古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:国際政治

 古村治彦です。

 今回は、私の最新刊『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)をご紹介いたします。発売日は2023年12月27日です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』は私にとって4冊目の単著で、ジョー・バイデン成立後のアメリカ政界の動きと世界政治の動きを網羅した内容になっています。何とか年内に出すことができました。2023年を振り返る、冬休みの一冊として、是非手に取ってお読みください。

 以下に、副島隆彦先生の推薦の言葉、はじめに、目次、おわりにを掲載します。

(貼り付けはじめ)

推薦の言葉 副島隆彦(そえじまたかひこ)

 本書『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』は、私の弟子である古村治彦(ふるむらはるひこ)君にとって4冊目の単著となる。

 古村君の前著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム、2021年6月刊)は、アメリカ政治研究の専門家たちから高い評価をいただいた。それで、本書がその続編として書かれた。前著を読んだ編集者から執筆の話をいただいたと聞いた。大変ありがたいことだ。

 前著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』では、古村君は、アメリカのバイデン政権を作っている、ディープステイト(超[ちょう]財界人と米軍需産業)側の政府高官たちが、中国・ロシアとの対決、戦争をどのように仕組んで、どのような計画で実行しているかを、正確にはっきりと説明した。なんと、この本が出てから8カ月後に、実際にウクライナ戦争が始まった(2022年2月24日)。これは真に驚くべきことだ。

 アメリカの国防政策と外交政策を実際に操(あやつ)っている、ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社とその創設者のミッシェル・フロノイ元(もと)米国防次官(アンダーセクレタリー)のことを、詳しく紹介していた。これは日本初(はつ)のことで、国際関係論(インターナショナル・リレイションズ)の研究者である古村君の学問業績である。本書に続いてお読みください。

 本書では、古村君は、引き続き、アメリカ国際政治の悪の司令塔であるウエストエグゼク社と、米国防総省(ペンタゴン)の密接な結びつきを丹念に追っている。ウエストエグゼク社が、米国防総省と、民間のハイテク企業群のグーグル、フェイスブック(現在はメタ)などのビッグテック(Big Tech 巨大IT企業)を結び付けて、アメリカの軍事部門の先端技術(ハイテク)と武器開発の優位を保っている様子を、精(せい)(かく)に描いている。古村君はこのことを「新(しん)・軍産(ぐんさん)複合体」と表現している。今も前著の帯に書かれた「アメリカをWestExec(ウエストエグゼク)社が動かす!」の通りだ。

 古村君は、バイデン政権の進めている「産業政策(Industrial Policy(インダストリアル・ポリシー))」に注目している。産業政策は日本語で書くと珍腐なコトバだが、アメリカ政治学における重要な概念だ。この産業政策という概念を生み出したのは、日本研究学(ジャパノロジー)の大(だい)学者だったチャルマーズ・ジョンソン博士だ。私は、当時アメリカ留学中だった古村君を伴(ともな)って、カリフォルニア州サンディエゴにあるチャルマーズの自宅を訪問し、長時間にわたって話し込んだ。2004年4月のことだ。このことを懐かしく思い出す。

 古村君は、本書の後半部で世界政治における「西側諸国(the West[ザ・ウエスト[)対(たい) 西側以外の国々(the Rest[ザ・レスト] 残りの部分の意味)の分裂と対立」を描き出している。ウクライナ戦争は、アメリカのディープステイトが、何が何でも、プーチン政権を罠(わな)に嵌めてウクライナにおびき出して、ロシアを弱体化することが目的だった。この外交・軍事戦略を決定して実行した者たちが、まさしく今のバイデン政権の高官たちだ。一方、中国、インド、サウジアラビアなど、非()西洋、即ち西側以外の国々は、継続してロシアから石油を輸入することでロシアを支えた。ウクライナ戦争は膠着(こうちゃく)状態だが、英と米のディープステイト側の敗北、そしてロシアとロシアの苦境を支える西側以外の国々の勝利が見えてきた。

 本書『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で、古村君は、「世界覇権がアメリカから中国に移動する、中国は焦らず、じっくりと熟柿(じゅくし)作戦で覇権(ヘジェモニー)が泰然自若(たいぜんじじゃく)で手に入るのを待つ。大国の風格だ」と書いている。まさしくその通りで、もうすぐ世界覇権の移動が起きる。

 この一冊で、最新のアメリカ政治と世界政治の動きを理解することができる。ぜひ、読者諸賢にお読みいただきたい。

2023年12月

副島隆彦(そえじまたかひこ) 

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はじめに 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 私は2021年6月に、著書『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)を発表した。その中で、ジョー・バイデン Joe Biden(1942年~、81歳。大統領在任:2021年~)政権の高官たちの多くが、アメリカの首都ワシントンDCにあるコンサルティング会社の、ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社 WestExec Advisors の出身者であることに着目し、この会社を中心とする人脈からバイデン政権を分析した。

 このウエストエグゼク社が米国防総省 United States Department of Defense(ユナイテッド・ステイツ・デパートメント・オブ・ディフェンス) や軍事産業と関係が深い点に注目し、「バイデンとバイデン政権の高官たちは中露に対して強硬な姿勢を取る、もしかしたら戦争になるかもしれない」と書いた。

 翌年の2022年2月24日にウクライナ戦争が始まった。バイデン政権の下でロシアが絡(から)む戦争が起きたということで、私の本に注目してくださる方が増えた。アメリカと中露が直接戦う戦争ではなかったが、アメリカはウクライナに対して大量の武器を支援しており、ウクライナがアメリカの代理 proxy(プロキシー) となり、ロシアと戦っている。

 しかし、バイデン政権の活動の根幹を担っている、ウエストエグゼク社と同社の出身者たちの人脈に対して、日本では大きく注目されるところまではいかなかった。私はそのことを残念に思っていた。

 しかし、2023年9月2日、講談社が運営するウェブサイト「現代ビジネス」の「ニュースの深層」というコーナーを長年にわたり担当している、ヴェテランのジャーナリスト歳川隆雄(としかわたかお)氏が、「米バイデン政権『国務副長官』の後任は……政府要職を占めるコンサル出身者のからくり」(https://gendai.media/articles/-/115663)という題名の記事の中で、ウエストエグゼク社について取り上げた。歳川氏は、バイデン政権に数多くのウエストエグゼク社出身者がいることを指摘し、バイデン政権にとって重要だと書いた。

 歳川氏の記事が出てから、「あの記事で取り上げられていたウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社は、あなたが本の中で取り上げていた会社ですね」「あなたの方が先に注目していたことになる」という嬉しい声を多くいただいた。これでウエストエグゼク社と出身者たちについて、日本でも注目されるようになるだろうと考えている。

 本書では引き続き、ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社の動きから、バイデン政権の意図を分析する。さらに、アメリカ国内政治、国際政治の最新の動きを網羅的に捉(とら)え、日本の主流メディアでは紹介されない、見方や考え方を提供する。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる──目

推薦の言葉 1

はじめに 5

第1章 中国に対する優位性の確保に苦労するバイデン政権──米中で実施される産業政策でも中国が有利

バイデン政権の産業政策に深く関わるウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社 20

ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社とはどのような会社か 22

ウエストエグゼク社出身者が重要高官を占めるバイデン政権はヒラリー政権でもある 27

国防総省がウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社と関係を深めている 30

ウエストエグゼク社創設者ミシェル・フロノイは国防総省の予算を使いやすくするように提言報告書を執筆 35

産業政策の本家本元は日本 40

バイデン政権が進める産業政策 46

バイデン政権で産業政策を推進する人材としてのジャレッド・バーンスタイン 51

ジェイク・サリヴァン大統領補佐官が産業政策の熱心な支持者 54

産業政策の成功例である中国 66

ファーウェイがiPhoneと同水準のスマートフォンを開発──21世紀のスプートニク・ショック(Sputnik Crisis(クライシス)) 70

軍事面で優位に立つためには技術面での優位が必要──長期計画ができる中国が有利ということが明らかに 75

第2章 2024年米大統領選挙は大混迷

米大統領選は100年に一度の大混乱 80

アメリカ大統領選挙はマラソンレース──まずは党の候補者を決める予備選挙から 82

アメリカ大統領選挙本選挙は各州の選挙人の取り合い 85

現職大統領なのに支持率が上がらないバイデン──有権者は高齢問題を憂慮 88

民主党全国委員会はバイデン当選に向けて露骨な依怙贔屓 91

民主党予備選挙に出馬宣言したロバート・F・ケネディ・ジュニア──大いなる期待 99

ケネディ・ジュニアが無所属で大統領選挙本選挙に出馬表明という怪しい動き 104

共和党ではトランプが圧倒的に有利な情勢 110

トランプを尊敬する新人候補ヴィヴェック・ラマスワミが大健闘 111

アメリカ史上初めての連邦下院議長解任まで起きた連邦下院共和党の分裂 115

連邦下院では10月から始まる2024年度の予算が可決成立していない 123

共和党内の分裂で注目を集めるフリーダム・コーカスは「トランプ派」議員連盟ではない 127

「大統領の犯罪」を隠(いん)(ぺい)するためにはどうしても勝たねばならないバイデン 136

第3章 ウクライナ戦争から見えてきた世界の分断

長期膠着状態に陥っているウクライナ戦争の戦況 142

アメリカ軍やNATOの評価が低い、そして自分勝手なウクライナ軍では勝てない 149

「ゼレンスキー疲れ」「ウクライナ疲れ」に陥ったヨーロッパとアメリカ 153

国際関係論の大物学者ミアシャイマーが「ウクライナ戦争の責任は、アメリカとNATOにある」と喝破 157

ヘンリー・キッシンジャーの提示する「落としどころ」が停戦の基本線 164

「世界の武器庫」であるべき西側諸国、特にアメリカの武器増産が進まずに武器不足に陥る 171

「大統領の犯罪」ノルドストリーム爆破事件──アメリカは平気で自分の同盟諸国を苦境に陥れる 177

戦争直後の国連でのロシア非難決議の採決で世界の分断が明らかになった 187

ウクライナ戦争の結末はどうなるか 191

第4章 「西側諸国 the West」対「西側以外の国々 the Rest」の分断が世界の構造を変える

「西側以外の国々」の中核となるBRICS(ブリックス)(ブリックス) 199

多元的な国際機構や枠組みで重層的な関係を築いている西側以外の国々 202

サウジアラビアがバイデン大統領の依頼を断り、中国寄りの姿勢を鮮明にした 208

中国の習近平国家主席がサウジアラビア訪問で石油取引の人民元決済に言及 210

アメリカを追い詰めすぎると怪我するということで、「ブリックス通貨」導入は見送り 218

国際社会で仲介者になるほどに中国の大国としての存在感は高まっている 225

アメリカはインド・太平洋で中国を封じ込めたい──QUAD、AUKUS、NATOのアジア進出 229

「アジアの皇帝」カート・キャンベル国務副長官指名は、バイデン政権の対中強硬姿勢を鮮明に 234

ハマスによるイスラエルに対する大規模攻撃とイスラエルの反撃 240

アメリカの意向を無視するイスラエルがアメリカを追い詰める 246

ウクライナ戦争とパレスティナ紛争から見えてくるアメリカの威信の低下 253

第5章 覇権国でなくなるアメリカとこれから覇権国になる中国

国際関係論の覇権国交代理論である覇権戦争論と長期サイクル論 261

世界は西洋支配の前の状態に戻る 269

米中間で戦争が起きるか 273

米中は戦争の可能性を視野に入れて体制強化を図る 277

ウクライナ戦争とパレスティナ紛争が長引けば、国際情勢はアメリカと西側諸国にとって不利になる 279

ウクライナ戦争とパレスティナ紛争で抑制的な動きをしている中国だが国際情勢は中国有利になる 284

アメリカはこれから同盟諸国にバック・パッシング(責任転嫁)を行う 287

短期的に見て怖いのは、直接戦争ができないアメリカが日本に代理戦争をさせること 290

おわりに 295

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おわりに 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 本書の一貫したテーマは、アメリカを筆頭とする西側諸国(the West[ザ・ウエスト])の衰退と中国を筆頭とする西側以外の国々(the Rest[ザ・レスト])の台頭が世界に大きな変化をもたらしている、ということだ。そのことを、アメリカ国内政治と世界政治の分析を通じて描き出そうと努めた。

 本書の執筆中、10月になって、アメリカ国内では、史上初の連邦下院議長解任が起き(10月3日)、国際的に見れば、ハマスによるイスラエルへの攻撃が起き、イスラエルがガザ地区に報復攻撃を開始した(10月7日)。そのため、本書の構成を一部変更せざるを得なくなったが、これらの出来事は、本書で掲げたテーマを裏付けるものだ。

 アメリカ国内政治は混迷の中にある。アメリカ国内の分裂と衰退はもう隠すことができないところまで来ている。アメリカ国内では、2024年の大統領選挙で、高齢問題もあり、有権者から全く支持されていないバイデンが再選を果たすことになると私は見ている。合法、非合法、あらゆる手段で、アメリカ国民の意思を捻()じ曲げて、バイデン勝利とするだろう。そうしなければならない理由を、私は本書で書いた。バイデン勝利が「作り出されたcreation(クリエイション)」後に、アメリカでは、バイデンが大統領選挙で勝利した州を中心にして、アメリカ国民による大規模な抗議活動が起き、アメリカ国内の分裂はさらに深まる。

 さらには、バイデン再選とそれに対する抗議運動がきっかけになって、アメリカが新たな「南北分裂」状態に陥ることも考えられる。私は、本文の中で、バイデン勝利は「アメリカ民主政治体制の死」を意味すると書いたが、さらに進んで「アメリカ合衆国の死(解体)」にまで進む可能性も高い。

 バイデン政権は、分裂を避けるために、国内政策に注力しなければならなくなる。対中封じ込め政策を強化しようとしているが、国内対策に足を取られて、思い通りに物事を進められない状態になる。国内経済の先行きも不透明になる中で、アメリカは分裂と衰退に向かう。アメリカの分裂と衰退は、西側諸国全体にも悪影響を及ぼすことになる。

 世界政治の構造も大きく変化している。アメリカの分裂と衰退で利益を得るのは、中国を中心とする西側以外の国々だ。ウクライナ戦争では、西側以外の国々はロシアを間接的に支え切り、ロシアは戦争初期の厳しい段階を乗り越えて、守備を重視した、負けない体制を構築し、戦争継続が可能となっている。西側諸国は、武器生産能力が限界を迎え、資金面でも、限界に来ており、全体に厭戦気分が広がっている。

 西側以外の国々は、重層的な国際組織を結成し、宗教、政治体制、経済体制の面で、多様な国々が連携できるネットワークづくりを進めている。その中心がBRICS(ブリックス)であり、中国が核となっている。石油の人民元(じんみんげん)決済やドル以外の共通通貨(脱[だつ]ドル化)の話が出ているのは、アメリカの戦後支配体制の揺らぎを象徴している。中国は、アメリカとの対立激化を避けながら、アメリカの自滅を待つという姿勢だ。できるだけ労力をかけないようにしながら、慌てず急がずで、世界覇権を手にする。

 西洋近代は、もちろん素晴らしい成果を収めた部分もある。西洋近代がもたらした科学(サイエンス)(学問)の発展や価値観、制度によって、人類はより快適で豊かな生活を享受することができた。その点は認めなければならない。しかし、一方で、西洋中心主義 Ethnocentrism(エスノセントリズム) によって、西洋的な価値観と制度を世界中に押し付け、結果として、西洋化することで世界を一色にまとめ上げようとしてきた。

 非西洋諸国の文明化 civilization(シヴィライゼイション) は、社会工学 socialengineering(ソーシャル・エンジニアリング) を通して行われた。非西洋の土台の上に無理やり、西洋社会の価値観や制度が移植された。社会工学は「文明化外科手術(ぶんめいかげかしゅじゅつ)」とも呼ばれるべきもので、不自然な移植のために、制度がうまく機能しないことも起きた。それに対して、西洋諸国は、「近代化の出来ない落ちこぼれ」というレッテルを貼った。

 しかし、これから、世界の「優等生」たちが力を失い、これまでの「落ちこぼれ」たちが力をつけていく。そうした時代に入っていく。西洋近代、戦後世界の終わりの始まりである。

 本書の構成を友人に話したところ、「世界の今が分かるということですね」と言われて、私は少し驚いた。私としては、そのような大それた目的をもって執筆を始めた訳ではなかった。しかし、本書を通じて、読者の皆さんに、現在の世界情勢を理解するための情報や視点を提供できるとすれば、それは筆者として、何よりの喜びだ。

 師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生には、力強い推薦文をいただきました。徳間書店学芸編集部の力石幸一氏には、本書の企画から出版までお世話になりました。記して御礼申し上げます。

2023年12月

古村治彦

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 私はプロゴルフの世界には疎いのだが、PGAツアーとか全米オープン、全英オープンといった言葉は知っている。国際的な機関であるPGAが主催してツアーを開催し、伝統のある有名な大会があるということは分かる。日本ではJPGAがツアー主催し、プロゴルファーの資格認定を行っていることも分かる。こうした中で、サウジアラビアのソヴィリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド)が出資してLIVゴルフ・ツアーが2021年に創設された。この新しいゴルフ・ツアーではティーム対抗戦、54ホールの試合(一般的には72ホール)などの新機軸が実施されている。PGALIVツアーに参加した選手のPGAのツアーに参加することを認めていない。そのために、有名選手たちの多くはLIVツアーには参加していない。それでも何人かの有名ゴルファーとの契約に成功した。サウジアラビアがLIVツアーに出資しているのは

 今回はゴルフ界の既存の統括団体に挑戦する新興勢力の挑戦という構図を国際政治に当てはめると、新興勢力が既存の国際機関の内容や機能を変化させようとする、もしくは自分たちで新しい機関を創設するということになる。具体的には中国やロシアが国際機関やルールを自分たちに都合が良いものに変えようという試みだ。しかし、それはなかなかに難しいことだ。既存の機関の方が強く、また、伝統があることから、正当性が担保されていて、中々新しいものが入り込む余地はない。ゴルフの世界で言えば、LIVツアーには、私でも名前を知っているような、タイガー・ウッズやジャック・ニクラウスらの有名ゴルファーは参加していない。それは、LIVツアーに参加すれば、PGAが主催するツアーには出られなくなり、伝統ある有名な全米オープンやマスターズにも出場できなくなるからだ。

 国際政治に目を転じてみれば、ヨーロッパの非公式の列強政治の枠組みが崩壊して第一次世界大戦が起き、その後はヴェルサイユ体制と国際連盟の機能不全によって、第二次世界大戦が勃発した。戦後は米ソ両超大国による冷戦構造の中で、国際連合が作られた。国連常任理事国である米ソ(後に露)英仏中(台湾から本土)の5つが世界の大きな決定を行うということになった。しかし、実態は米ソ二大超大国の二極構造から冷戦終結・ソ連崩壊によるアメリカ一極構造へと変化していった。21世紀に入って、中国が台頭し、既存の秩序に挑戦する形になっている。第二次世界大戦後の世界構造が大きく変化する中で、国際機関の性格が変化する、新たな国際機関が創設されるということはある。そうした大変化の際に、戦争が起きることが多いが、米中対立から戦争へと発展するという可能性は存在する。国際政治の変化に常に目を配っておく必要がある。

(貼り付けはじめ)

ゴルフの魂のための戦い(The Battle for the Soul of Golf

-サウジアラビアが主催するあるゴルフトーナメントは、中国や他の新興諸国が既存の国際機関を独自のものに置き換えるのに苦労する理由を示している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年8月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/09/liv-tour-saudi-golf-china-soft-power-battle-for-soul-of-golf/

サウジアラビアがスポンサーとなった新しいゴルフ・ツアーであるLIVゴルフ・ツアーは、王国の不安定なパブリックイメージを「スポーツウォッシュ(sportswash)」するための露骨な試みであると言えるかもしれない。この新しい試みは、プロゴルフ界を騒がせたが、最初のイヴェントにはあまり観客が集まらなかった。サウジアラビアがマスターズ・トーナメントと肩を並べることはないかもしれないが、新しい挑戦者が既成の秩序に対抗しようとする際に直面する障害と同様であることは明らかだ。実際、中国が現在の国際機構を中国の意向に沿ったものに置き換えようとする動きも、同じような力によって阻まれているように見える。

スポーツに興味のない人のために説明すると、LIVゴルフ・ツアーは、サウジアラビアのソヴリン・ウエルス・ファンド(Saudi sovereign wealth fund)が支援する新しいゴルフトーナメントである。LIVゴルフ・ツアーは、多くの有名なプロゴルファーを招待し、スター選手には多額の契約金を支払い、優勝者には多額の賞金を約束し、最下位まで参加者全員に相当な報酬を保証している。これに対し、PGAツアーをはじめとする著名なゴルフ団体(全英オープンを運営するR&A協会を含む)は、LIVツアーに参加する者は既存のツアーイヴェントに参加する資格がないと宣言している。

PGAの決定はいくつかの興味深い法的問題を提起するが、私はLIVツアーが苦しい戦いに直面していると思う理由は次の通りだ。サウジアラビアのソヴリン・ウエルス・ファンドからの多額の資金が提供されているが、LIVツアーには何の歴史もない。サウジアラビアのソヴリン・ウエルス・ファンドは、ゴルファーたちが子供の頃から優勝を夢見てきた、そしてファンが毎年楽しみにしている象徴的なトーナメントを後援していない。ゴルフは伝統を重んじるスポーツであり、LIVツアーにはそうしたものが何もない。かつて全米オープンを制したジョン・ラームが言ったように、「何百年も続いているフォーマットで、世界最高峰の選手と対戦したい」ということになる。

LIVツアーの斬新なフォーマット(54ホール対72ホール、カットなし、支払い保証付き)もゴルフの歴史と相反するもので、ファンにとって明白な利点はない。LIVツアーのイヴェントはまた、多少人工的なティーム形式を含むが、この配置がライダーカップのような国際的なティーム競技を取り巻くような激しい関心を生み出すとは想像しにくい。オーガスタナショナルやセントアンドリュースのような有名なコースがないだけで、基本的には同じものだ。既存のPGAツアーは、テレビ放映、多くの企業スポンサー、既存のサテライトツアーや大学のスポーツプログラム、アメリカやその他の地域のゴルフクラブで働くプロの広大なネットワークとの幅広いコネクションを持っている。

新しいゴルフ・ツアーはまた、批判的な視線に悩まされている。サウジアラビアはこの新しいツアーで、ジャーナリストのジャマル・カショギの殺害や911テロ事件を実行したサウジアラビア国民のことを忘れさせたいと考えているが、911テロ事件の遺族や王国の人権記録を懸念する人々は、選手がティーアップする度にこの問題を持ち出すだろう。新しいツアーは、過去の残虐行為を深い砂の罠に隠す代わりに、批評家たちにこれらの問題を前面に押し出す機会を無限に与え、そうでなければ非政治的なゴルファーに、通常は説得力のない話題を避けるか変えようとすることを強いるのである。

新ツアーの大物選手(フィル・ミケルソン、ブルックス・ケプカ、ブライソン・デシャンボーなど)が、最も好感の持てる選手という訳ではない。これらの中で最も大物のミケルソンには長年にわたって倫理的な問題があった。もちろん、これらの選手にはファンがいるが、お金をもらって道徳的なディレンマを無視することに決めた傭兵のように見えるのを避けることは不可能である。彼らに道徳心がないとは言わないが(あるいは、既存のツアー参加者が皆、美徳の模範であるとも言わないが)、金が全てであるかのように見えないようにするのは難しいことだ。スポーツは、正当化されようがされまいが、英雄崇拝の上に成り立っているのであって、このような人たちを英雄視することはない。

最後に、プロ・スポーツのリーグは、二大政党制のようなものであることを忘れてはならない。一度(ひとたび)リーグが確立され、ファンの忠誠心が固まってしまうと、競合する存在は参入することが困難になる。アメリカン・バスケットボール・アソシエーション、ユナイテッド・フットボール・リーグ、ワールド・ボクシング・リーグ、ノース・アメリカン・サッカー・リーグは全て数年で崩壊し、最近の話で言えば、ヨーロッパのサッカーの既存の構造をエリート・スーパーリーグに置き換える試みは、ファンの熱烈な反発に直面して崩壊した。ワールドティームテニスのような構想は、テニスプロフェッショナル協会や女子テニス協会のツアー、ウィンブルドンや全米オープンのようなメジャーイヴェントに捧げられる熱意や関心には到底及ばない。アメリカン・フットボール・リーグ(AFL)は、このパターンの例外であるが、1970年にNFLと合併することで生き残った。

それでは、このことは国際政治と、中国とロシアが既存の制度を自分たちの好みに合わせたり、自分たちで設計した制度に置き換えたりする努力と、どのような関係があるだろうか?

LIVのケースは、制度論の重要な前提である「制度は粘着性を持つ傾向がある(Institutions tend to be sticky)」ということを物語っている。一旦確立された既存の組織や制度は、長い間存在することによって、やがて永続的な性格を獲得することができる。ゴルフでは、4大メジャートーナメント(全米オープン、全英オープン、マスターズ・トーナメント、PGAツアー)のいずれかに勝つことが、偉大さを評価する基準になっている。もちろん、これは完全に恣意的な尺度だが、ゴルファーやファンがそれをより深刻に真剣に受け止めていない訳ではない。

長く続いていることは、それ自体の正当性を証明する。アメリカとヨーロッパの同盟諸国が、NATOの大きな記念日を祝うたびに、人類の歴史の中で最も成功した同盟だと賞賛していることを見て欲しい。国連安全保障理事会の構造のように、もはや作られた当時の状況を反映していない制度でさえ、しばしば驚くほど変化や代替が効かないことがある。

過去数十年間、中国とロシアは、リベラルなルールに基づく秩序と呼ばれるものを構成する様々な制度(institutions)やレジーム(regimes)に対する多くの代替案を策定し、あるいは強化しようと試みてきた。上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)のような安全保障パートナーシップ、ロシアのユーラシア経済連合(Eurasian Economic UnionEEU)のような新興の地域組織、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなるいわゆるブリックス(BRICS)諸国の象徴的なサミット、中国のアジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment BankAIIB)や「地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership)」など様々な構想がある。中国の「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」も、基本的には二国間の取り決めであり、新たな国際機関ではないが、国際機関の1つに加えてもよいかもしれない。

AIIBをはじめとするこれらの構想は成功を収めているが、世界銀行(World Bank)や国際通貨基金(International Monetary FundIMF)といった既存の機関や、アメリカが当初のTPPTrans-Pacific Partnership)から離脱した後に日本が主導したTPPに取って代わるには至っていない。その理由を理解するのは難しいことではない。これらの制度は今でもそれなりに機能しており、中国や他の国によって作られた代替制度はより良いものであることを示すには至っていない。ドルが世界の基軸通貨として支配を続けていることは既存の金融制度を強化しており、代替通貨が普及することをより難しくしている。

つまりは、既存の仕組みが存続しているのは、その仕組みに参加することが多くの国々の利益につながるからである。アメリカが NATO、世界銀行、世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)といった機関や、ドルの中心的役割、SWIFTといった金融決済システムを、自国の特定の利益を高めるために利用してきたことに疑問の余地はない。他の国々は、より良い代替案が存在しないので、このような取り決めに従わざるを得なかった。

PGAツアーで人気と尊敬を集める有名なプロゴルファーたちがLIVツアーを敬遠するように、ほとんどの主要国は既存の秩序にこだわり、中国が主導する代替策を警戒している。

しかし、中国自身を含む他の国々がしばしばこうした協定から利益を得てきたことも事実であり、他国を犠牲にしてアメリカだけが豊かになるために利用されてきた訳ではない。このような取り決めが崩壊しない限り、あるいは中国が明らかに優位なものを構築できない限り、他の国がこの取り決めを放棄することはないだろう。ちょうど、ほとんどのプロゴルファーが、PGAサーキットでの出場枠が失われるなら、LIVツアーに飛び乗ることはないだろう。

更に言えば、PGAツアーの人気選手であるローリー・マキロイ、タイガー・ウッズ、ジャスティン・トーマス、ラームがLIVツアーを公然と避けているように、ほとんどの経済・軍事主要国は既存の秩序にこだわり、中国主導の代替策を警戒し続けているのだ。

これまで、中国やロシアと手を組んだ国々は、比較的弱いか、特に人気がないかのどちらかであった。もし、あなたが親密なパートナーとして名前を挙げる国が北朝鮮、ベラルーシ、ヴェネズエラ、キューバ、イランといった国々で、デンマーク、日本、オーストラリア、ドイツ、カナダ、その他のG20の加盟諸国ではないとしたら、あなたは特に印象深いパレードを率いているとは言えないだろう。EUが2021年の主要投資協定の停止を決定したことが示すように、中国の強引な外交や疑問符が付く人権状況によって、他の国も北京に近づき過ぎることを警戒している。

皮肉なことに、中国は既存の国際組織の中で影響力を高めようとする努力の方が成功している。世界のデジタル・インフラの将来に影響を与えるというキャンペーンがその成功を示している。同じ理屈で、サウジアラビアがゴルフで自国のイメージを改善しようとするのも、その巨万の富を利用して、全く新しい選択肢を作ろうと大げさに取り組むのではなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアに既に存在するツアーの中でイヴェントのスポンサーになる方が成功するかもしれない。サウジアラビアが支援するイギリスのサッカークラブ、ニューカッスル・ユナイテッドの成功と、それに対する比較的穏やかな政治的反発は、この戦略がいかにうまく機能するかを示唆している。

だからと言って、LIVツアーが失敗する運命にあるとか、中国が自国のデザインに合わせた一連のグローバルな制度を構築することができないと言っているのではない。PGAツアーが苦境に陥ったり、現在PGAツアーに参加しているゴルファーたちの怒りを買ったりすることがあれば、スポーツの世界観は、たとえそれが古い秩序の伝統を欠いていたとしても、新しい代替手段を受け入れるかもしれない。同様に、ナポレオン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦の後のように、現在のグローバルな制度が完全に崩壊した場合、瓦礫の中から現れた最も強力な国家は、新しい秩序構築のための理想的なポジションにいることだろう。

PGAツアーや現在の秩序に固執する国々が学ぶべき教訓は、自分の家を正常に保つことが優先され、対立構造を積極的に阻止しようとするよりも重要であるということである。そして、理想主義的に聞こえるかもしれないが、一時的にせよ、どちらの例も、道徳的な配慮が重要なアクターの対応を形作ることがあることを思い起こさせる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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