古村治彦です。
北朝鮮が朝鮮半島、東アジアの情勢を不安定化させる動きに出ている。2024年10月には韓国とつながる道路を爆破し、憲法を改正して、韓国を「主敵(principal enemy)」に規定した。これまで北朝鮮にとって韓国は「自国の領土(朝鮮半島)の南部に盤踞するアメリカの傀儡政権が違法に支配する地域」であり、韓国民は「アメリカと韓国からの支配を受けており解放しなければならない同胞」ということになっていた。しかし、韓国を「主敵」と定義することで、北朝鮮が韓国を攻撃するのではないかということで朝鮮半島の状況は危機感が増した。朝鮮戦争が再び起きる(現在は休戦中なので休戦が終わって戦闘が始まる)可能性が取り沙汰されている。北朝鮮が繰り返しているミサイル実験もこのような可能性に拍車をかけている。
北朝鮮の金正恩総書記とアメリカのドナルド・トランプ前大統領は朝鮮半島の非核化に向けて合意を取り付けた。しかし、その後、ジョー・バイデン政権が発足し、この合意は無効化されている状況だ。北朝鮮はバイデン政権との交渉を行わなかった。バイデン政権もまた積極的に北朝鮮との交渉を行わなかった。結果として、北朝鮮の核開発とミサイル開発が進められることになった。そして、現在、状況が不安定化している。この北朝鮮の強気の裏には、ロシアとの関係深化がある。北朝鮮はウクライナに派兵さえも行った。こうした動きは中国を刺激し、敏感にさせている。中国としては朝鮮半島の状況の不安定化は望ましいものではない。
北朝鮮のこのような動きは北朝鮮が破滅に向かうためにやっているのではない。合理的に考えれば、北朝鮮は状況を不安定化して、交渉材料にしようとしている。誰に対しての交渉材料か。それはアメリカだ。アメリカは来週には新大統領が決まる。交渉相手はドナルド・トランプか、カマラ・ハリスかということになる。トランプとは交渉を行った実績がある。トランプは早期に北朝鮮との交渉を行おうとするだろう。カマラ・ハリスが大統領になれば、ジョー・バイデン政権の路線を引き継いで、北朝鮮との交渉を行わないと打ち出すだろうが、状況が切迫してくれば、交渉のテーブルに着かざるを得ないことになるだろう。北朝鮮としては、ロシアの支援を受けており、アメリカに対しては強気に出られる状況にある。そして、何かしらのリターン、見返りを受け取ることを目指すことになるだろう。
北朝鮮が派手に動いている時は逆にそこまで危険ではないと考えられる。本当に韓国を攻撃し、戦争を引き起こそうとするならば、静かに奇襲作戦を準備するだろう。従って、現状は朝鮮半島の状況は不安定化しているが、戦争の危険はそこまで高まっていない。問題は突発的な事件で戦争が起きてしまうことだ。北朝鮮と韓国の当局者はこの点を注意してもらいたい。
(貼り付けはじめ)
●「北朝鮮、憲法改正で韓国を「敵対国」と定義」
2024年10月17日 BBCニューズ日本語版
https://www.bbc.com/japanese/articles/cq643vdnm5vo
北朝鮮の国営メディアは17日、同国が韓国を「敵対国」と定義する憲法改正を行ったと伝えた。北朝鮮が憲法改正を公にしたのはこれが初めて。
国営紙「労働新聞」は、北朝鮮と韓国の緊張がここ数年で最高潮に達しているなか、この変更は「避けられない正当な措置」だと報じた。
北朝鮮は15日、韓国とつながる2本の道路の一部を爆破した。国営メディアはこの動きを、両国を「完全に分離するための段階的措置の一部」だと説明している。
専門家らは、今回の憲法改正は主に象徴的な動きだとみている。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は今年2023年12月の段階で、南北統一を放棄していた。
国営メディアは当時、金総書記が南北関係を「敵対する二つの国、戦争状態にある二つの交戦国」と表現したと報じた。
そして今年1月には、韓国との統一は不可能であると宣言し、憲法を改正して韓国を「第1の敵国」と指定する可能性を示唆した。
それ以来、特にここ数か月の間、南北間で批判の応酬となり、緊張は着実に高まっている。
「2023年末にこの発言が出た時は、対立のリスクとエスカレーションの可能性を高め、重要な進展となった」と、ベネット氏はBBCに語った。
「それ以来、金総書記とその妹(与正氏)は、韓国とアメリカに対して何度も核兵器による脅迫を行い、多くの行動で緊張を高めてきた。そのため、リスクは高まっている」
専門家の多くは、先週の最高人民会議で北朝鮮が統一政策と国境政策に関する憲法改正を行うとみていたが、そのような変更は現在まで公表されていない。
それでも、アナリストらは本格的な戦争の可能性については懐疑的だ。
「状況が戦争レベルにまでエスカレートするとは思わない」と、韓国・釜山の東亜大学で政治学と外交を教えるカン・ドンワン教授は言う。「北朝鮮は軍事対立を悪用し、国内の結束を強めている」。
一方、ソウルの北韓大学院大学校のキム・ドンヨプ教授は、北朝鮮が全面戦争を開始する能力があるのか疑問視している。
「政権は、そのような紛争がもたらす深刻な結果を十分に認識している」と、キム教授は述べた。
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再び朝鮮戦争が起こるリスクはかつてないほど高まっている(The Risk of
Another Korean War Is Higher Than Ever)
-北朝鮮はロシアと中国それぞれを利用しており、アメリカには見切りをつけている。
ロバート・A・マニング筆
2024年10月7日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/10/07/northkorea-war-nuclear-russia-china/?tpcc=recirc_trending062921
「北朝鮮とロシアの無敗の友情と団結万歳!」「ロシア連邦大統領ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン同志を温かく歓迎する」と書かれた横断幕が平壌の平壌屋内競技場外掲げられている。そして、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領と北朝鮮の指導者金正恩の肖像画も掲示されている(2024年6月20日)。
今年1月、経験豊かな韓国専門家であるロバート・カーリンとジークフリード・ヘッカーが、北朝鮮の指導者金正恩が戦争の準備をしていると書き、多くの人々を驚かせた。それは誇張かもしれないが、その懸念は的外れではない。私は過去30年にわたり、政府内外で朝鮮の核問題に取り組んできたが、朝鮮半島は1950年以降のどの時期よりも危険で不安定になっているように見える。
2019年以来、北朝鮮の核問題をめぐって3つの相互に関連した戦略的転換があり、1992年以来のアメリカと韓国の外交を導いてきた中核的な前提を無効にしている。まず、2019年にハノイで金正恩とドナルド・トランプ前米大統領との首脳会談が失敗に終わったことを受けて、金正恩は2021年に固体燃料大陸間弾道ミサイル、小型弾頭、戦術核兵器、極超音速ミサイルを含む核・ミサイルの大規模増強の5カ年計画を明らかにした。北朝鮮の核産業複合体への投資と、核を手放さないという金正恩委員長の強調した声明(これは北朝鮮の憲法と先制核理論に具体化されている)は、姿勢の戦略的変化を強調している。
これらの新たな能力と表明された意図は、北東アジアの戦略的バランスを変化させ、アメリカの拡大抑止力(United States’ extended deterrence)に対する新たな信頼性の問題を引き起こし、韓国が独自の核兵器を手に入れたいという願望を増大させた。
そして、北朝鮮の地政学的な再配置もある。それは、金正恩が諸大国の均衡(balancing
major powers)を図る、アメリカとの国交正常化という北朝鮮の長期目標を放棄したことから始まった。これは30年にわたる核外交の論理を支えていた。
同時に、北朝鮮は2016年と2017年の北朝鮮核実験後に中国が国連の厳しい経済制裁を支持したことで緊張が高まっていた中国との関係を強化した。金正恩は2019年1月に北京を訪問し、中国の習近平国家主席も2019年6月に平壌に続いて交流訪問を行った。それ以来、中国はロシアとともに、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル実験に対して新たな制裁を課そうとするアメリカの取り組みを阻止してきた。
ウクライナ侵攻後、ロシアが北朝鮮と新たな安全保障パートナーシップを結び、経済的・軍事的援助を弾薬やミサイルと交換する中で、地政学的変化は激化した。中国当局者やシンクタンクの専門家との非公式な協議で伝えられたように、この動きは中国を不快にさせた。彼らは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が中国政府の影響力を奪い、金正恩の祖父である金日成が2つの共産主義大国を敵対させた1950年代と1960年代によく似た状況を作り出しているのではないかと懸念している。
3つ目の変化も同様に深刻だ。今年1月、金正恩は歴史によって分断された1つの同族国家として北朝鮮と韓国が定義していた70年間の統一政策を放棄し、韓国を「主敵(principal enemy)」と宣言した。彼は、統一への誓約を消去する北朝鮮憲法の変更を要求し、南北和解を扱う機関を解体し、父親が平壌に建てた統一記念碑を取り壊した。
最近の出来事はこれらの変化を強めている。金正恩にとって、アメリカの選挙サイクルはしばしば楽しいメッセージの機会となる。9月、北朝鮮は短距離弾道ミサイルの集中発射実験を開始し、金正恩は核戦力をアメリカとの戦闘に備えさせると誓約し、その後、念のため、極秘施設内を散歩する自身の珍しい写真を公開した。ウラン濃縮工場を建設し、より多くの核兵器を製造すると約束した。しかし、これは私たちが期待できることのほんの一部を示しているに過ぎない。
なぜこれが重要なのだろうか? 少なくとも今のところ、それがそれぞれアメリカと韓国の政策目標であり続けているという事実にもかかわらず、金正恩は非核化と南北統一(denuclearization and North-South reunification)の両方を議題から外した。
韓国問題は今やゼロサムの大国間競争(great-power competition)の中に組み込まれている。北東アジアには、中国、ロシア、北朝鮮という対立する2つのブロックが存在し、別に、アメリカ、韓国、日本が存在する傾向にある。中国とロシアが(アメリカ、中国、ロシア、日本、韓国、北朝鮮が参加する)「六者協議(Six Party Talks)」で協力することを可能にした核拡散(nuclear
proliferation)に対する共通の懸念はもはや存在しない。金正恩は現在、進化する核・ミサイル兵器、プーティン大統領の支援、そして最悪の場合は中国の無関心によって、これまでにないほど勇気づけられている。
しかし、私の言葉を鵜呑みにしないで欲しい。北朝鮮に関する国家情報会議(National
Intelligence Council)の2023年の報告書では、新たなリスク環境の概要が述べられている。その判断は次のようになる。
北朝鮮は今後も、核兵器使用という立場を利用して強圧的な外交を続けるだろうし、核兵器や弾道ミサイルの質と量が増えれば増えるほど、よりリスクの高い強圧的行動を検討するのはほぼ間違いない。
報告書は、金正恩が「体制が危機に瀕していると確信(believes the
regime is in peril)」しない限り、核兵器を使用することはないと評価する一方で、「核兵器がアメリカや韓国の容認できないほど強力な反応を抑止できると考え、より大きな通常軍事的リスクを取ることを厭わないかもしれない(He may be willing to take greater conventional military risks,
believing that nuclear weapons will deter an unacceptably strong US or South
Korean response)」と述べ、誤算(miscalculation)の可能性を示唆している。
報告書は、武力による「領土を奪取し、半島の政治的支配を達成しようとする攻撃戦略(an
offensive strategy that seeks to seize territory and achieve political
dominance over the Peninsula)」は「強制戦略よりも可能性が低い(less
likely than the strategy of coercion)」としているが、後から考えると評議会が修正する可能性があるのではないかと私が疑う重要な警告を発している。
金正恩がアメリカの介入を阻止し、中国の支援を維持しながら韓国軍を圧倒できると信じている場合、あるいは国内または国際危機が修正主義的な目標を達成する最後のチャンスであると判断した場合、攻撃戦略(offensive strategy)の可能性はさらに高まるだろう。
このような戦略の結果、どのようなシナリオが考えられるだろうか? エスカレートする可能性のある火種は、南北朝鮮の海洋境界線である北方限界線(Northern Limit Line、NLL)である。NLLは1953年の休戦前後に国連軍司令部によって画定されたが、北朝鮮はこれを争っており、長年の不満と度重なる軍事衝突の原因となっている。2010年、平壌は、NLLが韓国領と定義する5つの島の1つである延坪島を砲撃した。この攻撃で韓国海兵隊員2人が死亡し、韓国船1隻も沈没した。北朝鮮は今年初めにもこの島の近くで砲弾を発射している。
金正恩が憲法改正を要求し、韓国を「主敵(principal enemy)」と宣言したのと同じ1月の演説で、彼は将来の最高人民会議(Supreme People’s Assembly、SPA)会議で北方限界線の国境主張を修正することにも言及した。「我が国の南側国境線は明確に引かれているため、違法な『北方限界線』やその他の境界線は決して容認できない。韓国が我が国の領土である陸地、空域、水域を0.001ミリでも侵犯すれば、戦争挑発(war provocation)と見なすだろう」。金正恩は10月7日に最高人民会議の会議を予定している。
朝鮮半島のこうした現実と北東アジアの地政学的苦境から生じるリスクは、いくつかの危険だがもっともらしいシナリオを示唆している。まず、国家情報会議報告書や韓国のアナリストたちが予見している核の影のシナリオがある。それは次のようなものだ。
米韓軍事演習を非難した後、北朝鮮はそのうちの2つの島の近くで実弾射撃訓練と思われる演習を開始し、その後砲弾を集中砲火し、続いて軍隊が延坪島に上陸した。韓国を牽制するアメリカの努力は失敗し、韓国政府は空軍と海軍をその地域に派遣し、北朝鮮の船舶に砲撃し、海兵隊を島に上陸させた。戦闘が続く中、北朝鮮は近くの無人島に戦術核兵器を発射した。
アメリカや韓国は軍事的に対応し、エスカレーションの危険を冒すだろうか? 広島以来初の核使用に直面して、中国は国連安全保障理事会決議に拒否権を発動するだろうか、それとも状況を封じ込めるために米国と協力するだろうか? アメリカと韓国の両国が北朝鮮との信頼できる外交的または軍事的コミュニケーション手段を欠いている現在、北朝鮮は簡単に制御不能になる可能性がある。
更に憂慮すべきシナリオは、朝鮮半島危機と台湾危機が同時に発生するアジアでの二正面戦争(two-front
war)である。ウォーゲーム(wargaming)、政府関係者へのインタヴュー、ワークショップに基づく2023年の詳細な報告書の中で、北朝鮮担当の元国家情報担当官であるマーカス・ガラウスカスは、抑止力(deterrence)がどのように失敗する可能性があるか、また、例えば中国が台湾に侵攻し、アメリカが軍事介入(military intervention)して焦点と資源を逸らした場合、金正恩が韓国を攻撃する論理と力学について詳述している。あるいは逆に、中国と北朝鮮の両方が台湾と韓国を攻撃するような、協調しての同時攻撃(simultaneous offensives)の可能性もある。
3つの核保有国が対立する(そしてプーティンがどのように行動するかを推測するかもしれない)というのは、空想的に聞こえるかもしれないし、ハルマゲドンに向けて夢遊病になるのではないかと危惧する人もいるかもしれない。そのような最悪のシナリオがすぐに起こる可能性は低いが、北朝鮮の地政学的な再配置によって、今後6~18カ月以内に平壌が劇的な動きを見せる可能性は高まっている。
アメリカも中国も、朝鮮半島をめぐる危機感に欠けている。中国当局者によれば、北京は平壌の行動をアメリカの制裁のせいであり、自分たちの問題ではないと見ている。ウクライナや中東地域での紛争が激化し、中国とのゼロサム競争が高い議題となっている今、北朝鮮は後回しにされているし、今後もされ続けるだろう。しかし、金正恩はそれについて何か言うかもしれない。
※ロバート・A・マニング:スティムソン・センターの戦略的先見ハブ上級研究員を務めており、世界的な先見性と中国プログラムに取り組んでいる。ツイッターアカウント:@Rmanning4
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