古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:ヒズボラ

 古村治彦です。

 2026年6月14日、アメリカとイランは停戦を60日間延長する覚書の内容に合意したと発表した。停戦期間中に核開発に関する交渉が継続される。ホルムズ海峡については開放されるようだが、イラン側が強く主張してきた管理権と通行料徴収については撤回されたのかどうかが明確になっていない。覚書への署名は金曜日に実施されるが、それまでにどうなるか、また、覚書で定められた60日間の間で不測の事態が発生して、停戦が破られるということも考えられる。予断を許さない状況だ。喜んでばかりもいられない。

 覚書には、全ての戦線で戦闘が停止されるとある。これにはレバノンも含まれるとなっている。イスラエルはレバノン南部への攻撃を続けている。レバノンを拠点とする親イランのシーア派組織ヒズボラを弱体化させるための攻撃であるが、レバノン国内に大きな被害が出ている。イランはイスラエルのレバノン攻撃が停止されなければ交渉は行わないという姿勢を見せてアメリカを揺さぶった。ドナルド・トランプ大統領はこの揺さぶりを受けて、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に停戦を迫った。非常に激しい、外交の場ではまず使われない言葉でネタニヤフ首相を批判した。ネタニヤフ首相は仕方なく一時停戦したが、合意直前にレバノン攻撃を再開し、それに対して、イランがイスラエルへの攻撃を準備し、和平交渉でアメリカ側は攻撃停止を求めて奔走した。結果としてはイランからのイスラエル攻撃は実施されなかったが、イスラエルが合意に悪影響を及ぼす存在であり、合意の成否のカギを握る存在になっている。

 イラン戦争はトランプの戦争ではなく、ネタニヤフの戦争であった。アメリカ側がイランに対して差し迫っての脅威を感じての攻撃ではなかった。イスラエルが中東地域で支配的な地位を確立するための戦争であった。イスラエル単独ではイランに大打撃を与えられないので、アメリカを巻き込むしかなかった。そのためには、浅慮で単純なトランプは格好の標的であった。トランプ政権ではトランプとピート・ヘグセス国防長官以外は反対したイラン戦争はトランプの決断によって開始された。そして、政権幹部たちが揃って予想していた通りに見事に失敗した。トランプはネタニヤフに騙されて、誤った戦争を開始して、イランや世界の人々に対して苦しみを与えた責任がある。ネタニヤフは自身が裁判を回避するために、イスラエルをひたすら戦争状態に置き続け、こちらも世界の人々に苦しみを与えているという責任がある。トランプはイラン戦争の責任をネタニヤフにおっかぶせようとしているが、トランプの責任がそれで消える訳ではない。

 イスラエルがアメリカとイランの停戦合意の覚書の成否のカギを握っているということになる。この戦争を終わらせるかどうかはネタニヤフにかかっているということになる。ネタニヤフにとってはアメリカがイラン戦争と中東地域への責任から抜けられないようにして、戦争が続くことが最良である。それは、世界にとっては最悪であるが。トランプは自分では終わらせることができない戦争を始めてしまった。その不明は万死に値する。1日も早い引退こそが望ましい。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプは自分ではコントロールできない戦争を始めた(Trump Started a War He Can’t Control)

-トランプはイラン戦争を終わらせたい。しかし、イラン、イスラエル、そしてヒズボラはそれぞれが別の考えを持っている。

ジョン・ホルティワンガー筆

2026年6月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/08/trump-israel-lebanon-iran-netanyahu-cease-fire-peace-negotiations/

ドナルド・トランプ米大統領は、数カ月にわたる和平合意に向けた努力が失敗に終わった後も、依然として主導権を握っていると主張しているにもかかわらず、イラン戦争において傍観者のような立場に追いやられている。自分が事態を掌握しているかのように見せかけ、現場の複雑な現実を否定することで、合意はますます困難になっている。

トランプ大統領が戦争の方向性を決定づける能力が限られていることは、4月初旬に停戦が始まって以来初めてイスラエルとイランが交戦した昨夜の出来事によって明らかになった。トランプ大統領が「不満だ(not happy)」と述べた日曜日のイスラエルによるベイルート攻撃の後、イランはイスラエルに向けて弾道ミサイルを発射した。イランのミサイルは迎撃され、死傷者やインフラへの被害は報告されていない。イランのミサイル攻撃後、トランプ大統領は事態を掌握しており、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に報復攻撃を控えるよう要請すると示唆した。「私が指示を出している。私が全ての指示を出している。彼(ネタニヤフ)は指示を出していない」とトランプ大統領は『フィナンシャル・タイムズ』紙に語った。

しかし、イスラエルは最終的にイラン全土への報復攻撃(retaliatory strikes)を進めた。イスラエルのイェヒエル・ライター駐米大使はXに「イランはイスラエルに向けて11発の弾道ミサイルを発射した」と書き、「世界中のどの国もこのような攻撃を容認しないだろうし、イスラエルも容認しない。イスラエルは現在、イランの地対地ミサイル発射基地を標的にしている」と付け加えた。

月曜日、トランプ大統領はイスラエルとイランの双方に即時停戦を呼びかけ、両国は当面の間、互いに攻撃を停止した。しかし、イランはレバノン南部を含む地域での攻撃が続けば、「はるかに厳しく、壊滅的な措置(far more severe and crushing measures)」を取ると警告した。一方、イスラエルはヒズボラとの戦闘を継続すると表明している。

トランプ大統領が和平合意を急ぎ、全面戦争の再発を回避しようとする中、イランはホルムズ海峡をめぐる膠着状態(およびそれに伴うエネルギー危機)とイスラエルのレバノン侵攻を交渉における切り札として利用できることを認識しているようだ。

イスラエルのテルアビブ大学傘下のシンクタンクである国家安全保障研究所(the Institute for National Security Studies、INSS)の研究員オフェル・シェラは、「テヘランは中東地域に新たな方程式(equation)を確立した。イスラエルによるヒズボラへの攻撃が、イランによるイスラエル攻撃の引き金となる可能性がある」と指摘する。

この状況は、トランプ大統領が中東地域における複雑に絡み合った難題を解決しようとする中で、今後も直面するだろう困難さを物語っている。アメリカはイスラエルの最も緊密な同盟国ではあるが、イスラエルの指導者に対するワシントンの影響力はそこまで大きくはない(Washington’s influence over Israeli leaders only goes so far)。

ホワイトハウスはレバノン紛争に関する声明の中で、イスラエルの自衛権を擁護し続けている。しかし、イランとの戦争からの脱却策を模索し続けるトランプ大統領にとって、これは依然として頭痛を与えている。イラン戦争によってトランプ大統領の支持率を急落しており、11月の中間選挙で共和党に悪影響を与える可能性もある。

トランプ政権はレバノン紛争とイラン戦争を切り離そうと努めてきたが、イランはレバノンでの敵対行為の停止を和平合意の条件としている。先週火曜日、マルコ・ルビオ国務長官は複数の連邦上院議員に対して、「私たちはレバノンとイスラエルの協議をイランとは別個のものとして捉えようとしているが、イランはそれらを一緒にして混ぜてしまおうとしている」と語った。

トランプ大統領は、イスラエルがヒズボラに対する作戦をエスカレートさせていることに対し、ネタニヤフ首相への苛立ちを露わにしている。報道によると、トランプ大統領はレバノン情勢に関する最近の電話会談で、ネタニヤフ首相を罵倒し、感謝が足りないと非難したということだ。

しかし、ネタニヤフ首相には、より身近な問題も考慮しなければならない。支持率が低迷し、総選挙が目前に迫る中、自身の政治的将来を懸けて戦っているイスラエルの首相は、ヒズボラへの攻撃を継続し、攻撃を控えるよう求めるワシントンの要請を無視するよう、国内から強い圧力を受けている。

ヒズボラの攻撃を最も受けてきたイスラエル北部の住民は、特にネタニヤフ首相を批判しており、さらに強硬な姿勢を取るよう求めている。これはイスラエル全土で広く共有されている感情だ。5月下旬に国家安全保障研究所(イスラエル社会調査研究所)が発表した世論調査によると、イスラエル国民の過半数(59%)が、ヒズボラとの戦闘を強化すべきだと考えている。

トランプ大統領がネタニヤフ首相に対し、イランとの和平合意の可能性を損なわないようレバノンへの攻撃を控えるよう促したことは、イラン戦争とレバノン紛争の2つの問題が切り離せないというテヘランの立場を強めるばかりだ。そして実際、レバノン紛争とイラン戦争は根本的に結びついている。イスラエルとヒズボラは長年にわたり断続的に戦闘を繰り広げてきたが、今回の紛争はイラン戦争の勃発後に始まった。

イラン戦争の停戦合意が成立した当初から、レバノン問題がトランプ大統領にとって厄介な存在となり、最終的な合意の障害となることは明らかだった。アメリカとイスラエルが当初、レバノンを合意に含めることを拒否したため、停戦は崩壊寸前まで追い込まれた。イスラエルとレバノンは最終的に4月中旬に停戦協定に署名したが、情勢は依然として緊迫しており、ヒズボラとイスラエル軍の間ではその後も銃撃戦が続いている。

政治組織としても武装組織としてもレバノンで絶大な影響力を持つヒズボラは、武装解除の要求を拒否している。レバノン軍はヒズボラに武装解除を強要する能力がないと広く見なされており、ネタニヤフ首相はこれをイスラエル軍のレバノン駐留と活動継続の正当化の理由として挙げている。

前述のシェラは、「ネタニヤフ首相、そしてイスラエルが今理解しているのは、トランプ大統領にとって戦争は終わったということ、そして彼が今唯一気にしているのは、戦争終結を宣言できるようなイランとの何らかの和解だけだということだ」と述べている。

シェラによると、1月に当時のヴェネズエラ大統領ニコラス・マドゥロを拘束した作戦の成功後、トランプ大統領はイランで「容易な勝利(easy victory)」を収めるチャンスを見出したという。しかし、この「マドゥロ状況(Maduro situation)」は実現せず、トランプ大統領は関心を失い、次の段階に進みたいと考えているようだとシェラは付け加えた。だが、トランプ大統領以前の複数の米大統領が既に経験しているように、中東地域での戦争は容易には抜け出せない泥沼(quagmires)へと陥る傾向がある。

※ジョン・ホルティワンガー:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター。Blueskyアカウント:@jchaltiwanger.bsky.social、 Xアカウント:@jchaltiwanger

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 イスラエルはアメリカと共にイランに対して大規模攻撃を行い、イラン戦争が始まった。その後は、散発的に攻撃の応酬が行われているが、大規模な戦闘状態には至っていない。アメリカとイランの間で和平交渉が続けられているが(パキスタンの仲介であるが中国も大きな影響力を行使している)、和平合意に関しては、覚書の段階までは進んでいる。イラン側は、イスラエルが隣国レバノンへの攻撃を停止しない限り、交渉に応じないという通告をアメリカ側に行い、アメリカのドナルド・トランプ大統領が怒り狂って、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に電話をかけて、「あんたは狂っている」と述べ、イスラエルのレバノン攻撃を中止させたということは、このブログでもすでにご紹介した。
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 イスラエルが隣国レバノンに対して攻撃を行っているのは、同国に存在するイスラム教シーア派組織ヒズボラがイスラエル攻撃を継続しているからだ。ヒズボラは、レバノン内戦中の1982年に、内戦に介入していたイスラエル国防軍への抵抗として始まり、イランの支援を受けて拡大した。様々なテロ攻撃や武力攻撃を実施し、イスラエル国防軍をレバノンから撤退させることに成功した。ヒズボラ自体はイスラエルのせん滅を主張しており、イスラエルに対する攻撃を止めていない。イスラエルはこれまでもたびたび、ヒズボラを掃討するためにレバノンへの攻撃を実施しているが、成果は上がっていない。逆に、レバノン政府やレバノン軍を弱体化させることになり、ヒズボラの勢力を拡大させる結果となっている。
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 イスラエルは、今回のイラン攻撃と同時にレバノン南部を攻撃し、ヒズボラを掃討し、占領することで、イスラエル本土を防衛するということになっている。本来であれば、イスラエル国防軍が国境線まで撤退し、ヒズボラもレバノン南部から退去し、空白となったレバノン南部地域にレバノン軍が駐留することで安全が保たれるというかたちになるはずが、レバノン軍の実力不足もありそれもうまくいかない。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は今回のレバノン攻撃で成果を挙げようとしているが、それも難しい。そうした中で、トランプ大統領から叱責されて、攻撃を中止しなければならなくなった。アメリカのトランプ政権としては、イランとの和平合意が優先される状況となっている。トランプ大統領がネタニヤフ首相にイラン戦争の責任を押し付けて逃げてしまうということも考えられる。そうなれば、ネタニヤフ首相の目論見は失敗する。そして、今年実施される議会選挙で敗北することになれば、以前からのスキャンダルに関する裁判も進められ、家族そろって服役ということにもなりかねない。ネタニヤフ首相の賭けの成否がどうなるかはこれから出てくることになるが、彼個人のことよりも世界の安定と平和こそが優先されるべきであるのは言うまでもないことだ。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプとイランの合意はネタニヤフ首相にトラブルをもたらす可能性がある(A Trump Deal With Iran Could Spell Trouble for Netanyahu)

-イスラエルの指導者は重要な選挙を前に勝利を必要としている。

アーロン・デイヴィッド・ミラー筆

2026年6月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/01/trump-israel-iran-war-deal-election-netanyahu/

ドナルド・トランプ米大統領は、敵対国であろうと同盟国であろうと、自分の意向に従わなければ深刻な結果を招くと脅迫し、威圧することを常としている。これは「傑出した地位(bully pulpit)」のトランプ版と呼べるものだ。時にはそれが功を奏することもある。例えば、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、2025年10月に20項目からなるガザ和平案を受け入れるよう迫った際、トランプはイスラエルの指導者との交渉から離脱すると脅迫した。しかし、グリーンランド問題でヨーロッパ諸国に圧力をかけたり、イランにアメリカの条件を受け入れさせようとしたりした際には、うまくいかなかった。そしてもちろん、先週、オマーンに対し、ホルムズ海峡でオマーン首脳がトランプの意向に反する行動を取れば「爆破する(blow them up)」と脅迫したこともあった。

つい先週も、トランプはイスラエルに対して再び威圧的な発言をした。実際、トランプはイスラエルの指導者について、歴代米大統領が公の場で発言したことのないようなことを述べた。ネタニヤフ首相はイラン問題に関して「私が彼に対してやって欲しいと望むことは何でもするだろう(will do whatever I want him to do)」と述べたのだ。

ネタニヤフ首相に対するトランプ大統領の影響力は、特にネタニヤフ首相が権力維持のためにトランプ大統領の支持を必要としている現状において、非常に現実的なものと言えるだろう。トランプ大統領はイスラエル国内でネタニヤフ首相よりも人気が高く、もしトランプ大統領がネタニヤフ首相への支持を撤回したと見なされれば、10月の選挙で首相は敗北を喫する可能性がある。1991年、当時のイツハク・シャミル首相が占領地へのロシア系ユダヤ人移民の再定住を否定しなかったため、ジョージ・H・W・ブッシュ(父)元大統領がシャミル首相に対し、彼らの受け入れのための住宅ローン保証を拒否したことを思い出して欲しい。この決定はシャミル首相の政治的立場を弱め、1992年の選挙でイツハク・ラビン首相に敗北する一因となった。ラビン首相はその後数カ月もしないうちに住宅ローン保証を獲得した。

トランプ大統領がネタニヤフ首相の1期目に与えた数々の恩恵―イェルサレムをイスラエルの首都と承認、在イスラエル米大使館のイェルサレム移転、ゴラン高原に対するイスラエルの主権承認、そして継続的な軍事支援―は、ネタニヤフ首相が強固なアメリカ・イスラエル関係を維持する上で不可欠かつ他に類を見ない人物であるというイメージを作り上げた。

しかしながら、現在、ネタニヤフ首相の弱点、特にヒズボラ、ハマス、そしてイランを鎮圧​​できない現状を考えると、彼はトランプ大統領の積極的な支援を必要としている。トランプ大統領はネタニヤフ首相を直接首相として選ぶことはできないが、トランプ大統領の支援と、ネタニヤフ首相を強固なアメリカ・イスラエル関係に不可欠な存在として位置づける姿勢がなければ、ネタニヤフ首相の弱点は飛躍的に増大するだろう。

アメリカとイランの交渉が覚書締結(a memorandum of understanding)に向けた最終局面を迎えており、トランプ大統領の交渉力のテスト結果が間もなく明らかになるだろう。現状の見通しに基づけば、トランプ政権が採用しているアプローチは、ネタニヤフ首相とアメリカ国内のトランプ反対派の双方にとって不利なもの(a lose-lose)と映るだろう。

イラン政権は前政権よりも強硬な姿勢を維持し、政権転覆[体制転換](regime change)のための条件は一切浮上してこない。政権の結束は強まり、イランがアメリカによる大規模攻撃を乗り越え、将来的に自由に使える新たな武器、すなわちホルムズ海峡を封鎖しペルシア湾岸諸国の脆弱性を露呈させる能力を手に入れたことで、アメリカの抑止力(deterrence)は弱まっている。同様に、現時点でアメリカがイランの損傷した核インフラに深刻な制限を課すことができるという証拠もない。

ネタニヤフ首相にとって残念なことは、戦争の始まり方、理由、時期については彼が大きな影響力を持っていたとしても、終結の仕方や時期について発言権を持つ可能性は極めて低いということだ。覚書が予想通りに進めば、停戦によってあらゆる問題に対処するための交渉期間が設けられ、アメリカとイスラエルによる攻撃再開の可能性はなくなるだろう。

ホルムズ海峡が段階的にでも開かれ、アメリカの封鎖が解除されれば、責任のなすりつけ合いが始まる。ネタニヤフ首相は不満を募らせるだろうし、一方、名前は明かされていない側近たちは、アメリカが政権交代を成し遂げられなかったのは意志の欠如(a lack of will)が原因だと主張するだろう。トランプ大統領は、ネタニヤフ首相が戦争終結の合意を台無しにすることを許さないだろうし、特にレバノンにおけるイスラエルの行き過ぎた行動を非難することで、アメリカ国内の批判から身を守ろうとするだろう。トランプ大統領は、ネタニヤフ首相からの反発や、アメリカ軍の介入を招く恐れのあるイスラエル軍のさらなる行動を一切容認しないだろう。トランプ大統領は、イスラエルがドーハにあるハマスの外部指導部を爆撃した後、ネタニヤフ首相に強硬な姿勢を示したことを思い出して欲しい。トランプ大統領がネタニヤフ首相から戦争再開を促されることはないだろう。このシナリオにおいて、イスラエル首相にとって唯一の現実的な希望は、イランがやり過ぎて交渉が決裂することだけだ。

レバノン情勢はネタニヤフ首相にとっても悪い結果に終わる可能性が高い。ヒズボラは停戦協定を遵守せず、武装解除も行わず、イスラエルが想定していたよりも速いペースで、より強力な勢力へと回復している。レバノン政府は、特にワシントンの仲介の下でイスラエルと直接会談する姿勢など、以前よりも強硬な姿勢を見せているが、ヒズボラを武力で武装解除する考えと能力は持ち合わせていない。イスラエルはレバノン南部の一部を占領し、さらに多くの村に避難命令を出し、ヒズボラ攻撃の過程でレバノン市民を殺害することで、事態を悪化させている。攻撃的な軍事行動はイスラエル、特にイスラエル北部国境地帯の住民の間では人気が高いものの、レバノン政府を窮地に追い込んでいる。

最大の焦点は、レバノンがアメリカ・イラン間の駆け引きにどのような影響を与えるかである。これまでトランプ政権は、イスラエルがレバノンでの軍事作戦を継続する余地を与えてきた。しかし現在、イランが、イスラエルがレバノンとの停戦を受け入れない限り、アメリカとの交渉を停止すると決定したことを受け、トランプ大統領はネタニヤフ首相に電話をかけ、ベイルート地域へのイスラエル軍の攻撃を停止するよう強く求めた。これは、イランとアメリカが合意に達した場合に起こりうる事態を示唆している。実際、覚書が実現し、イランがレバノンでの真の停戦を条件とした場合、トランプ大統領は躊躇なくネタニヤフ首相に譲歩を迫るだろう。ネタニヤフ首相は従う以外に選択肢はないだろう。

トランプ大統領は最近、その影響力を駆使して、イランとの合意と湾岸諸国のアブラハム合意への参加を結びつけようとした。しかし、この結びつきは湾岸地域の現実とはかけ離れており、誰もその意図を理解できない。トランプ大統領は、イランとレバノン問題でイスラエルに圧力をかける必要が生じた場合、この要求が国内の批判から身を守る手段になると考えているのかもしれない。

しかし、ヨルダン川西岸地区を併合し、レバノンの一部を占領し、ガザ地区で新たな大規模軍事作戦の準備を進めているように見えるイスラエル政府に、湾岸諸国が自らを縛り付ける可能性はまったくない。イスラエルとの関係を強化しているように見えるアラブ首長国連邦(UAE)を除けば、他の国々、特にサウジアラビアにとって、ネタニヤフ政権との緊密な関係は最も望ましくない。

つまり、トランプ大統領の威圧的な言動、脅迫、そして影響力行使は、必ずしも良い結果をもたらしたとは言えない。トランプ大統領は未だイランとの合意を成立させておらず、イランの瓦礫の下に埋まっている高濃縮ウランの将来についても明確な答えを持っておらず、ホルムズ海峡におけるイランの影響力拡大を招き、ガザ地区の「平和委員会(Board of Peace)」もハマスの武装解除に失敗している。ヨルダン川西岸地区では圧力が日々高まっているが、驚くべきことに、トランプ大統領や和平交渉担当者たちはこの状況を懸念していないようだ。

イランとの合意が実現した場合、トランプ大統領によるイスラエルへの圧力に歯止めはかかるだろうか? イスラエルへの圧力は、特に中間選挙が近づくにつれ、イスラエルを支持する共和党支持者を怒らせる可能性がある。しかし、トランプ大統領は何よりもまず自分のことしか考えておらず、中間選挙など気にしないとまで言っている。トランプ大統領が唯一懸念するのは、イランに損害を与えたかもしれないが、戦争には負けたと主張する人々からの反発だろう。左派は戦争を始めたことで彼を非難し、右派の一部は戦争に負けたと非難する中で、トランプ大統領は他者に責任を押し付けようとするだろう。その標的の最有力候補はネタニヤフ首相かもしれない。

※アーロン・デイヴィッド・ミラー:カーネギー国際平和財団上級研究員であり、共和党政権と民主党政権の両方で米国務省の中東アナリスト兼交渉官を務めた経歴を持つ。著書に『偉大さの終焉:なぜアメリカはもう偉大な大統領を持てないのか(そして望まないのか)(The End of Greatness: Why America Can’t Have (and Doesn’t Want) Another Great President)』がある。Xアカウント:@aarondmiller2

※ダニエル・C・カーツナー:駐エジプト米大使、駐イスラエル米大使を歴任。プリンストン大学公共・国際問題大学院で外交と紛争解決について教鞭を執っている。Xアカウント:@DanKurtzer

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イスラエルのレバノン戦略は自滅的だ(Israel’s Lebanon Strategy Is Self-Defeating)

-弱体化した国家はヒズボラを武装解除することはできない。

スティーヴン・サイモン筆

2026年5月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/14/israel-hezbollah-trump-iran-lebanon/

イスラエルのレバノン政策の中核には、矛盾した主張が存在する。それはあまりにも日常的になりすぎて、ほとんど気づかれないほどだ。イスラエルは、レバノン国家がヒズボラを武装解除し、自国領土に対する主権を確立しなければならないと正しく主張する。しかし、その一方で、レバノン国家がそれを実行できないように、あらゆる手段を講じる。レバノン軍(the Lebanese Armed Forces、LAF)へのアメリカ軍支援を妨害し、統治機構のインフラを攻撃し、南部におけるレバノン政府を支援する唯一の国際部隊を弱体化させるのだ。

レバノンの失敗を招く状況を作り出したイスラエルは、レバノン自身では対処できないと主張し、イスラエルが代わりに対処しなければならないと訴える。これは、強大な成果を要求する一方で、それを達成するための唯一の現実的な手段を無力化するという、矛盾した政策である。

これが自滅的な戦略であるからといって、イスラエルの根底にある戦略目標が不当であるとは限らない。もしカナダが、アメリカと国境を接していないものの、アメリカ人の殺害に強い関心を持つ遠方の勢力から資金援助と装備を受けた、重武装した過激派組織を匿っていたとしたら、ワシントンはカナダの主権を過度に懸念することはなく、あらゆる手段を用いてその脅威を排除しようとするだろう。

これはイスラエルがヒズボラに対して取る姿勢とほぼ同じであり、特に2023年10月7日の直後、そしてその後ヒズボラが行った、大部分はパフォーマンス的なハマスへの連帯表明キャンペーンにおいては、この対称性を念頭に置くことが不可欠である。最初の数週間、ヒズボラはロケット弾、迫撃砲、対戦車ミサイル、狙撃、ドローン、そしてイスラエルの監視システムへの攻撃を行った。交戦は続いたものの、ほとんどは国境付近に限定されていた。イスラエルは北部の多くの地域から住民を避難させ、南部のレバノン住民も国境沿いの村々から避難し始めた。

当時のヒズボラ指導者ハッサン・ナスララは、10月7日以降初めてとなる主要演説を2023年11月3日に行い、その姿勢を明確にした。彼は、ハマスの攻撃は「100%パレスティナ人によるもの」であり、ヒズボラの戦線は継続し、ガザ地区とイスラエルのレバノンに対する行動次第ではエスカレートする可能性があると述べた。その時点で、ヒズボラとイスラエルは10月8日から交戦を続けており、55人以上のヒズボラ戦闘員が死亡し、ヒズボラはまだ保有する兵器のごく一部しか使用していなかった。

ヒズボラは単なるレバノンの民兵組織ではなく、イスラエルに対するイランの抑止力の中核を成す存在であり、イランはイスラエルの人口密集地を危険に晒し、イランの核施設への攻撃を困難にするためにヒズボラを支援している。ヒズボラの解体は長年にわたりイスラエルの戦略的優先事項であり、10月7日の事件とその後の出来事は、その動機ではなく、むしろ引き金となった。

問題は、イスラエルが実際にこの目標を達成できるかどうかである。2年前、今回の作戦とほぼ同じような作戦が行われた際、ヒズボラは損害を受けたものの、組織自体はほぼ無傷で、再編成が可能であった。歴史的背景は示唆に富む。2006年の戦争終結から10月7日まで、イスラエルとレバノンの国境は、この地域の基準からすれば平穏であった。構造的な対立は消え去った訳ではないので平和とは言えないが、双方にとって、敵対行為を開始すれば容易に吸収できないほどの代償を払うことになると判断し、安定の方が望ましいと考えるほどに安定していた。

イスラエルは当時、ヒズボラがもたらす脅威に無関心だったということではなかったが、イランの前方抑止力が活動を停止している間はそれを容認し、動員される瞬間に備えて周到な準備を進めていた。ヒズボラの通信網への情報浸透、トンネル網のマッピング、上級司令官への標的設定、そしてポケベル攻撃の準備には数年を要した。

これは、イスラエルの計画立案者たちが10月7日以前から、ヒズボラに許容範囲内のコストで深刻な打撃を与えることができると確信していたにもかかわらず、北部の安定がイスラエルの国益に十分貢献していたため、攻撃を控えていたことを示唆している。ガザ地区におけるイスラエルとハマスの戦争は、この判断を覆し、行動を起こす口実と国内からの圧力をもたらしたが、この決断は必然的なものではなかった。

ここで再び循環論(circularity)に戻る。武装解除が成功するには、3つの条件が揃う必要がある。すなわち、国家または合意が、要求を信憑性のあるものにするだけの正当性(legitimacy)、それを強制するだけの強制力(coercive capacity)、そして武装集団の支持者からの反発を吸収または管理するだけの政治的権威(political authority)を備えていることだ。

比較事例がこれを裏付けています。アイルランド共和軍(Irish Republican Army、IRA)は、ベルファスト合意(グッドフライデー合意)によってシンフェイン党が憲法上の政治に定着し、検証メカニズムが構築され、IRAが活動する安全保障および政治環境が変化した後になって初めて武装解除した。

コロンビア革命軍(Revolutionary Armed Forces of Colombia、FARC)は、武装解除と移行期正義、社会復帰、政治参加、国連監視を組み合わせたコロンビア和平協定によって武装解除したが、反体制派は存続した。インドネシアのアチェ分離主義者は、自治、恩赦、社会復帰、地域政治への参加、国際監視を約束する合意の後、インドネシア国家の残存する強制力に支えられ武装解除した。

国家の正当性、強制力、政治的権威という3つの前提条件のうち、どれか1つでも欠ければ、和平構想は崩壊する。レバノン政府は、分裂状態にあり、財政的に破綻し、2020年のベイルート港爆発と長年にわたるエリート層の略奪行為によって国民の信頼を壊滅的に失墜させており、既にこれらの条件を満たす水準をはるかに下回る状態で運営されていた。2019年には約20億ドルだった国防予算は、金融危機を受けて2020年には約4億3200万ドルにまで激減し、2023年になっても2億4000万ドルにまでしかならなかった。

名目上は約8万人の兵力を有しているが、慢性的な低賃金と基本的な装備を外国からの援助に依存しているレバノン軍(Lebanese Armed Force、LAF)は、広く用いられているある指標では世界118位にランク付けされている。これは、ヒズボラのような脅威とは比べものにならない国々よりも低い順位だ。ヒズボラは全盛期には、ヨーロッパのNATO加盟国の大半よりも多くの精密誘導ミサイルを保有していた組織だった。

イスラエルは、この既に脆弱な状況をさらに悪化させる一連の政策を導入した。長年にわたり、イスラエルはレバノン軍(LAF)への強力な軍事支援に反対するロビー活動をワシントンに対して行い、LAFの強化をヒズボラへの対抗勢力ではなく、潜在的な脅威とみなした。イスラエルは、レバノン軍がヒズボラの影響を受けずに独立して活動してきた実績を軽視し、ワシントンが本来提供するはずだった支援の流れを遅らせ、制限することに成功した。

2006年以降、アメリカはレバノン軍(LAF)に対し、軍事資金と装備を含め約25億ドルの支援を行ってきた。これは20年近くにわたる巨額の支援であったが、結果として、レバノン軍は旧式の装備、生活のために副業をせざるを得ないほど低い給与、そして防空能力の欠如という問題を抱えることになった。

同時に、イスラエルは国連レバノン暫定軍(the United Nations Interim Force in Lebanon、UNIFIL)の弱体化を図るべく積極的な行動をとった。UNIFILは、レバノン政府が南部で権限を行使するのを支援するために1978年に設立された、約8000人規模の国連平和維持軍(U.N. peacekeeping force)だ。イスラエル軍は2024年の作戦中にUNIFILの陣地を直接攻撃し、同時にアメリカの支援を受けてUNIFILの任務縮小を働きかけ、これを成功させた。

2024年の最初の停戦後、この状況を打破する真の、しかし限られた機会が訪れた。イスラエルがヒズボラに与えた制裁は、ヒズボラのレバノン南部における勢力を弱体化させ、国連安保理決議1701号の本格的な履行に向けた真の余地を生み出した。ジョー・バイデン政権はこの好機を認識していたものの、必要なエネルギーをもって行動することができなかった。

ジョー・バイデン前米大統領とそのティームは、イスラエルによるレバノン政府への軽蔑(Israeli contempt for the Lebanese government)にあまりにも迎合し、停戦が名目上有効である間、イスラエルが自衛を名目に攻撃や地上作戦を継続するのを黙認した。また、ヒズボラがレバノン南部で勢力を再構築する前に、レバノン政府がレバノン軍部隊を南部に大量投入することを可能にするような、ヨーロッパや地域の各種と、そしてイスラエル国内での持続的な外交キャンペーンを展開する勇気を持たなかった。

バイデン政権末期、ワシントンは停戦履行支援のため、レバノン軍(LAF)に約1億1700万ドルを急遽拠出した。この金額は、その運用上の価値はともかく、最も重要な局面において、レバノンの能力構築がいかに不十分であったかを浮き彫りにした。

ドナルド・トランプ米大統領の特使トム・バラックは、この問題を理解しているようで、段階的な武装解除計画を支持した。この計画では、ヒズボラが2025年末までに武装解除する代わりに、イスラエル軍の作戦停止とレバノン南部からの撤退が約束されている。バラックは「レバノン政府は自らの役割を果たした。今必要なのは、イスラエルがこの平等な約束を果たすことだ」と述べた。

アメリカが作成したロードマップは、バイデン政権によって完全には公表されなかった。レバノンによるヒズボラの武装解除とイスラエル軍の撤退および空爆停止を結びつけるものだったと報じられている。これは慎重かつ賢明なアプローチだった。なぜなら、ヒズボラに対する本格的な行動によって、レバノンが内政崩壊を起こしてしまうことを避けなければならなかったからだ。

これが真にアメリカの政策であったかどうかはともかく、イランとの核交渉とトランプ政権の戦争を経て、その政策はもはや通用しなくなった。イスラエルの黙認には代償が伴った。レバノンへの継続的な戦争は、その代償の一部だったようだ。

レバノンはこの作戦によって壊滅的な打撃を受けるだろう。一方、ヒズボラは損害を受けながらも壊滅には至らず、これまでと同様に再編成されるだろう。そして、イスラエル北部は依然としてヒズボラの兵器の射程圏内に留まることになる。最終的に行き詰まるであろう状況は、2000年5月の状況を不気味なほど彷彿とさせるだろう。当時、イスラエルは20年近くにわたる占領の後、政治的目的を何一つ達成することなく撤退した。そして、その占領の残虐行為によって、後に自らが排除することのできない勢力を育んでしまった。

こうした状況は必ずしも不可逆的なものではない。だからこそ、機会の浪費(the waste of opportunities)がこれほどまでに苛立たしい。トランプ大統領はいつものように「トゥルース・ソーシャル」で、イスラエルはレバノンへの爆撃を「禁止されている(prohibited)」と宣言し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と米国務省を驚かせた今回の停戦は、狭き門ではあったものの、確かに突破口となった。

トランプ政権は、この投稿とその後の声明を通して、レバノン問題には別途対処し、ヒズボラ問題にはイスラエルの空爆以外の手段で取り組む意向を示している。そのシグナルが、首尾一貫した持続的な政策へと結びつくのか(現トランプ政権にそれを期待するのは少々無理があるように思えるが)、それとも過去の同様のシグナルのように消え去ってしまうのか、それが全ての決定的な問題となる。

真剣なアメリカの取り組みは、まず多国間監視メカニズムを通じて停戦を安定させることから始まるだろう。このメカニズムは十分な実効性と国際的な支持を備え、違反行為が全ての当事者にとって政治的に大きな代償を伴うものとなるように設計されている。レバノン軍(LAF)の再建は後回しにされるものではなく、レバノンにおけるアメリカの政策の中核的な目標として位置づけられ、レバノン軍がレバノン南部を確実に占領できるレヴェルまで、体系的に装備、資金、組織体制を整える必要がある。

そして、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の任務を縮小する方向へ向かう現状の流れを、まさにその存在が最も重要な時期に継続するのではなく、ニューヨークで持続的な外交努力を展開し、UNIFILの任務を更新、資金援助、強化する必要がある。さらに、湾岸諸国、ヨーロッパのパートナー諸国、そして多国間機関から国際的な資源を動員し、戦闘によって破壊された国境両側の町々の復興を支援する必要がある。

そして、ヒズボラの特異な地位をレバノン独自の憲法秩序に適合させるためのレバノン政府の取り組みを強く支持するとともに、より安定した南部が最終的に実現するであろうイスラエルとレバノンの直接的な外交関係を促進するだろう。

異なる結果をもたらす手段は存在する。少なくともアメリカ側に欠けているのは、それらを一貫して用いる意志と、イスラエルが望む政治的結果を爆撃によって達成することはできないという認識である。トランプ政権がそのような取り組みを開始し、維持するための集中力、能力、そして意欲を持っているかどうかは、控えめに言っても自明ではない。しかし、もしトランプ大統領が本当に「新たな中東の歴史的な夜明け(the historic dawn of a new Middle East)」をもたらそうとするならば、レバノンにおける今後の道筋は決して不可解ではない。

※スティーヴン・サイモン:ダートマス大学特別研究員兼客員教授。著書に『大いなる妄想:中東地域におけるアメリカの野望の興亡(Grand Delusion: The Rise and Fall of American Ambition in the Middle East)』がある。アメリカ政府に20年間勤務し、国務省と国家安全保障会議で要職を歴任。Xアカウント:@sns_1239

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(終わり)
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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 2025年6月13日にイスラエルはイランの核開発関連施設に対する攻撃を行った。イランの革命防衛隊の司令官と参謀総長が死亡した。イランはイスラエルに向けてミサイルを発射し、報復攻撃を行った。その後、イスラエルはイランに対しての空爆を継続し、イランの国防省を攻撃し、イラン国内の油田・石油採掘施設を攻撃するなど攻撃を拡大している。アメリカのドナルド・トランプ政権はイランとの交渉を行っている最中でのイスラエルによる攻撃に不満を持っている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は極右勢力に支えられ、かつ、自身の汚職からイスラエル国内、国外の注目を逸らさせるために、戦争を拡大しようとしている。極め付きは、アメリカにイラン攻撃への参加を求めている。非常に危険な動きだ。イスラエル、正確にはベンヤミン・ネタニヤフと極右勢力には「自分たちにはアメリカがついている、いや、アメリカ国内政治を動かして自分たちの思い通りに動かせる」という思い上がりがある。

 第1次ドナルド・トランプ政権では、前任のバラク・オバマ政権で成立した、イランとの核開発をめぐる合意から離脱した。そのために、イランは核開発を継続した。それが、第2次ドナルド・トランプ政権では姿勢を転換し、イランとの交渉を開始した。そうした中で、イスラエルによるイラン攻撃が実施された。第2次トランプ政権のイランとの関係修復は賢明な動きである。何よりも、バイデン政権後半で、中国の仲介によって、サウジアラビアとイランの関係改善が成功した。アメリカは中東においてその役割を縮小させ、存在感を減らしている。イスラエルにとってアメリカの中東地域における減退・撤退は死活問題である。イスラエルはアメリカのバイデン政権の仲介で、サウジアラビアとの関係改善、国交正常化を目指していた。しかし、イスラエル・ハマス紛争によってその動きは頓挫した。

 こうして考えてみると、中東地域においても、私の分析の枠組みである「西側諸国(ジ・ウエスト、the West)」対「西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)」、「グローバル・ノース(Global North)」対「グローバル・サウス(Global South)」の対立が反映されていると考える。イスラエルは核兵器さえも持つ軍事強国であるが、今回の攻撃は、一種の不安からの暴走であると考えている。

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ドナルド・トランプ大統領が中東で正しく判断したこと(What Trump Got Right in the Middle East)

-アメリカ大統領によるイランへの和解(olive branch)は、ワシントンの外交政策におけるパラダイム・シフト(a paradigm shift)となる可能性がある。

ハワード・W・フレンチ筆

2025年5月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/05/16/trump-middle-east-trip-iran-us-foreign-policy/

あるニューズ・イヴェントの重要性は、主流メディアがそれをどれだけ軽視、あるいは完全に無視するかによって測られることがある。今週、ドナルド・トランプ米大統領が中東歴訪中に、アメリカの外交政策のパラダイム・シフト(a paradigm shift)に繋がりかねない発言をした時、まさにその通りだった。

トランプが二期目初の外遊を開始して以来、メディアの注目は、旧型エアフォースワンの後継機としてカタールから超高級機ボーイング747を受け入れるという決定(批評家たちからは露骨な腐敗の兆候[a breathtaking sign of corruption]だと広く非難されている)と、アメリカがダマスカスに対する長年の経済制裁を解除すると発表した後にシリアの新大統領アハメド・アル・シャラーと電撃会談を行ったことに集中している。

どちらの話題も、真剣に検討する価値がある。しかし、トランプ大統領が裕福なアラブ諸国を次々と訪問する間、アメリカの各報道機関は、いくつかの例外を除き、中東およびその周辺地域に重大な地政学的影響を及ぼす問題、すなわちトランプ大統領がイランに和解(olive branch)の手を差し伸べる決断について、比較的少ない言葉しか割(さ)かなかった。

トランプ大統領は火曜日、アメリカが40年間執拗な敵として扱ってきたイランと直接交渉する決意を表明した。トランプはリヤドでの演説の中で、「繰り返し示してきたように、たとえ両国の間に大きな隔たりがあったとしても、過去の紛争を終わらせ、より良く安定した世界のために新たなパートナーシップを築く用意がある」と表明した。

ワシントンにおいて、イスラエルとの足並みを揃えた同盟関係、ひいては中東地域の大国にイスラエルの宿敵であるイランの封じ込めを支援するよう働きかける必要性ほど、外交政策に関する信念が深く根付いているものは少ない。この戦略を少なくとも部分的にキャリアに重ねてきた多くのアナリストは、今回の訪問後、トランプ大統領がすっかり忘れてテヘランへの働きかけを放棄するか、あるいはイランがホワイトハウスに考えを変えさせるような挑発的な行動に出るかを期待、あるいは信じているかもしれない。

関税を軸とした経済政策が示すように、トランプは一貫性のある人物と見られている訳ではない。そのため、イランとの和解(rapprochement with Iran)に向けた言葉だけの試みが長続きしないと考えるのは愚かなことではない。しかし、アメリカがこの考えを真剣に追求しないのであれば、それは遺憾である。同盟諸国への高関税から、ガザ地区をパレスティナ人を排除した高級不動産開発地とするという提案(トランプは今回の訪問でもこの提案を繰り返したが、ガザ地区におけるイスラエルの壊滅的な懲罰的軍事作戦にはほとんど注意を払っていない)まで、奇妙でしばしば無意味に混乱を招く姿勢に満ちた外交政策の実績の中で、これは今のところトランプが正しかった数少ないアイデアの1つだ。

1979年のイラン・イスラム革命、そして、1979年後半のイラン人質事件に始まる、長年にわたるアメリカのイランに対する敵意が、どのような結果をもたらしたかを考えてみて欲しい。それは醜悪なバランスシートだ。例えば、アメリカはイラクを支援することで、1980年から1988年にかけてのイラン・イラク戦争を助長した。この戦争では、50万人から100万人の死者が出ており、前世紀で最も多くの死者を出した紛争の1つとなっている。

この歴史において、罪のない主体は存在しない。テヘランは、レバノンのヒズボラ、ガザ地区のハマス、イエメンのフーシ派といった過激派組織に武器と資金を提供し、世界最悪の現代独裁政治の1つである、最近打倒されたシリアのアサド王朝を支援してきた。イランはまた、イスラエルの破壊を主張してきた。

テヘランの忌まわしい立場を弁解する訳にはいかないが、そもそもなぜそのような事態に至ったのかを問わなければならない。その答えの1つは、西側諸国がイランの主権を歴史的に軽視してきたことにある。それは、1953年にCIAの支援を受けて民主的に選出されたモハンマド・モサデク首相が打倒され、イラン国王モハンマド・レザー・パーレヴィが親西側の独裁政権を樹立したことに遡る。イランが長らくイスラエルを敵対的なアメリカと西側諸国の代理と見なしてきたのも、当然のことである。

2000年代以降、ワシントンは1979年に初めて導入したイランの核開発計画を理由に、対イラン経済制裁を着実に強化してきた。しかしながら、イランがなぜ核技術の習得を必要としているのかを公に問うアナリストはほとんどいない。イランが核攻撃に対する正当な恐怖感や、究極の抑止力あるいは自衛手段としての核技術を必要としている可能性を考慮しようとしないからだ。イスラエルが、イランが近いうちに核兵器を開発する可能性に脅威を感じるのは当然だが、イスラエル自身も核兵器を保有している。また、シリアへの継続的な爆撃や領土侵攻が示すように、イスラエルは長年にわたり隣国を攻撃してきた。

2000年代を通じて、私は5年間北朝鮮を取材した。北朝鮮の状況は少なくとも部分的にはイランと類似している。北朝鮮による自国民への弾圧はテヘランよりもさらに顕著であり、海外でも挑発的で忌まわしい行動を頻繁に行っている。北朝鮮には、脅威を感じる歴史的な理由もある。専門家を除けば、朝鮮戦争が70年経った今も公式には終結していないことを認識している人はほとんどいない。そして、国際的に交渉された包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of Action、JCPAP)の下で、北朝鮮はイランと同様に、核開発計画の放棄または制限と引き換えに制裁解除を提案されている。

しかし、1980年代に北朝鮮が核兵器開発に真剣に取り組むようになって以来、それ以降のアメリカ大統領の試みは、北朝鮮の核開発を阻止することには繋がっていない。近年の世界史は、北朝鮮のような国が方針転換に抵抗する多くの理由を示している。ウクライナはソ連時代に自国領土に配備されていた核兵器を放棄したが、数十年後にはロシアの侵攻を受けた。リビアの独裁者ムアンマル・アル=カダフィは、違法な化学兵器開発計画を自主的に停止したが、西側諸国の支持を得て打倒され、最終的には暗殺された。今日のリビアは破綻国家であり、暴力と武器密売の氾濫によってサヘル・アフリカの大部分が不安定化している。

トランプ大統領の最初の任期中の北朝鮮へのアプローチは、最近のイランに対する発言の背後にある論理を示唆している。彼は金正恩委員長とハイレヴェルの個人外交を行い、潜在的に破滅的な地政学的状況を打開するため、二国間の緊張緩和に努めた。トランプの外交は、他の多くのことと同様に、不安定で計画性に欠けていた。朝鮮半島情勢を根本的に変えることもできなかった。

だからといって、トランプの行動の根底にある真実が必ずしも否定される訳ではない。際限のない軍備増強と将来の大惨事の可能性を回避する唯一の方法は、時に長年の敵国と交渉し、相互信頼(mutual confidence)と安全保障の保証(guarantees of security)を築く道を見つけることである。それは性急には達成できない。

イランと交渉することさえ、ワシントンの多くの者にとって受け入れ難いことであり、イスラエル政府にとっては考えられないことだろう。イスラエルは、イランの核兵器開発可能性を理由に、イランを存亡の危機とみなしているだけではない。アメリカの永遠の敵国であるイランの存在は、長年にわたり、アメリカによるイスラエルへの揺るぎない政治的支援、そして継続的な重武装の強力な根拠となってきた。トランプは木曜日、アメリカとイランは核合意の条件について「一応」合意したと主張したが、詳細は依然として不明であり、これがどのように展開するかは不透明だ。

しかし、他の地域では状況が変化しつつあるようだ。ドナルド・トランプ大統領の訪問以前から、サウジアラビアをはじめとする地域におけるイランの伝統的なライヴァル諸国は、テヘランとの緊張緩和への意欲を示し始めていた。こうした動きは、イランを好戦的に封じ込める政策は行き詰まりに陥るという確信から生まれたものと考えられる。地域大国は、数十年にわたる戦争によって中東の豊富な資源と人的資源の両方が浪費されてきたことを認識し始めている。この歴史的悪循環に終止符を打つには、人口9000万人、世界第19位の経済大国であるイランを冷遇から救い出し、テヘラン、アラブ諸国、そしてイスラエルの間に新たなポジティヴ・サム(positive-sum)の力学を構築する必要がある。

もちろん、私たちがこれを実現するには程遠く、多くの欠点や特異な点を抱えるトランプ大統領がそれを実現できる可能性は低い。しかし、何かを変えるためには、あるテーマを提起し、議題に載せなければならない。それがトランプ大統領の中東訪問の最も重要な遺産かもしれない。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり特派員を務めた。最新作に『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ブルースカイ・アカウント: @hofrenchbluesky.social、 Xアカウント:@hofrench

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 パレスティナの飾築を実効支配しているハマスによって2023年10月7日にイスラエルが攻撃を受け、それに対する報復でガザ地区に大規模な攻撃が実行されている。イスラエルとイランの間でのミサイル攻撃の応酬もあった。その後、一時的な停戦が実現したが、再び状況は悪化している。ガザ地区では生活環境は悪化し、攻撃は続いている。イスラエルはイラン国内を空爆し、核開発関連施設を破壊し、イラン革命防衛隊の司令官と参謀総長などの最高幹部を殺害している。ベンヤミン・ネタニヤフ首相はイスラエルの極右勢力に支えられているが、国民の支持率は低下している。そうした中で、起死回生の策がイランに対する空爆だった。

 イスラエルは国際社会を信頼せず、自国の防衛のためにはあらゆる犠牲を強いる。こうした点では北朝鮮に類似している。それは、あまりにも排他的な、選民思想的な原理が国家にあるからだろうと私は考えている。

 ガザ地区に関して言えば、私たちは歴史の授業で習ったゲットー(ghetto)を類推することができる。中世以来のヨーロッパの各都市に存在した、ユダヤ人たちが強制的に居住させられた地域である。ナチスドイツの侵略によって、各国のゲットーには厳しい抑圧がなされた。そうした中で、1943年にワルシャワ・ゲットー蜂起(Warsaw Ghetto Uprising)が起きたが、ナチスドイツによって鎮圧されたが、その方法は過酷なものだった。私たちは、ガザ地区の現状からワルシャワのゲットーを思い起こす。ユダヤ人が建国したイスラエルが、ゲットーの惨劇を繰り返す。「歴史は繰り返す(History repeats itself)」という言葉があるが、これはあまりにも皮肉なことである。人権や自由といった価値観を世界に拡大することを標榜するアメリカをはじめとする西側諸国は今回の事態に対してあまりにも無力だ。それどころか、ガザ地区の状況に対する批判を抑圧している。

 現在のガザ地区の状況は西側諸国の偽善と国際政治の野蛮さを改めて明らかにしている。そして、人間の愚かさを暴露している。
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ガザ地区がいかにして西洋の神話を打ち砕いたか(How Gaza Shattered the West’s Mythology)

-この戦争は、第二次世界大戦後の共通の人間性に対する幻想(post-World War II illusions of a common humanity)を露呈させた。

パンカジ・ミシュラ筆

2025年2月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/07/pankaj-mishra-world-after-gaza-book-israel-war-global-order-history/

1943年4月19日、ワルシャワのゲットー(Ghetto)にいた数百人の若いユダヤ人が、入手できる限りの武器を手にナチスの迫害者たちに反撃した。ゲットーにいたほとんどのユダヤ人は、すでに絶滅収容所(extermination camps)に強制送還されていた。彼らの指導者の1人であったマレク・エデルマンが回想しているように、闘士たちはいくらかの尊厳(dignity)を取り戻そうとしていた。彼は次のように書き残している。「最終的には、私たちの番が来たときに、私たちを虐殺させないということだった。死に方を選ぶだけのことだった」。

絶望的な数週間が過ぎ、抵抗者たちは圧倒され、そのほとんどは殺害された。蜂起の最終日に生き残った者の中には、ナチスがガスを注入した司令部地下壕で自殺した者たちもいた。下水管を通って脱出できたのはほんの数人だけだった。その後、ドイツ兵はゲットーをブロックごとに焼き払い、火炎放射器を使って生存者たちを煙で追い出した。

ポーランドの詩人チェスワフ・ミウォシュは後に、「美しい静かな夜、ワルシャワ郊外の田舎の夜にゲットーから悲鳴が聞こえた」と回想している。

「この悲鳴には鳥肌(goose pimples)が立った。何千人もの人々が殺害される時の悲鳴だった。その悲鳴は、焚き火の赤々とした輝きの中から、無関心な星々の下から、都市の静寂な空間を通り抜け、植物が労を惜しまず酸素を放出し、空気が芳香を放ち、人が生きていてよかったと感じる庭園の慈悲深い静寂の中に入っていった。この夜の平和には特に残酷なものがあり、その美しさと人間の罪が同時に心を打った。私たちは互いの目を見なかった」。

占領下のワルシャワでミロシュが書いた詩「カンポ・デイ・フィオーリ」は、ゲットーの壁の横にあるメリーゴーランドを想起させる。メリーゴーランドに乗る人たちは、遺体の煙の中を空に向かって進み、その陽気な曲が苦悩と絶望の叫びをかき消す。カリフォルニア州バークレーに住んでいたミロシュは、アメリカ軍が何十万人ものヴェトナム人を空爆し、殺害している間、その残虐行為(atrocity)をアドルフ・ヒトラーやヨシフ・スターリンの犯罪と比較していた。「もし私たちが同情することができ、同時に無力であるならば、私たちは絶望的な憤りの中で生きているのだ(If we are capable of compassion and at the same time are powerless, then we live in a state of desperate exasperation)」とミロシュは書いている。

イスラエルによるガザ地区殲滅(annihilation of Gaza)は、西側民主政体諸国によって提供され、何百万もの人々にこの精神的試練(psychic ordeal)を何カ月も与えた。政治的悪(political evil,)の行為の自発的目撃者である彼らは、時折、生きていることは良いことだと考えることを自分自身に許しながら、イスラエルによって爆撃された別の学校で娘が焼け死ぬのを見る母親の悲鳴を聞いた。

ホロコースト(shoah)は数世代にわたるユダヤ人に傷跡を残した。1948年、ユダヤ系イスラエル人は生死を分ける問題として国民国家の誕生(birth of their nation state)を経験し、その後、1967年と1973年にも、アラブの敵による絶滅論のレトリックの中で再び経験した。ヨーロッパのユダヤ人がユダヤ人であるという理由だけでほぼ完全に消滅したという知識とともに育った多くのユダヤ人にとって、世界は脆弱(fragile)に見えざるを得ない。その中でも、2023年10月7日にイスラエルでハマスや他のパレスティナグループによって行われた虐殺と人質事件は、ホロコースト再来への恐怖を再燃させた。

しかし、歴史上最も狂信的なイスラエルの指導者たちが、蹂躙、死別、恐怖という遍在する感覚(an omnipresent sense of violation, bereavement, and horror)を利用することに躊躇しないことは、最初から明らかだった。イスラエルの指導者たちは、ハマスに対する自衛の権利を主張したが、ホロコーストの主要な歴史家であるオメル・バルトフが2024年8月に認めたように、彼らは最初から「ガザ地区全体を居住不可能にし、その住民を衰弱させて、死に絶えるか、その領土から逃れるためにあらゆる可能な選択肢を模索するようにする(to make the entire Gaza Strip uninhabitable, and to debilitate its population to such a degree that it would either die out or seek all possible options to flee the territory)」ことを目指したのである。こうして10月7日以降、何十億もの人々がガザ地区に対する異常な猛攻撃を目の当たりにした。その犠牲者たちは、ハーグの国際司法裁判所(the International Court of Justice in The Hague)で南アフリカを代表して弁論したアイルランドの弁護士ブリネ・ニ・グラレイに言わせれば、「世界が何かしてくれるかもしれないという絶望的な、今のところむなしい希望のために、自分たちの破壊をリアルタイムで放送していた」のである。

世界は、より特定すれば西側は何もしなかった。ワルシャワ・ゲットーの壁の向こうで、マレク・エデルマンは「世界の誰も何も気づかない(nobody in the world would notice a thing)」ことを「大変に恐れて(terribly afraid)」いた。ガザ地区ではそのようなことはなく、犠牲者は処刑される数時間前にデジタルメディアで自分の死を予言し、殺人犯はTikTokで自分たちの行為をさかんに流した。アメリカやイギリスの指導者たちが国際刑事裁判所や国際司法裁判所(he International Criminal Court and the International Court of Justice)を攻撃したり、『ニューヨーク・タイムズ』紙の編集者が社内メモで、「難民キャンプ(refugee camps)」、「占領地(occupied territory)」、「民族浄化(ethnic cleansing)」という用語を避けるようスタッフに指示したりと、西側の軍事的・文化的ヘゲモニー(the West’s military and cultural hegemony)の道具によって、ガザ地区のライブストリーミングによる情報発信は日々、見えないように、読めないようにされていった。

毎日が、自分たちが生活している間に、何百人もの普通の人々が殺され、あるいは自分たちの子どもが殺されるのを目撃させられているという意識に毒されるようになった。ガザ地区にいる人々、しばしば有名な作家やジャーナリストからの、自分や自分の愛する人が殺されようとしているという警告や、その後に続く殺害の知らせは、肉体的にも政治的にも無力であるという屈辱をより募らせた。無力な暗示された罪の意識に駆られ、ジョー・バイデン米大統領の顔をスキャンして慈悲の兆し、流血を終わらせる兆しを探そうとした人々は、不気味なほど滑らかな硬さを発見した。あれやこれやの国連決議、人道支援NGOの必死の訴え、ハーグの陪審員たちによる厳罰、そして土壇場でのバイデンの大統領候補交代によって喚起された正義の希望は残酷なまでに打ち砕かれた。

2024年末までには、ガザ地区の虐殺の現場から遠く離れた場所に住む多くの人々が、悲惨と失敗、苦悩と疲労の壮大な風景に引きずり込まれたことを、遠くからではあるが感じていた。これは、ただ傍観する者にとっては大げさな感情的負担に思えるかもしれない。しかし、ピカソが空からの攻撃で殺されながら叫ぶ馬と人間を描いた「ゲルニカ(Guernica)」を発表した際に引き起こされた衝撃と憤りは、ガザ地区で撮影された、父親が首のない我が子の遺体を抱く一枚の写真の影響だった。

戦争はやがて過去のものとなり、積み重なった恐怖の山は時とともに平らになるかもしれない。だが、ガザ地区では、負傷した身体、孤児となった子供たち、瓦礫の町、家を失った人々、そして、あちこちに漂う大量の死別意識と存在の中に、この惨劇の痕跡が何十年も残るだろう。そして、狭い海岸地帯で何万人もの人々が殺害され、重傷を負うのを遠くから無力に見守り、権力者の拍手喝采や無関心を目撃した人々は、心の傷と、何年も消えないトラウマを抱えて生きていくことになるだろう。

イスラエルの暴力を、正当な自衛なのか、厳しい都市環境での正当な戦争なのか、民族浄化や人道に対する罪なのか、という論争は決して決着がつかないだろう。しかし、イスラエルの一連の道徳的、法的違反行為の中に、究極の残虐行為の兆候を見出すことは難しくない。イスラエルの指導者によるガザ地区撲滅に向けた率直で決まりきった決意、ガザ地区でのイスラエル国防軍(Israel Defense Forces、IDF)による報復が不十分であることを国民が嘆くことで暗黙のうちに容認していること、犠牲者を和解不可能な悪と同一視していること、犠牲者のほとんどが全くの無実で、その多くが女性や子供だったという事実、第二次世界大戦での連合軍によるドイツ爆撃よりも比例して大きい破壊の規模、ガザ地区全体の集団墓地を埋め尽くす殺戮のペース、そしてその方法が不吉なほど非人格的(人工知能アルゴリズムに依存)かつ個人的(狙撃手が子供の頭を2発撃ったという報告が多い)であること。食料や医薬品へのアクセスの拒否、裸の囚人の肛門に熱い金属の棒が挿入されること、学校、大学、博物館、教会、モスク、さらには墓地の破壊、死んだり逃げたりするパレスティナ女性の下着を着て踊るイスラエル国防軍兵士に体現された悪の幼稚さ(puerility of evil)、イスラエルにおけるそのようなTikTokインフォテインメント(訳者註:情報[information]と娯楽[entertainment]の合成語)の人気、そして自国民の絶滅を記録していたガザ地区のジャーナリストの慎重な処刑。

もちろん、産業規模になった虐殺に伴う無慈悲さは前例がないわけではない。ここ数十年、ホロコースト(the Shoah)は人類の悪の基準を定めてきた。人々がそれを悪と認識し、反ユダヤ主義(antisemitism)と戦うために全力を尽くすと約束する程度は、西洋では彼らの文明の尺度となっている。しかし、ヨーロッパのユダヤ人が抹殺された年月の間に、多くの良心が歪められたり、麻痺したりした。非ユダヤ人のヨーロッパの多くは、しばしば熱心に、ナチスのユダヤ人攻撃に加わり、彼らの大量殺戮のニューズでさえ、西洋、特にアメリカでは懐疑的かつ無関心に迎えられた。ジョージ・オーウェルは、1944年2月になっても、ユダヤ人に対する残虐行為の報告は「鉄のヘルメットから豆が落ちるように(like peas off a steel helmet)」人々の意識から跳ね返ったと記録している。西側諸国の指導者たちは、ナチスの犯罪が明らかになってから何年もの間、大量のユダヤ人難民の受け入れを拒否した。その後、ユダヤ人の苦しみは無視され、抑圧された。一方、西ドイツは、ナチス化からほど遠いものの、ソ連共産主義に対する冷戦に加わりながら、西側諸国から安易な赦免(cheap absolution)を受けた。

記憶に残る中で起きたこれらの出来事は、宗教的伝統(religious traditions)と世俗的な啓蒙主義(the secular Enlightenment)の両方の基本的前提、つまり人間は根本的に「道徳的(moral)」な性質を持っているという前提を揺るがした。人間には道徳的性質がないという、腐った疑念が今や広まっている。冷酷さ、臆病さ、検閲の体制下での死や切断を間近で目撃した人々はさらに多く、あらゆることが起こり得ること、過去の残虐行為を覚えていても現在それが繰り返されない保証はないこと、そして国際法と道徳の基盤がまったく安全ではないことを衝撃とともに認識している。

近年、世界では多くの出来事が起こっている。それらは、自然の大災害、財政破綻、政治的激変、世界的パンデミック、征服と復讐の戦争などである。しかし、ガザ地区に匹敵する災害はない。これほど耐え難い悲しみ、困惑、良心の呵責(grief, perplexity, and bad conscience)を私たちに残したものはない。これほど、私たちの間での、情熱と憤りの欠如、視野の狭さ、思考の弱さ(lack of passion and indignation, narrowness of outlook, and feebleness of thought)を恥ずべき形で証明したものはない。西洋の若者の世代全体が、政治とジャーナリズムの長老たちの言葉と行動(そして無作為)によって道徳的に大人に成長させられ、世界で最も豊かで最も強力な民主政体国家の支援を受けた残虐行為を、ほぼ独力で認識せざるを得なくなった。

パレスティナ人に対するバイデンの頑固な悪意と残酷さは、西洋の政治家やジャーナリストたちが提示した多くのぞっとするような謎の1つに過ぎない。西側諸国の指導者たちにとって、10月7日の戦争犯罪の犯人を追及し、裁きを受けさせる必要性を認めながらも、イスラエルの過激派政権(an extremist regime in Israel)への無条件の支援を差し控えることは簡単だっただろう。それなのに、なぜバイデンは存在しない残虐行為のヴィデオを見たと繰り返し主張したのか? 元人権弁護士の英首相キール・スターマーは、イスラエルにはパレスティナ人から電力と水を差し控え、停戦(cease-fire)を求める労働党員を処罰する「権利がある(has the right)」と主張したのはなぜか? なぜ、西洋啓蒙主義(the Western Enlightenment)の雄弁な擁護者であるユルゲン・ハーバーマスは、自称民族浄化主義者たち(avowed ethnic cleansers)の擁護に飛びついたのか?

アメリカで最も古い定期刊行物の1つである『ジ・アトランティック』誌が、ガザ地区で約8000人の子供たちが殺害された後、「子供たちを合法的に殺すことは可能だ(it is possible to kill children legally)」と主張する記事を掲載したのはどうしてか? イスラエルの残虐行為を報道する際に西側主要メディアが受動態に頼り、誰が誰に、どのような状況下で何を行っているのかが分かりにくくなっているのはなぜか(「ダウン症のガザ地区在住男性が孤独死(The lonely death of Gaza man with Down’s syndrome)」というのが、障害のあるパレスティナ人男性にイスラエル兵が攻撃犬を放ったというBBCの報道の見出しだった)? なぜアメリカの億万長者たちが大学キャンパスでの抗議活動者への容赦ない弾圧を促進するのに協力したのか? 親イスラエルの合意に反抗しているように見えるという理由で、学者やジャーナリストたちが次々と解雇され、芸術家や思想家がプラットフォームを追われ、若者が就職を妨げられたのはなぜか? なぜ西側諸国は、ウクライナ人を悪意ある攻撃から守り保護しながら、あからさまにパレスティナ人を人間の義務と責任の共同体(the community of human obligation and responsibility)から排除したのか?

これらの疑問にどう対処するかに関わらず、私たちは直面している現象を正面から見つめざるを得ない。それは、西側の民主政治体制国家が共同で引き起こした大惨事(a catastrophe jointly inflicted by Western democracies)であり、1945年のファシズムの敗北後に生まれた、人権の尊重と最低限の法的・政治的規範に支えられた共通の人間性という必要な幻想(the necessary illusion that emerged after the defeat of fascism in 1945 of a common humanity underpinned by respect for human rights and a minimum of legal and political norms)を破壊したのだ。

※パンカジ・ミシュラ:インドのエッセイスト、小説家。『怒りの時代: 現在の歴史(Age of Anger: A History of the Present)』、『帝国の廃墟から:アジアを再構築した知識人たち(From the Ruins of Empire: The Intellectuals Who Remade Asia)』など、その他数冊のノンフィクションおよびフィクションの著書がある。

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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2024年も世界各地で戦争が続いた。ウクライナ戦争は2年以上も経過し、3年目に入ろうとしている。2023年に始まったイスラエルとガザ地区を実効支配するハマスとの戦闘は続いており、加えて、レバノンのヒズボラやイランとの紛争も継続中だ。シリアにおいては10年以上継続した内戦が新たな段階を迎え、50年以上続いたアサド家による独裁体制は終焉したが、シリアの状況は予断を許さない。これらが示しているのは、アメリカの国力が低下し、アメリカが世界の警察官であることを止めたことで、アメリカの力による問題解決ができなくなり、各国は「自力救済」を志向する傾向が出てきたということだ。シリアに関して言えば、イスラエルが一番の受益者ということになる。イスラエルは恐らく、反体制派へ武器と情報の支援を実施し、電光石火のアサド政権崩壊を導いたのだろう。

スティーヴン・M・ウォルトによると、世界政治においては、2つの相反する傾向が存在する。これらの傾向が互いに影響し合うことで、多くの国々が判断を失敗する原因となっている。第一の傾向は、現代兵器の射程、精度、致死性の増大である。過去には、敵に損害を与えるために軍隊を破る必要があったが、今日では強力な国家が数百マイル離れた目標を爆破する能力を持っている。核兵器やミサイルがその代表であり、無人機の使用による遠隔攻撃も増えている。アメリカやロシア、イスラエルはこうした高い能力を保有している。

第二の傾向は、地域のアイデンティティや国家意識の強化である。過去500年の歴史の中で、共通の文化や言語に基づく集団が自らの統治を求めてきた。国家意識が高まると、人々はそのために大きな犠牲を払うことを厭わなくなる。第一の傾向の武器の強靭化をもってしても、人々の意志を挫くことは困難だ。

これら2つの傾向は相反するもので、強力な国家が遠方で破壊的な手段を持つ一方で、地域のアイデンティティが強化されることで、敵対する国民の結束が高まる可能性がある。空爆は民間人の士気を打ち砕くどころか、逆に団結感を育むことが歴史的に示されている。高い攻撃能力を持っていても、それが政治的影響力や戦略的勝利をもたらすことは少ないとウォルトは分析している。私たちが既に見ているように、ウクライナやパレスティナの人々は屈服していない。

単に爆弾を投下することは、根本的な政治的問題の解決にはならないことは明らかだ。特に、イスラエルによるガザ地区への攻撃は、その破壊力が何らかの解決に結びつくとは考えられない。問題を解決するためには、根本的な政治的原因への対処と国民の統治意識を認めることが必要であり、単なる破壊的な力だけでは目的を達成できないことを理解する必要がある。

 アメリカは世界最強の軍事力を誇り、それを背景として、価値観外交を展開し、敵対する国々の体制転換(regime change)を行ってきたが、失敗の連続という結果に終わった。軍隊では問題の根本解決はできないということを考え、アメリカは、軍隊の役割を限定するということが必要になってくる。その根本的な原理となるのが「アイソレイショニズム」であり、「アメリカ・ファースト」だ。

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世界の二大潮流は対立している(The Two Biggest Global Trends Are at War)

-世界の指導者たちは新たな世界秩序の矛盾を乗り越える術を学ばなければならない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年8月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/06/trends-war-drones-identity-gaza-ukraine-houthis/

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ウクライナのキエフ地方でテスト飛行中のポーランドの偵察用ドローン「フライアイWBエレクトロニクスSA」を打ち上げる軍関係者(2022年8月2日)

ドナルド・トランプやカマラ・ハリスなど、世界のリーダーを目指す人たちが外交政策について私に助言を求めてきたら、喜んで話をしたいことはたくさんある。気候変動、中国との付き合い方、保護主義が愚かな理由、ガザ地区をどうするか、規範の役割、脅威の均衡理論(balance of threat theory)が本当に意味するもの、その他多くのトピックがある。しかし、私はまず、世界政治における2つの相反する傾向に注意を喚起することから始めるだろう。この2つの潮流は、重要な点で互いに対立しており、この2つの潮流がどのように影響し合っているかを理解しなかったために、多くの国々が道を踏み外すことになった。

第一の傾向は、現代兵器の射程、精度、致死性の増大だ。1世紀ほど前、空軍力は初期段階にあり、ロケット弾や大砲は精度が低く、射程も限られていた。敵に多大な損害を与えるには、敵の軍隊を破り、包囲軍で都市を包囲する必要があった。しかし今日、強大な国家は、たとえ目標が数千マイルではなく、数百マイル離れたところにあるとしても、物事を爆破することに非常に熟練している。核兵器と大陸間ミサイルはこの傾向のモデルだが、ありがたいことに、これらの兵器は1945年以来抑止目的のみに使用されてきた。しかし、長距離航空機、弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人機、および精密誘導技術の着実な進歩により、現在では、戦闘員が数百マイル離れた目標を破壊することが可能になっている。一部の非国家主体(イエメンのフーシ派など)さえもこの行為に参加している。

制空権(command of the air)によって、強力な国家は、敵対する軍隊や無力な市民に甚大な損害を与えることができるようになった。アメリカが第一次湾岸戦争の初期に行ったこと、ロシアがウクライナで行っていること、イスラエルが現在ガザ地区で行っていることは、破壊的パワーを投射する能力(ability to project destructive power)が時代とともに飛躍的に高まっていることを示している。このリストに、いわゆる識別特性爆撃(シグネチャーストライク、signature strikes)でテロリストと疑われる人物を殺害したり、イランの精鋭部隊コッズ部隊(Quds Force)のトップであるカセム・スレイマニのような外国高官を暗殺したりするための無人機の使用を加えることができるだろう。先週レバノンでヒズボラの高官フアド・シュクルを殺害したイスラエルの攻撃は、最新の例にすぎない。世界最強の国家にとって、遠隔地で殺傷力を行使する能力はかつてないほど高まっている。また、洗練されたサイバー兵器によって、たとえ標的が地球の反対側にあったとしても、マウスをクリックするだけで相手の重要インフラを攻撃できるようになるかもしれない。つまり、一部の国家にとっては、破壊する能力がグローバルな範囲に広がっている。

二つ目の傾向はまったく異なる。それは、地域のアイデンティティと忠誠心、特に国家としての意識の政治的顕著性(political salience)と粘り強さ(tenacity)の深化だ。以前にも述べたように、「人間は共通の言語、文化、民族性、自己認識に基づいて異なる部族を形成しており、そのような集団は自らを統治できるべきであるという考えが、過去500年の歴史を形作ってきた。多くの人がまだ十分に理解していない形で何年も経っている」。国家意識の広範な出現と、そのような集団が他者に支配されるべきではないという信念が、多国籍のハプスブルク帝国とオスマン帝国がそれぞれ1918年と1922年以降存続できなかった主な理由の1つだ。イギリス、フランス、ポルトガル、ベルギーの植民地がなぜ独立したのか。そして、なぜソ連とワルシャワ条約機構も最終的に解体してしまったのかなどの理由になる。

国家としてのアイデンティティに対する強力な意識が国民の中に根付くと、国家へのより大きな一体感と忠誠心を築くために政府がしばしば奨励するプロセスであるが、国民はますます「想像上の共同体(imagined community)」のために多大な犠牲を払うことを厭わないようになるだろう。北ベトナム人は独立を獲得し国家を統一するために、日本、フランス、アメリカと50年間戦った。アフガニスタンのムジャヒディーンは最終的にソ連に自国からの軍隊撤退を強制し、タリバンの後継者たちはアメリカに同じことをするよう説得した。今日、数と武器で劣るウクライナ人がロシアの侵略に抵抗し続けている一方、パレスティナ人の抵抗とアイデンティティを破壊しようとするイスラエルの努力は、彼らを更に強くするだけのように思われる。

その結果、ある種の矛盾が生じる。強力で技術的に進んでいる先進諸国は、遠距離から他国に損害を与える効果的な手段をますます手に入れているが、この破壊的な能力は永続的な政治的影響力をもたらしたり、意味のある戦略的勝利をもたらしたりすることはない。アメリカは1992年から2010年までイラク上空を制圧し、望むときはいつでも航空機、ミサイル、無人機をイラクの敵国に向けて投入することができた。しかし、その技術的に優れた能力は、アメリカ軍が反政府勢力を排除したり、親イラン民兵組織の影響力を弱めたり、国家の政治的発展を決定したりすることを可能にするものではなかった。

これら2つの傾向、つまり遠く離れた場所で物事を爆発させる能力がますます増大していることと、地元のアイデンティティの頑固な力が相反する理由の1つは、遠隔地攻撃能力を使用すると地元のアイデンティティが強化される傾向があるからだ。初期の空軍力理論家たちは、空爆は民間人の士気を打ち砕き、敵対者を迅速に降伏させるだろうと予測していたが、経験上、民間人に爆弾を投下する方が強力な団結感(sense of unity)と抵抗の精神(spirit of resistance)を育む可能性が高いことを示している。無防備な人々に死と破壊を与えることは、実際、犠牲者の間に共通のアイデンティティの感覚を築くための理想的なるつぼだ。爆弾やミサイルでウクライナのインフラを破壊することには、ある程度の軍事的価値があるかもしれないが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、ウクライナ国民にロシアとの「歴史的団結(historical unity)」を説得するために、これ以上悪い方法を選択することはできなかったはずだ。戦争が最終的にどのように終結しても、彼はウクライナとロシアの間に数十年続く可能性が高い亀裂を生み出した。

なぜ私は、志ある国家指導者たちにこれら2つの傾向について伝えたいのだろうか? なぜなら、強国の指導者たちは、物事を爆破する「衝撃と畏怖(shock and awe)」の能力があれば、弱い国民を従わせることができると考える傾向があるからだ。弱い敵に爆弾を投下したり、ミサイルやドローンを発射したりすることで、自国民へのリスクを最小限に抑えることができるため、これは魅惑的な考えだ。歴史家のサミュエル・モインが主張しているように、指導者は、精度と正確さによって悪者を排除し、民間人を救うことができると自分自身に納得させることさえでき、それによって致死的な武力の使用が良性で承認されやすくなる可能性さえある。もしあなたが何らかの厄介な外交政策問題を抱えている強国であり、自国民に大きなリスクを与えることなくその問題に空軍力を投じることができるのであれば、「何かをする」ことはより魅力的なものとなる。

残念ながら、物事を爆破したり(場合によっては多くの無実の人々を殺害したりすることも)、そもそも紛争を引き起こした根本的な政治的問題には対処できない。過去10カ月にわたってイスラエルがガザ地区に加えた大規模な虐殺を見て欲しい。イスラエルが示した破壊力に疑問を呈する人は誰もいない。今日のガザ地区のヴィデオ映像を見るだけで分かる。しかし、これによってガザ地区やヨルダン川西岸、その他の場所にいる何百万ものパレスティナ人が自身の統治への欲求を放棄することになると本気で信じている人がいるだろうか? もちろん、同じことは逆にも当てはまる。ヒズボラは20年前よりもイスラエルを攻撃する能力が高まっているが、その破壊能力によって条件を決定したり、イスラエルとの紛争を引き起こしている、より深い政治問題を解決したりすることはできない。そして、イスラエルとより広範な地域戦争の危険に晒されている。

私は、現代の航空戦力に価値がないとか、国家が絨毯爆撃(carpet-bombing)やより粗雑な長距離攻撃(cruder forms of long-range attack)に頼らざるを得なくなった方が世界が良くなるなどと言っているのではない。有能な地上軍と組み合わされれば、航空戦力は十分に選択された政治目的を推進する上で極めて効果的である。例えば、アメリカの航空戦力は、イスラム国を、短期間続いたカリフ国から追い出すのに重要な役割を果たしたが、それはイラクとイランの地上軍がその地域を奪還し、平和にするために存在していたからである。

軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツは正しかった。戦争は政治の継続であり、破壊力だけで政治的目的を達成できることはほとんどない。成功するかどうかは、何よりもまず現実的な目的を選択するかどうかにかかっているが、それと同時に、根本的な政治的原因に対処し、各国が自国を統治しようとする意欲を認めるかどうかにもかかっている。勝利への道を空爆で切り開こうと考えるような人間に国家を運営する資格はない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 古村治彦です。
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 昨年(2023年)10月7日にガザ地区を実効支配するハマスによる、イスラエルへの攻撃から始まった紛争は1年以上経過しても終息していない。その後、イスラエルはレバノンを拠点とするヒズボラを攻撃するために、レバノンにも侵攻している。また、イエメンのフーシ派にも空爆を加えている。ハマスとヒズボラ、フーシ派を支援するイランとの対決姿勢を鮮明にしている。状況は深刻化していた。その後、レバノンとの間で停戦合意が結ばれているが、中東における戦争の段階が上がり、エスカレーションが進めば、イランとの全面的な対決となり、最悪の場合には核戦争が起きる可能性もある。
 イスラエルは公には認めていないが、核兵器保有国であり、アメリカからの大きな支援を受けて、軍事力でも近隣諸国を圧倒している。そのため、戦術レヴェルでの勝利を得ることは容易い。それぞれの戦いにおいては確実に勝利を収めることができる。しかし、戦略的に見れば、ガザ地区やレバノンにおける民間人の犠牲者が増えるにつれて、イスラエルに対する同情は消え、世界的に見て、批判が高まっている。それは、イスラエルを手厚く支援しているアメリカ国内においてもそうだ。

 あれだけの圧倒的な戦力差がありながら、イスラエルは常に不安定な状況に置かれている。大きな武力が屁のツッパリにもなっていないということになる。更に、これまでは、同情される面もあったが、昨年からのガザ地区やレバノンでの戦争によって、孤立感を深めている。アメリカが仲介してのサウジアラビアとの国交正常化交渉は頓挫したままだ。サウジアラビアは、中国の仲介もあり、イランとの国交正常化を行っている。中東において、イスラエルとアメリカが孤立感を深め、主要なプレイヤーとしての役割を果たせなくなりつつある。イスラエルは戦術レヴェルでの勝利を収めても、戦略レヴェルでの勝利を収めていないということになる。

 現在のイスラエルの指導者であるベンヤミン・ネタニヤフ首相は、どのように戦争を終結させるのか、どのように現状から自国の利益につなげていくのかというヴィジョンがはっきりしない。戦争を拡大させて、自分の政権が存続することを第一と考えているように見える。これはイスラエルにとって非常に危険なことだ。戦時内閣ということで、批判を受けにくいということもあるだろうが、イスラエルは、自国の利益のために、ネタニヤフ首相の更迭を行うべきであろう。

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中東におけるイスラエルの「任務完了」の瞬間(Israel’s ‘Mission Accomplished’ Moment in the Middle East)

-ベンヤミン・ネタニヤフはジョージ・W・ブッシュと同じ大きな過ちを犯しているかもしれない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年10月2日
『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/10/02/israel-netanyahu-lebanon-iran-gaza-strategy-mission-accomplished/

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ハイファ港に停泊中の米空母ジョージ・H・W・ブッシュを訪問し、アメリカ兵と話すイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2017年7月3日)

2003年5月1日、ジョージ・W・ブッシュ米大統領はかっこいいフライトスーツを身にまとい、S-3ヴァイキング機に乗り込み、空母エイブラハム・リンカーンに着艦した。「任務完了(Mission Accomplished)」と書かれたバナーの下に立ち、イラクにおける主要な戦闘作戦の終了を宣言した。「アメリカと同盟諸国は勝利した」と誇らしげに宣言した彼の支持率は急上昇し、戦争を仕組んだネオコンたちは、その大胆さと英知(boldness and wisdom)を自画自賛した。しかし、イラクの状況はすぐに悪化し、ブッシュ大統領のイラク侵攻の決断は戦略的な大失策であったと今では誰もが考えている。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とその支持者たちが、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスルラと過激派組織のトップ指導者の多くの暗殺で頂点に達した(しかし終わっていない)イスラエルによる最近のレバノン攻撃を祝っているのを見ながら、私はあの事件のことを思い出した。過去1年間、ネタニヤフ首相は、ハマスのイスラエル攻撃から始まった戦争を容赦なく延長、拡大させながら、国防大臣、国内の敵対者グループ、ハマスに今も拘束されているイスラエル人人質の家族、そしてバイデン政権に反抗してきた。かつて、「創業国家(start-up nation)」ともてはやされたイスラエルは、今では「物事を爆発させる国家(blow-things-up nation)」となっており、ネタニヤフ首相はイスラエルの敵対者たちに、イスラエルの手の届かないところは何もないことをすぐに思い出させた。イスラエル軍と諜報機関が複数の敵対者に与えた損害(その過程で数万人の民間人が殺害された)を考えれば、ネタニヤフ首相が勝利の歩みを進めていたことは驚くべきことではない。ブッシュがそうであった。

過去数週間にわたるイスラエルの行動が驚くべき戦術的成果であったことには疑問の余地はない。イスラエル諜報機関は、優れた信号情報とヒズボラの組織構造の亀裂、さらには最高指導者によるいくつかの不可解なミスを利用し、ヒズボラが通信に使用していたポケベルやトランシーバーをブービートラップにする複雑かつ大胆な計画を見事に成功させた。ガザ地区での場合と同様、イスラエル国防軍は、アメリカが提供した最新兵器を使用してナスルラを殺害し、レバノン全土に大規模な被害を与え、ヒズボラのロケット弾とミサイル能力を部分的に低下させた。イスラエル空軍はこれに続いてイエメンのフーシ派を攻撃し、イスラエル地上軍は現在レバノン南部に進入しており、イランは間違いなく最近のミサイル攻撃に対するイスラエルの報復に直面するだろう。ネタニヤフ首相とその極右閣僚たちはまた、「大イスラエル(Greater Israel)」を創設するための長期キャンペーンの一環として、戦争(とそれに対するアメリカの無関心な対応)を利用して、占領下のヨルダン川西岸地区での暴力と土地接収を強化している。

ネタニヤフ首相が全勝で戦争を終わらせ、地域のバランス・オブ・パウア(balance of power、勢力均衡)を恒久的にイスラエルに有利な方向にシフトさせることを、何が止めるだろうか? 戦術的な成果が戦略的な成功を保証するわけではないが、十分な成果を上げることができれば、重要かつ永続的な方法で戦略的環境を変えることができるかもしれないと主張することはできる。ネタニヤフ首相はそれを目指しているが、成功するかどうか疑わしい理由がある。

始めに、イスラエルがいわゆる抵抗の枢軸(Axis of Resistance)に与えたダメージは、抵抗の勢力を解散に追い込む、もしくは、白旗を揚げる原因にはならないだろう。ヒズボラ、ハマス、フーシ派、イランはいずれも過去に強力な打撃を受けて生き延びてきた。更に、昨年の様々な出来事の発生によって、彼らの報復の希望はどんどんと大きくなっている。奇妙なことだが、大量の爆発物を人々に投下しても、彼らを打ち負かすことはできないようだ。あるいは少なくともいじめる相手を止めさせる能力を切望するようになる。ヒズボラは今もイスラエルに向けてロケット弾やミサイルを撃ち続けており、北部に避難している約6万人のイスラエル人が帰還できないようになっている。暗殺された指導者たちは、既に入れ替わり、幹部組織は再建され、再武装され、彼らが学んだことに基づいて新しい戦術が開発されるだろう。イスラエルは現在、これを防ごうとレバノン南部に再び軍隊を派遣しているが、以前のレバノン南部への侵攻は良い結果をもたらさなかった。

イスラエルの手による虐待が問題の根源であるパレスチナ人については、イスラエルが自分たちにしていることに抵抗し続ける以外に選択肢はない。もしイスラエルが彼らに魅力的な代替案、たとえば自分たちの国家や大イスラエル内での平等な権利などを提供していれば、状況は変わっていたかもしれないが、ネタニヤフ首相はそうした可能性を閉ざしてしまった。エジプトのアンワル・サダト大統領はイスラエルと和平を結び、エジプトはシナイ半島を取り戻した。PLOはイスラエルと和平し、さらにイスラエルの違法入植地(illegal Israeli settlements)を手に入れた。現在、イスラエルがパレスチナ人に提示している唯一の選択肢は、追放、絶滅、または永続的なアパルトヘイト(expulsion, extermination, or permanent apartheid)であり、戦わずしてそのような運命を受け入れる国民はいない。従って、イスラエルの存在を受け入れ、実行可能な国家を得ることを期待してイスラエルに協力し、何の見返りも得られなかったパレスチナ自治政府が、パレスチナの人々の間で人気を失う一方で、ハマスへの支持が高まっているのも不思議ではない。

同様に、アリ・アクバル・ハシェミ・ラフサンジャニ大統領とハッサン・ルーハニ大統領のもとで、イランがアメリカ(ひいてはイスラエル)との関係を改善しようと時々行ってきた努力は、イスラエルとその支持者であるアメリカによって断固として阻止された。特に、2018年にイランの核プログラムを厳しく制限する画期的な協定である「包括的共同行動計画」を放棄するよう、騙されやすいドナルド・トランプ大統領を説得したときはそうだった。こうした対応はイラン強硬派の力を強め、イランの新大統領が緊張を緩和させたいと繰り返し表明しているにもかかわらず、この地域の現在の危機も同じことをするだろう。ハマスの政治指導者イスマイル・ハニヤが7月にテヘランで暗殺されたことを含め、イスラエルが地域の同盟諸国を衰弱させたり排除しようとしたりする動きに対して、イランはイスラエルに向けてミサイルを発射することで対抗した。

残念なことに、こうした出来事によって、イランの指導者たちが潜在的な核兵器保有国であることを超えて、イランの核兵器保有を決断する可能性が高まっている。そのような決断をすれば、全面的な地域戦争(all-out regional war)に発展する可能性が高くなるが、イスラエルは究極の抑止力(ultimate deterrent)を欲しがるイランにさらなる刺激を与え続けている。もしそうなれば、イスラエルの最近の成功は驚くほど近視眼的(shortsighted)に見えるだろう。

イスラエルの最近の行動は、地政学的な孤立を深め、最終的にはアメリカとの特別な関係を危うくするかもしれない。10月7日の攻撃後、イスラエルが当然享受していた同情は、ガザ地区やレバノンの民間人に加えられた殺戮を世界が見るにつれて消え失せている。国際司法裁判所はイスラエルのヨルダン川西岸地区占領を国際法違反と宣言し、ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント国防相は、戦争犯罪と人道に対する罪で国際刑事裁判所から逮捕状を請求されるかもしれない。サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国による承認は保留され、グローバル・サウス諸国の多くが反対を表明し、ヨーロッパ各国政府はますます苛立ちを募らせている。先週の国連総会でのネタニヤフ首相の演説に反対するデモ行進は、象徴的なジェスチャーではあったが、彼とイスラエルが多くの人々からどう見られているかを反映していた。

ネタニヤフ首相と支持者たちは、バイデン政権からの無制限の援助や、ネタニヤフ首相の米連邦議会演説でのスタンディングオベーション、アメリカ軍からの積極的な支援、大学キャンパスやその他の場所でのイスラエル・ロビーによる批判の抑圧の成功を慰めにするかもしれない。これらも短期的な戦術的成功であり、危険な反動を引き起こす可能性がある。多くの人はいじめられることを好まない。イスラエルの行動に対する正当な批判を封じ込めることを意図した言論統制やその他の規制の実施は、多くの憤りを生むだろう。特に、暴力と民族浄化の大量虐殺キャンペーンを展開している国を守るために、露骨かつ公然と行われている場合はなおさらだ。

更に言えば、イスラエルの行動がより広範な地域の戦争につながり、アメリカがそれに巻き込まれることになれば、アメリカ人は「特別な関係(special relationship)」の価値を真剣に疑うかもしれない。イラクのサダム・フセインを倒そうというネオコンのキャンペーンは、イスラエルをより安全にしたいという願望に触発された部分もあった(だからこそ、アメリカ・イスラエル公共問題委員会やネタニヤフ首相のようなイスラエルの指導者たちは、ブッシュ政権がこの戦争を売り込むのを助けたのだ)が、戦争が起きた理由はそれだけではないし、イスラエルもイスラエル・ロビーも非難されることはなかった。しかし、もしアメリカがまた中東戦争で兵士や船員を失い始めたら、アメリカから金と武器を受け取り、好き勝手なことをする、いつまでも恩知らずな保護国(client state)のためにアメリカ人を危険に晒していると、広く正しく見なされるだろう。さらに、ジョー・バイデン大統領とアントニー・ブリンケン国務長官の不手際が原因で、11月の選挙でカマラ・ハリスが落選するようなことがあれば、民主党も共和党も、反射的にイスラエルを支持することが今でも賢明な政治姿勢なのかどうか疑問を持ち始めるだろう。そして、もしこのようなことが起これば、アメリカ国内のイスラエル支持者に対する反発のリスクは高まるだろう。アメリカにおける反ユダヤ主義の台頭を心配するのであれば、大学キャンパスでの無害なデモよりも、その可能性の方がはるかに怖いはずだ。

最後に、イスラエル自身への影響である。10月7日の余波で、イスラエル国民はネタニヤフ首相(彼の決断がイスラエルをハマスの残忍な攻撃に無防備な状態にした)を見捨てて、国を正常な状態に戻す機会を得た。しかし、それは実現せず、ネタニヤフ首相の最近の戦術的成功は、イスラエルの未来について熱烈に宗教的でメシア主義的なヴィジョンに基づく政策をとる右翼過激派とともに、彼の政治的立場を強化している。穏健で世俗的なイスラエル人は、近年の経済を支えてきたハイテク部門の中心的存在であるが、ベザレル・スモトリッチ財務相のような人物が作りたがっているイスラエルに住むことを避けるため、離脱を続けるだろう。すでに50万人以上のイスラエル人(つまり人口の約5%)が海外に住んでいる。調査によれば、彼らの80%は戻るつもりはない。『ワシントン・ポスト』紙は、イスラエル経済が「深刻な危機に瀕している」と報じているが、こうした傾向はさらに強まるだろう。イスラエルの大学は国の宝であるが、外国人留学生の激減が報告されており、これはイスラエルのイメージ低下のさらなる兆候であると同時に、将来の科学的進歩への打撃でもある。要するに、ネタニヤフ首相の短期的な成果は、イスラエルの長期的な将来を危うくする傾向を強めているのだ。

人生は不確かなものだ。政治の世界では特にそうだ。しかし、数週間前にも書いたように、一見、軍事的、政治的に圧勝したように見えても、時間の経過とともに深い問題の種が芽生えることがある。成功するリーダーの課題は、一時的な優位性を利用して長期的な利益を確保することである。しかし、そのためには、いつ立ち止まり、いつ戦いから紛争解決へとシフトするかを知る必要がある。悲しいかな、ネタニヤフ首相にそのようなスキルがある気配はないし、身につけようという考えも全く持っていない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Xアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2023年10月7日に、ガザ地区を実効支配しているイスラム政治・軍事組織ハマスがイスラエル側を攻撃し、約1200人が死亡し、200人以上が人質となった。イスラエルは報復として、ガザ地区に侵攻し、約4万人が死亡した。イスラエルはレバノンのイスラム武装組織ヒズボラへも攻撃を加えており、中東地域の不安定さは増している。イスラエルは、ハマスとヒズボラを支援するイランとも緊張を高めている。イランの核開発の進行状況によっては、中東地域での核戦争の可能性ということまで考えられる。イスラエルは、イラン政府中枢にまで情報提供者、スパイを配置しており(ハマスの最高幹部イスマーイール・ハニーヤ政治局長をテヘランで爆殺しており、これはイラン政府中枢に相当な確度の情報提供者がいることを示している)、イランの核開発は進んでおらず、核戦争までは進まないという判断を下している可能性もあるが、そのような危険性があるということだけでも、国際政治においては大きな要素になる。

 イスラエルのガザ地区やレバノンへの攻撃に対して、世界各国で反感が高まっている。アメリカの各キャンパスでの抗議活動の激化は、イスラエルを支え続けてきたアメリカの外交政策にも影響を及ぼすことになった(民主党のジョー・バイデン政権は弱腰と見られるような状況になった)。また、イスラエルはアメリカの意向に沿わない形で、中東地域での戦争の段階を拡大しているように見える。現在の戦時内閣を率いるベンヤミン・ネタニヤフ首相は戦争がない状態であれば、自身と家族の汚職問題で辞任を迫られ、裁判となり、有罪判決を受ける可能性が高いと言われている。戦争が続く限り、個人としては逮捕されるような心配はない。そのような極めて個人的な利益のために、戦争を利用しているとすれば言語道断だ。また、イスラエルの一種の「傲慢さ」に関して、世界各国で反感が高まっている。

 ハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルト教授は、イスラエルの建国からの歴史を検討し、イスラエルの戦略的洞察力が落ちていることが、イスラエルを危険にさらしていると主張している。建国からしばらくの間のイスラエルの首脳陣は非常に慎重な行動をし、戦略的に動いていた。しかし、1967年の第三次中東戦争での大勝利から、そのような慎重さが失われていったと分析している。ウォルトは次のように書いている。

「イスラエルの戦略的洞察力(Israeli strategic acumen)の劇的な低下について説明するものは何か? 重要な要因の一つは、アメリカの保護(U.S. protection)とイスラエルの意向への服従(deference to Israel’s wishes)から来る傲慢さと免罪符の感覚(sense of hubris and impunity)である。世界最強の国が何をやっても支援してくれるのであれば、自分の行動を慎重に考える必要性は必然的に低下する。加えて、イスラエルが自らを被害者とみなし、自国の政策への反対をすべて反ユダヤ主義(antisemitism)のせいにする傾向は、イスラエルの指導者やその国民が、自らの行動がどのように敵意を引き起こしているのかを認識することを難しくしているからだ。ネタニヤフ首相がイスラエルで最も長く首相を務めていることも、問題の一因となっている。特に彼の行動は、自国にとって何が最善であるかという懸念だけでなく、私利私欲(汚職による服役を避けたいという願望)によって引き起こされている部分が大きいからだ。それに加えて、宗教右派(religious right)の影響力の増大がある」。

 私は常々、「勝利は敗北の始まりである」という考えを持っている。特に大勝利は、後の敗北につながることが多いと考えている。引用したように、イスラエルは第三次中東戦争以降に、慎重さを失い、結果として、自国の立場を悪くする選択を行っている。それが、現在の状況までつながっているということになる。傲慢さは人間にとって宿痾である。そして、成功や勝利によって浮かれてしまうのもまた人間の性(さが)である。

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イスラエル戦略の危険な衰退(The Dangerous Decline in Israeli Strategy)

-数十年にわたり、シオニスト・プロジェクトは自らを守るのが下手になっている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年8月16日
『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/16/the-dangerous-decline-in-israeli-strategy/

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イェルサレムのヘルツェル山で行われた故ゴルダ・メア元首相の国家追悼式典でスピーチするイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2018年11月18日)

イスラエルは深刻な問題を抱えている。国民は深く分裂しており、この状況が改善する見通しはない。ガザ地区では勝ち目のない戦争に巻き込まれ、軍部には緊張の兆候が見られ、ヒズボラやイランとのより広範な戦争の可能性も残されている。イスラエル経済は大きな打撃を受けており、『タイムズ・オブ・イスラエル』紙は最近、6万もの企業が今年閉鎖される可能性があると報じた。

更に言えば、イスラエルの最近の行動は、その世界的なイメージを著しく損ない、かつては想像もできなかったような形で孤立国家(pariah state)となりつつある。2023年10月7日のハマスの残忍な攻撃の後、イスラエルは世界中から相当なそして適切な同情の声を受け、イスラエルには強い対応する権利があると広く受け入れられていた。しかし、それから10カ月以上が経過し、イスラエルはガザ地区でパレスティナ人に対する大量虐殺キャンペーンを展開し、ヨルダン川西岸地区では入植者による暴力が強まっている。国際刑事裁判所の主任検察官は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアヴ・ギャラント国防相に対し、戦争犯罪と人道に対する罪の容疑で逮捕状を申請した。国際司法裁判所は、イスラエルの行動は本質的にも意図的にも大量殺戮的であるとする予備的所見を発表し、裁判所はついに、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区、東エルサレム地区に対するイスラエルの占領と植民地化が明白な国際法違反であると宣言した。

ガザ地区で起きていることを見て、おぞましくはないにせよ、深く悩まずにいられるのは、シオニズムを擁護する最も頭の固い人たちだけだろう。イスラエルの行動に対するアメリカ国内の支持率は急激に低下しており、若いアメリカ人(多くの若いアメリカ系ユダヤ人を含む)は、イスラエルの行動に対するバイデン政権の杓子定規な対応に反対している。イスラエルの国家安全保障会議の元副議長エラン・エツィオンのこのツイートを読めば、イスラエルが自らに与えたダメージの大きさがよくわかるだろう。そして、世界有数のジェノサイド研究者である歴史家オメル・バルトフが最近イスラエルを訪問した際の記録を読めば、この問題が、いかに深刻かが分かるだろう。

これら全ての問題をネタニヤフ首相のせいにしたくなる誘惑に駆られるが、彼は確かに国内外から受けた批判に値する。しかし、全ての責任をビビ(ネタニヤフ)に押しつけることは、より深い問題、つまり、過去50年間にイスラエルの戦略的思考が徐々に損なわれていることを見落とすことになる。建国後の最初の20年間におけるイスラエルの功績と戦術的卓越性は、1967年以来のイスラエルの重要な戦略的選択がどの程度その安全保障を損なうのに役立ったかを、特に高齢者の間で曖昧にする傾向にある。

初期のシオニストとイスラエル第一世代の指導者たちは、鋭い戦略家だった。1900年当時のパレスティナにおけるユダヤ人人口はごくわずかで、1948年にイスラエルが建国された時点でもまだ少数派であったにもかかわらず、彼らはアラブ世界の真ん中にユダヤ人国家を建国するという、不可能に近いと思われたことに挑戦した。建国者たちは冷酷なまでに現実的であること(ruthlessly realistic)によって成功した。有利な機会を利用し、有能な準軍事組織(のちに一流の陸軍と空軍も)を構築し、世界の支配的な大国からの支持を勝ち取るために努力を重ねた。たとえば、ソ連も米国も1947年の国連分割計画を支持し、イスラエル建国直後に承認したことは記憶に新しい。ダヴィド・ベン=グリオンとその仲間のシオニスト指導者たちは、自分たちの最終的な目標に近づけるのであれば、少なくとも一時的には、長期的な目標に届かない取り決めも喜んで受け入れた。

国家の地位を獲得すると、新政府は執拗なハスバラ(hasbara、プロパガンダ)を通じて国際的な支持を獲得し、フランス、南アフリカ、その他いくつかの国との協力同盟を築くために熱心に取り組んだ。最も重要なことは、主に「イスラエル・ロビー(Israel lobby)」の力と影響力の増大に基づいて、アメリカとの「特別な関係(special relationship)」を確立したことである。イスラエルの初期の指導者たちは、敵対的な大国に囲まれた小国が国際的な支持を得るには慎重に計算し、多大な努力をしなければならないことを理解していた。巧妙な外交と少なからぬ欺瞞は、イスラエルが秘密裏に核兵器を開発し、イスラエル建国の残酷な現実を隠すのにも役立ったが、この事実はベニー・モリス、イラン・パッペ、アヴィ・シュライム、シンハ・フラパン、そして1980年代の他の「新しい歴史家」たちの業績によって広く知られるようになった。

完璧な政府など存在しないし、イスラエルの初期の指導者たちも時には過ちを犯した。ベン・グリオンは、1956年のスエズ危機でイギリス、フランスと結託してエジプトを攻撃し、イスラエルが軍を撤退させない可能性を示唆したときに過ちを犯した。しかし、ドワイト・アイゼンハワー政権がそのような不当な拡大を容認しないと明言すると、彼はすぐにその姿勢を捨てた。しかし、全体的に見れば、初期のシオニスト国家の戦略的洞察力(strategic acumen of the Zionist state in its early days)は、特に敵対国と比較した場合、印象的であった。

ターニングポイントとなったのは、1967年のアラブ・イスラエル戦争(第三次中東戦争)におけるイスラエルの圧勝だった。その結果は、当時見られたような奇跡的なものではなかったが(とりわけ、アメリカの諜報機関はイスラエルが容易に勝利するだろうと予測していた)、この勝利のスピードと規模は多くの人々を驚かせ、それ以来イスラエルの戦略的判断を損なう傲慢さを助長した。

思慮深いイスラエルの学者たちが繰り返し主張してきたように、主な誤りは、「大イスラエル(Greater Israel)」を創造する長期的な努力の一環として、ヨルダン川西岸地区とガザ地区を保持し、占領し、徐々に植民地化するという決定を下したことだった。ベン・グリオンとその支持者たちは、新しいユダヤ人国家内のパレスティナ人の数を最小限に抑えようとしていたが、ヨルダン川西岸地区とガザ地区を維持することは、イスラエルが、イスラエル系ユダヤ人の人口とほぼ同規模に急増しているパレスティナ人の人口を管理することを意味した。この結果、一般に「占領(occupation)」と呼ばれるように、イスラエルのユダヤ人としての性格と民主政治体制との間に避けがたい緊張関係(unavoidable tension between Israel’s Jewish character and its democratic system)が生まれた。それは、パレスティナ人の政治的権利を抑圧し、アパルトヘイト体制(apartheid system)を構築することによってのみ、ユダヤ人国家であり続けることができるということであった。イスラエルは、更なる民族浄化(ethnic cleansing)や大量虐殺(genocide)によってこの問題に対処することもできたが、どちらも人道に対する罪(crimes against humanity)であり、イスラエルの真の友であれば誰もそのようなことを支持することはできない。

大イスラエルの追求という決断の後には、すぐに別の過ちが生じた。イスラエルの指導者たち(そしてヘンリー・キッシンジャーを含むアメリカの指導者たち)は、エジプトのアンワル・サダト大統領が1967年にイスラエルが占領したシナイ半島の返還と引き換えに和平を結ぶ用意があるという兆候を見逃した。加えて、イスラエルの諜報機関は、エジプト軍がシナイ半島でイスラエル国防軍(Israeli Defense Force、IDF)に対抗するには弱すぎると誤って判断し、戦争まで進むのを思いとどまった。この誤った判断の結果が、1973年の第四次中東戦争だった。当初の挫折にもかかわらず、イスラエルは戦場では勝利を収めたが、戦後の交渉のテーブルでは勝利を収めることはできなかった。戦争の犠牲とアメリカからの圧力が相まって、イスラエルの指導者たちはシナイ半島を放棄するための真剣な交渉を始めるよう説得された。この転換は、やがてサダトの歴史的なエルサレム訪問、キャンプ・デイヴィッド合意、そしてその後のエジプト・イスラエル和平条約(当時のジミー・カーター米大統領の粘り強い巧みな仲介による)につながった。残念なことに、当時のメナヘム・ベギン首相は大イスラエルの目標に深く傾倒し、占領を終わらせようとはしなかったため、パレスティナ問題に真剣に取り組むこの有望な機会を逃してしまった。

戦略的判断が損なわれていることを示す次の明確な兆候は、1982年のイスラエルによるレバノン侵攻であった。この計画は、タカ派のアリエル・シャロン国防相の発案によるもので、レバノンに軍事侵攻すれば、レバノンでかなりの勢力をもっていたパレスティナ解放機構(Palestine Liberation Organization、PLO)を掃討し、ベイルートに親イスラエル政権を樹立し、イスラエルにヨルダン川西岸地区での自由裁量(free hand)を与えることができるとベギン大統領を説得した。この侵攻は短期的には軍事的に成功したが、レバノン南部をイスラエル国防軍が占領することになり、それがヒズボラの創設につながった。PLOをレバノンから撤退させても、パレスティナの抵抗は止まらなかった。それどころか、1987年の第一次インティファーダへの道を開き、パレスティナ人が祖国を離れたり、イスラエルの恒久的な支配に服したりするつもりはないというもう一つの明確なサインとなった。

先見の明のあるイスラエル人は、パレスティナ問題が消えることはないと認識していたが、歴代のイスラエル政府は問題を悪化させるような行動をとり続けた。たとえば、PLOは1993年に最初のオスロ合意に調印してイスラエルの存在を受け入れたが、イスラエルの指導者がパレスティナ人に独自の国家を提供することはなかった。2000年のキャンプ・デイヴィッド・サミットでエフード・バラク首相(当時)が提示した寛大と思われる提案は、それまでのイスラエルのどの提案よりも進んでいたが、それでもパレスティナ人に実行可能な国家を与えるにはほど遠いものだった。イスラエルが提示した最善の案は、ヨルダン川西岸地区に2つか、3つの独立した非武装の州(separate and demilitarized cantons)を作り、イスラエルがその新しい州の国境、領空、水資源を完全に管理するというものだった。これでは実行可能な国家と言えず、ましてや正当なパレスティナの指導者が受け入れられるものでもなかった。シュロモ・ベン=アミ元イスラエル外相が後に、「私がパレスティナ人だったら、キャンプ・デイヴィッドを拒否していただろう」と認めたのも不思議ではない。

パレスティナ人と和平を結ぶには、イスラエルが占領地での入植地の拡大を止め、パレスティナ人と協力して、有能で効果的で合法的な政府を樹立する必要がある。ところが、イスラエルの指導者たち、とりわけシャロンとネタニヤフに率いられた政権は、その反対のことをしてきた。入植地の拡大を止めようとせず、ハマスへの支援を黙認してでもパレスティナ人を弱体化させ、分断させようとし、二国家解決(two-state solution)を達成しようとするアメリカの努力を何度も妨害した。その結果、破壊的だが決定的ではない衝突が繰り返された(2008年から2009年の「キャスト・リード」作戦[Operation Cast Lead]や2014年の「プロティクティヴ・エッジ」作戦[Operation Protective Edge]など)。しかし、こうした「草刈り(mow the grass)」の繰り返しはパレスティナの抵抗に終止符を打つことはなく、最終的には10月7日のハマスの越境攻撃という、ここ数十年でイスラエルに与えた最悪の打撃に至った。

イスラエルの戦略的近視眼(Israeli strategic myopia)の最新の例は、イランの核開発計画の制限を交渉する国際的な取り組みに対するイスラエルの熱烈な反対である。イスラエルは戦略的理由から、中東で核兵器を保有する唯一の国であり続けることを望んでおり、地域の最大の敵であるイランが核兵器を取得するのを望んでいない。したがって、アメリカと世界の他の主要国がイランに2015年の包括的共同行動計画への署名を説得したとき、ネタニヤフ首相と他のイスラエル指導者は喜び、安堵したはずだ。それはなぜか? なぜなら、イラン政府に対し、濃縮能力を削減し、濃縮ウランの備蓄を縮小し、国際原子力機関からの非常に立ち入った査察を受け入れることを要求し、それによってイランの爆弾が10年、あるいはそれ以上手に入らなくなる可能性があるからだ。イスラエルの安全保障高官の多くは賢明にもこの合意を支持したが、ネタニヤフ首相とその強硬派支持者、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(American Israel Public Affairs Committee、AIPAC)やアメリカのイスラエル・ロビーのタカ派グループは断固として反対した。これらの強硬派は2018年に当時のドナルド・トランプ大統領に核合意から離脱するよう説得する上で重要な役割を果たしており、現在イランはこれまで以上に爆弾製造に近づいている。これほど近視眼的なイスラエル政策を想像するのは難しい。

イスラエルの戦略的洞察力(Israeli strategic acumen)の劇的な低下について説明するものは何か? 重要な要因の一つは、アメリカの保護(U.S. protection)とイスラエルの意向への服従(deference to Israel’s wishes)から来る傲慢さと免罪符の感覚(sense of hubris and impunity)である。世界最強の国が何をやっても支援してくれるのであれば、自分の行動を慎重に考える必要性は必然的に低下する。加えて、イスラエルが自らを被害者とみなし、自国の政策への反対をすべて反ユダヤ主義(antisemitism)のせいにする傾向は、イスラエルの指導者やその国民が、自らの行動がどのように敵意を引き起こしているのかを認識することを難しくしているからだ。ネタニヤフ首相がイスラエルで最も長く首相を務めていることも、問題の一因となっている。特に彼の行動は、自国にとって何が最善であるかという懸念だけでなく、私利私欲(汚職による服役を避けたいという願望)によって引き起こされている部分が大きいからだ。それに加えて、宗教右派(religious right)の影響力の増大がある。宗教右派の外交政策に対する救世主を求めるような見解は、最近『ハーレツ』の冷ややかな記事に要約されている。どの国でも、終末予言や神の介入を期待して戦略的決定を下すようになったら、要注意だ。

なぜそれが重要なのか? なぜなら、アメリカが9月11日の事件への対応で示したように、戦略的選択肢について知的に考えていない国は、自国にも他国にも大きな害を及ぼす可能性があるからだ。イスラエルの行動はイスラエル自身の長期的な展望を脅かすものであり、イスラエルの明るい未来を望む者は、その戦略的判断力の低下を特に懸念すべきである。イスラエルの復讐心に満ちた近視眼的な行動は、何十年もの間、罪のないパレスティナ人に甚大な被害を与え続け、現在もなおそうしている。不安定で思慮の浅い相手と密接に結びついていることは、アメリカにとっても深刻な問題である。時間、注意力、資源を浪費し続け、アメリカを無能かつ偽善的に見せるからだ。また、反米テロリズムの新たな波を刺激する可能性もあり、その結果もたらされるであろう損害は明らかだ。

残念なことに、この状況をどのように打開するかも明らかではない。アメリカのイスラエル支持者にできる最善のことは、民主党と共和党の双方に圧力をかけ、ユダヤ国家に厳しい愛情(tough love)を注ぎ、現在の軌道を再考させることである。もちろん、そのためにはAIPACのようなロビー団体が、イスラエルを現在の苦境に導いた自らの役割を反省する必要がある。残念ながら、それがすぐに実現する兆しはない。それどころか、イスラエルとその支持者であるアメリカは、さらに手をこまねいている(doubling down)。これは、大惨事(disaster)とまではいかなくとも、終わりのないトラブルの処方箋である。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Xアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 中東情勢は悪化の一途を辿っている。2023年10月にハマスの攻撃に対する報復として、イスラエル軍はガザ地区での軍事作戦を開始し、民間人に多くの死傷者が出ている。ハマスの人質となった人々の救出は思うように進んでいない。更には、イスラエルは、イランの首都テヘランでハマスの最高指導者を殺害し、イランから報復攻撃を受けている。加えて、レバノンの武装組織ヒズボラに対しても軍事作戦を開始している。ヒズボラのメンバーたちが使用していたポケベルに爆発物を仕込み、一斉に爆発して大きな被害を出したニューズは日本でも多く報道された。このポケベルはイスラエルから輸出されたものということが後に分かった。私は「イスラエルからの輸出された製品というのは怖いな。何が仕込まれているか分からないではないか」という感想を持った。イスラエルは危険な国という印象を多くの人々に与えたと思う。

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 このポケベルでの攻撃は衝撃的であったが、それ以外にも、イスラエルはレバノン、ヒズボラへの攻勢を強めている。ガザ地区に続いて、2つ目の戦線を開いたと言える。イスラエルの軍事的な優位性もあり、二正面作戦はまだ耐えられるだろうが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は戦争の段階を引き上げようとしている。イエメンのフーシ派の空額も実施している。ハマス、ヒズボラ、フーシ派は全部がイランからの支援を受けている。ネタニヤフ率いるイスラエルはイランとの全面戦争(all-out war)へと進む危険性を持っている。

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そうなると、中東全体が戦争地域ということになり、石油の供給に大きな影響が出る。そうなれば、世界経済は大きなダメージを受ける。もっと怖いのは、核戦争勃発の可能性だ。核戦争に対する禁忌が破られるとなると、核兵器使用のハードルが大きく下がることになる。それはまた世界を危機に晒すことになる。戦争の段階を引き上げるべきではない。

 アメリカは現在、大統領選挙期間中で、しかも現職のジョー・バイデン大統領が再選を目指さないということになり、レイムダック化(無力化)している。そうした中で、イスラエルのネタニヤフ首相は暴走している。アメリカはコントロールする力を失っている。イスラエルへの資金援助や武器援助をアメリカが止めない限り、イスラエルはこうした状況を変えることはしないだろう。

 イスラエルのネタニヤフ首相は家族ぐるみでお金に関するスキャンダルを抱えており、平和に復帰すれば、家族ごと有罪判決を受け、牢獄行きとなる。そのために、戦争状態を続けたいということはあるだろう。しかし、それは世界に追って大きな不幸である。

(貼り付けはじめ)

ヒズボラのポケベル爆発は皆が考える以上に危険だ(The Hezbollah Pager Explosions Are More Dangerous Than You Think)

-人権問題を超えて、今回の攻撃は中東におけるアメリカとイスラエルの政策にも疑問を投げかけるものとなった。

ハワード・フレンチ

2024年9月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/09/24/hezbollah-pager-explosions-lebanon-israel-middle-east-iran-us-policy/

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9月18日、ベイルート南部の地区で、前日にレバノン全土で発生したポケベルの爆発で死亡した人々の葬儀でヒズボラの旗を手にする男性。

先週、イスラエルがレバノンとシリアでヒズボラを攻撃した際、地政学的にどのような立場にあったにせよ、専門家の多くが最初に抱いたのは畏怖の感情(awe)だった。

敵対国も友好国も関係なく、作戦をやり遂げるために必要な、イスラエル情報・諜報機関の洗練の度合いに驚嘆した。イスラエルのために働く諜報員たちは、ポケベルやトランシーバーの中に微量の爆発物を仕込む仕事に重視し、これを宿敵の手にうまく渡さなければならなかった。この偉業は、1967年の六日間戦争でのアラブ連合軍に対する勝利、1976年の民間旅客機ハイジャック事件で捕らえられた人質を解放するためのウガンダのエンテベ空港攻撃、1990年代後半にさかのぼる過激派グループを攻撃するためのブービートラップ付き携帯電話の使用など、イスラエルの技術的・作戦的洗練の長い歴史を思い起こさせるものとなった。

今回の攻撃は、技術的なレヴェルでは素晴らしいものだったが、多くの批判も当然出ている。1つには、民間人に壊滅的な打撃を与えたことだ。ポケベルはヒズボラ・メンバーのものだったが、爆発によって少なくとも40人が死亡、3000人以上が負傷し、多くの非戦闘員が危険に晒される結果となった。もし運転手や親族がポケベルを携帯していたら、車の乗客や食卓にいた子どもたちはどうなっていただろうか? ヴィデオ映像によれば、市場や街角で爆発したものもあった。

政治理論家のマイケル・ウォルツァーは、『ニューヨーク・タイムズ』紙の論説ページで、攻撃の瞬間には積極的に戦争に従事していなかったヒズボラの工作員を標的にした爆発は、「戦争犯罪の可能性が非常に高い(very likely war crimes)」と書いている。レオン・パネッタ元国防長官・元CIA長官でさえも、今回の攻撃がテロの一形態であることに「疑問の余地はないと考える(think there’s any question)」と述べている。

 

イスラエルへのロケット弾発射に使われる南部のヒズボラ陣地に対するエスカレートする空からの攻撃など、レバノンにおけるイスラエルの最近の戦術に対する私の懸念は、更にその先にある。ポケベルを爆発させての攻撃という衝撃が落ち着いた後、アナリストたちはイスラエルがこの攻撃で戦略的利益を得たかどうかを問い始めた。その答えは依然として不明だ。イスラエルがガザ地区でハマスに対して1年近く攻撃を続けている間、同じことが言える。そこでは、基本的な疑問が未解決のままである。その疑問とは、イスラエルは軍事作戦が終了した後に、一体何をするのか?

この2つのキャンペーンを結びつけているのは、イスラエルは軍事的優位の政策と無制限の攻撃作戦によって長期的な安全保障を達成できるという、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の明白な見解である。アメリカは、イスラエルに対する弱腰の批判とほぼ無制限の武器供給を通じて、この立場を黙認している。ガザ地区が示し始めたように、またレバノンとの戦争が起これば、それが再確認される可能性が高いように、このアプローチは、イスラエルが平和を達成するために、巻き添え被害の有無にかかわらず「悪者たち(bad guys)」を十分に殺せるという妄信的な希望をもって、近隣の土地を焦土と化すことに等しい。

このアプローチの1つ目の、明確な欠陥は、各軍事作戦が新たな敵を生み出し、イスラエルと近隣諸国との間の敵意を永続させる危険性があることだ。例えば、ガザ地区におけるイスラエルの完全な軍事支配は、パレスチナ人の政治的および領土的権利の差し迫った必要性に対処するものではない。実際、この地域の絶望と支配は、将来、イスラエルに対する新たな形態の抵抗を確実にするだろう。同様に、イスラエルのレバノン南部への侵攻は、両国間に敵対の新たな境地を生み出すだけであり、この作戦による死と破壊により、より多くのレバノン人がイスラエルに対する暴力的報復の方向に駆り立てられるのと同じくらい確実である。

しかし、私が最も懸念しているのは、それだけにとどまらず、イスラエルと同様に、アメリカの戦略にも関わることだ。ここ数十年、同盟関係にある両国は、イランを中東における暴力と不安定化の究極の原因とみなしてきた。しかし、イランに核兵器開発を断念させるための国際的な努力を除いては、イスラエルはともかく、アメリカはイランに政治的に関与する創造性をほとんど示してこなかった。イランと政治的な関わりを持つための非現実的な前提条件、たとえばテヘランがまず自国の政治体制を変えることや、イスラエルの生存権を認めることなどは、その数には入らない。

中東地域の問題を特に扱いにくくしているのは、イスラエルとイランの両方が古い文明的および宗教的アイデンティティの化身であるということだ。西側諸国の多くは、イスラエルが聖書の国であり、多くのユダヤ人がシオニズムへの正当な支持を、部分的には古代イスラエルの存在に基づいており、その物語が旧約聖書の本質を構成していることを知っている。専門家の領域以外ではあまり理解されていないが、イランははるか古代に遡る言語、文化、アイデンティティ、帝国、国家の伝統の継承者でもある。

ガザ地区での終わりの見えない暴力に対し、多くの人々が怒りの声を上げている。ユダヤ人もパレスチナ人も、現在紛争で分断されている土地から消えることはないということを認識することに代わるものはない。つまり、永続的な和平には、この深い溝を隔てた両側の人々、ひいては国家が、互いのニーズと利益を認識することが必要である。

これはイランにも同じことが言える。人口9000万人の国を悪者扱いする政策では、イランを消し去ることはできない。実際、西側諸国がイランの孤立化を図ろうとしても、イランはヒズボラやイエメンのフーシ派といった非国家的な代理勢力を増強し、ロシアや中国との関係を深めようとする決意を強めるだけである。

イスラエルと同様、西側諸国でも中心的な関心事となっているのは、イランの核開発計画であり、テヘランが長引く研究・精製段階を脱し、すぐにでも使用可能な核兵器を開発するのではないかという見通しである。残念ながら、核保有国の核軍縮に関する世界的な実績は極めて芳しくない。ウクライナは、ソ連時代から受け継いだ核兵器を廃棄した唯一の例であり、このことが悲しいことに、ウラジーミル・プーティンのロシアに対して脆弱な国になってしまった。例えば、北朝鮮をめぐる欧米諸国とアジアの長年にわたる外交は、平壌に核プログラムを放棄するよう説得することができなかった。好むと好まざるとにかかわらず(私は好まないが)、それは北朝鮮の体制がその将来について根本的な不安を感じているからだ。更に言えば、イスラエルは公式には認めていないが、何十年もの間、核兵器を保有していることは広く知られている。

イランの核開発プログラムに対する懸念は、テヘランともっと話をし、この地域の敵対関係を和らげる方法を模索する妨げになるはずはない。イスラエルを含む中東地域の広範な安全保障を確保する唯一の方法は、何らかの形でイランを西側諸国とより深く接触させ、最終的にはイスラエルやサウジアラビアなどの他国、パレスチナ人とともに、イランの安全保障上の懸念に対処することである。欧米諸国がそうするのは早ければ早いほどよい。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新作に黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ツイッターアカウント:@hofrench

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

アメリカとイスラエルの関係については、非常に複雑になっている。アメリカはこれまでキスラエルを強力に支援してきた。しかし、現在のイスラエルのガザ地区攻撃、戦争拡大路線に対して、アメリカのジョー・バイデン政権は抑制的な態度を取っている。これは、アメリカとイスラエルとの関係の変異店になるのではないかという主張がある。バイデン政権はまた、特に司法改革や人種差別的な政治に対しては懸念を抱いてきた。

下記論稿によれば、今後の関係には深刻な疑問が残り、両国関係は共通の価値観、利益、国内の支持基盤の3つの柱に依存しているが、これらの柱は今まで以上にストレスに晒されている。アメリカの政治情勢も変化しており、共和党と民主党の間で、イスラエル支援に対する意見の対立が激化している。大きく分ければ、共和党はイスラエル支援に前向きで、民主党はイスラエル支援に抑制的となっている。

バイデン政権は、ベンヤミン・ネタニヤフ政権に対して、ガザ地区における人道危機に対処するように求めており、これに対して、ネタニヤフ首相は反対姿勢を取っている。更に、レバノンのヒズボラとの対立を激化させ、ハマスとヒズボラを支援するイランとの全面戦争にまで進みかねないところにまで、状況を悪化させている。対イスラエル問題は、アメリカ大統領選挙においても重要な争点となる。

アメリカからの支援がなければ、イスラエルという国家は成り立っていかない。現在の状況は、イスラエルの国益にとってマイナスになっている。アメリカにとっても、イスラエルへの支援継続は、世界政治において、アメリカの国益にマイナスになる状況になっている。アメリカとイスラエル両国が自国の利益について、再検討し、利益の最大化を図ることが、停戦に向けた第一歩ということになるだろう。

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亀裂か分断か?(Rift or Rupture?)

-ガザ地区での戦争がアメリカとイスラエルの関係に与えているもの。

アーロン・デイヴィッド・ミラー、ダニエル・C・カーツナー筆

2024年5月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/17/israel-hamas-war-biden-netanyahu-relations-gaza/?tpcc=recirc_featured_alt091023

写真

ガザ地区でのイスラエルの停戦を求める、ワシントンのナショナル・モールでパレスティナ旗を振る親パレスティナデモ参加者(2023年10月21日)。

最近、アメリカとイスラエルの関係における現在の緊張をどう説明すればよいかと人々に質問されることが多くなかった。私たちは簡単な答えを見つけるのに苦労している。私たちは以前にこのようなことを経験したことがあるだろうか? アメリカの軍事援助を一時停止または停止した前例はあるだろうか? そして私たちは、根本的な変化を予感させる関係における何らかの変曲点(inflection point)の頂点に立っているのだろうか?

私たちは長年にわたり、アメリカとイスラエルの関係において、浮き沈みを何度も見てきた。過去に深刻な緊張があった後でも、常に変化よりも継続が優先されているように思われる。時間が経つにつれて、緊張は和らぎ、物事は多かれ少なかれ、伝統的なアメリカとイスラエルの「オペレーティングシステム(operating system)」と呼ばれる通常の過程に戻った。アメリカでは、これは大統領のペルソナ(persona、穏健な親イスラエルから強力な親イスラエルまで)、国内政治(そうしたシンパシーを強く反映し、強化する)、政権の政策(地域の課題を管理するために、イスラエルと対立するよりもむしろ協力することを求めることが多い)によって、緊張の緩和が推進された。

しかし最近、私たちは何か変化を感じている。そして、それが困難な道にあるのか、それとも変革、変曲点なのかは分からない。私たちは現在の状況から重大な結論を出すことには慎重だ。実際、一般に、変曲点という概念は誇張される可能性がある。新型コロナウイルス感染症は私たちの世界を一変させるだろう。ロシアのウクライナ侵攻は国際政治を根本的かつ取り返しのつかないほど変えたと言われている。そして、10月7日は、何らかの形で中東の政治を変えるものだと見る人もいる。しかし、ヘッドラインが必ずしもトレンドラインにつながるとは限らない。そして、変革をもたらすと思われる出来事が、必ずしも変革をもたらすとは限らない。

確かに、イスラエルとバイデン政権の間の現在の緊張は前例のない状況で起こっている。しかし、それらは一時的なものである可能性もある。一方で、アメリカとイスラエルの関係を持続的な違反や亀裂から守る伝統的な運営システムは、10月7日以来機能し続けている。ジョー・バイデン米大統領は例外なく、米国史上どの大統領よりもイスラエルとイスラエルの戦争目的を支持してきた。イランが350発以上の無人機、巡航ミサイル、弾道ミサイルでイスラエルを攻撃した際に、地域的な防空ネットワークを構築し、それを証明した。バイデンとイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は定期的に会談し、公の場での衝突の可能性を最小限に抑え、関係を軌道に乗せようとしている。バイデンは、このようなイスラエル支持を維持するために、民主党内を含む国内からの政治的反発を受け続けてきたが、11月の大統領選挙で票を失う可能性がある犠牲を払ってでも、怯むことはなかった。

一方で、今後のアメリカとイスラエルの関係に深刻な疑問を投げかける勢力も存在する。その関係は、共通の価値観(shared values)、共通の利益(common interests)、そして国内の強力な支持基盤(strong base of domestic support)という、密接に結びついた3つの重要な柱の上に成り立っている。今日、これらの柱のそれぞれは、おそらく関係の歴史の他の時期よりも大きなストレスに直面している。

第一に、バイデン政権とほとんどのアメリカ人は、イスラエル史上最も極端な右翼政府と価値観を共有していない。10月7日以前でさえ、ネタニヤフ政権はアメリカの価値観や利益に反する政策、特にイスラエルの司法、特に最高裁判所の権威を厳しく制限する取り組みと見られる司法改革提案(judicial overhaul proposal)を推進していた。バイデン政権とイスラエルの連合の野心は、イスラエルの民主政治体制への取り組みを損なうように見えた。

同時に、ネタニヤフ首相は、人種差別主義者でユダヤ人至上主義者を自称する2人の過激派閣僚に広範な権限を与えた。彼らは、ヨルダン川西岸で併合政策(annexationist policies)を推進し、パレスティナ人に二流市民としての政治生活、亡命、紛争への黙認の選択を強制する意図を公然と宣言した。この取り組みは、権力を維持するために過激派に対応する必要があり、収賄、詐欺、背任(bribery, fraud, and breach of trust)の罪で裁判を抱えるネタニヤフ首相によって歓迎された。

第二に、過去数十年にわたり、アメリカの政治情勢も同様に変化している。イスラエルに対する超党派の支持は依然強いが、どのようなイスラエルを支援すべきかについて共和党と民主党の意見はこれまで以上に分かれている。共和党は概して、「イスラエルは間違いなど犯さない」と主張する政党(Israel-can-do-no-wrong party)になった。ドナルド・トランプとその影響下にある共和党は、ネタニヤフ首相とその右派政府との絆を強めている。民主党は分裂を深めており、パレスティナ人の扱いについて、ネタニヤフ政権に制約とコストを課したいと考えている進歩主義派が少数だがその数を増やしている。10年前には、クリス・マーフィー連邦上院議員、クリス・クーンズ連邦上院議員、クリス・ヴァン・ホーレン連邦上院議員がその方針を公に主張することは想像もできなかっただろう。しかし、今日はそうではない。そして、連邦議会におけるイスラエルの最大の支持者であるチャック・シューマー連邦上院多数党(民主党)院内総務は、3月の臨時演説で、新たな選挙と新政府の樹立をイスラエルに対して要求した。アメリカ政治の他の多くの問題と同様に、イスラエルは意見を二分する問題となっており、バイデン政権は、イスラエルへの無条件支援を望む共和党と、支援に条件付きを求める多くの民主党との間で、狭い線の上を歩むことになっている。

第三に、これまでのアラブ・イスラエル戦争とは異なり、そして私たちの持つ直観に反するが、イスラエル・ハマス戦争の独特の性格がアメリカ国内の分断を深めている。抗議活動参加者たちは、ハマスのイスラエルに対する残忍な攻撃、性的暴行、人質(そのほとんどが民間人)のことを忘れているように見える。抗議活動参加者たちは、イスラエルの対応だけに焦点を当てている。バイデン政権にとって、これは問題となっている。なぜなら、バイデン政権は、ハマスについて10月7日のような攻撃を繰り返すことができないようにして、ガザ地区の統治を再開できないところまで弱体化させるという考えを支持しているが、数千人の死者を出したイスラエルの戦略と戦術には強く反対しているからである。イスラエルの戦略と戦術によって、パレスティナ民間人の犠牲者が増え、ガザ地区のインフラの大部分の破壊が行われた。その結果、人道上の悪夢が生じた。イスラエルはこれを予期して対処すべきだったが、イスラエルは、後手、後手に回り、効果のない対応を繰り返してしまった。あれから7カ月が経ち、人道危機は深まるばかりだ。ガザ地区の230万人の大多数が避難を余儀なくされたため、彼らは適切な避難所、水、食料、医療にアクセスできなくなった。

イスラエルの政策と行動の結果、3つの問題がイスラエルとバイデン政権を分断した。それは、民間人の犠牲を最小限に抑える軍事作戦をどのように実施するか、人道的災害を防ぐために十分な支援を確実に提供するにはどのようにしたらよいか、そして戦闘が終わった翌日に何が起こるのか、ということだ。イスラエルは、バイデン政権の計画提示要請に対して不十分な回答を示した。実際、ネタニヤフ首相はラファ、あるいはガザ地区全体に対するいかなる現実的な計画にも反対の姿勢を強めており、ネタニヤフ首相自身の国防大臣やイスラエル軍内の一部が、政府の政策の方向転換に反対する声を上げるよう促している。

おそらく、アメリカとイスラエルのオペレーティングシステムは、特に選挙の年には、関係に継続的な断絶や亀裂を生じさせることなく、これらの問題を管理または解決する方法を見つけるだろう。しかし、そのトレンドラインはどんなものになるだろうか? イスラエルがハマスとの戦争を遂行した結果、アメリカ国内でも国際的にも、イスラエルのイメージとブランドはどの程度根本的に損なわれたのだろうか? 両国を結びつける真の接着剤である価値観の親和性は持続するだろうか? 今や打ち砕かれた共通の価値観に対する認識は、イスラエル政治の右傾化、ヨルダン川西岸と東エルサレムの、イスラエルによる57年間の占領、そして民主政治体制の中で暮らすイスラエルの200万人のパレスティナ国民の多くの不満を乗り越えて生き残ることができるだろうか? 彼らにユダヤ国民と同じ扱いを与えることになるだろうか? アメリカの政治環境は、イスラエルがアメリカの国益にとって利益ではなく、むしろ負担となるのではないかと疑問を抱く若いアメリカ人が増えるまでに進化するだろうか?

良い答えなど出てこない様々な疑問ばかりだ。そして、アメリカ・イスラエル関係の軌跡を確実かつ正確に予測する方法はない。どの要素も決定的なものにはなりえないが、ひとつだけはっきりしていることがある。それは、イスラエル人は、占領の意味を直視しない中で、自分たちにふさわしい平和と安全を手に入れられると信じるというやり方を止める必要があり、パレスティナ人は、イスラエルに苦痛を与えることで、自分たちにふさわしい自決と独立が達成されると信じるのを止める必要がある。10月7日のトラウマと痛み、そして果てしなく続くと思われるイスラエルとハマスの戦争が、彼らにこのような認識をもたらすかどうかはまだ分からない。

※アーロン・デイヴィッド・ミラー:カーネギー国際平和財団上級研究員。歴代の民主党、共和党の各政権で米国務省中東担当分析官、交渉官を務めた。著書に『偉大さの周縁:アメリカはどうしてもう一人の偉大な大統領を持てない(持つことを望まない)のか』がある。ツイッターアカウント:@aarondmiller2

※ダニエル・C・カーツナー:元駐エジプト米大使、元駐イスラエル大使。プリンストン大学公共国際問題研究大学院で外交と紛争解決について教鞭を執る。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 カマラ・ハリス副大統領の大統領選挙運動においての弱点は、自身が現政権の最高幹部であることだ。ジョー・バイデン政権の政策について批判はできない。自分が参加している政権の政策を批判すればそれは自分に返ってくる、自分自身を批判することになるからだ。ハリスに関しては、外交政策が全くの未知数だ。これからハリスの独自色を出すとすれば、民主党の支持者たちの間で、不支持が高まっているイスラエル支援についてだ。イスラエルのガザ地区攻撃についてけん制し、停戦に導くために、イスラエル支援について抑制するということをハリスが述べることができれば、独自色を出し、支持者を繋ぎ止めることができる。

 先日のイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の米連邦議会演説で、ネタニヤフは、バイデンとは長年の友人であり、ある時、バイデンが自分自身について、「誇り高きアイルランド系アメリカ人シオニスト(proud Irish-American Zionist)」だとネタニヤフに語ったという逸話を紹介した。バイデンとの違いを出すには、ハリスは自身を「シオニスト」とは定義しないで、イスラエルへの支援について合理的な選択をすることが重要だ。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、非常に危険な動きをしている。ガザ地区のハマスだけではなく、レバノンのヒズボラとの戦闘を拡大し、更にはイラン国内でハマスの政治部門トップのイスマイル・ハニヤを殺害したことで、イランも引きずり出そうとしている。イエメンのフーシ派も攻勢を強めると見られている。中東の微妙なバランスは崩れ、より大きな戦争が発生する可能性が高まっている。今、アメリカは権力の空白が生じている。現職の大統領は再選を目指さず、力を失っている。次の大統領が誰になるか不透明であるが、誰がなっても、イスラエルに対して停戦を強く求めてくることは目に見えている。停戦になって、国内が落ち着けば、ネタニヤフのスキャンダルに対する訴追が行われ、ネタニヤフは絶体絶命の状態に追い込まれる。アメリカの次の大塗料が決まるまでに、状況を複雑化し、戦争を拡大するという選択をネタニヤフがしたということが考えられる。これは世界にとって最悪の選択だ。

 ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争は一刻も早い停戦が望まれる。アメリカ大統領選挙はそれらに大きな影響を与える。イスラエルのネタニヤフは行動の自由があるうちに状況を自分の利益になるようにしようとしている。非常に危険な状況がこれから続くということは秘奥に懸念されることだ。

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ハリスの候補者指名は民主党にガザ地区問題で軸足を移すチャンスを与える(Harris Candidacy Gives Democrats a Chance to Pivot on Gaza)

-米国の外交政策を正して有権者を取り戻すために彼女にできること。

マシュー・ダス筆

2024年7月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/24/kamala-harris-gaza-israel-democrats-united-states-presidential-race/

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2023年6月6日、ワシントンDCの国立建築博物館でイスラエル大使館主催のイスラエル建国75周年を記念するレセプションで講演するカマラ・ハリス米副大統領(2023年6月6日)

ジョー・バイデン米大統領のイスラエル・ハマス戦争への対応ほど、民主党内で意見の分かれる外交政策はない。カマラ・ハリス副大統領は、民主党の次期大統領候補として、これまでとは異なる方針を打ち出し、そうすることで、バイデンがイスラエルの無差別ガザ地区破壊をほぼ無条件で支持したことで怒り、疎外された民主党の主要な有権者を再び活気づける機会を得ている。

国内政策の面において、バイデンが並外れた成功を収めた大統領として記憶されることは疑いの余地がない。成果のリストは長い。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を乗り越え、数百万の新規雇用を創出し、数十年ぶりに独占禁止法を積極的に施行し、クリーンエネルギーとアメリカの製造業への投資を劇的に拡大したことなどだ。

バイデンの外交政策は、いくつかの明らかな勝利を収めたとはいえ、むしろ賛否両論ある。彼は、アメリカの中心地を産業空洞化させ(deindustrialized the U.S. heartland)、国内と世界の不平等(inequality)を悪化させ、国際的な腐敗と民族ナショナリズムを助長する新自由主義神学から決別し、より公平で持続可能な世界経済秩序への道を示した。2020年10月のブラジル大統領選挙を巡る同政権の取り組みは、軍事クーデターの回避に貢献した可能性があり、世界で最も重要な台頭大国の1つにおける民主政治体制を守るための隠れた勝利となっている。ロシアの全面侵攻に対するウクライナ防衛を支援するためのバイデンの同盟国結集は、外交技術(diplomatic skill)と軍事的自制(military restraint)の両方を証明した。

しかし、バイデンのグローバルなアプローチは、時には統合失調症(schizophrenic)のように見えることもあった。バイデンは一方で、世界的な力の相対的なシェアが低下しているアメリカが国際的なアプローチを改革し、重要なパートナーシップと同盟を強化し、グローバルサウス(global south)の国々に対してより効果的にアピールする必要があると認識した。その一方で、アメリカの軍事的覇権(U.S. military hegemony)が国の資源を枯渇させ、政治を腐敗させているにもかかわらず、アメリカの軍事的覇権を世界の安定の必要条件とみなすアメリカ例外主義神学(American exceptionalist theology)から抜け出すことを彼は未だに望んでいない。これは、アメリカとそのパートナーを、アメリカ政府が他国に従うよう求める規則を超えたものとして扱うアプローチであり、人命とアメリカの信頼に多大な犠牲を与えるものである。

ガザ戦争への政権の対応ほどこの対照が顕著な場所はない。ガザ地区では、国際法と人権に対するひどい組織的な違反が明らかに起きているにもかかわらず、バイデンは基本的に不人気な極右イスラエル政府の意向に従っている。ロシアが行った場合とイスラエルが行った場合の、集団処罰(collective punishment)と民間人の苦痛(civilian suffering)に対するアメリカのあからさまな二重基準は、アメリカ政府の密封された言説ではそれほど注目されていないかもしれないが、ワシントン政治の外や世界中では明らかに注目されている。

数カ月にわたる世論調査では、バイデンのガザ地区政策が11月の民主党の可能性に深刻なダメージを与えていることが示されている。民主党にとって勝たねばならない州で10万票以上を獲得したミシガン州のアンコミット運動は、警鐘を鳴らすべきだった。バイデンは最終的に、イスラエルからの2000ポンド爆弾の提供を差し控え、恒久的な停戦を迫ることを決定したが、アメリカ国内法が要求する軍事援助の更なる条件付けを拒否することで、自らの努力を台無しにした。

センチュリー財団が今月初めに発表した報告書によると、「無党派層、激戦州の可能性が高い有権者、民主党の活動家を含む多くの中核的有権者が、イスラエルによるガザ攻撃に対するバイデンの無条件の支持に怒っている。全国的には、有権者の10人に4人近く(38%)が、ガザ戦争へのバイデン大統領の対応のせいでバイデン大統領に投票する可能性は低い」ということだ。

これが偏った見解だと誤解している人がいるかもしれないので付け加えておくと、7月23日、7つの主要労働組合が共同書簡をバイデンに送り、「イスラエルへの軍事援助を直ちに停止する(immediately halt all military aid to Israel)」よう要請した。

ハリスがバイデンから劇的に距離を置くとは誰も期待していないが、ハリスが40年前ではなく、今日の民主党を代表していることを示すために取れる手段はある。ハリスは大統領として、アメリカが提供したアメリカ国内法に違反して使用されている軍事援助を直ちに停止すると発表することができる。ハリスは、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が権力にしがみつくために人質解放(hostage release)と停戦(cease-fire)の取り組みを遅らせているという、イスラエルの野党議員や現職治安当局者を含む無数のイスラエル人の評価に同意していることを公に明らかにできる。ハリスは、ガザ地区最大かつ最も重要な救援機関である、近東地域の国連難民救済事業機関(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees、UNRWA)が「ハマスのフロント組織(Hamas front)」であるという根拠のない扇動的な主張を拒否し、自分はそうするだろうと明言することができる。UNRWAの資金提供が法的に可能な限り早く再開されるよう取り組んでいる。そうすることで、彼女は既に寄付を再開しているイギリス、フランス、ドイツなどのアメリカのパートナーに加わることになる。

ネタニヤフ首相が先週、イスラエル議会でヨルダン川以西のパレスティナ国家を除外する前例のない決議案を可決したことなど、パレスティナ国家樹立の可能性を繰り返し拒否していることに対して、ハリスは、パレスティナ国家の最終的な輪郭はまだ決まっていないが、次のように言うべきである。「パレスティナ人の国家に対する権利は、イスラエル人と同様に交渉の余地がない」。

11月の選挙は外交政策の真の対比をもたらすチャンスだ。アメリカの専門家たちは、共和党候補で元大統領のドナルド・トランプと副大統領候補のJ・D・ヴァンスに対して「孤立主義者(isolationist)」という形容詞を絶えず使っているにもかかわらず、現実には彼らは孤立主義的な外交政策を提示しているのではなく、むしろ一極主義的(unilateralist)で軍国主義的な外交政策を提示している。アメリカとそのパートナー諸国は、武器を購入しない政府は従わなければならないとアメリカ政府が主張する国際規範に拘束されず、自由に暴力を行使できる。

残念ながら、ガザ戦争に対するアメリカの政策はこれと同じアプローチを反映しており、ハリス副大統領のルーツであるアメリカ国内の公民権運動(civil right movement)が闘ってきた一種の組織的差別(systemic discrimination)を強化している。ハリスには、この不協和音(dissonance)に終止符を打ち、パートナーと敵対者ごとに異なる規則や規範ではなく、国際社会に普遍的な一連の規則や規範を支持するアメリカ外交政策のヴィジョンを提示する機会がある。

そうすることで、ハリスは最終的に私たち全員が安全、繁栄、尊厳を持って生きることを可能にするアプローチを大胆かつ正しく主張することになるだろう。

※マシュー・ダス:国際政策センター上級副会長。2017年から2022年にかけて、バーニー・サンダース連邦上院議員外交政策補佐官を務めた。ツイッターアカウント:@mattduss

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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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