古村治彦です。
以前、J・D・ヴァンス副大統領を支えるロックブリッジ・ネットワークについて紹介した。今回はロックブリッジ・ネットワークの創始者であり、中心人物のクリス・バスカークについての紹介記事を掲載する。
クリス・バスカークは、生まれ故郷アリゾナ州スコッツデールで父親と共に保険関連企業を創設し、大きく成長させ、最終的に売却し、巨額の資金を得た。同時期に、ドナルド・トランプが大統領選挙に出馬を表明したことで、トランプへの支援として、保守系オンラインマガジン『アメリカン・グレイトネス』を創刊した。創刊に当たり、ピーター・ティールから資金援助を受けた。さらに、ティールから当時、連邦上院議員選挙出馬の準備をしていたヴァンスを紹介された。そして、ヴァンスと共に2019年にロックブリッジ・ネットワークを立ち上げた。バスカークの経歴で重要なのは、ビジネスを立ち上げる前に、カリフォルニア州にあるクレアモント大学に在学していたことだ。クレアモント大学はアメリカ右派、トランプ支持派において重要な存在である。
レオ・シュトラウス(Leo Strauss、1899-1973年、74歳没)が重要になってくる。レオ・シュトラウスについては、そして、シュトラウスの弟子でクレアモント大学を保守派の拠点として発展させたハリー・ジャッファについては、副島隆彦著『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』(講談社+α文庫、1999年)の第四章「『法』をめぐる思想闘争と政治対立の構図」を読むことで理解ができる。シュトラウスとジャッファは、法思想・法哲学において、「自然法(natural law)」を信奉するグループである。「自然法」とは「人間社会には、それを成立させて、社会を社会、人間を人間たらしめている自然のきまり・おきてがある。それは人間の目には見えないが、必ずある」ということである。近代になって、自然法から自然権[natural rights](「人間は生まれながらにして固有の権利が与えられている」と考える)が分岐し、更に人権(human rights)という考えが出てきた。これらが対立しながら法思想・法哲学において存在している。アメリカの建国の理念は「自然権」から発しているものである。自然法の立場からすれば、自然権のようなものはないということになる。自然法派はアメリカの建国の理念とは相いれない、きっちりとはまらない部分がある。ヴァンスやティールが民主政体に懐疑的な暗黒啓蒙やポストリベラリズムに親和性を持つのは当然のことと言えるだろう。
それではヴァンスやティールが現実的にアメリカの政治体制を変更して、民主政治体制を今すぐに廃止すべきだということはさすがに言えないし、そのようなことは考えていても口には出せない。そんなことをすれば、ヴァンスはアメリカ大統領選挙当選の可能性を自らで閉ざしてしまうことになる。しかし、行き過ぎたリベラリズム、人権偏重へのアンチテーゼとしての思考実験、既存の民主政治体制の改良や改善のための批判の一環として主張していくことになるだろう。
(貼り付けはじめ)
J・D・ヴァンスを当選させた秘密の献金者グループは今やMAGAの未来を書き換えようとしている(The secretive donor
circle that lifted JD Vance is now rewriting MAGA’s future)
―クリス・バスカークは、トランプ政権下のワシントンで、テクノロジー業界のエリート層を権力の中枢に据えた。彼の主張の根底にあるのは物議を醸すある理論だ。それは、国を前進させるためには「貴族制(aristocracy)」が必要だというものだ。
エリザベス・ドゥオスキン筆
2025年11月4日
『ワシントン・ポスト』紙
https://www.washingtonpost.com/technology/2025/11/04/chris-buskirk-maga-vance-post-trump/
クリス・バスカークは、ドナルド・トランプの再選を支援し、現在ワシントンの権力の中枢を担うビジネス界とテクノロジー業界の献金者連合を率いている
2019年、オハイオ州ロックブリッジ郊外の人口100人ほどの町で、少数の右派献金者たちがリゾートホテルを借り切り、MAGA運動の将来を確固たるものにするためのサミットを開催した。彼らの狙いは、ドナルド・トランプ大統領という一人の候補者を、共和党の抜本的な変革(a radical transformation of the GOP)を確固たるものにする有権者、献金者、候補者のパイプラインを構築した、永続的な政治連合(an enduring political coalition)へと変貌させることだった。
シリコンヴァレーの大富豪ピーター・ティールと、当時ベストセラー回顧録を執筆した投資家J・D・ヴァンスが招集したこの会合には、ヘッジファンドの相続人レベカ・マーサー、当時FOXニューズの司会者だったタッカー・カールソン、経済学者のオレン・キャスなどが参加していたと、会合を知る2人の関係者が証言している。関係者たちは匿名を条件に、これまで報道されていなかったこの非公開会合の詳細を語った。
しかし、この会合でグループの野望を確固たるものにする上で決定的な役割を果たしたのは、はるかに目立たない人物だった。アリゾナ州の保険関連事業家で保守系メディア関係者のクリス・バスカークだ。
現在、バスカークはロックブリッジ・ネットワークを率いている。この秘密組織は、先週末の会合をきっかけに誕生し、共和党政治において最も影響力のある勢力の一つとしての地位を確立した。政治ストラティジストたちは、この緊密な実業家兼献金者ネットワークが、昨年の大統領再選を後押しし、その一員であるヴァンスを副大統領に押し上げた要因だと評価している。
テクノロジー業界のリーダーたちからの多額の資金援助を受け、ロックブリッジはトランプ政権後もMAGA運動が存続できるよう準備を進めている。ロックブリッジはウェブサイトや一般向けの組織を持たないが、世論調査員、データ分析担当者、オンライン広告担当者、さらにはドキュメンタリー映画制作部門まで擁している。2026年の中間選挙と2028年の大統領選挙に向けて、その戦力を結集させようとしている。ロックブリッジのメンバーの多くは、ヴァンスが大統領候補となることを期待している。ロックブリッジに直接詳しい人物によると、ロックブリッジはアウトドア団体や教会など、政治とは無関係な団体への所属を通じて、潜在的な有権者の詳細なプロフィールをまとめたデータベースを構築しているという。
バスカークとトランプ陣営との繋がりはロックブリッジだけにとどまらない。バスカークが投資家のオミード・マリクと共同設立したヴェンチャーキャピタル企業1789キャピタルは、パートナーたちが「愛国的資本主義(“patriotic capitalism)」と呼ぶものに焦点を当てており、現在ドナルド・トランプ・ジュニアもパートナーとして名を連ねている。二人は政権関係者や友人たちと共に、最近「エグゼクティブ・ブランチ(Executive Branch)」という、トランプ支持のビジネスリーダーたちがワシントンDCで交流するための会員制クラブを立ち上げた。年会費は一人50万ドルだ。
バスカーク・キャピタルの簡素な内装は、政治関連の記念品で埋め尽くされている
バスカークによれば、これらの組織には共通の野望がある。それは、彼が国の未来にとって不可欠だと考えるビジネスパーソンに、政府形成と永続的な政治権力を担う役割を与えることだ。
彼らの活動は、社会進歩に関する物議を醸す理論に基づいている。それは、選ばれたエリート集団こそが国を前進させるのにふさわしい人々であるという考え方だ。バスカークは、この立場はMAGA(Make America Great Again)のポピュリズムに反するものではないと主張する。業界のリーダーを要職に就かせることは、商務長官ハワード・ルトニックからテクノロジー界の大物イーロン・マスクまで、トランプ大統領の政権の特徴であり、バスカークはMAGA運動が国の新たな世代の担い手を活性化させたと述べている。
バスカークと彼の側近9人へのインタヴューによると、彼の様々なプロジェクトは、右派の一部が「貴族主義的ポピュリズム(aristopopulism)」と呼ぶものを反映しており、富裕な資本家と彼らが代表しようとする労働者階級との間に橋を架けることを目的としている。具体的には、国を収益性の高い形で再産業化(reindustrializing)し、自らの利益を支持基盤の利益と結びつけようとしている。
バスカークはアリゾナ州スコッツデールのオフィスでのインタヴューで、「どの社会にも、搾取的なエリート層、寡頭制(an extractive elite — an oligarchy —)か、生産的なエリート層、貴族制(a productive elite — an aristocracy —)のどちらかが存在する」と語った。
バスカークは、歴史上の多くの革新的な時代は、こうした貴族制によって推進されてきたと主張する。この点は、2023年に出版された著書『アメリカと可能性の芸術(America and the Art of the Possible)』にも記されている。「古典ギリシャ的な意味では」この言葉は蔑称ではなく、「国を守り、国民全員が繁栄できるよう適切に統治する、真のエリート層」を意味するとバスカークは述べている。
バスカークの見解では、彼はビジネスマンのように政治市場にアプローチし、弱点を見抜き、それを埋めるために意図的な行動を起こしてきた。右派には、彼が言うところの「連携の問題(coordination problem)」があった。それは、予想外にもトランプを選出した有権者(voters who had unexpectedly elected Trump)と、進歩的な左派から疎外された新興の富裕層(a nascent group of wealthy people who had become alienated by the
progressive left)という二つの勢力だ。しかし、両陣営とも組織的な基盤を欠いていた。
バスカークは自身の取り組みを「頭脳+資金+支持基盤(Brains-plus-money-plus-base)」という一言で表現している。
他の人々は、バスカークの影響力をより力強く表現している。保守系シンクタンクであるアメリカン・コンパスのチーフエコノミストであるキャスは、トランプへの支持は依然として「個人へのカルト的な崇拝(a cult of personality)」と見なされているものの、今や強力なエコシステムがMAGA運動を支えていると述べている。
「クリス(・バスカーク)はこのエコシステムの招集者(the convener)だ」とキャスは付け加えた。
クリス・バスカークはロックブリッジ・ネットワークと1789キャピタルの共同創設者だ
クリス・バスカークはロックブリッジの設立イヴェントについてコメントを拒否した。ティールもコメントを控えた。マーサーはコメントの要請に応じなかった。
限られたビジネスリーダーや戦略家たちのサークル以外ではあまり知られていないバスカークは、かつてコーク兄弟が支配していた役割を担う異色の人物だ。コーク兄弟は、トランプ政権の多くの貿易政策に反対してきた、資金力のある共和党の大口献金者である。彼はミームを振りかざすようなMAGA支持者ではない。友人たちはバスカークを、鋭い洞察力を持つ粘り強い戦略家だと評している。バスカークのパートナーであり、1789キャピタルの共同創設者であるオミード・マリクは、「民主党に居場所を感じなくなった裕福な人々が何千人も現れるだろうと最初に認識した人物(the first mover” to recognize that there were going to be thousands
of well-off people who “no longer felt at home in the Democratic Party)」だと述べている。
ヴァンスは『ワシントン・ポスト』紙への声明の中で、バスカークについて「独創的な思想家(original
thinker)」であり、「誰よりも早く、適切なアイデア、組織力、資金の組み合わせが共和党の永続的な政治的成功を確実にする方法を見抜いていた(before almost anyone,” how the “right combination of ideas,
organizing and funding can ensure lasting political success for the Republican
Party)」と述べた。
選挙政治とは別に、バスカークのプロジェクトは、アメリカ社会に無制限の資本主義(unrestrained
capitalism)を浸透させることを目指している。バスカークによれば、1789キャピタルは、国内発の技術革新(innovation、イノヴェイション)がアメリカの産業基盤を再生できるというアイデアの実験場であり、1789キャピタルのパートナーたちはウェブサイトでこれを「アメリカ例外主義の次章(the next chapter of American exceptionalism)」と謳っている。約30社に投資している1789キャピタルは、「反ウォーク(anti-woke)」的な政治やトランプ政権の経済政策に関連するスタートアップ企業に資金を提供しており、その中にはレアアース採掘企業、戦争用AI工場建設企業、ロケット燃料の3Dプリント企業などが含まれる。
バスカークのネットワークがトランプ政権と深く結びつくにつれ、このグループはワシントンの新たな権力者層のためのパーティー・ネットワークを形成している。ロックブリッジの年2回の会議は、4月にフロリダ州キービスケーンのリッツ・カールトンで開催され、「アメリカを再び健康に(Make America Healthy Again)」をテーマにした呼吸法とヨガのセッションが行われ、スコット・ベセント財務長官、トゥルシー・ギャバード国家情報長官、スティーヴ・ウィトコフ中東特使が出席した。バスカークの友人であるロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官は、6月に高級ワインと寿司を提供するが植物油は提供しないレストラン「エグゼクティブ・ブランチ(Executive Branch)」の開店セレモニーに出席した。
(左から)ドナルド・トランプ・ジュニア、J・D・ヴァンス、オミード・マリク、クリス・バスカーク。トランプ大統領の2期目の就任式の数日前にパームビーチで会合を開いた
バスカークのネットワークに属する人々は、自分たちの影響力の拡大を、政府が社会のイノヴェーターを非難するのではなく、ようやく支援するようになった証拠と捉えている。彼らは、ジョー・バイデン政権下で抑圧されていた経済の原動力が解き放たれると考えている。
しかし、ロックブリッジや1789キャピタルといった企業には、より有害な兆候が見られると批判する声もある。それは、労働者の利益を約束したトランプ大統領の政策を阻害する、選挙で選ばれていないアメリカの寡頭支配者集団の台頭(the rise of a group of unelected American oligarchs who are
undermining Trump’s promises to benefit working people)だ。トランプ政権は就任以来、AI技術の輸出規制解除や仮想通貨を促進する大統領令や法案の署名(lifting
export controls on AI technology and signing executive orders and legislation
promoting cryptocurrency)など、テクノロジー起業家に有利な一連の新政策を打ち出してきた。ホワイトハウスのクシュ・デサイ報道官は声明で、「トランプ大統領の第一の、そして唯一の目標は、彼を圧倒的な支持で再選してくれた労働者階級のアメリカ国民の繁栄を取り戻すことだ」と述べた。
関係者2人によると、トランプ・ジュニアが昨年11月に1789キャピタルにパートナーとして加わって以来、1789キャピタルは数億ドルを調達し、現在10億ドル以上の資産を保有している。この夏、政府はバイデン政権時代にポリマーケットに対して行っていた2件の連邦捜査を中止した。ポリマーケットは、1789キャピタルが出資しているブロックチェーンベースの賭博スタートアップ企業で、トランプ・ジュニアは現在、ポリマーケットの諮問委員会メンバーを務めている。
コーク兄弟の慈善ネットワークから資金提供を受けている右派系シンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ研究所の経済政策研究部長マイケル・ストレインは次のように述べた。「一般的に、ビジネスにとって良いことはアメリカにとっても良いことだが、大統領を取り巻く人々はアメリカのビジネス界を代表しているとは思えない。政府の役割は国家の繁栄を促進することであり、富裕層や創業者、経営者の繁栄を促進することではない」。
バスカークにとってこうした批判は的を外している。バスカークは、たとえワシントンDCがあまり好きではないとしても、トランプをホワイトハウスに復帰させた実業家たちをワシントンに呼び戻す決意を固めている。バスカークは政治を「腐敗している(venal)」と評し、ワシントンDCのシンクタンクを「ありきたりな表現の二乗(every cliché, squared)」と表現し、文化を根本から再構築する必要があると主張する。
バスカークは次のように述べている。「したがって、ワシントンDCは時間を過ごすのに魅力的な場所ではないが、同時に非常に必要な場所でもある。自治(self-government)とは、自分がやりたくないことにも実際に関わらなければならないということだ。」
●「調整の問題」(‘A coordination problem’)
バスカークに、その日どこにいるのかを尋ねれば、56歳で4人の子供の父親である彼は、7つの異なる都市の名前を挙げるかもしれない。彼は、スコッツデールにある家族経営のオフィス、1789キャピタルの本社があるフロリダ州パームビーチ、ダラス、サンフランシスコ、オースティン、そして不本意ながらワシントンDCを行き来している。彼は、起床から就寝まで電話が鳴りっぱなしで、ヴァンス副大統領のスケジュールが許せば必ず時間を作っていると言う。
しかし、バスカークの幼少期はほぼ全てアリゾナ州で過ごした。冷戦時代に父親が駐屯していたドイツの軍事基地で生まれたものの、スコッツデールで育った。週末は、州内の住宅や中小企業向けの保険を取り扱う家族経営の会社で働いていた。バスカークは、一家は「極めて愛国的(patriotic to the nth degree)」で、保守系雑誌『ナショナル・レビュー(the National Review)』の熱心な購読者だったと回想する。
若い頃、バスカークは政治理論の修士号取得を目指し、政治哲学者レオ・シュトラウスに影響を受けた右派系シンクタンクであるクレアモント研究所でインターンシップを経験した。
しかし、学問の世界はあまりにも非現実的だと考え、シンクタンクも学位も途中で諦めた。故郷のスコッツデールに戻り、保険会社を設立した。救急車販売業者など、型破りな事業の保険引受業務を行った。その後20年間で、保険関連企業を4社設立し、売却した。
バスカークの家族は政治から疎遠になっていた。バスカーク一家は2000年代半ばにナショナル・レビュー誌の購読を解約した。共和党主流派が国を誤った方向に導いたと感じ、嫌悪感を抱いていたからだ。イラク戦争は「目くらまし(smoke screen)」であり、目の前に迫る深刻な経済問題から人々の目を逸らすためのものだったとバスカークは語った。
アリゾナ州スコッツデールにあるバスカーク・キャピタルの内装の一部
ミシガン州に住む親戚を訪ねた際、2001年にアメリカが世界貿易機関(WTO)に加盟した後、「工場全体が文字通り梱包され、40フィートコンテナに詰め込まれて中国に送られる」様子を目の当たりにしたとバスカークは語る。アメリカ人は低賃金のサーヴィス業に従事するようになり、マクドナルドの時給8ドルに対し、フォードの工場では25ドルだったという。そして、不法移民がやってきて、それらの仕事も奪っていったと彼は言う。
「特別なことをしなくても尊厳ある生活を送れる(that you don’t have
to do anything extraordinary to live a dignified life)」というアメリカンドリームが、ますます難しくなっていると、バスカークは友人たちに憤慨したが、無力感(powerless)を覚えた。「私はただアリゾナに住む、ごく普通の男だった」と彼は当時を振り返る。「一体どうすればいいんだ?」。
2000年代後半にバラク・オバマ大統領が登場すると、バスカークはオバマが社会に革命を起こす様子を目の当たりにした。一方で、バスカークは共和党とその諸機関が惰性で停滞していると感じていた。
その間、バスカークは父親と共に築き上げた保険事業の最後の株を売却していた。2015年、トランプがトランプタワーの黄金のエスカレーターを降りて大統領選への出馬を表明した頃には、バスカークには時間に余裕ができていた。
アリゾナ州の実業家であるバスカークは当初、ニューヨークのリアリティ番組司会者であるトランプが大統領の座を売名行為と見なしているのではないかと懸念し、懐疑的だった。しかし、トランプの過去のインタヴューを見ると、アメリカの指導者たちがアメリカ国民を第一に考えていないという主張が繰り返し聞こえてきた。
「トランプは40年間ずっと同じことを言い続けている!」とバスカークは当時を振り返る。「その時、トランプは本気だと気づいた。彼が真剣ではないと言っている人たちは嘘をついているのだ」。
2016年7月、バスカークはオンラインマガジン「アメリカン・グレイトネス(American
Greatness)」を創刊した。この雑誌は、保守主義の新たな表現が「否定しようもなく(undeniable)」必要であると訴えた。ティールから資金提供を受けた。ティールはトランプへの100万ドルの献金でリベラルなシリコンヴァレーを驚かせた人物であり、バスカークとは友人の紹介で知り合ったばかりだった。「保守運動の土壌は枯れ果てていた(The soil of the conservative movement is exhausted)」と編集者たちは創刊マニフェストに記した。「再び繁栄するためには、肥料を与え、種をまき直し、丹念な耕作が必要だ(It needs fertilization, resowing, and diligent cultivation if it is
to thrive again)」。
ティールはバスカークを、彼の弟子であり『ヒルビリー・エレジー』の著者であるヴァンスに紹介した。ヴァンスとバスカークはすぐに意気投合した。
バスカークは当時を振り返り、「特に目標があった訳ではなく、ただ何かを創り出すべきだと感じていた(we should create something)」と語る。2人は1年半ほど「オタク談義に花を咲かせた(just nerding out)」という。
ニューヨークのトランプタワーで行われたテクノロジー業界のリーダーたちとの会合で、マイク・ペンス次期副大統領(左)とペイパル創業者ピーター・ティールがドナルド・トランプ次期大統領の話に耳を傾けている(2016年)
2019年、ヴァンスとティールは、後に組織名の由来となる小さな町の郊外にあるオハイオ州の田舎の宿に十数人を集めた。参加者の中には、バスカークのように熱烈なトランプ支持者もいた。一方で、懐疑的な人物たちもいた。しかし、参加者全員が、トランプ政権下での成功は、民主党がホワイトハウスを奪還すれば、単なる偶然に終わってしまう可能性があると感じていたと、その週末にバスカークと会った投資家のブレイク・マスターズは語っている。
「私たちは左派の有効性(the effectiveness of the left)を嘆くことに多くの時間を費やしてきた」とマスターズは続けて語る。「彼らの政策はかなりひどいものだったが、・・・組織化に関しては非常に効果的だった。・・・右派は長い間現状維持に甘んじており、その組織はまさに崩壊し始めていたのだ。」
出席者の中には、MAGA(Make
America Great Again)運動にネットワークの問題があることに気づいた者もいた。コーク兄弟のような右派の献金者たちは長年組織を築き上げてきたが、トランプを支持する富裕層や、バスカークが代表する新たな右派思想の集団は「実際にはお互いをよく知らなかった」とバスカークは述べた。そして、トランプに投票した人々―労働者階級の層も含む―もまた、組織化されていなかった。
「調整もなければ、管理も計画もなかった。全てが成り行き任せだった」とバスカークは当時を振り返る。「よし、この2つの問題を解決すれば、他の全てがより良く、より効果的になる。さあ、その解決に取り掛かろうと私たちは話し合った」。
●ムーヴメントの創設(The making of a movement)
サミットから活気を取り戻したバスカークは、政治組織化の研究に没頭し始めた。彼はまず基本原則から始め、1980年代に出版された影響力のある左派組織化マニュアル『ルーツ・トゥ・パワー(Roots to Power)』を読んだ。
ヴァンスと共に、バスカークは左右両派の政治組織の事例研究を始め、その失敗と成功を記録していった。中でも全米ライフル協会(NRA)は際立っていた。バスカークと彼の仲間たちは、NRAは2つの支持層のうちの1つ、つまり憲法修正第2条の擁護者を組織化することには非常に成功していたと結論づけた。しかし、もう1つの支持層である狩猟を愛するアウトドア愛好家は、それほど組織化されておらず、有権者登録をする可能性も低かった。
しかし、1960年代から民主党支持層の中心だったアウトドア愛好家たちは、トランプに投票した層とかなりの部分で重なり合っていた。
「これは埋めなければならない空白だ」とバスカークは述べ、もし「彼らが注目するに値する何か」を見つけることができれば動員できると付け加えた。
クリス・バスカークは、政治組織運営について自ら研究することを決意した
バスカークはロックブリッジの活動について詳細を語ろうとはしないが、大まかに言えば、所属団体に基づいて人々をソーシャルメディアグループに誘い込むための、古典的なオンライン販売ファネルを考案したと述べている。対象となったのは、中小企業の経営者、アウトドア愛好家、教会の信者などだった。
これは、選挙直前に大量の広告を流し込むなど、「力ずく(brute force)」で人々を味方につけようとする政治組織のやり方とは正反対だとバスカークは言う。ロックブリッジは対照的に、より段階的なアプローチをとった。「信頼関係を築き、人々に何らかの利益を提供する。そうして初めて、彼らに何かを頼むことができるのだ」。
2022年4月、ヴァンスは初めて、当選の見込みは薄いものの、政治家への立候補を表明した。マリクはパームビーチのレストランで、ヴァンスのための小規模な資金集めパーティーを主催した。マリクは、新型コロナウイルス対策の規制や、テクノロジー企業による新型コロナウイルスに関する言論統制に反発し、民主党を離党した後、前年にニューヨーク市からパームビーチに移住していた。バスカークはドナルド・トランプ・ジュニアと共にこの会合に出席した。
一行はその後、バスカークがロックブリッジのカンファレンスを主催していたマール・ア・ラーゴへと移動した。
彼らは、オンライン検閲に対する怒りや、持続可能性や多様性といったリベラルな優先事項のために技術革新が阻害されているという感覚を共有し、一週間を共に過ごした。
マリクは、「私たちの多くはほぼ同年代だ。このグループが『世代交代(a
generational shift)』の兆しを見せていると感じている」と語った。
マリクとバスカークは翌年、共同で1789キャピタルを設立した。社名は、権利章典が提案された年にちなんで名付けられた。当初、1789キャピタルはマリクが「反ウォーク企業」と呼ぶ企業に特化していた。最初の投資先は、フォックスニューズを追われたタッカー・カールソンが設立した新しいメディア・エンターテインメント企業であるラスト・カントリーだった。その後、両パートナーはオンライン銃器マーケット・プレイスのグラバガン、アスリートがパフォーマンス向上薬を服用できるエンハンスド・ゲームズ、防衛向けAI工場を開発するスタートアップのハドリアンにも投資した。(両パートナーは、イーロン・マスクの3社、スペースX、ニューラリンク、xAIにも出資している。)
ダラスを拠点とするスタートアップ企業ファイアホーク・エアロスペースのウィル・エドワーズは、ミサイル用固体ロケット燃料の3Dプリントを専門としているが、シリコンヴァレーの多くのヴェンチャーキャピタリストは、軍事専用企業への投資を望まなかったため、彼のプレゼンテーションをきっぱりと拒否したと語っている。
「クリス(・バスカーク)はそれを馬鹿げていると思った」とエドワーズは語った。
その後、ファイアホークに6000万ドルを投資する資金調達ラウンドを主導したバスカークは、特に関心を示し、ダラスまで足を運び、エドワーズの工場を視察した。バスカークによれば、そこでは大卒資格を持たない労働者でも6桁の収入を得ることができるということだ。
バスカークは、エドワーズの会社は投資家たちの政治的主張を経済的に証明するものだと考えている。アメリカが再びiPhoneやナイキの靴を製造する可能性は低いが、特に国防分野において産業基盤を活性化させ、中間層の回復に貢献できるとバスカークは述べている。
この目標は、ジョー・バイデン大統領が2022年に520億ドル規模の「チップス法」に署名した際にも達成しようとしたもので、この法律は、国内の半導体製造に対する過去最大規模の支援策として、先端製造業の雇用を国内に戻すことを目的としていた。トランプは、この補助金を無駄遣いだと批判し、一部の資金を回収した。
アメリカン・エンタープライズ研究所のエコノミストであるマイケル・ストレインは、MAGA運動の政治的レトリックは、アメリカの実際の経済状況を誤解していると述べた。製造業の雇用喪失の主な要因はアウトソーシングではなく技術革新であり、国内製造業がアメリカを再生させると主張する人々の多くは、人工知能による大規模な労働力削減を推進している投資家と同じであると指摘した。
アメリカン・コンパスのキャスは、労働者階級のコミュニティを再建するために必要な投資規模は、1789キャピタルや他の同様の投資家が投入できる額をはるかに超えていると述べた。しかし、バスカークとそのパートナーが資金提供している実験は、「先駆的な取り組み(blaze a trial)」であるため重要だとキャスは語った。
ロックブリッジとスーパーPACが2024年の選挙に与える影響は十分に理解されていない。ロックブリッジ傘下のスーパーPACであるターンアウト・フォ・アメリカは、チャーリー・カークのターニング・ポイント・アクションなど、トランプ陣営のために激戦州で戸別訪問活動を行った数少ない団体の1つだった。連邦選挙委員会(FEC)の記録によると、ターンアウト・フォ・アメリカは2024年の選挙サイクルに3450万ドルを費やしたが、これはイーロン・マスクのアメリカPACの2億6100万ドルをはるかに下回る額である。
しかし、ロックブリッジの内部データは一定の効果を示唆しており、関係者たちはこれを長年にわたる有権者プロファイリングと動員活動の成果としている。このスーパーPACは、7つの激戦州において、投票率の低い数百万人の有権者を特定し、投票を促すことでトランプ氏に投票する可能性が高いと判断した。ロックブリッジは、これらの有権者の40%を投票所へ向かわせることができれば、トランプがこれらの州で勝利できると試算した。内部統計を直接知る2人の関係者によると、最終的にロックブリッジの3000人の戸別訪問員は50%の投票率を達成したという。
今日、このグループの雰囲気は高揚感に満ちている。バスカークによると、選挙後、関心が急上昇し、新規メンバーの約半数がテクノロジー業界出身だという。メンバーの中には億万長者も複数おり、著名な投資家であるマーク・アンドリーセンとデイヴィッド・サックスも既にメンバーとなっている。
それでも、バスカークの招待でロックブリッジに加わったファイアホークの創設者エドワーズは、イヴェントは温かい雰囲気で、「お互いの会社を楽しむ親しい人たちの集まりのようだ」と語った。エドワーズは二世帯住宅に住み、トヨタ車を運転しているという。年齢層も幅広く、バスカークの息子で最近大学を卒業したクリスも所属する30歳未満の次世代メンバーグループ「ネクストジェン(NextGen)」に参加している。
ミネソタ大学の企業法教授で、ジョージ・W・ブッシュ政権で首席倫理担当法律顧問を務めたリチャード・ペインターは、ロックブリッジ、1789キャピタル、そして行政府への関心の高まりは、「金で便宜を図る(pay to play)」ネットワーク、つまり政権幹部やトランプ一家への接触を得るために金銭を支払う人々のネットワークという印象を与えると述べた。(ペインターはまた、もし自分の時代にこのような集まりがあったなら、政権幹部には出席しないよう助言するだろうとも述べている。)
バスカーク氏は、この批判についてコメントを拒否した。
海外出張中に送ったテキストメッセージの中で、バスカークはアメリカの偉大さは「高い信頼関係のもとで協力し合う、才能豊かで主体性の高い人々を意図的に育成することによってのみ達成される(by the intentional cultivation of talented, high-agency people
working together in high-trust environments)」と述べた。
彼の著書には、ルネサンス期のフィレンツェ、20世紀半ばのアメリカ、そして産業革命期のイングランド、ランカシャー州など、エリートのネットワークが社会を前進させた歴史的な事例が挙げられている。スコットランド啓蒙主義(the Scottish Enlightenment)は実際には「数十人の人々による活動」であり、彼らは「セレクト・ソサエティ(the Select Society)」という私的な社交クラブで「長年にわたる友情を育んだ」と彼は指摘する。
現在について、驚くほど革新的な歴史的時代との類似点が見られ始めているが、「アメリカの潜在能力が完全に開花するという保証はない(the full flourishing of America’s latent potential” was not
guaranteed)」とバスカークは述べた。
バスカークは「そうなることを祈っている。やるべきことは山積みだ」と語った。
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バンス氏は「複雑な右派の媒介者」 米思想家が語るMAGA指導者像
日本経済新聞 2026年4月9日 7:32
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN08CW40Y6A400C2000000/
【ワシントン=飛田臨太郎】バンス米副大統領は共和党内で次期大統領候補の有力者と目されている。バンス氏と関係が近い保守系シンクタンク、クレアモントのフェローで政治思想家のスコット・イエノール氏に理由を聞いた。
「右派は左派よりもはるかに複雑な政治的有機体といえる。例えば、シリコンバレーのテック系右派は移民拡大を望むが、MAGA(マガ)のなかには移民制限派もいる。(科学技術によって人間の身体や精神の限界を超えようとする)トランスヒューマニズムへの賛否も衝突の火種だ」
「右派内には多くの緊張関係があり、それを仲介できる人物がリーダーとして必要だ。バンス氏はどちらにも属しており、彼を軸に双方が交われる。右派の全ての陣営が信頼を寄せられる人物が必要であり、バンス氏は間違いなくその一人だ」
「バンス氏はテック業界に深いつながりを持ち、同時にキリスト教の美徳を重視する。そしてバンス氏に近い(著名投資家の)ピーター・ティール氏やイーロン・マスク氏は同じ哲学を共有している。米国の主権や世界通貨としてのドルに与える中国の脅威認識でも一致する」
「バンス氏の偉大な貢献はシリコンバレーにいた彼らに国家と産業の関係について考えさせていることだ。シリコンバレーをグローバリズムのためでなく、米国や米国民のために奉仕するよう、より深化させていくだろう」
「ルビオ米国務長官は『バンス氏が次期大統領選に立候補したら、自分は立候補しない』と言っているようだ。私はそれを信じる。仮にバンス氏が大統領になれば、ルビオ氏は副大統領に就くか国務長官を続投するとみている」
「MAGAは法の下での平等を支持する。科学を基盤として自由な探究を重視しており、このことも誰の下でも変わらない。自由や平等、米国の核心的価値観の順守は維持するべきだ」
「一方で自由貿易や、米国の国益でなく世界の利益を重視するという外交政策、つまり戦後コンセンサスといわれてきた自由主義は私たちが乗り越えなければいけないと考えている対象だ」
「リーダーがトランプ米大統領からバンス氏に変わればMAGA運動は間違いなく変化していく。あらゆる政治運動は構成要素が変われば変化する。人工知能(AI)がどう進展するか、トランプ氏のカリスマ性がMAGA運動から失われた後にどうなるのか、世界情勢はどうなっているかに左右される」
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』






















