古村治彦です。
アメリカ政府の債務上限引き上げ問題は解決された。アメリカ連邦議会で債務引き上げ法案が賛成多数で可決した。現在のアメリカ連邦議会は、連邦下院は共和党、連邦上院は民主党がそれぞれ過半数を握っており、ねじれている状況だ。そうした中で、「先行き不透明、アメリカ国債のデフォルトが起きる可能性がある」というマスコミの報道もあったが、いつも通りに決着する茶番だった。しかし、この茶番はアメリカにとっては深刻でかつ重要な茶番であり、債務上限が引き上げられなければデフォルトになり、アメリカ発の世界恐慌ということになりかねない。こうして債務はどんどん積み上げられ、総額は約32兆8250億ドルとなっている。1ドル=140円で計算すると、4595兆5000億円となる。日本のGDPが約5兆ドル(約700兆円)であるから、およそ7倍の規模である。
今回の債務上限引き上げ問題に関しては、民主、共和両党の連邦議員たちが交渉役となり、どこまで妥協できるかということを話し合った。最後は民主党側のジョー・バイデン大統領、共和党側のケヴィン・マッカーシー連邦下院議長(カリフォルニア州選出、共和党)がトップ会談で決着をつけた。民主党側は「大事な部分は歳出削減をせずに債務上限引き上げができた」、共和党側が「歳出削減を認めさせることができた」という成果を強調できる形となった。
連邦下院(定員435議席)は共和党が222議席で過半数を握り、民主党が213議席を持っている。過半数は218議席だ。今回の債務上限引き上げ法案は、賛成314(共和党:149;民主党:165)、反対117(共和党:71;民主党:46)、棄権4(共和党:2;民主党:2)という採決結果で可決された。
その後、連邦上院(定数100議席)に送られた。連邦上院は民主党が48議席、民主党系の無所属が3議席、共和党が49議席という構成で、民主党が過半数を握っている。採決は、賛成63(共和党:17;民主党:44;民主党系無所属:2)、反対36(共和党:31議席;民主党:5議席)、棄権1(共和党:1)という結果で、法案は可決した。ジョー・バイデン大統領が署名することで法律が可決成立ということになる。
バイデン大統領と民主党としては債務上限引き上げを行いたいし、共和党の主流派も口では威勢の良いことを言っていても自分たちが政権(大統領)を担う際に債務上限問題に直面する可能性もあるので、裏では当然賛成となる。ある程度政府の支出を減らす形を見せるように求めて、それができたら妥協して賛成しましょうという出来レースである。民主党内では主流派と反主流派(進歩主義派)、共和党内では主流派と反主流派(トランプ派、フリーダム議連)という分裂が起きて、民主党と共和党の主流派同士が手を握って賛成し、民主、共和両党の反主流派が反発して反対という構図になる。これは、民主化研究における非民主政府対民主化勢力の対立から民主化へ向かう道筋と同じ構図である。
共和党の反主流派は「歳出削減の規模が小さすぎる」から反対、民主党の反主流派は「歳出削減の規模が大きすぎる」から反対ということになった。民主、共和両党の反主流派は、それぞれの立場が大きく違っているが、共通している点もある。それはアメリカの対外的な役割の縮小だ。簡単に言えば、「アメリカは帝国であることを止めよう」ということだ。両者はウクライナに対する過剰な支援に反対しているし、アメリカ軍の海外展開にも反対している。アメリカ国内問題解決を第一にする、アメリカ国民の生活を第一にする、「アメリカ・ファースト」の立場であり、これこそがポピュリズムの立場である。既存のアメリカ政治に反対する反主流派があってこそ、アメリカ政治は「らしさ」を保っている。
(貼り付けはじめ)
米債務上限引き上げ法案 上院で可決 米国債の債務不履行回避へ
2023年6月2日 13時54分 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230602/k10014086261000.html
アメリカの議会上院は政府の借金の上限、債務上限を一時的になくす法案を可決しました。法案はバイデン大統領の署名を経て成立することになり、アメリカ国債の債務不履行は回避されることになりました。
アメリカ政府の債務上限をめぐっては引き上げを求めるバイデン政権と、歳出削減を強く求める野党・共和党の対立が続いてきましたが、バイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長が再三にわたって協議を行った結果、先月28日に合意しました。
合意内容を反映した法案は議会下院で31日に超党派の議員の賛成多数で可決されたのに続いて1日、議会上院の本会議で採決が行われました。
与党・民主党が主導権を握る上院でも、与野党双方の一部の議員が反対しましたが、バイデン大統領や、議会指導部の説得もあり、超党派の議員が賛成して賛成63、反対36で、必要な60票を上回り可決されました。
法案は政府予算について、2024年度は国防費以外の歳出を2023年度とほぼ同額にするなど支出を抑えるかわりに、アメリカ政府の債務上限を2025年1月までなくし、政府が借り入れることができる額を事実上、引き上げる内容となっています。
これによって来年秋の大統領選挙までこの問題をめぐる政治対立は避けられることになります。
イエレン財務長官は上限の引き上げなどがなければ、今月5日にも債務不履行に陥ると警告していましたが、アメリカの国債の債務不履行は回避されることになりました。
法案はバイデン大統領が署名して成立することになります。
バイデン大統領が声明「アメリカ国民にとって大きな勝利」
アメリカの議会上院で政府の借金の上限、債務上限を一時的になくす法案が可決されたことを受けて、ホワイトハウスは1日、バイデン大統領の声明を発表しました。
バイデン大統領は「民主党・共和党両党の上院議員は今夜、われわれが苦労して獲得した経済発展を守り、アメリカ史上初の債務不履行を防ぐために投票した。この超党派の合意はアメリカ国民にとって大きな勝利だ」として、歓迎しました。
さらに、「われわれの仕事は終わらないが、この合意は重要な一歩だ。できるだけ早く法案に署名し、あす、アメリカ国民に直接、伝えることを楽しみにしている」としています。
債務上限引き上げで合意した内容「財政責任法案」とは
バイデン大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長が先月28日に債務上限の引き上げで合意した内容は「財政責任法案」としてまとめられました。
法案では再来年・2025年1月までを期限に債務上限についてその適用を停止、つまり一時的に上限をなくします。
これによって、アメリカ政府は上限を超えて追加で借金して資金の調達ができるため、アメリカ国債の元本の償還や利払いが可能となり、国債の債務の不履行=デフォルトを避けることができます。
上限の適用を一時的に停止する期限については、共和党側は当初、来年3月まで、バイデン政権は来年秋の大統領選挙後までとするよう求めていました。
法案では上限適用の停止が再来年までになり、大統領選挙の後まで債務上限の問題が解消されることから、バイデン政権の主張が通った形です。
一方、共和党が求めていた歳出削減の内容については、国防費以外の支出を2023年の会計年度と比べて、2024年度はほぼ同額に、2025年度は1%程度の増額に抑えるとしています。
また、共和党が要求していた低所得者向けの食料支援の支給条件の厳格化は盛り込まれましたが、民主党が反対していた低所得者向けの医療保険制度「メディケイド」の利用条件の厳格化は見送られました。
さらに、石油・ガス業界から支援を受ける共和党が求めていた、石油・天然ガス・鉱物などの資源開発プロジェクトに対して政府の許認可プロセスを迅速にすることが盛り込まれました。
日本の国税庁にあたるIRS=内国歳入庁の予算を削減することも含まれています。
バイデン大統領は大企業や富裕層への課税の強化を掲げていて去年成立させた「インフレ抑制法」にIRSの予算の増額を盛り込んでいました。
共和党は課税強化や増税につながるIRSの予算増額に強く反発していて、共和党の主張が通った形です。
アメリカ国債の債務不履行回避までの経緯
アメリカでは、財政規律を守るため政府が国債などを発行して、借金できる上限が決められています。
その上限を引き上げるには議会の承認が必要となります。
ことし1月、政府の借金が増えてその上限に達しました。
イエレン財務長官は臨時の対応として公務員や障害者の年金基金の中で直ちには必要のない資金を使ってやりくりする特別措置を始めたと発表しました。
イエレン長官はこの特別措置で確保できる資金が早ければ今月1日に底をつく可能性があると指摘。
議会に対して繰り返し上限の引き上げを求めてきました。
上限が引き上げられなければ信頼性が高く、安全な資産として世界中で取り引きされているアメリカ国債が史上初めて債務不履行=デフォルトに陥る可能性があります。
バイデン大統領は先月9日、16日と続けて野党・共和党のマッカーシー下院議長など議会の指導部と会談し、上限の引き上げに向けて協力を要請しましたが協議はまとまりませんでした。
バイデン大統領はG7広島サミット後に予定していたオーストラリアなどへの外国訪問をキャンセルし、帰国を早めて対応にあたることになりました。
バイデン大統領が日本を訪問している間も担当者レベルでの交渉は続けられ、マッカーシー下院議長は18日、「何も合意はしていないが、合意できるかもしれない。道筋は見えてきた」と述べて、話し合いが前向きに進んでいることを示唆しました。
しかし、19日になって事態は一転します。
交渉を担当する共和党の議員が「交渉が生産的ではない」と述べて協議が一時、中断されました。
これについてバイデン大統領はG7広島サミットの閉幕後、記者会見し、野党・共和党の提案は「率直に言って受け入れがたい」と述べ、意見の食い違いが依然として大きいことを明らかにしました。
バイデン大統領はワシントンに戻る機内でマッカーシー下院議長と電話で協議を行い、22日午後には直接ホワイトハウスで会談しましたが合意には至りませんでした。
その後も続いた担当者レベルの交渉でも妥協点は見いだせず債務不履行に陥るおそれがある期限が迫る中、金融市場では警戒感が高まります。
イエレン財務長官は26日、マッカーシー下院議長をはじめ議会指導部に宛てた書簡で、議会が債務上限の引き上げなどに応じなければ、今月5日に債務の不履行に陥るおそれがあるという最新の見通しを示しました。
これまでは早ければ来月1日が期限だとしてきており、日程上、わずかな余裕が生まれましたがイエレン長官は、過去のケースを踏まえると、期限ギリギリまで交渉が続けばアメリカの信用などに深刻な打撃を与えると警告しました。
アメリカでは27日から3連休に入る中、バイデン大統領はマッカーシー下院議長と電話で協議を行い、原則、合意したとの声明を発表しました。
アメリカ国債が債務不履行=デフォルトに陥るおそれがある期限が9日後に迫るなかでの妥結となりました。
28日には最終合意し、この内容をもとに法案が作成され31日には議会下院で賛成314、反対117の超党派の議員の賛成多数で可決されました。
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米債務上限引き上げ、原則合意 妥協案に反発も 予断許さず
5/28(日) 17:26配信 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/805b8ce54e5d46eaf44322221065ce8e456e53d3
バイデン米大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長は27日、連邦政府の借金限度額「債務上限」の引き上げで原則合意した。共和党が上限引き上げの条件として求めていた歳出削減についてバイデン氏側が妥協するなど、双方が歩み寄った。
マッカーシー氏は、合意内容を基にした法案を28日中に完成させて議員に周知した後、31日に下院で採決するとした。米国債の史上初のデフォルト(債務不履行)回避の「タイムリミット」とされる6月5日までに何とか法案成立を間に合わせたい考えだ。ただ、両党から妥協案への反発も予想され、予断を許さない状況が続く。
バイデン氏とマッカーシー氏が27日に電話協議して合意した。バイデン氏は同日夜、「マッカーシー氏と私は今夕、原則合意に達した。経済不況を引き起こす破滅的デフォルトを防ぐことができる」との声明を発表。「両院が直ちにこの合意内容を可決するよう強く求める」と議会に協力を呼びかけた。マッカーシー氏も記者団に対し「数週間の交渉の末に原則合意に達した。まだやるべきことは多いが、米国民にとって価値ある合意だ」と述べた。
ロイター通信などによると、双方は27日までに国防費を除く多くの政府プログラムへの支出に上限を設けることなどで合意。共和党が求める低所得者向け給付制度の就労条件の厳格化などが対立点として残ったが、27日にトップが電話協議して妥協点を探った。これらの歳出削減に関する合意事項と引き換えに、2年間の債務上限引き上げを認める法案を策定する。
今後の焦点は議会の対応だ。2022年11月の中間選挙の結果、米議会は下院で野党の共和党が多数派を握る一方、上院では与党の民主党が多数派を握る「ねじれ」状態にあるためだ。
トップ合意した妥協案に対しては、大幅な歳出削減を求める共和党保守強硬派や、バイデン政権の巨額予算の維持を求める民主党急進左派の双方から反発を受ける可能性が高く、審議が円滑に進むかは不透明だ。
連邦政府の現在の債務上限は31兆4000億ドル(約4400兆円)だが、1月に上限に達して追加の借金ができなくなった。財務省は公的年金基金の運用見直しなどの臨時措置で資金繰りを続けてきたが、イエレン財務長官は最速で6月5日に手元資金が枯渇すると警告。実際にそうなれば、政府機関の閉鎖に加え、米国債のデフォルトで世界経済が大混乱に陥る恐れがある。【ワシントン大久保渉】
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債務上限引き上げ合意の中身はこうなっている(Here’s what’s in the
deal to raise the debt ceiling)
ブレット・サミュエルズ、エミリー・ブルックス筆
2023年5月28日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/house/4024014-whats-in-the-deal-to-raise-the-debt-ceiling/
ジョー・バイデン大統領とケヴィン・マッカーシー連邦下院議長(カリフォルニア州選出、共和党)の交渉担当者たちは土曜日深夜、政府支出に関する合意に達し、債務上限を引き上げ、迫り来るデフォルト(支払い不能)を回避することができることになった。
今回の合意は、今後数日の間に、連邦上下両院を通過しなければならないが、労働条件、支出上限、その他の問題についての意見の相違を解決するため、数日間の激しい交渉の後にまとまることができた。
バイデン大統領とマッカーシー議長は、土曜深夜にそれぞれ、今回の合意を勝利と称したが、今後は具体的な内容についてそれぞれの党に売り込む必要がある。
合意の中身についてこれから見ていく。
●債務上限を2年間上げる(Raises debt ceiling two years)
今回の合意は、債務上限を金額ではなく、期間として引き上げるもので、2年間引き上げる。それは、次の大統領選挙(2024年)後までこの問題が再び浮上することはないことを意味する。
債務上限引き上げは歳出合意とは別のもので、交渉に詳しいある関係者は、2015年、2018年、2019年の予算合意で、当時の債務上限を同時に引き上げた仕組みと一致していると述べた。
ジャネット・イエレン財務長官は今週、連邦議会の措置がなければ6月5日に連邦政府は資金不足に陥り、デフォルトに陥る可能性が高いと議員たちに警告していた。専門家たちは、デフォルトは景気後退の引き金になりかねないと警告していた。
ホワイトハウスは数ヶ月間、債務上限について交渉していないと主張し、連邦議会には条件なしに債務上限を引き上げる責任があると主張してきた。ここ数日、政府関係者たちは、債務上限について交渉しているのではなく、単に歳出の合意について協議しているに過ぎないと主張していた。
●歳出上限(Spending caps)
共和党が発表したこの合意に関する資料には、国防以外の裁量支出を2022年度の水準まで後退させる一方で、連邦政府の主要支出を6年間にわたり年率1%の成長率に制限することが盛り込まれていると記載されている。
しかし、今回の合意に詳しいある関係者は、2025年以降の予算上限はなく、「強制力のない予算目標」に過ぎないと述べている。また、その関係者によると、国防以外の支出は、合意された他の予算調整を考慮すると、ほぼ横ばいになるとのことだ。
その同じ情報提供者によると、国防費はバイデンが2024年度予算案で要求した9000億ドル近いもの同様の金額になるということだ。
今回の合意では、超党派の電子タバコ規制法による有害物質暴露基金への資金提供を含め、退役軍人の医療費に全額が充てられる。
保守派の多くが今回の交渉を政府支出に関して大幅に抑制する機会と見ていたことから、最終文書に盛り込まれる歳出削減のレヴェルと期間によって、最終的にどれだけの共和党員がこの合意を支持するのかを左右する可能性が出てくる。
●就労義務(Work requirements)
就労義務は、ここ数日の協議で最も大きな対立点の一つであり、共和党は、より厳しい就労義務が合意に含まれることを強く求め、ホワイトハウスは、貧しいアメリカ人から援助を奪うような変更には難色を示した。
今回の合意では、フードスタンプの受給者が受給資格を得るため、仕事を探さなければならない年齢を49歳から54歳に段階的に引き上げる一方、退役軍人やホームレスなど、SNAPプログラムの制限の対象となる弱者の数を減らすための改革も含まれている。
フードスタンプ・プログラムの変更は2030年に終了すると、合意に詳しいある関係者は述べている。
この合意には、貧困家庭一時扶助(TANF、Temporary Assistance for Needy Families)プログラムに対する就労要件の追加が含まれているが、これは民主党にとっては不満の種になりそうだ。合意に詳しい関係者によると、債務上限を引き上げるための下院共和党の当初の法案に含まれていた変更は、最終的な合意には含まれておらず、100万人以上の潜在的な受給者を危険にさらすことになるということだ。
今回の合意には、共和党が提案しホワイトハウスが強く反発した、メディケイド受給者の就労要件の変更は含まれていない。
●新型コロナウイルス関連貸付回収(COVID-19 funds clawback)
共和党は、今回の合意に関する要約文書で、米疾病管理予防センターの「グローバルヘルス基金」からの4億ドルを含む、新型コロナウイルス対策に充てられた未使用の資金、数百億 ドルを取り戻すと述べている。
バイデンはここ数週間、支出協議の一環として未使用の新型コロナウイルス救済資金を交渉のテーブルに載せることに前向きだと示唆していた。
●内国歳入庁予算(IRS funds)
今回の合意は、民主党が昨年承認した、強制捜査の強化のための10年間で800億ドルの資金増強はそのままにして、内国歳入庁の予算を一部削減するものだ。この増額措置の廃止は、共和党の長年の優先事項であった。共和党のリストによると、この合意は「新しい内国歳入庁エージェントのための2023年度の総人件費要求を修正する」ものであるということだ。
ダン・ビショップ議員(ノースカロライナ州選出、共和党)は、今回の合意は内国歳入庁の予算を19億ドル削減するものだと不服そうにツイートした。「それは、マッカーシーが債務上限を4兆ドル増やすことに同意したのと同様の“成果”ということになるのだろう」と、ビショップはツイートした。
●許認可改革と環境条項(Permitting reform and
environmental provisions)
今回の合意に詳しいホワイトハウスの関係者は、暫定合意には、ジョー・マンチン連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、民主党)の主要な優先事項であり、マッカーシーが合意の特徴になる可能性があると述べていたエネルギー許可改革が含まれていることを本誌は確認した。
この情報筋は、今回の合意では、バイデンの代表的な気候・インフラ関連法案であるインフレ抑制法(Inflation Reduction Act、IRA)の気候条項が維持されると強調する。この法案は、共和党が債務上限引き上げと引き換えに縮小することを求めていた。
「今回の合意は、連邦政府機関の意思決定に関連する調整、予測可能性、確実性を高めることを目的とした改革を、国家環境保護法において成文化するものである」と、関係者は声明の中で述べている。
この暫定的な合意は、許認可プロセスを見直し、公的なスケジュールのもとで最終的な環境評価文書の作成を単一の機関が担当することになると伝えられている。ホワイトハウスは、これによって時効が短縮されたり、利用可能な法的救済措置が縮小されたりすることはないと強調している。
マンチンは2022年、許認可改革案の採決と引き換えにインフレ抑制法を支持することに同意したが、彼の提案はその後、連邦上院共和党によって阻止された。これとは別に、連邦上院環境・公共事業委員長のトム・カーパー連邦上院議員(デラウェア州選出、民主党)は今月初め、再生可能エネルギーに特化した許認可改革を発表した。
この案件に関する共和党の資料には、「お役所仕事を減らし、エネルギー・インフラプロジェクトを合理化する」ための施策が含まれていると書かれている。
●新しい課税は行わない(No new taxes)
マッカーシーは土曜日に記者団に対して行った短い声明発表の中で、今回の合意には新たな課税は含まれないと述べた。
マッカーシーは「新しい課税はなく、新たな政府プログラムもない」と述べた。
バイデンは最近、公の場にいて、交渉には歳入の財源に関して議題になると主張していた。特に、税金の抜け穴をふさぎ、富裕層に対して課税を強化することを主張していた。
●政府予算法案を可決するためのインセンティヴ(Incentive to pass
government funding bills)
連邦議会に予算案の期限内通過を促す意味で、債務上限引き上げ合意には、12本の予算案の全てが可決成立するまで、政府資金を賄う継続決議の上限を現行の99%に抑える措置が盛り込まれている。この案は、トーマス・マッシー議員(ケンタッキー州選出、共和党)が以前から提案していたものだ。
●行政上のペイゴー原則(Administrative Pay-Go)
共和党側は、今回の合意には、裁量支出の増加に伴う支出削減を提案する機関に関する、史上初の行政上のペイゴー原則に関する文言が含まれていると主張している。共和党は、この措置により、制定される行政規則や規制が節約されることを期待している。
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バイデン、マッカーシーがデフォルトを回避するために債務上限に関して合意に達する(Biden,
McCarthy reach debt ceiling deal to avoid default)
マイク・エリス筆
2023年5月27日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/house/4023783-debt-ceiling-deal-reached/
民主、共和両党のトップリーダーたちは土曜日、前例のない政府のデフォルト(債務不履行)を回避するために長い間求められていた合意に達し、債務上限を2年間引き上げ、同じ期間に連邦支出に新しい上限を適用する計画で合意したと発表した。
合意に到達するために、交渉担当者たちは、支出水準の引き下げ、社会給付プログラムの新たな就労義務、エネルギーインフラの承認を促進するための改革許可など、ここ数日の交渉を悩ませてきた小さいながらも重要な未解決の問題のリストについて、両者の意見の相違を整理する必要があった。これら3つの要件は共和党側が要求し、民主党側のほとんどが反対していた。
土曜日の夕方、ジョー・バイデン大統領とケヴィン・マッカーシー連邦下院議長(カリフォルニア州選出、共和党)が、膠着状態を打破するために11時間かけて、率直な腹を割った電話会談を行うほど、行き詰まりは深刻化していた。
マッカーシー議長は、連邦議事堂での短い挨拶の中で、まだやるべきことは残っているが、日曜日には立法文書を掲載し、翌水曜日には議場での採決を行う予定であると述べた。
特に連邦下院では、保守派がこの妥協案を、マッカーシーがバイデンに屈服したものであり、協議に臨む共和党の赤字削減目標を台無しにするものだとして、合意発表後すぐに非難を浴びせた。保守派は、この法案が議場に持ち込まれた際には反対すると宣言している。
マッカーシー新議長は、党派的なメッセージング法案では共和党をまとめ上げるという困難に立ち向かったが、民主党の支持を得られるような、特に経済が危ぶまれる重要な法案は、まだ試されていない。
合意内容に詳しい関係者によると、共和党は政府の借入権限を2年間延長することに合意し、バイデンが要求していたデフォルトの危機を2024年の選挙以降に延期することに成功した。
その見返りとして、ホワイトハウスは2024年の国防以外の支出を凍結するか、あるいはわずかな削減を受け入れることに同意した。2025年の支出は1%増額され、2026年以降には上限が適用されないと、情報筋は指摘した。
この合意では、フードスタンプの受給資格を得るために仕事を探さなければならない年齢を49歳から54歳に引き上げるという、共和党の重要な要求もある。しかし、退役軍人やホームレスなど、他の特定のグループの就労要件も緩和され、民主党側に有利になるような変更が加えられている。
情報筋によると、メディケイドは影響を受けず、バイデンが導入した学生ローン救済プログラムも影響を受けないとのことである。
この妥協案は、マッカーシー、バイデンとその代理人との緊迫した交渉の11日目に出されたものだ。この交渉は、前日に財務省から出された、政府が6月5日に全ての債務を返済するための資金が不足するという警告に後押しされたものであった。
土曜日の朝、連邦議事堂で行われた最終協議に臨んだマッカーシーは、連邦議会がその期限を守ると確信していることを表明した。
時間的な制約があり、連邦上院での投票を遅らせるという連邦上院の脅しを考えると、これは難しい注文だ。それでもマッカーシー連邦下院議長は、1月に保守派に約束した「立法文書が完成し、議員たちが内容を理解できるように72時間掲示するまで連邦下院は法案を採決しない」という約束を守るつもりだと述べた。立法文書が日曜日に完成する見込みであることから、水曜日の議場での採決に向けた準備が整ったことになる。
マッカーシーは土曜日の朝、「両者の合意という結末は、誰もが気に入らないものであるだろう。しかし、一日の終わりには、人々が投票する前に、その合意内容が何であるかを確認するべきだと思う」と述べた。
この合意は即座に通路の両側から怒鳴り声が上げられた。リベラル派は歳出削減が激しすぎると抗議し、保守派は歳出削減が十分ではないと反対した。
このような批判は当然である。それは、マッカーシーやバイデンの支持を得た超党派の妥協案は、各党のイデオロギーの過激派・原理主義派を疎外することが常に予想されたからである。マッカーシーだけでなく、ハキーム・ジェフリーズ連邦下院少数党(民主党)総務も含めて、党のリーダーたちが直面している課題は、超党派の多数派をまとめ、パッケージを連邦上院に送るため、民主、共和両党の支持を十分に集めることである。
この課題は、1月に保守派の反対を押し切って連邦下院議長に当選したマッカーシーにとって特に深刻で、債務上限交渉で一線を画すよう右派から強い圧力を受けている。債務上限交渉に対する保守派の怒りが十分に高まれば、1月の規則改正によって容易になった決定の取り消しを求める動きが出てくるかもしれない。
連邦下院共和党は先月、党派を超えた債務上限法案を下院で可決した。この法案には約4.8兆ドルの赤字削減が含まれ、グリーンエネルギー税控除、学生ローン補助金、800億ドルのIRS資金など、バイデン時代に決められたプログラムの多くを廃止するものとなった。
しかし、共和党の交渉担当者たちは、新たな支出上限を確保するために、協議の過程でこれらの条項のほとんどを削除した。そして、この合意が発表される前から、フリーダム・コーカスは、バイデンに多くを与えすぎているとして、この提案を非難していた。
保守派が指摘しているのは大きな論点である。保守派は、自分たちの法案における債務上限引き上げの上限は1.5兆ドルであるのに対し、マッカーシーがバイデンと結んだ取引はその3倍近くになると予想されている。
フリーダム・コーカスは一言、「受け入れられない」とツイートした。
ダン・ビショップ連邦下院議員(ノースカロライナ州選出、共和党)は批判を更に強め、この規模の債務上限引き上げは、保守派と指導部の間で「戦争」を引き起こすだろうと述べた。
ビショップは「マッカーシー議長の交渉担当者たちが、実質的にきれいな債務上限引き上げを持ち帰り、それが大統領選でバイデンを問題から守るほどの規模なら、その結果は共和党内部での戦争だ」とツイートした。
保守派の批判にもかかわらず、共和党はある重要な意味で明らかにこの議論に勝利した。共和党の指導者が歳出削減を要求する一方で、その見返りとして民主党に増税を譲歩した過去の債務上限闘争とは異なり、マッカーシー議長はプロセスの早い段階で新規歳入にレッドラインを引き、赤字削減努力を予算方程式における支出側だけに集中させ、共和党にとって大きな勝利となった。
今回の合意で増税が見送られたことで、民主党は激怒している。そして、協議の不均衡さを嘆いている。しかし、極右の懐疑論者から批判を浴びるマッカーシーにとっては、援護射撃となる可能性もある。
「この法案の中身を恐れているわけではない」とマッカーシー議長は述べた。
連邦下院多数党(共和党)院内幹部を務めるトム・エマー連邦下院議員(ミネソタ州選出、共和党)は、この協議に直接関与していない。しかし、彼は土曜日に連邦議事堂を訪れ、共和党の指導者たちが、保守的な批判者たちの懸念を払拭するために、既に連絡を取り合っていることを明らかにした。
エマー議員は合意が発表される前、「私たちは常に議員たちと連絡を取り合い、受け入れられないようなないようでも報告されて情報を与えられている。私たちから情報が提供されるまでは、報道などで読んでいる内容を信じてはいけない」と述べた
交渉が難航し、交渉担当者の表情に疲れが見える中、最終局面では明るい話題もあった。
連邦下院金融サーヴィス委員会委員長で、共和党のトップ交渉担当者の1人であるパトリック・マクヘンリー連邦下院議員(ノースカロライナ州選出、共和党)は、自分の子供が参加する誕生日パーティーや料理の好みについて、記者団に語った。
土曜日の朝、連邦議事堂に入りながら、記者団の問いかけに答えて、「子供たちはフレンチトーストを食べた。私は何ももらえなかったけどね」と述べた。
数時間後、マッカーシー、マクヘンリー、ギャレット・グレイブス(、ルイジアナ州選出、共和党)の3人の共和党側の交渉担当者たちは、チポトレで昼食を取るために議事堂を後にした。自動車の中には、数え切れないほどのポテトチップスの袋やクエッソ(チーズケーキ)の入れ物が載せられており、彼らは会談を見守る何十人もの記者たちのためにそれを配った。
更にその後、マッカーシーのスタッフたちは事務所からミニカヌーを運び出し、氷、ソーダ、水のボトルを詰め込んで、これも記者のために用意した。しかし、この試みにはいくつかの難点があった。
まず、議事堂内を歩き回る観光客たちに取られてしまった。そして、スタッフたちが更に補給を終え、観光客の流れが落ち着いてみると、氷が溶けて水漏れを起こしてしまった。
ある記者は「今の状態を表しているみたいだ」と述べた。
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