古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ヒズボラ

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 2025年6月13日にイスラエルはイランの核開発関連施設に対する攻撃を行った。イランの革命防衛隊の司令官と参謀総長が死亡した。イランはイスラエルに向けてミサイルを発射し、報復攻撃を行った。その後、イスラエルはイランに対しての空爆を継続し、イランの国防省を攻撃し、イラン国内の油田・石油採掘施設を攻撃するなど攻撃を拡大している。アメリカのドナルド・トランプ政権はイランとの交渉を行っている最中でのイスラエルによる攻撃に不満を持っている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は極右勢力に支えられ、かつ、自身の汚職からイスラエル国内、国外の注目を逸らさせるために、戦争を拡大しようとしている。極め付きは、アメリカにイラン攻撃への参加を求めている。非常に危険な動きだ。イスラエル、正確にはベンヤミン・ネタニヤフと極右勢力には「自分たちにはアメリカがついている、いや、アメリカ国内政治を動かして自分たちの思い通りに動かせる」という思い上がりがある。

 第1次ドナルド・トランプ政権では、前任のバラク・オバマ政権で成立した、イランとの核開発をめぐる合意から離脱した。そのために、イランは核開発を継続した。それが、第2次ドナルド・トランプ政権では姿勢を転換し、イランとの交渉を開始した。そうした中で、イスラエルによるイラン攻撃が実施された。第2次トランプ政権のイランとの関係修復は賢明な動きである。何よりも、バイデン政権後半で、中国の仲介によって、サウジアラビアとイランの関係改善が成功した。アメリカは中東においてその役割を縮小させ、存在感を減らしている。イスラエルにとってアメリカの中東地域における減退・撤退は死活問題である。イスラエルはアメリカのバイデン政権の仲介で、サウジアラビアとの関係改善、国交正常化を目指していた。しかし、イスラエル・ハマス紛争によってその動きは頓挫した。

 こうして考えてみると、中東地域においても、私の分析の枠組みである「西側諸国(ジ・ウエスト、the West)」対「西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)」、「グローバル・ノース(Global North)」対「グローバル・サウス(Global South)」の対立が反映されていると考える。イスラエルは核兵器さえも持つ軍事強国であるが、今回の攻撃は、一種の不安からの暴走であると考えている。

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ドナルド・トランプ大統領が中東で正しく判断したこと(What Trump Got Right in the Middle East

-アメリカ大統領によるイランへの和解(olive branch)は、ワシントンの外交政策におけるパラダイム・シフト(a paradigm shift)となる可能性がある。

ハワード・W・フレンチ筆

2025年5月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/05/16/trump-middle-east-trip-iran-us-foreign-policy/

あるニューズ・イヴェントの重要性は、主流メディアがそれをどれだけ軽視、あるいは完全に無視するかによって測られることがある。今週、ドナルド・トランプ米大統領が中東歴訪中に、アメリカの外交政策のパラダイム・シフト(a paradigm shift)に繋がりかねない発言をした時、まさにその通りだった。

トランプが二期目初の外遊を開始して以来、メディアの注目は、旧型エアフォースワンの後継機としてカタールから超高級機ボーイング747を受け入れるという決定(批評家たちからは露骨な腐敗の兆候[a breathtaking sign of corruption]だと広く非難されている)と、アメリカがダマスカスに対する長年の経済制裁を解除すると発表した後にシリアの新大統領アハメド・アル・シャラーと電撃会談を行ったことに集中している。

どちらの話題も、真剣に検討する価値がある。しかし、トランプ大統領が裕福なアラブ諸国を次々と訪問する間、アメリカの各報道機関は、いくつかの例外を除き、中東およびその周辺地域に重大な地政学的影響を及ぼす問題、すなわちトランプ大統領がイランに和解(olive branch)の手を差し伸べる決断について、比較的少ない言葉しか割(さ)かなかった。

トランプ大統領は火曜日、アメリカが40年間執拗な敵として扱ってきたイランと直接交渉する決意を表明した。トランプはリヤドでの演説の中で、「繰り返し示してきたように、たとえ両国の間に大きな隔たりがあったとしても、過去の紛争を終わらせ、より良く安定した世界のために新たなパートナーシップを築く用意がある」と表明した。

ワシントンにおいて、イスラエルとの足並みを揃えた同盟関係、ひいては中東地域の大国にイスラエルの宿敵であるイランの封じ込めを支援するよう働きかける必要性ほど、外交政策に関する信念が深く根付いているものは少ない。この戦略を少なくとも部分的にキャリアに重ねてきた多くのアナリストは、今回の訪問後、トランプ大統領がすっかり忘れてテヘランへの働きかけを放棄するか、あるいはイランがホワイトハウスに考えを変えさせるような挑発的な行動に出るかを期待、あるいは信じているかもしれない。

関税を軸とした経済政策が示すように、トランプは一貫性のある人物と見られている訳ではない。そのため、イランとの和解(rapprochement with Iran)に向けた言葉だけの試みが長続きしないと考えるのは愚かなことではない。しかし、アメリカがこの考えを真剣に追求しないのであれば、それは遺憾である。同盟諸国への高関税から、ガザ地区をパレスティナ人を排除した高級不動産開発地とするという提案(トランプは今回の訪問でもこの提案を繰り返したが、ガザ地区におけるイスラエルの壊滅的な懲罰的軍事作戦にはほとんど注意を払っていない)まで、奇妙でしばしば無意味に混乱を招く姿勢に満ちた外交政策の実績の中で、これは今のところトランプが正しかった数少ないアイデアの1つだ。

1979年のイラン・イスラム革命、そして、1979年後半のイラン人質事件に始まる、長年にわたるアメリカのイランに対する敵意が、どのような結果をもたらしたかを考えてみて欲しい。それは醜悪なバランスシートだ。例えば、アメリカはイラクを支援することで、1980年から1988年にかけてのイラン・イラク戦争を助長した。この戦争では、50万人から100万人の死者が出ており、前世紀で最も多くの死者を出した紛争の1つとなっている。

この歴史において、罪のない主体は存在しない。テヘランは、レバノンのヒズボラ、ガザ地区のハマス、イエメンのフーシ派といった過激派組織に武器と資金を提供し、世界最悪の現代独裁政治の1つである、最近打倒されたシリアのアサド王朝を支援してきた。イランはまた、イスラエルの破壊を主張してきた。

テヘランの忌まわしい立場を弁解する訳にはいかないが、そもそもなぜそのような事態に至ったのかを問わなければならない。その答えの1つは、西側諸国がイランの主権を歴史的に軽視してきたことにある。それは、1953年にCIAの支援を受けて民主的に選出されたモハンマド・モサデク首相が打倒され、イラン国王モハンマド・レザー・パーレヴィが親西側の独裁政権を樹立したことに遡る。イランが長らくイスラエルを敵対的なアメリカと西側諸国の代理と見なしてきたのも、当然のことである。

2000年代以降、ワシントンは1979年に初めて導入したイランの核開発計画を理由に、対イラン経済制裁を着実に強化してきた。しかしながら、イランがなぜ核技術の習得を必要としているのかを公に問うアナリストはほとんどいない。イランが核攻撃に対する正当な恐怖感や、究極の抑止力あるいは自衛手段としての核技術を必要としている可能性を考慮しようとしないからだ。イスラエルが、イランが近いうちに核兵器を開発する可能性に脅威を感じるのは当然だが、イスラエル自身も核兵器を保有している。また、シリアへの継続的な爆撃や領土侵攻が示すように、イスラエルは長年にわたり隣国を攻撃してきた。

2000年代を通じて、私は5年間北朝鮮を取材した。北朝鮮の状況は少なくとも部分的にはイランと類似している。北朝鮮による自国民への弾圧はテヘランよりもさらに顕著であり、海外でも挑発的で忌まわしい行動を頻繁に行っている。北朝鮮には、脅威を感じる歴史的な理由もある。専門家を除けば、朝鮮戦争が70年経った今も公式には終結していないことを認識している人はほとんどいない。そして、国際的に交渉された包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of ActionJCPAP)の下で、北朝鮮はイランと同様に、核開発計画の放棄または制限と引き換えに制裁解除を提案されている。

しかし、1980年代に北朝鮮が核兵器開発に真剣に取り組むようになって以来、それ以降のアメリカ大統領の試みは、北朝鮮の核開発を阻止することには繋がっていない。近年の世界史は、北朝鮮のような国が方針転換に抵抗する多くの理由を示している。ウクライナはソ連時代に自国領土に配備されていた核兵器を放棄したが、数十年後にはロシアの侵攻を受けた。リビアの独裁者ムアンマル・アル=カダフィは、違法な化学兵器開発計画を自主的に停止したが、西側諸国の支持を得て打倒され、最終的には暗殺された。今日のリビアは破綻国家であり、暴力と武器密売の氾濫によってサヘル・アフリカの大部分が不安定化している。

トランプ大統領の最初の任期中の北朝鮮へのアプローチは、最近のイランに対する発言の背後にある論理を示唆している。彼は金正恩委員長とハイレヴェルの個人外交を行い、潜在的に破滅的な地政学的状況を打開するため、二国間の緊張緩和に努めた。トランプの外交は、他の多くのことと同様に、不安定で計画性に欠けていた。朝鮮半島情勢を根本的に変えることもできなかった。

だからといって、トランプの行動の根底にある真実が必ずしも否定される訳ではない。際限のない軍備増強と将来の大惨事の可能性を回避する唯一の方法は、時に長年の敵国と交渉し、相互信頼(mutual confidence)と安全保障の保証(guarantees of security)を築く道を見つけることである。それは性急には達成できない。

イランと交渉することさえ、ワシントンの多くの者にとって受け入れ難いことであり、イスラエル政府にとっては考えられないことだろう。イスラエルは、イランの核兵器開発可能性を理由に、イランを存亡の危機とみなしているだけではない。アメリカの永遠の敵国であるイランの存在は、長年にわたり、アメリカによるイスラエルへの揺るぎない政治的支援、そして継続的な重武装の強力な根拠となってきた。トランプは木曜日、アメリカとイランは核合意の条件について「一応」合意したと主張したが、詳細は依然として不明であり、これがどのように展開するかは不透明だ。

しかし、他の地域では状況が変化しつつあるようだ。ドナルド・トランプ大統領の訪問以前から、サウジアラビアをはじめとする地域におけるイランの伝統的なライヴァル諸国は、テヘランとの緊張緩和への意欲を示し始めていた。こうした動きは、イランを好戦的に封じ込める政策は行き詰まりに陥るという確信から生まれたものと考えられる。地域大国は、数十年にわたる戦争によって中東の豊富な資源と人的資源の両方が浪費されてきたことを認識し始めている。この歴史的悪循環に終止符を打つには、人口9000万人、世界第19位の経済大国であるイランを冷遇から救い出し、テヘラン、アラブ諸国、そしてイスラエルの間に新たなポジティヴ・サム(positive-sum)の力学を構築する必要がある。

もちろん、私たちがこれを実現するには程遠く、多くの欠点や特異な点を抱えるトランプ大統領がそれを実現できる可能性は低い。しかし、何かを変えるためには、あるテーマを提起し、議題に載せなければならない。それがトランプ大統領の中東訪問の最も重要な遺産かもしれない。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり特派員を務めた。最新作に『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ブルースカイ・アカウント: @hofrenchbluesky.social Xアカウント:@hofrench

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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 パレスティナの飾築を実効支配しているハマスによって2023年10月7日にイスラエルが攻撃を受け、それに対する報復でガザ地区に大規模な攻撃が実行されている。イスラエルとイランの間でのミサイル攻撃の応酬もあった。その後、一時的な停戦が実現したが、再び状況は悪化している。ガザ地区では生活環境は悪化し、攻撃は続いている。イスラエルはイラン国内を空爆し、核開発関連施設を破壊し、イラン革命防衛隊の司令官と参謀総長などの最高幹部を殺害している。ベンヤミン・ネタニヤフ首相はイスラエルの極右勢力に支えられているが、国民の支持率は低下している。そうした中で、起死回生の策がイランに対する空爆だった。

 イスラエルは国際社会を信頼せず、自国の防衛のためにはあらゆる犠牲を強いる。こうした点では北朝鮮に類似している。それは、あまりにも排他的な、選民思想的な原理が国家にあるからだろうと私は考えている。

 ガザ地区に関して言えば、私たちは歴史の授業で習ったゲットー(ghetto)を類推することができる。中世以来のヨーロッパの各都市に存在した、ユダヤ人たちが強制的に居住させられた地域である。ナチスドイツの侵略によって、各国のゲットーには厳しい抑圧がなされた。そうした中で、1943年にワルシャワ・ゲットー蜂起(Warsaw Ghetto Uprising)が起きたが、ナチスドイツによって鎮圧されたが、その方法は過酷なものだった。私たちは、ガザ地区の現状からワルシャワのゲットーを思い起こす。ユダヤ人が建国したイスラエルが、ゲットーの惨劇を繰り返す。「歴史は繰り返す(History repeats itself)」という言葉があるが、これはあまりにも皮肉なことである。人権や自由といった価値観を世界に拡大することを標榜するアメリカをはじめとする西側諸国は今回の事態に対してあまりにも無力だ。それどころか、ガザ地区の状況に対する批判を抑圧している。

 現在のガザ地区の状況は西側諸国の偽善と国際政治の野蛮さを改めて明らかにしている。そして、人間の愚かさを暴露している。
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ガザ地区がいかにして西洋の神話を打ち砕いたか(How Gaza Shattered the West’s Mythology

-この戦争は、第二次世界大戦後の共通の人間性に対する幻想(post-World War II illusions of a common humanity)を露呈させた。

パンカジ・ミシュラ筆

2025年2月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/07/pankaj-mishra-world-after-gaza-book-israel-war-global-order-history/

1943年4月19日、ワルシャワのゲットー(Ghetto)にいた数百人の若いユダヤ人が、入手できる限りの武器を手にナチスの迫害者たちに反撃した。ゲットーにいたほとんどのユダヤ人は、すでに絶滅収容所(extermination camps)に強制送還されていた。彼らの指導者の1人であったマレク・エデルマンが回想しているように、闘士たちはいくらかの尊厳(dignity)を取り戻そうとしていた。彼は次のように書き残している。「最終的には、私たちの番が来たときに、私たちを虐殺させないということだった。死に方を選ぶだけのことだった」。

絶望的な数週間が過ぎ、抵抗者たちは圧倒され、そのほとんどは殺害された。蜂起の最終日に生き残った者の中には、ナチスがガスを注入した司令部地下壕で自殺した者たちもいた。下水管を通って脱出できたのはほんの数人だけだった。その後、ドイツ兵はゲットーをブロックごとに焼き払い、火炎放射器を使って生存者たちを煙で追い出した。

ポーランドの詩人チェスワフ・ミウォシュは後に、「美しい静かな夜、ワルシャワ郊外の田舎の夜にゲットーから悲鳴が聞こえた」と回想している。

「この悲鳴には鳥肌(goose pimples)が立った。何千人もの人々が殺害される時の悲鳴だった。その悲鳴は、焚き火の赤々とした輝きの中から、無関心な星々の下から、都市の静寂な空間を通り抜け、植物が労を惜しまず酸素を放出し、空気が芳香を放ち、人が生きていてよかったと感じる庭園の慈悲深い静寂の中に入っていった。この夜の平和には特に残酷なものがあり、その美しさと人間の罪が同時に心を打った。私たちは互いの目を見なかった」。

占領下のワルシャワでミロシュが書いた詩「カンポ・デイ・フィオーリ」は、ゲットーの壁の横にあるメリーゴーランドを想起させる。メリーゴーランドに乗る人たちは、遺体の煙の中を空に向かって進み、その陽気な曲が苦悩と絶望の叫びをかき消す。カリフォルニア州バークレーに住んでいたミロシュは、アメリカ軍が何十万人ものヴェトナム人を空爆し、殺害している間、その残虐行為(atrocity)をアドルフ・ヒトラーやヨシフ・スターリンの犯罪と比較していた。「もし私たちが同情することができ、同時に無力であるならば、私たちは絶望的な憤りの中で生きているのだ(If we are capable of compassion and at the same time are powerless, then we live in a state of desperate exasperation)」とミロシュは書いている。

イスラエルによるガザ地区殲滅(annihilation of Gaza)は、西側民主政体諸国によって提供され、何百万もの人々にこの精神的試練(psychic ordeal)を何カ月も与えた。政治的悪(political evil,)の行為の自発的目撃者である彼らは、時折、生きていることは良いことだと考えることを自分自身に許しながら、イスラエルによって爆撃された別の学校で娘が焼け死ぬのを見る母親の悲鳴を聞いた。

ホロコースト(shoah)は数世代にわたるユダヤ人に傷跡を残した。1948年、ユダヤ系イスラエル人は生死を分ける問題として国民国家の誕生(birth of their nation state)を経験し、その後、1967年と1973年にも、アラブの敵による絶滅論のレトリックの中で再び経験した。ヨーロッパのユダヤ人がユダヤ人であるという理由だけでほぼ完全に消滅したという知識とともに育った多くのユダヤ人にとって、世界は脆弱(fragile)に見えざるを得ない。その中でも、2023年10月7日にイスラエルでハマスや他のパレスティナグループによって行われた虐殺と人質事件は、ホロコースト再来への恐怖を再燃させた。

しかし、歴史上最も狂信的なイスラエルの指導者たちが、蹂躙、死別、恐怖という遍在する感覚(an omnipresent sense of violation, bereavement, and horror)を利用することに躊躇しないことは、最初から明らかだった。イスラエルの指導者たちは、ハマスに対する自衛の権利を主張したが、ホロコーストの主要な歴史家であるオメル・バルトフが2024年8月に認めたように、彼らは最初から「ガザ地区全体を居住不可能にし、その住民を衰弱させて、死に絶えるか、その領土から逃れるためにあらゆる可能な選択肢を模索するようにする(to make the entire Gaza Strip uninhabitable, and to debilitate its population to such a degree that it would either die out or seek all possible options to flee the territory)」ことを目指したのである。こうして10月7日以降、何十億もの人々がガザ地区に対する異常な猛攻撃を目の当たりにした。その犠牲者たちは、ハーグの国際司法裁判所(the International Court of Justice in The Hague)で南アフリカを代表して弁論したアイルランドの弁護士ブリネ・ニ・グラレイに言わせれば、「世界が何かしてくれるかもしれないという絶望的な、今のところむなしい希望のために、自分たちの破壊をリアルタイムで放送していた」のである。

世界は、より特定すれば西側は何もしなかった。ワルシャワ・ゲットーの壁の向こうで、マレク・エデルマンは「世界の誰も何も気づかない(nobody in the world would notice a thing)」ことを「大変に恐れて(terribly afraid)」いた。ガザ地区ではそのようなことはなく、犠牲者は処刑される数時間前にデジタルメディアで自分の死を予言し、殺人犯はTikTokで自分たちの行為をさかんに流した。アメリカやイギリスの指導者たちが国際刑事裁判所や国際司法裁判所(he International Criminal Court and the International Court of Justice)を攻撃したり、『ニューヨーク・タイムズ』紙の編集者が社内メモで、「難民キャンプ(refugee camps)」、「占領地(occupied territory)」、「民族浄化(ethnic cleansing)」という用語を避けるようスタッフに指示したりと、西側の軍事的・文化的ヘゲモニー(the West’s military and cultural hegemony)の道具によって、ガザ地区のライブストリーミングによる情報発信は日々、見えないように、読めないようにされていった。

毎日が、自分たちが生活している間に、何百人もの普通の人々が殺され、あるいは自分たちの子どもが殺されるのを目撃させられているという意識に毒されるようになった。ガザ地区にいる人々、しばしば有名な作家やジャーナリストからの、自分や自分の愛する人が殺されようとしているという警告や、その後に続く殺害の知らせは、肉体的にも政治的にも無力であるという屈辱をより募らせた。無力な暗示された罪の意識に駆られ、ジョー・バイデン米大統領の顔をスキャンして慈悲の兆し、流血を終わらせる兆しを探そうとした人々は、不気味なほど滑らかな硬さを発見した。あれやこれやの国連決議、人道支援NGOの必死の訴え、ハーグの陪審員たちによる厳罰、そして土壇場でのバイデンの大統領候補交代によって喚起された正義の希望は残酷なまでに打ち砕かれた。

2024年末までには、ガザ地区の虐殺の現場から遠く離れた場所に住む多くの人々が、悲惨と失敗、苦悩と疲労の壮大な風景に引きずり込まれたことを、遠くからではあるが感じていた。これは、ただ傍観する者にとっては大げさな感情的負担に思えるかもしれない。しかし、ピカソが空からの攻撃で殺されながら叫ぶ馬と人間を描いた「ゲルニカ(Guernica)」を発表した際に引き起こされた衝撃と憤りは、ガザ地区で撮影された、父親が首のない我が子の遺体を抱く一枚の写真の影響だった。

戦争はやがて過去のものとなり、積み重なった恐怖の山は時とともに平らになるかもしれない。だが、ガザ地区では、負傷した身体、孤児となった子供たち、瓦礫の町、家を失った人々、そして、あちこちに漂う大量の死別意識と存在の中に、この惨劇の痕跡が何十年も残るだろう。そして、狭い海岸地帯で何万人もの人々が殺害され、重傷を負うのを遠くから無力に見守り、権力者の拍手喝采や無関心を目撃した人々は、心の傷と、何年も消えないトラウマを抱えて生きていくことになるだろう。

イスラエルの暴力を、正当な自衛なのか、厳しい都市環境での正当な戦争なのか、民族浄化や人道に対する罪なのか、という論争は決して決着がつかないだろう。しかし、イスラエルの一連の道徳的、法的違反行為の中に、究極の残虐行為の兆候を見出すことは難しくない。イスラエルの指導者によるガザ地区撲滅に向けた率直で決まりきった決意、ガザ地区でのイスラエル国防軍(Israel Defense ForcesIDF)による報復が不十分であることを国民が嘆くことで暗黙のうちに容認していること、犠牲者を和解不可能な悪と同一視していること、犠牲者のほとんどが全くの無実で、その多くが女性や子供だったという事実、第二次世界大戦での連合軍によるドイツ爆撃よりも比例して大きい破壊の規模、ガザ地区全体の集団墓地を埋め尽くす殺戮のペース、そしてその方法が不吉なほど非人格的(人工知能アルゴリズムに依存)かつ個人的(狙撃手が子供の頭を2発撃ったという報告が多い)であること。食料や医薬品へのアクセスの拒否、裸の囚人の肛門に熱い金属の棒が挿入されること、学校、大学、博物館、教会、モスク、さらには墓地の破壊、死んだり逃げたりするパレスティナ女性の下着を着て踊るイスラエル国防軍兵士に体現された悪の幼稚さ(puerility of evil)、イスラエルにおけるそのようなTikTokインフォテインメント(訳者註:情報[information]と娯楽[entertainment]の合成語)の人気、そして自国民の絶滅を記録していたガザ地区のジャーナリストの慎重な処刑。

もちろん、産業規模になった虐殺に伴う無慈悲さは前例がないわけではない。ここ数十年、ホロコースト(the Shoah)は人類の悪の基準を定めてきた。人々がそれを悪と認識し、反ユダヤ主義(antisemitism)と戦うために全力を尽くすと約束する程度は、西洋では彼らの文明の尺度となっている。しかし、ヨーロッパのユダヤ人が抹殺された年月の間に、多くの良心が歪められたり、麻痺したりした。非ユダヤ人のヨーロッパの多くは、しばしば熱心に、ナチスのユダヤ人攻撃に加わり、彼らの大量殺戮のニューズでさえ、西洋、特にアメリカでは懐疑的かつ無関心に迎えられた。ジョージ・オーウェルは、1944年2月になっても、ユダヤ人に対する残虐行為の報告は「鉄のヘルメットから豆が落ちるように(like peas off a steel helmet)」人々の意識から跳ね返ったと記録している。西側諸国の指導者たちは、ナチスの犯罪が明らかになってから何年もの間、大量のユダヤ人難民の受け入れを拒否した。その後、ユダヤ人の苦しみは無視され、抑圧された。一方、西ドイツは、ナチス化からほど遠いものの、ソ連共産主義に対する冷戦に加わりながら、西側諸国から安易な赦免(cheap absolution)を受けた。

記憶に残る中で起きたこれらの出来事は、宗教的伝統(religious traditions)と世俗的な啓蒙主義(the secular Enlightenment)の両方の基本的前提、つまり人間は根本的に「道徳的(moral)」な性質を持っているという前提を揺るがした。人間には道徳的性質がないという、腐った疑念が今や広まっている。冷酷さ、臆病さ、検閲の体制下での死や切断を間近で目撃した人々はさらに多く、あらゆることが起こり得ること、過去の残虐行為を覚えていても現在それが繰り返されない保証はないこと、そして国際法と道徳の基盤がまったく安全ではないことを衝撃とともに認識している。

近年、世界では多くの出来事が起こっている。それらは、自然の大災害、財政破綻、政治的激変、世界的パンデミック、征服と復讐の戦争などである。しかし、ガザ地区に匹敵する災害はない。これほど耐え難い悲しみ、困惑、良心の呵責(grief, perplexity, and bad conscience)を私たちに残したものはない。これほど、私たちの間での、情熱と憤りの欠如、視野の狭さ、思考の弱さ(lack of passion and indignation, narrowness of outlook, and feebleness of thought)を恥ずべき形で証明したものはない。西洋の若者の世代全体が、政治とジャーナリズムの長老たちの言葉と行動(そして無作為)によって道徳的に大人に成長させられ、世界で最も豊かで最も強力な民主政体国家の支援を受けた残虐行為を、ほぼ独力で認識せざるを得なくなった。

パレスティナ人に対するバイデンの頑固な悪意と残酷さは、西洋の政治家やジャーナリストたちが提示した多くのぞっとするような謎の1つに過ぎない。西側諸国の指導者たちにとって、10月7日の戦争犯罪の犯人を追及し、裁きを受けさせる必要性を認めながらも、イスラエルの過激派政権(an extremist regime in Israel)への無条件の支援を差し控えることは簡単だっただろう。それなのに、なぜバイデンは存在しない残虐行為のヴィデオを見たと繰り返し主張したのか? 元人権弁護士の英首相キール・スターマーは、イスラエルにはパレスティナ人から電力と水を差し控え、停戦(cease-fire)を求める労働党員を処罰する「権利がある(has the right)」と主張したのはなぜか? なぜ、西洋啓蒙主義(the Western Enlightenment)の雄弁な擁護者であるユルゲン・ハーバーマスは、自称民族浄化主義者たち(avowed ethnic cleansers)の擁護に飛びついたのか?

アメリカで最も古い定期刊行物の1つである『ジ・アトランティック』誌が、ガザ地区で約8000人の子供たちが殺害された後、「子供たちを合法的に殺すことは可能だ(it is possible to kill children legally)」と主張する記事を掲載したのはどうしてか? イスラエルの残虐行為を報道する際に西側主要メディアが受動態に頼り、誰が誰に、どのような状況下で何を行っているのかが分かりにくくなっているのはなぜか(「ダウン症のガザ地区在住男性が孤独死(The lonely death of Gaza man with Down’s syndrome)」というのが、障害のあるパレスティナ人男性にイスラエル兵が攻撃犬を放ったというBBCの報道の見出しだった)? なぜアメリカの億万長者たちが大学キャンパスでの抗議活動者への容赦ない弾圧を促進するのに協力したのか? 親イスラエルの合意に反抗しているように見えるという理由で、学者やジャーナリストたちが次々と解雇され、芸術家や思想家がプラットフォームを追われ、若者が就職を妨げられたのはなぜか? なぜ西側諸国は、ウクライナ人を悪意ある攻撃から守り保護しながら、あからさまにパレスティナ人を人間の義務と責任の共同体(the community of human obligation and responsibility)から排除したのか?

これらの疑問にどう対処するかに関わらず、私たちは直面している現象を正面から見つめざるを得ない。それは、西側の民主政治体制国家が共同で引き起こした大惨事(a catastrophe jointly inflicted by Western democracies)であり、1945年のファシズムの敗北後に生まれた、人権の尊重と最低限の法的・政治的規範に支えられた共通の人間性という必要な幻想(the necessary illusion that emerged after the defeat of fascism in 1945 of a common humanity underpinned by respect for human rights and a minimum of legal and political norms)を破壊したのだ。

※パンカジ・ミシュラ:インドのエッセイスト、小説家。『怒りの時代: 現在の歴史(Age of Anger: A History of the Present)』、『帝国の廃墟から:アジアを再構築した知識人たち(From the Ruins of Empire: The Intellectuals Who Remade Asia)』など、その他数冊のノンフィクションおよびフィクションの著書がある。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2024年も世界各地で戦争が続いた。ウクライナ戦争は2年以上も経過し、3年目に入ろうとしている。2023年に始まったイスラエルとガザ地区を実効支配するハマスとの戦闘は続いており、加えて、レバノンのヒズボラやイランとの紛争も継続中だ。シリアにおいては10年以上継続した内戦が新たな段階を迎え、50年以上続いたアサド家による独裁体制は終焉したが、シリアの状況は予断を許さない。これらが示しているのは、アメリカの国力が低下し、アメリカが世界の警察官であることを止めたことで、アメリカの力による問題解決ができなくなり、各国は「自力救済」を志向する傾向が出てきたということだ。シリアに関して言えば、イスラエルが一番の受益者ということになる。イスラエルは恐らく、反体制派へ武器と情報の支援を実施し、電光石火のアサド政権崩壊を導いたのだろう。

スティーヴン・M・ウォルトによると、世界政治においては、2つの相反する傾向が存在する。これらの傾向が互いに影響し合うことで、多くの国々が判断を失敗する原因となっている。第一の傾向は、現代兵器の射程、精度、致死性の増大である。過去には、敵に損害を与えるために軍隊を破る必要があったが、今日では強力な国家が数百マイル離れた目標を爆破する能力を持っている。核兵器やミサイルがその代表であり、無人機の使用による遠隔攻撃も増えている。アメリカやロシア、イスラエルはこうした高い能力を保有している。

第二の傾向は、地域のアイデンティティや国家意識の強化である。過去500年の歴史の中で、共通の文化や言語に基づく集団が自らの統治を求めてきた。国家意識が高まると、人々はそのために大きな犠牲を払うことを厭わなくなる。第一の傾向の武器の強靭化をもってしても、人々の意志を挫くことは困難だ。

これら2つの傾向は相反するもので、強力な国家が遠方で破壊的な手段を持つ一方で、地域のアイデンティティが強化されることで、敵対する国民の結束が高まる可能性がある。空爆は民間人の士気を打ち砕くどころか、逆に団結感を育むことが歴史的に示されている。高い攻撃能力を持っていても、それが政治的影響力や戦略的勝利をもたらすことは少ないとウォルトは分析している。私たちが既に見ているように、ウクライナやパレスティナの人々は屈服していない。

単に爆弾を投下することは、根本的な政治的問題の解決にはならないことは明らかだ。特に、イスラエルによるガザ地区への攻撃は、その破壊力が何らかの解決に結びつくとは考えられない。問題を解決するためには、根本的な政治的原因への対処と国民の統治意識を認めることが必要であり、単なる破壊的な力だけでは目的を達成できないことを理解する必要がある。

 アメリカは世界最強の軍事力を誇り、それを背景として、価値観外交を展開し、敵対する国々の体制転換(regime change)を行ってきたが、失敗の連続という結果に終わった。軍隊では問題の根本解決はできないということを考え、アメリカは、軍隊の役割を限定するということが必要になってくる。その根本的な原理となるのが「アイソレイショニズム」であり、「アメリカ・ファースト」だ。

(貼り付けはじめ)

世界の二大潮流は対立している(The Two Biggest Global Trends Are at War

-世界の指導者たちは新たな世界秩序の矛盾を乗り越える術を学ばなければならない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年8月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/06/trends-war-drones-identity-gaza-ukraine-houthis/

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ウクライナのキエフ地方でテスト飛行中のポーランドの偵察用ドローン「フライアイWBエレクトロニクスSA」を打ち上げる軍関係者(2022年8月2日)

ドナルド・トランプやカマラ・ハリスなど、世界のリーダーを目指す人たちが外交政策について私に助言を求めてきたら、喜んで話をしたいことはたくさんある。気候変動、中国との付き合い方、保護主義が愚かな理由、ガザ地区をどうするか、規範の役割、脅威の均衡理論(balance of threat theory)が本当に意味するもの、その他多くのトピックがある。しかし、私はまず、世界政治における2つの相反する傾向に注意を喚起することから始めるだろう。この2つの潮流は、重要な点で互いに対立しており、この2つの潮流がどのように影響し合っているかを理解しなかったために、多くの国々が道を踏み外すことになった。

第一の傾向は、現代兵器の射程、精度、致死性の増大だ。1世紀ほど前、空軍力は初期段階にあり、ロケット弾や大砲は精度が低く、射程も限られていた。敵に多大な損害を与えるには、敵の軍隊を破り、包囲軍で都市を包囲する必要があった。しかし今日、強大な国家は、たとえ目標が数千マイルではなく、数百マイル離れたところにあるとしても、物事を爆破することに非常に熟練している。核兵器と大陸間ミサイルはこの傾向のモデルだが、ありがたいことに、これらの兵器は1945年以来抑止目的のみに使用されてきた。しかし、長距離航空機、弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人機、および精密誘導技術の着実な進歩により、現在では、戦闘員が数百マイル離れた目標を破壊することが可能になっている。一部の非国家主体(イエメンのフーシ派など)さえもこの行為に参加している。

制空権(command of the air)によって、強力な国家は、敵対する軍隊や無力な市民に甚大な損害を与えることができるようになった。アメリカが第一次湾岸戦争の初期に行ったこと、ロシアがウクライナで行っていること、イスラエルが現在ガザ地区で行っていることは、破壊的パワーを投射する能力(ability to project destructive power)が時代とともに飛躍的に高まっていることを示している。このリストに、いわゆる識別特性爆撃(シグネチャーストライク、signature strikes)でテロリストと疑われる人物を殺害したり、イランの精鋭部隊コッズ部隊(Quds Force)のトップであるカセム・スレイマニのような外国高官を暗殺したりするための無人機の使用を加えることができるだろう。先週レバノンでヒズボラの高官フアド・シュクルを殺害したイスラエルの攻撃は、最新の例にすぎない。世界最強の国家にとって、遠隔地で殺傷力を行使する能力はかつてないほど高まっている。また、洗練されたサイバー兵器によって、たとえ標的が地球の反対側にあったとしても、マウスをクリックするだけで相手の重要インフラを攻撃できるようになるかもしれない。つまり、一部の国家にとっては、破壊する能力がグローバルな範囲に広がっている。

二つ目の傾向はまったく異なる。それは、地域のアイデンティティと忠誠心、特に国家としての意識の政治的顕著性(political salience)と粘り強さ(tenacity)の深化だ。以前にも述べたように、「人間は共通の言語、文化、民族性、自己認識に基づいて異なる部族を形成しており、そのような集団は自らを統治できるべきであるという考えが、過去500年の歴史を形作ってきた。多くの人がまだ十分に理解していない形で何年も経っている」。国家意識の広範な出現と、そのような集団が他者に支配されるべきではないという信念が、多国籍のハプスブルク帝国とオスマン帝国がそれぞれ1918年と1922年以降存続できなかった主な理由の1つだ。イギリス、フランス、ポルトガル、ベルギーの植民地がなぜ独立したのか。そして、なぜソ連とワルシャワ条約機構も最終的に解体してしまったのかなどの理由になる。

国家としてのアイデンティティに対する強力な意識が国民の中に根付くと、国家へのより大きな一体感と忠誠心を築くために政府がしばしば奨励するプロセスであるが、国民はますます「想像上の共同体(imagined community)」のために多大な犠牲を払うことを厭わないようになるだろう。北ベトナム人は独立を獲得し国家を統一するために、日本、フランス、アメリカと50年間戦った。アフガニスタンのムジャヒディーンは最終的にソ連に自国からの軍隊撤退を強制し、タリバンの後継者たちはアメリカに同じことをするよう説得した。今日、数と武器で劣るウクライナ人がロシアの侵略に抵抗し続けている一方、パレスティナ人の抵抗とアイデンティティを破壊しようとするイスラエルの努力は、彼らを更に強くするだけのように思われる。

その結果、ある種の矛盾が生じる。強力で技術的に進んでいる先進諸国は、遠距離から他国に損害を与える効果的な手段をますます手に入れているが、この破壊的な能力は永続的な政治的影響力をもたらしたり、意味のある戦略的勝利をもたらしたりすることはない。アメリカは1992年から2010年までイラク上空を制圧し、望むときはいつでも航空機、ミサイル、無人機をイラクの敵国に向けて投入することができた。しかし、その技術的に優れた能力は、アメリカ軍が反政府勢力を排除したり、親イラン民兵組織の影響力を弱めたり、国家の政治的発展を決定したりすることを可能にするものではなかった。

これら2つの傾向、つまり遠く離れた場所で物事を爆発させる能力がますます増大していることと、地元のアイデンティティの頑固な力が相反する理由の1つは、遠隔地攻撃能力を使用すると地元のアイデンティティが強化される傾向があるからだ。初期の空軍力理論家たちは、空爆は民間人の士気を打ち砕き、敵対者を迅速に降伏させるだろうと予測していたが、経験上、民間人に爆弾を投下する方が強力な団結感(sense of unity)と抵抗の精神(spirit of resistance)を育む可能性が高いことを示している。無防備な人々に死と破壊を与えることは、実際、犠牲者の間に共通のアイデンティティの感覚を築くための理想的なるつぼだ。爆弾やミサイルでウクライナのインフラを破壊することには、ある程度の軍事的価値があるかもしれないが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、ウクライナ国民にロシアとの「歴史的団結(historical unity)」を説得するために、これ以上悪い方法を選択することはできなかったはずだ。戦争が最終的にどのように終結しても、彼はウクライナとロシアの間に数十年続く可能性が高い亀裂を生み出した。

なぜ私は、志ある国家指導者たちにこれら2つの傾向について伝えたいのだろうか? なぜなら、強国の指導者たちは、物事を爆破する「衝撃と畏怖(shock and awe)」の能力があれば、弱い国民を従わせることができると考える傾向があるからだ。弱い敵に爆弾を投下したり、ミサイルやドローンを発射したりすることで、自国民へのリスクを最小限に抑えることができるため、これは魅惑的な考えだ。歴史家のサミュエル・モインが主張しているように、指導者は、精度と正確さによって悪者を排除し、民間人を救うことができると自分自身に納得させることさえでき、それによって致死的な武力の使用が良性で承認されやすくなる可能性さえある。もしあなたが何らかの厄介な外交政策問題を抱えている強国であり、自国民に大きなリスクを与えることなくその問題に空軍力を投じることができるのであれば、「何かをする」ことはより魅力的なものとなる。

残念ながら、物事を爆破したり(場合によっては多くの無実の人々を殺害したりすることも)、そもそも紛争を引き起こした根本的な政治的問題には対処できない。過去10カ月にわたってイスラエルがガザ地区に加えた大規模な虐殺を見て欲しい。イスラエルが示した破壊力に疑問を呈する人は誰もいない。今日のガザ地区のヴィデオ映像を見るだけで分かる。しかし、これによってガザ地区やヨルダン川西岸、その他の場所にいる何百万ものパレスティナ人が自身の統治への欲求を放棄することになると本気で信じている人がいるだろうか? もちろん、同じことは逆にも当てはまる。ヒズボラは20年前よりもイスラエルを攻撃する能力が高まっているが、その破壊能力によって条件を決定したり、イスラエルとの紛争を引き起こしている、より深い政治問題を解決したりすることはできない。そして、イスラエルとより広範な地域戦争の危険に晒されている。

私は、現代の航空戦力に価値がないとか、国家が絨毯爆撃(carpet-bombing)やより粗雑な長距離攻撃(cruder forms of long-range attack)に頼らざるを得なくなった方が世界が良くなるなどと言っているのではない。有能な地上軍と組み合わされれば、航空戦力は十分に選択された政治目的を推進する上で極めて効果的である。例えば、アメリカの航空戦力は、イスラム国を、短期間続いたカリフ国から追い出すのに重要な役割を果たしたが、それはイラクとイランの地上軍がその地域を奪還し、平和にするために存在していたからである。

軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツは正しかった。戦争は政治の継続であり、破壊力だけで政治的目的を達成できることはほとんどない。成功するかどうかは、何よりもまず現実的な目的を選択するかどうかにかかっているが、それと同時に、根本的な政治的原因に対処し、各国が自国を統治しようとする意欲を認めるかどうかにもかかっている。勝利への道を空爆で切り開こうと考えるような人間に国家を運営する資格はない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。
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 昨年(2023年)10月7日にガザ地区を実効支配するハマスによる、イスラエルへの攻撃から始まった紛争は1年以上経過しても終息していない。その後、イスラエルはレバノンを拠点とするヒズボラを攻撃するために、レバノンにも侵攻している。また、イエメンのフーシ派にも空爆を加えている。ハマスとヒズボラ、フーシ派を支援するイランとの対決姿勢を鮮明にしている。状況は深刻化していた。その後、レバノンとの間で停戦合意が結ばれているが、中東における戦争の段階が上がり、エスカレーションが進めば、イランとの全面的な対決となり、最悪の場合には核戦争が起きる可能性もある。
 イスラエルは公には認めていないが、核兵器保有国であり、アメリカからの大きな支援を受けて、軍事力でも近隣諸国を圧倒している。そのため、戦術レヴェルでの勝利を得ることは容易い。それぞれの戦いにおいては確実に勝利を収めることができる。しかし、戦略的に見れば、ガザ地区やレバノンにおける民間人の犠牲者が増えるにつれて、イスラエルに対する同情は消え、世界的に見て、批判が高まっている。それは、イスラエルを手厚く支援しているアメリカ国内においてもそうだ。

 あれだけの圧倒的な戦力差がありながら、イスラエルは常に不安定な状況に置かれている。大きな武力が屁のツッパリにもなっていないということになる。更に、これまでは、同情される面もあったが、昨年からのガザ地区やレバノンでの戦争によって、孤立感を深めている。アメリカが仲介してのサウジアラビアとの国交正常化交渉は頓挫したままだ。サウジアラビアは、中国の仲介もあり、イランとの国交正常化を行っている。中東において、イスラエルとアメリカが孤立感を深め、主要なプレイヤーとしての役割を果たせなくなりつつある。イスラエルは戦術レヴェルでの勝利を収めても、戦略レヴェルでの勝利を収めていないということになる。

 現在のイスラエルの指導者であるベンヤミン・ネタニヤフ首相は、どのように戦争を終結させるのか、どのように現状から自国の利益につなげていくのかというヴィジョンがはっきりしない。戦争を拡大させて、自分の政権が存続することを第一と考えているように見える。これはイスラエルにとって非常に危険なことだ。戦時内閣ということで、批判を受けにくいということもあるだろうが、イスラエルは、自国の利益のために、ネタニヤフ首相の更迭を行うべきであろう。

(貼り付けはじめ)

中東におけるイスラエルの「任務完了」の瞬間(Israel’s ‘Mission Accomplished’ Moment in the Middle East

-ベンヤミン・ネタニヤフはジョージ・W・ブッシュと同じ大きな過ちを犯しているかもしれない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年10月2日
『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/10/02/israel-netanyahu-lebanon-iran-gaza-strategy-mission-accomplished/

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ハイファ港に停泊中の米空母ジョージ・H・W・ブッシュを訪問し、アメリカ兵と話すイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2017年7月3日)

2003年5月1日、ジョージ・W・ブッシュ米大統領はかっこいいフライトスーツを身にまとい、S-3ヴァイキング機に乗り込み、空母エイブラハム・リンカーンに着艦した。「任務完了(Mission Accomplished)」と書かれたバナーの下に立ち、イラクにおける主要な戦闘作戦の終了を宣言した。「アメリカと同盟諸国は勝利した」と誇らしげに宣言した彼の支持率は急上昇し、戦争を仕組んだネオコンたちは、その大胆さと英知(boldness and wisdom)を自画自賛した。しかし、イラクの状況はすぐに悪化し、ブッシュ大統領のイラク侵攻の決断は戦略的な大失策であったと今では誰もが考えている。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とその支持者たちが、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスルラと過激派組織のトップ指導者の多くの暗殺で頂点に達した(しかし終わっていない)イスラエルによる最近のレバノン攻撃を祝っているのを見ながら、私はあの事件のことを思い出した。過去1年間、ネタニヤフ首相は、ハマスのイスラエル攻撃から始まった戦争を容赦なく延長、拡大させながら、国防大臣、国内の敵対者グループ、ハマスに今も拘束されているイスラエル人人質の家族、そしてバイデン政権に反抗してきた。かつて、「創業国家(start-up nation)」ともてはやされたイスラエルは、今では「物事を爆発させる国家(blow-things-up nation)」となっており、ネタニヤフ首相はイスラエルの敵対者たちに、イスラエルの手の届かないところは何もないことをすぐに思い出させた。イスラエル軍と諜報機関が複数の敵対者に与えた損害(その過程で数万人の民間人が殺害された)を考えれば、ネタニヤフ首相が勝利の歩みを進めていたことは驚くべきことではない。ブッシュがそうであった。

過去数週間にわたるイスラエルの行動が驚くべき戦術的成果であったことには疑問の余地はない。イスラエル諜報機関は、優れた信号情報とヒズボラの組織構造の亀裂、さらには最高指導者によるいくつかの不可解なミスを利用し、ヒズボラが通信に使用していたポケベルやトランシーバーをブービートラップにする複雑かつ大胆な計画を見事に成功させた。ガザ地区での場合と同様、イスラエル国防軍は、アメリカが提供した最新兵器を使用してナスルラを殺害し、レバノン全土に大規模な被害を与え、ヒズボラのロケット弾とミサイル能力を部分的に低下させた。イスラエル空軍はこれに続いてイエメンのフーシ派を攻撃し、イスラエル地上軍は現在レバノン南部に進入しており、イランは間違いなく最近のミサイル攻撃に対するイスラエルの報復に直面するだろう。ネタニヤフ首相とその極右閣僚たちはまた、「大イスラエル(Greater Israel)」を創設するための長期キャンペーンの一環として、戦争(とそれに対するアメリカの無関心な対応)を利用して、占領下のヨルダン川西岸地区での暴力と土地接収を強化している。

ネタニヤフ首相が全勝で戦争を終わらせ、地域のバランス・オブ・パウア(balance of power、勢力均衡)を恒久的にイスラエルに有利な方向にシフトさせることを、何が止めるだろうか? 戦術的な成果が戦略的な成功を保証するわけではないが、十分な成果を上げることができれば、重要かつ永続的な方法で戦略的環境を変えることができるかもしれないと主張することはできる。ネタニヤフ首相はそれを目指しているが、成功するかどうか疑わしい理由がある。

始めに、イスラエルがいわゆる抵抗の枢軸(Axis of Resistance)に与えたダメージは、抵抗の勢力を解散に追い込む、もしくは、白旗を揚げる原因にはならないだろう。ヒズボラ、ハマス、フーシ派、イランはいずれも過去に強力な打撃を受けて生き延びてきた。更に、昨年の様々な出来事の発生によって、彼らの報復の希望はどんどんと大きくなっている。奇妙なことだが、大量の爆発物を人々に投下しても、彼らを打ち負かすことはできないようだ。あるいは少なくともいじめる相手を止めさせる能力を切望するようになる。ヒズボラは今もイスラエルに向けてロケット弾やミサイルを撃ち続けており、北部に避難している約6万人のイスラエル人が帰還できないようになっている。暗殺された指導者たちは、既に入れ替わり、幹部組織は再建され、再武装され、彼らが学んだことに基づいて新しい戦術が開発されるだろう。イスラエルは現在、これを防ごうとレバノン南部に再び軍隊を派遣しているが、以前のレバノン南部への侵攻は良い結果をもたらさなかった。

イスラエルの手による虐待が問題の根源であるパレスチナ人については、イスラエルが自分たちにしていることに抵抗し続ける以外に選択肢はない。もしイスラエルが彼らに魅力的な代替案、たとえば自分たちの国家や大イスラエル内での平等な権利などを提供していれば、状況は変わっていたかもしれないが、ネタニヤフ首相はそうした可能性を閉ざしてしまった。エジプトのアンワル・サダト大統領はイスラエルと和平を結び、エジプトはシナイ半島を取り戻した。PLOはイスラエルと和平し、さらにイスラエルの違法入植地(illegal Israeli settlements)を手に入れた。現在、イスラエルがパレスチナ人に提示している唯一の選択肢は、追放、絶滅、または永続的なアパルトヘイト(expulsion, extermination, or permanent apartheid)であり、戦わずしてそのような運命を受け入れる国民はいない。従って、イスラエルの存在を受け入れ、実行可能な国家を得ることを期待してイスラエルに協力し、何の見返りも得られなかったパレスチナ自治政府が、パレスチナの人々の間で人気を失う一方で、ハマスへの支持が高まっているのも不思議ではない。

同様に、アリ・アクバル・ハシェミ・ラフサンジャニ大統領とハッサン・ルーハニ大統領のもとで、イランがアメリカ(ひいてはイスラエル)との関係を改善しようと時々行ってきた努力は、イスラエルとその支持者であるアメリカによって断固として阻止された。特に、2018年にイランの核プログラムを厳しく制限する画期的な協定である「包括的共同行動計画」を放棄するよう、騙されやすいドナルド・トランプ大統領を説得したときはそうだった。こうした対応はイラン強硬派の力を強め、イランの新大統領が緊張を緩和させたいと繰り返し表明しているにもかかわらず、この地域の現在の危機も同じことをするだろう。ハマスの政治指導者イスマイル・ハニヤが7月にテヘランで暗殺されたことを含め、イスラエルが地域の同盟諸国を衰弱させたり排除しようとしたりする動きに対して、イランはイスラエルに向けてミサイルを発射することで対抗した。

残念なことに、こうした出来事によって、イランの指導者たちが潜在的な核兵器保有国であることを超えて、イランの核兵器保有を決断する可能性が高まっている。そのような決断をすれば、全面的な地域戦争(all-out regional war)に発展する可能性が高くなるが、イスラエルは究極の抑止力(ultimate deterrent)を欲しがるイランにさらなる刺激を与え続けている。もしそうなれば、イスラエルの最近の成功は驚くほど近視眼的(shortsighted)に見えるだろう。

イスラエルの最近の行動は、地政学的な孤立を深め、最終的にはアメリカとの特別な関係を危うくするかもしれない。10月7日の攻撃後、イスラエルが当然享受していた同情は、ガザ地区やレバノンの民間人に加えられた殺戮を世界が見るにつれて消え失せている。国際司法裁判所はイスラエルのヨルダン川西岸地区占領を国際法違反と宣言し、ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント国防相は、戦争犯罪と人道に対する罪で国際刑事裁判所から逮捕状を請求されるかもしれない。サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国による承認は保留され、グローバル・サウス諸国の多くが反対を表明し、ヨーロッパ各国政府はますます苛立ちを募らせている。先週の国連総会でのネタニヤフ首相の演説に反対するデモ行進は、象徴的なジェスチャーではあったが、彼とイスラエルが多くの人々からどう見られているかを反映していた。

ネタニヤフ首相と支持者たちは、バイデン政権からの無制限の援助や、ネタニヤフ首相の米連邦議会演説でのスタンディングオベーション、アメリカ軍からの積極的な支援、大学キャンパスやその他の場所でのイスラエル・ロビーによる批判の抑圧の成功を慰めにするかもしれない。これらも短期的な戦術的成功であり、危険な反動を引き起こす可能性がある。多くの人はいじめられることを好まない。イスラエルの行動に対する正当な批判を封じ込めることを意図した言論統制やその他の規制の実施は、多くの憤りを生むだろう。特に、暴力と民族浄化の大量虐殺キャンペーンを展開している国を守るために、露骨かつ公然と行われている場合はなおさらだ。

更に言えば、イスラエルの行動がより広範な地域の戦争につながり、アメリカがそれに巻き込まれることになれば、アメリカ人は「特別な関係(special relationship)」の価値を真剣に疑うかもしれない。イラクのサダム・フセインを倒そうというネオコンのキャンペーンは、イスラエルをより安全にしたいという願望に触発された部分もあった(だからこそ、アメリカ・イスラエル公共問題委員会やネタニヤフ首相のようなイスラエルの指導者たちは、ブッシュ政権がこの戦争を売り込むのを助けたのだ)が、戦争が起きた理由はそれだけではないし、イスラエルもイスラエル・ロビーも非難されることはなかった。しかし、もしアメリカがまた中東戦争で兵士や船員を失い始めたら、アメリカから金と武器を受け取り、好き勝手なことをする、いつまでも恩知らずな保護国(client state)のためにアメリカ人を危険に晒していると、広く正しく見なされるだろう。さらに、ジョー・バイデン大統領とアントニー・ブリンケン国務長官の不手際が原因で、11月の選挙でカマラ・ハリスが落選するようなことがあれば、民主党も共和党も、反射的にイスラエルを支持することが今でも賢明な政治姿勢なのかどうか疑問を持ち始めるだろう。そして、もしこのようなことが起これば、アメリカ国内のイスラエル支持者に対する反発のリスクは高まるだろう。アメリカにおける反ユダヤ主義の台頭を心配するのであれば、大学キャンパスでの無害なデモよりも、その可能性の方がはるかに怖いはずだ。

最後に、イスラエル自身への影響である。107日の余波で、イスラエル国民はネタニヤフ首相(彼の決断がイスラエルをハマスの残忍な攻撃に無防備な状態にした)を見捨てて、国を正常な状態に戻す機会を得た。しかし、それは実現せず、ネタニヤフ首相の最近の戦術的成功は、イスラエルの未来について熱烈に宗教的でメシア主義的なヴィジョンに基づく政策をとる右翼過激派とともに、彼の政治的立場を強化している。穏健で世俗的なイスラエル人は、近年の経済を支えてきたハイテク部門の中心的存在であるが、ベザレル・スモトリッチ財務相のような人物が作りたがっているイスラエルに住むことを避けるため、離脱を続けるだろう。すでに50万人以上のイスラエル人(つまり人口の約5%)が海外に住んでいる。調査によれば、彼らの80%は戻るつもりはない。『ワシントン・ポスト』紙は、イスラエル経済が「深刻な危機に瀕している」と報じているが、こうした傾向はさらに強まるだろう。イスラエルの大学は国の宝であるが、外国人留学生の激減が報告されており、これはイスラエルのイメージ低下のさらなる兆候であると同時に、将来の科学的進歩への打撃でもある。要するに、ネタニヤフ首相の短期的な成果は、イスラエルの長期的な将来を危うくする傾向を強めているのだ。

人生は不確かなものだ。政治の世界では特にそうだ。しかし、数週間前にも書いたように、一見、軍事的、政治的に圧勝したように見えても、時間の経過とともに深い問題の種が芽生えることがある。成功するリーダーの課題は、一時的な優位性を利用して長期的な利益を確保することである。しかし、そのためには、いつ立ち止まり、いつ戦いから紛争解決へとシフトするかを知る必要がある。悲しいかな、ネタニヤフ首相にそのようなスキルがある気配はないし、身につけようという考えも全く持っていない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Xアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。
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 2023年10月7日に、ガザ地区を実効支配しているイスラム政治・軍事組織ハマスがイスラエル側を攻撃し、約1200人が死亡し、200人以上が人質となった。イスラエルは報復として、ガザ地区に侵攻し、約4万人が死亡した。イスラエルはレバノンのイスラム武装組織ヒズボラへも攻撃を加えており、中東地域の不安定さは増している。イスラエルは、ハマスとヒズボラを支援するイランとも緊張を高めている。イランの核開発の進行状況によっては、中東地域での核戦争の可能性ということまで考えられる。イスラエルは、イラン政府中枢にまで情報提供者、スパイを配置しており(ハマスの最高幹部イスマーイール・ハニーヤ政治局長をテヘランで爆殺しており、これはイラン政府中枢に相当な確度の情報提供者がいることを示している)、イランの核開発は進んでおらず、核戦争までは進まないという判断を下している可能性もあるが、そのような危険性があるということだけでも、国際政治においては大きな要素になる。

 イスラエルのガザ地区やレバノンへの攻撃に対して、世界各国で反感が高まっている。アメリカの各キャンパスでの抗議活動の激化は、イスラエルを支え続けてきたアメリカの外交政策にも影響を及ぼすことになった(民主党のジョー・バイデン政権は弱腰と見られるような状況になった)。また、イスラエルはアメリカの意向に沿わない形で、中東地域での戦争の段階を拡大しているように見える。現在の戦時内閣を率いるベンヤミン・ネタニヤフ首相は戦争がない状態であれば、自身と家族の汚職問題で辞任を迫られ、裁判となり、有罪判決を受ける可能性が高いと言われている。戦争が続く限り、個人としては逮捕されるような心配はない。そのような極めて個人的な利益のために、戦争を利用しているとすれば言語道断だ。また、イスラエルの一種の「傲慢さ」に関して、世界各国で反感が高まっている。

 ハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルト教授は、イスラエルの建国からの歴史を検討し、イスラエルの戦略的洞察力が落ちていることが、イスラエルを危険にさらしていると主張している。建国からしばらくの間のイスラエルの首脳陣は非常に慎重な行動をし、戦略的に動いていた。しかし、1967年の第三次中東戦争での大勝利から、そのような慎重さが失われていったと分析している。ウォルトは次のように書いている。

「イスラエルの戦略的洞察力(Israeli strategic acumen)の劇的な低下について説明するものは何か? 重要な要因の一つは、アメリカの保護(U.S. protection)とイスラエルの意向への服従(deference to Israel’s wishes)から来る傲慢さと免罪符の感覚(sense of hubris and impunity)である。世界最強の国が何をやっても支援してくれるのであれば、自分の行動を慎重に考える必要性は必然的に低下する。加えて、イスラエルが自らを被害者とみなし、自国の政策への反対をすべて反ユダヤ主義(antisemitism)のせいにする傾向は、イスラエルの指導者やその国民が、自らの行動がどのように敵意を引き起こしているのかを認識することを難しくしているからだ。ネタニヤフ首相がイスラエルで最も長く首相を務めていることも、問題の一因となっている。特に彼の行動は、自国にとって何が最善であるかという懸念だけでなく、私利私欲(汚職による服役を避けたいという願望)によって引き起こされている部分が大きいからだ。それに加えて、宗教右派(religious right)の影響力の増大がある」。

 私は常々、「勝利は敗北の始まりである」という考えを持っている。特に大勝利は、後の敗北につながることが多いと考えている。引用したように、イスラエルは第三次中東戦争以降に、慎重さを失い、結果として、自国の立場を悪くする選択を行っている。それが、現在の状況までつながっているということになる。傲慢さは人間にとって宿痾である。そして、成功や勝利によって浮かれてしまうのもまた人間の性(さが)である。

(貼り付けはじめ)

イスラエル戦略の危険な衰退(The Dangerous Decline in Israeli Strategy

-数十年にわたり、シオニスト・プロジェクトは自らを守るのが下手になっている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年8月16日
『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/16/the-dangerous-decline-in-israeli-strategy/

benjaminnetanyahu201
イェルサレムのヘルツェル山で行われた故ゴルダ・メア元首相の国家追悼式典でスピーチするイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2018年11月18日)

イスラエルは深刻な問題を抱えている。国民は深く分裂しており、この状況が改善する見通しはない。ガザ地区では勝ち目のない戦争に巻き込まれ、軍部には緊張の兆候が見られ、ヒズボラやイランとのより広範な戦争の可能性も残されている。イスラエル経済は大きな打撃を受けており、『タイムズ・オブ・イスラエル』紙は最近、6万もの企業が今年閉鎖される可能性があると報じた。

更に言えば、イスラエルの最近の行動は、その世界的なイメージを著しく損ない、かつては想像もできなかったような形で孤立国家(pariah state)となりつつある。2023年10月7日のハマスの残忍な攻撃の後、イスラエルは世界中から相当なそして適切な同情の声を受け、イスラエルには強い対応する権利があると広く受け入れられていた。しかし、それから10カ月以上が経過し、イスラエルはガザ地区でパレスティナ人に対する大量虐殺キャンペーンを展開し、ヨルダン川西岸地区では入植者による暴力が強まっている。国際刑事裁判所の主任検察官は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアヴ・ギャラント国防相に対し、戦争犯罪と人道に対する罪の容疑で逮捕状を申請した。国際司法裁判所は、イスラエルの行動は本質的にも意図的にも大量殺戮的であるとする予備的所見を発表し、裁判所はついに、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区、東エルサレム地区に対するイスラエルの占領と植民地化が明白な国際法違反であると宣言した。

ガザ地区で起きていることを見て、おぞましくはないにせよ、深く悩まずにいられるのは、シオニズムを擁護する最も頭の固い人たちだけだろう。イスラエルの行動に対するアメリカ国内の支持率は急激に低下しており、若いアメリカ人(多くの若いアメリカ系ユダヤ人を含む)は、イスラエルの行動に対するバイデン政権の杓子定規な対応に反対している。イスラエルの国家安全保障会議の元副議長エラン・エツィオンのこのツイートを読めば、イスラエルが自らに与えたダメージの大きさがよくわかるだろう。そして、世界有数のジェノサイド研究者である歴史家オメル・バルトフが最近イスラエルを訪問した際の記録を読めば、この問題が、いかに深刻かが分かるだろう。

これら全ての問題をネタニヤフ首相のせいにしたくなる誘惑に駆られるが、彼は確かに国内外から受けた批判に値する。しかし、全ての責任をビビ(ネタニヤフ)に押しつけることは、より深い問題、つまり、過去50年間にイスラエルの戦略的思考が徐々に損なわれていることを見落とすことになる。建国後の最初の20年間におけるイスラエルの功績と戦術的卓越性は、1967年以来のイスラエルの重要な戦略的選択がどの程度その安全保障を損なうのに役立ったかを、特に高齢者の間で曖昧にする傾向にある。

初期のシオニストとイスラエル第一世代の指導者たちは、鋭い戦略家だった。1900年当時のパレスティナにおけるユダヤ人人口はごくわずかで、1948年にイスラエルが建国された時点でもまだ少数派であったにもかかわらず、彼らはアラブ世界の真ん中にユダヤ人国家を建国するという、不可能に近いと思われたことに挑戦した。建国者たちは冷酷なまでに現実的であること(ruthlessly realistic)によって成功した。有利な機会を利用し、有能な準軍事組織(のちに一流の陸軍と空軍も)を構築し、世界の支配的な大国からの支持を勝ち取るために努力を重ねた。たとえば、ソ連も米国も1947年の国連分割計画を支持し、イスラエル建国直後に承認したことは記憶に新しい。ダヴィド・ベン=グリオンとその仲間のシオニスト指導者たちは、自分たちの最終的な目標に近づけるのであれば、少なくとも一時的には、長期的な目標に届かない取り決めも喜んで受け入れた。

国家の地位を獲得すると、新政府は執拗なハスバラ(hasbara、プロパガンダ)を通じて国際的な支持を獲得し、フランス、南アフリカ、その他いくつかの国との協力同盟を築くために熱心に取り組んだ。最も重要なことは、主に「イスラエル・ロビー(Israel lobby)」の力と影響力の増大に基づいて、アメリカとの「特別な関係(special relationship)」を確立したことである。イスラエルの初期の指導者たちは、敵対的な大国に囲まれた小国が国際的な支持を得るには慎重に計算し、多大な努力をしなければならないことを理解していた。巧妙な外交と少なからぬ欺瞞は、イスラエルが秘密裏に核兵器を開発し、イスラエル建国の残酷な現実を隠すのにも役立ったが、この事実はベニー・モリス、イラン・パッペ、アヴィ・シュライム、シンハ・フラパン、そして1980年代の他の「新しい歴史家」たちの業績によって広く知られるようになった。

完璧な政府など存在しないし、イスラエルの初期の指導者たちも時には過ちを犯した。ベン・グリオンは、1956年のスエズ危機でイギリス、フランスと結託してエジプトを攻撃し、イスラエルが軍を撤退させない可能性を示唆したときに過ちを犯した。しかし、ドワイト・アイゼンハワー政権がそのような不当な拡大を容認しないと明言すると、彼はすぐにその姿勢を捨てた。しかし、全体的に見れば、初期のシオニスト国家の戦略的洞察力(strategic acumen of the Zionist state in its early days)は、特に敵対国と比較した場合、印象的であった。

ターニングポイントとなったのは、1967年のアラブ・イスラエル戦争(第三次中東戦争)におけるイスラエルの圧勝だった。その結果は、当時見られたような奇跡的なものではなかったが(とりわけ、アメリカの諜報機関はイスラエルが容易に勝利するだろうと予測していた)、この勝利のスピードと規模は多くの人々を驚かせ、それ以来イスラエルの戦略的判断を損なう傲慢さを助長した。

思慮深いイスラエルの学者たちが繰り返し主張してきたように、主な誤りは、「大イスラエル(Greater Israel)」を創造する長期的な努力の一環として、ヨルダン川西岸地区とガザ地区を保持し、占領し、徐々に植民地化するという決定を下したことだった。ベン・グリオンとその支持者たちは、新しいユダヤ人国家内のパレスティナ人の数を最小限に抑えようとしていたが、ヨルダン川西岸地区とガザ地区を維持することは、イスラエルが、イスラエル系ユダヤ人の人口とほぼ同規模に急増しているパレスティナ人の人口を管理することを意味した。この結果、一般に「占領(occupation)」と呼ばれるように、イスラエルのユダヤ人としての性格と民主政治体制との間に避けがたい緊張関係(unavoidable tension between Israel’s Jewish character and its democratic system)が生まれた。それは、パレスティナ人の政治的権利を抑圧し、アパルトヘイト体制(apartheid system)を構築することによってのみ、ユダヤ人国家であり続けることができるということであった。イスラエルは、更なる民族浄化(ethnic cleansing)や大量虐殺(genocide)によってこの問題に対処することもできたが、どちらも人道に対する罪(crimes against humanity)であり、イスラエルの真の友であれば誰もそのようなことを支持することはできない。

大イスラエルの追求という決断の後には、すぐに別の過ちが生じた。イスラエルの指導者たち(そしてヘンリー・キッシンジャーを含むアメリカの指導者たち)は、エジプトのアンワル・サダト大統領が1967年にイスラエルが占領したシナイ半島の返還と引き換えに和平を結ぶ用意があるという兆候を見逃した。加えて、イスラエルの諜報機関は、エジプト軍がシナイ半島でイスラエル国防軍(Israeli Defense ForceIDF)に対抗するには弱すぎると誤って判断し、戦争まで進むのを思いとどまった。この誤った判断の結果が、1973年の第四次中東戦争だった。当初の挫折にもかかわらず、イスラエルは戦場では勝利を収めたが、戦後の交渉のテーブルでは勝利を収めることはできなかった。戦争の犠牲とアメリカからの圧力が相まって、イスラエルの指導者たちはシナイ半島を放棄するための真剣な交渉を始めるよう説得された。この転換は、やがてサダトの歴史的なエルサレム訪問、キャンプ・デイヴィッド合意、そしてその後のエジプト・イスラエル和平条約(当時のジミー・カーター米大統領の粘り強い巧みな仲介による)につながった。残念なことに、当時のメナヘム・ベギン首相は大イスラエルの目標に深く傾倒し、占領を終わらせようとはしなかったため、パレスティナ問題に真剣に取り組むこの有望な機会を逃してしまった。

戦略的判断が損なわれていることを示す次の明確な兆候は、1982年のイスラエルによるレバノン侵攻であった。この計画は、タカ派のアリエル・シャロン国防相の発案によるもので、レバノンに軍事侵攻すれば、レバノンでかなりの勢力をもっていたパレスティナ解放機構(Palestine Liberation OrganizationPLO)を掃討し、ベイルートに親イスラエル政権を樹立し、イスラエルにヨルダン川西岸地区での自由裁量(free hand)を与えることができるとベギン大統領を説得した。この侵攻は短期的には軍事的に成功したが、レバノン南部をイスラエル国防軍が占領することになり、それがヒズボラの創設につながった。PLOをレバノンから撤退させても、パレスティナの抵抗は止まらなかった。それどころか、1987年の第一次インティファーダへの道を開き、パレスティナ人が祖国を離れたり、イスラエルの恒久的な支配に服したりするつもりはないというもう一つの明確なサインとなった。

先見の明のあるイスラエル人は、パレスティナ問題が消えることはないと認識していたが、歴代のイスラエル政府は問題を悪化させるような行動をとり続けた。たとえば、PLOは1993年に最初のオスロ合意に調印してイスラエルの存在を受け入れたが、イスラエルの指導者がパレスティナ人に独自の国家を提供することはなかった。2000年のキャンプ・デイヴィッド・サミットでエフード・バラク首相(当時)が提示した寛大と思われる提案は、それまでのイスラエルのどの提案よりも進んでいたが、それでもパレスティナ人に実行可能な国家を与えるにはほど遠いものだった。イスラエルが提示した最善の案は、ヨルダン川西岸地区に2つか、3つの独立した非武装の州(separate and demilitarized cantons)を作り、イスラエルがその新しい州の国境、領空、水資源を完全に管理するというものだった。これでは実行可能な国家と言えず、ましてや正当なパレスティナの指導者が受け入れられるものでもなかった。シュロモ・ベン=アミ元イスラエル外相が後に、「私がパレスティナ人だったら、キャンプ・デイヴィッドを拒否していただろう」と認めたのも不思議ではない。

パレスティナ人と和平を結ぶには、イスラエルが占領地での入植地の拡大を止め、パレスティナ人と協力して、有能で効果的で合法的な政府を樹立する必要がある。ところが、イスラエルの指導者たち、とりわけシャロンとネタニヤフに率いられた政権は、その反対のことをしてきた。入植地の拡大を止めようとせず、ハマスへの支援を黙認してでもパレスティナ人を弱体化させ、分断させようとし、二国家解決(two-state solution)を達成しようとするアメリカの努力を何度も妨害した。その結果、破壊的だが決定的ではない衝突が繰り返された(2008年から2009年の「キャスト・リード」作戦[Operation Cast Lead]や2014年の「プロティクティヴ・エッジ」作戦[Operation Protective Edge]など)。しかし、こうした「草刈り(mow the grass)」の繰り返しはパレスティナの抵抗に終止符を打つことはなく、最終的には10月7日のハマスの越境攻撃という、ここ数十年でイスラエルに与えた最悪の打撃に至った。

イスラエルの戦略的近視眼(Israeli strategic myopia)の最新の例は、イランの核開発計画の制限を交渉する国際的な取り組みに対するイスラエルの熱烈な反対である。イスラエルは戦略的理由から、中東で核兵器を保有する唯一の国であり続けることを望んでおり、地域の最大の敵であるイランが核兵器を取得するのを望んでいない。したがって、アメリカと世界の他の主要国がイランに2015年の包括的共同行動計画への署名を説得したとき、ネタニヤフ首相と他のイスラエル指導者は喜び、安堵したはずだ。それはなぜか? なぜなら、イラン政府に対し、濃縮能力を削減し、濃縮ウランの備蓄を縮小し、国際原子力機関からの非常に立ち入った査察を受け入れることを要求し、それによってイランの爆弾が10年、あるいはそれ以上手に入らなくなる可能性があるからだ。イスラエルの安全保障高官の多くは賢明にもこの合意を支持したが、ネタニヤフ首相とその強硬派支持者、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(American Israel Public Affairs CommitteeAIPAC)やアメリカのイスラエル・ロビーのタカ派グループは断固として反対した。これらの強硬派は2018年に当時のドナルド・トランプ大統領に核合意から離脱するよう説得する上で重要な役割を果たしており、現在イランはこれまで以上に爆弾製造に近づいている。これほど近視眼的なイスラエル政策を想像するのは難しい。

イスラエルの戦略的洞察力(Israeli strategic acumen)の劇的な低下について説明するものは何か? 重要な要因の一つは、アメリカの保護(U.S. protection)とイスラエルの意向への服従(deference to Israel’s wishes)から来る傲慢さと免罪符の感覚(sense of hubris and impunity)である。世界最強の国が何をやっても支援してくれるのであれば、自分の行動を慎重に考える必要性は必然的に低下する。加えて、イスラエルが自らを被害者とみなし、自国の政策への反対をすべて反ユダヤ主義(antisemitism)のせいにする傾向は、イスラエルの指導者やその国民が、自らの行動がどのように敵意を引き起こしているのかを認識することを難しくしているからだ。ネタニヤフ首相がイスラエルで最も長く首相を務めていることも、問題の一因となっている。特に彼の行動は、自国にとって何が最善であるかという懸念だけでなく、私利私欲(汚職による服役を避けたいという願望)によって引き起こされている部分が大きいからだ。それに加えて、宗教右派(religious right)の影響力の増大がある。宗教右派の外交政策に対する救世主を求めるような見解は、最近『ハーレツ』の冷ややかな記事に要約されている。どの国でも、終末予言や神の介入を期待して戦略的決定を下すようになったら、要注意だ。

なぜそれが重要なのか? なぜなら、アメリカが9月11日の事件への対応で示したように、戦略的選択肢について知的に考えていない国は、自国にも他国にも大きな害を及ぼす可能性があるからだ。イスラエルの行動はイスラエル自身の長期的な展望を脅かすものであり、イスラエルの明るい未来を望む者は、その戦略的判断力の低下を特に懸念すべきである。イスラエルの復讐心に満ちた近視眼的な行動は、何十年もの間、罪のないパレスティナ人に甚大な被害を与え続け、現在もなおそうしている。不安定で思慮の浅い相手と密接に結びついていることは、アメリカにとっても深刻な問題である。時間、注意力、資源を浪費し続け、アメリカを無能かつ偽善的に見せるからだ。また、反米テロリズムの新たな波を刺激する可能性もあり、その結果もたらされるであろう損害は明らかだ。

残念なことに、この状況をどのように打開するかも明らかではない。アメリカのイスラエル支持者にできる最善のことは、民主党と共和党の双方に圧力をかけ、ユダヤ国家に厳しい愛情(tough love)を注ぎ、現在の軌道を再考させることである。もちろん、そのためにはAIPACのようなロビー団体が、イスラエルを現在の苦境に導いた自らの役割を反省する必要がある。残念ながら、それがすぐに実現する兆しはない。それどころか、イスラエルとその支持者であるアメリカは、さらに手をこまねいている(doubling down)。これは、大惨事(disaster)とまではいかなくとも、終わりのないトラブルの処方箋である。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Xアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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