、EUも変化を余儀なくされている。エネルギー政策、予算問題、安全保障など、ロシアのウクライナ戦争による諸問題について、パリやベルリンを中心に妥協点を見出すために、EUは目下多忙を極めている。ブリュッセルの官僚たちは、いつもながら助産婦のような存在で、ヨーロッパの提案の検討や欧州各国首脳の閣僚会議・首脳会議の準備に余念がない。メディアにとっては、匿名の外交官や政治家によるオフレコのブリーフィングで相手を非難したり、密室で行われる交渉の詳細をリークしたりと、多くのドラマがある。繰り返すと次のようになる。これは普通のことだ。おそらく、何らかの妥協が手の届くところにあることを示しているのだろう。

しかし、そこには、戦後のパリとベルリンの関係の根幹に関わる、より深い倦怠感もある。フランソワ・ミッテラン大統領の特別顧問で欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development)の初代総裁を務めたフランスの経済学者ジャック・アタリは最近、「長期的な戦略的利益の違い(difference of long-term strategic interests)」が生じていると指摘し、ヨーロッパが大きく前進することによってのみ対処できるとしている。しかし、独仏戦争の直接的な記憶が薄れつつある現在、両国の現在の指導者たちはこのことを十分に認識していないのではないかと危惧している。その結果は、「フランスとドイツの戦争が再び起こる可能性がある」ということだ。

現在のフランスとドイツの乖離は、EUの中核的な機能の1つである、ドイツが再びヨーロッパでこれほど支配的な存在になることを防ぐ機能にまで遡る。これまでのところ、これは大成功を収めている。欧州統合が始まって70年、ドイツ人はおそらく世界で最も優れた平和主義者になったと言えるだろう。ドイツ連邦軍(Bundeswehr)は資金不足で知られている。ドイツ人自身は、他のヨーロッパ人よりもドイツの力を恐れている、とよく言われる。だから、EUの「貿易を通しての変革(Wandel durch Handelchange through trade)」、貿易関係で政治的変化をもたらす戦略がドイツによく似合うのである。一方、経済的に遅れをとり、ドイツのユーロ保証に財政を依存しているフランスは、ヨーロッパの外交・安全保障・防衛政策の主導権を握っている。

このような独仏による役割分担は、両国だけでなく、EUにとっても長らく好都合であった。フランスとドイツは互いに補完し合い、それぞれが得意分野に集中することができた。ドイツは地政学(geopolitics)を考慮に入れずに貿易に集中でき、フランスは大陸で唯一の核保有国として本格的な軍隊を持ち、国連安全保障理事会の常任理事国として、フランスの債務や赤字をあまり指摘せずに、威勢のいい声を上げることができた。しかし、この関係がアンバランスになっていることは以前から明らかになっていた。ヨーロッパでは、ドイツは自らを小さく見せることが多いが、フランスはその逆を行う傾向がある。

ロシアのウクライナ侵攻以降、独仏間の離間がEUの政治に表面化し、双方に軋轢を生じさせている。戦争によって、ドイツは今、2つの大きな頭痛の種を抱えている。1つ目の頭痛の種としては、対露制裁と豊富なロシア産ガスの突然の遮断によって、ドイツの成長モデルが危機に瀕していることだ。EU加盟国の多くが依存するヨーロッパの中心的な経済主体が、久しぶりに輸出よりも輸入を多くすることになった。ドイツのオラフ・ショルツ首相が今月、批判を浴びた中国訪問を必死に擁護したのはこのためだ。

ドイツにとっての2つ目の頭痛の種は、ロシアの脅威からヨーロッパを守るのはフランスではなく、NATOであるという事実だ。ドイツは突然、ヨーロッパがフランスに依存できない安全保障・防衛政策を緊急に必要としていることを認識した。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ヨーロッパの「戦略的自立性(strategic autonomy)」について興味深い考えを示しているが、それが何を意味し、誰のリーダーシップの下で実現されるべきかについては曖昧なままだ。だからこそ、オラフ・ショルツ独首相は対米関係の改善を新たな優先課題としたのである。ワシントンの政策立案者たちを眠らせないのは、ウクライナでもヨーロッパでもなく中国であることを知りながら、大西洋の連帯を重視していることが、そのことを物語っている。このような状況下で、ベルリンでは、「隠れ蓑(cover)」を求めている。

フランスは鼻で笑われ馬鹿にされたと感じている。フランスのコラムニストであるリュック・ド・バロシュが「ウクライナに18台の戦車を送るのがやっとだった」と書いているように、フランスが軍事的限界を露呈したことにフランスは傷ついた。その結果、パリはベルリンに批判を浴びせている。マクロン大統領の数々のヨーロッパ構想に応じなかったベルリンが、何故独自路線を歩んでいるのか? 何故ショルツは1人で中国に行ったのか? 何故ベルリンは今年、フランスのラファールではなく、アメリカのF-35戦闘機を発注したのか? ドイツがフランスとの調整なしに突然一方的なイニシアチブを取るという事実は、パリとベルリンの間の微妙なバランスを崩す。ハーヴァード大学ビジネススクールのフィリップ・ル・コレは、『ル・モンド』紙に「ドイツの態度は、リスクが十分に立証されているにもかかわらず、自己中心的で短絡的であり、ヨーロッパの利益を考慮していない」と述べている。

過去にも地政学的な変化によって、独仏の間に深い乖離が生じたことがある。指導者たちは、ヨーロッパ統合に飛躍することでこれを解決した。例えば、1989年のベルリンの壁崩壊後、東ドイツと西ドイツが統一され、フランスは突如として桁外れの相手と対峙することになったことがそうだ。この時、フランスのフランソワ・ミッテランとドイツのヘルムート・コールという2人の指導者は、他の10カ国のEU加盟国に対して、ヨーロッパ・プロジェクトの大幅なリセットが必要であると説得した。その結果、欧州共通通貨ユーロの誕生につながった。

こうした歴史的経緯を踏まえ、今、再び大規模なリセットを主張する人々がヨーロッパから出ている。例えばアタリは、大陸の防衛を欧州化すること(Europeanizing)で、独仏の乖離に対処することを提案している。しかし、EUの規模は1989年当時よりはるかに大きくなっている。ショルツとマクロンが、新たな大規模な欧州プロジェクトの必要性に同意し、25人の同僚たちを納得させることができるかどうかは分からない。しかし、現在のヨーロッパにおいて、フランスとドイツの力は以前より相対的に低下しているかもしれないが、他の大陸の国々は、マヌエル・マリン委員がいた時代と同様に、両者の良好な関係を期待しなければならないほど支配的であるということは、紛れもなく事実である。

※キャロライン・デグロイター:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、オランダ紙『ハンデルスブラット』のヨーロッパ担当特派員・コラムニスト。現在はブリュッセル在住。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

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 2022年11月初旬、ドイツのオラフ・ショルツ首相が中国を訪問した。2022年2月にウクライナ戦争が勃発し、ヨーロッパ諸国は対ロ経済制裁を行っているが、ロシアを屈服させるまでには至らず、かえってロシアからの天然ガスが入ってこないことから、エネルギー不足に陥り、アメリカからの割高の天然ガス購入を強いられている。通常であれば、夏季に割安の天然ガスを備蓄し、冬に需要増に備えているが、それができない状況で、厳冬となればヨーロッパ諸国で凍死者が出ることも予想されている。

 ドイツはウクライナ戦争勃発後にロシア制裁に対して消極的な姿勢を見せていたが、その後は他国に追随する形になっている。また、ロシアからの天然ガス輸入に関しては、のルドストリームの破壊によって物理的に厳しい状況になっている。

 そうした中で、ドイツのショルツ首相が中国を訪問した。この訪中の意図はどこにあるのかということが取り沙汰された。中国はロシアを支援する形になっている。そのような中国を重視する外交は間違ったメッセージを与えるという批判が出てくるのは当然のことだ。ドイツは中国に経済的に大きく依存していない。だから、中国に追随する必要はないということになる。

 ショルツ独首相訪中は中国との経済関係強化ということもあっただろうが、私は中国からの天然ガス輸入について議論、依頼を行うためであっただろうと推測している。以下に関連する記事を掲載する。

(貼り付けはじめ)

ロシア産天然ガス、中国を経由して欧州に流れる―独メディア

Record China    2022920() 610

https://www.recordchina.co.jp/b901413-s25-c100-d0193.html

17日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、ロシアの天然ガスが中国を経由して欧州に輸出されていると報じた。

2022917日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、ロシアの天然ガスが中国を経由して欧州に輸出されていると報じた。

記事は、今年に入って中国のエネルギー企業が国際市場ですでに400万トンの液化天然ガス(LNG)を販売しており、欧州が今年上半期に消費した天然ガスの7%前後に相当すると紹介。中国の九豊集団(JOVOグループ)が「すでに欧州向けに総額1億ドル(約143億円)のLNGを売った」とコメントし、中国石油化工も約315万トンのLNGを販売したとしている。

そして、米ライス大学のエネルギー・専門家であるアンナ・ミクルスカ氏が「欧州が中国から購入するLNGに、ロシアからやってきたものが混ざっていることは間違いない。私は、何らかの規定がロシア産エネルギーを規制できると信じていない。中国からLNGを買わなければ、欧州では今冬に深刻な天然ガス不足に見舞われる可能性がある。現状、ロシアではなく中国が利益を得ている状況だ」と語ったことを紹介した。

また、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、中国がロシアからのエネルギー輸入を大きく増やしており、輸入額が1年前の200億ドル(約29000億円)から350億ドル(約49000億円)にまで増えていると指摘。ロシアもエネルギー計画で対中輸出増加を掲げており、「ロシアも、欧州連合(EU)による依存が弱まる中で供給先の多様化を実現する必要があることをはっきり認識している」とした。

一方で、専門家からは「欧州は中国のサプライヤーによってエネルギー不足分を補填(ほてん)できると考えてはならない。ロシアや他の国に比べて、中国が欧州に輸出できる天然ガスの総量には限りがあるからだ。しかも、中国の経済活動が回復すれば、欧州は一層高い価格で中国から天然ガスを購入せざるを得なくなる」との警告も出ていると紹介。ミクルスカ氏が「中国とロシアの協力に伴って、両国が一緒になって世界のエネルギー市場を操縦する可能性がある。欧州は供給先の問題をなんとかしなければ根本的な問題解決にならないが、それは決して簡単ではなく、今冬には解決できないだろう」と述べたことを伝えた。(翻訳・編集/川尻)

(貼り付け終わり)

 ロシア印のついた天然ガスは買えないが、中国印になれば買えるということになる。これくらいの「産地偽装」は色々なもので行われているだろう。ドイツとしては中国から天然ガスを輸入したいところだろう。それでは対ロ経済制裁の効果が削がれてしまうことになるが、背に腹は代えられないということもあり、かつ、経済制裁は効果を発揮していない。アメリカからの高い天然ガスを買うということは馬鹿げたことだ。ドイツはアメリカに対して面従腹背で臨んでおり、それに対して、他のヨーロッパ諸国、特に東欧、中欧諸国が苛立っているという構図のようだ。

(貼り付けはじめ)

ドイツは中国を見捨てることができる(Germany Can Afford to Spurn China

-ドイツが中国と提携する経済的根拠は意外に乏しい。

ルーク・パティ

2022年11月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/04/germany-can-afford-to-spurn-china/

ドイツのオラフ・ショルツ首相が今週北京を訪問したことで、西側諸国の対中戦略競争においてドイツが信頼できるパートナーかどうかをめぐり激しい議論が巻き起こっている。

大西洋の両岸で、ドイツの輸出主導型経済(export-driven economy)が中国市場に依存しすぎていて、不公正な貿易慣行、産業スパイ、人権侵害について北京と強く対立できないとの見方が強い。ドイツ連邦議会のタカ派議員でさえ、この依存体質が、アメリカとその同盟諸国が中国の台湾侵攻の可能性に対抗して展開する制裁を、ベルリンが「無力」にしていると見ている。

ドイツ経済にとって中国が重要であることに反論はない。近年、中国はドイツにとって最大の貿易相手国となっている。しかし、ドイツは中国に依存している訳ではない。貿易にせよ、対外投資にせよ、ドイツが決定的に依存している市場は、ヨーロッパ以外にない。国家的な経済的利益と言うよりも、ドイツの一部の多国籍企業や産業界の特別な利益が、中国依存の物語を推進し、ベルリンの戦略的行動を制限している。

まずは貿易から始めよう。2021年、ドイツの貿易相手国ランキングでは、中国が財の輸出入全体の9.5%を占めトップとなった。しかし、どのパートナーが1位であるかに注目すると、ドイツの貿易関係の全体像が歪んで見えてしまう。

ドイツの世界との貿易関係を特徴づけているのは、依存関係(dependency)ではなく、多様性(diversity)である。中国を筆頭に、アメリカ、フランス、ポーランド、その他のヨーロッパ諸国は、それぞれドイツの財の貿易総額の5%から8%を占めている。最近、世界の貿易総額のおよそ5分の1を占めるサーヴィス貿易を含めると、中国とドイツの西側貿易相手国との差はさらに縮まる。

中国への貿易依存度が20%から30%である韓国、日本、オーストラリアとは異なり、ドイツには地政学的な駆け引きができる余地がはるかに大きい。

中国がドイツの貿易成長を強力に推進している訳でもない。ドイツの経済学者ユルゲン・マテスの研究は、1991年から2018年にかけて、中国がドイツの輸出増加の10分の1程度しか占めていないことを明らかにしている。これは注目すべき貢献ではあるが、中国の需要がドイツの輸出主導型経済のエンジンであるという図式にはほとんど当てはまらない。

ドイツが依存する単一市場といえば、ヨーロッパ連合(EU)共通市場である。そこでは、世界をリードするドイツの自動車産業や機械工学産業が深く結びついている。例えば、ドイツはポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキアといった中央ヨーロッパのヴィシェラード(Visegrád)諸国との貿易額が、中国との貿易額より40%も多い。この4カ国は中国の経済規模の7%に相当するにもかかわらずドイツとの貿易が大きい。

こうした欧州域内の貿易連関は、中国に過度に依存しているわけではない。ミュンヘンに本拠を置くイフォー経済研究所によれば、中国からの輸入品を第三国で加工してからドイツで最終的に輸出するという複雑なグローバル・サプライチェインにおいて、中国は対外付加価値の7%を占めているのに対し、EUは44%、アメリカは10%を占めている。

従来の常識的な考え方とは異なり、中国が全てを作っている訳ではない。ヨーロッパでは、世界の他の地域と同様に、経済の地域化(economic regionalization)が依然としてグローバル化(globalization)に勝っている。

中国との貿易が急激に断絶した場合の経済的損失は、確かにドイツの実質所得で480億ユーロと推定され、大きなダメージとなるだろう。しかし、この起こりうる結果を、主に中国からもたらされる産業スパイによって年間550億ユーロを失っているドイツの現実と比較してみるべきだ。

ドイツの対中投資関係について見てみる。これまでの10年間、徐々に減少していたドイツの対中投資は2022年上半期に過去最高を記録するまでに急増した。しかし、今年これまでにドイツ企業が中国市場に投資した100億ユーロは、まだドイツの対外投資活動全体のおよそ10%にしか過ぎない。ドイツ企業の対中投資は、新しい水準に達しても、ユーロ圏の19カ国に投資した額の5分の1以下である。

ヨーロッパ全体の傾向を牽引するように、ドイツの対中投資額も少数の大規模多国籍企業に高度に集中するようになっている。ドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMWがその代表である。機械工学、電気機器、化学産業とは異なり、ドイツの自動車産業は中国への外資を大幅に拡大し、2019年の対外投資総額の29%を占めた。

ここ数年、ドイツの自動車部門は通常、ドイツの対中投資の70%以上、欧州の対中投資の3分の1以上を占めている。現在、中国の電気自動車市場で台頭する国内勢に対抗するため、長年の合弁事業でより大きな株式を取得し、新たな技術提携を確立するために数十億ドルを投じている。

しかし、他のドイツ企業も、より高い依存関係を築きたいと考えているようだ。国際市場からの自立を目指すと表明した北京の目標や、将来起こりうる中国の台湾侵攻から生じる地政学的リスクにもめげず、総合科学メーカーであるBASFは新しい石油化学工場への100億ドルの投資の第一段階を開始し、シーメンスは中国でのデジタル産業の大幅拡大を計画している。

アメリカ、日本、韓国の多くの企業と同様に、ドイツビジネス界のリーダーたちは引き続き中国での収益と利益の将来の成長を見込んでおり、中国市場での成功が自社のグローバル競争力を前進させると見ている。全ドイツ企業の中国拠点の子会社の売上高は、2016年の海外売上高の9%から2019年には8.4%に減少したが、ドイツ株式市場のドイツの優良企業上位40社が生み出す企業収益は、2021年には平均16%へと上昇に転じている。

ドイツを代表する企業の一部が、高い企業依存度がこれ以上拡大しないように制限するドイツ政府内の取り組みに歯止めをかけるために、強くロビー活動を展開しているのは当然のことだ。ドイツの外務省と経済省の対立が深まるなか、ショルツ首相とアドバイザーたちは、対外投資審査などの措置をベルリンの来るべき中国戦略の一部としないことを望むドイツビジネス界リーダーたちの側に立っているようだ。

ショルツとアドバイザーたちは、ドイツの多国籍企業が中国で成長しても、平均的なドイツ人には必ずしも多くの利益をもたらさないことを念頭に置かなければならない。中国への輸出はドイツ国内の約100万人の雇用を下支えしているが、ドイツの労働人口は約4600万人いる。在中国ドイツ商工会議所の最近の調査によると、ドイツ経済の中核である中小製造業のいわゆるミッテルシュタント(Mittelstand)は、大企業に比べて中国市場での見通しをあまり楽観視していない。同時に、北京は経済的なつながりを利用して、ドイツやヨーロッパの外交・安全保障政策の意思決定を強要し、コントロールしようとする姿勢を示している。

ショルツ独首相は中国との「一方的な依存関係を解消したい」と述べているが、ドイツ企業経営幹部12人を北京に招くなど、彼の行動は、存在するリスクをより強めるものだ。ドイツの大手多国籍企業の株主や機関投資家たちも、中国に大規模投資することによる地政学的リスクを評価に反映させる必要性が高まっているのである。

中国はドイツが経済的に繁栄するためのチケットではない。最終的には減速し、ますますリスクが高まる中国経済を通じて競争力を高めることに固執すると、貧弱なデジタルインフラから労働力不足まで、ドイツの技術革新と生産性の課題を克服するために必要な注意が損なわれてしまう。ドイツはインドや東南アジアへの貿易・投資を奨励することはできるが、政治や産業の意思決定者たちは、最終的にはドイツやヨーロッパの国内競争力を念頭に置かなければならない。

中国とドイツの間の広範な貿易・投資の相互依存関係は、まだどちらかが圧倒的に有利ということはない。しかし、ドイツは、わずかではあるが、中国との間に深く埋め込まれた供給面での脆弱性を解消するために、迅速に行動しなければならない。例えば、EUは加工用希土類元素の98%を中国から調達しており、中国の産業は太陽光発電や風力発電に不可欠な部品の多くを生産している。ドイツはまた、一部の化学製品や電気・輸送機器の中国からの輸入を多様化する必要がある。

世界第4位の経済大国であるドイツは決して無力ではない。戦略的緊急性をもって行動し、日本、オーストラリア、アメリカなど、重要な分野で代替サプライチェインの構築という大きな課題に積極的に取り組んでいる国々と緊密に連携し、EUをリードすることができるだろう。しかし、当面の間、ベルリンは代わりに親密な同盟諸国を動揺させることを選択した。

ショルツは、北京とのコミュニケイションラインをオープンしておくことは正しい。ドイツが大規模なデカップリング戦略(decoupling strategy)を選択する必要はない。しかし、ドイツ首相がアジアからベルリンに戻る際には、ドイツの対中アプローチにおいて、特別な利益と国益を切り離すことから始める必要がある。

※ルーク・パティ:デンマーク国際問題研究所上級研究員。著書に『中国は如何に負けるか:中国の国際規模の野心に対する反撃(How China Loses: The Pushback Against Chinese Global Ambitions)』がある。

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