古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:ドワイト・アイゼンハワー

 古村治彦です。

 このブログでも既にお知らせしたが、私は、11月に発刊する新著の準備を行っている。その新著のテーマは「軍産複合体」である。今回は軍産複合体についての理解を深めるために、古い論稿になるが、ご紹介したい。

 軍産複合体(military-industrial complex)という言葉が一般に広まったのは、1961年1月に、ドワイト・アイゼンハワー大統領が退任演説を行い、その中で使ったことがきっかけになった。簡単に言えば、軍と経済界が一体になって、アメリカ国民の税金を蝕むことへの警告であった。アメリカの戦後史は、幾多の戦争によって特徴づけられているが、アメリカを幾多の戦争に駆り立てたのは軍産複合体の存在だった。

 アメリカは巨額の国防予算(日本の国家予算を凌駕する)と巨大なアメリカ軍によって、疲弊している。その重過ぎる負担に耐えられなくなっている。だから、ヨーロッパ諸国や日本に対して負担を求めている。日本はGDP比2%まで国防予算を増額することを既に決定しているが、アメリカは3.5%までの増額を求めている。そうなれば、大規模な増税か、国民生活に直結する予算分野である福祉や教育の予算を削ることになる。そうなれば、国民生活はますます苦しくなり、経済成長は期待できなくなる。

 軍産複合体が国防費増額を煽れば煽るほど、結局のところ、国民生活は苦しくなり、経済成長は出来ず、国益に反する結果になる。勇ましい世迷言を述べている人々には、このことをよく考えてもらいたい。

(貼り付けはじめ)

軍事産業複合体、50年後の現在(Military-Industrial Complex, Fifty Years On

-ドワイト・アイゼンハワー大統領の警告から50年が経過した今も、「軍事産業複合体(military-industrial complex)」は依然として繁栄し、国家の優先事項を決定づけていると、外交問題評議会(CFR)のレスリー・ゲルブは指摘する。ゲルブは、バラク・オバマ大統領が強力な国内経済の構築を国家安全保障上の課題として提唱すべきだと主張している。

インタヴュー対象者:レスリー・H・ゲルブ

インタヴュアー:バーナード・グウェルツマン

2011年1月12日

外交問題評議会(Council on Foreign RelationsCFR)ウェブサイト

https://www.cfr.org/interview/military-industrial-complex-fifty-years

1961年1月17日は月曜日だった。ドワイト・D・アイゼンハワー大統領は退任演説(farewell address)の中で、台頭する「軍産複合体」(a rising "military-industrial complex")の影響に警戒するよう国民に警告した。軍事・産業・技術・議会の利害が結びついたこの複合体は、アイゼンハワーの警告演説(cautionary speech)以降、著しく肥大化した、と軍事問題アナリストのレスリー・H・ゲルブは指摘する。過去1年間にアイゼンハワーの警告を引用してきたロバート・ゲイツ国防長官は最近、今後数年間で780億ドルの削減を約束したが、ゲルブはこれが実現するかどうか、またどのような削減が行われるかは不明だと述べる。ゲルブは、連邦予算が巨大な軍事力ではなく経済強化に重点を置く必要性を強調し、バラク・オバマ大統領に対し「経済と雇用(economy and jobs)が民主主義の維持、私たちの経済競争力(economic competitiveness)と教育制度の維持、そして世界における軍事的安全保障にとって不可欠である」理由を国民に強く訴えるよう助言すると述べた。

アイゼンハワー大統領の演説当時の軍事予算は、現在の金額と比較するとはるかに少なかったのではないか?

そのように思った方、その通りだ。物価調整後の金額で比較すれば。現在の軍事費は年間約7500億ドルである。これをアイゼンハワー時代の予算を現在の価値に換算すると、約4000億ドル、つまり半分強に過ぎない。この差は極めて大きく、アイゼンハワー大統領は当時ですら軍事費の膨張を警告するために特別な努力を払っていたのだ。

第二次世界大戦中、ヨーロッパで連合軍を率いたアイゼンハワーは、なぜそれほどまでに懸念を抱いたのだろうか?

朝鮮戦争以降、軍事費の飛躍的な増加を求める圧力が既に高まっていたため、アイゼンハワーは国防費の抑制に多大な努力を払わなければならなかった。アイゼンハワーは、自分自身がアイゼンハワーであったので、国防費の抑制に努めることができた。しかし、退任の際には、後継者たちが深刻な問題に直面することを自覚していた。だからこそ、アイゼンハワーは軍産複合体の危険性について警告を発した。

あなたは、1960年代には国防総省の高官、1970年代のジミー・カーター政権下では国務次官補(政治・軍事担当)を務めた。どちらの職務でも軍事支出に関わることになったが、軍産複合体の影響力はどれほど大きいだろうか?

1961年1月にアイゼンハワーが述べた通り、これは本当に重大な問題だ。これは巨大な力であり、単なる軍産複合体にとどまらない。アイゼンハワーはその退任演説でテクノロジーの力についても警告した。つまり軍産複合体と技術複合体(technology complex)が存在するのだが、アイゼンハワーがよく認識していたように、それだけでは終わらない。連邦議会が存在するからだ。実態は「軍事産業テクノロジー連邦議会複合体(the military-industrial-technological-congressional complex)」なのである。

アイゼンハワーの退任演説の原稿では、当初「軍事産業連邦議会複合体(the military-industrial-congressional complex)」と呼んでいた。

その通りだ。軍事費の浪費(それは確かに多い)を一切改善せず、常により多くの支出を求める勢力を合計すれば、予算は増え続ける。第二次世界大戦直後のトルーマン政権とアイゼンハワー政権の支出を実質ドルで比較すると、現在の支出の約半分だった。人々は「GDP比で考えろ」と言って比較を歪めようとする。そうすると、トルーマンとアイゼンハワー政権時代の国民総生産(GNP)はわずか数兆ドルに過ぎなかった。現在はほぼ15兆ドルだ。この基準で比較すると、両政権の軍事予算は巨額に見える。しかしGDP比較は無意味だ。現在のGDPが当時より桁違いに大きいからだ。

軍事費の浪費(それは確かに存在する)を一切是正せず、常により多くの支出を要求する勢力が合わさることで、予算は増え続ける。

あなたはGDPと軍事費について多く執筆している。先ほど議論したこの問題全体を、どう解決すればよいだろうか?

一体どうやってそれを回避できるのか、私には分からない。カーター政権下で私が国務省で政治・軍事問題を担当していたと紹介しもらったが、当時駐イラン米大使だったウィリアム・“ビル”・サリヴァン大使と私は、当時アメリカの同盟国だったイラン国王が経済発展のために資金の一部を使えるように、イランへのアメリカの武器売却を減速させるよう提案した。私たちがその提案をした時、私が言及し、アイゼンハワーも警告していた、この軍産複合体、つまり産業技術と議会の複合体が台頭し、私たちは痛手を受けた。私たちには勝ち目はなかった。イランには使えない兵器を売ってしまった。最新鋭の戦闘機は滑走路に放置され、老朽化し​​ていった

この状況は今も続いているのか?

概ねそう言える。武器輸出はアメリカの巨大な輸出産業だ。私はこれに異論はない。実際、1970年代に国務省に入る前、武器輸出はアメリカの外交政策における主要な手段だと論じた論文を書いた。その後カーター大統領の武器輸出削減政策を実行せざるを得なかった。ご存知の通り、武器販売が国益に反するなら行うべきではない。国益を損なわないなら、もちろん武器を販売すべきだ。軍事関係の構築や輸出促進には有益だが、むやみに武器を売り捌く訳にはいかない。

『フォーリン・アフェアーズ』誌のGDPに関する記事で、あなたはこう書いている。「ワシントンの主な課題は、経済的テーマを軸に外交政策を再構築しつつ、新たな創造的な方法で脅威に対抗することだ。目標は『安全保障(security)』を再定義し、21世紀の現実と調和させることである」。この呼びかけは、ワシントンで何らかの反響を呼んでいるか?

武器輸出が国益に貢献しないなら、行うべきではない。もし国益を損なわないなら、もちろん武器を売ればいい。軍事関係の構築は有益だし、輸出にも良い。だが、むやみに(willy-nilly)武器を売る訳にはいかない。

それは違う。それは一部の人々にとって修辞的な響きを帯びている。オバマ大統領が同じテーマを引用しながら、結局何もしなかった演説を半ダースほど挙げることができる。本論の要点は、単に外交政策に経済的焦点を持つべきだということ、そしてトルーマン大統領とアイゼンハワー大統領が実践したように不可能ではないということだけではない。この二人の大統領は、アメリカ国内経済の構築を国家安全保障の最優先要件とした。彼らは他の全てをこれに従属させるつもりだった。第二に、主要同盟国、すなわち西ヨーロッパと日本の経済を構築するつもりだったし、そして実際にそうした。彼らは私たちのための市場を創出し、同盟諸国を創り出した。そしてアイゼンハワーがジョン・F・ケネディ大統領に政権を引き継いだ頃には、西ヨーロッパ、日本、アメリカの経済力・軍事力・外交力を合計すると、私たちは世界の総力の75~80%を掌握していた。彼らが実現させた政策こそが、私が論じているものだ。

しかし、ソ連崩壊の一因は、ロナルド・レーガンによる戦略防衛構想(スターウォーズ計画)などの巨額軍事支出にあったのではないか?

そのような証拠は全く存在しない。これはネオコンたちの主張だが、旧ソ連から入手した資料、国家安全保障アーカイヴ、回顧録のいずれからも裏付けられていない。ソ連は軍事費の面で私たちと競争しようとは考えていなかった。当時、彼らにはその能力がなかった。つまり、彼らが支出によって経済的混乱に陥った訳ではなく、既に経済的混乱状態にあった。彼らは私たちやレーガン大統領のスターウォーズ計画に対抗しようとしなかった。なぜなら、それが機能しないと考えていたからだ。実際、今日に至るまでミサイル防衛実験のほとんどは失敗している。

ロバート・ゲイツ国防長官は最近、国防予算を780億ドル削減すると発表した。これは重要な発表だったのか?

削減される具体的な金額や内容については、依然として明確ではない。数字を目にするか、専門家が数字を精査し具体的な内容を確かめるまでは何も信用しない。わずか6週間ほど前、『デイリー・ビースト』誌の記事のために同じ数字を調べた際、実質的な国防予算削減どころか、今後5年間で年1~2%の増加を計画している事実を発見したのだ。ゲイツ国防長官は昨年(2010年)5月、アイゼンハワー大統領の故郷であるカンザス州アビリーンを訪れ、アイゼンハワー図書館で演説を行った。ゲイツ国防長官は私が深く敬愛する大統領退任演説の一節を引用し、経済こそが軍事力の基盤であるというアイゼンハワーの主張は正しかったと述べた。当然ながら、誰もが国防予算削減によって経済に貢献するつもりだと結論づけた。しかし私が述べた通り、実際の数値を再検証したところ、削減分は国防総省の他の分野に振り向けられることが判明した。

最近の2週間、ゲイツ国防長官は実際にいくつかの国防費削減のポイントを示唆しているようだが、具体的な規模はまだ分からない。

連邦議会は雇用を維持するために軍事費を高水準に維持することに依存しているようだ。これが大きな要因ではないだろうか?

それは何とも馬鹿馬鹿しいことだ。軍事費は雇用創出において最も非効率的な方法だ。つまり、軍事費で創出される雇用は、例えば同じ金額を道路、橋、高速道路といった国内のインフラ整備に費やした場合よりも少なくなる。

それはどうしてか?

インフラへの支出は労働集約型(labor intensive)だが、国防総省の支出のほとんどは労働集約型(labor intensive)ではなく、技術集約型(technologically intensive)だ。そのため、高度な訓練と知識を持つ人材が必要となる。道路を解体して建設するほど多くの数の人は必要ではない。

もしオバマ大統領が電話をかけてきて、「今後2年間、何をすべきか助言をいただきたい」と言ったら、あなたは何と答えるか?

私は次のように言うだろう。国内経済と雇用を最優先事項にすることばかり言うのではなく、アメリカ国民に、なぜこれが民主政治体制の維持、経済競争力と学校の維持、そして世界における軍事安全保障にとって不可欠なのかを説明すべきだ。経済が本当に崩壊してしまい、今この厳しい決断を下して再建しなければ、私たちの軍事的安全保障までも危うくすることになるのだと国民に伝えて欲しい。

(貼り付け終わり)

(終わり)

※2025年11月に新刊発売予定です。新刊の仮タイトルは、『「新・軍産複合体」が導く米中友好の衝撃!(仮)』となっています。よろしくお願いいたします。
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 アメリカの外交政策において、学識経験者や専門家が重責を担ってきた。その代表例がヘンリー・キッシンジャーだ。彼はハーヴァード大学教授から、国務長官と国家安全保障問題担当大統領補佐官に転身した。その他に、コロンビア大学教授だったズビグニュー・ブレジンスキーやスタンフォード大学教授だったコンドリーザ・ライスといった人々が国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めた。
 国家安全保障問題担当大統領補佐官は戦後の1952年にドワイト・アイゼンハワー大統領時代に設置された。今ではホワイトハウスにおける外交政策の指揮官として、国家安全保障会議を主宰するなど最重要のポストになっている。国家安全保障会議のスタッフとして、学識経験者が入ることも多い。

 下記論稿の著者ジェレミ・スリは、トランプ大統領が国家安全保障の専門家を排除し、政治家を重視したため、国家安全保障の能力が低下していると批判している。スリは、トランプの政権では、熟練した専門家が解任され、意思決定の質が著しく低下した。これに伴い、無知や不適切な判断がもたらされたとして不安が広がっていると批判している。

 アメリカの外交政策の大きな流れには、リアリズム(現実主義)とアイディアリズム(理想主義)とう2つの潮流がある。このことは、このブログでも何度も書いているし、拙著でも何度も触れている。アメリカの外交政策が失敗するのは多くの場合、アイディアリズムが採用されている時だ。アイディアリズムで世界を変えるということで、外国に介入して多くの場合に失敗している。最近の例で言えば、ジョージ・W・ブッシュ政権時代にネオコンが主導したアフタにスタンとイラクへの侵攻が挙げられる。

 このような失敗と専門家の学識が結びつけられ、専門家たちへの信頼が揺らいでいる。そのことに、下記論稿の著者スリのような専門家たちが気付くべきだ。学問上の理論であれば、何でも言える。しかし、問題はその理論を実践に使って失敗してしまう時だ。それで大きな傷や負担を追うのは国民である。それに対して、専門家たちは何か責任を取るとか、謝罪をするとか、反省するとかそういう姿勢を見せてきただろうか。この点は学術界全体として大いに反省すべきだと私は考える。専門家たちがアメリカの外交政策に対して大いなる貢献をしたことは間違いないが、専門家たちが増上慢となり、過度なエリート主義を持ってしまえば、大きな失敗をして、民意と乖離する結果となってしまう。その大きな動揺が現状であると言えるだろう。

(貼り付けはじめ)

何世代にもわたる専門家がいかにしてアメリカの力を築き上げてきたか(How Generations of Experts Built U.S. Power

-そして今、トランプはそれを全て捨て去ろうとしている。

ジェレミ・スリ

2025年4月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/17/trump-national-security-experts-loyalists-intelligence-community-purge-history-geopolitics/

プロイセンの軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツは、戦争は「政策を別の手段で継続するに過ぎない(mere continuation of policy by other means)」という有名な言葉を残しているが、戦争が単なる政治である(war is merely politics)とは考えていない。1832年に発表されたクラウゼヴィッツの影響力ある論文『戦争論(On War)』は、複雑な国防を管理する上で、訓練(training)、専門性(expertise)、そして卓越した才能(exceptional talent)が果たす重要な役割について深く考察している。戦争には、技術的技能(technical skill)、組織力(organizational acumen)、歴史的知識(historical knowledge)、そして戦略的洞察力(strategic insights)が必要だ。勇気と強靭さは必要不可欠だが、これらの資質は学問の代わりにはならないとクラウゼヴィッツは述べている。戦争はあまりにも危険であり、素人や偽善者に任せておくべきものではない。

大陸軍(the Continental Army)の創設以来、アメリカ人は常に防衛管理において専門知識を求めてきた。ジョージ・ワシントンが革命軍(the revolutionary military)の指揮官に選ばれたのは、イギリス陸軍での豊富な経験があったからだ。彼の兵士たちは未熟な戦士だったが、彼はそのリーダーシップに知識をもたらした。彼が兵士たちに高く評価された主な理由の1つは、戦闘での波乱に満ちた記録ではなく、知識をもたらす能力だった。

トーマス・ジェファーソン大統領は軍国主義(militarism)を嫌悪していたにもかかわらず、1802年にエリート陸軍士官学校であるウェストポイント陸軍士官学校を設立した。これは、建国間もない国家の防衛を担う最高レヴェルの指導者を育成するためのものだった。ウェストポイントの初代校長ジョナサン・ウィリアムズ陸軍少佐は、軍の指導者にとっての学問の重要性を強調した。ウィリアムズは「私たちの軍の士官は科学者であり、その学識によって学術界から注目されるに値する者でなければならないことを、私たちは常に心に留めなければならない」と述べた。

1884年、アメリカ海軍はさらに一歩進み、「戦争に関するあらゆる問題、そして戦争にまつわる政治手腕、あるいは戦争の予防に関する独創的な研究」を行う大学院機関であるアメリカ海軍戦争大学を設立した。この新設機関の初代学長スティーブン・ルース海軍中佐は、成功する軍の指導者にとって教育がいかに重要であるかを強調した。彼は、経験豊富な海軍司令官がより「完全な存在(complete creature)」となることを望んだ。そうでなければ、「私たちの教育を受けていない船員は、イギリスとフランスの訓練された砲兵に対抗するチャンスはないだろう」とルースは警告を発した。

ウェストポイントと海軍戦争大学は、第二次世界大戦後、アメリカが半球の強国(a hemispheric power)から卓越した世界覇権国(the preeminent global hegemon)へと成長を遂げた際、アメリカ外交政策の画期的な転換の不可欠な基盤となった。1945年、アメリカ陸軍将兵は各大陸の軍事拠点を占領し、アメリカ海軍将兵は世界の主要な海域を哨戒し、アメリカ空軍将兵は世界中の空を制覇し、アメリカの科学者たちは「絶対兵器(absolute weapon)」である原子爆弾を投下した。

アメリカの力は、最高指導者の訓練や専門知識をはるかに凌駕していた。ハリー・トルーマン大統領は大学の学位を持っておらず、第一次世界大戦での軍事経験も浅く、物理学を学んだこともなかった。彼の最初の陸軍長官であったヘンリー・スティムソンは、アメリカが国際的野心も能力も限られていた1890年代初頭にキャリアをスタートさせていた。ヨーロッパでの連合国軍の勝利を指揮したドワイト・アイゼンハワー大将は、アメリカ軍はすぐにでも大陸から撤退しなければならないと予想していた。1945年当時でさえ、アメリカはグローバルなリーダーシップを発揮した経験がなかった。

トルーマン、スティムソン、アイゼンハワー、そして同世代の多くの人々にとって最大の功績は、国家安全保障に関する新たな機関の創設に資金を投じたことだろう。これらの機関は、国家が新たに獲得した力と責任を担う上で、訓練を受けた専門家で満たされていた。「国家安全保障(national security)」は、近代戦争への軍事、外交、そして技術的準備、そして戦争を阻止するための様々な取り組みが交差する領域を指す新しい専門用語となった。

新たな国家安全保障専門家の育成と配置には、ウェストポイントと海軍戦争大学の経験が活かされた。アメリカの指導者たちは、戦争から帰還した優秀な陸軍兵、水兵、空軍兵を募集し、1947年の国家安全保障法に基づいて設立された新たな機関の一員とした。政府の資金援助を受けて高等教育を受ける機会を得た退役軍人たちは、新設された国防総省、秘密主義のCIA、そして初期の原子爆弾を管理した原子力委員会といった官僚組織に多数参加した。

陸軍や海軍の前任者たちと同様に、第二次世界大戦後の国家安全保障専門家たちは、それぞれの戦争関連分野における最高レヴェルの知見を政府に持ち込み、脅威、機会、そして戦略について政治指導者に助言する任務を負っていた。連邦議会は、大統領、副大統領、そして内閣に政府の最高の専門知識を提供するために、ホワイトハウスに国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)を設置した。政策決定は政治家に委ねられたが、それは彼らが核時代の戦争と安全保障に関する最も深い知識に触れた後にのみ行われた。

1952年、アイゼンハワーはロバート・カトラーを国家安全保障問題担当大統領特別補佐官[special assistant to the president for national security affairs](後に「国家安全保障問題担当大統領補佐官(national security advisor)」と呼ばれる)に任命した。ワシントン以外でカトラーの名を知る人はほとんどいなかったが、彼は専大統領と内閣への専門家から情報の流れを管理していた。カトラーとアイゼンハワーにとって、国家安全保障プロセスの目的は、アメリカの力と財源を国益の促進に活用するための最善の選択肢をホワイトハウスに持ち込むことだった。大統領が兵器の配備、援助の分配、同盟の形成、共産主義の進出の阻止について情報に基づいた決定を下すには、技術的な正確さ、問題に関する専門知識、政策経験が不可欠だった。

NSCはワシントンの冷戦政策立案の重要な中心となった。NSCで議論されるブリーフィングやオプションペーパーに情報を提供する専門家は、政府官僚、大学、ランド研究所、ブルッキングス研究所などのシンクタンクに多くいた。アメリカの外交政策は、ヨーロッパや日本の復興、軍備管理の追求、国際的な経済開発など、その最盛期には、最も鋭敏な頭脳の知識を意思決定に反映させていた。アメリカの外交政策において最も影響力のある選挙を経ていない専門家の中には、マクジョージ・バンディ、ヘンリー・キッシンジャー、ズビグニュー・ブレジンスキー、ブレント・スコウクロフト、コンドリーザ・ライスなど、国家安全保障問題担当大統領補佐官として働いていた者もいる。

もちろん、国家安全保障の専門家たちは、特にヴェトナム戦争やイラク戦争を支持したことで、重大な過ちを犯した。しかし、彼らは70年以上にわたって、比較的安定した国際秩序を管理するのに貢献した。アメリカの国家安全保障システムは、軍事力、経済力、ソフト・パワーを駆使して世界に影響を与え、おおむねアメリカの利益に資するような形で、大統領に適切な選択肢を与えた。アメリカは安全保障を維持し、あらゆる大陸で同盟関係を管理し、経済成長の恩恵を受け、ついに主要な敵対国であったソ連が崩壊するのを見た。専門家は、核戦争やその他の世界的大災害を防ぐのに役立った。アメリカの国家安全保障の専門家たちは、海外の専門家たちと協力しながら、国際法や人権を擁護し、外交政策の文明化に貢献したと主張する学者もいる。

ドナルド・トランプ大統領は、アメリカの外交政策から国家安全保障の専門家を排除し、政権の国益追求能力を低下させている。彼は国家安全保障のトップに政策の専門家ではなく、忠実な政治家を据えた。マイク・ウォルツは、選挙で選ばれた政治家として初めて安全保障問題担当大統領補佐官に就任した。マルコ・ルビオ国務長官も選挙で選ばれた政治家であり、ジョン・ラトクリフCIA長官やトゥルシ・ギャバード国家情報長官も選挙で選ばれた政治家だった。ピート・ヘグセス国防長官は二流のTVニューズキャスターだった。これらの人物はいずれも、国家安全保障問題に関して本格的な専門知識を持っている訳でもなく、専門家のコミュニティと深いつながりがある訳でもない。どちらかといえば、彼らは専門家を敵視しているからこそ、トランプに選ばれたのだ。

知識と能力の欠如は、3月にトランプ大統領の国家安全保障の最高責任者が、安全でない、「シグナル」のメッセージング・チャンネルを通じて、アメリカ軍のイエメンに対する攻撃計画に関する詳細な情報を『アトランティック』誌編集者のジェフリー・ゴールドバーグと不注意にも共有したことで、憂慮すべき低水準に達した。彼らが漏らした情報は、敵国が攻撃を妨害し、アメリカ軍関係者の安全を脅かすために使われる可能性があった。この災難に責任のある明らかに無能な役人は、誰も解雇されず、辞任もしていない。

トランプ大統領が4月初旬に行ったのは、国家安全保障システムの最高幹部に近い、最も有能な専門家数名を解雇することだった。極右の911陰謀論者ローラ・ルーマーの助言を受けたとみられるが、トランプ大統領はティモシー・ハウ大将を解任した。ハウ大将は、通信諜報を担当する国家安全保障局(National Security AgencyNSA)と、外国のハッキングやサイバーテロからアメリカを守る任務を担う米サイバー軍の両方を率い、世界的に尊敬されている四つ星将軍だった。ハウ大将の文民副官ウェンディ・ノーブルも解任された。国家安全保障会議(NSC)では、技術と諜報の分野で高く評価されている専門家たちも解任された。トランプ大統領はこれに先立ち、統合参謀本部議長と海軍作戦部長という、更に2人の尊敬される軍指導者を解任している。

その理由は、トランプ大統領への忠誠心が足りなかったからだという。しかし、これらの専門家や解雇された他の数百人の専門家が、研究対象の証拠と論理に従う以外のことをしたという証拠はない。彼らは効果的な政策を行うために必要な知識を追求し、その知識が導く先を大統領とその政治的支持者が好まなかったために職を失った。これはワクチンが効くことを否定することに等しいが、国家安全保障の場合は、サイバー防衛、核兵器、そして中国、イラン、北朝鮮との戦争の見通しなど、賭け金は更に高くなる。

アメリカの最も強力な外交政策手段が、無知で経験が浅く、適切な意思決定に必要な知識から切り離された人々によって管理されていることを、私たちは今認識しなければならない。今後数カ月以内に深刻な軍事衝突が起きれば、トランプ政権は無能さを露呈し、有害な間違いを犯すだろう。最近のウクライナ支援の放棄、明らかに嘘のクレムリンのトーキングポイントを採用するトランプ大統領の奇妙な行動、そして悲惨な関税発表は、国家安全保障に関する行き当たりばったりで無秩序な意思決定の兆候であり、世界はこれから4年近くこのような状況を見ることになるだろう。

反専門家のリーダーシップ(ani-expert leadership)は、第二次世界大戦後のほとんどの時代を特徴づけていた、思慮深く慎重な政策決定を覆すものだ。専門知識は、アメリカの安全保障(security)、安定(stability)、そして繁栄(prosperity)を守る上で役立ってきた。専門知識の欠如は、さらなる不確実性と軽率な行動をもたらすだろう。国家安全保障の専門家がいなければ、アメリカの外交政策は、国家と国民を守るための十分な準備が整わないだろう。

クラウゼヴィッツは私たちに、戦争は政治の問題であるということを思い出させるが、同時に、その問題に対する知的な真剣さも必要だ。テレビやソーシャルメディアで大統領、国防長官、あるいは将軍を演じている者たちは、現代の戦場の複雑さに対応できていない。クラウゼヴィッツが軽蔑した自信過剰なヨーロッパ貴族たちのように、彼らは誇り高き社会を驚くべき敗北へと導くだろう。

※ジェレミ・スリ:テキサス大学オースティン校のマック・ブラウン記念国際問題リーダーシップ特別教授、テキサス大学歴史学部、リンドン・B・ジョンソン公共政策大学院の教授。

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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日本では高齢社会が深化し、社会保障費の増加により、現役世代の社会保障負担が増大し、社会保険制度に対する不満が高まっている。「世代間の助け合い」という聞こえの良いスローガンはあるにしても、現在の高齢者たちが現役時代に負担した割合と、現在の現役世代の負担率を考えるならば、現役世代の不満は理解できる。消費税が全て社会保障に使われるというおためごかしもあって、国民は増税や負担増に辟易している(野党第一党の立件民主党すらもその国民の不満にこたえていない)。

 アメリカでも同様の不満が起きている。イーロン・マスクは社会保障を「最大のネズミ講」と呼んで非難している。社会保障制度に対する不満が起きている。そうした中で、『フォーリン・ポリシー』誌に、アメリカの社会保障制度の歴史に関する論稿が掲載されたのでご紹介したい。アメリカの社会保障制度の歴史は1930年代に始まったもので、100年ほどの歴史を持っている。

制度の歴史を振り返ると、1935年にフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領のもとで始まった。それまでそのような制度は存在しなかった。社会保障は普遍的な給付を重視し、全ての労働者を対象にすることで多様な層の支持を得る仕組みである。しかし、制度の創設当初から南部民主党による黒人労働者や女性の排除があり、その後も特定のカテゴリーの労働者が除外される政治的な障害が続いてきた。

そして、制度開始からの政治的混乱を経て、1950年代には大幅な改善が図られ、保守的な選択肢としての老齢保険が支持を集めた。社会保障税は制度の財源として重要であり、労働者が支払うことで制度の安定が図られてきた。その後、制度は徐々に拡大し、1960年代には医療給付が追加され、民主、共和両党間で給付の増額を競う展開へと発展した。1972年以降、社会保障制度は増税を伴いながらも給付金の調整が行われ、その人気は根強いものである。

これに対し、共和党は制度削減の選択肢を模索したが常に反発に遭い、制度の存続が続いている。例えば、レーガン大統領の提案に民主党が反対したことで、制度が保護される結果となった。現在も社会保障は多くのアメリカ人の重要な収入源であり、87%が優先事項と考えている。特に65歳以上の高齢者にとっての依存度が高く、将来的にも6900万人が受給予定だ。

マスクの「政府効率化省」の案は、この制度に対して新たな脅威となる可能性があり、労働人口の減少や退職者の増加に如何に対処するかが重要な課題である。トランプ政権下での改革が高齢者に与える影響が懸念され、ルーズヴェルト時代の理念が再確認される必要がある。

 社会保障制度がセーフティネットであることはアメリカも日本も共通している。問題は負担と受益のバランスだ。2つがちょうどイーヴンであれば問題ではないが、世代間で、負担よりも受益が大きい、樹液よりも負担が大きいということの不公平が出ているのが現状だ。ここを解決することが制度を存続させ、セーフティネットとしての役割を果たさせるために重要ということになるだろう。「私たちは逃げ切って良かったわ」というような言葉が出てくるようでは、社会保障制度の未来はない。

(貼り付けはじめ)

社会保障(ソーシャル・セキュリティ)は「ネズミ講」か?(Is Social Security a “Ponzi Scheme”?

-引退した全てのアメリカ人にとって、この恩恵(benefits)は非常に現実的なものだ。

ジュリアン・E・ゼリザー筆

2025年3月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/03/10/social-security-musk-ponzi-scheme-benefits/

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社会保障システムの紹介を行うポスター(1935年)

大統領のアドヴァイザーであるイーロン・マスクは最近、ジョー・ローガンのポッドキャストに出演し、社会保障制度(Social Security)は「史上最大のネズミ講(the biggest Ponzi scheme of all time)」だと主張した。実際、社会保障制度はアメリカの社会的セーフティネットの中で最も効果的かつ永続的な構成要素の一つである。社会保障制度は、高齢者の貧困問題(problem of poverty amongst the elderly)を緩和するために、他の何よりも大きな役割を果たしてきた。この制度は完璧とはとても言えないが、連邦議会は改革が必要な場合には、長期にわたってその構造を改善・強化し続けてきた。この制度は、赤(共和党優勢州)と青(民主党優勢州)の両方の州に住む家族の生活の中心であるため、国政における「第三のレール(third rail)」となっている。

最近まで、ドナルド・トランプ大統領はこの問題から距離を置くことを十分承知していた。おそらく、トランプ大統領を誕生させた多くの有権者を含め、ほとんどの有権者にとって、この制度の削減はほとんど魅力がないという事実を敏感に感じ取っているのだろう。

しかし、政府の労働力を鑿(のみ、chisel)ではなく大ハンマー(sledgehammer)で再編しようとする彼の取り組みと同様、マスクは結局、政権のエネルギーの多くを消耗する政治的泥沼に大統領を引きずり込むことになるかもしれない。今年90周年を迎える社会保障制度を脅かすことは、民主党を活気づけ、共和党を萎縮させるのに他のほとんど何にもまして効果的だろう。共和党は、社会保障制度を党にとって負ける問題と認識するだろう。

フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領と民主党が過半数を占める連邦議会は、ニューディール(New Deal)の最盛期である1935年に社会保障制度を創設した。アメリカは、ドイツ(1889年)やデンマーク(1891年)のようなヨーロッパ諸国が数十年前に導入したような、退職者のための連邦社会保険制度(federal social insurance programs for retirees)をまだ採用していなかった。1934年、フランシス・パーキンス労働長官を委員長とする経済保障委員会(the Committee on Economic Security)は、退職者に給与税を財源とする年金(pensions)を支給する連邦保険制度(federal insurance program)の創設を連邦議会に提案した。

重要なのは、この制度が普遍的(universal)なものであることで、ミーンズテスト(訳者註:社会保障制度の給付を申請する市民の資格を確認するための資力調査)によって受給者を決定するのではなく、対象となる仕事に従事する全ての労働者を含めることであった。この制度の創設者たちの信念は、歴史的に連邦政府のプログラムに対してアンビバレントな(二律背反的な)国民性において、ミーンズテストが受給者に汚名を着せるのに対し、普遍的給付は手当てとは見なされないというものだった。普遍的給付はまた、保険の傘の下にある全ての人が何かを受け取ることになるため、多くの異なる所得階層をプログラムの継続に投資できるという利点もあった。

加えて、老齢保険(Old-Age Insurance)と呼ばれるこの制度は、一部の改革派が求めていた連邦政府が負担する定額の月額年金に代わる、より保守的な選択肢とみなされていた。ルーズヴェルトは次のように述べた。「私たちは、人生の危険や変化に対して国民の100% を保険で守ることはできないが、失業や貧困に苦しむ老年期(poverty-ridden old age)に対して、平均的な市民とその家族をある程度保護する法律を制定しようと努めてきた」。

社会保障税(Social Security taxes)は、この法案の重要な部分であった。第一に、社会保障税は、一般的な税収に頼らない、財政的に保守的な給付金の支払い方法を提供するものであった。連邦議会は、労働者に増税する必要がないよう、長期的な年間コストを考慮することを余儀なくされた。当初、連邦議会は余剰資金の蓄積も計画していた。第二に、給与税(payroll taxes)は、労働者に制度に「お金を払っている(paying into)」という感覚を与えることで、制度に投資しているという感覚を与え、その結果、将来にわたって給付を受ける資格がある。「この税金があれば、政治家が私の社会保障制度を廃止することはできない」とルーズヴェルトは後に語っている。

しかし、すぐに問題に直面した。

多くの主要委員会を支配していた南部民主党(Southern Democrats 訳者註:アメリカ南部を地盤とする保守的な民主党員たち)は、黒人の雇用が多い2つの労働力層である農業労働者と家事労働者を制度から除外するよう主張した。アメリカ南部は、公民権介入への扉を容易に開く可能性のある連邦政策に、彼らを巻き込みたくなかった。また、連邦議員たちは単身賃金世帯のためのプログラムを構想していたため、女性も除外された。当時、こうした労働者は男性であると想定されていた。最後に、将来のための余剰金という概念は、このパッケージの最も疑わしい部分であった。実際には、余剰資金は国債に投資されることになった。(労働者がまだ大恐慌の影響と闘っていた時期に、短期的には使われない資金を集めることは好都合だった)

社会保障制度開始から最初の5年間、この制度は政治的に不安定な状況にあった。連邦議会は1939年に労働者の未亡人と扶養家族にまで適用範囲を拡大したが、老齢年金保険に対する政治的な支持は弱いままだった。多くの共和党員がルーズヴェルトの施策を攻撃した。1936年、共和党の大統領候補アルフ・ランドンは、この制度は巨大な官僚機構(a massive bureaucracy)を生み出す「残酷な詐欺(cruel hoax)」であり、「彼らが納める現金が現在の赤字と新たな浪費に使われる可能性は十分にある」と考えた。連邦議会の反対派は、1939年から給与税の増税を8回凍結し、一般歳入から給付金を賄うようロビー活動することで、この制度を覆そうとした。一般歳入から給付金を賄うと、政治的に価値のある特定給与税がなくなり、社会保障が他の全ての裁量的制度の変動に左右されることになる。

1950年、民主党のハリー・トルーマン大統領がホワイトハウスに入ると、彼の政党がこの制度を救った。連邦議会は老齢年金保険(Old Age Insurance)を増額し、税金を上げ、農業労働者から始めて徐々に対象となる仕事の種類を拡大した。連邦議会は剰余金を集めるという考えを放棄し、給付金が厳格な賦課方式(strict pay-as-you go basis)で支払われるようにした。今日の労働者たちが今日の退職者を賄うということになった。1954年、共和党のドワイト・アイゼンハワー大統領は弟に宛てた手紙の中で、「いかなる政党であれ、社会保障や失業保険を廃止し、労働法や農業プログラムを撤廃しようとするなら、我が国の政治史上、その政党の名前は二度と聞かれなくなるだろう」と警告した。国民一人ひとりの個人番号が記載された社会保障カードは誇りとなった。社会保障番号はもともと、政府が制度のために労働者の収入を記録できるようにするために作られたものだが、現在では最も一般的な身分証明書の1つとなった。

その後の数十年間、社会保障は着実に拡大した。1964年、共和党候補のバリー・ゴールドウォーターがプログラムを任意にすることを提案し、それによってその普遍的な構造を弱めると、リンドン・ジョンソン大統領はゴールドウォーターを非難した。ジョンソン大統領はゴールドウォーターの提案を、自分が急進的な保守主義者であることを示すもう一つの証拠として使った。1965年、連邦議会は医療給付(これも普遍的な給付として構築されたメディケア)を社会保障に加えた。これはジョンソンの立法上の最大の勝利の一つであった。1972年、ヴェトナム戦争の支出から生じたインフレにアメリカ人が苦しむ中、共和党と民主党は給付の増額を競った。両党間の競争は拡大の是非ではなく、どのように拡大するかについてになった。リチャード・ニクソン大統領と連邦議会の共和党所属の議員たちは、物価上昇時に生活費の自動調整(automatic cost-of-living adjustments)が行われるよう、インフレに対する給付のスライド制(index benefits to inflation)を推進した。連邦下院歳入委員会委員長で民主党のウィルバー・ミルズ議員は、給付金に対する裁量権の維持を目指し、連邦議会に増額を投票させるという昔ながらの方法を選んだ(これにより、控除も確実に受けられる)。最終的な社会保障改正案には、両党の提案が盛り込まれた。給付金はなんと20%も増加し、法案はプログラムを指数化した。

1972年以降、社会保障局や超党派委員会による保険数理予測(actuarial predictions)に基づいて、連邦議会が段階的に増税し、給付金を調整した事例が数多くある。たとえば、1983年の社会保障改正案では、給与税を増税し、生活費調整を延期して、近い将来までプログラムを支払い可能な状態にした。

社会保障給付を直接削減しようとする共和党の努力は決して成功していない。この制度は非常に人気がある。1981年にレーガンが財政不足に対処しようとしたとき、予算管理局(Office of Management and Budget)のデイヴィッド・ストックマン局長は早期退職者への給付を大幅に削減することを提案した。連邦下院民主党はこれに反発し、ティップ・オニール連邦下院議長は「これは制度破壊への第一歩だ(the first step to destroying the program)」と警告した。レーガンは手を引き、この制度がアメリカ政治の「第三のレール(third rail)」になったという見方が生まれた。2005年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、ジョン・ケリー連邦上院議員に勝利して再選を果たしたばかりであったため、社会保障制度を民営化し(privatize)、労働者が給与課税の一部を投資口座に投資できるようにすることで、退職時にその口座がどうなっているかというリスクを負うという大規模な計画を提案した。ナンシー・ペロシ連邦下院少数党(民主党)院内総務とハリー・リード上院少数党(民主党)院内総務は、大統領に大敗を喫した。

2008年には5000万人以上が社会保障給付を受けていた。2025年には、約6900万人のアメリカ人が約1兆6000億ドルの給付を受けることになる。この中には、65歳以上のアメリカ人10人のうちほぼ9人が含まれ、社会保障は収入の31%を占める。加えて、65歳以上の男性の39%、同年齢の女性の44%が、収入の少なくとも50%を社会保障から受け取っている。国立退職保障研究所によると、アメリカ人の87%が、社会保障は予算の優先事項であり続けるべきだと考えている。この数字には共和党員の86%も含まれている。

なぜ多くのアメリカ人が、この制度の創設者が予言したように、この制度に払い込んだというプライドを持ち、毎月の給付金を受け取るに値すると等しく信じているのかは、衝撃的なことではない。

これまでの第二次トランプ政権の実績を考えれば、マスクが本気で社会保障を政権の矢面に立たせようとしていないと信じる理由はない。実際、社会保障の効率化にとって現在最大の脅威は、マスクのいわゆる「政府効率化省(Department of Government Efficiency)」そのものであり、社会保障庁から数千人の雇用を削減する案を推進し、支払いシステムにアクセスできるようになったからだ。

確かに、この制度は退職者の増加や労働人口の減少に対処しなければならない。しかし、トランプとマスクの「焦土作戦的アプローチ(burn-down-the-house approach)」は高齢者にとって危険であり、1970年代から制度の不均衡を是正し続けてきた漸進的改革(賃金の課税上限額の引き上げや給与課税の引き上げなど)よりも悪い選択肢である。例えば、ブルッキングス研究所は、基本プログラムの完全性を維持しながら支払能力を達成する方法を示す1つの包括的な研究を提唱している。

これまでこの戦いから遠ざかっていたトランプだが、パートナーのマスクが、トランプでさえ逃げ出せないような事態に彼を引きずり込んでいることに気づくかもしれない。雇用不安と物価の上昇、そして年金支給額の伸び悩み(stagnant pension coverage)が深刻化している今、ルーズヴェルトの遺産はかつてないほど重要である。

※ジュリアン・E・ゼリザー:プリンストン大学歴史学・公共問題教授。最新刊に『コロンビア・グローバル・リポーツ』誌との共著となった『パートナーシップの防御』がある。Xアカウント:@julianzelizer

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