古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

タグ:介入主義

 古村治彦です。

 私はこれまでこのブログで、アメリカの海外介入主義を批判してきた。アメリカの外交政策には大きくはリアリズム(Realism)と介入主義(Interventionism)の流れがあり、介入主義が共和党に流れるとネオコンになり、民主党に流れると人道的介入主義派となる。ジョージ・W・ブッシュ(子)政権時代、ネオコンが政権幹部を独占し、911事件を契機として、アフガニスタンとイラクに侵攻し、それぞれの戦争が泥沼化し、アメリカ軍将兵の議席者が増え、最終的にはアメリカ軍は両国から撤退した。残されたのは不安定な政権による支配だけだった。

下記論考は、カナダで開催されたディベートで、スティーヴン・M・ウォルトが参加して発言した内容をまとめたものだ。ウォルトは『イスラエル・ロビー』の共著者であるシカゴ大学教授ジョン・J・ミアシャイマーと組んで、第一次ドナルド・トランプ政権のCIA長官と国務長官を務めたマイク・ポンぺオ、ジョー・バイデン政権で国務次官を務めたヴィクトリア・ヌーランドのティームと対峙した。テーマは「決議される:怪物を退治しに出かけるな(Be It Resolved: Do Not Go Hunting Monsters)」というもので、カナダ人の聴衆を前にしてディベートを行ったということだ。結果は56対44でウォルトとミアシャイマーのティームに軍配が上がった。

 アメリカは世界各地に資本主義と民主政治体制と西洋的価値観(自由、人権、平等、法の支配など)を拡散する使命を持つというのが介入主義の基本的な前提である。簡単に言えば、「世界各国をアメリカのようにすれば、戦争は起きない、平和になる」ということだ。しかし、それはあくまで理想論に過ぎない。実際には、アメリカが「良かれと思って」介入して「あげて」、民主的な政府を作るまでやってもうまくいかないことが多い。それは「上からの民主化(democratization from above)」でしかなく、根無し草のようなものだからだ。

 アメリカはその力をおせっかいな押し付けに使うべきではない。もう自国内もインフラが老朽化し壊れ始めている(日本も他人事ではない)。国内でその日暮らしの人々が多く、絶望死の増加という状況になっている。国内問題が山積状態であるならば、それに対応するのが当然だ。そして、アメリカは世界支配から静かに少しずつ撤退していくということになるだろう。それがアメリカのためでもあり、世界のためだ。

アメリカ一極支配後は米中G2による世界分割管理路線となる。それぞれの下にG7とBRICSがあり、それらは協調体制を組むべきで、その枠組みがG20となる。こうした中で、中国に対してむき出しの鄭が維新を燃やしている頓珍漢の頭の悪い国がある。それが日本だ。中国に意味もなく喧嘩をふっかける様子は哀れである。国民も政治家もこの点で愚かであると言わざるを得ない。第二次世界大戦、太平洋戦争でもその愚かさで酷い目に遭った。私たちは学ぶことを止め、考えることを止め、再び愚行を繰り返そうとしている。極めて残念なことである。
(貼り付けはじめ)
怪物退治はもう止める時である(It’s Time to Stop Hunting Monsters

-外国への介入(foreign intervention)は破滅的な結果を招いてきた長い歴史を持つ政策だ。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/16/us-intervention-regime-change-hunting-monsters-debate/

5月20日、トロントで開催された「マンク・ディベート(Munk Debates)」主催の公開討論会に参加する機会を得た。私の討論のパートナーはジョン・ミアシャイマーで、対戦相手はマイク・ポンペオ元米国務長官とヴィクトリア・ヌーランド元米国務次官だった。今回の議題は「決議される:怪物を退治しに出かけるな(Be It Resolved: Do Not Go Hunting Monsters)」というものだった。本サイトの読者の皆さんならご想像の通り、ジョンと私はこの方針を支持する立場から議論を展開した。

ライヴストリーミングの視聴パスを購入すれば、討論の全編をご覧いただける。私の冒頭陳述や結びの言葉に関心をお持ちの『フォーリン・ポリシー』誌の読者のために、以下に、イヴェント会場で聴衆に向けて語った内容を一部編集したものを掲載する。

これは、「抑制派(restrainers、レストレイナーズ)」と「十字軍派(crusaders、クルセイダーズ)」の間の論争だ。私たちは皆、アメリカが世界に積極的に関与し(actively engaged in the world)、ルールに基づく秩序(a rules-based order)を支持すべきだと考えている。議論の焦点は、アメリカが他国の政権を打倒して世界を作り変えようとする「十字軍国家」(a crusader state that tries to remake the world by overthrowing other governments)であるべきかどうかという点にある。私たちの対戦相手は「イエス(そうあるべきだ)」と主張し、私たちは「ノー(そうあるべきではない)」と主張している。

私たちの見解では、アメリカはその力を、自国への攻撃を抑止または撃退すること(to deter or defeat attacks on itself)、そして、重要かつ戦略的な地域における勢力均衡を維持すること(to uphold the balance of power in critical and strategic regions)に用いるべきだ。例えば、アメリカが第二次世界大戦に参戦したのは理にかなった判断だった。日本はアメリカを攻撃し、ドイツは宣戦布告を行った。そして日独両国とも、大規模な侵略戦争を遂行する大国だった。冷戦期において、アメリカの指導者たちがソ連を封じ込めるための同盟を構築し、主導したことは正しい判断だった。また、ジョージ・HW・ブッシュ(父)政権が、イラクによるペルシャ湾の支配を防ぐために、イラクをクウェートから排除する取り組みを主導したことも正しかったと考えている。しかし、ブッシュ(父)は抑制的な姿勢を取った。彼は賢明にも、サダム・フセインを打倒するためにバグダッドへ進軍しないという選択をした。一方、息子のジョージ・W・ブッシュは2003年に異なる選択をした。当時、イラクはもはや主要な脅威ではなく、大量破壊兵器も保有していなかったにもかかわらず、進行するという決定を下した。その「十字軍」のような軍事介入がどのような結末を迎えたかは、皆さんのご存知の通りだ。

今夜の決議案は、1821年7月4日に行われたジョン・クインシー・アダムズ元米大統領の有名な演説に基づいている。アダムズは、アメリカが自由の原則(the principle of liberty)の上に建国されたことを強調し、次のように述べた。「自由の基準(旗印)が・・・掲げられた場所、あるいは今後掲げられる場所はどこであろうとも、[アメリカの]心があり、祝福があり、祈りがあるだろう。しかし、アメリカは打ち倒すべき怪物を求めて海外へ進出することはない(Wherever the standard of freedom … has been or shall be unfurled, there will [America’s] heart, her benedictions, and her prayers be. But she goes not abroad in search of monsters to destroy)」。

現代の言葉で言えば、アダムズが説いているのは、アメリカは「体制転換(regime change、レジーム・チェンジ)」を行うために自国の力を行使すべきではないということだ。私たちもこの考えに同意する。なぜなら、民主政治体制(democracy)を推進するために外国の政権を打倒することは、ほとんどの場合、事態を悪化させる結果を招くからだ。他国の政治体制を入れ替えるという行為は、極めて巨大な「社会工学」的試み(a vast social engineering project)であり、通常、我々が十分に理解していない地域で行われる。その典型的な結末は、活気ある民主政体の実現ではなく、混乱、破壊、そして数千人もの罪なき人々の死(chaos, destruction, and thousands of innocent people dead)である。疑いを持つならば、イラク、アフガニスタン、リビアで何が起きたかを見て欲しい。あるいは、イランに対する現在の戦争が、わずか3カ月の間にどれほどの被害をもたらしたかを考えてみて欲しい。

外国の政権を打倒することはまた、「ルールに基づく秩序(a rule-based order)」の基盤である主権の原則(the principle of sovereignty)を損なうことである。もし、自国を攻撃していない政権を転覆させることが許されるなら、他国の領土を奪う行為(ロシアのウラジーミル・プーティン大統領によるクリミア併合や、アメリカのトランプ大統領がグリーンランドに対して行おうとしたことなど)を誰が止められるのか? 気に入らない政権を武力で打倒することが容認されるならば、指導者の暗殺や、数千人の罪なき市民に害を及ぼす制裁の実施、さらには敵の捕虜への拷問さえも正当化しやすくなってしまう。アブ・グレイブ刑務所でのあの写真や、2カ月前にアメリカ軍の空爆で命を落とした約120人のイランの小学生たちのことを思い出してみてはどうだろうか? 私たちが怪物を退治しようと乗り出した結果、私たち自身が怪物のような行いをしてしまうことになるのである。

リアリストとして、私たちが理解しているのは、国家が時に、自らの価値観を妥協せざるを得ない状況に追い込まれるということだ。例えば第二次世界大戦中、アメリカは、より大きな脅威に対処するために、ソ連の独裁者ヨシフ・スターリン(彼は間違いなく「怪物」だった)と同盟を結んだ。しかし、世界を作り変えようと十字軍としての戦いを繰り広げ、その過程で暴力と苦しみ(violating and suffering)を撒き散らすことは、私たちの安全を高めることにも、自由の大義(the cause of liberty)を前進させることにもつながらない。自由を促進するどころか、他者に自らの意志を押し付けることで、私たちはむしろ自由を否定している。しかも、その実行には多くのルールを破る必要があるため、この政策は「ルールに基づく秩序」を支持するという主張の信憑性を失わせ、他国にもルールを破るよう促す結果を招いてしまう。

明確にしておこう。私たちは、アメリカは海外における自由の拡大を支援すべきだと考えている。ただし、それは、他国に人々から反感や恐怖を抱かれる(they resent and fear)ような社会ではなく、他国が憧れ、真似をしたいと思うような社会(a society in our own country that others will admire and want to emulate)を自国で築くことによって成し遂げるべきだ。

具体的に説明しよう。アメリカと韓国は75年にわたる同盟関係にある。1980年代後半まで、韓国は軍事独裁政権(a military dictatorship)の支配下にあり、民主化勢力を暴力的に弾圧し、権力を維持するために拷問(torture)や強制労働(forced labor)、時には虐殺(massacres)さえも行っていた。北朝鮮ほどではなかったにせよ、自由とは程遠い状態だった。アメリカはその政権を打倒しようとしていたか?答えはノー 、そうではなかった。アメリカは、より良い道があることを韓国に納得させるべく、忍耐強く働きかけた。金大中のような民主化運動の亡命者を受け入れ、彼が安全に帰国できるよう手配した。そして、1987年、韓国の人々は自らの力で立ち上がり、軍事支配の終結を求めた。今日、韓国は世界有数の経済大国となり、フリーダム・ハウスの評価によれば、アメリカ以上に民主的な社会となっている。抑制こそが功を奏するのであり、「十字軍」のような介入は機能しない。

結論として、アダムズの考えは正しかったと言える。アメリカが国益を守り、自由を促進し、安定した国際秩序を築く最善の方法は、新たな怪物を退治しようと終わりのない戦いを繰り広げることではなく、自らが良き模範を示すことだ(America can best defend its interests, promote freedom, and foster a stable world order by setting a good example, not by engaging in an endless search for some new monster to slay)。私たちは「十字軍」のような存在になるのではなく、知恵と抑制(wisdom and restraint)を持って力を行使すべきだ。

相手となる参加者たちも冒頭の主張を述べ、続いて正式な反論、そして活発な討論が行われた。私の結びの言葉を述べる番になったとき、私は次のように述べた。

皆さんは今、アメリカの外交政策のあり方をめぐる4人のアメリカ人による討論を聞かれた。最後に、カナダ人の皆さんにもこの問いについて考えていただきたいと思う。カナダは長年にわたり、積極的に国際情勢に関与し、外交を重視してきた。カナダ人は自ら進んでトラブルを起こすことはしないが、第二次世界大戦の際に見せたように、トラブルを押し付けられれば、断固として立ち向かう姿勢を持っている。そして、世界で最も親切な国民の1つとして、その名声は広く認められている。

さて、もし何らかの奇妙な理由で、カナダの指導者たちが怪物退治(to slay monsters)に乗り出すと決めたらどうなるか、想像してみて欲しい。つまり、外国に介入し、その国の指導者を打倒し、自国のような体制に変えようとすることだ。そのためには、はるかに大規模な軍隊と、おびただしい数のスパイが必要になるだろう。多くの新たな敵を作り出すことになり、中にはそうした転換の試みに抵抗する人たちもいるはずだ。そうなれば、国内の安全をより強く懸念せざるを得なくなり、敵に同調する者たちが共同謀議(conspiring)を企てていないか、互いに監視し合う必要も生じるだろう。政府高官は多くのことを秘密裏に行うようになり、真実を隠蔽し、数多くの嘘をついて、自らの行動を正当化するようになるはずだ。

カナダの安全や繁栄とは何ら関係のない理由で、遠い異国の地でカナダ人が命を落とすことになるだろう。「親切な国」という評判の代わりに、他国からは独善的で、他者を裁こうとし、自分たちの拙劣な「聖戦」の犠牲となった罪なき人々の命に無関心な国(self-righteous, judgmental, and indifferent to the lives of the innocent victims of your clumsy crusading)だと見なされるようになるはずだ。たとえ当初は世界をより良くしたいと心から願っていたとしても、気づいたときには、世界は以前よりも疑問に満ち、暴力的な場所になっていることだろう。あなた方が変えようとしていた国々があなた方に似るのではなく、あなた方自身がそうした国々に似てしまっているはずだ。今日私たちが知っているカナダは、永遠に失われてしまう。

もしそのような未来が望ましくないと思われるなら、この決議に賛成票を投じるべきだ。そして、私の国が正気を取り戻し、怪物退治という愚かな試みを放棄して、代わりに「抑制(restraint)」の政策を採用することを願って欲しい。そうすれば、アメリカ人だけでなく、同盟諸国や世界中の人々にとっても、より良い結果がもたらされるはずだ。以上、ご清聴に感謝を申し上げる。

観客たちの投票の結果、56対44で決議案が支持されたということを報告できることを私は嬉しく思う。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ウォルトは現代世界を読み解くために不可欠な主要概念を解説する5つのパートを持つニューズレター・マスタークラス『新しい地政学(The New Geopolitics)』の著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)



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 古村治彦です。

 現在は世界中で過剰さがあふれている。極端さと言っても良いだろう。政治の世界で言えば、ドナルド・トランプ大統領や高市早苗首相がその象徴である。過度なナショナリズム、過度な断定(言い切り)、過度な自己中心、過度な依存が特徴である。有権者にしても、中庸ではなく、過激を求める傾向がある。そのことは日本だけではなく、西側先進諸国において共通の現象になっている。このことはこのブログでも既に紹介した。

※古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ:「20260309日先進西側民主政体国家の有権者は破れかぶれになっているのかもしれない」

https://suinikki.blog.jp/archives/90360730.html

 過剰を求める反対の動きが抑制であり、中庸である。国際関係論ではその考えを持つ人たちを「リアリスト(Realist)」「抑制者(restrainer)」と呼ぶ。ウォルトは「抑制主義」について以下のように書いている。長くなるが、いくつか引用する。「アメリカ外交政策における抑制という考え方は、アメリカの力を用いて民主政治体制、市場経済、法の支配、その他のリベラルな価値観を世界中に広め、できるだけ多くの国をアメリカが支配する国際機関に取り込もうとする、リベラル覇権(liberal hegemony)の大戦略(grand strategy)に反対する形で生まれた。抑制者は、軍事力によって民主政治体制を広めようとするのは無謀な試みであり、他国を脅迫したり威嚇したりすることは通常逆効果となり、敵対国を疑心暗鬼にさせ、同盟国や中立国を敵に変えてしまうと確信している(Restrainers believe that trying to spread democracy with military force is a fool’s errand, and that threatening or bullying other states usually backfires, making adversaries more suspicious and turning allies or neutrals into enemies)。そのため、外交こそがアメリカ・ファーストの行動であり、武力行使は最後の手段(last resort)であるべきだと彼らは考えている」「抑制者は、世界は危険な場所であり、アメリカは一部の国と深刻な利害の衝突を抱えていることを認識しているものの、過剰な軍事費支出や海外での武力行使を正当化するために用いられる、絶え間ない脅威の誇張には反対している」「アメリカが国家安全保障への支出を減らし、依然として大きな力を持っているにもかかわらず、より賢明にその力を行使すれば、より安全で繁栄した国になると考えている」。第一次政権時のドナルド・トランプは抑制主義であったが、現在のドナルド・トランプは全くの別人である。下記論硬はスティーヴン・M・ウォルトによる昨年9月の論稿であるが、現在の状況を警告しているかのようでもある。

 私は昨年の5月頃に第二次ドナルド・トランプ政権における外交政策に大きな転換点があったと考えている。ここで抑制者から介入主義者に変化している。私たちはこのことをより深く研究する必要がある。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプは決して抑制者にはなれない(Donald Trump Will Never Be a Restrainer

-最終判決は下された。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年9月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/09/30/donald-trump-foreign-policy-restrainer-realist-war-defense-diplomacy/

ドナルド・トランプ米大統領が外交政策におけるリアリスト(foreign-policy realist)もしくは、「抑制者(restrainer)」なのかという議論に終止符を打つべき時が来た。確かに、彼の政策決定における気まぐれなアプローチや、言行不一致の傾向は、特に明確な理由もなく極端から極端へと態度を翻す時(ウクライナ問題を参照)には、彼の見解を捉えること(to pin down)を困難にしている。彼の発言や行動の中には、リアリスト・抑制者というレッテル(labels)に合致するように見えるものもあるかもしれないが、彼はリアリスト・抑制者ではない。

私がこの問題を提起するのは、レッテルが重要であり、誰がどのようなアプローチや思想と結びつけられるかによって、様々な考え方や政策提案がどのように受け止められるかが左右されるからだ。公平を期すために言えば、トランプは「永久戦争(forever wars)」への批判、外交政策エスタブリッシュメントへの不信感、裕福な同盟諸国に自衛のための行動を促そうとする姿勢、そして海外におけるリベラルな価値観の擁護への明らかな無関心などにおいて、抑制の提唱者のように聞こえる時もある。(この点において、彼は異例なほど一貫性を見せている。なぜなら、言論の自由や法の支配といった、厄介なリベラルな価値観に対しても、アメリカ国内で同様に敵対的な姿勢をとっているからだ。)要するに、内容ではなくスタイルだけを見れば、トランプはリアリスト・抑制者の典型的なメンバーだと結論づけるかもしれない。

この議論をしているもう一つの理由は、トランプをリアリスト・抑制者とレッテルを貼ることが、時に政治的な得点稼ぎ(to score political points)に利用されることがあるからだ。JD・ヴァンス副大統領のようなMAGA支持者の中には、抑制者というレッテルを受け入れることで、トランプが以前の公約を守り、アメリカが莫大な予算のかかる海外関与に陥るのを防いでいるとアピールする人たちもいる。(トランプ政権1期目には、傲慢なマイク・ポンペオ国務長官も同様の策略を試みたが、説得力はなかった。)対照的に、抑制に反対する人々は、アメリカの外交政策の軍事化(the militarization of U.S. foreign policy)に反対し、世界各地へのアメリカの介入を批判してきた個人や組織(例えば、クインシー責任ある国家運営研究所など)の信用を失墜させるために、トランプにそのレッテルを貼ろうとすることがある。(念のため申し添えておくと、私はクインシー研究所の理事を務めており、時折、同研究所の出版物に寄稿している。)

しかしながら、現時点ではトランプの実績が、この問題を解決する上で重要な手がかりとなる。そのためには、抑制者が何を主張しているのかを明確にする必要がある。そして、その出発点として最も適切なのは、この運動にその名を与えたバリー・ポーゼンの著書『抑制:アメリカの大戦略の新たな基盤(Restraint: A New Foundation for U.S. Grand Strategy)』であろう。さらに、ダリル・プレス、ユージン・ゴールズ、ハーヴェイ・サポルスキーによる初期の論文、クリストファー・レインによる注目すべきエッセイ、そしてジョン・ミアシャイマー、モニカ・トフト、シディタ・クシ、そして私自身による後期の著作も参照すべきだろう。

アメリカ外交政策における抑制という考え方は、アメリカの力を用いて民主政治体制、市場経済、法の支配、その他のリベラルな価値観を世界中に広め、できるだけ多くの国をアメリカが支配する国際機関に取り込もうとする、リベラル覇権(liberal hegemony)の大戦略(grand strategy)に反対する形で生まれた。抑制者は、軍事力によって民主政治体制を広めようとするのは無謀な試みであり、他国を脅迫したり威嚇したりすることは通常逆効果となり、敵対国を疑心暗鬼にさせ、同盟国や中立国を敵に変えてしまうと確信している(Restrainers believe that trying to spread democracy with military force is a fool’s errand, and that threatening or bullying other states usually backfires, making adversaries more suspicious and turning allies or neutrals into enemies)。そのため、外交こそがアメリカ・ファーストの行動であり、武力行使は最後の手段(last resort)であるべきだと彼らは考えている。彼らはアイソレイショニストでも平和主義者でもない。なぜなら、アメリカは主要地域における有利な勢力均衡(balances of power)の維持に貢献する利益を有しており、同盟国は有用ではあるが、責任を果たさせるべきであり、重要な国益を守るためには武力行使が必要となる場合もあり、適切に設計された国際機関は国家間の競争の中でも協力関係を促進できると信じているからである。抑制者は、世界は危険な場所であり、アメリカは一部の国と深刻な利害の衝突を抱えていることを認識しているものの、過剰な軍事費支出や海外での武力行使を正当化するために用いられる、絶え間ない脅威の誇張には反対している。

抑制者はあらゆる問題について意見が一致する訳ではない。例えば、中国に対してより積極的に対抗すべきだと主張する者もいれば、中国の台頭を容認する努力を強化すべきだと主張する者もいる。しかし、彼らは近年の民主党政権と共和党政権下でアメリカの国家戦略を特徴づけてきた、自己中心的で傲慢な姿勢に反対するという点では一致している。何よりも、抑制者は気まぐれな軍事力行使に反対し、アメリカが国家安全保障への支出を減らし、依然として大きな力を持っているにもかかわらず、より賢明にその力を行使すれば、より安全で繁栄した国になると考えている。

それでは、なぜトランプは真の抑制者ではないのか? その理由をいくつか挙げてみよう。

第一に、トランプ大統領はアメリカの国防予算の不必要な増額を依然として支持しており、その額は最近1兆ドルを超え、依然として他のどの国の国防予算をも大きく超えている。さらに悪いことに、彼はこれらの巨額の予算の一部を本来の目的である「外国の脅威からアメリカを守る(defending the United States against foreign dangers)」ことから逸脱させ、国内の架空の敵(fictitious domestic enemies)を追いかけるために流用している。脅威を弱めるどころか、トランプ大統領は国内外の架空の敵を利用して、大統領権限を危険なレヴェルまで拡大することを正当化している。抑制者は長年、過剰な軍事化(excessive militarization)は最終的にアメリカ国内の市民の自由を脅かすと警告してきたが、トランプ大統領は彼らの警告が正しかったことを証明してしまった。

第二に、抑制者は、アメリカはヨーロッパと中東地域における軍事的プレゼンスを縮小し、中東地域ではより公平な姿勢を取るべきだと考えている。トランプ大統領にはこれら両方を行う十分な機会があったにもかかわらず、どちらも実行していない。両地域におけるアメリカのプレゼンスはほぼ変わらず、トランプ大統領は中東地域におけるアメリカの「特別な関係(special relationships)」をさらに強化し、中東地域の敵対勢力との真剣な対話を拒否している。

第三に、トランプ大統領は、際限のない紛争にアメリカ軍地上部隊を投入することには慎重な姿勢を示しているものの、目に見える形ではあるものの戦略的に疑わしい軍事行動に空軍力を行使することには全く抵抗がない。2025年1月に大統領に復帰して以来、イエメンとイランの標的を攻撃し、カリブ海で麻薬密輸に関与していたとされる複数の船舶を軍に撃沈するよう命じた。これらの行動の合法性は疑わしいだけでなく、いずれも重要かつ永続的な戦略的目的を達成する可能性は低い。フーシ派は依然として強硬な姿勢を崩さず、イランは核開発計画を放棄しておらず、数隻の船舶を撃沈すればアメリカへの麻薬流入が減少すると考える者は夢物語を語っているに過ぎない。トランプ大統領の関税政策と並んで、こうした無意味な軍事行動は外交政策における自制とは正反対であり、トランプ政権に今もなお仕えている数少ない真の抑制者たち(彼らは自分が誰であるかを分かっている)が、こうした行動をどう思っているのか、私は疑問に思わずにはいられない。

第四に、トランプ大統領は、抑制者の一部が提唱するように、経済・安全保障に関する諸問題に関して中国と包括的な合意に達することも、また、他の抑制者が主張するように、アジアにおける中国の勢力均衡を図り、地域覇権の確立を阻止するための連合を強化する真剣な努力もしていない。それどころか、トランプ政権は日本、韓国、インドといったアメリカの重要なパートナー国との貿易をめぐって対立を煽り、ジョージア州のバッテリー工場で韓国人労働者を不当に扱うことで韓国との関係をさらに悪化させ、科学技術分野における中国に対するアメリカの競争力を組織的に弱体化させている。

第五に、抑制者、特に超党派を標榜するクインシー研究所のような組織が提唱する重要な提言の1つは、アメリカ外交を活性化させ、軍事力の反射的な行使を控えることである。しかし、以前にも述べたように、トランプ大統領とその側近たちは、準備不足、人員不足、一貫性のない取り組み、そして最終的には失敗に終わる外交交渉の典型例と言えるだろう。トランプ大統領とマルコ・ルビオ国務長官兼国家安全保障担当大統領補佐官は、国務省を骨抜きにし、通常の省庁間協議プロセスを無視し、ガザ地区とウクライナに関する重要な交渉を、明確な資格がなく、潜在的な利益相反を抱える不動産弁護士(スティーヴ・ウィトコフ)に委ねてしまった。彼らがほとんど成果を上げていないのは何も不思議に思うものではないか?

トランプ大統領自身の外交姿勢については、先週の国連総会での彼の全くもって奇妙なパフォーマンスをご覧になることをお勧めしたい。国連が好きであろうと、トランプ大統領を嫌っていようと、彼がそこで見せた光景、そしてそれが我が国とその指導者について世界に何を物語ったのかを知れば、誰もが不快感を覚えるはずだ。トランプは持ち時間15分をほぼ45分も超過し、数十人の世界の指導者たちを前に、支離滅裂で自己憐憫に満ち、虚偽と侮辱に満ちた長時間のスピーチを続けた。この演説は、世界で最も力のある国がこれほど無能な人物の手に委ねられていることに、アメリカの敵対諸国を安堵させ、残されたアメリカの友好諸国を同じ理由で不安にさせたことは間違いない。

従って、トランプは抑制者でもリアリストでもない。もっと適切な表現はいくつかあるが、それらを挙げるには私は礼儀正し過ぎるのかもしれない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 アメリカ外交政策に関しては大きな潮流として、リアリズム(Realism)と介入主義(Interventionism)があるということを私は拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)で書いた。冷戦期、アメリカは自由主義陣営を率い、ソヴィエト連邦率いる共産主義陣営と対峙した。アメリカは、「近代化(modernization)」=「民主化(democratization)」を掲げて、世界各国に介入した。しかし、一方で、アメリカに役立つ国であれば、非民主的な王制や独裁制をも容認するという二枚舌外交を行った。アメリカの介入主義政策は、共和党であればネオコン派、民主党であれば人道的介入主義派が担ってきた。このことも何度も書いてきた。こうした2つの勢力が外交を担った際には、外国への侵攻を行い、結果としてそれが泥沼化して、アメリカの利益が損なわれることになった。そうした外交政策の反発が、「アメリカ・ファースト(America First、アメリカ国内問題解決優先主義)」として噴き出したのだ。

 アメリカのリアリズム外交を代表するのがヘンリー・キッシンジャーとジェイムズ・ベイカーの両元国務長官だ。ベイカーはジョージ・HW・ブッシュ政権下で、第一次湾岸戦争に対処したが、政権内のネオコン派の突き上げ(イラクのクウェートからの撤退だけでなく、イラク国内に侵攻しサダム・フセイン政権を打倒せよ)にも屈せず、イラク国内への侵攻を許可しなかった。アメリカの国益と中東地域の不安定化を考慮しての行動だった。キッシンジャーについてはこれまでもこのブログで何回もご紹介しているが、世界大戦を引き起こさないという考えの下で、アメリカと中国、ロシアを繋ぐ役割を死去するまで続けた。

 今回ご紹介する論稿は、スティーヴン・M・ウォルトの論稿である。ウォルトは、外交の範囲を限定することが重要だと述べている。

スティーヴン・M・ウォルトは、ガザ地区への救援物資輸送のために、アメリカが設置した仮設桟橋の崩壊を例に挙げて、アメリカ政府の人道的な対応の不足を批判している。桟橋の建設はイスラエルの国境を開かせるための象徴的なPR活動に過ぎず、実際には援助物資はわずかトラック60台分しか運ばれなかった。

このことはアメリカの外交政策の信頼性について諸外国に疑問を持たせることになるとウォルトは指摘している。アメリカの外交専門家は信頼性の維持にこだわり、戦略的には重要でない紛争に資源を投入することを正当化している。しかし、過去の失敗から学ばず、アメリカが些細な利害のために無駄な戦争に巻き込まれることが続いている。信頼性を重視するあまり、必要な能力(機能)を無視する傾向があり、その結果、国際的な影響力を失っている。

例えば、ベルリン空輸のように成功することもあるが、アメリカの外交機関が高尚な役割を果たせるか疑問が持たれている。中東和平プロセスや911テロ事件の背景にある政策の誤り、イラク侵攻、金融危機など、アメリカの外交政策の失敗の歴史は長い。

アメリカの外交政策の誤りを修正するには時間がかかり、構造的な問題が存在する。これに対処するためには、アメリカがより抑制的な外交政策を採用し、解決すべき問題の数を減らす必要がある。そうすれば、外交機関が任務を果たしやすくなり、故障率も低下するだろう。アメリカの外交政策がより有能であれば、国際社会からの信頼を得ることができる。これはウィン・ウィンの関係を築くことにつながるとウォルトは結論づけている。

 ウォルトがこのような論稿を書くということは、現在のジョー・バイデン民主党政権の外交は守備範囲を広げ過ぎているということだ。アメリカの実力を超えているということだ。アメリカ国民は、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス紛争への援助に疲れている。「いつまで続けねばならないのか」「もう十分にしてやったではないか」という考えを持つ国民が多い。民主党の大統領選挙候補者に強引に内定してもらったカマラ・ハリス副大統領は、バイデン政権の政策の継続を訴えるだろう。それはつまり、いつまでも戦争を続けるということだ。アメリカがそれで国力を落として衰退していくのは勝手だが、それで世界の不安定さが続くというのは許せないことだ。

(貼り付けはじめ)

バイデン大統領の外交政策の問題点は機能不全であることだ(Biden’s Foreign-Policy Problem Is Incompetence

-アメリカ軍のガザ地区における桟橋の崩壊は、より大きな問題の象徴である。The U.S. military’s collapsed pier in Gaza is symbolic of a much bigger issue.

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年6月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/04/biden-foreign-policy-gaza-ukraine-foreign-policy-incompetence/

ニューヨーク・メッツが球団創設最初のシーズンで、40勝120敗という滑稽なほど無能な成績を残したとき、ケーシー・ステンゲル監督がこう嘆いたのは有名な話だ。「ここにいる誰もこのゲームをプレーできないのか?」 ガザ地区に救援物資を運ぶためにアメリカが建設した仮設桟橋(temporary pier)が崩壊したことを知ったとき、私はステンゲルの言葉を思い出した。ソーシャルメディア上の批評家たちがすぐに指摘したように、この言葉はガザ紛争全体に対するジョー・バイデン政権の対応を象徴する適切な比喩となった。この桟橋の建設は、本質的には、イスラエルに国境を開かせ、人為的な人道的大惨事(man-made humanitarian catastrophe)に直面している市民への十分な救援物資を許可することを、アメリカ政府当局者が望まなかったために行われた、高価な人目を引くための高価なPR活動(PR stunt)であった。この主に象徴的な努力は、荒波が構造物を損傷し、援助物資の輸送が中断される前に、トラック60台分の援助物資を届けることに成功した。修理は現在進行中で、少なくとも1週間はかかると伝えられている。

この残念なエピソードを、より大きな悲劇のほんの一部に過ぎないと考える人もいるかもしれないが、私はこのエピソードが、アメリカの野心と見栄(American ambitions and pretentions)について、より大きな疑問を投げかけていると思う。アメリカの外交専門家たちは「信頼性(credibility)」の維持に執着しているが、それは戦略的に重要でない紛争や公約に莫大な資源を費やすことを正当化するためである。1960年代から1970年代にかけて、アメリカの指導者たちは、南ヴェトナムが本質的な戦略的価値の低いマイナーな国であることを理解していた。しかし、勝利に至らずに撤退すれば、アメリカの持続力に疑念が生じ、信頼性が損なわれ、世界中の同盟国が共産ブロック(communist bloc)に再編成されることになると主張した。もちろん、こうした悲観的な予測は何一つ実現しなかったが、アメリカが些細な利害のために勝ち目のない戦争に巻き込まれるたびに、同じような単純化された議論が繰り返される。

信頼性をやみくもに崇拝する(fetishize)人は、通常、必要なのは十分な決意だけであると考えている。彼らは、アメリカが十分に努力すれば、設定した目標は全て達成できると信じている。彼らは、「勝利はそのコースを維持することだけの問題に過ぎない」と考えるだけだ。しかし、信頼性と影響力を単に意志の問題として考えると、おそらくより重要な別の重要な要素が見落すことになる。その重要な要素とは機能(competence)だ。

アメリカの外交関係を運営する責任を負う主要機関なら、国家安全保障会議、国務省、国防総省、財務省、商務省。各情報・諜報機関、連邦議会の各種委員会はあまり有能ではないとなったら、世界中の人々が私たちからの助言を受け入れ、私たちの指導に従うよう説得することなどできない。例えば、1948年のベルリン空輸(Berlin airlift)は、西側の決意の明らかなシグナルだったが、もしアメリカとそのパートナーが複雑な兵站努力(complicated logistical effort)を成功裏に遂行できなかったら、それは裏目に出ていただろう。地中海に余分な桟橋を建設し、約9日後にそれを崩壊させることは、この時とは、かなり異なるメッセージを送ることになる。

残念ながら、アメリカの外交政策担当の各機関が、アメリカの指導者たちが担ってきた高尚なグローバルな役割を果たせるかどうか、疑問を持たれる理由は十分にある。悲惨なパフォーマンスのリストは、さらに長くなっている。二国家による解決をもたらすと言われた中東の「和平プロセス(peace process)」が、今日の「一国家の現実(one-state reality)」を生み出したこと、1999年のコソヴォをめぐる回避可能であったが複雑に進んでしまった戦争(ベオグラードの中国大使館への誤爆を含む)、911同時多発テロを可能にした政策の誤りと情報諜報の失敗、2003年のイラク侵攻の悲惨な決定、2008年の金融危機、米海軍の一連のスキャンダルと海上衝突事故、審査に合格できず、ほとんど即戦力にならない航空機を購入するなど肥大化した国防調達プロセス(bloated defense procurement process)、制限のないNATO拡大が最終的にどこにつながるかを予想できなかったこと、経済制裁がロシア経済をすぐに崩壊させるというむなしい期待をしたこと、あるいは、2023年夏のウクライナの反攻が失敗する運命にあるという豊富な兆候を見過ごした希望的な観測に基づいた応援などが挙げられる。アフガニスタンやリビアへの介入に失敗したことも加えれば、「屋上屋を重ねているだけだ」と非難されるだろうし、アメリカ連邦下院が道化と化したことについて、私は何も言うつもりはない。

私は、この厄介な羅列を暗唱することに喜びを感じている訳ではないし、ワシントンが時折、重要なことを正しく行ってきたことも承知している。クリントン政権は1999年のカルギル危機(カシミール地方をめぐるインドとパキスタンの紛争)の際、南アジアでの大規模な戦争を回避する手助けをした。ブッシュ政権が始めたアメリカ大統領エイズ救済緊急計画(PEPFARプログラム)は、誰が見ても人道的に大きな成功を収めた。オバマ政権は、イスラム国の短期間の「カリフ体制(caliphate)」を倒した地元勢力を支援した。バイデン政権は、ロシアのウクライナ侵攻への初期対応を効果的に調整した。アメリカの情報諜報機関は、2014年にロシアがクリミアを掌握することを予測できなかったが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が2022年に何を準備しているかを正しく予見していた。

従って、私は、アメリカ政府が全てにおいて失敗していると言っているのではない。

しかし、全体的な記録は残念なもので、私はその理由を解明するため、何年も費やしてきた(そして1冊の本にまとめた)。問題の一部は、アメリカの力と思考能力の低さの、通常では考えられない組み合わせ(unusual combination of power and impunity)にあるのではないかと私は疑っている。アメリカは非常に強力であると同時に、他の地域では考えられないほどに安全であるため、その指導者たちはありとあらゆる愚かなことを行い、その結果のほとんどで、他国に苦しませることができる。また、アメリカが世界中の数十の問題に積極的に対処しようとしない場合、世界全体が崩壊すると考える、愚かな傾向もあり、それが常に米政府に対処しきれないほどの責任を引き受けさせることになる。議題が詰め込まれすぎると、優先順位を設定することが難しくなり、全ての問題に適切な注意を払うことができなくなる。避けられない結果として、多くのことがうまくいかなかったり、まったくうまくいかなかったりすることが起きる。

更に悪いことに、歴代の米大統領は能力よりも忠誠を重視しており、外交政策の専門家たち(エスタブリッシュメント)は、誤りを犯しやすい自分たちの仲間の責任を追及することを嫌がる。その結果、専門家たちは失敗し、破産したアイデアの提供者たちが、自分たちの信用されていない意見を再利用してくれる、シンクタンクやメディアをいつでも見つけることができる。政府高官が辞任することは原則的にめったにない(ただし、中堅官僚が辞任する場合もある)。辞任すると、将来の政権で、高位の職の提供を受ける可能性が低くなるからである。結局のところ、上級補佐官が自分の正しいと思うことを擁護することだけしか行わず、結果として、指導者を当惑させることになる。そんな補佐官を指導者は望むだろうか? また、ホワイトハウスが交代するたびに大規模な人事異動が発生し、新しく任命された担当者が多くやって来るが、彼らはまず連邦上院の人事承認を待ってから何をすべきかを考えなければならない。この状況は、アップル社やGM社が4年ごとに経営陣を無作為に交代させ、会社が順調に機能することを期待するようなものだ。アメリカが適度な外交政策目標を掲げていれば、こうしたことは問題にならないかもしれない。しかし、実際には、ワシントンは、不適格な多数のアマチュアは言うに及ばず、短期労働者を集めて、刻々と変化する組織で、全世界を管理しようとしている。

私は分かっている。毎日出勤して国のために最善を尽くしている何千人もの献身的な政府職員、つまり、上司がレールを逸脱すると公式の「反対意見チャンネル(dissent channels)」を苦情で埋める彼らに対して、私は公平ではない。官僚利権の固定化はそれ自体で問題を引き起こす可能性があるが、外交政策に関する場合は、「魚は頭から腐る(the fish is rotting mostly from the head)」ということになる。これら全てのことにより、アメリカの外交政策を担当する諸機関は、現実的な目標を設定することよりも、崇高な理想を宣言することのほうが得意となり、結果として、その目標を達成することはできないことになる。

しかし、「ドナルド・トランプを再選すればこの問題は解決する」と思うなら、もう一度考えてみて欲しい。トランプ大統領の最初の任期は、外交政策における失敗が延々と続き、アメリカの安全や繁栄を更に高めることはできなかったが、前任者であるバラク・オバマ大統領が世界の多くの地域で享受してきた尊敬と善意を台無しにすることには成功した。トランプが貿易戦争を始めるという不手際をしてしまったために、アメリカ国内で何十万もの雇用が奪われ、定められた目的(アメリカの貿易赤字の削減)を達成することができなかった。トランプ大統領は、自身が全く理解できなかった合意を破棄し、国家安全保障問題担当大統領補佐官4人、国防長官2人、国務長官2人、そして前例のない数のホワイトハウス職員を1期のうちで使い尽くした。明らかに、トランプの元上級補佐官の何人かは、現在彼を最も著名に批判している人物の中に含まれている。

そして忘れてはいけないのは、この大統領のビジネスキャリアは、詐欺、終わりのない訴訟、そして度重なる破産に満ちていたということだ。日光と漂白剤が新型コロナウイルスを治すかもしれないと考えた人でもある。北朝鮮の金正恩に一対一の首脳会談の機会を与え、その対価として、何もないもの(bupkis)を手に入れた人物、そして、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と当時の中米ロシア大使セルゲイ・キスリャクがホワイトハウス訪問中に、誤って機密情報を漏洩した人物である。外交政策に関するトランプの見解は、ワシントン政治内部(inside-the-Beltway)の正統性からの新たな脱却だったかもしれないが、パリ気候協定からの離脱、イラン核合意の破棄、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱といった彼の最も重大な行動は即座に、アメリカの重要な利益に対する永続的な損害をもたらした。そして、そう、トランプはまた、2020年の選挙を覆そうとして、もし大統領執務室で二度目のチャンスを得られたら、憲法の一部を廃止することについても語っている。トランプの2期目がアメリカ外交政策の更なる成功をもたらすと考えている人は、トランプがどれほど無能な指導者だったかに注目していないか、単に忘れているかのどちらかだ。

アメリカの外交政策の仕組みは誤りを犯しやすい構造になっている。これを修正するには長い時間がかかるだろうし、そもそもそれが可能なのかと時々疑問に思う。これが、私がより抑制的な外交政策を支持する理由の1つであり、アメリカの世界への関与を維持しながら、アメリカ政府が解決する義務があると感じている問題、課題、責任の数を減らす政策となる。もしアメリカがやるべきことを減らそうとするならば、我が国の外交政策担当の諸機関がその任務を遂行できるかもしれない。故障率は現在よりも低くなり、国内ではより多くのリソースを問題解決に充てることができるようになるだろう。アメリカがそれほど野心的ではないが、より有能な外交政策を採用すれば、世界中の一部の主要国は喜ぶだろうし、それによってアメリカの残りの約束がより信頼できるものになるだろう。私にとっては、それがウィン・ウィン(win-win)の関係になるように思えてならない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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 古村治彦です。

 アメリカの国力低下と中国の台頭という現象が起きている。これは世界の構造が大きく変化していくことを示している。私たちは西洋近代600年の支配構造が変容し、新たな世界になっていく道筋の入り口に立っていると言える。国際政治におけるアメリカの地位と影響力は低下し、中国の存在感は増大し続ける。アメリカと中国は多くの面で違いがあるが、外交政策においてはその違いは顕著である。以下の、ウォルトの論稿ではその違いについて、以下のように主張している。

中国は外交政策で国家主権を強調し、他国とビジネスライクな関係を維持している。一方、アメリカは普遍的な自由価値観の推進者としての立場を取り、民主政体を広める使命を持つと信じている。アメリカの外交政策はしばしば他国の人権や民主化を重視し、中国の現実的アプローチから学ぶ必要性がある。このような中で、アメリカは自己の基準に合致しない場合もあり、これにより偽善の非難を受けやすい状況にある。結論として、中国の成功とアメリカの失敗から学び、他国の間違いだけでなく正しい点からも教訓を得るべきである。

 アメリカは介入主義的な(interventionist)外交政策を推し進め、アメリカの価値観を拡散することで、世界の秩序を維持しようとした。中国は現在、内政に干渉することを控え、中国の価値観を押し付けるようなことはしていないし、そもそもそれは不可能である。アメリカは超大国として介入主義的な外交政策を実行するだけの国力を維持してきたが、中国はそこまでの余裕がない。しかし、そうした制限がかえって、中国の外交政策を抑制的なものにしている。アメリカは国力の低下もあり、海外への介入や関与はこれまで通りにはいかない。それが苛立ちを招いているが、アメリカ国民の多くは、「これまで外国には十分にしてやった。これからはアメリカ国内の疲弊している地域を建夫なすことに注力すべきだ」という考えになっている。アメリカはこれから、抑制的な外交政策を採用しなければならない。そのために中国から学ぶべきというのが下の論稿の趣旨だ。

 バラク・オバマ元大統領が世界の警察官を辞めると発言して10年近く経過した。その後、ドナルド・トランプ大統領が出現し、アメリカは世界で戦争を行わなかった。トランプ大統領については賛否両論激しいが、この点は評価すべきだ。世界構造は、アメリカ一極から米中二極へと転換していくことが予想される。そして、長期的に見れば、非西洋の、グローバルサウスが世界の中心になっていく更に新たな世界構造になっていく。そこでは様々な価値観が共存していくことが必要となる。日本はこれから、「アメリカ中心」「西洋中心」=アメリカの属国をしていれば安心という構造の価値観外交から脱却していく必要がある。

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アメリカが中国から学べるもの(What the United States Can Learn From China

-中国の台頭の中で、アメリカ人は中国政府が何を正しく行っているのか、そして何を間違っているのかを問うべきである。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年6月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/20/united-states-china-rise-foreign-policy-lessons/?tpcc=recirc_trending062921

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北京の八一ビルで協定書に署名した後、握手するアメリカ統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード大将と中国人民解放軍房峰輝総参謀長(2017年8月15日)。

どのような競争の分野でも、ライヴァルたちは常により優れた結果を得ようと努力する。彼らは、自分たちの立場を改善する革新的なものを探しており、敵対して効果があるように見えるものは何でも真似しようと努める。この現象は、スポーツ、ビジネス、国際政治でも見られる。模倣するということは、他の人がやったこととまったく同じことをしなければならないという意味ではないが、他の人が恩恵を受けてきた政策を無視し、適応することを拒否することは、負け続ける良い方法だ。

今日、中国とより効果的に競争する必要性は、おそらくほぼ全ての民主党と共和党の政治家たちが同意する唯一の外交政策問題である。この合意がアメリカの国防予算を形成し、アジアにおけるパートナーシップを強化する取り組みを推進し、ハイテク貿易戦争(high-tech trade war)の拡大を促進している。しかし、中国について警告を発する専門家たちの大合唱は、アメリカの技術を盗み、以前の貿易協定に違反したとして中国を非難することは別として、中国がこれを成功させるのに役立った、より広範な措置を考慮することはほとんどない。もし、中国が本当にアメリカの利益を奪っている(eating America’s lunch)のであれば、アメリカ人は中国政府の何が正しくて、アメリカの何が間違っているのかを自問すべきではないだろうか? 中国の外交政策へのアプローチは、ワシントンの人々に有益な教訓を提供するだろうか?

確かに、中国の台頭の大部分は純粋に国内の改革によるものだ。世界で最も人口の多いこの国は常に巨大な権力の潜在力を秘めていたが、その潜在力は深い内部分裂や誤ったマルクス主義の経済政策によって、1世紀以上にわたって抑圧されてきた。ひとたび国の指導者たちがマルクス主義(レーニン主義ではない!)を捨てて市場を受け入れると、この国の相対的な力が急激に増大することは避けられなかった。そして、インフレ抑制法やその他の措置を通じて国家産業政策(national industrial policy)を策定しようとするバイデン政権の取り組みは、いくつかの主要技術で優位に立とうとする中国の国家支援による取り組みを模倣しようとする遅ればせながらの試みを反映していると主張する人々もいるだろう。

しかし、中国の台頭は、国内改革や西側諸国の無頓着(complacency)だけによるものではなかった。更に言えば、中国の台頭は、外交政策への広範なアプローチによって促進されており、アメリカの指導者たちは、それについて熟考するのがよいだろう。

まず、最も明らかなことは、中国がアメリカを何度も陥れてきた、高コストの泥沼を回避してきたことである。中国政府は、その力が増大しているにもかかわらず、海外で高額の費用がかかる可能性のある約束を引き受けることに消極的だ。例えば、イランを守るため、あるいはアフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアのさまざまな経済パートナーを守るために戦争をするという約束はしていない。中国は、ロシアに軍事的に価値のある軍民両用技術(militarily valuable dual-use technologies)を提供している(そしてその対価として高額の報酬を得ている)が、中国はロシアに強力な武器(lethal weaponry)を送ったり、軍事顧問団(military advisors)を派遣するかどうか議論したり、ロシアの戦争勝利を支援するために自国の軍隊を派遣することを検討したりしている訳ではない。中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーティン大統領は「制限のない(no-limits)」パートナーシップについて多くのことを語るかもしれないが、中国はロシアとの取引において厳しい取引を続けており、最も顕著なのはロシアの石油とガスを格安で入手することを要求していることである。

対照的に、アメリカは外交政策の泥沼状態(quicksand)に対する、間違いを犯さない本能を持っているようだ。

独裁者たちを追い落とし、アフガニスタン、イラク、リビアなどに民主政治体制を輸出するために何兆ドルも費やしていないにもかかわらず、決して守る必要のない安全保障を世界中の国々に拡大し続けている。驚くべきことに、アメリカの指導者たちは、また別の国を守るという任務を引き受けるたびに、その国が戦略的価値に限界がある場合や、アメリカの利益を促進するのにあまり貢献できない場合でも、それをある種の外交政策の成果だと今でも考えている。

アメリカは現在、歴史上かつてないほど多くの国々を防衛することを正式に約束しており、これら全ての約束を守ろうとしていることは、なぜアメリカの国防予算が中国よりもはるかに大きいのかを説明するのに役立つ。中国の支出と、私たちの活動との差が毎年5兆ドル以上もある中で、アメリカが何をできるか想像してみて欲しい。もし全世界を取り締まろうとしていなければ、おそらくアメリカも中国と同様に世界クラスの鉄道、都市交通、空港のインフラを整備でき、財政赤字も低く抑えられていたはずだ。

これは、NATOを離脱し、アメリカの全ての約束を破棄し、「アメリカ要塞(Fortress America)」の内側に撤退することを主張するものではないが、新たな約束を延長することについてより賢明であり、既存の同盟諸国がその役割を果たすべきであると主張することを意味する。世界中の何十か国を守ると誓わなくても、中国がより強くなり影響力を増せるのであれば、なぜアメリカにそれができないのだろうか?

第二に、アメリカとは異なり、中国はほぼ全ての国々とビジネスライクな外交関係を維持している。他のどの国よりも多くの外交的な目的を持ち、大使のポストが空になることはめったになく、成功した大統領候補のために資金を集める能力を主な資格とする素人ではない、外交官たちはますますよく訓練された専門家になっている。中国の指導者たちは、外交関係は他人の善行に対する報酬ではないことを認識している。彼らは情報を入手し、中国の見解を他国に伝え、強引さ(brute-force)ではなく説得(persuasion)によって、自国の利益を推進するために不可欠なツールである。

対照的に、アメリカは依然として、対立している国々からの外交承認を保留する傾向があり、それによって彼らの利益や動機を理解することがより困難になり、我が国の利益や動機を伝えることがより困難になっている。アメリカ政府は、イラン、ベネズエラ、北朝鮮の政府と定期的に意思疎通ができれば有益であるにもかかわらず、これらの政府を公式に承認することを拒否している。中国はこれら全ての国ともちろん対話しており、アメリカの最も緊密な同盟国全てとも対話している。私たちも同じようにすべきではないだろうか?

中国は、例えばイスラエルやエジプトなど、アメリカと緊密な関係にある国を含む中東のあらゆる国と外交関係や経済関係を持っている。対照的に、アメリカはイスラエル(そしてエジプトとサウジアラビアとはある程度)と「特別な関係(special relationship)」を持っており、それはイスラエルが何をするにしても、イスラエルを支持することを意味する。一方、イランやシリア、イエメンの大部分を支配しているフーシ派との定期的な接触はない。アメリカの地域パートナーは、アメリカの支援を当然のことと考えており、アメリカがライヴァルに手を伸ばすかもしれないと心配する必要がないため、アメリカの助言を頻繁に無視している。その好例は次のようなものだ。サウジアラビアは、ロシアや中国と良好な関係を維持しており、暗黙の脅威(tacit threats)を利用して、ワシントンからますます大きな譲歩を引き出そうとしているが、アメリカ政府当局者たちは、その見返りとして、同様の勢力均衡政治(balance-of-power politics)のゲームを決してしようとはしていない。この非対称的な取り決めを考慮すると、サウジアラビアとイランの間の最近の緊張緩和を支援したのがワシントンではなく北京であったことは驚くべきことではない。

第三に、中国の外交政策に対する一般的なアプローチは国家主権(national sovereignty)を強調することである。つまり、全ての国が自国の価値観に従って自由に統治すべきであるということだ。中国とビジネスをしたいのであれば、中国が国の運営方法を指図してくるのではないかと心配する必要はない。また、中国の政治制度と異なる場合に制裁を受けるのではないかと心配する必要もない。

対照的に、アメリカは自らを、一連の普遍的で自由な価値観の主要な推進者であると考えており、民主政体を広めることが世界的な使命の一部であると信じている。いくつかの注目すべき例外を除いて、アメリカはしばしばその力を利用して、他国に人権を尊重し民主政体に向けてより努力させるよう努めており、時には他国が人権を尊重し民主政体に向けてさらに努力すると誓約することを支援の条件とすることもある。しかし、世界の国々の大多数が完全な民主政体国家ではないことを考えると、多くの国が中国のアプローチを好む理由は簡単に理解できる。特に、中国が自国に具体的な利益を提供している場合にはそうだ。米財務長官を務めたラリー・サマーズは次のように述懐している。「発展途上国の誰かが私にこう言った。『私たちが中国から得られるものは空港だ。アメリカから得られるのはお説教だ。あなたが悔い改めない独裁者、または完全とは言えない民主政体国家の指導者なら、どちらのアプローチがより魅力的だと思うか?』」。

事態をより悪化させているのは、アメリカが道徳的な姿勢(moral posturing)を貫く傾向であり、そのため、アメリカ自身の基準を満たさない場合には、常に偽善(hypocrisy)の非難を受けやすい状態にある。もちろん、どんな大国もその公言する理想を全て実現することはできないが、国家が独自に高潔であると主張するほど、それが達成できなかった場合のペナルティは大きくなる。ガザ戦争に対するジョー・バイデン政権の、常識外れの、戦略的に支離滅裂な対応ほど、この問題が顕著に表れた場所はない。双方が犯した犯罪を非難し、戦闘を終わらせるために、アメリカの影響力を最大限に活用する代わりに、アメリカはイスラエルが復讐に満ちた残忍な破壊活動を行うための手段を提供し、国連安全保障理事会でそれを擁護し、却下した。大量虐殺(genocide)の証拠が豊富にあり、国際司法裁判所と国際刑事裁判所の首席検察官の両方が厳しい評価を下しているにもかかわらず、大量虐殺のもっともらしい容疑がかけられている。そしてその間ずっと、「ルールに基づいた秩序(rule-based order)」を維持することがいかに重要かを主張している。これらの出来事が中東やグローバルサウスの多くの地域におけるアメリカのイメージに深刻なダメージを与えていること、あるいは中国がそれらの出来事から利益を得ていることを知っても、誰も驚かないはずだ。注目すべきことに、アメリカ政府当局者たちは、この悲劇に対するアメリカの対応が、どのようにしてアメリカ人をより安全にし、より豊かにし、あるいは世界中でより賞賛されるようになったのかを説明する明確な声明をまだ発表していない。

重要なのは、中国がアメリカの主要なライヴァルとして台頭したのは、その潜在的な力をより効果的に動員することによってもあるが、海外への関与を制限し、アメリカの歴代政権が被ってきた自傷行為(elf-inflicted wounds)を回避することによってでもあった。だからといって、中国の記録が完璧だと言っているのではない。習近平国家主席が平和的な台頭に関する政策(policy of rising peacefully)を公然と放棄したのは間違いで、習の非常に国家主義的な「戦狼」外交(nationalistic “wolf warrior” diplomacy)は、これまで中国政府との緊密な関係を歓迎していた国々を遠ざけた。大騒ぎされている一帯一路構想は、よく言っても玉石混交で、善意と怒りの両方を生み、中国政府が回収に苦労するであろう巨額の負債を生み出している。ウクライナにおけるロシアに対する暗黙の支持は、ヨーロッパでのイメージを傷つけ、各国政府に経済統合の緊密化からの撤退を促しており、また、国家主権の原則に対する想定されている約束を常に守っている訳ではない。

しかし、中国の台頭を深く懸念しているアメリカ人は、中国政府が何をうまくやって、何をワシントンがうまくやらなかったかを反省すべきだ。ここでの皮肉を見逃すのは難しい。中国は、アメリカが以前に世界超大国の頂点に上り詰めたのを模倣する部分もあり、急速に台頭してきた。誕生したばかりのアメリカには、肥沃な大陸、まばらで分断された先住民族、そして 2つの広大な海による保護など、多くの生来の利点があり、国外でのトラブルに巻き込まれず、国内で権力を築くために、それらの資産を活用した。アメリカが外国と戦ったのは 1812年から1918年の間に2度だけであり、それらの戦争の相手国 (1846年のメキシコと1898年のスペイン) は、重要な同盟国を持たない弱小国家だった。そして、ひとたび大国になると、アメリカは他の大国が互いにバランスを保てるようにし、可能な限り紛争から遠ざかり、両世界大戦での被害を最小限に抑え、「平和を勝ち取った(won the peace)」。中国も1980年以来同様の経過をたどっており、これまでのところ大きな成果を上げている。

ドイツのオットー・フォン・ビスマルク首相はかつてこう述べた。「自分の間違いから学ぶのは愚か者だけだ。賢者は他人の間違いから学ぶ(Only a fool learns from his own mistakes. The wise man learns from the mistakes of others.)」。彼の発言は修正される可能性がある。賢明な国は、他国の間違いからだけでなく、彼らが行ったこと正しいことからも学ぶ。アメリカは中国のようになろうとすべきではない(とはいえ、ドナルド・トランプ元大統領は明らかに一党独裁体制[one-party system]を羨んでいるが)が、世界の他の国々に対する中国のより現実的で利己的なアプローチから何かを学ぶことはできるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカ大統領選挙の話題ばかりで恐縮だがもう少し続く。大統領選挙討論会において、アメリカ国内に居住していない外国人にとって、アメリカ国内政策よりも、外交政策の方により関心が向くのは当然のことだ。アメリカの大統領を決める選挙の討論会なので、アメリカ国内に住むアメリカ人有権者の関心の高い問題に多く時間が割かれる。

移民問題や関税はどちらにも関わる問題であるが、それ以外にも、今回の討論会では、ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス紛争、対中国、同盟関係についての言及があった。興味深いのは専門家たちからすれば、「トランプ、バイデンの外交政策に関しては、これまでのどの討論会よりも、両者の隔たりが大きく、どのような議論の展開になるか予想がし易い」ということであった。そして、実際に予想通りの展開になった。

 これは、トランプがアメリカ国内問題優先主義(isolationism)・リアリズム(realism)を基盤とし、バイデンが国際主義(globalism)・介入主義(interventionism)を基盤としているからだ。それが明白であるため、「このように考える、このように答える」と予測するのが簡単だ。

 そして、バイデン政権がウクライナ支援に前向きで、イスラエル支援には制限をかけるということもあり、トランプはウクライナ支援には後ろ向き、イスラエル支援には積極的ということがある。トランプは、ウクライナ戦争について、「ヨーロッパの揉め事はヨーロッパで解決せよ、アメリカを巻き込むな」というアメリカ国内問題優先主義的であるが、イスラエル支援には積極的である。これは女婿ジャレッド・クシュナーとイヴァンカがユダヤ教徒であるということも大きく、また、ベンヤミン・ネタニヤフとも近しい関係にあるためだ。また、パレスティナ国家樹立に反対しいているということもある。トランプの、これまでのアメリカの介入主義的な外交政策一辺倒な姿勢に対する批判は大きな説得力を持つ。

 興味深いのは、対中国に関して、トランプ、バイデン共に違いがないということだ。トランプが始めた対中貿易戦争(関税引き上げ合戦)による高関税をバイデン政権も持続している。中国製の電気自動車(EV)には100%の関税をかけている。共和党の伝統で言えば、関税を引き上げるというのはあり得ないことだった。

 トランプが所属する共和党は自由貿易を志向し(これで資本家が儲かるようにする)、バイデンが所属する民主党は保護貿易を志向する(これで労働者の雇用を守る)というのが、これまでの伝統的な動きだった。アメリカの主要な輸出品目である農産物を生産している農家は関税引き上げを望まない、自由貿易主義志向で、共和党の地盤だった(アメリカの農業には競争力があり、それに加えて補助金ももらえる)。共和党は経営者や中小企業、農業の個人事業主の政党であった。

それがトランプの登場によって、共和党が白人の学歴の高くない労働者の党へと移行しつつある。民主党は、元々が五大湖周辺やアパラチヤ山脈地方の自動車工場や製鉄所の労働者たちの政党であったが、都市部のリベラルでホワイトカラー、エリートたちの政党となっている。その変容に不満を持った白人労働者たちの支持をかっさらったのがトランプだった。簡単にまとめると、元々は「共和党は金持ちの党、民主党は貧乏人の党」だったものが、1990年代以降に大きく変容し、2010ネ年代に「共和党は貧乏人の党、民主党は金持ちの党」ということになった。

 今回の討論会に関しては、何よりもバイデンのパフォーマンスの酷さが注目を集めることになったが、中身について見ていけば、アメリカの外交政策の大きな流れを理解するための良い材料になるものでもあった。

(貼り付けはじめ)

トランプ・バイデン討論会での外交政策に関する重要な瞬間(Key Foreign-Policy Moments From the Trump-Biden Debate

-候補者2人は、ウクライナでのロシアの戦争、イスラエル・ハマス戦争、移民、アメリカのグローバルイメージについて衝突した。

リシ・イエンガー、クリスティーナ・リュー

2024年6月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/28/biden-trump-debate-foreign-policy-border-russia-israel-gaza-china/

4年前の大統領選において、ドナルド・トランプ元大統領とジョー・バイデン大統領は、討論会の舞台で数回対戦したが、外交政策についてはあまり言及されなかった。しかし、木曜日の夜に行われた今年の選挙戦の最初の対決では、アメリカ政府が重大な利害関係を持っている2つの大規模な戦争と、中国との激化する大国間競争を背景にしているため、回避するのは難しかった。

テキサス大学オースティン校のジェレミ・スリが討論会に先立って本誌への寄稿で書いたように、トランプとバイデンは、ワシントンの国際関係へのアプローチにおいて、最近の歴史におけるほとんどの大統領候補者よりも隔たりがあり、バイデンは、アメリカの世界的な地位と伝統的な同盟諸国との関係(America’s global standing and relationship with traditional allies)の回復(restore)を目指している。一方、トランプははるかにアメリカ国内問題解決優先主義的な(isolationist)教義を支持している。

討論は依然として、インフレや高額な保育費などの経済やオピオイド危機などの国内問題が大半を占めていたが、ウクライナにおけるロシアの戦争、イスラエル・ハマス戦争、移民は大きな注目を集めた。驚くべきことに、両候補者は中国について質問されなかったが、アメリカ経済や、トランプ大統領が多くの中国からの輸入品に課し、バイデン大統領もほぼ維持している高関税の影響について議論する際に、自ら中国について簡単ではあるが取り上げた。

木曜日の夜、候補者2人が、現在ワシントンが直面している主要な外交政策問題について、ステージ上で語った内容は次のとおりだ。

(1)ロシアとウクライナにおける戦争(Russia and the war in Ukraine

バイデンとトランプは、ロシア・ウクライナ戦争に関するアメリカの立場、キエフに対するアメリカの援助範囲、NATOへのアメリカの貢献などを巡って激しく衝突した。

バイデン政権下で、アメリカはウクライナの戦争努力を強力に支援しており、2022年にモスクワがウクライナへの本格的な侵攻を開始して以来、キエフに約1750億ドルの軍事援助を提供している。バイデンはその立場を擁護する一方で、キエフへの国際的な支援を集めるにあたって、アメリカを世界的なまとめ役であると位置づけた。「私が呼び掛けて、日本や韓国を含む世界50カ国がウクライナを支援している」と述べた。

トランプは、バイデンが「ロシアに侵攻を推奨した(encouraged Russia” to invade)」と根拠もなく示唆し、バイデン政権が2021年5月にアフガニスタンから撤退した混乱の結果として信仰が起きたことを描写しようと努めた。トランプは次のように述べた。「バイデンのアフガニスタンへの対処があまりにも酷く、ひどい恥晒しとなった。もし本物の大統領、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に尊敬される大統領だったら、プーティンはウクライナに侵攻しなかっただろう」。

トランプは2期目に当選した場合、就任式前にロシアとウクライナ間の戦争を「解決する(settle)」と誓ったが、その方法については何の説明もなかった。トランプはまた、国防費目標を達成できていないNATO加盟諸国に対し、ロシアは「何をやってもいい」との以前の脅しに加えて、NATOを激しく非難した。「私たちは全員の請求書を支払っている」とトランプは述べた。

トランプ大統領は、バイデン政権の姿勢はアメリカを新たな戦争に追い込むだろうと宣言した。「彼は私たちを第三次世界大戦に追い込むだろう。私たちは誰もが想像する以上に第三次世界大戦に近づいており、彼は私たちをそこに追い込むだろう」とトランプは語った。

バイデン氏はこうした発言に反発した。「あなたは、第三次世界大戦を望むのか? トランプを勝たせて、プーティン大統領にNATOに対してやりたいことは何でもするように言わせてみよう」とバイデンは語った。

(2)イスラエルとガザ地区での戦争(Israel and the war in Gaza

予想通り、両候補とも、程度ややり方は異なるものの、全面的にイスラエルを支持した。

バイデンは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がイスラエルとハマスの紛争を解決するという自身の計画を支持していると述べ、バイデンがイスラエルに対して供与を否定している唯一の武器は2000ポンド爆弾だと繰り返し述べ、ワシントンがイスラエルを十分に支援していなかったというネタニヤフ首相の非難をかわした。この爆弾は、「人口密集地ではうまく機能しない」し、「多くの人が殺される」と述べた。

バイデンは、「戦争継続を望んでいるのはハマスだけだ。過激派組織ハマスは「大幅に弱体化(greatly weakened)」しており「殲滅されるべき(should be eliminated)」と付け加え、イスラエルは「人口密集地では注意(careful in populated areas)」する必要があると警告した。

トランプ大統領はこれら両方の考えに水を差し、「実際のところ、イスラエルは継続を望んでいる」と述べ、「私たちは彼らに任せて、彼らに仕事を終わらせるべきだ」と付け加えた。トランプはまた、バイデンのイスラエルへの支持が控え目だとされる点について、「彼はパレスティナ人のようになってしまった」と、激しい言葉遣いの、特徴的に誇張的な非難を行った。

トランプ大統領がホワイトハウスにいたら、プーティン大統領はウクライナに侵攻しなかっただろうという以前の主張を繰り返し、もしトランプが当時大統領だったらハマスはイスラエルを攻撃しなかっただろうと主張した。

司会者のダナ・バッシュからパレスティナ国家樹立を支持するかとの質問に対し、トランプ大統領は「様子を見なければならない(have to see)」とだけ答え、すぐにバイデンのNATOとの関わりについての批判に戻った。

(3)アメリカのグローバルイメージ(America’s global image

両候補は、世界におけるアメリカの地位の低下が認識されているとして互いに非難した。

トランプ大統領は、アメリカのアフガニスタンからの無秩序な撤退について繰り返しバイデンを攻撃し、それを「我が国の歴史の中で最も恥ずかしい日(the most embarrassing day in the history of our country)」と呼び、一時は「アフガニスタンの恐怖ショー(Afghanistan horror show)」と呼んだ。

トランプは、「この男のリーダーシップの下でアメリカの評判に起こったことは酷いものだ」と述べた。

バイデンはトランプがNATOからの脱退を望んでいると非難し、トランプがこれまでヴァージニア州シャーロッツビルの極右デモ参加者やアドルフ・ヒトラーさえも支持し称賛してきたことがアメリカの世界的評判を低下させたと主張した。バイデンは「この男にはアメリカの民主政治体制の感覚がない(This guy has no sense of American democracy)」と語った。

バイデンは後に、アメリカの世界的イメージについてのトランプ大統領の破滅的な発言を激しく非難した。バイデンは「どういうわけか私たちは失敗している国だという考えについて、大統領がこのように話すのをこれまで聞いたことがない。私たちは世界の羨望の的だ」と述べた。

(4)中国(China

今回の討論会の最大の驚きは、アメリカにとって最大の世界的ライヴァルに関する議論が比較的少なかったことだろう。司会者は主に、ウクライナとガザの紛争、そしてアメリカとヨーロッパ、NATOとの関係に外交政策の質問を集中させた。

その理由の1つは、対中政策に関してはおそらく他のどの外交政策問題よりもトランプとバイデンの接近が近いことだろう。バイデンはトランプ政権下で始まった中国に対するタカ派姿勢を継続し、場合によってはより強化し、トランプ大統領が中国からの輸入品に課した関税の多くを維持し、特に半導体や電気自動車に対する規制を徐々に強化している。

しかし、両候補とも何度か自ら中国を持ち出した。トランプ大統領は、オピオイド危機に関する無関係の質問に答えて、バイデンについて「この人物の下で、中国との赤字は最大だ。彼は中国から給料をもらっているし、中国から洗脳されている(Manchurian candidate)。彼は中国から金をもらっている」とトランプ大統領は虚偽のことを付け加えた。トランプ大統領はまた、バイデンがトランプ大統領の対中関税を撤廃しなかったのは、中国が「多大な資金(too much money)」をもたらしているためだと指摘した。

バイデンは、アメリカの対中貿易赤字を2010年以来の最低水準に引き上げた自身の功績を引き合いに出し、「あなたは中国について何の進展も成し遂げていない」と反撃した。

(5)移民(Immigration

この討論会で最も扇動的な発言の一部は、アメリカの移民政策をめぐりトランプとバイデンが口論した際に発せられた。トランプ大統領の任期は、強硬かつ物議を醸した移民政策が特徴であり、その一部は現在もバイデン政権下で実施されている。

トランプはさっそくバイデンの政策を激しく攻撃し、バイデンがアメリカ南部国境で移民の流入を食い止められず、不法移民が国を「犯罪のネズミの巣(rat’s nest)」に変えるというディストピア的な絵を描いて避難した。その発言の内容はほぼ虚偽だった。アメリカは「現在、文字通り非文明的な国(literally an uncivilized country now)」となっており、「人々が流入し、国民を殺害している(people are coming in and they’re killing our citizens)」とトランプは述べた。複数の研究によると、実際、移民はアメリカ生まれの国民よりも罪を犯す可能性が低いことが分かっている。

トランプは「なぜ刑務所や拘置所、精神病院から何百万人もの人々がこの国に入国し、この国を破壊することを許可したのかについて是非聞きたいものだ」と語った。

バイデンは、前大統領の家族分離政策(family separation policy)の下で、「乳児を母親から引き離し、檻に入れる(separating babies from their mothers [and] putting them in cages)」ことを含むトランプ大統領の移民政策を批判し反撃した。この政策の下、トランプ政権は約2600人の子供を親から引き離した。バイデン政権は移民に関しても「超党派の合意を得るために懸命に努力してきた(worked very hard to get a bipartisan agreement)」と付け加えた。

バイデンは「法律を変えてから私がやってきたことは、不法に国境を越えてくる人が40%も減るような状況に変えることができた。彼が退任した時より良くなっている」と述べた。

※リシ・イエンガー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:@Iyengarish

※クリスティーナ・リュー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:Twitter: @christinafei

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バイデントントランプの討論会は外交政策の歴史において重要な瞬間を作ることになる(Biden and Trump’s Debate Could Make Foreign-Policy History

-国際問題が大統領討論会で取り上げられることはほとんどないが、今週の対決は例外となる可能性がある。

ジェレミ・スリ筆

2024年6月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/26/biden-trump-debate-cnn-foreign-policy/

テレビで放映される討論会は、アメリカの大統領選挙において重要な位置を占めるようになったが、それがどのように重要なのか、本当のところは誰も分かっていない。何百万人もの視聴者が討論会を観戦し、特にタイミングのいい批判(ロナルド・レーガンの「またかそれか(there you go again)」)やとんでもない失言(ジェラルド・フォードの「ソ連による東欧支配はない(“there is no Soviet domination of Eastern Europe)」)が飛び出すと、候補者たちに対する大衆のイメージが形成されるようだ。

しかし、政策については、時間の制限や、シンプルで説得力のある立場を明確にすることが重視されるため、討論会ではほとんど議論されない。外交政策は討論会では特に焦点が当てられることが少なく、このテーマで語られることの多くは、照らし出すよりも歪めてしまうことが多い。しかし、ドナルド・トランプ前大統領とジョー・バイデン大統領による今週の討論会は例外かもしれない。

1960年にジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンの間で初めてテレビ討論が行われて以来、大統領選挙候補者たちは、共産主義的敵対勢力の封じ込め(containment of communist adversaries)、活力ある西側同盟への関与(vibrant Western alliance)、アメリカの支配的な世界的プレゼンス(predominant U.S. global presence)、アメリカの貿易と投資のための開かれた市場(open markets for American trade and investment)といった、アメリカの外交政策の大枠について概ね合意してきた。候補者たちは、誰がこれらの立場を最も雄弁に語ることができるかを競い、その一方で、対立候補を無能と不十分な関与で非難した。例えば、ケネディは、アイゼンハワー政権において、ソ連との「ミサイルギャップ(missile gap)」疑惑を許したニクソンの役割は弱かったと批判した。レーガンは、ジミー・カーターがモスクワの軍事力が増大するのを「甘やかして(coddling)」いたとして、同様の攻撃を加えた。

 

レーガンとカーターは、ケネディとニクソンのように、ソ連に対して力強く立ち向かい、海外でアメリカの力を促進することで意見が一致した。彼らは、どちらがより良い仕事ができるかを議論したが、その議論は戦略や戦術や詳細をめぐるものではなかった。彼らの議論は、他の多くの人々と同様、性格やイメージに関するものだった。「どちらがより強く、賢く、危険な世界で共通の目的を達成する決意が固いか? 危険や混乱に直面したとき、より信頼でき、勇気があるのは誰か?」ということだった。

2004年にジョージ・W・ブッシュとジョン・ケリーがイラク戦争について議論したときも、2012年にバラク・オバマとミット・ロムニーが対テロ戦争について討論したときも、冷戦後の討論の基本的なパラメーターはこのままだった。候補者たちはそれぞれ、同じ敵対者を倒すために、アメリカをより強く、より効果的にすると主張した。言葉は違うが、本質的には同じことを言っていた。彼らの討論会は、政策分析(policy analysis)ではなく、ポーズを取るためのものだった。

同じことが直近の討論会でも言える。2016年のトランプとヒラリー・クリントン、そして2020年のバイデンとの違いはあれ、候補者たちはアメリカの世界的優位性、開かれた市場、そして重要な同盟関係への熱烈な関与を共有していた。これらの目標をどのように達成するかについては大きく異なっていたが、彼らが思い描く世界は、アメリカの軍事的・経済的覇権(U.S. military and economic hegemony)に変わりはなかった。クリントン、トランプ、バイデンは、自らを強力な指導者だと語り、アメリカが抑制的で謙虚な国際的役割を果たすことを否定した。両者の意見の相違は主に、どちらがより強くなるかという点であった。

今年の最初の大統領討論会は異なるものになるだろう。おそらくこれまでの討論会とは異なるだろう。トランプは自制と謙虚さ(restraint and humility)が嫌いだが、トランプと支持者たちは、バイデンの主流派が支持する目標に挑戦する外交政策上の立場を堅持している。バイデン大統領はNATOや他の伝統的なアメリカの同盟を力強く擁護し、ロシアの侵略を非難し、ウクライナへの大規模な軍事援助を支持し、世界中の民主政治体制の推進者としてのワシントンの伝統的な役割を雄弁に語っている。これらの役職は歴代大統領にとって馴染みのあるものだろう。 2021年以来、トランプは、ハーバート・フーヴァー以来のどの候補者(および元大統領)よりもこれらの立場を激しく非難し、アメリカの同盟を非難してきた。ロシアの侵略について弁解し。ウクライナへの軍事援助を拒否した。そして最も驚くべきことに、アメリカは民主政体を海外に広めることなど考えるべきではないと否定した。

バイデンの国際主義(Biden’s internationalism)とトランプの国内優先主義(Trump’s isolationism)の対比は、テレビで放映された大統領討論会の歴史のどの瞬間よりも鮮明だ。彼らはアメリカの利益、脅威、機会に関して根本的に異なっている。かつての外交政策論争の文言が、共通の目的をより強力に追求できるのは誰かということに焦点を当てていたとしたら、現在のレトリックは、その目的が何であるべきか、つまり「世界的なアメリカ(global America)」か「要塞のアメリカ(fortress America)」を中心に循環している。

候補者たちが同意し、目標ではなく実行について議論する主要な外交政策分野の1つは、関税やその他の保護主義的措置を通じて、特に中国からの不当な外国競争からアメリカ企業を守ることだ。少なくとも2012年までは、アメリカ外交政策の基礎だった自由貿易は、両候補によって拒絶された。彼らは、市場開放や広く非難されている世界貿易機関と協力するのではなく、特に激戦州のアメリカ産業を保護するのにどちらが優れているかについて議論するだろう。

通商以外に、これまでのほとんどの大統領選挙候補者討論会とは異なり、基本的な外交政策の目標がバイデンとトランプのステージ上での主要な議題となる可能性が高い。司会者たちは、ほぼ確実にウクライナとガザ地区での戦争について質問するだろうし、候補者の反応からはアメリカの外交政策の中核概念をめぐる両者の相違の深さが明らかになるだろう。

バイデンは、アメリカのウクライナ支持は、西側同盟と世界民主政治体制にとって、不可欠なものであると擁護するだろう。バイデンは、ロシアと中国によるアメリカの安全保障への脅威を否定し、海外でのアメリカの信頼を損ない、世界的な民主政治体制の防衛を放棄したトランプ大統領を非難するだろう。バイデンは、アメリカの力と威信を回復した功績を認め、過去70年間をモデルにアメリカが主導できる、また主導しなければならない新たな冷戦の絵を描くだろう。

トランプ大統領はこれら全てを否定し、主流派の外交政策目標の擁護者たちを裏切り者(traitors)として非難するだろう。彼はアメリカの強さを主張するだろうが、それはあからさまな一極主義的な(unilateral)言葉だ。彼はまた、ウクライナ、NATO、その他の同盟諸国を守ることで得られるアメリカの利益も否定するだろう。トランプは、ロシア、サウジアラビア、北朝鮮、そして場合によっては中国の独裁者との取引協定を強調し、アメリカ人に即時利益をもたらすと主張するだろう。そして、アメリカだけにとって都合のよい場合には、核兵器を含む圧倒的な軍事力を行使することを約束するだろう。

バイデンとトランプの根本的な違いは、ガザ地区での戦争について尋ねると最も明らかになるだろう。バイデンは、イスラエルを強力に支持し、二国家共存解決策を通じてパレスティナ人の人権を擁護するという、伝統的なアメリカの立場を明確に示している。トランプ大統領はパレスティナ人に対するいかなる真剣な政治的発言も拒否しており、イスラエルに対する彼の支持はより軍国主義的(militaristic)である。トランプには、問題を抱えた地域で誠実な仲介者(honest broker)として行動する気などない。トランプは、パレスティナ人の代表がほとんど、またはまったくいない、一国家解決を模索する初めての本格的な大統領選挙候補である。

木曜日の討論会で有権者たちがこうした議論にどう反応するかは誰にも予測できないが、これまでの討論会とは大きく異なる外交政策に関する討論が期待できるだろう。国内問題にはもっと時間がかかるだろうが、外交政策に関する問題が顕著になるだろうし、レトリックや姿勢だけを超えて、いくつかの重要な政策の違いが解明されるだろう。候補者は2つの異なる外交政策を提案しており、それはこれまでにないほど討論会で明らかになるはずだ。

バイデンとトランプは、異なる政策をどのように実行するかについて、討論会で多くの詳細を明らかにしないだろう。それにもかかわらず、アメリカ国民は選挙における外交政策の選択をもっとよく認識すべきである。それが今回の大統領討論会を、他のほとんどの討論会とは異なるものにするだろう。

※ジェレミ・スリ:テキサス大学オースティン校マーク・ブラウン記念国際問題リーダーシップ所長。テキサス大学オースティン校歴史学部兼リンドン・B・ジョンソン記念公共問題大学院教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。

 アメリカの外交政策思想には大きく2つの流れがある。それがリアリズム(Realism)と介入主義(Interventionism)だ。アメリカの二大政党である民主党、共和党にそれぞれ、リアリズムを信奉するグループが存在する。介入主義は、民主党では、人道的介入主義(Humanitarian Interventionism)を信奉する人道的介入主義派となり、共和党ではネオコンサヴァティヴィズム(Neoconservatism)を信奉するネオコン派となる。ネオコン派は、ジョージ・W・ブッシュ(子)大統領時代に日本でも知られるようになった。
 介入主義とは、外国に積極的に介入して、外国の体制を全く別のものに転換しようというものだ。ネオコン派の考えは、「アメリカの価値観である、自由主義や人権、民主政治体制(デモクラシー)、資本主義を世界に広めて、世界中の国々を民主体制の自由主義的資本主義国ばかりにすれば、世界は平和になる」というものだ。そのために、アメリカは自身の卓越した力を利用しなければならないし、これに反対する勢力は打ち破るということになる。民主党の人道的介入主義派は、「世界の非民主的な国々では、マイノリティの女性や少数民族、政敵少数者たちが迫害され、命の危険に晒されている。そうした人々を助けるために、アメリカは人道的に外国に介入しなければならない」というものだ。結果として、ネオコン派と同じく、非民主的な国の体制転換(regime change)がなされねばならないということになる。

 リアリズムは、アメリカの力には限界があり、アメリカの力で世界の全ての国を民主体制の国家にすることはできない。ある国の問題はそこの国の国民の解決すべき問題である(災害などの人道支援は行うのは当然だが)。そして、アメリカの重大な国益が侵害されそうな場合を除いて、外国に対して積極的に介入すべきではない、ということになる。下の論文でスティーヴン・M・ウォルトが「抑制(restraint)」と書いているのはまさにこれである。これらのことについては最初の著作『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)に詳しく書いているので是非お読みいただきたい。

 アメリカはこれまで介入主義的な外交政策を実施し、その多くが失敗してきた。結果として、「アメリカ国内問題解決を優先していこう」という公約を掲げた、ドナルド・トランプが大統領に当選した。こうした考えを「アイソレイショニズム(Isolationism)」という。アメリカは超大国であることに疲れ、超大国であり続けるための国力を失っている。そのために、これからは「抑制的」、つまり、リアリズム外交に転換していくことになる。そして、次の世界覇権国は中国である。中国は、覇権交代の歴史を研究し、覇権国は永続的な存在ではなく、いつか、ボロボロになってその座から滑り落ちていくということを分かっているだろう。しかし、中国が覇権国にならねば世界は治まらないということになる。そうした時代の転換点に差し掛かっている。

(貼り付けはじめ)

抑制的なアメリカ外交政策に転換するのに遅すぎることはない(It’s Not Too Late for Restrained U.S. Foreign Policy

-アメリカのグローバル・リーダーシップの復活を求める声が大きくなっている。しかし、それはこれまでと同様に、大きな間違いである。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年3月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/14/united-states-realism-restraint-great-power-strategy/

冷戦期間中、アメリカがより控えめな、あるいは抑制的な外交政策を採用するように求める提案は、外交政策エスタブリッシュメント内部で大きな支持を集めることはなかった。確かに、ハンス・モーゲンソー、ジョージ・ケナン、ケネス・ウォルツ、ウォルター・リップマンなどの著名なリアリストたち(Realists)は、アメリカの外交政策における最悪の行き過ぎを厳しく批判していた。連邦政府を縮小しようとしてきたリバータリアンたちもまた、アメリカの海外関与を減少させようとしたが、ソヴィエト共産主義を打ち負かしたいという超党派の願望から、そうした提案は外交政策の外交政策に関する言説の片隅にとどまった。抑制(restraint)や縮小(retrenchment)を求める声は、その後の「一極集中の時代(unipolar moment)」においても同様に歓迎されなかった。アメリカのエリートたちは、歴史の潮流が自分たちの方に流れていると信じ、アメリカの比類ないパワーの慈悲深い腕の下で、全世界を平和で豊かな自由主義秩序(peaceful and prosperous liberal order)に導こうとしたのである。

しかし、この傲慢さが増大した時期がもたらした失敗が積み重なるにつれ、より現実的で賢明な外交政策を求める声が無視できないほどに大きくなった。2014年にマサチューセッツ工科大学(MIT)教授バリー・ポーゼンが『抑制:アメリカの大戦略にとっての新たな基盤(Restraint: A New Foundation for U.S. Grand Strategy)』を出版した。この著作は、他の学者(私自身を含む)による関連著作とともに、重要なマイルストーンとなった。2016年のドナルド・トランプの当選も現実的な外交政策を求める声の高まりに貢献した。トランプの大統領としての行動は、抑制派の提言とはかけ離れたものであったが、アメリカの外交政策を形成する中心的な正統派の多くに対する彼の修辞的な攻撃と、外交政策エスタブリッシュメントに対する明らかな軽蔑は、これらの問題についてよりオープンな議論を行うための空間を作り出した。2019年に「クインシー国家戦略研究所」が創設され、クインシー研究所、「ディフェンス・プライオリティズ」、スティムソンセンターのアメリカ大戦略研究プログラム、カーネギー財団のアメリカ政治研究プログラムでの関連イニシアティヴも、抑制を目指す動きが勢いを増していることを示す追加的な兆候であった。(完全情報公開:私はクインシー研究所の設立以来、非常勤研究員を務めており、昨年から理事会のメンバーに加わった)。

抑制を目指す動きが軌道に乗りつつあることを示す兆候の1つに、アメリカのグローバル・リーダーシップに対する拡大的な考え方や、ほころびつつある自由主義秩序を守りたいという願望に固執する批判者たちからの攻撃があった。こうした攻撃は通常、抑制派が提言していることを誤って伝え、しばしば彼らを「アイソレイショニスト(isolationists)」と誤って描いていた。こうした批評の中には自分たちの立場を有利にしようと誘導的なものもあった。それは、抑制派が提唱する考え方が大きな支持を集め、やがてはアメリカの対外アプローチに大きな変化をもたらすのではないかと、主流派が懸念し始めていることを示唆していた。

それは昔のことで、今は今である。イラク戦争やアフガニスタン戦争の後で、抑制という考え方は否定できない魅力を持っていたが、現在では大国間の対立が最重要課題となっている。中国のパワーは経済的苦境にもかかわらずなお拡大を続けており、アジアの現状を変えたいという欲望は衰えていない。ロシアはウクライナに侵攻し、現在ウクライナを支配している。中国、ロシア、イラン、北朝鮮、その他数カ国による協力体制が強化され、ヨーロッパの防衛力再構築に向けた取り組みは、多くの人が期待していたよりもゆっくりと進んでいる。ガザでは残忍な殺戮が進行中であり、戦争が拡大するリスクは依然として受け入れがたいほどに高い。スーダン、リビア、エチオピア、その他のアフリカ諸国では、内戦とジハード運動が人々の生活を破壊し続けている。1990年代の傲慢さは消え去ったかもしれないが、大国間の紛争は考えられないという信念も同時に消え去った。

これらの状況全てを踏まえても、リアリズムと抑制に基づく外交政策には意味があるのだろうか? アメリカ人は今こそ、深く掘り下げ、再びグローバル・リーダーシップの外套を手に取り、「地政学的ハードランディング」を回避するために奔走すべき時なのだろうか? 抑制の時期は過ぎ去ったのか?

その答えは「ノー」だ。

まずは抑制を目指す動きが何を望んでいるのかを明確にすることから始めよう。何よりも抑制派は、アメリカの極めて重要な利益が関与しない、不必要な「選択の戦争(wars of choice)」を戦うことに反対している。彼らは平和主義者でもアイソレイショニストでもない。彼らは強力な国防を信じている。そして彼らは、状況によってはアメリカが海外で武力行使を厭うことがないようにすべきだと認識している。抑制派は、アメリカは世界から撤退する代わりに、他国で貿易や投資を行うべきであり、他国にも同様の行動を奨励し、排外主義(xenophobia)に駆られて壁を築くのではなく移民を管理された形で受け入れるべきだと考えている。実際、抑制派はアメリカが今よりも積極的かつ効果的に外国に関与すべきであり、外交を第一に考え、武力行使をワシントンの最初の衝動(first impulse)ではなく最後の手段(last resort)とするべきだと考えている。それは何故か? なぜなら、抑制派は軍事力の限界を理解しているからだ。軍事力は場合によっては必要かもしれないが、それは常に多くの予期せぬ結果を生み出す粗雑な手段である。また、重要な利益が関与せず、成功を定義するのが難しい場合、戦争に対する国民の支持を維持することは困難である。特に抑制派は、体制転換(regime change)や軍事占領(military occupation)を行って、自由主義的な価値観を広めようとすることに反対している。なぜなら、そのような取り組みは通常、代償として、深刻な事態の泥沼化(quagmires)や破綻国家(failed states)の出現を招くのが通常からである。

現実的に考えると、抑制派のほとんどは、アメリカは中東から軍事的に手を引き、その地域の全ての国々と通常の関係を持つべきだと考えている。彼らは、NATOの同盟諸国が自国の防衛により大きな責任を負うよう、ワシントンが奨励すべきだと考えている。しかし、共和党のJD・ヴァンス連邦上院議員のようなトランプ大統領気取りとは異なり、抑制派の多くは、外交的解決に向けた献身的かつ柔軟な努力と組み合わせたウクライナへの援助継続を支持している。中国に対する最善の対応策については、抑制派にも賛否両論があり、より強力な封じ込め(containment)の努力を支持する者もいれば、緊張を緩和し、互恵的な妥協点を追求する必要性を強調する者もいる。しかし、アメリカは依然として海外に過剰に関与しており、根本的な政治問題を解決できない軍事的解決策に過度に依存しがちであるという点ではこれらの人々の意見は一致している。

この見解は、10年以上前と同様に、今日でも当てはまる。思い出してみて欲しい。アメリカが現在取り組んでいる問題の多くは、以前の抑制派の警告に耳を傾けていれば、完全に回避できたかもしれないものばかりだ。アメリカが開放的なNATO拡大を強く推し進め、ウクライナを西側の軌道に乗せ、最終的にはNATOに加盟させなければ、ロシアによる2014年のクリミア併合と2022年2月の不法侵攻はおそらく起こらなかっただろう。実際、バイデン政権がロシアの攻撃に先立つ数カ月間にもっと柔軟性を示していれば、2022年春にトルコとイスラエルの調停努力(mediation efforts)をもっと支持していれば、あるいはその秋にウクライナが優勢だった時期に停戦を推進していれば、ロシアとウクライナはまったく戦争をしていなかったかもしれないし、ウクライナがこれほどの損害を被る前に戦争は終結していたかもしれない。もちろん、確かなことを知ることは不可能だが、アメリカ政府関係者たちは、ウクライナが現在負けている戦争を回避するためにできたかもしれないことを全てやった訳ではないことは明らかだ。

中東での出来事も同様の教訓を与えてくれる。ドナルド・トランプ政権もジョー・バイデン政権も、イスラエルとアラブ近隣諸国との関係を正常化しようとすることに重点を置きながら、右傾化するイスラエル政府から圧力を受けつつあったパレスチナを完全に無視した。抑制派が警告したように、この近視眼的なアプローチは暴発の引き金となり、2023年10月7日の悲劇的な結果を招いたのは間違いない。

ガザにおけるイスラエルの猛攻撃によって、3万人以上のパレスチナ人が殺害され、ガザにある建物の50%から60%を破壊または損害を与え、イスラエルの世界的イメージを(アメリカとともに)大きく損なわせる結果となった。イスラエルは大規模な軍事的優位性を持ち、それを全面的に行使しているが、力だけでは、パレスチナとの対立を継続させている政治的な相違を解決することはできない。ハマスが軍事行動で壊滅することはないだろうし、イスラエルのユダヤ人とパレスチナのアラブ人の正当な願望を受け入れ、両者が安全な生活を送れるようにするにはどうすればいいのかという根本的な問題は、解決されないままである。同じことが、紅海の海運に対するフーシ派による攻撃を、爆弾を落としたりミサイルを撃ったりして止めようとするアメリカの努力にも言える。ガザ地区での停戦を実毛するために影響力を行使するということよりもまずは爆弾を落とすということを英米は選択した。これらの例は、複雑な政治問題は何かを爆破すれば解決できると考える反射的な傾向を示している。このような傾向に対して、抑制派は長年にわたり反対してきている。

抑制派はまた、アメリカのパワーは相当に大きいものデルが、無尽蔵ではないことも認識している。大国間競争(great-power competition)の時代には、明確な優先順位を設定し、主目的が互いに矛盾しないようにすることがこれまで以上に重要である。今日、アメリカはウクライナでロシアを打ち負かすウクライナを支援し、人的被害が出ているが、ハマス一掃を目指すイスラエルの努力を支援し、世界トップクラスの半導体技術やその他のデジタル技術を開発しようとする中国の努力を永久に無力化しようとしている。これは抑制されたアジェンダとは言い難く、その矛盾は自明であると同時に自滅的である。ユーラシアの二大国(中国とロシア)を互いに翻弄する代わりに、私たちは数十年かけて彼らに協力する理由を与えてきた。ロシアを孤立させ、グローバル・サウス(Global South)における中国の影響力を制限する代わりに、イスラエルのガザでの作戦を支援したことで、「ルールに基づく秩序(rule-based order)」の偽善が浮き彫りになり、中国に安っぽいプロパガンダの勝利をもたらした。ジョー・バイデン米大統領が包括的共同行動計画に再参加しなかったことは、イランに核開発を再開させ、さまざまな地域の代理人への支援を強化させ、更にはウクライナにおけるロシアの取り組みを積極的に軍事支援させたという点で、誤ったアジェンダに含まれることになるだろう。

最後に、抑制の擁護者たちは、過剰な軍事的関与と「永遠の戦争(forever wars)」がアメリカ本国を衰弱させる効果を持つことについて長い間警告してきた。過度に野心的な外交政策への支持を維持するため、アメリカの指導者たちは、志願兵だけで構成される軍隊に頼るようになり、それによって有権者の大半をその決定の結果から隔離するようになった。アメリカ陸軍士官学校附属現代戦争研究所によれば、その理由の1つは、アメリカ人が「一世代の軍人が、際限のない戦争に何度も何度も派兵されるのを目の当たりにしたから」だという。アメリカの歴代大統領たちは、増税の代わりに借金をしたり、脅威を膨らませたり、アメリカ国民に何をしているのか一部隠したりすることで、こうした活動のコストを隠してきた。しかし、こうした秘密の活動の一部がやがて明らかになると、公的機関への信頼はさらに損なわれている。建国の父たちが理解していたように、常に戦争状態にある共和国は、その共和国としての性格を危険に晒すことになる。今日のアメリカの民主政治体制が脆弱な状態にあるのは、非現実的でうまくいっていない外交政策が一因であり、それを是正しようと抑制派は努力している。

いかなる外交政策ドクトリンも完璧ではない。抑制という考え方も例外ではなく、その擁護者たちは、新たな情報の出現や新たな出来事の発生に応じて、自らの立場を見直す姿勢を持ち続けるべきである。しかし、今のところ、抑制を支持する意見は、特にワシントン中枢でいまだに支配的な代替案と比較すれば、大いに説得力を持っている。そして、現在の状況をもたらした政策をさらに推進することは、まったく意味をなさないし、効果もないのである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 

 トランプ政権のアジア外交政策が混乱している、という内容の記事をご紹介します。私に言わせれば、既得権を持つアジア各国の従米エリートたちが混乱しているという方が正確ではないかと思います。特に、日本のエリート層の混乱ぶりはより大きいものではないかと思います。

 

 トランプの政策はアイソレーショニズム(アメリカ国内問題解決優先主義)であり、世界各国の問題には基本的に関与しないというものです。そして、そうした判断は国益にかなうかどうかで行う、というリアリズムです。それらと反対なのが、グローバリズム、インターヴェンショニズムであり、アイディアリズム(理想主義)です。

 

 アメリカ国内の勢力で分けるならば、リアリズムは民主、共和両党にまたがって存在します(国内問題では意見が異なる場合が多い)。リアリズムではない場合には、共和党はネオコン派、民主党は人道的介入主義派です。ネオコン派の第一世代はもともと民主党支持者たちですから、両者は本家と分家という感じです。

 

 アメリカ国内でトランプを批判しているのは、多くの場合、ネオコン派や人道的介入主義派ということになります。しかし、彼らの批判は今一歩、届きません。なぜなら、ネオコン派はアメリカをアフガン戦争とイラク戦争に引きずり込んだ張本人たちであるということから人々から嫌われてそのために2008年の大統領選挙ではリアリズムを掲げるオバマ大統領が当選しましたし、昨年の選挙では人道的介入主義派のヒラリー・クリントンが落選しました。アメリカ国民はグローバリズム(インターヴェンショニズム)とアイディアリズムを拒否する選択をしたということになります。

 

 ここで私たちは、それでは日本はどの様に行動すべきかということを考える必要があります。アメリカの衰退が既に始まっていますが、まだ時間的に余裕があります。GDPの世界に占める割合で見ると、アメリカは約25%、中国は約14%、日本は約6%であり、アメリカ衰退は確かですが、アメリカはまだまだ世界の超大国です。中国に完全に抜かれた、となるまでは後20年から30年かかるでしょう。中華人民共和国建国100年が、2049年ですから、それまではアメリカの優位は動かないものと考えられます。

 

 その中で、日本の世界における立ち位置と国内政策で何を重点とするかということが重要になります。国内で見れば人口減少と高齢化は現実ですから、新しい箱ものや大規模開発は必要ではなく、余裕のあるコンパクトということが重要になって来るのではないかと思います。そうした中で人間一人あたりにかけるお金を増やしていくということがメインになるべきだと考えます。

 

 外交では、日本は海外での武力行使はできないという立場を堅持し、わざわざ普通の国になる必要もなく、復興の時に最大の力を発揮するという方向に向かうべきです。アメリカと一緒に壊しに行くのではなく、破壊からの再生の際に力を発揮すべきです。自分たちも敗戦時には国土の多くが瓦礫となったがそこから立ち直った、それは自国の力もあったが他国の助けもあった、だから破壊を経験した国として、再建の手助けをするということであれば大いに感謝されるでしょう。そして、アジア地域では地域大国として先頭に立たずに二番手の位置をキープするということになるのだろうと思います。

 

 現在の国土以上を求めず、軍事力を求めず、世界と仲良く交易をして生活していく、これ以上のことは望むべきではないし、これ以上何を望むというのでしょうか。

 

 ですから、現在の世界のヒエラルキーが変化していくであろうここ数十年間で、硬直的にアメリカと一緒に心中していくような方向に進むべきではありません。ですから、中国や韓国とも関係を改善し、ロシアとは改善しつつある関係を後退させないようにするということになるのだろうと思います。

 

 変化に合わせて日本も変わっていかなければならない、と思います。

 

(貼りつけはじめ)

 

トランプのアジア政策はこれまで以上に混乱している(Trump’s Asia Policy Is More Confused Than Ever

 

コリン・ウィレット筆

2017年6月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/06/12/trumps-asia-policy-is-more-confused-than-ever/?utm_content=buffer3b499&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

6月3日、ジェイムズ・マティス国防長官は、アジアの同盟諸国やパートナー国に対して、アメリカはこれまでの70年間行ってきたようにこれからも地域を安定させる役割を果たすということを再認識させるために大いなる努力を行った。マティスはアジアの安全と繁栄にアメリカがこれからも関与し続けると雄弁に述べた。また、第二次世界大戦以降のアジアの成功の基盤となってきたルールに基づいた秩序を守るためにアジア・太平洋地域各国と協力するための方法を見つける必要があるとも述べた。残念なことは、マティスの主張が説得力を持たないことで、それは、マティスが代表しているアメリカの政権がこの秩序を損なおうとしているからだ。

 

マティスの演説の数日前、大統領国家安全保障問題担当補佐官H・R・マクマスターと国家経済会議議長ゲイリー・コーンは、『ウォールストリート・ジャーナル』紙に論説を発表し、その中で、マティスが守りたいとしている「世界共同体」を明確に否定した。この論説は、これまでの考えを否定し、「独立独歩」政策を宣言したものとなった。この政策では、諸国家はむき出しの国家の力に基づいて、有利な立場と利益を得られるように争うようになり、同盟諸国やパートナー国を混乱させるだけでなく、アメリカの国家安全保障を損なってしまう。

 

この論説が発表される2日前、アメリカ海軍は南シナ海で航行の自由を守るための作戦訓練を実施した。これは、アメリカが、国際法が許す場所であればどこでも飛行し、航行する権利を守るという決意を示すものだ。このような行動の法的根拠は何か?国際社会で同意した国連海洋法条約(しかし、アメリカは批准していない)がそれだ。国連海洋上条約では、全ての国家が国際海洋上における権利と義務を保有しているとしている。国利欲に関係なく、一連のルールを遵守することは全ての国々の利益となるとしている。世界各国が相互に合意した国際ルールには不便であっても意味があるということを受け入れないということになるならば、アメリカ海軍は航行の権利を持つと主張することは、中国政府はアメリカ海軍の航行を阻害する権利を持つという主張となんら変わらないことになってしまう。マクマスターとコーンはこのようは合意や同意に疑問を呈している。

 

マティスが演説した同じ日、国連安全保障理事会は今年に入って9回目のミサイル発射実験を行った北朝鮮に対する政策を拡大することを決定した。どうしてこのような行動を取ることが可能になるのか?それは、「北朝鮮の核開発とミサイル開発プログラムは世界のルール、規範、条約に違反している」という国連という国際共同体による同意があるからだ。各国政府が、それがたとえ実行困難であり苦痛を伴うものであっても国際条約は彼らを縛り、守る必要があるのだという考えを受け入れないとなると、国連による制裁は、各国が意図的に利用しもしくは無視することができる道具となってしまう。

 

航行の自由や制裁だけでアジアの緊急の安全保障に関する問題を解決することはできない。しかし、これら2つは重要な道具である。国際的な連合が支援する場合、これら2つは国際的な規範を破る国々に対する圧力をかけるための重要な道具となる。

 

アジア各国はアメリカの複雑なシグナルから何を見出すであろうか?マクマスターとコーンが述べたように、アメリカは自国の直接的な利益が危機にさらされる場合にのみ国際社会と協力するのだろうか?もしそうであるならば、アメリカはアジア各国がアメリカに協力する理由を与えられないということになる。

 

北朝鮮、公海上の航行の自由、軍縮といった諸問題は、アジア諸国の多くにとって、現実的な生活にとって、さほど重要な意味を持たないものとなっている。これらの諸問題への対処のために協力することはコストがかかり、技術的に難しいものであり、時間だけを浪費することになる。しかし、ほとんどの国々が努力をするだろう。それは各国が基盤となっている原理に価値を見出しているからだ。その原理とは、各国の主権と諸権利を守っている国際システムは、自国の利益が危機にさらされていない場合でも各国が責任を果たすことも求めているというものだ。

 

アジアにおける私たちの同盟関係とパートナー関係は一つの考えに基づいて構築されてきた。それは第二次世界大戦後の法と規範のシステムは私たち全員に利益を与え、このシステムを防御するために協力することは、たとえそれが困難であっても、投資をするに値するものだ、というものだ。しかし、アメリカがそのような行動をとらないとなると、他国がそのような行動を取る理由があるだろうか?マティス国防長官はこのことを明確に理解している。しかし、彼が代表しているトランプ政権がこのことに同意しているのかどうかは定かではない。そして、アメリカの友人やパートナーである各国はこの乖離に鋭く気付いていることは疑いのないところだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)







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