古村治彦です。

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ロサンゼルスでの米移民・関税執行局(ICE)による不法移民の一斉摘発に対する抗議活動が先鋭化し、暴動(riots)にまで深刻化している。その様子は日本でも報道されている。抗議者たちは、プラカードを掲げたり、スローガンを発したりしている。また、デモ行進も行っている。平和的な活動であれば推奨されるべきことであるが、抗議活動参加者の一部が暴徒化している。その様子もまた報道されている。また、ロサンゼルス市警察には略奪(plundering、looting)の報告が入っているということだ。死者の報告が出ていないことはせめてもの救いだ。
ロサンゼルス市のカレル・バス市長はロサンゼルスの中心部(downtown)の一部に「夜間外出禁止令(curfew)」を出した。事態は1992年に発生したロサンゼルス暴動(Los
Angeles Riots)に近くなっている。1992年の暴動は、白人警官によるアフリカ系アメリカ人男性殴打事件と裁判での無罪判決がきっかけとなった「人種関連暴動(race riots)」である。ロサンゼルス市内の南部は、以前はサウスセントラル(South
Central)、現在はサウス(South)と呼ばれているが(サウスセントラルが最悪の印象を与えるので改められた)、マイノリティが多く、貧困や差別などが原因での、治安状況は全米でも最悪の部類だった(今でもあまり改善したとは言い難い)。
1992年の暴動はそこから北に上がってくる形で拡大し、高速道路10号線の付近まで上昇してきた。その付近にはコリアタウンがあり、韓国系アメリカ人たちが経営する商店が略奪の対象となり、韓国系アメリカ人たちは自衛のために武器を取って対峙することになった。ロサンゼルス北部にはビヴァリーヒルズやハリウッドがある。ロサンゼルス市警は高速道路10号線より北を守るために、それから下は放棄したために、コリアタウンまで被害が及んだという説もまことしやかに語られていた。部分的には本当であろうと私は考えている。
今回の抗議活動は、ICEによる不法移民の一斉摘発に端を発する。そして、興味深いのは、メキシコや他の中南米諸国の国旗が掲げられ、「No One's Illegal On Stolen Land(盗まれた土地では誰も不法ではない)」というスローガンが叫ばれていることだ。以下のアドレスには、現地で写真家が撮影した映像がいくつか紹介されている。是非ご覧いただきたい。
※Los Angeles Riots: "No One's Illegal
On Stolen Land"
この映像の中にはデモをしている人々がスローガンを叫んでいるシーンがある。先導する女性は次のように言っている。
「盗まれた土地では誰も不法ではない"No one’s illegal on
stolen land"」
「奪われた土地に不法滞在する者はいない。この街を作ったのは誰なのか、思い出せ。メキシコ人全員、黒人全員だ。私たちが全てを作った。私たちが許さない限り、彼らは来てそれを奪うことはできない("Remember who made this city. All the Mexicans, all the black
people. We made all that. They can't come and take it from us unless we let
them.")」
人々に力を("Power to the people")
このスローガンを先導する女性には、ロサンゼルスを作り上げるのに貢献した、白人もユダヤ人もアジア人も全く見えていない。彼女が考えるマイノリティはあまりにもステレオタイプでかつ視野が狭すぎる。ロサンゼルスは、1973年に市政史上初のアフリカ系アメリカ人のトム・ブラッドリー市長を誕生させた。彼は1993年まで市長を務めた。ブラッドリー市長誕生の原動力となったのは、マイノリティ(ユダヤ系、アフリカ系、菱パニック、アジア系など)の力を結集させた虹色連合(Rainbow Coalition)だった。ブラッドリーの名前は、ロサンゼルス国際空港の名前に冠されている。
何とも皮肉なのは彼の在任の最後でロサンゼルス暴動が起きてしまったことだ。それから、アフリカ系アメリカ人コミュニティと韓国系アメリカ人コミュニティの交流が実施されてきたが、人種間の融和というのは非常に難しい。今回の抗議活動でのスローガンでも、その難しさは表出している。これまで何度も書いているが、私はロサンゼルスで人種差別的な扱いをされたことはほぼなかったが(大学にばかりいたというのはあるが)、一度だけ、コリアタウンに住んでいたので、コリアタウンを歩いていて、ヒスパニック系の少年たちが乗った自動車が近づいてきて、パールハーバーがどうこうと叫ばれたことがあった(彼らの乗っていた自動車はホンダ製ではあったが)。差別というと、白人によるマイノリティに対する差別になっているが、マイノリティの間でもまた存在する。
私は「盗まれた土地では誰も不法ではない」というスローガンを発しながら、メキシコ国旗を掲げるのは何とも矛盾していると考える。そして、これは非常に危険なことだとも考えている。ヒスパニックの人々からすれば、カリフォルニアという土地は、1848年の米墨戦争でアメリカが勝利したのでアメリカが分捕った土地だという思いがある。自分たちはメキシコ人としてここに住んでいたのだという思いがある。しかし、それを言い出したら、南北アメリカ大陸の全国家は盗まれた土地の上にある国家であり、その正統性は消滅する。メキシコもまた血塗られた盗まれた土地に建国された国民国家に過ぎない。私はここに矛盾を感じる。
また、なぜ抗議者たちは、カリフォルニア州の旗やアナーキストの黒い旗を掲げていないのだろうかというのも不思議だ。「自分たちは先に住んでいた、国家などは関係ない、国家などはなくなってしまえ」ということにならないのだろうかというのが不思議だ。「自分たちはメキシコ人だ、メキシコ人の誇りを捨てない、いつかカリフォルニアをメキシコに復帰させる」という考えならば、メキシコ国旗を掲げるのは分かる。しかし、それをアメリカのほかの地域から見れば、非常に危険である。アメリカ連邦政府の建物に、メキシコ国旗を掲げた一団が突撃する姿は「侵略(invasion)」である。もし、カリフォルニアをメキシコに復帰させたいならば、住民投票を行うことから始めて、アメリカ合衆国に要求する。アメリカ合衆国は憲法で州の分離を規定していない。従って、他州の同意があれば良いが、そうではない場合には、内戦(civil war)という形になる、これに国際社会がカリフォルニアの側に立つというようなことがあれば良いがなければ厳しい戦いになる。メキシコ国旗を振り回しているというのは、突き詰めると非常に危険な行為であると言わざるを得ない。
アメリカもメキシコもたかだか200年くらい前に国民国家として血塗られた盗まれた土地の上に建国されたに過ぎない。「No One's Illegal On Stolen Land(盗まれた土地では誰も不法ではない)」となれば、現在の国民国家体制は崩壊する。しかし、この言葉を叫びながら、メキシコ国旗を振り回すというのは何とも矛盾しており、非常に危険な行為である。
(貼り付けはじめ)
ロサンゼルス市警:月曜の夜に100人以上が逮捕され、警官2人が負傷(LAPD:
Over 100 arrests Monday night, 2 officers injured)
タラ・サター筆
2025年6月10日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/state-watch/5342977-lapd-over-100-arrests-monday-night-2-officers-injured/
ロサンゼルス市警察(Los Angeles Police Department、LAPD)は、米移民・関税執行局(Immigration and Customs
Enforcement、ICE)による逮捕に抗議するロサンゼルス地域の抗議活動が続く中、月曜日の夜に100人以上が逮捕されたと発表した。
LA市警は火曜日のプレスリリースで、「複数の地元法執行機関のパートナーと共に、月曜日にダウンタウン地区で発生した抗議活動と犯罪行為に対応した」と述べた。LA市警によると、同夜、96人が「解散命令違反()Failure to Disperse」で逮捕され、「凶器による暴行(Assault with a Deadly Weapon)」で1人、「逮捕抵抗(Resisting
Arrest)」で1人、「器物損壊(Vandalism)」で1人が逮捕された。
ロサンゼルス市警は声明の中で、「警官2人が負傷し、地元の病院に搬送されて治療を受けた後、退院した」と述べ、その後、「略奪(Looting)」で14人が逮捕されたと付け加えた。
カリフォルニア州知事ギャヴィン・ニューサム(民主党)は最近、ドナルド・トランプ政権の移民強制捜査に対する抗議活動が続く中、トランプ大統領がロサンゼルスに軍を派遣したことは他州への警告だと主張した。
「ポッド・セイヴ・アメリカ(Pod Save America)」の司会者トミー・ヴィエターは、カリフォルニア州知事に対し、「これはただトランプが狂ったカリフォルニアを追いかけているだけだ。他の土地のリベラルと同じだ。自分たちは大丈夫だ」と信じている他の全米の人々へのメッセージは何かと質問した。
ニューサム知事は月曜日の「Pod Save America」で次のように述べた。「これから起こることを予告したい。これから起こることに注意が必要だ」と「つまり、皆さん、皆さんもそう言っているだろう。彼が1月6日の暴動につながる状況を作り出したのは、まさにこれだ」。
ここ数日、トランプとニューサム知事はロサンゼルスの騒乱をめぐって激しく対立している。月曜日、トランプはカリフォルニア州知事の逮捕を支持すると発言し、ニューサム知事はXでこれに対し反応した。
「アメリカ合衆国大統領が現職知事の逮捕を求めた。こんな日がアメリカで二度と訪れては欲しくないと望む」とニューサム知事はX上で述べた。
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ロサンゼルス市長が数日間の抗議活動を受けてダウンタウンの一部に夜間外出禁止令を発令(LA
mayor announces curfew for part of downtown after days of protests)
エルヴィア・リモン筆
2025年6月10日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/5343511-la-mayor-announces-curfew-for-part-of-downtown-after-days-of-protests/
ロサンゼルス市長カレン・バスは火曜日の記者会見で、移民強制捜査に対する抗議活動が5日間続いたことを受け、「破壊行為や略奪を阻止するため(to stop the vandalism, to stop the looting)」、ダウンタウンの一部地域に夜間外出禁止令(a curfew)を発令すると発表した。
夜間外出禁止令は1平方マイル(約1.6平方キロメートル)の範囲で、午後8時から午前6時まで実施される予定だ。バス市長は、住民、通勤者、および許可を得た報道関係者を除き、この命令に違反した人間は警察に逮捕されると述べた。夜間外出禁止令は数日間続く見込みだ。
バス市長は「ダウンタウンに居住または勤務していない人はこの地域を避けて欲しい」と述べた。
バス市長によると、月曜日の夜、ダウンタウンには23の店舗があり、そのエリアには大きな落書きが見られたという。最も激しいデモの多くは、ロサンゼルスのダウンタウンにある連邦政府ビル群の近くで発生しており、その中にはエドワード・R・ロイバル連邦ビル(拘置所兼連邦裁判所)も含まれている。
バス市長は、夜間外出禁止令が出されている地域は、市全体の502平方マイル(約148平方キロ)に比べれば小さいと強調した。
バス市長は次のように述べた。「ここで起きた破壊行為や暴力を軽視する意図でこれを指摘するべきではないと思う。確かに重大な出来事だった。しかし、この1平方マイル(約1.6平方キロ)で起こっていることが、市全体に影響を及ぼしている訳ではないことを知ることは極めて重要だ」。
市長はさらに「抗議活動や暴力行為の映像の中には、これが市全体の危機であるかのような印象を与えるものがあるが、実際はそうではありません」と付け加えた。
夜間外出禁止令は、トランプ大統領が4000人の州兵をこの地域に派遣した中で発令された。
トランプ大統領は、ここ数日間で発生した米移民・関税執行局(ICE)の捜査をきっかけに発生した抗議者と法執行機関の衝突による暴力に対処するために、州兵の派遣は必要だと主張している。
国防総省はまた、連邦政府の建物と職員を守るため、ロサンゼルス大都市圏に700人の海兵隊員を派遣した。
カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム知事とロブ・ボンタ州司法長官(民主党)は月曜日、トランプ大統領によるカリフォルニア州兵派遣の決定を「前例のない権力掌握(unprecedented power grab)」だとして、政権を提訴した。
22ページに及ぶ訴状には「我が国と民主政治体制の礎石の1つは、国民が軍政(military
rule)ではなく民政(civil rule)によって統治されていることだ」と記されている。
「建国の父たちは、政府は国民に責任を持ち(a government should be
accountable to its people)、法の支配(rule of law)に基づき、軍政(military rule)ではなく民政(civil authority)によって統治されるべきであるという原則をアメリカが州国憲法に定めた」と訴状は続けている。
火曜日の記者会見で、バス市長はニューサム知事の「彼のパートナーシップ(for his
partnership)」に感謝の意を表し、州および地方の指導者、役人、そして議員たちにも感謝の意を表した。
(貼り付け終わり)
(終わり)

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』