古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:中国

 古村治彦です。

 副島隆彦・近藤大介著『アメリカの衰退で世界覇権を狙う中国の実力』(ビジネス社)は、中国に関して、現在の政治から歴史までを幅広く、網羅的に、かつ正確に知るために必読書だ。中国研究本は数多く出ているし、優秀な研究者は多くいる。そうした人々の話を聞いたり、専門書を読んだりすることで、中国について知ることはできるが、そのためのお金と時間、労力を考えると、この本を1冊、きちんと読んで、自分の興味関心があるポイントや気になったところを後で調べてみるという方が、効率(現在は「タイパ」「コスパ」と言うそうだ)が良いということになるだろう。

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アメリカの衰退で世界覇権を狙う中国の実力

 私は中国の政治面に興味関心を持っている。また、文化面も興味を持っている。このブログでも何度か中国政治に関する記事をご紹介している。中国語で書かれた記事を読むまでの力がなく(中国語を学習したので少しは分かるのだが)、どうしても英語か日本語で書かれた記事を読むしかない。

『アメリカの衰退で世界覇権を狙う中国の実力』で、近藤氏は習近平が国家主席4期務めるということを述べている。そうなると、その下の世代が国家主席、最高指導者の地位に就くことは難しいということになる。世界の現状は、大きな構造転換が起きつつあり、中途半端なかじ取りでは中国は沈没してしまうということで、習近平がかじ取りをするということになる。それでも、次の任期では、陳吉寧上海市党委員会書記が中央政治局常務委員(7人いるので「チャイナ・セヴン」と呼ばれる)という最高幹部入りをするということで、副島、近藤両氏の考えが一致している。「スペア・タイヤ」という表現をしているが、何かあった時のための「保険」の意味合いがあるということで、それだけの重要人物であるということが分かる。近藤氏によれば「頭脳明晰で、温厚な学者(イギリスで土木工学の博士号を取得)」として評価されている。もちろん行政手腕がなければ、上海市党委員会書記にはなれない。これから注目していきたい。
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陳吉寧上海市党委員会書記

 現在50代の若手の幹部たち、将来の最高指導者候補たちについては、以前に以下の記事でご紹介しているので是非お読みいただきたい。

20220729日 中国共産党指導者第7世代の顔ぶれに関する記事を紹介する(1)

https://suinikki.blog.jp/archives/86426139.html

20220730日 中国共産党指導者第7世代の顔ぶれに関する記事を紹介する(2)

https://suinikki.blog.jp/archives/86430777.html

(貼り付けはじめ)

訪中の国民党・鄭麗文氏、上海市党委員会書記の陳吉寧氏と会談 「国家統一」にも言及

風傳媒(台湾) 2026-04-09 14:17

楊騰凱(ヨウ・トウガイ)筆

https://japan.storm.mg/articles/1119274

https://japan.storm.mg/articles/1119274#page2

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国民党主席・鄭麗文氏(左)が率いる訪中団は48日午後、上海を訪問し、同市党委員会書記の陳吉寧氏(右)と会談した。(写真/楊騰凱撮影)

中国を訪問中の台湾最大野党、国民党の鄭麗文主席率いる一行は8日午後、上海市に到着し、同市のトップ、中国共産党上海市党委員会書記の陳吉寧氏と会談した。現在、中国共産党の総書記を務める習近平氏(中国国家首席)や李強首相もかつて同職を務めたほか、陳氏は海外の要人と頻繁に面会していることもあり、次世代の中国最高指導部入りが有力視されている。今回の会談で陳氏は鄭氏に対し、「両岸(中台)は血のつながった家族だ」と述べ、国家統一の推進を希望するとの意向を示した。

鄭氏は7日、訪問団を率いて中国本土を訪問。最初の訪問地である南京を経て、8日に上海へ移動し、同日午後に陳氏と面会した。

現在、上海市委員会書記という要職にある陳氏だが、同職は過去に習氏や李首相のほか、江沢民・元国家主席など、数々の最高指導部メンバーを輩出してきた。さらに、シンガポールのリー・シェンロン前首相が2024年に訪中した際、自国メディアに対して「中国の次世代指導者との人脈構築を希望する」とコメントする報道映像に陳氏の姿が映し出されたこともあり、同氏の最高指導部入りを予測する見方が一段と強まっている。

●陳氏「両岸同胞は皆、中国人」

陳氏は冒頭のあいさつで、「両岸の同胞はみな中国人であり、我々は血のつながった家族である」と発言した。また昨年、鄭氏が国民党主席に当選した際、習氏が祝電を送り、両党が「1992年コンセンサス(九二共識)」を堅持し、台湾独立に反対する姿勢を強調したことに言及。「共通の政治的基盤の上で、両岸の交流と協力を積極的に推進し、台湾海峡の平和と安定を維持するとともに、両岸同胞の絆と福祉を増進していくべきだ」と語った。さらに、「中国人としての気概と自信を深め、『国家統一を推進』しなければならない。中華民族の共同の故郷を断固として守り、両岸同胞の根本的利益を確固として守り抜き、手を携えて中華民族のすばらしい未来を切り開くことこそが、両岸関係を処理する上での大きな方向だ」と主張した。

続けて陳氏は、上海は両岸の協力、交流が最も活発な都市で、中国本土において台湾系企業(台商)が最も集中し、人的往来が最も頻繁な都市の一つだと説明。「両岸に関する多くの歴史的出来事がここ上海で起きている。現在、上海には台湾系企業約15万社が進出し、約4万人の台湾人が居住しており、うち5559名の台湾人学生がこの地で学び、生活している」と語った。その上で「我々は『両岸一家親(中台は一つの家族)』の理念に則り、彼らに対して多方面で支援を提供している。鄭氏の今回の訪問がさらに大きな役割を果たし、上海と台湾の交流が一段と深まることを期待する」と述べた。 (関連記事: 中国が黄海で実弾射撃 国民党・鄭麗文主席の訪中に水差す、民進党は「実力なき平和は幻想」 | 関連記事をもっと読む )

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鄭麗文・国民党主席(左)と上海市党委員会書記の陳吉寧氏(右)が会談した。(写真/中央社)

●鄭麗文氏「両岸の平和的発展を中断させてはならない」

一方、鄭氏はあいさつの中で、21年前に当時の連戦・国民党主席による中国訪問「平和の旅」に随行して初めて上海を訪れたほか、その後、約20年前にもう一度、訪ずれたと明かした。「約20年ぶりに再び上海を訪れ、この間に多くの出来事があったことを実感するとともに、上海が全く異なる姿へと変貌を遂げていることに驚いている」と述べた。また、「今回の訪問は短期間だが、先ほど上海に住む台湾の若者たちと面会し、交流する機会を得た。一人一人のバックグラウンドが異なり、それぞれにすばらしい物語を持っているが、彼らがここ上海で勇敢に夢を実現する場所を見つけたことは、この都市の多様性、寛容性、そして豊かさを十二分に示している」と語った。

さらに鄭氏は、両岸関係において上海は特殊な地位を占めておち、これまでたびたび決定的な役割を果たしてきたと指摘。かつて『汪辜会談(辜振甫氏と汪道涵氏のトップ会談)』(1993年」)も上海で開催されたが、台湾の対中交渉窓口機関・海峡交流基金会(海基会)の元董事長を務めた辜振甫氏(故人)は、92年コンセンサスに加え、このような対話が継続されることを強く望んでいたと明かした。また、必ずしも自身が交渉に当たる必要はないが、両岸の平和的発展に向けた努力を将来にわたって中断させてはならないと訴えていたと振り返った。

また、台北市と上海市の都市間フォーラム(双城論壇)がこれまで16回にわたり開催され、極めて重要な役割と機能を果たしてきたことに言及。「今回の訪問を機に、上海と台湾間の多角的な交流が拡大し、深化することをまず期待している」と語った。また陳氏が過去、台湾の若者の結婚式に参列するためだけにわざわざ訪台したことがあり、その気持ちは非常に特別なものだと指摘し、きょう再び上海を訪問したことで、両岸の平和に向けた相互の善意と信頼を引き続き蓄積し、拡大させていきたいと意欲を示した。

最後に鄭氏は、「両岸の若者、ひいては世界の若者たちが夢を追い求め、実現しようとしている。我々の世代が彼らの障害になるのではなく、むしろ強力な後ろ盾となるべきだ。彼らにより大きな舞台を提供し、自信を持たせ、平和な環境の中で夢を実現できるよう支援していきたい」と強調した。

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シンガポール上級相が選んだ「次の中国指導者」…陳吉寧党書記、世界の大物が列を成す

ⓒ 中央日報/中央日報日本語版2025.01.28 08:330 글자 작게

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https://japanese.joins.com/JArticle/329142?sectcode=A00&servcode=A00

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昨年11月26日に北京の釣魚台国賓館で中国の習近平国家主席が(右)がシンガポールのリー・シェンロン上級相と会談に先立ち握手をしている。[写真 中国外交部]

●「次世代の中国指導者と新しい関係を結ぶことを希望した」

シンガポールのリー・シェンロン上級相が昨年11月末、中国上海で陳吉寧党書記(61)に会った後に述べた言葉だ。陳吉寧党書記を中国の次世代指導者として公認するというニュアンスだった。

シンガポール首相に在職した20年間、14回中国を訪問したリー氏は、中国の政治に詳しい。そのリー氏がトランプ氏の当選直後、5泊6日の日程で訪中し、中国は習近平国家主席(72)、王滬寧・全国政治協商会議主席(70)、何立峰・国務院副首相(70)、陳書記の4人が会談者として出席した。米中間の橋渡し役として有名なシンガポールの実力者を招待したためだった。

リー上級相は、最年少の陳書記との会談のため、蘇州から北京を経て、再び上海を訪れた。これについて専門家の間では「2年後の2027年、中国共産党21次党大会で予想されるリーダーシップ改編まで考慮した歩み」という分析が出ている。

陳書記は昨年1年間、世界の政財界のVIP68人に会った。韓国中央日報が上海党機関紙「解放日報」の陳書記動静記事を全数分析した結果、昨年1月2日、ローレンス・サマーズ元米財務長官を皮切りに1年間、グローバル政治家22人、多国籍企業のトップ46人と会談を行った。

続いて昨年、ドイツのオラフ・ショルツ首相(4月)、トニー・ブリンケン米国務長官(4月)、イタリアのジョルジャ・メローニ首相(7月)、アントニオ・グテーレス国連事務総長(9月)、スペイン・ノルウェー首相(9月)、フィンランド大統領(10月)まで国家首班22人が北京とは別に上海を経て陳書記に会った。

経済界のリストは一層華やかだ。昨年1月10日、スイスUBSのコルム・ケレハー議長を皮切りに、スターバックスのハワード・シュルツ創業者(3月)、英スタンダードチャータードCEO(4月)、ナイキ(6月)、サウジアラビア国富ファンド総裁兼アラムコ会長(7月)、メルセデス・ベンツCEO(9月)、プルデンシャル、ノバルティス会長(9月)、モンクレア会長(10月)、ウォルマートCEO(10月)、ゼネラルエレクトリック(GE)ヘルスケアCEO(11月)、フォルクスワーゲン会長(11月)など金融・自動車・製薬・不動産など世界屈指の企業総帥らが陳書記と会談を行い、中国事業を協議した。

陳書記が接見した外賓の名簿は同じ政治局委員が治める北京・広東・重慶・天津では見られない現象だ。陳書記の独走に米国時事評論家の鄧聿文氏は「中国政府が北京より上海にさらに重要な政治的地位を付与した可能性がある」とし、「陳吉寧は今後一段階上に上がる可能性が高い」との見方を示した。

陳書記の浮上には3つの背景が作用した。第一に、陳書記と習近平主席との関係だ。1964年生まれの陳書記は、習主席の母校である清華大学の学部を卒業した。習主席、陳希・現中央党校校長(72)とともに清華出身の「鉄のトライアングル」と呼ばれている。しかも、習主席が重視している環境の専門家だ。学部で環境工学を専攻し、清華大学総長、環境部長、北京市長を歴任した。1988年から1998年までの10年間、英国ブルネル大学とインペリアルカレッジに留学した。第20期政治局24人のうち、ほぼ唯一の国際的な背景まで備えた習主席の後継者として挙げられている。

第二に、上海党書記が持つ政治的プレミアムだ。上海書記は政治局常務委員になる足掛かりとして評価されている。歴代の総書記や首相のうち江沢民・朱鎔基・習近平・李昌がいずれも上海書記を経た。2006年、胡錦濤主席と権力闘争から押し出された陳良宇以外に例外はなかった。

第三に、中国経済に占める上海の地位だ。反対に見れば、待望論が時期尚早である可能性もある。これと関連し、国家安保戦略研究院のヤン・ガプヨン首席研究委員は、「グローバル企業のトップと陳吉寧の頻繁な会談は、多国籍企業の中国本社が上海にあるという点も反映されただろう」とし、「一部から出ている陳吉寧が次期常務委員の上位を占めるという待望論は予断し難い」と指摘した。

陳吉寧書記が昨年接見した外賓名簿に韓国人は見当たらない。接見した人物68人のうち半数以上の38人が欧州出身だった。米中の間で欧州を牽引しようとする意図が反映されたという解釈が出ている。アジア圏は10人に過ぎない。韓国はもちろん日本もない。ヤン研究委員は「陳吉寧側の意図的排除なのかどうかまでは分からないが、中国の次世代政治家とネットワーキングを等閑視する韓国政治・経済界の注意が必要」と述べた。

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習近平の後継者は党の第七世代指導部から現れるのか?(Will a Successor to Xi Jinping Emerge from the Party’s Seventh-Generation Leadership?

ウィリー・ウー=ラップ・ラム筆

2022年12月16日

『チャイナ・ブリーフ』誌

https://jamestown.org/will-a-successor-to-xi-jinping-emerge-from-the-partys-seventh-generation-leadership/

習近平(しゅうきんぺい、Xi Jinping、1953年-、72歳)総書記は、中国共産党(CCP)の規則や慣例を破ってきた長い歴史を持つ。先日閉幕した第20回党大会では、党規約を改正することで自らを「終身党核心(party core for life)」とし、中央委員会と政治局の要職を自らの派閥のメンバーで固めることでその地位を強化した(China Brief、10月24日付)。その結果、習近平が少なくとも2032年の第22回党大会まで政権を掌握するという意向を事実上公言することになる。これに対して、異議を唱える真の、あるいは潜在的なライヴァルが現れる可能性は低い。したがって、習近平は今、党のもう一つの重要な制度、すなわち透明性のある秩序ある後継者指名プロセスを軽視している(BBC中国語版、10月28日、ラジオ・フランス・インターナショナル、10月12日)。

●世代交代からの逸脱(A Break From Generational Succession

改革の設計者である鄧小平(とうしょうへい、Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳没)が実施した重要な制度改革の一つは、党総書記の任期を5年で2期に制限し、後継者を退任の5年前に指名することであった。この取り決めは、毛沢東(もうたくとう、Mao Zedong、1893-1976年、82歳没)時代に起こった混乱を避けるためのものであった。当時、劉少奇(りゅうしょうき、Liu Shaoqi、1898-1969年、70歳没)国家主席、林彪(りんぴょう、Lin Biao、1907-1971年、63歳没)元帥、華国鋒(かこくほう、Hua Guofeng、1921-2008年、87歳没)治安部長など、多くの「後継者(successors)」候補が指名されたが、党内の派閥間の内紛を悪化させる結果にしかならなかった。そしてもちろん、鄧小平自身の後継者として最初に指名された胡耀邦総書記と趙紫陽総書記も、党・国家・軍事機構を完全に掌握することで最高指導者の地位を効果的に獲得することはできなかった。

鄧小平は1980年代初頭にいわゆる世代交代モデルを確立した(ラジオ・フリー・アジア、10月27日)。こうして「第三世代指導部の中核(core of the Third-Generation leadership)」である江沢民(こうたくみん、Jiang Zemin1926-2022年、96歳没)の後を継いだのは、1940年代生まれの第四世代幹部の代表である胡錦濤(こきんとう、Hu Jintao1942年-、83歳)だった。そして胡錦濤は最終的に第五世代の代表である習近平(1953年-、72歳)にその地位を譲った。しかし、習近平の後を継ぐ第六世代(6G)幹部は現れないだろう(チャイナ・ブリーフ、2021年11月12日)。「七上八下(政治局常務委員の定年年齢は68歳だが、67歳以下の者はもう1期務めることができる)」と呼ばれる、よく守られている党の慣例によれば、習近平の後継者は2032年の第22回党大会の時点で68歳未満でなければならない(ラジオ・フランス・インターナショナル、1月2日)。習近平が2032年に68歳で定年退職するという慣例に従わない可能性もあるが、第19回および第20回党大会では七上八下のルールが概ね守られていた。

しかしながら、新たに選出された政治局と政治局常務委員の比較的若いメンバー、すなわち政治局常務委員の丁薛祥(ていせつしょう、Ding Xuexiang、1962年-、63歳)と、政治局員の袁家軍(えんかぐん、Yuan Jiajun1962年-、63歳)、陳敏爾(ちんびんじ、Chen Min'er、1960年-、65歳)、劉国中(りゅうこくちゅう、Liu Guozhong、1962年-、63歳)、李書磊(りしょれい、Li Shulei、1964年-、62歳)、陳吉寧(ちんきつねい、Chen Jining、1964年-、62歳)は、2032年には全員68歳以上になるため、政治局常務委員への就任または留任に関する「七上八下」の規定を満たすことができない(新華社、10月23日)。人事面では、この展開により、1970年代生まれの第七世代(7G)の若手スターに道が開かれた。昨年10月に承認された中央委員会の補欠委員(投票権のない第二級委員)171人のうち、約30人が第七世代の新人である(新華社、10月22日)。また、国家最高レヴェルの汚職対策機関である中央規律委員会(委員131人)の幹部5人も1970年代生まれである(財新網、11月1日)。

●権力への跳躍板(Springboards to Power

新たに選出された中央委員会候補委員のうち、諸葛宇杰と時光輝は、それぞれ上海市と貴州省の党委員会副書記の地位に既に就いている。諸葛宇杰(しょかつうけつ、Zhuge Yujie1971年-、55歳)は、キャリアの全てを上海で過ごしてきた。上海の海事・港湾部門での勤務を経て、2017年3月、わずか45歳で上海市党委員会書記局長に昇進した。数カ月後には、上海市党委員会常務委員に就任するとともに、書記長も兼任した。2022年3月には、上海市党委員会副書記2人のうちの1人に就任した(山東商報、5月2日;東方網3月29日)。

時光輝(じこうき、Shi Guanghui、1970年-、56歳)もまた、キャリアの大部分を上海で過ごし、最初はエンジニアとして、その後は区レヴェルの行政官として活躍した。2013年には上海副市長に昇進した。5年後、貴州省に異動となり、省党委員会の常務委員(治安担当)に任命された。今年初めには、貴州省党委員会副書記に任命された(Gov.cn、10月28日;貴州日報、4月29日)。上海は伝統的に党の最高幹部への登竜門となっていることを考えると、諸葛と時の将来は明るいと言えるだろう。

中央委員会の代替候補者リストに新たに加わった者のほとんどは、省や主要都市の党または行政機関の長または副長である。こうした人物たちは以下の通りだ。杭州市党書記の劉捷(りゅうしょう、Liu Jie、1970年-、56歳)、北京市副市長の楊晋柏(ようしんはく、Yang Jinbai1973年-、53歳)、山東省済南市党書記の劉強(りゅうきょう、Liu Qiang、1971年-、55歳)、内モンゴル自治区執行副主席の黄志強(こうしきょう、Huang Zhiqiang、1970年-、56歳)、江蘇省執行副省長の費高雲(1971年-)、福建省副省長の郭寧寧(1970年生まれ)、厦門市党書記の崔永輝(1970年生まれ)などが含まれる。山西省大同市党書記の李東亮(1973年生まれ)、ウルムチ市党書記の楊発森(1971年生まれ)、昆明市党書記の劉洪建(1973年生まれ)、太原市党書記の韋韜(1970年生まれ)(重慶晨報、11月30日;太原日報、11月22日;人民日報、10月23日;澎湃新聞、2021年10月25日)。

杭州市党委員会書記のポストは中国共産党の上層部への近道とみなされているため、劉捷は特別な注目を集めている。1970年生まれの劉は、湖南省の大規模製鉄所で技師兼管理者としてキャリアを積み、2000年にはわずか30歳で湘崗第二製鉄所の所長に就任した。2015年には江西省委員会常務委員に昇格し、書記長に就任したことで大きな転機を迎えた。2021年には浙江省党委員会委員に任命され、同時に省都杭州市の党委員会書記にも就任した(杭州日報、11月22日;Qq.com、11月20日)。習近平派(XJPF)に所属する元浙江省出身者が多数いることを考えると、劉の浙江省との繋がりは重要である。

新たに任命された第七世代中央委員会の候補委員の何人かは、冶金、電気、港湾施設のエンジニアリングと管理に関する訓練と経験を持つテクノクラートである。特に注目すべきは、銀行業界での経験を持つ有望な人材だ。これは、中国の地方行政機関の多くが不動産部門からの収入と税収に過度に依存してきたために、多額の債務を抱えているという事実を反映しているようだ。金融経験を持つ指導者には、債務削減と地方税基盤の多様化という使命が与えられている(VOA中国語版、7月13日;サウスチャイナ・モーニング・ポスト[SCMP]、2021年11月2日)。

山東省の劉強と福建省の郭寧寧は、金融テクノクラートとして出世した具体例だ。劉はキャリアの大半を銀行業界で過ごし、2010年代には中国農業銀行上海支店長、そして中国銀行副総裁にまで上り詰めた。郭は、数少ない第七世代の女性スターの一人であり、キャリアの大半を中国銀行で過ごしてきた。以前は中国銀行の香港支店とシンガポール支店の支店長を務め、2016年に中国農業銀行の副総裁に昇進した。その2年後、福建省の財務担当副総裁として赴任した。2021年には、『タイム』誌の「次世代を担う100人のリーダー」に選出された(Finance.sina、3月28日;Time.com、2021年2月17日)

中央規律検査委員会の第七世代メンバーの中で、李欣然(1972年生まれ)は最も優れた経歴を持つ人物と言えるだろう。法学修士号を持つ李は、規律・反腐敗部門でキャリアを積み、中央規律検査委員会の地方視察ティームにも所属した経験を持つ。1995年から1998年まではチベット自治区ラサ市の規律部に勤務し、その後、チベット自治区警察の規律部長に就任した。第20回党大会で中央規律検査委員会常務委員に選出された(Qq.com、10月13日;澎湃新聞、2021年9月30日)。

●結論(Conclusion

いわゆる習近平派閥メンバーの大多数が福建省、浙江省、上海市出身であることから、これら3地域出身の最高指導者の側近が中央委員会および政治局の正式メンバーに多く含まれていることは注目に値する。しかしながら、第七世代の中央委員会候補メンバーのうち、「党核心(party core’s)」の側近グループと何らかの繋がりを持つ者はごく少数に過ぎない。このことから、習近平が2032年まで健康を維持した場合、党総書記のポストを習近平派閥以外の人物に譲り渡しつつ、中央軍事委員会主席という強力な地位を保持することで中国の最高指導者の座を維持する可能性が考えられる。結局のところ、これは鄧小平が1978年に権力を握ってから1997年に亡くなるまで採用したモデルだった。鄧小平は党総書記の地位には就かなかったものの、1989年6月4日の弾圧から数カ月後まで中央軍事委員会総書記を務めていたため、政治のあらゆる分野における最終的な意思決定者であり続けることができた(VOA中国語、10月18日;The Initium [香港]、2018年2月26日)。しかし、鄧の権力の重要な要素の一つは、彼が改革開放政策の創始者としてほぼ普遍的な尊敬を集めていたという事実にあった。習近平が自己利益のために中国共産党の慣例を繰り返し逸脱してきたこと、そして経済運営の失敗によってその威信が損なわれているという事実は、2032年に総書記としての4期目の任期が満了する前に、彼の権威が揺らぐ可能性を示唆している。

※ウィリー・ウォーラップ・ラム博士:ジェームズタウン財団の上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』誌の定期寄稿者。香港中文大学歴史学部およびグローバル政治経済学修士課程非常勤教授。中国に関する著書は6冊あり、『習近平時代の中国政治(Chinese Politics in the Era of Xi Jinping)』(2015年)が代表作であり、最新作『中国の未来をめぐる闘い(The Fight for China’s Future)』は、2020年にラウトレッジ社から出版された。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領は、ジェイムズ・モンロー大統領が1823年に提唱した、ヨーロッパとアメリカによる西半球をめぐる相互不干渉主義であるモンロー主義(Monroe Doctrine)をもじって、「ドンロー主義(Donroe Doctrine)」を標榜している。モンロー主義は「ヨーロッパの争いにアメリカは干渉しないので、ヨーロッパ諸国は西半球に介入しないように」というものであり、「西半球(Western Hemisphere)」は、アメリカの勢力圏(Sphere of Influence)であるということを宣言したものである。20世紀はアメリカが超大国として世界を支配してきたが、アメリカの国力の低下(decline)もあり、アメリカの一極支配構造は崩れている。そして、米中二極構造になりつつある。G2体制と呼ばれることもある。また、ロシアを入れて、「ヤルタ2.0」とも言われる。アメリカの一極支配の終焉に続くものとして、「アメリカは西半球、南北アメリカ大陸の支配を続ける」ということが、「ドンロー主義」である。世界の他の地域については、「アメリカは撤退する」ということになる。そうなれば、頼るのは中国ということになる。実際に中国が進出している。
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 アメリカにとって問題は、ラテンアメリカに中国が進出し、地歩を固めているということだ。2000年頃は貿易額で見ても分かる通り、中国の影響力は小さかった。しかし、今や南米諸国のほとんどにとって中国は最大の貿易相手国となっている。また、中国から多くの投資が行われている。その間にアメリカは何もしなかった。それが今になって急に、「南米はアメリカの勢力圏、属国だ。昔からそうだった」と言われて、「はい、その通りでございます」とは言わないし、言えない。「ヤンキー帝国主義(Yankee Imperialism)で酷い目に遭った。アメリカが行ったり、支援したりした選挙干渉や内戦などで酷いことになった」という反感がある。投資や経済協力は歓迎するが、アメリカが今になって、宗主国気取りでやって来て「言うことを聞け」は通用しない。
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 トランプ政権はヴェネズエラを攻撃し、キューバに厳しい経済制裁を科している。新中国派の牙城であるこれらの国々を崩して、中国の影響力を削ごうとしている。これはアメリカにとって非常に簡単な仕事だ。しかし、その効果は一過性でしかなく、これらの国々の国民はキューバ革命とシモン・ボリヴァルの独立革命の誇りを維持している。アメリカからの攻撃がかえって国民に反米意識と団結を生み出してしまうという逆効果になってしまう。この点はイランに似ている。中国は「民間企業がビジネスでやっていることなので」という建前で粛々と進出を続けていく。アメリカがやるべきことは「長期的な経済面を中心とした投資や経済協力」である。こうした長期的な仕事はアメリカにとっては苦手な分野である。どかーん、ぼこーんと一気に壊してしまえということになってしまう。そうして、世界に反米の種をまき続けてきた。もうすでに中国の存在感を簡単などかーん、ぼこーんで排除することはできないし、短期間で、中国に取って代わることもできない。それでも、地道に続けていけばまだ良いのであるが、それは今のアメリカには極めて困難であり、ほぼ不可能なことであろう。

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アメリカはラテンアメリカから中国を排除することはできない(The U.S. Can’t Exclude China From Latin America

-ワシントンは中国をラテンアメリカから排除しようとするのではなく各国に対してより優れた戦略的選択肢を提示すべきである。

ブライアン・フォンセカ筆

2026年6月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/08/latin-america-us-china-national-security-strategic-displacement/

写真

ペルーのチャンカイにあるチャンカイ港の様子(2025年9月30日)

アメリカのジェイムズ・モンロー大統領がヨーロッパ列強に対し、西半球(the Western Hemisphere)への介入を戒める警告を発してから2世紀近くが経過した今、アメリカはこの地域における地政学的な課題に再び直面している。過去20年間で、中国は中南米およびカリブ海地域において、経済、技術、戦略面でのプレゼンスを劇的に拡大させてきた。しかし、今日の状況はモンロー・ドクトリンが掲げられた当時とは根本的に異なっている。

モンロー・ドクトリンは排除の戦略(a strategy of exclusion)であった。すなわち、西半球において外部勢力が領土的・政治的な支配権を確立することを阻止しようとするものだった。しかし、そうした枠組みは21世紀の競争の現実を反映していない。中国は征服や占領(conquest or occupation)によって中南米での影響力を拡大しているわけではない。むしろ中国は、中南米のインフラ、貿易ネットワーク、エネルギー・システム、デジタル・エコシステム、そして戦略的産業の内部へと深く入り込んでいる。

中国が行使する影響力は、武力によるものではなく、経済的な統合、技術への依存、そして構造的な優位性を利用したものだ。中国は今や、中南米における主要な貿易相手国であり、重要な資金提供元であり、さらには一次産品や農産物輸出の重要な市場となっている。インフラの慢性的な不足、低成長、長年にわたる投資不足に直面する多くの中南米諸国にとって、中国との関わりはイデオロギーの問題ではなく、経済的な必要性に基づいているのである。

アメリカが現実的に中国を中南米から排除することは不可能である。また、中南米の各国政府に対し、ワシントンか北京かの二者択一を迫るようなこともすべきではない。西半球に位置する国々の大半が求めているのは、単に多角化された経済関係(diversified economic relationships)と、より大きな戦略的自律性(greater strategic autonomy)なのである。

中国による関与の全てが、同レヴェルの戦略的重要性を有するということはない。アメリカは、ラテンアメリカおよびカリブ海地域における中国のあらゆる商業活動に反射的に反対するのではなく、地政学的および国家安全保障上の影響が最も大きい分野において、中国の影響力を置き換える(displace)ために選択的に競争すべきだ。アメリカにとってこれは、「戦略的拒否(strategic denial)」から、私が「戦略的置換(strategic displacement)」と呼ぶアプローチへと転換することを意味する。

第一に、アメリカは戦略的インフラを優先事項とすべきである。中国企業は、ラテンアメリカ全体にわたり、港湾、物流回廊、輸送ハブ、エネルギー・システムといった分野でその存在感を拡大してきた。これらの資産は単なる商業事業にとどまらない。それらは貿易の流れ、サプライチェインへのアクセス、海上輸送の接続性、そして戦略的な機動力を左右するものだ。重要インフラや通商を支配することは、永続的な政治的・経済的影響力を行使する手段となり得る。

2024年に開港したペルーのチャンカイ港は、こうした力学を如実に示している。中国の海運大手である中遠海運(Cosco)が主導して開発されたこの港は、南アメリカとアジア市場をより直接的に結びつけると同時に、太平洋の貿易回廊や地域のサプライチェインにおける中国の役割を強化するよう設計されている。アメリカは単にこうしたプロジェクトに反対するのではなく、より競争力のある資金調達手段やインフラ整備の代替案をラテンアメリカ諸国に提示しなければならない。

第二に、アメリカはラテンアメリカ全域において、デジタル・インフラ、通信、データ・ガヴァナンスの分野で、より積極的に競争を展開する必要がある。ファーウェイ(Huawei)やZTEといった中国のハイテク企業は、通信インフラ、クラウド・システム、監視技術、スマートシティ構想、デジタル決済プラットフォームなど、ラテンアメリカのあらゆる分野に深く浸透している。

これらのシステムは政治的に中立なものではない。それらはデータ・ガヴァナンスの基準を形成し、サイバーセキュリティ上の脆弱性を生み出すほか、将来的には中国による情報収集や政治的影響力工作の機会を拡大させる恐れもある。ZTEの支援を受けて開発されたヴェネズエラの「祖国カード(fatherland card)」システムは、デジタル・システムがいかにして政治的監視や社会統制の手段へと変貌し得るかを示す極端な事例である。

第三に、アメリカ政府は、重要鉱物(critical materials)に対する高まる関心を、持続的な対米州戦略へと転換しなければならない。ラテンアメリカは、先端製造業、半導体、エネルギー技術、防衛システムに不可欠なリチウム、銅、レアアース(希土類)などの鉱物資源を豊富に埋蔵している。中国はすでに、これらの資源に関連する採掘、加工、輸送の各ネットワークにおいて、特にアルゼンチン、ボリヴィア、チリからなる「リチウム・トライアングル(lithium triangle)」を中心に、強固な地位を築いている。

アメリカは、アルゼンチンやチリのように市場環境がパートナーシップの構築に適した国々において、融資可能な(bankable)プロジェクトへの資金提供に注力すべきだ。同時に、加工、精錬、およびオフテイク(offtake、生産物の引き取り)に関する取り決めを支援し、ヴァリューチェインのより多くの部分を西半球内に留めるようにすべきである。目指すべきは単なる原材料の確保ではなく、中国が支配する加工・物流への依存を低減させる、強靭な鉱物サプライチェインの構築である。

第四に、アメリカは西半球におけるエネルギーの強靭性を戦略的優先事項と位置づけるべきである。中国の国営・政府系企業は、西半球全域で送電、再生可能エネルギー、石油生産、および広範なエネルギーインフラへの投資を拡大してきた。例えばペルーのリマでは、中国企業が発電、送電、配電の各システムにおいて支配的な地位を占めている。

これらのプロジェクトの多くは、個々に見れば商業的に合理的であるかもしれないが、それらが複合的に組み合わさることで、国家の強靭性や長期的な経済発展にとって極めて重要な分野における中国の関与を深めることになっている。

第五に、アメリカは西半球全域における宇宙関連およびデュアルユース(dual-use、軍民両用)のインフラに対し、より一層の注意を払う必要がある。衛星システム、航空宇宙分野での協力、人工知能(AI)、高度な通信技術に関連する中国の投資は、正当な商業目的を支えるものであると同時に、中国による戦略的なアクセスや情報収集能力を拡大させる可能性も秘めている。

アルゼンチンのネウケンにある中国運営の深宇宙探査施設は、こうしたプロジェクトの多くを取り巻く不透明さを象徴する事例である。表向きは民生用とされているものの、この施設の透明性の欠如や、中国の軍事関連宇宙機関とのつながりは、アメリカや地域の当局者の間で根強い懸念を招いている。

ラテンアメリカにおける米中間競争は、本質的にイデオロギー的なものではなく、構造的なものだ。アメリカはこの地域に対し、長きにわたり「放置(neglect)」と「過剰な警戒(alarmism)」の間で揺れ動いてきた。そのアプローチは一貫性を欠いており、中国の活動のほぼ全てを脅威と見なす一方で、信頼に足るアメリカの経済的代替案を十分に提示できていない。こうした戦略は、中国の国家運営のあり方や、ラテンアメリカの各国政府が直面している経済・開発上の切迫した課題を誤解している。

例えば、ボゴタで建設中の中国製地下鉄システムを見てみよう。アメリカはこのプロジェクトを地政学的な競争という観点から捉えてきた。しかし、このプロジェクトと中国との関わりが、西半球の勢力均衡を決定づける可能性は低いと言える。ワシントンは、こうした個別の商業的案件を戦略的な勝利であるかのように扱う一方で、長期的により大きな影響を及ぼす分野を疎かにすることも多い。

アメリカは、中国が支援する象徴的なインフラ・プロジェクトを阻止することに固執するのではなく、長期的な戦略的強靭さを形作る分野において、より積極的に競争を展開すべきだ。

西半球における中国の優位性は、単にコストの低さやインフラ建設のスピードに由来するものではない。それは、中国政府が長期的な地政学的目標の達成に向けて、金融、外交、産業政策、そして企業活動を一体化させる能力を持っていることに起因している。アメリカが中国の国家資本主義モデル(state-capitalist model)を模倣する必要はないが、国家安全保障上、戦略的に重要な意味を持つ分野でアメリカ企業が競争できるよう促すための、組織的かつ統合された枠組みは必要だ。

この戦略的な置換には必然的に制約が伴う。ブラジル、メキシコ、コロンビア、チリといった国々は、大国間競争の受動的な競技場(passive arenas)ではない。それらの国々は独自の国益や開発の優先順位、そして「戦略的自律性(strategic autonomy)」に対する独自の考え方を持っている。ラテンアメリカ諸国の政府の多くは、二者択一的な地政学的陣営への参加を強いるように見えたり、アメリカの「パターナリズム(paternalism、父権的干渉主義)」に対する懸念を再燃させたりするような枠組みには抵抗感を示している。

例えば、ブラジルは、北京とワシントンの双方と多角的なパートナーシップを追求する、自立したグローバルな主体としての自意識を強めている。中国はブラジルにとって最大の貿易相手国であり、農業、エネルギー、インフラ、技術といった各分野における主要な投資国でもある。

南アメリカの多くの国でも同様の状況が見られる。中国を全面的に排除することを軸にしたアメリカの戦略は、政治的にも経済的にも失敗に終わるだろう。さらに、中国が戦略的な足場を簡単に明け渡すことはない。中国はこの地域全体で、長年にわたり商業関係の構築、金融面での依存関係の形成、外交的影響力の拡大、そして制度的なプレゼンスの確立に投資を続けてきたからだ。

アメリカ企業がラテンアメリカの重要分野でより効果的に競争できるよう望むのであれば、ワシントンはこの地域への長期投資に伴う財務的・政治的リスクを低減させる必要がある。つまり、民間部門の関与を促進するために、アメリカ国際開発金融公社(the U.S. International Development Finance CorporationUSIDFC)や輸出入銀行(the Export-Import Bank)、その他の公的金融メカニズムといった機関をより積極的に活用すべきだ。

何よりも重要なのは、アメリカが真剣かつ一貫した姿勢で、経済面からこの地域との関わりを再構築することだ。ラテンアメリカの多くの国において中国の影響力が拡大したのは、アメリカが不在であったり、対応に一貫性がなかったり、あるいは地域へのアプローチにおいて安全保障上の懸念を過度に重視しすぎたりしたためだった。この地域の国々は、地政学的な争いの場となることを望んではいない。彼らが求めているのは、投資(investment)、近代化(modernization)、そして信頼できる長期的なパートナーシップ(reliable long-term partnerships)だ。

ラテンアメリカおよびカリブ海地域において、アメリカは依然として中国に対して圧倒的な優位性を保っている。地理的な近接性、深い文化的つながり、教育ネットワーク、民間部門の技術革新、金融の厚み、そして長年にわたる民主政治体制に基づくパートナーシップなどがその強みだ。こうした優位性を活かすには、単なる反応的なレトリック(rhetoric)ではなく、競争力のある国家統治術(statecraft)が求められる。

※ブライアン・フォンセカ:フロリダ国際大学の国防・国家安全保障研究担当副アカデミック責任者(provost)兼ジャック・D・ゴードン公共政策研究所所長。ワシントンDCを拠点とするシンクタンク「ニュー・アメリカ」国際安全保障フェロー。Xアカウント:@BrianPFonseca

(貼り付け終わり)

(終わり)

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世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理

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 古村治彦です。

 イラン戦争はアメリカとイスラエルの失敗(敗北)という評価で定まっている。そのために犠牲になった人々のことを思うとやりきれない気持ちになり、ご冥福をお祈りすることしかできない。人間はなんと愚かであろうかということを認識するとともに、ドナルド・トランプとベンヤミン・ネタニヤフの誤った判断に関しては、政治指導者としてそれ相応の責任を負わせることが必要だ。

 今回のイラン戦争に関して中国は表舞台で目立った活動はしていない。米中首脳会談やイランのアッバース・アラグチ外相の訪中があり、そこでイラン戦争について議論されたことはあるだろうし、アメリカとイランによる和平交渉実現には、パキスタンが仲介国として大きな役割を果たしたが、同時に裏方として中国がサポートをしたことは知られている。
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 また、アメリカがイラン戦争で失敗することで、相対的に中国が成功を収めることになっている。それは、中東地域におけるアメリカの存在感と影響力が低下しており、イラン戦争がそれに拍車をかけることになっているからだ。中東地域はイランを除いて、親米の国々ばかりであり、石油取引は米ドルのみで行うというペトロダラー体制によってウィンウィン関係になっていた。しかし、世界経済で少しずつであるが「脱ドル化(dedollarization)」の動きが始まっている。サウジアラビアは中国向けの石油取引で人民元での取引を行うようになっているのはその一例だ。

 下記論考にある通り、中国は「棚ぼた(windfall)」で相対的な成功を収めている。そして、イラン戦争は、国際政治の構造に大きな影響を与える。それは、アメリカへの信頼性の低下によって、アメリカの世界支配の終焉を早めるということになる。アメリカとイスラエルが大規模攻撃を行ったことで始まったイラン戦争であり、和平となるためには、アメリカとイスラエルがイランの提示する条件を受け入れることが基本となる。もちろん核開発に関しては国際的に受け入れがたいものはあるが、賠償やホルムズ海峡の管理については、イランの条件を受け入れるべきということになる。アメリカはイランに対して、再度の大規模攻撃がしにくい状況であり、イラン側としてはある程度交渉を引き延ばして、アメリカの苦境を長引かせることも可能となる。そうなると、アメリカへの信頼性も揺らぎ、同盟関係が変化していくことになる。そうなれば、相対的に中国の存在感と信頼性が高まることになる。

 私はトランプ大統領を「アメリカの世界支配を終わらせる墓掘り人」と表現したことがある。しかし、それは、アメリカの内向き志向をさらに強めるという意味であった。まさか、海外への介入で大きな失敗をして、アメリカの衰退を加速させる役割を果たすとは思っていなかった。しかし、現実にはトランプはそのような役割を果たしている。「敵に塩を送る」どころではない、利敵行為ということになる。

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イラン戦争は中国への「贈り物」だ(The Iran War Is a Gift to China

-一発の銃弾も撃つことなく、中国は湾岸地域における行動の自由を拡大し、自国産業の促進と新たな信頼を手に入れた。

ファリード・ザカリア筆

2026年7月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/17/iran-war-china-benefit-united-states-energy-economics-geopolitics-trump-xi/

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北京のショッピングモールの屋外大型スクリーンに映し出された世界人工知能大会の開会式で演説する中国の習近平国家主席(7月17日)

イランとの戦闘が激化と沈静化(blows un and cools down)を繰り返す中、1つの傾向が明らかになっている。それは、この紛争から最大の利益を得ているのが中国ということだ。

中国は一発の銃弾を撃つ必要もなく、巨額の資金を投じる必要もなく、政治的資本を費やす必要なかった。しかし、過去30年間でどの危機よりも多くのものをこの事態から得ている。この紛争は、中国が長年掲げてきた3つの目標の実現を加速させた。すなわち、アメリカへの依存度が低い中東地域の実現、中国の重要技術への依存度が高い世界、そして真剣かつ安定した世界大国としての中国の評価の確立(a Middle East less dependent on America; a world more dependent on critical Chinese technology; and a reputation for Beijing as a serious and steady world power)だ。

中国政府は、中東地域における軍事的な安全保障の保証者としてアメリカに取って代わろうとはしていない。そうした役割には多大なコストを伴う関与が必要だからだ。中国の狙いはもっと単純かつ巧妙なものだ。それは、ペルシア湾岸諸国をアメリカの影響圏からある程度引き離すことにある。そして、ドナルド・トランプ大統領が、中国の習近平国家主席のためにその役割の多くを担ってくれている。

アメリカのペルシア湾岸の同盟諸国は、アメリカが混乱したやり方でこの戦争を遂行し、現地の都市やインフラ、経済に及ぶ被害をほとんど顧みない様子を目の当たりにしてきた。現在、ペルシア湾岸地域は2つの陣営に分かれつつある。アラブ首長国連邦(UAE)はイスラエルやアメリカとの関係を深めている。しかし、サウジアラビアを筆頭に、カタール、オマーン、さらにはイラクやトルコを含むより大きなグループは、バランスを取ることで長期的な安全を確保しようとするだろう。つまり、アメリカとの関係を維持しつつ、イランとの対話や中国との関係改善も図るということである。

これこそが、北京が志向してきた地域秩序そのものだ。2023年、中国はサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介した。それ以来、サウジアラビアはアメリカ主導のデータセンターや半導体関連のプロジェクトへの参加を見送ってきた。サウジアラビアは中国製のミサイルやドローンを購入し、中国海軍との合同演習を実施したほか、戦闘ドローン「翼竜(Wing Loong)」の現地生産についても検討を進めている。2016年から2025年にかけて、中国から中東地域への防衛関連輸出の80%以上をペルシア湾岸諸国が占めた。アメリカの安全保障の枠組みに取って代わろうとする国は存在しないが、各国は選択肢を求めており、選択肢が増えることはアメリカの影響力を低下させることになる。

中国にとってより大きな成果と言えるのは地形学分野での勝利だ。一見すると、石油の約7割を輸入に頼る中国は、この戦争による最大の敗者の1人になるはずだった。しかし、長年にわたる備えのおかげで、中国はこの衝撃を他国の多くよりも巧みに乗り切った。中国は供給源を多角化し、世界最大級と推定される石油備蓄を構築し、石炭の利用を継続し、原子力発電を拡大するとともに、他の主要国が追随できない規模で経済分野における電化を進めてきた。

現在、中国のエネルギー消費に占める電力の割合は約30%に達しており、これはアメリカやヨーロッパを4割近く上回る水準だ。2024年には、世界で新たに導入された風力および太陽光発電設備の半分以上を中国が占めるまでになった。こうした要因が重なり、中国は戦時中、石油の輸入量を日量約400万バレル削減することができた。

イラン戦争は、中国の重要技術にとって巨大な宣伝の場となっている。世界各国の政府が、太陽光発電、蓄電池、風力タービン、電気自動車(EV)、送電網の整備を進めようとしている。中国は世界の太陽光パネル製造能力の約91%、リチウムイオン電池製造能力の約89%を掌握している。ブルームバーグが追跡調査しているクリーンエネルギー関連技術のほぼ全てにおいて、中国企業が少なくとも70%の製造を担っている。エネルギー供給への不安が長引くほど、世界は中国が支配的な地位にある産業への依存を強めることになるだろう。

また、この戦争は中国の重要な目標である「世界貿易における米ドルの支配力の弱体化(weakening the dollar’s hold over global commerce)」を後押ししている。報道によれば、イランはホルムズ海峡を通過する一部のタンカーに対し、取引を中国の人民元[renminbi](または暗号通貨[cryptocurrency])で決済することを条件に許可を与えた。中国とそのパートナー国は、アメリカの制裁によるリスクを低減するため、人民元建ての貿易を事実上拡大させている。移行は緩やかなものとなるだろうが、米ドル支配からの脱却という傾向は今や明白となっている。

最後に、評判の面での「棚ぼた(windfall)」とも言える利益がある。ドナルド・トランプ政権は、体制転換(regime change)、イランの核開発計画の破棄、弾道ミサイル能力および地域内の代理勢力への支援の終了といった壮大な目標を掲げてこの戦争に臨んだ。しかし、そのいずれも恒久的な成果としては達成できていない。それどころか今や、事態が始まる前から開かれていたホルムズ海峡を単に開放することさえも希望するような状況になっている。

トランプ大統領はこの対立を選び取った結果、数百億ドルを費やし、アメリカの弾薬を浪費し、アジアから軍事資産を転用し、同盟諸国を動揺させた。そして、アメリカの圧倒的な力をもってしても、誤った戦略と一貫性のない戦術では悪い結果しか生まないことを露呈させた。

一方、中国の動きは極めて限定的だ。イラン産原油の購入を続け、湾岸諸国との関係を維持しながら、イランの防衛や湾岸地域の警備に伴うコストは回避した。これこそ北京が志向するアプローチであり、劇的な対立を避け、着実に影響力を蓄積していく方法だ。

過去25年間、アメリカが中東地域での3つの大規模な軍事介入で疲弊する一方で、中国は製造業の力、技術力、そして外交関係を蓄積してきた。ワシントンが行動するのに対し、北京は機会を待つという姿勢を取った。もちろん、中国もエネルギー価格の高騰、サプライチェインの混乱、世界的な需要の減退といった形で、この対立による代償を支払っている。

しかし、力とは常に相対的なものだ。アメリカの目標、同盟関係、そして信頼性が受けた損害と比較すれば、中国は優位に立ったと言えるだろう。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 19世紀、インド植民地化を進めた大英帝国と南下政策でインド洋を目指したロシア帝国はアフガニスタンをめぐり衝突した。このことをチェスに例えて、「グランド・チェスボード(Grand Chessboard)」、「グレイト・ゲーム(Great Game)」と呼んだ。中央アジアと呼ばれる地域は諸大国の進出を招く地域である。現在もまたそうである。現在は、レアアースをめぐり、アメリカ、中国、EUが進出をしている。
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 アメリカやEUは中央アジア5カ国との関係を深めようとしている。中国は一帯一路計画を策定し、ユーラシア大陸全体の協力関係を構築しようとしている。諸大国が狙っているのはレアアースだ。中央アジア諸国はレアアースを多く埋蔵している。レアアースを制する者が21世紀世界を制するということで、諸大国は中央アジアへの進出を進めている。

 しかし、中央アジアに関しては中国に一日(いちじつ)の長がある。中国は多層的な国際的枠組みに中央アジアを組み込んでいる。それが上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)であり、一対一路構想(the Belt and Road InitiativeBRI)である。また、BRICSにはオブザーバー国としてウズベキスタンとカザフスタンが参加している。
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 中国は、中央アジア諸国との間で、多層的な国際的枠組みを通じて、多くの分野での協力関係を深化させている。欧米諸国は、「レアアースを中国が支配している」と主張し、警戒し、中国を排除しようと躍起になっているが、それならば、中央アジア諸国にはレアアースや重要な天然資源が多く埋蔵されているということが分かっていたのだから、そのために時間をかけて、努力を傾けて、中央アジア諸国との協力関係を構築してきたのかということになる。欧米諸国が「札束で頬を叩けば尻尾を振ってなびいてくる」という考えでいる場合、中国を出し抜いて中央アジアでの勝負に勝つということは不可能である。

 欧米諸国が遅ればせながら、様々な形で協力関係を構築しようとしている。「●●パートナーシップ協定」というものをいくつも締結している。しかし、既に中国ががっちりと固めている中で、この牙城を崩すことは非常に難しい。中央アジア諸国はロシアとの関係も深いということもポイントになる。21世紀のグレイト・ゲームは今のところ、中国とロシアに軍配が上がりそうである。

(貼り付けはじめ)

中央アジアで新たな「グレイト・ゲーム」が進められている(A New Great Game Is Underway in Central Asia

-世界の諸大国は重要鉱物を求めて新たな争奪戦を繰り広げている。

ジョヴァンニ・レゴラノ筆

2026年7月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/20/great-game-central-asia-rare-earths/?tpcc=recirc_trending062921

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タジキスタン西部のサリタグ鉱山にある露天掘り現場でタジキスタンと中国の合弁鉱業会社「タルコ・ゴールド(Talco Gold)」の作業員たちがアンティモンを採掘している(2025年8月26日)

2026年2月中旬、アメリカ政府はウズベキスタンとの間で、ウズベキスタンが保有する重要鉱物へのアクセスを拡大するための合意を締結した。アメリカ国際開発金融公社(the U.S. International Development Finance CorpDFC)とウズベキスタン(中央アジアで最多の人口を擁する国)との間のこの「共同投資枠組み(the Joint Investment Framework)」は、探査、採掘、加工を含む重要鉱物のバリューチェイン全体にわたる投資を優先させることで、両国間の協力を推進することを目指すものである。DFCが「歴史的」と評したこの合意には、将来の鉱物およびインフラ・プロジェクトを担う「アメリカ・ウズベキスタン共同投資持株会社(U.S.-Uzbekistan Joint Investment Holding Co.)」の設立案も盛り込まれた。

この動きは、トランプの政権復帰以来、アメリカが中央アジアの旧ソ連5カ国への働きかけを強め、ロシアが長年支配し、近年では中国が主導的役割を果たそうと躍起になっているこの資源豊富な地域において、アメリカの影響力を拡大しようと取り組んできた成果である。

しかし、中央アジア諸国への接近を図っているのはアメリカだけではない。この地域におけるロシアの伝統的な存在感が中国に取って代わられる形で後退する一方で、欧州連合(European UnionEU)やイギリスもこの地域との関係を強化しており、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国もまた、この分野で重要なビジネス・パートナーシップを築いている。

経済協力開発機構(the Organization for Economic Cooperation and DevelopmentOECD)でグローバル関係・協力担当副局長を務めるカリム・ダウは、19世紀の大半を通じてイギリスとロシアの帝国がこの地域を巡って繰り広げた政治的・外交的対立に言及し、「まるで『グレイト・ゲーム(Great Game)』のようだ」と語った。ダウは「資源確保をめぐる世界的な競争の中で、この地域の鉱物資源を巡る激しい争奪戦が起きている」とも語った。中央アジアは、埋蔵量は豊富ながら未開発のままとなっているレアアース(希土類)をはじめとする重要原材料の争奪戦において、主要な舞台として浮上している。

これらの国々への進出を大きく進めてきた中国は現在、こうした資源の供給および精製の双方において世界を圧倒する存在となっている。例えば、国際エネルギー機関(the International Energy AgencyIEA)の「2025年重要鉱物見通し(2025 critical minerals outlook)」によれば、中国は硫酸マンガンやリン酸といった重要鉱物のサプライチェインを支配している。また、中国は精製分野でも主導的な地位にあり、IEAの報告書で分析された20種類の重要な戦略的鉱物のうち19種類において、平均で約70%の市場シェアを握っている。

こうした状況を背景に、世界の主要経済国は、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンといった国々が抱える莫大な資源の獲得を競い合っている。OECDによると、中央アジアは世界のマンガン鉱石埋蔵量の39%、クロムの31%、鉛の20%、亜鉛の13%、ティタンの9%、アルミニウムの6%、銅の5%、コバルトの5%、モリブデンの5%を保有している。

カザフスタンは、ヨーロッパ連合(EU)が重要物資と指定した34種類の原材料のうち21種類を輸出可能となっている。キルギスは世界第3位のアンティモン埋蔵量を、ウズベキスタンは世界第11位の銅埋蔵量をそれぞれ有している。ウズベキスタンはすでに、リチウムおよびモリブデンの生産に向けた開発に着手している。

これらの素材は、太陽光パネルや風力タービンから蓄電システムに至る幅広いクリーンエネルギー技術に加え、デジタル技術や防衛技術にとっても不可欠だ。その結果、これらの元素に対する需要は今後大幅に拡大すると見込まれている。例えば、国連貿易開発会議(the United Nations Conference on Trade and DevelopmentUNCTAD)は最近、リチウムと黒鉛の需要が2040年までにそれぞれ353%、131%増加すると予測した。

2026年2月の合意に先立ち、トランプは昨年11月、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの首脳をワシントンに招き、重要鉱物をめぐるパートナーシップについて協議を行った。その後、アメリカは鉱物に関するサミットを開催し、その結果、ウズベキスタンを含む11カ国との間で、重要鉱物の供給に関する初期段階の覚書(memorandums of understandingMOU)が締結された。

これと並行して、EUも中央アジア地域との関係強化に向けた取り組みを再活性化させた。昨年11月下旬にウズベキスタンで開催された第3回EU・中央アジア経済フォーラムでは、6つの主要な合意が成立した。これには、民間投資を呼び込むための地質データの近代化や、重要原材料の透明性の高いサプライチェイン構築に向けたプロジェクトへの資金提供が含まれる。さらに、中央アジア全域におけるこれらの鉱物の持続可能な採掘開発に向け、EUとヨーロッパ復興開発銀行(the European Bank for Reconstruction and DevelopmentEBRD)との間で300万ユーロ(約340万ドル)規模の協定も結ばれた。

2026年6月には、サウジアラビアとカザフスタンが、鉱業分野での協力強化、鉱物探査や関連技術に関する知見の共有、共同での鉱業投資の促進を目的とした覚書に署名した。一方、ロシアは、自国の勢力圏とみなす中央アジアにおいて、アメリカやEUがレアアースや重要鉱物の確保に向けた動きを強めていることに懸念を表明している。特に、中国も中央アジア地域への関心を高めている中でのこうした動きを警戒している。

ロシアのミハイル・ガルージン外務次官は2026年5月、「ワシントンが重要鉱物やレアアース(希土類)をめぐる協定の締結を強力に推進していることを懸念している」と述べた。「これは単なる経済競争の問題ではなく、ロシアを排除し、私たちの国境のすぐ近くに西側諸国が主導するインフラを構築しようとする試みなのである」。

中央アジア地域の鉱物資源に対する関心の高まりは、一般的に、これらの国々にとって経済成長を促進し、経済の多角化を図る好機と捉えられている。しかし、こうした資源の開発にはいくつかの課題も伴う。 OECDは2026年3月の報告書の中で、「独立以来、地質調査が行われていないことや、旧態依然とした埋蔵量報告システムが使用されていることから、潜在的な投資家は資源の賦存量に関する信頼性の高い最新のデータを入手できずにいる。また、この資源セクターにおける国内国有企業の優位性や、過去に外国の投資家との間で生じた紛争も、投資意欲を削ぐ要因となっている」と指摘した。

OECDは3月の報告書の中で、「独立以来、地質調査が十分に行われてこなかったことや、旧態依然とした埋蔵量報告システムが使用されていることから、潜在的な投資家は資源の賦存量に関する信頼できる最新のデータを入手できずにいる。また、この資源セクターにおける国内国有企業の優位性や、過去に外国投資家との間で生じた紛争も、投資意欲を削ぐ要因となっている」と指摘した。

コンサルティング会社「アウトポスト・ユーラシア(Outpost Eurasia)」の上級アナリストであるアルジャン・メイルハノワは、探査活動の近代化が極めて重要な第一歩であると述べた。メイルハノワは「地質マッピングへの人工知能(AI)の活用やデータのデジタル化といった先端技術の導入において、外国からの技術支援を受けることは、現地の能力を構築しつつ資源管理を改善する助けとなるだろう」と語った。さらに彼女は、外国からの投資には、技術移転や現地での一定程度の加工能力の確立といった「開発上の利益(developmental dividends、ディベロップメンタル・ディビデンド)」が伴うべきだと付け加えた。

中央アジア諸国が直面する重要な課題は、重要鉱物ビジネスが経済成長の原動力となるか、それとも世界の大国や富裕国への依存を永続させるものとなるか、という点にある。「新興国において、重要鉱物の採掘は、コモディティ(commodity、一次産品)への依存を悪化させ、環境破壊を招き、社会経済的な不平等を拡大させる恐れがある」とメイルハノワは指摘する。「投資が資源の採掘のみに集中し続ければ、中央アジアもこうした落とし穴に陥るリスクがある」。

世界各国がこの分野における中国の圧倒的な支配力に対抗しようとする中、中国自身は比較的高いレヴェルの自給自足体制を維持している。しかし、ハーグ研究所(Hague Research Institute)の最近の報告書によれば、中国もまた、特にレアアース(希土類)に関して、差し迫った課題に直面している。

競合する大国による「脱中国(away from China)」的なサプライチェイン再構築の動きに加え、資源の枯渇や世界的な技術競争の激化といった問題にも直面している。こうした課題への解決策の1つとして考えられるのが、中央アジアのような主要な新興地域との間で、安定的かつ戦略的なパートナーシップを確立することである。ハーグ研究所の報告書の執筆者たちは、中国とカザフスタンがウラン採掘で採用した既存のモデルを基盤としつつ、探査・採掘から分離・精製、さらには高度な製造に至るまで、垂直統合型産業(vertically integrated industries)の構築を支援する形で中国が協力できるのではないかと主張している。

この報告書によると、中国のアプローチは、短期的な株主価値の最大化や規制リスクの回避を優先しがちな欧米の資源企業の姿勢とは対照的だ。中国は中央アジア諸国と連携し、採掘から中流工程(加工)、下流工程(最終製品への応用)までを統合した産業モデルを構築する可能性がある。「中国の二国間協定には、技術移転、職業訓練、インフラ投資といった要素が盛り込まれることが多く、協力関係は単なる資源採掘の取引ではなく、開発プロジェクトとして位置づけられている」と報告書は指摘している。

欧米諸国が中国への依存脱却を模索する動きの一環として、トランプ政権は先月フランスで開催されたG7サミットにおいて、重要鉱物を対象とした欧米の貿易圏を構築し、それらの価格に協調的な「価格下限(price floors)」を設けるという提案を再び持ち出した。現在、これらの鉱物は一般的に透明性の低い相対取引(over the counterOTC)で行われており、その価格は中国の市場価格に連動している。中国が圧倒的な生産シェアを誇るため、中国の価格が世界市場の指標となる傾向がある。

この計画に対し、EU(当局者は貿易圏の将来的なガヴァナンスなど、提案のいくつかの側面について懸念を表明)や、価格規制に警戒感を示す鉱業企業からは慎重な反応が示された。有力企業や鉱業関連団体の中には、価格設定を行うことに反対する意見も出た。サミットの閉幕に際し、G7諸国は重要鉱物における中国への依存低減に向けて連携することで合意し、データ共有のための新たなプラットフォームの立ち上げや、共同備蓄の強化を進める方針を打ち出した。

つまり、中央アジアは今後も、こうした鉱物資源の調達をめぐる競争の中心であり続けると見られる。そして、ここ数年で中央アジア地域との間に築かれた数多くのパートナーシップに続き、今後さらに多くの連携が生まれることになるだろう。

※ジョヴァンニ・レゴラノ:イタリアを拠点とするジャーナリスト

(貼り付け終わり)

(終わり)



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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 石油以外の資源を豊富に持つ国々の存在感と重要性が増している。鉱物資源、特にレアアースは獲得競争状態になっている中で、先進諸国は資源確保に向けて、資源を多く持つ国々に働きかけを行っている。中国は東南アジア、南米、アフリカにいち早く進出し、資源のサプライチェインを構築し、主導権を握っている。欧米の先進諸国は「旧宗主国」という意識がどうしてもぬぐえず、これらの国々から警戒されてしまっている。それは、大航海時代から植民地として過酷な搾取をされてきた歴史があるからだ。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領は資源確保に躍起になっている。ヴェネズエラ攻撃もそしてイラン攻撃も石油資源確保がその理由にあるという分析もある。ドンロー主義による、西半球(Western Hemisphere)の支配、南北アメリカ大陸の支配には、資源確保と資源の支配を目論んでいる。ブラジルは南米の地域大国であり、同時に鉄鉱石などの資源を持つ資源大国である。アメリカはブラジルとの関係を強化しようとしているが、うまくいっていない。ブラジルはBRICSの一角であり、アメリカの支配に唯々諾々と従うことはない。

 このブログで以前にインドネシアについてご紹介したが、インドネシアは資源大国である。ニッケルや天然ガスを多く産出している。インドネシアはただそれらの天然資源を採掘し、輸出するということではなく、それらの加工、精錬を自国で行うというモデルを構築した。これが他の資源諸国を刺激している。他の国々も自国での加工を行おうという動きに出ている。しかし、それには資金や技術、そして安定した政府やインフラが必要となる。インドネシアのように進めるのは難しい。こうした動きをサポートしているのは中国だ。

 欧米の先進諸国は天然資源のサプライチェインを中国が握っていることに危機感を持っている。それは自分たちが「支配」し「搾取」できないということが明らかになっているからだ。適当に援助と結びつけて、安い金で買い叩けばよいということが通じなくなっている。これまで数百年、西洋の先進諸国はそれ以外の地域の国々を搾取し、大きな利益を上げてきた。しかし、BRICSという枠組みが西洋諸国への対抗軸として出現し、中国が主導して、サプライチェインを構築した。先進諸国は「正当な」対価を支払うことを求められるようになったことを「中国が支配する不安」と言い換えている。自分たちが搾取できないことを「不満」に思っている。しかし、世界は変わりつつある。資源大国は協力し合いながら、自分たちの正当な利益を確保する。その流れは止められない。

(貼り付けはじめ)

世界の鉱物資源大国が好機を掴む(The World’s Mineral Powers Seize Their Moment

-資源国はこれまで必ずしも資源採掘の恩恵を享受できてこなかった。今回は状況が違うのだろうか?

クリスティーナ・ルー筆

2026年6月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/02/critical-mineral-trade-trump-china-supply-chain-africa-latin-america/

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インドネシア南東スラウェシ州ノース・コナウェの鉱山でニッケル鉱石を積んだダンプカーを捉えた航空写真(2023年8月3日)

重要鉱物をめぐる世界的なブームに巨額の資金が投じられている。これらの資源が「貿易兵器(trade weapons)」として利用される場面が増え、各国がサプライチェイン(供給網)の脆弱性を解消しようと躍起になっていることがその理由として挙げられる。

そして、資源所有諸国もまた、この好機を最大限に活かそうと熱心に活動している。

ジョー・バイデン政権でエネルギー資源担当の国務次官補を務めたジェフリー・パイアットは、資源産出国は「この瞬間を最大限に利用したい(to take maximum advantage of this moment)」と考えていると指摘している。

コンゴ民主共和国、ボリヴィア、南アフリカといった世界の主要な資源諸国にとって、これはあまりにも馴染み深い展開だ。これらの国々は過去にも資源開発への関心が集中した経験があり、資源採掘や搾取(extraction and exploitation)にまつわる複雑で困難な歴史を経験してきた。

バラク・オバマ政権下で米国務省初のチーフ・エコノミストを務め、現在は外交問題評議会(CFR)に所属するハイディ・クレボ=レディカーは、「資源国はこれまで、資源を吸い上げられるだけの存在として利用されてきた」と述べている。クレボ=レディカーによれば、多くの国が「何十年にもわたる資源採掘の恩恵を享受できていない(have not seen the benefits of the extraction of many resources over many decades)」のが現状だ。

資源諸国は、今回こそは、その利益を自らのものにしたいと考えている。

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ベルギー領コンゴ(現コンゴ民主共和国)のカタンガ地方にある鉱山の写真(1960年)

重要鉱物はかつて外交政策の分野で片隅に追いやられていたが、今や貿易戦争(trade wars)や、トランプ政権の露骨な取引重視の外交姿勢を追い風にして脚光を浴びている。

ドナルド・トランプ米大統領は、ウクライナから日本に至るまで新たな取引を求めて世界を奔走する中で、鉱物資源確保への野心を隠そうとはしていない。アメリカの優先事項を明確に示す動きとして、今年初め、マルコ・ルビオ米国務長官は史上初となる重要鉱物に関する閣僚級会合を招集した。この会合でアメリカ政府高官たちは、50カ国以上の代表者に対し、世界規模の鉱物貿易圏(a global minerals trading bloc)の構築を働きかけた。

これらの資源が世界的に極めて重要な安全保障上の課題とみなされるようになるにつれ、鉱物資源確保に総力を挙げているのはアメリカだけではなくなっている。こうした関心の高まりは、鉱物資源に恵まれた国々から歓迎されている。彼らは「資源ナショナリズム(resource nationalism)」の波に乗じ、高まる地政学的影響力を利用して、自国の戦略的産業に対する支配力を強めようと躍起になっているからだ。

『チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト(China-Global South Project)』編集長エリック・オランダーは次のように語っている。「発展途上国は、こうした様々な大国と関わりを持とうと躍起になっている。重要な問いは、『実際に物事を成し遂げるのは誰か?』ということだ」。

その問いに対する答えは長らく中国であった。中国はこの分野に数十年にわたり資源と投資を注ぎ込み、今や世界の鉱物サプライチェインを強力に支配する地位を確立しているからだ。ウィリアム・アンド・メアリー大学の調査機関「エイドデータ(AidData)」によれば、中国は20年以上にわたり47カ国での採掘・加工事業に約980億ドルを投じており、世界の重要鉱物プロジェクトにおける最大の資金提供者となっている。

「中国は、金融、政府系保険、そして実際に事業を遂行できる政府系鉱業会社からなるエコシステム(経済圏)を構築していることを証明してきた」とオランダーは指摘している。

しかし現在、提示される案件は増える一方であり、単一の取引相手に縛られたいと考える者は誰もいない。

特にトランプとの交渉において、各国政府は、自国の豊富な鉱物資源を「切り札」にすることで、トランプの歓心を買ったり、投資を引き出したりできることを学んだ。さらに選挙という要素も加わり、各国政府は、資源の富や外国からの関心を活用して、国内での政治的成果につなげることへの関心を一層強めている。

こうした背景のもと、トランプ政権はコンゴ民主共和国を含む世界各地で取引を模索してきた。アメリカはコンゴ民主共和国との和平合意の仲介役を務め、その合意によってアメリカ企業は鉱物資源へのアクセスを得ることになった。(一方、ワシントンは、コンゴのフェリックス・チセケディ大統領が任期制限である2期を越えて、3期目を目指す動きを見せているにもかかわらず、沈黙を守っている。批判派はこれを露骨な権力掌握だと非難している。)

「アメリカが重要な鉱物資源へのアクセスを確保できる限り、トランプ政権にとって他のことは何も重要ではない」と『チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト』のアフリカ担当編集者クリスチャン=ジェロー・ニーマは述べている。

しかし、トランプの取引的なアプローチは必ずしも支持を得てきてはいない。最も激しい対立を生んだ事例の1つとして、先月、アメリカとザンビア間の協議が決裂した。ザンビア側は、トランプ政権が保健援助の条件として鉱物資源へのアクセスを求めていると非難した。

ザンビアは銅の主要産地であり、ワシントンが中国の「一帯一路」構想(China’s Belt and Road Initiative)への対抗策として長年推進してきた広大な鉄道プロジェクトである「ロビト回廊(the Lobito Corridor)」の一部となっている。8月に選挙を控える中、ザンビア政府は2031年までに銅生産量を大幅に増加させるべく、海外からの投資を積極的に誘致していた。

しかし、当時のザンビア外相ムランボ・ハイムベは、6ページにわたる厳しい内容の声明の中で、ワシントンが鉱物資源への優遇アクセスを要求し、鉱物資源取引を約20億ドルの保健援助と結びつけていると非難した。

「ザンビア政府は第一に、ザンビア国民が自国の重要な鉱物資源の利用方法について発言権を持つべきであり、第二に、いかなる戦略的パートナーも他国より優遇されるべきではないという正当な見解を持っている」とハイムベ外相は述べた。

これに対し、アメリカ政府当局者は反論している。米国務省の報道官は『フォーリン・ポリシー』誌への電子メールを通じての回答で、「ザンビアに提案したものを含め、『アメリカ・ファースト・グローバル・ヘルス(America First Global Health)』に基づくどの覚書(MOU)にも重要鉱物に関する条項は含まれていない」と述べた。

この報道官はさらに、「ザンビアに提示された覚書案は、純粋にデータに基づく影響評価と説明責任の指標を基盤としており、ザンビアが外部からの保健医療支援への依存を減らせるよう、持続可能な医療インフラを構築することを目的としている」と付け加えた。「国務省は現在もザンビア政府当局と保健医療に関する覚書について協議を続けており、前向きな結果が得られると楽観視している」。

大西洋の反対側でも、アメリカはブラジルに対し重要鉱物協定の締結を働きかけてきたが、成果は上がっていない。南米に位置するブラジルは金採掘の長い歴史を持ち、世界第2位の埋蔵量を誇るレアアース(希土類)資源を擁しているが、ブラジル政府はこれまでその開発・活用を試みてきたものの、その多くは失敗に終わっている。

アメリカとブラジルは長年にわたり重要鉱物分野での協力について検討してきたが、トランプ政権はここ数カ月、協定締結に向けた圧力を強めていると報じられている。

しかし、『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によると、ブラジル政府当局は、中国よりも優先的に鉱物へのアクセス権をアメリカに与えることや、何らかの排他的な協定に署名することに対して、これまでのところ難色を示しているという。また、ブラジルはインド、韓国、日本、そしてヨーロッパ諸国とも鉱物分野での協力を模索しており、世界的な連携を拡大しようとする姿勢を明確にしている。

それでも、アメリカ企業は大きな進出を果たしている。USAレアアース社は最近、ブラジルの企業セラ・ヴェルデ(Serra Verde)を買収する28億ドル規模の契約を発表した。セラ・ヴェルデはレアアース鉱山と処理施設を所有している。この鉱山は、特に「重希土類(heavy rare earth)」が豊富であることで知られている。重希土類は、中国がアメリカとの最近の貿易摩擦において、その処理工程を支配していることを武器化して利用したまさにその資源だ。

USAレアアース社のバーバラ・ハンプトンCEO4月、外交専門誌『フォーリン・ポリシー』に対し、「ブラジルは、世界経済を動かすために中国以外から調達する必要がある重要物資の供給において、まさに要(かなめ)となる位置にある」と述べた。

今後、いくつかの障害が待ち受けている可能性もある。特に、ブラジルでは今年後半に選挙を控えているためだ。ブラジルの政治家たちは国家安全保障上の懸念を理由にこの取引に強く反対しており、ブラジルの独占禁止法担当当局も先月、この買収計画について調査を開始すると発表した。この調査には、アメリカ企業との15年間にわたるオフテイク契約(生産物全量引き取り契約)の条件に関する精査も含まれる。

USAレアアース社はコメントを拒んだ。

ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領の発言を見る限り、ブラジルは慎重な姿勢で進めているようだ。ルーラ大統領は3月、具体的な相手の名は挙げずに「彼ら」と呼び、次のように語った。「彼らは私たちのあらゆるものを奪った挙句、今度は私たちが持つ重要鉱物やレアアースまで所有しようとしている。彼らは私たちを再び植民地化しようとしている」。

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ワシントンのアメリカ平和研究所にて、ルワンダのポール・カガメ大統領(左)とコンゴのフェリックス・チセケディ大統領との和平合意調印式を主催し身振り手振りを交えて話すドナルド・トランプ米大統領(2025年12月4日)

地下に豊富な資源が眠っていることだけが経済の全てではない。ブラジル、ザンビア、コンゴのように鉱物資源に恵まれた国であっても、常に大きな課題となってきたのは、採掘された原鉱石を、世界中で需要の高い、より付加価値の高い加工素材へと転換することだ。そこで登場するのが中国だ。中国は、重要な鉱物資源のサプライチェインにおける加工工程(processing)を圧倒的に支配している。

しかし今や、資源豊富な国々は、単に原材料を輸出するだけでは満足していない。自国で加工も行いたいと考えている。しかしながら、その道のりは容易ではない。

外交問題評議会(CFR)の専門家であるクレボ=レディカーは次のように指摘している。「大きな課題の1つは、採掘事業を、その国自身により大きな利益をもたらすような形で構築できるかどうかという点だ。そして、さらに大きな問いは、それらの国々がヴァリューチェイン(価値連鎖)の上流へと段階的に移行できるか?、ということだ」。

インドネシアは数年前、加工・製造能力の構築と投資誘致の一環として、ニッケル原鉱の輸出禁止やその他の商品輸出規制を導入し、その「成功の作戦書(playbook)」を確立した。インドネシア政府は現在、さらに一歩踏み込んだ動きを見せており、商品輸出を一元管理し、戦略的分野への統制を強化する国営機関を設立する新たな計画を進めている。

他国もこの動きを注視している。コロンビア大学グローバル・エネルギー政策センター上級研究員ザイナブ・ウスマンによると、インドネシアの措置はアフリカ諸国政府の同様の動きを促すきっかけとなった。アフリカ諸国は現在、探査・採掘・鉱山開発といった段階にとどまらず、加工・精錬・製造といったヴァリューチェインの下流工程への投資を積極的に求めている。

ジンバブエは、未加工の鉱物およびリチウム精鉱の輸出を全面的に停止した。ガーナは2030年までに未加工の鉱石の輸出を停止する計画を立てている。モザンビークも、マリやブルキナファソと同様の措置として、鉱山プロジェクトへの国家の権益確保や鉱物輸出の制限を盛り込んだ法改正を検討している。

ウスマンは次のように述べている。「こうしたアフリカ諸国は今、これまでとは異なるやり方を採用することを決断している。彼らは、未加工の鉱石ではなく、加工・精錬された鉱物を輸出できるかどうかを模索している」。

しかし、大きな課題が立ちはだかっている。新たなサプライチェインを構築するには専門知識、技術、時間、そして継続的な資本が必要となる。コモディティ価格の激しい変動(これは周知の事実だ)や、適切なガヴァナンスおよび政治的安定性への懸念がある中で、長期的な投資を呼び込んだり、強靭なサプライチェインを構築したりすることは容易ではない。

過去の事例を見れば、鉱物資源による富を十分に活用することがいかに困難であるかが理解できる。ヴェネズエラから太平洋の島国ナウルに至るまで、多くの国が資源による富を経済成長の原動力に変えようと試みては失敗してきた。価格の乱高下、ずさんな管理、そして汚職によって、その産業が崩壊してしまったからだ。

この分野で機運が高まっているとはいえ、加工分野における中国の圧倒的な力に対抗するための即効性のある解決策は存在しない。また、アメリカやその他の国々が公約を最後まで実行に移すかどうかも不透明だ。

オランダーは次のように指摘する。「アメリカやヨーロッパは、ほぼ全ての取引において、採掘という側面にばかり目を向けている。精錬や加工といった側面についてはほとんど議論されていないが、そこは依然として、重要鉱物のサプライチェインの大部分を中国が強力に支配している領域である」。

さらに、地域社会が負担する代償という問題もある。鉱業は世界的に見ても極めて環境負荷の高い産業として知られており、汚染、環境破壊、安全上のリスク、そして死傷事故といった問題を長年にわたり引き起こし、世界各地で地域住民からの反発を招いてきた。

こうした反発によって、一部のプロジェクトが頓挫する事態も生じている。昨年、エクアドルでは数万人が街頭でデモを行い、あるカナダ企業による金採掘プロジェクトに抗議した。住民たちは、このプロジェクトが重要な水源に悪影響を及ぼすと主張した。こうした世論の圧力に押され、エクアドル政府は最終的に、その企業に対する環境認可を取り消す決定を下した。

『採掘:グリーン資本主義の最前線(Extraction: The Frontiers of Green Capitalism)』の著者で、プロヴィデンス・カレッジの政治学者であるテア・リオフランコスは、鉱業やそれに続く開発事業には「極めて甚大な環境的・社会的コスト(really intense environmental and social cost)」が伴うと指摘している。

しかし、世界的な資源獲得競争が加速する中、これらの国々の指導者たちは事業拡大に全力を注いでいるようだ。

戦略国際問題研究所(CSIS)で「重要鉱物安全保障プロジェクト(the Critical Minerals Security project)」ディレクターを務めるグレースリン・バスカランは次のように述べる。「アフリカやラテンアメリカの多くの国々にとって、雇用、インフラ投資、そして経済成長は不可欠なものであり、鉱物資源はその実現に向けた最良の手段となる」。

※クリスティーナ・ルー:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター。Blueskyアカウント:@christinalu.bsky.social Xアカウント:@christinafei

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アメリカの戦時資金準備完了(America’s War Chest in Waiting

-ワシントンが新たに手にした外交手段は2000億ドルの小切手だ。

クリス・ヒューズ筆

2026年1月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/12/united-states-war-venezuela-military-development-finance-corporation/

外国元首の拉致は戦争行為とみなされる可能性がある。ワシントンでは、これは交渉の口火を切るための布石となった。ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の劇的な拉致事件後、ドナルド・トランプ米大統領とその政権は、アメリカのエネルギー企業がヴェネズエラに再進出し、石油採掘を行い、企業の利益とヴェネズエラ政府の歳入を支えることを明確にした。石油・ガス業界の幹部たちは大規模投資に慎重な姿勢を示しているが、アメリカ政府は合意形成を促進する新たな手段を入手した。

先月、連邦議会は大規模な外国投資銀行設立に向けた準備を進めたが、この動きはほとんど報道されなかった。2025年12月に可決された2026年度国防権限法は、あまり知られていない開発金融公社(Development Finance CorporationDFC)に対し、アメリカの外交政策および国家安全保障上の利益に合致するプロジェクトを支援するため、最大2050億ドルの公的資金を投資する権限を与えた。対照的に、トランプ政権による予算削減以前の米国際開発庁(the U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)の予算は約350億ドルだった。

開発金融公社(DFC)は、トランプ政権初期に超党派の支持を得て設立され、新興国経済の発展を公的資金で加速させるという限定的な使命を担っていた。12月の再承認により、その任務は劇的に拡大され、開発金融はアメリカの外交政策を推進し、より広範な国家安全保障を強化するための、柔軟な国家戦略の手段へと変貌した。

この拡大は、まさに危機的な状況下で行われた。第二次ドナルド・トランプ政権は、公的権力を私的な影響力として扱うという、異例の姿勢を示しており、これは「取引による統治(rule by deal)」と呼べる統治方法である。サプライチェインを強化したり、同盟諸国による重要鉱物・エネルギー資源の生産を支援したりできる国家資本(state capital)は、現政権によって武器化される可能性もある。新たに拡大された開発金融公社は、外国の指導者たちを転覆させたり、従属政権(client regimes)に報いたり、法ではなく支配によって定義される国際秩序を構築したりするなど、強制力を行使する手段となり得る。

ヴェネズエラでは、開発金融公社は理論上、民間企業が自己資金では敬遠しがちなプロジェクト、例えばパイプラインの修繕、貯蔵施設の改修、油田サーヴィスなどへの投資を保証できる可能性がある。これは政権の外交政策目標の達成に貢献するかもしれないが、同時に政治的な恩恵供与の始まり(openings for political patronage)となることも明白だ。危険なのは公共投資(public investment)そのものではなく、誰がそれを管理し、どのような目的で使用するかという点である。

公共機関が市場の誘導に役立つと考える私たちにとって、これらの機関を廃止したり弱体化させたりすることが解決策ではない。異なるリーダーシップの下であれば、同じ能力でクリーンエネルギーなどの将来有望な産業への投資や、重要な鉱物資源のサプライチェインが権威主義的な競争相手によって独占されないようにすることで、同盟諸国の経済を強化できるはずだ。

むしろ、開発金融公社の拡大と同時に、現在そして将来にわたってその悪用を防ぐために、民主的な説明責任(democratic accountability)を強化しなければならない。政治的リスクだけを理由に公共投資を放棄すべきではない。効果的な説明責任の仕組みを求めるべき理由なのだ。

濫用の可能性はあるものの、適切な説明責任メカニズムが導入されれば、開発金融公社の権限と規模の拡大はアメリカの外交政策を強化する可能性を秘めている。アメリカ企業によるフロンティア市場への投資を促進するために設立されたこの機関は、世界中の戦略産業を牽引する存在となる可能性を秘めている。開発金融公社が投入する公的資金は、強靭なサプライチェインの構築、同盟諸国の製造能力の支援、そして重要産業における中国の支配の阻止に活用されるだろう。これらは全て、民主党と共和党の双方から支持されている目標である。

この法律が制定される以前は、開発金融公社(DFC)はアルゼンチンのリチウム加工施設への融資は可能だったが、世界有数のリチウム埋蔵量を誇り、アメリカと情報共有を行う緊密な同盟国であるオーストラリアへの融資はできなかった。ヴェトナムの半導体パッケージング事業への支援は可能だったが、日本や韓国への同様の投資は不可能だった。こうした地理的な制約により、アメリカの開発金融は、戦略的な機会が限られている開発途上諸国では自由に活動できる一方で、投資によって最大の利益が見込める同盟諸国では活動が制限されるという、いささか不利な立場に置かれていた。

この新法により、情報共有協定を結んでいるファイヴ・アイズ諸国(オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス)への投資はほぼ無制限に可能となり、その他の富裕国への投資は、エネルギー、重要鉱物、レアアース、海底ケーブルを含む情報通信技術関連のプロジェクトに限られるようになった。富裕国への投資額は、開発金融公社の負債総額の10%、すなわち約200億ドルを超えてはならないとされている。

新設された開発金融公社は規模も権限も拡大したものの、依然として大きな制約に直面している。新法は、開発金融公社がリスクを取り、融資では不可能な形で成果を左右できる株式投資能力に関する課題に十分に対処できていない。株式投資は、開発金融公社に企業統治への影響力、情報へのアクセス、そして事業の長期的な発展を方向付ける能力をもたらす。

新法は、2018年の認可で定められた株式投資総額の上限35%を維持しているが、既存の政府会計基準では依然として融資に比べて株式投資が不利に評価されている。この問題を緩和するため、新法は50億ドルの株式回転資金を創設し、開発金融公社が実現利益を連邦議会の予算承認を経ずに将来の投資に再投資できるようにした。しかし、この50億ドルという新たな資金は、現状では空っぽだ。真の課題は、連邦議会がこの資金を拠出するかどうか、そして拠出がいつになるかである。

他国の成功事例から、外国投資銀行が国家の外交政策遂行能力を著しく強化できることは明らかだ。公的資本の戦略的活用における最も明確な前例は中国だ。中国開発銀行と中国輸出入銀行は合わせて2兆ドルを超える資産を保有し、「一帯一路」構想(the Belt and Road Initiative)の金融基盤を担っている。両行は株式投資を行い、複雑な取引を構築し、中国の戦略的利益を促進する長期的な関係を築いている。

このモデルを実証したのは中国だけではない。ドイツのKfWは、戦後復興のための信用機関として設立されたが、世界最大級の国立投資銀行へと発展し、その資本をクリーンエネルギーへの移行や戦略的な産業投資に活用している。欧州投資銀行(European Investment BankEIB)やシンガポールのテマセクも同様に、ヨーロッパ連合(EU)全体で同様の役割を果たしている。

長年にわたり、アメリカの政策立案者たちは、アメリカの投資力不足を嘆いてきた。中国は長期的な資本投資を国家戦略の手段として活用した一方、アメリカは援助プログラム、技術支援、そして「ルールに基づく秩序(rule-based order)」への建前上の関与に頼ってきた。2023年、当時連邦上院議員だったマルコ・ルビオは、左派経済学者ラリー・サマーズが提唱した言葉を引用し、アメリカの援助を受ける多くの国が「中国と協力すれば空港が手に入るが、アメリカと協力すれば説教されるだけだ」と不満を漏らしていると述べた。権限を強化された国際金融公社(DFC)はこうした状況を変える可能性があるが、同時にワシントンは国際金融公社がトランプ政権の私的資金源とならないよう対策を講じる必要もある。

連邦議会は開発金融公社がその使命を果たすために、引き続き予算を計上する必要がある。次回予算を計上する際には、より明確な条件を付すべきである。

第一に、連邦議会は、大統領、副大統領、閣僚、およびその近親者、ビジネスパートナー、支配下にある企業に直接的かつ重大な利益をもたらすプロジェクトへの開発金融公社の融資を禁止すべきだ。もはやホワイトハウスの住人の誠実さに頼って公正な取引を保証することはできない。したがって、法律は、政権関係者の個人的利益に大きく寄与する可能性のある投資を開発金融公社が追求することを明確に禁止しなければならない。

連邦議会は開発金融公社の監督体制を強化すべきだ。既存の開発金融公社監察官には適切な予算が与えられ、大統領の干渉から保護されるべきだ。アメリカ政府会計検査院(Government Accountability OfficeGAO)は、開発金融公社の大規模取引について定期的な監査を実施することが義務付けられ、アメリカ政府会計検査院の最高経営責任者は説明責任を確保するために定期的に連邦議会で証言すべきだ。内部告発者も明確に保護されるべきだ。最高裁判所がハンフリー対アメリカ訴訟の判決を覆さず、告発理由保護の継続を認めるならば、連邦議会は連邦準備制度理事会(FRB)と同様の保護された理事会を設置することも検討すべきだ。

こうした変化があったとしても、開発金融公社は、その基盤となる民主政治体制的エコシステムの機能に依存している。連邦議会による継続的な監視、独立した裁判所、積極的な調査報道、そして競争的な選挙は、公的資金を個人的または政治的な利益のために流用しようとする行政機関に対する、強固な抑止力となるべきである。

腐敗を抑制するための適切な措置が講じられれば、近年超党派で支持されている、国家運営の手段としての公的投資(public investment)は、国境を越えて拡大されるべきである。

オーストラリアの重要鉱物プロジェクトにおいて株式投資権限が妥当であるならば、アリゾナ州の同様のプロジェクトにおいても同様に妥当である。開発金融公社(DFC)の投資権限を3倍に拡大し、その地理的範囲を富裕な同盟諸国にまで広げる意思のある政権と連邦議会は、国内展開を承認することで、この事業を完遂する意思を持つべきだ。ただし、その際、当初からより強固なセーフガードを構築する必要がある。

アメリカには、このようなアメリカ中心の機関の先例がある。1932年に設立され、フランクリン・ルーズヴェルト大統領の下で大幅に拡大された復興金融公社(Reconstruction Finance CorporationRFC)は、20年間にわたりアメリカの国立投資銀行として機能した。復興金融公社(RFC)は世界恐慌時に破綻寸前の銀行を救済し、産業・住宅投資の活性化を促進し、アメリカが第二次世界大戦に勝利するための産業動員(the industrial mobilization)に資金を提供した。復興金融公社とその関連機関は、日本が天然資源へのアクセスを断った際に合成ゴム工場を建設し、航空機生産の需要が高まった際にアルミニウム精錬所を建設し、自動車メーカーが年間数万機の航空機を生産できるよう支援した。

復興金融公社は1950年代初頭に解散した。これは、戦後の自信過剰によって、もはや強靭な国内経済の構築に公的投資資本は必要ないという認識が広まった結果である。この誤った認識は、危機が次々と発生し、海外の国家支援を受けた競合企業が、公的資本がいかに強力な市場形成力を持つかを証明した後も、数十年にわたって根強く残った。

拡大された開発金融公社(DFC)は、左右両派における政治経済学への転換の一環であり、アメリカの政治目標は市場形成を伴う公的投資を通じてしばしば達成できるという認識に基づいている。今問われているのは、連邦議会がこの権限を、長期的に強靭かつ正当なものとするための民主的な制約と結びつけることができるかどうかである。

※クリス・ヒューズ:『マーケットクラフターズ:アメリカ経済を形作るための100年の苦闘(Marketcrafters: The 100-Year Struggle to Shape the American Economy)』著者。経済安全保障プロジェクト(Economic Security Project)議長。

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ドナルド・トランプの国家資本主義を数字で見てみる数字で見る(Trump’s State Capitalism, by the Numbers

-ドナルド・トランプ米大統領が政府出資を行った企業とセクター。

『フォーリン・ポリシー』誌スタッフ

2026年1月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/14/trump-state-capitalism-equity-stakes-list-companies/

ドナルド・トランプ米大統領は、2期目の最初の1年間、前例のない形で政府と企業の境界線を曖昧にしてきた。その範囲は、ソヴリン・ウェルス・ファンドの設立の試みから、ヴェネズエラ大統領の軍事拘束まで多岐にわたる。この拘束作戦は、少なくとも部分的には、ヴェネズエラの膨大な石油資源をアメリカ企業に開放することを目的としていた。トランプ大統領は、これらの企業を株主や取締役の意向ではなく、自身の意向に従わせるために補助金を与える可能性を示唆した。

トランプ大統領はまた、関税[tariffs](そして優遇企業への特例措置[preferential exemptions for favored firms])、輸出税(export taxes)、規制による威圧(regulatory bullying)など、経済への国家介入(state intervention)を前例のないレヴェルにまで拡大させた。

しかし、トランプ政権の国家資本主義(state capitalism)への転換を最も明確に示したのは、10社以上の企業に直接出資したり、利益分配の交渉を行ったりしたことである。トランプ大統領は、歴代大統領のほとんどが行わなかった形で国家資本主義を受け入れたが、これは中国やロシアといった国々における国家介入の典型的な例である。この傾向は2026年にはさらに加速する見込みだ。

トランプ政権が数十億ドルもの税金を投入している企業の一覧は以下の通り掲載する。

(1)アトランティック・アルミナ(Atlantic Alumina Co.

このリストに最近加わった企業として、トランプ政権は1月に、ルイジアナ州に拠点を置くガリウム企業アトランティック・アルミナ(ATALCO)に1億5000万ドルの株式投資を行うと発表した。

半導体製造に不可欠な原料でありながら、あまり知られていないガリウム(Gallium)は、数年前に中国が輸出規制を課して以来、ワシントンにとって最大の懸念事項となっている。アメリカは現在、アルミナ製造の副産物であるガリウムを生産しておらず、ATALCO社は将来的にはアメリカのガリウム需要を全て満たす見込みだと述べている。(クリスティーナ・ルー筆)

(2)インテル(Intel

おそらくこの種の取引の中で最も注目を集めたものと言えるのが、トランプ大統領が8月に発表した、かつては名門だったものの現在は経営難に陥っている半導体製造会社インテルの株式約10%(約110億ドル相当)を取得するという取引だ。これにより、アメリカ政府はインテルの筆頭株主となる。

トランプは政府がこれらの株式に「何も支払っていない」と豪語したが、インテルは実際には、バイデン政権のCHIPS・科学法に基づき承認された助成金という形で、政府の参入を認める見返りに納税者の資金を受け取っていた。(リシ・イエンガー)

(3)コリア・ジンク(Korea Zinc

2025年12月、トランプ政権は、韓国のコリア・ジンクがテネシー州に建設する精錬所の株式40%を取得する契約を締結した。この契約の一環として、アメリカ政府と匿名の米投資家たちもコリア・ジンクの株式10%を保有することになる。

トランプ政権は、コリア・ジンクとの提携によるメリットを歓迎している。複数のアメリカ政府当局者によると、この製錬所は2029年の操業開始時には年間54万トンの重要鉱物を生産できる可能性がある。また、ハワード・ラトニック米商務長官によると、2026年からはワシントンはコリア・ジンクの世界生産量への優先的なアクセス権を得ることになる。(クリスティーナ・ルー)

(4)リチウム・アメリカズ(Lithium Americas

アメリカ政府は現在、アメリカ最大級のリチウム鉱床を開発するリチウム・アメリカズ社の株式を保有している。ホワイトハウスは、「サッカー・パス(Thacker Pass)」と呼ばれるこのプロジェクト(2028年操業開始予定)を、世界最大のリチウム加工国であり、世界第3位の生産国である中国をはじめとする他国へのアメリカのリチウム依存度を大幅に削減するための重要な一歩と位置付けている。

サッカー・パス・プロジェクトは長年にわたり超党派の支持を得ており、ジョー・バイデン政権はサッカー・パス・プロジェクトに対し23億ドルを超える連邦融資を承認している。しかし、トランプ政権は、以前の承認にもかかわらず、融資を再評価すると表明し、最終的に、アメリカ政府が同社およびプロジェクトの株式を取得する代わりに、トランプ政権が融資の一部を放出するという合意に達したと発表した。その他にもいくつかの条件が盛り込まれている。(クリスティーナ・ルー)

(5)MPマテリアルズ(MP Materials

トランプ政権は昨年(2025年)、アメリカのレアアース産業の活性化に向けた最も注目すべき動きの一つとして、数十億ドル規模の取引を発表した。この取引により、米国防総省は、現在アメリカで最大かつ唯一の稼働中のレアアース鉱山を運営するMPマテリアルズの筆頭株主となる。

レアアースは、アメリカと中国の貿易戦争における最大の弱点の一つとして浮上しており、ホワイトハウスは過去1年間、アメリカの鉱物サプライチェインの安全保障強化に向けた取り組みを強化してきた。

この合意に基づき、国防総省はMPマテリアルズの株式15%を取得し、MPマテリアルズはレアアース磁石の新工場を建設する。米国防総省は、その工場の生産物を買い取り、最低価格を設定することを約束している。(クリスティーナ・ルー)

(6)エヌヴィディア(Nvidia

シリコンヴァレーの巨大企業NVIDIAは、世界的な人工知能ブームを支える半導体チップへの天文学的な需要によって、世界で最も価値の高い企業へと成長した。そしてトランプ大統領は、この急成長を、かなり型破りな方法で利用しようとしてきた。

2025年12月、トランプ大統領はNVIDIAに対し、中国への先端チップ販売を許可した。これは、バイデン政権が導入した輸出規制の一部を撤廃するものであり、その見返りとして、販売額の25%をNVIDIAに支払うという条件だった。これは、トランプ大統領が8月にNVIDIAとその最大のライバルであるAMDと合意した、中国向け販売額の15%を受け取るという当初の条件よりも大幅な改善である。(リシ・イエンガー)

(7)トリロジー・メタルズ(Trilogy Metals

国内鉱業の拡大に意欲的なトランプ政権は、アラスカで物議を醸している銅・亜鉛採掘プロジェクトを進めるカナダ企業トリロジー・メタルズに出資した。ジョー・バイデン政権は、アラスカの原生自然を横断する大規模な道路建設に反対し、環境保護運動を巻き起こしていた。しかしトランプ政権は、このプロジェクトを支援し、同社に数千万ドルを投資することで、正反対の方向へと突き進んでいるようだ。(クリスティーナ・ルー)

(8)USスティール(U.S. Steel

トランプ政権による国家資本主義への最初の大きな介入は、日本の日本製鉄とUSスティールの買収合戦への直接介入だった。この買収合戦は、通常ヨーロッパでしか見られない妥協案で決着した。それは、トランプ自身が米大統領として、新会社の投資と生産に関する決定に拒否権を持つ黄金株(golden share)を発行するというものだ。この黄金株は次期米大統領に引き継がれる。

2025年11月下旬、トランプ大統領は商務省の職員2名を、自身とアメリカ政府を代表して、新たに合併した会社の取締役に任命した。世界中の他の鉄鋼会社が過剰生産能力と「グリーン・スティール(green steel)」(炭素排出量の少ない鉄鋼)への移行に苦慮する中、日本鉄鋼傘下の新会社USスティールは、全く異なる一連の指示に直面することになるだろう。(キース・ジョンソン)

(9)ヴァルカン・エレメンツとリエレメント・テクノロジーズ(Vulcan Elements/ReElement Technologies

トランプ政権はレアアース推進の一環として、レアアース関連の新興企業2社ヴァルカン・エレメンツとリエレメント・テクノロジーズに出資した。ホワイトハウスの合意には、米国防総省からの融資2件(ヴァルカン社に6200億ドル、リエレメント社に8000万ドル)に加え、商務省からの5000万ドルの連邦補助金、さらに数億ドル規模の民間資金が含まれている。

両社は、この資金によって今後数年間で磁石の生産量を年間1万トンまで拡大できるとしている。その見返りとして、米国防総省は両社のワラントを取得し、商務省はヴァルカン・エレメンツの株式5000万ドルを取得する。(クリスティーナ・ルー)

(10)ウェスティングハウス(Westinghouse

トランプ政権は、民生用原子力発電(civilian nuclear power generation)の復興を重点課題としており、規制審査の迅速化と新規原子炉建設の促進を目的とした一連の大統領令や法改正を実施してきた。

2025年10月、アメリカ政府は、アメリカ最大の原子炉メーカーであるウェスティングハウス・エレクトリック(AP1000は現代原子力発電所のゴールドスタンダード)の株式8%を取得するオプション権を獲得した。ウェスティングハウス・エレクトリックが再び株式公開すれば、さらに大きな株式を取得するオプションも含まれている。現在、ウェスティングハウス・エレクトリックは、ウラン燃料供給会社とクリーンエネルギー投資会社という2つのカナダ企業によって共同所有されている。一方、アメリカ政府との「戦略的パートナーシップ(strategic partnership)」は、少なくとも800億ドルの原子力発電投資を促進することを目的としている。(キース・ジョンソン)

(11)xライト(xLight

トランプ政権は、シリコンヴァレーを拠点とするリソグラフィーのスタートアップ企業で、より高度な半導体製造プロセスの開発に注力するxライトへの出資に合意した。政府の出資額はまだ明らかにされていないが、商務省は同社に最大1億5000万ドルを投資すると表明している。(クリスティーナ・ルー)

(貼り付け終わり)

(終わり)



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 古村治彦です。

 イーロン・マスクが創業し、宇宙開発事業で急成長を遂げているスペースXが2026年6月12日新規株式公開(IPO)を行い、1株135ドルで公開となり、成功を収めたという報道がなされた。その後は価格が下落し、135ドルを割り込むところまで来ている。スペースXIPO成功によって、「宇宙資本主義(Space Capitalism)」の時代がやってくるという楽観論が出ている。宇宙開発が新たなフロンティアということだ。

 私たちが新しいフロンティアに向かうにはあまりにも技術が追いついていない。イーロン・マスクは火星移住を目標として掲げているが、半世紀前にはできていた次への着陸にまで四苦八苦しているようではどうしようもない。なぜ月に人類を送るという技術がこの期間に発達せずに退化してしまったのか、科学というのは不思議なものだ。どうしてだろう。もともと行っていなかったのではないか。このことにこれ以上は触れないが、月にさえいけないのにどうやって火星まで行くというのだろうか。

 月での資源開発だと言ってみても、それまでにどれだけの時間とお金がかかるだろうか。月に行けば資源が掘り放題というイメージで語られているが、果たしてそうだろうか。月についてどれだけのことが分かっているのか。これから進む宇宙開発は衛星を膨大な数打ち上げて、通信インフラにするくらいのことであろう。それもまた大変なことであろうが、月に人類が行く、火星に人類が移住するなどと比べればあまりにも小さな一歩ではないか(月には既に人類が一歩を刻んでいるとされているが)。地球と月の距離は約34万キロであるが、私たちが行けるのはせいぜい十キロのものだ。
atmosphere101

 宇宙開発は現在、民間主導、アメリカ主導になっている。スペースXとNASAがやっているのだから当然だ。中国やロシアも進めているが、こちらは国家主導ということになる。スペースXは、衛星を打ち上げ、国際ステーションに物資を運ぶことでアメリカ政府からお金をもらっている。もちろん民間企業とのビジネスをやっているだろうが、どれほどの規模になるだろうか。

 太陽系の惑星を植民地にして人類が拡大していくと言うのは、様々なSF小説やスペースオペラのモチーフになっている。そのような夢を持つのは楽しいことだが、現実は厳しい。中世以降のヨーロッパ諸国による植民地獲得競争の端緒となった大航海時代(Great Navigation)で考えてみても、この時代には数百名を収容可能の帆船があり(中国・明時代の鄭和の大遠征では数千人規模であった)、大遠征は可能であった。しかし、現在の私たちは手漕ぎボートで未知の大海に漕ぎ出す程度のことでしかない。せめてヨットであればまだしも、その程度では夢を見る段階にすら達していない。宇宙を利用してのインフラ整備が関の山である。「宇宙資本主義」などという言葉に踊らされるのは危険である。

(貼り付けはじめ)

イーロン・マスクと宇宙資本主義の台頭(Elon Musk and the Rise of Space Capitalism

-ヨーロッパ、中国、インドが苦戦する一方でアメリカは先行している。

C・ラジャ・モハン筆

2026年6月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/17/elon-musk-spacex-ipo-space-commercial-satellites-india-china/?tpcc=recirc_latest062921

ウォール街におけるスペースXの新規株式公開(IPO)は、取引初日の終了時点でスペースXの評価額が2兆1000億ドルに達するという驚異的な成功を収めたが、これは宇宙経済(the space economy)の将来に対する投資家の信頼の表れと言える。

スペースXを率いるイーロン・マスクが語る、宇宙への人工知能(AI)データセンター建設や火星の植民地化といった構想は、一見すると空想的に映るかもしれない。「人類が複数の惑星で生活できるようにするためのシステムや技術を構築し・・・意識の光を星々へと広げる」ためにスペースXを活用するという彼の考えは確かに現実離れしたものだ。しかしマスクは、宇宙には巨額の利益を生み出す可能性があると投資家に確信させた。そうすることでマスクは、現代資本主義が地球軌道上、さらにはその先へと急速に拡大していく時代の到来を告げた。彼が世界初の「紙上の(資産評価額ベースでの)」1兆ドル長者になったことよりも重要なのは、資本主義が宇宙にその足跡を刻もうとしているという事実だろう。

1950年代に幕を開けて以来、宇宙時代は長らく政府の独占領域だった。ロケット、人工衛星、スペースシャトル、軌道上の宇宙ステーションの建設や惑星探査といった活動は、国家主導で進められてきたのだ。冷戦期において、宇宙活動はワシントンとモスクワの間で繰り広げられたあらゆる分野にわたる競争の中で、科学的成果と国家の威信を象徴するものだった。空を目指すことはまた、軍事目的での宇宙利用や、新たなフロンティア(開拓地)における主導権の確保を意味するものでもあった。宇宙開発においてアメリカやソ連に追いつくことは、中堅国や野心的な国々にとって国家的な悲願となったのです。

ミサイル能力や宇宙空間におけるプレゼンスが、ワシントンとモスクワの間の大規模な核軍拡競争における重要な要素となる中、米ソ両国は1967年に宇宙条約(Outer Space TreatyOST)を締結し、この新たな領域の国際的な管理に関する一定のルールを定めた。この条約は、宇宙への核兵器配備の禁止、天体に対する国家による領有権主張の禁止、宇宙活動に対する政府の責任の明記などを規定した。さらに、発展途上国からの圧力もあり、宇宙は「全人類の領域(province of all mankind)」であり、平和目的でのみ利用されなければならないと宣言した。

そうした世界は、今や私たちの目の前で消え去ろうとしている。それは必然的なことだった。1960年代の世界は、すでに遠い過去のものとなっているからだ。宇宙条約(OST)が宇宙活動の責任を政府に負わせたのは、単に宇宙へのアクセスに伴う広範な課題を認識してのことだった。しかし、20世紀から21世紀にかけて民間企業の技術力が飛躍的に向上したことで、今や民間プレイヤーが極めて重要な役割を担うようになっている。

実際、民間企業こそが技術革新、投資、そして事業拡大の主要な原動力となりつつある。活動の重心は政府から、起業家、投資家、そして企業(とりわけアメリカ企業)へと移行している。

この変革を最も象徴する企業がスペースXだ。マスクはわずか20年足らずの間に、政府や既存の航空宇宙企業が半世紀にわたって苦闘しても成し遂げられなかったことを実現した。ロケットの低コスト化や再利用化といった技術革新により、スペースXは軌道投入にかかる費用を劇的に引き下げた。かつては政府の特権であった宇宙へのアクセスは、今や商業サーヴィスへと変わった。

その結果、スペースXは世界のロケット打ち上げ事業を席巻するに至った。スペースXは2025年において、世界の全軌道打ち上げの約51%、アメリカの打ち上げの約85%を担っている。マスクが手掛ける「スターリンク(Starlink)」もまた、衛星通信市場を支配している。スターリンクは6月時点で約1万500基の衛星を軌道上に保有しており、最終的に4万2000基からなる衛星コンステレーション(衛星群)を構築すべく、さらに数千基を追加投入する計画を立てている。スターリンクを通じて、スペースXは軌道上に地球規模の通信ネットワークを構築した。政府、軍、企業、そして個人が、通信手段として民間所有の衛星コンステレーションにますます依存するようになっている。ロシアによるウクライナ侵攻の際、スターリンクの戦略的重要性が世界中に知れ渡ることとなった。マスクは商業・軍事通信の枠を超え、宇宙空間へのデータセンター建設を構想しており、さらに100万基もの衛星を打ち上げる計画についても言及している。

これは劇的な転換だ。何世紀にもわたり、インフラを構築するのは国家であり、民間プレイヤーたちはそれを利用する側だった。しかし今や、国家が依存する宇宙インフラを民間主体が構築するケースが増加している。スペースXだけではない。アマゾンの「プロジェクト・カイパー(Project Kuiper)」(最近「アマゾン・レオ(Amazon Leo)」と改称)も、競合する衛星ネットワークの構築を目指している。他にも、月着陸船、小惑星採掘技術、軌道上サーヴィス・システム、商業宇宙ステーションなどを開発する新興企業が次々と登場している。ユーテルサットのワンウェブ(OneWeb)は、民間宇宙インフラのもう1つの事例であり、アメリカ以外の企業によるものとしては数少ない例の1つだ。

新たなフロンティアが開拓されるにつれ、法的な統治のあり方が必然的に問われるようになる。財産権の定義や紛争解決の仕組みが極めて重要となる。かつてヨーロッパ諸国による海洋進出の時代には、主権の主張、航行の自由、遠隔地との貿易、そして戦略的競争をめぐって議論が巻き起こった。宇宙も今や同様の局面を迎えつつあり、その状況は宇宙条約(OST)が掲げる崇高な理念に影を落としている。

宇宙条約は、天体領域に対する主権の主張を禁じている。しかし、月や小惑星、その他の天体から採取された資源の所有権については、驚くほど何も規定していない。企業は、自ら採取した月面の鉱物を所有できるのか? 施設の周囲に排他的な活動区域を設定できるのか? あるいは、ある程度の財産権保護があって初めて価値が成立するようなインフラを構築できるのか? 多くの国や企業が月の南極を目指して競い合う中、宇宙条約の下での平等の原則を掲げつつも、実際には先行者が後発者に対して優位に立つことになるのだろうか? こうした問いは、つい最近までは主に理論上の議論に過ぎなかったが、今日では現実的な課題となりつつある。

アメリカはすでに、企業が宇宙から採取した資源を所有する権利を認める方向へと動いている。現在のアメリカ国内法では、民間プレイヤーたちが(小惑星や月などから)回収した「宇宙資源(space resources)」を採取し所有することが明示的に認められているが、その一方で、アメリカは天体そのものに対する主権や領有権の主張を明確に否定し、こうした措置が宇宙条約と整合するものでなければならないと強調している。

アメリカ主導で数十カ国が署名した「アルテミス合意(Artemis Accords)」は、将来の月面活動に向けた原則の確立を目指すものだ。国際的な専門家の一部は、アメリカのこのアプローチ、特に「資源の採取は、それ自体が直ちに国家による領有(専有)を構成するものではない」とする主張については、依然として議論の余地があると指摘している。

主要な宇宙開発国もアメリカの動きに追随し始めているが、民間部門の参画規模やその活発さには大きなばらつきがある。いずれの国も、アメリカの持つような厚みのある資本市場や、民間部門における技術革新エコシステム(生態系)を有してはいない。

中国は2010年代半ばの宇宙政策改革以来、急速に拡大する商業エコシステムを構築してきたが、民間企業は共産党・国家による強力な指導の下で活動している。ヨーロッパは複数の資金提供手段を通じて宇宙分野での起業を積極的に推進しているが、依然として大きく遅れを取っている。日本は、法整備の進展に伴うスタートアップの参入により、民間のロケット打ち上げや衛星サーヴィスの育成を開始した。インドは宇宙分野を自由化し、活気あるスタートアップ環境の台頭を促したが、民間資本のさらなる拡大に向けた正式な法的枠組みの整備には至っていない。ロシアは依然として国営企業が支配的な地位を占めているが、民間部門に対して徐々に門戸を開きつつある。

ルクセンブルクとアラブ首長国連邦(UAE)という、小規模ながら戦略的な野心を持つ2つの国家は宇宙における民間企業を明確に優遇する国内法制度を迅速に整備した。金融・企業活動のハブとして国力以上の存在感を示すルクセンブルクは、2017年に、宇宙で採掘された資源に対する企業の所有権を認める法律を成立させた。ルクセンブルクはこれを、公的投資ファンド、規制の明確化、そして外交的働きかけによって後押しした。その結果、小惑星採掘や衛星サーヴィスを手掛ける企業群がルクセンブルクに移転し、この小国は世界の宇宙経済における意外な重要拠点へと変貌を遂げた。

UAEも同様の道を進んでいる。2019年に制定されたUAEの宇宙法は、民間事業者にとって自由度の高い環境を提供し、外国からの投資を奨励するとともに、UAEを商業宇宙活動の地域的ハブとして位置づけている。

 

宇宙資本主義がグローバル化するにつれ、宇宙条約の曖昧さがより鮮明に浮き彫りになるだろう。民間資本が新たな領域に参入するには、明確な財産権が必要となる。しかし、まさにこの点に地政学的な要素が絡んでくる。宇宙における財産権をめぐる議論は、単なる法的な問題にとどまらず、急速に戦略的な問題へと変化しつつある。アメリカとそのパートナー諸国は、「アルテミス合意」を中心とした枠組みを構築している。一方、中国はロシアやその他のパートナーと緊密に連携し、「国際月面研究ステーション(International Lunar Research StationILRS)」計画に関連した独自の枠組みを推進している。専門的な用語の背後には、次なるフロンティアのルールを誰が策定するのかという、より大きな競争が存在している。

宇宙資本主義の台頭によって国家の役割がなくなる訳ではない。それどころか、海洋分野や電波周波数帯の管理と同様に、何らかの合意されたルールを策定する政府の役割が世界的に求められることになるだろう。民間資本が宇宙へと進出する中、新たなルールが合意される前に優位な地位を確保しようと、国家間で激しい競争が繰り広げられることは避けられないだろう。

宇宙に対する国家の独占体制は終わりを迎えつつあるかもしれないが、各国政府は自国の企業を支援し、支配的な地位を確立しようとし続けるはずだ。マスクが率いるスペースXの株式公開(IPO)は、宇宙をめぐる人類の壮大な競争において、新たな大きな一歩となる可能性がある。

C・ラジャ・モハン:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。OP・ジンダル・グローバル大学モトワニ・ジャデジャ・アメリカ研究・研究所の特別教授、戦略・防衛研究評議会(the Council for Strategic and Defense ResearchCSDR)におけるアジアの地政学担当コリア・ファウンデーション寄贈学科長を務めるほか、インド国家安全保障諮問委員会の元メンバーでもある。Xアカウント:@MohanCRaja

(貼り付け終わり)

(終わり)



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古村治彦です。

 副島隆彦先生と中国専門家の泰斗である近藤大介氏の初めての対談本『アメリカの衰退で世界覇権を狙う中国の実力 G2の狭間で探る日本の針路』(ビジネス社)が2026年8月3日に発売になります。
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アメリカの衰退で世界覇権を狙う中国の実力

 以下に、まえがき、目次、あとがきを掲載します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

まえがき 副島隆彦(そえじまたかひこ)

この本『アメリカの衰退で世界覇権を狙う中国の実力』は近藤大介氏と私のはじめての対談本である。

私は、近藤氏と話していて、彼が今の日本で中国研究、チャイナ・ウォッチャーの第一人者(だいいちにんしゃ)であることが分かった。5月14、15日に北京であった習近平とトランプの米中首脳会談の後、世界はどうなるかを2人で論じた。手前味噌ながら、この本一冊をきちんと読み通せるほどの読書人なら、目下、現下の中国問題、日中問題のすべてをその最先端で理解できるだろう。

私からの質問への近藤氏の答えはまさしく立て板に水で、中国に関わるすべての問題に澱(よど)みなくスラスラと、何事であっても明確に話した。生来の極めて優れた頭脳である。これだけのことを詳しく細かく精緻に語れる者は、日本にはあまりいない。

事実、本書の中にも有るが、近藤氏は中国人から「電子レンジのような脳をしている」と言われたそうである。近藤氏は今も精力的に毎日のように YouTube の「近藤大介チャンネ

ル」他で発信している。中国のことなら、あらゆる領域のどんな些細なことでも即答できる頭能を近藤大介氏は持っている。

前書きでこんなことを私がバラしていいか分からないのだが、今の近藤氏には隠れた役目がある。それは日本政府に、アメリカから強い圧力がかかったり、政治的な緊張が起きた時に、それでも日本政府は国家意思として、首相親書(しんしょ) Premier’sletter プレミアーズ・レター を中国側の副首相に届ける、その係をする任務である。

近藤氏は「そんなことはありません。私は民間企業の社員ですから」と、一言のもとに否定するだろう。だが私の眼力でそうなる。近藤大介は日中関係での中国側の一番上の高官たちと長年交際があって、深い信頼関係を築いている。この首相親書を秘密に届ける役割というのは、日本とロシアの関係においては、鈴木宗男氏と佐藤優氏が担(にな)っている。日本国の意思として「ロシア及び中国とも日本は仲良くします」という意思表示を伝える人材がどうしても必要なのである。

私は中国問題の専門家ではないし中国語もできないが、2007年から激しく思い立って毎年一冊、自分の中国研究本をずっと書いてきた。この20年間で24冊出してきた。だからそれなりにたくさんの中国知識がある。毎年中国へ調査旅行も行った。私が初めて書いた中国本は『中国  赤い資本主義は 平和な帝国をめざす』(ビジネス社刊)である。私がこの本を書いた20年前から、すでに中国が巨大な成長を続けて、アメリカ帝国の世界覇権に取って代わることを私は確信していた。

この本がこんなにも良くまとまって出来上がる上で、担当編集者の小笠原豊樹氏が多大の尽力をした。対談者2人を代表して感謝します。

2026年7月

副島隆彦(そえじまたかひこ)

=====

アメリカの衰退で世界覇権を狙う中国の実力 G2の狭間で探る日本の針路 ◆ 目 次

まえがき(副島隆彦) 2

第1章 中国が圧勝した米中首脳会談 11

習近平が横綱相撲で圧勝した米中首脳会談 12

戦後世界の決着を着けるという中国の意思 22

帝国―属国理論で世界を見る 28

直後の中露首脳会談でプーチンは何を話したか 35

媚中と言って非難してくる奴らを撃滅する 40

アメリカ―イラン停戦交渉を仲介したのは中国 49

帰りの飛行機でトランプは高市に釘を刺した 57

イラン戦争はトランプの負け 65

C―130輸送機による米兵救出作戦はカムフラージュ 75

第2章 4期目に臨む習近平 79

中国は今、すべてが習近平の4期目のために回っている 80

習近平を抜擢したのは誰か 89

共青団系が中国民主党を作る? 106

中国はAIで世界覇権を制し、AIで滅ぶ? 116

帝国と文明はどちらが先か 122

第3章 日本は中国の属国なのか 127

日本が中国に服属していなかったことがあるのか 128

空海の謎 133

空海は国家情報部員? 145

天安門事件の真実 153

第4章 中国外交、恐るべし 161

日本を代表する5人のチャイナ・ウォッチャー 162

中国外交部の権力争い 168

ウイグル問題とワンチャイルドポリシー 179

1971年のキッシンジャーの電撃訪中秘話 183

日中友好の士も拘束される今の中国 194

第5章 台湾有事は起きません 199

高市政権の対中姿勢 200

「日本=イスラエル」論 205

鄭麗文の訪中 211

世界の火薬庫は中東と極東しかない 218

薄熙来事件の真相 225

張又侠と劉振立 235

第6章 世界覇権は中国に移るのか 239

中国にはびっくりするほど頭のいい人が多い 240

世界の工場・中国 243

アメリカは第2列島線まで退く 250

リバタリアンとポピュリスト 260

衰退するアメリカ 265

中国漁船衝突事件 280

叩き上げの習近平はエリートが嫌い 284

中国の巨大な繁栄は日本人学者が作った 289

あとがき(近藤大介) 300

* 本書は2026年4月21日と5月22日に、それぞれ静岡県熱海市と東京都文京区において行った対談を編集し、加筆・修正したものです。

=====

あとがき 近藤大介(こんどうだいすけ)

東京から新幹線「こだま号」で熱海まで行き、駅前のタクシーに「あの高台の上まで行ってほしい」と告げたら、「副島隆彦先生の別荘ですね」と返された。「熱海の名士」なのだ。

小山の上に聳える瀟洒(しょうしゃ)な邸宅に着くと、庭に置かれた大理石のギリシャ彫像の石像群に圧倒された。50体以上がおもむろに、初夏の陽光に照らされている。奥には雄大な相模湾と青空が広がっていた。

「やあ、いらっしゃい」

矍鑠(かくしゃく)とした副島さんが迎えてくれる。

「天国みたいな別荘ですね」

「そうだよ、ここで思索すると、世界中が透けて見通せるんだ。東京では無理だよ」

早くもジャブを打たれ、そこから長い長い対談が始まった。実際には、ほとんど副島さんが「放談」をかましていたのだが。

副島さんは、独立不羈(ふき)の思想家である(陰謀論者と呼ぶと叱られる)。呵々大笑(かかたいしょう)したエピソードがあった。

「ある時、大新聞社の幹部に呼ばれたので出向いたら、『お前にも何か書かせてやるか』みたいな高飛車な態度だった。それで私はもらったばかりの名刺を出して、肩書きの部分を赤ペンで消してから言ってやった。『アンタから肩書きを取ったら、一体何が残るんだい?』」こんな百戦錬磨の知の巨人を相手に対談本を完成できたのは、主に二つの理由による。第一にテーマが中国問題だったこと。場所はアウエーでも、テーマは私のホームグラウンドだ。

もう一つは、担当編集者が私にとっての「井戸を掘った人」(挖井人(ワージンレン))だったことだ。まえがきでも紹介された小笠原豊樹氏である。もう30年近く前、私の文章に目を留め、月刊誌に原稿依頼をくれた最初の外部の編集者だ。爾来(じらい)、『中国人の常識は世界の非常識』(ベスト新書、2014年)、『AIIB不参加の代償』(同、2015年)、『中国人は日本の何に魅かれているのか』(秀和システム、2020年)の3冊でお世話になり、今回が4冊目だ。それよりも、副島さんが長年最も信頼を寄せている担当編集者として知られる。

7時間もぶっ通しで談論風発した後、副島さんが「今日はこの辺(あたり)で」と言って、缶ビールを出してくれた。微風漂う窓外では、白亜のギリシャ彫像たちが茜(あかね)色の陽を浴びている。

「あれね、実は全部ニセモノ。1980年代に、中国の彫師たちが地元で創ったものを、巡り巡って買い取ったの。でも豪華な大理石は本物だし、素晴らしい出来だ」

 副島さんが、茶目っ気のある表情でつぶやいた。

近藤大介(こんどうだいすけ)
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(貼り付け終わり)
(終わり)



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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 「イラン戦争において勝者はいない」という主張が出てきている。それはその通りだ。攻撃を仕掛けたアメリカとイスラエルは戦争の目的を達成しておらず、それどころか、イランから厳しい反撃に遭い、ホルムズ海峡封鎖をされて、世界経済に大きなダメージを与えている。60日間の停戦合意の覚書が交わされた後もアメリカとイラン双方の攻撃は続いている。戦争は終わっていない。「イラン戦争に勝者はいない」となっているが、戦争を継続することを望んでいたイスラエルは覚書が無効化される方向に動いていることもあり、「勝者」と言うことができる。その代償として、イスラエルに対しての世界各国からの批判の声は大きくなるということはあるが、そんなことよりも自分たち(と言うよりもベンヤミン・ネタニヤフ首相)の利益ということであり、状況はイスラエルの望む方向に進んでいる。

 アメリカは「戦闘では勝ちながら、戦争では負ける」という状況であり、軍事力の強さを見せつけてはいる。しかし、戦争自体は自分たちの望むような形で臨む時期に終わらせることができていない。そして、そのような姿を世界中に見せてしまっている。特に中国とロシアが注目し、戦争のデータを集め、分析し、判断している。アメリカは簡単に攻撃をしてしまい、武器を供与していることで、データを中国やロシアに与えていることにもなる。

 さらに言えば、中東地域において、アメリカが秩序を構築し、同盟諸国を防衛するという能力を欠いているということが明らかになったことで、中東地域の不安定さを増大させてしまった。中東地域は世界にとって石油資源の重要な供給地である。中東地域の一応の安定は非常に重要であるが、それが確立できないということになれば、世界経済に大きな影響を与える。そして、アメリカとイスラエルが中東地域の安定を損なう要因となってしまったことは両国にとって大きなマイナスと言うことになる。「ならず者国家」などと言って、他国を攻めていたが、お前たちこそがそうではないかということになる。

 今回のイラン戦争には今のところ、イスラエル以外には「勝者」はいない。ここで私たちにとって重要なのは、そのような「言葉遊び」に現(うつつ)を抜かすことではない。物事の本質を見ることだ。それは、アメリカとイスラエルこそが「ならず者国家」になりさがってしまったということだ。少なくとも世界各国はイラン戦争について、アメリカとイスラエルの責任を厳しく問い、ドナルド・トランプ大統領とベンヤミン・ネタニヤフ首相の退陣を求めるという強い姿勢が必要だ。

(貼り付けはじめ)

イランとの戦争で全員が敗者になった(Everyone Lost the War With Iran

-数カ月に及ぶ争いによって明らかになったのは複数の国がコストを強いることはできても秩序を確立できる国は1つもないという事実だ。

ウィル・トッドマン筆

2026年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/16/iran-war-trump-gulf-china-russia-israel-ceasefire-deal/

イランとの戦争を終結させるための枠組み合意が発表されたことで、アメリカとイスラエルが敗北したということが常識になりつつある。

この視点に立てば、アメリカ軍とイスラエル軍が戦術的・作戦的に収めた成功は、より深刻な戦略的敗北を覆い隠すものに過ぎなかったと言える。両国とも、そもそも戦争を正当化するために掲げた政治的目標を達成できなかったからだ。イランの体制は存続しただけでなく、より強硬な姿勢を強め、ホルムズ海峡封鎖という新たな強力な交渉カードを手にした。アメリカは再び中東地域での多大な犠牲を伴う紛争に巻き込まれ、その結果、パートナーからの信頼を損ない、敵対勢力に対する抑止力を弱め、インド太平洋地域における即応態勢を低下させることとなった。一方、サウジアラビアやその他の湾岸アラブ諸国との関係正常化を進めようとしていたイスラエルの取り組みはさらに後退したと見られ、戦後の地域秩序においてイランの脅威を排除することにも失敗した。

しかし、アメリカとイスラエルの敗北にばかり目を向けていては、関与したほぼ全ての当事者が敗者となったという事実を見落とすことになる。結局のところ、この戦争は、主要な当事者全てにとって自分たちが望む戦略的最終状態を得ることができないという結果となった。戦争は明確な勝者や、より安定した地域秩序をもたらすことはなかった。それどころか、分断を加速させ、不安定さを増大させ、イラン、湾岸アラブ諸国、ロシア、中国を含む、関与した地域および世界の主要国全てに多大なコストを強いることとなった。この戦争は、いかなる国家も、世界的な無秩序という新たな時代を無傷で乗り切ることはできないということを示したのである。

イランは体制の崩壊を避けることができたが、その代償として将来の選択肢を狭めることになった。体制の存続と引き換えに、同盟国・友好国からの信望の低下、抑止環境の不安定化、経済の壊滅的打撃、そして国家再建への道のりの減少という代償を支払った。中国もロシアも、アメリカやイスラエルの攻撃からイランを積極的に守ろうとはしなかった。このことは、それらの関係が真の同盟関係ではなく、あくまで利害に基づく取引的な関係に過ぎないことを浮き彫りにした。戦後、イランはパートナーへの依存を強める必要に迫られるだろうが、それは以前よりも弱体化し、交渉力が低下した立場でのこととなる。

イランにとって、この戦争がもたらす経済的コストは、国家の生き残りに関わるほどになるだろう。戦争は通貨リアルの暴落を加速させ、インフレを助長し、製鉄所、造船所、電力インフラといった主要な産業基盤に打撃を与えた。紛争中に100万人以上の雇用が失われたとする現在の推計が正確であれば、この紛争はイラン・イスラム共和国の歴史において、経済を最も不安定化させた出来事の1つとなるかもしれない。戦後、イラン政権は、軍事力の再建を優先するか、それとも国民が直面する深刻な経済危機への対処を優先するかという選択を迫られることになるだろう。

イラン政権がより安全になったということでもない。戦争はイランの軍・治安エリートへの権力集中を促し、短期的には政権の支配力を強化したように見える。しかし、治安機関が支配する体制は、時間の経過とともに、国民の不満への対処、経済改革の推進、政治的な適応といった能力が低下する傾向がある。したがって、イランは戦争を経て、より「安全保障重視(securitized)」の体制となる一方で、より脆弱な国家として再出発することになるかもしれない。

また、この戦争は、アラブ湾岸諸国が最も恐れていた事態の一部を現実のものとした。湾岸諸国の指導者たちがイランとの大規模な戦争に反対したのは、事態の激化を制御できない一方で、その結果として生じる多くの代償を自らが負うことになるのを理解していた。イランによるホルムズ海峡の封鎖は、地理的条件こそが湾岸諸国の経済モデルの根幹にある根本的な脆弱性であることを露呈させた。湾岸諸国は数十年にわたり、金融、物流、観光、技術の世界的ハブとして、さらには近年では世界的なAIインフラの拠点として自国の地位を転換しようと努めてきた。しかし、戦争は、紛争地域における「安定のオアシス(an oasis of stability)」という彼らのイメージを打ち砕き、イランの攻撃に対する脆弱性が依然として残っていることを明らかにした。この戦争は、炭化水素収入への依存からの脱却と経済の多角化を加速させる必要性を再認識させた一方で、その実現に向けた彼らの構想に課題を突きつけることになった。

さらに、この紛争は湾岸諸国とアメリカの間の不信感を深める結果となった。戦争はアメリカの安全保障の傘(security umbrella)の限界を浮き彫りにし、ワシントンが自国の安全保障上の懸念を十分に優先しなかったことに対する湾岸諸国の不満を増大させた。アラブ湾岸諸国は、アメリカがイランの抑止や制裁において助けとなり得ることを以前から理解していたが、今回の戦争は、テヘランとの対立がもたらす影響から自国の経済やインフラをアメリカが守り切ることはできないという事実を浮き彫りにした。今や彼らは、自国の防衛能力への投資を進めつつ、経済多角化の計画から資源を振り向けざるを得ない状況にある。

ロシアの立場は、当初見られたよりも複雑なものとなっている。モスクワは、原油価格の一時的な上昇や限定的な制裁緩和の恩恵を受けた。しかし一方で、この戦争は中東地域におけるロシアの影響力を弱める傾向を加速させている。イランに配備されたロシア製の防空システムは、アメリカやイスラエルの攻撃に対して無力であることが露呈した。その一方で、ウクライナはこの紛争を利用し、現代戦の最前線に立つ国としての地位を誇示した。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ドローン防衛に関して湾岸の主要国やシリアと提携を結び、中東におけるロシアの戦略的地位をさらに制約することとなった。また、この戦争は、イランとアラブ湾岸諸国との関係のバランスを保つロシアの能力にも試練を突きつけた。ロシアによるイランへの支援、とりわけホルムズ海峡の再開を目指す4月7日の国連安全保障理事会決議に対して拒否権を行使した決定は、アラブ湾岸諸国の激しい怒りを招いた。さらに、モスクワが紛争の行方を左右する上で重要な役割を果たせなかったことから、ロシアの外交的影響力にも限界があることが明らかになった。したがって、ロシアが得た短期的な経済的利益の陰で、中東地域の戦略的地位は徐々に低下している。

中国が得た短期的な利益も同様に、長期的な課題を覆い隠している。中国は、この紛争においてアメリカよりも安定し、抑制的な姿勢をとっているように見せることで利益を得てきた。また、紛争によってアメリカが大量の弾薬を消費し、インド太平洋地域における即応態勢が弱まったことは、中国の相対的な地位を高める結果となった。しかし、中国は重要な痛手も被っている。この紛争は、「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative)の一環として中国がイランに行ってきた数十億ドル規模の投資を危うくした。また、アラブ湾岸諸国との関係にも緊張をもたらした。中国はイランを説得してホルムズ海峡を再開させることはできず、それどころかロシアと共にホルムズ海峡に関する国連安保理決議に拒否権を行使した。このことは、テヘランに対する中国の影響力の限界を露呈させ、アラブ湾岸諸国の指導者たちの怒りを買った。彼らは、中国が自国の経済的利益や投資を守る意思も能力もなく、また広範な地域の経済的安定を維持するための行動もとらないと感じたからである。

より広い視点で見れば、この戦争は中国の将来の経済的利益を脅かすものである。中国は、既存の秩序の一部を修正しようと試みてきたとはいえ、世界経済システムの相対的な予測可能性から最大の恩恵を受けてきた国の1つである。今回の戦争は、そうした利益を脅かす危険な「パンドラの箱(Pandora’s box)」を開けてしまったのだ。戦略的チョークポイントの武器化、民間人の生活に不可欠なインフラへの攻撃、そして経済的威圧の常態化、これらは全て、最終的には競合相手と同等か、あるいはそれ以上に中国自身に不利益をもたらしかねない前例を作り出している。

イランとの戦争が示した教訓は、中東地域における新たな地政学的環境下では、いかに強大な国家であっても、軍事的優位を政治的支配へと転換することはできないという点にある。この戦争は、新たな勢力均衡に基づく中東の秩序再編をもたらすことはなかった。むしろ、あらゆる主体が他者に代償(コスト)を強いることはできても、誰も秩序を確立することはできないという、この地域の現実を浮き彫りにしたのである。

※ウィル・トッドマン:戦略国際問題研究所(CSIS)の地政学・外交政策部門の主任スタッフ兼中東プログラムの上級研究員。

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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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 古村治彦です。

 今年5月に開催された米中首脳会談は抑制されたものだった。北京を訪問したドナルド・トランプは中南海や天壇公園で非常におとなしかった。いつもの軽口を叩くこともなく、相手を馬鹿にして自分を大きく見せようということもなかった。習近平国家主席はいつものように何かを気取られることがないように慎重に行動し発言していた。耳目を引く大きな成果というものなかったが、両大国の関係が安定的で、建設的、競争はあるが、衝突はないということを演出できたことは大きかった。関税戦争を仕掛けたアメリカ、トランプを中国が大きな態度で歓迎したということになった。

 アメリカ国内には対中強硬派が存在する。しかし、そんな人たちでも中国と戦争をするということは口が裂けても言わない、言えない。それは、アメリカが中国と正面から全面戦争になったらアメリカ経済が崩壊し、アメリカは終わってしまうということが分かっているからだ。アメリカは中国と断絶することはできない。中国がさらにアメリカ国債を売り払うということが起きれば、アメリカ経済は破綻する。アメリカ国民の生活も破綻する。トランプ大統領は中国に対しては融和的な姿勢を取っている。これをリアリズム系の人たちは評価している。アメリカの国力の衰退は明らかであり、そうした中で、アメリカが世界を一極支配できる時代は過ぎ去りつつある。これからは米中G2世界管理時代に入る。

それでもあくまで中国が気に入らないアメリカ国内の対中強硬派は日本を利用することになる。日本を利用して中国に嫌がらせをする、日本を中国にぶつけるということを画策している。中国もそのことが分かっている。現在の麻生太郎傀儡高市早苗政権がまさにそのような役割を果たすための政権であることを分かっている。それで、経済的に締上げながら、国際社会で日本の新軍国主義を批判する動きを見せ、同調する国々を募っている。日本人は、「中国なんかより日本の方がずっと信頼がありそのような動きは無駄だ」と思っているだろうが、それは現在の世界を見ていない人たちのお花畑の産物だ。日本の動きは世界的には軍国主義の復活を目指す極右派の蠢動ということであり、皇室典範変更の動きもそれに連動していると見られている(女性差別の法律化は戦前の価値観の復活)。日本が追い詰められないうちに、麻生太郎元首相と高市早苗首相を退陣させることが何よりも肝要だ。そうしなければ、日本がいつの間にかはしごを外されて、「米中両国共通の敵」ということにされることもある。

従って、日本は表立って敵意を特定の外国に向けるようなことはせず、低姿勢で国際協調に徹するということが何よりも重要だ。戦後徹底してきたこの姿勢が揺らいでいるのは日本国内が貧しく、不満を外に向けるという状況に陥ってしまっているからだ。不平不満をぶつける先は日本の21世紀をここまで酷い状況にした自民党、公明党、日本維新の会に対してだ。いい加減にごまかされて操られて、外国に対して敵愾心を燃やすということをさせられてしまうのは国民が愚かであり、馬鹿である証拠だ。

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ドナルド・トランプの実用的な対中姿勢は歓迎すべきだ(Trump’s China Pragmatism Is Welcome

-北京とのライヴァル関係は避けられないが、経済的な断絶(economic rupture)は破滅的な結果を生む。

ファリード・ザカリア筆

2026年5月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/18/trump-xi-meeting-china-united-states-economics-trade-great-power-competition/

このコラムを定期的に読んでいる方々ならご存知の通り、私はドナルド・トランプ大統領の2期目における外交政策を支持してきたことはない。グリーンランドの買収やカナダの併合をほのめかしたり、一方的に関税を極端に引き上げたり、さらにはイランとの戦争をめぐる失態に至るまで、トランプの行動は無謀かつ無秩序で、事態を著しく不安定にするものだった。しかし、ある極めて重要な分野、すなわち米中関係においては、彼の直感、そしておそらくは政策そのものが、正しいものだったと判明するかもしれない。

トランプ大統領と中国の習近平国家主席との最近のやり取りにおいて、私たちは彼がめったに見せない一面を目の当たりにした。彼は敬意を払い、時にへりくだるような態度さえ見せ、2人の個人的な信頼関係を強調しようと努めていた。対照的に、習近平は終始公式かつ抑制された態度を崩さず、決して親密な様子は見せなかった。この態度の対比は、多くのことを物語っていた。

トランプは権力に執着を持っている。イデオロギーや価値観よりも、彼は「影響力(leverage、レヴァレッジ)」や「支配力(dominance、ドミナンス)」の観点から物事を考える。彼がヨーロッパの同盟諸国を侮辱するのは、彼らが依然としてアメリカの軍事的保護やアメリカ市場へのアクセスに依存していることを理解しているからだ。トランプは相手の弱さを見抜き、それを突く。

しかし中国に対しては、ワシントンの多くの人々が感情的に受け入れられずにいる事実を、彼は理解するようになった。それは、中国が経済、技術、産業、軍事の各面で強大な力を持ち、それを効果的に行使できるという現実だ。そのため、トランプの態度は単なる好戦的なものから、競争と協調が入り混じったより複雑なものへと変化した。それこそが、この米中関係に求められているものなのかもしれない。

トランプ大統領の訪問の様子を、2021年にアンカレッジで行われたジョー・バイデン政権高官と中国側代表団との初の会談と比較してみよう。あの時、アメリカ側はテレビ中継される公の場で、人権問題やサイバー攻撃、国際秩序をめぐり中国を激しく非難した。中国の外交官たちも同様に怒りを露わにして応酬した。それは真剣な外交的対話というよりは、ケーブルニュー図番組での怒鳴り合いのような光景であった。

中道派の民主党員の多くは、「中国に対して甘い(soft on China)」と見なされることを恐れている。そのため、彼らはしばしば言葉の上で過剰な反応を示し、強硬な表現を用いたり、象徴的な対立を激化させたりしがちである。バイデン大統領は、トランプ政権による対中関税に懐疑的な姿勢を示し、撤廃を公約していたにもかかわらず、実際にはそのほとんどを維持した。また、大統領在任中に中国を訪問することも、習近平をワシントンに招待することもしなかった。

バイデン政権はまた、中国による新疆ウイグル自治区での行動を「ジェノサイド(genocide)」と認定したトランプ前政権の主張を支持した。ジェノサイドという言葉は、ホロコースト(Holocaust)や1994年のルワンダでの大虐殺(butchery)といった、組織的かつ大規模な抹殺作戦を想起させるものだ。新疆における中国の刑務所や再教育施設は残虐かつ恐ろしいものであり、多くの学者がウイグル族に対する中国の行動をジェノサイドと呼んでいる。しかし、『エコノミスト』誌が指摘したように、この言葉から一般の人々が抱くイメージとは必ずしも一致しない側面もある。

トランプの最大の強みは、右派から攻撃されることがない点にある。彼は2016年の選挙戦で、製造業の雇用の喪失、貿易不均衡、アメリカの産業衰退の責任は中国にあると激しく非難し、権力の座に就いた。ある意味で、この状況を例えるなら「ニクソン訪中(Nixon going to China)」ではなく、ニクソン大統領よりもさらに右派の強硬派(タカ派)であったロナルド・レーガン大統領がソ連を訪問したケースに近いと言えるだろう。トランプなら同様の政策転換が可能かもしれない。なぜなら、彼の支持基盤は彼が導く方向にならどこへでもついていくからだ。トランプが軍事行動への支持を示唆した途端、多くの「MAGAMake America Great Again)」支持者たちがイランへの介入に対する態度を即座に翻したことを見れば、それは明らかである。

なぜ中国に対してより協調的なアプローチをとることが理にかなっているのか? それは、中国がソ連とは異なる存在だからだ。ある指標によれば、冷戦末期のソ連経済はイタリアよりも小規模だった。対照的に中国は世界第2位の経済大国であり、120カ国以上にとって最大の貿易相手国となっている。また、電気自動車(EV)やバッテリーから、ドローン、先端製造業、人工知能(AI)に至るまで、幅広い分野で技術大国としての地位を築いている。その製造業の生産高は、アメリカ、日本、ドイツを合わせたものをも上回る。

そのような国に対して全面的な冷戦(a full-scale cold war)を仕掛けようとすれば、世界がすでに分断されていた時代に行われた対ソ連の闘争とは全く異なる事態となるだろう。それは世界経済そのものを引き裂くことを意味する。アメリカの消費者たちは物価上昇や供給ショックに直面し、アメリカ企業は世界最大級の市場へのアクセスを失うことになる。大学は多くの優秀な学生を失うだろう。危険なのは単なる経済的苦痛だけではない。対立を深めながら制御不能な悪循環に陥る、敵対的な2つの技術・地政学的ブロックが形成される恐れがある。

当然のことながら、アメリカと中国はライヴァルだ。二極化世界(a bipolar world)において、それは避けられないことだ。米中両国は今後数十年にわたり、経済、軍事、戦略の各面で競い合うことになるだろう。しかし、ライヴァル関係にあるからといって、必ずしも完全な断絶(total rupture)が必要ではない。ヘンリー・キッシンジャーは亡くなる数週間前、私に対して次のように語っていた。「米中両国の指導者は、1914年に結果を顧みず追求された国家主義的な競争(nationalist competition)が、世界秩序を根底から覆す世界大戦へとつながった歴史を銘記すべきである」。

AI、サイバー戦、核兵器が存在する現代において、協力のチャンネルを維持することはかつてないほど重要だ。米中両国は激しく競争しつつも、可能な限り貿易や対話、協力を続けるべきだ。具体的には、核の安定性(nuclear stability)、AIの安全性(Ai safety)、パンデミック(pandemics)、金融危機(financial crises)といった分野での協力が挙げられる。冷戦時代、ワシントンとモスクワは極めて敵対的な状況下でも軍備管理交渉(arms-control talks)を維持した。制御されないライヴァル関係(unmanaged rivalry)が破局を招きかねないことを、双方が理解していたからだ。

その事実は今日でも変わらない。もしトランプが―哲学(philosophy)というよりは本能(instinct)に根ざした理由からではあれ―この基本的な現実を認識するに至ったのであれば、少なくともこの問題に関しては、彼の実用​​主義(pragmatism、プラグマティズム)は理にかなっていると言える。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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 古村治彦です。

 イラン戦争は開戦当初、アメリカとイスラエルによる大規模攻撃が実施され(宣戦布告は行われず)、イラン側に大規模な被害がもたらされた。イラン側は直ちに反撃を実施し、イスラエル、ペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地や関連施設に対する攻撃を実施した。イラン側からの攻撃に対して、アメリカとイスラエルの防衛はある程度機能したと見られているが、イスラエルやアメリカ軍基地に一定の被害が出た。イラン側はミサイルやドローンを使っての攻撃を実施し、アメリカやイスラエルの防空システムの隙を突いて攻撃を成功させた。アメリカの世界最強最大の軍事力、イスラエルの最新鋭の防衛システムをもってしても完璧を期すことはできない。アメリカ海軍はホルムズ海峡で民間船舶の護衛を拒否した。イラン側からの攻撃を完全に防ぐことができず、民間船舶と自分たちを完璧に守ることはできないということを事実上宣言した。

 今回のイラン戦争について情報収集、分析を世界中の軍関係者が行っているだろうが、特に熱心に行っているであろう国々が中国とロシアだ。中国とロシアにとっての仮想敵国はアメリカだ。アメリカの攻撃能力、防御能力をある程度把握しておくことは必要不可欠となる。そして、ヴェネズエラのような脆弱な国家ではなく、イランのような地域大国であり、ある程度の軍事力、軍事経験がある国家の軍事組織との戦闘は中露両国にとって貴重なデータ収集の場となる。そして、中露両国はアメリカの卓越した点と弱点を見つけているだろう。中国はイランがペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地やイスラエルに被害を与えることができたということが収穫になっただろう。

 ペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地を、日本や韓国にあるアメリカ軍基地と見なすことができる。アメリカはペルシア湾岸諸国の防衛も担っているが、防衛システムに脆弱性、穴があり、完璧ではないということが明らかになった。これは中国にとって、台湾有事の際の、アメリカ軍と日本の自衛隊との戦闘において大いに参考になる。中国はイランよりもはるかに強大な軍事力を持つ。イラン戦争でイランを打倒できず、実質的にイランに敗北する形となったアメリカは中国と戦うことはできない。アメリカが中国と戦えないのに、日本が戦えると考える合理性は存在しない。それでも何が何でも日本は中国と戦って勝つと信じるのはもう宗教の域である。

 イラン戦争、そしてウクライナ戦争を通して得るべき教訓は「戦争は起こしてはならないこと」「近隣諸国を挑発しないこと」「他国の口車に乗って戦争をさせられるような愚かさは国家を滅亡させること」である。日本はそのことをよくよく拳拳服膺すべきである。

(貼り付けはじめ)

ミサイル防衛はイランに対しては有効だったが、中国に対しては有効ではないかもしれない(Missile Defense Worked Against Iran. It Might Not Work Against China

-現在進行中の戦争は、台湾を巡る紛争において、はるかに深刻な脅威となりうる脆弱性(vulnerabilities)を露呈させた。

デッカー・イヴェレス筆

2026年6月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/12/iran-war-us-china-taiwan-missile-defense-radar-interceptors/?tpcc=recirc_trending062921

イランとの戦争におけるアメリカの戦術的成功、特にイランのミサイル兵器庫の一部破壊と飛来するミサイルおよびドローンの大部分の迎撃成功は、他の戦域におけるミサイルとドローンの脅威の再評価を促した。国防大学のカーター・マルカシアン教授は『フォーリン・アフェアーズ』誌に投稿した論考の中で、これらの成功は、台湾を巡る侵略戦争を遂行するために長距離精密攻撃(long-range precision strikes)を期待していた中国を含む、アメリカの他の敵対国を躊躇させる可能性があると論じた。結局のところ、アメリカの防空・ミサイル防衛システムがイランのミサイル攻撃を大幅に弱体化させることができるのであれば、台湾や太平洋全域における中国の攻撃も防げるのではないか?

マルカシアン教授のような楽観主義者でさえ、イランのミサイル戦力には限界があると指摘している。イランの攻撃は中東地域全体で推定20カ所のアメリカ軍施設に損害を与えたものの、イランのミサイルは破壊力こそ高いが、本格的な対抗作戦に必要な精度を欠いているため、戦闘作戦を深刻に阻害するには至っていない。これに加え、ミサイル迎撃の成功も相まって、イランの攻撃は当初懸念されていたほどの効果を発揮していない。

しかし、中国は全く異なる存在であり、中国が東アジアで実際にどのように戦い、勝利を収めようとしているかを考えると、イランとの比較は成り立たない。中国ははるかに高度な標的設定能力(far more sophisticated targeting capabilities)と、はるかに先進的なミサイル戦力(a much more advanced missile force)を保有しており、これらが中国のドクトリンと作戦計画を形成している。中国はイランのような戦争のやり方はしないだろう。アメリカが台湾紛争に中東紛争のようなやり方で臨まないのと同様である。こうした違いがあるため、イラン戦争から得られた教訓を東アジアに適用することは難しい。

イラン紛争はまた、アメリカのミサイル防衛における重大な脆弱性を露呈させた。それは、レーダーインフラだ。イランはアメリカの最も重要なレーダーシステムの一部を破壊することで、ミサイル防衛網に穴を開けることに成功した。重要なのは、中国が極超音速滑空体(hypersonic glide vehicles)や機動巡航ミサイルな(maneuvering cruise missiles)ど、この任務に特化したシステムに長年投資してきたことである。

レーダーが機能しなければ、ミサイル防衛システム全体が崩壊し、アメリカによる台湾防衛ははるかに困難な課題となる。

2月28日のイラン指導部に対する最初の攻撃後、イランはアメリカとその同盟諸国に対し、地域全体の軍事施設および民間施設へのミサイルとドローンによる波状攻撃(waves of missile and drone attacks)で報復した。1日あたり約20~30発のミサイルが使用された。イランのミサイルは一般的に、個々の航空機や航空機格納庫といった小型インフラを標的とするほどの精度がないため、地上での航空機の損失は限定的だったようだ。イランは燃料タンクや貯蔵タンクなどの大型施設への攻撃には成功したが、特にミサイル防衛システムが飛来するミサイルの一部を迎撃する状況下では、一貫した対敵攻撃を行うことはできなかった。

こうした限界を認識したイラン指導部は、異なる戦略を採用した。アメリカ軍の全面的な軍事的敗北に賭けるのではなく、コスト負担の増大に焦点を当てた。つまり、同盟諸国の軍事作戦の経済的・政治的コストを高め、ワシントンが戦闘継続の意思を失うまで持ちこたえることを目指すことにした。

イランはこの戦略を様々な方法で実行に移してきた。例えば、アメリカ空軍基地の居住区へのドローン攻撃や、イスラエルの民間人居住地域へのクラスター爆弾の使用などにより、アメリカの迎撃ミサイルの保有数を徐々に減少させてきた。弾道ミサイルの命中精度の低さ、同盟諸国の効果的なミサイル防衛システム、重要施設の移転、そして偶然の幸運などが重なり、これらの攻撃の効果は限定的だった。アメリカ軍の死傷者は比較的少なく、確認された死者はわずか13人にとどまった。

イランがより大きな成果を上げたのは、レーダーシステムに対する攻撃だった。安価で一方向攻撃が可能なドローンに続いて強力なミサイルを発射することで、イランはヨルダン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦にあるAN/TPY-2およびAN/FPS-132といった先進的なレーダーシステムを損傷または破壊したとみられる。もしイランが敵のレーダー設備全てを破壊することに成功していたら、アメリカとその同盟諸国は飛来するミサイル攻撃を確実に探知・追跡する能力を失い、迎撃ミサイルを発射して迎撃するタイミングを明確に判断することもできなくなっていただろう。

中国はイランとは対照的に、コスト負担だけで満足するはずがない。台湾を巡る紛争において、北京は地域におけるアメリカ軍および同盟軍に対する完全な軍事的勝利と台湾領土の奪取を目指すだろう。中国は何十年にもわたり、まさにこの事態に備えて準備を進めてきた。少なくとも1990年代以降、中国は台湾奪取に向けた共同作戦を視野に入れ、航空宇宙軍の近代化を進め、大小さまざまな弾道ミサイルやドローンを多数開発してきた。

これらの新型システムの中で最も技術的に高度なのは、DF-17、DF-27、YJ-17極超音速滑空ミサイルである。これらのミサイルは降下中に機動できるため迎撃が極めて困難であり、またYJ-19極超音速巡航ミサイルは高速かつ低高度で接近することでレーダー探知を回避できる。

これらのシステムは、紛争初期段階において、陸上および海上における同盟諸国のミサイル防衛網を破壊することを目的として設計されている。ある中国の軍事評論家がよく引用する言葉にあるように、「どんなに優秀な戦闘員でも、目を抉り取られたらどうやって戦えるというのか?(No matter how formidable a fighter is, how can they possibly fight if their eyes have been gouged out?)」

中国のミサイルシステムの高度化と、イランが到底及ばない電子戦能力を考慮すれば、中国によるアメリカ軍への攻撃は、イランがこれまで展開してきた攻撃よりもはるかに精密なものとなるだろう。イランが安価なドローン数機で複数の高度なレーダー施設を破壊できるのであれば、中国ははるかに高度な技術基盤と幅広い能力を駆使して、それをはるかに大規模に実行できる可能性が非常に高い。

これは、紛争のごく初期段階で、アメリカおよび同盟諸国の防空網の大部分が機能不全に陥る可能性があることを意味する。中国がこれらの防空網を完全に破壊することに成功すれば、迎撃ミサイルの保有数や迎撃率に関する議論は無意味になる。そもそも飛来する脅威を探知・追跡できなければ、ミサイル防衛システムが迎撃ミサイルを発射すべきタイミングを判断する方法がなくなる。

また、より広範な作戦上の問題も存在する。アメリカはこれらのミサイル脅威に対処しつつ、同時に中国の海上および空軍からの攻撃にも対処しなければならない。中東地域における作戦環境は比較的単純だ。アメリカ軍はイランのミサイルとドローン兵器庫に対処すればよいだけだ。しかし東アジアでは、中国南部に配備された数百機の戦闘機と爆撃機に加え、ヘリコプター、水上艦艇、空母、潜水艦にも直面することになる。防空能力が低下すれば、これらの部隊はイランの不正確なミサイル攻撃よりもはるかに強力に地上部隊を攻撃し、壊滅させる能力を持つことになるだろう。

マルカシアンは、アメリカの作戦計画を見直し、中東地域におけるアメリカの成功を考慮に入れるべきだと主張している。「イラン戦争における迎撃ミサイルの命中率や消費率といった実戦的な性能指標を、アメリカのモデル構築、ウォーゲーム、定量的計算に組み込むことで、中国との潜在的な紛争における予測結果が変わり、アメリカ軍の作戦計画の改善に役立つ可能性がある」と述べている。

しかし、上記の分析が示すように、これらの迎撃指標はイランの脅威特有の状況下で作成されたものである。これらを東アジアに適用すると、この重要な背景を見落とす危険性がある。そして、決定的に重要なのは、中国がミサイル防衛を支えるインフラを組織的に標的にし、空軍と海軍の戦力でその隙間を突くことで、ミサイル防衛システムを弱体化させる能力を過小評価してしまうことで(underestimating)だ。

また、イラン戦争で露呈したアメリカの重大な脆弱性(the critical U.S. vulnerabilities)を見落とす危険性もある。中国の習近平国家主席は、抑止されるどころか、自国の通常戦力を適切に活用すれば、陸上でも海上でもアメリカを打ち負かす十分な可能性があると結論づけるかもしれない。

全ての戦争には教訓がある。しかし、ある戦争や戦域で得られた教訓を、当てはまらない別の戦争や戦域に安易に適用することには危険が伴う。歴史はそうした教訓に満ちている。例えば、ドイツ軍司令官ゲルト・フォン・ルントシュテットの事例が挙げられる。彼は、連合軍のノルマンディー上陸作戦に対する防衛計画を、ソ連との戦いで得た教訓に基づいて立てた。

連合軍の戦術航空戦力との戦闘経験を持つ部下エルウィン・ロンメルの反対を押し切って、ルントシュテットは機動性(maneuverability)を維持し、ソ連軍に対して成功を収めたように連合軍に反撃するため、装甲部隊の大部分を予備として温存することを決定した。ロンメルの予言通り、これは悲惨な結果を招くことになる。連合軍の卓越した戦術的阻止能力(tactical interdiction)によって、ルントシュテットが予備として温存していた多くの装甲部隊は前線に到達することなく壊滅的な打撃を受けた。

アメリカは今、同様の過ちを犯す危険に晒されている。中国の軍事技術はイランをはるかに凌駕しており、中国はこれらの戦力を東アジアで効果的に活用できる。そうなれば、中東地域で得られた教訓は無意味なものとなるだろう。イランでの経験に基づく中国に対する過信(overconfidence against China)は、壊滅的な作戦計画の誤りを招き、アメリカ軍を不必要なリスクに晒すことになる。

より良い前進策は、イランにおけるアメリカ軍の作戦遂行状況を詳細に分析し、特にレーダー防衛といった主要な失敗点を特定し、これらの個々の問題が中国との戦闘においてどのような規模に拡大する可能性があるかを批判的に検討することである。

アメリカは中国との潜在的な紛争に臨むにあたり、過信(overconfidence)は許されない。最悪の事態を想定し、それに応じた準備を整える必要がある。

※デッカー・イヴェレス:ワシントンに拠点を置く非営利の研究分析機関CNAアソシエイト・リサーチ・アナリスト。衛星画像を用いて外国の核態勢を研究している。モントレー大学ミドルベリー記念国際大学院で修士号、リード大学で学士号を取得。

(貼り付け終わり)

(終わり)



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