古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ヴォロディミール・ゼレンスキー

 古村治彦です。

 2025年2月28日、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領がホワイトハウスを訪問し、ドナルド・トランプ大統領と会談を持った。そして、記者たちがいる前で、JD・ヴァンス副大統領も入って、口論となった。その様子は日本でも報道された。その口論の内容について、一部(後半部)をご紹介する。

 この口論の内容を見て、私は、「ゼレンスキーという人物はシンプルに頭が悪い人だ」と感じた。トランプと会談を持つとなれば、このようなことになる可能性が高いことは誰でも分かることだ。それでも、うまく対処するために準備をすることが重要なのに(石破茂首相は訪米前の週末に事前準備勉強会を開いていた)、そのような準備の跡が見られない。ウクライナをどのように導くか、戦争をどのように終わらせるかということについて、側近たちも含めて策もなく略もないということのようだ。側近たちのレヴェルもまたゼレンスキーのレヴェルを示している。つまり、頭が悪いのである。

 更に問題は、アメリカ側を「脅した」ことだ。「ゼレンスキーがアメリカは『将来それ(外国から攻められる恐怖)を感じるかもしれない』と示唆するとトランプが激怒」という項目がある。これは、ゼレンスキーが「アメリカは攻められる危険がないから、私たちの感じていることは分からない。しかし、将来は感じることになるだろう」という趣旨の発言を行い、トランプが激怒したということである。これは、「アメリカはいつまでも世界一の超大国ではいられない。すぐに弱体化して、私たちと同じ苦しみを味わうぞ」ということである。ゼレンスキーのこの見立ては説得力がある。しかしながら、それを、メディアを前にして言うべきではなかった。アメリカ国民も聞いているのである。アメリカからのお金と武器がなければ、ウクライナは戦争継続ができないのである。ゼレンスキーはアメリカからの支援継続を獲得するのが最重要の目的である。しかし、この目的達成を危険に晒すようなことをしてしまうというのは頭が悪い人物であり、このようなリーダーを持ってしまったのはウクライナにとっての最大の不幸である。日本も他山の石として注意しなければならない。

(貼り付けはじめ)

彼らが発言したこと:米大統領執務室でのトランプ、ゼレンスキー、そしてヴァンスの熱を帯びたやり取り(What they said: Trump, Zelenskyy and Vance’s heated argument in the Oval Office

アドリアナ・ゴメス・リコン筆

2025年3月1日

AP通信

https://apnews.com/article/trump-zelenskyy-vance-transcript-oval-office-80685f5727628c64065da81525f8f0cf

フロリダ州フォートローダーデール(AP)発。ドナルド・トランプ大統領とJD・ヴァンス副大統領は金曜日、ウクライナ戦争に関してウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領を非難した。ゼレンスキーがロシアのウラジーミル・プーティンとの外交問題についてヴァンス大統領に異議を唱えた後、感謝の意を示していないと非難した。

米大統領執務室での口論は世界的に放送された。ゼレンスキーの残りのホワイトハウス訪問はキャンセルされ、2022年のロシアの侵攻に対するウクライナの防衛において、アメリカがこれからどの程度支援するのか疑問が起きる事態になった。

以下は、このやりとりの重要な瞬間の文字起こしである。

■ゼレンスキーがヴァンスに対して、ロシアと外交について挑戦(Zelenskyy challenges Vance on Russia and diplomacy

・ヴァンス:「4年間にわたり、アメリカ合衆国、私たちは記者会見に立ち、ウラジーミル・プーティンについて強い調子で話す(talk tough)大統領を有してきた。そして、プーティンはウクライナに侵攻し、ウクライナの大きな部分を破壊した。平和の道筋(path to peace)と繁栄への道筋(path to prosperity)は、おそらく、外交への関与ということになる。私たちはジョーバイデンの考える道筋を試した。胸を張り、大統領の言葉が大統領の行動よりも重要であるかのように装った。アメリカを良い国にする(What makes America a good country)のは、アメリカが外交に関与することだ。それがトランプ大統領のやっていることだ」。

・ゼレンスキー:「あなたに質問しても良いか?」。

・ヴァンス:「もちろん、どうぞ」。

・ゼレンスキー:「それでは。彼(プーティン)はウクライナの大きな部分、東部とクリミア半島を占領した。彼は2014年に占領した。そして、それから長い期間、占領した。私はバイデン政権下での話だけをしているのではない。その時期は、(バラク・)オバマ大統領、トランプ大統領の時代だった。そして、バイデン大統領の時代になり、今はトランプ大統領だ。そして神のご加護のもと、トランプ大統領が彼を止めるだろう。しかし、2014年の間は誰も彼を止めなかった。彼はただ占領し、奪った。人を殺した。お分かりの通りに・・・」。

・トランプ:「2015年?」

・ゼレンスキー:「2014年」。

・トランプ:「おや、2014年? 私はいなかった」。

・ヴァンス:「それは正しい」。

・ゼレンスキー:「そう。しかし、2014年から2022年まで、接触線で人が死んでいる状況は変わらない。誰も彼を止められなかった。私たちが彼と会話をしたことはご存知だろう。そして私たちは彼と、私、あなた、大統領、2019年に私は彼と協定に署名した。私は彼、(フランスのエマニュエル・)マクロン大統領、(ドイツのアンゲラ・)メルケル前首相と署名した。私たちは停戦(ceasefire)に署名した。停戦だ。しかしその後、彼は停戦を破り、同胞を殺し、捕虜交換も行わなかった。私たちは捕虜交換に署名した。でも、彼はそれをしなかった JD、あなたの言う外交とは何か? どういう意味なのか?」。

・ヴァンス:「私は、あなたの国の破壊を終わらせる外交について話している。大統領、失礼ながら、あなたが米大統領執務室に入ってきて、アメリカのメディアの前でこの問題を訴えようとするのは失礼だ(disrespectful)と思う。今、あなた方は人員の問題(manpower problems)を理由に徴兵(conscripts)をして、人々を前線に押し出している。あなたは、この争いを終わらせようと努力している大統領に感謝すべきだ」。

・ゼレンスキー:「あなたはウクライナに来たことはあるか? 私たちにはどんな問題があるとおっしゃりたいのか?」。

ヴァンス:「貴国を訪問したことがある」。

ゼレンスキー:「一度だけ」。

・ヴァンス:「私は実際に様々なニューズを見て、何が起きているのか知っている。大統領、人々をプロパガンダツアー(propaganda tour)に連れて行く。軍隊に人々を参加させることに問題があったことにあなたは反対か?」

・ゼレンスキー:「私たちは複数の問題を抱えている」。

・ヴァンス:「そして、アメリカ大統領の執務室にやってきて、自国の破壊を防ごうとしている政権を攻撃することが敬意を表する行動だと考えるのか?」。

・ゼレンスキー:「多くの疑問がある。最初から始めよう」。

・ヴァンス:「もちろん」。

■ゼレンスキーがアメリカは「将来それ(外国から攻められる恐怖)を感じるかもしれない」と示唆するとトランプが激怒(Trump erupts when Zelenskyy suggests the U.S. might ‘feel it in the future’

・ゼレンスキー:「第一に、戦争中は誰もが問題を抱えている。しかし、あなた方には素敵な海があり、今は感じていない。しかし、あなた方は将来それ(外国から攻められる恐怖)を感じるだろう。神のご加護がありますよういに」。

・トランプ:「あなたは知らない。あなたは知らない。私たちがこれから何を感じるかなんて言わないように。私たちは問題を解決しようとしている。私たちが何を感じようとしているかなんて言うな」。

・ゼレンスキー 「あなたに対して言っているのではない。私はこれらの疑問に答えている」。

・トランプ:「あなたはそれを指示する立場にないからだ」

・ヴァンス:「それはまさにあなたがやっていることだ」。

・トランプ:「あなたは私たちが何を感じるかを決める立場にはない。私たちはとてもいい気分だ」。

・ゼレンスキー:「影響されていると感じるだろう」。

・トランプ:「私たちはとても良い、とても強いと感じるだろう」。

・ゼレンスキー:「私はあなた方に断言する。影響されていると感じるだろう」。

・トランプ:「あなたは今いい位置にいない。あなたは非常に悪い立場にいることに甘んじている」。

・ゼレンスキー:「戦争が始まってすぐの段階から・・・」。

・トランプ 「あなたは良い立場にいない。あなたは今カードを持っていない。我々と一緒なら、カードを持ち始めることができる」。

・ゼレンスキー:「私はカード遊びをしているのではない。大統領。私は非常に真剣だ」。

・トランプ:「あなたはカード遊びをしているではないか。あなたは数百万の人々の命を使ってギャンブル遊びをしている。あなたは第三次世界大戦を引き起こすようなギャンブル遊びをしている」。

・ゼレンスキー:「あなたは何を言っているのか? 何を言いたいのか?」。

・トランプ:「あなたは第三次世界大戦に賭けている。そして、あなたがやっていることは、多くの人々が言うべきことをはるかに超えてあなたを支援してきたこの国という国に対して、非常に失礼なことだ」

・ヴァンス:「一度でも感謝を述べたことがあるか?」

・ゼレンスキー:「多くの機会で。本日も」。

・ヴァンス:「ノー。今回の会談の全体を通して言っていない。あなたは昨年10月にペンシルヴァニア州に行き、私たちのライヴァルの候補者のために選挙活動を行った」。

・ゼレンスキー:「いいえ、していない」。

・ヴァンス:「アメリカ合衆国と、あなたの国を救おうとしている大統領に感謝の言葉を述べるように」。

・ゼレンスキー:「どうかもう止めて欲しい。あなたは戦争について、何か声を荒げたら・・・」。

・トランプ:「彼は声を荒げてなどいない。大声で話していない。あなたの国が大きな困難、問題の中にあるのだ」。

・ゼレンスキー:「答えても・・・」。

・トランプ:「いやいや、あなたは既に多く話している。あなたの国が大きな困難、問題の中にある」。

・ゼレンスキー:「分かっている」。

・トランプ:「あなたは勝てない。あなたはこの戦争に勝てない。私たちのおかげで、あなたは無事に切り抜けられる可能性が大いにある」。

・ゼレンスキー:「大統領、私たちは国に留まり、強くあり続ける。戦争が始まった当初から、私たちは孤独だった。そして、私たちは感謝している。私はありがとうと感謝を述べた」。

■トランプはゼレンスキーに対して停戦を受け入れるように求める(Trump demands Zelenskyy accept a ceasefire

・トランプ:「もしあなた方が私たちの供与した軍事装備を持っていなかったら、この戦争は2週間で終わったことであろう」。

・ゼレンスキー:「3日間だ。私はプーティンからその言葉を聞いた。3日間だ」。

・トランプ:「それよりも短かったかもしれない。このようなビジネスをするのは非常に難しいことだ」。

・ヴァンス:「ただありがとうと述べるべきだろう」。

・ゼレンスキー:「私はこれまで多くの機会で述べてきた。ありがとうとアメリカ国民に対して述べてきた」。

・ヴァンス:「意見の相違があることを受け入れ、自分が間違っているときにアメリカのメディアを使って争うのではなく、その意見の相違を訴訟について徹底的に話そうではないか。私たちは、あなたが間違っていることを知っている」。

・トランプ:「しかし、アメリカ国民が、今何が起きているのかを知るのは良いことだと私は思う。とても重要なことだと思う。だからこそ私はこうした話を長い間続けてきた。あなたは感謝しなければならない」。

・ゼレンスキー:「私は深く感謝している」。

・トランプ:「あなた方はカードを持っていない。あなた方はそこに埋もれている。人々は死んでいる。兵士は不足している。停戦はとてもよいことだ。そしてあなた方は私たちに『停戦は望んでいない。停戦は望んでいない。私は進みたい。そしてこれを望んでいる』と言う。よろしいか、もし今すぐ停戦が実現できるなら、そうするべきだ。そうすれば銃弾が飛び交うのを止め、兵士が殺されるのを止められる」。

・ゼレンスキー:「もちろん、私たちは戦争を止めたいと望んでいる。しかし、私があなたに申し上げたように、保証(guarantees)が必要だ」。

・トランプ:「あなたは停戦を望まないと言うのか? 私は停戦を望む。なぜなら、合意(agreement)よりも早く停戦が実現するからだ」

・ゼレンスキー:「停戦について国民に聞いてみては、彼らがどう考えるか」。

・トランプ:「それは私との話ではない。それはバイデンという男との話だ。彼は賢い人間ではない」。

・ゼレンスキー:「彼はあなた方の大統領だった。あなた方の大統領だった」。

・トランプ:「失礼だが、それはオバマ大統領があなた方にシーツを渡し、私がジャヴェリンを渡した時の話だ。私は戦車を全部破壊するためのジャヴェリンを渡した。オバマ大統領はあなた方にシーツを渡しました。実際、オバマ大統領はシーツを渡し、トランプ大統領はジャヴェリンを渡したと発表されている。あなた方はもっと感謝しなければならない。なぜなら、あなた方にはカードがないからだ。私たちがいればカードを持つことができるが、私たちがいなければ、あなた方にはカードがないということになる」。

■トランプはプーティンが自分を尊敬している、それは第一次政権についての捜査のためだと発言(Trump says Putin respects him due to the investigations of his first term

・ヴァンス(記者たちからの質問を再開):「彼女はロシアが停戦を破ったらどうすると質問している」。

・トランプ:「もし何かあったらどうする? 今あなたの頭の上に爆弾が落ちたらどうする? いいだろう、もし彼らがそれを破ったら? 分からない、彼らはバイデンとの約束は破った、なぜなら彼らはバイデンを尊敬していなかったからだ。彼らはオバマを尊敬していなかった。彼らは私を尊敬している。言っておくが、プーティンは私と一緒に大変な目に遭った。彼は偽りの魔女狩り(phony witch hunt)を経験した。・・・私が言えるのはこれだけだ。彼はオバマやブッシュとの取引(deals)を破ったかもしれないし、バイデンとの取引を破ったかもしれない。彼はそうしたかもしれない。おそらくそうした。何が起こったのかは分からないが、彼は私との取引を破らなかった。彼は取引をして合意を取り付けたいのだ。あなた(ゼレンスキー)が取引できるかどうかは分からない」。

「問題は、私があなた(ゼレンスキーに向かって)にタフガイ(tough guy)になる力を与えたことだ。アメリカなしではあなたはタフガイにはなれないと思う。あなたの国民は非常に勇敢だ。しかし、あなたは取引をするか、私たちは出て行くかだ(But you’re either going to make a deal or we’re out)。そして、もし私たちが出て行ったら、君たちは戦うことになる(And if we’re out, you’ll fight it out)。いい結果にはならないと思うが、君たちは戦うことになる。だが、君たちはカードを持っていない(But you don’t have the cards.)。私たちがその契約に署名すれば、君たちはずっと有利な立場になるが、君たちは感謝の気持ちをまったく示さない( But once we sign that deal, you’re in a much better position, but you’re not acting at all thankful)。それはいいことではない。正直に言うと、いいことではない。

「よし、もう十分見たと思う。どう思う? これは素晴らしいテレビ番組になるだろう。そう言わせてもらう」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 ウクライナ戦争は2022年2月に始まってもうすぐ3年が過ぎようとしている。初期段階でウクライナ軍が善戦してロシア軍の進撃を止め、西側諸国がロシアに経済制裁を科して戦争は早期に集結するかと思われたが、結局、ロシアは経済制裁を受けても持ちこたえ、戦争は継続している。

西側諸国はウクライナに支援を続けているが、そのほとんどはアメリカが負担している。ウクライナ戦争停戦を訴えて当選した、ドナルド・トランプ次期大統領が正式に就任するのが2024年1月20日で、それ以降、ウクライナ戦争の停戦協議は本格化すると考えられる。現状は、ウクライナは東部や南部で奪われた地域を奪還できていないが、ロシア領内クルスク州の一部を占領している。地図を見てもらえれば分かるが、ロシアにとっては喉に刺さった小骨程度のことであるが、やはり、ここを奪還できるかどうかということは重要になってくる。ウクライナとしてはクルスク州を取引材料にして、ロシアから何らかの条件を引き出したいところだ。
ukrainewar20241219map001

 ロシアとしては、停戦協議にはクルスク州を奪還してから応じたいところだ。アメリカの支援が切れる今年1月以降に攻勢をかけて、ウクライナ軍をロシア領内から撤退させ、それから停戦交渉をするということになる。また、自分たちで攻勢をかけなくても、トランプ大統領に停戦協議に応じたいが、クルスク州を奪還しない限り無理だと言えば、トランプ大統領が、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に圧力をかけてウクライナ軍を撤退させるということも外交交渉で出来るだろう。

 停戦後に、平和維持活動として、ポーランドとフランスがウクライナに将兵4万人を派遣するという計画があるという報道もある。ウクライナのゼレンスキー大統領がウクライナのNATO加盟の必要性を訴え、NATO加盟まで、外国の軍隊の駐留を求めるという発言があった。これはロシアを非常に刺激する発言であり、ポーランドとフランス両国の軍隊がウクライナに4万人も駐兵するということはロシアにとって受け入れがたいことだ。ウクライナとしては逆に、外交交渉の材料として、NATO加盟と外国軍隊の駐留を取引材料に仕える可能性もある。ここで重要なのはポーランドである。ポーランドは中欧の大国であるが、同時に、歴史的にヨーロッパ全体に不安定要因ともなる国家である。ポーランドは、反ロシアという点ではウクライナと共闘できるが、ウクライナの南西部ポーランド国境地帯ガリツィア地方には実質はカトリック教徒のユニエイトがおり、ウクライナとの関係が深い。ポーランドがウクライナ南西部の支配を狙っている可能性がある(ロシアがウクライナの頭部を持っていったんだから自分たちもという考え)。
ukrainegaliciamap001

 ウクライナ戦争の停戦交渉はロシアの占領地域はそのままという現状を認めるところが前提となり、ウクライナのNATO加盟を認めるかどうか、外国軍駐留を認めるかどうかというところになるだろう。軍事同盟ではないEU加盟については、ロシアも認められるところがあるだろう。しかし、EU側が負担増大を懸念してウクライナの加盟を認めない。トランプ次期大統領がNATOからの脱退も示唆しており、NATOの力が弱体化し、西側諸国の国力も低下している中で、ウクライナは西側とロシアの間で両天秤をかけるという柔軟な動きが必要となってくる。

(貼り付けはじめ)

●「ポーランドとフランス、軍派遣を協議か 戦闘終結後のウクライナに」

毎日新聞 2024/12/12 09:37(最終更新 12/12 09:37

https://mainichi.jp/articles/20241212/k00/00m/030/036000c

 ポーランドのメディアは11日、同国とフランスが、ロシアとの戦闘終結後のウクライナで平和維持活動に当たる4万人規模の外国軍派遣の可能性を協議していると報じた。フランスのマクロン大統領は12日にポーランドの首都ワルシャワでトゥスク首相と会談する予定で、議題に上るとみられる。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、自国の安全を保証するには北大西洋条約機構(NATO)加盟が必要だとした上で、加盟までの間、外国軍が駐留する案を検討していると述べていた。

 マクロン氏とゼレンスキー氏は7日、トランプ次期米大統領を交えた3者会談をパリで行っており、こうした案を議論した可能性もある。

 フランスのルモンド紙は11月、フランスと英国が欧州各国からのウクライナへの派兵を議論していると報じた。米メディアによると、トランプ氏の政権移行チームでは、ロシアとの戦闘を凍結し非武装地帯が設けられた場合、欧州諸国が警備を担う案が浮上している。(共同)

 

 

=====

ウクライナのクルスク侵攻がもたらす地政学的チャンス(The Geopolitical Opportunity of Ukraine’s Kursk Offensive

-ウクライナのクルスク侵攻はワシントンに対して、より賢いアジアへの意向(pivot to Asia)を示す道となる。

A・ウェス・ミッチェル筆

2024年8月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/15/kursk-ukraine-russia-offensive-incursion-china-asia-us-geopolitics-strategy/?tpcc=recirc062921

写真

ウクライナのロシアへの奇襲侵攻の中、破壊された国境検問所を通過するウクライナの軍用車両(2024年8月14日)

現在、クルスク地方で進められているような、ウクライナのロシア本土への侵攻は、アメリカの地政学的課題を順序立てて解決するという広範な戦略の一環として、戦争をより迅速に終結させる好機である。ロシアの侵攻2日目に私が『フォーリン・ポリシー』誌に書いたように、このような順序立ての戦略は、中国、イラン、ロシアとの同時かつ多方面にわたる戦争を回避するための最良の選択肢である。ウクライナ人が最近の成果を強固なものにし、おそらくそれを土台にするのに必要な手段を与えることで、ワシントンはキエフがモスクワを交渉のテーブルにつかせるのを助け、西側諸国が再武装する時間を稼ぎ、アメリカがインド太平洋に関心を移すのを可能にするチャンスがある。しかし、そのためには、ジョー・バイデン政権が、ウクライナによるアメリカ製兵器の使用制限を撤廃し、紛争の明確かつ達成可能な最終状態を定義する必要がある。これはリスキーではあるが、中国かイランが二正面戦争でアメリカと対峙するまでウクライナに援助を垂れ流すという選択肢よりは望ましい。

クルスク攻防戦がチャンスを生み出すには、この攻防戦が2022年以降のウクライナのロシア侵攻作戦とどう違うのかを理解する必要がある。第一に、ウクライナで最も優秀で西側で訓練された部隊を含む少なくとも5個旅団(brigades)の要素に加え、戦車、大砲、無人機、戦闘機が関与しており、規模がはるかに大きい。

第二に、今回の侵攻は過去の侵攻よりもはるかに深い。詳細は確認されていないが、ウクライナ側は国境のロシア側にある70以上の村、鉄道路線、重要なガス中継ハブ、合計1000平方キロメートル(386平方マイル)以上を支配しているようだ。第三に、ウクライナ側は急襲(raid)に成功しても立ち去るどころか、更に兵力と装備を投入し、侵攻を強めているようだ。

まだ多くのことがうまくいかない可能性がある。1つは、ロシア軍が攻撃している他の戦線からウクライナの兵力を引き離す可能性があることだ。モスクワはクルスクへの新戦力の投入を遅らせているが、ロシア軍にはまだ多くの予備兵力がある。

それにもかかわらず、この侵攻によってロシアの意外な弱点が明らかになった。ロシアの国境はほとんど守られていなかった。ウクライナ軍は戦略的な奇襲を仕掛け、敵国に戦争を持ち込み、ウクライナに必要な士気を高めた。ウラジーミル・プーティンは今、この攻撃を厄介なものとして軽視し、徴兵制(政治的に不人気な行動)と国内治安部隊、そして再配置された少数の前線部隊でやり過ごすか、あるいはウクライナ人を退去させ、より大規模な再配置で国境の残りの部分を強化するかというディレンマに直面している。つまり、ウクライナの橋頭堡を封じ込めることはできても、追い出すことはできそうにない。

数的劣勢にもかかわらず、ウクライナ側が地歩を固める可能性は十分にある。これまでのところ、この戦争では、陣地戦(positional warfare)における攻撃よりも防御の方が思いのほか有利であることが明らかになっている。秋の雨季を間近に控え、ウクライナ軍は容易に離脱できないような強固な突出部を形成できる可能性がある。今後、ロシア側は、ウクライナの長くて、穴だらけの国境を監視するために、より多くの軍隊を配備することを避けられないだろう。

このような事態は戦略的に重要である。それは、これまでロシアが勝利のセオリーとしてきた、戦争を長引かせることが、より大規模でおそらくより強力な紛争当事者であるロシアに有利に働くという考えに疑問を投げかけるからだ。クルスク作戦が最終的に失敗したとしても、現在の膠着状態を逆転させ、ウクライナが相対的に有利になるようなウクライナの戦略を描くことができる。プロイセンの軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツが19世紀に記したように、「軽く保持された、あるいは無防備な地方の占領は、それ自体が有利であり、この有利さが敵に最終的な結果を恐れさせるのに十分であれば、それは平和への近道と考えることができる」。もしキエフが小規模でもロシアの国境地帯を占領し、保持することができれば、モスクワは自国の領土において、西側の制裁によってこれまで耐えてきたことよりも重大な痛手を被る可能性を考慮しなければならなくなる。

これらは全て、より広範なアメリカの戦略に影響を与える。私は以前から、ウクライナにおけるロシアの戦争に対するアメリカの最適なアプローチは、中国が台湾に対して準備するよりも速い時間軸で、ロシアに代理敗北を与える機会として利用することだと主張してきた。過去2回の国家防衛戦略で、アメリカは複数の主要な相手と同時に戦争する準備ができていないことが明らかになった。ロシアの継続的な侵略に対して集中的かつ規律ある方法で資源を使うことで、アメリカはヨーロッパに対するロシアの脅威を弱め、その上でインド太平洋における抑止力を強化するための余地(bandwidth)を確保するチャンスがある。

問題は、アメリカが敵国ほど時間をうまく使えていないことだ。ウクライナ戦争が始まって以来、アメリカの国防予算は比較的横ばいで推移している。中国はこの時間を利用して、自国の銀行業界を制裁から守り、エネルギー供給をアメリカが混乱させにくいルートへと方向転換し、台湾近辺に攻撃部隊を増強し、アメリカとの核バランスを達成する努力を加速させている。イランはこの間、国防予算を増やし、中東全域の代理勢力に軍備を提供し、核兵器開発期間をほぼゼロに縮めてきた。

敵国が24時間体制で武装している一方で、アメリカは自国の防衛産業基盤を、ウクライナを支援できる状態にまで引き上げるのに苦労している。国防総省の推計によれば、アメリカは毎月8万発の155ミリメートル榴弾砲の砲弾を生産する予定だ。ウクライナが防衛陣地を維持するだけでも月に少なくとも7万5千発が必要であること、そして1990年代半ばには、アメリカが月に80万発以上の砲弾を生産していたことを考えるまでは、この数字は印象的だろう。オランダと同規模の経済規模を誇るロシアは現在、アメリカとヨーロッパを合わせた量の3倍の弾薬を生産している。最近の試算によると、アメリカがウクライナに提供したパトリオットミサイル迎撃機、ジャヴェリン対戦車システム、スティンガー防空システムの在庫を補充するには、現在の生産レヴェルで5年かかるという。

ヨーロッパの状況は更に悪い。高飛車な美辞麗句を並べ立てながらも、ほとんどのNATO諸国は、戦争を抑止するための必須条件である戦争への備えについて、中途半端な努力しかしていない。再軍備への意欲を好転させると宣言したにもかかわらず、ドイツは過去2年間、国防予算の不足を容認してきた。最近ではウクライナ支援を半減させ、2025年の国防予算はドイツ国防省が要求した額ではなく、インフレを補うのがやっとというわずかな増額にとどめた。2022年と2023年のNATO首脳会議で、西ヨーロッパの同盟諸国がNATOの東側に師団規模の部隊を配備すると約束し、その後、東側の防空を改善すると約束したが、実現されていない。最近の報告書によれば、ヨーロッパには長期にわたる紛争を遂行するための「備え、産業能力、サプライチェーン、雑誌の充実度、兵站、質量、資源、そして特に『戦う意志(will of fight)』が欠けている」という。

要するに、ワシントンとその同盟諸国は、ロシアの侵攻という衝撃を受けてからの時間を賢く使わなかったが、敵対国は賢く使ったということだ。2年以上前から、主要先進諸国との長期にわたる紛争にどのような規模の努力が必要かは明白であった。それにもかかわらず、アメリカもその同盟諸国も、そのような事態に備えるために必要な準備に近いものは何もしてこなかった。

このような背景から、クルスク侵攻のようなウクライナのロシアへの侵攻は戦略的な意味を持つ。もしウクライナ側が、ロシアの小さな地域さえも危険に晒すことができることを証明できれば、時間さえかければ、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領に、キエフにとってより有利な条件で交渉のテーブルにつかせることができるかもしれない。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、これが作戦の目的だと明言している。プーティンは、「敵は将来的に交渉の立場を改善しようとしている」と発言し、それを認めた。

東ヨーロッパ戦争の最終段階で領土が果たしてきたユニークな役割を強調するのは価値があることだ。過去において、ロシアが戦争後に不利な条件を達成できなかったのは、相手がロシアの領土を保持していたときだけである。例えば、1921年のポーランド・ソヴィエト戦争終結時、ソヴィエト・ロシアはポーランド軍がソ連領の一部を占領した後に西進を終了した。これとは対照的に、フィンランド・ソヴィエト冬戦争では、フィンランド軍がほとんどの軍事戦に勝利したにもかかわらず、ソヴィエト領土を占領することができなかったため、フィンランド領土の大部分を割譲して終結した。

言い換えれば、ウクライナにとって領土は、ロシアに対する制裁緩和やその他の経済的インセンティヴよりも価値のある、最も重要な影響力なのである。したがって、西側諸国の目的は、ウクライナにとって可能な限り最良の条件で、できるだけ早く戦争を終結させる方法として、ゼレンスキーがロシアの領土を保持するのを支援することであるべきだ。

そのためには、バイデン政権はこれまでやりたがらなかった2つのことを実行する必要がある。第一に、戦場での優位性を維持するために必要な武器をウクライナに提供し、キエフがそれらの武器を使用する方法に対する制限を撤廃すべきである。これにはリスクがない訳ではなく、ロシアはNATOやアメリカを直接脅かす形で紛争をエスカレートさせて対応する可能性がある。しかし、これらのリスクは、代替案のリスクと対比させて考慮する必要がある。例えば、ヨーロッパが安定する前にアジアを優先しようとする試みや、イランに対する先制攻撃など、より劇的で危険な試みである。おそらく最悪は、現在の漸進的な路線を継続することであり、その場合、アメリカの軍事備蓄が枯渇した瞬間に台湾に対する中国の動きでアメリカ政府に直面する可能性があり、おそらくそれ自体がさらにエスカレートする可能性を秘めたシナリオとなるだろう。

第二に、ワシントンは戦争に対する明確で達成可能な政治目標を定義する必要がある。その目標は、2022年2月までのウクライナの国境内に主権を回復し、独自の外交政策を担当し、経済的に実行可能で軍事的に強力になることである。それは本質的に価値がある。また、将来のロシアのヨーロッパ侵略に対する防波堤(breakwater against future Russian aggression)として機能する可能性もあり、それによってアジアにより重点を置くというアメリカの目標を支援する。

これらの線に沿ってアメリカの目標を定義することは、バイデン政権の曖昧で不安定な戦争アプローチを放棄することを意味する。バイデン大統領は、最終目標について、ロシアの体制転換(regime change)であると繰り返し示唆した。明らかに達成可能ではないことに加えて、このような、アメリカの目標を組み立てると、戦場で交渉が望ましい地点に達したときにアメリカがウクライナを支援することが困難になる。外交とは、侵略に直面したときの降伏や甘い合理性のことではない。むしろ、クラウゼヴィッツが書いたように、それは国家が「敵軍を殲滅するよりも目標に向かうより短い道(shorter route to the goal than the destruction of the opposing armies)」を見つけるための重要な媒体である。

制限のない軍事援助の拡大と最終目標の明確化という両方の点で、ワシントンとその同盟諸国は緊迫感を持って行動する必要がある。時計の針はアメリカに不利に働いている。時間が賢明に活用されていないという単純な理由で、順序決定戦略は2022年当時よりもリスクが高まっている。しかし、配列決定のリスクは、代替手法のリスクよりも依然として低い。配列処理には、おそらく最後の一押しが必要となる。

だからこそ、ウクライナ人を助けると同時に、複数の大国が敵対する戦争でアメリカ軍を支援できるよう防衛産業基盤の整備を急ぐという、2つの側面からアプローチすることが重要だ。また、ワシントンがヨーロッパの同盟諸国に対し、戦争に備えて現在行っている以上のことを行うよう働きかけることも重要だ。そうでなければ、得られるのは短い猶予だけで、アメリカが戦争を抑止するためにアジアでの態勢を強化することはできない。

戦略は固定されたものではなく、状況に応じて決まる。アメリカとその同盟諸国は現実と差し迫った選択に目を覚ます必要がある。アメリカが真剣に戦争の準備を始めない限り、実際には一度に一つ、あるいはもっと悪いことに複数の戦争を同時に戦わなければならないことになるかもしれない。

A・ウェス・ミッチェル:「ザ・マラソン・イニシアティヴ(The Marathon Initiative)」代表。トランプ政権でヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2024年の大統領選挙までは、「ドナルド・トランプとカマラ・ハリスではどちらが勝つか」という質問を受けることばかりだった。選挙が終わって1か月ちょっと過ぎている今まででは、「トランプが大統領になってアメリカはどうなるか、世界はどうなるか、日本はどうなるか」という質問を受ける。予言者ではない身としては答えるのに難しい質問ばかりだ。そこで、ハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルトはどう考えているかを見ていきたい。ウォルトもまたトランプを「予測不可能だ(unpredictable)」と言っているのではあるが。是非下の論稿を読んで欲しい。

 対中国に関しては、核兵器を使った戦争も辞さないと考える人たちがいる一方で、関わるべきではない、国内問題を優先すべきだと考える人たちもいる。トランプはその間を行ったり来たりするだろうというのがウォルトの見立てである。私は、トランプは中国との戦争を望まないだろうと考える。そして、アメリカが中国と戦うまでには何段階かあり、その中には、日本がけしかけられる形で、中国と戦うという段階があると思われる。そうなれば、世界経済は崩壊してしまうだろうと考えると、トランプは経済面での中国との貿易戦争を行う可能性は高いが、実際の戦争はない。

トランプ自身は戦争を損だと考えると思われるので、ウクライナ戦争も、そして中東地域でも戦争の拡大を望まないだろう。ウクライナ戦争はトランプ政権下で停戦ということになり、NATOに関しては、各国の負担増大を強く望むことになるだろう。中東地域におけるイスラエルの動きは気になるところだ。イランはイスラエルとの全面戦争を望まないだろうが(これはイスラエルもそうだろう)、現状のように押しまくられている状態で、どこかで反撃ということも考えられる。核戦争の脅威があるという懸念がある限り、アメリカはイスラエルを見捨てることはできないだろうが、現在のベンヤミン・ネタニヤフ首相があまりにも戦争を拡大させるようであれば、アメリカは歯止めをかける動きに出るだろう。大きな戦争は起きないだろうが、アメリカの国力の低下と威信の低下によって、各地域での役割が縮小することによって、各地域内での未解決の問題に関して、「自力救済」を求める動きが出て、不安定化したり、小競り合いが起きたりすることがあるだろう。

 トランプは日本に対してあまり関心を持たないだろう。アメリカ国内への投資とアメリカからの輸入増大、更には防衛費の増額(アメリカの負担の軽減)にしか関心がないと言ってよい。現在、日本では防衛費負担増額のための増税が進められているが、これは「防衛費を対GDPの2%まで倍増させよ」というトランプ政権以来の「厳命」に沿った動きである。「予測不可能な」トランプである。「2%?それはまだ低すぎる、3%だ」ということを言ってくる可能性もある。「それに加えて、アメリカ国内に工場を作れ」ということにもなるだろう。更には、「アメリカが産出する石油と天然ガスを買え」という要求も出てくるだろう。これらについて「条件を交渉する」役割が石破茂首相には求められる。石破氏は、トランプにとって、「ゴルフもやらない、おべっかも言わない」初めての日本の首相となる訳だが、タフな交渉相手であるところを見せれば、かえって好意を持つ可能性はある。「話せる奴」という評価を得ることが重要だ。

 アメリカ国内においては、関税引き上げによる経済への影響は気になるところだ。物価高を引き起こし、インフレ懸念が高まる。経済成長と人々の収入の増大を伴う物価高は望ましいが、そうではない場合には、アメリカ国内に生活苦からの不安定な状況が生み出さされる可能性がある。予断を許さない状況だ。

(貼り付けはじめ)

2024年のアメリカの選挙が外交政策に及ぼす10の影響(The 10 Foreign-Policy Implications of the 2024 U.S. Election

-トランプ2.0について考えるべきこと

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年11月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/11/08/10-foreign-policy-implications-2024-election/

donaldtrumpinmichigan20241105001
ミシガン州グランドラピッズでの集会に登場する共和党大統領候補ドナルド・トランプ(11月5日)

映画ファンは、ある映画の続編が良いものであることはほとんどなく、第一作よりも暗い展開になることが多いことを知っている。トランプの大統領としての最初の作品は多くの人を失望させ、一部の人にとっては致命的であった。それが、2020年の選挙でトランプが負けた理由である。リメイク版は更に悪いものとなるだろう。2024年のアメリカ大統領選挙がもたらすであろう影響トップ10を以下に挙げていく。

(1)アメリカ政治はミステリーだ(U.S. politics is a mystery)。
まだ明らかでなかったとしても、今や、誰もアメリカの選挙政治がどのように機能するのか理解しておらず、このテーマに関する従来の常識の多くが大間違いであることは火を見るより明らかだ。世論調査は当てにならないし、「地上戦(ground game)」の重要性についての定説は当てはまらないし、何が起こるか分かっていると思っていた賢い人たちは皆、間違っているだけでなく、大きく外れていた。2016年と同様、ドナルド・トランプ前米大統領とそのティームも、私たちと同様に驚いたのではないかと思う。私の粗雑な見解では、アメリカのエリートたちは、国民(body politic)の中にどれほどの白熱した怒りと恐怖が存在し、その多くが自分たちに向けられているのかをまだ過小評価している。民主党にとって何が問題だったのか、なぜ専門家たちはまたもやそれを見逃してしまったのか、その場しのぎの分析が延々と続くだろう。しかし、同じ「専門家」たちはこれを解明するのに8年を費やしており、今でも検討中である。

(2)トランプは予測不可能であろう(Trump will be unpredictable)。その通りだ。トランプは、予測不可能であることで、他者を不安にさせ続けることができる資産とみなしており、彼の不規則な行動に対する評判は十分に高く、一貫性がないことを批判するのは難しくなっている。このため、支持者を含め、誰も彼が何をするか正確に知っていると自信を持ってはならない。彼が個人的な政治的・経済的利益にならないことはしないのは確実だが、それがどのように政策に反映されるかは計算ができない。選挙期間中、彼はおかしなことをたくさん言ったが、そのどれだけが威勢のよいハッタリで、どれだけが本心なのかはまだ分からない。

更に言えば、共和党内には、いくつかの重要な問題、とりわけ中国をめぐって、重要な分裂がある。リアリストたちは、ヨーロッパ(とおそらく中東地域)から離れて、アジアに集中し、台湾に対するアメリカの関与を強化したいと考えている。一方、アイソレイショニストやリバータリアンたちは、ほとんど全ての地域から離れ、アメリカの行政国家の解体(dismantling the administrative state back home)に集中したいと考えている。そして、これらの人々の中には、アジアでの核兵器の使用について、かなり恐ろしい考えを持っている人たちもいる。誰がどの役職に就くのかに注目して欲しいが、政権内部には両方の派閥が存在し、トランプはその間を単に行ったり来たりかもしれないので、これを知っていても全てが分かるものでもない。

また、トランプが外交問題にどれほどの関心を払うつもりなのかも不明だ。主に民主党のライヴァルへの復讐と、悪名高い「プロジェクト2025」に書かれた過激な国内政策の追求に力を注ぐのか、それとも世界中でアメリカの政策を変革しようとするのか? あなたの推測は私の推測と同じだ。しかし、覚えておいてほしい。トランプはまた、エネルギーと集中力が目に見えて衰えてきている人物でもある(しかも、これらは最初の任期中はそれほど印象的ではなかった)。彼の任命した人たちは、何かがうまくいかなくなり、責任を取らなければならなくなるまで、多くの自由裁量権(latitude)を持つだろう。結論としては、私を含め、誰もトランプが何をするか分かっていると自信を持つべきではないということだ。

(3)リベラルな覇権は死んだ(Liberal hegemony is dead)。
ジョー・バイデン米大統領、アントニー・ブリンケン国務長官、ジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官、カマラ・ハリス副大統領、そしてその他の人々は、冷戦終結以来アメリカの外交政策を導いてきたリベラルな覇権という戦略を復活させ、修正しようとしてきた。彼らの試みは以前のヴァージョン以上に成功せず、有権者は決定的な拒絶を示した。トランプに投票した人々は、民主政治体制を広めることに興味がなく、人権に関心がなく、自由貿易に懐疑的で、外国人を国内に入れたがらず、グローバルな制度に警戒心を抱いている。彼らは、トランプが公然と敵対している訳ではないにせよ、これら全てに無関心であることを知っている。

私がこの失敗した戦略に固執している民主党と共和党の両方を繰り返し批判してきたことを考えると、私が選挙結果に満足していると思う人がいるかもしれない。私は満足していない。なぜなら、トランプ大統領の外交・内政政策へのアプローチは、アメリカ国民を更に貧しく、より分断し、より脆弱なままにすると信じているからだ。そして、現在状況が悪いことが、状況が更に悪化することはないと意味することはないからだ。

(4)来るべき貿易戦争に気をつけろ(Beware the coming trade war)。

トランプ大統領が選挙戦で語った、1930年代にあった関税を全ての人に課すという話は、単なる威勢だけのハッタリだった可能性がある。ロバート・ライトハイザーのような保護主義者にこの問題を委ねるのか、それとも比較的開かれた市場とグローバルなサプライチェインに依存する新しい技術者仲間の意見に耳を傾けるのかにもよる。トランプは現代経済の仕組みについて洗練された理解を示したことがないため、もし彼が深刻な貿易戦争に踏み切った場合、多くの意図しない悪影響が予想される(財政赤字の増加、債券市場の圧力、インフレなど)。彼は自分自身を責めるしかないが、どこかで都合のいいスケープゴートを見つけるだろう。

(5)ヨーロッパは困難な状況にある(Europe is screwed)。
トランプはアメリカのヨーロッパの同盟諸国を戦略的資産とは見ておらず、以前から公然とEUを敵視している。過去にはEUを敵視し、ブレグジット(イギリスのEU離脱)は素晴らしいアイデアだと考えていた。なぜなら、EUは経済問題で声を一つにすることができて団結できるので、アメリカがEUを押し切ることが難しくなると理解していたからだ。共和党は、全てではないにせよ、ほとんどの形の規制に反対しており、イーロン・マスクのような人々は、ヨーロッパのデジタル・プライバシーに関するより厳しい規則に反対している。トランプはブリュッセルを無視し、アメリカがはるかに強い立場にあるヨーロッパ諸国それぞれとの二国間関係に焦点を当て、EU自体を弱体化させたり分裂させたりするためにできることは何でもやるだろう。この危険性によって、(フランスのエマニュエル・マクロン大統領が提唱し続けているように)ヨーロッパ諸国が結束して反対する可能性もあるが、それよりも可能性が高いのは、どの国も自分たちのために気を配るということだ。

NATOに関しては、トランプは完全に脱退することを決めるかもしれない。しかし、NATOはまだ多くのアメリカ人に人気があり、正式な脱退は国防総省や連邦議会共和党の一部から多くの反発を受けるだろう。それよりも可能性が高いのは、トランプがNATOにとどまりながら、ヨーロッパ諸国が十分なことをしていないと非難し続け、アメリカの兵器購入などにより多くの防衛費を費やすよう働きかけることだろう。そのようなアプローチを採用するアメリカ大統領は、トランプが初めてではないだろう。バイデン時代のぬるま湯の後、トランプ2.0はアメリカのヨーロッパのパートナー諸国にとって冷たいシャワーのように感じるだろう。

(6)ウクライナは本当に困難な状況にある(Ukraine is really screwed)。

もしハリスが当選していたら、ウクライナでの戦闘の終結を強く求めていただろうし、可能な限り最良の取引もやはりキエフにとってはかなり不利なものだっただろうと思う。しかし、彼女はウクライナに多少なりとも有利な条件を引き出すために、米国の支援が継続されるという見通しを利用しようとしただろうし、ロシアとの取引が成立した後も、いくらかは安全保障上の支援を提供しただろう。トランプ大統領は、米国の援助を打ち切り、ウクライナは自分たちの問題だとヨーロッパに言う可能性が高い。トランプは確かに、議会が再び大規模な支援策に賛成するよう説得するために政治資金を使うことはないだろう。世論は彼を支持するだろうし、彼の唯一の懸念は、ロシアがウクライナの他の地域を制圧し、彼が腑抜けで弱く、世間知らずだと思われることかもしれない。しかし、ロシアのプーチン大統領が恒久的な分裂を受け入れ、名目上は独立したもののNATO加盟には向かわず、傷ついたウクライナが残ることになれば、ほとんどのアメリカ人はページをめくって前に進むだろう。そうなれば、トランプは戦争終結の手柄を独り占めすることになる。

もしハリスが当選していたら、ウクライナでの戦闘の終結を強く求めていただろうし、可能な限り最良の取引もやはりキエフにとってはかなり不利なものだっただろうと思う。しかし、彼女はウクライナに多少なりとも有利な条件を引き出すために、アメリカの支援が継続されるという見通しを利用しようとしただろうし、ロシアとの取引が成立した後も、いくらかは安全保障上の支援を提供しただろう。トランプ大統領は、アメリカの援助を打ち切り、ウクライナはあなたたちの問題だとヨーロッパに言う可能性が高い。トランプは確かに、連邦議会が再び大規模な支援策に賛成するよう説得するために政治的資本を使うことはないだろう。世論は彼を支持するだろうし、彼の唯一の懸念は、ロシアがウクライナの他の地域を制圧し、彼が腑抜けで弱く、世間知らずだと思われることかもしれない。しかし、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が恒久的な分裂を受け入れ、名目上は独立したもののNATO加盟には向かわず、傷ついたウクライナが残ることになれば、ほとんどのアメリカ人はページをめくって前に進むだろう。そうなれば、トランプは戦争終結の手柄を独り占めすることになる。

(7)中東紛争は続く(Middle East strife will continue)。

バイデンとブリンケンの中東への誤った対応は、非人道的で非効果的な政策から距離を置こうとしないハリスの姿勢と同じくらいに、選挙でハリスを苦しめた。とりわけこの立場は、トランプを人権や民主政治体制、法の支配を気にしない危険な過激派として描こうとする彼女の試みを台無しにした。しかし、トランプが大統領に就任したからといって、事態が好転すると錯覚する人はいないはずだ。彼は最初の任期中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に望むものを全て与え、イランの核兵器保有を阻止する協定から離脱し、ガザ地区、レバノン、占領下のヨルダン川西岸地区で罪のない人々が直面している悲劇的な損失には涙ひとつ流さないだろう。イスラエルがイランを攻撃するのを手助けするのを嫌がるかもしれないが(特に、彼の友人であるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子がそうしないように助言するならば)、そうでなければイスラエルはパレスティナ人を根絶やしにしたり追放したりする青信号を持ち続けるだろう。

トランプ大統領が自らを偉大な和平交渉者(grand peacemaker)として位置づけ、失敗に終わったアブラハム合意に沿って、ある種のスーパーチャージされた大取引を追求していると想像する人もいるかもしれない。一期目の任期中に北朝鮮の指導者である金正恩と会談したのと同じように、トランプがイランの新大統領やその最高指導者とさえ喜んで会談すると発表するところを想像することさえできた。しかし、トランプには実際の交渉を行うための忍耐力も余裕もないため、このようなことは、音と怒りに満ちた、何の意味も持たない大々的な宣伝以外には何も生まれないだろう。

(8)縛られない中国(China unbound)。

前述したように、トランプ大統領のアドバイザーたちは中国をどう扱うかについて意見が一致していないため、トランプ大統領が中国にどう対処するか正確に知ることはできない。貿易問題で強硬手段に出るのはほぼ確実で、中国企業への半導体チップなどの技術移転規制を撤回するとは考えにくい。中国への敵意は、おそらくワシントンに残された唯一の超党派の問題であり、そのことがワシントンと北京の間の重要な取引交渉(grand bargain、グランド・バーゲン)を想像しにくくしている。

残念なことに、トランプ大統領はアジアの同盟諸国にも喧嘩を売る可能性が高く、台湾が直接脅かされたり攻撃されたりした場合に台湾を支持するかどうかについては、既に疑念をまき散らしている。中国に立ち向かうためには、アジアのパートナーが不可欠であり、それはアメリカが海を隔てているという明白な理由からである。中国政府関係者はトランプ大統領の再選にやや二律背反的な感情を抱いているかもしれない。しかし彼らは、トランプが衝動的で無能な経営者であり、1期目のアジアへのアプローチが支離滅裂で効果的でなかったことも知っている。トランプの2期目は、バイデンとブリンケンがアジアで達成した成果(これが彼らの外交政策における最大の成果だった)を覆す可能性が高く、北京はそれを歓迎するだろう。

(9)気候に関する危機()。

これは簡単なことだが、やはり憂慮すべきことだ。トランプは気候変動に懐疑的で、化石燃料の「掘れ、ひたすら掘れ」が正しいエネルギー政策だと信じている。この問題に対する世界的な進展は遅れ、アメリカにおけるグリーン転換を加速させる努力は後退し、人類の未来を確保するための長期的な努力は短期的な利益に道を譲ることになるだろう。このようなアプローチは、グリーン技術の優位性を中国などに譲り、アメリカの長期的な経済的立場を弱めるかもしれないが、トランプは気にしないだろう。

(10)分断社会における統一権力(Unified power in a divided society)。

トランプの勝利は国民の団結の証であり、ほとんどのアメリカ人がトランプを全面的に支持していることの表れだと見る人たちもいるだろう。この見方は重大な誤解を招く。民主党はMAGAのアジェンダを受け入れるつもりはないだろうし、特に国内においては、プロジェクト2025で概説された施策は、政治的な分裂をより拡大させるだろう。政敵を追及し、経口中絶薬ミフェプリストンを禁止して、中絶をほとんど不可能にし、ワクチン反対派を重要な公衆衛生機関の責任者に据え、何百万人もの人々を国外追放しようとし、市民社会の他の独立した機関を攻撃しても、国をまとめることにはつながらない。

同時に、統一された行政部を創設するという共和党の長期にわたる取り組みは今や実現に近づき、ホワイトハウス、連邦最高裁判所、連邦上院、そして連邦下院を完全に掌握している。統一されたチェックされていない権力の問題は、間違いを検出して時間内に修正することが難しいということだ。アメリカでは既に説明責任の仕組みが本来よりも弱くなっており、今回の選挙で更にその仕組みが弱体化することが確実視されている。

国民の健康、安全、女性の権利、中央銀行の自主性などに対する国内的な影響とは別に、分極化の深まりは政府の効果的な外交政策能力をも脅かしている。振り子がこれほど大きく揺れ続けているとき、どの国もアメリカが約束したことを政権1期以上続けてくれるとは期待できない。政府が国内の敵の根絶やしに夢中になり、有益な雇用を得ている何百万人もの住民を強制送還し、経験豊かな公務員を忠誠心のあるハッカーに置き換えるような状況では、対外的に賢明なアプローチを行う能力は必然的に弱まる。深く分裂したアメリカはまさに敵の望むところであり、トランプ大統領がそれを悪化させる以外のことをすると考える理由はない。

アメリカの世界的な役割の大きさを考えると、アメリカ人を含む世界の人々は、人間による被験者の規制を全く受けずに行われる大規模な社会実験に参加しようとしている。この実験でいくつかの前向きな結果が得られると信じたいが、たとえささやかな成果が得られたとしても、自らが負った一連の傷によって埋もれてしまうのではないかと懸念している。冬がやって来る。私が警告しなかったとは言わないで欲しい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2022年2月に始まったウクライナ戦争は2年半を超えて、戦況は膠着している。この表現は定型のようになってしまっている。ウクライナが状況を自分たちに有利にする方法は今のところない。西側諸国は支援を続けているが、実質的にウクライナを助けている訳ではない。ウクライナを使ってロシアに出欠を強要しているだけのことだ。一番損をしているのはウクライナ国民ということになる。本当に助ける気があるのなら、西側諸国が連合軍を作って、ウクライナで実際に戦えばよい。しかし、それをやればロシアもまた戦争の段階を引き上げて、最悪の場合には核戦争ということになりかねない。ロシアからの反撃を受けないで、ウクライナが自分たちに有利な状況を作るという不可能な目標を立てて、惰性で戦争を続けているだけのことだ。
ukrainewar20241127map001
 以下の記事は紹介しようと思いながら、紹介してこなかった、スティーヴン・M・ウォルトによる古い記事だ。今年の8月にウクライナはロシア領内への攻撃を行い、小さい部分であるが、占領をしている。これも条件交渉の材料になるということになるが、あまりにも小さい部分で、その効果は大きくないように思われる。また、「ロシア領内に侵攻」という言葉のインパクトはあったが、実質は表面をちょっとひっかいたという程度のことで、大勢(たいせい)に大きく影響しなかった。ここがウクライナのできる限界点ということになるだろう。

アメリカ国民は、「ウクライナ戦争を止めさせる」と主張するドナルド・トランプを大統領に選んだ。アメリカが資金を出さなければ、ウクライナは戦争を続けることはできない。資金が枯渇する前の段階で、ウクライナは停戦交渉に応じなければならない。なぜなら、戦えなくなってからの交渉では、無条件降伏に近い形になってしまうからだ。ここのタイミングはトランプ政権が正式発足してから数カ月の間で実施されることになるだろう。トランプがロシアのウラジーミル・プーティン大統領に「ウクライナの話も少しは聞いて条件を組んでやってくれ」と求めることになるだろう。アメリカはウクライナ支援を続け、ロシアへの正妻も行っている関係上、仲介者として不適任となれば、中国の習近平国家主席が仲介に乗り出すということも考えられる。ウクライナ戦争が終結して、地域が安定すれば、世界的な物価高にも好影響をもたらすことになるだろう。

 私は2022年3月から、このブログで早期停戦を主張してきた。ウクライナ軍がロシア軍の進軍を阻止した時点で、ウクライナ軍の英雄的な行動の効果を使って、色々な条件を付けられると考えていた。しかし、実際には戦争は長引き、犠牲者は増え、ウクライナは国土の20%を失った。まだ条件を交渉できるうちに、停戦交渉を行うべきだ。

(貼り付けはじめ)

ウクライナによるクルスク攻勢の先が見えない意味(The Murky Meaning of Ukraine’s Kursk Offensive

-短期的な成功が必ずしも長期的な効果をもたらすことにはならない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年8月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/28/ukraine-kursk-offensive-war-ceasefire-russia-meaning/

alocalvolunteerukraine20240816001
ウクライナがロシア西部のクルスク地方に攻め込んだ後、クルスクでウクライナの攻撃によって破損した建物を見る地元ヴォランティア(2024年8月16日)

ウクライナのロシアへの奇襲反攻(surprise counteroffensive)は、戦争の重要な転換点なのか、無意味な枝葉の行為なのか、それともキエフ側の戦略的失策なのか? 短期的にはほぼ成功しているが、重要なのは中長期的な視点である。西側の対ロシア政策全般、特にウクライナ戦争に対して、より広範な意味を持つのだろうか?

2022年2月にロシアが侵攻して以来、戦局は何度も一進一退を繰り返してきた。そのため、ある程度の謙虚さは必要である。ほとんどの戦争がそうであるように、能力面でも決意面でも、両方の側の限界点(breaking point)がどこにあるのかを正確に知ることは不可能であり、第三者が新たな展開にどう反応するかを予測することも難しい。そうではあるが、ウクライナのクルスク地方への侵攻がウクライナの運命に大きな好影響を与えると考える理由はほとんどない。

確かに、この攻撃は既にキエフに明らかな利益をもたらしている。ウクライナの士気を大いに高め、キエフが大きな敵との消耗戦に巻き込まれ、勝つことも長引くこともできないという懸念を払拭するのに役立った。戦争を再び表舞台に押し上げ、西側諸国の支援強化を求める声を強めた。ロシアの情報と準備態勢に重大な欠陥があることを露呈し、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領を困惑させたかもしれない。しかし、この侵攻によってプーティン大統領の決意が弱まったとか、ドンバスでのロシアの前進が鈍ったという兆候はない。

ウクライナが戦場でいくつかの成功を収めているのを見るのは心強いが、この作戦が戦争の結果に影響を与える可能性は低い。良い面としては、この攻撃ではウクライナ側の見事なイニシアティヴと驚くべきレヴェルの秘密作戦が示され、そのため侵攻軍が不十分な数の訓練を受けたロシアの守備兵に直面したのである。ある意味、この攻撃は2022年秋にハリコフで成功したウクライナ軍の反撃に似ていたが、これもまた戦術的な奇襲を達成し、数で劣り経験の浅いロシア軍と対峙した。

残念ながら、これらのエピソードから、1年前のウクライナの攻勢を阻止したような、十分な準備と人員を整えたロシアの防衛力に対してウクライナが地歩を固めることができるかどうかはほとんど分からない。更に言えば、クルスクの作戦では、ロシア軍よりもウクライナ軍の損失が大きくなる可能性があり、これはウクライナにとって維持できる交換比率ではない。クルスク戦線での最近の成功をもって、欧米諸国の追加援助でウクライナがドンバスやクリミアを奪還できると結論づけるのは大きな間違いだ。

なぜなら、この2つの国家はまったく異なる状況に直面しているからだ。双方とも多くの兵力と装備を失ったが、ウクライナの方がはるかに多くの領土を失っている。公表されている報告によれば、ウクライナは現在、ロシア領の約400平方マイルを占領し、およそ20万人のロシア人をこれらの地域から避難させている。この数字は、ロシアの総面積の0.0064%、人口の0.138%に相当する。対照的に、ロシアは現在ウクライナの約20%を支配しており、戦争によってウクライナの人口の35%近くが避難を余儀なくされていると言われている。キエフが最近占領した領土にしがみつくことができたとしても、交渉の切り札にはならないだろう。

ウクライナの運命は、クルスク作戦によってではなく、ウクライナで何が起こるかによって決まる。重要なのは、戦場で犠牲を払い続ける意志と能力、ウクライナが他国から受ける支援のレヴェル、そして最終的にウクライナの未占領地域を無傷のまま安全に残す協定が結べるかどうかである。そのためにも、アメリカとヨーロッパはウクライナを支援し続けるべきだが、この支援は、停戦と最終的な和解を交渉するための真剣で感傷的でない努力と結びつけられるべきである。残念なことに、アメリカの高官たちは、たとえ親密な同盟国であっても、その同盟国がアメリカの支援に依存しており、停戦が明らかにアメリカの利益になる場合であっても、停戦に同意させる方法を忘れてしまっているようだ。

クルスク攻防戦は少なくとも2つの問題を提起しているが、そこから正しい教訓を引き出すことが重要だ。最初の、そして最も明白な教訓は、ロシアの限られた範囲と圧倒的な軍事的パフォーマンスを思い起こさせるものだ。2022年以来、タカ派はプーティンがロシア帝国、ひょっとしたらワルシャワ条約機構を復活させることに執念を燃やしており、ウクライナは既存の秩序に対する新たな攻撃を開始する前の第一歩に過ぎないと説得しようとしてきた。この戦争におけるロシアの度重なる失策、そして成功したロシアの前進でさえも氷河期のようなスピードで進んでいることを考えると、ロシアがヨーロッパの他の地域に対して深刻な軍事的脅威をもたらすと信じることができるだろうか? 脅威を煽る人たちは、ウクライナへの支持を強めるためにこの厄介者を利用してきたが、恐怖戦術に頼ることは通常、戦略的判断を誤らせることにつながる。

第二に、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領を含む何人かの論者たちは、キエフがロシアへの侵攻に成功したことは、ウクライナの活動に対する既存のレッドラインやその他の制限を破棄すべきであり、西側諸国(the West)はウクライナが望む形でロシアに戦いを挑むことを許すべきだと示唆している。ウクライナ軍がロシアのエスカレーションを誘発することなく、ロシア領土に侵入できるのであれば、それはプーティンが張り子の虎(paper tiger)であることの証明であり、彼の以前のエスカレーションの脅し(核兵器への言及を含む)は、今やブラフであり、そのブラフが破られたことを意味する。

このような主張は、ウクライナにもっと良い武器を持たせ、その使用制限を解除させるためのものであり、ウクライナの指導者たちがこの考えを推し進めることを責めるつもりはない。しかし、ウクライナが何をしようとエスカレーションの危険はないという主張は断固として否定されるべきである。実際、ウクライナがロシア領内への侵攻を決断したのは、自国にとって不利な流れを逆転させるための危険な試みと見ることができる。これとは対照的に、プーティンはドンバスで自軍が勝利している場合、エスカレートする動機がない。ロシアがエスカレートする危険性があるのは、モスクワが壊滅的な敗北に直面した場合だけだ。

問題は、現在進行中の戦争がエスカレートする危険性だけではない。私たちは、戦闘を終わらせるための真剣な外交的努力を避けながら、おそらく到達不可能であろうと公言されている戦争努力を援助することに道徳的に問題がないかを自問すべきだ。現在の政策がもたらすであろう結果は、明白な政治的目的もなく、より多くの人々が死ぬということだ。ロシアとウクライナの戦争に交渉による解決を求めることは、自己利益と道徳(self-interest and morality)が一致した事例の1つである。ウクライナの最近の軍事的成功は、ウクライナが生き残ることはできても勝つ見込みのない高価な戦争を長引かせる口実としてではなく、真剣な停戦交渉を開始する機会としてとらえるべきである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。
ウクライナ戦争は2022年2月24日に始まってからいまだに停戦を迎えていない。このまままた冬を迎え、年を越していくことになる。現在、中東情勢が緊迫の度合いを深めている中で、注目も薄れているように感じる。大きな動きもなく、戦況は膠着状態に陥っている。そうした中で、犠牲者だけが増えている。私は2年前から訴えているが、一日も早い停戦を望む者である。

ukrainewarsituationmap20241014001

ウクライナの最大の支援国であるアメリカは大統領選挙期間中、しかも現職の大統領は再選を目指さないということでレイムダック状態になり、大きなことはできにくい状態にあり、選挙が終わって、新政権ができてからしばらくの間は、アメリカは動けない。そうした中で、停戦のきっかけをつかむのは難しい。ウクライナの国内状況が変わらねば、早期停戦は望めない。具体的にはヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の交代だ。

 そうした中で、「ウクライナのNATO加盟」という話も出ている。私は、ウクライナのNATO加盟には反対する。ウクライナのNATO加盟は紛争の火種を残すことになる。それならば、EU加盟を目指すべきだ。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は多少の皮肉も込めながら、ウクライナのEU加盟には反対しない姿勢を示した。ウクライナの腐敗度や財政赤字をEU諸国で面倒を見られるのか、どうなんだという皮肉を示しているが、ウクライナにとっては、EU加盟は経済を向上させるには良いきっかけとなる。

EU諸国にとっては逆で、ウクライナを支援する負担を考えるとEUには加盟させたくない。しかし、ロシアをこれからも挑発する存在としては味方につけておきたい。それで、NATO加盟という話も出ている。しかし、それはあまりにも危険だという慎重論ももちろんある。自分たちからわざわざ危険を高めてしまう行為であるからだ。現在のウクライナ戦争もヨーロッパ諸国にとっては大きな負担である。そうした状況がこれからも続く上に、ロシアからの核攻撃の脅威に晒されるという危険が継続するということはヨーロッパ諸国、更にはアメリカの人々にとっては耐えがたい苦痛だ。

 アメリカと西側諸国の火遊びがロシアによるウクライナ侵攻を招いた。そうした中で、将来に火種を残すような、ウクライナのNATO加盟、NATO軍のウクライナ国内駐留という話は状況を不安定化させるだけだ。

=====

ウクライナはNATOへの「河川湖沼横断(渡河作戦)」を必要としている(Ukraine Needs a ‘Wet Gap Crossing’ to NATO

-ウクライナに戦時中の橋渡しをするために、アメリカ軍の戦略(playbook)を使う時が来た。

アン・マリー・デイリー筆

2024年6月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/18/ukraine-nato-bridge-biden-usa/

passerellemimrampedestrianbridgeeu001

NATO首脳会議中の2009年4月4日に撮影された、ドイツのケールとフランスのストラスブールを繋ぐパセレル・ミムラム歩道橋の一帯。

バイデン政権は時に、ウクライナのNATO加盟への「橋(bridge)」を築く必要性に言及する。これは適切な比喩だが、支持者たちが考えるような方法ではない。

橋について言えば、単なる希望の象徴(symbol of hope)と思うかもしれない。しかし、軍事的な文脈で使われる橋は、戦時中のインフラとしての役割を最もよく示している。なぜなら、戦時中の橋の建設は、軍事プランナーが「ウェット・ギャップ・クロッシング(河川湖沼横断、wet gap crossing)」と呼ぶ、とてつもなく困難で複雑な作戦だからである。2022年5月にウクライナがシヴェルスキー・ドネツ川を渡ろうとしたロシア軍大隊を壊滅させたように、河川湖沼横断の実施は危険を伴うが、戦略的な見返りは大きい。1944年、ジョージ・S・パットン将軍率いる第3軍はナンシーでモーゼル川を渡り、ドイツ軍の防衛ラインを転換させ、バルジの戦いのための戦略的位置を開いた。

ウクライナをNATOに加盟させることは、河川湖沼横断と同じようにリスクとコストがかかるが、戦略的な成功につながる可能性がある。もしNATO諸国がウクライナをNATOに加盟させることを本当に真剣に考えているのであれば、NATOへの架け橋を作ることは単に巧みな外交的比喩であってはならないし、シヴェルスキー・ドネツ川のロシア軍のように単に向こう側に行くためだけに試みるべきではない。困難で、洗練された、多面的な作戦のように取り組まなければならないし、第二次世界大戦中のモーゼル川横断のように、戦後のヨーロッパ・大西洋安全保障のためのより広範な戦略の一部でなければならない。

7月にワシントンで開催されるNATO首脳会議で、ウクライナのNATOにおける将来的な役割を計画する外交官や政治家たちは、河川湖沼横断に対するアメリカ軍独自のアプローチを理解するのがよいだろう。その教訓は示唆に富んでおり、身の引き締まる思いがする。

ステップ1:迂回を試みる(Step 1: Try to go around

河川湖沼横断は非常に困難であるため、可能であれば完全に回避することが望ましい。ウクライナをNATOに参加させるのはリスクが高すぎるから回避すべきだと言う人もいるだろう。しかし、それはウクライナにとってNATO加盟以外に良い選択肢がないという事実を無視しており、長期的に見ればウクライナをNATOに加盟させないリスクの方が大きい。軍事作戦でもそうだが、川を渡ることが目的地への最も早く効果的な方法であることはよくある。

コンバット・ブリッジング(戦闘中の架橋、combat bridging)に固有のリスクや困難が知られているにもかかわらず、軍隊がこの能力を維持しているのは、河川湖沼横断の成功によって得られる戦略的機会が、リスクや困難に見合うものである場合があることを知っているからである。また、時には迂回するという選択肢がないことも知っている。ロシアは近隣諸国を侵略し、核のサーベルを鳴らしているが、NATOを直接攻撃することはしていない。それは、NATOの第5条が依然として効果的な抑止力となっているからだ。それ以外には何も機能していないのだ。

ウクライナのNATO加盟に反対する人々は、ウクライナへの継続的な物資支援という「イスラエル・モデル(Israel model)」を選ぶべきかもしれない、あるいはG7諸国のような国々の組み合わせがウクライナに長期的な経済支援を提供することで、ロシアに勝ち目はないと確信させることができるだろうと主張する。それは、イスラエルには核兵器があり、ウクライナにはないからだ。実際、そこが重要だ。ウクライナは1994年、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重することにロシアなどが同意したことで、核兵器を放棄した。同様に、すでにEUに加盟しているにもかかわらず、スウェーデンとフィンランドがNATOへの加盟を決定したことは、ウクライナをEUに加盟させ、EUの第42条7項の相互援助条項を与えるだけでは、ロシアの侵略を抑止するには不十分であることを示している。

ステップ2:計画とリハーサル(Step 2: Plan and rehearse

意図的な河川湖沼横断を行うことが決まったら計画が重要である。単に水際まで兵力を移動させ、水際に到達してから横断方法を考えようとしても、大惨事になることは確実だ。渡河地点の候補を偵察し、地形や敵味方の長所・短所を考慮して、どれが成功しそうかを判断し、複数の渡河地点を準備しなければならない。

ウクライナをNATOに加盟させるための選択肢はいくつかあり、いずれも検討されるべきだが、有望と思われるものばかりではない。最初の選択肢は、敵対行為が続いている間にウクライナをNATO加盟国にするというもので、理論的には可能だが、新加盟国を受け入れるには32カ国の同盟国の全会一致が必要であることから、政治的には実現不可能な可能性が高い。地理的に恵まれ、軍事的にも先進国であるスウェーデンを同盟に加入させるのに1年もかかったという事実は、この厳しい事実を裏付けている。仮に、これが政治的に実現可能になった場合、NATOは第5条の保証を単なるリップサービス以上のものにするために、速やかにウクライナに軍を展開しなければならなくなる。

2つ目の選択肢は、停戦または敵対行為の停止をめぐる交渉中の保証の一環として、ウクライナをNATOに加盟させることだ。つまり、停戦が成立次第、ウクライナはNATOに加盟することになる。ロシアはウクライナのNATO加盟のきっかけとなった戦闘停止に同意せずに戦闘を続けることが考えられるため、これはおそらくうまくいかないだろう。

3つ目の選択肢は、停戦後のウクライナの主権と領土の一体性を保証するために、NATO諸国がウクライナ領内に部隊を展開することである。これには、ウクライナに具体的な安全保障を提供する一方で、ウクライナ加盟に懐疑的なNATO諸国を味方につける時間を確保できるという利点がある。

ウクライナの将来の姿は未知数であり、ウクライナのNATO加盟のスケジュールも不明である。NATOはウクライナ加盟に対するNATO諸国の政治的支持の一致を達成するために、また、ウクライナの主権と領土の一体性を保証するために、NATO諸国の軍隊をいつ、どこで、どのように使用するかを決定するために、今すぐ作業を開始すべきである。どちらの選択肢が最も信頼できると判断されるかにかかわらず、どちらの措置も避けられないだろう。

ステップ3:戦場を準備する(Step 3: Prepare the battlespace

コンバット・ブリッジング(戦闘中の架橋、combat bridging)においては、車列を組んで橋を架けたい場所に直接車を走らせ、水中に物を置き始めるようなことはしない。それは自殺行為だ。計画を立て、リハーサルを行い、戦力を整え、有利な条件を整えるための準備を行う。同様に、何の計画も準備もせずにウクライナのNATOへの橋渡しを宣言するだけでは、ウクライナは、2008年のブカレスト宣言後に直面したのと同じ戦略的手詰まり(strategic limbo)の状態に置かれるだけであり、同様に、NATOに加盟できるようになる前にウクライナの主権を弱体化させようとするモスクワの努力を更に倍増させることになる。

NATOにとって、これは加盟諸国が今すぐウクライナのNATO加盟に賛成する票を集め始める必要があることを意味する。外交官たちは、同盟の誰が既にウクライナをNATOに加盟させることに賛成しているのか、そしてどのような条件のもとで加盟させることに賛成しているのかを理解する必要がある。「絶対的に」あるいは「戦争が終わるまでは」加盟させないという立場の人々に対しては、より創造的な解決策を提案し、議論し、内輪で固めていかなければならない。これは一時的な議論では済まない。最終的なウクライナ加盟に向けて戦場を準備するための絶え間ないキャンペーンでなければならない。

ウクライナが1991年の国境を取り戻して戦争が終結するにしても、キエフがそれを下回る形で決着するにしても、NATO加盟諸国の軍隊をウクライナ国内に駐留させ、NATOへの橋渡しに必要な時間、空間、安全を提供する必要がある。この軍隊には、NATOの核保有3カ国(英、仏、米)を含む主要同盟諸国の連合体を含めることが理想的であり、第5条の安全保障がないにもかかわらず、NATOの核保有諸国が合意された国境を守ることを約束していることを示す必要がある。ちょうど、第二次世界大戦の終結から西ドイツがNATOに加盟するまでの数年間、東ドイツのソ連軍を抑止するためにNATO軍が西ドイツに駐留した前例を真似る必要がある。

休戦または停戦後、短期間でこれらの軍隊をウクライナに移動させることは、論理的にも政治的にも極めて困難だ。したがってNATO加盟諸国は、ウクライナを包囲するNATOの防空網がNATO領内を攻撃する軌道にあるロシアのミサイルや、一方向攻撃ドローンの撃墜を開始することを宣言し、ウクライナに少人数のNATO将兵を派遣してウクライナ人に訓練を提供し、民間船舶を保護するために黒海にNATO海軍の能力を認めることについてトルコと交渉することによって、そのような動きの舞台を今すぐ整え始めるべきだ。

ステップ4:関与する(Step 4: Commit

河川湖沼横断作戦は大規模な作戦である。アメリカ陸軍では軍団レヴェルの作戦とされている。空軍、宇宙軍、サイバー資産も重要な支援を提供するように想定されている。困難でリスクが高く、コストもかかるが、適切に行えば戦略的突破口(strategic breakthrough)につながる。

リスクが大きいからこそ、作戦指揮官は関係するリスクを評価し、作戦を危険に晒すことなく、可能な限りリスクを軽減するが、同時に全てのリスクを軽減することは不可能であることを受け入れなければならない。これは極めて重要なステップだ。なぜならば、ひとたび河川湖沼横断が始まれば、指揮官はその計画に全面的に関与し、利用可能な全ての戦力を活用して成功させなければならないからだ。この種の作戦において中途半端な対策は失敗を招く。

NATOがウクライナを加盟させることを真剣に考えているのなら、そしてそうでなければならないのなら、リスクについて明確な認識を持たなければならない。この計画は、より広範な戦略を支えるものでなければならない。そして最も重要なことは、成功を約束することである。もしそうしなければ、最終的に失敗に終わる可能性が高い。

※アン・マリー・デイリー:ランド研究所政策研究員、大西洋評議会スコウクロフト記念戦略・安全保障センター大西洋横断安全保障イニシアティヴ非常駐上級研究員、米陸軍予備役将校。ランド研究所入所以前は、国防長官室でロシア戦略上級顧問およびウクライナ担当デスクを務めた。本書に含まれる見解、意見、発見、結論、提言は筆者個人のものであり、ランド研究所やその研究スポンサー、クライアント、助成機関のものではない。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ