古村治彦です。

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6月末に、ドナルド・トランプ大統領はアメリカ軍の戦闘機を使って、イラン国内の核開発関連施設3カ所を攻撃した。イスラエルがイランを空爆したことに続いての攻撃だった。イスラエルとイランの間で攻撃の応酬が続いたが、その後に一応の停戦となった。トランプはそのようなたとえを使いたくはないがと前置きをしたうえで、広島と長崎に落とした原爆を具体例として使い、これで戦争は終結したという発言を行った。イラン国内の核開発関連施設攻撃で、広島と長崎に匹敵するような被害を与えた訳ではないが、核開発ということに関連付けてこのような表現を使ったのだろう。
同時に、イランの体制転換(regime change)を望まないとした。これまでの歴代政権のイラン政策、特にイスラム革命後のイラン政策において、イランを直接攻撃したのは、トランプだけである。一方で、ネオコン派や人道的介入主義派はイランを「ならず者国家」として敵視し、イラン攻撃、イランの体制転換を主張してきたが、彼らが参画した各政権がイラン攻撃をすることはなかった。もし、トランプ政権以外の米政権がイランを攻撃していたら、中東から第三次世界大戦がはじまっていた可能性がある。イランは、トランプ政権だから、攻撃を受け入れたという面がある。私はその点で、「管理された攻撃」という言葉を使っている。
アメリカはすでに中東における最重要プレイヤーではない。アメリカはイスラエルの守護者に過ぎない。調停者としての力と信頼は既に喪失している。中国とロシアが存在感を増している。2015年にバラク・オバマ政権下で、イランとの間で核開発に関する合意が成立した。核兵器開発を阻止し、民生用の原子力発電の開発もそのスピードを緩和し、国際機関である国際原子力機関の査察官の査察を受け入れることに合意した。
この合意を破棄したのが第1次トランプ政権だった。第2次トランプ政権になり、これまで核開発に関する交渉がアメリカとイランの間で続けられてきたが、それも頓挫したようだ。しかし、私は、トランプ政権が交渉に乗り出したこと、イランが交渉開始を受け入れたことを重視している。ジョー・バイデン政権でも交渉は続いていたが、トランプ政権になったことでこれは続かないと予想していた。しかし、トランプ政権の「リアリズム」が発揮され、交渉が行われたということはポイントだ。また、イランはおそらくだが、中露両国による勧奨もあって交渉に応じたということが考えられる。
トランプによるイランの核開発関連施設攻撃の成果がどれくらいだったのかということについてよく分かっていない。重要物資や機材は移動済みだったということも報じられている。こうした点からも「管理された攻撃」という言葉が成り立つ。アメリカとイランは言ってみれば、八百長、茶番劇をしたということになる。そして、これでリセットして、再び、アメリカとイランは交渉を再開する可能性が高い。もしこれがトランプ政権以外だったら、事態はより深刻になっていただろうと思う。
(貼り付けはじめ)
ドナルド・トランプ大統領のイラン核合意離脱が再び彼を苦しめる(Trump’s Iran Deal
Withdrawal Comes Back to Haunt Him)
-専門家たちは、2015年の核合意は、最近のアメリカによる攻撃よりもイランの核開発への野心をより効果的に抑制したと指摘する。
キース・ジョンソン筆
2025年6月26日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/06/26/iran-us-jcpoa-nuclear-weapons-energy-deal/
イランの核施設に対するアメリカの空爆は、テヘランの核兵器製造能力を破壊することを目的としていたものの、完全には成功しなかったようだ。その騒動の収束が進む中、1つの疑問が浮かび上がってくる。7年前にイランとの核合意から離脱して、アメリカは何を得たのか?
トランプ政権は、主要施設3カ所に投下された14発の大型「バンカーバスター(bunker-buster)」爆弾を含むこれらの空爆によって、イランの核開発計画は完全に破壊されたと主張している。しかし、アメリカの情報機関による予備的な評価では、これらの攻撃はイランの施設に永続的な損害を与えた訳ではなく、核開発計画を数カ月ほど遅らせたに過ぎないと結論づけられている。ピート・ヘグゼス米国防長官は、この前例のない作戦が「完璧(flawless)」であったことを改めて強調し、攻撃によってフォルドウにあるイランの主要な地下核施設が運用不能になったことを改めて強調した。 CIA長官ジョン・ラトクリフも、イスラエルの一部の情報提供者と同様に、今回の攻撃でイランの核開発計画は何年も後退したとの新たな評価を強調した。
しかし、トランプ政権は、イランが保有する約0.5トンにも及ぶ高濃縮ウランの大量備蓄の所在を把握していないことを認めている。報告書や衛星画像によると、イランは先週末の空爆前にこの貯蔵庫を移動させた可能性がある。このウランの山は純度60%に濃縮されており、これは濃縮度の観点から見ると、兵器級と呼ばれる純度90%に非常に近い。トランプ政権は、他の国際社会と同様に、イランが最先端の遠心分離機(advanced centrifuges)をどれだけ保有しているのか、またそれらがどこにあるのか、そしてテヘランがさらにどれだけの遠心分離機を建造できるのかについて、全く把握していない。つまり、イランの核爆弾の構成要素は全てそのまま残っているように見えるが、今やイランはこれまで以上にそれらの部品を組み立てるために急激に動く理由を持っている。
総合的に見ると、第一次トランプ政権がイラン核合意から離脱してから7年が経ったが、最終的な結果は、数年にわたるイランの核濃縮の急激かつ継続的な増加と、その後、数週間の頓珍漢な外交が続き、歴史的な空爆で幕を閉じた。
バラク・オバマ政権下で核不拡散問題(nonproliferation)に取り組んだアメリカ科学者連盟のグローバルリスク担当ディレクターであるジョン・ウォルフスタールは「2018年と現在の状況を比較して判断する必要がある。そして、今ははるかに危険な状況であり、イランは核兵器保有に近づいていると思う」と述べた。
今回のアメリカによる攻撃は、イスラエルによるイランの核施設と政権中枢への約2週間にわたる低強度攻撃(lower-intensity)を補完するものであり、ドナルド・トランプ米大統領のイランへのアプローチの頂点を成すものだった。その一貫した方針は、イランは核兵器どころか、濃縮ウラン(enriched uranium)といった核兵器の構成要素さえも開発できないという強い決意だ。これが、オバマ政権時代の2015年のイラン核合意(包括的共同行動計画[Joint Comprehensive
Plan of Action、JCPOA]として知られる)からの離脱をトランプ大統領が決断する一因となった。この合意は、イランの核開発への野望に合意に基づく制限を設け、それと引き換えに厳しい経済制裁の緩和を約束していた。
多くの共和党の政治家たちとイラン強硬派はイラン核合意を批判した。なぜなら、イラン核合意はテヘランに過度の経済支援を提供し、イランのウラン濃縮能力に対する制約は部分的かつ期限付きであり、イランによる地域不安定化への取り組みや、イスラエルにとって深刻な安全保障上の脅威となっている弾道ミサイルの大幅な進歩への対処には何も役立たないと主張したからだ。
しかし、核合意は、あらゆる欠陥を抱えながらも、イランのウラン濃縮活動に上限を設け、民生用原子炉(civilian nuclear reactors)で使用される極めて低いレヴェルに制限した。また、より迅速にウランを濃縮できるより高度な遠心分離機を設置するイランの能力も制限した。そして、おそらく最も重要なのは、この合意が強力な監視・検証体制を確立し、国際的な原子力査察官たちにイランの核施設への前例のないアクセスを認めたことだ。
2018年にトランプ大統領が離脱した時点でイランが遵守していたこの合意は、イランの核開発計画を少なくとも10年間、厳重な監視の網の中に閉じ込めることを約束していた。
イラン核合意交渉に関わったインターナショナル・クライシス・グループのイラン・プロジェクト・ディレクターであるアリ・ヴァエズは「現在、私たちはフォルドゥ計画が数週間遅れたのか、それとも数ヶ月遅れたのかを議論している。イラン核合意の下では、フォルドゥ計画は15年間無力化されていた。つまり、これは単純な計算問題だ。外交的解決は持続可能で非常に実現可能だった」と述べた。
攻撃の有効性をめぐる評価は依然として分かれている。国際原子力機関(International
Atomic Energy Agency、IAEA)は木曜日、アメリカの重爆撃による衝撃でフォルドウの最新鋭遠心分離機が機能停止したと見られると発表した。一方、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師は週末の攻撃後初の発言で、アメリカの攻撃による核兵器の影響は軽微だと述べた。しかし、明らかなのは、イランが保有する400キログラムを超える高濃縮ウランの所在が依然として不明であり、これは9発の爆弾を組み立てるのに十分な核分裂性物質であるということだ。
オバマ政権時代の国家安全保障担当高官で、現在はコロンビア大学グローバルエネルギー政策センターに所属するリチャード・ネフューは「もし私たちが実際に高濃縮ウランを無力化できなかったら、脅威は依然として存在することになる」と述べた。
濃縮度60%のウランは原爆には十分だが、イランはより高度な兵器を開発するために純度90%まで濃縮する必要がある。そのための最速の方法は、高性能遠心分離機、特にイランがカスケード式に設置している最新鋭の遠心分離機、いわゆるIR-6を使用することだ。2021年以降、国際査察官たちはイランの新型遠心分離機の製造状況を全く把握しておらず、イランがどれだけの遠心分離機を保有しているのか、あるいは爆弾開発に必要な最終濃縮を加速するためにどれだけの遠心分離機を新たに製造・設置できるのかも把握していない。遠心分離機の製造には、炭素繊維や非常に特殊な鋼鉄などの特殊な材料が必要だが、それらは既に地下のどこかの倉庫に保管されている可能性が高い。
ウルフスタール氏は次のように述べた。「彼らは遠心分離機用の核物質を貯蔵していた可能性が非常に高く、すでに新たな地下施設を保有していると述べている。彼らがウラン濃縮を行っていて、私たちがそれを知らない可能性も十分に考えられる」。
アメリカの攻撃と、イランの核計画とその構成要素が少なくとも部分的に残存しているように見える状況を組み合わせると、イランはイラン核合意以前、あるいはイラン核合意締結当時よりも、核兵器開発に近づいている可能性がある。当時、核兵器のいわゆるブレイクアウトタイムは約1年と推定されていた。アメリカの情報機関は今年3月にも、イランは核物質の兵器化を積極的に進めていないと結論付けていたが、ハメネイ師が「イランの降伏(Iran’s surrender)」という幻想を抱いた今、こうした推測は的外れになるかもしれない。今や、ブレイクアウトは猛烈な勢いで進んでいる。
ヴァエズは「イランがまだ4400キロ以上の核物質と多数のIR-6遠心分離機を保有しているのであれば、これまで以上にこっそりと脱出する選択肢が利用可能になる」と語った。
振り返ってみると、アメリカ(とイスラエル)は、ウラン濃縮能力に関する交渉済みの制限を維持することで、イランの核開発への野望を封じ込める上でより有利な立場にいた可能性が高い。しかし、2018年以降、特にここ数年、イランは自制心の欠如につけ込み、新たな外交合意をもってしても覆すことのできない進歩を遂げてきた。核に関するノウハウの進歩や、より高度な遠心分離機の蓄積をもはや棚上げにすることは不可能だ。
ネフューは「イラン核合意(JCPOA)がない方が私たちにとって良いという、誠意ある議論はできない」と述べた。
水曜日、トランプ大統領は、アメリカとイランが核問題の行き詰まりを打開するため、来週、間接交渉を再開すると述べた。イランが国内でウラン濃縮を行う権利を主張するなど、既に5回の交渉はお決まりのレッドラインで決裂しており、6回目の交渉はイスラエルの爆撃を受けて中止された。ヴァエズは、さらなる協議は任務が完全には達成されなかったことを米国が暗黙のうちに認めるものであると述べた。
ヴァエズは「もしアメリカが核開発計画を消滅させたと確信しているなら、交渉の余地はないだろう。しかし、その未解決の問題を抱えているため、彼らは交渉のテーブルに戻ることに熱心だ」と述べた。
ヴァエズは、アメリカ・イラン両国が譲れない条件を緩和し、イランがウラン濃縮を停止し、アメリカが地域的なウラン濃縮のための国際的な連合を結成することで、全ての関係者たちが体面を保ち、最終的な対決を回避できるようになることを期待している。
ヴァエズは次のように述べている。「不信感はかつてないほど深くなっているが、常に他の選択肢と比較検討する必要がある。イランは非常に脆弱だ。彼らは深刻な経済難に陥り、防空システムは壊滅状態にあり、代理勢力は屈服しつつある。だから、たとえトランプ政権を信頼していないとしても、今彼らにとってこれ以上の選択肢はないのだ」。
※キース・ジョンソン:地経学・エネルギー部門担当『フォーリン・ポリシー』誌記者。Blueskyアカウント:@kfj-fp.bsky.social、Xアカウント:@KFJ_FP
(貼り付け終わり)
(終わり)

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』







