古村治彦です。
2019年7月21日に参議院選挙の投開票が行われました。開票は22日になっても続けられましたが、大勢は21日の段階で判明しました。
今回は、自民党と公明党の与党は選挙の対象となった124議席のうち71議席を獲得し、過半数を超えましたが、改選議席からは6議席を減らしました。公明党は改選議席数を維持しましたので、自民党が減らしたということになります。新潟、山形、秋田、岩手、宮城といった本州北部の各県で野党勢力が勝利しました。これらの地域は米どころですから、私はツイッター上で、これは「rice rebellion(お米反乱・反抗)」と書きました。吉本興業の社長さんと同じで全く受けませんでしたが。
ヨーロッパでは労働者と農業従事者が連帯する「レッド・グリーン同盟(Red Green
Alliance)」という考え方があり、政治の場面で実現することもありました。日本では、戦後の一時期、戦前の農民運動の流れから農民組合が左傾化していた時期もありましたが、農協(農業協同組合)は自民党の大きな支持基盤でした。労働組合は、官公庁の労組自治労や日教組を中心とする総評が日本社会党、民間企業の労組を中心とする同盟が民社党を支持していました。
戦後すぐの人口や就労者数を考えると、農業地帯に基盤を置くというのは当然のことでした。戦後すぐの日本の就労者数に占める農業従事者の割合は50%程度でした。その後、重工業を中心とする輸出型企業の成長による高度経済成長時代に、地方から多くの若者が都市部で就労するようになり、農業従事者の割合は低下していきました。
それでもいわゆる一票の格差問題ということがあるように、地方からの議員選出数が人口に比べて多い、という状態も続き、自民党は地方を基盤としてきました。自民党は、食糧管理制度を維持しての米価の高値維持や公共事業を通じて、高度経済成長の果実を地方に行きわたらせる政策を実施ました。これを補償型政治(Compensation Politics)と言います。その見返りとして、自民党は地方で勝利し、安定した基盤を築くことが出来ました。
しかし、平成に入り、経済が停滞する中で、農業や公共事業、補償型政治は衰退していきます。そうした中で、補償型政治を代表する「田中派・竹下派」の流れをぶち壊す、小泉政治が出てきて、地方は息の根を止められました。旧民主党に参加した小沢一郎代議士が、農家の個別補償制度を主張し、民主党政権時代に実施しましたが、これは小沢代議士が田中角栄元首相の流れにある人であることを示しています。
それでも地方ではいまだに自民党支持が強固な訳ですが、今回地方で自民党に対して異議申し立てが起きたことは注目されます。それでも自民党は小泉・安倍・麻生路線のアメリカ型システムによる改革(破壊)政策を実施し、都市部に住む、中間層(安定した雇用と比較的高い給与が保障されている)の支持を得ることに成功しています。
立憲民主党、国民民主党では、立民が議席を増やし、国民民主は微減ということになりました。複数区での候補者調整がもう少しできていれば、当選できたかもしれないという惜敗した候補者たちが出たのは残念なことでした。これは他の野党でもあったことで、次の選挙での野党共闘の際の教訓にすべきことです。たとえば、東京都選挙区、立民2名、国民民主1名が立候補しました。立民の山岸一生氏が惜敗しました。大阪府選挙区では、立民、共産、国民民主の候補者が共に落選ということになりました。ここで何とかならなかったのかという思いに駆られます。
立民の枝野幸男代表は立民の野党第一党の地位を確固、不動のものとすることに終始し、野党共闘に後ろ向きだったという批判も起きています。国民民主とは感情的な行き違いもある、共産党とも相容れないということも言われました。全てある部分では本当のことなんでしょう。しかし、それでも全国の一人区のうち、10で野党側が勝利を収めることが出来たというところを考え、次はもっとうまくやってください、と希望するばかりです。立民をあしざまに攻撃することは簡単ですが、それではもっと大きな敵を見逃すことになります。
共産党は微減でしたが、野党共闘にもより前向きで、今回自民党の議席減に貢献したと言えると思います。社民党は政党要件を喪失するのではないかという危機感の中、得票率2%を超え、吉田忠智前党首が国政復帰を果たしました。低投票率の中、前回よりも少しですが、比例での得票数を伸ばしたというのは、改憲に反対する人たちが投票したということなのだろうと思います。愚直さというものに時に神様は微笑むものなのでしょう。
れいわ新選組とNHKから国民を守る党がそれぞれ2議席、1議席を獲得し、政党要件を満たしました。これが今回の選挙のハイライトで、自民党の勝ち負けということすら、どっかに追いやられてしまうほどでした。
れいわ新選組は4月に旗揚げされました。この時、私は「大丈夫かな、山本太郎議員は東京都選挙区から出馬したほうがいいんじゃないか」と考えていました。先を見る目がないことは、2016年のアメリカ大統領選挙の結果を外したことでも知られていますので、今更驚く人はいないと思いますが、れいわ新選組に対する支持の盛り上がりは予想を超えるものでした。消費税廃止、財源については原題貨幣理論(MMT、Modern Monetary Theory)という新鮮な訴えで、現在、生活苦に陥っている若者層(20代から40代まで)の支持を得ました。
れいわ新選組の台頭は、欧米で起きている流れに連なるものです。イギリス労働党では、ジェレミー・コービンが党首となり躍進、アメリカ民主党では、2016年大統領選挙でヒラリー・クリントンを追い詰めたバーニー・サンダースの高い人気、突如すい星のように登場したアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)連邦下院議員の活躍といったことに連なるものです。
冷戦終結、ソ連崩壊以降、リベラルや進歩主義派といった人々の旗色は悪く、市場原理を基盤とする新自由主義が世界を席巻しました。しかし、新自由主義(むき出しの資本主義)による矛盾もまた同時に世界を覆いました。日本も例外ではありません。格差(inequality)が拡大する中で、新自由主義への疑問と異議申し立てが起きました。
その時に、ずっとぶれずに進歩主義的考えを堅持していたコービンやサンダースを人々が「発見」しました。そして、欧米で大きな流れとなっています。既存のリベラルはまたエスタブッシュメントなのだという考えが広がり、人々の怒りが燃え上がりました。これが現在のポピュリズムの正体です。ポピュリズムは右と左に同時に出現しました。アメリカでは、ドナルド・トランプ大統領の出現とAOCの出現は右と左で全く違うように見えますが、同根の現象なのです。ポピュリズムは間欠泉のようなものだと思います。あちこちからお湯が吹きあがりますが、同じお湯です。怒りのお湯です。今回、N国党が議席を獲得しました。こちらもポピュリズムの右側の吹き上がりということになります。
エスタブリッシュメント批判、エリート批判という点でとらえるならば、こうした動きは立民に対する批判ということも言えます。興味深かったのは、立民のブレーンとされる大学教授や知識人たちが、選挙戦中盤以降、れいわ新選組の批判を始めたことです。ポピュリズムは危険だ、山本太郎は危険だ、という言葉が飛び交いました。この構図は現在のアメリカ民主党内で起きているエスタブリッシュメント・主流派(ヒラリー派)と進歩主義派(サンダースやAOC)の内部対立と同じだと私は考えます。
立民の東京都選挙区に立候補した山岸一生氏の最初の選挙ポスターが象徴的だと思います。そこには「元朝日新聞記者」「筑駒中、高、東大法学部卒」としか書かれていませんでした。このポスターは選挙戦が進むにつれて印刷し直され、貼り直されたそうですが、これで「ほー、素晴らしい、是非投票しよう」となると考え、それを「お前はアホか」と止める人がいなかった、結局時間と資源の無駄遣いをした、ということは象徴的です。
生活者の目線はそこにありません。そして、「なんだよ、お前も結局はエリートで、俺たちを抑圧する側出身の奴じゃないか」ということになります。「山岸さんは自分から握手を求めに行くような気さくな人ですよ」ということでしたが、そんなことは当たり前じゃないでしょうか。選挙運動中に有権者が握手をしに来てくれるのを待っている候補者がどこにいるでしょうか。人気アイドルの握手会じゃあるまいし。
立民は「令和デモクラシー」という大正デモクラシーになぞらえたスローガンを掲げましたが、どれほどの人たちの記憶に残っているでしょうか。立憲主義を透明に入れていることは素晴らしいし、これからも党勢を拡大していって欲しいと思いますが、「上から目線」という点は改善されるべきだと思います。
自公維新で3分の2以下になりましたが、野党側の動き次第で、改憲が進んでしまう可能性が高い、微妙な議席配分となっています。是非野党勢力には小異を捨てて大同につく、「国民の生活が第一」で進んでいっていただきたいと思います。
(貼り付けはじめ)
参院選当選者確定…与党、改選議席から6減らす
読売新聞 2019年7月22日
https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20190722-OYT1T50215/
21日に投票が行われた第25回参院選は22日午前、当選者が全て確定した。
自民、公明の与党は改選定数124の過半数(63)を超える計71議席を獲得したが、改選議席(77)からは6減らした。自民党が確保した57議席は、2016年参院選の56議席(追加公認含む)を上回ったものの、圧勝した13年の65議席には及ばなかった。宮城、滋賀、大分など8選挙区では、現職が落選した。公明党は選挙区選に擁立した7人全員が当選し、比例選の7議席を合わせると、党としての過去最多に並ぶ14議席を獲得した。
立憲民主党は比例選で自民党に次ぐ8議席を獲得し、改選9議席から17議席に伸ばした。改選8議席の国民民主党は2減の6議席にとどまった。旧民進党を源とする立民、国民両党の議席を合わせると計23議席で、16年に民進党が獲得した32議席を下回った。両党が1人区で支援した無所属の野党統一候補は8人が当選した。
共産党は改選8議席から1減らした。日本維新の会は関東でも議席を獲得し、10議席に伸長した。社民党は改選1議席を死守した。諸派のれいわ新選組は2議席、NHKから国民を守る党は1議席をそれぞれ比例選で獲得した。
(貼り付け終わり)
(終わり)
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