古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

タグ:ザ・レスト

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 イスラエルがイランに対して攻撃を仕掛け、その後、イスラエルとイランの間でミサイル攻撃の応酬が続いている。両国で既に多数の死傷者が出ている。イスラエルは、イランの核兵器開発を阻止することを大義名分としているが、世界各国の原子力発電所などに査察を行う専門機関である世界原子力機関(IAEA)は、イランの核兵器開発の証拠はないと報じている。そして、2025年6月21日に、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イランの核開発関連施設3カ所をアメリカ空軍の戦闘機を使って攻撃を行った。

 イスラエルのイランに対する攻撃に関しては、中国、ロシア、インドが国際法違反だとして非難している。イランは、2023年から上海協力機構(Shanghai Cooperation OperationSCO)に正式加盟し、2024年にはBRICSの正式メンバーになっている。中東地域における大国であり、かつ、私がこれまでの著作で述べてきた「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)対西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の西側以外の国々にとっての重要な国である。イランを攻撃するということは、それらの国々との関係を緊張させるということになる。非常に拙劣な手法であると言わざるを得ない。戦術レヴェルでの攻撃が成功したとして、それだけで、戦略的な成功をそれで引き寄せることはできない。アメリカは中国との間でレアアースの貿易で命綱を握られていると言っても過言ではないが、ホルムズ海峡の封鎖やレアアースの輸入に何かしらの障害となってしまえば、自分で自分の首を絞めることになる。
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 世界を俯瞰して見ると、ウクライナとイスラエルは、私がこれまでの著作で述べてきた「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)対西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の対立構造の最前線である。ウクライナとイスラエルは、アメリカやヨーロッパ諸国(そして、日本も含まれる)が直接関わりたくない「汚れ仕事(dirty work)」をやっている。その上で、姑息なヨーロッパの諸大国(イギリス、ドイツ、フランス)は「まあまあ、落ち着いて。外交で解決しましょう」とにやにやした、したり顔で出てきて、交渉を行って、手柄を持っていく。実力もないくせに大国ぶるという最低最悪の存在だ。

 ウクライナが対ロシア、イスラエルが対イランということになれば、対インドはパキスタンになるだろうし、もっと言えば、対中国は日本ということになる。トランプ政権は、「アメリカ・ファースト」「アイソレイショニズム」を政策の柱に掲げてきたが、政権内部には強硬派が存在する。彼らが暴走してしまえばこういうことになる。私たちが恐れるべきは、日本が中国との戦争をけしかけられることである。そして、アメリカに切り捨てられることである。
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中国がイスラエルとの戦いでイランを支援した(China Backs Iran in Fight Against Israel

-北京の対応はこれまで以上に強力かつ直接的だ。

ジェイムズ・パルマー筆

2025年6月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/17/china-iran-israel-conflict-diplomacy-oil-trade-defense-weapons/

『フォーリン・ポリシー』のチャイナ・ブリーフへようこそ。

今週のハイライト:イラン・イスラエル紛争における中国の立場、習近平国家主席のカザフスタン訪問、そして中国がレアアース元素をめぐるアメリカへの影響力行使。

●中国がイランを支持し、イスラエルを非難した(China Supports Iran, Condemns Israel

中国は、進行中のイラン・イスラエル紛争について明確な立場を表明した。土曜日、王毅外相はイスラエル外相との電話会談で、イスラエルによるイランへの攻撃は「容認できない(unacceptable)」ものであり、「国際法違反(violation of international law.)」であると述べた。

王外相は、イラン外相に対し、「(イランの)国家主権を守り、正当な権利と利益を擁護し、国民の安全を確保する」という点で支援を表明した。習近平国家主席も火曜日の声明で同様の発言を行った。中国の対応は、昨秋のイラン・イスラエル紛争への対応よりも強力かつ直接的なものとなっている。

中国は外交資源を総動員し、イランも加盟している上海協力機構(the Shanghai Cooperation OrganizationSCO)を通じてイスラエルの最新の攻撃を非難する声明を出した。これに対し、上海協力機構加盟国でありイスラエルと強い武器取引関係を持つインドは、声明について協議を受けていなかったにもかかわらず、非難を向けた。

イランは近年、中国との関係を緊密化させており、両国は定期的に軍事演習で協力し、2021年には経済・軍事・安全保障協力協定に署名した。イランの原油輸出の90%以上は中国向けで、制裁を回避するため、西側諸国の銀行や海運会社を迂回し、人民元建て取引を行うといった迂回策が用いられている。

イスラエルがイランの石油産業を混乱させることに成功すれば、中国にとって痛手となる可能性がある。しかし、イランは中国にとって6番目の供給国に過ぎないため、中国は打撃を吸収できるだろう。

中国はイランに対し、強い声明を出しているものの、言葉上の支援以上のことは行わない可能性が高い。中国は中東情勢にこれ以上巻き込まれることを望んでおらず、むしろアメリカにとっての混乱を歓迎している。ワシントンのタカ派は、中国とイランの関係を実際よりも強固に見せかけようとしているが、イランは結局のところ、中国の中核的利益(core interest)にとって重要ではない。

中国が介入するのであれば、おそらくイランが過去に脅迫したようにホルムズ海峡を封鎖しないよう圧力をかけるためだろう。中国の主要な石油供給国はロシアだが、中国の石油輸入の約半分は湾岸諸国から来ている。ホルムズ海峡の封鎖とそれに伴うエネルギー価格の高騰は、既に低迷している中国経済にとって痛手となるだろう。

中国は、2023年のイラン・サウジアラビア和解の仲介を足掛かりに、和平交渉の仲介役を務めることを期待しているかもしれない。しかし、イスラエルが中国を中立的な仲介者として受け入れるとは考えにくい。イスラエルとハマスとの戦争の中で、中国の親パレスティナの立場と中国のインターネット上での反ユダヤ主義の蔓延により、両国の関係は悪化している。中国に合意を求めることは、気難しいアメリカ大統領を遠ざけるリスクもある。

中国にとって、イラン・イスラエル紛争のプラス面は、自国の防衛技術の新たな市場獲得となる可能性がある。パキスタンは最近のインドとの小競り合いで予想を上回る成果を上げており、その成功は主に中国製システム、すなわちこの紛争で初めて実戦投入されたJ-10C戦闘機と、主に中国製の防空システムの使用によるものだ。

これまでイスラエルは、イランの時代遅れの防空システムと空軍を圧倒してきた。余裕ができれば、その改善はイランにとって最重要課題となるだろう。中東のバイヤーはかつてJ-10に懐疑的だったが、イランは今回の紛争以前から関心を示していたようだ。

中国はかつてイランの主要な武器供与国だったが、両国は2005年以降、新たな契約を締結していない。しかし、今や状況は一変する可能性がある。

●注目のニュース(What We’re Following

習近平国家主席は中央アジアに接近している。習近平国家主席はカザフスタンを訪問し、中央アジアの指導者らと会談した。エネルギー資源が豊富な中央アジア地域における中国の貿易拡大を目指している。習近平国家主席は就任以来、ロシアに次いでカザフスタンを最も多く訪問している。その間、中国はロシアに代わりカザフスタンの主要貿易相手国となった。

しかし、カザフスタン国民は隣国に対してそれほど好意的ではなく、自国のエリート層が中国政府に身売りしているという意見を表明する人も多い。中国による新疆ウイグル自治区におけるカザフ族の強制収容はカザフスタンで激しい反発を引き起こしているが、カザフスタン政府は中国政府を宥めるため、新疆ウイグル自治区の人権活動家たちへの弾圧を行っている。

恋愛小説を取り締まりしている。中国警察は、男性同士の同性愛関係を描いた人気のオンライン恋愛小説、いわゆるボーイズラブ小説(boys’ love fiction)の作者を再び逮捕している。日本で生まれたこのジャンルは、主に女性によって、女性向けに書かれている。習近平政権下では、オンライン検閲が繰り返しこのジャンルを標的にしてきた。

この敵意は、同性愛嫌悪、反日感情、そして女性のセクシュアリティに対するますます強まる家父長制的な態度といった、複数の要因が重なり合って生じている。今回の一連の動きは、警察が管轄外で発生した犯罪を探し出し、罰金を科して私腹を肥やす「深海漁業(deep-sea fishing)」の表れでもあるように思われる。

全国で少なくとも100人の作家が、他省の当局から発行されることが多い警察からの召喚状を受け、罰金や懲役の可能性に直面していると推定されている。

スコット・ケネディが『フォーリン・ポリシー』誌に書いているように、中国はこの分野で明らかに影響力を発揮している。レアアース生産のほぼ完全な独占状態は、アメリカの製造業の重要部門を停止させる力を持っている。北京はこれまで、その力を十分に行使することを避けてきた。それは主に、ワシントンがレアアース精錬の国内回帰に追い込まれることを懸念していたためだ。

しかし、この一時停止は、中国が援助の蛇口を閉める用意があることを示していた。ロンドン会合の前に、アメリカ当局は重要な技術輸出に対する新たな制限を課すことを検討したがこのチキンゲームで中国が明らかに勝利した。

ここ数日、ドナルド・トランプ米大統領の発言はますます融和的になり、中国人留学生のヴィザ取り消しの脅しを撤回し、中国とその友好国であるロシアをG7に招待したいという意向を表明した。

香港の労働団体が閉鎖された。中国本土の抗議活動、賃金紛争、ストライキに関する情報を香港に拠点を置いて提供してきた中国労働公報が、財政問題を理由に31年間の活動に幕を閉じた。トランプ政権下でのアメリカの対外援助打ち切りが、中国労働公報に影響を与えた可能性がある。

しかし、中国労働公報の突然の閉鎖とウェブサイトの消失は、香港当局の標的となった可能性を示唆している。2020年に厳格な国家安全法が導入され、香港では言論の自由が事実上排除されたが、一部の団体は生き延びている。

中国労働公報は、天安門事件の反体制活動家で中国本土から亡命した韓東方によって設立された。彼は1989年の民主化運動において、しばしば忘れられながらも極めて重要な役割を果たした労働者の出身だ。中国では、公式労働組合は機能不全に陥っているが、それ以外は労働組合の結成は違法であり、劣悪な労働条件や賃金不払いが蔓延している。

非公式の労働組合や活動家は、移民労働者の労働権擁護において大きな役割を果たしているが、他の市民社会と同様に、習近平政権下では彼らも標的にされている。

※ジェイムズ・パルマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。Blueskyアカウント: @beijingpalmer.bsky.social

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(終わり)

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になる。2025年1月20日に発足した第二次ドナルド・トランプ政権、アメリカと世界の動きを網羅的に分析している。断片的な情報に惑わされない、トランプ政権の本質と世界構造の大きな変化について的確に分析ができたと考えているが、読者の皆様のご判断をいただければ幸いだ。
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 以下にまえがき、目次、あとがきを掲載している。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。
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まえがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 2025年1月20日、第2次ドナルド・トランプ政権が発足した。トランプ大統領は就任直後から異例のスピードで、次々と施策を発表し、実行している。注目を集めているのは、イーロン・マスクが率いる政府効率化省(せいふこうりつかしょう)だ。政府効率化省のスタッフたちは各政府機関に乗り込んで、人事や予算の情報を集め、調査している。そして、米国国際開発庁(USAID)については、マスクの進言もあり、閉鎖が決定された。日本では聞き慣れない、米国国際開発庁という政府機関の名前が日本でも連日報道されるようになった。その他、トランプ政権の動きは、日本のメディアでも連日報道されている。

 第2次トランプ政権の一気呵成(いっきかせい)、電光石火(でんこうせっか)の動きは、米連邦政府と官僚たちに対する「電撃作戦 Blitzkrieg(ブリッツクリーク)」と呼ぶべき攻撃だ。電撃作戦、電撃戦とは、第2次世界大戦中のドイツ軍が採用した、機動性の高い戦力の集中運用で、短期間で勝負を決する戦法だ。トランプとマスク率いる政府効率化省は、相手に反撃する隙を与えないように、短期間で勝負を決しようとしている。

アメリカではこれまで、新政権発足後から100日間は、「新婚期間、ハネムーン期間 honeymoon 」と呼ばれ、あまり大きな動きはないが、支持率は高い状態が続くという、少しのんびりとした、エンジンをアイドリングする期間ということになっていた。しかし、第2次トランプ政権のスピード感に、アメリカ国民と世界中の人々が驚き、翻弄(ほんろう)されている。人々は、トランプ大統領が次に何をするかを知りたがっている。政権発足直後に、これほどの注目を集めた政権はこれまでなかっただろう。

 1月20日以降、メディアや世論調査の各社が、ドナルド・トランプ大統領の職務遂行支持率 job approval ratings(ジョブ・アプルーヴァル・レイティングス)を調査し、結果発表を行っている。アメリカの政治情報サイト「リアルクリアポリティックス」で各社の数字を見ることができるが、2月に入って、支持が不支持を上回り、支持率が伸びていることが分かる。世論調査会社「ラスムッセン・レポート社」が2月9日から13日にかけて実施した世論調査の結果では、トランプ大統領の仕事ぶりの支持率が54%、不支持率は44%だった。トランプの電撃作戦について、アメリカ国民は驚きをもって迎え、そして、支持するようになっている。

「トランプが大統領になって何が起きるか」ということを昨年11月の大統領選挙直後から質問されることが多くなった。私は「私たちが唯一予測できることはトランプが予測不可能であることだ The only thing we can predict is that Trump is unpredictable. 」という、海外の記事でよく使われるフレーズを使ってはっきり答えないようにしていた。ずるい答えで、申し訳ないと思っていたが、トランプ政権がスタートして見なければ分からないと考えていた。

 私は、第2次トランプ政権の方向性について見当をつけるために、昨年の大統領選挙前後から第2次トランプ政権発足直後の数週間まで、アメリカ政治を観察 observation(オブザヴェイション) してきた。洪水のような情報の流れに身を置きながら、トランプの発言やアメリカでの記事を分析した。そして、大統領就任式での演説(素晴らしい内容だった)を聞き、それ以降の動きを見ながら、確信を得たことを本書にまとめた。内容については、読んでいただく読者の皆さんの判定を受けたいと思う。

 本書の構成は以下の通りだ。第1章では、ドナルド・トランプと、テック産業の風雲児であり、トランプを支持してきたイーロン・マスクとピーター・ティールの関係を中心にして、アメリカにおける「新・軍産複合体」づくりの最新の動きを見ていく。ピーター・ティールの存在がなければ、トランプの出現と台頭はなかったということが分かってもらえると思う。

 第2章では、第2次トランプ政権の主要閣僚について解説する。第2次トランプ政権の柱となる政策分野を中心に、閣僚たちの分析を行っている。閣僚たちのバックグラウンドや考え方を改めて分析し、どのような動きを行うかについて分析する。外交関係の閣僚たちは第4章で取り上げる。

 第3章では、2024年の大統領選挙について改めて振り返り、トランプの勝因とジョー・バイデンとカマラ・ハリス、民主党の敗因について分析する。また、次の2028年の大統領選挙にトランプ大統領は立候補できないので、誰が候補者になるかを現状入手できる情報を基にして予測する。

 第4章では、第2次トランプ政権の発足で、アメリカの外交政策はどうなるかについて分析した。ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争を中心とする中東情勢、北朝鮮関係について分析する。また、第2次トランプ政権の外交政策の基本は「モンロー主義」であることを明らかにする。

 第5章では、世界全体の大きな構造変化について分析する。アメリカを中心とする「西側諸国 the West(ジ・ウエスト)」対 中国とロシアを中心とする「西側以外の国々 he Rest(ザ・レスト)」の構図、脱ドル化の動き、新興大国の動き、米中関係のキーマンの動きを取り上げている。アメリカの世界からの撤退がこれから進む中で、日本はどのように行動すべきかについても合わせて考えている。

 本書を読んで、読者の皆さんが第2次トランプ政権について理解ができて、戸惑いや不安を減らすことに貢献できるならば、著者としてこれ以上の喜びはない。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

=====

『トランプの電撃作戦』◆目次

まえがき 1

第1章 ピーター・ティールとイーロン・マスクに利用される第2次トランプ政権

●新・軍産複合体づくりを進める2人が支えた132年ぶりの返り咲き大統領 18

●トランプ陣営においてわずか3カ月で最側近の地位を得たイーロン・マスク 24

●第1次トランプ政権誕生に尽力し、影響力を持ったピーター・ティール 28

●第1次トランプ政権で「官僚制の打破」と「規制の撤廃」を求めたピーター・ティール 36

●第2次ドナルド・トランプ政権の人事に影響力を持つ世界一の大富豪イーロン・マスク 40

●トランプを昔から支えてきた側近グループからは嫌われるイーロン・マスク 42

●2010年代から進んでいたティールとマスクの「新・軍産複合体」づくりの動き 46

●選挙後に「トランプ銘柄」と目されたパランティア社、スペースX社、アンドゥリル社の株価が高騰 50

●パルマー・ラッキーという聞き慣れない起業家の名前が出てきたが重要な存在になるようだ 56

●パランティア・テクノロジーズとアンドゥリル社が主導する企業コンソーシアム 59

●21世紀の軍拡競争によってティールとマスクは莫大な利益を得る 64

第2章 第2次ドナルド・トランプ政権は「アメリカ・ファースト」政権となる

●忠誠心の高い人物で固めた閣僚人事 68

●「アメリカ・ファースト」は「アメリカ国内優先」という意味であることを繰り返し強調する 70

●「常識」が基本になるトランプ政権が「社会を作り変える」政策を転換する 72

●40歳で副大統領になったJ・D・ヴァンスはトランプの「後継者」 75

●厳しい家庭環境から這い上がったヴァンス 76

●ピーター・ティールがヴァンスを育て、政界進出へ強力に後押しした 80

●政府効率化省を率いると発表されたイーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワミの共通点もまたピーター・ティール 83

●第2次トランプ政権は国境の守りを固めることを最優先 90

●国防長官のピート・ヘグセスの仕事は国境防衛とアメリカ軍幹部の粛清 96

●「以前の偉大さを取り戻すために関税引き上げと減税を行う」と主張するハワード・ラトニック商務長官 99

●トランプに忠誠を誓うスコット・ベセント財務長官は減税と関税を支持してきた 105

●トランプ大統領は石油増産を最優先するエネルギー政策を推進する 109

●トランプの石油増産というエネルギー政策のキーマンとなるのはダグ・バーガム内務長官 112

●ロバート・F・ケネディ・ジュニアの厚生長官指名でビッグファーマとの対決 116

●「アメリカを再び健康に」で「医原病」に対処する 117

●ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件関連文書の公開はCIAとの取引材料になる 120

●トゥルシー・ギャバードの国家情報長官指名と国家情報長官経験者のジョン・ラトクリフのCIA長官指名 122

●第2次トランプ政権にアメリカ・ファースト政策研究所出身者が多く入った 127

●「裏切り者、失敗者の巣窟」と非難されるアメリカ・ファースト政策研究所 128

●第2次トランプ政権で進めようとしているのは「維新」だ 135

第3章 トランプ大統領返り咲きはどうやって実現できたのか

●共和党「トリプル・レッド」の圧倒的優位状態の誕生 140

●トランプ当選を「的中させた」経緯 142

●アメリカの有権者の不満をキャッチしたトランプ、それができなかったバイデンとハリス 149

●バイデンからハリスへの大統領選挙候補交代は不安材料だらけだった 156

●「自分だったら勝っていただろう」と任期の最後になって言い出したバイデン 161

●カリフォルニア州を含むアメリカ西部出身者で、これまで民主党大統領選挙候補になれた人はいないというジンクスは破られず 164

●アメリカ国内の分裂がより際立つようになっている 168

●2028年の大統領選挙の候補者たちに注目が集まる 173

第4章 トランプの大統領復帰によって世界情勢は小康状態に向かう

●対外政策も「アメリカ・ファースト」 188

●「終わらせた戦争によっても成功を測る」「私たちが決して巻き込まれない戦争」というトランプの言葉 195

●第2次トランプ政権の外交政策を担当する人物たちを見ていく 197

●トランプ大統領の返り咲きによってウクライナ戦争停戦の機運が高まる 202

●ロシアのプーティン大統領に対しては硬軟両方で揺さぶりをかけている 206

●トランプの出現で一気に小康状態に向かった中東情勢 210

●スキャンダルを抱えるネタニヤフはトランプからの圧力に耐えきれずに停戦に合意した 212

●北朝鮮に対しても働きかけを行う 216

●トランプ率いるアメリカは「モンロー主義」へ回帰する―― カナダ、グリーンランド、パナマを「欲しがる」理由 220

●トランプは「タリフマン(関税男)」を自称し、関税を政策の柱に据える 226

●日本に対しても厳しい要求が突きつけられる 229

●日本にとって「外交の多様化」こそが重要だ 236

第5章 トランプ率いるアメリカから離れ、ヨーロッパはロシアに、アジアは中国に接近する

●「ヤルタ2・0」が再始動 240

●参加国の増加もあり影響力を高めるBRICS 244

●「脱ドル化」の流れを何としても止めたいアメリカ 249

●グローバルサウスの大国としてさらに存在感を増すインドネシア 253

●サウジアラビアは脱ドル化を睨み中国にシフトしながらもアメリカとの関係を継続 257

●宇宙開発やAIで続く米中軍拡競争 260

●キッシンジャーは最後の論文で米中AI軍拡競争を憂慮していた 263

●キッシンジャー最後の論文の共著者となったグレアム・アリソンとはどんな人物か 267

●ヘンリー・キッシンジャーの教え子であるグレアム・アリソンが中国最高指導部と会談を持つ意味 269

●トランプが進めるアメリカ一極の世界支配の終焉によってユーラシアに奇妙な団結が生まれるだろう 273

●トランプ大統領返り咲きは日本がアメリカとの関係を真剣に考え直すきっかけになる 275

あとがき 279

=====

あとがき 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 昨年(2024年)、アメリカ大統領選挙が進む中で、私の周りで、「トランプさんはおかしい人だから、何をするか分からない」ということを言う人たちが多くいた。「トランプは狂人 madman(マッドマン)だから、核戦争を引き起こす可能性が高い」というような扇動(せんどう)的な記事がインターネットに出ていたこともある。本書を読んで、こうした考えは誤りだということに気づいてもらえたと思う。

 ドナルド・トランプは合理的(利益のために最短のルートを選ぶことができる)で、めちゃくちゃなことをやるのではなく、そこには意味や理由がきちんと存在する。トランプ政権で大きな影響力を持つイーロン・マスクについてもそうだ。合理性を追求するあまりに、常識や慣例に縛られないので、結果として、非常識な行動をしているように多くの人たちに見られてしまうが、中身を見れば極めて常識的だ。本書で取り上げたように、トランプ、マスクの裏にはピーター・ティールが控えている。ピーター・ティールもまた同種の人間だ。彼らは自己利益を追求しながら、アメリカに大変革(だいへんかく)をもたらそうとしている。

  トランプは、激しい言葉遣いや予想もつかない行動、常人には思いつかないアイディアを駆使して、相手に「自分(トランプ)は常人(じょうじん」とは違う狂人(きょうじん)で、予測不可能だ」と思わせ、相手を不安と恐怖に陥れて、交渉などを有利に進める方法を採る。これを「狂人理論 madman theory(マッドマン・セオリー)」と呼ぶ。トランプはこの方法を使って、現在、アメリカ国内と世界中の人々を翻弄している。しかし、トランプのこれまでの行動を見れば、必要以上に恐れることはないということが分かる。「狂人理論」を使う人間は本当の狂人ではない。トランプの交渉術だと分かっていれば、落ち着いて対処でき、落としどころを見つけることができる。トランプは、「有言実行 walk the talk(ウォーク・ザ・トーク)」の人物であるが、自身の言葉に過度に縛られず、取引を行う柔軟性を持つ。この点がトランプの強さだ。

本書で見てきたように、トランプ返り咲きによって、世界は小康状態 lull(ロル)に向かう。大きな戦争は停戦となる。実際にイスラエル・ガザ紛争は停戦となり、ウクライナ戦争も停戦に向かう動きになっている。これだけでもトランプの功績は大きい。トランプは、大統領就任式の演説で述べたように、「終わらせた戦争」「(アメリカが)巻き込まれない戦争」によって評価されることになる。同時に、しかし、アメリカの製造業回帰、高関税は世界経済にマイナスの影響をもたらすことになる。これから、そのマイナスをどのように軽減するかについて、取ディール引が行われることになる。日本にも厳しい要求が突きつけられることになるだろうが、トランプを「正しく」恐れながら、落ち着いて対処することが必要だ。

 そのためには、トランプ政権が行う施策や行動の根本に何があるかということを理解しておく必要がある。そうでなければ、表面上の言葉や行動に驚き、翻弄され、おろおろするだけになってしまう。私は、本書を通じて、第2次トランプ政権の行動の基本、原理原則を明らかにできたといういささかの自負を持っている。

 本書は2024年12月から準備を始め、2025年1月から本格的に執筆を始めた。2025年1月20日のトランプ大統領の就任式以降の、怒濤(どとう)のような激しい動きを取り入れて、可能な限りアップデイトしたが、皆さんのお手許に届く頃には古くなっているところもあるだろう。あらかじめご寛恕をお願いする。

 これからの4年間は、第2次トランプ政権が何を成し遂げ、何に失敗するかを、そして、世界構造が大きく変化する様子を目撃する刺激的な4年間となる。

最後に、師である副そえじまたかひこ島隆彦先生には、現在のアメリカ政治状況分析に関し、情報と助言をいただいたことに感謝申し上げます。秀和システムの小笠原豊樹編集長には本書刊行の過程を通じて大変お世話になりました。記して感謝します。

2025年2月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

 

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(終わり
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 古村治彦です。

 第二次世界大戦後の世界体制において重要なのは米ドル基軸体制である。世界の貿易においてそのほとんどがドルで決済を行われるということだ。アメリカは為替の手間もかからずに、ドルを使って貿易ができるということだ。極端なことを言えば、アメリカはドルを刷りさえすれば、世界中の国々から物品やサーヴィスを買うことができるということだ。世界各国を旅行して、円とドルのお札を出してみて、どちらを取るかと質問されたら、日本以外の国であればほとんどの人がドルを取るだろう。

 この米ドル基軸体制の基本にあるのが、ペトロダラー(petrodollar)体制である。これは、サウジアラビアのアブドゥル・アズィーズ国王とアメリカのフランクリン・デラノ・ルーズヴェルト大統領の会談の後に決定されたもので、石油取引は、米ドルのみで行うという合意がなされた。その結果、アメリカは最重要物資である石油を自国通貨ドルで買うことができるようになった。産油国は石油と引き換えに手に入れた米ドルで米国債に投資して、利益を得ることができた。アメリカは米国債を使って国内整備を行うことができた。また、日本や西ドイツなどの国々はアメリカに製品を輸出し、稼いだ米ドルで石油や天然資源を買い、戦後復興と経済成長につなげていった。

 米ドルに対する信頼は、アメリカの国力に対する信頼である。アメリカが世界第債の軍事大国であると同時に世界最大の経済大国であることがその基礎にある。それが揺らぐようになっている。アメリカが率いる西側諸国に対して、中露がリードする西側以外の国々が台頭している。これらの国々が「どうして米ドルを使わねばならないのか」ということになっている。米ドル基軸体制に対する疑問が出ている。こうした疑問が出ているだけでも、アメリカの国力の減退が大きいということを示している。

 更に言えば、今年の大統領選挙の結果次第では、アメリカ国内の状況が不安定になり、それがアメリカ経済に大きな影響を与えることになるだろう。アメリカ国内で選挙結果を受けて、暴動や暴力が頻発することになれば、米国債の価値も毀損される。米国債の価値が毀損されれば、米国債崩れということが起きる。そうした事態に備えて西側以外の国々は米国債の保有量を減らし、金の保有量を増やしている。

 米ドルの支配はこれからしばらく続いていくだろう。しかし、その崩壊の足音が聞こえるような状態になっている。私たちはそうした状況に備えなければならない。

(貼り付けはじめ)

米ドルが負ける方になんて賭けるな(Don’t Bet Against the Dollar

-アメリカの競争相手である各国は、米ドルを基軸とするシステム内での自主性の限界に挑戦しているが、真のグローバルな代替手段は存在せず、世界は転換点(inflection)からは程遠い。

ジャレッド・コーエン筆

2024年6月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/10/brics-currency-dollar-yuan-united-states-economy/?tpcc=recirc_trending062921

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地球の玉座の頂上に座るジョージ・ワシントンをドル紙幣から持ち上げる風船として機能するアメリカドルのシンボルが示すイラスト

米ドルが世界経済と米国の経済国家戦略の基軸(central pillar)となったブレトンウッズ会議から80年が経った。そして、80年にわたり、私たちは米ドルの将来の終焉についての予測も目撃してきた。しかし、米ドルの将来に関する議論はほぼ最初から的外れだった。ここで出てくる疑問は、出来事や危機や新技術が米ドルを基軸通貨の台座から追い落とすかどうかではない。むしろ、米ドルが依然優勢であるものの、冷戦後のコンセンサスが崩れつつある世界経済において、アメリカの競争相手、さらにはパートナーがどのようにして金融システムの限界を押し広げているかということである。

数十年にわたり、米ドルの終焉を予感させる出来事は数多く報じられてきた。1971年にリチャード・ニクソン米大統領が米ドルと金のリンクを切り離した(delinked)とき、イギリスのある著名なジャーナリストはそれを「全能の米ドルが正式に廃位された瞬間()」であると宣言した。1990年代のユーロ導入を米ドル終焉の瞬間と見た人も存在した。2010年代の世界金融危機と中国の台頭により、経済学者の多くは人民元(the yuan)が世界の準備通貨(reserve currency)になる可能性があると予測した。最後に、2022年のロシアの本格的なウクライナ侵攻と西側主導の対モスクワ制裁は、きたるべき「ポスト・ドル世界(post-dollar world)」についての疑問を引き起こした。

米ドルには地経学的な逆風(geoeconomic headwinds)が厳しく吹きつけている。各国は貿易における米ドルへの依存を減らし、アメリカの決済システムから距離を置くよう取り組んでいる。しかし、未来は、ドル支配(dollar dominance)と、いわゆる脱ドル化(de-dollarization)の間の二項対立(binary)ではない。アメリカ経済は依然として世界最大であり、最も豊かな資本市場と最も信頼できる金融機関を擁している。米ドルは依然として金融上の安全な避難先(financial safe haven)であり、アメリカだけでなく、世界的に最も信頼できる交換および価値の保存媒体(the most reliable medium of exchange and store of value)である。80年前に米ドルの地位を確立したネットワークと歴史は今も維持されており、米ドルの支配に対する不満の高まりにより、利便性の一部が分かりにくくなっている。変化したのは、アメリカの競合国や一部のパートナー国が、技術の進歩(technological advances)と地経学的修正主義(geoeconomic revisionism)に勇気づけられて、ドルベースのシステム内での金融自主性の限界を押し広げていることだ。しかし、実際にそれを変えるための協調的な取り組みが見られる転換点には程遠い。

米ドルの立場が変わるとしたら、それは革命(revolution)ではなく進化(evolution)によるものとなるだろう。より多くの国が米ドルの到達範囲を制限する措置を試行し、導入するだろう。新興の金融テクノロジーは、新たな変化に関する諸理論と、様々な多国間金融協定を促進するだろう。一方、西側の政策立案者やビジネスリーダーたちは、世界の不安定化でアメリカ経済が多額の債務を負う中でも、米ドルの歴史的な地位を守らなければならないだろう。しかし、米ドルは当面、世界経済を下支えし続けるだろう。

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左:印刷機の彫刻版にシートを敷く米国財務省職員(1935年頃)、右:ニューヨーク連邦準備銀行の金庫室で、国際為替取引に使用される金の延べ棒の計量が行われる(1965年頃)

米ドルのような通貨はかつて存在しなかった。歴史家たちは、スペイン帝国のドル銀貨(Spanish Empire’s pieces of eight)、オランダのギルダー銀貨(Dutch guilders)、または、1920年代まで主要基軸通貨であった英ポンド スターリング(U.K. pound sterling)に米ドルを例えている。しかし、経済学者のマイケル・ペティスが指摘するように、米ドルは「国際通商においてこれほど極めて重要な役割を果たした唯一の通貨(the only currency ever to have played such a pivotal role in international commerce)」だ。米ドルは世界の外貨準備保有額の58%を占めている。全ての外国為替取引の88% に関与している。国際的な影響力により、他国の貿易不均衡は、アメリカの不均衡によって相殺される。

ドルは、アメリカだけでなく世界中の国々と消費者に安定と安全を提供する。アメリカの開かれた市場(open markets)、法の支配(rule of law)、信頼できる諸機関(trusted institutions)、そして深く流動性の高い資本市場(deep, liquid capital markets)により、これは信頼できる資産だ。アメリカ以外では、投資適格資産の供給が限られている。しかし、米ドルに不満がない訳ではない。ここ数年、米ドルを玉座(pedestal)から叩き落とすつもりだと公に表明する世界の指導者たちが増えている。彼らは、世界が分断され、米ドル以外の通貨との取引の効率を高める金融テクノロジーの台頭、財政状況が不透明で経済関係にある国や団体のリストが増え続ける分断されたアメリカを目の当たりにしている。対立が発生し、彼らはそれを利用する立場を公に表明している。

紛争と競争(conflict and competition)が激化する世界では、脱ドル化(de-dollarization)の話は今後も続くだろう。米ドルが世界経済の中心ではなかった場合、敵対者たちはよりうまく制裁を回避でき、より効果的な代替経済圏(more potent alternative economic blocs)が存在する可能性がある。ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領が昨年、上海で行った演説で、「私は毎晩、なぜ全ての国が貿易をドルに基づいて行わなければならないのか自問している(Every night I ask myself why all countries have to base their trade on the dollar)」と劇的に述べたのはそのためだ。アメリカの「制度的覇権(institutional hegemony)」の危険性を警告し、中国外務省は、2023年2月に論文を発表し、アメリカは米ドルを通じて「他国にアメリカの政治経済戦略に奉仕するよう強制している(coerces other countries into serving America’s political and economic strategy)」と主張した。中国外務省は更に、「米ドルの覇権が世界経済の不安定性と不確実性の主な原因である(hegemony of [the] U.S. dollar is the main source of instability and uncertainty in the world economy)」と述べた。

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ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始した2022年2月24日、モスクワ中心部の両替所の前を通り過ぎる女性

ロシアによるウクライナへの全面侵攻とその後の制裁発動からおよそ1年後という声明のタイミングは、その背後にある真の動機を信じがたい。 80年近くにわたる米ドルの支配により、中国などの国の台頭など、歴史上最も偉大な平和と繁栄が見られた。1944年には、米ドルは世界に課せられていなかった。それは、中国とブラジルを含む44カ国が第二次世界大戦後の金融秩序を決定するためにブレトンウッズに集結したとき、戦後の状況と驚くべき程度の国際的合意から生まれた。今日の不安定を引き起こしているのは米ドルではなく、ヨーロッパと中東での戦争、そしてインド太平洋の緊張だ。これらの地政学的な課題は、中国によるロシアへの支援の深化などを通じて結びついている。モスクワは、その経済的寿命をウクライナへの攻撃を維持するために利用してきたが、戦争は世界中のお金の動き方を変えた。ロシアの侵攻から数週間以内に、世界経済の60%以上を占める、37の同盟諸国とパートナーからなるアメリカ主導の連合は、ロシアに制裁と輸出規制を課した。 2022年4月までに、ロシアの輸入額は戦前の中央値を約43%下回った。その結果は、クレムリンが発表しているよりも深刻で、一般のロシア人は政権が引き起こした苦痛を感じている。しかし、ロシアは新たな市場と経済を戦時態勢に置く手段を見つけたため、アジアへの軸足がモスクワを救った。ロシアは現在、GDP6%を軍事に費やしている。

変わったのは、お金がどこから来たのかだけではなく、そのお金がどのようなものであるかだ。これは中央アジアやコーカサスにある旧ソ連諸国でも見られ、西側の技術を米ドルで購入し、ルーブルでロシアに売っている。ロシアの対中国貿易でもそれが分かる。ウクライナへの本格的な侵攻後の最初の9カ月で、ロシアのルーブルと人民元の貿易は40%以上急増した。一方、中国とロシアの二国間貿易は、2023年に過去最高の2400億ドルに達し、わずか1年で26.3%増加した。人民元は最近、ロシアで米ドルに代わって最も取引されている通貨となり、モスクワ取引所で取引される外貨全体のほぼ42%を占めている。その結果、戦争とロシア政府によるアメリカの決済システム(U.S. payment systems)の回避により、世界最大の国ロシアと、第2位の経済大国中国は、主に米ドル以外の通貨で取引されるようになった。

しかし、米ドル以外の通貨の国際化はまだ遠い先の話だ。米ドルの優位性の継続は、政府から企業、家計に至る数百万の市場参加者からの信任投票によるものだ。もっともらしい代替案を生み出すためには、二国間の変化だけでなく、法の支配(rule of law)、透明性(transparency)、説明責任(accountability)に基づいた信頼できる新たな機関と多国間の連携が必要となるだろう。中国主導のクロスボーダー銀行間決済システム(Chinese-led Cross-Border Interbank Payment SystemCIPS)もそのような試みの1つで、1日当たり2万5900件の処理を行っていると報告されているが、その合計は、1日約50万件、総額18億ドルの取引を行う、アメリカの手形交換所銀行間決済システムには大きく及ばない。数兆の価値。そして、CIPS取引のうち80%は、北京ではなくベルギーに拠点を置くシステムであるSWIFTに依存している。過去80年間に米ドルが獲得してきた信頼が、米ドルを際立たせている。

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2022年8月24日、カイロの通貨両替店から出てくる女性

大規模な非ドル化を主張する人々にとっての最も重大な2つの問題は、何かを無に置き換えることは不可能であること、そしてアメリカの競争相手が、時にはそのレトリックが別のことを示唆しているとしても、現時点では米ドルに取って代わる能力も意思も持っていないことである。だからと言って、米ドルの立場を当然のことと考えるべきだという訳ではない。技術革新(innovation)と地経学的断片化(geoeconomic fragmentation)により、その影響は徐々に薄れていく可能性がある。最も重要な新たなトレンドは、新しい技術モデル、セクター固有の取り決め、二国間および多国間連携だ。これらの取り組みはわずかなものだが、将来的には有意義な代替手段となる可能性がある。

アメリカは、ほとんどの主要市場と同様に発達した金融テクノロジーを持っているが、特定の金融テクノロジーの消費者への導入においては、少数の国は遅れている。これらの比較は、あらゆる範囲で行われている。2021年、エルサルヴァドルは、仮想通貨(cryptocurrency)を法定通貨(legal tender)とした最初の国となった。より重要なことは、大西洋評議会が中央銀行デジタル通貨(central bank digital currenciesCBDC)の普及を追跡しており、世界のGDPの98%を占める、134の国と通貨同盟がCBDCの活用事例(use cases)を模索していると報告している(2020年はわずか35カ国だった)。G20加盟国のうち11カ国でプロジェクトが進行中だが、CBDC を本格的に開始しているのは3カ国だけだ。より分断された世界(more divided world)においては、より多くの CBDC が存在する。大西洋評議会の報告によると、2022年2月以来、「ホールセールCBDC の開発は2倍になっている」ということだ。

1970年代と80年代に、アメリカの消費者がクレジットなどの金融テクノロジーを大量に導入したとき、中国経済は、相対的に混乱に陥り、文化大革命からまだ回復途中だった。 1976年の GDP はわずか1540億ドルだった。しかしながら、今日、中国は世界第 2位の経済大国であり、そのデジタル人民元(digital yuan (e-CNY) は、「脱ドル化」に向けたテクノロジー主導の取り組みについて語る多くの専門家の注目を集めている。e-CNYは、銀行口座を持たない中国国民に更なる効率性と金融包摂を提供する可能性があるが、多くの点で、西側諸国のデジタルおよびモバイル決済システムとほとんど違いはない。

それにもかかわらず、中国は米ドルの代替手段として電子人民元を国際化する努力をしており、中国政府はデジタル通貨のデビュー会場として、2022年の北京冬季オリンピックを選んだことでその意図を明確にした。オリンピック期間中、依然として新型コロナウイルス感染症による厳しい規制下にあった首都北京を訪れる訪問者は税関を通過し、すぐに通貨を電子人民元に両替することができた。しかし、これは海外からの信頼を高めるどころか、金融技術における北京のリーダーシップへの懸念を深めるだけでなく、中国共産党による中国社会への支配を強め、中国が世界に対して利用できる新たな地経学的影響力を生み出す可能性があるとして、警戒を呼び起こした。

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2023年9月2日に北京で開催された2023年中国国際サーヴィス貿易交易会で、来場者は中国のデジタル通貨e-CNYを使って支払いを行っている

他国で目立った普及が見られないという事実は、e-CNYが海外では信頼できる代替手段ではないことを示しており、国内でもまだ試験段階にあり、中国のわずか25都市で2億6000万のウォレットに達している。14億人以上の人口のうち。しかし、中国のデジタル通貨の国際化への取り組みは続いている。プロジェクト「mBridge」は、中国本土、香港、タイ、アラブ首長国連邦と25のオブザーバー諸国が参加する国境を越えた CBDCプログラムであり、そのような取り組みの1つだ。中国政府が世界の多くの地域で電子人民元の信頼を高めるための措置をまだ講じていなかったとしても、ドルに依存する決済レールに代わる、より効率的で低コストの代替手段に国際的な関心が集まっている。

しかし、中国は最も近いパートナーとの間で、限定的な脱ドル化の新たな道を見出している。中国は現在、特に東アジア、サハラ以南のアフリカ、資源豊富な新興市場において、120カ国以上の最大の貿易相手国となっている。世界経済の影響力が拡大する中、中国は国際収支の米ドルからの移行に取り組んでおり、現在では中国の商品貿易総額の23%もが人民元で占められている。

その傾向が最も顕著に見られるのは石油取引だ。石油の価格は米ドルで決められており、世界の石油デリヴァティヴ市場の取引量(1日の平均現物原油フローの約23倍)は完全にドル建てだ。しかし、中国政府は、中国の貿易と世界経済における米ドルの役割を減らすことに取り組んでいる。中国は、大国だが資源に乏しく、主に中東からのエネルギー輸入に依存している。昨年の時点で、中国はサウジアラビアから日量約180万バレルの原油を輸入している。この貿易を米ドルから遮断するために、リヤドと中国は、70億ドルの通貨スワップ協定に署名した。そして、毎日の世界の原油量の約14% が制裁対象国から供給されており、この分野での非ドル化へのインセンティヴは明らかだ。

しかしながら、インドとロシアの間の貿易パターンが示すように、ここでは石油市場の脱ドル化を目指す人々の範囲が彼らの理解を超えている可能性がある。西側主導の対ロシア制裁発動を受けて、インドはロシア海上輸送原油の最大の輸出先となり、2023年5月には、日量215万バレルに達した。しかしニューデリーは、両替と決済にインドルピーを使用することを主張した。この立場は、モスクワに対する制裁や禁輸措置と相まって、それ以来摩擦を引き起こしている。ロシアとインド間の石油貿易は当初の増加にもかかわらず、最近12カ月ぶりの低水準となった。

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2022年2月24日、インド・チェンナイのガソリンスタンドで石油バレル(樽)を積み上げる労働者たち

経済全体を「制裁に耐える(sanctions-proof)」方向への動きは、他に様々な形で行われている。ロシア政府は、長年にわたり米ドル保有を着実に減らしており、アメリカ国債の保有額は2017年12月の1022億ドルから半年後にはわずか149億ドルまで減少させた。同様に、2023年に中国は、アメリカ国債保有を減らし、金購入を30%増額した。こうした傾向は、アメリカの敵対諸国や競争相手に限定されている訳ではない。ゴールドマンサックス・リサーチが指摘しているように、ジョージ・W・ブッシュ政権までは核開発計画をめぐり、アメリカの制裁の対象となっていたインドも、自国の金保有量を増やしているが、世界中の埋蔵量に占める金の割合は依然としてわずかだ。

金はある程度の多様化と制裁からの隔離を提供するが、米ドルの代替品ではない。実際の収益ははるかに予測しにくく、金には多額の輸送コストと保管コストがかかり、貿易決済の交換媒体としての金の機能は低い。一方、現物の金の供給は限られており、金先物はわずか約400億ドル相当の貴金属に裏付けられている。この数字は、多くの資産への分散投資や投資の機会を生み出す上場投資信託を含めるとさらに上昇するが、依然として国際通貨市場には遠く及ばない。

テクノロジーは、世界の金融システムにおける金(ゴールド)の用途と役割も変える可能性がある。歴史的に、金は法定通貨よりも優れた価値の保存手段であることが証明されてきた。しかし、同様の機能が欠けており、言うまでもなく、ストレージと移動のコストが高くなる。しかし、既存の保管システムにおける現物の金のデジタル化により、決済機能の効率が向上する。

技術的進歩がどのようなものであれ、真の脱ドル化には多国間合意に裏付けられた説得力のある代替案が必要となるだろう。上海協力機構(Shanghai Cooperation Organisation)、一帯一路構想(Belt and Road Initiative)、BRICS(現BRICS+)などの中国主導の機構は、それぞれのやり方でそのようなフォーラムを創設しようとしている。ブラジル大統領ルラが南アフリカで昨年開催されたサミットでBRICS諸国に共通通貨の創設を呼び掛け、そのような交換媒体は「支払いの選択肢を増やし、脆弱性を軽減する(increases our payment options and reduces our vulnerabilities.)」と仲間の指導者たちに主張したのはこのためだ。

広く宣伝されているこの取り組みにも落とし穴(pitfalls)がある。元々のBRICS諸国には世界人口の42% が住んでおり、国際通貨基金(International Monetary Fund)によると、世界の経済生産高の3分の1を占めている。しかし、経済的、イデオロギー的、地政学的な相違により、政策が統一される可能性は極めて低い。加盟諸国ですら、BRICS主導の脱ドル化という考えを否定しており、インド外務大臣S・ジャイシャンカールは昨年7月に「BRICS通貨という考えはない(There is no idea of a BRICS currency)」と述べた。

データは、ジャイシャンカール大臣の感情を強調している。国際決済銀行(Bank for International Settlements)によると、BRICS貿易の根幹は米ドルである。2022年には、インドルピーに関する全ての外国為替取引の97%、ブラジルレアルに関する全ての取引の95%、人民元に関するすべての取引の84%に関与した。

一部のセクターでは脱ドルへの取り組みが勢いを増しているが、脱ドル化を巡るレトリックは多くの意味で、真剣な政策というよりも、パフォーマンス的な政治に近い。人民元の魅力を高めるために、中国政府は資本規制を緩和したり、監視国家モデル(surveillance state model)から脱却したりする可能性があるが、その兆候はほとんど見られない。ヨーロッパ連合がアメリカの金融システムを動かすような資本市場を創設すればユーロを押し上げる可能性があるが、実際にはそうはなっていない。こうした動きは、中国国民にとってもヨーロッパ人にとっても同様に有益となるだろう。しかし今のところ、米ドルはアメリカだけでなく、世界のほとんどの国にとって、依然として最も信頼されており、多くの点で最も効率的な通貨である。そして、BRICSは新たな国際金融システムを構築したいという願望を持っているかもしれないが、過去25年間に新興市場の出現を可能にしてきた世界経済は米ドルに基づいて構築された。

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アメリカのライヴァル諸国は、世界を米ドルから引き離すことに成功しないかもしれないが、アメリカ政府も世界の他の国々をその軌道から追い出さないように注意すべきである。制裁のための米ドルの使用は、経済国家戦略の貴重な手段となる可能性があり、ペロポネソス戦争に先立ってアテネが近くの町メガラに通商禁止措置をとった紀元前432年以来、西側諸国政府によって制裁が展開されてきた。しかし、それらが過度に使用されたり乱用されたりすると、信頼が損なわれ、武器化された世界経済(weaponized global economy)から自らを守ろうとする世界の他の国々から離れることになる。

制裁の行使に関する議論はここ2年間でより緊急性を増し、新たな形をとってきた。ロシアのウクライナ侵攻直後、アメリカとその同盟諸国は、西側諸国にある約3000億ドル相当のロシアの主権資産を凍結した。これには、ロシアの金と、ユーロ、米ドル、英ポンド、日本円、その他の通貨建ての外貨準備高の相当部分が含まれていた。世界経済は2年間これらの制裁に適応したが、最近、金融の歴史の新たな章に入った。

今年まで、アメリカは戦争状態にない国の海外資産を押収したことはなかった。しかし、4月24日、ジョー・バイデン大統領はウクライナのための経済的繁栄と機会の再建法(Rebuilding Economic Prosperity and OpportunityREPO)に署名し、まさにそれを実行し、ウクライナを支援するためにロシアの資産を押収する手段を確立した。

REPOの主張は、少なくともワシントンとそのパートナーのほとんどにとって、明白かつ説得力のあるものだった。ウクライナ再建の費用は日を追うごとに増大しており、世界経済フォーラムはその額を約4860億ドルと見積もっている。ロシア資産の再利用は政治的に洗練された解決策であり、アメリカやヨーロッパ連合の納税者に直接コストを課さないという利点がある。しかし、ほとんどの政策と同様、これにはトレードオフが関係しており、最近の5月のG7財務大臣会合でもかなりの議論の対象となった。

このポリシー変更は何をもたらす可能性があるだろうか? アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ストレインは、ロシア資産の差し押さえにより、いつ自国の資産が差し押さえられるか分からないと他国に不安を与える可能性があると批評家たちが主張していると述べた。そのリスクを考慮すると、彼らは西側経済から距離を置くための予防措置を講じ、米ドルやユーロを保有する意欲が減り、西側諸国への投資さえも行わなくなるだろう。ストレインは、REPOに関してはこれらのリスクは「正当だが、最終的には説得力がない(legitimate, but ultimately unpersuasive)」と考えているが、こうした措置を効果的にするために関与が必要となる同盟諸国と協力する場合も含め、無視すべきではない。

これらの会話は、実際の、あるいはそう認識されている経済的強制力の過剰使用が、米ドルに代わるものを見つけたいという、他国の欲求を増大させるだけである可能性を示している。制裁は、対象を絞った多国間で、特定の目的を達成するために設定された場合に最も効果的だ。慎重に使用すれば、それらはアメリカの経済的立場を強化するが、乱用すると国を弱体化させる。

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1944年のブレトンウッズ会議に出席する米財務長官ヘンリー・モーゲンソーと中華民国財務副部長の孔祥熙

米ドルの終焉は、何十年にもわたって過剰予測されてきた。しかし、米ドルが永遠に最高の地位に君臨すると考える人は、チャールズ・クラウトハマーから謙虚さの教訓を学ぶべきである。1990年1月、冷戦終結でアメリカが最高権力を誇っていたとき、彼は次のように書いた。「冷戦後の世界の最も顕著な特徴は、その一極性(unipolarity)である。間違いなく、やがて多極化(multipolarity)が訪れるだろう」。米ドルの一極性の瞬間は終わっていない。しかし、世界は変わる可能性がある。

第二次世界大戦後、米ドルが世界のコンセンサスとして浮上したとき、アメリカ経済は世界のGDPのほぼ半分を占めていた。それ以来、中国は世界第2位の経済大国になった。中国政府はアメリカ主導の秩序に挑戦している。各新興市場は発展し、より大きな自主性を求めている。新しい通貨とテクノロジーがオンラインに登場した。一方、ワシントンは、米ドルが与える特権を常に守っている訳ではない。不必要な関税は、世界経済におけるアメリカの役割と影響力を縮小させる可能性がある。財政の瀬戸際政策(fiscal brinksmanship)は、債務上限をめぐる度重なる対立やデフォルトの脅威と相まって、信頼を損なう。アメリカの国債発行高は35兆ドルに近づき、財政赤字は平時であっても記録的なペースで拡大している。

しかし、もしドルを批判する人々が本当に代替案を求めているのであれば、根本的に異なる政策の採用を余儀なくされるだろう。中国が現在経験している経済問題は、景気循環的なものというよりも構造的なものであるように見える。中国政府の閉鎖資本勘定は取引に利用できる人民元の額を制限しており、昨年、中国は対外直接投資で史上初の四半期赤字を報告した。中国の貿易相手国の多くは、米ドルからの脱却を望んでいるが、ゴールドマンサックス・リサーチは、自国の通貨が米ドルに固定されていることが多いため、中国でも蓄積できる人民元には制限があると指摘している。アメリカの同盟諸国に関して言えば、EUですら、代替手段としてのユーロの魅力を高める可能性のあるはずの、流動性が高い資本市場を創設するための措置を講じていない。

脱ドル化に向けた動きは依然としてわずかだが、意味があり、感動を与えるものである。米ドルがその地位を失うには、ワシントンで一連の政策が失敗し、米ドルを批判する者たちが権威主義的で国家主導の経済(authoritarian, state-led economies)だけでなく、世界的に魅力的な代替案を生み出す必要があるだろう。世界の金融システムは変化しており、確かなことは何もない。しかし、米ドルが負ける方に賭けるのはやはり誤りだろう。

※ジャレッド・コーエン:ゴールドマンサックス国際研究所国際問題部門責任者兼共同会長。ゴールドマンサックスのパートナー兼経営委員会委員を務めている。

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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 私は、「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)」対「それ以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の対立構造が世界を変化させると主張している。グローバルノースとグローバルサウスという分裂もこれに似ているが、地理に関する言葉が入っているため、ロシアや中国といった北半球に位置する国々がグローバルサウスに入っていることに違和感を持つ人がいるだろうと考え、これらの言葉を使う際には気を付けている。しかし、マスメディアでは、グローバルノース対グローバルサウスという言葉が良く使われている。

西潟諸国対それ以外に国々という分裂が明らかになったのがウクライナ戦争だった。ウクライナ戦争が発生し、ロシア非難決議について、強制力を持つ国連安保理決議はロシアが拒否権を持っているので、そもそも可決成立しないことは分かっていた。強制力を持たない国連総会決議では、反対5カ国、棄権35カ国、意思を示さずが12カ国となった。人口比で言えば「賛成15対反対85」ということで、世界の大きな分断が明らかになった。以前であれば、西側・欧米諸国の意向に唯々諾々と従っていた国々が、ある程度自分たちの意向で動けるようになっている。それだけ欧米諸国の力が落ちているということが明らかになっている。

その代表格がBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)であり、G20のうちの、西側諸国のG7加盟諸国以外の13カ国である。この13カ国は、BRICS以外では、アルゼンチン、オーストラリア、インドネシア、メキシコ、韓国、サウジアラビア、トルコである。これらの地域大国・二番手国がこれから重要になってくる。以下の論稿では、

ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコを重要な「どちらにも肩入れしない国々(swing states)」「中規模大国(middle powers)」と規定している。これらの国々は、地域のリーダーとしての役割を果たし、国際政治においても重要な役割を果たしている。トルコとサウジアラビアは中東地域の大国であり、地域の安定において重要な存在である。トルコは東西をつなぐ地理的な位置、ロシアとの関係もあり、ウクライナ戦争において和平の仲介を行おうとしている。ブラジルやインドネシア、南アフリカは資源大国としての存在感を示しているが、工業化を目指している。
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 西側諸国の衰退とそれ以外の国々の台頭は大きな世界の流れである。私たちは、そのことをしっかりと理解して、世界の変動に備えねばならない。日本にとって、最も馬鹿らしいのは、アメリカと心中する覚悟で、中国に突っかかり、戦争をしてしまうことだ。

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6つのどちらにも肩入れしない国々が地政学の将来を決定する(6 Swing States Will Decide the Future of Geopolitics

-これらのグローバルサウスの中規模大国がアメリカの政策の焦点となるべきだ。

クリフ・カプチャン筆

2023年6月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/06/06/geopolitics-global-south-middle-powers-swing-states-india-brazil-turkey-indonesia-saudi-arabia-south-africa/

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2018年7月27日、南アフリカのヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議で挨拶するロシアのウラジーミル・プーティン大統領、インドのナレンドラ・モディ首相、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領

先月、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領は異例の形でウクライナを飛び出し、サウジアラビアのジッダと日本の広島でほぼ1週間を過ごした。彼の目標は、ロシアのウクライナ戦争を擁護する4大国であるブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビアの支持を獲得することだった。これらおよびその他のグローバルサウス(global south)の主要諸国は今日、かつてないほど大きな力を持っている。彼らが新たに発見した地政学的影響力(geopolitical heft)の理由は、彼らがより多くの主体性(agency)を持ち、地域化(regionalization)の恩恵を受け、そして米中間の緊張を利用できることだ。

今日の中規模大国(middle powers)は、第二次世界大戦後、これまで以上に多くの主体性を持っている。これらの国々は、地政学(geopolitics)において大きな影響力を持っているが、世界の2つの超大国であるアメリカと中国ほど強力ではない。グローバルノースには、フランス、ドイツ、日本、ロシア、韓国などが含まれる。ロシアを除いて、これらの国々は米国と幅広く連携しているため、権力と影響力の変化についてはあまり語られていない。

もっと興味深いのは、ブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコというグローバルサウスの主要な中規模大国6カ国だ。グローバルサウスのこれらどちらにも肩入れしない国々(swing states)は、米中どちらの超大国とも完全に連携していないため、自由に新たな権力関係を生み出すことができる。これら6カ国は、G―20のメンバーであり、地政学と地経学(geoeconomics)の両方の面で活発に活動している。これら6つの国は、グローバルサウスにおけるより広範な地政学的傾向を示す、良いバロメーターとしても機能している。

これら6つの国の重要性が高まっている理由は多くあるが、長期的な歴史的発展と、より最近の世界的な傾向という2つの要素に分類できる。最初のバケツに関しては、冷戦(Cold War)以来の発展により、これらの中規模大国は、国際関係においてより多くの主体性を得ることができるようになった。冷戦により、対立するブロックへのより厳格な分離が必要となり、今日のどちらにも肩入れしない国々の一部が取り込まれた。その後のアメリカの一極支配(unipolarity)の時代では、ほぼ全ての国がワシントンに対して一定の忠義(fealty)を示す必要があった。今日の中国とアメリカの二極性(bipolarity)は弱まり、全ての中規模大国はより自由に行動できるようになった。

歴史のバケツの2つ目は次の通りだ。過去20年間、世界は重要な形で脱グローバル化(deglobalizing)し、その結果、地域レヴェルで新たな地政学的・地経済的関係が形成されつつある。その結果、地域レヴェルで新たな地政学的・地理経済的関係が形成されつつある。どちらにも肩入れしない中規模大国は全て、地域のリーダーであり、力が地域に委譲されるにつれて、その重要性は増していく。ニア・ショアリング [near-shoring](サプライチェインを自国の近くに移動させること)やフレンド・ショアリング [friend-shoring](敵対国から志を同じくする国へと移動させること)の過程で、一部の企業や貿易関係は中国から他の地域(主にグローバルサウス)へと徐々に移動している。グローバルサウスの、どちらにも肩入れしない中規模大国のいくつかは、地域貿易のハブとして、更に忙しくようになるだろう。インドがその最たる例で、アメリカ企業の一部は、インドに生産拠点を置き、新たなサプライチェインを構築している。エネルギー市場はより地域的なものになりつつあり、サウジアラビアに利益をもたらしている。同様に、サウジの首都リヤドは地域金融のハブとして台頭しつつある。また、国際通貨基金(International Monetary FundIMF)は、世界は分断化(fragmenting)しつつあり、分断化した世界では地域の中規模大国が論理的により重要な役割を果たすと強調している。

第三に、冷戦時代、インドとインドネシアは植民地支配から脱したばかりだった。そのため、米ソ冷戦二極時代の世界的な役割は限られていた。今日、どちらにも肩入れしない中規模大国6カ国は完全に自立したアクターである。しかし、彼らは、非同盟運動(Non-Aligned Movement)や、G―77やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のようなグローバルサウスが支配する他のグループの新しい姿ではない。これらのグループは全て、イデオロギー的な親和性(ideological affinity)を持っているか、あるいは持っている。イデオロギー的な親和性がないため、これらの国家は外交政策において強硬な取引主義的アプローチ(hard-core transactional approach)をとることができ、その結果、国際情勢への影響力を高めている。

どちらにも肩入れしない中規模大国の力を高めるその他の要因は、最近の世界的な傾向から生じている。どちらにも肩入れしない中規模大国の力は、米中関係を明確に特徴づける競争と対立(competition and confrontation)から得られる影響力によって強化される。それぞれの超大国は、どちらにも肩入れしない中規模大国が自国に同調することを望んでおり、どちらにも肩入れしない中規模大国が他方を翻弄する機会を作り出している。例えば、中国のバランスをとるための、アメリカ主導の最も重要な取り組みである日米豪印四極安全保障対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)に参加して以来、インドの力と影響力は劇的に増大した。ブラジルとインドネシアは、特にリチウム、ニッケル、アルミニウムといった重要な鉱物資源に関する取引を封じ込めようとする中国の熱意から利益を得ている。最近の調査によると、6カ国は、それぞれ特定の問題で、アメリカや中国に傾斜することはあっても、そのほとんどは比較的バランスの取れた忠誠を保っている。今のところ、6カ国は多くの分野で大国を翻弄する自由を手にしている。半導体(semiconductors)、人工知能(artificial intelligence)、量子技術(quantum technology)、5G通信(5G telecommunications)、バイオテクノロジー(biotechnology)などの基盤技術は唯一の例外である。

同様に、グローバルサウスのどちらにも肩入れしない中規模大国は、経済規模が大きく成長しており、国際的な気候政策の影響力を持っている。これらの国々の参加なしに、汚染や気候への影響による課題を解決することはできない。炭素市場(carbon markets)は、排出量への実際の影響に関係なく、これらの中規模大国に更に資源をもたらすことになるだろう。なぜなら、西側企業はネットゼロの地位を追求する際にオフセットを購入する必要があるからである。より広範に、森林破壊と脱炭素化に関する政策には、森林破壊に関してはブラジルとインドネシア、脱炭素化、特に石炭の利用に関する脱炭素化に関しては主にインドとインドネシアといった激戦州の建設的な参加が必要である。最後に、「ジャスト・エネルギー・トラン十ション・パートナシップス」は、気候変動目標に資金を提供するための創造的な解決策を見つけることに重点を置いており、南アフリカとインドネシアが最初の資金提供先となる。このプログラムの結果は今のところまちまちだが、これは2つの中規模大国が気候政策において指導的役割を担う例である。

どちらにも肩入れしない中規模大国6カ国は、制裁(sanctions)とウクライナ戦争の構図作りにおいて重要な役割を果たしてきた。彼らは当初から、西側諸国によるウクライナへの軍事援助や対ロシア制裁に同調することを拒否してきた。彼らは、この戦争は、ヨーロッパのみに影響を及ぼし、世界の安全保障には影響を与えず、開発(development)、債務削減(debt reduction)、食料安全保障(food security)、エネルギー安全保障(energy security)などの分野における国益を促進するものではないと主張している。

しかし、これらの国々が戦争に与えた最も重要な影響は、西側諸国の対ロシア制裁に反対し、場合によってはそれを弱体化させるというリーダーシップの役割を果たしたことである。トルコは、大量の軍需品のロシアへの輸出に関与しており、西側諸国の制裁の精神に違反し、おそらくはその規定にも違反している国の一つである。こうした活動に対し、アメリカは既にトルコ企業4社に制裁をしている。南アフリカはロシアに傾いているものの、他の中規模大国のほとんどは断固として中立を保っている。6カ国はいずれも、戦争開始以来、ロシアとの貿易その他の関係を維持または強化してきた。

国際通貨基金の予測によれば、ロシア経済の今年の成長率は0.7%で、西側諸国が期待していたような、経済を完全に麻痺させる影響はほとんどない。どちらにも肩入れしない中規模大国が、ロシアが経済制裁の影響を弱め、それを続けるために支援をしている。この数字は、クレムリンが、貿易を南と東に向けることで生計を立てられると信じている理由の一つでもある。

グローバルサウスの中規模大国の影響力が大幅に増していることは、彼らの調停イニシアティヴにも表れている。トルコは、ウクライナ戦争に関して最も影響力のある唯一の対外勢力である。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、穀物取引の主要な交渉者であり、戦争開始時の和平交渉にも関与した。ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領は、自らのイニシティヴで名乗りを上げた。一方、インドはより静かに、将来の和平を仲介する立場にある。これらの国家は現在、他の紛争も調停できる立場にある。この点でのインドの地位は特に高く、2月の時点ですでに国連平和維持活動(U.N. peacekeepers)の8%を担っているからだ。インドネシアや南アフリカも調停役や平和維持要員として活躍している。

最後に、これらの国々に見られる科学や工学の専門知識は、将来の核拡散リスクを高めている。仮に次に核兵器が拡散するとすれば、それはグローバルサウスの国々である可能性が高い。近い将来、特にサウジアラビアとの和解が実現した後は、その可能性は低いものの、イランは依然として世界で最も危険な核拡散リスクである。イランが潜在的な核保有国になるには、技術的にあと数歩のところまで来ている。リヤドとの関係が急激に崩壊し、テヘランがダッシュで爆弾製造に乗り出すというシナリオでは、サウジやおそらくトルコも爆弾(核兵器)を求める可能性がある。サウジアラビアがイスラエルとの国交樹立と引き換えに、アメリカに核保証を要求したとされるのはそのためである。

西側支配に対抗する主役として、BRICS諸国が注目されることは、グローバルサウスの興味深い点の多くを見えにくくしている。なぜなら、BRICSに中国とロシアが加わることで、どちらにも肩入れしない中規模大国の重要な台頭が覆い隠されてしまうからだ。

中国とロシアが拡大したBRICSを、そしてBRICSを通じてグローバルサウスを共同支配することは、対処すべき真の脅威である。

中国は今日、二極化した世界における2つの大国のうちの1つである。中国をグローバルサウスの一員と考えるのは大げさだが、それは中国の経済力と広範な地政学的野心が、中国を異なるタイプの国家にしているからである。ロシアは中規模大国だが、衰退しつつある。ロシアはまた、世界へのアプローチにおいて高度修正主義的(hyper-revisionist)であり、これは、グローバルサウスのどちらにも肩入れしない中規模大国にはない見方である。そのため、地政学的に最も活発なBRICSの2カ国の政策は、どちらにも肩入れしない中規模大国とは異なる論理で説明する必要がある。

しかしながら、BRICS諸国が中国の指導の下、グローバルサウスを代表すると主張する、より正式な機関になるのかどうかという疑問は残る。特に、他の19カ国がすでにBRICSへの加盟に関心を示していることを考えれば、この見通しは西側諸国に対する明確な挑戦ということになる。しかし、その脅威が現実のものとなる可能性は低い。インドはBRICSの有力国であり、BRICSを共同支配しようとする中国の動きに断固として反対するだろう。サウジアラビア、ブラジル、トルコ(NATO加盟国)、インド、そして南アフリカでさえも、安全保障や貿易の面で、アメリカやその他の主要な西側諸国と重要な関係を保っている。これらの国々は、アメリカから離れているかもしれないが、それは中国が主導し、ロシアが支援する、アメリカに積極的に反対する組織に参加することとは異なる。現在のところ、BRICSは共通のアジェンダを策定し、実施する能力を示していないため、中国が共闘するための組織的な力はほとんどない。最後に、BRICSはコンセンサスに基づいて運営されている。独自の利害を持つ新メンバーが加わる可能性が高いため、コンセンサスを得るのはさらに難しくなるだろう。

これら6つのどちらにも肩入れしない中規模が注目すべき大国であるという考えに同意しない人もいるかもしれない。これらはいずれもまだ新興市場(emerging markets)であり、近年は世界経済のその部分にとっては好ましい状況ではない。インドを除いて、どちらにも肩入れしない中規模大国の成長率は予想を下回っている。このグループは法の支配(rule of law)を支える制度の発展が遅れている。AIを含む技術革命は、先進工業民主政体諸国(advanced industrialized democracies)よりもグローバルサウスに大きな打撃を与えるだろう。前者は生成型AIの政治的に危険な影響に対抗するためのリソースが少ないからだ。そして、気候目標によって激戦州に影響力が与えられるとしても、気候関連の影響はこれらの国々の一部に重大な損害と苦痛を与えることになる。

しかし全体として、これらの勢力は地政学的にますます強力になっており、今後もさらに強力になるだろうという主張は依然として強い。彼らは最も強力な世界的トレンドの一部から影響力を引き出すことができ、彼らの新たな力はすでに明確に現れている。

最も重要な政策的意味は、世界の力の均衡における、アメリカの地位の大幅な弱体化を防ぐために、ワシントンは、6つのどちらにも肩入れしない中規模大国に対するゲームをアップする必要があるということである。ロシア・ウクライナ戦争や中国との競争において、どちらにも肩入れしない中規模大国がアメリカの後ろ盾になることを拒否しているため、これらの主要国の多くは既に離れつつある。拡大したBRICS、そしてそれを通じたグローバルサウスと中露両国が共闘するという脅威は現実であり、それに対処する必要がある。

ワシントンは、主要6カ国それぞれに対してだけでなく、より広くグローバルサウスに対して、練り上げられた外交戦略を持つ必要がある。先日のG7にどちらにも肩入れしない中規模大国の大半を招待したことは有益なスタートであったが、もっと多くのことが必要となる。より良い戦略は、アメリカの主要外交官によるハイレヴェルの訪問を増やすことから始まるだろう。政策の改善には、アメリカ市場へのアクセスという難題を解決する、より機敏な貿易戦略も含まれる。より広く言えば、アメリカは、アメリカの重要な政策決定に対する、6つのどちらにも肩入れしない中規模大国とグローバルサウスの反応をよりよく予測できるようになる必要がある。例えば、ロシアの戦争に対する西側の政策がグローバルサウスに疎外感(alienation)をもたらした度合いは、ワシントンを驚かせた。2022年2月の侵攻開始以来、アメリカは、追いつ追われつを繰り返している。このような予測能力を持つには、グローバルサウスの多くの国々における感情やエリートの信条をよりよく理解する必要がある。

第二に、米中間の緊張が劇的に高まり、冷戦型の対立に発展した場合、どちらにも肩入れしない中規模大国、更には全ての中堅国の力と影響力は打撃を受けるだろう。デカップリング(decoupling)は拡大し、どちらにも肩入れしない中規模大国はどちらか一方により接近せざるを得なくなるだろう。

最後に、どちらにも肩入れしない中規模大国の台頭により、地政学的な結果に対して影響力を持つ国が世界に増えた。こうした国々の間では、自国の国益を集中的に追求する以上の明確な行動パターンは見られない。地政学上のあらゆる問題で、より多くのドライヴァーが存在するようになった。そのため、ただでさえ困難な地政学的結果の予測がさらに難しくなっている。

※クリフ・カプチャン:ユーラシア・グループ会長。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 BRICS、グローバル・サウス、西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)の一角を占める新興大国インドについては、最近、「2025年には、名目GDPで日本を抜いて世界第4位になる」という報道がなされた。

インドについては、旅行記などで、大変に貧しい人たちが多くいる、衛生状態が良くない、とにかく人口が多い(約14億2000万人で中国を僅差で抜いて世界第1位)などの印象があり、インドの経済大国化は信じられないという人も多いと思う。

「何で儲かっているのか?」と不思議に思う人も多いと思う(私もその1人)。なんでも、IT(インド人の数学の強さと関連して)、製造業(タタ・グループの自動車産業や製鉄など)、農業が主要産業であり、世界最大の人口を誇るので、巨大な国内市場がある。インドのGDP成長率は、新型コロナウイルス感染拡大前は、安定して5%前後を推移してきたがその後急落したが、現在は持ち直している。インドの人口ピラミッドは釣り鐘型であり、若い人たちが多く、これが「人口ボーナス」となり、これから国内市場の消費はどんどん伸びていく。
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 インドのナレンドラ・モディ首相は高い支持率を誇る。経済成長を実現し、人々の生活を改善し(トイレの建設に力を注いできた)、インド国内のナショナリズムを高揚させてきた。一方で、人口の大部分を占めるヒンドゥー教徒優先の政策を実施し、マイノリティのイスラム教徒(それでも2億人もいる)への憎悪が増大しているという面もある。インドは独立以降は、世俗国歌として、宗教は政治の中心から排除されてきたが、ヒンドゥー教徒中心になりつつある。それに対して懸念する声もある。また、インド国内の「南北問題」、貧しい北部と豊かな南部という分裂も存在する。現在のモディ首相を支える与党は、インド国民党(BJP)であり、その基盤はヒンドゥー教至上主義の民族義勇団(RSS)だ。彼らがよりナショナリズムを高揚させていくと、外交政策にも影響を与えかねないが、中国との関係が平穏であることは大きい。インドにとって重要なのは中国、そしてロシアとの距離感である。西側諸国(ザ・ウエスト、the West)とも良好な関係を維持しながら、西側以外の国々の中で存在感を増していくということになるだろう。アメリカとしては、地理的な位置関係も含めて、インドと中国の接近は防ぎたいところだが、インドはアメリカの意図を見透かして、自国の利益になるような行動を選択的に取っている。インドについてはこれからも注視していかねばならない。
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ナレンドラ・モディ

(貼り付けはじめ)

インドについての新しい国家像に関する思想(The New Idea of India

-ナレンドラ・モディの統治は、リベラルではないが、より確固とした国家を生み出しつつある。

ラヴィ・アグロウアル筆

2024年4月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/08/india-modi-bjp-elections/?tpcc=recirc_latest062921

4月中旬から6月上旬にかけて、数週間にわたり、世界最大の選挙が行われる。人口14億人のうち9億6000万人以上のインド国民がインド連邦議会選挙の投票権を持ち、世論調査ではナレンドラ・モディ首相と彼の率いるインド人民党(Indian People's PartyBharatiya Janata PartyBJP)が3期連続で政権に就くことが強く示唆されている。

モディはおそらく世界で最も人気のある指導者だろう。最近のモーニング・コンサルタント社による最近の世論調査では、インド人の78%が彼の指導力を支持している。(次に支持率の高いメキシコ、アルゼンチン、スイスの指導者の支持率の数字は、それぞれ63%、62%、56%である)。モディが賞賛される理由を理解するのは難しくない。彼はカリスマ的指導者であり、ヒンディー語の巧みな演説家であり、勤勉で国の成功に尽力していると広く認識されている。彼は縁故主義(nepotism)や汚職(corruption)に手を染める可能性がほぼないとみなされているが、これは彼が73歳の男性で、パートナーも子供もいないことに起因することが多い。モディには真のライヴァルはほとんどいない。彼の党内での権力は絶対的であり、対立候補は分裂し、弱く、家柄だけは立派な王朝的と言えるものだ。G20を主催する機会を最大限に活かし、注目を集める海外訪問を行うことで、モディは世界の舞台でインドの存在感を高めた。それに伴って、モディ自身の人気も高めることに成功した。ニューデリーは外交政策でも自己主張を強め、イデオロギーや道徳よりも自己利益を優先している。これが国内向けに大きなアピールとなっている。

モディの成功は彼を非難する人々を混乱させる。結局のところ、彼は権威主義的な傾向をより強めている。モディは記者会見にほとんど出席せず、難しい質問をする数少ないジャーナリストたちとのインタヴューにも応じず、議会での議論もほとんど避けてきた。モディは権力を集権化し、カルト的な人格を構築する一方で、インドの連邦制(federalism)を弱体化させている。彼の指導の下、インドの多数派であるヒンドゥー教徒が支配的になった。このような1つの宗教の優位は、少数派に害を及ぼし、世俗主義(secularism)への国の関与に疑問を投げかけるなど、醜い影響をもたらす可能性がある。報道の自由や独立した司法など、民主政治対英の重要な柱は傷つけられている。

しかし、モディは民主的に勝利した。政治学者のスニル・キルナニは、1997年に出版した著書『インドの思想(The Idea of India)』の中で、当時、建国以来50年の歴史を持つインドを形作ったのは、文化や宗教よりもむしろ民主政治体制であると主張した。キルナニによれば、この思想の第一の体現者はインドの初代首相であり、ケンブリッジ大学出身のジャワハルラール・ネルーである。ネルーは、イスラム教徒の祖国として明確に形成されたパキスタンとは対照的な、リベラルで世俗的な国というヴィジョンに確信を持っていた。モディは多くの点でネルーとは正反対である。下層カーストの中流以下の家庭に生まれたモディ首相は、ヒンドゥー教徒のコミュニティ・オーガナイザーとして国内を何年も旅し、一般庶民の家に寝泊まりして、彼らの不満や願望への理解を深めることから、政治に関する教育を受けた。モディのインド思想は、選挙民主政治体制と福祉優先主義(welfarism)を前提としながらも、ネルーのそれとは大きく異なっている。文化や宗教を国家の中心に据え、ヒンドゥー教を通じて国家・国民であることの意識を定義し、個人の権利や市民的自由を縮小することを意味するとしても、強力な最高責任者がリベラルな指導者よりも望ましいと考えている。この全くの別の選択肢のヴィジョン、すなわち非自由主義的民主政治体制(illiberal democracy)は、モディと彼の率いるインド人民党にとって、自分たちにより大きな勝利をもたらす提案となっている。

ヒンドゥー教徒はインドの人口の80%を占める。インド人民党は、彼らが自分たちの宗教や文化に誇りを感じるように仕向けることで、このインド国民の大多数の支持を追求している。時には、人口の14%を占める2億人のイスラム教徒への憤りを煽動することで、このプロジェクトを助長することもある。インド人民党はまた、ヒンドゥー教徒が歴代の侵略者の大群によって犠牲になったと解釈する歴史も進めようとしている。ヒンドゥー教徒はカーストや言語によって分断されており、一枚岩とは言い難いが、インド人民党が国政選挙で勝利するためには、ヒンドゥー教徒の半分の支持を得るだけで十分なのだ。2014年、インド人民党は国政選挙で31%の得票率を記録し、30年ぶりに単独政党として、議会の過半数の議席を制した。2019年はより成功し、37%の得票率を記録した。

非自由主義的で、ヒンディー語が支配的で、ヒンドゥー教を第一とする国家が出現しつつあり、それはジャワハルラール・ネルーを含む他のインドのこれまでの考えに挑戦している。

インド人民党の成功の少なくとも一部の要因としては、モディの知名度の浸透(name recognition)と選挙戦での精力的なパフォーマンスに起因している。しかし、1人の人物に注目しすぎることは、インドの軌跡を理解することから目を逸らすことになりかねない。モディがここ数世代でインドのどの指導者よりも権力を集中させたとはいえ、彼の中核的な宗教的アジェンダは、インド人民党や、そのイデオロギー的母体である民族義勇団(Rashtriya Swayamsevak SanghRSS、ラシュトリヤ・スワヤムセバク・サング、National Volunteers Organization)、500万人以上の会員を数えるヒンドゥー教社会団体・準軍事組織によって、長い間伝えられてきた。モディは2014年以来、インド人民党にとっての主要な顔であるが、党自体は1980年から現在の形で存在している。(モディの真のイデオロギー的ルーツである民族義勇団はさらに古い。来年には創立100周年を迎える)。インド人民党のヴィジョン、つまりインドについての考え方は、新しいものでもなければ、隠されているものでもない。それは選挙マニフェストに明確に記載されており、モディのセールスマンシップと相まって、投票箱の中でますます成功を収めている。

言い換えると、インドの現在の政治的状況は、一世代に一人の(once-in-a-generation)、不世出な指導者と、説得力のある代替案の少なさという供給と大いに関係があるが、需要の変化とも関係があるかもしれない。インド人民党の政治プロジェクトの成功は、インドがどのような国になりつつあるのかをより明確に示している。インドの人口の半分近くは25歳以下である。こうした若いインド人の多くは、新しい文化的、社会的な国家像を主張しようとしている。非自由主義的で、ヒンディー語が支配的で、ヒンドゥー教を第一とする国家が出現しつつあり、それはネルーを含む他のインドの考え方に挑戦している。このことは、国内政策と外交政策の双方に重大な影響を与える。インドのパートナーやライヴァルとなるべき国々がこのことに早く気づけば、ニューデリーの世界的影響力の増大にうまく対処できるようになるだろう。『モディ以前のインド』の著者であるヴィナイ・シタパティは、「ネルー的なインド国家像思想は死んだ。何かが失われたのは間違いない。しかし、問題は、新しい考えがそもそもインドにとって異質なものであったかどうかである」と述べている。

インド人は、市民社会の健全性を示す重要な指標において、インドが近年どれほど落ち込んでいるかを示す報告に歯がゆさを感じている。しかしながら、こうした評価に異議を唱える価値はある。「国境なき記者団」によると、インドは報道の自由度において、2002年の139カ国中80位から、2023年には180カ国中161位にランクを落とした。世界中の民主政体を測定するフリーダム・ハウスは、2024年の報告書でインドを「部分的に自由(partly free)」としか評価せず、インド統治下のカシミール地方は「自由ではない(not free)」と判定された。過去10年間でインドよりも自由度が低下したのは、ロシアや香港などほんの一握りの国と地域だけである。世界経済フォーラムの2023年グローバル・ジェンダー・ギャップ指数では、インドは146カ国中127位だった。ワールド・ジャスティス・プロジェクトは、法の支配の遵守について、インドを142カ国中79位とし、2015年の59位からランクを下げた。ある法学者が「Scroll.in」で書いているように、司法は「急進的な多数民族決定優先決主義的アジェンダを追求するために、政府が自由に使える巨大な武器を形成している(placed its enormous arsenal at the government’s disposal in pursuit of its radical majoritarian agenda)」。ウェブへのアクセスについても考えてみよう。インドは、過去10年間で、どの国よりもインターネットを遮断しており、イランやミャンマーよりもその程度が高くなっている。

インドを観察している専門家たちが最も心配している社会的指標は、宗教の自由(religious freedom)である。ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間のトラブルは今に始まったことではない。しかし、モディの率いるインド人民党は、政権に就いてからの10年間、立法を通じてヒンドゥー第一主義(Hindu-first agenda)のアジェンダを推進することに著しい成功を収めてきた。2019年には、イスラム教徒が多数を占めるカシミール地方の準自治領の地位を剥奪し、同年末には選挙の年であるにもかかわらず、イスラム教徒が多数を占める近隣3カ国からの非イスラム教徒に市民権を与える移民法を成立させた。この法律は、インドのイスラム教徒が市民権を証明することをより困難にするもので、2020年3月に施行された。この発表のタイミングは、選挙上の利点を強調するものだったと考えられる。

このような立法措置よりも有害なのは、モディ政権の沈黙であり、インドのイスラム教徒にとってますます脅威を感じる状況の中で、しばしば、ヒンドゥー教至上主義への励ましの口笛を吹くことである。かつてネルーが世俗主義を強調したことで、公の場では暗黙のルールが課せられたが、今ではヒンドゥー教徒はイスラム教徒のインドへの忠誠心に比較的平気で疑問を呈することができる。ヒンドゥー至上主義(Hindu supremacy)が基準となり、これに対する批判者たちは「反国家的(anti-national)」の烙印を押される。このヒンドゥー至上主義は、2024年1月22日、モディがインド北部の都市アヨーディヤでヒンドゥー教の神ラムを祀る巨大な寺院を奉献したことで頂点に達した。2億5000万ドルをかけて建設されたこの寺院は、1992年にヒンドゥー教徒の暴徒によって取り壊されたモスクの跡地に建てられた。30年前にこの事件が起きたとき、インド人民党の指導者たちは自分たちが引き起こした暴力に反発した。今日、その恥辱は国家的誇りの表現へと姿を変えた。ボリウッド(Bollywood)のトップスターやこの国のビジネスエリートが集まった聴衆の前で、寺院の開院式で、ヒンドゥー教の僧侶の衣装を身にまとったモディは、「新しい時代の始まりだ(It is the beginning of a new era)」と述べた。

インド人であることの意味に関する、モディのヴィジョンは、少なくとも部分的には世論に表れている。ピュー・リサーチ・センターが、2019年末から2020年初めにかけてインドの宗教に関する大規模な調査を実施したところ、ヒンドゥー教徒の64%がヒンドゥー教徒であることは「真のインド人(truly Indian)」であるために非常に重要だと考えており、59%がヒンディー語を話すことも同様にインド人であることを定義する上で基礎になると答え、84%が宗教は生活において「非常に重要」だと考え、59%が毎日祈りを捧げていることが分かった。シヴ・ナダル・チェンナイ大学で法律と政治を教えているシタパティは、「インド人民党の優勢は主に需要主導型だ。しかし、進歩的な人々はこのことを否定している」と述べている。

シタパティに対しては、「彼の研究がインド人民党と民族義勇団の過激派のルーツを過小評価し、彼らのイメージ回復に役立っている」と主張する左派の批評家たちがいる。しかし、需要と供給の問題については インド人民党の優勢は、国民の多くがヒンディー語を話す北部に限られている。ハイテク企業が栄え、識字率が高く、ほとんどの人がタミル語、テルグ語、マラヤーラム語などの言語を話す裕福な南部では、インド人民党の人気は明らかに低い。南部の指導者たちは、自分たちの税金が北部のヒンディー語地帯に補助金として出されているという憤りを募らせている。この地理的な亀裂は、全国的な区割りが行われる2026年に表面化する可能性がある。野党指導者たちは、インド人民党が議会の選挙区を自分たちに有利なように変更することを恐れている。もしインド人民党が成功すれば、モディが他印した後も、ずっと選挙で勝ち続けることができるだろう。

こうした状況にもかかわらず、シタパティはこの国が民主政治体制であり続けていると主張し、「政治参加(political participation)はかつてないほど高まっている。選挙は自由かつ公正だ。インド人民党は、州選挙で定期的に負ける。あなたの民主政治体制の定義が選挙の神聖さと政策の内容に焦点を当てているのであれば、インドの民主政治体制は繁栄していることになる」と述べた。シタパティは、インド社会では文化は自由主義や個人の権利を中心としていないと語った。モディ首相の台頭はその文脈で見られなければならない。

反対を唱えるようなリベラル派のインド人たちは、表舞台から姿を消しつつある。明らかな例外は、ブッカー賞を受賞した小説家アルンダティ・ロイである。昨年(2023年)9月、スイスのローザンヌでロイは、ファシズムに堕しつつあるインドについて次のように語った。「与党インド人民党のヒンドゥー至上主義のメッセージは、14億人の国民に執拗に流布されている。その結果、選挙は殺人、リンチ、犬笛(dog-whistling)の季節となった。私たちが恐れなければならないのは、もはや指導者たちだけでなく、国民全体なのだ」。

10億人以上のヒンドゥー教徒の動員(mobilization)は、多数派の暴政(tyranny of the majority)の一形態なのだろうか? プリンストン大学で教鞭をとるインドの政治学者プラタップ・バヌ・メータはそうではないと言う。メータは「ヒンドゥー教の民族主義者は、自分たちのプロジェクトは古典的な国家建設プロジェクトだと言うだろう」と述べ、インドは独立国としてまだ若い国であるかを強調した。ポピュリズムもまた、モディ首相の政治を説明するのに満足のいく言葉ではない。彼は控えめな経歴を誇示しているが、決して反エリート主義者ではなく、実際、インドや世界のトップビジネスリーダーにインドへの投資を頻繁に勧めている。エリートたちは、時に、モディ首相の成功に直接資金を提供することもある。2017年の選挙公債規定により、インド人民党への匿名の寄付が6億ドル以上もたらされた。最高裁判所は2024年3月に、この制度を「違憲(unconstitutional)」として廃止したが、今回の選挙で大口献金者の影響を防ぐには判決が遅すぎた可能性が高い。

ニューデリーを拠点とする歴史学者ムクル・ケサヴァンは、インド人民党のアジェンダを多数民族決定優先決主義(majoritarianism)と表現する方がより正確だと主張する。ケサヴァンは、「多数民族決定優先決主義には少数派を動員する必要がある。インドはその先陣を切っている。私たちがやっているようなことをやっているのはインドだけだ。西側諸国がこのことに気づかないことに、私はいつも驚かされる」と述べている。

西側諸国がいつも気づかないのは、モディがアメリカのドナルド・トランプのような強権者とは大きく異なるということだ。トランプが共和党を凌駕するイデオロギーを広めたのに対し、モディはインド人らしさをヒンドゥー教とより密接に同一視するという、民族義勇団の100年来の運動を実現している。世論調査の結果でも選挙の結果でも、この運動が実現する時期が来ていることが明らかになっている。

前述のメータは、「人々は偏狭な考えを持っていない。トレードオフを受け入れることを厭わない」と述べ、たとえそのプロジェクトに不快な要素があったとしても、インド人民党のヒンドゥー国家という前提を受け入れるインド人が増えていることを説明した。「彼らは多数民族決定優先主義的なアジェンダが交渉決裂になるとは考えていない。少なくとも今のところは。重要な問題は、多数民族決定優先決主義がこのトレードオフを国民が受け入れることを困難にするような事態を引き起こしたときに何が起こるかということである。ここでの最大のリスクは、インドの歴史に刻まれたような、共同体による暴力が急増する可能性にある。例えば2002年、西部のグジャラート州ゴードラで、アヨーディヤから戻る列車が炎上し、58人のヒンドゥー教徒巡礼者が死亡した。当時のグジャラート州首相であったモディは、この事件をテロ行為であると宣言した。イスラム教徒が火事の犯人だという噂が流れた後、暴徒が3日間にわたって州内で暴力を振るい、1000人以上が死亡した。死者の圧倒的多数はイスラム教徒だった。モディはいかなる関与でも、有罪判決を受けたことはないが、この悲劇はモディにとって不利にも有利にも作用した。リベラルなインド人たちは、モディが暴力を止めるためにそれ以上のことをしなかったことに怯えたが、相当数のヒンドゥー教徒にとっては、モディは自分たちを守るためには手段を選ばないというメッセージになった。

それから22年後、モディはグジャラートよりもはるかに多様な国民を対象とする主流派の指導者となっている。かつて暴動は彼の経歴の中で大きな位置を占めていたが、今やインド人は、暴動を世間の注目を浴びる複雑なキャリアのほんの一部としか見ていない。共同体による暴力が再び大量に発生した場合にインド人がどのような反応を示すか、また市民社会が国民の最悪の行き過ぎを抑制する力を保持しているかどうかは未知数である。楽観主義者たちは、インドが厳しい局面を乗り越えて強くなってきたことを指摘するだろう。1975年にインディラ・ガンディー首相が非常事態を宣言し、政令による支配を許可したとき、有権者は最初のチャンスで彼女を政権から追い出した。しかし、モディは国をより強く掌握し、投票箱で勝利しながら権力を拡大し続けている。

市民たちが世俗主義や自由主義の理想だけでは生きていけないように、ナショナリズムや多数民族決定優先決主義も同じだ。最終的には、国家が成果を出さなければならない。この点で、モディの記録は複雑だ。「モディは日本をモデルとしている。文化的な意味での西洋ではなく、工業的な意味での近代的なモデルとして見ている。彼はヒンドゥー教復興主義(Hindu revivalism)と工業化(industrialization)を混合させたイデオロギー的プロジェクトを実現した。

インドはモディ首相の下、国家建設(state-building)という巨大な国家プロジェクトに取り組んでいる。2014年以降、交通インフラへの支出は対GDP比で3倍以上に増加している。インドは現在、年間6000マイル以上の高速道路を建設しており、2014年以降、農村部の道路網の距離は倍増している。2022年、ニューデリーは活況を呈している航空市場を利用し、経営難に陥っていた国営航空会社エア・インディアを民営化した。インドには現在、10年前の2倍の空港があり、国内線の利用客は2億人を超えて、2倍以上に増えている。中間層の消費支出も増えている。都市部における一人当たりの消費支出は、過去10年間で月平均146%増加した。一方、インドは悪名高い官僚主義的なハードルを取り払い、産業界にとって使いやすい国になりつつある。世界銀行が毎年発表している、「ドゥーイング・ビジネス・レポート」によると、インドは2014年の134位から2020年には63位に上昇している。投資家たちは強気のようだ。インドの主要株価指数であるBSE Sensexは、過去10年間で250%上昇した。

強権的な実力者という存在は、通常、女性よりも男性の間で人気がある。したがって、インド人民党が2019年の国政選挙で記録的な女性票を獲得し、有権者の参加と女性の投票が増加し続けているため、2024年にも再び女性票を獲得すると予測されているのは奇妙な矛盾である。モディ首相は、家庭生活を楽にするサーヴィスを巧みに展開することで女性有権者をターゲットにしてきた。例えば、地方での水道へのアクセス率は、2019年のわずか16.8%から75%以上に上昇した。モディ首相は、1億1千万個以上のトイレを建設するキャンペーンの後、2019年にインドでは屋外排泄(open defecation)が根絶されたと宣言した。また、国際エネルギー機関(International Energy Agency)によると、インドの送電線の45%が過去10年間に設置されたということだ。

私が2018年に出版した『インディア・コネクティッド(India Connected)』で書いたように、この国で最も大きな変革をもたらしているのは、インターネットの普及である。100年以上前に自動車が発明され、それに伴って州間高速道路や郊外住宅地が形成され、現代アメリカが形成されたように、安価なスマートフォンによって、インド人は急成長するデジタル・エコシステム(digital ecosystem)に参加できるようになった。スマートフォンとインターネットのブームとはあまり関係がなかったが、政府はそれを利用した。政府が運営する即時決済システム(government-run instant payment system)であるインドのユニファイド・ペイメント・インターフェイス(Unified Payments Interface)は、今や国内の現金以外の小売取引の4分の3を占めている。デジタル・バンキングと新しい国民生体認証システム(national biometric identification)の助けを借りて、ニューデリーは補助金を国民に直接送金することで汚職を回避し、何十億ドルもの無駄を省いている。

民間部門は、インドの新しいデジタル経済と物理的経済に進んで参加してきた。しかし、本号(42ページ)で2人の一流エコノミストが述べているように、民間部門は更なる投資に対して奇妙な警戒心を抱いている。例えば、モディはインドの2人の大富豪、ムケシュ・アンバニとゴータム・アダニ(ともに出身はグジャラート州)と癒着しすぎていると見られている。ニューデリーの遡及課税(retroactive taxation)と保護主義の歴史が、せっかくの企業計画を台無しにしてしまうのではないかという懸念が渦巻いている。

モディ首相は強大な権力を掌握しているため、失策をするとその影響は大規模になりがちだ。2016年、モディは突然、法定通貨としての高額紙幣を回収し、通貨廃止(demonetization)のプロセスを発表した。この動きは、多額の非課税所得を持つ人々を排除することで汚職を減らそうとしたものであったが、実際にはインドの成長を2%近く引き下げる大失敗だった。同様に、2020年に新型コロナウイルス感染症の発症にパニックに陥り、モディ首相は突然の国家封鎖(national lockdown)を発表し、その結果何百万人もの出稼ぎ労働者が急いで帰国することになり、ウイルスが蔓延する可能性が高まった。 1年後、新型コロナウイルス感染症のデルタ変種が国内に蔓延し、数え切れないほどのインド人が死亡したとき、ニューデリーはほとんど傍観していた。あの時、国家が国民を失望させたという事実は、どんなにナショナリズムやプライドでも覆い隠すことはできなかった。

朗報に飢えた国民を抱えるインドは今、最高の外交政策取引を利用しようとしている。移り変わる世界秩序の中で、方法はいくらでもある。アメリカの力は相対的に低下し、中国は台頭し、いわゆるミドルパワー諸国(middle powers)と呼ばれる国々がその地位を高めようとしている。モディは、より力強く、たくましく、誇り高き国家像を打ち出しており、インド人はその自画像に夢中になっている。

昨年(2023年)9月、カナダのジャスティン・トルドー首相が、ブリティッシュコロンビア州でインド政府の諜報員がシーク教徒のコミュニティリーダーの殺害を画策したという「信頼できる疑惑(credible allegations)」をオタワが調査中であると発表した。ニューデリーはトルドーの告発を「馬鹿げている(absurd)」と真っ向から否定した。殺害されたハルディープ・シン・ニジャールは、彼の出身地であるインド北西部のパンジャーブ州を領土とする、カリスタン(Khalistan)と呼ばれる国家の樹立を目指していた。2020年、ニューデリーはニジャールをテロリストと宣告した。

トルドー首相がカナダ国内で起きた殺人事件を公にインドを非難することは、モディにとって大恥をかくことになりかねなかった。しかしながら、この事件はモディの支持者を活気づかせた。国民的なムードは、ニューデリーはやっていないという、政府の公式見解に同意しているように見えたが、そこには重要な背景があった。それは、「もしやったのなら、正しいことをしたのだ」ということだ。

シタパティは、「それは、『私たちはやっとここまで来た。これで白人と対等に話ができる』という考えだ」。作家で国会議員のシャシ・タローが指摘したように、「略奪(loot)」という言葉さえヒンディー語から盗用されたものなのだ。インド人民党の国家建設プロジェクトは、ヒンドゥー教徒を何世紀にもわたる、過ちの犠牲者でありながら、いまや真の地位を主張するために目覚めた者として描くことで、しばしば自尊心を取り戻そうとしている。だからこそ、2024年1月22日のラム寺院の開院式は、ヒンドゥー教徒の間に、かつて自分たちが享受していた優位性を正当に主張しているという感覚を蘇らせることになった。

ステージは派手であればあるほど良い。インドは2023年の間、他のほとんどの国がおざなりにしている、輪番の議長国としてG20首脳会談の主催で力を誇示した。モディ首相にとって、それはマーケティングマシーンとなり、ニューデリーのホスト役としての誇りを宣伝する巨大な看板が設置された(常に首相の肖像画と並んで設置されていた)。2023年 9月にサミットが始まると、テレビ局は律儀に主要部分を生中継し、モディ首相が一連の世界のトップ指導者たちを歓迎する様子を放映した。

その数週間前、インド人は別の祝賀の瞬間に団結した。インドが2台のロボットを月面に着陸させ、月面に着陸した4番目の国となり、月の南極に到達した最初の国となった。テレビ局が着陸の生中継を流すなか、モディ首相は着陸の重要な瞬間にミッション・コントロールを行い、彼の顔が着陸の様子と分割された画面に映し出された。このような自己宣伝は派手に見えるかもしれないが、集団的な達成感や国民的アイデンティティにつながるものだ。

また、ウクライナ侵攻後にロシアへの制裁を求める西側諸国を嘲笑っている、モスクワに対するニューデリーの姿勢も人気がある。2022年以前、ロシアがインドに輸出していた原油は全体の1%にも満たなかったが、現在は半分以上をインドに供給している。中国とインドは合わせてロシアの海上輸出原油の80%を購入しており、西側諸国が課した価格制限のために、市場価格よりも安い価格で購入している。インド人もグローバル・サウスの多くの人々と同様、西側諸国が世界情勢に二重基準(double standards)を適用していると広く認識するようになったこともあり、道徳に対する配慮はほとんどない。その結果、道徳的な基準がないのだ。インドにとって、有利な石油取引はまさにそれである。インドとロシアは歴史的な友好関係を共有しており、双方はその継続を望んでいる。

ニューデリーが外交政策で自己主張を強めているのは、他国からより必要とされているという認識からきている。同盟諸国はこの新たな動きを認識しているようだ。アメリカにとっては、台湾海峡における中国との潜在的な争いでインドが助けに来なかったとしても、ニューデリーが北京に接近するのを防ぐだけでも、地政学的な勝利となり、他の意見の相違を覆すことになる。他国にとっては、成長するインド市場へのアクセスが最も重要である。インド人民党がイスラム教徒を敵視しているにもかかわらず、モディはペルシャ湾諸国を訪問するとレッドカーペットを敷かれての式典が行われる歓迎(red-carpet welcome)を受ける。

インドが自国の戦略的利益を把握し、その選択を明確にすることに自信を持っていることは、自国をどう見るかという広範な変化と一体のものである。モディとインド人民党は、西洋式のリベラリズムを犠牲にして自国の利益を追求することを美徳とするインドの国家像を推進することに成功している。若者の経済的願望と、相互の結びつきが強まる世界におけるアイデンティティへの欲求に訴えることで、インド人民党は一世代前には想像もできなかったような宗教的・文化的アジェンダを推進する余地を見出した。このヴィジョンは純粋なトップダウンではありえない。将来的には、インドをめぐる様々な構想が更に競われることになるだろう。しかし、モディのインド人民党が投票箱で勝ち続ければ、歴史はこの国のリベラルな実験が中断されただけでなく、異常であったことを示すかもしれない。

※ラヴィ・アグラワル:『フォーリン・ポリシー』誌編集長。ツイッターアカウント:@RaviReports
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 ウクライナ戦争が始まり、2年以上経過している。アメリカ連邦議会が最近、ウクライナ支援のための9兆円の予算を承認可決し、ジョー・バイデン大統領が署名して法律となった。ここまで、ウクライナは西側諸国の支援を受けながら戦争を継続しているが、苦戦を続けている。ロシアは最近になって、ウクライナ東部での攻勢を強めている。ウクライナへの支援が強化される前に、要衝を押さえておくという考えであろう。

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ウクライナ戦争の戦況

 国際社会の動きで言えば、西側諸国(the West、ザ・ウエスト)がウクライナを支援する一方で、西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)はウクライナへの支援に消極的である。国連の場でも、国連総会におけるロシアに対する非難決議でも、西側以外の国々から反対、棄権が多く出た。西側諸国としては、西側以外の国々にウクライナ支援に賛成、積極的に参加してもらいたいところだ。しかし、グローバル・サウス諸国は、「自分たちには自分たちの問題があって、そちらの方の優先順位が高いのは当然だ」ということになる。インドを例に取ると、インドは経済成長著しい状態にあるが、そこで問題になるのは、資源高、特に石油価格の高騰である。インドは、アメリカとも同盟関係にあるが、ロシアからの安い石油を輸入している。インドにしてみれば、「他人の不幸を喜ぶ」ということになるが、これは、国際関係においては当然のことだ。

 西側諸国が西側以外の国々からの支援を受けようと思えば、手厚く支援をしなければならない。日本のODA外交はその一環である。西側以外の国々は、自分たちの有利な立場を利用して、より多くの支援を引き出そうとする。そのような動きをする。「狡猾、ズルい」という感覚を持つかもしれないが、繰り返すが、これは国際関係の実態である。そのような中を私たちは生きていかねばならないが、何よりも重要なのは、最悪の事態、戦争にならないようにすることだ。

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グローバル・サウスにとってウクライナが優先課題ではない理由(Why Ukraine Is Not a Priority for the Global South

-貧困諸国は徐々に、「私たちの優先事項があなた方にとってより大きな意味を持つようになるまで、あなた方の優先事項が私たちにとってより大きな意味を持つことはないだろう」と言い続けている。

ハワード・W・フレンチ筆

2023年9月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/09/19/unga-ukraine-zelensky-speech-russia-global-south-support/

 

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領がニューヨークでの国連総会で演説を行うために国連ビルに到着(2023年9月19日)

今週、世界の指導者たちが年次国連総会のためにニューヨークに集まる中、彼らの演説のテーマの多くは非常に予測可能なものであるため、儀式化された国際的な議論の一部として理解される可能性がある。

気候変動と地球温暖化を防止する必要性についての議論が交わされ、その中には、海面上昇によって近い将来消滅する危険性のある小規模な島嶼諸国の指導者たちの感情的な訴えも含まれる。前時代のグローバリゼーションが後退しているように見える今、国際貿易に対する開放性を維持することが求められるだろう。権威主義的国家は、不干渉と強者による弱者の主権の尊重を求める常套句を繰り返すだろう。そしてもちろん、特定の地域であれ世界規模のものであれ、平和の促進を求める、真剣な声も上がるだろう。

一方、豊かな西側諸国からすれば、ロシアのウクライナ戦争ほど重要で大きな話題はないだろう。今年、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、ウクライナの領土を吸収しようとする2年来のロシアの動きを食い止めようとする自国の努力に対する、アメリカや国際的な支援を強化する目的で、アメリカを訪問した

ウクライナの指導者ゼレンスキーの、国連への出席、そして今週後半にはワシントンでジョー・バイデン米大統領と会談する予定であることは、キエフとロシアの対立の国際的側面をまれなほど明確に浮き彫りにしている。それは、しばしばグローバル・サウスと呼ばれる地域の指導者多数が国連に到着した時期と一致するからである。

これまでの数カ月間、アメリカとヨーロッパの政治家や外交官たちは、グローバル・サウス諸国の政治家や外交官たちに対し、ロシアの侵略を非難する上で、原則として西側に肩を並べるよう懇請してきた。そしてほぼ同じ期間、西側諸国の当局者たちは、彼らの訴えに対する反応が弱かったことに困惑、落胆、悔しさを表明してきた。

このため、世界の貧困国や中所得国がなぜ明らかな大国の侵略事件にこれほど無関心なのかという問題は、魅力的かつ重要な問題であるにもかかわらず、これまで貴重なほとんど明確な思考の対象になってこなかった問題となっている。

一般的な見方では、グローバル・サウスの国々がロシアを批判することに消極的であるのは、弱者が長年採用してきた古くて論理的な戦略によるものだと思われている。つまり、いくつかの国々、例えば西側諸国に支配されているのであれば、より自由に動ける場所を手に入れるため、支配されている国々のライヴァル諸国を応援するというものだ。これは典型的なバランシング(balancing)であり、貧しい国々はロシアに対してだけでなく、過去数十年間の目覚ましい台頭の中で、中国に対しても同様のことを行ってきた。自分が弱ければ、パートナーを望むものだ。一般的に言えば、パートナーは多ければ多いほど喜ばしい。彼らがあなたの好意と支持を求めて競い合えば、猶更のことだ。彼らがいなかったら、何十年にもわたって国際システム、つまり、アメリカと西ヨーロッパを支配してきた勢力と手を組むことになるだろう。

この説明には真実が存在しているが、十分とは言えない。問題の核心に近づくためには、国際関係をめぐる標準的な言葉のいくつかを探らなければならない。グローバル・サウス(global south)はその1つであり、少しの精査にも耐えられない。他の人々が指摘しているように、このレッテルの下に日常的にまとめられている国々の多くは、特に南というわけではなく、イデオロギー的、経済的、民族的、言語的、あるいは人種的なものであれ、他の一貫した特質をほとんど共有していない。私は毎年春に大学でグローバル・サウスをテーマにした授業を担当しているが、毎年この命名法の問題に悩まされている。

ところで、西側諸国(the West)も、それ自体、あいまいで不正確な造語であり、注意深い思考にはあまり耐えられない。報道では、西側とはアメリカと東に拡大しつつある西ヨーロッパだけでなく、オーストラリア、ニュージーランド、そしてしばしば日本、イスラエル、韓国、アパルトヘイトの時代には白人支配の南アフリカも含むと日常的に理解されてきた。

しかし、西側として知られるこの便宜的な用語の下にひとまとめにされている国々の苦境と同様に、広く使われているもう一つの用語がある。それは「発展途上世界(developing world)」です。ここでの問題は、不正確さ(imprecision)と言うよりも、婉曲表現(euphemism)だ。私たちが発展途上国に属する国について話すとき、それは実際に発展していることを前提としているが、多くの人にとっては実際にはまったくそうではない。西側諸国はロシアのウクライナ侵攻に反対する支持を集めようとする一方で、発展途上諸国の無理解や西側諸国に対する信頼の欠如を嘆くこともある。

しかし、その理由の1つ、そしておそらく最も重要な理由は、チラチラと見えている。この軽率な言葉の使用は、「発展途上(developing)」諸国の多くが経済的静止状態、もっとひどい場合は停滞と経済後退に陥っているという現実を見えなくしている。ここで、作為的な国の集まりとは対照的な、ある真の地理的地域が明らかに際立っている。それはアフリカである。

世界の多くの国が、一人当たり GDP だけでなく、人間開発、長寿、環境福祉、社会福祉などの指標を含む他の多くの点でも、「先進(developed)」諸国にますます後れをとっているのは事実だ。しかし、アフリカは明らかに人間の緊急事態(human emergency)であるにもかかわらず、それ以外のものとして扱われてきた。ブルームバーグ・ニューズによる最近の報道では、アフリカ大陸の相対的な窮状が印象的に記録されており、この報道ではアフリカが過去10年間にどのように地位を失ったかが数多く記録されている。

西側諸国は、主に短期的な、利己的な目的のために、アフリカに対して選択的ではあるが弱めの注意を払っている。その中で最も明白なのは、人口の点で、世界で最も急速に成長している大陸からの大規模な移民のスピードの減速と、イスラム過激派との戦いである。これらの目的はどちらも、西アフリカにおけるフランスの崩壊しつつある立場の中心となっている。西アフリカではつい最近まで、フランスはサヘル地域の旧植民地に対して並外れた影響力を保っていたが、元植民地で属国であった国々が、怒りをもって、古い形のパートナーシップを放棄するのを目にするだけのこととなった。

これは長い間、フランスが「協力(cooperation)」と呼んでいたもので、実際にはアフリカ諸国政府への財政、外交、安全保障上の支援を意味し、移民を食い止め、宗教的反乱勢力と戦うことを優先していた。もちろん、世界基準で極端に貧しい人々の生活水準も含め、これらの国々の経済を向上させるための持続的で公的な説明責任を果たす努力は、ほとんど道端に置き去りにされてきた。

これは本末転倒の措置ではなかったか、と問われる時期が来ている。移民と原理主義者のテロと反乱を引き起こし続けているのは、貧困(poverty)と持続的な低開発(persistent underdevelopment)が原因ではないか? これがフランスとアフリカの旧植民地だけに関係する状況だと考えるのは怠慢ということになるだろう。以前にも書いたように、ガーナは西アフリカ「協力」の成功例として何度も取り上げられてきたが、同様に繰り返し壊滅的な債務危機(crushing debt)に見舞われてきた。ガーナが、安定の防波堤(bulwark of stability)であり、しばしば西洋型の民主政治体制(Western-style democracy)として想像されているものの模範とされてきた、この地域において、現在、状況が再び悪化しているのだ。

ガーナの問題(低・低中所得国の他の経済不振諸国の問題と同様)の責任の一部は、間違いなく自国の政府と、公務員の汚職や肥大化した国家(bloated state)に関連した問題にある。しかし、同様に、私たちの国際システムには、貧しい人々や弱い人々の足を引っ張り、軽視し、彼らの発展の努力を妨げる長年の構造的な問題が存在するのは間違いない。しかし、世界の富裕層はむしろ他のことについて話したがるだけだ。

この現実に正面から向き合う代わりに、ヨーロッパ諸国とアメリカ(西側諸国)は最近、世界の貧しい人々の同情と協力を求める外交政策の優先事項をもう1つ付け加えた。それは、ロシアに奪われた領土を取り戻すためのウクライナの戦いである。ウクライナがロシアに奪われた領土の支配権を取り戻す戦いである。しかし今、アフリカだけでなく、グローバル・サウス(成長していない国々を意味する)でも、私たちは曲がり角に来ているようだ。貧困層が富裕層に対して、「私たちの優先事項があなた方にとってより大きな意味を持つまで、あなた方の優先事項が私たちにとってより大きな意味を持つことはない」と言うケースが増えているのだ。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新作に黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ツイッターアカウント:@hofrench

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。
 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。2023年10月に始まったイスラエルとハマスの紛争についても分析しています。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イスラエルとハマスとの紛争、その後のイスラエルによるガザ地区への過酷な攻撃が今も継続中だ。イスラエルによるガザ地区への苛烈な攻撃に対しては、体調虐殺(ジェノサイド)だという批判の声が上がっている。アメリカは、一貫してイスラエル支持の姿勢を崩していないが(もちろん崩せないが)、ガザ地区の状況については憂慮しており、イスラエル側に自制を求めているが、イスラエルはアメリカ側の言うことを聞かない。アメリカは、イスラエルに引きずられる形になっている。それでも、「イスラエルを支援しているアメリカが何とかしろ」というアメリカに向けた批判の声も大きくなっている。

 私は最新作『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』の中で、世界は「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西側以外の国々)」という対立構造で、これからの世界は動いていくと書いた。ザ・ウエストの旗頭はアメリカで、ザ・レストの旗頭は中国である。ザ・レストには南半球の発展途上国が多いことから、「グローバル・サウス(Global South)」とも言う。アメリカが世界唯一の超大国として、一極構造であった世界から大きく変化しつつある。今回のパレスティナ紛争についても、この構図が当てはまる。

 中国は紛争発生当初から、即時の停戦を求めてきた。最近では、イスラエルによるガザ地区への攻撃を憂慮し、パレスティナ側に立つ姿勢を見せているが、深入りすることはせず、調停者の役割までは担うという姿勢を見せいている。中国の調停案はイスラエルには受け入れがたいものであるが、中国は強硬な態度を示していない。これは、アメリカの失敗、敵失を待っているということも言える。アメリカが自滅していくのを待っているということになる。そして、ザ・レスト、グローバル・サウスの旗頭として、これらの国々の意向を尊重しながら行動しているということになる。中国は慎重な姿勢を見せている。

 アメリカとイスラエルはお互いに抱きつき心中をしているようなものだ。イスラエルはアメリカを巻き添えにしなければ存続できない。アメリカはイスラエルを切り離したいが、もうそれはできない状況になっている。お互いがお互いにきつく抱きついて、行きつくところまで行くしかない。非常に厳しい状況だ。

 世界の大きな構造変化から見れば、アメリカとイスラエルは即座に停戦し、パレスティナ国家の実質的な確立を承認すべきであるが、イスラエルの極右勢力の代表でもあるベンヤミン・ネタニヤフ首相には到底受け入れられない。また、ハマスにしてもイスラエルとの共存は受け入れがたい。中国としてもパレスティナの過激派組織をどのように扱うかは頭の痛いところであろうが、イランとの関係を使ってうまく対処するだろう。二国間共存に向かうように今回の機器をうまく利用できるとすれば、それはアメリカではなく、中国だ。

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中国がイスラエルとハマスの戦争をどのように利用するか(How China Is Leveraging the Israel-Hamas War

-ワシントンとグローバル・サウスとの間に広がり続けている分断は、北京に有利に作用している。

クリスティーナ・ルー筆

2024年1月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/31/china-israel-hamas-global-south-us-foreign-policy/?tpcc=recirc062921

イスラエルによるガザ地区での軍事作戦に対する世界的な怒りが高まるなか、中国は、この戦争に対するワシントンとグローバル・サウス(Global South)のスタンスの間に広がる分断(divide)を利用し、北京自身の外交政策上の野心を高めることに注力してきた。

イスラエル・ハマス戦争の過程を通じて、中国は深刻化し続ける紛争に巻き込まれたり、地域のつながりが危​​険に晒されたりすることを警戒し、慎重に傍観者の立場を守り続けてきた。しかし、アメリカ政府がイスラエル支援をめぐって激しい反発に直面する中、中国政府もまた、ブラジル、インド、南アフリカ、パキスタンを含む数十カ国の集合体である、いわゆるグローバル・サウスと連携する機会を捉えている。アメリカの立場とは大きく異なり、イスラエルの行動を非難した。

戦略国際問題研究センター(Center for Strategic and International StudiesCSIS)で中東プログラムの部長を務めるジョン・アルターマンは、「中国は、そのほとんどをアメリカに任せている。中国が中東で追求している唯一の利益は、アメリカとグローバル・サウスの大部分との間に大きな分断が生まれるのを見守ることだ」と述べた。

イスラエル・ハマス戦争に対する中国のアプローチは当初から慎重さが特徴だった。例えば、中国の習近平国家主席は、2023年10月7日のハマスの最初のイスラエル攻撃後の検討まで2週間近く待ったが、一方、初期の政府声明ではハマスの名前さえも言及せずにいたが、この対応はイスラエル当局の怒りを買った。それ以来数カ月間、中国は自らを和平調停者(peacemaker)として位置づけ、紛争に直接関与するまでは至らないようにしながら、停戦とパレスティナ国家の確立を呼びかけた。

ブルッキングス研究所の研究員パトリシア・キムは本誌の取材に対して、電子メールを通じて答え、「中国は、現在進行中の紛争において実質的な役割を明らかに回避している」と語った。キムは更に、「中国政府は自らを地域の権力仲介者として見せたいと考えているが、安全保障の提供者(security provider)としての役割を果たすことや、地域における関係を危うくする可能性のある困難な状況に直接介入することには全く興味がない」と述べた。

こうした力関係は紅海でも明らかであり、フーシ派がパレスティナ人との連帯と主張して行った数か月にわたる商業船舶に対するフーシ派の攻撃により、世界貿易が混乱している。しかし、紅海を守るために船舶を派遣する国が増えているにもかかわらず、中国は自国の海軍の介入に抵抗している。中国政府が関与に最も積極的に取り組んでいるのは、フーシ派を支援するイランに非公式に介入を迫っているとロイター通信が報じたが、イラン当局者はこの報道を否定した。

北京のアプローチは、ワシントンとは対照的である。ワシントンは、イスラエルの建国以来、長年イスラエルの最も強力な支持者の1人であり、数十億の軍事援助で同国を支援してきただけでなく、パレスティナ紛争が始まって以来、国際舞台でイスラエルの主要な擁護者(primary defender)として行動してきた。国連安全保障理事会(United Nations Security Council)でアメリカの拒否権(veto)を行使し、中国だけでなく、グローバル・サウスの国々を含む数十カ国が支持する停戦を求める決議を阻止してきた。ジョー・バイデン政権は紅海でも行動を起こし、イエメンのフーシ派に対する攻撃を開始し、紅海の航行の自由を確保するために国際タスクフォースを動員した。

しかし、ガザでのイスラエルの軍事作戦が壊滅的な人道的被害をもたらしている中、ハマスが運営するガザ保健省によると、イスラエル軍は戦争開始以来、ガザで2万6000人ものパレスティナ人を殺害しているということだ。イスラエルに対するワシントンの揺るぎない支援に、世界の多くの人々はますます不満を募らせ、幻滅している。ガザでは現在、50万人以上の人々が「壊滅的なレベルの深刻な食糧不足(catastrophic levels of acute food insecurity)」に直面しており、統合食糧安全保障段階分類は12月に警告を発している。

そして、中国政府はその分断を利用しようとしている。「チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト(China Global South Project)」の共同創設者エリック・オランダーは、次のように述べた。「中国は、分断によって、世界の他の国々の目、彼らが関心を寄せる世界の地域において、アメリカを更に弱体化させることになると感じている。これは、アメリカがいかに孤立しているかを示し、世界と歩調が合っていないことを示し、そしてアメリカの偽善を示すという、中国に対する彼らの戦略にそのまま反映されている。」

オーランダーは、「中国は、自国の外交政策を追求し、アメリカ主導の国際秩序の欠点について彼らが言おうとしている価値観のいくつかを広めるという点で、これをかなり巧みに演じていると考える」と述べた。

この戦略の一環として、中国は自らを平和調停者であると公言し、5項目の和平計画を提案し、イスラエル・パレスチナ和平会議の開催を呼びかけている。2023年10月、北京はカタールとエジプトに地域特使を派遣し、停戦(ceasefire)を促した。それ以来、ガザへの約400万ドルの人道支援(humanitarian aid)を約束し、アラブ・イスラム諸国の閣僚代表団を受け入れ、紛争をめぐるBRICSブロック(当時はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成)の事実上の首脳会議に参加した。

中国の張軍国連大使は、戦争が始まって1カ月後、安全保障理事会のブリーフィングにおいて、「中国は、敵対行為の停止と平和の回復を促進するために、たゆまぬ努力を続けてきた。中国は引き続き、国際的な公正と正義の側に立ち、国際法の側に立ち、アラブ・イスラム世界の正当な願望の側に立っていく」と述べた。

中国の王毅外相は2024年1月、アフリカの多くの国々を訪問した。その際、イスラエル・ハマス戦争の仲介役の1人であるエジプトへの訪問の機会を利用し、停戦とパレスティナ国家の確立を繰り返し訴えた。

しかし、専門家たちは、北京の行動はほとんどがパフォーマンスであり、具体的な成果はほとんど得られていないと主張している。ヨーロッパ外交問題評議会のマーク・レナードが『フォーリン・アフェアーズ』誌上で指摘したように、2023年11月のBRICS首脳会議では、共同声明も現実的なロードマップも作成できなかった。ブルッキングス研究所によれば、中国が提案した和平案では、紛争解決の責任は北京ではなく、国連安全保障理事会にあるとしている。

大西洋評議会の非常勤研究員であるアーメド・アブドゥは2023年12月、「中国の外交用語の不明瞭さと、世界第2位の経済力を持っているにも関わらずガザに提供した金額の少なさ」を引き合いに出し、イスラエルとハマスの戦争調停に対する中国の真剣さは「巧妙な欺瞞(smoke and mirrors)」に過ぎないと書いている。

中国政府は紛争に巻き込まれるのではなく、バイデン政権の世界的な信頼性に疑問を投げかける一環として、ワシントンを厳しく追及し、米中両国の間の立場の違い対比させることに重点を置いている。こうした努力は国連安全保障理事会でも全面的に表れており、中国は2023年10月にアメリカの提出した安保理決議案が停戦を求めていないとして批判し、拒否権を発動した。ロシアもこの決議案に拒否権を発動した。

中国の張国連大使は、「アメリカは加盟諸国のコンセンサスを無視した新たな決議案を提出した」と述べた。北京を含む他の理事国が修正案を提案した後でも、ワシントンは彼らの「主要な懸念(major concerns)」を無視し、「善悪を混同(confuses right and wrong)」した決議案を提出したと張国連大使は続けて述べた。

12月下旬、人道的即時停戦(immediate humanitarian ceasefire)を求める安全保障理事会決議案(Security Council draft resolution)にワシントンが拒否権を発動した後、中国は再びその投票を利用して自らをグローバル・サウスと並び称し、ワシントンの立場を際立たせた。張国連大使は、決議案の約100の共同提案者の1人として、中国政府は「草案がアメリカによって拒否権を発動されたことに大きな失望と遺憾の意を感じている。これら全ては、二重基準(double standard)が何であるかを改めて示している」と述べた。

中国国営メディアもこうした意見に同調し、アメリカと中国の立場の相違にさらに注目した。『環球時報』はアメリカの拒否権について、「ガザ住民の安全と人道的ニーズに配慮すると主張しながら、紛争の継続を容認するのは矛盾している。紛争の継続を容認しながら、紛争の波及を阻止することを主張するのは自己欺瞞(self-deceptive)である」と書いている。

さらに最近、北京はイスラエルの行動に対する怒りの最も明確なケースの1つにおいて、グローバル・サウスと協調している。国際司法裁判所(International Court of JusticeICJ)での南アフリカによるイスラエルに対する大量虐殺訴訟がそれである。国際司法裁判所(ICJ)には判決を執行する手段はないが、南アフリカが提起した裁判は、イスラエルに対する国際的な圧力の高まりを反映している。

国際司法裁判所は、イスラエルがガザで大量虐殺を犯しているかどうかという問題についてはまだ判決を下しておらず、おそらくこれから何年も判決を下すことはないままだろうが、先週の金曜日には、イスラエルの軍事作戦の緊急停止を命じるよう裁判所に求めた南アフリカの要求に応えた。国際司法裁判所は判決の中で、イスラエルに対し、ガザの民間人への被害を最小限に抑えるために「あらゆる手段を取る(take all measures)」よう命じた。

この判決が発表された後、中国の国営メディアは、イスラエルのガザでの行動に対して「見て見ぬふりをするのをやめるよう」いくつかの主要国に働きかけることになる((some major countries to stop turning a blind eye))との期待を表明した。これに対してバイデン政権は、プレトリアによる大量虐殺疑惑は「根拠がない(unfounded)」という立場を繰り返したが、国際司法裁判所の判決はイスラエルに市民の安全を確保するよう求めるイスラエルの要求に沿ったものだとも述べた。

中国は長年、グローバル・サウス諸国との政治的・経済的関係を育むことを優先しており、王外相は最近、2024年の最初の外遊をエジプト、チュニジア、トーゴ、コートジボワールを訪問して締めくくった。中国外相が今年最初の世界歴訪の目的地をアフリカにするのは34年連続となる。その後、王外相はブラジルとジャマイカを訪問した。

アトランティック・カウンシルの専門家であるアブドゥは、「中国はイスラエルを、巻き添え被害を与える存在として扱うことにした。中国は、グローバル・ガバナンスと戦略的優先事項のために、これらの国々の支援を求めている」と述べている。

※クリスティーナ・ルー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:@christinafei

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