古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

タグ:ジェイムズ・モンロー

 古村治彦です。

 2026年1月2日のアメリカのドナルド・トランプ大統領の決定に基づくアメリカ軍のヴェネズエラ急襲・ニコラス・マドゥロ大統領夫妻拘束移送は世界に衝撃を与えた。アメリカは1830年代のモンロー主義(Monroe Doctrine)と1900年代の棍棒外交(Big Stick Diplomacy)を合わせた、トランプが主導するドンロー主義(Donroe Doctrine)が実行される時代になった。ドンロー主義についてはまだ定義がはっきりはしないが、「西半球(western hemisphere)、南北アメリカ大陸はアメリカの影響圏(sphere of influence)であり、他国の影響力を排除する。そのためには武力行使も躊躇しない」ということになる。アメリカが世界の警察官(World Police)であることを辞め、世界の一極支配(unipolar dominance)を放棄するということだ。

トランプは気脈を通じている中国(習近平国家主席)、ロシア(ウラジーミル・プーティン大統領)とのG3体制、ヤルタ2.0体制で、「世界三分の計」を行おうとしている。世界の多極化が進むことになる。また、国際協力や国際機関からの撤退、脱退も積極的に推進する。私たちは世界からアメリカが引いていく状況に直面している。下記で紹介している論稿の著者アミタヴ・アチャラは「世界マイナス1(the world minus one)」と表現している。この世界では、アメリカは存在が必要ではあるならず者(the indispensable rogue)として存在することになる。そして、アメリカ以外の国々は、その対処を実地で学んでいくことになる。私たちはそのような時代の幕開きに立ち会っているということになる。

 トランプはG3,ヤルタ2.0という「表の顔」とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、日本の高市早苗首相と共に、世界の地政学リスクを高める「悪の枢軸(the axis of evil)」も形成している。やりたい放題で、世界に不安を与えるが、トランプは世界に安定をもたらすG3の顔も持つことができる。この融通無碍さがトランプの真骨頂だ。日本とイスラエルはこの二重構造を看取して、それなりの対応をせねばならない。ただの嫌われ役になってしまっては国際的な孤立状態になり、非常に危険である。

(貼り付けはじめ)

世界マイナス1の瞬間(The World-Minus-One Moment

-敵対的・攻撃的なワシントンとともに世界秩序を管理する。

アミタヴ・アチャラ筆

20261月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/05/world-minus-one-united-states-isolationism-multilateralism-global-power/?tpcc=recirc_latest062921

写真

ドナルド・トランプ米大統領は二期目において、世界秩序(the global order)の基盤に対する継続的な攻撃を主導してきた。トランプは国際法(international law)を露骨に無視し、多数の国に対する一方的な関税賦課で世界貿易体制を破壊し、重要な多国間機関からアメリカを脱退させた。

アメリカは常に国際協力(international cooperation)の理想的な擁護者だった訳ではない。新興大国(a rising power)の時にはアイソレイショニズム(isolationism)に傾き、超大国(a superpower)になると単独行動主義(unilateralism)に傾倒した。しかし、トランプが世界秩序の再構築に取り組んだアプローチは、アイソレイショニズムと力の拡大という、新たな危険な組み合わせを生み出している。彼は多極主義(multilateralism)を軽蔑し、力の露骨な行使に固執している。彼の支持者も同じだ。これは、ワシントンで何が起ころうとも、今年80歳を迎えるトランプ大統領の時代を超えて、トランプ主義が生き続けることを意味しているだろう。

評論家や政治学者たちは、アメリカの一極支配時期(the United States’ unipolar moment)の終焉と、より多極的な秩序の台頭を長らく予測してきた。トランプはしばしばこのプロセスを加速させる要因として挙げられる。しかし現実には、彼は全く異なる事態を生み出してしまった。アメリカは今後数年間、世界で最も経済的にも軍事的にも強力な国であり続けるだろう。しかし、既存の国際秩序には参加せず、積極的に敵対するだろう。この特異な状況は多極(multipolarity)ではなく、むしろ「世界マイナス1(the world minus one)」と言える。

そこで出てくる疑問は、国際社会(the international community)がどのように対応すべきなのかということである。ワシントンの圧力に屈することなく、国際協力を維持することは困難だろう。トランプ主義を乗り越え、より強力な存在となるためには、既存の多国間機関は適応し、改革を行い、努力を倍増させなければならない。もしそれが成功すれば、アメリカはいつかより平等な条件で国際秩序に再加盟せざるを得なくなるだろう。

写真

2005424日、インドネシアのバンドンで行われた1955年バンドン会議50周年記念式典で握手するインドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領(左)が南アフリカのタボ・ムブイェルワ・ムベキ大統領(2005年4月24日)

「世界マイナス1」という概念は、トランプ政権第二期において新たな意味合いを帯びてきた。2025年初頭から、私は新たな世界秩序を表現する際に「世界マイナスXworld minus X)」「世界マイナスアメリカ合衆国(world minus the United States)」「世界マイナス1」といった用語を用いてきた。シンガポールのリー・シェンロン元首相は2025年7月、「一時的な世界マイナス1(the world temporarily minus one)」という表現を用いて、より狭義にはアメリカのリーダーシップなしに世界経済と貿易を管理することを指して、この概念を広めた。しかし、現在の状況は経済の枠を超え、現代の核心的な課題を物語っている。

マデリーン・オルブライト元米国務長官は、アメリカは不可欠な国(the indispensable nation)であり、アメリカなしでは国際協力の構築も維持も不可能であるとよく述べていた。この前提は、アメリカ政府が世界秩序への関与を放棄するにつれて、世界は非協力的になり、暴力的になる(Washington abandons its commitment to the global order, the world will grow less cooperative and more violent)という懸念の根底にある。

国際関係の歴史は異なる物語を物語っている。スティーヴン・クラズナーやロバート・コヘインといった学者が主張するように、経済の開放と政治協力(economic openness and political cooperation)が普及するためには、世界を支配する覇権国(a globally dominant hegemon)は必ずしも必要ではない。国際機関は一度形成されると、その存在は固定的である。集団的利他主義(collective altruism)のためではなく、加盟国の中核的利益(core interest)に奉仕するために存在するのだ。これらの中核的利益が存続するならば、協力も存続する。これは、覇権国が棄権する(abstains)、撤退する(withdraws)、あるいは他国間の協力に反対する(opposes cooperation among others)としても、多国間主義が存続できることを意味する。

実際のところ、20世紀の歴史は、現在の国際秩序の最も基本的な要素のいくつかが、いかなる覇権国(hegemon)の支援も受けずに形成されたことを示している。例えば、脱植民地化(decolonization)と人種平等(racial equality)は、アメリカ合衆国の不可欠な支援によってではなく、ワシントンの当初の抵抗に直面して、世界規範(global norms)となったのである。

1919年のヴェルサイユ会議において、ウッドロウ・ウィルソン米大統領は、国際連盟(the League of Nations)の基本原則に人種平等条項を盛り込もうとする日本の動きに反対した。ウィルソンは自身の人種差別的信念に基づき行動すると同時に、日本の移民に懸念を抱く国内政治家や、オーストラリアなどの西側同盟諸国への配慮も図っていた。しかし、こうした反対​​にもかかわらず、現在「グローバル・サウス(the global south)」として知られる国々はこの理念を支持し続けた。その顕著な例は、1955年にインドネシアのバンドンで開催されたアジア・アフリカ会議(the 1955 Asian-African Conference)である。

バンドン会議(the Bandung Conference)は、人種平等の提唱に加え、アジアとアフリカの即時脱植民地化も要求した。ここでも、アメリカの支援はせいぜい中途半端なものとなった。ワシントンは主要同盟国であるイギリスの支援を得て、会議参加国に対し、脱植民地化の要求を拒否するよう圧力をかけた。これは、新たに独立した国々が共産主義体制に乗っ取られることを懸念したためである。もちろん、脱植民地化のための戦いは続き、今日存在する 193の主権を持つ国連加盟国(sovereign United Nations member states)の世界が作り上げられた。

実際、第二次世界大戦終結以来、ワシントンは国際舞台において一貫して受動的かつ攻撃的なアクター(a passive-aggressive actor)であることを示してきた。アメリカは制度(institutions)や規則(rules)を作り上げ、それがアメリカの利益にかなう場合には尊重するが、そうでない場合には無視してきた。アメリカは多くの多国間条約に加盟しているものの、気に入らない結果には警戒を怠らない。極端な例では、ワシントンは行動に異議を唱える機関に対して、脅迫、ボイコット、制裁措置(bullying, boycotting, and sanctioning)に訴えることさえある。

近年の3つの例、すなわち国連海洋法条約(the U.N. Convention on the Law of the SeaUNCLOS)、気候変動に関するパリ協定(the Paris Agreement on climate change)、そして国際刑事裁判所(the International Criminal CourtICC)は、アメリカが不在(absent)、不遵守(noncompliant)、あるいは積極的に敵対する(hostile)場合でも、多国間制度や協定がいかに存続できるかを示している。

ワシントンは、第3回国連海洋法会議に参加した後も、1982年に締結された海洋法条約への署名を拒否した。しかしながら、国連海洋法条約は、海域(maritime zones)と航行権(navigational rights)に関する安定した世界的な法的枠組みの構築に広く貢献してきた。貿易を促進し、紛争の平和的解決のメカニズムを提供してきた。また、アメリカの国益にも合致してきた。ワシントンは、南シナ海における中国の広範な領有権主張に対し、国連海洋法条約の手段を行使し続けている。しかし、アメリカが国連海洋法条約への正式加盟に頑なに抵抗していることは、中国にワシントンの偽善を非難する根拠を与えている。加盟を拒否しながらも国連海洋法条約に整合した行動をとるというアメリカの決定は、世界マイナス1にとって最良のシナリオ、すなわちワシントンが正式に国際規範を拒否した後もそれを遵守し続けるというシナリオを体現している。

アメリカが多国間協定から離脱したり、協定に違反したりした場合でも、協力は維持される可能性がある。確かに、ワシントンのパリ協定離脱は有害な影響を及ぼすだろう。その一部は国内的なものであり、例えば気候規制の後退やそれに伴う温室効果ガスの増加などが挙げられる。国際的には、アメリカの離脱は、経済成長を犠牲にして排出基準を負担する国への補償など、気候規制のための資金を圧迫する可能性がある。

しかし、アメリカの財政支援の喪失はパリ協定の実効性を損なう一方で、他の国々は依然としてネットゼロ炭素排出目標(net-zero carbon emissions target)の達成を約束している。現在世界最大の汚染国である中国は、この目標を2060年までに達成することを誓約している。世界第4位の汚染国であるヨーロッパ連合(European UnionEU)は、日本と同様に2050年までにネットゼロを達成することを誓約しており、インドは2070年までにこの目標を達成することに同意している。実際、アメリカが何をしようとも、残りのパリ協定署名諸国は、自国が決定した炭素削減目標を5年または10年ごとに見直し、改善する義務を負っている。そして、風力・太陽光発電技術が安価になり普及するにつれて、これらの目標を上回る可能性も残されている。

最後に、国際刑事裁判所の例を挙げよう。1998年、ワシントンは国際刑事裁判所(ICC)の設立を定めたローマ規程に反対票を投じた。アメリカの市民、外交官、そして兵士を危険にさらす懸念があったからだ。さらに劇的なのは、アメリカがイスラエル指導者を訴追した国際刑事裁判所に対し、裁判官と検察官に制裁を科すことで報復措置を取った。しかし、イギリスを含むアメリカの同盟諸国は国際刑事裁判所の独立性を支持し続け、これに追随しなかった。その結果、国際刑事裁判所は指導者の不処罰を抑制し、人道犯罪の抑止力として機能し続けている。

写真

ニューヨークで開催された第80回国連総会での演説を終え退席するドナルド・トランプ米大統領(2025年9月23日)

アメリカの多極主義へのアプローチが常に条件付きであったとすれば、トランプ政権下では、それは紛れもなく敵対的なものとなった。実際、トランプはこの敵対的な姿勢を2025年国家安全保障戦略(2025 National Security Strategy)に明記し、「個々の国家の主権を明示的に解体しようとする国際機関のネットワーク(network of international institutions … that explicitly seeks to dissolve individual state sovereignty)」を非難している。アメリカは現在、同盟国と敵対国を問わず、自己中心的で二極主義的、排他的、そして取引的な関係を追求している。

2016年以降、トランプは複数の多国間協定や機関から脱退、あるいは脱退計画を発表している。これらには、パリ協定、イラン核合意(the Iran nuclear deal,)、国連人権理事会(the U.N. Human Rights Council)、オープンスカイズ条約(the Treaty on Open Skies)などが含まれる。さらに、第二次トランプ政権は、世界保健機関(the World Health OrganizationWHO)からの脱退とユネスコからの脱退を表明している。

さらに、トランプ大統領は国連予算の削減を計画している。最も顕著なのは、国連平和維持活動(U.N. peacekeeping operationsPKO)への8億ドルの削減で、これには既に連邦議会で承認されている資金も含まれる。政権はハイチ、レバノン、コンゴ民主共和国など、支援する特定の平和維持活動に資金を集中的に投入することに同意しているものの、より広範な削減によって国連は国際平和維持部隊(global peacekeeping forceGFP)を25%削減することになった。トランプ大統領はまた、アメリカ政府に割り当てられている義務的拠出金(mandatory contributions)の拠出を差し控えており、国連予算の削減総額は20億ドルを超えると推定されている。その結果、国連は現在、予算を5億ドル以上削減し、職員を約20%削減することを検討している。

皮肉なことに、トランプはノーベル平和賞を公然と要求する一方で、欠陥はあるものの紛争の緩和と人命救助に大きく貢献してきた国連平和維持活動を弱体化させている。

しかし、こうした破壊だけが全てではない。トランプがアメリカを世界の不在あるいは亡命国家の最高指導者という評判を固めている一方で、国際協力は維持されてきた。今や、台頭する大国がトランプの関税や脅しを拒絶し、BRICSG20、上海協力機構(the Shanghai Cooperation OrganisationSCO)、東南アジア諸国連合(the Association of Southeast Asian NationsASEAN)といった多国間フォーラムをその手段として利用しているのを目にしている。

BRICS諸国、特に当初加盟国であった国々は、高関税にもかかわらず、トランプ大統領に公然と反抗してきた。ブラジルでは、ジャイル・ボルソナロ前大統領の裁判は、ホワイトハウスからの免罪圧力にもかかわらず継続された。南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領はホワイトハウスに出向き、南アフリカの白人が迫害されているというトランプ大統領の主張を公然と否定した。中国は重要な鉱物サプライチェインにおける優位性を利用して、貿易戦争でトランプ大統領を出し抜こうとしてきた。インドにはそのような天然資源の切り札はないが、トランプ大統領はより身近なところで反発を招いている。アメリカの政策関係者は、トランプ大統領の任期1期目におけるインド太平洋戦略の要であった中国に対する重要な戦略的パートナーをホワイトハウスが疎外したことに、今や困惑し、憤慨している。

トランプ大統領が世界の不在大統領、あるいは離反大統領(the world’s absentee- or defector-in-chief)としてのアメリカの評判を固めている一方で、国際協力は維持されている。

2024年12月、次期大統領のトランプは、米ドルに代わる取り組みを放棄しないBRICS加盟諸国に対し、100%の関税を課すと警告した。2025年7月、リオデジャネイロで開催されたBRICS首脳会議において、トランプは「BRICSの反米政策(Anti-American policies of BRICS)」に沿う国からの製品に10%の追加関税を課すと発表し、「例外はない(no exceptions)」と付け加えた。これに対し、ブラジルなど一部のBRICS加盟国は、共通通貨構想(a common currency)を軽視する姿勢を見せている。しかし、トランプの圧力は裏目に出る可能性もあり、代替決済システムの開発とドルへの依存度の低減(to develop alternative payment systems and reduce their reliance on the dollar)への意欲をさらに強めることになる。

2025年8月に中国の天津で開催された上海協力機構(SCO)首脳会議は、トランプの政策に対する多国間の抵抗を示す新たな場となった。この会議で、中国の習近平国家主席とインドのナレンドラ・モディ首相が会談し、インドと中国はライヴァルではなくパートナーであると宣言した。

しかし、上海協力機構だけではない。G20はブラジル、インド、インドネシア、南アフリカといった国々にも、世界的なリーダーシップを強化する機会を与えてきた。2022年のインドネシアでのG20首脳会議は、ロシア・ウクライナ紛争をめぐる混乱への対応をG20が後押しした。2023年のインドでのG20首脳会議は、アフリカ連合(the African UnionAU)のG20加盟確保に貢献し、グローバル・サウスの役割拡大につながった。2025年11月にヨハネスブルグで開催されたG20首脳会議は、もう1つの画期的な出来事となった。アフリカで初めて開催されたG20首脳会議はアメリカによるボイコットにもかかわらず、多様性、包摂性、そして、平等(diversity, inclusion, and equality)といった課題を中心に議論された。他の加盟国はアメリカのボイコットに追随せず、アメリカの世界的な孤立がさらに浮き彫りになった。

こうした国際フォーラムで示された結束(solidarity)に加え、地域主義(regionalism)への傾向も見られる。過去20年間で、アフリカ主導の平和活動は急増した。アフリカ連合や西アフリカ諸国経済共同体(he Economic Community of West African States)などの地域機関、そしてより小規模なアドホック連合は現在、アフリカ17カ国で10件の活動を展開している。アフリカ主導の平和活動は、チャド盆地、シエラレオネ、ソマリアにおける反乱勢力による紛争の封じ込めにおいて、一定の成功を収めている。実績はまちまちだが、これらの平和活動は、不安定な情勢に対する地域的かつ状況に応じた対応や、国連よりも幅広い活動に取り組む意欲など、独自の特徴を示している。重要なのは、これらのプロジェクトは主にヨーロッパ連合の資金提供を受けており、アメリカの役割は最小限にとどまっていることである。

これら全ての機関と並んで、国連は依然として重要な協力の場となっている。アメリカはしばしば国連の人権保護の不備を批判し、権威主義的なライヴァル国に対する政治的得点獲得の場として利用している。しかし、国連は民主政治体制国家と非民主政治体制国家が人道支援を効果的に推進する場として存続してきた。

特筆すべきは、過去20年間で中国の国連への拠出額が大幅に増加したことだ。アメリカは国連の通常予算の22%、平和維持活動の26.2%を拠出しているが、中国は現在、通常予算の20%、平和維持活動の23.8%を拠出しており、世界第2位の拠出国となっている。また、中国は国連安全保障理事会の常任理事国5カ国(the five permanent members of the U.N. Security Council)の中で、最も多くの平和維持部隊を派遣している。国連の人道支援機関に対する中国の自発的な拠出額は依然として比較的低い水準だが、もし中国がアメリカの不関与(U.S. disengagement)を絶好のチャンスと捉えれば、拠出額は急速に増加する可能性がある。

写真

中国深圳でコンテナ船、クレーン、そして積み上げられた輸送コンテナの近くに翻る中国国旗(4月12日)。

今後数年間、台頭する大国と多国間機関は、トランプ大統領の攻撃に対応して進化を続けるだろう。しかし、彼らは「世界マイナス1」という状況を乗り越え、国際協力と自由貿易(global cooperation and free trade)をうまく維持できるのだろうか?

中国の対応は特に重要となるだろう。北京は必然的に自国の利益に導かれ、ワシントンを犠牲にして影響力を拡大しようとするだろう。しかし、中国が賢明かつ自制心を持って行動すれば、中国支配の世界(a Chinese-dominated world.)の構築ではなく、国際協力(global cooperation)の強化につながるだろう。

伝統的に安全保障をアメリカに依存してきたアジア太平洋地域は、「世界マイナス1」秩序の中心となる可能性が高い。ここで特に注目すべき2つの貿易協定、すなわち東アジア地域包括的経済連携(the Regional Comprehensive Economic PartnershipRCEP)と中国・ASEAN自由貿易協定(the China-ASEAN Free Trade AgreementCAFTA)である。2022年に発効した15カ国・地域のRCEPは、GDPと人口の両面で世界最大の貿易グループへと成長しつつある。中国、日本、韓国、ASEAN諸国を合わせたRCEPは、現在、世界のGDPの約30%を占めている。RCEPは20年間で域内の関税の90%以上を撤廃し、電子商取引や知的財産など紛争の多い分野で共通ルールを策定することを目指している。

2010年に発効し、2015年と2025年10月に改訂されたCAFTAは、グリーン経済やサプライチェインの連結性などの分野で中国とASEANの協力を推進している。専門家の一部は、アメリカがASEAN諸国に対し、中国とのデカップリング(decouple、分離)と中国の積み替え貨物に対するアメリカの懲罰的関税(punitive U.S. tariffs)の遵守について圧力をかけてきたため、これは北京にとって明らかな戦略的勝利だとしている。しかし、真実はもっと複雑である。ASEAN諸国は、アメリカに完全に同調するつもりはなかった。むしろ、彼らは既にCAFTAなどの協定を利用して自国の利益を推進し、中国の影響力に対する懸念に対処している。実際、北京が経済的利益を制限し、これらの国々と多国間で関与し、自由貿易と開放的で包括的な地域秩序につながる関係を追求するようになったのは、ASEAN諸国からの圧力によるものである。

ヨーロッパ連合もまた、世界マイナス1への対応が極めて重要となる主要プレイヤーだ。2021年、ヨーロッパ連合は3000億ドル規模の「グローバル・ゲートウェイ」計画(Global Gateway plan)を発表した。これは、インフラ、エネルギー、気候変動対策プロジェクトを統合し、世界における中国の影響力に対抗するためのものだ。例えばアフリカでは、グローバル・ゲートウェイは北アフリカからヨーロッパを結ぶ水素パイプライン[hydrogen pipeline]SoutH2 Corridor」や、東アフリカの食料安全保障強化プロジェクトを支援している。また、ヨーロッパ連合は現在、メルコスール[Mercosur](アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)諸国との自由貿易協定の締結に向けて調整を進めており、大半の品目の関税撤廃、投資拡大、持続可能性の確保を目指している。

理想的には、ヨーロッパと中国は、アフリカや南アメリカといった地域において、ゼロサムではなく相互補完的な(complementary)形で関与できるはずだ。例えばアフリカでは、中国はヨーロッパ連合のグローバル・ゲートウェイ構想(Global Gateway initiatives)に積極的に参加している。重要なのは、こうした姿勢はヨーロッパや中国の寛大さから生まれたものではなく、アフリカや南アメリカの指導者たちの要求によるものであるということだ。

インドはまた、世界がワシントンの不在にいかに効果的に対応するかを決定する上で重要な役割を担っている。トランプ大統領の圧力に強く抵抗する一方で、インドはインドの貿易関係を急速に拡大し、制度化している。これには、ASEANおよび日本との既存の貿易協定の強化交渉、そして、2025年7月にイギリスと締結する新たな貿易協定が含まれる。インドはまた、EU非加盟国のアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスを含む欧州自由貿易連合(the European Free Trade AssociationEFTA)とも2024年に貿易協定を締結した。中国と同様に、インドはロシアとの貿易の多くを自国通貨建てで行っている。インドはまた、ロシアと緊密な安全保障関係を維持しており、ロシアは引き続きインドの武器輸入の36%を供給している。たとえその後ワシントンとの関係が改善したとしても、インドが戦略的自立性を継続することで、米中の優位性が薄れ、世界マイナス1体制の持続可能性が確保されるだろう。

最後に、国連がトランプ大統領を機に、長らく待たれていた改革を実行に移すかどうかは、依然として不透明だ。トランプ大統領の第二期就任以来、アメリカはフランスで開催された国連海洋会議とスペインで開催された第4回開発資金会議をボイコットした。それでもなお、国連加盟国の大多数はこれらの会議に出席した。ワシントンの不在にもかかわらず、各国は海洋生物の保護、債務救済、気候変動対策への財政支援といった合意形成など、通常通りの活動を継続することができた。

この成功を基盤として、国連は更なる適応策を講じなければなりません。これには、優先分野に重点を置くための予算削減や、中核ミッションに不可欠ではなくなった機関の廃止による重複削減などが含まれます。元国連高官でスウェーデン首相のカール・ビルト氏らが提案した、より抜本的な対策は、国連本部をニューヨーク市から移転することです。これによりコストが削減され、米国にとって非友好的と見なされる地域からの代表団へのビザ発給を米国が拒否する可能性も排除されます。理想的には、各国がトランプ大統領の予算削減に対し、通常の国連予算の内外を問わず支援を強化し、国連に対し民間部門の資源と専門知識を動員するよう働きかけることで対応することが期待されます。これらの措置により、トランプ大統領の敵意によって国連が機能不全に陥る事態を回避できるでしょう。

To build on this success, the U.N. must do more to adapt itself. This should include making budget cuts to focus on priority areas and reduce duplication by dispensing with agencies no longer critical to core missions. A more radical step, suggested by former senior U.N. official and Swedish Prime Minister Carl Bildt and others, would be to move the U.N. headquarters out of New York City. This would cut costs and remove the chance of the United States denying visas to delegates from places deemed unfriendly to Washington. Ideally, every country would respond to Trump’s cuts by providing more support, within or outside the regular U.N. budget, and by pushing the U.N. to mobilize resources and expertise from the private sector. These measures can ensure that the U.N. will not die due to Trump’s hostility.

世界マイナス1の時代はいつ終わるのか? それはアメリカの国内政治と外圧(external pressures)の両方に左右される。トランプ大統領が多極主義と対外援助を拒否しているにもかかわらず、アメリカの国際社会からの離脱は完全でも不可逆的でもない。ピュー・リサーチ・センターが2025年3月に実施した調査によると、成人アメリカ人の47%がアメリカの国際情勢への積極的な関与を支持し、64%が主要な国際問題においてアメリカは他国と妥協すべきだと考えている。また、過半数が開発途上国への食料、医薬品、衣料品などの援助に賛成している。

アメリカが最終的にトランプ主義を脱却する場合、世界はどのように反応すべきだろうか? 多くのことは、新しいホワイトハウスがいかにしてダメージを修復するかにかかっている。例えば、アメリカはどれほど迅速に制度に復帰し、拠出金の返済や拠出停止を返済し、カナダからインドに至るまでの同盟諸国やパートナーとの関係を修復するだろうか? ワシントンがどのような行動を取ろうとも対応は様々だろう。NATO加盟諸国は、ロシアや国際テロの脅威から、同盟をかつての活力ある状態に戻そうと熱心に動くかもしれない。対照的に、BRICS諸国は、アメリカがかつての経済的役割を取り戻そうとするいかなる試みにも抵抗するだろう。

ワシントンの世界秩序への復帰を最もよく表すシナリオは2つあるだろう。放蕩息子(the prodigal son)と存在が必要ではあるならず者(the indispensable rogue)だ。ワシントンのリベラルエリートは前者を好むかもしれない。聖書に出てくる不良息子のように、アメリカが両手を広げて歓迎されるシナリオだ。しかし、このシナリオは実現しそうにない。世界はトランプ政権時代を許すかもしれないが、決して忘れることはないだろう。そして、ルールに基づく秩序(the rules-based order)にアメリカがもたらした過去のダメージも忘れることはないだろう。国民の記憶は短く移り変わりやすいものだが、アメリカはかつての同盟諸国やパートナー、たとえ西側諸国であっても、真の信頼を取り戻すことは難しいだろう。

ここから第二のシナリオが導き出される。アメリカはもはや自由世界のリーダーではなく、単に世界にとって存在が必要ではあるならず者(an indispensable rogue)となる。世界は依然として、アメリカの軍事力、経済力、そして技術力を、多くの地球規模の課題への対応に不可欠だと認識するだろう。しかし、世界はワシントンが世界のリーダーシップの座に就くことを望まないだろう。

簡潔に述べれば、アメリカの地政学的優位性(U.S. geopolitical dominance)やリベラル・ヘゲモニー2.0(liberal hegemony 2.0)への回帰はない。トランプの後継者が共和党の大統領で彼の政策を継続するか、善意の民主党大統領が政策転換を図るかに関わらず、トランプは世界のアメリカへの信頼と依存(the world’s faith in and dependence on the United States)を打ち砕いた。動揺した同盟諸国に対し、別のジョー・バイデンが次の大統領となって「アメリカは戻ってきた(America is back)」と告げるのを待つ人間はいない。

その結果、世界秩序はより多重化(multiplex)するだろう。ワシントンは、より広範に分権化されたシステム(more broadly decentralized system)の中で生きることになるだろう。それは、アメリカの力や目的よりも、経済・安全保障上の結びつきの網に絡み合った他の大国や中堅国によって形作られるシステム(one shaped less by U.S. power or purpose than that of other great and middle powers enmeshed in a web of economic and security ties)だ。

つまり、アメリカが多極主義に復帰する頃には、世界はすでに変化を遂げているだろう。ワシントンにとって唯一の選択肢は、より対等な条件で、より弱い存在(a weaker entity on more equal terms)として国際秩序に再加入することかもしれない。

※アミタヴ・アチャラ:アメリカン大学国際関係学部卓越教授。最新作は『かつての世界秩序と未来の世界秩序:なぜ世界文明は西洋の衰退を生き残るのか(The Once and Future World Order: Why Global Civilization Will Survive the Decline of the West)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領は、カナダやメキシコに強く当たり、グリーンランドやパナマ運河の領有を主張している。これをいつものトランプの激しい言葉遣いとして片づけてはいけない。彼の発言の裏には非常に重要な考えが存在するのだ。それは「モンロー主義」である。モンロー主義という言葉は日本人であれば、中学校や高校の歴史の授業で習った言葉である。第5代米大統領ジェイムズ・モンロー(James Monroe、1758-1831年、73歳で没 在任:1817-1825年)が公式に宣言した、アメリカの外交政策上の指針である。一般的には、アメリカが世界から孤立する、ヨーロッパに関わらないという考えだと思われているが、これは正確ではない。モンロー主義は、アメリカが西半球(南北アメリカ大陸)を支配する、ヨーロッパには手を出させない、その代わりにアメリカはヨーロッパに手を出さないという考えだ。この時期、南米諸国がスペインの植民地から独立をしていた時期で、各国にイギリスが支援をしていた。それは、独立後に南米諸国をイギリスの勢力圏に入れて、イギリス製品の市場にしようという魂胆があったからだ。それを阻止したいということでモンロー主義、モンロー宣言が出された。

 第二次世界大戦後のアメリカは、冷戦期、ポスト冷戦期を通じて、世界の極として世界支配を続けてきた。しかし、トランプ大統領はそうした介入主義的な外交政策ではなく、モンロー主義に戻ろうとしている。アメリカは世界支配から退き、西半球に立て籠もるという考えである。そして、21世紀のモンロー主義の対象は中国とロシアということになる。中露両国の南米諸国への影響を排除したいとして動いている。しかし、南米諸国もトランプの意向に唯々諾々と従う訳ではない。中露、アメリカとの両天秤をかけて、自分たちの利益を生み出そうとしている。

 3月25日の最新刊ではトランプの外交政策について詳しく分析している。下記論稿を使ってはいないが、非常に参考になる論稿である。

(貼り付けはじめ)

トランプは自分自身のモンロー主義を持っている(Trump Has His Own Monroe Doctrine

-大統領として、対象地域に対する彼の攻撃的な姿勢は、多くの国々を中国に好意的にさせた。

オリヴァー・ステンケル筆

2024年10月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/10/17/trump-election-latin-america-monroe-doctrine-china-huawei-venezuela-far-right/

2024年11月のアメリカ大統領選を前に、ラテンアメリカの右派指導者数人が共和党候補であるドナルド・トランプ前大統領への支持を公然と表明している。その中には、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領、エルサルヴァドールのナイブ・ブケレ大統領、ブラジルのジャイル・ボルソナーロ前大統領、そして彼らの同盟者や支持者も含まれている。「トランプの当選で、私たちは大きな転換を見ることができる。そして、神の思し召し(God Willing)によりそうなるだろう」と、ボルソナーロ前大統領の息子でブラジル連邦下院議員のエドゥアルド・ボルソナロは、7月に開催されたブラジルの保守政治行動会議で語った。

ラテンアメリカ中のトランプ支持者は、前大統領のさまざまな文化戦争十字軍(culture war crusades)や経済政策に共感している。また、トランプがホワイトハウスに戻ることで、アメリカの海外介入(U.S. interventions abroad)を終了させ、より平和な世界が実現するとの意見も多い。2022年、ジャイル・ボルソナーロは、「(トランプが)まだ政権に就いていれば、ウクライナでの戦争は起こらなかったと考える人もいる。私はそれに同意する」と述べた。 政治家でボルソナーロの盟友であるビア・キシスは最近、『ニューヨーク・タイムズ』紙に、「トランプが候補者だったころ、第三次戦争の可能性が取り沙汰された。しかし、トランプが大統領を辞めるまでは戦争は起こらなかった。そして、現在は戦争が世界全体に影響を与えている(Back when Trump was a candidate, there was talk of a possible third war. But there was no war—until Trump left office, and now war is affecting the whole world)。」と書いている。アルゼンチンの作家でミレイ支持者のアグスティン・ラジェは、トランプの復帰は 「平和を保証するために(to guarantee peace)」不可欠だと語った。

しかし、少なくともラテンアメリカの場合、トランプがホワイトハウスに戻れば、1期目の時のようにアメリカの外交政策がはるかに介入的になるという強い証拠がある。当時、トランプはキューバやヴェネズエラのような国に対して「最大限の圧力(maximum pressure)」戦術を採用し、ブラジルのような国には中国のハイテク大手ファーウェイを禁止するよう無駄に圧力をかけた。

トランプが第2期の大統領になれば、ラテンアメリカ諸国がアメリカと中国の間で勃発しつつある競争において、どちら側を選ぶかについて、より明確なアメリカの圧力が復活する可能性が高い。そうなれば、多くの国々が中国に懐柔されたトランプ大統領の1期目と同様、この地域に大きな摩擦が生じる可能性がある。トランプ大統領のラテンアメリカに対するアプローチが攻撃的になればなるほど、各国政府は北京との関係を緊密化させることでワシントンとバランスを取ろうとするだろう。

最近のアメリカの歴代政権のほとんどは、1823年にラテンアメリカにおけるヨーロッパ勢力の干渉に対するワシントンの同地域の支配権(authority)を主張したモンロー主義(Monroe Doctrine)から明確に距離を置いてきた。モンロー主義は、西半球(Western Hemisphere)におけるアメリカの軍事的または外交的介入の口実としてしばしば使用され、特に20世紀には主にアメリカ帝国主義(U.S. imperialism)の一形態とみなされていた。 2013年、当時の米国務長官ジョン・ケリーは「モンロー主義の時代は終わった(“The era of the Monroe Doctrine is over)」と発表した。

しかしながら、トランプと支持者たちは、モンロー・ドクトリンを明確に擁護している。2018年の国連総会でトランプは、「この半球と自国の問題に対する外国の干渉を拒否することは、モンロー大統領以来の私たちの国の正式な政策である」と主張した。今回の警告はヨーロッパ諸国ではなく、ロシアと中国に向けられたもので、中露両国は過去10年間にほとんどの南米諸国の主要貿易相手国となった。

おそらくトランプの世界観の最も極端な要素は、トランプの国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンによって明らかにされた。彼は2020年の著書『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日(The Room Where it HappenedA White House Memoir)』の中で、トランプはヴェネズエラに軍事的オプションを求め、そして、『本当にアメリカの一部だから(it’s really part of the United States)』という理由でヴェネズエラを維持すると主張した」と書いている。2019年4月、ボルトンは「今日、私たちは誇りをもって全ての人に宣言する。モンロー・ドクトリンは健在である(Today, we proudly proclaim for all to hear: The Monroe Doctrine is alive and well)」と述べた。

このことは、世界全体におけるトランプのアイソレイショニズム的な外交政策が、西半球を支配したいという強い衝動につながることを示唆している。ジョンズ・ホプキンス大学のハル・ブランズ教授が『フォーリン・アフェアーズ』誌で論じたように、「『アメリカ・ファースト』はモンロー主義の再活性化(reenergized)を特徴とする。旧世界の前哨基地(Old World outposts)からのアメリカの撤退は、新世界におけるアメリカの影響力を守り、ライヴァルがそこに足場を築くのを防ぐための、おそらくより強硬な取り組みの強化を予感させる。

振り返ってみると、トランプ大統領のラテンアメリカ戦略は目標を達成することができなかった。破壊的な制裁(crippling sanctions)と威嚇的なレトリック(menacing rhetoric)にもかかわらず、ボルトンが「暴政のトロイカ(Troika of Tyranny)」と名付けたニカラグア、ヴェネズエラ、キューバの政権は維持されている。トランプがラテンアメリカ諸国政府にファーウェイを禁止したり、中国との関係を格下げしたりするよう説得した努力も、具体的な成果は得られなかった。ボルソナーロ政権時代でさえ、ブラジルの対中貿易は拡大する一方だった。

特にファーウェイに対するトランプ政権の戦略は、ラテンアメリカの政策立案者たちを当惑させた。アメリカは、ファーウェイが中国のスパイ活動のためのトロイの木馬(Trojan horse)として利用される可能性があるとして、ラテンアメリカ諸国に対し、5Gネットワークのコンポーネント・プロヴァイダーとしてファーウェイを排除するよう圧力をかけた。当時、トランプ政権はヨーロッパやラテンアメリカの政府に対し、ファーウェイを利用しないよう脅し、そうすればワシントンがアメリカの情報共有を停止する恐れがあると警告した。

しかし、ワシントンはラテンアメリカの政治的現実を無視し、政治的・経済的エリートの間には北京と対決する意欲がほとんどなかった。更に悪いことに、アメリカは中国の5G技術に代わる真の選択肢を提示しなかった。ファーウェイの競争相手、エリクソン、ノキア、サムスンなどは、より高価であり、ワシントンはその差額を支払うという提案を行わなかった。

ファーウェイがもたらす危険性についてのトランプ大統領の警告も、ほとんど効果を持たなかった。ほとんどのラテンアメリカの国民にとって、中国にスパイされることと、アメリカにスパイされることの間には、ほとんど違いがない。アメリカは、例えば、ブラジルのディルマ・ルセフ前大統領をNSAの監視下に置いたことについて謝罪を拒否しており、その他にも、この地域におけるアメリカの介入主義や秘密活動(covert activities)の多くの事例がある。

トランプ大統領のこの地域に対する強硬なアプローチ(muscular approach)は、北京の利益に大きく貢献した。ラテンアメリカ諸国政府は、トランプ大統領の姿勢とバランスを取るために中国との関係を強化した。北京はラテンアメリカ諸国政府との交流において主権を尊重することを強調しているが、これはグローバルサウス(global south)全域の政府にとっていかに魅力的に聞こえるかを意識してのことである。

トランプ大統領は最終的にヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を打倒するための軍事介入を断念したが、彼の攻撃的なレトリックは地域を緊張させた。アメリカが侵攻するという漠然とした不安でさえ、ヴェネズエラが主権に対する深刻な脅威に直面しているというマドゥロ大統領のシナリオをより強固にする旗を掲げた集会のような効果をもたらした。また、国の経済的苦境をすべてアメリカの制裁のせいにする機会にもなった。その結果、いくつかの地域の指導者たちは、躊躇しながらマドゥロ側についた。

トランプの大統領就任一期目の中南米に対する敵対的なアプローチは失敗したが、ホワイトハウスに戻ったら同じ戦略を繰り返す可能性が高いと、ブエノスアイレスのトルクアト・ディ・テラ大学教授フアン・ガブリエル・トカトリアンは『アメリカズ・クォータリー』誌で、「共和党の上院議員と下院議員は、モンロー主義の有効性を再確認する決議を提出した」と警告を発している。共和党の多くの有力な発言者も、この地域に対して定期的に脅迫的な言葉を使っている。

昨年、トランプはアメリカがパナマ運河の支配権を失ったことを嘆いた。トランプ、副大統領候補のJD・ヴァンス、テキサス州選出の連邦上院議員テッド・クルーズ、フロリダ州知事のロン・デサンティス、元国連大使のニッキー・ヘイリーらは皆、麻薬カルテルと戦うためにメキシコを空爆すると脅している。アメリカの国際法違反(U.S. violations of international law)を助長するこのようなレトリックは、反米の主張にとって好都合であり、中国がこの地域でより魅力的なパートナーとして自国を位置づけることを容易にするだろう。

トランプ大統領は、ドル回避(circumvent the dollar)に向けた取り組みを行っている国の製品に高関税を課す可能性がある。これはおそらく、BRICSグループ内の国々との貿易の一部に現地通貨を使用しているブラジルにも当てはまるだろう。メキシコはトランプ大統領の復帰で最も影響を受ける国の1つとなる可能性が高く、メキシコで生産された製品に高額の関税を課し、移民を減らし、アメリカの貿易赤字を削減すると公約している。

しかしながら、トランプ大統領は、ラテンアメリカに対する最も極端な提案の一部を撤回する可能性がある。もしトランプが1000万人以上の不法移民(その大部分はラテンアメリカ出身者)の大量国外追放(mass deportations)を実施するという公約を実行すれば、送金は減少し、帰国した労働者によって労働市場は不安定化する可能性がある。その結果生じる労働者不足はアメリカ経済に悪影響を及ぼし、インフレを上昇させる可能性があり、トランプ大統領が脅しを完全に実行する可能性は低い。

トランプ大統領の最初の任期中、ブラジリアからブエノスアイレスまでの指導者たちは、ワシントンに同調し、中国から離れさせようとするアメリカの圧力にほぼ耐えることができた。この地域全体では、大国間の多角的な連携は、今後数年間は可能であり、中国との関係縮小を求めるアメリカの圧力にはわずかなコストで抵抗できるというコンセンサスが存在し続けている。

トランプはしばしば取引重視的な外交政策観(transactional foreign-policy view)を持っていると評されるが、これはほとんどのラテンアメリカ政府にも当てはまる。ブラジルはその典型だ。ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領は、ウクライナ戦争に対するロシアへの明確な非難を控えるという決定を下したが、それは西側の偽善(hypocrisy)を非難する道徳的な言葉で表現されている。例えば、ブラジルはウクライナ戦争に反対することで、ロシアのディーゼル燃料や肥料を安く購入し、数百万ドルを節約することができた。モスクワとの関係を守ることは、ブラジルの戦略的余裕を維持し、アメリカを牽制ために極めて重要だと考えられている。

同じ理由で、ラテンアメリカ諸国は、ファーウェイ論争に象徴されるような、中国のような独裁国家に技術的に依存することのリスクについてのアメリカのレトリックをほとんど気にしていない。そうすることで測定可能な経済的利益が生まれるのであれば、各国政府は確かにファーウェイを5Gネットワークから排除することを検討するだろう。しかし、アメリカが具体的なインセンティヴや資金を提供しなければ、その可能性は低いと考えられる。

新たなモンロー主義を通じてラテンアメリカにおける中国の役割を縮小しようとするトランプの試みは、おそらく再び反撃を受けることになるだろう。外交問題に対するトランプの不安定なアプローチに、ラテンアメリカの指導者たちは不安定さを感じ、他の大国との結びつきを強めるためにアメリカとの関係をヘッジ(両賭け)しなければならないと考えている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』が発売になります。年末年始で宣伝が打てないのですが、自力で皆さんにご紹介しております。このブログで、内容の一部をご紹介しております。参考にしていただいて、お読みいただければ幸いです。

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「モンロー・ドクトリン、モンロー主義(Monroe Doctrine)」とは、1823年にアメリカ第五代大統領ジェイムズ・モンローが連邦議会での演説で発表した外交政策の原理だ。教科書的な書き方をすれば、「アメリカ合衆国がヨーロッパ諸国に対して、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸間の相互不干渉を提唱したこと」となるが、簡単に言えば、「ヨーロッパ諸国に対して南北アメリカ大陸に再び手を出すことは許さないと宣言したこと」である。このモンロー・ドクトリンの考え方を「アメリカの“孤立主義”」とする解釈もあるが、そうではない。

 モンロー・ドクトリンは、「南北アメリカ大陸を含む西半球のことはアメリカが決める、ヨーロッパ諸国に手出しをさせない。その代わり、他の地域のことにアメリカが何か介入することはしない」というものだ。アメリカが西半球の決定者になるということで、「地球の半分の王になる」という宣言であった。しかし、何かきれいごとのように、モンロー・ドクトリンは、「アメリカは海外のことに手を出さない」「アメリカは植民地を求めない」という解釈の根拠にされてきた。

 南米諸国にしてみれば、アメリカがヨーロッパ諸国に対して、南米に手を出すなよと言ってくれた、ということは守ってくれるんだということになって、モンロー・ドクトリンは、歓迎された。しかし、実際には、旧宗主国(colonial master、コロニアル・マスター)であるヨーロッパ諸国に代わって、アメリカが影響力を行使するということであることが分かり、南米諸国を失望させた。アメリカも結局、ヨーロッパ諸国と同じ穴の狢であった。

 アメリカは世界帝国の座から滑り落ちようとしている。アメリカは19世紀にそうであったように、「地球の半分(西半球)の王」へと縮小しようとしている。しかし、南米では中国の影響が増大している。それを何とか解決したい。これこそが「21世紀のモンロー・ドクトリン」である。南米に注力しようにも、人的資源、予算の面で、南米へ注げる力は限られている。そうしている間に中国が影響力を高めている。BRICS(ブリックス)に、南米地域の大国であるブラジルとアルゼンチンが加盟している。アメリカが南米大陸での影響力を回復することはかなり難しい。アメリカの凋落を止めることはかなり難しい。

(貼り付けはじめ)

モンロー・ドクトリンへの回帰(The Return of the Monroe Doctrine

-ラテンアメリカで存在感を増す中国へのアメリカの対応は家父長主義的な、古いパターンに陥る危険性がある。

トム・ヤング、カーステン=アンドレス・シュルツ筆

2023年12月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/12/16/monroe-doctrine-united-states-latin-america-foreign-policy-interventionism-china-gop/

モンロー主義が復活しつつある。今月建国200周年を迎えるにあたり、この古くから神聖化された外交政策原則、「ワシントンが西半球の外に存在する諸大国による、西半球への政治的・軍事的侵略に反対することを宣言する」が再びアメリカの政治議論の最前線にある。

ヴィベック・ラマスワミやロン・デサンティスといった共和党の大統領候補たちは、ラテンアメリカで存在感を増す中国を狙い撃ちするために、このドクトリンの再活性化を求めており、メキシコの犯罪組織に対するアメリカの軍事攻撃の可能性を正当化するものとして、このドクトリンを提示している。彼らは、国連総会でモンローを称賛したドナルド・トランプ前米大統領や、ジョン・ボルトンやレックス・ティラーソン前国務長官などのトランプのアドヴァイザーたちに従っている。

バイデン政権はこの原則を明示的に発動することを控えているが(モンロー大統領について言えば中南米諸国の人々を強く刺激することを認識しているのだろう)、西半球における中国の拡大する足跡に対するホワイトハウスの警告には、明らかにモンロー主義的な色合いが含まれている。

10年前でさえ、21世紀におけるモンローの重要性は薄れていると思われていたかもしれない。イェール大学教授でマチュピチュ探検家のハイラム・ビンガムは、モンロー・ドクトリンの100周年に「時代遅れの禁句(obsolete shibboleth)」というレッテルを貼った。ドクトリンの2世紀目には、アメリカ大陸におけるアメリカの冷戦介入(U.S. Cold War interventions)や単独行動主義(unilateralism)と密接に関連するようになっていた。ジョン・ケリー米国務長官(当時)が2013年に「モンロー・ドクトリンの時代は終わった」と宣言した時、この原則は時代錯誤になっていた。

しかし、最近の復活が示唆するように、モンロー・ドクトリンは長い間、聴衆によって異なる意味を持たれてきた。「モンロー・ドクトリン」という言葉は広く有害であると考えられているが、ワシントンの政治家たちはその遺産継承を断ち切ろうと苦闘してきた。そして、ラテンアメリカにおけるアメリカの言動は、いまだにモンローのレンズを通して認識されている。

死後、モンロー・ドクトリンとして知られることになるその教義(ドクトリン)は、1823年12月2日、当時のジェームズ・モンロー米大統領が連邦議会への年次メッセージの中で初めて発表したものだが、問題となる、一節の大部分は当時のジョン・クインシー・アダムズ国務長官によって書かれたものだった。モンローとアダムスの外交政策には2つの主要原則があった。1つは、ヨーロッパとアメリカ大陸の間に「分離領域()separate spheres”」と呼ばれるものを確立することで、もう1つは、ラテンアメリカと太平洋岸北西部におけるヨーロッパの再征服(reconquest)の試みと領土的野心に対するアメリカの反対であった。

当初、この考えはドクトリンではなかったし、設立されたばかりの共和政体のアメリカがそのドクトリンを武力で裏付けることもできなかった。モンローの言説は当初、かなり高圧的なものではあったものの、ヨーロッパ征服の脅威に対する団結の宣言として受け止められた。旧スペイン系アメリカ植民地の独立指導者たちは、自分たちの大義(cause)に対する暗黙の支持の表明としてモンローの演説に熱心に注目した。

しかし、1846年から1848年まで続いた征服戦争でアメリカがメキシコの北半分を併合すると、アメリカの政策は不吉な色合いを帯び始めた。

数十年にわたって、モンロー・ドクトリンはアメリカの競合する政治派閥の間でより顕著になり、モンローの本来の文脈とのつながりは弱まった。歴代のアメリカ政府は、イギリス、ドイツ帝国、第二次世界大戦の枢軸諸国、そしてその後のソ連など、世界中の他の敵を撃退するためにモンロー・ドクトリンを発動した。ラテンアメリカでは、この原則は各国に(要請の有無にかかわらず)アメリカの保護を提供する一方、どのような行為が脅威とみなされるかを定義するアメリカの権利と、それにどのように対応するかを決定する権利を留保した。この地域に対する固有の家父長主義(パターナリズム)はすぐに、完全な一極主義と介入主義によって補完された。

それにもかかわらず、1860年代後半には、ラテンアメリカのリベラル派やアメリカの奴隷廃止論者(U.S. abolitionists)の一部が、モンロー・ドクトリンを、王朝の利益や大国の共謀ではなく、法の支配(rule of law)と連帯(solidarity)に基づく地域秩序(regional order)を創造する好機と捉えた。

19世紀半ばのリベラル派は、モンローを膨張主義(expansionism)のライセンスと見なす代わりに、旧世界の戦争や共謀から脱却した西半球共通の運命を構想した。このドクトリンは、メキシコのベニート・フアレス大統領やセバスティアン・レルド・デ・テハダ大統領といったラテンアメリカのリベラル派指導者たちの呼びかけを含め、アメリカ大陸におけるフランスやスペインの侵略に対してアメリカが行動することを求めるものとして再び登場した。

リベラル派の指導者たちは、アメリカの規模と力が西半球におけるその地位を際立たせることを認識していたが、国家間の相違は共和党の団結、多国間外交、国際法によって埋められるべきだと主張した。平和は小国を犠牲にして秘密協定を結ぶのではなく、仲裁と協議によって実現されるだろう。

ラテンアメリカ諸国はこの文脈でモンロー・ドクトリンを援用し、今や悪名高い1884年から1885年のベルリン会議へのアメリカの参加を批判した。そこではヨーロッパ列強が西洋文明を広めるべきだという義務(duty)の意識のもとにアフリカの領土を分配した。ラテンアメリカ諸国は、この認可された帝国の拡大が自分たちにも及ぶのではないかと恐れた。

数年後、ヴェネズエラはモンローの遺産を再び訴え、ヴェネズエラとガイアナの国境をめぐるイギリスとの紛争でアメリカの支援を求めた。100年前に行われた仲裁手続きに対するヴェネズエラの不満が、最近の戦争の脅威の舞台となった。アメリカでは、このドクトリンは、国内問題優先主義者たちがヨーロッパの同盟政治にアメリカが関与していることへの批判を進めるためにも役立った。

しかし今世紀に入り、セオドア・ルーズヴェルト大統領は、モンロー・ドクトリンとアメリカの単独介入との結びつきを深めた。最も悪名高いのは、ルーズヴェルト大統領がこの原則の「推論(corollary)」として、新たに強大になったアメリカが近隣諸国を統制する権利と義務を主張したことである。ウッドロー・ウィルソン大統領もまた、多くの外交問題でセオドア・ルーズヴェルトと敵対していたが、モンロー・ドクトリンに対するこの見解をほぼ共有していた。ウィルソンは国際連盟憲章にモンロー・ドクトリンを明記し、アメリカの一方的な特権を明記するよう主張した。

この時点で、ラテンアメリカの好意的な人々でさえもモンロー・ドクトリンに嫌悪感を抱いており、モンローはこの地域の民族主義者や反帝国主義者にとってのスローガンとなった。セオドア・ルーズヴェルトのドクトリン解釈は、連帯と自制を強調するドクトリンの解釈を大きく転換させた。この時代には、アメリカにはラテンアメリカ人を指導し、教育する権利と義務があるという人種的、文明的な驕りが蔓延していた。

しかし、学者フアン・パブロ・スカルフィが示したように、セオドア・ルーズヴェルトの考えが覆され、モンロー・ドクトリンを多国間主義と両立するものとして解釈し直そうという希望が消えた訳ではない。ラテンアメリカ社会の一部では、アメリカは依然として近代性のモデルとして支持されていた。

フランクリン・ルーズヴェルト大統領の、いわゆる善隣政策(Good Neighbor Policy)、西半球不干渉宣言に対するラテンアメリカの主張にアメリカが同意した、この暖かい雰囲気の時代に、モンロー・ドクトリンはこの地域である程度の救済を経験した。1930年代後半までにヨーロッパは戦争状態に入り、独立した平和な領域という考えはアメリカ大陸全体に大きな魅力をもたらした。

そのような期待に反して、アメリカは第二次世界大戦に引き込まれ、当時のヘンリー・スティムソン陸軍長官は1945年5月の日記で、国際連合(United Nations)設立の提案とフランクリン・ルーズヴェルトの不介入の約束が相まって、モンロー・ドクトリンは希薄になったと内々に不満を漏らし、スティムソンは大いに落胆した。

モンロー・ドクトリンに関する明確な言及は減少したが、冷戦の期間中、アメリカの対ラテンアメリカ外交政策は、より介入主義的な熱意を帯びるようになった。ソ連の影響力を排除するという正当な理由によって、アメリカ政府はラテンアメリカ各地で改革主義的な民主化計画を覆し、アメリカに友好的な独裁政権を樹立する手助けをした。1970年、故ヘンリー・キッシンジャー米国務長官はチリについて、「ラテンアメリカの有権者が自分たちの判断に委ねるには、問題はあまりにも重要だ」と述べた。

アメリカがラテンアメリカに露骨に介入することはまれとなった30年後の現在、モンロー・ドクトリンに関する議論が復活しつつあるようだ。

今度は中国との大国間競争が再燃することを予期し、アメリカは西半球以外の地域からの挑戦者、そして西半球内からの挑戦者に対する首尾一貫したアプローチを模索している。モンロー・ドクトリンは、一見シンプルで持続性があるため、アメリカ国内で支持者を増やしている。しかし、最近の共和党内におけるモンロー・ドクトリン礼賛は、ラテンアメリカにおけるモンロー・ドクトリンとその意味を表面的にしか理解していないことを示唆している。

このような使い方はアメリカ国内向けかもしれないが、ラテンアメリカの耳に届くと、常識はずれ(out of touch)、あるいはそれ以上に思われる。モンロー・ドクトリンを褒め称えたところで、ラテンアメリカの人々が、自分たちの利益は西半球地域以外のライヴァルではなく、アメリカとの協力にあるのだと納得することはない。モンロー・ドクトリンを呼び起こすことは、モンロー・ドクトリンが回避しようとする結果そのものを早めることになる。

ラテンアメリカで「モンロー・ドクトリン」という言葉を受け入れる人はほとんどいないだろうが、ブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領、エクアドルのギジェルモ・ラッソ前大統領、アルゼンチンのハビエル・ミレイ新大統領など、この地域の右派の指導者の多くは独自の反中国的気質を持っている。これらの指導者たちは、中国の経済的・政治的比重の高まりを相殺するためにアメリカを頼っている。近年、この地域のいくつかの国々は、台湾から中国に外交関係を切り替え、北京との貿易・投資取引を拡大している。

ジョー・バイデン米大統領が、国連で公然とモンロー・ドクトリンを称賛するトランプ大統領に追随することはないだろう。しかし、バイデン政権のイニシアティヴの多くは、ラテンアメリカでも同じように受け止められている。複数のアメリカ政府高官は、移民や麻薬取引に関連する問題以外にラテンアメリカのために時間を割くことはほとんどなく、アメリカがこの地域に提供する経済支援は、他の地域への関与に比べるとわずかなものと見られている。バイデン政権の高官たちがラテンアメリカの人々に中国との経済的な関わり合いの危険性を説く時、その警告は「アメリカが一番よく知っている(the United States knows best)」というモンローの常套句の現代版として聞かれる。

モンロー・ドクトリンは、最近の復活によって、さらに多くの意味を持つようになった。しかし、モンロー主義(Monroeism)は名目であれ、暗黙の政策パラダイムであれ、失敗する運命にある。用語としての「モンロー・ドクトリン」は、贖罪するにはあまりにも汚染されている。今日の南北アメリカ関係においてこの言葉を持ち出すことは逆効果である。モンロー・ドクトリンは、一極主義、家父長主義(パターナリズム)、介入主義(interventionism)との2世紀にわたるつながりを拭い去ることはできない。

モンロー・ドクトリンを別の名前で呼んでも、その胡散臭さは隠せない。モンロー・ドクトリンの核心原理(core principles)は、現在の国際関係や南北アメリカ関係と衝突している。モンロー・ドクトリンは分離領域の考え方を前提としており、より多国間的なモンロー・ドクトリンの解釈は、独特の「西半球の考え方(Western Hemisphere idea)」の基礎としてこの側面を強調する傾向があった。

しかし、冷戦下の世界規模の対立と普遍的な核の脅威は、分離領域の実現可能性に疑問を投げかけた。グローバルな気候変動とヴァリューチェーンの時代となった今、この主張はさらにありえないものに見える。アメリカはヨーロッパ、アジア、そして世界情勢と切っても切れない関係にあるだけでなく、ラテンアメリカも同様である。

多国間のドクトリンの概念でさえ、家父長的な前提に陥っていた。より多国間的で平等主義的な地域秩序を求める声は、誰が西半球の脅威となるかを決めるのはアメリカであるというモンロー・ドクトリンの基本的な前提とは相容れない。

同様に、当初のモンロー・ドクトリンにあったヨーロッパ諸国による再征服の禁止は、時代とともに他の活動、たとえば数十年前のソ連との外交・通商関係や今日の中国の「債務の罠(debt traps)」にも適用されるようになった。モンローから出発するということは、アメリカがどのような外交関係が不穏当であるかを定義することを前提としている。

そしてここに問題がある。政策立案者たちがモンロー・ドクトリンの意味をどう考えようと、モンロー・ドクトリンの核心は、ラテンアメリカ諸国が世界の中で独自の道を切り開くことができるということを疑っているのだ。アメリカの外交政策がそのような考えを払拭しない限り、モンローの呪縛から抜け出せないだろう。

※トム・ロング:ワーウィック大学国際関係論講師、メキシコシティにある経済学研究教育センターの非常勤教授を務めている。ツイッターアカウント:@tomlongphd

※カーステン=アンドレス・シュルツ:ケンブリッジ大学国際関係学助教授を務めている。ツイッターアカウント:@schulz_c_a
(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ