古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 ウクライナ戦争は2022年2月に始まってもうすぐ3年が過ぎようとしている。初期段階でウクライナ軍が善戦してロシア軍の進撃を止め、西側諸国がロシアに経済制裁を科して戦争は早期に集結するかと思われたが、結局、ロシアは経済制裁を受けても持ちこたえ、戦争は継続している。

西側諸国はウクライナに支援を続けているが、そのほとんどはアメリカが負担している。ウクライナ戦争停戦を訴えて当選した、ドナルド・トランプ次期大統領が正式に就任するのが2024年1月20日で、それ以降、ウクライナ戦争の停戦協議は本格化すると考えられる。現状は、ウクライナは東部や南部で奪われた地域を奪還できていないが、ロシア領内クルスク州の一部を占領している。地図を見てもらえれば分かるが、ロシアにとっては喉に刺さった小骨程度のことであるが、やはり、ここを奪還できるかどうかということは重要になってくる。ウクライナとしてはクルスク州を取引材料にして、ロシアから何らかの条件を引き出したいところだ。
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 ロシアとしては、停戦協議にはクルスク州を奪還してから応じたいところだ。アメリカの支援が切れる今年1月以降に攻勢をかけて、ウクライナ軍をロシア領内から撤退させ、それから停戦交渉をするということになる。また、自分たちで攻勢をかけなくても、トランプ大統領に停戦協議に応じたいが、クルスク州を奪還しない限り無理だと言えば、トランプ大統領が、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に圧力をかけてウクライナ軍を撤退させるということも外交交渉で出来るだろう。

 停戦後に、平和維持活動として、ポーランドとフランスがウクライナに将兵4万人を派遣するという計画があるという報道もある。ウクライナのゼレンスキー大統領がウクライナのNATO加盟の必要性を訴え、NATO加盟まで、外国の軍隊の駐留を求めるという発言があった。これはロシアを非常に刺激する発言であり、ポーランドとフランス両国の軍隊がウクライナに4万人も駐兵するということはロシアにとって受け入れがたいことだ。ウクライナとしては逆に、外交交渉の材料として、NATO加盟と外国軍隊の駐留を取引材料に仕える可能性もある。ここで重要なのはポーランドである。ポーランドは中欧の大国であるが、同時に、歴史的にヨーロッパ全体に不安定要因ともなる国家である。ポーランドは、反ロシアという点ではウクライナと共闘できるが、ウクライナの南西部ポーランド国境地帯ガリツィア地方には実質はカトリック教徒のユニエイトがおり、ウクライナとの関係が深い。ポーランドがウクライナ南西部の支配を狙っている可能性がある(ロシアがウクライナの頭部を持っていったんだから自分たちもという考え)。
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 ウクライナ戦争の停戦交渉はロシアの占領地域はそのままという現状を認めるところが前提となり、ウクライナのNATO加盟を認めるかどうか、外国軍駐留を認めるかどうかというところになるだろう。軍事同盟ではないEU加盟については、ロシアも認められるところがあるだろう。しかし、EU側が負担増大を懸念してウクライナの加盟を認めない。トランプ次期大統領がNATOからの脱退も示唆しており、NATOの力が弱体化し、西側諸国の国力も低下している中で、ウクライナは西側とロシアの間で両天秤をかけるという柔軟な動きが必要となってくる。

(貼り付けはじめ)

●「ポーランドとフランス、軍派遣を協議か 戦闘終結後のウクライナに」

毎日新聞 2024/12/12 09:37(最終更新 12/12 09:37

https://mainichi.jp/articles/20241212/k00/00m/030/036000c

 ポーランドのメディアは11日、同国とフランスが、ロシアとの戦闘終結後のウクライナで平和維持活動に当たる4万人規模の外国軍派遣の可能性を協議していると報じた。フランスのマクロン大統領は12日にポーランドの首都ワルシャワでトゥスク首相と会談する予定で、議題に上るとみられる。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、自国の安全を保証するには北大西洋条約機構(NATO)加盟が必要だとした上で、加盟までの間、外国軍が駐留する案を検討していると述べていた。

 マクロン氏とゼレンスキー氏は7日、トランプ次期米大統領を交えた3者会談をパリで行っており、こうした案を議論した可能性もある。

 フランスのルモンド紙は11月、フランスと英国が欧州各国からのウクライナへの派兵を議論していると報じた。米メディアによると、トランプ氏の政権移行チームでは、ロシアとの戦闘を凍結し非武装地帯が設けられた場合、欧州諸国が警備を担う案が浮上している。(共同)

 

 

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ウクライナのクルスク侵攻がもたらす地政学的チャンス(The Geopolitical Opportunity of Ukraine’s Kursk Offensive

-ウクライナのクルスク侵攻はワシントンに対して、より賢いアジアへの意向(pivot to Asia)を示す道となる。

A・ウェス・ミッチェル筆

2024年8月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/15/kursk-ukraine-russia-offensive-incursion-china-asia-us-geopolitics-strategy/?tpcc=recirc062921

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ウクライナのロシアへの奇襲侵攻の中、破壊された国境検問所を通過するウクライナの軍用車両(2024年8月14日)

現在、クルスク地方で進められているような、ウクライナのロシア本土への侵攻は、アメリカの地政学的課題を順序立てて解決するという広範な戦略の一環として、戦争をより迅速に終結させる好機である。ロシアの侵攻2日目に私が『フォーリン・ポリシー』誌に書いたように、このような順序立ての戦略は、中国、イラン、ロシアとの同時かつ多方面にわたる戦争を回避するための最良の選択肢である。ウクライナ人が最近の成果を強固なものにし、おそらくそれを土台にするのに必要な手段を与えることで、ワシントンはキエフがモスクワを交渉のテーブルにつかせるのを助け、西側諸国が再武装する時間を稼ぎ、アメリカがインド太平洋に関心を移すのを可能にするチャンスがある。しかし、そのためには、ジョー・バイデン政権が、ウクライナによるアメリカ製兵器の使用制限を撤廃し、紛争の明確かつ達成可能な最終状態を定義する必要がある。これはリスキーではあるが、中国かイランが二正面戦争でアメリカと対峙するまでウクライナに援助を垂れ流すという選択肢よりは望ましい。

クルスク攻防戦がチャンスを生み出すには、この攻防戦が2022年以降のウクライナのロシア侵攻作戦とどう違うのかを理解する必要がある。第一に、ウクライナで最も優秀で西側で訓練された部隊を含む少なくとも5個旅団(brigades)の要素に加え、戦車、大砲、無人機、戦闘機が関与しており、規模がはるかに大きい。

第二に、今回の侵攻は過去の侵攻よりもはるかに深い。詳細は確認されていないが、ウクライナ側は国境のロシア側にある70以上の村、鉄道路線、重要なガス中継ハブ、合計1000平方キロメートル(386平方マイル)以上を支配しているようだ。第三に、ウクライナ側は急襲(raid)に成功しても立ち去るどころか、更に兵力と装備を投入し、侵攻を強めているようだ。

まだ多くのことがうまくいかない可能性がある。1つは、ロシア軍が攻撃している他の戦線からウクライナの兵力を引き離す可能性があることだ。モスクワはクルスクへの新戦力の投入を遅らせているが、ロシア軍にはまだ多くの予備兵力がある。

それにもかかわらず、この侵攻によってロシアの意外な弱点が明らかになった。ロシアの国境はほとんど守られていなかった。ウクライナ軍は戦略的な奇襲を仕掛け、敵国に戦争を持ち込み、ウクライナに必要な士気を高めた。ウラジーミル・プーティンは今、この攻撃を厄介なものとして軽視し、徴兵制(政治的に不人気な行動)と国内治安部隊、そして再配置された少数の前線部隊でやり過ごすか、あるいはウクライナ人を退去させ、より大規模な再配置で国境の残りの部分を強化するかというディレンマに直面している。つまり、ウクライナの橋頭堡を封じ込めることはできても、追い出すことはできそうにない。

数的劣勢にもかかわらず、ウクライナ側が地歩を固める可能性は十分にある。これまでのところ、この戦争では、陣地戦(positional warfare)における攻撃よりも防御の方が思いのほか有利であることが明らかになっている。秋の雨季を間近に控え、ウクライナ軍は容易に離脱できないような強固な突出部を形成できる可能性がある。今後、ロシア側は、ウクライナの長くて、穴だらけの国境を監視するために、より多くの軍隊を配備することを避けられないだろう。

このような事態は戦略的に重要である。それは、これまでロシアが勝利のセオリーとしてきた、戦争を長引かせることが、より大規模でおそらくより強力な紛争当事者であるロシアに有利に働くという考えに疑問を投げかけるからだ。クルスク作戦が最終的に失敗したとしても、現在の膠着状態を逆転させ、ウクライナが相対的に有利になるようなウクライナの戦略を描くことができる。プロイセンの軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツが19世紀に記したように、「軽く保持された、あるいは無防備な地方の占領は、それ自体が有利であり、この有利さが敵に最終的な結果を恐れさせるのに十分であれば、それは平和への近道と考えることができる」。もしキエフが小規模でもロシアの国境地帯を占領し、保持することができれば、モスクワは自国の領土において、西側の制裁によってこれまで耐えてきたことよりも重大な痛手を被る可能性を考慮しなければならなくなる。

これらは全て、より広範なアメリカの戦略に影響を与える。私は以前から、ウクライナにおけるロシアの戦争に対するアメリカの最適なアプローチは、中国が台湾に対して準備するよりも速い時間軸で、ロシアに代理敗北を与える機会として利用することだと主張してきた。過去2回の国家防衛戦略で、アメリカは複数の主要な相手と同時に戦争する準備ができていないことが明らかになった。ロシアの継続的な侵略に対して集中的かつ規律ある方法で資源を使うことで、アメリカはヨーロッパに対するロシアの脅威を弱め、その上でインド太平洋における抑止力を強化するための余地(bandwidth)を確保するチャンスがある。

問題は、アメリカが敵国ほど時間をうまく使えていないことだ。ウクライナ戦争が始まって以来、アメリカの国防予算は比較的横ばいで推移している。中国はこの時間を利用して、自国の銀行業界を制裁から守り、エネルギー供給をアメリカが混乱させにくいルートへと方向転換し、台湾近辺に攻撃部隊を増強し、アメリカとの核バランスを達成する努力を加速させている。イランはこの間、国防予算を増やし、中東全域の代理勢力に軍備を提供し、核兵器開発期間をほぼゼロに縮めてきた。

敵国が24時間体制で武装している一方で、アメリカは自国の防衛産業基盤を、ウクライナを支援できる状態にまで引き上げるのに苦労している。国防総省の推計によれば、アメリカは毎月8万発の155ミリメートル榴弾砲の砲弾を生産する予定だ。ウクライナが防衛陣地を維持するだけでも月に少なくとも7万5千発が必要であること、そして1990年代半ばには、アメリカが月に80万発以上の砲弾を生産していたことを考えるまでは、この数字は印象的だろう。オランダと同規模の経済規模を誇るロシアは現在、アメリカとヨーロッパを合わせた量の3倍の弾薬を生産している。最近の試算によると、アメリカがウクライナに提供したパトリオットミサイル迎撃機、ジャヴェリン対戦車システム、スティンガー防空システムの在庫を補充するには、現在の生産レヴェルで5年かかるという。

ヨーロッパの状況は更に悪い。高飛車な美辞麗句を並べ立てながらも、ほとんどのNATO諸国は、戦争を抑止するための必須条件である戦争への備えについて、中途半端な努力しかしていない。再軍備への意欲を好転させると宣言したにもかかわらず、ドイツは過去2年間、国防予算の不足を容認してきた。最近ではウクライナ支援を半減させ、2025年の国防予算はドイツ国防省が要求した額ではなく、インフレを補うのがやっとというわずかな増額にとどめた。2022年と2023年のNATO首脳会議で、西ヨーロッパの同盟諸国がNATOの東側に師団規模の部隊を配備すると約束し、その後、東側の防空を改善すると約束したが、実現されていない。最近の報告書によれば、ヨーロッパには長期にわたる紛争を遂行するための「備え、産業能力、サプライチェーン、雑誌の充実度、兵站、質量、資源、そして特に『戦う意志(will of fight)』が欠けている」という。

要するに、ワシントンとその同盟諸国は、ロシアの侵攻という衝撃を受けてからの時間を賢く使わなかったが、敵対国は賢く使ったということだ。2年以上前から、主要先進諸国との長期にわたる紛争にどのような規模の努力が必要かは明白であった。それにもかかわらず、アメリカもその同盟諸国も、そのような事態に備えるために必要な準備に近いものは何もしてこなかった。

このような背景から、クルスク侵攻のようなウクライナのロシアへの侵攻は戦略的な意味を持つ。もしウクライナ側が、ロシアの小さな地域さえも危険に晒すことができることを証明できれば、時間さえかければ、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領に、キエフにとってより有利な条件で交渉のテーブルにつかせることができるかもしれない。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、これが作戦の目的だと明言している。プーティンは、「敵は将来的に交渉の立場を改善しようとしている」と発言し、それを認めた。

東ヨーロッパ戦争の最終段階で領土が果たしてきたユニークな役割を強調するのは価値があることだ。過去において、ロシアが戦争後に不利な条件を達成できなかったのは、相手がロシアの領土を保持していたときだけである。例えば、1921年のポーランド・ソヴィエト戦争終結時、ソヴィエト・ロシアはポーランド軍がソ連領の一部を占領した後に西進を終了した。これとは対照的に、フィンランド・ソヴィエト冬戦争では、フィンランド軍がほとんどの軍事戦に勝利したにもかかわらず、ソヴィエト領土を占領することができなかったため、フィンランド領土の大部分を割譲して終結した。

言い換えれば、ウクライナにとって領土は、ロシアに対する制裁緩和やその他の経済的インセンティヴよりも価値のある、最も重要な影響力なのである。したがって、西側諸国の目的は、ウクライナにとって可能な限り最良の条件で、できるだけ早く戦争を終結させる方法として、ゼレンスキーがロシアの領土を保持するのを支援することであるべきだ。

そのためには、バイデン政権はこれまでやりたがらなかった2つのことを実行する必要がある。第一に、戦場での優位性を維持するために必要な武器をウクライナに提供し、キエフがそれらの武器を使用する方法に対する制限を撤廃すべきである。これにはリスクがない訳ではなく、ロシアはNATOやアメリカを直接脅かす形で紛争をエスカレートさせて対応する可能性がある。しかし、これらのリスクは、代替案のリスクと対比させて考慮する必要がある。例えば、ヨーロッパが安定する前にアジアを優先しようとする試みや、イランに対する先制攻撃など、より劇的で危険な試みである。おそらく最悪は、現在の漸進的な路線を継続することであり、その場合、アメリカの軍事備蓄が枯渇した瞬間に台湾に対する中国の動きでアメリカ政府に直面する可能性があり、おそらくそれ自体がさらにエスカレートする可能性を秘めたシナリオとなるだろう。

第二に、ワシントンは戦争に対する明確で達成可能な政治目標を定義する必要がある。その目標は、2022年2月までのウクライナの国境内に主権を回復し、独自の外交政策を担当し、経済的に実行可能で軍事的に強力になることである。それは本質的に価値がある。また、将来のロシアのヨーロッパ侵略に対する防波堤(breakwater against future Russian aggression)として機能する可能性もあり、それによってアジアにより重点を置くというアメリカの目標を支援する。

これらの線に沿ってアメリカの目標を定義することは、バイデン政権の曖昧で不安定な戦争アプローチを放棄することを意味する。バイデン大統領は、最終目標について、ロシアの体制転換(regime change)であると繰り返し示唆した。明らかに達成可能ではないことに加えて、このような、アメリカの目標を組み立てると、戦場で交渉が望ましい地点に達したときにアメリカがウクライナを支援することが困難になる。外交とは、侵略に直面したときの降伏や甘い合理性のことではない。むしろ、クラウゼヴィッツが書いたように、それは国家が「敵軍を殲滅するよりも目標に向かうより短い道(shorter route to the goal than the destruction of the opposing armies)」を見つけるための重要な媒体である。

制限のない軍事援助の拡大と最終目標の明確化という両方の点で、ワシントンとその同盟諸国は緊迫感を持って行動する必要がある。時計の針はアメリカに不利に働いている。時間が賢明に活用されていないという単純な理由で、順序決定戦略は2022年当時よりもリスクが高まっている。しかし、配列決定のリスクは、代替手法のリスクよりも依然として低い。配列処理には、おそらく最後の一押しが必要となる。

だからこそ、ウクライナ人を助けると同時に、複数の大国が敵対する戦争でアメリカ軍を支援できるよう防衛産業基盤の整備を急ぐという、2つの側面からアプローチすることが重要だ。また、ワシントンがヨーロッパの同盟諸国に対し、戦争に備えて現在行っている以上のことを行うよう働きかけることも重要だ。そうでなければ、得られるのは短い猶予だけで、アメリカが戦争を抑止するためにアジアでの態勢を強化することはできない。

戦略は固定されたものではなく、状況に応じて決まる。アメリカとその同盟諸国は現実と差し迫った選択に目を覚ます必要がある。アメリカが真剣に戦争の準備を始めない限り、実際には一度に一つ、あるいはもっと悪いことに複数の戦争を同時に戦わなければならないことになるかもしれない。

A・ウェス・ミッチェル:「ザ・マラソン・イニシアティヴ(The Marathon Initiative)」代表。トランプ政権でヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める