古村治彦です。
アメリカとイスラエルのイラン攻撃の最大の誤算は短期間で決着がつくという見通し通りに事態が進まなかったことだ。イランに対して大規模な先制攻撃を行って、最高指導者アリ・ハメネイ師をはじめとする政府の指導部を殺害すれば、イラン政府が機能不全に陥り、イラン国民はこの機会を利用して、政府を打倒するだろうという極めて甘い見通しを持っていたようだ。
私が不思議に思っているのは、世界最高峰の水準を誇るイスラエルの情報諜報機関であるモサドがそのような甘い見通しの基盤となる報告をイスラエル政府最高指導部層に出していたとはとても考えられないのに、どうしてこのような攻撃を行い、目的を達成できていないのかということだ。アメリカ軍はイラン攻撃のリスクは非常に高いという報告をトランプに上げていたが、トランプはそれを無視したというのは分かるが、イスラエル政府内の動きがどうだったのかということはこれから明らかにされるだろう。
ウクライナ戦争においては、アメリカがウクライナにとっての最大の支援国である。ウクライナ戦争勃発から既に4年以上が経過しているが、膠着状態に陥っている。アメリカが武器支援を行っているが、アメリカでも生産体制が整わず、増産が思うように進まない。結果として、アメリカ軍は既定の武器や装備品の貯蔵量を下回る事態となっている。アメリカ軍制服組トップの統合参謀本部議長のダン・ケイン大将がイラン攻撃はリスクが高いという報告書を出して、イラン攻撃に反対したが、これは、武器や装備品の調達面での不安もあったことが考えられる。アメリカでは理工系に進むアメリカ人学生が少なく、理工系の優秀な学生は多くが中国や韓国、日本のアジアからの留学生が大きな割合を占めていることは知られている。
イランは医学や理工系学生の数が多く、また、女性の高等教育進学率も高い。日本では理工系に進む女性の数は少なく、「リケジョ」という言葉と共にアピールが続けられているが、イランでは「リケジョ」がごく当たり前の存在となっているようだ。また、より良い教育と研究環境を求めて、ヨーロッパやアメリカの一流大学に進む優秀な学生も多い。その結果として、国内の研究水準も高く、エンジニアや研究者の数も水準も高い。そうなると、軍事関連の研究も進んでいると考えるのが当然だし、生産力も高いと見なすべきである。
アメリカもイスラエルも短期間で片を付けることが出来るという、甘い見通しでイラン攻撃を開始し、最高指導者アリ・ハメネイ師を殺害するということをしでかしてしまって、イランを本気にさせてしまった。戦争は長期化する可能性が極めて高い。アメリカとイスラエルが圧倒的な軍事力を持ちながら、押されてしまい、閉塞状況に追い込まれている。
(貼り付けはじめ)
開戦から36時間でアメリカ・イスラエルの軍需品は3000個以上消費された(The First 36 Hours
of War Consumed Over 3,000 U.S.-Israeli Munitions)
-備蓄の補充(replenishing stockpiles)は脆弱な重要鉱物資源の供給チェイン(vulnerable critical mineral chains)に依存している。
マクドナルド・アモア、モーガン・D・バジリアン、ジャハラ・マティセク筆
2026年3月5日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/03/05/iran-war-munitions-critical-minerals/?tpcc=recirc_trending062921
2026年2月28日、海上で「壮大な怒り」作戦遂行中、アメリカ海軍海兵たちが空母USSエイブラハム・リンカーンの甲板上で弾着準備を行っている(アメリカ海軍提供)。
アメリカとイスラエルによるイランに対する軍事作戦の最初の36時間で、3000発以上の精密誘導兵器と迎撃ミサイルが消費され、サプライチェインの重大な脆弱性が露呈した。戦争の行方とその広範な影響については未知数が多いが、一つ確かなことは、弾薬備蓄の補充が必要であるということだ。
鉱物や資材を需要シナリオから分離する、ペイン研究所独自のオープンソース台帳およびデータスクレイピング装備を活用し、コロラド鉱山学校の専門知識を活用した私たちのティームは、紛争の最初の36時間における中東全域におけるイランのミサイル発射とドローン攻撃の回数を控えめに特定した。
グラフ1
イランが中東地域全域に1000発以上の弾頭を発射したことを受け、アメリカ、イスラエル、そして同盟諸国は数多くの迎撃を試みた。スーファン・センターが指摘するように、「イランはアメリカ、イスラエル、そして同盟諸国の防衛資源を枯渇させることに重点を置いた非対称消耗戦(an asymmetric war of attrition)を展開しているようだ」。イランの防空システムがほとんど活用されていないのは、アメリカとイスラエルがイランの防空・指揮統制インフラの大部分を電子的に抑制し、物理的に破壊する上で優位に立っているためと考えられる。
迎撃(interceptions)は概ね成功を収めているものの、そのコストは高額となる。消費された弾頭と、その製造に必要な鉱物資源は、西側諸国、特にアメリカにとって防衛産業上の課題となっている。アメリカ、イスラエル、そして同盟諸国の支出を計算した結果、アメリカはお馴染みの組み合わせに依存していたことが判明した。初期段階の攻撃にはスタンドオフ攻撃ミサイル、レーダーに対する制圧兵器、時間的制約のある目標には地上発射ロケット、そして大量の精密誘導爆弾を投入したのだ。イスラエルの兵器は実用性を重視している(Israel’s arsenal shows a preference for the practical)。つまり、大量生産可能な誘導キットと空中発射弾を大量に保有し、容赦ない出撃率を実現できる航空機と組み合わせるということだ。
これに地域パートナーによる防衛射撃を加えると、洗練された戦闘であると同時に、量も重視するハイエンド戦闘の印象的な様相が浮かび上がる。精密さ(precision)は戦争から質量(mass)を奪ったわけではない。質量は、目に見えない兵器の部分にのみ存在する。
この分析の目的は、紛争の勃発局面を、軍需品の供給確保の必要性を緊急に示唆するシグナルへと転換することだ。ただし、この初期評価を今後の紛争に直ちに適用することはできないことを認識する必要がある。これは、戦略家や防衛計画立案者がしばしば見落としがちな、ある単純な疑問を提起する。西側諸国はどれほど迅速に軍備を補充できるのだろうか?
緊急の追加資金は必要だが、数十年かけて統合された生産ラインや衰退した鉱物処理能力を即座に回復させることはできない。時間、化学、そして産業物理学によって制約される。ミサイルの投入は単なる資金ではない。鉱物、処理、そして命令によって増強されることのない二次処理能力から始まるサプライチェインなのだ。
統合参謀本部議長ダン・ケイン米陸軍大将が、攻撃前にアメリカ軍の軍需品不足を懸念したことが、ペイン研究所の研究ティームをまさにこの問題に焦点を絞るきっかけとなった。こうした懸念は新しいものではない。紅海におけるアメリカ海軍の作戦は、ミサイルの消耗が交換可能なペースを上回っていることを既に浮き彫りにしており、既に逼迫している防衛産業基盤に更なる負担をかけている。
発射される全ての兵器は交換が必要であり、その交換には原材料(raw material)から精製と加工(refining and processing)、特殊部品の製造(specialized
components)、そして最終的に認定生産ライン(finally into certified
production lines)へと至る一連のプロセスが必要となる。ボトルネックは必ずしも政治家が考えるような場所にあるとは限らない。最も困難な点は、しばしば人目につかない隅にある。例えば、炉を一つしか持たない下請けサプライヤー、限られた材料に依存するコンデンサ供給、何年もかけて工場を建設しなければ拡大できないロケットモーターの協調製造システムなどだ。
一見単純な兵器でさえ、複雑な製造チェインに依存している。例えば、現代の兵器誘導キットは、中国が支配するレアアース元素からしか製造できない高性能部品に依存している。西側諸国の産業基盤は、原材料の発注、契約締結、資金承認など、いくつかの要素を迅速に増強することができる。しかし、熟練した労働力、適切な工具、そして認定された生産能力を一夜にして生み出すことはできない。
しかしながら、防衛計画は依然として在庫を丸め誤差(a rounding error 訳者註:切り上げ、切り捨てなどで生じる本来の数字とのズレ)であるかのように機能している。抑止力(deterrence)は態勢とプラットフォームの観点から議論されるが、敵対国は異なる指標に注目している。彼らは、ミサイル弾薬庫と弾薬備蓄がどれほど速く空(から)になるのか、そしてそれらを適時に兵站的に補充できるかどうかを知りたいのだ。


同時進行する圧力に晒される世界において、ペルシア湾岸地域での長期にわたる軍事作戦は、単にそこでの情勢を左右するだけでなく、他の地域における軍事的選択肢をも蝕む。迎撃ミサイルの備蓄が底を尽きた部隊は、別の戦域でより大きなリスクを負うか、防衛を節約せざるを得ない。
これは、アメリカ軍がイランとの次なる交戦が小規模であることを願うべきだ、そして中国が台湾防衛用のアメリカ軍精密誘導弾薬の残存量を計算しないことを願うべきだという、婉曲な表現である。これは極めて深刻な問題だ。戦略国際問題研究所(CSIS)の2023年報告書は、一連の戦争ゲームシミュレーションに基づき、アメリカ軍が中国の台湾侵攻から防衛を試みた場合、主要な弾薬が1週間以内に枯渇すると結論付けている。
だからこそ、対イラン作戦の最初の36時間は重要なのだ。それは西側諸国の産業耐久力(Western
industrial endurance)を試すストレステスト(a stress test)なのだ。防衛側が補充ペースを上回るペースで迎撃ミサイルを消費することを強いる作戦は、戦術的に過酷なだけでなく、戦略的にも侵食的である。
ペイン研究所独自のツールを用いて、表2の軍需支出を鉱物代替負担(戦略的に最も脆弱な投入物のキログラム数で表す)に変換した。表3は、消費された兵器の補充に必要な重要物資を示している。私たちの最近の研究では、これらが防衛上最も重要性の高い鉱物であり、平時においても調達が困難であり、危機時にはほぼ不可能であることが示された。
消費されたものを補充するには、抽象的な規模の生産量の増加だけでなく、中国が供給の大部分を支配している特定の鉱物や材料を大量に必要とする。数量の問題以外にも、加工の集中、生産能力拡大の長期化、二次サプライヤーの脆弱性など、数多くの問題が存在する。
軍需品の膨大な量に加え、高価値資産の喪失は、更なる複雑さをもたらす。カタールのAN/FPS-132とバーレーンのAN/TPS-59という2基のアメリカ製最新鋭レーダーの破壊は、「鉱物資源費」の総額よりも、サプライチェインの極めて脆弱な状況と交換に要する長期にわたる期間が大きな問題となっていることを浮き彫りにしている。
私たちの分析では、AN/FPS-132の場合、レイセオン社は11億ドルの費用をかけて新型レーダーを5~8年で製造する。一方、ロッキード・マーティン社は、インフレ調整後のバーレーン向け有償軍事援助契約に基づき、AN/TPS-59の交換に少なくとも12~24カ月、推定5000万ドル~7500万ドルを要すると試算している。防衛産業基盤にとって最大の課題は、両システムに必要な77.3キログラムのガリウムの調達となる。このガリウムは中国が世界供給量の98%を支配している。これに加えて、テクノロジー分野からの需要が急増している商品である銅も30610キログラム必要となる。
より広い視点から見ると、西側諸国の軍備態勢に関する理論は不完全である。ウクライナ戦争の長期化が既に示しているように、戦争の費用は誤った単位で算出されている。重要な指標は、開戦時に発射台が何基あるかではなく、2日目、20日目、そして、200日目にどれだけの精密兵器と迎撃ミサイルを発射できるか、そして産業がそれらをどれだけ迅速に交換できるかである。これは、戦場の問題を産業の問題に、そして産業の問題を鉱物資源と加工の問題に変える。表4は、これらの重要な兵器システムの補充にかかる膨大なスケジュールを示している。
個々のボトルネックがこの補充を遅らせている。例えば、BGM-109トマホークは、ウィリアムズ・インターナショナル社が独占的に製造しているF107ターボファンエンジンに依存している。パトリオットPAC-3の生産は、アメリカ、ペルシア湾岸諸国、そしてポーランドで分担されており、ポーランドは2024年にWZL-1施設でPAC-3 MSE発射管の生産を開始した。ポパイ・ターボ(射程距離延長型はクリスタル・メイズIIとしても知られる)などの一部のシステムは、限られた在庫から削減されている旧来の資産だ。その他のシステムは深刻な逼迫状態にあり、GBU-57MOPは現在までに約25機しか生産されておらず、ボーイングが唯一の組立業者だ。この兵器は現在、B-2スピリット(わずか20機の機体)による配備のみが認定されています。B-21レーダーは追加の配備プラットフォームとなるが、実戦配備は2027年まで行われない。THAADシステムには特注の迎撃ミサイルが必要だが、これに匹敵する民生用ミサイルはない。これらの複雑な生産プロセスは全て、増産できない重要な鉱物資源に依存している。
鉱物資源費用は抑止力の代償であり、これは初期費用に過ぎない。記者会見やソーシャルメディアの投稿、あるいは連邦議会公聴会でさえ、これを軽視することはできない。西側諸国の最も高度な兵器は、同時に長く複雑なサプライチェインに最も依存しており、将来の紛争における制約要因は再装填能力となるだろう。対イラン作戦の期間がどうなるかは、今や重要な問題にかかっている。西側諸国(the West)は、その戦略が意味を持つほど迅速に兵器を補充できるだろうか?
マクドナルド・アモア:ペイン公共政策研究所コミュニケイション担当研究員。ペイン研究所で重要鉱物から通常の工業関連の諸問題までの幅広いテーマについて研究している。
モーガン・D・バジリアン:ペイン公共政策研究所部長、コロラド鉱山学校教授。世界銀行エネルギー担当首席スペシャリスト。エネルギー安全保障、天然資源、国家安全保障、エネルギー貧困、そして、国際問題の各分野で20年以上の経験を持つ。
※ジャハラ・マティセク:アメリカ海軍大学研究員、ペイン公共政策研究所上級研究員。見解は海軍大学とペイン研究所のものではなく、マティセク自身のものだ。
(貼り付け終わり)
(終わり)

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』















