古村治彦です。
ドナルド・トランプ前大統領が今年の大統領選挙に当選し、二期目の政権を発足させると、前政権に参加していた人物たちが政権入りすると見られている。外交・安全保障関係で言えば、下記論稿にあるように、国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたロバート・オブライエン、国家情報長官を務めたジョン・ラトクリフ、元駐ドイツ米大使リチャード・グレネル、前政権で情報機関や国防コミュニティで複数の役職を歴任したカッシュ・パテルといった人々の名前が挙がっている。彼らはトランプに対して忠誠心を持っている人物たちだ。
ロバート・オブイエン
ジョン・ラトクリフ
リチャード・グレネル
カッシュ・パテル
トランプ政権が発足すれば、ウクライナ戦争に関しては、少々強引にでも停戦に持っていくだろう。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領と、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の両方と話ができるのはトランプだけだ。ウクライナにしてみれば、自国に不利な条件での停戦を求められる可能性が高い。ゼレンスキー大統領が常々述べている、1991年の独立時点での国土の奪還はもともと無理な話だったが、それを公約にしてしまっている以上、それができずに停戦となれば、ゼレンスキーは退陣するしかない。その後にはゼレンスキーと周辺人物たちの汚職や腐敗が捜査され、逮捕拘留ということにもなるだろう。ゼレンスキーに停戦を飲ませるには、免罪を確約しておく必要もあるだろう。
イスラエルも似たような状況である。ベンヤミン・ネタニヤフはガザ地区での攻撃を強めながら、同時にレバンンのヒズボラ、更にはイランとの全面戦争という危険な賭けをしている。ネタニヤフも戦争の状況が落ち着いて停戦となれば、自身の汚職スキャンダルのために、逮捕は免れない。ここのところはゼレンスキーと同様だ。
このように、脛に傷を持つゼレンスキーとネタニヤフという2人の指導者がアメリカの権力の空白、現職大統領の無力化の隙を突いて、戦争の規模を拡大させようとしている。トランプが大統領になれば、この2人に対して圧力をかけつつ、落としどころを見つけるために交渉をすることになるだろう。
アメリカが世界の警察官であることはもう無理な話になっている。単独で行動することはできない。従って、同盟諸国には過重な負担を強いてくることになる。日本も例外ではない。ここで、日本をはじめとする同盟諸国は負担と自国の国力と周辺環境が見合っているのかということを真剣に考えねばならない。これまではある意味ではアメリカにおんぶにだっこで良いとなって、真剣に考えてこなかった。だから、コスト意識も薄く、簡単に戦争だ、なんだと考えもなく言うことができた。
しかし、今の西側諸国で戦争に耐えられるだけの経済力を持っている国がどれだけあるか。防衛力強化のための増税にどれだけ耐えられるか。それならば、戦争に至らないように、周辺諸国との交渉チャンネルをキープし、対応人材を教育し、「外交(交渉)が主」という意識に変化していくことが重要だ。そのための、アメリカのトランプ政権誕生ということになれば、世界の構造も大きく変わっていく。
トランプという人は、自覚はないだろうが、アメリカ衰退に対応し、何とか幕引きをするための人物である。そして、アメリカ一極から米中二極、更には多極へと向かう中で、アメリカを世界の超大国から普通の大国にしていく過程の中で生み出された人物である。私たちにこれまでの外交の常識に疑問を持たせて、新しい形を考えるきっかけを与える人物なのである。
(貼り付けはじめ)
トランプは中国、NATO、ウクライナに対するアメリカの外交政策を再構築するために忠誠心を持つ人間たちを配置するだろう(Trump would install loyalists to reshape US foreign policy on China,
NATO and Ukraine)
グラム・スラッテリー、サイモン・ルイス、イドレス・アリ、フィル・スチュワート筆
2023年12月19日
ロイター通信
https://www.reuters.com/world/us/trump-install-loyalists-reshape-us-foreign-policy-diplomats-gird-doomsday-2023-12-18/#:~:text=Those%20advisers%20include%20John%20Ratcliffe,the%20intelligence%20and%20defense%20communities
12月18日、ワシントン発(ロイター通信)。ドナルド・トランプは二期目で、国防総省、国務省、CIAの要職に忠誠心を持つ人物を据える可能性が高く、彼らの主な忠誠はトランプに対してであり、一期目の大統領時代よりも、より自由にアイソレイショニスト的政策や気まぐれな政策を制定できるようになるだろう。20名近くの以前の、そして現役の側近や外交官たちに取材して明らかになった。
その結果、トランプが大統領になれば、ウクライナ戦争から対中貿易に至るまで、アメリカの姿勢を大幅に変更することが可能になり、外交政策を実施する(時には制約する)連邦機関にも変更を加えることができると側近や外交官たちは語った。
トランプは、一期目の大統領時代に、自分の計画の一部を遅らせたり、棚上げしたり、説得して止めさせたりする政府高官に対してしばしば不満を表明した。マーク・エスパー元国防長官は回想録の中で、アメリカの最大の貿易相手国であるメキシコの麻薬カルテルに対するミサイル攻撃というトランプ大統領の提案に二度異議を唱えたと述べた。トランプはこのことに関してコメントしていない。
今年の選挙戦での提案の中で、トランプはメキシコのカルテルに対してアメリカ軍特殊部隊を配備すると述べているが、これはメキシコ政府の賛同を得られそうにない。
もしトランプが再び政権に返り咲けば、トランプはヨーロッパへの国防援助を削減し、中国との経済関係をさらに縮小させるだろうと側近たちは語った。
ロバート・オブライエンは、トランプのトップ外交顧問の一人であり、トランプと定期的に話をしているが、NATO諸国が国内総生産の少なくとも2%を国防費に充てるという約束を守らなかった場合、貿易関税を課すことが、トランプの大統領2期目の任期中に検討される政策の1つになるだろうと述べた。
トランプ陣営はこの記事についてコメントを控えた。
トランプと会話した4人の関係者の話によると、2016年の大統領選に向けての準備段階とは異なり、トランプは定期的に話し合う安定した人々、外交政策の経験が豊富で個人的な信頼を寄せる人々を育ててきたという。
これらの顧問には、トランプ政権最後の国家情報長官ジョン・ラトクリフ、元駐ドイツ米大使リチャード・グレネル、元トランプ政権のスタッフで情報機関や国防コミュニティで複数の役職を歴任したカッシュ・パテルが含まれる。
これらの人々は誰もインタヴュューの依頼に応じなかった。
これらの非公式な顧問たちの具体的な政策はある程度異なるものの、大半は退任以来トランプを声高に擁護しており、アメリカがNATOとウクライナの両方を支援するために多額の費用を支払っているとして懸念を表明している。
●「終末オプション」("DOOMSDAY
OPTION")
トランプは共和党大統領候補指名争いで圧倒的なリードを保っている。トランプが共和党の大統領選挙候補者となり、来年11月に民主党のジョー・バイデン大統領を破れば、国内外で権力の行使方法についてより精通した、より大胆になったトランプを世界が目にする可能性が高いと現・元側近たちは述べた。
この見通しを受けて、外国資本はトランプの2期目がどのようになるかについて情報を求めて争っている。トランプ自身は、ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせるといった大まかな主張以外に、次回どのような外交政策を追求するかについてほとんど手がかりを提供していない。
ロイター通信がインタヴューしたヨーロッパ諸国の外交官8人は、トランプ大統領が北大西洋条約機構(NATO)同盟諸国を守るという、アメリカの公約を尊重するかどうか疑問があり、ロシアとの戦争が継続中であるが、ウクライナへの援助を打ち切るのではないかとの深刻な懸念があると述べた。
デリケートな問題のため匿名を条件に語ったワシントン駐在の北ヨーロッパの外交官の1人は、トランプ元大統領が2021年にホワイトハウスを去った後も、同僚たちとともにトランプの側近らと会話を続けていたと語った。
この外交官は次のように述べた。「そうした内輪の話の内容は、『私たちには統治する準備ができていなかった。次回は違うやり方をしなければならない』というものだった。2017年に彼らが大統領執務室に入ったとき、一体何をすればいいのか全く分かなかった。しかし、このようなことは二度と起こらないだろう」。
NATO加盟諸国であるこの外交官とワシントンのもう1人の外交官は、彼らの任務が本国の首都に宛てた外交公電で「終末オプション(doomsday option)」の可能性を概説したと述べた。
これらの外交官たちが外交公電で述べた複数の選挙後の仮説のうちの1つである、仮想シナリオでは、トランプは官僚機構の諸要素を解体し、アメリカの抑制と均衡(checks and balances)のシステムが弱体化するほどに、政敵を追及するという公約を実行している。
取材に応じた外交官は、アメリカ政治に対する外交官グループの見解について次のように述べた。「外交官として、自国の首都に説明しなければならない。『バイデンが再選されれば、アメリカは再建を続けているので、事態はむしろうまくいくかもしれない』と私たちは報告する。そして、トランプについては、穏やかなヴァージョンとなる。一期目の政権を繰り返し、攻撃的なニュアンスを加えたものだ。そして、終末の選択肢があるということを報告する」。
●グローバリズムからの撤退(RETREAT FROM GLOBALISM)
トランプ政権で中東担当米国防次官補を務めたマイケル・マルロイは、トランプ前大統領はアイソレイショニストな外交政策に賛同し、トランプと対立する可能性が低い人物を任命する可能性が高いと述べた。
米大統領は、国務省、国防総省、CIAを含む連邦官僚の最上級職に政治任命者(political appointees)を指名する権限を持っている。
マルロイは、「それは主にトランプ大統領への忠誠心に基づくものになると思う。彼が信じる外交政策に対する確固たる信念、それはある種のグローバリスト政策ではなく、アメリカにもっと重点を置いている」と述べた。
トランプ大統領は、自身が支持していたトランスジェンダー軍人の入隊禁止から2018年のシリアからのアメリカ軍撤退の決定に至るまで、1期目に国防総省で任命した自らの任命者たちと多くの問題で衝突した。
トランプ政権で1人目の国防長官を務めたジム・マティスが2018年に辞任した時、元四つ星将軍はトランプとは政策的に大きな違いがあると述べた。マティスはそれらについて明確には述べなかったが、辞表の中で、ロシアのような敵に対して武器を持った距離に保ちながら、NATOや他の同盟諸国との鉄壁の絆を維持する必要性を強調した。
トランプ政権下の元駐スイス大使で、現在は選挙資金集め担当者でトランプと連絡を取り合っているエド・マクマレンは、知人のほとんどの外交官はトランプ大統領に忠実に仕えていたと強調した。
しかし、トランプは2期目の外交政策のトップポストには、不誠実、あるいは反抗的な官僚を選ぶことを避ける必要があることを認識しているとマクマレンは述べた。
マクマレンは「トランプ前大統領は、次期政権の成功には能力と忠誠心が重要であることを強く意識している」と述べた。
マクマレンはトランプ陣営の公式政策サイト「アジェンダ47」によると、トランプ大統領の最高顧問団以外では、潜在的なトランプ政権は「ならず者(rouge)」とみなされる国家安全保障コミュニティの下位レヴェルの関係者を排除する計画だという。
どの政権が誕生しても、中立の官僚組織が存在するアメリカでは、このような措置はほとんど前例がないということになる。
トランプ大統領は、1期目の最後の数カ月間に発令したが、完全に施行されることはなかったが、公務員の解雇をより容易にする大統領令を復活させる計画だと述べた。
今年初めにアジェンダ47で公開されたあまり報道されていない文書の中で、トランプは「真実と和解委員会、新しいタブを開く(Truth and Reconciliation Commission, opens new tab)」を設立し、他の機能の中でもとりわけ「ディープステート(Deep State)」の権力乱用に関連する文書を公開すると述べた。トランプはまた、情報収集をリアルタイムで監視することを目的とした別の「監査(auditing)」機関を創設する予定だ。
トランプは今年初めに新しいタブを開いて、政策ビデオの中で、「国務省、国防総省、そして国家安全保障関連政府機関は、私の政権が終わるころには、まったく違った場所になっているだろう」と述べた。
●NATO撤退? 新たな貿易戦争(NATO
PULLOUT? NEW TRADE WAR)
トランプは大統領2期目の任期中に、中国の最も優遇された貿易立国としての地位(一般的に言えば国家間の貿易障壁を下げる立場)を終わらせ、ヨーロッパ諸国に防衛費の増加を促すと約束した。
ウクライナのロシアとの戦争において、トランプがアメリカによる重要な支援を継続するかどうかは、NATOへの継続的な関与と同様に、準備をしようとするワシントンに駐在するヨーロッパ諸国の外交官たちにとって特に重要である。
バルト諸国のある外交官は「トランプがNATOからアメリカを引き離すか、ヨーロッパから撤退したいという噂がある。もちろん心配な内容に聞こえるが、私たちはパニックには陥っていない」と語った。
NATOの将来に対する懸念にもかかわらず、この記事のためにインタヴューした複数の外交官は、トランプ大統領の1期目の圧力が確かに国防費の増加につながったと述べた。
トランプ政権下で、3人目の国家安全保障問題担当大統領補佐官で、その後トランプを声高に批判するようになったジョン・ボルトンはロイター通信に対し、トランプ大統領がNATOから離脱すると信じていると語った。
このような決定は、75年近く同盟の集団安全保障に依存してきたヨーロッパ諸国にとっては天地を揺るがすものとなるだろう。
他のトランプ政権関係者の3人(うち2人は現在もトランプ氏と連絡を取り合っている)はその可能性を否定し、そのうちの1人は国内政治的な反発に値するものではないだろうと述べた。
『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、このやりとりを知る関係者2人によると、少なくともワシントン駐在の外交官の1人、フィンランドのミッコ・ハウタラ大使が何度もトランプ大統領と直接会話しているということだ。
これらの議論は、フィンランドのNATO加盟プロセスに集中した。ある関係者によると、ハウタラ大使は、フィンランドが同盟に何をもたらし、フィンランドの参加がアメリカにどのような利益をもたらすかについてトランプに正確な情報を確実に伝えたかったということだ。
報道:グラム・スラッテリー、サイモン・ルイス、イドレス・アリ、フィル・スチュワート。追加報道:ジョナサン・ランディ、アーシャド・モハメド、スティーヴ・ホランド。編集:ロス・コルヴィン、ドン・ダーフィー、ダニエル・フリン。
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