古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:外交政策

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。
 

 20世紀は「アメリカの世紀」と言ってよいだろう。アメリカが世界の中心となって、覇権国となって、世界の政治や経済を動かしてきた。その中心的な考えとなったのは、リベラル国際主義(liberal internationalism)であった。これは第二次世界大戦前までのアイソレイショニズムを放棄して、戦争終結後もアメリカが世界の安定に寄与するために、世界各国と同盟関係を結び、戦後世界秩序を構築した。しかし、ドナルド・トランプ大統領の出現によって、アメリカの外交政策は大きく変化している。リベラル国際主義は戦後の長い間、つまり、アメリカの世紀においては主流となる考え方だったが、トランプが二期目の政権に就くことで大きく変化している。リベラル国際主義への懐疑論は政治的な立場を超えて広がりを見せている。

アメリカの国際的な役割が問われる中、トランプ大統領のもとでの政策の一貫した批判や不安が高まっている。下記論稿では、その背景に、過去の戦争や秘密作戦による国民の信頼の損失があることも指摘されている。戦後世界秩序を守るためには、常に継続的な努力が求められてきたが、トランプ政権の下で、その基盤が特に急速に揺らいでいる現実が浮き彫りになっていると下記論稿では指摘されている。

 戦後世界におけるアメリカの役割が大きかったことを否定する人は少ないだろう。しかし、その負の側面もまた指摘しなければならない。そして、アメリカの国力が低下する中で、アメリカの役割が変化することは自然な流れである。アメリカ国民が内向きになることは自然なことだ。トランプ大統領は、アメリカの国家としての生命力とアメリカ国民の内向き意識を汲み取り、外交政策を大きく転換しようとしている。それは混乱や不信感を生み出しているが、大きくとらえるならば、時代が変化する中で、新しい時代を生み出すための「陣痛」と言えるかもしれない。

(貼り付けはじめ)

第二次世界大戦後の体制は常に脆弱だった(The Post-World War II System Was Always Fragile

-フランクリン・D・ルーズヴェルトは平和な時期においてもアメリカの世界に対する義務は継続すると警告を発した。

ジュリアン・E・ゼリザー筆

2025年5月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/05/12/post-world-war-two-international-system-fragile/

第二次世界大戦が終結してから80年が経過した。第二次世界大戦の終結という歴史的な瞬間は、祝賀ムードと高揚感、そして人類全体の安堵をもたらした。壊滅的な戦争はついに終結し、ファシズムは敗北したかに見えた。アメリカの当時の雰囲気を最もよく表しているのは、1945年8月14日、日本降伏のニューズが報じられた後、ニューヨーク市のタイムズスクエアでアメリカ海軍の水兵が女性にキスをしているという象徴的な写真だろう。

しかし、アメリカ人が国際的な脅威がまだ終わっていないことに気づくのに、それほど時間はかからなかった。第二次世界大戦後、ソ連とアメリカ合衆国の間に、冷戦が急速に広がった。核兵器の出現により、全面衝突(full-scale confrontation )を回避することのリスクは劇的に高まった。

これに対し、ハリー・S・トルーマン大統領(民主党)とドワイト・D・アイゼンハワー大統領(共和党)は、リベラル国際主義(liberal internationalism)のヴィジョンを推進した。2人の大統領は連邦議会と協力し、2025年まで存続する一連の制度と政策を構築した。この戦後秩序は、人類が想像しうる最悪の軍事紛争(the worst military conflict)を阻止し、ヨーロッパに一定の安定をもたらした。これはアメリカの国家安全保障と経済力にとって不可欠であることが証明された。

今日、第二次世界大戦後のシステム全体が深刻な脅威に晒されている。ドナルド・トランプ大統領は、トルーマン大統領とアイゼンハワー大統領が築き上げたものに、組織的な攻撃を開始した。アメリカ政治の多くの要素と同様に、トランプ大統領は長年の前提の脆弱性(fragility)を露呈させた。アメリカ大統領による正面攻撃を受けたことで、外交政策の根幹は崩れ始めた。

トランプ大統領はわずか数カ月で主要な国際関係を深刻に緊張させ、あるいは断絶させ、カナダの敵意さえ招いた。イーロン・マスクは米国国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSID)にチェーンソーを振りかざした。トランプ大統領はNATOについて辛辣な批判を繰り返し、同盟への関与の維持に懸念を表明する一方で、ロシアやハンガリーといった独裁国家(autocratic countries)を称賛している。トランプはテレビでウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領を侮辱し、ロシアとの戦争におけるウクライナへのアメリカの支援期限が迫っていることを明らかにした。

トランプ大統領は1940年代後半に確立された国家安全保障機構の多くを空洞化させてしまった。ヘンリー・キッシンジャーが1973年と1975年にリチャード・ニクソン大統領とジェラルド・フォード大統領の下で国家安全保障問題担当大統領補佐官と国務長官を務めていた当時、政府機関において1人の人物が絶大な影響力を持つと考えられていた。今月初め、マルコ・ルビオが2つの職を兼任する史上二人目の人物となった際、専門家のほとんどは、ルビオの役割は大統領の望むことを何でも承認することだと合理的に推測した。

第二次世界大戦終結以前から、フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領は、アメリカの世界に対する義務は継続すると警告していた。1945年1月の最後の就任演説で、ルーズヴェルトは次のように述べた。「私たちは、恐ろしい代償を払って教訓を学び、そこから利益を得るだろう。私たちは、平和に1人で生きることはできないこと、私たち自身の幸福は遠く離れた他国の幸福にかかっていることを学んだ。私たちは、ダチョウのようにも、飼い葉桶の中の犬のようにもならず、人間として生きなければならないことを学んだ。私たちは、世界市民(citizens of the world)、人類社会のメンバー(members of the human community)となることを学んだ。エマーソンが述べたように、『友人を持つ唯一の方法は、友人になることだ(The only way to have a friend is to be one)』という単純な真実を学んだ。猜疑心や不信感を抱いたり、恐怖心を抱いたりして平和に近づいても、永続的な平和を得ることはできない」。

1945年以来、このヴィジョンはあらゆる困難と挫折に直面してきたが、観察者の多くは、その基本的前提は維持されていると考えていた。ネオ・アイソレイショニズムは終焉を迎えたとみなされ、リベラル国際主義が主流となった。トランプ政権の最初の任期後も、その基盤は生き残ったように見えた。

しかし、トランプが二期目に、数十年にわたりアメリカの外交政策を導いてきた国際システムを解体しようとしている今、その基盤の弱さ(the foundation’s weakness)が際立ってきている。

歴史的に見れば、リスクは常に存在していた。国家安全保障体制が構築され始めた初期の頃、リベラル国際主義者たちは、永続的な国際的関与を主張し、激しい抵抗に直面した。国防総省、国家安全保障会議、中央情報局を創設した1947年の国家安全保障法をめぐる連邦議会審議の際、推進派は「兵営国家(garrison state)」がアメリカが反対すると主張する全体主義そのものを助長するのではないかという懸念を克服しなければならなかった。

歴史家マイケル・ホーガンの著書『鉄の十字架(A Cross of Iron)』は、その抵抗の根深さを詳細に描いている。トルーマンの公約に反対したオハイオ州選出のロバート・タフト連邦上院議員のような保守派共和党員、ソ連との不必要なエスカレーションを懸念したヘンリー・ウォレス副大統領のような進歩主義派、そして連邦政府資金による研究の制約を懸念する大学の科学者たちなど、抵抗の根深さが見て取れる。1945年から1953年の間、トルーマンは中道(middle path)、すなわち新たな制度を制限し、文民の国防長官を軍事担当に任命するなど、安全保障措置を講じる道を模索した。連邦議会は、元将軍または元海軍提督が連邦議会の許可なしに任命される資格を得るには最低10年の勤務期間が必要であると定めた。

トルーマン大統領は、恒久的な戦時体制は予算を膨れ上がらせるという財政保守派の懸念を払拭するため、国内政策の予算削減も受け入れた。トルーマン大統領は、自らが望んでいたより野心的な国民皆兵訓練(universal military trainingUMT)プログラムではなく、戦時における兵員補充のための平時における選抜徴兵制度(Selective Service System)を採用した。国民皆兵訓練は、18歳になると全ての男性に軍事訓練を受けることを義務付けるものだった。アメリカ社会主義労働党から全米教育協会に至るまで、幅広い反対派連合が国民皆兵訓練を建国の理念に反するとして攻撃していた。

北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganizationNATO)に対する懸念も長年続いていた。連邦上院におけるNATOに関する議論の最中、タフト連邦上院議員は次のように宣言した。「非常に遺憾ではあるが、北大西洋条約の批准に賛成票を投じることはできないという結論に至った。なぜなら、この条約には、我が国の費用で西ヨーロッパ諸国の軍備増強を支援する義務が伴うと考えるからだ。この義務は、世界における平和ではなく戦争を促進するものだと私は考えるからだ(with that obligation I believe it will promote war in the world rather than peace)」。

NATO設立に貢献した軍事指導者のアイゼンハワーでさえ、ヨーロッパの同盟諸国に対し、より多くの責任を負うべきだと考え、非公式に不満を表明した。NATOへの批判は、1990年代初頭の冷戦終結後、ますます強まった。ソ連の脅威が後退するにつれ、アメリカの外交政策を他国の利益に縛り付ける根拠を疑問視する声が高まった。

NATOの拡大はロシアを不必要に刺激するのではないかと懸念する人たちもいた。1997年、軍備管理協会(Arms Control Association)は当時のビル・クリントン大統領に対し、「最近のヘルシンキ・サミットとパリ・サミットの焦点となっている、アメリカ主導のNATO拡大への取り組みは、歴史的な規模の政策的誤りである。NATOの拡大は同盟諸国の安全保障を低下させ、ヨーロッパの安定を揺るがすと私たちは考えている」と警告した。

国連もまた、長らくNATOの標的となってきた。1964年、共和党の大統領候補だったバリー・ゴールドウォーター連邦上院議員は、国連は無力だと批判した。ジョン・バーチ協会(the John Birch Society)は1960年代、アメリカの脱退を求めるキャンペーンを展開した。1984年、ロナルド・レーガン大統領は、ユネスコの腐敗と反西側偏向を非難し、アメリカを脱退させた。 2000年の改革党大会で、パット・ブキャナンは当時の国連事務総長コフィ・アナンに言及し、「コフィ氏よ、失礼ながら年末までに出て行かなければ、荷造りを手伝うために数千人の米海兵隊員を派遣する」と述べ、アメリカからの国連の立ち退きを求めた。

リベラル国際主義への懐疑論は、右派に限ったことではない。ジョンソン首相がヴェトナム戦争をエスカレートさせると、多くのリベラル派や進歩主義者は外交政策のコンセンサスに反旗を翻した。この戦争は、デイヴィッド・ハルバースタムの言葉を借りれば、「ベスト・アンド・ブライティスト」の信用を失墜させ、アメリカの指導者たちが帝国ではなく民主政治体制の名の下に(in the name of democracy rather than empire)真に行動しているという信頼を揺るがした。学生運動家や連邦議会の支持者たちは、アイゼンハワー大統領が退任演説で「軍産複合体(military-industrial complex)」と呼んだもの、つまり請負業者、連邦議員、国防当局者による不道徳な同盟が、予算の肥大化と戦略の逸脱を生み出していると非難した。

1973年の徴兵制度の廃止は、ほとんど抗議されることなく可決された。そして、1975年から1976年にかけて、フランク・チャーチ連邦上院議員率いる委員会がCIAFBIによる国内監視や無許可の暗殺を含む秘密作戦を暴露すると、国民の信頼は地に落ちた。最終報告書は次のように結論づけている。「諜報機関は国民の憲法上の権利を侵害してきた。その主な理由は、憲法の起草者が説明責任を果たす(assure accountability)ために設計した抑制と均衡の仕組みが適用されていないためだ」。

政府機関の指導者たちは信頼回復に努めたものの、依然として脆弱な状態が続いていた。911事件以降、監視と拷問(surveillance and torture)に関する暴露は国民の信頼をさらに損なわせた。2004年、CBSのダン・ラザー記者は、黒いマントとフードをかぶった囚人が機械に指を繋がれた状態で小さな段ボール箱の上に立たされている映像が放映された際、厳粛な声で「アメリカ人はイラク人囚人にこのようなことをした(Americans did this to an Iraqi prisoner)」と述べた。ラザー記者によると、囚人は小さな箱から落ちれば感電すると告げられたという。イラクにおける連合軍作戦担当副部長マーク・キミットは「兵士たちを常に誇りに思える日ばかりではない(Some days we’re not always proud of our soldiers)」と認めた。アブグレイブ収容所での暴露が例外的な事態ではなく、政府の戦略の一部であることが明らかになると国民の怒りはより高まった。

共和党の大統領と同様に、民主党も同盟諸国の対応が不十分だと攻撃してきた。熱心な国際主義者だった当時のバラク・オバマ大統領は、2016年に『アトランティック』誌のジェフリー・ゴールドバーグに対し、「フリーライダーは私を苛立たせる()free riders aggravate me」と語った。

厳しい真実は、戦後の国際秩序が確固たる政治的基盤の上に築かれたことは決してなかったということだ。抵抗は当初から存在していた。トルーマンとアイゼンハワーが築き上げたものを守るには、常に継続的な努力が必要だった。批判は、時にはシステムの中核原則(core principles)に向けられ、また時には、破滅的な政策や制度の濫用に端を発した。いずれにせよ、トランプがアメリカの統治の柱であるこの秩序を標的にしたとき、多くの外交政策のヴェテランが予想していたよりも急速に崩壊し始めた。

リベラル国際主義の欠点を明確に理解していたとしても、その貢献については否定することはできない。第二次世界大戦後に生まれた同盟(alliances)、制度(institutions)、そして、関与(commitments)は、核による惨事を防ぎ、世界情勢を安定させ、アメリカの経済力を支え、国家危機の際には経験豊富な助言を提供してきた。

戦後システムの支持者たちは今、途方もない闘いに直面している。反対の声は声高であるだけでなく、深く根付いている。彼らが自分たちのヴィジョンを守り、正当な批判に率直に反応できない限り、彼らが生涯をかけて守ってきた世界秩序が崩壊し、アメリカ・ファーストの深淵に取って代わられるのを、彼らはすぐに目撃することになるかもしれない。

※ジュリアン・E・ゼリザー:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。プリンストン大学歴史学・公共問題教授。独自の視点のニューズレター「ザ・ロング・ヴュー」の著者。Xアカウント:@julianzelizer

(貼り付け終わり)

(終わり)
trumpnodengekisakusencover001

『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。
 

 アメリカの外交政策に関する考えについては大きな分類、グループ分け、潮流が存在する。私は、人道的介入主義派・ネオコン対リアリズムの対立があると分類している。これは、「世界各国に介入して各国の体制を変革する」ことを目指す介入主義(Interventionism)と「アメリカのパワーを国益のために使うことを最優先し、外国に介入することには抑制的であるべきだ」と考えるリアリズムの対立である。

 以下の論稿では、昨年の大統領選挙の共和党の立候補者たち(当時は民主党はジョー・バイデン前大統領が現職で2期目を目指すということで民主党には有力候補者はいなかった。栄枯盛衰、会者定離)と歴代の大統領たちの外交政策に関する考えを6つに分類して紹介している。大きくは、「国際主義者(internationalists)」対「非国際主義者(non-internationalirs)」の2つである。国際主義者はアメリカの影響力を行使し、世界に積極的に関わると考えるグループで、非国際主義者は世界に関わるのは抑制的であるべきだと考える。国際主義者の中には、(1)一極主義的国際主義者(Unilateral Internationalists)、(2)民主政体志向国際主義者(Democratic Internationalists)、(3)リアリスト国際主義者(Realist Internationalists)、多極主義的国際主義者(Multilateral Internationalists)の4つのグループがあり、非国際主義者には、(5)後退者(Retractors)と(6)抑制主義者(Restrainers)の2つのグループがある。

(1)の一極主義的国際主義者は、「アメリカの優位性と行動の自由が最も重要であると信じ、同盟(alliances)や国際協定(international agreements)に制約されないアメリカの一極主義的行動を優先し、戦略的利益を推進する」という考えだ。(2)の民主政治体制志向国際主義者は、「民主政治体制の擁護はアメリカと世界の安全保障の維持に不可欠であり、共通の価値観とルールに基づく民主政治体制秩序の推進のため、志を同じくする同盟諸国との協力を優先すると信じている」。(3)のリアリスト国際主義者は、「アメリカの力はより限定的な戦略的利益の防衛に活用されるべきであり、世界と地域の安定を維持するために、全ての国々との実際的な関与を優先すべきだと考えている」。(4)の多極主義的国際主義者は、「他国との平和共存(peaceful coexistence)を主要な目標とすべきであり、国連やその他の多国間機関を通じて地球規模の課題を解決し、国際規範を遵守することを優先するべきだと考えている」。(5の後退者は、「世界がアメリカを利用していると考え、アメリカを国際社会の公約から引き離し、金銭的利益(pecuniary benefits)を最大化することを目指す、より取引中心の外交政策(a more transactional foreign policy)を支持する」。(6)の抑制主義者は、「アメリカが過剰な負担と過剰な関与を強いられていると考え、より抑制的な外交政策を支持し、それによってアメリカの国際的影響力を大幅に縮小する」。

 冷戦期からポスト冷戦期にかけてのアメリカの外交政策の主流は当然のことながら、国際主義者だった。しかし、アメリカの国力の衰退や世界構造の変化によって、国際主義者の中でもリアリズム系が台頭し、また、非国際主義者も勢力を増しつつある。その象徴がトランプ大統領だ。長い論稿ではあるが、是非以下の論稿を読んで一緒に勉強してもらえたらと思う。

(貼り付けはじめ)

アメリカの外交政策思考の混乱したスペクトラム(The Scrambled Spectrum of U.S. Foreign-Policy Thinking

-大統領、政府関係者、候補者は党の方針に従わない6つの陣営に分類される傾向がある。

アシュ・ジェイン筆

2023年9月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/09/27/republican-debate-trump-biden-foreign-policy-ideology/
spectrumofforeignpolicyideologies001
共和党大統領予備討論会では外交政策が大きく取り上げられそうだ。8月の討論会では、候補者たちは、アメリカの対ウクライナ支援継続を支持するかどうかという質問で激しい議論を行った。フロリダ州のロン・デサンティス知事は以前、ロシアのウクライナ戦争はアメリカにとって「重大な(vital)」国益ではないと示唆していたが、実際も懐疑的なようで、代わりにヨーロッパに対して更なる対応を求めた。起業家のヴィヴェク・ラマスワミは、そのような援助にもっと率直に反対し、アメリカが「他国の国境を越えた侵略から守る(protecting against an invasion across somebody else’s border)」ことは「悲惨な(disastrous)」ことだと述べた。一方、マイク・ペンス元副大統領とニッキー・ヘイリー元国連大使は、ウクライナ支援への強い支持を表明し、ロシアの侵略に対抗するジョー・バイデン大統領の取り組みを事実上支持し、アメリカに更なる努力を求めた。

政治のもう一方の側においては、民主党所属の連邦議員の中にはバイデンのウクライナ政策を警戒する人たちもいる。それは、進歩主義的な民主党所属の連邦議員たちが大統領宛に送った、紛争の外交的終結とロシアに対する制裁緩和の可能性を求める書簡(後に撤回された)からも明らかである。

今日の分極化した政治的雰囲気の中では、このような横断的な見解は混乱に見えるかもしれない。たいていの国内政策問題では、政治指導者たちの名前の横にR(共和党)とD(民主党)がついているかどうかが、特定の問題に対する彼らの考え方を示す良い目安になることが多い。しかし、外交政策に関しては、通常の政治ルールは適用されない。むしろ、政治指導者たちが外交政策イデオロギーのスペクトラムのどこに位置するかが、より大きな意味を持つ。
spectrumofforeignpolicyideologies002

このスペクトラムを構成する複数の学派は、世界におけるアメリカの役割について根本的に異なる見解を反映しており、影響力は大きいが、あまり理解されているとは言えない。

外交政策の立場を区別しようとするとき、メディアはしばしば「タカ派対ハト派(hawks versus doves)」といった決まり文句(cliches)や、「アイソレイショニスト(isolationist)」「ネオコンサヴァティヴ(neoconservative)」といった流行語(buzzwords)に頼る。しかし、これらの用語は単純化されすぎたり(oversimplified)、誇張されたりする(exaggerated)傾向があり、有益な情報はほとんど伝わらない。国際関係論(international relations)もそれほど役に立たない。「リアリズム(realism)」は、国家がどのように行動すべきかではなく、どのように行動することが期待されるかを予測する学問的概念と日常的に混同されている。また、「アイデアリズム(idealism)」や「コンストラクティヴィズム(constructivism)」といった他の理論も、現実世界の意思決定を理解する上で役立つことは限られている。

しかし、政策立案者たちが世界をどのように捉え、アメリカの外交政策の方向性に影響を与えようとしているかには、決定的な違いがある。例えば、アメリカの影響力は概ね肯定的であり、アメリカは世界情勢において積極的な役割を果たすべきであると考える人々と、アメリカの傲慢さは往々にして悪い結果をもたらすと考え、アメリカの海外での関与を縮小したいと考える人々との間には、明確な二分法が存在する。

アメリカは民主政治隊の価値観と規範の推進を優先すべきだと考える人々と、より限定的な戦略的利益の擁護を信条とする人々との間にも、大きな隔たりがある。また、アメリカはロシアや中国といった敵対諸国に対して毅然とした態度を取るべきか、それとも共通の基盤を見出すべきなのかについても、見解は大きく分かれている。

私は、アメリカの世界における役割に関する主要な考え方を代表する6つの外交政策陣営を整理した。これらの陣営は、国際的な関与のスペクトラムに沿って位置づけることができる。そのうち4つは、このスペクトルの中でもより積極的な側、「国際主義者(internationalists)」に属し、アメリカは影響力を行使し、国際情勢に積極的に関与すべきだと考えている。そして、残りの2つは「非国際主義者(non-internationalists)」に属し、アメリカは国際社会への関与を縮縮小し、より前向きでない外交政策を採用すべきだと考えている。

●国際主義者(INTERNATIONALISTS

(1)一極主義的国際主義者(1. Unilateral Internationalists)

unilateralinternationalists001
一極主義的国際主義者:ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルド、ジョン・ボルトン

■定義的な世界観(Defining worldview):一極主義的国際主義者は、アメリカの優位性と行動の自由が最も重要であると信じ、同盟(alliances)や国際協定(international agreements)に制約されないアメリカの一極主義的行動を優先し、戦略的利益を推進する。ジョージ・W・ブッシュ大統領は、特に最初の任期中にこの考え方に近づいたが、この学派を直接的に支持したアメリカ大統領はいない。

■主な特徴(Key attributes):

・中国とロシアを国際システムにおけるアメリカの優位性に対する最大の脅威と見なし、アメリカの敵対勢力に対抗し、アメリカの力を誇示するために最大限の圧力をかけようとする。

・同盟諸国を犠牲にしてもアメリカの国益を優先し、民主政治体制的な価値観や「ルールに基づく秩序(“rules-based order)」よりも戦略的利益を重視する。しかし、同盟諸国の行動意欲には懐疑的ながらも、アメリカの同盟諸国を支持する。

・国連や国際協定に不信感を抱き、米国の力と主権への制約を回避するために、必要に応じて国際機関から米国が脱退することを支持する。

米国の利益を促進するために軍事力を使用することを支持する。

国連や国際協定に不信感を抱いており、アメリカの力と主権への制約を回避するために、必要に応じて国際機関からアメリカが脱退することを支持する。

・アメリカの利益のために軍事力を使用することを支持する。

■著名な発言者たち:ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルド、ジョン・ボルトン

■最近の米大統領:いない

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:いない

(2)民主政体志向国際主義者(2. Democratic Internationalists)

democraticinternationalists001
民主政体志向国際主義者:マデリーン・オルブライト、ジョン・マケイン、ミット・ロムニー、クリス・クーンズ、G・ジョン・アイケンベリー、ハル・ブランズ、ハリー・トルーマン、ジョン・F・ケネディ、ロナルド・レーガン、ジョージ・W・ブッシュ、ジョー・バイデン、クリス・クリスティ、ニッキー・ヘイリー、マイク・ペンス

■定義的な世界観(Defining worldview):民主政治体制志向国際主義者は、民主政治体制の擁護はアメリカと世界の安全保障の維持に不可欠であり、共通の価値観とルールに基づく民主政治体制秩序の推進のため、志を同じくする同盟諸国との協力を優先すると信じている。この学派は、ハリー・トルーマン大統領が「自由で独立した国家が自由を維持できるよう支援する」ことがアメリカの政策であると宣言して以来、民主、共和両党を問わず、アメリカの選出指導者の間で主流となっている。

■主な特徴(Key attributes):

・民主政治体制と独裁政治の戦略的競争を国際システムの主要な断層線(the major fault line)と捉え、中国とロシアといった修正主義独裁国家(revisionist autocracies)に対抗するための積極的な措置を支持する。

民主政治体制同盟と連帯(democratic alliances and solidarity)を強く擁護し、「自由世界のリーダー(leader of the free world)」としてのアメリカの役割を維持することに熱心である。

・民主的価値観と人権を推進し、独裁政権の戦争犯罪と暴力的弾圧の責任を問うための強力な取り組みを支持する。

・民主政治体制とルールに基づく秩序を守るために、必要であれば武力行使も検討する用意がある。

■著名な発言者たち:マデリーン・オルブライト、ジョン・マケイン、ミット・ロムニー、クリス・クーンズ、G・ジョン・アイケンベリー、ハル・ブランズ

■最近の米大統領:ハリー・トルーマン、ジョン・F・ケネディ、ロナルド・レーガン、ジョージ・W・ブッシュ、ジョー・バイデン

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:クリス・クリスティ、ニッキー・ヘイリー、マイク・ペンス

(3)リアリスト国際主義者(3. Realist Internationalists)

realistinternationalists001
リアリスト国際主義者:ヘンリー・キッシンジャー、ブレント・スコウクロフト、ロバート・ゲイツ、リチャード・ハース、スティーヴン・クラズナー、チャールズ・カプチャン、リチャード・ニクソン、ジョージ・HW・ブッシュ、ロン・デサンティス

■定義的な世界観(Defining worldview):リアリスト国際主義者は、アメリカの力はより限定的な戦略的利益の防衛に活用されるべきであり、世界と地域の安定を維持するために、全ての国々との実際的な関与を優先すべきだと考えている。元国家安全保障問題担当大統領補佐官のブレント・スコウクロフトとヘンリー・キッシンジャーは、この学派の典型的な実践者であり、彼らが仕えた大統領たちもこの考え方を支持した。

■主な特徴(Key attributes):

・大国間競争(great-power rivalry)は世界システムにおいて不可避であると認識し、アメリカの同盟関係と、ライヴァル諸国を抑止し世界秩序を維持するための積極的な取り組みを支持する。

・戦略目標の推進のため、政治体制の種類に関わらず、敵対諸国と対峙し、あらゆる国と協力する用意がある。

・安定した勢力均衡(a stable balance of power)を達成するために、ライヴァル諸国と相互に妥協するか、分断を図る用意がある。

・「世界をあるがままに受け入れる(accept the world as it is)」傾向があり、アメリカの介入や民主政治体制促進の取り組みに警戒感を抱いている。

・アメリカの強力な防衛態勢を支持し、重要な国益を守るために必要であれば武力行使も辞積極的に行う。

■著名な発言者たち:ヘンリー・キッシンジャー、ブレント・スコウクロフト、ロバート・ゲイツ、リチャード・ハース、スティーヴン・クラズナー、チャールズ・カプチャン

■最近の米大統領:リチャード・ニクソン、ジョージ・HW・ブッシュ

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:ロン・デサンティス

(4)多極主義的国際主義者(4. Multilateral Internationalists)

multilateralinternationalists001
多極主義的国際主義者:ジョン・ケリー、ブルース・ジョーンズ、バラク・オバマ

■定義的な世界観(Defining worldview):多極主義的国際主義者は、他国との平和共存(peaceful coexistence)を主要な目標とすべきであり、国連やその他の多国間機関を通じて地球規模の課題を解決し、国際規範を遵守することを優先するべきだと考えている。バラク・オバマ大統領の外交政策はこの学派に深く根ざしており、現在、アメリカの気候変動対策首席交渉官を務めるジョン・ケリー元国務長官がその代表を務めている。

■主な特徴(Key attributes):

・大国間の対立や戦略的競争を警戒し、敵対諸国に「手を差し伸べる(extend a hand)」ことで共通点を見出すことに熱心である。

・国際規範、良い統治、人権の推進に向けたアメリカの積極的な関与を支持する。

・国境を越えた課題への対応において、全ての国と協力することを目指し、特に気候変動(climate change)を優先する。

・包摂的な制度を通じた関与を優先するが、ルールに基づく秩序の促進のためにアメリカの同盟諸国と協力することを支持する。

・軍事力の使用には消極的(disinclined)であり、国連安全保障理事会の承認を得た場合にのみ検討する。

■著名な発言者たち:ジョン・ケリー、ブルース・ジョーンズ

■最近の米大統領:バラク・オバマ

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:いない

●非国際主義者(Non-Internationalists

(5)後退者(1. Retractors)

retractors001
後退者・非国際主義者:マイケル・アントン、ドナルド・トランプ、ヴィヴェック・ラマスワミ

■定義的な世界観(Defining worldview):後退者は、世界がアメリカを利用していると考え、アメリカを国際社会の公約から引き離し、金銭的利益(pecuniary benefits)を最大化することを目指す、より取引中心の外交政策(a more transactional foreign policy)を支持する。ドナルド・トランプ大統領の外交政策はまさにこの学派の典型である。しかし、この学派の支持者は、1990年代後半の共和党大統領候補パット・ブキャナンや、アメリカを第二次世界大戦に巻き込ませまいとした1930年代のアメリカ・ファースト運動にまで遡ることができる。

■主な特徴(Key attributes):

・価値観や規範に対して非常に懐疑的で、陰謀論を信奉し、それに陥りやすく、アメリカの政策を操作する「ディープステート(deep state)」の役割を疑っている。

・同盟関係に批判的で、特にヨーロッパにおけるアメリカの同盟諸国を軽蔑し、国際機関を通じた協力の取り組みはナイーブで自滅的だと考えている。

・独裁政権との「取引と合意(make deals)」を求め、民主的な価値観や国際規範を軽視している。

・他国が「アメリカを騙す(ripping America off)」のを防ぐため、経済保護主義(economic protectionism)と国境封鎖を強調している。

・アメリカは軍事的に過剰な関与をしていると確信しているが、「強硬な態度(act tough)」を取り、アメリカの実力を示すために、時折限定的な軍事行動を行うことを支持している。

■著名な発言者たち:マイケル・アントン

■最近の米大統領:ドナルド・トランプ

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:ドナルド・トランプ、ヴィヴェック・ラマスワミ

(6)抑制主義者(2. Restrainers)

restrainers001
抑制主義者・非国際主義者:ランド・ポール、バーニー・サンダース、アンドリュー・ベスヴィッチ、スティーヴン・M・ウォルト、ステファン・ヴェルトヘイム

■定義的な世界観(Defining worldview):抑制主義者は、アメリカが過剰な負担と過剰な関与を強いられていると考え、より抑制的な外交政策を支持し、それによってアメリカの国際的影響力を大幅に縮小する。この学派は依然として周縁的存在ではあるものの、近年、クインシー記念責任国家戦略研究所とその支持者たちの台頭に見られるように、ある程度の存在感を増している。

■主な特徴(Key attributes):

・国際システムにおけるアメリカの力と影響力に不信感を抱いており、欠陥のある民主政治体制、偽善(hypocrisy)、帝国主義(imperialism)を基礎にして考えると、アメリカには民主的価値観やルールに基づく秩序を推進する立場はないと考えている。

・アメリカは敵対諸国と不必要な戦い(unnecessary fights)を仕掛けており、海外における軍事態勢、同盟、制裁政策はしばしば過度に挑発的であると考えている。

・中国とロシアによる脅威を「誇張(inflating)」することを警戒し、敵対諸国と協力し相互妥協に至る外交努力を支持し、国家主義的な外交政策は傲慢で不快だと考えている。

・海外におけるアメリカ軍のプレゼンスの削減、NATOやその他の同盟諸国への関与の縮小を求め、武力行使に強く反対している。

■著名な発言者たち:ランド・ポール、バーニー・サンダース、アンドリュー・ベスヴィッチ、スティーヴン・M・ウォルト、ステファン・ヴェルトヘイム

■最近の米大統領:いない

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:いない

この分析からいくつかの重要な点が導き出される。第一に、確かにこれらの陣営の境界線は曖昧であり、政策立案者たちは、特定の問題においては、これらの陣営のいずれか、あるいは複数の陣営にまたがっている場合が多い。しかしながら、これら6つの学派は十分に明確に区分されており、アメリカが外交政策をいかに進めるべきかという現代の議論に影響を与えている主要な世界観を代表している。

第二に、これらの学派の多くは党派の垣根を越える傾向がある。例えば、民主政治体制志向国際主義は、与野党の政治指導者たちから熱烈に支持されており、国際共和研究所(International Republican Institute)や全米民主研究所(National Democratic Institute)といった民主政治体制志向機関に見られるように、超党派の強力な支持基盤を有している。リアリズムもまた、アメリカの外交政策において長い伝統を持ち、民主、共和両党の国家安全保障担当者の共感を呼んでいる。同様に、抑制者は、左派の進歩主義者と、ワシントンの国際的関与の縮小を求めるリバータリアンの両方から支持を集めている。一方、一極主義的行動主義は主に保守派に支持され、多国主義的国際主義は主にリベラル派の支持を得ている。近年、トランプ支持派の共和党員の間では、こうした姿勢の撤回が主流となっている。

第三に、近年の米大統領がこのスペクトルのどこに位置づけられるかは自明ではない。就任当初は特定の陣営に傾倒するかもしれないが、ほとんどの大統領は純粋主義者(purists)ではなく、政権を担う中で、多くの大統領が、一貫性があり予測可能な外交政策の理念を維持することを困難にする実際的かつ政治的な現実に直面することになるだろう。

例えば、バラク・オバマはリアリスト国際主義に傾倒していたように見え、ロシアとの関係を「リセット(reset)」しようとし、後にシリアのバシャール・アサド大統領による化学兵器使用の責任追及のためのアメリカ軍派遣を拒否した。しかし、オバマがキューバやイランといった敵対諸国への関与や国連を通じた活動を重視していたことを考えると、彼の外交政策の主眼は多極主義的国際主義とより整合しているように見えた。

ジョージ・W・ブッシュもまた、様々な立場に立脚していた。世界的な対テロ戦争の開始に際し、ブッシュはアメリカの優位性を主張しようと決意し、一極主義的国際主義に傾倒しているように見えた。しかし、イラクとアフガニスタンにおける民主政治体制の推進、彼の代名詞である「自由のアジェンダ(Freedom Agenda)」、そして2回目の就任演説における「世界の専制政治の終焉(ending tyranny in our world)」の訴えなど、ブッシュの全体的な世界観はより、民主政治体制志向国際主義に根ざしているように見えた。

バイデンがどの立場を取るかは依然として議論の余地がある。現在、バイデン政権の国家安全保障ティームは、アフガニスタンからの撤退とサウジアラビアのムハンマド・ビン・スルタン王太子との交渉再開を求めるリアリストと、大統領による民主政治体制サミット開催の取り組みを支持する民主政体志向国際主義者に分裂している。しかし、バイデンがNATOと協力して民主的なウクライナを守るという揺るぎない決意と、世界は「民主政治体制と独裁政治の世界規模での闘争()global struggle between democracy and autocracy」に直面しているという確信を踏まえると、これまでのバイデン政権の外交政策の大筋は、民主政治体制志向国際主義とより整合しているように思われる。もっとも、より明確な判断は、バイデンの任期満了まで待たなければならないだろう。

それでは、現在の共和党候補者たちはどうなるのだろうか? ペンス、ヘイリー、そしてニュージャージー州元知事のクリス・クリスティは、ロシアの侵略に立ち向かうよう訴え、中国の人権侵害を非難しており、まさに民主政治体制志向国際主義陣営に属している。ドナルド・トランプには、もちろん独自の路線がある。一方、デサンティスとラマスワミは、アメリカの国際社会への関与に懐疑的な共和党支持者からの支持獲得に苦戦する中で、リアリズムとトランプの撤回との間で板挟みになっているように見える。デサンティスはウクライナから中国への軸足を移すことを支持しており、これはトレードオフについて非常に現実的な考え方と言える。ロシアと中国を分断する戦略を提唱してきたラマスワミは、時折リアリストのようにも聞こえるが、ロシア・ウクライナ戦争へのアメリカのいかなる関与も回避し、台湾を中国に譲渡する可能性、そして「アメリカの利益を最優先する(interests of America first)」という彼の姿勢は、彼が撤回に向かっていることを示唆しているように思われる。

有権者たちは次期大統領を選ぶ際に外交政策を中心的な要素とは考えていないかもしれないが、アメリカの指導者が世界とどのように関わっていくかは、アメリカ国民の安全と繁栄にとって極めて重要である。最も影響力のある外交政策の学説をより明確に理解することで、有権者たち、そして候補者たち自身も、より情報に基づいた選択を行うことができるようになるだろう。

※アッシュ・ジェイン:米国土安全保障省(U.S. Department of Homeland SecurityDHS)職員。最近まで、アトランティック・カウンシル(大西洋評議会)傘下のスコウクロフト戦略安全保障センターで民主秩序担当部長を務めていた。ここで表明された見解は、米国土安全保障省(DHS)、またはアメリカ政府に帰属するものではない。Xアカウント:@ashjain50

(貼り付け終わり)

(終わり)
trumpnodengekisakusencover001

『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。
 

 マイク・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官の解任(更迭)・国連大使転身に関する優れた分析記事を以下に掲載する。韓国の進歩主義派・リベラルの有力紙『ハンギョレ新聞』に掲載されている。是非、アクセスしてお読みいただきたい。韓国や中国の新聞は記事の日本語訳を掲載している場合が多く、韓国語や中国語ができない読者にとっては非常にありがたい。

 以下に記事では、マイク・ウォルツ大統領補佐官の更迭は、ウォルツが政権内で、イラン攻撃などの強硬な意見を主張し続けたために、他の政府高官たちと衝突したということが書かれている。そして、その背景には、共和党内部の外交政策分野における3つのグループの存在があり、それぞれで角逐しているということだ。3つのグループについて、以下の記事から以下に引用する。

(引用はじめ)

(略)トランプ氏が2016年の共和党大統領候補の選出によって米国の保守陣営に勢力を伸ばして以来、政府と共和党では対外政策をめぐり覇権主義者(primacist)、優先主義者(prioritizer)、抑制主義者(restrainer)という3グループが角逐してきた。抑制主義者や優先主義者の位置づけがさらに固まったと言えるだろう。

伝統的な共和党の主流路線である覇権主義者は、米国が世界的な指導力と軍事力を維持でき、維持し続けなければならないとする立場だ。上記のとおり、これらの人々は第2次トランプ政権発足後にほとんどが排除されたうえ、ウォルツ氏の更迭によって決定的な打撃を受けた。しかし、共和党内では依然として勢力を保っている。優先主義者は、中東と欧州から米国の介入と役割を撤退させ、中国への対処に集中すべきだとするグループだ。抑制主義者は、海外における米国の軍事介入を可能な限り縮小し、自制すべきだとする立場だ。

(貼り付けはじめ)

 この3つのグループ分けは、現在、国防総省序列第3位の国防次官(政策担当)によって提唱されたものだ。私はこれまで、アメリカの外交政策分野について、2つのグループ、介入主義(Interventionism)とリアリズム(Realism)という分け方をしていたが、現在では、このグループ分けが取り上げられるようになっている。しかし、大筋ではほぼ同じだ。

 マイク・ウォルツは覇権主義者のグループで、このグループは第1次トランプ政権に多くが参加していたが、第2次トランプ政権ではもともと少なく、それがマイク・ウォルツ補佐官の辞任(更迭)で決定的になったということだ。優先主義者(対中強硬派)と抑制主義者が主導権を握った形であるが、優先主義者は対中強硬姿勢を強めようとしているが、これはうまくいっていない。ドナルド・トランプ大統領の考えに近いのは抑制主義者であり、覇権主義者グループが勢力を落とす中で、今度は優先主義者と抑制主義者の争いになることが予想される。厄介なのは、優先主義者と抑制主義者の間の違いが曖昧になっていることだ。

 大きく言えば、優先主義者も抑制主義者もどちらも抑制主義ということになる。「中国と戦争をすることまでは望んでいない(そんなことはできない)」という優先主義者は多い。彼らは中国の拡大を抑制することを目標にしているが、トランプ高関税での失態で明らかになっているように、中国を封じ込めることはもはや不可能である。優先主義者が画策をして、中国からアメリカに何かを仕掛けるように仕向けようとすることも考えられるが、中国はそれに乗ることはないだろうし、中国とアメリカの緊張が高まることで、経済的にもアメリカも相当な損失を出すことになる(既に出ている)。

 アメリカと中国が「仲良く喧嘩する」という関係を築くことで、世界は安定する。世界の大きな流れは世界覇権国の交代へと向かっている。アメリカをできるだけ穏やかに退位させて、中国をできるだけスムーズにその座に就ける。これが理想であるが、現実はそのようにいかないだろう。

(貼り付けはじめ)

●「伝統的な米国タカ派の没落…「トランプ主義者」だけが残る」

登録:2025-05-06 09:34 修正:2025-05-06 11:05

https://japan.hani.co.kr/arti/international/53118.html

[チョン・ウィギルのグローバル・パパゴ]  

米国の対外政策、トランプ主義を深化

マイケル・ウォルツ前大統領補佐官(国家安全保障担当)が先月30日、ホワイトハウスの閣議に参加した際の様子。1日、米国のドナルド・トランプ大統領はウォルツ氏を更迭して国連大使に指名する計画を明らかにした。米国の軍事介入に積極的なウォルツ氏の更迭でトランプ政権における伝統的タカ派の位置づけはさらに縮小されることになった=ワシントン/UPI・聯合ニュース

<チョン・ウィギルのグローバル・パパゴとは

「パパゴ」は国際公用語のエスペラント語で「オウム」の意味。鋭い洞察力と豊富な歴史的事例を備えたチョン・ウィギル先任記者が、エスペラント語で鳴くオウムとなって国際ニュースの行間をわかりやすく解説します。>

 

[何が起きているのか]

 米国ホワイトハウスのマイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)が更迭されたことによって、ドナルド・トランプ政権内では、米国の海外軍事介入を主張する伝統的タカ派の影響力がよりいっそう縮小されることになった。

 ウォルツ氏の更迭は、同氏がイランに対する軍事攻撃など伝統的なタカ派の見解を主張し、米国の軍事海外介入に懐疑的なトランプ大統領の対外政策の哲学に反したためだと、ワシントン・ポストが3日報じた。特に、ウォルツ前補佐官は2月初め、米国を訪問したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と事前に面会し、イランに対する軍事攻撃案を協議し、トランプ大統領の怒りを買ったと同紙は報じた。()ウォルツ氏は3月初め、米軍によるイエメンのアンサールッラー(フーシ派)に対する攻撃を議論する国家安全保障チームの高官たちが参加する民間の通信アプリ「シグナル」のチャットルームに、誤ってアトランティック誌の記者を招待した「シグナル・ゲート」をきっかけに退陣の圧力を受けていたが、トランプ大統領は同氏の更迭を拒否していた。同紙は、ウォルツ氏更迭の背景には、彼が任期当初から米国の海外軍事介入を好む伝統的タカ派の見解を主張し、ホワイトハウス内外で他の官僚らと衝突していた点にあると指摘した。(ハンギョレ54日付)

Q.「シグナル・ゲート」の当事者であるウォルツ氏がとうとう更迭された。トランプ氏の対外政策を後押しできなかったのが理由だったのであれば、シグナル・ゲートのときに更迭しておけばもっと格好がついたのではないか。

 

A.トランプ氏がシグナル・ゲートでウォルツ氏を更迭するとなると、国家の機密セキュリティーがずさんだったことを自ら認めることになり、都合が悪い。トランプ氏は2016年の大統領選挙の際、民主党のヒラリー・クリントン候補が国務長官を務めていた際に私用の電子メールを使ったとして猛攻撃を浴びせた。しかし、シグナル・ゲートは、ヒラリー氏の私用電子メールの使用よりひどいセキュリティー事故だ。これを認めたくなかったのだ。ただしシグナル・ゲートは、米国の海外軍事介入を主張する伝統的な共和党タカ派の見解を持ったウォルツ氏に対するトランプ氏の信任を決定的に失わせたようだ。

 

Q.ところでウォルツ氏はなぜ、トランプ氏とその支持層の不満を集めたのか。何を主張したのか。

A.トランプ氏は政権1期目の際には、伝統的な共和党主流の人物たちを外交安全保障チームに起用した。国務長官のレックス・ティラーソンに続きマイク・ポンペオ、国防長官にはジェームズ・マティス、大統領補佐官(国家安全保障担当)にはハーバート・マクマスターに続きジョン・ボルトン、ホワイトハウス首席補佐官にはジョン・ケリーなど、共和党主流の要人もしくはネオコンを起用した。彼らは国際秩序における米国の責任と覇権を重視し、そのためには米国の海外軍事介入もためらわなかった。第1次トランプ政権内で「大人の軸」と呼ばれた彼らは、対外政策でトランプ氏と衝突し、最終的には全員辞任した。事実、トランプ氏が強引に進めた北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との首脳会談が実を結ばなかったのは、ボルトン氏らの妨害が原因によるものだった。

 トランプ氏は、国際秩序維持に米国が責任を負い、費用を支払う必要があることに同意しない。そのため、米国の海外軍事介入には懐疑的だ。これは、トランプ氏を支持する米国の中下流層の白人が主軸である「米国を再び偉大に(MAGA)」陣営の見解だ。そのため、トランプ氏は大統領再選後、外交安全保障チームをトランプ主義者でほぼ固めた。就任前から息子のトランプ・ジュニア氏はネオコンを政権から排除すると公言していた。実際にトランプ氏は、入閣が期待されていたマイク・ポンペオ氏やニッキー・ヘイリー氏らはあえて起用しないと発表した。かわりに、国防長官にフォックス・ニュースの司会者出身で熱烈なMAGA支持者であるピート・ヘグセス氏、国務長官には共和党タカ派からトランプ忠誠派に転向したマルコ・ルビオ氏を起用する一方、ホワイトハウスと国防総省・国務省の実務官僚や幹部もトランプ主義者で固めた。

 陸軍特殊部隊「グリーンベレー」の隊員を務め、ジョージ・ブッシュ政権の官僚出身のウォルツ氏は、今回の事件前から、トランプ氏の路線に反する見解を示しており、対立があったと報じられた。シグナル・ゲートの直後にウォルツ氏がアフガニスタンとシリアからの米軍撤収に反対し、米国によるウクライナ防衛を支持するなど、トランプ氏の現在の外交・安全保障政策に反していた事実が、敵対者によって暴露され広められた。ウォルツ氏は、共和党内でトランプ氏を最も強く非難した政敵であるリズ・チェイニー前下院議員とは安全保障関連の法律の制定で一緒に仕事をしており、2016年の大統領選挙の際に「トランプを阻止すべき」と発言している動画などが拡散された。トランプ氏としては、第1次政権のときに起用した伝統的な共和党主流あるいはタカ派の人たちとの対立を再現させまいとして、ウォルツ氏を更迭したとみるべきだろう。

Q.トランプ氏が就任からわずか100日ほどで、最高の要職である大統領補佐官(国家安全保障担当)を更迭したのは、それだけトランプ氏の対外政策が混乱していることを物語っているのではないか。

A.そうみなすこともできるが、米国の保守陣営や対外政策において、トランプ氏とMAGA陣営の掌握力が確固たるものになっているという側面の方が重要だと思われる。トランプ氏は政権1期目のときは、ほぼ任期終了近くまで共和党主流派の人物たちを起用して頼りにした。しかし今回は、任期初めからすべての政権閣僚と実務官僚をトランプ主義者で固め、伝統的な観点でみれば穏健派とも言えるウォルツ氏までも切った。

 ウォルツ氏の更迭前に、すでに外交・安保分野では粛清が進められていた。トランプ氏は4月初めに、国家安全保障局局長であり、サイバー司令部司令官であるティモシー・ホーク空軍大将、国家安全保障局のウェンディ・ノーブル副局長、国家安全保障会議(NSC)内の国際機構局長ら局長級4人など、少なくとも10人の外交・安保の高官を解任した。トランプ氏はホーク局長を解任した当日に「われわれはいつでも人を交替する」としたうえで、「われわれが好まなかったり、利益を得ようとしたり、他人に忠誠を尽くそうとする人たち」が対象だと述べ、この解任が粛清作業であることを示唆した。

 特にトランプ氏は、側近であり極右の陰謀論者であるローラ・ルーマー氏に会った後、ルーマー氏の助言で粛清を進めたと、米国メディアは報じている。ルーマー氏はXなどのソーシャルメディアで、ホーク将軍と副局長のノーブル氏はトランプ政権に非協調的であり、忠誠心が足りなかったと主張した。ルーマー氏はマーク・ミリー前統合参謀本部議長を反逆者だと主張しているが、ホーク将軍はミリー氏によって起用され、ノーブル副局長はトランプ氏の批判者であったジェームズ・クラッパー前国家情報局長と近い関係という点も問題にされた。

Q.ならば、ウォルツ氏の更迭はトランプ政権の外交・安保チームがトランプ主義者一色に変わる変曲点になるのだろうか。

A.トランプ氏が2016年の共和党大統領候補の選出によって米国の保守陣営に勢力を伸ばして以来、政府と共和党では対外政策をめぐり覇権主義者(primacist)、優先主義者(prioritizer)、抑制主義者(restrainer)という3グループが角逐してきた。抑制主義者や優先主義者の位置づけがさらに固まったと言えるだろう。

 伝統的な共和党の主流路線である覇権主義者は、米国が世界的な指導力と軍事力を維持でき、維持し続けなければならないとする立場だ。上記のとおり、これらの人々は第2次トランプ政権発足後にほとんどが排除されたうえ、ウォルツ氏の更迭によって決定的な打撃を受けた。しかし、共和党内では依然として勢力を保っている。優先主義者は、中東と欧州から米国の介入と役割を撤退させ、中国への対処に集中すべきだとするグループだ。抑制主義者は、海外における米国の軍事介入を可能な限り縮小し、自制すべきだとする立場だ。

 抑制主義者の代表的人物としては、米国の情報機関を総括する国家情報局長に起用されたトゥルシー・ギャバード氏、JD・バンス副大統領、ランド・ポール上院議員、スティーブン・バノン元ホワイトハウス首席戦略官、北朝鮮担当特使と言えるリチャード・グレネル特使らがいる。優先主義者としては、理論的リーダーであるエルブリッジ・コルビー国防総省政策次官、ジョシュ・ホーリー上院議員が代表格だ。コルビー氏は在韓米軍を北朝鮮抑止でなく中国との対決に回すべきだとまで主張している。

Q.優先主義者や抑制主義者の勢力拡大が対外政策に及ぼす影響は何か。

A.優先主義者と抑制主義者は、トランプ氏のMAGA運動が勢力を拡大するなかで、自分たちを「米国第一主義の保守現実主義者」だと称する勢力が分化していったとされる。そのため、優先主義者と抑制主義者の境界は実際にはあいまいだ。優先主義者の理論的リーダーであるコルビー氏は、米国は中国に集中すべきだが、台湾をめぐって中国との戦争まで辞さないとする考えには懐疑的な抑制主義者だという点によく表れている。

 特に国防総省では、マイケル・ティミノ中東担当副次官補をはじめ、ジョン・アンドリュー・バイヤーズ南アジア及び東南アジア担当副次官補、オースチン・ダーマー戦略担当副次官補、コルビー次官のシニアアドバイザーを務めるアレクサンダー・ベレズ=グリーン氏など、優先主義者と抑制主義者を行き交う人たちが、中心的な実務官僚に配置された。ウォルツ氏の更迭は、これらの者たちの影響力をさらに強化するとみられる。しかし何より、対外政策においてはトランプ氏本人の独走がよりいっそう進むのは明らかだ。トランプ氏にとっては、対外政策の決定と執行を調整する国家安全保障担当の大統領補佐官とNSCの必要性がいっそう下がったためだ。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

(貼り付け終わり)

(終わり)
trumpnodengekisakusencover001

『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。
 

 下記論稿は、トランプ政権の発足後100日の動きを政治学・国際関係論の4つの理論(モデル)を使って分析している。難しい内容ではないので、軽い勉強だと思ってお読みいただければと思う。

1つ目は「リアルポリティックの復活」で、トランプ政権が強硬な現実政治へと回帰し、中国と西半球を優先しているという分析になる。トランプ政権は、アメリカの国防費を増額させつつ、ロシアとの交渉での和解を図るなど、リアリズムに基づく外交政策が実行されている。

2つ目のモデルは「外交政策としての国内政治」で、トランプ政権の外交政策が実際には国内政策からの影響を受けているという分析になる。このモデルは、トランプが不人気な連邦機関を解体しようとする試みや、投資家やウォール街の不安を引き起こす貿易政策によって裏付けられている。

3つ目のモデルでは、トランプ政権が依然として従来型の共和党政権の外交政策を維持しつつ、トランプ自身の好みに寄り添った形で変化を求める「トランプ・レーガン統合」という分析だ。このモデルはトランプ特有の行動様式や奇異な外交方針の背後にある矛盾も示している。

最後に4つ目のモデルでは、共和党内での外交政策に関する内部対立が外交政策の混乱の要員になっているとされる。国家主義的かつ保護主義的なグループが、他方では超タカ派の国際主義者が存在し、トランプ自身はそのどちらにも傾く可能性が示唆されている。

このように、トランプ政権の外交政策は多様なモデルを通じて説明可能である。それぞれのモデルに説得力がある。社会現象の見方は様々である。どれかが完全に正しいということもなく、完全に間違っているということはない。

 大事なことは、社会現象を前におろおろしたり、慌てたりすることではない。「どうしてそのようなことが起きたのか」ということを分析することであり、そのために、社会科学の理論(モデル)を利用することだ。そして、歴史を良く学び、同様の事例を参考にして、予測を立ててみることだ。こうしたことは専門家の専有物ではない。

(貼り付けはじめ)

トランプ政権の混乱を説明する4つのモデル(Four Explanatory Models for Trump’s Chaos

-第2次トランプ政権がアメリカの外交政策において、停滞(inertia)ではなく変革(change)を目指していることは明らかだ。

エマ・アシュフォード筆

2025年4月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/24/trump-100-days-chaos-explanatory-models-foreign-policy/

ウラジーミル・レーニンはかつて、何十年も何も起こらない時期もあれば、数週間だけで、何十年間で起こるようなことが起きる時期もあると述べた。この基準に照らせば、ドナルド・トランプ大統領就任後の最初の100日間は、少なくとも20年間の外交政策の転換期と言えるだろう。

第2次トランプ政権の「迅速に行動し、物事を打破する(move fast and break things)」という外交政策へのアプローチは、その混沌とする状況においてのみ一貫している。注目を集める世界的な紛争へのアメリカのアプローチは、ロシアとの交渉への軸足を移し、ガザ地区での停戦を推進し、イランに対する軍事行動の脅しと新たに交渉された核合意の提案の間で揺れ動いている。

一方、米国国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)は突然閉鎖され、食糧援助で満たされた倉庫は腐るに任せられた。移民問題では、エルサルヴァドル政府への移民収容のアウトソーシングなど、限界を押し広げる動きが見られた。更に言えば、トランプ大統領の気まぐれで電灯のスイッチのように関税がオンやオフになるなど、政権の貿易政策の不確実性によって金融市場にもたらされた混乱もある。

それでは、この混乱をどう理解すればいいのだろうか? 第2次トランプ政権がアメリカ外交政策において、停滞ではなく変革を目指していることは明らかだが、その方向性は不明確だ。それでも、これまでの選択を説明する上で、検討に値する4つのモデルがある。

●モデル1:リアルポリティックの復活(Model No. 1: The Return of Realpolitik

トランプの外交政策を理解する上で最初に適用できるモデルは、おそらく最も一貫性のあるものでもある。それは、トランプ政権が強硬な現実政治への回帰(a hard-nosed return to realpolitik)を目指し、ヨーロッパや中東よりも中国と西半球(the Western Hemisphere)を優先しているという考え方だ。この文脈において、トランプ政権とヨーロッパの同盟諸国との複雑な関係は、アメリカがヨーロッパに過度に関わり過ぎた時期(period of overreach)の後に、アメリカの戦略的関与のバランスを取り戻そうとするニクソン流の試みの一環と捉えられるだろう。実際、この見方では、トランプ政権はルールに基づく国際システム(a rules-based international system)における、アメリカのリーダーシップを放棄しているのではなく、むしろ既存の偽善(existing hypocrisy)を認め、民主政治体制や人権といった漠然としたリベラルな理想よりもアメリカの利益が常に重要であることを認めているに過ぎない。

トランプ政権の対欧アプローチは、おそらくこのトランプの意思決定モデルの最も強い証拠(the best evidence for this model of Trump’s decision-making)となる。同盟諸国に国防費増額を迫り、ロシアとの交渉による和解を通じてウクライナ戦争からアメリカを離脱させようとする政策は、どちらもリアリストたちが長らく支持してきた政策だ。トランプのリアルポリティック・モデルを裏付ける証拠は他にもある。敵対国と同盟国の両方に対して、国家運営の手段を積極的に利用しようとする姿勢は、世界に対する取引的なアプローチを反映している。関税の脅威を用いてカナダ、メキシコ、あるいはヨーロッパ連合(EU)に政策問題を迫ることは、長期的には問題となるかもしれないが、現時点では短期的な成果をもたらす可能性がある。

第2次トランプ政権が突如として西半球への懸念を表明したことも、このモデルに当てはまる。就任直後のマルコ・ルビオ国務長官によるラテンアメリカ歴訪、パナマ運河周辺における中国の存在に対するトランプ政権の懸念、そして一見奇妙に見えるグリーンランド併合の構想など、その背後にはハードパワーの論理がある。一方、副大統領を含むトランプ大統領の主要任命者の多くは、明らかに現実主義的な世界観を持っている。

しかしながら、このリアリティ・ポリティック・モデルは他の分野では行き詰まっている。イスラエル政策を説明できないし、外交政策機関の骨抜き化(the gutting of foreign-policy agencies)も容易に説明できない。大国間の競争(great-power competition)に重点を置く政権であれば、アメリカのソフトパワーの基盤を揺るがそうとはしないだろうと予想されるにもかかわらず、第2次トランプ政権はヴォイス・オブ・アメリカや米国国際開発庁(USAID)の解体によってロシアや中国がその空白を埋めるという訴えにほとんど無関心である。同様に、関税政策もこの枠組みに当てはめるのは難しい。中国とのデカップリングはリアルポリティックな論拠として成り立つかもしれないが、近隣諸国への制裁や世界の準備通貨としてのドルの地位の剥奪は論拠として成り立たない。

●モデル2:外交政策としての国内政治(Model No. 2: Domestic Politics as Foreign Policy

トランプ政権の外交政策を説明するもう1つのモデルは、民主党寄りのケーブルテレビでよく聞かれるものだ。外交政策は主に国内政策によって動かされている、あるいは富裕層を更に豊かにすることを目的としているというものだ。例えば、バーニー・サンダース連邦上院議員は、米国国際開発庁の廃止を「世界で最も裕福な人物であるイーロン・マスクが、世界で最も貧しい人々に食料を提供している米国国際開発庁をターゲットにしている」と表現した。

確かに、政府効率化省(the Department of Government EfficiencyDOGE)の行動、そして新政権が連邦政府官僚機構に対して明らかに抱いている敵意は、共和党が長年試みてきた、グローヴァー・ノーキストの印象的な表現を借りれば「政府を浴槽に沈めて溺れさせるまで縮小する(shrink the government until one can drown it in a bathtub)」という試みの継続と解釈できる。政権は一部の連邦機関(例えば、米国国際開発庁や教育省)を解体する一方で、他の機関(例えば、国防総省や社会保障局)は保護してきた。標的とされた機関は、概して共和党の有権者や寄付者から最も人気のない機関だった。

同時に、トランプ政権の対外経済政策はウォール街や経済界を非常に不安にさせており、市場は事実上暴落している。関税の目的については、大きな不確実性(significant uncertainty)がある。それはアジアとのより良い貿易協定のための手段なのか、それともメキシコやカナダとの移民政策や麻薬政策における譲歩(concessions)なのか? それとも、ドル安を促進し、国内の再工業化(domestic reindustrialization)を促進するための広範な戦略なのだろうか? スコット・ベセント財務長官がニューヨークの銀行家たちに語った印象的な発言の1つは、アメリカンドリームの本質は単に中国からの「安物(cheap goods)」ではないということだった。これはアメリカの経済エリートにとって、決して心地よいものではなかった。

国内政治への懸念は、他の地域にも反映されている。2月にミュンヘン安全保障会議でJD・ヴァンス副大統領が行った演説は、NATOへのアメリカの関与に関する部分だけでなく、移民問題や文化問題への重点、そして、ヨーロッパとアメリカの間に価値観の相違があるという主張でも注目された。ドイツ総選挙の直前に極右政党「ドイツのための選択肢(Alternative for Germany)」と会談するというヴァンス副大統領の型破りな選択もまた、第2次トランプ政権がヨーロッパ各地の右派政党を高く評価していることを反映している。

しかしながら、国内政治というレンズだけでは、トランプ政権の外交政策の選択を理解するには限界がある。政権が引き続き中東を重視していること、特にイスラエルに白紙委任(carte blanche)を与えようとしていることを説明するのは難しい。実際、マフムード・ハリルをはじめとする親パレスティナ派の抗議者たちに対する移民弾圧が続いていることは、外交政策と国内政策の逆転した関係を示唆している。ガザ紛争におけるイスラエルへの支持が、国内における言論の自由の弾圧を促しているのだ。国内の視点だけでは、第2次トランプ政権がウクライナから撤退したいという明らかな意向を説明することはできない。

●モデル3:第一期への回帰(Model No. 3: A Return to the First Term

トランプの外交政策を説明する3つ目のモデルは、彼の第1期の任期を振り返る必要がある。実際、これは共和党議員やワシントンDCに拠点を置く外交官の間では通説となっており、彼らは2016年から2020年にかけての第1次トランプ政権と同様に、政権初期の混乱は間もなくほぼ従来型の共和党政権に取って代わられると主張している。そのような政権はトランプ独特の才能の要素を持つかもしれないが、概ねジョージ・W・ブッシュ政権に遡る、主権(sovereignty)、単独行動主義(unilateralism)、強硬なタカ派的な軍事力(hawkish military power)を重視する共和党の外交政策の優先事項を継承するだろう。

結局のところ、トランプの第1期の国家安全保障戦略(National Security Strategy)は比較的従来型であり、彼のスタッフは主にワシントンDCの官僚だった。北朝鮮の独裁者である金正恩との首脳会談や、ツイートによる外交政策への傾倒は確かに刺激的な展開をもたらしたが、外交政策全体としては現状から大きく逸脱することはなかった。第2次トランプ政権は、伝統的なレーガン主義的な外交政策の方向性をほぼ維持しながらも、党をトランプ自身の好みに少し近づける、一種の「トランプ・レーガン」統合(“Trump-Reagan” synthesis)へと向かっているだけだと主張する人さえいる。

このモデルでは、就任後100日間における共和党の正統派(Republican orthodoxy)からのより過激な逸脱の多くは、トランプの性格のせいにするだけで説明できる。例えば、ロシアへの接近は、トランプ特有のストロングマン(強権的な人物)との直接交渉を好む傾向(Trump’s own idiosyncratic preferences for negotiating personally with strongmen)、そして、おそらくノーベル平和賞への渇望によって説明できるかもしれない。しかし、第1次政権と同様に、多くの共和党エリートは、トランプが迅速な和平合意を勝ち取れないことが明らかになるにつれ、ウクライナ問題、そしてより一般的な外交政策において、より伝統的なアプローチに傾倒するだろうと想定している。

しかし、この理論には矛盾(contradictions)も明らかだ。イスラエルについて考えてみよう。伝統的な共和党外交政策関係者の間では、イスラエルへの全面的な支持は依然として当たり前のことだ。第2次トランプ政権は、イスラエルへの全面的な支持を声高に表明する一方で、アブラハム合意(the Abraham Accords)の拡大・延長といった、ガザ紛争の継続によって阻まれている他のトランプ政権の優先事項との両立に苦慮している。ヴァンスは、アメリカはイランとの戦争には関心がないと公言しており、トランプ自身も、イランの核施設攻撃を望むイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の意向を支持することを拒否したと報じられている。

こうした立場、そし​​てその他多くの立場は、アメリカはイランの核開発計画への攻撃においてイスラエルを支援すべきであり、ウクライナへの武器供与を継続すべきであり、アメリカの広範な同盟関係を維持すべきだと考える、より伝統的な連邦議会にいる共和党タカ派とトランプ政権を対立させている。元連邦上院院内総務で熱烈なタカ派だったミッチ・マコーネル上院議員は、トランプ大統領が国防総省の高官の有力候補と目していたエルブリッジ・コルビーにさえ反対票を投じた。他の共和党連邦議員たちは、コルビーがイランとの戦争を支持する意向はないとほのめかしていた。この政権が伝統的な共和党員にとってトランプとレーガンの融合を意味するのかどうかは、まだ明らかではない。

●モデル4:共和党外交政策対決(Model No. 4: Republican Foreign-Policy Showdown

こうした論争は、トランプ政権を理解するための4つ目、そして最終的なモデルを示唆している。私たちが目にする混乱は、外交政策をめぐる共和党内の内紛(Republican infighting)が一因となっている。一方では、党内に台頭する国家主義的かつ保護主義的な一派が見られる。彼らは中国への関心を強めており、アイソレイショニストではないものの、もはやネオコンではないことも確かだ。この一派は国防総省、副大統領周辺、そしてマスクや政権内のシリコンヴァレー陣営にも広く代表されている。

他方では、より伝統的で超タカ派的な国際主義的な共和党員たちが、政権を自分たちの好みに回帰させようとしている(例えば、ルビオやマイク・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官など)。トランプ自身の本能は最初のグループに傾いているように思えるが、第1期の任期中に学んだように、彼はしばしば説得可能である。このモデルが正しければ、トランプ政権の外交政策の混乱と混沌は、政権内の派閥間の意見の相違、つまり人事と政策への影響力争いによる対立に一部起因していると言えるだろう。

これらの派閥が対立する問題は小さくない。ロシア、イラン、そしてある程度イスラエルに関しても、根本的に意見が一致していない。政権のウクライナ特使を務めているキース・ケロッグ退役陸軍中将が、キエフ問題で大統領と副大統領の見解に食い違い始めていたにもかかわらず、疎外された事例を考えてみよう。あるいは、シグナルゲート事件では、ヴァンスがイエメンのフーシ派への攻撃を遅らせるよう土壇場で嘆願したが、それが非生産的で無駄だと判断したものの、却下された。

もしこの対立が就任後100日間の混乱の一部を説明するのであれば、トランプ自身も前回よりもアドヴァイザーたちの指示に従うことをはるかに嫌がっていることもますます明らかになっている。ウォルツは、自身の見解が大統領の見解と頻繁に食い違うことに苦悩しているという報道もある。一方、Xパーソナリティのローラ・ルーマーは、大統領を説得し、国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)のウォルツのスタッフ数名を、忠誠心の欠如とネオコンへの共感を理由に解任させた。この傾向が続けば、第2次トランプ政権は、従来の共和党外交政策の考え方である第3のモデルではなく、ここで論じた第1および第2のモデル(どちらもより明確な「アメリカ・ファースト(America First)」の色合いを持つ)に近づくと予想される。対照的に、先週、ピート・ヘグセス国防長官のより「抑制された(restrained)」上級スタッフ3名が不明瞭な理由で突然解任されたことは、その逆を示唆しているのかもしれない。

信じるのが難しいかもしれないが、トランプ政権はようやく、アメリカ人が政権を判断する基準となる就任100日目を迎えたばかりだ。第1期の任期では、主要な危機や外交政策上の決定の多くは、この時点を過ぎてから発生した。そして多くの点で、政権の外交政策がどこへ向かうのか、あるいは連邦議会や裁判所といった他のアクターが、ここ数週間に見られた行き過ぎをどの程度抑制できるのかを判断するのは、時期尚早である。実際、外交政策の最も重要な決定要因は、共和党の外交政策エリートたちがトランプを自分たちの意のままに操れるのか、それともトランプが彼らに自分の意向を押し付けることができるのか、ということなのかもしれない。このため、今のところ、トランプ・ドクトリン(Trump Doctrine)を1つだけ定義することは不可能である。

しかし、これらのモデルは、100日を過ぎようとする中で展開する外交政策のドラマを評価する方法を提供してくれる。今のところ、ここで提示した最初の2つのモデルは、トランプ大統領の決断を説明する上でより有用であるように思われる。しかし、外的ショックから人事をめぐる内部対立に至るまで、他の要因も第2次トランプ政権全体の外交政策の方向性を形作る上で依然として重要な役割を果たす可能性がある。そして、トランプ大統領自身が設定した主要目標の達成可否は、政策そのものを形作る可能性がある。例えば、ウクライナでの交渉が失敗に終われば、トランプ大統領は当初交渉を支持した現実主義的な保守派から遠ざかる可能性がある。イランへの壊滅的な爆撃作戦は、ネオコンの正当性を永久に失わせる可能性がある。

確実に言えることは、今後4年間は過去100日間と同じくらい混沌としたものになる可能性が高いということだ。そろそろ頭痛薬(headache medication)に投資すべき時かもしれない。

※エマ・アシュフォード:『フォーリン・ポリシー』誌のコラムニスト。スティムソン・センター「米大戦略再考(Reimagining U.S. Grand Strategy)」プログラムの上級研究員、ジョージタウン大学の非常勤助教、そして『石油、国家、そして戦争(Oil, the State, and War)』の著者。Xアカウント:@EmmaMAshford

(貼り付け終わり)

(終わり)
trumpnodengekisakusencover001

『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 アメリカの外交政策において、学識経験者や専門家が重責を担ってきた。その代表例がヘンリー・キッシンジャーだ。彼はハーヴァード大学教授から、国務長官と国家安全保障問題担当大統領補佐官に転身した。その他に、コロンビア大学教授だったズビグニュー・ブレジンスキーやスタンフォード大学教授だったコンドリーザ・ライスといった人々が国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めた。
 国家安全保障問題担当大統領補佐官は戦後の1952年にドワイト・アイゼンハワー大統領時代に設置された。今ではホワイトハウスにおける外交政策の指揮官として、国家安全保障会議を主宰するなど最重要のポストになっている。国家安全保障会議のスタッフとして、学識経験者が入ることも多い。

 下記論稿の著者ジェレミ・スリは、トランプ大統領が国家安全保障の専門家を排除し、政治家を重視したため、国家安全保障の能力が低下していると批判している。スリは、トランプの政権では、熟練した専門家が解任され、意思決定の質が著しく低下した。これに伴い、無知や不適切な判断がもたらされたとして不安が広がっていると批判している。

 アメリカの外交政策の大きな流れには、リアリズム(現実主義)とアイディアリズム(理想主義)とう2つの潮流がある。このことは、このブログでも何度も書いているし、拙著でも何度も触れている。アメリカの外交政策が失敗するのは多くの場合、アイディアリズムが採用されている時だ。アイディアリズムで世界を変えるということで、外国に介入して多くの場合に失敗している。最近の例で言えば、ジョージ・W・ブッシュ政権時代にネオコンが主導したアフタにスタンとイラクへの侵攻が挙げられる。

 このような失敗と専門家の学識が結びつけられ、専門家たちへの信頼が揺らいでいる。そのことに、下記論稿の著者スリのような専門家たちが気付くべきだ。学問上の理論であれば、何でも言える。しかし、問題はその理論を実践に使って失敗してしまう時だ。それで大きな傷や負担を追うのは国民である。それに対して、専門家たちは何か責任を取るとか、謝罪をするとか、反省するとかそういう姿勢を見せてきただろうか。この点は学術界全体として大いに反省すべきだと私は考える。専門家たちがアメリカの外交政策に対して大いなる貢献をしたことは間違いないが、専門家たちが増上慢となり、過度なエリート主義を持ってしまえば、大きな失敗をして、民意と乖離する結果となってしまう。その大きな動揺が現状であると言えるだろう。

(貼り付けはじめ)

何世代にもわたる専門家がいかにしてアメリカの力を築き上げてきたか(How Generations of Experts Built U.S. Power

-そして今、トランプはそれを全て捨て去ろうとしている。

ジェレミ・スリ

2025年4月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/17/trump-national-security-experts-loyalists-intelligence-community-purge-history-geopolitics/

プロイセンの軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツは、戦争は「政策を別の手段で継続するに過ぎない(mere continuation of policy by other means)」という有名な言葉を残しているが、戦争が単なる政治である(war is merely politics)とは考えていない。1832年に発表されたクラウゼヴィッツの影響力ある論文『戦争論(On War)』は、複雑な国防を管理する上で、訓練(training)、専門性(expertise)、そして卓越した才能(exceptional talent)が果たす重要な役割について深く考察している。戦争には、技術的技能(technical skill)、組織力(organizational acumen)、歴史的知識(historical knowledge)、そして戦略的洞察力(strategic insights)が必要だ。勇気と強靭さは必要不可欠だが、これらの資質は学問の代わりにはならないとクラウゼヴィッツは述べている。戦争はあまりにも危険であり、素人や偽善者に任せておくべきものではない。

大陸軍(the Continental Army)の創設以来、アメリカ人は常に防衛管理において専門知識を求めてきた。ジョージ・ワシントンが革命軍(the revolutionary military)の指揮官に選ばれたのは、イギリス陸軍での豊富な経験があったからだ。彼の兵士たちは未熟な戦士だったが、彼はそのリーダーシップに知識をもたらした。彼が兵士たちに高く評価された主な理由の1つは、戦闘での波乱に満ちた記録ではなく、知識をもたらす能力だった。

トーマス・ジェファーソン大統領は軍国主義(militarism)を嫌悪していたにもかかわらず、1802年にエリート陸軍士官学校であるウェストポイント陸軍士官学校を設立した。これは、建国間もない国家の防衛を担う最高レヴェルの指導者を育成するためのものだった。ウェストポイントの初代校長ジョナサン・ウィリアムズ陸軍少佐は、軍の指導者にとっての学問の重要性を強調した。ウィリアムズは「私たちの軍の士官は科学者であり、その学識によって学術界から注目されるに値する者でなければならないことを、私たちは常に心に留めなければならない」と述べた。

1884年、アメリカ海軍はさらに一歩進み、「戦争に関するあらゆる問題、そして戦争にまつわる政治手腕、あるいは戦争の予防に関する独創的な研究」を行う大学院機関であるアメリカ海軍戦争大学を設立した。この新設機関の初代学長スティーブン・ルース海軍中佐は、成功する軍の指導者にとって教育がいかに重要であるかを強調した。彼は、経験豊富な海軍司令官がより「完全な存在(complete creature)」となることを望んだ。そうでなければ、「私たちの教育を受けていない船員は、イギリスとフランスの訓練された砲兵に対抗するチャンスはないだろう」とルースは警告を発した。

ウェストポイントと海軍戦争大学は、第二次世界大戦後、アメリカが半球の強国(a hemispheric power)から卓越した世界覇権国(the preeminent global hegemon)へと成長を遂げた際、アメリカ外交政策の画期的な転換の不可欠な基盤となった。1945年、アメリカ陸軍将兵は各大陸の軍事拠点を占領し、アメリカ海軍将兵は世界の主要な海域を哨戒し、アメリカ空軍将兵は世界中の空を制覇し、アメリカの科学者たちは「絶対兵器(absolute weapon)」である原子爆弾を投下した。

アメリカの力は、最高指導者の訓練や専門知識をはるかに凌駕していた。ハリー・トルーマン大統領は大学の学位を持っておらず、第一次世界大戦での軍事経験も浅く、物理学を学んだこともなかった。彼の最初の陸軍長官であったヘンリー・スティムソンは、アメリカが国際的野心も能力も限られていた1890年代初頭にキャリアをスタートさせていた。ヨーロッパでの連合国軍の勝利を指揮したドワイト・アイゼンハワー大将は、アメリカ軍はすぐにでも大陸から撤退しなければならないと予想していた。1945年当時でさえ、アメリカはグローバルなリーダーシップを発揮した経験がなかった。

トルーマン、スティムソン、アイゼンハワー、そして同世代の多くの人々にとって最大の功績は、国家安全保障に関する新たな機関の創設に資金を投じたことだろう。これらの機関は、国家が新たに獲得した力と責任を担う上で、訓練を受けた専門家で満たされていた。「国家安全保障(national security)」は、近代戦争への軍事、外交、そして技術的準備、そして戦争を阻止するための様々な取り組みが交差する領域を指す新しい専門用語となった。

新たな国家安全保障専門家の育成と配置には、ウェストポイントと海軍戦争大学の経験が活かされた。アメリカの指導者たちは、戦争から帰還した優秀な陸軍兵、水兵、空軍兵を募集し、1947年の国家安全保障法に基づいて設立された新たな機関の一員とした。政府の資金援助を受けて高等教育を受ける機会を得た退役軍人たちは、新設された国防総省、秘密主義のCIA、そして初期の原子爆弾を管理した原子力委員会といった官僚組織に多数参加した。

陸軍や海軍の前任者たちと同様に、第二次世界大戦後の国家安全保障専門家たちは、それぞれの戦争関連分野における最高レヴェルの知見を政府に持ち込み、脅威、機会、そして戦略について政治指導者に助言する任務を負っていた。連邦議会は、大統領、副大統領、そして内閣に政府の最高の専門知識を提供するために、ホワイトハウスに国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)を設置した。政策決定は政治家に委ねられたが、それは彼らが核時代の戦争と安全保障に関する最も深い知識に触れた後にのみ行われた。

1952年、アイゼンハワーはロバート・カトラーを国家安全保障問題担当大統領特別補佐官[special assistant to the president for national security affairs](後に「国家安全保障問題担当大統領補佐官(national security advisor)」と呼ばれる)に任命した。ワシントン以外でカトラーの名を知る人はほとんどいなかったが、彼は専大統領と内閣への専門家から情報の流れを管理していた。カトラーとアイゼンハワーにとって、国家安全保障プロセスの目的は、アメリカの力と財源を国益の促進に活用するための最善の選択肢をホワイトハウスに持ち込むことだった。大統領が兵器の配備、援助の分配、同盟の形成、共産主義の進出の阻止について情報に基づいた決定を下すには、技術的な正確さ、問題に関する専門知識、政策経験が不可欠だった。

NSCはワシントンの冷戦政策立案の重要な中心となった。NSCで議論されるブリーフィングやオプションペーパーに情報を提供する専門家は、政府官僚、大学、ランド研究所、ブルッキングス研究所などのシンクタンクに多くいた。アメリカの外交政策は、ヨーロッパや日本の復興、軍備管理の追求、国際的な経済開発など、その最盛期には、最も鋭敏な頭脳の知識を意思決定に反映させていた。アメリカの外交政策において最も影響力のある選挙を経ていない専門家の中には、マクジョージ・バンディ、ヘンリー・キッシンジャー、ズビグニュー・ブレジンスキー、ブレント・スコウクロフト、コンドリーザ・ライスなど、国家安全保障問題担当大統領補佐官として働いていた者もいる。

もちろん、国家安全保障の専門家たちは、特にヴェトナム戦争やイラク戦争を支持したことで、重大な過ちを犯した。しかし、彼らは70年以上にわたって、比較的安定した国際秩序を管理するのに貢献した。アメリカの国家安全保障システムは、軍事力、経済力、ソフト・パワーを駆使して世界に影響を与え、おおむねアメリカの利益に資するような形で、大統領に適切な選択肢を与えた。アメリカは安全保障を維持し、あらゆる大陸で同盟関係を管理し、経済成長の恩恵を受け、ついに主要な敵対国であったソ連が崩壊するのを見た。専門家は、核戦争やその他の世界的大災害を防ぐのに役立った。アメリカの国家安全保障の専門家たちは、海外の専門家たちと協力しながら、国際法や人権を擁護し、外交政策の文明化に貢献したと主張する学者もいる。

ドナルド・トランプ大統領は、アメリカの外交政策から国家安全保障の専門家を排除し、政権の国益追求能力を低下させている。彼は国家安全保障のトップに政策の専門家ではなく、忠実な政治家を据えた。マイク・ウォルツは、選挙で選ばれた政治家として初めて安全保障問題担当大統領補佐官に就任した。マルコ・ルビオ国務長官も選挙で選ばれた政治家であり、ジョン・ラトクリフCIA長官やトゥルシ・ギャバード国家情報長官も選挙で選ばれた政治家だった。ピート・ヘグセス国防長官は二流のTVニューズキャスターだった。これらの人物はいずれも、国家安全保障問題に関して本格的な専門知識を持っている訳でもなく、専門家のコミュニティと深いつながりがある訳でもない。どちらかといえば、彼らは専門家を敵視しているからこそ、トランプに選ばれたのだ。

知識と能力の欠如は、3月にトランプ大統領の国家安全保障の最高責任者が、安全でない、「シグナル」のメッセージング・チャンネルを通じて、アメリカ軍のイエメンに対する攻撃計画に関する詳細な情報を『アトランティック』誌編集者のジェフリー・ゴールドバーグと不注意にも共有したことで、憂慮すべき低水準に達した。彼らが漏らした情報は、敵国が攻撃を妨害し、アメリカ軍関係者の安全を脅かすために使われる可能性があった。この災難に責任のある明らかに無能な役人は、誰も解雇されず、辞任もしていない。

トランプ大統領が4月初旬に行ったのは、国家安全保障システムの最高幹部に近い、最も有能な専門家数名を解雇することだった。極右の911陰謀論者ローラ・ルーマーの助言を受けたとみられるが、トランプ大統領はティモシー・ハウ大将を解任した。ハウ大将は、通信諜報を担当する国家安全保障局(National Security AgencyNSA)と、外国のハッキングやサイバーテロからアメリカを守る任務を担う米サイバー軍の両方を率い、世界的に尊敬されている四つ星将軍だった。ハウ大将の文民副官ウェンディ・ノーブルも解任された。国家安全保障会議(NSC)では、技術と諜報の分野で高く評価されている専門家たちも解任された。トランプ大統領はこれに先立ち、統合参謀本部議長と海軍作戦部長という、更に2人の尊敬される軍指導者を解任している。

その理由は、トランプ大統領への忠誠心が足りなかったからだという。しかし、これらの専門家や解雇された他の数百人の専門家が、研究対象の証拠と論理に従う以外のことをしたという証拠はない。彼らは効果的な政策を行うために必要な知識を追求し、その知識が導く先を大統領とその政治的支持者が好まなかったために職を失った。これはワクチンが効くことを否定することに等しいが、国家安全保障の場合は、サイバー防衛、核兵器、そして中国、イラン、北朝鮮との戦争の見通しなど、賭け金は更に高くなる。

アメリカの最も強力な外交政策手段が、無知で経験が浅く、適切な意思決定に必要な知識から切り離された人々によって管理されていることを、私たちは今認識しなければならない。今後数カ月以内に深刻な軍事衝突が起きれば、トランプ政権は無能さを露呈し、有害な間違いを犯すだろう。最近のウクライナ支援の放棄、明らかに嘘のクレムリンのトーキングポイントを採用するトランプ大統領の奇妙な行動、そして悲惨な関税発表は、国家安全保障に関する行き当たりばったりで無秩序な意思決定の兆候であり、世界はこれから4年近くこのような状況を見ることになるだろう。

反専門家のリーダーシップ(ani-expert leadership)は、第二次世界大戦後のほとんどの時代を特徴づけていた、思慮深く慎重な政策決定を覆すものだ。専門知識は、アメリカの安全保障(security)、安定(stability)、そして繁栄(prosperity)を守る上で役立ってきた。専門知識の欠如は、さらなる不確実性と軽率な行動をもたらすだろう。国家安全保障の専門家がいなければ、アメリカの外交政策は、国家と国民を守るための十分な準備が整わないだろう。

クラウゼヴィッツは私たちに、戦争は政治の問題であるということを思い出させるが、同時に、その問題に対する知的な真剣さも必要だ。テレビやソーシャルメディアで大統領、国防長官、あるいは将軍を演じている者たちは、現代の戦場の複雑さに対応できていない。クラウゼヴィッツが軽蔑した自信過剰なヨーロッパ貴族たちのように、彼らは誇り高き社会を驚くべき敗北へと導くだろう。

※ジェレミ・スリ:テキサス大学オースティン校のマック・ブラウン記念国際問題リーダーシップ特別教授、テキサス大学歴史学部、リンドン・B・ジョンソン公共政策大学院の教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)
trumpnodengekisakusencover001

『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ