古村治彦です。
ドナルド・トランプ大統領の目玉政策に高関税政策がある。輸入品に対して高関税をかけることで国内での生産を促すというものだ。保護主義的政策である。ただ、関税の影響を受けるのは国内の消費者たちもそうである。上乗せされた分は消費者が支払うことになる。海外の生産者たちは価格上昇による売り上げの減少によって被害を受けるが、消費者たちは関税分を負担することになる。アメリカの生産能力が下がっている現状では、輸入を大きく削減することはできず、結果として消費者の支払いが増えることになる。
トランプ関税について、アメリカ国内では連邦最高裁判所が無効の判決を下した。これによってなくなるはずであるが、トランプ政権は何とかして高関税政策を続けたい。そのために法律の細かい条文を持ち出してきて何とかしようとしている。それが「強制労働(forced labor)」だ。下記論考の著者ファリード・ザカリアは次のように書いている。以下に引用する。
(引用貼り付けはじめ)
トランプ政権は、カンボジアや中国、ノルウェー、日本、オーストラリアに至るまで、あらゆる国が強制労働によって製造された製品を自国市場から排除できておらず、その不作為がアメリカの通商に悪影響を及ぼしていると主張した。この主張はあまりにも明白なこじつけであり、かつ対象範囲も広すぎる(スウェーデンがカンボジアと同列に扱われるのか?)ため、その意図は明らかだ。これはほぼ間違いなく、トランプに不利な最高裁判決の精神を骨抜きにするための法的口実をホワイトハウスが必要としたために考え出されたものだろう。
(引用貼り付け終わり)
このような事実がない、もしくはあってもその割合が相当小さいのに、難癖をつける形で「お前たちは強制労働をやっているだろう、だから高い関税をかけて制裁してやる」という形で、高関税政策を続けようとしている。事実ではないことを政策の理由にするということは逸脱行為であるし、非常に危険だ。でっち上げで他国を制裁するという形で、実は一般国民に影響を与えるということは不誠実ということになる。不誠実な政策決定を実行しなければならない官僚たちも気の毒であり、こうした人々は被害者ということになる。高関税制度自体は政策として実行されてきた歴史があり、適切なタイミングで、十分な準備の下に実行されることは間違いではない。問題は思いつき、行き当たりばったりで実行されることである。アメリカの政策の失敗は世界に大きな影響を与えることになる。
(貼り付けはじめ)
トランプの新たな関税計画に潜む不誠実(The Dishonesty Inside
Trump’s New Tariff Plan)
-関税を存続させるために連邦機関は虚偽の内容を証明するよう命じられている。
ファリード・ザカリア筆
2026年7月31日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/07/31/trump-tariffs-global-trade-dishonest-lie-economics-manufacturing-aluminum/
ミシガン州へ向かう大統領専用機「エアフォース・ワン」の機内で発言するドナルド・トランプ米大統領(7月27日)
アメリカ連邦最高裁判所がドナルド・トランプ大統領の関税への執着に終止符を打ったと考えているならばそれは間違いだ。連邦最高裁は2026年2月、世界中のほぼ全ての国からの輸入品に課税する大統領の広範な「解放の日(Liberation Day)」関税について、大統領にはそのような非常事態権限がないとして無効と判断した。この判決に対しトランプ大統領は、極めて異例かつ不明瞭で、場合によっては違法ともなり得る手段を法律の中に探し求め、極めて類似した関税を復活させようとしている。
まず導入されたのは、一時的な世界一律関税だった。その期限が切れると、政権は不公正な貿易慣行を理由に、60の経済圏(国・地域数にして80カ国以上)を対象として10〜12.5%の関税を課した。カナダに対しては、1930年のスムート・ホーリー関税法第338条という、それまで一度も発動されたことのない条項を持ち出した。
これら広範な新関税の根拠として、ここ数カ月の間に突如として持ち出されたのが「強制労働(forced
labor)」の疑いだ。トランプ政権は、カンボジアや中国、ノルウェー、日本、オーストラリアに至るまで、あらゆる国が強制労働によって製造された製品を自国市場から排除できておらず、その不作為がアメリカの通商に悪影響を及ぼしていると主張した。この主張はあまりにも明白なこじつけであり、かつ対象範囲も広すぎる(スウェーデンがカンボジアと同列に扱われるのか?)ため、その意図は明らかだ。これはほぼ間違いなく、トランプに不利な最高裁判決の精神を骨抜きにするための法的口実をホワイトハウスが必要としたために考え出されたものだろう。
これは単なる政治的な印象操作の域を超えている。トランプ大統領はアメリカ政府に対し、事実ではないと知りながら、ある事柄を事実として正式に認定するよう命じているように見える。各機関は調査結果を公表し、法的な論拠を構築し、そして最高裁の判断を回避するという明白な目的のために捏造された虚偽に対して、アメリカという国家の権威を付与しなければならない状況になっている。組織の腐敗とはこのようにして進む。まず真実を曲げるよう求められ、次に嘘を事実だと証明するよう求められる。やがて嘘が日常化し、誰もそれを異常だと思わなくなる。それは、ジョージ・オーウェルが描いた世界へと続く道である。
ちなみに、「世界奴隷制指数(Global Slavery Index)」を作成している人権団体「ウォーク・フリー(Walk Free)」の推計によれば、アメリカは年間1696億ドル相当の強制労働によって製造された疑いのある製品を輸入しており、これはG20諸国の中で圧倒的に多い数字となっている。もちろん、だからといってアメリカの取り締まり体制が、トランプが標的としたあらゆる国のそれよりも劣っていると証明されてはいない。しかし、それによってトランプ政権の道徳的姿勢は、ただでさえ不条理なものが、さらに不条理なものに見えてくる。
新たなデータが次々と明らかになるにつれ、関税に反対する経済的な根拠は日増しに強まっている。ジョー・バイデン政権下で急増し、2024年9月には年率換算で約2500億ドルのピークに達した製造業関連の建設支出は、今年5月までに約1750億ドルへと減少した。トランプの再登板以来、製造業の雇用は約7万5000人分も減少している。工場生産高は増加したが、その伸びは先端製造業や人工知能(AI)分野に集中しており、その多くはトランプの大統領就任前に計画された投資を反映したもので、関税とはほとんど関係がない。
数カ月前に全米商工会議所が取り上げたグレッグ・フレーリーの例を見てみよう。彼は、アリゾナ州で民間航空機向けのアルミニウム部品を製造する中小企業「FALCO」の経営に携わっている。FALCOは、トランプが支援を公言している「アメリカ人労働者を雇用するアメリカの工場」という、まさにその典型的な企業だ。
FALCOのアルミニウム調達コストは72%上昇した。FALCOは単純にアメリカ産金属を購入する訳にはいかない。全米商工会議所によると、国内生産はアメリカの需要の約半分を賄うにとどまり、その生産量の多くは市場に流通していないからだ。そのため、FALCOはアルミニウムを輸入し続け、関税を支払い、その損失を自社で負担せざるを得ない状況だ。フレーリーによれば、FALCOは採用の凍結や事業拡大の延期を行い、自然減による人員の2割削減を容認し、手元資金を取り崩すとともに、顧客への請求に「関税追加料金」を上乗せするなどの対応を取っている。
その一方で、いわゆる「解放の日(Liberation Day)」の混乱後も、トランプは輸入アルミニウムへの関税を50%に引き上げ、最近ではアメリカに製錬所を建設する生産者に対して割引を提示した。しかし、世界最大級のアルミニウム生産者であるリオ・ティントは即座にこれを拒否した。つまり、この関税政策は「アメリカの製造業者のコスト増(higher costs for an American manufacturer)」「雇用の減少と投資の縮小(fewer jobs and less investment)」「誘致を狙った外国生産者による新規製錬所建設の不実現(no new smelter from the foreign producer it was meant to entice)」という、三重の悪結果をもたらしたのです。
その論理は本末転倒になっている。アルミニウム製錬は、アメリカのアルミニウム関連雇用のごく一部を占めるに過ぎない。雇用の大半は、リサイクル部門や、金属を航空機部品、自動車、缶、機械、建材などに加工する中流・下流工程の産業が生み出している。トランプ大統領は、より多くの雇用を支え、アルミニウムに依存するはるかに大きな産業基盤に課税することで、上流工程のほんの一部分を保護しようとしているのだ。
80年にわたり、アメリカは市場と貿易の開放に向けて世界を主導してきた。しかし、トランプはわずか2年足らずの間に、アメリカを事実上、最も保護主義的な主要先進国へと変貌させた。その結果もたらされたのは、製造業の復興ではない。物価の上昇、投資の低迷、製造業雇用の減少、そして失敗に終わった経済信条を擁護するために、虚偽を公式な政策とすることさえ厭わない政府の姿だ。
※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
(貼り付け終わり)
(終わり)

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』










