古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:フランス


 古村治彦です。
 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イランは核兵器保有を目指して、核開発を続けており、それを中東各国は脅威に感じている。特にイスラエル(核兵器を既に保有していると言われている)はその脅威を強く感じている。イスラエルは、1981年にイラクに建設中だった原子力発電所を空爆し、破壊した(オペラ作戦)。イスラエルは自国の核保有を否定も肯定もしない形で、核兵器による優位な立場を堅持してきた。イラン側にすれば、核兵器を持つことで、他国からの攻撃を抑止しようという核抑止力(nuclear deterrence)の獲得を目標にしている。

 国際関係論のネオリアリズムの大家として知らエルケネス・ウォルツ(Kenneth Waltz、1924-2013年、88歳で没)は、最晩年の2000年代に、「核兵器を持つ国が増えれば世界は安定する」という主張をして、論争が起きた。

ウォルツは、核抑止力は安全保障を確保し、他国への攻撃を抑止すると主張した。ウォルツは核抑止が戦争を抑制する要因とし、冷戦時代の成功例を挙げている。ある国が核武装をすると、周辺諸国も追随する可能性があり、そこに核バランスが生まれ、平和的共存を促す可能性もあるとしている。

指導者たちは核兵器を使った際の惨禍については知識があり、そのために核兵器使用は慎重になる。更には、核兵器による反撃があるとなれば、なおさら使用を躊躇する。しかし、人間は完璧ではなく、徹底して合理的な存在でもない。何かの拍子で核兵器発射のボタンを押すことも考えられる。

 こうした考えを敷衍すると、イランが核兵器を持てばイスラエルとの間にバランスが生じて、中東地域は安定するということになる。しかし、同時に核兵器開発競争を中東知己にもたらす可能性もある。核兵器による抑止力がどこまで有効かということを考えると、イスラエルにしても、アメリカにしても、核兵器を保有しているが(保有していると見られる)、通常兵器による攻撃を抑えることはできていない。だからと言って、イスラエルもアメリカも核兵器を使うことはできない。しかし、それは合理的な考えを持っている場合ということになる。どのようなことが起きるか分からない。

 核拡散には「nuclear proliferation」「nuclear spread」の2つの表現がある。どちらも拡散と訳している訳だが、微妙に異なる。「proliferation」は、虫や病原菌が増えることに使う表現であり、「蔓延」と訳した方が実態に即していると思う。「spread」は、ある考えの「拡大」「普及」に使われる。ウォルツは「spread」を使っている。「核不拡散(核拡散防止)条約」は、「Non-Proliferation TreatyNPT」の訳語であるが、これは、「核兵器を持つのは世界政治を動かす諸大国(powers)≒国連安保理常任理事国に限る、それ以外の小国には認めない」という意味も入っている。「合理的に動けない小国に核兵器が蔓延することは危険だ」という考えが基本にある。

 核兵器を所有しても核抑止力が期待できない、そもそも核兵器使用はハードルが高いとなれば、核兵器を所有することのメリットは少ない。あまり意味がない。ケネス・ウォルツも世界中の国々が核兵器を持つべきとは言っていない。これから世界構造が大きく変化していく中で、これまでの核兵器「信仰」は考え直されるべきだろう。

(貼り付けはじめ)

イランが核兵器を保有して以降の時代(The Day After Iran Gets the Bomb

-学者や政策立案者たちは、テヘランが核兵器を獲得した後に何が起こるかを理解しようとして努力している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年5月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/14/iran-nuclear-weapon-strategy/

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短・中距離ミサイルの試射中に双眼鏡を覗き込むイランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイと当時のイラン軍トップ、ハッサン・フィルーザバディ(2004年9月8日)

イランが核兵器を保有することはあるのか? もしそうなったらどうなるのか? 最初の質問に対する答えは、ますますイエスになりつつあるようだ。しかし、2つ目の疑問の答えは相変わらず不明確である。

イスラム共和国としてのイランは、1979年に国王(シャー、shah)を打倒した革命以来、45年間にわたり、アメリカおよび多くの近隣諸国と対立してきた。アメリカはイラン・イラク戦争中(バグダッドが戦争を始めていたにもかかわらず)サダム・フセインを支援した。紛争)、そして当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領はイランを悪名高い「悪の枢軸(axis of evil)」に含めた。バラク・オバマ政権は最終的にイランと核合意を結んだが、イスラエルとも協力して、イランの濃縮インフラに大規模なサイバー攻撃を行った。それに劣らずに、当時のドナルド・トランプ大統領も最終的にはイスラム革命防衛隊コッズ部隊司令官カセム・スレイマニ将軍を殺害する無人機攻撃を承認し、「最大限の圧力(maximum pressure)」プログラムを通じて政権を弱体化させようとした。

イランは、シリアのバシャール・アサド政権を支援し、ロシアや中国に接近し、レバノン、イラク、イエメン、ガザで民兵を武装・訓練することで、こうしたさまざまな活動やその他の活動に対応してきた。また、ラファエル・S・コーエンが最近、『フォーリン・ポリシー』誌で概説したように、イスラエルとイランの秘密戦争は今後も長く続きそうであり、更に悪化する可能性もある。

ここで問題が起こる可能性は明らかだ。1人の著名な国際関係理論家は、それを軽減する明白な方法があると考えた。故ケネス・ウォルツが最後に発表した論文によると、この地域を安定させる最も簡単な方法は、イランが独自の核抑止力(nuclear deterrent)を獲得することだという。うぉるつは、イランが核兵器を保有すれば、イランの安全保障への懸念が軽減され、イランが他国に迷惑をかける理由が減り、地域のライヴァル諸国に対し、不用意に核兵器攻撃につながる可能性のある形でのイランに対する武力行使を自制させることができると主張した。ウィンストン・チャーチルが冷戦初期に述べたように、安定は「恐怖の頑丈な子供」になるだろう(stability would become “the sturdy child of terror.”)。

ウォルツは、基本的な核抑止理論に基づいて、この議論の中心的な論理を説明した。彼の説明がなされた著書は1981年に出版させ、物議を醸した。彼は、無政府状態(anarchy)にある国家は、主に安全保障に関心があるというよく知られた現実主義的な仮定(realist assumption)から説明を始めた。核兵器のない世界では、そのような恐怖はしばしば誤算(miscalculation)、リスクの高い危険な行動(risky behavior)、そして戦争(war)につながる。核兵器は、最も野心的、もしくは攻撃的な指導者でさえも尊重しなければならないレヴェルの破壊力で脅かすことで、この状況を一変させた。ウォルツは核抑止力が究極の安全保障の保証(a nuclear deterrent as the ultimate security guarantee:)となると考えた。賢明な指導者であれば、核武装したライヴァルを征服したり、打倒したりしようとはしないだろう。そうするためには、核攻撃の危険が避けられないからである。自国の複数の都市を失うほどの政治的利益は考えられないし、核兵器による反撃の可能性が低いながらも存在するだけでも、他国の独立に対する直接攻撃を抑止するには十分だろう。核兵器を使った攻撃がどのような影響をもたらすかは、最低限の知性を持った人なら誰でも容易に理解できるため、誤算の可能性は低くなるだろう。したがって、安全な第二攻撃能力(secure second-strike capability)を持つ国家は、自国の生存についてそれほど心配することはなく、国家間の競争は、相互の恐怖(mutual fear)によって(消滅されはしないものの)制約されることになる。

ウォルツは、核抑止力が安全保障競争の全要素を排除するとは示唆しなかった。また、どの国も原爆を持ったほうが良いとか、核兵器の急速な拡散が国際システムにとって良いことになるとも主張しなかった。むしろ、核兵器のゆっくりとした拡散は状況によっては有益である可能性があり、それを阻止するための全面的な努力よりも望ましい可能性さえあると示唆した。ウォルツは、冷戦時代にアメリカとソ連が直接の武力衝突を回避するのに役立ち、インドとパキスタン間の戦争の規模と範囲を縮小させた、エスカレーションに対する相互の恐怖は、戦争を含む他の場所でも同様の抑制効果をもたらすだろうと考えていた。戦争で引き裂かれた中東でも同じだった。

ウォルツの逆張りの立場は多くの批判を呼び、彼のオリジナルの著書は最終的にスタンフォード大学教授のスコット・セーガンとの広範で啓発的な交流につながった。懐疑論者たちは、新たな核保有国は、抑止できない非合理的、あるいは救世主的な指導者によって率いられる可能性があると警告したが、それらが既存の核保有国の指導者たちよりも合理的であったり、用心深かったりするかどうかは決して明らかではない。また、新興核保有国には高度な安全対策や指揮統制手順が欠如しており、そのため兵器が盗難や不正使用に対してより脆弱になるのではないかと懸念する人たちもいた。タカ派の人々は、既存の核保有国で、これまで成功した例がないにもかかわらず、新興核保有国が他国を脅迫したり、侵略の盾(shield for aggression)として核使用をちらつかせて脅迫したりする可能性があると主張した。他の批評家たちは、イランによる核開発により、近隣諸国の一部が追随することになるだろうと予測したが、初期の「拡散カスケード(proliferation cascades)」の証拠はせいぜい複雑だった。

もちろん、アメリカ政府はウォルツの立場を受け入れようと考えたことはなく、もちろんイランのような国に関してもそうではなかった。それどころか、アメリカはほぼ常に他国が自国の核兵器を開発するのを思いとどまらせようとしており、イランがそうするのを阻止するために時間をかけて取り組んできた。民主党所属と共和党所属の歴代大統領は、イランが実際の核爆弾を製造しようとする場合にはあらゆる選択肢がテーブルの上にあると繰り返し述べて、イランに濃縮計画を放棄するよう説得しようとしたが、こうした試みはほぼ失敗に終わり、ますます厳しい経済制裁を課している。バラク・オバマ政権は最終的に、イランの濃縮能力を大幅に縮小し、核物質の備蓄を削減し、イランの残存する核活動の監視を拡大する協定(2015年の包括的共同行動計画[Joint Comprehensive Plan of ActionJCPOA])を交渉した。驚くべき戦略的失敗により、ドナルド・トランプ大統領は2018年に協定を破棄した。その結果はどうなったか? イランはさらに高レヴェルなウラン濃縮を開始し、今では、これまで以上に爆弾の保有に近づいている。

JCPOAとは別に、アメリカ(そしてイスラエル)は、イラン政府に、自国の抑止力なしには安全を確保できないことを説得するために、あらゆることをしてきた。連邦議会はイラン亡命団体への資金提供など、イランを対象とした「民主政治体制促進(democracy promotion)」の取り組みに資金を提供している。アメリカ政府は、関係改善を目指すイランのいくつかの試みを阻止し、ペルシャ湾でイラン海軍と衝突し、イラン政府高官を意図的に暗殺し、イラン国内で一連の秘密活動を行ってきた。アメリカ政府は、この地域における反イラン連合(anti-Iranian coalition)の結成を公然と支持しており、(ロシア、中国、そしてアメリカの同盟諸国のほとんどとは異なり)テヘランとは外交関係を持っていない。イラン政権について誰がどう考えても、そしてイラン政権には嫌な点がたくさんあるが、こうした措置やその他の措置により、イスラエル、パキスタン、北朝鮮を含む他の9カ国が現在享受しているのと同じ抑止力の保護に対するイランの関心が高まっていることは間違いない。

では、なぜイランはまだ核保有の一線を超えていないのか? その答えは誰にも分からない。1つの可能性は、最高指導者アリ・ハメネイ師が核兵器はイスラム教に反しており、一線を越えることは道徳的に間違っていると心から信じているというものだ。私自身はその説明にはあまり興味を持てないが、その可能性を完全に排除することはできない。また、特にイラク、アフガニスタン、リビア、その他数カ所での体制変更(regime change)に向けたアメリカの悲惨な努力について考慮すると、イランの指導者たちは(公の場で何を言おうと)アメリカの直接攻撃や侵略についてそれほど心配していない可能性もある。彼らは、誰がアメリカ大統領になるにしても、そのような経験を追体験したいとは思わないだろうし、特にイラクのほぼ4倍の面積と2倍の人口を有する国イランを相手にしたい訳ではないだろうと認識しているかもしれない。アメリカは危険な敵ではあるが、存在の脅威ではないため、急いで爆弾を使って狙う必要はない。テヘランはまた、実用的な兵器を製造する試みが探知される可能性が高く、イランが多くの犠牲を払って構築した核インフラを、アメリカやイスラエル(あるいはその両方)に容易に攻撃されてしまう可能性がある限り、予防戦争(preemptive war)の脅威によって抑止される可能性がある。緊急の必要がなく、状況が好ましくない場合、イランにとっては核拡散ラインのこちら側に留まる方が理にかなっている。

アメリカやその他の国々が事態をこのまま維持したいのであれば、イランが兵器保有能力を回避し続ければイランは攻撃されないという保証と、ライン突破の試みによって起こり得る結果についての警告を組み合わせる必要がある。イスラエルとイランの間の秘密戦争を鎮圧することも同様に役立つだろうが、ネタニヤフ政権がその道を選択したり、バイデン政権からそうするよう大きな圧力に直面したりすることは想像しにくい。

私の頭を悩ましていることがある。現在の敵意のレヴェルが続くなら、イランが最終的に独自の核抑止力が必要だと決断しないとは信じがたいが、そのとき何が起こるかは誰にも分からない。それは再び中東戦争を引き起こす可能性があり、それは誰にとっても最も避けたいことだ。イランが独自の核爆弾製造に成功すれば、サウジアラビアやトルコなどの国も追随する可能性がある。

そうなれば何が起きるか? それは、ウォルツがずっと正しかったこと、そして中東における核のバランスが荒いことで、絶え間なく争いを続ける国々が最終的には敵意を和らげ、平和的共存(peaceful coexistence)を選択するよう仕向けるであろうということを明らかにするかもしれない。しかし、正直に言うと、これは私がやりたくない社会科学実験(social science experiments)の1つでもある。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも詳しく書いたが、西側諸国では、エネルギー高から波及しての、物価高が続き、ウクライナ支援も合わせて、「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」が国民の間に生じている。「早く戦争を終わらせて欲しい」「取り敢えず停戦を」という声は大きい。

ウクライナ戦争勃発後、アメリカとヨーロッパ諸国(西側諸国)は、ロシアに対して経済制裁を科した。ロシアからの格安の天然ガスを輸入していたが、輸入を停止することになった。アメリカはそれに代わって、天然ガスをヨーロッパ向けに輸出することになったが、ヨーロッパの足元を見て、高い値段で売りつけている。これはヨーロッパ諸国の人々からの恨みを買っている。以下の記事では、西側諸国の制裁がロシアに大きな打撃を与えており、ヨーロッパ諸国の経済には影響を与えていないということだが、かなり厳しい主張ということになるだろう。
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 10年ほど前から、ヨーロッパ諸国で勢力を伸長させているポピュリスト勢力(アメリカのドナルド・トランプ大統領誕生も同じ流れ)は、プーティン寄りの姿勢を取り、ウクライナ戦争の停戦を求めている。これは、アメリカで言えば、連邦議会の民主党左派・進歩主義派議員たちと、共和党のトランプ派議員たちの考えと同じだ。彼らもまた、アメリカの国内世論の一部を確実に代表している。
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ポピュリスト勢力は人種差別的と批判される。そういう側面もあるが、彼らは既存の政治に対する、人々の不満を吸い上げ、代表している。エスタブリッシュメントたちが主導する政治が戦争をもたらしていると多くの人々が考えている。トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト(America First)」は「孤立主義(Isolationism)」を基礎としているが、これは「国内問題解決優先主義」と訳すべきだ。そして、「アメリカ・ファースト」は「アメリカが何でもナンバーワン」ということではなく、「アメリカのことを、まず、第一に考えよう」ということだ。ここのところを間違ってはいけない。ポピュリストたちに共通しているのは、「外国のことに首を突っ込んで、税金を浪費するのではなく、自国の抱える諸問題を解決していこう」ということであり、そうした側面から見れば、ポピュリストたちが違って見えてくる。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパのポピュリストたちが制裁反対の戦いでクレムリンに加わる(European Populists Join the Kremlin in Anti-Sanctions Fight

-彼らは「制裁はロシアよりもヨーロッパを傷つける」と誤った主張を展開している。

アガーテ・デマライス筆

2024年3月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/11/russia-sanctions-oil-gas-populists-europe-elections/?tpcc=recirc_latest062921

ヨーロッパのポピュリスト政党の多くがロシアに友好的な傾向を持つことを考えれば、ヨーロッパのポピュリストたちがしばしばクレムリンの主張をオウム返しにしたがるのも当然と言えるだろう。最近では、極右から極左まで多くのヨーロッパの政党が要求しているように、欧米諸国の対モスクワ制裁の停止を求めることもその1つだ。

対モスクワ制裁解除要求の背後にある通常のシナリオは基本的なものだ。フランスの「国民連合(National RallyRassemblement National)」、ドイツの「ドイツのための選択肢(Alternative for GermanyAlternative für Deutschland)」、ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相はいずれも、制裁は裏目に出ており、ヨーロッパ経済には打撃を与えているが、モスクワには打撃を与えていないと主張している。EU全域のポピュリスト政党が6月のヨーロッパ議会選挙に向けて準備を進めており、このような論調はますます目立つようになるだろう。だからこそ、このような誤った主張を論破する絶好の機会なのだ。

ロシアに好意的な政治家たちが最もよく口にするのは、制裁がヨーロッパの企業や消費者を破滅に追いやるというものだ。これらの主張の中で最も広まっているのは、制裁がヨーロッパにおけるエネルギー価格の高騰(およびインフレ)を引き起こしているというものだが、これは最も簡単に反証できる。2022年初頭に世界の炭化水素価格が高騰したのは、ロシアによるウクライナ攻撃とヨーロッパに対するガス恐喝がきっかけだった。欧米諸国がロシアのエネルギー輸出に制裁を課し始めたのは、その年の11月であり、石油・ガス価格はすでに下落していた。

もう1つの主張は、制裁がロシア市場へのアクセスを失ったEUの輸出志向企業にペナルティを与えているというものだ。しかし、現実はもっと穏やかなものだ。ロシアはEU企業にとって決して主要な市場ではなく、2021年にロシア企業がEUの輸出品のわずか4%を購入したにすぎない。EUの対ロ輸出の約半分が制裁の対象となることを考えると、EUの輸出のわずか2%が影響を受けることになる。

フランスの研究機関である国際経済予測研究センター(Centre d'Etudes Prospectives et d'Informations Internationales)の国家レヴェルのデータは、この評価を裏付けている。それによると、対ロ制裁がフランス経済に与える影響はほとんど無視できるもので、フランスの輸出のわずか0.8%、約40億ユーロ(44億ドル)しか影響を受けていない。視点を変えれば、これはフランスのGDPの0.1%ほどに相当する。この調査はフランスのみを対象としているが、おそらく他のEU経済圏でもこの調査結果は劇的に変わることはないだろう。ドイツ企業と並んで、フランス企業はヨーロッパでロシアと最も深い関係にある企業である。このことは、他の多くのヨーロッパ諸国の企業は、より少ない影響しか受けていないことを示唆している。

制裁がヨーロッパ経済を圧迫しているというクレムリン寄りの主張の別のヴァージョンは、EU企業が制裁のためにロシアへの投資を断念せざるを得なかったという考えに基づいている。例えば『フィナンシャル・タイムズ』紙は、ウクライナへの本格的な侵攻が始まってから2023年8月までの間に、ヨーロッパ企業はロシア事業から約1000億ユーロ(約1094億ドル)の損失を計上したと計算している。

この数字は正確かもしれないが、制裁と大いに関係があるという考えは精査に耐えない。現段階では、制裁によってヨーロッパ企業がロシアでビジネスを行うことは、防衛など一部の特定分野を除けば妨げられていない。それどころか、ヨーロッパ企業のロシアでの損失には他に2つの原因がある。1つは、風評リスクを恐れ、ロシアの税金を払いたくないためにモスクワの戦争に加担したくないという理由で、多くの企業が撤退を選択したことだ。

損失の第二の原因は資産差し押さえの急増で、クレムリンは多くのヨーロッパ企業に、場合によってはわずか1ルーブルの価値しかない資産の売却を迫っている。言い換えれば、仮に制裁がない世界であったとしても、かつてロシア市場に賭けていたヨーロッパ企業は現在、大規模な損失に直面している。もちろん、クレムリンは、収用は制裁に対する報復手段に過ぎないと主張している。この台詞は、欧米諸国の侵略から自国を守るためだけだというモスクワのインチキ主張の長いリストの、もう1つの項目にすぎない。

ヨーロッパのポピュリスト政治家たちが好んで売り込むもう1つの論点は、ロシアのエネルギーに対するヨーロッパの制裁は、これまで見てきたように、コストがかかるだけでなく、役に立たないというものだ。この神話(myth)にはいくつかのヴァージョンがあるが、最もポピュラーなものは、G7とEU加盟諸国が合意したEUの石油禁輸と石油価格の上限は、ロシアの石油生産者に影響を与えないというものだ。それは、ロシアは、ヨーロッパ向けの石油をインドに振り向けることができるからだ。

実際、以前はヨーロッパ向けだったロシアのバルト海沿岸の港からの原油輸出の大部分は、現在インドの精製業者が吸収している。しかし、このような見方は、モスクワにとってインドの精製業者に石油を売ることは、ヨーロッパに売るよりもはるかに儲からないという事実を無視している。インドへの航路は、ヨーロッパへの航路よりもはるかに長い(したがってコストが高い)。加えて、インドのバイヤーたちは値切ることができる。彼らは、ヨーロッパ市場の損失を補うことでクレムリンの好意を受けていると考えており、そのためロシア産原油の急な値引きを受ける権利がある。

キエフ経済学院の研究によれば、ロシアの損害は無視できるものではないという。過去2年間で、クレムリンは推定1130億ドルの石油輸出収入を失ったが、その主な原因はEUによるロシア産石油の禁輸だった。EUの禁輸措置とG7とEUの石油価格上限がともに完全に効力を発揮した昨年、ロシア全体の貿易黒字は63%減の1180億ドルに縮小し、ウクライナ戦争を遂行するためのクレムリンの財源に制約を課すことになった。

ロシアの石油輸出企業にとって、今年は良い年にならないかもしれない。先月クレムリンは、輸出収入の減少を国家に補填するため、石油会社は利益の一部を放棄する必要があると発表した。ロシアの石油会社ロスネフチなどにとって、モスクワが国内のエネルギー企業に戦争資金調達への直接的な協力を求めるのは初めてのことだ。

制裁の実施が強化されるにつれ、制裁は無意味だという考えはさらに薄れていくだろう。 2023年10月以来、アメリカはG7とEUの原油価格上限を回避してロシア産原油を輸送していたタンカー27隻に制裁を課しており、これにより、どちらかの圏に拠点を置く企業がこれらのタンカーと取引することは違法となる。これは西側諸国の制裁解釈の劇的な変化を浮き彫りにしている。最近まで、価格上限はG7かEUを拠点とする海運会社または保険会社がロシア石油の輸送に関与する場合にのみ適用されていた。ワシントンは現在、西側企業とのつながりをより広範囲に解釈している。

たとえば、ロシアの幽霊船団(ghost fleet)のかなりの割合を占めるリベリア船籍のタンカーは、リベリアがアメリカを拠点とする企業に船籍業務を委託しているため、現在では石油価格上限の対象となる。これと並行して、西側諸国はインドの石油精製業者への圧力を強め、ロシアからの石油供給を止めるよう働きかけている。クレムリンを落胆させているのは、こうした努力が功を奏しているように見えることだ。今年に入ってから、インドのロシア産原油の輸入量は、2023年5月のピークから徐々に約3分の1に減少している。

制裁はロシアに損害を与えるよりもヨーロッパに損害を与えるというポピュリストたちの主張は、精査に耐えられない。現実には、これらの措置がヨーロッパ企業に与える影響は小さいが、ロシアは原油のルートを欧州から外そうとしているため、ますます逆風に直面している。

制裁にはコストがかかり、効果もないという主張を否定するのは簡単だが、このシナリオがすぐに消えることはなさそうだ。ロシアに好意的な政治家たちがヨーロッパ議会やその他の選挙に向けてキャンペーンを強化するにつれ、このような主張が今後数週間でますます広まることが予想される。制裁がロシアに深刻な影響を及ぼしていないのであれば、クレムリンと西側の同盟国は制裁を弱体化させるためにこれほどエネルギーを費やすことはないだろう。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais

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(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 最近の中国をめぐる動きとして重要なのは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の訪中とブラジルのルイス・イグナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領の訪中が続けて実施されたことだ。日本のメディアではフランスのマクロン大統領訪中が大きく取り上げられたが、より重要なのはブラジルのルラ大統領の訪中だ。フランスの世界経済に占める割合もそして外交における存在感も衰退し続けている。

マクロン大統領は訪中して中国の習近平国家主席と会談を持ち、何かしらの発言を行ったが、何の影響力もない。フランス国内の年金制度改悪問題でダメージを受けている。ウクライナ戦争に関して、フランスが独自の立場で動いているということはない。NATOの東方拡大(eastward expansion)の一環で、のこのこと間抜け面を晒して、アジア太平洋地域におっとり刀で出てこようとしているが、全てアメリカの「属国」としての動きでしかない。フランスは戦後、シャルル・ドゴール時代には独自路線を展開し、NATO(1948年結成)から脱退(1966年)したほどだったが、2009年のニコラ・サルコジ政権下で復帰している。

 ブラジルはBRICs、G20の一員として、経済、外交の面で存在感を増している。南米、南半球の主要国、リーダー国として、ブラジルは、独自の外交路線を展開している。欧米中心主義の国際体制の中で独自の動きを行おうと模索している。具体的には中国(そしてロシア)との関係強化とアフリカ諸国との連携である。アフリカ諸国との関係強化は南半球のネットワークの強化ということでもあり、かつ、旧宗主国としての西側諸国から自立した地域を目指すということだ。

このような動きが既に始まっている。それを象徴する言葉が「グローバル・サウス」である。また、学問においては、欧米中心の「世界史(world history)」に対抗する「グローバル・ヒストリー(global history)」が勃興している。欧米中心の政治学や経済学、社会学ではこの大きな転換(欧米近代体制500年からの転換)を分析し、理解することはどんどん難しくなっている。

 ウクライナ戦争は世界が既に第三次世界大戦状態に入っていることを示している。第二次世界大戦の際には、世界は連合諸国(Allied Powers、後にUnited Nations)と枢軸国(the Axis)に分かれた。この第三次世界大戦では、世界は大きく、西側諸国(the West)とそれ以外の国々(the Rest)に分かれている。グローバル・サウスはそれ以外の国々の側だ。この戦いでは、それ以外の国々が優勢となっている。これは日本のテレビや新聞といった主流メディアを見ていても分からないことだ。

(貼り付けはじめ)

ルラ大統領の北京訪問は何故マクロン大統領の訪問よりも重要なのか(Why Lula’s Visit to Beijing Matters More Than Macron’s

-世界の経済の大きな動き、ダイナミズムはグローバル・サウス(global south)に移りつつある。

ハワード・W・フレンチ筆

2023年4月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/04/24/lula-brazil-china-xi-jinping-meeting-ukraine-france-macron-vassal/

今月初め、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が中国を訪問し、中国の習近平国家主席の世界観に同調し、アメリカに対して故意に控えめな姿勢をとり、台湾をめぐる大国の衝突の可能性について、フランスひいては欧州にとって限られた関心事であると発言した。マクロンに対して、ヨーロッパ大陸とアメリカにおいて、批判の声が一斉に上がった。また軽蔑するという声も上がった。

その数日後、ブラジルのルイス・イグナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領が北京を訪れ、マクロンと同様に中国の長年の立場を支持し、ブラジリアがワシントンから政治的に距離を置くことを公にするような発言をした。世界のマスコミは注目したが、それほど大きく取り上げなかった。

それぞれの訪問を個別に考えると、どちらの大統領の中国訪問も、過去との劇的な決別を示すものとは見なされることはないだろう。しかし、5年後、もしくは10年後に、どちらが記憶に残るかということになれば、それは南米の指導者の外交であり、はるかに若いフランスの指導者の外交ではないだろう。

今月、マクロン大統領の訪中がより注目を集めたのは、世界がどのように変化しているかという新鮮で冷静な考えよりも、国際メディアの根強い北大西洋バイアスを反映している。一見したところ、それぞれの国の外交には、他国よりも注目されるだけの根拠がある。GDPが約3兆ドルのフランスは、EUの中ではドイツに次ぐ第2位の経済大国であり、ブラジルGDPの約2倍である。

一方、ブラジルの人口は2億1400万人で、フランスの3倍以上、それだけで南米の人口の3分の1を占めている。人口が全てということはないが、将来を左右する可能性があるという点で、ブラジルに有利な議論はここから始まる。しかし、その前に、マクロンとフランスが、世界の中での重みを増し、アメリカとの距離を縮めようとする、一見、恒常的な試みに対して、懐疑的な理由を更に探る価値があると言えるだろう。

「永続的な(perennial)」という言葉の使用が示すように、世界の主要国に対するマクロンの外交には、本当に独創的なものはほとんど存在しない。歴史家の故トニー・ジャットが書いたように、フランスは1940年春、マース川を越えて押し寄せるドイツの戦車師団の前に軍隊が崩壊し、世界の主要国のクラブから追い出され、それ以来、その地位を回復することはなかった。しかし、そのために、この地位を失ったことに対するノスタルジーと悔しさに基づく外交政策が採用されてきたということもない。

第二次世界大戦がフランスに与えた精神的ショックは計り知れないものだ。伝統的に東ヨーロッパ地域に大きな影響力を持っていたフランスはその力を失った。フランス語は、もはや外交における固定の共通言語ではなくなった。戦勝国である連合諸国に対して、ドイツを解体するほどの懲罰を与えるよう説得することはできなかった。そして、経済的な生存と防衛から、国連安全保障理事会(the United Nations Security Council)という世界外交のトップテーブルへの座を含む、多くの事柄において、フランスが反射的に不信感を抱く「人種(race)」、すなわちアメリカとイギリスのアングロサクソン(the Anglo Saxons of the United States and Britain)の支持と寛容に依存してきた。

左右問わず、フランスの指導者たちはかつての高貴な地位を取り戻そうとして、世界に対して2つの時代遅れのアプローチに固執してきた。第一は、帝国の名残をできるだけ長くとどめることだった。その結果、パリはアルジェリアやインドシナで相次いで植民地支配が生み出す苦難に見舞われ、西洋諸国が帝国を支配することはもはや許されないという新しい時代の到来を受け入れる結果となった。それ以来、アフリカにおいて、フランスは、数年ごとに、軍事的関与と深い経済浸透による支配と干渉の古いパターンは過去のものであると宣言しているにもかかわらず、一連の新植民地関係を放棄することに苦労している。中国を訪問したマクロンは、フランスはアメリカの「属国」にはならないと強く宣言した。結果として、マクロンにとっては何とも厳しい皮肉が出現することになった。

もう一つのフランスの伝統的な戦術は、かつて「旧大陸(Old Continent)」を支配した現実政治(realpolitik)への関与である。これは、その時々の支配的な国に対して、完全に対抗しないまでも、常に緊張関係を保ちながらバランスをとること(balancing in tension with, if not completely against, the dominant power of the day)を意味する。この点で、フランスのアプローチが最も特徴的なのは、戦後、フランスがこのゲームを行った主役は、名目上の同盟国であるアメリカであるということだ。シャルル・ドゴールからフランソワ・ミッテラン、そして現在のマクロンに至るまで、そしてその間にフランスを率いたほとんどの人物を含めて、パリはまるで固定観念に従うかのように、ワシントンの最大のライヴァルと個別の理解や和解を得ようとしてきた。時が経つにつれ、これらにはソヴィエト連邦、毛沢東主席が率いた中国、そして今では経済とますます軍事的超大国である習主席の非常に異なる中国が含まれるようになった。

フランスが自国の問題に関して自律性と独立(autonomy and independence)を望むことを非難するのは間違いだ。しかし、パリはこれまで、その姿勢を持続的に評価させるのに必要な手段をほとんど持たず、ほとんど無能な妨害者として、時には単なる驕りや皮肉屋としてしか映らなかった。

中国に媚びることで、マクロンはエアバスのジェット機の大量発注に関する北京の承認を得るなど、予想通り多くの商業取引を実現したが、他に本当に達成したことはあるのだろうか? ロシアのウクライナ侵攻がヨーロッパの平和と安全への願望に対してどのように脅威を与えているのかを考えるよう習近平主席に求めたマクロン大統領は、北京が台湾への領有権を行使するために武器を使用する可能性に対する緊張が強く高まっている時に、台湾をバスに乗せようとしているように思われた。ヨーロッパでは、台湾をめぐる戦争のリスクが高まることへの懸念だけでなく、民主政体世界に対するシステム的な脅威としての中国への懸念も高まっている。恥ずかしいことに、先週、中国の駐仏大使が、かつてソ連に併合されていたEU加盟国であるバルト三国の主権を疑うような発言をしたのは、マクロンの訪中から1カ月も経っていない中で行われた。

更に言えば、アメリカからのヨーロッパの安全保障の独立を求めるマクロン大統領の新たな主張についてどう考えるべきだろうか? これも立派な考えではある。しかし、ワシントンがキエフに軍事的、外交的支援を提供する際に果たした指導的役割がなければ、ウクライナがロシアのウラジミール・プーティン大統領の侵略をなんとか持ちこたえられたことに疑いの余地はない。

ヨーロッパが自分たちの地域を守れるようになることは望ましいことかもしれない。だが、そのために必要な投資をする現実的な見込みは、当分の間、ほとんどないだろう。西ヨーロッパは、より高度な兵器はともかく、ウクライナが必要とする通常の砲弾を維持することさえできない。マクロンは、防衛と自決(defense and self-determination)に関するヨーロッパの良心(conscience of Europe)として真剣に受け止めるべきなのか、それとも彼の発言は、フランス人の貧しさと失われた関連性への郷愁の最新の表現に過ぎないのか、疑問が出てくる。

こうした背景の中で、ブラジルの最近の外交はもっと注目されるべきものである。確かに、南米のブラジルは、アメリカの外交政策から独立した実質的な行動できる余地を確保しようとする姿勢も以前から持っていた。国際基軸通貨(international reserve currency)としてのドルの存続を批判し、アルゼンチンとの通貨統合を模索し、さらにはウクライナ戦争をめぐって欧米諸国を批判するルラの取り組みは、単に象徴的な進歩主義者(iconoclastic progressive)の気まぐれと見るのではなく、最も重要な国家の1つから台頭しつつあるグローバル・サウスの1国として、その欲求を反映したものとして捉える必要がある。

何よりも、ブラジルの重要性が存在するのがこのグローバル・サウスという舞台だ。散らばっているように見えることもあるが、グローバル サウスは、世界の経済ダイナミズムの大部分が変化している場所だ。これは、世界の豊かな国のほとんど、および中国の悲惨な人口統計と、インド、インドネシア、ブラジル、メキシコなどの国々が世界のGDPランキングで力強く上昇するように設定されている世界経済生産のパターンの変化の中にみられる。そして、アメリカとイギリスを含む伝統的な西側の先進諸国は、現在から2050年の間に緩やかに衰退していくことになる。

ルラの発言は、欧米諸国にとって懸念を掻き立てるもの、更には脅威となると考えるのは間違いだ。マクロン大統領の言葉を借りれば、ブラジルは中国の属国になろうとは思っていない。ブラジルの可能性の多くは、自国の道を切り開くことにある。ドゴールはかつて、ブラジルを評して「未来の国(country of future)だ、これからもそうだ」と言ったという。しかし、多様な経済と豊富なソフトパワーを持つ多民族国家でありながら、対外侵略(extraterritorial conquest)の歴史もなく、他国を支配する野心もないブラジルに関しては、ようやくその時代が到来したということかもしれない。

アルゼンチンとの経済関係の強化が示すように、ブラジルは近隣諸国から恐れられてはいない。しかし、南半球のリーダーとしてのブラジルの将来の鍵を握っているのは、アフリカかもしれない。アフリカ大陸は、世界で最も人口が増加している地域であり、近年は堅調な経済成長を遂げているが、急増する若者たちが必要とする雇用の創出やインフラ整備を支援する新しいパートナーシップを切望している。中国は、これまでアフリカとの貿易や投資を独占してきた欧米諸国を抜き、アフリカにおける欧米諸国の代替的存在として急成長している。

ブラジルは、ルラ大統領の就任後、南大西洋の経済・外交パートナーシップを強化するための投資を開始したことは、別の記事で紹介した通りだ。ブラジルとアフリカは、大西洋横断奴隷貿易の悲劇的な歴史によって深く結ばれている。新しい強力な南北関係を率先して構築することで、ブラジルとアフリカは共に、より良い未来への扉を開くことができるだろう。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム専門大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新作には『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ツイッターアカウント:@hofrench
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 古村治彦です。

 NATOはウクライナ戦争以降、大きな注目を集めている。NATOは北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)の略である。NATOは冷戦下の対ソ連に対する集団的自衛のための組織であった。ソ連はワルシャワ条約機構(Warsaw Treaty/Pact Organization)を組織して対抗した。冷戦終結後、ソ連が解体された後も、加盟国を増やしながら存続してきた。その主要な仮想敵国はロシアになった。

 また、NATOに関しては、「ドイツの力を封じ込める」という考え方もある。「日米安全保障条約は日本の力を封じ込めるためのものだ」という「瓶のふた」論と共通する内容だ。NATOの外部ではロシアを、内部ではドイツを抑え込むという二重の構造になっている。しかし、NATOという冷戦の遺物が規模を拡大して残ってしまっていることが、ロシアの恐怖感を強め、ロシアにとっての脅威となり、ウクライナを正式加盟させていないのに、実質的に加盟国のように遇して軍備増強をさせたことがロシアの侵攻につながったということを考えると、NATOの存在が安全保障に資するものなのかどうか甚だ疑問である。アメリカではドナルド・トランプが大統領時代に、NATOは役立たずの金食い虫だと喝破したことがある。NATOの存在意義が議論の対象になっている。

 NATOの在り方に関しては、これまで通り(アメリカに頼りながら)、役割を拡大(アメリカのインド太平洋戦略の補助者として)、ヨーロッパの安全保障に専念してアメリカに頼らないというものであり、下記の論稿の著者スティーヴン・ウォルト教授は最後の在り方を推奨している。

 NATOは現在、アメリカを補助する役割を拡大し、アジア太平洋地域におけるプレゼンスを高めようとする動きが活発だ。イギリスやフランスが空母を派遣し、ドイツも艦艇を派遣するという動きに出ている。イギリスは英連邦(British Commonwealth)、フランスは太平洋に海外領土を持っており、それを大義名分にして空母まで送ってきている。しかし、それは「あなた方の仕事ではないはずだ」と私は考える。ウクライナに対する支援の少なさを考えると、「まずは自分の足元からしっかり見直すべきではないか」と言いたい。

 アジア太平洋地域にこれ以上、外部からしゃしゃり出てこられても困るのだ。しかも、老大国、自分の頭の上のハエを追うことすらままならない国々が、昔アジア太平洋地域を植民地化した古き良き時代が忘れられないのか、アメリカに唆されて嫌々なのかは分からないが、おっとり刀で出て来たところで何の役に立つと言うのか。

 NATOは自分たちの周辺だけでも、旧ソ連、中東、マグレヴ(サハラ砂漠以北のアフリカ諸国)と言ったところで多くの問題を抱えている。まずはそれらにしっかりと対処することだ。更に、内部での独仏の争いについても何とかしなさい、ということになる。仲間割れをして戦争にまでならないように、他のところは他のところできちんとやるから、ということになる。

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どのNATOを私たちは必要とするか?(Which NATO Do We Need?

-環大西洋同盟の4つの可能な未来。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年9月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

Stephen M. Walt

https://foreignpolicy.com/2022/09/14/nato-future-europe-united-states/

絶え間なく変化する世界の中で、大西洋を越えたパートナーシップの耐久性は際立っている。北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganizationNATO)は私の人生よりも歴史が長い。そして、私はもう若くない。NATOの歴史は、エリザベス2世が英国に君臨していた時代よりも長い。「ソヴィエト連邦を排除し、アメリカを取り込み、ドイツを抑える」というNATOの本来の目的は、以前ほど重要ではなくなったが(ロシアのウクライナ戦争は別として)、大西洋の両側ではいまだに尊敬をもって見られている。もし読者である皆さんが、ワシントン、ベルリン、パリ、ロンドンなどで頭角を現すことを望む政策担当者ならば、NATOの不朽の美点を称賛することを学ぶのは、今でも賢い出世術と言えるだろう。

NATOが結成され、「大西洋横断コミュニティ(trans-Atlantic community)」の構想が具体化し始めてから、どれほどの変化があったかを考えると、この長い歴史は特に注目に値する。ワルシャワ条約(Warsaw Pact)は消滅し、ソ連は崩壊した。アメリカは20年以上にわたって中東において、お金ばかりかかってしまって成果の上がらない戦争に国力を費やしてきた。中国は、世界的な影響力を持たない貧しい国から世界第2位の強国へと成長し、その指導者たちは将来、さらに大きな世界的役割を果たすことを望んでいる。ヨーロッパもまた、人口動態の変化、度重なる経済危機、バルカン半島での内戦、そして2022年には長期化しそうな破壊的な戦争と、大きな変化を経験している。

確かに、「大西洋を越えたパートナーシップ(trans-Atlantic partnership)」は完全に固定化されてきた訳ではない。1952年のギリシャとトルコに始まり、1982年のスペイン、1999年からの旧ソ連の同盟国、そして最近ではスウェーデンとフィンランドと、NATOはその歴史の中で新メンバーを増やしてきた。冷戦終結後、ヨーロッパの大半が国防費を大幅に削減するなど、同盟内の負担配分にも変動があった。NATOはまた、様々な教義上の変化を経てきたが、その中にはより大きな影響を及ぼすものもある。

従って、大西洋横断パートナーシップは今後どのような形を取るべきかを問う価値がある。その使命をどのように定め、どのように責任を分担していくべきなのか? 投資信託と同様、過去の成功は将来のパフォーマンスを保証するものではない。だからこそ、最高のリターンを求める賢明なポートフォリオ・マネージャーは、状況の変化に応じてファンドの資産を調整する。過去に起きた変化、現在の出来事、そして将来起こりうる状況を考慮した上で、大西洋横断パートナーシップが存在し続けると仮定した場合、将来どのような広範なヴィジョンを形成すべきなのだろうか?

私は少なくとも4つの異なるモデルを考えることができる。

一つは、官僚的な硬直性(bureaucratic rigidity)と政治的な慎重さ(political caution)を考慮すれば、おそらく最も可能性の高いアプローチで、現在の取り決めをほぼそのまま維持し、できる限り変化を与えないというものだ。このモデルでは、NATOは(その名称の「北大西洋」という言葉が示すように)、主にヨーロッパの安全保障に焦点を当て続けることになる。アメリカは、ウクライナ危機の際もそうであったように、ヨーロッパにとっての「緊急応対者(first responder、ファースト・レスポンダー)」であり、同盟のリーダーとして揺るがない存在であり続けるだろう。負担の分担は依然として偏っている。アメリカの軍事力は引き続きヨーロッパの軍事力を凌駕し、アメリカの核の傘(nuclear umbrella)は依然として同盟の他の加盟諸国を覆っている。「地域外(out-of-area)」の任務は、ヨーロッパそのものに再び焦点を当てることに重点を置くことになるだろう。この決定は、アフガニスタン、リビア、バルカン半島諸国におけるNATOの過去の冒険がもたらした失望的な結果に照らして、理にかなったものだと言える。

公平に見て、このモデルには明らかな長所がある。それは、慣れ親しんだものであり、ヨーロッパにとっての「アメリカのおしゃぶり(American pacifier)」をそのままにしておくことだ。アメリカ(Uncle Sam、アンクルサム)が笛を吹いて喧嘩を仲裁してくれる限り、ヨーロッパ諸国は国家間の紛争を心配する必要はない。再軍備の結果として手厚い福祉国家を切り崩したくないヨーロッパ諸国は、アンクルサムに不釣り合いな負担をさせることを喜ぶだろうし、ロシアに地理的に近い国はアメリカの強力な安全保障を特に望むだろう。不釣り合いな能力を持つ明確な同盟のリーダーがいれば、そうでなければ扱いにくい連合軍内で、より迅速で一貫した意思決定が可能になる。この方式に手を加えようとする者が現れると熱心な大西洋主義者が警鐘を鳴らすのにはそれなりの理由がある。

しかし、通常業務(business-as-usual)モデルには深刻なマイナス面もある。最も明白なのは機会費用(opportunity cost)だ。アメリカをヨーロッパにとってのファースト・レスポンダーとして維持すると、アメリカは、力の均衡(balance of power)に対する脅威が著しく、外交環境が特に複雑なアジアに十分な時間、注意、資源を割くことが難しくなる。アメリカのヨーロッパへの強い関与(commitment)は、ヨーロッパでの潜在的な紛争の原因を減らすかもしれない。しかし、それは1990年代のバルカン戦争を防げなかったし、アメリカが主導してウクライナを西側の安全保障軌道に乗せる努力は現在の戦争を誘発する一因となった。もちろん、これは西側諸国の誰もが意図したことではないが、結果こそが重要なのだ。最近のウクライナの戦場での成功は非常に喜ばしいことであり、今後もそうであって欲しいが、戦争が起きない方がはるかに良かった。

更に、通常業務モデルは、ヨーロッパの保護継続を奨励し、ヨーロッパの外交政策の遂行における全般的な自己満足と現実主義の欠如に寄与している。問題が起きればすぐに世界最強の超大国が味方になってくれると確信していれば、外国のエネルギー供給に過度に依存したり、身近に忍び寄る権威主義(authoritarianism)に過度に寛容であったりするリスクを無視しやすくなる。そして、誰も認めたがらないが、このモデルは、アメリカ自身の安全や繁栄にとって必ずしも重要でない周辺の紛争にアメリカを引きずり込む可能性を持っている。少なくとも、通常業務も出るは、もはや無批判に支持すべきアプローチではない。

●モデル2:国際的な民主政治体制の拡大(Model 2: Democracy International

大西洋横断安全保障協力の第2のモデルは、NATO加盟諸国のほとんどの民主的な特徴の共有と、民主政治体制国家と独裁国家(特にロシアと中国)の間の格差の拡大を強調するものである。このヴィジョンは、バイデン政権が民主政治体制の価値観を共有することを強調し、世界の舞台で民主政治体制が依然として独裁政治体制を凌駕しうることを証明したいと公言していることの背景にあるものだ。元NATO事務総長であるアンデルス・フォグ・ラスムセンの民主国家同盟財団(Alliance of Democracies Foundation)も同様の構想を反映している。

ヨーロッパの安全保障に主眼を置いた通常業務モデルとは異なり、大西洋横断パートナーシップに関するこの概念は、より幅広いグローバルな課題を包含している。現代の世界政治を民主政治体制と独裁政治体制のイデオロギー論争として捉え、この闘いは地球規模で行われなければならないと考えている。アメリカがアジアに軸足を移すのであれば、ヨーロッパのパートナーも同様に、民主政治体制を擁護し促進するというより大きな目的のために軸足を移す必要がある。ドイツの新しいインド太平洋戦略では、この地域の民主国家群との関係を強化することが謳われており、ドイツの国防相は最近、2024年にもアジアにおける海軍のプレゼンスを拡大することを発表している。

このヴィジョンは、民主政治体制が良くて独裁政治体制が悪いという単純な利点はあるが、欠点はその良さよりもはるかに大きい。まず、このような枠組みは、アメリカやヨーロッパが支持する独裁国家(サウジアラビアや湾岸諸国、あるいはヴェトナムなどアジアの潜在的パートナー)との関係を複雑にし、大西洋横断パートナーシップを偽善の塊のようなものとして暴露することは避けられないだろう。第二に、世界を友好的な民主国家と敵対的な独裁国家に分けることは、独裁国家間の結びつきを強め、民主国家間が他国間に対して分割統治を行うことを抑制することにつながる。この観点から、1971年に当時のリチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官が毛沢東率いる中国と和解し、クレムリンに新たな頭痛の種を与えた時に、この枠組みを採用しなかったことを喜ぶべきだろう。

最後に、民主政治体制の価値を前面に押し出すことは、大西洋横断パートナーシップを、可能な限り民主政体を諸外国に植え付けようとする十字軍のような組織にしてしまう危険性をはらんでいる。このような目標は抽象的には望ましいことかもしれないが、過去30年間を見れば、同盟のどのメンバーもこれを効果的に行う方法を知らないことが分かるはずである。民主政体の輸出は非常に困難であり、特に部外者が力づくでそれを押し付けようとする場合にはたいていの場合失敗する。また、現在のNATO加盟諸国の一部で民主政治が悲惨な状態にあることを考えると、これを同盟の主要な存在意義として採用することは非常に奇妙に見える。

●モデル3:「世界に出ていく」対「中国」(Model 3: Going Global vs. China

モデル3はモデル2に近いものであるが、民主政治体制やその他の自由主義的価値を中心に大西洋横断関係を組織するのではなく、中国を封じ込めるためのアメリカの幅広い努力にヨーロッパを参加させようとするものだ。事実上、アメリカのヨーロッパ諸国のパートナーは、アジアに既に存在する二国間ハブ&スポーク協定と一体化し、アメリカが今後何年にもわたって直面する可能性がある唯一の深刻な競合相手に対して、ヨーロッパの潜在力を発揮しようとするものである。

一見したところ、これは魅力的なヴィジョンであり、アメリカ、イギリス、オーストラリア間のAUKUS協定は、その初期の現れであると指摘することができる。ランド研究所のマイケル・マザールが最近指摘しているように、ヨーロッパはもはや中国を単に有利な市場や貴重な投資相手とは見ておらず、中国に対して「ソフトバランス(soft balance)」し始めている証拠が増えつつある。純粋にアメリカの視点に立てば、ヨーロッパの経済的・軍事的潜在力をその主要な挑戦者である中国に向けることは、非常に望ましいことであろう。

しかし、このモデルには2つの明らかな問題がある。第一に、国家はパワーだけでなく脅威に対してもバランスを取っており、その評価には地理的な要因が重要な役割を果たす。中国はより強力で野心的になっているかもしれないが、中国軍はアジアを横断してヨーロッパを攻撃することはないし、中国海軍は世界中を航海してヨーロッパの港を封鎖することはないだろう。ロシアは中国よりはるかに弱いがはるかに近い。最近のロシアの行動は、その軍事的限界を知らず知らずのうちに明らかにしているとしても、憂慮すべきものである。従って、ヨーロッパが期待するのは最もソフトなバランシングであって、中国の能力に対抗するための真剣な努力ではない。

NATOのヨーロッパ加盟諸国は、インド太平洋地域の力の均衡に大きな影響を与える軍事能力を有しておらず、また、すぐにそれを獲得することも考えにくい。しかし、その努力のほとんどは、ロシアに対する防御と抑止を目的とした地上・航空・監視能力の獲得に向けられるだろう。それはヨーロッパの観点からは合理的であるが、これらの能力のほとんどは、中国との紛争には無関係であろう。インド太平洋地域にドイツのフリゲート艦を数隻派遣することは、同地域の安全保障環境の変化にドイツが関心を示していることを示す良い方法かもしれないが、地域の力の均衡を変更したり、中国の計算を大きく変更させたりすることはできないだろう。

もちろん、ヨーロッパは、外国軍隊の訓練支援、武器の販売、地域安全保障フォーラムへの参加など、他の方法で中国との均衡を図ることができ、アメリカはそうした努力を歓迎すべきだ。しかし、インド太平洋地域におけるハードバランシング(hard balancing)をヨーロッパに期待するべきではない。このモデルを実行に移そうとすることは、失望と大西洋における軋轢を増大させることになる。

●モデル4:新しい分業(Model 4: A New Division of Labor

こうなることは分かっていたはずだ。私が考える正しいモデルとは。私が以前から主張しているように(最近『フォーリン・ポリシー』誌上で書いたように)、大西洋横断パートナーシップの最適な将来モデルは、ヨーロッパが自国の安全保障に主な責任を持ち、アメリカがインド太平洋地域に大きな関心を払うという新しい役割分担である。アメリカはNATOの正式加盟国としてその地位にとどまるが、ヨーロッパにとっての緊急応対者ではなく、最終手段(last resort)としての同盟国になるであろう。今後、アメリカは、地域における力の均衡が劇的に損なわれた場合にのみ、ヨーロッパに再び上陸することを計画するが、そうでない場合は、上陸しない。

このモデルは一夜にして実現できるものではなく、アメリカがヨーロッパのパートナーに必要な能力の設計と取得を支援し、協力的な精神で交渉する必要がある。しかし、これらの国々の多くは、アメリカを説得するために全力を尽くすだろうから、アメリカは、これが今後支持する唯一のモデルであることを明確に示す必要がある。NATOのヨーロッパにおける加盟諸国が、自分たちはほとんど自分たちの力でやっていけると本気で思わない限り、そして確信するまでは、必要な措置を取るという彼らの決意は弱いままで、約束を反故にすることが予想される。

アメリカ大統領時代のドナルド・トランプは、虚勢を張って大袈裟で、同盟諸国を無意味に困惑させたが、トランプの次の大統領であるジョー・バイデンは、上記のプロセスを始めるのに理想的な立場にある。バイデンは熱心な大西洋主義者という評価を得ているので、新しい役割分担を推し進めることは、恨みや怒りの表れとは見なされないだろう。バイデンと彼のチームは、ヨーロッパのパートナーに、この措置が全員の長期的な利益につながることを伝えることができるユニークな立場にある。私は、バイデンたちがこのステップを踏むことを期待している訳ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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古村治彦です。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が勃発し、世界は「先進諸国の西側諸国(the West)」対「新興諸国のそれ以外の国々(the Rest)」の深刻な分断構造になっていることが明らかになった。西側諸国にはアメリカ、ヨーロッパ諸国、日本などで、それ以外の国々は中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカなどで構成されている。人口で見れば西側諸国が15%、それ以外の国々は85%であり、GDPは拮抗状態からそれ以外の国々が上回っている状態になっている。

 世界は分断状態になっている中で、アメリカ対中国・ロシアという構造の中で、自分たちの進む方向性に悩むのは属国群である。日本はアメリカの属国であり、アメリカの意向にきちんと従わねばならないということになっている。現在、岸田文雄政権が打ち出している「防衛費GDP比2%」という基準も、「アメリカ様が決めた数字」である。現在の水準よりも倍増することになるが、増えた分の多くはアメリカ製の兵器購入に充てられることになる。お金だけの問題で済めばまだ良いのだが、「充実した」兵器を持つようになり、ミサイルによる「先制攻撃」ができるようになれば、中国と実際にぶつかる係をやらされる危険性が出てくる。日本が中国と実際にぶつかるようになれば、日本は今よりもより悲惨な状況に落ち込んでしまうことだろう。そのようなことはなんとしても避けねばならない。そのためには、積極的に中国と「対話すること」である。

 そのお手本となるのがドイツのようだ。ドイツのオラフ・ショルツ首相は先月、ドイツの産業界のリーダーたちと共に中国を訪問した。ショルツ訪中は、西側諸国から大きな批判を受けた。中国とロシアに対抗するために、西側諸国は団結して臨まねばならないのに、その団結を崩す行為だという批判である。特にドイツとフランスとの間の不仲は西側諸国の団結にとっての大きな懸念材料ということになる。フランスは経済力こそ大したことはないが、ヨーロッパ大陸で唯一の核兵器保有国であり、国連安全保障理事会の常任理事国である。腐っても鯛、大国、昔の表現で言えば列強である。ドイツは、経済力はヨーロッパ随一であるが、軍事面では制限を持っている。フランスはドイツの大国化を懸念しており、西側からの離脱を心配しているのだろう。ドイツが中露と組んでしまえば(その可能性はかなり低いが)、フランスの存在感は消し飛んでしまう。EUNATOでドイツを抑え込んでいるのでフランスは安心していられる。

 オラフ・ショルツ(Olaf Scholz、1958年-、64歳)はドイツ社会民主党(SPDSozialdemokratische Partei DeutschlandsSocial Democratic Party of Germany)所属で、ハンブルク市長からアンゲラ・メルケル内閣(キリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟、社会民主党の連立政権)の副首相兼財務大臣を務めた後、2021年12月にドイツ首相に就任した。オラフ内閣は中道左派の社会民主党、急進左派の緑の党(Bündnis 90/Die GrünenAlliance 90/The Greens)、中道右派の自由民主党(FDPFreie Demokratische ParteiFree Democratic Party)の連立政権となっている。副首相兼経済・気候保護大臣には緑の党のロベルト・ハーベック(Robert Habeck、1969年-、53歳)が、外務大臣には同じく緑の党のアンナレーナ・ベアボック(1980年-、41歳)が就任している。

 問題は、ドイツ国内、ショルツ政権内から中国との関係を断ち切ることを求める声が出ていることだ。その主犯格は、連立政権の緑の党出身閣僚たち、特にアンナレーナ・ベアボック外相だ。アンナレーナ・ベアボックはアメリカで言えば、民主党内の人道的介入主義派のような存在だ。きれいごとを並べながら、実際には好戦的で、世界中の非民主的な国々の指導者たちを打倒しなければならないという狂信的な信念に凝り固まった人物である。子のような人物たちの過度な理想主義的主張が世界を戦争に陥れ、平和をかき乱す。

 「地獄への道は善意で敷き詰められている(The road to hell is paved with good intentions)」という箴言を私たちは嚙み締めねばならない。

(貼り付けはじめ)

ショルツ独首相、習中国主席と会談 ロシアへの働きかけ求める

2022115日 BBC日本語版

https://www.bbc.com/japanese/63524371

ドイツのオラフ・ショルツ首相は4日、中国・北京を訪れ、習近平国家主席と会談した。ショルツ氏は、ウクライナでの戦争を止めるため、中国がロシアへの影響力を行使するよう働きかけた。

新型コロナウイルスの世界的な大流行が発生して以降、ヨーロッパの指導者が北京を訪れるのは初めて。習氏が先月開催された共産党大会で権力の掌握を強めてから、欧州首脳が習氏と会談するもの初めてだ。

ショルツ氏は、ロシアの核による威嚇が「無責任かつ非常に危険」だという認識で両国は一致したと述べた。

習氏はこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による侵略行為を非難していない。

中国の報道によると習氏は、危機を平和的に終わらせるよう国際社会が支援し、核兵器の使用や威嚇に反対すべきだと述べたという。

中国外務省は、習氏が「無責任」「非常に危険」という言葉を使ったとは説明していない。

ショルツ氏と習氏は今回、ウクライナでの戦争、世界の食料とエネルギーの安全保障、気候変動、世界的な感染流行などについて、話し合い続けることで合意した。

台湾に関しては、ショルツ氏は従来どおり、現状のいかなる変更も平和的かつ相互の合意に基づかなくてはならないとするドイツの見解を繰り返した。人権については、特に新疆地区の少数民族について保護の必要があると述べた。

●欧州で懸念広がる

ショルツ氏の今回の訪中は、滞在時間がわずか11時間。現時点での訪中の是非は、ドイツと欧州各国で懸念を呼んでいる。

中国共産党大会が終わってまもないタイミングでもあるだけに、権威主義を強める習氏の国内評価を高める材料にされかねないと、懸念されている。

これについて、ジェニー・ヒルBBCベルリン特派員は、ショルツ氏は、前首相のアンゲラ・メルケル氏と同様、世界の問題は中国との協力することでのみ解決できるという考えの持ち主だと指摘。首相は、直接会うことで、双方が強く対立する問題でも話し合いが進むと考えているという。

BBCのカティヤ・アドラー欧州編集長は、ドイツは欧州連合(EU)の中で最も経済力と影響力をもつ国であり、その言動は重要だと指摘。

ショルツ氏の今回の訪中は、発表はされたものの、EUの他の国々との調整がなかったため、欧州各国の神経を逆なでしたとアドラー編集長は話す。

ヨーロッパがドイツを筆頭にロシア産ガスへの依存から脱却しようとする中、「ドイツはビジネスの見込みに目がくらみ、中国に近づきすぎているのではないか?」と、欧州で疑問視されているのだと、編集長は言う。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が何年も前から、EUの中国への依存を弱めるよう働きかけてきたこともあり、EUは貿易相手国の多様化は賢明なことだと考えるようになっているが、ショルツ氏はその歩調から外れていると懸念されていると、同編集長は解説した。

<解説> ジェニー・ヒル BBCベルリン特派員

ショルツ首相の前任、アンゲラ・メルケル氏も、中国訪問時には必ずドイツ経済界の幹部を同行した。メルケル氏は「貿易を通じた変化」を政策として追求し、中国やロシアといった国々との関係は、経済的な結びつきを通じて、政治的関係にも影響を与えられると考えていた。

ドイツ経済は長く、安価なロシアのエネルギーに依存してきた。しかし、ウクライナでの戦争によって、ドイツのその戦略の本質的な欠陥があらわになった。そしてかつてはパートナーだった中国のことも、ドイツ政府は今ではライバルとみなしている。

習氏は今回の会談で、ドイツとの「より深い協力」をショルツ氏に求めた。すでにドイツ経済が中国と密接すぎると考える人にとって、これはぞっとする発言だったはずだ。中国が台湾に侵攻したらどうなるのか、そういう人たちは心配している。

すでに100万人以上のドイツ人の雇用が、中国との関係に依存している。

例えば、自動車大手ダイムラーは、製造した車の3割以上を中国で販売している。化学メーカーBASFは、中国南部に新工場を開設したばかりで、年内に100億ユーロ(約1.5兆円)の投資を予定している。

ドイツ政府内で、中国との「デカップリング」(切り離し)を主張する人はほとんどいない。ショルツ首相訪中の前夜、経済界の幹部はこう述べた。「今は中国の陶器を割るべき時ではない。それが唯一のアドバイスだ」と。

とはいえ、ドイツが過度に中国に依存するのを防ぎたいと考えている人は多い。

ショルツ氏には、高度な綱渡りが求められている。ドイツ経済を守りながら、ドイツ企業の利益を最優先しているという非難を避けなくてはならないのだ(そうした非難はここ数カ月でかなり出ている)。

変化する中国にどう対応するか。ショルツ政権にとっては、それが決定的な試練となるかもしれない。

(英語記事 Scholz asks China to press Russia to end its war

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オラフ・ショルツは中国に対する西側の結束を弱めている(Olaf Scholz Is Undermining Western Unity on China

-ドイツ首相の独走(go-it-alone approach)は、ドイツ国内、EU、そして国際的なパートナーから疎外されている。

ファーガス・ハンター、ダリア・インピオンベイト筆

2022年11月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/23/germany-china-eu-scholz-xi-meeting-economy-trade-g-20/

「政治指導者たちは、変えられないものを受け入れる冷静さ(serenity)と、変えられるものを変える勇気(courage)、そしてその2つを区別する知恵(wisdom)を持つべきだ」。

中国の習近平国家主席は今月初め、北京でドイツのオラフ・ショルツ首相と会談した際、アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーの「ニーバーの祈り(Serenity Prayer)」を愛読していた西ドイツの故ヘルムート・シュミット首相を引き合いに出して、この言葉を述べた。

この言葉の引用には明確な目的がある。習近平にとって、ショルツの訪中は、10月の中国共産党第20回全国党大会で習近平の権限が更新された後、G7首脳として初めてのことだった。シュルツの訪中は習近平にとって北京の核心的利益(core interests)を再確認する機会であった。ショルツにとって残念だったのは、習主席が平静に受け入れられることを期待していたことのリストに、中国の厄介な少数民族の扱いから南シナ海の軍事化まで、あらゆることが含まれていたことだ。

中国との外交的関与は、特に西側諸国の政府が中国との関係をますます緊張させる中で、非常に重要である。問題は、それをどのように行うかである。ジョー・バイデン米大統領をはじめとする各国首脳が今月、インドネシアのバリ島で開かれたG20サミットを習近平との二国間交渉の場としたのとは異なり、ドイツの首相は先手を打とうとした。オラフ・ショルツ首相は、新型コロナウイルスの流行により、このような二国間会談を3年間中断していたため、習主席と直接話す時期が来たと主張した。ショルツ首相は、独中関係の問題に立ち向かうのは、まさにそれが通常の事態の中ではないからだと述べた。『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』紙に寄稿した論稿で、ショルツは「中国が変われば、私たちの中国へのアプローチも変わるはずだ」と書いている。

しかし、ショルツのドイツ第一主義のアプローチ(Germany-first approach)は、ドイツの連立政権の中国政策展開を混乱させ、ヨーロッパや世界のパートナーを遠ざけている。好戦的になりつつある中国にアプローチする最も効果的な方法は、統一戦線による対処だ。アメリカ民主党政権は、中国に関するレトリックと政策を一致させ、優位な立場でテーブルにつく必要がある。主観的な国益に基づく単独行動は、中国に利用されてしまう脆弱性をもたらす。

今回のG20サミットでは、習近平の戦略的な二国間交渉を優先する志向が顕著に表れた。習近平は、フランス、スペイン、オランダ、イタリアの各首脳と会談し、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長やシャルル・ミシェル欧州理事会議長との正式な会談を避けた。つまり、習近平は、集団的利益を代表する欧州委員会の、中国に対して厳しい姿勢を取る指導者たちを避け、自国の利益と負債を優先する各国首脳を相手に運試しをした。

ショルツ首相は北京で、私的な会合においても、公的な場においても、難しい問題を提起したが、その方法はドイツとEUのそれぞれの中国政策に水を差すことになった。ショルツ首相は、ドイツの対中経済関係の強化が最優先であるという印象を強く残したが、他のヨーロッパの指導者やベルリンでの自身の連立パートナーはその反対を押し進めている。中国は、ショルツ首相のドイツを西側諸国連合の弱点と見なし、これを利用しようとする可能性がある。

ショルツ首相は北京で、ロシアのウクライナ侵攻や中国の人権侵害、台湾海峡でのエスカレート、不公正な経済行為、同じEU加盟国のリトアニアを含む他国への経済的威圧を非難する明確なメッセージを打ち出した。

今回のショルツ首相の訪中では、習近平国家主席が2つの声明を発表したことが大きな成果として挙げられたと専門家たちは強調している。中国の習近平主席は、ウクライナでの核兵器の使用に対して公式に警告し、バイオエヌテック社のワクチンを中国に住む外国人向けに承認することに同意した。これは中国におけるmRNAワクチンの初めての青信号となった。在中国欧州商工会議所会頭のヨルグ・ヴットケは、オーストラリア戦略政策研究所のポッドキャストのインタヴューで、「ショルツ首相がベルリンにとどまって中国を訪問していなかったら、習主席の公約はどれも実現しなかっただろう」と述べた。

しかし、中国は実際にどれだけのものを提供したのかについては明確にしておくべきだ。習近平はウクライナで核兵器を使用すると脅す勢力としてロシアを名指ししなかったし、中国はロシアの侵攻を非難することを拒否し続けた。中国や他の国がウクライナにおけるレッドラインとして核兵器の使用を定義することは、ロシアがそこで続けている通常兵器の侵略を容認するというシグナルを送ることになる。これは中国にとって非常に低いハードルであり、北京は自らを責任あるグローバルプレーヤーと見せかけながら、平和の実現にはほとんど貢献しないということになる。

多くの専門家たちは、今回のショルツ訪中の真の目的は、ドイツの対中商業活動の強化にあったと主張している。シュルツの訪中は、中国の海運大手コスコのハンブルク港への投資を、閣僚や治安当局の反対や懸念にもかかわらず、強引に承認した直後に行われえた。フォルクスワーゲン、シーメンス、BASFといった大企業を含む12名のドイツ産業界のトップと共にシュルツは北京に到着した。

BMWのオリバー・ジプセ会長は新華社通信の取材に対し、「この訪問は中独間の経済協力強化に向けた強いシグナルだ」と述べ、中国の外交官たちや国営メディアも同じ感想を述べた。中国政府が発表したショルツ・習近平会談の公式資料には、「ドイツは中国との貿易・経済協力を緊密化する用意があり、中国とドイツの企業間の相互投資の拡大を支持する」と記されている。もしこれが本当にショルツの立場なら、リトアニアやオーストラリアといったドイツのパートナー国が中国の市場力にさらされることで経済的圧迫に直面している今、非常に甘い態度だと感じられる。

ショルツは、経済・気候変動担当大臣(副首相)のロベルト・ハーベックや外務大臣のアンナレーナ・ベアボック(両者ともに緑の党)といった連立政権の閣僚たちと、中国への対処をめぐって対立してきた。緑の党の閣僚たちは、「これ以上の甘さはなしで(no more naivety)」、中国からの「恐喝(blackmail)」のリスクを減らす努力をするよう求めている。ショルツ連立政権の6名の閣僚はコスコの投資に反対したが、最終的にはハンブルク港における中国の出資比率に上限を設定するという妥協案に合意した。ハーベックは「ドイチェ・ヴェレ」とのインタヴューで、中国に大きく依存するドイツ企業は、台湾をめぐる潜在的な対立など中国に関して地政学的な逆風が吹くと、「ビジネスモデルを危険にさらす(risk their business model)」ことを意識する必要があると警告している。ハーベックは、先週シンガポールで開催されたアジア太平洋地域ドイツビジネス会議では、ドイツの現在の経済多角化の取り組みは適切ではなく、「私たちは中国への依存度を高めつつある」と述べた。

ショルツの行動は、連立政権の閣僚たちの言動と相容れない。今、ドイツ政府が国内企業に対して明確に伝えるべきことは、中国に対する脆弱性(vulnerability)を高めるのではなく、軽減するための支援を行うことだ。

ドイツ首相ショルツは、誤った二項対立で自らのアプローチを正当化しようとしている。ドイツなどは中国との関わりを拒むことはできないと主張し、関係切り離し(デカップリング、decoupling)は「間違った答え(wrong answer)」だと述べた。しかし、中国との本格的な関係切り離し(デカップリング)は真剣に考慮するような命題ではない。中国とドイツ、そして世界経済との融合は巨大であり、それを解体することは非常に複雑で有害な事業となる。むしろ、中国と効果的に関わりながら、特に重要な分野では市場と供給チェーンの多様化を目標に進めていくことが問題となる。例えば、フォルクスワーゲンは利益の半分を中国市場から得ており、中国に30以上の工場を持っている。これは明らかに経済的な過剰依存(economic overreliance)であり、フォルクスワーゲンとドイツの双方をリスクに晒す。

少数の強力な企業経営者たちが、政府の外交政策に不当な影響を与えることを、ショルツは許してはならない。利益至上主義のCEOたちが、北京との関係において、一本調子で近視眼的な考え以上のことを進めると期待を持ってはいけない。各種世論調査によると、ドイツの有権者は中国を信頼しておらず、コスコの港湾投資にも、人権よりも企業活動を優先させることにも反対している。ショルツ首相は、ドイツの長期的な経済的回復力と政治的・安全保障的な懸念を考慮し、より洗練された対中アプローチを展開する必要がある。

習近平はいわゆる二重循環政策(dual circulation agenda)によって、自国の自給自足を高める一方で、他国を中国の輸出品に依存させることを望んでいる。中国政府がどのような保証をしようとも、実質的な開放(opening)と相互依存(reciprocity)は実現しない。ショルツ首相は、中国との貿易に現在も存在する障壁を、自らの政策がいかに危ういものであるかを示すシグナルとして受け止めるべきだろう。

国内的には、ショルツはバーボックやべアベックと連携し、ドイツが首尾一貫して経済的な強度を高め、中国への依存に伴うリスクを確実に減らす必要がある。間もなく発表されるドイツの国家安全保障戦略(national security strategy)と中国戦略(China strategy)は、いずれもドイツ政府の団結に支えられた強固で明確な青写真(blueprint)である必要がある。ドイツの産業界が明確な方向性を示し、その脆弱性を実質的に軽減するためにこれらの文書が必要である。

首尾一貫したドイツの戦略は、EUの中国に対する位置づけにも不可欠である。ヨーロッパがロシアの天然ガスに過度に依存していることに対する高い代償を払っている時に、中国の投資を優先させることは、EUの他の国々、特にEU最大の経済力を持つ国々にとって良い手本とはならない。EUのトップ外交官(欧州連合外務・安全保障政策上級代表)であるジョセップ・ボレルは、EU各国の大使に対する最近の講演で、中国とロシアに経済的に依存することはもはや実現不可能であると述べた。「中国とロシアに経済的に依存することはもはや不可能であり、その調整は困難であり、政治的な問題を引き起こすだろう」と警告した。

ショルツは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領からの北京への招待を拒否したと伝えられており、2人は効果的なパートナーシップを確立するのに苦労している。これは、欧州の最も強力な2人の指導者が、中国に関して結束を示す機会を逃したことになる。ショルツ首相は、マクロン大統領との関係を安定させ、EUの中国への取り組みを支援する必要がある。

欧州を越えて、ドイツは米国やインド太平洋地域の志を同じくするパートナーとともに、中国の悪質な行動に対抗するための協調的な戦略について、更に努力する必要がある。今のドイツは、西側諸国のパートナーの中では弱く見える。ある中国のアナリストは、ショルツ首相の中国訪問後、「ショルツ首相は、ドイツが“同盟(alliance)”という古い道を歩むつもりはないことを明確にしたのだから、中国を孤立させる訳にはいかないのだ」と主張した。ドイツのパートナーもまたやるべきことがある。たとえばアメリカは、中国の半導体産業を抑制する取り組みなど、中国との戦略的競争へのアプローチを鋭くすることで、主要な同盟諸国とより効果的な協議を行うことができるだろう。

自由主義諸国が、習近平の意思決定に真の意味で影響を与え、今後数年間に経済的・政治的な強靭さを構築することを望むなら、国家レヴェル、地域レヴェル、国際レヴェルの連帯(solidarity)が不可欠である。この連帯が信頼に足るものであるためには、戦略的な国内政策と、ベルリン、ヨーロッパ、そして世界各地での協調的な外交活動が必要である。

ファーガス・ハンター:オーストラリア戦略政策研究所アナリスト。ツイッターアカウント:@fergushunter

※ダリア・インピオンベイト:オーストラリア戦略政策研究所アナリスト。ツイッターアカウント:@DariImpio

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フランス・ドイツの協力関係に火がついている(The Franco-German Motor Is on Fire

-ウクライナ戦争はヨーロッパにおけるもっとも有力な国々をこれまでになく対立させている。

キャロライン・デグロイター筆

2022年11月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/21/europe-eu-franco-german-motor-fire/

1990年代のある日、イタリア人の欧州委員会職員リカルド・ペリッシェは、ブリュッセルのオフィスビルの廊下で、当時の欧州委員会委員マヌエル・マリンとばったり会った。スペイン人のマリンは、明らかに何かに怒っている様子でにペリッシェ言った。「リカルド、君は自分が何であるか分かっているか? リカルド、自分が何者か分かっているか?」。ペリッシェが困惑した表情を浮かべると、マリンは次のように続けた。「この場所で問題提起し決定することが許されるのはフランス人とドイツ人だけだ。イギリス人は時々それらが許される。他の人間は質問することしか許されない」。

ペリシッチは、最近、この逸話を持ち出し、EUにとって独仏関係がうまく機能することが重要であると述べた。現在、フランスとドイツの間には様々な摩擦がある。ドイツは、国民や産業界への国家による多額のエネルギー補助金、中国との一方的な取引継続、ウクライナへの不十分な資金・物資支援など、ヨーロッパの国らしくない行動が非難されている。10月には独仏合同議会が中止されたほどだ。しかし、ペリシッチは、EUでは常にフランスとドイツの間で問題が起きていると指摘する。そして、その解決は他の国の問題解決より優先されることが多い。

従って、現在の独仏の摩擦の大部分は当然のことである。しかし、両国の間には、解決するのがより困難な、より深刻な倦怠感(malaise)も存在する。

戦後のヨーロッパで独仏の摩擦が常態化していたのは、単純な理由からである。1950年代に欧州統合(European unification)が始まるまで、ドイツとフランスは大陸における権力をめぐって、1870年から1871年、1914年から1918年、1939年から1945年の3度にわたる大きな戦争を戦い、何百万人もの人々が命を落とし、ヨーロッパの大部分が破壊された。そのため、欧州統合は、ルクセンブルクやデンマークが関与する紛争ではなく、この強力な2国間の紛争を管理することに焦点を当てた。今日に至るまで、EUの使命の1つは、フランスとドイツが問題を平和的に解決し続けることを保証することだ。70年間、政治的・経済的な文化が異なり、何一つ意見が一致しない両国は、一発の銃声も発しなかった。現在のヨーロッパでは、弾薬ではなく、言葉を使って撃ち合う。

ペリシッチが書いているように、他のEU諸国から来た人たちは、頻繁に起こる独仏のいさかいを「希望と苛立ち、そして実際に参加できないことへの不満が混じり合って」見ているが、70年間、そうした状況でうまくいってきたのである。

現在の独仏問題のほとんどは現在の状況から説明することができる。世界は変化し、EUも変化を余儀なくされている。エネルギー政策、予算問題、安全保障など、ロシアのウクライナ戦争による諸問題について、パリやベルリンを中心に妥協点を見出すために、EUは目下多忙を極めている。ブリュッセルの官僚たちは、いつもながら助産婦のような存在で、ヨーロッパの提案の検討や欧州各国首脳の閣僚会議・首脳会議の準備に余念がない。メディアにとっては、匿名の外交官や政治家によるオフレコのブリーフィングで相手を非難したり、密室で行われる交渉の詳細をリークしたりと、多くのドラマがある。繰り返すと次のようになる。これは普通のことだ。おそらく、何らかの妥協が手の届くところにあることを示しているのだろう。

しかし、そこには、戦後のパリとベルリンの関係の根幹に関わる、より深い倦怠感もある。フランソワ・ミッテラン大統領の特別顧問で欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development)の初代総裁を務めたフランスの経済学者ジャック・アタリは最近、「長期的な戦略的利益の違い(difference of long-term strategic interests)」が生じていると指摘し、ヨーロッパが大きく前進することによってのみ対処できるとしている。しかし、独仏戦争の直接的な記憶が薄れつつある現在、両国の現在の指導者たちはこのことを十分に認識していないのではないかと危惧している。その結果は、「フランスとドイツの戦争が再び起こる可能性がある」ということだ。

現在のフランスとドイツの乖離は、EUの中核的な機能の1つである、ドイツが再びヨーロッパでこれほど支配的な存在になることを防ぐ機能にまで遡る。これまでのところ、これは大成功を収めている。欧州統合が始まって70年、ドイツ人はおそらく世界で最も優れた平和主義者になったと言えるだろう。ドイツ連邦軍(Bundeswehr)は資金不足で知られている。ドイツ人自身は、他のヨーロッパ人よりもドイツの力を恐れている、とよく言われる。だから、EUの「貿易を通しての変革(Wandel durch Handelchange through trade)」、貿易関係で政治的変化をもたらす戦略がドイツによく似合うのである。一方、経済的に遅れをとり、ドイツのユーロ保証に財政を依存しているフランスは、ヨーロッパの外交・安全保障・防衛政策の主導権を握っている。

このような独仏による役割分担は、両国だけでなく、EUにとっても長らく好都合であった。フランスとドイツは互いに補完し合い、それぞれが得意分野に集中することができた。ドイツは地政学(geopolitics)を考慮に入れずに貿易に集中でき、フランスは大陸で唯一の核保有国として本格的な軍隊を持ち、国連安全保障理事会の常任理事国として、フランスの債務や赤字をあまり指摘せずに、威勢のいい声を上げることができた。しかし、この関係がアンバランスになっていることは以前から明らかになっていた。ヨーロッパでは、ドイツは自らを小さく見せることが多いが、フランスはその逆を行う傾向がある。

ロシアのウクライナ侵攻以降、独仏間の離間がEUの政治に表面化し、双方に軋轢を生じさせている。戦争によって、ドイツは今、2つの大きな頭痛の種を抱えている。1つ目の頭痛の種としては、対露制裁と豊富なロシア産ガスの突然の遮断によって、ドイツの成長モデルが危機に瀕していることだ。EU加盟国の多くが依存するヨーロッパの中心的な経済主体が、久しぶりに輸出よりも輸入を多くすることになった。ドイツのオラフ・ショルツ首相が今月、批判を浴びた中国訪問を必死に擁護したのはこのためだ。

ドイツにとっての2つ目の頭痛の種は、ロシアの脅威からヨーロッパを守るのはフランスではなく、NATOであるという事実だ。ドイツは突然、ヨーロッパがフランスに依存できない安全保障・防衛政策を緊急に必要としていることを認識した。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ヨーロッパの「戦略的自立性(strategic autonomy)」について興味深い考えを示しているが、それが何を意味し、誰のリーダーシップの下で実現されるべきかについては曖昧なままだ。だからこそ、オラフ・ショルツ独首相は対米関係の改善を新たな優先課題としたのである。ワシントンの政策立案者たちを眠らせないのは、ウクライナでもヨーロッパでもなく中国であることを知りながら、大西洋の連帯を重視していることが、そのことを物語っている。このような状況下で、ベルリンでは、「隠れ蓑(cover)」を求めている。

フランスは鼻で笑われ馬鹿にされたと感じている。フランスのコラムニストであるリュック・ド・バロシュが「ウクライナに18台の戦車を送るのがやっとだった」と書いているように、フランスが軍事的限界を露呈したことにフランスは傷ついた。その結果、パリはベルリンに批判を浴びせている。マクロン大統領の数々のヨーロッパ構想に応じなかったベルリンが、何故独自路線を歩んでいるのか? 何故ショルツは1人で中国に行ったのか? 何故ベルリンは今年、フランスのラファールではなく、アメリカのF-35戦闘機を発注したのか? ドイツがフランスとの調整なしに突然一方的なイニシアチブを取るという事実は、パリとベルリンの間の微妙なバランスを崩す。ハーヴァード大学ビジネススクールのフィリップ・ル・コレは、『ル・モンド』紙に「ドイツの態度は、リスクが十分に立証されているにもかかわらず、自己中心的で短絡的であり、ヨーロッパの利益を考慮していない」と述べている。

過去にも地政学的な変化によって、独仏の間に深い乖離が生じたことがある。指導者たちは、ヨーロッパ統合に飛躍することでこれを解決した。例えば、1989年のベルリンの壁崩壊後、東ドイツと西ドイツが統一され、フランスは突如として桁外れの相手と対峙することになったことがそうだ。この時、フランスのフランソワ・ミッテランとドイツのヘルムート・コールという2人の指導者は、他の10カ国のEU加盟国に対して、ヨーロッパ・プロジェクトの大幅なリセットが必要であると説得した。その結果、欧州共通通貨ユーロの誕生につながった。

こうした歴史的経緯を踏まえ、今、再び大規模なリセットを主張する人々がヨーロッパから出ている。例えばアタリは、大陸の防衛を欧州化すること(Europeanizing)で、独仏の乖離に対処することを提案している。しかし、EUの規模は1989年当時よりはるかに大きくなっている。ショルツとマクロンが、新たな大規模な欧州プロジェクトの必要性に同意し、25人の同僚たちを納得させることができるかどうかは分からない。しかし、現在のヨーロッパにおいて、フランスとドイツの力は以前より相対的に低下しているかもしれないが、他の大陸の国々は、マヌエル・マリン委員がいた時代と同様に、両者の良好な関係を期待しなければならないほど支配的であるということは、紛れもなく事実である。

※キャロライン・デグロイター:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、オランダ紙『ハンデルスブラット』のヨーロッパ担当特派員・コラムニスト。現在はブリュッセル在住。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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