古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:ペルシア湾

 古村治彦です。

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)

 イラン戦争は、停戦合意が大詰め段階だとドナルド・トランプ大統領が発表しながら、同時に「合意を急がないように」と述べたと発表し、トランプらしさ全開で状況が進んでいる。アメリカとしては、イランの政権転覆(体制転換)が望めない中で、核兵器開発につながるウラン濃縮の廃棄を求めている。イランとしては、戦争の被害の賠償と体制の保証、ホルムズ海峡の管理権を求める。イスラエルとしては、中東地域の混乱が続けば良いということなので、和平は静観しているようだ。イスラエルは、既にUAEという「魚の小骨」をイランの喉(ペルシア湾)に刺すことに成功しているので、これ以上のことは望んでいないだろう。
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 下記論稿において、著者ファリード・ザカリアは、イスラム革命後のアメリカは、イランについてディレンマを抱えてきたと指摘している。それは「イランの体制を転換させるのか、イランの政策を転換させるのか」ということだ。

 イランの体制を転換するためには、アメリカはイランに対して軍事攻撃をするしかない。しかし、それは実態としては不可能であった。今でもそうだ。今回のイラン戦争は、規模で見れば大規模な戦争ではない(犠牲となった人たちには非常に申し訳ない表現になってしまって心苦しいが)。範囲も期間もそこまでではない。しかし、ペルシア湾、ホルムズ海峡というチョークポイントがそこに含まれることで、世界規模で影響を受け、大きくなってしまった。逆に、ホルムズ海峡がなければイランはここまで持ちこたえることはできなかっただろう。アメリカはイランほどの大国を攻撃して体制転換させるほどの力をすでに失っている。第二次世界大戦の時期とはもう違う。しかし、公式的には、イランとの国交はないし、外交関係はない。

 しかし、アメリカとイランは実際には交渉はしなければならないし、イランは国連にも加盟している。実質的には国家として認めている。しかし、外交関係はない。それでも、バラク・オバマ大統領時代には核開発に関して合意が結ばれた。建前とは違うのだ。今回、イラン側がアメリカ側に体制の保証を求めている。これをアメリカ側が認めてしまうと、アメリカは建前が崩れてしまう。国家として認めてしまうことになる。それはそれでアメリカにとっては良いことかもしれないが、今回のイラン戦争の失敗はこの点にある。「イランと交渉して、体制保障をしてしまわねばならない」ことで歴史は動くが、アメリカの建前は崩れる。これこそがアメリカの敗北である。このアメリカの敗北を世界に喧伝してしまうことになってしまう。アメリカ帝国の崩壊をここに明白に示すことになる。アメリカの終わりの始まりということになる。

(貼り付けはじめ)

ワシントンが解決を拒むイランに関するディレンマ(The Iran Dilemma Washington Refuses to Resolve

-アメリカの政策において2つの目標が半世紀近くにわたり対立し続けている。

ファリード・ザカリア筆

2026年5月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/08/iran-war-united-states-nuclear-weapons-regime-change-donald-trump-foreign-policy/

世界で最も強力な国家が、経済制裁と軍事攻撃によって荒廃した、はるかに小さく弱い国家に対して、なぜ思い通りにできないのだろうか? イラン戦争におけるアメリカの抱える問題を理解する最も簡単な方法は、ゲーム理論(game theory)を用いることだ。ドナルド・トランプ大統領はイランと「チキン」ゲーム(a game of “chicken”)を仕掛けた。まるで2台の車が互いに真っ直ぐに突進し合うようなものだ。このような状況では、一方の存亡に関わる利害が他方の利害がはるかに低い場合、利害の大きい方がたいてい勝つ。イラン政権にとって、負ければ政権が崩壊し、国民が虐殺される可能性が高い。一方、ドナルド・トランプ大統領にとっては、マール・ア・ラーゴでの週末が台無しになる程度だろう。イラン側がこのチキンゲームでハンドルを握りしめることを厭わない理由が容易に理解できる。

しかし、アメリカがイランへの対応にこれほど苦しんでいるのには、トランプ大統領と今回の拙速な戦争(ill-conceived war)だけではない、より広範な理由がある。イランでイスラム政権が樹立されて以来、アメリカはイランに対して相反する態度(two minds)を取り続けてきた。一方では、人質解放から核兵器制限に至るまで、アメリカが解決を望むいくつかの課題があった。他方では、単に交渉するだけでなく、政権を打倒したいと考えている。この2つの姿勢の間には、半世紀近くにわたってアメリカの外交政策を貫いてきた緊張関係が存在する。ワシントンはイランの特定の政策を変えたいのか、それともイランそのものを変えたいのか?(Does Washington want to change certain policies of Iran or does it want to change Iran?

ワシントンがテヘランと交渉すれば、ギヴ・アント・テイクがあり、必然的に双方の譲歩(concessions on both sides)があり、敵対関係はいくらか緩和される。何よりも、アメリカ政府はイランと関わることで、イスラム共和国に一定の正当性を与え、真剣な交渉相手として扱い、国際舞台でイランを代表する存在として認めることになる。しかし、この容認は一部のアメリカのエリート層にとっては受け入れがたいものだった。彼らは、イラン・イスラム共和国は非合法であり、存在すべきではなく、ワシントンがイランに対して取るべき唯一の政策は、イランを打倒することだと考えているからだ。それでも、ワシントンが望むものの中には、イランでしか実現できないものもある。だからこそ、ロナルド・レーガン大統領でさえ、公にはイランの聖職者たちを非難しながらも、密かに彼らと交渉していた。

トランプ大統領のイラン政策には、ほぼ毎日、矛盾した態度が見られる。あるソーシャルメディアの投稿では、イラン文明を破壊し、47年にわたる悪行に終止符を打つと脅迫する一方で、同じ日に別の投稿では、イランとの交渉が進展していると述べている。トランプ大統領は交渉に臨み、イランとの合意に楽観的な姿勢を見せたかと思えば、交渉の合間にテヘランとの戦争を始め、イラン国民に政府打倒を促す。そして1週間も経たないうちに、イランが要求に応じれば明るい未来が待っていると約束する。

アメリカはソ連に対しても同様に矛盾した態度をとっていた。1917年に共産党がロシアを掌握すると、ワシントンはソ連との国交を断絶し、小規模ながらソ連打倒を試みたことさえあった。フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領がソ連の存在を認め、モスクワと大使を交換するまでには、それから約16年もの歳月を要した。この緊張関係は第二次世界大戦後に再び表面化した。1970年代、ヘンリー・キッシンジャーのソ連との交渉政策は、悪の帝国(evil empire)の地位を強化するものとして右派から激しく非難された。キッシンジャーは常に、アメリカはソ連とはイデオロギー的に対立しているものの、核兵器管理(the control of nuclear weapons)など、モスクワとの合意なしには解決できない国益も抱えていると主張した。

イラン問題におけるキッシンジャーの立場に相当するのが、バラク・オバマ大統領である。オバマ政権は、イランに別の政権を望むかもしれないが、アメリカの国益に対する最大の脅威(ソ連の場合と同様、核兵器問題)に対処するためには、現政権と向き合わなければならないと判断した。イラン核合意は、イランの外交政策における最も危険な要素を無力化(neutralize)するための試みであり、実際にその目的は達成された。しかし、多くの右派にとって、その代償は、ある意味でイラン政権を正当化(legitimized)してしまったことだった。トランプ大統領はアメリカを核合意から離脱させたが、これはハサン・ロウハニ大統領の失脚とテヘランの強硬派の復権を招き、彼らはイランのウラン濃縮計画を加速させた。そしてトランプ大統領は再び同じディレンマに陥った。合意を結ぶべきか、それとも毅然とした態度を取るべきか?(Does he make a deal or take a stand?

現時点で、トランプ大統領が合意を望んでいることは明らかだ。しかし、合意に至れば、イラン・イスラム共和国が47年間求め続けてきたもの、つまりアメリカ国内の最も強硬な勢力からも無制限の承認(unqualified acceptance)を得ることになるかもしれない。テヘランにとって、それは多くの譲歩に値するほどの大きな報酬となるだろう。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、最新刊に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2026年5月1日、アラブ首長国連邦(UAE)が石油輸出国機構(OPEC)から離脱を表明した。OPECは1960年に設立された石油の生産量や価格を石油関連巨大資本(メジャー)から守るための国際組織であり、現在は9カ国で構成されている。OPECを主導しているのはサウジアラビアである。UAEOPEC内では2位の生産量を誇っていたが、離脱した。これによって、生産量や輸出先などを決定する自由裁量が増加することになる。
 UAEは経済多様化を進めており、石油以外の金融、観光、運輸、再生可能エネルギー、不動産などの石油以外の経済分野がGDPの約75%を占めるまでになっている。その象徴がドバイである。現在のイラン戦争ではイランからの攻撃に晒されてしまったが、世界を代表する金融センターとなっている。UAEは石油に頼る必要がない経済になっているので、OPECの「ご近所づき合い」をしなくても済むことになった。

 OPECの「ご近所づきあい」をしなくてよくなったことで、OPECは石油生産に関して、自身で決められる自由裁量を欲するようになった。OPECを支配しているのはサウジアラビアであり、サウジアラビアの意向で物事が決まる。そうなると、UAEの望むとおりにならないことも出てくる。UAEは豊富な埋蔵量を背景にして現在よりも生産量を増やすことを望んでいるが、サウジアラビアは価格の高値維持を望む。ここで利害が一致しないことで、サウジアラビアとの対立ということまで起きている。
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 そして、今回のイラン戦争である。UAEはイスラエルとの国交正常化を行っており、アメリカ軍基地も存在するために、イランからの攻撃の標的となった。ホルムズ海峡封鎖の影響も大きい。UAEはホルムズ海峡の外側にフジャイラという石油積み出し港があり、ここからホルムズ海峡封鎖の影響を受けずに、石油を輸出することができる。イラン側はフジャイラを攻撃したが、これはUAEを反イラン、親イスラエルへと動かすことになった。中東地域において新たな火種ということになる。しかも、UAEはイランとペルシア湾を挟んでの隣国である。ペルシア湾とホルムズ海峡における不安定な状況が新たに起きるということになれば、たとえイラン戦争が停戦となっても、中東地域における不安定状況が残り続ける。そうなれば、アメリカ軍は容易に撤退することはできない。UAEをイランから守るという役割を放棄することはできない。中国に肩代わりということも現在のところ考えにくい。
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 UAEが石油を増産して、石油価格が低下してくれればありがたいが、UAEとイランの関係の悪化は気がかりだ。もちろん、UAEは馬鹿ではないので、ドバイを危険に晒すようなことはしないだろうが、イランとの関係悪化はペルシア湾、ホルムズ海峡、中東地域における緊張と不安定化をもたらす。それを歓迎する国がある。イスラエルだ。イスラエルはUAEをイランに対する抑えの駒として使えることになる。イスラエルがUAEに接近しているという内容の記事を明日、ご紹介する。中東情勢は複雑怪奇、である。

(貼り付けはじめ)

UAEOPEC離脱の真の意味(The Real Meaning of the UAE’s OPEC Exit

-地政学的な再編は、石油市場だけにとどまらない、はるかに深い意味を持つ。

アミール・ハンジャニ筆

2026年5月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/01/uae-opec-exit-meaning-oil-middle-east/

アラブ首長国連邦(UAE)が5月1日にOPECOrganization of the Petroleum Exporting Countries、石油輸出国機構)を脱退する際、それは単に組織を放棄するのではなく、もはやOPECが自国の利益に合致しないと宣言することを意味する。この違いは重要である。アブダビの脱退は、単一の不満に対する反応ではなく、3つの要因が重なり合った結果である。すなわち、イラン・イラク戦争、サウジアラビアとの対立の激化、そして長年にわたり進められてきたワシントンとの戦略的再編である。

アメリカとイスラエルによるイラン戦争は、UAEを予想もしなかった形で最前線国家(a front-line)へと押し上げた。イランは、アブダビが数十年にわたりワシントンと戦略的に連携してきたことを理由に、UAE領土への攻撃を正当化した。この連携は、2024年にアメリカがUAEを「主要防衛パートナー(major defense partner)」に指定したことで正式なものとなった。イランの攻撃はフジャイラの工業地帯を直撃し、ジェベル・アリ港を揺るがし、ドバイのスカイラインを煙で覆った。UAEはこの打撃をほぼ単独で受け止めた。湾岸協力会議(GCC)加盟国は連帯を示したが、アラブ首長国連邦(UAE)大統領顧問のアンワル・ガルガシュが月曜日の湾岸諸国影響力フォーラムで指摘したように、彼らの政治的・軍事的対応は「歴史上最も弱いもの(the weakest historically)」だった。OPECの発表前夜に公に表明されたこの不満は、不吉な兆候となった。

イランとの紛争は、歴史的な規模のエネルギーショックを引き起こした。イランによる湾岸諸国のインフラへの攻撃とホルムズ海峡の航行への脅威によってサプライチェーンが寸断されたため、OPECの総生産量は3月に27%減の1日あたり2079万バレルにまで落ち込んだ。その結果生じた供給量の減少は、わずか1ヶ月で1日あたり788万バレルにも達し、1973年の石油禁輸措置や1991年の湾岸戦争をも上回った。世界の原油と液化天然ガスの約5分の1が通過するホルムズ海峡は、現在、激しい攻防にさらされる要衝となっている。このような状況下で、相当な余剰生産能力を保有し、長年にわたりその拡大に投資してきたアラブ首長国連邦(UAE)は、極めて重要な地政学的価値を持つ資産を保有している。生産割当制と合意形成型のガヴァナンスを特徴とするOPECに留まることは、もはやアブダビの利益を適切に代表できない集団的枠組みに、その資産を従属させることを意味する。こうした観点からすれば、離脱の論理は合理的であると言える(The logic of exit is, in that light, rational)。

しかしながら、今回の離脱のタイミングと方法は、より根深い問題、すなわちサウジアラビアとの長年にわたる対立の結果をも反映している。湾岸地域の安定の要と称されるリヤドとアブダビの関係は、石油の支配権をめぐる根本的な問題をめぐり、長年にわたり静かに亀裂を生じさせてきた。

この対立の根源は、2016年にロシアとOPECプラスが結成されたことに遡る。当時、UAEは自国に割り当てられた生産枠が、急速に拡大する生産能力を反映していないと感じ始めた。2020年の新型コロナウイルス感染症による価格競争では、サウジアラビアが主導して大幅な減産を実施し、この溝はさらに深まった。アブダビは、生産量増加に多額の投資を行ってきたにもかかわらず、サウジアラビアの減産は不当な負担だと考えた。2021年までに、UAEはサウジアラビアが支援する生産量拡大を公然と拒否するようになり、最終的にアブダビに日量365万バレルというより高い基本生産枠を与えることで決着がついた。この妥協は意見の相違を表面化させただけで、根本的な解決には至らなかった。

その後、緊張関係はより構造的なものへと発展した。サウジアラビアは、財政均衡と「ビジョン2030」プロジェクトの実現のために、ブレント原油価格が1バレル80ドル近辺で推移することを必要としており、供給管理と高価格維持に強い関心を持っている。一方、ドバイが金融、物流、航空のグローバルハブとして機能し、経済の多角化をはるかに積極的に進めてきたアラブ首長国連邦(UAE)は、高価格の底値への依存度が低い。アブダビが石油部門に求めるのは価格管理ではなく、生産量の最大化、つまりアブダビ国営石油会社(ADNOC)の生産能力拡大に投資された数十億ドルの収益である。これらは単なる政策嗜好の違いではなく、経済モデルの違いと言える。UAEのエネルギー大臣は火曜日、アブダビが離脱を発表する前にリヤドに相談すらしていなかったことを認めた。この事実こそが、両国関係の現状を如実に物語っている。 OPECの絶対的なリーダーであるリヤドは、プレスリリースを通じてこの離脱を知った。

この物語におけるワシントンの役割も同様に重要である。アブラハム合意、イスラエルとの安全保障パートナーシップの深化、アブダビを湾岸諸国にとって不可欠な同盟国として位置づけること、これらは全て、アメリカがUAEから手を引いた場合に政治的にも戦略的にも大きな代償を払うことになるよう仕向けるためのものだ。この賭けは今まさに試されており、ワシントンは対応策を講じたようだ。スコット・ベセント米財務長官は、OPECの発表に先立ち、アブダビへの緊急ドルスワップ協定を公に支持した。長年、OPECはアメリカ軍の保護を悪用していると批判してきたドナルド・トランプ米大統領は、事実上、アブダビが離脱するための外交的後ろ盾を与えたことになる。UAEが自由に生産したいという願望と、トランプ政権がより多くの石油を低価格で世界市場に供給したいという願望が一致しているのは偶然ではない。構造的に言えば、これはワシントンとアブダビの間で何年も前から進められてきた利害の一致なのだ。

UAEはまた、中国との関係を巧みに利用してきた。アブダビのハリド・ビン・ムハンマド・アル・ナヒヤーン王太子の最近の北京訪問は、数々の経済協定を生み出した。また、UAE当局は、ドル流動性が逼迫した場合、一部の石油取引を人民元建てで価格設定する可能性を示唆している。これは、2023年にサウジアラビアが行った戦略と同様のもので、アメリカがリヤドとの外交関係を加速させるきっかけとなった。アブダビは中国に軸足を移しているのではなく、中国を利用してワシントンからより有利な条件を引き出そうとしている。UAEの政府系ファンドは依然として、アメリカとヨーロッパの資産に圧倒的に偏っている。北京のシグナルは、軸足の転換ではなく、ワシントンに対し、アブダビとのパートナーシップを当然のことと考えてはならないという警告として、慎重に調整された交渉材料と解釈するのが適切だろう。

それでは、OPEC自体にとって、今回の離脱は何を意味するのだろうか? その損失は深刻であり、中期的には存続に関わる可能性もある。UAEは、今回の離脱以前はOPEC全体の供給量の12%を占める、OPEC3位の産油国だった。アンゴラは割当量をめぐる争いを理由に2024年に離脱した。カタールは2019年に脱退した。それぞれの離脱は特異な事例として捉えられたが、その累積的なパターンは、アブダビをも巻き込んだ戦略的乖離という同じ力によって、カルテルが内部から空洞化していく様相を呈している。サウジアラビアはOPECの組織構造と、それを主導する政治的意思を維持しているが、歴史的な供給混乱の時期に、規模が縮小し能力が低下した組織を率いることは、控えめに言っても困難だろう。リヤドは今後、構造的に弱体化したOPECを率いていくことになる。

イラン核戦争は湾岸諸国を統一するどころか、むしろ既存の断層線(fault line)に沿って分裂させた。イエメン政策、経済競争、そしてワシントンとテヘランとの関係管理に関する異なる判断など、様々な面で意見の相違が加速している。この分裂は、湾岸諸国がイランに対して取った全く異なる姿勢にも表れている。戦前のアメリカとイランの核交渉を主催し、地域で最も一貫した仲介役を務めてきたオマーンは、イランの攻撃が自国領土を直撃しているにもかかわらず、外交を呼びかけ続けている。イランと広大なガス田を共有し、歴史的にテヘランとの関係を維持してきたカタールは、共存を強調し、外務省は両国が「人類の未来において隣人となる(will be neighbors for the future of humankind)」と述べている。サウジアラビアも、イランの攻撃を受けているにもかかわらず、同様に緊張緩和を望む姿勢を示しており、サウジアラビアの経済変革計画を脅かす戦争を警戒している。

アラブ首長国連邦(UAE)は単独で強硬路線(the hard line)を貫き、賠償(reparations)、ホルムズ海峡の無条件再開(he unconditional reopening of the Strait of Hormuz)、そしてイランの国力の全面的な縮小を要求している。OPECからの離脱は、アブダビをリヤドだけでなく、より広範な湾岸諸国の合意からも切り離す地政学的姿勢の結果である。UAEは、カルテルの一員としてではなく、主権国家として行動することが自国の利益に最も資すると結論付けた。この判断が正しかったかどうかは、戦争がどのように終結し、そこからどのような地域構造が生まれるかにかかっている。OPECの決定が明確に示しているのは、共通の制度と統一された利益という虚構の上に築かれた旧来の湾岸諸国間の協定はもはや存在しないということだ。

※アミール・ハンジャニ:クインシー責任ある国家運営研究所の理事であり、ニューヨークに拠点を置く戦略アドバイザリー会社KARVのパートナーである。Xアカウント:@ahandjani

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 古村治彦です。

 今でも、なぜトランプがイラン回線に踏み切ったのかということには様々な説明がなされるが、どれも一長一短あり、専門家たちの専門的な知見や経験に基づいた説明は一面的であり、バイアスがかかり、ヴェクトルがかかっているものだ。アメリカやイスラエルひいき、イランひいきや反アメリカといった立場で説明する内容は全く異なる。また、どの情報に焦点を当てるかということでも違ってくる。これが一番という説明はない。できるだけ多くの説明を見て聞いて、読んで、自分で判断するしかない。もしくはそれらを総合するしかない。そこには素人と玄人の大きな差は存在しない。

 それでも、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がドナルド・トランプ米大統領の決断に大きな役割を果たしたことは間違いない。ネタニヤフがトランプに対して行ったことは以下の通りだ。(1)ネタニヤフはイランが核兵器を増強しようとしている(2025年後半からは再び増強しようとしている)と説得し続けた(2025年に6回の訪米)、(2)2025年6月の12日間のイラン攻撃が予想外の大成功した(トランプは消極的だったが成功したことで自身の功績と主張)、(3)ネタニヤフが2025年7月にホワイトハウス訪問時にノーベル平和賞推薦状を手交した、(4)2025年12月にイスラエルとユダヤ人への貢献を讃えて、「イスラエル賞」を贈呈(反ユダヤ主義との闘い、イスラエルの自衛権支持、アラブ諸国との国交正常化への貢献を理由にして)。トランプの歓心を買い、トランプにイスラエルの意向を実現させるというところまで、ネタニヤフはトランプを「誘導」した。

 そして、私が極め付きだと考えたのは、「イランを徹底的に叩いて、体制転換までさせることに成功すれば、これが中東地域における最後の大きな戦争ということになり、それ以降、アメリカはイスラエルに巨額の軍事支援(年間数兆円規模)をしなくて済む」というネタニヤフの殺し文句だ。中東地域において、最後の大きな戦争を実施して勝利し、イランの核兵器開発能力を除去し、体制転換、民主化を実現し、イスラエルの安全保障環境の改善と中東地域の安定に貢献するということになれば、トランプ大統領は「偉大な大統領」として、歴史に名を残すことになる。これはトランプの肥大化した自尊心を大いに満足させる内容だ。そのために、様々なリスクや懸念を振り払い、戦争を決断したということになるだろう。そこまでトランプを誘導したネタニヤフは見事と言うしかない。

しかし、現実は甘くない。目論見が外れ、戦争は膠着状態に陥り、イランはホルムズ海峡封鎖一本で勝負を挑んでいる。アメリカとイスラエルは、トランプとネタニヤフの賭けのために、現在は不利な状況にある。それでも、ホルムズ海峡のアメリカ軍による封鎖ということで、何とかイーヴンに持ち込もうとしている。この状況で、何とか和平交渉を進め、停戦を実現することが世界のためである。そして、そのために裏方で動いているのが中国である。こうして見ると、世界の構造が大きく変化していることが分かる。アメリカは世界の警察官や仲介者としての役割から外れている。平和の構築者として中国が台頭しつつある。世界構造の大変化を私たちは目撃している。

(貼り付けはじめ)

トランプは、ネタニヤフが約束した「容易な」イラン戦争の現実を全く理解していなかったのか?(Was Trump oblivious to the realities of Netanyahu’s promised ‘easy’ war on Iran?

-アメリカ政府高官たちは、ネタニヤフ首相の主張は誇張されており、イスラエルにとって広範囲に及ぶ影響を及ぼす可能性があると考えている。

ピーター・ベアウモント筆

2026年4月6日

『ザ・ガーディアン』紙

https://www.theguardian.com/world/2026/apr/06/trump-iran-war-netanyahu-israel

昨年12月29日、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がドナルド・トランプの所有するマール・ア・ラゴ・クラブに到着した際、イスラエル首相は訴えと、それとなく示唆的な誘いを携えていた。

2025年6月の12日間にわたるイラン核戦争でアメリカがイランの核施設爆撃に参加した後、数カ月にわたり防空システムやその他のミサイルを補充してきたイスラエルは、今度はより具体的な目標を掲げ、再び攻撃に臨む準備を整えていた。

両首脳が主催した記者会見で、トランプ大統領はネタニヤフ首相のいつもの発言を忠実に繰り返したように見えた。「イランが再び核兵器を増強しようとしていると聞いている」とトランプは述べた。「そうなれば、私たちはイランを叩き潰さなければならない。徹底的に叩き潰すだろう。だが、そうならないことを願っている」と続けた。

イスラエルの指導者ネタニヤフは、過去の指導者たちと同様に、トランプ大統領の自尊心に訴える切り札を用意していた。それは、イスラエルとユダヤ民族への多大な貢献を称え、イスラエル最高栄誉である「イスラエル賞(Israel Prize)」を授与することだった。この賞は、イスラエル人以外にはめったに授与されない。

『アトランティック』誌によると、ネタニヤフ首相は、取引主義で知られるトランプ大統領に対し、もう一つのメリットを提示した。イランを打ち負かすことで、イスラエルはアメリカからの軍事援助への莫大な依存から脱却できるというのだ。

複数の報道が明らかにしているように、この会談は、ネタニヤフ首相とトランプ大統領がその後数週間にわたって行った数多くの接触の1つに過ぎなかった。ネタニヤフ首相は、前回の戦闘よりもはるかに壮大な野望を掲げ、イランとの全面的な紛争に対するアメリカの参加を確約しようとしていた。

イスラエルの諜報機関モサドが作成した評価によると、脆弱で国民の支持を得られていないイラン政権は、国内の抗議活動によって揺らぎ、崩壊寸前の状態にあった。イラン国民は、これらのデモに対する致命的な弾圧に激怒していた。

これは、短期間の作戦で歴史的な好機となるはずだった。一部の報道によれば、イスラエル首相が提示したもう一つの利点は、トランプ大統領がイランによる暗殺計画への報復を果たせることだった。

その後明らかになったことからはっきりしているのは、イランに関する自称「専門家(expert)」であるネタニヤフ首相と、イスラエル軍の幹部たちは、容易な戦争という彼らの主張に全力を注いでいたということだ。

戦争初日の2月28日、匿名の複数のイスラエル政府当局者は『ハアレツ』紙に対し、イランの最後のミサイル発射装置が破壊されれば、イランの脅威は数日で収束するだろうと説明した。

同紙の別の記事では、イスラエルの軍事計画担当者は、せいぜい3週間で終わると想定した戦争のためにミサイル迎撃ミサイルを備蓄していたと報じた。

この紛争を独立した紛争として捉えると、イスラエルだけでなくアメリカも関与していると言えるが、イスラエルの戦争の一部であり、2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃以来、ネタニヤフ首相が展開する「恒常的紛争状態(state of permanent conflict)」における最新の戦線である。

この攻撃は、イスラエルの戦略的計算を根本から変えた。そして、ガザ地区、レバノン、そしてイランへと拡大する地域紛争、イエメンのフーシ派、シリア内陸部における紛争において、共通のテーマが浮かび上がってきた。それは、ネタニヤフ首相が勝利を約束し宣言するものの、現実は常に儚く、傲慢なものに過ぎないということだ。

ガザ地区では、凄惨な死と破壊の惨劇にもかかわらず、衰退したハマスは依然として廃墟の中に生き残っている。ヒズボラが敗北したと宣言されたレバノンでは、同組織は国境を越えてロケット弾を発射する能力を維持しており、イスラエルはかつて失敗し、ヒズボラの台頭を招いたのと同じ、レバノン南部占領政策に再び陥っている。

イランでは、最高指導者アリ・ハメネイ師をはじめとする高官が殺害されたにもかかわらず、「首脳部排除(decapitation)」戦略はネタニヤフ首相が約束したような迅速な政権交代には繋がらず、少なくとも今のところは、イスラム革命防衛隊(the Islamic Revolutionary Guards Corps)を中心とした政権の強化という結果に終わっている。

影響力と説得力の正確な力学は依然として不明瞭だが、トランプ政権高官の間でも、ネタニヤフ首相が過剰な約束をしたという認識が広まっていることは明らかだ。特に、副大統領のJD・ヴァンスとネタニヤフ首相の間で交わされたとされる、その点について議論が交わされたとされる険悪な会話の内容が、その認識を強めている。

先週、Axiosはネタニヤフ首相の愛称を用いたアメリカの情報筋の話として、「開戦前、ネタニヤフ首相は政権交代が実際よりもはるかに容易だと大統領に説得した。副大統領はそうした発言の一部について冷静に見ていた」と報じた。

しかし、より慎重な見方をする者もいる。元駐イスラエル米大使のダニエル・C・カーツァーと、カーネギー国際平和財団のアーロン・デイヴィッド・ミラーは、トランプを「意欲的で全面的に協力するパートナー(a willing and full partner)」と評した。

カーツァーとミラーは次のように指摘している。「トランプはリスクを厭わず、ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を追い落した後、自ら作り出した軍事力と無敵のオーラに酔いしれていた。ネタニヤフ首相が紛争のタイミングを決定した可能性はあるが、トランプはおそらく既に戦争への道を歩み始めていた」。

戦争が2カ月目に突入し、終結の見通しが立たない中、ホルムズ海峡の封鎖によって世界経済が混乱に陥る中、ネタニヤフ首相の「容易な」戦争という約束がもたらした悪影響は、周辺地域をはるかに超えて広がっている。

その点において、長年にわたり紛争を支持してきたネタニヤフ首相の役割に対する認識は、トランプ大統領自身の積極的な関与と同様に重要である。

安全保障専門家のリチャード・K・ベッツとスティーヴン・ビドルが先週の『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄稿したように、「開戦からわずか数週間で、この戦争は数十億ドルもの直接支出を招き、ウクライナへの支援を縮小させ、アメリカの最新鋭兵器の在庫に危険なほどの負担をかけ、世界経済に衝撃を与えた」。

また、この紛争はNATOの力を弱体化させると同時に、中国、ロシア、北朝鮮を勢いづかせる可能性もある。ネタニヤフ首相は聖書になぞらえてイランに「十の災い(10 plagues)」を下すと豪語しているが、イランとヒズボラのミサイルが依然としてイスラエルに着弾している現状を考えると、過越祭は防空壕に目を光らせながら過越祭を過ごさなければならないだろうと一部の人々は認識している。

ネタニヤフ首相とイスラエルにとって、外交と世論の面で長期的な影響が生じる可能性が高く、これはイラン問題と並んで、長年イスラエル首相を悩ませてきた問題である。

多くの外国の首都で既に警戒、あるいは露骨な不信感をもって見られているネタニヤフ首相と彼の戦争は、トランプが仲介したアブラハム合意という形で築かれたイスラエルとペルシア湾岸諸国との緊張緩和を脅かしている。

ランド研究所戦略・ドクトリン・プログラム責任者であるラファエル・コーエンは、「一部のアラブ諸国は、自らが望んでいない戦争に巻き込まれたとしてイスラエルを非難する可能性がある」と述べた。コーエンはさらに、トランプ大統領とネタニヤフ首相が約束したように中東地域の地政学的状況は変化するかもしれないが、「少なくともイスラエル側につく国々という点においては、事態が収束した後には大きく様変わりする可能性がある」と指摘した。

ペルシア湾岸諸国以外では、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が先週、アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃はテヘランの核開発計画に対する永続的な解決策にはならないという、より広範な見解を反映した発言をした。

マクロン大統領は韓国で、「たとえ数週間であっても、標的を絞った軍事行動では、核問題を長期的に解決することはできない」と述べ、ホルムズ海峡を開放するための軍事作戦は「非現実的(unrealistic)」だと批判した。「外交的・技術的な交渉の枠組みがなければ、状況は数カ月後、あるいは数年後に再び悪化する可能性がある」と付け加えた。

アメリカでは、各種世論調査によると、イスラエルへの支持は政治的立場を問わず低下しており、特に民主党支持者と若年層で顕著である。アメリカとイスラエルによるイラン攻撃の前日に発表されたギャラップ社の調査によると、ギャラップ社が2001年にこの質問の調査を開始してから初めて、アメリカ国民のパレスティナ人に対する同情度がイスラエル人に対する同情度を上回ったことが明らかになった。

その後も、この低下傾向はアメリカのユダヤ系有権者の間でも続いている。Jストリートが委託した調査では、ユダヤ系有権者の60%がイランへの軍事行動に反対し、58%がアメリカの国力を弱体化させると考えていることが分かった。また、3分の1が、この戦争はイスラエルの安全保障を弱体化させると考えていると回答した。

2009年から2010年までバラク・オバマ大統領のホワイトナイト大統領首席補佐官を務め、元駐日米大使でもあるラーム・エマニュエルは、『セマフォー』誌の取材に対し、将来的にはイスラエルがアメリカの軍事支援の唯一の受益国としての地位を失う可能性があると語った。

「彼らは、私たちの兵器を購入する他のどの国とも同じように制限を受けることになるだろう。イスラエルは他の国と同じ扱いになるだろう。……今は状況が全く違う。そして、アメリカの納税者があなたたちのために費用を負担することはないだろう」。

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ドナルド・トランプ側近の中でイラン攻撃に最も懐疑的な声を上げていたのがヴァンス:『ニューヨーク・タイムズ』紙報道(Vance most skeptical voice in Trump’s inner circle on Iran strikes: New York Times report

マックス・レゴ筆

2026年4月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/5820244-vance-warns-iran-war-chaos/

ニューヨーク・タイムズ紙が火曜日に報じたところによると、JD・ヴァンス副大統領はドナルド・トランプ大統領によるイランへの全面攻撃承認に反対していた。

ジョナサン・スワンとマギー・ハーバーマンが発刊予定の著書『政権転覆(体制転換):ドナルド・トランプ皇帝大統領の内幕(Regime Change: Inside the Imperial Presidency of Donald Trump)』で詳述している新たな調査によると、ヴァンス副大統領はアメリカがイスラエルと連携してイランに対する政権転覆(体制転換)戦争を開始することに懐疑的な見解を示していた。

ザ・ヒル誌はホワイトハウスとヴァンスのオフィスにコメントを求めた。

イラク戦争に従軍した元米海兵隊員であるヴァンスは、2024年の大統領選挙前にイランと戦争することに反対していた。

ヴァンスは2024年10月にコメディアンのティム・ディロンに次のように語った。「私たちの利益は、イランと戦争をしないことにあると私は堅く信じている。それは膨大な資源の浪費となり、我が国にとって莫大な費用がかかるだろう」。

スワンとハーバーマンの最新の報道によると、ヴァンス副大統領は現在進行中の戦争に至るまでの過程で、同様の主張を繰り返していた。トランプ大統領が1月にイラン政府に対し、抗議デモ参加者を殺害しないよう警告した際、ヴァンス副大統領はトランプ大統領に対し、全面的な作戦(a full-scale operation)ではなく、限定的な懲罰的攻撃(a limited, punitive strike)を承認するよう促した。

トランプ大統領が後者の選択肢(全面的な作戦)に固執していることが明らかになると、ヴァンスは圧倒的かつ効率的な方法で選挙運動を展開すべきだと主張した。報道によると、ヴァンスは他の政権幹部たちの立ち会いのもと、トランプに対し、イランとの戦争は地域的な混乱と多数の犠牲者を生む可能性があると伝えたという。

アメリカに拠点を置く人権活動家通信社(HUNRA)によると、月曜日の時点で、紛争勃発以来、少なくとも248人の子供を含む1665人の民間人がイランで死亡している。また、イランの攻撃によりアメリカ軍兵士7人が死亡し、先月イラクで空中給油機が墜落した事

ヴァンスはさらに、2024年の大統領選でトランプ・バンス陣営を支持した有権者たちは、自分たちが新たな戦争を起こさないと約束したことを理由に、裏切られたと感じるだろうとトランプ大統領に伝えた。

タッカー・カールソンやマージョリー・テイラー・グリーン前連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)といった保守派の著名人がイラン戦争を批判する一方で、先月実施されたCBSニューズ・YouGovの世論調査では、自らを「MAGA共和党員」と認識する回答者の75%が、イランに関する大統領の意思決定について「大いに」信頼をしていると答えた。

報告書によると、ヴァンス副大統領はイランとの戦争がアメリカの軍需物資備蓄にどのような影響を与えるかについても懸念を示した。米統合参謀本部議長ダン・ケイン大将も、この作戦が備蓄に及ぼす影響について詳細に説明したが、トランプ大統領が「エピック・フューリー(壮絶な怒り)作戦」を承認すべきかどうかについては意見を述べなかった。

報告書はまた、ヴァンス副大統領が2月11日にホワイトハウスで行われたトランプ大統領、政権幹部、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、イスラエル当局者との会合に出席していなかったと述べている。当時、副大統領はアゼルバイジャンに滞在しており、イルハム・アリエフ大統領と会談していた。

報道によると、トランプ政権幹部の中には、この紛争について異なる見解を持つ人物たちもいた。ピート・ヘグセス国防長官はイランへの攻撃を最も強く主張していた一方、マルコ・ルビオ国務長官は「どちらとも言えない」立場だったとされている。

しかし、イラン戦争が始まって以来、ルビオ長官は、アメリカはイランが核兵器を開発することを阻止し、弾道ミサイル計画を破壊することを目的としていると主張し、戦争を正当化してきた。

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イランとの戦争に踏み切った決断:ドナルド・トランプ大統領は何を考えていたのか?(The Decision to Go to War with Iran: What Was Trump Thinking?

ウィリアム・キーナン筆

2026年4月12日

『タイムズ・オブ・イスラエル』紙ブログ

https://blogs.timesofisrael.com/the-decision-to-go-to-war-with-iran-what-was-trump-thinking/

ドナルド・トランプ大統領が2月下旬にイランへのアメリカ・イスラエル共同攻撃を承認した決定は、その決定に至った経緯や大統領の思考を形成した要因について激しい議論を巻き起こした。この出来事を最も詳細に再現したのは、トランプ大統領の側近に深く関わっていると広く見なされている『ニューヨーク・タイムズ』紙のマギー・ハーバーマン記者とジョナサン・スワン記者の報道である。彼らの記事は、近刊予定の著書『政権交代:ドナルド・トランプ皇帝型大統領の内幕(Regime Change: Inside the Imperial Presidency of Donald Trump)』のための取材に基づいている。ホワイトハウスは記事の内容を確認しておらず、トランプ政権当局者も詳細を裏付けていない。しかし、彼らの報道は、攻撃に至るまでの内部力学と、大統領の判断を左右した、相反する圧力について、入手可能な最も明確な説明を提供している。

彼らの再現によると、決定的な瞬間は2月11日に訪れた。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、ホワイトハウスのシチュエーションルームでトランプ大統領と側近に対し非公開のブリーフィングを行った時である。シチュエーションルームは、外国首脳との直接会談にはほとんど使われない場所である。ネタニヤフ首相は数カ月にわたり、アメリカに対しイランへの大規模攻撃に同意するよう働きかけており、今回のプレゼンテーションは、長年の敵対国を排除し、中東の戦略的状況を再構築する機会として位置づけられた。会合は情報漏洩を防ぐため意図的に小規模に抑えられ、他の閣僚らは会合が開かれていることすら知らされていなかった。特に目立ったのは、外交訪問でアゼルバイジャンに滞在していたJD・ヴァンス副大統領の欠席である。急な招集のため、彼は間に合わなかった。出席者には、スージー・ワイルズ首席補佐官、マルコ・ルビオ国務長官、ピート・ヘグセス国防長官、ダン・ケイン統合参謀本部議長、ジョン・ラトクリフCIA長官、ジャレッド・クシュナー、スティーヴ・ウィトコフ特使たちがいた。

●ネタニヤフ首相の立場(Netanyahu’s Position

ネタニヤフ首相のプレゼンテーションは約1時間続き、出席者によると、自信に満ちた単調な口調で行われた。彼の主張は4つの要素から成っていた。イランのミサイル能力は数週間以内に破壊できる、イラン政権はホルムズ海峡を封鎖できない、モサドの秘密支援を受けた街頭デモが再開され、政権交代につながる可能性がある、そしてクルド人戦闘員がイラクから地上戦線を開く可能性があるというものだった。イスラエル側は、イラン最後のシャーの亡命中の息子で、アメリカとイスラエルに戦争開始を強く求めていたレザ・パラヴィーを含む、神権政治後のイランの指導者候補のヴィデオモンタージュを上映した。ネタニヤフ首相は、イランの指導部は脆弱で、軍事力は過剰に拡大しており、国民は反乱の準備が整っていると主張した。彼はトランプ大統領に対し、リスクは管理可能であり、戦略的な見返りは計り知れないと断言し、切迫感と必然性を伝えた。同席者が潜在的なリスクを指摘すると、彼はそれらを認めつつも、1つの核心的な点を強調した。それは、何もしないことのリスクは行動することのリスクよりも大きいという彼の見解だった。

●トランプの立場(Trump’s Position

ネタニヤフ首相が売り込みに苦労したとすれば、報道はトランプを熱心な買い手として描いている。トランプのイランに対する見解は以前からタカ派的だった。彼は数年前に核合意から離脱し、この会談の8カ月前にイランの標的への大規模攻撃を命じ、イランを対峙すべきテロ国家と繰り返し表現していた。ネタニヤフ首相がプレゼンテーションを終えると、トランプは「私には良い考えだと思える(Sounds good to me)」と簡潔に賛同した。側近たちはこれをほぼゴーサインと解釈し、報道はトランプの反応が、彼が以前から抱いていたイランへの敵意と、強く自信に満ちた外国の指導者に好意的に反応する傾向の両方を反映していると示唆している。

ハーバーマン記者とスワン記者は、トランプが自身の情報・諜報機関関係者の慎重な意見を軽視する傾向があると指摘している。トランプは情報・諜報機関関係者を、しばしば過度に微妙なニュアンスを帯びていたり、悲観的すぎたりしていると見なしているのだ。彼はこれまで、大胆かつ簡潔な解決策を好む傾向を示しており、時には断固とした外国の国家元首の保証をより信頼してきた。報道によれば、ネタニヤフ首相の確信はトランプ大統領の直感と一致しており、大統領は当初からこの計画を受け入れたという。注目すべきは、トランプ大統領が2月26日に上級補佐官たちに正式に意見を求めた時(攻撃の最終命令を出す2日前)、ニューヨーク・タイムズが引用した複数の補佐官によると、彼はすでに数週間前に事実上決断を下していたということだ。

●へぐセス国防長官の立場(Hegseth’s Position

ピート・ヘグセス国防長官は、トランプ大統領の側近の中で最も熱心に戦争を主張していた人物だった。トランプ大統領が最終命令を下す2日前、ヘグセス長官は集まった関係者に対し、「いずれイランを何とかしなければならないのだから、今やってしまえばいい」と述べた。彼の姿勢は、出席していた他のほとんどの当局者が示した懐疑的な見方とは対照的であり、報道では彼が行動を促す最も強い内部の推進者であったとされている。

●ヴァンス副大統領の立場(Vance’s Position

JD・ヴァンス副大統領は、2月11日のシチュエーションルームでのブリーフィングには出席していなかった。ネタニヤフ首相が提案を行った時、彼はまだアゼルバイジャンに滞在していた。翌日の2月12日、アメリカ政府当局者のみによるフォローアップ会議でヴァンスは帰国し、ネタニヤフ首相の計画についてより広範な議論に参加した。報道によると、ヴァンスはトランプ大統領に対し、イランとの戦争は恐ろしい考えだと直接伝えた唯一の高官だった。ヴァンスは、地域的な混乱、多数の死傷者、そしてトランプ大統領の反介入主義支持者を敵に回すという政治的リスクについて警告した。彼らはこの決定を裏切りとみなすだろうとヴァンスは述べた。また、ヴァンスは軍需物資の問題についても懸念を示した。生存への強い意志を持つ政権との戦争は、将来の紛争においてアメリカをはるかに不利な立場に置く可能性があると指摘した。

報道は、トランプ大統領の方針が明確になるにつれて、ヴァンスの立場が変化していった様子を捉えている。当初、彼は一切の攻撃に反対していた。何らかの介入が避けられないと判断されると、彼はより限定的な行動へと舵を切ろうとした。そして、大規模な作戦が確実視されるようになると、目標を迅速に達成するためには圧倒的な武力をもって作戦を実行するべきだと主張した。ヴァンス副大統領の反対意見にもかかわらず、トランプ大統領の方針は変わらなかった。

●ルビオ国務長官の立場(Rubio’s Position

マルコ・ルビオ国務長官は、政権交代の実現可能性について明確な懐疑的な見解を示した。2月12日のフォローアップ会議で、ラトクリフCIA長官が政権交代のシナリオを「茶番劇」と評した後、ルビオは口を挟み、「言い換えるならば、でたらめということだ(In other words, it’s bullshit.)」と率直に述べた。しかし、ルビオはトランプ大統領の決定に直接反対したり、大統領に強く反対意見を述べたりはしなかった。報道によると、彼は最終的には大統領の直感に従ったとされており、これは戦時内閣の懐疑的なメンバーのほとんどと同様であった。

●ケイン米統合参謀本部議長の立場(Caine’s Position

米統合参謀本部議長ダン・ケイン大将は、作戦上の根拠に基づいた最も的確な警告を発した。ケイン大将はトランプ大統領に対し、ネタニヤフ首相が爆撃作戦で達成できることを「過度に売り込みされている(oversold)」と述べ、率直に次のように述べた。「大統領閣下、これは私の経験上、イスラエル軍の常套手段です。彼らは過度に売り込みを行い、計画は必ずしも十分に練られている訳ではないのです」。その後の数日間、ケイン大将はトランプ大統領に、報道によれば「憂慮すべき軍事的評価(alarming military assessment)」を伝えた。イランとの戦争は、ウクライナとイスラエルへの関与で既に逼迫しているアメリカの兵器備蓄、特にミサイル迎撃ミサイルの備蓄を大幅に減少させるだろう、というものだ。ケイン大将はまた、ホルムズ海峡の安全確保の途方もない困難と、イランが海峡封鎖に動くリスクについても指摘した。トランプ大統領は、イランがそのような事態になる前に降伏するだろうと想定し、この可能性を一蹴した。

●ラトクリフCIA長官の立場(Ratcliffe’s Position

ジョン・ラトクリフCIA長官は、イスラエルの計画の前提を体系的に解体した。彼は、迅速な攻撃によって政権交代を達成するという考えを「茶番(farcical)」と断じ、イランの政治体制は強固で、その治安機関は深く根付いていると主張した。ラトクリフの評価は、イランの現政権は不人気ではあるものの構造的に強固であるという情報・諜報機関の長年の見解を反映している。2月12日のラトクリフのブリーフィングでは、ネタニヤフ首相のプレゼンテーションを4つの構成要素に分解し、率直な結論を示した。ハメネイ師の殺害とイランの軍事力投射能力の低下は達成可能とみなされたものの、政権交代は現実的な目標ではないとされた。報道によると、トランプ大統領は、これまで複雑すぎると考える情報機関の評価を軽視してきたように、これらの警告を軽視したようだ。

●結論(Conclusion

ネタニヤフ首相はイラン攻撃売り込みに苦労したが、トランプ大統領は熱心に受け入れた。イランに対するトランプの見解は既にタカ派であり、8カ月前にはイランの標的への大規模攻撃を命じていた。この報道で最も重要な点は、トランプ大統領が自身の補佐官や情報機関関係者からの3つの具体的な警告を無視したとされることだ。その3点とは、政権交代の実現可能性、イランがホルムズ海峡を封鎖する可能性、そして戦略目標達成に必要な時間とコストだ。少なくともホルムズ海峡に関しては、その後の出来事が補佐官たちの指摘が正しかったこと、そしてトランプ大統領の判断が間違っていたことを証明した。

このパターンは、トランプ大統領の意思決定に関するこれまでの報告と一致する。彼はしばしば、複雑すぎると考える情報・諜報機関の評価を退け、代わりに、自身が強いと考える指導者が提示する大胆で単純化された回答に傾倒してきた。今回の報道によると、ネタニヤフ首相の自信は、イエスと答える傾向のある大統領、行動を急ぐ国防長官、そして(ヴァンス副大統領という例外を除いて、懐疑的な閣僚たちでも最終的に対立するのではなく譲歩したという状況に遭遇したようだ。こうした力関係の結果は、今もなお明らかになりつつある。

※ウィリアム・キーナン:中東地域情報・諜報アナリスト(引退)で、NATOと米国防総省勤務経験を持つ。15年以上にわたり、中東地域・北アフリカ地域に駐在した。著書に『アラビア王国での9年間(ARABIA - Nine Years in the Kingdom)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イラン戦争の終結について度々言及している。戦争とは国際的な問題を解決する手段としての機能を持つ。話し合いをしても解決ができないという場合に最後は武力に訴えるということにあり、国際問題解決の最終手段である。今回のアメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、宣戦布告なしの先制攻撃であり、その点で国際法違反である。さらに、イランとはオマーンを仲介役として核兵器開発に関する交渉を行っていたこともあり、騙し討ちでもある。イランは報復攻撃を行い、ホルムズ海峡の餞別的な封鎖(航行できる船舶を選別している)を実施して対抗している。

 軍事力、攻撃能力だけ見れば、アメリカとイスラエルはイランを圧倒している。その強大な軍事力を叩きつければ、イラン政府は機能停止状態に陥り、イラン国民は現体制への不平不満から政府を打倒し、新たな政府と政権が樹立され、親米路線になるという見通しがあったがそれは完全に外れてしまった。イランは武力面でのエスカレーションを実施せずに、ホルムズ海峡の封鎖という手段を用いて、非対称戦を戦い、世界を巻き込むという手段で、状況を有利に進めている。アメリカとイスラエルは戦争の目的である、イランの弱体化を田性出来ずに、自分たちが追い込まれている。下記論稿にある通りに、「戦闘では勝ちながら、戦争には負けている」ということになる。

 イラン戦争は一刻も早い停戦が望ましい。アメリカ国民の支持も得られていない中で、トランプ大統領としては、できれば誰かに責任を押し付けて(ピート・ヘグセス国防長官あたりか)、「勝利宣言」をして、イランから手を引きたいということになるだろう。そうなれば、イスラエルは一緒に「勝利をした」と宣言して、一旦は矛を収めるだろう。しかし、戦争目的は達成されていない。実質は敗北ということになる。それでも、イラン戦争は停戦こそ望ましい。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプはイランとの戦争に敗北しつつある(Trump Is Losing the War in Iran

-開戦から1カ月が経った現在、イラン・イスラム共和国は生き残ること自体が勝利と言えるだろう。

ラヴィ・アグラワル筆

2026年3月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/30/trump-war-iran-israel-lebanon-gulf-winner-loser/

アメリカはイランにおいて成功を収めているだろうか? それは誰に質問するかによって答えが変わる。先週発表されたピュー・リサーチ・センターの調査によると、ドナルド・トランプ米大統領のイラン紛争への対応を批判するアメリカ人は61%、支持するアメリカ人は37%だった。この数字はトランプ大統領への支持率を反映しており、意見の分裂は主に党派的な傾向に基づいていることを示唆している。注目すべきは、共和党支持者の10人中7人がホワイトハウスのこれまでの戦争遂行を支持しているのに対し、民主党支持者では10人中わずか1人しか支持していない点だ。

アメリカとイスラエルによるイランへの共同攻撃の成功を検証するう1つの方法は、被害の規模を分析することだろう。この指標で見ると、戦闘開始から1カ月が経過した時点で、アメリカとイスラエルはイランに与えた損害をはるかに上回っている。最高指導者アリ・ハメネイ師を含むイランの政治・軍事指導者数名が殺害され、イランの空軍と海軍はほぼ壊滅状態となり、核開発計画はさらに後退した。イランの弾道ミサイル発射能力は低下しており、イランの主要同盟諸国の1つであるレバノンを拠点とする武装組織ヒズボラは激しい砲撃を受けている。一方で、イランは主要な交通・貿易ルートを遮断することに成功し、今のところ大きな永続的な損害を与えていないという点も注目に値する。

それでは、なぜアメリカは戦い(the battle)には勝利しているが、戦争(the war)には敗北しているように感じられるのだろうか? その答えは、おそらく期待(expectations)にあるだろう。そしてこの点において、イラン政権の存続と、世界経済に打撃を与え、アメリカの敵対諸国を潤す能力自体が、イラン・イスラム共和国が優位に立っていることを示唆している。戦争が起きた場合、イランは常に存続と混乱を戦略目標としてきた。トランプ大統領の明らかな苛立ちは、彼が望んでいた迅速な作戦(the quick operation)が実現していないことを明確に示している。

アメリカが敗北する可能性があると見なされる第一の理由は、開戦当初のアメリカの過剰な目標設定にある。2月28日にトゥルーソーシャルに投稿された動画の中で、トランプ大統領は、イランのミサイル開発能力の喪失、代理勢力による地域不安定化の阻止、そして核兵器保有の阻止に加え、政権交代・体制転換(regime change)を望んでいるかのように示唆した。しかし、これらの目標はいずれも今のところ達成されていない。

開戦当初、『フォーリン・ポリシー』誌の複数のアナリストが指摘したように、イラン・イスラム共和国は政権存続を確実にするため、主要な政治・軍事要職の後継者を慎重に選定していた。確かにミサイル発射能力は低下しているものの、イランはイスラエルや地域のアメリカの同盟諸国に向けてミサイルを発射し続けている。テヘランは昨年(2025年)6月のアメリカとイスラエルによる攻撃後、わずか数カ月でミサイル計画を再構築した実績があり、今回の戦争が終結すれば再び同様の行動に出る可能性が高い。ヒズボラは壊滅的な打撃を受けたものの、存続している。そして、イランが紛争を長期化させるための周到な計画を立てている証拠として、イエメンのフーシ派反乱軍が最近になって参戦し、週末にはイスラエルに向けてミサイルを発射した。さらに、イラン国内には依然として約440キログラムの高濃縮ウランが存在し、新たな指導者たち(しかも、より復讐心に燃える指導者たち)が戻ってくるのを待っている。

イランとの戦争をアメリカの失敗とみなす2つ目の理由は、イランがこれまでに世界に与えた莫大な経済的コストである。ジェット燃料の価格は今年120%上昇した。世界の原油価格の主要指標であるブレント原油も同時期に87%以上上昇した。これは主に、イランがホルムズ海峡をほぼ完全に封鎖したことが原因である。ホルムズ海峡は通常、世界の原油の5分の1が毎日通過する海峡であり、液化天然ガス(LNG)の20%も同様だ。LNGの供給途絶に加え、イランのミサイル攻撃でカタールの主要ガス田が損傷したことで、今月ヨーロッパでは天然ガス価格が70%以上も急上昇した。ホルムズ海峡は、世界のヘリウム供給量の3分の1(子供の風船だけでなく半導体製造にも重要な成分)と世界の肥料販売量の3分の1の輸送路でもある。封鎖が長引けば長引くほど、世界はエネルギー危機に加え、半導体と食糧の危機にも直面する可能性が高まる。こうした波及効果は、イラン・イスラム共和国が黙って引き下がるつもりはないということを世界に知らしめる手段と言えるだろう。エジプト、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、サウジアラビア、南アフリカで世論調査を実施したゲオポルによると、今回の紛争とその世界的なコストについてイランを非難する回答者はわずか18%にとどまった。その代わりに、29%がアメリカを、38%がイスラエルを非難している。これは、中立的な観察者たちが有望視していた外交交渉の最中に攻撃が発生したことが一因であることが考えられる。

アメリカが今回の戦争で敗者となりつつある第三の理由は、ジョージ・W・ブッシュ政権下でのイラク戦争の失敗とは異なり、今回は国内的にも国際的にも承認を求めなかったことにある。今回は、民主政治体制の推進やルールに基づく秩序といった建前は存在しなかったのだ。この戦争においてアメリカが真に味方としているのはイスラエルだけだが、イスラエル自身もここ一世代で最も国際的に孤立し、支持を集めなくなっている。トランプ大統領は、まずNATO同盟諸国に支援を要請し、その後、支援が得られないと悟ると、支援は必要ないと否定するという、極めて恥ずべき行動に出た。この戦争によって、大西洋を挟んだ関係は弱体化した。そして、ワシントンが自らルールを積極的に破壊している体制のリーダーとして振る舞う能力もまた、弱体化した。

第四に、この戦争はアメリカの敵対諸国を潤すという予期せぬ結果をもたらしている。原油価格の高騰を抑制するため、米財務省はイランとロシアに対する既存の石油制裁を解除した。その結果、テヘランは戦争開始前よりも多くの原油収入を日々得ている。一方、モスクワは紛争が続く限り、毎日1億5000万ドルの石油収入を得ており、この資金は間違いなくウクライナでの戦争に使われるだろう。ペルシア湾岸諸国から石油の半分以上を調達している中国にとっては、状況はより複雑だ。北京は供給面で多少の制約に直面しているものの、外交政策はワシントンが常に直面しているような、複雑な問題に比較的縛られていない。中国軍指導部は、アメリカがミサイル迎撃ミサイルをどれほど急速に消費しているかを注視している可能性が高い。それは、アメリカは他の分野での攻撃を抑止する能力が低下することになるからだ。

最後に、この戦争は共和党議員の間でトランプ大統領への支持を揺るがしている。米国防総省は、イランにおける継続的な軍事活動を支援するため、2000億ドルの追加予算を要求する意向を示しているものの、正式な提案はまだ行っていない。これは、連邦議会で十分な支持が得られるかどうかについて、疑念が高まっているためと考えられる。共和党所属の、サウスカロライナ州選出のナンシー・メイス連邦下院議員は、先週、イランに関する連邦下院軍事委員会の非公開会合に出席した後でX上に、「繰り返すが、私はイランへの地上部隊派遣を支持しない。今回のブリーフィングを受けて、その姿勢はさらに強固になった」と述べた。

戦争の真の評価は、戦争終結後にしかできない。アメリカは今後、イランの軍事インフラにさらなる打撃を与え、この評価を覆す可能性もある。すでに、各陣営が結果をどのように解釈するかは想像に難くない。イランは世界最大の軍事大国、地域覇権国であり、アメリカに立ち向かったことを誇示するだろう。イスラエルは、たとえ一時的であっても、敵の軍事力を壊滅させたと主張するだろう。そしてアメリカは、圧倒的な武力誇示を行ったと述べるにとどまるだろう。

しかし、たとえ戦争が数日のうちに終結したとしても、イラン政権の残存勢力は生き残っただけで正当化されるだろう。指導者たちは復讐心に燃え、報復を国内でも国際的にも実行に移すだろう。イランの将来の指導者たちはこの紛争を研究し、最大の抑止力は世界経済に莫大な損害を与える能力であると認識するだろう。それは、戦後の指導部が攻撃ドローンやミサイルの兵器庫を迅速に再構築することを意味するかもしれない。また、北朝鮮のように、古い核兵器使用禁止のファトワを放棄し、爆弾こそが最良の安全保障手段だと判断する可能性もある。そもそもこの紛争は何のために起こったのだろうか? イスラエルにとっては、地域の敵対勢力を繰り返し叩き潰す戦略だったのかもしれないが、ワシントンにとってはそうではない。トランプ大統領は長年、中東における高コストの長期化する戦争を非難してきた。彼はイラン政権の本質、そしてその規模と地理的条件が、アメリカが一夜にして指導者を捕らえたヴェネズエラとは大きく異なる点を、おそらく見誤っていたのだろう。

この地域で長年苦しんできた住民たちのことを考えてみよう。イランとレバノンでは、数千人が命を落とし、100万人以上が避難を余儀なくされた。イスラエルでは、2年近くにわたり、サイレンが鳴り響くとすぐに地下壕に駆け込む人々がいる。そして、ペルシア湾岸諸国では、ドバイやドーハに移住した外国人や移民労働者たちが、移住当初には想像もしていなかった不安定な状況に直面している。もしこれら全てが、将来の戦争に繋がるためだけのものだとしたら、一体何のためにこんなことをしてきたのだろうか?

※ラヴィ・アグラワル:『フォーリン・ポリシー』誌編集長。Xアカウント:@RaviReports

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