古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:外交政策

 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 今回は、スティーヴン・M・ウォルトによるノーム・チョムスキーを評価する内容の論稿をご紹介する。ウォルトはリアリスト、チョムスキーは左翼という立場の違いはあるが、アメリカの介入主義的な外交政策について厳しく批判しているという点では共通している。

ノーム・チョムスキーは、言語学者として知られているが、半世紀以上にわたりアメリカの外交政策に対する批判者としてもまた知られている。チョムスキーはアメリカの介入主義的な外交政策を手厳しく批判してきた。彼は最新刊『アメリカの理想主義の神話』(共著)を刊行し、その中で「アメリカの外交政策が高尚な理想に基づいている」という主張に対する批判を行っている。チョムスキーとネイサン・J・ロビンソンはこの考え方を否定している。彼らは、アメリカが歴史的に多くの残虐行為を行ってきたことを指摘し、国際法を無視する行動が常態化していると述べている。

また、チョムスキーとロビンソンは、アメリカの外交政策が少数の特権的なグループによって決定されていると主張し、これらのグループが企業の利益を優先することが多いと指摘している。彼らは、アメリカの高官たちが自らの行動を正当化するために道徳的な理由を持ち出す一方で、実際には自己利益に基づいて行動していると批判している。

さらに、一般市民が不正義な政策を容認する理由について、著者たちは政治的メカニズムの欠如や政府による情報操作を挙げている。彼らは、国民が政府の行動を理解し、変化を求めることが重要であると考えているが、情報を得た市民が必ずしもより良い政策を支持するとは限らないとも警告している。

最後に、アメリカの外交政策が世界に与える影響について、他国がそれを止めようとしない理由についての疑問も提起されている。著者たちは、アメリカの行動が国際的な力のダイナミクスに影響を与えていることを示唆し、他国の反応や同盟関係の複雑さについても考察している。世界各国はアメリカの力の減退に懸念を持っているが、同時に、アメリカの押しつけがましい、介入主義的な外交政策の減退は歓迎するだろう。

 以下の論稿を読むと、アメリカ外交について理解を深めることができる。

(貼り付けはじめ)

ノーム・チョムスキーの正しさが証明されている(Noam Chomsky Has Been Proved Right

-左翼的な外交政策に対するこの著述家の新たな主張は主流派の関心を引いている

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/11/15/chomsky-foreign-policy-book-review-american-idealism/

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ドイツのカールスルーエで講演するノーム・チョムスキー(2014年5月30日)

半世紀以上にわたって、ノーム・チョムスキーは間違いなく、世界で最も首尾一貫して、妥協を許さず、知的尊敬を集める現代アメリカの外交政策に対する批判者であり続けた。著書、記事、インタビュー、スピーチにおいての着実な流れの中で、彼はワシントンの進める多くの予算が必要で、非人道的なアプローチを繰り返し暴露してきた。共著者のネイサン・J・ロビンソンが序文で書いているように、『アメリカの理想主義の神話(The Myth of American Idealism)』は、「(チョムスキーの)仕事全体から洞察(insights)を引き出し、アメリカの外交政策に対する彼の中心的な批判を紹介できる一冊にする」ために書かれた。その目的は見事に達成されている。

本のタイトルが示しているように、本書の中心的なターゲットは、アメリカの外交政策は民主政治体制、自由、法の支配、人権などの高尚な理想によって導かれているという主張である。この考え方に賛同する人々にとって、アメリカが他国に与えた損害は、素晴らしい意志が伴う目的と善意(noble purposes and with the best of intentions)によって取られた行動の意図しない、非常に残念な結果(unintended and much regretted result)である。アメリカ人は指導者たちから、自分たちが「なくてはならない国(indispensable nation)」であり、「世界が知る自由のための最大の力(the greatest force for freedom the world has ever known)」であることを常に思い起こさせられ、道徳的原則(moral principles)が「アメリカ外交の中心(center of U.S. foreign policy)」であることが保証される。このような自己満足的な正当化(self-congratulatory justifications)は、政治家やエスタブリッシュメント派知識人の大合唱によって延々と繰り返される。

チョムスキーとロビンソンにとって、これらの主張はナンセンスだ。建国したてのアメリカ共和国は、先住民族に対する大量虐殺キャンペーンを展開することで「明白な運命(マニフェスト・デスティニー、Manifest Destiny)」を達成しただけでなく、それ以来、数多くの残忍な独裁政権を支援し、多くの国で民主化プロセスを妨害するために介入し、インドシナ、ラテンアメリカ、中東で何百万人もの人々を殺害する戦争を行ったり支援したりしてきた。アメリカの高官たちは、他国が国際法に違反するとすぐに非難するが、国際刑事裁判所や海洋法条約、その他多くの国際条約への加盟は拒否する。また、1999年にビル・クリントン大統領がセルビアに戦争を仕掛けたときや、2003年にジョージ・W・ブッシュ大統領がイラクに侵攻したときのように、自ら国連憲章に違反することをためらうこともない。

ソンミ村虐殺事件、アブグレイブ刑務所での虐待、CIAの拷問プログラムなど、紛れもない悪行が暴かれたときでさえ、処罰されるのは下級の職員たちであり、その一方で、こうした政策の立案者は依然としてエスタブリッシュメント派側の尊敬を集めている。

チョムスキーとロビンソンが語る偽善の記録は、悲痛で説得力がある。心の広い読者であれば、この本を読んで、アメリカの指導者たちが自分たちのむき出しの行動を正当化するために持ち出す敬虔な根拠を信じ続けることはできないだろう。

しかし、なぜアメリカの高官たちがこのような行動をとるのかを説明しようとすると、本書は説得力を欠く。 チョムスキーとロビンソンは、「意思決定における国民の役割は限定的(the public’s role in decision-making is limited)」であり、「外交政策は、国内から権力を得ている小さなグループによって立案され実行される(foreign policy is designed and implemented by small groups who derive their power from domestic sources)」と主張する。これらの小さなグループとは、「軍産複合体、エネルギー企業、大企業、銀行、投資会社など、そして、私たちの生活のほとんどの側面を支配している私的帝国(private empires)を所有し、管理している人々の言いなりになっている政策志向の知識人たち」である。

特別な利害関係者の重要性は疑う余地がないし、より広範な国民の役割も限られている。まず、企業の利益と国家の安全保障上の利益が衝突した場合、前者が損をすることが多い。たとえば、ディック・チェイニーが1990年代に石油サーヴィス会社ハリバートンを経営していたとき、彼はイランでの金儲けを妨げる「制裁好き(sanction-happy)」な外交政策に苦言を呈した。他のアメリカの石油会社もイランでの投資を望んでいただろうが、アメリカの制裁は強固なままだった。同様に、アップルのようなハイテク企業は、中国の先端技術へのアクセスを制限する最近のアメリカの取り組みに反対している。規制は確かに見当違いかもしれないが、重要なのは、企業の利害が常に主導権を握っている訳ではないということだ。

チョムスキーとロビンソンはまた、他の大国がアメリカとほぼ同じような行動を取り、これらの国もまた、自分たちの残虐な行為を白紙に戻すために、「白人の責務(white man’s burden)」、「文民主義的使命(la mission civilisatrice)」、つまり、「社会主義を守る必要性(the need to protect socialism)」といった手の込んだ道徳的正当化理由を作り出したことを認めている。このような行動が、(軍産複合体はおろか)近代的な企業資本主義の出現に先行していたことを考えると、これらの政策は、アメリカという企業の特定の要求というよりも、大国間競争の論理と関係が深いことが示唆される。また、資本主義以外の大国が同じような行動をとったのであれば、ライヴァルに優位に立つため、あるいはライヴァルが自分たちと同じような優位に立つのを防ぐために、国家が自分たちの価値観を捨てるよう促しているのは、何か別のものだということになる。リアリストにとって、その別の何かとは、他の国家がより強くなり、有害な方法で権力を行使することを決めたらどうなるかという恐怖である。

 

このような政策を実行する人々についての彼らの描写も、読者によっては単純だと感じるだろう。彼らに言わせれば、アメリカの高官たちは皮肉屋である。彼らは、自分たちが純粋に利己的な理由で悪いことをしていることを理解しており、他者への影響などあまり気にしていない。しかし、彼らの多くは、自分たちのしていることはアメリカにとっても世界にとっても良いことであり、外交政策には痛みを伴うトレードオフが必然的に伴うと信じているに違いない。彼らは自分自身を欺いているかもしれないが、ハンス・モーゲンソーのような思慮深いアメリカ外交政策批評家たちは、政治の領域で自分の道徳的純度を保つことの不可能性を認めていた。チョムスキーとロビンソンは、自分たちが好む政策の潜在的なコストや否定的な結果についてほとんど語らない。彼らの世界では、道徳的なことと有利なことの間のトレードオフはほとんどなくなっている。

『アメリカ理想主義の神話』は更に2つの疑問を提起しているが、詳細に扱われているのは1つだけである。最初の疑問は次の通りだ。なぜアメリカ人は、コストがかかり、しばしば失敗し、道徳的に恐ろしい政策を容認するのか? 一般市民は、過剰な軍備に費やされた数兆ドルや、不必要で失敗した戦争で浪費された数兆ドルから、数え切れないほどの恩恵を受けることができたはずなのに、有権者は同じことを繰り返す政治家を選び続けている。それはなぜだろうか?

一般的に説得力のある彼らの答えは2つある。 第一に、一般市民には政策を形成する政治的メカニズムが欠けている。その理由の1つは、米連邦議会が戦争宣言に関する憲法上の権限を大統領に簒奪させ、あらゆる怪しげな行動を深い秘密のベールに包むことを許しているからである。第二に、政府機関は、情報を分類し、リークした人間を訴追し、国民に嘘をつき、物事がうまくいかなかったり、不正行為が露見したりしても、責任を問われることを拒否することによって、「同意を捏造(manufacture consent)」するために非常な努力をしている。彼らの努力は、政府の主張を無批判に繰り返し、公式のシナリオに疑問を呈することはほとんどない、一般的に従順なメディアによって助けられている。

私自身、これらの現象について書いたことがあるが、外交政策のエスタブリッシュメント派がその世界観をどのように追求し、擁護しているかについての彼らの描写は、おおむね正確であると感じた。しかしながら、国民の認識が高まればアメリカの政策が改善されるかと言えば、そうとは言い切れない。チョムスキーとロビンソンは、もしもっと多くのアメリカ人が自分たちの政府が何をしているかを理解すれば、声を上げて変化を求めるようになるだろうと考えている。そう思いたいが、よりよく情報を得た国民が、より利己的で、近視眼的で、不道徳な外交政策を支持する可能性はある。特に、チョムスキーとロビンソンの処方箋が、費用のかかる、あるいは痛みを伴う調整を必要とすると考えた場合には。ドナルド・トランプ前大統領は、裸の私利私欲以外の理想に関与することを微塵も表明したことがないにもかかわらず、アメリカの有権者の半数以上の忠誠心を集めている。

また、ニューズソースが増え、主流メディアへの不信感が増すにつれ、従来のエリートが同意を捏造する能力が衰えているのではないかという疑問もあるだろう。問題は同意の捏造なのか、それとも過去に国民の同意を得た具体的な政策なのか?  イーロン・マスク、ピーター・ティール、ジェフ・ベゾスのような人々が新たなエリートの中核として登場した場合、彼らはチョムスキーやロビンソンが望むものに近い(同一ではないが)、より介入度の低い外交政策を支持する可能性が高い。もしそうなったとしても、チョムスキーとロビンソンは、この新しいエリートが自分たちの支持する政策への同意を捏造する能力を批判するだろうか?

第二の疑問は、詳細には触れられていないが、世界の他の国々に関するものである。もしアメリカの外交政策が(本書の副題にあるように)「世界を危険に晒す(“endangers the world)」のであれば、なぜもっと多くの国がそれを止めようとしないのだろうか? ワシントンは現在、いくつかの厳しい敵対諸国に直面しているが、それでもまだ多くの本物の熱狂的な同盟諸国を持っている。同盟諸国のなかには日和見主義的な(opportunistic)国や、アメリカの巨大なパワーに怯えている国もあるかもしれないが、親米的な指導者の全てが飼いならされたカモや私利私欲にまみれた傭兵という訳ではない。世界的な調査によれば、一部の地域(中東など)では、アメリカが行っていることに深く、正当な怒りを抱いているにもかかわらず、アメリカに対する支持と称賛は驚くほど高い。アメリカの世界的なイメージも、過去には驚くべき回復力を見せたことがある。ジョージ・W・ブッシュが大統領だったときに急落し、有権者がバラク・オバマを選んだとたんに急回復した。

世界の多くの地域で懸念されているのは、アメリカの力の抑圧的な性質(oppressive nature)であることではなく、むしろその力が後退する可能性である。チョムスキーとロビンソンは、アメリカが過去100年にわたって多くの悪いことをしてきたことは間違いないが、正しいこともいくつか行ってきたはずだ。本書では、アメリカの外交政策の肯定的な側面はほとんど扱われておらず、その省略が本書の最大の限界である。

このような留保はあるものの、『アメリカ理想主義の神話』はチョムスキーの考え方を知るための入門書として貴重な著作である。実際、学生がこの本を読むのと、『フォーリン・アフェアーズ』誌や『アトランティック』誌といった、現職や元米政府高官が時折寄稿する論稿集を読むのとでは、どちらがアメリカの外交政策について学べるかと問われれば、チョムスキーとロビンソンの圧勝だろう。

私が40年前にキャリアをスタートさせたときには、この最後の文章は書かなかっただろう。しかし、私はずっと注目してきたし、証拠が積み重なるにつれて私の考え方も進化してきた。かつてはアメリカの左翼的な言説の片隅にとどまっていたアメリカの外交政策に対する視点が、今や多くのアメリカ政府高官が自らの行動を擁護するために拠り所にしている、使い古された決まり文句よりも信頼できるものとなっていることは、残念ではあるが明らかになった。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

このブログで頻繁に取り上げている、ハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルト教授の論稿を取り上げる。ウォルトはトランプに対して批判的であり、トランプがアメリカ大統領に再選されれば、アメリカの国際的な地位が危険に晒されると主張している。彼の論稿の骨子は次の通りだ。

トランプは、これまでのアメリカの外交政策、特に介入主義的な政策を強く批判し、アイソレイショニスト的な政策、アメリカ・ファースト(アメリカ国内問題解決優先主義)の政策を主張している。これについては過剰な面もある。

トランプは、他国がアメリカの意向に従うという考えを持っているが、これは現在の国際関係においては成り立たなくなっている。そのため、彼の一極主義的なアプローチは、アメリカの世界的地位を傷つけるリスクがある。彼の任期中、外交政策に対する関心は低く、国務長官の任命も不適切だった。その結果、アメリカは国際的な合意から離脱し、対外的な信頼を失うこととなった。

トランプの再選が実現すれば、外交政策はより悪化する可能性があり、特に彼の経済政策は有害な結果をもたらすと予想される。彼は貿易戦争を強化し、保護主義的な政策を推進する意向を示しているが、これは国際競争力を低下させ、経済成長を妨げる。

また、アメリカの移民政策も厳しくなる見込みで、これにより経済成長の基盤が揺らぐ可能性がある。トランプ政権下では、環境問題への取り組みも後退し、気候変動や公衆衛生の問題が無視される恐れがある。彼の政策は、アメリカのソフトパワーを損ない、国際的な信頼性を低下させることになる。さらに、トランプは、政府を弱体化させる一方で大統領権限を強化しようとしており、これは複雑な現代社会においては逆効果だ。

最後に、トランプが再選されれば、アメリカの国際的な地位や影響力が著しく低下し、国内外における混乱が増すことが懸念される。このような状況は、アメリカの未来にとって非常に危険な結果をもたらす可能性がある。従って、トランプの再選は極めて無謀な選択だ。

 アメリカの国力の衰退による、アメリカの国際舞台での影響力の減退は既に私たちに突きつけられている現実だ。今から、この退勢を押しとどめることは誰であっても不可能だ。アメリカは撤退戦を行うことになる。世界の超大国、覇権国、帝国として君臨してきたが、その範囲を小さくしていって、最終的にはアメリカ本国(本土)に引き上げることになる。トランプはそのための指導者である。アメリカの国際的地位が脅かされるというのは当たり前のことだ。現在でも既に脅かされている。もう今までのように、自分が一声号令をかければ皆がつき従うということはないのだ。そのことをアメリカ人は理解できていない。アメリカ人は自分たちが置かれている状況を冷静に判断できていない。状況を冷静に判断するためには、「外側からの目」が必要だ。「アメリカが駄目になる」という流れの中に、自分たちが置かれているために、巻き込まれているために、冷静な判断ができない。

 ウォルトのような一流の学者、知識人であっても、この大きな流れの中にいて、冷静な判断ができない。それほどに状況判断は難しいことだし、これからの世界構造の大変化は、今までにないものとなるということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

トランプとヴァンスの一極主義的妄想(The Trump-Vance Unilateralist Delusion

-共和党の陣営は、根本的に非現実的な外交政策を軸に統一した。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年7月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/24/trump-vance-project-2025-foreign-policy-unilateralism-realism-restraint/

写真

2024年7月15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーのファイザーブ・フォーラムで開催された共和党全国大会初日に登場したドナルド・トランプとJD・ヴァンス連邦上院議員

民主党の新しい大統領候補カマラ・ハリス副大統領に対する熱狂にもかかわらず、選挙予想では依然として共和党の陣営が11月に勝利する可能性が高い。関係する利害を考慮すると、ドナルド・トランプ前大統領が再び主導することがアメリカの外交政策にとって何を意味するのかを詳しく検討しないのは無責任と言わざるを得ない。

良いニューズから始めよう (長くかからないので、リラックスしておいて欲しい)。少なくともレトリック的には、トランプも副大統領候補のJD・ヴァンスも、ネオコンたちやリベラル介入主義者たち(neoconservatives and liberal interventionists)が過去30年以上にわたって推進してきた失敗に終わったリベラル覇権戦略(strategy of liberal hegemony)を否定している。彼らは同様に、外交政策「愚か者(Blob)」とその時代遅れの正統性への頑固な固執を軽蔑している。私は、彼らは後者の批判を行き過ぎていると思う。問題は主に野心的な政治任命者にあり、彼らの下で働く何千人もの献身的な公務員ではない。しかし、特定の社会通念に対する彼らの軽蔑には、一定のメリットがある。このため、私が知っている数人の現実主義者たちは、ヴァンスの参加とトランプ勝利の見通しについてほぼ目がくらんでいるようだ。ウクライナや他のいくつかの問題に関するヴァンスの見解を考えると、私も時流に乗るのではないかと思うかもしれない。

残念ながら、良いニューズはこれで終わる。トランプやヴァンスを支持する現実主義者たちは近視眼的であると私は考える。11月にトランプとヴァンスが勝利すれば、アメリカの世界的地位に長期的に多大なダメージを与えることになるだろう。

中心的な問題は、トランプとヴァンスが、世界におけるアメリカの位置づけと、一方的に思い通りにする能力について、時代遅れのイメージで動いていることだ。彼らはネコンサヴァティヴィズムを否定しているかもしれないが、アメリカはやりたい放題で、他の国家はその意向に従うだけだと信じている。しかし、これは「一極主義的な瞬間(unipolar moment)」には当てはまらなかったことであり、中国が経済的にアメリカと肩を並べ、インド、ブラジル、南アフリカ、トルコといった国々が独自の道を歩み、他の大国を互いに翻弄できるようになった現在では、さらに当てはまらなくなっている。今日の世界では、アメリカの指導者たちは、自分たちの行動に対して他国がどう反応するかを注意深く考えなければならない。

トランプの一極主義的な本能は以前から明らかであり、彼がその考えを変えたという証拠はない。トランプは最初の任期中、真の外交にはほとんど関心を示さず、外交政策への対応もひどいものだった。「重要なのは自分だけだ」と主張し、外交政策の要職を何カ月も空席にし、無能な国務長官を1人だけでなく2人も任命した。北朝鮮の金正恩委員長を説得して、核兵器を放棄させることができると考えたがうまくいかず、北京を刺激することなく中国に関税をかけることができると考えた。また、自称「取引の達人(master dealmaker)」は、見返りをほとんど得ずに譲歩を申し出る傾向があり(ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるトーマス・フリードマンは、このアプローチを「ギブアウェイの技芸(art of the giveaway)」と名づけた)、イランとの核合意やパリ協定など、アメリカにとって非常に利益となる合意から離脱する傾向があった。

こうした傾向は、2期目には更に悪化する可能性が高い。ヘリテージ財団の「プロジェクト2025」は、トランプ前大統領のアジェンダを知るための最良の指針であろうが、既に国務省を弱体化させることを目的とした、各種の施策を概説している(2025年1月20日に全てのアメリカ大使に辞表を提出するよう要求するなど)。より重要なのは、同盟諸国にも敵対国にも最後通牒(ultimatums)を突きつけ、アメリカが要求することには何でもすぐに従うという外交政策を求めていることだ。これは外交でも対外政策抑制の戦略でもない。何十年もの間、アメリカの対外政策を妨げてきたのと同じ「取るか取られるか(take it or leave it)」のアプローチなのだ。

トランプ大統領の対外経済政策の扱いは特に有害となる可能性が高い。1期目の中国との貿易戦争はアメリカが得た以上の犠牲を出し、その目的を達成できなかったが、トランプは大統領に復帰した場合には、このアプローチを倍増させたいと考えている。今回に限っては、中国だけでなく、全ての国に関税を課そうとしている。確立された経済理論と豊富な歴史経験は、広範な保護主義政策が国々を豊かにするどころかむしろ貧しくしていることを示しているが、それこそがトランプ大統領が約束していることだ。

貿易を制限することは、特定の狭い状況(国家安全保障に関わる技術を保護するためなど)では理にかなっているが、全体として、特に共和党が通常反対する、国内調整プログラム(domestic adjustment programs)と組み合わせる場合、開かれた世界経済は、アメリカに利益をもたらす。他国よりも革新し、仕事をし、競争していくことができると自信を持っている国々は、貿易障壁の削減に熱心だ。他人の商品を締め出す必要性を感じるのは、競争を恐れる人々だ。トランプ、ヴァンス、共和党は巨額の関税を要求することで、アメリカの労働者や企業指導者に対し、アメリカが世界舞台で競争できる能力に自信がないことを伝えている。もちろん、トランプ前大統領がこの計画を推進すれば、他の国々が報復するのは避けられず、当然のことながらアメリカの輸出業者に打撃を与え、世界経済成長をさらに低下させることになる。私たちは皆、自分が消費するものに対してより多く支払うことになり、バイデン政権がうまく抑制してきた新型コロナウイルス感染症後のインフレが再燃する可能性がある。もし、トランプがこの国をこの道に進めば、将来的に国は弱くなり、ほとんどのアメリカ人の生活は悪化するだろう。

もちろん、それは迫りくる保護主義の脅威だけではない。多くの人は今でもそうではないと信じているが、第二次世界大戦後、民主党は共和党よりもはるかに優れたアメリカ経済の管理人であった。民主党がホワイトハウスを支配すると経済成長と雇用創出が高まり、失業率とインフレが低くなる傾向がある。過去10回の不況のうち9回も共和党の政権下で発生した。経済力は世界的な影響力の基盤であるため、トランプ2.0のもとで生じるであろう経済的困難により、アメリカの経済基盤はより強固ではなくなり、世界中に影響力を及ぼす能力は低下するだろう。

また、アメリカが現在直面している主要な戦略的課題にトランプとヴァンスがどのように対処するかについて楽観視することは難しい。他のほぼ全員と同様、トランプも中国をアメリカの利益に対する長期的な主要な挑戦者と見なしている。問題は、中国に対する彼の政策が矛盾に満ちていることだ。彼の最初の任期中に環太平洋連携協定(Trans-Pacific Partnership)を放棄したことは、東アジアにおけるアメリカの経済的影響力を維持するために切望されていた努力を損ない、アジア諸国がアメリカに望む支援を与えることを困難にした。トランプ大統領は、中国が攻撃した場合に、アメリカが台湾を支援すべきかどうか疑問を呈しているが、中国がアジアの現状を修正しやすくする(そして、おそらくは世界最先端の半導体メーカーの一部を支配する)ことは難しい。北京を牽制したいという願いを込めて。共和党タカ派はまた、核実験禁止条約から離脱し、核兵器実験を再開するよう主張しているが、これは中国の新型核開発努力を促進し、最終的にはアメリカと同等に達することになる不必要な措置である。これは戦略的に意味があるのだろうか?

ヨーロッパについて言えば、トランプとヴァンスはウクライナを支援し続けることに公然と疑義を呈しており、トランプが24時間以内に戦争を終わらせることができると主張していることは、彼がいかにウクライナの状況を理解していないかを示している。ウクライナを支援し、(民主党政権が11月以降にやりそうなように)持続可能な外交的解決を強く求めるのと、キエフの運命をただ見捨てるのとでは天と地ほどの差がある。同様に、中国に対処するための資源を確保するために、アメリカのヨーロッパの同盟諸国と新たな役割分担を慎重に交渉し、実施することと、急激な撤退や、より多くの支出をするよう彼らを威圧する辛らつなキャンペーンに従事することとは、大きな違いがある。ヨーロッパが自国の防衛により大きな責任を持つようになることには大賛成だが、トランプ2.0はその目標を最悪の方法で追求しそうだ。

そして中東だ。バイデンの中東政策は大失敗だったが、トランプの1期目の政策も、バイデンと基本的に同じで、同様に効果がなかった。バイデン同様、トランプはイスラエルが望むものは何でも与え、パレスティナ問題は安全に無視できると考え、地域の重要なライヴァルたちとの対話を拒否する一方で、要求の厳しい保護諸国(client states)との「特別な関係(special relationships)」を追求することに重点を置いた。このアプローチに適用できるレッテルはたくさんあるが、「現実主義(realism)」はそれには当てはまらない。トランプは、イランの核開発を抑制することに成功した2015年の合意を破棄し、代わりにテヘランに「最大限の圧力(maximum pressure)」を課した。ヴァンスに関して言えば、バイデンは「同盟国イスラエルを助けるために何もしていない」と奇妙に主張し(2023年10月7日以降に提供された数十億ドルの軍事援助を知らないようだ)、バイデン政権はイスラエルのガザ地区での残忍な戦争をもっと強力に支援すべきだったと考えている。要するに、ヴァンスは、アメリカやイスラエルのイメージがどれほど損なわれようとも、大量虐殺を支持することに満足しているのだ。もちろん、これはイスラエル・ロビー(民主、共和党両政党の問題)に迎合しているだけという側面もあるが、一極主義者たちが世界の他の国々の意見に無関心であることを露呈している。アメリカの中東政策は何十年もの間、超党派で失敗を繰り返してきたが、トランプがホワイトハウスに戻っても、これ以上良くなることはないだろう。

トランプと共和党は、他のいくつかの問題についても、長期的にアメリカを弱体化させる政策を採用する可能性が高い。彼らは移民に対する障壁を引き上げ、何百万人もの人々をアメリカから追放しようとしているが、こうした人々の多くが現在有給で雇用され、アメリカの長期的な成長見通しに貢献しているという事実を無視している。中国、日本、韓国、ドイツ、その他のほとんどの強国とは異なり、アメリカの人口は、今後100年にわたって増加し続け、その年齢の中央値は主要なライヴァル諸国よりも低くなる。労働人口が若く、定年退職者が少ないことは、アメリカ経済に有利であり、その優位性を維持できるかどうかは移民にかかっている。オラクル、アップル、テスラ、アマゾン、その他無数の成功した企業の創設者を含む、才能ある移民を惹きつけ、その子孫の忠誠心を獲得するアメリカの能力は、アメリカ建国以来の強さの源泉であった。トランプとヴァンスはそれを脇に追いやろうとしている。

アメリカは、トランプとヴァンスの下で環境に関しても大きく後退するだろう。満員の最高裁判所に権限を与えられた彼らは、アメリカ国民がますます暑くなる夏を乗り越える中でも、気候変動やその他の環境破壊の原因に対処する取り組みを逆転させるのは確実だ。山火事、洪水、その他の気象関連の出来事に対して費用を支払わなければならない。そして、地球の気温は、毎年新たな記録を樹立している。パンデミックへの備えに関して言えば、漂白剤が新型コロナウイルス感染症を治療できると考えた人物に責任者を戻してほしいと本当に考えるだろうか?

これらの立場は、今日の共和党が、そしてトランプ自身が、利己的な利益や宗教的信念に沿わない科学や理性に対して基本的に敵対的であることを思い起こさせる。共和党は、気候変動に関する科学的コンセンサスや、将来のパンデミックに備える必要性、あるいは生殖に関する選択の制限が、既に公衆衛生に与えている影響を否定し続けている。驚くべきことに、MAGA運動はまた、その独立性、名声、知識への貢献によって世界の羨望の的となり、技術革新の原動力となっているアメリカの世界トップクラスの大学にも、政治的見解を押し付けようとしている。ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相が中央ヨーロッパ大学をハンガリーから追い出そうとしたキャンペーンは、ハンガリーをより賢く、より強く、より繁栄させるものではなかった。

トランプ・ヴァンス政権の誕生は、アメリカのソフトパワーの残滓を一掃するだろう。偽善、腐敗、そして、政治的機能不全(hypocrisy, corruption, and political dysfunction)は、アメリカの制度の世界的魅力を著しく低下させているが、その魅力が完全に消えた訳ではない。もしアメリカが、有罪判決を受けた重罪犯で性犯罪者であることが確定している男を再選させ、2020年に正々堂々と負けたことをいまだに否定し、平和的な政権移譲を妨害しようとした男を再選させ、彼の最初の任期中に彼のために働いた何十人もの高官が彼の立候補に反対するならば、かつてアメリカを賞賛していた国々は、アメリカの政治システムを模倣するのではなく、避けるべきもののモデルとして見るようになるだろう。そして、トランプとその部下たちが、ハンガリーで彼の友人オルバンが成功させたように、アメリカの制度を改編し、将来の選挙を無意味なものにしてしまうという、非常に現実的な危険もまだある。

トランプ・ヴァンス・プロジェクト2025というアメリカのヴィジョンが私を心配させる最後の理由がもう1つある。いくつかの顕著な例外(ジェンダーや生殖に関する権利などに関する原理主義的な見解を押し付けたいという願望など)を除いて、彼らは大統領をより強力にし、同時に政府の残りの部分を可能な限り弱体化させたいと考えている。彼らが認識していないのは、現代社会は非常に複雑な実体であり、特に相互依存する世界(interdependent world)の複雑な課題に直面した場合、それらを結びつけるには強力で効果的な政治的および社会的制度が必要であるということだ。イーロン・マスクのような大富豪は、効果的な政府を必要としない。なぜなら、彼らは民間のボディガードを雇い、プライベートジェットに乗り、ゲート付きコミュニティに住み、高価な家庭教師や私立学校を使って子どもを教育し、たとえどれだけかかっても必要な医療費を全て支払うことができるからだ。これらの幸運な少数の人にとって、政府は邪魔なだけだ。しかし、残りの私たちは、子供たちの教育、インフラの構築と維持、経済の管理、適切な老後の備え、そして世界との関わりを効果的な公的機関に依存している。非効率な国家や略奪的な国家よりも悪いのは、国家が存在しないことだけだ(The only thing worse than an inefficient or predatory state is no state at all)。連邦政府を解体しようとする人々、あるいはそれを自分たちの統治のために利用しようとする人々によって連邦政府が支配されたら何が起こるのか、私たちはこれから明らかになるのではないかと危惧している。トランプ前大統領は今、国家統一の必要性を口先だけで訴えているかもしれないが(彼の政治キャリアの全ては分断の悪化に基づいていた)、しかし彼と共和党が提示している議題は、私たち全員を危険にさらす可能性がある国内の混乱を招くレシピだ。

ここ数十年、共和党政権と民主党政権がそれぞれアメリカの力を浪費するようなことをしてきたとはいえ、アメリカには他国を圧倒する大きな利点がある。トランプ前大統領は、アメリカが世界的に有利な地位を獲得するのに役立った多くの制度を壊滅させたいと考えていることが明らかであるため、トランプ前大統領に2度目の就任機会を与えることは、極めて無謀な賽の投げ方である。後で、私が警告しなかったとは誰にも言わせない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:

@stephenwalt
(貼り付け終わり)
(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 カマラ・ハリス米副大統領の外交政策に関しては今の段階ではほぼ分かっていない。そもそもハリスはカリフォルニア州で検察官としてキャリアを重ね、州の司法長官(検事総長のような存在)となり、その後は連邦上院議員となったが1期目途中で、副大統領となった。副大統領時代の主な仕事は南部国境対策で、外交政策らしいものと言えば、この時が初めての経験ということになるだろう。米副大統領が独自に外交政策を行うことはできず、大統領の代理で外国訪問をするとかそういうことが主な仕事となる。

 それでも、これまでのハリスの発言などをまとめた素晴らしい記事が出ていたので紹介する。簡単に言えば、ハリスはヒラリー・クリントンのエピゴーネンに過ぎず、「ヒラリー2.0」という存在でしかない。口を開けば「人権、人権」と相手を責め立て、交渉も何もあったものではない。ヒラリーの人道的介入主義派の一部と言わざるを得ない。
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 例えば、自身の母親の出身国インドに関しては、祖父は高名な外交官で、子供時代に何度も訪れ、祖父の影響で公職を目指したそうだが、アメリカのインド太平洋戦略における最重要の存在という位置づけで、アメリカ政府もインド政府も、ハリスの存在には期待感を持っているだろうに、カシミール地方の人権問題をわざわざ取り上げている。これではインド政府としては、「せっかくインド系と言ってもこれじゃあなぁ」ということになる。

 対ロシアに関しては、ロシアを強硬に非難し、交渉相手になれそうにもない。ウクライナとロシアの間の停戦交渉では「誠実な仲介人(honest broker)」が必要であるが、ハリスではその役割を果たすことはできない。ロシア側はハリスに対して既に、「ロシア国営メディアは直ちに民主党の新たな旗手への攻撃を開始した。モスクワ国立大学国際政治学部長のアンドレイ・シドロフは、ロシア国営テレビのウィークリー・トーク番組で、「核のボタンを持ったカマラは手榴弾を持った猿よりも悪い(Kamala with the nuclear button is worse than a monkey with a grenade)」と語った」と酷評している。対中国でもバイデン政権移譲のことはできない。関税の引き上げ競争クライで済めばよいが、ハリスが対中国で緊張を増大させ、戦争の危険が高まるということが考えられる。

 ハリスは、非常に定式的な外交を展開することが考えられる。「善か、悪か」の二元論、理想主義で、突っ走るのは非常に危険である。アメリカ国民には本格的な「ヒラリー・クリントン政権」の誕生を阻止してもらえるように期待したい。

(貼り付けはじめ)

カマラ・ハリス・ドクトリン(The Kamala Harris Doctrine

―民主党大統領選挙候補に内定しているハリスの外交政策の見解について私たちが知っていること全て。

『フォーリン・ポリシー』誌執筆陣

2024年7月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/26/kamala-harris-policy-china-russia-trade-immigration-israel-gaza-india/

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カマラ・ハリス米副大統領が2024年大統領選挙の民主党候補指名をほぼ確実にしたように見える今、ワシントンと外国資本の周りで渦巻いている最大の疑問の一つは、ハリスが11月に選出された場合の外交政策の原則がどのようなものになるかである。

ジョー・バイデン米大統領の外交政策観とハリスの外交政策観の違いを正確に指摘するのは容易なことではない。両者が4年近く外交政策と国家安全保障問題で完全に足並みを揃えていると見せようとしてきたからだ。しかし、彼女は短期間ではあるが大統領選挙に立候補したことがあり、2017年から2021年まで、連邦上院議員を務めていたため、全くの白紙ということではない。

『フォーリン・ポリシー』誌は、彼女の記録と過去の発言を検討することに加え、ハリスの主要な地域や外交政策問題についての彼女の立場についてさらに学ぶために、十数人の現役と元アメリカ政府当局者、連邦議会職員、専門家、ハリスの元補佐官たちと面談した。中国からロシア・ウクライナ戦争、そして中東、加えてその先まで、アメリカが関与している問題について取材した。私たちが発見したことは次の通りだ。

●中国(China

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フィリピンのプエルトプリンセサ港に停泊中のフィリピン沿岸警備隊の艦船上での演説を終えたカマラ・ハリス米副大統領が記者団と話す(2022年11月22日)

ハリスの中国との関係は、2020年の候補者として、オバマ政権の副大統領として中国の習近平国家主席と多くの時間を過ごしたと自慢できるバイデンと比べると、比較的験的敵だった。ハリスは、2022年にバンコクで開催されたアジア太平洋経済協力サミット(Asia-Pacific Economic Cooperation summit)に向かう際、「習主席に挨拶した(greeted President Xi)」と記録されているだけで、中国の指導者と顔を合わせたのはほんの一瞬だ。

ハリスにとっての最も強力な中国関係の経験は、副大統領としてより広範なインド太平洋地域におけるアメリカの同盟関係を強化するために費やした時間かもしれない。彼女は副大統領として、3回東南アジアを訪れ、シンガポール、ベトナム、タイ、フィリピン、インドネシアを訪問した。フィリピン訪問では、南シナ海に浮かぶパラワン諸島に立ち寄り、フェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領との会談で、同盟国に対するアメリカの「揺るぎない関与(unwavering commitment”)」を強調した。 昨年9月にジャカルタで開催されたアメリカ・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を含め、この地域の会議でもバイデンの代役を務めることが多かった。

2020年の大統領選挙候補として、中国に対して彼女が提起した立場は、競争と協力(competition and cooperation)を同時に追求するという過去4年間のホワイトハウスの政策と密接に一致している。2019年9月の予備選挙討論会で、彼女は中国について、「彼らは知的財産を含む私たちの製品を盗んでいる。彼らは規格外の製品を私たちの経済に投げ込んでいる。彼らは責任を負う必要がある」としながら、アメリカは気候変動などの重要な問題で中国と協力すべきだと付け加えた。

しかしながら、ハリスのヴィジョンは、ある点で現在の政策とは異なっていた。彼女は当時のドナルド・トランプ大統領の対中関税を批判し、自分は以前「保護主義的な民主党員(protectionist Democrat.)」ではないと述べていた。しかし、バイデン政権は、トランプ関税をほぼ維持しており、ジャネット・イエレン財務長官を含め、これまで関税に反対していた民主党の議員や重要人物の多くは、新型コロナウイルス感染拡大や中国との競争激化(rising competition with China)を受けてトランプ関税を支持している。

ハリスにとって、連邦上院議員としても大統領候補としても、人権は特に注目すべき分野だ。彼女と他の55人の連邦上院議員は、物議を醸している引き渡し法案に対する大規模な抗議活動中に香港で人権を侵害した当局者に制裁を課す「香港人権・民主政治体制法(Hong Kong Human Rights and Democracy Act)」法案を共同提案した。

翌年、彼女は新疆における中国の人権侵害に同様の戦略を適用する法律の共同提案者となった。ハリスはまた、新疆ウイグル自治区における中国政府の出生率制限の取り組みを詳述する報道が出たことを受け、その後の書簡で当時の国務長官マイク・ポンペオに対し、更なる行動を取るよう求めた。彼女の見解は、中国の人権問題に対して強硬なバイデン政権の政策に反映されている。

専門家たちは、全体として、対中政策に対するハリスのアプローチがバイデンと大きく乖離する可能性は低いと述べた。

「バイデンの対中政策は、ある意味、民主党のコンセンサスを反映している」と、かつて国務省中国調整室の初代室長を務めたユーラシア・グループの中国担当マネージング・ディレクター、リック・ウォーターズは次のように述べている。「私はカマラ・ハリスに劇的に異なる中国政策を期待している訳ではない。枠組みと構造はほぼ決まっていると思う」。

-リリ・パイク筆

●インド、南アジア、そしてインド太平洋(India, South Asia, and the Indo-Pacific

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インド首相ナレンドラ・モディがホワイトハウスにジョー・バイデン大統領と到着した際に握手をするハリス(2023年6月22日)

インドは、バイデン政権の二国間関係において最も輝かしいスポットの一つであり、アメリカ政府はインドを中国に対する極めて重要なカウンターバランスであり、アメリカの広範なインド太平洋戦略における重要なパートナーであるとの見方を強めている。防衛とテクノロジーは米印関係の特に強力な柱であり、昨年インドのナレンドラ・モディ首相がワシントンDCを国賓訪問(state visit)した際にいくつかの協定や取り組みが発表された。

他のパートナーシップや地域と同様、専門家たちは、ハリスのインド政策がバイデンの政策と大きく乖離する可能性は低いと述べた。アメリカとインドの関係は、トランプ政権下も含めて数十年にわたって確実に超党派の支持を得ており、依然として双方にとって重要すぎるため、大きく揺るがすことはできない。

ハリスは、これまでの米大統領選挙候補者よりもインドと個人的なつながりを持っている。母親のシャマラ・ゴパランは、インドからアメリカに移住しており、ハリスは、自身の人生や考え方に対する母親の影響について繰り返し言及している。しかし、政治的には大きな役割を果たす可能性は低い。ウィルソン・センター南アジア研究所所長でフォーリン・ポリシー『南アジア・ブリーフ』の執筆者であるマイケル・クーゲルマン氏は次のように述べている。「確かに、ハリスの先祖代々のインドとのつながりは、ハリス自身のインドへの親近感を伝えるために利用される可能性が高い。しかし、インド政策に関して言えば、彼女とバイデンの間に日の目を見ることはないだろう」。

ハリスは実際、過去にはバイデンよりもインドに対して厳しい姿勢を示しており、連邦上院議員時代にモディ政権下でのインドの人権状況、特にカシミール問題を批判しており、副大統領時代にワシントンでモディ首相と複数回会談した際にも、より微妙な方法で批判していた。しかし、ハリスが大統領になれば、その批判は和らげられるかもしれない。クーゲルマンは「ハリスが権利に関して、バイデンよりも厳しいとは思わない。少なくともアメリカの戦略的利益が許す以上に厳しくはないだろう」と述べた。

同時に、ハリスは若いので、常にオンラインでのサポート基盤があるため、彼女はそうした不快な会話をすることに積極的になる可能性がある。ハドソン研究所インド・イニシアチティヴ所長のアパルナ・パンデは、「彼女は次世代の民主党政治家でもある。彼女は、バイデン大統領の世代の政治家ではない」と述べ、党の将来の基盤の大部分を占める若いアメリカ人は、宗教の自由と世界的不正義(religious freedom and global injustices)に対してはるかに大きな関心を持っていると付け加えた。これがハリスの政治的傾向もある。パンデ氏は「ハリスは、ある程度民主党の左派、つまり進歩主義派の出身なので、民主政治体制自体が重要であり、民主政治体制の価値観が重要だ」と続けて述べた。

より広い地域に関して言えば、ハリスは、東南アジアを何度も訪問しており、バイデン政権のインド太平洋戦略の重要な人物の一人である。しかし、大統領としてのバイデンの外交政策で最悪の時期、つまりタリバンを政権に復帰させた混乱に満ちたアメリカのアフガニスタンからの撤退が、大統領選挙期間中にどれほど彼女に負担を与えているかはまだ分からない。トランプは最初の討論会でこのエピソードをバイデンに対する棍棒として繰り返し利用しており、ハリスに対しても同じことをする可能性があるが、専門家たちは、それが同じ効果をもたらすことはないかもしれないと述べている。

ホワイトハウス、CIA、国務省で勤務し、現在は新アメリカ安全保障センター (CNAS)インド太平洋安全保障センターのディレクターを務めるリサ・カーティス氏は次のように語っている。「共和党がアフガニスタン問題でカマラ・ハリスを非難するのは難しいだろう。私たちのような悲惨なやり方で完全撤退したのは、バイデンの個人的な決断であったことは明らかだ」。

しかし、ハリスが大統領になれば、アフガニスタンは、彼女に外交政策に大きな影響を与える機会を与えることになる。カーティスは「カマラ・ハリスが女性大統領として当選すれば、アフガニスタン女性の支援にもっと注力してくれることを期待したい。アメリカで、女性の権利のために戦っている者として、アフガニスタンの女性​​に起きていること、つまりアフガニスタンが女性と少女への教育を否定している世界で唯一の国であるという事実を無視するのは難しいだろうと思う」。

-リシ・イエンガー筆

●通商政策(Trade Policy

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ロサンゼルスで社長兼CEOのマット・ピーターセン氏とともにLAクリーンテック・インキュベーターを視察するハリス(2023年3月17日)

連邦上院議員時代も副大統領時代も、ハリスは決して貿易通(trade wonk)ではなかった。しかし、大まかに言えば、連邦上院議員時代から2020年の大統領選出馬に至るまで、ハリスは労働者中心で環境に優しく、経済的な見識に富んだ貿易のヴィジョンを提唱してきた。それは今日の民主党にかなりしっくりとなじむものであり、トランプやその副大統領候補であるオハイオ州選出のJD・ヴァンス連邦上院議員の立場とは明らかに対照的である。

ハリスは在任中、トランプ前大統領の関税を一貫して批判し、関税はアメリカ企業と消費者に対する追加課税であり、貿易相手国からの反発や国内の更なる経済的苦痛につながったと正しく認識した。

しかし、バイデンも当時ほぼ同じことを言っていて、重要な分野を保護することを目的とした、より的を絞った戦略的義務であったとしても、新たな関税を追加する前にトランプ大統領の当初の関税の多くを維持し続けた。おそらく、保護主義のバグが民主、共和両党に十分に浸透しており、輸入関税のような自滅的な考えでさえ、どの候補者にとっても振り払うのは難しいことだろう。

貿易協定に関して言えば、ハリスを理解するのは少し難しい。彼女は、レーガン・ブッシュ時代の共和党が発案し、今では共和党の鬼っ子となった当初の北米自由貿易協定(North American Free Trade AgreementNAFTA)や、トランプ大統領のNAFTA2.0にも反対票を投じていただろうと言う。ハリスは、カナダとメキシコとの改定貿易協定には労働と環境保護が十分に盛り込まれていないため、反対すると述べた。彼女はバラク・オバマ前大統領の署名である環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership)にも同様の反対意見を持っていたが、この協定はすぐに民主、共和両党にとって有害となり、トランプ前大統領の就任最初の週に打ち切られた。

ほぼ全てのアメリカの政治家と同様に、ハリスは、中国が知的財産(intellectual property)を盗み、貿易を不正行為していると非難しているが、エスタブリッシュメント派の政治家たちと同様に、北朝鮮や気候変動を含む地域的および世界的な問題への対処には、中国政府との協力関係が必要だとも主張してきた。

-キース・ジョンソン筆

●ロシア・ウクライナとNATORussia-Ukraine and NATO

スイスのルツェルン近くで開催されたウクライナ和平サミットで、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領と握手するハリス(2024年6月15日)

バイデンは、ミュンヘン安全保障会議やウクライナ和平サミットなど多くの大きな国際会議にハリスを代表として派遣している。

ハリスは、バイデンのような大西洋を越えた実績はないが、ヨーロッパ有数の対話の場であり、アメリカの政策について神経を落ち着かせるために政府高官たちが訪れる場所であるミュンヘンにおいて3年連続で、アメリカのトップの高官として期待される成果を挙げている。

NATOに対するアメリカの関与は「揺るぎない(unwavering)」ものであり、「鉄壁(ironclad)」であると、ハリスは、2022年2月のミュンヘンでの演説で述べた。彼女はまた、トランプ大統領が同盟のGDP比2%の支出を満たしていない同盟国には敬意を払わないと脅しているNATOの第5条の自衛権の誓約は「神聖なもの(sacrosanct)」だとも述べた。

2023年、ハリスはミュンヘンに戻り、NATOについては同様の論点を話したが、当時1年を経過していたロシアの侵略については、より厳しい言葉を述べた。ハリスは、バイデン政権はロシアが戦争で人道に対する罪を犯したと結論づけたと述べた。

そして、バイデンの大統領選挙活動を事実上終わらせることになる討論会の約2週間前、ハリスは、スイスで開催されたウクライナ和平サミットにバイデンの代理として出席し、そこで「公正かつ永続的な平和(just and lasting peace)」を訴えた。

クレムリンは、これまでハリスの大統領選挙への立候補について、ほぼ沈黙を保っており、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官はハリス副大統領の「非友好的な発言(unfriendly rhetoric)」に言及したが、ロシアはまだハリスの立候補を正式に評価できていないと付け加えた。

しかし、ロシア国営メディアは直ちに民主党の新たな旗手への攻撃を開始した。モスクワ国立大学国際政治学部長のアンドレイ・シドロフは、ロシア国営テレビのウィークリー・トーク番組で、「核のボタンを持ったカマラは手榴弾を持った猿よりも悪い(Kamala with the nuclear button is worse than a monkey with a grenade)」と語った。

-ジャック・ディッチ

●イスラエル・パレスティナ紛争(Israeli-Palestinian Conflict

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ワシントンDCの国立建築博物館でイスラエル国家樹立75周年の独立記念日レセプションに出席するハリスとエムホフ(2023年6月6日)

外交問題全般に言えることだが、ハリスのイスラエル・パレスティナ紛争の歴史は、大統領執務室に入るまでに異例の外交経験を積んだバイデンに比べると浅い。しかし、ハリスの投票記録や公の演説をよく読むと、彼女がガザ地区での戦争やより広範なイスラエル・パレスティナ紛争に対する、アメリカのアプローチに大きな変化をもたらす可能性は低いことが分かる。イスラエル・パレスティナ交渉担当米特使の元上級補佐官のデイヴィッド・マコフスキーは、「彼女の発言からすると、バイデンとの継続性があると思う」と語った。

2023年6月、ハリスは、イスラエルの独立記念日を記念してワシントンで開かれたレセプションで演説し、イスラエルに対するアメリカの「揺るぎない(unwavering)」関与と対イスラエル安全保障支援を支持してきた連邦上院議員としての実績をアピールするとともに、反ユダヤ憎悪があるからと言って、イスラエルを特別視することはしないと警告を発した。ハリスの夫のダグ・エムホフはユダヤ人で、反ユダヤ主義に対処する政権の取り組みで重要な役割を果たしてきた。ハリスは、スピーチの中で、副大統領公邸で初めて過越祭の祭典を主催したことへの誇りを語った。

2023年10月7日のハマス攻撃以来、ハリスは、バイデン政権の政策にほぼ堅持しており、バイデン政権はイスラエルの自国防衛の権利を肯定する一方で、イスラエルの軍事行動の容赦ない性質に対する批判を徐々に強め、人質の解放も保証する停戦を推進している。しかし、少なくとも言葉の上では、相違点がいくつかあった。外交問題評議会の上級研究員で、フォーリン・ポリシー誌コラムニストのスティーヴン・クックは、「ハリスは時に、表に出てきて、バイデン大統領よりもイスラエルに対して批判的になった」と述べている。

ハリスは、公式声明の中で、ガザ地区でのパレスティナ人の苦しみをより重視し、より共感を示してきた。これは、彼女が人道危機(humanitarian crisis)について、更なる懸念を表明するようホワイトハウスに圧力をかけたとの昨年末からのメディア報道と一致している。バイデン政権はこれらの報道に異議を唱えている。

12月にドバイで行った演説で、ハリスは、戦争のきっかけとなったハマスの攻撃の残忍な性質を再考したが、同時にガザ地区の民間人を保護するためにイスラエルに更なる努力をするよう求めた。3月にアラバマ州セルマで行った演説で、ハリスは、人質解放とガザ地区への援助流入を可能にする即時停戦を求めた。彼女の発言は停戦合意を仲介するための政権の外交努力と一致していたが、彼女の熱のこもった発言に聴衆から大きな拍手が送られた。

国務省でイスラエル・パレスティナ交渉担当特使を務めたフランク・ローウェンスタインは、ハリスの紛争に関する政策は継続性を重視するものになる可能性が高いが、バイデンとは異なるトーンを打ち出す可能性があると述べた。この認識は、戦争について、彼女と個人的に話した人たちからも同様の意見が寄せられている。

4月2日、バイデン政権のガザ政策について話し合うためにホワイトハウスでイスラム教徒コミュニティの指導者たちと会談した際、今年初めに医療任務で、ガザ地区で働いていたシリア系アメリカ人医師のザヘル・サルールは、ハリスはガザ政策に関する彼らのプレゼンテーションに感動していたと述べた。ガザ地区の人々に対する戦争の影響を懸念し、会議後に彼に近づき、人道状況について地上からの更なる報告を求めた。サルール医師は、「ハリス副大統領は共感を示していると感じた。彼女はガザ地区の民間人の窮状を明らかに気にかけていました」。また、政策に関してはバイデンと乖離はなかったものの、紛争に対するアメリカのアプローチについての彼女の表現はより明確かつ詳細だったとサルール医師は述べた。

木曜日のイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との会談後の公の場での発言で、ハリスは強い口調で語った。ハリスは、イスラエルには自国を守る権利があるというバイデン政権の立場を繰り返したが、その方法が重要だと述べた。ガザ地区について、ハリスは、「私たちは苦しみに対して無感覚になることを許すことはできない。私は沈黙しない」と語った。

ハリスが選挙に勝ったとしても、彼女が就任するのは2025年1月になるため、その間の戦争で多くのことが変わる可能性がある。ガザ地区の状況は依然として厳しいものであるが、戦争の性質は既に大規模な作戦から、より標的を絞った(依然として致命的ではあるが)作戦へと変化している。マコフスキーは、「戦争は過去9カ月のようなものにはならないだろう。だから、ハリスが同じような選択に直面するかどうかは分からない」と語った。

-エイミー・マキノン筆

●アフリカ(Africa

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ワシントンがアフリカ大陸における外交関係の強化を目指す中、アフリカ3カ国歴訪中のハリスがガーナのケープコースト城で演説(2023年3月28日)

2022年、ワシントンで開催された主要なアメリカ・アフリカ首脳会談で、バイデンは、翌年アフリカを訪問すると誓った。しかし、彼はそうしなかった。 5月にケニアのウィリアム・ルト大統領がワシントンを国賓訪問した際、バイデン氏は再選されれば来年2月にアフリカを訪問すると約束した。今、彼は選挙戦から脱落した。

アフリカの指導者たちは長い間、ワシントンとの関与が他の地政学的優先事項のために後回しにされてきたことを批判してきた。バイデンが全く参加しなかったことは、トランプが大統領としてサハラ以南のアフリカに足を踏み入れなかったことに続くもので、アフリカ諸国のいくつかを 「くそ溜め国家(shithole countries)」と呼んだことで悪名高い。

ティーム・バイデンは、アメリカ・アフリカ首脳会談を企画し、定期的にバイデン政権の閣僚たちをアフリカ大陸に派遣することで、トランプ大統領との差別化を図った。ハリスは、アフリカ大陸を訪問した政府高官の中で最上級であり、昨年ガーナ、タンザニア、ザンビアを訪問した。

現・元政権当局者らは、ハリスのホワイトハウスも、バイデンのアフリカへのアプローチと同様の方針をとる可能性が高いと述べている。それは、閣僚レヴェルの訪問を着実に続け、アフリカ大陸が悲惨な不況に直面する中、民主政治体制と法の支配の促進について得意げにと述べるだろうということだ。民主政治体制の進歩において、地政学的な影響力を巡ってロシアや中国と競争している。

しかし、ハリス政権が誕生すれば、アフリカの指導者や住民に、アメリカ・アフリカの協力と民主政治体制に対する、アメリカの公約が単なるレトリックにとどまらないことを納得させるには、険しい戦いに直面することになるだろう。バイデン政権は、真の民主促進運動を支援するよりも、脆弱な独裁政権との短期的な安全保障上の提携を優先するという、アメリカの外交政策上の長い伝統に従ってきたためだ。西アフリカでクーデターが相次ぎ、アメリカの対テロ作戦が失敗したことで、サヘル地域は以前にも増して独裁的で、テロに脆弱で、ロシアのような、アメリカのライヴァルと手を組むことを許している。

多大な負担にもかかわらず、ハリス政権は、アメリカとアフリカの関係において、いくつかの良い方向に進むだろう。バイデン政権がビジネスとインフラ関係の拡大に重点を置いたことで、新たに約142億ドルの双方向貿易と投資が生まれ、アメリカのアフリカへの直接投資は、新型コロナウイルスの世界的大流行で急激に落ち込んだ後、再び増加に転じている。

バイデンティームはまた、政権末期のスーダン戦争(スーダンの民主政体移行にワシントンが関与して失敗したことを受けて勃発した戦争)の和平交渉を開始するために、「万歳のメリー号」を投げかけているが、その交渉がどのように行われたのかは不明だ。その間、ハリス政権はアフリカ諸国の政府を、大国間競争(great-power competition)の地政学的チェス盤の駒のように扱うことなく、大陸におけるロシアや中国との競争のバランスをとる必要がある。

-ロビー・グラマー筆

●移民(Immigration

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フロリダ州ホームステッドにある移民児童収容施設を訪れる連邦上院議員(当時)で大統領候補だったハリス(2019年6月28日)

移民は、外交政策問題の一つであり、ハリスの副大統領としてのポートフォリオの重要な部分を占めていることから、ハリスの潜在的な戦略がどのようなものになるかを評価するのがおそらく最も簡単な問題である。

共和党はハリスをバイデン政権の「国境皇帝(border czar)」と名付け、元サウスカロライナ州知事ニッキー・ヘイリー氏の言葉を借りれば、「国境を修復する(fix the border)」という一つの任務を達成できなかったとされるハリスを攻撃した。しかし移民専門家たちは、彼女の任務の範囲ははるかに限定的であり、彼女がバイデン政権の「国境皇帝」に任命されたことは一度もなかったと強調している。国土安全保障長官のアレハンドロ・マヨルカスと保健福祉長官のザビエル・ベセラが国境問題に責任を負っている。

実際には、ハリスはバイデン政権が中米3カ国(ホンジュラス、グアテマラ、エルサルヴァドル)と協力し、経済的苦難、暴力、政治的抑圧といった移民の「根本原因(root causes)」に取り組むための取り組みの陣頭指揮を任されていた。ハリスは、「根本的な原因を緩和するために、これらの国々への民間投資に関するイニシアティヴを主導する」責任を与えられた、と元米移民帰化局長官で、現在は移民政策研究所に在籍するドリス・マイスナーは述べている。

この取り組みの一環として、ハリスは、3カ国の民間セクターへの関与に対して合計52億ドル超を支出すると発表した。ホワイトハウスによれば、この公約は50以上の企業や団体から寄せられたもので、メタ、エルサルヴァドル第2位の銀行バンコ・クスカトラン、ターゲットなどが含まれる。

2021年、ハリスが副大統領就任後初の外遊でグアテマラを訪れた際、潜在的な移民に対して鋭い警告を発したことで波紋を呼んだ。「アメリカとメキシコの国境への危険な旅に出ようと考えているこの地域の人々にはっきりと言いたい。来ないように、来ないように」。この声明は、進歩主義派や移民擁護団体の一部から批判を浴びた。

南部国境に対するバイデン政権の広範なアプローチから、ハリス戦略がどのようなものになる可能性があるかが見えてくる。バイデン大統領が、移民が国境を通過する頻度が高い間は亡命を求めることを禁止するという物議を醸す大統領令に署名した後、6月の不法越境は、3年ぶりの低水準に落ち込んだ。この大統領令は「バイデン大統領によって制定された最も制限的な国境政策であり、トランプ前大統領が2018年に行った移民遮断の取り組みと呼応するものだ」とACLUは述べている。国境を越える移民は、過去最高レヴェルにまで急増していた。昨年、国土安全保障省は2000年以来、国境での月間移民数で最高を記録した。

マイスナーは、「バイデン政権は、効果的な取締り政策と同時に、私たちが移民の国であることを認識し、移民が継続できるような政策を打ち出そうと懸命になっている。そのバランスがどのようなものであるかは、まだはっきりしていない」と述べている。

カリフォルニア出身、元州司法長官、移民の子供として、ハリス自身の経歴が移民問題に対する彼女の視点を形成してきた。マイスナーは、「カリフォルニアはもちろん、現在も将来も移民によって完全に形作られている。ハリスは、個人的にも、仕事上でも、自身の経験からこれらの問題を強く把握していることは間違いない」と述べている。

-クリスティーナ・リュー筆

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカ外交政策に関しては大きな潮流として、リアリズム(Realism)と介入主義(Interventionism)があるということを私は拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)で書いた。冷戦期、アメリカは自由主義陣営を率い、ソヴィエト連邦率いる共産主義陣営と対峙した。アメリカは、「近代化(modernization)」=「民主化(democratization)」を掲げて、世界各国に介入した。しかし、一方で、アメリカに役立つ国であれば、非民主的な王制や独裁制をも容認するという二枚舌外交を行った。アメリカの介入主義政策は、共和党であればネオコン派、民主党であれば人道的介入主義派が担ってきた。このことも何度も書いてきた。こうした2つの勢力が外交を担った際には、外国への侵攻を行い、結果としてそれが泥沼化して、アメリカの利益が損なわれることになった。そうした外交政策の反発が、「アメリカ・ファースト(America First、アメリカ国内問題解決優先主義)」として噴き出したのだ。

 アメリカのリアリズム外交を代表するのがヘンリー・キッシンジャーとジェイムズ・ベイカーの両元国務長官だ。ベイカーはジョージ・HW・ブッシュ政権下で、第一次湾岸戦争に対処したが、政権内のネオコン派の突き上げ(イラクのクウェートからの撤退だけでなく、イラク国内に侵攻しサダム・フセイン政権を打倒せよ)にも屈せず、イラク国内への侵攻を許可しなかった。アメリカの国益と中東地域の不安定化を考慮しての行動だった。キッシンジャーについてはこれまでもこのブログで何回もご紹介しているが、世界大戦を引き起こさないという考えの下で、アメリカと中国、ロシアを繋ぐ役割を死去するまで続けた。

 今回ご紹介する論稿は、スティーヴン・M・ウォルトの論稿である。ウォルトは、外交の範囲を限定することが重要だと述べている。

スティーヴン・M・ウォルトは、ガザ地区への救援物資輸送のために、アメリカが設置した仮設桟橋の崩壊を例に挙げて、アメリカ政府の人道的な対応の不足を批判している。桟橋の建設はイスラエルの国境を開かせるための象徴的なPR活動に過ぎず、実際には援助物資はわずかトラック60台分しか運ばれなかった。

このことはアメリカの外交政策の信頼性について諸外国に疑問を持たせることになるとウォルトは指摘している。アメリカの外交専門家は信頼性の維持にこだわり、戦略的には重要でない紛争に資源を投入することを正当化している。しかし、過去の失敗から学ばず、アメリカが些細な利害のために無駄な戦争に巻き込まれることが続いている。信頼性を重視するあまり、必要な能力(機能)を無視する傾向があり、その結果、国際的な影響力を失っている。

例えば、ベルリン空輸のように成功することもあるが、アメリカの外交機関が高尚な役割を果たせるか疑問が持たれている。中東和平プロセスや911テロ事件の背景にある政策の誤り、イラク侵攻、金融危機など、アメリカの外交政策の失敗の歴史は長い。

アメリカの外交政策の誤りを修正するには時間がかかり、構造的な問題が存在する。これに対処するためには、アメリカがより抑制的な外交政策を採用し、解決すべき問題の数を減らす必要がある。そうすれば、外交機関が任務を果たしやすくなり、故障率も低下するだろう。アメリカの外交政策がより有能であれば、国際社会からの信頼を得ることができる。これはウィン・ウィンの関係を築くことにつながるとウォルトは結論づけている。

 ウォルトがこのような論稿を書くということは、現在のジョー・バイデン民主党政権の外交は守備範囲を広げ過ぎているということだ。アメリカの実力を超えているということだ。アメリカ国民は、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス紛争への援助に疲れている。「いつまで続けねばならないのか」「もう十分にしてやったではないか」という考えを持つ国民が多い。民主党の大統領選挙候補者に強引に内定してもらったカマラ・ハリス副大統領は、バイデン政権の政策の継続を訴えるだろう。それはつまり、いつまでも戦争を続けるということだ。アメリカがそれで国力を落として衰退していくのは勝手だが、それで世界の不安定さが続くというのは許せないことだ。

(貼り付けはじめ)

バイデン大統領の外交政策の問題点は機能不全であることだ(Biden’s Foreign-Policy Problem Is Incompetence

-アメリカ軍のガザ地区における桟橋の崩壊は、より大きな問題の象徴である。The U.S. military’s collapsed pier in Gaza is symbolic of a much bigger issue.

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年6月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/04/biden-foreign-policy-gaza-ukraine-foreign-policy-incompetence/

ニューヨーク・メッツが球団創設最初のシーズンで、40勝120敗という滑稽なほど無能な成績を残したとき、ケーシー・ステンゲル監督がこう嘆いたのは有名な話だ。「ここにいる誰もこのゲームをプレーできないのか?」 ガザ地区に救援物資を運ぶためにアメリカが建設した仮設桟橋(temporary pier)が崩壊したことを知ったとき、私はステンゲルの言葉を思い出した。ソーシャルメディア上の批評家たちがすぐに指摘したように、この言葉はガザ紛争全体に対するジョー・バイデン政権の対応を象徴する適切な比喩となった。この桟橋の建設は、本質的には、イスラエルに国境を開かせ、人為的な人道的大惨事(man-made humanitarian catastrophe)に直面している市民への十分な救援物資を許可することを、アメリカ政府当局者が望まなかったために行われた、高価な人目を引くための高価なPR活動(PR stunt)であった。この主に象徴的な努力は、荒波が構造物を損傷し、援助物資の輸送が中断される前に、トラック60台分の援助物資を届けることに成功した。修理は現在進行中で、少なくとも1週間はかかると伝えられている。

この残念なエピソードを、より大きな悲劇のほんの一部に過ぎないと考える人もいるかもしれないが、私はこのエピソードが、アメリカの野心と見栄(American ambitions and pretentions)について、より大きな疑問を投げかけていると思う。アメリカの外交専門家たちは「信頼性(credibility)」の維持に執着しているが、それは戦略的に重要でない紛争や公約に莫大な資源を費やすことを正当化するためである。1960年代から1970年代にかけて、アメリカの指導者たちは、南ヴェトナムが本質的な戦略的価値の低いマイナーな国であることを理解していた。しかし、勝利に至らずに撤退すれば、アメリカの持続力に疑念が生じ、信頼性が損なわれ、世界中の同盟国が共産ブロック(communist bloc)に再編成されることになると主張した。もちろん、こうした悲観的な予測は何一つ実現しなかったが、アメリカが些細な利害のために勝ち目のない戦争に巻き込まれるたびに、同じような単純化された議論が繰り返される。

信頼性をやみくもに崇拝する(fetishize)人は、通常、必要なのは十分な決意だけであると考えている。彼らは、アメリカが十分に努力すれば、設定した目標は全て達成できると信じている。彼らは、「勝利はそのコースを維持することだけの問題に過ぎない」と考えるだけだ。しかし、信頼性と影響力を単に意志の問題として考えると、おそらくより重要な別の重要な要素が見落すことになる。その重要な要素とは機能(competence)だ。

アメリカの外交関係を運営する責任を負う主要機関なら、国家安全保障会議、国務省、国防総省、財務省、商務省。各情報・諜報機関、連邦議会の各種委員会はあまり有能ではないとなったら、世界中の人々が私たちからの助言を受け入れ、私たちの指導に従うよう説得することなどできない。例えば、1948年のベルリン空輸(Berlin airlift)は、西側の決意の明らかなシグナルだったが、もしアメリカとそのパートナーが複雑な兵站努力(complicated logistical effort)を成功裏に遂行できなかったら、それは裏目に出ていただろう。地中海に余分な桟橋を建設し、約9日後にそれを崩壊させることは、この時とは、かなり異なるメッセージを送ることになる。

残念ながら、アメリカの外交政策担当の各機関が、アメリカの指導者たちが担ってきた高尚なグローバルな役割を果たせるかどうか、疑問を持たれる理由は十分にある。悲惨なパフォーマンスのリストは、さらに長くなっている。二国家による解決をもたらすと言われた中東の「和平プロセス(peace process)」が、今日の「一国家の現実(one-state reality)」を生み出したこと、1999年のコソヴォをめぐる回避可能であったが複雑に進んでしまった戦争(ベオグラードの中国大使館への誤爆を含む)、911同時多発テロを可能にした政策の誤りと情報諜報の失敗、2003年のイラク侵攻の悲惨な決定、2008年の金融危機、米海軍の一連のスキャンダルと海上衝突事故、審査に合格できず、ほとんど即戦力にならない航空機を購入するなど肥大化した国防調達プロセス(bloated defense procurement process)、制限のないNATO拡大が最終的にどこにつながるかを予想できなかったこと、経済制裁がロシア経済をすぐに崩壊させるというむなしい期待をしたこと、あるいは、2023年夏のウクライナの反攻が失敗する運命にあるという豊富な兆候を見過ごした希望的な観測に基づいた応援などが挙げられる。アフガニスタンやリビアへの介入に失敗したことも加えれば、「屋上屋を重ねているだけだ」と非難されるだろうし、アメリカ連邦下院が道化と化したことについて、私は何も言うつもりはない。

私は、この厄介な羅列を暗唱することに喜びを感じている訳ではないし、ワシントンが時折、重要なことを正しく行ってきたことも承知している。クリントン政権は1999年のカルギル危機(カシミール地方をめぐるインドとパキスタンの紛争)の際、南アジアでの大規模な戦争を回避する手助けをした。ブッシュ政権が始めたアメリカ大統領エイズ救済緊急計画(PEPFARプログラム)は、誰が見ても人道的に大きな成功を収めた。オバマ政権は、イスラム国の短期間の「カリフ体制(caliphate)」を倒した地元勢力を支援した。バイデン政権は、ロシアのウクライナ侵攻への初期対応を効果的に調整した。アメリカの情報諜報機関は、2014年にロシアがクリミアを掌握することを予測できなかったが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が2022年に何を準備しているかを正しく予見していた。

従って、私は、アメリカ政府が全てにおいて失敗していると言っているのではない。

しかし、全体的な記録は残念なもので、私はその理由を解明するため、何年も費やしてきた(そして1冊の本にまとめた)。問題の一部は、アメリカの力と思考能力の低さの、通常では考えられない組み合わせ(unusual combination of power and impunity)にあるのではないかと私は疑っている。アメリカは非常に強力であると同時に、他の地域では考えられないほどに安全であるため、その指導者たちはありとあらゆる愚かなことを行い、その結果のほとんどで、他国に苦しませることができる。また、アメリカが世界中の数十の問題に積極的に対処しようとしない場合、世界全体が崩壊すると考える、愚かな傾向もあり、それが常に米政府に対処しきれないほどの責任を引き受けさせることになる。議題が詰め込まれすぎると、優先順位を設定することが難しくなり、全ての問題に適切な注意を払うことができなくなる。避けられない結果として、多くのことがうまくいかなかったり、まったくうまくいかなかったりすることが起きる。

更に悪いことに、歴代の米大統領は能力よりも忠誠を重視しており、外交政策の専門家たち(エスタブリッシュメント)は、誤りを犯しやすい自分たちの仲間の責任を追及することを嫌がる。その結果、専門家たちは失敗し、破産したアイデアの提供者たちが、自分たちの信用されていない意見を再利用してくれる、シンクタンクやメディアをいつでも見つけることができる。政府高官が辞任することは原則的にめったにない(ただし、中堅官僚が辞任する場合もある)。辞任すると、将来の政権で、高位の職の提供を受ける可能性が低くなるからである。結局のところ、上級補佐官が自分の正しいと思うことを擁護することだけしか行わず、結果として、指導者を当惑させることになる。そんな補佐官を指導者は望むだろうか? また、ホワイトハウスが交代するたびに大規模な人事異動が発生し、新しく任命された担当者が多くやって来るが、彼らはまず連邦上院の人事承認を待ってから何をすべきかを考えなければならない。この状況は、アップル社やGM社が4年ごとに経営陣を無作為に交代させ、会社が順調に機能することを期待するようなものだ。アメリカが適度な外交政策目標を掲げていれば、こうしたことは問題にならないかもしれない。しかし、実際には、ワシントンは、不適格な多数のアマチュアは言うに及ばず、短期労働者を集めて、刻々と変化する組織で、全世界を管理しようとしている。

私は分かっている。毎日出勤して国のために最善を尽くしている何千人もの献身的な政府職員、つまり、上司がレールを逸脱すると公式の「反対意見チャンネル(dissent channels)」を苦情で埋める彼らに対して、私は公平ではない。官僚利権の固定化はそれ自体で問題を引き起こす可能性があるが、外交政策に関する場合は、「魚は頭から腐る(the fish is rotting mostly from the head)」ということになる。これら全てのことにより、アメリカの外交政策を担当する諸機関は、現実的な目標を設定することよりも、崇高な理想を宣言することのほうが得意となり、結果として、その目標を達成することはできないことになる。

しかし、「ドナルド・トランプを再選すればこの問題は解決する」と思うなら、もう一度考えてみて欲しい。トランプ大統領の最初の任期は、外交政策における失敗が延々と続き、アメリカの安全や繁栄を更に高めることはできなかったが、前任者であるバラク・オバマ大統領が世界の多くの地域で享受してきた尊敬と善意を台無しにすることには成功した。トランプが貿易戦争を始めるという不手際をしてしまったために、アメリカ国内で何十万もの雇用が奪われ、定められた目的(アメリカの貿易赤字の削減)を達成することができなかった。トランプ大統領は、自身が全く理解できなかった合意を破棄し、国家安全保障問題担当大統領補佐官4人、国防長官2人、国務長官2人、そして前例のない数のホワイトハウス職員を1期のうちで使い尽くした。明らかに、トランプの元上級補佐官の何人かは、現在彼を最も著名に批判している人物の中に含まれている。

そして忘れてはいけないのは、この大統領のビジネスキャリアは、詐欺、終わりのない訴訟、そして度重なる破産に満ちていたということだ。日光と漂白剤が新型コロナウイルスを治すかもしれないと考えた人でもある。北朝鮮の金正恩に一対一の首脳会談の機会を与え、その対価として、何もないもの(bupkis)を手に入れた人物、そして、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と当時の中米ロシア大使セルゲイ・キスリャクがホワイトハウス訪問中に、誤って機密情報を漏洩した人物である。外交政策に関するトランプの見解は、ワシントン政治内部(inside-the-Beltway)の正統性からの新たな脱却だったかもしれないが、パリ気候協定からの離脱、イラン核合意の破棄、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱といった彼の最も重大な行動は即座に、アメリカの重要な利益に対する永続的な損害をもたらした。そして、そう、トランプはまた、2020年の選挙を覆そうとして、もし大統領執務室で二度目のチャンスを得られたら、憲法の一部を廃止することについても語っている。トランプの2期目がアメリカ外交政策の更なる成功をもたらすと考えている人は、トランプがどれほど無能な指導者だったかに注目していないか、単に忘れているかのどちらかだ。

アメリカの外交政策の仕組みは誤りを犯しやすい構造になっている。これを修正するには長い時間がかかるだろうし、そもそもそれが可能なのかと時々疑問に思う。これが、私がより抑制的な外交政策を支持する理由の1つであり、アメリカの世界への関与を維持しながら、アメリカ政府が解決する義務があると感じている問題、課題、責任の数を減らす政策となる。もしアメリカがやるべきことを減らそうとするならば、我が国の外交政策担当の諸機関がその任務を遂行できるかもしれない。故障率は現在よりも低くなり、国内ではより多くのリソースを問題解決に充てることができるようになるだろう。アメリカがそれほど野心的ではないが、より有能な外交政策を採用すれば、世界中の一部の主要国は喜ぶだろうし、それによってアメリカの残りの約束がより信頼できるものになるだろう。私にとっては、それがウィン・ウィン(win-win)の関係になるように思えてならない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。

 アメリカの外交政策思想には大きく2つの流れがある。それがリアリズム(Realism)と介入主義(Interventionism)だ。アメリカの二大政党である民主党、共和党にそれぞれ、リアリズムを信奉するグループが存在する。介入主義は、民主党では、人道的介入主義(Humanitarian Interventionism)を信奉する人道的介入主義派となり、共和党ではネオコンサヴァティヴィズム(Neoconservatism)を信奉するネオコン派となる。ネオコン派は、ジョージ・W・ブッシュ(子)大統領時代に日本でも知られるようになった。
 介入主義とは、外国に積極的に介入して、外国の体制を全く別のものに転換しようというものだ。ネオコン派の考えは、「アメリカの価値観である、自由主義や人権、民主政治体制(デモクラシー)、資本主義を世界に広めて、世界中の国々を民主体制の自由主義的資本主義国ばかりにすれば、世界は平和になる」というものだ。そのために、アメリカは自身の卓越した力を利用しなければならないし、これに反対する勢力は打ち破るということになる。民主党の人道的介入主義派は、「世界の非民主的な国々では、マイノリティの女性や少数民族、政敵少数者たちが迫害され、命の危険に晒されている。そうした人々を助けるために、アメリカは人道的に外国に介入しなければならない」というものだ。結果として、ネオコン派と同じく、非民主的な国の体制転換(regime change)がなされねばならないということになる。

 リアリズムは、アメリカの力には限界があり、アメリカの力で世界の全ての国を民主体制の国家にすることはできない。ある国の問題はそこの国の国民の解決すべき問題である(災害などの人道支援は行うのは当然だが)。そして、アメリカの重大な国益が侵害されそうな場合を除いて、外国に対して積極的に介入すべきではない、ということになる。下の論文でスティーヴン・M・ウォルトが「抑制(restraint)」と書いているのはまさにこれである。これらのことについては最初の著作『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)に詳しく書いているので是非お読みいただきたい。

 アメリカはこれまで介入主義的な外交政策を実施し、その多くが失敗してきた。結果として、「アメリカ国内問題解決を優先していこう」という公約を掲げた、ドナルド・トランプが大統領に当選した。こうした考えを「アイソレイショニズム(Isolationism)」という。アメリカは超大国であることに疲れ、超大国であり続けるための国力を失っている。そのために、これからは「抑制的」、つまり、リアリズム外交に転換していくことになる。そして、次の世界覇権国は中国である。中国は、覇権交代の歴史を研究し、覇権国は永続的な存在ではなく、いつか、ボロボロになってその座から滑り落ちていくということを分かっているだろう。しかし、中国が覇権国にならねば世界は治まらないということになる。そうした時代の転換点に差し掛かっている。

(貼り付けはじめ)

抑制的なアメリカ外交政策に転換するのに遅すぎることはない(It’s Not Too Late for Restrained U.S. Foreign Policy

-アメリカのグローバル・リーダーシップの復活を求める声が大きくなっている。しかし、それはこれまでと同様に、大きな間違いである。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年3月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/14/united-states-realism-restraint-great-power-strategy/

冷戦期間中、アメリカがより控えめな、あるいは抑制的な外交政策を採用するように求める提案は、外交政策エスタブリッシュメント内部で大きな支持を集めることはなかった。確かに、ハンス・モーゲンソー、ジョージ・ケナン、ケネス・ウォルツ、ウォルター・リップマンなどの著名なリアリストたち(Realists)は、アメリカの外交政策における最悪の行き過ぎを厳しく批判していた。連邦政府を縮小しようとしてきたリバータリアンたちもまた、アメリカの海外関与を減少させようとしたが、ソヴィエト共産主義を打ち負かしたいという超党派の願望から、そうした提案は外交政策の外交政策に関する言説の片隅にとどまった。抑制(restraint)や縮小(retrenchment)を求める声は、その後の「一極集中の時代(unipolar moment)」においても同様に歓迎されなかった。アメリカのエリートたちは、歴史の潮流が自分たちの方に流れていると信じ、アメリカの比類ないパワーの慈悲深い腕の下で、全世界を平和で豊かな自由主義秩序(peaceful and prosperous liberal order)に導こうとしたのである。

しかし、この傲慢さが増大した時期がもたらした失敗が積み重なるにつれ、より現実的で賢明な外交政策を求める声が無視できないほどに大きくなった。2014年にマサチューセッツ工科大学(MIT)教授バリー・ポーゼンが『抑制:アメリカの大戦略にとっての新たな基盤(Restraint: A New Foundation for U.S. Grand Strategy)』を出版した。この著作は、他の学者(私自身を含む)による関連著作とともに、重要なマイルストーンとなった。2016年のドナルド・トランプの当選も現実的な外交政策を求める声の高まりに貢献した。トランプの大統領としての行動は、抑制派の提言とはかけ離れたものであったが、アメリカの外交政策を形成する中心的な正統派の多くに対する彼の修辞的な攻撃と、外交政策エスタブリッシュメントに対する明らかな軽蔑は、これらの問題についてよりオープンな議論を行うための空間を作り出した。2019年に「クインシー国家戦略研究所」が創設され、クインシー研究所、「ディフェンス・プライオリティズ」、スティムソンセンターのアメリカ大戦略研究プログラム、カーネギー財団のアメリカ政治研究プログラムでの関連イニシアティヴも、抑制を目指す動きが勢いを増していることを示す追加的な兆候であった。(完全情報公開:私はクインシー研究所の設立以来、非常勤研究員を務めており、昨年から理事会のメンバーに加わった)。

抑制を目指す動きが軌道に乗りつつあることを示す兆候の1つに、アメリカのグローバル・リーダーシップに対する拡大的な考え方や、ほころびつつある自由主義秩序を守りたいという願望に固執する批判者たちからの攻撃があった。こうした攻撃は通常、抑制派が提言していることを誤って伝え、しばしば彼らを「アイソレイショニスト(isolationists)」と誤って描いていた。こうした批評の中には自分たちの立場を有利にしようと誘導的なものもあった。それは、抑制派が提唱する考え方が大きな支持を集め、やがてはアメリカの対外アプローチに大きな変化をもたらすのではないかと、主流派が懸念し始めていることを示唆していた。

それは昔のことで、今は今である。イラク戦争やアフガニスタン戦争の後で、抑制という考え方は否定できない魅力を持っていたが、現在では大国間の対立が最重要課題となっている。中国のパワーは経済的苦境にもかかわらずなお拡大を続けており、アジアの現状を変えたいという欲望は衰えていない。ロシアはウクライナに侵攻し、現在ウクライナを支配している。中国、ロシア、イラン、北朝鮮、その他数カ国による協力体制が強化され、ヨーロッパの防衛力再構築に向けた取り組みは、多くの人が期待していたよりもゆっくりと進んでいる。ガザでは残忍な殺戮が進行中であり、戦争が拡大するリスクは依然として受け入れがたいほどに高い。スーダン、リビア、エチオピア、その他のアフリカ諸国では、内戦とジハード運動が人々の生活を破壊し続けている。1990年代の傲慢さは消え去ったかもしれないが、大国間の紛争は考えられないという信念も同時に消え去った。

これらの状況全てを踏まえても、リアリズムと抑制に基づく外交政策には意味があるのだろうか? アメリカ人は今こそ、深く掘り下げ、再びグローバル・リーダーシップの外套を手に取り、「地政学的ハードランディング」を回避するために奔走すべき時なのだろうか? 抑制の時期は過ぎ去ったのか?

その答えは「ノー」だ。

まずは抑制を目指す動きが何を望んでいるのかを明確にすることから始めよう。何よりも抑制派は、アメリカの極めて重要な利益が関与しない、不必要な「選択の戦争(wars of choice)」を戦うことに反対している。彼らは平和主義者でもアイソレイショニストでもない。彼らは強力な国防を信じている。そして彼らは、状況によってはアメリカが海外で武力行使を厭うことがないようにすべきだと認識している。抑制派は、アメリカは世界から撤退する代わりに、他国で貿易や投資を行うべきであり、他国にも同様の行動を奨励し、排外主義(xenophobia)に駆られて壁を築くのではなく移民を管理された形で受け入れるべきだと考えている。実際、抑制派はアメリカが今よりも積極的かつ効果的に外国に関与すべきであり、外交を第一に考え、武力行使をワシントンの最初の衝動(first impulse)ではなく最後の手段(last resort)とするべきだと考えている。それは何故か? なぜなら、抑制派は軍事力の限界を理解しているからだ。軍事力は場合によっては必要かもしれないが、それは常に多くの予期せぬ結果を生み出す粗雑な手段である。また、重要な利益が関与せず、成功を定義するのが難しい場合、戦争に対する国民の支持を維持することは困難である。特に抑制派は、体制転換(regime change)や軍事占領(military occupation)を行って、自由主義的な価値観を広めようとすることに反対している。なぜなら、そのような取り組みは通常、代償として、深刻な事態の泥沼化(quagmires)や破綻国家(failed states)の出現を招くのが通常からである。

現実的に考えると、抑制派のほとんどは、アメリカは中東から軍事的に手を引き、その地域の全ての国々と通常の関係を持つべきだと考えている。彼らは、NATOの同盟諸国が自国の防衛により大きな責任を負うよう、ワシントンが奨励すべきだと考えている。しかし、共和党のJD・ヴァンス連邦上院議員のようなトランプ大統領気取りとは異なり、抑制派の多くは、外交的解決に向けた献身的かつ柔軟な努力と組み合わせたウクライナへの援助継続を支持している。中国に対する最善の対応策については、抑制派にも賛否両論があり、より強力な封じ込め(containment)の努力を支持する者もいれば、緊張を緩和し、互恵的な妥協点を追求する必要性を強調する者もいる。しかし、アメリカは依然として海外に過剰に関与しており、根本的な政治問題を解決できない軍事的解決策に過度に依存しがちであるという点ではこれらの人々の意見は一致している。

この見解は、10年以上前と同様に、今日でも当てはまる。思い出してみて欲しい。アメリカが現在取り組んでいる問題の多くは、以前の抑制派の警告に耳を傾けていれば、完全に回避できたかもしれないものばかりだ。アメリカが開放的なNATO拡大を強く推し進め、ウクライナを西側の軌道に乗せ、最終的にはNATOに加盟させなければ、ロシアによる2014年のクリミア併合と2022年2月の不法侵攻はおそらく起こらなかっただろう。実際、バイデン政権がロシアの攻撃に先立つ数カ月間にもっと柔軟性を示していれば、2022年春にトルコとイスラエルの調停努力(mediation efforts)をもっと支持していれば、あるいはその秋にウクライナが優勢だった時期に停戦を推進していれば、ロシアとウクライナはまったく戦争をしていなかったかもしれないし、ウクライナがこれほどの損害を被る前に戦争は終結していたかもしれない。もちろん、確かなことを知ることは不可能だが、アメリカ政府関係者たちは、ウクライナが現在負けている戦争を回避するためにできたかもしれないことを全てやった訳ではないことは明らかだ。

中東での出来事も同様の教訓を与えてくれる。ドナルド・トランプ政権もジョー・バイデン政権も、イスラエルとアラブ近隣諸国との関係を正常化しようとすることに重点を置きながら、右傾化するイスラエル政府から圧力を受けつつあったパレスチナを完全に無視した。抑制派が警告したように、この近視眼的なアプローチは暴発の引き金となり、2023年10月7日の悲劇的な結果を招いたのは間違いない。

ガザにおけるイスラエルの猛攻撃によって、3万人以上のパレスチナ人が殺害され、ガザにある建物の50%から60%を破壊または損害を与え、イスラエルの世界的イメージを(アメリカとともに)大きく損なわせる結果となった。イスラエルは大規模な軍事的優位性を持ち、それを全面的に行使しているが、力だけでは、パレスチナとの対立を継続させている政治的な相違を解決することはできない。ハマスが軍事行動で壊滅することはないだろうし、イスラエルのユダヤ人とパレスチナのアラブ人の正当な願望を受け入れ、両者が安全な生活を送れるようにするにはどうすればいいのかという根本的な問題は、解決されないままである。同じことが、紅海の海運に対するフーシ派による攻撃を、爆弾を落としたりミサイルを撃ったりして止めようとするアメリカの努力にも言える。ガザ地区での停戦を実毛するために影響力を行使するということよりもまずは爆弾を落とすということを英米は選択した。これらの例は、複雑な政治問題は何かを爆破すれば解決できると考える反射的な傾向を示している。このような傾向に対して、抑制派は長年にわたり反対してきている。

抑制派はまた、アメリカのパワーは相当に大きいものデルが、無尽蔵ではないことも認識している。大国間競争(great-power competition)の時代には、明確な優先順位を設定し、主目的が互いに矛盾しないようにすることがこれまで以上に重要である。今日、アメリカはウクライナでロシアを打ち負かすウクライナを支援し、人的被害が出ているが、ハマス一掃を目指すイスラエルの努力を支援し、世界トップクラスの半導体技術やその他のデジタル技術を開発しようとする中国の努力を永久に無力化しようとしている。これは抑制されたアジェンダとは言い難く、その矛盾は自明であると同時に自滅的である。ユーラシアの二大国(中国とロシア)を互いに翻弄する代わりに、私たちは数十年かけて彼らに協力する理由を与えてきた。ロシアを孤立させ、グローバル・サウス(Global South)における中国の影響力を制限する代わりに、イスラエルのガザでの作戦を支援したことで、「ルールに基づく秩序(rule-based order)」の偽善が浮き彫りになり、中国に安っぽいプロパガンダの勝利をもたらした。ジョー・バイデン米大統領が包括的共同行動計画に再参加しなかったことは、イランに核開発を再開させ、さまざまな地域の代理人への支援を強化させ、更にはウクライナにおけるロシアの取り組みを積極的に軍事支援させたという点で、誤ったアジェンダに含まれることになるだろう。

最後に、抑制の擁護者たちは、過剰な軍事的関与と「永遠の戦争(forever wars)」がアメリカ本国を衰弱させる効果を持つことについて長い間警告してきた。過度に野心的な外交政策への支持を維持するため、アメリカの指導者たちは、志願兵だけで構成される軍隊に頼るようになり、それによって有権者の大半をその決定の結果から隔離するようになった。アメリカ陸軍士官学校附属現代戦争研究所によれば、その理由の1つは、アメリカ人が「一世代の軍人が、際限のない戦争に何度も何度も派兵されるのを目の当たりにしたから」だという。アメリカの歴代大統領たちは、増税の代わりに借金をしたり、脅威を膨らませたり、アメリカ国民に何をしているのか一部隠したりすることで、こうした活動のコストを隠してきた。しかし、こうした秘密の活動の一部がやがて明らかになると、公的機関への信頼はさらに損なわれている。建国の父たちが理解していたように、常に戦争状態にある共和国は、その共和国としての性格を危険に晒すことになる。今日のアメリカの民主政治体制が脆弱な状態にあるのは、非現実的でうまくいっていない外交政策が一因であり、それを是正しようと抑制派は努力している。

いかなる外交政策ドクトリンも完璧ではない。抑制という考え方も例外ではなく、その擁護者たちは、新たな情報の出現や新たな出来事の発生に応じて、自らの立場を見直す姿勢を持ち続けるべきである。しかし、今のところ、抑制を支持する意見は、特にワシントン中枢でいまだに支配的な代替案と比較すれば、大いに説得力を持っている。そして、現在の状況をもたらした政策をさらに推進することは、まったく意味をなさないし、効果もないのである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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