古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:人民元

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界は大きく「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西峩々以外の国々)」に分裂していく、構造変化が起きています。そのことを詳しく分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「デカップリング(decoupling)」「脱ドル化(de-dollarization)」という言葉を聞くようになった。特に昨年、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の総会で、「BRICS通貨の創設が発表されるのではないか」という予測が出て、ドルに代わる世界通貨になるかもしれないということで、話題になった。結局、インドの反対もあり、今回は見送りとなったが、ドルが世界の基軸通貨(key currency)の地位を失う可能性が取り沙汰されるきっかけとなった。このことは、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも取り上げた。脱ドル化、デカップリングとは、西側世界への経済的な依存を減らすことである。その先頭を走っているのは中国である。下の論稿には、中国が行ってきたデカップリングと脱リスク化について、脱ドル化、技術依存度(technological dependence)を下げる努力、国内の金融部門に外国が関与することを制限することが挙げられている。これらは、20世紀末から西側諸国を中心に進められてきた、グローバライゼーション(Globalization)に逆行する動きであるが、グローバライゼーションに対する逆行こそが、国家を救う道である。

 現在の日本を見てみると、自国通貨である円の価値の低下によって、諸外国から見て、「なんでも安い国」となった。しかも高品質というおまけがつくので、「なんともおいしい」区になっている。現在、バブルを超える勢いで、株式市場が上昇を見せているが、これは、外国からの投資が増大し、それに国内の資金が流れているということである。外国からの資金はいつか日本株を打って出ていく。株高に誘惑されて株式を買ったり、NISA投資をしたりしている日本の人々には損がかぶせられる。そうして国力が奪われていき、日本の衰退は加速していく。グローバライゼーションで利益を得るのは国境を軽々と超えるエリートたちや資産家たちだけである。日本は30年以上、グローバライゼーションによって国力を毀損させられてきた。

 世界の構造が大きく変化しようとしている時期になっている。グローバライゼーションと世界構造の大変化に備えるためにも、デカップリングと脱ドル化を真剣に検討し、議論するべき時だ。しかし、既にアメリカ国債を買いまくり、外貨準備もドルに偏重している日本はこのようなことはできないかもしれない。アメリカと一緒に心中をするしかないということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

西側諸国がデカップリングを発明したのではない-中国が発明したのだ(The West Did Not Invent Decoupling—China Did

-北京は長い間、経済を西側諸国から切り離すことで自由裁量(free hand)を手にしようとしてきた。

アガーテ・デマライス筆

2024年2月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/01/china-decoupling-derisking-technology-sanctions-trade-us-eu-west/

クレムリン・ウォッチャーたちの間で語り継がれている話がある。2014年のロシアによるクリミア侵攻と併合に対して、西側諸国が初めてロシアに制裁を課した直後、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は経済補佐官たちを呼び出した。彼の質問は単純だった。「ロシアの食料自給率はどのような状況なのか?」。補佐官たちはあまり良くないという答えが返ってきた。ロシアは国民に提供する食糧は輸入に頼っていた。プーティンは顔をあ納めさせて、制裁によってモスクワの主食へのアクセスが制限されることを恐れ、何とかするよう命じた。

2022年にロシアが本格的にウクライナに侵攻する時点にまでテープを早送りすると、プーティンはもはや食料の心配をする必要がなくなった。わずか8年で、ロシアは食糧をほぼ自給自足できるようになり、肉、魚、そして、まあまあの品質のチーズまで生産できるようになった。

ロシアが食糧自給を目指したのは、現在流行している経済的デカップリング[economic decoupling](最近では脱リスク[de-risking]と言い換えられている)をめぐる議論よりもずっと以前のことである。政治的言説(political discourse)が示唆するところとは逆に、西側諸国がこうした政策を考案したわけではない。ロシアの例が示すように、西側の民主政治体制国家と対立する国々は、潜在的な敵国から自らを守るために、長い間リスク回避政策(de-risking policy)を追求してきた。

ロシアに比べ、中国は技術、貿易、金融の面で西側諸国への経済的依存(economic reliance)を減らしてきた実績がある。デカップリング(decoupling)とデリスク(de-risking)の発明者であり、世界のリーダーでも存在がいるとすれば、それはどう見ても北京である。

近年、アメリカが中国へのハイテク輸出を次々と規制するずっと以前から、中国の指導者たちはテクノロジーを脱リスクの最初の柱としてきた。例えば、北京の半導体分野への最初の投資計画は、1980年代まで遡るが、当時の中国が基本的なチップを生産する域にも達していなかったことを考えると、その結果は成功と失敗が入り混じったものであったことは間違いない。

中国の計算はシンプルだ。テクノロジーは経済的・軍事的優位性のバックボーンである。したがって、北京にとって技術的な自給自足は、生き残り、繁栄するために必要不可欠なことなのだ。

中国の技術依存度(technological dependence)を下げる努力は過去10年間で推進された。ドナルド・トランプ前米大統領が中国との関係断絶を自慢し始める2年前の2015年、北京は半導体(semiconductors)、人工知能()artificial intelligence、クリーンテクノロジー(clean tech)などの主要技術分野で、自給自足を目指す「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025)」の青写真を発表した。

中国は技術的な自給自足を自国が生存し続けるための必須条件と考え、わずか数年で目覚ましい進歩を遂げた。多くのハイテク分野では、中国企業や研究者たちは揺るぎない世界的リーダーであるか(特にクリーン技術分野では、中国企業がソーラーパネル[solar panels]、風力タービン[wind turbines]、電気自動車[electric vehicles]の市場を独占している)、あるいは西側諸国の競合相手とほぼ肩を並べている(人工知能、量子コンピューター[quantum computing]、バイオテクノロジー[biotech]を含む)。

半導体は例外だ。マイクロチップに関して言えば、西側諸国の政策立案者たちは、中国は最先端チップ(cutting-edge chips)の生産において、アメリカ、台湾、韓国に大きく遅れをとっていると指摘し、自らを安心させたがっている。確かにその通りだが、北京はアメリカの輸出規制が危機感を煽ることを歓迎しているのかもしれない。

中国指導部はまた、輸出管理が容易に裏目に出る可能性があることを知っている。歴史が示しているように、長期的には、アメリカの一方的な輸出管理は、ほとんどの場合、輸出収入を制限することでアメリカ企業に損害を与え、その結果、最先端を維持するための研究開発に費やすことができる額も抑制されることになる。言い換えれば、中国政府は長期戦を繰り広げており、アメリカ政府の積極的な戦略が最終的には裏目に出て、西側諸国の技術への依存を減らすという中国の取り組みを更に支援することを期待しているのだ。

金融分野は、北京のリスク回避戦略の2本目の柱であり、長い歴史を持つ。この分野でも、西側諸国経済との関係を断ち切ろうとする中国の努力は、北京からのリスクを取り除くというアメリカとヨーロッパの計画に先行していた。最も明白な例は、北京が国内の金融部門に外国が大きく関与することを認めてこなかったことだ。中国の金融市場は閉鎖的で、外国人投資家は中国株の4%、中国国債の9%しか保有していない。中国独自の銀行システムは、国際金融からほぼ完全に遮断されており、中国人以外の投資家が中国の銀行資産の2%未満しか所有していない。また、国内外への資金移動を厳しく制限する資本規制は、いまだ解除されていない。

しかし、金融分野における北京のリスク回避努力は、外国人を遠ざけるだけではない。中国の指導者たちは不都合な真実に直面している。西側諸国の金融チャネルへの依存は、北京のアキレス腱になるかもしれない。西側諸国は世界の支配的な通貨を所有し、世界の全ての銀行を結ぶ世界的な決済システムであるSWIFTや、世界で最も重要な証券保管機関であるユーロクリア(Euroclear)など、グローバルな金融インフラへのアクセスを支配している。

西側諸国の金融支配が制裁を強力なものにしている。ドルやSWIFTへのアクセスを失うことは、ほとんどの銀行や企業にとって事実上の死刑宣告である。2012年に西側諸国がイランのSWIFTへのアクセスを遮断する決定を下した後、北京はその結果を目撃した。

金融制裁に対抗するための先制攻撃として、中国は3つの戦略を展開している。

第一に、人民元による国境を越えた決済の整備を進めている。世界貿易におけるドルとユーロの優位性を考えれば、その道のりは険しい。しかし、中国の脱ドル化計画(China’s de-dollarization plans)は進展している。人民元で決済される世界的な決済の割合は、2023年にはほぼ倍増し、約4%にまで達した。重要なのは、中国の対外貿易の3分の1が人民元建てになっていることで、中国企業は西側諸国の制裁からある程度身を守ることができる。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、そして最近加わった5カ国からなるBRICS圏の通貨の可能性が取り沙汰されているが、人民元がロシアと中国の貿易で最も使用されている通貨になったように、北京もBRICS諸国間の貿易で人民元が選択される通貨になることを望んでいる。

SWIFTに代わる中国の決済システムCIPSthe Cross-Border Interbank Payment System)は、北京の金融リスク軽減の2つ目の礎石となる。2015年に開始されたこの決済ネットワークは、SWIFTよりもはるかに規模が小さい。しかし、SWIFTは世界中のほとんどの銀行を接続している中で、SWIFTが中国の銀行を切断した場合のバックアップとなるだろう。最後に、中国はアラブ首長国連邦やタイなどともデジタル通貨を使った国境を越えた取引を試験的に行っている。中国のデジタル通貨がグローバルになる道のりはまだまだ遠い。しかし、優位性は重要ではないかもしれない。中国の目標は、保護手段として代替金融チャネルを持つことであり、そのためには運用が可能であることが必要なだけなのだ。

中国のリスク回避戦略の3つ目のそして最後の柱は、貿易および中国の投資先としての非友好国への依存を減らすことを伴う。その論拠は、2014年にプーティン大統領がロシアの食糧安全保障を懸念したときの論拠と似ている。紛争、感染症拡大、地政学的な緊張によって経済関係が阻害されたり、サプライチェインが混乱したりする可能性があるため、中国政府は貿易の流れをどこかの国に過度に依存することが弱点だと見なしている。中国のような輸出指向の経済にとって、重要な原材料の輸入や主要な輸出先として特定の国に過度に依存することは致命的となる可能性がある。

中国の貿易におけるリスク回避の努力は、ハイテクや金融のそれよりも最近のもので、2018年の最初の米中貿易戦争が起きた際に始まった。しかし、中国の税関が発表した最新の統計を見てみると、中国は最近、一見非友好的に見える西側諸国との関係を分散させるための明確な努力をもって、貿易のリスク回避を加速させている。

2023年の最初の11か月間で、中国のアメリカへの輸出は2022年の同時期と比較して8.5%減少し、ヨーロッパ連合(EU)への輸出は5.8%減少した。一方、インド、ロシア、タイ、ラテンアメリカ、アフリカを含むほとんどの新興市場への中国の輸出は増加した。西側経済への貿易依存度を減らす中国の努力は功を奏しており、2023年には東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟諸国向けの輸出が、アメリカやEUを抑え、中国の最大の輸出先となった。

中国のリスク回避努力は投資分野にも及んでいる。アメリカン・エンタープライズ研究所のデータによると、2014年までの10年間、G7諸国とオーストラリア、ニュージーランドは、「一帯一路」構想の資金を除いた中国の対外投資フローの半分近くを吸収していた。2022年までに、この割合はわずか15%にまで低下し、インドネシア、サウジアラビア、ブラジルなどの新興諸国が中国からの直接投資の最大の流入を引き寄せている。

中国の他の取り組みと同様、新興国市場への投資促進も、西側諸国のリスク回避策が発明される以前から行われていた。この変化は2017年のデータで顕著になったが、投資プロジェクトは通常、実現までに数年かかるため、開始はもっと早かったと考えられる。

これらのことから、中国のリスク回避の動きは、アメリカやヨーロッパの取り組みよりもはるかに古く、広範囲に及んでいることが分かる。しかし、中国自身のリスク回避戦略に関する議論は、西側諸国の議論の中ではかなり少ない。

これは重大な欠陥である。北京から見ると、中国への依存を減らそうとする西側諸国の圧力は、アメリカの最先端技術への依存から技術的自給自足の優先、西側の銀行チャネルよりも自国の金融インフラへの依存、西側経済よりも新興市場の優先という、中国の長年確立された計画を加速させるもう1つの理由となる。北京の長期にわたる組織的なアメリカやヨーロッパからの離脱は、中国の経済政策の顕著な特徴であり、それは大きな影響を持つ。

リスク回避は双方向である。協力と平和を導く、経済的相互依存(economic interdependence)という考えは、ロシアのウクライナ侵攻で崩れ去ったと主張する人々もいるが、経済的結びつきはアメリカとヨーロッパに対して、北京への大きな影響力を与えている。しかし、現在進行中の中国と西側諸国との関係を断ち切るプロセスは、西側諸国の制裁脅威の抑止効果を弱めることは避けられず、世界、特に台湾海峡をより危険なものとするだろう。

これはまさに中国の戦略であり、そもそも中国が自給自足を目指す基底には、台湾併合という野望がある。アメリカやヨーロッパがリスク回避を発明したのではなく、中国が発明したのである。そして中国は、この分野で最も熟練した実践者のようである。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais
(貼り付け終わり)
(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争勃発後、アメリカを中心とする西側諸国(the West)は対ロシア制裁を発動した。具体的には国際金融、決済からロシアを締め出すというものだった。ロシアが輸出する石油や天然ガスの支払い手段であるドルが使えなければ、ロシアは経済的に追い詰められ、戦費負担も併せて、ロシアは戦争継続が困難になるというのが西側諸国の見立てだった。ロシアがドルを受け取れなければロシアは経済的に追い詰められギヴアップするという見込みだった。

 しかし、ロシアに対する制裁には西側以外の国々(the Rest)は参加しなかった。中国やインドにはロシアから割安の石油や天然資源を手に入れることができるようになった。それでは取引ではどの通貨を使っているのかということになる。それは人民元とロシアのルーブルである。その枠組みとなっているのは上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)だ。上海協力機構は、1996年に中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの首脳会合が開催されたことが端緒である。これを上海ファイヴと呼ぶ。2001年にウズベキスタンが参加して発足したのが上海協力機構である。2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロもあり、この枠組みは安全保障分野のものであると考えられていた。それから約20年が経ち、上海協力機構はユーラシア大陸を網羅する国際的な枠組みに成長した。上海協力機構の構成は以下の通りだ。

(1)   正式加盟国は、中華人民共和国、ロシア、カザフスタン、タジキスタン、キルギ

ス(以上が上海ファイヴ)、ウズベキスタン(2001年に加盟)、インド(2017年に加盟)、パキスタン(2017年)(2)オブザーヴァーは、イラン(2023年から正式加盟が決定)、モンゴル(2005年にオブザーヴァー参加)、ベラルーシ(2015年にオブザーヴァー参加)、アフガニスタン(2012年におブザーヴァー参加)、(3)対話パートナーは、スリランカ(2009年に対話パートナー参加)、トルコ(2012年に対話パートナー参加)、アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール、エジプト、カタール、サウジアラビア、(4)対話パートナー参加予定国は、アラブ首長国連邦、ミャンマー、クウェート、モルディヴ、バーレーン、(5)参加申請国は、バングラデシュ、イスラエル、シリア、イラク、(6)客員参加は、トルクメニスタン、独立国家共同体、東南アジア諸国連合となっている。

 このユーラシアを網羅する国際的枠組みに、BRICSのブラジルと南アフリカという資源大国が加わって、中国の人民元を基軸とする国際決済システムを構成すれば、ドルの国際決済システムにおける基軸通貨という地位は脅かされる。ドルの力を使って世界中の国々を従わせるという構造が崩れることになる。そのような状況がすぐに現実化するとは考えにくいが、10年、20年の単位でこのようなことが起きるということも頭に入れておかねばならない。

(貼り付けはじめ)

中国は静かにドルを王座から引きずり降ろそうとしている(China Is Quietly Trying to Dethrone the Dollar

各地域グループと小規模の銀行が整体に対する北京の絶縁を手助けしている。

ゾンユアン・ゾー・ルー

2022年9月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/21/china-yuan-us-dollar-sco-currency/

中国とロシアを中心とする上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganisationSCO)は、ウズベキスタンで開催された首脳会議で、地域通貨(local currencies)による貿易を拡大するためのロードマップを作成することに合意した。現地通貨を貿易に活用し、代替決済システム(alternative payment and settlement systems)を開発するためのロードマップ作りは、上海協力機構の経済計画の一部として何年も前から行われてきた。

このロードマップは、西側諸国による制裁を緩和しようとするロシア、アメリカとの関係を悪化させる中国、ロシアとの貿易で非ドル通貨(nondollar currencies)を利用するインド、そして最近イランが提案した上海協力機構単一通貨(single SCO currency)など、同グループの有力メンバー側の個々の政策と一致するものであった。中国の習近平国家主席は、地域統合(regional integration)による開発赤字(development deficits)の解消、特に現地通貨決済のシェア拡大、現地通貨による国境を越えた決済システムの開発強化、上海協力機構開発銀行(SCO Development Bank)設立の推進を提案した。

習近平主席は、今回の上海協力機構サミットでの演説で、米ドル依存の地政学的リスク(geopolitical risk of U.S. dollar dependence)について公式には触れなかった。しかし、習近平の提案は、ドル覇権(U.S. dollar hegemony)に対する中国経済の脆弱性(vulnerability)に対する中国指導者たちの深い懸念と、ドル覇権のリスクを回避する(hedge)ための代替システムの開発への願望を反映したものだ。

北京は今のところ、人民元(yuan)を国際化した通貨にしようとはしていない。米ドルを退け、国際システムにおける米ドルの支配を人民元に置き換えようとは考えていない。むしろ、中国国内の地方機関や上海協力機構などの地域政府間組織を通じて、人民元を地域的に強力な通貨とするための措置を講じているのである。北京は、中国の国境を越えた貿易決済や投資における人民元の利用を拡大し、ドルへの依存度を下げ、為替リスクやドルの流動性不足を最小化し、地政学的危機の際にも世界市場へのアクセスを維持したいとしている。

中国の脱ドル(China’s de-dollarization)への取り組みは、北京の中央政府だけが行っている訳ではない。地方政府、地方金融機関でも実施されている。その一例が「中露金融連合(Sino-Russian Financial Alliance」」である。2015年10月、中国のハルビン銀行(都市型商業銀行)とロシアのスベルバンク(資産規模でロシア最大の貯蓄銀行)は、非営利の国境を越えた金融協力組織として「中露金融同盟」を発足させた。この連合の主な目的は、中露貿易を支援する効率的なメカニズムを確立し、二国間金融協力を包括的に促進し、二国間決済における現地通貨の使用を促進することだ。この金融連合には、中国の金融機関(中小銀行、保険会社、信託投資会社)18社とロシアの金融機関17社を含む35社が当初から加盟していた。黒龍江省の孫堯(Sun Yao、1963年-)副省長(当時)は、この金融連合の発足に際して、「中国・モンゴル・ロシア経済回廊の発展を促進するための重要なプラットフォームである」と述べた。

ドルを基軸とする国際金融システムとの接点が少ない中国の小規模銀行群は、代替的な支払・決済メカニズムを実践するにはうってつけの存在である。これらの銀行は、ロシア側と連携することで、制裁回避のための脱ドル戦略の実施に習熟する可能性がある。2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、アメリカはロシアの金融機関に制裁を加えたが、ハルビン銀行と黒龍江省は二次的制裁の可能性にも動じないように見える。ハルビン銀行は今年5月、黒龍江省の地方指導者たちの対ロシア金融開放推進の野望を実現するため、「百策(Hundred Measures)」と称する施策を発表した。

アメリカ政府がロシアの銀行群に対する制裁措置を発表したことを受け、中国銀行(Bank of China)や中国工商銀行(Commercial Bank of China)など中国のシステム上重要な銀行群は直ちにロシア企業との取引処理を停止した。しかし、中露金融同盟の中小銀行群は、越境銀行間決済システム(Cross-Border Interbank Payment SystemCIPS)や現金などの代替決済インフラを利用して、ロシア企業の制裁回避を支援することができる。

ハルビン銀行がその良い例だ。中国の、越境銀行間決済システム(CIPS)に直接参加しているハルビン銀行の決済ネットワークはロシア全土を網羅しており、ロシアの銀行や企業にとって国境を越えた人民元決済のハブとして有力な候補となる。航空機だけでなく、トラックによる陸上輸送でロシアに人民元を現金で供給することも、ロシアの制裁回避につながる仕組みだ。こうした仕組みは、2018年以降、黒龍江省の複数の小規模銀行によって開発・拡大されている。ハルビン銀行の地方支店は2019年、ロシアのポルタフカ税関支署に1500万元(約200万ドル)の現金を届けることに成功した。

習近平が上海協力機構の首脳会議に出席したことは、中国の厳格なゼロ新型コロナウイルス政策にもかかわらず、北京が中国主導の地域ブロックとの関与を強化することによって西側の更なる孤立のリスクを回避する準備を進めていることを示唆している。北京は、上海協力機構(SCO)が北京にとって地政学的なクッションになることを期待している。過去20年間、上海協力機構は、より高いレベルの集団的自給自足(collective self-sufficiency)と、世界的な金融・地政学的混乱に対する自己防衛の強化を目指す非西洋的地域地経済圏として静かに成長してきた。

2002年に中国、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国による地域安全保障協力組織(regional security cooperation organization)として発足した上海協力機構(SCO)は、経済、エネルギー、技術といった側面を含むようにそのアジェンダを拡大した。2002年に制定された上海協力機構(SCO)憲章では、経済、貿易、金融、エネルギー、インフラ整備など、安全保障以外の分野での協力も組織の任務とされた。2003年9月、当時6カ国だった上海協力機構は、現在9カ国(2017年にインドとパキスタン、2022年にイランが加盟)に拡大し、「多極的経済・貿易協力に関する要綱(An Outline for Multilateral Economic and Trade Cooperation)」を発表した。この要綱は、経済協力の法的根拠を示し、銀行・金融サービス協力を優先分野として指定した。2013年に中国の「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」が開始されて以来、中国は上海協力機構加盟国へのインフラ投資計画を推進してきた。2015年の上海協力機構ウファ宣言では、上海協力機構加盟諸国が「一帯一路」を支持することが正式に発表され、2つの構想の結合が示された。

上海協力機構(SCO)の枠組みを利用して二国間決済に現地通貨の使用を促進することへの中国の関心は、一帯一路構想が開始された2013年以前からあった。中国の政策立案者たちは、2008年の世界金融危機の後、非ドル建て貿易決済の選択肢を模索した。例えば、2012年の上海協力機構ビジネスフォーラムで、中国の王岐山(Wang Qishan、1948年-)副首相(当時)は、上海協力機構加盟諸国は貿易決済における現地通貨の使用を促進し、二国間通貨スワップを進め、地域金融協力を強化し、新しい融資モデルを開発すべきであると強調した。

2011年以降、中国は上海協力機構の正加盟国(ウズベキスタン、カザフスタン、ロシア、タジキスタン、パキスタンなど)および上海協力機構の遵守・対話パートナー(モンゴル、トルコ、アルメニアなど)と二国間通貨スワップ協定(bilateral currency swap agreements)を締結してきた。これらの二国間スワップ協定は、人民元と相手国通貨建てで、中国人民銀行(People’s Bank of ChinaPBOC)の相手国の中央銀行が自国通貨を暗黙の担保として、比較的低い金利で短期間人民元の流動性を利用できるようにするものだ。このようなスワップ協定は、相手国が人民元建て融資を利用して中国製品の購入を増やすことを後押しする。中国はキルギスと二国間通貨スワップを締結していないが、中国銀行とキルギス共和国国立銀行は、通貨スワップに向けた一歩となる協力強化の意向書に署名している。

中国と他の上海協力機構(SCO)加盟諸国との間の国境を越えた決済における自国通貨の使用は、依然として非常に限られている。しかし、中国が域内で人民元の国際化を推進しているため、その比率は高まっている。その進展は、中露貿易決済において最も顕著となった。張漢暉駐ロシア中国大使は最近、人民元を使った中露貿易決済の割合が2014年から2021年の間に、3.1%から17.9%に増え、477%増になったことを明らかにした。2020年、人民元を使った中露二国間決済の割合は44.92%に達した。これは480億ドルに相当する。

中国は、上海協力機構(SCO)加盟諸国が銀行業務と開発金融で協力し、域内の決済協力を促進することを提唱してきた。2005年10月、上海協力機構の加盟諸国は、国家が出資する投資プロジェクトの資金調達と銀行業務を調整するメカニズムとして、上海協力機構銀行間コンソーシアム(SCO Interbank ConsortiumSCO IBC)を創設した。上海協力機構銀行間コンソーシアムSCO IBC)には、加盟諸国の開発銀行や政策金融機関からなる8つの加盟銀行があり、中国開発銀行(China Development Bank)が最大の融資先となっている。また、上海協力機構銀行間コンソーシアムはグループ外の3つの提携銀行を有している。上海協力機構銀行間コンソーシアムの協力の優先分野の一つは、インフラ整備、基礎・ハイテク産業、輸出志向の文や、社会プロジェクトに対する資金提供である。2014年のドゥシャンベ宣言では、上海協力機構開発基金(特別会計)と上海協力機構開発銀行を創設し、加盟諸国でのプロジェクトを銀行化し、加盟諸国間の金融協力を進めるためのさらなる取り組みが盛り込まれました。2018年以降、中国開発銀行は上海協力機構銀行間コンソーシアムに300億元(43億ドル)相当の特別融資を実施した。今年8月までに、中国開発銀行は他上海協力機構銀行間コンソーシアム加盟銀行や提携銀行とともに、63のプロジェクトに融資し、累計で146億ドルの融資を行い、そのうち約4分の1の251億元が中国開発銀行から提供された。

上海協力機構(SCO)開発銀行の可能性は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなるBRICSにならって、為替リスクと米ドルによる高コストな資金調達を軽減するために、貿易決済と開発資金調達における現地通貨の使用を促進する公式機関を建設する道のりを示唆している。しかし、これはまだ先の話である。この10年近く、首脳会議の度に上海協力機構開発銀行と開発基金(Development Fund)の議論を続ける意思を表明してきたが、まだ具体的な計画には至っていない。

最終的にそのような銀行が設立されるとしても、他の上海協力機構加盟諸国の資本不足と地域全体の資本市場の未発達を考慮すれば、少なくとも当面は中国と中国開発銀行が主要な資金提供者となる可能性が高い。上海協力機構とBRICSの間でアジェンダや制度が収斂していることは、二国間通貨スワップの拡大、貿易や開発金融における現地通貨の利用促進、代替決済システムの開発、そして最終的には各国の米ドル依存度の低減といった問題において、この二つの非西洋連合とそのメンバー間の政策協力を促進するものである。

BRICSと上海協力機構(SCO)の間では、脱ドルに向けての緊密な連携がすでに行われている。ウラジミール・ノロフ上海協力機構事務総長(当時)は昨年、上海協力機構加盟諸国が決済に現地通貨を使用するよう段階的に移行していることを確認した。また、上海協力機構の投資ポテンシャルを十分に引き出すために、アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank)、新開発銀行(New Development Bank)、シルクロード基金(Silk Road Fund)とのパートナーシップを構築することを提案した。

中国は、カザフスタン政府が2018年7月に立ち上げた「アスタナ国際金融センター(Astana International Financial Centre AIFC)」も支援している。アスタナ国際金融センター(AIFC)は、中央アジア、中国西部、コーカサス、ユーラシア経済連合、中東、モンゴル、ヨーロッパの地域金融ハブとして戦略的に位置づけられている。また、カザフスタンはアスタナ国際金融センター(AIFC)を中国とロシアの企業間の契約に関する仲介・仲裁センター(arbitration center)として発展させることを望んでいる。カザフスタンの金融市場が限られていることを考えると、こうした構想は今のところ現実的とは言えない。

より重要なのは、中国西部の新疆ウイグル自治区が、中国と中央アジアを結ぶ国境を越えた決済の中心地として、すでに地域金融のハブとなっていることだ。新疆ウイグル自治区で行われた国境を越えた人民元決済の累積額は、2013年には早くも1000億元(140億ドル)を突破し、2018年には2600億元を超えた。それでも、中国の金融機関が提供するアスタナ国際金融センター(AIFC)への支援は、カザフスタンや北京の利益に沿った他の上海協力機構加盟諸国にインセンティブを与えている。

上海協力機構の枠組みを超えて、中国はBRICSプラットフォームやアジア太平洋地域の他の地域多国間機関を通じて、貿易決済や金融における現地通貨の利用を進めている。例えば、今年2月のG20会合で、中国人民銀行総裁の易綱(Yi Gang、1958年-)は、アジア諸国と協力して貿易・投資における現地通貨の利用を促進し、地域の金融安全保障と外部ショックに対する弾力性(resilience)を強化すると述べた。6月には、中国人民銀行と国際決済銀行(Bank for International Settlements)が、インドネシア銀行、マレーシア中央銀行、香港金融管理局、シンガポール金融管理局、チリ中央銀行の参加を得て、人民元流動性アレンジメント(Renminbi Liquidity Arrangement)を開始した。この取り決めは流動性支援を目的としており、市場の変動時に参加している中央銀行群が利用することができる。

上海協力機構(SCO)は今後、貿易・投資における現地通貨の追求や代替決済システムの開発など、既存メンバー諸国と共通の利益を持つ新規メンバーを加え、拡大していく可能性がある。上海協力機構は、先日の上海協力機構首脳会議で、西側諸国による厳しい制裁に対処し、脱ドル通貨に積極的なイランを9番目の正式メンバーとして迎えたばかりである。イランのエブラーヒーム・ライースィー大統領は、上海協力機構への加盟がアメリカの単独行動主義(American unilateralism)を阻止し、制裁を回避するための手段であることを明らかにした。

現在またもや通貨危機に陥っているトルコは、2012年以来上海協力機構の対話パートナーであり、オブザーバー資格の取得、あるいは正会員としての加入に関心を示している。トルコ中央銀行は2019年に中国銀行と通貨スワップ協定を締結し、2020年には中国との貿易決済に初めてスワップ枠を利用した。トルコの5つの銀行が既にロシアの決済システムを採用している。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とロシアのウラジミール・プーティンも、先日の上海協力機構首脳会議の傍ら、トルコへのロシアのガス供給の25%をルーブルで支払うという合意に至った。

ベラルーシはオブザーバー資格から正式加盟への格上げ申請書を提出し、これもロシアの支持を得た。バーレーン、モルディヴ、アラブ首長国連邦、クウェート、ミャンマーが新たに上海協力機構(SCO)の対話パートナーとなり、エジプト、カタール、サウジアラビアがすでに対話パートナーとして署名している。このように、上海協力機構はアメリカの制裁に直面している、あるいはアメリカの覇権的な力(hegemonic power)やドルによる支配に不満を抱いている主要な天然資源輸出諸国を受け入れていることが示唆される。エネルギーやその他の主要商品の取引において、上海協力機構圏内で非ドル建て通貨がより広く使用されるようになる。

アメリカは長い間、上海協力機構(SCO)の存在と拡大を軽視してきた。上海協力機構の主要メンバーであるロシアと中国との関係は悪化している。アメリカの同盟システムの復活は、中国が先端技術の購入や商品の輸出で依存してきた西側諸国から中国を孤立させる危険性をより高めている。西側諸国からの孤立リスクが高まる中、中国にとっての上海協力機構(SCO)の真の意味は、ロシアとの関係ではなく、西側諸国の孤立が深刻化した場合に、中国の地政学的安全保障のクッションとなるグループ化をいかに実現するかということだ。

この論理は、イランやインドなど西側諸国による制裁に弱い、あるいはドルへの依存度を減らそうとする他のメンバー諸国にも当てはまる。アメリカ政府は、上海協力機構(SCO)加盟諸国が貿易や投資のために代替通貨を共同で追求しようとすることを止めることはできない。しかし、過剰な制裁措置の誘惑に負けることなく、デカップリング(decoupling)を積極的に脅かすのではなく、アメリカの金融市場と中国市場のつながりを強化し、開発途諸国の社会経済成長に資するプロジェクトに資金を提供する米国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation)と米国際開発庁(Agency for International DevelopmentUSAID)の役割を強化することによって、ドルを基軸とするシステムの魅力を向上させることは可能であることは確かだ。

※ゾンユアン・ゾー・ルー:外交問題評議会(Council on Foreign RelationsCFR)国際政治経済担当研究員。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-07-29



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 今回は人民元の世界通貨への道筋に関する記事をご紹介します。世界の主要通貨は米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円だそうで、それに中国人民元が加わるかどうかがこれから数年の動きだそうです。そのためには為替市場による決定とIMFの特別引出権を構成する通貨となることが重要で、中国はそれに向けて努力しているので、それを認めていくことが全員の利益になるということです。

 

 中国の平和台頭と協調社会への動きはこれからも進んでいくでしょうから、それを日本も自国の利益とするように動いて行かねばなりません。「キライキライ」と言っているだけで済んだ時代はもう終わりました。それが現実的な大人の態度と言うものでしょう。

 

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人民元の世界通貨への道筋をつけるべきだ(Make Way for the RMB

―IMFが中国を自陣営に留めたいと望むなら、中国の通貨・人民元をより自由市場による為替決定システムに委ねようとしている中国政府に対して報酬を与えるべきで、そのタイミングは今だ

 

パオラ・サバッチ(Paola Subacchi)筆

2015年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/06/16/make-way-for-the-rmb-china-reserve-currency-imf-sdr-dollar/?utm_content=buffer42919&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

人民元は国際通貨基金(IMF)の特別引出権(Special Drawing Rights)の価値を決定する世界の主要通貨のバスケットに参加するだろうか?中国の通貨・人民元を含むかどうかの決定は、G7諸国にかかっている。これらの国々はIMFにおいて強い影響力を保持している。彼ら自身が自分たちにとって利益になることが分かっているならば、人民元を含むことに賛成するだろう。

 

 これは深い政治的な意図をもった技術的な決定である。人民元がドル、ユーロ、ポンド、円と並んで国際的な主要準備通貨になるための道筋を開くことになる。IMFのクリスティーン・ラガルド専務理事は今年3月、「人民元が国際的な準備通貨になるのは可能性の問題ではなく、その時期の問題になっている」と発言した。今年、もしくは2020年、IMFは特別引出権バスケットの構成を見直す予定である。

 

 現在のところ、人民元をこのバスケットに含むことをためらう理由は存在しない。今年、もしくは少なくとも2016年に人民元をバスケットに含むことで、中国に対して、国際的な通貨・金融共同体において中国が歓迎され、信頼されているのだというメッセージを送ることになる。このメッセージは全ての国々に利益をもたらす。

 

 G7蔵相会議が今月初めにドレスデンで開催された。この時、特別引出権バスケットへの人民元の包含が政治的な理由からどれほど望ましいことであっても、人民元の技術的な評価は、最終決定においてきわめて重要であるという見解を示した。「自由な使用性」のような技術的な基準が評価の基礎になる場合、人民元は含まれない可能性もある。「自由な使用性」とはIMFの専門用語で、ある通貨が世界中のどこでも使えて、両替できるかということである。ドルと違い、中国の通貨・人民元は完全に両替可能な通貨ではない。中国の銀行においては使用者が望むだけの両替ができない通貨なのである。従って、国際的な市場では使いにくい通貨となってしまっている。

 

 IMFは、より有効なアプローチは「国際的な通貨システムにおいてより広範な役割を果たす可能性」を評価し、最近の状況と共に将来に発展について考慮することだと述べている。2010年にIMFは最新の特別引出権の評価を行った。それ以降、中国はいくつかの政策手段を通じて、人民元の国際化を推進した。それらの政策手段の1つとして、中国は香港、ロンドン、シンガポールにおいて人民元決済銀行を設立した。

 

結果として、中国の総貿易の20%以上が人民元で決済されている。5年前にはこの数字はゼロであった。更に言えば、人民元は、ドル、ユーロ、円、英ポンドに続いて現在世界で5番目に国際的な支払いにおいて使用されている通貨である。準備通貨として人民元を保有する中央銀行と公的機関の数もまた拡大している。投資銀行の総保有資産の0.5から1%は人民元で構成されていると推定されている。非中国・人民元建て建債券の発行高は2010年から2014年までの間に1200億ドルにまで増加したと推定されている。それでも人民元建て債券の発行額は主要通貨建てよりも少ない。

 

 中国の中央銀行である中国人民銀行の周小川総裁は4月にワシントンを訪問した。この時、周総裁は「人民元の世界での使用を促進する更なる手段は計画中である」と発言した。より大きな為替率の柔軟性が達成されつつあるが、より大きな柔軟性は、中国当局が経済をより国内需要に集中するという再編を行うことで達成されるだろう。その結果、為替率は管理システムから市場が決定するシステムへと移行するだろう。

 

 今年5月、IMFは人民元が安値ではないと発表し、中国の通貨当局が為替率管理のための介入を減らしていると認めた。対照的に、2010年の段階では、IMFは人民元が安値であると評価し、アメリカ連邦議会は中国の通貨捜査について懸念を持っていた。

 

 IMFは人民元を巡る数々の進歩を認めてはいるが、特別引出権バスケットから人民元を排除するかどうかははっきりしない。議論が続いている分野は資本勘定自由化だ。中国当局は資本の流れは促進されるべきだが、予想外の望ましくないそして過剰な出来事を抑えるためにも、しっかりと監視されるべきだという姿勢を崩していない。これは中国式の資本勘定自由化であり、これを周総裁は「管理された自由化」と表現した。IMFの理事会が「管理された自由化」は、通貨の「完全な使用性」を制限することだと決定するならば、「管理された自由化」は人民元の世界通貨への道筋における障害物となる可能性はある。

 

 両替のしにくさがネックになって人民元が特別引出権バスケットに含まれない可能性があるにしても、最終決定は政治判断によるものと思われる。中国は人民元の承認と特別引出権バスケットへの包含が行われると期待している。そして、これによって中国の通貨は、国際通貨としての承認を得ることになる。ここで重要なのは、人民元が国際金融において力と影響力を持つということだ。人民元の国債通貨としての承認は中国の経済と政治の発展、多国間の通貨と金融システムの活動的なメンバーになるための中国の努力の認識において重要なステップとなるだろう。ノーベル賞受賞者ロバート・マンデルは「偉大な国家は偉大な通貨を持っている」と述べたが、これを敷衍するならば、人民元が国際通貨にならなければ中国の台頭は不完全であるということになる。

 

 幸運なことに、中国と中国を支援する国々にとって、過去の例外事例が重要になってくる。例えば、1981年の特別引出権への包含を検討した際、日本円は「完全な使用性」は持っていたが、完全な両替性を持ってはいなかった。人民元に対しても同じことをすることが良い政治であり、より良く経済を動かすことになる。金融セクターにおける開放に向けた中国の努力、金融改革の進み具合、市場が決定する為替への意向をテストする最良の方法は、中国が行っている人民元を「成長した」通貨にするための努力を支援することだ。

 

 従って、問題は、中国が準備通貨の地位に伴う責務を完全に受け入れることを示す証拠を求めることではない。問題は、中国以外の国々が中国が行っているよき世界市民になるための努力を信頼し、その継続を促進するかどうかということだ。

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


メルトダウン 金融溶解
トーマス・ウッズ
成甲書房
2009-07-3

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