古村治彦です。
2026年2月28日に始まったイラン戦争は4月8日にパキスタンのシャバーズ・シャリフ首相がアメリカとイランの2週間の停戦を発表し、11日にはパキスタンのイスラマバードでアメリカのJ・D・ヴァン副大統領とスティーヴ・ウィトコフ特使、ドナルド・トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー、イランのモハンマド・ガリバフ国会議長とアッバース・アラグチ外相による21時間に及ぶ交渉が行われたが合意に達しなかった、12日にはトランプ大統領がアメリカ海軍によるホルムズ海峡封鎖を発表し、実施されている。状況は動いている。
今回の一時的ではあるが停戦合意に至ったのは中国によるイランへの働きかけがある。トランプ大統領は4月7日に「中国からイランに働きかけがあったと聞いている」と発言している。また、パキスタンのシャリフ首相も中国の働きかけがあったことを認めている。
イランは、今回の戦争において、ホルムズ海峡封鎖という武器を最大限に使ってアメリカとイスラエルに対抗している。ホルムズ海峡封鎖一本での勝負という状況になっている。イランのイスラム革命防衛隊は開戦直後にホルムズ海峡封鎖を実施したが、イランの許可した民間船舶は航行可能であり、実際にはイランのタンカーは通過している。これは、アメリカ側がイランの石油輸出を認めてきたからでもある。それでも、石油価格高騰により、世界経済に悪影響が出ており、日本も例外ではない。イランの石油輸出先はほぼ中国という状態で、中国は石油を確保することができた(イスラム革命防衛隊は人民元払いの民間タンカーの航行を最初から認めていた)。それでも、石油価格高騰は中国にとっても頭が痛い。3月中旬の全国人民代表大会(全人代)では経済成長率の目標を引き下げたが、その数字にも悪影響が出る。中国としては停戦とホルムズ海峡の航行自由の回復は必要であった。
そのために、中国はイランに働きかけを行い、2週間の停戦を実現させた。そして、和平交渉まで進むことができたが、合意に至らなかった。その後に、トランプ大統領は、アメリカ海軍によるホルムズ海峡封鎖を発表した。これは、イラン側のタンカーの航行を認めないということになる。そして、中国向けのタンカーが航行できないということも意味する。
これまでホルムズ海峡封鎖はイラン側の武器として使われてきた。それによって、アメリカとイスラエル側は圧されてきたが、アメリカ側もイラン側を封鎖することで、チキンゲームの様相を呈することになった。イラン側も、そして、中国も痛みを伴うということになる。
私は、トランプ大統領によるホルムズ海峡封鎖によって、様相は、1962年のキューバミサイル機器(Cuban Missile Crisis)に近づいたと考えている。米ソ冷戦の最盛期、ソ連がキューバにミサイル基地を建設し、核兵器を持ち込むということになり、アメリカ側はそれを阻止するということになり、海上封鎖(検疫
quarantine と称した)を実施したが、世界は核戦争の一歩手前まで進んだ。それでも、アメリカのジョン・F・ケネディ大統領とソ連のニキータ・フルシチョフ書記長の交渉によって、キューバからのミサイル撤去、秘密協定として、トルコからのアメリカのミサイル撤去が合意された。
トランプ大統領はこのキューバ危機を教訓にして、イランに圧力をかけて、さらに中国に圧力をかけて、イラン側からの交渉のコンタクトを求めているということであろうと私は考えている。中国側はアメリカとイラン両政府と交渉を実施して、和平合意条件を整えているであろう。中国にはそれだけの実力がある。そして、裏方に徹して、トランプに和平交渉成立、合意達成の手柄をあげさせて、5月14日から訪中してもらうというシナリオになっていると私は考えている。トランプは自身をケネディ元大統領と肩を並べる存在としてアピールしたいところであろう。もちろん、交渉が成功すれば、J・D・ヴァンス副大統領も功績をあげることになるので、トランプ大統領の後継者の地位を固めることになる。
イランの最高指導層がアメリカと中国からの勧奨と圧力にどのように対応するか、自国の安全の保障をアメリカだけではなく、中国にも保障してもらえるならば受け入れ可能と考えるかどうか、である。最高指導者の地位に就いたばかりのモジタバ・ハメネイ師に決断をし、それにイラン政府とイスラム革命防衛隊を従わせるだけの力があるかどうかが懸念される。2週間の停戦合意の期間はあまりにも短いが、世界の命運がかかっている2週間と言っても言い過ぎではないだろう。
(貼り付けはじめ)
イランへの強制:ドナルド・トランプ政権のホルムズ海峡封鎖がなぜ短いのか(Coercing
Iran: Why Trump’s Hormuz Blockade Has a Short Fuse)
―トランプ政権はホルムズ海峡の海上封鎖(blockade)を宣言し、世界的なエネルギー危機によってアメリカが撤退を余儀なくされる前に、イランが経済的圧力に屈服するだろうと目論んでいる。この膠着状態の結末は全く不透明だ。
マックス・ブート筆
2026年4月14日
『フォーリン・アフェアーズ』誌
https://www.cfr.org/articles/coercing-iran-why-trumps-hormuz-blockade-has-a-short-fuse
ドナルド・トランプ大統領は日曜日、イランとの交渉が失敗したと発表した。これは驚くべきことではなかった。アメリカがイランと締結した唯一の合意は、2015年の包括的共同行動計画(the 2015 Joint Comprehensive Plan of Action、JCPOA)であり、締結までに約18カ月を必要とし、しかも核問題のみに焦点を当てたものだった。J・D・ヴァンス副大統領が率いる、トランプの経験の浅い交渉団(Trump’s inexperienced negotiators)が、パキスタンのイスラマバードで行われたマラソン交渉で、イランの核開発計画や地域における武装勢力への支援といった問題でイラン側とのあらゆる相違点を解消できる見込みはほとんどなかった。
驚くべきことは、トランプ大統領が次に取った行動だ。トランプは、ホルムズ海峡の海上封鎖を発表した。月曜日の午前10時(東部時間)から、アメリカ海軍はイランの港に出入りする全ての船舶を阻止する。イラン以外の港に寄港した船舶は、イランが通過を許可すれば、自由に航行できることになる。
これは、先週の停戦発表後のホルムズ海峡再開の失敗に対する、不可解な反応だった。戦闘は一時停止したものの、海峡は事実上イランの支配下にあり、通過できた船舶はごくわずかだった。テヘランは、機雷の散布場所が不明なため海峡を開放できないと主張したが、イランがアメリカとペルシア湾岸同盟諸国に対する圧力を強めるために海峡を閉鎖し続けているのではないかという疑念が広く持たれていた。
世界の石油生産量の20%がペルシア湾から産出されていることを考えると、海峡の閉鎖は世界的なエネルギー危機をさらに悪化させることを意味していた。サウジアラビアとアラブ首長国連邦は、この重要な水路を迂回するパイプラインを使って一部の石油を輸送できるものの、原油の大部分はペルシア湾に滞留したままだ。
イランによるホルムズ海峡封鎖が問題だとすれば、アメリカによる封鎖を宣言することに一体どんな意味があるのだろうか? トランプ政権の計算は、イラン戦争によって既に世界各国が経済的苦痛を味わっているのだから、今度はイランの番だというものであるようだ。
イランは確かにアメリカとイスラエルの爆撃作戦で甚大な被害を受けたが、それでも石油輸出量を戦前の水準近くまで維持することに成功している。原油価格の高騰により、イランはむしろ戦争から思わぬ経済的恩恵を受けている。トランプ大統領が価格の急騰を抑えるためにイランの石油輸出に対する制裁を緩和したことが、その恩恵をさらに強めている。アメリカのホルムズ海峡封鎖は、イランに対して「他国がホルムズ海峡を通って輸出できないなら、イランもできない(If other nations can’t export through the Strait of Hormuz, you
can’t either)」と告げているに等しい。
元米財務省制裁担当専門家で、現在は民主政治体制防衛財団の研究員を務めるミアド・マレキは、封鎖が実施されればイランは月130億ドルの損失を被ると試算している。マレキは、「石油・ガスはイラン政府の輸出収入の80%、GDPの23.7%を占めている」と指摘している。イランの石油輸出の90%が中国向けであることを考えると、中国もアメリカの封鎖による打撃を受けることは必至だろう。
トランプ大統領は、中国とイランへの圧力を強めることで、イランがイスラマバードで提示された合意案を受け入れざるを得なくなると見込んでいるのは明らかだ。この合意案には、イランが20年間の核濃縮活動の全面停止、核分裂性物質の全面放棄、地域における代理勢力への支援停止と引き換えに制裁緩和を受けるという内容が含まれていると報じられている。しかし、事態が悪化する可能性のある要因は数多く存在する。
アメリカはキューバに対する事実上の封鎖を実施しながら、先月、ロシアの石油タンカーがキューバに到達することを容認した。これはトランプ大統領がロシアとの対立を避けたかったためとみられる。習近平国家主席との首脳会談を控える中、アメリカ海軍が中国への石油輸送タンカーを阻止した場合、トランプ大統領は北京との対立を招くリスクを冒す覚悟があるのだろうか?
アメリカ海軍は15隻の軍艦をこの地域に展開しており、封鎖を実施する能力は備えている。しかし、イランがこの封鎖を国際法上の戦争行為とみなし、反撃を開始すれば、地域全体が危機に瀕する可能性がある。トランプ大統領はイラン海軍が「完全に壊滅した(completely obliterated)」と豪語しているが、これは正規海軍のことを指している。CNNによると、イスラム革命防衛隊は小型高速攻撃艇の約半数を保有している。また、ミサイル発射装置の半数と数千機のドローンも保有している。
アメリカ海軍は、幅わずか21マイル(約33キロ)のホルムズ海峡そのものではなく、東のオマーン湾とアラビア海で封鎖を実施しているようだ。これにより、アメリカ海軍に対するイランの攻撃リスクは軽減されるが、ペルシア湾岸地域のエネルギーインフラは依然として脆弱なままだ。サウジアラビアが石油を輸出するために利用している紅海へのパイプラインルートも脆弱だ。サウジアラビアは、イランのイエメンにおける同盟勢力であるフーシ派が、紅海への入り口を支配するバブ・エル・マンデブ海峡を封鎖するのではないかと懸念している。先週、イランを文明の破壊で脅迫した後、トランプ大統領はイランの電力と石油インフラを標的にするという脅迫を取り下げた。これは、イランがペルシア湾岸諸国に対して同様の脅迫を行ったことが一因だ。トランプ大統領は、イランが封鎖への報復としてこの脅迫を実行に移すことはないと考えているようだ。もしこの計算が間違っていれば、世界経済にとって壊滅的な結果となるだろう。
イランが軍事力で報復しないとしても、トランプ大統領は依然として大きな賭けに出ている。それは、イランの経済的な痛手に対する耐性がアメリカよりも低いという前提に基づいている。つまり、世界的なエネルギー危機がトランプ政権に撤退を強いる前に、イランが封鎖によって十分な経済的打撃を受け、アメリカの条件で戦争を終結させることに同意することを期待しているのだ。
しかし、イランは長年にわたる厳しい制裁に耐え、民衆の抗議活動が発生すれば容赦なく弾圧できる独裁国家である。一方、アメリカは民主政治体制国家であり、ガソリン価格の高騰はインフレを加速させ、共和党の中間選挙での勝算を低下させている。イラン戦争はすでにアメリカ国民の間で不人気であり、トランプ大統領は方針転換を迫られる前に、どれだけ長くエネルギー危機を悪化させ続けることができるのだろうか?
トランプはイランに対する要求を緩和する(例えば、国際監視下でイランが少量のウラン濃縮を継続することを認めるなど)か、あるいは過去にもそうしたように、ホルムズ海峡は他国の問題だと宣言するかもしれない。
イランとアメリカは、互いに封鎖を仕掛けることで、どちらが先に折れるかを見極める、重大な局面を迎えている。私はイランに賭けない方が賢明だと思う。
本論稿は著者個人の見解および意見を表明するものであり、外交問題評議会(Council
on Foreign Relations)は独立した非党派の会員制組織、シンクタンク、出版社であり、各政策問題に関して組織としての立場を取ることはない。
※マックス・ブート:外交問題評議会(the Council on Foreign
Relations.)ジーン・J・カークパトリック記念上級研究員(国家安全諸問題研究)。
(貼り付け終わり)
(終わり)

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