古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:バブ・エル・マンデブ海峡

 古村治彦です。

 イラン戦争は沈滞ムードに入り、限定的に軍事攻撃が行われているが、大規模な軍事衝突は起きていない。停戦交渉も停滞ムードだ。国連総会に合わせて、イラン代表団とアメリカ代表団がニューヨークで会談を持ち、トランプ大統領が会談について評価したということはあるが、中間選挙までに一定の成果を出すという見通しは立っていない。トランプ大統領としては支持率低迷が続き(支持率が約40%、不支持率が約59%)、打開策を求めているが非常に難しい。対イラン政策については支持率が約32%、不支持率が約63%となっている。参考までに、ウクライナ問題については、支持率が約34%、不支持率が約59%となっている。

イラン戦争停戦は原油価格に対する影響を考えても、世界経済、私たちの日常生活にとって重要である。イラン戦争は完全に失敗であった。アメリカのドナルド・トランプ大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は完全に戦争の見通しを見誤った。アメリカでは対外戦争について不支持が多い状況で(ウクライナ戦争への支援にも反対が多い)、イラン戦争を始めたことで、トランプ大統領はドツボにはまった。アメリカ軍は強大で高性能な武器でイランを攻撃し、最高指導者アリ・ハメネイを含む政治の最高指導部層をはじめ多くの人々を殺傷し、イラン国内のインフラなどに大きな被害を与えた。しかし、イランからの反撃で湾岸諸国にあるアメリカ軍基地は破壊され、湾岸諸国にも被害が出た。アメリカ軍は湾岸諸国を防衛することに失敗した。さらに、イラン側の抵抗、ホルムズ海峡封鎖などもあり、予想外に戦争が長引くことで、武器を含む装備品や物資の欠乏に陥り、将兵の士気も低下している。

 イラン戦争でアメリカは負けている。戦闘で勝っているが、戦争では負けている。「出口」をきちんと想定せず、「アメリカが攻撃すれば、イランは耐えられずに崩壊するだろう」という根拠薄弱な前提で戦争を始めた時点でアメリカとイスラエルは負けていたのだ。そして、世界に大きな悪影響を与えている。イラン側はハマス、ヒズボラ、フーシ派を使い、弱点を突いている。サウジアラビアはアメリカに「見捨てられた」という感覚を持っているだろう。そして、ますます中国に近づくということになる。イランの体制転換を起こすことができなかったことで負けなのだ。アメリカは人命や戦費を浪費していく。一方、ライヴァルである中国は無駄なことをせずに、資源を成長に正しく使うことができる。その点でもアメリカは負けている。

 私はトランプが彼の持つ底知れない無神経さと屈託のなさで「失敗しました」と認める方が状況はまだましになるだろうと考えていた。しかし、いくら何でもそれはできない相談のようだ。中間選挙での敗北もあり、トランプ政権については厳しい状況が続いていく。そして、アメリカ政治は2028年の大統領選挙に向かって進んでいく。

(貼り付けはじめ)

ほぼ全ての指標においてアメリカは対イラン戦争に負けつつある(By Nearly Every Metric, the U.S. Is Losing the Iran War)

-ある専門家は「アメリカが主要な戦略目標の達成に失敗したことは明白だ」と述べた。

ジョン・ホルティヴァンガー筆

2026年9月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/09/17/trump-united-states-losing-iran-war/

donaldtrumpdancaine20260406001

ワシントンのホワイトハウスでイランとの戦争について語るダン・ケイン統合参謀本部議長を見つめるドナルド・トランプ米大統領(4月6日)

3月初旬、ドナルド・トランプ米大統領は、対イラン戦争においてアメリカはすでに「勝利した(won)」ものの、まだ「任務を完遂する(finish the job)」必要があると述べた。それから数カ月が経過し、地域全体で戦闘が激化し外交が停滞する中、その「任務(job)」は未完のまま、終わりの見えない状況が続いている。

トランプは水曜日、「願わくは戦争は終結に向かっている」と語り、イランが合意を望んでいるとの見方を示唆した。しかし、現地で起きている現実はそうした楽観論(optimism)を裏切るものであり、テヘランが合意を熱望しているという証拠もほとんどない。

アメリカはこの戦争で軍事的な成功を収めてはいるものの、全体として見れば、この紛争はワシントンにとって戦略的な災厄(strategic disaster)であった。戦闘によってアメリカ軍の深刻な脆弱性(vulnerabilities)が露呈し、兵力は分散を余儀なくされたほか、これまでに推定381億ドルの費用を費やし、世界的なエネルギー危機も引き起こした。この戦争はアメリカの有権者から極めて不評であり、連邦議会では紛争終結に賛成する共和党議員が増加している。ある共和党連邦下院議員に至っては、この戦争をめぐってピート・ヘグセス国防長官の弾劾を求める動きさえ見せている。

しかし、これほどの代償を払ったにもかかわらず、アメリカがイランに関して達成できたことはほとんどなく、むしろ事態が悪化した側面さえある。代理勢力を通じた地域への影響力行使能力、軍事力、体制の強固さ、核開発計画の状況など、ほぼあらゆる指標において、アメリカはこの戦争に敗北しつつある。さらに、テヘランはホルムズ海峡を長期にわたって封鎖できることを証明した。これは彼らが長年誇示してきた能力ではあるが、実際に実証されたことはこれまでなかった。

「2月に時計の針を戻し、アメリカが当時何を目指していたかを見れば、アメリカが主要な戦略目標の達成に失敗したことは明白だ」。ユーラシア・グループの上級アナリストでイラン情勢の専門家であるグレゴリー・ブリューは『フォーリン・ポリシー』誌にそう語った。

●代理勢力(Proxies)

トランプ大統領は2月下旬、イランに対する本格的な戦闘作戦の開始を発表した際、「テロを行う代理勢力がもはや地域や世界を不安定化させたり、アメリカ軍を攻撃したりできないようにする」と述べた。同様に、統合参謀本部議長のダン・ケイン大将も3月初旬、アメリカは「現在および将来にわたり、イランが国境の外で力を行使する能力を解体すること」を目指していると語った。開戦から1カ月後、国民向けのゴールデンタイムの演説において、トランプ大統領はさらに、アメリカは「アメリカを脅かしたり、国境の外へ武力を行使したりするイラン政権の能力を組織的に解体しつつある」と述べた。

しかし、アメリカがこれを達成したことを示す証拠はない。紛争開始時には開かれていた水路であるホルムズ海峡の支配権をめぐる争いが数カ月にわたって続いているという事実は、中東地域およびより広い世界における事態の推移に影響を及ぼすテヘランの能力が依然として健在であることを示している(これについては後述する)。

開戦から数カ月が経過しても、テヘランの代理勢力は依然として大きな脅威であり、地域の混乱と原油価格の高騰を助長し続けている。イランが支援するイエメンのフーシ派反政府勢力は今月、サウジアラビアが支援するイエメン政府軍に対する猛攻を展開し、紅海沿岸にある港湾都市モカやペリム島などの戦略的要衝を制圧するなど、大幅な領土拡大を果たした。その結果、フーシ派は、紅海とアデン湾を結び、アラビア半島とアフリカ大陸を隔てるもう1つの重要な水路であるバブ・エル・マンデブ海峡の実質的な支配権を掌握するに至った。

バブ・エル・マンデブ海峡は、開戦前から重要な海上交通路だったが、ホルムズ海峡の閉鎖に伴い、その重要性はさらに高まりまった。テヘランとフーシ派は、アメリカが戦争を続ければバブ・エル・マンデブ海峡が封鎖される可能性があると数カ月前から警告してきたが、今やその脅しを実行に移せる状況にある。

一方、フーシ派とサウジアラビアの間では交戦が続いており、2014年に始まったものの2022年の停戦合意以降は概ね沈静化していた内戦に関連する緊張が再燃している。現在、イエメンが本格的な内戦状態に逆戻りするのではないかという懸念が高まっている。

サウジアラビアは先週、全長750マイル(約1200キロ)に及ぶ東西石油パイプラインを一時停止した。これは、イラク国内のイラン支援武装勢力によるものとサウジアラビア側が断定したドローン攻撃でこのパイプラインが損傷しただが、いつ稼働が再開されるかは不透明だ。このパイプラインはサウジアラビアの東部から紅海沿岸のヤンブー港まで原油を輸送するものであり、その一時停止は世界の石油供給量の約4%に影響を及ぼしている。

確かに、ハマスやヒズボラ(後者は長らく中東地域におけるテヘランの最強の同盟勢力と見なされてきた)といったイランの他の代理勢力は、数年前と比べて著しく弱体化している。しかし、これはほぼ全面的に、ガザ地区やレバノンにおけるイスラエルの軍事行動によるものだ。

●弾道ミサイルとドローン(Ballistic missiles and drones)

トランプ政権は、イランの弾道ミサイルおよびドローン関連の能力を破壊することも戦争の目的として掲げていた。4月、ヘグセスは、イランのミサイル計画は機能的に破壊され、イランは「もはやミサイルを製造できない(no longer build missiles)」状態にあると述べた。トランプもまた、イラン軍は「完全に壊滅した(totally destroyed)」と主張している。

確かに、イラン軍はこの戦争によって甚大な打撃を受けている。空爆が始まって以来、イラン軍や情報機関の幹部多数が殺害され、産業能力は低下し、通常戦力の海軍も大部分が壊滅した。

しかし、テヘランが依然としてミサイルやドローンを用いて地域各地の標的を攻撃し続けているという事実は、この目標がいまだ達成されていないこと、そしてトランプ政権が自らの軍事的成果を大幅に誇張していたことを示している。

また、イラン軍の弱体化の程度に関するトランプ政権の公的な主張は、情報機関による分析結果とも矛盾している。報道によれば、イランは開戦当初にアメリカ軍がミサイル施設や発射拠点を標的として数千回に及ぶ攻撃を行ったにもかかわらず、地下施設での弾道ミサイル生産を再開した。また、ドローンは製造が容易でコストも低いことから、イランのドローン運用能力を完全に破壊することは、そもそも困難なことだった。

●体制転換(Regime change)

トランプ政権は、イランの現体制を打倒することを主要な目標とすべきかどうかについて態度を揺れ動かしてきたが、開戦当初、イラン指導部の打倒がホワイトハウスの重要な目標の1つであったことは明らかだった。

トランプは2月28日、「誇り高きイランの偉大な国民の皆さん、今夜私はこう申し上げたい。皆さんの自由の時は近づいている」と述べた。「私たちの任務が終わった暁には、自分たちの手で政府を引き継ぐ。それは皆さんが手にするものとなるだろう。これはおそらく、何世代にもわたって訪れることのない唯一の好機となるはずだ」。

前最高指導者アリ・ハメネイ師を含むイランの最高幹部らが殺害されたものの、体制は依然として強固に維持されており、多くの面でむしろ硬直化(calcified)している。

「体制転換が目標であったとするならば、アメリカの行動はほぼ完全に逆効果(counterproductive)だった。体制は今や、より強固に定着している。国内での立場に対する自信を深め、より大胆になっている。現在の体制を主導しているのは軍や治安部門の指導者層であり、彼らは現実的な側面を持ち合わせているとはいえ、一様に西側諸国に対して敵対的であり、アメリカや西側諸国全般との広範な和解には関心を示している」と前述のグレゴリー・ブリューは指摘した。

●核開発プログラム(Nuclear program)

他のどの問題よりも、トランプはイランの核開発計画をこの戦争の主要な焦点として繰り返し取り上げてきた。トランプ大統領は、テヘランによる核兵器の保有を阻止するために戦争を継続する必要性を主張する一方で、アメリカがイランの核開発プログラムを「完全に抹消した(obliterated)」かのように誤解を招く発言も行っている。

アメリカの攻撃によってインフラが破壊され、国内の重要人物たち(トップクラスの科学者たちを含む)が殺害されたことで、イランの核開発プログラムが後退したのは疑いようのない事実だが、イランは依然として約440キログラム(約970ポンド)の高濃縮ウラン(highly enriched uranium、HEU)を保有している。専門家たちは繰り返し強調しているが、正確な所在が不明なこの備蓄にイランがアクセスできる限り、イランの核開発プログラムは脅威であり続け、無力化されたとは見なせない。

国際原子力機関(International Atomic Energy Agency、IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は今週、イランの核開発計画に対する同機関の監視体制が今年に入って「悪化(deteriorated)」したと懸念を表明した。「私たちは6カ月以上にわたり、イラン国内での現地検証活動を行っていない」とグロッシは述べ、IAEAがイランのウラン備蓄に関する「情報の継続性(lost continuity of knowledge)」を失ってから「1年以上が経過している(well over a year)」ことを強調した。

「この核物質に関する情報が不足し、それを検証するための施設へのアクセスもできないという状況は、核拡散の観点から深刻な懸念事項であり、極めて緊急に対処する必要があります」とグロッシは語った。

トランプは、アメリカの高濃度ウラニウム(HEU)備蓄を回収すべきかどうかについて発言を二転三転させており、過去のアメリカの攻撃によって瓦礫の下に埋もれ、アクセス不能になっている可能性を示唆したこともある。「私たちはそれを回収するつもりだ。私たちには必要ないし、欲しくもない。回収後は恐らく廃棄するだろうが、彼らに持たせる訳にはいかない」とトランプは5月に述べている。

また、戦略国際問題研究所(the Center for Strategic and International Studies、CSIS)の最近の分析によると、核関連施設と疑われる「ピッケックス・マウンテン(Pickaxe Mountain)」において、2026年に建設活動の「急増(surge)」が見られたことが衛星画像で明らかになっている。

先週、トランプ氏はピッケックス・マウンテンでの建設活動の報告を受け、アメリカが行動を起こす可能性があることを示唆した。「ピッケックスで何らかの動きがあることは把握している」とトランプは述べ、「イランには小細工を弄さないよう(not to get cute)忠告しておく。さもなければ、私たちは彼らを徹底的に叩くことになるだろうから」と語った。

そうした勇ましい言葉とは裏腹に、トランプ政権の実際の行動は、イランの核開発問題がホワイトハウスの優先順位リストにおいて後回しにされつつあることを如実に示している。核問題に進展が見られないことや、より広範な戦争において当初の目標を達成できなかったことを受け、トランプ政権は関心を他の目標へと移しているのだ。

トランプ政権はイランを経済的に追い詰めるべく動き出しており、海軍による海上封鎖に加え、「オペレーション・エコノミック・アウトキャスト(Operation Economic Outcast、経済的追放作戦)」と名付けた金融制裁などの措置を講じ、テヘランをさらに孤立させようとしている。スコット・ベセント財務長官は8月下旬にこの取り組みを発表した際、「私たちの目標は、テヘランが孤立無援の状態に陥るまで、この専制的な体制を支えるあらゆる経済的生命線を断ち切ることにある」と述べた。

しかし、イラン指導部は数十年にわたりアメリカの経済的圧力に耐え抜いてきた実績がある。そのため、今回のアプローチによって事態が実際に動き、将来の交渉でイラン側が譲歩するようになるのかどうかについては疑問の声も上がっている。

●ホルムズ海峡のコントロール(Control of Hormuz)

この戦争は今や、本質的にはホルムズ海峡における石油と海上輸送路をめぐる争いとなっている。

前述のグレゴリー・ブリューによれば、8月初旬にはホルムズ海峡を1日あたり約400万〜500万バレルの石油が通過していたが、現在その量は約1000万バレルに迫っているという。これはアメリカにとって好ましい状況であり、イランの石油輸出が完全に停止していることから、海軍による海上封鎖が功を奏していることも示唆している。一方で、ホルムズ海峡の通航量は開戦前の約5分の1にとどまっており、このことは、現在の状況が「極めて多大なリソースを投入することによって維持・管理されている」という事実を浮き彫りにしている。

このプロセスでは、アメリカ海軍や航空戦力が、小規模な船団を組んで海峡を通過するタンカーの防衛にあたっている。この体制により、過去1カ月間で海峡を通る石油の輸送量は着実に増加した。グレゴリー・ブリューによれば、これはエネルギー市場における「全面的な危機(general crisis)」の発生を遅らせる役には立っているものの、「リスクそのものを排除するものではない(not removing the risk)」という。

石油の国際的な指標であるブレント原油の価格は、木曜日の時点で1バレルあたり約104ドルだった。戦争が始まった2月直前の価格は、およそ72ドルだった。

トランプがこの戦争はアメリカにとって好ましい形で終わると考えているかという点について、ホワイトハウス当局者は『フォーリン・ポリシー』誌に対し、匿名を条件に次のように語った。「イランからは絶えず連絡があり、合意を強く求めている」ものの、大統領は「イランが核兵器保有の意図を恒久的に放棄するような、好条件の合意を結ぶ用意があるだけだ」とのことです。またこの当局者は、トランプは「適切な状況下(right circumstances)」であれば対話に応じる姿勢はあるが、「イラン側と交渉する必要はない」とも述べている。

「歴代大統領とは異なり、トランプ大統領はイラン政権にいいようにあしらわれることはない。トランプ大統領は、避けられないイランの崩壊という事態の推移を静観することに満足している」とこの当局者は語った。

※ジョン・ホルティヴァンガー:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター。Blueskyアカウント:@jchaltiwanger.bsky.social、Xアカウント:@jchaltiwanger

(貼り付け終わり)

(終わり)


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『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 イラン戦争は、アメリカの脆弱さと共に、イランの強靭さを明確に示した。長年にわたる経済制裁によって厳しい状況にありながら、アメリカとイスラエルによる大規模攻撃に寄ってもイランは崩れなかった。もちろん、国内の締め付け、弾圧があることは承知している。そのために国民が声を上げられない、行動できないということはあるだろう。しかし、アメリカとイスラエルが事前に期待していた、イラン国内での反政府運動の発生や民衆蜂起は起きなかった。イラン国民は、もちろんイラン政府に対して不満を持っているだろうが、それよりもアメリカとイスラエルへの反撃と政府への支持のためにまとまってしまったようだ。アメリカとイスラエル、特にイスラエルの事前の期待は大きく外れることになった。

 それは、イランが、イスラム体制であると同時に、ペルシア帝国以来の「誇り」を保持して言うことを示している。紀元前550年のアケメネス朝ペルシアが成立した。アケメネス朝ペルシアは世界初の帝国(広大な領土と他民族を支配する中央集権的な政治体制)である。イランでは、イスラム体制になって、それまでの歴史、特にイスラム前の歴史について否定的な評価をして、そのように教育していた時代もあったが、今では、肯定的な評価となっている。イラン国内にはナショナリズムが残っている。その後の歴史では、モンゴルやトルコなどの侵略を受けながらも、独自の言語や文化を守ってきたという誇りがある。
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 「ペルシア以来の歴史」と「イスラム体制」の2つがイランのアイデンティティとなっており、それに対する外部からの攻撃はイラン国民を団結させることになる。そして、どんなに苦しくても、外部勢力に対抗するということになる。それは命がけの行為となる。今回のイラン戦争で亡くなった人々は犠牲者(victims)であるにとどまらず、殉教者(martyr)である。イスラム今日の側面と殉教者であると同時に、ペルシア帝国以来の歴史の殉教者ということになる。こういった分析を『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』で行っている。是非お読みいただきたい。
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 イランは誇り高く、独立を守るということに最上の価値を置いている。そのための犠牲は殉教ということになる。これでは安易に手を出して、攻撃をしてしまうと、大変なことになる。容易に戦争は終わらない。アメリカとイスラエルが敗北を認め、謝罪し、イラン側の条件をのまない限り、戦争は終わらない。そんなことはできないので、ズルズルとなってしまう。アメリカとしては泥沼に引きずり込まれ、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡封鎖の責任を取らされるということになる。イラン側もあまり条件を吊り上げると、アメリカとイスラエルが嫌気をさして大規模攻撃を行う可能性があるので、出方を注意しなければならない。そのためには中国とロシアと連携し、ドナルド・トランプ政権の意向をうまくくみ取る必要がある。

(貼り付けはじめ)

世界はイランに間違った質問を投げかけ続けている(The World Keeps Asking Iran the Wrong Question)

-イスラム共和国が成立する以前からこの国は常に同じことを望んできた。

アリ・ハシェム筆

2026年5月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/19/iran-politics-strategy-war-sanctions-hormuz/?tpcc=recirc_featured_horizontal051524

過去半世紀にわたり、イランに関する本格的な分析の多くを方向づけてきた問いは、「イスラム共和国は何を求めているのか」というものだった。これは合理的な疑問だが、正しい疑問ではない。イスラム共和国の歴史は47年だが、現代のまとまりある政治的実体としてのイランの歴史は5世紀続いている。この2つを混同したことが、半世紀近くにわたるアメリカの政策の失敗、合意の崩壊、そして現在の形で予測した者がほとんどいなかった戦争を招く結果となった。

より有益な問いは、「イランは何を求めているのか」というものだ。ここで言うイランとは、現在の政府や最高指導者のことではなく、革命よりはるか以前にその戦略的本能が形成され、それ以降のあらゆる体制の変化を生き抜いてきた国家そのもののことだ。サファヴィー朝、ガージャール朝、パラヴィー朝、そしてイスラム共和国は、いずれも同じ地理的・歴史的遺産を基盤として活動してきた。政府は変わっても、その論理は変わらなかった。

イラン高原は西をザグロス山脈、北をアルボルズ山脈に囲まれ、世界でも有​​数の過酷な砂漠によって分断されており、中央アジア、南アジア、中東の結節点に位置している。主要な陸上帝国は全て、この土地に関与しなければならなかった。インド洋への野心を抱く海洋勢力も全て、その南端にある海峡を考慮に入れざるを得なかった。

こうした地理的条件は、歴代の王朝に一貫した教訓をもたらした。それは「内陸部を守るだけでは内陸部を確保できない」ということだ。高原内部に戦略を限定した支配者は、やがてその一部を失うことになった。一方、外へと勢力を広げ、高原を単なる標的(a target)からハブ(hub、拠点)へと変えた支配者こそが、最も長く存続した。

現代において、この論理が最も明確に表れているのがホルムズ海峡だ。世界の石油供給の約5分の1がこの海峡を通過している。2026年のイラン戦争の初期段階でイランが通航制限の動きを見せた際、実際にタンカーが停止させられる前に、エネルギー市場は反応を示した。核兵器を持たず、アメリカに対抗しうる通常戦力も持たない国であっても、その地理的位置ゆえに世界の市場を動かすことができる。これこそが地理的遺産(a geographical inheritance)であり、政府の交代によって崩れ去るものではない。

誰が権力を握ろうとも、イランの戦略的行動を貫く3つの確信がある。

第一の確信は、弱さは他国からの介入を招くという認識である。1813年のグリスタン条約と1828年のトルクメンチャーイ条約により、イランはコーカサス地方の領土を奪われた。1907年の英露協約では、イラン側の意向を無視して勢力圏に分割された。それ以降の歴代政権は、これらの出来事を構造的な警告として捉えてきた。すなわち、抑止力(deterrence)を発揮できない国家は、その主権(sovereignty)を外部から管理されることになるという教訓である。核開発計画、地域的なネットワーク、そしてミサイル戦力といった要素は、ある側面において、いずれもこの警告に対する対応策なのである。

第二の確信は、主権は決して譲歩の対象にはなり得ないという点だ。1890年代初頭のタバコ・ボイコット運動や1951年のアングロ・イラニアン石油会社の国有化は、単発的な出来事ではない。それらは時代を超えて繰り返された、同一の反射的反応であった。1976年、リチャード・ヘルムズ駐イラン米大使がヘンリー・キッシンジャー国務長官に行った報告の中で、この点が的確に表現されている。「核をめぐる緊張が存在するのは、イランが、自国の主権を損ないかねない外部からの干渉を一切容認しようとしないからである」。この一文は、2015年、2021年、そして、2026年に行われた核交渉に関するあらゆる報告書においても、そのまま当てはまるものであった。

そして第三の確信であり、最も一貫して過小評価されてきたのが、イランは自らを単なる「地域大国(a regional power)」とは見なしていないという点である。1979年の革命は、一般的に地域的な文脈―シーア派政治勢力の台頭、湾岸地域の安全保障体制の再編、統治勢力としての政治的イスラムの出現―で語られることが多い。

しかし、その革命がもたらした最も直接的かつ重大な影響は、世界規模のものだった。わずか1年の間に、イランはワシントンにとっての極めて重要な戦略的パートナーという立場から、超大国とは異なる「第三の道(a third path)」を追求する国家へと変貌を遂げた。人質事件は、その後一世代にわたってアメリカの国内政治のあり方を変えた。イラン・イラク戦争には、米ソ超大国やヨーロッパ諸国の大部分の諜報機関や兵器産業が巻き込まれた。イラン製の無人機「シャヘド(Shahed)」は、ヨーロッパでの戦争にまで投入されるに至った。2026年の紛争は世界のエネルギー市場を動かし、複数の海上ルートにおける海運保険に混乱を招き、湾岸地域の石油に依存するあらゆる経済―すなわち世界の大多数の経済―に、戦略の再考を迫ることとなった。最高指導者であったルーホッラー・ホメイニ師は、革命を世界の隅々にまで輸出すると語った。彼は本気だった。

半世紀の隔たりがある2つの発言が、その継続性を如実に物語っている。1つ目は1960年代、イラン秘密警察の中東担当局長モジタバ・パシャイ大佐によるものだ。彼は、シャー(shah、国王)がレバノンの諸政党を支援していた理由をこう説明した。「イラン国内での流血を防ぐためには、地中海東岸において(ナセル主義[Nasserism]という)脅威と戦い、これを封じ込めなければならない」。2つ目は2016年1月、最高指導者アリ・ハメネイ師がシリアやイラクで戦死した兵士の遺族に向けて語った言葉である。「もし彼らが現地へ赴き敵と戦っていなかったら、敵は国内に侵入していただろう。私たちはケルマンシャーやハマダーンで敵と戦わなければならなくなっていただろう」。2つの発言の論理は、両政権の性質は異なっていたとしても、同一である。

外部から見れば、シャーの親欧米的な姿勢はこのパターンから逸脱しているように見えたかもしれない。だが、実際はそうではなかった。彼もまた、イスラム共和国と同様の論理に基づいて核能力の獲得を追求していた。シャーはイスラエルとの軍事提携も模索した。ワシントンが外部の監視を伴う核の安全保障措置を求めた際、彼がそれに抵抗したのはイデオロギー上の理由からではない。そのような監視を受け入れることは、過去どの時代のイランの統治者も決して容認できなかった「従属的な地位(a subordinate status)」を認めることになってしまうからだった。

同じパターンは現在も見られる。パキスタンでの協議において、最高指導者モジタバ・ハメネイ師は、他者が設定した条件でイランが交渉に応じることはないと同席した当局者たちに明言した。ワシントンとテルアビブは、核開発計画、ミサイル、地域的なネットワークへの圧力といった形で事態を「封じ込める(contained)」ことを意図して2026年の戦争に臨んだ。しかし、イランはその枠組みを拡大させた。軍事的圧力が一定の閾値に達すると、テヘランはホルムズ海峡を封鎖し、対立を世界的な経済危機へと変貌させたのである。ワシントンが「ゲームのルール(the rules of the game)」を定めようとするたびに、テヘランは「競技の場(the playing field)」そのものを変えてしまうのだ。

包括的な制裁、特定の対象を狙った制裁、暗殺作戦、サイバー戦、代理勢力への支援、直接的な軍事行動―これら全てが試みられてきた。しかし、いずれも当初期待されたような戦略的変革をもたらすことはなかった。それどころか、それらは一貫して(この一貫性自体が重要なデータとして扱われるべきだが)事態を加速させる結果を招いた。すなわち、核開発の加速、地域ネットワークの深化、そして政治体制のさらなる強固化である。

2002年の「悪の枢軸」演説(“axis of evil” speech)は、最も明確なケーススタディとなる。911同時多発テロ後の数ヶ月間、テヘラン(イラン政府)はアフガニスタン問題で協力し、アフガニスタンの政治的将来を議論するボン会議に参加し、ワシントンとの間接的な対話ルートを開設した。モハンマド・ハタミ大統領を中心とする改革派陣営は、こうした行動を取ることで、国内政治における現実的なリスクを負った。イラン当局者は、自らが歩み寄りの姿勢を示した以上、相手からの応酬(互恵性[reciprocity])も期待できると考えていた。ロイヤル・ホロウェイ(ロンドン大学)で行った私自身のこの時期に関する研究でも、ジョージ・W・ブッシュ米大統領の演説について、ジャック・ストロー元英外相の表現と同様の証言が一貫して得られた。それは「彼らが冒したリスクに対する裏切り(a kick in the teeth for the risks they had taken)」というものだ。イランのモハンマド・ジャヴァド・ザリフ元外相は後に、わずか数日のうちに「協力の政策(policy of cooperation)」が「対立の政策(policy of confrontation)」に変貌した経緯を語っている。

その後に続いた事態は、構造的に予測可能なものでした。ワシントンの目的は共存ではなく体制転換(regime change)にあるというハメネイ師の確信は、この出来事によって揺らぐどころか、むしろ裏付けられる結果となった。核開発計画は加速し、地域的なネットワークは深化し、抑止の枠組みは拡大した。これは強硬派がその局面を操作したからではなく、協力の申し出が無視された瞬間に、根底にある論理が再び支配的になったからである。

圧力をかけられているイランの行動は、主にイデオロギーに基づくものではなく、戦略的なものだ。イランに対し抑止の枠組みを解体するよう要求することは、イスラム共和国に穏健化(to moderate)を求めている訳ではない。それは、過去5世紀の歴史が「破局を招く条件(the condition from which catastrophe comes)」であると示してきた状況を、イランに受け入れるように迫ることに等しい。いかなるイラン政府もそれを受け入れることはできない。なぜなら、それを受け入れることは、「弱さは介入を招く(Weakness invites intervention)」という根本的な教訓を認めることになるからだ。譲歩(concession)を引き出すための圧力が、かえって阻止しようとしていた行動を誘発している。

キッシンジャーはヴェトナム問題の処理に長年携わった末に、北ヴェトナムが彼自身の想定とは全く異なるもの―すなわち時間、忍耐、そして米国の政治的意志の漸進的な摩耗―のために戦っているのだと結論付けた。テヘランも同じ論理で動いている。イランはこの局面での勝利を目指しているのではない。アメリカが「出口(exit)」を必要とする時が来た際に、存続可能な状態を維持しようとしている。ヴェトナムにおけるキッシンジャーの過ちは、紛争を拡大させたことではなく、相手も自分と同じ「勝利(victory)」の定義を共有していると思い込んだことにあった。ドナルド・トランプ政権も今、同様のディレンマに直面している。国内で正当化できる条件で戦争を終わらせることもできなければ、テヘランが拒否し続けている枠組みなしに撤退することもできない。対立が長引けば長引くほど、その痛みはイランや石油市場、海運、サプライチェイン、そして湾岸地域の安定に依存する経済圏の枠を超えて広がっていく。ホルムズをめぐる問題で打撃を受けるのは、イランだけではない。

核拡散のリスクは現実のものだ。その地域的ネットワークは、実際に暴力を引き起こしてきた。分析上の見解を修正したからといって、こうした懸念が消え去る訳ではない。修正によって変わるのは、それらの懸念に対処するための条件だ。

真の安全保障を保証し、イランを単なる「管理すべき問題(a problem to be managed)」ではなく「正当な抑止の利益を持つ当事者(a party with legitimate deterrence)」として扱い、さらに、歴史的経緯から構造的に受け入れがたい「従属的な地位(subordinate status)」をイランに強いないような取り決めであれば、それは維持される可能性がある。一方、イランが近代史を通じてあらゆる時代に拒絶してきた条件を強いるような取り決めは、どの政府が担当しようともうまくいかないだろう。自国の戦略的論理が禁じていることを実行できるイランの政府など存在しないからだ。

ワシントンが現在直面している困難は、テヘランに対話の相手がいないことではない。依然として、間違った問いを立てていることにある。

※アリ・ハシェム:中東地域における戦争、外交、政治の変革を取材するジャーナリスト・研究者。アルジャジーラの特派員、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ・イスラム教・西アジア研究センター研究員。Xアカウント:@alihashem

(貼り付け終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 イラン戦争は一時的に停戦になっているが(その期間は60日間)、最終的な戦争終結の見通しは立っていない。アメリカ軍とイラン革命防衛隊は相互に攻撃を繰り返したり、攻撃を停止したりしている。ドナルド・トランプ大統領は激しい言葉遣いでイランを非難し、イランへの大規模攻撃を示唆するかと思えば、攻撃を中止すると述べるなど、一貫性に欠ける振る舞いを続けている。「トランプは最後の最後には弱腰になって逃げる(Trump Always Chickens Out、TACO)」という言葉が出てきた所以である。

 イラン戦争はアメリカとイスラエルによって開始され、圧倒的な戦力を用いて各戦闘でイランに対して大きな被害を与えた。しかし、イランを屈服させることはできなかった。イランの体制転換や政権転覆を実現することはできなかった。イランからの反撃で湾岸諸国やイスラエルで被害が出た。アメリカが提供する防衛システムも完璧ではないということが明らかになった。

 さらに言えば、イランがホルムズ海峡を封鎖し、イエメンの新イラン組織フーシ派が公開の出入り口であるバブ・エル・マンデブ海峡でも武力攻撃が発生することで、世界経済に悪影響を与えている。戦争を開始することでアメリカの影響力や指導力は低下している。「アメリカは戦闘(battle)では勝利しているが、戦争(war)に負けている」ということになる。
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 ヴェトナム戦争はアメリカの外交再作に大きな影響を与えた。国力が低下し、「アメリカの衰退(decline)」という言葉が囁かれるようになる原因となった。イラン戦争はヴェトナム戦争よりもより深刻な影響をアメリカに与える可能性がある。アメリカがイラン戦争の泥沼に足を取られることで、他の地域への関与が制限される。具体的にはアジアへの関与が減少することになる。アメリカが進めようとしている「中国封じ込め(containment of China)」は厳しい状況となる。世界覇権国アメリカの地位は脅かされることになる。

 ドナルド・トランプ大統領はアイソレイショニズム、「アメリカ・ファースト(アメリカ国内問題解決優先主義)」を主張して大統領になった。それにもかかわらず、ヴェネズエラ、キューバ、グリーンランドへの野心をあらわにして批判をした。しかし、これは「西半球(Western Hemisphere)」支配、「ドンロー主義」という観点からすればまだ理解できる。しかし、イラン戦争に関しては全く主義主張と反する。アメリカの国力を削り、アメリカの影響力を減少させる行為である。このような政策の選択を行ったトランプをただ非難することは簡単だ。その裏側にあるものは何かについて、私は佐藤優先生との2冊目の対談『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』で検討した。是非お読みいただきたい。
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イランはヴェトナム以上の敗北である(Iran Is a Bigger Defeat Than Vietnam)

-選択戦争(a war of choice)がワシントンにとって戦略的な大失敗に転換した。

ポウル・マスグレイヴ筆

2026年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/16/iran-vietnam-strategy-defeat/

ドナルド・トランプ米大統領は2期目の就任演説で、「先の大統領選挙が我が国の歴史上、最も偉大で最も重要な選挙として記憶されること」を望むと語った。しかし、彼が起こした「湾岸戦争(Gulf War)」に敗北したことで、トランプはその目標を皮肉な形で達成してしまった。イランに対する軍事行動を起こすという決断は、周囲からの後押しもあったとは言え、あくまで彼自身の意志によるものだった。その結果招かれた事態の逆転は、ヴェトナム戦争におけるアメリカの敗北をはるかに上回る戦略的な大惨事(a strategic calamity)となっている。

イランとの戦争における敗北は、一見したところ、アメリカの過去の軍事的敗北とは全く異なる様相を呈している。戦争の展開の速さと、戦場が遠く離れているという地理的条件が、この一連の出来事全体にどこか現実味の薄い雰囲気を漂わせているからだ。1814年のようにホワイトハウスが焼き払われた訳でもなければ、存在しない徴兵制に対する抗議デモが起きている訳でもない。ドーハに拠点を置く私自身、最初の数週間は頭上を飛び交うミサイルを目にし、その音を耳にしていたにもかかわらず、ここ数週間の状況には戸惑いを覚えている。食料品を買い出し、まだ安価なガソリンを給油し、遠く離れた場所にいる共著者たちとZoomで打ち合わせをする中で、私は何度も自問した。「ここは戦地なのだろうか(Is this a war zone?)」。

この紛争においてアメリカ軍側に大きな人的被害が出ていないこともまた、アメリカの敗北の規模を覆い隠している。確かに、この戦争は多くの命を奪った。戦闘員や民間人を含め、数千人ものイラン人が犠牲になった。しかし、アメリカ側の死者ははるかに少ない。現時点でアメリカ軍将兵の死者は20人未満であり、その多くは一度の攻撃によるものだった。

それに比べれば、ヴェトナムの人々が「アメリカ戦争(the American War)」と呼ぶあの紛争の規模は、圧倒的かつ衝撃的なものだった。東南アジアの空やジャングルの広範囲を舞台に10年以上続いた戦闘で、数百万人が命を落としたが、そのうちアメリカ人は6万人弱に過ぎなかった。

その経験があまりに痛ましいものだったため、ある世代の人々にとって、「ヴェトナム」という言葉は、その名を冠した現実の国や社会を指すものではなくなっていた。長年にわたる紛争を経てもなお、彼らはその国や社会についてほとんど無知なままだったからだ。アメリカにおける用法として、「ヴェトナム」は主に、アメリカが経験したある種の出来事を表す比喩や象徴として理解されていたのだ。

多くの一般のアメリカ人にとって、それは個人的な悲しみを意味するものだった。一部のエリート層にとって、ヴェトナム戦争は権力の傲慢さ(the hubris of power)に対する教訓となる出来事であり、また別の人々にとっては、現代における適切な戦略的判断を妨げる過ちでもあった。しかし、ヴェトナム戦争が国家の歴史に刻まれた「汚点(a stain)」であるという点では、国民的な合意が存在していた。シカゴ・グローバル・アフェアーズ評議会が2014年に行った世論調査では、アメリカ人の58%がヴェトナム戦争を「暗い時代(dark moment)」と捉えていたのに対し、誇るべきものと答えたのはわずか12%にとどまった。

今日の視点からあの紛争を理解する上で最も難しいのは、ワシントンにとって最終的にはさほど重要ではなかったにもかかわらず、なぜアメリカがあれほど激しく戦ったのかという点かもしれない。当時戦争を遂行したアメリカの政策立案者たちは、現代では到底考えられないほどの犠牲を容認していたが、その戦争におけるアメリカの敗北は、結局のところ、アメリカのより広範な戦略目標にとって大した問題ではなかった。実際、ヴェトナム戦争と結びつけて語られることになる「ドミノ理論(domino theory)」(ある国が共産化すれば近隣諸国もそれに続くという考え方)については、早くも1964年の時点で、アメリカ政府内部の議論において疑問が呈されていた。

この戦争がアメリカ人にとって最終的に無関係なものであったからといって、それが重要ではなかった訳ではない。東南アジアの不安定化は重大な問題であった。カンボジアの集団墓地は、ヴェトナムの国境を越え、和平協定が正式に調印された後もなお波及し続けた紛争の犠牲を、無言のうちに物語っている。戦争の結果はヴェトナムにとって重大な意味を持ったし、その後の数年間に逃亡した難民たちの絶望もまた同様であった。

しかし、そうした事実を踏まえても、アメリカ自身にとっては、多大な犠牲を伴う敗北の結果は、長期的には比較的軽微であり、国内的な問題にとどまるものであったという事実は変わらない。アメリカは、より広範な冷戦において勝利を収めた。今日のヴェトナムは、アメリカに対して驚くほど好意的な国となっている。

この状況を、トランプの戦争の余波と比較してみよう。アメリカは、自ら選択して始めたこの戦争の開戦時と比べて、間違いなく弱い立場に置かれており、アメリカの核心的な戦略目標も損なわれている。

この紛争における軍事的な戦いぶりを、イラクのサダム・フセイン大統領によるクウェート占領を覆すためにアメリカ主導の連合軍が行った戦争と比較してみると、その対照は際立っている。1990年から1991年にかけての紛争では、イラク軍があっけなく壊滅させられたように見えたその様子が、世界に衝撃を与えた。

対照的に、イランとの紛争においてアメリカの兵器が示した技術的に優れた性能は、アメリカの兵器備蓄の不足という問題によって影が薄くなり、イラン・イスラム共和国よりも強力な敵との紛争に対するアメリカの備えに疑問を投げかける結果となった。この紛争におけるハイテク戦闘の記憶として長く残るのは、データベースの誤作動と思われる事態の結果として命を落とした、血にまみれたイランの女子生徒たちの遺体が入った袋の姿だろう。また、アメリカの防衛システムはイランのミサイルや片道攻撃型ドローンに対して良好な性能を発揮したものの、イランはそれらのシステムを突破して大きな打撃を与えることに成功した。このことは、より集中した攻撃を行う敵や、長期にわたる紛争において、それらのシステムがどれほど通用するのかという疑問を抱かせるものとなった。

戦略的な観点から見れば、その結果はさらに深刻である。アメリカはある種の「政権交代(regime change)」を実現したとはいえ、テヘランを従順的属国(a pliable client)に変えるどころか、戦争によってイランをより強硬な姿勢へと追い込み、事実上、イスラム革命防衛隊に国の主導権を握らせる結果となった。イスラエルとアメリカの兵器は、開戦当初こそ残酷なまでに高い効果を発揮したが、最終的には武力行使による解決の限界を露呈させ、結果としてイランに大きな利益をもたらした。イランの核開発計画は、これまでにイスラエルとアメリカによる2度の共同空爆に耐え抜いてきた。3度目の空爆が行われたとしても、それ以上の成果が得られる可能性は低いと思われる。

国際システムにおけるアメリカの指導力への影響は、さらに甚大なものであった。この軍事行動に反対していたとされる地域の同盟諸国が、戦闘に伴う負担の大部分を負うことになったからだ。何よりも重要なのは、イランがホルムズ海峡を封鎖する能力を行使することで、世界規模での経済的影響力を行使できると学んだことである。

航行の自由(freedom of navigation)は、2世紀以上にわたりアメリカの戦略的な中核的目標(a core U.S. strategic objective)をなしてきた。19世紀初頭には、トマス・ジェファーソン大統領が地中海沿岸諸国への貢納金の支払いを停止させるために海軍を派遣したほどである。ホルムズ海峡の自由な通航が失われる可能性は、貿易ルートが「兵器化(weaponization)」される兆候となり、世界貿易に永続的かつ甚大な被害をもたらす恐れがある。

戦争の終わり方は、その始まり方と同じくらい多くのことを物語るものだ。ヴェトナム戦争後、アメリカはヴェトナムやその近隣諸国から事実上背を向け、より戦略的に重要な地域に注力することができた。世界的なグリーンエネルギーへの移行とアメリカの炭化水素(石油・ガス)生産の拡大という組み合わせにより、ワシントンの一部の人々にとっては、湾岸地域からの同様の撤退が魅力的に映るかもしれない。しかし、ヴェトナム戦争後のような撤退を再現することは困難だろう。

何と言っても、今日の世界経済は1970年代よりもはるかに相互に深く結びついており、経済ネットワークにおいて湾岸地域が果たす役割は、かつてのインドシナが担っていた役割よりもはるかに大きなものとなっている。世界のサプライチェインは、湾岸地域の炭化水素だけでなく、ヘリウム、肥料、アルミニウムにも依存する構造になっている。その結びつきは経済的なものだけにとどまらない。アメリカとイスラエルとの継続的な関係は、中東地域からの完全な撤退を非現実的なものにすると同時に、さらなる、そしておそらくはより激しい紛争の可能性を高めている。イランのミサイル開発や、潜在的な核開発計画の進展は、中東地域のみならず、ヨーロッパや南アジアにとっても、2030年代の展望をはるかに深刻なものにしている。

どのような政権下であれ、アメリカは国内外で自らの力が弱まる中で、こうした事態に直面することになるだろう。同盟諸国はアメリカの能力に対する信頼を失い、国民は有益な関与であってもそのコストを負担しようとはしなくなり、競合国はワシントンの意志に挑戦する可能性を高めることになるだろう。そうした結果は、ヴェトナム戦争におけるアメリカの失敗よりもはるかに長期的かつ深刻なものとなるだろう。

しかし、1つだけ似ている点がある。数十年後、このアメリカの紛争を振り返る学生たちは、私がかつてヴェトナム戦争について抱いたのと同じ疑問を抱くことになるはずだ。「なぜこの戦争が起きたのか?」。学者たちは綿密な調査に基づいた多くの答えを提示するだろう。しかし、最終的に誰もが納得できるような答えは1つとして示されないだろう。

※ポウル・マスグレイヴ:カタール・ジョージタウン大学政治学准教授。

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(終わり)



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