古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ベンヤミン・ネタニヤフ

 古村治彦です。

 2026年はアメリカ建国250年の節目の年である。中間選挙がじっしされる年でもある。現在、ドナルド・トランプ大統領の人気は低迷し、連邦下院で共和党は過半数を失う可能性が高い。連邦上院は共和党が過半数を維持する可能性が高い。下院で民主党が過半数を握れば議長を出すことになり、トランプ肝いりの法案の可決も困難になる。第二次トランプ政権の後半2年の政権運営も厳しくなる。

 トランプ政権が支持率を上昇させるには、物価対策と外交政策の成功が重要になる。海外からの輸入製品の価格引き下げが物価対策の1つの方法である。そのためには、究極的には戦争を終わらせる必要がある。地政学リスクと言うが、地政学リスクを下げることが重要だ。ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争を収拾することが重要であるが、ウクライナ戦争は2026年2月24日に4年が経過することになるが、停戦の見通しは立っていない。イスラエルのガザ地区の状況も戦闘は起きていないが、イスラエルはガザ地区への圧力を強めている。また、イランに対して更なる攻撃を加える姿勢を捨てていない。中東地域も不安定なままである。

 昨年、トランプ政権は「国家安全保障戦略」を発表した。このことについてはこのブログでも複数回紹介した。重要なのは、ラテンアメリカと中東、東アジアである。トランプ政権は、ヴェネズエラ近海にアメリカ海軍の艦艇を派遣し、船舶に対して攻撃を行い、ニコラス・マドゥロ大統領に圧力をかけている。麻薬対策を大義名分にしているが、それならば、コロンビアやメキシコを標的にした方が合理的だ。アメリカ政府はマルコ・ルビオ国務長官を中心にして、ラテンアメリカにおけるアメリカの勢力確保を狙い、反米勢力の一掃、中国とロシアの影響力排除を行おうとするグループがいる。ヴェネズエラはそのための標的である。問題は、どこまで介入するかということだ。地上軍派遣の可能性も浮上しているが、この段階まで進むと、アメリカは泥沼にはまり込む可能性がある。マドゥロ政権を倒しても、マドゥロ支持派がゲリラ戦を展開する可能性がある。ラテンアメリカ各国の「ボリバル主義」「反ヤンキー帝国主義」感情が高揚することになる。それでも地上部隊まで派遣して、マドゥロ政権を打倒して親米政権を樹立するというところまで進めば、トランプは自身が戦争を止める大統領だという自画自賛を放棄することになる。国内の不満を海外での武力行使で目を逸らさせるという意図があるとすれば、アメリカ国内の不満は相当大きくなっているという見方もできるだろう。また、トランプ政権内の対外強硬派の勢いが強くなっているのだろう。※2025年1月2日にトランプ大統領はアメリカ軍に対してヴェネズエラへの攻撃を命令し、マドゥロ大統領夫妻を拘束し、国外に連れ出したと発表した。このような暴挙は予想できなかった。トランプ主義、アメリカ・ファーストの終焉である。BRICSを中心とする「西側以外の国々」は反アメリカの姿勢を強めるだろう。トランプも馬鹿なことをしたものだ。ドル離れと金(きん)への資金の移動が続くことになる。

 中東地域に関して言えば、イランへの攻撃があるかどうかである。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はイランへの攻撃を行いたいという願望を持っている。中東地域の不安定な状況はネタニヤフの個人的な利益に適う。状況が平常に戻れば、個人的な汚職の問題で裁判にかけられることになる。ハマスとの紛争が停戦したことで、平常に戻る可能性が大きくなるが、状況の不安定化を継続させるために、ガザ地区に対して人道的に許しがたい圧力をかけ、ハマスの暴発を狙うか、ハマスを支援するイランへの攻撃を行うかである。アメリカのトランプ大統領は昨年実行したイランへの空爆について、イランが核開発を、場所を変えて継続している可能性があると発言している。イランへの攻撃は実行される可能性はあるが、大規模な攻撃とはならないだろう。イランとイスラエルの全面戦争に発展することは避けたい。イラン側としてもアメリカの衰退が継続していけばイスラエルも衰退していくということになるので、中国やロシアと連携しながら、状況を悪化させないということになる。

 東アジアにおける最大の不安定要因は高市早苗首相と日本である。日本は成長のない30年を経て、残念なことだが衰退が決定づけられている。経済や社会において人々の不満が高まっていく。人々の不満を外に向けることは常套手段である。そうした状況下で、「日本初の女性首相」という大義名分で、極右派・隷米派の高市早苗議員が首相に就任した。そして、早速に台湾有事の発言で、日中関係と東アジアに緊張をもたらした。高市政権の後ろ盾はアメリカ国防総省のナンバー3であるエルブリッジ・コルビー国防次官だ。コルビー次官については、これまでの著作で取り上げているので、そちらを参照していただきたい。トランプ大統領は中国との対立を望んでいないが、トランプ政権に入った、対中強硬派が中国との対立を望んでいる。厄介なことに、アメリカが直接対峙するのではなく、日本を利用して、日本をぶつけようという姑息な手段を用いてである。2026年は高市政権を退陣させ、日本が中国との衝突を起こさないようにすることが重要である。
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 2026年も世界を不安定にしようという動きがある。私たちはそのことに気づき、そして、阻止するために学び続ける必要がある。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ大統領の新たな国家安全保障戦略:5つの重要なポイント(Trump’s new national security strategy: 5 key takeaways

ラウラ・ケリー筆

2025年12月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/5635890-trump-national-security-strategy/

ドナルド・トランプ大統領は木曜日の夜遅く、「国家安全保障戦略(national security strategy)」を発表した。西半球(Western Hemisphere)におけるより大きな軍事プレゼンス(a larger military presence)、世界貿易の均衡(balancing global trade,)、国境警備の強化(tightening up border security)、そしてヨーロッパとの文化戦争への勝利(winning the culture war with Europe)に重点が置かれている。

この包括的な戦略は通常、新政権発足1年以内に発表され、大統領の外交政策の重点を説明し、予算の配分に関する指針を示している。

33ページに及ぶこの文書は、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト(America First)」のイデオロギーを基盤としているが、同時に、トランプ大統領がモンロー主義を踏襲し、西半球におけるアメリカの優位性(U.S. dominance)を主張していることを初めて明確に示している。

「長年の無視の後、アメリカはモンロー主義を再び主張し、実行することで、西半球におけるアメリカの優位性を回復し、アメリカ本土と地域全体の主要地域へのアクセスを守る」と「国家安全保障戦略」は述べている。

この文書は、アメリカの世界からの撤退を明確には示していないが、同盟国間の負担分担の増大(increasing burden sharing among allies)、アメリカの経済的利益と重要なサプライチェインへのアクセスの向上(elevating American economic interests and access to critical supply chains)、アメリカのエネルギー生産の「解放」(“unleashing” American energy production)を求めている。

トランプ大統領の「国家安全保障戦略(NSS)」の5つのポイントを以下に挙げる。

(1)カリブ海におけるトランプ大統領の戦争は激化する見込み(Trump’s war in the Caribbean likely to heat up

カリブ海で麻薬密輸の疑いのある船舶に対するトランプ大統領の2カ月以上にわたる軍事作戦は、「国家安全保障戦略」がアメリカに対し、世界的な軍事プレゼンスを南北アメリカ大陸に再調整し、「ここ数十年、あるいは数年間でアメリカの国家安全保障にとって相対的に重要性が低下した地域」から撤退するよう求めていることから、より大きな支持を得る可能性が高いだろう。

トランプ大統領は、カリブ海におけるアメリカ軍の軍事作戦を麻薬カルテルとの「武力紛争(armed conflict)」と位置づけ、麻薬密売の罪でアメリカで起訴されているヴェネズエラの実力者ニコラス・マドゥロ大統領を主要な脅威として挙げ、アメリカは間もなく「地上作戦(land operations)」を開始する可能性があると述べた。

ヴェネズエラは具体的には名指しされていないものの、「国家安全保障戦略」は、アメリカ国境の安全確保と「カルテルの打倒(defeat cartels)」、そして「戦略的に重要な地域へのアクセスの確立または拡大(establishing or expanding access in strategically important locations)」のために「標的を絞った展開(targeted deployments)」を求めている。

この戦略はまた、トランプ大統領が関税を用いて地域を支配する手法にも焦点を当てている。しかし、トランプ大統領がそのような権力を有しているかどうかは、最高裁判所で係争中の訴訟の焦点となっている。

「アメリカは、関税と相互貿易協定を強力なツールとして活用し、アメリカの経済と産業を強化するため、商業外交(commercial diplomacy)を優先する」と文書は述べている。

この文書はラテンアメリカにおける中国の進出を明確に指摘していないものの、NSSは、米国は金融とテクノロジーにおける影響力を駆使して地域諸国を敵対勢力から引き離し、「スパイ活動、サイバーセキュリティ、債務の罠、その他の方法」でこれらの諸国への依存の脅威を強調すべきだと述べている。

And while the document does not explicitly call out China’s inroads in Latin America, the NSS says the U.S. should use its leverage in finance and technology to pull regional countries away from adversaries and underscore threats of reliance on those countries “in espionage, cybersecurity, debt-traps, and other ways.”

(2)トランプ大統領がロシアへの対応に失敗したとしてヨーロッパを批判(Trump criticizes Europe as failing to deal with Russia

「国家安全保障戦略」は、ロシアとの関係悪化の一因となったヨーロッパの「自信の欠如(lack of self-confidence)」を批判しているが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領による2014年と2022年のウクライナ侵攻の決定や、破壊工作、選挙介入、そして大陸における不安定化煽動といった活動については言及していない。

「国家安全保障戦略」は、「ユーラシア大陸全体にわたる戦略的安定の条件を再構築し、ロシアとヨーロッパ諸国間の紛争リスクを軽減する」ためにヨーロッパとロシアの間の仲介を行うことができる唯一の勢力がアメリカであると述べている。

この文書はさらに、アメリカは「ヨーロッパの偉大さを促進する」必要があると明言しており、これはヴァンス副大統領が2月にドイツで行った演説を彷彿とさせる。

ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員パウエル・ゼルカは分析の中で、「ワシントンはもはや、ヨーロッパの内政に干渉しないふりをしていない」と述べている。

「現在では、こうした干渉を『ヨーロッパがヨーロッパであり続けることを望む』という善意の行為であり、アメリカの戦略的必要性に基づくものと位置付けている。最優先事項は何か? 『ヨーロッパ諸国において、ヨーロッパの現在の方向性に対する抵抗を育むこと』である」。

(3)台湾はアメリカの対中戦略を応援(Taiwan cheers US strategy on China

「国家安全保障戦略(NSS)」が台湾の主権と安全保障を外部からの影響から守ることを明確に認めたことは、台北の外務省から歓迎され、ワシントンの対中強硬派は、トランプ政権が台湾を北京に明け渡すつもりはないと安心することになるだろう。

「アメリカの『国家安全保障戦略(NSS)』は、台湾をめぐる紛争の抑止が地域と世界にとって不可欠であると明言している」と台湾外務省は声明で述べた。

「台湾の安全はインド太平洋の安定を支えるものであり、私たちは自衛を強化し、地域の平和と繁栄に貢献し続ける」。

「国家安全保障戦略」は、台湾をめぐる紛争を抑止するためにアメリカに対し「軍事力の優位性(military overmatch)」を維持するよう求め、「有利な通常戦力のバランス(a favorable conventional military balance)」が地域におけるアメリカの利益の鍵であるとしながらも、地域におけるアメリカの同盟国間の「負担分担(burden-sharing)」を強調している。

この文書は、日本、韓国、台湾、オーストラリアに対し、国防費の増額を求める圧力を継続するよう求めている。

ハドソン研究所アジア太平洋安全保障担当部長パトリック・クローニンは、「国家安全保障戦略」への初期の反応として、「アジアについて考えると、経済と抑止力への重点は概ね妥当だ」と述べている。

クローニンは続けて「それでもなお、中国の戦略が相互に公正な貿易に関するものだという考えは、この文書が過去の誤った前提について正当に指摘している様々な批判に真っ向から反するものである」と述べた。

(4)アメリカの中東への重点は「後退」(American focus on Middle East to ‘recede’

トランプ大統領は、アメリカのエネルギー輸出増加に注力し、イスラエルとの12日間の戦争とアメリカの核施設への攻撃を受けてイランとその代理勢力が大幅に弱体化したと述べるなど、中東におけるアメリカの責任を軽減しようと努めている。

「国家安全保障戦略」は、「しかし、長期的な計画と日常的な実行の両面において、中東がアメリカの外交政策を支配していた時代は、ありがたいことに終わった。中東がもはや重要ではなくなったからではなく、かつてのように常に人々を苛立たせ、差し迫った大惨事の潜在的な原因ではなくなったからだ」と述べている。

トランプ大統領は「紛争は依然として中東で最も厄介な問題である」と認めつつも、この地域の明るい展望を描いている。

リバータリアン系シンクタンクであるケイトー研究所研究員ジョン・ホフマンは、アメリカが中東における役割を縮小する戦略を歓迎する一方で、トランプ政権にそのようなロードマップを実行する政治的意思があるかどうか疑問視している。

ホフマンは「過去4人の大統領うち2人はドナルド・トランプ――は、中東へのアメリカの関与縮小を公約に掲げながら、変化ではなく継続性に根ざした政策を追求してきた」と書いている。

「ワシントンは依然としてこの状況に巻き込まれ、この地域の情勢を細かく管理しようとしている。このようなアプローチでは、この『国家安全保障戦略(NSS)』の明示された目的を達成できないだろう。トランプが中東情勢を根本的に転換する政治的意思を持っているかどうかはまだ分からない」。

(5)民主党からの党派的な反発を招く(Draws partisan pushback from Democrats

民主党は、トランプ大統領の「国家安全保障戦略(NSS)」を、世界におけるアメリカの後退を示す危険な計画であり、アメリカと同盟諸国を弱体化させるものだと即座に非難した。

連邦下院情報特別委員会と連邦下院軍事委員会委員であるジェイソン・クロウ下院議員(コロラド州選出、民主党)は声明で「この計画が進められると、世界はより危険な場所となり、アメリカ国民の安全は脅かされるだろう」と、述べた。

「多くの懸念すべき点の中でも、ソーシャルエンジニアリング(social engineering)、文化戦争(culture warfare)、そして同盟国である外国政府や政治体制への干渉(interference with allied foreign governments and political systems)を露骨に呼びかけている点が挙げられる。これは国内外における自由と個人の権利に対する攻撃だ」。

同様に、連邦上院軍事委員会委員であるリチャード・ブルーメンソール連邦上院議員(コネチカット州選出、民主党)は、「国家安全保障戦略(NSS)」は「同盟諸国を見捨てて、ウクライナを犠牲にし、主要な戦略目標と基本的価値観を放棄するという後退を予兆するものだ。アメリカはより安全になるどころか、より弱体化するだろう。アメリカ・ファーストはアメリカだけの問題であり、その代償を払うことになるだろう」と述べた。

評論家の一部はより慎重な見方を示した。

民主政治体制防衛財団軍事政治力センター上級ディレクターであるブラッドリー・ボウマンは、「国家安全保障戦略」は「以前の国家安全保障戦略との連続性もいくつかあるが、大きな変更点もいくつかある」とコメントした。

「称賛に値する点もあれば、注目すべき批判点もあり、そして深刻な『何だって?』という点もある」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

  2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 2025年6月22日に、ドナルド・トランプ米大統領は、アメリカ軍の戦闘機をイラン上空に派遣し、複数の核開発関連施設を空爆した。バラク・オバマ政権で、アメリカとイランは核開発をめぐり、イランの核兵器開発を制限する代わりに、経済制裁を解除するという内容の「イラン核合意」が結ばれた。イランの核兵器開発・保持は中東地域のパワーバランスを崩す重大な事案となるため、オバマ政権はイランの核兵器保持を阻止するという動きに出た。しかし、続く第一次ドナルド・トランプ政権では合意は破棄された。イランは、核開発を続行するという決定を下した。ジョー・バイデン政権下では、イランとの関係は好転しなかった。そして、第二次ドナルド・トランプ政権が発足し、イランに対して、実力行使に出た。これは、イスラエル支援の一環であることは当然であるが、中国の仲介によってサウジアラビアとの関係改善を進めたイランを攻撃することで、中国をけん制するということでもある。
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 トランプが決定を下したイラン空爆はどれほどの効果があったのかということについては、アメリカとイスラエルは当然のことながら、「効果があった」「素晴らしい、歴史的な瞬間」と称賛した。イスラエルは、イラン政府の中枢に諜報網を持っており(ハマス幹部の爆殺などで証明されている)、空爆の効果について、情報を持っていると考えられる。もちろん、どれほどの効果があったかということについて、イスラエル側が発表することはない。かなりの効果があったということは認められる。しかし、完全に消滅したということまでは述べていない。これはつまり、核開発能力は残っており、プログラムを再開することが可能だということになる。中国は、核兵器を保有するインドとパキスタンと国境を接している。これら両国をけん制する意味で、イランの核開発を支援する可能性がある。

 イランは、トランプのイラン爆撃の効果が不透明であることを利用することもできる。致命的なダメージを受けていたとしても、それを隠して、「効果は軽微」という態度を保持しながら、国際的な交渉に臨むことも可能だ。「あれは、アメリカのイスラエルに対する義理立ての、パフォーマンスが先に立つ空爆だった」ということをアピールして、中東地域におけるアメリカとイスラエルの影響力を削ぐことも可能だ。イランが核開発能力をそこまで喪失していないとなれば、核開発プログラムは継続される。アメリカの空爆が「演劇的」であったということになれば、アメリカの国際的な立場は弱体化していくことになる。そうなれば、イスラエルもまた中東地域において、生き残りのために、戦略の転換を迫られることになるだろう。過激な極右勢力は「死なばもろとも」ということを考えるだろうが、ユダヤ人全体がそこまで愚かであるとは思えない。

(貼り付けはじめ)

アメリカの攻撃が施設破壊に失敗したためイランは核開発に進む(Iran Is on Course for a Bomb After U.S. Strikes Fail to Destroy Facilities

-衛星画像は、イランの能力が壊滅したのではなく、弱体化していることを裏付けている。

ジェフリー・ルイス筆

2025年6月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/27/iran-us-israel-strikes-dia-bomb-facilities/

ここ数日、私は疑り深い記者たちにこう伝えてきた。イスラエルによるイランへの爆撃作戦は、たとえアメリカの支援があったとしても、効果は微々たるもので、イランの核開発計画はせいぜい数カ月、運が良ければ1年遅れる程度だろうと私は。

現在、CNN、ニューヨーク・タイムズ、ロイター、そして、トランプ政権支援を続けているフォックス・ニューズまでもが、アメリカ国防情報局(the United States’ Defense Intelligence AgencyDIA)が作成した5ページに及ぶ攻撃に関する機密評価報告書の結論を報じている。どうやら私は、この爆撃作戦の効果を過大評価していたようだ。報告書によると、今回の攻撃によってイランの核開発計画は、短くても1、2カ月、長くても1年未満遅れたという。(破壊された施設の再建にはイランが「何年も」かかるというCIAの見積もりは的外れだ。イランが何年もかけるなどとは誰も考えない。)

DIAの評価は、衛星画像と信号諜報の両方に基づいている。私のようなオープンソース情報を扱う人間は、イランの通話を盗聴することはできないが、衛星画像を見ることはできる。そして、私は情報当局と同じものを見ることができる。

イスラエルがイランへの爆撃作戦を開始した際、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、わざわざ放射能物質について強調し、「イランは原子爆弾9個分、いや、9個分に相当する高濃縮ウランを生産している」と述べた。この物質こそが、この悲劇におけるマクガフィン(MacGuffin、訳者註:映画や小説などの物語で、登場人物たちの行動を促し物語を動かすための「きっかけ」となるアイテムや情報、目標のこと)となる。イランはこの物質を兵器級にまで濃縮する必要があるが、フォードウ燃料濃縮工場で約3週間という短期間で実現できたはずだ。

核物質は今どこにあるのか?アメリカの情報機関の評価によると、イランは紛争初期に核物質を移動させ、おそらく秘密の場所へ移動させたという。ちなみに、これはイラン側が国際原子力機関(International Atomic Energy AgencyIAEA)のラファエル・グロッシ事務局長に伝えた事実と全く同じだ。物質の行方が分からなかったことに恥辱を感じたアメリカ政府当局者たちは、数々の馬鹿げた説明を試みた。JD・ヴァンス副大統領は、埋められたと主張した。マルコ・ルビオ国務長官は、イラン国内をトラックで移動すれば、イスラエルの攻撃対象になると主張した。しかし、施設に到着するトラックを捉えた衛星画像や、その後もさらに多くのトラックが入り口を土で覆う画像が多数あるにもかかわらずだ。アメリカ国防情報局 (Defense Intelligence AgencyDIA)は、その物質が逃走中(on the lam)だと考えていることが、今や明らかになった。

イランが核開発に突き進むならば、核物質をさらに濃縮し、最終的には現在のガス状態から、爆弾に組み立てられる金属の半球へと変換する必要がある。これらの工程は転換と鋳造と呼ばれる。ヴァンスをはじめとするアメリカ政府高官たちは、イスラエルとアメリカがイランのウラン濃縮能力と金属ウラン製造能力を完全に排除したと主張することで、行方不明の核物質の危険性を軽視しようとしてきた。

最新のアメリカ国防情報局の評価以前からこれは誤りであり、イランはウラン濃縮プログラムを再開する相当な能力を保持していることは明らかだった。

爆撃作戦開始直前の6月12日、IAEA理事会は物議を醸す会合を開き、そこからいくつかの重要な情報が明らかになった。この会合は、爆撃作戦後の慌ただしい出来事の中でほとんど忘れ去られている。現在では、爆撃作戦は長らく計画されていたが、ドナルド・トランプ米大統領がイランに与えたと主張した60日間の猶予期間が満了するまで保留されていたことが分かっている。

グロッシは会合で、IAEAが「遠心分離機、ローター、ベローズの生産と現在の在庫に関する知識の連続性を失った。・・・回復は不可能だろう」と示唆した。これは実質的に、IAEAが、イランが備蓄している遠心分離機の数や保管場所を把握できなくなったことを意味する。イランは保管中の遠心分離機を、破壊された遠心分離機の交換や新たな遠心分離施設の建設に利用できる可能性がある。

イランは既に保有している遠心分離機に加え、さらに遠心分離機を製造することも可能である。近年、イランはナタンズ近郊、絵のように美しい「つるはし山 [Pickaxe Mountain](クー・エ・コラン・ガズ・ラ[Kuh-e Kolang Gaz La)])」の地下に巨大な地下施設を建設した。2021年にイスラエルが近くの遠心分離機製造工場を攻撃した後、イランは製造設備をここに移設した。イスラエルとアメリカはつるはし山のこの地下工場を攻撃しなかったが、イスラエルは他の場所にある、かつて機械が置かれていた空きビルを攻撃した。もしかしたらタイムマシンを使ったのかもしれない。

イランはこれらの遠心分離機をどこに設置するだろうか? 評価報告書によると、イランは「攻撃の標的とならず、稼働を継続している秘密の核施設を維持している」とのことだ。FOXニューズのジェニファー・グリフィン(厳しい質問をする優秀な記者)によると、その1つがいわゆる第三の濃縮施設だ。

そうなのだ、アメリカが攻撃したフォルドゥとナタンズの他に、第三の濃縮施設が存在する。IAEA理事会がイランによる保障措置協定違反を認定した後、イランは「安全な場所(secure location)」に新たな遠心分離施設の建設を完了し、そこに遠心分離機の設置を開始する準備が整ったと発表した。イランはIAEAに施設の査察を要請したが、その後爆撃が起こった。

この遠心分離施設の場所は公表されていないが、グロッシはイスファハン近郊にあると述べている。私の知る限り、イスラエルもアメリカもこの施設への攻撃を試みていない。イランはいつでもそこに遠心分離機を設置し始める可能性がある。

イランは歴史的に、週に1、2基の遠心分離機カスケードを設置できる能力を持っていた。カスケードとは、通常約170基の遠心分離機を並べた装置である。イランは、フォルドゥと同等規模の代替施設を3カ月以内に設置できる。最初の爆弾に相当する量の核物質は、それから2、3日後には利用可能になるだろう。

イランは他にも濃縮施設の候補地があるかもしれない。2010年、イランがフォルドゥの核濃縮施設を明らかにした際、同様の施設を10カ所建設する計画も発表した。当時のアメリカ政府当局者たちはこれを大げさだと考えていたが、数カ月後、イランは翌年、さらに2カ所の地下深くに建設を開始する計画を示唆した。イランの新しい施設はこの時期に建設されたものの、現在まで稼働していなかった可能性が高い。

驚くべきことに、イランの選択肢の1つは、フォルドゥに遠心分離機を再設置することだ。アメリカ国防情報局の報告書は、攻撃によって電気系統が損傷し、入口トンネルが崩壊した一方で、地下の濃縮施設は無傷だったと結論付けている。これは、他の地下施設が攻撃されなかった理由を説明するのに役立つ。これらの施設はフォルドウよりもさらに深い場所にある。アメリカはより大規模な大型貫通爆弾(Massive Ordnance PenetratorMOP)が必要になるだろう。

イランがこの物質をどこで爆弾に転用するのかは不明だ。ウラン転換施設の地上建物は破壊されたが、近隣のトンネルは無傷のようだ。イランはテヘラン郊外に、シャヒド・ボロジェルディ・プロジェクトと呼ばれる大規模な地下施設を有しており、パルチンと呼ばれる軍事施設に隣接している。この複雑なトンネルは、もともと六フッ化ウランを金属に変換し、核兵器用の金属半球を鋳造するために建設された。イランはこの施設を稼働させたことはなかったが、今後状況が変わる可能性がある。イスラエルはパルチン軍事施設の他の部分を攻撃したが、シャヒド・ボロジェルディ・トンネルは他の地下施設と同様に無傷のままだ。

全体として、イランはIAEAが生産したと述べた900ポンドの高濃縮ウランと、遠心分離機の製造、ウランのさらなる濃縮、そして必要に応じて小規模な核兵器備蓄への組み立てを行うための広範な地下施設ネットワークを保持している可能性が高い。 アメリカ国防情報局がこのプログラムはそれほど遅れていないと考えているのも不思議ではない。

たった1、2カ月! イスラエル人の一部が主張するように、たとえ計画が2、3年遅れたとしても、悪評高い2015年の包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of ActionJCPOA)はイランの計画をその何倍も遅らせた。外交的解決に反対する人々は、その条項の多くが10年か15年で失効すると不満を漏らした。(しかし、この主張自体が誤解を招くものだった。なぜなら、他の多くの重要な条項は永久に有効となるはずだったからだ。)

しかし、10年か15年では合意には短すぎると不満を漏らしていた同じ人々が、今では爆撃によるわずか数カ月の遅延を喜んでいる。しかも、この遅延をどう使うかは全く計画がなく、ネタニヤフの支持率が下落し始めたらまた同じことを繰り返すだけだ。彼らを責めるつもりはない。彼らは外交的解決など望んでおらず、ただ体制転換(regime change)を望んでいるだけだ。しかし、どうして彼らがそれを許されているのか理解できない。私たちは、人間が交わす合意はどれも完璧であるかのように、条約には不可能なほど厳格な基準を適用するが、一方で軍事作戦には点数をつける。

多くの専門家たちが包括的共同行動計画の制限イランが保有できる遠心分離機の数、種類、そして濃縮ウランの量に注目する一方で、私は一貫して、その真の価値は秘密施設の探知能力をいかに向上させたかにあると主張してきた。これには、ウラン採掘の瞬間から始まる揺りかごから墓場まで続く保障措置、遠心分離機の製造に使用される機械の監視、イランがウラン濃縮できる場所を制限する措置、そしてIAEAが周辺を調査する特別な権利などが含まれる。

これらの措置は完璧ではなかったが、私たちは今、それらがなければいかに盲目だったかを痛感している。そして最も重要なのは、これらの措置によって、イランがフォルドウのような地下施設を使ってウランを濃縮することを長年にわたり効果的に阻止できたことだ。これは、大型貫通爆弾では不可能なことであることが、今では分かっている。

爆撃の限定的な影響と、轟音を響かせるミサイルと轟く爆発音を伴う爆撃作戦の壮観な様相を結びつけるのは、おそらく難しいことだろう。歴史上最も印象的な空軍力の誇示の1つが、イランの核開発計画にほとんど打撃を与えなかったという事実は、多くのことを物語っている。だからこそ、私はこの作戦開始当初、イラン政権の崩壊のみがこの攻撃の成功につながる可能性が高いと明言したのだ。

空軍力使用による体制転換は常に絶望的に実現可能性が低いと思われていたが、イランのような大規模で分散し、深く埋もれた核開発計画の消滅よりも、どういう訳か実現可能性が高かった。イスラエルもそれを理解していたと思う。ネタニヤフ首相は、革命前のイランの国家の象徴にちなんで、この作戦を「ライジング・ライオン」と名付けた。イスラエルの国家の象徴はガゼルなのだ。

ワシントンが本当に望んでいたのは、体制転換だったのだろうか? 少なくとも、イランを非核化に留めておくことがワシントンの目標だったとしたらどうだろうか? 結局のところ、イランは20年近くもの間、核兵器開発から数カ月しか離れていない。イランを阻んでいたのは、主に技術的な問題ではなく、常に政治的な問題だった。抑圧的で干渉好きなイスラム共和国には私が嫌悪感を抱く点がたくさんあるが、少なくとも核兵器開発には消極的だった。

イランの最高指導者は2003年、いまだに理由は明らかにされていないものの、核兵器開発計画を一時停止した。アメリカの情報機関によると、この計画はイスラエルが爆撃を開始する直前まで停止されていたという。かつて、アヤトラ・アリ・ハメネイ師とその補佐官たちが兵器開発計画について議論した際、どのような発言をしたのかは分からない。しかし、何かが彼の手を止めたのだ。

イラン政府当局がIAEAへの協力を渋ったり、交渉担当者たちが交渉を拒否したりした時でさえ、イランは常に何らかの外交的解決策を模索しているように見えた。トランプ政権は、イランに教訓を与えたと確信している。トランプ政権高官たちは、イランは爆撃によって懲り、交渉に復帰するだろうと述べている。もちろん、イラン人の中には他にも学んだ教訓があるかもしれない。

いずれにせよ、イラン国内で避けられない内部協議は、交渉のテーブルに多くの新たな顔ぶれが加わるという点も含め、これまでとは異なる様相を呈するだろう。アメリカとイスラエルは、ある意味ではイランの体制を変えた。ただ、彼らが望んだような形ではないかもしれない。

※ジェフリー・ルイス:ミドルベリー大学国際研究所教授。Xアカウント:@ArmsControlWonk

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 

 2022年10月から続いていたイスラエルとハマスの紛争は途中にイランも巻き込み、中東地域を不安定化させた。ガザ地区では約7万の民間人が犠牲となった。イスラエル側にも多くの犠牲者が出ている。2025年に停戦合意が結ばれたが、先行きは不透明となっている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ガザ地区への圧力を強め、紛争状態を長引かせようとしている。ハマス殲滅を大義名分に掲げているが、実際は、地震と家族が抱える汚職に関する裁判を避ける意味合いが大きい。先日、ついに大統領に対して、恩赦を求めるという事態になった。自身の個人的な利益、犯罪行為の処罰を避けるために紛争を続けるという国益を損なう行為をしているということになる。

 アメリカは常にイスラエルを支援してきた。それはイスラエルの建国以来ずっと続いている。それは、アメリカ国内におけるイスラエル系有権者の力の大きさということもあるが、中東地域において唯一の西洋型の民主政治体制国家を守るという大義名分もあった。しかし、最近では、アメリカ国民の間でイスラエル支持が縮小している。これをユダヤ人差別と見るのは早計だ。ユダヤ人とイスラエルを区別して考えるようになっている。特に、ネタニヤフ首相のような、個人の利益を国家の利益に重ねてしまうようなことに反対している。ドナルド・トランプ大統領は強力なイスラエル支持者であると見られているが、トランプはそのような単純な人物ではない。イデオロギーとか論理とか、そういうものに縛られる人物ではない。トランプがイスラエルを支持しているからと言ってそれが未来永劫続く訳ではない。ネタニヤフ首相に対しては良い顔をしながらも、裏では「切る」タイミングを考えている。アメリカとトランプ政権はイスラエルを安心させていない。これこそは外交の基本である。日本外交がこの基本ができていると言われると心許ない。

(貼り付けはじめ)

イスラエルはアメリカが依然として自国の味方かどうか疑問に思っている(Israel Is Wondering if America Is Still on Its Side

-アメリカの政策と国民の支持の変化を受けて、イスラエル人は答えを探し求めている。

アンチャル・ヴォーラ筆

2025年12月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/12/01/israel-trump-america-gaza-abraham-accords/

政治的立場を問わず、アメリカ国民の間でイスラエルへの批判が高まっているのと同様に、イスラエル人も、ワシントンの中東における最近の政策決定の多くがイスラエルにとって不利益となるかどうかを議論している。アメリカ政府はしばしば、イスラエルの政策を統制し、行動の自由を制限しようとしているとされている。イスラエルとアラブ諸国の報道機関は、アメリカがイスラエルを独立した主権国家としてではなく、51番目の州として扱っているのではないかと疑問を呈している。

イスラエル民主政治体制研究所の最近の世論調査によると、イスラエル人のほぼ半数が、アメリカはイスラエル政府よりも「安全保障上の決定に大きな影響力を持っている」と考えている。

アメリカにおいては、イデオロギーの違いを超えてイスラエルへの批判が高まっている。ピュー・リサーチ・センターによると、過去3年間で共和党支持者、特に若年層の間でイスラエルに対する否定的な見方が高まっている。アメリアでは伝統的に最も強力な親イスラエル派である福音派キリスト教徒たち(Evangelical Christians)も、イスラエルの圧力を受けたことで、「永遠の戦争(forever wars)」を終わらせるという約束を裏切ったとみられるドナルド・トランプ米大統領によるイラン爆撃に憤慨している。

反イスラエル・親トランプのMAGA基盤からは、さらに厳しい挑戦が巻き起こっている。フォックス・ニューズの元司会者タッカー・カールソン、トランプの前大統領顧問のスティーヴ・バノン、そして連邦下院議員マージョリー・テイラー・グリーンは、アメリカのイスラエル支援に疑問を呈している。しかし、広大なMAGAの世界に生きる他の人々は、こうした政策への不同意を口実に反ユダヤ主義的な発言を吐き出している。10月、カールソンは極右白人至上主義者のニック・フエンテスにインタヴューを行い、彼に発言の機会を与えた。フエンテスは露骨な反ユダヤ主義的な見解を述べ、アメリカのユダヤ人が同化を拒否し、「組織化されたユダヤ人(organized Jewry)」こそが国家統一の最大の障害だと非難した。

専門家たちは、トランプ政権下でもアメリカのイスラエル支援は継続されるものの、イスラエル政府はMAGA基盤に対し、イスラエルがアメリカの利益に合致しているという姿勢をより明確に示すために方針を変える可能性があると見ている。イスラエルの元国家安全保障担当副首相補佐官で、エルサレム戦略安全保障研究所(JISS)副所長のエラン・レーマンは「経済援助モデルから軍事面での相互協力モデルへの転換(from the model of economic aid to a model of mutual cooperation on the military side)が必要だ」と述べた。レーマンは「トランプ自身が情勢を完全に掌握している限りイスラエルとの関係は安全だ」とも述べている。

しかし、トランプこそが問題の最大の原因だと指摘する声もある。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との関係は、友好的とは程遠い。イスラエル人ジャーナリストであるバラク・ラヴィッドの著書『トランプの平和:アブラハム合意と中東の再構築(Trump’s Peace: The Abraham Accords and The Reshaping of The Middle East)』の取材に応じた際、トランプはネタニヤフについて「クソ野郎だ(Fuck him)」と述べた。より大きな懸念は、トランプのイスラエル支持が、歴史的に差別されてきたコミュニティへの支援や中東における民主政体国家であるイスラエル支持といった原則に基づくものではなく、自らを平和主義者として見せかけ、ノーベル賞受賞を確実なものにするためのものだという点だ。

実際、イスラエルの戦略コミュニティを大いに驚かせたように、トランプはアラブ諸国の指導者たちの主張にも耳を傾け、経済発展のためのアメリカからの支援拡大や武器供給を求める声にも耳を傾け、パレスティナ問題への関心を完全に放棄させないようにしている。第一次政権時代、トランプが占領下のゴラン高原を(シリアではなく)イスラエルの領土と認め、アメリカ大使館をテルアヴィヴからエルサレムに移転したにもかかわらず、アラブ諸国はトランプの耳元で効果的なささやきを続け、惜しみない称賛と豪華な航空機まで贈ってトランプの歓心を繋ぎ止めている。

トランプはラヴィッドに対し、ネタニヤフ首相がパレスティナとの紛争を終結させ、合意を成立させたいと考えているとは考えていないと述べた。一方、野党指導者のベニー・ガンツはそう望んでいると述べた。トランプの批判は主に、2020年のアメリカ大統領選挙でジョー・バイデンが勝利した後、ネタニヤフ首相がバイデンに送った祝辞から生まれたようだ。ラヴィッドはその後の会話で、トランプのネタニヤフ首相に対する口調ははるかに穏やかだったとも指摘しているが、本書の記述は、しばしば強固とされる両者の関係の暗い側面を明らかにしている。

トランプはここ数日、ネタニヤフ首相への支持を表明しており、今月はイスラエル大統領に対し、汚職事件での恩赦を求めた。しかし、専門家たちは、これはより大きな戦略の一環だと見ている。それは、ハマスの武装解除の遅延、あるいは確実性に関わらず、ネタニヤフ首相によるヨルダン川西岸併合を阻止し、停戦を維持するという戦略だ。

停戦合意の直後、トランプ大統領はマルコ・ルビオ国務長官やJD・ヴァンス副大統領を含む複数の政権メンバーを急派し、「ビビ・シット(Bibi-sit)」、つまり「ビビ」の愛称を持つネタニヤフ首相によるハマス攻撃を阻止するよう指示した。ハマスを壊滅させることはイスラエルの戦争目標だったが、ハマスが依然としてガザ地区の47%を支配しているため、イスラエル人の一部は、その目標を達成するのはトランプ大統領の責任だと指摘している。

JISSのヨシ・クーパーワッサー所長は「トランプは和平委員会の長だ。だから、ハマスの武装解除を実現させなければならない」と述べた。しかし、トランプの計画では武装解除のタイムラインやプロセスが明確ではなかったと認めた。

ガザ地区から約32キロ離れた場所に、アメリカは民軍調整センターを設置し、200人のアメリカ兵と西側諸国の代表者が行き交っている。この兵站センター設置の目的は、トランプの和平計画の次の段階を計画することだが、同時にイスラエルの政策と国防軍を外国勢力の監視下に置いて、彼らの手を縛ることにもなる。

他にも多くの政策面で意見の相違が生じている。最新鋭のF-35戦闘機をサウジアラビアに売却するというトランプの決定は、イスラエルの多くの人々を動揺させた。イスラエルはリヤドとの関係正常化に熱心だが、サウジアラビアは、この地域における質的な軍事的優位性を失いたくないと考えている。トランプ大統領によるシリア制裁の解除と、ジハード主義者で後に大統領となったアハメド・アル・シャラーの支持は、イスラエル国内で懸念を引き起こしている。

さらに、トランプ大統領がカタールとトルコを支持していることは、アメリカがハマスに影響を与える主要国と見なしている一方で、イスラエルはハマスに同調していると見なしており、その対応は困難を極めている。ネタニヤフ首相がドーハでハマス指導者たちを爆撃したことについてカタールに強制的に謝罪したとみられる事態を受け、今度はアメリカがガザ地区に展開する国際安定化軍(International Stabilization ForceISF)へのトルコの参加を支持していると報じられている一方、イスラエルはトルコの地上部隊の受け入れを拒否している。

アメリカの対イスラエル支援に亀裂が生じているのは誇張であり、トランプ大統領の政策は依然としてイスラエルに大きく有利に働いているという意見もある。

しかし、ガザ地区で6万9000人以上のパレスティナ人が死亡するなど死者数が増加していること、ヨルダン川西岸地区の併合とパレスティナ人の追放を推進するイスラエルの右派連合、アメリカがイスラエルのためにイランとの新たな戦争に介入するのではないかという懸念、そしてトランプの「MAGA」支持層におけるイスラエルへの支持の分裂といった様々な要因が重なり、初めてアメリカ国民がイスラエルへのアメリカの支援の根拠に疑問を抱き始めていることは否定できない。先月、レスリー・スタールとの「60ミニッツ」インタヴューで、トランプの義理の息子であり、中東問題における二大交渉担当者の1人であるジャレッド・クシュナーは、トランプは「イスラエルの行動は制御不能になりつつあり、今こそ強硬手段を取り、長期的な利益に反する行動を阻止すべき時だ」と感じていると述べた。

チャタムハウスのシニアコンサルティングフェローであるヨシ・メケルバーグは、イスラエル人はトランプ大統領の対イスラエル政策について様々な見解を持っていると述べた。しかし、アメリカ国民のイスラエル支持率の低下は「戦略的に非常に危険」であり、イスラエル政府の政策転換を促す必要があると主張するのは難しいとメケルバーグは述べた。イスラエルは武器の69%を米国からの供給で賄っており、あらゆる種類の外交支援もアメリカから受けているとメケルバーグは付け加えた。

アメリカがイスラエルの意向を全て考慮せずに地域政策を推進しようとすれば、イスラエルには頼る術がない。イスラエルは、大統領執務室にいる人物と協力するしかない。たとえ、人質の帰還という合意を成立させたことで絶大な人気を誇る大統領であっても、他方では国の司法制度に介入しているように見える。トランプは、ネタニヤフ首相の恩赦を求める権利などないと考えるイスラエル人の一部を怒らせたようだ。「トランプが、自分には恩赦を求める法的根拠がないという事実を全く認識せずに、ネタニヤフ首相の恩赦を求めたというのは奇妙な話だ」とメケルバーグは述べた。

一方、ネタニヤフ政権は、平和をもたらす形で戦争を終結させ、アメリカで失った支持の一部を取り戻すという先見の明のある政策転換を行うどころか、広報会社を雇ってオンライン上に親イスラエル的なコンテンツを作成し、アメリカ国内の世論を操作していると非難されている。

※アンチャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とする『フォーリン・ポリシー』コラムニスト。ヨーロッパ、中東、南アジアについて執筆している。『タイムズ・オブ・ロンドン』誌で中東担当を務めた。アルジャジーラ・イングリッシュとドイチェ・ヴェレのテレビ特派員も務めた。以前はベイルートとデリーを拠点に、20カ国以上の紛争や政治を報道してきた。Xアカウント:@anchalvohra

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 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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イスラエルとハマスの紛争、ガザ地区への攻撃と民間人殺傷は、停戦合意によって、小康状態になっているが、民間人の苦境は続いている。イスラエルに対する国際刑事裁判所のカリム・カーン検察官が、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防大臣に対して逮捕状を請求したことによる。カーンは同時にハマスの指導者に対しても逮捕状を請求した。これに対して、ネタニヤフ首相はカーンを反ユダヤ主義者と非難し、法律専門家もカーンがイスラエルとハマスを同じレベルに置いたことに動揺した。多くの一般市民も怒りを抱くが、その感情だけではカーンの訴えの根拠を判断するのは難しい。しかし、カーンは証拠を集めるため、国際法の専門家からなる委員会に相談し、その結果、彼が特定した容疑者が戦争犯罪や人道に対する罪を犯したと信じるに足る合理的な根拠があると結論付けた。ネタニヤフ首相とガラント大臣に対する主な容疑は、ガザの民間人に対する共通の計画として、飢えや暴力を用いた行為に関与した点である。つまり、これは人道支援の妨害が失策ではなく、意図的な行為であったという主張を基にしている。カーンはビデオや衛星画像などを資料として提示しているが、具体的な証拠は公にはされていない。
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テオドール・メロン

国際刑事裁判所において重要な役割を果たしたのは、ユダヤ人の著名な法学者テオドール・メロンである。メロンは、入植地の問題についても指摘している。1967年における入植の開始時、彼は法的な観点から問題があることをイスラエル政府に伝えたが、無視された。仮にイスラエル政府が当時のアドバイスに従っていれば、入植地はなかったかもしれず、中東の平和にも違った道があったと考えられる。入植地の存在がイスラエルの外交政策に影響を与え、特にネタニヤフ政権においてその傾向が強化された。そのような人物が国際刑事裁判所で重要な役割を果たした。メロンという人物はイスラエルの愛国者と言える存在だろう。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は私利私欲のために、ナショナリズムを利用し、中東と世界に災厄を与えている。メロンは現在も存命である(95歳)。彼に続き、イスラエルのために、イスラエルの政策を批判する人たちはたくさんいる。私たちはそのことに思いをいたすべきだ。

(貼り付けはじめ)

イスラエルをイスラエル自身から救おうとした男(The Man Who Tried to Save Israel From Itself

-今回、イスラエルはテオドール・メロン(Theodor Meron)の警告に従わなければならない。

ガーショム・ゴレンバーグ筆

2024年6月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/04/israel-settlements-occupation-theodor-meron-gaza-netanyahu/?tpcc=recirc062921

「ハーグの偽善(the Hague’s Hypocrisy)」と、イスラエルの大衆向け日刊紙は見出しに大々的に書き立てた。ライヴァル紙は負けじとばかりに「ハーグの恥辱(the Hague’s Disgrace)」と見出しを付けた。

国際刑事裁判所のカリム・カーン検察官が、人道に対する罪(crimes against humanity)でイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント国防大臣に対して逮捕状を請求すると発表したとき、イスラエル国内で最も明らかな国民の反応は激怒だった。カーン検察官が同時にハマスの指導者3人の逮捕を要請しても、この怒りは収まらなかった。

ネタニヤフ首相は予想通り、カーンが「反ユダヤ主義の火(the fires of antisemitism)」を煽っていると非難した。しかし、首相に深く批判的なイスラエルの法律専門家ですら、カーンがイスラエルとハマスの司令官を同じカテゴリーに入れているように見えることに動揺している。ある人は「攻撃者(ハマス)と攻撃される側(イスラエル)の間に法的同等性を設けるのは容認できない」と書いた。

私もごく普通のイスラエル人なので、その反射的な怒りをいくらか共有できる。世界はイスラエルの行動に過剰な注目を払い、2023年10月7日にどちらの側が残虐行為を犯し、この戦争を引き起こしたのかを忘れているようだ。

しかし、怒りは、カーンがネタニヤフとガラントを訴える根拠となるかどうかを判断する上で、あまり有効な手段ではない。私にとって、その疑問に答える鍵は、ある名前にある。テオドール・メロンだ。

カーンは、要請書を提出する前に、戦争法に関する主要な専門家で構成される委員会に証拠を提出した。委員会は全員一致で、「カーンが特定した容疑者が、国際刑事裁判所の管轄権の範囲内で戦争犯罪および人道に対する罪を犯したと信じるに足る合理的な根拠がある」と結論付けた。ホロコースト生存者であり、法学者であり、元イスラエル外交官でもある94歳のテオドール・メロンは、これらの専門家の中でも群を抜いて著名な人物である。

私が「T・メロン」という名前に初めて出会ったのは、20年以上前、占領地におけるイスラエル人入植地の歴史に関する著書『偶然の帝国(The Accidental Empire)』の調査中に、イスラエル国立公文書館でのことだった。故レヴィ・エシュコル・イスラエル首相の事務所から機密解除されたファイルのページ下部に、彼の署名があった。ページ上部には「極秘(Most Secret)」と記されていた。その間に記された情報が、私を彼についてもっと知りたいという気持ちにさせた。

メロンは1930年、ポーランドのカリシュで、彼自身が「中流階級のユダヤ人家庭(middle-class Jewish family)」と表現する家庭に生まれた。「幸せだったが、残念ながら短かった幼少期」は、9歳の時にドイツ侵攻によって終わりを迎えた。ナチスが支配するゲットーや強制労働収容所で暮らしながらも、どうにかホロコーストを生き延びた。しかし、彼の家族のほとんどは生き延びられなかった。終戦直後、15歳の時、彼は当時イギリス領だったパレスティナのハイファ市に移住した。

それからの6年間、彼にとって唯一の学校教育は苦痛に満ちたものとなった。失われた教育の年月は「私に学びへの強い渇望を与えてくれた」と彼は後に語っている。彼は新しい言語で高校を卒業し、ヘブライ大学で法学の学位を取得し、ハーヴァード大学で博士号を取得し、ケンブリッジ大学で国際法の博士研究員として研究を行った。

1957年、学術界のポストに就く見込みのないメロンは、イスラエル外務省からのオファーを受けた。1967年の六日間戦争(第三次中東戦争)直後、37歳にしてイスラエル外務省の法律顧問、つまり事実上イスラエル政府における国際法の最高権威に任命された、天才(wunderkind)なのである。

大使としての10年の任期を経て、彼は学術界に戻った。多くのイスラエル人学者と同様に、これは海外留学を意味した。メロンの場合は、ニューヨーク大学ロースクールへの留学だった。彼の法律に関する論稿は、「国際刑事裁判所(international criminal tribunals)の法的基盤構築に貢献した」と評されている。国際刑事裁判所の始まりは、ユーゴスラビア崩壊後の戦争犯罪を扱うために1993年に国連が設立した裁判所である。

当時アメリカ市民であったメロンは、2001年に国際刑事裁判所の判事に任命された。彼は数年間、同裁判所の所長と控訴裁判所判事を務めた。インタヴューで、彼は自身の立場を「胸が締め付けられる(poignant)」と同時に「気が重くなる(daunting)」と語った。かつてナチスの少年囚人だった彼が、今やジェノサイドを含む犯罪の裁判長を務めているのだ。彼は特に、「レイプと性奴隷制を人道に対する罪と定義した」判決を誇りに思っている。

メロンは、1990年代後半、再びオックスフォード大学の法学教授として、また最近ではイスラエルとハマスの指導者に対する訴訟を担当する国際刑事裁判所所長カーンの顧問も務めている。

カーンの令状請求は有罪判決ではないことを肝に銘じておくことが重要だ。メロンをはじめとする専門家たちが確認したのは、証拠と法律がネタニヤフとガラント、そしてハマス関係者のヤヒヤ・シンワル、モハメド・デイフ、イスマイル・ハニヤを裁く根拠を提供しているということだ。

専門家たちの報告書は、国際刑事裁判所(ICC)に訴訟適格がないとするイスラエルの主張を否定した。「ガザ地区を含むパレスティナは、国際刑事裁判所規程の適用上、国家である」と専門家たちは述べた。イスラエルとは異なり、パレスティナは国際刑事裁判所の管轄権を受け入れている。したがって、国際刑事裁判所はガザ地区における行動、そしてイスラエル領内でのパレスティナ人の行動について判決を下すことができると報告書は述べている。

『フィナンシャル・タイムズ』紙に寄稿した共同意見記事の中で、メロンと同僚たちは「これらの容疑は紛争の理由とは全く関係がない」と強調した。その点を敷衍すると、イスラエルは正当化可能な防衛戦争(a justifiable war of defense)を行っているかもしれないが、政府首脳を含む一部のイスラエル人は、その戦争遂行の過程で罪を犯した可能性がある。

シンワル、デイフ、ハニヤに対する起訴案には、10月7日のイスラエル攻撃における民間人殺害という人道に対する罪である絶滅(extermination)、人質の確保、強姦といった戦争犯罪が含まれている。

ネタニヤフとガラントに対する主な容疑は、ハマスを根絶やしにし、イスラエル人人質を解放し、ガザ地区の住民を処罰するために、「ガザ地区の民間人に対する飢餓やその他の暴力行為を用いるという共通の計画(a common plan to use starvation and other acts of violence against the Gazan civilian population)」に関与したという点である。言い換えれば、人道支援の妨害は失策ではなく、戦争遂行のための意図的な手段だったとされている。

カーンは、生存者へのインタヴュー、ビデオ資料、衛星画像など、自身が収集した証拠の種類を列挙している。しかし、証拠そのものは公表していない。今のところ、私たちは専門家全員の一致した見解に頼るしかない。そして、カーンの主張が確固たるものかどうかを判断できるのは、おそらくメロン以上に適任な人物はいないだろう。メロンがイスラエルを迫害していると示唆するのは滑稽であり、彼が反ユダヤ主義者だと主張するのは言語道断だ。

これは判決ではない。告発を真剣に受け止めるべき理由だ。

実際、イスラエル政府がテオドール・メロンの訴えをもっと早く、つまり私がアーカイヴで発見した覚書を書いた1967年9月に真剣に受け止めていれば、イスラエルはこのような状況には陥っていなかっただろう。

当時、エシュコル首相は、3カ月前の予期せぬ戦争でイスラエルが征服した領土に入植地を建設すべきかどうかを検討していた。エシュコルは、1948年にアラブ軍に制圧されたキブツ、クファル・エツィオンの再建に傾いていた。その場所は、ヨルダン川西岸地区のヘブロンとベツレヘムの間にあり、その間ヨルダンの支配下に置かれていた。エシュコルはまた、同じくイスラエルに最近征服されたシリア領ゴラン高原への入植にも関心を持っていた。

しかし、閣議において法務大臣は「施政下」地域[administered” territory](政府が占領地を指す用語)への民間人の定住は国際法違反になると警告していた。エシュコルの局長は外務省の法律顧問に意見を求めた。

メロンの回答は断定的だった。「私の結論は、施政下における民間人の定住は、ジュネーブ条約第4条の明示的な規定に違反となる」。メロンによると、1949年の戦時における文民保護に関する条約は、占領国が自国民の一部を占領地に移動させることを禁じている。この規定は、征服国による「植民地化を防止することを目的としている(aimed at preventing colonization” by the conquering state)」と彼は書いている。

9日後、イスラエルの若者の一団が政府の支援を受けてクファル・エツィオンに入植地を設置した。当初、この入植地は公に軍事前哨基地(a military outpost)とされていた。メロン自身も指摘していたように、占領地に臨時の軍事基地を建設することは合法だった。しかしこれは策略であり、新たな入植地の民間性が高まるにつれ、その効果は急速に薄れていった。

そこでイスラエル政府はすぐに、著名なイスラエル人法学者イェフダ・ブルムとメイア・シャムガルの主張に頼るようになった。彼らは、ジュネーブ条約第4条はヨルダン川西岸地区には適用されないと主張した。ヨルダンの主権は国際的にほぼ完全に承認されていないため(というのが彼らの主張だった)、ヨルダン川西岸地区は占領地ではないという主張だ。

メロン自身が最初の覚書から50年後の2017年に書いたように、この理論は根拠がない。ジュネーブ条約は国家や主権主張を守ることを目的としたものではない。占領下の人々を占領国の行為から守るものだ。

ここで疑問が生じる。もしエシュコル政権が1967年に歯を食いしばり、自国の弁護士の意見を受け入れていたらどうなっていただろうか?

まず、占領地に入植地は存在しなかっただろう。イスラエルの広大な郊外、より小規模なゲート付き郊外、そして小さな前哨基地からなるネットワーク全体は存在しなかっただろう。イスラエル軍はこれらのコミュニティを警備する必要もなく、イスラエルは占領地に自らを縛り付けるために莫大な資源を投入することもなかっただろう。

今頃、イスラエルの隣にパレスティナ国家が誕生していたのか、あるいはどこか別の場所で平和が実現していたのか、私たちには分からない。入植地は和平合意の唯一の障害ではなかった。しかし、大きな障害の1つであることは確かだ。さらに、入植地の一部、つまりイデオロギー的な郊外は、土地の放棄に断固反対するイスラエルの過激な宗教右派の温床となってきた。ネタニヤフ政権の二大極右政党は入植者によって率いられており、入植地を中核的な支持基盤としている。入植地がなければ、イスラエルが現在の苦境を回避できた可能性は高かっただろう。

当時、メロンの意見を受け入れていれば、イスラエルの政治家や軍指導者の間に国際法に対する異なる姿勢、すなわち厳格な遵守の姿勢が確立されていたかもしれない。おそらくそのような姿勢が、ネタニヤフとガラントに、現在の戦争を異なる方法で遂行させ、国際刑事裁判所の検察官が現在主張しているような行為を回避させていたかもしれない。

しかし、キーワードは「疑惑(alleged)」だ。カーンが主張する犯罪の重要な要素は、それらが意図的であったこと、つまり飢餓(starvation)やその他の民間人の死因が政策として設定されていたことだ。

イスラエルの指導者たちが、ガザ地区の人々への食糧やその他の基本的なニーズの供給を意図的に阻止した可能性は確かにある。つまり、援助が遮断されたのは、ハマスに人質解放、あるいはガザの支配権を放棄するよう圧力をかけるためだ。ハマスはガザ地区の民間人を人間の盾として利用してきた。おそらくネタニヤフ首相は、彼らの苦しみをハマスに対する武器として利用しようとしたのだろう。

ガザ地区の人々に食糧を届けられなかったのは、戦闘の混乱、エジプトの失策、ハマスの行動、イスラエル兵が援助活動員に誤射したこと(イスラエル兵が時折、他のイスラエル人に対して誤射したことも同様)、そしてイスラエル政府の無能さ(10月7日にイスラエルを無防備な状態に陥れた悲惨な無能さの継続)といった複数の要因が重なった結果である可能性もある。

世界中のあまりにも多くの人々が、主に先入観やメディア報道の洪水に基づいて、これらの可能性のどれが真実なのかを既に確信しているようだ。しかし、もしカーンがネタニヤフとガラントを裁判にかけることに成功したとしても、確固たる証拠によって意図を立証する必要があるだろう。

メロンの1967年のメモを発見したことで、もう1つ教訓を得た。政府の意図を示す最良の証拠は、しばしば何十年も秘密にされた文書の中に隠されているということだ。これは戦争における決定においてはなおさら当てはまり、イスラエル自身がガザ地区で何が起きたのかを調査すべき理由をさらに強めるものだ。

国際刑事裁判所がイスラエルの機密文書にアクセスする可能性は低い。一方、10月7日の悲惨な情報漏洩以降の戦争遂行の全過程を調査するイスラエルの国家調査委員会は、そのようなアクセスを要求し、政府高官や将校を召喚して証言を求めることができるだろう。

カーンの発表で明確に示されたのは、イスラエルが容疑犯罪について独自に「独立かつ公平な(independent and impartial)」調査を実施するのであれば、カーンはイスラエルの判断に従うという点だ。これは「補完性(complementarity)」の原則であり、国際刑事裁判所の管轄権は各国の司法制度が機能しない場合にのみ適用される。

調査委員会は刑事手続きではない。しかし、イスラエルが自国で調査を実施するのであれば、カーンには自らの調査を中断または終了する十分な理由があるだろう。

しかし、イスラエル国内では、ネタニヤフ政権が必要な独立性と広範な権限を有する調査委員会を設置することはないのは明らかだ。それは、国の深刻な政治危機が政権の崩壊と新たな選挙に繋がった場合にのみ可能となる。

ネタニヤフ首相は、カーン首相による逮捕状請求に対する国民の反射的な怒りを利用して、失った支持をいくらか回復させようとしている。しかし、理性的な反応は正反対だ。国際刑事裁判所での訴訟の可能性は、ネタニヤフ政権を終わらせ、戦争のあらゆる側面を調査する新たな理由となる。

言い換えれば次のようになる。1967年、占領開始当初、イスラエル政府は国際法に関する非常に若い顧問からの警告を無視した。今日、イスラエルは戦争法に関する非常に老練な権威、つまり同じ人物からの新たな警告に耳を傾ける必要がある。

※ガーショム・ゴレンバーグ:イスラエルのジャーナリスト・歴史家。最新作に『影の戦争:暗号解読者、スパイ、そしてナチスを中東から追い出すための秘密の闘争(War of Shadows: Codebreakers, Spies, and the Secret Struggle to Drive the Nazis From the Middle East)』がある。ツイッターアカウント:@GershomG

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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中国は、中東情勢における重要な出来事である、2025年6月のイスラエルとイランの停戦を受けて、中国は中東地域における紛争が中国の国益にどう影響するかを考慮している。中国は中東地域から石油を輸入しており、中東の安定は中国の国益に適うことになる。また、中東地域やアフリカの各国との協力関係を深めており、中東情勢の悪化によって地域が不安定化し、戦争が起きたり、政府が倒されたりということは望ましいことではない。
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一方で、中東地域において、アメリカがイスラエルへの支援に偏重することで、他の中東地域の国々、特に伝統的な同盟国であるサウジアラビアとの関係が悪化したり、中東地域におけるアメリカの役割が縮小したりする事態は中国にとって望ましいことでもある。中国としては、中東地域のある程度の事態悪化までは容認できるという考えもある。そのために、イランを更に支援するということも考えられる。

 しかし、事態悪化が中国にとって都合の良いレヴェルで収まってくれるという保証はない。それどころか、コントロールできないということになれば、事態悪化が中国にとって都合が悪いということになってしまう。従って、合理的な判断は、事態の鎮静化、地域の安定ということになる。

 これに対して、アメリカはこのような複雑な思考ができず、ひたすらイスラエル支援にまい進している。イスラエルを支援すればするほど、イスラエルを危険に晒すということすらも分かっていない。イスラエルがガザ地区で行っている残虐な行為をアメリカが支援している、アメリカが化膿しているという構図を世界に晒し続けることは、イスラエルを危険に晒すだけではなく、アメリカも危険に晒す、国益に反する行為だ。このような判断すらもできなくなっているアメリカに世界覇権国の資格はないし、アメリカの支配層の劣化は目を覆いたくなるほどに酷い状況になっている。
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 日本もよくよく考えておくべきだ。アメリカに隷従しておけばよいという時代は終わった。そして、日本国民は賢くならねばならない。しかし、この失われた30年で、十分に痛めつけられ、日本の再興はかなり期待できない状況になっていると私は悲観している。

(貼り付けはじめ)

北京は中東情勢の激化を歓迎するだろうか?(Would Beijing Welcome Escalation in the Middle East?

-中国は不安定化によって大きな損失を被ることになる。

デン・ユウェン筆

2025年6月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/26/china-xi-middle-east-iran-israel-peace-trump/

北京は、アメリカのイラン攻撃とそれに伴うイスラエル・イラン間の(不安定ながらも)停戦を受けて、自らの立場を模索している。紛争が長期化すれば、必然的に波及し、アメリカ以外の主要諸国までも巻き込む可能性がある。それでは、この紛争は中国の国益にどう影響するのか? 北京は紛争のさらなる激化を望むのか、それとも公式声明が示唆するように、緊張緩和(cool down)と停戦(a cease-fire)の実現を真に望んでいるのか?

この問いに答えるには、中国の中東戦略とアメリカとの広範な戦略的競争という2つの側面から分析する必要がある。

一見すると、イスラエルとイランの紛争は中国とほとんど関係がないように思える。しかし、この紛争は中国の「一帯一路」構想(China’s Belt and Road InitiativeBRI)を混乱させ、エネルギー安全保障に影響を与え、さらには米中対立にも波及する可能性がある。つまり、中国は紛争の行方に真の利害関係を有している。

中国の中東戦略は、主にエネルギー安全保障の確保を最重要視している。それは、中国は湾岸諸国やイランから大量のエネルギーを輸入しているためだ。次に、同地域における経済的利益、すなわち一帯一路プロジェクトの実施が位置づけられる。最後に、アラブ諸国やイランとの政治的協力が挙げられる。この協力は、結局のところ前者の2つの目標に奉仕するものである。もし中国が中東産油への依存度がそれほど高くなく、過剰な工業生産能力を同地域に輸出する必要がなければ、中東諸国との緊密な関係維持やイランとサウジアラビアの仲介に、これほど強い動機は持たなかっただろう。

中国はウクライナ紛争後、ロシア産原油の購入を増やしているものの、依然として石油埋蔵量の大部分は中東産である。停戦が崩壊し紛争が拡大すれば、中国の中東における一帯一路構想プロジェクトは必然的に影響を受けるだろう。

過去10年間、一帯一路構想は中東において他のほとんどの地域を凌駕する大きな進展を遂げてきた。戦争によって引き起こされた協力の減速、あるいは強制的な停止は、中国の輸出と経済全体に直接的な打撃を与えるだろう。もしイランがホルムズ海峡封鎖の脅しを実行に移した場合、その結果生じる経済混乱は中国の原油輸入と経済回復に深刻な影響を与えるだろう。

しかしながら、このシナリオは北京にとって最悪の事態ではないかもしれない。中国が最も恐れているのは、アメリカ・イスラエル共同の軍事圧力によってイランの神政政治体制(Iran’s theocratic regime)が転覆することだ。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、アメリカによるイランの核施設への攻撃を受け、イラン国民に対し、政府への反乱を公に呼びかけた。ドナルド・トランプ米大統領も政権交代を示唆している。もしそれが現実のものとなった場合、中国の長年にわたるイランへの投資と関与は水の泡となり、アメリカ主導の反乱に対する北京自身の長年の懸念を裏付けることになるだろう。

北京が現在のイランと連携していることで、イスラエルとは疎遠になっている。アメリカとイスラエルの支援を受ける新たなイラン政権は、少なくとも当初は中国を脇に追いやる可能性が高く、イランだけでなく中東全体における中国の立場に大きな打撃を与えるだろう。

中国の中東戦略の観点から言えば、北京はこの戦争がエスカレートすること、特に本格的な地域紛争に発展することを望んでいない。中国が停戦と地域の安定を求め、アメリカのイラン攻撃を非難するのは、単に道徳的な優位性のためだけではない。真の懸念を反映しているのだ。

しかし、イスラエルとイランの紛争は、より広範な米中競争にも影響を与えている。そして、場合によっては、これが中国の地域戦略(regional strategy)に取って代わる可能性もある。紛争の悪化が、たとえ短期的な経済的痛みを犠牲にしても、アメリカの影響力に対抗しようとする北京の努力に有利に働くならば、北京は実際には、アメリカがイスラエルを支持するのと同様に、限定的なエスカレーションを容認、あるいは支持する傾向にあるかもしれない。ジョン・ミアシャイマーなどの学者たちは、イスラエルによるイランの核施設への空爆、そして、アメリカによるイスラエル支援への介入は、最終的にはアメリカを犠牲にして中国に利益をもたらすと主張している。

最近のインタヴューで、ミアシャイマーはイスラエルとトランプ政権が危機を煽っていると批判した。アメリカは中国からのより大きな戦略的脅威に直面しており、ペルシャ湾で資源を浪費するのではなく、東アジアに資源を集中させるべきだと主張した。

ワシントンは湾岸地域から東アジアへの海軍・航空戦力の再展開を計画していたが、イスラエルのエスカレーションにより、ニミッツ級空母と爆撃機を湾岸地域に戻した。より広範な地域戦争は、アメリカが東アジアからさらに多くの軍事力の撤退を余儀なくさせ、弾薬備蓄(ammunition stockpiles)を枯渇させ、中国に対する抑止力を損なうことになるだろう。ミアシャイマーの見解では、中東情勢の動向は明らかにアメリカの利益にならない。

アメリカの視点からすれば、この論理は妥当である。エスカレーションによって紛争が長引けば、アメリカ軍は膠着状態(bog down)に陥り、東アジアにおけるプレゼンスが低下する可能性がある。そうなれば、アメリカは中国との長期的な競争を維持する能力を弱めることになる。

しかし、アメリカに損害を与えるものが必ずしも中国の利益になるとは限らない。ミアシャイマーの論理が成り立つためには、エスカレーションはイランの体制転換(regime change)に至ることなく、イランが長期にわたる軍事闘争を維持する能力を維持しなければならない。イラン政権が崩壊した場合、新政府がアメリカにとって強力な敵であり続けるかどうかは不透明だ。政権が存続した場合、トランプ大統領が長期的な軍事資源を投入して対立を継続するかどうかも同様に不透明だ。

北京の観点からすれば、イランとイスラエルの紛争が「第二のアフガニスタン(second Afghanistan)」となり、アメリカの注意を逸らすためには、イランは軍事力を維持しなければならない。そのためには、直接的な軍事支援、あるいはパキスタンなどの第三者を介した軍事支援、あるいはイラン国内の防衛産業への支援が必要になるかもしれない。北京による公然たる軍事支援は考えにくいものの、イランの自立性(ran’s self-sufficiency)を強化するための静かな支援はあり得る。

要するに、東アジアにおけるアメリカの戦略的圧力を軽減するために、北京はイスラエルとイランの紛争がエスカレートすることを、ある程度までは有利と見なすかもしれない。しかし、それはイランがホルムズ海峡を封鎖したり、内部崩壊したりしない限りの話だ。エスカレーションが始まれば、どこで止まるかを予測するのは困難だ。北京の立場は本質的に矛盾しており、停戦を求める声には少なくともある程度の誠実さが込められている。

これまで、北京は戦争に対するこの立場を明確にしてきた。カザフスタンのアスタナで最近行われた中国・中央アジア首脳会議において、習近平国家主席はウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領にこの問題を提起し、イスラエルの軍事行動が地域の緊張の高まりを招いていると批判した。

習主席はまた、ロシアのプーティン大統領ともこの紛争について協議し、双方、特にイスラエルに対し、緊張緩和と外交ルートへの復帰を促した。中国の王毅外相は、イランとイスラエルの外相、そして他の中東諸国の外相たちと会談し、イスラエルを厳しく批判するとともに、イスラエルのギデオン・サール外相に対し、イスラエルによるイランへの攻撃は国際法違反であると訴えた。北京はまた、イランの核施設に対するアメリカの空爆を強く非難した。

北京のメッセージは明確だ。外交的にはイランを支持し、イスラエルとアメリカを非難し、より広範な地域的不安定化を避けるため自制を求めている。しかし同時に、全面戦争(total war)を回避し、外交への回帰を促している。

中国国内には密かにエスカレーションを望んでいる人間たちもいるかもしれないが、北京が一貫して平和を重視していること、特に一帯一路構想と中国の石油安全保障への潜在的な損害を考慮すると、少なくとも今のところは、北京は紛争が制御不能に陥ることを望んでいないことが窺(うかが)える。

※デン・ユウェン:中国の作家・学者。

(貼り付け終わり)

(終わり)

※2025年11月に新刊発売予定です。新刊の仮タイトルは、『「新・軍産複合体」が導く米中友好の衝撃!(仮)』となっています。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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