古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

タグ:中国共産党

 古村治彦です。

 今や世界において中国の動向は重要な要素となっている。中国がどのように動くかで国際社会の動向が決まるということになっている。アメリカも重要であるが、中国もその重要度を増している。2023年の中国はどのように動くかということに多くの人々は関心を持っている。

 最近の中国に関する報道と言えば、「新型コロナウイルスゼロ」政策を放棄し、行動の緩和が実施されている。そのために新型コロナウイルス感染者数が増大しているが、公式発表では死者数が極端に抑えられているということだ。中国はこれだから信用できないということになる。

対外的には台湾問題に注目が集まっている。昨年2月24日のウクライナ戦争勃発後、「ウクライナの次は台湾だ」、つまり「中国が台湾に侵攻する」という主張が声高に叫ばれ、米中間の関係も緊張をはらむものとなった。最近では台湾からも「あまり危機感を煽らないで欲しい(特に日米両国)」という声が出ている。中国は国内問題もあり、また、現在の国際秩序の中で経済力を高める段階にあり、保守的な状況である。

 下に紹介にした論稿では5つのポイントで中国に関する予測を行っている。簡単にまとめると、「(1)新型コロナウイルス感染拡大で死者数が増える、(2)経済の回復は遅い、(3)旅行業界だけは活況を呈する、(4)人々の不満が小規模な抗議活動ということで噴出する、(5)米中関係は穏やかになり、台湾問題は静けさを保つ」ということになる。

 上記の予測ポイントについて、私なりの考えを書いていきたい。新型コロナウイルス感染拡大に関しては、中国は世界で最初に対処した国であり、その対処方法を模索し、開発し、改善してきた。病院の整備などのスピード感は群を抜いていた。自然免疫に方向転換を行っても、ある程度の管理を行うものと思われる。経済活動は、世界経済と連動している部分もあるが、国内需要がこれから増大していくだろう。そのスピードと規模をうまく予測できる人はいないだろう。ただ、国内需要が経済回復をけん引するだろう。旅行については既に私たちが目撃しているように活況を呈している。人々の不満が収まれば抗議活動は沈静化するだろう。国際関係について言えば、アメリカが敵対姿勢を弱めれば中国も穏やかになるだろうし、台湾問題もアメリカが煽動しなければ落ち着いたまま進んでいくだろう。

 新型コロナウイルス対策もウィズコロナに変更されていく中で、経済と社会が少しずつ動き始めているのは世界共通だ。中国も例外ではない。巨大船舶と同じで、少しの動きが他の小さな船舶に比べれば大きなものとなる。あまりに急激な動きは世界に及ぼす波も大きくなってしまう。中国はそろりそろりと動いてくれるのが最善なのである。

(貼り付けはじめ)

2023年の中国に関する5つの予測(5 Predictions for China in 2023

-新型コロナウイルスをめぐる悲劇から弱体化する習近平まで、来年に起こる可能性があることを述べていく。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/28/china-predictions-2023-covid-xi-jinping/

今年(2022年)は中国にとって非常に悪い年であった。しかし、このニューズレターが昨年予測したように、事態は常に更に悪くなる可能性がある。14億人の人口を抱える国について推測するのは難しいし、中南海(中国政府中枢)のシャッターの内側を覗き込もうとするのもまた難しい。しかし、2023年にどのような悪いことが起き、そしてどのような良いことが起こるかについて、以下に私が最善を尽くして行った予想を書いていく。

(1)新型コロナウイルスに関する悲劇(A COVID-19 Tragedy

中国はつい2度目の新型コロナウイルス感染拡大の危機に直面しており、その様相は悲惨なものとなっている。中国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and PreventionCDC)の内部ブリーフィングによると、2022年12月1日から12月20日の間に2億5000万人が感染したと推定され、12月7日に政府が新型コロナウイルスゼロ政策を解除したのは封じ込めシステムの失敗に対する性急な対応だったことが明白に確認された。中国疾病予防管理センターの推定では、先週の火曜日の1日だけでおよそ3700万人が感染していることになる。

中国の医療制度は、長年の準備不足と治療よりも封じ込めに重点を置いてきたこともあり、既に対応に追われている状況だ。オミクロンBA.2亜型の致死率0.3%に基づいて計算すると、2億5000万人の感染者の中から75万人が死亡する可能性があることになる。この指数関数的な増加率からすると、第一波は2023年1月末までに中国の人口の60%に到達する可能性があります。この場合、9億人が感染し、270万人が死亡することになる。

もちろん、未知の部分も多く、現在中国で流行している変異株は致死率が低い可能性もある。私はそうであって欲しいと願っている。『フォーリン・ポリシー』が正式に確認したのではないが、中国の友人たちは、家から一歩も出ていないのに、新型コロナウイルスに感染したという話を語っており、アパートの集中空調システムを通じて感染している可能性を示唆している。

多数の死者が出れば、特に新型コロナウイルスゼロの価値があるかどうかという点では、心理的に大きな影響を与えるだろう。インドの新型コロナウイルス感染拡大の経験から、中国でもウイルスが猛威を振るえば、2020年には数百万人の死者が出る可能性があった。しかし、救われた命では、それぞれの喪失の悲しみや辛さを軽減することはできない。しかし、中国で公的な政治的危機が起こるとは思わないで欲しい。新型コロナウイルスによる死亡の影響は、犠牲者の多い国においても、世界的には驚くほど小さい。

更に言えば、2億5千万人の感染を経て、12月23日現在、中国が公式に報告した死者はわずか8人である。中国が死者数について明らかに嘘をつき、馬鹿げた計算方法を用い、メディアで危機を取り上げないようにしているのは、国民の怒りを恐れてのことだ。たとえ公式発表の数字が事実でないと分かっていても、危機的状況をテレビ画面から遠ざけることで、かえって危機を身近なものとして感じられるかもしれない。

(2)弱含みの経済回復(Weak Economic Recovery

中国の新型コロナウイルスの死者数は2023年の怪しいデータだけしか存在しないのではない。政治体制は、プロパガンダのためと内部の政治的理由のために、たとえ判断が不可能であっても統計事態は要求する。今回の新型コロナウイルス感染の波の規模からすると、ヴェトナムなどのように新型コロナウイルス感染対策を解除したからと言って、中国経済が以前のレヴェルに回復することはないだろう。

中国においては、消費者の潜在的な需要はたくさん存在が、新型コロナウイルスに感染することへの不安やリスクを回避しようとする志向が強いため、その需要は少しずつ出てくるのではないかと考えられる。厳しい2年間を経て、地方政府も中央政府もポジティブなデータを出すようにという政治的圧力が非常に強くなっている。それは人口の数字にも影響を及ぼしている。研究者たちは、中国の人口はすでに減少しており、新型コロナウイルスによる死亡はその問題をより厳しいものにすると主張している。

更に言えば、新型コロナウイルスは、病気や死亡によって主要な労働者がいなくなることで、サプライチェインに打撃を与える。また、最悪のシナリオでは、大きな流行を経験していない村や小さな町が、感染拡大当初と同じように、訪問者を隔離し、旅行を阻止する方法を採用する可能性がある。中央政府は2020年よりもずっとこうした方法を敵視するだろうが、地方における中央政府の執行能力は遅くしかも弱くなる可能性が高い。

挙句の果てに、中国は新型コロナウイルス感染拡大の結果ではない、多くの経済問題を抱えている。経済成長の大半を支えてきた不動産セクターはゆっくりとした崩壊を続け、アメリカは自国経済と中国経済を切り離す試みを本格化させ、世界的な景気後退の危機が迫っている。中国政府は、景気刺激策で不動産ブームを少しは下支えできるかもしれないが、いつかは現実を直視しなければならないだろう。

同様に、中国のテクノロジーを標的にしたアメリカの政策は、中国のテクノロジー産業に対する中国の公式な巨額の投資を生み出す可能性が高い。しかし、それは政府のコネに依存し、半導体向けのビッグファンドの失敗のように、多くの腐敗を伴うことになるだろう。

(3)旅行ブーム(A Travel Boom

2023年に甦る可能性があるのは旅行業界だ。国内需要は現在の新型コロナウイルス感染の波が過ぎるまで回復しないが、10月の大型連休には過去最高を記録する可能性がある。また、海外旅行もより早く回復するだろう。検疫期間が短縮され、完全に終了する可能性が高いため、中国人は大量に海外旅行に出かけることになる。この記事はクリスマス前に書いたが、検疫は12月26日に終了し、飛行機の予約ラッシュとなった。3年間も世界から隔離されていたため、旅行する余裕のある人は、アメリカの学校に通う子供たちを訪ねたり、タイのビーチに行ったりなど、国外に出ることに必死だ。

また、若者の間では、常に後退しているように見えるこの国から移住したいという願望も存在する。欧米諸国は、移民に対する偏執的な嫌悪感を維持するのではなく、潜在的な才能の大きな波を拾い上げることに目を向けるべきだ。

(4)より小規模な抗議運動(More Small Protests

2022年末の抗議デモの波の後、中国では来年も小規模なデモが続くと考えられる。新型コロナウイルスゼロ政策終了を求めるデモのような統一されたシナリオはないだろう。しかし、不正な金融会社から盗まれたお金を取り戻すか、新型コロナウイルス感染拡大による封鎖を終わらせるかにかかわらず、当局に圧力がかかる可能性があることは明白だ。

習近平国家主席の退陣を求める思想的なデモ参加者は嫌がらせや逮捕を受けたが、新型コロナウイルスゼロ政策反対のデモ参加者のほとんどは報復を免れた。このことは、人々が他の問題についても限界に挑戦することを促すかもしれない。残念ながら、不動産業界にとっては更に悪いニュースだ。過去10年間、中国で最も一般的で成功した抗議活動の1つは、資産税導入の試みに反対するものであった。

また、習近平の立場も非常に弱くなっている。習近平は、中国メディアが常にその成功を誇っていた「新型コロナウイルスゼロ」政策と密接に結びついていた。これに加えて、経済が減速しているため、中国の政治エリートは習近平の指導力に対して深刻な疑念を抱いている。問題は、2022年10月の中国共産党大会で習近平がいかにうまく立ち回ったかを考えると、彼らが何かできるのかということだ。

今年、習近平が国民と中国共産党の両方に対する権力を再強化するために、政治的統制を強化することはあり得る。しかし、長年にわたるイデオロギー的な弾圧の後に、何を締め付けるのだろうか?

(5)より穏健な言葉と静かな海峡(Softer Words and a Quiet Strait

中国の国内問題の数々は、国際舞台では、主に非公式な場でではあるが、より良い言葉につながっているようだ。アメリカをはじめとする外交官たちは、中国側が以前よりも対話に前向きになっていると報告しており、2022年11月のG20サミットでジョー・バイデン米大統領と会談した習近平国家主席は、両国間の経済摩擦の激しさにもかかわらず、笑顔のトーンを維持する可能性がある。

しかし、その部分的な雪解けは非常に不透明であり、ちょっとした危機でも関係が再び凍結する可能性がある。中国の国営メディアは、10年前よりも外国嫌いで反米的であり、中国の問題をアメリカのせいにしようとする強い動機がある。

これら全ての問題は、今年、台湾をめぐる大きなトラブルを期待しない方が良いということを示唆している。中国政府は単に国内で対処すべき問題が多すぎて、戦争はおろか、新たな危機を迎える余裕もないのだ。ナンシー・ペロシ米連邦下院議長の台湾訪問をめぐる一時的な騒動は、結局のところ大げさなものであったことが判明した。だからといって、いわゆる統一への執着や台湾への政治的干渉がなくなる訳ではなく、おそらく現状維持にとどまるだろう。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。ツイッターアカウント:@BeijingPalmer

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 日曜日に閉会した中国共産党第20回党大会では、最後に、胡錦涛前国家主席が複数の係員に促され、習近平の隣の椅子から退場させられる場面があった。この時、習近平とは言葉を交わし、李克強首相の方を軽くたたく様子が見られた。栗戦書全国人民代表大会常務委員長が大汗をかきながら胡錦涛から書類を取り上げる姿が映像で写された。
hujintaopartycongress001511
hujintaopartycongress002511

 この胡錦涛の突然の退出については様々な分析がなされている。健康不安説、特に認知症を患っている胡錦涛が最後にどんな行動を取るのか分からないということで退出させたということが言われていたがそれは不自然だ。健康不安だけならば欠席でも良い訳だし(もう引退しているのだから実務などに影響はない)、最高幹部たちもあのような冷淡な態度を取ることはなかったはずだ。不測の事態ということであれば、テレビ中継は途中で停止されるか、全く別の場所を映すかできるはずだが、その様子を中継し続けた。これは、最初からそのように仕組まれたと考えるのが自然なことだ。
 やはり、今回の退出劇は、習近平と側近たちだけで事前に作って、一部の幹部たちだけに知らされたシナリオに沿った動きだったということになるのだろう。現在の最高指導部層は文化大革命時代を生年として過ごして苦労してきた人たちだ。そこから叩き上げ、幾多の競争を勝ち抜き、無数の修羅場を生き抜いてきた人たちだ。どんなに不測の事態が起ころうとも平静を保つことが出来るのだろう。今回の出来事で皆微動だにしなかったのはそういうことだろう。そして、頭脳をフル回転させながら、事態を把握していったはずだ。そして、「共青団派排除の仕上げとしての胡錦涛前主席の排除なのだ」ということをコンマ数秒で理解したのだろう。

 習近平は、この10年で自分の権力基盤を固めることに成功した。江沢民元国家主席をトップとする上海閥を追い落とした。そして、今回の人事では露骨に共青団派を追い落とした。そして、独裁体制を確立した。私はこのブログでも何度も書いているが、習近平が不文律を破って3期目も最高指導者の地位を確保したことは、第二次世界大戦中のアメリカ大統領フランクリン・D・ルーズヴェルトの事績を類推させるものだ。今回、中国は平時モードから戦時モードに切り替えたのだ。「平時の改革などには役立つ共青団系はエリート、お公家様集団で乱世には役に立たない」ということで、切り捨てたということになる。

 習近平が確立しようとしている戦時体制は、中国が世界に出ていって戦争をしようというものではない。アメリカが火をつけて回っている世界の動乱的状況、第三次世界大戦に備えてのものだ。ウクライナ戦争が第三次世界大戦に拡大する可能性もある中、自国の防衛と経済を守るということでの「戦時体制」ということになる。

 共青団(中国共産主義青年団)という組織が潰れた訳ではないし、これからもエリート機関として存続する。そこで育った人材たちは、動乱期を乗り切った後に必要とされる。現在の状況を乗り切るために、幾多の英才を切るということが出来ることは中国の強さということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

一体全体、胡錦涛に何が起きたのか?(What the Hell Just Happened to Hu Jintao?

-習近平の前任者は党大会の場から強制的に追い出された。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年10月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/22/china-xi-jinping-hu-jintao-ccp-congress/?tpcc=recirc_trending062921

中国共産党第20回党大会は土曜日に、珍しくも衝撃的なライヴドラマで幕を閉じた。2002年から2012年まで中国共産党の指導者であった胡錦濤は、党大会の最終投票の直前に、明らかに混乱し動揺した状態で、スタッフによって公然と大会から退場させられた。胡錦濤は習近平国家主席の隣の席で、習主席と李克強首相に質問し、習主席が頷く様子をカメラに収めたが、胡錦濤は書類に手をかけ、書類を取るのを妨げたという。胡錦濤は習近平と李克強首相に質問し、習近平は頷いたが、胡錦濤が書類を取るのを習近平が手で制止し、同じく党幹部の栗戦書は立ち上がり、胡を助けようとしたが、隣に座っていた政治理論家の王滬寧に背広の上着を引っ張られ引き戻された。

胡錦濤は習近平のような権力を持ってはいなかった。胡錦涛はいわゆる集団指導の時代の最高指導者だった。前任の江沢民の強大な影響力と戦わなければならなかった。胡錦濤の在任中、汚職は増加した。そして共産党にとってより危険なことに、汚職に関する報道も増加し、ネット上での言論の自由も、限定的ではあるが市民社会団体やNGOの活動も増加した。これは、胡錦濤が自由主義に傾倒したからではなく、党員の多くが党の方針を貫くことよりも金儲けに夢中になっていたからである。

2012年に中国共産党の最高指導者を退任して以来、習近平とは対照的に、胡錦濤は党メディアから称賛されたが、力は失われた。習近平の粛清により、かつての盟友の多くが逮捕され、特に2015年には胡錦涛の首席補佐官の令計劃が逮捕されている。胡錦濤は、自分と同じ共産主義青年団の元リーダーたちの権力ネットワークと関係があったが、その派閥は事実上壊滅したように見える。

一体、何が起こったのだろうか? 土曜日に中国の国営通信社である新華社が発表した中国共産党大会総会メンバーのリストに胡錦濤の名前はあるが、この事件についての説明はなされておらず、当然のことながら、この件についてオンラインで議論しようとすると厳しく検閲される。中国共産党大会は、実際の政治が数週間から数カ月も前に行われる、極めて厳格に演出されたイヴェントであることを念頭に置いてほしい。つまり、胡錦濤の予告なしの不手際な解任は、不手際もしくは陰謀(a cock-up—or a conspiracy)のどちらかである。

第一の可能性は、健康上の危機ということである。胡錦濤は党大会の期間中、目に見えて衰えていた。中国の指導者は皆、髪を染めているので、過去の時代であれば、それだけで権力を完全に放棄したことになっただろうが、習近平政権では白髪が入り込むことが許されている。しかし、カメラが回っている中で、緊急に彼を排除する必要があり、かつ、彼が深いところでそれを嫌がっているというのは、どのような状態なのかが見えにくい。また、秘密主義と慎重さが常識である中国共産党の内部でさえ、なぜ他の人は体の弱い元同僚を助けないのだろうか?

一つの可能性は、胡錦涛に知らされないで、予想外に新型コロナウイルス感染の診断が出ていたことである。しかし、その場合、指導者に近づく者全員に実施された迅速検査で何も検出されなかったのに、タイミング悪くPCR検査が実施され、陽性となったことになる。

第二の可能性は、習近平が、党大会の全会一致の投票で、胡錦濤が棄権するか、反対票を投じるかもしれないという、恐れるような情報が突然出てきた可能性である。それは、胡錦濤が舞台裏でかつての同僚に言った言葉かもしれないし、あるいは認知症の兆候があって、何かが間違っているかもしれないと思って突然パニックに陥ったのかもしれない。そう考えれば、胡錦濤の混乱は理解できる。

習近平が前任者を意図的に公然と貶めたのは、党の規律と司法による処分を行使する前触れだったのかもしれない。党大会では、習近平が党の「核心(core)」であることがしばしば修正され、ほとんど象徴的な憲法に明記され、前例のない3期目を迎えるにあたって、習近平が前面に立ち、中心的存在であることが強調されたのである。

習近平は冒頭の業務報告で、胡錦濤らには言及しなかったが、「党の指導が弱く、空虚で、水増しされていた」と極めて厳しい表現で就任当時の党内情勢を語っていることに留意してほしい。胡錦濤のマルクス主義理論への貢献である『科学的発展展望』についても、習近平の演説の中でわずかに言及されただけである。 このように胡錦濤を貶めることは、長らく党内で勢力を保ってきた元最高幹部層である「退役長老(retired elders)」に対して、習近平の権力は縛られていないという明確なシグナルを送ることにもなる。その場合、栗戦書が胡錦濤に手を差し伸べたのは、かつての仲間に対する本能的な、しかし危険な優しさであったろう。

しかし、それはまた、外の世界に完全に知られていなかった陰謀を除けば、ほとんど不必要な動きだと言える。中国共産主義青年団派(共青団派)の破壊と胡錦涛の仲間たちの追放または逮捕を考えると、胡錦涛がかつて党内で持っていた力はとっくに失われている。他の引退した指導者との関係を除けば、胡錦涛が習近平にとってもっともらしい脅威であると考えるのは非常に難しい。

また、中国のようなレーニン主義体制に見られる官僚劇を好んで行う、残酷極まりない行為でもあった。このシナリオでは、胡錦濤は単に拘束されるか、健康を理由に内密に軟禁される可能性があった。たとえ恥をかかせるにしても、毛沢東が自分に逆らった指導者に繰り返し行ったように、非公開の会議の中で行うことができたはずだ。中国共産党独自の内部秘密警察である中央規律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)は、習近平の下で拷問を使う頻度が高くなるなど、厳しい態度で臨んでいることは有名である。軍高官の徐才厚は2014年、がん治療の最中に拘束され、翌年死亡した。

何年も正確な事実が明らかにならない可能性が高い。胡錦濤の健康状態について発表があるかもしれないし、単に事件が公的に説明されないだけかもしれない。万が一、胡錦濤が中央規律検査委員会に正式に拘束されれば、それは事態が大きく深刻化し、いつものように刑事告発と投獄に至るだろう。

胡錦濤に対して何が起きたとしても、習近平の権力は日曜日にはより明白になる。中央委員会の初期名簿(土曜の会議で指導部の中核である常務委員会を名目上決定し、日曜に発表する約200人)には、現首相で胡錦涛の子飼いの李克強や、汪洋、劉鶴といった比較的経済改革に熱心な人物が含まれていなかった。つまり、常務委員会はほとんど習近平の盟友ばかりになる可能性が高い。

2013年頃から、中国ウォッチャーたちは「胡錦濤の下での自由主義の黄金時代(golden age of liberalism under Hu Jintao)」という冗談を言うようになった。当時は、市民社会がゆっくりと、そしてたどたどしく進歩しながらも、政治的に保守的だった時代をそのように考えるのは不条理に思えた。しかし、その後10年間で、この話は冗談では済まなくなった。相対的に見れば、胡錦濤の時代は今やとんでもなく自由で開放的でありそれが、残酷なフィナーレを迎えているように見える。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。

(貼り付け終わり)
(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 私の勝手なイメージであるが、中国の最高指導部を引退した人物たちは長命な人が多いようだ。80代後半、90代、100歳でも元気に何か式典があれば出てくるように思われる。私が物心ついての中国の指導者と言えば、鄧小平だが、鄧小平も92歳まで生きた。今回は105歳になる宋平が出席しており話題となっている。
songpingatccp20thcongress511
宋平
hujintaoatccp20thpartycongress511
胡錦涛(真ん中)

 第20回中国共産党大会にも中央政治局常務委員を務めた「長老たち」が数多く出席した。「特別招待代表」という枠での出席ということだ。以下に新聞記事を貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

党大会に江沢民氏らは不在 引退幹部の言動監視し、長老たちの影響力低下か

20221016 2031分 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/208515

 【北京=白山泉】16日開幕の中国共産党大会では胡錦濤(こきんとう)前総書記(79)ら元最高指導者らが「特別招待代表」として出席し、習近平(しゅうきんぺい)総書記(69)とともにひな壇席に並んだ。ただ、江沢民(こうたくみん)元総書記(96)や、改革派として庶民に人気がある朱鎔基(しゅようき)元首相(93)らの姿はなく、長老の影響力低下も印象づけた。

 江氏はたびたび重病説が流れているが、今年10月上旬には夫人と一緒に籐椅子とういすに座って誕生日を祝う写真がネット上に掲載された。15日に発表された、党大会の議事運営を取り仕切る計46人の「主席団常務委員会」には名を連ねている。

 長老とは、主に引退した最高指導部メンバーを指す。1976年に毛沢東(もうたくとう)が死去した後は、政策や指導部人事に影響を行使してきた。存命の長老は20人弱だが、大半は80歳以上と高齢だ。毛沢東への権力集中と個人崇拝が中国を大混乱に陥れた文化大革命(6676年)につながった反省から、習氏への権力集中には慎重な立場とされる。

 一方、習氏はこうした長老の介入を抑え込むため、反腐敗キャンペーンを推進。元政治局常務委員の周永康(しゅうえいこう)氏らが無期懲役の判決を受け服役中のほか、江氏率いる「上海閥」の有力者や胡氏側近の排除を繰り返し長老に圧力を加えてきた。

 最近は共産党の引退幹部らの言動に対する監視も強めている。共産党機関紙・人民日報は今年5月、引退幹部に党の規律を厳守するよう通知したと報じた。党の人事責任者は「党の方針について勝手な発言をしたり、政治的にマイナスな言論を広げてはならない」などと警告。海外への渡航手続きも厳格化している。

(貼り付け終わり)

 こうした長老たちに注目が集まるのは何か大きなことが起きている時だ。1989年の天安門事件で趙紫陽総書記が失脚することになったが、この時も8名の長老たちが集まって、事態収拾にあたった。習近平が3期目も続投するということについて、党長老たちは批判的だと言われているが、党大会に出席しているということはこの路線をある程度受け入れているということになるのだろう。96歳の江沢民元国家主席、93歳の朱鎔基元首相の第3世代の上海閥コンビは党大会を欠席したことで、「無言の抗議ではないか」という憶測が出ている。96歳と93歳であれば健康問題が本当のところだろうというのが私の考えだが、中国共産党は革命戦争を戦い抜き、情報戦に勝つための秘密主義を守っているので、最高指導部層の情報はほぼ出てこないし、ニューズになる場合には党中央の意向を反映した形になる。また、長老たちには影響力が残っているとは言っても、鄧小平のように実権はない。鄧小平は亡くなる数年前まで中国国家中央軍事委員会主席の座からは降りなかった。鄧小平の実権の裏付けは人民解放軍であった。しかし、現在の長老たちにはそのような実権はないし、後ろ盾となる力もない。そのように考えると、江沢民と朱鎔基の欠席は健康問題なのだろうと思われる。

 長老たちが会議の最前列に座ってボーとした姿を見せるのは、習近平体制の正統性を担保するということだ。党の分裂や内部闘争をしている時ではない、という時に長老たちへの注目が集まる。習近平3期目について、3期目に続投することが非常事態ということではなくて、習近平が3期目も続投しなければならない世界情勢、第三次世界大戦一歩前という状況が非常事態であり、「習近平しかこの状況を乗り切れない、だからまとまらねばならない」ということを長老たちの姿は語っているということになる。
partyeldersatccp20thpartycongress511
党長老たちが最前列に座る

(貼り付けはじめ)

習近平に挑戦するかもしれない中国共産党の長老たち(The Party Elders Who May Challenge Xi

-後継者問題が常に中国共産党のアキレス腱である。

メリンダ・リウ筆

2022年10月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/13/china-xi-jinping-succession-ccp-party-congress-elders/

かつて彼らは「八仙(八大長老、Eight Immortals)」と呼ばれた。彼らは中国共産党の長老たちで、裏で政治的影響力を行使していた人たちだ。1989年春、街頭デモと党内権力闘争に苦しむ鄧小平は、派閥化した指導部をまとめ、感情的になった国民を落ち着かせるため、7人の引退した高官を呼び寄せた。そして、デモ隊に同調した鄧小平の後継者である趙紫陽を粛清し、兵士には民間人への発砲を命じた。当時、中国のテレビを見ていた私は、外国メディアや外交官たちの中に混じって、表舞台から消えて久しい老革命家たちが、突然、全国放送で再び脚光を浴びることになったことを信じられない思いで一杯だった。一緒にいた西側諸国からの記者は「『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(Night of the Living Dead)』を見ているようだ」とつぶやいた。

習近平が直面している課題は、1989年の天安門事件(1989 Tiananmen crisis)の流血とは全く異なる。しかし、古い習慣はなかなか消えない。1989年の事件は、後継者問題が中国共産党のアキレス腱であり、扱いを誤れば、最も尊敬されている指導者の評判さえも傷つけかねないことを改めて証明した。

中国の政治活動が混乱し、特に個人的な変化が起きる場合、これまで、党の長老たちが多くの場合に再登板してきた。習近平が2012年に中国共産党総書記に就任するや否や、電光石火のスピードで権力固めに動き、習近平は引退した老兵を視界から消し、闇に葬ろうと必死になっている。そのために、中国共産党はこの春、より厳格な新指針を発表した。この指針は、党の幹部たちに対して、トップレヴェルの政策議論について沈黙し、政治的に否定的な発言を避け、影響力の行使を控え、「違法な社会組織の活動(the activities of illegal social organizations)」を避け、何よりも「あらゆる誤った考え方に断固反対し抵抗する(resolutely oppose and resist all kinds of wrongful thinking)」ことを求めた。

中国の現在の政治的緊張は10月16日に開幕する第20回中国共産党大会の間に解消されるだろうと予測する人がいる。しかし、それは間違いだ。党大会は1つの問題を解決するかもしれないが、それ以上に多くの問題を引き起こすことになるだろう。習近平は中国共産党の指導者として3期目を務めると広く予想されており、1989年に鄧小平の遺産を曖昧にし、機能不全の意思決定を防ぐために採用された数十年の慣習を一部覆すことになる。習近平は3期目の任期を延長するため、あるいは終身在任の可能性もあるため、論争を呼び、政治的資本(人々からの信認や支持)をリスクに晒すという事実は、彼が政治的頭痛の種というパンドラの箱を開けていることを意味する。

ジュード・ブランシェットとエヴァン・S・メディロスは国際戦略研究所(International Institute for Strategic StudiesIISS)の機関誌『サヴァイヴァル:グローバル・ポリティクス・アンド・ストラテジー』の記事で、「第20回中国共産党大会は、これまでの政治的継承のパターンとは大きく異なるものになるだろう」と書いている。彼らは続けて次のように書いている。「習近平の次の任期は、エリート政治の新しい規範を確立する上で決定的なものになるかもしれない」。習近平は「中央の意思決定の主導権を政府官僚から奪い取った」のであり、政権存続への懸念が高まる中で、次の5年間は「国際的な非難を顧みない厳しい措置」に対するリスク許容度が高くなるだろう。その代表例は、習近平が独自に進める、評判の良くない「ゼロ新型コロナウイルス」への固執だ。

習近平が徹底して冷酷に批判者を弾圧するため、公に反対意見を述べることは極めて稀であるが、知られていない訳ではない。10月13日、北京では、大学のキャンパスが集中する海淀区に、驚くべき2つの抗議横断幕が現れた。高速道路の高架橋に掲げられた横断幕は次のように宣言していた。「新型コロナウイルステストにノーと言え、食べ物にイエスと言え。監禁はダメ、自由を。嘘にノー、尊厳にイエス。文化大革命はノー、改革はイエス。偉大な指導者にノー、投票にイエス。奴隷になるな、市民であれ」。もう1つの横断幕にはこう書かれていた。「独裁者で国賊の習近平を追い出せ」。当時記録された写真や映像では、陸橋の上で煙が上がり、音声が録音されているように見えた。横断幕に関するコメントは、警戒する検閲官によってソーシャルメディアからすぐに削除された。一部の人々は、『孤勇者(Lonely Warrior)』というタイトルの中国の歌を共有することで、抗議者(または複数の抗議者)への支持を間接的に示した。

習近平は少なくとも10年前から野心的な権力闘争の下地づくりを始めていた。同時に、習近平の父、習仲勲は有名な党の長老であったため、習近平は早くから党の先輩たち(old guards)に対する理解を深めていたようだ。2015年には早くも、習近平は古い世代からの干渉を望まないことを明らかにした。『人民日報』紙は、江沢民元国家主席を狙ったとみられるヴェイルに包まれた警告で、引退した指導者たちに「人が去るとお茶が冷める(once people leave, the tea cools down)」と助言し、引退した身分に「メンタリティを合わせる(adjust their mentality)」よう促したのである。

それ以来、習近平にはライヴァルを排除し、足を引っ張る仲間を排除する時間がたっぷりあった。習近平が権威を確立するための主な手段は、多くの高官を捕らえた執拗な反腐敗キャンペーン(anti-corruption campaign)だ。習近平の1期目には、全権を握る政治局常務委員会の元メンバー1人と、数十人の小役人や将軍が、リスクの高い反腐敗弾圧の一環として、接待係に取り押さえられた。ブランシェットとメディロスは、この取り締まりは「どう考えても壮大な規模だった」と書いている。

この捜査網(dragnet)は、軍事、治安、諜報部門の重要人物も陥れた。2017年、イスラム教徒が多い新疆ウイグル自治区での強引な政策を撤回するよう北京に提案した後、軍の高官だった劉亜洲は公の場から姿を消し、中国のソーシャルメディアや亡命した元党幹部の蔡霞によると、彼の自宅は家宅捜索された。劉の義父は元八仙の1人である故李先念元国家主席だ。

9月下旬にも、警察幹部の孫力軍が、「複数の重要部門を掌握するための陰謀(cabal to take control over several key departments)」を企て、「邪悪な政治的資質(“evil political qualities)」を持っていたとして、汚職の容疑で起訴され、執行猶予付きの死刑判決を受けた。複数の中国メディアの報道によると、彼の主な罪は江沢民(現在96歳)と結びついた徒党に参加したことだということだ。

江沢民は1989年から2002年まで中国共産党総書記を務め、2004年まで党の強力な機関である中央軍事委員会主席に留まり、権力にしがみついたと見られている。江沢民は中国政治におけるいわゆる「上海閥(Shanghai clique)」のボスとみなされ、中国の引退した最高指導部経験者の中で最も影響力があると考えられるが、体調不良に悩まされているという噂がある。同様に、ぶっきらぼうではあるが広く尊敬されている朱鎔基元首相(93歳)も体調不良と伝えられている。朱鎔基の健康問題は、一部の中国アナリストが、朱鎔基は、習近平の経済的に悲惨で孤立主義的な反新型コロナウイルス政策に愕然としていると主張するのを止めてはいない。匿名希望のある中国側関係者は、「朱鎔基は多くの人が彼に期待を寄せ、適切なタイミングで発言することを期待していることを承知している」と述べている。

しかし、中国共産党の長老たちは、習近平時代になっても糸を引いているのだろうか? 1989年の「八仙」はもういない。当時、鄧小平の後継者である趙紫陽が既に中国共産党総書記になっており、趙が粛清されるまでは、この8人に鄧小平が含まれていた。鄧小平は1997年に死去した。彼らのあだ名は、中国の伝説に登場する超能力を持つ8人の道教の人物を連想させしばらくは定着していた。しかし、習近平政権は、この「8仙」を、党を引退してまだ生きている8人の幹部と呼ぶようになった。現在、習近平が徹底的に政敵を無力化したおかげで、習近平と同世代の潜在的な挑戦者のほとんどは、協力するか、臆病になるか、黙り込むか、牢獄に入れられるかしている。

この事実は、今年105歳になる党の長老である宋平がニューズに出てから、最近飛び交い始めた荒唐無稽な噂の説明に役立つ。9月、宋は慈善基金で演説する姿をビデオに収め、「改革開放(reform and opening up)」について曖昧なことを述べたという。中国のソーシャルメディアは別次元の盛り上がりに突入した。クーデターの噂も流れた。インターネット検閲は、宋の発言に関する報道をサイバースペースから削除しようと躍起になった。宋が発した言葉は、まったく無害なもの、あるいは習近平自身が過去に使ったものであったのならば、気にすることはないはずだ。

宋平は、リスクを冒すような行動派とは見なされていない。彼は保守的と見られており、1989年の八仙には選ばれなかった。なぜなら、彼は当時、党の重要な中央組織部部長という重要な職に就いていたからだ。天安門事件に共鳴した中国共産党員を除名することを発表したのも彼だった。

しかし、宋平の突然の再登場に注目する理由は1つある。宋は三代にわたる政治家であり、健康状態も良好で、20人ほどの党の要である政治局常務委員会の元メンバーの中で最も影響力のある人物である。しかも、中国政治における「中国共産主義青年団派(tuanpaiYouth League faction)」に属する人物だ。中国共産主義青年団は14歳から28歳までの若者の育成を目的とする(10歳代は「少年先鋒(Young Pioneers)」と呼ばれ、赤いハンカチをつけているのがよく見られる)。青年団は、中国の貧しい内陸部の開発を促進し、所得格差に対処しようとすることが多い。上海閥の本拠地である豊かで華やかな東海岸と対照的である。宋は、辺鄙で荒れた甘粛省で出世し、青年団の有力者である胡錦涛元国家主席(宋が鄧に推薦したことでトップへの道筋に乗った可能性がある)と温家宝元首相を指導していた。

習近平時代に共青団派は繁栄していない。首相である李克強は共青団出身と見られているが、習近平が執拗に権力を蓄積し、習近平を頂点とする指導層を確立したため、李の地位と影響力は低下した。習は「万物の主席(chairman of everything)」と呼ばれるようになった。共産主義青年団は官僚的な影響力を失い、主要人物は降格や粛清されている。習近平は共青団幹部を「官僚的でステレオタイプな話ばかりしている」と批判したこともある。李の権限は切り捨てられただけでなく、党の長老と気軽に会うことさえ禁じられたという根拠のない報道もある。

「引退した指導部出身の長老は、習近平を除く最高幹部たちと交際してはいけないことになっている。これは何年も前からそうだった」と、多くの政府高官を知る中国のある情報源は言う。このような背景から、宋平の再登場は、彼の発言ではなく、彼が姿を見せたという事実が、党の共産主義青年団支持者たちが、来るべき人事異動の際に、彼らの候補者をもっと昇進させるよう水面下で働きかけているとの憶測を呼んだのだ。党大会期間中に人事異動が行われる予定だが、政権交代は来年3月の全国人民代表大会(National People’s Congress)で承認される予定だ。

多くのことが危うい。政治局常務委員7名のうち少なくとも2名(習近平を除く)が引退し、政治局委員25名の半数近くが引退すると予想される(現在の年齢基準がそのまま適用されると仮定した場合)。また、中国の最も高位の外交官2名も引退する予定である。そして、李克強は首相を退任する予定であり、その後任が誰になるかが注目される。

習近平は中国政治を未知の領域へと導いている。鄧小平以降の政治に一定の予測可能性をもたらしてきた、任期制限(term limits)やその他の規範を投げ捨てたことで、多くの敵を作ってしまった。逆説的ではあるが、後継者選びを難しくしているのも事実である。ブランシェットとメディロスは、習近平が「明確で信頼できる後継者(clear and credible successor)を指名し、明確で信頼できる権力移譲のスケジュール(clear and credible timeline for the transfer of power)を確立するまで、「後継者に関する不安(succession uncertainty)」の時期が終わらないと予測している。

それは簡単なことではないだろう。シドニーに拠点を置くローウィー研究所のアナリストで、中国共産党の内部構造を解説した『中国共産党:支配者たちの秘密の世界(The Party: The Secret World of China's Communist Rulers)』の著者であるリチャード・マクレガーは次のように述べている。「最も危険なものの1つは、習近平が指名した後継者だ。人々は習近平を攻撃することはできないが、習近平が後継者として推す人物に対しては列をなして攻撃することができる」。

昔なら、中国の最高指導者は党の長老たちに頼み込んで、このような政治的な駆け引きや派閥争いを乗り切った。しかし、現在では、習近平を支持するよりも、習近平を疎ましく思ったり、習近平に怒りを感じたりする人の方が多い。一方、新たに引退する幹部たちが出ることで、新たな党長老を生み出すことになる。古い「仙人」たちのような革命的な資格を欠いていたとしても、新しい長老たちは後輩たちよりも政治に精通し、反撃のエネルギーを持っている可能性がある。中国のことわざには「熟成した生姜はより辛い」というものがある。在任中、解雇や粛清を恐れて、現在の政策を批判するのを思いとどまった人たちもいただろう。引退によって、失うものは何もないと納得する人もいるかもしれない。

※メリンダ・リウ:北京を拠点とする外交政策コメンテイター。『ニューズウィーク』誌北京支局長、共著に『北京の春(Beijing Spring)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 本日、第20回中国共産党大会が開会される。今回の党大会は、習近平国家主席(中国共産党中央委員会総書記・中国国家中央軍事委員会主席・中国共産党中央軍事委員会主席)が3期目も続投し、中国共産党中央委員会、中国共産党中央政治局、中国共産党駐政治局常務委員会、国務院、国家中央軍事委員会(党中央軍事委員会と顔ぶれが一緒)などの人事が新たに決まるということで注目される。

 このブログでも既にご紹介しているように、習近平政権の3期目、更にその先の4期目も合わせた、5年間もしくは10年間は、「世界の大動乱に備えた準戦時体制」であり、この世界史の転換点とも言える時期を乗り切り、2032年からは、1840年から42年に起きた、中国にとっての屈辱のアヘン戦争200周年で、中国が「中華王国(Middle Kingdom)」に返り咲くという目標を達成する仕上げの時期ということになる。

 これからの10年間の準戦時体制では、航空・宇宙関係出身者の政治への登用が進む。更に、「中国史上最も恵まれた世代」と呼ばれる「第7世代」、1970年代生まれが指導部に多数登用されることにもなる。鄧小平が決めて、江沢民時代から始まった10年おきに同年代で構成される指導部交代という慣例が、習近平によって覆されることになるが、これは、第二次世界大戦中にアメリカのフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領が、2選までという慣例を覆し、4選を果たしたことと同様だ。ウクライナ戦争が深刻化し、世界大戦になる可能性が高まっている中で、新しい指導部では乗り切れないという判断もあっただろう。本来であれば、最高指導者を出すはずだった第6世代(1960年代生まれ)がパッとしないということもあったかもしれない。

 不安な点も指摘されている。指導部内の派閥争いだ。中国国内政治には、太子党(有力政治家たちの子女)、中国共産主義青年団派(若手エリート党員の組織、共青団、団派とも呼ばれる)、上海閥(江沢民とその子分たちで構成される派閥)などの派閥がある。習近平は太子党に分類される。上海閥でもあったが、権力を掌握した後に上海閥系を追い出した。現在の李克強国務院総理は共青団系だ。胡錦涛前国家主席は共青団系だ。25名で構成される中国共産党中央政治局、その内の7名で構成される中国共産党中央政治局常務委員会(チャイナ・セヴンと呼ばれる)の人事での比率がどのようになるかが注目される。

 中国はこれからアメリカを追い抜き、世界の覇権国となる。その時期は2040年代ということになる。これからの20年はそのための最後の基礎工事、足場固めということになる。第20回中国共産党大会はその点で大変重要な政治的意味を持つことになる。

(貼り付けはじめ)

中国共産党第20回大会と中国におけるエリート政治の将来:ウィリー・ウー=ラップ・ラムとのインタヴュー(The 20th Party Congress and the Future of Elite Politics in China: An Interview with Willy Wo-Lap Lam

ウィリー・ウー=ラップ・ラム筆

2022年9月20日

『チャイナ・ブリーフ』誌

https://jamestown.org/program/the-20th-party-congress-and-the-future-of-elite-politics-in-china-an-interview-with-willy-wo-lap-lam/

●質問:中国の習近平国家主席は、中国が権威主義的な諸大国の枢軸と、アメリカおよびその同盟諸国(主に自由主義的民主制自体国家の連合)との間のより広い闘争に巻き込まれていると考えていることが広く認識されている。習近平が前任者以上にアメリカとの地政学的な競合を受け入れている理由は何だろうか? 第20回党大会後も習近平は同じ道のりを歩むと考えるか?

■ラム:習近平の最も有名なスローガンである「中国の夢(the Chinese Dream)」の実現と「中華民族の偉大な復興(great renaissance of the Chinese nation)」は、「東洋が台頭し、西洋が衰退する(the East is rising while the West is declining)」という確信に裏打ちされている。この考え方は、かつて改革の最高責任者である鄧小平が「アメリカと仲の良い国は全部栄えている(countries that get on well with the U.S. have all prospered)」と述べた倫理観とは大きく異なる(Guancha.cn:2019年6月10日;フェニックス・テレビ:2015年12月25日)。しかし、中華人民共和国とアメリカが主導する各国の「民主」同盟との間の経済的、技術的、地政学的な争いが大きな原因で、一方では中国、他方ではアメリカとヨーロッパ・アジアの同盟諸国の間で正に新冷戦(new cold war)が勃発している(Project Syndicate:2022年6月17日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙:2022年4月20日)。

習近平政権がウラジミール・プーティン率いるロシアを「無制限(ノーリミット、no limits)」で支持し、北京が台湾海峡、日本海、南シナ海で強硬なパワーを発揮していることもあり、北京は世界の舞台で相対的に孤立している。中国はまた、輸出や投資誘致、技術分野に不可欠な重要部品へのアクセスなどにも厳しい制裁が課せられている。

これに対して習近平は、ロシアやパキスタン、カザフスタンなどの中央アジア諸国を含む上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)と共に、権威主義諸国家の枢軸(axis of authoritarian states)を形成し、アメリカ主導の同盟に対する中国の対抗能力を強化しようとしている(ザ・ディプロマット:2022年8月22日;Moderndiplomacy.eu:2022年7月30日)。この枢軸の潜在的なメンバーには、イラン、北朝鮮、ミャンマーも含まれる。9月15日にウズベキスタンでプーティン大統領と会談した際、習近平は「中国はロシアと共に大国の役割を担う努力をし、社会の混乱に揺れる世界に安定と前向きなエネルギーを注入する指導的な役割を果たすことを望んでいる」と述べた。プーティンはウクライナ問題で中国に「疑問と懸念(questions and concerns)」があることを認めたものの、モスクワと北京は「公正で民主的で多極化した世界(a just, democratic and multipolar world)」を形成するために協力すると述べた(『ザ・モスクワ・タイムズ』:9月15日;Globalnews.ca:9月15日September 15)。

第20回中国共産党大会の後、アメリカ主導のブロックと中国主導のブロックとの間の全面的な闘争が激化することが予想される。中国とアメリカは、両者の全面的な争いを存在を賭けたゼロサムゲームとみなしている。そして、対立関係に一定の安定を与えていた共生的な経済・気候関連協力が縮小していることから、関係改善の見込みは低い(Cn.nytimes:9月14日;『フォーリン・ポリシー』:6月27日誌)。

●質問:中国は現在、新型コロナウイルスの脅威が続き、経済が低迷しているという、いくつかの厳しい課題に直面している。これらの問題は、習近平が3期目の任期中に一部の政策領域で方針転換を余儀なくされる可能性があるのだろうか?

中国共産党が投票所での正統性を欠いていることを考えれば、経済成長と国民全体の支持、少なくとも納得が中国共産党の正統性の重要な要素である。いわゆる「紅五毛(hongwumaored 50 cents)」(ソーシャルメディア上で党を褒め称えてお金をもらうネットユーザーの通称)を除けば、相当数の国民が、新型コロナウイルス感染拡大による検疫、失業率の上昇、消費財への支出減、不動産・銀行危機などの問題に苛立っている(VOAChinese:9月15日;Cn.wsj.com:9月14日)。第20回中国共産党大会後、習近平は李克強首相をはじめとする国務院テクノクラートが採用した相当数の措置、特に積極的に成長を促進するための経済への流動性注入を継続し、「世界の工場(world’s factory)」から撤退しないよう西側諸国やアジア諸国の投資家たちを説得するとみられる(チャイナ・ブリーフ:9月9日)。

しかし、国務院(state council)は、政府各レベルと国有企業、民間コングロマリットが抱える膨大な債務の原因であるインフラストラクチャ整備支出を強化するという数十年来の方式を、望ましい改善策として挙げている(Gov.cn:7月6日;新華社通信:5月6日)。習近平は、技術革新などの重点分野において、党国家当局が資源を「集中的かつ重点的に」使用する「国体制、juguotizhiwhole country systemic approach)を好むと宣言した(人民日報:9月7日;Qstheory.cn:6月10日)。また、「内部循環(internal circulation)」の重要性についても言及している。これは、中国の広大な国内市場に経済成長を依存するという半閉鎖的な(semi-autarkist)政策の略語である。こうした動きは、鄧小平の市場開放政策への回帰を予感させない。

習近平国家主席や李克強い首相を含む最高指導者たちは、北京が新型コロナウイルスの患者数をコントロールし、感染拡大による死亡を防ぐことができるのは、中国と西洋の統治システムの優劣を示すものであると主張している。また、幹部たちは、徹底的かつ効率的な検疫(quarantine)作業を行うことで、最高指導者である習近平への忠誠心を示すよう奨励されている(Chinesenewsgroup.com:9月7日;Radio French International:6月28日)。

このような強硬な封鎖措置は、経済を停滞させ、一般市民を遠ざけるだけでなく、中国製ワクチンの有効性や、検査、ワクチン製造、検疫の仕組み全体に関わる大規模な腐敗についても疑問を呈した。新型コロナウイルス感染拡大に関連する措置が経済に正面から打撃を与えたため、第20回中国共産党大会後に構成される指導部は検疫措置の範囲と実施に現実的な変更を加えるかもしれない。しかし、「動的なゼロ新型コロナウイルス政策(dynamic zero-Covid policy)」の主要な要素は2023年まで十分に維持される可能性がある。

●質問:中国共産党中央政治局(CCP Politburo)は9月9日、第20回中国共産党大会で採択される予定の中国共産党綱領(CCP Constitution)の改正について検討会を開催した。中国国家憲法(PRC Constitution)と中国共産党綱領は、1980年代初頭から数回にわたって改正されている。今回の改正は何を目指しているのだろうか?

■ラム:中国共産党または中国共産党憲法は、中国または中国国家憲法と区別するために、既に2017年の第19回中国共産党大会で改正され、「新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想(Xi Jinping Thought on Socialism with Chinese Characteristics for a New Era)」が党の指針として明記された。今回の改正案では、最高綱領に「2つの確立两个确立、liang ge quelitwo establishes)原則を挿入し、習近平の地位を更に高める可能性がある。習近平同志を党中央の核心(core of the dangzhongyang [central party authorities])、全党の核心(core of the whole party)とし、習近平思想を新時代の中国の特色ある社会主義(Socialism with Chinese Characteristics for a New Era)に優先させる」(中国日報:9月10日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:9月10日)のだ。また、中国共産党総書記と中国共産党中央軍事委員会主席の任期を廃止するために、中国共産党憲章が改正されるかもしれない(Radio Free Asia:9月11日;VOAChinese:9月10日)。現在の中国共産党綱領では、この2つのトップ地位の在任期間について明確な規定がない。しかし、2018年に国家憲法が改正され、これまで各5年の2期までとされていた国家主席のポストの任期制限が廃止された。

●質問:今回の第20回中国共産党大会は、ポスト毛沢東時代の他の大会とどのように似ていて、どのように違うのか? サプライズはあるのだろうか?

権力者はサプライズを嫌い、そのような出来事が事前に周到に準備されていることを確認するために、あらゆる手段を講じる。だからこそ、最高指導者である習近平は、中国政治に「ブラックスワン(black swans)」が出現しないよう繰り返し警告している(Beijing Daily:8月20日;China.com:5月9日)。21世紀の毛沢東と言われる習近平は、人工知能(artificial intelligenceAI)を活用した大規模な監視体制に確固たる自信を持っており、銀行や不動産のデフォルトや関連スキャンダルをめぐっていくつかの地方で勃発したデモにも動じていない(チャイナ・ブリーフ:7月18日)。習近平のエネルギーのほとんどは、第20回中国共産党大会に向けた人事の最終調整に費やされている。それは、自派の支配を強固にすると同時に、習近平の明らかな毛沢東回帰と反米・反西側の姿勢に心を痛めている党の長老や反対派の多くを宥めるだけの余地を生み出すためだ(Deutsche Welle Chinese:9月9日;Asia Society:8月4日)。

改革開放時代(Era of Reform and Opening Up)においても、党指導部は約2300人の全人代代議員と新任の中央委員会委員の意向を最終的に掌握してきたが、後者は5年に1度の大会を利用して、公共政策について時に異質な意見を述べることがある。今回の党大会は、1人の人間の知恵と功績を称えることが中心で、経済の活性化、新型コロナウイルス感染拡大への対応、対米関係の改善など、新しいアイディアが出てくるかどうかは大いに疑問だ。

●質問:十年前、中国の指導者たちの地位は「同輩中の首席primus inter pares)」、つまり 「first among equals」と表現されることがあった。また、習近平時代におけるエリート政治や派閥抗争をどのように考えるべきか?

■ラム:鄧小平は、「改革時代」において、1人の権力者に対する、個人崇拝(personality cults)や過度な権力集中(over-concentration of powers)を防ぐために、数々の重要な制度改革を断行した。そのひとつが、単独の人物による支配から集団指導体制(collective leadership)への移行であり、政治局常務委員会(Politburo Standing CommitteePBSC)の各メンバーが権力を大きく共有し、総書記は「同輩中の首席(first among equals)」に過ぎないというものであった。中国の幹部はこのモデルを「九龍(責任を分担して、nine dragons)河を飼いならす(九治水、Jiulong zhishui)」と称したHK01.com:2019年8月11日;Yazhou Zhoukan:2019年7月15日)。しかし、習近平は2012年末の政権獲得当初から、全ての意思決定権を自らの手に集中させることに成功した。それでも、李克強首相が率いる共青団派(Communist Youth League Faction)と江沢民元主席が率いていた上海派(Shanghai Faction)の2つの強力な党派の残党は、政治局や政治局常務委員会に少数派として残っている(チャイナ・ブリーフ:2021年10月14日)。第20回中国共産党大会以降、思想・人事から財政・外交に至るまで、習近平と習近平派の権力支配が強まる(チャイナ・ブリーフ:8月12日)。これは、「偉大なる舵とり(Great Helmsman 訳者註:毛沢東の別称)」がほぼ絶対的な権力を握っていた1960年代から70年代の毛沢東時代に一部回帰することになる。

●質問:中国共産党内では習近平の後継者争いが起きているのか? もし、明日、習近平が突然死んだらどうだろうか? 体制は大混乱に陥るだろうか?

■ラム:2032年の第22回中国共産党大会まで習近平が統治するとすれば、後継者を探すのに10年間の猶予がある。この後継者問題は、最高指導者の突然の失脚という不測の事態に中国共産党が対処できるかどうかということと同様に、公式メディアや検閲の厳しいソーシャルメディアにとってタブーである。長年にわたる「七上八下(68歳定年、67歳以下はもう1期、retirement at 68, possibly one more term for cadres aged 67 or under)の規定により、1960年代生まれの第6世代の新星たちは、第20回中国共産党大会または2027年の第21回党大会で中国共産党中央政治局常務委員となるが、それは一時的な措置に過ぎないかもしれない(チャイナ・ブリーフ:2021年11月12日)。その有力候補は、習近平の愛弟子で最高顧問の丁学祥(Ding Xuexiang、1962年生まれ)と重慶市党委書記の陳敏爾(Chen Min’er、1960年生まれ)である。しかし、第22回党大会で丁は70歳、陳は72歳になる(Chinafocus.com:4月7日;Cn.nytimes214日)。年齢条件を満たせるのは第7世代のメンバーか1970年代生まれの幹部だけであるため、習近平の後継者候補はまだ政治の舞台で強いイメージを打ち出していない(チャイナ・ブリーフ:2019年4月9日)。これらの幹部はいずれも次官以上の地位に到達してはいない。更に、新星たちが、国家的に重要な業績を上げ、最高幹部への昇進を勝ち取るまで数年しかない(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:8月29日;Thinkchina.sg:2021年12月6日)。

●質問:中国共産党総書記には国民による投票がないが、習近平が「終身指導者(leader for life)」として一般人や下級党員、仲間であるエリートたちに訴えていることは何か? 基本的に、習近平の「切り札(stump speech)」は何か?

■ラム:多くの中国人は、1978年末に鄧小平が「改革の時代(Era for Reform)」を始めてから30から40年の間に生まれたか、あるいは働き始めた。習近平は、「思想の解放(thought liberation)」や集団指導(collective leadership)から、民間企業の権限強化、西側資本の誘致に至るまで、鄧小平の教えのほとんどを覆した。中国共産党は国民の脱政治化(depoliticized)に成功し、多くの人々の関心とエネルギーを政治から純粋な経済的追求へと移行させた。しかし、習近平は反改革主義的な施策、とりわけ習近平自身の終身在職を含む個人崇拝(personality cults)の復活に対して、大多数の国民と幹部から真の支持を得たことはない。失業率の上昇と株式・不動産市場における中産階級の大きな損失は、習近平にとって、「中華民族の偉大な復興(the great renaissance of the Chinese nation)」などの聞こえが良いが空虚なスローガンの正当化を二重に難しくしている。台湾統一(reunification of Taiwan)や中国が新たな中央の王国(emergence of China as the new Middle Kingdom)となることを含む「中国の夢(Chinese dream)」は、習近平が「終身支配者(ruler for life)」になることを目指す根拠となっている(Indianexpress.com:2021年11月16日;Asia.nikkei.com:2021年10月21日)。しかし、中国とアメリカの経済力、技術力、軍事力の間には依然として強大な差があり、東洋が西洋に取って代わるとは限らない。この画期的な目標を達成できない習近平は、中国の「第2の毛沢東(Second Mao Zedong)」であるという主張の正統性を損なう恐れがある。

※ウィリー・ウー=ラップ・リン(Willy Wo-Lap Lam、林和立)博士:ジェイムズタウン財団上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』誌定期寄稿者。香港中文大学歴史学部・国際政治経済修士プログラム非常勤講師。6冊の中国に関する著作を持ち、代表作に『中国政治と習近平時代(Chinese Politics in the Era of Xi Jinping)』(2015年)がある。2020年に最新作『中国の将来のための戦い(The Fight for China’s Future)』(ルートレッジ・パブリッシング)が刊行された。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 来週に第20回中国共産党大会が予定されている。ここで新しい人事が行われ、習近平国家主席の続投、第7世代(1970年代生まれ)が指導部層に多く入ってくると見られている。今回の共産党大会は非常に重要な大会ということになる。

 中国人民解放軍(People’s Liberation Army)は1927年8月1日の南昌蜂起が健軍の日とされており、軍の徽章には「八一」の文字が入っている。人民解放軍を統括(領導)するのは中華人民共和国中央軍事委員会(Central Military Commission of the People’s Republic of China)だ。中央軍事委員会には中華人民共和国中央軍事委員会と中国共産党中央軍事委員会(Central Military Commission of the Communist Party of China)の2種類が存在するが、メンバーと役職は全く一緒なので、実質的には中国共産党中央軍事委員会が中国人民解放軍を統括する。中央軍事委員会主席は国家主席である習近平が務め、副主席2名と委員は中国人民解放軍の将官から出ている。中国人民解放軍は中国共産党に従属している形となっている。

 私たちは報道で「中国の習近平国家主席」という言葉を耳にする。「中国で一番偉いのは習近平なのだ」ということは分かっている。しかし、どれくらい偉いかということは分かっていない。習近平は中国国家主席(アメリカの大統領に相当する国家元首)、中国共産党中央委員会総書記(中国共産党の最高幹部、党首に相当)、中華人民共和国中央軍事委員会主席(これはそのまま中国共産党中央軍事委員会主席)を務めている。習近平は中国全体を領導する中国共産党のトップであり、中国人民解放軍のトップであり、中国という国家のトップ(行政府の国務院を従えている)ということになる。

 最近になって、中国人民解放軍がクーデターを仕掛けて習近平国家主席を追い落とそうとしたという噂が流れた。法輪功という中国で禁止されている宗教に関連するメディアが出所で、それをインドのメディアが報じたことで話が大きくなったようだ。しかし、以下の記事にあるように、これは「中国の政治について知識がないために流れた噂話で、それが大きくなった」ということのようだ。

 中国人民解放軍がクーデターを起こそうと思えば、これまででもいくらでも機会があった。しかし、中国人民解放軍はクーデターを起こしたことはなく、中国共産党に従ってきた。大躍進運動や文化大革命といった国家的な動乱状態にあっても、動きを自重してきた。それは、国共内戦を指導した鄧小平以来の我慢強さであり、「軍が軽挙妄動すれば国家が乱れて外患を誘致することになる」ということが分かっているからだ。

 人間は自分の希望に沿うような形で将来を予測してしまうことが多い。また、ベクトルのかかった情報を流して自分たちに有利なように状況を作ろうとする。どのようなベクトルがかかっているのか、誰が利益を得るのか、ということを考えながら情報報に接するだけで、根拠のないうわさ話に振り回されることはだいぶ少なくなる。

(貼り付けはじめ)

誤ったクーデターの噂が中国政治について明らかにすること(What a False Coup Rumor Reveals About Chinese Politics

-根拠のない物語がすぐに拡散したが、これは北京の内部での動きについて、どれほど多くの世界の人々が誤解しているかを示している。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年9月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/28/china-false-coup-rumor-viral-politics/

今週のハイライト:クーデターについての根拠のない噂は北京政治に関する誤解を荒木かにしている。ウクライナの対ロシア侵攻についての成功が台湾でいくつかの疑問を生じさせている。中国の国連大使が領土の一体性について曖昧な声明を発した。

●クーデターに関する誤った噂話が拡散(False Rumor About Coup Goes Viral

先週末、李橋銘上将が習近平国家主席に対してクーデターを起こしたという、まったく裏付けのない中国に関する主張が、中国の亡命者たちの間で、そしてインドのメディアにも大々的に流布された。習近平は火曜日、公の場に姿を現し、噂を一掃した。もちろんクーデターの話は嘘だったが、一時的に多くの人に伝わり、著名人までもが噂を繰り返した。

習近平国家主席が中国共産党内でクーデターに直面する可能性は全くないとは言えない。いつか遭遇するかもしれない。中国の経済や政策の失敗は拡大し、中国のエリートたちの不満も高まっている。しかし、先週末のような根拠のない主張は、中国国外でも頻繁に見受けられる。このような噂がどのように広まり、なぜ広まったのかを考えると、中国政治の中枢についていかに知られていないか、そしていかに酷い誤解を受けているかが分かる。

今回のクーデターの噂はよくあるパターンに沿ったものだった。中国の亡命者たちの反中国共産党的な部分は、北京の内部での陰謀の噂話でしばしば騒がれるが、そのほとんどは何も根拠がない。ソーシャルメディアは、かつてはマイナーな亡命新聞やゴシップサークルの間でしか共有されなかった話を増幅させる。今回のケースでは、中国で飛行機が欠航という反体制派ジャーナリストの主張が噂の発端となった。クーデターの前兆は中国の宣伝機関の掌握ということになるだろう。

1999年に中国で禁止された、国際的な新宗教運動である法輪功(Falun Gong)は陰謀論的な話を共有する傾向があり、通常、こうした噂を広める重要な役割を担っている。法輪功系のジャーナリストは9月23日、この噂を取り上げ、何度もツイートした。そこから、インドのメディア、特に国粋主義的なチャンネルであるインドTVと一部の政治家がこの話を増幅させた。しかし、中国に詳しい学者たちが繰り返し反論したため、やがてこの噂は沈静化した。

それでは、今回の噂は中国の政治について何を示しているのだろうか?

第一に中国共産党の厳しい情報統制が噂を呼び起こす。先週末のクーデターの証拠とされたのは、習近平が9月22日に中央アジアから帰国して以来、公の場に姿を現していないことだ。習近平も人間であり、インフルエンザにかかったり、休んだりする。しかし、中国共産党は指導部層を非常に大切にしているため、病気や休暇を公式に認める訳にはいかない。もしそのようなことを認めると、指導者たちは弱者ではなく、努力し、英雄的であるというイメージが崩れてしまう。

このような警戒心の強さは、中国共産党の地下運動としての歴史の名残であり、中国の官民の機関に共通する特徴である。中国共産党の指導部は部外者と情報を共有しないので、彼らの私生活を調査することは、中国で深刻な問題を引き起こす近道となる。習近平とその側近は、海外で過ごした後、単に隔離されていた可能性もある。しかし、政府がそのようなことを発表する訳にはいかない。

世界の大多数の人々は中国の日常的な現実を知らない。飛行機が欠航になったというニューズについても、新型コロナウイルス・ゼロ体制で中国の飛行機が頻繁に欠航になっていることは、中国の人々がよく知っていることなので怪しく思えたかもしれない。一方、全長80キロ(ほぼ50マイル)の車列が北京を取り囲んだという主張は、首都に住む数千万人の住民が誰もその写真を投稿しないことでそれが本当ではないと信じる必要があった。中国の検閲は厳しいが、全てを包含している訳ではない。

中国以外の世界における中国での生活に関する知識と実際の生活との差は新型コロナウイルス感染拡大期間の孤立によって大きくなっている。注目すべきは、中国に特派員を置いているインドのメディアが、噂を増幅させるのではなく、むしろ弱めたことである。

最後に、軍隊は中国を救うことはないだろう。中国におけるクーデターに関する噂は、ほとんどの場合、軍部が権力を掌握することに焦点が当てられている。しかし、それはレーニン主義国家における権力の正統性と中国共産党が軍を強く支配していることについて根本的に誤解している。旧ソ連でも中華人民共和国でも、軍隊が国家の重要な部分であるにしても権力闘争を主導したことはない。反習近平運動を想定した場合、軍隊は宮廷の護衛はしていても、クーデターを主導するのは中国共産党のメンバー自身であろう。

しかし、部外者が軍に注目するのは、トルコからタイに至るまで、独裁国家の多くは軍が権力を握り、自らを国家の救世主と見せかけてきた歴史があるからだ。習近平と中国共産党はまた、中国において真の野党権力の源泉となりうる他のあらゆる組織を効果的に破壊してきた。軍事クーデターはあり得ないが、中国共産党の崩壊を願う人々には、それしか残されていないのかもしれない。

●私たちが追いかけているもの(What We’re Following

台湾は戦えるのか? ウクライナがロシアとの闘いで防衛に成功した一方で、台湾の人々は自分たちの軍隊が任務に耐えられないのではないか、中国の侵略によって、台湾は2022年よりも2014年のウクライナのようになるのではないかと懸念している。台湾は重武装だが、2020年にジャーナリストのポール・ファンが『フォーリン・ポリシー』誌がに寄稿した記事の中にあるように、徴兵制をわずか4カ月に短縮したことで軍隊を弱体化した。

しかし、韓国やイスラエルのように、敵対的な隣国を前にして採用している軍事国家(garrison state)という考えに、台湾の人々のほとんどは熱狂していない。しかし、台湾は、島国(island state status)でない国々とは事情が異なる。台湾の自由は、おそらく海岸や海上で勝ち負けが決まるため、防衛側に有利となる。

中国の曖昧な国連安保理声明。ウクライナ占領地でのロシアによる虚偽の住民投票を受け、中国の張軍国連大使は国連安保理で声明を発表した。「ウクライナ問題をどのように把握し、どのように処理するかについて私たちの立場と提案は一貫しており明確である。それは全ての国家の主権と領土の一体性が尊重されるべきであるということである」。ここで疑問が生じる。中国が言っているのは、誰のための領土の一体性なのか?

張大使の発言は、国民投票の正当性を前提にすれば、親ウクライナ的とも親ロシア的とも解釈されかねない。この発言は、戦争中、中国がしばしば平和や国際秩序に言及し、どちらかを非難したり支持したりすることはなかった典型的なものである。一方、中国の国営メディアや検閲機関は、親ロシア的に傾いている。

●テクノロジーとビジネス(Tech and Business

スパイの告発。中国は、アメリカ国家安全保障局(U.S. National Security Agency)が政府出資の重要な大学の機密人事情報にアクセスしたと非難している。確かにその可能性はあるが、攻撃者がアメリカ英語のキーボードを使用していたなど、いくつかの証拠は決定的なものではないようだ。

興味深いことに、ハッカーはアメリカ東部標準時の午後4時に退社し、週末は仕事をしていないという証拠がある。これは、中国政府のハッカーを特定する際によく使われる方法(例えば、最近行われたフェイスブックの影響力工作に関する調査)で、中国政府の職員が享受している2時間の昼休みを思い起こさせるものだ。

不動産業の資金難。カイシン(Caixin)の調査によると、地方政府は不動産市場の崩壊によって生じた資金調達の穴をあらゆる手段で埋めようと必死になっている。地方債を販売する地方政府の資金調達機関が、自ら事業に乗り出し、政府から土地を購入するよう圧力をかけられている。地方財政収入に占める不動産売買の割合は、税金を除いて計算すると、2000年にはわずか5.9%だったが、2021年には42%を占めるようになった。

しかし、このギャップを地方自治体の資金調達手段が埋められるものではない。国が値下がりを容認するのを待っている買い手の需要がないのだ。2020年以前にも、地方政府の資金調達車は債務危機の発生に寄与した。

弱い人民元(人民元安)、弱気な予測。中国人民銀行による下支え努力にもかかわらず、人民元は下落を続け、月曜日には対ドルで28ヶ月ぶりの安値をつけた。来月開催される中国共産党第20回全国代表大会を前に、強い人民元(人民元高)はアメリカとの経済力の均衡を意味すると一般的に考えられているため、弱い減(人民元安)は恥ずべき事態となりかねない。

更に悪いことに、来年の中国経済の見通しが暗澹たるものになりそうだ。世界銀行は4月に発表したGDP成長率の予測を5%からわずか2.8%に引き下げ、他の金融機関もこの動きに追随している。中国のような発展途上の経済では、これは国民にとって景気後退のように感じられる。政府が設定した5.5%の成長目標に達しないということは失敗ということになる。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2022年10月16日に第20回中国共産党大会が開催される。今回の党大会の焦点は人事であり、それについて前回、林和立の記事をご紹介した。林は今回の党大会における人事は、国防・航空宇宙産業(中国語では工航天系、jungonghangtianxi)出身者たちの登用が特徴となるだろうと書いている。今回は、アメリカの有名シンクタンクであるブルッキングス研究所のチェン・リーの記事をご紹介する。チェン・リーは航空宇宙産業出身者たちを「宇宙クラブ(cosmos club)」、中国語では「航天系(hangtianxi)」、「宇宙帮(yuzhoubang)」という言葉で一つのエリート集団としてまとめ、今回の中国共産党大会で多くが中央委員会入り、2から3人ほどが政治局(25人)入りするだろうと主張している。第7世代(1970年代生まれ)と合わせて、こうした人々がどれだけ登用されるのかに注目が集まる。

 習近平体制3期目、4期目は宇宙開発で中国がアメリカをリードすることを目指しているという論調であるが、これはより露骨に言えば、宇宙戦争などアメリカとの軍事衝突を含む、不測の国家安全保障に大きな危機を与える状況に即応できる体制を作るということになるだろう。これまでの兵士たちが銃を撃ち合う、戦車や航空機が戦うという戦争のイメージから大きく変化した戦争に備えるということになると思う。そして、習近平体制で後継者と次の政権の主要メンバーを決めておくということになる。そのキーワードが「第7世代」と「宇宙クラブ」ということになる。

 こうして見ると、中国の国家指導者層作りの精密さには驚くばかりだ。日米はまずオールドタイマーがいつまでも居座り、新陳代謝がうまくいかず、加えて能力選定や判定の手続きも機能していないように見える。日米は昔のソ連の国家指導者と同様に機能不全に陥っているのではないかとすら思えてしまう。結果として、こうしたところに国力の減退が見えてしまう。日本の閉塞状況、終わりの始まりを実感する。

(貼り付けはじめ)

習近平時代での「宇宙クラブ」の急速な台頭:第20回中国共産党大会に向けたカウントダウン(The rapid rise of 'the cosmos club' in the Xi Jinping era: Countdown to the 20th Party Congress

チェン・リー(ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントンセンター部長)筆

2022年9月9日

『シンク・アジア』

https://www.thinkchina.sg/rapid-rise-cosmos-club-xi-jinping-era-countdown-20th-party-congress

中国共産党中央委員会に航空宇宙分野の出身者がいることは目新しいことではないが、習近平時代ほど、このグループがこれほどの割合と規模で国家や省レヴェルの指導層に浸透したことは歴史上ない。ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センター部長であるチェン・リーは、彼らのうち2人、あるいは3人が第20回党大会の政治局有力候補となり、そのほとんどが習近平の3期目以降に重要な役割を果たすだろうと語っている。

tiangongspacestation 511

2021年10月19日、中国東部浙江省の杭州で開催されたクラウドコンピューティングと人工知能(AI)の会議「アプサラ会議」で展示された中国の宇宙ステーション「天宮(Tiangong)」の模型

過去10年間、中国の宇宙開発における野心と成果は、世界中で大いに注目されてきた。それほど注目されていないが、おそらく同じように注目されているのが、中国の政治指導層における航空宇宙産業の経営者の台頭である。最近、「宇宙クラブ(the cosmos club、航天系 [hangtianxi]、宇宙帮[yuzhoubang])」という新しい言葉が生まれた。この言葉は、中国の宇宙・航空産業から国家・省レヴェルの指導者にまで上り詰めた、独特のテクノクラート集団を指す。

いくつかの中国語メディアの論評によると、第20回中国共産党大会の前夜、宇宙クラブは新たな「政治的高地(political highland、政[]高地[zhengtan gaodì])」を占拠している。新疆ウイグル自治区党委書記の馬行瑞(Ma Xingrui、1959年-)、湖南省党委書記の張慶偉(Zhang Qingwei、1961年-)、浙江省党委書記の袁家軍(Yuan Jiajun、1962年-)、国務委員の王勇(Wang Yong、1955年-)、国務院国有資産監督管理委員会(state-owned Assets Supervision and Administration Commission SASAC)委員長の郝鵬(Hao Peng、1960年-)、国務院工業情報化部長の金壮龍(Jin Zhuanglong、1964年-)などが名を連ねている。

この6人の指導者たちは、中国の宇宙・航空産業で数十年の実務経験があり、現在、中国共産党中央委員会の正式メンバーである。このうち2人、あるいは3人は今秋の第20回党大会で政治局(訳者註:25名)の有力候補となり、そのほとんどが習近平の3期目以降に重要な役割を果たすことになる。

ccpleadersformerscientists511

左から:(上段)張慶偉湖南省党委書記、馬興瑞新疆ウイグル自治区党委書記、王勇国務委員、(下段)金壮龍国務院工業情報化部長、郝鵬国有資産監督管理委員会委員長、袁家軍浙江省党委書記

中国共産党中央委員会に航空宇宙関連の経歴を持つ指導者たちが存在することは、もちろん新しいことではない。しかし、このグループは習近平時代におけるほどの割合と規模で国家や省レヴェルの指導部に浸透したことはない。過去10年間、これらの指導者の一部は省長(党委書記や知事)を務め、長い間、国のトップへの足がかりとされてきたポジションに就いた。また、国務院の重要な閣僚ポストを務める者もいる。第19期中央委員会メンバー376人のうち、宇宙クラブ所属と呼べる指導者(文官、軍人を含む)は46人もおり、全体の12.2%を占めている。

中国共産党指導部内のこのような独特のグループの強さは、間違いなく、中国が「宇宙開発クラブ(space club)」において重要な役割を果たそうとする願望を反映している。イギリスの学者マーク・ヒルボーンが2020年の研究で述べたように、中国の宇宙計画は「特に印象的で、ここ2年間だけでも多くの国の宇宙での全成果を凌ぐ発展を示している」のである。中国の指導者たちにとって、昨年の天宮宇宙ステーションの打ち上げほど、中国の愛国心を喚起するのに有効なものはないだろう。新浪微博(Sina Weibo)のライヴビューは3億1千万回に及んだ。このエリート集団の強い代表性は、中国共産党指導部の中に、宇宙産業の「加速的発展(accelerated development)」に対するより広い支持があることの表れと見ることができるだろう。

chineserocket511

2022年7月24日、中国南部の文昌宇宙基地から飛び立つ、中国の天宮宇宙ステーション第2モジュールを搭載したロケット

エリート形成の観点からは、この集団は党指導部内の新たなテクノクラート集団に凝集される可能性がある。これは、将来の政治指導者の採用ルートを広げるだけでなく、民生と軍事の融合を含む中国指導部全体の方向性に大きな影響を与え、今後の政策選択や最高レヴェルの意思決定に影響を与える可能性が高い。

●航空宇宙産業出身の指導者たちが中央委員会に多数昇進(The prevalence of leaders with aerospace backgrounds in the Central Committee

これまでこのシリーズでは、中国共産党指導部における国有企業や金融機関出身の経営者の重要性が、特に若い年齢層で高まっていることを分析してきた。しかし、CEOから政治家に転身した人々の中で、航空宇宙・航空部門からキャリアを積んだ指導者ほど、今日の高位指導層で優位に立っているグループはない。

この2つの分野の構造的発展について、中国当局は、「航空能力と宇宙開発能力の統合(integrated air and space capability、空天一体[kongtian yiti])」として、同一のカテゴリーに(商業的にも軍事的にも)分類している。

図表1は、第19期中国共産党中央委員会に宇宙クラブから参加した人々の産業背景を、他の産業と比較したものである。航空宇宙産業が最も多く、委員12人、委員候補16人の合計28人である。このグループの代表は、2位の銀行・金融グループの代表の2倍である。

19thccpcentralcomitteemenbersindustrialbackground511
石油・化学分野での勤務経験者はわずか6人で、航空宇宙・航空機分野の4分の1以下である。これは、過去20年のいくつかの中央委員会では、上位のリーダーにとって石油分野が他の産業分野よりも高い、唯一最も重要なビジネス経歴だったことと比べると大きな変化である。

●航空宇宙産業出身の指導者たちを登用する習近平の強い意向(Xi Jinping’s strong inclination to promote leaders with aerospace backgrounds

習近平は長い間、中国の宇宙開発計画、つまり軍事と民生の両面における航空宇宙産業を優先させることを提唱しており、それは中国の国力と世界舞台での地位を示す最高の証であると考えている。習近平が2013年にトップ(国家主席)に就任して間もなく、試作品の宇宙ステーションで宇宙飛行士と時間を共有したが、中国の宇宙開発の夢(China’s space dream)は「中国をより強くする夢の一部」であると述べた。より大きく言えば、宇宙開発計画は国の再興(national rejuvenation)という長期的なヴィジョンに不可欠な部分である。

2016年以降、中国は1970年に中国初の人工地球衛星「東方紅1号(Dongfanghong-1)」が打ち上げられた4月24日を「中国宇宙の日(China’s Space Day)」と定めている。習近平をはじめとする中国共産党の指導者たちにとって、中華人民共和国は今、宇宙の次のフロンティアを開拓するための惑星間競争に全速力で取り組んでいるのである。

2017年1月、習近平は、習近平自身をトップとする「軍民融合発展委員会(Military-Civilian Fusion Commission)」という軍民の開発統合を監督する新しい委員会を設立した。軍民融合開発についての最も重要な技術提供者は、月探査計画(Lunar Exploration Programme、通称:嫦娥計画)、有人宇宙飛行計画(神舟計画)、天宮宇宙ステーションなど、注目の大型プロジェクトを実施してきた航空宇宙産業であると言ってよいだろう。

習近平が航空宇宙産業出身者を登用する重要な理由は他にもある。(1)エリートの選別ルートの拡大、(2)政治権力基盤の拡大・多様化、(3)技術革新志向の強い新世代のテクノクラートの育成、(4)経済ローカル主義と地方政治派閥を弱めるために「アウトサイダー」を省や市の指導層に登用する、(5)経済効率と地方の国際競争力を高めるため、中国の主要企業の元CEOを省長に任命する、(6)軍民企業の一体的発展を促進する、(7)より近代化した防衛産業を構築し国家安全を強化する、などが挙げられる。

chinaspacesciencespacewalkimage511

中国有人宇宙機関(China Manned Space Agency CMSA)が2022年9月2日に撮影・公開した配布資料画像で、6時間の宇宙遊泳を成功させ、船室モジュールに戻る中国の宇宙飛行士、陳冬と劉洋

「メイド・イン・チャイナ2025」計画に基づく中国の積極的な産業政策は、航空宇宙、造船、ロボット工学など、中国指導部が「戦略的に重要な分野」で国家が支援する国内プレイヤーを促進することを目的としている。宇宙クラブのメンバーたちは、中国が最重要視するハイテク分野でキャリアを積んできた。

中国の反体制派で中央党校の機関誌『学習時報』の元編集者である鄧禹文は、最近『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙の取材に対して、「習近平は航空宇宙・防衛分野で活躍した人物をより信頼している」と述べている。ある意味、中国の航空宇宙・防衛産業におけるこれらのテクノクラートは、中国共産党の指導者が「中国の特色ある社会主義(socialism with Chinese characteristics)」と呼ぶもの、あるいは批評家が「国家資本主義(state capitalism)」と表現するものを最もよく実現できているのだ。

航空宇宙産業出身の指導者たちの台頭は、政治的な考慮によっても説明することができる。これらの指導者たちは、専門家としてのキャリアのほとんどを技術分野で過ごし、省・市の指導者としての在職期間も比較的短かった。その結果、国のトップに対して忠実に動く傾向が強い。このことは、宇宙クラブに所属する有力者の経歴を詳しく見てみると明確だ。

●「宇宙クラブ」出身で注目される著名な候補者たち(Prominent candidates to watch from 'the cosmos club'

中国共産党中央委員会には、長い間、数人のロケット科学者がいた。いわゆる「2つの爆弾、1つの衛星(两一星、two bombs, one satellite)」計画(原爆、大陸間弾道ミサイル、人工衛星を指す中国の一般的な表現)の主要な貢献者の何人かは、中国共産党中央委員会の委員を務めた。国際的に著名な科学者である銭学森(Qian Xuesen、1911-2009年、97歳で没)は第9-12期中央委員候補、朱光亜(Zhu Guangya、1924-2011年、86歳で没)は第9-10期中央委員候補、第11-14期中央委員、鄧稼先(Deng Jiaxian、1924-1986年、62歳で没)は第12期中央委員、宋健(Song Jian、1931年-、90歳)は第12期中央委員候補、第13-15期中央委員、周光召(Zhou Guangzhao、1929年-、93歳)は第13-15期中央委員、羅恩杰(Luan Enjie)は第13-15期中央委員候補)をそれぞれ務めた。

最近では、中国航空工業集団公司の元会長で党委書記を務めた林左鳴(Lin Zuoming、1957年-)が第16,17期中央委員候補、第18期中央委員を務めた。しかし、上記の航空宇宙産業のテクノクラートは、いずれも省・市の指導者を務めたことはない。航空宇宙産業の発展初期における唯一の例外は河北省党委書記を務めた張雲川(、1946年-)だ。

張はハルビン軍事工程学院(Harbin Institute of Military Engineering)で教育を受けたテクノクラートで、江西省、新疆ウイグル自治区、湖南省で省レヴェルの指導部を経験した。その後、2003年から2007年にかけて、国家国防科技工業局(State Administration of Science, Technology, and Industry for National DefenseSASTIND)局長、「嫦娥プロジェクト」指導グループ長を歴任した。退任前の2007年から2011年まで河北省党委書記を務めた。第16、17期の中央委員も務めた。

表1は、第20期中央委員会入りが予想されている、航空宇宙産業での指導者経験を持つ著名な候補者20人を紹介したものである。彼らは、科学技術研究や軍産複合体に専従することが多かった一昔前の航空宇宙業界の先輩たちに比べ、政治的・職業的なキャリアパスが多様であるように見える。これらの新星たちの最も特徴的な点は、彼らの仕事の経験のほとんどが、4つの領域にまたがっていることが多いということである。科学技術研究、軍産複合体での管理業務、国務院での閣僚としての指導、省レヴェルのトップでの経験である。

20thccpcentralcommitteememberscandidateaerospacebackground511

航空宇宙と航空部門で実質的な指導者経験を共有している (30年または 40 年にわたって働いている人たちもいる) ことに加えて、現在、6人が省レヴェルの指導者を務めている (3人は党委書記、1人は省長)。国務院閣僚クラスの郝鵬、懐進鵬(Huai Jinpeng、1962年-)、唐登傑(Tang Dengjie、1964年-)を含むその他の人々は、以前は省長や省党委副書記を務めていた。その半数以上 (11人) は国務院副部長または部長としての指導経験があり、そのうち5人は現在国務院の部長を務めている。馬興瑞、懐進鵬、曹淑敏(Cao Shumin、1966年-)、張広軍(Zhang Guangjun、1965年-)などの一部の人々は、大学の党委書記、学長、学部長も務めた。

huaijinpeng511
 
懐進鵬

tangdengjie511
唐登傑

caoshumin511
 
曹淑敏

zhangguangjun511
 
張広軍

これらの有力な昇進候補の中には、既に中央委員会で長い在職期間を持つ者たちもいる。例えば、張慶偉は1960年代以降の世代(第6世代)のメンバーとして初めて中央委員会に在籍した。2002年、41歳の時に第16期中央委員会の委員となり、その後3期の委員会でもその座を守っている。袁家軍と金壮龍は、第17期中央委員会に中央委員候補として初参加した。劉石泉(Liu Shiquan、1963年-)は第16期中央委員会から4期連続委員候補を務めている。

liushiquan511
劉石泉

4人の指導者は、これまで中央委員会に参加したことがない。黄強(Huang Qiang、1963年-)は現在四川省長であることから、第20期中央委員会で委員になる可能性が高い。陝西省組織部長の程福波(Cheng Fubo、1970年-)と安徽省副省長の張紅文(Zhang Hongwen、1975年-)の、第7世代に属するリーダー2人は、今秋の第20回党大会で、中央委員会の委員候補補欠に任命されると見られる、第7世代の有力候補たちである。

最も重要なことは、第20回中国共産党大会において、中国史上初めて航空宇宙分野の指導的立場にある民間人指導者のうち2人、あるいは3人政治局(25人)入りすることが期待されていることだ。全体として、宇宙クラブのメンバーは、この秋に決定される中国共産党中央委員会で記録的な割合で代表占めることになるであろう。

huangqiang511
黄強

chengfubo511
 
程福波

zhanghongwen511
 
張紅文

この記事は最初に『チャイナ・USフォーカス』の「人事改造リポート(Reshuffling Report)」シリーズの一環で、「習近平時代での「宇宙クラブ」の急速な台頭:第20回中国共産党大会に向けたカウントダウン」として掲載された。このシリーズはブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センター部長チェン・リーによる実証的な研究を基礎にした一連の記事で構成されている。このシリーズは第20回中国共産党大会に向けた記事の内容になっている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今年秋の第20回中国共産党大会で習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)中国国家主席は2期10年務めた最高権力者の座から降りることなく、更に1期5年、権力の座にとどまり続けるという話になっている。そうなると10年ごとに若い世代に最高指導部を引き継ぐという江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)と胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)の時に行われた習慣が崩れることになる。ポスト習近平時代の中心と目されていた中国共産党指導部第6世代(1960年代生まれ)から最高指導者(国家主席・中国共産党総書記、中国中央軍事委員会主席を兼ねる)人物は出ないということになる。そして、次の第7世代(1970年代)から最高指導者が出る可能性が取り沙汰されている。最高指導者を出せなかった第6世代は「悲劇の世代」ということになりそうだ。
 習近平がこれから更に2期10年最高指導者を務めるならば、第6世代から最高指導者は出ないが、1期5年で退けば、15年を第6世代からの最高指導者が務める可能性がある。第6世代のトップランナーは胡春華(Hu Chunhua、1963年-、59歳)副首相である。最近になって、習近平が胡春華を重用し始めているという報道もある。習近平が3期目の国家主席となる場合に、胡春華を政治局常務委員に引き上げ、首相のポストを与える可能性もある。そして、習近平が胡春華を最高指導者に引き上げて自身は院政を敷くという可能性もある。現在の政治局員序列第2位の李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相は全国人民代表大会常務委員長か中国政治協商会議主席に転身するということも考えられる。江沢民、胡錦涛の時とは違ったイレギュラーな人事となるが、これであれば第6世代の悲劇性を少しは薄めることもできるだろう。
 習近平は中国共産党中央委員会主席(Chairman of the Central Committee of the Chinese Communist Party)の職位を復活させ、この地位に就くという観測も出ている。党主席は権力が集中するポジションであり、1945年に設置され、毛沢東が亡くなる1976年までその地位に就いていた。その後は1976年から1981年まで華国鋒(Hua Guofeng、1921-2008年、87歳没)、1981年から1982年まで胡耀邦(Hu Yaobang、1915-1989年、73歳没)が就任したが、権力集中への反省から、鄧小平が廃止した。

 この中国共産党中央委員会主席を復活させて、習近平が権力を掌握する可能性が出ている。現在、中国では習近平が中国共産党の「終身核心(eternal core)」とされている。習近平が権力を掌握したままで、これからの厳しい時代を乗り越えようとしている。中国はこれからの時代に備えようとしている。

(貼り付けはじめ)

分析:習近平は胡春華の「第6世代」全体をスキップする準備をしている(Analysis: Xi prepares to skip over Little Hu's '6th generation'

-習近平国家主席陣営の内外で有望な政治家たちはトップにはなれない。

chinesecommunistparty6thgeneration521
習近平主席のゆっくりだが着実な政治改造は中国の他のトップリーダーの生活をも変えようとしている。5月13日、河南省で小麦の収穫を観察する党総書記と複数の側近たち。

カツジ・ナカザワ筆

2022年5月20日

『アジア日経』紙

https://asia.nikkei.com/Editor-s-Picks/China-up-close/Analysis-Xi-prepares-to-skip-over-Little-Hu-s-6th-generation

東京発。中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は胡春華Hu Chunhua、1963年-、59歳)副首相をどう見ているのだろうか?

58歳の胡春華副首相は、将来のトップリーダーと目されていた時期があった。胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)前国家主席や李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相と同じく、胡春華は共産主義青年団(Communist Youth League)の第一書記を務めた経歴がある。

胡錦涛と同じく、胡春華も長年にわたり、チベット自治区で働いた。チベット自治区は、動乱と民族紛争で知られていた。

胡錦涛前国家主席と同じ苗字だったことから、胡春華は「リトル・フー(Little Hu)」と呼ばれるようになった。

2008年、胡春華は国内最年少で河北省長に就任した。45歳の時だった。毛沢東(Mao Zedong、1893-1976年、82歳没)、鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳没)、江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)、胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)、習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)と続く、中国指導者のいわゆる「第6世代(Sixth Generation)」の顔であることは間違いないところだ。

chinesecommunistparty6thgeneration522
左から毛沢東主席、鄧小平、江沢民主席、胡錦濤主席、習近平主席。中国に6代目のリーダーが誕生するのは、しばらく先のことかもしれない。

胡春華(リトル・フー)の運命は2012年に習近平が中国共産党総書記に就任し、その直後に国家主席に就任すると一変した。習近平は太子党出身で政治的背景が異なり、2人の胡とは対立する派閥に属していた。

しかし、不安があるにもかかわらず、胡春華(リトル・フー)は生き延びてきた。

だから、2022年5月中旬に習近平(67歳)が河南省を訪問した際、胡春華が大勢の側近の一人として同行したことは特筆すべきことだった。視察に参加した5人の政治局員の1人であるだけでなく、国営放送の中国中央テレビで習主席と歩きながら話す姿も映し出された。

派閥の関係もあってか、胡春華は習主席の視察に常に同行する人物ではない。習近平の側近である劉鶴(Liu He、1952年-、70歳)副首相がその地位を確固として占めている。

劉鶴が習主席の河南省視察に同行しなかったことは噂の種になっている。

習近平と胡春華が手を結んでいるのか? 習近平と胡春華はより接近しているのか?

河南省訪問直前の5月12日、米紙『ウォールストリート・ジャーナル』紙は、中国政府がアメリカとの閣僚級貿易協議の代表を劉鶴から胡春華に交代させることを検討していると報じた。

商務部の報道官は記者会見でこの報道を否定したが、中国の対米窓口担当者を交代させることは、経済関係の行き詰まりを打開する一つの方法となり得るだろう。

胡春華(リトル・フー)にとって、習近平時代の9年間、眠れない夜が続いたに違いない。

chinesecommunistparty6thgeneration523
5月13日、河南省南陽市で撮影された習近平と胡春華。北京は、胡春華がアメリカとの閣僚級貿易協議の中国代表に就任するとの噂を否定している。

中国の国会である全国人民代表大会は2022年3月、副首相をより柔軟に任命・解任しやすくする法案を押し通して可決させた。

この新ルールにより、習近平は側近を副首相に昇格させ、その人物を次期首相にする道を開いたとの憶測が飛び交っている。

習近平は同じ全人代で、内モンゴル自治区の石炭産業の腐敗を問題にした。習近平は内モンゴル自治区の石炭産業の腐敗を問題視し、「関係者を何世代にもわたって炙り出し、徹底的に処罰する」と宣言した。

胡春華はかつて内モンゴル自治区のトップを務めた。

習近平は2022年の5年に1度の中国共産党大会を控え、政治的に敏感な時期にこのような激しい言葉を発したのである。

4年前(2017年)、前回の全国大会の直前、同じく第6世代の新星、孫政才(Sun Zhengcai、1963年-、59歳)が汚職容疑で突然粛清された。孫政才は当時、重慶市のトップで政治局員だった。

孫政才の失脚は、習近平が次代の国家指導者候補の政治生命を決める権利を有していることを思い知らされる衝撃的な失脚であった。

胡春華(リトル・フー)は自分の微妙な立場を自覚し、目立たないように、着実に任務をこなしてきた。

ある古くからの知人は、胡春華の人柄と能力を高く評価している。この人物は「彼は相当な酒豪で、いろいろな話題について自分の意見を言うことができるインテリだが、今の胡は、よく観察しておくしかない」と付け加えた。

chinesecommunistparty6thgeneration524
2017年10月、北京の人民大会堂で開催された共産党全国大会において、重慶市共産党の陳敏爾書記が重慶市代表団の討論会に出席した。

2年前、習近平は同様に、胡春華を伴って注目の地方視察を行った。

2019年4月、習近平は重慶にいた。ホスト役を務めたのは側近の陳敏爾(Chen Min'er、1960年-、61歳)、重慶市のトップだった。陳は60歳だ。しかし、そこには胡春華の姿もあった。視察の主目的は、胡春華が副首相として担当する政策分野である貧困撲滅である。

今回の習近平の河南省訪問の主な目的は、「南北分水嶺プロジェクト(South-to-North Water Diversion Project)」の視察であった。胡春華は、水の豊富な中国南部と北部を結ぶメガプロジェクトの責任者だ。

書類上、担当の副首相である胡春華が習近平に同行するのは当然であった。その気になれば、習近平は胡春華が他の政治的な目的で今回の視察同行に選ばれたのではないことを説明できたはずだ。

しかし、チャイナ・ウオッチャーたちがどのような分析を行おうとも、一つだけはっきりしていることがある。胡春華が中国の新しい対米貿易交渉のトップに抜擢されるかどうかはともかく、彼はもはや将来の習近平の後継者候補ではない。

それは胡春華が習近平と対立する派閥に属しているからではない。同じことは、習近平の側近で第6世代に属する陳敏爾や上海市トップの李強(Li Qiang 、1959年-、63歳)にも言える。

陳敏爾と李強は、習近平が浙江省トップを務めていたときの部下であった。彼らは習近平の政治集団の中核をなす「浙江派(Zhejiang faction)」に属している。しかし、習近平が政権を維持する以上、どちらも真の後継者にはなり得ない。

複数の党幹部は「第6世代」の悲劇についてささやき始めた。彼らは、「この言葉は無意味になった」とささやき合っている。

ある中国共産党高官は、「第6世代リーダーを語ることは政治的に難しくなった。この世代は追い越され、現在50歳前後の若い世代に注目が移っている」と語った。

chinesecommunistparty6thgeneration525
「李強のような第6世代のリーダーについて語ることは政治的に難しくなっている」。

習近平は2017年、指導者の10年の任期の途中で、将来のトップリーダー候補を少なくとも2人、政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)に登用し、後継者として育成できるようにするという長年の党の伝統を破った。

習近平は、2012年に総書記に就任する5年前の2007年に政治局常務委員に就任している。習近平のライバルである現職の李克強首相も2007年に政治局常務委員に就任している。

胡春華をはじめとする第6世代のリーダーたちは、2022年の中国共産党大会に向けて、更なる昇進を目指した戦いに挑むことになる。

しかし、競争に勝って常務委員会に入った者は誰であっても、党の最高指導者への道を歩む名誉を得ることはできない。加えて、政治局常務委員や首相の権限は大幅に縮小されるかもしれない。

習近平は権力を集中的に手中に収めている。習近平は党総書記、国家主席の地位にとどまることなく、さらに高い地位、場合によっては党主席を目指すだろう。

毛沢東が終身在任した党主席という地位は、1982年に鄧小平が独裁を防ぐために正式に廃止した。習近平が復活させれば、政治局常務委員や首相の地位は低下することになる。

一方、習近平の側近たちは、これまでとは違った人生を歩むことになる。2022年の全国代表大会以降に新設される習近平を中心とした中央集権体制のもとで、重要なポストを担うことになるだろう。

新しい統治システムの構築が水面下で始まろうとしている。その制度設計は、人事以上に重要な意味を持つ可能性が高い。
(貼り付け終わり)
(終わり)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今回も中国共産党指導者第7世代に関する論稿をご紹介する。この論稿では第7世代で各省の党常務委員や副省長、中央行政機関の副部長を務める108名の分析となっている。

 現在の段階で、各省レヴェル(中国の各省でも1カ国分くらいある、大都市になれば小国を凌駕する規模になる)の中国共産党常務委員会に入り、各省の重職を担っている人物たちがこれから10年間の最高指導部入りのためにスタートラインに立っているということになる。その数だけで100名以上いる。そこから最終的に「チャイナ・セヴン」と呼ばれる、中国共産党政治局常務委員会(国家主席や国務院総理などを務める)に入ることになる。

 彼らの多くが2018年頃から、それまで金融分野であったり、製造業分野であったりで活躍していたところから、地方の行政機関へと転身している。そして、各地方レヴェルで党常務委員会入りをし、ほとんどの場合が最も若いメンバーということになっている。

 英語の記事であるため、漢字が載っていないので、漢字の名前が分からない人たちも複数いるが、これからどんどんと分かっていくだろう。2022年秋の中国共産党大会で中央委員会に正式な委員、もしくは委員候補として第7世代が多く入ると見込まれている。前回と今回の2回の記事でご紹介した人物たちが入ると思われる。青田買いで写真だけでも眺めておくことは有意義だと思う。

(貼り付けはじめ)

先駆者たち:第20回中国共産党大会における1970年代世代の台頭(Pioneers: The Rise of the Post-1970s Generation at the 20th Party Congress

チェン・リー(ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーンストン研究所部長)筆

2022年4月10日

『チャイナユーエス・フォーカス』

https://www.chinausfocus.com/2022-CPC-congress/pioneers-the-rise-of-the-post-1970s-generation-at-the-20th-party-congress

中国共産党は長年、政治的エリートの年齢層を過度に気にしてきたといっても過言ではないだろう。中南海(Zhongnanhai)が広大な国土を一党支配するためには、「幹部の世代間排除」(intergenerational deletion of cadresganbu qinghuang bujie)によって政治指導が途絶えることがないようにする必要がある。

1980年代初頭、鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳で死)をはじめ、陳雲(Chen Yun、1905-1995年、89歳で死)、胡耀邦(Hu Yaobang、1915-1989年、73歳で死)などの幹部たちは、「第三グループ(third echelondisan tidui)」という概念を提唱した。これらの中国トップは、中国共産党指導部は江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)や李鵬(Li Peng、1928-2019年、90歳で死)を後継者に指名するだけでなく、当時30代後半の胡錦涛(Hu Jintao、1942年-、79歳)のような若い幹部たちを、将来、江や李の後継者となる後継層のリーダーとして育成する努力をすべきだと明確に主張していた。

●中国共産党の主要問題:世代間をつなぐ継続性(The CCP’s key issue: Intergenerational continuity

「第3グループ」という言葉は1980年代から1990年代にかけて広く使われるようになった。中国共産党幹部の若いグループを選抜し、育成するというやり方は、この20年間ずっと浸透している。2021年12月、中国共産党中央組織部の陳希(Chen Xi、1953年-、68歳)部長は、複数の中国の公式宣伝媒体で広く報じられた長い論稿の中で、中国が直面している「重要かつ根本的な問題」は、党が後継世代の有能な幹部を育成できるかどうかであると述べた。陳中央組織部長は、強力な中央組織部が若い幹部たちに対して、「複数ポストでの訓練(multi-post training)」と「各層での試験(layer-by-layer tests)」を通じて、指導力を高めるための豊富な経験を提供すると明言した。さらに、陳希は「幹部の忠誠心は中国共産党の統治の魂である(Cadre loyalty is the soul of the CCP’s reign)」と率直に明言した。

当然のことながら、中国共産党当局が若い世代の指導者グループを速やかに高位に登用できなければ、異なる世代間の政治的対立が発生する可能性がある。2018年7月、習近平は中国共産党全国組織工作会議(CCP National Organizational Work Conference)で、「幹部チーム全体がやる気と希望を持てるように、各年代の幹部の熱意を存分に発揮させるべきだ」と発言した。

私の連載において前回では、現在、そして少なくとも今後10年間は、1960年代以降の世代(the post-1960s generation6G)が全国指導部の中で優位を占めていることを説明した。その次の世代である1970年代以降の世代(the post-1970s generation7G)の代表は、来年秋に発足する第20期中国共産党中央委員会でも急速に増えていくだろう。現在376名いる第19期中央委員会では、1970年代生まれの委員は2名(いずれも候補)しかいない。中国科学院副院長の周琪(Zhou Qi、1970年-)と信陽市(河南省)党委書記の蔡松涛(Cai Songtao、1974年-)である。ただし、第7世代のリーダーたちの割合は、現在の中央委員会の0.5%から第20期中央委員会では10%近くまで増加すると予想される。

zhouqi521
周琪

caisongtao521
蔡松涛

●第7世代の急速な台頭(The rapid rise of 7G leaders

現在、中国の31ある省レヴェルの行政機関には、それぞれ少なくとも1人の第7世代のリーダーが副省長に就任している。河北省では3人の副省長が第7世代のメンバーだ。省レヴェルの指導部の入れ替えが進む中、新たに省党常務委員に就任した人物の約3分の1が1970年代生まれである。

私が行った実証研究によると、2022年3月末までに、1970年代生まれの文民指導者が副省長、次官級で合計108人在職していることが分かった。軍事面では、中国の公式資料によると、2020年5月までに、人民解放軍で1970年代生まれの20人以上が軍レベル(junji)で文民指導部の副省長・副部長レヴェルに相当する少将の地位に就いている。例えば、霍建少将(Huo Jiangang、1970年-)は2019年に第49軍集団の司令官に就任した。2021年からは中国人民解放軍国防大学連合作戦学院の学院長を務めている。

huojiangango521
霍建剛

本論稿では、副省長・副部長レヴェルの第7世代の文官指導者たちに焦点を当てる。これら108人の高官のうち、96名(89%)が過去2年間に現職に任命され、73名(3分の2以上)の指導者が2021年以降にこの重要なレヴェルに進んだ(図表1参照)。2016年11月には、当時江西省党常務委員会秘書長で現在は杭州市党委書記を務める劉捷が、全国で初めて第7世代から省の党常務委員会のメンバーとなった。省党常務委員会の第7世代のメンバーは、2021年7月の13名から12月には26名に増え、半年で倍増した。

chinesecommunistparty7thgenerationgraph521
 
第7世代の指導者たちが省レヴェル・中央行政部で副省長、副部長に任命された年(総数=108名)

2022年3月までに、第7世代の省レヴェルの党常務委員は46名に達し、副省長レヴェルに在職している第7世代の指導者の半数以上が常務委員にも就任している。全体として、第7世代の集団は第6世代が支配する省の党常務委員会の委員の11%以上を占めるようになっている。

中国共産党中央組織部は最近、第7世代のリーダーたちの登用に力を注いでいる。2022年3月、諸葛宇傑(1971年-)が上海市党委副書記に就任し、全国で初めて省レヴェルの副書記を務める第7世代のリーダーとなった。これまで、第7世代の幹部で省長・中央の行政機関の部長になった者はいない。このほか、貴州省政法委書記の時光輝(1970年-)、福建省常務副省長の郭寧寧(1970年-)、チベット自治区組織部長のライ・ジィアオ(1972年-)らが第7世代の新星として挙げられる。

また、最近では、第7世代のリーダーたちが重要な省のいくつかの省都を含む主要都市の党書記に任命されている。その代表例が済南党委書記の劉強(Liu Qiang、1971年-)、厦門市党委書記の崔永Cui Yonghui、1970年-)、杭州市党委書記の劉捷(Liu Jie、1970年-)、温州市党委書記の劉小涛(Liu Xiaotao、1970年-)、蘇州市党委書記の曹路宝(Cao Lubao、1971年-)、太原市党委書記の韦韬Wei Tao、1970年-)、昆明市党委書記の劉洪建(Liu Hongjian、1973年-)、ウルムチ市党委書記の楊発森(Yang Fasen、1971年-)などが挙げられる。これらの指導者はいずれも各省の党常務委員を兼任している。これらの都市の行政的地位の高さから、前述の市党書記はいずれも第20回中央委員会の初委員に選出(委員候補となる可能性が高いが、委員である可能性もある)となることが予想される。彼らは、やがて国を動かすことになる次期エリート世代の先駆者たちだ。

cuiyonghui521
 
崔永輝

liuxiaotao521
劉小涛

taowei521
韦韬

yangfasen521
楊発森

●第7世代リーダーたちの人格形成における経験と人口学的な特徴(The formative experiences and demographic traits of 7G leaders

第7世代の副省長・副部長クラスの指導者108名中103名(95%)が1970年代前半に生まれている。中央値は1971年である。最も若いのは、チベット自治区常務副主席・党常務委員の任維(Ren Wei、1976年-)で、1976年生まれだ。
renwei521
任維

中国のソーシャルメディアでは最近、1970年代前半に生まれた人々を「中国で最も幸運な年齢層(the luckiest age cohort in the PRC)」と呼ぶ記事が広く流布された。その記事によると、この年齢層は、上の年齢層が経験したひもじさや飢餓の感覚を持たなかったという。なぜなら、彼らが生まれる10年前の1960年代前半に、中国当局は「天災三年(three years of natural disaster)」と呼んでいたものを既に経験していたからである。また、文化大革命世代のように、農村で農民として働く「下放青年(sent-down youths)」としての肉体的苦労を経験するには、彼らは若過ぎた。

1980年代初頭に実施された厳格な家族計画政策によって、一人っ子の家庭で育った「一人っ子世代(single-child generation)」でもない。彼らは、中国都市部の新興中産階級の家庭に生まれた最初の世代であり、「改革時代の子供たち(children of the reform era)」である。2001年の世界貿易機関(World Trade Organization WTO)加盟により、中国が世界経済に大きく組み込まれた時期に人格が掲載された。

この年齢層のリーダーたち108名のうち、女性はわずか7名(6.5%)であり、広西チワン族自治区常務副主席の蔡麗新(Cai Lixin、1971年-)、前述の福建省常務副知事の郭寧寧(1970年-)、湖南省副知事の張迎春(Zhang Yingchun、1970年-)、遼寧省統一戦線部長のフー・リージェ(Hu Lijie、1971年-)など 4名が現在地方の党常任委員を務めている。彼女たちは第20期中央委員会の委員候補の有力候補である。

cailixin521
蔡麗新
zhangyingchun521

 張迎春

当然のことながら、この第7世代のリーダーたち108名のうち97名(90%)は漢民族である。少数民族出身者は、満州族3名、回族2名、モンゴル族1名、チベット族1名、ツジャ族1名、チワン族1名、ウイグル族1名、ゲラオ族1名である。この第7世代の少数民族指導者の中には、例えば、チベット自治区党委員会秘書長の达娃次仁(Dawa Ciren、ダワ・チレン、1972年-、チベット族)、太原市党委書記の韦韬Wei Tao、1970年-、チワン族)、遼寧省副省長の張立林(Zhang Lilin、1971年-)、雲南統一戦線部長のチョウ・ジアン(Qiu Jiang、1972年-)、新疆ウイグル自治区党常務委員の伊力扎提・艾合提江(Ilzat Exmetjanイルザット・エクスメジャン、1975年-、チベット族)も第20期中央委員会の委員候補として有力候補であると思われる。
dawaciren521
达娃次仁
zhanglilin521
張立林

出身地別では、遼寧省、江蘇省、湖南省が最も多く、それぞれ12人、10人、9人である。本研究の第7世代リーダーのほとんど、88名(81%)が1990年代に中国共産党に入党している。これらの第7世代のリーダーたちは全員大学を卒業しており、102名(94%)が大学院レヴェルの学位を取得し、そのうち58人(53.7%)が博士号を取得している。第7世代のリーダーたちが最も多く学部教育を受けた大学は、北京の清華大学(8人)、人民大学(7人)である。

このうち3分の1以上(34.3%)は工学を専攻し、27名(25%)が経済、金融、会計を学んでいる。この2つの分野は、第7世代の年齢層における2つの重要な専門分野である。人文科学(言語、歴史、哲学)を専攻したリーダーは17名(15.7%)にのぼる。12名(11.1%)は政治や法律を学んでいる。また、12名(11.1%)は、数学や統計学などの自然科学を専攻している。

また、23人のリーダーたちの公式の経歴には、客員研究員や学位候補生として海外に留学した経験があることが記されている。そのほとんどが欧米諸国への留学で、最も多いのはアメリカ(9名)、次いでイギリス(4名)、シンガポール(4名)となっている。例えば、江西省副省長の任珠峰(Ren Zhufeng、1970年-)は、1999年から2005年までの6年間、イギリスで金属鉱物関係の会社に勤務しながら、ロンドン・ビジネススクールでMBAを取得し、その後、中国中央財経大学で経済学博士号を取得した。中国五鉱集団公司(China Minmetals Corporation)で部長、CEO補佐、総経理、党書記、取締役会議会長を16年務めた後、2021年に江西省副省長兼党常務委員に就任した。renzhufeng522

任珠峰

chinesecommunistparty7thgenerationgraph522

図表2:第7世代の指導者たちが副省長、副部長レヴェルの指導部に入っている部門

図表2は第7世代の指導者たちが副省長、副部長レヴェルの指導部に入っている部門を示している。ほぼ80%が地方指導部に所属している。省庁の指導部や企業・金融機関に勤務する人はそれぞれ5.6%に過ぎない。中国の27の省庁の副部長のうち、第7世代の出身者は朱忠明財務副部長(Zhu Zhongming、1972年-)、叢)亮国家発展改革委員会副部長(Cong Liang、1971年-)など少数にとどまっている。中央の党機関のクラスタは最も低い割合(2.8%)である。その他の中央機関(中国共産主義青年団、中国科学院、新華社通信のリーダーなど)は6.5%である。

zhuzhongming521
朱忠明

congliang521
(叢)亮

この人事配置は、省級指導部が中国共産党の国家指導部への重要な足がかりになるという長年の傾向を再確認するものである。しかし、第7世代の新星たちの経歴を詳しく見てみると、彼らの多くは中国の旗艦企業や大手金融機関でより広範な指導経験を積んでいることがわかる。更に、習近平時代には、地域横断的、部門横断的、政府・企業横断的な経験に基づいてエリートが採用・昇進されることが多くなっている。この重要な現象は、本連載の次のエッセイで取り上げるが、もっと注目されてもよいだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今年秋の第20回中国共産党大会で習近平の任期延長が決定されると、中国共産党指導部第6世代が最高指導者となる芽がなくなってしまうことになる。習近平が2032年まで中国共産党総書記、2033年まで国家主席を務めるということになると、10年後には第7世代(1970年代生まれ)が最高指導部の適齢期となる。この10年で第7世代が人事面で抜擢、昇進していくだろう。その顔ぶれを見ておくことはこれからの10年にとって重要である。

 1970年代生まれの第7世代は現在、地方の各省の最高幹部(常務委員や副省長など)を務めている。それぞれが金融(銀行)、港湾管理、鉄鋼などの専門分野を持ち、専門分野で成果を挙げて、行政部門へと異動となったのがだいたい2018年後半のようだ。既に、中央の最高指導部(政治局常務委員7名を含む政治局委員25名)もしくはそれらを含む中央委員(200名)に入る競争が始まっている。中国の人口を考えるとこうした最高指導部に入るのは至難の業である。

 習近平体制になって、幹部抜擢の要素としては「政治的道徳性」が必要であるようだ。汚職に手を染めず、習近平体制に忠誠を誓うということが必要なようだ。これから下にある記事にある人物たちが中国政治の表舞台に出てくることになるということで、その顔と名前を今から見ておくことは有意義なこととなる。

(貼り付けはじめ)

中国政治

解説:共産党の台頭するスターたち:のちに最高指導部層に達するかもしれない中国の第7世代指導者たち(Explainer | Communist Party rising stars: China’s seventh-generation leaders who may eventually reach the top

・競争者たちの多くは観光振興、港湾管理、都市計画などの専門分野の経験者が多い。

・1960年代生まれのトップ指導者たちは、トップポストへの挑戦というより、定年まで習近平の下で働き続けることになりそうだ。

ウィリアム・ジェン筆

2021年6月26日

『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』紙

https://www.scmp.com/news/china/politics/article/3138537/communist-party-rising-stars-chinas-seventh-generation-leaders
中国は来年開催される5年に1度の全国代表大会で、次の大規模な指導部再編を発表する予定だ。そこでは、共産党の最高権力機関である中央委員会(200人)への昇格が、習近平国家主席の将来の後継者となり得るかどうかが注視されることになる。

中央委員会のメンバーになることは、25人の政治局、より排他的な政治局常務委員、さらには総書記のポストへと、党内でさらに昇進するための前提条件だ。

1970年代生まれは「第7世代」と呼ばれ、多くの幹部が定年を迎える中、権力中枢への進出が期待されている。

共産党研究の歴史家たちは、毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤、習近平と、歴代の最高幹部たちを特徴づけしてきた。しかし、習近平は2期目以降も留任するようで、第6世代を構成する1960年代生まれの幹部は、自らトップの座を狙うのではなく、定年まで習近平の下で働き続けることになりそうである。

第7世代の高官たちは、各省の事実上の意思決定機関である省レヴェルの党政治局常務委員を務めているか、党組織や政府でトップの地位に就いている。彼らには最高の地位まで上昇する機会がある。彼らの多くはまだ省レヴェルの党常任委員会の下位のポジションにいる。例えば秘書長(secretary general)といった地位だが、これは大抵の場合には常任委員会の中で一番下の地位となる。劉洪建、劉捷、時光輝といった少数の人物たちは治安部門や党の人材部門担当でより高い地位に就いている。これには彼らの個別の能力をテストしようという北京の思惑が見える。

第7世代は中国全土の出身であるが、いくつかの共通点を持っている。彼らは最低限でも大学の卒業生であり、将来の承認に備えて中国共産党中央党学校(party’s Central Party School)で学んだ経験を持つ。

彼らの多くはいくつかの専門分野を持っている。それらは観光振興、港湾管理、都市計画、ハイテク地区開発である。

私たちは第7世代の中で、既に省レヴェルの党常任委員となっている有望人物たちを年齢が若い順に紹介していく。

■劉洪建(Liu Hongjian、1973年-、48歳)
‎liuhongjian513

今年5月、劉は雲南省政法委員会(Yunnan Political and Legal Affairs Commission)書記に昇格し、中国で最年少の省レヴェルの党委常務委員となった。雲南省政法委員会は省内の治安と法執行部門を監督する組織である。

中国南東部の福建省寧徳市福鼎市に生まれ、福建省で最も貧しい地域の1つである寧徳市で20年以上を過ごした。習近平は1988年から1990年にかけて寧徳市党委書記を務めた。

2012年、劉は福建省の観光振興をリードする役職に昇進し、その後、2018年7月に南平市長に就任した。

劉は2020年7月に雲南省の副省長に就任するために福建省を離れた。

■呉浩(Wu Hao、1972年-、49歳)

wuhao511

第7世代で2番目に若い人物である。中国の南西部の江西省党政治局常務委員、省党委書記を務める。

彼の同僚たちと同様、呉は、キャリアのほとんどを故郷の河南省で過ごし、河南省の交通部門や住宅・都市農村開発部門の責任者にまで上り詰めた。

呉は河南省を離れ2020年3月に江西省副省長に就任し、2021年61日に現職に昇格した。

■費高雲(Fei Gaoyun、1971年-、49歳)

feigaoyun521

費高雲は1月に、江蘇省東部の党常務委員兼政法委員会書記に就任した。

中国で尊敬を集める初代首相の周恩来の故郷である江蘇省淮安市に生まれ、電子工学の学位を取得後、江蘇省でキャリアを積んできた。

2008年に江蘇省儀徴市の党委書記、2012年に南通市、2017年に常州市の党委書記を務めるなど、様々な指導的役割を担ってきた。

2018年に江蘇省副省長に就任した後、3年後に省党常務委員会に入り、3年後に現職に就いた。

■諸葛宇傑(Zhuge Yujie、1971年-、50歳)

zhugeyujie521

諸葛宇傑は2017年5月に上海市党常任委員と党委秘書長に昇進した。

諸葛は中国の金融部門の首都とも言うべき上海で生まれ育ち、キャリアの全てで過ごしてきた。上海の港でキャリアをスタートさせ、上海国際港務グループのCEOまで上り詰めた後、2013年に区長として上海市楊浦区のトップに赴任した。

2016年に副秘書長として上海市党委員会に昇格し、2017年に現職に昇格した。

■劉強(Liu Qiang、1971年-、50歳)

liuqiang521

劉強は東部山東省の副省長から、2020年6月に省党常務委員、省党委員会秘書長に昇格した。

劉強は他の多くの同業者と異なり、1993年に国営の中国農業銀行(Agricultural Bank of China ABC)でキャリアをスタートさせた。上海で中国農業銀行の業務責任者を務めた後、2016年に中国銀行の副頭取に転出した。

2018年に山東省副省長に転身し、昨年6月に現在の地位に昇格した。

■連茂君(Lian Maojun、1970年-、50歳)

Lianmaojun

連は2020年4月から天津自由貿易区の区長と天津市党常務委員を務めている。

遼寧省北部に生まれた連は、ITの学位を取得後、キャリアの大半を省都の瀋陽で過ごした。2016年に瀋陽市政府の秘書長に昇格するまでの10年以上、瀋陽の様々なハイテク区の発展をリードしてきた。

2019年11月に北京近郊の主要工業都市の副市長として天津に赴任し、その5カ月後に現職に昇格した。

■周紅波(Zhou Hongbo、1970年-、50歳)

zhouhongbo521

周紅波は2021年1月、南部の海南省にある有名な観光都市である三亜の党委書記、省党常務委員に任命された。

海南省に赴任する前は、主に出身地である広西チワン族自治区で仕事をしていた。農業の専門家であり、同自治区の農業部門を経て、広西チワン族自治区の州都である南寧市の副市長に昇進した。そして、2011年、南寧市長に就任した。

2020年12月に海南省に移動し、1か月後には現在の地位に就いた。

■李雲沢(Li Yunze、1970年-、50歳)

liyunze521

東部の山東省出身の李雲沢は、2021年5月に四川省の党常務委員と南西部地区担当の副省長に昇格した。

土木工学とマルクス主義理論の学位を持つ李雲沢は、山東省の劉強と同じく、国営の中国建設銀行で20年以上働いた。2016年、中国最大の国有銀行である中国工商銀行(Industrial and Commercial Bank of ChinaICBC)の副頭取に転出した。

彼は銀行を離れ、2018年に四川省副省長に就任した。現在の党職への昇進はそれから20カ月後のことだった。

■夏林茂(Xia Linmao、1970年-、51歳)

xialinmao521

夏林茂は、2021年2月に北京市教育委員会主任と北京市党常務委員に就任した。

清華大学を卒業し、建築を専攻した夏林茂は工学博士号を取得している。 北京の都市計画委員会で20年近く過ごし、2011年に北京市石景山区長に昇格した。

教育担当の前に、2017年に北京市美雲区、2018年に東城区の党委書記をそれぞれ務めた。

■劉捷(Liu Jie、51歳)

liujie521

劉捷は2016年5月に東南部の江西省党常務委員会に入り、省党委員会秘書長を務めた。1970年代生まれの政府高官として初めて省党常務委員に就任したことになる。

2018年5月に南西部の貴州省に異動し、同省の常務委員と常務委員会秘書長に就任した。2020年7月には、貴州省の幹部人事を担当する省党組織部長に昇格した。

劉捷は北京科学技術大学冶金学科を卒業し、共産党創立者の毛沢東が生まれた湖南省中部の湘潭市の国有製鉄所で16年間勤務した。

2008年に湖南省商務庁長に昇進し、2011年に江西省新余市の市長に転出した。

時光輝Shi Guanghui、1970年-、51歳)
shiguanghui521

時光輝は2018年11月、南西部貴州省の省政法委員会書記と省党常務委員に就任した。

東部の安徽省に生まれた時光輝は、上海の同済大学道路交通工学科を卒業後、上海市工程建設発展有限公司(Shanghai Municipal Engineering Construction Development Co., Ltd.)で15年間勤務した。2005年には上海市工程管理局副局長に就任した。

2006年から2011年まで上海市江南区と奉賢区で指導的立場を務め、2013年に上海市副市長に就任した。

2018年に貴州省に赴任し、現職に就任した。

その他の人々も見ていく。

以下のメンバーは、現在、地方の党常務委員ではないが、重要なポストを歴任しており、また、党内の出世競争で先頭走者であり、将来の指導者候補と目される人物である。

■郭寧寧(Guo Ningning、1970年-、50歳)

quoningning521
郭寧寧は2018年から東南部の福建省の副知事を務めている。1970年代に生まれた女性党員で唯一、地方の指導者階級に到達している。彼女は地方政権に入る前に、中国銀行と中国農業銀行で豊富な銀行経験を積んだ。

■覃偉中(Qin Weizhong、1971年-、50歳)

qinweizhong521

覃偉中は中国のハイテク産業の「首都」である深圳市の最年少市長に、2021年5月に正式に就任した。名門清華大学を卒業し、現在の中国共産党中央組織部長の陳希(Chen Xi、1953年-、68歳)の子飼いとして広く知られている。

■周亮(Zhou Liang、1971年-、50歳)

zhouliang521

周亮はキャリアの最初で現在国家副主席を務める王岐山の筆頭秘書を務めていた。2018年3月には中国の金融部門の監督機関である中国銀行保険監督管理委員会(China Banking and Insurance Regulatory CommissionCBIRC)の副主席に就任した。

■李欣然(Li Xinran、1972年-、49歳)

lixinran522

李欣然は、そのキャリアのほとんどを中国共産党の反腐敗組織で過ごした。現在、中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)の懲戒部長を務めており、中国共産党の懲戒機関である中央紀律検査委員会を率いる最有力候補と目されている。

=====

北京の指導者「第7世代」が表舞台に登場しつつある(Beijing's "seventh generation" of leaders emerges onto stage

この記事では1970年代生まれの高官たちを取り上げる。彼らの中の1人が習近平から統治を引き継ぐことになるだろう。最高指導者である習近平は中国共産党総書記の座に2032年までとどまり、国家主席には2033年までとどまることが可能だ。10名の高官たちが党のトップの地位に就くために有利な位置にいる。将来の指導者たちに習近平がまず求めるのは「政治的道徳性(political morality)」である。

林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)筆

『アジア・ニューズ』誌

2019年4月19日

https://www.asianews.it/news-en/Beijings-seventh-generation-of-leaders-emerges-onto-stage-46812.html

chinesecommunistparty7thgeneration525
chinesecommunistparty7thgenerationleaders511
北京(アジア・ニュース)発。習近平が政権を去る決意をした時、誰にその遺産を渡すのだろうか。2018年3月、中国の「指導部の中枢(heart of the leadership)」は憲法を改正し、国家主席の任期の制限を撤廃した。 2020年半ばには、中国共産党「第6世代」の高官の多くが引退を始める。従って、中国の将来の多くは、1970年代生まれの「第7世代(7G)」に属する高官の手に委ねられる。これは、香港中文大学教授で、中国に関するいくつかのエッセイの著者である林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)が支持するテーゼである。その中で、習近平の後継者として期待される新星たちを紹介している。

●導入-第7世代は次の権力者となりうるのか?

中国の将来のほとんどは1970年代生まれの幹部たちの手に握られている。彼らは中国共産党「第7世代(Seventh Generation7G)」に所属している。2018年第4四半期、彼らの中から15名ほどが副省長、行政部の副部長、その他同等の地位といった主張な地域的な重職へと昇進した。習近平国家主席が2018年3月に憲法を改正し、国家主席の任期を撤廃したことで、習近平は健康状態が許す限り、80歳になる2032年まで党総書記を、2033年まで国家主席を務める可能性が出てきた(Asia.Nikkei.com:2019年3月15日、香港自由新聞:2018年2月25日)。このことは、習近平が中国共産党指導部のいわゆる「終身核心(eternal core)」として、いずれ第7世代にバトンタッチする可能性を提起している。

1980年代に「改革の偉大な設計者(Great Architect of Reform)」鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳で死)が確立した継承方式に従い、「第3世代の核心」江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)元国家主席は2002年の第16回党大会で第4世代の胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)に政権を譲り渡した。胡錦濤前主席は2期10年を務めた後、2012年の第18回党大会で第5世代代表の習近平に政権を委ねた。もし習近平が中国共産党の最近の慣例に従うなら、習近平と現在の政治局常務委員の大半は1950年代生まれであり、1960年代生まれの第6世代(sixth generation6G)の幹部が後継者となるはずである。しかし、習近平が2032年の第22回党大会まで党の最高幹部を務めるとすれば、1960年生まれの新星は72歳であり、中国共産党政治局常務委員会の定年である68歳を4年過ぎていることになる[1]。従って、現在25人いる政治局員のうち、胡春華副総理(Hu Chunhua、1963年-、59歳)や陳敏爾重慶市党委書記(Chen Min’er、1960年-、61歳)など、第6世代の有力者は、習近平の後継者候補から既に外れたようである。

huchunha522
胡春華
chenminer521

陳敏爾

第22回党大会はまだ13年先であり、第7世代の幹部たちは現在、次官級のポストにしかいないため、誰が次期総書記の政治的手腕と持続力を備えているかを推測するのは時期尚早だ。しかし、大臣クラスの幹部は通常65歳で引退することから、第6世代所属の幹部の多くは2020年代半ばには引退時期を迎えることになる。2018年7月に開催された党組織に関する全国会議で、習主席は「喫緊の要求と長期的な戦略的ニーズに基づき、指導者に関して全ての地域と部門で特定量の優れた若手幹部を育成すべきだ」と指摘した(中国新聞社:2018年7月10日、中国青年報:2018年7月10日)。最高指導者の指示は、その1週間前に開かれた、中国の特色ある社会主義の新時代に向けた「質の高い若手幹部の発掘、伝播、昇格」を目的とした政治局会議の後に出されたものである。政治局は、党指導部の若返りは「国家の長期統治と永続的な安定という目標だけでなく、党の事業に取り組む後継者を確保するための主要な戦略的任務」だと指摘した(新京報:2018年6月30日、新華社:2018年6月29日)。

●中国共産党第7世代の新進気鋭の人物は誰なのか?

1970年代前半に生まれた10人の官僚(図参照)は、その大半が2018年半ば以降に昇進しており、中国共産党の官僚競争の狡猾な回廊の特徴である地位争いで優位に立っているようだ。工業、工学、金融などの経歴を持つこれらのテクノクラート的な新進気鋭の官僚は、ほとんどが地方行政官として活躍している。この10人のうち、省・直轄市の常務委員(常委[changwei]Member of the CCP Standing CommitteeMSC)に就任したのは3人だ。その3人とは 劉捷(1970年-)は貴州省党委員会の常務委員と秘書長、諸葛宇杰(1971年-)は上海市党委員会の常務委員と秘書長、時光輝(1971年-)は貴州省党委員会の常務委員で、「安定維持(stability maintenanceweiwen、維穏)」の重要政策を含む政法業務担当をそれぞれ務めている。中国には、党委員会、特に党常務委員(changwei)が政策を決定し、それを同じレヴェルの政府組織が実行するという慣行が長く続いている。よって、ある地域の共産党委員会の常務委員(changwei)は、同じ省・市の副省長や副市長よりも上位に位置する。それは副省長や副市長は常務委員にはまだ就任していないかもしれないからだ(Apple Daily [Hong Kong]:2019年3月25日、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:2019年1月5日、Jiangsu.sina.com:2019年1月2日、China Economics Net:2018年12月10日)。

●チャート:中国共産党「第7世代」指導部の主要な台頭しつつある指導者たちChart:

2016年11月、劉捷は46歳で江西省の党常務委員に就任し、第7世代のリーダーとしての記録を打ち立てた。2000年、劉は30歳の若さで湘鋼第二製錬廠の董事長(社長)に就任し、湖南省の鉄鋼業で頭角を現した。2011年に江西省に赴任し、新余市長に就任した。その5年後、江西省委員会の常務委員と秘書長に就任し、劉は大ブレイクを果たした。2018年半ばには貴州省に赴任し、省委員会の常務委員と秘書長に就任した(『新聞[上海]』:2018年5月17日、『捜狐.com』:2018年5月17日)。諸葛宇杰も時光輝も、上海の国営企業でエンジニアとしてキャリアをスタートさせた後、地方の県や都道府県にほぼ相当する市区の行政官となった。諸葛は上海の海事技術部門を経て、楊浦区の党委員会のメンバーに昇進した。45歳で上海市党委員会弁公庁主任となり、昨年、秘書長に昇格した(『聯合早報』[シンガポール]:2018年11月21日、Baidu News:2018年11月20日)。時光輝は上海の名門同済大学を卒業後、15年間、市公共事業当局のさまざまな部署でエンジニアや管理職として働いてきた。上海市静安区の副区長になると、行政に転身した。2011年には奉賢区の党委書記に、2013年には上海市の複数の副市長の1人にまで上り詰めた。2018年末には貴州省の党常務委員に就任した(Phoenix TV :2017年4月24日、Caixin.com:2017年4月24日)。

第7世代の第2グループとしては、主要な省の5人の副知事で構成されている。郭寧寧(1970年-)は、次官相当まで上り詰めた数少ない40代女性の1人である。遼寧省出身で清華大学を卒業後、46歳で中国農業銀行副頭取に就任し、銀行業界でキャリアを積んだ。彼女は2018年末に福建省副省長に就任した。習近平主席が17年間地方行政官として過ごした福建省を担当しているということは、昇進の見込みという点では有利に働く可能性がある(新北京報:2018年11月23日)。今回の第7世代幹部の中で最も若い楊晋柏(Yang Jinbo1973年-)は、エネルギー分野でその技術力と管理能力を証明した。陝西省出身の彼は、41歳で中国南方電網公司の副総経理に上り詰めた。昨年、広西チワン族自治区に赴任し、副主席(副省長相当)の1人に任命された。幹部が最高指導部を目指す場合、少数民族と働いた経験が大きなプラスになるとされることが多い(Caixin.com;2018年11月29日)。

yangjinbo521
楊晋柏

他に第7世代で副省長を務めるのは、李雲沢(1970年-)、劉強(1971年-)、費高雲(1971年-)で、それぞれ四川省、山東省、江蘇省にいる。劉強は、「金融の魔術師(financial wizard)」と呼ばれ、中国人民銀行、中国建設銀行、中国工商銀行を経て、2016年に世界最大の銀行である中国工商銀行(Industrial and Commercial Bank of China ICBC)の副頭取に就任した。その後、昨年になって、8人いる副省長の1人として四川省に異動した(『人民日報』:2018年9月30日)。福建省の郭と同じく、劉は中国農業銀行で革新的な経営者として頭角を現した。中国銀行の副総裁を短期間務めた後、2018年9月に山東省に移った(Caixin.com:2018年9月14日)。江蘇省出身の費高雲はキャリアのほぼ全てを地元江蘇省の草の根レヴェル、地域レヴェルの行政ポストで過ごした。彼は2017年に大都市常州市の党委書記に上り詰めた後、中国で最も豊かな省の1つである江蘇省の副知事に任命された(Caixin.com:2018年1月31日)。

国務院をはじめ、中央政府には第7世代のメンバーはほとんどいない。これは、習近平主席が国家より党の優位性を主張し、重要な政策は中央と地方の両方で中国共産党幹部が決定することを反映しているのだろう。これまで、第7世代のメンバーは2人確認されている。いずれも国務院の最重要監督機関の1つである中国銀行保険監督管理委員会(China Banking and Insurance Regulatory Commission CBIRC)に所属している。周亮(Zhou Liang、1971年-)は同委員会の6人の副主席の1人である。李欣然(Li Xinran、1972年-)は、CBIRCの規律検査部部長を務めている。周と李はともに、中国の最高レヴェルの反腐敗機関である党中央規律検査委員会(Central Commission for Disciplinary Inspection CCDI)を務めた経験がある(華夏時報:2018年11月19日、証券時報:2018年3月21日).

●第7世代のその他の有望な台頭する人物たち

第7世代指導者のうち、党内ヒエラルキーへの昇格を急ぐ人物たちとは別に、現在、大衆組織や統一戦線組織など、政治的に敏感でない分野で活躍している人物にも注目すべき点がある。共産主義青年団(Communist Youth League CYL)中央委員会常務書記の汪鴻雁(Wang Hongyan、1970年-)はその好例である。汪鴻雁は湖北省の地方行政で成果を挙げ、2008年に共青団の最高幹部となった。習近平国家主席が共青団を馬鹿にするような発言をしたことはありつつも、彼女が主に貢献するのは青年関連の仕事となるだろう(China-onway.com:2019年2月20日)。アメリカで学んだ弁護士の李波(Li Bo、1972年-)は、2004年に中国に帰国後、中国人民銀行法務部、金融政策部などで急成長を遂げ、昨年、中国人民銀行副総裁に就任した。昨年、華僑の間で中国のイメージを高めることなどを使命とする「中華全国帰国華僑連合会(All-China Federation of Returned Overseas Chinese、中全国华侨联合会)」の副会長に就任した(Finance.caixin.com:2018年9月14日)。
wanghongyang521

汪鴻雁

libo521
李波

●習近平が設定する必要条件は「政治的道徳性」

習近平は2012年末に中国共産党総書記に就任して以来、自らの権力拡大の過程で、習近平が個人的に知っている、最高指導者への無条件の忠誠を公言している幹部たちを最高幹部に登用してきた。いわゆる「習一族軍(Xi Family Army)」は、習近平が福建省(1985-2002年)、浙江省(2002―2007年)、上海(2007年)で地方統治を担当した際の部下や仲間で構成されている。その他の習近平の子飼いは、かつての同級生や故郷の陝西省に関係する官僚である(チャイナ・ブリーフ:2018年2月13日)。しかし、第7世代の新進リーダーたちは、党の「最高指揮官(zuigaotongshuai、最高统帅)」と個人的なつながりがあることが知られている者はほとんどいない。しかし、習近平が定めた2つの重要な昇格基準をクリアしていることは重要である。1つ目は、「専門能力と道徳を兼ね備え、道徳を優先すること(decai jianbei, yide weixian / 德才兼以德先)」である。習近平は最近、党の理論誌『真理探究』に発表した論文で、「忠誠心があり、道徳的に清潔で、責任を取れる質の高い幹部を育成する(nurture a corps of high-quality cadres who are loyal and [morally] clean, and who can take up responsibilities)」と誓った。習近平は「道徳(morality)」の問題について、「政治道徳、職業道徳、社会道徳、家庭道徳(political morality, professional morality, social morality and family morality)が含まれており、幹部たちはこれらの面で合格しなければならない」と述べた。最重要なのは、政治的道徳の面で合格しなければならないということだ」(人民日報:2019年1月16日付、人民日報:2019年1月6日)と述べている。

第7世代の幹部の大半は金融や工学などの専門資格を十分に有していることから、習近平の厳しい専門能力要件(stringent requirements on professional capability)を満たすのに最適な人材であると思われる。第7世代の幹部の多くが銀行経験者であることは、国家の社会負債総額がGDPの約3倍と推定される現在、習指導部が財政に慎重であることを反映していると思われる(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:2019年2月15日)。習近平は2016年の演説で、幹部たちに「新発展概念(new development concepts)」をしっかりと身につけるように促した。これらの概念は、「新発展概念には、時代の特徴が詰まった新しい知識、新しい経験、新しい情報、新しい要件が含まれるため、知的・専門的な要件を指す」と指摘した(人民日報:2016年1月3日)。中央党校の王東起教授によると、「幹部の専門的心構え、専門的達成度、専門的能力の能力とレヴェルを絶え間なく高める」ことは、幹部がより高い政治的地位を獲得し、より多くの政治的責任を負うことにもつながる(『人民日報』201897日)。

先月開催された全国人民代表大会と中国人民政治協商会議では、各級幹部は「習近平同志を核心として、党中央の下でさらに強固に団結する」よう求められた(チャイナ・ブリーフ:2019年3月22日)。習近平とその側近が「政治的道徳性(political morality)」と「党の核心(party core)」への忠誠を同一視しているとすれば、習近平への忠誠を表明することは、職業上の追求と行政の両方で最高のパフォーマンスを発揮することにも取って代わるかもしれない。つまり、習近平が「五湖四海(five lakes and the four seas)」の出身者たち、つまり、経験も派閥のつながりも多様でなければならないという公約を守るかどうかにかかっている(Youth.cn:2015年5月19日)。

※林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム、Willy Wo-Lap Lam)博士:ジェイムズタウン・ファウンデイション上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部中国研究センター・国際政治経済プログラム修士課程非常勤教授。中国に関する5冊の著作があり、『習近平時代の中国政治』(2015年)がある。

脚注

[] 中国共産党綱領には、総書記の在任期間に関する規定がない。また、国の最高統治機関である政治局常務委員会の委員の定年についても何も書かれていない。しかし、5年ごとの党大会の開催時に、68歳に達した幹部は政治局員になれないという慣例は、よく守られている。しかし、総書記については例外がある。1997年の第15回党大会では、当時71歳だった江沢民が5年間、党委員と総書記を兼任することを許可された。

(貼り付け終わり)

(終わり)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今回は珍しく中国政治に関する記事をご紹介する。今年秋に第20回中国共産党大会が開催される。そこで習近平国家主席の更なる任期延長が決定されると見られている。習近平は2012年に中国国家主席、中国共産党総書記、中国共産党中央軍事委員会主席に就任して以来、2期10年務めている。前任者の江沢民(1993-2003年)、胡錦涛(2003-2013年)はそれぞれ2期10年を務めて、最高指導者の地位を退いている。それに伴い、中国共産党中央政治局の人事も交代している。習近平は2期10年を超えてこれからも最高指導者の地位にとどまる(さらに2期10年で2032年まで)と見られている。これで、中国共産党指導者第6世代(1960年代生まれ)の出番がふさがれてしまい、後継者は第7世代(1970年代生まれで10年後は50代が多い)となる可能性がある

 習近平が「終身指導者」としての地位を確立しつつあるようだが、そのためには党内の派閥争いについて妥協しなければならないところもあるようだ。また、政策面でも譲歩するところもありそうだ。中国共産党内部の派閥としては共産主義青年団(共青団)系、太子党(党幹部の子女たち)系、上海閥などが知られている。習近平は太子党出身だ。中国共産党中央規律検査委員会(書記は2012年から2017年までは王岐山、2017年からは趙楽際)

を使って政敵たちを追い落としてきた。

 今回の記事で良く出てくる単語が党規律検査委員会(Commission for Discipline Inspection)と党政法委員会(Political and Legal Affairs Commission)である。党規律検査委員会は全党の規律の検査、党員が規律や規則、規範やルールを守っているかを調査し告発する機関である。簡単に言えば、汚職をしていないかを調査する機関である。中央規律検査委員会のトップである書記は中国共産党政治局常務委員(全員で7名しかいない)が務める。 

党政法委員会は情報、治安、司法、検察、公安などの部門を主管する組織である。簡単に言えば、警察から裁判所、検察、武装警察などを管轄する部門である。中央政法委員会書記は、現在は政治局委員(常務委員7名を含む25名いる)の郭声琨が務めている(2012年から)。それまでの書記だった羅幹(2002-2007年)、周永康(2007-2012年)は政治局常務委員だった。2012年に習近平体制が発足するまでは、政治局常務委員は9名だったが、習近平体制発足後は7名となった。それもあって中央政法委員会書記は政治局委員が務めることになった。

更に言えば、習近平は政敵たちを次々と打ち倒すために(反腐敗運動を大規模に展開するために)、親友の王岐山を中央規律検査委員会書記に据えた(2012-2017年)。現在は側近の趙楽際(2017年から)を据えている。王岐山は国家副主席に移動した(2017年から)。習近平と王岐山は若い時に一緒に下放(sent down)され、一緒のベッドで寝たという逸話が残っている。そうした2人の中であるが、現在は隙間風が吹いているということも言われているようだ。また、下の記事では、江蘇省政法委幹部たちが習近平に対する反逆を企てたという話も出ている。習近平体制も盤石、一枚岩という訳ではないようだ。そうした中で、人事と政策の両面で妥協や取引も行われるという見方も出ている。習近平がこれから10年更に中国の最高指導者として君臨するとなると、10年おきに若い世代に譲っていく方式(年功序列的とも言える)が崩れている。本来であれば中国指導者第6世代(1960年代生まれ)が登場すべきなのだが、早くから名前が出ていた割には人事面で冷遇されている。それはこの世代自体の能力や人望の問題もあるのだろう。彼らの中から国家主席を務める人物が出てこない可能性が高い。そうなると、10年後には一気に第7世代(1970年代生まれ)が最高指導層に入る可能性もある。これからのために大7世代の顔ぶれや動向を注視していく必要がある。

(貼り付けはじめ)

習近平はライヴァルと政治局の議席を分け合う代わりに、「終身指導者」になる可能性がある(Xi Jinping is Poised to Become “Leader for Life” in Exchange for Sharing Politburo Seats with Rivals

林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)筆

2022年5月27日

『チャイナ・ビリーフ』(ジェイムズタウン・ファウンデイション)

https://jamestown.org/program/xi-jinping-is-poised-to-become-leader-for-life-in-exchange-for-sharing-politburo-seats-with-rivals/

chinesecommunistpartyxijinping512
 
習近平国家主席が李克強首相の前を歩く(ソース:中国共産党)

●導入(Introduction

習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)国家主席は、今秋の第20回党大会に向けて、自身の個人崇拝(personality cult)を劇的に高めている。その最新の兆候は、全国メディアが習近平に「袖(lingxiu袖)」の称号を与えたことである。「袖」は通常「指導者(leader)」と訳される。しかし、中国共産党の辞書では、習近平は「指導者」よりも尊敬され、壮大なヴァージョンである領袖となった。中国共産党の歴史上、「偉大なる舵取り(Great Helmsman)」毛沢東だけがこの高貴な称号を手にした。新華社、中国中央電視台(CCTV)などの主要メディアは、習近平の経歴、特に党と国への「重大な貢献」を強調する50本のヴィデオエピソードの放映を開始した。新華社によると、習近平は「国内外の情勢の全体像を描き、改革、発展、安定を打ち出し、党、国家、軍隊の運営における進歩に責任を負っている」(民報:5月23日、新華社:4月18日)と報じた。

xijinping521
 
習近平

likeping521
李克強

2016年に既に「指導核心(leadership core)」という重要な称号を得た習近平への歯の浮くような聖人伝的言及(hagiographic references)については、香港、台湾、海外の中国人社会において、その真実を明らかにする動きを誘発したように見える。そのような動きは、陝西省出身の69歳の習近平は重病で、経済政策と外交政策の両方で李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相が率いる政敵の根強い反対に直面しているという報道になって表れている。ニューヨーク在住のチェン・ポーコンのような海外の有名な主要なオピニオンリーダーたち(KOLs)は、李首相と汪洋(Wang Yang、1955年-、67歳)中国人民政治協商会議(Chinese People’s Political Consultative Conference CPPCC)主席の市場振興政策が、習近平の主張する準毛沢東主義的な党による経済に対するほぼ絶対的な支配という見解に取って代わっていると断固として主張している(チェン・ポーコンのYoutube:5月18日、ラジオ・フランス・インターナショナル:5月12日)。習近平は党と国家のナンバーワンの地位を李に譲らざるを得なくなったとまで推測する者もいる(ラジオ・フリーアジア:5月18日、ヴォイス・オブ・アメリカ・チャイニーズ:3月27日)。

wangyang521
 
汪洋

習近平のことを「領袖」と呼ぶようになったのは、昨年(2021年)4月、最高指導者が広西チワン族自治区に視察に行った時にまで遡る。広西チワン族自治区のメディアは習近平を「全党の核心、人民の領袖」と称え、「人民の領袖の感情は広西チワン族自治区に結びつけられ、彼の偉大な思いは広西チワン族自治区全体に輝いている」と地元紙は伝えた。広西チワン族自治区のメディアはまた、人民が「永遠に領袖を支持し、領袖を守り、領袖に従う」と報じた(南寧日報:4月28日、HK01.com:4月20日)。最近の会議で、広東省の幹部たちは、中国が豊かになりで強大になっているのは、「習近平総書記が個人の権限で(単独で)決定し、政策に最終指示を与えることで行使する力」(Rthk.hk:5月21日、Hk.finance.yahoo.com:5月21日)によると述べた。

従って、中国共産党総書記(General Secretary of the CCP)と中国共産党軍事委員会主席(Chairman of its Central Military Commission)を兼任する習主席が、今年後半の第20回党大会で少なくともあと1期5年の中国最高指導者としての任期を確保することはほぼ確実である。また、「終身指導核心・領袖(core and lingxiu [of the leadership] for life)」の地位が正式に認められ、2027年の第21回党大会で4期目が承認される可能性が高い。つまり、習近平は少なくとも2032年、保守的で毛沢東思想を奉じる指導者が79歳になるまで統治することになる。

●習近平の強権発動(Xi Plays a Strong Hand

zhurongi521
 
朱鎔基

習近平の権力掌握の継続は、朱鎔基(Zhu Rongji、1928年-、93歳)元首相ら党の長老たちから厳しい批判を受けている。あるいは来年3月まで政府首脳を務める李首相が習近平の権力を弱めようと画策しているのではないかとの見方が広がっている。しかし、習近平の権力継続は続きそうな気配である。5月25日にテレビで行われた数千人の国家・地方指導者との会見で、李首相は、3月と4月に特に顕著になった経済衰退の兆候を食い止めることが急務であることを改めて強調した。李は、習近平の指導力と習近平の「ゼロ・トレランス」新型コロナウイルス政策の重要性に敬意を表しつつ、「感染拡大の予防と制御をうまくやりながら、経済と社会の発展の任務を完了する」よう当局者に促した。李首相は、「私たちは国の全体的な状況をしっかりと把握し、『一つの目標だけに集中すること(focusing on only one goal打一、dandayi)』と『政策に厳格な統一性を持たせること(imposing rigid uniformity on policies、一刀切、yidaoqie)』は避けなければならない」と付け加えた。さらに李首相は、「生産を再開し、経済目標を達成するためには、物流やサプライチェーンの滞りを抑制する必要がある」と指摘した。習近平の「ゼロ新型コロナウイルス」政策が経済を疲弊させると広く批判される中、李首相は最高指導者の権威にさりげなく挑戦しているようにも見える(新華社:5月25日、連合日報:5月25日)。

しかしながら、実際には、毛沢東が派閥間の内輪もめについて語ったように、「政治権力は銃の銃身から育つ(political power grows out of the barrel of a gun)」のである。習近平は中国共産党中央政治局常務委員(Politburo Standing Committee PBSC))として唯一、中国人民解放軍、中国人民武装警察、そして一般警察、情報機関を掌握している。習近平の腹心の丁薛祥(Ding Xuexiang、1962年-、59歳)中国共産党中央弁公庁主任は、政治局員と党幹部のほとんどに運転手、秘書、警護を付けている。丁はまた、文官と軍人の両指導者に対する電話盗聴や公務外の活動を綿密に監視するなどの監視体制を敷いている(『ザ・ディプロマット』:2月1日、『サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)』紙:2015年3月11日)。中国共産党中央弁公庁主任は5月16日、党の長老に対し、党中央指導部(最高指導者・習均平総書記)に対して「出鱈目な議論(妄議)」(妄wangyi)を言わないよう警告する通達を発した。また、元幹部が海外に渡航する際には、最近強化された出入国規制を尊重しなければならない。また、引退した幹部も現役幹部も、海外資産を処分し、貴重な外貨を国内に戻すよう求められている(ラジオ:フリーアジア:5月17日、新華社:5月15日)。

dingxuexiang521
 
丁薛祥

●ライヴァルたちとの交渉?(A Bargain with Rivals?

個人消費の低迷や製造業の不振など、習近平の「ゼロ・トレランス」新型コロナウイルス政策における妥協しない姿勢が経済を悪化させているため、最高指導者は経済政策と人事問題の両面で妥協することに同意したようだ(Caixin.com:5月25日、チャイナ・ブリーフ:5月5日)。国営中国新聞社が519日の論説記事で強調したように、「風向きが変わり、eプラットフォーム経済は次々と明るい兆しを示している」(国営中国新聞社:5月19日)。李首相は、習近平のようなイデオロギー的なこだわりを無視し、経済成長と雇用を維持することの重要性を繰り返し強調した。その結果、習近平はテクノロジー・コングロマリット各社に対する党の鉄壁の支配を堅持する方針を大幅に緩和せざるを得なくなった(チャイナ・ブリーフ:5月15日)。この政策転換は、習近平の重要なアドヴァイザーである政治局員兼副首相の劉鶴(Liu He)が最近行った、IT企業に対する規制は「市場化、合法化、国際化の原則に基づく」べきで、規制メカニズムは市場を害してはならないという比較的自由な発言に現れている(人民日報:3月16日、Gov.cn:3月16日)。

人事面では、習近平派閥のメンバーたちが困難に直面しているようである。李首相の後継者として習近平が推すとされる政治局員で上海市党委書記の李強(Li Qiang、1959年-、63歳)は、上海の長期封鎖の影響で政治的な命運が悪化している可能性が高い。その他、応勇(Ying Yong、1957年-、64歳)湖北省元党委書記、杭州と鄭州という主要都市の党委書記を務めた周建勇(Zhou Jianyong、1967年-、54歳)と徐立毅(Xu Liyi、1964年-、57歳)など習近平の側近たちが問題を起こしている(Cnstock.com:4月20日、 4/20、ラジオ・フリーアジア:3月30日)。

liqiang521
 
李強

つまり、習近平は依然として他の政治局や大臣クラスの幹部の上に立っているが、第20回党大会で承認されるためには、人事という重要な分野で譲歩しなければならない。例えば、中国の事実上の最高統治機関である中国共産党駐大生政治局常務委員会の構成についてみる。党大会で確認される7人の常務委員会の構成の予想は以下の通りである。習近平総書記、丁薛祥中国共産党中央弁公庁主任、李強または陳敏爾(Chen Min’er、1960年-、61歳)重慶市党委書記のいずれかである。李首相が率いる中国共産主義青年団(Communist Youth League Faction CLYF)という対立する派閥が2議席を確保する見込みである。李首相は、農業担当の副首相で共青団の重鎮である胡春華(Hu Chunhua、1963年-、59歳)を後継者に推している。党規約では、副首相の経験があることが首相就任の重要な条件となっている。習近平は李首相の後継者として、現副首相、元副首相のいずれかを選任していない。第20回党大会の定年(68歳)を1年後に控えた李首相と汪洋中国人民政治協商会議主席のいずれかが中央政治局常務委員会に残る可能性はある。李首相が最高会議に留まる場合、全国人民代表大会(全人代、National People’s CongressNPC)主席に移る可能性は十分にある。この2カ月間、李首相がメディアで急に目立つようになったのは、習近平との駆け引きと見ることもできる。すなわち、胡春華副首相や汪洋政協会議主席など中国共青団の仲間を習近平が支援する見返りに、李は党大会での習近平の任期延長に反対しないということになる(ヴォイス・オブ・アメリカ:3月22日、Heritage.org,:3月7日、ザ・ディプロマット:2020年8月4日)。

政治局常務委員会で最年少の委員である趙楽際(Zhao Leji、1957年-、65歳)は中国共産党中央規律検査委員会書記を務めている。中国共産党中央規律検査委員会は中国最大の反腐敗機関である。習近平の腹心から習近平の政敵となったものの、常務委員として2期目を迎える(Facebook.com:2020年10月28日、ヴォイス・オブ・アメリカ・チャイニーズ:2019年1月9日)。最後の1枠は、派閥が明らかでない新星に与えられるかもしれない。仮にこれが実現すれば、習近平派閥が政治局常務委員会7枠のうち3枠を制することになる。しかし、党大会に向けて、政治局、政治局常務委員会ともに陣容の変化が予想される。

●習近平の後は誰?(After Xi, Who?

このように、政治局常務委員会の構成を考えると、第20回党大会後の習近平の最優先課題は、習近平の後継者問題ということになる。仮に習近平が2032年の第22回党大会まで統治するとなると、2030年代前半には李強、陳敏爾、丁雪祥ら1959年から1969年生まれの第6世代の新星の多くが、定年年齢を迎える。その結果、習近平の後継となる幹部は、1970年代生まれの中国共産党指導部第7世代(7G)のメンバーから生まれるかもしれない(チャイナ・ブリーフ:2021年11月12日)。しかし、現段階では、副大臣、副省長、副市長にしか昇格していない7Gの関係者のうち、誰がトップになる可能性があるのかを推測するのは時期尚早である(Thinkchina.sg:2021年12月6日、サウスチャイナ・モーニング・ポスト:2021年6月26日))。明らかに、習近平の終身在職権獲得への挑戦と、彼の経済政策と新型コロナウイルス政策が支配エリート内の強い反対に遭っている事実は、党と国家の非常に非民主的で非透明な制度を実証している。また、習近平指導部が改革の大立者である鄧小平が切り開いた制度改革を無視し、故毛沢東主席が打ち立てた以前の規範を復活させることの危険性をも示している。

※林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム、Willy Wo-Lap Lam)博士:ジェイムズタウン・ファウンデイション上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部中国研究センター・国際政治経済プログラム修士課程非常勤教授。中国に関する5冊の著作があり、『習近平時代の中国政治』(2015年)がある。最新作は『中国の将来のための戦い』(ルートレッジ刊、2020年)。

=====

習近平の権力強化に伴う派閥争いの激化(Factional Strife Intensifies as Xi Strives to Consolidate Power

林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)筆

2021年10月14日

『チャイナ・ビリーフ』(ジェイムズタウン・ファウンデイション)

https://jamestown.org/program/factional-strife-intensifies-as-xi-strives-to-consolidate-power/

chinesecommunistpartyxijinping511
2021年9月30日、北京の人民大会堂で行われた中国建国72周年記念レセプションに出席した党と国家のトップ。写真は(左から)。王岐山、趙楽際、汪洋、李克強、習近平、栗戦書、王滬寧、韓正。(出典: Xinhua)

中国の最高指導者である習近平国家主席と、曾慶紅(Zeng Qinghong、1939年-、82歳)前副主席や王岐山(Wang Qishan、1948年-、74歳)現副主席などの強力な派閥や人物との間で、熾烈な権力闘争が行われている証拠が更に明らかになった。先月(2021年9月)、半公式サイト「網易(NetEase)」と「捜狐(Sohu)」が明らかにした政法系(政法系,zhengfa xitongの高官数名とその一派の内紛をきっかけに、これらの有力者たちの間での関係が微妙になっているという話が明らかにされた。警察、秘密警察、裁判所を含む政法系統(zhengfa xitong)の複数の幹部が、習近平とされる党幹部に対する「邪悪な裏切り(不軌)」(sinister and treacherous、不, bugui)の行動を計画していたことが、先月の半公式サイト「網易」と「捜狐」で明らかになった(チャイナ・ブリーフ:9月23日を参照)。(これらの記事はその後、インターネット上から削除された)。
zengqinghong521
曾慶紅
wangqishan521
王岐山

経済が強い逆風に晒される中、派閥間の裏切り合い・騙し合い(back-stabbing)は更に悪化している。世界最大級の不動産コングロマリットである恒大集団(Evergrande Group)が倒産寸前となったのをきっかけに、数十億元の債務負担に耐えられない不動産会社や金融会社が更に増えていると言われている。昨年末の国家債務総額はGDPの335%に達し、対外債務だけでも2兆6800億ドルに達した(SAFE.gov.cn:9月30日、930日、香港経済新聞:2020年11月19日)。インフラ部門以外では、地方政府の投資機関が2020年末までに53兆元(約8兆2300億ドル)の融資を受けたと推定され、2013年の16兆元(約2兆5000億ドル)から増加している。更に、中国は石炭の枯渇を一因とするエネルギー不足に直面している。外交面では、アメリカとの貿易協議が再開されていない。ジョー・バイデン政権は、台湾海峡、東シナ海、南シナ海などで強硬姿勢を強める中国に対抗するため、同じ考えを持つ国による連合体構築の努力を続けている(Asia.nikkei.com:10月4日、Times of India:9月27日)。

●王岐山とのトラブル?(Trouble with Wang Qishan?

習近平は630日以上海外出張がなく、来年の第20回党大会に向けて、各方面からの挑戦への対応に追われているようである。党大会のテーマは絶対的政治指導者(strongman)である習近平を中国共産党の「終身核心(core for life身核心, zhongshen hexin)」としての承認である。今月初め、リベラル系オンライン雑誌「Caixin.com」の創刊者兼編集者で著名なジャーナリストの胡舒立は、同通信社の微信(we-chat)アカウントの料理欄に、ある「豚頭(pighead)」について次のように投稿した(連合日報:10月7日)。「豚頭がうまく調理されれば、もちろん美味しく食べられる」と短いメモに書かれていた。「しかし、豚頭が尊敬されないとしたら、それは人々の考え方と関係がある。普通の人は、悪名高い豚頭と食卓で戦略的な関係を築こうとは思わないだろう」。「豚頭」は習近平に対するニックネームの1つである。この投稿は料理に関するものであるはずだが、「戦略的関係(strategic relationship)」に言及しているのは、習近平の頑迷な保守主義や欧米諸国との強固な関係を構築できていないことに対する手品のような批判である(Tang Jingyuan Youtube Channelチャンネル:10月8日、連合日報:10月7日)。

胡舒立は過去20年以上、権力者たちや太子党(princelings、党の長老の子弟)の不正を暴き、物議を醸す記事を多数執筆し、編集してきた。彼女の勇気の源は、習近平の第1期(2012-2017年)に政治局常務委員と党の最高反腐敗機関である党中央規律検査委員会(CCDI)書記を務めた王岐山による「保護」にあるとされる。王岐山は多くの人が習近平の最も近い味方の1人と考えており、2013年には副主席という高い称号を与えられ、対米関係では習近平の主要なアドヴァイザーと考えられていたこともある しかし、王岐山は2017年に政治局を去って以来、最高指導者からの信頼を徐々に失っている。(Asia.nikkei.com:2020年10月8日、Hong Kong Free Press:2020年4月9日)。

昨年末には、太子党で不動産王であり、インターネット上で広く支持されているコメンテイターでもある任志強(Ren Zhiqiang、1951年-、71歳)が、汚職と横領の疑いで18年の実刑判決を言い渡された。しかし、王岐山と親しいことで知られる任に下された厳罰は、任がある「皇帝であると主張する裸のピエロ(disrobed clown who insists on being the emperor)」についてのインターネット投稿が原因だと考えられている(ラジオ・フランス・インターナショナル:2020年9月25日、中央日報:2020年9月24日)。習近平はしばしば評論家たちから「服を着ていない皇帝(the emperor who wears no clothes)」と呼ばれており、任が習近平をけなしたことは国内のリベラルな知識人の間で大きな騒ぎになった。
renzhqiang521
任志強

王岐山は、無責任な経営や無謀な海外投資で当局からペナルティを受けた複数の企業の隠れたパトロンとも目されている。その最たるものが、20年足らずで地方航空会社から国際コングロマリットにまで上り詰めた海南省のHNAグループである(『中国デジタルタイムズ』:2018年2月12日)。HNAが今年初めに倒産したのは、773億ドルと推定される負債を返済できないことが大きな原因だ。HNAの陳峰(Chen Feng、1953年-、69歳)会長は9月、経済犯罪と反党活動の疑いで逮捕された。陳は、海南省の元党書記である王岐山の子飼いとされている(サウスチャイナ・モーニング・ポスト:9月20日、Asia.Nikkei.com:3月16日)。陳が逮捕された後、HNAの取締役会が発表した懺悔文風の声明は、不正な事業活動以上のものがあったことを示しているようだ。「野心と野生の欲望がグループ全体を深い溝へと導いた」と声明は述べている(Thestandnews.com:9月25日、The Paper:9月24日)。
chenfeng521
陳峰

王岐山のもう1人の側近である元党中央規律検査委員会(CCDI)幹部の董宏(Dong Hong、1953年-、68歳)は、昨年4月に横領と「堕落した生活(degenerate lifestyle)」の容疑で逮捕された。董宏は次官級幹部で、王岐山がCCDIの書記だった時、王岐山の右腕として活躍した。董宏は、CCDIが2013年に設置した省・政府機関の不正を調査するチームの責任者であった。彼は、「政治規律と政治的規制を著しく侵害した」、「党に不誠実であった」という理由で告発された。(Asianews.it:4月27日、 New Beijing Post:4月26日)。「政治規律と政治的規制」に反するということは、党の「核心」である習主席に十分忠実でないことの隠語と考えられている。
donghong521
董宏

●党の重要な長老からの反発(Pushback from a Key Party Elder

更に顕著なのは、習近平と曾慶紅前国家副主席との権力闘争である。曾慶紅は江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)元国家主席の側近で、いわゆる上海閥(Shanghai Faction)の主要指導者でもある。曾慶紅は、数十億の企業の背後にある「保護傘(protection umbrella)」であると考えられている。そのうちの1つ、ファンタジア・ホールディングス(Fantasia Holdings、花年控股集有限公司、huayang nian konggu jituan youxian gongsi)は、曾宝宝(Zeng Baobao、1971年-、51歳)という曾慶紅の姪が社長を務める企業である。ファンタジアは最近、社債や約束手形の利払いが滞り、格付け会社から「デフォルト」状態に格下げされた。今年半ばの時点で、ファンタジアの流動負債(1年以内に返済しなければならない負債)は500億元(75億ドル)近くに達していた(Caixinglobal.com:10月7日、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月6日)。しかし、曾宝宝は自社の業績悪化について、党の最高権威を非難しているように見える。彼女は微信の投稿で、専門的なことは専門家に任せるべきだが、「脳が尻で調整されている人が意思決定することが非常に多い」と述べ、物議を醸した。さらに彼女は、会社の未来は「尻が一番しっかり固定されている人に譲られる(屁股决定袋的决策,交屁股坐得最定型的那个,志估豬拿得醉丁的那个)」と付け加えた。曾宝宝の微妙な発言は、国有化された不動産やテクノロジー企業に対して圧力をかけている習近平をターゲットにしているように見える(連合日報:10月8日、ラジオ・フリーアジア:10月7日)。
jiangzemin521
江沢民
zengbaobao521
曾宝宝

曾慶紅の最も深刻な「罪」は、故小民(ライ・シャオミン、Lai Xiaomin、1962-2021年、58歳で死)との付き合いかもしれない。国有企業である中国華融資産管理公司(China Huarong Asset Management Company CHAMCZhongguo huarong zichuan guanli gongsi)を率いていたベテラン銀行家だった。頼小民は昨年末に逮捕され、今年1月に死刑が執行された。彼は約17億9000万元の賄賂を懐に入れ、「党に不誠実である」と非難された。しかし、曾慶紅と頼小民の関係は古い。2人は江西省の隣県の出身で、曾は頼の金融界での出世に一役買っている(ラジオ・フリーアジア:1月22日、Tw.news.yahoo.com:1月6日)。曾宝宝のファンタジア・グループ・ホールディングスは、CHAMCのビジネスパートナーでもあった。網易と捜狐の独占報道では、頼は、王立科(Wang Like)、羅文Luo Wenjin、楊明(Yang Ming)などの江蘇省政法委幹部が習近平に害を及ぼすために計画した「邪悪な裏切り」行為の資金提供者と言われている(News.youth.cn:9月22日;ラジオ・フリーアジア:9月16日)。
laixiaomin521
頼小民

●習近平、ライヴァルの子飼いを警察・司法分野から粛清(Xi Purges Rival’s Protégés from Police Forces, Judiciary

習近平の長年にわたる政法組織(政法、zhengfa)への不信は、長年の宿敵であり、2015年に無期懲役の判決を受けた元政治局常務委員で中華人民共和国公安部長を務めた周永康(Zhou Yongkang、1942年-、79歳)が、警察、秘密警察、司法にいまだに多くの部下や追随者を抱えていることに起因している。これが、習近平が数年がかりで進めている政法体制の粛清の原動力となっている。3人の公安副部長を務めた人物、李東生(Li Dongsheng、1955年-、66歳)、孟宏偉(Meng Hongwei、1953年-、68歳)、王立科(Wang Like、1964年-、57歳)が経済・規律違反でそれぞれ2013年、2018年、2020年に逮捕された後、党中央規律検査委員会(CCDI)は10月2日、傅振華(Fu Zhenhua、1955年-、67歳)前公安筆頭副部長を同様の罪で捜査していると発表した。傅は2013年と2014年に周永康の捜査で重要な役割を果たしたにもかかわらず、王立科など他の周の子飼いと密接な関係を持ったため、習近平の信頼を失ったとされる。失脚した元警察幹部の多くは、内部治安システム内で「閥や派閥を形成した(forming cliques and factions)」と非難されている(VOAChinese.com:10月8日、 theinitium.com:10月5日、China.caixin.com:10月4日)
zhouyongkang521
周永康

中央巡視工作領導小組(Central Leading Group on Inspection WorkCLGIWZhongyang xunshi gongzuo lingdao xiaozu)が懲戒の対象としてきた江蘇省政法委幹部システムのメンバーの中には、定期的に党や政府に検査チームを派遣している者も少なくなく、そうやって中・高級幹部の政治的誠実さや経済犯罪の可能性を査定してきた。昨年、政治局常任委員で党中央規律検査委員会(CCDI)書記の趙楽際が率いる中央巡視工作領導小組(CLGIW)は、公安部、国家安全部、司法部、検察院・裁判所など複数の政法組織に検査官を派遣した(CCDIウェブサイト:4月20日、MOJ.gov.cn:2020年8月23日付)。現在、2009年に設立されたが、2012年に習近平が党総書記になるまで活動を開始しなかった中央巡視工作領導小組(CLGIW)は、中国人民銀行、大手国営銀行、保険会社などの金融部門と、中国証券監督管理委員会や中国銀行業監督管理委員会などの規制機関を含む25の部門を調査している(Finance.sina.com:9月26日、Finance.caixin.com:9月26日)。王岐山と曾慶紅は公私ともに投資・銀行部門で活躍しており、習近平の政敵とされるこれらの人物の子飼いがまだまだ出てくる可能性がある。

●結論(Conclusion

習近平は多くの演説で、「党の核心」としての権威を、党の「自浄作用と自己再生(self-purification and self-renewal)」を実現する能力と結びつけている。習近平の評判の一部は、経済犯罪や規律問題で比較的多くの「虎たち(tigers)」(幹部)を罷免したことにある。曾慶紅や王岐山との対立は、これまで主に言葉による陰口で表されてきた。例えば、新華社と人民日報は、反腐敗キャンペーンはいかなる「鉄首公主(Iron Head Prince铁头王、Tie tou wang)」も許さないという論評を相次いで掲載した。「反腐敗運動には上限がない」と人民日報は昨年(2020年)1月に宣言した。「中国共産党は問題に正面から向き合い、過ちを正すことを恐れない。私たちは自浄作用と自己再生に長けている」(新華社:7月11日、人民日報:1月15日)。中国共産党の「自己改革と自己浄化(self-reform and self-purify)」能力については、習近平が中国共産党成立100周年記念演説などの主要な演説で繰り返し発言している。清朝の歴代皇帝が上級貴族に与えた称号の一つである「鉄首公主」は、曾慶紅を指すと考えられている。これは、最後の鉄首公主が清の皇太子の称号を持っていたことによる。第20回党大会は、習近平が党総書記、国家主席、党中央軍事委員会主席の地位を10年間維持できることを確認するものである。その一方で、党内の内部抗争は言葉の戦いを超え、少なくとも数人の元政治局員と党中央軍事委員会委員が失脚する可能性がある。

※林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム、Willy Wo-Lap Lam)博士:ジェイムズタウン・ファウンデイション上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部中国研究センター・国際政治経済プログラム修士課程非常勤教授。中国に関する5冊の著作があり、『習近平時代の中国政治』(2015年)がある。最新作は『中国の将来のための戦い』(ルートレッジ刊、2019年7月)。

(貼り付け終わり)

(終わり)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ