古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:スティーヴン・M・ウォルト

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 以下のスティーヴン・M・ウォルトの論稿は、ヨーロッパ諸国に向けた内容であるが、日本にとっても参考になる内容である。特に、現在、トランプ関税で厳しい交渉を続けている赤澤亮正経済再生担当大臣に読んでもらいたい内容だ。

 第二次ドナルド・トランプ政権との交渉を行う際には、アメリカの利益と自国の利益に配慮しつつ、引きすぎてはいけない。あまりにも過剰な要求をしてくるのであれば、交渉材料を持って、アメリカに抵抗する。引きすぎた時点で、トランプ政権は与しやすい相手と見て、さらに過大な要求をしてくる。逆に、強く出つつ、妥協をすれば、骨のある相手ということで、一定の配慮をする。付け入られないようにすることが重要だ。赤澤大臣は短期間に何度も日米間を往復し、ワシントンでの交渉に臨んでいる。妥協は成立していないようだが、それだけタフな交渉をしているのだろうと考えられる。

 ヨーロッパ諸国が中心となっているNATOでは、トランプ政権の要求を受け入れて、国防負の対GDP比5%実現を発表した。これは何とも解せない話だ。ヨーロッパの仮想敵(既に仮想ではないだろうが)はロシアだ。ロシアを恐れるあまりにこのようなことになったと考えられるが、そもそも、GDPで見ても、国防費で見ても、ヨーロッパはロシアを大幅に上回っている。フランスもイギリスも核兵器を保有している。ロシアを過剰に恐れる必要はない。ロシアとの関係を少しでも改善すればそれで済む話だ。ヨーロッパ諸国は国防費の対GDP比5%などやってしまったら、社会が大きく混乱し、不安定となる。それこそ、ローマ帝国は過剰な軍事費負担のために衰亡したではないか。その轍を踏むことになる。
 私はここまで書いて、ヨーロッパが恐れているのはロシアではないのではないかと考えついた。ヨーロッパが恐れているのは、「西側以外の国々(the Rest)」の「復讐」ではないかと考えた。日本人から見れば、今更そんなことは起きるはずはないと考えるが、ヨーロッパが500年近くにわたり行った残虐な植民地支配の記憶が、宗主国であったヨーロッパ諸国を苦しめているのではないかと思う。「自分たち(ヨーロッパ)が衰退して、立場が逆転した場合に、彼らはきっと復讐するだろう、なぜなら、自分たちが同じ立場だったらそうするからだ」という思考になっているのだろう。世界構造の大変化、大転換に際し、ヨーロッパはそのような不安感と恐怖に取りつかれているのではないか。
 筆がだいぶ横に滑って脱線してしまった。話を戻す。私は下記論稿を読んで、論稿の要諦は「最善を望み、最悪に備える(Hope for the best; plan for the worst)」であると主張する。そして、これは、外交をはじめとする政治の要諦でもあると思う。是非記憶しておきたい言葉だ。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはトランプ大統領にどう対処すべきか(How Europe Should Deal With Trump

大国間政治(great-power politics)を真剣に考えるべき時が来た。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年5月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/05/07/europe-trump-us-defense-nato-china-technology/

ヨーロッパは岐路に立たされている。環大西洋安全保障協力(trans-Atlantic security cooperation)の全盛期は過去のものとなり、ドナルド・トランプ政権はヨーロッパの大半を侮蔑、軽蔑、あるいは敵対視(contempt, disdain, or outright hostility)している。少なくとも、ヨーロッパの指導者たちはもはやアメリカの支援と保護を当然視することはできない。最善を望むことはできるが、最悪の事態に備えなければならない(They can hope for the best, but they must plan for the worst)。そしてそれは、世界政治において独自の道を歩むことを意味する。

公平を期すなら、この状況はドナルド・トランプ大統領の責任ばかりではない。仮にトランプ大統領が当選していなかったとしても、大西洋間の関係の根本的な見直しはとっくに終わっていた。地球儀を見れば、その理由を理解できる。アメリカはヨーロッパの大国ではないし、そこに永続的にアメリカ軍がコミットするのは歴史的にも地政学的にも異常なことだ。この種のコストのかかる関与は、明確な戦略的必要性(clear strategic necessity)によってのみ正当化される。アメリカが第一次世界大戦と第二次世界大戦に参戦したのも、冷戦時代にヨーロッパにかなりの兵力を駐留させたのも、この戦略的目的(strategic objective)が主な理由である。

これらの政策は以前であれば理に適っていた。しかし、冷戦が30年以上前に終結し、アメリカの一極時代(the unipolar moment)も数年前に終わった。中国は今やアメリカの主要な大国のライヴァルであり、潜在的な地域覇権国(a potential regional hegemon)である。アメリカはアジアにおける中国の覇権を阻止するために、限りある資源とエネルギーを集中させる必要がある。良いニュースは、現在、ヨーロッパを支配できるほど強力な国はないということだ。ロシアであってもヨーロッパを支配することは不可能だ。これが意味するところは、アメリカはもはやヨーロッパ防衛の負担を負う必要はなくなったということだ。ヨーロッパの人口はロシアの3倍以上、GDPはロシアの9倍であり、NATOのヨーロッパ加盟諸国は防衛費でもロシアを上回っている。もしヨーロッパの潜在的な力が適切に動員されれば、アンクルサム(訳者註:アメリカ)からの直接的な援助がなくても、ヨーロッパはロシアからの直接的な挑戦を抑止し、打ち負かすことができるだろう。

理想的には、アメリカはヨーロッパと協力して新たな分担を交渉し、この移行を可能な限り円滑かつ効率的に進めるべきだ。6月に開催されるNATO首脳会議は、特にアメリカが建設的な役割を果たすことを選択した場合、このプロセスを加速させる絶好の機会となるだろう。

残念ながら、トランプ政権はヨーロッパを貴重な経済パートナーや有用な戦略的同盟諸国とは考えていない。誇張しすぎているかもしれないが、トランプ政権はヨーロッパを、トランプとMAGA運動が拒絶するリベラルな価値観に傾倒する、堕落し、分裂し、衰退する国家の集合体(a set of decadent, divided, and declining states committed to liberal values that Trump and the MAGA movement reject)と見なしている。トランプは、主流派のヨーロッパの政治家たちよりも、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領やハンガリーのヴィクトル・オルバン首相のような独裁者との方が安心感があり、政権はドイツのAfDやフランスのマリーヌ・ル・ペン率いる国民連合のような極右グループに共感的だ。トランプはブレグジットを支持し、ヨーロッパ連合(EU)は「アメリカを困らせる」ために設立されたと考えており、ヨーロッパ全体を代表するEU当局者と交渉するよりも、個々のヨーロッパ諸国と個別に交渉することを望んでいる。彼は、グリーンランド併合やカナダをアメリカ合衆国の一部とするという自身の夢を阻害する可能性のある規範や規則を拒否している。そして、トランプが始めた関税戦争にヨーロッパを巻き込むことで、トランプが望んでいるとされる国防費目標をヨーロッパが達成することを困難にしている。

ヨーロッパの観点からすれば、これらは全て十分に憂慮すべき事態だが、ヨーロッパの指導者たちはトランプ政権の根深い無能さも受け入れる必要がある。混沌とした貿易戦争はこの問題の最も明白な具体例であるが、政権による不適格な人事、恥ずべきシグナルゲート事件、科学界や大学への継続的な攻撃、ロシアやイランとの素人同然の交渉、そして国防長官室から生じる度重なる混乱も忘れてはいけない。もしヨーロッパの指導者たちが、アメリカは自分たちのやり方を理解していると思い込み、アメリカの先導に従うことに慣れきっているのであれば、今こそ考え直す時だ。

それでは、彼らはどうすべきだろうか?

もちろん、ヨーロッパの人々が私の助言を無視するのは自由だが、もし私が彼らの立場だったら、第一に、

現在の問題の責任をワシントンに明確に負わせることから始めるだろう。彼らはアメリカと争うつもりはなく、協力的な精神で新たな安全保障・経済協定について交渉することには喜んで応じるということを強調すべきだ。しかし、ワシントンが戦いを挑むことに固執するのであれば、ヨーロッパの利益を守るためならどんな犠牲を払っても構わないという覚悟があることを明確にすべきだ。

第二に、もしヨーロッパ諸国が非友好的な米政権と対峙しなければならないのであれば、声を合わせて、アメリカによる分断工作に抵抗する方がはるかに賢明である。ヨーロッパは、最近のドラギ総裁報告書で提言された経済改革の大半を実施し、反対派加盟諸国が必要な行動を阻止できる拒否権を廃止すべきである。もしこれがハンガリーのような反対派の国をEU離脱に導いたとしても、残りの加盟諸国はより有利な状況になる可能性は高い。

第三に、大国間政治(great-power politics)が復活し、ヨーロッパはより多くのハードパワーを必要としている。これは国防予算の増額という問題ではなく(一部のヨーロッパ諸国は増額を必要としているものの)、ユーロを効果的に使い、アメリカの支援に大きく依存しない持続可能な戦場能力を構築するという問題である。ジェームズ・マティス元国防長官が掲げた「フォー・サーティーズ(Four Thirties)」(30個大隊、30個航空隊、30隻の艦艇を30日以内に配備可能)という目標は良い出発点だが、アメリカの支援に大きく依存しない信頼性の高いヨーロッパ軍を構築するには、それ以上のものが求められる。バリー・ポーゼンが最近『フォーリン・アフェアーズ』誌で警告したように、ヨーロッパは戦後ウクライナにおける費用のかかる平和維持活動に巻き込まれることを避け、必要とされる場所であればどこでも介入できる強力な諸兵科連合能力(developing a robust combined arms capability that can intervene wherever it is needed.)の構築に注力すべきだ。

第四に、アメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」がますます信頼できなくなりつつあることから、ヨーロッパは地域の安全保障における核兵器の役割について、真剣かつ持続的な議論を行う時期に来ている。もちろん、この問いにどう答えるかはヨーロッパの人々次第だが、これ以上無視することはできない。私の考えでは、信頼できるヨーロッパの抑止力には、アメリカやロシアの核兵器保有量に匹敵するようなものは必要ない。ヨーロッパの政府高官や戦略専門家がこうした問題について議論し始めていることは朗報である。

第五に、ヨーロッパ諸国は、アメリカが敵対的あるいは信頼できない態度を取り続けるのであれば、自分たちには選択肢があり、中国を含む他国と協力することをワシントンに思い知らせる必要がある。EUは中国との貿易について独自の懸念を持っているが、トランプ大統領がアメリカ国内の関税引き上げを主張するのであれば、北京との経済関係を維持し、場合によっては拡大することが必要かもしれない。このような理由から、EU首脳が7月に北京を訪問することは、ワシントンに自分たちを当然視しないよう念を押すためであるとしても、理にかなっている。

ヨーロッパ諸国はこれまで、たとえ多大なコストがかかったとしても、先端技術分野の重要分野においてアメリカの先導に進んで従ってきた。例えば、オランダはジョー・バイデン政権の要請に応じ、オランダ企業ASMLによる中国への先端リソグラフィー装置の販売を禁止した。また、EU諸国の中には、代替技術よりも安価で優れているにもかかわらず、ファウェイの5G技術を禁止する国もいくつかある。しかし、トランプ政権が他の問題でもヨーロッパに対して強硬な姿勢を崩さないのであれば、ヨーロッパは今後、この種の要求にはるかに慎重に対処べきだ。

最後に、長期的には、ヨーロッパ諸国はロシアとの関係を緩和する方法を模索すべきだ。特にプーティン大統領が依然としてロシアを支配している場合、これは容易なことではないが、現在の深刻な相互疑念、対立、そして混乱の状態は、ヨーロッパにとって利益にはならない。ヨーロッパ諸国のハードパワーが高まり、安全保障が向上するにつれて、各国は双方の正当な安全保障上の懸念に対処するための信頼醸成措置を受け入れる姿勢を維持すべきだ。ヘルシンキ・プロセスやヨーロッパ安全保障協力機構などの過去の取り組みは、ライヴァル国間でも緊張緩和(デタント、détente)が可能であることを私たちに思い出させてくれるものであり、将来のヨーロッパの指導者たちはこの可能性に心を開いておくべきだ。

これは野心的なアジェンダであり、大きな政治的障害に直面するだろう。ヨーロッパの戦略的自立性を高めるための過去の取り組みは常に失敗に終わったが、今日のヨーロッパはこれまでとは全く異なる状況に直面している。アメリカの大学や法律事務所が学んだように、トランプ政権を宥めようとすれば、要求がさらに強まるだけだ。一方、政権に抵抗すれば、他国も追随し、時にはホワイトハウスが自らの立場を再考することになる。今こそそうであることを願うしかない。いずれにせよ、ヨーロッパが自立を維持し、脆弱性を最小限に抑えたいのであれば、アメリカがもはや信頼できるパートナーではなくなった世界に備える以外に選択肢はない。最善を望み、最悪に備えるのだ(Hope for the best; plan for the worst)。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt
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(終わり)

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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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第2次ドナルド・トランプ政権が発足して、まだ半年も経っていないが、既に数多くのことが起きており、また、トランプが起こしており、それに右往左往する毎日と言っても過言ではないだろう。こうした状況に少々疲れているというのが本音だ。「トランプ疲れ(Trump Fatigue)」と言ってもよいだろう。

 第2次トランプ政権が発足する前、高関税やウクライナ戦争停戦へ向けた仲介ということは実行するだろうと考えていた。イスラエルとハマス、イランとの戦闘、ガザ地区の状況については、ジョー・バイデン前政権よりも、よりイスラエル側に立った姿勢となるだろうとは考えていたが、ジェットコースターのように、アメリカが攻撃してみたり、停戦の仲介をしてみたりというようなことが起きるとは思っていなかった。

 下記論稿にあるように、国際関係論やあメリカ政治の専門家であっても、第2次トランプ政権の動きを予測することは難しかった。そして、これからどのようになるかということを正確に予測することは難しい。

 私がこれまでのトランプの動きを見ていて、「過激な発言や過激な行動をした後は必ず引く」「最低限の線は越えない」ということがあると考えている。今回のイランの核開発関連施設に対するアメリカ空軍機での攻撃でも世界に衝撃が走ったが、非常に「管理された」攻撃であると考える。アメリカの攻撃はイスラエルとは違い、イランの都市を狙ったものではなかった。また、一部報道では、イラン側は重要な資源や機材は移動させていたということだ。これは、アメリカがイランに対して、事前に攻撃を通知していたことを示唆している。また、イラン側がカタールにある米軍基地を攻撃する際にも、予め通知していたために、死傷者は出なかった。このように、アメリカとイランは大国らしく今回の状況に対応している。

 中東情勢にとって一番の脅威となっているのはイスラエルだ。イスラエルが中東地域を、そして、世界中に戦争の脅威を与えている。イスラエルがイランに対しての攻撃を行わなければ、今回の状況は生まれていない。現在のイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、戦争状態が落ち着いて、退陣するとなれば、家族ぐるみで、汚職などのスキャンダルで逮捕され、これから刑務所暮らしをしなければならない。私から見れば、ネタニヤフは戦争に戦争を重ねて、個人の身の安全を確保している。そして、政権内の極右派を利用している。より正確には、お互いが利用し合っている。イスラエルがアメリカの意向を無視して、不羈奔放に行動することは、世界を危機に陥れる許し難い行為だ。私は、イスラエルとネタニヤフ政権を区別すべきと考えている。このような危険な勢力は一掃されるべきだ。同じことは、ウクライナにも言える。

第2次トランプ政権が成立していろいろなことが起きて、私たちはうんざりしながら、不安を感じている。しかし、トランプは、ギリギリのところで行き過ぎないというバランス感覚があると私は考えている。しかし、ウクライナやイスラエルのような、不確定要素があると、不測の事態が起きる可能性がある。両国については、事態をエスカレートさせないために、政権の交代が肝要と考える。
(貼り付けはじめ)
ドナルド・トランプ大統領の二期目について私が間違っていたこと(What I Got Wrong About Trump’s Second Term

-私はこれを完全に予想していなかった。その理由は次の通りだ。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年3月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/03/10/walt-got-wrong-trump-second-term/

学者や政治評論家たちは、時折自らの予測を振り返り、何が間違っていたのかを考察すべきだ。トム・フリードマン、ジョー・スカーボロー、レイチェル・マドウ、ジャナン・ガネーシュ、ファリード・ザカリア、グレン・グリーンウォルド、アン・アップルバウムといった著名な評論家たちが、前年の予測を誤解したり、見誤っていたりした点を毎年振り返ることができたら、素晴らしいと思わないだろうか? 誰もが絶対的な存在ではない。フィリップ・テトロックの言うように、知識豊富な専門家たちでさえ未来を予測するのは難しいものだ。自らの過ちを振り返ることは常に有益であり、公に行うことで、誰もがその過ちから学ぶことができる。私は過去にも何度かこうした自己批判を行ってきた。そして今、また1つ、自己批判をすべき時が来た。続きを読んで欲しい。

2024年1月、私は「トランプが再び大統領になっても、アメリカの外交政策は大きく変わらないだろう」という記事を『フォーリン・ポリシー』に書いた。2025年3月時点では、それはかなり愚かな予測に聞こえる。問題の一部はクリックベイトの見出し(私が書いたものではない)にあり、実際、当時私が書いたことの一部は正しかったことが証明された。ドナルド・トランプ米大統領はNATOに対して強硬な姿勢を取り(場合によってはNATOから撤退する可能性もある)、ウクライナの和平合意を推進するだろうと私は述べた。しかし同時に、第2次バイデン・ハリス政権も、より慎重かつ責任ある形ではあったものの、和平合意を模索していただろうとも考えていた。カマラ・ハリス前副大統領が当選していたら、まさにそうしていただろうと私は今でも信じている。

トランプの中東政策はバイデンの政策とよく似ているだろうと思っていたが、今のところ、その通りになっている。ジョー・バイデン前大統領と同様に、トランプはイスラエルのやりたい放題を容認している。唯一の違いは、トランプは公平な姿勢を装うことさえせず、民族浄化を単に見て見ぬふりをするのではなく、公然と容認している点だ。また、トランプは中国に対して強硬な姿勢を取っている。これはバイデンが4年間の在任期間中に行ったこと、そしてハリスもほぼ確実にそうしたであろうことだ。トランプは最終的に北京と何らかのグランド・バーゲン(大いなる取引)を試み、台湾を売り渡すことになるかもしれないが、まだその兆候はない。見出しの裏側を読み、記事そのものを読んでみると、それほど馬鹿げた話には思えない。

そうは言いながら、私がいくつか重要な点を間違えたことは間違いない。

私は、主要な民主政体同盟諸国に対するトランプの敵意を過小評価していた。NATO加盟諸国がアメリカの保護に過度に依存していると考えているのは明らかだった(これは近年の米大統領全員が共有している見解だ)。しかし今や、トランプがこれらの国々が体現する民主政治体制の原則に積極的かつ深く敵対し、それらの国々の内部で非自由主義的な勢力を公然と奨励していることは明らかだ。数週間前に書いたように、政権によるヨーロッパ極右の融和は、ヨーロッパ全土で一種の体制転覆(a form of regime change)を推進し、事実上MAGA化を図り、ヨーロッパ連合を有意義な政治機関として破壊しようとする試みだ。トランプがハンガリーのヴィクトル・オルバン首相のような非自由主義的な指導者と親和性があることは知っていたし、スティーヴ・バノンのような人々が極右運動の国境を越えた連合を築こうとしていることも知っていたが、私はそれらの勢力を十分に真剣に受け止めていなかった。

第二に、トランプが和平合意を推進し、最終的にはウクライナへのアメリカの支援を削減するだろうと考える理由は十分にあったものの、彼がロシアのウラジーミル・プーティン大統領の立場をこれほど熱心に受け入れ、ウクライナが戦争を始めたと非難し、あるいはウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領を公然と攻撃するとは予想していなかった。実際、トランプの行動には何らかの戦略的な根拠があるのか​​もしれない。つまり、戦争を止め、最終的にロシアと中国の間に亀裂を生じさせる唯一の方法は、プーティンの望むものを全て与えることだと、彼は心から信じているのかもしれない。しかし、だからと言って、このアプローチが意図した通りに機能するとは限らない。また、この行動がアメリカの地位とイメージに及ぼす長期的な影響も無視している。ハリス政権であれば、ウクライナに対し、より現実的な目標を掲げ、停戦を求めるよう圧力をかけただろうと私は依然として考えている。しかし、ハリスはウクライナ政府とNATOと協力して、可能な限り最良の合意を導き出し、ウクライナを安易に見捨てることはなかっただろう。

第三に、トランプが極めて型破りな経済政策に賭ける意向を私は過小評価していた。関税の脅威を交渉材料として使うことは予想していたが、貿易戦争を始めればアメリカ経済に打撃を与え、自身の政治プログラム全体を危険に晒すことをトランプ(あるいは彼の顧問たち)は理解していると思っていた。昨年11月の選挙後、トランプの経済ティームの大半が(トランプは理解していないが)、基本的なマクロ経済学を理解している良識ある人々のように見えたので、私は一時的に安心していた。そして、ピーター・ナヴァロのような変人は影響力が薄いだろうと思っていた。しかし今となっては、その考えが間違っていたと思う。より深く理解しているべき当局者たちがトランプのナンセンスを繰り返すばかりで、ナヴァロの主張は大統領の耳に届いているようだ。もしトランプに投票したのであれば、物価上昇、財政赤字の拡大、投資ポートフォリオの縮小、そしてセーフティネットの崩壊を歓迎してくれることを願っている。

最後に、トランプのルールや規範に対する軽蔑は、大統領選挙に出馬するずっと前から既に確立されていたものの、第二次世界大戦後の秩序において最も確立された原則のいくつかを彼が軽視する姿勢には驚かされる。グリーンランドの武力奪取、パナマ運河地帯の再占領、カナダ併合、ガザ地区のパレスティナ人の民族浄化といった脅しは、いずれも数十年にわたり広く受け入れられてきた原則の重大な侵害である。これらの原則は、アメリカが概ね尊重し、頻繁に擁護し、多大な恩恵を受けてきたものでもある。更に言えば、トランプがこれらのルールを破っているのは、アメリカが深刻な国家非常事態に直面しているからではない(そうなれば、他国がワシントンに一時的な猶予を与えやすくなる)。彼は、独裁政治(autocracy)が台頭し、指導者たちがやりたい放題の世界の方がアメリカにとってより良い場所になると考えているため、秩序全体を破壊しようとしている。アメリカを国際秩序の守護者から悪意あるならず者国家に変えるなんて、私の予想外のことだったと率直に認める。

もし過去に戻って以前のコラムを書き直せるなら、別の(そしてもっと力強い)警告を発するだろう。弁明しておくと、トランプがアメリカ国内政治に及ぼす影響は有害だと確かに述べていたし、選挙直前に掲載したコラムでは、トランプをアメリカの憲法秩序と民主政治体制そのものに対する深刻な脅威と評した。しかし、当時でさえ、トランプの国内政策がどれほど過激で自滅的なものになるか、そして連邦議会や多くの企業幹部がどれほど喜んでそれに屈服するかを過小評価していた。また、究極の「選挙で選ばれていない政府高官(unelected government official)」であるイーロン・マスクが、トランプ2.0において、他に類を見ないほど破壊的な役割を果たすとは予想していなかった。

しかし、トランプの再選が大きな問題となることは明らかだった。ああ、もし私がこのことについて間違っていたらどんなに良かったことか。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 私は拙著『トランプの電撃作戦』(秀和システム)の帯で、「アメリカと日本は友達(TOMODACHI)ではない」と書いた。これは、2011年の東日本大震災発生後に、在日アメリカ軍を中心となって、「トモダチ作戦(Operation TOMODACHI)」なる支援活動を行ったことから由来している。世界各国からの支援について私たちは感謝すべきであるが、アメリカが「トモダチ」という言葉を使ったのが私には何とも違和感があったので、このことをずっと覚えていた。「同盟」と「友達(トモダチ)」は全く異なる。そもそも、国際関係において、国に「友達」は存在しない。自国の利益のために協力するパートナーは存在するが、個人間の友達関係のようなある種のウエットさを持つ関係は存在しない。

 アメリカが日本と日米安全保障条約を結び、アメリカ軍を10万人単位で日本に駐留させているのは(駐留経費は日本負担)、アメリカの国益に資するからだ。「日本が友達だから、損得抜きで守ってあげよう」ということはない。しかも、駐留経費は日本持ちだ。世界規模で見れば、「アメリカが世界の警察(world police)で、世界の平和と秩序を守るために日本にアメリカ軍を駐留させる」という理屈になる。そして、現在では、「拡大を続ける中国を抑えるために、アメリカを中心とするアジア地域の同盟諸国を団結するためにアメリカ軍は存在する」という理屈で、アメリカ軍が日本にいる存在理由になっている。そして、「トランプは内向きで、アメリカを世界から撤退させる、つまり、アメリカ軍を世界から撤退させる方針である。そうなれば、アジアは中国のものになる。それは危険だ」ということが声高に主張されている。果たしてそうだろうか。

 アジアという地域を定義するのは意外と難しい。どこからどこまでがアジアかと言われると、東は日本から東南アジア、ユーラシア大陸のヨーロッパ地域以外というのが一般的な捉え方となるだろう。そして、中国が拡大して云々というのは、主に東南アジア地域と東アジア地域ということになるだろう。ここに、アメリカが存在しているから、中国の拡大を押さえ、アジアの平和を守れるという理屈だ。果たしてそうだろうか。第二次世界大戦後、アジア地域で起きた戦争(朝鮮戦争やヴェトナム戦争)や国内紛争(インドネシアでの架橋虐殺やクーデターなど)を見てみれば、アメリカが当事者(直接的にも間接的にも)となってきた。アメリカがいたからアジア地域の平和が乱されたと言うこともできる。

アジアでは、ASEANという枠組み、更にASEANプラス3(日中韓)という枠組み、中国の一帯一路計画、BRICSという多国間の枠組みが重層的に積み上がっている。この多国間枠組みで、地域の平和と安全を担保しようとしている。「中国を押さえる」というアメリカの意図を、同盟諸国という名の下請け国家にやらせようというのが、アメリカが現在やっていることだ。それに面従腹背で、だらだらとお付き合いをしているのが日本以外の国々だ。

 アメリカの国力の衰退は大きな流れである。いつまでも世界の警察をやってはいられない。撤退の時期が刻々と近づいている。それを何とかしようと色々と画策するのは、「引かれ者の小唄」である。私たちは「アメリカの世紀(American Century)」の黄昏を目撃している。

(貼り付けはじめ)

アジアは危険なまでに不均衡に陥っている(Asia Is Getting Dangerously Unbalanced

-ドナルド・トランプ政権は依然として注目を集めているが、真の物語は別のところにあるのかもしれない。
スティーヴン・M・ウォルト

2025年4月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/01/asia-trump-china-xi-hegseth-japan-south-korea-balance/

現在、アメリカの外交政策を揺るがす混乱の中で、国際政治のより根本的な側面を見失いがちだ。シグナルゲート事件(Signalgate)、ロシア・ウクライナ交渉(the Russia-Ukraine negotiations)、トランプ政権のますます明らかにするヨーロッパへの敵意(the Trump administration’s increasingly obvious animus toward Europe)、迫り来る貿易戦争(a looming trade war)、悪化する米加関係による自業自得の傷(the self-inflicted wound of a deteriorating U.S.-Canada relationship)、そしてアメリカ国内の民主政治体制への組織的な攻撃など、私たちは皆、気を取られている。こうした混乱についていくのに苦労しているのなら、それはあなただけではない。

少しの間、ニューズの見出しから少し離れて、長期的な影響を持つ大きな問題、つまりアジアにおけるアメリカの同盟諸国の将来について考えてみよう。ピート・ヘグゼス米国防長官は、同僚たち(とあるジャーナリスト)にイエメン攻撃計画についてメッセージを送るために安全でないアプリを使うのを止め、アジアの同盟諸国を安心させるために奮闘している。ヘグゼスの経験不足とこれまでの政権の政策を鑑みると、容易な話ではないだろうから、彼の成功を祈る。

つい最近まで、私はこのテーマを、古き良きリアリスト的な勢力均衡・脅威論(good old-fashioned, realist balance of power/threat theory)に基づいた、シンプルで馴染み深く、むしろ安心感を与える物語で説明していた。その物語は、中国が貧困(poverty)、技術力不足(technological deficiency)、軍事力の弱さ(military weakness)から世界第2位の地位へと驚異的な台頭を遂げ、南シナ海の領有権を主張し、国際社会および地域の現状維持(the international and regional status quo)におけるその他の重要な側面を見直そうとする継続的な努力から始まる。

この物語において、これらの劇的な展開は最終的にアメリカと中国の近隣諸国のほとんどを警戒させた。その結果、バランスをとる連合(a balancing coalition)が形成され始めた。当初はアメリカの既存のアジア同盟諸国が中心となり、徐々に他のいくつかの国も加わって拡大していった。この連合の明確な目的は、中国によるこの地域支配(dominating the region)を阻止することであった。その取り組みの主要な要素は、この地域へのアメリカ軍の追加配備、オーストラリア、英国、米国間のAUKUS協定の交渉、アメリカ、韓国、日本の安全保障協力強化のためのキャンプ・デイヴィッド合意への署名、フィリピンに方針転換を促し、アメリカとの関係強化(アメリカ軍のプレゼンス拡大を含む)、インドとの安全保障協力の拡大、そしていわゆるクアッド[QUAD](アメリカ、インド、日本、オーストラリアを含む)の活動継続であった。もう1つの兆候は、台湾に対する地域の支持の強化であり、2021年6月に当時の岸信夫防衛大臣が「台湾の平和と安定は日本に直結している(the

この物語の教訓は明白だ。誰がホワイトハウスに就任しようとも、アメリカとそのアジアのパートナー諸国には同盟関係を継続・深化させる強力かつ明白な理由がある。また、楽観的な結論も導き出されている。すなわち、力のバランスは前述の通り機能し、中国がこの地域を支配しようとする試みは自滅的となるだろう、ということだ。

誤解しないで欲しい。私は自分のシンプルな物語を気に入っており、そこにはかなりの真実が含まれていると考える。しかし、この物語に疑問を抱く理由も増えている。そして何よりも、過度に油断すべきではない。

第一に、中国は手をこまねいている訳ではない。新たな状況に適応し、場合によっては成功を収めている。ディープシーク(DeepSeek)の人工知能モデルの発表は「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」とまでは言えないが、アメリカが中国の技術開発に課そうとしてきた障壁の一部を克服する革新能力を示した。中国は国内の半導体製造能力と量子コンピューティングに多額の資金と労力を注ぎ込み続けており、アメリカが背を向けている多くのグリーンテクノロジー(電気自動車など)で既に優位に立っている。トランプ政権がアメリカの大学を不当な理由で標的にし、アメリカの科学者と外国の研究者の共同研究を困難にし、研究開発への連邦政府資金を削減している中で、中国の大学や研究機関は発展を続けている。アメリカが常に技術の最先端をリードするだろうと考えることに慣れているなら、もう一度考え直した方がいい。

第二に、アメリカにとって最も重要なアジアの同盟諸国の1つである韓国は、弾劾訴追された尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が2024年12月に戒厳令を布告しようとして失敗に終わった後、政治的混乱に陥っている。たとえ現在の危機が最終的に解決され、安定が回復したとしても、韓国社会は依然として深刻な分極化が続く可能性が高いだろう。野党の李在明(イ・ジェミョン)が最終的に大統領に就任する可能性も十分にある。李は米韓関係に懐疑的で、これまで中国と北朝鮮に対してより融和的なアプローチを好んできた。

第三に、中国は深刻な人口動態問題に直面しているが、日本と韓国も同様だ。台湾の年齢の中央値は44歳、韓国は45歳近く、日本は50歳近くになっている。アメリカは約38歳、中国は40歳を少し超える程度だ。対照的に、インド、インドネシア、フィリピンの人口ははるかに若く、年齢の中央値は30歳未満だ。前者のグループの場合、人口減少と高齢化が進むことで、若い男女を労働力から引き離して軍人にすれば経済の生産性が低下するという理由だけでも、軍事力を大幅に増強することが難しくなるだろう。

そして、集団行動(collective action)の問題がある。たとえ各国が共通の脅威に直面し、互いに協力して対処する明らかなインセンティヴがある場合でも、他国に重労働を委ねたり、最大のリスクを負わせたりしようとする誘惑に駆られる。これはもちろん新しい現象ではないが、今後もなくなることはない。強力な同盟諸国のリーダーシップと持続的な外交によって克服することは可能だが、今後数年間、どちらも豊富に得られるとは考えにくい。

ここでトランプ政権についてお話しする。

Which brings me to the Trump administration.

一方で、ドナルド・トランプ大統領は中国を経済的および軍事的なライヴァルだと述べており、政権の要職には著名な対中強硬派がいる。中国との対峙は、超党派の幅広い支持を得られる数少ない課題の1つでもある。しかし他方では、アメリカのビジネスリーダー(特にイーロン・マスクのような人物)は、中国との衝突によって自国と北京との商業取引が阻害されることを望んでいない。トランプ大統領は過去に台湾防衛に懐疑的な姿勢を示しており、政権が最初に取った行動の1つは、台湾の半導体メーカーTSMCに対し、今後数年間でアメリカに約1000億ドルを投資するよう圧力をかけることだった。トランプ大統領は(実績こそパッとしないものの)自らを交渉の達人だと自認しており、良好な関係にあると主張する中国の習近平国家主席と何らかの取引を成立させたいと考えている。しかし、その際に彼が何を譲歩するかは誰にも分からない。結局のところ、トランプ政権が中国をどのように見ているのか、そしてアジアで何をする(あるいはしない)用意があるのか​​を正確に知ることは難しい

さらに、中国に対抗するという戦略的目標と、同盟国・敵対国を問わずトランプの保護主義的なアプローチとの間には、深刻な矛盾がある。トランプが最初の任期開始時に環太平洋パートナーシップ協定(the Trans-Pacific PartnershipTPP)を破棄して以来、アメリカはアジアに対する真剣な経済戦略を持たず、バイデン政権も同様に戦略を打ち出していない。先日発表された外国製自動車・自動車部品への関税は、韓国と日本に大きな打撃を与えるだろう。これは、両国との戦略的連携を強化する理想的な方法とは到底言えない。北京はこの好機を逃さず利用し、王毅外相は先日、日本と韓国の当局者との会談で貿易と安定の「大きな可能性(great potential)」を強調し、「近い隣国は遠く離れた親戚よりも良い(close neighbors are better than relatives far away.)」と述べた。

トランプとマスクは、重要な政府機関を混乱させ、経験豊富な政府関係者を忠実な人物に交代させ、国家安全保障会議(the National Security CouncilNSC)と国防総省で素人同然の活動を続けている。もし私がアジアにおけるアメリカの同盟国だったら、専門知識の喪失と大統領の気まぐれに対する制約の撤廃を心配するだろう。それも非常に心配する。

最後に、アメリカ政府の基本的な性格が、これまでアメリカとアジア諸国の同盟関係を結びつけてきた絆を弱めるような形で変容しつつあるのかどうかを検討する必要がある。これらの同盟関係は、共通の価値観や制度に依存してきた訳ではない(例えば、韓国、台湾、フィリピンはいずれも長期にわたって独裁政権下にあった)が、近年、アジアにおけるアメリカのパートナー諸国のほとんどが志を同じくする民主政治体制国家であったという事実は、これらの絆を強化するのに役立ってきた。しかし、アメリカ自身が独裁政治体制(autocracy)への道を歩んでいるのであれば、このもう1つの結束の源泉(そして、これまで明確に区別されていた米中の政治秩序も)は失われてしまうだろう。

私はリアリストだが、それでも私のシンプルな物語には一理あると考えている。世界には国家以上の上位存在がない、つまり無政府状態の中にある国家は脅威に対して極めて敏感になる傾向があり、強大で野心をますます強める中国は、近隣諸国とアメリカが協力して北京の影響力を抑制する十分な理由を与えている。強いて推測するなら、アメリカのアジア同盟は存続するだろう。なぜなら、アメリカは中国がアジアで覇権大国(hegemonic power)となることを望んでいないからだ。地域におけるパートナーなしではそれを阻止することはできない。そして、潜在的なパートナーは中国の勢力圏内に居ることを望んでいない。しかし、以前ほどこの予測に自信を持っているわけではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt
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 古村治彦です。

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 居酒屋での砕けた政治談議で、「今の政府は頼りない」「今の政治家は駄目だ」「三世、四世ばかりで力がない」「官僚たちは国民のことなんか何も気にしていない」と口にしたことがある人は多いだろう。政治と宗教とプロ野球の話は喧嘩になったり、後腐れが残ったりするので、表ではしないようにということは教えられるが、気の置けない仲間たちやグループということになると、こういうことを話すことがある。

 私もたまに友人たちとこういう話をすることもある。私が本を書いているということもあって、本を読んでもらって、私の本の中身について話すこともある。その中で、「西側諸国(ジ・ウエスト)対それ以外の国々(ザ・レスト)」の対立構造は共感を得ていることが多い。そして、「今の日本政治家は駄目だが、アメリカや先進諸国もよく分からない。けど、君が書いているように、確かに、非西側の国々の指導者たちは独裁的だけど、実力があるように見える」というようなことを言う人がいる。

 私はこういった考えは既に広がっていて、政治に対する不信感が日本国内における政治への無関心につながっていると思うし、更に言えば、アメリカでドナルド・トランプを大統領に押し上げたのも不信感であると考えている。日本では戦後、短期間を除いて自民党が与党となり、アメリカでは二大政党である民主党と共和党が、大統領選挙、連邦議会選挙で、与党と野党となることを繰り返している。どちらにも言えることだが、選挙で与党を交代させても、自分たちの生活はちっともよくならないという実感から、政治に対する不信感が増大している。現在の日本の若者、アメリカの若者、Z世代と呼ばれているが、彼らには、「自分たちの親や祖父母の時代よりも生活が良くなるということはない」という諦念が存在する。こうした不信感や諦めが向かう先は、民主政治体制への不信感である。

 私たちは、民主政治体制(デモクラシー)が最上ではないが、次善の政治体制であり、よりましなのだと考えている。政治体制について、「中国やロシアなんてかわいそうだ」という思いがある。しかし、非西洋の、非民主的な国家群の方が、政治がしっかりして、人々の生活が豊かになっているということを目撃しながら、目を逸らしている。「どうして、こんなにたくさんの中国人が日本に来られるんだ、中国は貧しいんじゃないのか」というのは頭を切り替えられない昭和脳の方々である。デモクラシーに対する信頼は低下する一方である。だからと言って、独裁は嫌だというのは先進国に住む私たちの考えることだが、日米両国民で、自国の政治を省みて、素晴らしい民主政治だと胸を張って言える人は多くないだろう。

 下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは、トランプが中国の習近平国家主席やロシアのウラジーミル・プーティン大統領との良好な関係を結ぼうとしていることには反対しているようだ。非民主的な政治制度で生まれた独裁者たちと手を結ぶなどありえないという訳だ。しかし、待って欲しい。それなら、たとえば、王政であるサウジアラビアの国王とアメリカの大統領が良好な関係を結ぶことはどうなのか。サウジアラビアは同盟国だから良くて、ロシアと中国は敵対関係にあるから駄目だということになるのか。非民主的という点では同じだし、何よりもプーティンも習近平も叩き上げだ。

 更に言えば、先進諸国の民主政治体制はきちんと機能しているのかということ、国民生活は豊かになっているのか、確かに政治家が失敗したら取り換えやすいということは民主政治体制の利点だが、先進諸国はどうして失敗ばかりの誠意が続いているのかという不信感がある。民主政治体制の正当性は揺らいでいると言わざるを得ない。私は民主政治体制を支持するが、妄信してはいない。多くの欠陥を抱えている以上、常に改善のための度量をしなければならないという非常に厳しい制度であると考えている。そして、人々はそれに疲れているということもあるだろうと考えている。

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トランプの最重要人物たちの協調は機能しない(Trump’s Concert of Kingpins Won’t Work

-ストロングマンたち(strongmen)によって分割された地球は世界秩序などではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年3月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/03/03/trumps-concert-of-kingpins-wont-work/

ドナルド・トランプ米大統領が国内外で醸成しているカオスにまだ驚いているとしたら、過去8年間に十分な注意を払っていなかったのではないかと心配になる。彼の長くねじ曲がった人生の現時点において、彼の考える完璧な世界とは、権力と富を持つ男たち(つまり彼のような男たち)が、規範や法律、あるいは公共の利益に対する広範な関与に制約されることなく、やりたい放題できる世界であることは明らかだ。このような態度は、2016年の選挙キャンペーンで、彼が好きなところで女性をつかまえたとテープで自慢したときに、最もはっきりと明らかになった。ルール? 良識? 自制心? 公共心? それらは敗者とカモ(losers and dupes)のためのものだ。

この核心的な信念を考えれば、トランプが尊敬し、一緒にいて最も心地よいと感じる指導者たちが、抑制のきかない権力を持つ独裁者であることは驚くにはあたらない。彼はロシアのウラジーミル・プーティン大統領を「強い指導者(strong leader)」と称賛し、中国の習近平国家主席や北朝鮮の独裁者である金正恩、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子といった男たち(そう、彼らはみな男だ)といかにうまくやっているかを熱く語る。ハンガリーのヴィクトル・オルバン、インドのナレンドラ・モディ、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフなど、民主的に選ばれた指導者たちでさえ、非自由主義的あるいは独裁的な傾向が強い。また、これらの指導者の多くが、自分自身や支持者を富ませるために国家を支配してきたことにも注目して欲しい。腐敗(corruption)は独裁的な体制ではほぼ普遍的な症状である。このような態度は、トランプとイーロン・マスクや他のテック産業の大立者たちの関係を説明するのに役立つ。トランプと同様、彼らは自分たちが他の人々からできるだけ多くの富を引き出すのを妨げるかもしれないあらゆるルールを排除したいと考えている。そしてそれは、悪名高いテイト兄弟(訳者註:極右インフルエンサーで人身売買などの性犯罪の容疑がかかっている)のような誇り高き女性差別主義者との親和性とも一致している。

対照的に、トランプが嫌悪するのは、権限の制限と民主政治体制に深く真摯に関与する指導者たちだ。例えば、ドイツのアンゲラ・メルケル元首相、カナダのジャスティン・トルドー前首相、ボリス・ジョンソンを除く英国の最近の首相全員、そして現メキシコ大統領のクラウディア・シャインバウムなどだ。トランプの二期目の大統領就任が、アメリカにおける行政権の既存の制限に対する本格的な攻撃で始まったのも無理はない。彼は自らを王様(a king)だと考えていることを露骨に示唆している。

トランプが描く理想の世界秩序とは、独裁者(autocrats)やその他のストロングマンたちが結集し、世界を自分たちの都合で分割するというものだ。『フィナンシャル・タイムズ』紙のギデオン・ラックマンは最近、このアプローチを「独裁にとって安全な世界(safe for autocracy)」にするものだと述べた。また、バラク・オバマ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたスーザン・ライスは、トランプの新たな友人たちを「独裁者の枢軸(axis of autocrats)」と呼んだ。私には、これはナポレオン戦争後の「ヨーロッパの協調(the Concert of Europe)」の現代版のように聞こえる。ヨーロッパの協調とは、大国が行動を調整し、相互間の紛争を抑制して、君主制への新たな攻撃を防ごうとした、ナポレオンが退場した後に成立した協定(the post-Napoleonic arrangement whereby the major powers tried to ward off a renewed assault on monarchical rule by coordinating their actions and keeping conflicts between them within bounds)である。いわば、新たに出現しつつある「最重要人物たちの協調の協調(Concert of Kingpins)」と言えるだろう。

それはうまくいくだろうか? 一見すると、アメリカは国連やG20、G7、ヨーロッパ連合などの複雑な国際機構を省き、強大な権力を持つ国々と定期的に会合を持つだけでいいように思えるかもしれない。民主政治体制国家を相手にするのは面倒なことだ。国民が何を望んでいるのか、国民が選んだ代表がどんな取引をしても支持するのかどうかを考慮しなければならないからだ。仲間の独裁者たちと協定を結んで終わりにする方が単純ではないだろうか? 経済規模やユーラシア大陸からの地理的な隔たりを考えれば、アメリカは様々な大国の中でかなり有利な立場にあるとさえ言えるかもしれない。他の独裁者たちはまだお互いを警戒しており、ワシントンの機嫌を取ろうと躍起になっている。さらに、アメリカが公言する民主政治体制、自由、人権、その他すべての厄介なリベラルな価値観を公然と放棄すれば、偽善(hypocrisy)と非難されることも、公言する理想と理想とは異なる行動との間の気まずいトレードオフに直面することもなくなる。トランプは正しいのかもしれない。つまり、 リベラル・デモクラシーは前世紀的であり、世界のアルファ・オス(alpha males)にショーを任せた方がいい。

それに賭けてはいけない。

第一に、最重要人物たちの協調は、抑制のきかない独裁者たちが互いを信頼し、国民を搾取または抑圧するという共通の利害が他の相違に優先することを前提としている。しかし、仲間の指導者たちが、以前に合意したことが何であろうと、自分たちが望むように行動するほぼ完全な自由裁量権(near-total latitude to act)を持っていることを知っていれば、信頼を維持するのは難しい。金委員長に媚びを売り、おだて、米大統領との個人的な首脳会談という威光を与えても、平壌との合意に達することができなかったことを考えれば、トランプ大統領はもうこのことを理解していると思うだろう。トランプが交渉した「美しい」貿易取引の一環として、中国がアメリカの輸出品2000億ドル分を購入すると約束した習近平にも裏切られた。トランプは、欺瞞と二枚舌(deceit and duplicity)ができる世界の指導者は自分だけだと思っているのだろうか? 記録はそうではないことを示唆している。

国際関係分野の学者たちは、民主政体国家はより信頼性(more trustworthy)が高く、この特徴が彼らをより価値あるパートナーにしているということを長年認識してきた。例えば、民主政体国家は好ましい貿易相手国となる傾向がある。これは、国民全体の幅広い合意を反映し、民主的なプロセスによって批准された約束は、予告なしに放棄される可能性が低いためだ。歴史的に見ても、民主政体国家間の同盟はより永続的だ。なぜなら、より永続的な利益を反映し、指導者の個人的な気まぐれに左右されにくい傾向があるからだ。

第二に、世界を純粋に取引ベースで、主に他の強力な指導者たちとの取引交渉によって運営しようとすることは、本質的に非効率的であり、参加者が合意を守ることができるかどうか確信が持てない場合はなおさらだ。中央的な権威が存在しない世界であっても、国家は日々発生する複雑な相互作用を全て管理するための規則と制度を必要としている。もし交通法規がなく、毎日ドライバー全員が、車のハンドルを握る他の全ての人々と従うべき一連の規則を理解しなければならないとしたら、生活はどれほど混沌としたものになるか想像してみて欲しい。その結果、交通渋滞、多数の事故、そして非常に怒ったドライバーが発生するだろう。

規範や制度は、他国の意図を見極める手段にもなる。確立されたルールを遵守する政府は、それを繰り返し無視する政府よりも、一般的に脅威は少ないものだ。しかし、全てのルールを廃止してしまうと、法を破る政府と法を遵守する政府の区別がつかなくなってしまう。トランプは、確かに不完全な今日のルールに基づく秩序を破壊し、自分のやりたいことを何でもできると考えているかもしれないが、ルールが全く存在しない世界は、より貧しく、より紛争が多く、はるかに予測不可能で、より管理が困難になることをすぐに理解するだろう。

第三に、独裁政権は、支配者を絶対的な天才として描くプロパガンダを山ほど生み出すが、歴史は、抑制されない権力を持つ指導者は重大な過ちを犯しやすいことを警告している。ヨシフ・スターリンと毛沢東は、何百万人もの不必要な死をもたらす重大な決断を下し、ベニート・ムッソリーニはイタリアを悲惨な戦争へと導き、アドルフ・ヒトラーの戦略的失策と誇大妄想(megalomania)は、第二次世界大戦におけるドイツの敗北を招いた。もちろん、民主政治体制の指導者も間違いを犯す。しかし、情報の自由な流れと、失敗した指導者を交代させる能力があれば、誤りを迅速に修正することが容易になる。この事実は、経済成長、寿命、教育水準、基本的人権など、幅広い指標において民主政治体制国家が歴史的に独裁国家を上回ってきた理由を説明する一助となる。独裁政権下で世界(あるいはアメリカ合衆国自身)がより良い状態になると信じることは、過去2世紀にわたる重要な教訓の一つを無視することである。

第四に、問題はトランプがロシアに手を差し伸べ、ウクライナでの戦争を終わらせようとしていることではない。カマラ・ハリス前副大統領も、やり方は全く違うとはいえ、おそらくそうしようとしていただろう。問題なのは、トランプがアメリカを世界有数の独裁国家である数カ国と再編成し、何十年もの間、アメリカの主要な同盟諸国であった民主政体国家を弱体化させ、蔑視し、信用を失墜させるためにできる限りのことをしていることだ。リチャード・ニクソン元米大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官(当時)は、1970年代初頭に中国と手を結んだとき、賢明なリアリストとして行動していた。

これはあまりにも近視眼的(shortsighted)だ。南と北に友好的な隣国を持つことはアメリカにとって並外れた恩恵であり、トランプ大統領のいじめはその驚くべき幸運を危うくしようとしている。過去70年間、ヨーロッパとアジアに安定した、志を同じくするパートナーを持つことは、同様に正味の利益であった。アメリカがヨーロッパの同盟諸国と新たな役割分担を模索するのにはそれなりの理由があったが、ロシアと再編成し、ヨーロッパを敵対国として扱うことは、人口1億4000万人強、経済規模わずか2兆ドルの衰退した大国の指導者との不確かなつながりのために、約4億5000万人(GDP合計20兆ドル)の友好関係を交換することを意味する。トランプにとっての重要な目的が、世界中の民主政治体制を弱体化させ、国内で自身の権力を強化することにあるならば、このアプローチは理にかなっているかもしれないが、アメリカをより安全で、より人気があり、より豊かにすることはないだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 第2次ドナルド・トランプ政権は、発足後100日を過ぎて、イーロン・マスクが政権を離れるという報道が出るなど、ひと段落を突けるという状況になっている。政権内部の影響力争いもあり(特に高関税政策において)、マスクが外れ、誰がトランプ大統領に対して影響力を持つかが分からない状況になっている。当初の怒涛の勢いはさすがに続かない。しかし、連邦政府の縮小と関税交渉はこれからなお続く。

 下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは、ジェイムズ・スコットの傑作『国家のように見る:人間の状態を改善するための特定の計画はいかにして失敗したか(Seeing Like a State: How Certain Schemes to Improve the Human Condition Have Failed)』を敷衍して、トランプ政権が政策に失敗するであろうと予測している。スコットは著書の中で、重大な政策の失敗の原因を 「抑制されない権力(unchecked power)」と「強力な「ハイモダニズム」イデオロギー(“high modernist” ideologies)、つまり合理的かつ準科学的な基盤に基づいているとされる世界観に導かれていたこと」に求めており、結果として、「これら2つの要素が組み合わさると、自信過剰で、細部に頓着せず、地域の状況に無関心で、反対圧力にも動じない指導者が生まれる。このような状況下では、政府は自らの自覚すらなく、甚大かつ永続的な損害を与える可能性がある」としている。ウォルトは、トランプが抑制されない権力を求めているが、ハイモダニズム・イデオロギーには基づかないとしている。そして、以下のように書いている。「白人キリスト教ナショナリズム(ピート・ヘグゼスなど)の宗教的過激主義(the religious extremism)と、シリコンバレーのテクノ・リバタリアン的未来主義[Silicon Valley techno-libertarian futurism](イーロン・マスクなど)が融合しているからである。前者は多様性への攻撃、女性や少数派の権利を後退させようとする動きの原動力であり、後者は政府の制度や政策に対する軽率な破壊工作の背後にいる。この運動のどちらの勢力も、自分たちが神の意志を実行していると信じているか、あるいは自らを、テクノロジーを駆使して未来を操れる魔法使いだと信じているかのどちらかで、自らが正しいと確信している。彼らは大統領が全権を握ることに満足している。それは、彼らのユートピア的な(そして場合によっては利己的な)計画を実行するための手段だからだ」

 このウォルトの分析は重要だ。それは、トランプ政権内部の大きなグループ分けを示しているからだ。白人ナショナリズムとテクノリバータリアニズムの同居ということになる。これら2つのグループが呉越同舟である時は良いが、問題は、トランプ政権の施策が人々の支持を失う時だ。トランプ政権の施策はアメリカ国民を甘やかすものではない。「製造業の雇用を作れと言うからそのようにしている。実際にあなたたちはきちんと働いて、諸外国の労働者と競争しなくてはいけない(あなたたちは自分たちが世界一の労働者だと言っているのだからできるだろう)」ということになる。しかし、アメリカを外から眺める目で見てみれば、アメリカの労働者が世界一の質であるなどと考える人は少数だろう。

 状況が悪化していけばおそらく仲間割れを起こして、政権内は混乱するだろう。そうなったときに、トランプがどのような選択をするかである。トランプが3期目を目指すという話も出ているが、彼はそこまでは自分の仕事ではないと思っているはずだ。泥船のアメリカを劇的に救うことなど神様でもない限りできないだろう。そんな仕事を後7年もやるなんて、そんなバカげたことはない。トランプは何とか条件を整えるだけで精一杯だろう。そして、アメリカ国民は失敗してしまうだろう。そして、アメリカは世界覇権国の座から退いていく。それが国家の繁栄と衰退のサイクルということになるだろう。

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アメリカは自らの最大の敵だ(America Is Its Own Worst Enemy

-強大な国家が自らの足を撃つことは前例のないことではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年2月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/12/trump-democracy-america-own-worst-enemy/

外交政策や国際安全保障を取り扱っている私たちは、主に外部からの脅威と、それを最小化し、抑止し、打ち負かすために何ができるかに焦点を当てがちである。しかし最近、私は奇妙な理由から、指導者が自ら愚かな行動(a foolish course of action)を選択し、手遅れになるまで軌道修正することができないか、あるいはしようとしない場合に、国が自らに与える甚大な損害について考えている。

もちろん、国家には外敵を心配する十分な理由がある。外敵の危険を真剣に受け止め、それらに知的に対応することを怠れば、痛ましい結果を招きかねない。自己満足も危険の1つだが、不必要な戦争を仕掛けて外的危険に過剰反応する国も、第二次世界大戦でドイツや日本が、イラクでアメリカが、そしてウクライナでロシアがしたように、大きな代償を払うことになる。したがって、私のような人間が国際的な問題を評価し、それに対処する様々な方法を提案することに多くの注意を払うのは当然のことである。

しかし、誤った外交政策や国家安全保障政策だけが国家が問題に陥る原因ではない。毛沢東が率いた、気まぐれで強引な中国共産党指導部は、40年近く経済発展を阻害し、1958年の大躍進政策(the Great Leap Forward)や1960年代の文化大革命(the Cultural Revolution)といった愚かな運動は何百万人もの不必要な死をもたらし、中国を本来よりもはるかに貧しく弱体化させた。ヨシフ・スターリンによる集団農業の強制(collectivized agriculture)はソ連でも同様の影響を及ぼし、ニキータ・フルシチョフによる、1950年代の考えなしの「処女地」計画(“Virgin Lands” program)も同様の影響を及ぼした。アルゼンチンは20世紀初頭には1人当たりの所得が世界第12位を誇り繁栄していたが、数十年にわたる政治の機能不全と度重なる政策ミスが発展を阻み、度重なる経済危機を引き起こした。ヴェネズエラはかつて南米で最も豊かな国だったが、ウゴ・チャベスとニコラス・マドゥロ政権の無能な指導力によって経済は破壊され、数百万人が国外に逃れる事態となった。これらの惨事の主たる責任は外国の敵ではなく、ほぼ全てが権力者たちが負うべきだ。

同様に、いかなる外国の敵がアメリカに対して、アメリカが自らに与えたほどの損害を与えたとは言い難い。死傷者数で言えば、南北戦争は依然としてアメリカ史上最も犠牲の大きい紛争である。アルカイダは2001年9月11日に約3000人を殺害し、数十億ドルの物的損害を引き起こしたが、世界的な対テロ戦争は、はるかに多くのアメリカ人の命と莫大な費用を費やす結果となった。1990年以降、100万人以上のアメリカ人が銃による暴力で亡くなっている。これは他のどの先進国よりも人口に占める割合がはるかに高い。そして、この悲惨な統計は、もっぱら国内政策の決定によるものだ。少なくとも50万人の死者を出したオピオイド危機は、主に製薬会社の強欲の結果であり、現在のフェンタニルの危険性は、薬物乱用を公衆衛生問題ではなく、外国の犯罪者に対する戦争として扱うという長年の傾向に大きく起因している。アメリカが中国の世界貿易機関(WTO)加盟を時期尚早に支持したり、金融業界の規制緩和を強制して金融危機を不可避にするような事態を招いたりした外国人は誰もいない。また、外国の敵が次の危機の引き金となり得る仮想通貨やミームコインの熱狂を煽っている訳でもない。

この状況はそれほど驚くべきものではない。アメリカは豊かで強力であり、地理的にも有利なため、いかなる外国勢力もアメリカに、アメリカが自らに与えるほどの損害を与えることは難しい。そこで当然の疑問が浮かぶ。アメリカの指導者が自国に打撃を与える可能性を高める条件とは一体何なのか?

以前にも述べたように、この問題を最もよく理解するための手引きの1つは、故ジェイムズ・スコットの傑作『国家のように見る:人間の状態を改善するための特定の計画はいかにして失敗したか(Seeing Like a State: How Certain Schemes to Improve the Human Condition Have Failed)』である。本書は、各国が自らの判断で、これらの政策が劇的で好ましい結果をもたらすと確信し、破滅的な政策を実行した一連の事例を検証している。

ジェイムズ・スコットは、これらの重大な政策の失敗は主に2つの要因に起因すると主張する。1つ目は、抑制されない権力(unchecked power)である。これらの国の指導者たちは、やりたいことを何でも自由に行うことができ、彼らに誤りを正すよう強制できる強力な機関は存在しなかった。2つ目は、これらの指導者たちは、強力な「ハイモダニズム」イデオロギー(“high modernist” ideologies)、つまり合理的かつ準科学的な基盤に基づいているとされる世界観に導かれていたことである。スターリンと毛沢東の両方を導いたマルクス・レーニン主義は、社会問題に対する唯一の真の答えを提供すると主張した点で、まさにその好例である。これら2つの要素が組み合わさると、自信過剰で、細部に頓着せず、地域の状況に無関心で、反対圧力にも動じない指導者が生まれる。このような状況下では、政府は自らの自覚すらなく、甚大かつ永続的な損害を与える可能性がある。

さて、話を今日のアメリカ合衆国に戻そう。スコットの洞察は、私たちの目の前で展開している出来事について何を示唆しているのだろうか?

良いことは何もない。

ドナルド・トランプ大統領が抑制されない行政権を望んでいることは今や明白であり、連邦下院も連邦上院も、合衆国憲法が連邦議会に与えている権限を奪取しようとする政権の試みに抵抗する意志も能力も持ち合わせていないようだ。資格のない閣僚任命を承認すること自体が懸念材料だが、政府支出に関する権限を放棄することはさらに深刻だ。

裁判所はこの権力掌握を阻止するだろうか? おそらくそうするだろう。しかし、最高裁判事の過半数が行政府の権限拡大を支持しており、連邦最高裁判所がトランプの行動を阻止するほどの力を発揮するとは思えない。それでは、もし阻止しようとしたらどうなるだろうか? 重要な訴訟で最高裁が政権に不利な判決を下し、トランプが任命した職員に判決を無視して命令を実行するよう命じたとしよう。一部のキャリア官僚は従わないかもしれないが、休職処分や解雇の対象になる可能性がある。FBI、司法省、シークレットサーヴィス、連邦保安官、軍が最高司令官の命令に従うのであれば、ジョン・ロバーツやエレナ・ケーガン、その他の判事たちは、特に任命された職員が、後に法的トラブルに巻き込まれたとしても大統領が恩赦を与えてくれると知っていたとしたら、行政府の行動を阻止するために何をするだろうか?

第二に、政権の指針となっているのは、知識の限界、予期せぬ結果の必然性、現代社会の複雑さ、あるいは地域事情を考慮する必要性(スコットなら助言しただろう)といった認識ではなく、共産主義者やファシスト、その他の狂信者たちと同様に、自分たちがあらゆる問題に対する唯一の真の答えを持っているという信念である。これはスコットが用いた意味でのハイモダニズム(high modernism)とは全く異なる。白人キリスト教ナショナリズム(ピート・ヘグゼスなど)の宗教的過激主義(the religious extremism)と、シリコンバレーのテクノ・リバタリアン的未来主義[Silicon Valley techno-libertarian futurism](イーロン・マスクなど)が融合しているからである。前者は多様性への攻撃、女性や少数派の権利を後退させようとする動きの原動力であり、後者は政府の制度や政策に対する軽率な破壊工作の背後にいる。この運動のどちらの勢力も、自分たちが神の意志を実行していると信じているか、あるいは自らを、テクノロジーを駆使して未来を操れる魔法使いだと信じているかのどちらかで、自らが正しいと確信している。彼らは大統領が全権を握ることに満足している。それは、彼らのユートピア的な(そして場合によっては利己的な)計画を実行するための手段だからだ。

数週間前、私は「トランプのピーク」が既に到来しつつあると述べ、政権が当初立て続けに打ち出した大統領令や突飛な提案は、最終的には裁判所、連邦議会、そして日々の統治の現場で行き詰まるだろうと予測した。しかしながら、連邦議会がトランプの行動に承認を与えることに甘んじ、裁判所の動きは鈍く、第四権力は分裂して無知であり、大学や有力な専門家団体は身を守ろうとしているように見えることから、既存のアメリカの諸機関がその任務を果たせるかどうかについては、ますます自信を失っている。高校の社会科の授業で習った抑制と均衡(the checks and balances)の仕組みは、今のところあまりうまく機能していないようだ。

この取り組みを崩壊させる可能性が高いのは、組織的かつ非暴力的な市民の抵抗とともに、現実世界での出来事だろう。白人のキリスト教ナショナリストとテック・ブラザーズとの間の便宜的な結婚(the marriage of convenience between the white Christian nationalists and the tech bros)は長続きしないかもしれない。特に、国内情勢が膠着し始め、トランプ大統領が非難するスケープゴートを必要とした場合(あなたのことだよ、イーロン)。もっと重要なのは、政権が現在進めている政策が、何百万人もの人々に深刻な悪影響を及ぼすということだ。連邦政府の予算が枯渇し、庶民は職を失い、病院は削減され、基本的なサーヴィスは脅かされる。中国の大学や研究機関が新たな高みへと急上昇しているように見える今、科学研究は機能不全に陥るだろう。かつては頼もしい親米だった国々も距離を置き始め、新たな市場や、場合によっては新たな友好国を探し始めるだろう。トランプ大統領の関税フェチが完全には実行に移されないとしても、国内外の企業は彼の予測不可能性を警戒し、脆弱性を減らすことに目を向けるだろう。私たちが向かうかもしれない先についての恐ろしい予測は、ノーベル賞受賞者ダロン・アセモグルが『フィナンシャル・タイムズ』紙に寄稿した、あまりにも現実的なエッセイをご覧いただきたい。

スコットや他の著名な学者たちが警告しているように、抑制のきかない権力の危険性は、独裁者が(部下や下僕が言わないために)自分たちの政策が失敗していることに気づかない可能性があること、そして、たとえ言われたとしてもそれを止められる立場にある者が誰もいないことだ。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、トルコ経済に甚大なダメージを与える異例の経済政策を追求するのを誰も止めることができなかった。最終的に軌道修正を余儀なくされたのは、高騰するインフレと世界市場の反応だった。

アメリカの民主政治体制、アメリカ経済、そして過去の成功の原動力となった知識生産機関へのダメージが修復不可能になる前に、事態が一刻も早く悪化することを願ってやまない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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