古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:パキスタン

 古村治彦です。

 イラン戦争はアメリカとイスラエルの失敗(敗北)という評価で定まっている。そのために犠牲になった人々のことを思うとやりきれない気持ちになり、ご冥福をお祈りすることしかできない。人間はなんと愚かであろうかということを認識するとともに、ドナルド・トランプとベンヤミン・ネタニヤフの誤った判断に関しては、政治指導者としてそれ相応の責任を負わせることが必要だ。

 今回のイラン戦争に関して中国は表舞台で目立った活動はしていない。米中首脳会談やイランのアッバース・アラグチ外相の訪中があり、そこでイラン戦争について議論されたことはあるだろうし、アメリカとイランによる和平交渉実現には、パキスタンが仲介国として大きな役割を果たしたが、同時に裏方として中国がサポートをしたことは知られている。
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 また、アメリカがイラン戦争で失敗することで、相対的に中国が成功を収めることになっている。それは、中東地域におけるアメリカの存在感と影響力が低下しており、イラン戦争がそれに拍車をかけることになっているからだ。中東地域はイランを除いて、親米の国々ばかりであり、石油取引は米ドルのみで行うというペトロダラー体制によってウィンウィン関係になっていた。しかし、世界経済で少しずつであるが「脱ドル化(dedollarization)」の動きが始まっている。サウジアラビアは中国向けの石油取引で人民元での取引を行うようになっているのはその一例だ。

 下記論考にある通り、中国は「棚ぼた(windfall)」で相対的な成功を収めている。そして、イラン戦争は、国際政治の構造に大きな影響を与える。それは、アメリカへの信頼性の低下によって、アメリカの世界支配の終焉を早めるということになる。アメリカとイスラエルが大規模攻撃を行ったことで始まったイラン戦争であり、和平となるためには、アメリカとイスラエルがイランの提示する条件を受け入れることが基本となる。もちろん核開発に関しては国際的に受け入れがたいものはあるが、賠償やホルムズ海峡の管理については、イランの条件を受け入れるべきということになる。アメリカはイランに対して、再度の大規模攻撃がしにくい状況であり、イラン側としてはある程度交渉を引き延ばして、アメリカの苦境を長引かせることも可能となる。そうなると、アメリカへの信頼性も揺らぎ、同盟関係が変化していくことになる。そうなれば、相対的に中国の存在感と信頼性が高まることになる。

 私はトランプ大統領を「アメリカの世界支配を終わらせる墓掘り人」と表現したことがある。しかし、それは、アメリカの内向き志向をさらに強めるという意味であった。まさか、海外への介入で大きな失敗をして、アメリカの衰退を加速させる役割を果たすとは思っていなかった。しかし、現実にはトランプはそのような役割を果たしている。「敵に塩を送る」どころではない、利敵行為ということになる。

(貼り付けはじめ)

イラン戦争は中国への「贈り物」だ(The Iran War Is a Gift to China)

-一発の銃弾も撃つことなく、中国は湾岸地域における行動の自由を拡大し、自国産業の促進と新たな信頼を手に入れた。

ファリード・ザカリア筆

2026年7月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/17/iran-war-china-benefit-united-states-energy-economics-geopolitics-trump-xi/

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北京のショッピングモールの屋外大型スクリーンに映し出された世界人工知能大会の開会式で演説する中国の習近平国家主席(7月17日)

イランとの戦闘が激化と沈静化(blows un and cools down)を繰り返す中、1つの傾向が明らかになっている。それは、この紛争から最大の利益を得ているのが中国ということだ。

中国は一発の銃弾を撃つ必要もなく、巨額の資金を投じる必要もなく、政治的資本を費やす必要なかった。しかし、過去30年間でどの危機よりも多くのものをこの事態から得ている。この紛争は、中国が長年掲げてきた3つの目標の実現を加速させた。すなわち、アメリカへの依存度が低い中東地域の実現、中国の重要技術への依存度が高い世界、そして真剣かつ安定した世界大国としての中国の評価の確立(a Middle East less dependent on America; a world more dependent on critical Chinese technology; and a reputation for Beijing as a serious and steady world power)だ。

中国政府は、中東地域における軍事的な安全保障の保証者としてアメリカに取って代わろうとはしていない。そうした役割には多大なコストを伴う関与が必要だからだ。中国の狙いはもっと単純かつ巧妙なものだ。それは、ペルシア湾岸諸国をアメリカの影響圏からある程度引き離すことにある。そして、ドナルド・トランプ大統領が、中国の習近平国家主席のためにその役割の多くを担ってくれている。

アメリカのペルシア湾岸の同盟諸国は、アメリカが混乱したやり方でこの戦争を遂行し、現地の都市やインフラ、経済に及ぶ被害をほとんど顧みない様子を目の当たりにしてきた。現在、ペルシア湾岸地域は2つの陣営に分かれつつある。アラブ首長国連邦(UAE)はイスラエルやアメリカとの関係を深めている。しかし、サウジアラビアを筆頭に、カタール、オマーン、さらにはイラクやトルコを含むより大きなグループは、バランスを取ることで長期的な安全を確保しようとするだろう。つまり、アメリカとの関係を維持しつつ、イランとの対話や中国との関係改善も図るということである。

これこそが、北京が志向してきた地域秩序そのものだ。2023年、中国はサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介した。それ以来、サウジアラビアはアメリカ主導のデータセンターや半導体関連のプロジェクトへの参加を見送ってきた。サウジアラビアは中国製のミサイルやドローンを購入し、中国海軍との合同演習を実施したほか、戦闘ドローン「翼竜(Wing Loong)」の現地生産についても検討を進めている。2016年から2025年にかけて、中国から中東地域への防衛関連輸出の80%以上をペルシア湾岸諸国が占めた。アメリカの安全保障の枠組みに取って代わろうとする国は存在しないが、各国は選択肢を求めており、選択肢が増えることはアメリカの影響力を低下させることになる。

中国にとってより大きな成果と言えるのは地形学分野での勝利だ。一見すると、石油の約7割を輸入に頼る中国は、この戦争による最大の敗者の1人になるはずだった。しかし、長年にわたる備えのおかげで、中国はこの衝撃を他国の多くよりも巧みに乗り切った。中国は供給源を多角化し、世界最大級と推定される石油備蓄を構築し、石炭の利用を継続し、原子力発電を拡大するとともに、他の主要国が追随できない規模で経済分野における電化を進めてきた。

現在、中国のエネルギー消費に占める電力の割合は約30%に達しており、これはアメリカやヨーロッパを4割近く上回る水準だ。2024年には、世界で新たに導入された風力および太陽光発電設備の半分以上を中国が占めるまでになった。こうした要因が重なり、中国は戦時中、石油の輸入量を日量約400万バレル削減することができた。

イラン戦争は、中国の重要技術にとって巨大な宣伝の場となっている。世界各国の政府が、太陽光発電、蓄電池、風力タービン、電気自動車(EV)、送電網の整備を進めようとしている。中国は世界の太陽光パネル製造能力の約91%、リチウムイオン電池製造能力の約89%を掌握している。ブルームバーグが追跡調査しているクリーンエネルギー関連技術のほぼ全てにおいて、中国企業が少なくとも70%の製造を担っている。エネルギー供給への不安が長引くほど、世界は中国が支配的な地位にある産業への依存を強めることになるだろう。

また、この戦争は中国の重要な目標である「世界貿易における米ドルの支配力の弱体化(weakening the dollar’s hold over global commerce)」を後押ししている。報道によれば、イランはホルムズ海峡を通過する一部のタンカーに対し、取引を中国の人民元[renminbi](または暗号通貨[cryptocurrency])で決済することを条件に許可を与えた。中国とそのパートナー国は、アメリカの制裁によるリスクを低減するため、人民元建ての貿易を事実上拡大させている。移行は緩やかなものとなるだろうが、米ドル支配からの脱却という傾向は今や明白となっている。

最後に、評判の面での「棚ぼた(windfall)」とも言える利益がある。ドナルド・トランプ政権は、体制転換(regime change)、イランの核開発計画の破棄、弾道ミサイル能力および地域内の代理勢力への支援の終了といった壮大な目標を掲げてこの戦争に臨んだ。しかし、そのいずれも恒久的な成果としては達成できていない。それどころか今や、事態が始まる前から開かれていたホルムズ海峡を単に開放することさえも希望するような状況になっている。

トランプ大統領はこの対立を選び取った結果、数百億ドルを費やし、アメリカの弾薬を浪費し、アジアから軍事資産を転用し、同盟諸国を動揺させた。そして、アメリカの圧倒的な力をもってしても、誤った戦略と一貫性のない戦術では悪い結果しか生まないことを露呈させた。

一方、中国の動きは極めて限定的だ。イラン産原油の購入を続け、湾岸諸国との関係を維持しながら、イランの防衛や湾岸地域の警備に伴うコストは回避した。これこそ北京が志向するアプローチであり、劇的な対立を避け、着実に影響力を蓄積していく方法だ。

過去25年間、アメリカが中東地域での3つの大規模な軍事介入で疲弊する一方で、中国は製造業の力、技術力、そして外交関係を蓄積してきた。ワシントンが行動するのに対し、北京は機会を待つという姿勢を取った。もちろん、中国もエネルギー価格の高騰、サプライチェインの混乱、世界的な需要の減退といった形で、この対立による代償を支払っている。

しかし、力とは常に相対的なものだ。アメリカの目標、同盟関係、そして信頼性が受けた損害と比較すれば、中国は優位に立ったと言えるだろう。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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(終わり)



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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 冷戦期においてアメリカとソ連という二大超大国は核兵器軍備管理に関しては協力した。核兵器開発と貯蔵を進めていたが、それは同時に世界を核戦争に巻き込む脅威となり、人類の存続も危険に晒すという判断もあった。1962年のキューバ危機で米ソ両国と世界は核戦争に近づき、軍備管理の方向に舵を切った。そして、核兵器の削減を行うという合意も形成できた。ソ連が崩壊しても、米露両国は核兵器の軍備管理と削減の体制を維持してきた。
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 しかし、現在は中国が核兵器の製造と貯蔵を進め、米露に迫るようになっている。冷戦期は米ソ両国の二極(bilateral)で済んだ話に、新しいプレイヤーが登場し、米中露の3カ国、三極(trilateral)の構造になり、プレイヤーが増えたことで格段に難しくなる。物理学における三体問題(three-body problem)のようなことになる。米中露における新たな核兵器軍備管理、削減の枠組が構築されることが望まれるが、それぞれの思惑もあり、難しい。
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 しかし、米中露は世界の大国であり、国連安全保障理事国の常任理事国であり、核兵器不拡散条約(NPT)にも加盟している。また、米中露は中国を中心とした「ヤルタ2.0」体制を構築し、相互不可侵の状態になっている。米中露での核戦争の可能性は限りなく低い。 

核不拡散条約(NPT)は国連安保理常任理事国である米中露英仏の5カ国を核保有国とし、それ以外の国の核兵器製造と保有を禁じている。しかし、実際には核不拡散条約から脱退、もしくは加入を拒む、核保有国があり、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルの4カ国である。パキスタンはサウジアラビアと相互防衛協定を結んでおり、パキスタンはサウジアラビアに核兵器による防衛(核の傘)を提供している。ここで重要なのは、イスラエルの核兵器である。

 核不拡散(NPT)体制は現在の不平等条約と言っても良いだろう。なぜ国連安保理常任理事国だけが核兵器を独占できるのかと不満を持つ国が出てくるのは自然であろう。そして、この枠組みから外れれば核兵器が持てるではないということになり、4カ国は加盟していない。こうなると、国際社会による監視も行き届かない。どれだけの核兵器を持っているのかが分からないし、適切な環境で危険がないように管理されているかも心もとない。核兵器が「横流し」されてしまっても誰にも分からない。インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルを国家として信用するとしても、それにも限界がある。

 米中露英仏に関してはある程度の信用はできる。しかし、NPT外の4カ国に関しては、枠組みに入らない(入ってしまえば核兵器を廃棄しなければならない)ということで信用はできない。米中露に関しては保有する核兵器の数量に危険を感じるが、NPT外の国々関しては保有そのものが危険である。そして、何よりNPT体制外の国々に関しては、その使用可能性についても米中露英仏に比べて格段に高いと言わざるを得ない。

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ポスト冷戦の核時代は終焉を迎えたのかもしれない(The Post-Cold War Nuclear Era Might Have Just Ended)

-新戦略兵器削減条約(New START)の期限切れと中国の核兵器保有量の増加により世界はより危険な場所となった。

ファリード・ザカリア筆

2026年2月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/02/09/cold-war-nuclear-new-start-treaty/

世界がより不確実な局面に入りつつあることを私たちは皆感じている。同盟関係は不安定になり、貿易は細分化され、大国間の駆け引きはより露骨になっている。しかし、こうした目に見える変化の裏には、あまり議論されていない、より危険な何かが潜んでいる。それは、核の安定性の緩やかな崩壊(the slow collapse of nuclear stability)だ。

冷戦期間の大半において、人々は核兵器が存在する世界は必然的に核拡散(proliferation)を招き、戦争は核戦争へと発展するだろうと恐れていた。実際、人類の歴史において、兵器庫に未使用のまま保管された兵器はほとんどなかった。しかし、まさにそれが現実となった。兵器庫は存在し続けたが、それらは条約、慣習、そして自制に関するドクトリンによって制約されていた。軍備管理協定によって核兵器の数は制限され、抑止力関係は比較的明確だった。核拡散は、不完全ながらも、規範と圧力によって抑制されていた。安全な世界ではなかった、安定した世界だった(It was not a safe world—but it was a stable one)。

しかし、この時代は終焉を迎えているかもしれない。

最も明確な兆候は、今週、アメリカとロシアの間で唯一残っていた核軍備管理条約(nuclear arms control treaty)である新戦略兵器削減条約(新START)が失効したことである。世界最大の核兵器保有国である米露両国に対し、50年以上ぶりに法的拘束力のある制限がなくなった。この状況が一時的なものに終わることを期待する声もあり、後継条約の締結に向けた取り組みが始まっている。しかし、より広い視点で見ると、楽観できる状況にはない。

2010年に新STARTが署名された当時は、世界情勢は今とは異なっていた。ロシアの戦略兵器は老朽化が進み、中国の核兵器保有量は少なく、「最小限抑止(minimum deterrence)」と呼ばれる戦略に基づいていた。しかし、エリック・エデルマンとフランクリン・ミラーが『フォーリン・アフェアーズ』誌に書いているように、もはやそのような世界は「存在しない(no longer exists)」。

ロシアは戦略核戦力の約95%を近代化したとウラジーミル・プーティン大統領は主張している。さらに懸念されるのは、モスクワが広大な地域核兵器庫を構築したことである。専門家たちは、陸海空から展開可能な戦術核兵器を約1500発保有していると推定している。これらのシステムは新戦略兵器削減条約(新START)の対象外である。ウクライナ戦争中、プーティン大統領は繰り返し核の脅威をちらつかせ、恐ろしい脅迫ゲームを仕掛けてきた。

中国の動向はさらに重大な影響を及ぼす可能性がある。習近平国家主席が2012年に政権を握った当時、中国は約240発の核弾頭を保有していた。現在、中国は600発以上を保有しており、アメリカの推定によれば、2030年までに1000発に達する見込みである。中国は地上配備型ミサイル、弾道ミサイル潜水艦、空中発射型ミサイルという完全な核戦力三本柱(a full nuclear triad)を配備し、警戒態勢の頻度を高めている。これには、敵のミサイルがまだ空中にある間に発射できる「警告発射(launch on warning)」能力も含まれる。

ジョー・バイデン政権は対話を通じてこの軍備増強を抑制しようと試み、北京に核軍縮協議への参加を促した。しかし、中国の反応は冷淡だった。中国は、自国の核兵器保有量がアメリカとロシアのそれとより近い水準に達した場合にのみ、真剣に協議に応じるとした。エデルマンとミラーが指摘するように、北京は透明性と検証を信頼醸成措置ではなく、むしろ弱点とみなしている。軍備管理は、避けるべき制約と捉えられているのだ。

その結果、冷戦時代の二極対立よりもはるかに複雑な、三つ巴の核競争が繰り広げられている。『エコノミスト』誌はこの変化を鮮やかな比喩で表現している。原子爆弾の父であるロバート・オッペンハイマーがかつて「瓶の中の2匹のサソリ(two scorpions in a bottle)」と呼んだものが、今や3匹になった。瓶の中が混み合っているということは、サソリの動きが予測しにくくなるということだ。

これは重要な問題だ。なぜなら、システムが複雑化するにつれて抑止力は脆弱になるからだ(deterrence grows more fragile as the system grows more complex)。二極化した核世界は危険ではあったが、その構造は明確だった。しかし、三極化(tripolar)、あるいは多極化(multipolar)の世界はそうではない。ロシアと中国は緊密に協力し、技術交流や合同軍事演習を実施しており、時には核保有能力を持つ部隊も参加している。2023年、超党派のアメリカ戦略態勢委員会は、「日和見主義的な侵略(opportunistic aggression)」、あるいは複数の戦域にわたる協調的な圧力のリスク(coordinated pressure across multiple theaters)について警告した。主に二国間競争を想定して設計されたアメリカの核戦力は、2つの同等の敵対国を同時に抑止することを目的としたものではない。

軍拡競争(arms races)は危険だ。核兵器の数は徐々に増加し、ドクトリンは曖昧になる。誤算のリスク(the risk of miscalculation)は高まる。それは戦争時だけでなく、危機、演習、あるいはパニック状態においても同様だ。現代の核システムは、サイバーネットワーク、宇宙空間に配備されたセンサー、そして短縮された意思決定時間とますます密接に結びついている。誤報や信号の誤読は、過去よりもはるかに速いスピードで事態をエスカレートさせる可能性がある。

危険は主要大国だけに留まらない。『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、約40カ国が核兵器製造技術を有している。

数十年にわたり、核不拡散(nuclear nonproliferation)は一種の取引の上に成り立っていた。ほとんどの国は、安全保障の保証(security guarantees)と核保有国が核兵器について責任を持って管理するという約束(the promise that nuclear states would manage their arsenals responsibly)と引き換えに、核兵器を放棄するというものだった。しかし、この2つの柱は今、危機に瀕している。

アメリカが同盟諸国を一貫して守る意思があるのか​​どうか疑念が深まるにつれ、一部の国は静かに選択肢の見直しを始めている。韓国では、独自の核抑止力獲得に関する議論が、これまで周縁的なものだったのが主流へと移行しつつある。日本では、かつては考えられなかったような議論が、戦略家たちの間で囁かれるようになっている。こうした動きが北東アジアで始まれば、そこで終わることはないだろう。

私たちは、管理された抑止力(managed deterrence)から競争的な再軍備(competitive rearmament)へ、制限(limits)から蓄積(accumulation)へ、予測可能性(predictability)から即興(improvisation)へと漂流しつつある。

何十年もの間、私たちは歴史上最も強力な兵器の脅威の下で暮らし、それらをどのように使ってはいけないかを不完全に学んだ。この成果は画期的なものだが、脆弱で、一時的なものに終わる可能性もある。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生の書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 世界で核兵器を持つ国々としては、国連安全保障理事会常任理事国(アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア)、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮となっている。アメリカが開発し、ソ連が追い付き、英仏、そして中国が開発していった。そして、他の国々に拡散していった。冷戦下の米ソは、核兵器の管理とそれ以上の拡散を防ぐために、核不拡散条約を締結し、世界各国にも批准を求めた。しかし、その後も核兵器所有を望む国々はあり、実際に核兵器所有に到る国々も出てきた(南アフリカは計画を断念した)。その後、米ソ間で、核兵器削減が始まり(両国が持つ核兵器の数は他国を大きく凌駕する)、核兵器の不拡散(non-proliferation)から軍備管理(arms control)へと進む中で、米中露の間での軍備管理は難しくなっている。

 「核兵器を持てば他国からの攻撃を受けなくなる」という核抑止力思想は、冷戦期には有効であっただろうが、現在はその有効性は疑問視されている。核兵器を先制攻撃用の武器として使うことは、世界各国の非難を浴び、国家として存続できない状態になり、自国の崩壊を意味する。自国の防衛のために持った核兵器が自国の崩壊を招いてしまっては本末転倒だからだ。アメリカは報復兵器として核兵器を保有しており、アメリカに向けて核兵器を使った国を消滅させるだけの核兵器を持つということになっている。

しかし、アメリカは核兵器を自国に打たれない限り、報復手段として核兵器を使用できない。そうなれば、困った問題も出てくる。特に、国土を持たないテロリスト組織に対しては核兵器を使用できない。そうなると、核兵器を持っていても、自国への攻撃を防ぐことはできないということになる。国家間戦争では事情は異なるが、テロ組織との非対称的な戦争では、核兵器を持っても何の効果もない。また、通常兵器で攻撃された場合には、通常兵器で報復するということになる。アメリカの軍事力を考えれば、通常兵器だけでも、ほとんどの国を消滅させることが可能であるが、ブッシュ政権以降の、イラクとアフガニスタンの泥沼化を見てみると、アメリカの軍事力が有効性を持つということについては疑問符がつく。

 アメリカでは歴代政権がアメリカの「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」を行う。バイデン政権でもNPRは行われており、削減よりも核抑止力の維持を基本線としている。中国の台頭とロシアの脅威を受けて、削減傾向からの転換を図っている。しかし、核兵器を持っていることがどれほどの効果を持つのかということについて、その前提を疑うということはしていないようだ。米中露が直接的に核兵器を撃ち合う状況にならないように、管理することが基本線であるが、核兵器の抑止力に今も頼ろうと考えているようだ。

 インドとパキスタン、イスラエルとイラン(核開発進行中)といった敵対国同士が核兵器を撃ち合うという可能性についても私たちは考えておかねばならない。しかし、核兵器は使用にかなりの高いハードルがあり、「伝家の宝刀」「最終秘密兵器」ということになる。結局、使えない、持っているだけということであるならば、今からおっとり刀で、日本でも核兵器保有を行おうと考えることは愚の骨頂だ。

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バイデンの核戦略は危険な世界と共存するための戦略である(Biden’s Nuclear Strategy Is About Living With a Dangerous World)

-「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review)」から5つの教訓が得られる。

マシュー・ハリス筆

2022年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/15/biden-nuclear-posture-review-deterrence-russia-china/

先月、新たな「国防戦略(National Defense Strategy)」の一環として、またロシアがウクライナで核の威嚇を続ける中、バイデン政権は「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」の公開文書を発表した。何故核兵器を保有するのか、いつ、どのように使用を検討するのか、今後どのような核兵器が必要なのか、といった方針を示すもので、ビル・クリントン大統領以降の各米大統領は1期目の早い段階で、核態勢の見直しを実施してきた。しかし、ウクライナで敗走するロシアが核兵器を振り回し、中国との緊張が高まる中、アメリカの立ち位置には注意を払う価値がある。25ページに及ぶ「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」から、5つのポイントを挙げる。

(1)中国も核兵器による威圧を試みる可能性がある(China could try nuclear coercion, too)

戦略に関する見直しは、しばしば「最後の戦争を戦う(fighting the last war)」と非難される。バイデンによる「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」は、現在の戦争と戦うことに大きな焦点を合わせている。ロシアは核兵器のレトリックを使って、ウクライナと西側諸国に戦争目的を縮小するよう説得しようとしている。そして、ロシアが自分たちにとっての有利な条件で戦争を終わらせるために少数の核兵器を使用するかもしれないという懸念が、この「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」に大きく関わっている。ロシアの指導者たちは、核兵器を「近隣諸国に対する不当な侵略を行うための盾(shield behind which to wage unjustified aggression against their neighbors)」と考えており、「地域紛争におけるロシアの限定的核使用の阻止は、アメリカとNATOの高い優先事項である(deterring Russian limited nuclear use in a regional conflict is a high U.S. and NATO priority)」と報告書は述べている。

最近の米国家安全保障戦略は、ウクライナにおけるロシアの通常兵器の災禍が、将来的に核兵器への依存を強めることになるため、この問題が更に悪化する可能性が高いことを示唆している。「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」は、中国がアジアで同様の戦略を採用する可能性を指摘している。「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」によれば、中国の驚くべき核兵器増強は、核兵器による強制や限定的な先制使用など、地域の危機や戦争における選択肢を増やすことになるという。「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」が中国の将来の核兵器を「多様(diversity)」であり、「高度な生存性、信頼性、有効性(high degree of survivability, reliability, and effectiveness)」を持つと表現している点は、核兵器で先制攻撃された場合に大規模な報復を行えることに重点を置いてきた中国の歴史的に初歩的な態勢とは大きく異なる。「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」自体には、これ以上具体的なことは書いていない。しかし、中国の目標は、アメリカとの本格的な核戦争にまでエスカレートすることなく、この地域での通常型紛争に勝利するために、低程度・短距離のシステムで限定的な核攻撃を用いると威嚇したり、実際に実行したりできるようにすることだという憶測に信憑性を与えている。

ワシントンは、核兵器による強制、あるいは限定的な使用が勝利の戦略であるという考えを打ち砕くことに明確な関心を持っている。これは、核のリスクそのものだけでなく、アメリカ軍の行動の自由に関するものである。「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」は、「限定的な核兵器使用を抑止する能力は、非核兵器の通常兵器による侵略を抑止する鍵である」と述べている。敵対国が、核兵器によるエスカレーションで脅せば思い通りになると知れば、「我が国の指導者たちが、重要な国家安全保障上の利益を守るために通常の軍事力を行使するという決断を下すことはより難しくなり、その決断を下すことははるかに危険になる」と「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」は述べている。

こうした懸念からは2つの現実的な意味が読み取れる。まず、広範な『国家防衛戦略(National Defense Strategy)』の他の施策と同様に、この見直しでは、限定的な核攻撃に対する回復力を高めるよう求めている。これには、通常兵器システムの防護強化、アメリカ軍と同盟諸国の軍隊の防護装備、通常戦に使用される宇宙システムの「任務保証の強化(enhanced mission assurance)」などが含まれる。その論理は、アメリカの同盟諸国が限定的な核兵器使用後も戦い続けられることを敵対国が知れば、核兵器使用は戦争を終わらせるクーデターとしての魅力を失うというものである。しかし、それは次の点を示唆している。

(2)核兵器削減は限定的であり、新兵器も準備中である(Nuclear cuts will be limited, and new weapons are in the pipeline)

バイデン政権は、限定的な核兵器使用を抑止するには、比較的限定的な核攻撃で報復を脅かすことができる必要があると考えている。「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」は、この目的のために航空爆弾と巡航ミサイルを保持しているだけでなく、潜水艦発射弾道ミサイル用のW76弾頭タイプの低出力ヴァージョンであるW76-2弾頭も保持している。バイデンは大統領候補として、トランプ政権時代に開発されたW76-2を「悪いアイデア(bad idea)」と呼んだ。しかし、「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」は、「W76-2は現在、限定的な核使用を抑止するための重要な手段を提供している」と率直に述べ、ロシアと中国に対する抑止力の一環としてそれを挙げている。

トランプ政権はまた、核兵器を搭載した海上発射巡航ミサイル(sea-launched cruise missile、SLCM-N)を提案し、計画を開始していた。バイデン政権の「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」によれば、この兵器は、W76-2の追加により、アメリカには限定的な核戦争を遂行するための十分な選択肢があることを根拠に削減されるということだ。連邦議会の共和党所属議員と一部の民主党所属議員は別の考えを持っている。連邦上下両院の軍事委員会は、来年の国防権限法案(draft defense authorization bill)にSLCM-Nを再び盛り込むべく奮闘している。連邦議会がバイデン政権に研究開発費の支払いを継続するよう強制する可能性は十分にあり、共和党はバイデン政権の任期切れを待って、共和党側から出た大統領の就任によって、SLCM-Nを手に入れることを期待していると指摘している。SLCM-Nは、米戦略軍司令官の声高な支持を受けている。同様の力関係が、バイデン政権が退役を決定し、連邦議会がまだ維持しようとしている可能性がある高出力重力爆弾であるB83-1に関しても働いている。

一方、バイデン政権が新世代の大陸間弾道ミサイルを製造せず、代わりにミニットマンIII(Minuteman III)を延命させるのではないかという一部の擁護者たちの期待は完全に裏切られた。「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review、NPR)」は、そのような決定は「リスクとコストを増大させる(increase risk and cost)」と断言し、後継のセンチネルミサイルに全面的なゴーサインを出した。イギリスが自国の後継核弾頭の基礎としているW93/Mk7核弾頭も、続行される。アメリカの核弾頭製造コンプレックスは、過去数十年の「部分的改修(partial refurbishment)」戦略から脱却し、ゼロから新兵器を製造するための態勢を再び整えることになる。

(3)核抑止力と非核抑止力の統合は、依然として目標である(Integrating nuclear and nonnuclear deterrence is still a goal)

「核態勢の見直し(NPR)」の中核をなす国家防衛戦略は、「統合抑止(integrated deterrence)」という考えを大々的に打ち出している。バイデン政権によれば、これは「戦闘領域、戦域、紛争範囲、米国のあらゆる国力手段、同盟とパートナーシップのネットワークをシームレスに連携する(working seamlessly across warfighting domains, theaters, the spectrum of conflict, all instruments of U.S. national power, and our network of Alliances and partnerships)」ことを意味する。従来の軍事領域では、この概念が有用かどうかについて活発な議論が行われている。そのリスクには、抑止の概念を拡大し過ぎたり、各軍が既にやりたいと考えていることを「統合抑止」として再ブランド化することを奨励したりすることだけでなく、実際に変化を導くことに失敗したりすることが含まれる。

戦略の領域では、統合には明確で具体的な意味があり、その中には物議を醸すものもある。 「核態勢の見直し(NPR)」は、どの非核兵器が抑止態勢において核兵器を「補完(complement)」できるかを評価し、「これらの能力を作戦計画に適切に組み込む(integrate these capabilities into operational plans, as appropriate)」と約束している。国家防衛戦略は、アメリカがロシア国境にある同盟諸国やパートナーが「コストの賦課を可能にする対応オプション(response options that enable cost imposition)」を開発するのを支援すると述べているのは的を射たものである。つまり、アメリカは同盟諸国の防衛を強化するだけでなく、同盟諸国がロシアの侵略を積極的に懲罰する準備を支援するだろう。バイデンの「核態勢の見直し(NPR)」はまた、核と非核の計画と演習の「より適切な同期(better synchronizing)」の必要性を強調することで、トランプ大統領時代の見直しの重要な特徴を基礎にしている。限定的核攻撃(limited nuclear attacks)に対する回復力を強化するという決定と、限定的核使用の抑止が通常戦争の抑止の一部であるという主張に加えて、今回のバイデン政権での「核態勢の見直し(NPR)」は、核と非核の政策と計画の間に明確な防火帯を避けることで、前任者の道を踏襲している。

(4)中国の核兵器増強は厳しい変化を意味するかもしれない(China’s buildup might mean tough changes)

ロシアが数千の核兵器を保有しているのに対し、中国の核兵器は現在数百に過ぎないという事実は、中国が「アメリカの防衛計画における全体的なペース配分の課題」である国家防衛戦略と、ロシアがアメリカ本土に対する唯一の存立的脅威であり続けるとされるNPRとの間で、焦点の必要な非対称性をもたらしている。しかし、この見直しは、大きく変化しつつある世界を正しく指摘している。中国は「核戦力の野心的な拡大、近代化、多様化に着手し、初期の核三極体制を確立した(embarked on an ambitious expansion, modernization, and diversification of its nuclear forces and established a nascent nuclear triad)」国であり、「我が国の核抑止力を評価する上で、ますます重要な要素となっている(growing factor in evaluating our nuclear deterrent)」と「核態勢の見直し(NPR)」は指摘している。

この変化の意味は斜めに表現されている。「核態勢の見直し(NPR)」では、「安全保障環境が進化するにつれて、米国の戦略と兵力態勢を変更することが、ロシアと中国の両国の抑止、保証、雇用の目標を達成する能力を維持するために必要になる可能性がある(as the security environment evolves, changes in U.S. strategy and force posture may be required to sustain the ability to achieve deterrence, assurance, and employment objectives for both Russia and [China])」と述べている。しかし、この答えに踊らされている疑問を解くのにそれほど解読は必要ない。中国がロシアの核保有国に加わった場合、アメリカは更に核兵器を必要とするのだろうか?

ロシアのウクライナ戦争と、中国がアメリカと同格の核兵器保有国の地位(nuclear peer status)に達するまでにはまだ長い距離があることを考慮すると、この議論はまだアメリカの公的領域に本格的に現れていない。しかし、誤解しないで欲しいのだが、それは現実のものであり、最初の警告射撃はすでにいくつか行われている。例えば、ジョージ・W・ブッシュ政権下の高名な元高官2人は2022年9月、連邦上院軍事委員会で次のように指摘した。他の核兵器保有諸国は、先制攻撃を吸収し、侵略者に報復すると同時に、他の近隣諸国を阻止するのに十分な兵力を予備として保持するために、将来的には、新STARTで現在許可されているよりも多くの弾頭の配備が必要となる可能性がある。将来、ロシアと米国の間に残された最後の核軍備管理条約である「新START」で現在許可されているよりも多くの弾頭の配備を必要とする可能性がある。

アメリカの核兵器計画に質的な変化がない場合、そしてアメリカが、核兵器で対抗する2カ国の同時先制攻撃を吸収し、なおかつその2カ国の標的を現在と同等に攻撃できるようにしなければならないと考えている場合、この論理は成り立つ。アメリカがロシアと中国の核兵器保有量に追いつくためには、より多くの核兵器が必要になる。しかし、それは物理的にも財政的にも不可能かもしれないし、ロシアや中国の反応や世界の核不拡散規範への影響という点で、受け入れがたい政治的・戦略的結果をもたらすかもしれない。バイデン政権のNPRはこの疑問に答えられなかったかもしれないが、次のNPRはおそらく答えなければならないだろう。

(5)抑止力は削減よりも優先される(Deterrence is placed over reduction)

クリントン以降の全ての大統領が、戦力と政策の変更を行う手段として、アメリカの核態勢の見直しを命じてきた。しかし、大きな変化はなかなか起きていない。バラク・オバマは、アメリカの同盟諸国がこのニューズをどう受け止めるかという懸念から、彼が望んだよりも野心的でない軍縮策を受け入れるよう説得され、アメリカ連邦上院が新STARTを批准した代償として、アメリカの核兵器インフラに彼が望んだ以上の支出を強いられた。ブッシュは、新たな抑止コンセプト[deterrence concept](いわゆる新トライアド[new triad])と新しい核兵器(強力地中貫通型核兵器[Robust Nuclear Earth Penetrator]と信頼性の高い代替弾頭[Reliable Replacement Warhead ])に関する挑発的なアイデアを持っていた。連邦議会は両方の新兵器を否決し、新抑止コンセプトは定着しなかった。

バイデンは40年以上にわたって核戦略に関する議論に熱心に参加し、一貫して軍備管理(arms control)を主張してきた。昨年(2021年)3月に発表された、バイデンの暫定戦略指針は、「わが国の安全保障における核兵器の役割を減らすための措置を講じる(take steps to reduce the role of nuclear weapons in our national security)」という指示から始まった。それは実現していない。ロシアのウクライナ侵攻以前から、核兵器の「唯一の目的(sole purpose)」は他国による核兵器の使用を抑止することであるとアメリカが言うべきだという重要な提案は失敗に終わっていた。これはバイデンが副大統領として提唱していたものであり、バイデンは国内の反対派から、「この政策は弱さを露呈している」、もしくは「核兵器の先制使用はしないと約束したに等しい、政治的な妥協に過ぎる」といった批判を受けることは避けられないと覚悟していたに違いない。しかし、アメリカの同盟諸国は、バイデン政権に対して、「唯一の目的(sole purpose)」と言えば、ロシア、中国、北朝鮮がアメリカの核兵器をあまり心配しなくなり、アメリカの「核の傘(U.S. nuclear umbrella)」の抑止効果が損なわれ、核兵器開発の意思と能力を持つ国々(the nuclear threshold)の間で、侵略を助長することになりかねないと伝えた。

トランプ政権時代に傷ついた同盟諸国との関係を揺るがしたくないと決意した政権にとって、これは殺し文句(killer argument)となった。昨年(2021年)の今頃には、「唯一の目的(sole purpose)」が事実上消滅したことは既に明らかだった。核態勢の見直し(NPR)は、「核兵器の基本的な役割は、アメリカ、同盟諸国、パートナーに対する核攻撃を抑止すること(fundamental role of nuclear weapons is to deter nuclear attack on the United States, our Allies, and partners)」というオバマ政権時代の公式見解を繰り返し、「核兵器は、核攻撃だけでなく、狭い範囲の他の高い影響力を持つ戦略レヴェルの攻撃を抑止するためにも必要だ(nuclear weapons are required to deter not only nuclear attack, but also a narrow range of other high consequence, strategic-level attacks)」と説明している。

このように宣言的な政策が後退し、通常兵器と核兵器の統合(conventional-nuclear integration)が重視され、限定的な核オプションの必要性が主張され(そして核戦争が「限定的(limited)」にとどまる可能性があるという前提を暗に容認している)、トランプ大統領の核兵器ポートフォリオにおけるいくつかの能力を除く、全てのの能力が維持されていることから、核兵器の役割を減らすことよりも抑止力を強化することに価値を置く見直しが行われている。

この見直しは、アメリカがこれから迎える核の10年がもたらすリスクについて、バイデン政権の少なくとも一部が真剣に考えていることを示している。それは、抑止戦略(deterrence strategy)を設計する際に守るであろう危機安定のための原則と、(アメリカとその反対国の両方による)誤った認識を回避するためのメカニズムを特定しており、核兵器の無許可発射に対する予防措置についてある程度詳細に踏み込んでいる。新STARTの後継を求め、中国との対話の優先事項を示している。しかし、アメリカは「軍備管理、核不拡散、リスク削減に改めて重点を置いている(placing renewed emphasis on arms control, nuclear nonproliferation, and risk reduction)」という「核態勢の見直し(NPR)」の主張は空虚に聞こえる。トランプ政権と比較すると、確かに改めて強調されているが、それはハードルが低いままである。

これは全て正当化できる。「核態勢の見直し(NPR)」はしっかりとした主張を行っている。戦争が起こり、継続中だ。戦争を始めた張本人は、ロシアの核兵器を誇示してアメリカ人やヨーロッパ人を威嚇しようとしている。ヨーロッパとアジアの同盟諸国を念頭に置くアメリカは、弱さを示すメッセージを送ることを懸念しただろう。そして、好むと好まざるとにかかわらず、世界的な傾向として、核兵器の重要性は低下するどころか高まっている。

バイデン政権は、核の世界を変えるために一方的なリスクを冒すのではなく、来るべき核の世界で、可能な限り生き残ることを決断した。この決断は、政府外にいる、軍備管理擁護を主張する人々(arms control advocates)を失望させ、おそらく政府内部にも失望している人々がいるだろう。いつの日か、将来の「核態勢の見直し(NPR)」は、核抑止力に依存することの長期的なリスクが大きすぎると大統領が判断し、アメリカの核兵器の役割を抜本的に縮小することが、政治的コストと敵対勢力が優位に立つ危険性の両方に見合うと決断する瞬間を示すかもしれない。しかし、今回の見直しはそうではない。

※マシュー・ハリス:ロンドンに本部を置くロイヤル・ユナイテッド・サーヴィシズ研究所核拡散・核政策部門部長。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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