古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:ソフトパワー

 古村治彦です。

 アメリカは輝ける国家だった。第二次世界大戦後の世界において、たとえソ連を中心とする社会主義陣営に住む人々であっても、アメリカの余裕のある豊かな生活は憧れの的だった。アメリカに対する憧れを形作ったのは「ソフトパワー」だった。
 「ソフトパワー」について、下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは、「ナイはソフトパワーを「魅力の力(the power of attraction)」と定義した。つまり、他国が模倣し、関係を築き、その先導に従いたくなるような資質を備えていることで、他国を望むように動かす能力(a nation’s ability to get others to do what it wanted)のことである」と書いている。
 具体的には、アメリカ発の映画やテレビドラマ、小説、出版物、絵画、演劇、商品(コーラやジーンズ)、音楽、芸能などに振れることでアメリカを知り、アメリカに憧れた。読者の皆さんそれぞれに考えてみても、各世代でアメリカから影響を受けているということになるのではないかと思う。私の個人的な体験でいえば、子供の頃に田舎の映画館で見たアメリカ映画、「スーパーマン」や「E.T.」、「バックトゥザフューチャー」などを今でも覚えている。映画のお供は映画館の近くにあるマクドナルドで、持ち帰りで買ってもらったハンバーガーとコーラだった。1984年のロサンゼルス・オリンピックも楽しみで見ていた。小学生の頃だったが、日米経済摩擦があり、日本製品が世界で人気だということを知り、誇らしかったことを覚えている。大人たちからは「日本は資源がないから、資源を輸入して、自動車や冷蔵庫なんかを作って、それを外国に買ってもらってお金を稼いでいるんだよ、アメリカが一番買ってくれる国なんだよ」と教えられた。アメリカは良い国なんだと子供心に思ったことを覚えている。
 こんな単純なアメリカ感は成長すれば持たなくなるものだが、「三つ子の魂百まで」で、アメリカへの憧れはあり、最終的にはアメリカ留学までさせてもらうことになった。子供の頃にテレビで見たロサンゼルス、オリンピックのメイン会場であるLAコロシアムを訪問した時は感動した。
 しかし、輝けるアメリカはなくなりつつあり、憧れのアメリカという虚像がなくなって、裸のアメリカが見えてくると、アメリカへの親近感が薄れ、反発が大きくなっている。現在の第二次ドナルド・トランプ政権のヴェネズエラ攻撃、キューバ封鎖、イラン戦争は、むき出しの欲望の発露であり、親米感情を削り取るものだ。また、アメリカ国内のインフラの劣化や分裂などもまた、アメリカへの憧れを生み出すものではない。これはもう覆い隠しようがない。トランプは逆にそれをさらけ出し、欲望をむき出しにすることで、アメリカ人と世界の人々にアメリカの厳しい現実を伝え、何とか対応しようとしている姿を見せている。「アメリカを再び偉大に」という言葉の前提は「現在のアメリカは偉大ではない」ということだ。そして、「再び」偉大になるかと言われて、素直にそうなると答えられる人はほぼいないだろう。
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アメリカのソフトパワーの終焉(The End of America’s Soft Power)
-アメリカは自分の国際的な強みの1つを放棄してしまった。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2026年5月4日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/05/04/trump-soft-power-usa/
ドナルド・トランプ政権の外交政策における最も顕著な特徴の1つは、選択された目標(the chosen ends)ではなく、好まれる手段(preferred means)にある。それは、アメリカのハードパワー(hard power)に対する絶対的な自信と、故ジョセフ・ナイが「ソフトパワー(soft power)」と呼んだものに対するほぼ完全な軽視である。ナイはソフトパワーを「魅力の力(the power of attraction)」と定義した。つまり、他国が模倣し、関係を築き、その先導に従いたくなるような資質を備えていることで、他国を望むように動かす能力(a nation’s ability to get others to do what it wanted)のことである。ハードパワーを多く持つ国は、武力や威嚇、あるいは援助や保護の提供によって他国を強制できる。一方、ソフトパワーを多く持つ国は、他国が自国に憧れ、自国の理念に賛同し、あるいは自国をファッショナブルで成功しており、さらには「イケてる(hip)」と見なすことで、より大きな影響力を享受できる。
私のような素晴らしいリアリストは、ハードパワーの重要性を軽視するようなことなどない。むしろ、確固たるハードパワーによる裏付けなしにソフトパワーを多く持つことは困難だ。しかし、ウラジーミル・プーティンのロシアが示したように、ハードパワーは豊富でもソフトパワーはほとんど、あるいは全くないという状況もあるだろう。理想的には、国家はハードパワーとソフトパワーの両方を豊富に持つことが望ましいだろう、それは、ソフトパワーが豊富であれば、他国は自然と自国の意向に従うようになり、ハードパワーを頻繁に使う必要がなくなるからだ(Ideally, a state would like to have a lot of both, because having a lot of soft power means others will be naturally inclined to do what you want and you won’t have to use your hard power very often)。ナイは、アメリカのハードパワーとソフトパワーの組み合わせが、国際社会との関係において大きな優位性をもたらすと確信していた。これが、彼がアメリカの将来に楽観的で、衰退を予測する人々に懐疑的だった理由の1つだ。しかし、長いキャリアの終盤には、彼でさえアメリカの国際的な魅力の衰退を懸念し始めていた。
トランプ政権2.0では、ハードパワーさえあれば十分だという考え方が、至るところで見られる。政権は関税の脅威を利用して貿易相手国に一方的な経済協定を強要し、最高裁判所がそれらを無効とする判決を下したにもかかわらず、その努力を続けると誓っている。政権は6カ国以上で軍事力を行使し、カリブ海と太平洋で麻薬密輸容疑者を殺害し続けている。殺害されている人々が誰であるかが明確ではなく、全員が実際に麻薬密売に関与していることを証明できず、これらの行動が違法薬物の入手可能性にほとんど、あるいは全く影響を与えないことを政権も認めている。ドナルド・トランプ大統領は繰り返し他の世界の指導者を弱腰だ(being weak)と非難し、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領には「切り札がない」のでロシアと取引すべきだと述べ、キューバの一般市民をさらに困窮させ、最終的には政権を降伏させることを目的としたキューバ封鎖(a blockade on Cuba)を課した。最後に、そして決して軽視できない点として、イラン政権はすぐに崩壊し、私たちにとって好ましい政権が誕生するだろうという誤った前提に基づき、外交を放棄し、不必要かつ一方的なイランに対する戦争を開始した。
この強大な力への執着で最も驚くべき点は、その行使を隠蔽したり、正当化したり、弁明したりする努力がほとんどなされていないことである。ほとんどの国は時折、悪事を働く。大国は特にその傾向が強いが、通常は規範的な正当化(normative justification)というヴェルヴェットの手袋で、その凶暴な拳(mailed fist)を隠そうとする。しかし、トランプ政権はそうではない。確立された規範を破り、相手に苦痛を与える機会があれば、まるで、喜びを感じているかのようだ。大統領がイラン文明の根絶を脅迫したり、国防長官が国際法を無視し、アメリカ軍は敵に「容赦しない(no quarter)」(これは戦争犯罪に相当する)と豪語したりする時、彼らの目的は説得(to persuade)ではなく威嚇(to intimidate)、誘引(to attract)ではなく強制(to compel)にあることは明らかだ。彼らのモットーは、「最強であるということは、決して謝る必要がないということだ(Being the strongest means never having to say you’re sorry)」ということのようだ。
この強大な力への崇拝(veneration)は、かつてアメリカを他国にとって魅力的な存在にしていた制度や政策を組織的に弱体化させる努力と並行して行われている。米国国際開発庁(the U.S. Agency for International Development)はイーロン・マスクとDOGEの活動によって突然解体され、世界中の何百万人もの人々の命を危険に晒し、アメリカを恣意的で無関心な国に見せた。政権はヴォイス・オブ・アメリカの放送ネットワークを閉鎖しようとしたが、裁判所と連邦議会の異例の反対によって阻止された。マルコ・ルビオ米国務長官は60以上の国際機関から米国を脱退させ、数十の外交ポストを空席のままにしておき、主要な国際サミット会議にアメリカ代表を派遣しなかった。移民税関執行局(Immigration and Customs Enforcement)による暴力的な強制捜査と無実の抗議者の殺害は、アメリカの醜い側面を世界に露呈させ、かつてはアメリカの威信とソフトパワーの最も目立つ象徴の1つであった高等教育への継続的な攻撃は、アメリカの大学を外国人留学生にとって魅力のない留学先にした。こうした措置は学界の収益に打撃を与えるだけでなく(それが狙いなのかもしれないが)、アメリカで教育を受ける外国人留学生の数を減らすことにもつながる。通常、アメリカ留学は留学生を以前よりもさらに「親米(pro-America)」へと導く経験だからだ。これらの要素を総合的に考えると、なぜ中国の国際的なイメージが高まり、アメリカのイメージが低下しているのかが理解できるだろう。
トランプ政権によるアメリカのソフトパワー優位性への組織的な攻撃に気づいたのは、私が初めてではない。不可解なのは、なぜ政権幹部が事態を認識していないのかということだ。彼らは、ハードパワーへの過度な依存(overreliance on hard power)、つまり他国を傷つけるための軍事力行使(the use of military force)を、稀で遺憾な必要事案ではなく、称賛すべき行為として扱うことが、気まぐれで復讐心に燃え、潜在的に脅威となるアメリカとの協力を他国が望まなくなるということを理解していないのだろうか? 「酢よりも蜂蜜の方が多くのハエを捕まえられる(you can catch more flies with honey than with vinegar)」という古い格言(old adage)を聞いたことがないのだろうか?
ここから私の考えを書いていく。
第一に、トランプ大統領をはじめとする政権幹部は、世界を強者[the strong](「勝者[winners]」)と弱者[the weak](「敗者[losers]」)に二分し、弱者とのいかなる妥協も失敗とみなしている。そのため、自慢をしたり、見栄を張ったり、たとえ些細な批判や反対意見に対しても容赦しない態度を取ったりする傾向が見られる。カナダやデンマークといった、アメリカに忠実な国々への無思慮な攻撃は言うまでもない。ピート・ヘグセス国防長官が「戦士の精神(warrior ethos)」や「致死性(lethality)」の喜びについてマッチョな発言をしたり、スティーヴン・ミラー大統領次席補佐官が歴史の「鉄則(iron laws)」が強者の支配を正当化すると宣言したりしたことは、おそらくこの考え方の最も明白な例だろう。しかし、権力者は他人に何をすべきかを指示し、従うことを期待できると信じているのは、彼らだけではない。思い出して欲しい。彼らは、スターであるというだけで女性を虐待しても構わないと豪語した大統領によって任命されたのだ。この(不)道徳な世界では、ルールは他人のためのものなのだ。
第二に、トランプとその支持者たちは熱烈な愛国者だと主張しているものの、自分たちが率いようとしているこの国を好きではないようだ。MAGAのスローガンを考えてみよう。「アメリカを再び偉大にすることが必要だと信じるなら、今のアメリカが偉大だとは思ってはいけない(If you believe it’s necessary to make America great again, you must not think it’s great today.)」。象徴的な国旗を振り回す彼らの行動は、トランプとその取り巻きがこの国について好き、あるいは尊敬している点がいかに少ないかという点で驚くべきものだ。彼らはほとんどのメディアを嫌い、ほとんどの人気芸能人を軽蔑し、民主党員(共和党員よりも人口に占める割合が大きい)を憎み、権力分立や法の支配を嫌い、この国で生まれていない市民(生まれている市民の中にもいる)を疑い、科学をほとんど尊重せず、大学を敵視し、影の「ディープステート(deep state)」が今もなお軍隊、外交団、そして多くの政府機関を蝕んでいると確信している。トランプはホワイトハウスさえ好きではなく、それをけばけばしい帝国の記念碑に作り変えたいと思っている。彼らはアメリカが深刻な状況にあると信じているため、この国の永続的な特徴が他国にとって魅力的である可能性を想像しにくいのかもしれない。
第三に、トランプとその支持者たちは、政権が結んだ見せかけの和平協定や暫定的な貿易協定など、あたかも成果であるかのように見せかけることができる即効性のある解決策を好む一方で、海外からの支持を得るための忍耐強く長期的な努力を避けている。トランプたちは、人々の間に良好な関係を築くことよりも、他国の指導者と取引をすることの方に興味がある。良好な関係は徐々に利益を生み出し、彼らが退任した後になって初めてその恩恵が完全に実現する可能性があるからだ。2028年以降に政権を去る自分たちにとって、次世代の留学生を獲得することなど誰が気にする必要があるだろうか?
もしこれがあなたの世界観であれば、ソフトパワーの重要性を軽視し、ハードパワーに頼るだろう。しかし、アメリカ人はもっと賢明であるべきだ。アメリカの外交政策史における最大の成功のいくつかは、かつての敵国を含む他国と建設的かつ寛大に協力し、自国の社会の好ましくない側面を是正することで、国際的なイメージを高めてきた結果だ。例えば、マーシャルプラン、NATO、公民権運動、慎重な貿易自由化の推進、そして冷戦を終結させドイツを統一した、厳しくも最終的には平和的な交渉などが挙げられる。対照的に、アメリカの外交政策における最大の失敗のいくつか(例えば、ヴェトナム戦争、イラクとアフガニスタンにおける終わりのない戦争、リビアにおけるムアンマル・カダフィの追放、そして現在のイランにおける混乱)は、十分なハードパワーがあれば成功が保証されるという考えから生じた。
アメリカには依然として多くの魅力的な特質があり、外国政府や国民は、国家としての理想としてのアメリカと、最悪の指導者たちの行動を区別することができてきた。しかし、アメリカの政治生活がますます粗野で腐敗し、ハードパワーが繰り返し悪用される一方でソフトパワーが衰退していくならば、この2つを切り離しておくことははるかに困難になるだろう。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt
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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』4月20日号にて、佐藤優(さとうまさる)先生の書評コーナー「名著、再び」にてご高評いただきました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 映像配信サーヴィスであるディズニー+とNetflixで、「ショーグン」と「三体」が公開されて話題になっている。「ショーグン」は1980年にNBCがドラマ化したものがあったが(原作はジェームズ・クラヴェル)、今回、再び映像化された。「三体問題[三体]」は、中国のSF小説で、英訳された後に世界で大ヒットとなった。「三体問題」とは物理の問題で、三質点間の運動がどうなるかという問題で、明確な方程式が存在しないものとされる。二体問題までは明確な公式があるのだそうだが、質点が1つ増えるだけで大きく変わるものらしい。小説はなかなか面白かったが、全部を読み通すのは大変だ。

 私事で恐縮だが、私は現在、中国語を勉強している(遅々として知識は増えないが)。そのクラスで小説『三体』と今回のドラマ化は話題になっている。先生が中国生まれの方で、小説を読んだ感想を聞くと「難しくてよく分からなかった」、ドラマについては「原作とはだいぶ違っていてまたよく分からなかった」と述べていた。受講生は日本人ばかりで、その中にドラマ好きの方がいて、いつも色々なドラマの話をしてくれるのだが、「三体」に関してはまぁまぁということだった。
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 「ショーグン」はかなり評価が高い。西洋人が作る日本物は、日本人から見ると珍妙なものになるということは事実としてあったが、今回の「ショーグン」はそのようなことがないようだ。主演の真田広之が制作陣のプロデューサーに入って、かなり意見を述べたそうだ。渡辺謙もそうだが、意見を述べて作品の質を上げることに貢献する日本人俳優が出てきているようだ。

 アメリカ人や西洋人は「字幕がついているものは見ない(苦痛に感じる)」ということで、これまでの非西洋を舞台にした作品でも、英語が使われたり、舞台が大きく返られたりということはあった。「王様と私」でタイの王様をユル・ブリンナーが演じたこともあった。しかし、これからはそのようなことも減っていくだろう。また、技術の進歩で、英語吹替、中国語吹替と言ったこともできるようになっているので、こうした面での障壁は低くなっていくだろう。なんでも亜アメリカの衰退に結び付けるな、ということを言われそうだが、エンターテインメント業界、そして、アメリカのソフトパワーという面でも変化は起きつつあるようだ。

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アメリカのソフトパワーの新しい表出(America’s New Expression of Soft Power

-「ショーグン(Shogun)」と「三体問題(3 Body Problem)」は、ヨーロッパ人やアメリカ人を前面に、また中心に据えなくても、アメリカのポップカルチャーが人気を集めることを示している。

ハワード・W・フレンチ筆

2024年4月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/06/us-soft-power-shogun-pop-culture/

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「三体問題」のオープニングシーンから

この件について議論しようとする人にとって、アメリカの衰退の推定される過程を描くために使用できるデータポイントは不足することなどない。

まずはこの国(アメリカ)の政治の腐敗から始めよう。今年11月、有権者は現職か、2度の弾劾を受けた前大統領のどちらかを選ばねばならない。前大統領トランプは、それまでの歴代大統領たちと異なり、民事と刑事の両面で法廷において深刻な問題を抱えている。ジョー・バイデンは、超大国級の深刻な問題が山積しているアメリカを統治するには高齢すぎると多くの人は考えている。最近の予備選の結果が示しているように、バイデンは長年の同盟国であり、保護国でもあるイスラエルに対して、イスラエルの継続的な攻撃によって膨大な数の死者数が出ていること、ガザ地区で飢餓が発生する恐れがあることについて、それらを抑えることに消極的であるとして、民主党支持層の一部からの造反にも直面している。

現在、アメリカは環境保護への移行を進めようとしているが、手厚い保護なしには、外国製品と競争できるソーラーパネルも電気自動車も作れない。また、先進的なマイクロプロセッサーを製造するリーダーでありたいという希望を持っているが、巨大な補助金以外に、誰もその実現方法を考え出すことできないように見える。軍事面でも優位を維持したいが、軍事費は、アメリカに続く10カ国の合計よりも多く使っているにもかかわらず、艦船やその他の先進兵器システムの建造率では中国に大きく遅れをとっている。

このように悲観的な出だしではあるが、これはアメリカの衰退を嘆くために書いたコラムではない。実際、悲観的な兆候と同じくらい、アメリカのパワーの持続性に関する明るい兆候も多い。世界のGDPに占めるアメリカのシェアは、今世紀のほとんどをほぼ一定に保っており、現在は25%弱と、世界人口の5%にも満たない国としては驚くべき好成績である。アメリカの大学は、不可解なことに国内では熾烈な文化戦争(culture wars)の激戦地となっているが、依然として世界の羨望の的である。もう1つの国内紛争の原因であり、そのほとんどが醜く非合理的なものである、移民のおかげで、今世紀の残りの期間、高齢化(aging)や人口減少(population decline)による人口減少圧力に直面する可能性は、他の競争相手の国々よりもはるかに低いだろう。

ここ数週間、私はアメリカの力のこれらのどの特徴よりも、更に注目に値するものに感銘を受けてきた。そしてその証拠は、夜に10フィートの距離から私を楽しませる、力を測定する珍しい情報源から来た。私のリヴィングルームにある大画面のスマートテレビがその情報源だ。

このどこにでもある乗り物から発せられ、私に強烈な衝撃を与えたのは、これまでにない、そして素晴らしいという言葉を口から出したくなる、文化的産物であり、ソフトパワーの決定的に新しい表出であることの証拠だ。より明確に言うと、私は2つの新しいテレビシリーズである、「ショーグン(Shogun)」と「三体問題(Three Body Problem)」について話す。どちらも、慣れない規模と野心を持っている。慣習的な西洋の歴史や文化とは対照的に、アジアに根ざした壮大な物語を採用している。そして、アメリカのエンターテイメントでは非常にまれなことに、時代の詳細と言語の信憑性を維持することに努めている。

ヨーロッパが作った、非西洋文化に根ざした大衆向けの時代叙事詩の作品で、非西洋の登場人物や非西洋言語のためにこれほど多くのスペースが確保されている類似の例があるかどうか、私はよく知らない。そして私は、中国、日本、インド、あるいはその他の非西洋の主要な映画産業やテレビ産業についても、あえて同じことを言いたいと思う。ほとんど知らない。彼らは、文化的細部への同じくらい献身的な感覚を持って、現在を更に大きく超えて、彼らの文化的快適さと親近感のゾーンの外に到達する何かを試みているだろうが、私は彼らのことについて知識を持たない。

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「ショーグン」の1シーン

叩かれる前に言っておくが、「ショーグン」はオーストラリア生まれのイギリス人作家、ジェームズ・クラヴェルが1975年に発表した小説が原作として作成されたものであることは十分承知している。このことが、私がこれまでに言ったことを無効にしていると感じる人もいるかもしれない。しかし、今回の「ショーグン」は、1980年にNBCで放送された過去のドラマのミニシリーズとは異なり、自国の時代劇を得意とする日本の俳優と作家を中心に据え、信憑性にも驚くほどの注意を払っている。これは、記者として5年間日本に滞在した経験を持つ、まともな日本語話者としての私の意見だ。アメリカのテレビ視聴者は字幕付きのコンテンツにはあまり興味を示さないと考えられてきたが、私は字幕で使われる英語と、400年前に遡る、日本の宮廷用語の、絶妙にフォーマルな(そして複雑な)スタイルで表現される話し言葉の台詞を合わせて理解しようとしながらも、画面にうっとりとなって見入ってしまった。

このコラムは、テレビのレヴューや批評家による記事というよりも、むしろ文化的な解説であるが、アメリカのエンターテインメント業界の野心と、アメリカのソフトパワーの能力において、この2つの模範を分けているいくつかの点についても、ここではっきりとしておかなければならない。持続するだけでなく拡大しているようだ。原作となる小説が西洋人によって書かれた「ショーグン」とは異なり、「三体問題」は中国の小説、具体的には SF の最近の作品が原作となっている。私は、Netflix で放映されている、この作品の演出が、日本の歴史小説である「ショーグン」ほどには魅力的だとは思えない。その理由については、後ほど説明する。

しかしながら、「三体問題」は、私がこれまで見た中国の文化大革命(Cultural Revolution)の最も強力なシーンの1つから始まる。文化大革命は、1966年から1976年までの間、毛沢東とその最も卑劣な取り巻きたちがこの国に解き放った、公式に認可された準無政府状態(quasi-anarchy)の10年間だった。理論研究がマルクス・レーニン主義・毛沢東主義の思想に沿わない、高名な物理学者に対する、恐ろしい大衆の暴力(hazing)、または「批判闘争(struggle session、批斗)」を描いた冒頭シーンは、オール中国語で、セットが作られて撮影され、本物らしさがあふれ出す中国人の群衆が配置された。私は中国語も話し、中国(そして日本の歴史)についての本を書いた者としてこのように断言する。政権に卑屈にこびへつらい、政権の基盤を強化するのではなく、純粋な知識の追求に努めた中国の科学者たちに対するイデオロギー十字軍(ideological crusades)の懲罰の描写は、あたかも『中国で最も指名手配された男:科学者から敵への私の旅(The Most Wanted Man in China: My Journey From Scientist to Enemy of the State)』のページからそのまま出てきたように感じられる。この本は、亡命を余儀なくされるまでは、かつて祖国中国を代表する天体物理学者だった方励之(ほうれいし、Fang Lizhi)の力強い回想録である。

「三体問題」の冒頭シーンに対する中国の一部の人々のネット上での激しく敵対的な反応は、作家ラ・ロシュフーコーの有名な言葉を思い出させる。「偽善とは、悪徳が美徳に払う敬意である(Hypocrisy is the homage that vice pays to virtue)」。これらの一般的な批判は、政治的な理由で「三体問題」が中国で公開されておらず、おそらく今後も公開されることはないため、別のストリーミング配信方法を探している人たちによるものだろう。それはネットフリックスのミニシリーズが何か間違っているからではなく、むしろこの中国のシーンを正しく描いているからだ。もちろん、最良の対応は、推定200万人が殺されたこの歴史上重要な時期について、中国が独自にリアルなドラマや正確なドキュメンタリーを制作することだろうが、もちろん公式検閲(official censorship)がこれを容認するはずがない。

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「三体問題」の中での白沐霖[Bai Mulin](ヤン・ヒーウエン、Yang Hewen)と若き日の叶(葉)文潔[Ye Wenjie](ザイン・ツェン、Zine Tseng)の1シーン

中国のソーシャルメディア上で、Netflixが中国の物語を流用したとされることへの怒りに満ちた騒ぎが起きたことについて、あるコメンテーターが次のように述べた。「あの時代は巨大な傷跡であり、不条理なジョークだ。もし私たちが歴史に正面から向き合わなければ、どうやって未来を望むことができるだろうか?」

私にとって、Netflixのミニドラマシリーズ「三体問題」の最大の問題は、平板なキャラクターと生気のない台詞に加え、キャスティングの大規模なごまかしである。これは、西洋のエンターテインメント・ビジネスに深く浸透している、厄介なほどに伝統的な失敗であり、非西洋的なストーリーを採用したことによる信用を損なうものだ。「三体問題」の原作者である劉慈欣(Liu Cixin)は、原作では登場人物を中国人として書いている。Netflixは、商業的な理由から、欧米諸国の視聴者は中国語の登場人物を何話も何話も見ることに耐えられないと判断し、物語の大半をロンドンに設定し、欧米人キャストを通して物語を伝えるよう工夫したようだ。

「ショーグン」のクリエイターが行ったデザインの選択と比較してみよう。このシリーズでも、西洋人のキャラクターが重要な役割を占めている。これは原作であるクラヴェルの50年近く前の小説に沿ったものだ。しかし、「ショーグン」の原作とは異なり、現在のFX版ではこのキャラクターはほとんど脇役(middle background)に追いやられている。飢えた視聴者としての私の経験が、より広い観客の反応を少しでも反映しているとすれば、「ショーグン」のストーリーテリングは、「三体問題」の製作者たちが暫定的に投げかけた問いに答えていることになる。その問いとは、「西洋の観客は、主役を独占する西洋人以外の俳優に乗せられるのだろうか?」

アメリカのエンターテインメント業界が、この人種的な臆病さや田舎臭さを克服できれば、進み行く先に限界はないと思う。欧米人を前面に出す必要のほとんどない、あるいは全くない歴史における劇的な時代について真正面から語られる物語を作成して、あらゆる大陸で新たな観客を獲得することができる。

※ハワード・H・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新作に黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ツイッターアカウント:@hofrench

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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