古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:リアリズム

 古村治彦です。
 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。
 学問分野としての国際関係論ではリアリズムと理想主義(アイディアリズム)の大きな2つの流れがある。極めて簡単に(乱暴に)まとめると、リアリズムでは力(power、パウア、他の主体を自分の意思に従わせる、自分の利益になるように動かすこと)を最重視し、理想主義では協力(cooperation)を最重視する。これは極めて単純で乱暴な分類の仕方であるが、大づかみで分かるにはこのようにするしかない。

 協力というのは、国際機関や国際的な枠組みのことであり、代表的な存在は国際連合(United Nations)である。しかし、この国際連合もそもそもは、第二次世界大戦の戦勝国の集まり(Allied Powers)であり、国連で絶大な力である拒否権(veto)を持つのは、国連安全保障理事会の常任理事国(permanent members)5カ国(アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国)だけである。常任理事国は第二次世界大戦を勝利に導くのに大きく貢献し、また、多大な犠牲を払った主要諸国だ。日本は、十分に反省し、もう世界の大勢(たいせい)に逆らいませんということで、国連に入れてもらった。日本は旧敵国なのであり、国連が存在し続ける限り、新たな国際秩序が生まれるまで、この立場に置かれる。

リアリズムの観点からすれば、国際機関や国際的な枠組みは、「利用する」為に存在する。自分たちの国益のために利用価値があるなら、協力もする。しかし、それがないならば、協力することはない。アメリカのドナルド・トランプ大統領は、「利用価値なし」という判断を下している。国際保健機関からの脱退を表明し、そのプロセルを進めていること、気候変動に関するパリ協定からの脱退を表明していることはその具体例である。更に言えば、国際貿易感を無視しての、一方的な高関税政策もこの一環でもある。
 中国がトランプの高関税政策に反発し、国際的な貿易の枠組み、グローバルな取り組みの守護者になるという主張が説得力を持つようになっているのは何とも皮肉なことである。国際的な枠組みやルールは、国際化が進む世界においては必要不可欠である。こうした枠組みやルール作りを主導するのは主要諸国、特に世界覇権国の役割であるが、アメリカはその役割を放棄しようとしている。そのためのトランプ大統領出現である。そうなれば、どこが変わりの役割を果たすかということになるが、しばらくは集団指導体制のようなことになるだろうが、やはり中国ということになる。私たちはそうした大きな構造変化に直面しているのである。
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グローバル・ルールの現実的な根拠(The Realist Case for Global Rules)
-ドナルド・トランプの世界秩序に対するアプローチを懸念するのに理想主義者になる必要はない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年5月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/05/29/realism-rules-trump-order-institutions/

ドナルド・トランプ米大統領は、世界政治について理解していないことがたくさんある。ホワイトハウスで2期目を迎えていることを考えると驚くべきことだが、その1つが国際機関の重要性だ。機関とはルールであり、トランプのルールに対する軽蔑は、彼が政界に入る前から存在した。彼は長い間、規範、法律、規則を、自分が望むものを手に入れることを妨げる厄介な制約とみなしており、その姿勢を外交政策にも持ち込んでいる。外国政府から多額の報酬を受け取ったり、グリーンランドの占領やカナダの併合をほのめかしたり、大統領執務室で外国からの訪問者を威圧したり、トランプは、挑戦されるべきではない規範などない、神聖な合意などない、投資や防衛に値する国際機関などない、と考えている。

読者の皆さんは、私のようなリアリストは、トランプに賛同するだろうと思うかもしれない。リアリストは、力(power)こそが全てであり、規範やルール、制度(institutions)は国家(特に大国)の行動にほとんど影響を与えないと考えているのではないのか? もし国際関係論の入門授業でそう教わったのなら、講師のところに戻って授業料の返金を要求すべきだ。確かにリアリズムは、世界政治において力が最も重要な要素であると見なし、特定の時点において支配的な制度に最大の影響力を持つのは強大な国家であると主張する。リアリストたちはまた、ルールの遵守を強制する中央権威(central authority to enforce compliance)が存在しないため、国家は望むならルールに背くことができると強調する。しかしハンス・モーゲンソー、ロバート・ギルピン、ヘンリー・キッシンジャー、スティーヴン・クラズナー、さらにはジョン・ミアシャイマーのような洗練されたリアリストたちは、相互依存する国家のシステム(any system of interdependent states)はどんなものであれ、ルールなしには機能し得ず、強大な国家でさえ既存ルールを頻繁に、あるいは甚だしく無視すれば代償を払うと強調している。

諸国家は選択の余地がほとんどないため、国際ルールに細心の注意を払う。例えば、ある国が自国の領土への民間航空機の就航を望む場合、航空管制における英語の使用など、国際民間航空機関(the International Civil Aviation Organization、ICAO)が定めたガイドラインに従わなければならない。主権国家はICAOの規則を拒否する自由があるが、その場合、自国領土への航空交通は一夜にして停止することになる。

同じ原則は、貿易、投資、海外旅行、絶滅危惧種の保護、通信周波数の割り当て、漁業規制、水利権の割り当てなど、幅広い地球規模の活動にも当てはまる。現代の国家、企業、非政府組織、教会、その他の重要な団体は、様々な方法で、場合によっては毎日毎時間、相互に交流しているため、これらの活動がどのように行われるかを管理するためのルールが必要だ。

もし輸出入を希望する企業がそれぞれ取引方法を個別に交渉しなければならなかったり、各国が国連193加盟国それぞれとの通貨取引ルールを独自に策定しなければならなかったりしたら、どれほど困難か想像してみて欲しい。さらにそのプロセスを毎日繰り返す必要があると想像して欲しい。例外が生じたり、国家や企業が約束を破ったりすることはあるものの、こうした活動を管理する一般原則を策定する方がはるかに容易だ。規範と制度(norms and institutions)は不確実性を減らすことで、安定した行動パターンを強化し、国家や企業、その他の主体が計画を立てることを可能にする。

さらに言えば、ロバート・コヘインたちが数十年前から指摘するように、協力することで明らかな利益が得られる一方で、不正行為を誘発する動機もある状況では、制度は国家がより良い結果を達成するのに役立つ。不確実性と取引コスト(uncertainty and transaction costs)を削減するだけでなく、制度には通常、違反を検知し対応するための検証手続きが含まれている。不正行為が確実に検知されるよう設計された規則体系は、そもそも不正を行うインセンティヴを低減する。適切に設計されれば、一部の国家が他より大きな利益を得る状況にも対応可能であり、これにより潜在的な参加国が参加を躊躇し、結果として全ての関係者が損をする事態を防げる。多極的制度(multilateral institutions)は、多数の異なる国々と個別に合意を交渉する必要性を排除することで、こうした利点を増幅させる。

最後に、国家は相互の意図を測るために制度を利用する。一般的に「ルールに従う(follow the rules)」意思のある国家は他国にとって脅威が少なく、より信頼できるパートナーと見なされる。対照的に、既存の規範を繰り返し無視する国家は危険と見なされ、他国に信頼を説得するのが困難になる。とりわけこれが、たとえルールを守っていなくても自国が順守していると他国に信じ込ませようとする理由であり、敵対国が既存の規範や合意を破っていると常々非難する理由である。著者のイアン・ハードが強調するように、「政府は自らの選択を説明し正当化するために国際法を利用する…国際法は国家にとってある行為(合法と提示できるもの)を容易にし、別の行為(違法に見えるもの)を困難にする」。

確かに、国家が相互関係を管理するために作り出すルールは中立ではない。強国は自らの利益や価値観に有利な取り決めを支持し、可能であれば弱小国にそれを押し付ける。また、1971年の金本位制離脱や2003年のイラク侵攻でアメリカが示したように、重大な罰則を受けずに規則を破ることも可能だ。とはいえ、既存の制度が日常的に遵守される世界は最強国にも利益をもたらす。規則がほとんど存在しない世界は、はるかに貧しく危険な場所となるだろう。

制度がもたらす効果が実証されていることを考えると、世界の指導者たちは皆、その価値を認識するだろうと考えるかもしれない。実際、ほとんどの指導者はそう認識している。しかしながら、国家指導者は依然として3つの重大な過ちを犯す可能性がある。1つ目は、国際機関の能力を過大評価することだ。これは、理想主義者たち(idealists)が、国際機関があれば国家間の紛争、汚染、権力争い、人権侵害を阻止できると考える際に犯す過ちだ。2つ目の過ちは1つ目の過ちとは逆だ。指導者たちは、制度がもたらす利益を過小評価し、単独で行動する方が賢明だと誤って結論付けることもある。例えば、イギリスの有権者たちが2016年にEU離脱を選択した際、EU加盟のメリットを理解していなかったことは明らかだ。同様に、トランプ大統領も2015年のイランとの核合意や頓挫した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の価値を認識していなかった。3つ目は、国家が度重なる違反行為による風評被害を過小評価し、自らの行動が他国からより否定的な評価を受け、様々な形で距離を置いていることに気付くことだ。

今日の人々が懸念すべきは、後者の2つの誤りである。トランプ(あるいは彼が称賛する独裁者の大半)が制度の力を誇張する危険性は低い。むしろ、安定的で綿密に構築された制度の価値を過小評価し、ルールを破ることが国の評判に甚大なダメージを与え、長期的には国を不利に導く可能性があることを理解できない可能性の方が高い。

トランプの国際貿易交渉へのアプローチは、この2つの誤りを如実に示している。彼は長年、世界貿易機関(the World Trade Organization、WTO)をアメリカに損害を与える欠陥のある機関と見なしてきたが、アメリカの正当な懸念に対処できる改革を推進する代わりに、関税の脅威を用いて数十カ国にアメリカとの新たな二国間協定交渉(bilateral arrangements)を迫っている。このアプローチは本質的に非効率的である。なぜなら、有意義な貿易協定を結ぶには多くの厳しい交渉が必要であり、問​​題は細部に宿るからだ(the devil is in the details)。数十カ国と同時に真剣な交渉を行おうとしてもうまくいかないだろう。そして、アメリカ人が間もなく数百もの新たな貿易協定の恩恵を受けるというトランプの主張は、まさに典型的なトランプ流のナンセンスである。

さらに悪いことに、トランプの気まぐれさ、優柔不断さ、そして根本的な信頼性の欠如は、各国が真剣な譲歩を提示することをより躊躇させるだろう。なぜなら、トランプが合意の条件を遵守するとは信じられないからだ。2020年、トランプは自分の政権がメキシコ・カナダと交渉した貿易協定について、「私たちがこれまで法律として署名した中で最も公平で、最も均衡が取れ、有益な貿易協定だ。私たちがこれまでに結んだ中で最高の協定だ」と述べた。ならばなぜ、再選直後にこれを破棄したのか? 中国には145%の関税を課したが、その後一時的に30%に引き下げ、EUへの関税脅威はまるで薬物中毒の猿のように跳ね回っている。こうした気まぐれな国際交渉姿勢は、他国に対し「アメリカが約束を守る」という期待を持って自らの行動を調整すべきではないと示しており、賢明な国々は既に信頼できる貿易・投資パートナーを模索し始めている。

この同じ問題が今、トランプ大統領がイランの核計画に関して新たな合意に達しようとする試みにも影を落としている。バラク・オバマ前大統領が交渉した核合意が機能していたにもかかわらず破棄した後、トランプ大統領がイランに自らの約束を真剣に受け止めさせるのははるかに困難になった。イランの最高指導者アヤトラ・アリー・ハメネイ師は2月、この点を極めて明確に示した。アメリカ・イラン両国が新たな合意を結ぶのに十分な共通基盤を見出す可能性はまだ残されているものの、アメリカがこれまで気まぐれなパートナーとして振る舞ってきた歴史が、この困難な任務をさらに達成しづらくしているとイラン国民に警告したのである。

トランプが従来の行動規範を無視する最後の例として挙げられるのは、大統領執務室における世界各国の指導者への無礼な対応だ。ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領から始まり、最近では南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領に対しても同様の態度を取った。私がジョン・ボルトンの見解に同意することは稀だが、トランプがラマポーザの友好的な働きかけに対し、白人ジェノサイドという全くの虚構に基づく非難を浴びせた後、ボルトンはトランプの発言が「全くの虚偽」であると指摘し、ラマポーザへの攻撃を「逆効果だ」と評した。それはなぜか? 「トランプと会談したいと思わせるものではないからだ。彼らがどう扱われるか、誰が予測できようか?」

ルールを繰り返し破ることの評判への影響を過小評価する世界の指導者はトランプだけではない。2022年にウラジーミル・プーティン大統領がウクライナ侵攻を決断したことで、ヨーロッパのロシア観は根本的に変わり、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟につながった。イスラエルが国際法を繰り返し違反し、ガザ地区のパレスティナ人に対する虐殺的作戦を展開したことで、2023年10月7日のハマス攻撃後に得た同情は失われ、世界的なイメージに甚大な損害を与えた。ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相がEUの原則を繰り返し無視した結果、ハンガリーはヨーロッパ内で孤立し、その繁栄の基盤であるEU補助金も危うくなった。

規範違反がもたらす評判への影響は、違反の性質と発生状況によって異なる。意図的で大規模な違反、例えば他国への挑発のない破壊的な攻撃などは、軽微な、あるいは不注意による過失よりも見過ごすのが難しいものだ。また、国家が絶望的な状況にあり、生き残るためにあらゆる手段を講じなければならない状況では、違反は許容されやすい。一方、違反者が存亡の危機に瀕しておらず、単に利己的な利益を追求しているだけの場合は、違反はより非難されるべきものとなる。トランプがホワイトハウスに復帰する前、アメリカ経済は好調であり、彼の行動には経済的な正当性がほとんどないため、世界秩序への彼の攻撃はアメリカの評判に特に大きなダメージを与える。同様に、同盟国デンマークからグリーンランドを奪取したり、カナダを併合したりすることには、説得力のある戦略的または経済的根拠がないため、トランプがそのような野心を容認する姿勢は、他者にとって見過ごすことや却下することがより困難だ。

 国家は、ある程度安定し、かつ広く受け入れられている規範や制度がなければ機能できないため、トランプ政権のルール軽視は、他の大国がルールのあるべき姿を定義し、他国に自らの指導に従うよう説得することを許してしまう可能性がある。中国とロシアは、現在の世界秩序の原則の一部を書き換えたいという願望を隠そうとはしておらず、自らがアメリカよりも信頼でき、予測可能なパートナーであると他国を公然と説得しようとしている。この点における中露両国の実績は決して完璧とは程遠く、他国はロシアや中国の主張を額面通りに受け止めるべきではないが、トランプの規範への無関心とルール破りへの傾倒は、一部の人々にとってこの主張をより説得力のあるものにする可能性がある。アメリカ人はいつか目を覚まし、世界の大部分が、数十年にわたって世界政治の多くを形作ってきた主にアメリカ中心の制度ではなく、北京で作られた規範、制度、ルールに従っていることに気づくかもしれない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 今回は、スティーヴン・M・ウォルトによるノーム・チョムスキーを評価する内容の論稿をご紹介する。ウォルトはリアリスト、チョムスキーは左翼という立場の違いはあるが、アメリカの介入主義的な外交政策について厳しく批判しているという点では共通している。

ノーム・チョムスキーは、言語学者として知られているが、半世紀以上にわたりアメリカの外交政策に対する批判者としてもまた知られている。チョムスキーはアメリカの介入主義的な外交政策を手厳しく批判してきた。彼は最新刊『アメリカの理想主義の神話』(共著)を刊行し、その中で「アメリカの外交政策が高尚な理想に基づいている」という主張に対する批判を行っている。チョムスキーとネイサン・J・ロビンソンはこの考え方を否定している。彼らは、アメリカが歴史的に多くの残虐行為を行ってきたことを指摘し、国際法を無視する行動が常態化していると述べている。

また、チョムスキーとロビンソンは、アメリカの外交政策が少数の特権的なグループによって決定されていると主張し、これらのグループが企業の利益を優先することが多いと指摘している。彼らは、アメリカの高官たちが自らの行動を正当化するために道徳的な理由を持ち出す一方で、実際には自己利益に基づいて行動していると批判している。

さらに、一般市民が不正義な政策を容認する理由について、著者たちは政治的メカニズムの欠如や政府による情報操作を挙げている。彼らは、国民が政府の行動を理解し、変化を求めることが重要であると考えているが、情報を得た市民が必ずしもより良い政策を支持するとは限らないとも警告している。

最後に、アメリカの外交政策が世界に与える影響について、他国がそれを止めようとしない理由についての疑問も提起されている。著者たちは、アメリカの行動が国際的な力のダイナミクスに影響を与えていることを示唆し、他国の反応や同盟関係の複雑さについても考察している。世界各国はアメリカの力の減退に懸念を持っているが、同時に、アメリカの押しつけがましい、介入主義的な外交政策の減退は歓迎するだろう。

 以下の論稿を読むと、アメリカ外交について理解を深めることができる。

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ノーム・チョムスキーの正しさが証明されている(Noam Chomsky Has Been Proved Right)

-左翼的な外交政策に対するこの著述家の新たな主張は主流派の関心を引いている

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/11/15/chomsky-foreign-policy-book-review-american-idealism/

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ドイツのカールスルーエで講演するノーム・チョムスキー(2014年5月30日)

半世紀以上にわたって、ノーム・チョムスキーは間違いなく、世界で最も首尾一貫して、妥協を許さず、知的尊敬を集める現代アメリカの外交政策に対する批判者であり続けた。著書、記事、インタビュー、スピーチにおいての着実な流れの中で、彼はワシントンの進める多くの予算が必要で、非人道的なアプローチを繰り返し暴露してきた。共著者のネイサン・J・ロビンソンが序文で書いているように、『アメリカの理想主義の神話(The Myth of American Idealism)』は、「(チョムスキーの)仕事全体から洞察(insights)を引き出し、アメリカの外交政策に対する彼の中心的な批判を紹介できる一冊にする」ために書かれた。その目的は見事に達成されている。

本のタイトルが示しているように、本書の中心的なターゲットは、アメリカの外交政策は民主政治体制、自由、法の支配、人権などの高尚な理想によって導かれているという主張である。この考え方に賛同する人々にとって、アメリカが他国に与えた損害は、素晴らしい意志が伴う目的と善意(noble purposes and with the best of intentions)によって取られた行動の意図しない、非常に残念な結果(unintended and much regretted result)である。アメリカ人は指導者たちから、自分たちが「なくてはならない国(indispensable nation)」であり、「世界が知る自由のための最大の力(the greatest force for freedom the world has ever known)」であることを常に思い起こさせられ、道徳的原則(moral principles)が「アメリカ外交の中心(center of U.S. foreign policy)」であることが保証される。このような自己満足的な正当化(self-congratulatory justifications)は、政治家やエスタブリッシュメント派知識人の大合唱によって延々と繰り返される。

チョムスキーとロビンソンにとって、これらの主張はナンセンスだ。建国したてのアメリカ共和国は、先住民族に対する大量虐殺キャンペーンを展開することで「明白な運命(マニフェスト・デスティニー、Manifest Destiny)」を達成しただけでなく、それ以来、数多くの残忍な独裁政権を支援し、多くの国で民主化プロセスを妨害するために介入し、インドシナ、ラテンアメリカ、中東で何百万人もの人々を殺害する戦争を行ったり支援したりしてきた。アメリカの高官たちは、他国が国際法に違反するとすぐに非難するが、国際刑事裁判所や海洋法条約、その他多くの国際条約への加盟は拒否する。また、1999年にビル・クリントン大統領がセルビアに戦争を仕掛けたときや、2003年にジョージ・W・ブッシュ大統領がイラクに侵攻したときのように、自ら国連憲章に違反することをためらうこともない。

ソンミ村虐殺事件、アブグレイブ刑務所での虐待、CIAの拷問プログラムなど、紛れもない悪行が暴かれたときでさえ、処罰されるのは下級の職員たちであり、その一方で、こうした政策の立案者は依然としてエスタブリッシュメント派側の尊敬を集めている。

チョムスキーとロビンソンが語る偽善の記録は、悲痛で説得力がある。心の広い読者であれば、この本を読んで、アメリカの指導者たちが自分たちのむき出しの行動を正当化するために持ち出す敬虔な根拠を信じ続けることはできないだろう。

しかし、なぜアメリカの高官たちがこのような行動をとるのかを説明しようとすると、本書は説得力を欠く。 チョムスキーとロビンソンは、「意思決定における国民の役割は限定的(the public’s role in decision-making is limited)」であり、「外交政策は、国内から権力を得ている小さなグループによって立案され実行される(foreign policy is designed and implemented by small groups who derive their power from domestic sources)」と主張する。これらの小さなグループとは、「軍産複合体、エネルギー企業、大企業、銀行、投資会社など、そして、私たちの生活のほとんどの側面を支配している私的帝国(private empires)を所有し、管理している人々の言いなりになっている政策志向の知識人たち」である。

特別な利害関係者の重要性は疑う余地がないし、より広範な国民の役割も限られている。まず、企業の利益と国家の安全保障上の利益が衝突した場合、前者が損をすることが多い。たとえば、ディック・チェイニーが1990年代に石油サーヴィス会社ハリバートンを経営していたとき、彼はイランでの金儲けを妨げる「制裁好き(sanction-happy)」な外交政策に苦言を呈した。他のアメリカの石油会社もイランでの投資を望んでいただろうが、アメリカの制裁は強固なままだった。同様に、アップルのようなハイテク企業は、中国の先端技術へのアクセスを制限する最近のアメリカの取り組みに反対している。規制は確かに見当違いかもしれないが、重要なのは、企業の利害が常に主導権を握っている訳ではないということだ。

チョムスキーとロビンソンはまた、他の大国がアメリカとほぼ同じような行動を取り、これらの国もまた、自分たちの残虐な行為を白紙に戻すために、「白人の責務(white man’s burden)」、「文民主義的使命(la mission civilisatrice)」、つまり、「社会主義を守る必要性(the need to protect socialism)」といった手の込んだ道徳的正当化理由を作り出したことを認めている。このような行動が、(軍産複合体はおろか)近代的な企業資本主義の出現に先行していたことを考えると、これらの政策は、アメリカという企業の特定の要求というよりも、大国間競争の論理と関係が深いことが示唆される。また、資本主義以外の大国が同じような行動をとったのであれば、ライヴァルに優位に立つため、あるいはライヴァルが自分たちと同じような優位に立つのを防ぐために、国家が自分たちの価値観を捨てるよう促しているのは、何か別のものだということになる。リアリストにとって、その別の何かとは、他の国家がより強くなり、有害な方法で権力を行使することを決めたらどうなるかという恐怖である。

 

このような政策を実行する人々についての彼らの描写も、読者によっては単純だと感じるだろう。彼らに言わせれば、アメリカの高官たちは皮肉屋である。彼らは、自分たちが純粋に利己的な理由で悪いことをしていることを理解しており、他者への影響などあまり気にしていない。しかし、彼らの多くは、自分たちのしていることはアメリカにとっても世界にとっても良いことであり、外交政策には痛みを伴うトレードオフが必然的に伴うと信じているに違いない。彼らは自分自身を欺いているかもしれないが、ハンス・モーゲンソーのような思慮深いアメリカ外交政策批評家たちは、政治の領域で自分の道徳的純度を保つことの不可能性を認めていた。チョムスキーとロビンソンは、自分たちが好む政策の潜在的なコストや否定的な結果についてほとんど語らない。彼らの世界では、道徳的なことと有利なことの間のトレードオフはほとんどなくなっている。

『アメリカ理想主義の神話』は更に2つの疑問を提起しているが、詳細に扱われているのは1つだけである。最初の疑問は次の通りだ。なぜアメリカ人は、コストがかかり、しばしば失敗し、道徳的に恐ろしい政策を容認するのか? 一般市民は、過剰な軍備に費やされた数兆ドルや、不必要で失敗した戦争で浪費された数兆ドルから、数え切れないほどの恩恵を受けることができたはずなのに、有権者は同じことを繰り返す政治家を選び続けている。それはなぜだろうか?

一般的に説得力のある彼らの答えは2つある。 第一に、一般市民には政策を形成する政治的メカニズムが欠けている。その理由の1つは、米連邦議会が戦争宣言に関する憲法上の権限を大統領に簒奪させ、あらゆる怪しげな行動を深い秘密のベールに包むことを許しているからである。第二に、政府機関は、情報を分類し、リークした人間を訴追し、国民に嘘をつき、物事がうまくいかなかったり、不正行為が露見したりしても、責任を問われることを拒否することによって、「同意を捏造(manufacture consent)」するために非常な努力をしている。彼らの努力は、政府の主張を無批判に繰り返し、公式のシナリオに疑問を呈することはほとんどない、一般的に従順なメディアによって助けられている。

私自身、これらの現象について書いたことがあるが、外交政策のエスタブリッシュメント派がその世界観をどのように追求し、擁護しているかについての彼らの描写は、おおむね正確であると感じた。しかしながら、国民の認識が高まればアメリカの政策が改善されるかと言えば、そうとは言い切れない。チョムスキーとロビンソンは、もしもっと多くのアメリカ人が自分たちの政府が何をしているかを理解すれば、声を上げて変化を求めるようになるだろうと考えている。そう思いたいが、よりよく情報を得た国民が、より利己的で、近視眼的で、不道徳な外交政策を支持する可能性はある。特に、チョムスキーとロビンソンの処方箋が、費用のかかる、あるいは痛みを伴う調整を必要とすると考えた場合には。ドナルド・トランプ前大統領は、裸の私利私欲以外の理想に関与することを微塵も表明したことがないにもかかわらず、アメリカの有権者の半数以上の忠誠心を集めている。

また、ニューズソースが増え、主流メディアへの不信感が増すにつれ、従来のエリートが同意を捏造する能力が衰えているのではないかという疑問もあるだろう。問題は同意の捏造なのか、それとも過去に国民の同意を得た具体的な政策なのか?  イーロン・マスク、ピーター・ティール、ジェフ・ベゾスのような人々が新たなエリートの中核として登場した場合、彼らはチョムスキーやロビンソンが望むものに近い(同一ではないが)、より介入度の低い外交政策を支持する可能性が高い。もしそうなったとしても、チョムスキーとロビンソンは、この新しいエリートが自分たちの支持する政策への同意を捏造する能力を批判するだろうか?

第二の疑問は、詳細には触れられていないが、世界の他の国々に関するものである。もしアメリカの外交政策が(本書の副題にあるように)「世界を危険に晒す(“endangers the world)」のであれば、なぜもっと多くの国がそれを止めようとしないのだろうか? ワシントンは現在、いくつかの厳しい敵対諸国に直面しているが、それでもまだ多くの本物の熱狂的な同盟諸国を持っている。同盟諸国のなかには日和見主義的な(opportunistic)国や、アメリカの巨大なパワーに怯えている国もあるかもしれないが、親米的な指導者の全てが飼いならされたカモや私利私欲にまみれた傭兵という訳ではない。世界的な調査によれば、一部の地域(中東など)では、アメリカが行っていることに深く、正当な怒りを抱いているにもかかわらず、アメリカに対する支持と称賛は驚くほど高い。アメリカの世界的なイメージも、過去には驚くべき回復力を見せたことがある。ジョージ・W・ブッシュが大統領だったときに急落し、有権者がバラク・オバマを選んだとたんに急回復した。

世界の多くの地域で懸念されているのは、アメリカの力の抑圧的な性質(oppressive nature)であることではなく、むしろその力が後退する可能性である。チョムスキーとロビンソンは、アメリカが過去100年にわたって多くの悪いことをしてきたことは間違いないが、正しいこともいくつか行ってきたはずだ。本書では、アメリカの外交政策の肯定的な側面はほとんど扱われておらず、その省略が本書の最大の限界である。

このような留保はあるものの、『アメリカ理想主義の神話』はチョムスキーの考え方を知るための入門書として貴重な著作である。実際、学生がこの本を読むのと、『フォーリン・アフェアーズ』誌や『アトランティック』誌といった、現職や元米政府高官が時折寄稿する論稿集を読むのとでは、どちらがアメリカの外交政策について学べるかと問われれば、チョムスキーとロビンソンの圧勝だろう。

私が40年前にキャリアをスタートさせたときには、この最後の文章は書かなかっただろう。しかし、私はずっと注目してきたし、証拠が積み重なるにつれて私の考え方も進化してきた。かつてはアメリカの左翼的な言説の片隅にとどまっていたアメリカの外交政策に対する視点が、今や多くのアメリカ政府高官が自らの行動を擁護するために拠り所にしている、使い古された決まり文句よりも信頼できるものとなっていることは、残念ではあるが明らかになった。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2024年は選挙の年だった。世界各国で選挙が実施された。アメリカ、イギリス、フランス、インド、インドネシア、日本などで選挙が実施され、イギリスでは政権交代が起きた。しかし、日本人である私たちにとって関心が高かったのは、自国内の与党である自民党の総裁選挙で石破茂氏が総裁に選ばれたことと首相となった石破氏がすぐに仕掛けた総選挙で自公連立政権が衆議院で過半数割れとなり、少数与党になったことと国民民主党が躍進したことである。そして、これらの次としては、アメリカの大統領選挙で、共和党のドナルド・トランプ前大統領が民主党のカマラ・ハリス副大統領を破り、大統領に返り咲いたことだ。共和党は連邦議会上下両院で過半数を獲得し、更には連邦最高裁の判事構成でも保守派が過半数を占める状態となり、「クオドルプル・レッド(quadruple red)」状態になった。

 アメリカ大統領選挙の結果は、トランプが激戦州を全て制し、かつ、得票総数でもハリスを上回った。民主党は惨敗であるが、ブルーステイトを中心に支持は根強い。トランプ嫌いの人々もまた、アメリカには多くいる。それは当然のことだ。私がこのブログで論稿を紹介しているハーヴァード大学教授のスティーヴン・M・ウォルトもその一人だ。彼は、民主党内の介入主義派や共和党のネオコンを厳しく批判してきた。国際関係論においては、リアリズムという立場を取っている。リアリズムの立場からすると、トランプのアイソレイショニズムやアメリカ・ファーストの方が支持しやすいと考えられるが、ウォルトは選挙の前に、ハリス支持を表明した。アメリカの高名な知識人がどのように考えていたかを示すためにも、彼の論稿を紹介したい。

 ウォルトは下の論稿の中で、トランプの一期目の政権の外交を厳しく批判している。まとめると、「トランプが大統領だった際の彼の行動は、リアリストとしての資質を欠いていた。彼は粗野なナショナリストであり、北朝鮮、中国、ロシアとの外交の失敗に直面している。さらに、彼は「永遠の戦争」を終結させることなく、無謀な軍事行動を続け、アブラハム合意は中東での混乱の原因となっている。トランプの外交政策は、イランとの合意破棄やパリ協定の撤回などを通じてアメリカの国益を損ねており、リアリストとして支持されるべきではない。トランプは、あた、有能な人材を雇うことに興味を示さず、忠実な部下を求める傾向があるため、政府の機能に問題が生じる」ということである。また、経済政策についても、ハリスの方がよく分かっているという主張を行っている。

 ウォルトのトランプ批判についてはおそらく正しい。ウォルトは冷静な分析と判断をしている。トランプになったからと言って、バラ色の未来がアメリカに待っている訳ではない。トランプが実施するであろう関税の引き上げと不法移民の大量送還や厳しい国境政策によって経済はダメージを受ける可能性が高い。インフレが起きて、利上げを迫られて、景気が冷え込む可能性もある。しかし、人々はトランプを選んだ。ウォルトのやったような分析や判断は折り込み済みだろう。それでもなお、民主党、ジョー・バイデンとカマラ・ハリスの行ったことよりも、「少しはまし」になるだろうということでトランプが選ばれた。しかし、トランプにとってもできることは少ない。4年間の任期は長いようで短い。この間をうまく取り繕って、次にバトンを渡すということになるだろう。そもそもアメリカにとってできることは既に限られている。そして、衰退は既に止められない状況になっている。その衰退の速度を弱めることがこれからのアメリカにとって大事なことになる。

(貼り付けはじめ)

カマラ・ハリスはリアリストではない。しかし、とにかく私は彼女に投票する(Kamala Harris Is Not a Realist. I’m Voting for Her Anyway)

-今年の選挙におけるリアリストの唯一の選択はトランプを拒絶することだ。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年10月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/10/16/kamala-harris-realist-trump-election/?tpcc=recirc_trending062921

現時点では、アメリカには数十人の未決定有権者しか残っていないかもしれないのだから、正しい投票をするよう説得するコラムを書くことは無意味かもしれない。しかし、選挙が激戦州の数票の差で決着するかもしれないことを考えると、できる限りのことをしておかなければ後味が悪い。そこで、私がカマラ・ハリスに投票する理由と、あなたもそうすべき理由を説明しよう。

私のようなリアリスト・抑制主義者(realist/restrainer)は、ドナルド・トランプやJ・D・ヴァンスに傾倒していると思うかもしれない。特にバイデンやその同僚たちのガザ地区やウクライナ戦争、その他の外交問題への対応に失望していることを考えればそう思うのも当然だ。ハリスはそれらの政策に責任を負っていないのであるが、機会を与えられても、それらの政策が間違っていたと言うことを拒否してきた。彼女の主要な外交政策アドヴァイザーであるフィリップ・ゴードンはアメリカの力の限界や、私たちのイメージ通りに地域全体を作り変えようとすることの愚かさについて賢明なことを書いてはいるが、ハリス自身の外交政策に対する見解が、ワシントンのコンセンサスから外れたものであったり、国際問題に対するリアリスト的な見方を反映したものであったりする気配はない。対照的に、トランプとヴァンスは、ヨーロッパとアジアの同盟諸国に、自国の防衛に関してもっと負担して欲しいと言い、ウクライナでの戦争を終結させるべき時だと考え、外交政策の「専門家たち(ブロブ、Blob)」を軽蔑とまではいかないまでも懐疑的に見ている。だから自称リアリストたちは彼らに熱狂するのであり、私が彼らと同じ考えを持っていると結論づけるのは簡単だろう。

では、なぜ私はトランプとヴァンスの厄介な欠点を無視し、前庭にトランプとヴァンスの看板を立てないのだろうか? その理由を数えてみよう。

第一に、トランプが大統領だったときに何度も指摘したように、彼はリアリストではなく、トランプ大学から教育を受けるのと同じように、彼から賢明な外交政策を学ぶことはできない。彼は粗野なナショナリストであり、一極主義者であり、彼を最もよく表す「イズム」はナルシシズム(narcissism)である。そのため、北朝鮮の金正恩委員長、中国の習近平国家主席、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領とのリアリティショー的な首脳会談は失敗に終わった。彼は最初の任期中に「永遠の戦争(forever wars)」を終結させることなく、国防総省に必要以上の予算を与え、気に入らない指導者を殺すために外国にミサイルを撃ち込むことに完全に満足した。彼は衝動的で、粗野で、不注意で、明確な戦略を立て、それを貫くことができなかった。大々的に宣伝されたアブラハム合意は、評論家たちが警告していたように、現在中東を混乱させている大虐殺の土台を築くのに役立った。(大統領が無資格の娘婿に不安定な地域で外交官をやらせるからこうなったのだ)。

そして、忘れてならないのは、トランプはイランに包括的共同行動計画からの離脱による核開発再開を許し、パリ協定を放棄し、環太平洋経済連携協定(TPP)を破棄してアジアの同盟諸国に喧嘩を売ることで、中国とのバランスを取ろうとする努力を弱めたことだ。このような外交政策は、まともなリアリストなら支持すべきではない。また、リアリストなら、分断の種をまき、アメリカ人に互いを恐れろと言うことが、国を強くする最善の方法であり、ましてや国を偉大にすることだとは考えないだろう。しかし、それこそがトランプがそのキャリアを通じて、そして特に今回の選挙戦で行ってきたことなのだ。

トランプのビジネスキャリアが長い無能の記録であることを考えれば、どれも驚くべきことではない。その特徴は、巧みな取引や抜け目のない経営ではなく、度重なる破産、騙されて食い物にされた顧客、終わりのない訴訟、そして重罪の税金詐欺の長い歴史である。彼の支持者たちは、最初の任期で自分の部下を信頼することを学んだと主張するが、残念ながら、彼は才能を見極めるのが下手なことが証明されている。彼の最初の国家安全保障問題担当大統領補佐官は1カ月も持たず、トランプは任期中で更に3人、複数の国務長官と国防長官を使い果たした。トランプ大統領のホワイトハウスにおけるスタッフの離職率は過去最高レヴェルであり、トランプ大統領と直接仕事をした何十人もの人々が、トランプ大統領にもう一度チャンスを与えることに断固反対している。

もちろん、トランプは政府で働く有能な人材を雇うことに興味がある訳ではなく、自分の決定がどんなに馬鹿げていても、違法であっても、自分の言いなりになってくれる忠実な人材を求めている。彼の専門知識蔑視は、彼が何も知らない科学へのアプローチに特に顕著に表れている。この盲点は、新型コロナウイルスのパンデミックに対する彼の対応や、気候危機を否定し続ける姿勢を見ても明らかだ。ハリスは、気候が大きな問題であり、温室効果ガスの排出を制限し、すでに経験している影響に適応するためにもっと努力する必要があることを理解している。フロリダ州の住民の方々にはご注意いただきたい。

憲法を守ると宣誓し、職務に有能で国民への奉仕に尽力する人物を任命する代わりに、トランプは行政府に個人として変人を配置したいと考えている。これは極めて深刻な問題だ。なぜなら、自分たちが何をしているのかを理解し、政治的圧力に弱い、よく訓練された有能な人材が大勢いない限り、複雑な現代社会を運営することはできないからだ。私が話しているのは、財務省、国立気象局、連邦準備制度、連邦航空局、国土安全保障省、日常生活が依存している様々な送電網、IRS、食品医薬品局、行政、そして私たちの社会が機能することを可能にするその他の全ての機関を運営する公務員のことだ。

これらの機関は完璧だろうか? いや、誤りを犯しやすい人間で構成された組織が完璧であるはずがない。無知で意地悪な大統領の腐敗した取り巻きが責任者であれば、これらの組織がない方が良いのだろうか? そうではない。アメリカは何十年もの間、主要な公共機関への資金が組織的に不足しており(そのため、政府のパフォーマンスはしばしば期待外れに終わっている)、トランプは(そして彼のために「プロジェクト2025」を起草した過激派は)この問題を更に悪化させようとしている。必要なサーヴィスを全て購入できる富裕層は困らないだろうが、それ以外の人々にとっては、アメリカはますます不快で非効率な場所になるだろう。

第三に、トランプ大統領の対外経済政策へのアプローチは悲惨なものになることが予想される。貿易赤字を縮小することも、中国の経済政策を変えることもできず、アメリカ経済の一部の部門にかなりの損害を与えた。トランプは今、関税を2倍、3倍に引き上げると約束している。現在でも彼は、外国製品に対する関税はアメリカの消費者に対する税金であり、外国の輸出業者が私たちに支払うペナルティではないことを理解していない。(馬鹿げた国境の壁の費用を払うのはメキシコではなく、アメリカの納税者であるということと同様だ)彼が提案する関税は、インフレを再燃させ、基軸通貨としてのドルの魅力を低下させ、アメリカの輸出企業に損害を与えるだろう。私の身勝手な考えではなく、『フィナンシャル・タイムズ』紙のマーティン・ウルフの簡潔で破壊的な評価を見て欲しい。ハリスは経済政策で私が望むことをすべてやるとは限らないが、何十年も拒否されてきた通商政策へのアプローチを採用するつもりもないだろう。

より重要なことは、トランプは今回の選挙で、アメリカの民主政体に真の脅威をもたらす唯一の人物であるということだ。我が国の政治システムには欠点もあるが、それでもほとんどの国民に多大な自由を与えており、改革と刷新(reform and renewal)が可能である。トランプのキャリア全体、とりわけ政治家としてのキャリアを見れば明らかなように、彼は法の支配(rule of law)を軽んじており(前科持ちで性犯罪者であることが確定していることを考えれば、驚くにはあたらない)、憲法秩序(constitutional order)を守ることにまったく関与していない。ハリスが当選すれば、間違いなく私が反対することをするだろうが、権威主義的なシステムを押し付けたり、2028年の再選に敗れても退任を拒否したりはしないだろう。トランプはすでに後者をやろうとしているし、前者もやりたがっているようだ。

私が大げさに言っていると思うだろうか? 私は2016年当時、トランプがもたらす危険性を過小評価していたことを告白するが、証拠が積み重なるにつれて見解を改めた。最も明確な兆候は、トランプが誰を尊敬しているかを見れば分かる。彼は、エイブラハム・リンカーンやFDR、ネルソン・マンデラのような人物ではなく、ウラジーミル・プーティン、ビクトル・オルバン、ムハンマド・ビン・サルマン、ベンヤミン・ネタニヤフのような独裁者であり、彼と同様にルールや規範を軽んじている人物である。プーティンは彼らと同じようにチェック・アンド・バランスに無関心でありたいと考えており、もし彼の思い通りになれば、時計の針を戻すことは容易ではなく、不可能になるかもしれない。ひとたび民主政治体制が独裁に崩壊すれば、それを取り戻すのは困難で不安定なプロセスだ。

トランプは才能あふれる詐欺師(gifted con man)であるため、過去30年間にアメリカで起きたいくつかの変化に対する不安を利用して、多くの一般人を惑わすことができたとしても、それほど驚くことではない。驚くべきは、高学歴で大成功を収めた人々の中に、トランプは自分たちの味方であり、自分たちを裏切ることはないと考えている人々が大勢いることだ。私はピーター・ティールやイーロン・マスクのような人々をそのように考えているが、彼らはアドルフ・ヒトラーをコントロールできると考えていたナイーヴで生意気なドイツの政治家たちを思い出させる。トランプについてはっきりしていることがあるとすれば(それは変幻自在のヴァンス[the shape-shifting Vance]についても同じようなことが言えるようだ)、自分の利益になると思えば誰であろうと裏切るということだ。ボリス・ベレゾフスキーやミハイル・ホドルコフスキーのようなロシアのオリガルヒは、プーティンをコントロールでき、自分たちの富が報復から守ってくれると考えていた。もしあなたがハイテク業界の億万長者で、トランプが信頼できる同盟者だと考えているなら、マイク・ペンス前米副大統領に起きたことを反省したほうがいい。そしてこの警告は、彼の集会に行き、彼が自分たちのために何かしてくれると純粋に思っているように見える全ての人々にも当てはまる。

だから11月5日には、ハリスに一票を投じるつもりだ。奇跡を期待している訳ではないが、彼女は過去30年間、アメリカの外交政策がいかに大きく舵を切ってきたかを理解し、新たな方向に舵を切り始めるかもしれない。私はすでにトランプのショーを見たが、続編はオリジナルよりも更に悪いものになるだろう。私のようなリアリストにとって、これは簡単な決断だ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカ外交政策に関しては大きな潮流として、リアリズム(Realism)と介入主義(Interventionism)があるということを私は拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)で書いた。冷戦期、アメリカは自由主義陣営を率い、ソヴィエト連邦率いる共産主義陣営と対峙した。アメリカは、「近代化(modernization)」=「民主化(democratization)」を掲げて、世界各国に介入した。しかし、一方で、アメリカに役立つ国であれば、非民主的な王制や独裁制をも容認するという二枚舌外交を行った。アメリカの介入主義政策は、共和党であればネオコン派、民主党であれば人道的介入主義派が担ってきた。このことも何度も書いてきた。こうした2つの勢力が外交を担った際には、外国への侵攻を行い、結果としてそれが泥沼化して、アメリカの利益が損なわれることになった。そうした外交政策の反発が、「アメリカ・ファースト(America First、アメリカ国内問題解決優先主義)」として噴き出したのだ。

 アメリカのリアリズム外交を代表するのがヘンリー・キッシンジャーとジェイムズ・ベイカーの両元国務長官だ。ベイカーはジョージ・H・W・ブッシュ政権下で、第一次湾岸戦争に対処したが、政権内のネオコン派の突き上げ(イラクのクウェートからの撤退だけでなく、イラク国内に侵攻しサダム・フセイン政権を打倒せよ)にも屈せず、イラク国内への侵攻を許可しなかった。アメリカの国益と中東地域の不安定化を考慮しての行動だった。キッシンジャーについてはこれまでもこのブログで何回もご紹介しているが、世界大戦を引き起こさないという考えの下で、アメリカと中国、ロシアを繋ぐ役割を死去するまで続けた。

 今回ご紹介する論稿は、スティーヴン・M・ウォルトの論稿である。ウォルトは、外交の範囲を限定することが重要だと述べている。

スティーヴン・M・ウォルトは、ガザ地区への救援物資輸送のために、アメリカが設置した仮設桟橋の崩壊を例に挙げて、アメリカ政府の人道的な対応の不足を批判している。桟橋の建設はイスラエルの国境を開かせるための象徴的なPR活動に過ぎず、実際には援助物資はわずかトラック60台分しか運ばれなかった。

このことはアメリカの外交政策の信頼性について諸外国に疑問を持たせることになるとウォルトは指摘している。アメリカの外交専門家は信頼性の維持にこだわり、戦略的には重要でない紛争に資源を投入することを正当化している。しかし、過去の失敗から学ばず、アメリカが些細な利害のために無駄な戦争に巻き込まれることが続いている。信頼性を重視するあまり、必要な能力(機能)を無視する傾向があり、その結果、国際的な影響力を失っている。

例えば、ベルリン空輸のように成功することもあるが、アメリカの外交機関が高尚な役割を果たせるか疑問が持たれている。中東和平プロセスや911テロ事件の背景にある政策の誤り、イラク侵攻、金融危機など、アメリカの外交政策の失敗の歴史は長い。

アメリカの外交政策の誤りを修正するには時間がかかり、構造的な問題が存在する。これに対処するためには、アメリカがより抑制的な外交政策を採用し、解決すべき問題の数を減らす必要がある。そうすれば、外交機関が任務を果たしやすくなり、故障率も低下するだろう。アメリカの外交政策がより有能であれば、国際社会からの信頼を得ることができる。これはウィン・ウィンの関係を築くことにつながるとウォルトは結論づけている。

 ウォルトがこのような論稿を書くということは、現在のジョー・バイデン民主党政権の外交は守備範囲を広げ過ぎているということだ。アメリカの実力を超えているということだ。アメリカ国民は、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス紛争への援助に疲れている。「いつまで続けねばならないのか」「もう十分にしてやったではないか」という考えを持つ国民が多い。民主党の大統領選挙候補者に強引に内定してもらったカマラ・ハリス副大統領は、バイデン政権の政策の継続を訴えるだろう。それはつまり、いつまでも戦争を続けるということだ。アメリカがそれで国力を落として衰退していくのは勝手だが、それで世界の不安定さが続くというのは許せないことだ。

(貼り付けはじめ)

バイデン大統領の外交政策の問題点は機能不全であることだ(Biden’s Foreign-Policy Problem Is Incompetence)

-アメリカ軍のガザ地区における桟橋の崩壊は、より大きな問題の象徴である。The U.S. military’s collapsed pier in Gaza is symbolic of a much bigger issue.

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年6月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/04/biden-foreign-policy-gaza-ukraine-foreign-policy-incompetence/

ニューヨーク・メッツが球団創設最初のシーズンで、40勝120敗という滑稽なほど無能な成績を残したとき、ケーシー・ステンゲル監督がこう嘆いたのは有名な話だ。「ここにいる誰もこのゲームをプレーできないのか?」 ガザ地区に救援物資を運ぶためにアメリカが建設した仮設桟橋(temporary pier)が崩壊したことを知ったとき、私はステンゲルの言葉を思い出した。ソーシャルメディア上の批評家たちがすぐに指摘したように、この言葉はガザ紛争全体に対するジョー・バイデン政権の対応を象徴する適切な比喩となった。この桟橋の建設は、本質的には、イスラエルに国境を開かせ、人為的な人道的大惨事(man-made humanitarian catastrophe)に直面している市民への十分な救援物資を許可することを、アメリカ政府当局者が望まなかったために行われた、高価な人目を引くための高価なPR活動(PR stunt)であった。この主に象徴的な努力は、荒波が構造物を損傷し、援助物資の輸送が中断される前に、トラック60台分の援助物資を届けることに成功した。修理は現在進行中で、少なくとも1週間はかかると伝えられている。

この残念なエピソードを、より大きな悲劇のほんの一部に過ぎないと考える人もいるかもしれないが、私はこのエピソードが、アメリカの野心と見栄(American ambitions and pretentions)について、より大きな疑問を投げかけていると思う。アメリカの外交専門家たちは「信頼性(credibility)」の維持に執着しているが、それは戦略的に重要でない紛争や公約に莫大な資源を費やすことを正当化するためである。1960年代から1970年代にかけて、アメリカの指導者たちは、南ヴェトナムが本質的な戦略的価値の低いマイナーな国であることを理解していた。しかし、勝利に至らずに撤退すれば、アメリカの持続力に疑念が生じ、信頼性が損なわれ、世界中の同盟国が共産ブロック(communist bloc)に再編成されることになると主張した。もちろん、こうした悲観的な予測は何一つ実現しなかったが、アメリカが些細な利害のために勝ち目のない戦争に巻き込まれるたびに、同じような単純化された議論が繰り返される。

信頼性をやみくもに崇拝する(fetishize)人は、通常、必要なのは十分な決意だけであると考えている。彼らは、アメリカが十分に努力すれば、設定した目標は全て達成できると信じている。彼らは、「勝利はそのコースを維持することだけの問題に過ぎない」と考えるだけだ。しかし、信頼性と影響力を単に意志の問題として考えると、おそらくより重要な別の重要な要素が見落すことになる。その重要な要素とは機能(competence)だ。

アメリカの外交関係を運営する責任を負う主要機関なら、国家安全保障会議、国務省、国防総省、財務省、商務省。各情報・諜報機関、連邦議会の各種委員会はあまり有能ではないとなったら、世界中の人々が私たちからの助言を受け入れ、私たちの指導に従うよう説得することなどできない。例えば、1948年のベルリン空輸(Berlin airlift)は、西側の決意の明らかなシグナルだったが、もしアメリカとそのパートナーが複雑な兵站努力(complicated logistical effort)を成功裏に遂行できなかったら、それは裏目に出ていただろう。地中海に余分な桟橋を建設し、約9日後にそれを崩壊させることは、この時とは、かなり異なるメッセージを送ることになる。

残念ながら、アメリカの外交政策担当の各機関が、アメリカの指導者たちが担ってきた高尚なグローバルな役割を果たせるかどうか、疑問を持たれる理由は十分にある。悲惨なパフォーマンスのリストは、さらに長くなっている。二国家による解決をもたらすと言われた中東の「和平プロセス(peace process)」が、今日の「一国家の現実(one-state reality)」を生み出したこと、1999年のコソヴォをめぐる回避可能であったが複雑に進んでしまった戦争(ベオグラードの中国大使館への誤爆を含む)、911同時多発テロを可能にした政策の誤りと情報諜報の失敗、2003年のイラク侵攻の悲惨な決定、2008年の金融危機、米海軍の一連のスキャンダルと海上衝突事故、審査に合格できず、ほとんど即戦力にならない航空機を購入するなど肥大化した国防調達プロセス(bloated defense procurement process)、制限のないNATO拡大が最終的にどこにつながるかを予想できなかったこと、経済制裁がロシア経済をすぐに崩壊させるというむなしい期待をしたこと、あるいは、2023年夏のウクライナの反攻が失敗する運命にあるという豊富な兆候を見過ごした希望的な観測に基づいた応援などが挙げられる。アフガニスタンやリビアへの介入に失敗したことも加えれば、「屋上屋を重ねているだけだ」と非難されるだろうし、アメリカ連邦下院が道化と化したことについて、私は何も言うつもりはない。

私は、この厄介な羅列を暗唱することに喜びを感じている訳ではないし、ワシントンが時折、重要なことを正しく行ってきたことも承知している。クリントン政権は1999年のカルギル危機(カシミール地方をめぐるインドとパキスタンの紛争)の際、南アジアでの大規模な戦争を回避する手助けをした。ブッシュ政権が始めたアメリカ大統領エイズ救済緊急計画(PEPFARプログラム)は、誰が見ても人道的に大きな成功を収めた。オバマ政権は、イスラム国の短期間の「カリフ体制(caliphate)」を倒した地元勢力を支援した。バイデン政権は、ロシアのウクライナ侵攻への初期対応を効果的に調整した。アメリカの情報諜報機関は、2014年にロシアがクリミアを掌握することを予測できなかったが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が2022年に何を準備しているかを正しく予見していた。

従って、私は、アメリカ政府が全てにおいて失敗していると言っているのではない。

しかし、全体的な記録は残念なもので、私はその理由を解明するため、何年も費やしてきた(そして1冊の本にまとめた)。問題の一部は、アメリカの力と思考能力の低さの、通常では考えられない組み合わせ(unusual combination of power and impunity)にあるのではないかと私は疑っている。アメリカは非常に強力であると同時に、他の地域では考えられないほどに安全であるため、その指導者たちはありとあらゆる愚かなことを行い、その結果のほとんどで、他国に苦しませることができる。また、アメリカが世界中の数十の問題に積極的に対処しようとしない場合、世界全体が崩壊すると考える、愚かな傾向もあり、それが常に米政府に対処しきれないほどの責任を引き受けさせることになる。議題が詰め込まれすぎると、優先順位を設定することが難しくなり、全ての問題に適切な注意を払うことができなくなる。避けられない結果として、多くのことがうまくいかなかったり、まったくうまくいかなかったりすることが起きる。

更に悪いことに、歴代の米大統領は能力よりも忠誠を重視しており、外交政策の専門家たち(エスタブリッシュメント)は、誤りを犯しやすい自分たちの仲間の責任を追及することを嫌がる。その結果、専門家たちは失敗し、破産したアイデアの提供者たちが、自分たちの信用されていない意見を再利用してくれる、シンクタンクやメディアをいつでも見つけることができる。政府高官が辞任することは原則的にめったにない(ただし、中堅官僚が辞任する場合もある)。辞任すると、将来の政権で、高位の職の提供を受ける可能性が低くなるからである。結局のところ、上級補佐官が自分の正しいと思うことを擁護することだけしか行わず、結果として、指導者を当惑させることになる。そんな補佐官を指導者は望むだろうか? また、ホワイトハウスが交代するたびに大規模な人事異動が発生し、新しく任命された担当者が多くやって来るが、彼らはまず連邦上院の人事承認を待ってから何をすべきかを考えなければならない。この状況は、アップル社やGM社が4年ごとに経営陣を無作為に交代させ、会社が順調に機能することを期待するようなものだ。アメリカが適度な外交政策目標を掲げていれば、こうしたことは問題にならないかもしれない。しかし、実際には、ワシントンは、不適格な多数のアマチュアは言うに及ばず、短期労働者を集めて、刻々と変化する組織で、全世界を管理しようとしている。

私は分かっている。毎日出勤して国のために最善を尽くしている何千人もの献身的な政府職員、つまり、上司がレールを逸脱すると公式の「反対意見チャンネル(dissent channels)」を苦情で埋める彼らに対して、私は公平ではない。官僚利権の固定化はそれ自体で問題を引き起こす可能性があるが、外交政策に関する場合は、「魚は頭から腐る(the fish is rotting mostly from the head)」ということになる。これら全てのことにより、アメリカの外交政策を担当する諸機関は、現実的な目標を設定することよりも、崇高な理想を宣言することのほうが得意となり、結果として、その目標を達成することはできないことになる。

しかし、「ドナルド・トランプを再選すればこの問題は解決する」と思うなら、もう一度考えてみて欲しい。トランプ大統領の最初の任期は、外交政策における失敗が延々と続き、アメリカの安全や繁栄を更に高めることはできなかったが、前任者であるバラク・オバマ大統領が世界の多くの地域で享受してきた尊敬と善意を台無しにすることには成功した。トランプが貿易戦争を始めるという不手際をしてしまったために、アメリカ国内で何十万もの雇用が奪われ、定められた目的(アメリカの貿易赤字の削減)を達成することができなかった。トランプ大統領は、自身が全く理解できなかった合意を破棄し、国家安全保障問題担当大統領補佐官4人、国防長官2人、国務長官2人、そして前例のない数のホワイトハウス職員を1期のうちで使い尽くした。明らかに、トランプの元上級補佐官の何人かは、現在彼を最も著名に批判している人物の中に含まれている。

そして忘れてはいけないのは、この大統領のビジネスキャリアは、詐欺、終わりのない訴訟、そして度重なる破産に満ちていたということだ。日光と漂白剤が新型コロナウイルスを治すかもしれないと考えた人でもある。北朝鮮の金正恩に一対一の首脳会談の機会を与え、その対価として、何もないもの(bupkis)を手に入れた人物、そして、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と当時の中米ロシア大使セルゲイ・キスリャクがホワイトハウス訪問中に、誤って機密情報を漏洩した人物である。外交政策に関するトランプの見解は、ワシントン政治内部(inside-the-Beltway)の正統性からの新たな脱却だったかもしれないが、パリ気候協定からの離脱、イラン核合意の破棄、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱といった彼の最も重大な行動は即座に、アメリカの重要な利益に対する永続的な損害をもたらした。そして、そう、トランプはまた、2020年の選挙を覆そうとして、もし大統領執務室で二度目のチャンスを得られたら、憲法の一部を廃止することについても語っている。トランプの2期目がアメリカ外交政策の更なる成功をもたらすと考えている人は、トランプがどれほど無能な指導者だったかに注目していないか、単に忘れているかのどちらかだ。

アメリカの外交政策の仕組みは誤りを犯しやすい構造になっている。これを修正するには長い時間がかかるだろうし、そもそもそれが可能なのかと時々疑問に思う。これが、私がより抑制的な外交政策を支持する理由の1つであり、アメリカの世界への関与を維持しながら、アメリカ政府が解決する義務があると感じている問題、課題、責任の数を減らす政策となる。もしアメリカがやるべきことを減らそうとするならば、我が国の外交政策担当の諸機関がその任務を遂行できるかもしれない。故障率は現在よりも低くなり、国内ではより多くのリソースを問題解決に充てることができるようになるだろう。アメリカがそれほど野心的ではないが、より有能な外交政策を採用すれば、世界中の一部の主要国は喜ぶだろうし、それによってアメリカの残りの約束がより信頼できるものになるだろう。私にとっては、それがウィン・ウィン(win-win)の関係になるように思えてならない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 アメリカの国力低下と中国の台頭という現象が起きている。これは世界の構造が大きく変化していくことを示している。私たちは西洋近代600年の支配構造が変容し、新たな世界になっていく道筋の入り口に立っていると言える。国際政治におけるアメリカの地位と影響力は低下し、中国の存在感は増大し続ける。アメリカと中国は多くの面で違いがあるが、外交政策においてはその違いは顕著である。以下の、ウォルトの論稿ではその違いについて、以下のように主張している。

中国は外交政策で国家主権を強調し、他国とビジネスライクな関係を維持している。一方、アメリカは普遍的な自由価値観の推進者としての立場を取り、民主政体を広める使命を持つと信じている。アメリカの外交政策はしばしば他国の人権や民主化を重視し、中国の現実的アプローチから学ぶ必要性がある。このような中で、アメリカは自己の基準に合致しない場合もあり、これにより偽善の非難を受けやすい状況にある。結論として、中国の成功とアメリカの失敗から学び、他国の間違いだけでなく正しい点からも教訓を得るべきである。

 アメリカは介入主義的な(interventionist)外交政策を推し進め、アメリカの価値観を拡散することで、世界の秩序を維持しようとした。中国は現在、内政に干渉することを控え、中国の価値観を押し付けるようなことはしていないし、そもそもそれは不可能である。アメリカは超大国として介入主義的な外交政策を実行するだけの国力を維持してきたが、中国はそこまでの余裕がない。しかし、そうした制限がかえって、中国の外交政策を抑制的なものにしている。アメリカは国力の低下もあり、海外への介入や関与はこれまで通りにはいかない。それが苛立ちを招いているが、アメリカ国民の多くは、「これまで外国には十分にしてやった。これからはアメリカ国内の疲弊している地域を建夫なすことに注力すべきだ」という考えになっている。アメリカはこれから、抑制的な外交政策を採用しなければならない。そのために中国から学ぶべきというのが下の論稿の趣旨だ。

 バラク・オバマ元大統領が世界の警察官を辞めると発言して10年近く経過した。その後、ドナルド・トランプ大統領が出現し、アメリカは世界で戦争を行わなかった。トランプ大統領については賛否両論激しいが、この点は評価すべきだ。世界構造は、アメリカ一極から米中二極へと転換していくことが予想される。そして、長期的に見れば、非西洋の、グローバルサウスが世界の中心になっていく更に新たな世界構造になっていく。そこでは様々な価値観が共存していくことが必要となる。日本はこれから、「アメリカ中心」「西洋中心」=アメリカの属国をしていれば安心という構造の価値観外交から脱却していく必要がある。

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アメリカが中国から学べるもの(What the United States Can Learn From China)

-中国の台頭の中で、アメリカ人は中国政府が何を正しく行っているのか、そして何を間違っているのかを問うべきである。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年6月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/20/united-states-china-rise-foreign-policy-lessons/?tpcc=recirc_trending062921

josephdunfordfangfenghushakinghandsinbeijing2017001 

北京の八一ビルで協定書に署名した後、握手するアメリカ統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード大将と中国人民解放軍房峰輝総参謀長(2017年8月15日)。

どのような競争の分野でも、ライヴァルたちは常により優れた結果を得ようと努力する。彼らは、自分たちの立場を改善する革新的なものを探しており、敵対して効果があるように見えるものは何でも真似しようと努める。この現象は、スポーツ、ビジネス、国際政治でも見られる。模倣するということは、他の人がやったこととまったく同じことをしなければならないという意味ではないが、他の人が恩恵を受けてきた政策を無視し、適応することを拒否することは、負け続ける良い方法だ。

今日、中国とより効果的に競争する必要性は、おそらくほぼ全ての民主党と共和党の政治家たちが同意する唯一の外交政策問題である。この合意がアメリカの国防予算を形成し、アジアにおけるパートナーシップを強化する取り組みを推進し、ハイテク貿易戦争(high-tech trade war)の拡大を促進している。しかし、中国について警告を発する専門家たちの大合唱は、アメリカの技術を盗み、以前の貿易協定に違反したとして中国を非難することは別として、中国がこれを成功させるのに役立った、より広範な措置を考慮することはほとんどない。もし、中国が本当にアメリカの利益を奪っている(eating America’s lunch)のであれば、アメリカ人は中国政府の何が正しくて、アメリカの何が間違っているのかを自問すべきではないだろうか? 中国の外交政策へのアプローチは、ワシントンの人々に有益な教訓を提供するだろうか?

確かに、中国の台頭の大部分は純粋に国内の改革によるものだ。世界で最も人口の多いこの国は常に巨大な権力の潜在力を秘めていたが、その潜在力は深い内部分裂や誤ったマルクス主義の経済政策によって、1世紀以上にわたって抑圧されてきた。ひとたび国の指導者たちがマルクス主義(レーニン主義ではない!)を捨てて市場を受け入れると、この国の相対的な力が急激に増大することは避けられなかった。そして、インフレ抑制法やその他の措置を通じて国家産業政策(national industrial policy)を策定しようとするバイデン政権の取り組みは、いくつかの主要技術で優位に立とうとする中国の国家支援による取り組みを模倣しようとする遅ればせながらの試みを反映していると主張する人々もいるだろう。

しかし、中国の台頭は、国内改革や西側諸国の無頓着(complacency)だけによるものではなかった。更に言えば、中国の台頭は、外交政策への広範なアプローチによって促進されており、アメリカの指導者たちは、それについて熟考するのがよいだろう。

まず、最も明らかなことは、中国がアメリカを何度も陥れてきた、高コストの泥沼を回避してきたことである。中国政府は、その力が増大しているにもかかわらず、海外で高額の費用がかかる可能性のある約束を引き受けることに消極的だ。例えば、イランを守るため、あるいはアフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアのさまざまな経済パートナーを守るために戦争をするという約束はしていない。中国は、ロシアに軍事的に価値のある軍民両用技術(militarily valuable dual-use technologies)を提供している(そしてその対価として高額の報酬を得ている)が、中国はロシアに強力な武器(lethal weaponry)を送ったり、軍事顧問団(military advisors)を派遣するかどうか議論したり、ロシアの戦争勝利を支援するために自国の軍隊を派遣することを検討したりしている訳ではない。中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーティン大統領は「制限のない(no-limits)」パートナーシップについて多くのことを語るかもしれないが、中国はロシアとの取引において厳しい取引を続けており、最も顕著なのはロシアの石油とガスを格安で入手することを要求していることである。

対照的に、アメリカは外交政策の泥沼状態(quicksand)に対する、間違いを犯さない本能を持っているようだ。

独裁者たちを追い落とし、アフガニスタン、イラク、リビアなどに民主政治体制を輸出するために何兆ドルも費やしていないにもかかわらず、決して守る必要のない安全保障を世界中の国々に拡大し続けている。驚くべきことに、アメリカの指導者たちは、また別の国を守るという任務を引き受けるたびに、その国が戦略的価値に限界がある場合や、アメリカの利益を促進するのにあまり貢献できない場合でも、それをある種の外交政策の成果だと今でも考えている。

アメリカは現在、歴史上かつてないほど多くの国々を防衛することを正式に約束しており、これら全ての約束を守ろうとしていることは、なぜアメリカの国防予算が中国よりもはるかに大きいのかを説明するのに役立つ。中国の支出と、私たちの活動との差が毎年5兆ドル以上もある中で、アメリカが何をできるか想像してみて欲しい。もし全世界を取り締まろうとしていなければ、おそらくアメリカも中国と同様に世界クラスの鉄道、都市交通、空港のインフラを整備でき、財政赤字も低く抑えられていたはずだ。

これは、NATOを離脱し、アメリカの全ての約束を破棄し、「アメリカ要塞(Fortress America)」の内側に撤退することを主張するものではないが、新たな約束を延長することについてより賢明であり、既存の同盟諸国がその役割を果たすべきであると主張することを意味する。世界中の何十か国を守ると誓わなくても、中国がより強くなり影響力を増せるのであれば、なぜアメリカにそれができないのだろうか?

第二に、アメリカとは異なり、中国はほぼ全ての国々とビジネスライクな外交関係を維持している。他のどの国よりも多くの外交的な目的を持ち、大使のポストが空になることはめったになく、成功した大統領候補のために資金を集める能力を主な資格とする素人ではない、外交官たちはますますよく訓練された専門家になっている。中国の指導者たちは、外交関係は他人の善行に対する報酬ではないことを認識している。彼らは情報を入手し、中国の見解を他国に伝え、強引さ(brute-force)ではなく説得(persuasion)によって、自国の利益を推進するために不可欠なツールである。

対照的に、アメリカは依然として、対立している国々からの外交承認を保留する傾向があり、それによって彼らの利益や動機を理解することがより困難になり、我が国の利益や動機を伝えることがより困難になっている。アメリカ政府は、イラン、ベネズエラ、北朝鮮の政府と定期的に意思疎通ができれば有益であるにもかかわらず、これらの政府を公式に承認することを拒否している。中国はこれら全ての国ともちろん対話しており、アメリカの最も緊密な同盟国全てとも対話している。私たちも同じようにすべきではないだろうか?

中国は、例えばイスラエルやエジプトなど、アメリカと緊密な関係にある国を含む中東のあらゆる国と外交関係や経済関係を持っている。対照的に、アメリカはイスラエル(そしてエジプトとサウジアラビアとはある程度)と「特別な関係(special relationship)」を持っており、それはイスラエルが何をするにしても、イスラエルを支持することを意味する。一方、イランやシリア、イエメンの大部分を支配しているフーシ派との定期的な接触はない。アメリカの地域パートナーは、アメリカの支援を当然のことと考えており、アメリカがライヴァルに手を伸ばすかもしれないと心配する必要がないため、アメリカの助言を頻繁に無視している。その好例は次のようなものだ。サウジアラビアは、ロシアや中国と良好な関係を維持しており、暗黙の脅威(tacit threats)を利用して、ワシントンからますます大きな譲歩を引き出そうとしているが、アメリカ政府当局者たちは、その見返りとして、同様の勢力均衡政治(balance-of-power politics)のゲームを決してしようとはしていない。この非対称的な取り決めを考慮すると、サウジアラビアとイランの間の最近の緊張緩和を支援したのがワシントンではなく北京であったことは驚くべきことではない。

第三に、中国の外交政策に対する一般的なアプローチは国家主権(national sovereignty)を強調することである。つまり、全ての国が自国の価値観に従って自由に統治すべきであるということだ。中国とビジネスをしたいのであれば、中国が国の運営方法を指図してくるのではないかと心配する必要はない。また、中国の政治制度と異なる場合に制裁を受けるのではないかと心配する必要もない。

対照的に、アメリカは自らを、一連の普遍的で自由な価値観の主要な推進者であると考えており、民主政体を広めることが世界的な使命の一部であると信じている。いくつかの注目すべき例外を除いて、アメリカはしばしばその力を利用して、他国に人権を尊重し民主政体に向けてより努力させるよう努めており、時には他国が人権を尊重し民主政体に向けてさらに努力すると誓約することを支援の条件とすることもある。しかし、世界の国々の大多数が完全な民主政体国家ではないことを考えると、多くの国が中国のアプローチを好む理由は簡単に理解できる。特に、中国が自国に具体的な利益を提供している場合にはそうだ。米財務長官を務めたラリー・サマーズは次のように述懐している。「発展途上国の誰かが私にこう言った。『私たちが中国から得られるものは空港だ。アメリカから得られるのはお説教だ。あなたが悔い改めない独裁者、または完全とは言えない民主政体国家の指導者なら、どちらのアプローチがより魅力的だと思うか?』」。

事態をより悪化させているのは、アメリカが道徳的な姿勢(moral posturing)を貫く傾向であり、そのため、アメリカ自身の基準を満たさない場合には、常に偽善(hypocrisy)の非難を受けやすい状態にある。もちろん、どんな大国もその公言する理想を全て実現することはできないが、国家が独自に高潔であると主張するほど、それが達成できなかった場合のペナルティは大きくなる。ガザ戦争に対するジョー・バイデン政権の、常識外れの、戦略的に支離滅裂な対応ほど、この問題が顕著に表れた場所はない。双方が犯した犯罪を非難し、戦闘を終わらせるために、アメリカの影響力を最大限に活用する代わりに、アメリカはイスラエルが復讐に満ちた残忍な破壊活動を行うための手段を提供し、国連安全保障理事会でそれを擁護し、却下した。大量虐殺(genocide)の証拠が豊富にあり、国際司法裁判所と国際刑事裁判所の首席検察官の両方が厳しい評価を下しているにもかかわらず、大量虐殺のもっともらしい容疑がかけられている。そしてその間ずっと、「ルールに基づいた秩序(rule-based order)」を維持することがいかに重要かを主張している。これらの出来事が中東やグローバルサウスの多くの地域におけるアメリカのイメージに深刻なダメージを与えていること、あるいは中国がそれらの出来事から利益を得ていることを知っても、誰も驚かないはずだ。注目すべきことに、アメリカ政府当局者たちは、この悲劇に対するアメリカの対応が、どのようにしてアメリカ人をより安全にし、より豊かにし、あるいは世界中でより賞賛されるようになったのかを説明する明確な声明をまだ発表していない。

重要なのは、中国がアメリカの主要なライヴァルとして台頭したのは、その潜在的な力をより効果的に動員することによってもあるが、海外への関与を制限し、アメリカの歴代政権が被ってきた自傷行為(elf-inflicted wounds)を回避することによってでもあった。だからといって、中国の記録が完璧だと言っているのではない。習近平国家主席が平和的な台頭に関する政策(policy of rising peacefully)を公然と放棄したのは間違いで、習の非常に国家主義的な「戦狼」外交(nationalistic “wolf warrior” diplomacy)は、これまで中国政府との緊密な関係を歓迎していた国々を遠ざけた。大騒ぎされている一帯一路構想は、よく言っても玉石混交で、善意と怒りの両方を生み、中国政府が回収に苦労するであろう巨額の負債を生み出している。ウクライナにおけるロシアに対する暗黙の支持は、ヨーロッパでのイメージを傷つけ、各国政府に経済統合の緊密化からの撤退を促しており、また、国家主権の原則に対する想定されている約束を常に守っている訳ではない。

しかし、中国の台頭を深く懸念しているアメリカ人は、中国政府が何をうまくやって、何をワシントンがうまくやらなかったかを反省すべきだ。ここでの皮肉を見逃すのは難しい。中国は、アメリカが以前に世界超大国の頂点に上り詰めたのを模倣する部分もあり、急速に台頭してきた。誕生したばかりのアメリカには、肥沃な大陸、まばらで分断された先住民族、そして 2つの広大な海による保護など、多くの生来の利点があり、国外でのトラブルに巻き込まれず、国内で権力を築くために、それらの資産を活用した。アメリカが外国と戦ったのは 1812年から1918年の間に2度だけであり、それらの戦争の相手国 (1846年のメキシコと1898年のスペイン) は、重要な同盟国を持たない弱小国家だった。そして、ひとたび大国になると、アメリカは他の大国が互いにバランスを保てるようにし、可能な限り紛争から遠ざかり、両世界大戦での被害を最小限に抑え、「平和を勝ち取った(won the peace)」。中国も1980年以来同様の経過をたどっており、これまでのところ大きな成果を上げている。

ドイツのオットー・フォン・ビスマルク首相はかつてこう述べた。「自分の間違いから学ぶのは愚か者だけだ。賢者は他人の間違いから学ぶ(Only a fool learns from his own mistakes. The wise man learns from the mistakes of others.)」。彼の発言は修正される可能性がある。賢明な国は、他国の間違いからだけでなく、彼らが行ったこと正しいことからも学ぶ。アメリカは中国のようになろうとすべきではない(とはいえ、ドナルド・トランプ元大統領は明らかに一党独裁体制[one-party system]を羨んでいるが)が、世界の他の国々に対する中国のより現実的で利己的なアプローチから何かを学ぶことはできるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカ大統領選挙の話題ばかりで恐縮だがもう少し続く。大統領選挙討論会において、アメリカ国内に居住していない外国人にとって、アメリカ国内政策よりも、外交政策の方により関心が向くのは当然のことだ。アメリカの大統領を決める選挙の討論会なので、アメリカ国内に住むアメリカ人有権者の関心の高い問題に多く時間が割かれる。

移民問題や関税はどちらにも関わる問題であるが、それ以外にも、今回の討論会では、ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争、対中国、同盟関係についての言及があった。興味深いのは専門家たちからすれば、「トランプ、バイデンの外交政策に関しては、これまでのどの討論会よりも、両者の隔たりが大きく、どのような議論の展開になるか予想がし易い」ということであった。そして、実際に予想通りの展開になった。

 これは、トランプがアメリカ国内問題優先主義(isolationism)・リアリズム(realism)を基盤とし、バイデンが国際主義(globalism)・介入主義(interventionism)を基盤としているからだ。それが明白であるため、「このように考える、このように答える」と予測するのが簡単だ。

 そして、バイデン政権がウクライナ支援に前向きで、イスラエル支援には制限をかけるということもあり、トランプはウクライナ支援には後ろ向き、イスラエル支援には積極的ということがある。トランプは、ウクライナ戦争について、「ヨーロッパの揉め事はヨーロッパで解決せよ、アメリカを巻き込むな」というアメリカ国内問題優先主義的であるが、イスラエル支援には積極的である。これは女婿ジャレッド・クシュナーとイヴァンカがユダヤ教徒であるということも大きく、また、ベンヤミン・ネタニヤフとも近しい関係にあるためだ。また、パレスティナ国家樹立に反対しいているということもある。トランプの、これまでのアメリカの介入主義的な外交政策一辺倒な姿勢に対する批判は大きな説得力を持つ。

 興味深いのは、対中国に関して、トランプ、バイデン共に違いがないということだ。トランプが始めた対中貿易戦争(関税引き上げ合戦)による高関税をバイデン政権も持続している。中国製の電気自動車(EV)には100%の関税をかけている。共和党の伝統で言えば、関税を引き上げるというのはあり得ないことだった。

 トランプが所属する共和党は自由貿易を志向し(これで資本家が儲かるようにする)、バイデンが所属する民主党は保護貿易を志向する(これで労働者の雇用を守る)というのが、これまでの伝統的な動きだった。アメリカの主要な輸出品目である農産物を生産している農家は関税引き上げを望まない、自由貿易主義志向で、共和党の地盤だった(アメリカの農業には競争力があり、それに加えて補助金ももらえる)。共和党は経営者や中小企業、農業の個人事業主の政党であった。

それがトランプの登場によって、共和党が白人の学歴の高くない労働者の党へと移行しつつある。民主党は、元々が五大湖周辺やアパラチヤ山脈地方の自動車工場や製鉄所の労働者たちの政党であったが、都市部のリベラルでホワイトカラー、エリートたちの政党となっている。その変容に不満を持った白人労働者たちの支持をかっさらったのがトランプだった。簡単にまとめると、元々は「共和党は金持ちの党、民主党は貧乏人の党」だったものが、1990年代以降に大きく変容し、2010ネ年代に「共和党は貧乏人の党、民主党は金持ちの党」ということになった。

 今回の討論会に関しては、何よりもバイデンのパフォーマンスの酷さが注目を集めることになったが、中身について見ていけば、アメリカの外交政策の大きな流れを理解するための良い材料になるものでもあった。

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トランプ・バイデン討論会での外交政策に関する重要な瞬間(Key Foreign-Policy Moments From the Trump-Biden Debate)

-候補者2人は、ウクライナでのロシアの戦争、イスラエル・ハマス戦争、移民、アメリカのグローバルイメージについて衝突した。

リシ・イエンガー、クリスティーナ・リュー

2024年6月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/28/biden-trump-debate-foreign-policy-border-russia-israel-gaza-china/

4年前の大統領選において、ドナルド・トランプ元大統領とジョー・バイデン大統領は、討論会の舞台で数回対戦したが、外交政策についてはあまり言及されなかった。しかし、木曜日の夜に行われた今年の選挙戦の最初の対決では、アメリカ政府が重大な利害関係を持っている2つの大規模な戦争と、中国との激化する大国間競争を背景にしているため、回避するのは難しかった。

テキサス大学オースティン校のジェレミ・スリが討論会に先立って本誌への寄稿で書いたように、トランプとバイデンは、ワシントンの国際関係へのアプローチにおいて、最近の歴史におけるほとんどの大統領候補者よりも隔たりがあり、バイデンは、アメリカの世界的な地位と伝統的な同盟諸国との関係(America’s global standing and relationship with traditional allies)の回復(restore)を目指している。一方、トランプははるかにアメリカ国内問題解決優先主義的な(isolationist)教義を支持している。

討論は依然として、インフレや高額な保育費などの経済やオピオイド危機などの国内問題が大半を占めていたが、ウクライナにおけるロシアの戦争、イスラエル・ハマス戦争、移民は大きな注目を集めた。驚くべきことに、両候補者は中国について質問されなかったが、アメリカ経済や、トランプ大統領が多くの中国からの輸入品に課し、バイデン大統領もほぼ維持している高関税の影響について議論する際に、自ら中国について簡単ではあるが取り上げた。

木曜日の夜、候補者2人が、現在ワシントンが直面している主要な外交政策問題について、ステージ上で語った内容は次のとおりだ。

(1)ロシアとウクライナにおける戦争(Russia and the war in Ukraine)

バイデンとトランプは、ロシア・ウクライナ戦争に関するアメリカの立場、キエフに対するアメリカの援助範囲、NATOへのアメリカの貢献などを巡って激しく衝突した。

バイデン政権下で、アメリカはウクライナの戦争努力を強力に支援しており、2022年にモスクワがウクライナへの本格的な侵攻を開始して以来、キエフに約1750億ドルの軍事援助を提供している。バイデンはその立場を擁護する一方で、キエフへの国際的な支援を集めるにあたって、アメリカを世界的なまとめ役であると位置づけた。「私が呼び掛けて、日本や韓国を含む世界50カ国がウクライナを支援している」と述べた。

トランプは、バイデンが「ロシアに侵攻を推奨した(encouraged Russia” to invade)」と根拠もなく示唆し、バイデン政権が2021年5月にアフガニスタンから撤退した混乱の結果として信仰が起きたことを描写しようと努めた。トランプは次のように述べた。「バイデンのアフガニスタンへの対処があまりにも酷く、ひどい恥晒しとなった。もし本物の大統領、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に尊敬される大統領だったら、プーティンはウクライナに侵攻しなかっただろう」。

トランプは2期目に当選した場合、就任式前にロシアとウクライナ間の戦争を「解決する(settle)」と誓ったが、その方法については何の説明もなかった。トランプはまた、国防費目標を達成できていないNATO加盟諸国に対し、ロシアは「何をやってもいい」との以前の脅しに加えて、NATOを激しく非難した。「私たちは全員の請求書を支払っている」とトランプは述べた。

トランプ大統領は、バイデン政権の姿勢はアメリカを新たな戦争に追い込むだろうと宣言した。「彼は私たちを第三次世界大戦に追い込むだろう。私たちは誰もが想像する以上に第三次世界大戦に近づいており、彼は私たちをそこに追い込むだろう」とトランプは語った。

バイデン氏はこうした発言に反発した。「あなたは、第三次世界大戦を望むのか? トランプを勝たせて、プーティン大統領にNATOに対してやりたいことは何でもするように言わせてみよう」とバイデンは語った。

(2)イスラエルとガザ地区での戦争(Israel and the war in Gaza)

予想通り、両候補とも、程度ややり方は異なるものの、全面的にイスラエルを支持した。

バイデンは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がイスラエルとハマスの紛争を解決するという自身の計画を支持していると述べ、バイデンがイスラエルに対して供与を否定している唯一の武器は2000ポンド爆弾だと繰り返し述べ、ワシントンがイスラエルを十分に支援していなかったというネタニヤフ首相の非難をかわした。この爆弾は、「人口密集地ではうまく機能しない」し、「多くの人が殺される」と述べた。

バイデンは、「戦争継続を望んでいるのはハマスだけだ。過激派組織ハマスは「大幅に弱体化(greatly weakened)」しており「殲滅されるべき(should be eliminated)」と付け加え、イスラエルは「人口密集地では注意(careful in populated areas)」する必要があると警告した。

トランプ大統領はこれら両方の考えに水を差し、「実際のところ、イスラエルは継続を望んでいる」と述べ、「私たちは彼らに任せて、彼らに仕事を終わらせるべきだ」と付け加えた。トランプはまた、バイデンのイスラエルへの支持が控え目だとされる点について、「彼はパレスティナ人のようになってしまった」と、激しい言葉遣いの、特徴的に誇張的な非難を行った。

トランプ大統領がホワイトハウスにいたら、プーティン大統領はウクライナに侵攻しなかっただろうという以前の主張を繰り返し、もしトランプが当時大統領だったらハマスはイスラエルを攻撃しなかっただろうと主張した。

司会者のダナ・バッシュからパレスティナ国家樹立を支持するかとの質問に対し、トランプ大統領は「様子を見なければならない(have to see)」とだけ答え、すぐにバイデンのNATOとの関わりについての批判に戻った。

(3)アメリカのグローバルイメージ(America’s global image)

両候補は、世界におけるアメリカの地位の低下が認識されているとして互いに非難した。

トランプ大統領は、アメリカのアフガニスタンからの無秩序な撤退について繰り返しバイデンを攻撃し、それを「我が国の歴史の中で最も恥ずかしい日(the most embarrassing day in the history of our country)」と呼び、一時は「アフガニスタンの恐怖ショー(Afghanistan horror show)」と呼んだ。

トランプは、「この男のリーダーシップの下でアメリカの評判に起こったことは酷いものだ」と述べた。

バイデンはトランプがNATOからの脱退を望んでいると非難し、トランプがこれまでヴァージニア州シャーロッツビルの極右デモ参加者やアドルフ・ヒトラーさえも支持し称賛してきたことがアメリカの世界的評判を低下させたと主張した。バイデンは「この男にはアメリカの民主政治体制の感覚がない(This guy has no sense of American democracy)」と語った。

バイデンは後に、アメリカの世界的イメージについてのトランプ大統領の破滅的な発言を激しく非難した。バイデンは「どういうわけか私たちは失敗している国だという考えについて、大統領がこのように話すのをこれまで聞いたことがない。私たちは世界の羨望の的だ」と述べた。

(4)中国(China)

今回の討論会の最大の驚きは、アメリカにとって最大の世界的ライヴァルに関する議論が比較的少なかったことだろう。司会者は主に、ウクライナとガザの紛争、そしてアメリカとヨーロッパ、NATOとの関係に外交政策の質問を集中させた。

その理由の1つは、対中政策に関してはおそらく他のどの外交政策問題よりもトランプとバイデンの接近が近いことだろう。バイデンはトランプ政権下で始まった中国に対するタカ派姿勢を継続し、場合によってはより強化し、トランプ大統領が中国からの輸入品に課した関税の多くを維持し、特に半導体や電気自動車に対する規制を徐々に強化している。

しかし、両候補とも何度か自ら中国を持ち出した。トランプ大統領は、オピオイド危機に関する無関係の質問に答えて、バイデンについて「この人物の下で、中国との赤字は最大だ。彼は中国から給料をもらっているし、中国から洗脳されている(Manchurian candidate)。彼は中国から金をもらっている」とトランプ大統領は虚偽のことを付け加えた。トランプ大統領はまた、バイデンがトランプ大統領の対中関税を撤廃しなかったのは、中国が「多大な資金(too much money)」をもたらしているためだと指摘した。

バイデンは、アメリカの対中貿易赤字を2010年以来の最低水準に引き上げた自身の功績を引き合いに出し、「あなたは中国について何の進展も成し遂げていない」と反撃した。

(5)移民(Immigration)

この討論会で最も扇動的な発言の一部は、アメリカの移民政策をめぐりトランプとバイデンが口論した際に発せられた。トランプ大統領の任期は、強硬かつ物議を醸した移民政策が特徴であり、その一部は現在もバイデン政権下で実施されている。

トランプはさっそくバイデンの政策を激しく攻撃し、バイデンがアメリカ南部国境で移民の流入を食い止められず、不法移民が国を「犯罪のネズミの巣(rat’s nest)」に変えるというディストピア的な絵を描いて避難した。その発言の内容はほぼ虚偽だった。アメリカは「現在、文字通り非文明的な国(literally an uncivilized country now)」となっており、「人々が流入し、国民を殺害している(people are coming in and they’re killing our citizens)」とトランプは述べた。複数の研究によると、実際、移民はアメリカ生まれの国民よりも罪を犯す可能性が低いことが分かっている。

トランプは「なぜ刑務所や拘置所、精神病院から何百万人もの人々がこの国に入国し、この国を破壊することを許可したのかについて是非聞きたいものだ」と語った。

バイデンは、前大統領の家族分離政策(family separation policy)の下で、「乳児を母親から引き離し、檻に入れる(separating babies from their mothers [and] putting them in cages)」ことを含むトランプ大統領の移民政策を批判し反撃した。この政策の下、トランプ政権は約2600人の子供を親から引き離した。バイデン政権は移民に関しても「超党派の合意を得るために懸命に努力してきた(worked very hard to get a bipartisan agreement)」と付け加えた。

バイデンは「法律を変えてから私がやってきたことは、不法に国境を越えてくる人が40%も減るような状況に変えることができた。彼が退任した時より良くなっている」と述べた。

※リシ・イエンガー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:@Iyengarish

※クリスティーナ・リュー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:Twitter: @christinafei

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バイデントントランプの討論会は外交政策の歴史において重要な瞬間を作ることになる(Biden and Trump’s Debate Could Make Foreign-Policy History)

-国際問題が大統領討論会で取り上げられることはほとんどないが、今週の対決は例外となる可能性がある。

ジェレミ・スリ筆

2024年6月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/26/biden-trump-debate-cnn-foreign-policy/

テレビで放映される討論会は、アメリカの大統領選挙において重要な位置を占めるようになったが、それがどのように重要なのか、本当のところは誰も分かっていない。何百万人もの視聴者が討論会を観戦し、特にタイミングのいい批判(ロナルド・レーガンの「またかそれか(there you go again)」)やとんでもない失言(ジェラルド・フォードの「ソ連による東欧支配はない(“there is no Soviet domination of Eastern Europe)」)が飛び出すと、候補者たちに対する大衆のイメージが形成されるようだ。

しかし、政策については、時間の制限や、シンプルで説得力のある立場を明確にすることが重視されるため、討論会ではほとんど議論されない。外交政策は討論会では特に焦点が当てられることが少なく、このテーマで語られることの多くは、照らし出すよりも歪めてしまうことが多い。しかし、ドナルド・トランプ前大統領とジョー・バイデン大統領による今週の討論会は例外かもしれない。

1960年にジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンの間で初めてテレビ討論が行われて以来、大統領選挙候補者たちは、共産主義的敵対勢力の封じ込め(containment of communist adversaries)、活力ある西側同盟への関与(vibrant Western alliance)、アメリカの支配的な世界的プレゼンス(predominant U.S. global presence)、アメリカの貿易と投資のための開かれた市場(open markets for American trade and investment)といった、アメリカの外交政策の大枠について概ね合意してきた。候補者たちは、誰がこれらの立場を最も雄弁に語ることができるかを競い、その一方で、対立候補を無能と不十分な関与で非難した。例えば、ケネディは、アイゼンハワー政権において、ソ連との「ミサイルギャップ(missile gap)」疑惑を許したニクソンの役割は弱かったと批判した。レーガンは、ジミー・カーターがモスクワの軍事力が増大するのを「甘やかして(coddling)」いたとして、同様の攻撃を加えた。

 

レーガンとカーターは、ケネディとニクソンのように、ソ連に対して力強く立ち向かい、海外でアメリカの力を促進することで意見が一致した。彼らは、どちらがより良い仕事ができるかを議論したが、その議論は戦略や戦術や詳細をめぐるものではなかった。彼らの議論は、他の多くの人々と同様、性格やイメージに関するものだった。「どちらがより強く、賢く、危険な世界で共通の目的を達成する決意が固いか? 危険や混乱に直面したとき、より信頼でき、勇気があるのは誰か?」ということだった。

2004年にジョージ・W・ブッシュとジョン・ケリーがイラク戦争について議論したときも、2012年にバラク・オバマとミット・ロムニーが対テロ戦争について討論したときも、冷戦後の討論の基本的なパラメーターはこのままだった。候補者たちはそれぞれ、同じ敵対者を倒すために、アメリカをより強く、より効果的にすると主張した。言葉は違うが、本質的には同じことを言っていた。彼らの討論会は、政策分析(policy analysis)ではなく、ポーズを取るためのものだった。

同じことが直近の討論会でも言える。2016年のトランプとヒラリー・クリントン、そして2020年のバイデンとの違いはあれ、候補者たちはアメリカの世界的優位性、開かれた市場、そして重要な同盟関係への熱烈な関与を共有していた。これらの目標をどのように達成するかについては大きく異なっていたが、彼らが思い描く世界は、アメリカの軍事的・経済的覇権(U.S. military and economic hegemony)に変わりはなかった。クリントン、トランプ、バイデンは、自らを強力な指導者だと語り、アメリカが抑制的で謙虚な国際的役割を果たすことを否定した。両者の意見の相違は主に、どちらがより強くなるかという点であった。

今年の最初の大統領討論会は異なるものになるだろう。おそらくこれまでの討論会とは異なるだろう。トランプは自制と謙虚さ(restraint and humility)が嫌いだが、トランプと支持者たちは、バイデンの主流派が支持する目標に挑戦する外交政策上の立場を堅持している。バイデン大統領はNATOや他の伝統的なアメリカの同盟を力強く擁護し、ロシアの侵略を非難し、ウクライナへの大規模な軍事援助を支持し、世界中の民主政治体制の推進者としてのワシントンの伝統的な役割を雄弁に語っている。これらの役職は歴代大統領にとって馴染みのあるものだろう。 2021年以来、トランプは、ハーバート・フーヴァー以来のどの候補者(および元大統領)よりもこれらの立場を激しく非難し、アメリカの同盟を非難してきた。ロシアの侵略について弁解し。ウクライナへの軍事援助を拒否した。そして最も驚くべきことに、アメリカは民主政体を海外に広めることなど考えるべきではないと否定した。

バイデンの国際主義(Biden’s internationalism)とトランプの国内優先主義(Trump’s isolationism)の対比は、テレビで放映された大統領討論会の歴史のどの瞬間よりも鮮明だ。彼らはアメリカの利益、脅威、機会に関して根本的に異なっている。かつての外交政策論争の文言が、共通の目的をより強力に追求できるのは誰かということに焦点を当てていたとしたら、現在のレトリックは、その目的が何であるべきか、つまり「世界的なアメリカ(global America)」か「要塞のアメリカ(fortress America)」を中心に循環している。

候補者たちが同意し、目標ではなく実行について議論する主要な外交政策分野の1つは、関税やその他の保護主義的措置を通じて、特に中国からの不当な外国競争からアメリカ企業を守ることだ。少なくとも2012年までは、アメリカ外交政策の基礎だった自由貿易は、両候補によって拒絶された。彼らは、市場開放や広く非難されている世界貿易機関と協力するのではなく、特に激戦州のアメリカ産業を保護するのにどちらが優れているかについて議論するだろう。

通商以外に、これまでのほとんどの大統領選挙候補者討論会とは異なり、基本的な外交政策の目標がバイデンとトランプのステージ上での主要な議題となる可能性が高い。司会者たちは、ほぼ確実にウクライナとガザ地区での戦争について質問するだろうし、候補者の反応からはアメリカの外交政策の中核概念をめぐる両者の相違の深さが明らかになるだろう。

バイデンは、アメリカのウクライナ支持は、西側同盟と世界民主政治体制にとって、不可欠なものであると擁護するだろう。バイデンは、ロシアと中国によるアメリカの安全保障への脅威を否定し、海外でのアメリカの信頼を損ない、世界的な民主政治体制の防衛を放棄したトランプ大統領を非難するだろう。バイデンは、アメリカの力と威信を回復した功績を認め、過去70年間をモデルにアメリカが主導できる、また主導しなければならない新たな冷戦の絵を描くだろう。

トランプ大統領はこれら全てを否定し、主流派の外交政策目標の擁護者たちを裏切り者(traitors)として非難するだろう。彼はアメリカの強さを主張するだろうが、それはあからさまな一極主義的な(unilateral)言葉だ。彼はまた、ウクライナ、NATO、その他の同盟諸国を守ることで得られるアメリカの利益も否定するだろう。トランプは、ロシア、サウジアラビア、北朝鮮、そして場合によっては中国の独裁者との取引協定を強調し、アメリカ人に即時利益をもたらすと主張するだろう。そして、アメリカだけにとって都合のよい場合には、核兵器を含む圧倒的な軍事力を行使することを約束するだろう。

バイデンとトランプの根本的な違いは、ガザ地区での戦争について尋ねると最も明らかになるだろう。バイデンは、イスラエルを強力に支持し、二国家共存解決策を通じてパレスティナ人の人権を擁護するという、伝統的なアメリカの立場を明確に示している。トランプ大統領はパレスティナ人に対するいかなる真剣な政治的発言も拒否しており、イスラエルに対する彼の支持はより軍国主義的(militaristic)である。トランプには、問題を抱えた地域で誠実な仲介者(honest broker)として行動する気などない。トランプは、パレスティナ人の代表がほとんど、またはまったくいない、一国家解決を模索する初めての本格的な大統領選挙候補である。

木曜日の討論会で有権者たちがこうした議論にどう反応するかは誰にも予測できないが、これまでの討論会とは大きく異なる外交政策に関する討論が期待できるだろう。国内問題にはもっと時間がかかるだろうが、外交政策に関する問題が顕著になるだろうし、レトリックや姿勢だけを超えて、いくつかの重要な政策の違いが解明されるだろう。候補者は2つの異なる外交政策を提案しており、それはこれまでにないほど討論会で明らかになるはずだ。

バイデンとトランプは、異なる政策をどのように実行するかについて、討論会で多くの詳細を明らかにしないだろう。それにもかかわらず、アメリカ国民は選挙における外交政策の選択をもっとよく認識すべきである。それが今回の大統領討論会を、他のほとんどの討論会とは異なるものにするだろう。

※ジェレミ・スリ:テキサス大学オースティン校マーク・ブラウン記念国際問題リーダーシップ所長。テキサス大学オースティン校歴史学部兼リンドン・B・ジョンソン記念公共問題大学院教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 米中戦争についてはその危険性が高まっているということを主張する人々が多くいる。台湾有事、中国が台湾に軍事侵攻して、台湾を防衛するアメリカ、そして、日本と戦争状態になるという主張がある。中国は既に武力に訴えなくても、台湾を統一することができるようになっているということはアメリカでも言われている。台湾に対して武力を用いないとなれば、中国が他に武力を用いることは考えられない。また、中国がアメリカに代わって、世界覇権国になる可能性が高いが、アメリカの凋落を中国は熟した柿が落ちてくるのを待つ、熟柿作戦で十分だ。わざわざ木を揺さぶって、柿を無理やり落とすようなことは必要ない。アメリカが挑発しない限り、中国は戦争を起こさない。

 しかし、中国は習近平がこれまでのルールを変更して、3期目の国家主席を務めている。また、中国国内政治において重要な勢力である中国共産主義青年団派(Communist Youth League Faction、CYLF、共青団派、団派)を最高指導部層から排除している。そして、「軍工航天系、jungonghangtianxi」と呼ばれる、国防・航空宇宙産業出身者たちが多数、中国共産党中央政治局に入っている。彼らは、軍事と最先端技術の知識を持つ人材である。そして、こうした人事は、中国の戦争に備えた体制、アメリカの不安定さから起きるかもしれない突発的な事態に備える体制を整えている。中国は戦争を起こす意図は持っていないが、怠りなく、戦争に備える態勢を整えている。

 アメリカとアメリカの同盟諸国(アジアでは日本ということになる)は、中国の膨張に備えて、中国を抑止できるようにしておかねばならない。抑止力の強化、中国の封じ込めこそが重要だという論である。しかし、これでは、アメリカ(と同盟諸国)、中国の双方が軍拡競争を行うということになる。軍備を増強して、安心感を得ても、相手は不安を感じ、軍備を更に増強する。これがずっと繰り返されていくという、「安全保障のディレンマ(security dilemma)」に陥ってしまう。国力が減退し続けているアメリカは中国との軍拡競争をすべきではない。そんなことをすれば、自分で死期を早めるようなものだ。また、アメリカは西側諸国を対中包囲網に引き入れようとしているが、西側先進諸国の国力も衰退しつつある。一方、非西側諸国は国力を増進させている。大きな流れで言えば、中国を封じ込めることはできないし、非西側諸国の国力の膨張を停めることはできない。

 短期的、中期的に見て、米中両国は「G2」体制を形成し、世界の平穏維持に努めるべきだ。そして、G2の枠組みを通じて対話を行い、無用な衝突を避ける、このことが何よりも重要だ。米中戦争という馬鹿げた幻想に乗せられて、衝突することこそは人類の大いなる不幸である。

(貼り付けはじめ)

中国はどれほど戦争の準備ができているのか?(How Primed for War Is China?)

-紛争の危険信号が赤色で点滅している。

マイケル・バックリー、ハル・ブランズ筆

2024年2月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/04/china-war-military-taiwan-us-asia-xi-escalation-crisis/

中国が戦争を始める可能性はどのくらいあるか? これは今日の国際情勢において最も重要な問題かもしれない。中国が台湾や西太平洋の別の目標に対して軍事力を行使した場合、その結果はアメリカとの戦争、つまりこの地域とより広い世界の覇権(hegemony)をめぐって争う核武装した二人の巨人の間の戦いになる可能性がある。ウクライナと中東で続く戦争の最中に中国が攻撃すれば、世界はユーラシアの主要地域全体で連動する紛争に飲み込まれ、第二次世界大戦以来例のない世界規模の大火災となるだろう。

米中戦争についてどれだけ心配すべきだろうか?

最近のワシントンと中国の間のハイレヴェル外交の慌ただしさにもかかわらず、危険な兆候は確かに存在している。中国の習近平国家主席の下、中国政府はここ数十年で最大規模の軍事力増強の一環として、船舶、航空機、ミサイルを増強している。気まぐれな海外投資を呼び戻そうとする最近の取り組みにもかかわらず、中国は燃料と食料を備蓄し、制裁に対する経済の脆弱性(vulnerability)を減らそうとしている。これは紛争が近づくと取られるかもしれない措置である。習主席は、中国は「最悪かつ極端なシナリオ(worst-case and extreme scenarios)」に備え、「強風、荒れた海、さらには危険な嵐(high winds, choppy waters, and even dangerous storms)」に耐える準備をしておく必要があると述べた。これら全ては、中国政府がフィリピン、日本、インドを含む近隣諸国との関係でますます高圧的(時には暴力的)になり、台湾を攻撃し、封鎖し、場合によっては侵略する能力を定期的に宣伝している中で起こっている。

アメリカ政府高官の多くは、戦争の危険性が高まっていると考えている。ウィリアム・バーンズCIA長官は、習主席が2027年までに台湾を占領する能力を模索していると述べた。また、中国経済が苦戦する中、一部の観察者(伝えられるところによれば、アメリカ情報アナリストを含む)は、ピークに達した中国が中国からの注意をそらすために攻撃的になる兆候を探している。内部の問題を解決するか、まだ可能なうちに利益を固定するためだ。

他のアナリストたちは、中国の侵略のリスクは誇張されていると考えている。一部の学者は、アメリカが中国を刺激しなければ、この危険は管理できる可能性が高いと述べているが、これは中国が自国に有利に機能してきた現状をひっくり返すつもりはないという長年の主張の反映だ。中国は、1979年のヴェトナム侵攻以来、戦争を始めていないと指摘する人もいる。また、中国には陽動戦争(diversionary war)の歴史がないと主張して、経済減速やその他の国内問題に対応して中国が戦争を起こす可能性があるという見通しを否定する人もいる。これらの議論を結びつけているのは、中国の行為の基本的な継続性に対する信念である。つまり、40年以上悲惨な戦争を始めていない国が今も戦争を始める可能性は低いという考えである。

私たちは、この自信は危険なほど見当違いであると考えている。国の行動は、その戦略的伝統に劣らず、その国の状況によって深く形成されており、中国の状況は爆発的に変化している。政治学者や歴史家たちは、大国が多かれ少なかれ戦争する傾向にある様々な要因を特定している。このような4つの要因を考慮すると、かつては、平和的な隆盛を可能にしていた条件の多くが、現在では暴力的な衰退を促進している可能性があることが明らかになる。

第一に、中国が争っている領土問題やその他の問題は、かつてほど妥協や平和的解決(compromise or peaceful resolution)が受けにくくなり、外交政策がゼロサムゲームになっている。第二に、アジアの軍事バランスは変化しており、中国政府が戦争の結果について危険なほど楽観的になる可能性がある。第三に、中国の短期的な軍事的見通しが改善するにつれて、長期的な戦略的および経済的見通しは暗くなっており、この組み合わせが過去に修正主義諸大国(revisionist powers)を更に暴力的にすることがよくあった。第四に、習国家主席は中国を、特に悲惨な誤算と多大な費用がかかる戦争(disastrous miscalculations and costly wars)を招きやすい種類の個人崇拝的独裁政治体制(personalist dictatorship)に変えてしまった。

これは、中国が特定の週、月、または年に台湾を侵略すると言っているのではない。紛争の引き金は予期せぬ危機であることが多いため、紛争がいつ起こるかを正確に予測することは不可能だ。1914年にヨーロッパが戦争の準備を整えていたことは今では分かっているが、もしオーストリア大公フランツ・フェルディナンドを乗せた車の運転手が歴史上最も運命的な誤った道を歩まなければ、第一次世界大戦はおそらく起こらなかったであろう。戦争は地震に似ている。戦争がいつ起こるかを正確に知ることはできないが、リスクの程度の高低につながる要因を認識することはできる。現在、中国のリスク指標は赤く点滅している。

米中戦争の可能性は一見すると遠いように見えるかもしれない。中国政府は44年間大規模な戦争を行っておらず、中国軍は1988年に南沙諸島での小競り合いで中国のフリゲート艦がヴェトナム海軍の水兵64人を機銃掃射して以来、外国人を殺害していない。いわゆるアジアの平和、つまり、1979年以来、東アジアで国家間戦争が起こっていないことは、中国の平和の上に成り立っている。

戦争がないことは、侵略がないことを意味する訳ではない。中国政府は軍事力と準軍事力を利用して、南シナ海と東シナ海での権限を拡大してきた。近年、中国はインドとも血なまぐさい争いを繰り広げている。それにもかかわらず、アメリカがいくつかの戦争を戦った一方で、中国政府が大規模な戦争を回避してきたという事実により、中国政府当局者たちは、自国が世界的大国への道を独自に平和的に歩んでいる(peaceful path)と主張することができた。そして、戦争を心配する人々は、二世代にわたる平和によって記録的な成長を遂げた中国が、なぜこれほど劇的な方向転換をするのか説明するよう強いられる。

一見平和そうに見える新興大国が破綻するのはこれが初めてではない。1914年以前、ドイツは40年以上大規模な戦争をしていなかった。1920年代、日本は海軍の制限、アジアでの権力の共有、中国の領土一体性の尊重を誓約する条約に署名する際、多くの外国専門家たちを責任ある利害関係者のように見ていた。2000年代初頭、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領はNATOに加盟し、ロシアを西側に近づけることについて熟考した。それにもかかわらず、これらの国々がそれぞれ野蛮な征服戦争を開始したということは、状況は変化するという基本的な真実を強調している。同じ国でも、状況に応じて、異なる行動を取る可能性があり、場合によっては極端な行動する可能性がある

そのような状況の1つは、領土紛争に関係する。ほとんどの戦争は、地球のどの部分を誰が所有するかをめぐる争いだ。1945年以降に起こった国際紛争の約85%は、領土の主張を中心に展開している。領土には象徴的または戦略的な重要性があることが多いため、共有するのは困難だ。国家が地域を分割することに同意した場合でも、都市、石油埋蔵量(oil reserves)、聖地(holy sites)、水路、戦略上の高地などの最も貴重な部分をめぐって争いになることがよくある。更に言えば、領土を確保するには、フェンス、兵士、入植者(settlers)の形で物理的に存在する必要がある。したがって、国家が同じ縄張りを主張すると、頻繁に望ましくない接触が発生する。領土紛争は、一方の側が自国の主張が急速に侵食されることを懸念している場合、特にエスカレートする可能性が高い。神聖な土地が失われつつある、あるいは国が敵によって解体されるかもしれないという信念は、国境をより安全に保っている国であれば避けるであろう侵略を引き起こす可能性がある。

戦争の第二の原因は、軍事バランスの変化だ。戦争は様々な問題をめぐって行われるが、全ての根本的な原因は共通している。それは誤った楽観主義だ。こうした事態は、両方が目的を達成するために武力を行使できると信じている場合、言い換えれば、双方が勝てると考えている場合に起こる。もちろん、両方にとって、真に有利な戦争はほとんどない。つまり、少なくとも一方が、そして非常に多くの場合は両方が、敵の力を悲惨なほど過小評価していた。つまり、競争的または曖昧な軍事バランスが戦争を引き起こす。したがって、新しい技術の導入や弱い側による大規模な軍事増強など、特定のバランスを、競争力を高めたり曖昧にしたりすると、戦争のリスクが高まります。

第三に、諸大国は将来の衰退を恐れると好戦的になる。地政学的競争は強烈で容赦がないので、各国は相対的な富と力(wealth and power)を神経質に守っている。最も強力な国であっても、経済の停滞、戦略的包囲網、または自国の国際的地位を脅かし、敵の略奪に晒される、その他の長期にわたる傾向に悩まされると、暴力的な不安に陥る可能性がある。武装を強化しながらも不安は増大し、衰退の瀬戸際にある大国は、必要なあらゆる手段を使って不利な傾向を阻止しようと熱心に、あるいは必死になるだろう。ドイツ帝国、大日本帝国、そしてプーティン大統領のロシアにとって、それは最終的には戦争を意味した。

最後に、国家の行動はその政権によって形作られる。個人崇拝的な独裁国家は、多数の手に権力が握られている、民主政体国家や専制国家に比べて、戦争を起こす可能性が2倍以上高い。独裁者は紛争の代償に晒されることが少ないために、より多くの戦争を起こす。過去100年間で、戦争に負けた独裁者が権力の座から転落したのはわずか30%であったのに対し、戦争に負けた他のタイプの指導者は投票で排除されるか、その他の方法で政権の座から追放された。ほぼ100%排除される。独裁者が過激主義に傾くのは、親愛なる指導者の要求に全力で応えようとするおべっか使いたちに囲まれているからだ。独裁者はまた、血と土のナショナリズムが国内での圧制を正当化するのに役立つため、海外に現実の敵や想像上の敵を仕立て上げていく。そのため、限られた政府の指導者は通常、控えめに統治し、忘れ去られていくのに対し、ドイツのアドルフ・ヒトラー、イタリアのベニート・ムッソリーニ、ソ連のヨシフ・スターリン、中国の毛沢東、イラクのサダム・フセイン、ロシアのプーティンなどの独裁者は、しばしば歴史書に名前を残すようになっている。

これら4つの要因、つまり、確定していない国境、競争的な軍事バランス、否定的な予測、独裁政治は、中国の歴史的な武力行使を説明するのに役立ち、今日でも不気味な影響を及ぼしている。

中華人民共和国は戦いの中から誕生した。中国は一世紀にわたる外国帝国主義(foreign imperialism)に耐え、1937年の日本侵攻後、アジアで第二次世界大戦の矢面に立たされた。少なくとも1400万人の中国人が死亡した。その後、1945年から1949年にかけて、中国国共内戦は血なまぐさい最高潮に達し、共産主義者が権力を握るために戦う中で少なくとも200万人以上が殺害された。

こうした紛争のさなか、中国は極度の好戦国家(hyper-belligerent state)として台頭した。数十年にわたり、この国は世界で最も苦境に立たされた国の1つであり、5つの戦争を戦い、冷戦時代の米ソ両超大国(superpowers)の主敵となった。中国は戦争のあらゆる危険因子を示していたため、この暴力的な記録は驚くべきことではない。

第一に、中国は個人支配(one-man rule)の権化(apotheosis)である毛沢東によって率いられていた。毛沢東は日常的に同僚を粛清し、不可解で移り変わる論理的根拠に基づいて、しばしば夜中に寝ぼけながら一方的に決定を下した。彼はまた、人命に対する驚くべき軽視を示した。毛沢東が生きているうちに中国を超大国に変えるという無謀な計画である大躍進政策中に、およそ4500万人が飢えたり、殴られたり、射殺されたりした。この悲惨な作戦の背後に国民を結集させる必要もあり、毛沢東は1958年に台湾の国民党政府が保有する島々を砲撃して国際危機を煽動した。

毛沢東はサディスティックだったかもしれないが、これほど冷酷でない指導者であったら、これほど打ち砕かれた国家について、平和で統一された状態に保つのにより苦労したことだろう。内戦に勝利した後、中国共産党(Chinese Communist Party、CCP)は中央政府の権限を村ごとに再賦課し、少数民族、軍閥(warlords)、国民党支持者による抵抗勢力を苦労しながら、根絶しなければならなかった。更に悪いことに、日本とヨーロッパの諸帝国の崩壊により、中国の一部は、敵対的か不安定な、あるいはその両方の新たな国々に囲まれた状態になった。中国の国境の大部分はある程度争われていた。1960年代までに、ソ連との国境は世界で最も軍事化された地域となった。台湾はアメリカの支援を受けた、ライヴァルの中国国民党政府の拠点であり、本土の再征服を公然と計画していた。インドはチベット亡命政府(Tibetan government in exile)を受け入れ、広範囲の中国領土を自国領土と主張した。そして中国の中心地は、冷戦の2つのホットスポット、インドシナと朝鮮半島の間に挟まれていた。

中国は自らが常に引き裂かれる危険に晒されており、毛沢東が引き起こした経済的大惨事と政治的混乱によって、こうした歴史的トラウマはさらに強調された。しかし、北京は陸の隣国それぞれに対して常に実行可能な戦略を持っていた。なぜなら、中国の巨大な人口により、北京が「人民戦争(people’s war)」と呼ぶ、人海攻撃(human wave attacks)とゲリラ襲撃(guerrilla raids)を組み合わせた方法で敵国を飲み込むことができたからである。全体として、それは、領土紛争に巻き込まれ、無尽蔵に見える人的資源で武装した残忍な独裁政権という、可燃性の高い組み合わせ(combustible combination)となった。

このように中国は紛争から紛争へと戦い続け、特に脆弱だと感じたり、差し迫った立場の低下を恐れたりすると暴力を振るった。 1950年、中国は核報復(nuclear retaliation)の危険を冒して、北朝鮮奥深くまで進軍してきたアメリカ軍を攻撃した。1950年代後半、中国は台湾海峡の沖合の島々にある国民党の守備隊を砲撃し、更に2つの戦争を始めるところだった。1962年、中国が領有権を主張するヒマラヤ山脈にインド軍が前哨基地を建設した後、中国政府はインド軍を攻撃した。ヴェトナム戦争中、中国はアメリカ軍と戦うために数万人の軍隊を派遣した。1969年、ソ連軍の大幅な増強を受けて、北京はウスリー川沿いでソ連赤軍を待ち伏せ攻撃し、再び核戦争の危険を引き起こした。10年後、ヴェトナムがソ連軍の受け入れを開始し、中国政府の唯一の緊密なパートナーの一つであるカンボジアに侵攻した後、中国はヴェトナムを攻撃した。

その後、中国の銃はほとんど沈黙した。例外はあるが、最も顕著なのは1995年と1996年に中国が台湾付近にミサイルを発射した時だ。しかし一般的に言えば、1980年から2000年代半ばにかけて状況が劇的に変化したため、中国政府はそれほど苛烈で攻撃的ではなくなった。

まず中国最高指導部が軟化した。1976年に毛沢東が亡くなり、最終的に鄧小平が後任となったが、鄧小平は毛沢東によって粛清され、個人支配の危険性を理解していた。鄧小平の指導の下、最高級指導者たちの任期制限(term limits)が設けられた。全国人民代表大会と中国共産党中央委員会は、定期的に会合を開き始めた。専門化された官僚制(professionalized bureaucracy)が形成され始めた。これらの制度は完璧とは程遠いものだったが、毛沢東政権下では全く欠けていた権力に対するチェック機能(checks on power)を生み出した。

第二に、中国の地政学的立場が改善され、領土保全に対する脅威が減少した。1970年代にアメリカが中国に対して開放した後、台湾の敵対政府は外交上の承認とアメリカとの軍事同盟の大部分を失った。ソ連を追い詰めるため、アメリカは中国と準同盟(quasi-alliance)を結び、先端技術を中国企業に移転した。台湾、ソ連、インド、ヴェトナムは、アメリカの反応を引き起こす可能性なしに中国の領土を侵害することはもはや不可能となった。そして、1991年にソ連が崩壊すると、中国の陸上国境に対する主要な脅威はほぼ完全に消滅した。ロシアの支援がなければ、インド、ヴェトナム、そして中央アジアの新興諸国は中国の国境に対抗できる立場になかった。その代わりに、中国との関係正常化に動いた。

第三に、中国の将来に対する見方が明るいものとなった。アメリカや他の民主政体諸国との接近を経て、中国は世界経済への容易なアクセスと国連安全保障理事会の常任理事国の地位を獲得した。1970年代後半から2000年代初頭にかけて、その経済は驚異的なペースで成長した。各国は急成長する市場にアクセスするため、中国政府に好意を示した。イギリスは香港を返還した。ポルトガルはマカオを放棄した。アメリカは中国の世界貿易機関(WTO)への加盟を急いだ。中国経済が大混乱に陥り、世界の最も強力な国々が中国の台頭を歓迎している中、中国政府には日に日に良くなっているように見える現状をひっくり返す動機がほとんどなかった。

最後に、中国には征服の機会がほとんどなかった。経済的、外交的影響力が拡大していった一方で、中国軍は未だ係争中の領土、そのほとんどが海上にある領土を占領する能力が明らかに無かった。2000年代以前のみすぼらしい空軍と海軍では、中国の台湾侵攻は「百万人の水泳大会(million-man swim)」のようになり、日本の最先端の部隊との衝突は数時間でけりがついていたかもしれない。最も重要なことは、アメリカが海洋アジアにおける中国の侵略を鎮圧することが期待できることだった。湾岸戦争でアメリカ軍がイラク軍を壊滅させたのを見た中国指導者たちは、鄧小平の格言を受け入れて、「韜光養晦(とうこうようかい、to hide their light and bide their time)」、光を隠し、時を待つ傾向にあった。

今日の中国は隠れて入札することは終わった。その代わりに、第二次世界大戦後、どの国よりも速いペースで軍艦やミサイルを大量生産している。中国の航空機と軍艦は台湾とアメリカの目標への攻撃をシミュレートしている。アジアのシーレーンには中国軍の前哨基地が点在し、中国沿岸警備隊や漁船があふれており、中国政府が主張する海域から近隣諸国を図々しくも追い出している。一方、中国はロシアによるウクライナへの残虐行為を支援し、中印国境に軍隊を集結させている。

中国が戦闘的になった理由の1つは、それができるからだ。中国のインフレ調整後の軍事予算は、1990年から2020年の間に10倍に拡大した。現在、中国政府はアジアの他の全ての国を合わせた支出を上回っている。世界最大の弾道ミサイル戦力と海軍を擁する。2020年代の終わりまでに、中国の核兵器保有量はワシントンの核兵器に匹敵する可能性がある。台湾から500マイル以内にある唯一の基地である、沖縄のアメリカ軍基地を粉砕できる通常ミサイルでは、国防総省が中国の台湾攻撃に即座に対応できるか、ましてや打ち破ることができるかは、もはや明らかではない。歴史的に、アメリカは長引く戦争で敵国を上回る生産力を誇る製造力に頼ってきた。しかし、中国が世界の工場となった今、中国政府は、正しいかどうかにかかわらず、戦争が長引けば長引くほど軍事バランスは、更に中国側に有利に変化すると信じているかもしれない。

領土紛争(territorial disputes)が激化する中、中国も戦争への動機を強めている。第一に、台湾を統一する平和的手段は急速に失われつつある。1995年には、台湾人よりも自分たちはもっぱら中国人であると考える台湾国民の方が多く、独立よりも中国との統一に向かうことを好む人が多かった。現在、人口のほぼ3分の2が自分たちをもっぱら台湾人であると考えているのに対し、もっぱら中国人であると自認する人はわずか4%だ。台湾人の多くは、今のところ現状維持を支持しているが、人口の49%は、無期限の現状維持(27%)や統一(12%)よりも、最終的には独立することを望んでいる。一方、アメリカは台湾との関係を強化しており、ジョー・バイデン米大統領は、アメリカが中国の攻撃から台湾を守ると少なくとも4回宣言している。アメリカと台北が中国との潜在的な紛争に備えて軍事体制を見直している中、中国政府は最も切望する領土の運命について警戒を強めている。

南シナ海における中国の軍事的プレゼンスは大幅に拡大しているが、その外交的地位は損なわれつつある。2016年、ハーグの常設仲裁裁判所は、南シナ海に対する中国の広範な主張は無効であるとの判決を下した。訴訟を起こしたフィリピンは、2022年以来、自国の海洋権(maritime rights)を再主張し、アメリカが自国の領土を防衛するために、追加の軍事基地にアクセスすることを認めている。日本は、マニラと準同盟(quasi-alliance)を結んでいるほか、イギリス、フランス、ドイツを含む多くの国が中国政府の主張に反して、南シナ海に軍艦を派遣している。これに対抗して、中国は物理的に攻撃的になった。例えば昨年、中国沿岸警備隊の船はフィリピンの補給船を放水銃で爆破し、第二トーマス礁に駐留する軍関係者に食料を届けることを妨害した。

中国の軍事力が増大するにつれて、そのより大きな地政学的見通しは暗くなっている。中国経済は最近、アメリカに比べて停滞し、縮小している。生産性は低下し、負債は爆発的に増加している。中国政府がこの問題に関する統計の発表を一時停止した2023年半ばの時点で、若者の20%以上が失業しており、この数字はほぼ間違いなく問題の深刻さを過小評価している。裕福で教育を受けた大勢の中国人が金と子供たちを国外に送り出そうとしている。中国が世界史上最悪の高齢化危機に見舞われるにつれ、こうした問題は更に悪化するだろう。今後10年間で、中国は7000万人の労働年齢成人を失う一方で、1億3000万人の高齢者が増えることになる。

最後に、中国はますます敵対的な戦略環境に直面している。世界で最も裕福な国々は、経済と軍事の革新の生命線であるハイエンド半導体へのアクセスを遮断し、中国政府に対して、毎年新たな貿易と投資の制限を課している。 AUKUS、日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue、QUAD)、日米韓三カ国協定などの反中協定が急増している。中国の唯一の大国の同盟国であるロシアは、ウクライナで軍隊による破壊を引き起こし、多くのヨーロッパ諸国の世論を反中国にさせている。

もし中国がテクノクラートたちの委員会によって統治されていれば、外交的妥協と経済改革で、こうした圧力に対抗するかもしれない。しかし、中国は独裁者によって統治されており、その壮大な目的を達成するためには、中国国民の幸福を犠牲にする用意があることを既に示している。

2012年に権力の座に就いて以来、習近平は自らを終身主席(chairman for life)に任命し、自らの統治哲学を憲法に盛り込み、数千人の潜在的なライヴァルを粛清してきた。習近平は、中国の広大な領土主張に関して妥協のない立場をとっている。習は2018年、「祖先が残した領土を1インチたりとも失うことはできない」とジェームズ・マティス米国防長官に警告した。習は中国を超大国にすることの正当性を主張してきた。国営メディアは現在、毛沢東の下で中国は立ち上がったと宣言している。鄧小平の下で中国は豊かになった。そして習金平の下で中国は強大になるだろう。近年、習近平は内部演説で中国軍に戦争の準備をするよう指示し、中国国民に「極端なシナリオ(extreme scenarios)」に備えるよう指示した。

おそらく、このレトリックはただの暴言なのかもしれない。しかし、残忍なゼロコロナ封鎖、新疆の強制収容所、香港の自由の粉砕など、習近平の行動の多くは、本質的な冷酷さを示すものだ。中国が経験している他の変化と組み合わせると、これらの形態の内部侵略は、今後待ち構えているかもしれない、外部侵略について私たちを非常に緊張させるはずだ。

もちろん、国家が何も考えずに戦争か平和を選択するということはない。彼らはまた、世界のより大きな国家からヒントを得る。1930年代、連鎖的に起こる国際的な混乱は、既存の秩序を守る人々の士気をくじき、それを攻撃しようとする人々を勇気づけた。それでは、ヨーロッパにおける第二次世界大戦以来最大の戦争と、中東での拡大する紛争によって、中断された現在の混乱は、中国の選択をどのように形作る可能性があるのだろうか?

一つの見方は、ロシアのウクライナ戦争が、どれほど手厳しく裏目に出るかを示し、他の侵略戦争の可能性を低くするというものだ。バイデン政権高官たちや学識経験者の一部が支持するこの話では、中国はプーティン大統領の不正な土地強奪から厳粛な教訓を学んでいるということになる。中国政府は、献身的な防衛者に対する征服がいかに難しいか、独裁的な軍隊が戦闘でいかに劣悪なパフォーマンスを発揮するか、米諜報機関が略奪計画の探知にどれほど熟達しているか、そして民主世界が自由に基づいた秩序の規範に反抗する国をいかに厳しく罰することができるかを学んでいる。中国軍はロシア軍を弱体化させた腐敗の有無を厳しく調べており、その腐敗が思ったよりもずっと深刻であることが判明した。アメリカ政府当局者たちは、中国が最近の出来事を同様の観点から解釈していることを期待しているに違いない。

しかし、私たちはこの解釈を注意深く精査する必要がある。まず、中国がウクライナ戦争についてどう考えているかを知るのは非常に難しい。結局のところ、重要な教訓は、中国人民解放軍の上級大佐や北京のシンクタンク研究員によって発表されたものではない。重要な教訓は、世界に対する認識が個人崇拝政権のあらゆる通常の病理によって彩られている可能性がある、甘やかされた独裁者によって描かれている。習近平の公の発言からすると、今回の紛争が習近平の野心を和らげたり、中国の国家政治を根本的に穏健にしたりする証拠はほとんどない。習近平は、2023年3月にモスクワを訪問した際、プーティン大統領に対し、「現在、私たちがこの100年にしたことのないような変化が起きており、私たちはその変化を共に推進している」と語った。

加えて、習近平は、ウクライナと台湾を比較できるものとは考えていない可能性がある。プーティンが派遣したロシア軍がウクライナで苦戦したのは、ウクライナ戦争が、彼らが準備され、教化されてきた(indoctrinated)戦争ではなかったからでもある。中国は何十年にもわたって台湾をめぐる戦争の準備をしており、統一(unification)が「中華民族の偉大な復興(great rejuvenation of the Chinese nation)」の中心であると兵士たちに厳しく教えていることを考えると、台湾への侵攻は問題ではないだろう。さらに、社会全体で抵抗する能力において、台湾はウクライナより劣ると習近平が考えているとしても、それは彼だけのことではない。アメリカ政府の高官や専門家たちも同様の懸念を表明している。

あるいは、もしかしたら習近平は、アメリカは核武装した大国とはいかなる戦争もしないと結論づけているのかもしれない。なぜなら、アメリカがモスクワと正面から対峙しない理由をバイデンが説明する際に、同じことを言ったからである。おそらくバイデンは、西側諸国の制裁は実際にはそれほど懲罰的ではないと考えているのだろう。戦争が始まって2年が経ち、ロシアはウクライナ領土の20%を支配し、石油やその他の輸出品は新たな市場を開拓し、工場は兵器を大量生産しており、経済は崩壊の危機に瀕していない。そして、おそらくバイデンは、ロシアがウクライナの反撃を切り抜ける一方で、アメリカの政治家たちがキエフに更なる資金と武器を送るかどうかで争っている最近の戦争の軌跡を、独裁国家は民主的な敵よりも強さと回復力を発揮できるという証拠だと考えているのだろう。

明確にしておきたい。習近平が実際に何を考えているのかは分からない。しかし、中国の戦争への動機を強める可能性のある、あまり安心できない別の教訓ではなく、まさにアメリカ人が彼に学ばせたい教訓を彼が学んでいると考えるのは危険である。

中国は最終的に、2025年、2027年、2029年、あるいはこれからも、台湾、あるいはインド、日本、フィリピン、あるいは他の国を攻撃するかもしれない。北京がいつ武力を行使するか、あるいは行使するかどうかを確実に予測することはできない。しかし、戦争になりやすい国なのか、なりにくい国なのか、中国の内的特徴や外的条件によって、暴発するリスクが高いのか、低いのかを評価することはできる。今日、歴史家や政治学者たちが戦争の原因について知っていることの多くは、中国が暴力を振るう素地があることを示唆している。

残念なことに、ワシントンは北京をこの危険な道へと突き進ませているいくつかの要因に影響を与えることはできない。アメリカは中国の人口危機を解決することも、構造的な経済問題を解決することも、習近平のワンマン支配を止めることもできない。例えば、北京の高度技術へのアクセスを緩和したり、インド太平洋でより強力な連合を構築する努力を放棄したりすることで、中国の将来に対する否定的な期待を変えることはできるかもしれないが、そうすることはワシントンの立場を致命的に弱めるかもしれない。アメリカは、競争に勝ち抜くと同時に、深刻な衝突を避けなければならない。その中で、アジアでの戦争がどのような結果をもたらすかについての、中国の楽観論を抑え、北京が屈辱的な敗北を避けるために戦わなければならないと結論付けるのを防ぐことを目指すべきである。

戦争の結果についての中国の楽観論を否定するための要件は、たとえ簡単に満たされるものではないとしても、非常に単純である。その中には、対艦ミサイル、機雷、移動式防空システム、その他の安価だが致死的な能力を持つ武器が満載の台湾も含まれる。無人機、潜水艦、ステルス航空機、そして膨大な量の長距離攻撃能力を使用して、西太平洋に決定的な火力をもたらすことができるアメリカ軍もそうした要因の1つとなる。そして、アメリカ軍に地域内のより多くの基地へのアクセスを許可し、更に多くの国を中国政府との戦いに参加させる恐れのある同盟諸国やパートナーとの協定。中国経済を制裁で打撃し、海洋貿易を阻止できる世界規模の国々の連合。そして経済的、財政的優位性が最終的に決定的であることが判明するまで、民主政体諸国が戦いを継続できる、活性化された産業基盤といったものもある。ワシントンとその友人たちは、既にこれらのあらゆる取り組みを推進している。しかし、彼らは、急速に成熟する中国の軍事的脅威を上回るために必要なスピード、リソース、緊急性を持ってはいない。

2つ目の課題には、抑止力(deterrence)と安心感(reassurance)を組み合わせることが含まれる。これは、習近平の目から見ると、不作為が中国を解体(dismemberment)と屈辱(humiliation)に導く可能性がある程度を制限することだ。中国政府高官たちは、アメリカの政策と台湾の政治が台湾を独立やその他の形での永続的な分離(permanent separation)への道に導いていることを心から懸念しているが、その傾向の主な原因が自国の行動にあることを認識していない。したがって、アメリカは台湾に関して慎重に対処しなければならない。

アメリカ政府は、2022年8月のナンシー・ペロシ連邦下院議長(当時)の台湾訪問のような、台湾の防衛強化には何の役にも立たず、中国の不安と怒りを大いに煽る派手な見せ物は避けるべきだ。アメリカは、とりわけマイク・ポンペオ前米国務長官が提案した「一つの中国」政策(“One China” policy)を捨てて台湾を正式に承認する(formally recognizing Taiwan)という考えを拒否すべきだ。台湾の指導者たちによる独立推進の宣言や行動については反対すべきだ。言い換えるならば、アメリカは台湾を防衛するための信頼できる能力を行使すると同時に、米中どちらの側も一方的に現状を変更すること(unilaterally changing the status quo)を阻止することを目指すという信頼できる誓約を提示しなければならない。

このアプローチには多くの矛盾があるので、その実施は非常に困難だ。アメリカとの同盟関係の強化は、中国の軍事的楽観主義(military optimism)を低下させる可能性があるが、同時に戦争の予感(sense of foreboding)を強める可能性がある。抑止力を強化するために必要な緊急性は、特に中国政策が米大統領選挙戦に巻き込まれる中で、両岸外交(cross-strait diplomacy)に必要な慎重さと一致させるのは難しいかもしれない。強力だが問題を抱えた中国は悪い方向へ進んでいる。戦争への突入を防ぐには、アメリカとその友好諸国が結集できるあらゆる力と節度(strength and sobriety)が必要となる。

※マイケル・バックリー:タフツ大学政治学准教授、アメリカン・エンタープライズ研究所非常勤上級研究員。

※ハル・ブランズ:ジョンズ・ホプキンズ大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院(SAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念世界問題担当優等教授、アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。ツイッターアカウント:@HalBrands

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)が刊行されました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 外交政策について語る際に、よく引き合いに出されるのが、「ミュンヘンの教訓(lessons of Munich)」だ。これは、1938年に、イギリスのネヴィル・チェンバレン首相、フランスのエドゥアール・ダラディエ首相、ドイツのアドルフ・ヒトラー総統、イタリアのベニート・ムッソリーニ総統が会談を持ち、ドイツの東方への拡大要求を受けて、チェコスロヴァキアのズデーデン地方をドイツに割譲するという合意を行った。チェコスロヴァキアの意向は全く無視された。チェンバレンは戦争を避けた英雄としてイギリスで歓迎されたが、結果としては、ドイツはポーランドに侵攻することで、平和は破綻し、英仏はドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦となった。「独裁者の言うことを真に受けて、譲歩することで宥めようとしても失敗する」という「宥和(appeasement)」の失敗、として、ミュンヘン会談は「ミュンヘンの教訓」と呼ばれている。

 「宥和」という言葉は外交政策分野では評判が悪い。それは、「独裁者に譲歩しても、つけあがらせるだけで、何の得もない」のだから、「独裁者とは交渉しない、叩き潰すのみだ」ということになるからだ。しかし、下の記事にあるように、「宥和」は有効な外交手段になり得る。「ミュンヘンの教訓」で、後任首相のウィンストン・チャーチルに比べて評判の悪いチェンバレンの意図や計画を考えると、ミュンヘン会談での譲歩は間違っていなかったという評価になる(結果は良くなかったかもしれないが)。

 そして、「宥和の過小評価」は、アメリカ式の「独裁者とは交渉取引などしない、叩き潰すのみ」という介入主義的外交政策を正当化する際に使われる。しかし、アメリカは、自分たちに大きな被害が出そうだと考える相手とは事を構えない。自分たちの被害がほとんど出ないだろうと考える相手には威丈高に対応する。しかし、それが失敗に終わることがある。アフガニスタンやイラクに関しては失敗だった。そして、ウクライナ戦争に関しても、計算間違い、認識間違い、誤解を山ほどしてしまい、現状のようになっている。

 「独裁者が攻撃的だ(他国を侵略する)」ということも、詳しく調べてみれば、ほとんど当てはまらない。ヒトラー(ヨーロッパや北アフリカ)やムッソリーニ(エチオピア)といった少数の例を過度に単純化して、一般化してしまうのは危険なことだ。そして、「だから、宥和してはいけない、交渉取引をしてはいけない」となるのは、外交政策を制限してしまい、結局、武力による排除しかなくなる。それでは、アメリカがロシアや北朝鮮を攻撃するだろうか。彼らにはそこまでのチキンゲームをやる度胸があるだろうか。核兵器を積んだミサイルがアメリカ領内に飛んでくる危険性が少しでもある場合、アメリカは攻撃できない。

 交渉取引をして、独裁者とも共存すると書けば、非常に悪いことのように思われるが、それが外交であり、国際関係であり、リアリズムということになる。そして、リアリズムを貫くためには、単純な一般化ではなく、歴史をはじめとする知識を積み重ねての判断が必要となる。

(貼り付けはじめ)

宥和は過小評価されているAppeasement Is Underrated

-ネヴィル・チェンバレンのナチスとの取引を引き合いに出して外交を否定するのは、故意に歴史を無視している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年4月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/29/appeasement-is-underrated/

私は検閲には反対だが、政治家や評論家たちがネヴィル・チェンバレンやいわゆる「ミュンヘンの教訓(lessons of Munich)」を引き合いに出して、自分たちの提言を擁護するのを止めれば、ここアメリカでの外交政策論争は劇的に改善するだろう。この歴史的エピソードが、今日アメリカが何かをすべき理由を説明していると言われるたびに、私はいらない商品を売りつけられたのではないかと疑いたくなる。

私が何について話しているか、読者の皆さんはお分かりだろうと思う。今から約86年前、当時のイギリス首相ネヴィル・チェンバレンがミュンヘンでナチス・ドイツの代表と会談したのは、ドイツにスデーテンラント(当時のチェコスロヴァキアの一部で、ドイツ系民族の割合が多い)を獲得させれば、アドルフ・ヒトラーの修正主義的野心が満たされ、「我々の時代の平和(peace for our time)」が保証されると考えたからだと思われる。

しかし実際にはそうならなかった。ヒトラーはチェコスロヴァキアの残りを占領し、1939年9月にはポーランドに侵攻した。その結果、第二次世界大戦が勃発し、数百万人が悲惨な死を遂げた。それ以来、政治家や評論家たちは、ミュンヘンでヒトラーを阻止できなかったことを、おそらく世界史上最も教訓的なエピソード、二度と繰り返してはならない国家運営の誤りとして扱ってきた。

これらの人々にとって、いわゆる教訓とは、独裁者は不変の攻撃性を持っており、決して彼らを宥めようとしてはならないということである。それどころか、彼らの目的には断固として抵抗しなければならず、現状を変えようとするいかなる試みも断固として阻止し、必要であれば完膚なきまでに打ち負かさなければならない。ハリー・トルーマン元米大統領は、朝鮮戦争へのアメリカの参戦を正当化するためにミュンヘンを持ち出し、アンソニー・イーデン英首相(当時)は1956年のスエズ危機の際にエジプト攻撃を決断した。ミュンヘンの教訓は今日でも大いに流行している。今年2月、大西洋評議会のフレデリック・ケンペ会長は、ウクライナに関する議論に「宥和の悪臭(stench of appeasement)」が漂っていると書いた。そしてつい先週、米連邦下院外交委員会のマイケル・マコール委員長は、ウクライナに対する最新の支援策の採決を控えた同僚たちに次のように促した。「皆さん、自分に次のように問いかけて欲しい。私はチェンバレンか、それともウィンストン・チャーチルか?」

はっきりさせておきたい。もし私が米連邦議員だったら(これは確かに恐ろしい考えであるが)、私は、窮地に陥っているウクライナ人にさらなる援助を提供することを支持するだろう。しかし、それは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が、ナチス・ドイツと同じようにヨーロッパ全土で戦争を仕掛けることに熱中している、もう一人のヒトラーであると私が考えているからではない。1938年にミュンヘンで起こったことは、今日私たちが直面している問題とはほとんど無関係であり、それを持ち出すことは、情報を与えるというよりも誤解を招く可能性が高い。これはバンパーステッカーに書いてある「シリアス・アナリシス(Serious Analysis)」のようなことだ。

第一に、ミュンヘンの教訓を引き合いに出す人は、1938年に実際に何が起こったのかをほとんど理解していない。その後の神話とは対照的に、チェンバレンはヒトラーについて世間知らずではなかったし、ナチス・ドイツがもたらす危険性にも気づいていない訳ではなかった。とりわけ、チェンバレンは1930年代後半のイギリスの再軍備の取り組みを支持した。しかし、彼はイギリスが戦争の準備ができているとは考えておらず、ミュンヘンでの合意は英国の再軍備を進めるための時間稼ぎの方法であると考えていた。ミュンヘンで合意された内容が、ヒトラーを満足させ、ヨーロッパの平和を確保することを望んでいたが、それがうまくいかなかった場合、最終的に戦争が起こったときにイギリス(とフランス)はより有利な立場で戦うことになるだろう、とチェンバレンは考えていた。

チェンバレンの考えは正しかった。1940年の春までに、イギリスとフランスはドイツよりも多くの兵力を準備しており、低地地方の戦いでの彼らの急速かつ予想外の敗北は、戦車、兵員、戦闘機の不足のせいではなく、戦略と諜報の失敗によるものだった。

更に言えば、1938年により強硬な姿勢を取ったとしても、ヒトラーの戦争開始を阻止できなかったであろう。ヒトラー自身も、ミュンヘンでの成果に深く失望していたことが分かっている。ヒトラーは、開戦理由(casus belli)を手に入れることを望んでいたが、チェコスロヴァキアを軍事的に粉砕するという、彼が熱望していた機会は、チェンバレンの外交によって否定された。ヒトラーが攻撃を命令していれば、侵略に反対したドイツ軍将校たちは、彼を追放できたかもしれないが、たとえ試みられたとしてもそのような陰謀が成功するという保証はない。不愉快な真実は、ヒトラーは遅かれ早かれ戦端を開こうと考えていて、1938年の結果が異なっていても、第二次世界大戦は防げなかったであろうということだ。

第二に、ミュンヘンの教訓への永続的な執着は、1つの個別の出来事に重きを置きすぎており、大国間で生じた妥協や合意を本質的に無関係なものとして扱っている。歴史を利用するこれほど愚かな方法を想像するのは困難だ。このことはつまり、あるエピソードを普遍的に有効なものとして扱い、別の物語を伝える出来事を注意深く無視することである。中華料理店でたまたまおいしくない食事を食べたとしても、全ての中華料理店はまずいと結論付け、二度と中華料理店などでは食事をしないと決意するのは愚かなことだと分かるだろう。しかし、指導者や評論家たちは、あたかもミュンヘンの教訓だけが歴史から得られるものであるかのように、ミュンヘンでの出来事をこのように利用している。

より具体的に言えば、ミュンヘンの教訓について、繰り返し激しく議論することは、大国がライヴァル国と相互に利益をもたらす協定を結ぶことで、戦争をせずに自らの安全を確保した、全ての機会を都合よく切り捨てることになる。私たちは、適応の成功例を見逃しがちだ。なぜなら、結果が目立ったものでなくても、人生は続いていき、私たちの注意を引く大きな戦争が起こらないからだ。しかし、この種の「非出来事(nonevents)」は、国家が意見の相違を解決できずに戦争に突入したというより、劇的な状況と同じくらい有益である可能性がある。

宥和の成功例を探している? 中立宣言(declaration of neutrality)と引き換えにソ連軍を同国から撤去させた、1955年のオーストリア国家条約はどうだろうか? あるいは、軍備競争を安定させ、核戦争の可能性を低くするのに役立った、アメリカとソ連の間で交渉された、各種の軍備管理条約(arms control treaties)について考えてみよう。ジョン・F・ケネディ米大統領は、ソ連の最高指導者ニキータ・フルシチョフがキューバに設置しようとしていた核搭載ミサイルについて、フルシチョフがそれらを撤去する代わりに、トルコに配備していたジュピター・ミサイルを撤去することに同意することで、ソ連の最高指導者ニキータ・フルシチョフを宥めた。リチャード・ニクソン米大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官(当時)は、中国の最高指導者の毛沢東が、冷酷な独裁者であり、数百万の人々の氏に責任があったにもかかわらず、毛沢東率いる中国との「一つの中国」政策(“One China” policy)に合意した際に、同様のことを行った。これは冷戦におけるアメリカの立場を改善する動きだった。何百万もの人々の死の原因となった。

そして、歴史家のポール・ケネディがかなり前に主張したように、大英帝国がこれほど長く存できた理由の1つは、潜在的な挑戦者に対して限定的な譲歩をする、つまり、彼らを宥めようとする指導者たちの意欲があったことで、それによって、直面する敵の数が減ったからだ。帝国の領土を複数の敵から同時に防衛しようとする負担を軽減した。1938年に焦点を当てるのを止めて、より広範囲に目を向けると、時代を超越していると思われるミュンヘンの教訓は、はるかに説得力がなくなるように思われる。

第三に、ミュンヘンの教訓が独裁者への対処法を教えてくれているという主張には、注目すべき矛盾が含まれている。第二次世界大戦の犠牲とホロコーストの恐怖を考えると、当然のことながら、私たちはヒトラーを歴史上最も邪悪な人物の1人と見なすようになった。良いニューズは、ヒトラーほど堕落して、無謀な指導者は珍しいということだ。もしそうだとすれば、そして、ヒトラーの誇大妄想(megalomania)、人種差別(racism)、リスクを冒す自殺願望(suicidal willingness)の組み合わせが、ヨーロッパにおける第二次世界大戦の主な原因であるとすれば、ミュンヘン会談は広範囲に影響を与える非常に代表的な出来事としてではなく、次のように見られるべきである。この非常に珍しい出来事は、大国間のほとんどの相互作用についてはほとんど何も語っていない。私たちは独裁者全てをヒトラーであるかのように扱うのではなく、彼のような指導者が稀であることに感謝し、今日私たちが直面している指導者に賢明に対処することに焦点を当てるべきだ。

全ての独裁者が同様に野心的で、攻撃的で、リスクを受け入れ、危険であると考える理由はほとんどない。確かに、フランスのナポレオン・ボナパルト、イタリアのベニート・ムッソリーニ、そして大日本帝国の軍事指導者たちなど、世界舞台(world stage)で大問題を起こした独裁者も数人いるが、他の著名な独裁者は、民主政治体制の指導者たちほど、武力行使をする傾向はなかった。

ミュンヘンの想定される教訓は、何が国家をそのように行動させるのかについての単純化した見方にも基づいている。この政策を発動する人々は、独裁者たちは常に他国と戦争を始める機会を狙っており、独裁者たちを阻む唯一のものは他国(特にアメリカ)が独裁者たちに立ち向かう意欲だけであると想定している。しかし、ほとんどの指導者にとって、軍事力で現状維持(status quo)に挑戦するという決定は、脅威、能力、機会、流れ、国内の支持、軍事的選択肢などのより複雑な評価から生じており、指導者たちの計算では、他国がそれに反対する可能性はその計算の一項目にすぎない。

ミュンヘンの明白な教訓は、独裁者を決して宥めるべきではないということだが、バイデン政権は、2021年後半にプーティンを宥める努力をせず、代わりに様々な抑止力の脅しを行い、プーティンは本格的なウクライナ侵攻を強行した。同様に、アメリカは、1941年に日本を宥めなかった。日本への圧力を徐々に強め続け、日本からの要求を再検討することを拒否した。ミュンヘンの教訓は忠実に守られましたが、その結果は真珠湾攻撃となった。

ミュンヘンの教訓への執着はコストがかからない訳ではない。アメリカが嫌う全ての独裁者をヒトラーの生まれ変わりであるかのように扱うことは、アメリカの利益を促進し、戦争のリスクを軽減する可能性のある、堅実な妥協を追求することをより困難にする。例えば、イラン・イスラム共和国をナチス・ドイツのシーア派版とみなすことは、イランの核開発計画を後退させた協定を弱体化させ、最終的には破壊することに貢献し、イランは今日、核兵器保有に大きく近づいている。そのアプローチはアメリカや中東地域の同盟諸国の安全を高めたのだろうか?

同様に、プーティンをヒトラーの生まれ変わりだと考え、イギリスのチャーチル首相(チェンバレンの後任)のように行動すべきだと主張することは、ウクライナの更なる破壊を避け、アメリカが他の優先事項に集中できるような外交的解決策を得ることを難しくする。ミュンヘン会談のアナロジー(類推、analogy)は、外交的なギブ・アンド・テイクのいかなる形も侵略への誘いのように思わせることで、アメリカ政府の高官たちが持つ選択肢を、要求を出すか、脅しをかけるか、武器を送るか、自ら戦闘に参加するかに限定している。しかし、このように手段の選択肢を限定する理由は何だろうか?

宥和は常に良い考えであるだろうか? もちろんそうではない。指導者たちは、力の均衡(バランス・オブ・パウア)が相手に有利に大きく変わるような譲歩をすることには特に注意すべきである。相手に有利になるような譲歩をすれば、相手は将来的に譲歩を要求しやすい立場に立つことになるからである。この種のいわゆる宥和は、他に選択肢がない限り避けるべきだ。実際、1950年に次のように指摘したのはチャーチルだった。チャーチルは次のように述べた。「宥和それ自体は、状況によって、良い考えとも、悪い考えともなり得る。弱さと恐怖からの宥和(appeasement from weakness and fear)は、同様に無駄であり致命的だ。力からの宥和(appeasement from strength)は寛大かつ高貴であり、世界平和への最も確実かつ唯一の道かもしれない。」

アメリカの多大な強みと有利な立地を考慮すると、アメリカの外交政策当局者たちは一般に「寛大で高貴な(magnanimous and noble)」道を模索し、慎重に検討された交渉と相互調整のプロセスを通じて、価値観や興味が自分のものと相反する敵対者との相違を解決しようとするべきである。

外交政策コミュニティが「ミュンヘンの教訓」に対する特有の執着を捨てれば、このアプローチはずっと容易になるだろう。早ければ早いほど良いと私は言っておきたい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生の書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。


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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 今回は、トランプ政権で高官を務めた人物による「保守派の諸原則とは」という内容の論稿をご紹介する。

アメリカの保守派は、保守的な外交政策を支える諸原則として、自由の優位性(primacy of liberty)、国家主権(national sovereignty)、軍事力(military power)、そして国際情勢の本質的な競争性に対する現実的な認識(realistic appreciation for the inherently competitive nature of the international landscape)を重視している。これらの原則は、政策選択に影響を与え、アメリカの外交政策に修正を促すことができる。保守派は、自由、主権、競争、力の4つの原則を基盤とするリアリズム戦略を採用しており、これによってアメリカの力を維持し、国家の利益を守ることを目指している。共和党内には、大まかに言えば、介入主義的なネオコン派とリアリズム派がいる。ドナルド・トランプ大統領のアイソレイショニズム(Isolationism、アメリカ国内問題解決優先主義)はリアリズムの系統になるだろう。「外国で起きている問題は、外国が解決すべきで、アメリカにはアメリカ国内の問題がたくさん存在するのでそれらを解決することだ」という考えになる。外国にわざわざ出かけて、戦争を仕掛けて、既存の政権を倒して、新しい政権を樹立するなどということをしなくてよいという考えだ。「体制転換(regime change)を外交政策の柱にしたことで、アメリカは酷い目に遭った(アフガニスタンとイラクで)」ということになる。

保守派は、アメリカの外交政策において、地域のアクターたちと協力し、安定圏の拡大や国際秩序の維持に努めるべきだと考えている。同盟諸国やパートナー諸国との協力、地域のバランスの維持、そして地域の主体の積極的な参加が重要であると強調している。アメリカの保守派は、アメリカの利益と価値観を守るために、地域に特化した政策を展開し、同盟諸国との協力関係を重視している。

 こうしたリアリズム的な原則であれば、同盟諸国とアメリカとの関係もうまくいく。しかし、実際には、介入主義的な、ネオコン派や人道的介入主義派が実権を握っている状況が続き、アメリカの外交政策はうまく行っていないのが現状だ。現在のバイデン政権も結局は、「ヒラリークリントン政権」と言わざるを得ず、外交政策はうまく行っていない。それが、アメリカの衰退を促進させている。
(貼り付けはじめ)
21世紀のための保守的なアメリカの国家統治術(Conservative U.S. Statecraft for the 21st Century)

-共和党内には多種多様な人たちがいてそれぞれに政策面で不同意のところもあるだろうが、共和党の持つ原理原則は、分断されつつある世界を、アメリカが主導していくのに役立つだろう。

ナディア・シャドロウ
2022年11月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/07/us-republicans-conservative-foreign-policy-principles/

アメリカの保守派は喜ぶべきだ。彼らは、現在の政策課題に適用すれば、アメリカが困難で複雑な国際状況を乗り切ることを可能にする、一連の信念と前提を保持している。保守的な外交政策を支える諸原則、自由の優位性(primacy of liberty)、国家主権(national sovereignty)、軍事力(military power)、そして国際情勢の本質的な競争性に対する現実的な認識(realistic appreciation for the inherently competitive nature of the international landscape)は、各種の政策選択に影響を及ぼす。

分裂し、競合する政治システムによって緊張を深める世界に直面した時、アメリカの保守派はアメリカの外交政策に必要な修正を促し、アメリカを将来に向けて強い立場に置くことができる。全ての政策選択が上記の原則から完璧に導き出されるわけではないが、政策立案者たちは困難な選択をするための指針として、これらの原則を用いるべきだ。世界を現実的に見ることは、政策立案者たちが歯の浮くような美辞麗句と厳しい現実のギャップを縮めるのに役立つ。これらの間のギャップこそが重要な問題なのだ。思考が現実から切り離されると、冷笑が生まれ、成果を上げる可能性が低くなり、民主政治体制への信頼が低下する。アメリカの保守派は、246年もの歴史を持つ、アメリカで実施されてきた実験に根本的な信頼を寄せているが、その理想主義は、アメリカは常に不完全であるという現実的な理解によって抑えられている。完璧主義(perfectionism)は夢想家(dreamers)や暴君(tyrants)たちが担当すべき仕事だ。

当然のことだが、保守派全員が一致した考えを持つことはない。歴史家のラッセル・カークが述べたように「お手本・モデルになる保守主義者(model conservative)」は存在しないが、「市民的社会秩序を見る(looking at the civil social order)」という点では、明らかに保守的なやり方がある。これは外交政策の領域にも及んでおり、保守主義の諸原則は、挑戦と機会を評価し、自由へと進む選択をするための枠組みを提供する。

保守的な外交政策には4つの原則がある。

第一に、自由への信念が保守的な外交政策の中核にある。それは、権力が持つ、人々の生活に介入する本性に対して必要な懐疑を提供し、無制限で説明責任を果たさない政府を是正するものだからだ。従って、国内においては、保守派は地域レヴェルから始まる解決策を好む。国際政治においては、国際規模の解決策や超国家的な解決策とは対照的に、国家的・地域的な解決策に偏ることになる。これは補完性の原則(principle of subsidiarity)ということになる。この原則は、小さな組織でできることを大きな組織で行うべきではないというものだ。自由の重要な側面は経済的自由である。アメリカの保守派は、経済的自由を拡大する方向に進まなかった国は繁栄しなかったことを知っている。

第二に、国家主権の尊重は、自由を維持し、安定した国際秩序を維持するための中心的な役割を果たす。第二次世界大戦後、自由主義的な国際秩序の基盤を形成した主要な制度は全て、国家主権が侵害できないものであり、平和と繁栄に不可欠なものであることを認めている。国際連合の設立憲章には、国家の主権平等(sovereign equality)が書かれている。アメリカの保守派は、個々の国家が依然として主体性(agency)と秩序(order)を提供する最良の方法であると信じている。国家主権のない民主政治体制(democracy without national sovereignty)は存在不可能である。

第三に、国際情勢は競争的であり、今後もそうであろうという理解は、保守的なリアリストたちにとって基本的な前提となる。2017年のアメリカの国家安全保障戦略が指摘したように、「歴史における中心的な連続性は力の争いである(central continuity in history is the contest for power)」ということになる。多くの外交政策の専門家たち、特にリベラルな国際主義者たち(liberal internationalists)は、この前提に反発している。歴史家のドナルド・ケーガンは「現代世界の多くの人々にとって、パワーという言葉には不快な響きがある(To many in the modern world, the word power has an unpleasant ring,)」と書いている。しかし現実には、各種の政治的、もしくは経済的なシステムは依然として競争しており、各国が国民生活をどのように秩序づけるかについても見解が分かれている。

第四に、強力なアメリカ軍は、これらの競合するシステムに打ち勝ち、アメリカの利益を守り、力を誇示するために必要である。それは、アメリカが戦争を好んでしたいからではなく、平和を維持するために強力な軍隊が必要だからである。軍事力はまた、他の形の影響力や国家統治(statecraft)に必要な基盤にもなる。

これら4つの原則(自由、主権、競争、力)は、保守的なリアリズム戦略の土台となっている。このような戦略の全体的な目標は、アメリカ国民が自国の経済的・政治的利益を守り、不安定と支配を求める人々を牽制し、平和を維持できるように、アメリカの力を維持することである。

現在、世界は政治的、経済的、軍事的、技術的に分断されつつある(fragmenting)。アメリカの保守派がこうした変化の力に対処するのに有利なのは、彼らの前提や原則が、世界が実際に機能する方法によりよく合致しているからである。保守派は、世界的な政治的収束(global political convergence)が避けられない、もしくは、可能であるなどとは考えていない。いわゆる「一極集中の瞬間(Unipolar Moment)」の陶酔の中で、アメリカの指導者たちは自由主義的民主政治体制の勝利に酔いしれ、そもそもアメリカを成功に導いた原則の多くを放棄した。これらの原則はアメリカの保守的伝統の一部であり、戦略的考え方の基礎である。

もちろん、戦略は自国から始まるものであり、アメリカ国民の安全と幸福が優先されなければならない。しかし、これはアメリカの保守派が、「アメリカ要塞主義的な考え方(Fortress America)」を採用すべきだという意味ではない。ロシアのウクライナ侵攻、エネルギー価格の高騰、広範なサプライチェインの混乱が示すように、アメリカは世界と関わりを持たなければならない。なぜなら、アメリカ国民が地政学的な出来事や世界中で起きているその他の事柄から個人的に影響を受けるという単純な理由があるからだ。

中国のような権威主義国家(authoritarian state)は、アメリカの利益を損わせようとして積極的に活動している。アメリカはもはやかつてのような圧倒的な力を享受していないが、その強みは依然として大きい。この力を賢く使えば、アメリカの利益に有利な形で地政学的展開に影響を与えることができる。

保守的な国家安全保障戦略とは、外交、経済、軍事、技術の4つの面での国家戦略に沿って政策内容を構築するために、今までに概説した諸原則を具体化したものである。

(1)保守的な外交統治術は、世界中の政治的協調(political alignments)を促進するために行われるべきだ。これは軍事力を使って主導することや、アメリカの価値観を押し付けることを意味しない。つまり、その地域のアクターたちと協力することであり、そのアクターたちがこのような協調の基盤を作るのである。アメリカの友人や同盟諸国が多ければ多いほどよい。これは安定圏(sphere of stability)の拡大に貢献し、ライヴァルたちが利用できる資源や選択肢を減少させ、アメリカのパワーを維持するのに役立つ国際秩序を維持することになる。

保守的なアイソレイショニストたち(isolationists)の中には、アメリカの海外関与を、民主政体を促進する永遠の戦争(forever wars)と反射的に同一視する人たちもいる。この考え方は、アメリカの既定の立場は自国の価値観を他国に押し付けることであり、世界中の何百万もの人々が、より良い生活を望んでいるという事実を無視している。

アメリカの戦略的利益を損なわない限り、アメリカが自由と繁栄(freedom and prosperity)を求める人々に支援を提供しない理由はない。自由を求める草の根運動への支援(support for grassroots movements)は、文化侵略(cultural aggression)でも軍国主義(militarism)でもない。同時に、アメリカの戦略的利益のために、アメリカ人が望むほど自由を支持しない政権との一時的な協力が必要となる場合も多くなるだろう。

主権は、特にグローバルな多国間機関による侵害から守る価値がある。アメリカの保守派が健全な懐疑を持って国際機関に臨むのは当然である。多くの国際機関は、移民問題から気候変動問題、新型コロナウイルスに至るまで、重要な地球規模の問題に対処してきた実績は明らかにまちまちである。アメリカは、共通の課題に対処するために、志を同じくする国々と行動を共にすべきだが、選挙で選ばれた政府が適切な権限を持つべきものを、説明責任のない組織(unaccountable organizations)に委ねるべきでない。

アメリカとその同盟諸国やパートナー諸国に有利な地域における力の均衡(balance of power)は、アメリカの利益と価値観に有利な国際的なバランスを維持するための構成要素である。脱グローバリズム(deglobalization)の新時代においては、グローバルで画一的な政策ではなく、地域に特化した政策がアメリカの成功に不可欠である。

インド太平洋、欧州、中東における地域のバランスを維持するためには、同盟諸国やパートナー諸国との協力、そして彼らの積極的な参加が必要である。ロナルド・レーガン大統領以来、どの大統領も一貫して同盟諸国に更なる努力を求めてきた。アメリカの保守派は、同盟諸国やパートナー諸国が自国の防衛に資源を割く必要があることを明確にし、現地の主体も投資する場合にのみ軍事力の展開を提唱すべきである。台湾、日本、ドイツなどの同盟諸国は、自国の防衛への関与を高める必要がある。重要なのは、地域のアクターたちの決意だ。

アメリカの保守派は多国籍組織の恩恵を受けずに、問題をより迅速に解決する連合の構築に集中できる。とりわけ、二酸化炭素排出など多くの問題の解決は地方や地域レヴェルで始めなければならないからだ。

(2)保守的な経済国家戦略・経済安全保障(economic statecraft)は、アメリカの優位性を拡大し、敵対国に力を与えることを避け、志を同じくする国々に繁栄の圏を築くべきである。アメリカが技術革新(innovation)の最前線での地位を維持するには、国内の自由市場システムを維持するだけでなく、アメリカの優位性を高めるための国際経済政策を構築する必要がある。

重要なことは、アメリカ政府が国家安全保障にとって重要な分野における強力で革新的な国内製造基盤を確保する必要がある。アメリカ企業が過去30年間に行ってきたように、効率を最大化するための執拗なオフショアリング(offshoring)は、今日のアメリカが半導体などの主要な製造部門で企業と労働力を欠いていることを意味する。これを是正するには、アメリカの理工系学生の数を拡大し、技能を持つ移民を促進し、研究開発に適切なリソースを提供するという取り組みが必要だ。アメリカ政府はまた、敵対者がアメリカの技術革新の恩恵を受けることを阻止すべきだ。アメリカのテクノロジー企業は、人工知能やその他の機能を開発するために中国の研究センターを支援すべきではない。

アメリカの保守派は、友好国間だけでなく、敵国との間でも、貿易協定における真の互恵性(genuine reciprocity)を主張すべきだ。修正主義勢力は自由世界の経済へのアクセスを厳しく規制されるべきだ。制裁対象の中国企業と中国政府の軍事・諜報機関に関係する企業は西側の株式市場や債券市場から締め出されるべきだ。アメリカの投資家たちは、たとえ第三国の市場を通じてであっても、自国の敵対者に資金を提供すべきではない。また、中国などのライヴァル国への危険な依存を避けるためにサプライチェインを再構築すべきであるということについては、政治的立場を超えたコンセンサスがある。多様化(diversification)により回復力(resilience)が向上する。全世界が台湾に集中しているマイクロチップ工場に依存すべきではない。

アメリカの保守派の中には、効率性を損なうだけでなく利益団体によるレントシーキング(ただ乗り)にもつながる産業政策(industrial policy)への一線越えに警告を発する人たちもいる。こうした議論は今に始まったことではない。1980年代、レーガン政権はアメリカの半導体産業を日本との競争から守るために介入した。レーガンが市場と国家安全保障のバランスを取る必要性を認識したのは正しかった。

理想的なのは、権力を集中させることなく、触媒(catalyzed)となって有利な条件を設定する連邦政府である。バランスを取るのは難しいが、産業政策に対する保守的なアプローチは、以下の原則に導かれるかもしれない。

第一に、国内で競争力のある効率的な市場を可能にする必要がある。アメリカは、インフラ、新しい鉱山、産業施設をより迅速に推進できるように規制を削減する必要がある。複雑なプロジェクトを開始して完了するには、10年以上かかる場合がある。

第二に、政府機関は主要セクター、特に半導体のような複雑なセクターについて、より良いデータと情報を必要としている。最近では、アメリカ政府よりも優れた経済データを持つヘッジファンドが存在する。

第三に、アメリカの保守派は国家レヴェルのアプローチを重視すべきだ。連邦政府は戦略的に重点を置くことができるが、新しい施設が建設され、インセンティヴが与えられるのは州および地方レヴェルだ。第四に、経済効率よりも国家安全保障への配慮が優先されなければならない。アメリカの政策立案者たちは、たとえ関税や国内調達規制、その他の市場介入が必要な場合でも、軍事的および経済的安全保障にとって重要な分野を特定し、国内能力を維持または構築する必要がある。競争の場は平等ではない。

海外では、アメリカは国際市場へのアメリカ人​​の参加の自由を拡大する政策を追求すべきだ。この目的を達成するために、アメリカの保守派はアメリカとその同盟諸国およびパートナー諸国を含む繁栄圏(sphere of prosperity)の成長を促進する必要がある。

冷戦後、アメリカの政策立案者たちは、世界貿易機関(World Trade Organization、WTO)に代表されるようなグローバルな経済開放を推し進めた。中国やロシアのような修正主義的大国(revisionist powers)の台頭により、このアプローチは、産業化が進んだ民主政体諸国(industrial democracies)を中心とした自由主義諸国間の経済的関与のための排他的な領域を発展させることに道を譲らなければならなくなった。それ以外の国々は、加盟資格を満たす価値観や制度を採用するよう奨励されるだろう。

保守的なアプローチは、より現実的な気候政策を策定する機会も提供するが、その現在のヴァージョンは、繁栄を危険に晒し、国内外のエネルギー危機を引き起こし、ひいては経済をより弱体化させることになる。アメリカは国内の気候変動に関する課題を発展途上国に押し付けるべきではない。保守的なリアリストたちは、ナイジェリアのエミ・オシンバジョ副大統領からヒントを得るべきである。オシンバジョ副大統領は、エネルギー転換は「多次元(multidimensional)」であり、「様々な経済の異なる現実を考慮(into account the different realities of various economies)」する必要があると説明した。アメリカの保守派は、地方や地域のアプローチに基づいて、現実的な時間枠で炭素排出量を削減することができ、経済の繁栄と成長と一致させる、気候変動課題を推進する有利な立場にある。

(3)保守的な軍事国家運営は、強力な軍隊を支持するという長く健全な伝統に基づいている。そのためには、予測可能な国防予算と、地域の力の均衡を維持するために必要な活動や能力が必要となる。これには、紛争を抑止するのに十分な規模と能力を備えた海外前方プレゼンス(forward presence abroad)を維持することも含まれる。これらの広範な目標は、軍事力が第一の手段であることを意味するのではなく、軍事力は平和を維持し、アメリカの影響力と国家統治の他の形態を支えるために必要な基盤であるという理解を示すものだ。

インフレ率が急上昇する中、予測可能な防衛予算は特に重要だ。2023年の約4%の増加はインフレ率を下回っており、実質的には大幅な予算削減となる。これは言い換えれば、準備の低下と装備調達の余地の減少を意味するが、これは政権が2回連続の予算サイクルにわたって無視してきたことである。

アメリカの保守派の一部、およびリベラル派は、国内政策への支出と国防への支出はトレードオフの関係にあると主張する。これは論点のすり替え(strawman)だ。世界におけるアメリカの役割の縮小と、例えば学校、医療、インフラの改善との間には何の相関関係(correlation)もない。国内制度の弱点は、一般的にお金の問題ではない。アメリカの保守派は、こうした問題の原因が、政策選択の誤り、規制の停滞、技術革新を阻害しリスクテイクにペナルティを課す官僚機構にあることを知っている。アメリカは外部からの脅威を抑止し、国民の生活の質を向上させることができる。

保守的な政策立案者たちは、必要なときには批判者となり、毎年国防授権法に忍び込む多くの無関係な項目ではなく、実際の防衛ニーズに焦点を当てるよう国防省に圧力をかけるべきだ。ホワイトハウスの気候変動に関する優先事項は、再生可能エネルギーで活動するためのユートピア的な計画を軍に開発させることを含め、軍の優先事項から遠ざかり、装備品の調達や訓練のようなミッション重視なプログラムにおいてトレードオフを余儀なくされる。軍の役割は、気候変動と戦うことではなく、敵を抑止し打ち負かすことである。

アメリカの保守派はまた、非政治的で、党派的な文化戦争(partisan culture wars)から切り離され、国家とアメリカ合衆国憲法に奉仕したい男女の採用に重点を置いて活動する軍隊を支持しなければならない。

自由企業に重点を置く保守派は、軍に必要な技術革新を提供する任務を負った防衛企業と国防総省の絶え間なく硬化した関係に関しても結果を要求しなければならない。

地域の均衡を維持しようとするアメリカの戦略の中心的な要素は、アメリカ軍の前方展開である(forward deployment of the U.S. military)。有能な前方展開部隊は、必要であれば迅速に行動し、信頼できる抑止力(credible deterrence)を維持する能力をアメリカに提供する。いったんアメリカ軍が撤退した戦域に再び進駐することは、はるかに困難であり、場合によっては不可能である。重要な戦闘力を移動させるための兵站には数カ月を要し、世界中のアメリカ軍が直面している反アクセス・領域拒否(anti-access/area denial)の課題は、いったん危機が進行すると戦域に再突入することがますます難しくなることを意味する。

保守派の間で最も激しい議論のいくつかは、アメリカの海外プレゼンスに関するものである。ある陣営は、アイソレイショニスト、あるいはより流行の言葉では自制派(restrainers)と呼ばれ、縮小を求める。このグループの代表は、アメリカ軍の前方プレゼンスは、「地の果てまで(to the ends of the earth)」進歩的な価値観を押し付けようとする、アメリカの「企み(contriving)」を象徴していると主張してきた。彼らの論理的根拠は、アメリカは世界で拡張しすぎており、アメリカの海外プレゼンスは、「文化的傲慢(cultural arrogance)」の一形態であるというものだ。

このような国際関係の見方には深い欠陥がある。世界各地で起きている出来事は、単にアメリカに対する反応ではない。グローバルに拡大し、アメリカに取って代わろうとする中国の決意は、ワシントンに対する反応ではなく、北京自身の戦略的目標の追求である。イランの地域的な願望は、そのアヤトラが目指す救世主的な目的から直接生じている。ロシアは、ウクライナのような主権国家の存在を否定する新帝国主義プロジェクトを進めている。これは架空のアメリカの過剰な拡張に対する反応ではなく、ロシアとその帝国エリートに対する特殊な自己概念に起因する。

更に言えば、前方展開への反対は、そのような展開の基本的な軍事的目的、すなわち紛争を抑止することを軽視している。抑止は戦争を防ぐための主要な手段であり、「ジャスト・イン・タイム(just in time)」の軍事力では抑止は不可能である。

(4)保守的なテクノロジー国家戦略は、テクノロジーが21世紀の戦略的競争の鍵を握っているという認識に基づいている。テクノロジーは将来の社会、経済、軍事を形成する。米国は、人工知能、量子コンピューター、半導体、バイオテクノロジー、自律システム、新エネルギー技術(核融合など)、宇宙という重要な領域など、中国との競争に不可欠な分野で競争上の優位性を保持しなければならない。

アメリカの保守派は規制緩和を推進し、許認可を合理化し、科学技術教育を改善し、技能を持つ移民を促進し、研究への投資を増やす必要がある。これにより、自由市場と無制限の起業家精神という、アメリカの最大の競争上の優位性が解き放たれることになる。出発点は、これらの分野の改革と進歩を妨げているものを特定し、ゼロから始めることを避けることです。

技術的優位性を維持または獲得するには、革新的で将来を見据えた生態系(エコシステム)だけでなく、ルールを守らないライヴァルによる侵害からアメリカ企業を防御する防御策も必要となる。これには、半導体業界だけでなく、全ての米国企業や研究機関が中国軍の武装を支援する団体と取引することを禁止する取り組みも含まれる。最近のある報告書では、人民解放軍に人工知能技術を供給している中国企業273社のうち、米商務省の取引制限リスト(entity list、エンティティリスト)に載っているのはわずか8%であることが明らかになった。同様に重要なことは、アメリカの保守派はその影響力を利用してアメリカのテクノロジー企業と関わり、中国への継続的な投資のリスクを評価すべきである。

保守的な思想は、変化に対する懐疑や秩序への偏見が連想されがちだ。もしそうだとしたら、保守派は困ってしまうだろう。彼らは世界の変化を主体的に形作るのではなく、その変化に反応するだろう。しかし、変化への抵抗は保守主義に対する誤解である。イギリス啓蒙時代の偉大な保守思想家エドモンド・バークは、「保全(conservation)と是正(correction)の2つの原則(two principles of conservation and correction)」のバランスを取ることの重要性を重んじた。バークの考えでは、「何らかの変化の手段を持たない国家は、その保全の手段を持たない」ということになる。

経済的な秩序から政治的な領域まで、世界秩序が分断されていることは、前途がますます不透明になっていることを意味する。アメリカの保守派は、アメリカ国民が自国の象徴である最高のものを維持し、アメリカの核心的な国益を増進する可能性が最も高い方法で出来事を形作るのを助けることができる政策を開発する能力を持っている。

30年以上前、サミュエル・ハンティントンは、「衰退主義(declinism)は、信じなければ無効になる理論である」と書いた。言い換えるならば、アメリカは真剣に問題に向き合う必要がある。保守派は世界の仕組みを理解し、アメリカ建国の原則に根本的な信頼を寄せているため、そうするのに適した立場にある。それは、私たちが直面する乱気流を乗り切るための良い立場なのである。

※ナディア・シャドロウ:ハドソン研究所上級研究員、トランプ政権下で国家安全保障問題担当大統領次席補佐官を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。

 アメリカの外交政策思想には大きく2つの流れがある。それがリアリズム(Realism)と介入主義(Interventionism)だ。アメリカの二大政党である民主党、共和党にそれぞれ、リアリズムを信奉するグループが存在する。介入主義は、民主党では、人道的介入主義(Humanitarian Interventionism)を信奉する人道的介入主義派となり、共和党ではネオコンサヴァティヴィズム(Neoconservatism)を信奉するネオコン派となる。ネオコン派は、ジョージ・W・ブッシュ(子)大統領時代に日本でも知られるようになった。
 介入主義とは、外国に積極的に介入して、外国の体制を全く別のものに転換しようというものだ。ネオコン派の考えは、「アメリカの価値観である、自由主義や人権、民主政治体制(デモクラシー)、資本主義を世界に広めて、世界中の国々を民主体制の自由主義的資本主義国ばかりにすれば、世界は平和になる」というものだ。そのために、アメリカは自身の卓越した力を利用しなければならないし、これに反対する勢力は打ち破るということになる。民主党の人道的介入主義派は、「世界の非民主的な国々では、マイノリティの女性や少数民族、政敵少数者たちが迫害され、命の危険に晒されている。そうした人々を助けるために、アメリカは人道的に外国に介入しなければならない」というものだ。結果として、ネオコン派と同じく、非民主的な国の体制転換(regime change)がなされねばならないということになる。

 リアリズムは、アメリカの力には限界があり、アメリカの力で世界の全ての国を民主体制の国家にすることはできない。ある国の問題はそこの国の国民の解決すべき問題である(災害などの人道支援は行うのは当然だが)。そして、アメリカの重大な国益が侵害されそうな場合を除いて、外国に対して積極的に介入すべきではない、ということになる。下の論文でスティーヴン・M・ウォルトが「抑制(restraint)」と書いているのはまさにこれである。これらのことについては最初の著作『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)に詳しく書いているので是非お読みいただきたい。

 アメリカはこれまで介入主義的な外交政策を実施し、その多くが失敗してきた。結果として、「アメリカ国内問題解決を優先していこう」という公約を掲げた、ドナルド・トランプが大統領に当選した。こうした考えを「アイソレイショニズム(Isolationism)」という。アメリカは超大国であることに疲れ、超大国であり続けるための国力を失っている。そのために、これからは「抑制的」、つまり、リアリズム外交に転換していくことになる。そして、次の世界覇権国は中国である。中国は、覇権交代の歴史を研究し、覇権国は永続的な存在ではなく、いつか、ボロボロになってその座から滑り落ちていくということを分かっているだろう。しかし、中国が覇権国にならねば世界は治まらないということになる。そうした時代の転換点に差し掛かっている。

(貼り付けはじめ)

抑制的なアメリカ外交政策に転換するのに遅すぎることはない(It’s Not Too Late for Restrained U.S. Foreign Policy)

-アメリカのグローバル・リーダーシップの復活を求める声が大きくなっている。しかし、それはこれまでと同様に、大きな間違いである。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年3月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/14/united-states-realism-restraint-great-power-strategy/

冷戦期間中、アメリカがより控えめな、あるいは抑制的な外交政策を採用するように求める提案は、外交政策エスタブリッシュメント内部で大きな支持を集めることはなかった。確かに、ハンス・モーゲンソー、ジョージ・ケナン、ケネス・ウォルツ、ウォルター・リップマンなどの著名なリアリストたち(Realists)は、アメリカの外交政策における最悪の行き過ぎを厳しく批判していた。連邦政府を縮小しようとしてきたリバータリアンたちもまた、アメリカの海外関与を減少させようとしたが、ソヴィエト共産主義を打ち負かしたいという超党派の願望から、そうした提案は外交政策の外交政策に関する言説の片隅にとどまった。抑制(restraint)や縮小(retrenchment)を求める声は、その後の「一極集中の時代(unipolar moment)」においても同様に歓迎されなかった。アメリカのエリートたちは、歴史の潮流が自分たちの方に流れていると信じ、アメリカの比類ないパワーの慈悲深い腕の下で、全世界を平和で豊かな自由主義秩序(peaceful and prosperous liberal order)に導こうとしたのである。

しかし、この傲慢さが増大した時期がもたらした失敗が積み重なるにつれ、より現実的で賢明な外交政策を求める声が無視できないほどに大きくなった。2014年にマサチューセッツ工科大学(MIT)教授バリー・ポーゼンが『抑制:アメリカの大戦略にとっての新たな基盤(Restraint: A New Foundation for U.S. Grand Strategy)』を出版した。この著作は、他の学者(私自身を含む)による関連著作とともに、重要なマイルストーンとなった。2016年のドナルド・トランプの当選も現実的な外交政策を求める声の高まりに貢献した。トランプの大統領としての行動は、抑制派の提言とはかけ離れたものであったが、アメリカの外交政策を形成する中心的な正統派の多くに対する彼の修辞的な攻撃と、外交政策エスタブリッシュメントに対する明らかな軽蔑は、これらの問題についてよりオープンな議論を行うための空間を作り出した。2019年に「クインシー国家戦略研究所」が創設され、クインシー研究所、「ディフェンス・プライオリティズ」、スティムソンセンターのアメリカ大戦略研究プログラム、カーネギー財団のアメリカ政治研究プログラムでの関連イニシアティヴも、抑制を目指す動きが勢いを増していることを示す追加的な兆候であった。(完全情報公開:私はクインシー研究所の設立以来、非常勤研究員を務めており、昨年から理事会のメンバーに加わった)。

抑制を目指す動きが軌道に乗りつつあることを示す兆候の1つに、アメリカのグローバル・リーダーシップに対する拡大的な考え方や、ほころびつつある自由主義秩序を守りたいという願望に固執する批判者たちからの攻撃があった。こうした攻撃は通常、抑制派が提言していることを誤って伝え、しばしば彼らを「アイソレイショニスト(isolationists)」と誤って描いていた。こうした批評の中には自分たちの立場を有利にしようと誘導的なものもあった。それは、抑制派が提唱する考え方が大きな支持を集め、やがてはアメリカの対外アプローチに大きな変化をもたらすのではないかと、主流派が懸念し始めていることを示唆していた。

それは昔のことで、今は今である。イラク戦争やアフガニスタン戦争の後で、抑制という考え方は否定できない魅力を持っていたが、現在では大国間の対立が最重要課題となっている。中国のパワーは経済的苦境にもかかわらずなお拡大を続けており、アジアの現状を変えたいという欲望は衰えていない。ロシアはウクライナに侵攻し、現在ウクライナを支配している。中国、ロシア、イラン、北朝鮮、その他数カ国による協力体制が強化され、ヨーロッパの防衛力再構築に向けた取り組みは、多くの人が期待していたよりもゆっくりと進んでいる。ガザでは残忍な殺戮が進行中であり、戦争が拡大するリスクは依然として受け入れがたいほどに高い。スーダン、リビア、エチオピア、その他のアフリカ諸国では、内戦とジハード運動が人々の生活を破壊し続けている。1990年代の傲慢さは消え去ったかもしれないが、大国間の紛争は考えられないという信念も同時に消え去った。

これらの状況全てを踏まえても、リアリズムと抑制に基づく外交政策には意味があるのだろうか? アメリカ人は今こそ、深く掘り下げ、再びグローバル・リーダーシップの外套を手に取り、「地政学的ハードランディング」を回避するために奔走すべき時なのだろうか? 抑制の時期は過ぎ去ったのか?

その答えは「ノー」だ。

まずは抑制を目指す動きが何を望んでいるのかを明確にすることから始めよう。何よりも抑制派は、アメリカの極めて重要な利益が関与しない、不必要な「選択の戦争(wars of choice)」を戦うことに反対している。彼らは平和主義者でもアイソレイショニストでもない。彼らは強力な国防を信じている。そして彼らは、状況によってはアメリカが海外で武力行使を厭うことがないようにすべきだと認識している。抑制派は、アメリカは世界から撤退する代わりに、他国で貿易や投資を行うべきであり、他国にも同様の行動を奨励し、排外主義(xenophobia)に駆られて壁を築くのではなく移民を管理された形で受け入れるべきだと考えている。実際、抑制派はアメリカが今よりも積極的かつ効果的に外国に関与すべきであり、外交を第一に考え、武力行使をワシントンの最初の衝動(first impulse)ではなく最後の手段(last resort)とするべきだと考えている。それは何故か? なぜなら、抑制派は軍事力の限界を理解しているからだ。軍事力は場合によっては必要かもしれないが、それは常に多くの予期せぬ結果を生み出す粗雑な手段である。また、重要な利益が関与せず、成功を定義するのが難しい場合、戦争に対する国民の支持を維持することは困難である。特に抑制派は、体制転換(regime change)や軍事占領(military occupation)を行って、自由主義的な価値観を広めようとすることに反対している。なぜなら、そのような取り組みは通常、代償として、深刻な事態の泥沼化(quagmires)や破綻国家(failed states)の出現を招くのが通常からである。

現実的に考えると、抑制派のほとんどは、アメリカは中東から軍事的に手を引き、その地域の全ての国々と通常の関係を持つべきだと考えている。彼らは、NATOの同盟諸国が自国の防衛により大きな責任を負うよう、ワシントンが奨励すべきだと考えている。しかし、共和党のJ・D・ヴァンス連邦上院議員のようなトランプ大統領気取りとは異なり、抑制派の多くは、外交的解決に向けた献身的かつ柔軟な努力と組み合わせたウクライナへの援助継続を支持している。中国に対する最善の対応策については、抑制派にも賛否両論があり、より強力な封じ込め(containment)の努力を支持する者もいれば、緊張を緩和し、互恵的な妥協点を追求する必要性を強調する者もいる。しかし、アメリカは依然として海外に過剰に関与しており、根本的な政治問題を解決できない軍事的解決策に過度に依存しがちであるという点ではこれらの人々の意見は一致している。

この見解は、10年以上前と同様に、今日でも当てはまる。思い出してみて欲しい。アメリカが現在取り組んでいる問題の多くは、以前の抑制派の警告に耳を傾けていれば、完全に回避できたかもしれないものばかりだ。アメリカが開放的なNATO拡大を強く推し進め、ウクライナを西側の軌道に乗せ、最終的にはNATOに加盟させなければ、ロシアによる2014年のクリミア併合と2022年2月の不法侵攻はおそらく起こらなかっただろう。実際、バイデン政権がロシアの攻撃に先立つ数カ月間にもっと柔軟性を示していれば、2022年春にトルコとイスラエルの調停努力(mediation efforts)をもっと支持していれば、あるいはその秋にウクライナが優勢だった時期に停戦を推進していれば、ロシアとウクライナはまったく戦争をしていなかったかもしれないし、ウクライナがこれほどの損害を被る前に戦争は終結していたかもしれない。もちろん、確かなことを知ることは不可能だが、アメリカ政府関係者たちは、ウクライナが現在負けている戦争を回避するためにできたかもしれないことを全てやった訳ではないことは明らかだ。

中東での出来事も同様の教訓を与えてくれる。ドナルド・トランプ政権もジョー・バイデン政権も、イスラエルとアラブ近隣諸国との関係を正常化しようとすることに重点を置きながら、右傾化するイスラエル政府から圧力を受けつつあったパレスチナを完全に無視した。抑制派が警告したように、この近視眼的なアプローチは暴発の引き金となり、2023年10月7日の悲劇的な結果を招いたのは間違いない。

ガザにおけるイスラエルの猛攻撃によって、3万人以上のパレスチナ人が殺害され、ガザにある建物の50%から60%を破壊または損害を与え、イスラエルの世界的イメージを(アメリカとともに)大きく損なわせる結果となった。イスラエルは大規模な軍事的優位性を持ち、それを全面的に行使しているが、力だけでは、パレスチナとの対立を継続させている政治的な相違を解決することはできない。ハマスが軍事行動で壊滅することはないだろうし、イスラエルのユダヤ人とパレスチナのアラブ人の正当な願望を受け入れ、両者が安全な生活を送れるようにするにはどうすればいいのかという根本的な問題は、解決されないままである。同じことが、紅海の海運に対するフーシ派による攻撃を、爆弾を落としたりミサイルを撃ったりして止めようとするアメリカの努力にも言える。ガザ地区での停戦を実毛するために影響力を行使するということよりもまずは爆弾を落とすということを英米は選択した。これらの例は、複雑な政治問題は何かを爆破すれば解決できると考える反射的な傾向を示している。このような傾向に対して、抑制派は長年にわたり反対してきている。

抑制派はまた、アメリカのパワーは相当に大きいものデルが、無尽蔵ではないことも認識している。大国間競争(great-power competition)の時代には、明確な優先順位を設定し、主目的が互いに矛盾しないようにすることがこれまで以上に重要である。今日、アメリカはウクライナでロシアを打ち負かすウクライナを支援し、人的被害が出ているが、ハマス一掃を目指すイスラエルの努力を支援し、世界トップクラスの半導体技術やその他のデジタル技術を開発しようとする中国の努力を永久に無力化しようとしている。これは抑制されたアジェンダとは言い難く、その矛盾は自明であると同時に自滅的である。ユーラシアの二大国(中国とロシア)を互いに翻弄する代わりに、私たちは数十年かけて彼らに協力する理由を与えてきた。ロシアを孤立させ、グローバル・サウス(Global South)における中国の影響力を制限する代わりに、イスラエルのガザでの作戦を支援したことで、「ルールに基づく秩序(rule-based order)」の偽善が浮き彫りになり、中国に安っぽいプロパガンダの勝利をもたらした。ジョー・バイデン米大統領が包括的共同行動計画に再参加しなかったことは、イランに核開発を再開させ、さまざまな地域の代理人への支援を強化させ、更にはウクライナにおけるロシアの取り組みを積極的に軍事支援させたという点で、誤ったアジェンダに含まれることになるだろう。

最後に、抑制の擁護者たちは、過剰な軍事的関与と「永遠の戦争(forever wars)」がアメリカ本国を衰弱させる効果を持つことについて長い間警告してきた。過度に野心的な外交政策への支持を維持するため、アメリカの指導者たちは、志願兵だけで構成される軍隊に頼るようになり、それによって有権者の大半をその決定の結果から隔離するようになった。アメリカ陸軍士官学校附属現代戦争研究所によれば、その理由の1つは、アメリカ人が「一世代の軍人が、際限のない戦争に何度も何度も派兵されるのを目の当たりにしたから」だという。アメリカの歴代大統領たちは、増税の代わりに借金をしたり、脅威を膨らませたり、アメリカ国民に何をしているのか一部隠したりすることで、こうした活動のコストを隠してきた。しかし、こうした秘密の活動の一部がやがて明らかになると、公的機関への信頼はさらに損なわれている。建国の父たちが理解していたように、常に戦争状態にある共和国は、その共和国としての性格を危険に晒すことになる。今日のアメリカの民主政治体制が脆弱な状態にあるのは、非現実的でうまくいっていない外交政策が一因であり、それを是正しようと抑制派は努力している。

いかなる外交政策ドクトリンも完璧ではない。抑制という考え方も例外ではなく、その擁護者たちは、新たな情報の出現や新たな出来事の発生に応じて、自らの立場を見直す姿勢を持ち続けるべきである。しかし、今のところ、抑制を支持する意見は、特にワシントン中枢でいまだに支配的な代替案と比較すれば、大いに説得力を持っている。そして、現在の状況をもたらした政策をさらに推進することは、まったく意味をなさないし、効果もないのである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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