古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ヴォロディミール・ゼレンスキー

 古村治彦です。

 ウクライナが国際的な関心を集めたのは、やはり2022年2月のロシアの侵攻によるウクライナ戦争からであった。ウクライナの地理的な条件や国内情勢は報道されてきたが、ここまで詳しく報道されることはなかった。戦争が始まってから、西側諸国が多くの支援を行っているが、一部に疑問を持たれているには、「ウクライナは長年ヨーロッパ連合やNATOに加盟申請をしてきているのに、どうして加盟が認められてこなかったのか」ということだ。NATOに関しては、元々が対ソ連の軍事同盟ということで、西ヨーロッパ諸国とアメリカで結成された組織であり、それが東方に拡大していった。ロシアと国境を接する東ヨーロッパ諸国も参加して、東方に拡大していった。ウクライナに関しては、ロシアが特に敏感で、もし参加を認めれば状況が不安定化するということで、参加は認められなかった。これはまぁ理解できることだ。

 それならばヨーロッパ連合に参加が認められてこなかったというのはどうしてか。それは、ウクライナが財政赤字を抱え、汚職にまみれた国で、とても「西側」の仲間に入ることができない国であったからだ。ウクライナは長年にわたり、ヨーロッパ連合加盟を申請してきているが、財政赤字の問題と汚職の問題をクリアしない限り、参加は認められない。ウクライナ戦争で、財政問題は仕方がないにしても、汚職問題は非常に厳しい。

 ウクライナでは戦争中も武器の横流しや徴兵逃れのための贈収賄が行われている。アメリカのUSAIDの協力(指示)を受けて、反汚職機関の整備を行っているようだが、ウクライナ政府内部での抵抗が大きいようだ。ゼレンスキーの側近たちも汚職を行っているという話もある。戦争が膠着状態になって、西側諸国(主にアメリカ)からの支援が横梨などされているということになれば、ウクライナ戦争への支援自体も再考されねばならない。

 戦争となれば莫大な予算が動く。それで汚職が起きる。これは中国太平洋戦争時代の日本でもあったことだ。日本の軍部の腐敗は酷かった。そのことの責任も取らずに、戦後ものうのうと生きた、戦前戦時中の政府高官たちや軍幹部たちの責任追及を徹底できなかったことが、現在の日本の衰退を真似ていると私は考えている。ウクライナも戦後、戦時中のウクライナ政府やウクライナ軍の腐敗について徹底追及しなければ、体質は変わらず、衰退し続けていくことになるだろう。

(貼り付けはじめ)

ウクライナは現在でも西側に参加するにはあまりにも汚職が蔓延している(Ukraine Is Still Too Corrupt to Join the West

-西側諸国の諸機関に参加することで戦争に勝利するという戦略は1つの高い、自分たちが作り出したハードルに直面している。

アンチャル・ヴォーラ筆

2024年7月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/29/ukraine-is-still-too-corrupt-to-join-the-west/

ウクライナは、西側諸国(the West)の政治共同体や安全保障制度に参加することでロシアを打ち負かすという戦略を採用しているが、西側の基準をはるかに超えた汚職との苦闘を続けているために、その戦略は台無しになっている。この問題はウクライナ国家の中枢にまで及んでいる。トップクラスの裁判官、政治家、役人たちが汚職容疑に直面し、国防省は、高値の卵や冬用ジャケットの調達、納入されなかった10万発の迫撃砲弾の購入、徴兵を逃れたい男性たちからの賄賂の受け取りなど、多くの汚職スキャンダルの中心となっている。

「トランスペアレンシー・インターナショナル」が発表した2023年の腐敗指数で、ウクライナは180カ国中104位となり、ウクライナが対等加盟(to join as an equal)を希望しているヨーロッパ連合(European UnionEU)加盟諸国よりもはるかに悪い結果となった。最も汚職の少ない国はデンマーク、ドイツは9位、エストニアは12位、フランスは20位だった。

過去10年間、ウクライナは汚職問題の是正に一定の成果を上げてきた。しかし、本誌がウクライナ、アメリカ、ヨーロッパの主要関係者たちに取材したところによると、ウクライナが欧米社会に完全に入り込み、望むような支援を受けるまでには、まだまだ多くのことを成し遂げなければならない。

EUは、ウクライナ人が親ロシア派の大統領に対して大規模な抗議行動を行った2014年以来、ウクライナの本質的な改革を支援してきた。その年、ウクライナ国民はヨーロッパを完全に受け入れるという希望を声高に表明し、ペトロ・ポロシェンコ大統領(当時)の下で、EUとの連合協定に調印し、「経済、司法、金融改革の追求(pursue economic, judicial, and financial reforms.)」を選択した。

NATOは、ウクライナの軍隊と国防機関の改革を支援してきた。2016年からは、「ウクライナがソヴィエト時代からNATOの基準に移行する(Ukraine transition from Soviet-era to NATO standards)」のを支援するための幅広い能力構築プログラムを含む包括的支援パッケージを通じて支援を組織してきた。

しかし、ウクライナの有力者の中には、改革要求は、戦争の当事者になることを恐れる一部の加盟諸国の政治的躊躇(political reticence)を隠すための「口実(an excuse)」にすぎないと指摘する人たちもいる。「ウクライナのNATO加盟を阻止している問題は、改革がないことではなく、いわゆるロシアのエスカレーションに対するアメリカとドイツの恐れだ(The issue that stops Ukraine’s inclusion in NATO is not the absence of reforms, but the fear in U.S. and Germany of the so-called Russian escalation)」と、ウクライナの元国防副大臣アリーナ・フロロワはキエフからの電話で本誌に語った。

米国防総省のある高官は匿名を条件に本誌のインタヴューに答え、政治的躊躇が理由であることは認めたが、汚職、軍に対する文民の監視の欠如(lack of civilian oversight over the armed forces)、政府機関の限られた透明性が大きな障害になっていると述べた。

この高官は、「防衛調達に関しては特に懸念がある。特定の指導者に近い人物に有利な契約を与えるケースもあった」と述べた。

ウクライナの2024年に適応された「年次国家計画(Annual National Program)」は、国防、法執行、統治の改革を求める重要な文書である。この計画の最重要目標の1つは、ヨーロッパ大西洋の手順と慣行に沿ってウクライナの防衛調達システムを改革することだ。国防部門における多くのスキャンダルは、国のために戦っているウクライナ国民の信頼を揺るがしただけでなく、西側支持者、特にウクライナの戦争努力に全軍事援助の99%を送ってきたNATO同盟諸国の信頼も揺るがした。

本誌は、ウクライナがロシアと戦っているにもかかわらず、ウクライナが防衛調達における汚職をチェックするための制度的手段を確立するのにNATOの専門家たちが支援していることを知った。ウクライナは、汚職撲滅が期待される国家物流実施機関(State Logistics OperatorDOT)と国防調達庁(Defense Procurement AgencyDPA)という2つの新たな調達機関を設立した。国家物流実施機関は食料、毛布、靴、軍が必要とするその他の日用品などの非致死性品を調達する一方、国防調達庁は軍需品を調達する。

2つの別個の機関の創設は、戦争のさなかにおける武器購入に関連する情報に秘密が含まれるためであり、それが公開されれば、敵対者が戦闘計画を立てるのに役立たせる可能性がある。NATOは、戦争が終われば両機関が統合されることを期待している。

ウクライナ議会議員で議会汚職防止委員会の副委員長であるヤロスラフ・ユルチシンは、それでもなお、最近まで新機関に割り当てられている全ての機能を果たしていた国防省の権限を各機関が縮小することになると示唆した。

ユルチシンは、本誌の取材に対して次のように答えた。「調達ルール(procurement rules)を定め、参謀の要望に応じておおよその購入金額を算出し、オークションを開催した。現在、これらの権力は分割されている。これにより、第一に、国防省は汚職のリスクを回避できるようになる」。

オレクシィ・レズニコフの後任として、2023年9月に任命されたウクライナ国防大臣ルステム・ウメロフは12月の演説で、新システムは「国際基準とNATOの原則に従って国際パートナーと連携して構築された(built according to international standards and NATO principles in coordination with our international partners)」と述べた。

ユルチシンは、ウクライナが公務員に対し資産を申告し、その情報を公的にアクセスできるようにする義務を復活させたと述べた。2022年2月にロシアが本格的な侵攻を開始したとき、この要件は一時停止されていた。しかし、この措置には「多かれ少なかれ平和な都市で働く人々」を除き、軍のメンバー全員が含まれているわけではないとユルチシンは付け加えた。

ウクライナは米国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)と協力して、政府と国民の間のインターフェースをデジタル化した。電子政府アプリおよびデジタル プラットフォームである「ディイア(Diia)」を使用すると、給付金の申請、税金の支払い、ビジネスの登録と運営、戦争で国を離れたウクライナ人への援助へのアクセスなどのサービスを利用して、「ウクライナ人がワンストップショップでオンラインで政府と関わることができる」。USAIDDiiaを「電子政府のゴールドスタンダード(the gold standard in e-government)」と表現し、ウクライナがこの技術を他国と共有することに取り組んでいることを指摘した。

上記の変化は注目すべきものではあるが、それらはウクライナがいつかヨーロッパ連合とNATOに加盟するための長い旅路のほんの小さな一歩とみなされている。「年次国家計画」ではまた、民主的管理(democratic control)の強化と、軍隊および広範な安全保障および防衛部門に対する監視の強化も求められている。『キエフ・インディペンデント』紙のジャーナリストであるダニーロ・モクリクは、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は国防省に対する政治的監督権を持っているが、国内の4大汚職防止機関の1つである国家汚職防止局が法的監督権を持っていると述べた。しかしモクリクは、どちらも十分ではないと主張した。

モクリクは、本誌の取材に対して電話で、「大統領による政治的な監視はかなりソフトだ。反汚職局による法的な監視は、限定的と言えるでしょう」と答えた。モクリクは国防省が大規模な汚職疑惑の渦中にあることが発覚した後に退任したレズニコフについて、「例えば、前次官や調達会社に対する手続きはあるが、上層部は退陣を求められるだけで、前国防相に対する刑事手続きはない」と述べた。

ウクライナの4機関が軍を含む中央政府当局の汚職を捜査している。しかし、活動家たちは、これらの機関のうち、少なくとも2つの機関の独立性に懸念があると述べた。例えば、「汚職対策局長は政府に非常に忠実であるようだ」とモクリクは付け加えた。

国内の法執行機関の改革に関してさえも、政府の動きはヨーロッパ連合やウクライナ国民の予想よりも遅い。ウクライナの閣僚たちは、ウクライナ当局者とヨーロッパ連合諮問使節団の代表者が起草した法執行機関改革の行動計画をまだ承認していない。

ユルチシンは次のように述べた。「行動計画は依然としてウクライナ閣僚会議によって承認される予定だ。内務省(Ministry of Internal Affairs)は承認を求める文書をウクライナ内閣に提出しなければならない。承認後に実施が開始されるため、現時点ではまだ何も行われていない。」

ヨーロッパ連合加盟のもう1つの主要な基準は独立した司法(independent judiciary)だ。昨年5月、ウクライナ検察は、300万ドル近い賄賂を受け取った疑いでウクライナの最高裁判所長官を拘束した。そして、2022年、中央公共当局に対する訴訟を検討する権限を持っていたキエフ地方行政裁判所は、裁判官の職権乱用が判明したことを受けて解体された。

非政府組織「キエフ汚職防止活動センター」の国際関係責任者であるオレナ・ハルシュカは本誌の取材に対して、中央政府機関に対する訴訟を扱う新しい裁判所はまだ設立されていないと述べた。また、別の活動家は本誌に対し、司法関係者の多くがより厳格な審査手続きに抵抗していると語った。

ヨーロッパ委員会のウクライナに関する2023年報告書の主要な調査結果の中で、ヨーロッパ委員会は「中央政府機関が関与する事件を処理し、適切に審査された裁判官を配置する新しい行政裁判所を設立する必要がある(new administrative court to handle cases involving the central government bodies and staffed by properly vetted judges needs to be established)」と指摘した。

専門家たちはまた、防衛の分野ではウクライナはもっとできると確信している。ウクライナの防衛調達における問題の1つは、致死的か、非致死的かにかかわらず、同じ物資に対する需要がウクライナの諸機関で競合していることであり、専門家たちはこれが供給業者の価格上昇を可能にしていると考えている。NATOは、ウクライナが汚職や不履行の可能性のある取引に巻き込まれることを避けるために、承認されたサプライヤーの登録簿を作成する必要があると提案した。

米国防総省のある高官は、「ウクライナは上昇軌道(upward trajectory)に乗っている。これらの改革を真剣に受け止めなければ、NATOの加盟国にはなれない」と述べた。

※アンチャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とする『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ、中東、南アジアについての記事を執筆。『タイムズ』誌(ロンドン)中東特派員、アルジャジーラ・イングリッシュとドイッチュ・ウェルのテレビ特派員を務めた。ベイルートとデリーを拠点にして、20カ国以上の紛争と政治について報道してきた。ツイッターアカウント:Twitter: @anchalvohra

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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争もイスラエル・ハマス紛争も現状では先行きが不透明のままだ。停戦の糸口も見えていない。4つの当事者、ウクライナ、ロシア、イスラエル、ハマスは、停戦交渉を行ったり、止めたりで、それは仕方のないことであるが、落としどころが見えてこない。ウクライナ戦争は戦況が大きく動かなくなっており、固定化されつつある。ガザ地区では、ハマスが抵抗を続け、イスラエルも戦闘を止めることができず、犠牲者の数だけが増えている。イスラエルはそれに加えて、レバノンの民兵組織ヒズボラとの戦闘も始めており、二正面作戦を進めようとしている。二正面作戦を行っての消耗(ハマスもヒズボラもイランから支援を受けている)はイスラエルにとって得策ではない。資源を浪費し、何よりも人命を損なう戦争や紛争はできるだけ早く停止することが重要だ。

 停戦交渉や停戦合意で当事者たちが完全に満足することはできない。それは、どんな交渉でも同じことだ。一方だけが満足することはあるだろうが、皆が満足することはない。しかし、それでも交渉して妥協をして、戦争を止めねばならない。しかし、今の状況では、妥協はかなり難しい。それは、争いを正当化するために、道徳的な主張を行っているからだ。それらに反する妥協は、正義にもとるということになる。従って、交渉をしても妥協ができないという状態になっている。

 外交に関しては、やはり「本音と建前」が大事ということになる。下の論稿の最初の段落に、重要なポイントが描かれている。「フランスの外務大臣シャルル・モーリス・ド・タレーラン(1754-1838年)は、フランス革命政府、ナポレオン・ボナパルト、そして戦後のブルボン朝復興に貢献した、熟練した政治的生き残りだった。彼は繊細で熟練した政治家であり、主に同僚の外交官に対する「何よりも、熱意を持ちすぎないこと(Above all, not too much zeal)」という賢明なアドヴァイスを行ったことで、今日記憶されている。確かに賢明な言葉だ。過度の熱意(overzealousness,)、厳格さ(rigidity)、過度の道徳化(excessive moralizing)は、困難な国際問題に対する効果的な解決策を見つける努力の障害となることがよくある」。

 自分で設定した道徳的主張や目標に自縄自縛の状態になって、事態を非常に難しくする例は歴史上枚挙にいとまがない。しかし、そのことを私たちは歴史から学んで知っている。今こそ歴史から得られる教訓に従う時期である。

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道徳が平和の敵である(Morality Is the Enemy of Peace

-ガザ地区とウクライナの紛争は、誰もが完全には満足しない協定でしか終結しない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年6月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/13/gaza-ukraine-ceasefire-war-peace-morality/?tpcc=recirc062921

フランスの外務大臣シャルル・モーリス・ド・タレーラン(1754-1838年)は、フランス革命政府、ナポレオン・ボナパルト、そして戦後のブルボン朝復興に貢献した、熟練した政治的生き残りだった。彼は繊細で熟練した政治家であり、主に同僚の外交官に対する「何よりも、熱意を持ちすぎないこと(Above all, not too much zeal)」という賢明なアドヴァイスを行ったことで、今日記憶されている。確かに賢明な言葉だ。過度の熱意(overzealousness,)、厳格さ(rigidity)、過度の道徳化(excessive moralizing)は、困難な国際問題に対する効果的な解決策を見つける努力の障害となることがよくある。

残念ながら、政治指導者たちは、日常的に他国との紛争を非常に道徳的な言葉で組み立て、それによって具体的だが、限定的な利益相反を、第一原則をめぐる広範な紛争に変えてしまう。アンダーソン大学のアビゲイル・S・ポストが昨年、『インターナショナル・セキュリティ』誌に掲載した重要な論文で主張したように、国際紛争に携わる指導者たちは、道徳的な言葉を使って国内外の支持を集め、敵対者に対する交渉上の立場を強化する。そうなると、潜在的に分割できる問題(領土紛争[disputed territory]など)に関する意見の相違は、競合する道徳的主張間のゼロサム対立に変わる。残念なことに、偽善(hypocrisy)や裏切り(betrayal)の告発を招かずに道徳原則を放棄したり緩和したりすることは困難だ。各国政府が自らの立場を正当化するために道徳的議論を利用すると、たとえそれが全員の利益になるとしても、合意を結ぶことははるかに困難になる。

ポストの論稿は、アルゼンチンとイギリスのフォークランド諸島・マルビナス諸島紛争を例に、こうした力学を明らかにした。島々に対する領有権を主張するために、アルゼンチン側とイギリス側はそれぞれおなじみの道徳規範を持ち出した。アルゼンチンは領土主権(territorial sovereignty)という規範に依拠し、その主張は単純明快だった。それは、イギリスは1833年にこの島々を不法に占拠したのだから、全面的に返還すべきだというものだ。これに対してイギリスは、自決規範(norm of self-determination)という別の道徳原則を持ち出して反論した。彼らの見解では、イギリスがどのようにして島々の支配権を獲得したかは問題ではなく、住民の大多数がイギリスの一部であり続けることを望む限り、彼らの希望が優先されるべきだというものだった。

この2つの立場が強固になることで、妥協はほとんど不可能になった。島々の経済的、戦略的価値は限られていたにもかかわらず、アルゼンチンでは支配権の回復が有力な政治問題となった。しかしイギリス政府は、イギリスの統治下に残りたいと願うイギリス国民のグループを見捨てるかのように彼らをアルゼンチンに譲渡することはできなかった。こうした凝り固まった立場を考えれば、軍事衝突はおそらく避けられなかった。

まとめると次のようになる。道徳的主張は、分割可能で潜在的に解決可能な紛争(divisible and potentially solvable disputes)を、分割不可能ではるかに扱いにくい紛争(indivisible and much less tractable conflicts)に変えてしまう。とりわけ、この発見は、いわゆる戦争の交渉モデル(bargaining model of war)に対する重要な修正を示唆している。この枠組みは、ほとんどの紛争を潜在的に分割可能な問題をめぐるものとみなし、合理的に考えれば、国家が互いの能力と決意に関する完全な情報を持ち、「関与問題(commitment problem)」(すなわち、取引が守られることを他者に保証できないこと)を克服できれば、相互に受け入れ可能な解決策に到達できると主張する。戦争が起こるのは、必要な情報が一般的に不足しており、国家にはそれをごまかすインセンティヴがあるためである。紛争となっている問題において、誰がどの割合を得るかを決定する唯一の方法は戦闘である。この枠組みを使う学者たちは、妥協が不可能な分割不可能な問題をめぐっても戦争が起こりうることを認めているが、そのような問題は比較的まれであると推測している。ポストの研究は、紛争を非常に道徳的な言葉で枠付けすることで、分割可能な問題が分割不可能な問題に変容させ、解決策に到達するのが難しくなり、戦争が起こりやすくなることを示唆している。

この問題の例は、今日のヘッドラインを独占している。現在の台湾をめぐる紛争は、ある点でフォークランド紛争に似ている。中国は台湾を歴史的権利によって自国の主権領土と主張し、台湾を自国の支配下に置いた過去の出来事を今こそ覆すべきだと主張している。この観点からすれば、台湾が中国の主権に完全に復帰しない限り、いかなることも受け入れられない。対照的に、台湾の自治を支持する人々は、台湾の2400万人の住民が自分たちで統治することを望んでおり、中国共産党に支配されることに反対していると主張する。この見解では、台湾を中国の支配下に戻すことは、そこに住む人々の政治的権利を侵害することになる。どちらの道徳的主張にも幾分かの妥当性(some validity)があり、それぞれの立場から外れることは、即座に基本的な政治原則に対する裏切りだとみなされるため、妥協(compromise)は難しい。

ここで、ウクライナにおける戦争が、それぞれの立場によってどのように組み立てられているかを考えてみよう。この戦争は、交渉(negotiation)と妥協(compromise)が可能な具体的かつ具体的な意見の相違から生じた。これらの問題には、ウクライナのNATO加盟の可能性、ロシアやEUとの経済的、政治的、安全保障上の統合の程度、ウクライナ内のロシア語を話す少数派の地位、ロシアの黒海艦隊の基地の権利、ウクライナ内のネオナチとされる諸集団の役割、その他いくつかの問題が含まれていた。難しい問題であることは確かだが、理論的には、それらのいずれか、あるいは全てを、それぞれの核心的利益を満足させる方法で解決し、ウクライナとロシアがコストがかかる残忍な戦争をせずに済んだかもしれない。

しかしながら今日、この紛争はそれぞれの立場から、対立する道徳的原則の衝突として広く捉えられている。ウクライナと西側諸国にとって、危機に瀕しているのは第二次世界大戦後の侵略に反対する規範(post-World War II norm against conquest)であり、「ルールに基づく秩序(rules-based order)」の信頼性であり、冷酷な独裁政権に直面する苦闘中の民主政治体制国家を守りたいという願望である。ウクライナ人にとっては、国家とその神聖な領土を守るための戦争であり、キエフを支持する一部の西側諸国にとっては、西側の秩序が拠って立つとされる道徳的原則を守るために、ウクライナの勝利に貢献することが必要なのだ。

ロシアの戦争正当化は、NATOがドイツを越えて拡大しないという以前の約束を反故にしたという非難や、ロシア人とウクライナ人の間には維持すべき深い文化的統一(deep cultural unity)があるという主張、ロシア文化を保存するには、ウクライナにおけるロシア語を話す人々の権利を守り、ウクライナの恒久的な「非ナチ化(de-Nazification)」を確実にすることが必要であるという主張など、自国の道徳的主張にますます依存するようになっている。これらの主張が単なる狭い戦略的利益の主張にとどまらないことを認識するために、これらの主張を受け入れる必要はない。つまり、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領とその関係者は現在、この紛争を、敵対的な外圧に直面するロシアの国家アイデンティティ(と国家安全保障)を守るために不可欠なものだと位置づけている。少なくともレトリック的には、ドンバスの少数派の権利やウクライナの地政学的配置をめぐる争い以上のものだ。

残念なことに、この紛争を道徳的な言葉でくくることは、和平解決を困難にする。完全勝利に至らない場合は、こうした重要な価値が犠牲にされることを恐れる批判者たちからの強力な反発を招くことは避けられないからだ。もし、アメリカやNATOがウクライナに完全勝利にほど遠い協定を結ぶよう迫れば、ロシアに屈辱的な敗北をもたらし、ウクライナがNATOに加盟することでしか正義の要求を満たせないと考える人々からの非難の大合唱に直面するだろう。もし今日、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が停戦を交渉しようとしても、仙頭を継続しようとする強硬派(hard-liners)によって追放されるかもしれない。ウラジーミル・プーティンは内部的な制約に直面することは少ないが、戦争を正当化し、国民の支持を維持するために用いてきた道徳的主張と対立する妥協には、彼でさえ警戒心を抱くかもしれない。

そしてガザ地区は、19世紀後半にシオニストの入植者たちがパレスティナに到着し始めたときに始まった、ユダヤ人とアラブ人の長い対立の最新の不幸なエピソードである。ウクライナと同様、この紛争には数多くの具体的な問題が絡んでおり、何らかの解決策を見出そうとする努力が(イスラエル建国のはるか以前から)繰り返されてきた。残念なことに、ユダヤ人とアラブ人両者の立場は結局のところ、川と海の間に横たわる領土に対する道徳的主張の対立に拠っている。この主張は、一方的な歴史的物語、宗教的信念、そして相手側が過去に数多くの罪を犯し、現在も犯し続けているという確固たる信念を併せ持っている。こうした競合する道徳的主張は、ハマスとイスラエルの極端な反応を刺激し、イスラエルのユダヤ人とパレスティナのアラブ人の正当な民族的願望(legitimate national aspirations of Israeli Jews and Palestinian Arabs)を満足させる解決策を考案することをはるかに困難にしている。

アメリカ人は誰よりもこの問題に敏感である。ハンス・モーゲンソーやジョージ・ケナンのようなリアリストたちは、アメリカの指導者たちがあらゆる対立を道徳的な用語で言い繕う傾向を嘆いた。道徳的な言葉は、市民を結集させ、支持を得るには有効だが、そうでない行動を取るたびに、アメリカを偽善的(hypocritical)に見せてしまう。また、潜在的な敵対諸国との間で、効果的に交渉を行う(bargain effectively)ことも難しくなる。それは、外交関係を持つことを拒否すること、「悪」とされる政権(supposedly “evil” regime)との互恵的な取引を行うことでさえ、重要な道徳的原則を守らない卑怯者の行為と見なされるからだ。

しかし、冗談はやめておくことにする。結局のところ、紛争は厄介で道徳的に不完全な交渉で終結することが多い。一方的な勝利の後でも、勝者はしばしば、道徳的正当性(moral justifications)が要求するよりもいくらか低い金額で決着をつける。例えば、アメリカは第二次世界大戦で「無条件降伏(unconditional surrender)」を要求し、それを勝ち取ったが、元ナチスの政界復帰を容認した(場合によっては積極的に支援した)。日本では、戦争犯罪裁判(war crimes trials)が行われ、かつての日本の指導者たちは処刑されたが、裕仁天皇は皇位にとどまった。アメリカの指導者たちは、戦後、東ヨーロッパで鉄のカーテン(Iron Curtain)が降ろされるのを見るのは幸せではなかったが、そこでのソ連の支配を受け入れることが戦後平和の代償であることを理解していた。

ガザ地区とウクライナの紛争は、誰も完全には満足できない合意で終わるだろう。どの当事者も望むもの全てを手に入れることはできず、これらの戦争が進行している間に指導者や専門家が発した厳しい道徳的宣言(moral declarations)は空虚に聞こえることだろう。参加者が道徳的宣言にしがみつく時間が長ければ長いほど、大虐殺(carnage)を終わらせるのは難しくなる。もしタレーランが今生きていたら、「だから私が言ったではないか(I told you so)」と言うだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:

@stephenwalt

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生の書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願い申し上げます。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 専門家ではないので不正確という批判は承知しつつも、どうしても言いたいことがある。地政学的を地球の表面に例えてみると、現在は、プレートがぐっと下に入って大きな地殻変動が起きているようなものだ。西側(ザ・ウエスト)、欧米による600年の支配が終わり、西側以外の国々(ザ・レスト)が台頭しつつある。世界の大きな構造変化が起きている。大きなプレートの境目で大地震が起きる。現在、地政学上の「大地震」が起きているのは、ウクライナとイスラエル(パレスティナ)である。これは、大きく見れば、「西側諸国(ザ・ウエスト、the West)対西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)」の対立によって引き起こされている。そして、現在は平穏を保っているが、「地震」が起きるのではないかと心配されているのが、インド太平洋である。具体的には、米中対立がどのようなことになるか、ということである。私たちが住むインド太平洋地域で「大地震」、つまり、戦争を起こしてはいけない。それは私たちのためだけではなく、世界のためだ。

 インド太平洋を平穏のままにしておくことは、しかしながら、難しい。それは、アメリカが自国の衰退を受け入れられず、世界覇権国としての地位から、少しずつ、静かに去るという決断ができていないからだ。ジョー・バイデンが2期目を迎えるとなると、開戦直前の日本帝国海軍のように、「今やらねば、じり貧になって戦えなくなる」ということで、中国に大打撃を与えようとする輩が何をするか分からない。歴史の流れを人間の力で逆転させることは難しい。結局、「ドカ貧」になるだろうが、その過程で大きな犠牲や損失が出て、世界は大きく停滞することになる。ドナルド・トランプが今年秋の大統領選挙で勝利することが望ましいが、現状では、「ジョー・バイデンを勝たせる」という主流派・エスタブリッシュメント派の意思が強固である。バイデンが勝利すれば、アメリカは騒乱状態になるだろう。それが内戦まで行きつくかは分からないが、その危険性、可能性は高まっていると言わざるを得ない。

 地震を食い止めることができないならば、それに備えるということも考えておかねばならない。ドルの信用失墜による紙くず化、アメリカ国債の紙くず化ということも考えておくべきだろう。

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地政学的ハードランディングの可能性は極めて高い(A Geopolitical Hard Landing Is All Too Possible

介入すべき時はいまだ。

ジャレッド・コーエン筆

2024年2月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/21/geopolitical-hard-landing-economics-election-china/

市場には良いニューズもあるが、私たちはまだ危機を脱した訳ではない。つまり、エコノミストのほとんどは2024年にソフトランディング(soft landing)すると予測している。しかし、地政学的なハードランディング(hard landing)がその邪魔になるかもしれない。

マクロ経済の課題に対処するためのツールとプロセスが存在する。インフレが高すぎる場合、連邦準備制度は金融政策と金利を調整し、多くの場合、イングランド銀行やヨーロッパ中央銀行などの同等の機関と調整する。結果は保証されておらず、一律でもない。経済学者、投資家、政策立案者たちは政策とその結果について議論する。しかし、金利の上昇によって景気が減速し、不況を引き起こすことなく、インフレ率が低下すれば、ソフトランディングすることになる。インフレ率はピークから低下し(それでも目標の2%は上回っているが)、2024年1月のアメリカの新規雇用数は35万3000人で、国際通貨基金(IMF)は世界経済の成長予測を最大3.1%に修正していることから、これが最終的に達成される成果のように見える。

地政学のシナリオは、悲惨な科学よりもはるかに悲観的な分野となっている。中東やヨーロッパでの戦争、インド太平洋での緊張、そして「ポスト冷戦時代の終わり(end of the post-Cold War era)」が他に何をもたらすのかという深い疑問がある。地政学的ハードランディングは、アメリカ主導の国際システムを圧倒しかねない、複数の、関連し、拡大する紛争や危機を伴うだろう。その結果、パワーバランス(balance of power)が変化し、世界市場が根底から覆される可能性がある。

地政学的に何が起こるかは、世界市場にとっても、私たちの生活にとっても重要である。今日の地政学的課題は一過性(transitory)のものではなく、今後も続く。政治や資源の現実、恐怖、名誉、利害といった要素、主権国家としての優先順位や利害を考慮した、時宜に敵した介入が必要なのだ。あまりにタカ派的なアプローチは、過剰拡張(overreach)と反撃(blowback)を招きかねない。だからと言って、あまりにハト派的なアプローチは、侵略(aggression)とエスカレーション(escalation)を招く。実際、2024年にアメリカとそのパートナーたちがトレードオフを正しく理解できなければ、地政学的なハードランディングがますます現実味を帯びてくる。

今日、世界は過去数十年間見られなかったような連鎖的な紛争(cascading conflicts)に直面している。2021年のアフガニスタンからの混乱した撤退の後、2022年にはロシアによるウクライナへの本格的な侵攻を抑止力は防ぐことができなかった。2023年には、ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃や、イランが支援する中東全域での地域的代理攻撃(Iranian-backed regional proxy attacks)を、抑止力(deterrence)で防ぐこともできなかった。世界で最も人口が多く、目まぐるしく動く地域であるインド太平洋でも、抑止力が機能しなくなる日が来るのだろうか? こうした連鎖はどこで止まるのだろうか?

ユーラシア全土で状況は改善されていない。ロシアから身を守る全面戦争が始まって2年が経ち、ウクライナ人は現在領土の80%以上を支配している。しかし、現場の状況は依然脆弱で、ワシントンの政治的行き詰まり(political gridlock)がこうした成果の逆転を招く可能性がある。つい最近、ウクライナが支配するアヴディーウカの町がロシアの進出により陥落した。連邦上院はウクライナ、イスラエル、台湾への950億ドルの支援策を70対29の賛成多数で可決したばかりだが、その多くはアメリカでの枯渇した武器供給の補充に費やされることになるが、連邦下院での法案の行方は不透明だ。アメリカは既存の法律の下でできる、キエフに対する最後の武器供与(drawdowns)を行った。また、ヨーロッパ連合加盟27カ国は、540億ドルのウクライナ支援パッケージに合意したが、強固な産業基盤を持たず、3月までに100万発の砲弾供与という約束を達成するのに十分な砲弾を生産できない。一方、ウクライナでは弾薬の配給が行われており、今年後半のロシア大統領選挙後(驚くべきことが起きるとは予想されていない)、ウラジーミル・プーティン大統領は大胆にも大規模な動員(larger mobilization)を命じる可能性がある。

市場は現在のロシア・ウクライナ戦争をほぼ織り込み済み(largely priced)だ。しかし、その長期的な意義や、この戦争がヨーロッパにとってどのような意味を持ちうるかについては、説明されていないと言えるだろう。ロシアがフィンランドとエストニアについて精査している中、ボリス・ピストリウス独国防相は、今後5年から8年の間にモスクワが「NATO加盟国を攻撃する可能性すらある(even attack a NATO country)」ことを考慮する必要があると述べ、それが意味することを詳しく説明した。

中東では、10月7日にハマスがイスラエルをテロ攻撃し、その後は紛争になっている。この紛争は中東地域にとって世界規模の対テロ戦争(Global War on Terror)以来最大の地政学的な試練となっている。イスラエルはハマス壊滅作戦を継続しているが、一方で、イランが支援している代理勢力(Iranian-backed proxies)が少なくとも6つの戦域で先頭をエスカレートさせている。世界経済と、バルバリア海賊(訳者註:北アフリカの各都市を拠点とした海賊)の時代から国際通商を守ってきたアメリカ海軍は、イエメンのフーシ派の攻撃に晒されている。全面的な地域戦争(full-scale regional wars)は想定されていない可能性が高いが、アメリカとイランが直接対立する事態が激化すれば、状況はすぐに変わる可能性がある。それがどのようにして起こるかを理解するのは難しいことではなく、地域で最長期間統治を行っている、最高政治指導者である85歳のアリ・ハメネイ師が統治するイランが核兵器の製造に成功すれば、混乱が加速する可能性がある。

しかし、ワシントンやウォール街、そして世界中の政治・金融資本が最も懸念しているのは、インド太平洋地域である。地政学的な理由から、中国はアメリカだけでなくオーストラリア、日本、リトアニア、韓国などの国々に対する経済的禁輸措置と相まって、「二重循環(dual circulation)」経済モデルと国内での自立(self-reliance)強化を推進している。同時に、ドナルド・トランプ政権下で始まった関税の大半はジョー・バイデン大統領の下でも継続されており、アメリカ主導の制限によって中国への半導体輸出は数十億ドル減少した。マイクロエレクトロニクスから医薬品、重要鉱物、レアアースに至るまで、国家安全保障上重要なサプライチェインのチョークポイントに焦点が当てられることで、世界経済に摩擦が生じ、それが他の分野でのリスクや機会を生み出している。

最悪のシナリオは、中国と、台湾やフィリピンといった近隣諸国との軍事衝突であり、アメリカがこれを支援した場合、計り知れない人的損失と過去数世代で最大の経済的ショックがもたらされる可能性がある。ブルームバーグ・エコノミクスは最近、台湾をめぐって中華人民共和国と戦争が起きた場合のコストを10兆ドルと見積もった。

歴史的に見れば、1973年のアラブ諸国の石油禁輸やロシアのウクライナ戦争のようなショックは、世界貿易を混乱させたことはあっても根底から覆すことはなかった。好戦的な北朝鮮やヴェネズエラとガイアナの国境紛争など、毎日の見出しには登場しない危機はもちろんのこと、ユーラシア大陸の3つの主要地域全てにわたって、深刻かつ密接な課題が山積している。

私たちが知っているように、世界は信頼できる大国であるアメリカのリーダーシップを引き継いでいる。アメリカは同盟諸国やパートナーと協力して、アメリカ人だけでなく世界中の人々に利益をもたらす国際安全保障と経済構造を構築し、支援してきた。もう1つの前提は、このアメリカ主導の国際秩序を再構築する意図と能力を他国が持たないだろうというものだった。アメリカのリーダーシップへの挑戦と、中国、イラン、ロシア、加えて北朝鮮の間の緊密化を考えると、どちらの想定も当然のこととは考えられない。

前提は変わったかもしれないが、経済学と同様、地政学(geopolitics)においても、避けられないものはない。昨年、予測者の一部は2023年に景気後退が起こる可能性は100%だと述べたが、それは間違いだった。ただし、ソフトランディングは単独で起こるものではなく、全分野にわたるリーダーシップが必要だ。

ヨーロッパの戦争は1年前と同じ状況ではない。 2023年のウクライナの反撃は成功しなかった。キエフは防御に回っており、2024年に領土の多くを取り戻す可能性は低い。ロシアは前進を続けており、現在GDPの6%を軍事費に費やしており、2021年の2.7%から増加しており、イランと北朝鮮からの軍事品によって支えられている。一方、グーグルの元最高経営責任者(CEO)エリック・シュミットが警告したように、モスクワはキエフとの「イノベーション競争に追いついており(caught up in the innovation contest)」、オーラン10やランセットなどのドローンを国内生産している。そして、アジア市場に軸足を移した後、ロシアは西側諸国の制裁を緩和し、IMFは最近ロシアの経済成長予測を2.6%に引き上げた。

後退を味わったとはいえ、ウクライナに有利な要因はいくつかある。アメリカ人が1人も参戦せず、アメリカの年間国防費の5%を費やし、アメリカの情報諜報機関は現在、モスクワは2022年の侵攻軍の90%を失ったと見積もっている。ウクライナは黒海の戦いに勝利しており、オデッサからの穀物回廊は昨年上半期に3300万トン以上の穀物や食料品に開放され、その3分の2は発展途上国へ運ばれた。ウクライナはクリミア周辺を含め、ロシア支配下のインフラを標的にしている。キエフは防衛産業基盤の拡大も図っており、30カ国から252社が参加する防衛産業フォーラムを立ち上げている。

ヨーロッパは自国の防衛インフラ強化に遅れをとってきたが、勢いはついている。フィンランド、リトアニア、スウェーデン、ポーランドといった対ロシアの最前線の民主政体国家が牽引し、2022年のヨーロッパの国防支出は6%増加した。それでも、NATO同盟のほとんどの加盟国は、GDPの2%を国防費に充てるという、2014年のウェールズ公約を達成できておらず、GDPに占めるアメリカの国防費も、今後10年間で、2023年の3.1%から2033年には2.8%まで減少すると予測されている。ウクライナは、欧米諸国の援助なしに、国土がその28倍、人口が3倍以上の国を抑えることはできない。同様に、抑止力の低下によってヨーロッパの、いや世界の安全保障を維持することはできない。

中東では今日、ガザ地区の「その後(day after)」や、紅海でのフーシ派の攻撃、イラクでのイランの後ろ盾による代理攻撃がいつ、どのように収まるのかが主に問われている。テヘランは不安定と混乱という新たな常態を作り出しており、停戦の継続を望む動機はほとんどない。かつてイエメンでは比較的無名のシーア派の代理集団だったフーシ派は、今やアラブ世界の英雄だ。

イランの短期的な戦略的優位は、根本的に変化した情報環境によって強化されている。戦争の「ソーシャルメディア化(social-mediafication)」とは、あらゆる人気ソーシャルメディアプラットフォームにアップロードされる映像の時間が、戦争の秒数よりも多いことを意味する。911を引き起こしたアルカイダのテロリストの多くは、1990年代にボスニアの戦争から生まれたアルゴリズム以前のコンテンツを見て過激化した。今日のAIを駆使したアルゴリズムは、そのリスクを更に高めている。

しかし、ハイパーターゲットされたオンライン過激化(hyper-targeted online radicalization)によって悪化した、古き悪しき時代に戻る必要はない。アブラハム合意は維持されている。ペルシア湾岸のスンニ派諸国は、サウジアラビアの「ビジョン2030()Vision 2030」のような変革プロジェクトに注力し、地政学的な影響をできるだけ受けずに経済発展を遂げようとしている。紅海で何が起きているのかにもかかわらず、国際ビジネス界との関わりはほとんど途切れていない。カタールもサウジアラビアと同様だ。

 

 

 

 

この地域を瀬戸際から引き戻すための2つの要因は、イランに対する抑止力の回復と、イスラエルと湾岸諸国の統合である。つまり、イランとその「抵抗軸(axis of resistance)」が今日の混乱の原因であることを認識することである。そのためには、アメリカは、アラブ首長国連邦やサウジアラビアのようなパートナーと協力する必要がある。サウジアラビアはワシントンと国防協議を再開し、高官たちはイスラエルとの国交正常化に「絶対的に(absolutely)」関心があると繰り返し述べている。

南シナ海と台湾海峡は危険であるが、ありがたいことに平和である。2023年11月に行われた中国の習近平国家主席とジョー・バイデン米大統領の会談では、サンフランシスコから良いニューズが伝えられた。2024年1月13日に行われた台湾の選挙に対する中国の反応は、多くの人が予想していたよりも抑制的だった。あとは、5月に台湾総統に就任する頼清徳(ウイリアム・ライ)の就任演説に北京がどう反応するかにかかっている。

しかし、台湾は今日の戦略的な焦点ではあるが、潜在的なホットスポット(hot spots)は台湾だけではない。中国は14カ国と国境を接しており、他のどの国よりも多くの国土を隣国と接している。北京は国境を接するほぼ全ての国と領土問題を抱えており、これらの紛争にはそれぞれリスクが伴う。

それでも、インド太平洋の平和を維持することは可能である。中国の攻撃的な姿勢は、オーストラリア、インド、日本、フィリピン、韓国を大きく変化させ、安定のためのミニラテラル連合(minilateral coalitions for stability)へと導いている。クワッド(Quad)、AUKUS、韓国や日本との首脳会談、フィリピンとの基地協定は、アメリカがこれらの国々が互いに協力を強化しているいくつかの例であり、日本は、アメリカとともに、2027年までに自衛隊を世界第3位の規模にする可能性のある防衛政策の大転換を約束した。

しかし、これら全てに欠けているものがある。それは、ワシントンはまだこの地域への経済的関与の戦略を持っていないということだ。北京が支持する地域包括的経済連携(Beijing-backed Regional Comprehensive Economic Partnership)のような協定が拡大する一方で、バイデン政権のインド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic FrameworkIPEF)は停滞しており、ホワイトハウスはIPEFを「貿易協定ではない(not a trade agreement)」と説明しているが、IPEFは環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific PartnershipTTP)に代わるものではない。ワシントンの経済政策としては、アメリカが遠い国ではなく、信頼できる経済パートナーであることを伝えるようにすべきである。NATO同盟の75周年が近づくにつれ、指導者たちは、平和と繁栄がどのような挑戦を受けようとも、それを維持することに美辞麗句でも実際上でも関与する必要がある。

これらの地経学的な力は、世界中の人々にとって懸念事項だ。ただし、それらは公共部門だけの領域ではない。私たちを経済のソフトランディングに導く同じ市場力学の多くは、世界情勢において資産となる可能性がある。グローバル企業は戦争中の世界で成功することはできず、アメリカとその同盟諸国およびパートナー諸国は、民間部門によって可能になる成長と技術革新がなければ平和を維持することはできない。

この力学が最も顕著に表れているのは、エネルギーと新興テクノロジーの2つの分野である。新しい持続可能なエネルギー源を開発することは、地政学的にも経済的にも可能な最善の一手であり、アメリカが2018年以降世界トップの原油生産国となり、昨年以降世界トップの液化天然ガス輸出国となったのは、民間セクター主導の技術革新によるところが大きい。今後数年間で、アメリカが主導している生成人工知能(generative artificial intelligence)のようなテクノロジーは、地政学におけるワイルドカードとライフラインとなり、テクノロジー企業はより大きな地政学的利害関係者(stakeholders)となるだろう。このような領域は、深く開かれた資本市場、法の支配、財産権を持つ民主政体社会が、正統性(legitimacy)、安定性(stability)、成長(growth)の源泉となる優位性(advantages)を持つ場所である。

世界人口の60%が投票に向かう今年、こうした利点を生かすことが必要だ。何十億もの人々が指導者に投票することは、フリーダム・ハウスなどの団体によって世界的に記録された民主政治体制の長年の衰退の後では歓迎すべきニューズである。しかし、世界中の政府が変わることで、今年の終わりは、始まりとは大きく異なるものになるかもしれない。

特に、2024年のアメリカ大統領選は、他国にとって地政学的に最も重要な問題の1つであることは言うまでもないが、ここ数十年で最も重大な意味を持つかもしれない。有権者にとって外交政策が最優先されることはめったにないが、アメリカ国民の選択は世界情勢にとって経済以上に大きな影響を及ぼすかもしれない。バイデン、トランプどちらの政権が採用する貿易・産業政策も、国内では一部のセクターを強化するかもしれないが、海外ではパートナー諸国を含めて反発を招くかもしれない。世界におけるアメリカの役割に対する新たなアプローチは、友好国を安心させることもあれば、敵対勢力を煽ることもある。そして、どの指導者もバイデンかトランプのどちらかの結果に賭けて、リスクヘッジすることで準備を進めている。

2023年、私たちは経済のハードランディングが何を意味するかを理解し、それを防ぐために時宜を得た慎重な行動を取った。2024年には、地政学的なハードランディングが起こりうることを認識し、社会のあらゆる部門が、この瞬間に必要とされる真剣さをもって対応する時である。

※ジャレッド・コーエン:ゴールドマンサックス社国際問題担当部長・応用技術革新部門共同責任者。ゴールドマンサックス社経営委員会パートナー・委員。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。週刊ダイヤモンド2024年3月2号にて、佐藤優先生にご紹介いただきました。ウクライナ戦争の分析に関して「説得力がある」という評価をいただきました。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 ウクライナ戦争は開戦から2年半が過ぎ、現在は膠着状態、ロシア側が有利な展開となっている。ウクライナ側は2023年に春季大攻勢(Spring Offensive)を実施してロシアに打撃を与えると内外に宣伝し、ロシア側がそれを受けて守りを固めているところに、攻撃を仕掛けて、結果的に失敗に終わった。それ以降はウクライナには厳しい状況が続いている。アメリカ連邦議会、共和党が過半数を握っている連邦下院で、ウクライナ支援のための予算が否決されるなど、共和党とアメリカ国民の過半数はウクライナ支援に反対である。もう止めたい、十分にしてやったではないか、もう疲れた、というのがアメリカ国民の本音だ。
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 それでは、ウクライナを今すぐNATO(北大西洋条約機構)に入れて、ヨーロッパ全体で守ってやるべきだ、もしくは停戦してから加盟させて、今後のロシアの侵攻に備えるべきだという意見もある。しかし、こうした意見が無視しているのは、2014年のロシアによるクリミア半島併合の前後に、NATOはウクライナを加盟させなかったということだ。ウクライナを本気で守ってやろう、ロシアの侵攻に徹底的に対抗してやろうということならば、欧米諸国が実質的にどんどん軍事物資や要員、資金を提供して、ウクライナの軍事強化を行って、「実質的に」加盟させているような状況を作りながら、正式には「ウチとは関係ありませんから」という極めて無責任は態度を取るはずがない。NATOは分かっている、ウクライナなんぞを正式加盟させたら、自分たちがロシアからの攻撃を受ける、最悪の場合には核兵器による攻撃があるということを。

 また、ロシアの今回のウクライナ侵攻は、ウクライナのNATO加盟阻止という目的もあるので、ウクライナがNATOに加盟すれば、その目的が達成されないということになるので、戦争が長引く。ロシアとしては、ウクライナがEUに加盟することは認めているので(EUが赤字財政と腐敗と人権侵害のウクライナの世話をしてみろという態度)、中立化するということであれば停戦も可能である。こうしたことは2022年の段階で既に話されているもので、今更目新しく述べるようなことでもない。しかし、こうしたことは、再確認するためにも改めて書かねばならない。それが戦争を早期に集結させ、戦争に関わって苦しんでいる人たちを救うことにつながると私は確信している。

(貼り付けはじめ)

NATOは、ウクライナのために、ウクライナを受け入れるべきではない(NATO Should Not Accept Ukraine—for Ukraine’s Sake

-西側同盟の拡大がキエフをさらに不利にする5つの主要な理由について語る。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年3月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/05/nato-ukraine-membership-russia-war-west/

戦局がウクライナに不利に傾き、アメリカ連邦議会が新たな支援を承認するかどうかが疑問視される中で、元NATO司令官アンダース・フォッホ・ラスムッセンや元NATO米常任代表イヴォ・ダールダーといった影響力のある専門家たちは、ウクライナを早急にNATOに加盟させるべきだという以前の呼びかけを繰り返している。この措置は、ロシアにその軍事作戦ではウクライナを同盟から締め出すことはできないと納得させる方法であると同時に、最終的に戦争が終結したときにウクライナに十分な安全保障を提供する必要があるとして売り込まれている。

合理的な人々は、この勧告の賢明さについて同意できないし、また同意しないだろう。なぜなら、対立する立場は不確実な将来についての予測に基づいているからだ。事実上、私たちは皆、ウクライナを持ち込むことでどのような影響があるかについて賭けをしているのだ。私自身の立場を明確にしておくと、もし私がアメリカ連邦議員だったら、躊躇することなく、追加支援策に投票するだろう。なぜなら、私はウクライナが依然として支配する領土を固守することを望んでおり、ロシアにはその努力を理解させたいからである。ロシアが更に多くのウクライナの領土を占領することはコストがかかり、困難になるだろう。今日の追加援助は、おそらく11月の米大統領選挙後に本格的な議論が始まる際に、キエフの交渉上の立場を改善するだろう。そうは言っても、今ウクライナをNATOに加盟させるのは悪い考えであり、戦争が長引き、時間の経過とともにキエフはより悪い立場に置かれることになる。

まず、北大西洋条約(North Atlantic Treaty)が、一定の基準を満たせばどの国にも加盟する権利を与えている訳ではないことを思い出して欲しい。第10条では、「締約国は、全会一致の合意により、この条約の原則を促進し、かつ、北大西洋地域の安全保障に貢献する立場にある他のヨーロッパ諸国に対し、この条約に加盟するよう要請することができる」と述べているだけである。NATOの現在の「門戸開放(open door)」政策は、より最近のことである。NATOの加盟基準を満たせば、加盟を希望するいかなる国も加盟できるという正式な約束と見なされることもある。事実上、門戸開放政策はNATOから加盟希望国へと微妙に主体を移すものであり、加盟希望国に対して「門戸は開かれており、私たちの基準を満たせば自由に加入してよい」と告げるものだ。既存の加盟諸国が、新加盟国を受け入れることが「条約の原則を促進し、北大西洋地域の安全保障に貢献する」と集団的に合意するまで、ドアは閉ざされているのだ。その時点で加盟諸国はドアを開け、招待状を出すことを決定できる。当初の条約が同盟の拡大に積極的であるという前提を設けていない以上、この違いは重要である。スウェーデンのNATO加盟を数年間遅らせようとしたハンガリーの最近のキャンペーンは、このプロセスが実際にどのように機能しているかを思い起こさせる。スウェーデンには、他の加盟国全てが同意するまで加盟する「権利(right)」はないのだ。

ウクライナに目を向けると、今(あるいは近い将来)にウクライナをNATOに加盟させるのは賢明ではないという私の信念は、いくつかの前提に基づいている。1つは、ウクライナが昨年の挫折を経て、より多くの兵器を入手し、軍隊を再編成する時間がない場合、戦場で状況を逆転させ、失われた領土を再征服することはできないということだ。深刻な(おそらくは回復不可能な)人的資源不足に悩まされており、無人偵察機、大砲、ロシアの広大な要塞の組み合わせにより、キエフが領土の面で大規模に進出することは困難あるいは不可能になるだろう。西側諸国というウクライナ応援団は昨春、その後の反撃について楽観的な予想を示したのは間違いだったが、彼らはウクライナが形勢を変える方法はまだたくさんあると示唆して、この間違いを繰り返している。そうでなければ良いのだが、私たちは、世界がどうなりたいかではなく、世界の現状に基づいて政策を選択する必要がある。

私の第二の前提は、ロシアの指導者たちは欧米諸国よりもウクライナの運命を気にかけているということだ。もちろん、ウクライナ人以上に気にしている訳ではないが、彼らにとっては、ほとんどのNATO諸国の指導者や国民よりも重大な関心事なのだ。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領とその側近たちは、ウクライナで戦って死ぬために何千人もの兵士を送ることを厭うことはない。先週、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が不意にNATO軍派遣の可能性を提起した際、彼は即座にドイツのオラフ・ショルツ首相とNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長に叱責された。これは、NATOがウクライナの運命に関心がないということではなく、ロシアがもっと関心を持っているということだ。

第三に、プーティンが2022年2月に違法な侵攻を開始した主な理由の1つは、ウクライナが西側諸国に接近し、最終的に同盟に加盟するのを阻止するためだったと私は推測している。CIAとウクライナの諜報機関との協力関係が着実に深まっていることが最近明らかになったこと、2014年以降、欧米諸国がウクライナの防衛力強化に努めてきたこと、そしてNATOがウクライナを同盟に参加させるという約束を何度も繰り返していることが、モスクワの懸念を煽ったことは間違いない。プーティンの行動には、ウクライナ人とロシア人の文化的一体性に関するある種の信念も反映されているかもしれないが、ウクライナがNATOに加盟するという見通しがプーティンに行動を取るように駆り立てたという証拠を否定することはできない。実際、ストルテンベルグNATO事務総長はこのことを何度も公然と認めている。プーティンはNATOの意図を読み違え、彼らがもたらす脅威を誇張したかもしれないが、外国の危険を誇張した世界の指導者は彼だけではない。

これら3つの前提を踏まえて、ウクライナがNATOに加盟すべきでない理由の主要な5つは以下の通りとなる。

(1)ウクライナは加盟基準を満たしていない。ウクライナの民主政治体制はまだ脆弱である。汚職はいまだに蔓延しており、選挙は戦争が始まって以来実施されておらず、ウクライナ社会には民主政体規範への関与について疑問視される有力者たちがまだ存在する。エコノミスト・デモクラシー・インデックスは昨年、こうした理由も含めて、ウクライナを「ハイブリッド政治体制(hybrid regime)」と評価した。加えて、ウクライナは標準的なNATO加盟行動計画の条件をまだ満たしていない。この事実を認識したNATOは、昨年夏の年次首脳会議でこの基準を免除することに合意し、事実上、ウクライナの加盟プロセスを「2段階プロセスから1段階プロセス」に変更した。同盟加盟の基準を水増し(緩和)することで、この決定は将来的に悪しき前例となる可能性がある。

(2)NATOが第5条の約束を守るかどうかは定かではない。以前の記事でも指摘したように、北大西洋条約第5条は、他の加盟国が攻撃された場合に、加盟国が参戦を約束する仕掛けになっていない。アメリカの主張により、第5条は加盟国に対し、ある加盟国への攻撃を全ての加盟国への攻撃とみなし、「必要と考える行動(such actions as it deems necessary)」を行うことを義務づけているだけである。それにもかかわらず、この条項は、攻撃を受けている加盟国を防衛することを約束するものと広く解釈されており、重大な侵略があった場合にどの加盟国も助けに来なければ、同盟全体が疑問視されることになる。したがって、新たな加盟国を受け入れる前に、同盟の他の国々は、自国が攻撃された場合に自国の軍隊を危険にさらす意思があるかどうか、じっくりと考えるべきである。

これまでの私の指摘を繰り返す。これまでのところ、アメリカも他のNATO諸国も、ウクライナのために軍隊を派遣する意志を示していない。武器と資金は支援している。もしその意志があるのなら、既に軍隊を派遣しているはずだ。今やる気がないのに、5年後、10年後、20年後にウクライナのために戦うと暗黙のうちに約束することに意味があるのだろうか?

更に言えば、アメリカ連邦上院がウクライナの加盟を批准するかどうかも決して明らかではない。条約を批准するには3分の2以上の賛成が必要で、十分な票を集めるのは難しいかもしれない。確かに、今回の支援策には70人の連邦上院議員が賛成票を投じたが、その法案にはイスラエルへの追加支援も含まれており、それが票を動かした可能性もある。より重要なのは、共和党の事実上の指導者であるドナルド・トランプがNATOにウクライナを参加させることに反対していることで、彼の反対によって十分な数の共和党議員が反対票を投じ、批准に手が届かなくなる可能性がある。

(3)NATO加盟は魔法の盾(magic shield)ではない ウクライナを早急に加盟させる主な根拠は、そうすることでロシアが後日に戦争を再開するのを阻止できるというものだ。キエフが追加の保護を望む理由は簡単に理解できるが、この議論は、NATOに加盟することが、ほぼ全ての状況下でロシアの軍事行動を確実に阻止する魔法の盾であると仮定している。これと同じ仮定が、NATO をバルト三国のような脆弱な地域に拡大するという以前の決定を引き起こした。NATO拡大の支持者らは、延長される安全保証は決して現金化されない小切手であると単純に想定していた。

NATO加盟は多くの状況で攻撃を抑止するかもしれないが、魔法の盾ではない。実際、最近になって、今後数年のうちにロシアがNATOに挑戦してくる可能性について憂慮すべき警告を発する声が高まっている。もしプーティンがウクライナでの戦争を終結させ、ボロボロになった軍隊を再建するために小休止を取り、フィンランドやエストニア、あるいは他のNATO加盟国に新たな攻撃を仕掛けると本当に信じているのなら、魔法の盾がそれほど信頼できるものだとは思っていないはずだ。となると、NATOの現在の加盟諸国は、自国の死活的利益とは何か、どの国を守るために本当に戦う気があるのか、じっくり考えなければならないということだ。そこで2番目の理由に戻る。

(4)今の時点でのNATO加盟は戦争を長引かせるだけだ。キエフのNATO加盟を阻止するためにモスクワが攻撃したというのが私の見立て通りだとすれば、ウクライナを今加盟させることは、ウクライナが現在負けている戦争を長引かせるだけだ。そのためにプーティンが「特別軍事作戦(special military operation」」を開始したのだとすれば、自軍の戦力が中々に健闘し、ウクライナのNATO加盟がまだテーブルの上にあるのであれば、プーティンが戦争を終わらせることはないだろう。その結果、ウクライナは更に大きなダメージを受けることになり、自国の長期的な将来が危険にさらされることも考えられる。ウクライナは開戦前からヨーロッパで最も急速に人口が減少している国の1つであり、戦闘の影響(難民の逃亡、少子化[declining fertility]、戦場での死亡など)はこの問題をさらに悪化させるだろう。

(5)中立(neutrality)はそれほど悪いことではないかもしれない。ロシアとウクライナの関係の歴史(過去10年間の出来事も含めて)を考えれば、多くのウクライナ人が中立の立場を受け入れたくないのは理解できる。しかし、ロシアに近接する国家にとって、中立は必ずしも悪いことばかりではない。フィンランドは1939年から1940年にかけてソ連と戦い、戦費がかさみ、最終的には不成功に終わり、戦前の領土の約9%を割譲しなければならなかった。しかし、今日のウクライナのように、フィンランドは英雄的に戦い、はるかに大きなソ連に大きな代償を払わせた。その結果、当時のソ連の指導者ヨシフ・スターリンは、第二次世界大戦後にフィンランドをソ連に編入したり、ワルシャワ条約機構に加盟させたりすることはなかった。その代わり、フィンランドは中立国として民主政治体制を維持し、ソ連と西側の両方と貿易を行う市場経済を持った。

この結果は「フィンランド化(Finlandization)」と揶揄されることもあったが、かなり成功した方式であることが証明された。もしフィンランドがこの時期にNATOに加盟しようとしていたら、ほぼ間違いなく大きな危機、あるいは予防戦争(preemptive war)を引き起こしただろう。この2つの状況は完全に類似している訳ではないが(特に、ロシア人とウクライナ人の文化的一体性[cultural unity]についてのプーティンの見解を考えると)、形式的な中立が、ウクライナが強固な民主政体を確立し、西側諸国と広範な経済的結びつきを持つことを妨げるものではないことを示唆している。

これらの理由から、ウクライナのNATO加盟を急ぐのは得策ではない。その代わりに、西側諸国のウクライナ支持者たちは、戦後の休戦協定や和平協定の文脈においてウクライナを安心させることができる別の安全保障体制を創造的に考える必要がある。キエフは、モスクワが戦争を再開させないように安全確保する必要がある。モスクワを刺激して戦争を再開させない方法で、十分な保護を提供する方法を見つけ出すのは容易ではない。戦争を長引かせ、長年苦しんできたウクライナをこれまで以上に不利な状況に追いやる可能性が高い。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント: @stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。今回取り上げるヴィクトリア・ヌーランドについても詳しく書いています。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカの強硬な対ロシア政策とウクライナ政策をけん引してきた、ヴィクトリア・ヌーランド政治問題担当国務次官(省内序列第3位)が退任することが、上司であるアントニー・ブリンケン米国務長官によって発表された。ロシア政府関係者は「ヌーランドの退任はアメリカの対ロシア政策失敗の象徴」と発言している。まさにその通りだ。ウクライナ戦争に向けて散々火をつけて回って、火がコントロールできなくなったら、責任ある職から逃げ出すというあまりにも無様な恰好だ。ヌーランドは職業外交官としては高位である国務次官にまで昇進した。しかし、その最後はあまりにもあっけないものとなった。

 アメリカ政治や国際関係に詳しい人ならば、ヌーランドが2010年代から、ウクライナ政治に介入し、対ロシア強硬政策を実施してきたことは詳しい。私も第3作『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)で詳しく書いてきた。ヌーランドは家族ぐるみでネオコンであり、まさにアメリカの対外介入政策を推進してきた人物である。
 ウクライナ戦争はその仕上げになるはずだった。アメリカがロシアを屈服させるために、ウクライナに誘い込んで思い切り叩く、それに加えて経済制裁も行って、ロシアをぼろぼろにするということであった。しかし、目論見はものの見事に外れた。現在、ウクライナ戦争はウクライナの劣勢であり、アメリカが主導する西側諸国の支援もなく、情勢はロシア有利になっている。ヌーランドはまずこの政策の大失敗の詰め腹を切らされた形になる。

 そして、バイデン政権としては、ウクライナ問題で消耗をして、泥沼に足を取られている状態を何とかしたい(逃げ出したい)ということもあり、アジア重視に方針を転換しようとしている。対中宥和派であったウェンディ・シャーマン国務副長官が昨年退任し、国務次官ヌーランドが代理を務めていた。彼女としては、このまま国務副長官になるというやぼうがあったはずだ。しかし、バイデン政権は、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)でインド太平洋調整官(アジア政策担当トップ)を務めていたカート・キャンベルを国務副長官に持ってきた。先月には連邦上院で人事承認も行われた。ヌーランドは地位をめぐる政治的な争いに負けたということになる。また、アジア重視ということで、ヌーランドの重要性は失われて、居場所がなくなったということになる。

 ヌーランドは7月からコロンビア大学国際公共政策大学院で教鞭を執ることも発表された。ヌーランドが国務省j報道官時代に直接仕えた、ヒラリー・クリントン元国務長官がこの大学院の付属の国際政治研究所教職員諮問委員会委員長を務めており、ヌーランドは客員教員を務めることになっている。この大学院の大学院長であるカリン・ヤーヒ・ミロはイスラエルで生まれ育った人物で、国際関係論の学者であるが、アメリカに留学する前はイスラエル軍で情報将校を務めていたという経歴を持っている。ネオコンは、強固なイスラエル支持派でもあるということもあり、非常に露骨な人事である。

 ヌーランドがバイデン政権からいなくなるということは、ウクライナ戦争の停戦に向けての動きが出るということだ。アメリカは実質的にウクライナを助けることが難しくなっている。ウクライナ支援を強硬に訴えてきた人物がいなくなるということは、方針転換がしやすくなるということだ。これからのアメリカとウクライナ戦争の行方は注目される。

(貼り付けはじめ)

長年の対ロシアタカ派であるヴィクトリア・ヌーランドが国務省から退任(Victoria Nuland, Veteran Russia Hawk, to Leave the State Department

-仕事熱心な外交官であり、ウクライナ支持を断固として主張してきたヌーランドは、国務省のナンバー4のポストから辞任する。

マイケル・クロウリー筆

2024年3月5日(改訂:3月7日)

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2024/03/05/us/politics/victoria-nuland-state-department.html

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2021年に連邦上院外交委員会で証言する政治問題担当国務次官ヴィクトリア・ヌーランド

国務省で序列4位の高官であり、ウラジーミル・V・プーティン政権のロシアに対する強硬政策を断固として主張してきたヴィクトリア・J・ヌーランドが、30年以上の政府勤務を終えて今月退職する。

アントニー・J・ブリンケン国務長官は火曜日、自由、民主政治体制、人権、そしてアメリカによるこれらの大義の海外での推進に対するヌーランドの「激しい情熱(fierce passion)」を指摘する声明の中で、ヌーランドの国務次官職からの辞任を発表した。

ブリンケンは、ウクライナに関するヌーランドの取り組みを指摘し、それは「プーティン大統領の全面的な侵略に対抗するために不可欠(indispensable to confronting Putin’s full-scale invasion)」であると述べた。

ヌーランドは報道官など国務省の役職を数多く歴任し、ディック・チェイニー副大統領の国家安全保障問題担当副大統領次席補佐官を務めたこともある。しかし、ヌーランドは、プーティンの領土的野心と外国の政治的影響力に対して強い抵抗を組織することを長年主張し、ロシアの専門家として名を残した。

オバマ政権時代には国務省のロシア担当高官として、ウクライナ軍の対戦車ミサイル武装を主張したが失敗したが、バイデン政権ではより多く、より優れたアメリカ製兵器をウクライナに送ることを最も支持してきた。

熟練した官僚的実務家であるヌーランドは、鋭い機知と率直な態度で自分の主張を展開し、同僚から賞賛と恐怖が入り混じった反応を引き出した。ブリンケン国務長官は声明の中で、「彼女はいつも自分の考えを話す」と穏やかな表現を使った。

ヌーランドは2014年、ウクライナ政治に関する電話での通話で、ヨーロッパ連合(European UnionEU)を罵倒するような発言をしたことがきっかけとして、多くの人々に知られるようになったが、その通話は録音され、その録音が流出した。アメリカ政府当局者たちはこの流出をロシアの仕業だという確信を持っている。

バイデン政権下、ヌーランドはアメリカのウクライナ支援に懐疑的な人々の避雷針(lightning rod)となった。テスラの共同創設者イーロン・マスク氏は昨年2月、ソーシャルメディアサイトXに、「ヌーランドほどこの戦争を推進している人はいない」と書いた。

ヌーランドはロシアを弱体化させ、更にはプーティンを打倒しようという共同謀議を企てていると見なされている、ワシントン・エスタブリッシュメントの代理人(化身)としてモスクワで非難された。ロシア政府当局者や露メディアは、2014年初頭にキエフの中央広場で、最終的にクレムリンが支援するウクライナ指導者を打倒した、当時欧州・ユーラシア問題担当米国次官補だったヌーランドがデモ参加者たちに食料を配った様子を常に回想している。

ロシアのセルゲイ・V・ラブロフ外相は昨年、「2014年にウクライナでヴィクトリア・ヌーランド国務次官がテロリストにクッキーを配った後、政府に対するクーデターが起きた」と述べた。ヌーランドさんはクッキーではなくサンドイッチを配ったと語っている。

ヌーランドの辞任は、クレムリン支援の英語ニュースサイトRTによって重大ニューズとして扱われ、トップページに赤いバナーと「ヌーランド辞任」という見出しが掲げられた。

RTはロシア外務省報道官マリア・ザハロワの発言を引用し、ヌーランドの辞任は「バイデン政権の反ロシア路線の失敗」によるものだと述べた。ザハロワは、「ヴィクトリア・ヌーランドがアメリカの主要な外交政策概念として提案したロシア恐怖症(Russophobia)が、民主党を石のようにどん底に引きずり込んでいる」と非難した。

ヌーランドは、バイデン政権の最初の2年半の間、国務次官を務めた。その間、国務副長官を務めたウェンディ・シャーマンの退任に伴い、国務副長官代理を兼務して過去1年の大半を費やした。

ヌーランドはシャーマンの後任としてフルタイムで当然の候補者と見なされていた。しかし、ブリンケン長官は、国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)アジア担当トップのカート・キャンベルを国務副長官に抜擢した。キャンベルの国務副長官就任は2月6日に連邦上院で承認された。

ブリンケン長官は、後任が決まるまで国務省のジョン・バス管理担当国務次官が代理としてヌーランドの職務を引き継ぐと述べた。

アナリストの一部は、ロシアのウクライナ侵略がバイデンの外交政策の多くを消耗させたにもかかわらず、キャンベルの選択を、バイデン大統領とブリンケン国務長官がアメリカと中国との関係の管理を最優先事項と考えていることの表れと解釈した。

ヌーランドは先月、人生の何百時間も費やしてきたウクライナの将来について公に語った。

ヌーランドは、ワシントンの戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)での講演で、「プーティ大統領がウクライナで勝利すれば、そこで止まることはないだろうし、世界中の独裁者たちは力ずくで現状を変えようと大胆になるだろう」と警告した。

ヌーランドは、「プーティンは私たち全員を待っていられると考えている。私たちは彼が間違っていることを証明する必要がある」と述べた。

2024年3月7日に訂正:この記事の以前の版ではヴィクトリア・ヌーランドの国務省での序列について誤って記述した。ヌーランドは序列第4位の役職であり、序列3位の外交官である。

※マイケル・クロウリー:『ニューヨーク・タイムズ』紙で国務省とアメリカの外交政策を取材している。これまで30カ国以上から記事を送り、国務長官の外遊に同行している。

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国務省の主要なリーダーであるヴィクトリア・ヌーランドがバイデン政権から離脱(Victoria Nuland, key State Dept. leader, to exit Biden administration

-長年外交官を務めてきたヌーランドはロシアに対する厳しい姿勢で知られていた。クレムリンはヌーランドの反ロシア姿勢を悪者扱いしてきた。

マイケル・バーンバウム筆

2024年3月5日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/national-security/2024/03/05/victoria-nuland-retires/

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2022年、キプロス。記者会見でメディアに対して話すヴィクトリア・ヌーランド

アントニー・ブリンケン国務長官は火曜日、ジョー・バイデン政権の最も強硬なロシア強硬派の1人で国務省序列第3位のヴィクトリア・ヌーランドが数週間以内に退任する予定であり、中東の危機を受けてアメリカ外交のトップに穴が開くと述べた。そしてウクライナでは大規模な大火災が発生する恐れがある。

ヌーランド政治問題国務次官は、以前はバラク・オバマ政権時代に国務省のヨーロッパ担当外交官のトップを務め、国務省の職員たちの間で広く人気があった。時には当たり障りのない態度や用心深さが報われる厳格な官僚制の中で、彼女はありのままの意見とクレムリンに対する厳しいアプローチで際立っており、クレムリンは彼女を悪者扱いした。

ヌーランドはウェンディ・シャーマンの退任後、昨年から7カ月間、国務省序列第2位の役職である国務副長官代理を務めていた。しかし彼女は、先月承認された元ホワイトハウスアジア戦略官トップのカート・キャンベルの国務副長官正式就任を巡る政権内争いに敗れた。バイデン大統領の決定は彼女の辞任の要因の1つであった。今回の人事異動により、国務省の最上級指導者トリオの中に女性は1人も残らないことになる。

ブリンケンは火曜日の声明で、ヌーランドが国務省内の「ほとんどの職」を歴任し、「幅広い問題や地域に関する百科全書的な知識と、私たちの利益と価値観を前進させるためのアメリカ外交の完全なツールセットを駆使する比類のない能力」を備えていたと述べた。

ヌーランドは1990年代にモスクワに勤務し、その後、ヒラリー・クリントン国務長官の下で国務省報道官になるまで、NATO常任委員代表を務めた。2013年末にキエフでクレムリン寄りの指導者に対する抗議活動が発生し、ロシアの不満の焦点となった際、彼女はヨーロッパ問題を担当するアメリカのトップ外交官として、キエフでのアメリカ外交で積極的な役割を果たした。記憶に残るのは、当時の大統領が打倒される前に、彼女がキエフ中心部マイダンでキャンプを張っていた抗議活動参加者たちにクッキーとパンを配ったことだ。

ヌーランドは、ドナルド・トランプが大統領に就任した後の2017年初頭に国務省を離れ、2021年に序列第3位の政治問題担当国務次官として復帰した。

ブリンケンは、ヌーランドの「ウクライナに関する指導層について、外交官や外交政策の学生が今後何年も研究することになる」と述べ、ロシアが2022年2月の侵攻に先立って軍を集結させる中、キエフを支援するヨーロッパ諸国との連合構築の取り組みをヌーランドが主導したと指摘した。

ロシア外務省はヌーランドの退職の機会を利用し、これはアメリカの対ロシア政策が間違っていたことを示す兆候だと宣言した。

ロシア外務省報道官マリア・ザハロワはテレグラムに「彼らは皆さんに理由を教えてくれないだろう。しかし、それは単純だ。バイデン政権の反ロシア路線の失敗だ。ヴィクトリア・ヌーランドがアメリカの主要な外交政策概念として提案したロシア恐怖症は、民主党を石のようにどん底に引きずり込んでいる。」と書いた。

職業外交官で管理担当国務次官を務めるジョン・バスが一時的にヌーランドの代理を務めることになる。

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反ロシア主張で知られる米幹部外交官であるヴィクトリア・ヌーランドが近く退職(High-ranking US diplomat Victoria Nuland, known for anti-Russia views, will retire soon

ブラッド・ドレス筆

2024年3月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/4509471-victoria-nuland-anti-russia-retire-ukraine/
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2023年1月26日、連邦議事堂にて。連邦上院外交委員会でロシアの侵攻について証言する政治問題担当国務次官ヴィクトリア・ヌーランド(中央)、国際安全保障問題担当国防次官補セレステ・ワーランダー(左)、米国際開発庁(U.S. Agency for International Development)ヨーロッパ・ユーラシア担当副長官エリン・マッキー。

ウクライナへの熱烈な支持と反ロシアで、タカ派の主張で知られるヴィクトリア・ヌーランド政治問題担当国務次官が数週間以内に退任する

アントニー・ブリンケン国務長官は火曜日にこのニューズを発表し、ヌーランドが「私たちの国と世界にとって重要な時期に外交を外交政策の中心に戻し、アメリカの世界的リーダーシップを活性化させた」と称賛した。

ブリンケンは声明の中で、「トリア(ヴィクトリア)を本当に並外れた存在にしているのは、彼女が堅く信じている価値、つまり自由、民主政治体制、人権、そしてそれらの価値観を世界中に鼓舞し推進する、アメリカの永続的な能力のために戦うことへの激しい情熱だ」と述べた。

ヌーランドは30年以上国務省に勤務し、6人の大統領と10人の国務長官の下で様々な役職を務めた。ヌーランドはキャリアの初期に、モスクワの米大使館で働き、モンゴル初の米国大使館の開設に貢献した。

ヌーランドは国務省の東アジア太平洋局にも勤務し、中国の広州に外交官として赴任した。 2003年から2005年まで副大統領(ディック・チェイニー)の国家安全保障問題担当補佐官を務め、その後、NATO常任委員代表を務めた。ヨーロッパ・・ユーラシア問題担当国務次官補を務め、2021年にジョー・バイデン大統領の下で国務次官に就任した。

ヌーランドはおそらく、2014年の事件で最もよく知られている。この事件では、彼女が駐ウクライナ米大使との通話中に「ファックEU」と発言した録音が漏洩し、世界中のメディアの注目を集めた。

ヌーランドのロシアに対する強い主張とウクライナへの支持は、彼女のその後のキャリアを決定付け、その間、キエフで親ロシア派の大統領が追放された後、モスクワがクリミア半島を不法併合した際の紛争で中心的な役割を果たした。

ヌーランドはロシアに対するタカ派的主張を理由に、アメリカの一部の右派から標的にされていた。彼女のコメントは、昨年クレムリンが非武装化されたクリミアに関する彼女のコメントを非難したことも含め、ロシア国内でも厳しい非難を集めた。

それでも、ブリンケンは、自分とバイデン大統領はヌーランドに感謝していると語った。ブリンケンは、彼女が「常にアメリカの外交官を擁護し、彼らに投資し、彼らを指導し、高揚させ、彼らとその家族が彼らにふさわしいもの、そして私たちの使命が求めるものを確実に得られるようにしている」と語った。

ブリンケンは火曜日、声明の中で次のように発表した。「ヌーランドは最も暗い瞬間に光を見出し、最も必要なときにあなたを笑わせ、いつもあなたの背中を押してくれる。彼女の努力は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の全面的なウクライナ侵略に対抗し、プーティン大統領の戦略的失敗を確実にするために世界的な連合を組織し、ウクライナが自らの足で力強く立つことができる日に向けて努力するのを助けるために必要不可欠だった」。

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ヴィクトリア・ヌーランド大使がコロンビア大学国際公共政策大学院の教員に加わる(Ambassador Victoria Nuland Will Join SIPA Faculty

2024年3月6日

https://www.sipa.columbia.edu/news/ambassador-victoria-nuland-will-join-sipa-faculty

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ヴィクトリア・ヌーランド大使は30年以上にわたりアメリカの外交官を務め、最後の3年間は政治問題担当国務次官を務めた。更には2023年7月から2024年2月まで国務副長官代理を務めた。ヌーランドは7月1日付で、コロンビア大学国際公共政策大学院(School of International and Public AffairsSIPA)国際外交実践担当キャスリン・アンド・シェルビー・カロム・デイヴィス記念教授に就任することが決定した。

ヌーランドはまた、国際公共政策大学院国際フェロープログラムの指揮を執る。このプログラムは、国際問題を研究するコロンビア大学の大学院生たちのための学際的なフォーラムを提供するものだ。更には、国際政治研究所(Institute of Global PoliticsIGP)客員教員に加わる。国際政治研究所は、国際政治研究所の使命を推進するための研究プロジェクトを実行する選ばれた学者と実務形で構成されている。

国務次官として、ヌーランドは地域および二国間政策全般を管理し、とりわけ世界中のアメリカ外交使節団を指導する国務省の複数の地域部門を監督した。

2021年に国務次官に就任する前、ヌーランドは民間のコンサルタント会社であるオルブライト・ストーンブリッジ・グループの上級顧問を務めていた。彼女はまた、ブルッキングス研究所、イェール大学、民主政治体制のための全米基金(National Endowment for DemocracyNED)でも役職を務めた。

国際公共政策大学院長カリン・ヤーヒ・ミロは次のように述べている。「ヴィクトリア・ヌーランド大使を私たちの教員として迎えられることを大変光栄に思う。ワシントンおよび海外での経験を反映した彼女の、苦心して獲得した多様な専門知識は、私たちの教室の教員として、また政策活動のリーダーとしての彼女の貢献をさらに高めることになるだろう。民主党と共和党の両政権の下で勤務した高官として、トリア(ヴィクトリア)は党派間の隔たりを乗り越える能力を実証しており、あまりに分断されている現在の社会を考えると、彼女は生徒たちのモデルとなるだろう。私は国際公共政策大学院コミュニティ全体を代表して、彼女を迎えることができて本当に嬉しく思う」。

ヌーランドの国務省からの退職は、3月5日にアントニー・J・ブリンケン米国務長官によって発表された。ヌーランドはオバマ政権下、国務省報道官(2011年5月-2013年4月)、ヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補(2013年9月-2017年1月)を務めた。国務省報道官時代は、当時のヒラリー・クリントン国務長官に直接仕えた。ヒラリー・クリントンは現在、国際公共政策大学院付属の国際政治研究所教職員諮問委員会委員長を務めている。

ヌーランドは、2005年6月から2008年5月まで、ジョージ・W・ブッシュ(息子)大統領の下で、アメリカ合衆国NATO常任委員代表を務めた。

ヌーランドは、ロシア語とフランス語に堪能であり、ブラウン大学で学士号を取得した。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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