古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:一帯一路

 古村治彦です。

 中国が「一帯一路計画(One Belt, One Road Initiative)」戦略に基づいて、世界各国に進出していることはよく知られている。日本でもよく報道されている。中国の東海岸からヨーロッパまでを陸上と海上でつなぐ、モンゴル帝国時代のユーラシアに訪れた「パクス・モンゴリカ(Pax Mongolica)」時代と大航海時代(Great Navigation)時代を彷彿とさせる大戦略だ。中国自体が外洋に出ていったのは、明時代の鄭和提督の大船団によるアフリカ遠征までだったが、中国はそれ以来の世界進出の時代を迎えている。
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 下記記事によると、中国は現在、「46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクト」を実行しており、その投資総額は「299億ドルに達する」ということだ。港湾の開発と管理(port authority)を行うことで、中国は物流で有利な立場に立つことができる。また、現在、中国人民解放軍海軍は、ミャンマー、スリランカ、パキスタン、ジブチに海軍基地を設置している。これは「真珠の首飾り(String of Pearls)」戦略に基づいている。簡単に言えば、インドを包囲するという戦略だ。そして、インド洋でアメリカに対抗するための戦略である。この戦略については拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)で取り上げている。

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中国の海外港湾プログラム
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「真珠の首飾り」戦略

 中国の海洋進出は更に継続していく。下記記事はそのように分析している。その対象となるのが西アフリカだ。私たちは太平洋からインド洋にかけての地域に目が向いている。従って、「それならばアフリカ大陸ならば東部に進出するのではないか」と考えてしまう。しかし、中国はアフリカ西部に進出する。そのために大規模な投資を行っている。そこには。中国の壮大な戦略が隠されている。
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中国の次の海洋戦略は、「南半球の資源大国を繋ぐ大航海時代の逆ヴァージョン」となると私は考える。以下の記事にある通り、中国はこれから西アフリカに重点を置くと見られている。何故、西アフリカなのかと言えば、それは、南アメリカ大陸とつながるためだ。「中国-東南アジアインド洋(スリランカ)-南アフリカ(喜望峰)-西アフリカ-南アメリカ(ブラジル)」というシーレーンを構築する。西側欧米諸国の影響を受けない、「独立した」シーレーンが完成する。ブリックス(BRICS、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のうち、南半球にあるブラジルと南アフリカという、南米とアフリカの地域大国でかつ資源大国である国々を中国とつなぐためのシーレーン、航路ということになる。ユーラシア大陸を貫く「一帯一路」が北半球の戦略ならば、こちらは南半球での戦略となる。このシーレーンはまた、「ブリックス通貨(BRICS currency)」の成功のために重要な役割を果たすことになるだろう。

 更に言えば、中国の西アフリカ・南米への進出、「中国の南大西洋戦略」は、アメリカが、バラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官が発表した「Pivot to Asia(アジアに軸足を移す)」、更には「インド太平洋戦略」という戦略に対抗するための中国の戦略でもある。アメリカが太平洋とインド洋で中国を「封じ込める」という戦略を推進している。それに対抗して、中国はアメリカの「裏庭(backyard)」である南米とつながろうとしている。大きく言えば、南半球を固めて、アメリカを包囲し、包囲網を縮めていくということになる。中国はそのために南大西洋に進出しようとしている。私たちの目がインド太平洋に向いている間に。中国は周到に次の世界覇権国としての準備を進めている。

(貼り付けはじめ)

中国は世界に発展していく-そして海軍基地を次々と建設(Beijing Is Going Places—and Building Naval Bases

-次に中国が基地を建設するであろう候補地はこれらの場所だ。

アレクサンダー・ウーリー、シェン・ジャン筆

2023年7月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/07/27/china-military-naval-bases-plan-infrastructure/

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スリランカ・ハンバントタにあるハンバントタ国際港に寄港する中国のミサイル追跡船遠望5号2を歓迎する人々(2022年8月16日)

中国は2017年に中国人民解放軍海軍(People’s Liberation Army NavyPLAN)の初の海外基地をジブチに建設したことで知られている。中国は次はどこに海軍基地を建設するだろうか?

この疑問に答えるため、本稿の著者たちはAidDataの新しいデータセットを用いて、2000年から2021年の間に低・中所得国で中国の国有企業によって融資され、2000年から2023年の間に実施された港湾とインフラ建設に焦点を当てた。この詳細なデータセットは、46カ国の78港湾における、123の海港プロジェクトを捕捉しており、その総額は299億ドルに達する。

私たちの分析の中心的な前提は、対外援助(foreign aid)や投資(investment)を通じて中国が港湾や関連インフラに資金を提供し建設することは、平時でも戦時でも人民解放軍海軍にとって役立つ可能性のある港湾や基地を示す1つの指標になるということである。それには理由がある。中国の法律では、名目上は民間の港湾が、必要な時には必要な分だけ、中国人民解放軍海軍に後方支援を提供することが義務付けられている。港湾の建設や拡張を通じて築かれる経済的な結びつきは永続的なものであり、その関係には長期的なライフサイクルがある。北京はまた、その支出に見合う非貨幣的債務もあると見ている。投資額が大きければ大きいほど、中国は便宜を図ってもらうための影響力を増すはずだ。

私たちのデータは、中国が陸上だけでなく海上でも超大国であり、世界の低・中所得国と並外れた結びつきがあることを明らかにしている。中国の国有銀行はモーリタニアのヌアクショット港の拡張に4億9900万ドルを貸し付けた。シエラレオネの総GDPは40億ドルの国であるが、シエラレオネのフリータウンには、7億5900万ドルの港湾融資を行っている。カリブ海にまで広がる世界的なポートフォリオである。その象徴的な足掛かりとなる場所はアンティグア・バーブーダで、2022年後半、中国の事業体が1億700万ドルを投じてセントジョンズ港の埠頭と護岸の拡張工事を完了させ、港湾を浚渫し、海岸沿いの施設を建設した。 

商業的な投資と将来の海軍基地を結びつけるのは、中国のビジネスのやり方をよく知らない人にとっては奇妙に思えるかもしれない。しかし、中国の港湾建設会社や運営会社の株式は上海証券取引所で取引されているが、一方で公的な政府機関でもある。港湾建設の大手企業としては、中国交通建設股份有限公司(China Communications Construction Company, Ltd.CCCC)がある。中国交通建設は、株式の大半が国有で、上場している多国籍エンジニアリング・建設会社である。その港湾子会社の1つが中国港湾工程有限責任公司(China Harbour Engineering Company, Ltd.CHEC)である。どちらも海外での港湾建設における主要企業である。2020年、米商務省は南シナ海の人工島建設に関与したとして中国交通建設股份有限公司に制裁を科した。

海軍基地建設の立地に関する選択肢を絞り込むために、戦略的位置、港湾の規模や水深、北京との潜在的なホスト国との関係(たとえば国連総会での投票の一致など)といった他の基準も適用した。また、入手可能な場合には、一般に公開されている衛星画像や地理空間マッピングの情報源や技術も利用した。

そこから、私たちは将来の中国人民解放軍海軍基地の候補として、最も可能性の高い8つの候補地を導き出した。それらは、 スリランカのハンバントタ、赤道ギニアのバタ、パキスタンのグワダル、カメルーンのクリビ、カンボジアのリーム、ヴァヌアツのルガンヴィル、モザンビークのナカラ、モーリタニアのヌアクショットである。

中国が資金を提供した港湾インフラと中国人民解放軍海軍基地立地の可能性が高い場所

中国の国有企業は、2000年から2021年にかけて、46カ国78港の拡張・建設プロジェクト123件に299億ドルの融資を約束している。この地図は、49の港湾について正式に承認された、活動中の、または完了したプロジェクトを示し、中国海軍基地として使用される可能性が最も高い8つの港湾の位置を強調している。

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注:地図には、資金提供の約束や中止または中断されたプロジェクトは含まれていない。ロシアのサベッタ港(ヤマル液化天然ガスプロジェクト)は除外されている。このプロジェクトは中国から推定149億ドルの資金提供を受けているが、研究者たちはサベッタ港のみに使われた金額を集計することができなかった。

西太平洋でアメリカを追い出す、あるいは包囲することは北京にとっての優先事項であり、インド洋ではアメリカ、インド、そしていわゆるクアッド同盟(Quad alliance)の他の国々への挑戦でもある。そして、ジブチもそうだが、候補の半分以上はインド太平洋を志向している。驚くべきことには、アフリカの大西洋側における、港湾を含む中国の投資の激しさである。中国の港湾業者について考えると、中国は地政学的に注目されているインド洋よりも、アフリカの大西洋側でより多くの港湾に積極的に投資していることになる。中国はモーリタニアから西アフリカを南下し、ギニア湾を経てカメルーン、アンゴラ、ガボンへと港を建設している。

 

西アフリカや中央アフリカに基地を建設することは、アデン湾での海賊対処任務で自国から遠く離れた場所で活動する方法を学んでからわずか15年しか経っていない海軍にとって、まだ外洋での足場を固めつつある大胆な試みとなる。大西洋の基地は、中国人民解放軍海軍をヨーロッパ、ジブラルタル海峡、主要な大西洋横断航路に相対的に近づけることになる。そして、大西洋へのシフトは流れに逆行することになる。アメリカはインド太平洋に執着しており、イギリスやオーストラリアとAUKUS安全保障パートナーシップを締結し、インドとの物流関係を深め、フィリピンやソロモン諸島に回帰し、パプアニューギニアと防衛協力を行っている。大西洋に中国人民解放軍海軍の基地があれば、ワシントンとブリュッセル(EU)の海軍に関する計算に狂いが生じ、計画立案者たちは図面に戻ることになるだろう。

また、中国は港湾を人里離れた場所に設置することを好んでいることを発見した。その一例が、アンゴラの飛び地であるカイオ港への北京の多額の投資である。十分な水深のある天然の港がないとか、天然資源に近いとか、単純な説明がつくこともある。しかし、ある海運会社の幹部によると、中国の事業体は過去に労働争議や市民の抗議行動、その他の混乱に港がさらされるのを見てきたため、現在ではこうした状況から距離を置くことを好むという。中国の事業体は、多数派で自由な支配権を確保できる、あるいはホスト国の世論の反発を避けられる、安全な新しい場所を好むようだ。これらは、海軍施設をどこに設置するかを決める際のセールスポイントにもなるだろう。

地図上で強調されている、中国人民解放軍海軍の基地の可能性が最も高いトップ8については以下をご覧いただきたい。

(1)ハンバントタ(スリランカ)(Hambantota, Sri Lanka

中国がハンバントタに投じた総額は20億ドル以上を超える。北京はこの施設を直接管理している。その戦略的立地、エリート層や国民の間での中国人気、国連総会での投票におけるスリランカの中国との連携も相まって、ハンバントタは将来の海軍基地の最有力候補である。

(2)バタ(赤道ギニア)(Bata, Equatorial Guinea

米国防総省の情報提供者は、バタ基地に対する中国の関心について懸念を示し、それを主要メディアが取り上げた。基地に関する北京の公式声明がないことは、必ずしも決定的なものではない。基地ができるという発表がなされる直前まで、中国はジブチに対するそのような意図について繰り返し否定していた。商業投資を入り口にして、数カ月以内に建設が始まった。政治的には、赤道ギニアは、カメルーンやトーゴと同様に、全て一族支配、権威主義政権で、長年にわたって政権を維持しており、後継者への政権移譲計画があるか、あるいはその話が持ち上がっている。2022年の『エコノミスト』誌インテリジェンス・ユニットの民主政体指数によると、3カ国とも世界の民主政体ランキングの最下位に位置している。 トーゴは130位、カメルーンは140位、赤道ギニアは158位である。

(3)グワダル(パキスタン)(Gwadar, Pakistan

中国とパキスタンの関係は、戦略的かつ経済的なものだ。パキスタンは、中国が推進する「一帯一路(Belt and Road)」インフラ計画の旗艦国であり、北京にとって最大の軍事品輸出先でもある。パキスタンでは、中国の軍艦は既に定着している。近代化する(modernize)に伴い、パキスタン海軍は中国製の武器を購入する最大の購入者となり、中国が設計した近代的な水上戦艦や潜水艦を運用している。グワダル自体はパキスタンの西の果てに位置し、ホルムズ海峡をカバーする戦略的な場所である。中国はパキスタン国民に、アメリカよりもかなり人気がある。問題を抱えているとはいえ、パキスタンは民主政治体制国家であるため、中国は海軍基地という概念に友好的な指導者を必ずしも永久に当てにすることはできない。グワダルがその大きな構成要素である「一帯一路」の主役である巨大な中国パキスタン経済回廊のパキスタンにおける運命には、多くのことがかかっているかもしれない。この経済回廊の成否は、中国人民解放軍海軍の基地受け入れに影響を与える可能性がある。

(4)クリビ(カメルーン)(Kribi, Cameroon

クリビ港は、中国の投資規模ではハンバントタ港に次ぐ。クリビ港はバタ港と最も競合しそうな港だが、両港の距離は100マイルほどしか離れていない。中国はどちらかを選ぶだろう。カメルーンの国連総会での議決と全体的な地政学的位置づけは、中国とよく一致している。その他では、アンゴラのカイオ、シエラレオネのフリータウン、コートジボワールのアビジャンが、北京の投資規模から、拠点となる可能性がある。シエラレオネの二大政党のうち、1つ(全人民評議会[All People’s Congress])は中国と密接な関係にある。政治集会では、支持者たちが「私たちは中国人だ(We are Chinese)」や「私たちは黒い中国人だ(We are black Chinese )」と叫んでいる。北京はこの国の政治生活に入り込むことに成功している。

(5)リーム(カンボジア)(Ream, Cambodia

現在までの公式投資は小規模だが、カンボジアのリームは何らかの形で中国人民解放軍海軍の施設となる可能性が非常に高い。アメリカや西側諸国はカンボジア人に人気があるが、フン・セン首相は北京にとっての長年の盟友である。フン・センは中国にとって重要な存在である。フン・セン首相は2023年8月に退陣し、息子の後任が予定されているが、今後もフン・セン首相が主導権を握り続けると見られている。カンボジアのエリートたちは、一帯一路構想のもとでうまくやっており、中国と緊密に連携している。2020年、カンボジアの国連総会での投票は中国と同じで、その年の争点となった100票のうちわずか19票で、イラン、キューバ、シリアよりもわずかに高い割合でアメリカと一致した。フン・センは、リームが近いうちに中国人民解放軍海軍を迎えることはないと否定しているが、証拠はそうでないことを示している。

(6)ルガンヴィル(ヴァヌアツ)(Luganville, Vanuatu

北京は何十年もかけて、自国を取り囲む第一列島線を割ろうとしてきた。中国人民解放軍海軍の基地は、おそらくそれほど大きくはないだろうが、南太平洋か中央太平洋のどこかに行かれることが理にかなっている。私たちのデータでは、この地域の港湾インフラへの中国の投資は限られているが、ヴァヌアツではエスピリトゥ・サント島のルガンヴィル港に中国から建設資金が投入されている。9700万ドルの投資は、私たちのデータによれば、ヴァヌアツの世界的な投資額のトップ30に入るもので、決して小さいものではない。そして前例もある。第二次世界大戦中、この戦略的立地にある島には、太平洋で最大級の米海軍の前進基地と修理施設があった。ルガンヴィル港前のセゴンド運河は、船団、浮体式乾ドック、航空基地、補給基地が置かれた、巨大で保護された停泊地(sheltered anchorage)だった。

(7)ナカラ(モザンビーク)(Nacala, Mozambique

モザンビークにおける中国の港湾投資は、他の地域ほど大規模なものではないが、取るに足らないものでもない。モザンビークはまた、ケニアやタンザニアといった東アフリカや南部アフリカの他の国々で見られるような、中国の融資や投資に対する反発も見られない。中国はエリート層にも一般市民にも人気があり、モザンビークのメディア・コンテンツのかなりの部分を中国が後援している。問題は、どこに基地を置くかだ。マプトは最大の港だが、モザンビーク政府とドバイ・ポーツ・ワールドが運営している。中国は、ベイラとナカラの両港の建設や拡張に資金を提供しており、両港は投資総額でトップ20に入っている。ベイラは定期的な浚渫(regular dredging)が必要なため、大型軍艦には浅すぎるだろう。ナカラは最も理にかなった港湾であり、中国による多額の投資が行われており、水深の深い港湾である。

(8)ヌアクショット(モーリタニア)(Nouakchott, Mauritania

モーリタニアは、西アフリカと中央アフリカの中国人民解放軍海軍オプションの渋滞から外れている。例えば、ヌアクショットはバタから2000マイル以上北西にある。西アフリカの国はまた、ヨーロッパとジブラルタル海峡のような隘路にもかなり近い。2020年の国連人権理事会の公聴会では、中国の香港に対する新しい安全保障法について、アンティグア・バーブーダ、カンボジア、カメルーン、赤道ギニア、モザンビーク、パキスタン、シエラレオネ、スリランカ、モーリタニアを含む53カ国が中国を支持した。

特別参加枠(Wild Card):ロシアか?

中国は発展途上国に資金を費やしているが、ロシア海軍の基地に艦隊を駐留させることで、先進国に近い地域に基地を確保することも可能だ。中国の視点からは、明らかなプラス面がある。アメリカとヨーロッパが脅威であるとロシアの指導部を説得する必要がなく、ロシアを誘い出すためのアメリカの魅力攻勢(charm offensive)の危険性もほとんどない。

ロシアは広大な国土全体に海軍基地を有しており、その多くは冷戦時代の遺産である。中国人民解放軍海軍の計画立案者たちにとって魅力的なのは、北太平洋にある基地だろう。そのような施設、例えばカムチャッカ半島のヴィリュチンスクにある既存のロシア軍基地は、安全で、人目に触れることがなく、既存の軍艦の停泊・修理施設を利用でき、中国人民解放軍海軍をアメリカの同盟国である日本とアラスカの間に置くメリットがある。2021年と2022年の両年、中国人民解放軍海軍とロシア海軍は、東シナ海と西太平洋で、日本の主要な島々の周回を含む大規模な合同演習を行った。中国はまた、ノルウェーとロシアの北岸に位置するバレンツ海や、バレンツ海沖の天然の港であるコラ湾でロシア海軍と施設を共有し、北大西洋へのアクセスを提供する可能性もある。

※ロリー・フェドロチコとサリーナ・パターソンがこの記事の作成に貢献した。

※アレクサンダー・ウーリー:ジャーナリスト、元イギリス海軍将校。

※シェン・ジャン:AidData中国発展資金プログラム研究アナリスト。このプログラムで彼は過少申告されている資金の流れを追跡し、地政学上のデータ収集を主導している。中国国際発展に関するAidDataのレポート「一帯一路の資金」の共著者である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 世界覇権国アメリカの衰退が叫ばれて久しい。その間の中国の台頭は目覚ましい。次の世界覇権国は中国だという考えは世界中で広がっている。アメリカを中心とする西側諸国(the West)の凋落も続いている。この中には日本も含まれている。西側以外の国々(the Rest)の経済成長は堅調である。大きく見ればアメリカを主軸とする西側世界が支配してきた世界構造が変化しつつある。

 中国が世界覇権国になるための道筋を地理的に見るならば、太平洋に拡大するか(中国から見て東側に進む)か、ユーラシア大陸に拡大するか(西側に進むか)ということになる。太平洋に向かうとぶつかるのはアメリカである。太平洋は大きく分けて西太平洋と東太平洋に分けられる。現在の太平洋は全体がアメリカの海であり、アメリカは更に「インド太平洋(Indo-Pacific)」という概念を用いて、その支配を維持しようとしている。それに対して、中国は西太平洋、具体的には第二列島線(Second Island Chain)までを中国の海にしたい構えだ。これに対抗するためにできたのがクアッド(日米豪印戦略対話、Quadrilateral Security DialogueQuad)だ。

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 中国が西側に向かうというのがユーラシアであり、その具体的な計画が一帯一路構想だ。そして、その道筋にある国々で結成されているのが上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)だ。この一帯一路計画では、ユーラシアの端のヨーロッパと中国がつながり、海路を通じてアフリカにまで到達する。これはインド洋も中国が取るということになる。中国の膨張に対してアメリカは防戦一方となる。中国がユーラシアを抑え、太平洋を抑えることで、アメリカは西半球に封じ込められるということになる。
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 現在のウクライナ戦争も大きく考えてみると、アメリカを軸とする西側世界と中国を軸とする西側以外の世界の衝突ということになる。米中はそれぞれが直接対決している訳ではないが、ロシアとウクライナによる代理戦争(proxy war)を戦わせているという構図になる。アメリカ当局もこうした中国の戦略や大きな構図を分かっていることは下の論稿で明らかであるが、身動きができない状態になっている。それはアメリカの国力の減退ということがある。中国が嫌い、怖いと感情的になるのではなく、まずはどういう意図を持っているのか、そして世界は大きくはどのように変化しているかを理解して、対策を立てることが重要となってくる。

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中国には世界支配への2つの道がある(CHINA HAS TWO PATHS TO GLOBAL DOMINATION

-そして、北京がどちらの戦略を選択しているのか、ワシントンが見抜けるかどうかにかかっている。
2020年5月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/05/22/china-superpower-two-paths-global-domination-cold-war/

習近平国家主席率いる中国は超大国としての野心を隠していない。ほんの数年前、アメリカの中国専門家の多くはまだ、中国が自由な国際秩序を支える脇役に徹する、もしくは西太平洋におけるアメリカの影響力に対して挑戦を控えるだろうという希望的観測を持っていた。当時の常識は、中国はアジア地域における役割を拡大させ、地域におけるアメリカの役割を縮小させることを目指すが、遠い将来については国際的な野心を持っているというものだった。しかし、現在は、中国はアメリカの世界の指導者としての役割に対して張り合うようになっている。これは間違いないところであり、その張り合う場面は至る所にある。

その一つが海軍力増強、建艦プログラムである。中国は2014年から2018年の間に、ドイツ、インド、スペイン、イギリス各海軍の艦艇数の総計を超える数の艦艇を就航させた。中国政府はハイテク産業を独占し酔うという意図を持っている。ハイテク産業は、将来の経済力、軍事力の配分を決定することになるだろう。中国沿岸部からの重要航路をコントロールする動き、中国から遠く離れた場所に軍事基地と物流拠点のチェインを構築する動きもある。アジア・太平洋地域やそれ以外の地域における経済面での影響力を経済面での強制力に変換するシステム的な努力も行われている。

特に、その野心を表向きには隠してきた国がそれを表向きにして隠さない状態になっているのは事実だ。習国家主席は2017年に中国は「新時代」に入った、「世界における中心に位置を占めねばならない」と発言した。その2年後、習主席は、アメリカとの関係悪化について「新しい長征(new Long March)」であると形容した。中国国内から発生した戦略的ショックでさえ、北京の地政学的野心の展示ケースとなった。習近平政権が、自らの権威主義によって悪化した新型コロナウイルス危機を、中国の影響力を誇示し、中国モデルを海外に売り込む好機に変えようとしたことを見ても明らかであろう。

不透明で権威主義的な政権の意図を正確に見抜くことは難しい。また、敵対的な意図を断定的に表明することは、運命論(fatalism)や自己実現的な予言(self-fulfilling prophecies)につながる危険性がある。安定的で建設的な米中関係が可能かどうかについては、私たち2人は異なる予断を抱いている。しかし、中国が実際に世界の主要国としての地位を確立しようとしているのか(あるいは必然的にそうしようとしているのか)、そしてその目標を達成するためにどのような行動を取り得るのかを問わないのは、故意に知らないふりをしているということになる。アメリカの中国戦略の立案者たちは、いかに本能的に融和的であろうと対立的であろうと、この問題に正面から向き合わなければならないのである。

もし、中国が真の超大国の地位(superpower status)を目指すのであれば、そこには2つの道がある。1つは、これまでアメリカの戦略家たちがこれまで認めてきた中国の世界的野心の範囲を改めて強調する道である。この道は中国がお膝元と言うべき西太平洋をめぐるものだ。この道は、中国がグローバル・パワーへの跳躍台として、地域内での優位性を築くことに重点を置いており、アメリカ自身がかつて通った道とよく似ている。第2の道は、戦略や地政学の歴史的法則に反しているように見えるため、非常に異なっている。このアプローチは、アメリカが西太平洋で揺るぎない強固な地位を築くことよりも、中国の経済的、外交的、政治的影響力を世界的規模で発展させることによって、アメリカの同盟システムと同地域での戦力プレゼンスを減少させることに重点を置いている。

中国がどの道を歩むべきかという問題は、北京の戦略家たちにとって差し迫った問題であり、彼らは今後数年間、何に投資し、どんな戦いを避けるべきかという厳しい決断に迫られることになる。そして、中国がどのような道を歩むかという問題は、アメリカの戦略家たち、ひいては世界の他の国々にとっても深い意味を持つ。

中国が世界的な影響力を確立するためには、まず地域的な覇権を確立することが必要であるというのが、確立されつつある常識である。これは、冷戦時代のソヴィエト連邦のように、近隣諸国を物理的に占領することを意味しない(台湾を例外とする可能性はある)。しかし、それは、北京が西太平洋の第一列島線(first island chain、日本から台湾、フィリピンまで)とそれ以遠の地域で支配的なプレーヤーになること、近隣諸国の安全保障と経済の選択に対して有効な拒否権を獲得すること、この地域におけるアメリカの同盟を破棄させ、アメリカ軍を中国の海岸からどんどん遠ざけていくこと、を意味している。もしこれができなければ、中国がグローバルに力を発揮するための安全な地域的基盤を持つことはできない。中国は、脆弱な海洋周辺部における持続的な安全保障上の課題に直面し、そのエネルギーと軍事資産を攻撃ではなく防御に集中させなければならなくなるだろう。そして、米国が第一列島線に沿った強力な軍事的立場を維持する限り、ヴェトナム、台湾、日本など地域の大国は、中国の台頭を受け入れるのではなく、それに抵抗しようとするだろう。つまり、アメリカの同盟諸国や安全保障パートナー、軍事基地、その他の敵対的諸大国の前線基地に囲まれたままでは、中国は真のグローバル・パワーにはなり得ないということになる。

このシナリオがアメリカ人にとって説得力を持つ理由の1つは、アメリカが国際舞台で優位に立つための道筋に酷似しているからである。アメリカ建国初期から、アメリカ政府高官たちは、北アメリカおよび西半球で戦略的に敵がいない状態を確立するまでは、ワシントンが世界情勢の中で主要な役割を果たすことは考えにくいと理解していた。これは、1820年代のモンロー・ドクトリン(Monroe Doctrine)から1898年のカリブ海戦争でのスペイン勢力打倒まで、数十年にわたる半球からのヨーロッパのライヴァルたちを追い出す作戦の多くの構成要素をつなぐ戦略論理(strategic logic)であった。1904年のルーズヴェルトの系譜(Roosevelt Corollary)から、1980年代のドナルド・レーガン政権によるキューバやソ連と同盟関係にあったサンディニスタ・ニカラグアに対する公然の秘密の戦争まで、ヨーロッパ人たちがこの地域に再び足場を築くのを防ぐための100年にわたる努力(その一部は道徳的に曖昧で、深い問題さえある)を前述の考え方が支えたのである。

冷戦時代、アメリカのグローバル・パワーが地域の支配的地位と密接に関係していることは超党派の委員会で明確に述べられている。「アメリカが国際舞台で許容範囲のパワーバランスを管理可能なコストで維持できるかどうかは、陸上国境に固有の安全保障にかかっている」と委員会は述べている。もしアメリカが「国境付近の安全保障上の脅威から防衛」しなければならないとしたら、「恒常的に増大する防衛負担を負わなければならず、その結果、世界の他の場所での重要な公約を削減しなければならなくなる」だろうということだった。

中国がこの論理を身につけたことは確かで、中国の政策の多くが地域の優位性を確立するために計算されているように見える。北京は、アメリカの艦船や飛行機を自国から遠ざけ、近隣諸国とより自由に付き合えるようにするために、高度な防空能力、エンジン音の静かな潜水艦、対艦ミサイル、その他の対接近・領域拒否能力(anti-access/area-denial capabilities)に多額の投資を行ってきた。北京は、南シナ海と東シナ海を中国の湖にすることに重点を置いている。これは、米国がライヴァル国をカリブ海から追い出そうと決意したのと同じ理由であると推測される。

同様に、中国は、アメリカの軍事パートナーや条約上の同盟諸国との関係を弱めるために、誘惑、強制、政治的操作の混合物を使用してきた。中国当局は、「アジア人のためのアジア(Asia for Asians)」という考えを推進してきた。これは、アジア地域はアメリカの干渉を受けずに地域の諸問題を解決すべきだという考えを暗に示している。習近平が「大国間関係の新モデル(New Model of Major-Country Relations)」構想を発表した際、その核心は、米中両国が太平洋の両側に留まれば、仲良くやっていけるというものであった。

最後に、中国人民解放軍は台湾を征服するために必要な軍事力を構築していることを公言しているが、これは一夜にして地域のパワーバランスを崩し、西太平洋におけるアメリカの他のコミットメントに疑問を投げかけることになる。台湾海峡での米中戦争は、今すぐにも、あるいは数年以内に起こる可能性があるとするアナリストたちもいる。これらの政策は全て、アメリカが中国に戦略的に接近することに対する基本的な不安感を示している。そしてもちろん、これらはすべて、地域支配という狭い目標に合致するものである。しかし、これらの政策は、もし北京がアメリカのグローバル・パワーへの道を模倣しようとするならば、予想されることと一致するものでもある。

しかし、もし中国が世界の超大国を目指すのであれば、本当にこのような道を歩むのだろうかと疑問を持つ理由が存在する。国際問題においては、敵対国が私たちと同じように世界を見る、あるいは私たち自身の経験を再現しようとすると仮定する「ミラー・イメイジング(mirror-imaging)」には常に大きな危険が潜んでいる。それは、中国がその周辺地域を支配することは、アメリカにとってよりもはるかに困難であることは、今や北京にとって明白だからだ。

アメリカは、自国の半球(訳者註:西半球)で日本に対峙したことがない。中国から見ると、日本は地域の重要な国であり、更に大きな国(訳者註:中国よりも大きなアメリカ)と同盟関係にある。中国にとって第一列島線を超えるということは日本を超えるということだ。また、インド、ヴェトナム、インドネシアなど、中国の領土や海域に立ちはだかる多くのライヴァルたちに対処する必要もアメリカにはなかった。また、アメリカを単に厄介者、あるいはより差し迫った脅威に対する支援を確保するためになだめるべきライヴァルと見なすのではなく、アメリカを最大の挑戦者とみなす超大国と向き合う必要もない。中国から見ればこれらは全て逆になる。地域支配を目指すと、アメリカが得意とするハイエンドなハイテク軍事競争に戦略的競争を集中させ、中国の近隣諸国を更にアメリカに引き込むことになりかねない。実際、これまでのところ、北京の誘惑と強制の努力は、フィリピンとタイの地政学的志向を変えることに部分的に成功しているが、オーストラリアと日本への対応では裏目に出てしまっている。つまり、こうしたことから、北京が地域的なパワーアップを成功させることができるかどうかは明らかではなく、中国のグローバル・リーダーシップへの第二の道があるかどうかという疑問までが生じてくる。

もし、中国が地域覇権に焦点を当てた後に世界覇権を検討するのではなく、逆に物事に取り組むとしたらどうだろうか? この第二の道は、中国を東よりも西に導き、ユーラシア大陸とインド洋に中国主導の新たな安全保障・経済秩序を構築するとともに、国際機関における中国の中心的地位を確立するものである。このアプローチでは、中国は、少なくとも当面の間、アメリカをアジアから追い出すことも、アメリカ海軍を西太平洋の第一列島線の外に押し出すこともできないことを不承不承のうちに受け入れることになる。その代わりに、世界の経済ルール、技術標準、政治制度を自国に有利なように、また自国のイメージ通りに形成することにますます重点を置くようになるであろう。

この代替アプローチの主要な前提は、グローバルなリーダーシップを確立するには、伝統的な軍事力よりも経済力と技術力が基本的に重要であり、東アジアに物理的な勢力圏を持つことは、そうしたリーダーシップを維持するための必要条件ではない、というものになるだろう。この論理に従えば、中国は、西太平洋における軍事バランスを維持し、対接近・領域拒否の原理によって、自国の周辺地域、特に領有権主張に注意を払い、戦力の相関関係をゆっくりと自国に有利な方向に変化させながら、他の形態のパワーによって世界支配を追求すればよいということになる。

 

 

 

ここで北京は、アメリカのアナロジーの異なるヴァリエーションを考えるだろう。第二次世界大戦後に形成され、冷戦終結後に強化された国際秩序における米国のリーダーシップは、少なく とも3つの重要な要因に依存していた。第一は、経済力を政治的影響力に変換する能力だ。第二は、世界に対する技術革新の優位性を維持することだ。そして第三は、主要な国際機関を形成し、世界の主要な行動規範を設定する能力である。中国は、この第二の道を歩むにあたり、これらの要素を再現することを目指すことになるだろう。

これは、ユーラシアとアフリカにまたがる「一帯一路構想(Belt Road Initiative)」の野心的な拡大から始まるだろう。物理的なインフラの建設と資金調達により、中国は複数の大陸にまたがる貿易・経済リンクの網の中心に位置することになる。また、この取り組みのデジタル要素である「デジタル・シルクロード(Digital Silk Road)」は、中国の基盤技術を展開し、国際機関における標準設定を推進し、中国企業の長期的な商業的利点を確保することで、「サイバー超大国(cyber-superpower)」になるという2017年の中国共産党大会で中国が表明した目標を前進させるものだ。中国は、新型コロナウイルスからの回復で先行したことを利用して、競合他社が一時的に低迷している主要産業で更なる市場シェアを獲得し、この課題を推進しているとの見方もある。積極的な対外経済政策と技術革新に向けた国家主導の大規模な国内投資とを組み合わせることで、中国は人工知能から量子コンピューター、バイオテクノロジーに至る基盤技術のリーディングプレーヤーとして台頭してくる可能性がある。

中国はこうした取り組みを通じて経済力を高めると同時に、その力を地政学的な影響力に転換させる能力を磨いていくだろう。カーネギー国際平和基金研究担当副会長エヴァン・ファイゲンバウムは、中国が「政治的・経済的選好を固定化」するために利用できるレヴァレッジには、潜在的・受動的なものから積極的・強制的なものまで、複数のタイプがあると指摘する。ファイゲンバウムは、北京が、韓国、モンゴル、ノルウェーなど多様な国々との間で、これらの手段をフルに活用する「ミックス・アンド・マッチ(mix and match)」戦略を磨き続けるだろうと分析している。最終的に中国は、より体系的なエスカレーションのハシゴを採用し、好ましい結果をもたらすようになるかもしれない。

アメリカが戦後の重要な制度を自らの政治的イメージで構築したように、この第二の道は中国を国際秩序の中心的な政治的規範の再構築に向かわせるだろう。多くの研究が、北京が国連システム全体で、中国の狭い範囲の利益を守るため(台湾の国連での地位の否定、中国への批判の阻止)と、国家主権が人権に勝るという価値観を強化するために、全面的に圧力をかけていることを記録してきた。また、オーストラリア、ハンガリー、ザンビアなどの民主主義国家において、中国が政治的言論に影響を与えるために行っている介入的な取り組みを「シャープ・パワー(sharp power)」という言葉で表現することが一般的になっている。また、北京は急速に外交力を高め、世界各地の外交官ポスト数でアメリカを抜き、多国間金融機関、国際気候変動・貿易機関、その他の重要なルール設定機関においてその影響力を持続的に拡大させている。ブルッキングス研究所のタルン・チャブラは、北京のイデオロギーに対するアプローチは柔軟かもしれないが、その累積的効果は権威主義の余地を拡大し、透明性と民主的説明責任の余地を狭めるものだと的確に指摘している。

戦後およびポスト冷戦時代における米国のリーダーシップのもう1つの重要な原動力は、もちろん、強固で弾力的な同盟システムであった。これは、北京にとって資産として利用しにくい。それにもかかわらず、中国の指導者たちは、ジブチを皮切りに、中国の国外に潜在的な軍事基地ネットワークを構築し始めている。また、中国は自国の同盟の欠陥を補うために、西側の同盟構造を弱め、分裂させる戦略に着手し、東欧諸国を育成し、アメリカとアジアの同盟国の間の絆を緩めさせようとしている。

これらの努力は全て、アメリカが秩序の保証人としての伝統的役割から一歩後退した時期に行われたものである。そして、これこそが最も重要な要素なのかもしれない。

ドナルド・トランプ米大統領は、アメリカがアジアの実際の大国としての役割を維持するための伝統的な軍事・安全保障投資を重視し続けている。しかし、中国がもたらすグローバルな課題に、少なくとも首尾一貫した方法で対応することについては、そこまで関心を示していない。新型コロナウイルスに対するアメリカの対応は、悲しいことに、その象徴的なものとなってしまった。ウイルスが中国に由来することを世界に認識させるための不器用な努力と無能な国内対応とが組み合わさって、本来であればアメリカの優位性を示す最高の広告塔であった原則的国際リーダーシップが、相対的に欠如している。かつては、アメリカが経済刺激策と世界的な公衆衛生対策を調整する国際的な取り組みの先頭に立つことを期待できたかもしれない。確かに、連邦政府が国家的な対応策を練り、正確な情報を発信する上でこれほどまでに失敗するとは思っていなかっただろう。大国間競争が叫ばれる中、中国がアメリカの空白を徐々に埋め、他の国々は有力な代替手段がない中で、中国の力が増大する世界に順応していくというシナリオは、もっともな話である。

もちろん、世界的に卓越した中国が、海洋周辺部の支配大国(dominant power on its maritime periphery)であるアメリカを永久に受け入れるとは思えない。しかし、グローバル・リーダーシップを目指すことは、単に西太平洋におけるアメリカの立場を出し抜くことであり、政治的・軍事的圧力や対立ではなく、経済的・外交的影響力の蓄積によって、アメリカの立場を維持できなくすることであるとも考えられる。

確かに、この方法にも問題がある。中国はアメリカよりもグローバルな公共財を提供する能力が低いかもしれない。その理由は、中国の国力が低いことと、権威主義的な政治システムのために、アメリカの優位性を際立たせてきた比較的賢明な、相互にとって利益を出す(positive-sum)のリーダーシップを発揮することが困難であることの2つがあるためだ。新型コロナウイルスの危機は、この点で双方向に作用している。アメリカの緩慢な対応は、アメリカの能力と信頼性に対する世界の懸念を増幅させたことは確かであるが、同時に、世界的な感染拡大を助長するような初期の発生の隠蔽、アメリカ発のウイルスに関する不合理な話のでっち上げ、深刻な問題を抱える国への欠陥検査の販売など、中国の無責任で攻撃的な振る舞いを示すものでもある。ドイツなどヨーロッパの主要国の政府は、北京の略奪的な貿易慣行、主要産業の支配努力、人権慣行への批判を封じ込め、民主政治体制世界の言論の自由を抑圧しようとする動きにすでに嫌気がさしている。新型コロナウイルス問題は、中国モデルの暗黒面を示すことで、北京のグローバルな野心に対する抵抗力を更に高めることになるかもしれない。

最後に、中国の指導力にはイデオロギーの壁が存在する。中国の台頭をめぐる緊張は、単に経済的・地政学的な利害の衝突から生じるものではない。民主政治体制国家の諸政府と強力な権威主義政権の関係をしばしば苦しめる、より深く、より本質的な不信感をも反映している。北京の政治的価値と世界の民主政治体制国家の価値との間にあるこの溝は、ヨーロッパをはじめとする多くの国々が、世界情勢における中国の役割の増大に対して不安を持ち始めていることを意味する。しかし、このことは、北京がまだこの道を歩もうとしないことを意味しない。この道は、アメリカが民主国家群との関係を悪化させ、威信を低下させるにつれて、より広く、より魅力的になっていくように思われる。

「二つの道」を分析する場合、明白な疑問に直面することになる。もし、その両方であったら、あるいはどちらでもなかったらどうなるのだろうか? 実際、中国の戦略は、現在、両方のアプローチの要素を兼ね備えているように見える。これまでのところ、北京は西太平洋でアメリカと対峙するための手段を蓄積し、地政学的影響力を求めると同時に、より広範な世界的挑戦に向けて自らを位置付けている。また、北京の経済や政治体制が衰えたり、競合相手が効果的に対応したりすれば、最終的にどちらの道もうまく行かない可能性も十分にある。

しかし、いずれにせよ、北京の選択肢を整理することは、3つの理由から有益な作業ということになる。

第一に、今後数年間に中国が直面する戦略的選択と取引(trade-offs、トレードオフ)を明確にすることができる。中国の資源は膨大に見えることが多いが、それでも有限である。空母キラー・ミサイルやエンジン音の静かな攻撃型潜水艦に費やされる1ドルは、パキスタンやヨーロッパのインフラ・プロジェクトに使うことはできない。また、中国のトップリーダーの関心と政治資金も限られている。強大なライヴァルに直面し、なおかつ困難な内的問題に直面している新興国が、資源に過剰な負担をかけず、努力の効果を薄めずに地政学的・地質経済的な課題に取り組めるのは限られた数だけである。したがって、どちらの覇権への道がより有望であるかを見極めることは、中国の戦略家たちにとって一貫した関心事であり、アメリカの対応を決定しなければならないアメリカの当局者にとっても同様であろう。

第二に、2つの道に関する分析は、アメリカが直面している戦略的課題を明確にするのに役立つ。アメリカの有力な国防アナリストの中には、北京がその海洋周辺部での軍事競争に勝たなければ、グローバルにアメリカに対抗することはできないと主張する人たちがいる。この分析は、台湾海峡やその他の地域のホットスポットにおいて、既に傾き始めているパワーバランスを補強するために必要な軍事投資と技術的・運用的革新をアメリカが行うことを重要視しているものである。

これらの投資と技術革新は確かに重要である。しかし、私たちの分析は、アメリカが西太平洋で強力な軍事的地位を維持することができたとしても、中国との競争に敗れる可能性を提起している。5G技術やインフラ投資の代替ソースの提供、グローバルな問題への取り組みにおける有能なリーダーシップの発揮など、よりソフトな競争手段も、中国の挑戦に対処する上でハードな手段と同様に重要であることを思い起こさせる。また、アメリカの同盟やパートナーシップを、中国の影響力買収や情報操作による内部崩壊から守ることは、外部からの軍事的圧力から守ることと同じくらい重要であることを示唆している。また、アメリカ軍に多額の投資をする一方で、外交や対外援助は手薄にし、アメリカのグローバルな関係ネットワークを空洞化させ、国際機関を弱めたり撤退させたりすることは、アメリカが海外で存在するためのハードパワーとなる軍事力を強化しないのと同じくらい危険であることを示す警告を発しているのである。

最後に、中国の覇権への2つの道を考えることは、米中間の競争が冷戦と似ているようでいて異なることを明確にする。当時も現在と同様、米ソ両国が最も直接的に対峙する軍事的な中心舞台が存在した。中央ヨーロッパである。冷戦期には、この戦域からアメリカを排除することの困難さと危険性から、ソ連は側面攻撃(flanking maneuver)を展開した。モスクワは、経済援助、破壊活動、革命運動とのイデオロギー的連帯などを駆使して途上国での優位を探り、暗黙の軍事圧力と政治的干渉によってヨーロッパとそれ以外の地域でのアメリカの同盟関係を空洞化させようとしたのである。

しかし、ソヴィエト連邦は世界経済のリーダーシップの重大なライヴァルでは決してなく、北京ができるかもしれないようなグローバルな規範や制度を形成する能力も、洗練された能力も持ってはいなかった。ソ連のパワーは結局のところ極めて狭い範囲にとどまっており、モスクワの持つ戦略的選択肢は限られていた。アメリカとソ連は、善と悪、勝利と敗北、生存と崩壊という二元論的な言葉で対立を捉えていたが、今日、ますます激しくなる競争と依然として重要な相互依存を組み合わせた関係において、より微妙なニュアンスを持つようになっている。

アメリカは、現在のような自虐的な軌道をたどらない限り、その競争において十二分に力を発揮することができる。しかし、中国が優位に立つためのもっともらしい2つの道筋を持っているという事実は、この競争が、アメリカの最後の大国間競争時代よりも複雑で、より困難なものになる可能性があることを意味している。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 クアッドという言葉が日本国内でも多く報道されるようになっている。このクアッド(Quad)は、正式名称は日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)であり、日本、アメリカ、インド、オーストラリアが参加している枠組みである。これら4カ国で地域における様々な問題解決に協力していこうという建前になっている。実際には対中封じ込めの枠組ということになる。このクアッドが対象とする地域はインド洋、東南アジア、太平洋となっている。中国が進める「一帯一路計画(One Belt, On Road)」に対抗する形になっているのは地図を見れば明らかだ。
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 地政学で言えばランドパワーとシーパワーの戦いということになるが、ユーラシア大陸という最重要の地域(ハートランド)を中国が獲得しつつある中で、アメリカ、オーストラリア、日本がそれに対抗するためにインドを引き込んで中国と対峙するという形になる。しかし、インドはしたたかだ。一帯一路計画にも参加している。どちらか一方に賭けるということではなく、両方で良い関係を保つということを行っている。ランドパワーとシーパワーのはざまにいる国としては極めて合理的な行動を取っている。

 クアッドによって、日本とオーストラリアはこれまで「隣接地域」と考えてこなかった地域で活動を行う、より具体的に言えば中国に対抗するということを行わねばならなくなった。これはアメリカの国力が減退し、一国のみで世界管理を行うことができなくなったことによるものだ。そして、アメリカが超大国として世界を管理し、繁栄を享受するという第二次世界大戦後の世界構造が大きく変化する前触れであることを示しいている。中国の台頭はアメリカにとって大きな懸念材料であるが、既にここまで大きくなってしまった存在をどのように扱うかについては、協調していくべきという考えと叩きのめすべきという考えが分立している。

 日本はインドをお手本にすべきだ。どちらともうまく付き合っていくということだ。日本もインドと同様に、中国とアメリカのはざまにいる存在だ。現状ではアメリカの意向に逆らうことはできないが、それでも裏のチャンネルなりあらゆる手段を講じて、中国とは意思疎通を図り、正面衝突するというような馬鹿げたことにならないようにしておくことが重要だ。

(貼り付けはじめ)

クアッドは西を目指す(The Quad Looks West

-東京で開催された首脳会議で、クアッドはインド洋地域を含むことで戦略的な焦点を当てる。

マイケル・クーグルマン筆

2022年5月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/05/26/quad-tokyo-south-asia-indian-ocean-region/

『フォーリン・ポリシー』誌の「南アジアブリーフ」にようこそ。

今週のハイライト:日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)イニシアティヴがインド洋地域に範囲を拡大、パキスタンのイムラン・カーン前首相がイスラマバードでデモ行進、スリランカの首相が緊縮財政を公約。

●クアッドはインド洋に焦点を拡大

「日米豪印戦略対話(Quad、クアッド)」に参加している国々(オーストラリア、インド、日本、アメリカ)の首脳たちが今週、東京で4回目の会合を開いた。共同声明では、新型コロナウイルスワクチン計画からサイバーセキュリティーの協力に至るまで、継続的な協力を約束した。このグループは近年、大きな勢いを見せているが、これはメンバー国が中国との関係をここ数十年で最低のレベルにまで悪化させていることが理由の一つである。
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自然災害から漁業の違法操業まで、海洋をめぐる諸問題を監視するプログラムには、インド洋、東南アジア、太平洋諸島の情報・資源共有センターが含まれる。これは、インド洋地域において中国の存在感を高めていることに懸念を抱いているインドにとって戦略的関心の高い地域に、クワッドの関心が拡大していることを示している。また、4つのメンバー国全てにとっての最重要分野において、クワッドがより多くの活動を行おうとしていることも示している。

共同声明ではインドにとって良い兆しとなる内容である新しいイニシアティヴについて言及されている。自然災害から漁業の違法操業まで海洋問題を監視するプログラムに言及されている。更に、このプログラムにはインド洋地域のみならず、東南アジアと太平洋島しょ地域における情報・資源共有センターも含まれる。これは、インド洋地域における中国の存在感の高まりに懸念を抱いているインドにとって、戦略的関心の高い地域にクアッドの地理的焦点が広がっていることを示している。また、4つのメンバー国全てにとって最も重要な分野で、クアッドがより多くの活動を行おうとしていることも示している。

クアッドは、2004年にインド洋で発生した地震と津波で大きな被害を受けたアジア諸国に人道支援を行うために発足した。しかし、東南アジア諸国連合(ASEAN)への支持を確認し、東シナ海と南シナ海における海洋問題への懸念を表明し、太平洋諸島への支援を約束するなど、最近のグループの戦略的焦点の多くは東アジアと東南アジアに当てられている。クアッドの代表的なプロジェクトであるワクチン・パートナーシップは、特に東南アジアと太平洋諸島を対象としている。しかし、新しい海洋イニシアティヴは、インド太平洋を地理的に一つの地域として定義し、それぞれの部分に同等の重点を置いている。

クアッド加盟諸国は、中国が東南アジア諸国との商業的関係を深め、南シナ海の領有権争いを軍事化することを懸念している。これは当然のことだ。海洋監視イニシアティヴは、インド洋地域における北京の存在感の増大に対する懸念も反映している。中国は、バングラデシュ、モルディヴ、スリランカでインフラ投資を活発化させている。インド洋のあちこちに中国の漁船が現れ、インドは昨年、領有するアンダマン諸島の近くで中国の調査船を発見したと発表した。

また、中国は軍事的な存在感も拡大している。東アフリカのジブチに軍事基地を設置した。インド海軍によれば、インド洋北部では常時6~8隻の中国海軍の軍艦が活動しているということだ。南アジアの安全保障研究者であるサミア・ラルワニは、「10 年以内に、中国はマラッカ海峡(Malacca Strait)からバブ・エル・マンデブ海峡(Bab-el-Mandeb strait)に広がる重要な空間における海軍の支配勢力として自らを位置づけることができるだろう」と最近書いている。
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これまでクアッド加盟国の一部は、インド洋地域を戦略的に重要視してこなかった。例えば、オーストラリアの戦略文書では、オーストラリアの隣接地域(immediate region)はインド洋の北東部までと定義されている。アメリカは正式なインド洋戦略を持っていない。しかし、この点については変化の兆しがある。アメリカ政府高官は最近、インド太平洋全体に関する議論の中で、インド洋地域を強調するようになっている。

クアッドの新しい海洋イニシアティヴは、クアッドの基本的な目標である安定の促進と公共財の提供の2つが、インド洋地域とそれにまたがる国々により深く浸透していく可能性を示している。

●私たちがフォローしている事柄

パキスタンで更なる政治ドラマが発生。経済的な問題が山積する中、パキスタンの政治的な温度は急上昇している。先月の不信任投票で失脚したイムラン・カーン前首相は、5月25日にイスラマバードへのデモ行進を行い、現政権が早期選挙に同意するまでそこに留まると発表していた。今週末、警察は複数の野党指導者たちの自宅を家宅捜索し、別の指導者を不明朗な容疑で逮捕した。火曜日には、政府はカーンのデモ行進を進めることはできないと宣言した。

カーンとパキスタン・テヘリク・エ・インサフ(PTI)党内の支持者たちは、水曜日にイスラマバードへ向かった。PTI支持者の一部は警察から催涙ガスを浴びせられ、2000人近くが逮捕された。また、PTI支持者による暴力行為も報告された。しかし、木曜日、カーンは突然、方針を転換した。イスラマバードを離れ、政府が早期投票に応じない場合は6日後に戻ると発表した。

この変化は、更なる暴力を避けるためかもしれないが、早期選挙につながるような交渉が政府との間で行われていることも示唆している。政府は早期投票実施の決定を既に行っていることを示唆している可能性がある。メディアの報道と複数の与党指導者によれば、ここ数日、選挙の可能性のある日程について話し合いが持たれている。そして木曜日、国民議会は、PTI支持者の多くを占める在外パキスタン人による投票の選択肢を制限する新法を可決した。

アフガニスタンのジャーナリストたちは抵抗している。タリバンは最近、女性ニュースキャスター全員が放送中に顔を覆わなければならないと発表し、女性の自由に対する他の強硬な制限に続いて、女性の自由を制限している。一部の男性ジャーナリストは今、テレビ出演の際にも顔面マスクを着用することで彼らとの連帯を表明することを選択し、タリバンがその命令を取り消すまでそうするつもりだと述べている。ハミド・カルザイ元大統領を含む他の著名なアフガニスタン人たちは、女性司会者たちにこの命令に逆らうよう呼びかけている。

昨年8月にタリバンが政権を掌握して以降、アフガニスタンのジャーナリストと女性たちは苦しんでいる。アフガニスタンの記者たちはタリバンに殴打されたり脅迫を受けたりしており、その多くが国外に逃亡している。タリバンによる国内のジャーナリストたちを弾圧をしているのは、タリバンが外国人ジャーナリストたちをより自由に扱ってきたのとは対照的だ。その結果として、タリバン政権のソフトな側面を世界に映し出すことになったようだ。例えば、先週、CNNのクリスティアン・アマンプールは、タリバン幹部のシラジュディン・ハッカニにインタヴューを行った。

スリランカ首相が予算削減を公約した。ロイター通信によると、スリランカの新らしい首相ラニル・ウィクレミンゲは、6週間後に発表予定の暫定予算で、大幅な削減を約束した。首相は、新たな救済措置のための資金をより多く確保するため、インフラプロジェクトの削減を含む削減を行うと述べた。スリランカは一周して元の場所に戻った形だ。現在の経済危機の根源は、2009年の内戦終結時にインフラプロジェクトを優先し、その資金調達のために巨額の融資を受けたことに遡る。

また、スリランカ政府は今週、巨額の債務を再構築するために国際的なアドヴァイザーを採用したことを発表した。スリランカが現在、国際通貨基金(IMF)と交渉している救済策を受けるためには、緊縮財政と債務再編の両方の動きが必要である。

火曜日、タリバンは、アフガニスタンのヘラート、カンダハル、カブールの各都市の空港の地上業務を管理するため、アラブ首長国連邦に拠点を置く航空会社GAACソリューションズと合意に達した。タリバンが以前、カタールやトルコと空港取引をめぐって交渉していたことを考えると、この動きはやや意外だ。しかし、昨年のタリバンによる制圧以来、GAACはカブール空港の地上業務を管理してきた。

タリバンがGAACとの取り決めを延長した理由の一つは、同社がアフガニスタンの空港でいかなる警備員も活動させないことに同意したからだろう。タリバンは長い間、アフガニスタンに外国の治安部隊は存在し得ないと主張してきた。

この新しい合意はタリバンにとって最良のシナリオであり、空港の運営能力を強化し、タリバン支配以降頻発している国際的な戦闘をより多く行う機会を増やすことができる。この取引はタリバンの広報活動にとっても好都合である。国際社会は、逆行する社会政策にもかかわらず、タリバン政権とビジネスをする意思があることを示している。

タリバン政権は今後も外国企業からの援助を求めるだろうが、これは新しい戦略ではない。1990年代、タリバンはアメリカのエネルギー企業ユノカルと数年にわたり、パイプラインプロジェクトの可能性について交渉していた。ユノカル社は、タリバンとアルカイダとの結びつきに対する米国の懸念が強まったため撤退した。

●各地域の声

建築家のアダム・ジラー・モーシェッドは、『デイリー・スター』紙上で、ダッカの悪名高い交通問題の解決には、信号機の改善といった技術的な解決策よりもはるかに多くのことが必要だと論じている。バングラデシュの首都ダッカの交通渋滞は、「社会文化的な要因、合理的な土地利用の欠如、誤った都市統治の複雑な組み合わせの結果である」と、彼は書いている。

環境保護運動活動家ネハ・パンチャミアは『プリント』誌で、インドでは適切な場所を見つけることは難しいが、絶滅危惧種を野生に戻すことが重要だと書いている。彼女は「飼育下で一生を過ごし、休息もなく既に崩壊しつつあるシステムに負担をかけるよりも、生存のためのセカンドチャンスを得る方がより良い」と書いている。

『パキスタン・トゥディ』紙コラムニストであるナジム・ウディンは、イムラン・カーン前首相を支持することはパキスタンの若者たちにとって良い行動ではないと警告している。ウディンは「若者たちは、自分たちを操ることができる人物の前に忠誠を誓うのではなく、合理性、証拠、現実に従うべき時だ」と主張した。

※マイケル・クーグルマン:『フォーリン・ポリシー』誌週刊「南アジアブリーフ」記者兼ワシントンにあるウィルソン・センターのアジア・プログラム副部長兼南アジア担当上級研究員。ツイッターアカウントは@michaelkugelman

(貼り付け終わり)

(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今年に入り、ミャンマーで国軍がクーデターを起こし、軍事政権の力が強化された。一時は民主化が進むと思われていたが、これではまた昔に逆戻りではないかという失望感が広がった。「せっかく民主化ができたはずなのに」というところだ。

 民主化とは難しいプロセスだ。民主化(democratization)にとって恐らく一番難しい作業は、民主的な制度の確立・強化(consolidation)だ。人々が選挙などの民主的な制度だけが正当性のある制度であると認めること(only game in town)ということにならねばならない。ここがなかなか難しい。特に外国からの介入で行われた民主化は人々の支持を集めにくいために難しくなる。民主化については、拙著『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造』を読んでいただきたい。

 ミャンマーの民主化にとっての最大最高の象徴はアウンサンスーチー女史だ。アウンサンスーチーがまとうイメージは最高のものであり、ノーベル平和賞まで受賞した。更には、2011年にはヒラリー・クリントン国務長官がミャンマーを訪問し、アウンサンスーチーと会談を持ち、2012年にはバラク・オバマ大統領がミャンマーを訪問し、同じくアウンサンスーチーと会談を持った。この頃が彼女にとっての最高の時期であっただろう。 

 その後は、ミャンマーの少数民族ロヒンギャ族に対する弾圧で、ミャンマー国軍を擁護したことで、アウンサンスーチーの評価はがた落ちとなった。彼女また、薄汚れた政治家でしかなかったことが明らかにされた。それと共に、アウンサンスーチーは忘れられた存在となってしまった。

 今年初めのミャンマー国軍によるクーデターは米中の影響権争いの一環であり、ミャンマー国軍は中国側についたということになるだろう。以下に最近の報道記事を貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

●「中国、先月ミャンマーに特使派遣 軍トップらと会談」

202191 14:15 

https://www.afpbb.com/articles/-/3364250

91 AFP】中国政府は831日、孫国祥(Sun Guoxiang)アジア問題担当特使が1週間の日程でミャンマーを訪問していたと発表した。同氏の訪問はこれまで公表されておらず、訪問中には軍事政権トップのミン・アウン・フライン(Min Aung Hlaing)国軍総司令官ら幹部たちと協議を行った。

 ミャンマーは今年2月、国軍がクーデターでアウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)国家顧問を拘束し、同氏が率いる国民民主連盟(NLD)から政権を奪取して以来、武力行使による反体制派弾圧が行われるなど政治的混乱に陥っている。

 弾圧を阻止するための国際社会の取り組みは実を結んでいない。欧州連合(EU)は、ミャンマー軍部と同盟関係にあるロシアと中国が、国連安全保障理事会(UN Security Council)でのミャンマーに対する武器禁輸決議の可決を阻止していると非難している。

 在ミャンマー中国大使館の発表によると、孫氏は先月21日から28日までミャンマーを訪問。ミン・アウン・フライン国軍総司令官と会談し、ミャンマーの政治情勢について「意見交換した」。

 孫氏は以前、ミャンマー軍と多数の民族集団間で行われた和平交渉の調整役となった経験がある。中国は、一部の民族集団と同盟関係を築いているとアナリストは指摘している。

 中国は発表で、「社会的安定を回復し、早期に民主的変革を再開しようとするミャンマーの取り組みを支持する」としている。ただし、追放後も自らの政権の正当性を主張するNLDの元閣僚らとの会談については一切触れなかった。

 ミャンマーに多大な影響力を持つ中国は、軍部の行動をクーデターとみなしていない。また、ミャンマーは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路(Belt and Road)」の重要な構成国の一つとなっている。

 中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は昨年ミャンマーを訪問した際、「ミャンマーの国情に合った」発展の道を歩めるよう支援すると約束した。

 中国国営メディアは先月31日、中国南西部からミャンマー経由でインド洋に至る新たな海運・道路・鉄道ルートの貨物の試験輸送が成功したと報じた。(c)AFP

(貼り付け終わり)

 ミャンマーは一帯一路計画でインド洋に向かうために重要な位置にある。一帯一路計画については、米中関係の最前線としての分析は、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で説明している。是非読んでいただきたい。

 ミャンマーのクーデターから分かることは、アメリカの影響圏の衰退と中国の影響圏の拡大、一帯一路計画の足固めが進んでいるということだ。これからは、アメリカの衰退ということを頭に入れて物事を見るようにしなければならない。

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誰がミャンマーを失ったのか?(Who Lost Myanmar?

-政権発足後初めての大きな危機に直面し、バイデン政権は10年前とほぼ同じメンバーが集まってアメリカ外交の失敗に対峙しなければならない。

マイケル・ハーシュ筆

2021年2月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/02/02/myanmar-coup-us-failure-biden/

ヒラリー・クリントンにとって、2011年のアウンサンスーチーとの会談は国務長官としての職業上の大勝利と個人としての喜びの最高潮の瞬間だった。

当時、米国務長官だったヒラリー・クリントンはミャンマーの首都ヤンゴンを訪問し、ヒラリー自身が「鼓舞してくれる存在」と呼んだ女性の隣に座った。この訪問は、長く孤立状態にあったミャンマーをはじめとする中国の周辺諸国と中国との間を分裂させようとするアメリカのより広範な戦略の一部であった。この戦略はオバマ政権のアジアへの「ピヴォット」の一環であった。国務長官在任中、ヒラリー・クリントンは厳しい調子の演説や「ソフト」な外交以上の成果を上げられなかったが、ミャンマーとの関係改善は珍しく外交上の勝利となった。それから1年後、バラク・オバマは現職のアメリカ大統領として初めてミャンマーを訪問した。その表向きの目的は民主政治を促進することであったが、実際には、ミャンマーをアメリカの影響圏(sphere of influence)に置くというものだった。

10年後、この戦略は消え去った。ノーベル平和賞を受賞した民主活動家アウンサンスーチーはヒラリーを迎え、その後は国家の運営にも参画したが、現在は囚われの身に再び戻ってしまった。それは月曜日にミャンマーの軍部が再びクーデターを起こしたからだ。ミャンマーでは民主政治体制が確立していない。外交面でも進捗はほとんど見られない。アウンサンスーチーとアメリカ政府はすっかり疎遠になってしまっていた。アウンサンスーチーの逮捕の1週間前、バイデン政権は彼女が逮捕されてしまうのではないかという懸念から、アウンサンスーチーに連絡を取ろうとして失敗してしまった。

アメリカの戦略が失敗すれば、アウンサンスーチーの評価も下がってしまうのは当然だ。西側諸国の多くの人々は彼女の釈放を求めているが、アウンサンスーチーはかつてのようなヒロインでもないし、人権保護にとってのスターでもない。アウンサンスーチーは、マイノリティのロヒンギャ族のイスラム教に対するミャンマー国軍の虐殺について、冷血な態度で同意を与えた。これによって世界中で持たれていた彼女のイメージは悪化した。民主化運動家の中からはノルウェー政府に対して彼女へ授与されたノーベル平和賞のはく奪を求める嘆願書が届けられたほどだった。かつては海外からミャンマーへの人権保護の圧力の力を一身に集めていたアウンサンスーチーも、国際的に孤立している状況となった。

今回のクーデターによってミャンマーは30年前に戻ってしまったようだ。今回のクーデターによってもたらされた、21世紀における苦い教訓は、民主政治体制確立の難しさと権威主義(authoritarianism)の権力掌握、そしてこれら2つの間を橋渡しする外交の限界ということであった。

アメリカを含む西洋諸国のほとんどはミャンマーの軍事行動を非難した。中国をはじめとする権威主義体制国家のほとんどは非難しなかった。中国政府は長年にわたり、東南アジアにおける従属国(client states)づくりを進めるアメリカの政策に抵抗してきた。中国政府はクーデターを「内閣改造(cabinet reshuffle)」と呼んだ。先月、中国政府の外交官トップである王毅外交部長はミャンマーを訪問し、アウンサンスーチーの難敵である軍最高司令官ミン・アウン・フライン(Min Aung Hlaing)と会談を持った。ミン・アウン・フラインは今週、ミャンマーの支配者となった。

ジョー・バイデン米大統領の外交政策ティームはミャンマーの挑戦についてよく知っている。なぜならティームのメンバーの多くはミャンマーの挑戦が始まった時点で政府に入っていたからだ。国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めるジェイク・サリヴァンは2011年当時、ヒラリー・クリントン国務長官の次席補佐官を務めた。また、国務省政策企画本部長を務めた。バイデン政権で国家安全保障会議のメンバーに入ったカート・キャンベルはヒラリー・クリントン国務長官の下で、国務省のアジア政策担当のトップを務めた。そして、新しい戦略を統合する重要な役割を果たした。

しかし、10年前の状況とは異なり、バイデン政権の外交政策ティームは、トランプがバイデンの大統領選挙での大勝利を貶めようと試みたことについての奇妙な反響に対応しなければならなくなっている。アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(National League for DemocracyNLD)は、2020年の選挙で、2015年の選挙よりも、より多くの議席を獲得した。その後、ミャンマー軍部はトランプと同様、証拠を提示することなく、選挙不正を宣言した。そして、ミャンマー軍部はアウンサンスーチーを逮捕した。

善かれ悪しかれ、2011年とは異なり、現在のアメリカにアウンサンスーチーが持つアピール力に匹敵する力はない。ミャンマーが民主政治体制への移行を始めた時、ミャンマー国内でのアウンサンスーチーの高い人気は軍事政権(military junta)にとって長期的な脅威であった。アメリカの外交官たちはこのことに気付いており、経済制裁の解除には、自由で公正な選挙の実施を条件に入れようとした。アウンサンスーチーもそうであったと報道されているが、ヒラリー・クリントンも軍事政権側と良好な関係を築こうという熱意を持っており、国連主導の戦争犯罪捜査の要求を取り下げ、即座に援助を提供し、軍事政権による選挙管理を容認した。

アメリカのミャンマーへの関与のペースと範囲はアウンサンスーチーによって動かされてきたということになる。2011年のBBCとのインタヴューの中で、ヒラリー・クリントンは、譲歩し過ぎではないかと質問された。それに対して、ヒラリーは、アメリカ政府はアウンサンスーチーの同意に依存していると答え、「アウンサンスーチーの観点からすると、政治プロセスを検証することが重要だということになる」と述べた。

オバマ政権内で経済制裁緩和について白熱した議論が数度にわたり行われたが、制裁は継続した。2016年にオバマはミャンマーに対する制裁の終了を約束した、また、「ビルマの人々がビジネスの方法と統治の方法を新しくすることで褒章を得ることができるのだと確信するように行動することは正しいことなのだ」と宣言した。アウンサンスーチーは制裁解除を認めた。アウンサンスーチーは 「私たちを経済面で苦しめてきた制裁全てを解除する時期が来たと私たちは考えている」と述べ、これによって、ミャンマーがアメリカの示す民主政治体制に向けたロードマップ通りに進まないにしても、外国企業はミャンマーに投資が可能となるとした。2015年に彼女が率いる国民民主連盟が総選挙で勝利を収めた後(それでも国会の議席の4分の1は軍部のために確保されていたが)、大統領就任は拒絶された。その理由は彼女が外国人と結婚し、子供たちが外国籍だったことだ。

バイデン政権はサイクル全体を再びスタートさせる準備ができているようになっている。ホワイトハウス報道官ジェン・サキは制裁の緩和を「元に戻す」と発言している。これはつまり、新しい制裁が実施されることを示唆している。しかし、バイデン政権は最初に、軍部による政権掌握をクーデターと呼ぶことについて一時しのぎを行った、と報道された。

また、以前の方法が実行された実績があるからと言って、その古い方法が再び効果を発揮するかどうかは明確ではない。アメリカと複数の西洋諸国は数十年にわたりミャンマーに制裁を科してきたが、民主政治体制に向けてほとんど進んでいないのが現状だ。オバマ政権のアプローチを擁護している人々は次のように主張している。バイデン政権の外交ティームの中にはがオバマ政権の外交ティームに参加した人物たちがいるのは事実だが、トランプ政権下の4年間で、世界中野独裁者の力が強まり、外交がより困難になっているのが現状であり、アウンサンスーチーが権力を民主的な方法で獲得しようとする努力がより見えにくくなっている。

しかし、アウンサンスーチーが過去そうであったように、解決策になるのかどうか明確ではない。ミャンマーの専門家の中には、彼女のミャンマー国内での人気は確かであるが、彼女自身が自分の政治的な強さを過大評価し、軍事政権、特に新しい支配者ミン・アウン・フラインに対して過大な要求をしているようだと考えている人々がいる。

ジョージ・ワシントン大学のミャンマー専門家クリスティナ・フィンクは「アウンサンスーチーが軍事政権とある程度の妥協をしていればクーデターを避けることができただろうと私は考えている」と語っている。ミン・アウン・フラインを軍最高司令官、もしくは名目上の大統領に留まることを認めていれば、クーデターは起きなかっただろうということだ。フィンクは「しかし、NLDは交渉をしたいとは考えなかった」と述べている。

他の専門家たちは、アウンサンスーチーは良い結果を得られない無謀な戦いを挑んだと述べている。ロバート・リーバーマンはコーネル大学物理学教授で、映画監督、2011年に「人々はそれをミャンマーと呼ぶ:カーテンを開ける」という映画を撮影した。また、NLDの指導者たちに幅広くインタヴューを行った。リーバーマンは次のように語った。「人々はアウンサンスーチーについて実際の彼女とは違う、あるイメージを常に持っている。彼女はいつも“私は政治家で、それ以上のものではない”と語っている。彼女には選択肢がない。常に細い綱を綱渡りで渡っている。軍部と世界との間でバランスを保っているのだ」。

アウンサンスーチーが2019年に国連国際司法裁判所の証人喚問でロヒンギャ族に対するミャンマー国軍の残虐行為を隠蔽しようとした後、世界中がアウンサンスーチーを玉座に据えておくことを止めてしまったのだ。

新しい軍事政権(junta)は現在、かつては祭り上げられていた反対運動の支援者だった人々からの批判が少ないことと、トランプ政権下で4年間にわたり世界の権威主義的政府が力をつけることを奨励されてきたという居心地の良さに期待をかけている。バイデン政権の外交ティームはかつて、ミャンマーの頭の固い将軍たちを懐柔しようとした。しかし、かつてに比べて、ミャンマーに変革をもたらすための道具の数は少なくなっている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 

 今回は、中国が文化外交の一環として、中国への留学生増加を図っている、一方で、アメリカは留学生のための予算を削減しているという内容の記事をご紹介します。

 

 戦後、冷戦期、自由主義国ではアメリカ留学、共産主義国ではソ連留学がエリートへの近道でした。アメリカやソ連で最新の学問を学び、同時に人脈を作り、価値観や思想を習得して、母国に帰り、政治、経済、学術などの分野で偉くなる、と言うのがどこの国にもあった出世物語です。

 

 日本でも戦後、フルブライト奨学金を得て、アメリカに留学することはエリートへの近道でした。日本は皆が貧しくて御飯を食べるのが精一杯、という時代に、毎日ステーキを食べ、蛇口をひねればお湯が出るという夢の国アメリカに優秀な若者たちが渡っていきました。日本からのアメリカへの留学生は1990年代後半には3万人を超えましたが、現在までに数を減らし、現在は1万5000人程度にまでなってしまっています。

 

 冷戦期、アメリカは各国の優秀な学生たちを生活費まで保証する奨学金付きでアメリカの大学で学ばせました。そうすることで、親米的なエリート層を形成するという目的がありました。その当時、ソ連の成功で光り輝いていた社会主義計画経済に対抗するための、「近代化理論」の実践のための人材として活用しようと考えていました。アメリカからの資金や技術の援助、そして人材育成によって、発展途上国を近代化し、経済成長させようとしました。

 

しかし、その試みは多くの場合、それぞれの国の事情を無視して行われ、アメリカからの資金援助は有効に使われず、アメリカで博士号を取得したような人材も母国に帰っても働き口がなく、タクシー運転手になるしかないというような状況を生み出しました。

 

 アメリカでは留学生に対する奨学金の予算を削減しています。それに対して、中国はアジアやアフリカの発展途上国、また、一帯一路計画の参加国からの留学生を増やそうと様々な試みを行っています。その成果として中国への留学生が増加しています。今なら、中国に留学して学問を学び、人脈などを広げておけば、母国に帰った時に中国関係の仕事に就くことができるということもあり、その数はどんどん増えているようです。

 

 昔から遅れた国は進んだ国に若者を送り、学問や技術を学ばせてきました。日本でも、遣唐使と一緒に留学生や留学僧を派遣し、勉強させていました。帝国には最新の知識や情報、思想が生まれ、集まります。中国も1970年代末に改革開放を打ち出してから、アメリカに多くの優秀な若者を送り、勉強させてきました。そして、その成果を利用して、現在のように経済発展を遂げてきました。そして、中国がアメリカに追いつき追い越し、世界の中心、世界帝国になるという話が現実味を帯びるまでになってきました。

 

 アメリカの留学生に対する奨学金削減と中国の留学生誘致という現象は、帝国の交代ということを印象付けるものとなっています。

 

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スタンフォードのことは忘れて、清華に招かれる(Forget Stanford, Tsinghua Beckons

―アメリカは、アフリカとアジア諸国からの留学生を中国に取られている

 

チェン・リー、シャーロット・ヤン筆

2018年10月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2018/10/02/forget-stanford-tsinghua-beckons/

 

 

最近中国で放映されたあるテレビ番組の中で、ケニア人の学生たちが中国語で書かれた指示が掲示されている教室の中で、教授の話を聞いている様子が流された。この学生たちはナイロビではなく、中国の最高峰の大学である北京大学で勉強している。ケニア人の学生たちは、自分たちが母国では得られない教育の機会を中国が生活費まで含めた奨学金を支給することで与えてくれたこと、彼らは母国に帰って母国を豊かにするための技術の習得を行うつもりだということを話していた。

 

中国は留学生に対する恩恵をもたらす動きを加速させている。太平洋の反対側に位置する国アメリカは、長年にわたり、世界中で最も賢く、好奇心溢れる学生たちを惹きつけ、留学させてきた。そのアメリカでは中国とは反対の動きが起きている。様々な政策や行動を通じて、トランプ政権は外国の学生たちがアメリカを敬遠するように仕向けている。トランプ政権のスティーヴン・ミラーが進めた留学生数の制限によって、中国からアメリカへの留学生も減少している。中国はこのアメリカで加速している動きを、アメリカとの間にある差を埋める機会だと捉えている。アフリカとアジアの国々において、この変化は既に影響を及ぼしている。外国人学生がアメリカではなく、中国の大学を留学先に選ぶようになっており、これはアメリカのソフトパワーを構成する重要な要素が消え去る危機に瀕していることを示している。

 

高等教育ということになれば、アメリカは今でも世界の中心ということになる。2016年、100万人以上の留学生がアメリカの大学に在籍していた。一方、中国の大学には50万人弱であった。

 

しかし、中国はアフリカとアジア諸国の学生たちにアプローチをしている。特に発展途上の国々で、中国との経済関係を深めている国々へのアプローチを強め、それに成功している。2016年の段階で、60以上のアフリカとアジアの国々がアメリカに向けてよりも中国に向けてより多くの学生を送っていた。その具体例としてラオスを挙げる。ラオスは、中国に9907名の学生を送り出し、アメリカにはわずか91名であった。米中間の大きな差は次の国々でも起きている。アルジェリア、モンゴル、カザフスタン、ザンビアは中国に送り出した学生数がアメリカへの学生数の5倍以上となっている。2014年以降、中国に留学したあふふぃか諸国の学生数の総数はアメリカに向かった学生数の総数を超えた。2016年、中国で6万人以上のアフリカからの留学生が勉強していたが、2000年の時と比べてその数は44倍となっている。

 

同時に、中国は、国際的な高等教育システムの拡大を図っている。一方、アメリカ政府は国際的な高等教育システムへの財政的関与を縮小している。フルブライト奨学金プログラムは1946年以降、アメリカの文化外交の象徴となってきたが、オバマ政権下から、予算削減に直面している。アメリカ政府が資金を出しているこのプログラムの参加者たちは、後に世界中の国々の学術、政治、シンクタンク、ジャーナリズム、芸術、ビジネスの分野で重要な地位を占めるようになっている。このような輝かしい歴史と成果があるにもかかわらず、トランプ政権は、2019年度の予算計画では71%の予算削減を求めている。

 

アメリカ各地の公立大学は政府からの財政支援削減に直面している。そのために学費の値上がりと教育の質の低下を招いている。2005年から2015年の間に、公立の教育機関での学部教育の学費は34%も値上がりし、私立の教育機関でも26%も値上がりしている。

 

アメリカ人学生のための学費を低い水準に維持するために、多くの大学ではより高い学費を支払える留学生の獲得を目指している。留学生の入学者数の合計は増加しているが、留学生は上流、中流階級出身者に集中するようになっている。これは、中国がターゲットにしているより貧しい国々を見落とすようになっている。2016年から2017年の学事暦において、アメリカの大学に留学している100万の学生のうちほぼ半数は中国とインドからの学生であった。これら2か国を除くと、韓国とサウジアラビアからの学生が多いが、アメリカへの留学生の総数に占める割合が3%以上を占める国はどこにもない。

 

●中国とアメリカのアフリカ・アジア諸国の大学在籍者数

 

STUDENT COUNTRY OF ORIGIN            CHINA    UNITED STATES

Algeria                   992         192

Cambodia                         2,250        512

Indonesia             1           4,714      8,776

Kazakhstan                    13,996         1,792

Kyrgyzstan                     3,247           216

Laos                       9,907           91

Mongolia                         8,508          1,410

Tajikistan                        2,606           204

Tanzania                                                       3,520            811

Thailand                                                 23,044           6,893

Zambia                                                3,428          469

Source: Open Doors 2017, Institute of International Education; International Students in China, 2011-2016, China Power Project, Center for Strategic & International Studies.

 

アメリカにおける学費のコストは上昇し、留学生に対する奨学金の枠が制限されるようになっている。そのために、アメリカの教育システムは、世界の多くの国々の学生たちにとって利用不可能なものとなっている。カナダとオーストラリアは労働ヴィザの制限を緩和し、学費も低く抑えている。しかし、低所得、中間レヴェルの所得の国々からの学生たちにとってはこれら2か国への留学も難しい。対照的に、中国は、アジアとアフリカ諸国からの留学生を惹きつけるための政策と財政援助策を拡大している。

 

中国は高等教育における機会の提供を拡大するための様々な政策を採用している。特に、中国が貿易関係や外交関係を深めつつある地域からの留学生を惹きつけることに注力している。2003年から2016年にかけて、タイ、ラオス、パキスタン、ロシアからの留学生数は10倍以上になっている。中国の一帯一路計画の重要な対象国であるカザフスタンからの高等教育への留学生は65倍に急増している。

 

過去10年、中国は高等教育システムの質を改善することに注力してきた。当時に、留学生に対する政府資金による奨学金を拡大してきた。2017年、留学生の9人に1人は中国政府からの奨学金を得ていた。2000年から2017年にかけて、助成金・補助金の受給者数の総数はほぼ11倍に増えている。英語で授業を行う大学の数は拡大しているし、教育と研究の質を改善するために努力を続けている。中国は、アフリカとアジア諸国に対する貿易とインフラ整備プロジェクトを拡大させている。中国の教育の価値はこれらの国々で上昇している。学生たちは中国に留学し、帰国後に中国に関連した仕事に就くことを求めている。

 

●中国政への留学生の資金種別

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ここ数年、中国政府は一帯一路計画に参加している国々からの学生たち向けの政府が資金を出す奨学金プログラムを拡大させている。2016年に中国政府の奨学金プログラムを受けた留学生の出身国10か国のうち、8か国は一帯一路計画の参加国である。中国政府は、一帯一路計画の参加国だけに向けた様々な教育プロジェクトを実施している。中国政府は名門大学である中国人民大学に付属の「シルクロード・スクール」を発足させた。この学校には一帯一路計画の参加国の学生たちが今年の9月に入学した。この学校の中国政治、経済、文化を学ぶ修士課程に入学する学生たちすべてに学費と生活費をカヴァーできる奨学金を支給することになる。

 

奨学金を得て中国の大学で学位を得ることよりも、自由主義的価値観と政治的な開放性を持つアメリカの大学に行くことの方に魅力を感じる学生がいるのは当然のことだ。ここ数年、中国の大学で、学問の自由が制限されるケースも出ている。しかし、多くの学生たちにとっては、アメリカの価値観や理想は、中国における高等教育よりも魅力的という訳にはいかない。奨学金が充実しているということもあるし、帰国後に中国関連の職に就けるということも大きな魅力になっている。

 

文化外交の一形態として、教育が外交関係に果たす役割について、中国政府の幹部たちは楽観的な考えを持っている。ある程度、中国はアメリカが撤退しつつある道を進もうとしている。これまでの数十年、特に冷戦期、アメリカの指導者たちは留学生に対する教育、特に将来の指導者に対する教育は、アメリカの価値観を拡散し、革命を伴わない平和的な進化を促進し、他国の発展に対して影響を与えるための有効な手段だと考えていた。しかし、アメリカで学んだ留学生たちが必ずしもアメリカの価値観や理想に対して忠実ではないということが分かり、アメリカの教育における関与は成功とも失敗とも言えないということになり、留学生を通じて世界に影響を与えるという政策に対する信頼は消えつつある。アメリカにおいてポピュリズムが勃興しているが、指導者たちは文化外交よりも国内政策を重視するようになっている。

 

教育に影響を与えるということはゆっくりとしたプロセスであり、教育システムは特にゆっくりとしか変化しない。これからしばらくは、アメリカは高等教育における国際的な基準となり続けるだろう。自由な学問研究と独立した思考、革新的な研究、最新の技術がアメリカの高等教育の長所であり、世界中の羨望の的だ。しかし、アメリカのソフトパワーのレヴェルはアフリカとアジアの発展途上国にどれほど基盤を持てるか、特にそれらの国々に対して、アメリカが教育面で支援をできるかにかかっている。アメリカが外国の学生たちに教育の機会を与える力を失いつつあり、そのために、アメリカが彼らに影響を与える機会もなくなるであろう。経済成長が著しい中国が教育の機会を与えることで、アメリカと張り合っている中で、それに負ければ、アメリカの影響力は減退するだろう。

 

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