古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:グレアム・アリソン

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 日本でも一部の極端な主張する右派の人々が核武装論を振りかざしている。その馬鹿さ加減は救いようがないが、ある意味では、彼らは「平和ボケ」の「幸せな」人々である。実際に核兵器を持ち、自国の国民を危険に晒すことになるかしれないということを死ぬほどの苦しみで悩み、考え抜く、超大国の最高指導者や最高指導層の苦しみに思いが至らない、なんとも単純で、幸せな頭の構造をしていて、何よりも想像力と思考力が圧倒的に欠如している。私はここまで書きたくはないのだが、書かざるを得ないほどの惨状を呈している。

 下に掲載した論稿を読めば、核兵器は使用できない平気であり、核戦争を戦ってはいけない戦争であることがよく分かる。「核戦争は決して戦ってはいけない」という言葉を残したのは、タカ派で知られるロナルド・レーガン大統領だ。ソ連を悪の帝国として、冷戦に勝つために、軍拡競争で仕掛けた、レーガン大統領でさえも、核戦争は勝利できない、相手を殺すために、自分を殺すことになる、自分を殺さねば相手を殺せないということがよく分かっていた。

 ウクライナ戦争は既に3年以上が経過ししている。この間に、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は核兵器使用を示唆する、脅迫的な言動を行った。それに対して、アメリカのジョー・バイデン政権は抑制的な態度を取った。ウクライナを使って「火遊び」をしていたアメリカにしても、核兵器使用、核戦争だけは絶対に避けねばならないということはコンセンサスとして持っていた。それで、ウクライナに戦闘機支援などを行わらず、しかし、多額の軍事援助を行うという最悪の選択を行い、戦争が長引き、ウクライナの人々と国土が大きく傷つくことになった。

 ドナルド・トランプ政権はウクライナ戦争の停戦に向かって動いている。考えてみれば、ロシア側はバイデン政権下では停戦のための交渉に乗ってこなかった。トランプになって、大きく動き始めた。これだけでもトランプ政権発足の意義は大きい。このように書く人は日本では多くないだろうが。

 核兵器が登場し、日本の広島と長崎で実際に使用されて以降、核兵器が自国への攻撃や戦争を抑止する効果を持たず、自国の国民を危険に晒す「無用の長物」となっている。日本は核武装等するべきではない。全く意味を持たない。日本が核武装をする、正確にはアメリカによって核兵器を持たされる時には、中国との直接衝突、日本への核攻撃をさせたいという意図がある時だ。アメリカに中国からの核攻撃を受けないために、弾よけにするためだ。中国に対する核攻撃は日本がやったことで、日本が被害を受けるという形にしたいとアメリカが考えれば、日本に核兵器を持たせることになるだろう。だから、私たちは何があっても、核兵器を持ってはいけない。日本が核兵器を持てば、日本の存亡の危機が高まる。用心して慎重に動かねばならない。

(貼り付けはじめ)

プーティンが終末をもたらすという脅威(Putin’s Doomsday Threat

-ウクライナでキューバ・ミサイル危機の再発を防ぐにはどうすべきか

グレアム・アリソン筆

2022年4月5日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/articles/ukraine/2022-04-05/putins-doomsday-threat

ロシアのウクライナ侵攻が頓挫し、その勢力が東部の戦場に軸足を移したことで、戦争は新たな、より暗く、より危険な局面を迎えつつある。マリウポリはその未来を予見させる。ロシアの都市グロズヌイを「解放する(liberate)」ために爆撃して瓦礫と化し、シリアの独裁者バシャール・アル=アサドとともにアレッポを破壊したウラジーミル・プーティンは、大量破壊に対して道徳的な遠慮がないことは確かだ。更に、ウクライナでの戦争は今や紛れもなくプーティンの戦争であり、ロシアの指導者プーティンは、自分の政権や命さえ危険に晒すことなく負ける訳にはいかないことを知っている。そのため、戦闘が続く中で、彼が不名誉な撤退(an ignominious retreat)をするか、暴力のレヴェルをエスカレートさせるかの選択を迫られた場合、私たちは最悪の事態に備える必要がある。極端な話、その事態には核兵器も含まれるかもしれない。

ロシア軍が罪のない一般市民を凄惨な方法で殺害しているという証拠が増加していくにつれて、アメリカとヨーロッパの同盟諸国は、戦争を拡大させる危険性のある方法で介入するよう、高まる圧力に直面している。ジョー・バイデン米大統領は、世界的な連合(a global coalition)を動員し、世界がかつて経験したことのないほど包括的で痛みを伴う制裁措置をロシアに科している。バイデン大統領は、プーティンとその支持者たちを事実上追放し、西側世界の多くで彼らを「社会的に排除された人々(pariahs)」にした。アメリカはNATO加盟の同盟諸国と一緒に、勇気をもって自由のために戦っているウクライナ人に大量の武器を供給している。しかし、多くのアメリカ人は、地球上で最も強力な国家の国民として、バイデン政権にこれ以上何ができるのかと問いかけていることだろう。既に識者や政治家たちの間では、ウクライナの上空に飛行禁止区域を設定したり、ポーランドのMiG29をキエフに譲渡したりするようバイデンに求める声が上がっている。

しかしながら、これらの要求が考慮していないのは、冷戦の中心的な教訓である。核保有超大国の軍隊(military forces of nuclear superpowers)が、互いに相手を数百、数千人殺したり、殺す可能性のある選択肢を真剣に検討したりする熱い戦争(a hot war)に巻き込まれた場合、そこから核戦争がもたらす究極の世界的大惨事(the ultimate global catastrophe of nuclear war)に至るまでのエスカレーションは驚くほど短い可能性がある。教科書的な事例は、1962年のキューバ・ミサイル危機である。

アメリカの偵察機が、ソヴィエト連邦が核弾頭ミサイルをキューバに密かに持ち込もうとしているのを捕捉したとき、ジョン・F・ケネディ米大統領は即座に、この行動は許されないと判断した。彼は、ディーン・ラスク国務長官が「目をそらさずににらみ合う(eyeball-to-eyeball)」と評したソ連のニキータ・フルシチョフ首相と対決した。これは米海軍による、キューバの海上封鎖(a naval blockade of Cuba)から始まり、ミサイル基地への空爆という脅迫の最後通牒(an ultimatum threatening air strikes on the missile sites)で終わった。歴史家たちは、これが歴史上最も危険な瞬間であったことに同意している。 13日間の終わりに近づいた静かなひととき、ジョン・F・ケネディは弟のボビー(ロバート)・ケネディに個人的に、この対立が核戦争に終わる可能性は「3分の1」だと考えていると打ち明けた。その後数十年間に歴史家が発見したものは、その可能性を少しでも高めるものではなかった。もし戦争が起こっていたら、1億人のアメリカ人とそれ以上のロシア人の死を意味していたかもしれない。

この危機で学んだ教訓は、それ以降の数十年間、核兵器に関する国家運営(nuclear statecraft)に活かされてきた。60年もの間、同じような対立がなかったため、核戦争が起こるということは、専門家たちの多くにとってほとんど考えられないことであった。幸いなことに、バイデンと政権の主要メンバーたちはよく分かっている。プーティンの挑戦に対応するための戦略を分析検討する中で、ロシアの国家安全保障戦略には、相手が核兵器を使用していない、あるいは使用すると脅していない場合でも、特定の状況下では核兵器を使用することが含まれていることをバイデン政権の主要メンバーたちは知っている。彼らは、ロシア軍がドクトリンとして「エスカレートからデスカレートへ(escalate to deescalate)」と呼ぶ、ロシアとその同盟諸国に対する大規模な通常の脅威に対抗するために戦術核兵器を使用することを予見したドクトリンを実践しているロシアの軍事演習を調査研究している。

従って、専門家のほとんどがプーティンの「あなた方の歴史上経験したことのない結末(consequences you have never experienced in your history)」という暗い脅しや、ロシアの核戦力を「特別戦闘準備態勢(special combat readiness)」に置くことを単なる妨害行為と見なしているのに対し、バイデンのティームはそうではない。例えば、プーティンが通常戦場で自軍が大敗を喫したと判断した場合、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領を降伏させるために、ウクライナの小都市の1つに戦術核兵器(低収量の爆弾だが、それでも壊滅的な結果をもたらす)を使用する可能性は否定できない。もしアメリカがこれにある種の対応をすれば、キューバをめぐる対立以上に危険な核のチキンゲーム(chicken game)が展開されることになる。

●対立が如何にして核戦争にまで深刻化するか(How Confrontations Go Nuclear

1962年の力学はどのようにして核戦争にまで結びつくものとなったのだろうか? この危機を分析したアナリストたちは、アメリカの都市を焼却することになった可能性のある、もっともらしい道筋(plausible paths)を10以上挙げている。最速の1つは、当時ケネディでさえ知らなかった事実から始まる。ケネディと側近たちにとって核心的な問題は、ソ連がアメリカ大陸を攻撃できる中・超中距離核ミサイル(medium- and intermediate-range nuclear missiles)をキューバに設置するのを阻止することだった。しかし彼らは、ソ連が既に100発以上の戦術核兵器をキューバに配備していることを知らなかった。更に言えば、そこに配備された4万人のソ連軍は、攻撃された場合にそれらの兵器を使用する技術的能力と認可の両方を持っていた。

例えば、あの致命的な危機の12日目に、フルシチョフがケネディの最後の解決策の提案をきっぱりと拒否したと想像してみて欲しい。ケネディは、ソ連がミサイルを撤退すればアメリカはキューバに決して侵攻しないと誓うという取引を提案し、それにフルシチョフが拒否すれば24から48時間以内にキューバを攻撃するとの非公式の最後通牒(a private ultimatum)を与えていた。ケネディは否定的な反応を予想して、その時点で、キューバ島のミサイルを全て破壊する爆撃作戦を承認していた。また、この直後に侵攻し、攻撃を逃れた兵器を確実に除去することになっていた。しかし、アメリカ軍が島に上陸してソ連軍と交戦したとき、アメリカ軍司令官たちは存在を知らなかった戦術核兵器の標的になっていた可能性が高い。これらの兵器は、彼らを島に輸送したアメリカの船を沈没させただろうし、おそらく侵略者が来たフロリダの港にも打撃を与えただろう。

その時点で、フルシチョフは、アメリカ本土に弾頭を運ぶ能力を持つソ連の20基のICBMに燃料を補給し、発射準備を整えるよう命じていただろう。ケネディは、その時、とんでもないディレンマに直面していただろう。ソ連の核兵器に対する先制攻撃を命じることもできただろう。その攻撃では、ソ連は数千万人のアメリカ人を殺害するのに十分な核兵器をまだ残している可能性が高い。あるいは、ソ連の完全な核兵器による攻撃に対してアメリカが脆弱な状態になり、1億人以上のアメリカ人の死を招く可能性があると知りながら、攻撃しないこともできただろう。

幸いなことに、ロシアのウクライナに対する戦争がいかに恐ろしいものになったとしても、核爆弾でアメリカの都市が破壊されるという結末を迎えるリスクは、ジョン・F・ケネディ(JFK)が3分の1には遠く及ばない。実際、私の判断では、100分の1未満であり、おそらく1000分の1に近いだろう。プーティンのウクライナ侵攻が1962年のミサイル危機の続編になっていない主な理由は2つある。第一に、プーティンは、NATO加盟諸国の領土への侵入や攻撃などのレッドラインを超えることを避けるなど、アメリカの重要な国益を脅かさないよう細心の注意を払っている。第二に、バイデンは最初から、ウクライナで起きていることがより大きな戦争の引き金になることを許さないと決意していたからだ。

●先制的な抑制(Preemptive Restraint

プーティンの挑戦に対するバイデンの対応は、アメリカの国益に関する揺るぎない戦略的明確さ(unblinking strategic clarity about American national interests)を示している。彼は、ウクライナの力学が、もし誤った対応をすれば核戦争につながるという真のリスクを理解している。また、アメリカはウクライナに重大な利益を持っていないことも知っている。ウクライナはNATO加盟国ではなく、したがって、ウクライナに対する攻撃をアメリカに対する攻撃であるかのように防御するというワシントンからの第5条の保証はない。よって、バイデンがウクライナをめぐってロシアとの戦争に突入することは、アメリカの外交政策における最悪の、そしておそらく最後の大きな誤りとなる可能性がある。

それを防ぐための決定的な努力として、ロシア軍がウクライナを包囲する中、バイデンはアメリカ軍をウクライナでの戦闘に派遣することは「選択肢にない(not on the table)」と明言した。12月8日の記者会見で、彼は「アメリカがロシアに対抗するためにアメリカ一国で武力を行使するという考えは、今のところあり得ない(The idea that the United States is going to unilaterally use force to confront Russia [to prevent it from] invading Ukraine is not in the cards right now)」と宣言した。それ以降、バイデン陣営は繰り返しその点を強調してきた。プーティンの犯罪がいかに悲痛なものであろうと、ウクライナを守るためにアメリカ軍を派遣することはロシアとの戦争を意味する(No matter how heart-rending Putin’s crimes, sending U.S. troops to defend Ukrainians would mean war with Russia)。その戦争は核戦争へとエスカレートする可能性があり、ウクライナだけでなく、ヨーロッパ、ロシア、アメリカの国民も犠牲者となるだろう。要するに、バイデンが述べたように、アメリカは「ウクライナで第三次世界大戦を戦うつもりはない(the United States “will not fight the third world war in Ukraine”)」のだ。

連邦議会におけるバイデンの批判者たちは、現在、彼の慎重さがプーティンの侵攻を招いたと主張している。共和党のトム・コットン連邦上院議員は、「バイデンの弱腰な宥和政策(weak-kneed appeasement)がプーティンを刺激した」と発言している。アメリカにジョージ・W・ブッシュのような強い大統領がいたら、侵攻は決して起こらなかっただろうとコットンと彼の同調者たちは主張する。反事実は複雑だ(Counterfactuals are complicated)。しかし、この場合、少し歴史を応用すれば大いに役立つ。

2008年のプーティンによるグルジア侵攻について考えてみよう。ブッシュ大統領の当時、グルジアの展開はロシアの侵攻前のウクライナの展開と概ね似ていた。当時、ロシアの支援を受けた分離主義者たち(Russian-backed separatists)と対峙するグルジアの取り組みは、プーティンにとって容認できない脅威とみなされていた。その年のNATOサミットでブッシュ政権はグルジアとウクライナをNATOに急遽加盟させようとしたが失敗した後、勇気づけられたグルジアのミヘイル・サアカシュヴィリ大統領は、離脱した南オセチア州を厳しく取り締まった。プーティン大統領がロシア軍にグルジア侵攻を命令してこれに応じたとき、彼はブッシュ大統領がアメリカ軍を戦争に派遣する用意があることに疑いを持っていなかったことは確かだ。何しろ、彼はブッシュ大統領が2003年にイラク侵攻に13万人の兵士を派遣し、さらにアフガニスタンに数万人の兵士を派遣するのを見ていた。こうした証拠は、ブッシュ大統領の強気な態度(Bush’s bravado)がプーティン大統領を抑止するどころか、主にサアカシュヴィリ大統領の無謀さ(Saakashvili’s recklessness)を助長し、それが今度はプーティン大統領の侵攻の口実となったことを示唆している。

ロシアの侵略者がグルジアの首都に近づくと、ブッシュ政権は更なる選択に直面した。予想通り、政権の一部のメンバー、特にディック・チェイニー副大統領の補佐官たちは、ロシアによるグルジア占領を阻止するためにアメリカ軍を派遣するよう求めた。大統領が議長を務めた国家安全保障会議の特別会議(a special National Security Council meeting)で、国家安全保障問題担当大統領補佐官のスティーヴン・ハドリーは、「グルジアをめぐってロシアと戦争する用意はあるか」という質問を直接投げかけた。大統領は会議の参加者全員に、各自の答えを出すよう求めた。ハドリーは後に「私は、軍事的対応の可能性について、全員にカードを見せてほしかった」と述べた。そうしなければ、後に、グルジアのために戦う用意はあると主張したものの却下されるかもしれないと分かっていたからだ。テーブルを囲んで議論すると、チェイニー、コンドリーザ・ライス国務長官、ボブ・ゲイツ国防長官を含め、誰も賛成票を投じる意向を持っていなかった。アメリカはグルジアの援助に向かうことはなく、戦争は2週間以内に終わった。

●多くの大統領が示す1つの前例(A Precedent with Many Presidents

示唆に富むこととして、バイデン政権とブッシュ政権が採った選択は、同様のディレンマに直面した他の全ての米政権が採った選択と一致している。1948年にソ連がベルリンへの高速道路を封鎖したとき、ハリー・トルーマン大統領はアメリカ軍に戦わせるという軍司令官の提案を拒否した。ドワイト・アイゼンハワー大統領は、1956年のハンガリー動乱(1956 Hungarian uprising)を防衛するために米軍を派遣しないことを選んだが、これは1968年の「プラハの春(1968 Prague Spring)」の際、リンドン・ジョンソン大統領がチェコスロバキアで繰り返した決断である。ケネディはベルリンの壁を建設するソ連軍を攻撃することを拒否した。そして1984年、ソ連領空に誤って侵入した民間旅客機をソ連が撃墜し、現職連邦下院議員を含む52人のアメリカ人が死亡したときも、ロナルド・レーガン大統領は同様にエスカレートを拒否した。どのケースでも、国家の存亡に関わるような重大な国益が明確でなければ、そのリスクを冒す覚悟はなかった。

前任者たちと同様に、バイデン大統領、マーク・ミルリー統合参謀本部議長、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官、そして政権の他の人々は、キューバ・ミサイル危機で起こったことについて読んだだけでなく、核の危険を身をもって体験できるように設計された模擬戦争ゲーム(simulated war games)にも参加していた。彼らは、ジョン・F・ケネディ大統領とテーブルを囲み、自分たちの家族を殺すかもしれない核攻撃を引き起こす可能性があることを知っている選択について議論した人々の役を演じた。「単一統合作戦計画(Single Integrated Operational PlanSIOP)」とは、1960年代初頭に考案されたアメリカの核戦争に関する一般的な計画で、アメリカの核兵器が必要となった場合の発射手順や標的の選択肢を示したものだ。バイデンと彼の上級顧問たちは、アメリカの戦略核戦力はロシアを地図上から消し去ることができるが、そのような対立の最後にはアメリカも消滅してしまうという事実を把握している。こうして彼らは、ロナルド・レーガンが有名な短い言葉で捉えた深遠な真実を理解している。「核戦争に勝つことはできないし、決して戦ってはならない(“A nuclear war cannot be won and must never be fought”)」。

 

 

レーガンの2つの命題は、暗唱するのは簡単だが、戦略的思考に組み込むのは難しい。アメリカが世界最強の軍隊を持ち、ロシアを墓場にできるほどの核戦力を有しているにもかかわらず、レーガンの最初の指摘は、その戦争の終わりにはロシアもアメリカを完全に破壊していたであろうことを思い起こさせる。誰もそれを勝利とは呼べない。この状態は、冷戦時代の戦略家たちによって相互確証破壊(mutually assured destructionMAD)と呼ばれ、強力な核兵器を持つ敵同士の総力戦(all-out war)は核兵器による狂気の沙汰ということになった。テクノロジーは事実上、アメリカとロシアを切っても切れない双子のような関係にした。どちらか一方が他方を殺すことはできても、同時に自分が殺されることなしに殺すことはできない。

レーガンの警告の後半部分は更に理解しにくい。核戦争は「決して戦ってはならない(must never be fought)」ということだ。プーティンのロシアが今日どれほど邪悪で危険であろうとも、アメリカは戦争をせずにロシアを倒す方法を見つけなければならない。冷戦中、ソ連との戦争を避けるということは、そうでなければ全く受け入れられないであろう、ソ連と戦うためのアメリカの取り組みに対する制約を受け入れることを意味した。これには、ソ連が東ヨーロッパの捕虜となった国々を占領し続けることを誰もが目にできる限り続ける一方で、アメリカはそれらの共産主義政権への支持を弱めるためにできる限りのことをすることや、誤算や事故(miscalculations or accidents)による戦争につながるリスクを高める可能性のある特定の兵器システム(例えば中距離核戦力)を配備しないことで米ソ両国が合意する妥協点に達することなどが含まれていた。

特に今日のワシントンの熱気の中では、レーガンが中距離核戦力全廃条約に署名した際、『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストだったジョージ・ウィルが「道徳的な軍縮を加速させているだけで、実際の軍縮はその後に続く(accelerating moral disarmament—actual disarmament will follow)」と非難したことを思い出すと役に立つかもしれない。当時の指導的保守派知識人ウィリアム・バックリーは、レーガンのINF合意を「自殺協定(suicide pact)」と呼んだ。そのような批判について、レーガンは次のように書いている。「私のより急進的な保守派の支持者の中には、私がロシアとの交渉で我が国の将来の安全保障を犠牲にしようとしていると抗議する者もいた。私は彼らに、自分たちが不利になるような協定には署名しないと保証したが、それでも彼らから多くの非難を受けた。彼らの多くは、核戦争は『避けられない(inevitable)』ので、それに備えなければならないと考えていたと私は確信していた」。

●他の手段による戦争(War by Other Means

キューバ・ミサイル危機から得た数多くの教訓の中で、バイデン政権にとって今後数週間のうちに特に重要となりそうなものがある。キューバ・ミサイル危機のわずか数カ月後、ジョン・F・ケネディ大統領が最も重要な外交演説で述べたように、「何よりも、核保有国は、自国の重要な利益を守りつつ、敵国に屈辱的な撤退か核戦争かの選択を迫るような対立を回避しなければならない(Above all, while defending our own vital interests, nuclear powers must avert those confrontations which bring an adversary to a choice of either a humiliating retreat or a nuclear war)」。もしプーティンがこの2つの選択肢しか選べないとしたら、前者を選ぶ保証はない。バイデンはプーティンにそのような選択を迫ることを慎重に避けてきたが、事態は今、ロシアの指導者プーティンがそのような岐路に立たされたと見なしうる方向に向かっている。現地での戦争の事実が、この戦争に負けるか、戦術核攻撃でウクライナ人と世界に衝撃を与える以外に選択肢を残さないのであれば、彼が後者を選択することに賭けるのは愚かなことだ。

これを防ぐために、バイデンと彼のティームは、事態が急速に行き詰まりに向かっているのを受けてJFKがしたことを見直すべきだ。アメリカによる海上封鎖は、ソ連がキューバにミサイルを持ち込むのを阻止することには成功したものの、ソ連が既にキューバで対米ミサイル発射の準備をしているのを阻止することはできなかった。こうして危機の最後の土曜日、ケネディのアドバイザーたちは、攻撃するか、キューバのソ連ミサイル基地を既成事実として受け入れるか、2つの選択肢しかないと彼に告げた。ケネディはその両方を拒否した。代わりに、彼は次の3つの要素から成る想像力豊かな代替案を考案した。それらは、ソ連がミサイルを撤去すればキューバを侵略しないと約束する公式な取引、フルシチョフがその申し出を受け入れなければ24時間から48時間以内にキューバを攻撃すると脅す非公式な最後通牒、そして危機が解決した後の6カ月以内にトルコからアメリカのミサイルを撤去することを約束する秘密の魅力的な追加要素(sweetener)である。

ウクライナでプーティンに同様の出口(off-ramp)を設けるために必要となる複雑な多層的交渉と外交では、アメリカと同盟諸国は、1962年のケネディとその助言者たち以上の想像力を必要とするだろう。しかし、バイデンと彼のティームがこの難題に立ち向かうとき、彼らはJFKの最も素晴らしい時間にインスピレーションを見出すことができるだろう。

※グレアム・アリソン:ハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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2024年1月に発表された、グレアム・アリソンの論稿をご紹介する。アリソンについては最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で紹介しているので是非お読みいただきたい。この論稿はトランプが当選する10カ月ほど前に発表されたものであるが、非常に的を射ている内容である。この時期、当時の現職大統領であったジョー・バイデン(民主党)の支持率が上がらず、トランプの勢いが伸びているという状況で、日本でも「もしトラ(もしもトランプが大統領になったら)」という言葉が出ていた。日米、そして世界中のマスコミが一部を除いて、トランプの大統領返り咲きを多くの人々が「心配している」という論調だった。以下の論稿の内容をまとめると以下のようになる。

ドナルド・トランプ前大統領の再登場が懸念されており、彼がホワイトハウスに戻ることで、国際的な関係や政策に大きな影響を与える可能性がある。「トランプ・プット」と呼ばれる概念が出てきており、トランプの再登板が自分の国の利益を守る手段として機能するのではないかとの見方が広がっている。一方で、一部の国々はその影響に備え、「トランプ・ヘッジ」を試みる動きも見られる。特にプーティン大統領にとって、トランプが再び有利な条件で交渉する可能性が高いため、ウクライナ戦争の情勢は注視されている。

また、トランプの影響はヨーロッパの同盟国にも及び、彼らはアメリカの輸出依存からの脱却を模索する動きがある。特にドイツなどでは、自国の防衛を自ら強化すべきだとの声が上がっており、トランプとメルケルの関係から生じた教訓を忘れないようにしている。

COP28では、気候変動に関する国際的な合意が語られるが、現実には各国が化石燃料の使用を増加させている。トランプが再選される場合、気候政策は後退し、化石燃料の利用が促進される危険性が高まる。昨今の国際会議では、トランプの復帰による変化への期待感が広がっており、それが政策に影響を与えつつある。

トランプの2期目は、さらに大胆な貿易政策を進めることが予想されていて、昨今のアメリカの貿易政策は中国との対立が中心となっており、自国の生産依存を無くす動きが強まっている。一方で、世界貿易秩序が崩壊する可能性についても懸念が高まっており、この状況は国際的な経済活動に直接的な影響を与える。

トランプ政権の政策は移民問題にも波及しており、国境を閉ざすことが再び強調される中、アメリカの政治の変化は他国にとって脅威となっている。トランプの選挙運動は国境管理を強化することで票を集める戦略であり、これは国際的にも大きな波紋を呼んでいる。

歴史的に外交における二党間の協力はあったが、近年はそれが難しくなっており、国際関係は不確実性を増している。各国のリーダーたちは、次期アメリカ大統領の影響が自国にとって何を意味するのかを注視し、アメリカの内政が国際的な安定にどう影響するのかを見極める必要がある。このように、2024年のアメリカ大統領選挙が神経を尖らせる要因となっている。

 実際に、2024年11月の大統領選挙でトランプが勝利し、132年ぶりの大統領返り咲きを果たした。アリソンがトランプ政権発足を予測し、それに伴う世界各国の動きを予測して書いているのだが、その内容の正確さには驚くばかりだ。トランプの出現を利用して、自国の利益につなげようという「トランプ・プット」という考え方は非常に重要だ。これくらいのしたたかさが必要である。日本も是非「トランプ・プット」を実行して欲しい。

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トランプは既に地政学を作り直している(Trump Is Already Reshaping Geopolitics

-アメリカの同盟諸国と敵対諸国は彼の復帰の可能性にどう反応しているか。

グレアム・アリソン筆

2024年1月16日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/united-states/trump-already-reshaping-geopolitics

2008年に発生した大規模金融危機前の10年間、連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン議長はワシントンで事実上の半神(a virtual demigod)となった。アリゾナ州選出のジョン・マケイン連邦上院議員は後に有名になった助言を行い、「彼が生きているか死んでいるかは問題ではない。死んでいるのなら、彼を支えて黒い眼鏡をかけさせればいい」と述べた。

グリーンスパンが議長を務めた1987年から2006年までの20年間、FRBはアメリカ経済が加速的に成長した時期において中心的な役割を果たした。グリーンスパンの名声の源泉の1つは、金融市場が「FRBプット(Fed put)」と呼ぶものだった。(プット」とは、一定の期日まで固定価格で資産を売却する権利を所有者に与える契約のことだ)。グリーンスパンの在任中、投資家たちは、金融工学技術者たち(financial engineers)が作り出す新商品がいかにリスキーであっても、何か問題が起きれば、グリーンスパンのFRBが救援に駆けつけ、株価がそれ以下に下落することを許さない床を提供してくれると信じるようになった。その賭けは報われた。ウォール街の住宅ローン担保証券(Wall Street’s mortgage-backed securities)とデリヴァティヴ(derivatives)がリーマン・ブラザーズの破綻を招き、2008年の金融危機が大不況の引き金となった際に、米財務省とFRBは経済が第二の大恐慌に陥るのを防ぐために介入した。

2024年のアメリカ大統領選挙が既に世界各国の意思決定に与えている影響を考えるとき、そのダイナミズムを思い起こす価値がある。指導者たちは今、1年後にドナルド・トランプ前米大統領が実際にホワイトハウスに戻ってくる可能性があるという事実に目覚め始めている。したがって、一部の外国政府は、「トランプ・プット(Trump put)」として知られるようになるかもしれないものをアメリカとの関係に織り込みつつある。トランプ大統領が事実上、自国にとって事態がどの程度悪化するかという下限を設定することになるため、1年後にはワシントンとより良い交渉ができるようになるだろうと期待して、選択を遅らせようとしている。これとは対照的に、「トランプ・ヘッジ(Trump hedge)」とでも呼ぶべきものを探し始めている人々もいる。トランプ大統領の復帰によって、より悪い選択肢が残される可能性が高いと分析し、それに応じて準備を進めているのだ。

●過去の大統領たちの亡霊(THE GHOST OF PRESIDENCIES PAST

ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の対ウクライナ戦争における計算は、トランプ大統領の置き土産を鮮やかに示している。ここ数カ月、ウクライナ情勢が膠着状態に陥るにつれ、プーティンは戦争を終わらせる用意があるのではないかとの憶測が広がっている。しかし、トランプ・プットの結果、来年の今頃も戦争が続いている可能性の方がはるかに高い。ウクライナ人の中には、また厳しい冬がやってくる前に停戦を延長するか、あるいは休戦協定を結んで殺戮を終わらせたいと考えている人もいるが、プーティンはトランプが 「1日で (in one day)」戦争を終わらせると約束したことを知っている。トランプの言葉を借りれば 「私は(ウクライナのヴォロディミール・)ゼレンスキー大統領に言うだろう。もこれ以上(の支援)はない。あなたは取引をしなければならない」。1年後、トランプは、ジョー・バイデン米大統領が提示する条件やゼレンスキー大統領が今日合意する条件よりもはるかにロシアに有利な条件を提示する可能性が高いため、プーティンは待つだろう。

対照的に、ヨーロッパにあるウクライナの同盟諸国は、トランプのヘッジを考慮しなければならない。戦争が2年目の終わりに近づくにつれ、ロシアの空爆や砲撃による破壊と死者の写真が連日報道され、戦争は時代遅れになった(war has become obsolete)というヨーロッパ人の持つ幻想(European illusions)が覆されている。予想通り、これはNATO同盟とそのバックボーンである、攻撃された同盟国を防衛するというアメリカの関与に対する熱意の復活(a revival of enthusiasm)につながった。しかし、トランプがバイデンを上回るという世論調査の結果が報道されるにつれて恐怖が高まっている。特にドイツ人は、アンゲラ・メルケル前首相がトランプ大統領との苦い出会いから得た結論を覚えている。彼女が言ったように、「私たちは自分たちの未来のために自分たちで戦わなければならない(We must fight for our future on our own)」ということだ。

ロシアよりも3倍の人口と9倍以上のGDPを持つヨーロッパの共同体が、なぜ自国の防衛をワシントンに依存し続けなければならないのかという疑問を呈したアメリカの指導者はトランプだけではない。2016年に『アトランティック』誌の編集長ジェフリー・ゴールドバーグが行った、よく引用されるインタヴューにおいて、バラク・オバマ元米大統領は、ヨーロッパ諸国(およびその他の国々)を「ただ乗りの奴ら(free riders)」と痛烈に批判した。しかし、トランプはそれ以上のことをした。当時、トランプ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官だったジョン・ボルトンによると、トランプは2019年の会議でNATOからの完全撤退(withdrawing from the alliance altogether)について真剣に話し合った際、「NATOのことなどどうでもいい(I don’t give a shit about NATO)」と述べたということだ。部分的には、トランプの脅しは、ヨーロッパ諸国に自国の防衛について、GDPの2%を費やすという約束を果たさせるための交渉の策略だったが、それはあくまで一部に過ぎなかった。ジェイムズ・マティス国防長官は、アメリカの同盟諸国の重要性についてトランプ大統領を説得しようとして、2年間も継続的に試みたが、その後、大統領との意見の相違があまりにも深く、もはや長官を務めることはできないとの結論に至り、2018年に提出した辞表の中で、その立場を率直に説明した。現在、トランプ大統領の選挙運動ウェブサイトは「NATOの目的とNATOの使命を根本的に再評価する(fundamentally reevaluating NATO’s purpose and NATO’s mission)」ことを求めている。ウクライナにどれだけの戦車や砲弾を送るかを検討しているヨーロッパの一部の国々は、11月にトランプ大統領が当選した場合、自国の防衛にそれらの兵器が必要になる可能性があるかどうかについて再検討を始めている。

先ごろドバイで閉幕したCOP28気候変動サミットでも、トランプ大統領への期待が働いた。歴史的に、気候変動問題に対処するために各国政府が何をするかについてのCOP合意は、願望が長く、実績が不足していた。しかし、COP28は、「化石燃料からの脱却(transition away from fossil fuels)」という歴史的な合意を宣言し、より非現実的な空想を拡大した。

現実的には、署名した国々は全く逆のことをしている。石油、ガス、石炭の主要な生産者と消費者は現在、化石燃料の使用を減らすのではなく、増やしている。しかも、見渡す限り先までそうし続けるための投資を行っている。世界最大の石油生産国であるアメリカは、過去10年間毎年生産量を拡大しており、2023年には生産量の新記録を樹立している。温室効果ガス排出量世界第3位のインドは、石炭を中心とした国家エネルギー計画によって、優れた経済成長を遂げている。この化石燃料はインドの一次エネルギー生産の4分の3を占めている。中国は、「グリーン」な再生可能エネルギーと 「ブラック」な汚染石炭の両方を生産するナンバーワンの国である。2023年に中国が設置したソーラーパネルの数は、過去50年間にアメリカが設置した数よりも多いが、その一方で、現在、世界の他の国々と合計した数の6倍もの石炭発電所を新たに建設している。

従って、COP28では2030年以降の目標について多くの誓約がなされたものの、今日、各国政府に費用のかかる不可逆的な行動を取らせようとする試みには抵抗があった。トランプ大統領が復帰し、「掘って掘って掘りまくれ(drill, baby, drill)」という選挙公約を追求すれば、そのような行動は不要になることを指導者たちは知っている。COP28のバーで飛び交った悪いジョークは次のようなものだった。「化石燃料からの脱却を目指すCOP28の明言されていない計画とは? それは、COP28woできるだけ早く燃やし尽くすことだ」。

●混乱した世界(A DISORDERED WORLD

トランプ政権の2期目は、新たな世界貿易秩序(a new world trading order)、あるいは混乱(disorder)を約束する。2017年の大統領就任初日、トランプは環太平洋パートナーシップ貿易協定(Trans-Pacific Partnership trade agreement)から離脱した。その後数週間で、ヨーロッパの同等の協定やその他の自由貿易協定の創設に向けた協議は終了した。1974年通商法第301条が行政府に与えた一方的権限を利用して、トランプは3000億ドル相当の中国輸入品に25%の関税を課した。バイデンはトランプが課した関税をほぼ維持している。トランプ政権の貿易交渉担当者ロバート・ライトハイザー(トランプ陣営がこれらの問題に関する主任顧問としている)が最近出版した著書『自由な貿易などない(No Trade Is Free)』で説明したように、トランプ政権の2期目は1期目に比べてはるかに大胆なものになるだろう。

現在の選挙活動において、トランプは自らを「関税男(Tariff Man)」と呼んでいる。トランプ大統領は、全ての国からの輸入品に一律10%の関税を課し、アメリカ製品に高い関税を課している国と同額の関税を課すと約束し、「目には目を、関税には関税を(an eye for an eye, a tariff for a tariff)」と約束している。バイデン政権が交渉したアジア太平洋諸国との協力協定であるインド太平洋繁栄経済枠組(the Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)は、トランプ大統領によれば「初日から機能不全に陥る(dead on day one)」という。ライトハイザーにとって、中国はアメリカの保護貿易措置の中心的な標的となる「致命的な敵(lethal adversary)」である。中国が世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)加盟に先立ち、2000年に認められた「恒久的正常貿易関係(permanent normal trading relations)」の地位の取り消しから始まり、電子機器、鉄鋼、医薬品など「全ての重要分野で中国への依存をなくす(eliminate dependence on China in all critical areas)」ことがトランプ大統領の目標となる。

貿易は世界経済成長の主要な原動力であるため、指導者の多くは、アメリカの取り組みがルールに基づく貿易秩序を本質的に崩壊させる可能性はほとんど考えられないと考えている。しかし、彼らの顧問の中には、アメリカが他国に中国との分離を強いるよりも、世界貿易秩序から自ら分離する方が成功する可能性がある未来を模索している者もいる。

貿易の自由化(trade liberalization)は、世界中の人々の自由な移動(freer movement of people)ももたらした、より大きなグローバライゼイション(globalization)のプロセスの柱となっている。トランプは、新政権の初日に、最初の行動として「国境を閉鎖する(close the border)」と発表した。現在、毎日1万人を超える外国人がメキシコからアメリカに入国している。バイデン政権の最大限の努力にもかかわらず、連邦議会は、中米などからのこの大量移民を大幅に減速させる大きな変更を行わない限り、イスラエルとウクライナへの更なる経済支援を承認することを拒否している。選挙活動中、トランプはバイデンがアメリカの国境を安全に守れなかったことを大きな問題にしている。トランプ大統領は、数百万人の「不法外国人(illegal aliens)」を一斉に取り締まる計画を発表しており、これは「アメリカ史上最大の国内強制送還作戦(the largest domestic deportation operation in American history)」と呼んでいる。メキシコ大統領選の期間中であるメキシコ国民は、北と南の国境を越えて何百万人もの人々が押し寄せ、自国が圧倒されるかもしれないというこの悪夢を表現する言葉をまだ探している。

●更なる4年(FOUR MORE YEARS

歴史的に見れば、主要な外交問題における民主・共和両党の相違は、「政治は水際で止まる(politics stops at the water’s edge)」と言えるほどささやかなものだった。しかし、この10年はそのような時代ではない。外交政策担当者やその海外関係者にとっては有益ではないかもしれないが、アメリカ合衆国憲法は、ビジネスの世界では敵対的買収の試み(an attempted hostile takeover)に相当するものを4年毎に予定している。

その結果として、気候や貿易、NATOのウクライナ支援に関する交渉から、プーティンや中国の習近平国家主席、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を説得する試みまで、あらゆる問題でバイデンと彼の外交政策ティームは、相手国が1年後に全く異なる政府を相手にしている可能性とワシントンの約束や脅しを天秤にかけるため、ますますハンディキャップを背負うことになる。今年は、世界各国が不信と恍惚と恐怖と希望(disbelief, fascination, horror, and hope)を織り交ぜてアメリカの政治を見守る危険な年になることが予想される。彼らは、この政治劇場が次期米大統領というだけでなく、世界で最も影響力のあるリーダーを選ぶことを知っている。

※グレアム・アリソン:ハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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 古村治彦です。

 今回は、私の最新刊でも取り上げた論稿をご紹介する。短い論稿なので抵抗は少なく読めると思う。論稿の著者グレアム・アリソンはハーヴァード大学教授で、「トゥキュディデスの罠(Thucydides’s trap)」という言葉を世の中に広めた人物だ。国際関係論分野では常陽な学者である。トゥキュディデスの罠とは、「古代アテネの歴史家トゥキュディデスにちなむ言葉で、従来の覇権国家と台頭する新興国家が、戦争が不可避な状態にまで衝突する現象」のことだ。古代ギリシアのペロポネソス戦争は、ギリシア世界を軍事力で制覇し、覇権国家だったスパルタと、海洋貿易で経済力を高めた新興大国アテネとの戦いだ。これを現代に敷衍すると米中両国のことになる。以下に、論稿の内容を要約する。
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グレアム・アリソン

中国が南シナ海や東シナ海において攻撃的な姿勢を強めていることは、単なる現象ではなく、今後の国際情勢における重要な兆候だ。アメリカの「パックス・パシフィカ」の下で、アジア諸国は急速な経済成長を遂げてきたが、中国が世界最大の経済大国として台頭する中で、既存のルールの見直しを求めるのは自然な流れだ。

今後の世界秩序において重要な課題は、中国とアメリカが「トゥキュディデスの罠」を回避できるかどうかである。歴史的に見ても、新興勢力の台頭は既存の大国との対立を引き起こし、戦争に至るケースが多かった。特に、アテネとスパルタの例が示すように、台頭と恐怖が競争を生み出し、最終的には紛争に発展することがある。

中国の急速な台頭は、アメリカにとって脅威であるが、国際関係においてより多くの発言権を求めることは自然なことである。アメリカ自身も過去に同様の行動をとっており、その歴史を振り返る必要がある。アメリカは、他国に対して自国の価値観を押し付けるのではなく、相手の立場を理解し、対話を重視する姿勢が求められる。

中国とアメリカの指導者たちは、歴史の教訓を踏まえ、対立を避けるために率直な対話を行い、互いの譲れない要求に応じるための調整を始める必要がある。これにより、将来的な大惨事を回避するための道筋を見出すことができるだろう。

 米中両大国が直接武力衝突を起こす可能性は今のところ低い。それでも、経済面だけではなく、最先端のテクノロジー開発の面で、激しいつばぜり合いを展開している。それは、この面での勝者が軍事面でも有利になるからだ。しかし、こうした競争は良いとしても、それが武力衝突まで進まないようにすることが重要だ。そのためには、米中両国の指導者たちの対話と交渉が必要だ。取引を重視するドナルド・トランプ政権はその点で、ジョー・バイデン前政権よりもずっと期待が持てる。

(貼り付けはじめ)

太平洋でトゥキュディデスの罠が発動した(Thucydides’s trap has been sprung in the Pacific

-中国とアメリカは現代のアテネとスパルタだとグレアム・アリソンは言う

グレアム・アリソン

2012年8月22日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/5d695b5a-ead3-11e1-984b-00144feab49a

中国が南シナ海や東シナ海の尖閣諸島に対して攻撃的な姿勢を強めていることは、それ自体が重要なのではなく、来るべき事態の兆候として重要なのだ。第二次世界大戦後の60年間、アメリカの「太平洋の平和(Pax Pacifica、パックス・パシフィカ)」は安全保障と経済の枠組み(security and economic framework)を提供し、その中でアジア諸国は歴史上最も急速な経済成長を遂げてきた。しかし、今後10年でアメリカを抜いて世界最大の経済大国になる大国として台頭してきた中国が、他国が築いたルールの見直しを要求するのは当然のことである。

今後数十年の世界秩序に関する決定的な問題は、「中国とアメリカがトゥキュディデスの罠(Thucydides’s trap)から逃れられるか?」どうかだ。歴史家の比喩は、台頭する大国が支配的な大国に対抗するときに米中両陣営が直面する危険を思い起こさせる。紀元前5世紀のアテネや19世紀末のドイツがそうだったように。こうした挑戦のほとんどは戦争で終わった。平和的なケースでは、関係する米中両国の政府と社会の姿勢と行動に大きな調整が必要だった。

古代アテネは文明の中心だった。哲学、歴史、演劇、建築、民主政治体制-全てがそれまでの想像を超えていた。この劇的な台頭は、ペロポネソス半島の既存のランドパウア(land power)であったスパルタに衝撃を与えた。スパルタの指導者たちは恐怖に促され、対応せざるを得なくなった。脅威と反脅威(threat and counter-threat)が競争(competition)を生み、対立(confrontation)を生み、ついには紛争(conflict)に発展した。30年にわたる戦争の末、両国は滅亡した。

トゥキディデスはこの出来事を次のように書いている。「戦争が避けられなくなったのは、アテネの台頭(rise of Athens)と、それがスパルタに与えた恐怖(fear that this inspired in Sparta)のせいである」。台頭と恐怖(rise and fear)という2つの重要な変数に注目してほしい。

新しい勢力が急速に台頭することは、現状を混乱させる。21世紀において、ハーヴァード大学の「アメリカの国益に関する委員会(Commission on American National Interests)」が中国について述べたように、「このような割合の歌姫が、影響なしに舞台に上がることはありえない」のだ。

国家がこれほど急速に、あらゆる面で国際ランキングを駆け上ったことはかつてなかった。一世代の間に、国内総生産がスペインより小さかった国が、世界第2位の経済大国になったのだ。

歴史的な根拠に基づいて賭けをするのであれば、トゥキディデスの罠に関する質問の答えは明白に見えてくる。1500年以降、支配勢力に対抗する新興勢力が台頭した15件のうち11件で、戦争が起きている。ヨーロッパ最大の経済大国としてイギリスを追い抜いた統一後のドイツについて考えてみよう。1914年と1939年、ドイツの侵略とイギリスの対応が世界大戦を引き起こした。

中国の台頭はアメリカにとって不愉快なものだが、強大化する中国が国家間の関係においてより多くの発言権とより大きな影響力を要求することは何も不自然なことではない。アメリカ人、特に中国人に「もっと私たちのようになれ(more like us)」と説教する人たちは、自分たちの歴史を振り返るべきだ。

1890年頃、アメリカが西半球(western hemisphere)で支配的な勢力として台頭したとき、アメリカはどのように行動したか? 後の大統領セオドア・ルーズヴェルトは、次の100年はアメリカの世紀になると絶対的に自信のある(supremely confident)国家の典型だった。第一次世界大戦前の数年間、アメリカはキューバを解放し、イギリスとドイツに戦争で脅してヴェネズエラとカナダでの紛争に関するアメリカの立場を受け入れさせ、コロンビアを分裂させてパナマという新しい国を作った反乱を支援し(パナマ運河建設の譲歩を直ちにアメリカに与えた)、イギリスの支援とロンドンの銀行家たちの資金提供を受けたメキシコ政府を打倒しようとした。その後の半世紀で、アメリカ軍は「私たちの半球(our hemisphere)」に30回以上介入し、アメリカ人に有利な条件で経済紛争や領土紛争を解決したり、受け入れられないと判断したりした指導者たちを追い出したりした。

強力な構造的要因を認識することは、指導者たちが歴史の鉄則の囚人(prisoners of the iron laws of history)であると主張することではない。むしろ、課題の大きさを理解するのに役立つ。中国とアメリカの指導者たちが古代ギリシャや20世紀初頭のヨーロッパの先人たちよりも優れた行動をとらなければ、21世紀の歴史家たちはその後に起こる大惨事(catastrophe)を説明するためにトゥキュディデスを引用するだろう。戦争が米中両国にとって壊滅的である(devastating)という事実は重要だが、決定的ではない。全ての戦闘員たちが最も大切なものを失った第一次世界大戦を思い出して欲しい。

このような結果のリスクを考慮すると、中国とアメリカ両国の指導者たちは、起こりうる対立や火種(flash points)についてもっと率直に話し合う必要がある。さらに困難で苦痛なことに、米中両国は、相手の譲れない要求に応えるために大幅な調整を始めなければならない。

※筆者はハーヴァード大学ベルファー科学・国際問題センター所長。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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