古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:中国

 古村治彦です。

 中国が主導する多国籍機関がうまく機能していない、という指摘がある。そもそも、中国が主導する多国籍機関は、上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)やブリックス(BRICS)といったところは知られているが、その他は、あまり知られていない。しかし、これらの枠組み以外にも、「ユーラシア地域の問題について話し合う機関(talk shop)であるアジア交流信頼醸成対策会議(Conference on Interaction and Confidence Building Measures in AsiaCICA)がそうした組織である。過去3年間で、この中国中心の国際組織壮絶プロジェクトのアルファベットのスープ(訳者註:頭字語や略語)に、更に多くのイニシアティヴが追加されてきた。世界安全保障イニシアティヴ(Global Security InitiativeGSI)、グローバル文明イニシアティヴ (Global Civilization InitiativeGCI)、およびグローバル開発イニシアティヴ (Global Development InitiativeGDI) 」といった枠組みが存在する。しかし、これらの諸機関がうまく機能していないというのが下記論稿の趣旨である。

下記論稿では、以下のような主張がなされている。中国が提案する多国間主義構想に多くの国々が注目しているが、中国中心の組織やイニシアティヴは成果を上げていない。アメリカ主導のシステムの崩壊に伴い、中国の提案には賛同する声が広がっているが、実際には中国の行動に疑問符がつくこともある。中国は一帯一路構想を通じて世界経済に影響を与えているが、その取り組みには批判も多い。ブリックスや中国の新たな金融秩序構築に期待する声もあるが、実際には、西側手動の枠組みの方が現在ではまだ、信頼性が高い。中国が新たな秩序を築くには、ソフトパワーや文化面での魅力を高める必要があり、その過程で外交的課題や経済問題に直面する可能性がある。

 中国が多国籍機関を主導するようになっての歴史はまだ浅い。大国として台頭してきたのは21世紀に入ってからだ。中国は大国として、まだ経験が浅い。そうした中で、中国主導の多国籍機関が、歴史と経験を持つ西側諸国の枠組みよりも信頼を勝ち得ていないのは仕方がない。しかし、これから、中国が更に台頭し、米中二国による世界支配・管理体制が構築されていく中で、中国自身の経験が蓄積され、中国が主導する枠組みも洗練されていくだろう。

(貼り付けはじめ)

中国は発展途上世界を騙している(China Is Gaslighting the Developing World

-北京の平等に関する約束は、覇権のための偽装である。

ロバート・A・マニング筆

2024年4月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/05/china-developing-world-bri-global-development-initiative-hegemony/?tpcc=recirc062921

昨年12月の習近平国家主席のヴェトナム訪問中に、ハノイが中国の提案する「運命共同体(community of shared destiny)」に対しての支持を表明したとき、中国政府はこれを歓迎した。中国は独自に設計するポスト・アメリカの世界秩序(post-American world order of its own design)を望んでおり、習近平国家主席のヴィジョンは野心的であると同時に曖昧ではあるが、中国政府は主に、現在不安定になっている、1兆ドル規模の融資を含む公共財という名目でそのプロジェクトを構築している。

習近平が政権を掌握して以来、時にはまだ初期段階にあるとはいえ、既存の中国中心の組織を構築してきた。上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、そして現在他の4カ国で構成されているBRICSグループ。そして、ユーラシア地域の問題について話し合う機関(talk shop)であるアジア交流信頼醸成対策会議(Conference on Interaction and Confidence Building Measures in AsiaCICA)がそうした組織である。過去3年間で、この中国中心の国際組織壮絶プロジェクトのアルファベットのスープ(訳者註:頭字語や略語)に、更に多くのイニシアティヴが追加されてきた。世界安全保障イニシアティヴ(Global Security InitiativeGSI)、グローバル文明イニシアティヴ (Global Civilization InitiativeGCI)、およびグローバル開発イニシアティヴ (Global Development InitiativeGDI) がそれに当たる。

しかし、これらのプログラムの多くは、グローバルサウス(global south)にとって魅力的かもしれないが、これらの国々が本当にポスト・アメリカの未来、ましてや北京主導の未来を望んでいるのかどうかは不明である。中国の多国間主義構想(China’s vision of multilateralism)は自らの覇権的野望をカモフラージュするものであり、心からの目標ではない。

現在のアメリカ主導のシステムは崩壊しつつある。購買力平価(purchasing power parity)に基づくG7のGDPは世界のGDPの約30%に低下し、BRICSよりわずかに小さく、気候変動から貧困削減に至るまで多くの公約は果たせなかった。そのため、各国は「民主的多国間主義(democratic multilateralism)」、つまり、アメリカ主導の秩序へのアンチテーゼに基づく協力の感覚を育むと主張する中国の提案を受け入れやすくなっている。軍事同盟は冷戦の遺物として否定され、人権は経済中心で、政治的権利、少数民族の権利、独立した司法、言論の自由は結果として制限されている。北京は、非西洋的な発展の道(non-Western path to development)を提供すると主張し、代替案として中国の国家主導モデル(China’s state-driven model)を示唆している。偶然の一致ではないが、中国がアメリカの統治から離れようとしていることは、北京の構想が描く想像上の偽ユートピア(faux utopia)にはない。

しかし、これまでのところ、これらは全て願望的なものだ。上海協力機構(SCO)、BRICS、アジア交流信頼醸成対策会議(CICA)は、話し合いの場ではあるが、決定の場ではない(talking shops)という役割を果たしているが、大きな成果は出ていない。カザフスタンで危機が起きたとき、介入したのは、上海協力機構ではなくロシアだった。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領がウクライナに侵攻したとき、中国政府は主権(sovereignty)と不干渉(noninterference)という自国の核心原則に対する違反を無視した。

習近平の行き過ぎにも関わらず、中国政府の指導力とグローバルサウスにおける多大な連携とヘッジには需要と供給の両方が不足している。習近平は、2014年のCICA会議で行ったように、「アジア人のためのアジア(Asia for Asians)」演説をするかもしれないが、その反応を決定づけたのは、南シナ海における中国の侵略と、韓国のTHAADのようなプロジェクトをめぐる近隣諸国へのいじめだった。アメリカの同盟関係は強化されており、これに対応してアジア内の協力も深まっている。

経済が低迷し、中国という債権者に対する発展途上諸国の債務が増大する(そして一帯一路の融資と投資が減少する)にもかかわらず、北京は依然として巨大な世界経済の足跡を残している。しかし、多極同盟のグローバルサウスに対する習近平の訴えは薄れるのだろうか? 一帯一路構想(Belt and Road InitiativeBRI)については、ジンバブエやスリランカといった債務者に、主権の尊重についてはフィリピンの海事当局者に、世界最大の温室効果ガス排出国については気候活動家に聞いてみて欲しい。ピュー・リサーチ・センターによる2023年の世論調査によると、調査対象となった24カ国のうち、中央値の3分の2がブラジル、インド、韓国を含む中国に対して否定的な見方をしていた。2017年のピュー世論調査では、インドネシア、フィリピン、ヴェトナムでは中国の台頭が脅威と見なしていることが多かった。

しかし、中国政府は、世界安全保障イニシアティヴ(GSI)が、100カ国以上から「支持と評価(support and appreciation)」を得ていると述べている。世界安全保障イニシアティヴは、「全ての国の主権と領土一体性の尊重(respecting the sovereignty and territorial integrity of all countries)」、「共通、包括的、協力的かつ持続可能な安全保障(common, comprehensive, cooperative and sustainable security)」、「国連憲章の目的と原則(the purposes and principles of the U.N. Charter)」、そして「対話と助言を通じた国家間の相違と紛争の解決(resolving differences and disputes between countries through dialogue and consultation)」に対する関与を進めている。

世界安全保障イニシアティヴ(GSI)は、中印協定締結後の1954年に周恩来が導入して以来、中国の公式外交政策の柱となっている平和共存5原則の再利用版である。

それでは、表面的に、何が良くないこととなるだろうか? グローバルサウスの多くの人々にとって、習近平国家主席の取り組みを支持することには、具体的な費用や約束は伴わないが、それらを拒否すれば中国を怒らせるリスクがある。しかし、現実の世界では、他の国よりもより平等に扱われる国もある。その例外がパキスタンであり、中国政府はパキスタンに対して、安全保障を提供していない。また、中国の取り組みのほとんどが、アメリカのパワーの正当性を拒絶し、その地位を奪うことを目的としているという内実もまったく感じられない。ワシントンの庇護下にある国々は、アメリカのパワーについて、不満を言いたくなるかもしれないが、必ずしも、アメリカのパワーが消滅することを望んでいる訳ではない。

理論的には、不侵略(nonaggression)、不干渉(noninterference)、主権の尊重(respect for sovereignty)、紛争の平和的解決(peaceful resolution of disputes)は、小国が大国からいじめられたり、強要されたりしないという希望を与える。実際には状況は異なる。中国の経済力と軍事力が増大するにつれ、それは中国の特徴をもった不干渉(noninterference with Chinese characteristics)へと変化してきた。ウクライナの主権に対する大規模な侵害であるロシアの戦争に対する中国の沈黙、現在はトーンダウンした「戦狼」外交(“wolf warrior” diplomacy)、そしてオーストラリア、リトアニア、フィリピン、台湾などが、中国を少しでも批判すると輸出品の多くが突然歓迎されなくなるような経済的強制を見れば分かるだろう。

中国政府は、リスクの低い調停の役割(low-risk mediation roles)を果たしている。しかし、主要な世界問題に関しては、中国のしばしば活動的な外交は、人を欺くごまかし(smoke and mirrors)であり、問​​題解決ではない。2023年2月、中国は、ウクライナに対する12項目の和平案を発表したが、本格的な外交フォローアップもなく、白紙となった。中東特使の翟隽は、10月下旬に中東地域各国を歴訪し、翌月には中国が北京でアラブ・イスラム指導者たちの会合を主催し、イスラエル・ハマス戦争の終結を訴えた。繰り返しになるが、こうした試みの効果はない。

習近平の外交は、現実的な問題解決よりも、グローバルサウスに対するパフォーマンス的な要素が強いように思われる。よく引き合いに出される、2023年のサウジアラビアとイランの脆弱な緊張緩和(détente)を中国が促進したことはその例外である。北京での式典は、湾岸諸国との経済関係の結びつきを強める中国の影響力の高まりを反映したものだった(そしてサウジアラビアは、ジョー・バイデン米大統領に対する影響力を高めようとしていた)。

もう1つの習近平派プロジェクトである、グローバル文明イニシアティヴ (GCI)は、「文明の多様性(diversity of civilizations)」の尊重を反映した対話を呼びかけており、言論の自由、表現の自由、民主政治体制といった普遍的価値観に関する、アメリカの概念の正当性を拒絶することを目的としているようだ。理解を深めるために対話をする。繰り返しになるが、グローバルサウスの国々がこれに同意することにはリスクはないが、ほとんど意味はない。

3番目の計画であるグローバル開発イニシアティヴ GDI)は、中国政府の取り組みの中で最も深刻であり、おそらく最も正当なものである。概念的には、これは本質的に、貧困緩和、食糧安全保障、グリーン開発、気候変動対策などの国連の持続可能な開発のための「2030アジェンダ」を再パッケージ化したものである。一帯一路構想は、中国が産業の過剰生産能力を輸出する傾向を制度化した。150カ国が参加する中国の大規模な一帯一路インフラ・プロジェクト(グローバルサウスでは少なくとも90のプロジェクト)と、ある程度の独自の開発経験を考慮すると、中国にはある程度の信用がある。2022年以来、中国政府はグローバル開発イニシアティヴ目標を追求する「南・南協力(South-South cooperation)」に関する一連の会議を開催している。

しかし、中国の金融危機と発展途上国の債務が増大するにつれて(中国は発展途上国の債務総額の約37%を保有している)、一帯一路の融資は90%以上減少し、規模を縮小した一帯一路は、IT接続とグリーンテクノロジーに重点を置いている。しかし、現在の一帯一路融資の58%は中国の債務者に対する救済融資の形となっている。世界最大の二国間債権者であるにもかかわらず、中国は発展途上国の債務再編に関して、G7を中心とするパリクラブ(Paris ClubClub de Paris)に参加しておらず、G20共通枠組みに関与しているにもかかわらず、協力することはたまにしかない。むしろ、中国政府は債務者に対して二国間的に行動し、他の債権者の債務救済の取り組みをしばしば妨害してきた。それにもかかわらず、債務危機を軽減するためにIMFや世界銀行のリソースを改革して拡大したり、グローバルサウスに同等のインフラを提供したりしていないアメリカとG7にとっての問題は、何も持たずに何かを打ち負かすことはできないということだ。

一帯一路と、米ドルに象徴されるアメリカ・G7の優位性に対する憤りが、BRICSの推進力となっている。他の全ての加盟国を合わせたよりも経済規模が大きい中国は、拡大するBRICSを中国中心のネットワークとして、ブレトンウッズ体制とは言わないまでも競争相手として構想している。多くの加盟国は、G7に対抗する新たな多極性を実証するためのプラットフォームとして捉えているが、驚くほど異なる議題を持っている。例えば、インドとブラジルには、グローバルサウスの代弁者になるという独自の野望があり、それは習国家主席が初めて欠席した昨年のニューデリーでのG20会議で明らかだった。ニューデリーは中国政府を支援することにほぼ関心を持っていない。

新たな金融秩序と脱ドル化(de-dollarization)に対する期待に関して言えば、BRICS新開発銀行(BRICS New Development Bank)は取るに足らない存在である(small beer)。脱ドル化の目標にもかかわらず、330億ドルのプロジェクト融資の約3分の2は、米ドルで行われている。同グループの新規メンバーの一部(エジプト、エチオピア)は債務不履行(debt defaults)の有力候補となっている。人民元や他の現地通貨との通貨スワップ(currency swap)は、新たな世界金融危機の際にある程度の断熱効果をもたらす可能性があるが、中国が通貨管理を維持する限り、ドルに取って代わることは遠い夢にとどまるだろう。

まとめると、BRICS の人気は、アメリカ・G7の内向性と経済ナショナリズム(inwardness and economic nationalism)は、に正比例して高まっている。BRICSの人気は、グローバルサウスから西側諸国に対しての、代替案というよりは、頭痛の種として見られている。発展途上国の多くは、BRICSが低コストで、ある程度の利益をもたらす可能性があり、加えて、アメリカに対して、もっと自分たちに注意を払うよう信号を送る梃子(てこ)としても同様に重要であると考えている。

第二次世界大戦後に、アメリカが設計したブレトンウッズ経済・政治システムは、アメリカの安全保障の傘と比較的開かれた市場へのアクセスによって促進され、当初は主にヨーロッパと日本に限定されていたものの、前例のない成長と安定を促進する秘密のソースとなった。しかしソ連崩壊後、その恩恵は世界中に広がり、ブラジル、中国、インドなどで数億人が貧困から救い出され、世界規模の中流階級(global middle class)が育成された。

アメリカが主導する自由主義秩序は、アメリカの世界的優位性を強化したが、全ての参加者(他ならぬ中国)に利益をもたらし、合意に基づくものであり、アメリカの力を正当化するのに役立った。しかし、2008年の金融危機と現在高まっている、アメリカの経済ナショナリズム、そしてイラク戦争からガザ危機に至る出来事により、西側諸国とグローバルサウスの信頼性の格差(credibility gap)は拡大し、その正統性の感覚は失われつつある。

中国は、安全保障や核の傘(nuclear umbrella)をほとんど提供しておらず、外交的な問題解決にはあまり役立たない。中国政府による公共財の提供は、アメリカの戦略を参考にしている。しかし、発展途上諸国の中国に対する負債、貿易ルールの欠如、経済的強制、あまり開かれていない市場などの理由から、経済的な代替案は実行可能ではない。これまでのところ、中国政府が着手しつつある取り組みは、中国中心の秩序における平和と繁栄を約束する体制には至っていない。

更に言えば、中国は偽善(hypocrisy)においてアメリカに匹敵し始めている。このことは、世界貿易機関(WTO)の制度を利用したゲームから、経済的強制や保護主義、そして疑わしく信用できない主権主張に基づくヒマラヤ山脈から東シナ海や南シナ海に至るまでの軍事的主張に至るまで、その公言する原則、姿勢、そして実際の行動との間のギャップに明らかになりつつある。

新秩序の構築に関して言えば、中国には、第二次世界大戦以来、アメリカの支配力を支えたようなソフトパワーや文化、開放性、機会といった魅力がない。米中間に緊張があるにもかかわらず、毎年約30万人の中国人学生がアメリカに留学しているが、中国に残っているアメリカ人学生はわずか350人に過ぎない。他のアジア諸国とは異なり、中国にはボリウッド、K-POP、韓国映画、ポケモンや近藤麻理恵のような日本のポップカルチャーに相当するものはまだ存在しない。検閲が強化され続けている文化は、世界に広がる可能性が存在しないことを意味する。

中国は、せいぜい、未熟な大国であるように見え、その願望は、その把握力や魅力をはるかに超えている。中国政府が目指す、ポスト・アメリカ秩序(post-U.S. order)は正統性の欠如に直面している。世界がIMFの呼ぶところの「地経学的分断(geoeconomic fragmentation)」に耐えている中、米中競争でどちらの国がどのようにして「勝つ(wins)」のかは明らかではない。

※ロバート・A・マニング:スティムソンセンター・リイマジニング大戦略プログラム名誉上級研究員。ツイッターアカウント:@Rmanning4
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 21世紀に入り、世界の構造は大きく変化しつつある。第二次世界大戦後の20世紀の後半は、アメリカとソ連がそれぞれ、資本主義ブロックと共産主義ブロックを率いて、対立する、冷戦(Cold War)の下で、二極(bipolar)構造となっていた。その後、ソ連が崩壊し、アメリカの一極(unipolar)支配構造となっている。21世紀に入り、中国をはじめとする非西側諸国、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の台頭もあり、米中二極構造へと変化しつつある。これを「新冷戦」(New Cold War)と呼ぶ人たちもいる。
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ゴードン・ブラウン

 こうした状況下、アメリカ一国だけでは対処しきれない国際的な問題が多く発生している。アメリカは西側諸国を巻き込んで、問題への対応を行おうとしているが、西側諸国だけでも無理な問題が多い。そこで、中国との関係を再構築すべきだというのが、下記の論稿の著者ゴードン・ブラウン元英首相の主張だ。米中関係が緊張をはらむ中で、それでも国際問題を解決するためには、協力する必要がある。そのための枠組みを構築する必要がある。冷戦期、 米ソ両国は厳しく対立したが、同時に協力できる分野では協力を行った。米中両国間もそのような関係となるべきだ。そうすることで、米中両国間が戦争となることを阻止することもできる。

(貼り付けはじめ)

新しい多極主義(A New Multilateralism

-アメリカは自らが作り上げたグローバルな制度を如何にして再生させることができるか。

ゴードン・ブラウン筆

2023年9月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/09/11/us-china-russia-multilateralism-diplomacy-alliances-trade/

「アメリカは戻ってきた」。これは、2021年2月のミュンヘン安全保障会議で、最近のアメリカ大統領の中で最も国際主義者(internationalist)であるジョー・バイデン米大統領が語ったメッセージである。バイデンは、「多国間行動を調整する切実な必要性(dire need to coordinate multilateral action)」があると宣言した。しかし、二国間協定や地域協定に固執し、グローバルな協調行動(globally coordinated action)を犠牲にする、バイデン政権は、国際機関の可能性を過小評価し、安定した管理されたグローバライゼイションの可能性を損なっている。新たな多極主義(multilateralism)が生まれなければ、10年間にわたる世界的な混乱は避けられないだろう。

もちろん、最大の皮肉は、国際通貨基金(International Monetary FundIMF)や世界銀行から国連に至るまで、世界の卓越した多国間機関は全て、第二次世界大戦の直後にアメリカによって創設されたということだ。アメリカのリーダーシップを通じて、これらの機関は平和の実現、貧困の削減、健康状態の改善に貢献してきた。現在、アメリカは孤立しており、世界秩序の亀裂は深い谷になりつつあり、世界的な課題に対する世界的な解決策を策定できていない。

ウクライナ戦争の責任はウラジーミル・プーティン大統領以外にはない。この戦争は、アメリカの名誉のために言っておくと、ヨーロッパ全体を団結させた。しかし、他の地域では、世界は自ら招いた傷に苦しんでいる。増大する債務への対処の失敗、低所得および中所得のアフリカを苦しめる飢餓と貧困、新型コロナウイルス感染拡大への公平な対応の調整能力の欠如、そして最大の存亡の危機である気候変動に対処するための資金の確保の行き詰まりなどだ。これらの危機は、発展途上国を混乱させるだけでなく、主導権を握れなかった西側諸国に怒りを抱かせている。

国際社会が行ったことは、どれも中途半端で、たいていは遅すぎた。ワクチン不足で人々が亡くなり、食糧不足で人々が飢え、気候変動とそれに続く大惨事への無策で人々が苦しむのを放置してきた。国連の人道支援(humanitarian aid)や世界食糧計画を見ればわかるが、どちらも今年必要な資金の半分にも満たない額しか受け取っていない。世界銀行による貧困国への資金援助は今年、来年と削減され、人的資本介入(human capital interventions)に気候変動投資を追加するよう求める声が高まっている。

アメリカの指導者たちは、古いアプローチが機能しないことを認識したことは評価に値する。かつては支配的だった、ワシントン・コンセンサス(Washington Consensus)は、ワシントンをはじめ、現在はほとんど支持されていない。経済学者のラリー・サマーズが「政権の哲学を最も注意深く知的に展開した説明(most carefully intellectually developed exposition of the administration’s philosophy)」と的確に評した4月の演説で、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は、崩れつつあるパルテノン神殿のような世界構造を非難した。むしろ、持続可能な鉄鋼・アルミニウムに関する世界協定、インド太平洋繁栄経済枠組、米州経済繁栄パートナーシップなど、対象を絞り、精密に誘導された行動のほうが有望だと考えた。サリヴァンは、世界銀行(ジャネット・イエレン米財務長官が演説でこのテーマを取り上げているにもかかわらず)や世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)の改革の必要性については軽く触れただけで、IMF、国連、世界保健機関(World Health OrganizationWHO)についてはまったく触れなかった。そして、2009年にG20と名付けられた国際経済協力の主要なフォーラムは、名前を挙げる価値すら認めなかった。

サリヴァンの総合政策は、アメリカが経済の方向性を決める上で安全保障を決定的な要素にする必要性が高まっていることを認識した、現代の産業政策(industrial policy)に関する声明として、非難の余地はない。しかし、サリヴァンの発言は「国際経済政策(international economic policy)」の声明として事前に宣伝されており、国内産業政策だけに関するものではない。この点で何かが欠けていた。アメリカの国際関係に関するこの包括的な演説は、管理されたグローバル化の計画には至らなかった。国際協力を強化するために設立されてほぼ80年になる世界機関の誰もが認めるリーダーであるアメリカは、その重要性と改革の可能性に関する真剣な議論から姿を消しているようだ。そして、貿易戦争(trade wars)が技術戦争(technology wars)や資本戦争(capital wars)になり、競合する世界システム(competing global systems)を特徴とする新しい種類の経済冷戦にさらに陥る恐れがある中、一般的に一極世界(unipolar world)において、多国間主義的(multilateralist)だったアメリカは、多極世界(multipolar world.)での一国主義(unilateralism)に近づいている。

国際政策を、地域的および二国間関係の単なる合計に還元することはできない。世界的金融危機(global financial crisis)が再び起こったらどうなるか? 世界的伝染病が再び起こったらどうなるか? 干ばつ、洪水、火災により、講じるべき世界的な対策が明らかになった場合はどうなるか? かつて、ロナルド・レーガン米大統領がソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフに語ったように、小惑星が地球に向かって猛スピードで接近してきたらどうなるか?

嵐の海に浮かぶ船には安定した錨が必要だが、今日ではそれが存在しない。かつて、世界はアメリカの覇権(hegemony)によって錨を下ろしていた。そうした一極主義の時代は過ぎ去った。しかし一極主義の時代の後には多極主義の時代がやってきて、多極主義の錨が必要となる。この錨とそれがもたらす安定性は、改革された多国間制度の上に築かれなければならない。実際、グローバルアーキテクチャ(global architecture)のこのような見直しこそが、今やグローバルでもリベラルでも秩序でもないグローバルなリベラル秩序を修復し、統治されていない空間の無人地帯をもたらした地政学的不足を克服する唯一の方法である。

多国間改革アジェンダがなおさら重要なのは、専門家たちが思い描く代替的な世界秩序(alternative world orders)がほとんど包括的でなく、したがって実現不可能だからである。アメリカ主導の自由貿易圏は、そこから排除された人々だけでなく、より保護主義的な米連邦議会からも反対される可能性が高い。民主政治体制諸国の連合は、定義上、ルワンダやバングラデシュからシンガポールやサウジアラビアに至るまでのアメリカの同盟諸国を排除しなければならないが、ワシントンはそれを嫌がるだろう。また、1815年以降のヨーロッパの協調(Concert of Europe)に似た列強の協調(Concert of Great Powers)、あるいはアメリカと中国だけからなるG2も、世界の他の190余りの国のほとんどから怒りの反応を引き起こすだろう。こうした排他的なクラブは、規模の大小を問わず、世界に必要な安定をもたらすことはなく、活力を取り戻した多国間システムの方が、「一つの世界、二つのシステム(one world, two systems)」の未来への傾斜を食い止めるはるかに良い方法となる。

​​中国の習近平国家主席は、地政学的な力の移行(shifts in geopolitical power)から北京が得られる利益をよく理解している。アメリカが多国間主義から二国間主義と地域主義(regionalism)に移行したのと同様に、中国は独自の新しい包括的アイデアを世界の舞台に持ち込んだ。

10年前、中国は、149カ国を誘致することに成功した一帯一路構想(Belt and Road Initiative)や、ヨーロッパの大半、イギリス、カナダを含む106カ国を擁するアジアインフラ投資銀行[Asian Infrastructure Investment Bank](アメリカは参加を拒否しており、自国が主導しないクラブには参加しないという印象を与えている)などの、公然と地域的な構造に焦点を当てていた。

これに勢いづいて、中国の焦点は、新たな開発銀行やブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICSグループを含む共同国際イニシアチヴ(joint international initiatives)に移った。現在、中国は世界に進出し、大胆な名前の「グローバル安全保障イニシアチヴ(Global Security Initiative)」と「グローバル文明イニシアチヴ(Global Civilization Initiative)」で独自に活動している。犯罪、テロ、国内安全保障に関する共同行動に焦点を当てたこれらのイニシアチヴは、中国が最初の完全に独立したグローバルプログラムであるグローバル開発イニシアチヴ(Global Development InitiativeGDI)の成功例に続くものである。これら3つの介入は、より大きな仕組みで、実際はそうではないとしても、レトリックにおいては、間違いなくより構造化され、野心的である。合計で約60カ国が既に、グローバル開発イニシアチヴのグループに加わっている。ドーン・C・マーフィーの著書『グローバルサウスにおける中国の台頭(China’s Rise in the Global South)』で詳述されているように、中国はこれらのグローバルイニシアチヴを利用して、いつか競合する世界秩序(competing global order)になり得る勢力圏(spheres of influence)を構築している。

そして、この中国の世界規模での関与の急増は、中国からの一時的なプロパガンダではなく、習近平主席の永続的な取り組みであり、政治的野心の意図的な表示であり、中国を国際秩序の真の守護者として示す試みである。サウジアラビアとイランの間で外交関係を回復し、イエメン戦争を終わらせる可能性のある合意を仲介したばかりの習近平主席は、ロシアのウクライナ戦争を終わらせるための和平提案を推進するのに十分な勇気を既に持っており、言うまでもなく、二国家によるイスラエルとパレスチナの和平解決において中国が主導的な役割を果たすという噂も流れている。これらは全て、国連憲章(U.N. Charter)の遵守という傘の下で行われている。

もちろん、細かい点もある。中国は国連憲章の領土保全(territorial integrity)と加盟国の内政不干渉(noninterference)の約束を支持しているが、憲章やその後の国連決議の人権、保護責任、自決(self-determination)の原則に焦点を当てた部分については何も語っておらず、国際司法裁判所や国際刑事裁判所、あるいは例えば国連海洋法条約の判決を支持することもほとんどない。

論理的な反応は明らかだ。アメリカはこれ以上後退するのではなく、新たな多国間主義を擁護することで変化する世界秩序に対応しなければならない。これは、アメリカの揺るぎない覇権を前提とし、同盟諸国やアメリカの同盟国になりたがっている国々(suitors)に指示することで維持できた古いハブ・アンド・スポーク型の多国間主義(hub-and-spoke multilateralism)ではない。命令(dictation)ではなく説得(persuasion)によって力づけられ、世界経済の現実に基づいた新たな多国間主義は、アメリカが再び主導する可能性のある国際機関の改革を通じて人々を団結させるだろう。

ワシントンはまだ、習近平が「1世紀の間でも見られなかった大変革(great changes unseen in a century)」と呼ぶ、パックス・アメリカーナ(Pax Americana)がもはや存在しない、分裂し分断された世界を作り出そうとしている、3つの地政学的シフトの規模とパワーを、十分に理解していない。そして、そのような世界でも、気候変動、パンデミック、金融不安、過度の不平等から生じる混乱と闘うためには、世界的な公共財の提供に依然として注意を払う必要がある。

もちろん、最初の地殻変動は、少なくともホワイトハウスの国内的野心に影響を与える限り、サリバヴァン補佐官も認識している。 30年間支配的だった新自由主義経済は、オープンではあるが十分に包括的ではなかったグローバライゼイションを引き起こした。世界の半数がより高い生活水準を享受していたが、アメリカと西側諸国の多くが停滞していた経済秩序は、国家が安全保障の観点から経済的自己利益を再定義するにつれて、新重商主義経済学に取って代わられつつある。今では回復力が、効率性を求める昔の欲求に勝ります。供給の保証はコストに勝る。そして「万が一に備えて(just in case)」は「間に合わせに(just in time)」よりも重要だ。かつては、経済が政治を動かしていたが、世界中を巻き込んでいる貿易、テクノロジー、投資、データ保護主義が証明しているように、現在は政治が経済を動かしている。

2つ目のシフトは、ワシントンではあまり理解されていない。政策立案者たちは、単極世界(unipolar world)の30年間の確実性が多極世界(multipolar world)の不確実性に取って代わられつつある中、その影響を十分に認識できていない。もちろん、これは、3つ以上の国が同等の力と地位を持っているという狭義の「多極(multipolar)」と表現できる世界ではない。したがって、専門家の一部は、依然として「部分的な一極(partial unipolarity)」が存在すると結論付けている。むしろ、多極化とは、複数の権力の中心地が競合する世界を意味し、将来の世界におけるアメリカの関係に多大な影響を与える。私たちは、このことが、世界の半分、つまりほとんどの非西側諸国(non-Western countries)が、ロシアとの戦争でウクライナを支援することに劇的な形で働いているのを目にしてきた。モスクワへの制裁に参加しているのはわずか30カ国程度だ。アシュリー・J・テリスの著書『非対称性の攻撃(Striking Asymmetries)』で説明されているように、複数プレイヤーグループの成長を反映する多極性のより脅威に関する尺度は、核兵器の拡散の可能性だ。イランが核兵器を確保すれば、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、エジプトはいずれも核武装を目指す可能性が高い。そして、中国の核兵器保有量が2035年までに約400発から1500発以上に拡大する中、韓国と日本が自ら核保有国にならないためには、アメリカからのより決定的な保証が必要となるだろう。おそらくもっと憂慮すべきは、中国の力の増大にますます懸念を強めているインドが、インドで最も信頼できる兵器の収量が中国の100分の1であることを考えると、信頼できる熱核兵器設計の取得を目指していることだ。これら全ては、より致死性の高い核兵器を求めるパキスタンと中国との関係の深化という形で、別の種類のドミノ効果を引き起こす危険性がある。

主に新自由主義と一極から、1つの覇権国家と1つの覇権的な世界観からの脱却の結果として、第三の地殻変動が進行中である。過去20年間の大部分を特徴づけたハイパーグローバライゼイション(hyperglobalization)は、新しい種類のグローバライゼイションに取って代わられている。貿易は依然として拡大している(以前のように世界経済拡大は2倍の速度ではないが、それに歩調を合わせている)ため、これは脱グローバル化(deglobalization)ではない。実際、世界の商品貿易は2022年に記録的な水準に達した。デジタルサーヴィスにおける世界のサプライチェーンは、2025年から2022年の間に年間平均8.1%で成長しましたが、これは5.6%であったのに対し、カタツムリのペースで進むグローバル化、「スローバライゼイション」ですらない。商品の場合。デジタルサーヴィスの世界輸出は2022年に3兆8000億ドルに達し、輸出サーヴィス全体の54%を占めた。会計、法律、医学、教育などの専門職が分離されているため、現在世界のどこからでも提供できる技術サーヴィスの多くは、コールセンター業務と同様にオフショアリング(offshoring)されることになる。「グローバライゼイション重視(globalization-heavy)」、つまり貿易によるグローバライゼイションが自国の国民の暮らしを良くするだろうという思い込みは、「グローバライゼイション軽視(globalization-lite)」、つまり、貿易を制限する方が国民の生活水準を守るより良い保証になるかもしれないという考えに取って代わられている。

この3つの激変を底支えしている共通項があり、それがこれらの新たな動きをまとめているように見える。それは、ナショナリズムの復活(resurgent of nationalism)であり、世界的な自国第一主義運動(country-first movements worldwide)に最もよく反映されている。バイデンの「バイ・アメリカ」というラベルでさえ、トランプ政権時代の「アメリカ・ファースト」の水増しヴァージョンであり、アメリカの経済ナショナリズムを薄めることはできないようだ。

それは、国境管理の強化、関税の強化、移民制限の強化だけでなく、関税戦争、テクノロジー戦争、投資戦争、産業補助金戦争、データ戦争によっても特徴付けられるナショナリズムだ。世界的には、内戦(civil wars)が増加し(その数は約55件)、分離主義運動(secessionist movements)が増加し(約60件)、物理的に国を隔てる壁やフェンス(more walls and fences physically separating countries)が増えています(2019年時点で70件、1990年の4倍以上)。

この復活したナショナリズムは更に攻撃的な形で表現されている。ますます多くの政府や国民が、「私たちと彼ら(us and them)」、つまり、内部の人間と外部の人間との間の闘争の観点から考えるようになってきている。この偏狭で啓発されていない自己利益(narrow and not enlightened self-interest)への新たな焦点は、地球規模の課題に対処するために国際協力(international cooperation)が最も必要とされているまさにその時に、国際協力を犠牲にして行われた。

断片化には経済的なコストもある。WTOの研究者たちは、国際貿易が減少し、専門化と規模から得られる利益が減少する「1世界2制度(one world, two systems)」の未来では、長期的には実質所得が少なくとも、5%減少すると試算している。低所得国は所得が12%減少し、更に大きな打撃を受けることになり、中所得国や高所得国との融合という期待は損なわれることになる。IMFも同様の調査を行っており、貿易の細分化による世界的な損失は、GDPの0.2から7%に及ぶ可能性があると示唆している。技術的なデカップリング(decoupling)を考慮すると、コストが高くなる可能性がある。考えてみて欲しい。1970年代と1980年代には、アメリカとソ連間の貿易は両国の貿易総額の約1% にとどまっていたが、現在では、中国との貿易はアメリカの16.5%EUの貿易の約20%を占めている。

これらの地殻変動による地政学的な影響により、世界は流動的、あるいは更に悪いことに、亀裂が生じ、分裂の危機に瀕している。私たちに固定的な忠誠心と揺るぎない同盟関係をもたらした古い世界的構造は、緊張に晒されている。新たな世界的な道筋が敷かれ、古い同盟関係が再評価されているが、特筆すべき例外としては、アメリカが大西洋横断安全保障協力(trans-Atlantic security cooperation)を復活させた拡大NATOexpanded NATO)がある。サリヴァンは現在、G20ではなくG7を「自由世界の運営委員会(steering committee of the free world)」と見なしている。しかし、それでは G180+は感動せず、表現されていないと感じている。そして、他の長期にわたる関係にも緊張がかかり、地政学的な状況には不規則で重なり合い、競合する取り決めが点在している。人々を団結させる新たな計画がなければ、セメントが固まるまでに私たちは10年間の混乱に直面することになる。

既に一極の束縛から解放された国々は、大国との距離を享受し、それを美徳としており、シンガポールを拠点とする学者ダニー・クアが「第三国家機関(Third Nation agency)」と呼ぶものを実践している。多くの場合、一時的な同盟だ。ゴールドマン・サックスのジャレッド・コーエンは、これらの国々を忠誠心が風前の灯火となっている、「スイングステイト(swing sates)」だと表現した。彼らは、インドのオブザーバー研究財団の理事長サミール・サランが「有限責任パートナーシップ(limited liability partnerships)」と名付けたものを形成することを好むが、これは、それ自体、政治学者がミニラテリズム(minilateralism)と呼んでいるものとは異なる形態であり、各国がグループとして集まり、目的を達成することを目的とするものではない。長期的な共通の目標は追求するが、短期的な経済的利益や安全保障上の利益は追求しない。

インドを例に挙げてみよう。インドは現在、ヒンズー教ナショナリズム(Hindu-nationalism)、権威主義(authoritarianism)、宗教的不寛容(religious intolerance)を支持する指導者によって統治されている。しかし、インドとアメリカが共有する価値観、つまり民主政治体制と信教の自由への支持が弱まるにつれ、両国の共有する物質的利益、特に中国との関係は今のところ強くなっている。インドのナレンドラ・モディ首相は、アジアにおける中国の影響力拡大を懸念しながらも、アメリカとロシアを互いに相手にし、武器契約や有利な貿易協定をめぐって両国を争わせている。

次にインドネシアについてだ。ジャカルタが主要な鉱物資源であるニッケルを管理する中、資源ナショナリズム(resource nationalism)が議題となっている。しかし、インドネシアの資源ナショナリズムは、ニッケルだけでなく銅やその他の鉱物の主要購入者同士が対立することも意味する。あるいは、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などの国々が、アメリカ、中国、ロシアの全く異なる利益を利用して、アメリカのインド太平洋への軸足を利用している中東について考えてみよう。

しかし、一度限りの貿易・安全保障協定や、敵対味方の関係で国家を獲得できるのは今のところ限られている。彼らの経済の将来は、その時々の都合に合わせた場当たり的で日和見的な取引よりも、安定した国際システムに依存している。各国はそれぞれ異なる理由から、古い日和見主義(opportunism)ではなく、新たな多国間主義を必要としている。

アフリカには、鉱物資源だけでなく、未開拓の市場や労働力、そしてアフリカの関与なしには気候危機に対処し克服することはできないという認識からもたらされる新たな交渉力がある。改革された多国間システムの中心に、アフリカを近づけること(G20でのより大きな役割、世界銀行とIMFでの代表強化、新たな気候変動金融の受益者)は、大陸全域に国々を強制するよりも優れた、より永続的な解決策である。中国、ロシア、アメリカのいずれかを選択する。

実際のところ、これらの各ブロックは、ヨーロッパと同様に、国際機関を通じた多国間調整から恩恵を受けるだろう。ヨーロッパ各国には、理由は異なるにせよ、中国との貿易を維持したい理由がある。ドイツは製造業の輸出を維持するため、フランスは戦略的自律性(strategic autonomy)の考えを推進するため、東ヨーロッパは一帯一路構想への依存のため、イベリア諸国はラテンアメリカとのつながりがあるため、最大の貿易相手国との関係を断つことを望んでいないため、ヨーロッパもアメリカと中国の間で圧迫されることを望んでいない。そして、アメリカは中国を穏健にするために、ヨーロッパを必要とし、中国もヨーロッパを使って、アメリカを穏健にする必要があるため、ヨーロッパはおそらく認識しているよりも多国間主義を擁護する強い立場にある。

より安定した多国間主義を促進することは、アフリカ、中東、ヨーロッパだけの利益ではない。世界的により効果的になるためには、アメリカが自ら創設し主導してきた国際機関に対する偏見を失うことから始めなければならない。それはなぜか? それは、古いヴァージョンのパックス・アメリカーナの誘惑は、もはや世界の他の国々をアメリカの力に応じるように誘惑するほど強力ではないからだ。しかし、アメリカを中心とした新たな多国間主義であれば、その可能性はある。それが十分な理由でないとすれば、中国の世界安全保障抗争は、ワシントンにとって警鐘を鳴らすものであり、二国間や地域的な構想にとどまらない手を差し伸べるよう呼びかけるものとなるだろう。

私が長年かけて気づいたことは、例えば、IMFや世界銀行の理事会において新興諸国の経済力の向上を認識し、これらの機関の資本を増強するために改革が緊急に必要とされているときでさえ、アメリカには、「物事を先延ばしにする(dragging its feet)」習慣があるということだ。世界的な制度を刷新し、国連での膠着状態を終わらせるよう求める声が、イギリスなどの最も近い同盟国からも高まっているにもかかわらず、ワシントンが沈黙していることがあまりにも多く、その理由はほぼ確実に、一極世界の考え方が定着してからもずっと存続していることである。時代錯誤的で、素朴ですらある。ほとんどの加盟国が痛感しているように、根本的な改革を先行させなければ、このような制度は発展しない。しかし、今日、アメリカには、そのような改革を進める力を持っていない。

このことについて考えてみて欲しい。アメリカがあまりにもしばしば一極時代の古い考え方に囚われているため、バラク・オバマ政権が中国を封じ込めるために創設した貿易協定そのものである環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific PartnershipTPP)から離脱した。アメリカが中国を排除することを構想していたグループが現在、中国を参加させるよう圧力を受けているのは実に皮肉である。太平洋に軸足を移したアメリカが、大陸最大の貿易パートナーシップの一部となるのは理にかなっている。しかし、自らが設立し管理していないクラブには加盟しないという印象を与え続けている。そして、その同じ一国主義的な考え方が、対アフガニスタン連合を形成した同盟諸国との実質的な協議なしに命令されたアフガニスタン撤退の失敗につながった。

アメリカは自らを空売りしている。一極世界を主導した国は、同盟国に属国(vassals)であるかのように命令を下すのではなく、同盟国として説得することで、多極世界でも主導することができる。協力の力によってのみ、アメリカが多国間秩序(multilateral order)を擁護し、各国に多国間秩序の支持を求めるという、不可能なことを企てること(square the circle)ができる。ワシントンは、もはや首尾よく押し付けることができなくなっても、首尾よく提案することができる。そしてもしそうすれば、世界の大半が今もリーダーシップを期待しており、今後もリーダーシップを発揮したいと望んでいる国アメリカは、活性化した多国間主義のもとに世界の大多数を結集できる唯一の国となるだろうし、そうするだろう。グローバルな機関を通じて、グローバルな問題に対するグローバルな解決策を提供する。

2つの結論が導き出される。アメリカは世界中で同盟を構築し、各国を参加させるのに時間がかかる必要がある。慇懃なる無視(benign neglect、訳者註:通貨当局が為替相場の変動を静観すること)は問題の無害な説明である。たとえば、過去100年間に米大統領が訪問したのはアフリカ54カ国中、20カ国に届かない。私たちは彼らにレッテルを貼るのではなく、昔ながらの陳腐なレンズを通して彼らを見るのではなく、対等な立場で彼らの話を聞き、彼らとの共通の原因を見つけなければならない。私たちは、西側諸国が発展途上国に説教するだけではなく、共通の世界的大義のパートナーとしてサインアップしなければならない世界について考える必要がある。

そして第二に、もしアメリカが、自らが創設に大きな役割を果たした国際機関への歴史的な支持を新たにすれば、中国のハッタリは通用しなくなるだろう。そうなれば、習近平は、国連、IMFWTOWHOへの支持を含む国際秩序を守るか、自身の世界安全保障構想が真実ではなくプロパガンダに基づいていることを認めるかのどちらかを迫られることになる。

「新世界秩序(new world orders)」の歴史的な運命は、読んでいて憂鬱になることが多い。

1815年、1918年、1945年の新世界秩序は、世界構造の変化が戦争や崩壊の後にのみ起こる傾向があることを示している。実際、1990年は米大統領ジョージ・HW・ブッシュ大統領によって歓迎された。ブッシュ大統領は、冷戦の終結とともに「新世界秩序(new world order)」の始まりを宣言した。実際には、それは歴史が十分に決定的な方向に転換しなかった転換点だった。ドイツはドイツの統一を望み、ドイツのことだけを考えていたと主張することもできるだろう。フランスはヨーロッパの統一を通じてドイツを封じ込めたいと考えており、フランスのことだけを考えていた。そして、アメリカはNATOとその指導力を維持したいと考えており、アメリカのことだけを考えていると主張した。屈辱を与えられたロシアは決して新世界秩序に組み込まれることはなかった。そして、変化が議題に上っているこの瞬間に、中国、インド、そして発展途上国が将来果たす役割についてはほとんど考慮されていなかった。

気候変動や私たちが経験している地殻変動(seismic shifts)に始まり、私たちが現在直面している存在にかかわる課題は、私たちの足元で岩盤が変化し(bedrock shifts)、国際的な枠組みが再び作り直されなければ衰退してしまうという、まれな世界的瞬間を生み出している。1940年代に組み立てられた国際構造は、より経済的に統合され、より社会的に相互接続され、地政学的に相互依存する(geopolitically interdependent)世界において、世界的な相互依存(global interdependence)によって、全ての国の独立が認められる2020年代のニーズに合わせて再考されなければならない。全く新しいパルテノン神殿を建設することはできないかもしれないが、アクロポリスの廃墟でキャンプをすることを避ける方法を見つけなければならない。それを避けるためには、変化が伴わなければならない。

金融危機の波及(financial contagion)が常にリスクとなり、グローバルサプライチェーンがかつてないほど国や大陸を結びつけている世界では、各国を従来のように、つまり各国が単独で十分な存在として見ることはできない。むしろ、ネットワークと関係の網の一部として見るべきであり、一国からの波及効果が他の国に壊滅的な影響を及ぼす可能性がある。したがって、IMF はもはや、個々の国が国際収支危機に陥ったときに行動を起こすのを待つ機関ではなく、危機の予防と解決に携わらなければならない。そして、将来の不況を未然に防ぐために、IMF のグローバル監視部門は、金融安定理事会および国際決済銀行(Bank for International Settlements)と協力して強化され、世界経済を脅かす全てのリスクの監視と報告を行う必要がある。

世界銀行は、人的資本と環境管理の両方に重点を置くグローバルな公共財銀行にならなければならない。そして、世界銀行がこれらの役割を果たすには、現在の支出の3倍にあたる年間約4500億ドルの資金が必要になるため、活力あふれる、新総裁アジャイ・バンガは改革の過程で、アメリカの支援を必要とするだろう。さらに、株主たちは、銀行の低所得者向け施設と中所得者向け施設の統合、保証、融資、補助金の利用における革新、そして銀行を民間投資を動員するためのプラットフォームとみなすなどの改革に、より多くの資本を割り当てることに同意しなければならない。

1940年代から1990年代にかけて、WTOは合意に基づいて機能し、しばしば苦痛を伴う交渉と不安定な妥協を経てきた。1990年代半ばのWTOの新自由主義的再編以来、そして50年の間で初めて、世界貿易協定は成立していない。そして、広く尊敬されている事務局長のンゴジ・オコンジョ=イウェアラの下では、最も規制の少ない貿易分野、つまりサーヴィス、データ、情報技術全般を扱うには、外交と改革された控訴制度への更なる重点化が不可欠となるだろう。そして、インターネットだけでなく、人工知能における自由奔放(free-for-all)の危険性から生じる規制や倫理的な問題に対処するために、新たな国際的枠組みを構築しなければならないだろう。

新型コロナウイルス感染拡大の余波の中で、アメリカの中規模病院3つに相当する予算を持つWHOを真剣に検討する者なら、今や、拡大し続けるリスクリストに立ち向かうために十分な資金が不可欠であることを過小評価することはできない。G20は他の175カ国をより代表するようになり、年次会合の合間にも存在できる適切な事務局を設立し、世界の最貧地域で相互に関連する危機にもっと注意を払う必要がある。

そして、国連は進化しなければならない。ロシアが、独占的な安全保障理事会内で戦争犯罪、大量虐殺、人道に対する罪を処罰することを含む、全ての問題で拒否権(veto)を握っている限り、国連全体が無力化される(frozen into inaction)可能性がある。拒否権の権限を削減または廃止することで、安全保障理事会を改革できない場合、アメリカは国連総会とその193カ国が、より責任あるリーダーシップを発揮するよう促すべきだ。

少なくとも、アントニオ・グテーレス国連事務総長の熱心なリーダーシップの下、国連の平和維持活動の改革は達成され、世界中で増加する難民や避難民のために年間410億ドル必要でありながら、必要な額の半分以上が支給されることのない人道援助予算をより適切に提供する方法を構築することができる。出発点は、気候変動対策、パンデミックへの備え、人道的取り組みに十分な資金を提供するための負担分担協定をワシントンが提案し、推進することだろう。特に、今年ドバイで開催される国連気候変動会議では、巨額の臨時利益の恩恵を受けている中東の石油産出諸国は、過去および現在の炭素排出諸国に加わり、低・中所得国に必要な緩和と適応に資金提供すべきである。

アメリカのこうした改革アジェンダは、多国間主義を軌道に戻す可能性がある。国際関係論分野の学者たちは、トゥキュディデスの罠(Thucydides trap)についてよく語る。トゥキュディデスの罠は、紀元前5世紀にアテネがスパルタに挑んだのと同じように、台頭する大国が定着した覇権国に挑むというものだ。しかし、スパルタが負けたのはアテネの力によるものではないし、実際の戦争ではスパルタはアテネを破ったということを忘れがちだ。その数年後、アテネより小さな国々がスパルタの覇権を破壊し、スパルタは敗北した。

ますます中国に注意関心を持っているアメリカにとって、ここに教訓がある。しばらくの間、アメリカが最大の競争相手に打ち勝つ能力は計算され、証明される。あまり注目されていないのは、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、中東におけるアメリカの影響力の喪失による影響である。アメリカは中国との戦いに勝つかもしれないが、そうすることで世界からの支持獲得戦争に負けることになる。

アメリカにとってはるかに良いのは、世界秩序の再構築を主導することであり、この点ではアメリカが最善の策を持っている。ワシントンが世界規模の解決策を必要とする世界規模の問題に十分大胆に立ち向かうことができれば、北京の影響力拡大にそれほど執着する必要はないだろう。その代わりに、中国は決定的な選択に直面することになるだろう。アメリカが望んでいるように、アメリカと協力するか、国際協力や世界機関の重要性について語りながら「中国第一(China first)」政策にしか関心がないことで暴露されるかだ。今日、中国は世界の先導者(global beacon)となるために必要な関心は持っているが、価値観を持っていないように見える。アメリカは価値観を持っているが、現状では十分な関心を持っていない。価値観は一夜にして変わることはないが、利益は変わる。アメリカよ、君たちの番だ。

※ゴードン・ブラウン:イギリス元首相、国連の国際教育特使。ブラウンは、モハメド・A・エラリアン、マイケル・スペンス、リード・リドウと共著で『長期にわたる不安定な状況:破壊された世界の修理計画(Permacrisis: A Plan to Fix a Fractured World)』を執筆した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 第二次世界大戦後から1991年のソヴィエト連邦崩壊まで、アメリカとソ連は激しく対立した、資本主義と共産主義というイデオロギー上の対立から、世界各地で代理戦争が勃発した。しかし、同時に、米ソは直接戦うことはなく、核戦争の危機を回避するために、米ソ両国の首脳はホットラインを設置し、核兵器削減のための枠組みを構築した。冷戦期は、「長い平和(Long Peace)」という評価もある。

 冷戦後は、冷戦に勝利したアメリカの一極(unipolar)支配状態が続いたが、21世紀に入り、アメリカ支配への反発(ブローバック)が起き、アメリカはテロとの戦争(war on terror)の泥沼にはまり込んだ。そして、中国の台頭という新たな局面にも直面している。中国の台頭は、世界構造を「西側諸国(the West、ザ・ウエスト)」対「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の対立構造へと変化させた。これは、グローバルノース対グローバルサウスの対立と言い換えることもできる。現在は、米中両国による新冷戦時代へ突入しつつあるという見立てがある。これは正しい見立てということになる。米中による二極(bipolar)構造、G2体制が形成されつつある。

 ここで重要なのは、米中が直接戦うことがなく、世界大戦も核戦争も起きなかった、冷戦期から教訓を引き出すことである。米中両国の直接の戦い、熱い戦い(hot war)を防ぐことが何よりも重要だ。

 下記論稿の著者アジーム・イブラヒムは、中国が中国であることが理由による敵意を高めず、協力の可能性を追求することが重要だと指摘している。しかし、同時に、西側諸国は、中国に対して過度に依存することなく、戦略的物資供給や技術独立を重視しなければならない。中国に対する抑止力のバランスや明確な交戦規則が重要であり、中国による民主国家への不干渉が、中国との共存に不可欠だとしている。米ソ冷戦時代のように、熱い戦争を避けるため、冷静な判断と宥和を選択すべきであるとしている。

 米中関係は相手の意図を読み取り、コミュニケーションを途切れさせず、世界の諸問題や衝突を深刻化させない、エスカレーションさせないという協力の枠組みが必要だ。アメリカが国力を減退させ、中国が国力を増進させる中で、長期的に見れば、米中逆転が起きる可能性は高まっている。そうした中で、アメリカによる一極支配から米中による二極構造へと変化していく。そうした中で、世界が戦争を避けるために、冷戦時代に培った教訓を活かす時期が来ている。

(貼り付けはじめ)

新たな冷戦には独自のルールが必要となる(A New Cold War Needs Its Own Rules

-中国との衝突は避けられないが、コントロールは可能だ。

アジーム・イブラヒム筆

2024年66

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/06/china-cold-war-rules-competition/

写真

ワシントンのホワイトハウスで中国の習近平国家主席とのヴァーチャル会談に参加するジョー・バイデン米大統領(2021年11月15日)。

ソヴィエト連邦との冷戦の記憶は薄れつつある。多くの人は、中国と新たな冷戦が始まるという考えや、差し迫った核による絶滅の脅威(threat of imminent nuclear annihilation)が頭上に漂う世界に戻っているという考えに躊躇(ためら)いを抱いている。専門家の一部は、中国との貿易から戦略物資を削減する取り組みは行き過ぎだと考えている。

残念なことに、多くの人が、中国の人権侵害や地政学的な挑発に対して、それらに対処することで、世界の国々が統合されている貿易関係が混乱することを避けることと求めており、何の影響も発生しないことを望んでいる。

サルマン・ラシュディやシャルリー・エブドに対して団結し、そして今度は再びイスラエルに対しても立ち上がったイスラム世界ですら、中国に対して沈黙を選択している。西側諸国に住む私たちが、同じように宥和を求める圧力(same pressure to appease)から免れているなどと想像しないで欲しい。

新冷戦に代わる選択肢が、激戦であるならば、前者は後者よりも限りなく好ましい。これha,

私たちが直面している二分法(dichotomy)だ。戦争を回避するということは、中国の野望と戦うために何が必要なのかという現実を受け入れることを意味する。

中国とワシントンが、特に世界市場(global markets)で競争するのは当然のことだ。競争は建設的である場合もあれば、破壊的な場合もある。技術的および経済的な競争は、誰にとっても良い結果となる可能性がある。たとえば、アメリカとソ連の間の宇宙開発競争(space race)は、科学技術における恩恵だ。これとは対照的に、戦争は当然、私たち全員をより貧しくさせ、安全性を低下させることになるだろう。

台頭する大国が衰退する大国に遭遇すると、常に暴力が発生する可能性がある。大英帝国とアメリカの間の覇権(hegemonic power)の譲渡のような友好的な移行(transfer)はまれだ。 1990年代の活気に満ちた時代、更には2000年代においても、中国の台頭により中国がアメリカの敵ではなくパートナーになる可能性があるように思われた。ナイオール・ファーガソンのような著名な歴史家は、リーダーシップを共有する世界的な双子である「G-2」と「チャイメリカ(Chimerica)」について語った。これは中国の一部の人たちに受け入れられている考えだ。

しかし、そうした世界は、中国共産党(Chinese Communist PartyCCP)において、習近平が政権を掌握した2012年に終焉を迎えた。習近平は、中国が地球上で最も強力な国になる運命に揺るぎない信念を持ち、西側諸国に対する復興主義者の熱意(revanchist fervor)を持った漢民族至上主義者(Han supremacist)である。習近平は、他の最近の中国指導者よりも、この国の「屈辱の世紀(Century of Humiliation)」について中国の学校で教えられた教訓を吸収してきた。中国の教科書によると、この期間は、第一次アヘン戦争から中国共産党が権力を掌握するまでの期間のことである。この時期、西側諸国は中国の首を絞め続けた。

今日、再び熱い戦争が起こる可能性があるが、それに対しては冷戦がより良い選択肢だ。

習近平の中国共産党総書記(CCP general secretary)への昇格が実現したとき、中国政府は容赦ない地政学的競争の道を選択した。おそらく一部の前任者とは異なり、習近平は、既存のグローバル化した自由主義秩序(incumbent globalized liberal order)内での必然的な中国権力の台頭が中国の「正当な立場(rightful standing)」にとって十分であるとは考えていない。米大統領ジョージ・HW・ブッシュ、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュは皆、中国がグローバル化した世界経済の中心となる未来を予見し、黙認したが、その中で、アメリカは引き続きこの世界秩序のハードパワーの執行者であった。習近平は、そのような取り決めは中国の力と潜在力に不当な制約を課すものだと考えている。

言い換えれば、習近平は、前任者たちがそうしたように、アメリカが制定し強制する世界秩序が、中国の必然的な成功への道であるとは考えていない。むしろ、彼はそれを、挑戦しなければならない束縛(straitjacket)だと考えている。彼は同じように世界的にアメリカの力に挑戦したいと考えている。彼はウクライナでも同様のことを行っており、ロシアの軍産基盤を支援し、モスクワの侵略を非難することを拒否している。習近平はまた、ハマス、ヒズボラ、その他の代理勢力を通じて中東に大きな不安定化をもたらすテヘランの影響を考慮し、中国がイランの石油の主要顧客となり、イランの軍事近代化を支援している。習近平は、アメリカに対抗して深まりつつあるイランとの連携を維持するため、フーシ派反政府勢力(Houthi rebels)を巡る航路など共通の利益を犠牲にする用意がある。

もちろん、中国が自国の再建を可能にした貿易から利益を得ることを依然として望んでいるため、その全てが常にそうであるとは限らないが、現在の国際秩序の規範や制度が、中国共産党の気まぐれや企みを制約する可能性がある場合には、習近平の提唱している「チャイニーズ・ドリーム(Chinese Dream)」を確保するために、その全てに挑戦しなければならない。

現在の国際的な制度的秩序は、中国共産党だけでなく、グローバルイーストとグローバルサウスの大部分の動機ややり方と衝突する価値観や規範を前提としている。西側の偽善は、確かにそれらは偽善ではあるけれども、中国のレトリック攻撃に対して危険なほど脆弱になっている。アメリカによる、悲惨かつ誤った戦争の真最中にあるイスラエルへの支援により、アメリカの立場は世界的に弱体化している。アメリカ主導の秩序と協力してきた長い歴史を持つインド、パキスタン、インドネシアを含む第三世界の国々は、最近の国連総会での投票結果が示しているように、中国が西側の行動を牽制できるようになる、多極化世界を非公式に、あるいは公然と応援している。中国のソフトパワーは、残忍な人権侵害に対する抗議活動をかき消すほど遠く離れた北京において仲介された、サウジアラビアとイランの国交回復合意などの成果を上げている。

現在の中国共産党を支配している世界観は、西側諸国との対決、そして西側諸国が第二次世界大戦後に構築し、冷戦終結時に作り直した国際統治システムの転覆、占領、破壊に取り組んでいる。

西側諸国の指導者たちは、この現実を認識し、世界システムとその価値観に対する攻撃に適切に対応することができる。理由が何であれ、彼らがそうしないことを選択した場合、それは紛争の、善意による回避とはならない。それは、弱みを察知し、更なる要求をするだけの危険な権威主義体制に対する宥和(appeasement)に過ぎない。中国がより強力になり、抑制力を失っていることで、熱戦のリスクが増大している。

中国自体も、道徳的にも戦略的にもより強硬な姿勢を正当化するほどの深刻な国内課題に直面している。最近の中国共産党中央委員会政治局(Politburo)の粛清、景気低迷、信用危機、企業や資本逃避(capital flight)の取り締まりにより、中国は特に制裁に対して脆弱になっている。習主席は久しぶりに、アメリカがいくつかの重要な難題、特に半導体への技術禁輸問題を解決し、アメリカ企業の中国からの投資引き揚げの流れを逆転させることを求めている。西側諸国は譲歩(concessions)を強要し、中国の軍事技術を後追いの状態においておけるだけの影響力を持っている。

中国との新冷戦は、紛争と競争を確立された範囲内に厳密に制限し、真の紛争に波及する可能性を制限するだろう。ソ連に対する冷戦から私たちが学べる貴重な教訓がある。

第一に、冷戦は慎重に行われた熱戦であるかのように語られてはならない。中国政府の敵対的な立場を認めて適切に対応することと、中国であるという理由だけで中国に対する敵意を高めることにイデオロギー的に関与することは別だ。冷戦が示すように、一般的な正反対の対立の中には、アメリカとソ連がポリオワクチンで協力している場合でも、現在中国と気候変動やパンデミックで協力している場合でも、協力の例が含まれる可能性がある。これは、世界の人権や国際秩序に対する中国の攻撃に全面的に従うことを要求するものではなく、問題を慎重に切り離し、独自のスペースを作り出すことを要求するものだ。

1990年代と2000年代の経験が示すように、アメリカと中国の間で協力は可能だった。将来の中国政権が西側諸国およびルールに基づく国際秩序(rules-based international order)とのより友好的で協力的な関係を選択できるよう、私たちは扉を開いたままにしておくべきである。習近平が権力を握っている間に、これが起こる可能性は低いが、中国が現在の行動を撤回する限り、西側諸国はそれが可能であるとシグナルを送り続ける必要がある。

中国はソ連ではない。ソ連のように、戦争の失敗や軍拡競争によって経済的に挫折することはない。モスクワに対して有効だった解決策は、中国に対しては有効ではないかもしれない。それは、特に北京もまた、冷戦に関する歴史書を読むことができるからだ。

しかし、私たちが長期に​​わたる紛争に陥っているという現実を考慮すると、戦略的物資供給(strategic supplies)を中国に依存しないことが絶対に必要となる。中国はアメリカの技術から戦略的に、特に軍事的に独立するために、最善を尽くしている。西側諸国も同様に、中国の技術、バリューチェイン、製造業の戦略的独立性を発展させなければならない。西側経済と防衛力に対する、非対称的なレバレッジは災厄を招くことになる。抑止力の安定したバランスにより、ソ連との対決中に大惨事は避けられた。中国に対してもまたそうなる可能性がある。

紛争から抜け出す道を提供すること(providing a path out of conflict)は、この新たな競争において何が許容され、何が許容されないか、そして最終的にどのようなステップが紛争につながるのかについて明確な一線を引くことを意味する。曖昧さがあるとエスカレーションが起こる。エスカレーションはすぐに手に負えなくなる可能性がある。民主政治体制国家への不干渉により、中国は受け入れ可能な世界的パートナーとなり、無数の敵対的な国家行動にもかかわらず、アメリカとの共存が可能になるだろう。経済戦争やサイバー戦争(economic and cyberwarfare)といった現在の敵対行為、特にイギリス選挙管理委員会やアメリカ軍施設などを標的とした行為には、長期にわたるエスカレーションのリスクが伴う。しかし、西側諸国は、これらの犯罪行為を非難以上にエスカレートさせるつもりはないことを既に示しており、おそらくそれが私たちにできる最善のことである。

これまでのところ、戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)が唯一明確に機能している例は、台湾に対するアメリカの立場である。そしてその場合、台湾に間違った動機を与えたり、無用な不安を煽ったりしないように、政策を維持することができる。しかし、それ以外の場合は全て、アメリカが中国の何らかの行動を懸念するのであれば、その懸念を明確に説明し、一線を越える場合に、どのようなコストを課す準備ができているかを事前に正確に述べるべきだ。明確な交戦規則(clear rules of engagement)は冷戦時代の紛争管理に有益だった。それらは新冷戦にも役立つだろう。

このような見立ては西側の人々の懸念を掻き立てることだろう。それは、私たちの思考と内省を研ぎ澄ますはずだ。しかし、宥和は有益な選択肢でも道徳的な選択肢でもない。私たちは、直接的な軍事衝突、つまり熱い戦争への不必要なエスカレーションを避けるために必要な行動について、冷静に判断しなければならない。

冷戦は恐ろしい時代だった。しかし、私たちが思っているよりもうまく管理されていた。戦争は避けられた。熱い戦争はなかったし、現在もあってはならない。実際、中国は冷戦時代のソ連のように激しい代理戦争(proxy wars)に資金を提供してはいない。中東におけるイランの植民地獲得の野心やソ連のイデオロギー闘争とは異なり、中国の目標はより独善的であるが、恐ろしいほど偽りのないものである。

そして、少なくとも、その意味では、政府、学者、軍隊内の「冷戦の心性(Cold War mentality)」は、本能的な宥和、あるいはその恐ろしい2つの要素、制御不能なエスカレーション(uncontrolled escalation)を避けるためにまさに必要なものなのかもしれない。私たちは、この新冷戦を正確に把握し、それに応じて行動する準備をしなければならない。

※アジーム・イブラヒム:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。アメリカ陸軍大学戦略研究所研究教授。ワシントンのニューラインズ戦術・政策研究所部長。著書に『過激な起源:なぜ私たちはイスラム過激派との戦いに敗れつつあるのか(Radical Origins: Why We Are Losing the Battle Against Islamic Extremism)』と『ロヒンギャ族:ミャンマーの隠された大量虐殺の内側(The Rohingyas: Inside Myanmar’s Hidden Genocide)』がある。ツイッターアカウント:@azeemibrahim

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 米中戦争についてはその危険性が高まっているということを主張する人々が多くいる。台湾有事、中国が台湾に軍事侵攻して、台湾を防衛するアメリカ、そして、日本と戦争状態になるという主張がある。中国は既に武力に訴えなくても、台湾を統一することができるようになっているということはアメリカでも言われている。台湾に対して武力を用いないとなれば、中国が他に武力を用いることは考えられない。また、中国がアメリカに代わって、世界覇権国になる可能性が高いが、アメリカの凋落を中国は熟した柿が落ちてくるのを待つ、熟柿作戦で十分だ。わざわざ木を揺さぶって、柿を無理やり落とすようなことは必要ない。アメリカが挑発しない限り、中国は戦争を起こさない。

 しかし、中国は習近平がこれまでのルールを変更して、3期目の国家主席を務めている。また、中国国内政治において重要な勢力である中国共産主義青年団派(Communist Youth League FactionCYLF、共青団派、団派)を最高指導部層から排除している。そして、「工航天系、jungonghangtianxi」と呼ばれる、国防・航空宇宙産業出身者たちが多数、中国共産党中央政治局に入っている。彼らは、軍事と最先端技術の知識を持つ人材である。そして、こうした人事は、中国の戦争に備えた体制、アメリカの不安定さから起きるかもしれない突発的な事態に備える体制を整えている。中国は戦争を起こす意図は持っていないが、怠りなく、戦争に備える態勢を整えている。

 アメリカとアメリカの同盟諸国(アジアでは日本ということになる)は、中国の膨張に備えて、中国を抑止できるようにしておかねばならない。抑止力の強化、中国の封じ込めこそが重要だという論である。しかし、これでは、アメリカ(と同盟諸国)、中国の双方が軍拡競争を行うということになる。軍備を増強して、安心感を得ても、相手は不安を感じ、軍備を更に増強する。これがずっと繰り返されていくという、「安全保障のディレンマ(security dilemma)」に陥ってしまう。国力が減退し続けているアメリカは中国との軍拡競争をすべきではない。そんなことをすれば、自分で死期を早めるようなものだ。また、アメリカは西側諸国を対中包囲網に引き入れようとしているが、西側先進諸国の国力も衰退しつつある。一方、非西側諸国は国力を増進させている。大きな流れで言えば、中国を封じ込めることはできないし、非西側諸国の国力の膨張を停めることはできない。

 短期的、中期的に見て、米中両国は「G2」体制を形成し、世界の平穏維持に努めるべきだ。そして、G2の枠組みを通じて対話を行い、無用な衝突を避ける、このことが何よりも重要だ。米中戦争という馬鹿げた幻想に乗せられて、衝突することこそは人類の大いなる不幸である。

(貼り付けはじめ)

中国はどれほど戦争の準備ができているのか?(How Primed for War Is China?

-紛争の危険信号が赤色で点滅している。

マイケル・バックリー、ハル・ブランズ筆

2024年2月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/04/china-war-military-taiwan-us-asia-xi-escalation-crisis/

中国が戦争を始める可能性はどのくらいあるか? これは今日の国際情勢において最も重要な問題かもしれない。中国が台湾や西太平洋の別の目標に対して軍事力を行使した場合、その結果はアメリカとの戦争、つまりこの地域とより広い世界の覇権(hegemony)をめぐって争う核武装した二人の巨人の間の戦いになる可能性がある。ウクライナと中東で続く戦争の最中に中国が攻撃すれば、世界はユーラシアの主要地域全体で連動する紛争に飲み込まれ、第二次世界大戦以来例のない世界規模の大火災となるだろう。

米中戦争についてどれだけ心配すべきだろうか?

最近のワシントンと中国の間のハイレヴェル外交の慌ただしさにもかかわらず、危険な兆候は確かに存在している。中国の習近平国家主席の下、中国政府はここ数十年で最大規模の軍事力増強の一環として、船舶、航空機、ミサイルを増強している。気まぐれな海外投資を呼び戻そうとする最近の取り組みにもかかわらず、中国は燃料と食料を備蓄し、制裁に対する経済の脆弱性(vulnerability)を減らそうとしている。これは紛争が近づくと取られるかもしれない措置である。習主席は、中国は「最悪かつ極端なシナリオ(worst-case and extreme scenarios)」に備え、「強風、荒れた海、さらには危険な嵐(high winds, choppy waters, and even dangerous storms)」に耐える準備をしておく必要があると述べた。これら全ては、中国政府がフィリピン、日本、インドを含む近隣諸国との関係でますます高圧的(時には暴力的)になり、台湾を攻撃し、封鎖し、場合によっては侵略する能力を定期的に宣伝している中で起こっている。

アメリカ政府高官の多くは、戦争の危険性が高まっていると考えている。ウィリアム・バーンズCIA長官は、習主席が2027年までに台湾を占領する能力を模索していると述べた。また、中国経済が苦戦する中、一部の観察者(伝えられるところによれば、アメリカ情報アナリストを含む)は、ピークに達した中国が中国からの注意をそらすために攻撃的になる兆候を探している。内部の問題を解決するか、まだ可能なうちに利益を固定するためだ。

他のアナリストたちは、中国の侵略のリスクは誇張されていると考えている。一部の学者は、アメリカが中国を刺激しなければ、この危険は管理できる可能性が高いと述べているが、これは中国が自国に有利に機能してきた現状をひっくり返すつもりはないという長年の主張の反映だ。中国は、1979年のヴェトナム侵攻以来、戦争を始めていないと指摘する人もいる。また、中国には陽動戦争(diversionary war)の歴史がないと主張して、経済減速やその他の国内問題に対応して中国が戦争を起こす可能性があるという見通しを否定する人もいる。これらの議論を結びつけているのは、中国の行為の基本的な継続性に対する信念である。つまり、40年以上悲惨な戦争を始めていない国が今も戦争を始める可能性は低いという考えである。

私たちは、この自信は危険なほど見当違いであると考えている。国の行動は、その戦略的伝統に劣らず、その国の状況によって深く形成されており、中国の状況は爆発的に変化している。政治学者や歴史家たちは、大国が多かれ少なかれ戦争する傾向にある様々な要因を特定している。このような4つの要因を考慮すると、かつては、平和的な隆盛を可能にしていた条件の多くが、現在では暴力的な衰退を促進している可能性があることが明らかになる。

第一に、中国が争っている領土問題やその他の問題は、かつてほど妥協や平和的解決(compromise or peaceful resolution)が受けにくくなり、外交政策がゼロサムゲームになっている。第二に、アジアの軍事バランスは変化しており、中国政府が戦争の結果について危険なほど楽観的になる可能性がある。第三に、中国の短期的な軍事的見通しが改善するにつれて、長期的な戦略的および経済的見通しは暗くなっており、この組み合わせが過去に修正主義諸大国(revisionist powers)を更に暴力的にすることがよくあった。第四に、習国家主席は中国を、特に悲惨な誤算と多大な費用がかかる戦争(disastrous miscalculations and costly wars)を招きやすい種類の個人崇拝的独裁政治体制(personalist dictatorship)に変えてしまった。

これは、中国が特定の週、月、または年に台湾を侵略すると言っているのではない。紛争の引き金は予期せぬ危機であることが多いため、紛争がいつ起こるかを正確に予測することは不可能だ。1914年にヨーロッパが戦争の準備を整えていたことは今では分かっているが、もしオーストリア大公フランツ・フェルディナンドを乗せた車の運転手が歴史上最も運命的な誤った道を歩まなければ、第一次世界大戦はおそらく起こらなかったであろう。戦争は地震に似ている。戦争がいつ起こるかを正確に知ることはできないが、リスクの程度の高低につながる要因を認識することはできる。現在、中国のリスク指標は赤く点滅している。

米中戦争の可能性は一見すると遠いように見えるかもしれない。中国政府は44年間大規模な戦争を行っておらず、中国軍は1988年に南沙諸島での小競り合いで中国のフリゲート艦がヴェトナム海軍の水兵64人を機銃掃射して以来、外国人を殺害していない。いわゆるアジアの平和、つまり、1979年以来、東アジアで国家間戦争が起こっていないことは、中国の平和の上に成り立っている。

戦争がないことは、侵略がないことを意味する訳ではない。中国政府は軍事力と準軍事力を利用して、南シナ海と東シナ海での権限を拡大してきた。近年、中国はインドとも血なまぐさい争いを繰り広げている。それにもかかわらず、アメリカがいくつかの戦争を戦った一方で、中国政府が大規模な戦争を回避してきたという事実により、中国政府当局者たちは、自国が世界的大国への道を独自に平和的に歩んでいる(peaceful path)と主張することができた。そして、戦争を心配する人々は、二世代にわたる平和によって記録的な成長を遂げた中国が、なぜこれほど劇的な方向転換をするのか説明するよう強いられる。

一見平和そうに見える新興大国が破綻するのはこれが初めてではない。1914年以前、ドイツは40年以上大規模な戦争をしていなかった。1920年代、日本は海軍の制限、アジアでの権力の共有、中国の領土一体性の尊重を誓約する条約に署名する際、多くの外国専門家たちを責任ある利害関係者のように見ていた。2000年代初頭、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領はNATOに加盟し、ロシアを西側に近づけることについて熟考した。それにもかかわらず、これらの国々がそれぞれ野蛮な征服戦争を開始したということは、状況は変化するという基本的な真実を強調している。同じ国でも、状況に応じて、異なる行動を取る可能性があり、場合によっては極端な行動する可能性がある

そのような状況の1つは、領土紛争に関係する。ほとんどの戦争は、地球のどの部分を誰が所有するかをめぐる争いだ。1945年以降に起こった国際紛争の約85%は、領土の主張を中心に展開している。領土には象徴的または戦略的な重要性があることが多いため、共有するのは困難だ。国家が地域を分割することに同意した場合でも、都市、石油埋蔵量(oil reserves)、聖地(holy sites)、水路、戦略上の高地などの最も貴重な部分をめぐって争いになることがよくある。更に言えば、領土を確保するには、フェンス、兵士、入植者(settlers)の形で物理的に存在する必要がある。したがって、国家が同じ縄張りを主張すると、頻繁に望ましくない接触が発生する。領土紛争は、一方の側が自国の主張が急速に侵食されることを懸念している場合、特にエスカレートする可能性が高い。神聖な土地が失われつつある、あるいは国が敵によって解体されるかもしれないという信念は、国境をより安全に保っている国であれば避けるであろう侵略を引き起こす可能性がある。

戦争の第二の原因は、軍事バランスの変化だ。戦争は様々な問題をめぐって行われるが、全ての根本的な原因は共通している。それは誤った楽観主義だ。こうした事態は、両方が目的を達成するために武力を行使できると信じている場合、言い換えれば、双方が勝てると考えている場合に起こる。もちろん、両方にとって、真に有利な戦争はほとんどない。つまり、少なくとも一方が、そして非常に多くの場合は両方が、敵の力を悲惨なほど過小評価していた。つまり、競争的または曖昧な軍事バランスが戦争を引き起こす。したがって、新しい技術の導入や弱い側による大規模な軍事増強など、特定のバランスを、競争力を高めたり曖昧にしたりすると、戦争のリスクが高まります。

第三に、諸大国は将来の衰退を恐れると好戦的になる。地政学的競争は強烈で容赦がないので、各国は相対的な富と力(wealth and power)を神経質に守っている。最も強力な国であっても、経済の停滞、戦略的包囲網、または自国の国際的地位を脅かし、敵の略奪に晒される、その他の長期にわたる傾向に悩まされると、暴力的な不安に陥る可能性がある。武装を強化しながらも不安は増大し、衰退の瀬戸際にある大国は、必要なあらゆる手段を使って不利な傾向を阻止しようと熱心に、あるいは必死になるだろう。ドイツ帝国、大日本帝国、そしてプーティン大統領のロシアにとって、それは最終的には戦争を意味した。

最後に、国家の行動はその政権によって形作られる。個人崇拝的な独裁国家は、多数の手に権力が握られている、民主政体国家や専制国家に比べて、戦争を起こす可能性が2倍以上高い。独裁者は紛争の代償に晒されることが少ないために、より多くの戦争を起こす。過去100年間で、戦争に負けた独裁者が権力の座から転落したのはわずか30%であったのに対し、戦争に負けた他のタイプの指導者は投票で排除されるか、その他の方法で政権の座から追放された。ほぼ100%排除される。独裁者が過激主義に傾くのは、親愛なる指導者の要求に全力で応えようとするおべっか使いたちに囲まれているからだ。独裁者はまた、血と土のナショナリズムが国内での圧制を正当化するのに役立つため、海外に現実の敵や想像上の敵を仕立て上げていく。そのため、限られた政府の指導者は通常、控えめに統治し、忘れ去られていくのに対し、ドイツのアドルフ・ヒトラー、イタリアのベニート・ムッソリーニ、ソ連のヨシフ・スターリン、中国の毛沢東、イラクのサダム・フセイン、ロシアのプーティンなどの独裁者は、しばしば歴史書に名前を残すようになっている。

これら4つの要因、つまり、確定していない国境、競争的な軍事バランス、否定的な予測、独裁政治は、中国の歴史的な武力行使を説明するのに役立ち、今日でも不気味な影響を及ぼしている。

中華人民共和国は戦いの中から誕生した。中国は一世紀にわたる外国帝国主義(foreign imperialism)に耐え、1937年の日本侵攻後、アジアで第二次世界大戦の矢面に立たされた。少なくとも1400万人の中国人が死亡した。その後、1945年から1949年にかけて、中国国共内戦は血なまぐさい最高潮に達し、共産主義者が権力を握るために戦う中で少なくとも200万人以上が殺害された。

こうした紛争のさなか、中国は極度の好戦国家(hyper-belligerent state)として台頭した。数十年にわたり、この国は世界で最も苦境に立たされた国の1つであり、5つの戦争を戦い、冷戦時代の米ソ両超大国(superpowers)の主敵となった。中国は戦争のあらゆる危険因子を示していたため、この暴力的な記録は驚くべきことではない。

第一に、中国は個人支配(one-man rule)の権化(apotheosis)である毛沢東によって率いられていた。毛沢東は日常的に同僚を粛清し、不可解で移り変わる論理的根拠に基づいて、しばしば夜中に寝ぼけながら一方的に決定を下した。彼はまた、人命に対する驚くべき軽視を示した。毛沢東が生きているうちに中国を超大国に変えるという無謀な計画である大躍進政策中に、およそ4500万人が飢えたり、殴られたり、射殺されたりした。この悲惨な作戦の背後に国民を結集させる必要もあり、毛沢東は1958年に台湾の国民党政府が保有する島々を砲撃して国際危機を煽動した。

毛沢東はサディスティックだったかもしれないが、これほど冷酷でない指導者であったら、これほど打ち砕かれた国家について、平和で統一された状態に保つのにより苦労したことだろう。内戦に勝利した後、中国共産党(Chinese Communist PartyCCP)は中央政府の権限を村ごとに再賦課し、少数民族、軍閥(warlords)、国民党支持者による抵抗勢力を苦労しながら、根絶しなければならなかった。更に悪いことに、日本とヨーロッパの諸帝国の崩壊により、中国の一部は、敵対的か不安定な、あるいはその両方の新たな国々に囲まれた状態になった。中国の国境の大部分はある程度争われていた。1960年代までに、ソ連との国境は世界で最も軍事化された地域となった。台湾はアメリカの支援を受けた、ライヴァルの中国国民党政府の拠点であり、本土の再征服を公然と計画していた。インドはチベット亡命政府(Tibetan government in exile)を受け入れ、広範囲の中国領土を自国領土と主張した。そして中国の中心地は、冷戦の2つのホットスポット、インドシナと朝鮮半島の間に挟まれていた。

中国は自らが常に引き裂かれる危険に晒されており、毛沢東が引き起こした経済的大惨事と政治的混乱によって、こうした歴史的トラウマはさらに強調された。しかし、北京は陸の隣国それぞれに対して常に実行可能な戦略を持っていた。なぜなら、中国の巨大な人口により、北京が「人民戦争(people’s war)」と呼ぶ、人海攻撃(human wave attacks)とゲリラ襲撃(guerrilla raids)を組み合わせた方法で敵国を飲み込むことができたからである。全体として、それは、領土紛争に巻き込まれ、無尽蔵に見える人的資源で武装した残忍な独裁政権という、可燃性の高い組み合わせ(combustible combination)となった。

このように中国は紛争から紛争へと戦い続け、特に脆弱だと感じたり、差し迫った立場の低下を恐れたりすると暴力を振るった。 1950年、中国は核報復(nuclear retaliation)の危険を冒して、北朝鮮奥深くまで進軍してきたアメリカ軍を攻撃した。1950年代後半、中国は台湾海峡の沖合の島々にある国民党の守備隊を砲撃し、更に2つの戦争を始めるところだった。1962年、中国が領有権を主張するヒマラヤ山脈にインド軍が前哨基地を建設した後、中国政府はインド軍を攻撃した。ヴェトナム戦争中、中国はアメリカ軍と戦うために数万人の軍隊を派遣した。1969年、ソ連軍の大幅な増強を受けて、北京はウスリー川沿いでソ連赤軍を待ち伏せ攻撃し、再び核戦争の危険を引き起こした。10年後、ヴェトナムがソ連軍の受け入れを開始し、中国政府の唯一の緊密なパートナーの一つであるカンボジアに侵攻した後、中国はヴェトナムを攻撃した。

その後、中国の銃はほとんど沈黙した。例外はあるが、最も顕著なのは1995年と1996年に中国が台湾付近にミサイルを発射した時だ。しかし一般的に言えば、1980年から2000年代半ばにかけて状況が劇的に変化したため、中国政府はそれほど苛烈で攻撃的ではなくなった。

まず中国最高指導部が軟化した。1976年に毛沢東が亡くなり、最終的に鄧小平が後任となったが、鄧小平は毛沢東によって粛清され、個人支配の危険性を理解していた。鄧小平の指導の下、最高級指導者たちの任期制限(term limits)が設けられた。全国人民代表大会と中国共産党中央委員会は、定期的に会合を開き始めた。専門化された官僚制(professionalized bureaucracy)が形成され始めた。これらの制度は完璧とは程遠いものだったが、毛沢東政権下では全く欠けていた権力に対するチェック機能(checks on power)を生み出した。

第二に、中国の地政学的立場が改善され、領土保全に対する脅威が減少した。1970年代にアメリカが中国に対して開放した後、台湾の敵対政府は外交上の承認とアメリカとの軍事同盟の大部分を失った。ソ連を追い詰めるため、アメリカは中国と準同盟(quasi-alliance)を結び、先端技術を中国企業に移転した。台湾、ソ連、インド、ヴェトナムは、アメリカの反応を引き起こす可能性なしに中国の領土を侵害することはもはや不可能となった。そして、1991年にソ連が崩壊すると、中国の陸上国境に対する主要な脅威はほぼ完全に消滅した。ロシアの支援がなければ、インド、ヴェトナム、そして中央アジアの新興諸国は中国の国境に対抗できる立場になかった。その代わりに、中国との関係正常化に動いた。

第三に、中国の将来に対する見方が明るいものとなった。アメリカや他の民主政体諸国との接近を経て、中国は世界経済への容易なアクセスと国連安全保障理事会の常任理事国の地位を獲得した。1970年代後半から2000年代初頭にかけて、その経済は驚異的なペースで成長した。各国は急成長する市場にアクセスするため、中国政府に好意を示した。イギリスは香港を返還した。ポルトガルはマカオを放棄した。アメリカは中国の世界貿易機関(WTO)への加盟を急いだ。中国経済が大混乱に陥り、世界の最も強力な国々が中国の台頭を歓迎している中、中国政府には日に日に良くなっているように見える現状をひっくり返す動機がほとんどなかった。

最後に、中国には征服の機会がほとんどなかった。経済的、外交的影響力が拡大していった一方で、中国軍は未だ係争中の領土、そのほとんどが海上にある領土を占領する能力が明らかに無かった。2000年代以前のみすぼらしい空軍と海軍では、中国の台湾侵攻は「百万人の水泳大会(million-man swim)」のようになり、日本の最先端の部隊との衝突は数時間でけりがついていたかもしれない。最も重要なことは、アメリカが海洋アジアにおける中国の侵略を鎮圧することが期待できることだった。湾岸戦争でアメリカ軍がイラク軍を壊滅させたのを見た中国指導者たちは、鄧小平の格言を受け入れて、「韜光養晦(とうこうようかい、to hide their light and bide their time)」、光を隠し、時を待つ傾向にあった。

今日の中国は隠れて入札することは終わった。その代わりに、第二次世界大戦後、どの国よりも速いペースで軍艦やミサイルを大量生産している。中国の航空機と軍艦は台湾とアメリカの目標への攻撃をシミュレートしている。アジアのシーレーンには中国軍の前哨基地が点在し、中国沿岸警備隊や漁船があふれており、中国政府が主張する海域から近隣諸国を図々しくも追い出している。一方、中国はロシアによるウクライナへの残虐行為を支援し、中印国境に軍隊を集結させている。

中国が戦闘的になった理由の1つは、それができるからだ。中国のインフレ調整後の軍事予算は、1990年から2020年の間に10倍に拡大した。現在、中国政府はアジアの他の全ての国を合わせた支出を上回っている。世界最大の弾道ミサイル戦力と海軍を擁する。2020年代の終わりまでに、中国の核兵器保有量はワシントンの核兵器に匹敵する可能性がある。台湾から500マイル以内にある唯一の基地である、沖縄のアメリカ軍基地を粉砕できる通常ミサイルでは、国防総省が中国の台湾攻撃に即座に対応できるか、ましてや打ち破ることができるかは、もはや明らかではない。歴史的に、アメリカは長引く戦争で敵国を上回る生産力を誇る製造力に頼ってきた。しかし、中国が世界の工場となった今、中国政府は、正しいかどうかにかかわらず、戦争が長引けば長引くほど軍事バランスは、更に中国側に有利に変化すると信じているかもしれない。

領土紛争(territorial disputes)が激化する中、中国も戦争への動機を強めている。第一に、台湾を統一する平和的手段は急速に失われつつある。1995年には、台湾人よりも自分たちはもっぱら中国人であると考える台湾国民の方が多く、独立よりも中国との統一に向かうことを好む人が多かった。現在、人口のほぼ3分の2が自分たちをもっぱら台湾人であると考えているのに対し、もっぱら中国人であると自認する人はわずか4%だ。台湾人の多くは、今のところ現状維持を支持しているが、人口の49%は、無期限の現状維持(27%)や統一(12%)よりも、最終的には独立することを望んでいる。一方、アメリカは台湾との関係を強化しており、ジョー・バイデン米大統領は、アメリカが中国の攻撃から台湾を守ると少なくとも4回宣言している。アメリカと台北が中国との潜在的な紛争に備えて軍事体制を見直している中、中国政府は最も切望する領土の運命について警戒を強めている。

南シナ海における中国の軍事的プレゼンスは大幅に拡大しているが、その外交的地位は損なわれつつある。2016年、ハーグの常設仲裁裁判所は、南シナ海に対する中国の広範な主張は無効であるとの判決を下した。訴訟を起こしたフィリピンは、2022年以来、自国の海洋権(maritime rights)を再主張し、アメリカが自国の領土を防衛するために、追加の軍事基地にアクセスすることを認めている。日本は、マニラと準同盟(quasi-alliance)を結んでいるほか、イギリス、フランス、ドイツを含む多くの国が中国政府の主張に反して、南シナ海に軍艦を派遣している。これに対抗して、中国は物理的に攻撃的になった。例えば昨年、中国沿岸警備隊の船はフィリピンの補給船を放水銃で爆破し、第二トーマス礁に駐留する軍関係者に食料を届けることを妨害した。

中国の軍事力が増大するにつれて、そのより大きな地政学的見通しは暗くなっている。中国経済は最近、アメリカに比べて停滞し、縮小している。生産性は低下し、負債は爆発的に増加している。中国政府がこの問題に関する統計の発表を一時停止した2023年半ばの時点で、若者の20%以上が失業しており、この数字はほぼ間違いなく問題の深刻さを過小評価している。裕福で教育を受けた大勢の中国人が金と子供たちを国外に送り出そうとしている。中国が世界史上最悪の高齢化危機に見舞われるにつれ、こうした問題は更に悪化するだろう。今後10年間で、中国は7000万人の労働年齢成人を失う一方で、1億3000万人の高齢者が増えることになる。

最後に、中国はますます敵対的な戦略環境に直面している。世界で最も裕福な国々は、経済と軍事の革新の生命線であるハイエンド半導体へのアクセスを遮断し、中国政府に対して、毎年新たな貿易と投資の制限を課している。 AUKUS、日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQUAD)、日米韓三カ国協定などの反中協定が急増している。中国の唯一の大国の同盟国であるロシアは、ウクライナで軍隊による破壊を引き起こし、多くのヨーロッパ諸国の世論を反中国にさせている。

もし中国がテクノクラートたちの委員会によって統治されていれば、外交的妥協と経済改革で、こうした圧力に対抗するかもしれない。しかし、中国は独裁者によって統治されており、その壮大な目的を達成するためには、中国国民の幸福を犠牲にする用意があることを既に示している。

2012年に権力の座に就いて以来、習近平は自らを終身主席(chairman for life)に任命し、自らの統治哲学を憲法に盛り込み、数千人の潜在的なライヴァルを粛清してきた。習近平は、中国の広大な領土主張に関して妥協のない立場をとっている。習は2018年、「祖先が残した領土を1インチたりとも失うことはできない」とジェームズ・マティス米国防長官に警告した。習は中国を超大国にすることの正当性を主張してきた。国営メディアは現在、毛沢東の下で中国は立ち上がったと宣言している。鄧小平の下で中国は豊かになった。そして習金平の下で中国は強大になるだろう。近年、習近平は内部演説で中国軍に戦争の準備をするよう指示し、中国国民に「極端なシナリオ(extreme scenarios)」に備えるよう指示した。

おそらく、このレトリックはただの暴言なのかもしれない。しかし、残忍なゼロコロナ封鎖、新疆の強制収容所、香港の自由の粉砕など、習近平の行動の多くは、本質的な冷酷さを示すものだ。中国が経験している他の変化と組み合わせると、これらの形態の内部侵略は、今後待ち構えているかもしれない、外部侵略について私たちを非常に緊張させるはずだ。

もちろん、国家が何も考えずに戦争か平和を選択するということはない。彼らはまた、世界のより大きな国家からヒントを得る。1930年代、連鎖的に起こる国際的な混乱は、既存の秩序を守る人々の士気をくじき、それを攻撃しようとする人々を勇気づけた。それでは、ヨーロッパにおける第二次世界大戦以来最大の戦争と、中東での拡大する紛争によって、中断された現在の混乱は、中国の選択をどのように形作る可能性があるのだろうか?

一つの見方は、ロシアのウクライナ戦争が、どれほど手厳しく裏目に出るかを示し、他の侵略戦争の可能性を低くするというものだ。バイデン政権高官たちや学識経験者の一部が支持するこの話では、中国はプーティン大統領の不正な土地強奪から厳粛な教訓を学んでいるということになる。中国政府は、献身的な防衛者に対する征服がいかに難しいか、独裁的な軍隊が戦闘でいかに劣悪なパフォーマンスを発揮するか、米諜報機関が略奪計画の探知にどれほど熟達しているか、そして民主世界が自由に基づいた秩序の規範に反抗する国をいかに厳しく罰することができるかを学んでいる。中国軍はロシア軍を弱体化させた腐敗の有無を厳しく調べており、その腐敗が思ったよりもずっと深刻であることが判明した。アメリカ政府当局者たちは、中国が最近の出来事を同様の観点から解釈していることを期待しているに違いない。

しかし、私たちはこの解釈を注意深く精査する必要がある。まず、中国がウクライナ戦争についてどう考えているかを知るのは非常に難しい。結局のところ、重要な教訓は、中国人民解放軍の上級大佐や北京のシンクタンク研究員によって発表されたものではない。重要な教訓は、世界に対する認識が個人崇拝政権のあらゆる通常の病理によって彩られている可能性がある、甘やかされた独裁者によって描かれている。習近平の公の発言からすると、今回の紛争が習近平の野心を和らげたり、中国の国家政治を根本的に穏健にしたりする証拠はほとんどない。習近平は、2023年3月にモスクワを訪問した際、プーティン大統領に対し、「現在、私たちがこの100年にしたことのないような変化が起きており、私たちはその変化を共に推進している」と語った。

加えて、習近平は、ウクライナと台湾を比較できるものとは考えていない可能性がある。プーティンが派遣したロシア軍がウクライナで苦戦したのは、ウクライナ戦争が、彼らが準備され、教化されてきた(indoctrinated)戦争ではなかったからでもある。中国は何十年にもわたって台湾をめぐる戦争の準備をしており、統一(unification)が「中華民族の偉大な復興(great rejuvenation of the Chinese nation)」の中心であると兵士たちに厳しく教えていることを考えると、台湾への侵攻は問題ではないだろう。さらに、社会全体で抵抗する能力において、台湾はウクライナより劣ると習近平が考えているとしても、それは彼だけのことではない。アメリカ政府の高官や専門家たちも同様の懸念を表明している。

あるいは、もしかしたら習近平は、アメリカは核武装した大国とはいかなる戦争もしないと結論づけているのかもしれない。なぜなら、アメリカがモスクワと正面から対峙しない理由をバイデンが説明する際に、同じことを言ったからである。おそらくバイデンは、西側諸国の制裁は実際にはそれほど懲罰的ではないと考えているのだろう。戦争が始まって2年が経ち、ロシアはウクライナ領土の20%を支配し、石油やその他の輸出品は新たな市場を開拓し、工場は兵器を大量生産しており、経済は崩壊の危機に瀕していない。そして、おそらくバイデンは、ロシアがウクライナの反撃を切り抜ける一方で、アメリカの政治家たちがキエフに更なる資金と武器を送るかどうかで争っている最近の戦争の軌跡を、独裁国家は民主的な敵よりも強さと回復力を発揮できるという証拠だと考えているのだろう。

明確にしておきたい。習近平が実際に何を考えているのかは分からない。しかし、中国の戦争への動機を強める可能性のある、あまり安心できない別の教訓ではなく、まさにアメリカ人が彼に学ばせたい教訓を彼が学んでいると考えるのは危険である。

中国は最終的に、2025年、2027年、2029年、あるいはこれからも、台湾、あるいはインド、日本、フィリピン、あるいは他の国を攻撃するかもしれない。北京がいつ武力を行使するか、あるいは行使するかどうかを確実に予測することはできない。しかし、戦争になりやすい国なのか、なりにくい国なのか、中国の内的特徴や外的条件によって、暴発するリスクが高いのか、低いのかを評価することはできる。今日、歴史家や政治学者たちが戦争の原因について知っていることの多くは、中国が暴力を振るう素地があることを示唆している。

残念なことに、ワシントンは北京をこの危険な道へと突き進ませているいくつかの要因に影響を与えることはできない。アメリカは中国の人口危機を解決することも、構造的な経済問題を解決することも、習近平のワンマン支配を止めることもできない。例えば、北京の高度技術へのアクセスを緩和したり、インド太平洋でより強力な連合を構築する努力を放棄したりすることで、中国の将来に対する否定的な期待を変えることはできるかもしれないが、そうすることはワシントンの立場を致命的に弱めるかもしれない。アメリカは、競争に勝ち抜くと同時に、深刻な衝突を避けなければならない。その中で、アジアでの戦争がどのような結果をもたらすかについての、中国の楽観論を抑え、北京が屈辱的な敗北を避けるために戦わなければならないと結論付けるのを防ぐことを目指すべきである。

戦争の結果についての中国の楽観論を否定するための要件は、たとえ簡単に満たされるものではないとしても、非常に単純である。その中には、対艦ミサイル、機雷、移動式防空システム、その他の安価だが致死的な能力を持つ武器が満載の台湾も含まれる。無人機、潜水艦、ステルス航空機、そして膨大な量の長距離攻撃能力を使用して、西太平洋に決定的な火力をもたらすことができるアメリカ軍もそうした要因の1つとなる。そして、アメリカ軍に地域内のより多くの基地へのアクセスを許可し、更に多くの国を中国政府との戦いに参加させる恐れのある同盟諸国やパートナーとの協定。中国経済を制裁で打撃し、海洋貿易を阻止できる世界規模の国々の連合。そして経済的、財政的優位性が最終的に決定的であることが判明するまで、民主政体諸国が戦いを継続できる、活性化された産業基盤といったものもある。ワシントンとその友人たちは、既にこれらのあらゆる取り組みを推進している。しかし、彼らは、急速に成熟する中国の軍事的脅威を上回るために必要なスピード、リソース、緊急性を持ってはいない。

2つ目の課題には、抑止力(deterrence)と安心感(reassurance)を組み合わせることが含まれる。これは、習近平の目から見ると、不作為が中国を解体(dismemberment)と屈辱(humiliation)に導く可能性がある程度を制限することだ。中国政府高官たちは、アメリカの政策と台湾の政治が台湾を独立やその他の形での永続的な分離(permanent separation)への道に導いていることを心から懸念しているが、その傾向の主な原因が自国の行動にあることを認識していない。したがって、アメリカは台湾に関して慎重に対処しなければならない。

アメリカ政府は、2022年8月のナンシー・ペロシ連邦下院議長(当時)の台湾訪問のような、台湾の防衛強化には何の役にも立たず、中国の不安と怒りを大いに煽る派手な見せ物は避けるべきだ。アメリカは、とりわけマイク・ポンペオ前米国務長官が提案した「一つの中国」政策(“One China” policy)を捨てて台湾を正式に承認する(formally recognizing Taiwan)という考えを拒否すべきだ。台湾の指導者たちによる独立推進の宣言や行動については反対すべきだ。言い換えるならば、アメリカは台湾を防衛するための信頼できる能力を行使すると同時に、米中どちらの側も一方的に現状を変更すること(unilaterally changing the status quo)を阻止することを目指すという信頼できる誓約を提示しなければならない。

このアプローチには多くの矛盾があるので、その実施は非常に困難だ。アメリカとの同盟関係の強化は、中国の軍事的楽観主義(military optimism)を低下させる可能性があるが、同時に戦争の予感(sense of foreboding)を強める可能性がある。抑止力を強化するために必要な緊急性は、特に中国政策が米大統領選挙戦に巻き込まれる中で、両岸外交(cross-strait diplomacy)に必要な慎重さと一致させるのは難しいかもしれない。強力だが問題を抱えた中国は悪い方向へ進んでいる。戦争への突入を防ぐには、アメリカとその友好諸国が結集できるあらゆる力と節度(strength and sobriety)が必要となる。

※マイケル・バックリー:タフツ大学政治学准教授、アメリカン・エンタープライズ研究所非常勤上級研究員。

※ハル・ブランズ:ジョンズ・ホプキンズ大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院(SAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念世界問題担当優等教授、アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。ツイッターアカウント:@HalBrands

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 アメリカ通商代表(U.S. Trade Representative)は、アメリカの通商政策を担う役職であり、閣僚級とされている。そして、外交交渉を行う権限を持ち、大使として扱われる。各国との貿易に関する取り決めについてアメリカを代表して交渉を行う。「自由で公正な貿易」を実現するという建前を持っているが、本音はアメリカにとって有利な貿易上の取り決めを行うことが仕事である。

 下の記事では、ジョー・バイデン政権の米通商代表であるキャサリン・タイのインタヴューが掲載されている。キャサリン・タイは両親が台湾からの移民でアリ、彼女自身も中国を流ちょうに話す。中国側と交渉する際には、中国語を使うことはないだろうが、米通商代表が中国語を理解できるということは、中国に対しての大きなプレッシャーとなり、アドヴァンテージとなる。

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キャサリン・タイ

 キャサリン・タイはインタヴューの中で、産業政策の重要性について述べている。アメリカが自由貿易体制を守りながら、経済成長をしていくためには、産業政策で、アメリカの各産業、特に最先端の産業分野を守り育てることが重要ということになる。このような主張に対しては、特定の企業に対する保護、税制優遇や補助金は非効率を生み出し、技術革新が阻害されるという反論がなされる。これに対して、キャサリン・タイは中国を例に挙げて、競争を阻害しない形での税制優遇や補助金供与ができるとしている。新自由主義、市場至上主義の時代ではまず考えられなかったことである。アメリカは、競争相手である中国の産業政策を学ぼうとしているのである。

アメリカは日本の産業政策については、叩き潰そうとしてそれに成功した。それは、究極的には、日本がアメリカの属国であり、日本はアメリカの指令を拒むことができなかったからだ。しかし、時代は変わった。アメリカは中国の真似をしようとしている。そして、米通商代表を、中国語に堪能な移民2世であるキャサリン・タイが務めていることは、大きな意味がある。

(貼り付けはじめ)

産業政策についてホワイトハウスが正当化する根拠(The White House’s Case for Industrial Policy

-キャサリン・タイ米通商代表はアメリカが不公正な競争を助長しているという批判に反論している。

ラヴィ・アグロウアル筆

2023年3月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/03/02/live-industrial-policy-katherine-tai-trade-economy-chips-inflation/?tpcc=recirc_carousel091023

国際貿易が激動に見舞われているのは当然のことだ。2007年に始まった世界金融危機(global financial crisis)の後、グローバライゼーション(globalization)の進展という数十年来のトレンドは、まず減速し、その後逆行し(reverse course)始めた。2020年には新型コロナウイルス感染拡大が発生し、サプライチェーンが一瞬にして寸断された。国や企業はいわゆる 「ニアショアリング(nearshoring)」や 「フレンドショアリング(friendshoring)」に注力した。その後、ロシアがウクライナに侵攻し、地政学(geopolitics)が貿易に更に影響を及ぼし始めた。米中冷戦の勃発や世界的なナショナリズムの波が加われば、世界が産業政策の時代に乗り出したように見える理由が分かるだろう。アメリカから中国、インド、ヨーロッパ、そしてその他の国々まで、主要な経済は内向きになっており、自由貿易やグローバルなモノの流れよりも国内の拡大(domestic expansion)を優先している。

今年2月の一般教書演説(State of the Union)で、ジョー・バイデン米大統領は「バイ・アメリカン(Buy American)」という言葉を展開し、大きな拍手を浴びた。バイデン政権はインフレ削減法(Inflation Reduction ActIRA)やCHIPS・科学法CHIPS and Science Act)などの画期的な法案を成立させ、クリーンエネルギーや半導体に4000億ドル以上の補助金を提供している。しかし、このような誘導策はアメリカ企業に国内投資のみを奨励し、他国への投資は奨励しない。アジアやヨーロッパの好機到来を迎えている各企業は、既にアメリカに投資を移し始めている。世界の他の地域からは抗議の声が上がっている。各国の大合唱は、ワシントンが不公正な競争(unfair competition)を助長していると非難している。

米国が保護主義に転じていると言っても、他国よりも自国の利益を優先する唯一の国とは言い難い。しかし、これは補助金競争(subsidies race)が健全な経済学を代表しているのかどうかという問題を提起している。最初の一時的な興奮状態(sugar high)の後、世界は結局、効率と技術革新(efficiency and innovation)の恩恵を犠牲にすることになるのだろうか? 大国間競争(great-power competition)の新時代から恩恵を受けるのは誰か?

産業政策の促進におけるワシントンの役割を理解するために、私はホワイトハウスの通商政策の策定と実施を任務とする、バイデン政権の最高当局者であるキャサリン・タイ米通商代表に話を聞いた。私たちの会話は、本誌のライブジャーナリズムフォーラムであるFP Liveで放送された。 FP購読者はFP Liveでヴィデオインタヴューを視聴できる。以下は、編集され要約されたトランスクリプトだ。

フォーリン・ポリシー:タイ大使、ヨーロッパの政策立案者たちは、インフレ削減法やCHIPS・科学法を見て、不公正な競争(Unfair competition)と保護主義(protectionism)の匂いを嗅いでいる。彼らの批判にどう答えるか?

キャサリン・タイ:CHIPS・科学法とインフレ削減法は重要な成果だ。長年の不手際や怠慢を経て、ようやく私たちは自分たちに投資している。非常に長い間、私たちは世界に溶け込むために自由化政策を進めてきたが、その一方で、我が国が必要としているものには目を向けてきなかった。

あなたが言うような批判は、私がその場で耳にしたものというより、むしろ報道で読んだものだ。それはパートナーからの懸念として私に届けられたものだ。これは重要な違いだ。

私たちは、パートナーや同盟国が私たちと共有している懸念を非常に深刻に受け止めている。

インフレ抑制法について考えてみよう。ヨーロッパのパートナーやカウンターパートとの会話はいつも、バイデン大統領の信じられないほどの成果、つまり気候危機との闘いにおいて私たちがこれまでに行った最大の貢献を祝福することから始まる。なぜ会話がそこから始まるのかというと、心に留めておくべき重要な事実がある。つまり、アメリカとヨーロッパは、気候変動とその持続可能性への影響、そして、私たちの経済の将来に関して、私たち全員が地球全体として直面している重大な課題を認識するという点で完全に一致している。

私たちは、パートナーや同盟国が私たちと共有している懸念を非常に真剣に受け止めている。インフレ抑制法は、気候変動との闘いへの署名であり、重要な貢献であると同時に、ここにある民主的な法の支配システムの産物でもあることを認識することが重要だ。私たちが最も緊密に対話し、協力しているパートナーも民主政体国家だ。民主政体諸国は私たちが取り組んでいる活動において団結しており、どのように協力してこれを実現できるかを考えるために、私たちが直面している課題に真剣に取り組んでいる。その全体的な文脈において、インフレ抑制法は(経済的持続可能性の課題を)解決するものにはならない。これは、技術と経済がこの課題に対処するよう奨励する重要な動機となる。これは、最初かもしれないが、行う必要がある最後の重要な政策貢献ではない。

フォーリン・ポリシー:あなたは、ヨーロッパからの批判に対処しているが、マクロ経済的な側面からの批判もある。経済学者たちは、世界が産業政策の時代に突入することを懸念している。自由貿易とは異なり、産業政策は長期的には非効率になりかねないという主張がある。また、大企業に補助金を出すと、技術革新が阻害されるとも言われている。

キャサリン・タイ:インフレ抑制法が対応している最初の課題は気候危機だが、世界経済の大きな混乱と不安定性の中で、私たちはこの危機の緊急性に直面している。新型コロナウイルス感染拡大やロシアのウクライナ侵攻決定を通じて私たちが目にしたのは、私たちが乗り越えなければならない世界経済の脆弱さだ。

世界経済もまた、世界経済において非常に重要な役割を担っているにもかかわらず、構造的に我が国の経済のような形で運営されていない、非常に大規模かつ成長を続ける経済の台頭による重大な歪みを経験している。

フォーリン・ポリシー:あなたは中国について話している。

キャサリン・タイ:そう、私は中国について話している。これは、過去数十年にわたって進められてきたグローバライゼーション・プロジェクトの基本的な前提に対する挑戦という点で、絶対に無視できない要素だ。

補助金が非効率的であるというあなたの指摘についてだが、私たちが補助金(subsidies)や税制上の優遇措置(tax incentives)を提供している限りにおいて、補助金は市場システムの中で運営され、企業の行動に影響を与えることを目的としている。中国経済を動かしていると私たちが見ている補助金や国家支援の種類は、まったく異なる規模のものだ。実際、それらは経済を動かしている。市場システムにインセンティヴを生み出すことが目的ではない。経済における国家と表現の間には直接的な境界線がある。そしてこれは、経済成長と発展への持続可能な道という観点から、ヨーロッパの友人や世界中の他のパートナーと私たちが共有するもう1つの課題の非常に重要な側面だ。分野が平等でないヴァージョンのグローバライゼーションでは、私たちは適応する方法を見つけなければない。私たちは一緒に適応する必要がある。

フォーリン・ポリシー:アメリカの内政・外交政策の多くは、中国との競争というプリズムを通してフィルターがかけられているようにいつも感じている。アメリカは既に中国から切り離されている(ディカップリング、decoupling from China)のか?

キャサリン・タイ:私がよく質問される中で、使われている言葉がいくつかあり、私はいつもそれと戦っている。ディカップリングもその1つであり、脱グローバル化(deglobalization)もその1つだ。ディカップリングという言葉が、経済を完全に切り離そうとしているという意味であれば、たとえそれが望ましい目標だったとしても、それを実現するのは非常に難しいと考える。

私たちがやろうとしているのは、現在見られるグローバライゼーションのヴァージョンにおいて、リスクと脆弱性がどこにあるのかを確認し、特定することだ。私たちが新型コロナウイルス感染拡大を通じて経験したサプライチェーンの課題は、示唆に富んでいる。感染拡大初期の個人防護具、マスク、手袋、人工呼吸器であれ、私たち全員に影響を与えた半導体チップの不足であれ、私たちは、供給と生産の集中が重大なリスクと脆弱性を生み出すことを認識することなく、最低コストを追い求め、効率性を追求して設計されたグローバル・サプライチェーンを目の当たりにしている。

私たちが焦点を当てているのは、ヨーロッパの友人たちがリスク回避と呼んでいるもので、これは実際に物事を考えるのに非常に役立つ考え方だ。私の観点からすると、それはサプライチェーンの回復力を構築し、経済の回復力を確保するためのインセンティヴを生み出すことだ。なぜなら、それが地政学的であれ、気候関連であれ、疫病であれ、私たちが遭遇する危機は更に大きくなるからだ。この期間を建設的かつ生産的に過ごすために私たちがしなければならないことは、将来のショックに耐え、和らげることができるように世界経済を適応させ、備える方法を見つけ出すことだ。それをディカップリングとは呼ばない。それは、まさに、私たち全員がより多くの選択肢を持てるようにすることなのだ。

フォーリン・ポリシー:私もディカップリングという言葉に満足していないので、あなたの前任者のロバート・ライトハイザーを含む数名のアメリカ政府当局者たちがこの言葉を使用し、アメリカの政策としてディカップリングを主張していることは指摘しておきたい。

しかし、中国と関係を持つことも重要だ。アメリカの政策の一部が中国を封じ込めたり、中国の台頭を遅らせたりすることであるなら、それは世界経済そのものに悪影響を与えるのではないだろうか?

キャサリン・タイ:私の観点からすると、少なくとも貿易と経済分野では、中国を封じ込めることがバイデン政権の政策の目的ではない。それはアメリカを引き上げることである。世界経済統合における効率性の追求において、自分たちはあまり目立たないと感じていた特定の分野の労働者を元気づける。実際には数世代前に行った投資にまだ依存しているインフラを整備する。そして、より速く走れ、より高くジャンプできるように自分自身を鍛え上げる。それはおそらく、通商政策を含む経済政策を見る上で最も有用なレンズだ。

フォーリン・ポリシー:もちろん、あなたの役割はアメリカの利益を第一(America’s interests first)に考えることだ。しかし、繰り返しになるが、大国が自らの回復力(resilience)、つまり独自の産業政策を構築している世界では、最終的には小規模な経済が苦しむことがよくある、と言う経済学者たちもいる。アメリカ、中国、ヨーロッパが内向き(looking inward)になっている時代に、グローバルサウスは勝てない。あなたの役割においてそれをどのように考えているか?

キャサリン・タイ:あなたは「アメリカの利益が第一(America’s interests first)」と述べたが、それがアメリカ・ファースト[America First](ドナルド・トランプ前大統領の政策)に関しての、不愉快な思いを引き起こす。どの国も自分たちの利益を大事にしているではないか? しかし、私はバイデン政権のアプローチをそれらと区別したいと考えている。アメリカ第一主義だけのことではない。それはまた、アメリカがどのようにリードし、どのように提携できるかということでもある。私たちは自分自身に投資する必要があるが、それを1人で行わないようにするにはどうしたらよいか? なぜなら、それは私たちが生きたい世界、つまり私たちが1人で何かをするような世界ではないからだ。

小国や発展途上国に何が起きているかかというあなたの質問に対しての答えは次のようになる。発展途上国から中所得国に至るまで、世界最大の経済大国にふさわしいリーダーになるためには、必然的に次のことを行わねばならない。それは、自分自身を大切にしながら、良きパートナーである必要性を決して忘れないということだ。

グローバライゼーションのより強靭な新ヴァージョンの創造を促進するために、私たちが革新しなければならない重要な要素がある。それは、大規模な先進経済国と小規模な発展途上国とのパートナーシップのこれまでのモデルを、アメリカがどのように改善できるかということだ。

あなたが世界経済を流動的であるように感じているのはその通りだが、変化は恐ろしいものであり、変化がどのようなものになるかという保証はないため、私たちは皆、変化に対してある種の偏見を持っている。

フォーリン・ポリシー:中国に関するアメリカの通商政策の長期目標は何か?

キャサリン・タイ:私は1年少し前に米中貿易関係についてスピーチをした。私はその内容全てを承認する。それは、私たちが共存し、公正に競争し、繁栄し続けることができる方法を見つける必要があるということ、そして、私たちの政治的・経済的DNAの核となる制度や原則を守る必要があるということだ。そして、市場競争の原則に基づき、強力な民主政治体制と繁栄する経済を継続するためのスペースを確保することである。

世界で第2位の経済大国が全く異なるシステムで運営され、大きな影響力を持ち、独自の主権を持ち、独自の決定を下していることを考えると、どのようにしてこれらの目標を達成できるのだろうか? これは、私たちのありのままを守り、繁栄するための空間を創造しようとしているアメリカ、そしてパートナーや同盟国として、私たちが取り組む最も重要な問題の1つだ。

フォーリン・ポリシー:最後に質問がある。個人的な質問をさせて欲しい。私はアジア系アメリカ人だ。あなたはアジア系アメリカ人だ。これは、私が自分自身に取り組んでいる質問だ。自分の文化的伝統、自分の複数のアイデンティティ、そして自分が身に着けているさまざまな帽子について、どのように考えているか? あなたは政権内でも数少ない、流暢な中国語話者でもあることを付け加えておく。あなたが守るために雇われたのはアメリカの国益でありながら、あなたの立場にいる人々には必ずしも当てはまらない世界的な展望も持っているということを考えると、これら全ての要素はあなたの政策決定にどのように影響するだろうか?

キャサリン・タイ:移民の子供で、家庭では違う言語を話して育ってきたので、私は言語を学ぶのが大好きだ。私はたくさんの言語で、「お手洗いはどこですか?」と聞けると思う。そして、私は、少なくとも2つか、3つの言語での答えを理解できるかもしれない。これは、私たちが米通商代表部で行っている仕事の重要な側面を強調しているだけでなく、コミュニケーションと理解における橋を架け、溝を埋めることができなければならないというバイデン政権の国際的な見通しも強調している。私は、皆さんとの今回のような機会を捉えて会話をし、私たちの考え方や何を達成しようとしているのかを詳しく説明することに多くの時間を費やしている。

中国を含むアジアのパートナーに関しては、非常に複雑な関係にあり、非常に大規模で重要なパートナーであるため、常に自分の視点を伝えることから始め、次にそれらの国々の意見に耳を傾けられるように、コミュニケーションする必要がある。これは、国内側の政策立案にとっても非常に重要なスキルセットとなる。こうした違いは、国家観だけにとどまらない。私が特に誇りと責任感を持っていることは、アメリカの通商政策をどのように推進するかについて超党派の見解を維持することだ。なぜなら、それが実際に私の職名と私たちの機関の肩書に入っているからだ。その肩書こそは「私たちは米通商代表だ」というものだ。米通商代表として、私たちが政策を推進し、策定する必要があるのは、アメリカ全体、経済、コミュニティ、地域、全ての構成要素の利益のためだ。

※ラヴィ・アグロウアル:『フォーリン・ポリシー』誌編集者。ツイッターアカウント:@RaviReports


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