古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:カート・キャンベル

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。今回取り上げるヴィクトリア・ヌーランドについても詳しく書いています。是非手に取ってお読みください。

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカの強硬な対ロシア政策とウクライナ政策をけん引してきた、ヴィクトリア・ヌーランド政治問題担当国務次官(省内序列第3位)が退任することが、上司であるアントニー・ブリンケン米国務長官によって発表された。ロシア政府関係者は「ヌーランドの退任はアメリカの対ロシア政策失敗の象徴」と発言している。まさにその通りだ。ウクライナ戦争に向けて散々火をつけて回って、火がコントロールできなくなったら、責任ある職から逃げ出すというあまりにも無様な恰好だ。ヌーランドは職業外交官としては高位である国務次官にまで昇進した。しかし、その最後はあまりにもあっけないものとなった。

 アメリカ政治や国際関係に詳しい人ならば、ヌーランドが2010年代から、ウクライナ政治に介入し、対ロシア強硬政策を実施してきたことは詳しい。私も第3作『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)で詳しく書いてきた。ヌーランドは家族ぐるみでネオコンであり、まさにアメリカの対外介入政策を推進してきた人物である。
 ウクライナ戦争はその仕上げになるはずだった。アメリカがロシアを屈服させるために、ウクライナに誘い込んで思い切り叩く、それに加えて経済制裁も行って、ロシアをぼろぼろにするということであった。しかし、目論見はものの見事に外れた。現在、ウクライナ戦争はウクライナの劣勢であり、アメリカが主導する西側諸国の支援もなく、情勢はロシア有利になっている。ヌーランドはまずこの政策の大失敗の詰め腹を切らされた形になる。

 そして、バイデン政権としては、ウクライナ問題で消耗をして、泥沼に足を取られている状態を何とかしたい(逃げ出したい)ということもあり、アジア重視に方針を転換しようとしている。対中宥和派であったウェンディ・シャーマン国務副長官が昨年退任し、国務次官ヌーランドが代理を務めていた。彼女としては、このまま国務副長官になるというやぼうがあったはずだ。しかし、バイデン政権は、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)でインド太平洋調整官(アジア政策担当トップ)を務めていたカート・キャンベルを国務副長官に持ってきた。先月には連邦上院で人事承認も行われた。ヌーランドは地位をめぐる政治的な争いに負けたということになる。また、アジア重視ということで、ヌーランドの重要性は失われて、居場所がなくなったということになる。

 ヌーランドは7月からコロンビア大学国際公共政策大学院で教鞭を執ることも発表された。ヌーランドが国務省j報道官時代に直接仕えた、ヒラリー・クリントン元国務長官がこの大学院の付属の国際政治研究所教職員諮問委員会委員長を務めており、ヌーランドは客員教員を務めることになっている。この大学院の大学院長であるカリン・ヤーヒ・ミロはイスラエルで生まれ育った人物で、国際関係論の学者であるが、アメリカに留学する前はイスラエル軍で情報将校を務めていたという経歴を持っている。ネオコンは、強固なイスラエル支持派でもあるということもあり、非常に露骨な人事である。

 ヌーランドがバイデン政権からいなくなるということは、ウクライナ戦争の停戦に向けての動きが出るということだ。アメリカは実質的にウクライナを助けることが難しくなっている。ウクライナ支援を強硬に訴えてきた人物がいなくなるということは、方針転換がしやすくなるということだ。これからのアメリカとウクライナ戦争の行方は注目される。

(貼り付けはじめ)

長年の対ロシアタカ派であるヴィクトリア・ヌーランドが国務省から退任(Victoria Nuland, Veteran Russia Hawk, to Leave the State Department

-仕事熱心な外交官であり、ウクライナ支持を断固として主張してきたヌーランドは、国務省のナンバー4のポストから辞任する。

マイケル・クロウリー筆

2024年3月5日(改訂:3月7日)

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2024/03/05/us/politics/victoria-nuland-state-department.html

victorianuland101

2021年に連邦上院外交委員会で証言する政治問題担当国務次官ヴィクトリア・ヌーランド

国務省で序列4位の高官であり、ウラジーミル・V・プーティン政権のロシアに対する強硬政策を断固として主張してきたヴィクトリア・J・ヌーランドが、30年以上の政府勤務を終えて今月退職する。

アントニー・J・ブリンケン国務長官は火曜日、自由、民主政治体制、人権、そしてアメリカによるこれらの大義の海外での推進に対するヌーランドの「激しい情熱(fierce passion)」を指摘する声明の中で、ヌーランドの国務次官職からの辞任を発表した。

ブリンケンは、ウクライナに関するヌーランドの取り組みを指摘し、それは「プーティン大統領の全面的な侵略に対抗するために不可欠(indispensable to confronting Putin’s full-scale invasion)」であると述べた。

ヌーランドは報道官など国務省の役職を数多く歴任し、ディック・チェイニー副大統領の国家安全保障問題担当副大統領次席補佐官を務めたこともある。しかし、ヌーランドは、プーティンの領土的野心と外国の政治的影響力に対して強い抵抗を組織することを長年主張し、ロシアの専門家として名を残した。

オバマ政権時代には国務省のロシア担当高官として、ウクライナ軍の対戦車ミサイル武装を主張したが失敗したが、バイデン政権ではより多く、より優れたアメリカ製兵器をウクライナに送ることを最も支持してきた。

熟練した官僚的実務家であるヌーランドは、鋭い機知と率直な態度で自分の主張を展開し、同僚から賞賛と恐怖が入り混じった反応を引き出した。ブリンケン国務長官は声明の中で、「彼女はいつも自分の考えを話す」と穏やかな表現を使った。

ヌーランドは2014年、ウクライナ政治に関する電話での通話で、ヨーロッパ連合(European UnionEU)を罵倒するような発言をしたことがきっかけとして、多くの人々に知られるようになったが、その通話は録音され、その録音が流出した。アメリカ政府当局者たちはこの流出をロシアの仕業だという確信を持っている。

バイデン政権下、ヌーランドはアメリカのウクライナ支援に懐疑的な人々の避雷針(lightning rod)となった。テスラの共同創設者イーロン・マスク氏は昨年2月、ソーシャルメディアサイトXに、「ヌーランドほどこの戦争を推進している人はいない」と書いた。

ヌーランドはロシアを弱体化させ、更にはプーティンを打倒しようという共同謀議を企てていると見なされている、ワシントン・エスタブリッシュメントの代理人(化身)としてモスクワで非難された。ロシア政府当局者や露メディアは、2014年初頭にキエフの中央広場で、最終的にクレムリンが支援するウクライナ指導者を打倒した、当時欧州・ユーラシア問題担当米国次官補だったヌーランドがデモ参加者たちに食料を配った様子を常に回想している。

ロシアのセルゲイ・V・ラブロフ外相は昨年、「2014年にウクライナでヴィクトリア・ヌーランド国務次官がテロリストにクッキーを配った後、政府に対するクーデターが起きた」と述べた。ヌーランドさんはクッキーではなくサンドイッチを配ったと語っている。

ヌーランドの辞任は、クレムリン支援の英語ニュースサイトRTによって重大ニューズとして扱われ、トップページに赤いバナーと「ヌーランド辞任」という見出しが掲げられた。

RTはロシア外務省報道官マリア・ザハロワの発言を引用し、ヌーランドの辞任は「バイデン政権の反ロシア路線の失敗」によるものだと述べた。ザハロワは、「ヴィクトリア・ヌーランドがアメリカの主要な外交政策概念として提案したロシア恐怖症(Russophobia)が、民主党を石のようにどん底に引きずり込んでいる」と非難した。

ヌーランドは、バイデン政権の最初の2年半の間、国務次官を務めた。その間、国務副長官を務めたウェンディ・シャーマンの退任に伴い、国務副長官代理を兼務して過去1年の大半を費やした。

ヌーランドはシャーマンの後任としてフルタイムで当然の候補者と見なされていた。しかし、ブリンケン長官は、国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)アジア担当トップのカート・キャンベルを国務副長官に抜擢した。キャンベルの国務副長官就任は2月6日に連邦上院で承認された。

ブリンケン長官は、後任が決まるまで国務省のジョン・バス管理担当国務次官が代理としてヌーランドの職務を引き継ぐと述べた。

アナリストの一部は、ロシアのウクライナ侵略がバイデンの外交政策の多くを消耗させたにもかかわらず、キャンベルの選択を、バイデン大統領とブリンケン国務長官がアメリカと中国との関係の管理を最優先事項と考えていることの表れと解釈した。

ヌーランドは先月、人生の何百時間も費やしてきたウクライナの将来について公に語った。

ヌーランドは、ワシントンの戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)での講演で、「プーティ大統領がウクライナで勝利すれば、そこで止まることはないだろうし、世界中の独裁者たちは力ずくで現状を変えようと大胆になるだろう」と警告した。

ヌーランドは、「プーティンは私たち全員を待っていられると考えている。私たちは彼が間違っていることを証明する必要がある」と述べた。

2024年3月7日に訂正:この記事の以前の版ではヴィクトリア・ヌーランドの国務省での序列について誤って記述した。ヌーランドは序列第4位の役職であり、序列3位の外交官である。

※マイケル・クロウリー:『ニューヨーク・タイムズ』紙で国務省とアメリカの外交政策を取材している。これまで30カ国以上から記事を送り、国務長官の外遊に同行している。

=====

国務省の主要なリーダーであるヴィクトリア・ヌーランドがバイデン政権から離脱(Victoria Nuland, key State Dept. leader, to exit Biden administration

-長年外交官を務めてきたヌーランドはロシアに対する厳しい姿勢で知られていた。クレムリンはヌーランドの反ロシア姿勢を悪者扱いしてきた。

マイケル・バーンバウム筆

2024年3月5日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/national-security/2024/03/05/victoria-nuland-retires/

victorianuland102

2022年、キプロス。記者会見でメディアに対して話すヴィクトリア・ヌーランド

アントニー・ブリンケン国務長官は火曜日、ジョー・バイデン政権の最も強硬なロシア強硬派の1人で国務省序列第3位のヴィクトリア・ヌーランドが数週間以内に退任する予定であり、中東の危機を受けてアメリカ外交のトップに穴が開くと述べた。そしてウクライナでは大規模な大火災が発生する恐れがある。

ヌーランド政治問題国務次官は、以前はバラク・オバマ政権時代に国務省のヨーロッパ担当外交官のトップを務め、国務省の職員たちの間で広く人気があった。時には当たり障りのない態度や用心深さが報われる厳格な官僚制の中で、彼女はありのままの意見とクレムリンに対する厳しいアプローチで際立っており、クレムリンは彼女を悪者扱いした。

ヌーランドはウェンディ・シャーマンの退任後、昨年から7カ月間、国務省序列第2位の役職である国務副長官代理を務めていた。しかし彼女は、先月承認された元ホワイトハウスアジア戦略官トップのカート・キャンベルの国務副長官正式就任を巡る政権内争いに敗れた。バイデン大統領の決定は彼女の辞任の要因の1つであった。今回の人事異動により、国務省の最上級指導者トリオの中に女性は1人も残らないことになる。

ブリンケンは火曜日の声明で、ヌーランドが国務省内の「ほとんどの職」を歴任し、「幅広い問題や地域に関する百科全書的な知識と、私たちの利益と価値観を前進させるためのアメリカ外交の完全なツールセットを駆使する比類のない能力」を備えていたと述べた。

ヌーランドは1990年代にモスクワに勤務し、その後、ヒラリー・クリントン国務長官の下で国務省報道官になるまで、NATO常任委員代表を務めた。2013年末にキエフでクレムリン寄りの指導者に対する抗議活動が発生し、ロシアの不満の焦点となった際、彼女はヨーロッパ問題を担当するアメリカのトップ外交官として、キエフでのアメリカ外交で積極的な役割を果たした。記憶に残るのは、当時の大統領が打倒される前に、彼女がキエフ中心部マイダンでキャンプを張っていた抗議活動参加者たちにクッキーとパンを配ったことだ。

ヌーランドは、ドナルド・トランプが大統領に就任した後の2017年初頭に国務省を離れ、2021年に序列第3位の政治問題担当国務次官として復帰した。

ブリンケンは、ヌーランドの「ウクライナに関する指導層について、外交官や外交政策の学生が今後何年も研究することになる」と述べ、ロシアが2022年2月の侵攻に先立って軍を集結させる中、キエフを支援するヨーロッパ諸国との連合構築の取り組みをヌーランドが主導したと指摘した。

ロシア外務省はヌーランドの退職の機会を利用し、これはアメリカの対ロシア政策が間違っていたことを示す兆候だと宣言した。

ロシア外務省報道官マリア・ザハロワはテレグラムに「彼らは皆さんに理由を教えてくれないだろう。しかし、それは単純だ。バイデン政権の反ロシア路線の失敗だ。ヴィクトリア・ヌーランドがアメリカの主要な外交政策概念として提案したロシア恐怖症は、民主党を石のようにどん底に引きずり込んでいる。」と書いた。

職業外交官で管理担当国務次官を務めるジョン・バスが一時的にヌーランドの代理を務めることになる。

=====

反ロシア主張で知られる米幹部外交官であるヴィクトリア・ヌーランドが近く退職(High-ranking US diplomat Victoria Nuland, known for anti-Russia views, will retire soon

ブラッド・ドレス筆

2024年3月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/4509471-victoria-nuland-anti-russia-retire-ukraine/
victorianuland103

2023年1月26日、連邦議事堂にて。連邦上院外交委員会でロシアの侵攻について証言する政治問題担当国務次官ヴィクトリア・ヌーランド(中央)、国際安全保障問題担当国防次官補セレステ・ワーランダー(左)、米国際開発庁(U.S. Agency for International Development)ヨーロッパ・ユーラシア担当副長官エリン・マッキー。

ウクライナへの熱烈な支持と反ロシアで、タカ派の主張で知られるヴィクトリア・ヌーランド政治問題担当国務次官が数週間以内に退任する

アントニー・ブリンケン国務長官は火曜日にこのニューズを発表し、ヌーランドが「私たちの国と世界にとって重要な時期に外交を外交政策の中心に戻し、アメリカの世界的リーダーシップを活性化させた」と称賛した。

ブリンケンは声明の中で、「トリア(ヴィクトリア)を本当に並外れた存在にしているのは、彼女が堅く信じている価値、つまり自由、民主政治体制、人権、そしてそれらの価値観を世界中に鼓舞し推進する、アメリカの永続的な能力のために戦うことへの激しい情熱だ」と述べた。

ヌーランドは30年以上国務省に勤務し、6人の大統領と10人の国務長官の下で様々な役職を務めた。ヌーランドはキャリアの初期に、モスクワの米大使館で働き、モンゴル初の米国大使館の開設に貢献した。

ヌーランドは国務省の東アジア太平洋局にも勤務し、中国の広州に外交官として赴任した。 2003年から2005年まで副大統領(ディック・チェイニー)の国家安全保障問題担当補佐官を務め、その後、NATO常任委員代表を務めた。ヨーロッパ・・ユーラシア問題担当国務次官補を務め、2021年にジョー・バイデン大統領の下で国務次官に就任した。

ヌーランドはおそらく、2014年の事件で最もよく知られている。この事件では、彼女が駐ウクライナ米大使との通話中に「ファックEU」と発言した録音が漏洩し、世界中のメディアの注目を集めた。

ヌーランドのロシアに対する強い主張とウクライナへの支持は、彼女のその後のキャリアを決定付け、その間、キエフで親ロシア派の大統領が追放された後、モスクワがクリミア半島を不法併合した際の紛争で中心的な役割を果たした。

ヌーランドはロシアに対するタカ派的主張を理由に、アメリカの一部の右派から標的にされていた。彼女のコメントは、昨年クレムリンが非武装化されたクリミアに関する彼女のコメントを非難したことも含め、ロシア国内でも厳しい非難を集めた。

それでも、ブリンケンは、自分とバイデン大統領はヌーランドに感謝していると語った。ブリンケンは、彼女が「常にアメリカの外交官を擁護し、彼らに投資し、彼らを指導し、高揚させ、彼らとその家族が彼らにふさわしいもの、そして私たちの使命が求めるものを確実に得られるようにしている」と語った。

ブリンケンは火曜日、声明の中で次のように発表した。「ヌーランドは最も暗い瞬間に光を見出し、最も必要なときにあなたを笑わせ、いつもあなたの背中を押してくれる。彼女の努力は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の全面的なウクライナ侵略に対抗し、プーティン大統領の戦略的失敗を確実にするために世界的な連合を組織し、ウクライナが自らの足で力強く立つことができる日に向けて努力するのを助けるために必要不可欠だった」。

=====

ヴィクトリア・ヌーランド大使がコロンビア大学国際公共政策大学院の教員に加わる(Ambassador Victoria Nuland Will Join SIPA Faculty

2024年3月6日

https://www.sipa.columbia.edu/news/ambassador-victoria-nuland-will-join-sipa-faculty

victorianuland104

ヴィクトリア・ヌーランド大使は30年以上にわたりアメリカの外交官を務め、最後の3年間は政治問題担当国務次官を務めた。更には2023年7月から2024年2月まで国務副長官代理を務めた。ヌーランドは7月1日付で、コロンビア大学国際公共政策大学院(School of International and Public AffairsSIPA)国際外交実践担当キャスリン・アンド・シェルビー・カロム・デイヴィス記念教授に就任することが決定した。

ヌーランドはまた、国際公共政策大学院国際フェロープログラムの指揮を執る。このプログラムは、国際問題を研究するコロンビア大学の大学院生たちのための学際的なフォーラムを提供するものだ。更には、国際政治研究所(Institute of Global PoliticsIGP)客員教員に加わる。国際政治研究所は、国際政治研究所の使命を推進するための研究プロジェクトを実行する選ばれた学者と実務形で構成されている。

国務次官として、ヌーランドは地域および二国間政策全般を管理し、とりわけ世界中のアメリカ外交使節団を指導する国務省の複数の地域部門を監督した。

2021年に国務次官に就任する前、ヌーランドは民間のコンサルタント会社であるオルブライト・ストーンブリッジ・グループの上級顧問を務めていた。彼女はまた、ブルッキングス研究所、イェール大学、民主政治体制のための全米基金(National Endowment for DemocracyNED)でも役職を務めた。

国際公共政策大学院長カリン・ヤーヒ・ミロは次のように述べている。「ヴィクトリア・ヌーランド大使を私たちの教員として迎えられることを大変光栄に思う。ワシントンおよび海外での経験を反映した彼女の、苦心して獲得した多様な専門知識は、私たちの教室の教員として、また政策活動のリーダーとしての彼女の貢献をさらに高めることになるだろう。民主党と共和党の両政権の下で勤務した高官として、トリア(ヴィクトリア)は党派間の隔たりを乗り越える能力を実証しており、あまりに分断されている現在の社会を考えると、彼女は生徒たちのモデルとなるだろう。私は国際公共政策大学院コミュニティ全体を代表して、彼女を迎えることができて本当に嬉しく思う」。

ヌーランドの国務省からの退職は、3月5日にアントニー・J・ブリンケン米国務長官によって発表された。ヌーランドはオバマ政権下、国務省報道官(2011年5月-2013年4月)、ヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補(2013年9月-2017年1月)を務めた。国務省報道官時代は、当時のヒラリー・クリントン国務長官に直接仕えた。ヒラリー・クリントンは現在、国際公共政策大学院付属の国際政治研究所教職員諮問委員会委員長を務めている。

ヌーランドは、2005年6月から2008年5月まで、ジョージ・W・ブッシュ(息子)大統領の下で、アメリカ合衆国NATO常任委員代表を務めた。

ヌーランドは、ロシア語とフランス語に堪能であり、ブラウン大学で学士号を取得した。

(貼り付け終わり)

(終わり)
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)が発売になりました。年末年始でお忙しい時期だと思いますが、書店にお立ち寄りの際には是非手に取ってご覧いただければと存じます。よろしくお願いいたします。

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 ジョー・バイデン政権の外交政策において重要なのは、ウクライナ支援と対中封じ込め政策だ。最近ではそれらに加えて、中東紛争(イスラエルとハマスの紛争)も入ってきている。この記事が書かれた段階では、中東紛争は起きていなかったので、ウクライナ支援と対中封じ込め政策が中心となっている。私は2023年12月27日発売の最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で、これらについて書いているので、そちらも読んでいただきたい。

 重要なことは、バイデン政権の外交政策コミュニティが分裂しているということだ。対中姿勢について、強硬派と宥和派がいるということだ。このことも『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で書いたが、バイデン政権の対中強硬派は、カート・キャンベル米国務副長官(アメリカ連邦上院による人事承認はまだ)である。キャンベルは、現在、ホワイトハウスに設置されている、国家安全保障会議(NSC)インド大洋担当調整官を務めている。キャンベルが国務省ナンバー2の国務副長官に就任することになるが、その前任は、ウェンディ・シャーマンであり、シャーマンは対中宥和派であった。国務省には今年亡くなったヘンリー・キッシンジャー元国務長官系列の外交官たちがおり、対中強硬姿勢に反対しているが、それを制圧するというのがキャンベルの国務副長官人事である。

 バイデンはウクライナ支援も出厳しい状況に立たされている。ウクライナ支援については、アメリカ国民の過半数が「既に十分にしてやった。これ以上は必要ない」と考えている。連邦議会共和党内にも反対論が根強い。連邦下院ではウクライナ支援を切り離しての、イスラエル支援が可決された。バイデンとしては、パッケージとしてウクライナ支援とイスラエル支援をやりたいところだが、それは難しい状況だ。ここで舵取りを間違うと、来年の大統領選挙にも影響が出る。

 バイデンの外交政策の行きつく先は、同盟諸国とパートナー諸国を動員することである。ウクライナ支援とイスラエル支援をヨーロッパ諸国と日本にやらせるということである。イギリスは狡猾なので口だけで、何もしない方向で、負担を他の国々に回す。結局、ドイツと日本が貧乏くじを引かされる。第二次世界大戦の敗戦国にそうした役割を押し付ける。しかし、世界は良い悪いは別にして、第二次世界大戦後の新しい秩序に向かいつつある。2024年はそのような新しい方向への兆候がより明らかになる年になる。

(貼り付けはじめ)

バイデン・ドクトリンは存在するのか?(Is There a Biden Doctrine?

-第46代アメリカ大統領の外交政策に驚くべき成績がついた。

ラヴィ・アグロウアル筆

2023年2月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/02/biden-doctrine-russia-china-defense-policy/

ジョー・バイデン米大統領の就任一期目の中間点を記念し、本誌『フォーリン・ポリシー』は20人の専門家に、ロシアや中国との関係、さらには国防、民主政治体制、移民などの問題についてバイデン政権の実績を採点するよう依頼した。評価は A-(マイナス) から不合格までの範囲で行われた。しかし、より広範に見て、彼の政権の課題を定義する方法はあるのか? バイデン・ドクトリン(基本原則)は存在するのか?

私は洞察を得るために、まったく異なる視点を持つ専門家たちに話を聞いた。ナディア・シャドロー(Nadia Schadlow)はドナルド・トランプ政権で国家安全保障問題担当大統領次席補佐官を務め、現在はハドソン研究所の上級研究員である。スティーヴン・ワートハイム(Stephen Wartheim)はカーネギー国際平和財団の上級研究員で、いわゆる永久戦争(forever wars)を終わらせることを長年提唱している。意外なことに、ワートハイムはシャドローよりもバイデンの外交政策、特に中国政策に批判的だった。それはバイデンがドナルド・トランプ前大統領の中国政策をころころと二転三転させたからなのだろうか?
nadiaschadlowdonaldtrump001
ナディア・シャドロー
stephenwertheim001
スティーヴン・ワートハイム

それを知るには、続きを読む必要がある。このインタビューはFP Liveの一環として行われた。購読者はこのページ上部のビデオボックスでインタビューの全容を見ることができる。以下はその要約と編集である。

フォーリン・ポリシー:テーブルにカードを置いてみよう。スティーヴン、もしバイデン政権の外交政策を採点するとしたら、どう評価するか?

スティーヴン・ワートハイム:イェール大学ロースクールで、私は成績をつける必要がないので、これは私にとって慣れない経験だ。評価は分かれるだろう。困難な状況下で実行しているという点では、バイデン政権にはB+という良い評価を与えたい。A-(マイナス)に上げても納得できるところもある。

しかし、アメリカの外交政策がアメリカ国民のニーズやアメリカの国益に応えることができる軌道に乗ったかどうかという点については、私は、Cくらいの低い評価を与えたい。

バイデン政権は、特に中国との関係に関して、私たちをこのような状況に追い込む上で、ポジティブな役割よりもネガティブな役割を果たしたと思う。バイデン自身は大統領として、またアメリカ軍最高司令官として立派な資質をたくさん持っていると思うが、ドナルド・トランプ大統領から受け継いだ政策よりも戦略性に欠け、コストがかかり、リスクの高いアメリカの外交政策を後継者に手渡す危険性がある。

ナディア・シャドロー:採点が非常に主観的なものであることが、この試みの素晴らしいところだ。ジョー・バイデン政権の対中アプローチについては、私はB+に近い点数をつけたいと思う。一方、外交政策の他の多くの側面については、おそらくCをつけると思う。多くの場合、人権政策であれ、エネルギー政策であれ、気候変動関連政策であれ、美辞麗句が多く、美辞麗句と実際の実行との間にギャップがあるからだ。

フォーリン・ポリシー:スティーヴン、バイデンの外交政策に明確なドクトリンがあるか?

スティーヴン・ワートハイム:カーター・ドクトリンやトルーマン・ドクトリンのような、アメリカの死活的利益(U.S. vital interests)を表明し、その死活的利益を実現するためにアメリカが何をするつもりなのかを示す、厳密な意味でのドクトリンは存在しない。

バイデンの全体的なヴィジョンについての質問には、私は「2人のバイデンの物語」だったと言いたい。最初の年、バイデンは永久戦争を終わらせようとし、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官が言ったように、普通のアメリカ人の日常生活をどのように向上させるかによって全ての決定を判断することを目指す、アメリカ国民、あるいは中産階級のための外交政策を推進した。

それと、ロシアがウクライナに本格的に侵攻した、ほぼ1年前に登場したバイデンとはまったく異なるものだ。バイデン・ドクトリンは、自由世界(free world)の防衛、特に独裁的で修正主義的な諸大国(autocratic and revisionist powers)、すなわち中国とロシアに対する防衛を重視しているようであり、新たな国家安全保障戦略にはそのヴィジョンが反映されていると思う。バイデンがこうした課題に関連して使っている「自由世界」という言葉が、特に冷戦時代の概念であることは注目に値する。それは、アメリカの同盟諸国やパートナー、そして場合によっては同盟諸国やパートナーではない人々を非自由主義勢力による侵略から守ることとして、否定的に定義されている。それが今、私たちがいるところだ。

フォーリン・ポリシー:その通りだ。あなたは過去に、世界を民主政治体制国家と独裁主義国家に分断されたものとして見るのではなく、ウクライナの戦争をより良い枠組みでとらえるには、主権(sovereignty)について語るべきだと指摘していた。

ナディア、トランプ前政権の戦略において重要な役割を果たした人物として、バイデン・ドクトリンというものが存在するかどうか、あなたはどう考えるか?

ナディア・シャドロー:バイデン・ドクトリンは存在しないと思う、そしてそれを定義するのは非常に難しいだろう、というスティーヴンの意見に同意する。ドクトリンが存在しないのは、時系列的な理由というよりも、むしろ政権内の根本的な分裂のためだ。 バイデン政権内には中国に焦点を当てている人たちがいるが、彼らは世界を競争の場、他の大国やライヴァルとの競争の場として見ていると私は主張する。しかしその後、気候や地球規模の問題を物事の最優先に据える、より伝統的な進歩的で左翼的な政策に固執する人がさらに多くいる。これらすべての問題は国家レヴェルで始まり、実際には国家レヴェルでのみ解決できるものだ。つまり、バイデン政権の大部分が、世界を望む通りすることに固執していることが分かる。

フォーリン・ポリシー:ロシアとウクライナに焦点を移そう。ナディア、バイデン政権がこの1年半ほど、この危機をどのように管理してきたか、あなたはどう感じるか? あなたならどう違った行動を取っただろうか?

ナディア・シャドロー:危機はバイデンが大統領になる前から始まっていた。2014年を出発点とするならば、バラク・オバマ政権はウクライナの防衛力を強化し、ロシアによるこれ以上の侵攻を阻止するか、ウクライナ人によるこれ以上の侵攻を阻止する手助けをするかの選択を迫られていた。そして、その選択をしなかった。

トランプ政権は2017年、ウクライナへのジャヴェリンの提供を再開した。バイデン政権は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領との話し合いで状況が変わることを期待して、これらの防衛兵器の提供を停止することを決定した。つまり、これは2022年2月よりも前のことだった。

バイデン政権は、ロシアによるこの残忍な侵略から自国を守るために必要な武器をウクライナ人に提供するという正しいアプローチを採った。しかし、このアプローチの漸進性には問題があると思う。大統領はおそらく30回ほど、ドローダウン権限(drawdown authorities)と呼ばれるものを行使している。この漸進主義は、ある種のシグナルを発している。兵器を送るという強みを損なう。ロシア側に再編成の時間を与えることになる。例えば、最近発表された戦車派遣の場合、その決定が実際に実施されるのは1年後になる。私たちは、ロシアが計画を立て、適応できるような状況を作っている。戦車派遣が1年遅れたからといって、現地の作戦状況が変わるわけではない。つまり、一連の複雑なシグナルがあるわけだ。

フォーリン・ポリシー:スティーヴン、あなたは違う見方をしている。あなたの感覚では、政権はウクライナを支援する熾烈で団結した連合を実際に構築している。それについて説明して欲しい。

スティーヴン・ワートハイム:これまでのところ、バイデン政権のウクライナ・ロシア政策への対応に対する私の評価は、肯定的なものの方が多い。政権がロシアとの安定的で予測可能な関係を追求したのは正しかったと思う。今となっては馬鹿げているように聞こえるが、それは後知恵の恩恵を受けているからだ。アジアにおける安全保障の課題を考えれば、そうした優先順位を設定しようとすることは理にかなっていた。バイデンが大統領に就任した時、彼は侵攻が起こると理解するとすぐに調整し、情報を公開し、世界の同盟諸国に何が起こるかを準備させるという驚くべき仕事をした。確かに、現在の戦争の状況を見れば、私はウクライナに戻らず、ウクライナを支援せず、ウクライナが失った領土の一部を奪還できるようにすることはないだろう。

私が抱いている懸念は2つある。一つ目は、私たちは本当にどこに向かっているのか、ということだ。バイデン政権は、この戦争における私たちの目標がどこにあるのか、はっきりさせていない。最近の報道では、ウクライナはクリミアを危険にさらし、この戦争の一環としてクリミアを解放する可能性がある。ウクライナがそれを望んだ場合、バイデン政権がどう対応するかは正確には分からない。しかし、その場合のエスカレーションのリスクは非常に大きいので、この戦争の一部としてテーブルに載せるべきではない。私は、ウクライナが自国の理由からそのようなことを望まないだろうと楽観視しているが、これは非常に危険な状況になりかねない。

私はバイデンが第三次世界大戦の可能性について警告したことを賞賛する。彼はリスクを理解している。彼はかなり早い段階で飛行禁止空域を拒否した。彼はエスカレーションのリスクについてはかなり冷静だ。そしてそれに関して、私は彼の功績を認める。しかし私は依然として、西側諸国が送っている実際の軍事支援だけでなく、ある種のレトリックのエスカレーションがあるのではないかと懸念している。バイデン政権は、独裁者の侵略に対抗する民主政治体制を支持するという観点から、ウクライナへの支持を非常に重んじてきたと思うが、それは当然、中国との緊張の高まりを意味し、人々が台湾をウクライナの観点から見るようになっている。これらは、おそらくグローバル・サウス(global south)のウクライナ側に魅力を感じる多くの国にとって実際に不快な枠組みである。なぜなら、本当に危機に瀕しているのは、主権国家に対するロシアの侵略であり、最も基本的な事項の侵害であることを彼らは理解していると思うからである。国際関係のルールと国連憲章における武力行使の禁止は、ウクライナが民主政治体制国家であるかどうかに関係なく当てはまる。

フォーリン・ポリシー:確かに、世界中の多くの国では実際にはそうではないが、私たちは民主政治体制と独裁政治体制を明確にさせる問題として考えるという罠に陥る可能性がある。

ナディア、あなたが政府にいた時、トランプ政権はNATOや同盟構築とまったく異なる関係にあった。それは変化した。アメリカはヨーロッパ諸国やNATOとの関係をどう見ているか?

ナディア・シャドロー:スティーヴンの指摘に戻るが、これはどのような結末を迎えるのだろうか。ウクライナとロシアにも大きな発言権があることを忘れないで欲しい。すべてはアメリカが主導している訳ではない。エスカレーションはロシアの選択にも大きく関係している。

トランプ政権時代、彼は同盟諸国に対し、国防費を増やし、その能力を向上させることに非常に厳しかった。また、石油や天然ガスをロシアに依存しているドイツに対しては非常に厳しい態度をとった。しかし、この2つの問題に関しては、正しい姿勢だったと考えている。

ロシアの侵略で我々が目にしたのは、例えばドイツのような場所では、NATOに非常に懐疑的だったヨーロッパ人の一部が、突然同盟の価値について全く異なる見解を持つようになったということだと思う。それもまた、世界の現実、権力の現実、軍事力の重要性に目が開かれたという事実によって動かされた。それでは、米欧関係の外交はよりスムーズになったのだろうか? スムーズになった。しかし、私は、そこにある基本的なもの、プラス面とマイナス面、そして緊張の両方は前政権時代にも存在し、現在でもある程度は存在していると主張したい。バイデン政権の電気自動車補助金に対するヨーロッパの反発で、私たちは今それを目の当たりにしている。

何年もの間、同盟関係には常に緊張感と協力関係があった。トランプ前政権において、メディアの多くが言うほど劇的に同盟関係が悪化していったとは思えない。

フォーリン・ポリシー:ナディア、あなたはこの対談の冒頭で、バイデン政権の中国政策をかなり高く評価すると言っていた。それは何故か?

ナディア・シャドロー:バイデンの中国専門家(アジア・中国ポートフォリオを担当しているグループ)の大半は、中国をアメリカにとって長期的な戦略的競争相手と見ていると思う。中国は自国の体制内だけでなく、対外的にもイデオロギーや権威主義を推進しようとしているからだ。中国共産党の支配という中国の内部目標と、マルクス・レーニン主義イデオロギーとの間に関連性があると見ている。イデオロギー的な脅威でもある。テクノロジーは、この種の政治経済システムを実現する重要な手段であり、中国の並外れた軍事的近代化を可能にするものだと考えている。そのため、アメリカに危害を加える可能性のある中国のシステム開発を遅らせると同時に、アメリカが内部で行うべきことを進めようとする政策を練り上げてきた。彼らは中国をアメリカにとって長期的な戦略的脅威とみなしている。私もそれには同意する。その根拠はたくさんある。

フォーリン・ポリシー:ナディア、私はこのイデオロギーの戦いについても書いたが、世界の他の国々の多くは同じような分裂を見ていない。彼らは2つの巨大な貿易相手国が激しく対立するのを見たくないと考えていると思う。彼らは半導体産業に対する制裁を目の当たりにしており、自国の経済や企業への二次的な影響を懸念している。あなたは指摘しているが、世界の他の国々が役に立たないと考えているイデオロギーの隔たりをどうやって乗り越えるのか、あなたはどのように考えているか?

ナディア・シャドロー:それは私たちに有用だ。その理由は何が問題なのかを理解する必要があるからだ。それに基づいて一連の政策を策定する必要がある。とはいえ、実際には他国にそのような枠組みを押し付けてはいないと思う。サウジアラビアとはきちんとした関係を築いているし、中国とも強い関係を築いている。対外政策において、特定の路線をとることを各国に強制しているとは思わない。私たちは、たとえばファーウェイを自国の技術に取り入れることが危険だと考える理由を説明している。採掘が行われている多くのアフリカ諸国において、アメリカの労働慣行が中国の労働慣行よりも優れている理由を主張し、事例を示している。しかし、これに同意しないからといって、パートナーシップの輪から追い出すような例はあまり見られない。シンガポールとは非常に良好で強固な関係を築いている。シンガポールが中国やアメリカとも強い関係を持たなければならないことは、私たちも長い間認めてきた。だから、私たちは友好の輪から人々を排除している訳ではないが、他国に対して、経済的な関係であれ、技術への投資であれ、このような関係が長期的にどのような意味を持つのかを適切に伝えているのだと思う。

フォーリン・ポリシー:例えば、半導体へのアクセスに対する制裁では、結局のところ、企業や国を巻き込む一連の要件が下流に存在することになる。

スティーヴン、あなたは過去にこのFP Liveで米中関係の行く末を心配していると発言した。あなたはアメリカの自制をもっと強めるべきだと主張してきた。そのことについて聞かせて欲しい。なぜ心配しているのか? バイデン政権は何を間違えていると思うか?

スティーヴン・ワートハイム:中国と競争することに問題はない。中国に対して競争的なアプローチを採用すべきだ。四極安全保障対話(Quadrilateral Security DialogueQUAD)を活性化させることは、おそらくプラスだと思う。この地域で起きている多くの変化、例えば日本が軍事大国化を画期的に計画していることなどは、北京が行っていることが大きな原因となって起きていることだが、私たちアメリカもそれを助長する役割を果たしている。こうした進展の中には、前向きなものもある。私たちは中国の本質について明確な目を持つべきであるが、最終的に私たちがたどり着きたいのは、競争的な共存関係の場(place of competitive coexistence)だと思う。

ナディアが示唆したように、バイデン政権はこの件に関して2つの考えを持っている。冷戦を避けたい、共存したいというが、それは対中発言における捨て台詞のようなもので、政策においてもますます後回しにされているように見える。私たちは各国に選択を迫っている。私たちの軌道を離れ、私たちとの関係を断ち切りたいのか、そうでないのか。そして、彼らはそれを選択していない。しかし、私たちはそうした選択を強制している。それが、半導体制裁のような制限を科している理由だ。彼らは自発的にやっている訳ではない。それが本当に国益にかなうのであれば、そうすることに問題はない。しかし、そうでないことが心配だ。二次的、三次的な影響が心配だ。

私が特に懸念しているのは、バイデン大統領の台湾に関する発言だ。それは彼のスタッフのせいではないかもしれないが、重要なことだ。そして、私の見解は、確かに抑止力(deterrence)の問題はあるが、安全保障のスパイラルの問題も抱えており、中国政府の越えてはならない一線に忍び寄って越えようとすると、台湾を巡る紛争が起きるのではないかと心配している。だからといって中国政府がそのような状況で行動するのが正しいとは言えないが、私たちは慎重に行動する必要がある。

ロシアに関しては第三次世界大戦のリスクをよく理解しているように見える大統領は、台湾には独立を宣言する能力があることを示唆するような失言をすることで、何度も「一つの中国(One China)」政策を劣化させてきた。それは本当に台湾が決める問題だ。抑止力という点でさえ、何の得があるのか私には分からない。私は、ヤマアラシ防衛戦略(porcupine defense strategy)によって台湾の自衛能力を高めようとするのは正しいと思う。それは理にかなっている。しかし、かなり危険な方法で北京を困らせることはない。

※ラヴィ・アグロウアル:『フォーリン・ポリシー』誌編集長。ツイッターアカウント:@RaviReports

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』が発売になります。よろしくお願いします。


bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 今回も最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で取り上げたカート・キャンベルとイーライ・ラトナーの論文をご紹介する。キャンベルとラトナーがバイデン政権の対アジア、対中政策の責任者である。2人がどのようなことを考えているかを知ることは重要だ。彼らの認識は「中国をここまで大きくしたのはアメリカだ。中国を世界市場にアクセスさせ、世界の潮流に晒せば、中国は変化すると考えたのは誤算だった」というものだ。アメリカは中国の安い製品を大量に輸入することで、中国を経済発展させる。経済発展に伴って人々の生活は向上し、世界の情報を得るようになり、中国の体制変革を求めるようになるとアメリカは考えた。一人当たりのGDPが6000ドルに達すると、民主化に向かうという仮説もある。

 しかし、中国共産党政府はそのような方向に進むことを警戒し、国内体制の強化を行った。また、中国国民も中国共産党政府を支持した。「私たちの生活を豊かにしてくれた中国共産党を支持する」ということになった。アメリカの中国の体制変革の目論見は崩れた。そして、気づいてみれば、アメリカは強大な中国というライヴァルを自分自身で生み出してしまった。今や中国は「西側諸国(the West)対西側以外の国々(the Rest)」という、世界を二分する構造の中で、西側以外の国々の旗頭である。

 こうした状況に陥り、アメリカは中国とどのように対峙するか、ということになる。最悪のシナリオは米中覇権戦争(Sino-US hegemonic war )であるが、アメリカは中国との戦争に踏み切れない。戦争に踏み切って中国を打倒しても、アメリカは致命的なダメージを受けて立ち直れない。アメリカ一国で中国と対峙することはできない。そこで、アメリカの同盟諸国、パートナーの出番である。その一番手は地理的なことから考えても、日本である。日本を中国にけしかけて、戦争まではいかなくても、武力衝突位させるのがアメリカである。最近では、アメリカは対ロシアを名目に、NATOまで対中封じ込めに利用しようとしている。こうしたことは、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』に詳しく書いている。

 日本は何があっても中国と直接衝突してはいけない。そのことを私たちは肝に銘じておかねばならない。

(貼り付けはじめ)

中国に関する計算(The China Reckoning

-北京はいかにしてアメリカの期待を裏切ったか

カート・キャンベル、イーライ・ラトナー筆

2018年3・4月(発行日:2018年2月13日)号
『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/articles/china/2018-02-13/china-reckoning

アメリカは常に、中国の行く末を決めることができると過大な期待を抱いてきた。しかし、その野望は何度も失敗に終わってきた。第二次世界大戦後、アメリカの中国特使だったジョージ・マーシャルは、中国内戦における国民党と共産党の和平を仲介することを望んだ。朝鮮戦争中、ハリー・トルーマン政権は毛沢東軍に鴨緑江を渡らせないようにできると考えた。リンドン・ジョンソン政権は、北京が最終的にヴェトナムへの関与を抑制すると考えていた。いずれの場合も、中国の現実はアメリカの予想を覆した。

リチャード・ニクソン米大統領の対中国交正常化で、ワシントンはこれまでで最大かつ最も楽観的な賭けに出た。ニクソンも国家安全保障問題担当大統領補佐官であったヘンリー・キッシンジャーも、和解(rapprochement)によって北京とモスクワの間にくさびが打ち込まれ、やがて中国がアメリカに接近するにつれて、中国自身の利益に対する考え方が変わると考えていた。1967年秋、ニクソンは本誌(フォーリン・アフェアーズ)に次のように書いている。「中国が変化するまで、世界は安全にはなり得ない。したがって、私たちの目的は、出来事に影響を与えることができる範囲において、変化を誘導することであるべきだ」。それ以来、商業的、外交的、文化的な結びつきを深めることが中国の内部発展と対外的な行動を一変させるという前提が、アメリカの戦略の根幹をなしてきた。中国の意図に懐疑的なアメリカ政界の人々でさえも、アメリカの力と覇権(power and hegemony)が中国を容易にアメリカの意のままに形作ることができるという根底にある信念を共有していた。

ニクソンが和解に向けた最初の一歩を踏み出してから半世紀近くが経過し、ワシントンが再び、中国の方向性を形成する力を過信しすぎたことは、次第に明らかになっている。自由貿易主義者や金融主義者は中国の開放が必然的に進むと予測し、融合主義者は国際社会との交流が深まれば北京の野心も抑えられると主張し、タカ派はアメリカの優位が続けば中国の力は弱まると信じていた。

ニンジンも棍棒も、予測されたようには中国を揺さぶることができなかった。外交的、商業的関与は政治的、経済的開放をもたらさなかった。アメリカの軍事力も地域的なバランシング(勢力均衡)も、北京がアメリカ主導のシステムの中核的な構成要素を置き去りにしようとするのを阻止していない。リベラルな国際秩序は、中国を期待されたほど強力に誘い込むことも束縛することもできなかった。中国はその代わりに独自の路線を追求し、その過程でアメリカの様々な期待を裏切ってきた。

この現実は、アメリカの対中アプローチを明確な目で見直すことを正当化する。現在の枠組みを擁護する人たちは、二国間関係を不安定化させたり、新たな冷戦を招いたりしないよう警告するだろう。しかし、より強固で持続可能な対中アプローチ、そして対中関係を構築するには、多くの基本的な前提がいかに間違っていたかを正直に語る必要がある。イデオロギーの違いを超えて、われわれアメリカの外交関係者たちは、中国に対する期待(経済、国内政治、安全保障、世界秩序に対する中国のアプローチ)に、それに反する証拠が積み重なっても、更に多く投資し続けてきた。そのような期待の上に築かれた政策は、われわれが意図した、あるいは期待したような形で中国を変えることはできなかった。

●市場の力(THE POWER OF THE MARKET

中国との商業交流の拡大は、中国経済の段階的だが着実な自由化をもたらすはずだった。ジョージ・HW・ブッシュ大統領が1990年に発表した国家安全保障戦略(1990 National Security Strategy)では、世界との結びつきを強化することが「中国が経済改革の道を再び歩む上で極めて重要である」と説明された。この主張は数十年にわたって優勢だった。1990年代に中国に最恵国待遇を与え、2001年には世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)への加盟を支援し、2006年にはハイレヴェル経済対話の枠組みを創設し、バラク・オバマ大統領の下で、二国間投資条約を交渉するというアメリカの決定を後押しした。

米中間の物品貿易は、1986年には80億ドルに満たなかったが、2016年には5780億ドルを超えるまでに爆発的に増加した。しかし、今世紀初頭以降、中国の経済自由化は停滞している。欧米諸国の期待に反して、北京は豊かになる一方で国家資本主義モデル(state capitalist model)を強化してきた。一貫した成長は、開放を促進する力になるどころか、中国共産党とその国家主導の経済モデルを正当化するのに役立っている。

複数のアメリカ政府高官は、債務、非効率、より高度な経済への要求から、更なる改革が必要になると考えた。2007年、温家宝首相は中国経済を「不安定、不均衡、調整不能、持続不可能(unstable, unbalanced, uncoordinated, and unsustainable)」と呼んだ。しかし、中国共産党は競争拡大のために国を開放するのではなく、経済の支配を維持することを意図し、代わりに国有企業を統合し、航空宇宙、生物医学、ロボット工学などの重要な分野で国家技術チャンピオンを促進することを目的とした産業政策(industrial policies)(特に「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025)」計画)を追求している。また、繰り返し約束したにもかかわらず、北京は外国企業の競争条件を公平にするというワシントンやその他の国からの圧力に抵抗してきた。市場アクセスを制限し、非中国企業に合弁企業との契約や技術共有を強要する一方で、国の支援を受けた国内企業には投資や補助金を与えてきた。

つい最近まで、アメリカの政策立案者や経営者たちはこのような差別をほぼ黙認していた。潜在的な商業的利益があまりにも大きいため、保護主義や制裁で関係を根底から覆すのは賢明ではないと考えたからだ。潜在的な商業的利益があまりにも大きいため、保護主義(protectionism)や制裁(sanctions)で関係を破壊するのは賢明ではないと考えたのだ。しかし現在では、かつては中国とのビジネスにおける短期的なフラストレーションにすぎないと考えられていたものが、より有害で恒久的なものに思えるようになっている。アメリカ商工会議所は昨年、アメリカ企業の約8割が、数年前に比べて中国において歓迎されていないと感じていると報告し、60%以上の企業が、中国が今後3年間で市場をさらに開放するという確信がほとんどない、あるいはまったくないと回答した。ドナルド・トランプ政権が新たに開始した「包括的経済対話(Comprehensive Economic Dialogue)」も含め、中国経済を開放するための協力的で自発的なメカニズムは大方失敗に終わっている。

成長は更なる経済開放だけでなく、政治的自由化(political liberalization)ももたらすと考えられていた。急成長する中国の中産階級が新たな権利を求め、現実主義的な政府高官たちが更なる進歩に必要な法改正を受け入れるという好循環が、発展によって引き起こされると考えられていた。ソヴィエト連邦が崩壊し、韓国と台湾が民主政体移行を行った後、この進化は特に確かなものに思えた。「外国の思想を国境で阻止しながら、世界の商品やサーヴィスを輸入する方法を発見した国は地球上に存在しない」とジョージ・HW・ブッシュ大統領は宣言した。アメリカの政策は、技術を共有し、貿易と投資を促進し、人と人との交流を促進し、アメリカの大学に何十万人もの中国人留学生を受け入れることによって、このプロセスを促進することを目的としていた。

1989年の天安門広場での民主化デモ参加者たちへの弾圧は、中国における選挙制民主政治体制の台頭への期待を薄れさせた。しかし、アメリカの専門家や政策立案者の多くは、中国政府がより大きな報道の自由を認め、より強力な市民社会(civil society)を許容する一方で、共産党内と地方レベルの両方でより多くの政治的競争を徐々に受け入れることを期待していた。彼らは、1990年代の情報技術革命が、中国市民を更に世界に晒し、開放への経済的インセンティヴを高めることで、そうした傾向を後押しするだろうと考えていた。ビル・クリントン大統領が述べたように、「思考し、質問し、創造する完全な自由がなければ、中国は、国富の最大の源泉が人間の心に宿るものである情報化時代において、完全に開放された社会と競争することになり、明らかに不利な立場に立たされる」ということだった。北京の指導者たちは、個人の自由を認めることによってのみ、中国がハイテクの未来で繁栄できることを理解するようになるだろう、と考えられていた。

しかし、開放の拡大が国内の安定と政権の存続の両方を脅かすのではないかという恐怖から、中国の指導者たちは別のアプローチを模索するようになった。天安門事件の衝撃とソヴィエト連邦の崩壊は、民主化と政治的競争の危険性を示す証拠となった。そのため、北京は開放というポジティブなサイクルを受け入れるのではなく、壁を建設し、国家統制(state control)を強化することでグローバライゼーションの力に対応した。今世紀に入り、経済の減速、政府と軍部における腐敗の蔓延、世界各地での民衆蜂起の不吉な例など、体制に対する更なるストレスによって、権威主義は弱められるどころか、更に強化されている。

実際、過去10年間の出来事は、政治的自由化に対するささやかな希望さえも打ち砕いた。2013年、文書第9号として知られる共産党の内部メモは、「西側の立憲民主主義」やその他の「普遍的価値」を、中国を弱体化させ、不安定化させ、さらには分裂させることを意図した、当て馬(stalking-horses)として、明確な警告を発した。このガイダンスは、中国の政治的将来に対する米中の期待のギャップが広がっていることを示した。アメリカの代表的な中国専門家であるオーヴィル・シェルはつぎのように述べている。「中国は、1980年代の鄧小平よりも、1970年代の毛沢東を彷彿とさせるような政治情勢へと、不可避的に後退しつつある」。今日、ジャーナリスト、宗教指導者、学者、社会活動家、人権派弁護士に対する弾圧が止む気配はなく、2015年だけで300人以上の弁護士、法務助手、活動家が拘束された。

西側の多くの人々が予測したように、中国国民に権力が委譲されるどころか、通信技術は国家の統制力を強め、中国当局が情報の流れをコントロールし、市民の行動を監視するのに役立っている。検閲、拘束、そして中国のインターネットに対する政府の広範なコントロールを認める新しいサイバーセキュリティ法は、中国の「グレート・ファイアウォール(Great Firewall)」内部での政治活動を妨げている。中国の21世紀の権威主義には現在、ビッグデータと人工知能を融合させ、政治的、商業的、社会的、オンライン上の活動に基づいて中国市民に報酬を与え、罰する「社会信用システム(social credit system)」を立ち上げる計画も含まれている。顔認識ソフトウェア(Facial recognition software)は、中国全土に遍在する監視カメラと組み合わされ、国家が数分以内に物理的に人々の居場所を特定することさえ可能にしている。

アメリカ外交とアメリカの軍事力の組み合わせ、つまり、ニンジンと棍棒の組み合わせは、アメリカが主導するアジアの安全保障秩序に挑戦することは不可能であり、またその必要もないと北京を説得するはずだった。クリントン政権が1995年に発表した『国家安全保障戦略』によれば、ワシントンは「近隣諸国を安心させ、自国の安全保障上の懸念を解消するために、中国が地域の安全保障メカニズムに参加することを強力に推進」し、軍事対軍事の関係やその他の信頼醸成措置によってこれを後押しした。このような関与の仕方は、「ヘッジ(hedge)」、すなわちこの地域におけるアメリカの軍事力の強化と、有能な同盟諸国やパートナーによる支援と結びついていた。その結果、アジアにおける軍事的競争が緩和され、地域秩序を変えようとする中国の欲望が更に制限されることになると考えられていた。北京は軍事的充足に落ち着き、狭い地域の不測の事態のために軍備を増強する一方で、そのリソースの大半を国内の必要性に充てるだろうと考えられた。

その論理は、中国が自国の発展のために自称「戦略的な機会の窓(strategic window of opportunity)」に集中しているというような単純なものではなかった。アメリカの政策立案者や学者たちは、中国がソ連から、アメリカとの軍拡競争に巻き込まれた場合の破滅的なコストについて、貴重な教訓を学んだとも考えていた。したがって、ワシントンは中国の侵略を抑止するだけでなく、米国防総省の言葉を借りれば、中国が対抗しようとすることさえ「思いとどまらせる」ことができたのである。レーガン、ブッシュ両政権の高官であったザルマイ・ハリルザドは、アメリカが優位に立てば、「中国指導部に、挑戦の準備は困難であり、追求するのは極めて危険であると確信させることができる」と主張した。加えて、中国がアメリカの優位に挑戦したくてもできるかどうかは不明だった。1990年代後半まで、中国人民解放軍(People’s Liberation Army PLA)はアメリカやアメリカの同盟諸国の軍隊より何十年も遅れていると考えられていた。

このような背景から、アメリカ政府関係者は失敗して中国と対立関係にならないように、相当な注意を払っていた。政治学者のジョセフ・ナイは、ビル・クリントン政権時代に国防総省のアジア担当部署を率いていたときの考え方を次のように説明している。「中国を敵として扱うなら、将来も敵になることが保証されることになる。中国を友人として扱ったとしても、友好関係を保証することはできないが、少なくともより良い結果が生じる可能性を残しておくことはできる」。国務長官に指名されていたコリン・パウエルは、2001年1月の人事承認のための公聴会で、「中国は敵ではない。私たちの課題は、その状態を維持することだ」と述べた。

中国政府は、新たに得た富を軍事力により多く投資するようになっても、ワシントンを安心させようと努め、鄧小平が打ち出した慎重で穏健な外交政策を引き続き堅持する姿勢を示した。2005年、共産党幹部の鄭必堅は本誌に、中国は決して地域の覇権を求めず、「平和的台頭(peaceful rise)」を約束し続けると書いた。2011年、中国の指導者たちの間でギアチェンジの時期かどうかが活発に議論された後、戴秉国国務委員は「平和的発展は中国の戦略的選択である」と世界に断言した。2002年から、米国防総省は連邦議会が義務付けた中国の軍事に関する年次報告書を作成していたが、アメリカ政府高官の間では、中国は依然として遠くに存在するだけの、管理可能な課題であるというのがコンセンサスだった。

しかしながら、このような見方は、中国の指導部がどれほど不安と野心を同時に抱いているかを過小評価していた。北京にとって、アジアにおけるアメリカの同盟関係と軍事的プレゼンスは、台湾、朝鮮半島、東シナ海と南シナ海における中国の利益にとって受け入れがたい脅威であった。北京大学の王緝思教授の言葉を借りれば、「中国では、ワシントンは新興大国を阻止しようとすると強く信じられている。ワシントンは新興大国、特に中国の目標達成と地位向上を阻止しようとするだろう。そこで中国は、アメリカが主導するアジアの安全保障秩序を切り崩し始め、この地域へのアメリカ軍のアクセスを拒否する能力を開発し、ワシントンとその同盟国との間にくさびを打ち込むことにした」ということになる。

結局のところ、アメリカの軍事力もアメリカの外交的関与も、中国が自力で世界トップクラスの軍隊を作ろうとするのを思いとどまらせることはできなかった。イラクやその他の場所でアメリカの力をハイテクで誇示したことは、中国人民解放軍を近代化する努力を加速させただけだった。中国の習近平国家主席は、中国人民解放軍をより殺傷力の高いものにし、中国国外にも軍事力を展開できるようにするための軍事改革を開始した。3隻目の空母を建造中と報じられ、南シナ海に高度な軍事施設を新設し、ジブチに初の海外軍事基地を設置した中国は、アメリカがソ連以来見たことのないような軍事的ライヴァルになる道を歩んでいる。中国の指導者たちはもはや、中国が繁栄するためには「その能力を隠し、その時を待つ(hide [its] capabilities and bide [its] time)」という鄧小平の考えを繰り返すことはない。習近平は2017年10月、「中華民族は立ち上がり、豊かになり、強くなった」と宣言した。

●秩序の制約(THE CONSTRAINTS OF ORDER

第二次世界大戦後、アメリカは世界政治とアジアの地域力学を構造化するのに役立つ制度とルールを構築した。通商と航行の自由、紛争の平和的解決、国際的な課題に対する国際協力など、広く受け入れられた規範は、19世紀の勢力圏に取って代わった。このリベラルな国際秩序の主要な受益者として、北京はこの秩序の維持にかなりの利害関係を持ち、その継続が中国自身の発展にとって不可欠であると考えるようになった。アメリカの政策は、中国を主要な国際機関に迎え入れ、グローバル・ガバナンスや地域の安全保障について中国と協力することで、北京の関与を促すことを目的としていた。

中国が多国間機関に参加するにつれ、アメリカの政策立案者たちは、中国がルールに従うことを学び、やがてその維持に貢献し始めることを期待した。ジョージ・W・ブッシュ(子)政権時代、ロバート・ゼーリック国務副長官が北京に対し、国際システムにおける「責任ある利害関係者(responsible stakeholder)」になるよう呼びかけたのは記憶に新しい。ワシントンの立場からすれば、中国が国際システムから多大な利益を得ている以上、大きな力には大きな義務が伴う。オバマ大統領が強調したように、「私たちは、中国が自分たちを成功に導いたルールを守る手助けをすることを期待している」のだ。

特定の場において、中国は、ばらつきはあるにせよ、着実にこの責任を担っているように見えた。1991年にアジア太平洋経済協力機構(Asia-Pacific Economic Cooperation organizationAPEC)に加盟し、1992年には核拡散防止条約(Nuclear Nonproliferation TreatyNPT)に加盟、2001年には世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)に加盟し、北朝鮮とイランの核兵器開発に対処するための6カ国協議(six-party talks)やP51交渉など、主要な外交努力に参加した。また、国連の海賊対策や平和維持活動にも大きく貢献するようになった。

しかし北京は、アメリカ主導の秩序(U.S.-led order)を構成する他の中心的な要素に脅威を感じ続けており、そうした要素に取って代わろうとする姿勢を強めている。特に、経済制裁や軍事行動も、アメリカやパートナー諸国による国家主権の招かれざる侵害と見なされてきた。例えば、人権侵害から人々を守るために介入する国際社会の権利や責任に関するリベラルな規範は、外国からの干渉から自国の権威主義体制を守ることを最優先とする中国に真っ向からぶつかってきた。いくつかの顕著な例外を除いて、中国は多国間制裁に水を差したり、欧米諸国の非難から政権を守ったり、国連安全保障理事会が介入主義的な行動を承認するのを阻止するためにロシアと共通の大義を作ったりすることに忙殺されてきた。スーダン、シリア、ベネズエラ、ジンバブエなど、多くの非民主的政権がこうした妨害の恩恵を受けている。

中国はまた、既存の機関への関与を深めるのではなく、アメリカを外側に置いて、独自の地域機関や国際機関の構築に着手した。アジアインフラ投資銀行、新開発銀行(ブラジル、ロシア、インド、南アフリカとともに)、そして最も注目すべきは、中国と世界の大部分を結ぶ陸路と海路を建設するという習近平の壮大なヴィジョンである「一帯一路構想(the Belt and Road Initiative)」を立ち上げたことだ。これらの制度やプログラムは、中国に独自の議題設定力や招集力を与える一方で、既存の国際機関が支持する基準や価値観からしばしば逸脱している。北京は、アメリカやヨーロッパの諸大国とは異なり、援助を受ける条件として統治改革を受け入れることを各国に要求しないことで、開発へのアプローチを明確に差別化している。

一方、自国がある地域では、北京は安全保障のバランスを変えることに着手し、アメリカの軍事的反応を刺激しない程度の小さなステップで現状を少しずつ変えている。世界で最も重要な水路の一つである南シナ海で、中国は沿岸警備船や合法的な戦争、経済的な強制力を巧みに利用して、領有権を主張してきた。場合によっては、単に紛争地域を占領したり、人工島を軍事化したりしている。北京は時折、自制心や戦術的な慎重さを見せることもあるが、全体的なアプローチからは、近代的な海洋勢力圏(modern maritime sphere of influence)を築きたいという思惑が伺える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年夏、中国は国連海洋法条約に基づく法廷による画期的な判決を無視した。同判決は、南シナ海における中国の広範な領有権の主張は国際法上違法であるとした。アメリカ政府高官たちは、圧力や羞恥心、そしてルールに基づく海洋秩序を求める自国の願望が何らかの形で組み合わさり、北京が時間をかけて判決を受け入れるようになるだろうと誤って考えていた。それどころか、中国はそれを真っ向から否定した。判決から1年後の2017年7月、コロラド州アスペンで開催された安全保障フォーラムで、CIAの上級アナリストは、この経験は中国の指導者たちに「国際法に逆らっても逃げ切れることを教えた」と結論づけた。アジア地域の国々は、中国への経済的依存とアメリカのアジアへの関与に対する懸念の高まりの両方によって揺さぶられており、アメリカの政策立案者たちが期待したほどには、中国の自己主張に反発していない。

●現状把握(TAKING STOCK

アメリカの中国政策を牽引してきた前提が次第に弱く見え始め、アメリカの期待と中国の現実とのギャップが拡大するにつれ、ワシントンはその大部分を別の場所に集中させてきた。2001年以来、アメリカの国家安全保障はジハード主義テロとの戦いに費やされ、中国が軍事、外交、商業の面で飛躍的な進歩を遂げつつあったまさにその時期に、アジアの変化から目を逸らしてきた。ジョージ・W・ブッシュ(子)大統領は当初、中国を「戦略的競争相手(strategic competitor)」と呼んでいた。しかし、9月11日の同時多発テロを受け、2002年に発表した国家安全保障戦略では、「世界の諸大国は、テロリストの暴力と混乱という共通の危険によって結束した、同じ側にいることに気づく」と宣言した。バラク・オバマ政権時代には、アジアへの戦略的注目の「軸足(pivot、ピヴォット)」、すなわち「再均衡(rebalancing、リバランシング)」が試みられた。例えば、国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)の中東担当スタッフの数は、東アジア・東南アジア全体の3倍だった。

この戦略的な目移りは、中国に自国の優位性を押し付ける機会を与えたが、その動機となったのは、アメリカが、より広い意味での西側諸国とともに、どうしようもなく急速に衰退しているという見方が中国でますます顕著になっていることだ。中国当局者は、世界金融危機、アフガニスタンとイラクにおける高価な戦争努力、ワシントンにおける深まる機能不全によって、何年も足かせをかけられているアメリカを見ている。習近平は、中国が今世紀半ばまでに「総合的な国力と国際的影響力の面で世界のリーダーになる」ことを求めている。習近平は、中国の発展モデルを「他国にとっての新たな選択肢」として売り込んでいる。

ワシントンは今、近代史上最もダイナミックで手強いライヴァルに直面している。この課題を正しく理解するには、アメリカの対中アプローチを長年特徴付けてきた希望的観測から脱却する必要がある。トランプ政権初の国家安全保障戦略は、アメリカの戦略における過去の前提を問い直すことで、正しい方向への一歩を踏み出した。しかし、二国間の貿易赤字に焦点を絞る、多国間貿易協定を放棄する、同盟の価値を疑問視する、人権や外交を軽視するなど、ドナルド・トランプの政策の多くは、ワシントンが中国に対して、競争的なアプローチではなく、対立的なアプローチを採用する危険性をはらんでいる。

より良いアプローチの出発点は、アメリカが中国を変える能力について新たな謙虚さ(humility)を持つことである。中国を孤立させ弱体化させようとすることも、中国をより良い方向に変えようとすることも、アジアにおけるアメリカの戦略の主軸に据えるべきではない。ワシントンはその代わりに、自国の力と行動、そして同盟諸国やパートナー諸国の力と行動にもっと焦点を当てるべきである。中国についてのより現実的な仮定に基づいた政策を採用することで、アメリカの利益をより向上させ、二国間関係をより持続可能なものにするだろう。そのためには努力が必要だが、最初のステップは比較的容易なものである。

※カート・M・キャンベル:「ジ・アジア・グループ」会長。2009年から2013年まで国務次官補(東アジア・太平洋問題担当)を務めた。

※イーライ・ラトナー:外交評議会マウリス・R・グリーンバーグ記念中国研究上級研究員。2015年から2017年までジョー・バイデン副大統領国家安全保障問題担当次席大統領補佐官を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』が発売になる。今回の記事は、最新刊の中で言及した人物たちの重要な論文をご紹介する。論文の著者はカート・M・キャンベルとイーライ・ラトナーだ。それぞれ、前著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』でも詳しくご紹介し、最新刊でも取り上げているが、バイデン政権におけるアジア政策立案の主要人物たちである。キャンベルはバイデン政権で、ホワイトハウスの国家安全保障会議(National Security Council)のインド・太平洋調整官(Coordinator for the Indo-Pacific)を務め、最近になって、米国務副長官(Deputy Secretary)に指名された人物である。ラトナーは、米国防次官補(インド太平洋安全保障担当)を務めている。ここで重要なのは、両者の肩書についている「インド太平洋」という言葉だ。これは、アメリカが対中封じ込めのために生み出した言葉である。アジアへ軸足を移す、Pivot to Asiaという、ヒラリー・クリントン国務長官が打ち出した重要な概念が根底にある。
kurtcampbell003
カート・キャンベル
elyratner002
イーライ・ラトナー

 下の記事で重要なのは、アメリカがあくまで中国と潰し合いにならないようにしながら、競争していくということだ。そして、アメリカ一国では中国に対応できる段階を過ぎており、アジア地域の同盟諸国だけではなく、ヨーロッパ諸国にも対中封じ込めに参加させるということだ。ウクライナ戦争勃発後、NATOは対中、対ロシア政策のために、アジア太平洋地域への進出を企図し、東京に事務所を設置するということを発表した。それに対して、フランスが反対論を唱えている。また、キャンベルが肝いりでスタートさせた、日米豪印4カ国のQUAD(クアッド)や米英豪3か国のAUKUS(オーカス)という枠組みは、対中封じ込めのための枠組みである。しかし、オーストラリアとインドは米中両にらみの形を取り、日本だけが真面目にアメリカ一辺倒の姿勢を取っている。こうしたことを最新刊で詳しく取り上げている。

 下に掲載した論文が発表されたのが2014年だ。今から10年も前のことだが、この論文に書かれていることが現在、実現している。著者のキャンベルとラトナーは、2016年の選挙でヒラリー・クリントンが勝利することを前提にして、論文を書いたと思われる。そして、2017年のヒラリー政権で、現在と同じような役職に就いて、対中封じ込め政策を行おうと考えていただろう。それが、ドナルド・トランプの勝利によって4年ずれたということになる。こうした重要論文を読むことは、これから先を予想する上でも非常に重要なのである。

(貼り付けはじめ)

極東の誓約(Far Eastern Promises

-ワシントンがアジアに集中すべき理由

カート・キャンベル、イーライ・ラトナー筆

2014年5・6月号

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/articles/east-asia/2014-04-18/far-eastern-promises

アメリカは、アジア太平洋地域により大きな関心と資源を投入するために外交政策を方向転換する(reorienting its foreign policy to commit greater attention and resources to the Asia-Pacific region)という、重大な国家プロジェクトの初期段階にある。このアメリカの優先事項の再定義は、南アジアと中東への10年以上にわたる熱心な関与の後、戦略的再評価が切望されている時期に現れたものである。この地域はアメリカのリーダーシップを歓迎し、政治的、経済的、軍事的投資に対するプラスの見返りによってアメリカの関与に報いる地域である。

その結果、オバマ政権は、アジアへの「軸足移動(ピヴォット、pivot)」「再均衡(リバランシング、rebalancing)」として知られる外交、経済、安全保障の包括的な構想を打ち出している。この政策は、クリントン政権とジョージ・W・ブッシュ政権による重要な措置を含め、1世紀以上にわたってアメリカがこの地域に関与してきたことを基礎としている。バラク・オバマ大統領が正しく指摘しているように、アメリカは現実的にも、レトリック上も、既に「太平洋の大国(Pacific power)」である。しかし、リバランシングは、アメリカの外交政策におけるアジアの位置づけを大幅に引き上げるものである。

ヒラリー・クリントン国務長官が2011年に『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿した論文で、この戦略の最も明確な表現である「ピヴォット」という言葉を初めて使ったときから、新しいアプローチの目的と範囲に関する疑問が浮上していた。それから約3年、オバマ政権はいまだにこの概念を説明し、その約束を果たすという難題に直面している。しかし、この政策が直面した厳しい監視や短期的な挫折にもかかわらず、大きな転換が進行中であることは疑いない。そして、ワシントンが望むと望まざるとにかかわらず、アジア地域の繁栄と影響力の増大、そしてアジア地域が突きつける巨大な課題のおかげで、アジアはアメリカからより多くの注目と資源を集めることになるだろう。問題は、アメリカがアジアを重視するかどうかではなく、必要な決意と資源と知恵をもってアジアを重視できるかどうかである。

●東向きにそして南下(EASTBOUND AND DOWN

アジア太平洋地域には、逃れられない引力がある。世界人口の半分以上が居住し、世界最大の民主政治体制国家(インド)、第2位と第3位の経済大国(中国と日本)、最も人口の多いイスラム教徒国家(インドネシア)、そして10大軍隊のうち7つが存在する。アジア開発銀行は、今世紀半ばまでにこの地域が世界の経済生産の半分を占め、世界10大経済大国のうちの4つ(中国、インド、インドネシア、日本)を占めるようになると予測している。

しかし、アジアをこれほど重要な地域にしているのは、そのめまぐるしい規模だけでなく、進化の軌跡である。フリーダム・ハウスによれば、過去5年間、アジア太平洋地域は世界で唯一、政治的権利(political rights)と市民的自由(civil liberties)において着実な改善を記録してきた。また、新興市場(emerging markets)が急速な経済成長を維持できるのかという疑問があるにもかかわらず、アジア諸国は、低迷し不透明な世界経済の中で、依然として最も有望なビジネスチャンスの一端を担っている。同時にアジアは、北朝鮮の挑発的な行動、地域全体の国防予算の増大、東シナ海や南シナ海での関係を揺るがす厄介な海洋紛争、自然災害や人身売買、麻薬取引といった非伝統的な安全保障上の脅威など、慢性的な不安定要因(sources of chronic instability)とも闘っている。

アメリカは、アジアが今後どのような道を歩むかについて、否定できないほどはっきりした関心を持っている。アメリカ国勢調査局によれば、アジアはアメリカの主要輸出先であり、ヨーロッパを50%以上も上回っている。アメリカ経済分析局によれば、アメリカの対アジア直接投資とアジアの対米直接投資はともに過去10年間で約2倍に増加しており、アメリカの海外直接投資先として最も急成長している10ヵ国のうち4カ国を中国、インド、シンガポール、韓国が占めている。アメリカはまた、この地域に5つの防衛条約の同盟国(オーストラリア、日本、フィリピン、韓国、タイ)を持ち、ブルネイ、インド、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、台湾とは戦略的に重要なパートナーシップを結んでいる。日本と韓国にある主要な米軍基地は、ワシントンがアジアとそれ以外で力を発揮するための中心的存在である。

アメリカの軍事同盟は数十年にわたり、この地域の安全保障を支えてきたが、軸足移動の主な目的の一つは、そうした結びつきを深めることにある。近年ワシントンは、大国間の紛争を防ぎ、シーレーンを開放し、過激主義と闘い、非伝統的な安全保障上の脅威に対処するよう、アジアのパートナーに働きかけている。日本と韓国はアメリカとの共同作戦でますます重要な役割を担う態勢を整え、アメリカ軍はオーストラリアと協力して水陸両用能力を開発し、フィリピンと協力して自国の海岸を取り締まる能力を高めている。その結果、より強力な同盟関係と、より安全な地域が実現した。

これらは、いずれも中国を包囲したり、弱体化させたりする努力を示唆するものではない。それどころか、北京との関係をより強固で生産的なものにすることは、リバランシング戦略の主要な目標である。中国を封じ込めようとするどころか、アメリカはここ数年、前例のないほど頻繁なトップレヴェルの会談を通じて、より成熟した二国間関係を構築しようと努めてきた。軍事対軍事の関係さえも軌道に乗りつつあり、時には北京が提案する活動レヴェルに米国防総省がついていけないこともある。

●アジアへ軸足を移す、そしてアジア域内で軸足を築く(A PIVOT TO -- AND WITHIN – ASIA

リバランシング戦略はまた、アジア太平洋地域の多国間機関へのアメリカの関与(U.S. engagement)を大幅に増やすことも求めている。オバマ政権の下、アメリカは東アジア地域の首脳が毎年集う東アジア・サミットに加盟し、東南アジア友好協力条約に調印して東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアン)に対するアメリカの関与を強化し、ジャカルタにアセアン担当の常任大使を置いた。これらの重複する制度は、そのスローペースとコンセンサスの必要性から不満が溜まることもあるが、地域協力を促進し、国境を越えた複雑な課題に対処するためのルールとメカニズムのシステム構築に役立っている。たとえば2013年6月、アセアンは18カ国から3000人以上が参加した初の人道支援・災害救援演習を開催した。

一方、アメリカは、アジア太平洋地域がますます世界経済の成長を牽引するという新たな現実に対応している。オバマ政権は、2012年に米韓自由貿易協定を発効させ、12カ国による大規模な自由貿易協定である環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific PartnershipTPP)の交渉完了を強力に推し進めることで、アメリカの経済的利益を促進してきた。TPP交渉に参加する国の多くは、マレーシアやシンガポールなど東南アジアの活気ある市場であり、この地域の地政学的重要性(geopolitical importance of that subregion)の高まりを反映している。実際、アメリカのアジアへの軸足を移すことは、アジア内での軸足を築くことである。ワシントンは、北東アジア諸国への歴史的な重点を、インドネシア、フィリピン、ヴェトナムといった東南アジア諸国への新たな関心とバランスを取りながら、世界で最も活気のある経済圏のいくつかとの双方向の貿易と投資を強化しようとしている。2010年、ワシントンとジャカルタは、医療、科学技術、起業家精神など幅広い分野での協力を深めるため、「包括的パートナーシップ(comprehensive partnership)」を締結した。

米国防総省が同地域の軍事態勢に変更を加えたのも、同地域におけるアメリカの優先順位を再調整したいという同様の願望が背景にある。北東アジアの米軍基地は、ワシントンの戦力投射(to project power)や戦争遂行能力の中心であり続けているが、ミサイル攻撃に対してはますます脆弱になっており、南シナ海やインド洋における潜在的な災害や危機からは比較的遠い場所にある。一方、東南アジアの国々がアメリカの軍事訓練や災害対応への援助を受けることに関心を高めていることから、アメリカはこの地域における軍事的足跡を多様化し、オーストラリアのダーウィンに数百人のアメリカ海兵隊を駐留させ、シンガポールに2隻の沿岸戦闘艦を配備している。

アメリカ軍の姿勢に対するこうした変更は、挑発的である(provocative)、もしくは無意味である(meaningless)と批判されている。どちらの容疑も的外れだ。こうした取り組みは攻撃性を示すものではない。彼らは主に自然災害への対応などの平時の活動に貢献しており、アメリカの戦闘能力には貢献していない。そして、参加した海兵隊員や艦船の数が一見控えめに見えることは、アメリカ軍との共同演習や訓練の比類のない機会を得ることができる、アメリカのパートナー諸国の軍隊に提供する大きな利益を覆い隠している。

オバマ政権はアジアへの軸足を移すことで、アメリカの経済的・安全保障的利益を高めるだけでなく、文化的・人的交流を深めることを目指している。オバマ政権はさらに、この軸足の移動によって、アメリカがこの地域の人権と民主政治体制を支援することを期待している。ミャンマー政府は、政治犯の釈放、長年の懸案であった経済改革の実施、組織的権利の促進や報道の自由拡大など、目覚ましい前進を遂げている。特に少数民族の保護など、さらなる進展が必要ではあるが、ミャンマーはかつて閉鎖的で残忍だった国が変革の一歩を踏み出した強力な例であり、アメリカは当初からこの改革努力にとっての不可欠なパートナーであった。

●外交政策は決してゼロサムゲームではない(FOREIGN POLICY IS NOT A ZERO-SUM GAME

ピヴオット反対派は、主に3つの反対論を唱えている。第一に、ピヴォットによって不必要に中国と敵対することを懸念する声がある。この誤解は、北京との関与を深めることがリバランシング政策の中心的かつ反論の余地のない特徴であるという事実を無視している。新たなアプローチの例としては、「米中戦略・経済対話(U.S.-China Strategic and Economic Dialogue、米国務・財務長官と中国側担当者が出席する包括的な一連の会議)」の年次開催や、「戦略的安全保障対話(Strategic Security Dialogue)」の設置が挙げられる。戦略的安全保障対話では、日中両国は海上安全保障やサイバーセキュリティといった機密事項について、これまでにないハイレヴェルの話し合いを行ってきた。アジアにおけるアメリカ軍のプレゼンスが高まり、ワシントンが中国の近隣諸国への働きかけを強めているため、緊張が高まるかもしれない。しかし、米中二国間の関係は、ピヴォットによって生じるいかなる意見の相違も、より安定し協力的な米中関係という広い文脈の中で対処されるような形で発展している。

第二の反対論は、アフガニスタンやシリアでの紛争、エジプトやイラクでの不安定な情勢、イランと欧米諸大国との長期にわたる対立を考えれば、ワシントンの焦点を中東からアジアに移すのは賢明でない、あるいは非現実的だという主張から生じている。しかし、この批判はリバランシング戦略を表面上でとらえての浅い理解に依拠している。この見方によれば、中東と南アジアは米国の力(power)と威信(dignity)を奪っており、ピヴォットは実際には、より平和で収益性の高いアジア太平洋の海岸に目を向けることで、切り捨てて逃げ出そうとしているということになる。オバマ政権が中東におけるアメリカの存在感を減らそうとしているのは確かだ。しかし、資源は有限であるとは言いながら、外交政策はゼロサムゲームではない。アジアにより多くの関心を払うことは、中東での戦略的敗北を認めることになるという批判は、決定的な現実を見逃している。過去10年間、ワシントンがより多くの関心を払いたいと考えているアジア諸国は、中東と南アジア全域の平和と安定の推進に大きな利害関係を静かに築いており、アメリカがこれらの地域での影響力を維持することを強く望んでいる。

つい最近までは、アジア諸国の大半は自国の開発ばかりに関心を寄せ、他地域の問題は他人事と考える傾向があった。ジョージ・W・ブッシュ大統領のアジア政策の最も重要な成功の一つは、この地域の新興大国(region’s rising powers)が世界の他の地域でより多くの貢献をするよう促したことだ。ブッシュ政権下で、多くの東アジア諸国政府は初めて「地域外(out of area)」という視点を打ち出し、中東や南アジアでの外交、開発、安全保障により多く関与するようになった。日本はアフガニスタンの市民社会発展(civil society development)の主要な支援者となり、学校や市民団体に資金を提供し、刑事司法、教育、医療、農業の分野でアフガニスタンの人々を訓練した。「アラブの春(Arab Spring)」をきっかけにして、韓国は中東全域の開発を支援し始めた。インドネシア、マレーシア、タイは、アフガニスタンとイラクの医師、警察官、教師の訓練プログラムに物資援助を提供し、オーストラリアとニュージーランドはアフガニスタンで戦うために特殊部隊を派遣した。中国でさえも、イランの核開発への野心を抑制し、公海上の海賊行為に対処し、アフガニスタンの将来を形作ることを目的とした舞台裏の、非公式の外交(behind-the-scenes diplomacy)により積極的である。

もちろん、ワシントンからの働きかけは、アジア諸国が中東への関与を強めている要因の一つにすぎない。アジアは毎日約3000万バレルの石油を消費しており、その量はEUの2倍以上である。アジア各国の政府は、アメリカが中東から早急に撤退すれば、自国のエネルギー安全保障と経済成長に受け入れがたいリスクが伴うことを知っている。その結果、彼らは10年以上にわたって、アメリカの安定化の役割を代替するのではなく、補完するために、中東に多額の政治的・財政的資本を投資し、場合によっては軍を派遣してきた。端的に言えば、ワシントンのアジアのパートナーは、軸足の移動を支持するが、アメリカが中東から離脱するという見通しを支持することはないだろう。

軸足移動方針に反対する3つ目の反対論は、予算削減の時期におけるこのアプローチの持続可能性(sustainability)に関するものである。国防費が減少する中、懐疑論者たちは、アメリカがアジア地域の同盟諸国を安心させ、挑発しようとする者たちを思いとどまらせるために必要な資源をどのように投資できるのか疑問に思っている。特に中国の力と影響力が増大し続けている中で。答えは、アジアに向けたリバランスには劇的な新たな資金は必要ない、ということだ。むしろ、米国防総省はより柔軟になり、より良い支出方法を見つける必要があるだろう。例えば、アメリカは陸軍全体の規模を縮小する中で、アジアにおける軍事的プレゼンスを維持し、地域の安全保障環境により適した海空軍の能力に投資すべきだ。そして、アメリカの国防費がすぐには大幅に増加する可能性が低いことを考慮すると、アメリカ政府は、より多くの教育的および専門的交流を実施し、多国間軍事演習を強化し、アメリカ軍が不要になった装備を引き継ぎ、アジア各国の軍事能力を向上させるために共同計画を推進するなど、努力を行うべきだ。

●バランス(均衡)を取る行動(BALANCING ACT

リバランスに反対する最も一般的な議論は精査に耐えないが、それでもこの政策は大きな課題に直面している。その最たるものが人的資本の不足であろう。10年以上にわたる戦争と反乱に対する闘争の後、アメリカはイラクにおける民族間の対立、アフガニスタンにおける部族間の違い、紛争後の復興戦略、アメリカ軍特殊部隊と無人機の戦術に精通した兵士、外交官、情報専門家の全世代を育成し、登用してきた。しかしワシントンは、アメリカ政府全体にアジア専門家たちの持続的な幹部を育成するための同等の努力をしておらず、驚くほど多くの政府高官が、キャリアの終わりに近い高官の地位に就いてから初めてこの地域を訪問している。どんなに優秀な公務員であっても、アジアでの経験がなければアジアの複雑な問題に対処するのは難しいからだ。したがって、アジアへの軸足移動は、米国防総省だけでなく、非軍事部門の政府機関の予算にも影響を与えるだろう。なぜなら、アメリカは、アメリカの外交官、援助要員、通商交渉担当者、情報専門家たちが、仕事をうまくこなすために必要な語学力とアジアでの経験を確保するために、より多くの投資を行うからである。

軸足移動はまた、他の地域、特に中東が確実に供給し続ける危機の着実な流れに振り回されることになるだろう。同時に、「アメリカ軍の帰国」を求める圧力が強まることも間違いなさそうだ。第一次世界大戦から1990年から91年にかけての湾岸戦争に至るまで、アメリカの近代的な紛争は全て、国民が政治家や政府関係者に国内問題に集中するよう圧力をかけてきた。過去13年間に起きた各戦争は、この本能的な偏狭さ(instinctive insularity)を再び引き起こした。金融危機後の経済回復が遅々として進まないことにアメリカ国民が苛立ちを募らせており、偏狭さが増大している。アメリカ政治には国際主義や強力な防衛を求めることで起きるひずみが依然として存在するが、アメリカ連邦議会には、アメリカが海外に関与することは、たとえアジアのような、アメリカの経済的安寧にとって重要な地域であっても、より困難な新時代を迎えるかもしれないという微妙な(そしてそうでない)兆候が出現しつつある。アジアに関しては、オバマ政権の残り数年間、そしてそれ以降も、やるべきことは山積している。

●軸足移動を行うためのパートナー諸国(PIVOT PARTNERS

アジアでは、経済と安全保障は切っても切れない関係にあり、アメリカは軍事力だけではリーダーシップを維持できない。だからこそ、TPPを成功させることは、海外でも議会でも厳しい交渉を必要とするが、最優先事項なのである。この協定はアメリカ経済に即効的に利益をもたらし、保護主義に引きずられることのない長期的な貿易システムをアジアに構築するだろう。交渉においてアメリカにさらなる影響力を与えるため、連邦議会は貿易促進に関する迅速な権限を速やかに復活させるべきだ。この制度の下で、TPPやその他の自由貿易協定を交渉した後、ホワイトハウスは連邦議会での賛否を問う投票を実施するように働きかける。オバマ政権はまた、アメリカのエネルギーブームを活用し、アジアへの液化天然ガスの輸出を加速させ、アジアにおける同盟諸国やパートナー諸国のエネルギー安全保障を強化するとともに、アジアの発展に対するアメリカの強い関与を示すべきである。

南シナ海における潜在的な危機を管理する一方で、イランと北朝鮮に対するアプローチの協調を強めることで、ワシントンと北京の深化し続ける関与はすでに成果を上げている。しかし、1998年にビル・クリントン大統領が表現したように、「戦略的パートナー(strategic partner)」であると同時に、後にジョージ・W・ブッシュ(子)大統領が表現したように、「戦略的競争相手(strategic competitor)」でもある、台頭する中国との関係をうまく取り扱うことは、アメリカにとってますます難しくなっている。

中国が東シナ海と南シナ海における領有権の現状を変えようとしていること、たとえば、東シナ海で日本が管理する島々の上に「防空識別圏(air defense identification zone)」を設定することは、当面の課題である。アメリカは中国に対し、修正主義的な行動は安定した米中関係、ましてや習近平国家主席がオバマ大統領に提案した「新しいタイプの主要国関係(new type of major-country relationship)」とは相容れないことを明確にしなければならないだろう。ワシントンは最近、政権高官たちが中国の広範な領有権主張の合法性に公の場で疑問を呈し、南シナ海に2つ目の防空識別圏を設定することに警告を発したことで、正しい方向へ進むための一歩を踏み出した。

東シナ海の向こう側では、日本の安倍晋三首相が数十年にわたる経済停滞から脱却し、日本に新たな誇りと影響力を与えようとしている。ワシントンは東京に対し、特に日本の帝国主義的過去をめぐる論争に関しては、自制心と繊細さ(restraint and sensitivity)をもって行動するよう促し続けなければならないだろう。安倍首相は最近、靖国神社を参拝した。靖国神社には、第二次世界大戦中に犯した戦争犯罪で有罪判決を受けた人々を含む、日本の戦没者が祀られている。この参拝は、国内では安倍首相を支持する政治家もいたかもしれないが、国際的には高い代償となった(The visit might have helped him with some political constituencies at home, but the international costs were high)。ワシントンにおいては疑問が生じ、韓国との関係をさらに悪化させ、中国は安倍首相が政権を握っている限り、日本と直接交渉したくないという姿勢を強めた。

この緊迫した外交情勢の中で、アメリカは、日本がアジア地域と世界において安全保障上の役割をより積極的に果たせるよう、日本の自衛隊と協力することになる。これには、実際には完全に合理的な措置であり、長い間待ち望まれていたにもかかわらず、日本の憲法再解釈と軍事近代化を反動的または軍国主義的であると特徴づける中国のプロパガンダに対抗することが含まれる。アメリカはまた、日韓関係改善に多大な政治資本を注ぎ続けなければならないだろう。この日韓二国間の関係強化は、北朝鮮がもたらす巨大かつ増大する脅威に対処するのに役立つだろう。

東南アジアの課題は北東アジアの課題とはまったく異なるが、アメリカの国益にとって重要であることに変わりはない。カンボジア、マレーシア、ミャンマー、タイを含む東南アジアの多くの国々は、程度の差こそあれ、外交政策を変更しかねない政治的混乱を経験している。このような状況の中で、ワシントンは民主政治体制と人権の基本原則を守らなければならないが、その際、独断的に行ったり、アメリカの影響力を低下させたりするようなことをしてはならない。勝者に賭けるのではなく、教育、貧困削減、自然災害への対応など、誰が政権を握ろうともこの地域の人々にとって最も重要な問題に焦点を当てることが最善のアプローチとなるだろう。

アジアの多国間フォーラムへのアメリカの参加を増やすことに加え、ワシントンは、南シナ海の主権紛争に対処するために国際法と仲裁を利用する努力を全面的に支援することによって、ルールに基づく地域秩序の発展を支援すべきである。フィリピンは、中国と競合する領有権を国際海洋法裁判所に提訴した。具体的な主張の是非について、今のところ判断を下すことなく、ワシントンはアジア地域の全ての国に対し、このメカニズムを公に支持するよう呼びかけることで、国際的なコンセンサス(合意)を形成する手助けをすべきだ。

アメリカは単独でアジアへのリバランスを行うことはできない。国際法や制度構築などの分野で多大な貢献ができるヨーロッパ諸国の参加が不可欠である。二国間関係が許せば、ワシントンはインドやロシアとも東アジアにおける協力拡大の機会を探るべきだ。そしてもちろん、この地域、特に東南アジアの国々が、アメリカの努力を補完するリーダーシップとイニシアティヴ(主導権)を発揮することも必要である。アジアへの軸足移動の重要点は、各国政府が強制や武力ではなく、ルールや規範、制度を使って対立を解決する、開かれた平和で豊かな地域を育成することである。アジアへの軸足移動はアメリカのイニシアティヴであるが、その最終的な成功はワシントンだけが実現するものではない。

※カート・キャンベル(KURT M. CAMPBELL):アジア・グループ会長兼CEO。2009年から2013年まで米国務次官補(東アジア・太平洋担当)。イーライ・ラトナー(ELY RATNER):新アメリカ安全保障センター上級研究員、アジア太平洋安全保障プログラム副部長。ツイッターアカウント: @elyratner

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 久しぶりの投稿となりました。実は9月に新型コロナウイルス感染しました。その時に、ある出版社から、書籍出版の話をいただきました。回復後に原稿を書き始めました。それがようやくひと段落したので、ブログを再開します。よろしくお願いいたします。

 今回は、バイデン政権で重職を務める2人の論文をご紹介する。筆者は、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官とホワイトハウスの国家安全相会議(主宰は国家安全保障問題担当大統領補佐官)でインド・太平洋調整官を務め、最近、米国務副長官に指名されたカート・キャンベルの論文だ。テーマは米中関係だ。重要な部分を以下に引用する。
jakesullivankurtcampbellashtoncarter001
(左から)アシュトン・カーター元国防長官、カート・キャンベル、ジェイク・サリヴァン
(引用はじめ)

軍事力に資源を集中していたソ連とは異なり、中国は地理経済学を主要な競争の場と見なしている。将来を見据え、人工知能、ロボット工学、先端製造業、バイオテクノロジーなどの新興産業や技術に多額の投資を行っている。中国は、欧米企業の相互待遇を否定することで、これらの分野での優位性を追求している。アメリカは中国に恒久的な正常貿易関係を認め、世界貿易機関(WTO)への加盟を支援し、世界で最も開かれた市場の一つを維持してきた。しかし、産業政策、保護主義、そして完全な窃盗の組み合わせを通じて、中国は自国市場にさまざまな公式・非公式の障壁を設け、アメリカの開放性を利用してきた。

(註略)

中国との経済競争において最も決定的な要因は、アメリカの国内政策である。新たな「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」、つまり、ソヴィエト連邦が世界初の人工衛星を打ち上げた時のように、国民の研究を強力に鼓舞するような瞬間、という考え方は大げさかもしれないが、政府はアメリカの経済的・技術的リーダーシップを促進する役割を担っている。しかしアメリカは、ドワイト・アイゼンハワー大統領が提唱した州間高速道路システムや、科学者ヴァネヴァー・ブッシュが推進した基礎研究イニシアティヴなど、まさにその時期に行った野心的な公共投資から目を背けている。ワシントンは、基礎科学研究への資金を劇的に増やし、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、人工知能、コンピューティング・パワーに投資しなければならない。同時に連邦政府は、あらゆるレヴェルの教育とインフラ(社会資本)への投資を拡大し、アメリカの人口統計学的・技能的優位性を継続的に高める移民政策を採用すべきだ。公共投資を飢餓状態に追い込みながら、中国への強硬路線を求めるのは自滅的である。競争を考えれば、こうした投資を「社会主義的」と表現するのは特に皮肉である。実際、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)やマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出、共和党)のような奇妙なイデオロギー仲間は、アメリカの新たな産業政策について説得力のある主張を行っている。

(中略)

アメリカはまた、中国による知的財産の窃盗、的を絞った産業政策(targeted industrial policies)、経済と安全保障分野の混合に直面して、技術的優位性を守らなければならない。そのためには、双方向の技術投資と貿易の流れをある程度制限する必要があるが、こうした努力は全面的に行うのではなく、国家安全保障や人権にとって重要な技術については、制限を課し、そうでないものについては通常の貿易と投資を継続できるようにする、選択的に行うべきである。このような対象を絞った制限であっても、産業界や他国政府との協議のもとで実施されなければならない。これを怠れば、知識や人材の流れを阻害し、世界のテクノロジー・エコシステムをバルカン化させかねない。そのような事態は、中国に対するアメリカの重要な競争上の優位性を無にすることになる。つまり、世界最高の人材を調達し、世界中から最大のブレークスルーを合成することができるオープンな経済ということである。一方、技術規制の行き過ぎは他国を中国に向かわせる可能性がある。特に、中国は既に多くの国にとって最大の貿易相手国である。(翻訳は引用者)

(引用終わり)

 サリヴァンとキャンベルは、中国との競争を念頭に置いて、アメリカ国内で「ワシントンは、基礎科学研究への資金を劇的に増やし、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、人工知能、コンピューティング・パワーに投資しなければならない。同時に連邦政府は、あらゆるレヴェルの教育とインフラ(社会資本)への投資を拡大し、アメリカの人口統計学的・技能的優位性を継続的に高める移民政策を採用すべきだ」と述べている。この内容がバイデン政権において実際に実行されている。バイデン政権が実施しているのは、産業政策(Industrial Policy)だ。具体的には、半導体製造強化である(CHIPS法)。

 アメリカは、中国に対して技術的優位を保ちたい。それが、軍事的な優位にもつながるからだ。しかし、中国もまた、効率的な産業政策を実施し、それに成功している。アメリカは、中国に追いつかれつつある。下記論文の題名は「悲劇的な結末を迎えない競争(Competition Without Catastrophe)」だ。キャンベルは対中強硬派として知られているが、中国との対決は「悲劇的な結末」を迎えることもあるということは分かっているようだ。アメリカが中国に対して採用できる対処方法はかなり限られつつある。

(貼り付けはじめ)

悲劇的な結末を迎えない競争(Competition Without Catastrophe

-アメリカは如何にして、中国に挑戦し、共存することができるか?

カート・M・キャンベル、ジェイク・サリヴァン筆
2019年9・10月号(発行日:2019年8月1日)

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/articles/china/competition-with-china-without-catastrophe

アメリカは現在、冷戦終結以来、最も重大な外交政策の見直しの最中にある。ワシントンは依然としてほとんどの問題で激しく意見が分かれているが、中国に関与する時代があっさりと幕を閉じたというコンセンサスは高まっている。現在議論されているのは、次に何が来るかということである。

アメリカの外交政策の歴史を通じて行われてきた、多くの議論がそうであったように、この議論にも生産的な革新と破壊的なデマゴギーの両方の要素がある。トランプ政権の国家安全保障戦略が2018年に掲げたように、「戦略的競争(strategic competition)」が今後のアメリカの対北京アプローチを活気づけるべきだという点については、専門家のほとんどが同意できるだろう。しかし、「戦略的」という言葉で始まる外交政策の枠組みは、しばしば答えよりも多くの問題を提起する。「戦略的忍耐(strategic patience)」は、いつ何をすべきかについての不確かさ(uncertainty)を反映する。「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」は、何をシグナルとすべきかの不確かさを反映している。そしてこの場合、「戦略的競争」は、何をめぐる競争なのか、勝つとはどういうことなのかについての不確かさを反映している。

新たなコンセンサスの急速な合体により、米中競争に関するこれらの本質的な疑問は未解決のまま放置されている。アメリカは一体何のために競争しているのか? そして、この競争の最も妥当な望ましい結果とはどのようなものだろうか? 競争の手段と明確な目的を結びつけることができなければ、アメリカの政策は競争のための競争へと流れ、やがて危険な対立の連鎖に陥ることになる。

アメリカの政策立案者やアナリストたちは、40年にわたる対中外交・経済関与戦略(four-decade-long strategy of diplomatic and economic engagement with China)の根底にあった楽観的な前提を、ほとんど、そして当然ながら、捨ててきた。このことについては、本稿の著者の1人である、カート・キャンベルが昨年、イーライ・ラトナーと共に、本誌に論稿を発表した。しかし、競争を受け入れることを急ぐあまり、政策立案者たちは旧来の希望的観測の代わりに新たな希望的観測を持ち込もうとしているのかもしれない。中国の政治体制、経済、外交政策に根本的な変化をもたらすことができると思い込んだことが、関与の基本的な間違いだった。ワシントンは今日、同じような過ちを犯す危険を冒している。競争によって、関与が失敗した中国の変革を成功させることができると思い込んでいる。

米中両国の間には多くの分断があるが、それぞれが大国として相手と共存していこうという覚悟が必要である。アメリカの正しいアプローチの出発点は、ワシントンの決定が北京の長期的な発展の方向性を決定する能力について謙虚になることからでなければならない。中国の軌跡に関する仮定に依存するのではなく、アメリカの戦略は、中国の体制に将来何が起ころうと、それに耐えうるものでなければならない。冷戦の最終的な終結のような決定的な終局状態ではなく、アメリカの利益と価値観に有利な条件での、明確な安定した共存状態を目指すべきである。

そのような共存には、競争と協力の要素が含まれ、アメリカの競争的努力は、そのような有利な条件を確保することに向けられる。このことは、アメリカの政策が関与の域を超えつつあることから、短期的にはかなりの摩擦を意味するかもしれない。過去には、積極的な結びつきのために摩擦を回避すること自体が目的であった。今後、中国政策は、アメリカがどのような関係を築きたいかということだけでなく、アメリカがどのような利益を確保したいかということについても考えなければならない。ワシントンが追い求めるべき安定した状態とは、正しくその両方に関するものである。つまり、競争が続く中でも、危険なエスカレート・スパイラルを防ぐために必要な一連の条件である。

アメリカの政策立案者たちは、この目標を手の届かないものとして諦めるべきではない。もちろん、中国がこのような結果をもたらすかどうかに口を出すことは事実である。従って、米中関係においては今後も警戒が合言葉であり続ける必要がある。共存はアメリカの利益を守り、避けられない緊張が全面的な対立に発展するのを防ぐ最良の機会を提供するが、それは競争の終結や基本的に重要な問題での降伏を意味するものではない。むしろ共存とは、競争を解決すべき問題としてではなく、管理すべき条件として受け入れることを意味する。

●冷戦の論理ではなく、冷戦からの教訓を(COLD WAR LESSONS, NOT COLD WAR LOGIC

現在の競争に関するぼんやりとした言説を考えると、現在の競争を理解するために、アメリカ人が記憶している唯一の大国間競争である冷戦に立ち戻りたいという誘惑は理解できる。この類推(analogy)には直感的な魅力がある。ソ連と同様、中国は抑圧的な政治体制と大きな野心を持つ大陸規模の競争相手である。中国が提起する挑戦はグローバルで永続的なものであり、その挑戦に応えるには、1950年代から1960年代にかけてアメリカが追求したような国内動員(domestic mobilization)が必要となる。

しかし、この類推は適切ではない。今日の中国は、かつてのソ連よりも経済的に手ごわく、外交的に洗練され、イデオロギー的に柔軟な競争相手となっている。そしてソ連とは異なり、中国は世界に深く組み込まれており、アメリカ経済と結びついている。冷戦はまさに生存競争(existential struggle)だった。アメリカの封じ込め戦略(U.S. strategy of containment)は、ソ連がいつか自重で崩壊するという予測、つまりこの戦略を最初に策定した外交官ジョージ・ケナンが信念をもって宣言したように、ソ連には「自らの崩壊の種(the seeds of its own decay)」が含まれているという予測に基づいて構築された。

今日ではそのような予測は当てはまらない。現在の中国国家が最終的に崩壊するという前提で、あるいはそれを目的として、新たな封じ込め政策を構築するのは間違っている。中国には人口動態、経済、環境など多くの課題があるにもかかわらず、中国共産党は状況に適応する驚くべき能力を示しており、それはしばしば残酷な場合もある。一方、集団監視と人工知能の融合により、より効果的なデジタル権威主義が可能になり、改革や革命に必要な集団行動を組織することはおろか、熟考することも困難になる。中国が深刻な国内問題に遭遇する可能性は十分にあるが、崩壊の予想は賢明な戦略の基礎を形成することはできない。たとえ国家が崩壊したとしても、それはアメリカの圧力ではなく国内の力学の結果である可能性が高い。

冷戦の類推は、中国がもたらす実存的脅威を誇張し、アメリカとの長期競争において中国がもたらす強みを軽視するものである。アジアのホットスポットにおける紛争のリスクは深刻ではあるが、冷戦時代のヨーロッパほど高くはなく、また核エスカレーションの脅威もそれほど大きくはない。ベルリンとキューバで起こったような核の瀬戸際政策は、米中関係に当然の帰結ではない。また、米中の競争が世界を代理戦争に陥らせたり、イデオロギー的に一致した国々が武力闘争の準備をするライヴァルブロックを生み出したりしたこともない。

しかし、危険性が低下したとはいえ、中国は極めて挑戦的な競争相手である。前世紀において、ソヴィエト連邦を含め、アメリカの敵対国がアメリカのGDPの60%に達したことはなかった。中国は2014年にそのしきい値を超えた。購買力ベースで、そのGDPはすでにアメリカのGDPを25%上回っている。中国はいくつかの経済分野で世界のリーダー的存在になりつつあり、その経済はソ連時代よりも多様化、柔軟化、高度化している。

中国はまた、自国の経済的影響力を戦略的影響力に変えることにも優れている。ソ連が内向きの閉鎖経済(closed economy)が足かせになったのに対し、中国はグローバル化を受け入れ、世界の3分の2以上の国にとって最大の貿易相手国となった。軍事化された米ソ紛争には欠けていた、経済的、人的、技術的なつながりが、中国とアメリカおよびより広い世界との関係を規定している。世界的な経済主体として、中国はアメリカの同盟諸国やパートナーの繁栄の中心となっている。学生や観光客は世界の大学や都市を溢れている。その工場は、世界の高度な技術の多くを生み出す工場だ。この太いつながりの網のおかげで、どの国がアメリカと連携し、どの国が中国と連携しているのかを判断することさえ困難になっている。エクアドルとエチオピアは投資や監視技術を中国に期待しているかもしれないが、これらの購入が、アメリカからの意識的な離反の一環であるとはほとんど考えられない。

中国はソ連よりも手ごわい競争相手として浮上しているが、アメリカにとって不可欠なパートナーでもある。アメリカと中国が協力しても解決が難しい地球規模の問題は、アメリカと中国が二大汚染国であることを考慮すると、両国が協力しなければ解決することは不可能である。その中で最も重要なのは気候変動(climate change)である。経済危機、核拡散、世界的パンデミックなど、他の多くの国境を越えた課題にも、ある程度の共同努力が必要だ。この協力の必要性は、冷戦時代にはほとんど似ていない。

新たな冷戦という概念から、封じ込めの最新版を求める声が上がる一方で、こうした考え方に抵抗感を示すのが、中国との融和的な「重大な交渉(grand bargain)」の提唱者たちである。このような交渉は、米ソのデタント(detente)の条件をはるかに超えるものだ。このシナリオでは、アメリカはアジアにおける影響力の範囲を中国に事実上譲歩することになる。このシナリオでは、アメリカはアジアにおける影響力の範囲を事実上中国に譲歩することになる。推進派は、アメリカの国内的な逆風と相対的な衰退を考えれば、この譲歩は必要だと擁護する。この立場は現実的なものと宣伝されているが、封じ込め以上に耐えうるものではない。世界で最もダイナミックな地域を中国に譲ることは、アメリカの労働者や企業に長期的な損害を与える。アメリカの同盟国や価値観にダメージを与え、主権を持つパートナーを交渉の材料にすることになる。重大な交渉はまた、投機的な約束のために、アメリカの同盟関係や西太平洋で活動する権利さえも放棄するような、厳しく恒久的なアメリカの譲歩を必要とするだろう。このようなコストは容認できないだけでなく、大筋合意は強制力を持たない。台頭する中国は、嗜好や国力が変われば、協定に違反する可能性が高い。

新しい封じ込めの擁護者たちは、管理された共存を求めるいかなる声も、重要な交渉のヴァージョンの論拠とみなす傾向があり、重要な交渉の擁護者たちは、持続的な競争を示唆するいかなる声も、封じ込めのヴァージョンのケースとみなす傾向がある。この対立は、中国の屈服や米中領有を前提としない、両極端の間の道を見えにくくしている。

その代わり、軍事、経済、政治、グローバル・ガバナンスという4つの重要な競争領域において、北京と良好な共存条件を確立し、米ソ対立のような脅威認識を引き起こすことなく、アメリカの利益を確保することを目指すべきである。ワシントンは冷戦の教訓に耳を傾けるべきであるが、その論理が今でも通用するという考えは否定すべきである。

●持続可能な抑止に向かって(TOWARD SUSTAINABLE DETERRENCE

真にグローバルな戦いであった冷戦時代の軍事競争とは対照的に、ワシントンと北京にとっての危険はインド太平洋に限定される可能性が高い。それでも、この地域には南シナ海、東シナ海、台湾海峡、朝鮮半島という少なくとも4つの潜在的なホットスポットがある。どちらの側も紛争を望んでいないが、米中両国が攻撃能力に投資し、この地域での軍事的プレゼンスを高め、これまで以上に接近して活動するにつれて、緊張が高まっている。ワシントンは、中国がアメリカ軍を西太平洋から追い出そうとしていると恐れ、北京は、アメリカが中国を囲い込もうとしていると恐れている。人民解放軍の元海軍司令官である呉勝利提督は、このような事態は「戦争の火種になりかねない」と警告している。

しかし、インド太平洋における米中両軍の共存を不可能と片付けるべきではない。アメリカは、中国の兵器の到達範囲を考えると、軍事的優位を回復するのは難しいことを受け入れ、その代わりに、中国がアメリカの行動の自由を妨害したり、アメリカの同盟諸国やパートナーに物理的な威圧を加えたりすることを抑止することに集中しなければならない。北京は、アメリカが主要な軍事的プレゼンス、主要な水路での海軍活動、同盟とパートナーシップのネットワークを持つ、この地域の常駐大国であり続けることを受け入れなければならないだろう。

台湾と南シナ海は、この全体的なアプローチに最も重大な課題をもたらす可能性が高い。いずれの場合も、軍事的な挑発や誤解は、壊滅的な結果を伴うより大きな火種を容易に引き起こす可能性があり、このリスクは、ワシントンと北京双方の指導者たちの思考をますます活性化させるに違いない。

台湾に関しては、歴史的な複雑さを考慮すると、現状を一方的に変更しないという暗黙の約束(tacit commitment)がおそらく期待できる最善のものである。しかし、台湾は潜在的な引火点であるだけではない。それはまた、米中関係の歴史の中で、誰にも言われていない最大の成功でもある。この島は、アメリカと中国の間の曖昧な空間の中で、双方が一般的に採用した柔軟で微妙なアプローチの結果として成長、繁栄、民主化されてきた。このように、台湾をめぐる外交は、他の様々な問題に関して、ますます困難を極める米中外交のモデルとなる可能性があるが、これには同様に、激しい関与、相互の警戒、ある程度の不信感、そして国際社会への対応が含まれる可能性が高い。忍耐と必要な自制が求められる。一方、南シナ海では、航行の自由に対する脅威が中国自身の経済に壊滅的な結果をもたらす可能性があるという中国政府の理解は、アメリカの抑止力と組み合わせることで、よりナショナリズム的な感情を調整するのに役立つかもしれない。

このような共存を実現するためには、ワシントンは米中の危機管理と自国の抑止力の両方を強化する必要がある。冷戦時代の敵対国同士であった米ソ両国は、偶発的な衝突が核戦争にエスカレートするリスクを軽減するため、軍事ホットラインを設置し、行動規範を定め、軍備管理協定を締結するなど、協調して取り組んできた。宇宙空間やサイバースペースといった新たな潜在的紛争領域がエスカレートのリスクを高めている現在、アメリカと中国は危機管理のための同様の手段を欠いている。

あらゆる軍事領域において、米中両国は、少なくとも米ソ海事事故協定(1972年)のような正式で詳細な協定を必要としている。この協定は、海上での誤解を避けることを目的とした一連の具体的なルールを定めたものである。米中両国はまた、特に南シナ海での衝突を回避するために、より多くのコミュニケーション・チャンネルとメカニズムを必要とする。二国間の軍事関係はもはや政治的な意見の相違を人質に取るべきでなく、双方の軍高官がより頻繁に実質的な話し合いを行い、個人的な関係を築くとともに、双方の作戦に対する理解を深めるべきだ。歴史的に見ても、こうした努力の一部、特に危機管理コミュニケーションについては、進展が難しいことは明らかになっている。中国の指導者たちは、危機管理コミュニケーションによってアメリカが恐れを持つことなく行動することを助長しかねず、また現場の軍幹部に権限を委譲しすぎることを恐れている。しかし、中国が力をつけ、軍事改革を進めていることから、こうした懸念は和らいでいるかもしれない。

この領域におけるアメリカの効果的な戦略には、意図しない衝突のリスクを減らすだけでなく、意図的な衝突を抑止することも必要である。北京が領土紛争において、武力による威嚇を利用して既成事実を追求することは許されない。とはいえ、このリスクを管理するためにアメリカ軍がこの地域で優位に立つ必要はない。トランプ政権の元国防総省高官エルブリッジ・コルビーが主張しているように、「支配を伴わない抑止は、たとえ非常に偉大で恐ろしい相手であっても可能」なのである(deterrence without dominance—even against a very great and fearsome opponent—is possible)。

インド太平洋における抑止力を確保するために、ワシントンは、空母のような高価で脆弱なプラットフォームから、莫大な資金を費やすことなく中国の冒険主義を阻止するように設計された、より安価な非対称能力(asymmetric capabilities)へと投資の方向を変えるべきである。これには、北京自身のプレイブックを参考にすることが必要だ。中国が比較的安価な対艦巡航ミサイルや弾道ミサイル(antiship cruise and ballistic missiles)に依存してきたように、アメリカは長距離無人空母艦載攻撃機(long-range unmanned carrier-based strike aircraft)、無人水中ヴィークル(unmanned underwater vehicles)、誘導ミサイル潜水艦(guided missile submarines)、高速攻撃兵器(high-speed strike weapons)を導入すべきである。これらの兵器は全て、攻撃作戦が成功するという中国の自信を失わせ、衝突や誤算のリスクを軽減しながらも、アメリカと同盟諸国の利益を守ることができる。アメリカはまた、東南アジアやインド洋に軍事的プレゼンスを分散させ、必要な場合には恒久的な基地ではなく、アクセス協定を活用すべきである。そうすることで、アメリカ軍の一部を中国の精密打撃複合体(China’s precision-strike complex)の外に置き、危機に迅速に対処する能力を維持することができる。また、人道支援、災害救援、海賊対処任務など、中国との紛争にとどまらない幅広い事態に対処できるよう、アメリカ軍の態勢を整えることもできる。

●互恵性を確立する(ESTABLISHING RECIPROCITY

軍事力に資源を集中していたソ連とは異なり、中国は地理経済学を主要な競争の場と見なしている。将来を見据え、人工知能、ロボット工学、先端製造業、バイオテクノロジーなどの新興産業や技術に多額の投資を行っている。中国は、欧米企業の相互待遇を否定することで、これらの分野での優位性を追求している。アメリカは中国に恒久的な正常貿易関係を認め、世界貿易機関(WTO)への加盟を支援し、世界で最も開かれた市場の一つを維持してきた。しかし、産業政策、保護主義、そして完全な窃盗の組み合わせを通じて、中国は自国市場にさまざまな公式・非公式の障壁を設け、アメリカの開放性を利用してきた。

この構造的不均衡により、安定した米中経済関係への支持が損なわれており、たとえ習国家主席とドナルド・トランプ大統領が短期通商停戦に合意できたとしても、関係が断絶するリスクが高まることに直面している。アメリカのビジネス界の多くは、知的財産を盗むために国家ハッカーを雇うこと、外国企業に事業の現地化と合弁事業への参加を強制すること、国内の大企業に補助金を与えること、その他外国企業を差別することなど、中国の不公平な行為を容認するつもりはもうない。

アメリカの労働者と技術革新を保護しながら、こうした摩擦の拡大を緩和するには、中国が世界の主要市場に完全にアクセスできるようにすることが必要であり、そのためには、中国が自国の経済改革を進んで採用することが条件となる。ワシントンとしては、アメリカの経済力の核心的な源泉に投資し、志を同じくするパートナーからなる統一戦線を構築して互恵関係の確立を支援し、自業自得を避けながら技術的リーダーシップを守らなければならない。

中国との経済競争において最も決定的な要因は、アメリカの国内政策である。新たな「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」、つまり、ソヴィエト連邦が世界初の人工衛星を打ち上げた時のように、国民の研究を強力に鼓舞するような瞬間、という考え方は大げさかもしれないが、政府はアメリカの経済的・技術的リーダーシップを促進する役割を担っている。しかしアメリカは、ドワイト・アイゼンハワー大統領が提唱した州間高速道路システムや、科学者ヴァネヴァー・ブッシュが推進した基礎研究イニシアティヴなど、まさにその時期に行った野心的な公共投資から目を背けている。ワシントンは、基礎科学研究への資金を劇的に増やし、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、人工知能、コンピューティング・パワーに投資しなければならない。同時に連邦政府は、あらゆるレヴェルの教育とインフラ(社会資本)への投資を拡大し、アメリカの人口統計学的・技能的優位性を継続的に高める移民政策を採用すべきだ。公共投資を飢餓状態に追い込みながら、中国への強硬路線を求めるのは自滅的である。競争を考えれば、こうした投資を「社会主義的」と表現するのは特に皮肉である。実際、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)やマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出、共和党)のような奇妙なイデオロギー仲間は、アメリカの新たな産業政策について説得力のある主張を行っている。

このような国内基盤の上に、ワシントンは志を同じくする国々と協力し、国有企業から固有の技術革新政策、デジタル貿易に至るまで、世界貿易機関(WTO)が現在扱っていない問題について、新たな基準を定めるべきである。理想的には、これらの基準はアジアとヨーロッパをつなぐものである。そのためにアメリカは、WTOシステムの上に市場民主政治体制国家のルール設定イニシアティヴを重ねることで、これらのギャップを埋めることを検討すべきである。理屈は簡単だ。中国がこの新しい経済共同体への平等なアクセスを望むのであれば、自国の経済・規制の枠組みも同じ基準を満たさなければならない。この共同体の引力が合わさることで、中国は選択を迫られることになる。フリーライド(ただ乗り)を抑制して貿易ルールに従うか、世界経済の半分以上から不利な条件を受け入れるか、もし北京が、必要な改革は経済体制の変更に相当すると主張するのであれば、そうすることもできるが、世界は中国に互恵的な待遇を提供する権利がある。場合によっては、北京がアメリカの輸出や投資を扱うのと同じように中国の輸出や投資を扱うことで、ワシントンが中国に一方的に相互措置を課す必要があるかもしれない。このような努力は困難でコストがかかるものであり、トランプ政権が中国に対して共通の立場をとるのではなく、アメリカの同盟国と貿易摩擦を起こすという決断を下したのは、まさにアメリカの影響力の無駄遣いである。

アメリカはまた、中国による知的財産の窃盗、的を絞った産業政策(targeted industrial policies)、経済と安全保障分野の混同に直面して、技術的優位性を守らなければならない。そのためには、双方向の技術投資と貿易の流れをある程度制限する必要があるが、こうした努力は全面的に行うのではなく、国家安全保障や人権にとって重要な技術については、制限を課し、そうでないものについては通常の貿易と投資を継続できるようにする、選択的に行うべきである。このような対象を絞った制限であっても、産業界や他国政府との協議のもとで実施されなければならない。これを怠れば、知識や人材の流れを阻害し、世界のテクノロジー・エコシステムをバルカン化させかねない。そのような事態は、中国に対するアメリカの重要な競争上の優位性を無にすることになる。つまり、世界最高の人材を調達し、世界中から最大のブレークスルーを合成することができるオープンな経済ということである。一方、技術規制の行き過ぎは他国を中国に向かわせる可能性がある。特に、中国は既に多くの国にとって最大の貿易相手国である。

この点で、中国企業フアウェイの5Gインフラ開発への参加に対するトランプ政権の大声で一方的なキャンペーンは、警告となるかもしれない。もし、アメリカのトランプ政権が事前に同盟諸国やパートナーと調整し、創造的な政策立案を試みていたら(例えば、フアウェイの機器の代替品の購入に補助金を与える多国間融資イニシアティヴを確立するなど)、他の供給者を検討するよう各州を説得することにもっと成功したかもしれない。そうすれば、フアウェイがアメリカ商務省のアメリカ技術を供給できない事業体のリストに登録されたことを受けて、現在5G展開で直面している2年の遅れを最大限に活用できたかもしれない。テクノロジー分野における中国との貿易を制限する今後の取り組みが成功するには、慎重な検討、事前の計画、多国間支援が必要となる。そうしないと、アメリカの技術革新を損なう危険がある。

●反中国ではなく、親民主政治体制を(PRO-DEMOCRACY, NOT ANTI-CHINA

米中間の経済・技術競争は、新たな対立モデルの出現を示唆している。しかし、対立する2つのブロックの間に鋭いイデオロギー的分裂があった冷戦時代とは異なり、ここではその境界線はより曖昧である。ワシントンも北京も冷戦に特徴的だったような布教活動をしている訳ではないが、中国がそのシステムを明確に輸出しようとしていないとしても、最終的にはソ連よりも強力なイデオロギー的挑戦をしてくるかもしれない。国際秩序が最も強力な国家を反映するものであるならば、中国が超大国の地位を獲得することは、独裁政治へ他の国々が近づく可能性が出てくる。中国の権威主義的資本主義(authoritarian capitalism)とデジタル監視(digital surveillance)の融合は、マルクス主義よりも耐久性があり、魅力的であることが証明されるかもしれない。独裁者や民主政治の面での後進国への支援は、アメリカの価値観に挑戦し、中国北西部における100万人以上のウイグル族の拘束など、中国自身の残酷な慣行の隠れ蓑を提供するだろう。世界中で民主的な統治が失われていることが、アメリカの利益にとって重要なことなのかどうか疑問に思う人もいるかもしれない。民主的な政府はアメリカの価値観に沿い、良い統治を追求し、国民を大切にし、他の開かれた社会を尊重する傾向がある。

ワシントンは、米中競争の中で点数を稼ぐためではなく、これらの価値観の魅力を高めることに集中することで、政治的な領域で中国と共存するための有利な条件を確立することができる。中国のプレゼンスが世界的に高まるなか、アメリカは冷戦時代にありがちだった、ライヴァル政府との関係だけで第三国を見るという傾向を避けるべきである。トランプ政権の政策の中には、ラテンアメリカでモンロー・ドクトリンを発動したり、アフリカで中国に対抗することを主眼とした演説を行ったりなど、この古いアプローチを反映しているものがある。中国のイニシアティヴに対して、ワシントンが自国を北京との競争における戦場としてしか考えていないと感じられるような、考えなしの対応をするよりも、自国の条件に基づいて国家と意図的に関わるような姿勢の方が、アメリカの利益と価値を高めることができるだろう。

中国の一帯一路構想(China’s Belt and Road Initiative)は、この原則を実際に適用する最も明白な機会を提供する。アメリカとそのパートナー諸国は、あらゆる港湾、橋梁、鉄道路線など、あらゆる場面で中国と戦うのではなく、進歩に最も役立つ質の高い、高水準の投資について各国に積極的に売り込むべきである。反中国だからという理由ではなく、成長促進、持続可能性促進、自由促進という理由で投資を支援することは、特に中国の国家主導の投資が各国である程度の反発を引き起こしているため、長期的にははるかに効果的である。コスト超過、入札なしの契約、汚職、環境悪化、劣悪な労働条件などが原因である。

この観点から、民主政治体制を守る最善の方法は、良い統治に不可欠な価値観、特に透明性(transparency)と説明責任(accountability)を強調し、市民社会(civil society)、独立メディア、情報の自由な流れを支援することである。こうした措置を講じることで、民主主義が後退するリスクを減らし、発展途上国の生活を向上させ、中国の影響力を低下させることができる。このような行動をとるには、アメリカとその同盟諸国やパートナーから多国間資金を注入し、各国に真の選択肢を与える必要がある。しかし、もっと根本的なことも必要である。アメリカは、人的資本と良好なガバナンスへの投資が、中国の搾取的アプローチよりも長期的には良い結果をもたらすという確信に、より大きな自信を持つ必要がある。

また、人間の倫理について難しい問題を提起する新技術の規範を設定するには、スコアよりも原則に焦点を当てることが不可欠である。人工知能からバイオテクノロジー、自律型兵器から遺伝子編集された人間に至るまで、適切な行動を定義し、遅れをとっている国々に一線を画すよう圧力をかけるために、今後数年間は重要な闘いが繰り広げられるだろう。ワシントンは、このような議論のパラメーターを遅滞なく形成し始めるべきである。最後に、中国との共存は、アメリカが、中国国民に対する中国政府による非人道的な扱いや、外国NGO職員の恣意的な拘束に対して声を上げることを妨げるものではないし、また妨げることはできない。北京のウイグル人抑留に対する西側の相対的な沈黙は、道徳的な汚点を残している。したがって、アメリカとそのパートナーは国際的な圧力を動員し、中立的な第三者による抑留者への接見と、抑留に加担している個人や企業への制裁を要求すべきである。中国は、そのような圧力は関係を不安定にすると脅すかもしれない。しかしワシントンは、人権侵害について発言することを、予測可能で日常的な関係の一部とすべきだ。

●競争と協力を守る(SEQUENCING COMPETITION AND COOPERATION

米中関係の競争が激化するにつれ、協力の余地はなくなることはないにしても、縮小するだろうという考えは、しばしば信仰の対象であると考えられている。しかし、敵国であっても、アメリカとソ連は、宇宙探査、伝染病、環境、地球規模の共有物など、多くの問題で協力する方法を見つけた。現代の課題の性質を考慮すると、アメリカと中国の間の協力の必要性ははるかに深刻である。米中両国の指導者は、このような国境を越えた課題における協力を、一方の当事者の譲歩としてではなく、双方にとって不可欠な必要性として考慮すべきだ。

協力と競争のバランスを適切に保つために、ワシントンはそれぞれの順序を考慮する必要がある。アメリカは歴史的に、まず中国と協力し、次に中国と競争しようとしてきた。一方、中国政府は、第一に競争し、第二に協力することに非常に慣れており、戦略的利益分野におけるアメリカの譲歩に明示的または暗黙的に協力の申し出を結びつけている。

今後、ワシントンは国境を越えた課題に関して熱心な求婚者になることを避けるべきである。熱心さがかえって交渉材料となり、協力の幅を狭めることになりかねない。直感に反するかもしれないが、北京との効果的な協力には競争が不可欠である。多くの中国政府関係者のゼロサム戦略思考では、アメリカのパワーと決意に対する認識は非常に重要であり、中国官僚機構は長い間、両者の変化に注目してきた。このような敏感さを考えると、ワシントンが毅然とした態度で臨み、コストを課すことさえできる能力を示すことは、共通の大義(common cause)を見出すことについて真剣に語ることと同じくらい重要である可能性がある。従って、最善のアプローチは、競争によってリードし、協力の申し出によってフォローし、グローバルな課題に対する中国の支援とアメリカの利益に対する譲歩の間のいかなる関連性の交渉も拒否することであろう。

●二極を超えて(BEYOND THE BILATERAL

アメリカの政策立案者が念頭に置いておくべき冷戦の教訓がもう1つある。それは、中国との競争におけるアメリカの最大の強みの1つは、他の国々よりも両国に関係しているということである。アメリカの同盟諸国とパートナーの重みを総合すると、あらゆる分野で中国の選択が決まる可能性があるが、それはアメリカがこれら全ての関係を深め、それらを結びつけるよう努めた場合に限られる。米中競争に関する議論の多くは二国間の側面に焦点を当てているが、アメリカは最終的には、アジアとその他の世界の関係と制度の密なネットワークに中国戦略を組み込む必要があるだろう。

これはトランプ政権にとって覚えておきたい教訓だ。これらの永続的な利点を活用する代わりに、関税や軍事基地の支払い要求などにより、アメリカの伝統的な友人の多くを疎外し、主要な制度や協定を放棄または弱体化させてきた。国連や世界銀行から世界貿易機関に至るまで、多くの国際機関はアメリカが設計と主導に協力し、航行の自由、透明性、紛争解決、そして貿易。これらの機関から撤退することで、アメリカの長期的な影響力を犠牲にして短期的な余裕と柔軟性が得られ、中国政府が規範を再構築し、これらの機関内で独自の影響力を拡大することが可能になる。

アメリカは、同盟を削減すべきコストではなく、投資すべき資産と見なす必要がある。有能な同盟諸国からなる独自のネットワークを構築する有意義な能力がない以上、北京はアメリカがこの長期的な優位性を浪費することほど望むことはないだろう。中国との明瞭な共存関係を確立することは、どのような状況下でも困難であるが、支援なしには事実上不可能である。アメリカが抑止力を強化し、より公正で互恵的な貿易システムを確立し、普遍的価値を守り、世界的な課題を解決するには、単独では不可能である。効果的なものにするためには、アメリカのいかなる戦略も同盟諸国とともに始めなければならない。

※カート・M・キャンベル:「ジ・アジア・グループ」会長兼最高経営責任者。2018年から2019年にかけてマケイン研究所キッシンジャー記念研究員を務めている。2009年から2013年にかけて国務次官補(東アジア・太平洋問題担当)を務めた。

※ジェイク・サリヴァン:カーネギー国際平和財団非常勤上級研究員。2013年から2014年にかけて国家安全保障問題担当副大統領補佐官、2011年から2013年にかけて国務省政策企画局局長を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ