古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:中国

 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領のヴェネズエラ攻撃とニコラス・マドゥロ大統領夫妻拘束連行は世界に衝撃を与えた。私も「トランプはどうしてそんなことをやったんでしょうか」「アメリカはどうなるんですかね」といった問い合わせをいただくことがある。トランプが主張するドンロー主義(Donroe Doctrine)は、1830年代のジェイムズ・モンロー大統領のモンロー主義(南北アメリカ大陸からスペインとイギリスの影響を排除する)と、1900年頃のセオドア・ルーズヴェルト大統領(と先代のウィリアム・マッキンリー大統領)が採用した棍棒外交(中南米諸国に対して武力行使をちらつかせ、また実際に行使してアメリカに従わせる)を混合した外交政策の基盤となる原理ということになる。そして、これこそが「アメリカ・ファースト」(アメリカの利益が最優先)ということになる。

 こうしたドンロー主義に対して、懸念の声が出てくるのは当然のことだ。国外から一気に首都を急襲するという方式は、1979年から1981年にかけて起きたイランのテヘランのアメリカ大使館人質事件(Iran Hostage Crisis)において、人質救出作戦として立案されたイーグルクロー作戦(Operation Eagle Claw)と似たような形である。イーグルクロー作戦は天候に恵まれず失敗し、アメリカ大使館人質事件は当時のジミー・カーター大統領の再選失敗の最大の原因となった。もし、今回のヴェネズエラ急襲作戦が失敗していれば、トランプ大統領と政権にとって致命的な傷となったことだろう。今回の成功は幸運だったと言える。

 懸念されるのは、今回の成功に味を占めて、成功体験に浮かれて、他国にも同様の攻撃を行う可能性があることだ。メキシコやグリーンランド、パナマにアメリカ軍部隊を侵入させるということは今のところ考えにくいが、可能性がゼロではない。また、そのような可能性を相手側に考慮させることで、アメリカ側の交渉力を上げ、意向に従わせようとする可能性もある。短期的にそれが成功しても、中長期的に見て、それが成功となるかどうかは分からない。アメリカのならず者のような行動は他国からの反感を買い、忌避を生み出す。そして、相対的に、中国とロシアの評価を上げることになる。

国際関係論では、「バランシング(balancing)」と「バンドワゴニング(bandwagoning)」という考え方があるが、脅威となる国が出てきたときに他国が一緒になって対抗することを「バランシング」、脅威となる国に味方することを「バンドワゴニング」という。アメリカに対抗できるもう一つの軸として、著書やブログでも何度も紹介してきた、中国とロシアを中心とするBRICS諸国を中核とする「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」による「バランシング」が起きる可能性が高い。アメリカは予期しているよりも影響力を行使できないということになる。そうなると、国際的な孤立を招くということになる。今回のヴェネズエラ急襲成功が結果として大きな損失を生み出すということも十分に考えられる。

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ヴェネズエラはドナルド・トランプ大統領の運が尽きる場所になるかもしれない(Venezuela Might Be Where Trump’s Luck Runs Out

-トランプ大統領は、支持基盤内部の極めて強硬な派閥とハト派の間で綱渡りを続けている。

エンマ・アシュフォード筆

2026年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/05/venezuela-trump-us-military-intervention-regime-change-south-america/

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(右から)ドナルド・トランプ米大統領、マルコ・ルビオ国務長官、ジョン・ラトクリフCIA長官、ピート・ヘグゼス国防長官がフロリダ州パームビーチにあるトランプの邸宅マール・ア・ラーゴからヴェネズエラにおける米軍の作戦を監視する(2026年1月3日)

国境の南側へのアメリカの軍事介入は、野球やアップルパイと同じくらいアメリカ的だ。1914年、ウッドロウ・ウィルソン大統領はアメリカの経済的利益を守るため、メキシコのベラクルスを占領するために軍隊を派遣した。冷戦時代、アメリカはキューバからニカラグア、グアテマラ、パナマに至るまで、公然と、あるいは秘密裏に、様々な政権転覆作戦(overt and covert regime change operations)を実行した。さらに最近の1994年には、クリントン政権がハイチに侵攻し、退陣したジャン=ベルトラン・アリスティド大統領を復帰させた。

それにもかかわらず、先週末に見られたような、事実上の武装誘拐(an armed kidnapping)とも言える指導者交代を、アメリカの政権が公然と、そして誇らしげに行っていることは衝撃的だった。これらの行動が選択された理由に関する公式の説明には、ほとんど策略がなく、この攻撃を何らかの国際法に組み込もうとする真摯な試みもなかった。むしろ、ドナルド・トランプ政権は事実上、アメリカの利益の優先性を主張した。ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、移民の阻止、麻薬の流入の防止、そしてアメリカの石油会社によるヴェネズエラの豊かな油田へのアクセスの許可を妨害したという主張であった。

提示された数々の論拠は、2003年のイラク侵攻の直前、政権が既に決定していた行動を正当化する様々な理由付けを次々と提示した状況を彷彿とさせる。しかし、これさえも誤解を招く。ヴェネズエラに関する説明は、ジョージ・W・ブッシュ政権が夢見ることしかできなかったようなスピードで、国際法の建前を無視して提示された。少なくともジョージ・W・ブッシュ大統領は、最終的にそのプロセスを無視する前に、国連安全保障理事会の承認(U.N. Security Council authorization)を求めた。

ここでも、提示された論拠はどれも真に説得力がない。アメリカは世界最大の産油国であり、ヴェネズエラ産の原油供給過剰(a glut of Venezuelan oil)は、世界的な価格下落によって、テキサス州などの産油地にさえ悪影響を及ぼしかねない。アメリカ国内で死者を出している薬物のほとんどは、ヴェネズエラ産ではない。そして、アメリカの法執行機関は、たとえ有効な令状があっても、通常は海外で軍事行動を起こすことはない。

実際には、これは明らかにアメリカの力、そしてこの地域を支配する必要性を誇示するための演習となった。マドゥロ大統領はトランプ政権に繰り返し反抗し、カリブ海における圧力と軍備増強にもかかわらず、権力を手放して快適な亡命生活(a comfortable exile)を送ることを拒否してきた。マドゥロ大統領の継続的な抵抗に、たとえドナルド・トランプでさえ、アメリカの譲歩(U.S. concessions)によって乗り越えられる可能性は、常に低かった。トランプは、アメリカ大統領の中でも、ハイリスクな状況においてブラフを仕掛け、譲歩する姿勢で知られている。

これは、トランプ政権が最近発表した国家安全保障戦略において、いわゆるモンロー主義のトランプ系(Trump Corollary to the Monroe Doctrine)が提示されたことを考えると特に当てはまる。この戦略は、中国などの西半球外の勢力を締め出し、「西半球に軍事力やその他の脅威となる能力を配置する能力、あるいは戦略的に重要な資産を所有・管理する能力(the ability to position forces or other threatening capabilities, or to own or control strategically vital assets, in our Hemisphere)」を否定することを約束している。この文書が不吉に約束しているように、アメリカは「各国が私たちを第一選択のパートナーと見なすことを望んでおり、(様々な手段を通じて)他国との協力を阻止するつもりだ(nations to see us as their partner of first choice, and … will (through various means) discourage their collaboration with others)」。

マドゥロの拘束はまさにこの目的にかなうものであり、中国とロシアに西半球への介入を避けるよう求めるシグナルを送る可能性もある。また、複数の政権当局者によるキューバとメキシコに関する発言が示唆するように、これは他の地域内の諸国政府にも、移民問題、麻薬問題、あるいは他国との協力といった問題で協力を求めるシグナルを送ることになる。もし協力しなければ、アメリカによる懲罰的攻撃(a U.S. punitive strike)を受けるリスクがある。これは非常にリスクの高い戦略だ。今回の襲撃が計画通りに進まなければ、トランプ政権は期待していたよりも弱体化してしまう可能性がある。

おそらく最大の問題は、今回の襲撃をトランプのより広範な外交政策の文脈でどう解釈するかということだ。一部の人々はこれを政権内の1つの派閥の勝利(the triumph of one faction inside the administration)と解釈し、「タカ派が勝利している(The hawks are winning)」と簡潔に報じた。そして、この作戦の顔は明らかにタカ派のマルコ・ルビオ国務長官であることは事実だ。外国の政権交代を長年批判してきたJD・ヴァンス副大統領は、この襲撃を支持しているものの、襲撃に関する写真や記者会見には出席しておらず、その理由については安全保障に関する漠然とした発言のみで説明している。

しかし、トランプの側近であるタカ派やネオコンもこの状況に不満を抱いている。大統領は記者団に対し、民主派野党の有力候補であるマリア・コリーナ・マチャドには、近いうちにヴェネズエラで政権を掌握するために必要な支持がないと述べた。ルビオ長官もすぐにこの見解に同調した。政権当局者たちは、マドゥロの副大統領であるデルシー・ロドリゲスが政権移行に向けて政権と協力すると見込まれていると述べており、この作戦は民主政治体制を促す政権交代(pro-democracy regime change)というよりも、非協力的な指導者を排除すること(removing an uncooperative leader)が目的であることを示唆している。

このように、マドゥロ襲撃は、その行動は攻撃的かつ野心的であると同時に、政治的目的は非常に限定的である。この点において、これはおそらく2025年6月のトランプによるイラン核施設への攻撃に最も類似していると言えるだろう。どちらのケースでも、トランプはアメリカの軍事力の強力なデモンストレーションを行う一方で、911以降のアメリカの軍事介入の多くを悩ませてきたエスカレーション、混乱、そして意図せぬ結果(the escalation, chaos, and unintended consequences)を回避しようと努めた。つまり、彼はアメリカがほとんど何の責任も負わない武力行使を行えるという主張を試しているのだ。

このアプローチは、政権内の対立する諸派閥の間を縫うように進められ、ネオコンやレーガン主義の残党(Reaganite holdovers)が渇望する軍事行動を許容しつつ、介入主義(interventionist)に消極的な支持基盤に対しては、アメリカがイラク戦争のような惨事を再び招くことはないとの安心感を与えようとするものだ。これまでのところ、この戦略は功を奏している。しかし、政治的にも地政学的にも、依然として非常にリスクの高い戦略であることに変わりはない。トランプ大統領は幸運だった。イランへの攻撃は事態の大幅なエスカレーションにはつながらず、マドゥロ政権の掌握は今のところヴェネズエラを混乱に陥れたようには見えない。

しかし、だからといって、大統領が将来、例えばメキシコやグリーンランドで同様の攻撃を行った場合、その影響を回避できる能力がアメリカへの逆風に容易に転じないという保証はない。そして、トランプ大統領がこうしたアメリカの武力行使を繰り返せば繰り返すほど、そのどれかが壊滅的な結果を招く可能性が高まるのだ。ヴェネズエラでは、それは軍事クーデター、国家崩壊、あるいはより広範な難民危機(military coup, state collapse, or broader refugee crisis)を意味する可能性がある。他の地域では、戦争、もしくは混乱を意味する可能性がある。

トランプ大統領は、自身を支持してくれた支持基盤を遠ざけるリスクを負っているだけではない。この国際的な瀬戸際政策(this game of international brinksmanship)が成功するたびに、トランプはより自信過剰(more overconfident)になり、次回の誤算のリスク(the risks of miscalculation)が高まる可能性が高い。

※エンマ・アシュフォード:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。スティムソン・センターアメリカ大戦略再発想プログラム上級研究員。ジョージタウン大学非常勤助教。著作に『石油、国家、そして戦争(Oil, the State, and War)』がある。Xアカウント:@EmmaMAshford

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(終わり)

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 古村治彦です。

 2026年はアメリカ建国250年の節目の年である。中間選挙がじっしされる年でもある。現在、ドナルド・トランプ大統領の人気は低迷し、連邦下院で共和党は過半数を失う可能性が高い。連邦上院は共和党が過半数を維持する可能性が高い。下院で民主党が過半数を握れば議長を出すことになり、トランプ肝いりの法案の可決も困難になる。第二次トランプ政権の後半2年の政権運営も厳しくなる。

 トランプ政権が支持率を上昇させるには、物価対策と外交政策の成功が重要になる。海外からの輸入製品の価格引き下げが物価対策の1つの方法である。そのためには、究極的には戦争を終わらせる必要がある。地政学リスクと言うが、地政学リスクを下げることが重要だ。ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争を収拾することが重要であるが、ウクライナ戦争は2026年2月24日に4年が経過することになるが、停戦の見通しは立っていない。イスラエルのガザ地区の状況も戦闘は起きていないが、イスラエルはガザ地区への圧力を強めている。また、イランに対して更なる攻撃を加える姿勢を捨てていない。中東地域も不安定なままである。

 昨年、トランプ政権は「国家安全保障戦略」を発表した。このことについてはこのブログでも複数回紹介した。重要なのは、ラテンアメリカと中東、東アジアである。トランプ政権は、ヴェネズエラ近海にアメリカ海軍の艦艇を派遣し、船舶に対して攻撃を行い、ニコラス・マドゥロ大統領に圧力をかけている。麻薬対策を大義名分にしているが、それならば、コロンビアやメキシコを標的にした方が合理的だ。アメリカ政府はマルコ・ルビオ国務長官を中心にして、ラテンアメリカにおけるアメリカの勢力確保を狙い、反米勢力の一掃、中国とロシアの影響力排除を行おうとするグループがいる。ヴェネズエラはそのための標的である。問題は、どこまで介入するかということだ。地上軍派遣の可能性も浮上しているが、この段階まで進むと、アメリカは泥沼にはまり込む可能性がある。マドゥロ政権を倒しても、マドゥロ支持派がゲリラ戦を展開する可能性がある。ラテンアメリカ各国の「ボリバル主義」「反ヤンキー帝国主義」感情が高揚することになる。それでも地上部隊まで派遣して、マドゥロ政権を打倒して親米政権を樹立するというところまで進めば、トランプは自身が戦争を止める大統領だという自画自賛を放棄することになる。国内の不満を海外での武力行使で目を逸らさせるという意図があるとすれば、アメリカ国内の不満は相当大きくなっているという見方もできるだろう。また、トランプ政権内の対外強硬派の勢いが強くなっているのだろう。※2025年1月2日にトランプ大統領はアメリカ軍に対してヴェネズエラへの攻撃を命令し、マドゥロ大統領夫妻を拘束し、国外に連れ出したと発表した。このような暴挙は予想できなかった。トランプ主義、アメリカ・ファーストの終焉である。BRICSを中心とする「西側以外の国々」は反アメリカの姿勢を強めるだろう。トランプも馬鹿なことをしたものだ。ドル離れと金(きん)への資金の移動が続くことになる。

 中東地域に関して言えば、イランへの攻撃があるかどうかである。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はイランへの攻撃を行いたいという願望を持っている。中東地域の不安定な状況はネタニヤフの個人的な利益に適う。状況が平常に戻れば、個人的な汚職の問題で裁判にかけられることになる。ハマスとの紛争が停戦したことで、平常に戻る可能性が大きくなるが、状況の不安定化を継続させるために、ガザ地区に対して人道的に許しがたい圧力をかけ、ハマスの暴発を狙うか、ハマスを支援するイランへの攻撃を行うかである。アメリカのトランプ大統領は昨年実行したイランへの空爆について、イランが核開発を、場所を変えて継続している可能性があると発言している。イランへの攻撃は実行される可能性はあるが、大規模な攻撃とはならないだろう。イランとイスラエルの全面戦争に発展することは避けたい。イラン側としてもアメリカの衰退が継続していけばイスラエルも衰退していくということになるので、中国やロシアと連携しながら、状況を悪化させないということになる。

 東アジアにおける最大の不安定要因は高市早苗首相と日本である。日本は成長のない30年を経て、残念なことだが衰退が決定づけられている。経済や社会において人々の不満が高まっていく。人々の不満を外に向けることは常套手段である。そうした状況下で、「日本初の女性首相」という大義名分で、極右派・隷米派の高市早苗議員が首相に就任した。そして、早速に台湾有事の発言で、日中関係と東アジアに緊張をもたらした。高市政権の後ろ盾はアメリカ国防総省のナンバー3であるエルブリッジ・コルビー国防次官だ。コルビー次官については、これまでの著作で取り上げているので、そちらを参照していただきたい。トランプ大統領は中国との対立を望んでいないが、トランプ政権に入った、対中強硬派が中国との対立を望んでいる。厄介なことに、アメリカが直接対峙するのではなく、日本を利用して、日本をぶつけようという姑息な手段を用いてである。2026年は高市政権を退陣させ、日本が中国との衝突を起こさないようにすることが重要である。
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 2026年も世界を不安定にしようという動きがある。私たちはそのことに気づき、そして、阻止するために学び続ける必要がある。

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ドナルド・トランプ大統領の新たな国家安全保障戦略:5つの重要なポイント(Trump’s new national security strategy: 5 key takeaways

ラウラ・ケリー筆

2025年12月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/5635890-trump-national-security-strategy/

ドナルド・トランプ大統領は木曜日の夜遅く、「国家安全保障戦略(national security strategy)」を発表した。西半球(Western Hemisphere)におけるより大きな軍事プレゼンス(a larger military presence)、世界貿易の均衡(balancing global trade,)、国境警備の強化(tightening up border security)、そしてヨーロッパとの文化戦争への勝利(winning the culture war with Europe)に重点が置かれている。

この包括的な戦略は通常、新政権発足1年以内に発表され、大統領の外交政策の重点を説明し、予算の配分に関する指針を示している。

33ページに及ぶこの文書は、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト(America First)」のイデオロギーを基盤としているが、同時に、トランプ大統領がモンロー主義を踏襲し、西半球におけるアメリカの優位性(U.S. dominance)を主張していることを初めて明確に示している。

「長年の無視の後、アメリカはモンロー主義を再び主張し、実行することで、西半球におけるアメリカの優位性を回復し、アメリカ本土と地域全体の主要地域へのアクセスを守る」と「国家安全保障戦略」は述べている。

この文書は、アメリカの世界からの撤退を明確には示していないが、同盟国間の負担分担の増大(increasing burden sharing among allies)、アメリカの経済的利益と重要なサプライチェインへのアクセスの向上(elevating American economic interests and access to critical supply chains)、アメリカのエネルギー生産の「解放」(“unleashing” American energy production)を求めている。

トランプ大統領の「国家安全保障戦略(NSS)」の5つのポイントを以下に挙げる。

(1)カリブ海におけるトランプ大統領の戦争は激化する見込み(Trump’s war in the Caribbean likely to heat up

カリブ海で麻薬密輸の疑いのある船舶に対するトランプ大統領の2カ月以上にわたる軍事作戦は、「国家安全保障戦略」がアメリカに対し、世界的な軍事プレゼンスを南北アメリカ大陸に再調整し、「ここ数十年、あるいは数年間でアメリカの国家安全保障にとって相対的に重要性が低下した地域」から撤退するよう求めていることから、より大きな支持を得る可能性が高いだろう。

トランプ大統領は、カリブ海におけるアメリカ軍の軍事作戦を麻薬カルテルとの「武力紛争(armed conflict)」と位置づけ、麻薬密売の罪でアメリカで起訴されているヴェネズエラの実力者ニコラス・マドゥロ大統領を主要な脅威として挙げ、アメリカは間もなく「地上作戦(land operations)」を開始する可能性があると述べた。

ヴェネズエラは具体的には名指しされていないものの、「国家安全保障戦略」は、アメリカ国境の安全確保と「カルテルの打倒(defeat cartels)」、そして「戦略的に重要な地域へのアクセスの確立または拡大(establishing or expanding access in strategically important locations)」のために「標的を絞った展開(targeted deployments)」を求めている。

この戦略はまた、トランプ大統領が関税を用いて地域を支配する手法にも焦点を当てている。しかし、トランプ大統領がそのような権力を有しているかどうかは、最高裁判所で係争中の訴訟の焦点となっている。

「アメリカは、関税と相互貿易協定を強力なツールとして活用し、アメリカの経済と産業を強化するため、商業外交(commercial diplomacy)を優先する」と文書は述べている。

この文書はラテンアメリカにおける中国の進出を明確に指摘していないものの、NSSは、米国は金融とテクノロジーにおける影響力を駆使して地域諸国を敵対勢力から引き離し、「スパイ活動、サイバーセキュリティ、債務の罠、その他の方法」でこれらの諸国への依存の脅威を強調すべきだと述べている。

And while the document does not explicitly call out China’s inroads in Latin America, the NSS says the U.S. should use its leverage in finance and technology to pull regional countries away from adversaries and underscore threats of reliance on those countries “in espionage, cybersecurity, debt-traps, and other ways.”

(2)トランプ大統領がロシアへの対応に失敗したとしてヨーロッパを批判(Trump criticizes Europe as failing to deal with Russia

「国家安全保障戦略」は、ロシアとの関係悪化の一因となったヨーロッパの「自信の欠如(lack of self-confidence)」を批判しているが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領による2014年と2022年のウクライナ侵攻の決定や、破壊工作、選挙介入、そして大陸における不安定化煽動といった活動については言及していない。

「国家安全保障戦略」は、「ユーラシア大陸全体にわたる戦略的安定の条件を再構築し、ロシアとヨーロッパ諸国間の紛争リスクを軽減する」ためにヨーロッパとロシアの間の仲介を行うことができる唯一の勢力がアメリカであると述べている。

この文書はさらに、アメリカは「ヨーロッパの偉大さを促進する」必要があると明言しており、これはヴァンス副大統領が2月にドイツで行った演説を彷彿とさせる。

ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員パウエル・ゼルカは分析の中で、「ワシントンはもはや、ヨーロッパの内政に干渉しないふりをしていない」と述べている。

「現在では、こうした干渉を『ヨーロッパがヨーロッパであり続けることを望む』という善意の行為であり、アメリカの戦略的必要性に基づくものと位置付けている。最優先事項は何か? 『ヨーロッパ諸国において、ヨーロッパの現在の方向性に対する抵抗を育むこと』である」。

(3)台湾はアメリカの対中戦略を応援(Taiwan cheers US strategy on China

「国家安全保障戦略(NSS)」が台湾の主権と安全保障を外部からの影響から守ることを明確に認めたことは、台北の外務省から歓迎され、ワシントンの対中強硬派は、トランプ政権が台湾を北京に明け渡すつもりはないと安心することになるだろう。

「アメリカの『国家安全保障戦略(NSS)』は、台湾をめぐる紛争の抑止が地域と世界にとって不可欠であると明言している」と台湾外務省は声明で述べた。

「台湾の安全はインド太平洋の安定を支えるものであり、私たちは自衛を強化し、地域の平和と繁栄に貢献し続ける」。

「国家安全保障戦略」は、台湾をめぐる紛争を抑止するためにアメリカに対し「軍事力の優位性(military overmatch)」を維持するよう求め、「有利な通常戦力のバランス(a favorable conventional military balance)」が地域におけるアメリカの利益の鍵であるとしながらも、地域におけるアメリカの同盟国間の「負担分担(burden-sharing)」を強調している。

この文書は、日本、韓国、台湾、オーストラリアに対し、国防費の増額を求める圧力を継続するよう求めている。

ハドソン研究所アジア太平洋安全保障担当部長パトリック・クローニンは、「国家安全保障戦略」への初期の反応として、「アジアについて考えると、経済と抑止力への重点は概ね妥当だ」と述べている。

クローニンは続けて「それでもなお、中国の戦略が相互に公正な貿易に関するものだという考えは、この文書が過去の誤った前提について正当に指摘している様々な批判に真っ向から反するものである」と述べた。

(4)アメリカの中東への重点は「後退」(American focus on Middle East to ‘recede’

トランプ大統領は、アメリカのエネルギー輸出増加に注力し、イスラエルとの12日間の戦争とアメリカの核施設への攻撃を受けてイランとその代理勢力が大幅に弱体化したと述べるなど、中東におけるアメリカの責任を軽減しようと努めている。

「国家安全保障戦略」は、「しかし、長期的な計画と日常的な実行の両面において、中東がアメリカの外交政策を支配していた時代は、ありがたいことに終わった。中東がもはや重要ではなくなったからではなく、かつてのように常に人々を苛立たせ、差し迫った大惨事の潜在的な原因ではなくなったからだ」と述べている。

トランプ大統領は「紛争は依然として中東で最も厄介な問題である」と認めつつも、この地域の明るい展望を描いている。

リバータリアン系シンクタンクであるケイトー研究所研究員ジョン・ホフマンは、アメリカが中東における役割を縮小する戦略を歓迎する一方で、トランプ政権にそのようなロードマップを実行する政治的意思があるかどうか疑問視している。

ホフマンは「過去4人の大統領うち2人はドナルド・トランプ――は、中東へのアメリカの関与縮小を公約に掲げながら、変化ではなく継続性に根ざした政策を追求してきた」と書いている。

「ワシントンは依然としてこの状況に巻き込まれ、この地域の情勢を細かく管理しようとしている。このようなアプローチでは、この『国家安全保障戦略(NSS)』の明示された目的を達成できないだろう。トランプが中東情勢を根本的に転換する政治的意思を持っているかどうかはまだ分からない」。

(5)民主党からの党派的な反発を招く(Draws partisan pushback from Democrats

民主党は、トランプ大統領の「国家安全保障戦略(NSS)」を、世界におけるアメリカの後退を示す危険な計画であり、アメリカと同盟諸国を弱体化させるものだと即座に非難した。

連邦下院情報特別委員会と連邦下院軍事委員会委員であるジェイソン・クロウ下院議員(コロラド州選出、民主党)は声明で「この計画が進められると、世界はより危険な場所となり、アメリカ国民の安全は脅かされるだろう」と、述べた。

「多くの懸念すべき点の中でも、ソーシャルエンジニアリング(social engineering)、文化戦争(culture warfare)、そして同盟国である外国政府や政治体制への干渉(interference with allied foreign governments and political systems)を露骨に呼びかけている点が挙げられる。これは国内外における自由と個人の権利に対する攻撃だ」。

同様に、連邦上院軍事委員会委員であるリチャード・ブルーメンソール連邦上院議員(コネチカット州選出、民主党)は、「国家安全保障戦略(NSS)」は「同盟諸国を見捨てて、ウクライナを犠牲にし、主要な戦略目標と基本的価値観を放棄するという後退を予兆するものだ。アメリカはより安全になるどころか、より弱体化するだろう。アメリカ・ファーストはアメリカだけの問題であり、その代償を払うことになるだろう」と述べた。

評論家の一部はより慎重な見方を示した。

民主政治体制防衛財団軍事政治力センター上級ディレクターであるブラッドリー・ボウマンは、「国家安全保障戦略」は「以前の国家安全保障戦略との連続性もいくつかあるが、大きな変更点もいくつかある」とコメントした。

「称賛に値する点もあれば、注目すべき批判点もあり、そして深刻な『何だって?』という点もある」。

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。ブログ継続のために書籍の購入をお願いいたします。

 

 アメリカで公開中のドキュメンタリー映画「ザ・デーティング・ゲーム」の紹介記事が興味深かったのでご紹介する。監督は中国系の女性で、中国国内に住む結婚したいのに、出会いに苦労している若い男性たちとそのような男性たちの「コーチ」を登場させている。中国でも日本と同様、正確には日本よりもスピード感を持って、少子高齢化が進んでいる。そして、若者たち、特に男性たちにとって深刻なのは「男余り」だ。記事によると、中国の申請時の男女比は、男性116対女性100となっている。日本やその他の国々では、だいたい男性105対女性100となっている。日本でもそうであるが、伝統や文化の面で、男の子を望む傾向が強く、中国の場合には一人っ子政策という縛りもあり、「1人しか産めないなら男の子」ということになって、男性が多くなっている。そうなると、単純な算数で考えても、結婚適齢期になると、男性が余ってしまう。容姿が良かったり、実家が富裕であったり、学歴が高かったりであれば結婚できるが、「何の取り柄もない」男性は振り向いてもらえない。仄聞するところでは、中国では結婚する際に、男性側が家(マンション)を用意しなければならないということだ。そうなると、経済力がない若い男性は結婚相手に選んでもらえない。

 そこで、結婚相手探しに苦労している若い男性たちに女性と出会って結婚まで持ち込むための技術を教える「コーチ」が登場する。彼らは女性を振り向かせるための技術を持つ、日本語で言えば「ナンパ師(pickup artists)」である。SNSに掲載するプロフィール写真やSNSでのやり取りについてアドヴァイスをする。また、国家が主催するお見合いパーティーも開催されている。日本で言えば、「婚活」が中国でも盛んなようだ。しかし、人口統計的に見れば、どうしても女性と出会えない男性が出てくる。結婚は同い年同士ですることは少ない、年齢差があるのが一般的だが、上下数年で見ても、男性が偏って多い以上、対象を拡大しても厳しい状況は変わらない。私はそのうち、中国でも、外国からお嫁さんを連れてくるということが起きるだろう、いや既に起きているのではないかと考える。日本でも、特に農村部で同様の問題があり、東南アジアの女性を結婚するということがあった。中国もそのようなことになるだろう。

 こうなると、社会に対して不満を持ち、女性を攻撃するマンスフィア(男性優位志向ネットワーク[と私は訳した])が発生する。自身が持つ不安を社会や女性にぶつけるということになる。これは社会にとって大きな不安定要因となる。日本でも、氷河期世代(1970年代から80年代初頭くらいまでに生まれた人たち)も同様の境遇にある。日本の氷河期世代の場合は人口統計上の問題ではなく、経済や社会、政治上の失敗が原因であるが。記事に書かれているが、中国では結婚をすることを諦める若者たちが多く出ている。日本もそうであったが、不満をため込みながら、社会から退くことを選ぶ人たちが多く出ると、社会の運営効率は落ち、社会は崩壊に向かう。身も蓋もない表現をすれば、中国の問題は、最終的には金で解決できるかもしれない。外国から女性に来てもらうということで(そのために経済力や高い生活水準が必要であるが)、解決ができるかもしれない。2024年の新生児出生数が過去最低を記録したという報道を見ながら、日本の場合には既に回復は望めないと悲観的になってしまう。

(貼り付けはじめ)

中国の余剰男性に何が起きているのか?(What Happens to China’s Surplus Men?
-一人っ子政策(one-child policy)による性別間の不均衡(gender imbalance)は、絶望的な独身男性(desperate bachelors)、疑わしい教祖(dubious gurus)、そして男性優位志向ネットワークの台頭(a rising manosphere)を生み出した。

ドリュー・ゴーマン筆

2025年12月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/12/12/china-gender-dating-demographic-population-documentary/

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中国・重慶で、デーティング・ブートキャンプの一環として独身の周がハスキー犬たちとポーズを取り、デーティング・コーチのハオが写真を撮っている(ドキュメンタリー映画「ザ・デーティング・ゲーム」)

恋愛がうまくいかない時は、イメージチェンジが容易に始められる場所となる。問題は、何を変える必要があるのか​​、必ずしも分からないことだ。中国の独身男性、周、呉、李に対し、デート・コーチのハオは率直に次のように答える。「全てを変える」。

ヴァイオレット・ドゥ・フェン監督のドキュメンタリー映画『ザ・デーティング・ゲーム(The Dating Game)』(現在ニューヨークで公開中)は、かつての中国の一人っ子政策を受けて、デートライフを刷新しようとする男性たちの姿を追っている。長年続いた男児優遇政策は、世界でも最も顕著な性別間の不均衡を生み出した。「中国には女性がいない」とハオは語る。実際、この政策が終了に至った2015年には、中国では女児100人に対し男児が約116人が出生しており、おそらく男児のほぼ5人に1人が生涯独身(a lifetime of singledom)を強いられていることになる。

フェンが取り上げる登場人物たちは、恋愛の見込みのなさに自己不信と不安(self-doubt and anxiety)に苛まれている。結婚へのプレッシャーはあらゆる方面から押し寄せてくる。家族、友人、そして若者に結婚と出産を公然と迫る国家さえも。

デート・コーチのハオは3000人以上の顧客を抱えていると言い、そのほとんどが労働者階級の男性だ。アパートを所有することが結婚の必須条件とされるこの国では、妻を見つける可能性が最も低い層だ。ハオは彼らを失敗者(failures)と切り捨てながらも、愛を得るチャンスは与えられるべきだと言う。しかし、独身男性たちの旅が展開するにつれ、視聴者はハオのやり方に疑問を抱き始めるかもしれない。そして、約束された成功をもたらさないデート・システムがもたらす社会的影響を懸念するかもしれない。デート・システムは、男性たちを危険な怨恨政治(the dangerous politics of resentment)へと駆り立てる可能性がある。

私たちは中国・重慶のショッピングモールで初めて、女たらし志願の男たちに出会う。ハオは1週間かけて、現代のデジタル時代に女性を惹きつける方法を教えると約束する。36歳の周は最も懐疑的だ。ハオのファッションアドヴァイスに難色を示し、故郷の人たちは自分が太字のピンクのシャツを着ているのを見たら驚くだろうと言う。美容院では、周が「私はハンサムじゃない。スタイリングする意味がどこにある?」と発言する。スタイリストは「顔の形による弱点を目立たなくしてしまう」と答える。こうした率直な発言は、登場人物たちの尊厳を何度も傷つける。独身男性たちが中国の金銭中心のデート文化について語るのも同様に率直だ。周は、女性をディナーに連れて行き、プレゼントを買い、仲人に料金を払うと、月収の半分にあたる300ドルもかかることを嘆く。その後、ある女性は理想のパートナーは「月に1500ドル以上」稼いでくれる人だと語った。

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独身の李はデートのためのプロフィール写真でポーズを取る

経済的な不利を補うため、ハオは独身男性たちに事実上、偽りの自分を見せることを教え、時にはあからさまに嘘をつくよう助言する。例えば、男性たちが高級高層ビルでデートのプロフィール写真のためにポーズを取る場面が見られる。そして、周は明らかに犬を怖がっているにもかかわらず、ふざけた瞬間に12匹ほどのハスキー犬を連れている場面も見られる(大型犬は中国の多くの都市で厳密には違法であり、ステータスシンボルとなっている)。周は新しいプロフィール写真を使うのをためらう。なぜなら、そこには自分が経験したことのない経験が写っているからだ。女性は見抜くだろうと彼は主張する。ハオは、誰もがオンラインでは騙されていると反論する。呉は「私は偽るのは好きじゃない。私は私だ」と反論する。ハオはただ、本物かどうかなんて気にするなと彼らに告げる。

ハオが男性たちに、路上で見知らぬ女性に声をかけWeChatのアカウント情報を聞き出すなど、過酷なデートの練習を指導するにつれ、視聴者はハオの能力不足を疑い始める。男性たちは昔ながらの方法で真の繋がりを切望しているにもかかわらず、一日中、見境なく右にスワイプして相手を探すように指示されるのだ。

映画監督のフェンは彼らの失敗(そして稀に起こる衝撃的な成功)を一切コメントなしで紹介し、視聴者がハオのやり方について独自の意見を形成できるようにしている。しかし、やがて、これらのいわゆるテクニックは、実際には単なるナンパ師(pickup artistPUA)の行動であることが明らかになる。

1960年代に遡るアンダーグラウンドムーヴメントのようなピックアップ・アートは、ニール・ストラウスの2005年の著書『ザ・ゲーム』の出版をきっかけに、爆発的に主流へと躍り出た。心理操作と安っぽいテクニックで女性を誘惑するナンパ師たちは、女性を物のように扱い、男性に常識的な境界線をはるかに超えた恋愛や性的欲求を抱かせるとして、広く非難されてきた。

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ハオがスプレーを使って髪の毛を整えている

近年、ナンパ師たちは「男性優位志向ネットワーク(manosphere)」という異形の類縁関係を生み出している。男性優位志向ネットワーク(マノスフィア)とは、女性蔑視的な見解を唱え、より狂信的なケースでは、伝統的なジェンダー階層の復活を目的とした暴力を擁護する、緩やかなオンラインコミュニティの集合体のことだ。調査ジャーナリストのジェイムズ・ブラッドワースが著書『ロストボーイズ:マノスフィアを巡る個人的な旅(Lost Boys: A Personal Journey Through the Manosphere)』で記録しているように、男性の権利団体、ナンパ師組織、「非自発的独身(involuntary celibate)」フォーラム、そして過激な女性蔑視的インフルエンサーといった広範なネットワークが相互に関連している。例えば、2014年に殺人事件を起こす前、イギリス系アメリカ人の殺人犯エリオット・ロジャーは恋人ができないことを嘆き、恋愛における失敗の原因の一部はナンパ師のテクニックの失敗にあると非難していた。

ナンパ師からマノスフィアへのパイプラインは、ネガティヴな態度、派手な仕草、あるいは挑発的なタッチなど、適切な条件を揃えればガールフレンドを「獲得(acquire)」できるという、薄汚い思い込みで覆われている。しかし、どれだけ気取った振る舞いをしようと、最初の一言がどれだけウィットに富んでいようと、最終的には他の人間との真の紐帯(a genuine bond with another human being)を築かなければならないのだ。

このことを最も強く裏付ける証拠は、独身男性の試練ではなく、ハオと自身もデート・コーチであるウェンとの結婚生活にある。2人の関係は映画の意外な感情的中心となり、ブートキャンプを覆い隠すほどだ。ブートキャンプが気まずく滑稽な一方で、フェンとハオ、ウェンの接点は親密で緊張感に満ち、ほとんどスキャンダラスだ。私たちは本当にこんな光景を目にするべきなのだろうか?

ウェンは多くの点でハオとは対照的な存在だ。指導する女性たちに、ウェンは本物であることと自己改善(authenticity and self-improvement)を説く。それは勤勉と内省(hard work and introspection)を必要とする。それとは対照的に、ハオのやり方は暗く、醜く、破滅的な印象を与える。ウェン自身も、こうしたやり方こそがハオの当初の嫌悪感であり、不誠実だと感じていた部分だと述べている。この2人のアプローチとメンタリティの乖離は、悲劇的で不可解だ。視聴者として、ウェンがハオの泥沼のようなナンパの嵐をかき分けて彼の良い面を見ようとした理由も、この2人を結びつけている理由も、ほとんど理解できない。2人はデートの仕方だけでなく、人間関係の理解や個人としての尊重の仕方についても、正反対の考え方を持っているように見える。この軋轢は耐え難いものとなり、私は何度も目をそらさざるを得なかった。

この展開を目の当たりにしている視聴者にとって、なぜ何千人もの男性がこのひどいアドヴァイスに賛同しているのか、いささか不可解な点がある。

ハオの主張が魅力的な理由の1つは、農村部の労働者階級の男性の多くが、少女との交流をほとんど持たずに育ったことだ。24歳の李は、自分の村では「少年12人に対して少女は数人しかいない」と語る。一方、多くの親は急速な国家工業化政策に携わるため都市部へ移住し、子供たちは祖父母に育てられた。あるアーカイヴ映像では、当時の指導者である鄧小平が国民に対し、中国を速やかに近代化するよう訴えている。国民に豊かな生活を提供できなければ、国は行き詰まってしまうからだ。

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(左から)ハオ、呉、李、周がモールの中を歩く 

中国が経済減速に直面し、若者の間で不満が広がっている現状を考えると、フェンがこの映像をこの時期に取り上げたことは、非常に的を射ているように感じられる。都市部の若者の公式失業率は約17%、2026年には過去最大の大学卒業者数が見込まれる中、若い中国人は独特の倦怠感(a distinctive malaise)を抱えながら労働力として働き始めている。こうした経済的な課題は、世代全体の恋愛の見通しに暗い影を落としている。そして、「996」労働制度(“996” work system)で悪名高い中国では、これまで必死に追い求めてきたものはすべて幻だったという感覚が広がっている。若者の中には、経済的・社会的に無力感を抱き、収入と恋愛の成功があまりにも密接に結びついているため、恋愛から完全に身を引く男女もいる。

デートのプールにとどまり続ける人々は、型破りな手段に訴えることもある。ハオのコーチングはそうしたアプローチの1つに過ぎないが、フェンはまた、成人した子供たちのパートナーを見つけることを望む親たちの、かなり憂鬱な集まりなど、さまざまなお見合い(matchmaking)の試みも紹介している。

別の場所では、国家が主催するお見合いイヴェントで、共産党代表が集まった独身者たちに「あなたたちは未来だ」と語りかける。参加者たちは、将来のパートナーに求める条件―「従順であること(obedient)」「仕事を持っていること([has] a job)」「太りすぎていないこと(not too fa)」―を挙げ、ぎこちないアイスブレイクゲームで盛り上がる。男女が無事にカップルになると、司会者は2人に抱き合い、手を繋ぐように促し、幸せな結婚を祈る。出生率が急落する中、奥ゆかしさはもはや通用しない。

フェンはここに怒りを露わにしている。一人っ子政策、今や幻想としか思えない経済的利益のために引き離された家族、そして中国の若者の孤独を少しでも和らげようとする努力を妨げる構造への怒りだ。しかし、現代社会を生き抜くのに苦闘する人々への真の同情が、その怒りを和らげている。彼女は主に、国家の失策を繊細に批判している。それらを記録すること自体が、十分な非難なのだ。

彼女の最も直接的な政治的発言は、映画の終盤で現れる。「歴史的に、社会における男性の過剰は、国内および地政学的な不安定化を招いてきた」とスクリーン上のテキストは述べている。この映画の慎重な抑制は、登場人物たちの実体験や、より広く中国におけるデートの苦悩を浮き彫りにする上で素晴らしいものだが、この特定の点は、繊細さだけでは提供できない何かを求めている。「デーティング・ゲーム」は、不満を抱えた何百万人もの男性が社会全体に及ぼす潜在的な危険に言及しているものの、国家がどのようにしてそのような状況に陥ったのかという切実な問いを、あまり時間をかけて検証していない。

中国人男性に押し付けられる恋愛プレッシャーは深刻だ。なぜなら、恋に破れた男性は時に暴力に訴えるからだ。それは、挫折感や憤りを根源的に払拭するための手段であり、今日では、アメリカ、トルコ、イギリスなど、極右運動の旗印の下に長年結集してきたマノスフィア(男性融資志向ネットワーク)のインフルエンサーやライフスタイルの教祖によって、ソーシャルメディア上で育まれている。

この男性の憤りという生態系(ecosystem)は、中国のみならず世界中で勢力を拡大しており、ナンパ技術はその始まりに過ぎない。男性融資志向ネットワーク(マノスフィア)は確かに扱いにくく、支離滅裂な怪物だが、「デーティング・ゲーム」はその毒性に満ちた鉱脈に触れており、それと同等の深掘りを必要とする。

※ドリュー・ゴーマン:『フォーリン・ポリシー』誌版権担当副編集長。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 

 第二次ドナルド・トランプ政権で発表された「国家安全保障戦略(National Security StrategyNSS)」について、昨日に続いて、再び注目したい。今回は、第二次トランプ政権の「国家安全保障戦略」をアジア諸国の観点から分析するとどうなるかという内容の論稿をご紹介する。日本の外交政策を考える上でも非常に参考になる内容だ。

下記論稿では、第二次トランプ政権の「国家安全保障戦略」について、「従来の延長線上ではなく、第二次大戦後と冷戦後に形成された外交政策の広範なコンセンサスからの劇的な決別」を示しているとしている。

今回の「国家安全保障戦略」では、抑制とナショナリズム、そして普遍主義的使命を伴う国際主義の拒否が混ざり合ったMAGAナショナリズムの感情を明確に反映し、伝統的な政治イデオロギーに基づく戦略ではなく、「アメリカ・ファースト」による実利志向の戦略を志向している。これにより、「アメリカの幅広い卓越性という野望」から「国内再生」に重心を移している。これまでの介入志向の外交政策からの転換が図られることになる。

アジアにとっての良い面には次のようなポイントが挙げられる。第一に、「国家安全保障戦略」がインド太平洋をアメリカ外交の優先事項に据え、オバマ世間のピボットや第一次トランプの「自由で開かれたインド太平洋」、バイデンの戦略との連続性を示していることで、単一勢力によるアジア支配に反対する再表明は地域諸国に歓迎されるだろう。第二に、ヨーロッパに対する厳しい批判とは対照的に、アジアに対して形式的な戦略的敬意を示し、インド太平洋と中東へは限定的・選択的な介入を主張している。アジアは批判の外側に置かれている。第三に、超国家的統治やEUの規制主義への批判がある一方で、地域的制度が弱いアジアは国家主権と取引に基づく協力を重視するトランプ的世界観と相性が良く、リベラル国際主義の規範重視が必ずしも歓迎されなかった多くのアジア政府にとって「アメリカ・ファースト」に基づく主権優先の取引主義は理解しやすい。第四に、多くのアジア諸国はトランプが中国を同等の力を持つ競争国と認めつつ互恵的経済関係構築を呼びかける姿勢を歓迎しており、米中の二者択一を望まない広範な感情や、インドのような非同盟国にとっては地域での大国責任拡大の機会となる点も評価できる。  

悪い点を挙げると以下のようになる。第一に、主権と不介入の重視は歓迎されるが、アジアはアメリカが力を行使する誘惑について理解しており、可能だから介入する、国内支持層が要求するから介入するという力の論理は残るため、宣言的自制だけでは介入衝動を抑えきれないという不安を持つ。第二に、トランプの取引志向は従来の商業的取引主義を超え、同盟諸国に巨額負担や有利条件を要求するなど脅迫的側面を伴い、ASEAN首脳会議での条件付けなどは主権尊重とは無関係に力の非対称性を反映しており、アジア諸国は、取引は歓迎しても強制的重商主義には反発する。第三に、アメリカがルールをベースとする国際秩序を放棄すれば、小国の領土保全や弱者保護が損なわれ、広範かつ予測可能なルールを求めるアジアの現実主義的外務官にとって代償が生じるだけでなく、弾圧下の市民社会や反体制勢力も失望する。第四に、トランプの経済重視は商業利益と安全保障の間のトレードオフを深め、米軍優位の維持が困難になる中で米中間の経済的相互依存が亀裂を生み、同盟国に対する防衛負担要求が一部で核選択肢の再検討など極端な反応を誘発する恐れがある。第五に、台湾に関する文言を巡る激論が示すように、意味論的な論争は実際の危機対応に対する明確な指針を与えず、多くは地域情勢や米国内政治次第で変わるため、戦略的不確実性が増している。  

 アジアは中国と対峙しているので、アメリカの対中政策の影響を受けやすい。アジア諸国はアメリカと中国の2つの要素を考慮しなければならない。何よりも重要なのは、アジア地域における平和である。アメリカは中国と戦争をできる段階にない。経済依存や国力を考えると、好むと好まざるとにかかわらず、アメリカは中国と友好関係を維持し続ける「必要」がある。このことを前提にして戦略を考える必要がある。アジアにおける問題は、日本の高市早苗首相と日本の何の考えもない極右勢力である。この戦争をもてあそぶような考えなしがアジアにおける不安定要因となっていることは日本人として恥ずべき事態だと私は考えている。この状態を是正しなければ、日本が取り残されることになる。いや、既に取り残されているようなものであるが。

(貼り付けはじめ)

2025年「国家安全保障戦略」がアジアにとって持つ意味(What the 2025 National Security Strategy Means for Asia

-アメリカ外交政策におけるMAGA革命は良い面と悪い面の両方をもたらしている。

C・ラジャ・モハン筆

2025年12月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/12/08/2025-us-national-security-strategy-trump-asia-china-taiwan/

ワシントンでは、新政権が誕生するたびに独自のイデオロギー連合が形成され、必然的にアメリカの国家安全保障政策に関する理念を言語化した文書が生み出される。先週、トランプ政権が発表した最新版の国家安全保障戦略(National Security StrategyNSS)も、まさにその伝統に則ったものだ。しかし、より重要なのは、この文書がこれまでの戦略文書とは大きく異なる点である。これまでの戦略文書は、第二次世界大戦後および冷戦後の外交政策に関する幅広いコンセンサスに若干のヴァリエーションを加えたものに過ぎなかったが、今回の文書は、そのコンセンサスから劇的な決別(rupture)を意味している。

この文書が、ドナルド・トランプ米大統領の今後の行動に関する信頼できる指針となるかどうかは定かではない。しかし、この文書が、アメリカと世界との関係に関する国内での議論の進展における重要なマイルストーン(節目)であることは否定できない。この文書は、MAGA 運動の世界観を捉え、変化しつつあるアメリカの雰囲気(mood)を反映している。アジアにとって、この文書は、トランプ政権がインド太平洋をどのように理解し、アメリカの同盟関係をどのように扱い、中国をどのように評価し、地政学的競争の時代におけるアメリカのリーダーシップをどのように想像しているかを明らかにする窓となっている。

まず、「国家安全保障戦略」は、MAGA ナショナリズムの、今やよく知られる感情、すなわち、抑制、ナショナリズム、そして普遍主義的使命を伴う国際主義的世界観の拒絶が混ざり合った(a blend of restraint, nationalism, and the rejection of the internationalist worldview with its universalist missions)感情を明確に反映している。この文書は、「伝統的な政治的イデオロギーに基づくものではない(not grounded in traditional, political ideology)」戦略を求めている。その代わりに、「何よりも、アメリカにとって効果的なもの、つまり、一言で言えば『アメリカ・ファースト』によって動機づけられている(it is motivated above all by what works for America—or, in two words, ‘America First’)」と述べている。

「国家安全保障戦略」は、アメリカの卓越性という広大な野望から、国内の再生に根ざしたより狭い国益の定義へと方向転換を図ろうとしている。ワシントンの説教じみた言動に長らく憤慨してきた外国の政府にとって、この転換は歓迎すべきイデオロギー的再調整(ideological recalibration)を意味する。

しかし、アジアにとって、新たな国家戦略は良い知らせと悪い知らせの両方をもたらす。

第一に、この文書がアジア、あるいは現代の戦略用語で言うインド太平洋(Indo-Pacific)を、トランプ政権の戦略の中核である西半球以外におけるアメリカの外交政策の最優先事項に位置付けていることがプラス材料となる。アジアへの重点は、バラク・オバマ政権のピボット政策(pivot)、トランプ政権初期の「自由で開かれたインド太平洋(free and open Indo-Pacific)」、そして、ジョー・バイデン政権のインド太平洋戦略との連続性を示すものである。中国の台頭とこの地域の持続的な経済ダイナミズムは、これを不可避的なものにしている。同様に重要なのは、アメリカが単一の勢力によるアジア支配に反対するという姿勢を再確認したこと(reaffirmation that the United States will oppose the domination of Asia by a single power)である。これはアメリカの大戦略における長年のテーマであり、国家戦略におけるこの再表明は、中国の勢力拡大を懸念するアジアの各国首脳にとって歓迎されるだろう。

第二に、トランプ戦略は、ヨーロッパに浴びせられる衝撃的なほど厳しい批判からアジアを免れさせている。「国家安全保障戦略(NSS)」は、ヨーロッパの堕落、依存、そして、リベラリズムの行き過ぎを非難する一方で、アジアに対しては、表面上は戦略的敬意を払っている。「国家安全保障戦略」は、ヨーロッパにおいて、衰退から「西洋文明を救う」(“save Western civilization” from decline)ための強力な行動主義(muscular activism)を約束するのとは対照的に、インド太平洋地域と中東への限定的かつ選択的な介入を主張している。これは、トランプがヨーロッパよりもアジアを好むからではない。むしろ、MAGAをめぐるイデオロギー闘争は、本質的には政治的価値観とリベラリズムの未来をめぐる西側諸国内部の内戦(an internal Western civil war)なのだ。アジアは今のところ、この争いの外側に立っている。

第三に、アジアは超国家的統治に対するアメリカの批判を受けにくい。ヨーロッパ連合(EU)の官僚主義的・規制的権力はMAGAの怒りを買っている。地域的な制度的欠陥(regional institutional deficit)を抱えるアジアは、今や国家主権と取引に基づく協力を中心とするトランプ的な世界観とはるかに相性が良いように見える。人権と社会規範を重視するリベラルで国際主義的な姿勢は、常にアジアのほとんどの政府に受け入れられなかった。中国だけでなく、この地域の民主的でありながら根深い国家主義社会を持つ諸国においても同様だ。彼らにとって、「アメリカ・ファースト」イデオロギーによる国家主権の重視、そして世界を独立国家の共同体と捉える考え方は、極めて理にかなっている。

第四に、一部のアジア諸国政府、とりわけ北京は、冷戦後の「ルールに基づく国際秩序(a rules-based international order)」というレトリックについて、長らく不信感を抱いてきた。この言葉は西側諸国の首都では安心感を与えるように響いたが、アジアの一部の国では、ワシントンが、自らが示したルールを必ずしも遵守しなかったこともあり、強制的あるいは偽善的に聞こえた。トランプ大統領のプラグマティズムと国益重視、つまり「コメルツポリティック(kommerzpolitik、通商政策)」としての外交は広く受け入れられている。規範に関するリベラルなレトリックに疑念を抱くアジア諸国は、取引主義(transactionalism、トランザクショナリズム)には抵抗がない。昨秋のトランプ大統領のアジア歴訪中、アジア諸国がトランプ大統領との取引を競い合ったことは、実に示唆的だった。取引主義的なアメリカは、理解しやすく、関与しやすく、交渉しやすい。

第五に、多くのアジア諸国は、トランプ大統領が中国を同格に近い競争国(a near-peer competitor)と認め、北京との「互恵的な経済関係(mutually advantageous economic relationship)」の構築を呼びかけていることを歓迎している。アジアの大部分は、1980年代以降、米中協調体制から多大な恩恵を受けており、新たな冷戦の到来を深く懸念している。ワシントンと北京のどちらかを選ぶことを望まないという広範な感情は、トランプ大統領が中国を近い仲間として再び関与させる姿勢を見せていることに安堵感を覚える。インドのような非同盟国(non-allies)にとって、主要国に地域におけるより大きな責任を担うよう求めるトランプ大統領の呼びかけは、自国の戦略的プレゼンスを高める機会を生み出すことになる。

しかし、この良い知らせは、「国家安全保障戦略」とトランプ外交政策の運用上のダイナミクスにおける懸念材料によって相殺されている。この地域は、機会、曖昧さ、そしてリスクを等しく抱えている。

第一に、トランプが主権と不介入を重視することは歓迎すべきことであるが、アジアは、ワシントンが他国の内政に干渉しようとする構造的な誘惑を痛感している。これは原則からではなく、力から生じる。大国が介入するのは、それが可能であるからであり、そして、しばしば国内の政治的支持層がそれを要求しているからだ。南アフリカとナイジェリアに対するトランプの脅しは、懲罰と強制を求めるアメリカの根強い衝動を浮き彫りにしている。自制を宣言しても、この衝動は消えないだろう。

第二に、アジアではコメルツポリティックが浸透しているものの、トランプは通常の取引主義をはるかに超えている。日本と韓国に巨額の新規投資を要求したが、その条件は恐喝としか思えない。同様に問題なのは、最近の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議において、マレーシアとカンボジアとの貿易協定に課した条件である。これらの取り決めは主権尊重とはほとんど関係がなく、力の非対称性と圧力を反映している。アジア諸国は取引主義を歓迎するかもしれないが、強制的な重商主義(coercive mercantilism)には反発している。

第三に、アメリカがルールに基づく秩序を放棄したことは、アジア諸国の外務省の現実主義者を喜ばせるかもしれないが、この放棄には代償も伴う。アメリカが各国の領土保全を擁護することを拒否すれば、アジアの弱小国は強国のなすがままになるだろう。アメリカがウクライナに対し、和平合意の一環としてロシアへの領土譲渡を迫っていることは、中国の拡張主義に対抗するアメリカの姿勢について、直ちに懸念を生じさせている。アジアの小国は、広範かつ予測可能なルールを求めている。それは彼らがリベラルな理想主義者だからではなく、ルールが弱者を強者から守るからだ。一方、アメリカがリベラルな価値観から後退すれば、弾圧に直面した際に米国の支援を頼りにしてきた反体制団体や市民社会運動は失望するだろう。

第四に、トランプ大統領が中国との経済関係を重視していることは、商業的利益と安全保障上の関与の間の潜在的なトレードオフに対する不安を生み出している。「国家安全保障戦略」は西太平洋における中国の侵略を抑止する必要性を強調しているが、経済的相互依存と軍事的競争の間の緊張は現実のものであり、高まっている。中国の力が増大するにつれて、アメリカの軍事的優位性を維持することはますます困難になるだろう。北京は、アメリカとアジアのパートナーの間に亀裂を生じさせる能力を高めるだろう。トランプ大統領が同盟諸国に国防費増額を要求することで、一部の国は核兵器オプションの見直しを含む極端な解決策に傾く可能性がある。中国が軍事バランスを着実に自国に有利な方向に傾けているという認識が、この地域の不安を増幅させている。

第五に、「国家安全保障戦略」における台湾に関する文言をめぐる激しい議論は、アジアにおける地政学的な断層線がいかに深刻であるかを浮き彫りにしている。しかし、意味論的な議論は、トランプ大統領をはじめとする米大統領が実際の危機においてどのように行動するかについて、ほとんど指針を与えない。多くのことは、その時々の地域情勢とアメリカの国内政治に左右されるだろう。高市早苗首相が中国の台湾攻撃を日本の安全保障と結びつけて発言したことに対するワシントンの反発は、警告の兆候である。トランプ大統領はアジアの同盟諸国にさらなる要求をする一方で、アメリカが何を提供するのかについては、明確な姿勢を示していない。過去の戦略的曖昧さは、関与ではなく不確実性へと変わりつつある。

全体として、アジアはヨーロッパとは異なり、アメリカの戦略の変化に適応するための時間と余裕が十分にあるかもしれない。しかし、アジアが直面する課題はヨーロッパよりもはるかに大きい。ヨーロッパに比べて、ハードパワーの潜在力が限られているロシアとは異なり、中国はアジアにおいて圧倒的な存在感を放っている。この地域の安全保障は、地政学的な競争と経済的相互依存(geopolitical competition and economic interdependence)を特徴とする北京との複雑な関係を、ワシントンがどのように乗り越えていくかに大きく左右されるだろう。アメリカの対中政策における曖昧さは、インド太平洋地域全体に連鎖的な影響を及ぼす可能性がある。

アジアはこの新たな現実に適応しなければならない。それは、アジアがアメリカの国内政治の軌跡やトランプ主義の戦略的進化に影響を与えるためにできることはほぼないからだ。ヨーロッパ諸国はリベラルな国際主義の復活と大西洋主義の回復を望むかもしれない。しかし、アジアにそのような余裕はない。中国の存在感が大きく、アメリカが国際的な方向性を再定義する中、アジアは自助の戦略(a strategy of self-help)—国家能力の強化、アメリカを超えたパートナーシップの拡大、柔軟な連合の構築—を受け入れねばならない。同時に、「国家安全保障戦略」は、ワシントンが支援する「負担分担ネットワーク(burden-sharing network)」を提唱している。「国家安全保障戦略」は、「商業問題におけるより有利な待遇、技術共有、防衛調達などを通じて、近隣地域の安全保障においてより多くの責任を自発的に引き受ける国々に対し、アメリカは支援の準備を整える」と述べている。アジアはこの提案が提供する可能性について理解すべきである。

C・ラジャ・モハン:『フォーリン・ポリシー』誌のコラムニスト。OP・ジンダル・グローバル大学モトワニ・ジャデジャ・アメリカ研究所の卓越教授、シンガポール国立大学南アジア研究所客員研究教授、インド国家安全保障諮問委員会元メンバー。Xアカウント:@MohanCRaja

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 ドナルド・トランプ大統領が2025年4月に打ち出した高関税政策は世界に衝撃を与えた。世界各国が対応に追われた。日本も例外ではなかった。石破茂前政権では経済再生担当大臣の赤澤亮正が毎週のようにワシントンDCを訪問し、最終的には15%の追加関税で収めることができた。日本からは5500億ドル(約80兆円)の投資をアメリカに行うということも決まった。その後、多くの国々がアメリカに一定の譲歩をする形で、関税を引き下げるという取引を行った。

 日本はアメリカの属国である。日本については投資という形での貢ぎ金が必要となる。アメリカと戦争をしないこと、世界各国を敵に回さないことこそが日本の基本的な原理である。「お金で済むことならば」という態度で戦後80年を過ごしてきた。これに対して不満を持つ人もいるだろうが、戦争をしないこと、外国にまで出張っていってその国の人を殺すようなことをしないで済むことが一番大事である。

 ただ、金を貢ぐにしても「貢ぎ方」や「品格」がある。何でもかんでもアメリカ側の言いなりで、へいへい、ご無理ごもっともでは舐められるだけだ。石破前政権では、トランプ政権のエルブリッジ・コルビー国防次官からの「防衛予算の対GDP比3.5%への引き上げ」要求を蹴り、日米の外務・防衛担当大臣・長官の会談「2プラス2」を実施しなかった。これがトランプとアメリカ側の逆鱗に触れたということは考えられる。そして、そのような「謀反気」を一切持たない、芯からの属国根性の持ち主である高市早苗が首相に「据えられた」ということになる。高市早苗は骨の髄までの対米隷属志向であるのに、反米的な遊就館史観を持つ靖国神社には参拝するという矛盾する行動を取るのが不思議である。

 ドナルド・トランプは高市早苗就任直後に訪日し、高市首相はかいがいしくアテンドして回った。その姿は痛々しいほどだった。時期を前倒しで、防衛予算の対FDP比3%を達成すると決め、日本国民には「愛国増税」がのしかかる。高市首相の「失言」によって、日中関係は悪化し、日本経済にも影響が出ている。この状態が続くならば、厳しい年末年始から年度末ということになりそうだ。私の見立てでは、中国の習近平国家主席は、日本をいじめることが理由で、現在の状況を作り出してはいない。習近平は、トランプとアメリカに「踏み絵」を踏ませているのだ。「日本の高市を支持するということは、一つの中国政策から後退するということだな」と。トランプにとって台湾はもう中国のものだし、中国が好きにすればいいということになっているだろう。「アメリカ・ファースト」である。「アメリカは邪魔しない」ということをより明確にするために、高市失言を利用した。更に、アメリカの同盟諸国に「いざとなったらアメリカは同盟諸国を捨てますよ」ということをアピールすることにもなっている。

 日本はアメリカに無条件で貢ぎまくって、その代償が現状である、他国はもっとうまく、慎重に立ち回っている。日本の高市早苗政権の馬鹿さ加減が現状を生み出している。そして、この状況を生む出した根本原因は日本国民であり、日本国民の馬鹿さ加減である。

(貼り付けはじめ)

高市首相、トランプ氏に防衛費増を伝達 80兆円投資「着実に履行」

外交・安全保障

日本経済新聞 20251028 19:52(20251029 2:00更新)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA23BCK0T21C25A0000000/

高市早苗首相は28日、東京・元赤坂の迎賓館でトランプ米大統領と会談した。両首脳は日米関税合意を「着実に履行する」と確認し、「日米同盟の新たな黄金時代」をめざすとの文書に署名した。首相は防衛力強化の方針を伝え、トランプ氏は日米関係が「今まで以上に強力になる」と述べた。

レアアース(希土類)など重要鉱物のサプライチェーン(供給網)強化に協力する覚書も交わした。

首相とトランプ氏の会談は初めて。会談とその後のワーキングランチの合計は90分ほどだった。首相は日本が主体的に防衛力強化と防衛費増額に取り組む決意を伝えた。「日本も世界の平和と繁栄に貢献していく」と強調した。

トランプ氏が同盟国に安全保障面での負担増を求めていることを踏まえ、自前の抑止力強化を進める姿勢を示した。

首相は24日の所信表明演説で、防衛関連費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%へ引き上げる目標を25年度中に前倒しすると打ち出した。国家安全保障戦略など安保関連3文書も前倒しで改定する予定だ。

トランプ氏は日本の防衛力強化の方針について「承知している」と述べた。米国の防衛装備品を調達していることに「感謝を申し上げる」とも語った。米国が高性能の戦闘機やミサイルを有すると主張し、購入拡大への期待を示した。

首相は会談後、記者団に「(米側から)防衛費の規模感についての話はなかった。数字を念頭にしたやりとりはなかった」と説明した。

会談では国際情勢も話し合った。中国に関する諸課題について意見交換し「力または威圧による一方的な現状変更の試みに反対する」と合意した。台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて確認した。中国、北朝鮮、ロシアの軍事連携も取り上げた。

北朝鮮に関し「完全な非核化に向けた確固たるコミットメント」を確かめた。首相から日本人拉致被害者問題の解決への協力を求め、トランプ氏は「全面的な支持」を表明した。同氏は会談後、被害者家族らと面会した。

首相は会談後、米軍横須賀基地(神奈川県)でトランプ氏と一緒に米海軍の空母に乗艦した。米軍兵士の前で「世界で最も偉大な同盟になった日米同盟を更なる高みに引き上げていく」と訴えた。トランプ氏は日米同盟が「太平洋における平和と安全の礎だ」と強調した。

関税合意を巡っては日本から米国への5500億ドル(84兆円)の投資が含まれており、首脳会談で実行を約束した。首相はワーキングランチで日本による対米投資の実績を地図を使って説明し、米経済への貢献を訴えた。

両首脳は重要鉱物のサプライチェーン強化への協力文書にも署名した。幅広い産業に不可欠なレアアースの調達を中国に依存する現状の改善をめざす。

人工知能(AI)や次世代通信をはじめとした重要技術、造船など経済安全保障にかかわる日米協力の強化を進めるとも確認した。担当閣僚間で複数の覚書を交わした。

首相はレアアース調達の協力について、自身の強い希望だったと会談後に記者団へ明らかにした。南鳥島周辺の海底に眠るレアアースやハワイ沖での開発案件に触れて「日米共同で開発していく協力関係が確認できた」と強調した。

会談では医薬品の原料も議題にしたと言及した。その上で、中国を念頭に「日米ともにあまりにも特定国に依存し過ぎている」と調達先を多様化する必要性を指摘した。

安全保障分野ではトランプ氏が同盟国の負担増を求めていることを踏まえ、日本の防衛力強化に向けた取り組みを説明した。内向き志向を強める米国が引き続きアジアの安保に関与するように、日本が自前の防衛力強化を進めると強調した。

首相は会談後、他の民主主義国との協力を深める方針でも一致したと説明した。「日米韓、日米フィリピン、日米豪印といった同志国連携を一層推進していくと確認した」と語った。

安倍晋三元首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」の実現を日米でめざす。

首相はトランプ氏との信頼関係の構築に向け、タイとカンボジアの紛争終結や中東での停戦合意への米国の貢献を「短期間に世界はより平和になった」とたたえた。米高官によると、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦する考えも伝えた。

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なぜアジア諸国は貿易に関してトランプ大統領にこれほど多くの譲歩をしたのか?(Why Did Asian Countries Give Trump So Much on Trade?

-新たな協定には、アジアにおける物品の流れを変える可能性のある異例の譲歩が含まれている。

アガーテ・デマライス筆

2025年11月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/11/12/trump-trade-tariff-agreement-deal-asia-japan-south-korea-asean/

ドナルド・トランプ政権の交渉担当者たちは、このところ絶好調だ。わずか数週間のうちに、アメリカは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟4カ国(カンボジア、マレーシア、タイ、ヴェトナム)と貿易協定を締結し、7月に日本がホワイトハウスに提出した投資誓約の詳細を巧みに調整した。これらの協定の精神はシンプルだ。ドナルド・トランプ米大統領が課した、あるいは脅した関税よりも低い関税と引き換えに、これらの国々はワシントンの要求を驚くほど多く、広範囲に受け入れていた。

貿易協定は通常、不眠症の優れた特効薬(a great antidote to insomnia)となる。しかし、ワシントンとアジア諸国の間で最近締結された協定は異なる。協定の細則を見れば、これらの国々が協定締結のために異例の譲歩をしたことが分かる。これらの協定は、トランプ大統領が関税の脅威を巧みに利用し、パートナー諸国にアメリカへの投資を迫り、アメリカ政府が国内問題への発言権を与え、中国との分断を図ってきたことの手掛かりとなる。

トランプ大統領は、そのビジネス感覚に忠実に従い、アメリカの交渉担当者たちが世界中で締結を目指している貿易協定において、外国からの投資の約束を優先事項としてきた。日米協定はその好例だ。この協定の目玉は、2029年1月のトランプ大統領の任期満了までに、日本政府がアメリカに5500億ドル(約85兆2500億円)を投資するという約束である。これは日本のGDPの約15%に相当する額であり、おそらく偶然ではないだろうが、日本からアメリカへの輸出の4年間分(あるいは大統領の任期1期分)に相当する。

この協定の解釈は、太平洋の両側で大きく異なっている。ホワイトハウスによると、「日本政府はアメリカに5500億ドルを投資することに同意した」となっている。トランプ大統領は、「5500億ドルを得ることになる。これは野球選手の契約ボーナスのようなものだ」と見ている。私がアメリカ政府当局者と話し合ったところによると、この協定の解釈によれば、アメリカ企業による100億ドルの投資プロジェクトが民間資金で40億ドルしか調達できない場合、不足分の60億ドルを日本の納税者の資金で補填することが可能となる。

日本政府はこの見解に強く反対している。ブルームバーグによると、7月に日本の首席交渉官は地元メディアに対し、「5500億ドルの投資枠組みは、日本政府が支援する金融機関による投資、融資、そして融資保証を組み合わせたものだ」と述べた。各投資の利益の90%はアメリカに渡る。その後、日本が初期投資を回収するまでは50対50のより均衡した配分となり、その後は90対10でアメリカに有利になる可能性が浮上している。

これらの議論はさておき、日本の投資公約について3つのことが明らかになっている。第1に、この合意は、日本が公的資金をアメリカにおける民間投資に充当することを約束している。第2に、アメリカは最終的にその見返りの90%を得る。第3に、日本が約束を履行しない場合(アメリカ側の解釈がどうであれ)、ホワイトハウスは日本製品の輸出関税を再び課すことができる。ホワイトハウス当局者たちは「私たちは貿易相手国に約束を守るよう求めており、もしいずれかの国が約束を破った場合、大統領は関税率を調整する権利を留保する」と述べた。

日本がなぜこのような協定に署名するのか、理解に苦しむ。第一の問題は、日本が資金提供を必要とするプロジェクトについて最終勧告を行う投資委員会にアメリカ人のみが参加し、最終決定権はトランプ大統領のみに握られるという点だ。日本にとっての潜在的な問題はこれだけではない。公的資金提供は、民間投資家がそもそもこれらのプロジェクトに興味を持っていなかったことを示唆しており、利益が出ない可能性もある。専門家はまた、アメリカ政府が、ワシントンが管理する投資ビークルを通じて外国資金を誘導する権限を持っているかどうかについても疑問を呈している。将来の政権や連邦議会がこの計画を違法と判断した場合、日本は投資を失う可能性がある。

韓国の李在明大統領は、現在ワシントンと交渉中の貿易協定で同様の条件に同意した場合、「弾劾されるだろう」と考えている。しかし、ホワイトハウスが韓国に対し3500億ドルの投資パッケージへの同意を迫っていることから、李大統領は間もなく日本と同じ轍を踏むことになるかもしれない。ハワード・ラトニック米商務長官は、「韓国は合意を受け入れるか、関税を支払うかのどちらかだ」と述べた。もちろん、ラトニック長官の見解は間違っている。アメリカの関税を支払うのは輸出国ではなく、アメリカ企業と消費者だ。

日本が投資誓約を確定し、韓国もそれに迫ったことで、ワシントンは第2の優先事項、すなわちASEAN諸国にアメリカ規制の適用を強制することに集中する余裕が生まれた。アメリカとマレーシアの合意は、まさにその好例だ。この合意には、ワシントンが要請すればマレーシアが「アメリカの一方的な輸出規制」に全て従うことが盛り込まれている。クアラルンプールがこのような条項を受け入れたことは奇妙だ。マレーシアの島嶼国ペナンは長年、中立的な(つまりアメリカと中国双方にサービスを提供する)半導体製造拠点としての地位を確立することで繁栄してきた。トランプ大統領が米国の対中輸出規制を維持し、マレーシアがそれを模倣するなら、ペナンの半導体企業がどのようにして中国で事業を継続できるのかは不透明だ。

ワシントンがパートナー諸国にアメリカの規制への準拠を求める動きは、これで終わる訳ではない。マレーシアはまた、アメリカの制裁対象、あるいは米産業安全保障局(BIS)のエンティティリストに掲載されている個人や企業との取引を制限することにも同意した。アメリカの制裁が世界的に影響を及ぼしていることは目新しいことではなく、この合意がなかったとしても、多くのマレーシアの銀行がアメリカのブラックリストに掲載されている個人や企業との取引を処理するとは考えにくい。新しいのは、アメリカが諸外国に対し、アメリカの主要な制裁措置に倣うよう公然と要求していることである。

デジタル分野は、アメリカの規制介入の最後の領域となっている。マレーシアは協定において、デジタルサーヴィスに課税しないこと、そして他国とデジタル協定を締結する前にアメリカと協議することを約束した。こうしたアメリカの要求は意外ではない。トランプ大統領は長年、アメリカのデジタルプラットフォームに対する不公平な課税に執着してきた。しかし、マレーシアがこの条項をどのように実施するかは興味深い。マレーシアはASEAN主導のデジタル経済枠組み協定というデジタル協定に署名したばかりだ。

アメリカとカンボジアの貿易協定は、アジアにおけるアメリカの第3の優先事項——同盟国に中国との経済的分離を迫ること——を如実に示している。まず、プノンペンはあらゆる国(つまり中国)に対し、アメリカの関税・割当を模倣することを約束する。さもなければ、カンボジアの対米輸出に対し、世界最高水準の49%という禁止的な関税が再課される。カンボジアがアメリカの敵対国(これも中国を指す)と経済協定を結んだ場合も同様の制裁が適用される。さらにカンボジアは、外国投資家に関する情報をアメリカに提供することに同意した。中国の名は明記されていないが、この条項が北京を念頭に置いていることは明らかだ。中国企業はカンボジア最大の投資主体であり、昨年の対外直接投資総額の約半分を占めている。

アメリカの圧力はいずれ脱却の面で強まる可能性があり、その最優先課題が中継貿易となる。平たく言えば、これは中国からのアメリカ向け輸出をヴェトナムやメキシコなどの第三国経由で迂回させ、アメリカの対中関税を回避しようとする動きを指す。ASEAN各国政府は、アメリカが間もなくこの慣行への対応を要請すると考える根拠がある。マレーシアとの協定では、この問題に関する条項を空白のままにしており、アメリカは中継された中国製品を低関税対象から外す文言を柔軟に策定できる余地を残している。そうなれば、中国とアメリカの間の貿易ハブとして位置づけてきた多くのASEAN経済圏のビジネスモデルは崩壊する可能性がある。

ヨーロッパ連合の官僚たちは、これらの最近の協定を精査する中で、いくらか慰めを見いだすかもしれない。ヨーロッパ連合はアメリカとの協定において、日本、カンボジア、マレーシアなどがアメリカに与えた額のほんの一部しか譲歩していない。これは、なぜアジア諸国政府がこれほど制限的な協定に署名したのかという疑問を提起する。確かに、アメリカは東アジアおよび東南アジア諸国にとって巨大な貿易相手国であり、アメリカによる安全保障の保証は日本と韓国にとって重要である。アジア諸国の政策立案者たちは、トランプ大統領が自らの約束の履行状況をチェックしないことを期待しているのかもしれない。この点については、トランプ大統領の最初の任期中にアメリカが貿易協定の監視と履行を怠った事例が示唆しているかもしれない。これらの説明はどれも完全に説得力がある訳ではない。その間、ヨーロッパ連合の政策立案者たちは、アメリカがアジアへの要求をヨーロッパ連合との次回交渉にそのまま持ち込み始めた場合、どのように対応するか熟考するのが賢明だろう。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会地経学上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか(Backfire: How Sanctions Reshape the World Against U.S. Interests)』がある。Blueskyアカウント:@agathedemarais.bsky.socialXアカウント:@AgatheDemarais

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