古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

タグ:ロシア

 古村治彦です。

 イラン戦争は開始から2カ月近くが経過しており、現在は停戦状態になっている。ホルム海峡封鎖をめぐり、アメリカとイラン両国は緊張関係にあるが、2回目の和平交渉に向けて、仲介国のパキスタンが動いている。その裏では中国もまたイランとの交渉を行っている。戦争はイランに有利な状況になっており、イランはそう簡単にアメリカに対して譲歩をすることはなく、かなり有利な条件での交渉を求めていると考えられる。それに対して、中国はあまり欲をかくと大きな失敗をするとイランを説得していると考えられる。
bricsmap201
BRICS加盟諸国の地図

 イランに対して、BRICSは積極的な支援をしていないように見える。また、国際的な問題に関して、足並みを揃えて行動していないように見える。しかし、それは当然のことだ。BRICSはもともとゴールドマンサックスが「21世紀において経済成長著しい国々」の総称として発表した言葉であって、それらの国々が自発的に集まったものではない。2009年になって初めて5カ国の首脳会談が開催された。その歴史はまだまだ浅い。これから枠組みを作っていく段階である。しかし、2010年代から、BRICSを中心とする西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)の経済成長や台頭が続き、世界の構造は大きく変わっている。G7よりもG20の枠組みが重要性を増しているのもその証拠である。

 BRICSは軍事同盟や集団安全保障の枠組みではない。それぞれの国家体制も違う。宗教や価値観も異なる。それでも協力できるところから協力し、問題が起きれば話し合いで解決を目指すという、ASEAN(東南アジア諸国連合)スタイルの枠組みである。一種の緩さこそが枠組みの柔軟性と多様性を担保している。これが、アメリカ主導、西側主導になれば、「非民主的な国家は入れない」「近代的、啓蒙主義的価値観を共有しない国家は入れない」という「排除の論理」が先に立つ。西側諸国では「多様性(diversity)」「平等(equity)」「包摂性(inclusiveness)」という「DEI」が尊重されるが、国際関係においてそれらは全く尊重されない。本音と建前の使い分け、西洋支配の継続性のみが重視される。

 建前だけの排除の論理がまかり通る国際秩序はこれから大きく変化していくだろう。西洋支配は終焉に進んでいくだろう。そうした中で柔軟性のある、包摂性の高い国際的な枠組みがこれから拡大していくだろう。BRICSはその中心となっていく。

(貼り付けはじめ)

BRICSはイラン問題で意見が分かれている。NATOG7も同様だ(BRICS Is Divided on Iran. So Are NATO and the G-7.

BRICSは地政学的な同盟ではなくそうであるべきでもない。

オリバー・シュトゥンケル筆

2026年3月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/18/iran-war-brics-nato-g7-economics-security/
写真

2025年7月6日にリオデジャネイロで開催されたBRICS首脳会議に出席したイランのアッバース・アラグチ外相とエジプトのモスタファ・マドブーリー首相

2月28日にアメリカとイスラエルがイランへの攻撃を開始して以来、多くのアナリストがBRICSは幻想に過ぎないと断言している。

イランは2024年に新規加盟国としてBRICSに加わった。しかし、BRICSは紛争に対する統一的な対応を示すことができていない。ブラジルや中国など一部の加盟国はアメリカとイスラエルの攻撃を非難したが、インドは非難していない。南アフリカは態度を保留している。こうしたBRICS批判者にとって、これらの意見の相違は、『ウォールストリート・ジャーナル』紙コラムニストであるサダナンド・ドゥームが先週主張したように、BRICSは一貫性を欠き、「全く無力(utterly ineffectual)」であるというおなじみの結論を裏付けるものとなっている。

しかし、この主張は誤った前提に基づいている。BRICSは安全保障に関する共通の立場を持つ正式な同盟のように振る舞うべきだという前提に立っている。実際には、BRICSは地政学的なブロックではないし、これまでもそうであったことはない。

BRICSは発足当初から、地政学的な優先事項が大きく異なる国々を結集させてきた。ブラジル、ロシア、インド、中国の首脳が初めて会合を開いたのは2009年で、その1年後に南アフリカが加わった。当時でさえ、加盟国は統一された世界観を共有していなかった。ロシア、そして程度は低いものの中国は、特に2014年のロシアによるクリミア侵攻以降、G7や西側諸国への対抗勢力としてBRICSを利用しようと長年努めてきた。一方、ブラジル、インド、南アフリカは、多国間連携戦略を追求してきた。

BRICSは発足当初から西側諸国の観察者から批判にさらされてきた。2011年、『フィナンシャル・タイムズ』紙のフィリップ・スティーヴンスは「モルタルなきBRICSに別れを告げる時が来た(“time to bid farewell” to the “Brics without mortar”)」と宣言した。ジャーナリストのマーティン・ウルフは2012年のインタヴューで、BRICSは「グループではない(not a group)」とし、加盟国には「共通点が全くない(nothing in common whatsoever)」と断言した。他の評論家もBRICSを「ばらばらの四人組(disparate quartet)」「奇妙なグループ(odd grouping)」「寄せ集め(motley crew)」「無作為な集団(random bunch)」と表現し、「やや滑稽な(faintly ridiculous)」構想に基づいていると評している。

中国とロシアが賛成し、ブラジル、インド、南アフリカが反対した近年のBRICS拡大は、こうした矛盾をより顕著にした。2024年にエジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦が加盟したことで、このグループはさらに多様化し、分裂が激しくなった。イランのドローンがアラブ首長国連邦を攻撃する映像―BRICS加盟国同士の攻撃は、多くの新メンバーの加入によってもたらされた地政学的な対立を如実に物語っている。

『フォーリン・ポリシー』誌のC・ラジャ・モハンが指摘するように、BRICSの拡大はグループ内の結束を弱体化させた。グループが拡大する以前は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領やブラジルのジャイル・ボルソナーロ前大統領のように、西側諸国から経済的あるいは外交的に孤立する恐れのある加盟国にとって、BRICS諸国との関係は外交上の救命ボートとして頼りにできるという利点があった。2014年には、BRICS諸国はロシアのG20継続参加を支持した。5年後、アマゾン熱帯雨林の火災をめぐって西側諸国からブラジルへの圧力が高まる中、中国はボルソナーロ大統領の環境政策を称賛した。

BRICSの拡大は、特に国連安全保障理事会の改革問題において、グループ内の意思決定を麻痺させている。ブラジル、インド、南アフリカは長年、常任理事国入りを目指してきた。しかし、たとえ新たなBRICS加盟国が安保理改革を支持したとしても、その具体的な内容についてグループ内で合意は得られていない。エジプトやエチオピアを含むアフリカ諸国は、自国の議席獲得よりも南アフリカの議席獲得を優先しているように見える表現に抵抗している。

昨年開催されたBRICS外相会議では、参加国代表がグループ史上初めて共同声明で合意に至らず、緊張は頂点に達した。

BRICSは、過去にアメリカがイランに対する攻撃をエスカレートさせた際にも同様の優柔不断な態度を示してきた。昨年6月にアメリカがイランを攻撃した際、BRICSは比較的穏やかな声明を発表し、「深刻な懸念(grave concern)」を表明するとともに、攻撃を国際法違反と非難した。しかし、この声明はワシントンに言及しておらず、特にインドなど一部の加盟国がアメリカとのデリケートな関税交渉を行っていた時期に、ドナルド・トランプ米大統領との摩擦を避けることを意図したものとみられる。

イラン情勢の再燃をめぐるBRICSの分裂は、さほど驚くべきことではなく、特に何かを明らかにしているわけでもない。もし重大な軍事危機をめぐる意見の相違が、ある組織が無能であることの証拠だとすれば、西側諸国の多くの同盟も同じ試練に合格することはないだろう。

NATOG7は、イラン戦争をめぐって意見が分かれている。スペインは、NATOの主要加盟国であるアメリカによる攻撃を国際法違反だと非難している。マドリードはまた、アメリカ軍が共同運営基地を攻撃に使用することを拒否し、ワシントンとの公然とした対立を招き、トランプ大統領からは貿易報復の脅迫を受けている。他のヨーロッパ各国政府も介入に消極的だ。ドイツのボリス・ピストリウス国防相は月曜日、「これは私たちの戦争ではない(This is not our war)」と述べた。

アメリカがカナダやデンマーク領グリーンランドの併合または侵攻をちらつかせた際、NATOG7も統一的な対応を示すことができなかった。2003年にアメリカがイラクに侵攻した際、フランスやドイツを含む複数のヨーロッパ諸国は戦争に強く反対した。国連安全保障理事会の改革といったより根本的な問題についても同様である。ドイツは常任理事国入りを目指しているが、イタリアはこれに反対している。しかし、G7が無力であるとか、崩壊寸前であると考える人はほとんどいないだろう。

BRICSについても同様の分析基準が適用されるべきだ。BRICSは、あらゆる地政学的危機に対して統一的な立場を取るために設立された訳ではない。むしろ、その目的は異なる。BRICSは、主要な新興国が選択的に協調(coordinate selectively)し、地政学的不確実性に対するヘッジを行い(hedge against geopolitical uncertainty)、依然として西側諸国が支配する世界において影響力を高めるためのプラットフォームなのである。

例えば、BRICSは2022年のウクライナ侵攻後、西側諸国がロシアを経済的に孤立させるよう求めたにもかかわらずこれに抵抗した。これは、加盟国が、プーティン大統領が国際法に違反したという西側諸国の評価に異議を唱えたからではなく、ますます不安定化する世界において、経済的・地政学的な選択肢を確保しておきたかったからである。こうした現実的な判断は、グローバル・サウス(the global south)に限ったことではない。アメリカは最近、イラン戦争に関連した原油価格の高騰を受け、ロシアに対する石油関連の制裁を緩和した。

BRICSは設立以来、安全保障よりも経済・制度面の問題に重点を置いてきた。特に、国際通貨基金(IMF)と世界銀行の改革、新開発銀行(New Development Bank)を通じた開発金融の道筋の構築、そして米ドルへの依存度低減(reducing dependence on the U.S. dollar)といった点において顕著である。BRICS首脳は今年後半、インドで第18回首脳会議を開催し、デジタルインフラと人工知能(AI)分野における協力について協議する予定だ。

こうした取り組みはしばしば進展が遅いものの、多くの新興国が、自国の影響力の増大をより適切に反映するよう世界秩序を適応させようとする共通の関心を示している。さらに、ブラジルや南アフリカといった国々にとって、BRICSはアジアの意思決定者と直接対話できる貴重な場であり、経済的にますます統合が進むアジア地域において、その存在感は際立っている。

このように、BRICSは同盟(an alliance)というよりも外交的な場(a diplomatic space)、つまり、西側諸国の支配に対する懸念を共有する国々が、単一の戦略的アジェンダに縛られることなく、代替案を模索するためのフォーラム(a forum for countries that share concerns about Western dominance to explore alternatives without committing themselves to a single strategic agenda)として機能していると言えるだろう。イランをめぐる現在の対立は、BRICSの本質を改めて示すものに過ぎない。BRICSとは、利害が一致する部分では協力し、一致しない部分では対立する、緩やかでしばしば混乱した国家連合である。

むしろ、イラン戦争はBRICS諸国の多方面にわたる連携と、より大きな戦略的自律性の追求を改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。一部の評論家がBRICSの解体を提唱しているのとは裏腹に、これまでBRICSから脱退を決めた国は一つもない。実際、BRICSは大きく成長を遂げている。最近では、トランプが主導する平和評議会(the Trump-led Board of Peace)に加盟したものの、その後参加を停止したインドネシアのような新興国も加わっている。

BRICSという枠組みを誤解しているだけでなく、BRICSに対する批判は、世界政治におけるより根本的な変化を見落としている。世界は、同盟関係によって形成される秩序から、場当たり的な連合、課題別協力、そして短期的な利益とニーズに基づくトランプ流の取引的な関係へと移行しつつある。

イラン核戦争の最初の数週間は、この新たな現実を如実に示している。アメリカがロシアへの制裁緩和を決定すると、つい最近ウクライナの領土保全を認める国連決議への支持を拒否したペルシア湾岸諸国は、イランのドローン攻撃から自国領土を守るため、キエフに軍事顧問の派遣を要請した。その後、トランプ大統領は中国に対しホルムズ海峡の防衛支援を要請したが、中国はこれを拒否した。これらの行動は、長年の原則や同盟関係に基づくものではなく、差し迫った戦略的・経済的ニーズに基づくものだった。

BRICSは決して統一されたブロックにはならないだろう。それは主に、加盟国の利益にならないからだ。ブラジルは、アメリカとの交渉においてBRICSという枠組みを利用して交渉力を高めるのと同様に、アメリカとの関係や、最近締結されたヨーロッパ連合とメルコスール間の貿易協定を利用して、中国との交渉における交渉力を強化している。BRICSは、多くの国が、より細分化され、激動する世界に備えている方法の一つに過ぎない。

※オリヴァー・ストゥエンケル:ワシントンDCにあるカーネギー国際平和財団の民主政治体制・紛争・ガヴァナンスプログラムの上級研究員であり、サンパウロにあるジェトゥリオ・ヴァルガス研究所の国際関係学准教授。Xアカウント:@OliverStuenkel

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は2022年2月24日の開戦から丸4年が過ぎようとしている。停戦の兆しは見えていない。戦線は膠着し、打開策は今のところない。アメリカのドナルド・トランプ大統領は自身が二期目の大統領になれば24時間以内に停戦させると豪語したが、1年が経過しても戦争は終わっていない。アメリカとヨーロッパ諸国、日本などの西側諸国はロシアに対して制裁を加え、ウクライナに支援を行っているが、屁のツッパリにもなっていない。ウクライナが本気で停戦に臨まない程度に助けながら、戦争を続けさせている。なんと残酷なことだろう。トランプ大統領はアメリカのウクライナ支援に批判的であったが、政権発足後は支援を続けている。

 こうした中で、ヨーロッパ諸国の中で、アメリカに交渉の仲介を任せていても埒が明かないので、直接自分たちでプーティン大統領と交渉しようという動きが出ている。アメリカは頼りにならないということだ。アメリカに任せていては自分たちもいつまでもお金を出し続けねばならない。それは馬鹿げたことである。

更に言えば、ヨーロッパ諸国はロシアと完全に切れている訳ではないということを以下の論稿で知り、呆れるばかりだ。ヨーロッパの多くの企業はロシアでビジネスを続けており、ロシアからの資源も買っているということだ。それでいて、表ではロシアを非難し、ウクライナを助けるとしているが、決して軍隊を送ったり、強力な武器を送ったりはしていない。表向きの言葉だけは立派で勇ましいが、ヨーロッパ諸国はロシアと完全に切れてしまえば、自分たちの経済にも影響が出ると懸念して、自分たちで抜け穴を作り、ロシアとの関係を継続している。日本企業に対してロシアでのビジネスを行うなという圧力をかけてきて、自分たちはビジネスを続けている。ヨーロッパ諸国の見かけだけは立派だが実際の汚さには呆れ果てるしかない。口だけ勇ましいだけの役立たずである。

 それでも、アメリカ型よりならないと気づくだけでもまだましである。日本はアメリカに従属し尽くしてそのようなことを考えつくことすらできない。そして、アメリカの奴隷を続けて、悦に入って喜んでいる。ヨーロッパはその点では日本よりは優れている。比べる基準が低すぎるのでk褒められてもうれしくないだろうが。

 戦争をここまで長引かせたことを反省し、一日でも早く平和と安定が戻すことはヨーロッパ諸国に課せられた義務であり、世界に対する責務である。アメリカが全く頼りにならない今、ヨーロッパが動くのは当然のことだ。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはウラジーミル・プーティン大統領への依存の準備を進めつつある(Europe Is Getting Ready to Pivot to Putin

-ヨーロッパの指導者たちはアメリカの圧力に直面しロシア大統領への働きかけを検討している。

アンシャル・ヴォ―ラ筆Anchal Vohra

2026年2月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/02/06/europe-russia-putin-trump-pivot-detente/

ヨーロッパの高官たちは『フォーリン・ポリシー』誌に対し、1月にスイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムに出席した際、アメリカ側とウクライナ和平交渉の現状について協議する時間があると考えていたと語った。しかし、実際には、グリーンランドをめぐるNATO加盟国との軍事衝突を回避することに集中せざるを得なかった。

その後、ヨーロッパではプランBの必要性が議論されている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領とイタリアのジョルジア・メローニ首相は共に、ヨーロッパが特に安全保障上不可欠な事項において、アメリカへの依存をゆっくりと、しかし確実に減らそうとする中で、ロシアとの直接交渉を追求している。

エマニュエル・マクロン大統領は2025年12月下旬、ヨーロッパはロシアと「適切に協議するための適切な枠組みを見つける(find the right framework to talk properly)」必要があると述べ、アメリカがロシアとウクライナの和平交渉を主導する中で欧州が後部座席に座っている現状は「理想的ではない(not ideal)」と述べた。

「ウラジーミル・プーティン大統領と話すことはまた有益になるだろう」とマクロンは付け加えた。メローニは、ロシア大統領と話す「時が来た(the time has come)」と考えていると述べた。メローニは、「ヨーロッパが現場の二者のうち一方とだけ話せば、貢献できる範囲が限られてしまうのではないかと懸念している」とも述べた。

主要問題に関するEU加盟27カ国の合意形成を担う欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は、1月27日、フォーリン・ポリシー誌を含む少数の記者団に対し、アメリカ主導の協議を阻害する可能性のある並行プロセスは支持しないものの、ヨーロッパは必要であればロシアと交渉する用意ができていなければならないと述べた。

ヨーロッパの戦略転換は、ドナルド・トランプ米大統領自身によって引き起こされた。トランプ大統領は、ヨーロッパの安全保障に直接関わる和平案を策定する中で、ヨーロッパを交渉の場から排除しただけではない。ロシア・ウクライナ戦争に関するトランプ大統領の28項目の和平提案は、ロシアを世界経済に再統合することを提案し、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によると、西ヨーロッパへのロシアのエネルギー供給の流れを回復することを約束した。

専門家たちはフォーリン・ポリシー誌に対し、トランプ政権の最初の計画は、パリ、ブリュッセル、ベルリンとの事前協議なしに、ロシアがヨーロッパに保有する凍結資産をアメリカとロシアの企業に利益をもたらすプロジェクトに活用することをモスクワに約束していたようだと語った。

ヨーロッパは岐路に立たされている(at a crossroads)。ロシアとの取引をトランプに委ね、結果に確信を持てないままにするか、それとも現実的なアプローチを取り、関係がかつてないほど悪化しているに中ではあるが、プーティン大統領に直接働きかけるかだ。

ウクライナ侵攻とNATO領土への脅威となるドローンの継続的な使用の後、ロシアとの関係回復というアイデアをヨーロッパは快く思わないかもしれないが、いかなる取引においてもこれが避けられない結果となる可能性があることを認識している。そして、彼らは既にその可能性を示唆している。トランプ政権の28項目の計画に対する最初の反応として、ヨーロッパ諸国が支持する提案は、経済関係に関する条項を書き換え、ロシアは「徐々に(progressively)」世界経済に再統合されると述べている。

EUによる制裁で起きる経済的締め付けと、管轄権下にある数十億ドル規模のロシアの凍結資産は、ヨーロッパ諸国にとって重要な交渉材料となる。つまり、EUは独自の合意を締結できる。しかし、ヨーロッパ諸国は、段階的かつ限定的な救済措置、つまりロシアの行動改善に対する段階的な報酬を望んでいる。プーティン大統領との交渉でトランプ大統領が譲歩するような形での譲歩ではない。

貿易専門家たちは、EUが潜在的な合意において有利な条件を模索する一方で、多くのヨーロッパ諸国はロシアとの貿易関係を完全に断絶しておらず、公式発表と実際の経済政策の間に深刻な乖離が生じていると指摘している。

制裁を含む国際貿易法の遵守について企業や個人に助言を行うダルシャク・S・ドラキアは、フォーリン・ポリシー誌に対し、EUのこれまでの戦略は「離脱(exit)」というよりは「ロシアとのビジネス関係の一時停止(“more of a pause” in business relations with Russia)」を反映したものだと述べている。ドラキアは、交渉が加速するにつれ、「アメリカとヨーロッパのビジネス界は、貿易関係の再開に大きな期待を抱いている(there is a lot of hope in the business community in the U.S. and in Europe that trade ties can be resumed)」と付け加えた。

ロシアによるウクライナ侵攻にもかかわらず、数千ものヨーロッパ企業がロシアから撤退しなかった。その理由として、法的障壁、現地での雇用義務、そして利益率を挙げた。ロシアにおける外国企業を追跡するプロジェクト「リーヴ・ロシア(Leave Russia)」によると、2300社以上の外国企業が何らかの形でロシアに残ることを決定した一方、完全に撤退したのはわずか547社だった。EU加盟国の中では、ロシアに残ることを選択した企業、あるいはまだ完全に撤退していない企業の中で、ドイツ企業が最も多く、377社だった。一方、撤退したのはわずか83社だった。フランスはドイツに次いで、完全に撤退した企業はわずか39社だった。一方、147社は何らかの形で事業を継続している。イタリア企業は140社以上が現在もロシア国内で事業を継続しているが、完全に撤退したのはわずか8社だった。

キエフ経済大学の開発副部長であり、「リーヴ・ロシア」プロジェクトの責任者でもあるアンドリー・オノプリエンコは、フォーリン・ポリシー誌に対し、ロシアで依然として事業を展開している多くの企業は「評判や倫理上の懸念よりも経済の継続性を優先し、EUの制裁目標への政治的整合性よりも、契約、株主の利益、法的複雑さといった観点​​から意思決定を行っている」と述べた。

オノプリエンコは続けて、「この傾向は、商業的インセンティヴが、完全な撤退を求める政治的要請を上回り続けていることを示唆している」と述べた。

EUの限界は長らく露呈しており、既存の制裁措置に様々な例外を認め、ロシア企業への対応は遅々として進んでいない。本格的な戦争勃発以降、EUは19の制裁措置を打ち出してきたが、そのたびに対象国を増やし、圧力を強めてきたものの、完全には行き届いていない。

ドラキアは次のように述べた「ヨーロッパはロシアの銀行への制裁から始め、その後、エネルギー輸入への制裁を徐々に強化してきた。これは主に、全てを尽くすこと、そしてロシアをイランや北朝鮮のような完全な禁輸国にしないことが目的だった。政治的には見苦しいが、ロシアを孤立させてのけ者(a pariah state)にするのではなく、何らかの圧力をかけ続けられるよう、統合を維持することが狙いだった」。

しかし、EUが課した財政的圧力は抑止力としては不十分だった。おそらく、ヨーロッパがロシア経済に数十億ドルもの資金を注ぎ込み続けたためだろう。スウェーデンのマリア・マルマー・ステネルガルド外相によると、EUは2022年以降、ロシアに輸入代金として3110億ユーロ(3667億ドル)を支払い、同期間にウクライナに1870億ユーロ(2205億ドル)の援助を行っている。

EUはパイプラインによるガス輸入を大幅に削減したが、液化天然ガス(LNG)輸入は2021年の20%から翌年には15%に減少したものの、2024年には戦前の水準まで回復した。2025年には、EUは依然としてLNG総輸入量の13%をロシアから輸入していた。

EUは依然としてロシアからの肥料輸入に依存している。EU全体の肥料輸入量に占めるロシアの割合は2025年第3四半期に13%に低下したが、ロシアは依然としてEU第2位の供給国だ。また、ロシア製の鋼板は依然として現地子会社を通じてEU内で販売されている。

ウクラインスカ・プラウダ紙の調査によると、ロシアのオリガルヒであるウラジミール・リシンが主権を握るノボリペツク・スティール(NLMKは、複数のヨーロッパ諸国に鋼板を輸出し続けている。ウクラインスカ・プラウダ紙は、ノボリペツク・スティール(NLMK)はロシアの防衛サプライチェインに深く関わっており、ドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルの製造会社を含むロシアの防衛部門の少なくとも22の施設に供給していると報じた。ノボリペツク・スチールとリシンはいずれもEUから制裁を受けていない。

ロシア・リーヴキャンペーンのオノプリエンコは次のように述べた。「ノボリペツク・スティール(NLMK)はEU理事会の制裁基準を満たしていないと判断された可能性がある。大手鉄鋼メーカーはEU諸国に経済的な足跡を残しており、雇用やヨーロッパのサプライチェインへの相互影響なしに単純な制裁を課すことは困難だ」。

ノボリペツク・スティール(NLMK)の関係者は匿名を条件にフォーリン・ポリシー誌の取材に応じ、EUは子会社が操業するベルギーなどの国々で雇用喪失の可能性に対する圧力に晒されていると語った。

さらに、ロシアのエネルギー大手ルクオイルは、これまでのところEUによる全面的な禁輸措置や資産凍結を免れている。前述のドラキアは次のように述べた「アメリカはルクオイルに全面的な制裁を課しているが、EUはルクオイルの子会社1社のみに制裁を課しており、ルクオイル自身には制裁を課していない。多くのヨーロッパ諸国がエネルギー需要をルクオイルに依存しており、EUは構成国や加盟国に過度の圧力をかけたくないのかもしれない」。

ルクオイルとノボリペツク・スティール(NLMK)に関する質問に対し、EU報道官は制裁に関する協議は機密扱いであり、加盟国の裁量に委ねられていると述べた。「制裁は加盟27カ国が全会一致で採択したものであり、EUは公にコメントすることはできない」。

フランスはイギリスと共にいわゆる有志連合(a so-called coalition of the willing)を率いており、将来の和平を監視するためにウクライナに部隊を派遣する意向表明に署名した。しかし一方では、フランスのエネルギー企業EDFの子会社であるフラマトムは、ロシアの国営原子力企業ロスアトム傘下のTVELとの合弁事業を推進し、ドイツで核燃料棒を製造しようとしている。

EU報道官は、「現在、ロスアトムは制裁対象リストに含まれていない」と付け加えたが、EUはロスアトムを含むロシアの原子力関連製品・技術へのアクセスを制限している。EUのカヤ・カラス外相は2025年8月、ヨーロッパ委員会を代表して、ヨーロッパ議会において、「ヨーロッパ委員会は、ロシアからの原子力輸入を段階的に、秩序正しく、かつ安全な方法で廃止することに尽力している」と述べた。

要するに、ヨーロッパ諸国はロシアからの輸入を遮断しようと試みたものの、依然として依存状態が続いている。制裁措置を講じる際には意見が分かれ、代わりに地域経済を優先する特例措置を設けている。多くのヨーロッパ企業はモスクワとのつながりを維持し、関係を再開することを望んでいる。EUとロシアの関係は、ロシアがウクライナに侵攻する前の、より希望に満ちた時代、つまり貿易によってプーティン大統領の強権的な傾向を抑制できるとヨーロッパが信じていた時代に戻ることはないだろう。しかし現状では、ヨーロッパは既に地域の強権国家と繋がりを持っており、経済的な譲歩は近いうちに避けられないものとなるかもしれない。

アンシャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とするフォーリン・ポリシー誌コラムニスト。ヨーロッパ、中東、南アジアについて執筆している。『タイムズ・オブ・ロンドン』紙で中東を担当し、アルジャジーラ・イングリッシュとドイチェ・ヴェレのテレビ特派員も務めた。以前はベイルートとデリーを拠点に、20カ国以上の紛争や政治を報道してきた。Xアカウント:@anchalvohra

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 「勢力圏(sphere of influence)」という考え方がある。これはある国が自分の国がある地域や周辺において、優先的に影響力を行使して支配するという考え方だ。アメリカのモンロー主義は「孤立」を強調されるが、実際には、「アメリカは南アメリカを影響圏として、スペインやイギリスの影響力を排除して支配する。ヨーロッパには関心を持たない」ということであり、南米を支配するための原理原則であった。南米を支配するために棍棒外交も採用して、武力的に介入することもできるという考えでもある。ロシアはソ連時代も含めて、自国の周囲に緩衝地帯(buffer zone)、衛星諸国(satellite states)を作り、本国ロシアを守るという考えを持っている。
spheresofinfluencemap001

 現在の世界は、アメリカの一極支配(unipolar dominance)が崩れつつある。アメリカを中心とする西側諸国(the West、ジ・ウエスト)と中国とBRICSを中核とする西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)に分かれている。アメリカは世界から撤退して、西半球(Western Hemisphere)を勢力圏として押さえるということになる。アメリカと中国の間にある太平洋をどうするかであるが、アメリカはハワイやグアムまで退くということになる。日本や台湾を嫌がらせのようにして、空母のようにして中国の沿岸に張り付ける形になっているが、これもやがて終わっていく。アメリカに日本にアメリカ軍を駐留させるだけの力がなくなり、日本にもそれを支えるだけの経済力がなくなり、日本の軍事力もそれを支える経済力も低下していくことになる。アジアと西太平洋は中国の勢力圏ということになる。ロシアは隣接する各国への影響力を維持するだろうが、それも中国との協力関係を維持しながらということになる。

 勢力圏内であれば、協力は何をしてもよいということにはならない。そんなことをすれば、勢力圏自体が崩壊する。強国を「脅威」と見なす各国が合同して、強国に対峙することになる。さらに、圏外の強国に支援を求めるという動きも出てくるだろう。南アメリカ最大の強国はブラジルであり、ブラジルはBRICSの一角を占めている。アメリカが南アメリカから「西側以外の国々」の影響を排除することはできない。

 アジア地域は共存共栄の勢力圏を目指すべきであり、中国は実際にそのように動くだろう。アメリカと違って馬鹿ではない。ヨーロッパが進出してくる前のアジアの状態に戻るということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

勢力圏とは何か-そして何でないか(What Spheres of Influence Are—and Aren’t

-国際政治において最も誤解されている概念の一つが力によって戻ってきている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年1月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/19/sphere-influence-trump-venezuela-donroe-doctrine/

最近、「勢力圏(spheres of influence)」について多くの議論が交わされているが、これは主にアメリカの最新の「国家安全保障戦略(National Security Strategy)」、ドナルド・トランプ政権によるヴェネズエラでの最近の行動、そしてグリーンランドの占領に向けた新たな試みに対する反応だ。大国は自国の「近隣地域()neighborhoods」において誰にも邪魔されることのない影響力を行使すべきだという考えは、ドナルド・トランプ米大統領の信念とも一致している。彼は、強国の強力な指導者が世界を統治し、国際法や普遍的な道徳原則、その他の理想主義的な考えを気にすることなく、互いに取引を行うべきだと考えている。

残念なことに、勢力圏を支持する人も反対する人も、世界政治におけるその位置づけを十分に理解していない可能性がある。現実の世界では、勢力圏は廃止できる時代遅れの慣行でもなければ、大国間の競争を最小限に抑える効果的な方法でもない。むしろ、勢力圏は国際的な無政府常態(international anarchy)の必然的な結果であると同時に、国際的な無秩序状態が生み出す競争インセンティヴに対する不完全な解決策でもある。

大国勢力圏構想に対する反対意見のほとんどは規範的なものであり、批評家たちはそのような取り決めは本質的に不公平だと主張する。主権国家の世界では、各国は国際法の下で平等な地位を享受している(例えば、国連憲章第2条を参照)。したがって、強国が経済的または軍事的強制力によって弱い隣国に大きな支配力を及ぼすことは、本質的に間違っていることになる。例えば、ウクライナのNATO加盟への傾倒(将来の正式加盟の可能性も含む)をロシアが懸念する理由があるかもしれないと認識している人々でさえ、そのような決定はNATOとキエフの判断に委ねられるべきであり、ロシアの拒否権(veto)に左右されるべきではないと主張する。この見方に立てば、中国がアジア諸国に対しアメリカや台湾から距離を置くよう圧力をかけること、あるいはアメリカが(最近の「国家安全保障戦略」にあるように)「私たちの半球(西半球)外の競争国が西半球に軍事力やその他の脅威となる能力を配置したり、戦略的に重要な資産を所有・管理したりする能力を否定する(deny non-Hemispheric competitors the ability to position forces or other threatening capabilities, or to own or control strategically vital assets, in our Hemisphere)」と宣言することなどは、同様に不当である。こうした批判者たちは、全ての国が自らの判断で自由に連携すべきであり、強力な隣国には、誰と貿易し、誰から投資を受け、誰と軍事協力できるかを指図する権利はないと主張する。

そのような規範に支配された世界に住めたら素晴らしいだろうが、このヴィジョンは到底現実的ではない。勢力圏は国際政治において繰り返し出現する特徴であり、それを完全に排除できる可能性は低い。ホワイトハウス補佐官スティーヴン・ミラーが世界政治のいわゆる「鉄則(iron laws)」について無知な大言壮語をするのを鵜呑みにする必要もなく、強大な国家は自国の領土周辺で何が起きているかに常に敏感であり、自国の安全保障を強化すると信じる方法で周囲の状況を形作るために、自らの持つ力を利用するだろうことを認識すべきである。

勢力圏が生じる理由は3つある。第一に、大国は通常、遠隔地の大国よりも自国の近隣地域に強い関心を持つ。そして自国に近い地域で不利な動向が勢いを増すのを防ぐため、リスクを冒しコストを負担する意思が、遠隔地の大国が同じ動向を支援する意思よりも強い。後述するように、遠方の大国は他の大国に近い地域に重要な利益を有する場合もあるが、その利益は通常小さく、防衛のために多大な資源を犠牲にする意思も通常低くなる。2015年に私が主張したように、これがウクライナを西側の自由主義圏に組み入れようとする試みが危険であった理由の1つだ。ロシアは私たちよりも(ほとんどのウクライナ人よりもという訳ではないが)ウクライナを気にかけており、したがって私たちとは異なる方法でエスカレートする意思があったはずだ。同じ論理で、アメリカが本当に動揺しているときに、ロシア、中国、イランからの支援がラテンアメリカ諸国にとってほとんど役に立たない理由も説明できる。この事実は、大国による干渉が正当または道徳的であることを示すものではないが、なぜそのような干渉が起こるのかを理解する上で役立つ。

第二に、ヨーロッパ連合(EU)、アメリカ・メキシコ・カナダ貿易協定、そして東アジアにおける中国の経済的影響力が示すように、グローバル化の時代においても、貿易は依然として地域的に集中する傾向がある。その結果、地域最大の経済大国は、近隣諸国の選択に対して相当な(無限ではないものの)影響力を持つのが一般的である。なぜなら、近隣諸国は、支配的な大国が自国の市場へのアクセスを拒否したり、主要輸出品を制限したりする可能性のある措置を講じた場合の経済的影響を考慮しなければならないからである。

第三に、軍事力を自国に近い場所に展開することが容易であるため(そして、遠方の大国が遠方の国を支援することはより困難であるため)、大国は反抗的な近隣諸国に対してより説得力のある軍事行動の脅しをかけることができる。例えば、ロシアがラテンアメリカ、中東、アフリカに50万人以上の兵士を輸送し、維持することはほぼ不可能であるが、隣国ウクライナには(困難を伴うものの)同数の部隊を配備することが可能であり、実際に配備している。

世界政治において勢力圏が頻繁に見られるという認識から、批評家の一部は、勢力圏について、世界を組織化し、大国間の対立を緩和する潜在的に有用な手段と捉えている。大国が互いの勢力圏を認め、尊重することに合意すれば、潜在的な利益相反(conflicts of interest)は減少し、それぞれの大国の安全保障は強化されるはずだ。理論上は、大国が境界線の位置について合意し、それぞれの勢力圏において「互いに尊重し合う(live and let live)」ことを約束すれば、それぞれが自らの地域を自由に管理できるようになり、潜在的な摩擦点(points of friction)は減少するはずだ。

歴史が示しているのは、私たちはこの処方箋にある程度懐疑的な見方をしているようだ。主張者たちは、このアプローチの成功例として、冷戦時代のヨーロッパ分断を挙げるかもしれない。何世紀にもわたる戦争の繰り返しの後、ヨーロッパはアメリカとソ連がそれぞれ大陸の半分を支配し、互いに抑止力となり、従属諸国(clients)を統制していたため、平穏を保っていた。 NATOとワルシャワ条約機構の直接衝突は計り知れないほどの破壊をもたらすことは誰もが知っていたため、双方とも相手の領域に過度に干渉することに警戒していた。

しかし、この例は一見するほど説得力があるようには思えない。1950年代(特にベルリンの壁が建設される前)のヨーロッパは、危機が繰り返し発生していただけでなく、核兵器を保有する2つの超大国(two nuclear-armed superpowers)が「鉄のカーテン(the Iron Curtain)」を挟んで睨み合っていたという事実に、平和は大きく依存していた。ヨーロッパが2つの対立圏(rival spheres)に分断されていたことで、開戦の可能性は低かったかもしれないが、冷戦(the Cold War)下の競争は依然として激しく、どちらの側も、相手が自らの勢力圏で優位な影響力を行使する「権利(right)」を完全には認めていなかった。もしアメリカ人がそうしていたら、ロナルド・レーガン大統領がベルリンでソ連の指導者たちに「この壁を壊せ(tear down this wall)」と演説することは決してなかっただろう。

さらに言えば、諸列強帝国(great-power empires)の初期の歴史は、誰が異なる地域に支配的な影響力を及ぼすかについて相互合意(mutual agreement)によって平和を確保しようとすることの難しさを如実に示している。様々な植民地大国(colonial powers)は海外に帝国を築く権利を認め、時には世界のどの地域が誰のものであるかについて暫定的な合意に達したものの、こうした取り決めは流動的であり、時に激しい論争を巻き起こした。イギリスとフランスは、北アメリカにおける支配的な影響力をめぐって争い(最終的にはどちらにもならなかった)、アフリカ、中東、南アジア、太平洋におけるそれぞれの植民地領有権をめぐって繰り返し衝突した。したがって、歴史が示すように、地図上に線を引いて各列強の領域を画定することは、問題の解決に長くは続かないだろう。

今日ではどうだろうか? 一方で、諸大国は確かに国益を有しており、特に自国領土に近い地域においては、これを無視して自国の戦略を策定するのは愚かな行為である。後知恵(hindsight)で言えば、アメリカの指導者たちは、旧ソ連に隣接する地域で政治的連携を再構築しようとする試みは逆効果になると警告した多くの声に耳を傾けるべきだった。そして、もし遠く離れた大国がアメリカ本土付近で同様のことを行おうとしたら、自分たちはどう反応するだろうかと自問すべきだった。他者の感受性(sensitivities)に配慮することは、道徳的な放棄ではなく、単に賢明な国家運営に過ぎない。

しかし他方で、勢力圏モデルを採用することで世界政治を平和化しようとしても、大国間の競争に終止符を打つことはできない。その理由は次の通りだ。

始めに、大国は自国地域内では相当な経済的影響力を持っているものの、今日の世界経済は高度に、そしておそらくは不可逆的にグローバル化しており、世界中の生活水準は、製造品の複雑なサプライチェインと、世界中から流入する原材料や食料資源に依存している。その結果、様々な地域を外部の経済力から完全に遮断することは(かつてのスターリン主義ロシアのように)、誰もが著しく貧しくなることなしには実現不可能だ。もしアメリカがラテンアメリカ諸国による中国製品の購入、原材料や大豆の輸出、そして切望されている中国からの投資の受け入れを阻止できると考えるなら、同等の価値を持つ代替品を提供するか、地域全体の人々の怒りを募らせるかのどちらかを迫られるだろう。同じ原則は、中国が東アジアにおいて外部勢力を排除する経済秩序を押し付けようとする試みにも当てはまる。そしてこれは、非常に深刻なコストを負わない限り、ライヴァル大国の影響力を自国の領域から排除することはできないことを意味する。

さらに、たとえ全ての主要国がそれぞれの領域を何らかの形で正式に承認したとしても、彼らは互いに警戒を強め、力と優位性を競い合うことになるだろう。そして、たとえ潜在的なライヴァル国に自国に近い地域への関心と資源を集中させるためだけでも、他の領域への様々な形での干渉に誘惑されるのは避けられないだろう。これが、ヨーロッパやアジア(そして程度は低いがペルシャ湾岸地域)における地域覇権国(regional hegemons)の台頭を阻止しようとアメリカが繰り返し試みてきた中心的な論理であり、こうした覇権国が台頭するには、時にアメリカの積極的な介入(active U.S. intervention)が必要だった。アメリカの指導者たちは、ヨーロッパやアジアにおける覇権国は、自らの領域内では誰にも挑戦されず、西半球を含む世界中でより自由に介入できるだろう。そして、この可能性はアメリカが長らく享受してきた「無料の安全保障(free security)」を低下させるだろうと理解していた。ライヴァル関係にある諸大国が互いの領域に干渉し始めると、たとえそれが限定的なものであっても、各国は警戒感を抱き、反発する可能性が高い。そのため、互いに譲り合い、ライヴァルの領域に介入しないという合意は、特に力のバランスが変化し、魅力的な新たな機会が生まれる場合には、極めて脆弱であることが判明する可能性が高い。

加えて、東ヨーロッパにおけるソ連の経験や、アメリカとラテンアメリカ諸国との関係史が示唆するように、大国の勢力圏内にある弱小国家の中には、その優位性に憤り、それを弱める方法を模索する国も出てくる。これは、遠方のライヴァル大国に介入の機会を与え、優位な大国を不利な立場に追い込むことになる。例えば、アメリカは1953年、1956年、1968年といった時期に、ワルシャワ条約機構加盟国の反乱軍をほとんど支援しなかった。また、1962年のキューバ危機を除けば、ソ連はフィデル・カストロ率いるキューバやサンディニスタを支援するために大きなリスクを冒すことはなかった。むしろ、米ソ両国は主に、ライヴァル国が弱い隣国に高圧的な干渉を行っていることを強調することで、プロパガンダの得点を稼ごうとした。そして、大国が自国の勢力圏内の反体制勢力を弾圧しなければならない状況では、こうした種類の正統性を失わせる動きが必ず起こるのである。

この状況はまた、勢力圏が最も効果的に機能するのは、それがほとんど目に見えない時、支配的な大国が近隣諸国を従わせるために多くのことをする必要がなく、自らの役割を本質的に善意あるものとして見せることができる時であることを私たちに思い出させる。とりわけ、だからこそトランプ政権は、「私たちの(our)」半球に自らの意志を押し付けると豪語しながらも、他国の資源や領土を支配したいという願望を公然と宣言している。これは外交上の失策であり、半球内でさらなる反感を醸成し、大国同士がアメリカを危険なならず者(a dangerous rogue)と描写するための十分な材料を与えることになるだろう。

最後に、たとえ中国、アメリカ、ロシア、そしておそらく他の12カ国が互いの勢力圏を認め、尊重することを約束したとしても、アフリカと中東は現在、どの大国の勢力圏にも入っていない。そのため、大国が富、力、影響力を求めて競争できる場所は依然として多く存在し、各大国が争っている地域への安全な通信回線を確立し、他の地域へのアクセスを拒否しようとするため、ある地理的領域での競争は他の地域にも波及する傾向がある。

結局のところ、世界が能力の大きく異なる独立国家に分断されている限り、勢力圏は国際情勢の不可避的な特徴であると同時に、平和を促進することにとっては、頼りない手段でもある。より平穏で繁栄した世界を築きたいのであれば、まずは他国の勢力圏に挑戦することは危険な試みであることを認識する必要がある。しかし、それだけでは終わらない。安定した平和の構築は、少数の世界指導者が地図を取り出して誰がどこに何を得るかを決めるだけでは到底できるものではない。たとえ今日、何とか合意に至ったとしても、将来、互いの地域的宗主権(regional suzerainty)の主張に挑む、微妙な、あるいはそれほど微妙ではない試みを含め、優位性を競い合うことを止めることはできない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ウクライナ戦争はアメリカの仲介による停戦交渉が続いている。ウクライナ戦争は2026年2月24日を過ぎて継続していると、満4年となり、5年目に入る。ウクライナ、ロシア両国の国民にとっての苦痛が長期間続くことになる。トランプ政権は、2026年2月24日に一般教書演説(the State of the Union Address)を予定している。ここまでに停戦交渉をまとめて、一般教書演説で大々的にアピールしたいところだろう。

 ウクライナ戦争は、ロシアとウクライナの戦争であるが、ウクライナのバックにはアメリカとヨーロッパの西側先進諸国という「大応援団」がいて、ロシア対西側諸国という構図になっていた。ロシアは戦術核兵器使用(ウクライナだけに限定せず)を示唆したことで、西側諸国の腰が引けた。ウクライナにロシアを本気で怒らせない程度の攻撃しか許さない状況になった。

 そもそも西側諸国はウクライナに軍事支援や軍事顧問団派遣を行い、ロシアを挑発してきた。ロシアがその挑発に乗ってしまったという面はある。西側諸国はロシアが挑発に乗ってきたところで、経済制裁を発動してロシアを締めあげてやろうとしており、実際に経済制裁を行ったのだが、意図に反して、ロシアは屈服しなかった。ウクライナからロシアを完全に追い払うには、西側諸国が自分たちも危険を冒して、血を流す覚悟、最終的には地上軍派遣を行わねばならないところまで進んだが、もちろん、西側諸国にそのような意図も度胸もない。ロシアは西側以外の国々からの支援を受けて、守りを固めて、戦争を継続している。ウクライナはどうしようもない状態になっている。さらに、ウクライナ国内の状況もばれつつあり、はっきり言って、見た目はヨーロッパだが、中身は昔の第三世界の国のようなもので、腐敗と汚職の蔓延した国家である。そのような国に重要な武器を渡して、それをアメリカの敵対国や敵対勢力に横流しでもされたら目も当てられない。いくらお金を注ぎ込んでも、そのお金が政府高官たちの贅沢な生活に消えてしまうが、それくらいはまだましであるということになる。

 西側諸国がウクライナ支援に対して及び腰なのは、ロシアを怒らせたくないということと、ウクライナ国内の腐敗と汚職の問題があることが原因だ。アメリカをはじめとする西側諸国の支援が足りないなどと言っても、支援したくてもできない事情がある。ウクライナ戦争は西側諸国の間違った戦略のために起きた災厄である。ウクライナの一般国民が一番の犠牲者である。一日も早い停戦の実現を望む。

(貼り付けはじめ)

ジョー・バイデン政権のウクライナへの長い影(Biden’s Long Shadow Over Ukraine

-バイデン政権はウクライナに対してほぼあらゆる面で失望を与え、今日に至るまで戦争を形作ってきた。

エイドリアン・カラトニツキー筆

2025年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/12/05/biden-war-ukraine-russia-putin-zelensky-military-aid/

2022年夏の終わり、ウクライナはウクライナ南部で大規模な反撃を開始した。11月11日、この作戦の結果、ヘルソン市とドニエプル川西側のロシア占領地域全てが解放された。

ウクライナ軍がヘルソンに復帰したという高揚感の中、包囲網に閉じ込められていたロシア軍の驚異的な脱出劇はほとんど注目されなかった。数週間にわたり、前線強化のために派遣された精鋭部隊を含む推定2、3万人のロシア兵と大量の軍事装備が、フェリー、桟橋、そしてウクライナ軍が事前に一部通行不能にしていた橋を使って、ドニエプル川を越えて安全に撤退した。ウクライナ軍は撤退に先立ち、この橋をロケット砲で攻撃していたが、ロシア軍の主力が渡河した数週間後、この脆弱な隘路への砲撃をほぼ停止した。戦争研究所のロシアティームを率いるジョージ・バロスは『フォーリン・ポリシー』誌に「ヘルソンから秩序正しく撤退したことは、戦争全体を通してロシアにとって最も成功した軍事作戦だった」と語った。もしこの部隊が壊滅するか降伏を強いられていたら、それは戦争の転換点となり、全世界の前で晒される、クレムリンにとっての大きな屈辱となっただろう。

最近、ウクライナ政府高官数名と背景について話をする機会があり、これらの出来事について新たな知見が得られた。第一に、この撤退は、屈辱的な敗北がロシアの戦術核による反撃を誘発するのではないかとアメリカが懸念する中で行われた。第二に、ウクライナは河川を越える距離まで到達できる弾薬が不足しており、これはアメリカがウクライナに供給する弾薬の種類と量を厳しく制限していたことが理由だ。ロシア軍の驚くほど妨害のない撤退の真相は、戦争終結後も長らく秘密のままとなる可能性があるが、ヘルソン周辺での出来事は、ウクライナの攻撃が戦争中ずっと、アメリカをはじめとする西側諸国からの兵器の流入とその使用制限によって厳しく制限されてきたことを象徴している。

ドナルド・トランプ大統領は、ロシアとウクライナの紛争をしばしば「バイデンの戦争(Biden’s war)」と呼んでいる。ジョー・バイデン前大統領がロシアのウクライナ侵攻の個人的な責任を負っているというトランプ大統領の主張はもちろん誤りだ。責任はロシアのウラジーミル・プーティン大統領にあるのであり、トランプ大統領も主張しているように、バイデンやウクライナにあるのではない。トランプ大統領を除くほとんどの人が知っているように、プーティン大統領は長らくウクライナの正統性(legitimacy)に疑問を呈しており、少なくとも2014年にクリミア侵攻とドンバス占領というロシア初の領土獲得を開始して以来、その領土を渇望してきた。プーティン大統領の野望の大きさを考えれば、全面戦争に突入するのは時間の問題だった。

しかし、これは全く異なる意味でのバイデンの戦争である。今日に至るまで、この侵攻は、バイデン政権がウクライナにいつ、どのように武器を供給するかという決定、そしてアメリカが軍事援助をてこ入れしてウクライナの戦争遂行を制約した方法によって、大きく形作られてきた。ホワイトハウスのこれらの決定は、ロシアの侵攻の輪郭を大きく決定づけた。ウクライナの現在の軍事態勢、支配地域、そして増大している民間人および軍人の犠牲者数は全て、バイデン政権がウクライナの戦争遂行方法に課した制限によって大きく形作られており、その制限は今日まで続いている。

確かに、バイデンのウクライナにおけるレガシーは、ネガティヴなものだけではない。バイデン政権の多大な支援と、キエフを支援する国際連合の形成における彼の成功がなければ、ウクライナは領土の約80%を維持できなかっただろう。ロシアの侵攻を衰弱させるほどに減速させることもできなかっただろう。もしトランプが政権を握っていたら、キエフを支援するよりもモスクワとのビジネス取引を優先したかもしれない。しかし、バイデンの過剰な慎重さとウクライナの戦闘方法に対する厳しい制約は、2022年秋のウクライナの急速な反撃の停滞にほぼ確実に寄与し、そして今日に至るまでロシアが戦争を終結させ、自国が出す以外の条件で和解を求める圧力をほとんど感じていないという事実にもつながっている。

バイデンはウクライナの運命を深く憂慮しており、NATO同盟諸国とその他の民主政治体制国間の結束、負担分担、支援の調整、そして協力を巧みに形作った功績は、高く評価されるべきだ。実際、ヨーロッパ各国の首脳が最近示した強い結束、そして8月18日に大統領執務室で行われたトランプ大統領との会談で最も劇的な結束は、バイデンの非常に効果的な連合構築の成果である。

しかし、バイデン陣営の失策、そしてウクライナ軍への支援における過剰な慎重さは、誠実な評価を免れるべきではない。

最初の失策は、バイデンが副大統領を務めていたオバマ政権時代の遺産であるが、2021年3月に政権発足からわずか数週間後に始まったロシアによるウクライナ国境での大規模な軍事力増強の過程で、バイデンがウクライナへの大幅な武器供与を拒否したことだ。ウクライナは、トランプ政権初期に供与された対戦車兵器を補強するための新たな兵器を強く​​求めていたにもかかわらず、バイデンは何もしなかった。

ワシントンが2億ドルの控えめな武器パッケージを送る準備をした後も、バイデンはプーティンとの緊張の高まりを恐れて援助の送付を遅らせた。2021年12月中旬のNBCニューズの記事によると、バイデンは「緊張を緩和するための外交努力のための時間を増やす」ために援助を差し控えることを決めた。『ワシントン・ポスト』紙の信頼できる情報源による報道によると、アメリカの情報機関はその時にすでにロシアがウクライナへの全面攻撃の準備をしていると結論付けていたため、援助の遅延はこのようにして多くの重要な数週間にわたって続いた。バイデンの遅延の結果、2022年2月にロシアが攻撃するまでに、比較的わずかな援助パッケージの一部しか移送されなかった。バイデンが事実上、ロシア・ドイツ間のノルドストリーム2・ガスパイプラインとアフガニスタンからの屈辱的なアメリカの撤退を支持したことと相まって、クレムリンはこれら全てをワシントンの弱さと決意の欠如のシグナルと見ざるを得なかった。

さらに、戦争の初期段階では、バイデン政権はウクライナ軍がロシア軍に対して短期間で敗北すると確信していたため、多額の援助を控えていた。政権の誤った評価は、バイデン政権の国家安全保障ティームが信頼するロシア専門家サミュエル・シャラップによっても主張されていた。彼は『フォーリン・ポリシー』誌で「西側諸国の兵器はウクライナに何ら影響を与えない」と主張した。アメリカ側との協議に関わったウクライナ政府の元高官は、バイデンの消極的な姿勢は、少なくとも部分的には、タリバンが数十億ドル相当のアメリカ製兵器を押収したことが影響していると考えていると私に語った。バイデンはロシアがすぐにウクライナを制圧すると考えており、そのため、アメリカ製兵器がプーティンの手に渡ることを恐れていたようだ。

現実は全く異なっていた。トランプ政権初期に提供された対戦車ジャヴェリン、イギリス製の対戦車NLAW、そしてウクライナ独自の兵器(国産兵器とソ連時代の装備の混合)に加え、ヴァレリー・ザルジニー将軍率いる士気の高い防衛部隊による大胆な戦闘作戦により、ウクライナは苦境を克服し、ロシアを当初奪取した領土の多くから追い出すことができた。ウクライナの予想外の成功は、バイデン政権とNATO同盟諸国がようやく懸念の一部を克服し、支援を強化する機会をもたらした。

しかし、ウクライナは大きな成功を収めたにもかかわらず、バイデンと彼のティームは戦争中、事実上あらゆる場面でウクライナを失望させた。彼らは重要な兵器を渡さず、過剰な警戒からキエフの生存をかけた戦い方を著しく制限した。

バイデン政権の核エスカレーションへの懸念は、その後数年間のアメリカによる支援を形作る上で決定的な役割を果たした。こうした懸念を認識したクレムリンは、頻繁な脅しによって巧みに国民の懸念を煽った。これは、ソ連時代の戦略家たちが「反射的統制(reflexive control)」と呼んだ、敵対者の思考を形作るための一種の心理戦の典型例である。バイデン政権は、オバマ政権のロシアの「エスカレーション優位(escalation dominance)」理論の派生型、すなわちロシアはいつでも紛争をエスカレートさせてアメリカの援助を無効化できるという考えを信じていた。2014年からオバマ政権の任期満了となる2017年まで、この理論はキエフへのアメリカの致命的な軍事支援を拒否する根拠となった。

ロシアは戦争初期に戦術核兵器の使用を検討していたかもしれないが、ウクライナ側は喜んでそのリスクを負うつもりだった。1年間の激戦、ロシアの戦場での大敗(占領地の大規模な喪失を含む)、そして西側諸国からの新型兵器の供与を経て、エスカレーションの脅威は(かつて存在した限りでは)後退していた。その時点で残っていたのは、ウクライナによる戦争遂行の実効性を抑制するというアメリカの一貫した政策だけだった。この政策の運用は、ボブ・ウッドワードの著書『WAR 3つの戦争(War)』で明らかにされている。同書は、2022年10月21日のやりとりを報じている。その中で、ロイド・オースティン国防長官はロシアのセルゲイ・ショイグ国防長官に対し、「私たちは特定のことを行わないよう注意してきた。(中略)私たちが提供した兵器の使用方法については、一定の制限を設けている」と述べている。オースティンのこの言葉は、ウクライナの戦争遂行に対するバイデン政権のアプローチの本質を明らかにしており、この政策は今日まで続いている。

ロシアの主要な戦略的パートナーである中国が、プーティン大統領が核兵器使用の選択肢に訴えることはないという強い兆候を示した後も、アメリカの牽制は続いた。ウクライナのある高官は私に、習近平国家主席がプーティン大統領に対し、核兵器使用の選択肢は容認できないと明確に伝えたと中国側がウクライナ側に伝えたと語った。プーティン大統領が中国の支援への依存度を高めていることを踏まえると、この情報はウクライナ当局者に、ロシアが核兵器使用のリスクを冒さないと確信させた。しかし、ワシントンは、キエフの戦争遂行能力を劇的に強化する可能性があった主要兵器の移転を、一貫して遅らせたり、遅々として進まなかったり、あるいは完全に反対したりした。

2023年1月末までに、ロシアによる戦術核兵器の使用が差し迫っているというアメリカの懸念は、ある程度和らいだ。ウクライナがハリコフとヘルソンを解放するという戦場での見事な活躍を受け、西側諸国は大型戦車を含む新たな兵器支援を約束した。しかし、多くの物資の搬入は依然として遅延していた。しかし、ロシア軍後方の軍事目標および兵站目標を攻撃するための深層攻撃兵器を求めるウクライナの要請は、バイデン政権時代を通じて常に無視されてきたように、依然として無視されたままであった。

バイデン政権がウクライナに適切な武器を提供することに消極的だった歴史的記録は衝撃的だ。ウクライナが当初HIMARS多連装ロケット砲を要請したが、2022年夏まで回答が得られなかった。しかも、要請が出されたのは、人口約45万人の戦略的に重要な港湾都市マリウポリが、凄惨な包囲攻撃で街がくすぶる廃墟と化した後にすぎなかった。マリウポリ近郊の集団墓地は、ウクライナの民間人および軍人の死者が数万人に上った可能性があることを示している。キエフがパトリオット防空システムを求める要請も、ロシア軍がウクライナの都市の民間人を標的に継続的かつ残忍な攻撃を行ったにもかかわらず、2022年の大半の間、回答が得られなかった。なぜ当時、純粋に防御用の兵器ですら禁止されていたのかは、バイデンと当時の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンの秘密のままである。

最初のエイブラムス戦車がウクライナ軍に到着したのは、ロシアの侵攻から1年半以上経った2023年9月になってからだった。そして、2023年5月にキエフに長距離ストームシャドウミサイルを供給すると発表したのは、ワシントンではなくロンドンだった。アメリカによるATACMSと呼ばれる長距離ミサイルの納入は、2023年10月にようやく始まった。当時でさえ、これらのミサイルは射程距離を制限するように改造されており、ロシア領内の軍事目標への使用は制限されていた。例えば2024年夏、ウクライナは国境からわずか100マイル内側にあるロシアの主要爆撃基地の1つへの攻撃許可を懇願したが、結局拒否された。この制限が部分的に解除されたのは、2024年11月になってからだった。

また、バイデン政権はキエフに対し、ウクライナの主権領土内であっても、特定のロシア軍・兵站施設を攻撃しないよう圧力をかけたようだ。『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によると、アメリカはクリミア半島のロシア空軍基地と、ロシア軍にとって重要な補給路であるケルチ海峡橋へのウクライナ軍の攻撃に反対している。この記事ではまた、アメリカがクレムリンの要請により停止した、未公表のウクライナ軍による作戦についても言及している。

さらに、バイデン政権は戦争中ずっと、アメリカとウクライナだけでなく、ヨーロッパの同盟諸国にも恣意的なレッドラインを引いた。同盟諸国は、戦車、長距離ミサイル、ヨーロッパ所有のF-16戦闘機など、特定の兵器の提供を差し止められた。しかし、これらの制限が遅れて解除されると、これらの戦闘機はロシアの攻撃に対するウクライナの防空防衛の不可欠な要素となった。

ハドソン研究所のルーク・コフィーが述べているように、「遅延はクラスター弾、戦車、歩兵戦闘車、そしてATACMS(対空ミサイルシステム)の提供に影響を与えた。アメリカは最終的にこれらのシステムすべてを承認したが、その決断の遅れはウクライナに多大な損害を与え、積極的対応ではなく事後対応を強いることとなった」。言い換えれば、バイデンはウクライナに対し、背中に片手を縛られた(one hand tied behind its back)状態でロシアと戦うことを強いた。

アメリカの限定的な援助はロシアの侵攻をやっと抑える程度ではあったが、ウクライナが国家として存続することを確かに保証した。こうした状況下で、ウクライナは、自国の長距離ミサイルを含む、これまで供給が認められていなかった兵器の開発と量産を徐々に開始した。また、強力な戦闘用ドローン産業の台頭にも時間を稼ぎ、戦場は一変した。

ウクライナ自身の技術革新にもかかわらず、バイデン政権によるロシアへの攻撃制限は、爆撃機攻撃に利用される飛行場など、ロシア国内の軍事施設やインフラ施設への攻撃能力を非常に限定的なものにしていた。2024年には、バイデン政権はキエフの国産兵器の使用さえも細かく管理し、ロシアの石油精製所へのドローン攻撃を中止するようウクライナに圧力をかけた。ウクライナはこれに従い、爆発力は大きいものの戦略的な影響は小さい燃料貯蔵庫への攻撃に切り替えたようだ。トランプ政権下では、この制限は撤廃され、ウクライナはロシアの製油所に対して非常に効果的なドローン作戦を開始した。その結果、ロシアの大部分が燃料不足に直面している。この作戦の成功は、石油インフラへの攻撃が、バイデン政権が想定していたようなレッドラインではなかったことを証明している。

バイデン政権の制限は軍事的にはほとんど意味をなさず、むしろ著しい不均衡を生み出した。ロシアのミサイルとドローンがウクライナの都市で電力、暖房、水道の供給を停止させた際、ウクライナには同様の対応を行う能力がほとんどなかった。ロシアの攻撃は今日まで衰えることなく続いており、民間人が殺害され、数千ものウクライナの学校、教会、病院、アパート、オフィスが壊滅した。これらの攻撃の一方的な姿勢は、バイデン政権の制限が今もなお及ぼしている影響を如実に示している。

バイデン政権の慎重なアプローチは、アメリカにも政治的な遺産を渡すことになった。武器の漸進的な供給と厳しい使用制限によってウクライナで生じた膠着状態は、新たな「永遠の戦争(forever war)」の恐怖を生み、トランプに近い共和党員からの反対を強め、2024年の選挙戦においてトランプを有利に導いた可能性が高い。

MAGA保守派の間でウクライナへのアメリカからの支援を縮小すべきだという機運が高まっていることを念頭に、共和党の連邦下院議員マイケル・マコール、マイク・ロジャース、マイク・ターナーは2024年1月に詳細な報告書を発表し、武器制限の解除を求め、バイデン政権は戦争終結を確実にする計画を策定していないと警告した。議員たちは「戦争の初日以来、バイデン大統領がウクライナへの重要兵器の提供をためらい、それがウクライナの勝利を遅らせてきた」と非難した。さらに彼らは、ウクライナの勝利への道筋は「(1)必要かつ迅速なウクライナへの重要兵器の提供、(2)プーティン政権への制裁の強化、(3)凍結されたロシアの国家資産(3000億ドル)のウクライナへの移管」が必要だと主張した。

トランプも2025年8月にトゥルーソーシャルに「バイデンはウクライナに反撃をさせず、防衛だけをさせた。その結果は一体どうなったんだ?」と投稿し、この批判を繰り返した。しかし、バイデン政権下でウクライナの戦闘行為に対して課された制約の大部分は、トランプ政権下でも依然として有効である。実際、ウォール・ストリート・ジャーナルが2025年8月23日に報じたように、トランプ政権はウクライナによるロシア国内への長距離対空ミサイル(ATACMS)発射をひそかに阻止した。すべての兵器輸送の費用をヨーロッパまたはウクライナが全額負担することを義務付けるアメリカの新たな政策下でも、これらの購入のほとんどは、種類、数量、使用方法において依然として厳しく制限されている。

バイデン政権が恣意的なレッドラインを課さず、クレムリンによる核恐怖の煽動に操られることもなければ、マリウポリは陥落しなかったかもしれない。ウクライナは2022年の反攻作戦の勢いを確実に維持し、ロシア軍が陣地を固める前にさらに多くの領土を解放できただろう。ウクライナはヘルソンで撤退するロシア軍とその装備に屈辱的な敗北を味合わせることができただろう。ウクライナ市民に毎夜死をもたらすロシアの爆撃機と空軍基地を破壊できたはずだ。ロシアの戦争マシーンにとって最重要の資金源である石油・ガス産業は麻痺状態に陥っていた。そしてクレムリンはとっくの昔に交渉の席に着き、勝ち目のない戦争からの脱却を迫られていたかもしれない。

その代わりに、バイデンが形作ったウクライナ戦争はトランプ政権下でも継続している。トランプが戦闘終結に向けた精力的な試みで一定の功績を認められる一方で、特使スティーヴ・ウィトコフの拙劣な取り組みが示すように、成功の見込みは薄い。永続的な平和を実現するには、プーティンを交渉のテーブルにつかせる必要がある。そのためには、トランプはまずウクライナが自力で効果的に戦えるよう支援し、バイデンの戦争(Biden’s War)を終わらせる必要がある。ヨーロッパの資金援助(凍結されたロシア資産の活用を含む)、アメリカと同盟諸国の武器の制限なき使用(モスクワやサンクトペテルブルクの標的攻撃能力を含む)、強力な二次制裁を伴うこうした戦争こそが、紛争終結への最短ルートである。

※エイドリアン・カラトニツキー:大西洋評議会上級研究員、ミュルミドン・グループ創設者。著書に『戦場としてのウクライナ:独立からロシアとの戦争へ(Battleground Ukraine: From Independence to the War with Russia)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領はグリーンランド領有に関して、反対したヨーロッパ諸国への関税措置を撤廃し、買収交渉を行うという姿勢の転換を行った。「俺たち(アメリカ)が第二次世界大戦で助けてやらなかったら今頃お前たちはドイツを話していたんだぞ、そして、片言の日本語も話していただろう」ということをスイスで開かれているダヴォス会議で発言し、ヨーロッパ諸国の国民の不興を買っている。トランプにすればそんなことはお構いなしだ。「アメリカ・ファースト」で突き進むだけだ。グリーンランドのレアメタルと、中露両国が開発し、アジア諸国にとって便利な北極海航路に対する嫌がらせ(と通行料の徴収ができれば最高)でアメリカ国民に利益をもたらす、お金を配ることが最重要の目的だ。
arcticnavigationlanegreenlandmap001

 この伝で行けば、パナマ運河もアメリカに戻せということになる。グリーンランドとパナマ運河を押さえることで、世界の物流を押さえることができる。それがトランプと側近たちの狙いだろう。しかし、それは中露両国も黙ってはいないだろう。

 トランプの交渉術は相手にショックを与えて、思考力を奪っておいて、それで交渉を行うというものだ。とんでもないことを言ったり、行ったりして、相手がひるんでいる隙に、自分の要求を通すということだ。交渉という点では、トランプは世界でも指折りの才能と経験を持っている。日本の政界で太刀打ちできる人はいないだろう。経済界ではいるかもしれないが。

 しかし、このようなトランプの交渉術は既に見切られている。トランプが強く出る場合に、相手も強く出て、トランプをひるませることができれば、トランプは引く。実際に、高関税政策に対して、中国は強く出てトランプを引かせている。今回のグリーンランドに関することでも、ヨーロッパ諸国がアメリカ国債の売却をちらつかせることで、トランプは引いた。世界の先進諸国はアメリカ国債を「安全資産」と保有してきたが、その売却という、一種の自爆的な方法を取るぞと脅すことで、トランプを引かせるという方法を採用している。

 トランプの「アメリカ・ファースト」外交は、アメリカの衰退を促進する。そして、世界は、世界覇権国アメリカの衰退に対応するために、この時期を過ごすことになる。

(貼り付けはじめ)

トランプは外交をどのようにやるかを全く分かっていない(Trump Has No Idea How to Do Diplomacy

-たとえ部分的に正しいとしても、彼は間違っている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年8月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/08/19/trump-diplomacy-putin-ukraine-europe/

アラスカで行われたウラジーミル・プーティン大統領とのあの奇妙な首脳会談と、ワシントンで行われたNATO首脳会議の組み合わせは、ドナルド・トランプ米大統領がひどい交渉者であり、「譲歩の術(art of the giveaway)」の達人であることを改めて思い知らせる出来事だった。トランプは準備を怠り、部下に事前に根回しをする(lay the groundwork beforehand)、会議に臨むたびに自分が何を望んでいるのか、どこまで譲歩(red line)すべきかさえ分からずにいる。戦略もなければ細部にも関心がなく、行き当たりばったりで臨む。

最初の任期中、北朝鮮の金正恩委員長との的外れなリアリティ番組のような会合に時間を浪費したことで分かったように、トランプが本当に求めているのは注目と、自分が主導権を握っていることを示唆するドラマチックなヴィジュアルだけだ。彼が締結するであろう合意の中身は、無関係とまでは言わないまでも、二次的なものに過ぎない。だからこそ、最近発表された貿易協定の中には、彼が主張するほどアメリカにとって有利ではないものもあるのだ。

トランプの突飛な外交失策に人々が注目するのは、彼が世界最強の国の大統領であり、カルト的な共和党の卑怯な議員たちが彼の気まぐれに付き従い続けているからに他ならない。しかし、トランプ、マルコ・ルビオ国務長官、そして外交の素人スティーヴ・ウィトコフのような軽薄な人物が、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領やセルゲイ・ラブロフ外相といった人物と対峙すれば、後者がアメリカから巧みに利益を得ることは目に見えている。自問自答してみて欲しい。トランプがアラスカでプーティンと会談した際、アメリカ、同盟国、あるいはウクライナのために何か得たものはあっただろうか? プーティンは何かを譲歩しただろうか? さらに言えば、ウクライナを見捨てないよう説得するために現れたヨーロッパ各国の首脳からトランプはどのような譲歩(concessions)を得たのだろうか?

強力な敵対国との交渉を成功させるには、双方の利益、力、そして決意を冷徹かつ容赦なく現実的に評価する必要がある。プーティンのような指導者を、単に好意を抱いているから、あるいは滑走路にレッドカーペットを敷いたからといって、魅了して譲歩させることは不可能だ。希望的観測にふけったり、誰も真剣に受け止めないような脅しや約束をしたりしても、何の成果も得られない。

この最後の問題は、10年以上にわたり西側のロシア・ウクライナ政策を悩ませてきた。大半の西側諸国の政治家や評論家たちは未だ認めたがらないが、問題の根本原因はロシアと西側諸国の動機付けにおける根本的な非対称性(a fundamental asymmetry)にある。これは双方の脅威認識(perceptions of threat)と致命的な国益の定義(definitions of vital interests)の相違から生じる非対称性だ。(記録のために付記すれば、この認識の隔たりこそが、2014年に私たちのうちの何人かがこの道を進むことに警鐘を鳴らした理由である)。プーティンが自らの行動に数多くの理由を抱えていたとしても、最も重要なのは、ウクライナのNATO加盟がロシアにとって存亡の危機(an existential threat to Russia)をもたらすという恐怖、ロシアの政治スペクトル全体に広く共有されていた恐怖であった。

この問題において西側の立場を最も損なったのは、外交政策エリートたちが「無制限なNATO拡大(open-ended NATO enlargement)」、特に2008年のウクライナとジョージアへの将来加盟申請準備招待が戦略的失策(a strategic blunder)であった事実を、現実逃避的に認めてこなかったことだ。これがプーティンが和平合意で対処すべきと主張する「根本原因(root causes)」の中で最も重要であり、西側諸国の拡大推進の使徒たち(the Western apostles of expansion)が最も激しく否定、無視しようとしてきた点だ。これらはいずれもプーティンの違法な予防戦争(Putin’s illegal preventive war)を正当化するものではないが、そもそも紛争が起きた原因を誰も認めず対処しなければ、深刻な対立を終結させるのは困難である。

非愉快な現実は、モスクワは自国の経済を戦時体制に置き、数十万人の命を犠牲にすることを厭わなかったのに対し、ウクライナを支援する西側諸国はそうしておらず、今後もそうするつもりはないということだ。ウクライナ人は祖国を守るために計り知れないほどの英雄的な犠牲を払ってきたし、西側諸国はキエフに多額の資金、武器、情報、訓練、外交支援を提供してきた。しかし、ヨーロッパや北アメリカの他の国々が、自国の軍隊をキエフに派遣してそこで戦死するなどということについては、最初から明らかだった。(繰り返すが、西側諸国の指導者たちが2008年、あるいは2014年以降にこの点をもっと慎重に検討していればよかったのにと思う。)NATOが自ら参戦すべきだったと考える人々もおり、私は彼らの一貫した姿勢を尊敬しているが、彼らが関係する国民や指導者を説得することは全くできなかった。

その結果、ロシアは戦場で優位に立っており、ウクライナの失策(例えば2023年夏の不運な反撃など)もその一因となっている。ウクライナが失った領土(クリミアを含む)を全て奪還し、NATOとヨーロッパ連合に加盟することが唯一の受け入れ可能な結果だと依然として主張する人たちにはこの目標を具体的にどのように達成するつもりなのか説明を求めるべきだ。この奇跡をどのように実現するのか、首尾一貫した説得力のある戦略を提示するまでは、交渉のテーブルに彼らを招き入れるなど全く馬鹿げている。

したがって、トランプが先日のアラスカ首脳会談でプーティン大統領の側に立ったのは正しかったのだろうか? そして、トランプの姿勢を固めようとワシントンを訪れたヨーロッパ諸国の首脳たちの甘言や嘆願(blandishments and pleas)に抵抗すべきだったのだろうか? 答えはノーだ。

ここではより大きな利害関係が絡んでおり、アメリカとヨーロッパの交渉戦略はこれらに焦点を当てるべきである。プーティン大統領の要求の一部は将来の和平協定で受け入れざるを得ないとしても、NATO加盟国の一部からの軍撤退や、ウクライナの「非ナチ化(de-Nazified)」と部分的な武装解除といった要求は即座に拒否されるべきだ。ロシアが、将来ウクライナに駐留するかもしれないと懸念する外部勢力から自国を守る必要があると主張するならば、ウクライナはロシアによる新たな攻撃から守られ、自国を防衛する手段を与えられるべきである。

後者の懸念は、ウクライナや他の欧州諸国が、NATO第5条のような、正式な加盟国ではないものの何らかの安全保障保証に関心を持つ理由である。しかし、この考えには少なくとも2つの明白な反対意見がある。第一に、第5条は完全な安全保障の誓約ではなく、攻撃を受けた加盟国を支援するために同盟軍の派遣を自動的に引き起こすような仕掛けでは決してない。第5条は、加盟国の1つへの攻撃は加盟国全体への攻撃とみなされ、各加盟国は個別および集団的に「必要と考える行動(such action as it deems necessary)」をとると述べているだけだ。第二に、そして同様に重要な点として、トランプは生涯にわたって約束を破り、予告なしに方針を転換してきた経歴を持つ。それを考えると、分別のある国が彼の約束や誓約をなぜ信じるだろうか? たとえウクライナに対する何らかの安全保障の誓約について最終的に合意に達したとしても、誰がそれを真剣に受け止めるだろうか?

プーティン大統領とゼレンスキー大統領の直接会談の実現も検討されており、おそらくアメリカが仲介役を務めることになるだろう。これは、これまでそのような要請に抵抗してきたプーティン大統領にとって象徴的な譲歩となるだろう。しかし、戦場の現状やウクライナの長期的な展望に大きな変化がない限り、そのような会談が永続的な平和をもたらすとは到底思えない。繰り返しになるが、個人的な会談というドラマに惑わされないことが重要だ。メディアは騒ぎ立てるが、(トランプとウィトコフが関与している場合)成果はほとんどない。

一体何が期待できるというのだろうか? 戦闘の進展状況、そしてロシアがこの問題をウクライナ以外の国よりも重視しているという事実を考えると、モスクワは望んでいたことの一部を得ることになるだろう。しかし、ロシアがすでに支払ってきた莫大なコストと、ウクライナが今後も外部からの寛大な支援を受け続けることでさらに大きな損失が生じる可能性を考えると、西側諸国の利益にならないものをロシアに提供することを拒否することは可能であるはずだ。

トランプ大統領のオンオフの繰り返しや、その他多くの問題でヨーロッパの同盟諸国と争おうとする姿勢とは対照的に、最良の合意を得るための最善の方法は、アメリカがヨーロッパとの統一戦線(a unified front)を維持し、NATOがウクライナに寛大な軍事支援を継続し、ウクライナとアメリカが双方の交渉状況を現実的に評価した上で、ロシアとの真剣かつ綿密な交渉を進めることだ。しかしながら、真剣かつ綿密な交渉を遂行してくれる人物を探しているのであれば、ペンシルベニア通り1600番地は私としてはお勧めしない。

こうした状況を考えると、もし昨年(2024年)11月にカマラ・ハリス米副大統領が大統領に選出されていたらどうなっていただろうかと疑問に思う。ハリスは優れた外交政策戦略家とは言えず、バイデン政権もロシアとウクライナへの対応で幾度となく失策を犯していた。しかし、ワシントン(そして民主党エリート層)では、ウクライナがその目的の全てを達成することは不可能であり(たとえそれが抽象的にどれほど望ましく正当であったとしても)、アメリカ大統領選が終結した暁には戦争を終結させる必要があるという認識が広く共有されていた。ハリスなら、バイデンのティームを他の有能な顧問に交代させ、その成果を追求するよう指示し、困難な状況下でもウクライナが可能な限り最良の合意を得られるよう支援し続けただろうと私は思う。

もちろん、ハリス政権が成功したかどうかは分からない。しかし、信頼できる有能な外交アクターとしてのアメリカの評判をトランプ氏以上に傷つけることはできなかっただろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2026年2月24日で、ウクライナ戦争は満4年、5年目に進む。アメリカの仲介による停戦の動きは進んでいない。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は共に、アメリカ側から提案される条件に同意していない。プーティン大統領は慌てて停戦をする必要がない状況であり、できるだけ良い条件を引き出すための「熟柿(じゅくし)作戦(Waiting for the right moment)」を展開している。柿が熟れて自然と落ちてくるまで待つということになる。

 ゼレンスキー大統領は追い込まれている。西側諸国からの支援を受けて、戦線を維持しているが、支援もいつまで続けてもらえるか分からない。既に国土の6分の1を失い、多くの死傷者を出している。ウクライナ政府の非効率性や腐敗も、世界中からの注目もあって、白日の下に晒されている。このような状況であったなら、ウクライナ軍が敢闘し、ロシア軍の進行を阻止し、ロシア軍が慌てていた戦争の初期段階で、停戦交渉を行った方が良かったということになる。その後も大反攻(great counter-attack)を企図したが、それも失敗した。支援したアメリカ軍やイギリス軍の将官たちから、「そんなものが成功するはずがない」と批判されていながら、反攻作戦を強行し、失敗した。ロシア軍は守りを固めつつ、ウクライナを攻撃している。戦線は膠着している。ゼレンスキーは八方塞がりになっている。
ukurainewarsituation20260119map001

 ウクライナ軍はドローン戦闘機を使っての攻撃も行っているようだが、その効果も限定的である。そのようなゲリラ戦に毛が生えたような攻撃で、ロシア軍を押し戻すということは不可能である。既に勝負は決している。これ以上は徒に犠牲を増やすだけである。狂信的なナショナリズムや精神力で戦争を維持することが得策とは言えない。はっきり書けば、ウクライナ以外の国々は「早く停戦交渉のテーブルに着いて、少しでも良い条件の停戦を勝ち取る方が良いのに」と考えている。ウクライナ国民にとっては残念なことだと思う。しかし、国際政治は残酷な面を持つのもまた事実だ。平和を回復して、今度こそ、公明正大な政府を構成し、その恵まれた肥沃な大地から立ち上がって欲しい。

 そして、私たちは、ウクライナの状況をしっかり観察し教訓を得て、日本がそのような状況に陥らないように動くことが肝要だ。しかし、私は、日本国民全体がそこまでの賢さと能力を持っているかという点について、残念なことであるが悲観的になっている。

(貼り付けはじめ)

ウクライナのドローン攻撃は問題にはならない(Ukraine’s Drone Attack Doesn’t Matter

-残念なことだがこの派手な作戦は根本的な現実を変えるものではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年6月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/09/ukraine-war-drone-attack-spiderweb-russia-air-bases/

ウクライナによるロシア奥地の空軍基地への劇的で衝撃的な無人機攻撃「蜘蛛の巣作戦(オペレイション・スパイダーズ・ウェブ、Operation Spider’s Web)」は、2022年にロシアが違法な侵攻を開始して以来、この戦争を特徴づけてきたいくつかのテーマを浮き彫りにしている。これはウクライナの回復力(resilience)、創造性、そして大胆さ(audacity)を示す好例であり、これらはモスクワを幾度となく驚かせてきた資質である。また、この作戦はロシアの国家安全保障・情報機関の無能さ(incompetence)と油断(complacency)を暴露した。彼らは、ウクライナが100機以上の殺傷能力を持つ無人機と遠隔操作装置をロシア領土の奥深く、戦略爆撃機が配備されている空軍基地の近くに密輸しようとした試みを予測も検知もできなかった。ロシアの戦場での戦闘能力は戦争初期から向上しているが、国家安全保障体制は依然として脆弱である。

しかしながら、「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」の報を受けて多くの観測者が感じた当然の満足感は、ロシアの侵攻に対する効果的な対応策を練る努力を損なってきたいくつかの誤りをも反映している。優れた戦術的革新(tactical innovations)も、戦力や決意の非対称性(asymmetries in forces or resolve)、そして効果的な全体戦略の欠如(the absence of an effective overall strategy)を補うことはできない。開戦から3年が経過した現在も、キエフとその支援者たちは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の戦争目的を阻止し、戦闘終結を説得するための説得力のある計画を依然として欠いている。プーティン大統領の決意は今回の事件によって揺るぎないように見え、ドナルド・トランプ米大統領に対し、ロシアは報復する決意であると明言したことは、まさにその言葉通りだった。

さらに重要なのは、ウクライナの攻撃の戦術的独創性に目を奪われて、その戦略的重要性の無さに目をつぶるべきではないということだ。ドローン攻撃は斬新であり、戦争のあり方、そして今後のあり方を既に変えているが、結局のところ、それは航空戦力のもう一つの形態に過ぎない。たとえ非常に効果的な空爆であっても、それだけで戦争に勝利することはほぼない。しかし、航空戦力(ドローンを含む)は地上部隊の作戦において重要な役割を果たす可能性がある。

戦略的な観点から、これらの問題を最もよく研​​究をした、ロバート・ペイプは、1991年に著した『勝利のための爆撃:戦争における航空戦力と強制(Bombing to Win: Air Power and Coercion in War)』を出版した。ペイプは、航空戦力は民間人を懲罰したり、敵の戦略資産を危険に晒したり、敵の指導部を失脚させたり、敵の戦争目的を達成するための軍事力を奪ったりするために使用できると主張した。彼の事例は、最初の3つの戦略では敵を降参させることはほとんどなく (たとえば、民間人を爆撃すると、敵が戦争遂行をさらに強く支持するようになる傾向がある)、航空戦力は他の軍事資産と組み合わせて使用​​して敵軍を打ち破り、戦略目標を達成できないことを敵に示す場合に最も効果的であることを示した。

この観点から見ると、最近のウクライナのドローン作戦は、純粋に戦術的な観点からは確かに印象的であったものの、本質的には脇役的であり、本筋ではなかった。この点において、これは、同じく予想外で当初は成功したものの戦況を変えることができず、その後完全に逆転したクルスク近郊へのウクライナの侵攻と類似している。12機以上の戦略爆撃機を破壊したとしても、ロシアがウクライナへの進撃を継続したり、ウクライナの都市に対してミサイルや無人機による追加攻撃を実施したりする能力に、実質的な影響を与えることはないだろう。

確かに、この作戦はウクライナの士気を高め、ウォロディミール・ゼレンスキー大統領の人気を高め、ロシアに将来的な同様の作戦を阻止するための資源投入を迫っていることは間違いない。ロシアの国家安全保障エリートの間で、この戦争の賢明さとプーティン大統領の戦略に対する疑念が高まったのではないかと期待する声もあるが、プーティン大統領の権力基盤が揺ぐ、もしくは、戦争に反対するエリートや国民がプーティン大統領の考えを変えるような兆候は見られない。もしそうなれば素晴らしいが、計画を立てる材料としては薄っぺらなものに過ぎない。

この状況は、ウクライナとその支援諸国を、戦争開始以来直面してきたのと同じ難題に直面させる。すなわち、ウクライナの地政学的立場(Ukraine’s geopolitical alignment)を存亡の問題と見なし、最低限の戦争目的としてウクライナが西側の防壁となることを阻止することを掲げる、数的に優位な敵をどう打ち破るかという課題である。ウクライナ国民は祖国防衛のために並外れた犠牲を払ってきたが、戦略的パートナー(ジョー・バイデン前米大統領を含む)のいずれも自分たちの軍隊や領土を危険に晒す意思を示していない。この非対称性を踏まえ、キエフと西側諸国は代わりに、ウクライナの不屈の精神(Ukrainian grit)、西側の財政・物資支援、そしてロシアに対する厳しい経済制裁(economic sanctions)の組み合わせが、最終的にモスクワに方針転換を促すことを期待してきた。

それはまだ起こっていない。現時点では、そうなる可能性はますます低くなっているように思える。2022年秋のウクライナの攻勢は戦況を覆すことはできず、その後の2023年夏の反攻(ウクライナを支援・支援する西側諸国によって装備・訓練された新設旅団が投入された)は、多大な犠牲を伴う大失敗に終わった。前述の通り、クルスクへの侵攻は当初成功したものの、戦争の軌道を変えることも、キエフに有効な交渉材料を提供することもなかった。ロシア軍は多大な犠牲を払いながらも、ゆっくりと前進を続けている。戦場の情勢が概ねプーティン大統領に有利に進んでいる現状では、トランプでさえプーティン大統領には戦争を終わらせる動機がほとんどないことに気づき始めているようだ。

戦争終結への希望は、相互に受け入れられる解決策を見出すことを特に困難にする政治勢力との闘いにも直面しなければならない。キエフとモスクワは戦争以前、ほとんど互いを信頼していなかったが、今や全く信頼していない。プーティン大統領は、開戦前からロシア国境付近におけるNATOの存在を致命的な危険と見なしていた。フィンランドとスウェーデンの参加、そしてNATOによるウクライナへの支援は、プーティンの懸念を間違いなく高めた。同時に、ロシアの行動は近隣諸国にロシアの将来の意図に対する懸念を一層深めさせ、ロシアへの譲歩を躊躇させている。ロシアと西側諸国間の安全保障のディレンマ(security dilemma)は、開戦前よりも今の方が深刻化しており、安定的で相互に受け入れられる解決策の策定はより困難になるだろう。そして、お馴染みのサンクコスト(sunk cost)の誤謬を忘れてはならない。あるロシア兵が最近『ニューヨーク・タイムズ』紙に次のように語った。「私たちは皆疲れ果てており、家に帰りたい。だが、将来、それらの地域のために苦労しなくて済むように、全ての地域を奪取したい。そうでなければ、兵士たちは皆、無駄死ということになるではないか?(have all the guys died in vain?)」。こうした感情はウクライナにも間違いなく存在している。

戦争のこの時点で、正しい答えがあると過信すべきではなく、完璧な結果を得ることは過剰な期待ということになる。しかし、新たな兵器や戦術、あるいは「蜘蛛の巣(スパイダーズ・ウェブ)」のような大胆だが本質的に限界のある作戦に期待を託すのは、単なる希望的観測に過ぎない。むしろ、ウクライナにロシアに不釣り合いな損害を与える能力を与え続けること、そしてモスクワを抑止し安心させる中央ヨーロッパの将来の安全保障体制を真剣に構想し交渉することこそが、戦争を終結させ、ウクライナの残存部分を保全する唯一の方法だ。これは宥和政策(appeasement)ではない。ロシアの現状打破(undermining the status quo)への関心を低下させ、その試みが失敗に終わることを確信させるような安全保障体制の交渉に前向きであることを意味する。

残念ながら、特にトランプ政権のこの問題への不安定な対応と、多くのヨーロッパ諸国に対する根底にある敵意を考えると、西側諸国の指導者たちがこの方針を追求するのに十分な団結力、決意、そして想像力を持っているとは到底言えない。結局、ウクライナの運命を決めるのはこうした政治的要因であり、戦術的には素晴らしいが戦略的には無関係な英雄的防衛軍の努力ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social Xアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領のヴェネズエラ攻撃とニコラス・マドゥロ大統領夫妻拘束連行は世界に衝撃を与えた。私も「トランプはどうしてそんなことをやったんでしょうか」「アメリカはどうなるんですかね」といった問い合わせをいただくことがある。トランプが主張するドンロー主義(Donroe Doctrine)は、1830年代のジェイムズ・モンロー大統領のモンロー主義(南北アメリカ大陸からスペインとイギリスの影響を排除する)と、1900年頃のセオドア・ルーズヴェルト大統領(と先代のウィリアム・マッキンリー大統領)が採用した棍棒外交(中南米諸国に対して武力行使をちらつかせ、また実際に行使してアメリカに従わせる)を混合した外交政策の基盤となる原理ということになる。そして、これこそが「アメリカ・ファースト」(アメリカの利益が最優先)ということになる。

 こうしたドンロー主義に対して、懸念の声が出てくるのは当然のことだ。国外から一気に首都を急襲するという方式は、1979年から1981年にかけて起きたイランのテヘランのアメリカ大使館人質事件(Iran Hostage Crisis)において、人質救出作戦として立案されたイーグルクロー作戦(Operation Eagle Claw)と似たような形である。イーグルクロー作戦は天候に恵まれず失敗し、アメリカ大使館人質事件は当時のジミー・カーター大統領の再選失敗の最大の原因となった。もし、今回のヴェネズエラ急襲作戦が失敗していれば、トランプ大統領と政権にとって致命的な傷となったことだろう。今回の成功は幸運だったと言える。

 懸念されるのは、今回の成功に味を占めて、成功体験に浮かれて、他国にも同様の攻撃を行う可能性があることだ。メキシコやグリーンランド、パナマにアメリカ軍部隊を侵入させるということは今のところ考えにくいが、可能性がゼロではない。また、そのような可能性を相手側に考慮させることで、アメリカ側の交渉力を上げ、意向に従わせようとする可能性もある。短期的にそれが成功しても、中長期的に見て、それが成功となるかどうかは分からない。アメリカのならず者のような行動は他国からの反感を買い、忌避を生み出す。そして、相対的に、中国とロシアの評価を上げることになる。

国際関係論では、「バランシング(balancing)」と「バンドワゴニング(bandwagoning)」という考え方があるが、脅威となる国が出てきたときに他国が一緒になって対抗することを「バランシング」、脅威となる国に味方することを「バンドワゴニング」という。アメリカに対抗できるもう一つの軸として、著書やブログでも何度も紹介してきた、中国とロシアを中心とするBRICS諸国を中核とする「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」による「バランシング」が起きる可能性が高い。アメリカは予期しているよりも影響力を行使できないということになる。そうなると、国際的な孤立を招くということになる。今回のヴェネズエラ急襲成功が結果として大きな損失を生み出すということも十分に考えられる。

(貼り付けはじめ)

ヴェネズエラはドナルド・トランプ大統領の運が尽きる場所になるかもしれない(Venezuela Might Be Where Trump’s Luck Runs Out

-トランプ大統領は、支持基盤内部の極めて強硬な派閥とハト派の間で綱渡りを続けている。

エンマ・アシュフォード筆

2026年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/05/venezuela-trump-us-military-intervention-regime-change-south-america/

20260103maralagowarsituationroom001
(右から)ドナルド・トランプ米大統領、マルコ・ルビオ国務長官、ジョン・ラトクリフCIA長官、ピート・ヘグゼス国防長官がフロリダ州パームビーチにあるトランプの邸宅マール・ア・ラーゴからヴェネズエラにおける米軍の作戦を監視する(2026年1月3日)

国境の南側へのアメリカの軍事介入は、野球やアップルパイと同じくらいアメリカ的だ。1914年、ウッドロウ・ウィルソン大統領はアメリカの経済的利益を守るため、メキシコのベラクルスを占領するために軍隊を派遣した。冷戦時代、アメリカはキューバからニカラグア、グアテマラ、パナマに至るまで、公然と、あるいは秘密裏に、様々な政権転覆作戦(overt and covert regime change operations)を実行した。さらに最近の1994年には、クリントン政権がハイチに侵攻し、退陣したジャン=ベルトラン・アリスティド大統領を復帰させた。

それにもかかわらず、先週末に見られたような、事実上の武装誘拐(an armed kidnapping)とも言える指導者交代を、アメリカの政権が公然と、そして誇らしげに行っていることは衝撃的だった。これらの行動が選択された理由に関する公式の説明には、ほとんど策略がなく、この攻撃を何らかの国際法に組み込もうとする真摯な試みもなかった。むしろ、ドナルド・トランプ政権は事実上、アメリカの利益の優先性を主張した。ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、移民の阻止、麻薬の流入の防止、そしてアメリカの石油会社によるヴェネズエラの豊かな油田へのアクセスの許可を妨害したという主張であった。

提示された数々の論拠は、2003年のイラク侵攻の直前、政権が既に決定していた行動を正当化する様々な理由付けを次々と提示した状況を彷彿とさせる。しかし、これさえも誤解を招く。ヴェネズエラに関する説明は、ジョージ・W・ブッシュ政権が夢見ることしかできなかったようなスピードで、国際法の建前を無視して提示された。少なくともジョージ・W・ブッシュ大統領は、最終的にそのプロセスを無視する前に、国連安全保障理事会の承認(U.N. Security Council authorization)を求めた。

ここでも、提示された論拠はどれも真に説得力がない。アメリカは世界最大の産油国であり、ヴェネズエラ産の原油供給過剰(a glut of Venezuelan oil)は、世界的な価格下落によって、テキサス州などの産油地にさえ悪影響を及ぼしかねない。アメリカ国内で死者を出している薬物のほとんどは、ヴェネズエラ産ではない。そして、アメリカの法執行機関は、たとえ有効な令状があっても、通常は海外で軍事行動を起こすことはない。

実際には、これは明らかにアメリカの力、そしてこの地域を支配する必要性を誇示するための演習となった。マドゥロ大統領はトランプ政権に繰り返し反抗し、カリブ海における圧力と軍備増強にもかかわらず、権力を手放して快適な亡命生活(a comfortable exile)を送ることを拒否してきた。マドゥロ大統領の継続的な抵抗に、たとえドナルド・トランプでさえ、アメリカの譲歩(U.S. concessions)によって乗り越えられる可能性は、常に低かった。トランプは、アメリカ大統領の中でも、ハイリスクな状況においてブラフを仕掛け、譲歩する姿勢で知られている。

これは、トランプ政権が最近発表した国家安全保障戦略において、いわゆるモンロー主義のトランプ系(Trump Corollary to the Monroe Doctrine)が提示されたことを考えると特に当てはまる。この戦略は、中国などの西半球外の勢力を締め出し、「西半球に軍事力やその他の脅威となる能力を配置する能力、あるいは戦略的に重要な資産を所有・管理する能力(the ability to position forces or other threatening capabilities, or to own or control strategically vital assets, in our Hemisphere)」を否定することを約束している。この文書が不吉に約束しているように、アメリカは「各国が私たちを第一選択のパートナーと見なすことを望んでおり、(様々な手段を通じて)他国との協力を阻止するつもりだ(nations to see us as their partner of first choice, and … will (through various means) discourage their collaboration with others)」。

マドゥロの拘束はまさにこの目的にかなうものであり、中国とロシアに西半球への介入を避けるよう求めるシグナルを送る可能性もある。また、複数の政権当局者によるキューバとメキシコに関する発言が示唆するように、これは他の地域内の諸国政府にも、移民問題、麻薬問題、あるいは他国との協力といった問題で協力を求めるシグナルを送ることになる。もし協力しなければ、アメリカによる懲罰的攻撃(a U.S. punitive strike)を受けるリスクがある。これは非常にリスクの高い戦略だ。今回の襲撃が計画通りに進まなければ、トランプ政権は期待していたよりも弱体化してしまう可能性がある。

おそらく最大の問題は、今回の襲撃をトランプのより広範な外交政策の文脈でどう解釈するかということだ。一部の人々はこれを政権内の1つの派閥の勝利(the triumph of one faction inside the administration)と解釈し、「タカ派が勝利している(The hawks are winning)」と簡潔に報じた。そして、この作戦の顔は明らかにタカ派のマルコ・ルビオ国務長官であることは事実だ。外国の政権交代を長年批判してきたJD・ヴァンス副大統領は、この襲撃を支持しているものの、襲撃に関する写真や記者会見には出席しておらず、その理由については安全保障に関する漠然とした発言のみで説明している。

しかし、トランプの側近であるタカ派やネオコンもこの状況に不満を抱いている。大統領は記者団に対し、民主派野党の有力候補であるマリア・コリーナ・マチャドには、近いうちにヴェネズエラで政権を掌握するために必要な支持がないと述べた。ルビオ長官もすぐにこの見解に同調した。政権当局者たちは、マドゥロの副大統領であるデルシー・ロドリゲスが政権移行に向けて政権と協力すると見込まれていると述べており、この作戦は民主政治体制を促す政権交代(pro-democracy regime change)というよりも、非協力的な指導者を排除すること(removing an uncooperative leader)が目的であることを示唆している。

このように、マドゥロ襲撃は、その行動は攻撃的かつ野心的であると同時に、政治的目的は非常に限定的である。この点において、これはおそらく2025年6月のトランプによるイラン核施設への攻撃に最も類似していると言えるだろう。どちらのケースでも、トランプはアメリカの軍事力の強力なデモンストレーションを行う一方で、911以降のアメリカの軍事介入の多くを悩ませてきたエスカレーション、混乱、そして意図せぬ結果(the escalation, chaos, and unintended consequences)を回避しようと努めた。つまり、彼はアメリカがほとんど何の責任も負わない武力行使を行えるという主張を試しているのだ。

このアプローチは、政権内の対立する諸派閥の間を縫うように進められ、ネオコンやレーガン主義の残党(Reaganite holdovers)が渇望する軍事行動を許容しつつ、介入主義(interventionist)に消極的な支持基盤に対しては、アメリカがイラク戦争のような惨事を再び招くことはないとの安心感を与えようとするものだ。これまでのところ、この戦略は功を奏している。しかし、政治的にも地政学的にも、依然として非常にリスクの高い戦略であることに変わりはない。トランプ大統領は幸運だった。イランへの攻撃は事態の大幅なエスカレーションにはつながらず、マドゥロ政権の掌握は今のところヴェネズエラを混乱に陥れたようには見えない。

しかし、だからといって、大統領が将来、例えばメキシコやグリーンランドで同様の攻撃を行った場合、その影響を回避できる能力がアメリカへの逆風に容易に転じないという保証はない。そして、トランプ大統領がこうしたアメリカの武力行使を繰り返せば繰り返すほど、そのどれかが壊滅的な結果を招く可能性が高まるのだ。ヴェネズエラでは、それは軍事クーデター、国家崩壊、あるいはより広範な難民危機(military coup, state collapse, or broader refugee crisis)を意味する可能性がある。他の地域では、戦争、もしくは混乱を意味する可能性がある。

トランプ大統領は、自身を支持してくれた支持基盤を遠ざけるリスクを負っているだけではない。この国際的な瀬戸際政策(this game of international brinksmanship)が成功するたびに、トランプはより自信過剰(more overconfident)になり、次回の誤算のリスク(the risks of miscalculation)が高まる可能性が高い。

※エンマ・アシュフォード:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。スティムソン・センターアメリカ大戦略再発想プログラム上級研究員。ジョージタウン大学非常勤助教。著作に『石油、国家、そして戦争(Oil, the State, and War)』がある。Xアカウント:@EmmaMAshford

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしています。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されています。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いです。

 国際政治は大国間の駆け引きの場となっている。ウクライナ戦争もまさにそうなっている。アメリカが仲介者の形で停戦に向けて、ロシアとウクライナとチャンネルを持って交渉を続けている。停戦交渉の内容はロシア寄りの内容になっており、ウクライナは受け入れられないと反発している。ウクライナはウクライナ軍の善戦を認めるとしても、実際には厳しい状況が続いている。アメリカやヨーロッパ諸国の支援を受けて戦争を継続できているが、大きな成果を上げるまでには至っていない。既に戦争開始から4年近くが経過している。これまでにロシア軍を撃退するような大戦果を収めることができていない。現状維持が精いっぱいのところだ。ウクライナ戦争について、アメリカが支援を削減すれば、ウクライナは戦争どころではない。
keithkellogdonaldtrumpstevewitkoff001
(左から)キース・ケロッグ、ドナルド・トランプ、スティーヴ・ウィトコフ

 アメリカではキース・ケロッグがウクライナ担当特使となっているが、現状ではほぼ存在感がない。そして、来年1月での辞任の意向を示している。ウクライナ寄りの立場での発がんが多く、ロシア側がケロッグを忌避している状況では、交渉の仲介者にはなれない。中東担当特使のスティーヴ・ウィトコフがウクライナ戦争の仲介にあたっている。ウィトコフはロシア寄りだという批判も多く、停戦が進まないのはウィトコフの無能のせいだという主張もある。しかし、現実を考えてみると、ウクライナには気の毒であるし、かわいそうではあるが、ロシア寄りの停戦条件にならざるを得ない。そもそもがウクライナを西側が対ロシア挑発の最前線にしてしまったという根本原因がある。西側諸国はウクライナのNATO加盟もEU加盟も認めてこなかったのに、軍事支援だけは行ってきた。これはいざとなれば、ロシアを挑発して、ロシアを暴発させて、ウクライナを攻撃させて、ロシアを返り討ちにするという考えでのことだった。失敗してもウクライナを切り捨てれば済む、そのために、NATO加盟もEU加盟も認めなかった。大きな誤算は、ロシアを暴発させたので、シナリオ通りにロシアを国際決済システムから締め出して経済的に締めあげたらすぐに降参すると思っていたら、ロシアはそれを見越してすでにドルを使わない決済方式を準備していたということだ。そして、西側以外の国々(the Rest)がロシアを支援したことだ。ウクライナ戦争は西側の敗北であり、敗北の責任は挙げて西側諸国にある。

 トランプ政権とウィトコフはこのことを理解している。それでも、仲介は進めるべきだ。停戦を進めるべきだ。ウィトコフだけでは厳しいようならば、中東での和平に功績があった、トランプの女婿ジャレッド・クシュナーを裏方、交渉役として使うべきだ。大事なことは一時的でもよいので停戦をすることだ。ウクライナには現状での停戦受け入れを基本線にするしかない。そして、ウクライナは危機的状況を好機に変えるために、国家体制や政治文化を大きく変化させる必要がある。戦争中でも汚職がはびこる国に未来はない。

(貼り付けはじめ)

米特使が「ロシアに助言」 与党から解任論―トランプ氏は擁護

時事通信 外信部202511300706分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025112900267&g=int#goog_rewarded

 【ワシントン時事】ロシアのウクライナ侵攻終結を巡り、対ロ交渉を担う米国のウィトコフ中東担当特使への批判が強まっている。ロシア高官との通話内容を伝えた米通信社の報道をきっかけに「ロシア寄り」の姿勢が浮き彫りになったためだ。トランプ米大統領は擁護しているが、与党共和党議員からも解任を求める声が出ている。

 「(トランプ氏を)平和の男だと尊敬していると伝えるんだ。そうすれば良い電話(会談)となる」。米ブルームバーグ通信は25日、ウィトコフ氏とロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)が10月14日に行った電話協議の詳細を報じた。

 ウィトコフ氏は5分超にわたるやりとりで、ウクライナのゼレンスキー大統領が10月17日にホワイトハウスを訪れる予定に触れ、これより前に米ロ首脳の電話会談を行うことを提案。トランプ氏をたたえるほか、ウィトコフ氏とウシャコフ氏が和平案を作成するという提案をプーチン氏が行うよう「助言」していた。

 米ロ首脳は10月16日に電話会談を行い、ハンガリーで会談することで合意。トランプ氏は「進展があった」と評価し、協議は首尾よく終わった。対照的に厳しい状況に置かれたのはゼレンスキー氏。トランプ氏はそれまで前向きな姿勢を見せていた米国製巡航ミサイル「トマホーク」の供与に応じなかったばかりか、17日の会談は「怒鳴り合い」(英メディア)の険悪な雰囲気に包まれた。

 米メディアによれば、ウィトコフ氏は10月下旬、プーチン氏に近いドミトリエフ大統領特別代表を南部フロリダ州マイアミに招き、トランプ氏の娘婿クシュナー氏も交え、侵攻終結を目指す新たな和平案を作成。ウクライナが東部2州を割譲し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念することなどロシアに有利な内容が盛り込まれた。

 トランプ氏は40年近い付き合いのあるウィトコフ氏に厚い信頼を寄せる。同氏は政権発足以降、ロシアを5回訪れてプーチン氏と会談した。だが、不動産業界出身で外交経験には乏しい。老練なプーチン氏に取り込まれていると不安視する専門家が多い。

 トランプ氏は今月25日、ウィトコフ氏の通話内容について記者団に問われると「普通の交渉だと聞いている」と擁護。和平案協議のため、ウィトコフ氏を再びロシアに派遣し、プーチン氏と会談させる考えも表明した。

 しかし、ロシア寄りの姿勢を見せるウィトコフ氏に対し、トランプ氏を支えるはずの共和党議員には懸念が広がる。ベーコン下院議員はX(旧ツイッター)上で「ロシアに肩入れしているのは明らかだ」と述べ、ウィトコフ氏の解任を主張。外交に明るいルビオ国務長官に対ロ交渉を任せるべきだと訴える声も出ている。

=====

トランプ氏娘婿に再び脚光 ガザ和平交渉の行方左右も

時事通信 外信部202510151243分配信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2025101400660&g=int

 【ワシントン時事】イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦を導いたとして、トランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏(44)が再び脚光を浴びている。第1次政権で大統領上級顧問を務め、イスラエルとアラブ諸国の関係を正常化する「アブラハム合意」をまとめた人物で、その存在は和平交渉の行方を左右しそうだ。

 「ジャレッドがとても助けてくれた。本当に特別なことを成し遂げてくれた」。トランプ氏は13日、イスラエル国会での演説で、パレスチナ自治区ガザの和平に向けた「第1段階」の合意を巡り、クシュナー氏の貢献をたたえた。

 第2次政権発足後、ガザの和平交渉はトランプ氏側近のウィトコフ中東担当特使が主導した。だが、バイデン前政権の協力で実現した1月の停戦合意は長続きせず、戦闘が再開すると外交経験のないウィトコフ氏に代わり、豊富な中東人脈を持つクシュナー氏に白羽の矢が立った。

 米メディアによれば、クシュナー氏はトランプ氏が9月に発表した20項目の和平計画の立案を担い、人脈をフル活用してアラブ諸国からの賛同を取り付けた。イスラエルとハマスの間接交渉にも加わり、イスラエルの攻撃再開を認めないとするトランプ氏の確約をウィトコフ氏と共にハマス幹部に直接伝え、第1段階の合意へとこぎ着けた。

 第2次政権では政府のポストに就かず、アラブ諸国から巨額の資金を調達して投資ファンド会社を運営するクシュナー氏の関与を問題視する見方もある。だが、トランプ氏が以前言及したガザの観光開発構想もクシュナー氏の発案とされ、トランプ氏への影響力は小さくない。

 停戦発効に伴い人質が解放され、今後の焦点はハマスの武装解除やガザの戦後統治などを巡る交渉に移る。「ついに中東に平和が訪れた」と高らかにうたうトランプ氏だが、ガザ情勢安定化はクシュナー氏の手腕が成否のカギを握る。

=====

ブロンクスのメッテルニヒ(The Metternich of the Bronx

-ウィトコフの外交は大きく失敗したが、彼は今後も重要な役割を果たす可能性が高いだろう。

エイドリアン・カラトニツキー筆

2025年6月20日

『フォーリン・ポリシー』

https://foreignpolicy.com/2025/06/20/steve-witkoff-trump-putin-russia-war-negotiations-diplomacy-peace-cease-fire-ukraine-iran-israel-hamas/

2025年6月2日にウクライナとロシアの担当者たちがイスタンブールで第2回停戦協議を行った際、真剣な交渉は行われないことは明らかだった。ドナルド・トランプ政権の和平合意への期待に応えることを切望するウクライナは、国防相を筆頭とする高官級代表団を派遣した。しかし、ロシアは中級以下の外交団を派遣したにとどまった。新たな捕虜交換への扉を開いたこと以外、会談は進展をもたらさなかった。クレムリンは、ウクライナの服従条件として、3年間変更されていない、条件を提示した。これには、ロシアによる占領下のウクライナ国内の5地域への支配権の承認(recognition of Russian dominion over five occupied Ukrainian regions)、ウクライナによる追加領土の割譲(the cession of additional territory by Ukraine)、ウクライナの中立(Ukrainian neutrality)、そして事実上の軍の非軍事化(the de facto de-militarization of its armed forces)が含まれていた。

ヨーロッパの代表団は和平プロセスへの支持を表明するためにイスタンブールを訪れたが、アメリカは出席しなかったことが注目された。これは、アメリカが交渉における主要な役割から疎外されていることを物語っている。これは和平プロセスへの高まる期待とは程遠く、ドナルド・トランプ米大統領がロシアのウラジーミル・プーティン大統領も出席するならイスタンブールに同席する用意があると示唆した5月の最初の会談に寄せられた期待からは明らかにかけ離れている。

トランプは長年、プーティンとの特別な関係を誇示し、ウクライナ和平を主要な外交政策目標としてきたが、ワシントンの不在は、政権の外交、そしてロシア・ウクライナ戦争への全体的なアプローチの失敗を如実に物語っている。この失敗は、無能な交渉、ロシアの真の野望への理解不足、そしてプーティンのシグナルの読み間違いの結果である。この失敗は最終的にはトランプの責任であるが、クレムリンへの彼の主要特使であるアマチュア外交官スティーヴ・ウィトコフの影響力によって、事態は深刻に悪化している。

ウィトコフが重要な外交分野に進出したことは、第2次トランプ政権における最大の驚きの1つだった。昨年11月まで、ウィトコフは外交政策プロセスから遠く離れた場所にいた。彼が最初に公職に就いたのは、トランプの大統領就任委員会の共同議長だった。しかし、2024年11月12日、トランプ大統領はウィトコフを中東担当の特使として初めて国際関係に携わるよう任命した。当初、退任するジョー・バイデン政権の同意を得て、ウィトコフはイスラエルとハマスと交渉を行った。トランプ大統領の就任後、ウィトコフの役職はアメリカ政府の正式なものとなった。

ウィトコフはトランプとは40年もの間見知ってきた。そして、トランプの熱心な支持者であり、友人であり、ゴルフ仲間でもある。特に、ウィトコフは、2021年1月6日の暴動後のトランプの最も困難な時期、そして2024年初頭にニューヨーク市で重罪の有罪判決に直面した際に、トランプに寄り添い、精神的に支え続けた。

ニューヨークのブロンクス生まれのウィトコフは、ニューヨーク市ロングアイランドのホフストラ大学で学び、弁護士のキャリアを積み、不動産開発と投資へと転身し、億万長者となった。共産主義崩壊後のロシアで財を成したソ連出身のレン・ブラバトニクとしばしば提携し、ウィトコフはニューヨーク、マイアミ、カリフォルニアに重点を置いた膨大な米国不動産ポートフォリオを構築した。彼の会社はロンドンでのいくつかの注目度の高い投資を中心に国際的な事業活動を行っていたが、ポートフォリオ全体のごく一部を占めるに過ぎない。ウィトコフは海外ビジネスの経験が不足しており、それがトランプがアメリカの外交政策の実施に起用した他のビジネスリーダーたちとは根本的に異なっている原因だ。

ウィトコフの最初の外交活動は、ハマスとイスラエルの紛争における停戦と人質解放の確保に焦点を当てたものだった。バイデン政権、第一次トランプ政権、そしてオバマ政権で外交政策の高官を務めたブレット・マクガーク(Brett McGurk)と緊密に連携し、ウィトコフはトランプ大統領就任のわずか数日前に短期合意を仲介することに成功した。60日間続いた合意は失効し、紛争は継続したが、ヴェテラン外交官と次期大統領の側近というタッグはうまく機能し、ウィトコフの評判は高まった。

中東での成功後まもなく、ウィトコフの職務範囲は劇的に拡大し、ロシアとイランとの直接交渉も担当することになった。歴史に名を残す外交官、例えばオーストリア帝国のクレメンス・フォン・メッテルニヒ(Klemens von Metternich)やアメリカのヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)を除けば、複数の重要な国際交渉の責任を1人の高官が担うことは稀なことだ。

それでも、トランプ大統領と個人的な繋がりを持ち、直接アクセスできる人物を任命することは、過去に成功を収めてきた。アブラハム合意をめぐる交渉では、トランプ大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナーが中心的な役割を果たし、中東情勢に長年精通した経験豊富なアドヴァイザー陣を頼りにしていたため、この手法は特に効果的だった。

しかし、ロシア問題になると、ウィトコフは方針を転換した。アメリカ政府の専門家陣と緊密に協力する代わりに、実質的にワンマンショーのようなやり方で交渉を進めた。物議を醸したのは、モスクワのアメリカ大使館やワシントンの国務省との実質的な関わりを避けたことだ。トランプ大統領が過去にしてきたように、プーティン大統領との会談でもアメリカ人の通訳や議事録作成者を起用しなかった。クレムリンの通訳に頼ったことで、プーティン大統領の原文のニュアンスを汲み取るという前例のない決断は、外交政策の専門家から広く批判された。

さらに、交渉開始から数カ月間、ウィトコフはウクライナ側と一切接触していなかった。ロシアとウクライナ、そして両国の長く苦い歴史についてほとんど無知だったウィトコフが単独で交渉に臨んだことは、ウクライナの正当なレッドライン(red lines、越えてはならない一線)に関する知識をほとんど、あるいは全く持たないままクレムリンに到着し、プーティン大統領の主張やシグナルを評価するための文脈を全く持たないままだった。

ウィトコフはトニー・ブレア元英首相やビル・クリントン元米大統領など、様々な立場から助言を求めたが、地域情勢に関する知識不足と外交の進め方に対する不慣れさが、数々の失策につながった。経験豊富な交渉担当者が曖昧な発言をし、静かに交渉を進めるのとは異なり、ウィトコフは交渉の現状について頻繁にコメントし、「大きな進展(significant progress)」があると断定的かつ大胆に主張することが多かったが、それは往々にして実現しなかった。同様に重要なのは、ロシア側の主張に同調し、ロシア側が譲歩に応じるという証拠を一切示さずに、一方的かつ先制的な譲歩を公然と提示する傾向が、ウィトコフ自身の外交を損なわせた点である。ウィトコフと他の政権当局者らが発表したこれらの一方的な譲歩には、アメリカによるウクライナのNATO加盟拒否、ウクライナへのアメリカからの援助の大幅削減、そしてウクライナはロシアの領土獲得を認めるべきとの宣言が含まれていた。

確かに、トランプは戦争の多くの側面においてロシアの路線を踏襲している。ロシアとの交渉状況を誇大宣伝し、停戦は目前に迫っており、より恒久的な和平につながるだろうと幾度となく示唆してきた。しかし、こうした発言と並行して、ロシアの好戦的態度や強硬姿勢に対する不満も時折口にしてきた。一方、ウィトコフはそうではない。プーティン大統領に取り入り、大規模な新たな共同投資パートナーシップを宣伝し、ロシアが和平に向けて大きく前進する用意があると称賛すれば、平和が訪れると信じているようだ。

ウィトコフがロシアとの交渉において中心的な役割を果たしたことは、別の弊害ももたらした。トランプとの個人的な親密さから、プーティン大統領の意図に関するウィトコフの評価は、より冷静な専門家の評価よりも重視されるようになった。こうしてウィトコフは、アメリカとの貿易と投資という漠然とした約束でプーティン大統領を中国との同盟から引き離せるという、トランプの疑わしい確信を強めてしまったのだ。

ウィトコフがロシア、ウクライナ、そしてこの戦争に関する自身の見解を最も詳細に説明したのは、3月21日に放送された、プーティン政権下のロシアを繁栄の模範と称賛し、ウクライナを「独裁政治(dictatorship.)」と嘲笑することで知られる、悪名高い反ウクライナ評論家であるタッカー・カールソンとのインタヴューの中でのことだった。このインタヴューは、ウクライナ、プーティン、そしてロシア政権の本質に関するウィトコフの驚くべき無知を露呈した。

ウィトコフは、ロシアが大規模な軍事攻撃を続け、発言の数日前にウクライナの都市で民間人を攻撃していたにもかかわらず、「30日間の停戦はそう遠くない」と楽観的に示唆した。

さらに、ヴィトコフ氏はプーチン大統領を「悪人(bad guy)」ではなく「慈悲深く(gracious)」「偉大な(great)」指導者だと擁護した。ウィトコフ特使は、1万人以上のウクライナ民間人の死、1000万人もの人々の避難、ウクライナ民間人や捕虜の即決処刑を行ったロシア軍兵士や傭兵の不処罰、そして国際刑事裁判所が発行したプーティン大統領逮捕状に記載されているウクライナの子供たちの拉致という戦争犯罪に対するプーティン大統領の責任について、無関心、あるいは認識していなかった。

さらに驚くべきことに、ウィトコフは戦争に関するロシアの決まり文句を無批判に繰り返している。2月にはCNNに対し、「戦争は起こる必要がなかった。挑発されたのだ。必ずしもロシアが挑発したとは限らない」と語った。彼は、ロシアが占領した地域(名前は思い出せなかったが)は「ロシア語圏」であるとカールソンに伝えてロシアの主張を補強し、これがモスクワへの忠誠の証であり、ロシアによる併合の正当な根拠であることを示唆した。

実際には、2014年以降、被占領下のドンバスからウクライナに逃れたウクライナ人の数は、ロシア統治下に留まったウクライナ人の数を上回っている。ロシア語を話すウクライナ人とウクライナ東部の住民は共に、ウクライナの戦闘部隊に多数参加している。また、2014年のロシア侵攻以降の世論調査では、ロシア語圏のウクライナ東部および南部の住民が、ロシアへの併合または統一の考えを断固として拒否していることが一貫して示されている。

ウィトコフはさらに、戒厳令と報道検閲の下で行われ、ジュネーブ条約に違反し、中立的な国際選挙監視団を排除し、逮捕、拷問、処刑への恐怖が蔓延する中で行われた、ロシアによる併合に関する偽りの国民投票の正当性を認めているように見受けられる。ウィトコフはまた、ロシアが望んでいるのは現在保有している領土だけであり、新たな領土を併合したり、残りの地域を破壊したりする意図はないと主張した。プーティン大統領がそのような発言をしたという証拠はない。

まとめると、ワシントンの特使ウィトコフはロシアの領土主張に信憑性を与えようと躍起になっていたが、その主張はロシアの野心とウクライナの現実を全く考慮していないものだった。

トランプ大統領の就任後、アメリカは急速にウクライナ支援国としての役割を放棄し、中立的な仲裁者(neutral arbiter)の役割を担うようになった。ウィトコフの外交、戦争の解釈、そしてロシアの主張への反論は、中立の域を超え、少なくとも部分的にはアメリカの立場をクレムリンの立場に沿わせる方向に進んだ。これはNATO加盟国に警戒感を与え、ヨーロッパは米ロ交渉とは無関係にウクライナを支援するに至った。

ウィトコフの任務―ロシア・ウクライナ間、イスラエル・ハマス間、そしてイラン-は、どの外交官にとっても大きな課題となるものだろう。しかし、迅速な打開策を約束したウィトコフの大胆な発言は、進展の欠如を浮き彫りにするだけだった。外交活動を開始して約半年になるが、ウィトコフの実績は乏しい。ロシア・ウクライナ問題では交渉は行き詰まり、イスラエル・ハマス問題では膠着状態に陥り、イラン情勢の悪化で交渉は頓挫した。

ウィトコフの外交は見事に失敗したものの、彼は今後もアメリカ外交において重要な役割を担う可能性が高い。結局のところ、ウィトコフの関与は、トランプが望む「ピースメイカー(peacemaker)」と「平和探求者(peace seeker)」のイメージを一層強化するものであり、こうした役割によって、伝統的な国家安全保障を重視する共和党とMAGAの孤立主義者との間の溝を跨ぎながら、アメリカが世界と関わっているという印象を与えることができる。同様に重要なのは、ウィトコフがロシアの行動と意図に関する有害なほど誤った解釈を強化し、交渉による和平の可能性を低下させていることである。

マイケル・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官の人事変更を受けて、トランプがウィトコフを同職に検討しているのではないかという憶測が飛び交った。ウィトコフはこれまで、不用意な譲歩、逆効果な外交、専門家顧問の解任、そして国際情勢に関する表面的な知識といった実績を残してきたため、このような任命はアメリカにとって計り知れない災難となるだろう。結局、ウィトコフの誤った外交官としての役割は、公務員、諜報専門家、外交官コミュニティ(トランプ氏が軽蔑的に「ディープステート(the “deep state”)」と呼ぶもの)の役割が、国際情勢について浅い知識しか持たない個人工作員で代替できないという事実を強調している。

※エイドリアン・カラトニツキー:大西洋評議会上級研究員、ミュリミドン・グループ創設者。著書に『戦場としてのウクライナ:独立からロシアとの戦争まで(Battleground Ukraine: From Independence to the War with Russia)』がる。

(貼り付け終わり)

(終わり)
sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 第二次ドナルド・トランプ政権は「変容した」と言うしかない。トランプの急激な変わり身は周囲を置き去りにしている。就任してすぐの、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領との会談の厳しい態度、JD・ヴァンス副大統領の厳しい叱責は、ウクライナ戦争の停戦を促す効果があると当時の私は考えていた。ヨーロッパ諸国、特にイギリスは「口だけ番長」で、武器も金も人も出さずに、ウクライナを焚きつけるだけ、ほとんどがアメリカの金で戦争が行われてきた。トランプはこの状況を変えるだろうと考えていた。
ukrainewarsituationmap20251106001

2025年も残り2カ月を切った。また年を越える。ウクライナ戦争は勃発以来、4年目であり、来年の2026年2月24日を過ぎても戦争が継続していれば、5年目に突入ということになる。ロシア政治や経済、国際関係の専門家たちは、ロシアは人員と戦費の関係で戦争を続けられないと4年間も言い続けた。月報のように「もうすぐロシアはギヴアップ」と言い続けてきた。アメリカとヨーロッパ諸国に比べて、圧倒的に経済面で脆弱なはずのロシアが戦争を継続し、奪取した地域を維持している。この戦争はウクライナの負けではなく、西側諸国の負けということになる。トランプはこの西が諸国の負けを確定させながらも、ロシアとの「ディール(deal、取引)」によって、ある程度の利益を確保できると私は考えていた。しかし、状況はどうもそうなっていない。
donaldtrumpkingcharlesiii001
ドナルド・トランプとイギリス国王チャールズ三世

 ヨーロッパ、とくにイギリスがトランプを取り込むことに成功したと考えている。関税交渉をうまく片付け、史上初の米大統領として2度目の国賓招待ということで、トランプを手懐(てなず)ける(tame)ことに成功したのかもしれない。イギリスの狡猾さと外交力は、実力を失って久しい21世紀になっても侮れない。「現代のビザンツ帝国と言うべきだろう。ヨーロッパは、ドナルド・トランプ、習近平、ウラジーミル・プーティンによるヤルタ2.0体制の構築を阻止し、ヨーロッパ防衛にアメリカを関与させ続けることに成功した。トランプの「変容」「変わり身」は、ポピュリズムの敗北を意味する。私たちはこのことを冷静に見つめ、分析しなければならない。

(貼り付けはじめ)

トランプとヴァンスがヨーロッパについてどれほど不快な態度を取ったとしても、彼らは率直な真実を語っている(No matter how distasteful we find Trump and Vance over Europe, they speak a blunt truth

-アメリカは最悪のタイミングと最悪の言い方を選んだが、再編を求めるのは正しい。

サイモン・ジェンキンス筆

2025年2月21日

『ザ・ガーティアン』紙

https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/feb/21/donald-trump-jd-vance-europe-us-realignment

ここ最近、右翼勢力でいるのは大変だ。ドナルド・トランプについて何か良いことを言う必要がある。それは困難だ。彼はウクライナ戦争を始めたのはキエフであり、その大統領であるウォロディミル・ゼレンスキーを「独裁者(dictator)」だと考えている。しかし、JD・ヴァンスはどうだろうか? アメリカ副大統領は、「言論の自由(free speech)を後退させている」ヨーロッパの「内部からの脅威(threat from within)」は、ロシアや中国からのどんな脅威よりも深刻だと考えている。彼らは正気を失っている。他に何を言うことがあるだろうか?

答えは数多くある。ジョン・スチュアート・ミルは「物事について、自分の側しか知らない人は、そのことについてほとんど何も知らない(he who knows only his own side of the case knows little of that)」と警告した。私たちは、彼らの主張に賛成するか否かに関わらず、理解しようと努力しければならない。

確かに、彼らは嘘つき(mendacious)で偽善的(hypocritical)だ。トランプは、ゼレンスキーが「選挙を拒否している(refuses to have elections)」と主張し、「各種世論調査では非常に低い支持率だ(very low in the polls)」と主張しているが、最近の世論調査では依然としてウクライナ国民の過半数の支持を得ている。「内部からの」言論の自由への脅威(the threat to free speech “from within”)に関しては、AP通信はメキシコ湾を「アメリカ湾(Gulf of America)」に改名することを拒否したためホワイトハウスのブリーフィングから締め出され、トランプ大統領の友人であるイーロン・マスクはCBSの「嘘つき(lying)」ジャーナリストは「長期の懲役刑に値する(deserve a long prison sentence)」と考えている。

トランプ・ヴァンスは、世界を善と自由へと導くという、神から与えられたアメリカの宿命について、半世紀にもわたって合意に基づいた曖昧な言い回しをしてきた。平和と戦争、移民問題、関税問題など、彼らはアメリカの利益のみを追求していると主張している。なぜアメリカは、自衛できないヨーロッパを守るために毎年数十億ドルもの費用を費やす必要があるのだろうか? なぜ遠く離れた国々に武器を与えて隣国と戦わせたり、途方もない額の援助を困窮するアフリカに注ぎ込んだりする必要があるのだろうか?

もし世界の他の国々が失敗してきたとしたら、アメリカは2世紀半もの間自由で豊かであり続けてきたのだが、それは世界の問題だ。アメリカはこの50年間、地球上の生活を向上させようと巨額の資金を費やしてきたが、率直に言って、それは失敗に終わった。外交儀礼(diplomatic etiquette)などどうでもいい。

ウクライナに関してはもうたくさんだ。ウラジーミル・プーティン大統領はアメリカを侵略するつもりはなく、西ヨーロッパを侵略する意図もない。もしヨーロッパがそうではないふりをし、ウラジーミル・プーティンの敵を擁護し、彼に制裁を与えて激怒させたいのであれば、ヨーロッパだけでそうすることができる。

NATOはヒトラーとスターリンの産物だ。ヨーロッパ防衛の費用をアメリカに負担させるための単なる手段に過ぎなかった。だが今は違う。米国防長官ピート・ヘグセットは「アメリカはもはやヨーロッパの安全保障の主要な保証者(the primary guarantor of security in Europe)ではない」と述べた。これで核抑止力も形骸化した。

実際には、こうした主張は目新しいものではない。ただし、これほど露骨に政権によって表明されたことはこれまでなかった。様々な形で、それらは1世紀以上にわたるアメリカのアイソレイショニズム(Isolationism)の表層下に潜んでいた。選挙に勝つため、ウッドロウ・ウィルソンは第一次世界大戦について「私たちとは無関係であり、その原因は私たちに及ばない(one with which we have nothing to do, whose causes cannot touch us)」と断言した。フランクリン・ルーズベルトも第二次大戦について同様の約束をした。彼はアメリカの母親たちに「何度でも繰り返すが、あなた方の息子たちは外国の戦争に送り込まれることはない(again and again and again, your boys are not going to be sent into any foreign wars”. Neither kept his word)」と約束した。どちらもその言葉を守らなかった。

ヴェトナム戦争時のように、戦争中はアメリカ世論も愛国的になる。しかしそれ以外は一貫して反介入主義的(anti-interventionist)だ。ケネディは「地球規模の犠牲(global sacrifice)」を訴え、「アメリカがあなたのために何をするかではなく、人類の自由のために共に何ができるかを問え(ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man)」と訴えたかもしれない。だがそれは主に外国向けの美辞麗句に過ぎなかった。

トランプ・ヴァンスが今、西ヨーロッパ諸国に伝えているのは「本気になれ(get serious)」だ。冷戦は終わった。ロシアが西ヨーロッパ占領を望んでいないことは周知の事実だ。この脅威は、賢明な大統領ドワイト・アイゼンハワーが「米軍産複合体(military-industrial complex)」と呼んだ連中が作り上げた幻想に過ぎない。彼らは恐怖から利益を搾り取ることに長けている。キア・スターマーが本当に「防衛を優先する(to give priority to defence)」つもりなら、自らの保健・福祉予算を削減して賄えばよい。だが彼は本当に脅威を感じているのか、それとも単に聞こえが良い言葉を言っているだけなのか?

ジョー・バイデンはキエフへの支援の程度に細心の注意を払った。今こそ脱出の避けられない瞬間だが、それに先立って非常に困難な停戦が必要となるだろう。ワシントンからの実質的な保証がなければ、キエフの最終的な敗北以外に道は開けない。ウクライナは、南ヴェトナムにおけるアメリカの再来となる可能性もある。

トランプ・ヴァンスは、冷戦の大部分を支えてきた陳腐な言葉(platitude)、こけおどし(bluff)、そして不当利得(profiteering)の混合物の実態を、最小限の配慮で暴露することを決断した。1989年のNATOの勝利は、より微妙なニュアンスを持つ多極世界への移行の必要性を示唆していたが、それは決して適切に定義されることはなかった。

トランプ・ヴァンスが言うように、再編は切実に必要だ。しかし彼らがそれを表明したタイミングと方法は最悪の選択だった。私たちは彼らに好きなだけ無礼に振る舞えるが、彼らにはアメリカの民主政治体制が味方するだろう。

※サイモン・ジェンキンス:『ザ・ガーディアン』紙コラムニスト。

(貼り付け終わり)

(終わり)
sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 


jinruiwofukounishitashoakunokongen001
『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』(ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

中東情勢は、イスラエルとハマスとの間で停戦合意がなされても、不安定なままだ。これは、アメリカの中東政策の失策とも言えるが、中東地域が持つ複雑さも原因となっている。そうした中で、ロシアも中東情勢において、重要な役割を果たそうとしている。ロシアの場合は、イランとの親密な関係を維持していると同時に、イスラエルとも良好な関係を持っている。それは、イスラエル国内に多くのロシア系ユダヤ人たちを抱えているからだ。彼らはイスラエル国内で一大勢力となっており、ロシア語を話せることから、ロシアとも関係を保っている。
usrussiairanisraelrelationsmap001

 ロシアは非西洋の一員として、イランを支援しているが、イランとイスラエルとの間の紛争には介入していない。あくまで中立を保っている。イスラエルによるガザ地区の攻撃について、イスラエルを非難しているが、最終的な断絶には至っていない。イランは、中東地域内に、イスラエルとサウジアラビアという潜在的な敵対国、ライヴァル国を抱えている。中国の仲介によって、イランはサウジアラビアとの関係を改善した。そうなると、イスラエルに集中することができる。イスラエルは軍事面、そして、情報・諜報面において、イランを凌駕している。アメリカの軍事支援を受けており、イスラエルが有利な立場にあってもおかしくない。しかし、実際はそうではない。イスラエルは狭小な国土に少ない人口を支えるのが精一杯だ。アメリカの支援がなければ厳しい。現在のような強硬姿勢をいつまで続けられるのかは不透明だ。ロシアとしては自分たちを高く売るために、イスラエルが弱体となるのを待っているように見える。イスラエルが強硬な姿勢を取る極右勢力とアメリカのために沈んでしまうのを選ぶかどうかは注目される。それは、日本にも当てはまる構図だからだ。

(貼り付けはじめ)

ロシアが今回のイスラエル・イラン紛争に介入しない理由(Why Russia Is Sitting Out This Round of the Israel-Iran Conflict

-ウラジーミル・プーティン大統領はイランへの依存度を低下させつつあり、その中で、彼はイランの地域ライヴァル諸国との関係維持を目指している。

ディミタール・ベチェフ筆

『フォーリン・ポリシー』誌

2025年6月25日

https://foreignpolicy.com/2025/06/25/russia-putin-iran-israel-nuclear-diplomacy/

10年前、ロシアは中東で最高の時を持っているように見えた。しかし、現在の視点から見ると、その瞬間は紛れもなく一時的なものに過ぎない。モスクワは2024年12月にシリアのバシャール・アサド大統領の失脚を阻止するために介入することはなかった。これは多くの人々を驚かせた。現在、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、イスラエルとイランの対立において中立的な姿勢を装い、テヘランへの具体的な支援ではなく、和平仲介者(a peacemaker)としての役割を果たすことを申し出ている。

プーティン大統領のそうした決断は、弱さによってなされている。窮地に陥った時、ロシアにはパウア・ポリティックス(power politics)に介入する意志も能力もない。しかし、距離を置くという決断は、モスクワの相反する動機(Moscow’s conflicting motives)も反映している。ロシアの利益は、イランの敵対者たちや競争者たち(Iran’s adversaries and competitors)を含む地域のプレイヤーたちとの複雑な関係をうまく切り抜けることを求めている。

2022年のウクライナ侵攻後、ロシアはイランとの関係を劇的に改善させた。その動機は実利的なもので、モスクワはテヘランを、テヘランがモスクワを必要とするよりも。はるかに必要としていた。イランはロシアにシャヘド・ドローンと関連技術を提供し、ロシアはこれらを用いてウクライナの都市やインフラを攻撃した。また、イランは西側諸国の制裁を回避するための実証済みのノウハウを共有し、モスクワの石油タンカー船団「ゴースト・フリート(ghost fleet)」がイランの経験から学ぶことを可能にした。両国はまた、ユーラシア大陸を横断する南北貿易ルートを強化するため、鉄道と港湾インフラの強化にも着手した。

ロシアはテヘランとの関係から間接的な利益も得ている。イランによるハマスとヒズボラへの支援は、2023年10月7日のイスラエルへの攻撃と、それに続く地域紛争(regional conflict)への道を開いた。中東における暴力の激化は、ウクライナから国際社会の注目を逸らし、西側諸国と南半球の大部分の間に確執(bad blood between the West and large parts of the global south)を生み出し、重要な大統領選挙を前にアメリカの国内政治に緊張をもたらした。さらに、中東の不安定化は通常、原油価格の上昇を招くが、これはロシア連邦の財政にとって常に好材料となる。

しかし、ロシアはイランへの支援に報いる形で対応した。10月7日の直後、ロシアの対応は、本来であれば考えられなかったほど反イスラエル連合寄りになった。ハマスの代表団は10月下旬にモスクワに到着し、表向きはロシア国籍を持つ人質の解放交渉を行った。2024年1月には、フーシ派の代表団がロシアのミハイル・ボグダノフ外務次官と会談した。また、アメリカの情報機関は、ロシアの軍事情報機関であるGRU(参謀本部情報総局)が、紅海を通過する西側諸国の船舶へのイエメン民兵による攻撃を支援しているとの報道を示唆している。

さらに重要なのは、プーティン大統領がイスラエルからの直接攻撃を受けたイランへの支持を表明したことだ。2024年8月にイスラエルの攻撃でハマスの指導者イスマイル・ハニヤが殺害された後、プーティン大統領は最高指導者アリー・ハメネイ師に接触し、自制を促した。そして今回とは異なり、プーティンはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に電話をかけなかった。その後、イスラエルがロシア・ウクライナ戦争で中立を装おうとしていた一方で、モスクワは2025年1月にテヘランと安全保障提携を締結した。

しかし、イランとイスラエルの最近の戦闘に対するロシアの反応は、ロシアとテヘランの友好関係が決して「無制限(no limits)」な類のものではなかったことを示している。第一に、両国の絆を裏付ける文書には、依然として漠然とした希望的観測に満ちた表現が散見される。テヘランとの安全保障パートナーシップに署名してから5カ月が経過したが、ロシアはイスラエルの戦闘機に対抗するための防空ミサイルシステム(air defense missile systems)といった、意味のある軍事支援(meaningful military assistance)を一切提供していない。テヘランが2023年に購入した最新鋭のSu-35戦闘機はまだ移管されておらず、イランは1970年代に購入したアメリカ製の航空機に頼らざるを得ない状況にある。

モスクワの姿勢は、イランに対するより根深い、相反する反映している。確かに、プーティン大統領はイスラエルの攻撃を非難し、アメリカが自らの攻撃によって「世界を非常に危険な状況に陥らせている(bringing the world to a very dangerous point)」と非難している。そして、介入主義的な行動を断固として拒否してきたクレムリンにとって、テヘランの政権交代の可能性は真に憂慮すべき事態である。しかし一方で、2010年にモスクワが国連安全保障理事会によるイランへの制裁を支持したことからもわかるように、核保有国であるイランはロシアにとっても利益にならない。同盟国としてのテヘランの有用性も低下しつつある。何しろ、シャヘド・ドローンは現在、ジェットエンジンやスターリンク対応のナビゲーション・コンポーネントといった主要なアップグレイドが施された状態で、ロシアで製造されている。

ロシアがイスラエル・イラン戦争に事実上介入しないという決定は、近年のイランとの関係を考えると意外に思えるかもしれないが、これはこの地域におけるモスクワのこれまでの行動と合致する。2015年にロシアがシリアに介入して以来、ロシア軍と対空ミサイルは、イスラエルがヒズボラをはじめとするイランの代理勢力を攻撃する間、傍観してきた。2018年9月のイスラエル空襲で、ロシア機がラタキア上空で撃墜されたことは事実だが、これはアサド政権の防空システムが引き起こした事故だった。モスクワの政策は、シリアにおける新たな地位を活用し、トルコ、サウジアラビア、そして程度は低いもののイスラエルを含むイランのライヴァル諸国と交渉することだった。

クレムリンはシリアへの軍派遣という選択において、確かに賭けに出た。しかしその後、外交的に利益を得ようと、比較的バランスの取れたアプローチを練り上げた。モスクワは、イランとイスラエル、アサド大統領とシリア反体制派、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とクルド労働者党(Kurdistan Workers’ PartyPKK)など、地域内のあらゆる利害関係者と交渉することで、地域間の対立を回避しようと努めてきた。戦時中のイランへの傾倒を経て、ロシアは今、この均衡(equilibrium)を取り戻そうとしている。

モスクワがテヘランに対して相反する感情を抱いているとすれば、ロシアの指導部と社会全体はイスラエルに対して愛憎入り混じった関係にあると言えるだろう。モスクワから発信されるプロパガンダは、イスラエルをアメリカの覇権の延長線上にあるかのように描くことが多い。さらに、反ユダヤ主義は東欧全域、そしてもちろんロシアにおいても、歴史と社会に深く根付いている。

しかし、こうした態度は、時に隠されながらも、しばしば非常に明白な、根深いイスラエル愛と共存している。多くのロシア人は、イスラエルの強硬な外交政策と、国際的な非難を無視して軍事力を行使し、既成事実を作り上げようとする姿勢を称賛している。テレグラム上のロシアの超国家主義者たちは、イスラエルの軍事力を称賛し、腐敗したエリート層がいなければ、ロシアも同等の力を発揮できたはずだと主張している。最後に、イスラエルに居住する大規模なロシア系移民の存在は、両国の間に強い絆を生み出している。

最近、プーティン大統領は「旧ソ連とロシア連邦からは約200万人がイスラエルに移り住んでいる。今日、イスラエルはほぼロシア語圏の国だ」と宣言した。このレトリックは誇張かもしれないが、その感情は実際的でもある。

モスクワがテヘランに対して相反する感情を抱いているとすれば、ロシアの指導部と社会全体はイスラエルに対して愛憎入り混じった関係にあると言えるだろう。モスクワから発信されるプロパガンダは、イスラエルをアメリカの覇権の延長(an extension of the U.S. hegemony)として描くことが多い。さらに、反ユダヤ主義(antisemitism)は東欧全域、そしてもちろんロシアにおいても、歴史と社会に深く根付いている。

しかし、こうした態度は、時に隠され、時に非常に明白な、根深いイスラエル愛と共存している。多くのロシア人は、イスラエルの強硬な外交政策と、国際的な非難を無視して既成事実を作り上げるために軍事力を行使する傾向を称賛している。テレグラム上のロシアの超国家主義者たちは、イスラエルの軍事力を称賛し、腐敗したエリート層がいなければロシアも同等の力を発揮できたはずだと主張している。さらに、イスラエルに多数のロシア系移民が存在することが、両国の間に強い絆を生み出しているとも主張している。

最近、プーティン大統領は「旧ソ連とロシア連邦出身の約200万人がイスラエルに移り住んでいる。今日、イスラエルはほぼロシア語圏の国だ」と宣言した。このレトリックは誇張かもしれないが、その感情は実際的でもある。

ロシアの行動は、結局のところ、中東における自らの影響力の限界を反映している。ワシントンを羨ましがるロシアだが、地域秩序の要としてアメリカに取って代わる立場にはない。また、地域諸国ほどリスクを負うことも決してないだろう。ロシアの最優先事項は、ウクライナを従属させ、旧ソ連圏における優位性を維持することにある。そのため、ロシアは中東において機会主義的(opportunistic)であると同時に、ある程度リスク回避的(risk averse)でもある。

結果として、ロシアはイスラエルを含む全ての地域プレイヤーと引き続きビジネスを行うだろう。イラン指導部はこのことを痛感している。

※ディミタール・ベチェフ:オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ・ヨーロッパ研究センター・ダーレンドルフ・プログラム部長。著書に『ライヴァル勢力:南東ヨーロッパにおけるロシア(Rival Power: Russia in Southeast Europe)』(イェール大学出版局、2017年)がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)
jinruiwofukounishitashoakunokongen001
『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ