古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム、2021年)と『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店、2023年)で、取り上げたが、私はアメリカの産業政策に注目している。特に、アメリカ軍部とシリコンヴァレーの情報産業・IT産業との新・軍産複合体づくりが行われていることを指摘した。そして、ジョー・バイデン政権では、産業政策が重視されていることも併せて紹介した。

 産業政策とは、「政府の政策を利用して、市場だけが生み出す可能性のある結果とは異なる、できればもっと前向きな結果を生み出そうとすることだ(Industrial policy is the use of government policy to try to produce an outcome that’s different—hopefully, more positive—than what the market alone is likely to produce)」と定義されている。政府が産業を保護し、指導して、より良い結果を生み出そうとするもので、その元祖は日本である。その研究を行ったのが、日本研究の大家だった故チャルマーズ・ジョンソンだった。このことも詳しく拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で紹介している。

 そして、現在、産業政策によって、急激な経済発展を成功させ、アメリカの地位を脅かすまでになっているのが中国だ。そして、アメリカ国内では、「中国の成功をけん引している産業政策なるものを私たちやるべきだ」という主張が出ている。下に紹介する論稿はまさにそれだ。現在、電気自動車、バッテリー、クリーンエネルギー(太陽光パネルなど)、人工知能、ロボット工学といった最先端分野で、中国がアメリカをリードしている分野が多い。それは、中国が産業政策をうまく使ったからだ。中国の産業政策の特徴は、「中央統制[central control](ただし反抗的な地方[recalcitrant localities])、巨額の補助金[massive subsidies](ただし熾烈な競争[ferocious competition])、保護主義[protectionism](ただし外国投資の勧誘[courting foreign investment])が入り混じった混乱した状況」であるが、「保護をしながら同時に激しい競争をさせる」「外資導入も積極的に行う」ということにある。加えて、こうした政策を首尾一貫して行える政府機関も存在する。それが中国国家発展改革委員会(China’s National Development and Reform Commission)である。日本では、通商産業省が「経済参謀本部(Economic General Staff)」であった。

 この論稿で重要なのは、アメリカ政府は権力、職掌が分立しており、こうした1つの本部機能を持つことは難しいのであるが、ジョー・バイデン政権1期目の前半は、ジェイソン・マセニー(Jason Matheny)という人物を、「技術・国家安全保障担当大統領次席補佐官(deputy assistant to the president for technology and national security)、国家安全保障会議(NSC)技術・国家安全保障担当調整官(National Security Council [NSC] coordinator for technology and national security)、そして、ホワイトハウス科学技術政策局(Office of Science and Technology PolicyOSTP)国家安全保障担当副局長の3つの異なる役職に任命した」ということだ。この人物が調整役となって、首尾一貫した政策の陣頭指揮(国内政策と対外政策)を執っていたということだ。現在はランド研究所所長となっている。この人物の存在が非常に重要ということになる。

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ジェイソン・マセニー

 米中は最先端の産業分野において官民協働で戦っている。その戦いは激しいものであるが、そのような戦いができることは羨ましい。しかも、産業政策を立案し、成功させたのは、戦後日本であった。日本がこの戦いに加われないほどに落ちぶれ果ててしまったこと花とも残念なことである。

(貼り付けはじめ)

迷走するアメリカの産業政策は中国から教訓を得ることができる(America’s Flailing Industrial Policy Can Take Lessons From China

-北京の経験は、数々のチャンスと罠(opportunities and traps)の両方を示す行程表(ロードマップ、roadmap)である。

ボブ・デイヴィス筆

2024年4月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/11/america-industrialpolicy-china-economics-infliation-manufacturing/

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ジョー・バイデン大統領率いるホワイトハウスは、ここ数十年で最も野心的な産業政策プログラム(industrial policy program)を策定し、海外との競争によって、国内で衰退した戦略的産業(strategic industries)を復活させようとしている。その目的は次の通りだ。クリーンエネルギー(clean energy)と半導体製造(semiconductor manufacturing)に重点を置き、アメリカの産業と技術力を強化することで、中国の先を行くことである。

しかし、北京と対決しようとするあまり、ワシントンは中国が何十年にもわたり西側諸国(the West)に追いつくことを目的とした産業政策を試行錯誤しながら(through trial and lots of errors)学んだ教訓を無視してきた。米中両国の政治体制が異なっているが、ワシントンが学ぼうと思えば学べることはまだたくさんある。

アメリカは少なくとも第二次世界大戦後、産業政策の一分野、すなわち新技術の育成(fostering new technologies)において主導してきた。ジェット飛行機からスーパーコンピューター、通信衛星、インターネットに至るまで、世界経済に革命をもたらす技術の開発には、多くの場合、国防総省を介した(via the Pentagon)連邦資金(federal dollars)と支援が重要な役割を果たした。しかし、アメリカが日本のような外国の競争相手に負けることに悩み始めた1980年代初頭以降、政府は重要産業の再国内化で惨めに失敗してきた。

アメリカ政府が何も試さなかった訳ではない。ロナルド・レーガン元大統領は国内の小型車製造を復活させようとし、ジョージ・HW・ブッシュは薄型テレビ(flat-screen televisions)に狙いを定め、ビル・クリントンは小型車に再挑戦した。バラク・オバマはソーラーパネルを推進した。ドナルド・トランプは電気通信機器を推した。どれも成功しなかったが、その主な理由は、補助金を得るアメリカ国内生産よりも、海外生産の方がはるかに安価なままだからである。

だからといって、ジョー・バイデン大統領の取り組みが絶望的であることを意味する訳ではないが、課題の大きさと、他の国の経験に目を向ける必要性を指摘している。中国は産業政策で失敗したこともあるが、繊維、タイヤ、電子機器製造、太陽エネルギー、風力発電、バッテリー、高速鉄道など多様な分野で、西側のライヴァルに打ち勝つ強力な産業を自国内で構築するために政府の政策を利用してきた。過去45年間、こうした成功によって、中国は貧しい国から、世界第2位の経済大国に成長した。

ホワイトハウスの元国際経済担当シニア・ディレクター、ピーター・ハレルは次のように語っている。「私の知る限りでは、バイデンのホワイトハウスでも中国の産業政策を研究する努力はなされてきた。しかし、その目的は、私たちにとってプラスになる教訓があるかどうかを確認することよりも、中国からの報復や被害を軽減する方法を見つけ出すことだった」。

第一に、定義だ。産業政策とは、政府の政策を利用して、市場だけが生み出す可能性のある結果とは異なる、できればもっと前向きな結果を生み出そうとすることだ(Industrial policy is the use of government policy to try to produce an outcome that’s different—hopefully, more positive—than what the market alone is likely to produce)。基本的に、政府は、経済成長の基礎となる産業の発展や技術の進歩のために投資する。

中国の産業政策をアメリカと比較するのは難しい。中国は一般的に西側諸国に追いつくことに重点を置いてきたのに対し、アメリカは他国よりも抜きんでる(stay ahead of the pack)ことを目指してきた。中国は、全権を握る(しかししばしば目に見えない)共産党をトップとする独裁的な政府(autocratic government)によって運営されている。ワシントンでは、経済における政府の役割についてまったく異なる見解を持つ2つの政党の間で権力がシフトしている。

中国の産業政策を説明する明確なハンドブックも存在しない。中央統制[central control](ただし反抗的な地方[recalcitrant localities])、巨額の補助金[massive subsidies](ただし熾烈な競争[ferocious competition])、保護主義[protectionism](ただし外国投資の勧誘[courting foreign investment])が入り混じった混乱した状況だ。しかし、このシステムにはアメリカが学ぶことができる部分がまだある。

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中国の東部、山東省の煙台港で輸出を待つ数百台の電気自動車(1月10日)。

中国は世界的な補助金のチャンピオンだ。アメリカが世界の軍事支出を支配しているのと同じように、補助金支出を支配している。戦略国際​​問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)の中国専門家スコット・ケネディは、2019年に中国はGDPに占める割合で、アメリカの12倍の補助金を支出したと推定している。これらの補助金には、研究開発費(R&D dollars)や税額控除(tax credits)、安価な資金調達(cheap financing)、地価の割引(cut-rate land prices)、政府による優先購入(government purchasing preferences)、さまざまな投資基金の支払い(investment fund payouts)などが含まれていた。

バイデン政権のある元高官によれば、バイデンの税控除と補助金は数年間で6000億ドルに達する可能性があるという。しかしケネディは、それが中国との格差を縮めることにつながるかどうかは疑問であると述べている。ケネディは中国を「先進国には同輩がいない特異な存在(an outlier that has no peers in the industrialized world)」と呼んでいる。

中国専門の研究者たちは、中国の成功の秘訣は、単なる支出ではなく、驚くべきことに競争(competition)にあると述べている。中国共産党と中央政府は産業政策の優先順位(industrial policy priorities)を設定するが、計画を実施し、支出のほとんどを賄うのは地方自治体に委ねられている。地方レヴェルでは、地元の党幹部が中国政府の意向を実行して昇進を目指して争っているため、競争は熾烈である。

シカゴ大学の経済学者チャン・タイ・シエは、この競争が計画されることはほとんどないと語った。中央政府は、自らの制御を超えた競争を引き起こすよりも、むしろ州のチャンピオンを生み出すことに努めたいと考えている。しかし、政治的に安全と見なされているため、中国政府が優先分野に指定している分野に資金が殺到している。「中国の産業政策の秘訣は地方政府間の競争だ(The secret sauce of China’s industrial policy is competition among local governments)。各都市で役人たちは(経済的に)意味のないことをしているが、彼らは党階層内の人々を喜ばせたいのである」と述べた。

戦略国際問題研究所(CSIS)の調査によると、電気自動車(electric vehiclesEVs)が優先事項になってから、2020年までに全米約400社が電気自動車ビジネスの様々な分野に参入した。同じプロセスが太陽エネルギーでも起こり、現地レヴェルでの競争が激しすぎて太陽光パネルの価格が暴落し、中国企業は収益を上げるために輸出に目を向ける一方で、事業を存続させるために政府の融資に頼った。

これら全てが外国の競合他社を市場から追い出す巨大な力を生み出した。中国は現在、世界需要の3倍の太陽光パネルを生産していると『フィナンシャル・タイムズ』紙は報じた。 戦略国際問題研究所(CSIS)の研究者イラリア・マゾッコによると、昨年の中国の太陽光パネル、電池、電気自動車の輸出は鉄鋼および関連品目の輸出とほぼ同額だった。太陽光パネル業界は長年中国特有の過剰生産(overproduction)が蔓延してきた業界だという。

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ジョージア州ノークロスの同社を訪問した太陽電池会社スニバのマット・カード社長(中央)がジャネット・イエレン米財務長官としている(2024年3月27日)。

ジャネット・イエレン米財務長官は、最近の中国訪問中に中国の財務長官に対し、クリーンエネルギー製品の超安価な輸出を止めるよう強く求めたと述べた。イエレン財務長官は、最近の講演で「過剰生産能力は、アメリカの労働者や企業、世界経済だけでなく、中国経済の生産性や成長にもリスクをもたらす」と述べた。

中国製品の価格は非常に安いので、アメリカ国内の太陽光発電会社の一部は、インフレ抑制法(Inflation Reduction ActIRA)の補助金だけでは中国に代わる代替手段を生み出すのに十分ではないと主張している。『ウォールストリート・ジャーナル』紙の試算によると、IRAインフレ抑制法可決以降にアメリカで発表された新たな太陽光パネル生産量の約4分の1を中国企業が占めており、中国企業は最大14億ドルの補助金を受け取ることになる。

アメリカに本社を置く最大手の太陽光発電メーカーである「ファースト・ソーラー」社のマーク・ウィドマー最高経営責任者(CEO)は連邦上院委員会で、「インフレ抑制法の太陽光エネルギー税額控除の最大受益者が中国になる大きなリスクがある」と述べている。

それでも、補助金は中国の成功を保証しているものでもない。中国を中心とした市場調査会社であるガベカル・ドラゴノミクスの技術アナリストであるダン・ワンは、中国は半導体の設計と製造に何十億ドルもの補助金を費やしているが、先進的なコンピューターチップの製造において市場リーダーである台湾積体電路製造(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.TSMC)に少なくとも5年遅れを取っていると推定している。

資金の洪水は腐敗も招く。清華紫光集団(Tsinghua Unigroup Inc.)は、中国政府から巨額の半導体製造補助金を受けった。清華紫光集団を率いた趙偉国は、中国の汚職防止当局から「自分が経営する国有企業を私的に支配とした」との申し立てを受けて拘束された。

ここには、アメリカにとっていくつかの教訓がある。第一に、補助金だけでは産業政策を進めるのに十分ではない。第二に、中国が優先している産業で、中国と競争するには莫大な費用がかかり、おそらくアメリカがほぼ提供しないレヴェルの保護主義が必要となる。

国内企業の業界団体であるアメリカ太陽エネルギー製造業者連合のエグゼクティブディレクターであるマイケル・カーは、政府は何が必要なのかの一例として砂糖産業に注目すべきだと述べた。そこでは、アメリカは価格が一定の水準を下回った場合に、砂糖のローン返済を受け入れており、ミシガン州、ミネソタ州、およびカリブ海気候とは程遠い他の場所で砂糖が栽培されるという奇妙なシステムを支持している。

しかし、おそらく最も重要なことは、中国の例は、産業政策が競争を促進することを保証することの重要性を示しているということになるだろう。ピーター・ハレルは、「私たちが産業政策を考えるとき、補助金や税金補助金が少数の企業を固定化し、既存企業を弱体化させないようにすることを考える必要がある」と語った。

バイデン政権の国家経済会議前委員長ブライアン・ディーズは、バイデン政権の計画のように、現金補助金よりも税額控除に依存する方が競争を促進し、中国に蔓延する過剰生産を回避するはずだと述べた。税額控除が認められる前に、投資家たちは市場を評価し、収益性があるかどうかを判断し、資金を投下する必要がある。政府が決定を下している訳ではない。利益を追求する企業が決断しているのだ。

ディーズは次のように語っている。「補助金は収益を向上させる。しかし、最終的には、誰かが多額の資本を危険に晒さねばならない。返済能力がなければ、利用率は低くなる」。

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左:2020年1月22日、中国北部の河北省邯鄲の工場でフェイスマスクを生産する労働者たち。右:2月15日、フロリダ州マイアミ北部にある家族経営の医療機器工場で呼吸用マスクを生産する労働者たち 202115日。

中国の産業政策目標は、1970年代後半に経済が世界に開放されて以来、変化してきた。当初、中国は膨大な、かつ低賃金の労働力を利用して、繊維、アパレル、エレクトロニクス製造業を中国に誘致した。それ以降、北京はより野心的になり、現在ではロボット工学、半導体、クリーンエネルギー、人工知能などの未来の技術でリーダーシップを発揮することを目指している。

カリフォルニア大学サンディエゴ校の経済学者バリー・ノートンは、中国は特に「ショートボード(short board)」技術と呼ばれるもの、つまり西側諸国の封鎖によって中国が機能不全に陥る可能性がある分野に重点を置いている、と指摘している。例えば、トランプ政権以降、中国は中国のコンピューター産業がアメリカ主導の輸出規制に耐えられるよう、国内の半導体設計・製造装置メーカーの強化(strengthening its domestic semiconductor design and manufacturing equipment makers)に注力してきた。

産業政策に依存し過ぎることには、明らかに敗者となるプロジェクトを、撤退するべき時期よりも、はるかに長く続けることなどのマイナス面もある。たとえば、国際競争力のあるガソリン車、燃料電池、水素エネルギーの開発という失敗した取り組みに資金をつぎ込むことなどだ。しかし、多くの場合、中国は挫折もあったが、必要な調整を行ってきた。自動車分野では、ガソリン車が中国の産業政策計画から除外されるようになった。その代わりに、電気自動車が登場した。5カ年計画や指導者が次の選挙を心配する必要がないシステムに対する中国の執着を真似するよう、アメリカに勧める人はいないが、民主的な制度においては、関与と長期計画は米国の弱点となるのは必然であろう。

アメリカの繊維メーカーは既に、バイデン政権が新型コロナウイルス感染拡大期間中に当初提案された2021年の法律で義務付けられている、アメリカ製のマスク、ガウン、その他の個人用保護具の購入や、国防生産法(Defense Production Act)への資金提供がうまくいかずに、役に立たなかったと不満を漏らしている。全国繊維組織評議会のキンバリー・グラスは、アメリカ企業は約束された注文に向けて準備を進めたが、連邦政府機関は安価な中国からの輸入品を購入し続けたと述べている。

あるホワイトハウス高官は、退役軍人省はアメリカ製の物品129点を特定し購入を開始しており、他の機関も同様の取り組みを始めていると述べた。しかしグラス会長は、彼女のグループのメンバーたちはアメリカ製の注文を見たことがないと語った。

アメリカ政治の分裂状態について考えると、バイデンのクリーンエネルギー計画のどれだけが第二期トランプ大統領の任期後にも存続できるかは、まったくもって不透明だ。トランプ大統領は現在、電気自動車を雇用の喪失者として非難し、自動車産業は政府の自動車推進政策によって「暗殺」されていると主張している。そして、クリーンエネルギーに対する補助金や税制上の優遇措置の大部分を盛り込んだインフレ抑制法は、共和党からの投票を1票も得られずに可決された。半導体製造に対して、390億ドルの補助金と税額控除を提供するCHIPSおよび科学法(CHIPS and Science Act)は、超党派の支持を得ており、トランプ政権での提案として始まったため、より安全であるように思われる。

過去に共和党政権は民主党の産業政策努力を阻止しようと努めてきた。例えば、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、超効率のガソリン車を開発するというクリントン政権の取り組みを即座に中止した。連邦議会共和党はオバマ大統領の太陽光パネル開発計画を縮小した。

ディーズは、地方政治での動きもあり、クリーンエネルギーへの補助金は政権交代後も存続するとみている。インフレ抑制法可決後に行われたクリーンエネルギーへの投資の約75%は共和党が勝利した連邦下院選挙区で実施された。ディーズは、「産業能力に、より精力的な方法でもっと投資する必要があるという基本的な命題には、より継続性がある」と述べている。

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北京のビルに飾られている巨大な中国国旗の近くで自身の電話を見る男性(2017年10月23日)。

アメリカが中国指導部の経済支配を真似て近づくことは、たとえそれを望むとしても、不可能なことだ。中国には、小規模な共産党指導グループが大規模な政府計画システムを監督する並行システムがあり、優先事項の承認を得るために様々な機関や国有企業によるロビー活動が渋滞するほどに活発である。

アメリカの産業政策へのアプローチは様々な機関の間で分裂しており、国家計画委員会(state planning agency)の後継である中国国家発展改革委員会(China’s National Development and Reform Commission)のような全体をまとめる機関はない。商務省が半導体プログラムを運営し、エネルギー省、財務省、内国歳入庁、その他の機関がクリーンエネルギー奨励金について発言権を持ち、国防総省が半導体や通信技術に関連する他のプログラムを管理している。ホワイトハウスの無名機関である科学技術政策局(Office of Science and Technology PolicyOSTP)が調整役として起用される可能性もあるが、大きな影響力を持つことはほぼない。

産業政策の監督を調整するため、ホワイトハウスは著名なテクノロジスト(technologist)であるジェイソン・マセニーを、技術・国家安全保障担当大統領次席補佐官(deputy assistant to the president for technology and national security)、国家安全保障会議(NSC)技術・国家安全保障担当調整官(National Security Council [NSC] coordinator for technology and national security)、そして、ホワイトハウス科学技術政策局(Office of Science and Technology PolicyOSTP)国家安全保障担当副局長の3つの異なる役職に任命した。国家安全保障が技術の進歩にますます依存する中、ホワイトハウスは政策が「一致している(in sync)」ことを確認したいとマセニーは語った。マセニーが国防シンクタンクのランド研究所所長に就任するために2022年に政権から離れた後は、彼の仕事は複数の人物に分担されていた。

オバマ政権で、国家安全保障委員会に勤務した経験を持つ、現在は政治コンサルティング会社バウンダリー・ストーン・パートナーズ社に勤めるクリスティン・ターナーは次のように語っている。「全体像を把握できる人は誰もいない。業界政策を全面的に機能させるための全ての糸を引く責任を負う閣僚レヴェルの担当者は存在しない」。長年にわたり、商務長官や新たな競争力強化担当政府機関(new competitiveness agency)を産業政策調整担当(industrial policy czar)にするという提案があったが、政府諸機関の間で、そして、連邦議会の各委員会の間の対立のため、実現には至らなかった。

あるホワイトハウス高官は、非常に多くの様々な機関が産業政策の取り組みに関与する必要があることで、アメリカの制度には利点があると反論した。「これは政府全体のアプローチだ」とこの人物は述べ、この計画はホワイトハウス次席補佐官のナタリー・クイリアンが調整していると述べた。

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オハイオ州ジョンズタウンにあるインテル社の新しい半導体製造工場を訪問するジョー・バイデン米大統領(2022年9月9日)。

ある意味、アメリカは中国の産業政策への取り組み方を真似し始めている。アメリカは何年もの間、中国がアメリカの経済モデルに従うことに利点を見出し、中国は保護主義を続ければ貿易が遮断されることを恐れるようになると考え、アメリカを中国の自由市場モデルとして提示しようとしてきた。しかし、それはもはや行われていない。現在、アメリカ政府も中国政府と同程度に、国内産業を活性化している。ライヴァル国が不利になる行動を取る理由として「互恵性(reciprocity)」を挙げる可能性が高い。

バイデン大統領が、中国の政府諸機関が収集する可能性のあるデータを送信しているとして、中国製電気自動車のアメリカへの輸入を禁止する大統領令案を発表したとき、バイデンの考えは明確だった。バイデン大統領は「中国は、中国で操業するアメリカ車やその他の外国車に制限を課している。なぜ中国からのコネクテッドヴィークル(connected vehicles)が安全対策措置なしで、我が国で走行することを許可されなければならないのか?」と述べた。

おそらく、中国の例が示すアメリカ政府にとって最も難しい問題は、このような保護主義にどこまで傾くかということだろう。中国の成功の重要な部分は、通信製造(telecommunications manufacturing)などの分野で巨大な国内市場を遮断したことだ。これにより、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)は、国際競争に必要な研究開発や自動化の費用を賄える確実な収益基盤を手に入れた。中国はインターネットサーヴィスでもこの方式を繰り返し、百度(Baidu)はグーグルやその他の企業との競争から自由に成長できるようになった。

しかし、中国は多くの産業で海外からの投資も奨励してきた。中国は、合弁事業(joint ventures)、規制(regulations)、審査委員会(review committees)、そしてあからさまな盗用(outright theft)を利用して、濫用される可能性のある秘密技術を学習してきた。その例は数多く存在する。中国で事業を行う条件として、日本とヨーロッパの新幹線メーカーは中国鉄道省と中国企業にノウハウを移転した。やがて、中国企業が強力な競争相手となった。中国が電気自動車市場を開拓していた頃、外国自動車メーカーはアップグレードを支援するために地元企業からバッテリーを購入する必要があった。一方、中国資本のヴォルヴォ・カー・グループは韓国から、より先進的なバッテリーを購入することができ、電気自動車での競争力が高まった。

トランプ政権は、中国がアメリカに輸出する品目の4分の3に関税を課すことで、アメリカ国内市場の保護に努めたが、中国企業がサプライチェーンを再構築し、ヴェトナムとメキシコでの事業を通じて、アメリカに輸出できるようにしたため、大きな影響はなかった。審査に関わった弁護士らによると、バイデンは関税を維持し、中国企業が国家安全保障審査に合格してアメリカ企業を買収することをほぼ不可能にすることで保護を倍増したということだ。市場調査会社ロジウム・グループによると、中国の対アメリカ投資は2016年の540億ドルから2022年には約15億ドルに急減した。フォードが電気自動車での競争力を高めるために、中国の「コンテンポラリー・アンペレックス・テクノロジー」社から先進的な電池技術のライセンス供与を受けるという契約でさえ、連邦議会とヴァージニア州知事から非難を浴びた。

外国投資に対する偏見は、中国とその他の少数の敵対国家にのみ適用される。アメリカの産業政策計画は一般に海外投資(foreign investment)に大きく依存している。半導体メーカーに対するCHIPS法の補助金は主に、台湾に本拠を置くTSMCに、アメリカに先進的な工場を建設するよう説得する方法として始まった。最近、バイデン政権はアリゾナ州の新しい半導体製造工場3カ所へのTSMCの650億ドルの投資を支援するため、TSMCへの66億ドルの補助金を承認したが、プロジェクトの作業進行は予定より遅れている。これは、インテル社やその他の米メーカーへの補助金に、追加されるものである。

中国に関して、アメリカのアプローチは曖昧だ。バイデン政権が太陽光発電の設置拡大を推進しているので、アメリカ国内に新設される中国資本の太陽光パネル工場は税額控除の対象となる可能性がある。しかし、中国の電池メーカーや半導体企業は一般的にそうではない。そこでは、アメリカは中国企業を締め出し、アメリカ企業が技術分野で中国企業を追い越すことを期待している。

戦略国際問題研究所(CSIS)の中国専門家であるケネディは、中国企業がアメリカの市場リーダーから学んでアップグレードしたのと同じように、中国企業がリーダーとなっている、バッテリーや電気自動車、その他のグリーンテクノロジーなどの分野で、中国からの投資が必要だと述べた。

ケネディは次のように指摘している。「私たちは、表が出ればあなた方の勝ち、裏が出れば私たちの負けというアプローチを採っている。もし、私たちが技術的に進んでいるのであれば、中国に技術を与えたくないので中国からの投資は望まない。私たちが遅れている場合、それは国家安全保障上のリスクであると感じ、従って中国に依存したくないということになる」。

中国企業への投資優遇措置を全面的に禁止するよりも、リスクと利益を比較検討するアプローチの方が、筋が通っている。中国はまさにその手法を使っている。中国は、テスラの高級電気自動車生産能力を高めるために上海に工場を建設するよう奨励しようとしたとき、様々な減税措置や低利融資を提供した。

同様に、アメリカが明らかに遅れている、バッテリー分野での中国の投資を奨励することは、アメリカで生産する中国企業に、非中国企業が受けるのと同じ優遇措置を与えることを意味する。太陽光発電では、サプライチェーンを多様化する方法の1つとして、アメリカで生産する全ての企業(中国企業、非中国企業を問わず)は、使用する材料が中国以外の供給源から来ている場合、より多くの利益を得るべきである。

アメリカは、中国がこれまで非常にうまく利用してきた別のアプローチ、つまり、アメリカへの投資承認と引き換えに技術へのアクセスを要求するというアプローチを試すこともできる。アメリカでは連邦下院が、アメリカに友好的な買い手に販売されない限り、アプリを禁止する法案を可決したが、これは北京へのシグナルとして解釈すべきだ。基本的に、この法案は、TikTokの基盤となる技術を西側諸国の管理下に移すことを求めている。

技術交流(technology exchange)は、中国がアメリカでビジネスを行うために支払う代償となる可能性がある。カリフォルニア大学サンディエゴ校のエネルギー専門家マイケル・デイビッドソンは次のように指摘している。「非常に皮肉な状況がある。アメリカは、技術移転(technology transfer)を強制する中国の保護主義政策について長い間不満を述べてきた。アメリカには、それを覆し、中国から有利な条件で技術を手に入れるチャンスがある」。

この種の圧力戦術を使うことは、被害者が一流の弁護士や独立した司法機関にアクセスできる民主的なシステムにおいては難しいかもしれない。それでも、何がうまくいき、何がうまくいかないかを知るために、アメリカ人は中国の経験を研究するのがよいだろう。

※ボブ・デイヴィス:『ウォールストリート・ジャーナル』紙で長年にわたり、米中経済関係の特派員を務めた。共著に『超大国の対決: トランプと習近平の戦いが新たな冷戦をどのように脅かすか(Superpower Showdown: How the Battle Between Trump and Xi Threatens a New Cold War)』がある。ツイッターアカウント:@bobdavis187

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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