古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ロシア

 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 第二次ドナルド・トランプ政権は「変容した」と言うしかない。トランプの急激な変わり身は周囲を置き去りにしている。就任してすぐの、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領との会談の厳しい態度、JD・ヴァンス副大統領の厳しい叱責は、ウクライナ戦争の停戦を促す効果があると当時の私は考えていた。ヨーロッパ諸国、特にイギリスは「口だけ番長」で、武器も金も人も出さずに、ウクライナを焚きつけるだけ、ほとんどがアメリカの金で戦争が行われてきた。トランプはこの状況を変えるだろうと考えていた。
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2025年も残り2カ月を切った。また年を越える。ウクライナ戦争は勃発以来、4年目であり、来年の2026年2月24日を過ぎても戦争が継続していれば、5年目に突入ということになる。ロシア政治や経済、国際関係の専門家たちは、ロシアは人員と戦費の関係で戦争を続けられないと4年間も言い続けた。月報のように「もうすぐロシアはギヴアップ」と言い続けてきた。アメリカとヨーロッパ諸国に比べて、圧倒的に経済面で脆弱なはずのロシアが戦争を継続し、奪取した地域を維持している。この戦争はウクライナの負けではなく、西側諸国の負けということになる。トランプはこの西が諸国の負けを確定させながらも、ロシアとの「ディール(deal、取引)」によって、ある程度の利益を確保できると私は考えていた。しかし、状況はどうもそうなっていない。
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ドナルド・トランプとイギリス国王チャールズ三世

 ヨーロッパ、とくにイギリスがトランプを取り込むことに成功したと考えている。関税交渉をうまく片付け、史上初の米大統領として2度目の国賓招待ということで、トランプを手懐(てなず)ける(tame)ことに成功したのかもしれない。イギリスの狡猾さと外交力は、実力を失って久しい21世紀になっても侮れない。「現代のビザンツ帝国と言うべきだろう。ヨーロッパは、ドナルド・トランプ、習近平、ウラジーミル・プーティンによるヤルタ2.0体制の構築を阻止し、ヨーロッパ防衛にアメリカを関与させ続けることに成功した。トランプの「変容」「変わり身」は、ポピュリズムの敗北を意味する。私たちはこのことを冷静に見つめ、分析しなければならない。

(貼り付けはじめ)

トランプとヴァンスがヨーロッパについてどれほど不快な態度を取ったとしても、彼らは率直な真実を語っている(No matter how distasteful we find Trump and Vance over Europe, they speak a blunt truth

-アメリカは最悪のタイミングと最悪の言い方を選んだが、再編を求めるのは正しい。

サイモン・ジェンキンス筆

2025年2月21日

『ザ・ガーティアン』紙

https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/feb/21/donald-trump-jd-vance-europe-us-realignment

ここ最近、右翼勢力でいるのは大変だ。ドナルド・トランプについて何か良いことを言う必要がある。それは困難だ。彼はウクライナ戦争を始めたのはキエフであり、その大統領であるウォロディミル・ゼレンスキーを「独裁者(dictator)」だと考えている。しかし、JD・ヴァンスはどうだろうか? アメリカ副大統領は、「言論の自由(free speech)を後退させている」ヨーロッパの「内部からの脅威(threat from within)」は、ロシアや中国からのどんな脅威よりも深刻だと考えている。彼らは正気を失っている。他に何を言うことがあるだろうか?

答えは数多くある。ジョン・スチュアート・ミルは「物事について、自分の側しか知らない人は、そのことについてほとんど何も知らない(he who knows only his own side of the case knows little of that)」と警告した。私たちは、彼らの主張に賛成するか否かに関わらず、理解しようと努力しければならない。

確かに、彼らは嘘つき(mendacious)で偽善的(hypocritical)だ。トランプは、ゼレンスキーが「選挙を拒否している(refuses to have elections)」と主張し、「各種世論調査では非常に低い支持率だ(very low in the polls)」と主張しているが、最近の世論調査では依然としてウクライナ国民の過半数の支持を得ている。「内部からの」言論の自由への脅威(the threat to free speech “from within”)に関しては、AP通信はメキシコ湾を「アメリカ湾(Gulf of America)」に改名することを拒否したためホワイトハウスのブリーフィングから締め出され、トランプ大統領の友人であるイーロン・マスクはCBSの「嘘つき(lying)」ジャーナリストは「長期の懲役刑に値する(deserve a long prison sentence)」と考えている。

トランプ・ヴァンスは、世界を善と自由へと導くという、神から与えられたアメリカの宿命について、半世紀にもわたって合意に基づいた曖昧な言い回しをしてきた。平和と戦争、移民問題、関税問題など、彼らはアメリカの利益のみを追求していると主張している。なぜアメリカは、自衛できないヨーロッパを守るために毎年数十億ドルもの費用を費やす必要があるのだろうか? なぜ遠く離れた国々に武器を与えて隣国と戦わせたり、途方もない額の援助を困窮するアフリカに注ぎ込んだりする必要があるのだろうか?

もし世界の他の国々が失敗してきたとしたら、アメリカは2世紀半もの間自由で豊かであり続けてきたのだが、それは世界の問題だ。アメリカはこの50年間、地球上の生活を向上させようと巨額の資金を費やしてきたが、率直に言って、それは失敗に終わった。外交儀礼(diplomatic etiquette)などどうでもいい。

ウクライナに関してはもうたくさんだ。ウラジーミル・プーティン大統領はアメリカを侵略するつもりはなく、西ヨーロッパを侵略する意図もない。もしヨーロッパがそうではないふりをし、ウラジーミル・プーティンの敵を擁護し、彼に制裁を与えて激怒させたいのであれば、ヨーロッパだけでそうすることができる。

NATOはヒトラーとスターリンの産物だ。ヨーロッパ防衛の費用をアメリカに負担させるための単なる手段に過ぎなかった。だが今は違う。米国防長官ピート・ヘグセットは「アメリカはもはやヨーロッパの安全保障の主要な保証者(the primary guarantor of security in Europe)ではない」と述べた。これで核抑止力も形骸化した。

実際には、こうした主張は目新しいものではない。ただし、これほど露骨に政権によって表明されたことはこれまでなかった。様々な形で、それらは1世紀以上にわたるアメリカのアイソレイショニズム(Isolationism)の表層下に潜んでいた。選挙に勝つため、ウッドロウ・ウィルソンは第一次世界大戦について「私たちとは無関係であり、その原因は私たちに及ばない(one with which we have nothing to do, whose causes cannot touch us)」と断言した。フランクリン・ルーズベルトも第二次大戦について同様の約束をした。彼はアメリカの母親たちに「何度でも繰り返すが、あなた方の息子たちは外国の戦争に送り込まれることはない(again and again and again, your boys are not going to be sent into any foreign wars”. Neither kept his word)」と約束した。どちらもその言葉を守らなかった。

ヴェトナム戦争時のように、戦争中はアメリカ世論も愛国的になる。しかしそれ以外は一貫して反介入主義的(anti-interventionist)だ。ケネディは「地球規模の犠牲(global sacrifice)」を訴え、「アメリカがあなたのために何をするかではなく、人類の自由のために共に何ができるかを問え(ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man)」と訴えたかもしれない。だがそれは主に外国向けの美辞麗句に過ぎなかった。

トランプ・ヴァンスが今、西ヨーロッパ諸国に伝えているのは「本気になれ(get serious)」だ。冷戦は終わった。ロシアが西ヨーロッパ占領を望んでいないことは周知の事実だ。この脅威は、賢明な大統領ドワイト・アイゼンハワーが「米軍産複合体(military-industrial complex)」と呼んだ連中が作り上げた幻想に過ぎない。彼らは恐怖から利益を搾り取ることに長けている。キア・スターマーが本当に「防衛を優先する(to give priority to defence)」つもりなら、自らの保健・福祉予算を削減して賄えばよい。だが彼は本当に脅威を感じているのか、それとも単に聞こえが良い言葉を言っているだけなのか?

ジョー・バイデンはキエフへの支援の程度に細心の注意を払った。今こそ脱出の避けられない瞬間だが、それに先立って非常に困難な停戦が必要となるだろう。ワシントンからの実質的な保証がなければ、キエフの最終的な敗北以外に道は開けない。ウクライナは、南ヴェトナムにおけるアメリカの再来となる可能性もある。

トランプ・ヴァンスは、冷戦の大部分を支えてきた陳腐な言葉(platitude)、こけおどし(bluff)、そして不当利得(profiteering)の混合物の実態を、最小限の配慮で暴露することを決断した。1989年のNATOの勝利は、より微妙なニュアンスを持つ多極世界への移行の必要性を示唆していたが、それは決して適切に定義されることはなかった。

トランプ・ヴァンスが言うように、再編は切実に必要だ。しかし彼らがそれを表明したタイミングと方法は最悪の選択だった。私たちは彼らに好きなだけ無礼に振る舞えるが、彼らにはアメリカの民主政治体制が味方するだろう。

※サイモン・ジェンキンス:『ザ・ガーディアン』紙コラムニスト。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 


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古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』(ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

中東情勢は、イスラエルとハマスとの間で停戦合意がなされても、不安定なままだ。これは、アメリカの中東政策の失策とも言えるが、中東地域が持つ複雑さも原因となっている。そうした中で、ロシアも中東情勢において、重要な役割を果たそうとしている。ロシアの場合は、イランとの親密な関係を維持していると同時に、イスラエルとも良好な関係を持っている。それは、イスラエル国内に多くのロシア系ユダヤ人たちを抱えているからだ。彼らはイスラエル国内で一大勢力となっており、ロシア語を話せることから、ロシアとも関係を保っている。
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 ロシアは非西洋の一員として、イランを支援しているが、イランとイスラエルとの間の紛争には介入していない。あくまで中立を保っている。イスラエルによるガザ地区の攻撃について、イスラエルを非難しているが、最終的な断絶には至っていない。イランは、中東地域内に、イスラエルとサウジアラビアという潜在的な敵対国、ライヴァル国を抱えている。中国の仲介によって、イランはサウジアラビアとの関係を改善した。そうなると、イスラエルに集中することができる。イスラエルは軍事面、そして、情報・諜報面において、イランを凌駕している。アメリカの軍事支援を受けており、イスラエルが有利な立場にあってもおかしくない。しかし、実際はそうではない。イスラエルは狭小な国土に少ない人口を支えるのが精一杯だ。アメリカの支援がなければ厳しい。現在のような強硬姿勢をいつまで続けられるのかは不透明だ。ロシアとしては自分たちを高く売るために、イスラエルが弱体となるのを待っているように見える。イスラエルが強硬な姿勢を取る極右勢力とアメリカのために沈んでしまうのを選ぶかどうかは注目される。それは、日本にも当てはまる構図だからだ。

(貼り付けはじめ)

ロシアが今回のイスラエル・イラン紛争に介入しない理由(Why Russia Is Sitting Out This Round of the Israel-Iran Conflict

-ウラジーミル・プーティン大統領はイランへの依存度を低下させつつあり、その中で、彼はイランの地域ライヴァル諸国との関係維持を目指している。

ディミタール・ベチェフ筆

『フォーリン・ポリシー』誌

2025年6月25日

https://foreignpolicy.com/2025/06/25/russia-putin-iran-israel-nuclear-diplomacy/

10年前、ロシアは中東で最高の時を持っているように見えた。しかし、現在の視点から見ると、その瞬間は紛れもなく一時的なものに過ぎない。モスクワは2024年12月にシリアのバシャール・アサド大統領の失脚を阻止するために介入することはなかった。これは多くの人々を驚かせた。現在、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、イスラエルとイランの対立において中立的な姿勢を装い、テヘランへの具体的な支援ではなく、和平仲介者(a peacemaker)としての役割を果たすことを申し出ている。

プーティン大統領のそうした決断は、弱さによってなされている。窮地に陥った時、ロシアにはパウア・ポリティックス(power politics)に介入する意志も能力もない。しかし、距離を置くという決断は、モスクワの相反する動機(Moscow’s conflicting motives)も反映している。ロシアの利益は、イランの敵対者たちや競争者たち(Iran’s adversaries and competitors)を含む地域のプレイヤーたちとの複雑な関係をうまく切り抜けることを求めている。

2022年のウクライナ侵攻後、ロシアはイランとの関係を劇的に改善させた。その動機は実利的なもので、モスクワはテヘランを、テヘランがモスクワを必要とするよりも。はるかに必要としていた。イランはロシアにシャヘド・ドローンと関連技術を提供し、ロシアはこれらを用いてウクライナの都市やインフラを攻撃した。また、イランは西側諸国の制裁を回避するための実証済みのノウハウを共有し、モスクワの石油タンカー船団「ゴースト・フリート(ghost fleet)」がイランの経験から学ぶことを可能にした。両国はまた、ユーラシア大陸を横断する南北貿易ルートを強化するため、鉄道と港湾インフラの強化にも着手した。

ロシアはテヘランとの関係から間接的な利益も得ている。イランによるハマスとヒズボラへの支援は、2023年10月7日のイスラエルへの攻撃と、それに続く地域紛争(regional conflict)への道を開いた。中東における暴力の激化は、ウクライナから国際社会の注目を逸らし、西側諸国と南半球の大部分の間に確執(bad blood between the West and large parts of the global south)を生み出し、重要な大統領選挙を前にアメリカの国内政治に緊張をもたらした。さらに、中東の不安定化は通常、原油価格の上昇を招くが、これはロシア連邦の財政にとって常に好材料となる。

しかし、ロシアはイランへの支援に報いる形で対応した。10月7日の直後、ロシアの対応は、本来であれば考えられなかったほど反イスラエル連合寄りになった。ハマスの代表団は10月下旬にモスクワに到着し、表向きはロシア国籍を持つ人質の解放交渉を行った。2024年1月には、フーシ派の代表団がロシアのミハイル・ボグダノフ外務次官と会談した。また、アメリカの情報機関は、ロシアの軍事情報機関であるGRU(参謀本部情報総局)が、紅海を通過する西側諸国の船舶へのイエメン民兵による攻撃を支援しているとの報道を示唆している。

さらに重要なのは、プーティン大統領がイスラエルからの直接攻撃を受けたイランへの支持を表明したことだ。2024年8月にイスラエルの攻撃でハマスの指導者イスマイル・ハニヤが殺害された後、プーティン大統領は最高指導者アリー・ハメネイ師に接触し、自制を促した。そして今回とは異なり、プーティンはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に電話をかけなかった。その後、イスラエルがロシア・ウクライナ戦争で中立を装おうとしていた一方で、モスクワは2025年1月にテヘランと安全保障提携を締結した。

しかし、イランとイスラエルの最近の戦闘に対するロシアの反応は、ロシアとテヘランの友好関係が決して「無制限(no limits)」な類のものではなかったことを示している。第一に、両国の絆を裏付ける文書には、依然として漠然とした希望的観測に満ちた表現が散見される。テヘランとの安全保障パートナーシップに署名してから5カ月が経過したが、ロシアはイスラエルの戦闘機に対抗するための防空ミサイルシステム(air defense missile systems)といった、意味のある軍事支援(meaningful military assistance)を一切提供していない。テヘランが2023年に購入した最新鋭のSu-35戦闘機はまだ移管されておらず、イランは1970年代に購入したアメリカ製の航空機に頼らざるを得ない状況にある。

モスクワの姿勢は、イランに対するより根深い、相反する反映している。確かに、プーティン大統領はイスラエルの攻撃を非難し、アメリカが自らの攻撃によって「世界を非常に危険な状況に陥らせている(bringing the world to a very dangerous point)」と非難している。そして、介入主義的な行動を断固として拒否してきたクレムリンにとって、テヘランの政権交代の可能性は真に憂慮すべき事態である。しかし一方で、2010年にモスクワが国連安全保障理事会によるイランへの制裁を支持したことからもわかるように、核保有国であるイランはロシアにとっても利益にならない。同盟国としてのテヘランの有用性も低下しつつある。何しろ、シャヘド・ドローンは現在、ジェットエンジンやスターリンク対応のナビゲーション・コンポーネントといった主要なアップグレイドが施された状態で、ロシアで製造されている。

ロシアがイスラエル・イラン戦争に事実上介入しないという決定は、近年のイランとの関係を考えると意外に思えるかもしれないが、これはこの地域におけるモスクワのこれまでの行動と合致する。2015年にロシアがシリアに介入して以来、ロシア軍と対空ミサイルは、イスラエルがヒズボラをはじめとするイランの代理勢力を攻撃する間、傍観してきた。2018年9月のイスラエル空襲で、ロシア機がラタキア上空で撃墜されたことは事実だが、これはアサド政権の防空システムが引き起こした事故だった。モスクワの政策は、シリアにおける新たな地位を活用し、トルコ、サウジアラビア、そして程度は低いもののイスラエルを含むイランのライヴァル諸国と交渉することだった。

クレムリンはシリアへの軍派遣という選択において、確かに賭けに出た。しかしその後、外交的に利益を得ようと、比較的バランスの取れたアプローチを練り上げた。モスクワは、イランとイスラエル、アサド大統領とシリア反体制派、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とクルド労働者党(Kurdistan Workers’ PartyPKK)など、地域内のあらゆる利害関係者と交渉することで、地域間の対立を回避しようと努めてきた。戦時中のイランへの傾倒を経て、ロシアは今、この均衡(equilibrium)を取り戻そうとしている。

モスクワがテヘランに対して相反する感情を抱いているとすれば、ロシアの指導部と社会全体はイスラエルに対して愛憎入り混じった関係にあると言えるだろう。モスクワから発信されるプロパガンダは、イスラエルをアメリカの覇権の延長線上にあるかのように描くことが多い。さらに、反ユダヤ主義は東欧全域、そしてもちろんロシアにおいても、歴史と社会に深く根付いている。

しかし、こうした態度は、時に隠されながらも、しばしば非常に明白な、根深いイスラエル愛と共存している。多くのロシア人は、イスラエルの強硬な外交政策と、国際的な非難を無視して軍事力を行使し、既成事実を作り上げようとする姿勢を称賛している。テレグラム上のロシアの超国家主義者たちは、イスラエルの軍事力を称賛し、腐敗したエリート層がいなければ、ロシアも同等の力を発揮できたはずだと主張している。最後に、イスラエルに居住する大規模なロシア系移民の存在は、両国の間に強い絆を生み出している。

最近、プーティン大統領は「旧ソ連とロシア連邦からは約200万人がイスラエルに移り住んでいる。今日、イスラエルはほぼロシア語圏の国だ」と宣言した。このレトリックは誇張かもしれないが、その感情は実際的でもある。

モスクワがテヘランに対して相反する感情を抱いているとすれば、ロシアの指導部と社会全体はイスラエルに対して愛憎入り混じった関係にあると言えるだろう。モスクワから発信されるプロパガンダは、イスラエルをアメリカの覇権の延長(an extension of the U.S. hegemony)として描くことが多い。さらに、反ユダヤ主義(antisemitism)は東欧全域、そしてもちろんロシアにおいても、歴史と社会に深く根付いている。

しかし、こうした態度は、時に隠され、時に非常に明白な、根深いイスラエル愛と共存している。多くのロシア人は、イスラエルの強硬な外交政策と、国際的な非難を無視して既成事実を作り上げるために軍事力を行使する傾向を称賛している。テレグラム上のロシアの超国家主義者たちは、イスラエルの軍事力を称賛し、腐敗したエリート層がいなければロシアも同等の力を発揮できたはずだと主張している。さらに、イスラエルに多数のロシア系移民が存在することが、両国の間に強い絆を生み出しているとも主張している。

最近、プーティン大統領は「旧ソ連とロシア連邦出身の約200万人がイスラエルに移り住んでいる。今日、イスラエルはほぼロシア語圏の国だ」と宣言した。このレトリックは誇張かもしれないが、その感情は実際的でもある。

ロシアの行動は、結局のところ、中東における自らの影響力の限界を反映している。ワシントンを羨ましがるロシアだが、地域秩序の要としてアメリカに取って代わる立場にはない。また、地域諸国ほどリスクを負うことも決してないだろう。ロシアの最優先事項は、ウクライナを従属させ、旧ソ連圏における優位性を維持することにある。そのため、ロシアは中東において機会主義的(opportunistic)であると同時に、ある程度リスク回避的(risk averse)でもある。

結果として、ロシアはイスラエルを含む全ての地域プレイヤーと引き続きビジネスを行うだろう。イラン指導部はこのことを痛感している。

※ディミタール・ベチェフ:オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ・ヨーロッパ研究センター・ダーレンドルフ・プログラム部長。著書に『ライヴァル勢力:南東ヨーロッパにおけるロシア(Rival Power: Russia in Southeast Europe)』(イェール大学出版局、2017年)がある。

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 以下のスティーヴン・M・ウォルトの論稿は、ヨーロッパ諸国に向けた内容であるが、日本にとっても参考になる内容である。特に、現在、トランプ関税で厳しい交渉を続けている赤澤亮正経済再生担当大臣に読んでもらいたい内容だ。

 第二次ドナルド・トランプ政権との交渉を行う際には、アメリカの利益と自国の利益に配慮しつつ、引きすぎてはいけない。あまりにも過剰な要求をしてくるのであれば、交渉材料を持って、アメリカに抵抗する。引きすぎた時点で、トランプ政権は与しやすい相手と見て、さらに過大な要求をしてくる。逆に、強く出つつ、妥協をすれば、骨のある相手ということで、一定の配慮をする。付け入られないようにすることが重要だ。赤澤大臣は短期間に何度も日米間を往復し、ワシントンでの交渉に臨んでいる。妥協は成立していないようだが、それだけタフな交渉をしているのだろうと考えられる。

 ヨーロッパ諸国が中心となっているNATOでは、トランプ政権の要求を受け入れて、国防負の対GDP比5%実現を発表した。これは何とも解せない話だ。ヨーロッパの仮想敵(既に仮想ではないだろうが)はロシアだ。ロシアを恐れるあまりにこのようなことになったと考えられるが、そもそも、GDPで見ても、国防費で見ても、ヨーロッパはロシアを大幅に上回っている。フランスもイギリスも核兵器を保有している。ロシアを過剰に恐れる必要はない。ロシアとの関係を少しでも改善すればそれで済む話だ。ヨーロッパ諸国は国防費の対GDP比5%などやってしまったら、社会が大きく混乱し、不安定となる。それこそ、ローマ帝国は過剰な軍事費負担のために衰亡したではないか。その轍を踏むことになる。
 私はここまで書いて、ヨーロッパが恐れているのはロシアではないのではないかと考えついた。ヨーロッパが恐れているのは、「西側以外の国々(the Rest)」の「復讐」ではないかと考えた。日本人から見れば、今更そんなことは起きるはずはないと考えるが、ヨーロッパが500年近くにわたり行った残虐な植民地支配の記憶が、宗主国であったヨーロッパ諸国を苦しめているのではないかと思う。「自分たち(ヨーロッパ)が衰退して、立場が逆転した場合に、彼らはきっと復讐するだろう、なぜなら、自分たちが同じ立場だったらそうするからだ」という思考になっているのだろう。世界構造の大変化、大転換に際し、ヨーロッパはそのような不安感と恐怖に取りつかれているのではないか。
 筆がだいぶ横に滑って脱線してしまった。話を戻す。私は下記論稿を読んで、論稿の要諦は「最善を望み、最悪に備える(Hope for the best; plan for the worst)」であると主張する。そして、これは、外交をはじめとする政治の要諦でもあると思う。是非記憶しておきたい言葉だ。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはトランプ大統領にどう対処すべきか(How Europe Should Deal With Trump

大国間政治(great-power politics)を真剣に考えるべき時が来た。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年5月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/05/07/europe-trump-us-defense-nato-china-technology/

ヨーロッパは岐路に立たされている。環大西洋安全保障協力(trans-Atlantic security cooperation)の全盛期は過去のものとなり、ドナルド・トランプ政権はヨーロッパの大半を侮蔑、軽蔑、あるいは敵対視(contempt, disdain, or outright hostility)している。少なくとも、ヨーロッパの指導者たちはもはやアメリカの支援と保護を当然視することはできない。最善を望むことはできるが、最悪の事態に備えなければならない(They can hope for the best, but they must plan for the worst)。そしてそれは、世界政治において独自の道を歩むことを意味する。

公平を期すなら、この状況はドナルド・トランプ大統領の責任ばかりではない。仮にトランプ大統領が当選していなかったとしても、大西洋間の関係の根本的な見直しはとっくに終わっていた。地球儀を見れば、その理由を理解できる。アメリカはヨーロッパの大国ではないし、そこに永続的にアメリカ軍がコミットするのは歴史的にも地政学的にも異常なことだ。この種のコストのかかる関与は、明確な戦略的必要性(clear strategic necessity)によってのみ正当化される。アメリカが第一次世界大戦と第二次世界大戦に参戦したのも、冷戦時代にヨーロッパにかなりの兵力を駐留させたのも、この戦略的目的(strategic objective)が主な理由である。

これらの政策は以前であれば理に適っていた。しかし、冷戦が30年以上前に終結し、アメリカの一極時代(the unipolar moment)も数年前に終わった。中国は今やアメリカの主要な大国のライヴァルであり、潜在的な地域覇権国(a potential regional hegemon)である。アメリカはアジアにおける中国の覇権を阻止するために、限りある資源とエネルギーを集中させる必要がある。良いニュースは、現在、ヨーロッパを支配できるほど強力な国はないということだ。ロシアであってもヨーロッパを支配することは不可能だ。これが意味するところは、アメリカはもはやヨーロッパ防衛の負担を負う必要はなくなったということだ。ヨーロッパの人口はロシアの3倍以上、GDPはロシアの9倍であり、NATOのヨーロッパ加盟諸国は防衛費でもロシアを上回っている。もしヨーロッパの潜在的な力が適切に動員されれば、アンクルサム(訳者註:アメリカ)からの直接的な援助がなくても、ヨーロッパはロシアからの直接的な挑戦を抑止し、打ち負かすことができるだろう。

理想的には、アメリカはヨーロッパと協力して新たな分担を交渉し、この移行を可能な限り円滑かつ効率的に進めるべきだ。6月に開催されるNATO首脳会議は、特にアメリカが建設的な役割を果たすことを選択した場合、このプロセスを加速させる絶好の機会となるだろう。

残念ながら、トランプ政権はヨーロッパを貴重な経済パートナーや有用な戦略的同盟諸国とは考えていない。誇張しすぎているかもしれないが、トランプ政権はヨーロッパを、トランプとMAGA運動が拒絶するリベラルな価値観に傾倒する、堕落し、分裂し、衰退する国家の集合体(a set of decadent, divided, and declining states committed to liberal values that Trump and the MAGA movement reject)と見なしている。トランプは、主流派のヨーロッパの政治家たちよりも、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領やハンガリーのヴィクトル・オルバン首相のような独裁者との方が安心感があり、政権はドイツのAfDやフランスのマリーヌ・ル・ペン率いる国民連合のような極右グループに共感的だ。トランプはブレグジットを支持し、ヨーロッパ連合(EU)は「アメリカを困らせる」ために設立されたと考えており、ヨーロッパ全体を代表するEU当局者と交渉するよりも、個々のヨーロッパ諸国と個別に交渉することを望んでいる。彼は、グリーンランド併合やカナダをアメリカ合衆国の一部とするという自身の夢を阻害する可能性のある規範や規則を拒否している。そして、トランプが始めた関税戦争にヨーロッパを巻き込むことで、トランプが望んでいるとされる国防費目標をヨーロッパが達成することを困難にしている。

ヨーロッパの観点からすれば、これらは全て十分に憂慮すべき事態だが、ヨーロッパの指導者たちはトランプ政権の根深い無能さも受け入れる必要がある。混沌とした貿易戦争はこの問題の最も明白な具体例であるが、政権による不適格な人事、恥ずべきシグナルゲート事件、科学界や大学への継続的な攻撃、ロシアやイランとの素人同然の交渉、そして国防長官室から生じる度重なる混乱も忘れてはいけない。もしヨーロッパの指導者たちが、アメリカは自分たちのやり方を理解していると思い込み、アメリカの先導に従うことに慣れきっているのであれば、今こそ考え直す時だ。

それでは、彼らはどうすべきだろうか?

もちろん、ヨーロッパの人々が私の助言を無視するのは自由だが、もし私が彼らの立場だったら、第一に、

現在の問題の責任をワシントンに明確に負わせることから始めるだろう。彼らはアメリカと争うつもりはなく、協力的な精神で新たな安全保障・経済協定について交渉することには喜んで応じるということを強調すべきだ。しかし、ワシントンが戦いを挑むことに固執するのであれば、ヨーロッパの利益を守るためならどんな犠牲を払っても構わないという覚悟があることを明確にすべきだ。

第二に、もしヨーロッパ諸国が非友好的な米政権と対峙しなければならないのであれば、声を合わせて、アメリカによる分断工作に抵抗する方がはるかに賢明である。ヨーロッパは、最近のドラギ総裁報告書で提言された経済改革の大半を実施し、反対派加盟諸国が必要な行動を阻止できる拒否権を廃止すべきである。もしこれがハンガリーのような反対派の国をEU離脱に導いたとしても、残りの加盟諸国はより有利な状況になる可能性は高い。

第三に、大国間政治(great-power politics)が復活し、ヨーロッパはより多くのハードパワーを必要としている。これは国防予算の増額という問題ではなく(一部のヨーロッパ諸国は増額を必要としているものの)、ユーロを効果的に使い、アメリカの支援に大きく依存しない持続可能な戦場能力を構築するという問題である。ジェームズ・マティス元国防長官が掲げた「フォー・サーティーズ(Four Thirties)」(30個大隊、30個航空隊、30隻の艦艇を30日以内に配備可能)という目標は良い出発点だが、アメリカの支援に大きく依存しない信頼性の高いヨーロッパ軍を構築するには、それ以上のものが求められる。バリー・ポーゼンが最近『フォーリン・アフェアーズ』誌で警告したように、ヨーロッパは戦後ウクライナにおける費用のかかる平和維持活動に巻き込まれることを避け、必要とされる場所であればどこでも介入できる強力な諸兵科連合能力(developing a robust combined arms capability that can intervene wherever it is needed.)の構築に注力すべきだ。

第四に、アメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」がますます信頼できなくなりつつあることから、ヨーロッパは地域の安全保障における核兵器の役割について、真剣かつ持続的な議論を行う時期に来ている。もちろん、この問いにどう答えるかはヨーロッパの人々次第だが、これ以上無視することはできない。私の考えでは、信頼できるヨーロッパの抑止力には、アメリカやロシアの核兵器保有量に匹敵するようなものは必要ない。ヨーロッパの政府高官や戦略専門家がこうした問題について議論し始めていることは朗報である。

第五に、ヨーロッパ諸国は、アメリカが敵対的あるいは信頼できない態度を取り続けるのであれば、自分たちには選択肢があり、中国を含む他国と協力することをワシントンに思い知らせる必要がある。EUは中国との貿易について独自の懸念を持っているが、トランプ大統領がアメリカ国内の関税引き上げを主張するのであれば、北京との経済関係を維持し、場合によっては拡大することが必要かもしれない。このような理由から、EU首脳が7月に北京を訪問することは、ワシントンに自分たちを当然視しないよう念を押すためであるとしても、理にかなっている。

ヨーロッパ諸国はこれまで、たとえ多大なコストがかかったとしても、先端技術分野の重要分野においてアメリカの先導に進んで従ってきた。例えば、オランダはジョー・バイデン政権の要請に応じ、オランダ企業ASMLによる中国への先端リソグラフィー装置の販売を禁止した。また、EU諸国の中には、代替技術よりも安価で優れているにもかかわらず、ファウェイの5G技術を禁止する国もいくつかある。しかし、トランプ政権が他の問題でもヨーロッパに対して強硬な姿勢を崩さないのであれば、ヨーロッパは今後、この種の要求にはるかに慎重に対処べきだ。

最後に、長期的には、ヨーロッパ諸国はロシアとの関係を緩和する方法を模索すべきだ。特にプーティン大統領が依然としてロシアを支配している場合、これは容易なことではないが、現在の深刻な相互疑念、対立、そして混乱の状態は、ヨーロッパにとって利益にはならない。ヨーロッパ諸国のハードパワーが高まり、安全保障が向上するにつれて、各国は双方の正当な安全保障上の懸念に対処するための信頼醸成措置を受け入れる姿勢を維持すべきだ。ヘルシンキ・プロセスやヨーロッパ安全保障協力機構などの過去の取り組みは、ライヴァル国間でも緊張緩和(デタント、détente)が可能であることを私たちに思い出させてくれるものであり、将来のヨーロッパの指導者たちはこの可能性に心を開いておくべきだ。

これは野心的なアジェンダであり、大きな政治的障害に直面するだろう。ヨーロッパの戦略的自立性を高めるための過去の取り組みは常に失敗に終わったが、今日のヨーロッパはこれまでとは全く異なる状況に直面している。アメリカの大学や法律事務所が学んだように、トランプ政権を宥めようとすれば、要求がさらに強まるだけだ。一方、政権に抵抗すれば、他国も追随し、時にはホワイトハウスが自らの立場を再考することになる。今こそそうであることを願うしかない。いずれにせよ、ヨーロッパが自立を維持し、脆弱性を最小限に抑えたいのであれば、アメリカがもはや信頼できるパートナーではなくなった世界に備える以外に選択肢はない。最善を望み、最悪に備えるのだ(Hope for the best; plan for the worst)。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

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 一昨日(2025年6月29日)、中国政府が、9月3日に実施する戦勝80周年記念の軍事パレードに、アメリカのドナルド・トランプ大統領を招待する意向であるという報道が出た。このパレードにはロシアのウラジーミル・プーティン大統領も出席する予定と報じられており、トランプが出席するということになれば、北京の地で、習近平、トランプ、プーティンの「三帝会談」が実現する可能性もある。「ヤルタ2.0」と言っても良い。戦勝80周年記念パレード開催に合わせて、上海協力機構(SCO)首脳会談も実施される予定で、こちらに参加する首脳たちも戦勝80周年記念式典に参加する予定だ。上海協力機構にはイランが参加しており、イランがどのクラスの首脳を出席させるかによるが、アメリカとイランとの間の最高首脳クラスの接触ということも考えられる。
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 アメリカと中国は、トランプ関税の発表以来、緊張関係が続いている。しかし、両国は、第二次世界大戦の戦勝国で、国連安保理(the United Nations Security Council)の常任理事国(permanent members)である。これにロシアも加わる。私は、これまでの著作で、世界構造は大きく変化しつつあり、「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)対西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の対立構造になっていると書いた。そうした中で、西側諸国を率いるアメリカと、西側諸国以外の国々のリーダーとなっている中国とロシアは、日本とドイツをはじめとする枢軸国(the Axis)に勝利して、国際秩序を成立させたという「共通点」を持っている。連合国(the Allied Powers)と枢軸国の色分けの地図を見てもらうと分かるが、ユーラシアの両端(ドイツと日本)と戦った中国とロシア、大西洋と太平洋の2つに面しており、大西洋からヨーロッパ、太平洋からアジアで、ドイツと日本を圧迫し、撤退させ、ロシアや中国を支援したアメリカという構図を改めて認識すべきである。
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中国はアメリカとの関係修復のために、日本に対する戦勝記念というカードを利用してきた。トランプ大統領とアメリカ政府が招待に応じることはないだろうが、トランプは何をしてくるか分からない。

 現在、日本国内で排外主義と歴史修正主義、復古主義が勢いを持っている。日本会議系・統一教会系に影響された故安倍晋三元首相支持の勢力がおり、それが国民民主党や参政党へと流れている。こうした人々は自分たちが危険な火遊びをしていることに気づかない。国内にしか目が向かないからだ。現在の世界秩序の中で、日本は「敗戦国であり、世界の秩序に逆らったという前歴を持ち、頭を下げて国際社会に復帰させてもらった存在」である。ドイツも同じだ。この枠組みを変更しようという動きが大きくなれば、「国際社会に弓を引く」という解釈をされかねない。日本は中国とロシアと国境を接している。この両国に付け入る隙を与えてはならない。慎重に、かつ低姿勢で事を進めていかねばならない。今回の中国の動きでそれを改めて認識しなければならない。

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【独自】中国、閲兵式にトランプ氏を招待 9月、抗日戦勝記念で方針

6/29() 21:00配信

https://news.yahoo.co.jp/articles/8fd7bcfe96026e4780c2431f506ca056fb98d101

 【北京共同】中国政府は93日に北京の天安門広場周辺で行う「抗日戦争勝利80年」記念の軍事パレード(閲兵式)にトランプ米大統領を招待する方針を固めた。また今年で創設80年の国連の総会が9月に米ニューヨークで開かれるのに合わせて、米政府が中国の習近平国家主席の訪米を提案したことも分かった。関係筋が29日、明らかにした。

 両首脳が対面で会談すれば第2次トランプ政権では初めて。軍事パレードにはロシアのプーチン大統領が参加する見通し。トランプ氏も参加すれば米中ロ首脳が共に「対日戦勝」を祝うことになり、日本にとっては大きな懸念事項になる。

 関係筋によると、トランプ氏自身は訪中に意欲を示しているため、軍事パレード参加にも前向きな姿勢だと中国側は分析している。ただルビオ米国務長官ら政権の要職に就いている多数の対中強硬派が反対するとみている。

 国連総会に合わせた習氏訪米について、中国側はメディアの前でトランプ氏と激しい口論になったウクライナのゼレンスキー大統領の二の舞いになることを警戒している。
=====
中国が第二次世界大戦終結80周年記念軍事パレードを9月3日に開催(China to hold military parade Sept. 3 for 80th anniv. of end of WWII

共同通信(KYODO NEWS ) 2025年6月24日

https://english.kyodonews.net/news/2025/06/41e9f30a4b57-china-to-hold-military-parade-sept-3-for-80th-anniv-of-end-of-wwii.html#google_vignette

中国は火曜日、第二次世界大戦終結80周年を記念し、93日に北京の天安門広場で軍事パレードを開催すると発表した。習近平国家主席が式典で演説を行う予定だ。

国営新華社通信によると、1937年から1945年にかけての抗日戦争における勝利を記念するこのパレードでは、「無人情報システム、水中戦闘部隊、サイバー・電子戦力、極超音速兵器といった新型戦闘能力を披露する(display new-type combat capabilities such as unmanned intelligent systems, underwater combat units, cyber and electronic forces and hypersonic weapons)」という。

ロシアのウラジーミル・プーティン大統領もこの式典に出席するとみられている。習近平国家主席は5月、モスクワで行われたヨーロッパにおける第二次世界大戦終結80周年記念式典(ロシアでは戦勝記念日)と赤の広場で行われた軍事パレードに参加した。

中国は今秋、北京近郊の天津でロシアも参加する上海協力機構(the Shanghai Cooperation OrganizationSOC)首脳会議を主催する予定で、加盟諸国の首脳たちは北京で行われる戦勝記念日の式典に出席する見込みだ。

この地域機構には現在、中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタン、イラン、ベラルーシの10カ国が加盟している。

戦後80周年を記念する行事の一環として、中国は、日本との本格的な開戦のきっかけとなった1937年の盧溝橋事件(the Marco Polo Bridge Incident)を記念する式典を7月7日に、同じ1937年に日本軍による南京大虐殺(the massacre in Nanjing)の犠牲者を追悼する式典を12月13日に開催すると発表した。

北京市南西部の石橋(盧溝橋[Lugou Bridge]としても知られる)付近で発生した日中両軍の小競り合い(a skirmish)は、1945年に日本が連合国(the Allied Powers)に降伏するまで続く本格的な紛争(a full-scale conflict)へと発展した。

中国は、旧南京(江蘇省)で日本軍が30万人以上を虐殺したと主張している。一方、日本の歴史家たちは、中国の民間人と兵士の死者数を数万人から20万人と推定している。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 居酒屋での砕けた政治談議で、「今の政府は頼りない」「今の政治家は駄目だ」「三世、四世ばかりで力がない」「官僚たちは国民のことなんか何も気にしていない」と口にしたことがある人は多いだろう。政治と宗教とプロ野球の話は喧嘩になったり、後腐れが残ったりするので、表ではしないようにということは教えられるが、気の置けない仲間たちやグループということになると、こういうことを話すことがある。

 私もたまに友人たちとこういう話をすることもある。私が本を書いているということもあって、本を読んでもらって、私の本の中身について話すこともある。その中で、「西側諸国(ジ・ウエスト)対それ以外の国々(ザ・レスト)」の対立構造は共感を得ていることが多い。そして、「今の日本政治家は駄目だが、アメリカや先進諸国もよく分からない。けど、君が書いているように、確かに、非西側の国々の指導者たちは独裁的だけど、実力があるように見える」というようなことを言う人がいる。

 私はこういった考えは既に広がっていて、政治に対する不信感が日本国内における政治への無関心につながっていると思うし、更に言えば、アメリカでドナルド・トランプを大統領に押し上げたのも不信感であると考えている。日本では戦後、短期間を除いて自民党が与党となり、アメリカでは二大政党である民主党と共和党が、大統領選挙、連邦議会選挙で、与党と野党となることを繰り返している。どちらにも言えることだが、選挙で与党を交代させても、自分たちの生活はちっともよくならないという実感から、政治に対する不信感が増大している。現在の日本の若者、アメリカの若者、Z世代と呼ばれているが、彼らには、「自分たちの親や祖父母の時代よりも生活が良くなるということはない」という諦念が存在する。こうした不信感や諦めが向かう先は、民主政治体制への不信感である。

 私たちは、民主政治体制(デモクラシー)が最上ではないが、次善の政治体制であり、よりましなのだと考えている。政治体制について、「中国やロシアなんてかわいそうだ」という思いがある。しかし、非西洋の、非民主的な国家群の方が、政治がしっかりして、人々の生活が豊かになっているということを目撃しながら、目を逸らしている。「どうして、こんなにたくさんの中国人が日本に来られるんだ、中国は貧しいんじゃないのか」というのは頭を切り替えられない昭和脳の方々である。デモクラシーに対する信頼は低下する一方である。だからと言って、独裁は嫌だというのは先進国に住む私たちの考えることだが、日米両国民で、自国の政治を省みて、素晴らしい民主政治だと胸を張って言える人は多くないだろう。

 下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは、トランプが中国の習近平国家主席やロシアのウラジーミル・プーティン大統領との良好な関係を結ぼうとしていることには反対しているようだ。非民主的な政治制度で生まれた独裁者たちと手を結ぶなどありえないという訳だ。しかし、待って欲しい。それなら、たとえば、王政であるサウジアラビアの国王とアメリカの大統領が良好な関係を結ぶことはどうなのか。サウジアラビアは同盟国だから良くて、ロシアと中国は敵対関係にあるから駄目だということになるのか。非民主的という点では同じだし、何よりもプーティンも習近平も叩き上げだ。

 更に言えば、先進諸国の民主政治体制はきちんと機能しているのかということ、国民生活は豊かになっているのか、確かに政治家が失敗したら取り換えやすいということは民主政治体制の利点だが、先進諸国はどうして失敗ばかりの誠意が続いているのかという不信感がある。民主政治体制の正当性は揺らいでいると言わざるを得ない。私は民主政治体制を支持するが、妄信してはいない。多くの欠陥を抱えている以上、常に改善のための度量をしなければならないという非常に厳しい制度であると考えている。そして、人々はそれに疲れているということもあるだろうと考えている。

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トランプの最重要人物たちの協調は機能しない(Trump’s Concert of Kingpins Won’t Work

-ストロングマンたち(strongmen)によって分割された地球は世界秩序などではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年3月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/03/03/trumps-concert-of-kingpins-wont-work/

ドナルド・トランプ米大統領が国内外で醸成しているカオスにまだ驚いているとしたら、過去8年間に十分な注意を払っていなかったのではないかと心配になる。彼の長くねじ曲がった人生の現時点において、彼の考える完璧な世界とは、権力と富を持つ男たち(つまり彼のような男たち)が、規範や法律、あるいは公共の利益に対する広範な関与に制約されることなく、やりたい放題できる世界であることは明らかだ。このような態度は、2016年の選挙キャンペーンで、彼が好きなところで女性をつかまえたとテープで自慢したときに、最もはっきりと明らかになった。ルール? 良識? 自制心? 公共心? それらは敗者とカモ(losers and dupes)のためのものだ。

この核心的な信念を考えれば、トランプが尊敬し、一緒にいて最も心地よいと感じる指導者たちが、抑制のきかない権力を持つ独裁者であることは驚くにはあたらない。彼はロシアのウラジーミル・プーティン大統領を「強い指導者(strong leader)」と称賛し、中国の習近平国家主席や北朝鮮の独裁者である金正恩、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子といった男たち(そう、彼らはみな男だ)といかにうまくやっているかを熱く語る。ハンガリーのヴィクトル・オルバン、インドのナレンドラ・モディ、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフなど、民主的に選ばれた指導者たちでさえ、非自由主義的あるいは独裁的な傾向が強い。また、これらの指導者の多くが、自分自身や支持者を富ませるために国家を支配してきたことにも注目して欲しい。腐敗(corruption)は独裁的な体制ではほぼ普遍的な症状である。このような態度は、トランプとイーロン・マスクや他のテック産業の大立者たちの関係を説明するのに役立つ。トランプと同様、彼らは自分たちが他の人々からできるだけ多くの富を引き出すのを妨げるかもしれないあらゆるルールを排除したいと考えている。そしてそれは、悪名高いテイト兄弟(訳者註:極右インフルエンサーで人身売買などの性犯罪の容疑がかかっている)のような誇り高き女性差別主義者との親和性とも一致している。

対照的に、トランプが嫌悪するのは、権限の制限と民主政治体制に深く真摯に関与する指導者たちだ。例えば、ドイツのアンゲラ・メルケル元首相、カナダのジャスティン・トルドー前首相、ボリス・ジョンソンを除く英国の最近の首相全員、そして現メキシコ大統領のクラウディア・シャインバウムなどだ。トランプの二期目の大統領就任が、アメリカにおける行政権の既存の制限に対する本格的な攻撃で始まったのも無理はない。彼は自らを王様(a king)だと考えていることを露骨に示唆している。

トランプが描く理想の世界秩序とは、独裁者(autocrats)やその他のストロングマンたちが結集し、世界を自分たちの都合で分割するというものだ。『フィナンシャル・タイムズ』紙のギデオン・ラックマンは最近、このアプローチを「独裁にとって安全な世界(safe for autocracy)」にするものだと述べた。また、バラク・オバマ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたスーザン・ライスは、トランプの新たな友人たちを「独裁者の枢軸(axis of autocrats)」と呼んだ。私には、これはナポレオン戦争後の「ヨーロッパの協調(the Concert of Europe)」の現代版のように聞こえる。ヨーロッパの協調とは、大国が行動を調整し、相互間の紛争を抑制して、君主制への新たな攻撃を防ごうとした、ナポレオンが退場した後に成立した協定(the post-Napoleonic arrangement whereby the major powers tried to ward off a renewed assault on monarchical rule by coordinating their actions and keeping conflicts between them within bounds)である。いわば、新たに出現しつつある「最重要人物たちの協調の協調(Concert of Kingpins)」と言えるだろう。

それはうまくいくだろうか? 一見すると、アメリカは国連やG20、G7、ヨーロッパ連合などの複雑な国際機構を省き、強大な権力を持つ国々と定期的に会合を持つだけでいいように思えるかもしれない。民主政治体制国家を相手にするのは面倒なことだ。国民が何を望んでいるのか、国民が選んだ代表がどんな取引をしても支持するのかどうかを考慮しなければならないからだ。仲間の独裁者たちと協定を結んで終わりにする方が単純ではないだろうか? 経済規模やユーラシア大陸からの地理的な隔たりを考えれば、アメリカは様々な大国の中でかなり有利な立場にあるとさえ言えるかもしれない。他の独裁者たちはまだお互いを警戒しており、ワシントンの機嫌を取ろうと躍起になっている。さらに、アメリカが公言する民主政治体制、自由、人権、その他すべての厄介なリベラルな価値観を公然と放棄すれば、偽善(hypocrisy)と非難されることも、公言する理想と理想とは異なる行動との間の気まずいトレードオフに直面することもなくなる。トランプは正しいのかもしれない。つまり、 リベラル・デモクラシーは前世紀的であり、世界のアルファ・オス(alpha males)にショーを任せた方がいい。

それに賭けてはいけない。

第一に、最重要人物たちの協調は、抑制のきかない独裁者たちが互いを信頼し、国民を搾取または抑圧するという共通の利害が他の相違に優先することを前提としている。しかし、仲間の指導者たちが、以前に合意したことが何であろうと、自分たちが望むように行動するほぼ完全な自由裁量権(near-total latitude to act)を持っていることを知っていれば、信頼を維持するのは難しい。金委員長に媚びを売り、おだて、米大統領との個人的な首脳会談という威光を与えても、平壌との合意に達することができなかったことを考えれば、トランプ大統領はもうこのことを理解していると思うだろう。トランプが交渉した「美しい」貿易取引の一環として、中国がアメリカの輸出品2000億ドル分を購入すると約束した習近平にも裏切られた。トランプは、欺瞞と二枚舌(deceit and duplicity)ができる世界の指導者は自分だけだと思っているのだろうか? 記録はそうではないことを示唆している。

国際関係分野の学者たちは、民主政体国家はより信頼性(more trustworthy)が高く、この特徴が彼らをより価値あるパートナーにしているということを長年認識してきた。例えば、民主政体国家は好ましい貿易相手国となる傾向がある。これは、国民全体の幅広い合意を反映し、民主的なプロセスによって批准された約束は、予告なしに放棄される可能性が低いためだ。歴史的に見ても、民主政体国家間の同盟はより永続的だ。なぜなら、より永続的な利益を反映し、指導者の個人的な気まぐれに左右されにくい傾向があるからだ。

第二に、世界を純粋に取引ベースで、主に他の強力な指導者たちとの取引交渉によって運営しようとすることは、本質的に非効率的であり、参加者が合意を守ることができるかどうか確信が持てない場合はなおさらだ。中央的な権威が存在しない世界であっても、国家は日々発生する複雑な相互作用を全て管理するための規則と制度を必要としている。もし交通法規がなく、毎日ドライバー全員が、車のハンドルを握る他の全ての人々と従うべき一連の規則を理解しなければならないとしたら、生活はどれほど混沌としたものになるか想像してみて欲しい。その結果、交通渋滞、多数の事故、そして非常に怒ったドライバーが発生するだろう。

規範や制度は、他国の意図を見極める手段にもなる。確立されたルールを遵守する政府は、それを繰り返し無視する政府よりも、一般的に脅威は少ないものだ。しかし、全てのルールを廃止してしまうと、法を破る政府と法を遵守する政府の区別がつかなくなってしまう。トランプは、確かに不完全な今日のルールに基づく秩序を破壊し、自分のやりたいことを何でもできると考えているかもしれないが、ルールが全く存在しない世界は、より貧しく、より紛争が多く、はるかに予測不可能で、より管理が困難になることをすぐに理解するだろう。

第三に、独裁政権は、支配者を絶対的な天才として描くプロパガンダを山ほど生み出すが、歴史は、抑制されない権力を持つ指導者は重大な過ちを犯しやすいことを警告している。ヨシフ・スターリンと毛沢東は、何百万人もの不必要な死をもたらす重大な決断を下し、ベニート・ムッソリーニはイタリアを悲惨な戦争へと導き、アドルフ・ヒトラーの戦略的失策と誇大妄想(megalomania)は、第二次世界大戦におけるドイツの敗北を招いた。もちろん、民主政治体制の指導者も間違いを犯す。しかし、情報の自由な流れと、失敗した指導者を交代させる能力があれば、誤りを迅速に修正することが容易になる。この事実は、経済成長、寿命、教育水準、基本的人権など、幅広い指標において民主政治体制国家が歴史的に独裁国家を上回ってきた理由を説明する一助となる。独裁政権下で世界(あるいはアメリカ合衆国自身)がより良い状態になると信じることは、過去2世紀にわたる重要な教訓の一つを無視することである。

第四に、問題はトランプがロシアに手を差し伸べ、ウクライナでの戦争を終わらせようとしていることではない。カマラ・ハリス前副大統領も、やり方は全く違うとはいえ、おそらくそうしようとしていただろう。問題なのは、トランプがアメリカを世界有数の独裁国家である数カ国と再編成し、何十年もの間、アメリカの主要な同盟諸国であった民主政体国家を弱体化させ、蔑視し、信用を失墜させるためにできる限りのことをしていることだ。リチャード・ニクソン元米大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官(当時)は、1970年代初頭に中国と手を結んだとき、賢明なリアリストとして行動していた。

これはあまりにも近視眼的(shortsighted)だ。南と北に友好的な隣国を持つことはアメリカにとって並外れた恩恵であり、トランプ大統領のいじめはその驚くべき幸運を危うくしようとしている。過去70年間、ヨーロッパとアジアに安定した、志を同じくするパートナーを持つことは、同様に正味の利益であった。アメリカがヨーロッパの同盟諸国と新たな役割分担を模索するのにはそれなりの理由があったが、ロシアと再編成し、ヨーロッパを敵対国として扱うことは、人口1億4000万人強、経済規模わずか2兆ドルの衰退した大国の指導者との不確かなつながりのために、約4億5000万人(GDP合計20兆ドル)の友好関係を交換することを意味する。トランプにとっての重要な目的が、世界中の民主政治体制を弱体化させ、国内で自身の権力を強化することにあるならば、このアプローチは理にかなっているかもしれないが、アメリカをより安全で、より人気があり、より豊かにすることはないだろう。

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