古村治彦です。
民主党全国委員会は毎月1回のペースで米大統領選挙民主党予備選挙候補者討論会を実施してきた。参加条件がどんどん厳しくなって登壇者数は絞られてきている。この討論会に参加できない(条件をクリアできない)候補者たちは全国生中継でアピールする場を失い、「負け犬」(表現はきついが)ということになり、選挙戦から撤退せざるを得ない状況に追い込まれる。24名以上(2ダース以上)もいた候補者たちも大分絞られてきた。
討論会での出来不出来、悪目立ちではなく、良いパフォーマンスや人々の心をつかむ発言ができるかどうかで支持率は変化する。特に今回の討論会は2月3日に全米最初に予備選挙(党員集会)が実施されるアイオワ州で実施された討論会だっただけに、支持率にどのように影響を与えたか注目される。その点で行くと、上位3名となる、ジョー・バイデン前副大統領、バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)の中で、バイデンとサンダースが討論会の出来が良く、支持率が上がっている。ウォーレンはまあまあという感じだったようだ。ブティジェッジは目立つことができなかったようで、それで支持率が下がっているようだ。アイオワ州での世論調査の結果を見ればバイデンとサンダースが激しく1位を争っているという状況だ。
上位3名の候補者たちがこれからも激しく戦っていくだろうが、サンダースとウォーレンがどのように協力していくか、2、3位連合を作るかで、バイデンにとっては厳しい状況ということになる。大統領選挙を大きく見れば、ドナルド・トランプ大統領の再選の可能性が高いということには変わりがない。
(貼り付けはじめ)
1月の民主党予備選挙候補者討論会の5つの特徴(Five takeaways from
the Democratic debate)
ナイオール・スタンジ筆
2020年1月15日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/campaign/478328-five-takeaways-from-the-democratic-debate
エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)とバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)は火曜日夜の討論会で激しくやり合った。今回の討論会はアイオワ州での討論会実施前の最後の民主党討論会となった。
討論会に参加した6名の候補者たちはアイオワ州での支持を得ようと必死に戦った。予備選挙に参加している進歩主義派の大物政治家であるウォーレンとサンダースとの間の緊張関係が際立った。
アイオワ州デモイン市での討論会では、インディアナ州サウスベンド市前市長ピート・ブティジェッジのような穏健派の候補者たちはあまり目立つパフォーマンスができなかった。
これから今回の討論会の5つの特徴について述べていく。
(1)ウォーレンは協業な主張を展開した(A strong night for
Warren)
ウォーレンはサンダースとの激しいやり取りから討論会に入っていった。2人のやり取りは彼女が優勢であった。
中心的なテーマは、2019年12月にウォーレンとの私的な会話の中でサンダースが「女性は大統領選挙に勝利できない」と語ったかどうかであった。ウォーレンはサンダースがそのように語ったと述べた。一方、サンダースはそのようなことは言っていないときっぱりと断言した。
火曜日夜の討論会の壇上、ウォーレンはこのテーマに戻ることはなかったが、女性候補者の当選可能性(electability)について擁護するのにこのテーマを使った。ウォーレンは自身の記録と壇上にいるもう一人の女性候補者であるエイミー・クロウブシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)の記録を引用した。
ウォーレンは次のように語った。「この壇上にいる男性たちをご覧ください。彼らはこれまでに合わせて10の選挙で負けてきたんですよ。この討論会の壇上にいる人々の中で全ての選挙に勝利を収めてきたのはここにいる二人の女性だけです」。
これは力強さを見せた瞬間だった。サンダースとの争い、彼女の当選可能性について疑念を持つ人々へのアピール、それらを全て包み込んでおり、それを数行の言葉で簡潔に述べた。
討論会後のメディアの報道の多くは、討論会の最後でウォーレンとサンダースがやり合い、語った内容について詳しく述べたものだった。両者は緊張した関係を最後まで見せていた。候補者として登壇した実業家のトム・ステイヤーを前にして両者は握手をすることもなかった。
火曜日夜の討論会で、マサチューセッツ州選出の連邦上院議員ウォーレンは、今回の予備選挙の初期の討論会で彼女を際立たせていたパフォーマンスを取り戻した。
ウォーレンは医療制度と児童保育について熱く語ったが、それ以外にも外交政策についても詳しく語った。外交政策は今回の討論会で最初に取り上げられたテーマだったが、ウォーレンは特に外交政策に強いとは思われていない。
サンダースとの戦いが選挙に与える影響についてはまだ適切に評価できないが、ウォーレンは火曜日の討論会において傑出した候補者となった。
(2)サンダースにとって悪いことは起きなかった(No disaster for
Sanders)
ウォーレンは討論会の壇上での激しいやり取りでサンダースを負かしたと言えるかもしれないが、討論会自体はヴァーモント州選出連邦上院議員サンダースにとって悪いものとはならなかった。
討論会の最初、サンダースはウォーレンがサンダースのせいにしている件について否定し続けた。
サンダースは。2016年にウォーレンが大統領選挙に出馬するかどうかについて「態度を保留」していた、そして、女性が大統領選挙に勝利できないなどと彼が考えるなどということは「全く理解できない」と主張した。
サンダースの反撃の激しさは彼自身の支持者たちを満足させるのに十分であろうが、支持者の多くはウォーレンがこそこそとした方法でサンダースを貶めようとしているとしてウォーレンに対して怒り狂っている。
サンダースの討論会参加者としての技術は過小評価されやすいものだ。
サンダースは2002年に連邦上院議員時代のバイデンが当時のジョージ・W・ブッシュ大統領にイラクでの武力行使の権限を与えることに賛成票を投じたことを激しく批判した。これに当時連邦下院議員として反対票を投じたサンダースはブッシュ政権の主張について聞いていたことを思い出していた。
サンダースは「私はあの人たちは嘘をついていたと思います。ジョー(・バイデン)は私とは違うように考えるでしょうが」と述べた。
サンダースは「メディケア・フォ・オール」医療制度に関する提案を強く主張し、またトランプ大統領が再交渉を行った北米貿易協定、米墨加協定に対して、予備選挙の候補者の中で明確に反対の姿勢を打ち出している。
サンダースは、信頼性が高い『デモイン・レジスター』紙の世論調査でトップに立った。また、アイオワ州での討論会で何か大きな失点をしてしまったということもないようである。
(3)バイデンは当選可能性を強調(Biden presses electability
case)
予備選挙におけるバイデンの切り札は常にシンプルなものだ。それは、バイデンがトランプ大統領を倒すための最善の候補者だ、というものだ。
もちろん、バイデンのライヴァルたちはこの主張に反論している。しかし、火曜日夜の討論会の檀上で、バイデンはこれまでの討論会の時よりも、明白にかつ繰り返し当選可能性について強調した。
少なくとも2つの場面で、バイデンは予備選挙に出馬している他の候補者たちよりも幅広い支持を得ている、特にアフリカ系アメリカ人の民主党員や民主党支持の有権者たちの間での支持が高いことを強調した。
ウォーレンとサンダースがお互いにやり合ったことがバイデンには追い風となった。二人のやりとりに集中することで、バイデンに対する攻撃はなかった。そうした中で、自分が民主党を団結させるために最良の候補者だと主張した。
確かに、バイデン前副大統領にはいくつかの弱点がある。バイデンが連邦上院議員時代にイラク戦争へ賛成票を投じたことがまず挙げられる。しかしより大きいものは、バイデンが提示しているものよりも、より大きな変化を有権者が望んでいる可能性があるというものだ。
バイデンはこれまでの討論会において目立たない参加者であった。火曜日の討論会においてもそこまで目立つことはなかったが、失言を避けることはできた。
(4)ブティジェッジは背景になじみ消えてしまった(Buttigieg fades
into the background)
今回の討論会でのブティジェッジのパフォーマンスはより弱いパフォーマンスの一つとなってしまった。彼はうまくできなかった。
中西部にある町の市長だったブティジェッジは2019年後半の数か月の各種世論調査で支持率の数字を上げてきている。ある段階ではアイオワ州でトップに立った。それ以降、支持率の数字は少し下がったが、2020年2月3日のアイオワ州での党員集会では成功を収める可能性は高い。
ブティジェッジにとっての問題は、彼が火曜日の討論会の大部分で影が薄かったことだ。スポットライトが当たったのは上位3名の有力候補者たちであった。ブティジェッジは、曖昧なもしくは平凡な返答を嫌う傾向にあるが、それでもうまくできなかった。
ブティジェッジは自分自身を中道派に属する若手だと強調し続けている。彼は進歩主義派に対して、「ある計画の大胆さは、どれだけのアメリカ国民を遠ざけることができるかにかかっているだけに過ぎません」という攻撃を行った。
しかし、ブティジェッジにとっては忘れられない討論会となった中で最も記憶に残る発言となった。
(5)クロウブシャーは流れを変えることに失敗した(Klobuchar fails to
find a game-changer)
クロウブシャーは独自の立場に立たされている。トップ集団にいる訳でもなく、圏外にいる訳でもない。
クロウブシャーはリアルクリアポリティックスの支持率平均で、アイオワ州では7%と言う数字を記録している。バイデン、サンダース、ブティジェッジ、ウォーレンの後塵を拝している。
ミネソタ州選出連邦上院議員クロウブシャーは自身の中西部出身者としてのルーツと、左派に属する候補者たちが提示しているより包括的な公約について疑念を持つ有権者の声を代弁する候補者であることを主張した。
クロウブシャーは、メディケア・フォ・オールの実現ではなく、患者保護並びに医療費負担適正化法(アフォーダブル・ケア・アクト、オバマケア)の拡大を繰り返した。そして、他の候補者たちに向かって、「皆さんが計画を持っていてそれを非現実的な夢で終わらせないためには、それに対する予算をどのように手当てするかを示さなければなりません」と語った。
しかし、クロウブシャーは安定していたが、パッとはしなかった。これからの党員集会での票集めに討論会でのパフォーマンスがどのように影響するかを予測するのは難しい。
(貼り付け終わり)
(終わり)
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