古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:スティーヴ・ウィトコフ

 アメリカ帝国の衰退は明らかになっている。ドナルド・トランプが大統領になってもそれは変わらない。大きな流れを変えることはできない。誰が大統領になろうとも変わらない。アメリカの一極支配は終わる。中国が対等な超大国となり、G2で世界を管理することになる。世界は西側諸国(the West)と西側以外の国々(the Rest)に分かれる。そして、これからは西側以外の国々の時代になっていく。500年続いた西洋近代支配は終焉を迎える。日本人は西洋に憧れ、名誉白人になることに狂奔したが、それも意味をなさなくなるだろう。
 下記論考は「トランプがアメリカを弱体化させた」という趣旨であるが、私の認識は異なる。トランプであろうが、誰であろうが、アメリカの弱体化を止めることはできない。ジョー・バイデンでも駄目だったではないか。アメリカの信用を維持できたかとなるとそれは違うということになる。ドナルド・トランプの第一次政権が中国に対して貿易戦争を仕掛け、それに対して、民主党側は批判したが、バイデン政権もまた中国に対して厳しい姿勢を維持するしかできなかった。それは、アメリカの国力が落ち、保護貿易をするしか他に選択肢がないからだ。
 米ドルと米国債の信認が落ちているのもその流れの中にある動きだ。アメリカの経済力の低下は戦後80年の大きな流れだ。20世紀であれば、米ドルは世界最強の通貨であり、経済が破綻しているような国家、自国通貨の信用が全くない国で、米ドルが流通するということは普通にあった。米国債は世界で最も安全な資産であった。世界各国の外貨準備や中央銀行の資産は米ドルと米国債で形成されていた。石油取引は米ドルでのみ実施されるというペトロダラー体制もあり、ドルは世界最強の通貨であった。単純化して言えば、アメリカはドル紙幣を擦りさえすればなんでも買うことができた。世界各国は農産物や工業製品をアメリカに売って、ドルを手に入れて石油を買う、もしくは安全な米国債を買うということをしていた。アメリカに投資をすることで利益を上げることができた。そのようなアメリカにとっては天国のようなシステムは終わりを迎えようとしている。世界各国は米ドルではなく、実物資産、具体的には金の購入に動いている。
 経済力が低下すれば、軍事力も低下する。アメリカは大規模戦争を戦う力を失いつつある。ウクライナ戦争への支援に加えて、イラン戦争も実施していることで、大規模戦争を行っているような状況であるが、アメリカ軍の物資や武器が不足し、補給が厳しいために、将兵の士気が低下しているということが報じられている。第二次世界大戦、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争と20世紀のアメリカは大規模な戦争を長期間にわたって実施することができた。しかし、21世紀のアメリカにはそれだけの国力はない。
 繰り返しになるが、アメリカを弱体化させたのはトランプではない。弱体化したらトランプが大統領になったということの方が正確だ。そして、これは歴史の必然である。私たちは自身の頭の中を根本的に変更しなければならない。
(貼り付けはじめ)
トランプがアメリカを弱体化させた10の方法(The Top 10 Ways Trump Has Made America Weaker)

-彼はあらゆる意味で「悪い方向」においてアメリカ史上最も大きな影響を及ぼした大統領の1人だ。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年8月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/08/17/top-10-trump-america-weaker/

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ワシントンのホワイトハウスにある「ステイト・ダイニング・ルーム(公式晩餐会用食堂)」で開かれた「信仰担当室(Faith Office)」主催の昼食会にてウェイトトレーニングについて語るドナルド・トランプ米大統領(2025年7月14日)

MAGA(マガ):「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」。これこそが、ドナルド・トランプ米大統領が国民に掲げた公約だ。彼を選べば、国はかつての活力(mojo)を取り戻し、国内の調和、経済的活力、国内主権、そして世界的な影響力を備えた黄金時代(a golden age of internal harmony, economic vitality, domestic sovereignty, and global influence)に回帰する。それは、とりわけグローバル化の荒波に翻弄され、移民や「グローバリスト」が内側から国を蝕んでいると信じていたアメリカ人にとって、魅力的なヴィジョンとなった。

トランプ大統領の2期目が折り返し地点(the midway point)を迎えようとしている現在、彼がアメリカ史上最も大きな影響を及ぼした大統領の1人であることに疑いの余地はない。残念ながら、彼の行動がもたらした結果のほぼ全ては有害なものとなっている。それはアメリカの大多数の人々にとってだけでなく、世界におけるアメリカの相対的な力や地位にとっても同様だ。側近や家族は恩恵を享受しているかもしれないが、彼の行動が積み重なって生み出す結果は、「偉大さへの回帰(a return to greatness)」ではなく、より弱体化し、分断されたアメリカ(a weaker and more divided America)となるだろう。

その具体的な例を挙げていく。

(1)アメリカの約束に対する信頼の破壊(Destroying confidence in U.S. promises)。信用の重要性は時に過大評価されがちだが、約束が守られると信じられなければ、諸外国はワシントンと協力しようという意欲を失うだろう。訴訟や破産を繰り返した実業家としての経歴を通じてそうであったように、トランプは自身の脅しが大抵は中身のない虚勢(empty bluster)に過ぎず、その公約には何の意味もないことを繰り返し露呈してきた。彼はイランとの間で成功していた核合意を破棄し(その行動がうまく機能しただろうか?)、今では自身の1期目にカナダやメキシコと交渉し「史上最高の取引(the best deal ever)」だと自画自賛した貿易協定さえも非難している。関税を巡る二転三転する対応(on-again, off-again approach)、主要同盟諸国への支援打ち切りを繰り返す脅し、そしてウクライナによるパトリオット迎撃ミサイルの製造を容認するという提案を理由も示さずに撤回したことなど、これらは全て、彼の言葉に何の意味もないことを明白に物語っている。全くの無価値だ(Zip. Nada)。

これには現実的な結果が伴う。例えば、トランプが二枚舌(double-dealing)で予測不能な人物だというごく当然の評判は、彼がイランとの紛争を終わらせるのに苦労している理由の1つとなっている。イランの指導者たちは彼の言葉を一切信じておらず(なぜ信じる必要があるだろうか?)、彼を窮地から救い出す前に、まずは具体的な譲歩を求めている。また、世界各国がリスクを分散させ、より信頼できるパートナーを求めているのも、こうした理由があるからだ。

(2)アメリカ軍の能力低下(Reducing U.S. military capability)。巨額の予算を投じ、アメリカの「殺傷能力(lethality)」を誇示し、男性兵士のテストステロン確保も進めたにもかかわらず、トランプ大統領とピート・ヘグセス国防長官はアメリカ軍を弱体化させ、同盟国やパートナー国への攻撃を抑止するアメリカの能力を損なってきた。

どのようにしたか? イランとの愚かな紛争を始め、重要な兵器の備蓄を枯渇させ、艦船や飛行隊、兵士を何カ月にもわたって任務に就かせ続け(その結果、自殺未遂が相次いだと報じられている)、軍の能力を疲弊させた。こうした行動は、有益な軍事能力を無駄に浪費し、潜在的な敵国にアメリカの弱点を示し、兵士の士気を悲劇的な事態を招きかねないほど低下させた。トランプとヘグセスがアメリカの軍事資産を浪費している間に、将来の敵となり得る国々は、軍備を増強し、研究や訓練を重ね、着々と準備を進めてきた。

さらに悪いことに、トランプとヘグセスは軍を政治利用し、MAGA運動に忠実な組織へと変えようとしている。ヘグセスは、「ウォーク(woke 訳者註:社会正義や差別に対する意識の高い姿勢)」と見なした将校を積極的に排除しようとしてきた。また、彼らをよく知る上官からの推薦や輝かしい実績があるにもかかわらず、不釣り合いなほど多くの女性や有色人種の将校を解任したり、昇進を拒否したりしてきた。さらに、士官学校を含む軍全体にイデオロギー的な同調を強要しようともしている。

これは危険な動きです。故サミュエル・ハンティントンが著書『軍人と国家(The Soldier and the State)』で論じたように、軍を政治的争いから超越した存在に保つ規範や組織文化に基づく「軍の専門性(professionalism)」は、私たちの歴史を通じて大きな資産となってきた。将校は憲法に対して宣誓を行うのであって、特定の政党や大統領に対して行うものではない。彼らは「義務・名誉・祖国(Duty, Honor, Country)」を最優先する規範を重んじることが求められている。彼らは支持政党によって評価されることはなく、上級将校は時を経て両党の政権に喜んで仕えてきた。軍の上層部(およびいわゆる軍産複合体[military-industrial complex]の他の構成要素)は国家安全保障の問題に多大な影響力を持っているが、文民統制(civilian control)の下にあり、特定の政党が権力を不当に奪取したり維持したりするための道具となったことは一度もない。

今日でもその状況は変わっていないと私は考えるが、懸念すべき傾向が見られる。そして、もしトランプが軍を自身の権力のための忠実な道具に変えられるなら、間違いなくそうするだろうと私は確信を持っている。もし彼がそれに成功すれば、軍は戦闘力においてさらに劣る組織となってしまうだろう。

(3)外交能力の解体(Dismantling diplomatic capacity)。マルコ・ルビオは、国務長官、国家安全保障担当大統領補佐官、国立公文書館の長官代行など、多くの肩書きを(候補として)取り沙汰されてきたが、時に彼は、かつて牛乳パックに掲載されていた「行方不明の子供」の写真を私に想起させる。「この男性を見かけなかったか?」と尋ねたくなるほどだ。ルビオは、イランとの紛争やウクライナ問題など、今日国家が直面している主要な課題から事実上遠ざけられてきた。その一方で、彼とトランプは、再構築に何十年もかかるような形で、アメリカの外交能力と国際的な存在感を組織的に弱体化させてきた。

ルビオが国務省の指揮を執る中で、中国が国際機関への関与を拡大し続けている一方で、アメリカは60以上の国際機関から一方的に脱退した。ルビオは海外の領事館や事務所を閉鎖し、数十もの大使ポストを空席のままにしている。アメリカ外交官協会(the American Foreign Service Association)が実施した包括的な調査によると、回答者の98%が士気の低下を報告し、86%がこうした措置によって業務遂行能力が阻害されていると回答した。報告書のタイトルが全てを物語っている。アメリカの外交機関は「崩壊の危機(breaking point)」に瀕している。

トランプが好んで頼る特使たちが極めて有能かつ効果的に機能しているのであれば、それほど大きな問題ではないかもしれない。しかし、スティーヴ・ウィトコフやジャレッド・クシュナーといった素人の外交官、あるいはJ・D・ヴァンス副大統領の振る舞いを見れば、実際はそうではないことが明らかだ。

(4)アメリカの科学的優位性の毀損(Undermining U.S. scientific preeminence)。科学技術における主導権は、長年にわたりアメリカの世界的な力の基盤の1つとなってきた。中国が明確に理解しているように、科学的な力は将来さらに重要性を増すだろう。この課題に対し、トランプは何をしてきたか? 彼は広範な科学研究への連邦政府の支援を削減し、根拠のない理由で大学を攻撃し、無知で不適格な科学懐疑論者(ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官など)を要職に任命した。さらに、自身の発言やソーシャルメディアでの激しい投稿を通じて彼らの誤った主張を拡散し、科学者ではない人物を科学顧問に任命し、知識や専門性よりも無知の方が好ましいという考えを積極的に助長してきた。

こうした行動は影響を及ぼしているのだろうか? 間違いなく及ぼしている。アメリカ物理学協会(the American Institute of Physics)によると、物理学分野の博士号取得者がアメリカを離れる割合は過去30年間で最高水準に達しており、わずか1年前のほぼ2倍になっている。その結果生じるこの分野(および他の分野)での頭脳流出(brain drain)は、アメリカを、本来あるべき姿よりも知識、革新性、生産性、そして安全性の低い国にしてしまうだろう。それは、ワシントンにとって最大のライヴァルに科学的優位性を明け渡すことになりかねない「オウンゴール(an own goal)」だ。

(5)「グリーン・トランジション(環境に配慮した経済への移行)」への乗り遅れ(Missing the green transition)。これに関連する失策は、トランプが長年にわたり気候変動を否定し、再生可能エネルギーに反対し、化石燃料の燃焼拡大に固執してきたことに起因する。この分野の文献を読んだり、長期的な気候変動の傾向に注目したりしている人なら誰でも知っているように、こうした姿勢は狂気でさえある。それは、より深刻な気候問題や気候変動に関連する死者数の増加、そして多くの人々の苦しみを招くだけでなく、トランプの政策によって、アメリカが19世紀型の「煙突産業(旧来の重厚長大産業)」(the smokestack technologies of the 19th century.)の技術を担う一方で、中国が未来のグリーン技術(太陽光、風力、蓄電池など)を支配する状況を決定づけてしまった。核融合技術がごく近い将来に商業的に実現し、広く普及すると信じない限り、トランプによる気候変動問題への対応は、アメリカをより弱く、より貧しく、そしてより温暖な国にしてしまうだろう。

(6)法の支配の形骸化(Eroding the rule of law)。トランプが法や規則を軽視していることは良く知られている。彼は、自らの怒りを買ってしまった不運な個人への報復に法制度を利用する一方で、あらゆる法的制約から自らを守るために多大な労力を費やしてきた。彼の個人的な弁護士であり、極めて従順なトッド・ブランシュを司法長官に指名し、人事承認させたことは、こうした動きの最新の段階に過ぎない。彼のこうした取り組みは、イデオロギー的に足並みを揃え、従順な姿勢を示す連邦最高裁判所によって後押しされてきた。連邦最高裁は、ごく一部の場面では彼の行動を抑制したこともあったが、大半においてはそれを容認し、権限を強化する役割を果たしてきた。

なぜこれが重要なのだろうか? それは、アメリカの司法制度の公正さに対する信頼が、アメリカ人にとっても、またアメリカとの貿易や投資を望む外国人にとっても、安心感をもたらすものだからだ。法が公平に解釈され、偏りなく透明性を持って執行されるという信頼があれば、恣意的あるいは政治的動機に基づく決定のリスクが減り、ひいてはビジネスを行う際のリスクも低減される。仮にアメリカの司法制度が政治化し腐敗したと見なされるようになったとしても、外国人がアメリカとの関係を完全に断つことはないだろう。なぜなら、そうした問題がさらに深刻な国は他にも数多く存在するからだ。しかし、アメリカは、かつて自国を極めて魅力的なパートナーたらしめていた重要な特質の1つを、みすみす失ってしまうことになる。

(7)選挙の公正さへの脅威(Threatening electoral integrity)。民主政治体制は、自由で公正な選挙と、選挙結果が投じられた票を正確に反映しているという市民の信頼の上に成り立っている。トランプは当初から選挙制度の公正さに対して疑念を抱かせるような言動を繰り返してきた。その最たる例が、2020年の選挙で実際には自分が勝利したという、根拠のない主張を執拗に繰り返したことだ。実際、選挙の公正さを損なう行為の最も明白な例は、トランプ自身による2020年の敗北を覆そうとする試みだった。彼は怒れる群衆を扇動して連邦議会を襲撃させ、州の選挙管理当局者に圧力をかけて自身の票を上積みさせようとし、さらにはマイク・ペンス副大統領(当時)に対し、宣誓に背いて選挙結果の認定を拒否するよう迫った。真の選挙不正の証拠を探しているなら、これ以上の例はないだろう。

ここで懸念される危険は、選挙に対する国民の信頼が損なわれることで、敗者が有権者の多数の意思を拒絶し、不正に選ばれたと誤認している当局者の決定を受け入れなくなり、さらには国を分断する権力者共同謀議論(conspiracy theories)の餌食になってしまうことだ。選挙が常に不正操作されているという思い込みほど、愛国心や市民としての連帯感を蝕むものはないが、トランプとその取り巻きが行ってきたのは、まさにそのようなことなだ。

(8)権力の抑制と均衡の放棄(Abandoning checks and balances)。行政府の権限拡大はトランプから始まった訳ではない。トランプの2期目においてその動きを加速させた要因、連邦議会の無力さや、「単一の行政府(unitary executive)」の理論を支持する構成となった連邦最高裁などのいくつかは、彼が2024年に再選される以前からすでに存在していた。また、自身の権限に対する制約を疎ましく思い、議会の承認や司法の裏付けを得ることなく、ただ自分の望む通りに行動したいと願った大統領は、彼が初めてではない。

とは言え、憲法に組み込まれた権力分立や抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)を強引に踏みにじろうとするトランプの姿勢は、アメリカの歴史上類を見ないものであり、その長期的な影響は甚大なものとなるだろう。例えば、連邦準備制度の政治的独立性に対する信頼が揺らげば​​海外の投資家は警戒心を強めることになり、大統領の行動に対する歯止めがなくなれば、アメリカの信頼性や予測可能性について他国の懸念を招くことになる。また、国民の支持を得たり議会に説明したりすることなく大統領が何でも自由にできるとなれば、現在のイランとの対立激化のような、思慮に欠ける失態を招く可能性が高まる。トラ​​ンプを、それに反する圧倒的な証拠があるにもかかわらず、神の摂理を体現する無謬の存在(an infallible agent of divine Providence)だと信じ込んでいない限り、アメリカの憲法秩序に対するこうした攻撃は、大いに懸念すべき事態であるはずだ。

(9)建設的な対話の放棄(Abandoning civil discourse)。アメリカの政治的言説を粗野で下品なものへと変質させた責任は、何よりもトランプにある。その要因の1つは、彼が恥じることなく嘘をつく姿勢と能力(共和党の大部分にまで伝染した性質)にあるが、それだけではない。下品な侮辱や暴力的な言葉遣い、反対派を犯罪者や売国奴、あるいはそれ以下の存在として描く支離滅裂な罵倒、そして国民の半数に対するあまりにも露骨な軽蔑といった振る舞いも大きな要因だ。

ヴァンス副大統領をはじめとする彼の支持者たちも、同様の手法を取り入れている。アメリカ人を互いに対立させ、複雑な問題に関する真剣な議論を、まるで学校の運動場での悪口の言い合いのような低次元の争いへと変質させることは、さらなる分極化(polarization)や政治的膠着(gridlock)、そして愚かな決断(dumb decisions)を招く元凶となる。アメリカの現職大統領や副大統領が自ら敵の望むような振る舞いをしている様子を見て、敵対勢力はさぞかし喜んでいることだろう。

(10)アメリカの「ソフトパワー」の破壊(Torching U.S. soft power)。これら全てを合わせると、かつては強大だったアメリカの「ソフトパワー」がリアルタイムで崩壊しつつあるという現実が浮かび上がる。思想を同じくする政治家の一部(主にラテンアメリカ諸国)の間ではトランプの人気は高いものの、全体として見れば、世界の多くの国々の目にはアメリカの地位が著しく低下したと映っている。欠陥を抱えた民主政治体制はもはや他国の憧れの対象ではなく、老朽化が進んだインフラは外国からの訪問者を感嘆させるどころか失望させている。さらに、トランプの略奪的とも言える政策は、かつては世界で最も親米的だった国々(カナダやデンマークなど)さえもアメリカから遠ざけてしまった。

何よりも最悪なのは、彼の気まぐれな意思決定(erratic decision-making)と、能力不足の取り巻きへの依存(reliance on unqualified lackeys)が、持続的な世界的影響力の源である有能さというオーラ(aura of competence)を損なってしまったことだ。アメリカへの評価が、北朝鮮、アフガニスタン、イラン、あるいはイスラエルと大差ないレヴェルにまで落ち込んでいるとなれば、何かが決定的に狂ってしまったことは明らかだろう。

公平を期すために言えば、トランプの2期目が完全な失敗だった訳ではない。彼は小国でトランプ支持派の当選を後押ししたり、一部の同盟国から短期的な経済的譲歩を引き出したりしたほか、最近のワールドカップでは、FIFA(国際サッカー連盟)にアメリカ男子代表選手への処分を撤回させたことさえある(もっとも、その甲斐なくティームは次の試合で敗退したが)。NATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席しても、大きな外交問題を起こさずに済ませることさえできた。

しかし、2期目における彼の最大の功績(accomplishment)は、自分自身と取り巻きを富ませたことにある。まあ、それは決して小さな成果ではないだろうし、そもそも彼が政界入りした真の理由もそこにあったのかもしれない。任期が終わる頃には彼の家族は莫大な富を手にしているだろうが、国家は弱体化し、病み、怒りに満ちた状態になっているはずだ。以前は不明瞭だったとしても、今や明白な事実がある。「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」というスローガンは、最初から単なる詐欺(just a scam)に過ぎなかったということになる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。彼は、現代世界を理解・展望する上で不可欠な主要概念を解説する5部構成のニューズレター・シリーズ『新しい地政学(The New Geopolitics)』著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social Xアカウント:@stephenwalt

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(終わり)


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『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 イラン戦争については、2026年6月19日に停戦に関する覚書に署名がなされて、一応停戦することになった。60日間の間にイランの核開発をめぐる交渉を行い、最終的な和平合意に向けて進むことになっていた。これは、戦争の終結を意味していない。あくまで一時的な停戦、休戦(truce)でしかない。実際に、覚書の照明が実施された後も、アメリカとイラン双方による攻撃が続いている。さらに、ペルシア湾のチョークポイントであるホルムズ海峡の封鎖に関する状況も不透明となっている。加えて、迂回航路となっている紅海のバブ・エル・マンデブ海峡(Bab al-Mandab Strait)で、イエメンの親イラン勢力フーシ派によるサウジアラビアのタンカー攻撃が発生した。フーシ派による紅海封鎖ということになり、世界経済への影響もさらに深刻化する。繰り返しになるが、イラン戦争はまだ終わっていない。

 覚書の内容を見れば、アメリカの大幅な譲歩(concession)である。大規模な攻撃直後に、アメリカのドナルド・トランプ大統領もイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が主張した、イラン国内の体制転換(regime change)を達成することができず、イランの反撃能力を排除することもできず、イランによるホルムズ海峡封鎖を引き起こし、世界経済への悪影響を生み出すことになってしまった。イラン戦争は失敗である。核兵器開発を止めた、止めたと宣伝しているが、攻撃前にイランが核兵器を開発したということはなく、核兵器開発に関しては交渉で止めることは可能であった。イラン戦争の意味はなく、かえって、アメリカとイスラエルにとっては「敗北」に近いものとなった。

アメリカの交渉担当は、トランプ大統領の古くからの盟友でビジネス経験豊富のスティーヴ・ウィトコフとトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーである。彼らは「金銭と引き換えに交渉を進める(pay to play)」というビジネス的な手法を用い、イランに対し「ウラン濃縮停止や革命の輸出停止と引き換えに、3000億ドル規模の民間投資や近代化」を提示している。カタールの特使アル・サワディが交渉のキーマンとなり、交渉の仲介し、ペルシア以来の「時間をかけて相手を消耗させる交渉術」やイランの複雑な官僚機構・内部事情を深く理解しながら調整を行っているということだ。イラン国内では、現実的な最終合意を目指す勢力(ガリバフ国会議長など)と革命路線を維持しようとする強硬派との間で権力闘争が激化している。

 イランが近代的な中央集権的な国家体制ではないところが交渉において難しいポイントになる。そうした中で、何とか戦争の「出口(exit)」を見つけることが必要だ。イラン戦争だけではないが、どの戦争でもそうだが、戦争は終わることが何よりも難しいということになる。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ政権はいかにしてイランからの出口を構築したか(How the Trump Administration Built Its Exit Ramp in Iran)

-紆余曲折を経た交渉(zigzag bargaining)が投資家への売り込み(an investor pitch)を脆弱な和平合意(a fragile peace deal)へと変化させた。

デイヴィッド・イグナティウス筆

2026年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/16/trump-iran-cease-fire-deal-nuclear-program-negotiation-hormuz/

アメリカとアラブ諸国の交渉担当者たちが、過去5カ月にわたるイランとの長きにわたる紆余曲折の交渉の内幕を語るのを聞いていると、日曜日に発表された枠組みは、この物語の終着点ではなく、中間段階に過ぎないという印象を受ける。それは、最終的には惨憺たる失敗に終わる可能性もあれば、トランプ政権が期待するように、近代イランへの劇的な変革の始まりとなる可能性もある。

率直に言って、外交的に言えば、この合意は、多大な犠牲を伴い、国民の支持も得られなかった戦争からの出口(an exit ramp)であり、勝利のパレード(a victory parade)ではない。この合意は、ドナルド・トランプ大統領が当初語っていた政権交代(regime change)や無条件降伏(unconditional surrender)には足りない。トランプ大統領の側近の一人でさえ、「現時点では結論は出ていない。大成功とも失敗とも言えない」と認めている。

答えよりも疑問点の方が多い。テヘランの核開発計画を制限する具体的な内容はまだ交渉されていない。ホルムズ海峡は再開されつつあるが、それは一時的なものに過ぎないかもしれない。合意はレバノンに適用されるようだが、イスラエルやヒズボラがそれに従うとは限らない。そして何よりも懸念されるのは、テヘランに強硬派政権(a hard-line regime)が依然として存在し、アラブ諸国やイスラエルを脅かす力を持っていることだ。

アメリカ側の主要な交渉担当者は、トランプ大統領の特使であるジャレッド・クシュナーとスティーヴ・ウィトコフだ。それぞれ大統領の義理の息子と親友である。彼らは外交官ではなく投資家である。そのため、この交渉は特異なリスクとリターンの性質(a peculiar risk-reward character)を呈している。外交官のブリーフィングというよりは、投資家への売り込み(an investor pitch rather than a diplomat’s brief)という様子だ。「形式的な手続きを踏む(check the boxes)」のではなく、「金銭と引き換えに交渉を進める(pay to play)」というテーマが中心となっている。

交渉関係者によると、クシュナーは4月にイスラマバードでイランのモハマド・バゲル・ガリバフ国会議長と会談した際、「ロールス・ロイス並みの価格を望むなら、ロールス・ロイス並みの製品が必要だ」と率直に告げたという。つまり、イランがホルムズ海峡の開放を維持し、ウラン濃縮を20年間停止し、革命輸出を止めれば、数千億ドルもの利益を得られるということだ。

アメリカの提案は、事実上、イランの近代化に向けた3000億ドル規模の民間投資計画を通じて、イランの資本増強を図るものだ。例えば、クシュナーはイラン側に対し、イランの国営石油・ガス会社はサウジアラムコよりも規模が大きくなる可能性があるが、それはイランが革命活動を停止した場合に限られると伝えたと関係者は述べている。安定と法の支配(stability and rule of law)がなければ、イランは脆弱なままであり、これらの変化が実現すれば、戦後復興の好景気を享受できるだろう。

ここで、適切な懐疑心を持つべきだろう。イランの指導者たちは、最も強力な強硬派だ。彼らはイスラエルの爆撃や暗殺未遂を生き延びてきた。多くは敬虔な宗教信者であり、西側諸国とその価値観を軽蔑している。彼らの気質は、ウーバーCEOのダラ・ホスロシャヒのような亡命イラン人実業家よりも、北朝鮮の金正恩に近い。彼らが関心を持っているのは、レバレッジド・バイアウトではなく、復讐なのだ。

しかし、クシュナーとウィトコフは、カタールのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマン・アル・サーニ首相の戦略問題担当相アリ・アル・サワディという並外れた仲介者を通して交渉を進めてきた。アル・サワディは、中東地域とその文化に対する稀有な理解をもたらしている。ある情報筋によると、彼は和平枠組みを固めるために、過去10日間で4回もテヘランを訪問している。アル・サワディは一般にはほとんど知られていない人物だが、ガザ和平交渉、ヴェネズエラ問題、そしてトランプ政権のその他6つのプロジェクトにおいて重要な特使を務めた。また、ジョー・バイデン政権との調停活動にも携わった。

「私たちが心に留めておくべき最も重要なメッセージは、イランは過去47年間、世界から孤立してきた国であり、国民は文字通り自分たちのコミュニティ以外とは一切コミュニケーションを取っていないということ」と調停ティームに近い関係者は説明した。「私たちは彼らに、世界はもっと広く、彼らもそこで受け入れられる可能性があることを示さなければならない」。

アメリカ人はイランを最高指導者の決定が絶対的な神権政治国家だと想像している。しかし、中東地域の人々は、イランを幾重にも重なる官僚機構を持つ、極めてゆっくりとした動きをする制度国家(an institutional country with layers of bureaucracy that move agonizingly slowly)だと認識している。支配組織であるイスラム革命防衛隊でさえ、派閥や個性的な人物が入り乱れる多層構造になっている。こうした文化を理解しているカタール、そしてサウジアラビアやアラブ首長国連邦からの特使たちは、巧みに交渉を進めてきた。

トランプ大統領のようなアメリカ人は迅速な結果を求めているが、アル・サワディはそのプロセスを遅らせることに成功している。調停ティームに近い関係者はこう説明する。「忍耐(patience)はペルシア人のDNAに組み込まれている。彼らと接する際には忍耐が必要だ。なぜなら、それが彼らの秘密兵器(secret weapon)だからだ。彼らは相手を苛立たせて追い詰め、消耗させてから、最大限の成果を引き出すことができるのだ」。アル・サワディが日曜日にテヘランで行った最後の交渉は17時間に及んだ。

クシュナーとウィトコフにとって、この交渉は数カ月前から始まっていた。2月26日、イランのアッバス・アラグチ外相との会談で合意に近づいた。イランは枠組み合意案を提示したが、「網に8つの穴が開いていて、そのうち5つを塞ごうとしているようなものだった」と交渉関係者は振り返る。

アメリカ側は、交渉が「時間切れになる可能性がある」と警告した。その2日後、イスラエルが戦争を開始し、アメリカも参戦した。イラン当局者によると、戦争が始まった当時、イランはミサイル生産を増強しており、月に最大100発のミサイルを製造し、2025年6月の「ミッドナイト・ハンマー」作戦で破壊されたものを「急速に再建」していたという。

戦争は政権の結束を強めた。しかし、イスラマバードでの停戦合意後、最終合意を目指すイラン指導者と、革命路線を維持しようとする指導者の間で亀裂が生じ始めた。

ガリバフはイスラマバードでの21時間に及ぶ交渉において、理性的で分別のある人物であることを示し、アメリカ側に好印象を与えた。しかし、テヘランに戻った後、武装勢力に襲撃され、一時的に政界から遠ざけられた。イスラマバード後の指導権争いは「まるでジャンプボールのようだった」と交渉関係者は語る。

この関係者は、「私たちは、イランの政権内部に緊張を生み出すような状況を作り出した」と説明する。ガリバフとその支持者たちは現在、主導権を握っているように見える。彼は金曜日にジュネーブで枠組み合意に署名する予定だが、政権内部の権力闘争は今後も続く可能性が高い。

ホルムズ海峡という重要な問題について、アメリカ政府当局者は、イランの国家安全保障会議議長を務め、戦争初期にイスラエル軍の爆撃で殺害されたアリ・ラリジャニの発言を回想した。「彼は、西側諸国の反応を考えると、海峡を封鎖することは一度しか使えない切り札だと述べた(He said closing the strait was a card they could only play once)」とこの当局者は語った。その評価は正しかったと当局者は述べた。戦後の変化により、海峡の防衛が強化され、石油を海上タンカーではなく陸上のパイプラインで輸出する代替ルートが確保されるだろう。

アメリカ政府当局者によると、ここ数週間であまり注目されていない進展の1つは、「プロジェクト・フリーダム」として知られるタンカー護衛計画がひっそりと継続されていることだという。この計画はサウジアラビアの反対を受けて5月に正式に棚上げされていた。当局者によれば、限定的な形で継続されており、湾岸地域を経由して1日700万バレルの原油輸出が認められている。

交渉関係者によると、アメリカの交渉担当者は、イランが和平合意後に経済投資と近代化の機会を捉えることを期待しているが、同時にそれは賭けであるとも認識している。「彼らが政治的な駆け引きをうまくこなし、実際にそれを実行できるかどうかは、時間が経てば分かるだろう。今後数カ月で明らかになるだろう。・・・私たちは可能な限り最も変革的な選択肢を目指している」と当局者は述べた。

私がこの地域を取材して見てきたが、中東における数々の壮大な計画が失敗に終わるのを見てきた者であれば、この壮大な変革構想が成功するかどうか疑問に思わざるを得ないだろう。しかし、イランの運命を革命から責任ある近代国家(a responsible modern state)へと転換させることこそが最大の課題であり、政権交代の失敗を鑑みると、トランプ政権が提案している案以上に良い道筋は見当たらないというのが率直な見解だ。

イラン和平交渉の中心人物であるこの高官は、交渉担当者としての自身の見解を要約するよう求められ、トランプとその和平案に対する評価に関わらず、おそらく全ての関係者が共有するであろう見解を述べた。「私が得た最大の教訓は・・・戦争を始めるのは非常に簡単だが、そこから抜け出すのは非常に難しいということだ(My biggest lesson … is it’s very easy to start a war and it’s really hard to get out)」。

※デイヴィッド・イグナティウス:『ワシントン・ポスト』紙コラムニスト。彼の記事は頻繁に『フォーリン・ポリシー』誌に転載される。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカとイスラエルがイランに対して大規模攻撃を行ったが、それ以前はオマーンを仲介役として核開発に関する交渉を行っていた。イギリスの『ガーディアン』紙の報道によると、イラン側の譲歩によって核兵器開発繋がる物質の放棄を受け入れ、アメリカによる経済制裁の大幅解除に合意直前であったが、結局、イスラエルの使嗾によって、アメリカとイスラエルはイランに大規模攻撃を行った。アメリカ軍の制服組はイラン攻撃のリスクの大きさを助言し、J・D・ヴァンス副大統領(海兵隊時代にイラク派遣を経験)は攻撃に消極的で、「攻撃するならば、長引かないように、大規模で短期間に終わるようにすべき」と主張していた。結局、ドナルド・トランプ大統領によって攻撃が決断されたが、当初の想定と大きく外れ、戦争は長引くことになった。攻撃開始から1カ月弱が経とうとしているが、停戦の目途は立っていない。

 アメリカのウクライナと中東(イラン)の外交交渉の最前線に立っているのが、スティーヴ・ウィトコフ特使とトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーである。ウクライナ戦争の停戦がうまくいかず、イランとの関係も結局戦争になってしまったことで、ウィトコフとクシュナーに対する評価は低い。実際、以下の論稿にあるように「落第」「不合格」「F」という評価になっている。しかし、私はあえて両者を擁護したいと思う。

ウクライナに関しては、トランプが選挙戦から政権発足直後のように、ウクライナに対する支援を打ち切るというカードを使って、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に停戦を迫っていれば、停戦は実現していた可能性は高い。もちろん、条件交渉はする必要があるが、大枠ではその方向に進んでいただろう。しかし、トランプが中途半端にウクライナ支援を継続するという方向転換を行ったために、ゼレンスキー大統領は嫌な決断を先延ばしできる状況になっている。これでは条件交渉もできない。

 イランについては、戦争開始の隠れ蓑のために交渉を続けさせられていたということになる。ガーディアン紙の報道の通りならば、イランの譲歩もあって、アメリカとの合意は間近であったようだ。それで困難な立場になるのがイスラエルだ。イスラエルはイランが核兵器外の通常兵器を維持したままで、アメリカの経済制裁解除を勝ち取ってしまえば、経済力の上昇と共に軍事力強化も進み、中東地域におけるイスラエルの優位性が崩れてしまう。そして、アメリカの西半球撤退もあり、孤立してしまう危険性を避けるために、アメリカを中東地域に縛り付けておくために、戦争を選択した。トランプ周辺には親イスラエル人脈が張りめぐらされている。ウィトコフとクシュナーも親イスラエルである。しかし、交渉役としてイランと合意直前であったことは強調されるべきだろう。

 交渉役の出来ることは限られている。その後ろの指導者たちの意向が最重要である。交渉役が仕事を失敗していると非難することは簡単だが、その後ろにいる指導者たちこそが最も批判されるべき立場である。

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スティーヴン・ウィトコフとジャレッド・クシュナーの外交手腕は落第(F評価)(Witkoff and Kushner Get an F in Diplomacy)

-経験不足で任務に手を広げすぎたトランプ政権の特使たちは3つの最前線で失敗した。

アーロン・デイヴィッド・ミラー、ダニエル・C・カーツァー筆

2026年3月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/03/witkoff-kushner-trump-fail-diplomacy-iran-ukraine-gaza/

オマーンとスイスで行われたアメリカとイラン交渉の失敗と、戦争への急展開は、イランとの交渉がいかに困難であるかを痛烈に思い起こさせる出来事である。しかし同時に、ドナルド・トランプ米大統領が紛争解決のために構築した交渉体制が、いかに混乱を極めているかも露呈している。

アメリカ外交の歴史において、大統領が3つの歴史的な紛争の解決を、親友と義理の息子に同時に委ねるという前例は存在しない。ヘンリー・キッシンジャー元国家安全保障担当大統領補佐官兼国務長官は、1970年代に中国との国交正常化、ヴェトナム戦争に関するパリ和平協定、そして1973年の第四次中東戦争後の3つの撤退協定という、3つの偉業を成し遂げた。しかし、スティーヴン・ウィトコフとジャレッド・クシュナーはキッシンジャーとは似ても似つかない。そして戦略的思考という点では、トランプはリチャード・ニクソンとは比べ物にならない。

トランプの家族や友人にアメリカの外交を委ねることには、もちろんメリットもある。それは、仲介者がトランプと個人的なつながりや信頼関係を築き、主要な意思決定者と接触できる点だ。しかし、デメリット、特に大統領執務室に大人の監督者がいないという点は、そうしたメリットをはるかに上回る。トランプの三段構えの交渉術(three-ring negotiating)は失敗に終わっている。その理由は以下の通りだ。

●戦略における空白(Strategic vacuum)

ロシア・ウクライナ、イラン、イスラエル・パレスティナという3つの紛争におけるアメリカの政策は、方向性が欠如しており、全体的な戦略もなく、手段と目的の連携もほとんど取れていない。トランプ大統領はウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領に対して強い偏見を示し、この紛争における明白な侵略者であるロシアに圧力をかけることにも同様に消極的である。制裁(sanctions)を通じてロシアの諸機関にかけられたわずかな圧力は、トランプ大統領がウクライナへの圧力、すなわちヨーロッパにウクライナ向けアメリカ製兵器の費用を負担させ、キエフの長距離攻撃能力を否定することでウクライナにかけた圧力に比べれば、取るに足らないものだ。アメリカの交渉担当者は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領に戦争停止を迫ろうとしない大統領によって身動きが取れなくなっている。表面的には、プーティン大統領の戦争目的からすれば、いかなる合意もほぼ不可能である。それにもかかわらず、トランプ大統領の指示を受けたクシュナーとウィトコフは、ロシアに迎合し、トランプ大統領が持つ強力な影響力を行使することを拒否することで、自ら交渉の場から退いてしまった。

現在進行中のアメリカとイスラエルによるイラン攻撃も、同様に戦略的なポイントを欠いている。トランプ大統領と報道官たちは、戦争開始を正当化するに足る重大な理由を説明しようと、必死に言葉を選んでいる。トランプ大統領は体制転換(regime change)を理由に挙げたものの、その後の発言ではその点に触れていない。一方、ピート・ヘグセス米国防長官は体制転換ではないと述べている。ダン・ケイン米統合参謀本部議長は、イランの海外への軍事力投射能力(Iran’s capacity to project its power abroad)を破壊することを目的としたと述べた。トランプ大統領は、イランのミサイルがアメリカに向けて発射される寸前だと述べたが、軍関係者はイランがアメリカを攻撃する計画を立てている証拠はないと述べている。

ウィトコフとクシュナーは、トランプ大統領の意図を察知し、その指示の下、トランプ大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が戦争を画策する一方で、イランと交渉し、実現不可能な要求を突きつけるという欺瞞戦略(a deception strategy)を実行したことは明らかだ。2025年6月のイランとの戦争と現在の紛争の両方において、トランプ政権は戦争が差し迫っていることを知りながら、フォローアップ協議を予定し、マルコ・ルビオ米国務長官のイスラエル訪問まで計画していた。オマーン外相は、アメリカが戦争に突入する前日、ワシントンで不運にも孤立無援の状態に陥った。

ガザ地区については、ウィトコフとクシュナーの茶番劇(charade)はさらに顕著だ。トランプ大統領は停戦を皮切りに、イスラエルに20項目の和平案を受け入れさせることに成功したが、その後は真剣な交渉ではなく、一連のパフォーマンス的な行動が続いている。いわゆる「平和評議会(Board of Peace)」はガザ地区への資金調達に役立つ可能性を秘めているが、ハマスに非武装化(demilitarizing)を、イスラエルに撤退(withdrawing)を迫る真剣な圧力がなければ、ハマス支配地域では資金となる建設事業は存在しないだろう。ネタニヤフ首相とハマスは明らかに現状維持(status quo)を望んでいる。

クシュナーがダヴォスで開催された今年の世界経済フォーラムで発表したガザ地区の近未来計画(a day-after plan)は、ホームレス、食糧不安、健康被害が依然として存在する社会について、ディズニーランドのような幻想的な空想を描く内容に過ぎなかった。ガザ和平案にはパレスティナ側の高官代表は関与しておらず、パレスティナ自治政府の役割もほとんどなく、トランプ政権はヨルダン川西岸におけるイスラエルの併合政策を抑制しようとする努力すら見せていない。ましてや、イスラエルが現在占領しているガザ地区の50%以上からイスラエルを撤退させるなど、なおさらである。イランとの戦争はトランプ案の実施を遅らせるだけであり、ガザ地区は分断され、機能不全に陥り、散発的な暴力が蔓延するだろう。

●専門知識もなく、プロセスもない(No expertise, no process)
ウィトコフとクシュナーの不動産取引能力を評価するには、私たちよりも、不動産業界の専門家たちの方が適任だろう。外交官として数十年の経験を持つ私たちは、ウィトコフとクシュナーのティームがイスラエル・パレスティナ紛争の根深い問題、共有する宗教空間の重なり合い、そして双方の要求とニーズについて、明らかに無認識もしくは無理解であると結論づけることができる。これは確かに不動産取引の一面もあるが、それ以上に複雑な問題だ。トランプ政権1期目、クシュナーは私たちの1人に、過去の合意や交渉について聞く気はないと語った。その後、イスラエルとパレスティナ間の和平交渉の過去の試みから学ぶべきことは何もないと宣言した。クシュナーはアブラハム合意ではより大きな成果を上げた。しかし、トランプ政権のパレスティナに対する政策は完全に失敗だった。実際、トランプが1期目にパレスティナとの関係を断ち、イスラエルが既に支配している歴史的パレスチナ・イスラエルの大地(Eretz Israel、エレツ・イスラエル)の78%に加えて、ヨルダン川西岸の30%を併合することを容認する一方的な計画を提示したことは、外交がいかに現実からかけ離れていたかを如実に示している。

ウクライナにおいて、トランプ大統領はウィトコフとクシュナーに対し、ゼレンスキー大統領に自国領土の戦略的に重要な部分を、ウクライナ全土の征服という長年の目標を放棄する気配すら見せない侵略者に割譲するよう迫るよう指示した。プーティンの特使キリル・ドミトリエフは、トランプ政権に対し、トランプや側近、その家族のビジネス利益につながるロシアでの商業取引案で誘惑してきた。アメリカ側交渉担当者は、紛争の複雑な背景や大西洋横断・世界的安全保障への広範な影響にはほとんど関心を示さず、むしろウクライナがロシアの要求に屈服する形で合意を急ぐ姿勢を見せている。

同様にイランでは、オマーンのホスト兼仲介者たちが、ウィトコフとクシュナーが真剣に交渉しているという幻想を剥ぎ取った。トランプが2018年に包括的共同行動計画(JCPOA)から離脱した後、新たな合意達成のハードルは越えられないほど高くなった。イランがウラン濃縮制限や侵入的な査察を受け入れる可能性はあったが、濃縮をゼロにすることを期待するのは最初から無理な話だった。ウィトコフとクシュナーは、JCPOAを破棄した大統領から「無償の濃縮ウラン供給(free enriched uranium)」を約束されても、イランがそれを信じるだろうと本気で考えていたのだろうか? 戦争直前にフォックスニューズで語ったウィトコフの発言は、イランがアメリカの圧力に「屈服(capitulated)」しなかったことに驚愕していることを露呈していた。

●規律の欠如(No discipline)

トランプ大統領と交渉担当者は、国内外を問わず、交渉や戦略的コミュニケイションにおいて一切の規律を示していない。ガザ問題では、トランプがネタニヤフ首相の目標に同調し、イスラエルの利益に従属する姿勢が致命的な欠陥となっており、1990年代半ば以降のアメリカの仲介努力の大半を損なってきた。イスラエル・パレスティナ紛争には2つの当事者が存在するが、ウィトコフとクシュナーはネタニヤフの利益のみに対処しようとしてきた。

トランプのトゥルース・ソーシャルのプラットフォームが国内政治で彼に提供する利点はあるが、外交政策、特にこれら3つの交渉においては、それは極めて大きな負担となっている。ウィトコフとクシュナーがロシア、ウクライナ、イスラエル、オマーンと接触する一方で、トランプはSNSで威嚇と空虚な誇大発言を繰り返している。結果としてアメリカの交渉相手は、何を信じればよいのか全く判断がつかない状態だ。

このような外交を行うことがいかに困難なことかを私たちは知っている。特に、紛争終結よりも自らの地位維持やイデオロギーへの固執に重きを置く指導者たちとの交渉はなおさらだ。私たちもその場に立ち会い、成功と失敗を経験してきた。したがって、キッシンジャーを復帰させ、ジェームズ・ベイカーとタッグを組ませ、ジョージ・H・W・ブッシュのような外交判断力と経験を持つ大統領をホワイトハウスに据えたとしても、ロシアとウクライナ問題を打開できるかどうかは分からない。ましてやイランやイスラエル・パレスティナ紛争の解決などなおさらである。仲介者がどれほど有能であろうと、紛争当事者双方に「合意が望ましく実現可能である(a deal is desirable and possible)」という共通の切迫感がなければ、仲介者がインセンティヴとディスインセンティヴを用いて合意へと導くことはできない。

しかし、気まぐれな大統領、戦略の欠如、強い偏見、素人同然で無理な交渉担当者、そして自己利益追求の度合いが重なり、ウィトコフとクシュナーが3つの交渉全てで失敗に終わった理由が明らかになった。これらの紛争のいずれも、最良の状況下でも外交的解決が可能だったかどうかは定かではない。しかし、トランプ大統領の失敗したリーダーシップと、ウィトコフとクシュナーの失敗した交渉によって、状況は悪化する一方だ。アメリカ、イスラエル、イランは戦争状態にあり、ロシアとウクライナは依然として戦争状態にあり、イスラエルとハマスも事実上戦争状態にある。寛大に評価するならば、クシュナーとウィトコフには今学期の成績評価を「評価保留(incomplete)」とするべきだろう。しかし、実際に何か重要な成果を出すまでは、彼らにはF評価を与えざるを得ない。

※アーロン・デイヴィッド・ミラー:カーネギー国際平和財団上級研究員。歴代の共和党政権と民主党政権の両方で米国務省の中東アナリスト兼交渉官を務めた経歴を持つ。著書に『偉大さの終焉:なぜアメリカはもう偉大な大統領を持てないのか(そして望まないのか)(The End of Greatness: Why America Can’t Have (and Doesn’t Want))』がある。Xアカウント:@aarondmiller2

※ダニエル・C・カーツァー:駐エジプト米大使、駐イスラエル元米大使を歴任。プリンストン大学公共国際問題大学院で外交と紛争解決について教鞭を執っている。Xアカウント:@DanKurtzer

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 古村治彦です。

 2026年2月24日で、ウクライナ戦争は満4年、5年目に進む。アメリカの仲介による停戦の動きは進んでいない。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は共に、アメリカ側から提案される条件に同意していない。プーティン大統領は慌てて停戦をする必要がない状況であり、できるだけ良い条件を引き出すための「熟柿(じゅくし)作戦(Waiting for the right moment)」を展開している。柿が熟れて自然と落ちてくるまで待つということになる。

 ゼレンスキー大統領は追い込まれている。西側諸国からの支援を受けて、戦線を維持しているが、支援もいつまで続けてもらえるか分からない。既に国土の6分の1を失い、多くの死傷者を出している。ウクライナ政府の非効率性や腐敗も、世界中からの注目もあって、白日の下に晒されている。このような状況であったなら、ウクライナ軍が敢闘し、ロシア軍の進行を阻止し、ロシア軍が慌てていた戦争の初期段階で、停戦交渉を行った方が良かったということになる。その後も大反攻(great counter-attack)を企図したが、それも失敗した。支援したアメリカ軍やイギリス軍の将官たちから、「そんなものが成功するはずがない」と批判されていながら、反攻作戦を強行し、失敗した。ロシア軍は守りを固めつつ、ウクライナを攻撃している。戦線は膠着している。ゼレンスキーは八方塞がりになっている。
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 ウクライナ軍はドローン戦闘機を使っての攻撃も行っているようだが、その効果も限定的である。そのようなゲリラ戦に毛が生えたような攻撃で、ロシア軍を押し戻すということは不可能である。既に勝負は決している。これ以上は徒に犠牲を増やすだけである。狂信的なナショナリズムや精神力で戦争を維持することが得策とは言えない。はっきり書けば、ウクライナ以外の国々は「早く停戦交渉のテーブルに着いて、少しでも良い条件の停戦を勝ち取る方が良いのに」と考えている。ウクライナ国民にとっては残念なことだと思う。しかし、国際政治は残酷な面を持つのもまた事実だ。平和を回復して、今度こそ、公明正大な政府を構成し、その恵まれた肥沃な大地から立ち上がって欲しい。

 そして、私たちは、ウクライナの状況をしっかり観察し教訓を得て、日本がそのような状況に陥らないように動くことが肝要だ。しかし、私は、日本国民全体がそこまでの賢さと能力を持っているかという点について、残念なことであるが悲観的になっている。

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ウクライナのドローン攻撃は問題にはならない(Ukraine’s Drone Attack Doesn’t Matter)

-残念なことだがこの派手な作戦は根本的な現実を変えるものではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年6月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/09/ukraine-war-drone-attack-spiderweb-russia-air-bases/

ウクライナによるロシア奥地の空軍基地への劇的で衝撃的な無人機攻撃「蜘蛛の巣作戦(オペレイション・スパイダーズ・ウェブ、Operation Spider’s Web)」は、2022年にロシアが違法な侵攻を開始して以来、この戦争を特徴づけてきたいくつかのテーマを浮き彫りにしている。これはウクライナの回復力(resilience)、創造性、そして大胆さ(audacity)を示す好例であり、これらはモスクワを幾度となく驚かせてきた資質である。また、この作戦はロシアの国家安全保障・情報機関の無能さ(incompetence)と油断(complacency)を暴露した。彼らは、ウクライナが100機以上の殺傷能力を持つ無人機と遠隔操作装置をロシア領土の奥深く、戦略爆撃機が配備されている空軍基地の近くに密輸しようとした試みを予測も検知もできなかった。ロシアの戦場での戦闘能力は戦争初期から向上しているが、国家安全保障体制は依然として脆弱である。

しかしながら、「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」の報を受けて多くの観測者が感じた当然の満足感は、ロシアの侵攻に対する効果的な対応策を練る努力を損なってきたいくつかの誤りをも反映している。優れた戦術的革新(tactical innovations)も、戦力や決意の非対称性(asymmetries in forces or resolve)、そして効果的な全体戦略の欠如(the absence of an effective overall strategy)を補うことはできない。開戦から3年が経過した現在も、キエフとその支援者たちは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の戦争目的を阻止し、戦闘終結を説得するための説得力のある計画を依然として欠いている。プーティン大統領の決意は今回の事件によって揺るぎないように見え、ドナルド・トランプ米大統領に対し、ロシアは報復する決意であると明言したことは、まさにその言葉通りだった。

さらに重要なのは、ウクライナの攻撃の戦術的独創性に目を奪われて、その戦略的重要性の無さに目をつぶるべきではないということだ。ドローン攻撃は斬新であり、戦争のあり方、そして今後のあり方を既に変えているが、結局のところ、それは航空戦力のもう一つの形態に過ぎない。たとえ非常に効果的な空爆であっても、それだけで戦争に勝利することはほぼない。しかし、航空戦力(ドローンを含む)は地上部隊の作戦において重要な役割を果たす可能性がある。

戦略的な観点から、これらの問題を最もよく研​​究をした、ロバート・ペイプは、1991年に著した『勝利のための爆撃:戦争における航空戦力と強制(Bombing to Win: Air Power and Coercion in War)』を出版した。ペイプは、航空戦力は民間人を懲罰したり、敵の戦略資産を危険に晒したり、敵の指導部を失脚させたり、敵の戦争目的を達成するための軍事力を奪ったりするために使用できると主張した。彼の事例は、最初の3つの戦略では敵を降参させることはほとんどなく (たとえば、民間人を爆撃すると、敵が戦争遂行をさらに強く支持するようになる傾向がある)、航空戦力は他の軍事資産と組み合わせて使用​​して敵軍を打ち破り、戦略目標を達成できないことを敵に示す場合に最も効果的であることを示した。

この観点から見ると、最近のウクライナのドローン作戦は、純粋に戦術的な観点からは確かに印象的であったものの、本質的には脇役的であり、本筋ではなかった。この点において、これは、同じく予想外で当初は成功したものの戦況を変えることができず、その後完全に逆転したクルスク近郊へのウクライナの侵攻と類似している。12機以上の戦略爆撃機を破壊したとしても、ロシアがウクライナへの進撃を継続したり、ウクライナの都市に対してミサイルや無人機による追加攻撃を実施したりする能力に、実質的な影響を与えることはないだろう。

確かに、この作戦はウクライナの士気を高め、ウォロディミール・ゼレンスキー大統領の人気を高め、ロシアに将来的な同様の作戦を阻止するための資源投入を迫っていることは間違いない。ロシアの国家安全保障エリートの間で、この戦争の賢明さとプーティン大統領の戦略に対する疑念が高まったのではないかと期待する声もあるが、プーティン大統領の権力基盤が揺ぐ、もしくは、戦争に反対するエリートや国民がプーティン大統領の考えを変えるような兆候は見られない。もしそうなれば素晴らしいが、計画を立てる材料としては薄っぺらなものに過ぎない。

この状況は、ウクライナとその支援諸国を、戦争開始以来直面してきたのと同じ難題に直面させる。すなわち、ウクライナの地政学的立場(Ukraine’s geopolitical alignment)を存亡の問題と見なし、最低限の戦争目的としてウクライナが西側の防壁となることを阻止することを掲げる、数的に優位な敵をどう打ち破るかという課題である。ウクライナ国民は祖国防衛のために並外れた犠牲を払ってきたが、戦略的パートナー(ジョー・バイデン前米大統領を含む)のいずれも自分たちの軍隊や領土を危険に晒す意思を示していない。この非対称性を踏まえ、キエフと西側諸国は代わりに、ウクライナの不屈の精神(Ukrainian grit)、西側の財政・物資支援、そしてロシアに対する厳しい経済制裁(economic sanctions)の組み合わせが、最終的にモスクワに方針転換を促すことを期待してきた。

それはまだ起こっていない。現時点では、そうなる可能性はますます低くなっているように思える。2022年秋のウクライナの攻勢は戦況を覆すことはできず、その後の2023年夏の反攻(ウクライナを支援・支援する西側諸国によって装備・訓練された新設旅団が投入された)は、多大な犠牲を伴う大失敗に終わった。前述の通り、クルスクへの侵攻は当初成功したものの、戦争の軌道を変えることも、キエフに有効な交渉材料を提供することもなかった。ロシア軍は多大な犠牲を払いながらも、ゆっくりと前進を続けている。戦場の情勢が概ねプーティン大統領に有利に進んでいる現状では、トランプでさえプーティン大統領には戦争を終わらせる動機がほとんどないことに気づき始めているようだ。

戦争終結への希望は、相互に受け入れられる解決策を見出すことを特に困難にする政治勢力との闘いにも直面しなければならない。キエフとモスクワは戦争以前、ほとんど互いを信頼していなかったが、今や全く信頼していない。プーティン大統領は、開戦前からロシア国境付近におけるNATOの存在を致命的な危険と見なしていた。フィンランドとスウェーデンの参加、そしてNATOによるウクライナへの支援は、プーティンの懸念を間違いなく高めた。同時に、ロシアの行動は近隣諸国にロシアの将来の意図に対する懸念を一層深めさせ、ロシアへの譲歩を躊躇させている。ロシアと西側諸国間の安全保障のディレンマ(security dilemma)は、開戦前よりも今の方が深刻化しており、安定的で相互に受け入れられる解決策の策定はより困難になるだろう。そして、お馴染みのサンクコスト(sunk cost)の誤謬を忘れてはならない。あるロシア兵が最近『ニューヨーク・タイムズ』紙に次のように語った。「私たちは皆疲れ果てており、家に帰りたい。だが、将来、それらの地域のために苦労しなくて済むように、全ての地域を奪取したい。そうでなければ、兵士たちは皆、無駄死ということになるではないか?(have all the guys died in vain?)」。こうした感情はウクライナにも間違いなく存在している。

戦争のこの時点で、正しい答えがあると過信すべきではなく、完璧な結果を得ることは過剰な期待ということになる。しかし、新たな兵器や戦術、あるいは「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」のような大胆だが本質的に限界のある作戦に期待を託すのは、単なる希望的観測に過ぎない。むしろ、ウクライナにロシアに不釣り合いな損害を与える能力を与え続けること、そしてモスクワを抑止し安心させる中央ヨーロッパの将来の安全保障体制を真剣に構想し交渉することこそが、戦争を終結させ、ウクライナの残存部分を保全する唯一の方法だ。これは宥和政策(appeasement)ではない。ロシアの現状打破(undermining the status quo)への関心を低下させ、その試みが失敗に終わることを確信させるような安全保障体制の交渉に前向きであることを意味する。

残念ながら、特にトランプ政権のこの問題への不安定な対応と、多くのヨーロッパ諸国に対する根底にある敵意を考えると、西側諸国の指導者たちがこの方針を追求するのに十分な団結力、決意、そして想像力を持っているとは到底言えない。結局、ウクライナの運命を決めるのはこうした政治的要因であり、戦術的には素晴らしいが戦略的には無関係な英雄的防衛軍の努力ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、 Xアカウント:@stephenwalt

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 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。ブログ継続のために書籍の購入をいただけますよう、よろしくお願いいたします。

 2025年1月20日に第二次ドナルド・トランプ政権が発足した。あと3週間ほどで1年が経とうとしている。トランプ政権は、ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争の停戦を期待されていたが、ウクライナ戦争については停戦に至らずに2025年を終えようとしている。イスラエル・ハマス紛争は紆余曲折、途中でイランとの紛争もありながら、一応の停戦が実現した。トランプ政権はナイジェリアのイスラム国勢力へのミサイル攻撃や、ヴェネズエラの船舶への攻撃と圧力を強めている。これは、「西半球(Western Hemisphere)」はアメリカの勢力圏だという「モンロー主義」に基づいた行動だ。西半球から反米的矢要素と中国やロシアの影響を駆逐しようという動きだ。これは「ヨーロッパからは撤退する」ということでもある。問題はアジアである。中国がアメリカの強力なライヴァルとなっているが、既にアメリカが単独で中国を楽にいなして勝利するということはできない。中国はアメリカと直接軍事的にぶつからないようにしながら、アメリカの弱体化を待っている。そして、最終的にはアメリカに対して無理せずに勝利を収めるという方向を定めている。トランプ政権も中国には強硬姿勢を取っていない。その代わりに、対中強硬姿勢を強めているのは、日本の高市早苗政権である。その裏には、エルブリッジ・コルビー米国防次官がいる。最新刊でも書いたが、コルビーが圧力をかけて、日本の防衛予算増額を進め、東アジアの不安定化を演出している。日本政府は「東アジアの安全保障環境の悪化」ということを言うが、悪化の一番の要員は日本であり、高市早苗首相の存在である。高市首相の支持率が高いという点で、日本国民に失望している。戦後80年の営為は、このようなアホナ国民しか生まなかったということになる。

 下記論稿は、第二次ドナルド・トランプ政権における外交政策において重要な人物たちを紹介している。私としては、最新刊『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』(ビジネス社)で取り上げた、J・D・ヴァンス副大統領とダン・ドリスコル陸軍長官の関係である。下記論稿には、「またホワイトハウスは最近、ヴァンス副大統領の親しい友人であるダン・ドリスコル陸軍長官に、ロシアにとって極めて有利と見られる和平案をウクライナに受け入れるよう働きかける任務を与えた」と書かれている。ドリスコル長官については拙著をお読みいただきたいが、ヴァンス副大統領とはイェール大学法科大学院時代からの友人で、軍歴を持ち、ヴァンスが連邦上院議員を務めていた時には補佐官となっている。また、あまり目立たないところで、メラニア・トランプ大統領夫人(ファースト・レイディ)やスージー・ワイルズ大統領首席補佐官が裏で影響力を持っているということは意外だった。

 来年のアメリカ政治を見ていく上でも参考になる記事なので、是非お読みいただき、できれば繰り返し読むようにしていただきたい。

(貼り付けはじめ)

トランプ2.0の重要な外交政策プレイヤーたち(The Key Foreign-Policy Players of Trump 2.0)

-第二次トランプ政権が1年目の節目を迎える中、主要政策に影響を与えているのは誰か。

『フォーリン・ポリシー』誌

2025年12月22日

https://foreignpolicy.com/2025/12/22/trump-administration-key-players-witkoff-miller-hegseth-rubio-bessent-vance/?tpcc=recirc_more_from_fp051524
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ドナルド・トランプ米大統領が第二期目の最初の100日を終えた時、私たちは彼の外交政策の推進役と受動役のリストを公開した。この論稿は、就任初期に最も影響力のある側近として台頭した人物と、脇に追いやられた人物を検証した内容となっている。

大統領就任から約1年の節目が近づくにつれ、そのリストの良い面を改めて検証することにした。その結果、第二期トランプ政権では第一期に比べて人事異動が比較的少なかったことを反映して、その好調さは概ね維持されていることが分かった。また、過去8カ月間で政権内での影響力を拡大した高官も数名存在する。

以下は、トランプの外交政策を形成し、そして発信することに貢献した人物たちのリストだ。

(1)スティーヴ・ウィトコフ(Steve Witkoff)、サム・スコーヴ筆
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ドナルド・トランプ大統領の親友で、億万長者の不動産開発業者スティーヴ・ウィトコフは、中東問題からロシア・ウクライナ紛争に至るまで、幅広い案件を手掛け、大統領の最重要外交交渉担当者として台頭してきている。外交経験は乏しいものの、ウィトコフはロシアで拘束されていたアメリカ人教師の釈放決定(2025年2月)をはじめ、いくつかの成果を上げている。また、ウィトコフはトランプ大統領の義理の息子であるジャレッド・クシュナーと共にガザ地区での停戦交渉にも成功し、2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を契機に始まったイスラエルとハマス間の紛争を事実上終結させた。

しかし、ロシア・ウクライナ戦争の終結となると、ウィトコフはほとんど成功していない。2025年8月には、トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーティン大統領との間で行われた和平首脳会談(アラスカ)は、合意なく終了した。ブダペストで予定されていた新たな首脳会談も、ロシア側の譲歩(concessions)の用意がないことが明らかになったため、頓挫した。

ウィトコフは、ロシアとウクライナとの新たな外交ラウンドを主導しており、これはウィトコフとクシュナーが28項目の和平案を共同で作成することから始まった。この取り組みがどれほど成功するかは不透明だ。ウクライナとそのヨーロッパの同盟諸国が当初の案に難色を示したため、既にいくつかの項目が提案から削除されており、ロシアも妥協の用意がないことを改めて示唆している。

ウィトコフの経験不足は、数々の失策や論争を招いている。2025年8月には、ロシアのウクライナ問題における交渉姿勢を誤解し、ロシアが大幅な譲歩を提示しているとウィトコフは主張したとみられるが、実際にはそうではなかった。これがアラスカ首脳会談の失望を招いた結果の一因となったと報じられている。また、2025年11月下旬には、ウィトコフとプーティン大統領の側近との会話の記録が流出し、ウィトコフがロシアに対しトランプへのロビー活動の方法について助言していたとみられることから、辞任を求める声が高まった。

(2)マルコ・ルビオ(Marco Rubio)、ジョン・ホルティウィンガー筆
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トランプ大統領の二期目の最初の100日間、マルコ・ルビオ国務長官はしばしば脇に追いやられているように見えた。特にウィトコフが、通常はアメリカ外交官のトップである国務長官が担う役割を担い、様々な主要課題に関する協議の陣頭指揮を執るよう繰り返し指名されたことがその要因だ。しかし、ルビオは現在、政権内で最も影響力のあるメンバーの1人であり、トランプ大統領が彼を信頼していることは明らかだ。12月初旬、トランプ大統領はルビオがアメリカ史上「最高の国務長官」として記憶される可能性があると述べた。

ルビオは国務長官に加えて国家安全保障問題担当大統領補佐官も務めており、ヘンリー・キッシンジャー以来、両方の役割を兼任する初の人物だ。また、ルビオは米国公文書保管担当官代理でもあり、2月から8月末までは、アメリカ国際開発庁(U.S. Agency for International Development、USIDA)の解体を監督する間、アメリカ国際開発庁の長官代理を務めた。

トランプからの称賛の言葉や数々の肩書きを越えて、ルビオの政権内での影響力は、ラテンアメリカで進行中のアメリカ軍の作戦にも顕著に表れている。2025年9月初旬に始まり、これまでに80人以上が死亡したラテンアメリカ地域での麻薬密売船とされる船舶への一連の攻撃は、ヴェネズエラの政権交代を促すためのより広範な取り組みの一環と広く見なされており、ルビオはこの取り組みの原動力となっていると考えられる。

ルビオの影響力はロシア・ウクライナ交渉でも顕著に表れており、ロシアの意図をより信頼する傾向にあるウィトコフとトランプ氏に対し、ルビオはロシア懐疑派(Russia-skeptical)としてバランス役として行動している。例えば、2025年10月、トランプ大統領とプーティン大統領の電話会談後、トランプ大統領はルビオに、ハンガリーのブダペストでプーティン大統領と今後開催される首脳会談の詳細を詰める任務を与えた。しかし、ルビオがロシアの同僚と会談した後、計画されていた首脳会談は突然中止された。

そして先月(11月)、ルビオは、ウィトコフとクシュナーによる当初の28項目の和平案がモスクワに過度に有利とみなされたことを受けて、ヨーロッパにおけるアメリカの同盟諸国の不安を和らげるのに貢献したと報じられている。ルビオはトランプ政権において、ヨーロッパとキエフの懸念をより深く考慮するよう働きかけ、和平案はウクライナにとってより受け入れやすい形に修正されたと評価されている。

ウクライナ和平交渉については依然として多くの不透明な点が残っているが、ルビオは依然として議論の中心にいる。

(3)ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)、ジョン・ホルティウィンガー筆
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ピート・ヘグゼス国防長官は、兵士の殺傷能力の向上に重点を置くことで、軍に「戦士の精神」を取り戻すことを誓った。その取り組みの一環として、彼は国防総省、そしてより広範なアメリカ軍における大規模な改革を監督してきた。これらの中には、メディアへのアクセス制限、多様性・公平性・包摂性(diversity, equity, and inclusion)に関する取り組みの廃止、トランスジェンダーの入隊禁止といった物議を醸す措置も含まれている。ヘグゼス長官はまた、自身の肩書きを「戦争長官」に変更し、国防総省を「戦争省」に改称する動きを見せているが、この名称変更には連邦議会の承認が必要となるため、まだ正式には発表されていない。

ヘグゼス長官のトランプ政権における影響力は、彼が巻き込まれた数々の重大スキャンダルからも測ることができる。最初の事件、いわゆる「シグナルゲート」として知られる3月の事件では、ヘグゼスはメッセージアプリ「シグナル」上で、イエメンのフーシ派に対するアメリカ軍の作戦に関する機密計画について、他のアメリカ政府高官とのグループチャットで議論した。このグループチャットには、著名なジャーナリストも不注意にも含まれていた。国防総省監察官による最近の報告書によると、不正行為を否定しているヘグゼスは、自身の行動によって軍人を危険にさらすリスクを負っていたことが明らかになった。

国防長官は、9月2日にカリブ海で麻薬密輸船とされる船舶に対して行われた作戦についても厳しい視線に晒されている。この事件では、アメリカは最初の攻撃で生き残った2人の男性に対して、追い打ちの2度目の攻撃を行い、2人とも殺害したが、批判者たちはこれを戦争犯罪(a war crime)に相当すると指摘している(ただし、ほとんどの法律専門家は、麻薬密輸船とされる船に対するアメリカの作戦全体が違法であるとしている)。ヘグセス国防長官が直接2度目の攻撃を命じたのか、それとも作戦を監督した特殊部隊司令官が国防長官の指示に従って行動しただけなのかなど、事件の詳細については未解決の問題が残っている。トランプ政権は、これまでに攻撃の対象となった船が麻薬密輸に関与していたという主張を裏付ける証拠を公には一切提示していない。

ヘグセスをめぐる論争は、国防長官としての彼の任期も長くは続かないのではないかという憶測を呼んでいるが、彼は依然として謝罪もせず、反抗的な態度を崩していない。12月初旬の演説で、ヘグセスは船舶攻撃を擁護し、トランプ大統領は「我が国の国益を守るために、適切と判断すれば断固たる軍事行動を取ることができるし、また取るだろう」と述べた。

しかし、一部の共和党員でさえもこの攻撃について国防長官を批判していることから、ヘグセス長官がこの嵐を乗り切ることができるかどうかは、まだ分からない。ヘグセスは陸軍州兵の退役軍人であるが、国防長官に就任するまでは政府での経験がなく、トランプ政権の閣僚の中で最も不適格な人物の1人と見なされていた。一方、トランプは、ヘグセスがこの職務に不向きであると内部から指摘されても、反論することを止めたと報じられている。

(4)J・D・ヴァンス(J.D. Vance)、レイチェル・オズワルド筆
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J・D・ヴァンス副大統領は、連邦上院議員時代の実績の通りに、政権内で発言力を持つ存在として台頭し、大西洋横断関係においてアメリカの寛大さや保護主義を緩和し、国内外で強硬な反移民政策を主張している。

今年初め、ヴァンス副大統領は、大統領執務室を訪問した、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領に対し、ロシアとの戦いにおけるアメリカの支援への感謝が不十分だと公然と非難した。またホワイトハウスは最近、ヴァンス副大統領の親しい友人であるダン・ドリスコル陸軍長官に、ロシアにとって極めて有利と見られる和平案をウクライナに受け入れるよう働きかける任務を与えた。

ヴァンス副大統領は、トランプ政権第二期の初めにミュンヘン安全保障会議で注目を集める演説を行い、長年のヨーロッパの同盟諸国が移民の受け入れを過剰に受け入れ、台頭する極右ポピュリスト政党への包摂性に欠けていると非難し、ヨーロッパに衝撃を与えた。ヴァンスはまた、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の「正当性を失わせようとしている」として、ドイツ政府を繰り返し批判してきた。ドイツ情報機関はAfDを過激派グループに指定しており、一部のドイツ政治家はAfDの活動禁止を求めている。

自分の考えを伝える手段としてXポストをよく利用する副大統領は、最近、カナダの政治指導者たちを痛烈に批判し、「移民の狂気」と称する行為によって多様性を推進することで、カナダの生活水準を損なっていると非難した。

ウクライナ防衛のためにワシントンがどれだけの費用を負担すべきかといった問題に関して、ヴァンスが示す孤立主義的な見解と、西側諸国の民主政治体制国家の内政に積極的に介入しようとする姿勢は、ホワイトハウスが今月初めに発表した「国家安全保障戦略(National Security Strategy)」に典型的に見られる、極めて取引的でしばしば一貫性のない「アメリカ・ファースト」の外交政策を象徴している。

(5)エルブリッジ・コルビー(Elbridge Colby)、レイチェル・オズワルド筆
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(左から)小泉進次郎防衛相、玄葉光一郎衆院副議長、小野寺五典元防衛相、コルビー、小野田紀美経済安保担当相(2025年4月30日、ワシントンDCにて)
米国防総省の政策責任者が、エルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)の就任後8カ月でこれほどの影響力を発揮するのは異例だ。これは、彼の上司であるヘグゼスが国防総省規模の官僚組織運営の経験がほとんどないこと、そしてヘグゼスがコルビーの官僚的影響力を弱めるはずだった多くの上級将官を解雇したことが一因となっている。

国防次官就任前、第一次トランプ政権で国防次官補(戦略担当)を務めたコルビーは、対中強硬派として知られ、ヨーロッパを犠牲にしてインド太平洋地域におけるアメリカ軍資源の優先を主張してきた。それでもなお、ウクライナへの武器輸出の一部の一方的停止や、広く支持されているオーストラリア・イギリス・アメリカの防衛連携の見直し再開といった行動を含め、コルビーが自らの政策を実行に移す際の精力的な姿勢は、多くの人々を驚かせた。

連邦議会の民主党と共和党は共に、コルビーがルーマニアから800人の兵士を撤退させるという国防総省の最近の決定など、監視責任を果たすために必要な基本的な防衛関連情報を隠蔽していると非難している。コルビーと連邦議会防衛監視当局者との間で高まる超党派的な緊張は、その多くがアメリカによるヨーロッパ・中東への軍事的関与維持を支持する立場にあることから、公の場へと波及している。その結果、コルビーの事務所に指名された複数の連邦政府上級職員候補者の任命が、連邦議会からの十分な支持を得られないまま停滞している。

(6)スティーヴン・ミラー(Stephen Miller)、レイチェル・オズワルド筆
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スティーヴン・ミラーは、ホワイトハウスで外交政策の実務に携わる立場ではないものの、トランプ大統領の大統領次席補佐官として、積極的かつ包括的な反移民政策の実行における信頼できる窓口として、アメリカへの移民を送っている多くの国々との二国間関係に直接的な影響を与えてきた。

ミラーは、難民、亡命希望者、一時的保護ステータスまたは人道的仮釈放中の者、H1-Bヴィザの専門職労働者、季節労働者、そして特に不法移民労働者に対する政権の厳しい取り締まりを公に訴えてきた。2025年11月にワシントンで、今年初めにアメリカ政府から正式な亡命を認められたアフガニスタン人男性が州兵2人を射殺する事件が起きた後、ミラー氏は、2021年にアフガニスタンがタリバンに陥落した後、多数のアフガニスタン国民のアメリカへの移住を許してきた政策の終結を、痛烈かつ外国人排斥的な言葉で訴えた。

ミラーはまた、ルビオと緊密に協力し、ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の追い落としを目指す政権の取り組みを支援してきたほか、カリブ海と東太平洋の麻薬密輸船とされる船舶に対するアメリカのミサイル攻撃を強く擁護してきた。

(7)ジャレッド・クシュナー(Jared Kushner)、リシ・イエンガー筆
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トランプ大統領の義理の息子であるクシュナーは、第二次政権では表舞台に立つことは少なく、第一次政権のような正式な「特別補佐官(special advisor)」の役職も担っていない。しかし、クシュナーはウィトコフと共に、トランプ政権が今年行った2つの主要な外交交渉に取り組んだ。

10月初旬には、20項目からなるガザ和平合意の最終決定を支援するためイスラエルを訪問し、11月には単独でイスラエルのネタニヤフ首相と交渉を続けた。また、12月初旬にはモスクワでプーティン大統領と数時間にわたり対面し、その後にゼレンスキー大統領と2時間にわたる電話会談を行ったと報じられている。この電話会談では、ウクライナにおけるロシアの戦争終結に向けた、現在も継続中の交渉の進展が追求された。

ウィトコフと同じく、クシュナーも自身の事業における利益相反について懸念が持たれている。彼の企業は、中東地域でアラブ湾岸諸国と数十億ドル規模の取引を行っており、ガザ地区の戦後における彼の役割について疑問が持たれている。

しかし、ガザ和平合意が発表された直後、クシュナーは(再びウィトコフと共に出演した)、テレビ番組「60ミニッツ」でのインタヴューで、こうした懸念を一蹴した。「人々が利益相反と呼ぶものを、スティーヴと私は世界中で培ってきた経験と信頼関係と呼んでいる」とクシュナーは述べた。

(8)スコット・ベセント(Scott Bessent)、キース・ジョンソン筆
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スコット・ベセント米財務長官は、歴代の前任者の多くと同様、政権の外交政策における中心的な役割を担う人物の1人となっている。そして、トランプ政権第二期目の2年目には、その役割はさらに大きな影響力を持つものになる可能性がある。

ベセント長官は、トランプ政権の貿易戦争(trade wars)について真っ先に批判してきた。長年、関税や貿易障壁に対して合理的な懐疑論を唱えてきたウォール街のヴェテランにとって、これは意外な役割かもしれない。しかし、ベセント長官は今、他国の行動を強制するために輸入税を引き上げることの賢明さを認めている。トランプ政権の数々の貿易戦争は目的を達成していない。アメリカの貿易赤字は今年最初の8カ月間で昨年よりも大幅に拡大し、ヨーロッパ、中国、イギリスとの「貿易合意(trade deals)」は未だに最終決定ではなく、あくまでも願望段階にとどまっている。しかし、少なくとも彼らには強力な応援団がもう1人いる。

ベセントは、2025年12月初旬に行われた会談を含め、中国との進行中の貿易交渉においても主導的な役割を果たしてきた。ワシントンと北京は、貿易休戦(trade truce)を貿易合意のようなものに変化させようと模索を続けている。これは重要な意味を持つ。なぜなら、トランプ政権にとって、中国は国家安全保障上の課題というよりも、はるかに経済的な課題だからだ。

ベッセントはまた、アメリカの国家統治術(U.S. statecraft)をトランプの政治的目的に利用することにも尽力してきた。特に、イデオロギー的な同盟国であるアルゼンチンへのアメリカの救済は、数十億ドル規模の賭けであり、いずれ報われる可能性もある。

しかし、既に強力な影響力を持つ米財務長官ベセントは、来年さらに影響力を強める可能性がある。トランプは依然として、新議長の任命を含む連邦準備制度理事会(FRB)の改革を計画している。その結果、大統領はケヴィン・ハセットを大統領経済担当補佐官に指名し、ベセントを財務長官と大統領補佐官の兼任をさせる可能性がある。そうなれば、トランプ政権の政治課題を支配するであろう、アメリカの国内および海外の経済政策の立案者となる可能性が出てくるだろう。

■特別賞(HONORABLE MENTIONS)

(9)メラニア・トランプ(Melania Trump)、クリスティーナ・リュー筆
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メラニア・トランプ大統領夫人(ファースト・レイディ)は、ロシア・ウクライナ戦争という重要な例外を除けば、外交政策の注目を浴びないように避けてきた。スロヴェニア出身のメラニア夫人は、ロシアに拉致された数千人ものウクライナの子供たちとその家族の再会を促進する外交努力に積極的に関与してきた。ウクライナ政府は、ロシアが2022年2月に本格的な侵攻を開始して以来、少なくとも1万9000人のウクライナの子供たちを拉致して、強制移送したと非難している。ロシア政府は、この行動は子供たちの安全確保が目的だったと主張している。

メラニア夫人は子供たちの解放を公に求め、プーティン大統領に手紙を書いたと彼女は述べ、その手紙は夫である大統領が個人的に届けたとしている。最終的に、彼女はロシアの指導者と直接連絡を取り、数カ月にわたって裏でやり取りしたと2025年10月に述べている。

注目すべきは、トランプ自身の発言が、メラニア夫人がこの戦争について、夫であるトランプ大統領に助言を与え、時にはプーティン大統領に対する彼の見解に異議を唱えたことさえ示唆していることだ。「家に帰ってファーストレディに『実は今日、ウラジーミルと話した。素晴らしい会話ができた』と言ったら、『えっ、本当に? ウクライナの別の都市が攻撃されたばかりなのに』と言われた」とトランプは7月に大統領執務室で振り返った。

(10)スージー・ワイルズ(Susie Wiles)、クリスティーナ・リュー筆
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大統領首席補佐官として、スージー・ワイルズはトランプ大統領の側近の中核的存在であり、権威ある存在でもある。しかし、彼女は主に影で活動し、舞台裏で重要な役割を果たしてきた。ワイルズがアメリカの外交政策を指揮して注目を集めることは滅多にないが、トランプ大統領は彼女の影響力を称賛し、「世界で最も力のある女性」と公に称賛してきた。

トランプ大統領は7月、「彼女はたった一本の電話だけで国を壊滅させることができる」と明言した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 国際政治は大国間の駆け引きの場となっている。ウクライナ戦争もまさにそうなっている。アメリカが仲介者の形で停戦に向けて、ロシアとウクライナとチャンネルを持って交渉を続けている。停戦交渉の内容はロシア寄りの内容になっており、ウクライナは受け入れられないと反発している。ウクライナはウクライナ軍の善戦を認めるとしても、実際には厳しい状況が続いている。アメリカやヨーロッパ諸国の支援を受けて戦争を継続できているが、大きな成果を上げるまでには至っていない。既に戦争開始から4年近くが経過している。これまでにロシア軍を撃退するような大戦果を収めることができていない。現状維持が精いっぱいのところだ。ウクライナ戦争について、アメリカが支援を削減すれば、ウクライナは戦争どころではない。
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(左から)キース・ケロッグ、ドナルド・トランプ、スティーヴ・ウィトコフ

 アメリカではキース・ケロッグがウクライナ担当特使となっているが、現状ではほぼ存在感がない。そして、来年1月での辞任の意向を示している。ウクライナ寄りの立場での発がんが多く、ロシア側がケロッグを忌避している状況では、交渉の仲介者にはなれない。中東担当特使のスティーヴ・ウィトコフがウクライナ戦争の仲介にあたっている。ウィトコフはロシア寄りだという批判も多く、停戦が進まないのはウィトコフの無能のせいだという主張もある。しかし、現実を考えてみると、ウクライナには気の毒であるし、かわいそうではあるが、ロシア寄りの停戦条件にならざるを得ない。そもそもがウクライナを西側が対ロシア挑発の最前線にしてしまったという根本原因がある。西側諸国はウクライナのNATO加盟もEU加盟も認めてこなかったのに、軍事支援だけは行ってきた。これはいざとなれば、ロシアを挑発して、ロシアを暴発させて、ウクライナを攻撃させて、ロシアを返り討ちにするという考えでのことだった。失敗してもウクライナを切り捨てれば済む、そのために、NATO加盟もEU加盟も認めなかった。大きな誤算は、ロシアを暴発させたので、シナリオ通りにロシアを国際決済システムから締め出して経済的に締めあげたらすぐに降参すると思っていたら、ロシアはそれを見越してすでにドルを使わない決済方式を準備していたということだ。そして、西側以外の国々(the Rest)がロシアを支援したことだ。ウクライナ戦争は西側の敗北であり、敗北の責任は挙げて西側諸国にある。

 トランプ政権とウィトコフはこのことを理解している。それでも、仲介は進めるべきだ。停戦を進めるべきだ。ウィトコフだけでは厳しいようならば、中東での和平に功績があった、トランプの女婿ジャレッド・クシュナーを裏方、交渉役として使うべきだ。大事なことは一時的でもよいので停戦をすることだ。ウクライナには現状での停戦受け入れを基本線にするしかない。そして、ウクライナは危機的状況を好機に変えるために、国家体制や政治文化を大きく変化させる必要がある。戦争中でも汚職がはびこる国に未来はない。

(貼り付けはじめ)

米特使が「ロシアに助言」 与党から解任論―トランプ氏は擁護

時事通信 外信部2025年11月30日07時06分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025112900267&g=int#goog_rewarded

 【ワシントン時事】ロシアのウクライナ侵攻終結を巡り、対ロ交渉を担う米国のウィトコフ中東担当特使への批判が強まっている。ロシア高官との通話内容を伝えた米通信社の報道をきっかけに「ロシア寄り」の姿勢が浮き彫りになったためだ。トランプ米大統領は擁護しているが、与党共和党議員からも解任を求める声が出ている。

 「(トランプ氏を)平和の男だと尊敬していると伝えるんだ。そうすれば良い電話(会談)となる」。米ブルームバーグ通信は25日、ウィトコフ氏とロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)が10月14日に行った電話協議の詳細を報じた。

 ウィトコフ氏は5分超にわたるやりとりで、ウクライナのゼレンスキー大統領が10月17日にホワイトハウスを訪れる予定に触れ、これより前に米ロ首脳の電話会談を行うことを提案。トランプ氏をたたえるほか、ウィトコフ氏とウシャコフ氏が和平案を作成するという提案をプーチン氏が行うよう「助言」していた。

 米ロ首脳は10月16日に電話会談を行い、ハンガリーで会談することで合意。トランプ氏は「進展があった」と評価し、協議は首尾よく終わった。対照的に厳しい状況に置かれたのはゼレンスキー氏。トランプ氏はそれまで前向きな姿勢を見せていた米国製巡航ミサイル「トマホーク」の供与に応じなかったばかりか、17日の会談は「怒鳴り合い」(英メディア)の険悪な雰囲気に包まれた。

 米メディアによれば、ウィトコフ氏は10月下旬、プーチン氏に近いドミトリエフ大統領特別代表を南部フロリダ州マイアミに招き、トランプ氏の娘婿クシュナー氏も交え、侵攻終結を目指す新たな和平案を作成。ウクライナが東部2州を割譲し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念することなどロシアに有利な内容が盛り込まれた。

 トランプ氏は40年近い付き合いのあるウィトコフ氏に厚い信頼を寄せる。同氏は政権発足以降、ロシアを5回訪れてプーチン氏と会談した。だが、不動産業界出身で外交経験には乏しい。老練なプーチン氏に取り込まれていると不安視する専門家が多い。

 トランプ氏は今月25日、ウィトコフ氏の通話内容について記者団に問われると「普通の交渉だと聞いている」と擁護。和平案協議のため、ウィトコフ氏を再びロシアに派遣し、プーチン氏と会談させる考えも表明した。

 しかし、ロシア寄りの姿勢を見せるウィトコフ氏に対し、トランプ氏を支えるはずの共和党議員には懸念が広がる。ベーコン下院議員はX(旧ツイッター)上で「ロシアに肩入れしているのは明らかだ」と述べ、ウィトコフ氏の解任を主張。外交に明るいルビオ国務長官に対ロ交渉を任せるべきだと訴える声も出ている。

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トランプ氏娘婿に再び脚光 ガザ和平交渉の行方左右も

時事通信 外信部2025年10月15日12時43分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025101400660&g=int

 【ワシントン時事】イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦を導いたとして、トランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏(44)が再び脚光を浴びている。第1次政権で大統領上級顧問を務め、イスラエルとアラブ諸国の関係を正常化する「アブラハム合意」をまとめた人物で、その存在は和平交渉の行方を左右しそうだ。

 「ジャレッドがとても助けてくれた。本当に特別なことを成し遂げてくれた」。トランプ氏は13日、イスラエル国会での演説で、パレスチナ自治区ガザの和平に向けた「第1段階」の合意を巡り、クシュナー氏の貢献をたたえた。

 第2次政権発足後、ガザの和平交渉はトランプ氏側近のウィトコフ中東担当特使が主導した。だが、バイデン前政権の協力で実現した1月の停戦合意は長続きせず、戦闘が再開すると外交経験のないウィトコフ氏に代わり、豊富な中東人脈を持つクシュナー氏に白羽の矢が立った。

 米メディアによれば、クシュナー氏はトランプ氏が9月に発表した20項目の和平計画の立案を担い、人脈をフル活用してアラブ諸国からの賛同を取り付けた。イスラエルとハマスの間接交渉にも加わり、イスラエルの攻撃再開を認めないとするトランプ氏の確約をウィトコフ氏と共にハマス幹部に直接伝え、第1段階の合意へとこぎ着けた。

 第2次政権では政府のポストに就かず、アラブ諸国から巨額の資金を調達して投資ファンド会社を運営するクシュナー氏の関与を問題視する見方もある。だが、トランプ氏が以前言及したガザの観光開発構想もクシュナー氏の発案とされ、トランプ氏への影響力は小さくない。

 停戦発効に伴い人質が解放され、今後の焦点はハマスの武装解除やガザの戦後統治などを巡る交渉に移る。「ついに中東に平和が訪れた」と高らかにうたうトランプ氏だが、ガザ情勢安定化はクシュナー氏の手腕が成否のカギを握る。

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ブロンクスのメッテルニヒ(The Metternich of the Bronx)

-ウィトコフの外交は大きく失敗したが、彼は今後も重要な役割を果たす可能性が高いだろう。

エイドリアン・カラトニツキー筆

2025年6月20日

『フォーリン・ポリシー』

https://foreignpolicy.com/2025/06/20/steve-witkoff-trump-putin-russia-war-negotiations-diplomacy-peace-cease-fire-ukraine-iran-israel-hamas/

2025年6月2日にウクライナとロシアの担当者たちがイスタンブールで第2回停戦協議を行った際、真剣な交渉は行われないことは明らかだった。ドナルド・トランプ政権の和平合意への期待に応えることを切望するウクライナは、国防相を筆頭とする高官級代表団を派遣した。しかし、ロシアは中級以下の外交団を派遣したにとどまった。新たな捕虜交換への扉を開いたこと以外、会談は進展をもたらさなかった。クレムリンは、ウクライナの服従条件として、3年間変更されていない、条件を提示した。これには、ロシアによる占領下のウクライナ国内の5地域への支配権の承認(recognition of Russian dominion over five occupied Ukrainian regions)、ウクライナによる追加領土の割譲(the cession of additional territory by Ukraine)、ウクライナの中立(Ukrainian neutrality)、そして事実上の軍の非軍事化(the de facto de-militarization of its armed forces)が含まれていた。

ヨーロッパの代表団は和平プロセスへの支持を表明するためにイスタンブールを訪れたが、アメリカは出席しなかったことが注目された。これは、アメリカが交渉における主要な役割から疎外されていることを物語っている。これは和平プロセスへの高まる期待とは程遠く、ドナルド・トランプ米大統領がロシアのウラジーミル・プーティン大統領も出席するならイスタンブールに同席する用意があると示唆した5月の最初の会談に寄せられた期待からは明らかにかけ離れている。

トランプは長年、プーティンとの特別な関係を誇示し、ウクライナ和平を主要な外交政策目標としてきたが、ワシントンの不在は、政権の外交、そしてロシア・ウクライナ戦争への全体的なアプローチの失敗を如実に物語っている。この失敗は、無能な交渉、ロシアの真の野望への理解不足、そしてプーティンのシグナルの読み間違いの結果である。この失敗は最終的にはトランプの責任であるが、クレムリンへの彼の主要特使であるアマチュア外交官スティーヴ・ウィトコフの影響力によって、事態は深刻に悪化している。

ウィトコフが重要な外交分野に進出したことは、第2次トランプ政権における最大の驚きの1つだった。昨年11月まで、ウィトコフは外交政策プロセスから遠く離れた場所にいた。彼が最初に公職に就いたのは、トランプの大統領就任委員会の共同議長だった。しかし、2024年11月12日、トランプ大統領はウィトコフを中東担当の特使として初めて国際関係に携わるよう任命した。当初、退任するジョー・バイデン政権の同意を得て、ウィトコフはイスラエルとハマスと交渉を行った。トランプ大統領の就任後、ウィトコフの役職はアメリカ政府の正式なものとなった。

ウィトコフはトランプとは40年もの間見知ってきた。そして、トランプの熱心な支持者であり、友人であり、ゴルフ仲間でもある。特に、ウィトコフは、2021年1月6日の暴動後のトランプの最も困難な時期、そして2024年初頭にニューヨーク市で重罪の有罪判決に直面した際に、トランプに寄り添い、精神的に支え続けた。

ニューヨークのブロンクス生まれのウィトコフは、ニューヨーク市ロングアイランドのホフストラ大学で学び、弁護士のキャリアを積み、不動産開発と投資へと転身し、億万長者となった。共産主義崩壊後のロシアで財を成したソ連出身のレン・ブラバトニクとしばしば提携し、ウィトコフはニューヨーク、マイアミ、カリフォルニアに重点を置いた膨大な米国不動産ポートフォリオを構築した。彼の会社はロンドンでのいくつかの注目度の高い投資を中心に国際的な事業活動を行っていたが、ポートフォリオ全体のごく一部を占めるに過ぎない。ウィトコフは海外ビジネスの経験が不足しており、それがトランプがアメリカの外交政策の実施に起用した他のビジネスリーダーたちとは根本的に異なっている原因だ。

ウィトコフの最初の外交活動は、ハマスとイスラエルの紛争における停戦と人質解放の確保に焦点を当てたものだった。バイデン政権、第一次トランプ政権、そしてオバマ政権で外交政策の高官を務めたブレット・マクガーク(Brett McGurk)と緊密に連携し、ウィトコフはトランプ大統領就任のわずか数日前に短期合意を仲介することに成功した。60日間続いた合意は失効し、紛争は継続したが、ヴェテラン外交官と次期大統領の側近というタッグはうまく機能し、ウィトコフの評判は高まった。

中東での成功後まもなく、ウィトコフの職務範囲は劇的に拡大し、ロシアとイランとの直接交渉も担当することになった。歴史に名を残す外交官、例えばオーストリア帝国のクレメンス・フォン・メッテルニヒ(Klemens von Metternich)やアメリカのヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)を除けば、複数の重要な国際交渉の責任を1人の高官が担うことは稀なことだ。

それでも、トランプ大統領と個人的な繋がりを持ち、直接アクセスできる人物を任命することは、過去に成功を収めてきた。アブラハム合意をめぐる交渉では、トランプ大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナーが中心的な役割を果たし、中東情勢に長年精通した経験豊富なアドヴァイザー陣を頼りにしていたため、この手法は特に効果的だった。

しかし、ロシア問題になると、ウィトコフは方針を転換した。アメリカ政府の専門家陣と緊密に協力する代わりに、実質的にワンマンショーのようなやり方で交渉を進めた。物議を醸したのは、モスクワのアメリカ大使館やワシントンの国務省との実質的な関わりを避けたことだ。トランプ大統領が過去にしてきたように、プーティン大統領との会談でもアメリカ人の通訳や議事録作成者を起用しなかった。クレムリンの通訳に頼ったことで、プーティン大統領の原文のニュアンスを汲み取るという前例のない決断は、外交政策の専門家から広く批判された。

さらに、交渉開始から数カ月間、ウィトコフはウクライナ側と一切接触していなかった。ロシアとウクライナ、そして両国の長く苦い歴史についてほとんど無知だったウィトコフが単独で交渉に臨んだことは、ウクライナの正当なレッドライン(red lines、越えてはならない一線)に関する知識をほとんど、あるいは全く持たないままクレムリンに到着し、プーティン大統領の主張やシグナルを評価するための文脈を全く持たないままだった。

ウィトコフはトニー・ブレア元英首相やビル・クリントン元米大統領など、様々な立場から助言を求めたが、地域情勢に関する知識不足と外交の進め方に対する不慣れさが、数々の失策につながった。経験豊富な交渉担当者が曖昧な発言をし、静かに交渉を進めるのとは異なり、ウィトコフは交渉の現状について頻繁にコメントし、「大きな進展(significant progress)」があると断定的かつ大胆に主張することが多かったが、それは往々にして実現しなかった。同様に重要なのは、ロシア側の主張に同調し、ロシア側が譲歩に応じるという証拠を一切示さずに、一方的かつ先制的な譲歩を公然と提示する傾向が、ウィトコフ自身の外交を損なわせた点である。ウィトコフと他の政権当局者らが発表したこれらの一方的な譲歩には、アメリカによるウクライナのNATO加盟拒否、ウクライナへのアメリカからの援助の大幅削減、そしてウクライナはロシアの領土獲得を認めるべきとの宣言が含まれていた。

確かに、トランプは戦争の多くの側面においてロシアの路線を踏襲している。ロシアとの交渉状況を誇大宣伝し、停戦は目前に迫っており、より恒久的な和平につながるだろうと幾度となく示唆してきた。しかし、こうした発言と並行して、ロシアの好戦的態度や強硬姿勢に対する不満も時折口にしてきた。一方、ウィトコフはそうではない。プーティン大統領に取り入り、大規模な新たな共同投資パートナーシップを宣伝し、ロシアが和平に向けて大きく前進する用意があると称賛すれば、平和が訪れると信じているようだ。

ウィトコフがロシアとの交渉において中心的な役割を果たしたことは、別の弊害ももたらした。トランプとの個人的な親密さから、プーティン大統領の意図に関するウィトコフの評価は、より冷静な専門家の評価よりも重視されるようになった。こうしてウィトコフは、アメリカとの貿易と投資という漠然とした約束でプーティン大統領を中国との同盟から引き離せるという、トランプの疑わしい確信を強めてしまったのだ。

ウィトコフがロシア、ウクライナ、そしてこの戦争に関する自身の見解を最も詳細に説明したのは、3月21日に放送された、プーティン政権下のロシアを繁栄の模範と称賛し、ウクライナを「独裁政治(dictatorship.)」と嘲笑することで知られる、悪名高い反ウクライナ評論家であるタッカー・カールソンとのインタヴューの中でのことだった。このインタヴューは、ウクライナ、プーティン、そしてロシア政権の本質に関するウィトコフの驚くべき無知を露呈した。

ウィトコフは、ロシアが大規模な軍事攻撃を続け、発言の数日前にウクライナの都市で民間人を攻撃していたにもかかわらず、「30日間の停戦はそう遠くない」と楽観的に示唆した。

さらに、ヴィトコフ氏はプーチン大統領を「悪人(bad guy)」ではなく「慈悲深く(gracious)」「偉大な(great)」指導者だと擁護した。ウィトコフ特使は、1万人以上のウクライナ民間人の死、1000万人もの人々の避難、ウクライナ民間人や捕虜の即決処刑を行ったロシア軍兵士や傭兵の不処罰、そして国際刑事裁判所が発行したプーティン大統領逮捕状に記載されているウクライナの子供たちの拉致という戦争犯罪に対するプーティン大統領の責任について、無関心、あるいは認識していなかった。

さらに驚くべきことに、ウィトコフは戦争に関するロシアの決まり文句を無批判に繰り返している。2月にはCNNに対し、「戦争は起こる必要がなかった。挑発されたのだ。必ずしもロシアが挑発したとは限らない」と語った。彼は、ロシアが占領した地域(名前は思い出せなかったが)は「ロシア語圏」であるとカールソンに伝えてロシアの主張を補強し、これがモスクワへの忠誠の証であり、ロシアによる併合の正当な根拠であることを示唆した。

実際には、2014年以降、被占領下のドンバスからウクライナに逃れたウクライナ人の数は、ロシア統治下に留まったウクライナ人の数を上回っている。ロシア語を話すウクライナ人とウクライナ東部の住民は共に、ウクライナの戦闘部隊に多数参加している。また、2014年のロシア侵攻以降の世論調査では、ロシア語圏のウクライナ東部および南部の住民が、ロシアへの併合または統一の考えを断固として拒否していることが一貫して示されている。

ウィトコフはさらに、戒厳令と報道検閲の下で行われ、ジュネーブ条約に違反し、中立的な国際選挙監視団を排除し、逮捕、拷問、処刑への恐怖が蔓延する中で行われた、ロシアによる併合に関する偽りの国民投票の正当性を認めているように見受けられる。ウィトコフはまた、ロシアが望んでいるのは現在保有している領土だけであり、新たな領土を併合したり、残りの地域を破壊したりする意図はないと主張した。プーティン大統領がそのような発言をしたという証拠はない。

まとめると、ワシントンの特使ウィトコフはロシアの領土主張に信憑性を与えようと躍起になっていたが、その主張はロシアの野心とウクライナの現実を全く考慮していないものだった。

トランプ大統領の就任後、アメリカは急速にウクライナ支援国としての役割を放棄し、中立的な仲裁者(neutral arbiter)の役割を担うようになった。ウィトコフの外交、戦争の解釈、そしてロシアの主張への反論は、中立の域を超え、少なくとも部分的にはアメリカの立場をクレムリンの立場に沿わせる方向に進んだ。これはNATO加盟国に警戒感を与え、ヨーロッパは米ロ交渉とは無関係にウクライナを支援するに至った。

ウィトコフの任務―ロシア・ウクライナ間、イスラエル・ハマス間、そしてイラン-は、どの外交官にとっても大きな課題となるものだろう。しかし、迅速な打開策を約束したウィトコフの大胆な発言は、進展の欠如を浮き彫りにするだけだった。外交活動を開始して約半年になるが、ウィトコフの実績は乏しい。ロシア・ウクライナ問題では交渉は行き詰まり、イスラエル・ハマス問題では膠着状態に陥り、イラン情勢の悪化で交渉は頓挫した。

ウィトコフの外交は見事に失敗したものの、彼は今後もアメリカ外交において重要な役割を担う可能性が高い。結局のところ、ウィトコフの関与は、トランプが望む「ピースメイカー(peacemaker)」と「平和探求者(peace seeker)」のイメージを一層強化するものであり、こうした役割によって、伝統的な国家安全保障を重視する共和党とMAGAの孤立主義者との間の溝を跨ぎながら、アメリカが世界と関わっているという印象を与えることができる。同様に重要なのは、ウィトコフがロシアの行動と意図に関する有害なほど誤った解釈を強化し、交渉による和平の可能性を低下させていることである。

マイケル・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官の人事変更を受けて、トランプがウィトコフを同職に検討しているのではないかという憶測が飛び交った。ウィトコフはこれまで、不用意な譲歩、逆効果な外交、専門家顧問の解任、そして国際情勢に関する表面的な知識といった実績を残してきたため、このような任命はアメリカにとって計り知れない災難となるだろう。結局、ウィトコフの誤った外交官としての役割は、公務員、諜報専門家、外交官コミュニティ(トランプ氏が軽蔑的に「ディープステート(the “deep state”)」と呼ぶもの)の役割が、国際情勢について浅い知識しか持たない個人工作員で代替できないという事実を強調している。

※エイドリアン・カラトニツキー:大西洋評議会上級研究員、ミュリミドン・グループ創設者。著書に『戦場としてのウクライナ:独立からロシアとの戦争まで(Battleground Ukraine: From Independence to the War with Russia)』がる。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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