古村治彦です。
イラン戦争はアメリカとイスラエルの失敗(敗北)という評価で定まっている。そのために犠牲になった人々のことを思うとやりきれない気持ちになり、ご冥福をお祈りすることしかできない。人間はなんと愚かであろうかということを認識するとともに、ドナルド・トランプとベンヤミン・ネタニヤフの誤った判断に関しては、政治指導者としてそれ相応の責任を負わせることが必要だ。
今回のイラン戦争に関して中国は表舞台で目立った活動はしていない。米中首脳会談やイランのアッバース・アラグチ外相の訪中があり、そこでイラン戦争について議論されたことはあるだろうし、アメリカとイランによる和平交渉実現には、パキスタンが仲介国として大きな役割を果たしたが、同時に裏方として中国がサポートをしたことは知られている。
また、アメリカがイラン戦争で失敗することで、相対的に中国が成功を収めることになっている。それは、中東地域におけるアメリカの存在感と影響力が低下しており、イラン戦争がそれに拍車をかけることになっているからだ。中東地域はイランを除いて、親米の国々ばかりであり、石油取引は米ドルのみで行うというペトロダラー体制によってウィンウィン関係になっていた。しかし、世界経済で少しずつであるが「脱ドル化(dedollarization)」の動きが始まっている。サウジアラビアは中国向けの石油取引で人民元での取引を行うようになっているのはその一例だ。
下記論考にある通り、中国は「棚ぼた(windfall)」で相対的な成功を収めている。そして、イラン戦争は、国際政治の構造に大きな影響を与える。それは、アメリカへの信頼性の低下によって、アメリカの世界支配の終焉を早めるということになる。アメリカとイスラエルが大規模攻撃を行ったことで始まったイラン戦争であり、和平となるためには、アメリカとイスラエルがイランの提示する条件を受け入れることが基本となる。もちろん核開発に関しては国際的に受け入れがたいものはあるが、賠償やホルムズ海峡の管理については、イランの条件を受け入れるべきということになる。アメリカはイランに対して、再度の大規模攻撃がしにくい状況であり、イラン側としてはある程度交渉を引き延ばして、アメリカの苦境を長引かせることも可能となる。そうなると、アメリカへの信頼性も揺らぎ、同盟関係が変化していくことになる。そうなれば、相対的に中国の存在感と信頼性が高まることになる。
私はトランプ大統領を「アメリカの世界支配を終わらせる墓掘り人」と表現したことがある。しかし、それは、アメリカの内向き志向をさらに強めるという意味であった。まさか、海外への介入で大きな失敗をして、アメリカの衰退を加速させる役割を果たすとは思っていなかった。しかし、現実にはトランプはそのような役割を果たしている。「敵に塩を送る」どころではない、利敵行為ということになる。
(貼り付けはじめ)
イラン戦争は中国への「贈り物」だ(The Iran War Is a Gift to
China)
-一発の銃弾も撃つことなく、中国は湾岸地域における行動の自由を拡大し、自国産業の促進と新たな信頼を手に入れた。
ファリード・ザカリア筆
2026年7月17日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/07/17/iran-war-china-benefit-united-states-energy-economics-geopolitics-trump-xi/
北京のショッピングモールの屋外大型スクリーンに映し出された世界人工知能大会の開会式で演説する中国の習近平国家主席(7月17日)
イランとの戦闘が激化と沈静化(blows un and cools down)を繰り返す中、1つの傾向が明らかになっている。それは、この紛争から最大の利益を得ているのが中国ということだ。
中国は一発の銃弾を撃つ必要もなく、巨額の資金を投じる必要もなく、政治的資本を費やす必要なかった。しかし、過去30年間でどの危機よりも多くのものをこの事態から得ている。この紛争は、中国が長年掲げてきた3つの目標の実現を加速させた。すなわち、アメリカへの依存度が低い中東地域の実現、中国の重要技術への依存度が高い世界、そして真剣かつ安定した世界大国としての中国の評価の確立(a Middle East less dependent on America; a world more dependent on
critical Chinese technology; and a reputation for Beijing as a serious and
steady world power)だ。
中国政府は、中東地域における軍事的な安全保障の保証者としてアメリカに取って代わろうとはしていない。そうした役割には多大なコストを伴う関与が必要だからだ。中国の狙いはもっと単純かつ巧妙なものだ。それは、ペルシア湾岸諸国をアメリカの影響圏からある程度引き離すことにある。そして、ドナルド・トランプ大統領が、中国の習近平国家主席のためにその役割の多くを担ってくれている。
アメリカのペルシア湾岸の同盟諸国は、アメリカが混乱したやり方でこの戦争を遂行し、現地の都市やインフラ、経済に及ぶ被害をほとんど顧みない様子を目の当たりにしてきた。現在、ペルシア湾岸地域は2つの陣営に分かれつつある。アラブ首長国連邦(UAE)はイスラエルやアメリカとの関係を深めている。しかし、サウジアラビアを筆頭に、カタール、オマーン、さらにはイラクやトルコを含むより大きなグループは、バランスを取ることで長期的な安全を確保しようとするだろう。つまり、アメリカとの関係を維持しつつ、イランとの対話や中国との関係改善も図るということである。
これこそが、北京が志向してきた地域秩序そのものだ。2023年、中国はサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介した。それ以来、サウジアラビアはアメリカ主導のデータセンターや半導体関連のプロジェクトへの参加を見送ってきた。サウジアラビアは中国製のミサイルやドローンを購入し、中国海軍との合同演習を実施したほか、戦闘ドローン「翼竜(Wing Loong)」の現地生産についても検討を進めている。2016年から2025年にかけて、中国から中東地域への防衛関連輸出の80%以上をペルシア湾岸諸国が占めた。アメリカの安全保障の枠組みに取って代わろうとする国は存在しないが、各国は選択肢を求めており、選択肢が増えることはアメリカの影響力を低下させることになる。
中国にとってより大きな成果と言えるのは地形学分野での勝利だ。一見すると、石油の約7割を輸入に頼る中国は、この戦争による最大の敗者の1人になるはずだった。しかし、長年にわたる備えのおかげで、中国はこの衝撃を他国の多くよりも巧みに乗り切った。中国は供給源を多角化し、世界最大級と推定される石油備蓄を構築し、石炭の利用を継続し、原子力発電を拡大するとともに、他の主要国が追随できない規模で経済分野における電化を進めてきた。
現在、中国のエネルギー消費に占める電力の割合は約30%に達しており、これはアメリカやヨーロッパを4割近く上回る水準だ。2024年には、世界で新たに導入された風力および太陽光発電設備の半分以上を中国が占めるまでになった。こうした要因が重なり、中国は戦時中、石油の輸入量を日量約400万バレル削減することができた。
イラン戦争は、中国の重要技術にとって巨大な宣伝の場となっている。世界各国の政府が、太陽光発電、蓄電池、風力タービン、電気自動車(EV)、送電網の整備を進めようとしている。中国は世界の太陽光パネル製造能力の約91%、リチウムイオン電池製造能力の約89%を掌握している。ブルームバーグが追跡調査しているクリーンエネルギー関連技術のほぼ全てにおいて、中国企業が少なくとも70%の製造を担っている。エネルギー供給への不安が長引くほど、世界は中国が支配的な地位にある産業への依存を強めることになるだろう。
また、この戦争は中国の重要な目標である「世界貿易における米ドルの支配力の弱体化(weakening
the dollar’s hold over global commerce)」を後押ししている。報道によれば、イランはホルムズ海峡を通過する一部のタンカーに対し、取引を中国の人民元[renminbi](または暗号通貨[cryptocurrency])で決済することを条件に許可を与えた。中国とそのパートナー国は、アメリカの制裁によるリスクを低減するため、人民元建ての貿易を事実上拡大させている。移行は緩やかなものとなるだろうが、米ドル支配からの脱却という傾向は今や明白となっている。
最後に、評判の面での「棚ぼた(windfall)」とも言える利益がある。ドナルド・トランプ政権は、体制転換(regime change)、イランの核開発計画の破棄、弾道ミサイル能力および地域内の代理勢力への支援の終了といった壮大な目標を掲げてこの戦争に臨んだ。しかし、そのいずれも恒久的な成果としては達成できていない。それどころか今や、事態が始まる前から開かれていたホルムズ海峡を単に開放することさえも希望するような状況になっている。
トランプ大統領はこの対立を選び取った結果、数百億ドルを費やし、アメリカの弾薬を浪費し、アジアから軍事資産を転用し、同盟諸国を動揺させた。そして、アメリカの圧倒的な力をもってしても、誤った戦略と一貫性のない戦術では悪い結果しか生まないことを露呈させた。
一方、中国の動きは極めて限定的だ。イラン産原油の購入を続け、湾岸諸国との関係を維持しながら、イランの防衛や湾岸地域の警備に伴うコストは回避した。これこそ北京が志向するアプローチであり、劇的な対立を避け、着実に影響力を蓄積していく方法だ。
過去25年間、アメリカが中東地域での3つの大規模な軍事介入で疲弊する一方で、中国は製造業の力、技術力、そして外交関係を蓄積してきた。ワシントンが行動するのに対し、北京は機会を待つという姿勢を取った。もちろん、中国もエネルギー価格の高騰、サプライチェインの混乱、世界的な需要の減退といった形で、この対立による代償を支払っている。
しかし、力とは常に相対的なものだ。アメリカの目標、同盟関係、そして信頼性が受けた損害と比較すれば、中国は優位に立ったと言えるだろう。
※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』








