古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ドナルド・トランプ

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 今回は、興味深い論稿をご紹介する。民主党系のストラティジストが書いた文章で、内容は、イーロン・マスクが行っている政府効率化(連邦政府職員の削減、連邦政府機関の一部の閉鎖、予算の削減)がトランプと支持者たちを離間させるというものだ。 

論稿の著者ブラッド・バノンは「マスクはトランプのスケープゴートにされる可能性がある。民主党は、トランプを弱体化させることが最終目標であり、マスクを攻撃することではないと認識すべきである」と主張している。失業保険や生活保護など、連邦政府の予算が入っている福祉制度や労働対策制度を利用している低所得者層にとって、連邦政府の予算削減は生活に直結する大問題だ。

これまでにブログで何度も書いているが、トランプは、アメリカの貧乏白人、白人労働者たちの支持を受けて、彼らの代表として、既存の政治を壊すためにワシントンにやって来ている。貧しい白人、白人労働者たちが望んでいるのは、雇用であり、働かせてくれさえすれば、そして、生活できるだけの給料を保証してくれれば、福祉に頼ることなく、自分で生活を立て直すという考えを持っている。

 彼らの考えはもっともで素晴らしい。しかし、実態は厳しいだろう。トランプ政権下の4年間でどれだけの雇用が、一度、製造業が去ってしまった地域に戻るだろうか。しかも、彼らが望むだけの賃金となると、どうしても競争力は限定されてしまう。そうなると、彼らもまた我慢を強いられる。自分たちの思い通りにはいかないし、福祉に頼るということも続くことになるだろう。

 以下の論稿で重要なのは、後半の以下の記述だ。「マスクを嫌うバノンは私だけではない。トランプの大統領顧問を務めたスティーヴ・バノン(私とは血縁関係はない)は、長年の堅固なトランプ支持ポピュリスト勢力(the old diehard Trump populists)と、マスクを中心とするトランプ・ワールドの新たな有力企業勢力(the new dominant corporate wing of Trump World)との間で、MAGA内戦が勃発すると警告している。バノンはこれを、トランプ連合内の億万長者と労働者階級の勢力間の戦い(a battle between the billionaire and working-class elements within the Trump coalition)だと表現した」。

 既に、日本でも報道されているように、政権内部には不協和音が起きつつある。最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)でも、政権内の不協和音、衝突については触れているが、より鮮明になっているようだ。私は違和感を覚えていたが、それが「長年の堅固なトランプ支持ポピュリスト勢力(the old diehard Trump populists)と、マスクを中心とするトランプ・ワールドの新たな有力企業勢力(the new dominant corporate wing of Trump World)」という形で言語化されている。トランプ政権はポピュリズム政権であるが、大富豪であるイーロン・マスク、そして、ピーター・ティールが支えていることの違和感はあった。これが顕在化しつつある。

 トランプという巨大な存在によって、そうした不協和音を抑えることができるだろうが、それがいつまで続くだろうかということは私の最新の興味関心ということになる。

(貼り付けはじめ)

マスクは民主党がトランプを労働者階級の支持層から引き離すために必要な楔となるかもしれない(Musk may be the wedge Democrats need to separate Trump from his working-class base

ブラッド・バノン筆

2025年2月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/5158364-elons-musk-vs-trump-division/

イーロン・マスクはメディアの注目を独占している。この状況が続く限り、彼にはそれを楽しんでいて欲しい。マスクはトランプ大統領の影を薄くし始めており、トランプのようなナルシストが長く我慢するはずがない。

木曜日、クールなサングラスをかけ、チェーンソーを振り回すマスクは、今年のCPAC保守派会議の主役だった。FOXニューズのショーン・ハニティとの共同インタヴューでは、トランプを圧倒した。トランプが脇役に甘んじていた最近の大統領執務室での会合の報道では、マスクと息子が中心人物だった。カルヴィン・クーリッジがネイティヴ・アメリカンの頭飾りを身につけて以来、最悪の大統領写真撮影の機会だった(意識が高ぶっていることを許して欲しい)。

マスクはフレッド・アステアの真似を精一杯やっている。重力に逆らって天井で踊っている。この綱渡りは、彼の失墜が更に悲惨なものになることを意味するだけだ。

2週間前に『エコノミスト』誌が実施した全国世論調査によれば、トランプ大統領は既に不人気であり、人命が失われる数が増えるにつれ、事態はさらに悪化するだろうことは間違いない。

トランプの支持率も、2度目の就任以来低下している。彼に対するネガティヴな評価が警戒すべきレヴェルにまで達すれば(そして必ずそうなるだろう)、脚光を浴びることを好むこの大企業経営者であるマスクは大統領のスケープゴート(scapegoat)にされるだろう。トランプの元側近の多くと同様に、彼も使い捨てられる存在だ(He is disposable like so many of Trump’s former associates)。民主党は、私たちの最終目標は大統領を弱体化させることであり、マスクを弱体化させることではないことを忘れてはならない(Democrats must remember that weakening the president, not Musk, is our ultimate goal)。マスクがトランプの意のままに動いているのであって、その逆ではないことを明確にすべきだ(We should make it clear that Musk is doing Trump’s bidding and not the other way around)。

国民の60%以上は、マスクがトランプに大きな影響力を持っていると考えているものの、マスクにそう望んでいるのはアメリカ人の5人に1人だけだ。共和党員の3人に1人でさえ、この大企業経営者マスクは大統領に過大な影響力を持っていると考えている。

トランプは、マスク、Metaのマーク・ザッカーバーグ、Amazonの『ワシントン・ポスト』紙のジェフ・ベゾスといった超富裕層のテック業界の巨人たちと肩を並べている。ワシントン・ポストで最近起きた騒動は、トランプの企業カルテルがいかに集中的な権力を持っているかを如実に示している。公益団体コモン・コーズは、マスクを批判するラップアラウンド広告を一面、裏面、そして中面1ページに掲載することを提案した。しかし、注文を受けた後、ワシントン・ポストは尻込みして広告掲載を断った。ワシントン・ポストのモットーは、「ワシントン・ポストで民主政治体制は闇の中で死ぬ(Democracy Dies in Darkness at the Washington Post)」に変更されるべきだ。

ワシントン・ポストが広告掲載を拒否したことは、言論の自由に対する明白かつ差し迫った脅威だ。また、トランプ、マスク、ベゾスが、機能不全に陥ったアメリカ民主政治体制の心臓部に血液を送り込む情報動脈(the information arteries)を、いかに強大に締め上げているかを如実に示している。

マスクは世界で最も富裕な人物の1人、いや、最も裕福な人物と言えるだろう。彼は政府効率化省をリードする頭脳(the brain behind the Department of Government Efficiency)だ。彼の冷酷な指揮下で在宅医療や学校給食を失う貧しいアメリカ国民のことを、彼には気遣う理由など存在しない。効率化をあえて追求するあまり、彼は大切なものを駄目にし()throw the baby out with the bathwater、何百万人もの人々に奉仕する連邦政府機関を丸ごと潰そうとしている。彼の執拗な追求には、政府撲滅省(the Department of Government Eradication)というより適切な名称がふさわしいだろう。そして、彼が直属する大統領の真の目的はまさに政府の撲滅なのだ。

最近、政府効率化省(DOGE)は移民・関税執行局(the Immigration and Customs Enforcement Agency)で80億ドルの無駄遣いを発見したと主張した。『ニューヨーク・タイムズ』紙が調査したところ、実際の数字は800万ドルだったことが判明した。マスクが80億ドルと800万ドルの違いも分からないのであれば、他に何を間違っているだろうか? 彼は政府支出の効率化(efficiency in government spending)を担うべき人物ではない。

彼はまた、行動と言動において利益相反(conflict of interest)そのものだ。彼の巨大な企業的利益は、彼が担う重要な政府責任と真っ向から衝突している。彼のロケット会社スペースX社は連邦政府の請負業者である。

マスクを嫌うバノンは私だけではない。トランプの大統領顧問を務めたスティーヴ・バノン(私とは血縁関係はない)は、長年の堅固なトランプ支持ポピュリスト勢力(the old diehard Trump populists)と、マスクを中心とするトランプ・ワールドの新たな有力企業勢力(the new dominant corporate wing of Trump World)との間で、MAGA内戦が勃発すると警告している。バノンはこれを、トランプ連合内の億万長者と労働者階級の勢力間の戦い(a battle between the billionaire and working-class elements within the Trump coalition)だと表現した。

民主党と進歩主義派は、この分裂につけ込むことができる。苦境に立たされた労働者世帯を支援するという自らの関与を強調することで、こうした分裂をうまく利用することができる。彼らは、トランプが新政権発足初日に物価を引き下げるという、今や放棄された選挙公約を実行してくれることを期待していた。

分断統治(divide and conquer)は常に敵を倒す効果的な手段だった。私たちはMAGA内の分裂につけ込まなければならない。マスクは、トランプを労働者階級の支持層から引き離すために必要な楔(wedge)となるかもしれない。

※ブラッド・バノン:民主党の全国規模担当ストラティジストであり、民主党、労働組合、そして進歩主義的な問題団体のための世論調査を行うバノン・コミュニケーションズ・リサーチCEO。彼は、権力、政治、政策に関する人気の進歩主義派ポッドキャスト「デッドライン・DC・ウィズ・ブラッド・バノン(Deadline D.C. with Brad Bannon)」の司会者を務めている。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 ドナルド・トランプには大統領としては残り4年間弱しか時間がない。そのうち、最終年はレイムダック化と呼ばれる、次はないのだからということで、人々が離れて実質的に力を失う時期があるとなると、3年間ほどしかない。2026年11月には中間選挙(連邦上院議席の一部と連邦下院の全議席の選挙)が実施され、だいたい与党側が議席を減らすので、連邦上下両院での優位も崩れるかもしれない。そうなれば、政権運営は難しくなるので、最初の2年間で勝負を決しておかねばならない。

トランプは、アメリカの抱える財政赤字と貿易赤字を何とかしようと、電撃作戦を仕掛けた。巨大な連邦政府(職員は約200万人)と巨額の連邦政府予算(約7兆ドル、約1000兆円に達する)の削減を行うために、イーロン・マスクを政府効率化省のトップに据えた。私たちは新自由主義全盛の頃に、アメリカは小さい政府で効率が良い、決定スピードが速いなどと嘘を教えられてきたが、共和党と民主党の大統領、連邦議会は、アメリカ連邦政府を巨大化させてきた。そのくせ、日本は国家予算を削り、人員を減らすことを、アメリカの手先にして売国奴、買弁の小泉純一郎や竹中平蔵に強要されてきた。話が逸れたので元に戻す。

 貿易赤字に対しては、高関税を課すことになった。関税を支払うのは、輸入する業者たちだ。そして、関税が上がった分で業者や取引業者が吸収できない分は消費者が価格の上昇ということで支払うことになる。物価上昇については、トランプ大統領はエネルギーの増産で対処しようとしているが、アメリカ政府の輸出増加を狙う、ドル安誘導で物価上昇は避けられない。アメリカ国民は、強いドルのおかげで世界中から製品を比較的安価に手に入れることができた。そして、外国に支払ったドルは、「世界で最も安全な資産」である米国債購入で、アメリカに戻るというシステムを作り上げ、借金漬けの生活を送ることが可能になった。

 トランプはそのような戦後のシステムとそれが生んだひずみを解消しようとしている。もちろん、それはうまくいかないだろう。はっきり言って、アメリカの製造業が復活するなんてことはないし、アメリカの借金が全てチャラになることはない。多少の延命になるかどうかだ。しかし、これまでの政治家たちが先送りにしてきたことを何とかしようという姿勢を見せているだけでも、アメリカ国民の評価を得るだろう。

 以下の論稿にあるように、これまでの常識で見ていけば、トランプはすぐに失敗することになるだろう。しかし、現状はこれまでとは大きく異なっている。戦後の世界構造、いや、近代600年の世界構造が大きく動揺している。その中で、時代精神、心性を体現する人物としてトランプは出現した。このことを分からなければ、右往左往するだけのことになってしまう。

(貼り付けはじめ)

これは「トランプのピーク」になるかもしれない(This Could Be ‘Peak Trump’

-彼の権力への復帰は印象的なものだが、これから困難な仕事が始まる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年1月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/01/27/peak-trump-war-diplomacy-tariffs-economy/

トランプ政権の発表だけを聞いたり、これまでに業績を上げてきたジャーナリストたちによる、まるで目の前の出来事に戸惑うような(the deer-in-the-headlights)説明だけを読んだりすれば、トランプ新政権は既に抗えないほどの勢いを増大させているという結論を皆さんは持つかもしれない。トランプの君主的な野心(Trump’s monarchical pretensions)を考えると、彼は間違いなく、自分には制限がなく、抵抗は無駄だと皆に思わせたいと思っているだろう。しかし、それは事実ではない。トランプの華々しい復帰と初期の広範な取り組みを、止められない勢いだと誤解すべきではない。むしろ、後になって、この時期を振り返ったえら、トランプ的傲慢さの頂点(the highwater mark of Trumpian hubris)だったということになるだろう。大袈裟な約束をするのは簡単だが、実際に成果を上げるのは非常に困難なのだ。

もちろん、トランプの手腕を過小評価すべきではない。彼は、疑わしい事業に銀行から融資を取り付け、騙されやすい顧客に、決して実現しないものに金を支払わせることに大いに長けている。彼は、事実がどうであろうと、アメリカは絶望的な状況にあり、自分だけがそれを解決できると有権者を説得することに驚くほど長けていることを証明してきた。これは、様々な問題の責任を負わせる架空の敵(fictitious enemies)を見つけることにも同様に長けているからだ。過去の犯罪に対する処罰を逃れることにかけては並外れた技能を持っており、自身、家族、そして仲間に利益をもたらすことにも長けている。そして正直に言って、彼は疑問視されるべき正統性(orthodoxies that deserved to be questioned)、特にアメリカを不必要で失敗に終わる戦争に引きずり込む外交政策エスタブリッシュメントの傾向に、果敢に挑戦してきたことでも恩恵を受けている。

トランプが才能を発揮できていないのは、政府を運営し、首尾一貫した政策を立案し、一般のアメリカ国民に広範かつ具体的な利益をもたらすことにおいてだ。彼の最初の任期における実績は忘れてはならない。貿易赤字は改善するどころか悪化し、不法移民は大幅に減少せず、パンデミックへの対応の失敗で何千人ものアメリカ人が不必要な死を遂げ、北朝鮮は核兵器を増強し、イランはウラン濃縮を再開し、大々的に宣伝されたアブラハム合意は、2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃の布石となった。彼はアメリカ・メキシコ国境に壁を建設することはなく、メキシコは費用を負担しなかった。中国は、トランプが交渉した大規模貿易協定で約束した2000億ドル相当のアメリカ製品を購入しなかった。まさに多くの勝利を得た!

今回はもっと良い結果になるだろうか? もしかしたらその可能性はある。2017年とは異なり、今回は彼には要職に忠実な側近が就いており、ホワイトハウスには有能で有能な首席補佐官(chief of staff)がいると誰もが認めるだろう。しかし、こうした強みをもってしても、トランプの政治政策に潜む深刻な矛盾(deep contradictions)や、彼が直面するであろう障害(obstacles)を解消することはできない。

それらの点を列挙してみよう。

第一に、偉大な平和調停者(a great peacemaker)として歴史に名を残したいというトランプ氏の願望と、自分の思い通りにするために相手を威圧し、武力行使で脅すという彼の根強い特長との間には、明らかな緊張関係がある。巧みな強制外交の使用(the adroit use of coercive diplomacy)は和平努力を促進することもあるが、あらゆる方向に大きな棒を振り回すトランプの特長は、どこでも通用する訳ではない。遅かれ早かれ、彼のブラフは見破られ、彼は引き下がるか、行動を起こさなければならないだろう。彼の怒りの矛先となっている相手の中には、「泥沼(quagmire)」に陥っている存在もおり、武力行使の脅しは、従わせるどころか、抵抗を強める傾向がある。彼はまた、ロシアによるウクライナ戦争と、ほぼ確実に崩壊するイスラエルとハマスの停戦という、特に厄介な2つの紛争を引き継いだ。そして、後者については24時間以内に解決できると選挙運動中に自慢していたことを、既に撤回している。

第二に、トランプの経済政策は到底納得のいくものではなく、彼は自らが表明した目標の一部を犠牲にするか、経済破綻の危機(a potential economic trainwreck)に直面することになるだろう。減税(tax cuts)の延長、関税(tariffs)の導入、そして労働者の国外追放(deporting)は、いずれも財政赤字の拡大とインフレの再燃を招く恐れがあり、トランプが得意とする予測不可能性(unpredictability)によって生じる不確実性(uncertainty)は、企業の足かせにもなるだろう。トランプと支持者たちは、規制緩和(deregulation)と「無駄な(wasteful)」支出の削減でこの矛盾は解消されると主張しているが、国防総省への支出を増やすのであれば、多くのアメリカ人が依存し支持している社会保障制度を大幅に削減しない限り、大した節約にはならない。トランプ大統領は、ジョー・バイデン前大統領から極めて健全な経済を引き継いだ。更に重要なのは、トランプ大統領が実施すると約束した政策が、この落ち込みをより悪化させるということだ。

第三に、トランプが他国(特にメキシコ)を罰すると脅すことと、反移民政策の間には明らかな矛盾がある。メキシコへの関税は、多くのアメリカの製造業が依存するサプライチェインを混乱させるだけでなく、メキシコ経済に打撃を与え、より多くの人々がリスクを無視してアメリカへの移住を試みるようになるだろう。不法移民を阻止する最良の方法は、近隣諸国を不況に陥れるのではなく、経済的に繁栄させることだが、トランプはこのことを理解しているのだろうか?

第四に、政府機関を骨抜きにし、公務員にリトマス試験を課し、不適格者や深刻な問題を抱えた人物を主要な政府機関の責任者に据えることは、不可欠な公共サーヴィスの低下を確実に招く。政府機関は政治の格好の標的だが、億万長者ではないアメリカ人は、特に緊急事態において、それらの機関が円滑に機能することを頼りにしている。公共サーヴィスが低下した場合、一般のアメリカ人は憤慨するだろうし、トランプには他に責める相手はいないはずだ。

第五に、大学やその他の知識生産組織を攻撃することは、アメリカを愚かにし、人的資本を減退させ、他の国々の追い上げを助長することになる。大学を標的にするなら、技術革新を推進し、効果的な公共政策の策定に貢献し、社会全体の幸福に貢献する将来の科学者、エンジニア、医師、芸術家、社会科学者、弁護士、その他の専門家を誰が教育することになるのだろうか? 大学、非政府組織、シンクタンクにMAGAアジェンダを押し付けることで、各国が致命的な過ちを避けるための健全な議論が阻害されてしまう。これは、アメリカのような開かれた社会が、権威主義的なライヴァル国よりも一般的に豊かで、強く、過ちを犯しにくい理由を説明するものだ。賢明な大統領なら、この優位性を手放したいと思うだろうか?

第六に、トランプ氏が政府の腐敗を全く新しいレヴェルに引き上げると信じるに足る理由は十分にある。彼は既に、金持ちでテクノロジー業界の大富豪たちからの金銭と譲歩を強要している。彼らは金銭の授受に躍起になっている。関税やその他の貿易制限を課すことで、企業は例外を求め、それを得るために金銭を投じるため、腐敗が蔓延する新たな機会が生まれる。腐敗が蔓延すると、資源は人材買収に浪費され、投資は最も優秀なイノベーターや最も有望な事業ではなく、独裁者の言いなりになる忠誠心の高い層に流れていく。開発専門家たちは、腐敗の削減と法の支配の強化が経済成長を促進すると強調しているが、トランプはアメリカを逆の方向に導こうとしているようだ。彼と彼の仲間はより豊かになるだろうが、あなたはそうならないだろう。

第七に、トランプの二期目は、ある意味で、共和党が長年追求してきたいわゆる統一された行政権の実現に向けた集大成と言えるだろう。行政権の集中(the concentration of executive power)は1世紀以上にわたり着実に進んできたが、近年の最高裁判決はこの傾向を加速させ、トランプの君主制的な本能(Trump’s monarchical instincts)を強めている。抑制されない権力の問題は、独裁者の過ちを正す術がないことだ。特に、情報環境も掌握し、自らの失策を指摘する者を排除したり、沈黙させたりできる場合、猶更だ。人間は誤りを犯す生き物であり、過ちは避けられないが、抑制されない権力を持つ指導者は、大きな過ちを犯しがちだ。ヨシフ・スターリン、毛沢東、アドルフ・ヒトラー、ベニート・ムッソリーニ、サダム・フセイン、ムアンマル・カダフィ、そして北朝鮮の金王朝が、権力を掌握し、やりたい放題になった時にどれほどの損害を与えたかを考えてみて欲しい。中国の習近平国家主席の最近の一連の失策もまた、警告となる具体例となる。

就任演説でトランプは、アメリカ合衆国を新たな「黄金時代(golden age)」へと導くと宣言した。しかし、寡頭政治家たち(oligarchs)が政治を支配し、縁故資本主義(crony capitalism)が蔓延し、政府が市民社会(civil society)の独立した機関を威圧し、嘘が政治言説の常套手段となり、宗教的教義が公共政策の主要要素を左右し、問題は常に変化する内外の「敵(enemy)」のせいにされるような国のヴィジョンとは、到底合致しない。これはアメリカ合衆国というより、ロシア、中国、あるいはイランに近い。そして、大多数のアメリカ人が本当に望んでいるのは、そのような状況ではないだろう。

良いニューズなのは、そこに到達するにはまだ道のりが長く、独裁政治(autocracy)への道には落とし穴がたくさんあるということだ。22024年11月5日のアメリカ大統領選挙以来、トランプが続けてきた勝利のラップソングは終わりを迎え、彼の突飛な公約を全て実現するという困難な仕事が始まる。特に誠実さや清廉さといった基本的規範を軽蔑する人物には嫌悪感を抱いているものの、もしトランプが私の予想を覆し、専門家の予想を覆し、アメリカをより豊かで、より団結し、より安全で、より尊敬され、より平穏な国にしてくれるなら、嬉しい驚きを感じるだろう。しかし、私はそれに賭けるつもりはない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Bluesky: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 ウクライナ戦争は現在も継続中であるが、大きな展開は見られない。そうした中で、トランプ政権が発足して、サウジアラビアで、アメリカとロシアによる停戦に向けた交渉が行われている。その場にウクライナはいない。私がこれまでの著作で書いてきているように、残念なことであるが(悲しいことであるが)、ウクライナはその交渉には参加できない。

ウクライナ戦争はアメリカがウクライナに代理で行わせた戦争であり、当初の目論見通りに進まず(ロシアが早期に手を上げると思っていた)、完全に失敗した中で、トランプ政権になって、停戦に向けた動きが始まっている。ウクライナは米露間で決まった条件を飲むしかない(多少の変更はできるだろうが)。そして、それを飲まないということになれば、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、アメリカによって失脚させられるだろう。気の毒なのはウクライナ国民であり、ロシア国民だ。早く戦争が止まれば助かった命は多くあっただろう。アメリカと西側諸国の「火遊び(NATOの東方拡大)」によって、貧乏くじを引かされたのはウクライナ国民だ。

 停戦の条件はどうなるか分からないが、現状のままということになる可能性が高い。そうなれば、ウクライナは東部4州が独立するということになり、国土を失うということになる。ウクライナと西側諸国が「勝利」で終わるということはないだろう。そうなれば、「誰のせいで、誰の責任で、このような失敗をしてしまったのか、どうして戦争が起きてしまったのか」という話は当然出てくるだろう。

 下記論稿にあるように、責任の所在について色々と考えが出てくるだろうが、そもそも論で、西側諸国全体に責任を期する考えは大っぴらに出てくることはないだろう。アメリカとヨーロッパ諸国が、実際にウクライナを支援する意図はないが、ロシアを刺激し、ロシアに手を出させて戦争を起こさせて、打撃を与えるというような、稚拙な考えで、ウクライナの軍事部門だけを支援した結果が現在である。しかし、そのようなことを言えば、アメリカとヨーロッパ諸国のエスタブリッシュメントに責任が及んでしまうので、そのようなことは言えない。だから、もっと小さな、枝葉末節なことを言って、煙に巻いてしまおうということになるだろう。武器を与える与えないというのは、ウクライナ戦争において重要な要素ではある。しかし、それよりも重要な論点がある。

 アメリカをはじめとする西側諸国(the West)の失敗と減退をウクライナ戦争は象徴している。そして、日本に住む私たちが得るべき教訓は、西側諸国の火遊びに巻き込まれず、決して戦争を起こさないということだ。

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「ウクライナを失ったのは誰か?」についてのユーザーガイド(A User’s Guide to ‘Who Lost Ukraine?’

-長期にわたる議論にどのように備えるか。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年1月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/01/08/users-guide-to-who-lost-ukraine/

ロシアのウクライナ戦争がどのように、そして、いつ終結するのか、正確なところは誰にも分からないが、その結末はキエフとその西側諸国の支持者にとって失望となる可能性が高い。そうなれば、次の局面では誰が責任を負ったのかをめぐる激しい論争が繰り広げられるだろう。参加者の中には、悲劇的な出来事から真摯に学びたいという思いから行動する者もいれば、責任を回避したり、他者に責任を転嫁したり、政治的な利益を得ようとしたりする人もいるだろう。これはよくある現象だ。ジョン・F・ケネディの有名な言葉がある。「勝利には100人の父親がおり、敗北は孤児だ(Victory has 100 fathers, and defeat is an orphan[訳者註:勝利の際にはたくさんの人が自分のおかげだと名乗り出るが、敗北の際には自分が原因だと名乗り出る人はいない]」。

この思想戦(this war of ideas)が勃発するのを待つ必要はない。なぜなら、いくつかの対立する立場は既に存在しており、他の立場は容易に予測できるからだ。ここで、それらの詳細な評価を示すつもりはない。このコラムは、戦争がなぜ起こったのか、そしてなぜ私たちの大多数が期待したようには進まなかったのかという、対立する説明をまとめた便利なチェックリストに過ぎない。

論点1:ウクライナが核兵器を放棄したのは間違いだった。一部の専門家によると、最初の大きな誤りは、ウクライナに旧ソ連から継承した核兵器を、実効性のない安全保障上の保証と引き換えに放棄させたことだ。もしキエフが独自の核兵器を保有していれば、ロシアの軍事介入を心配することなく、自らが望む経済協定や地政学的連携を自由に追求できたはずだというのがこの論点の趣旨だ。この論点は、最近ビル・クリントン元米大統領によっても引用されているが、ロシアは2014年にクリミアを占領したり、2022年に核兵器を保有するウクライナの残りの地域に侵攻したりする勇気はなかっただろう、なぜならそのようなことをするリスクが大きすぎるからだという主張である。この論点には技術的な反論(つまり、ウクライナが核兵器を保有していたとしても、使用できたかどうかは明らかではない)もあるが、それでもなお、検討に値する反事実的仮定(a counterfactual worth pondering)である。

論点2:ウクライナのNATO加盟招請は、戦略上極めて重大な失策だった。1990年代、洗練された戦略思想家たちが、NATOの拡大は最終的にロシアとの深刻な問題につながると警告したが、彼らの助言は無視された。こうした専門家の一人であるイェール大学の歴史家ジョン・ルイス・ギャディスは1998年に次のように述べている。「国務省は、NATOの新規加盟国が誰になるかを決めるまでの間、モスクワとの関係は正常に進展すると保証している。おそらく次は豚でも空を飛べるぞとでも言おうとするだろう(Perhaps it will next try to tell us that pigs can fly)」。ブッシュ政権が2008年のブカレスト首脳会議でジョージアとウクライナのNATO加盟を提案した際、アメリカ政府内からの警告は強まったが、加盟への機運を断ち切ることはできなかった。ロシアの抗議活動と安全保障上の懸念は軽々しく無視され、キエフと西側諸国間の安全保障上の結びつきが着実に強まったことで、最終的にロシアのウラジーミル・プーティン大統領は2022年に違法な戦争を開始するに至った。

この見解によれば、要するに、拡大論者がロシアの懸念の深さを理解せず、モスクワの反応を予測できなかったためにウクライナが侵略されたということになる。この主張は、ウクライナの最も熱烈な支持者にとっては忌まわしいものだ。彼らは、プーティン大統領はNATOが何をしようと遅かれ早かれ攻撃してきたであろう、なだめることのできない侵略者だから戦争が起きたのだと主張する。しかし、戦争が起きた理由に関するこの説明は論理的に一貫しており、それを裏付ける十分な証拠もある。こう言ってもロシアの行動を少しも正当化するものではないが、西側諸国の指導者たちはNATOの東方拡大(expanding NATO eastward)を始めた時点で、モスクワが何か酷いことをする可能性を考慮すべきだったことを示唆している。彼らはおそらく自らの行動が戦争の可能性を高めたことを認めることはないだろうが、他国を支援しようとする西側諸国の善意の努力が裏目に出るのはこれが初めてではないだろう。

論点3:NATOの拡大速度が遅すぎた。この論点は論点2の裏返しである。真の誤りはNATO拡大の決定や、後にウクライナに加盟行動計画の策定を要請したことではなく、キエフをより早く加盟させ、自衛手段を提供できなかったことだと主張する。この論点は、キエフが北大西洋条約第5条の保護と西側諸国の直接的な軍事支援の見込みを享受していれば、モスクワは軍事行動を取らなかっただろうと想定している。少なくとも、NATOは2014年にロシアがクリミアを占領した後、ウクライナの軍事力拡大をより迅速に支援すべきだった。そうすれば、将来のロシアの侵攻を抑止または撃退する上で、ウクライナはより有利な立場に立つことができたはずだ。この見方では、NATOの優柔不断さ(そして、バラク・オバマ政権がウクライナへの実質的な軍事支援に消極的だったこと)が、キエフを最悪の立場に追い込んだ。モスクワはキエフの西側への傾きを存亡の危機と見なしていたが、ウクライナはロシアの予防戦争(a Russian preventive war.)に対する十分な防御手段を欠いていたのだ。

論点4:西側諸国は2021年に真剣な交渉に失敗した。ウクライナが西側諸国(the West)への接近を着実に続ける中で、危機は2021年に頂点に達した。ロシアは3月と4月にウクライナ国境に軍事力を動員した。アメリカとウクライナは9月に新たな安全保障協力協定(a new agreement for security cooperation)に署名し、ロシアは軍備を強化し、12月にはモスクワがヨーロッパ安全保障秩序(the European security order)の抜本的な改革を求める2つの条約案を発表した。これらの条約案は真剣な提案ではなく、戦争の口実と広く見なされ、アメリカとNATOはロシアの要求を拒否し、控えめな軍備管理案を提示したにとどまった。その結果、米露両国はウクライナの地政学的連携について真剣な交渉を行うことはなかった。ロシアの要求全体が受け入れられなかった可能性もあるが、この見解は、アメリカとNATOはそれらを「受け入れるか、拒否するか」の最後通牒(a take-it-or-leave-it ultimatum)ではなく、最初の試みと捉えるべきだったと主張する。もしワシントン(そしてブリュッセル)がモスクワの要求の一部(全てではないが)についてもっと妥協する姿勢を持っていたら、この戦争は避けられ、ウクライナは多くの苦しみから逃れることができただろうか?

論点5:ウクライナとロシアは共に戦争を早期に終結させなかったために敗北した。後知恵(hindsight)で言えば、ウクライナとロシアは共に、戦争開始直後に終結していればより良い結果になっていただろう。この論点の1つは、2022年4月にイスタンブールでウクライナとロシアの両国は合意に近づいたものの、西側諸国が提案された条件に反対したため、最終的にウクライナは合意から離脱したというものだ。もう1つの論点は、2023年まで米統合参謀本部議長を務めたマーク・ミリー退役大将の主張と関連付けられることもある。それは、ハリコフとヘルソンにおけるウクライナの攻勢がロシアを一時的に不利な状況に追い込んだ後、ウクライナとその支援諸国は2022年秋に停戦を推進すべきだったというものだ。戦争を早期に終結させようとする努力が成功したかどうかは分からないが、戦闘が終結し、特に条件がキエフにとって不利なものであれば、これらの論点は再び注目を集めるだろう。モスクワがその侵略行為に対して支払った莫大な代償を考えれば、2022年初頭に交渉によって合意に達していた方がモスクワにとってもずっと良かったかもしれない。

論点6:ウクライナは背後から刺された。当然のことながら、ウクライナ国民と西側諸国の最も熱烈な支持者たちは、キエフへの支援が不十分で、そのスピードも遅く、支援内容にも制限が多すぎると長年不満を訴えてきた。もしキエフがロシアの凍結資産(Russia’s frozen assets)に加えて、エイブラムス戦車、F―16、パトリオット、ATACMS、ストームシャドウ、砲弾などをもっと多く受け取り、これらの兵器を自由に使用することができていたなら、ロシアは今頃決定的に敗北し、ウクライナは失った領土を全て取り戻していただろう。この見解は、西側諸国の強硬派(hard-liners)を今回の惨事の責任から見事に免責するものだ。問題は彼らの助言が間違っていたのではなく、十分な熱意を持ってそれに従わなかったことにあると示唆しているからだ。結果として、今後、様々な方面から、いわば、陰謀(dolchstoss、ドルクストス)の復活とも言える批判が聞かれることが予想される。

論点7:それはキエフの失敗だ。ウクライナ人がロシアの手によって耐え忍んできた苦しみを考えると、結果を自らの戦略的ミスのせいにするのは無神経であり、残酷ですらある。とはいえ、戦後、何が間違っていたのかを評価する試みには、2023年夏のウクライナ軍の不運な(ill-fated)攻勢(西側諸国の評論家の多くが不可解にも成功すると確信していた)と、戦術的には成功していたものの戦略的には疑問視されていた、2024年夏のクルスク侵攻が間違いなく含まれるだろう。ウクライナ軍は英雄的に戦い、印象的な戦術的創意工夫(impressive tactical inventiveness)を見せたが、戦後の批評家たちは、内部腐敗による戦力の消耗、防衛体制の構築に十分な努力を払わなかったこと、そしてキエフが若い世代を戦闘に動員する意欲、あるいは能力がなかったことに焦点を当てるだろう。

論点8:これは現実政治(realpolitik)だ。プーティン大統領をはじめとするロシア人は、この戦争をアメリカ主導によるロシアの弱体化維持のための執拗な努力の一環と見ているが、西側諸国の中には、ウクライナはロシアを長期にわたる莫大な費用を伴う戦争に巻き込むための単なる犠牲の駒に過ぎないと考える人もいるのではないかと思う。これはまさにマキャベリズム的な見方で、NATOの拡大とウクライナ加盟はモスクワを激怒させ、最終的には軍事的対応を引き起こすことを西側諸国のエリート層(特にアメリカ人)が理解していたことを示唆している。もし戦争がウクライナを越えて拡大せず、西側諸国の軍隊が介入しなければ、はるかに裕福な西側諸国はウクライナを長期間戦闘に引き留め、ロシアを徐々に疲弊させていくことができるだろう。同様の戦略は1980年代のアフガニスタンでソ連に対して効果を発揮しており、ロシアが最近シリアとモルドヴァで後退していることは、それが効果を上げていることを示唆している。私自身、この説明には大きな疑問を抱いているが、時が経てばアーカイブから何が明らかになるのか興味がある。

論点9:他の全てが失敗したらトランプのせいにする。ジョー・バイデン米大統領はある意味で幸運だった。アフガニスタンの終盤とは異なり、ウクライナの決着は他の誰かの監視下で起こるだろう。結果がウクライナに不利になれば、批評家たちは責任の一部を次期大統領のドナルド・トランプに押し付けるだろう。トランプは自分が弱いと思われ、結果の責任を負わされることを恐れ、これまで示唆してきた以上の支援をウクライナに与えるかもしれないが、バイデンほどの言論的、物質的な支援は行わないだろう。もしウクライナがロシア占領下の4州とクリミアを永久に失うか、新たな凍結紛争(frozen conflict)に巻き込まれることがあれば、トランプの政敵は喜んで彼に責任を負わせるだろう。

ウクライナで何がうまくいったのか、何がうまくいかなかったのかを健全かつ公平に議論すれば、正しい教訓を学び、将来に向けてより良い行動を選択できるだろう。しかし、過去の失敗から正しい教訓を学べる保証はない。このコラムの常連の読者の皆さんは、私がこれらの様々な議論の中でどれが最も説得力があると考えているか既にご存知だろうが、ここでの私の目的は誰かを責め立てることではない。今は、このコラムを切り取って、非難の矛先が向けられ、激しい論争が始まるのを待ちたい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ブルースカイ・アカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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トランプ関税は世界を震撼させた。そのショックから世界はだいぶ回復している。最近、本のおかげもあって、色々な人に「トランプ政権やアメリカはどうなるんですか」「トランプはどうしたいんですか」という質問を受けることがある。ドナルド・トランプは有言実行の人物であり、発言したことをそのまま実行している。その点で非常に分かりやすい。そして、トランプは、ロナルド・レーガン政権をモデルとしているので、レーガン政権の政策も考えれば、トランプ政権の基本の柱は「2つの赤字、財政赤字と貿易赤字の解消」である。そのために、連邦政府の職員の大量解雇や政府機関の閉鎖を進めているし、高関税(とドル安誘導)もその一環だ。

 トランプ大統領の経済アドヴァイザーで、大統領経済諮問会議議長のスティーヴン・ミランの「マール・ア・ラーゴ合意(協定)」については以前にもこのブログでご紹介した。高い関税とドル安合意(1985年のプラザ合意の同様の)は各国経済に大きな影響を与えるが、各国はアメリカからの安全保障を受けているので、それを取引材料にして、それを受け入れるという考えになっているようだ。アメリカが国を守ってやる代わりに(それでも自分たちでも防衛費を増額せよということはある)、その代償を支払うのが当然だということになる。

先日、赤沢亮正経済産業大臣が訪米し、トランプ大統領とも会談を持ったが、席上で、日本のアメリカ軍駐留経費負担の5倍増(年間約2600億円から年間約1兆3000億円への増額)を求められたというのは、日本からは、なんでも搾り取ろう、それができる相手だというアメリカの意向がはっきりと見えて、属国の悲哀を感じる。それなら、今まで貯め込んできたアメリカ国債(世界で第1位の保有額を誇る)を売って資金を調達しますと言えないのが辛いところだ。他国であればそれくらいの交渉をするだろう。しかし、アメリカの衰退ぶりをトランプ政権が見せてくれていることは象徴的な出来事であり、にほんもいつまでも「従米一辺倒」では国益を大きく損なうことになる。

 アメリカが抱える深刻な問題である、財政赤字と貿易赤字は、アメリカが「強いドル」で、世界中から安い価格で物品を購入、それをドルで支払い、外国に支払ったドルは米国債という形でアメリカに戻るというシステムが生み出した結果である。結局、アメリカは借金で生きる国柄となった。トランプ大統領はそこを何とかしようとしている。彼が「製造業の国」という言葉を大統領就任式の演説で使ったのは極めて重要である。しかし、残念ながら、アメリカが製造業の国として復活するにはもう手遅れである。それだけのインフラも質の高い、生産性の高い労働者も既にアメリカには存在しない。

 歴史的に見ても、貿易や製造業で大きく発展した国では、成功者たちは金融の投資によって、安定的な収入を得られる形にして、富裕層となっていく。そして、金融の割合が大きくなり、貿易や製造業は衰退していく。アメリカも既にその段階になっている。汗水たらして働くのが尊い、それが正しい生き方だという倫理感もなくなっている。日本も既にそうなっている。それは国家の衰退に兆候なのである。

 ドナルド・トランプはアメリカの衰退を象徴する人物として、後の歴史書に記録されるだろう。彼が衰退を招いたということではなく、アメリカが衰退していることを初めて明確にした人物として、そして、その時代の時代精神、心性を象徴する人物として記録されるだろう。

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トランプ大統領の貿易に関する矛盾が現実のものとなった(Trump’s Trade Contradictions Come Home to Roost
-ドルは上昇するどころか下落している。これは関税に関する理論に反する行動であり、投資家たちがアメリカへの信頼を失っていることを示している。

ピーター・コイ筆

2025年4月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/08/trump-trade-tariff-dollar-markets-confidence/

ドナルド・トランプ米大統領は、長らくドルについて2つの考えを抱いてきた。世界市場でアメリカ製品を安くするためにドルを弱めたいと述べる一方で、世界の主要な準備通貨(reserve currency)としての地位を維持するためにドルを強くしたいとも主張してきた。

これら2つの目標は決して両立しない。そして今、彼の関税戦争(tariff war)がアメリカ経済を脅かす中、現実が厳しくなっている(we’re seeing reality bite)。トランプは望んだ通りドル安を実現している。1月の就任以来、ドルは主要通貨に対して5%下落している。しかし、彼が約束したドル高はどこにも見られない。

昨年、トランプの主要アドヴァイザーの1人であるスティーヴン・ミランは、いわゆる「マール・ア・ラーゴ協定(Mar-a-Lago Accord)」を構想した。これは、アメリカが貿易相手国に対し、事実上ドルの価値下落への協力を求めるというものだ。理論的には、これは強い立場から切り下げを画策することになる。

むしろ、ドルが下落しているのは、アメリカの弱体化に対する認識によるものだ。投資家たちは、短期的には貿易戦争(trade war)がアメリカの景気後退を引き起こし、長期的にはアメリカへの信頼の喪失が世界貿易の中心であるドルの役割を危うくするのではないかと懸念している。INGのグローバル市場責任者であるクリス・ターナー氏は顧客向けメモの中で、「アメリカの関税がアメリカ経済に逆風を吹き込むことで、ドルは無防備な状態になっている」と述べた。

トランプは、強いドルは一長一短(mixed blessing)だと正しく指摘している。輸入品は安く、輸出品は高くなるため、グローバル市場で競争する企業の労働者たちは打撃を受ける。トランプは、自ら「アメリカ経済の空洞化(the hollowing out of the American economy)」と呼ぶ状況を逆転させると公約しており、関税と並んでドル安は彼の政策の重要な柱となっている。

しかし、強いドルはアメリカの消費者たちにとって物価も下げることになる。そして、アメリカがドルの価値を維持するという確信こそが、他国が緊急時の準備金(emergency reserves)としてドルを保有し、国際取引で米ドルを使用することに積極的かつ熱心に取り組んできた主な理由である。

ブルッキングス研究所の昨年の分析によると、ドル資産は世界の外貨準備高の59%を占め、ユーロ圏内の決済を除く国際決済の58%でドルが利用されている。これは、世界の経済生産高に占めるアメリカのシェアが約4分の1に縮小しているにもかかわらず、準備高と決済の割合は大きい。

この優位性は、アメリカに重要な地政学的影響力を与えている。2024年11月30日のTruth Socialへの投稿で、トランプ大統領はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカに対し、ドルに挑戦しないよう警告した。トランプは、「彼らは新たなBRICS通貨を創設することも、強力な米ドルに代わる他の通貨を支持することもないだろう。もしそうするならば、100%の関税に直面することになるだろう」と書いている。

トランプ大統領の目標は、強いドルの良い部分は維持しつつ、その負担を軽減することだった。しかし、負担軽減は決して痛みを伴わないものではなかった。輸入価格は上昇し、貿易相手国はアメリカの輸出品に対して報復措置を取っており、トランプ大統領は「貿易戦争は良いことだし、勝つのも簡単だ(trade wars are good, and easy to win)」という1期目の任期中のメッセージから、偉大さへの道には「多少の混乱はあるだろう(there’ll be a little disturbance)」という警告へと方向転換した。

過去の経済混乱期において、アメリカ金融市場は比較的好調だった。それは、アメリカが投資家たちにとって安全な避難先とみなされていたためだ。世界的な金融危機のように、アメリカが問題の主因となった局面でさえも同様だった。しかし、今回はそうではない。アメリカの株価指数は、ヨーロッパ、中国、日本の株価指数と足並みを揃えて下落している。これは、アメリカが国際金融における特権的な地位を失いつつあることを改めて証明している。投資家や政府は、もはや信頼できる富の貯蔵庫ではないドル資産を保有したがらない。

確かに、これまでのドルの下落幅は株価の下落幅よりも小さいが、驚くべきことにドルは下落している。経済理論によれば、国が関税を引き上げると、通常はその国の通貨が上昇するはずだ。

なぜ関税がドルを押し上げるのだろうか? それは需要と供給(supply and demand)だ。関税は当初、アメリカの輸入需要を減少させるため、海外に流出するドルは減少する。ドルが比較的不足しているとき、他の通貨に対するドルの価格は上昇する。ドル高は輸入品を安くすることで、関税の初期効果を部分的に相殺する。経済学者のオリヴィエ・ジャンヌは2020年に、関税関連のニューズが2018年の中国人民元の下落の約3分の1を説明すると推定した。

貿易介入が通貨市場に相殺効果をもたらすという考えは、決して新しいものではない。1752年、スコットランドの哲学者であり、経済学者でもあるデイヴィッド・ヒュームは、輸出制限(restrictions on exports)は「それらに対する為替レートを上昇させる以外に何の目的も持たない」と記した。

貿易理論に反して、今回の件でドルが上昇していない理由は、アメリカ経済の健全性に対する懸念がドルに下押し圧力(downward pressure on the dollar)をかけており、それが予想される貿易フローから生じる上昇圧力(the upward pressure)を圧倒しているためである。

トランプのドル高に対する複雑な感情は、彼の貿易政策における唯一の矛盾ではない。トランプは、関税によって歳入が増加し(おそらく所得税を廃止するのに十分な額になるだろう!)、製造業の雇用がアメリカに戻ってくると約束している。

しかし、ドル安・ドル高のディレンマと同様に、これら2つの目標を同時に達成することは不可能である。関税によって多額の収入が生まれるのは、外国製品が依然としてアメリカに流入しているからに過ぎない。その場合、関税によって製造業の雇用が回復することはない。逆に、関税によって製造業の雇用が回復するとすれば、それは輸入が枯渇するからに過ぎず、つまり関税によって多額の収入が戻ってくる訳ではない。経済の基本原則は、(イギリスの元首相ボリス・ジョンソンの発言にもかかわらず)ケーキを食べて、それをまた食べることはできない、ということだ。

オランダの経済学者ヤン・ティンベルゲンがまだ生きていたら、トランプ大統領に対し、関税で一度に多くのことを達成しようとしていると指摘できただろう。1969年に第1回ノーベル経済学賞を受賞したティンベルゲンは、それぞれの政策目標にはそれぞれ独自の手段が必要だと述べた。パイロットが2つの空港の平均に着陸することはできないという直感的な理解だ。

(最近CNNに出演したスコット・ベセント米財務長官は、この難問は段階的に解決できると述べた。当初は関税による収入は多額になるだろうが、それは「縮む氷の塊(shrinking ice cube)」のようなものだ。時間が経つにつれて輸入は減少し、国内製造業が成長していく。そして、その経済活動への課税が関税収入に取って代わるだろう。まあ、そうかもしれない。)

さらに、トランプ関税のコストを負担するのはアメリカ人か外国人かという永遠の疑問がある。関税は輸入時点で支払われることになっているが、それでは最終的に誰がそのコストを負担するのかという疑問には答えられない。ベセントはその答えを知っていると考えている。ベセントはボスであるトランプの発言に同調し、3月初旬にCBSニューズに対し、中国は「いかなる関税も負担するだろう(will eat any tariffs that go on)」と語った。

しかし、経済学者たちは、それはどちらが市場力(market power)を持っているかにかかっていると指摘する。もし中国の各メーカーがアメリカの顧客を維持するために関税コストを負担しなければならないと感じれば、関税コストの全額を負担することになるだろう。これがベセントのシナリオだ。一方、もし中国のメーカーが関税コストを顧客に押し付けることで済むなら、最終価格は関税分だけ上昇し、アメリカ人がそのコストの全額を負担することになるだろう。

現実はおそらく、これらの両極端の間のどこかにあるだろう。トランプ氏が前回大統領を務めた際、中国やその他の輸出国は関税の恩恵を受けなかった。受けたのはアメリカ国民だ。経済学者のメアリー・アミティ、スティーブン・J・レディング、そしてデビッド・E・ワインスタインは、2018年と2019年に課された関税に関する、2020年の記事の中で、「アメリカの関税は、依然としてほぼ全額をアメリカ企業と消費者が負担し続けている(U.S. tariffs continue to be almost entirely borne by U.S. firms and consumers)」と述べている。

多くの主流派経済学者たちは、関税が特定の状況下では正当な手段となり得ることに同意している。例えば、世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)は、貿易相手国による補助金などの不公正な慣行から自国を守るために、各国が関税を課すことを認めている。また、成長過程にある「幼稚産業(infant industries)」、つまり、競争(competition)から保護する必要がある産業を保護する関税を擁護する経済学者もいる。

しかし、トランプは、関税を必要悪(necessary evils)ではなく、それ自体が善であると考えている。最近NBCニューズに対し、輸入車への25%の関税は「完全に」恒久的だと語った。また、不法移民やフェンタニルの密売の削減など、貿易とはかけ離れた目標を達成するために関税を利用することも志向している。最近では、ロシアがウクライナ停戦への取り組みを妨害した場合、ロシア産原油を購入する国に関税を課すと警告した。

トランプの思考に一貫した方向性を見出すのは難しいがアドヴァイザーたちの一部は試みている。

前述のミランは、トランプ大統領の大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisors)の委員長を務めており、11月にトランプの広範な関税政策の少なくとも一部、すなわち「マール・ア・ラーゴ合意」の枠組みを示した。そこにはドルの評価を正す試みも含まれており、準備金や取引の主要通貨であり続けながらドルをいかに安くできるかを示した。

ミランは、他国がアメリカ資産への投資のためにドルを蓄積しているため、ドルが過大評価されており、その結果、アメリカ製品の価格が高騰し、産業が空洞化していると主張した。

ミランは論文の中で、貿易赤字の削減はドルを弱めるのではなく、上昇圧力をかけることを認めている。彼の解決策は、市場の力に逆らってドルを押し下げるために介入する意思のある国々の連合を形成することだ。これは、1985年のプラザ合意の現代版であり、日本円、西ドイツのドイツマルク、その他の通貨に対するドルの価値を下落させた。

ミランは、高関税(high tariffs)はアメリカに貿易相手国からドルを押し下げるための協力を得るための「交渉力(negotiating leverages)」を与えると記している。それでも通貨切り下げ計画に同意しない貿易相手国は、高関税に直面し、アメリカ軍の保護を失うリスクを負うだろうとミランは付け加えた。この華々しい発言は、トランプへの支持を一層高めたかもしれない。

ミランは、ドル操作(dollar manipulation)のいかなるシナリオも「友好国、敵国、そして中立貿易相手国の間のより明確な線引き(a much stronger demarcation between friend, foe and neutral trading partner)」を必要とすると述べた。ベセントも同様の表現を用い、アメリカの要求に従う意思に応じて各国を緑、黄、赤の「バケツ(buckets)」に分類することについて言及した。

この春、経済学者モーリス・オブストフェルドは、3月27日に開催されたブルッキングス研究所の経済活動に関する論文会議で発表した論文の中で、トランプ政権の関税政策とドル政策を分析した。カリフォルニア大学バークレー校のオブストフェルド教授は、国際通貨基金(International Monetary FundIMF)の元チーフエコノミストである。

オブストフェルドは、提案されているマール・ア・ラーゴ協定をあまり高く評価していない。オブストフェルドは次のように書いている。「約束されたマクロ経済のファンダメンタルズの変化が実現しない限り、為替レートへの影響は短命に終わる可能性が高い。また、他国がなぜ同調するのかは不明だ。それは、自国通貨が過小評価されていると考える国はほとんどないからだ」。

アメリカの貿易相手国との関税戦争を煽ったことで、トランプ大統領は意図せぬ結果の渦に巻き込まれた。それは、経験の浅い旅人にとっては方向感覚を失わせる場所であり、行き止まりや曲がり角、そして上っているように見えて実際には下っているエッシャーの絵にある階段が数多く存在する。トランプ大統領は、抜け出す道を見つけるために専門家たちの指導を受けることができるかもしれない。

※ピーター・コイ:経済を専門とするジャーナリスト。

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 私がこのブログで紹介している、国際関係論の大物学者スティーヴン・M・ウォルトの論稿をご紹介する。彼は昨年、オーストリアのウィーンにある人間科学研究所に客員研究員と滞在した。彼がオーストリア大罪を通じて得た知見を基にして、アメリカとオーストリアを比較する内容の論稿になっている。ちなみに、ある調査では、ウィーンが世界で一番住みやすい都市となっている。私は旅行したことはないが、確かに、ハプスブルク王朝の都で、ヨーロッパ有数の都市というイメージはある。

 ウォルトは両国の類似点として、右派ポピュリズムへの移行を挙げている。オーストリアではオーストリア自由党が台頭し、アメリカではドナルド・トランプが大統領に当選した。ウォルトは両国の相違点として、経済格差の大きさを挙げている。オーストリアは経済格差が小さく、アメリカは大きい。ここで、ウォルトは重要な指摘を行っていて、それは、「経済格差が右派ポピュリズムを台頭させる訳ではない」ということだ。それでは何が右派ポピュリズムを台頭させるのかという疑問が出てくるが、そのことについては論稿では触れていない。

 ウォルトは、アメリカはヨーロッパを見習うべきだという主張を行っているが、それは不可能な話、無理な話だ。そのことはウォルト自身が書いている通りに、アメリカ社会のダイナミクスとヨーロッパでは異なるからだ。私は国民皆保険(universal health insurance)について思い出す。アメリカ留学中に、大学の日本政治の授業に出席した際、日本研究専門家である先生が学生たちに「ヨーロッパや日本は国民皆保険であるが、アメリカではそうではない」と一言ポロっと発言した。次の授業の冒頭で、その先生は「私はアメリカを批判した訳でもないし、社会主義を称揚した訳でもない」と述べた。不思議に思って、先生に話を聞いたところ、前回の授業の後に、学生の中に保護者に先生の発言を伝え、保護者が学校側に「アメリカを批判するような人物を先生にしているのか」「社会主義者を雇うな」というような抗議の電話があったということだ。

 国民皆保険の話1つでこのような騒ぎになる。アメリカには平等や相互扶助という考えが広がるのは難しい。しかし、アメリカはこれから国力を落とし、世界覇権国としての地位から転落していく。世界最強の国の国民として享受してきた特権や生活水準がなくなっていく。そうした中で、アメリカ人たちも考えを変えていくかもしれない。しかし、その時には「時すでに遅し」ということになるだろう。

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オーストリアはアメリカのヨーロッパにおけるモデルとなるべきだ(Austria Should Be America’s European Model

-西側諸国で最も過小評価されている国の1つから学ぶ政治的教訓。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年12月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/12/11/austria-should-be-americas-european-model/

ハーヴァード大学の同僚だった故シドニー・ヴァーバは、著名な学者であり、また機知に富んだ人物でもあった。彼が皮肉たっぷりに残した格言の一つ(one of his tongue-in-cheek aphorisms)に、「その上空を飛行したことのない国について書くべきではない(you should never write about a country you haven’t flown over)」というものがある。この控えめな基準からすれば、私はここ数ヶ月、ウィーンの人間科学研究所の客員として過ごしてきたので、オーストリアについて書く資格は十分にあると言えるだろう。

人間科学研究所は素晴らしく協力的な環境で、私はここで過ごした時間を心から楽しんだ。しかし、以下に述べる考察は、オーストリアの政治や文化に関する広範な調査や深い知識に基づくものではない。一方で、私は今、ドナルド・トランプ次期米大統領が任命した一部の人々が新しい職務に関して持っていると思われるよりも、オーストリアについて多くの専門知識を持っている。

オーストリアとアメリカ合衆国には、顕著な類似点と重要な相違点がいくつか存在し、両国の最近の選挙は両者を浮き彫りにした。両国にはどのような共通点があり、どのような相違点があり、アメリカ人はオーストリアの経験からどのような教訓を得ることができるだろうか?

第一に、類似点について。オーストリアとアメリカ合衆国はどちらも豊かな工業化した民主政治体制国家(wealthy industrial democracies)だ。アメリカ合衆国は建国以来(不完全なものではあるが)共和国(a republic)であり、オーストリアは第二次世界大戦後に占領していた外国軍が最終的に撤退した1955年以降、安定した民主政体国家となっている。

両国とも、直近の選挙でポピュリスト勢力が大きな勝利を収めたものの、直接的な政治的影響は異なるだろう。オーストリアで9月に行われた世論調査では、ヘルベルト・キクル率いる極右政党オーストリア自由党(Austrian Freedom PartyFPO)が、ナチスのシンボルやレトリックを時々用い、過去に疑わしい行動歴があったにもかかわらず、最大の得票率(28.8%)を獲得した。言うまでもなく、アメリカ合衆国では、有罪判決を受けたトランプが再び大統領選に勝利し、共和党が連邦上下両院を制した。

オーストリアは議院内閣制を採用しており、オーストリア自由党は絶対多数(an absolute majority)を獲得できなかったため、他の主要政党が政権樹立を阻止しており、現首相カール・ネハンマーが引き続き複数党連立政権(a multiparty coalition)の首班を務める可能性もあるが、その樹立は困難なプロセスであることが証明されている。

類似点はそれだけではない。両国において、移民反対は他のヨーロッパ諸国と同様に、ポピュリスト政治家にとって大きな追い風となっている。両国の投票パターンは、都市部と農村部の根深い分断(a profound urban-rural divide)を反映している。つまり、ウィーンをはじめとするオーストリアの都市は、中道左派に大きく傾いている(人口でオーストリア第2位の都市であるグラーツの市長は共産主義者だ)。一方、アメリカの多くの赤い(共和党支持)の州の各都市では、青い(民主党支持)、または拮抗した状態(紫色)に投票の投票になっている。

両国には強力な宗教的伝統もある。オーストリアでは依然としてカトリック教徒が圧倒的に多く、アメリカ人は多様な宗教に属しているが、両国とも宗教的慣習(religious observance)は衰退しつつあり、オーストリアの信者もますます多様化している。

まとめると次のようになる。オーストリアは人口約900万人の小国であり、アメリカ合衆国は人口約3億4000万人の大陸規模の超大国だが、両国にはいくつかの顕著な類似点がある。中でも特に顕著なのは、近年のポピュリスト右派へのシフト(a recent shift toward the populist right)だ。

それでは、違いは何だろうか? おそらく最も顕著なのは不平等・格差(inequality)だ。両国とも裕福だが、所得の分配はアメリカ合衆国よりもはるかに平等だ。オーストリアのジニ係数[Gini coefficient](不平等・格差の指標)はアメリカ合衆国よりも10ポイント低く(29.8対39.8)、オーストリアでは人口の下位50%が所得の22%を得ているのに対し、アメリカ合衆国ではこの数字はわずか13%だ。オーストリアでは上位10%が所得の29%を得ているのに対し、アメリカ合衆国では上位10%が所得の45%を得ている。

したがって、ロンドンに拠点を置く調査機関「ワールド・エコノミクス」がオーストリアの経済的平等を世界21位、米国を66位と大きく下回る順位にランク付けしているのも当然と言えるだろう。これは、現代のポピュリズムが経済的不平等・格差とあまり密接に関係していないことを示唆している。

世界で最も住みやすい都市の1つという名声にふさわしいウィーンに住めば、その違いはさらに顕著になる。私が到着して間もなく、同僚の1人が次のように述べた。「ウィーンは、1世紀以上も社会主義政権に支配された都市がどのような存在になり得るかを示している」。ウィーンには、アメリカのどの都市も匹敵できない、素晴らしい公共交通機関(extraordinary public transit that no U.S. city can match)がある。地下鉄、路面電車、バスは快適で、運行頻度も高く、時間通りで、ほぼどこにでも行くことができる。しかも、移動手段は驚くほど安価である。私の月間パスは全路線が乗り放題で、料金はわずか51ユーロだ。

同様に、オーストリアには優れた公営住宅制度[a remarkable system of public housing](オーストリアでは「ソーシャルハウジング[social housing]」として知られている)があり、その構造と目的はアメリカ合衆国とは大きく異なる。オーストリアでは、最貧困層のみを対象とし、貧困層を他の住民から巧妙に隔離する手段として利用されるのではなく、はるかに幅広い層の住民がソーシャルハウジングの入居資格を得ており、これもアメリカ合衆国の同等の制度よりもはるかに魅力的だ。

その結果、オーストリアの公営住宅の居住者はより幅広い社会階層(a wider range of social classes)に及び、これらのコミュニティはアメリカの公営住宅事業に見られる多くの機能不全から解放されている。手頃な価格の住宅が広く利用できるため、民間の1年賃貸はアメリカのほとんどの都市よりもはるかに安価だ。(ただし、私が現在住んでいるアパートのような短期賃貸は数が少なく、高額なのが難点だ。)

ヨーロッパの多くの国々と同様に、オーストリアの公衆衛生制度(public health system)もアメリカを凌駕しており、これがオーストリアの平均寿命がアメリカよりもはるかに高い(81歳対76.4歳)理由の1つとなっている。オーストリアの殺人率はアメリカの8分の1だ。誰であっても、どこに住んでいても、オーストリアははるかに安全な場所だ。もしもっと多くのアメリカ人がウィーンで数ヶ月間生活する機会があれば、バーニー・サンダース連邦上院議員の考えが正しいのではないかと疑い始める可能性がある。

もちろん、オーストリアはオーストリア=ハンガリー帝国の崩壊時に帝国主義の野望を放棄した小さな中立国(neutral country)であり、そのため無分別な海外進出に国富を浪費していないという点も有利に働いている。

オーストリアは完璧か? もちろんそんなことはない。オーストリアの官僚機構は時に苛立たしいほど独断的だ。ウィーン市民は常に礼儀正しいものの、移民を特に歓迎しているということもない。公営住宅制度も完璧ではない。そして、オーストリアはヨーロッパの多くの国を悩ませているのと同じ人口動態上の問題(高齢化と人口減少)に直面している。ウィーンの物価は安くなく、インフレと公的債務は深刻な問題であり、オーストリア社会は変化を嫌う。シリコンヴァレーの合言葉が「早く動いて、物事を壊せ(move fast and break things)」だとすれば、オーストリアのスローガンは「ゆっくり動いて、可能な限り維持しろ(move slowly and conserve as much as possible)」なのかもしれない。

他の国と同じように、オーストリアにも過去には完全には忘れ去られていない不快な出来事がいくつかある。そして、薬局を含めほとんどの店が閉まっている日曜日にイブプロフェンが買えたら良いのであるが。

しかし、こうした特徴にもかかわらず、オーストリアには多くの魅力がある。一般のアメリカ人の日常生活を真に改善したいと願うアメリカ大統領は、オーストリアの例から貴重な教訓を学ぶことができるだろう。残念ながら、アメリカ人がそのような人物を選出する機会を得るまでには、少なくとも4年はかかるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ブルースカイ・アカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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