古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ヨーロッパ

 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも詳しく書いたが、西側諸国では、エネルギー高から波及しての、物価高が続き、ウクライナ支援も合わせて、「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」が国民の間に生じている。「早く戦争を終わらせて欲しい」「取り敢えず停戦を」という声は大きい。

ウクライナ戦争勃発後、アメリカとヨーロッパ諸国(西側諸国)は、ロシアに対して経済制裁を科した。ロシアからの格安の天然ガスを輸入していたが、輸入を停止することになった。アメリカはそれに代わって、天然ガスをヨーロッパ向けに輸出することになったが、ヨーロッパの足元を見て、高い値段で売りつけている。これはヨーロッパ諸国の人々からの恨みを買っている。以下の記事では、西側諸国の制裁がロシアに大きな打撃を与えており、ヨーロッパ諸国の経済には影響を与えていないということだが、かなり厳しい主張ということになるだろう。
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 10年ほど前から、ヨーロッパ諸国で勢力を伸長させているポピュリスト勢力(アメリカのドナルド・トランプ大統領誕生も同じ流れ)は、プーティン寄りの姿勢を取り、ウクライナ戦争の停戦を求めている。これは、アメリカで言えば、連邦議会の民主党左派・進歩主義派議員たちと、共和党のトランプ派議員たちの考えと同じだ。彼らもまた、アメリカの国内世論の一部を確実に代表している。
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ポピュリスト勢力は人種差別的と批判される。そういう側面もあるが、彼らは既存の政治に対する、人々の不満を吸い上げ、代表している。エスタブリッシュメントたちが主導する政治が戦争をもたらしていると多くの人々が考えている。トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト(America First)」は「孤立主義(Isolationism)」を基礎としているが、これは「国内問題解決優先主義」と訳すべきだ。そして、「アメリカ・ファースト」は「アメリカが何でもナンバーワン」ということではなく、「アメリカのことを、まず、第一に考えよう」ということだ。ここのところを間違ってはいけない。ポピュリストたちに共通しているのは、「外国のことに首を突っ込んで、税金を浪費するのではなく、自国の抱える諸問題を解決していこう」ということであり、そうした側面から見れば、ポピュリストたちが違って見えてくる。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパのポピュリストたちが制裁反対の戦いでクレムリンに加わる(European Populists Join the Kremlin in Anti-Sanctions Fight

-彼らは「制裁はロシアよりもヨーロッパを傷つける」と誤った主張を展開している。

アガーテ・デマライス筆

2024年3月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/11/russia-sanctions-oil-gas-populists-europe-elections/?tpcc=recirc_latest062921

ヨーロッパのポピュリスト政党の多くがロシアに友好的な傾向を持つことを考えれば、ヨーロッパのポピュリストたちがしばしばクレムリンの主張をオウム返しにしたがるのも当然と言えるだろう。最近では、極右から極左まで多くのヨーロッパの政党が要求しているように、欧米諸国の対モスクワ制裁の停止を求めることもその1つだ。

対モスクワ制裁解除要求の背後にある通常のシナリオは基本的なものだ。フランスの「国民連合(National RallyRassemblement National)」、ドイツの「ドイツのための選択肢(Alternative for GermanyAlternative für Deutschland)」、ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相はいずれも、制裁は裏目に出ており、ヨーロッパ経済には打撃を与えているが、モスクワには打撃を与えていないと主張している。EU全域のポピュリスト政党が6月のヨーロッパ議会選挙に向けて準備を進めており、このような論調はますます目立つようになるだろう。だからこそ、このような誤った主張を論破する絶好の機会なのだ。

ロシアに好意的な政治家たちが最もよく口にするのは、制裁がヨーロッパの企業や消費者を破滅に追いやるというものだ。これらの主張の中で最も広まっているのは、制裁がヨーロッパにおけるエネルギー価格の高騰(およびインフレ)を引き起こしているというものだが、これは最も簡単に反証できる。2022年初頭に世界の炭化水素価格が高騰したのは、ロシアによるウクライナ攻撃とヨーロッパに対するガス恐喝がきっかけだった。欧米諸国がロシアのエネルギー輸出に制裁を課し始めたのは、その年の11月であり、石油・ガス価格はすでに下落していた。

もう1つの主張は、制裁がロシア市場へのアクセスを失ったEUの輸出志向企業にペナルティを与えているというものだ。しかし、現実はもっと穏やかなものだ。ロシアはEU企業にとって決して主要な市場ではなく、2021年にロシア企業がEUの輸出品のわずか4%を購入したにすぎない。EUの対ロ輸出の約半分が制裁の対象となることを考えると、EUの輸出のわずか2%が影響を受けることになる。

フランスの研究機関である国際経済予測研究センター(Centre d'Etudes Prospectives et d'Informations Internationales)の国家レヴェルのデータは、この評価を裏付けている。それによると、対ロ制裁がフランス経済に与える影響はほとんど無視できるもので、フランスの輸出のわずか0.8%、約40億ユーロ(44億ドル)しか影響を受けていない。視点を変えれば、これはフランスのGDPの0.1%ほどに相当する。この調査はフランスのみを対象としているが、おそらく他のEU経済圏でもこの調査結果は劇的に変わることはないだろう。ドイツ企業と並んで、フランス企業はヨーロッパでロシアと最も深い関係にある企業である。このことは、他の多くのヨーロッパ諸国の企業は、より少ない影響しか受けていないことを示唆している。

制裁がヨーロッパ経済を圧迫しているというクレムリン寄りの主張の別のヴァージョンは、EU企業が制裁のためにロシアへの投資を断念せざるを得なかったという考えに基づいている。例えば『フィナンシャル・タイムズ』紙は、ウクライナへの本格的な侵攻が始まってから2023年8月までの間に、ヨーロッパ企業はロシア事業から約1000億ユーロ(約1094億ドル)の損失を計上したと計算している。

この数字は正確かもしれないが、制裁と大いに関係があるという考えは精査に耐えない。現段階では、制裁によってヨーロッパ企業がロシアでビジネスを行うことは、防衛など一部の特定分野を除けば妨げられていない。それどころか、ヨーロッパ企業のロシアでの損失には他に2つの原因がある。1つは、風評リスクを恐れ、ロシアの税金を払いたくないためにモスクワの戦争に加担したくないという理由で、多くの企業が撤退を選択したことだ。

損失の第二の原因は資産差し押さえの急増で、クレムリンは多くのヨーロッパ企業に、場合によってはわずか1ルーブルの価値しかない資産の売却を迫っている。言い換えれば、仮に制裁がない世界であったとしても、かつてロシア市場に賭けていたヨーロッパ企業は現在、大規模な損失に直面している。もちろん、クレムリンは、収用は制裁に対する報復手段に過ぎないと主張している。この台詞は、欧米諸国の侵略から自国を守るためだけだというモスクワのインチキ主張の長いリストの、もう1つの項目にすぎない。

ヨーロッパのポピュリスト政治家たちが好んで売り込むもう1つの論点は、ロシアのエネルギーに対するヨーロッパの制裁は、これまで見てきたように、コストがかかるだけでなく、役に立たないというものだ。この神話(myth)にはいくつかのヴァージョンがあるが、最もポピュラーなものは、G7とEU加盟諸国が合意したEUの石油禁輸と石油価格の上限は、ロシアの石油生産者に影響を与えないというものだ。それは、ロシアは、ヨーロッパ向けの石油をインドに振り向けることができるからだ。

実際、以前はヨーロッパ向けだったロシアのバルト海沿岸の港からの原油輸出の大部分は、現在インドの精製業者が吸収している。しかし、このような見方は、モスクワにとってインドの精製業者に石油を売ることは、ヨーロッパに売るよりもはるかに儲からないという事実を無視している。インドへの航路は、ヨーロッパへの航路よりもはるかに長い(したがってコストが高い)。加えて、インドのバイヤーたちは値切ることができる。彼らは、ヨーロッパ市場の損失を補うことでクレムリンの好意を受けていると考えており、そのためロシア産原油の急な値引きを受ける権利がある。

キエフ経済学院の研究によれば、ロシアの損害は無視できるものではないという。過去2年間で、クレムリンは推定1130億ドルの石油輸出収入を失ったが、その主な原因はEUによるロシア産石油の禁輸だった。EUの禁輸措置とG7とEUの石油価格上限がともに完全に効力を発揮した昨年、ロシア全体の貿易黒字は63%減の1180億ドルに縮小し、ウクライナ戦争を遂行するためのクレムリンの財源に制約を課すことになった。

ロシアの石油輸出企業にとって、今年は良い年にならないかもしれない。先月クレムリンは、輸出収入の減少を国家に補填するため、石油会社は利益の一部を放棄する必要があると発表した。ロシアの石油会社ロスネフチなどにとって、モスクワが国内のエネルギー企業に戦争資金調達への直接的な協力を求めるのは初めてのことだ。

制裁の実施が強化されるにつれ、制裁は無意味だという考えはさらに薄れていくだろう。 2023年10月以来、アメリカはG7とEUの原油価格上限を回避してロシア産原油を輸送していたタンカー27隻に制裁を課しており、これにより、どちらかの圏に拠点を置く企業がこれらのタンカーと取引することは違法となる。これは西側諸国の制裁解釈の劇的な変化を浮き彫りにしている。最近まで、価格上限はG7かEUを拠点とする海運会社または保険会社がロシア石油の輸送に関与する場合にのみ適用されていた。ワシントンは現在、西側企業とのつながりをより広範囲に解釈している。

たとえば、ロシアの幽霊船団(ghost fleet)のかなりの割合を占めるリベリア船籍のタンカーは、リベリアがアメリカを拠点とする企業に船籍業務を委託しているため、現在では石油価格上限の対象となる。これと並行して、西側諸国はインドの石油精製業者への圧力を強め、ロシアからの石油供給を止めるよう働きかけている。クレムリンを落胆させているのは、こうした努力が功を奏しているように見えることだ。今年に入ってから、インドのロシア産原油の輸入量は、2023年5月のピークから徐々に約3分の1に減少している。

制裁はロシアに損害を与えるよりもヨーロッパに損害を与えるというポピュリストたちの主張は、精査に耐えられない。現実には、これらの措置がヨーロッパ企業に与える影響は小さいが、ロシアは原油のルートを欧州から外そうとしているため、ますます逆風に直面している。

制裁にはコストがかかり、効果もないという主張を否定するのは簡単だが、このシナリオがすぐに消えることはなさそうだ。ロシアに好意的な政治家たちがヨーロッパ議会やその他の選挙に向けてキャンペーンを強化するにつれ、このような主張が今後数週間でますます広まることが予想される。制裁がロシアに深刻な影響を及ぼしていないのであれば、クレムリンと西側の同盟国は制裁を弱体化させるためにこれほどエネルギーを費やすことはないだろう。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

 アメリカは外交政策において、インド太平洋(Indo-Pacific)という地域概念を持ち出して、中国とロシアを封じ込めようとしている。これはバラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官から顕著になっている。「アジアへの軸足移動(Pivot to Asia)」という概念と合わせて、アメリカの外交政策の基盤となっている。

 インド太平洋から遠く離れたヨーロッパ諸国がインド太平洋でプレイヤーとなろう、重要な役割を果たそうという動きを見せている。国際連合(the United NationsUN、正確には連合国)の常任理事国であり、空母を備える海軍を持つイギリスとフランスを始めとして、オランダ、ドイツなどの小規模な海軍国が艦船をインド太平洋地域に派遣している。昨年には、NATOの東京事務所開設という話が出て、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の反対によって、いったん白紙となった。ヨーロッパから遠く離れたインド洋、太平洋地域でヨーロッパが全体として役割を果たそう、プレイヤーになろうという動きが高まっている。
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 ヨーロッパ側の主張、理由付けは、インド太平洋地域の航行の自由を守ることが、自分たちの貿易を守ることにつながるというものだ。これは、中国の存在を念頭に置いて、中国が航行の自由を阻害するという「被害妄想」でしかない。その「被害妄想」を理由にして、何もないインド太平洋地域にまで艦船を送るというのはご苦労なことである。

 ヨーロッパがインド太平洋地域において役割を果たすというのは、アメリカの手助けをするという理由もある。アメリカが中国と対峙している地域であり、ここでアメリカを助けることが必要だということである。更に言えば、アメリカの要求によって、ヨーロッパ各国は国防費の大幅増額、倍増を求められているが、艦船を派遣することで、「取り敢えず頑張っています」という姿勢を見せることで、少しでもこうした動きを和らげようということであろう。

 しかしながら、ヨーロッパはまず自分の近隣地域の平和な状況を作り出すことを優先すべきだ。ユーロピアン・アイソレイショニズム(European Isolationism、地域問題解決優先主義)を採用すべきだ。ロシアとの平和共存を目指し、ロシアの近隣諸国の中立化(武装解除ではない)を行い、ロシアとの関係を深化させることで、相互依存関係(interdependency)を構築し、戦争が起きる可能性を引き下げることだ。

 落語などでもよく使われる表現に「自分の頭の上のハエも追えない癖に、人様の世話ばかりしやがって」というものがある。ヨーロッパはまず、自分の近隣地域の安全も実現できていないのに、他人様の家にずかずか入り込んでくるものではない。まさに「何用あってインド太平洋へ」である。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはインド太平洋のプレイヤーになりたいと考えている(Europe Yearns to Be an Indo-Pacific Player

-ヨーロッパ地域で戦争が続いているが、ヨーロッパの戦略的・海軍的な願望は世界の裏側にある。

キース・ジョンソン筆

2024年3月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/19/europe-navy-indo-pacific-strategy-maritime-security/

地政学的なアイデンティティを探し続けた年月を経て、ヨーロッパは国際関係において最も争いが頻発している分野でより大きなプレイヤーになることを目指し始めている。ヨーロッパが目指しているのはアジア地域を含む海洋安全保障分野(maritime security)での主要なプレイヤーである。

長年にわたる貧弱な国防費とハードパワーへの嫌悪感から立ち直り、ヨーロッパ全体、そしてヨーロッパの主要国の多くは、身近なところから地球の裏側まで、海洋安全保障への関心を急速に高めている。それは、ブリュッセル、パリ、ロンドンから矢継ぎ早に発表される野心的な戦略文書だけでなく、ヨーロッパ諸国の小さいながらも有能な海軍が、より多くの場所で、より多くのことを行い、争いの絶えない水路を確保し、自由航行と世界的なルールの尊重を取り戻すために、配備を拡大していることからも明らかである。

ヨーロッパの海軍は既にイエメンからのフーシ派ミサイル攻撃に対抗するために紅海で任務遂行をしており、ますます多くのヨーロッパのフリゲート艦や航空母艦が、大陸全体でのより大規模で広範囲にわたる責任への移行の一環として太平洋を巡行している。

10年ほど前の地中海での海上警備活動から始まったヨーロッパ連合(European UnionEU)の活動は、現在ではインド洋を含むさらに遠方への野心的な展開へと広がっている。先月、ヨーロッパ連合は紅海、ペルシャ湾、アラビア海で航路を確保するための海軍作戦を開始したばかりだが、これは同じ海域でより好戦的な米英の作戦とは別のものだ。

ウクライナでの大規模な陸上戦争が3年目を迎えている現在でも、ヨーロッパはインド太平洋の安全保障においてより大きな役割を果たすことにますます真剣になっている。ヨーロッパ連合はインド太平洋戦略と、この地域に改めて重点を置く新たな海洋安全保障戦略の両方を掲げている。

ブリストル大学の海軍専門家であるティモシー・エドマンズは、「ヨーロッパ連合の最新の海洋安全保障戦略で印象的なのは、海洋における国家間の紛争や対立の重要性と、そして政治的ダイナミクスの変化を認識し、本格的な転換を図ろうとしていることだ。特にインド太平洋地域とその中でのヨーロッパ連合の役割がそうだ」と述べている。

個々の国もまた、この活動に参加している。イギリスはアジアへの「傾斜(tilt)」を更に強化しようとしている。ヨーロッパ連合加盟国で唯一インド太平洋に領有権を持つフランスは、中国の台頭とバランスを取り、フランスとヨーロッパの重要な経済的利益を守るため、インド太平洋地域における海軍と外交のプレゼンス強化に全力を挙げている。ドイツやオランダのような中堅の地政学的プレイヤーでさえ、インド太平洋戦略を持っている。イギリス、フランス、その他いくつかのヨーロッパ諸国は、遠く離れた太平洋の海域に艦船を置いて、その願望をバックアップしている。

フランス国際関係研究所の軍事部門の研究員ジェレミー・バシュリエは、「インド太平洋における安全保障環境の悪化は、フランスとヨーロッパの利益に重大な脅威をもたらしている。インド太平洋における抑止力と軍事的対応努力は主にアメリカに依存しているが、ヨーロッパ連合加盟諸国は今や、台湾海峡、北朝鮮、南シナ海における危機や紛争など、この地域における危機や紛争の世界的影響を十分に理解しなければならない」と述べている。

ウクライナ戦争は、ヨーロッパの関心と武器を吸収した。それでもなお、ヨーロッパの東方シフト(European shift to the east)は続いており、その勢いは増している。それは、ウクライナ戦争がヨーロッパにとって紛争の真のリスク、特に世界の多くの国々と同様にヨーロッパが依存している世界貿易とエネルギーの流れの要であるインド太平洋における紛争の真のリスクについて警鐘を鳴らしたからでもある。

ハーグ戦略研究センターのポール・ファン・フフトは「インド太平洋地域におけるヨーロッパの存在感を高めようという意図は、ヨーロッパでの戦争にもかかわらず、まだ生き続けている。ウクライナ戦争がなければ、資源を確保するのは簡単ことだろうが、その一方で、今は新たな深刻な問題が出ている」と述べている。ヨーロッパのアジアへの軸足移動(The European pivot to Asia)が注目されるのは、フランスとおそらくイギリスを除けば、ヨーロッパ諸国がもともとインド太平洋地域のプレイヤーではないからだ。しかし、フランスとイギリスの空母に加え、ドイツ、イタリア、オランダの小型水上艦船がこの地域に派遣されている

ヨーロッパが、目の前に多くの課題があるにもかかわらず、地球半周分も離れた地域の争いに力を入れている理由はいくつかある。それらは、攻撃的な中国の台頭、商業とエネルギーの自由な流れを保護する必要性、そして、アメリカが、旧大陸が今後数十年間に形成されつつある重大な安全保障上の諸問題において、さらに前進し、主要な役割を果たすことができるという願望である。

長年にわたり、ヨーロッパは中国との間でバランスを取ろうと努め、中国からの投資を歓迎する一方で、北京に対するワシントンの好戦的な姿勢をますます強めていることから距離を置いてきた。しかし、中国による略奪的な貿易や経済慣行、南シナ海での威圧、太平洋における自由航行への脅威、そして台湾併合というあからさまな計画の組み合わせは、今やヨーロッパを、より明確なアプローチへと押しやっている。

前述のティモシー・エドマンズ「中国との関係の方向性は、ヨーロッパ連合全体で変化している。海外投資(foreign investment)であれ、一帯一路構想(the Belt and Road Initiative)であれ、太平洋での活動であれ、中国の破壊的な役割がますます認識されるようになっている。それらの国々の目からは日々鱗が剥がれ続けている状況だ」と語った。

オランダのような中堅諸国は、インド太平洋における自国の将来を、戦争に参加して実際に戦う海軍国としてではなく、むしろ投資、能力開発、安全保障支援を活用して、アジア諸国を中国の支配に対する防波堤となりうるより広範なグループへと呼び込むことができる外交国になるようにと考えている。ファン・フフトは「私たちにできることは、パートナー諸国に対して、“私たちは本当に気にかけているが、支援は別の形でなければならない”と伝えることだ」と述べている。

エマニュエル・マクロン大統領の下、フランスは長年にわたり、多くの人がバランシング姿勢とみなすものを追求しようとしてきたが、インド太平洋で何が起こるかについて、より現実的な見方にますます傾いている、と前述のジェレミー・バシュリエは述べている。「フランス政府は、アメリカ、インド、日本、オーストラリアで構成されるクアッド(Quad)のようなグループにはまだ正式に参加していないが、インドとのラ・ペルーズ海軍演習のような、考えを同じくする国々と以前よりも多くの演習に参加している」とバシュリエは語っている。

台湾や西太平洋をめぐる潜在的な紛争だけでなく、フランスやその他のヨーロッパ諸国が特に懸念しているのは、自由航行(free navigation)やエネルギーなどの重要物資の自由な流れ(free flow)に対する脅威である。これは、紅海における数ヶ月に及ぶフーシ派の活動や、イランによるホルムズ海峡閉鎖の威嚇によって浮き彫りにされ、世界有数の輸送量を誇る航路を自分専用の湖(a private lake)に変えようとする中国の明白な意志によって強調されている。このことは、海洋法を守り、自国の近くだけでなく、ヨーロッパに影響を及ぼすあらゆる場所で海運を保護したいというヨーロッパ共通の願望につながる。

ファン・フフトは「航路がますます攻撃に対して脆弱になっていることは誰の目にも明らかであり、海洋安全保障の関心は必然的にインド太平洋へと移行しつつある。依存関係(dependencies)を考えれば、航路を確保するという問題を無視することはできない」と語っている。

海洋での取り組みを拡大するというヨーロッパの取り組みは、アジアのパートナー諸国や潜在的なライヴァルだけでなく、アメリカにもメッセージを送っている。数十年とは言わないまでも、何年もの間、米政府はヨーロッパのNATO加盟諸国に防衛費を増額する必要性について説得しており、遅ればせながら、増額を始めている国もある。しかし専門家たちは、特にヨーロッパの近隣地域と、それを遠く越えた地域での海洋安全保障能力の強化は、ヨーロッパ全体がアメリカに真の支援を提供できる分野の1つであると主張している。

これには紅海やホルムズ海峡でのヨーロッパ諸国の任務のような巡回活動が含まれるが、米空母打撃群の長期間の派遣を具体化するためのヨーロッパ諸国からの水上艦艇の定期派遣も含まれる。

ファン・フフトは「これらの任務は全て、大国ではない国の海軍でも役割を果たすことができる、非常に具体的な方法である」と述べている。

しかし、より正確には、どのような役割となるのだろうか? ヨーロッパで最も強力な2つの海軍、イギリス海軍とフランス海軍は、合わせて3隻の中規模空母と40数隻の主要な水上艦艇を保有している。アメリカ海軍は、太平洋艦隊だけでも常時それ以上の数を保有している。イタリア、スペイン、ドイツ、オランダといった国々のより小規模な海軍は、ほとんどが小型のフリゲート艦と一握りの水陸両用艦で構成されている。それでも、フランスとイギリスの空母は、他のヨーロッパ諸国の艦船に護衛されながら、今年後半から来年にかけてインド太平洋に向かう予定であり、どちらもアメリカ軍との相互運用性(interoperable with U.S. forces)を高めるための訓練を受けている。

しかし、だからといって、台湾や南シナ海をめぐって太平洋戦争が勃発した場合、ヨーロッパの軍艦がアメリカやパートナー諸国の海軍を直接支援できるかというと、そうではないとバシュリエは主張している。ヨーロッパ北西部から南シナ海までは到着までに約2週間かかり、南シナ海での後方支援もないため、ヨーロッパの海軍はたとえその意志があったとしても、紛争が起きた場合に大きな役割を果たすことは難しいだろう。

より間接的ではあるが、アジアの海洋環境を形成する上で最終的により有益な役割は、もう少し身近なところで果たせるかもしれない。紅海やインド洋西部で既に海賊やテロリストに対する活動を開始しているヨーロッパ諸国の海軍は、シーレーン保護(sea lane protection)の任務を全面的に担うことができ、アメリカとそのパートナー諸国海軍は太平洋に集中することができる。

バシュリエは「アジアで紛争が発生した場合、ヨーロッパはおそらく、海上交通の安全保障と管理を確保し、スエズ運河とマラッカ海峡の間の“後方基地(rear bases)”を監視しなければならなくなるだろう」と語っている。

バシュリエは更に「バブ・エル・マンデブ海峡からベンガル湾のマラッカ海峡の開口部までの範囲で活動するヨーロッパの海軍は、ヨーロッパのエネルギー権益を維持しつつ、北京の戦略的供給を制約することができる」とも述べている。

※キース・ジョンソン:『フォーリン・ポリシー』誌記者(地経学・エネルギー担当)。ツイッターアカウント:@KFJ_FP

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 古村治彦です。

 第二次世界大戦後の世界の基軸通貨となったのは、米ドルだ。米ドルが価値の基準であり、米ドルで貿易決済のほとんどが行われてきた。世界の多くの発展途上国(貧乏な国)では、自国の通貨の信用がなく、米ドルが流通するというところも多い。「自国の通貨はいつ紙切れになるか分からないほど信用はないが、米ドルは世界の超大国・派遣のアメリカの通貨だから安心だ」ということになる。日本も外貨準備高でドルを貯めこみ、また、米国債を多く買っている。米ドルは安心だ、だからこれらは安心の資産(運用)ということになる。

 アメリカではインフレ懸念から中央銀行である連邦準備制度(Federal Reserve System)が政策金利の利上げを進めている。これで市場に流れているドルを吸収しようということであるが、これは諸刃の剣だ。政策金利の上昇は住宅ローン金利に反映される。住宅ローンの返済額が大きくなれば、家を持ち切れないという人々が出てくる。そうなれば社会不安が発生する。また、住宅バブルが崩壊することで不景気に突入する可能性が高まる。しかし、金利を上げなければ、インフレ状態は続き、住宅バブルは続く。バブルはいつか弾ける。何より、米ドルの価値が下がる。これは米ドルの信用にもかかわってくる重大な問題だ。政策金利を上げても問題が起き、下げても問題が起きる。「前門の虎、後門の狼」という状態だ。アメリカはドルの信用だけは守らねばならない。そうでなければ、アメリカ国民の生活自体を維持することができなくなるからだ。そのために必死である。

 米ドルが基軸通貨の地位から転落した場合、それに代わる存在は何かということになるが、ユーロはドルと道連れであろうし、円は日本の経済力の低下もあってそのような力はない。中国の人民元が有力候補であるが、ここで出てくるのがBRICs共通通貨という候補だ。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が最初にこれらの国々の間だけで通用する通貨を作る。それが役割を拡大していき、最終的には基軸通貨となるというシナリオだ。金(きん)を後ろ盾にする通貨ということになれば、米ドルよりも信用が高まる可能性が高い。

 ドル覇権の崩壊が現実味を帯びてきたことを考えると、アメリカとノルウェー、NATOによるノルドストリーム攻撃・爆破はドル覇権を守るための動きだったという解釈もできる。ヨーロッパに安価なエネルギー源である天然ガスを供給してきたロシアはその取引決済をドルで行っていたが、西側諸国による制裁の後はルーブルで決済をするように求めた。エネルギー源を買えなければ生活は成り立たない。ヨーロッパ諸国はルーブルを手に入れるようになり、ルーブルの価値は安定することになった。英米が画策したルーブルの価値下落によるロシア経済の破綻というシナリオは崩れた。

これが進んで(これを敷衍して考えると)、BRICsの共通通貨で支払うことを求めるようになれば、共通通貨の使い勝手を考えると(ブラジル、インド。中国、南アフリカともこれで決済ができる)、ドルに頼らないということになる。ドイツにとっての最大の貿易相手国は中国だ(日本もそうだ)。ロシアとのノルドストリームを通じての天然ガス取引が実質的に続けば、ドル覇権が脅かされることになる。
 こうした動きに敏感なのがサウジアラビアだ。現在のサウジアラビアはサルマン王太子がバイデン政権との不仲を理由に、これまで強固な同盟関係にあったアメリカの意向に逆らうような動きを見せている。「西側以外の国々(the Rest)」の仲間に入る姿勢を鮮明にしている。サウジアラビアは米ドルで石油を売るということをやってきた。アメリカは極端な話をすれば、「(打ち出の小槌のように)米ドルを刷れば石油が手に入る」(アメリカ以外の国々は米ドルを手に入れるために苦労しなければならない)ということであった。しかし、米ドルの信用が落ち、ドル覇権の崩壊の足音が近づく中で、西側以外の国々(the Rest)のリーダー国である中国に近づいている。中国の仲介受け入れて、イランとの緊張緩和を決定したのは象徴的な出来事だった。サウジアラビアとしては、BRICs共通通貨の出現を待っている状況なのだろう。そのためには米ドルが紙くずになる前に、自国の資産を保全するという動きに出るだろう。その一つが金(きん)の保有量を増やすことである。

金(きん)価格が高騰しているというのは日本でも報道されている。「新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ戦争といった不安定要素があるから金が買われているんだろう」ということが理由として挙げられている。しかし、それだけではない。米ドルの基軸通貨からの転落に備えての資産保全のために金が買われている。

 私たちは世界の大きな転換点に生きているということを改めて認識すべきだ。アメリカと米ドルがいつまでも強いという確固とした信念を持っている人はまずその信念について点検して、考え直した方が良い。

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ブリックス通貨はドルの支配を揺るがすことになるだろう(A BRICS Currency Could Shake the Dollar’s Dominance

-脱ドル化(De-dollarization)はついに来たのかもしれない

ジョセフ・W・サリヴァン筆

2023年4月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/04/24/brics-currency-end-dollar-dominance-united-states-russia-china/?tpcc=recirc_trending062921

脱ドル化の話が取り沙汰されている。先月、ニューデリーで、ロシア国家議会のアレクサンドル・ババコフ副議長は、ロシアが現在、新しい通貨の開発を主導していると述べた。この通貨はBRICS諸国による国境を越えた貿易に使用される予定だということだ。BRICS諸国にはブラジル、ロシア、インド、中国、そして南アフリカが含まれる。その数週間後、北京でブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領がこう言った。「毎晩のように、『なぜ全ての国がドルを基軸に貿易を行わなければならないのか(why all countries have to base their trade on the dollar)』と自問自答している」。

ユーロ、円、人民元といった個々の競争相手が存在する中で、ドルが最強の貨幣であるためにドルの支配が安定しているという説を、こうした動きは弱めている。あるエコノミストは、「ヨーロッパは博物館、日本は老人ホーム、中国は刑務所」と表現した。彼は間違ってはいない。しかし、BRICSが発行する通貨は、それとは異なる。BRICSの通貨は、新進気鋭の不満分子の新しい連合体のようなもので、GDPの規模では、覇者であるアメリカだけでなく、G7の合計を上回るようになっている。

ドル依存から脱却しようとする諸外国の政府の動きは、今に始まったことではない。1960年代から、ドル離れ(dethrone the dollar)を望む声が海外から聞こえてくるようになった。しかし、その話はまだ結果には結びついていない。ある指標によれば、国境を越えた貿易の84.3%でドルが使われているのに対し、中国人民元は4.5%に過ぎない。また、クレムリンの常套手段である嘘は、ロシアの発言に懐疑的な根拠を与えている。ババコフの提案に他のBRICS諸国がどの程度賛同しているかなど、現実的な疑問は山ほどあるが、今のところ答えは不明だ。

しかし、少なくとも経済学的な観点からは、BRICS発行の通貨が成功する見込みは新しいと言える。どんなに計画が時期尚早で、どんなに多くの現実的な疑問が残っていても、このような通貨は本当にBRICS加盟国の基軸通貨として米ドルを追い落とすことができるだろう。過去に提案されたデジタル人民元のような競合とは異なり、この仮想通貨は実際にドルの座を奪う、あるいは少なくとも揺るがす可能性を持っている。

この仮想通貨(hypothetical currency)を「ブリック(bric)」と呼ぶことにしよう。

もしBRICSが国際貿易に通貨ブリックのみを使用すれば、ドルの覇権(dollar hegemony)から逃れようとする彼らの努力を妨げている障害を取り除くことができる。こうした努力は、現在、中国とロシアの間の貿易における主要通貨である人民元のような、ドル以外の通貨で貿易を表記するための二国間協定という形で行われることが多い。障害となっているのは何か? ロシアは、中国からの輸入に消極的である。そのため、二国間取引の後、ロシアはドル建て資産に資金を蓄え、貿易にドルを使用している他の国々から残りの輸入品を購入したいと考える傾向がある。

しかし、中国とロシアそれぞれが貿易に通貨ブリックを使うだけなら、ロシアは二国間貿易の収益をドル建てで保管する必要はなくなるだろう。結局、ロシアは輸入品の残りをドルではなくブリックで購入することになる。つまり、脱ドル(de-dollarization)となるのである。

BRICSが貿易にブリックだけを使うというのは現実的な話なのか? その答えはイエスだ。

まず、BRICSは自分たちの輸入代金を全て自分たちで賄うことができる。2022年、BRICSは全体で3870億ドルの貿易黒字(国際収支の黒字としても知られる)を計上した。

BRICSはまた、世界の他の通貨同盟が達成することができなかった、国際貿易における自給自足のレヴェルを達成する態勢を整えている。BRICSの通貨統合は、これまでの通貨統合とは異なり、国境を接する国同士ではないため、既存のどの通貨統合よりも幅広い品目を生産できる可能性が高い。地理的な多様性がもたらすものであり、ユーロ圏のような地理的な集中によって定義される通貨同盟では、2022年には4760億ドルの貿易赤字が発生するという痛ましい事態が起きているが、自給自足の度合いを高めることができるのだ。

しかし、BRICSはその中だけで貿易を行う必要さえないだろう。それは、BRICSの各メンバーはそれぞれの地域で経済的な強者であるため、世界中の国々が通貨ブリックでの取引を希望する可能性が高いからだ。タイが中国と取引するためにブリックを利用せざるを得なくなったとしても、ブラジルの輸入業者はタイの輸出業者からエビを購入することができ、タイのエビをブラジルの食卓に並べ続けることができる。また、ある国で生産された商品を第三国へ輸出し、第三国から再輸出することで、二国間の貿易制限を回避することもできる。これは、関税のような新しい貿易制限を避けようとした結果である。アメリカが中国との二国間貿易をボイコットした場合、その子供たちは中国製の玩具で遊び続け、それがヴェトナムなどの国に輸出され、さらにアメリカに輸出されることになる可能性がある。

BRICS諸国の各政府が「ブリックを絶対に実現する(bric of bust)」ことを貿易条件として採用した場合、BRICS諸国の消費者に降りかかる絶対的に最悪なシナリオを、今日のロシアから予見することができる。アメリカやヨーロッパの政府は、ロシアの経済的孤立を優先してきた。しかし、一部の西側諸国の製品はロシアに流入し続けている。消費者にとってのコストは現実的だが、破滅的なものではない。BRICS諸国が脱ドル志向を強め、現在のロシアをその上限として、脱ドルのリスクとリターンのトレードオフがますます魅力的に見えるようになるであろう。

BRICS諸国の基軸通貨としてドルから変更するために、ブリックは貿易に使わない時に置いておける安全な資産も必要である。ブリックがそのようになるのは現実的なのだろうか? その答えはイエスだ。

まず、BRICSは貿易と国際収支が黒字であるため、ブリックは必ずしも海外からの資金を集める必要はないだろう。BRICSの各国政府は、自国の家計や企業が貯蓄でブリックの資産を購入するよう、飴と鞭を組み合わせて、事実上強制的に市場を出現させ、補助金を与えることができるようになる。

しかし、ブリック建ての資産は、実は海外投資家にとって非常に魅力的な特徴を持つことになる。世界的な投資家たちの資産としての金(きん)の大きな欠点は、分散投資としてのリスク低減効果があるにもかかわらず、金利が付かないことである。BRICSは金(きん)やレアアースのような本質的な価値を持つ金属を新通貨の裏付けとする予定だと言われているので、ブリック建ての利払い資産は、利払いのある金(きん)に似ていることになる。これは珍しい特徴だ。債券の利子と金の多様性の両方を求める投資家にとって、ブリック債は魅力的な資産となり得る。

確かに、ブリック債が単に金(きん)に利子がつくのと同じ効果があるものとして機能するためには、デフォルトのリスクが比較的低いと認識される必要がある。そして、BRICs諸国の政府債務でさえも、明らかになっていないデフォルトリスクがある。しかし、こうしたリスクは軽減することができる。ブリック建ての債務を発行する各国政府は、債務の満期を短くしてリスク性を下げることができる。投資家たちは、南アフリカ政府が「30年後」に返済してくれることを信用するかもしれないが、時間の単位が一年以内である場合、もしくは数年単位である場合はそうではない。また、価格に関しては、単純にそのリスクに対して投資家を補償することもできる。市場参加者がBRICsの資産を買うのに高い利回りを要求すれば、おそらくそれを得ることができるだろう。なぜなら、BRICS諸国政府はブリックの実行可能性に対価を支払うことをいとわないからだ。

公平を期すために、通貨ブリックは現実的に多くの問題を提起している。ブリックは主に国際貿易に利用され、国内での流通はない可能性が高いため、BRICS諸国の中央銀行の仕事は複雑になる。また、ヨーロッパ中央銀行のような超国家的な中央銀行を設立し、ブリックを管理することも必要である。これらは解決すべき課題だが、必ずしも乗り越えられないものではない。

BRICS加盟国間の地政学も茨の道である。しかし、BRICSの通貨は、利害が一致する明確な分野での協力を意味する。インドや中国のような国々は、安全保障上の利害が対立しているかもしれない。しかし、インドと中国は脱ドルという点で利害を共有している。そして、共有する利益については協力し、その他の利益については競争することができる。

通貨ブリックはドルの頭から王冠を奪うというより、その領土を縮小させることになるだろう。BRICSが脱ドルしても、世界の多くは依然としてドルを使用し、世界の通貨秩序は一極集中(unipolar)から多極化(multipolar)することになるだろう。

多くのアメリカ人は、ドルの世界的役割の低下を嘆く傾向にある。嘆く前に考えるべきだ。ドルの世界的な役割は、アメリカにとって常に両刃の剣(double-edged sword)である。ドルの価値を上げると、結果として、アメリカの商品とサーヴィスのコストが上がり、輸出が減少し、アメリカの雇用が奪われてしまう。しかし、アメリカ国内においては、アメリカに切り込む側の武器は研ぎ澄まされ、海外においてアメリカの敵に切り込む武器は鈍化するのであろう

ドルのグローバルな役割が、国内の雇用や輸出競争力を犠牲にしていることを、少なくとも2014年のコメントから理解しているのは、現在ホワイトハウス経済諮問委員会のトップであるジャレッド・バーンスタインだ。しかし、こうしたコストは、アメリカ経済が世界と比較して縮小するにつれて、時間の経過とともに増大する一方だ。一方、ドルの世界的な役割の伝統的な利点の中には、アメリカが金融制裁を利用して自国の安全保障上の利益を増進しようとする能力があることが指摘される。しかし、ワシントンは、21世紀におけるアメリカの安全保障上の利益は、中国やロシアのような国家主体との競争によってますます定義されると考えている。もしそれが正しいなら、そしてロシアに対する制裁の一定しない実績が示すように、制裁はアメリカの安全保障政策においてますます効果のない手段となっていくだろう。

BRICSの基軸通貨がドルに代わってブリックになった場合、その反応は多様で奇妙なものになるだろう。反帝国主義的な気質を持つBRICS諸国の高官、アメリカ連邦上院の共和党の一部、ジョー・バイデン米大統領のトップエコノミストからは、大きな拍手が送られそうだ。ドナルド・トランプ前米大統領と、彼がしばしば対立する米国の国家安全保障コミュニティからも、ブーイングが起こる可能性がある。いずれにせよ、ドルの支配が一夜にして終わることはないだろうが、ブリックが実現すれば、ドルの支配力が徐々に失われていくことになるのだ。

ジョセフ・W・サリヴァン:リンゼイ・グループの上級顧問。トランプ政権下のホワイトハウス経済諮問会議議長特別顧問・スタッフエコノミストを務めた。ツイッターアカウント:@TheMedianJoe
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は膠着状態に陥っている。東部はロシアが既に抑え、バフムトをめぐり激戦が展開されていると報道されている。春季大攻勢(spring offensive)に向けて、ウクライナは軍の態勢を立て直しているとも報じられている。主流メディアの報道では、ウクライナ軍が優勢のはずであるが、実際には苦戦している。主流メディアのウクライナ戦争の戦況報道で利用されているのが、アメリカの戦争研究所(Institute for the Study of War)というシンクタンクの出すデータである。

この戦争研究所は食わせ物のシンクタンクだ。ネオコン一族であるケーガン家の次男で文尾塚・評論家のフレデリックの妻キンバリー・ケーガンが所長をしている。長男は文筆家・評論家のロバート・ケーガン、ロバートの妻が悪名高いヴィクトリア・ヌーランド米国務次官だ。「ネオコンのこうあって欲しい」が先に来るシンクタンクのデータであるということを踏まえて見ておかないと、「メディアの報道ではウクライナ側がかなりロシア側を押し返してないとおかしいよな」ということになる。日本の戦時中の大本営発表と同じだ。

 アメリカでは、最高機密を含むウクライナ戦争に関する米国防総省の機密文書が流出したことが話題を呼んでいる。それによれば、ウクライナ側が苦戦しており、戦争はしばらく続くだろうが、ウクライナ側がロシアを押し返すことは難しいという分析が出ているということだ。簡単に言えば、ウクライナは戦争目的となった(ゼレンスキー大統領が主張している)、「クリミア半島を含む独立時の領土全ての奪還」は不可能であるということである。不可能であることにアメリカは多大なお金を注ぎ込まねばならないことになる。それで軍産複合体が儲かれば良いということになるが、その原資はアメリカ国民の税金であり、アメリカ国民を含む世界中の人々が購入するアメリカ国債だ。

 アメリカとしてはウクライナ戦争を停戦させたい。昨年にヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が提示したウクライナ東部をロシア側が実効支配し、ウクライナのNATO加盟は認めないという内容での停戦しかない。しかし、それではヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は失脚し、現在のウクライナ政府は持たないということになる。ゼレンスキー大統領を支え、焚きつけているのはイギリスである。イギリスはロシアを消耗させ、ヨーロッパ大陸諸国家のエネルギー源を自国の北海油田産の石油にさせて生殺与奪の権を握ろうとしている。イギリスはウクライナ戦争の停戦には反対するだろう。後ろ盾のイギリスの意向もあり、ゼレンスキーは停戦に応じることはできないということになれば、直近での停戦はできない。しかし、ウクライナ側も限界に近付いている中で、今年中に停戦を求める声も出てくるだろう。その時にゼレンスキーが邪魔であれば処分されることになる。属国の指導者の運命は悲しい。

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アメリカの情報漏洩でウクライナ戦争努力に大打撃が与えられている(US intelligence leak deals severe blow to Ukraine war effort

ブラッド・ドレス、エレン・ミッチェル筆

2023年4月10日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/3943086-us-intelligence-leak-deals-severe-blow-to-ukraine-war-effort/

ここ10年で最大のアメリカ軍機密漏洩は、ウクライナの戦争努力に深刻な打撃を与え、今年の春予想される反転攻勢を前に、ウクライナ軍にとって情報面での脅威となる。

ソーシャルメディアに流出した機密文書は、戦闘の重要な局面における軍需品、訓練、防空システムに関する詳細な情報を提示している。米国防総省は現在も文書の有効性を検証している最中だ。

アメリカとNATOの機密文書数十件(一部は「最高機密(Top Secret)」と表示されている)は、1月にインターネットの目立たない場所で流出し始め、その後はツイッターやテレグラムに流出し、先週注目を集め始めた。

これらの文書は、今年3月までの紛争状況を示しているに過ぎないが、大隊の規模、先進兵器の訓練、レオパルドII戦車などの重戦闘車両の配備など、ウクライナの軍事能力に関する情報を明らかにしている。

また、漏洩された機密情報はキエフの欠点を示している。少なくとも1つの資料には、ソ連時代の対空ミサイルシステム用の弾薬がまもなく底をつき、ウクライナの防空システムの潜在的脆弱性を露呈する可能性があると記されている。

ヨーロッパ政策分析センターの著名な研究員であるカート・ヴォルカーは、ウクライナ戦争に関するアメリカの評価と判断の「スナップショット」を世界に示すものであり、今回の流出は悪影響が懸念されると指摘している。

ヴォルカーは、「ウクライナ人、ロシア人、その他の人々に対して、『われわれの考えはこうだ』というシグナルを送ることになる」とし、「われわれの情報の質、どこから得ているのか、いくつかの手がかりを与えるかもしれない。そうなれば、私たちが情報を集めさせている人たちに、それを停止させるだろう」と述べた。

おそらく最も憂慮すべきリークは、ウクライナの防空に関する情報についてだろう。

2月の日付のついたある文書によると、S300のミサイルは5月までに、SA-11ガドフライミサイルシステムは3月末までに枯渇する。NATOによれば、両システムはウクライナの防空機能の89%を占めており、頻繁に行われるロシアのミサイル攻撃をかわすのに極めて重要である。

ロシアの軍事ブロガーたちは既に、ウクライナが配備している防空システムや戦闘機などの航空機の数を推定した文書など、流出した文書を幅広く拡散している。

NATOの評価では、ウクライナはロシアのミサイル攻撃に対しては後数波しか耐えられないとし、同時に防空システムの設置場所を示す地図も提供している。

大西洋評議会ユーラシアセンターのシニアディレクターで、元駐ウクライナ米大使のジョン・ハーブストは、ウクライナの防空に関する情報を、流出した文書の中で「最も不幸な」部分と言及した。

しかし、ハーブストは、どの文書にも、NATOの同盟国やロシアの諜報機関が既に知っている以外の重要な情報は含まれていないと述べた。

ハーブストは、「情報漏洩された結果、ウクライナの戦争努力に何らかの損害が生じたことは間違いないと思う。しかし、その損害は圧倒的なものかと言えば、おそらくそうではないだろう」と述べた。

他の複数の文書では、ウクライナの旅団の強さや能力、ウクライナがどの兵器システムで訓練を受けたかなどが説明されている。2月の日付のついたある文書では、ウクライナが保有する戦車、歩兵戦闘車、砲兵部隊の数を推定されている。

ロシア国営のタス通信は情報漏洩文書の詳細を報道したが、ロシアはこのリークについて不自然なまでに沈黙を保っている。

ロシアの軍事ブロガーたちは文書について懐疑的なようで、あるアカウント「ウォークロニクル」は、資料の誤字脱字や間違いの存在を指摘し、文書の信ぴょう性に疑義を呈している。

テレグラムで100万人以上のフォロワーを持つブロガー、ライバーは、ウクライナ側が準備不足のように見せかけ、最終的にロシアのミスを促すための「コントロールされたリークと大規模な偽情報キャンペーン」であると主張している。

米国防総省がロシア軍とその能力に関する重要な情報をどのように収集しているかをロシアが把握する可能性があるため、今回のリークはアメリカにとっても懸念となる。

情報漏洩文書には、ウクライナ軍だけでなく、戦車から大砲、航空機に至るまで、ロシア軍に関する詳細な評価も含まれている。

ブルッキングス研究所の上級研究員であるマイケル・オハンロンは、今回の情報漏洩について、「ロシアが通信セキュリティを強化し、彼らの次の動きに関する私たちの知識が減少する可能性がある」と電子メールで述べている。

現在、どれだけの文書がインターネット上に出回っているかは不明だが、複数の報告書やアナリストによると、少なくとも100の別々の文書がネット上に出現しているという。

米国防総省は月曜日、流出の規模や範囲についてコメントを避け、国防総省がまだ調査中であることを明らかにした。

広報担当のクリス・ミーガー国防長官補佐は「米国防総省は24時間体制で、流出の範囲と規模、評価された影響、緩和策を検討している」と記者団に語った。

「私たちは、問題の範囲だけでなく、どのようにこれが起こったかをまだ調査している。この種の情報がどのように、誰に配布されるかを詳しく調べるための措置がとられている。また、何が流出しているのかについてはまだ調査中である」と付け加えた。

ミーガーはまた、文書の形式が、「ウクライナやロシア関連の作戦に関する日々の最新情報や、その他の情報更新を上級指導者に提供するために使用されているものと同様の形式で、国家安全保障に非常に深刻なリスクをもたらしている」と明かした。

調査団体「べリングキャット」は、ユーザーが主にゲームなどの話題について議論するウェブサイト「ディスコード」のチャンネルを通じて、3月上旬に文書が流出したことを突き止めた。

最も早く確認されたリークでは、人気ビデオゲーム「マインクラフト」に関連するディスコードのチャンネルに10件の文書が投稿されたのが最も早く確認されたリークである。べリングキャットは、別のディスコードのサーバーで1月の時点でリークがあった可能性があると発表している。

米国防総省は先週、文書流出について調査し、それに関する正式な刑事調査を司法省に任せる決定を行ったと発表した。米政府関係者は月曜日、調査は「最優先事項」であるとし、文書の一部が改ざんされていることを指摘し、文書を調べる際には注意を促した。

米国防総省は、何枚が改ざんされているかは明らかにしていない。しかし、先週注目された文書では、戦死したウクライナ人の数が膨らみ、ロシアの犠牲者の数が大幅に少なく表示されていた。

ウクライナ大統領府長官顧問のミハイロ・ポドリアックは、情報漏洩について、西側同盟諸国間の「注意をそらし」「不和を招く」試みと形容した。

月曜日、米国防総省は、更に多くの文書がネット上に現れる可能性があるのか、米国防総省の何人の職員がこれらの文書にアクセスできたのかについては質問を受けても説明しなかった。複数の政府関係者によると、今回の情報流出により、米国防総省は一部の機密情報が誰にどのように共有されているかを見直すための措置を講じることになったということだ。
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 古村治彦です。

 国際関係論において重要な概念に「安全保障のディレンマ(security dilemma)」がある。安全保障のディレンマとは、ある国が自国の安全保障環境を改善しようとして、同盟強化や国防費増額、軍備拡張といった行動を取った結果、周辺国などの他国も同様の行動を取ることで、より安全になるのではなく、緊張が高まって、最終的に戦争に至るという状況のことである。軍拡を行うことがかえって安全を脅かす負のスパイラルに陥るということだ。

 安全保障のディレンマが大きな理由に「コミュニケイションができない」ということが挙げられる。世界各国は首脳会談をはじめとして様々なレヴェルで会談や会議を行っている。それは、お互いの意図を理解するためである。冷戦中であれば、米ソ両超大国間には首脳同士の「ホットライン」が準備されていた。これはジョン・F・ケネディ米政権とニキータ・フルシチョフ書記長率いるソ連が核戦争手前まで緊張を高めた、キューバ危機の反省から、両国間でホットラインが設置された。

 ある国は周辺国の意図を行動や事象から判断する。防衛予算(軍事予算)や防衛装備の変化、外交政策の変化から意図を読み取ろうとする。そうした中で、「不安感」「恐怖感」を募らせると、防衛力強化に走る。一方、その国を見ている周辺国は、「防衛力強化を行っているが、何か軍事的な意図があるのではないか」ということで、こちらも「不安感」「恐怖感」を募らせる。そうして軍拡競争が始まる。「軍拡競争に負ければ、相手の下風に立たねばならない」ということで無理をするが、その最高点で、「これ以上は無理だが、今なら乾坤一擲で勝負ができるかもしれない」ということで、冒険的、賭博的な行動に出ることがある。

 日本は岸田政権になっても軍拡の姿勢を強めている。アメリカによる軍事予算のGDP2%までの引き上げを進めようとしている。また、先制攻撃可能な体制を整えようとしている。日本政府は「周辺の安全保障環境が不安定なので防衛力を強化しなければならない」という大義名分を掲げている。それを周辺諸国から見れば「軍事力強化」ということになる。そうなれば、周辺諸国もまた軍事力を強化することになる。そうなれば「周辺の安全保障環境が不安定」ということになる。日本は安全保障のディレンマに陥っていることになる。

 このブログで私は何度も書いているのでもう繰り返さないが、日本は日本国憲法第9条を堅持し、軍拡を進めてはいけない。安全保障のディレンマから脱出しなければならない。

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「安全保障のディレンマ」を理解している人はまだいるのか?(Does Anyone Still Understand the ‘Security Dilemma’?

-古典的な国際関係理論が厄介な国際的な諸問題を説明するのに役立っている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年7月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/26/misperception-security-dilemma-ir-theory-russia-ukraine/

「安全保障のディレンマ(security dilemma)」は、国際政治や外交政策を研究する上で、中心的な概念である。安全保障のディレンマとは、ある国家が自国の安全性を高めるために取った行動(軍備の増強、警戒態勢の強化、新たな同盟関係の構築など)が、他国の安全性を低下させ、他国も同様の対応を取るようになるというものだ。1950年にジョン・ヘルツによって初めて提唱され、その後、ロバート・ジャーヴィス、チャールズ・グレイザーなどの研究者によって詳細に分析されている。その結果、敵対関係のスパイラルが拡大し、どちらの国も以前より良い状態にはならないということになる。

もし、あなたが大学で国際関係の基礎的な授業を受けたにもかかわらず、この概念について学ばなかったのであれば、その大学に連絡して返金を求めるのが良いだろう。しかし、その単純さと重要性を考えると、外交・安全保障政策を担当する人々が、しばしばこの概念に気づいていないように見えることに、私はしばしば驚かされる。

NATO本部からツイートされた、同盟に関するロシアの様々な「神話(myths)」に答える最近のプロパガンダ・ビデオを見てみよう。このヴィデオは、NATOが純粋に防衛的な同盟であることを指摘し、ロシアに対する攻撃的な意図は持っていないと述べている。これらの保証は事実として正しいかもしれないが、安全保障のディレンマは、何故ロシアがNATOの主張を額面通りに受け取らず、NATOの東方拡大を脅威と見なす正当な理由があるのかを説明している。

NATOに新しい加盟国を加えることで、これらの国々の一部はより安全になったかもしれない(だからこそ加盟を希望したのだから)。しかし、何故ロシアがそのように考えないか、またそれに対して様々な好ましくないこと(クリミア奪取やウクライナ侵攻など)をするかもしれないことは明らかであるはずである。NATO高官たちはロシアの恐怖を空想や「神話」と見なすかもしれないが、だからといってそれが全く馬鹿げているとか、ロシア人が純粋に信じていないということにはならない。驚くべきことに、著名な元外交官を含む多くの賢くて教養のある西洋人たちは、自分たちの善意が他人には明白でない(their benevolent

また、イランとアメリカ、そしてアメリカにとって最重要な中東の従属諸国(clients)との間にある、疑いの深い、非常に対立的な関係について考えてみよう。アメリカ政府当局は、イランに厳しい制裁を加え、体制転換(regime change)をちらつかせ、核インフラに対するサイバー攻撃を行い、イランに対する地域連合を組織することでアメリカと中東地域のパートナー諸国がより安全になると考えていると思われる。一方、イスラエルはイランの科学者を暗殺することで自国の安全が高まると考え、サウジアラビアはイエメンに介入することでリヤドをより安全にできると考えている。

驚くべきことではないが、国際関係論の基本理論によれば、イランはこうした様々な行動を脅威(threatening)と見なし、ヒズボラの支援、イエメンのフーシ派の支援、石油施設や船舶への攻撃、そして何よりも自前の核抑止力構築の潜在能力を開発するなど、独自の対応を行っている。しかし、こうした予測可能な対応は、近隣諸国の恐怖心を煽り、再び安全性を低下させ、スパイラルを更に拡大させ、戦争の危険性を高めるだけのことだ。

同じ大きな動きがアジアでも起こっている。こちらも驚くべきことではないが、中国はアメリカの長年にわたる地域的影響力、特に軍事基地ネットワークと海・空のプレゼンスを潜在的脅威(potential threat)と見なしている。中国が豊かになるにつれて、その富の一部をアメリカの地位に対抗できる軍事力の構築に充てるようになったのは当然である。皮肉なことに、ジョージ・W・ブッシュ政権はかつて中国に対し、軍事力の強化を追求することは「時代遅れの道」であり、「自国の偉大さの追求を妨げる」ことになると伝えようとしたが、その一方でワシントン事態の軍事費は急増していた。

近年、中国はいくつかの領域で既存の現状を変えようとしている。このような行動により、中国の一部の近隣諸国は安全性を低下させ、政治的に接近し、アメリカとの関係を強化し、自国の軍事力を増強することによって、北京は、アメリカが中国を「封じ込め(contain)」ようと組織的に努力しており、中国を永久に脆弱なままにしておこうとしていると非難するに至っている。

これら全てのケースにおいて、安全保障上の諸問題と見なされるものへの対処は、相手側の安全保障上の懸念を高めるだけであり、その結果、相手側の懸念がより強まるという反応を引き起こした。このような場合、お互いに相手の行動に対する防衛的な反応としか考えられず、「誰が始めたか」を特定することは事実上不可能になる。

重要な洞察は、武力行使などの攻撃的行動は、必ずしも悪(evil)や攻撃的な動機(aggressive motivations)、言い換えれば、それ自体のための富、栄光、力への純粋な欲求から生じる訳ではない、ということだ。しかし、リーダーたちが自分の動機は純粋に防衛的なものであり、この事実は他人には明らかであるべきだと考えている場合(上記のNATOのヴィデオが示唆しているように)、相手の敵対的な反応を、強欲(greed)、生来の好戦性(innate belligerence)、または悪意のある外国の指導者の悪意と譲れない野心(evil foreign leader’s malicious and unappeasable ambitions)の証拠として見る傾向がある。そして、外交はやがて罵り合い(name-calling)の場へと変化する。

確かに、この問題を理解し、安全保障のディレンマがもたらす悪弊を緩和しようとする政策を選択した世界の指導者たちもいる。例えば、キューバ危機の後、ジョン・F・ケネディ米大統領とニキータ・フルシチョフ・ソ連首相は、有名なホットラインを設置し、核軍備管理のための本格的な取り組みを開始することによって、将来の対立(confrontations)のリスクを減らす努力をし、成功させた。

オバマ政権は、イランとの核合意を交渉した際にも同様のことを行った。それが、イランが爆弾に手を出すことを阻止し、時間をかけて関係を改善する可能性を開く第一歩になると考えたからだ。この取引の最初の部分はうまくいったが、その後、ドナルド・トランプ政権がこれを放棄する決定を下したことは、全ての当事者に不利益をもたらす大失策だった。モサドの元長官タミール・パルドが分析しているように、イスラエルがドナルド・トランプ米大統領(当時)に協定からの離脱を説得するために行った大規模な努力は、「国家樹立以来最も深刻な戦略的失敗の1つ」であった。

作家のロバート・ライトが最近指摘したように、2014年のロシアのクリミア占領後、バラク・オバマ米大統領(当時)がウクライナに武器を送らないという決定を下したのも、同様に安全保障のディレンマの論理を理解してのことであった。オバマは、ウクライナに攻撃的な武器を送ると、ロシアの恐怖を悪化させ、ウクライナ人がロシアのそれまでの利益を覆すことができるとロシア人が考えるようになり、それによって更に大規模な戦争が引き起こされることを理解していたとライトは主張している。

悲劇的なことに、トランプ政権とバイデン政権がキエフへの西側諸国製兵器の提供を強化した後、ほぼ同様のことが起こった。ウクライナが急速に欧米諸国の軌道に乗るという恐怖がロシアの恐怖を高め、プーティンを違法かつ高価で長引く予防戦争(preemptive war)を引き起こすという結果に至ったのである。ウクライナの自衛能力向上を支援することは理にかなっていたとしても、モスクワを安心させることなくそうすることは、戦争の可能性をより高めることになった。

それでは、安全保障のディレンマの論理は、代わりに融和政策(policies of accommodation)を規定するのだろうか? 残念ながらそうではない。その名が示すように、安全保障のディレンマとは、ある国家だけが一方的に武装解除したり、相手に譲歩を繰り返したりしても、その安全が保証されないというディレンマのことである。敵対関係の核心が相互不安(mutual insecurity)であるとしても、一方に有利な譲歩(concessions)をすることで、克服しがたい優位を獲得し、永続的に自国の安全を確保しようと、攻撃的な行動に出るかもしれないのだ。残念なことに、無政府状態(anarchy)に内在する脆弱性(vulnerabilities)に対して、迅速で簡単、かつ100%確実な解決策は存在しない。

その代わり、政府は国家戦略(statecraft)、共感(empathy)、そして合理的な軍事政策(intelligent military policies)を通じてこれらの問題を管理するよう努めなければならない。ロバート・ジャーヴィスが1978年に発表した『ワールド・ポリティックス』誌掲載の記事の中で説明したように、状況によっては、特に核の領域で防衛的な軍事態勢を整備することによって、このディレンマを緩和することができる場合がある。この観点からすれば、第二次報復戦力抑止力(second-strike deterrent capability)によって国家を守るが、相手国の第二次報復戦力を脅かさないため、安定化させることができる。

例えば、弾道ミサイル潜水艦は、より信頼性の高い第二次攻撃力を提供するが、互いに脅威を与えないため、安定化するのである。これに対して、反撃兵器、戦略的対潜水艦戦能力、ミサイル防衛は、相手国の抑止力を脅かし、安全保障上の不安を増大させるため、不安定化させるものである。批評家たちが指摘するように、通常戦力を扱う場合、攻撃と防御の区別ははるかに困難だ。

また、安全保障のディレンマが存在する以上、国家は自らを脆弱にすることなく信頼を構築できる分野を探すべきであると考える。その1つが、互いの行動を監視し、敵対国が事前の合意に対して不正を行っていることを明らかにできる制度を設けることである。また、安定を望む国家は、通常、現状を尊重し、事前の合意を遵守することが賢明であることを示唆している。露骨な違反は信頼を失い、一度失った信頼はなかなか回復しない。

最後に,安全保障のディレンマとおよび誤認に関する多くの関連文献の論理は,国家は,自分たちの真の懸念と何故そのように行動しているのかを説明し,説明し,もう一度説明するために,通常よりも多く努力をしなければならないことを示唆している。ほとんどの人、そして政府は、自分の行動は実際よりも相手に理解されやすいと考える傾向があり、相手が理解しやすく、信じやすい言葉で自分の行動を説明することはあまり得意ではない。この問題は、現在、特にロシアと欧米諸国の関係で顕著で、互いに相手を言い負かし、相手の行動に何度も驚かされているような状況だ。

特に、自分のしていることにインチキな理由をつけることは有害だ。それは、インチキな理由付けをしてしまうと、他人が自分の言葉をまともに受け止めないと感覚的に判断してしまうからである。経験則から言うと、敵対者はあなたのやっていることとその理由に関して最悪の事態を想定しているので、彼らの疑念が誤りであることを説得するために多大な努力が必要となる。何より、このアプローチは政府に共感すること、つまり相手の視点から問題がどのように見えるかを考えることを促すものであり、相手の見解が的外れであっても常に望ましいことである。

残念ながら、これらの方策は、国際政治を苦しめる不確実性を完全に排除したり、安全保障のディレンマを無意味なものにしたりすることはできない。より多くの指導者たちが、良かれと思った政策が意図せず他人を不安にさせていないかどうかを考え、その不安をある程度は軽減するような形で問題の行動を修正できないかどうかを検討すれば、より安全で平和な世界が実現するはずである。この方法はいつもうまくいくとは限らないが、もっと頻繁に試されるべきだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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