古村治彦です。
中国が主導する多国籍機関がうまく機能していない、という指摘がある。そもそも、中国が主導する多国籍機関は、上海協力機構(Shanghai Cooperation Organization、SCO)やブリックス(BRICS)といったところは知られているが、その他は、あまり知られていない。しかし、これらの枠組み以外にも、「ユーラシア地域の問題について話し合う機関(talk shop)であるアジア交流信頼醸成対策会議(Conference on
Interaction and Confidence Building Measures in Asia、CICA)がそうした組織である。過去3年間で、この中国中心の国際組織壮絶プロジェクトのアルファベットのスープ(訳者註:頭字語や略語)に、更に多くのイニシアティヴが追加されてきた。世界安全保障イニシアティヴ(Global Security Initiative、GSI)、グローバル文明イニシアティヴ (Global Civilization Initiative、GCI)、およびグローバル開発イニシアティヴ (Global Development Initiative、GDI) 」といった枠組みが存在する。しかし、これらの諸機関がうまく機能していないというのが下記論稿の趣旨である。
下記論稿では、以下のような主張がなされている。中国が提案する多国間主義構想に多くの国々が注目しているが、中国中心の組織やイニシアティヴは成果を上げていない。アメリカ主導のシステムの崩壊に伴い、中国の提案には賛同する声が広がっているが、実際には中国の行動に疑問符がつくこともある。中国は一帯一路構想を通じて世界経済に影響を与えているが、その取り組みには批判も多い。ブリックスや中国の新たな金融秩序構築に期待する声もあるが、実際には、西側手動の枠組みの方が現在ではまだ、信頼性が高い。中国が新たな秩序を築くには、ソフトパワーや文化面での魅力を高める必要があり、その過程で外交的課題や経済問題に直面する可能性がある。
中国が多国籍機関を主導するようになっての歴史はまだ浅い。大国として台頭してきたのは21世紀に入ってからだ。中国は大国として、まだ経験が浅い。そうした中で、中国主導の多国籍機関が、歴史と経験を持つ西側諸国の枠組みよりも信頼を勝ち得ていないのは仕方がない。しかし、これから、中国が更に台頭し、米中二国による世界支配・管理体制が構築されていく中で、中国自身の経験が蓄積され、中国が主導する枠組みも洗練されていくだろう。
(貼り付けはじめ)
中国は発展途上世界を騙している(China Is Gaslighting the
Developing World)
-北京の平等に関する約束は、覇権のための偽装である。
ロバート・A・マニング筆
2024年4月5日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/04/05/china-developing-world-bri-global-development-initiative-hegemony/?tpcc=recirc062921
昨年12月の習近平国家主席のヴェトナム訪問中に、ハノイが中国の提案する「運命共同体(community
of shared destiny)」に対しての支持を表明したとき、中国政府はこれを歓迎した。中国は独自に設計するポスト・アメリカの世界秩序(post-American world order of its own design)を望んでおり、習近平国家主席のヴィジョンは野心的であると同時に曖昧ではあるが、中国政府は主に、現在不安定になっている、1兆ドル規模の融資を含む公共財という名目でそのプロジェクトを構築している。
習近平が政権を掌握して以来、時にはまだ初期段階にあるとはいえ、既存の中国中心の組織を構築してきた。上海協力機構(Shanghai Cooperation Organization、SCO)、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、そして現在他の4カ国で構成されているBRICSグループ。そして、ユーラシア地域の問題について話し合う機関(talk shop)であるアジア交流信頼醸成対策会議(Conference on Interaction and Confidence Building Measures in Asia、CICA)がそうした組織である。過去3年間で、この中国中心の国際組織壮絶プロジェクトのアルファベットのスープ(訳者註:頭字語や略語)に、更に多くのイニシアティヴが追加されてきた。世界安全保障イニシアティヴ(Global Security Initiative、GSI)、グローバル文明イニシアティヴ (Global Civilization Initiative、GCI)、およびグローバル開発イニシアティヴ (Global Development Initiative、GDI) がそれに当たる。
しかし、これらのプログラムの多くは、グローバルサウス(global south)にとって魅力的かもしれないが、これらの国々が本当にポスト・アメリカの未来、ましてや北京主導の未来を望んでいるのかどうかは不明である。中国の多国間主義構想(China’s vision of multilateralism)は自らの覇権的野望をカモフラージュするものであり、心からの目標ではない。
現在のアメリカ主導のシステムは崩壊しつつある。購買力平価(purchasing
power parity)に基づくG7のGDPは世界のGDPの約30%に低下し、BRICSよりわずかに小さく、気候変動から貧困削減に至るまで多くの公約は果たせなかった。そのため、各国は「民主的多国間主義(democratic multilateralism)」、つまり、アメリカ主導の秩序へのアンチテーゼに基づく協力の感覚を育むと主張する中国の提案を受け入れやすくなっている。軍事同盟は冷戦の遺物として否定され、人権は経済中心で、政治的権利、少数民族の権利、独立した司法、言論の自由は結果として制限されている。北京は、非西洋的な発展の道(non-Western path to development)を提供すると主張し、代替案として中国の国家主導モデル(China’s state-driven model)を示唆している。偶然の一致ではないが、中国がアメリカの統治から離れようとしていることは、北京の構想が描く想像上の偽ユートピア(faux utopia)にはない。
しかし、これまでのところ、これらは全て願望的なものだ。上海協力機構(SCO)、BRICS、アジア交流信頼醸成対策会議(CICA)は、話し合いの場ではあるが、決定の場ではない(talking shops)という役割を果たしているが、大きな成果は出ていない。カザフスタンで危機が起きたとき、介入したのは、上海協力機構ではなくロシアだった。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領がウクライナに侵攻したとき、中国政府は主権(sovereignty)と不干渉(noninterference)という自国の核心原則に対する違反を無視した。
習近平の行き過ぎにも関わらず、中国政府の指導力とグローバルサウスにおける多大な連携とヘッジには需要と供給の両方が不足している。習近平は、2014年のCICA会議で行ったように、「アジア人のためのアジア(Asia for Asians)」演説をするかもしれないが、その反応を決定づけたのは、南シナ海における中国の侵略と、韓国のTHAADのようなプロジェクトをめぐる近隣諸国へのいじめだった。アメリカの同盟関係は強化されており、これに対応してアジア内の協力も深まっている。
経済が低迷し、中国という債権者に対する発展途上諸国の債務が増大する(そして一帯一路の融資と投資が減少する)にもかかわらず、北京は依然として巨大な世界経済の足跡を残している。しかし、多極同盟のグローバルサウスに対する習近平の訴えは薄れるのだろうか?
一帯一路構想(Belt and Road Initiative、BRI)については、ジンバブエやスリランカといった債務者に、主権の尊重についてはフィリピンの海事当局者に、世界最大の温室効果ガス排出国については気候活動家に聞いてみて欲しい。ピュー・リサーチ・センターによる2023年の世論調査によると、調査対象となった24カ国のうち、中央値の3分の2がブラジル、インド、韓国を含む中国に対して否定的な見方をしていた。2017年のピュー世論調査では、インドネシア、フィリピン、ヴェトナムでは中国の台頭が脅威と見なしていることが多かった。
しかし、中国政府は、世界安全保障イニシアティヴ(GSI)が、100カ国以上から「支持と評価(support and appreciation)」を得ていると述べている。世界安全保障イニシアティヴは、「全ての国の主権と領土一体性の尊重(respecting the sovereignty and territorial integrity of all
countries)」、「共通、包括的、協力的かつ持続可能な安全保障(common,
comprehensive, cooperative and sustainable security)」、「国連憲章の目的と原則(the purposes and principles of the U.N. Charter)」、そして「対話と助言を通じた国家間の相違と紛争の解決(resolving differences and disputes between countries through
dialogue and consultation)」に対する関与を進めている。
世界安全保障イニシアティヴ(GSI)は、中印協定締結後の1954年に周恩来が導入して以来、中国の公式外交政策の柱となっている平和共存5原則の再利用版である。
それでは、表面的に、何が良くないこととなるだろうか? グローバルサウスの多くの人々にとって、習近平国家主席の取り組みを支持することには、具体的な費用や約束は伴わないが、それらを拒否すれば中国を怒らせるリスクがある。しかし、現実の世界では、他の国よりもより平等に扱われる国もある。その例外がパキスタンであり、中国政府はパキスタンに対して、安全保障を提供していない。また、中国の取り組みのほとんどが、アメリカのパワーの正当性を拒絶し、その地位を奪うことを目的としているという内実もまったく感じられない。ワシントンの庇護下にある国々は、アメリカのパワーについて、不満を言いたくなるかもしれないが、必ずしも、アメリカのパワーが消滅することを望んでいる訳ではない。
理論的には、不侵略(nonaggression)、不干渉(noninterference)、主権の尊重(respect for
sovereignty)、紛争の平和的解決(peaceful resolution of disputes)は、小国が大国からいじめられたり、強要されたりしないという希望を与える。実際には状況は異なる。中国の経済力と軍事力が増大するにつれ、それは中国の特徴をもった不干渉(noninterference with Chinese characteristics)へと変化してきた。ウクライナの主権に対する大規模な侵害であるロシアの戦争に対する中国の沈黙、現在はトーンダウンした「戦狼」外交(“wolf warrior” diplomacy)、そしてオーストラリア、リトアニア、フィリピン、台湾などが、中国を少しでも批判すると輸出品の多くが突然歓迎されなくなるような経済的強制を見れば分かるだろう。
中国政府は、リスクの低い調停の役割(low-risk mediation roles)を果たしている。しかし、主要な世界問題に関しては、中国のしばしば活動的な外交は、人を欺くごまかし(smoke and mirrors)であり、問題解決ではない。2023年2月、中国は、ウクライナに対する12項目の和平案を発表したが、本格的な外交フォローアップもなく、白紙となった。中東特使の翟隽は、10月下旬に中東地域各国を歴訪し、翌月には中国が北京でアラブ・イスラム指導者たちの会合を主催し、イスラエル・ハマス戦争の終結を訴えた。繰り返しになるが、こうした試みの効果はない。
習近平の外交は、現実的な問題解決よりも、グローバルサウスに対するパフォーマンス的な要素が強いように思われる。よく引き合いに出される、2023年のサウジアラビアとイランの脆弱な緊張緩和(détente)を中国が促進したことはその例外である。北京での式典は、湾岸諸国との経済関係の結びつきを強める中国の影響力の高まりを反映したものだった(そしてサウジアラビアは、ジョー・バイデン米大統領に対する影響力を高めようとしていた)。
もう1つの習近平派プロジェクトである、グローバル文明イニシアティヴ (GCI)は、「文明の多様性(diversity of civilizations)」の尊重を反映した対話を呼びかけており、言論の自由、表現の自由、民主政治体制といった普遍的価値観に関する、アメリカの概念の正当性を拒絶することを目的としているようだ。理解を深めるために対話をする。繰り返しになるが、グローバルサウスの国々がこれに同意することにはリスクはないが、ほとんど意味はない。
3番目の計画であるグローバル開発イニシアティヴ GDI)は、中国政府の取り組みの中で最も深刻であり、おそらく最も正当なものである。概念的には、これは本質的に、貧困緩和、食糧安全保障、グリーン開発、気候変動対策などの国連の持続可能な開発のための「2030アジェンダ」を再パッケージ化したものである。一帯一路構想は、中国が産業の過剰生産能力を輸出する傾向を制度化した。150カ国が参加する中国の大規模な一帯一路インフラ・プロジェクト(グローバルサウスでは少なくとも90のプロジェクト)と、ある程度の独自の開発経験を考慮すると、中国にはある程度の信用がある。2022年以来、中国政府はグローバル開発イニシアティヴ目標を追求する「南・南協力(South-South cooperation)」に関する一連の会議を開催している。
しかし、中国の金融危機と発展途上国の債務が増大するにつれて(中国は発展途上国の債務総額の約37%を保有している)、一帯一路の融資は90%以上減少し、規模を縮小した一帯一路は、IT接続とグリーンテクノロジーに重点を置いている。しかし、現在の一帯一路融資の58%は中国の債務者に対する救済融資の形となっている。世界最大の二国間債権者であるにもかかわらず、中国は発展途上国の債務再編に関して、G7を中心とするパリクラブ(Paris Club、Club de Paris)に参加しておらず、G20共通枠組みに関与しているにもかかわらず、協力することはたまにしかない。むしろ、中国政府は債務者に対して二国間的に行動し、他の債権者の債務救済の取り組みをしばしば妨害してきた。それにもかかわらず、債務危機を軽減するためにIMFや世界銀行のリソースを改革して拡大したり、グローバルサウスに同等のインフラを提供したりしていないアメリカとG7にとっての問題は、何も持たずに何かを打ち負かすことはできないということだ。
一帯一路と、米ドルに象徴されるアメリカ・G7の優位性に対する憤りが、BRICSの推進力となっている。他の全ての加盟国を合わせたよりも経済規模が大きい中国は、拡大するBRICSを中国中心のネットワークとして、ブレトンウッズ体制とは言わないまでも競争相手として構想している。多くの加盟国は、G7に対抗する新たな多極性を実証するためのプラットフォームとして捉えているが、驚くほど異なる議題を持っている。例えば、インドとブラジルには、グローバルサウスの代弁者になるという独自の野望があり、それは習国家主席が初めて欠席した昨年のニューデリーでのG20会議で明らかだった。ニューデリーは中国政府を支援することにほぼ関心を持っていない。
新たな金融秩序と脱ドル化(de-dollarization)に対する期待に関して言えば、BRICS新開発銀行(BRICS New Development Bank)は取るに足らない存在である(small beer)。脱ドル化の目標にもかかわらず、330億ドルのプロジェクト融資の約3分の2は、米ドルで行われている。同グループの新規メンバーの一部(エジプト、エチオピア)は債務不履行(debt defaults)の有力候補となっている。人民元や他の現地通貨との通貨スワップ(currency swap)は、新たな世界金融危機の際にある程度の断熱効果をもたらす可能性があるが、中国が通貨管理を維持する限り、ドルに取って代わることは遠い夢にとどまるだろう。
まとめると、BRICS の人気は、アメリカ・G7の内向性と経済ナショナリズム(inwardness and economic
nationalism)は、に正比例して高まっている。BRICSの人気は、グローバルサウスから西側諸国に対しての、代替案というよりは、頭痛の種として見られている。発展途上国の多くは、BRICSが低コストで、ある程度の利益をもたらす可能性があり、加えて、アメリカに対して、もっと自分たちに注意を払うよう信号を送る梃子(てこ)としても同様に重要であると考えている。
第二次世界大戦後に、アメリカが設計したブレトンウッズ経済・政治システムは、アメリカの安全保障の傘と比較的開かれた市場へのアクセスによって促進され、当初は主にヨーロッパと日本に限定されていたものの、前例のない成長と安定を促進する秘密のソースとなった。しかしソ連崩壊後、その恩恵は世界中に広がり、ブラジル、中国、インドなどで数億人が貧困から救い出され、世界規模の中流階級(global middle class)が育成された。
アメリカが主導する自由主義秩序は、アメリカの世界的優位性を強化したが、全ての参加者(他ならぬ中国)に利益をもたらし、合意に基づくものであり、アメリカの力を正当化するのに役立った。しかし、2008年の金融危機と現在高まっている、アメリカの経済ナショナリズム、そしてイラク戦争からガザ危機に至る出来事により、西側諸国とグローバルサウスの信頼性の格差(credibility gap)は拡大し、その正統性の感覚は失われつつある。
中国は、安全保障や核の傘(nuclear umbrella)をほとんど提供しておらず、外交的な問題解決にはあまり役立たない。中国政府による公共財の提供は、アメリカの戦略を参考にしている。しかし、発展途上諸国の中国に対する負債、貿易ルールの欠如、経済的強制、あまり開かれていない市場などの理由から、経済的な代替案は実行可能ではない。これまでのところ、中国政府が着手しつつある取り組みは、中国中心の秩序における平和と繁栄を約束する体制には至っていない。
更に言えば、中国は偽善(hypocrisy)においてアメリカに匹敵し始めている。このことは、世界貿易機関(WTO)の制度を利用したゲームから、経済的強制や保護主義、そして疑わしく信用できない主権主張に基づくヒマラヤ山脈から東シナ海や南シナ海に至るまでの軍事的主張に至るまで、その公言する原則、姿勢、そして実際の行動との間のギャップに明らかになりつつある。
新秩序の構築に関して言えば、中国には、第二次世界大戦以来、アメリカの支配力を支えたようなソフトパワーや文化、開放性、機会といった魅力がない。米中間に緊張があるにもかかわらず、毎年約30万人の中国人学生がアメリカに留学しているが、中国に残っているアメリカ人学生はわずか350人に過ぎない。他のアジア諸国とは異なり、中国にはボリウッド、K-POP、韓国映画、ポケモンや近藤麻理恵のような日本のポップカルチャーに相当するものはまだ存在しない。検閲が強化され続けている文化は、世界に広がる可能性が存在しないことを意味する。
中国は、せいぜい、未熟な大国であるように見え、その願望は、その把握力や魅力をはるかに超えている。中国政府が目指す、ポスト・アメリカ秩序(post-U.S. order)は正統性の欠如に直面している。世界がIMFの呼ぶところの「地経学的分断(geoeconomic fragmentation)」に耐えている中、米中競争でどちらの国がどのようにして「勝つ(wins)」のかは明らかではない。
※ロバート・A・マニング:スティムソンセンター・リイマジニング大戦略プログラム名誉上級研究員。ツイッターアカウント:@Rmanning4
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