古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:北大西洋条約機構

 古村治彦です。

 NATO(北大西洋条約機構、North Atlantic Treaty Organization)は、1949年に北米大陸にあるアメリカとカナダと西ヨーロッパ諸国で結成された軍事同盟気候である。加盟国のいずれかに対する攻撃を全加盟国への攻撃と見なして対処するとする集団的自衛権(right of collective self-defense)を行使する同盟である。具体的には、東西冷戦が激化する中で、ソ連からの侵略にアメリカが率いる西側諸国で対処するというものであった。ソ連を中心とする東ヨーロッパ諸国は、NATOに対抗して、1955年にワルシャワ条約機構(Warsaw Treaty Organization)を結成した。冷戦終了後の1991年にワルシャワ条約機構は解体された。しかし、冷戦で勝利し、仮想敵であるソ連が消滅して以降も、NATOは存続し、加盟国を増加させていった。その様子は以下の通りだ。このいわゆる「東方拡大(eastward expansion)」は、対ロシア封じ込めのために実施された。ソ連時代に比べて、国力を大きく落としたロシアを「挑発(provocation)」し、ロシアを虐める行為だった。

1949年:アイスランド・アメリカ・イギリス・イタリア・オランダ・カナダ・デンマーク・ノルウェー・フランス・ベルギー・ポルトガル・ルクセンブルク(原加盟国、12か国)

1952年:ギリシャ・トルコ

1955年:西ドイツ(1990年に東西ドイツ統一)

1982年:スペイン

1999年:チェコ・ハンガリー・ポーランド

2004年:ブルガリア・エストニア・ラトビア・リトアニア・ルーマニア・スロバキア・スロベニア  

2009年:アルバニア・クロアチア   

2017年:モンテネグロ

2020年:北マケドニア

2023年:フィンランド

2024年:スウェーデン
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そして、NATO東方拡大の焦点は、ウクライナとなった。ウクライナはNATOにもEU(ヨーロッパ連合、European Union)にも加盟申請をしながら長年にわたってほったらかしされながら、同時にアメリカを中心とする西側諸国から軍事援助を受けて、ロシアとの衝突要因として育成されてきた。ロシアは昔の勢力圏であった東ヨーロッパのNATO加盟までは隠忍自重してきたが、ウクライナの軍事力強化は自国の安全保障に対する深刻な脅威と判断し、緩衝地帯を作るということもあり、2022年2月にウクライナに侵攻した。ウクライナ戦争は、ロシアにとっての「自存自衛(self-sufficiency and self-defense」のための戦争である。私がこの言葉を使うのは、太平洋戦争の開戦となった、日本軍によるハワイ州パールハーバーの奇襲攻撃と同じだと言いたいためだ。太平洋戦争はアメリカの圧力のために開戦にまで追い込まれた訳だが、当時の日本とロシアは同じであり、攻撃に誘い込まれたと言いたいためだ。当時の日本とロシアの違いは、ロシアは戦争に引き込まれて苦境に陥りながら、中国やインドなどの間接的な支援を受けて、持ち直しているというところだ。

NATOはロシアがいてくれて、暴れてくれなければ存在意義はない。そして、新たな存在意義を求めて、アジア太平洋地域に進出しようとしている。イギリスやドイツなどが対中国のために、選管などを派遣する動きを見せている。また、NATOの事務所を東京に設置しようとして、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の反対にあった。こうした動きは、対中国封じ込めをアメリカ単独では不可能なので、防衛費をGDP2%まで増加させるように厳命した、NATO諸国を使って、手伝わせようということである。

 しかし、NATOとは文字通り、北大西洋地域の軍事同盟だ。その主敵はロシアである。中国を仮想敵として想定しないし、そのための組織構成にはなっていない。NATOはロシアの暴発(攻撃)を抑えるための組織でありながら、ロシアを挑発したことで、かえって、状況を悪化させる結果になった。NATOこそがヨーロッパの安全保障にとっての不安定要因になっている。そして、NATOがアメリカのための下働き組織になっていることが露(あら)わになっている。NATOの存在意義は薄れている。そして、この動きは止められない。それでも、一度できて、ここまで肥大化した官僚組織としてのNATOは存続していくために、危機をこれからも演出し続けることになる。これが世界にとっての大きな危険ということになる。

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今回は、NATOは本当に危機的状況に陥っている(This Time, NATO Is in Trouble for Real)

-長年にわたる誤った警告が発せられた末に、西側の軍事同盟はついに崖っぷちに立たされてしまうようになっている。

スティーヴン・M・ウォルト筆
2024年7月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

Stephen M. Walt

July 8, 2024, 4:19 PM

https://foreignpolicy.com/2024/07/08/nato-75-anniversary-washington-summit-trouble/

大学、企業、シンクタンク、あるいは夫婦など、どのような機関であれ、創立75周年を迎えると、その支援者たちはその功績や美徳、目覚ましい長寿など、バラ色の要素を列挙するのを耳にすることになる。ワシントンで開催されるNATOサミットも例外ではない。 NATOの過去の実績を称え、大西洋横断関係の礎石としての役割を称賛するスピーチが数多く行われるに違いない。

しかしながら、NATOのラブ・フェスティバルに不吉な影を落とす暗雲を無視することはできない。ドナルド・トランプは、2025年に米大統領に返り咲く可能性が高い。フランスの極右である国民連合(National Rally)は今やフランスで最も強力な政治運動となり、ハンガリーのヴィクトール・オルバンは、依然として破壊的な力を持っている。イスラエルとハマスの戦争、中国、デジタル技術の規制、苦境を深めるウクライナを助ける最善の方法などをめぐってヨーロッパ人とアメリカ人の意見は分かれている。

ヨーロッパ人とアメリカ人の意見の違いについては、今に始まったことではないと言う人もいるだろう。米欧同盟はその歴史を通じて深刻な危機に直面してきたし、(私自身を含め)その終焉が差し迫っているという見立ては、常に時期尚早であることが判明してきた。1956年のスエズ危機は深刻な亀裂だったし、ヴェトナム戦争もそうだった。軍事ドクトリン(特に核兵器の役割)をめぐる論争は、冷戦期を通じて米欧同盟を緊張させた(ユーロ・ミサイル論争を覚えているだろうか)し、1999年のコソヴォをめぐる戦争では、同盟内の不和が明らかになった。ドイツとフランスは、2003年のジョージ・W・ブッシュ政権のイラク侵攻決定に公然と反対し、ドワイト・D・アイゼンハワーからトランプまで歴代のアメリカ大統領は、ヨーロッパのアメリカの保護にただ乗りする傾向(Europe’s tendency to free-ride on U.S. protection)に対して、苦言を呈してきた。今日の問題は同じことの繰り返しに過ぎず、2029年にまた盛大な誕生日を迎えるために、皆で計画を立て始めるべきなのかもしれない。

こうした見方を軽々しく否定すべきではない。一度創設された機関は、その創設時の状況が消滅した後も長く存続することが多い。イギリスとフランスが今でも国連安全保障理事会の常任理事国であるのはそのためだ。 NATOの継続性は、ブリュッセルの大規模で確立された官僚組織と、あらゆる場面でNATOを擁護する元当局者、親大西洋主義の専門家、そして潤沢な資金を集めたシンクタンクからなる、周辺部からの支援によって強化されている。幅広いエリート層の支持を考えると、来週のサミットがNATO最後のサミットとならないことは間違いない。

しかし、今日の状況は、これまでの同盟内緊張の瞬間とは著しく異なり、NATOの将来を脅かす勢力は、トランプやマリーヌ・ルペンといった個々の指導者の個人的な傾向を超えている。実際、彼らの見解 (そしてそれらの受け入れの広がり) は、独立した原因であると同時に、これらのより広範な勢力の兆候でもある。

緊張の最も明白な原因は、世界における力の分布の変化である。NATOが1949年に設立されたとき、ヨーロッパの加盟国は第二次世界大戦からの回復途上にあり、ソ連は、アメリカの積極的な支援なしでは、ヨーロッパ単独が対処できない脅威であると考えられた。ヨーロッパは世界の工業力の重要な中心地の一つでもあったため、特に戦略的に価値のある存在であった。各国は主に共通の脅威に対処するために同盟を形成しており、アメリカがヨーロッパの防衛に専念し、そこで大規模な軍事プレゼンスを維持することは理にかなっているものとなった。

そんな日々はもう遠い昔のことになった。ソ連とワルシャワ条約機構はもはや存在せず、ロシアにはもはやヨーロッパ大陸を征服し征服する能力はない。確かに、ロシアはウクライナで違法な戦争を仕掛けており、いつかバルト三国の小国を脅かすかもしれないが、ロシア軍がポーランドに電撃戦(blitzkrieg)を仕掛けて英仏海峡まで進もうとしているという考えは滑稽だ。たとえ、ウラジーミル・プーティン大統領がそのような野心を抱いていたとしても、小さくて弱いウクライナに対して手いっぱいのロシア軍では、急速な領土拡大の手段にはならないだろう。

一方、中国はアメリカ(およびプーティン率いるロシアのシニア・パートナー)と肩を並べる競争相手、手強い技術的挑戦者、そして世界最大の貿易国として台頭してきた。現在、世界経済に占めるアジアの割合(54%)は、ヨーロッパ(17%)を大幅に上回り、世界経済成長への貢献度も高くなっている。中国はまた、安全保障環境を根本的に変える可能性のある領有権の主張を強めている。したがって、純粋に構造的な理由から、今日、アメリカが注目する割合はアジアに対して賀高く、ヨーロッパが低くなっているのは当然だ。ヨーロッパがもはや重要でないということはないが、アメリカの戦略的関心の中で、ヨーロッパが占める位置はもはや高いとは言えない。最近、NATOがインド太平洋地域でより大きな役割を担うという話がよく聞かれ、今回のNATOサミットにはアジア諸国からもオブザーバーが出席するが、NATOの欧州加盟国がアジアの勢力均衡(balance of power)に影響を与えようと思っても、それほどのことはできないだろう。

NATOの目的についての疑問は、ソ連が崩壊するとすぐに始まり、年が経つにつれて新たな理論的根拠と使命を考え出した加盟諸国を称賛しなければならない。しかし、問題は、これらの新しい試みのほとんどがそれほどうまくいかなかったことだ。 NATOの拡大により、新たな安全保障要件が追加されたが、それらを満たすための追加の能力は追加されず、費用がかからなかったのは、ロシアが弱く、従順であり続ける限りのことであった。東方への際限のない拡大(pen-ended expansion eastward)が「完全で、自由で、平和な(whole, free, and at peace)」ヨーロッパをもたらすだろうという予測は、ウクライナで激化する残忍な戦争と極度の凍結状態にあるロシアとの関係により、今日ではかなり空虚に見える。NATOは、1999年のコソヴォ戦争で部分的な成功を収めたと主張できるが、あの戦いは同盟内の結束を証明するものではなく、バルカン半島の政治は依然として微妙な状態にある。 NATO加盟国は911のテロ攻撃後、初めて第5条を発動して、アメリカを支持するために結集したが、その後のアフガニスタンにおけるいわゆる国家建設における同盟の取り組みは多大な犠牲を払いながらも、失敗に終わった。NATOは2011年にリビアに介入したが、その目的は民間人保護であったが、同時にリビアの指導者ムアンマル・アル・カダフィの打倒を支援することでもあった。しかし、その結果は再び国家の破綻を招いた。NATOが、ウクライナが初期のロシア侵攻から生き残り、領土の大部分を防衛できるよう支援してきたことは明らかだが、明らかな勝利で戦争が終わり、NATOがそれを祝福できる可能性は低い。こうした実績を考えれば、ヨーロッパの安全保障環境が悪化しているにもかかわらず、NATOの価値に対する疑問が高まっているのも理解できるだろう。

最終的に、NATO が苦境に陥っているのは、まさにそれがあまりにも長く続いており、共通の価値観や大西洋を越えた連帯に関するよく知られた常套句が、特に若い世代にとってかつてほど強力に響いていないためである。ヨーロッパ系アメリカ人の割合は減少しており、「故国(old country)」との感情的なつながりはより薄れており、第二次世界大戦、ベルリン空輸、ベルリンの壁崩壊などの出来事は、成人した若者にとっては古い歴史となっている。テロとの世界的な戦争や2008年の金融危機のさなか、その政治意識は権力政治よりも気候変動に集中していた。当然のことながら、若いアメリカ人は、これまでの世代ほどアメリカの例外主義の主張に説得力を持たず、積極的な国際主義者(internationalist)の役割を支持する傾向が低い。これらはいずれも、池の向こうで問題が発生するたびに、アメリカが初期対応者として行動することに依然として大きく依存している安全保障パートナーシップにとって良い兆しではない。

繰り返しになるが、たとえトランプが再び大統領になり、より多くのNATO懐疑論者がヨーロッパで権力を握ったとしても、NATOが崩壊するということに私は疑いを持っている。しかし、ヨーロッパとアメリカを徐々に引き離す強力な構造的力が存在しており、11月にアメリカで、そして、ウクライナで、あるいはヨーロッパ自体で何が起きようと、こうした傾向は続くだろう。よって、NATO結成75周年を祝うのは良いが、大西洋を越えた団結に関する充実した声明を耳にしても、それについてあまり真剣に受け止めない方が良い。ヨーロッパとアメリカは、徐々に離れて言っているが、唯一重要な問題は、その乖離がどれくらいのスピードで起こり、どこまで広がるかということだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行いたしました。ウクライナ戦争について詳しく分析しました。是非お読みください。

 ヨーロッパには、ヨーロッパ連合(European Union、EU)とNATO(北大西洋条約機構)という大きな国家連合、協力の枠組みがる。NATOはヨーロッパを超えて、アメリカやトルコも加盟している。EUは元々が経済協力のための枠組みであったヨーロッパ経済共同体(European Economic Community、EEC)が前身のため、経済活動がメインとなる。もちろん、軍事組織もあるが、それがメインではない。NATOは、冷戦下に、対ソ連の集団防衛を目的としたもので、ソ連崩壊後も存続し、現在はロシアの脅威に対抗する組織となっており、安全保障がメインだ。NATOがヨーロッパの防衛、安全保障のメインの枠組みということになり、これは、アメリカが大きな役割を果たすということになる。アメリカ側皮すれば、好意的に解釈すれば「アメリカにとって重要なヨーロッパ地域の安全保障に貢献する」ということになるが、悪く解釈すれば「ヨーロッパはアメリカのお金と軍隊にただ乗りして、自分たちをアメリカに守らせている」ということになる。ドナルド・トランプ前大統領は、アメリカ軍の引き上げ、ヨーロッパ諸国の負担増を求めたが、これはアメリカ国民の多くの意思を反映している。

 ヨーロッパは、2022年2月からのウクライナ戦争を受けて、自分たちの防衛について真剣に考えねばならなくなった。アメリカに頼るのか、アメリカに頼るにしてもどの程度頼るようにするか、自分たちでどれだけのことができるか、ロシアの脅威はどれくらいで、自分たちの負担はどれくらいになるか、負担をどのように分担するかということが問題になってくる。ヨーロッパの防衛のためには、各国の協力が不可欠であるが、以前に昇華した論稿にもあったが、それぞれの国の軍事装備の基準の違いやインフラの規格の違いなどから、協力は大変難しい状況だ。それでも、ウクライナ戦争を受けて、防衛協力について、真剣に考えねばならないようになっている。

 しかし、ここで考えねばならないことは、ロシアがヨーロッパ諸国にとって脅威とならないように対応するということだ。ロシアがヨーロッパを脅威と捉えて侵攻するということがないような状況を作ることも大切だ。戦争が起きない状況を作ることも真剣に考えねばならない。アメリカやイギリスが「作り出す」ロシアの脅威という幻想に踊らされないことが何よりも重要だ。これは日本にも言えることだ。「中国の脅威」「台湾危機」といった言葉に安易に踊らされないようにしたいものだ。

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何故ヨーロッパは軍事行動を合同して行えないのか(Why Europe Can’t Get Its Military Act Together)

-ヨーロッパ大陸は、軍事的自立(military autonomy)への道のりで複数の障害に直面している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年2月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/21/europe-military-trump-nato-eu-autonomy/

ドナルド・トランプ前米大統領は選挙集会で、自身が防衛義務を怠っていると判断した国々について、ロシアに対し「やりたいことは何でもする(do whatever the hell they want)」よう促すと述べ、ヨーロッパに警鐘を鳴らした。ヨーロッパ諸国は既に、トランプの2度目の大統領就任の可能性について懸念していたが、今回の発言でこうした懸念がさらに高まった。ヨーロッパ委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は数日後、『フィナンシャル・タイムズ』紙に対し、ヨーロッパは「より荒れた(tougher)」世界に直面しており、「私たちはより多くの支出をしなければならないし、より賢く支出をしなければならないし、そしてヨーロッパのための支出をしなければならない」と語った。

しかし、疑問が残る。ヨーロッパは自らを守るために十分なことを実行するだろうか? ヨーロッパ諸国がアメリカの保護に過度に依存し(overly dependent)、十分な防衛力を維持しようとしないという、アメリカ側の不満には長い歴史があり、2022年にロシアがウクライナに侵攻したことで警鐘が鳴らされたが、ヨーロッパの使える軍事力が劇的に向上することはまだない。たしかに、NATO加盟諸国は現在、より多くの資金を費やしており、EUは最近、ウクライナへの追加的な500億ユーロの財政支援を承認した。しかし、数週間以上にわたって実戦部隊を維持するヨーロッパの能力は、依然として微々たるものだ。つまり、いくつかの重要な能力は依然としてアメリカに依存しており、NATO加盟諸国の一部には、自分たちが攻撃された場合、そのパートナーが助けようと努力したとしても、それほどのことができるのか疑問を持つ国もある。

確かに、ヨーロッパの高官たちのレトリックはより激しくなっている。デンマークのトロエルス・ルンド・ポウルセン国防相は最近、ロシアは「3年から5年以内に」NATOの相互防衛条項を試すかもしれないと警告し、別のNATOの幹部外交官は、もはや「ロシアがウクライナで止まってくれると考える余裕はない」と考えていると述べた。別の上級外交官によれば、ロシアが2030年までにNATO加盟諸国を攻撃する「意図と能力(intent and capability)」は、現時点では同盟内の「ほぼ総意(pretty much consensus)」だと述べた。ヨーロッパが独自に十分な能力を開発するには10年以上かかる可能性があるため、熱心な大西洋主義者たちは、アメリカの時間、注意力、資源に対する競合する全ての要求にもかかわらず、アメリカをヨーロッパにしっかりと関与させ続けたいと考えている。

ヨーロッパは行動を共にできるのか? ここでは、2つの確立された理論体系(well-established bodies of theory)が関連する。1つは、私が貢献しようとしている「力の均衡(balance of power)」(あるいは「脅威の均衡[balance of threat]」)理論である。この理論では、ヨーロッパの安全保障に対する深刻な外的脅威(external threat)、たとえば強力な軍事力と高度な修正主義的な野心を持つ大国が近隣に出現した場合、その脅威を抑止するために(あるいは必要であれば、その脅威を打ち負かすために)、これらの国のほとんどが力を合わせると予測している。このような衝動は、もしこれらの国々が、自分たちは他の誰にも保護を頼ることができないと理解すれば、より強くなるだろう。最近のヨーロッパの国防費の増加とスウェーデンとフィンランドのNATO加盟決定は、脅威に晒されている国々が完全に均衡(バランス)を取る傾向を示しており、この確立された傾向により、ヨーロッパが自らの防衛に対してより大きな責任を負う能力と意欲について、私たちがより楽観的になれるはずだ。

しかし、残念なことに、2つ目の理論体系がこの明るい結果を確実なものにはしていない。安全保障は「集合罪(collective good)」であるため、同盟関係にある国家は、自国の安全保障を維持するために、たとえ自国の貢献が少なくても、パートナーが十分な貢献をしてくれることを期待して、他国の努力を「バックパス(back-pass)」したり、もしくは、フリーライド(ただ乗り、free-ride)したりしたくなる。この傾向は、同盟の最強メンバーが集団的努力に不釣り合いなほど貢献する傾向がある理由を説明するのに役立つ。同盟の主要メンバーが攻撃を抑止または撃退するのに十分な働きをすれば、小規模なメンバーの貢献は余計なものになるかもしれない。結局のところ、同盟は彼らの努力を倍増させたとしても、それほど強くはならないのである。それゆえ、強力なアクターが自らの利己的な利益のために十分なことをしてくれると確信し、力の弱いアクターたちはより少ない貢献をする誘惑に駆られるのである。しかし、もし十分な数のメンバーが、より大きな負担を他のメンバーに負わせる誘惑に屈したり、他の利己的な利害が協力の必要性に打ち勝ったりすれば、同盟は安全確保に必要な統合能力(combined capabilities)と協調戦略(coordinated strategy)を生み出さないかもしれない。

これら2つのよく知られた理論を合わせると、NATOが今日直面しているディレンマが浮き彫りになる。良いニューズとしては、NATOのヨーロッパ加盟諸国はロシアよりもはるかに潜在的な力を持っているということだ。ヨーロッパの人口はロシアの3倍から4倍、経済規模はロシアの10倍にも達する。いくつかのヨーロッパ諸国は、優れた兵器を生産できる高度な軍事産業を持っており、冷戦後期には強大な地上軍と空軍を保有していた国もある(ドイツなど)。さらに驚くべきことに、NATOのヨーロッパ加盟諸国だけで、毎年少なくともロシアの3倍以上の防衛費を費やしている。人件費の高騰や努力の重複、その他の非効率を考慮したとしても、潜在的な能力が適切に動員され、指揮されることを前提にすれば、ヨーロッパにはロシアの攻撃を抑止したり、撃退したりするのに十分すぎるほどの潜在的戦力がある。ウクライナ戦争が始まって以来、ロシアの軍事力と国防生産能力は大幅に向上しているが、数が少なく、武装も不十分なウクライナ軍を打ち負かすのは難しい。バフムートやアブディフカを占領するのに数カ月かかる軍隊が、他の誰に対しても電撃戦(blitzkrieg)を成功させることはできない。

悪いニューズは、有能なヨーロッパ防衛力を構築するための持続的な取り組みが大きな障害に直面していることだ。第一に、NATOのヨーロッパ加盟諸国は主要な安全保障問題のレヴェル、あるいはその正体についてさえ意見が一致していない。バルト三国やポーランドにとっては、ロシアが最大の危険をもたらしていることは明らかである。しかし、スペインやイタリアにとっては、ロシアはせいぜいが遠い問題であり、不法移民の方が大きな課題である。アナリストの一部とは異なり、私はヨーロッパがこうした状況にあっても、ロシアに対して効果的な防衛を行うことを邪魔するとは考えない。しかし、負担の分担や軍事計画の問題をより複雑にしている。ポルトガルにエストニアを支援するよう働きかけるには、ちょっとした説得が必要だろう。

第二に、ヨーロッパに更なる努力を求める人々は、微妙なディレンマに直面している。深刻な問題があることを人々に納得してもらわなければならないが、同時に、その問題を解決するのにそれほど費用がかかったり困難であったりする訳ではないと納得してもらわなければならない。ロシアの軍事力を誇張し、ウラジーミル・プーティンを無限の野望を抱く狂人として描くことで、大規模な防衛力増強への支持を集めようとすれば、ヨーロッパが直面している課題は克服不可能に見え、アメリカに頼ろうという誘惑が強まるかもしれない。しかし、ロシアの力と野望がより控えめであり、それゆえ管理可能であると信じられれば、今大きな犠牲を払い、長期にわたって真剣な努力を維持するようにヨーロッパ各国の国民を説得することは難しくなる。より大きな自主性を機能させるためには、ヨーロッパの人々にロシアが危険であることを信じさせねばならないが、同時に、たとえアメリカの力が大幅に弱まったとしても、自分たちならこの問題に対処できると信じさせねばならない。このため、アメリカの全面的な関与を維持するために、ヨーロッパ諸国が自国を防衛することは単に不可能だと主張することは、ヨーロッパの真剣な取り組みを抑制し、アメリカがいずれにせよ関与を縮小することになれば、逆効果になりかねない。

第三の障害は、核兵器の曖昧な役割である。核兵器が大規模な侵略行為を抑止すると確信している場合、英仏の核戦力とアメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」が、どんな状況下でも、ロシアの攻撃からNATOを守ってくれると考えるだろう(ウクライナはNATO加盟国ではないことを覚えておく価値がある)。そうであれば、大規模で高価な通常戦力を構築する必要はない。しかし、拡大核抑止の信頼性に確信が持てない場合や、低レヴェルの挑戦に対して核兵器使用の威嚇をする必要がない場合は、能力のある通常戦力が提供するような柔軟性を求めることになる。この問題は、1960年代の「柔軟な対応(Flexible Response)」をめぐる同盟内論争や1980年代の「ユーロミサイル(Euromissiles)」論争が示すように、冷戦期を通じてNATO内で争点となった。核兵器が存在し続けることで、通常戦力を停滞させる誘惑に駆られる国が出てくる可能性があるという点で、この問題は今日でも関連している。

第四に、ヨーロッパ諸国は武器の標準化や共通戦略や防衛計画の策定に協力する代わりに、依然として自国の防衛産業や軍隊に投資することを好んでいる。戦略国際​​問題研究所の2023年の報告書によると、2014年にロシアがクリミアを占領して以来、ヨーロッパ全体の国防費は急激に増加しているものの、共同調達努力(cooperative procurement efforts)に充てられる割合は、2021年まで着実に減少し、EUによって設定された、以前の目標である35%に近づくことはなかった。 EU諸国は、支出が少ないにもかかわらず、約178の異なる兵器システムを配備していると報告されており、アメリカよりも148も多い。単独で行動しようとする頑固な傾向は、ヨーロッパが潜在的な挑戦者に対して享受している膨大な潜在的資源の優位性を無駄にしており、もはや余裕のない贅沢である可能性がある。

最後の障害は、少なくとも現時点では、ヨーロッパの自立を奨励することに対するアメリカの長年の曖昧さである。アメリカは一般に、ヨーロッパのパートナー諸国が軍事的に強いが強力すぎないこと、政治的に団結しているが団結しすぎていないことを望んでいる。それは何故か? それは、NATOは、有能ではあるが従属的なパートナーの連合に対するアメリカの影響力を最大化したからである。アメリカ政府は、NATOの残りの国々が有用であるだけでなく、アメリカの要望に完全に従うのに十分な強さを持たせたいと考えており、これらの国々がより強くなり、一つの声で発言し始めれば、現状のNATOを維持するのは難しくなるだろう。ヨーロッパの依存と従順さを維持したいという願望により、歴代のアメリカ政権は、ヨーロッパの真の戦略的自治につながる可能性のあるあらゆる措置に反対するようになった。

しかし、そうした時代は終わりを告げようとしている。アメリカが「全てを持つことはできない」こと、そして集団的防衛(collective defense)の重荷をヨーロッパのパートナー諸国にもっと転嫁する必要があることを認識するのに、トランプ的である必要はない。しかし、過去の例を見る限り、ヨーロッパの指導者たちが、どんな状況下でもアメリカが「全面的(all-in)」に関与してくれると信じているのであれば、ヨーロッパがその責任を負うことはないだろう。1950年代初頭にヨーロッパ経済統合が推進された背景には、アメリカがやがて大陸から軍を撤退させ、ワルシャワ条約機構に対抗する能力が、大規模で統一されたヨーロッパ経済秩序の構築によって強化されるというヨーロッパ全体の懸念があったことは、思い出す価値がある。ヨーロッパ統合の背後にある安全保障上の衝動は、アメリカの残留が明らかになった時点で後退したが、アメリカの関与に対する疑念の高まりは、ヨーロッパの優れた経済力と潜在的な軍事力を、純粋に自己の利益のために、より効果的に動員する十分な動機を与えるだろう。

来年のホワイトハウスが誰になるかにかかわらず、アメリカ政府関係者たちはこの動きを後押しすべきである。以前にも主張したように、ヨーロッパの安全保障をヨーロッパに戻すプロセスは、大西洋間の新たな役割分担の一環として、徐々に行うべきである。アメリカへの依存度が下がれば、ヨーロッパはより精力的にバランスを取るようになり、この方向にゆっくりと、しかし着実に進むことで、同盟諸国は必然的に生じる集団行動のディレンマを克服する時間を得ることができる。ヨーロッパ諸国はロシアよりもかなり多くの軍事的潜在力を持っているため、これを完璧に行う必要はなく、かなり安全な状態にすることができる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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